304: 2014/05/26(月) 21:46:49 ID:ihjO62WY


「釣りロマンを求めて」シリーズ

前回:弟「釣りロマンを求めて」幼友「春の淡水釣り編だよー」前編

………



男「──風呂も上がりまして」

幼馴染「温もりまして」

幼友「着替えまして」

弟「夕方になりまして」


男「キャンプと言えば!?」

幼馴染「B!」

幼友「B!」

弟「Q!」
放課後ていぼう日誌 11 (ヤングチャンピオン烈コミックス)

305: 2014/05/26(月) 21:54:31 ID:ihjO62WY

幼馴染「焼きましょう、早く焼きましょう」ウキウキ

幼友「飲みましょう、とっとと乾杯しましょう」ソワソワ

男「まあまあ、炭ももう少しというところです。弟、しっかり空気送れよ」

弟「ラジャー」フーッ、フーッ


男「火加減、どのくらいかな…試しにひと切れ」ヒョイ

ジュウウウゥゥゥ…

幼馴染「良い音です…」ジュルル

幼友「いんじゃない? もう載せちゃおうよ」グウゥ…

男「ふむ…どれどれ──」


──パクッ、ハフハフッ!
パキュッ、グビグビグビッ!


男「ぷっはあぁぁあぁ! ノドが幸せで氏にます!」

幼馴染「ずるい! フライングです!」

幼友「とーう! とーう!」

306: 2014/05/26(月) 22:02:10 ID:ihjO62WY

男「ではでは、どんどん焼いていきましょう」

幼馴染「肉、並べます」ジュウウウゥゥゥ

幼友「キャベツはワイルドに手で千切っちゃう」ベキベキ

弟「タレ、注いどくね」


幼友「私、やっぱりスターターはビールだな」

幼馴染「私もちょっとだけ、梅チューハイを頂きます。飲みきれなかったら男が飲んで下さい」

男「関節キッスか…」

幼友「なんで今更そこを気にする」

弟「僕、コーラ貰うね」パキュッ


男「じゃあ、四人での初キャンプの夜に」

全員「乾杯ーーー!」

307: 2014/05/26(月) 22:09:22 ID:TqOzF0ME

幼馴染「ああ…美味しい、夕焼けが綺麗だからなおさら格別です」モキュモキュ…

男「………ぷっは! 次だ、次っ!」パキュッ

弟「お肉、このひとパック以外は豚だからね」

幼友「豚をフチがカリカリになるくらいまで焼くのも美味いんだー」


男「釣った魚も捌いてあるから、焼いていきましょう」

弟「僕が釣ったアマゴだよ」


幼友「おー、拗ねたり不貞たりはしてても、釣果は竿頭じゃん!」

男「途中、嫌な事を忘れるために一心不乱に竿を振っていたようなので」

弟「まあね…勘弁してよ」

323: 2014/06/02(月) 11:45:01 ID:4ID0nUNI

幼馴染「…ふぅ」コトッ

男「お? 珍しい、幼馴染が梅とはいえチューハイ1本飲み切るとは」

幼馴染「雰囲気も手伝って美味しかったです。まだあるなら欲しいくらい」


幼友「あるよー、レモンだけど」ヒョイ

幼馴染「ありがとうございます」プシッ

男「調子に乗らないように」


幼友「今夜は幼馴染ちゃんが酔ってエOチな気分になっても応えられないもんねー?」

幼馴染「そこはお気遣いなく」

男「グループでキャンプの夜にまで発情しなくてもいいです」

幼友(…なんだ、このいつもを思えば不自然な余裕)ジトー

324: 2014/06/02(月) 11:45:44 ID:4ID0nUNI

幼友「それにしても弟君、最初から素直に『渡しそびれたけど』って言えば良かったのに」クスクス

弟「馬鹿だったよ、本当」シュン…

幼馴染「………」ゴキュゴキュ


男「ま、記念の品に忘れ難い思い出がついたと考えましょう」

弟「忘れさせてくれー」

幼馴染「………」グビグビ


幼友「だーめ、一生言ってやるんだから」

男「…お? 深読みできる言葉です」

幼馴染「………」プハ

325: 2014/06/02(月) 11:46:24 ID:4ID0nUNI

幼友「あ、幼馴染ちゃん…今度こそ無理しちゃだめよ?」

男「そうです、そのチューハイはさっきの梅と違って──」

幼馴染「………」コトッ

幼友「──ストロング系だから、度数が高い…」


弟「空だよ、これ」

男「えっ」

幼友「えっ」


幼馴染「…酔った」


三人「えっ」

326: 2014/06/02(月) 13:49:33 ID:9f1ckm9E

男「き、気持ち悪くはないでしょうか」

幼馴染「あ? テメー、自分ろカノジョが気持ひ悪いっれゆーんれすか、んん?」ヒック

男「言ってない言ってない!」


弟「幼馴染ちゃん、ちょっとお茶か水でも飲んだ方が」

幼友「クーラーボックスから出すね!」ヨイショ、タユーン

幼馴染「ケッ…わざとらひく揺らすんじゃねーれすよ」

男「なにこいつヤバイ」

327: 2014/06/02(月) 13:50:42 ID:9f1ckm9E

幼馴染「そもそも壁らとかまな板らとか、ろいつもこいつも…そんな脂肪、子育ての時以外役にたたねーれしょうに」

弟「ちょ、落ち着いて」


幼友「もう…前はこんな絡み酒じゃなかったけどなぁ。はい、お茶…零さないでよ?」

幼馴染「どーせ私には零れ落ちるものなんか無いれすー。お前が零しとけ、あはははは」グイッ──

幼友「きゃっ…!?」

──ポロッ、プルンッ


男「」ブーーーッ

弟「」ブーーーッ

328: 2014/06/02(月) 13:51:46 ID:9f1ckm9E

幼友「うわあああぁぁあぁ!?」イソイソ

幼馴染「隠すくらいなら最初からサラシれも巻いとけれす、この乳牛」ケタケタケタ


幼友「ふ…二人とも見た…?」フルフル…

男「見テマセン」ハアハア

弟「」ポックリ


幼馴染「おー、ろーした? 男、ホルスタイン見て興奮したんれすか」

男「シテナイシテナイ」


幼馴染「そーれすよね、男は貧Oが好きなんれすから。ほーら、こっちれしょ?」ヌギッ…

男「スタアアアァァアァップ!!」ガバッ

329: 2014/06/02(月) 13:56:05 ID:haYpIi16

幼馴染「ふっふーん、男ったら大胆れす。んー」チュウウウウゥウゥッ

男「んんんんんっ!?」ジタバタ

幼友「ちょ…!?」


男「ぷはっ…幼友ちゃん、手伝って下さい! バンガローに連れていきます!」

幼友「いえっさー!」ガシッ

幼馴染「放せー! てーい、てーい!」ビシビシ

幼友「痛たたた! 足の方持ちました!」


幼馴染「放せと言うにー!」ゲシッ

男「うぐっ…仕方ねえ! おらっ!」カミッ、モゾモゾサワサワ…

幼馴染「ふわっ!? あ、や、やめっ…ああああぁあぁぁっ…!」ビクビクッ

男「フッ…こいつの弱点は耳たぶ両側同時責めだ」


幼馴染「…うぅ……もうらめぇ…」ガクッ

幼友「まさか友達のイキ様を見せらつけられるとは…」

334: 2014/06/02(月) 14:25:45 ID:5TPY2FnI

男「弟、バンガローのドアを開けて下さい」

幼友「…あれ? 弟君がいない?」


男「チッ…幼友ちゃん、開けられるでしょうか」

幼友「うーん、なん…とか……よっ…と」ガチャッ

男「一度おろして休みますか?」

幼友「幼馴染ちゃん軽いから、大丈夫ですよ」

男「よし、じゃあベッドまで──」

335: 2014/06/02(月) 14:26:52 ID:5TPY2FnI

………



男「ふう…参った参った」

幼友「幼馴染ちゃん、お酒飲まない方がいいなぁ」

男「本当です。今後、俺の目の届かない飲み会ではくれぐれも頼みます」

幼友「あれは心配しちゃいますよね」


男「弟は…まだいないな、お手洗いでしょうか」

幼友「わっ…! お肉焦げてる!」

男「げっ、勿体無い。仕方ありません、久しぶりにサシで飲みますか」

幼友「そーですね、前のバンガロー泊で幼馴染ちゃんが先に寝ちゃって以来かな」

336: 2014/06/02(月) 14:27:33 ID:5TPY2FnI

男「じゃあ、改めて」

幼友「かんぱーい」コツンッ


男「………」ゴキュゴキュ

幼友「………」ゴクンッ

男「………」

幼友「………」


男(早く弟、帰ってこないかな)

幼友(こういうのって、私が男さんの事好きだったのがバレてから初だよね…)


二人(気 ま ず い)

343: 2014/06/03(火) 00:26:14 ID:NlN13dSE

幼友「あ、あはは…やっぱり焦げ気味のお肉は苦いですねー」アハハハ

男「身体に良くなさそうなので、無理に食べなくても……なるほど、苦い」

幼友「まあ食べられなくはないかなー」


男「そ…そういえばいつぞや、チョコケーキが苦いとかいう話がありました」

幼友「チョコケーキ…バレンタインの時の?」

男「ああ、そうでした。俺は食べていませんが──」


──ハッ


男(バレンタインってXデーじゃん、俺よ氏ね!!)

幼友「………」

男「………」ダラダラ

344: 2014/06/03(火) 00:27:41 ID:NlN13dSE

幼友(…でも、いい機会なのかも)


『僕、幼友ちゃんの全てが好きだから』


幼友(今のままじゃ、私…あんなにも真っ直ぐな弟君の気持ちに、ちゃんと向き合えない)

幼友(私が迷わず前を向くためには)

幼友(振り返るものを無くさなきゃいけないんだ)


幼友「男…さん」

男「はい…?」ドキッ

幼友「あの日に言えなかった、言わなかった事…話していいですか──?」

345: 2014/06/03(火) 00:28:23 ID:NlN13dSE

………



弟「ふぅ…」

弟(何も言わずに場を離れちゃって悪かったかな)

弟(…でも、仕方なかった)


弟(しっかし幼馴染ちゃん、酔うとタチ悪かったなー)

弟(ん…? もうコンロのところにいるのは、兄ちゃんと幼友ちゃんだけか)

弟(幼馴染ちゃん、バンガローに強制収容されたんだろーな)


弟(まだあんまり食べてないし、僕もまたバーベキューに参加しよう)

弟(二人ともなんか真剣な顔して、何を話してるんだろ…?)

346: 2014/06/03(火) 00:29:11 ID:NlN13dSE

幼友「…男さん、あのね」

男「幼友ちゃん、この肉焼けてます」


幼友「男さん」

男「飲み物、空いてませんか? ビールまだあったと思いますが」


幼友「………」

男「塊ベーコン、厚めにスライスして焼きましょう。お酒がすすむはずです」


幼友「男さんっ」

男「……っ…」

幼友「…どうして遮るんですか」


弟(これはまさか…)


幼友「聞いて…下さいよ」

男「……はい…」ポリポリ

347: 2014/06/03(火) 00:30:02 ID:NlN13dSE

幼友「初めに言っておきます」

男「はい」

幼友「私、貴方の事…好きでした」


弟(…やっぱり、こういう話か)ズキン


幼友「今は」

男「………」ゴクリ

幼友「…今でも、好きじゃないって言ったら…嘘です」


男「それはしつこい風邪が残ってるようなものだと」

幼友「男さん」

男「うっ……は、はい…」

348: 2014/06/03(火) 00:30:43 ID:NlN13dSE

幼友「一時の風邪に例えられるような、いい加減で意味の無いものだったって言いたいですか?」

男「…すみません」

幼友「そんな軽いものだったら、幼馴染ちゃんの存在を知りながら募らせるわけないじゃないですか」


弟(………)ギリッ…


幼友「男さん、私…そのくらい好きでした」

男「答えようが無い…です」

幼友「解ってます」

男「………」

幼友「こんな話…しても仕方ないかもしれない。困らせるだけなのも解ってる」

349: 2014/06/03(火) 00:31:24 ID:NlN13dSE

幼友「でも、話して終わらせたい。あの日…私は男さんへの気持ちを認めながら『幼馴染ちゃんを選んだだけ』だった」

男「………」

幼友「貴方への気持ちに終止符を打ち忘れたの。そして貴方にフッてもらう事もしなかった」


男「わざわざ傷つくような事をしなくても」

幼友「お願い、ちゃんと失恋させて欲しいんです」


弟(兄ちゃん──)


幼友「私の質問…『はい』か『いいえ』だけでもいいから、正直に答えてくれますか?」

男「………」

幼友「男さん」


弟(──逃げるなよっ)グッ…


男「…わかりました」

350: 2014/06/03(火) 00:33:03 ID:NlN13dSE

幼友「男さん、もし幼馴染ちゃんがいなかったら…私、貴方の恋愛対象になってましたか」

男「……はい」

幼友「本当に…?」

男「はい」


幼友「じゃあ、もし幼馴染ちゃんがいるのに私が諦めなかったら…勝機はあった?」

男「………」

幼友「男さん、答えて下さい」


男「…いいえ」

幼友「ですよ…ね」

男「………」

幼友「……あは…解ってても、ちょっと…くるなぁ…」

351: 2014/06/03(火) 00:33:40 ID:NlN13dSE

幼友「男さん、いつから私の気持ち…気づいてました?」

男「………」

幼友「幼馴染ちゃんのハタチ祝いの夜、送ってもらった時?」

男「…いいえ」


幼友「最初の海釣りの時」

男「いいえ」

352: 2014/06/03(火) 00:34:20 ID:NlN13dSE

幼友「じゃあ、このキャンプ場での夜。…私がおやすみのキスを求めた時」

男「いいえ」

幼友「あははっ…じゃ、あの時は本当に悪ふざけだと思ってたんだ」

男「…はい」


幼友「…バス釣りの時は?」

男「いいえ…気づいてなかったです」


幼友「クリスマス」

男「…いいえ」

幼友「そっか…本当に年越しの時まで、気づかれてもなかったのか…」

353: 2014/06/03(火) 00:35:11 ID:NlN13dSE

幼友「覚えてます? …寒い中、幼馴染ちゃんは竿の様子を見に車を出て。私達だけが車内で──」


………



『──何が、どうなるとも…思って無いですよ?』

『むしろ、どうもならない方がいいんです』

『今まで通り、ずっと三人で仲良くしたいの』

『だからね……だけどね』

『私は…ね、悔しいんです』

『なんで私が、貴方のオサナナジミじゃなかったんだろう』

『どうして私は貴方のオサナナジミと親友なんだろう…って──』

354: 2014/06/03(火) 00:35:56 ID:NlN13dSE


………



幼友「──あれは、ほとんど告白でしたよね」

男「そう…でした」


幼友「さすがにあの時には解ってくれたでしょ?」

男「……はい」

幼友「でも年が変わって、私が『去年の話なんかしないで』って言っちゃいましたもんね。…臆病だったなぁ」


男「あの後、迷いました」

幼友「えっ…?」

男「幼友ちゃんへの接し方を変えるべきか…誘うのを控えるべきか否かを」

355: 2014/06/03(火) 00:37:11 ID:NlN13dSE

幼友「男さん、最後にあとひとつだけ質問します」

男「…はい」

幼友「できれば、これにだけは『はい』や『いいえ』じゃない返事を貰えたら嬉しいな」


弟(幼友…ちゃん…)


幼友「男さん、私と──」


男「………」


幼友「──付き合って下さい」

356: 2014/06/03(火) 00:39:25 ID:NlN13dSE

男「………」

男「………」

男「…無理…です」

幼友「うん…」ポロッ


男「俺には…甲斐性が無いから」

幼友「………」ポロポロポロ…

男「女性は一人幸せにするので精一杯…です」

幼友「う…んっ……知ってる…っ……知ってた…よぅ…っ」グスンッ…ボロボロ…

357: 2014/06/03(火) 00:40:57 ID:NlN13dSE

………



幼友「うー、ごめんなさい。もう落ち着きました…」ハァ…グスン…

男「…顔、洗ってきては」

幼友「うん…そうします。それと男さん、さっきの話」

男「はい」


幼友「年明けから後、接し方や釣りのお誘い…変えずにいてくれてありがとう」

男「それで良かったのでしょうか」


幼友「うん、だって…」

男「?」

幼友「えへへ…そうじゃないと、弟君に会えなかったからね──」

358: 2014/06/03(火) 00:41:43 ID:NlN13dSE

………



男(幼友ちゃん、行ったな…)

男(…さて)


男「…弟、いるんだろ?」

弟「おっと」

男「出て来いよ」


弟「……バレてたか」

男「バレてたってより、ただの予想だけどな」

359: 2014/06/03(火) 00:42:31 ID:NlN13dSE

男「話…聞いてたか?」

弟「うん、ごめん」

男「こっちこそすまん、さすがに気分悪かったろ」


弟「…平気だよ」

男「昼間につまらん事で拗ねてた癖に、やけに今は大人なんだな」

弟「幼友ちゃんが自分の気持ちにケリをつけようとしたのは、どうやら僕のためでもあったみたいだからね」

男「その余裕。一皮剥けたな、お前も…」ウンウン


弟(普段なら、心穏やかでいられるわけないさ……だけど)

弟(今の僕は、賢者タイムだからね──)フッ…

376: 2014/06/05(木) 19:48:49 ID:O8z1u/Bk

………



幼友「ただいまー」

男「おかえりなさい」

弟「おかえりおっOい」


幼友「弟君、どこ行ってたの?」

弟「う、うん…ちょっとトイレに。幼友ちゃんは?」

幼友「あれー? 私もお手洗い行ったけど、すれ違わなかったね」

男「まあまあ…せっかく動ける3人が揃ったんだから、炭火が弱くならない内に堪能しましょう」

377: 2014/06/05(木) 19:49:37 ID:O8z1u/Bk

幼友(…男さん、私の目赤くないですか?)ヒソヒソ

男(大丈夫、暗いからそんなにわかりません)ヒソヒソ


弟「お肉、次のパックいくよー」ジュウウウゥゥ…

男「今度は塩コショウふってタレ無しでいきます」サラサラ

幼友「いいですなー」ジュルル


弟「もうそろそろ焼けたかなー」ヒョイ、パクッ

幼友「どう? どう?」

弟「んー、ちょっと早いかも」モグモグ

幼友「豚だからしっかり火を通さないとねー」

男「今後も弟が毒見するのでご安心を」

弟(『まだまだ』って言いながら全部食べちゃおうかな…)

378: 2014/06/05(木) 19:50:50 ID:O8z1u/Bk

………



幼友「ふー、食べた食べた」

弟「若干くるしい…」ゲフー


男「ちょっと俺は幼馴染の様子を見てきます」

幼友「あ、そうですね。ちゃんと寝てるならいいけど」

弟「ごゆっくり、僕は幼友ちゃんと愛を語ってるから」

男「へいへい」


…カチャッ、パタンッ


幼友「えーと、語るのはペットに対する愛とかでいいのかな?」

弟「…飼われるってのも悪くないね」

379: 2014/06/05(木) 19:51:44 ID:O8z1u/Bk

………



男(幼馴染…寝てるか)

男(よかった、そう苦しそうじゃないです)

男(それならそれで、そっとしとけばいいんだ…けど)

男(…ちょっと隣、座らせてくれよな)


…ポフッ

男「………」ナデナデ


幼馴染「…くすぐったいです」

男「げ、起きてましたか」

幼馴染「ドアの音で目が覚めました」フワワ…

380: 2014/06/05(木) 19:52:38 ID:O8z1u/Bk

男「…気分はどうでしょう」

幼馴染「だいぶ楽です。…なんとなく覚えていますが、先ほどは失礼しました」


男「全くです。…もう、このまま寝ますか?」

幼馴染「せっかくのキャンプの夜に、それも勿体無い気がします」ムクッ…

男「…じゃあ、二人のところへ戻るとしますか」ヤレヤレ

幼馴染「いいえ、もう少し後にします」

男「?」

幼馴染「弟君に少し二人きりの時間をあげましょう。…それと──」


…ギュッ


幼馴染「──どうやら男も、少し疲れているようなので」ナデナデ

男「……ありがたい…です」

381: 2014/06/05(木) 19:53:50 ID:O8z1u/Bk

………



幼友「………」

弟「…なんか、物静かだね?」

幼友「私はもともと物静かでお淑やかなオンナだからね」クスッ

弟「それは僕が好きになったヒトとは、ちょっと違うかな」

幼友「あ、ひっどーい」


弟「…ほら、いつもの『とーう』がこないもん」

幼友「あはは…そうだね、普段ならやってるかな」


弟「……飲み物、おかわりは?」ゴソゴソ

幼友「ん…缶のハイボールあったよね」

弟「ウイスキィィィィ…が♪」ヒョイ

幼友「お好きでしょっ♪ …トリスだけどね」プシッ

382: 2014/06/05(木) 19:54:31 ID:O8z1u/Bk

幼友「弟君…私の事、好き?」ゴキュゴキュ

弟「大好き」

幼友「…いいねぇ、いい返事だよ」プハ

弟「お褒めにあずかり光栄です」


幼友「……ね、もっかい言ってくれる?」

弟「どうしたの?」

幼友「愛を語らうんでしょ?」


弟「…好きだよ」

幼友「もう一度っ」

弟「大好きです」

幼友「……もっと」

弟「愛してる」

383: 2014/06/05(木) 19:55:42 ID:O8z1u/Bk

幼友「もう…いっかい」

弟「…何回でも言えるよ」

幼友「う…ん…」


弟「でも今は…幼友ちゃん、辛そうに見えるから」

幼友「………」

弟「だから、今日はもう言わない」


幼友「うん、ごめん…」

弟「じゃあ……頭、撫でていい?」

幼友「お願い…します」グスッ

弟「…いい子いい子」ナデナデ

384: 2014/06/05(木) 20:26:54 ID:O8z1u/Bk

……………
………


…翌朝


幼友「おっはよーう」

幼馴染「おはようございます」

男「おはようございます」

弟「おはよおっOい」


幼友「…男さん、なんか違いません?」

男「はい?」ドキ

幼友「いつも通りでお願いします」ニヤリ


男「……おはよおっOい」ニコ

403: 2014/06/07(土) 10:46:04 ID:26.cKkvQ

………


…移動中


男「まだ時間は六時前。今日は今から10時くらいまで釣りをして、あとは観光をして過ごそうと思います」

幼友「いぇーい」パチパチ


幼馴染「この近くには何か観光地があるのでしょうか」

弟「スマホで調べたけど、なんか自然公園があるとか」

男「けっこう時間はあるので、そこだけでなく帰りの道中に寄れるところは見て周りましょう」


幼友「じゃあ古民家の町並みが綺麗っていう、蕎麦処にも行ってみたいな」

幼馴染「蕎麦、全力で賛成」

男「了解、でもとりあえず釣りに集中します」

404: 2014/06/07(土) 10:57:39 ID:X96Xt0io

幼友「朝もやの山並み、綺麗だねー」

弟「もやの切れ間から覗く山のチラリズム」

幼馴染「台無しとはこのことか」


男(アカン、昨日の思い出してしまう)

弟「あ、兄ちゃんが工口い顔した」

男「ばっ…違わい!」アセッ


幼馴染「失礼な、男は釣りの時以外は工口い顔をしています」

幼友「全くフォローになってない」

男「置いて帰ろうかな…」

405: 2014/06/07(土) 10:58:25 ID:X96Xt0io

幼友「ところでバンガローの宿泊代、いくらでした?」

幼馴染「今回はさすがに弟君もいるので、男の負担が大き過ぎます」


男「ご心配なく、宿泊代は無料にしてもらいました」

幼馴染「えっ」

幼友「いくら管理人とおじさんと釣り仲間だからって、気前が良すぎない?」

男「…その代わり、今度おっちゃんが海に出る時はタダで船頭をする約束になっています」

弟「なるほど」


男「なのでバーベキューの材料代だけ、一人あたり二千円くらいです」

幼友「あとで出しまーす」

幼馴染「ご馳走さまでした」シレッ


弟「えーと…?」

男「こないだのデートの貸しと合わせて、今3万ちょっとな。就職したら返せよ」

弟「…あーい」

425: 2014/06/20(金) 11:51:28 ID:BXn26HQc

………



男「…というわけで、昨日よりも少しだけ上流のポイントに着きました」

弟「昨日のところよりは少し川幅狭いね」

幼友「両側の木もちょっと近いし、昨日のところの方がフライには向いてたんじゃない?」

幼馴染「なぜここにしたのでしょう」


男「誰かさん達のせいでポイントが荒れたからですが、なにか文句が?」ニッコリ


弟「いいところだね! ここ!」

幼友「ホント! 絶対こっちの方がいいよ!」

幼馴染「自覚はあるらしい」

426: 2014/06/20(金) 11:51:59 ID:BXn26HQc

男「まずは誰と誰がフライにチャレンジしますか」

幼馴染「せっかくコツを掴んできたところだったので、できれば希望したいです」

弟「僕はミャク釣りでもいいよ」

幼友「じゃあ、私も弟君と一緒にミャク釣りしてます」


男「わかりました。では俺よりも少し上流で、視界の範囲にいるように──」

弟「──兄ちゃん」


男「…なんだ?」

弟「もう馬鹿な真似はしないから…あまり過保護にしないで」

男「でも、見える範囲にいる方が」

弟「解ってる……大丈夫だよ、できるだけそうする。でも兄ちゃんは幼馴染ちゃんだけ見ててあげて」

427: 2014/06/20(金) 11:52:31 ID:BXn26HQc

男「お前…生意気な事を」

弟「ごめん、兄ちゃん。だけど…幼友ちゃんは僕が守る」


幼馴染(おぉ…)フンスフンス

幼友(おぉ…)ドキドキ


男「解った…頼んだぞ」

弟「うん、任せてよ。……幼友ちゃん」

幼友「は…はい」ドキッ


弟「…格好よかった?」テヘッ

幼友「それが無ければ」イラッ

436: 2014/06/22(日) 09:56:17 ID:vH5jMgOA

………



幼馴染「──てーいっ」ヒュルルッ…ピチャッ

男「いい感じです、きっと釣れます」


…パシャッ!


幼馴染「!! て、てーい!」ピシィッ

男「さすが」

幼馴染「やりました! フライで初ヒット!」バシャバシャ…

男「残念ながらリリースサイズですが、ちゃんとアマゴです。よくできました」パチパチ

幼馴染「どんどんいきます」フンス

437: 2014/06/22(日) 09:57:02 ID:vH5jMgOA

幼馴染「よっ…と、ちょっと近すぎました」フワリ…ピチョッ

男「………」


幼馴染「…男?」

男「ん?」

幼馴染「なぜ男は釣らないのでしょう」

男「……いや、釣ります」アセッ


幼馴染「いつもよりボーッとしているように思います」

男「大丈夫、そんな事はありません」

幼馴染「ではいつもボーッとしているという事で」

男「壁ドンしたろか」

438: 2014/06/22(日) 09:57:57 ID:vH5jMgOA

男「………」フワッ…シュルッ


ヒュンッ…シュルルルッ…ヒュンッ…フワァッ………ピチョンッ

…パシャッ!


男「………」

幼馴染「男っ?」

男「ん? ああ…しまった、アワセ損ねましたか」クルクル…ピチョッ…


幼馴染「それでボーッとしてないと?」

男「面目ない」

幼馴染「………」

439: 2014/06/22(日) 09:58:28 ID:vH5jMgOA

幼馴染「……訊かない方が良いでしょうか」

男「はい?」

幼馴染「昨夜、何があったか」

男「……別になにも」


幼馴染「男」

男「…はい」

幼馴染「訊くなというなら訊きません、でも…」

男「………」


幼馴染「私は…やっぱり気になります」

440: 2014/06/22(日) 09:59:10 ID:vH5jMgOA

幼馴染「幼友の事は信じています」

男「………」

幼馴染「キャンプ場ではデリヘルは呼べないので、男の事も信じます」ヤレヤレ

男「おい」


幼馴染「だから心配は無い、そう思っていても…どうしても胸がもやもやします」

男「………」


幼馴染「昨日、男は私に『自分は束縛が強い』と言いました」

男「はい」

幼馴染「私だって同じです」

男「…そうでしょうか」

幼馴染「そうです」

441: 2014/06/22(日) 09:59:40 ID:vH5jMgOA

幼馴染「たぶん、幼友と何かあったんだと思います。それは彼女の為にも訊かない方が良い…とも」

男「………」


幼馴染「男、ひとつだけお願いしていいでしょうか」

男「はい」

幼馴染「弟君は幼友の事は自分が守ると言いました。幼友も、弟君の事を意識し始めていると思います」

男「…そうだと思います」


幼馴染「だから──」


…ギュッ


幼馴染「──もう、私の事以外は考えないで下さい」

442: 2014/06/22(日) 10:00:41 ID:vH5jMgOA

………



幼友「とーうっ!」バシャバシャ

弟「あ、そのアマゴけっこう大きい」


幼友「へっへーん……あれ? 男さん達、いないね」

弟「ホントだ、どこ行ったんだろう」

幼友「置いてかれてたりして、なんちゃって」

弟「あはは、それは無いでしょ。サーフならあそこに停まってるよ」


幼友「……ん?」

弟「…んん?」

幼友(なんかビミョーに…)ジトー

弟(…車が揺れてるような)ジトー

459: 2014/06/23(月) 13:05:41 ID:eDnFSejE

幼友「…ま、見なかった事にしよう」

弟「イエス、マスター」


幼友「それにしても、さっきから弟君釣れてないみたいだけど」

弟「ちょっと気が散って」

幼友「何に?」

弟「振り込んだりアワセたりする動作に」


幼友「もしかして私、視姦されてる?」

弟「とんでもない。兄ちゃんにああ言った手前、しっかり見守らなきゃいけないからね」

幼友「調子いい事言って…」

460: 2014/06/23(月) 13:08:09 ID:VJE5DUBQ

幼友「よし、弟君ちょっと真面目に釣ってみなよ。私、携帯で写真撮ってあげる」

弟「そんな、待ち受けにされるなんて照れるな」

幼友「曲解ってやつだね。えーと……」ゴソゴソ


弟「……あ」

幼友「そっか…ごめん、携帯無いんだった」

弟「そうだったね」


幼友「うーん…なんか、無い事をハッキリ意識すると気になるなぁ」

弟「何が?」


幼友「うん、休みの日って結構フラッとお兄が部屋に寄ったりするんだ。それで私がいなかったら大抵、携帯鳴らすんだけど…」

弟「あー、それで繋がらない時間が長かったら心配されそうだね」

幼友「そうなんだよね…」

461: 2014/06/23(月) 13:08:51 ID:VJE5DUBQ

弟「僕の使う? 家の番号くらい覚えてるでしょ?」

幼友「うん……いいかな?」


弟「もちろん、今日はウェーディングしてないからポケットに入れたはず…」ゴソゴソ

幼友「それで無かったら、抜き打ちで車に取りに行ってみたいね」

弟「あははは、焦るだろうねー。…っと、でもあった」ヒョイ

幼友「ありがと、借りるね」


弟「あ、データフォルダは開けないでね」

幼友「言われなきゃそんなの気にもしないけど、何が入ってるのかな」

弟「昨日や今日、それから前の動物園の時の写真とか」

幼友「それ、普通なら見られても困らないよね」

弟「そろそろ黙秘してもいいかな」

462: 2014/06/23(月) 13:09:31 ID:VJE5DUBQ

………



幼友「──うん、そう…壊れてるんだ。……え? …うん、また週明けにでもお兄に連れてってもらう」

幼友「うん、全然身体は大丈夫。心配しないで……うん、幼馴染ちゃんも一緒だから」


幼友「……えっ? どういう事?」

幼友「なんで? 私の部屋なの? そんなの責任持てないよ……えぇぇ…そりゃ、仲は良かったけどさ」

幼友「……うーん、まあその話は帰ってしよう。今、これ借り物の電話だから」

幼友「……えっ? いや…幼馴染ちゃんのじゃないけど……ちょっ! ち、違うよー! もうっ! じゃあね、切るからねっ!」


弟(…途中が解らなかったけど、最後あたりの話は内容見えたな)

幼友「弟君、ありがと」

弟「どういたしまして、大丈夫だった?」

幼友「う、うん…」

弟「『彼氏に借りた』って言ってもいいのに」ボソッ

幼友「何か言った!?」アセッ

469: 2014/06/26(木) 19:26:14 ID:cd7CwTjg

弟「幼友ちゃん、さっき冗談で『写真撮って待ち受け』に…とか言ったけどさ」

幼友「うん?」


弟「僕、本当に幼友ちゃんの写真撮りたいんだけど…だめ?」


幼友「おおぅ…照れるね、でも動物園の時とかも結構撮ったんじゃないの?」

弟「うん、自然な感じの写真とかは。でもできればちゃんとカメラ目線の、記念写真的なのが欲しいなって」

幼友「まさか本当に待ち受けにしたりする?」

弟「嫌ならしないけど、ライブラリには欲しいな」


幼友「うーん…待ち受けにされるのは照れ臭過ぎるけど、別に写真撮るのは構わないよ」

弟「やった、せっかくここ背景もいいしね。ポーズとって、ポーズ」

470: 2014/06/26(木) 19:27:19 ID:cd7CwTjg

幼友「ぽ…ポーズかぁ…こう?」エッヘン

弟「あはは…なんで腰に手をあてて威張ってんの。可愛いけど」カシャッ


幼友「じゃあ釣竿構えたポーズとか」ピシッ

弟「うん、格好いい」カシャッ


幼友「普通にピースサイン」ピッ

弟「いいね、記念写真らしいよ」カシャッ

幼友「他には…ええと?」


弟「よーし、そろそろ上を脱いでみようか」

幼友「ばーか」ケラケラ

弟(あ、いい笑顔…)カシャッ

471: 2014/06/26(木) 19:28:14 ID:cd7CwTjg

幼友「じゃあ、ちょっとだけサービスだ。前屈みで…どうかな?」チラッ

弟「はぅあっ! たた…谷間がっ!」カシャシャシャシャシャシャッ

幼友「ちょ、連写すんな!」


弟「これで暫くオカズには困らないな…」ニヘラ

幼友「もう…絶対、人には見せないでよ?」

弟「それは人に見せられないような姿でも僕には見せてあげるって意味に捉えていいのかな」

幼友「出たなポジティブシンキン……でも」

弟「ん?」


幼友「あはっ…そういう意味かもね?」ニコッ

弟「うっ」ズキューン

472: 2014/06/26(木) 19:28:56 ID:cd7CwTjg

………



男「ご馳走さまでした」ツヤツヤ

幼馴染「お粗末さまでした」ツヤツヤ


男「車のカーテン、開けて良いでしょうか」

幼馴染「ちょっと待って……はい、大丈夫です」ゴソゴソ

男「おや、髪…?」

幼馴染「髪留めのゴムが片方落ちてしまいました。とりあえずポニテで」テレッ

男「……よきかな」

473: 2014/06/26(木) 19:29:32 ID:cd7CwTjg

幼馴染「では、気をとりなおして。残り少ない時間、釣りを満喫しましょう」

男「周りに弟達は…いないな」ガチャッ


幼馴染「よいしょ……あっ…」フラッ

男「おっと」ギュッ

幼馴染「すみません、ちょっとフラつきました…」


男「どうしましたか、心配になります」

幼馴染「……なんでもありません」

474: 2014/06/26(木) 19:30:43 ID:cd7CwTjg

男「幼馴染…どこか具合が? 風邪気味だったりしますか?」

幼馴染「大丈夫です」


男「風邪でもないのにフラつく方が心配です」

幼馴染「…大丈夫ですっ!」プイッ

男「まさかお前…何か隠して」

幼馴染「………」


男「幼馴染、正直に言ってくれ。どこか悪いのか」

幼馴染「…よ」

男「よ…?」


幼馴染「…余韻で足に力が入りません…」ボソッ

男「そいつぁ訊いて悪かった」

488: 2014/06/27(金) 10:18:09 ID:OosR/Rps

………



男「貴重な早朝の時合い、残す時間は大事に共有しなければなりません」

幼馴染「さすがに二日連続だと長持ちでした」キャッ

男「だまらっしゃい」


… … …


幼馴染「てーい…てーい……てーい………てーい…」シュルルッ…ヒュルッ…

男「よっ……」シュッ…ヒュルルッ

幼馴染「…てーいっ」ヒュルッ…フワッ

男「そりゃっ」シュンッ


…フワァッ………ピチョンッ

489: 2014/06/27(金) 10:19:20 ID:OosR/Rps

男(そこは…出ないか……いや、あの岩の脇──)クルクルッ

幼馴染(アマゴさん、パクッといきましょう。パクッと…は、さっき私が…いやいや──)クルクル


──ピシャッ!


男「おっ!」ピシィッ!

幼馴染「てーい!」ビシッ!

男「…まずまずの引き! 尺には及ばないだろうけど…!」

幼馴染「うわわ、走ります…!」


男「ランディングネットで大事に……よっ…と、おっけーい」

幼馴染「男、こっちもネットが欲しいです!」アタフタ

男「おお、すぐいきます」

幼馴染「次はすぐにイッちゃだめだからね…?」ポッ

男「余裕ありそうなのでゆっくりいきます」チッ

幼馴染「嘘、嘘! 早くっ!」アワワワ…

490: 2014/06/27(金) 10:20:04 ID:OosR/Rps

男「うーん…これは幼馴染の方が少し大きいかな」

幼馴染「そんなに変わらない気がしますが」

男「はい、どちらも軽く20cm超えの良型アマゴなのは間違いありません」


幼馴染「フライフィッシング、難しいけど面白いです」

男(…付き合ってる相手からこんな言葉が聞けるなんて、幸せな事です)


幼馴染「でも、そろそろ弟君達にフライを交代してあげるべきでは」

男「確かに…では、あと5投をラストにしましょう」

幼馴染「気合入れていきます」フンス

男「この時期では特に望みは薄くとも、願わくば尺超えを」

491: 2014/06/27(金) 10:21:46 ID:OosR/Rps

………



幼馴染「ああ…だめでした、最後がカワムツとは」

男「俺はこれが最後のキャストになります」

幼馴染「しかと見届けましょう」

男「うっ…あまりプレッシャーをかけないようにして下さい」


──フワッ


男(気合は入れるけど、自然な…流れるような動作を意識して)ヒュッ…

男(竿先を水平移動…!)シュルルッ…ヒュンッ…

男(ロッドの弾性は『飛ばす』ためじゃなく、ラインが伸びきる際の『衝撃を緩和させる』ように利用して──)ヒュルルルッ…!


男「出ろ…! 大型…っ!」ヒュンッ…!

幼馴染「てーいっ」

492: 2014/06/27(金) 10:22:29 ID:OosR/Rps

──フワァッ……ピチョン…スウゥゥゥ…


男「どうだ…その淵で……来いっ!」

幼馴染「………」ドキドキ

男(ダメ…か…?)


…ズバッ!


男「しゃあっ!」ビシィッ!

幼馴染「なんだか大きそうです!」

男「お…おおおっ…!?」グググッ…

493: 2014/06/27(金) 10:23:11 ID:OosR/Rps

男「くっ…ラインを送らなきゃ、かなり強い…!」ググイッ…!

幼馴染「男、がんばって!」

男「まじか…本当に尺超えアマゴ…?」

幼馴染「あ…跳ねますっ!」


──バシャッ!ザババッ!


男「ニジマス…!! ダム湖の管理釣り場から逃げて大型化したか…!」ググッ

幼馴染「すごい…40cmは軽く超えてます!」

男「うおぉ! ぜってー逃がさねえぇえぇぇっ──!」

494: 2014/06/27(金) 19:14:31 ID:OosR/Rps

………



幼馴染「弟君、幼友…お待たせしました。フライを交代します」

弟「あ、幼馴染ちゃん」

幼友「よーし、フライ初挑戦かー! …って、男さんは?」


幼馴染「あっちでめげてます」テクテク

弟「めげてる?」テクテク

幼友「おーい、男さーん?」


男「……でかかったなぁ…」グスッ

幼馴染「いつまでもしょげてないで、幼友にもフライを教えてあげて下さい」

男「弟…頼む、俺が教えてもバラすしさ…」フッ…

幼馴染「もう…情けないです」

幼友「珍しいなぁ、こんな男さん」

弟「逃がした魚は大きいとはいうけど、よっぽどみたいだね」

503: 2014/07/01(火) 08:56:25 ID:PtvsGpWw

弟「んじゃ、解らないなりに教えてくよ?」

幼友「お願いしまーす」


弟「…手とり腰とり」ボソッ

幼友「もっかい言ってみ」

弟「手とり腰とり!」

幼友「本当に言うか」


弟「じゃあ、まずは前に垂らして」タラーン

幼友「ふむふむ」ピッ

504: 2014/07/01(火) 08:57:47 ID:PtvsGpWw

弟「フワリとピックアップ」フワッ

幼友「とーう」フワリ…

弟「竿先を水平移動させる感じで、後ろ1時でピタッ」ピタッ


幼友「よっ…」ポヨーン

弟「加速度をもって前へ、10時位置」ヒュッ…ピタッ

幼友「んしょっ」ポヨヨーン

弟「それを繰り返しながらラインを伸ばしていくんだ」ヒュルッ

幼友「とーう…とーう…」ポヨーン…タユーン…


弟「………」ジーッ

幼友「…弟君、動き止まってんだけど」

弟「うん、いい事考えた。僕は幼友ちゃんの動作をチェックしてるからがんばって揺らして」

幼友「うっかり言わなくていい事まで言ったな」

505: 2014/07/01(火) 08:58:36 ID:PtvsGpWw

幼馴染「さて、私達はミャク釣りに励みましょう。見てても気分が悪いです」

幼友「感じ悪るっ!」

男「…弟に任せるとは言いましたが、少しだけ様子を見ます。変な癖がついてはいけないので」

幼馴染「………」チッ


弟「大体こんな感じでいい?」

幼友「とーう…とーう…」ポヨーン…ポヨヨーン

男「いや、もうちょっとアクションが大きくてもいいかもしれない」


幼友「よっ…! とーうっ…!」プルンッ…タユンッ…

弟「…いい感じじゃない?」ハアハア

男「いやいや、ホックが外れるくらいいってみようか」ハアハア

幼馴染「貴様ら」

506: 2014/07/01(火) 08:59:24 ID:PtvsGpWw

幼友「ふわぁ…けっこう疲れる。ちょっと休憩」フゥ…

幼馴染「じゃあその間に私が一投」ヒョイ


男「…なあ、弟」

弟「うん?」


幼馴染「てーい…てーい…」ヒュルッ…フワッ…


男「そろそろまずいかな…とは思ってるんだけどさ」

弟「何が?」


幼馴染「てーいっ……てーーいっ!」ヒュッ…シュルルッ


男「どうしたって目がいくわけよ、本能的に」

弟「…ああ、そりゃ…ね」

507: 2014/07/01(火) 09:00:13 ID:PtvsGpWw

男「お前にとっては気分もよくないだろうけどさ、ありゃ相当な引力もってるから」

弟「まあね、無理もないよ」


幼馴染「てーーーーいっ!」ブンッ


男「仕方ないと思ってくれるか?」

弟「うん、見るだけなら。減るもんじゃなし」


幼馴染「………」ハア…ハア…


男「……弟…」スッ

弟「兄ちゃん…」ガシッ


幼馴染「ちっとも揺れません……」グスッ

幼友「揺れてもいい事ないよ? なんか勝手に協定結ばれてるし」ジトー

508: 2014/07/01(火) 09:33:31 ID:PtvsGpWw

………



幼馴染「いい加減、ミャク釣りをしましょう」ムスッ

男「今回は釣りをしている時間が短いので、釣果が芳しくありません。数釣っていきましょう」


幼馴染「たゆんたゆん鑑賞に時間を割いておいて何を」ジトー

男「そこで違う釣りを試してみます」アセアセ

幼馴染(…流しやがりました)チッ


男「専用の竿では無いので、少し難しいかもしれませんが…」

幼馴染「これは…ヘラ竿?」

509: 2014/07/01(火) 09:34:01 ID:PtvsGpWw

男「その通り、硬調・先調子のヘラ竿11尺です」

幼馴染「それにしてはやけに太い糸を結んであります。それに竿より仕掛けの方が長い…」

男「フロロ4号をレベルラインとして竿分とり、その先をナイロン1号のリーダーとしています」

幼馴染「ほほう」


男「そして使う針はこちら」パカッ

幼馴染「えっ…これは毛針、フライ用の?」

男「はい、日本古来のフライフィッシング…テンカラ釣りにチャレンジします。仕掛けはインスタントですが」

510: 2014/07/01(火) 09:35:04 ID:PtvsGpWw

幼馴染「日本にもフライフィッシングがあったとは」

男「餌を換える事なく魚を数釣るための、漁師的な釣法です。フライとはまた違う難しさがありますが…」

幼馴染「…?」


男「俺の一番弟子、幼馴染ならできます」ニコッ

幼馴染「…調子がいいです」

男「くっ」


幼馴染「…でも、がんばります」ニヘラ

男(…よし、機嫌はとれたな)…ヒューゥ

519: 2014/07/03(木) 23:49:55 ID:ZTGVJu0o

男「ではやってみま──」
幼馴染「てーい」

男「その説明も聞かずにキャストするノリ、久々な気がします」

幼馴染「お久しぶりで」


男「オモリもついていない毛針を、ヘラと同じ要領で振り込むなど片腹痛いわこのタコです」

幼馴染「さっさと教えやがれこのタコです」

男「それも久々」

幼馴染「はよーっ!」

520: 2014/07/03(木) 23:50:59 ID:ZTGVJu0o

男「はいはい、まずは前上方に竿を延べて、毛針を水面につけます」スイッ

幼馴染「ほほう」ピッ

男「そこから水を切るイメージで真上に振り上げ、およそ垂直でピタッ」シュッ…ピタッ

幼馴染「ていっ」ピタッ


男「竿先が少し後方にしなった、その反動をのせつつ狙う方向へ!」ヒュンッ!

幼馴染「てーい」シュピッ!

男「毛針を水面に落として流します…が、この時太いレベルラインは水面につけないように!」

幼馴染「おお…難しい…」プルプル…

521: 2014/07/03(木) 23:53:03 ID:ZTGVJu0o

男「そして毛針を水面で小刻みに跳ねさせる風にして誘います──」

幼馴染「てい…ていていっ…」ピチョンッ…チョンッ…

男「──竿の懐に毛針が流れたら、繰り返しましょう」ピッ…ピタッ…シュルッ!

幼馴染「よっ! …とっ……てーい!」ヒュルッ!


男「はい、繰り返す!」シュッ!チョンチョンッ…

幼馴染「て、てーい!」ヒュンッ!

男「少しずつ、穏やかに進みながらっ!」スイッ…!

幼馴染「てーい!」シュピッ!

522: 2014/07/03(木) 23:55:34 ID:ZTGVJu0o

男「繰り返して!」チョン…チョンッ

幼馴染「て…てぇ…ぇぃ…」チョピッ…


男「前に!」

幼馴染「ちょ…ちょっと…疲れました…」ハァハァ…

男「それじゃ漁師にはなれんぞ!」

幼馴染「そ…そんな話だったでしょうか…」ヒィヒィ…シュルッ!ピチョンッ…

539: 2014/07/05(土) 13:53:21 ID:G8R8ic/2

幼馴染「…ていっ…ていていっ」チョコチョコッ…

男「いいぞ! 水を求めて川面に触れる羽虫のイメージだ!」

幼馴染「てっ…ていっ」ピチョンッ


男「時に水面ギリギリを飛びまわるように!」

幼馴染「ふえぇ…」フワッ…


男「はい、繰り返して!」

幼馴染「てーいっ…」ハアハア…

男「毛針が沈んでるぞ! 水の切りようが足りないから空気を纏えてないんだ!」

幼馴染「す…少し休憩…もうだめです」ヒィヒィ…

540: 2014/07/05(土) 13:53:58 ID:G8R8ic/2

男「ちょっとまって、今・・・何て言った? おい幼馴染! 今何ていった!? 『もうだめ!?』」

幼馴染「えっ…」ビクッ

男「もうダメとか言ってる間はずっとダメなんだよ! 考えろよ! もっと考えろよ!」


幼馴染「でも…もう腕が疲れて振れない…」プルプル

男「そんな事無い、振れないなんて事は無い! もっとチョンチョンできるはず、がんばろうよ!」

幼馴染「左…腕…」

男「ほらあるじゃない! ほらみろ! あるじゃないか!」


幼馴染「チョンチョン…する…」

男「そうだ、振れ!」

幼馴染「振る…!!」

男「もっと!」

幼馴染「左腕で毛針チョンチョンする!!!!」

男(はい氏んだ! 幼馴染の両腕、明日筋肉痛で氏んだ!)

542: 2014/07/05(土) 14:23:46 ID:G8R8ic/2

………



幼友「とーうっ」シュルッ…フワッ…

弟「いい感じだね、けっこうライン伸びてる」

幼友「やっぱフライは難しいな……よっ…と」シュピッ、ポヨンッ

弟(あぁ…いい…)ホクホク

幼友「とーーーうっ」シュッ!プルンッ──


──プチッ


幼友「ふぁ…っ!?」ポヨヨーン

弟(ブラが外れた…!)

544: 2014/07/05(土) 14:27:36 ID:G8R8ic/2

幼友「やだもうっ! 見るなっ、汗かいてるから透けちゃう!」アセアセ

弟「…あっ!」


…バシャッ!


幼友「うわっ、ヒットした…!?」ビシィッ!

弟「すげえ、完璧にアワセた」

幼友「うわあああん、反射的にアワセちゃった…! ブラ直せない…!」グググッ…プルンッ…タユンッ

弟(薄っすら透けて揺れて…なんという暴力的な)ハアハア


幼友「やだ、かなり大きいよ!」ポヨヨーン

弟「うん、大きいね…知ってる知ってる」ピピッ…カシャッ、カシャッ

幼友「こ、こらっ! 撮るなぁっ!」

弟「そのままそのままー、今度はムービーね」ピコッ

幼友「やーん!」バシャバシャッ

559: 2014/07/08(火) 16:48:56 ID:2UuEhgXk

……………
………


…午前10時


男「お疲れさまでした」

幼馴染「う…腕が……っ」プルプル

男「今日も帰りがけには温泉でも寄るとしましょう」


弟「そんなに数は釣れなかったけど、幼友ちゃんがいいの出したよ」

幼友(恥辱と引き換えにね…)クッ

男「これは立派です、尺には僅かに及びませんが」

弟「でしょ? おかげで僕のフォルダも潤ったよ」

男「?」

560: 2014/07/08(火) 16:49:28 ID:2UuEhgXk

…バタムッ、バタンッ
ズキュキュキュッ…ブオオォォォン


男「では車で移動です。そこそこ長距離になるので、眠たかったら寝ていて下さい」

幼馴染「任せておけ」


幼友「ん…?」

弟「どうしたの?」

幼友「なんだこれ──」


──ヒョイッ

幼友「ゴム、落ちてた」


男&幼馴染「!!?」ブフォッ!

561: 2014/07/08(火) 16:50:00 ID:2UuEhgXk

幼馴染「男、どうしてちゃんと始末しませんか! てーい! てーい!」ビシビシ

男「そんなわけない! 俺はちゃんと…!」

幼馴染「幼友! こ、これ…ゴミ袋! 入れて下さい、早く!」

男「だめだめ! 触らせるわけにいきません、車停めるから…!」


幼友「大丈夫、汚くないよ」クスッ


男「いいから! 見るな、触るな!」

幼馴染「男、早く停めて下さい!」


幼友「…私、着けちゃおうかな」ニヤリ

弟「幼友ちゃん…」ププッ

562: 2014/07/08(火) 16:50:31 ID:2UuEhgXk

幼馴染「バカな事言わないで下さい! 第一それは女性に…は…」

男「あった、待避所! 停まります!」


幼友「停まらなくて大丈夫ですよ。…どう、似合う? これで今日の幼馴染ちゃんとお揃い」キュッ

弟「うん、それもすっごく可愛い」

幼友「落ちてたけど、幼馴染ちゃんのだよね? ちょっと『髪留めのゴム』借りるよ」クスクス


男&幼馴染「髪…留め…?」


幼友「うん、ゴム。…あれ? なんのゴムだと思ったのかな? あはははっ」

弟「ただのヘアゴムなのにねー?」ニヤニヤ

幼友「ねー?」ニコッ


幼馴染「だめです…恥ずかし過ぎて…氏ぬ……」ガクッ、プシュー

男「俺も運転放棄して氏んでいいでしょうか…」ゲッソリ

568: 2014/07/10(木) 10:00:11 ID:o1mCcXpM

………



弟「気持ちいい田舎道だねー」

幼友「あ、滝! 滝!」

弟「窓から撮れるかな…」カシャ


男「幼馴染、クーラーボックスからコーヒー取って下さい」

幼馴染「………」スヤスヤ


幼友「ぐっすりですよ。…よっ…と、あった。はい、どーぞ」パキュッ、ヒョイ

男「ありがとうございます」

弟「幼馴染ちゃん、寝るのと食べるの大好きだよねー」

幼友「その割には育たないけどね」クスクス

569: 2014/07/10(木) 10:00:41 ID:o1mCcXpM

幼友「…で、自然公園と古民家街とどっちから?」

男「位置関係的に先に古民家街に先に寄ります」


弟「着いたらじきに昼だね」

幼友「蕎麦処なんでしょ? 飲んだ翌日のお蕎麦って美味しいよね」

男「少し早めでもまずは昼食にして、それから街並をブラブラしましょう」


幼友「ちなみにそこの蕎麦は何割?」

男「二八から一九。ざるではなく小皿に盛られた蕎麦を何枚も注文して、生卵を溶いたお出汁で頂くそうです」


幼馴染「………」ピクッ

570: 2014/07/10(木) 10:01:27 ID:o1mCcXpM

幼友「いいですなー。ボソッとした出雲系のお蕎麦も嫌いじゃないけど、やっぱり二八から十割の歯切れざっくりなお蕎麦が好き」

幼馴染「………」ピクピクッ


男「目当てにしている店では、鶏つくねのおろし和えも名物だとか。俺はノンアルでいいので、幼友ちゃんはご遠慮なく」

幼馴染「………」ジュル


幼友「そんなー、申し訳ないですよー」キラキラ

男「弟、早く免許取れよな」

弟「教習代、親に借りられるかなー」


幼友「観光地だから食べ歩きものとかもあるんでしょーね」

男「たぶんあるでしょう。黒豆の産地なので、それを使ったソフトクリームや甘味もあるようです」


幼馴染「…あとどの位で着きますか」ムクッ

幼友「あ、起きた」

571: 2014/07/10(木) 10:02:35 ID:o1mCcXpM

幼友「なんて地名なんです?」

男「◯石です。広域にしてるから、もうナビにも表示されてるはず」


弟「◯石…?」

幼友「どしたの?」

弟「……いや、なんでもないよ」


幼馴染「到着予想あと20分、はよ!」

男「さっきまで寝てたくせに…」ガコッ


ブロロロロロッ──

591: 2014/07/11(金) 14:06:42 ID:yRPF7HvM

……………
………



幼友「おおー、良い風情ー!」

幼馴染「立派な石垣があります。元はお城が…?」

男「いいえ、もともと天守閣は造られなかったそうです」


弟「なんかすごく年季の入った時計台があるよ」

幼友「辰鼓楼…だって」

男「最初は知らせの鼓を打つために造られた櫓だそうです。後から時計台となった、その年代は札幌時計台とまさに同時期。日本一古い時計台にあたるとか」


弟「へえ…それにしちゃあんまり有名でもないね」

幼友「男さん、よく知ってますねー」

幼馴染「多分るるぶ情報です」

男「………」チッ

592: 2014/07/11(金) 14:07:19 ID:yRPF7HvM

幼馴染「男、黒豆ソフトが!」

男「先に食事です」

弟「ええと…なんて店?」


幼馴染「炭火で炙ったみたらし団子が!」

男「このページに…ほら、ここが良さそうです」

幼友「11時過ぎ、まだ待ち時間も無いかな」


幼馴染「黒豆パフェだって!」

男「やかましいわ」


幼友「あ、あの店かな?」

男「そのようです」

弟「朝が早かったからお腹減ったー」

593: 2014/07/11(金) 14:08:11 ID:yRPF7HvM

…カラカラカラッ


店員「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」ニコッ…ポヨン

幼馴染(ぐっ…幼友に迫る無駄乳!)フルフル…

男&弟「おはよおっ──」

幼友「言わせるか! とーう!」ビシィッ
幼馴染「てーい!」ゲシッ


店員「……あの」タユン

幼友「あはは、気にしないで。四人です」

店員「あ、は…はい、ご案内します。四名様ご来店でーす!」

594: 2014/07/11(金) 14:08:58 ID:yRPF7HvM

男「じゃあ、皿蕎麦を…とりあえず20枚」

幼友「に、二十枚!?」

弟「大丈夫なの、それ」

店員「大丈夫だと思いますよ。男性の方なら、だいたい十枚近くは召し上がられますので」クスッ


男「あと、つくね小鉢をふたつ。瓶ビールとノンアルコールビールを一本ずつ下さい」

幼友「本当にいいんですか?」テヘヘ

男「お気になさらず。…また追加すると思いますが、とりあえず」


店員「かしこまりました。お待ち下さい」プルンッ


男「ほう…」

弟「…イエス」

幼馴染&幼友「………」イラッ

595: 2014/07/11(金) 14:09:58 ID:yRPF7HvM

店員「はーい、お先にお出汁と薬味をお持ちしました。大根と山葵はお好きな量をおろしてお使い下さいね」ニコッ

男「はーい」ニヘラ

弟「あーい」ニヘラ

幼馴染&幼友「………」イライラ


幼馴染「卵は一人ひとつずつ使えば良いのでしょうか」

幼友「鶏卵まる一個入れるとか、珍しいねー」

店員「はい、この街のお蕎麦の特徴のひとつですので」タユン


男「まる一個かー」ニヤニヤ

弟「まるいの二つとも欲しいねー」グヘヘ…

幼馴染&幼友「おい、そのへんにして大根でも擦れよ」

男&弟「あい」シャコシャコシャコ

596: 2014/07/11(金) 14:10:56 ID:yRPF7HvM

………



店員「──お待たせしました! 皿蕎麦二十枚とつくね小鉢お二つです」ドチャッ

幼友「うわ、二十枚がグラスタワーみたいに重なってる!」

幼馴染「おおおぉぉ…この『いくらでも食べてね☆キャピ』感が素晴らしい…!」


男「ひと皿が三口分くらいでしょうか、どれどれ──」チュルッ

弟「あ、そのまま一本食べた」

男「んん…蕎麦の香りが素晴らしいです。これはお出汁をつけない方がよく分かる」


幼馴染「大根おろしをちょびっと、ネギをたっぷり…私は山葵は要りません」

幼友「私、山葵入れようっと」

597: 2014/07/11(金) 14:11:48 ID:yRPF7HvM

弟「僕は大根おろしたっぷりがいいけど、お出汁薄くなっちゃうかな」

店員「お出汁はこの徳利に入ってますので、ご心配なく。いくらでもお使い下さいね」ニコッ

男「弟、それ真ん中に置いといてくれよ」

弟「うん」


店員「……弟…」ボソッ


幼友「…店員さん?」

店員「えっ? あ、いえ…すぐにお飲み物お持ちしますね!」ペコリ


男「箸にとった蕎麦の下、半分強程度にしかお出汁をつけないのが粋な食べ方です」

弟「え、でも全部つけた方が美味しいよ」ゾゾゾー

幼馴染「私はたっぷりつけます」ズズズー

男「……じゃあ俺もつける」ズゾー


幼友「………」

610: 2014/07/12(土) 08:16:38 ID:NA1RFLdw

男「美味い、本当に飲んだ翌日の蕎麦は堪りません」モグモグ

幼馴染「次、頂きます」ヒョイ

弟「うわ…幼馴染ちゃん、もう三枚目」ゾゾゾゾ

男「何ィ!?」ズズーッ


幼友(……店員さん、何か言いたそうだったな)


幼馴染「幼友は食べないようなので、次いきます」ヒョイ、ムグムグ

幼友「あ、こら! 食べるよっ!」


弟「なんだこのつくね団子、おろしポン酢ですっげえ美味い!」

幼馴染「おお…冷やっこいタレとおろし、温かいつくねのハーモニィ…」ウットリ

611: 2014/07/12(土) 08:17:28 ID:NA1RFLdw

店員「お待たせしました、瓶ビールとノンアルコールビールです」コトッ、コトッ

男「どうも」

幼馴染「ではノンアルですが、お酌しましょう」トットットッ…


店員「………」

幼友(…やっぱり)


弟「ノンアルなら僕も飲んでみようかなー」

男「お? いいぞ、グラスは人数分あるし」

幼馴染「お蕎麦5枚目頂きます」ゾゾゾ


幼友「…店員さん、もしかしてこの中の誰か…知ってたりします?」

店員「えっ…」

男「ん?」

612: 2014/07/12(土) 08:18:15 ID:NA1RFLdw

店員「……ええと…もしかして、なんですけど」モジモジ

幼友(そしてそれは…)


弟「あ…苦いけど、けっこう美味しいかも」

男「じゃあノンアルもう1本頼むか」


店員「…違ったらごめんなさい」

幼友(なんとなくだけど──)


弟「早くハタチになって本物飲んでみたいなー」


店員「…弟…くん…じゃない?」

弟「えっ」


幼友(──そう…だよね)

613: 2014/07/12(土) 08:19:15 ID:NA1RFLdw

店員「久しぶり過ぎて解らないかな…」クスッ

弟「え…?」

幼友(…解らないふりなんかしなくていいのに)ジロッ


弟「うーん…僕は確かに『弟』だけど、こんな黒髪ロングの美人さんに知り合いはいないよ…?」

店員「ああ、そっか…」スッ…

男(髪を手で束ねて…まさか彼女は──)


店員「ポニテにしてみせたら…どう?」


弟「………」

弟「………」

弟「…もしか…して……弟幼ちゃん…?」

店員→弟幼「やっぱり、弟くんだ! うわぁ、久しぶり…懐かしいねっ!」ニコッ


幼友「………」

614: 2014/07/12(土) 08:20:06 ID:NA1RFLdw

弟幼「じゃあ、隣にいるのはお兄さんなんだよね? お久しぶりです!」

男「本当、久しぶりです。驚きました、こんなところで」


幼友(弟君のオサナナジミ…)


幼馴染「私の事も覚えているでしょうか、何度か会っているはず」

弟幼「もちろん、幼馴染さんですよね? ああ…嬉しいなぁ、また会えるなんて」


幼友(動物園で、話…聞いたっけ)


『五年生の時に引っ越しちゃったんだ』

『それから暫くは年賀状なんかは交換してたけど』

『それも途絶えちゃった』

615: 2014/07/12(土) 08:20:41 ID:NA1RFLdw

弟「確か、宛名にこの街の地名を書いた覚えはあったんだ」

弟幼「手紙…途絶えちゃったのに、よく覚えてたね」


『小学校の同級生で、生意気言うけど多分──』


弟「うん、なんとなく…ね。覚えてたよ」

弟幼「私も…手紙こそ絶えても、弟君の事はずっと忘れなかったよ?」


『──お互い好きだったと思う』


弟「また会えて、嬉しいよ」

弟幼「うんっ」ニコッ


幼友「………」ズキン

625: 2014/07/12(土) 13:10:51 ID:NA1RFLdw

………



男「ふう…俺が今、七枚食べました」

弟「僕は五枚」

幼馴染「今、七枚です。おかわり」モグモグ

幼友「………」ズズッ


男「ん…? という事は、幼友ちゃんはその一枚しか…」

弟「僕ももう少し食べたいから、おかわりしようよ」

幼馴染「全力で賛成」

弟「僕はあと三枚あれば充分かな」

男「俺もその位です」

627: 2014/07/12(土) 13:12:10 ID:NA1RFLdw

弟「幼友ちゃんは? ほとんど食べてないでしょ、五枚くらい──」

幼友「──ビール」

男「な、何か腹の足しになるものも…」

幼友「ビールがあればいいです」ゴキュゴキュ


弟「じゃあ…ビール一本と、僕らで蕎麦が六枚。幼馴染ちゃんは…」

幼馴染「五枚」

男「ちょ」

幼馴染「遠慮して五枚」


幼友「………」グビッ

628: 2014/07/12(土) 13:13:12 ID:NA1RFLdw

………



弟幼「──お待たせ、皿蕎麦の追加12枚とビールでーす」タユンッ

弟「待ってました」

弟幼「それとこれ、オマケ。ビールと一緒にどうぞ」コトッ


男「おお…黒枝豆ですか」

弟「はい、幼友ちゃん」スッ


幼友「あ…ありがと…」

弟幼「いいえ」ニッコリ

629: 2014/07/12(土) 13:14:00 ID:NA1RFLdw

弟幼「ね、弟くん。今日はどれくらいここに居られる?」

弟「どのくらいまで…かな」チラッ


男「三時には発たないと、ちょっと遅くなりそうです」

弟幼「そっか…私、今日は二時までなんだ。少しでもお話できたらいいね」

弟「じゃあまた二時くらいに寄るよ」

弟幼「うんっ」


幼友「………」ゴキュゴキュ

幼馴染(……幼友…)

630: 2014/07/12(土) 13:14:45 ID:NA1RFLdw

………



カラカラカラッ…


弟幼「じゃあ、できるだけ早く上がらせてもらうからね!」ニコッ

弟「うん」


男「ご馳走さまでした」

幼馴染「ご馳走さまです」

弟幼「ありがとうございました!」ペコッ

幼友「………」プイッ

631: 2014/07/12(土) 13:15:18 ID:NA1RFLdw

男「さて、今が十二時半。ブラブラと周りましょう」

弟「なんかちょっと雲が多くなってきたね」


幼馴染「だいぶモヤモヤしているようです」

男「確かに、雨雲っぽいのが近づいています」

弟「雨になるかもねー」


幼馴染「いや、そうでなく」

弟「?」


幼友「………」モヤモヤ

632: 2014/07/12(土) 13:16:05 ID:NA1RFLdw

男「じゃあ、まずは城跡に行ってみますか」

幼馴染「酷い! ご飯の後は黒豆ソフトと言ったはず!」

男「『先に食事』と言っただけでそこまで捏造されるとは」ヤレヤレ…


弟「幼友ちゃんも食べる?」

幼友「………」ムスッ

弟「…幼友ちゃん?」


幼友「……ん」スッ

弟「ん?」

幼友「手…繋ぐ」ボソッ

弟「え、いいの?」ドキッ

幼友「いいの」ギュッ

643: 2014/07/14(月) 18:59:29 ID:TK8YmVLA

………



男「天守閣は無くとも、やはり城下の町並に風情があるだけに石垣上からの眺めは素晴らしいです」

幼馴染「歩いている人達の服装こそ今のものですが、昔からこんな景色だったのかもしれません」

弟「お侍さん歩いてても違和感無さそうだね」


幼友「写真撮ろうよ」

男「じゃあその辺の人に……すみません、シャッターお願いできませんか」

通行人「イッスヨー」


男「あとは押すだけなので、はい…お願いします」

通行人「トルッスヨー ハイ チクビー」パシャ

644: 2014/07/14(月) 19:00:16 ID:TK8YmVLA

男「では、次は明治館とやらに行ってみましょう」

弟「あーい」


幼馴染「幼友?」

幼友「もう一枚、撮る」グイッ

弟「ん?」


幼友「男さん、シャッター押して下さい」ギュッ

弟「はぅ」

幼馴染(腕組んだ…!)

男「わ、解りました…撮ります。はい、チーズ…」パシャ


幼友「ども」

弟「………」プシュー

645: 2014/07/14(月) 19:01:06 ID:TK8YmVLA

………



幼馴染「明治館…なんて事はない建物のようですが、江戸から明治への時代の移り変わりを感じさせます」

男「中にはその記録を集めた資料が展示してあるそうです。入館料も安いので、入っていきましょう」


弟「年表あるよ。へー、さっきの時計台の機械時計は三代目なんだ」

幼友「………」ギュッ

弟「お…幼友ちゃん?」アセアセ

幼馴染(どう考えてもさっきの弟幼さんの存在が影響しているのでしょうが、これは見ものです)クスッ


弟「幼友ちゃん、あっちの展示見よう」アタフタ

幼友「……ん」クイッ

弟(歩く時にシャツの裾を握られるの、夢だったんだよねー)ジーン…

646: 2014/07/14(月) 19:01:42 ID:TK8YmVLA

幼友「はぁ…」

弟「どしたの、溜息なんて」


幼友(意識し過ぎだと思うんだけどね…)

幼友(だって、小五の時から会ってないんでしょ?)

幼友(今さら何がある事も無いだろうし、今日はそんなに長く滞在するわけでも無いし)

幼友(あの娘がいる事が解ったって、弟君ひとりで来られるわけでも──)


『──教習代、親に借りられるかなー』


幼友「だめ」ギュッ

弟「ファッ!?」ドキィッ

647: 2014/07/14(月) 19:49:34 ID:TK8YmVLA

………



男「では、次は──」


──ポツッ、ポツポツッ


幼馴染「ちょっと降り始めました、どうしますか」

男「仕方ありません、土産物屋で傘を買うしかないでしょう」ヤレヤレ


弟「そこの店、急に傘を表に出したよ」

幼馴染「なんだかすごく買いたくなくなります」チッ…

男「さっきの弟幼ちゃんのお店、あそこも入り口に少しお土産ものを置いていました」

弟「だったね、せっかくならあそこで買ってあげようか」

648: 2014/07/14(月) 19:50:24 ID:TK8YmVLA

幼馴染「ええと、確かこの角を…」

男「あれ? もう一本向こうだったでしょうか」

弟「幼友ちゃん、早くー! 雨が強くなってきたよ!」


…ポツポツッ、サアアアァァァ


幼友(…急ぐ時だって、手を放さなくていいのに)ムスッ

幼友(っていうか、そりゃ…せっかくならあの店の売り上げに貢献してあげればいいとは思うけどさ)

幼友(だめだな…変な事、考えてる)モヤモヤ


男「あったあった、この通りでした」

弟「あれ…? 弟幼ちゃんが出てきてる」

幼友「………」

649: 2014/07/14(月) 19:52:11 ID:TK8YmVLA

弟幼「弟くんっ、ちょうどよかった!」

弟「どしたの、それ…傘?」

弟幼「うん、お店で食事してくれた人には貸出してるの」

男「それはありがたい、雰囲気のある番傘です」


弟幼「余裕が三本しか無いんですけど…はい、どうぞ」

男「俺と幼馴染は一緒でいいので」バサッ

弟幼「よかった、じゃあ…はいっ」スッ


幼友「あ…ありがと」…バサッ

弟幼「いいえ」ニコッ

651: 2014/07/14(月) 19:53:42 ID:TK8YmVLA

弟幼「それと『懐かしい友達が来てる』って言ったら、女将さんが特別に一時過ぎたら上がっていいって──」バサッ


男「ん?」

幼馴染「…あ」

幼友「!!」


弟幼「──というわけで、ご一緒していいですか?」

弟「あ、あの…弟幼ちゃん…傘、僕らで一緒なの…?」

弟幼「あれ、だめだった?」タユン


幼友「…いいんじゃない? 数年ぶりだもの、話も尽きないでしょ」

幼馴染(幼友…)アワワ…

幼友「私、自分で行きたいとこ行くから。三時にこの店の前でいいよね?」

652: 2014/07/14(月) 19:54:56 ID:TK8YmVLA

幼友「じゃあ、ごゆっくり」クルッ、スタスタスタ…

幼馴染「幼友っ!」


男「…幼馴染、幼友ちゃんを追って下さい」

幼馴染「男は?」

男「俺も追うから、早く。見失います」

幼馴染「わ…解りました」


弟「……幼友ちゃん」

男「ま、仕方ないよ。久しぶりだもんな…ただ、謝っとけよ?」ヒソヒソ

弟「…うん」

弟幼「?」

男「なんかあったら電話しろ。じゃあ後でな──」

656: 2014/07/15(火) 10:23:03 ID:Od/q5Njw

………



幼馴染「幼友…!」タッタッタッ

幼馴染(歩く人がみんな傘を差してるから見つけ難いです…)

幼馴染(あっ…あれでしょうか)


幼友(幼馴染ちゃん、追ってきたな…どうしよ)

幼友(今はどうしたってみっともない事しか言えそうにない…ごめん、ほっといて欲しいんだ)


幼馴染「幼友ー!」

657: 2014/07/15(火) 10:24:54 ID:Od/q5Njw

幼友「…ちょっと腕、貸して!」グイッ

通行人「オゥフ」

幼友「静かに、振り向かないで」

通行人「マジカヨ サッキノ ワンショットガ コイノ ハジマリ?」

幼友「静かにってば」


幼馴染「あれ…?」

幼馴染(服…似てるけど、相方がいるようです。違う人でしたか…)

幼馴染(いけない、このままじゃ本当にはぐれてしまいます。探さないと…!)タッタッタッ…


通行人「オーケー、コンドハ フタリノ ココロノ ファインダーニ ヤキツケヨウゼ ベイベー」

幼友「行ったみたいだな…どーもね、バイバイ」スッ…タッタッ…

通行人「oh、キャッチ&リリース」

658: 2014/07/15(火) 10:26:00 ID:Od/q5Njw

サアアアアァァァ…ピチョッ、ピチョンッ


幼友(…バカみたい)

幼友(なんで逃げるような事しちゃったんだろ)

幼友(弟君は私に気があるんだから…とか、言えば良かったのかな)

幼友(……だから、だよね)

幼友(私がいつまでも関係をハッキリさせないから『彼氏だ』って主張もできないし)

幼友(弟君だって、私の事を何とも紹介しようがないんだ)

幼友(…付き合ってもないし、何度も告白されてるのにはぐらかしておいて)

幼友(他の娘には愛想をふるな…って、どんな理屈だろ)

661: 2014/07/15(火) 10:44:25 ID:Od/q5Njw

幼友「はぁ…」

幼友(せっかく観光地に来てるのに、男さんや幼馴染ちゃんにも気を遣わせちゃったなぁ…)

幼友(携帯も無いし、心配させちゃうだろうな…)

幼友(ごめんね…幼馴染ちゃん)


『──傍にいるのが当たり前? そんなの境遇に甘えて尻込みしてるだけの言い訳でしょ!?』

『「告白が釣りのついで」だった…!? それでも向こうから言ってくれただけマシだったんじゃないのっ!』

『好きなヒトに…「好き」って言えないのが、一番…辛いんだからっ──』


幼友「…あはっ」

幼友(どの口が言ったんだろ…)グスン

663: 2014/07/15(火) 20:06:09 ID:W5v94kSw

………



幼馴染(はぁ…完全に見失っちゃった…)フゥ…

幼馴染(携帯も無いし、連絡のとりようがありません…)

幼馴染(三時にはあの店に来るのでしょうけど…それでも心配です)


幼馴染(…もしかしたら男が見つけてるかも)

幼馴染(電話してみましょう)


タッタッタッ…


幼馴染「…………………あ、もしもし。こっちは幼友を見失ってしまいました」

幼馴染「え? はい、はい…わかりました、合流しましょう」

幼馴染「ええと私は今……ああ、ちょうどみたらし団子屋さんの前です」

664: 2014/07/15(火) 20:07:04 ID:W5v94kSw

………



幼馴染「──あっ、男! ここです!」

男「幼馴染! ……見失ったって?」ハァ

幼馴染「面目ない」

男「まあ、子供じゃあるまいし。集合の時間には戻るでしょうが」

幼馴染「せっかくなので私達でブラブラしましょう。その内に見つけるかもしれません」

男「よし、じゃあ行きますか──」


団子屋「はいっ、焼きたて二本お待ちどうさまー」

幼馴染「どうも。男、一本どうぞ」スッ

男「は?…ああ、頂きま…す…?」

団子屋「360円です」

幼馴染「よろしく」

男「えっ」

665: 2014/07/15(火) 20:07:38 ID:W5v94kSw

………



弟幼「──懐かしい、本当にいっつも遊んでたよね」

弟「うん」


弟幼「引越しが決まった時は泣いたなぁ…」

弟「僕はなんとなくピンときてなかったよ。弟幼ちゃんと会えなくなるとか、あまりに突然でさ」

弟幼「…そっか」

弟「引越しの日、さよならを言いにきたのにずっと泣いてた弟幼ちゃんを見て、ようやく実感が湧いたんだ」

弟幼「あはは…覚えてるんだ」

666: 2014/07/15(火) 20:08:17 ID:W5v94kSw

弟「結局、引越した理由はなんだっけ?」

弟幼「ウチのお父さんが勤めてる会社の支店がこの街にできる事になってね」

弟「ああ…」

弟幼「田舎に飛ばされるような、支店長としてだったから栄転のような…って、辞令を受けるかどうか悩んでたみたいだったけど」


弟「…仕方ない事だね」

弟幼「うん、小学生には運命に抗う術は無かったな」

弟「引き止める術もね」


弟幼「ここのお寺、入ろうよ。雨の日の庭は綺麗なんだよー」

弟「…うん」

667: 2014/07/15(火) 20:08:56 ID:W5v94kSw

………



幼友(この辺、静かだなー)

幼友(すごい土壁の古い建物……江戸時代の酒蔵かぁ)


幼友「……はぁ」

幼友(一緒に歩いてたら『酒蔵とか、幼友ちゃんの好きそうな所だね』とか)

幼友(『江戸時代にも幼友ちゃんみたいな酒豪の女性いたのかな』とか)

幼友(…そんな事、話してたんだろうなぁ)


幼友「………」グゥ

幼友(やだ、お腹でグチが鳴いた)

幼友(食べなかったもんなぁ…)

668: 2014/07/15(火) 20:09:33 ID:W5v94kSw

幼友「ん?」

幼友(…ここもお蕎麦屋さんかぁ)

幼友(女の人が一人で来る事とかあるのかな)クスッ


カラカラカラッ


店員「はい、いらっしゃい。お一人?」

幼友「あ…は、はい」

店員「カウンター席でいいかしらねぇ」

幼友「…どこでもいいです」

店員「じゃあどうぞ、空いてますよ」

669: 2014/07/15(火) 20:10:07 ID:W5v94kSw

幼友「ええと…皿蕎麦を…」

幼友(五枚くらいかな…あと、ビール…)


『それとこれ、オマケ。ビールと一緒にどうぞ』

『あ…ありがと…』

『いいえ』


幼友「………」イラッ

幼友(なーにが『いいえ』よ)

幼友(どうせ『なに、この酒飲み女?』とか思ってたくせに)イライラ

670: 2014/07/15(火) 20:10:38 ID:W5v94kSw

店員「お蕎麦、何枚にされますー?」

幼友「………」チラッ

… … … … …

皿蕎麦チャレンジ!
三十分以内に男性は50皿、女性は30皿食べたら無料!
挑戦の際は店員に宣言し、一度にご注文下さい

… … … … …

幼友「…30皿」

店員「えっ」

幼友「挑戦…します」


店員「お、お嬢ちゃん…30皿っていったら普通のザルで10枚近くあるけど…」

幼友(やけ食いとか、男さんへの想いに悩んでた時にさえしなかったけど──)

店員「あの…」

幼友「──挑戦します」

677: 2014/07/16(水) 14:40:09 ID:T9f9BRpw
幼友「食べても胸にいくんだよね」

幼馴染「・・・・・」

~一ヶ月後~

男「幼馴染ちょと肥りましたか?」

幼馴染「てーい」 

男「な、なぜ・・・」ピクピク

678: 2014/07/16(水) 20:02:35 ID:kB/qg6ok

………


サアアアァァァ…


弟幼「──少し明るくなったのに、雨…やまないね」

弟「うん、でも雨の町並みも風情があっていいよ」


弟幼「…田舎だけど、いい街でしょ」

弟「本当だね」

弟幼「古民家も石垣も、庭も木々も…弟くんの言う通り雨の日が一番趣きがあるかも」

弟「番傘が似合う町並みだし」


弟幼「ふふっ…それも相合傘なら、尚更かな」

弟「…昔は学校の帰りとかにも、よくしたよ」

弟幼「そうだったねー」

679: 2014/07/16(水) 20:03:23 ID:kB/qg6ok

弟幼「あれ…もう二時過ぎかぁ、あっという間」

弟「うん、いくらでも話す事あるからだろうね」


弟幼「そうだね…でも」

弟「?」

弟幼「弟くん、ちょっと心ここに在らずな時が多いよね」クスクス


弟「…そんな事ないよ」

弟幼「そうかなー?」

680: 2014/07/16(水) 20:04:02 ID:kB/qg6ok

弟幼「じゃあ、さっきの庭で私が『満開で綺麗』って言った木はなんだったでしょう?」

弟「……うっ…」


弟幼「エゴノキ…」ボソッ

弟「あっ、そうそう…エゴノキだったね。綺麗だった──」

弟幼「──残念、ヤマボウシでしたー。ほらね、覚えてないでしょ」

弟「うわ、ずるい」


弟幼「…ごめんね」

弟「え?」

681: 2014/07/16(水) 20:04:49 ID:kB/qg6ok

弟幼「気になってるんだよね? さっき、別行動をとったヒトの事」

弟「…弟幼ちゃん」

弟幼「男女四人で行動してる時点で察するべきだったんだけど、久しぶりに会った嬉しさで気がまわらなかったんだ」

弟「………」


弟幼「あのヒト、弟くんの彼女さん?」

弟「そうだったら、そういう風に紹介してるよ」

弟幼「でも…きっとそれに近い人でしょ?」

弟「……そうならいいな」

682: 2014/07/16(水) 20:05:23 ID:kB/qg6ok

弟幼「おー、そっか…弟くんが押してる側かぁ」ニヤニヤ

弟「まあね」

弟幼「…ちょっとだけ、妬けるかな」


弟「からかわないでよ」

弟幼「からかってないよ。私、昔…弟くんのこと好きだったよ?」

弟「それは…僕もそうだったよ」

弟幼「うん」

弟「…よかった、僕だけの思い込みじゃなくて」

弟幼「うん、私も」

683: 2014/07/16(水) 20:06:49 ID:kB/qg6ok

弟「弟幼ちゃん、変な事を訊くんだけどさ。昔、仕方なくでも引っ越しちゃった事…悔やんだりする?」

弟幼「悔やむ…?」

弟「…僕は、弟幼ちゃんと離ればなれになった事……ごめん、悔やんでないんだ」

弟幼「あっ、乙女心を傷つけたな! …なーんて」クスッ


弟「そうならなかったとして、じゃあ今がどうなってたのか…なんて解らないんだけどね」

弟幼「うん」

弟「でも僕は今こうして、あのヒトを好きになれて良かったと思ってる」

弟幼「…もっと妬けるなぁ」

684: 2014/07/16(水) 20:07:36 ID:kB/qg6ok

弟「だから…ね」

弟幼「うん、解った」

弟「…解ったの?」

弟幼「行くんでしょ? あのヒトのところ」


弟「…ごめん」

弟幼「謝る事なんて無いよ」

弟「うん、ごめん」

弟幼「ほら…ここ、お店の前だよ」

弟「あれ? …ほんとだ」


弟幼「最初、気が利かなかったからね。…弟くんの様子を察して、こうなるように歩いたんだよ」

弟「そっか」

弟幼「じゃあ、これでお終い。最後の相合傘も…私達の幼い恋も──」

711: 2014/07/19(土) 16:32:02 ID:Xj3J5V3Y

………



幼友「──うぅ…」ゾゾゾッ、ムグムグ…

店員「…お嬢ちゃん、そんなにがんばらなくても。どっちにしても、もう五分しか…」


幼友(くっ、まだ十三皿…やっぱ無謀だったかぁ…)ズズズズッ

幼友(なんとなくせっかくの観光地で気分がモヤモヤしたから)

幼友(それ以外にインパクトの強い思い出が欲しかった)


幼友「お出汁、下さい」ゴクンッ

店員「…無理はしないようにねぇ──」カチャッ

712: 2014/07/19(土) 16:32:35 ID:Xj3J5V3Y

………



ポツポツッ…ポツッ…


男「──少し小雨になってきましたか」

幼馴染「せっかく相合傘だったのですが」


男「人に持たせた傘の下で、その人の払った金で味わう豆大福はいかがでしょうか」

幼馴染「けっこうなお味で」モグモグ

男「そうかよ」

713: 2014/07/19(土) 16:33:09 ID:Xj3J5V3Y

幼馴染「しかし幼友の姿がありません」

男「もう二時を回っています。探すより店の前で待った方が確実かも…」


幼馴染「あっ」

男「はい?」

幼馴染「…男、あっちは『酒蔵跡』だそうです」

男「ほほう」


幼馴染「なんとなく幼友が行きそうじゃないでしょうか」

男「うん…まあ、そうかもしれません」

幼馴染「そしてその向こうのお蕎麦屋さん、表に『焼きたて蕎麦饅頭』の幟が」

男「…貴様」

714: 2014/07/19(土) 16:33:56 ID:Xj3J5V3Y

幼馴染「おお、なんだか面白い事を書いています」


男「皿蕎麦チャレンジ……三十分以内に男性は50皿、女性は30皿? …幼馴染、まさか」

幼馴染「さすがにそれは挑戦しません」

男「そうですか」ホッ


幼馴染「だから蕎麦饅頭」

男「何が『だから』なのでしょう」


幼馴染「『店内で申しつけ下さい』…だそうです」カラカラカラッ

男「ちょ」

幼馴染「すみません、蕎麦饅頭を──」


幼友「──あ」ゾゾゾッ

幼馴染「えっ!?」

715: 2014/07/19(土) 16:34:27 ID:Xj3J5V3Y

幼馴染「ちょ…幼友、そのお皿の数…まさか?」

幼友「あーあ、見つかっちゃった…チャレンジ中なんだよ、笑う?」


幼馴染「幼友…普段なら貴女はそんな事に挑戦しないはずです」

幼友「ん…やけ食い…かな」

幼馴染「…幼友が、やけ食い…」ププッ

幼友「ちぇ、やっぱり笑われちゃった」

幼馴染「だって、そんなにヘソを曲げるなんて子供みたいです」

幼友「ふーんだ」プイッ


幼馴染「…制限時間は?」

幼友「もう五分も無いよ、まだ十四皿目なのに」ハァ…

幼馴染「がんばりましょう、食べきったらきっと良い思い出になります」ニコッ

716: 2014/07/19(土) 16:35:01 ID:Xj3J5V3Y

男「幼馴染…あんまり無理をさせては」

幼馴染「いいのです、女性だって恋に悩んで自棄になる事くらいあります」

幼友「幼馴染ちゃん…」


幼馴染「せっかくなら、胸のつかえを吐き出しながら。そうすればお蕎麦ももっと入ります」

幼友「…うん」

幼馴染「さあ、お出汁に浸けて。息を吐くついでに恨み言も零して!」


幼友「む…昔のオンナなんかにヘラヘラすんなーっ!」


幼馴染「そうです、それで一気に啜って!」

幼友「おうっ」ズゾゾゾッ!モグモグ…

幼馴染「次!」

幼友「おっOい大きかったら誰でもいいのかーっ!」

幼馴染「うっ」グサッ


男(…なんだこの光景…)

736: 2014/07/22(火) 18:53:15 ID:kAwPQlws

………



弟「──幼友ちゃーん!」キョロキョロ

弟(そう簡単に見つからないか…)


弟(兄ちゃん達、幼友ちゃんと会えたのかな)

弟(そうだったらメッセージくらい寄越しそうだけど)

弟(……まあ、電話してみよっか)ピッ


《…ツリ ニ イコウ ツリ ニ イコウ アメ ガ ヤンダラ ムカエ ニ ユクネ♪──プツッ》


弟「あ……兄ちゃん、どう…?」

弟「え…? 酒蔵跡の方? ええと…パンフレット…」チラッ

弟「…うん、それならすぐそこみたい──」

737: 2014/07/22(火) 18:53:56 ID:kAwPQlws

………



男「──もしもし? ああ…早く来いと言うべきのような、来ない方がいいような」

男「うん、そうだな…まあお前のせいだし、来いよ」

男「……え? 怒ってるか…って、そりゃ自分の目で確かめろ」


幼馴染「次です! あと三分切りました!」

幼友「うぅ…」

幼馴染「はい、恨み言!」

幼友「口だけじゃなく、強引に迫ってみろーっ!」ゾゾゾゾッ


男(…幼友ちゃん的には見られたくないかもしれませんが)ハァ…

738: 2014/07/22(火) 18:54:43 ID:kAwPQlws

幼馴染「あと八皿!」

幼友「さ…さすがにもう…無理…」

幼馴染「…どうしても?」

幼友「ほんと、このお皿でいっぱいおっOいだよ…」


幼馴染「あと二分半です。ではその一枚だけでも、最後に押し込みましょう」

幼友「う、うん」

幼馴染「そして、一番吐き出してしまいたい言葉を」


幼友「………」スウウゥ…

幼馴染「さあ、どうぞ」ニコッ


幼友「弟くん……好きっ──!」ズゾゾゾッ

739: 2014/07/22(火) 18:55:31 ID:kAwPQlws

幼馴染「──よく言えました、幼友」

幼友「うええ…でも七皿も残っちゃった…」


幼馴染「時間は残り二分、皿は七枚。一枚あたり20秒もありません」スッ…

幼友「お…幼馴染ちゃん…?」

幼馴染「不可能…? ……否! 我は壁神…食えど食えど満たされぬ、このブラの隙間──」ユラリ…


──カチャッ、コトッ


幼馴染「たかが七枚の皿蕎麦、一枚10秒もあれば充分…! 幼友の無念、晴らしてくれるっ!」ズゾゾゾゾーーッ

幼友「幼馴染ちゃん…!」

男(……なんで太らないんだろ、こいつ)

740: 2014/07/22(火) 18:56:51 ID:kAwPQlws

…カラカラカラッ


弟「兄ちゃん!」

男「おう、ちょっと遅いな。一番見たかったであろうシーンは過ぎたよ」

弟「…どんな?」

男「それは言えねえな」


幼友「──はい、恨み言!」

幼馴染「騎乗位の時、ボソッと『揺れない』とか言うなーっ!」ゾゾゾーッ


弟「…これ、どういう状況?」

男「お前のせいで、なぜか俺が恨み言ブチ撒けられてる感じ」


幼友「ラストォーッ!」

幼馴染「てーーーいっ!!」ズズズズーッ


男「本当に完食しやがりました」

741: 2014/07/22(火) 18:57:40 ID:kAwPQlws

幼友「…ありがとう、幼馴染ちゃんっ」グスッ

幼馴染「いいのです、間に合ってよかった」ニコッ…ゲプッ

幼友「時間、まだ20秒くらい残ってたよ」

幼馴染「ふふん」


店員「あの…」

幼友「はい?」

店員「お二人で食べたら、チャレンジ失敗になるからねぇ…3600円です」

幼馴染「えっ」

男「そりゃそうだ」

753: 2014/07/23(水) 10:05:20 ID:Wc0UFv4I

店員「でも15皿食べたらお渡しする記念品は、お二人ともに差し上げましょうね」

幼馴染「…巾着袋?」

幼友「『よう食べんちゃった』だって、あはは…可愛い…のかな?」クスッ


弟「幼友ちゃん」

幼友「ふぇ!? お、弟君…いたの!?」アセアセッ

幼馴染「いつから…?」


幼友「まさ…か…私の最後のひと言の時…!」カタカタカタ

男「ギリセーフです」

幼馴染&幼友「よかったあああぁぁあぁ…」プシュー

弟「?」

754: 2014/07/23(水) 10:05:50 ID:Wc0UFv4I

幼馴染「はい、弟君…どうぞ」スッ

弟「記念品の巾着? なんで…?」

幼馴染「そもそも幼友のやけ食いは弟君のせいですので」

弟「僕の…」


幼馴染「こんないい女を自棄にさせた戒めに、忘れないために持っておいて下さい」クスッ

幼友「あぅ…」

弟「…うん」


男「よし、弟幼ちゃんのところに傘を返しに行って、そろそろ発ちましょう──」

755: 2014/07/23(水) 10:06:20 ID:Wc0UFv4I

……………
………


…車で移動中


ブロロロオオォォッ…


男「──短い時間しか居られなくて残念でしたが、まあ…お前も免許を取れば自分で来られるだろ」

弟「うん」

幼馴染「一人ではだめです」

弟「うん、解ってる」

幼友「………」

756: 2014/07/23(水) 10:06:54 ID:Wc0UFv4I

幼馴染「ところで、もうひとつ話に挙がっていた自然公園とやらには寄るのでしょうか」

男「ゆっくり散策するような時間はもうありませんが、そこにある施設にだけ立ち寄りましょう」


幼馴染「そこには何が?」

男「標高1000m近い山腹に建てられた展望塔があります」

幼馴染「ほほう」

男「その展望塔には日本一の大きさのベルが……まあ、行けば解るでしょう」


幼馴染「もう午後4時が迫っていますが、近いのでしょうか」

男「もう30分とかからないでしょう──」

761: 2014/07/23(水) 16:01:20 ID:bSk1OO56

……………
………


…自然公園、展望塔施設


幼馴染「──ベル、でかっ! ふたつもあります」

男「塔の下からでも判るこの大きさ」

弟「大きいほうは2m、重さ6tだって。音階は低い『ソ』って書いてある」

男「では、まずは小さい方の塔から」

762: 2014/07/23(水) 16:02:14 ID:bSk1OO56

幼馴染「石階段、中にハート型の石が埋められているらしいです」

弟「見つけると幸せになれる…かぁ」


男「幼馴染…」チョイチョイ

幼馴染「なんでしょう?」


男(ここは『愛』をテーマにした自然公園施設の一施設で、思いっきり恋人向けのスポットです)ヒソヒソ

幼馴染「なるほど」ニヤリ

男(そのへんを頭に置いて、二人との距離を…)ヒソヒソ

幼馴染(ええい、皆まで言うな)ヒソヒソ

763: 2014/07/23(水) 16:02:59 ID:bSk1OO56

弟「うーん、ハートの石…無いなぁ。幼友ちゃん、あった?」キョロキョロ

幼友(……もしかして、これかな)チラッ

幼馴染(幼友、足元にあります! よく見て!)


幼友「無い…よ」プイッ

弟「そっかー」


幼馴染(あああああぁあぁぁ、もうっ!)ジタバタ

男(幼馴染、落ち着いて)ヒソヒソ

764: 2014/07/23(水) 16:03:29 ID:bSk1OO56

………



弟「小さい方のベルでも、近くで見るとすごいね」

男「高さ1.2m、3t近い重さらしい」


幼馴染「なになに…『鐘の名前は【緑のリボン】鳴らす二人の心を繋ぐ、愛の鐘』…だそうです」クックックッ

幼友「えっ」

男「大小ふたつのベルを鳴らせば、二人は結ばれる…などと言われています」

幼馴染「実際にここで結婚式も挙げられるとか」


幼友「ちょ…あの…えっ?」

弟「………」

765: 2014/07/23(水) 16:04:19 ID:bSk1OO56

幼馴染「とりあえず、男と私は鳴らします」

男「振り子のロープを持って下さい」

幼友「お、幼馴染ちゃん…!」


幼馴染「振り子、重っ!」ズシッ

男「いきます、音も大きいでしょうから身構えて」グッ…

幼馴染「しょっ…もうひと振りっ」グイッ

男「せーの…」フワッ


男&幼馴染「てーーーい」


ガラーーン!!ゴローーーン!!!

766: 2014/07/23(水) 16:04:57 ID:bSk1OO56

弟「うわ…本当にすごい音、こっちは低い『ド』の音階だって」キーン

幼友「………」

男「…よし、それでは」クルッ

幼馴染「私達は大きい方のベルの塔に登ります」クルッ


弟&幼友「えっ」


男「かなり重いから、身体もっていかれるなよー」

幼馴染「幼友、弟君に任せて手を添えるくらいで大丈夫です」


弟「ちょっと、一緒に! …行っちゃった」

幼友「……もう」

767: 2014/07/23(水) 16:05:27 ID:bSk1OO56

弟「…どうする? 幼友ちゃん」ドキドキ

幼友「……どうするって」


弟「だってこのベル…僕と鳴らしていいの?」

幼友「…そっちこそ」

弟「ぼ、僕は他に一緒に鳴らしたい人なんかいないよ!」

幼友「どうだか」


弟「幼友ちゃん…」

幼友(…ばーか)

768: 2014/07/23(水) 16:06:01 ID:bSk1OO56

弟「幼友ちゃん、さっきの街では本当ごめんなさい」

幼友「…久しぶりだったんでしょ、謝る事じゃないよ」プイッ

弟「うん…それでも、あまりに気が利かなかったよ」


幼友「……昔」

弟「うん?」


幼友「昔、好きだった娘…なんでしょ」

弟「…うん、そうだった」

幼友「今は?」

弟「幼友ちゃんが言った通り『昔、好きだった娘』だよ」

769: 2014/07/23(水) 16:06:34 ID:bSk1OO56

幼友「どんな事、話したの」

弟「引っ越した時の事とか、近所にいた頃の思い出話とか」


幼友「『好きだった』って事は話してないの?」

弟「……話したよ」

幼友「……っ…」


弟「それで『今、好きなヒト』の事も話した」

幼友「それって」

弟「うん、幼友ちゃんの事」


幼友「…良かったの?」

弟「良かったよ、話せて」

770: 2014/07/23(水) 16:07:30 ID:bSk1OO56

幼友「……弟君はそうかもしれないけど」

弟「本当は再会してできるだけ早く話せば良かったんだ。『君と離ればなれになった事、悔やんでない』って」


幼友「あの娘は、それを聞いてどう思ったのかな」

弟「『ちょっと妬ける』って言ってたよ」

幼友「せっかくの再会だったのに…悪かったんじゃない?」


弟「うん、でもね…彼女も悔やんでないんだって」

幼友「そうなの?」

弟「だから僕も…ごめん、ちょっとだけ『妬いた』んだ」

幼友「え…?」


弟「…彼女、来年には結婚するんだって」

771: 2014/07/23(水) 16:08:36 ID:bSk1OO56

弟「ふたつ年上、高校の時の先輩と…って言ってた」

幼友「そう…なんだ」

弟「ごめんね、今になって妬く理由なんて無いはずなんだけど。どうしても胸がチクッとしたよ」

幼友「……それは仕方ないよ」


弟「そんな僕でよかったら…この小さい方のベル、一緒に鳴らして下さい」

幼友「小さい方だけでいいの? ふたつともを鳴らせば結ばれる…って」

弟「大きい方は、いつか二人でここを訪れて鳴らしたいよ」

幼友「………」

弟「できればその時には、今日とは違う関係の僕らで」


幼友「………」モジモジ

幼友「………」スゥ…

幼友「………」…ハァ


幼友「……はい」

772: 2014/07/23(水) 16:09:17 ID:bSk1OO56

テーーーイ!
ガラーーン!!ゴローーーン!!!


幼友「あ…男さん達、大きい方を鳴らしたね」

弟「…だね」


幼友「お揃いのストラップ…」

弟「ん?」

幼友「それから、お蕎麦の記念の巾着袋」

弟「うん」


幼友「なんだかどっちも、ちょっと恥ずかしい思い出がついちゃったね」

弟「…その思い出までお揃いだから、いいよ」

773: 2014/07/23(水) 16:09:55 ID:bSk1OO56

弟「じゃあ、ベル…いいかな──?」

幼友「──この予約は双方の同意のもと成立します」


弟「は?」


幼友「双方ともに心情の変化があれば、その旨を申し出た上で予約をキャンセルする事ができます」

幼友「ただし、予約を破棄せずに違う物件に手を出す事は規約違反となり、罰せられます」

幼友「また予約した件について正式な契約を交わすタイミングは、熟考の上お申し出下さい」

幼友「一定の条件を満たせばお受け致します。そうでない場合、通常は予約期間を更新します」

幼友「以上の規約に同意できる方のみ、ただいまから先着一名だけ──」


弟「幼友ちゃん…」


幼友「──私を恋人にする権利の予約を受け付けます。ご応募の方は挙手して下さい」

弟「はい!」ピッ


幼友「…受け付けを締め切ります」ニコッ

774: 2014/07/23(水) 16:10:32 ID:bSk1OO56

幼友「それじゃ、契約書に判を押しとくよ」

弟「…うん?」

幼友「まだ仮契約だから、ほっぺただけね──」


ガラーーン!!ゴローーーン!!!


… … … … …


弟「釣りロマンを求めて」幼友「春の淡水釣り編だよー」

【おわり】

775: 2014/07/23(水) 16:11:16 ID:bSk1OO56
春の~なのに梅雨明けまで引っ張ってすまんかった

男「釣りロマンを求めて」幼馴染「夏のビーチ時々釣り編です」前編

引用: 男「釣りロマンを求めて」幼馴染「三投目です」