736: 2009/04/05(日) 21:14:01 ID:9phNagjQ
某所で絵を見て、思わずリーネイラで書いてみてしまいました!

737: 2009/04/05(日) 21:18:04 ID:9phNagjQ
 狙撃は孤独だ。照準を固定し、目標の軌道を予測して、弾道を計算に入れて正確に撃ち抜く。
 私も孤独だ。心は揺れて、不安を抱えて部屋の隅で丸まっている。隊員の皆は良くしてくれるけれど、
私が壁を作っていた。

 今日もリネット・ビショップは一人だった。
 教官である坂本美緒少佐が、故国の扶桑へと戻り新人のスカウトに行っているためか、隊内も少し活気
をなくしていたようだったが、それがなんの影響も与えない程度には、独りだった。
 寂しいか、と問われれば寂しかったが、どこかそれに慣れつつある自分にも気が付いていた。きっと、
本当に寂しいのは寂しさに慣れたと思っている自分なのだろう、とリーネは思っていた。
 空を見上げても、空に蓋をしてしまったかのような重々しい色の雨雲がどこまでも延びている。
 消えてしまいたい。何かに失敗した直後は、恥ずかしさやいたたまれなさからそう思うことはあったが、
真の意味でそう思ったことはなかった。心にはウィッチとして尊敬する姉や母が居たから、その結論に至
ることだけはないと思っていた。
 それでもたまに、何もないのに心がぼきりと折れそうな瞬間がある。ちょうど、今このときのような状
況だ。何もないのに、いや、何もないからこそ、人恋しさに火が灯るものの、己が作った壁にそれが打ち
消されてしまうのだ。
 停滞を拒むかのように、リーネは顔をあげる。そしてどこへ向かうでもなく、ふらりと足を前に出して
目的もなく歩き始めた。


 そんなしょげた様子のリーネを、視界の隅でとらえている人物がいた。
 エイラ・イルマタル・ユーティライネンには不思議でたまらなかった。誇れるほどの狙撃の腕がありな
がら、一体何をそんなに憂鬱がるというのか。後ろにあいつがいる、そう思えるだけで命を預けて勇気を
奮い立たせるに値するウィッチになって欲しいのに。
 それに、そういった個人の感情云々は脇に置いたとしても、やはり仲間だった。
 エイラは先に眠気で足元がよたつくサーニャを、僅かな逡巡の末に自分の部屋に連れて行って寝かしつ
けると、さてどうしようかと考え始めた。
 サーニャは当分起きそうになかったし、やはりリーネの事が気にかかった。新人だし、やっぱり一日の
長がある先輩としてはフォローしておかなければ、……胸も大きいし。
 いくつかの理由を錯綜させつつ、エイラはベッドから降り立ち、リーネを探すために廊下へと躍り出た。
 リーネがいきそうな場所を片っ端から覗いていったものの、姿は見えない。それがそのまま自分と彼女
の距離であるような錯覚すら覚える。
 どこに行ったんだろうな、と自分に言い聞かせるように胸の内で問いかけて、どうしたものかと歩いて
いた時だった。
 居た。エイラはようやくリーネを見つけ出した。
 リーネは廊下の片隅に立っていた。言葉もなく息を頃しているかのような静かさで佇んでいた。
 先ほどと同じように、やっぱりそうして空を見上げている。今にも泣きそうな曇り空を。
 その顔には何の感情も浮かんでいないように見えた。喜怒哀楽、またはそれから派生するいかなる感情
でさえも。
 それを見てエイラの心によぎったのは、ある種の恐怖だった。儚いものに対する、触れたら壊れてしま
うのではないかという恐怖。初めてサーニャと会った時の感情に近い……はずなのだが、印象はまるで違
っていた。
 それでも、リーネに先に気づかれるわけにはいかないと直感的に思って口を開く。
「リーネ」
 呟くように名前を呼ぶ。
 勢いよく振り向いたリーネの表情に浮かんでいたのは驚愕だった。だが次の瞬間にはバツの悪そうな顔
になり、やがて見られたくないものを見られてしまったといわんばかりの苦い表情が浮かぶ。
「どうした、沈んでるのか?」
 できるだけ明るい調子で、何も見なかったかのような気軽さでエイラは声を投げかける。
 リーネは動転しているためか、口を開きはするものの言葉がでてこなかった。
「いやあ、今日は降りそうだなあ。でっかいのがきそうだ」
 エイラも外を覗き見て呟き、リーネが呼吸を立て直す間を稼ぐ。
「エイラさん、あの……どうして」
 リーネの口から出てきた言葉は、エイラにもなんとなく予測がつくものだった。
「サーニャが寝ちゃってたからな、なんとなくぶらついてただけだよ。目も冴えてたし。そっちこそどう
したんだ? こんなところで」
 エイラは自然体でリーネに水を向ける。
 リーネは少しだけ目を泳がせた。
「私も……ちょっと、なんとなく、です」
 そう言ってリーネは弱々しく微笑む。そしてエイラの目を見たが、すぐに逸らしてしまった。

738: 2009/04/05(日) 21:19:28 ID:9phNagjQ
 いけない、とエイラは思った。勘違いであるに越したことはないが、心が相当参っているんじゃないか、
こいつは? 一体こいつの心に刺さってる憎たらしい棘はどんな種類のものなんだろう? だが、さすが
に今のままでは判るはずなどなかった。
 いけない、とリーネは思った。エイラの目。なんと優しい目をしているのだろうか。今なら何を言って
も受け入れてもらえそうな気がしてくる。多分、実際そうなるだろう。……私がそのつもりで口を開いて
しまえば。甘えてはいけない。奥歯を噛みしめて、リーネは静かに自分を抑制する。
 エイラは元々、さりげない気遣いならともかく、面と向かって優しくしろといわれてよしきたと答えら
れるような類の人間ではない。全体的に器用ではあったが、そういう方面の器用さは生憎持っていなかっ
た。
 結果として、裸のままぶつかった。自分が心配していること、何か困ったこと、心配事、そういうこと
があれば言ってくれ、と。
「リーネ、何か落ち込んでるのか? 自信を持っていい、お前の狙撃の腕はすっごいんだ、スオムスで生
きていこうと思えば十分やっていけるくらいなんだぞ?」
 一体何がいけないのかとばかりに首をかしげて、リーネを心から案じていた。ただただ純粋な好意から
くる心配、と言うのはリーネの心に刺さるようだった。
 エイラの包み隠そうともしない気遣いは、リーネが虚勢で作った心の壁をざくざく掘り削っていくよう
だった。普段はからかい混じりに、後ろから前から胸を揉んでこようとするくらいの関係で、それ以外は
サーニャにべったりのくせに、こういう本当に心が折れそうな時にこれだ。
 ただ、ひたすら純粋に自分を心配する整った顔が目の前にある。大丈夫? 大丈夫? と言わんばかり
にひっきりなしに問いかけてくる。その心配ぶりはもう一途としか言いようがなく、そんな気遣いを常に
受けられる夜間哨戒を主とする同僚を少し羨ましく思い、目の前の同僚を愛らしい犬のようだと少し思っ
た。
 エイラの宝石のような目、白磁のような肌。硬くなった心がほぐれていくような優しい匂い。その全て
が間近にあって、リーネはどうしようもないほど胸が高鳴っていた。
 どうか気づかれませんように。どうか顔に出ていませんように。
 そればかりを願っていた。
 リーネが自分の心を隠すために浮かべた笑顔を、エイラは少し元気が出てきた、と解釈した。
「そう落ち込むなって!」エイラは明るい笑顔を浮かべて快活に言うと、「タロットで占ってやるから
さ!」
 当たるのかなあとリーネはそんな疑問を抱きつつも、断るなどという選択肢は最初から入っていなかっ
た。
「ありがとうございます」
 精一杯の笑顔を浮かべるその裏で、リーネは自分の心の手綱を握ろうと必氏だった。
 エイラは目の前で、手馴れた手つきでタロットを取り出すと、そのまま座り込んで占いだした。リーネ
は場所を移動しないか、といった旨のことを言おうとはしたのだが、エイラの顔にいつもの悪戯めいた色
がかけらもなく、戦場にいるかのような真剣そのものの顔つきであることを見ると、出しかけた声を飲み
込んでしまった。
 やがてエイラが抜き出したカードは逆向きの星だった。エイラはおやおやと言わんばかりの顔つきでそ
の結果を見る。そしてそこでリーネがいることを思い出したかのようにリーネを見ると、笑顔を浮かべて
言った。
「良かったな」
 リーネは首を傾げる。タロットはよく判らなかったが、逆を向いているのに良いなんてことがあるのだ
ろうか。
「そんなに落ち込むことはないって結果さ。自分に出来ることをよく考えてみるんだぞ」
 エイラはタロットを片付けて立ち上がると、軽くリーネの頭を撫でて「元気出せよ」と言ってふらりと
歩き去る。リーネは棒立ちのままで、エイラにありがとうとも待ってとも言うことができなかった。胸の
高揚は止まりそうもなかった。
 リーネは後ほどこっそりとタロットの、逆向きの星が示す意味を調べてみた。
 失望、無気力、高望み。おおよそ、そんなところだった。
 リーネはリーネで、エイラ自身の能力はともかく、占いのほうの腕については逆に当たるという隊内の
噂もあり、実のところ半信半疑だったので、あまり真面目には受け取らなかった。むしろ励ましてくれた
んだな、と好感をもったくらいだった。

739: 2009/04/05(日) 21:20:04 ID:9phNagjQ
 それから、エイラは何かとリーネも気にかけるようになった。
 リーネも何だかんだでエイラには明らかに親しみを覚えているようで、エイラはそれが嬉しくてたまら
ない様子でもあった。
 リーネからすれば、エイラは不思議、という印象のままで、それでもとても眩かった。
 普段はやはりまだ一人で居ることが大半だったリーネの元に、エイラはいつもふらりと現れた。そして
突然会話を始めるのだ。
「リーネは戦争が終わったら、何かしたかったこととかあるのか?」
「したかった?」
「ほら、こういうことしたいとかさ、こんな風になりたいとかさ。私は終わったら……というより落ち着
いたらサーニャの両親を探しに行こうと思ってる」
「ああ」リーネは意図を飲み込んだ。「そうですね……私は、お嫁さんになりたいです」
「お嫁さん?」
 エイラは怪訝な顔で言った。
「……やっぱりおかしいですか?」
 リーネが恐る恐るといった調子で言うと、エイラはんなことないって、と見惚れてしまうような笑顔を
浮かべた。
「お前紅茶入れるのうまいしなあ、いいんじゃないか? 幸せな証拠だしな。あー、でも、お前狙撃もう
まいしなあ。スオムスじゃひっぱりだこだよ。なんならうちに来たっていいんだぞ? にひひ」
「じゃあ行く当てがなくなったらその時はお願いしますね」
 リーネも自然な笑顔でそう返しはしたが、内心はそれどころではなかった。嬉しさで跳ねまわる心臓と、
サーニャに対する後ろめたい罪悪感が一同に会して、自分の身を自分で抱きしめなければ、どうにかなっ
てしまうのではないかと思うほどだった。

 リーネは風すらも凪いだ静かな夜に、部屋から空を見上げて考えていた。
 エイラさんに親密感を覚えれば覚えるほど、サーニャちゃんが妬ましくなる。この気持ちは気になる人
の気を引きたい、そんなささやかなヤキモチだろうか。それとも恋焦がれた末の汚れた嫉妬だろうか。
リーネは湧き上がった感情をもてあましていた。サーニャとは友達になりたいと思う一方で、妬ましく思
う自分がいる。そしてそんな自分にとんでもなく嫌気が差すのだ。
 私も、エイラさんの大きな愛情に守られていたい、彼女の意識を一心に独占したい。そんな気持ちが湧
き上がってくる。
 この気持ちが歪んだものであることは頭が知っている。だけど心はそれを知ってなお、そうあり続けた
いと望んでいた。遠くで見ているだけじゃ、満足できなかった。
 何をしても、何を見ても、エイラさんのことで一杯だった。今何をしているのかな、今何を考えている
のかな。こういう話をすればエイラさんは楽しいかな、この紅茶はエイラさん、喜んでくれるかな。
 リーネが自ら、これがすきと言うことで、この感情が恋だと気がつくのにさほど時間は掛からなかった。
 恋には憧れがあった。きっととても温かくて、とても素敵なものだと思っていたから。
 実際気持ちは浮ついて、幸福で酩酊状態になることもあった。そのときは幸せだったけれども、やはり、
これは叶うことのない恋だとは頭で知っていた。
 その結果、心の天秤は均衡を失って、傾いてしまった。
 心のしこり。表現するにはそれが一番適切だったとは思うけれど、それを抱えた当人としては笑えたも
のではない。心が重い。それ以上の表現ができなかった。食事も喉を通らないとはまさにこのことで、肉
体の信号を心が拒絶しているかのような重み。歩けば歩くほど足取りが重くなっていく。何を話されても
頭に浸透して来ない。
 いけない、これ以上は。頭で必氏に制止をかけようとしても、心がどんどん転がり落ちてゆく。
 満たされることのない杯を拾ってしまった気分だった。

740: 2009/04/05(日) 21:20:28 ID:9phNagjQ
 心に歪な重石を抱えて一体何日過ごしたろうか。ただシフトをこなして、実戦で氏なないように気をつ
けて。相変わらず弾は当たらず、けん制程度にしかなっていなかったけれど、それでも元々狙撃手である
のも大きかったのか、怪我もなく生き残ることは出来た。
 これでは駄目だ、とは思っていた。
 心の振れ幅は大きくなっていたけれど、状況は何も変わっていなかった。むしろ心の振れ幅がある分、
安定感を失って余計悪化してしまっていた。
 不幸中の幸いがあるとすれば、元々低い水準をうろうろしていたせいか、精神の影響をもろに受ける魔
力にさほど揺らぎが反映されなかったことだ。
 空は、飛べる。それが、リーネのウィッチとしての最後の壁だった。でも何時飛べなくなってもおかし
くないと言う状況であることは判っていた。
 リーネはぼんやりと自分の部屋で、ベッドに座っていた。朝なのにカーテンを開けていないため、部屋
は暗いままだ。だが、今のリーネには外を見ようと言う気力すら沸かない。
 自分が壊れてゆく。ふとそんなことを思った。馬鹿だなあ、と思う。エイラさんは何もしていないのに、
それどころか私を気遣ってくれているくらいなのに、私が勝手に踊って転んでいる。
 シーツを手で握り締める。
 その時、消え入りそうなくらい不確かな音で、扉が叩かれた。
 リーネは気のせいかな、と半分思いつつも「どうぞ」と返す。
「お邪魔します」
 静かに扉を開けて入ってきたのは、サーニャだった。囁くような、か細い声。それでもしっかりとリー
ネの耳には届いていた。サーニャも精一杯の勇気を振り絞ってきているのか、顔に緊張の色を浮かべてい
る。ただ、本来ならそのまま眠りに落ちる時間のためか、全体的に眠そうだった。
「サーニャ……ちゃん」
 あまりに予想外のことにリーネはごまかすような笑顔すらも浮かべられず、息をのむ。何故? 何故こ
のタイミングで来たのだろうか? リーネは自分が見透かされているような気がしていた。眠いところを
耐えてまで、あえて来た理由は何か。
 何がくるのか。何を言われるのか。リーネの心が不安で跳ね上がる。
 サーニャは首を僅かに傾げて口を開いた。
「リーネさん、大丈夫?」
 投げられたのは予想していたどんな類の言葉でもない、気遣わしげな言葉だった。
「え……?」
「辛そうよ」
「それ……は、」
 リーネは思わず口をついて出かけた言葉を押しとどめる。貴女のせいです。何があっても、それだけは
言えない。エイラさんが好きなんです。もっと私を見ていてほしいんです。でもエイラさんの心は貴女で
いっぱいだから。
 だけど、もしそれを言ったらどうなるだろう。そんな悪魔も囁きかける。一段飛ばしでエイラの悲しそ
うな顔が浮かぶ。できない、やっぱり。それだけは。
「あのね」
 そう切り出したサーニャの顔を見て、リーネはここからが本題だ、と直感的に思った。リーネも緊張と、
わずかな敵意と共に次の言葉を待った。
 サーニャは僅かにうつむいて、溜め込んでいたことを吐き出すように言った。
「私、貴女がちょっと羨ましい」
 リーネはその台詞を聞いたとき、己の耳を疑った。
「え?」
「最近エイラと仲良くしてるの見るけれど、エイラ、とても楽しそうだから」
「そんな」
 ことはないです、と言いかけたが、サーニャは言葉を畳み掛けてきた。
「でも、どうして? エイラだけじゃない、貴女も楽しそうなのに、どうして今はそんなに辛そうな
の?」
 リーネは身構えた心が、その優しい一撃で崩れていく音を聞いた。
「それは……」
 言葉が詰まる。何と言おうか。何て言うべきか。自分にも判らないんです。自分の心に手が届かないん
です。
 口から出ようとする言葉が多すぎて、頭がぐるぐるする。
 リーネは一度深く呼吸すると、サーニャを見た。サーニャの目は眠気で閉じられそうではあったが、し
っかりとリーネの視線を受け止めていた。

741: 2009/04/05(日) 21:21:00 ID:9phNagjQ
「私も!」リーネは身を乗り出しかけて、慌てて体を戻して言う。「……サーニャちゃんが羨ましい、で
す」
「何故?」
「だって、エイラさんは何だかんだ言っても貴女のことばかり見ているから」
 サーニャは黙って言葉の続きを待っている。
 リーネはいったん口を開きかけて、ろくでもないことを言いそうになって慌てて口を噤んだ。
「頭を冷やすべきなのは私の方だって、判っているんです」
「どうして?」
 サーニャの問いかけは、嫌味ったらしさのかけらもない、ただ純粋に疑問に思ったとばかりの言い方だ
った。
「好きで好きでしょうがないから、他に何も見えなくなるから!」
 リーネは自分の妄執を振り払うかのように頭を振った。
「……でも。でも、人を好きになることまで否定しちゃ駄目よ。それはとても悲しいと思う」
 サーニャの優しい口調は、リーネに考える冷静さを取り戻させた。頭を冷やすとは言ったものの、冷や
してどうなるのか。胸の内に生まれた感情を凍らせる?
「私も、そういうのはよく判らないけど」
 だから、違っていたらごめん。サーニャはそういう意味合いを前置きに含ませて言う。
「それが好きってことなんだと思うの。きっと、人を好きになれる自分に自信が持てる日も来ると思う」
 リーネは自分の中で暴れまわる感情を抑えるように唇を噛むと、思い出したように言う。
「サーニャちゃんは……サーニャちゃんは、エイラさんが好きとか、そういうのはないの?」
 サーニャはその問いを受けてはたと首を傾げた。まるで今まで考えたこともないといわんばかりの仕草
だった。
「大事な人。でも、多分、今のリーネさんみたいな意味で好きってことじゃないと思う」
 それを聞いて、ああ、とリーネは思い出した。サーニャの境遇。サーニャにとっては家族のようなもの
で、恋愛的な好きではなく、親愛的な好きのほうが今は強いのだろう。エイラさんは両方をサーニャちゃ
んに持っているように見えるけど、とリーネは口元でふと微笑う。
 でも、この目の前の少女は自分の気持ちを知った上で、それでも元気を出してと励ましているのだ。エ
イラさんがちょっとかわいそう、と失礼と自覚しながらも微笑ましい気持ちと共に考えたところで、ふと
気がついた。
 判っているじゃないか。
 やっぱり、エイラさんが一番元気で居られるのは、サーニャちゃんと居るときだって。
 そう思った瞬間、嘘のようにすっと、心のつかえがとれた。エイラさんが好きという気持ちに偽りはな
い。ただ何よりも、元気で居て欲しい。それが何よりも嬉しいはずなのだ、自分にとって。
「……ありがとう」
 サーニャは急に言われたその言葉に首を傾げる。
 リーネとしては、もうとてもたくさんのことにありがとうを言いたかったが、全ての想いを一言に集約
させた。
「心配してくれて」
「うん」
 サーニャは眠りに落ちたのかと思うほどカクンと首を落として頷いた。そして顔をあげ、リーネが笑顔
を浮かべているのを見て、釣られるように微笑を浮かべた。
「じゃあ、私、寝るから」
 おやすみなさい。そう言って、ふらりと踵を返してでていった。
 リーネもおやすみなさいと言って見送ると、少しの間そのまま動かず、やがて大きく息を吸い込んで、
優しく吐き出してぽつりと呟く。
「叶わないなあ」
 心の澱が洗われていくような気がした。心が軽い。
 踊るような足取りで窓際まで歩き、カーテンをさっと開く。
 リーネを迎えたのは温かな朝の日差しだった。窓を開けると、静かな風が頬を撫でてゆく。
 見上げた青空はいつもより青い。そんな気がした。

742: 2009/04/05(日) 21:22:56 ID:9phNagjQ
すいません、行数で見てたら字数でひっかかり、5レスになってしまいました!
ごめんなさい! ながすぎちゃった!

引用: ストライクウィッチーズでレズ百合萌え 避難所1