490: 2009/03/25(水) 19:50:09 ID:FgTXaUko
 青い空を白い雲がゆっくり流れていく。うららかな日差しが降りそそぐ、心地のいい昼下がりだった。
 陽にあたためられた風が木々のあいだをすり抜けていった。さわさわという葉擦れの音に混じって小鳥のさえずりが聞こえてくる。手もとの花には黄色い羽のチョウがじっと花びらにしがみついて蜜を吸っていた。ここはわたしたちだけでなく、空を飛ぶいろいろな生きものがひっそりと羽を休めるための隠れ家なのかもしれない。
 林のなかにそこだけぽっかりと開けた空間、背のひくい草花が密生していて人の手が加えられた形跡はない。以前、わたしと芳佳ちゃんで見つけた秘密の花園だった。
 わたしはひざ枕している芳佳ちゃんの頬をさすった。ぷにぷにやわらかいほっぺはマシュマロのよう。
 芳佳ちゃんは目を閉じたまま、くすぐったそうに笑みを浮かべた。つられてわたしも笑顔になった。

491: 2009/03/25(水) 19:52:42 ID:FgTXaUko
 ネウロイ襲撃の予報もなく、気候がおだやかなのもあって今日のランチは各自に好きな場所で取ることになった。
 ミーナ中佐やバルクホルンさんたちは基地内で、少佐はペリーヌさんに誘われて海の見える丘へ、シャーリーさんとルッキーニちゃんはハンモックに寝そべりながら、エイラさんとサーニャちゃんは人知れずどこかへと消えていった。
 みんなそれぞれにランチを楽しんでいるのだろう。わたしと芳佳ちゃんも二人だけのランチタイムを満喫した。
 わたしの作ったサンドウィッチや芳佳ちゃんが握ったおにぎりなどをお腹いっぱい食べ、デザートに用意したカラメルソース仕立てのプリンを食べさせあいっこした。照れくさそうにはにかむ芳佳ちゃんはおもわず抱きしめたくなるくらいかわいかった。
 ランチが終わって集合までの小一時間、わたしたちは自然が奏でる音に耳を澄ませ、風がはこぶ香りのひとつひとつを味わった。自分たちも自然の一部となり、身をゆだねる。あざやかな緑色につつみ込まれ、凝り固まっていた不純物が解きほぐされていく感覚。すぅ、と胸がすくような、さわやかな心地をおぼえる。
 肌で直に感じる光や音はまるでわたしたちに鳥や木々とおなじ生きものであることを思い出させてくれているようだった。

492: 2009/03/25(水) 19:54:35 ID:FgTXaUko
 わたしは芳佳ちゃんの髪に指を差し入れた。やさしく、気持ちを込めてくしけずる。
 芳佳ちゃんとお友だちになってからまだ何ヶ月も経っていない。にもかかわらず、あたかも幼いころからの親友であるかのように感じられてならなかった。
 わたしとちがって快活で、誰とでもすぐ打ち解けて、いつも前を向いて走っていける女の子。本来ならわたしなんかとは縁のない子だった。
 けれどわたしたちは出会い、こうして手を伸ばせば触れることができるほど近しい関係になった。
 わたしは芳佳ちゃんとなかよくなってからというもの、たびたびおばあちゃんの言葉を思い出すようになった。
『ふつうの人は特別な才能なんて持っていないわ。だから努力して、特別になろうとするの。あなたは魔力をもって生まれたけれど、それも努力しなければなんの意味もなくなってしまうわ。大事になさい。そのちからはあなたを幸せにするためにあるのだから、ね』
 わたしは“魔力”という才能をきっかけにして芳佳ちゃんに出会うことができた。
 魔力を除けばただの女の子にすぎないわたしが芳佳ちゃんにめぐり合えたのはひとえに魔力のおかげ、ここまでなかよくなれたのは芳佳ちゃんの人懐っこい性格のおかげだ。
 でもこれから先は魔力のみに頼ることはできない。もちろん、芳佳ちゃんのやさしさに甘えていても望ましい未来などやってこないだろう。
 わたしの唯一の才能が与えてくれたこのチャンスを逃がしてはならないのだ。やさしくてかわいくて、大好きな芳佳ちゃんとずっとなかよしでいるために、わたしは努力する必要がある。お料理も訓練もがんばって芳佳ちゃんのとなりを堂々と歩けるくらいの実力を身につけたい。
 そうした上でもっとわたしのことを知ってもらい、わたしも芳佳ちゃんのことを知っていまよりも深く分かりあえるようになりたい。なにもかもを分けあって互いの気持ち、ほんのわずかなこころの揺れ動きまでも感じ取れるように。
 わたしには魔力以外にたいした才能なんてないのだから、自分にできることを人一倍がんばって、いつか芳佳ちゃんの“特別”になりたい、そう思うのだった。

493: 2009/03/25(水) 19:55:40 ID:FgTXaUko
 風が芳佳ちゃんの前髪を揺らした。まぶたにかかった髪を横に払ってあげる。反応がないので顔を近づけると静かな寝息が聞こえてきた。どうやらあたたかい陽気にやられて夢の世界へ旅立ってしまったようだ。小さく開いたお口に、わたしはくすりと笑った。
「……わたし、がんばるからね、芳佳ちゃん」
 いつかきっと芳佳ちゃんに見合うだけの女の子になってみせる。
 愛らしい寝顔をそばで見ていられるように。
 一番の笑顔をわたしに向けてもらえるように。
 わたしは唇に人差し指の腹をあて、起こさないようにそっと芳佳ちゃんの唇にそれを触れさせた。



 おしまい

494: 2009/03/25(水) 19:59:08 ID:FgTXaUko
以上です。読んでくれた人に感謝。
楽しんでもらえたら幸い。

それと108手(501手?)がその通りにいかない場合などは
ただの無題でよろしくお願いします>保管庫の管理人さん

引用: ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所1