399: 2009/03/22(日) 13:52:33 ID:UWoQlJCE


「エイラは…サーニャを起こす時はどうするんだ?」


なんだが困った顔をしたバルクホルン大尉が唐突にこんな事を聞いてきた。
サーニャがよく寝ぼけて私の部屋で寝ているのを知っていて聞いてるかわからないけど…
もしかしてまた変な所でサーニャが寝てるのを見つけたのか?


「ごめん大尉、サーニャがどっか寝てるのカ?なら私が起こしに行くヨ」
「いや、そうじゃない。サーニャではないんだ」
「は?サーニャじゃないのになんでサーニャの起こし方なんか聞くんだヨ?」
「その…起こしたいのはフラウなんだ」


大尉いわく、ハルトマン中尉が毎朝起きてくれなくて困っているらしい。
ズボン盗難事件の日も起こしに行ったらしいが、なかなか体をおこしてくれないし
布団を剥いだらズボンはいてなくて説教をしたが、それでも時々はいてないらしい。


サーニャも寝てる事が多いから参考に起こし方を聞きたいって訳だな


「まぁ、ズボラなフラウと違ってサーニャなら何かあればちゃんと起きるだろうし」
「そうだナ」


これは嘘。
サーニャは起きない。起こそうとすれば不機嫌そうな顔をするし
私のベットを占領して毛布に包まって丸くなる。


「服を適当に放ってズボンをなくしたりしないだろうし」
「まあナ」


これも嘘。
寝ぼけてるからなんだろうけど、私の部屋にサーニャが服を脱ぎ散らかすなんてしょっちゅうだ。
ただ皆が知らないだけで、サーニャは結構めんどくさがりだし子供っぽいんだぞ。
教えないけど。


「ま、私がサーニャを起こすことなんてあんまりないっテ」
「そうか、わざわざ呼び止めてすまなかったな」


どうしたものかと呟きながら首を傾げる大尉。
皆が皆、ルッキーニみたいにシャーリーの声で一発で目が覚めてくれたら助かるよな


「でもバルクホルン大尉とハルトマン中尉は私とサーニャより付き合い長いだロ?
起こし方くらい何かなかったのカ?お菓子くれたら起きる、くらい言いそうなもんだけどナ」
「あぁ、確かに起こし方の指示をされたことはあったな」
「なんだ、あるんじゃないカ。だったらそれでいいだロ」
「いやしかし…あれは…なんというか……」
 
 


話を適当に切り上げて部屋に戻る時、頭の中でさっきの大尉の言葉を自分に置き換えて考えてみた。


『お姫様が起きるのは王子様のキスなんだから考えろ、と言われたよ。
やった事は一度もないがな…お前ならどうする?エイラ』


どうするって言われても…そんなのまるで告白じゃないか
確かにサーニャはお姫様だ、夢にまで見て会いたいと願う王子様はお父さんとお母さん。
だから私は灰かぶりの女の子から見える
未来の中の王子様とダンスパーティーの為に魔法をかけてガラスの靴を与え、
幸せの手助けをする魔法使いでいたいんだ。


お姫様は魔法使いを好きにはならないだろ?
だからどうするかなんてわからないよ
 


「って……またかヨ~」


見慣れた部屋のドアを開けて見えた光景はこちらに背を向けてベットに眠るお姫様。
少し肌寒くなってきたせいか、毛布を求めて今日はここでお休み中。
訓練がある訳じゃないし食事の時間にはまだ早い
起こす理由もないからこのまま眠らせてあげようと思ったけど…

400: 2009/03/22(日) 13:53:38 ID:UWoQlJCE
「あ、私のタロット!」


サーニャは占いの途中だった私のカードを敷布団の一部として利用し
その上ですやすや寝ている。酷いじゃないかサーニャ…曲がっちゃうよ
せめてどかしてから寝てくれよ。
起こさないように静かにサーニャの体の下からカードを抜き、枚数を数えると一枚足りない。


「どこダ…?」


反対側かと思って、サーニャの体に触れないようにベットの奥に手をついてのぞきこみ
やっと見つけたカードはサーニャの手の中という最悪の場所だった
起こさないように手の中から抜き取ろうとするけど離してくれない


「勘弁してくれよサーニャ、離してヨ…」


一瞬、キスしたら離してくれるかなとか考えたけどそんな事出来るわけないと
頭をぶるぶる降って考えを消し、ちょっと強引に引っ張る


「……ん…」
「っ!」


無理矢理過ぎたのか、サーニャが起きてしまった。
ぼーっとしてるサーニャと目が合う。カードに夢中で気付かなかったがお互いの顔は近く、目の前はサーニャの顔でいっぱいだ


「あ、あのっ!サーニャ、これ、離し…」
「…おはようエイラ」


頬に柔らかい感触。今の…なに?
首だけ起こしたサーニャにキスされた…のか?


「……おやすみ」


ぽかんとしている私を無視してサーニャはまたぽふっと枕に頭を下ろし
さっきと同じ体勢で眠りについた。
違うのは、私が必氏に奪おうとしていたカードがサーニャの手から落ちて『恋人』の正位置になっていただけだった。
 


信じられるか?

魔法使いがお姫様からキスをもらえるお話があるんだぞ?
そんな変わったお話のキスはおはようのキスなのか、おやすみのキスかもわからないんだ。
 
 


「で、おはようのちゅーはもらえたの?サーニャ」
「……いえ、エイラは私よりタロットに夢中みたいです。
だから勇気だして…その…私から…」
「ひゅー!前から思ってたけどサーニャって結構大胆だよね!」
「ハ、ハルトマンさん!向こうの二人に聞こえちゃいます!」
「で、エイラの反応は?」
「恥ずかしくて寝たふりしちゃったので…寝ぼけてると思ったんじゃないかと」
「ダメじゃん…」
 


「なぁ、バルクホルン大尉」
「なんだ?」
「さっきの話だけど、ハルトマン中尉にしてあげなよ
王子様のキスでお姫様が起きない世界なんてないんだからさ」



fin

引用: ストライクウィッチーズ避難所1