395: 2014/06/22(日) 09:17:34.46 ID:SxrB0VlAO



前回はこちら

出掛ける前に書きかけが完成しました、茶葉は長くなったので省きます

・鶴姉妹『茶菓子と着物が見たい』、投下します

396: 2014/06/22(日) 09:18:31.17 ID:SxrB0VlAO
――――百貨店、地下。

「翔鶴姉ぇ、あのお店閉店しちゃったみたい」

「あら、残念ね……かま風呂美味しかったのに」

「鶴屋吉信で寶ぶくろと紡ぎ詩、つばらつばら辺りでも買う?」

「そうね、そうしましょうか」

「お前達、選ぶのにほとんど迷いがないな……」

「だって通い慣れてるもん」

「あまり提督をお待たせする訳にもいきませんし、他にも回りたい場所がありますから」

「そうか、荷物持ちとしては助かる」

「提督さん、ひょっとして女の買い物は長いとか思ってる?」

「そんな風には思ってないぞ。ただ、翔鶴も瑞鶴もお互いの考えてることが分かっているみたいに店と商品を決めるから、感心しただけだ」

「何度も通っていると行き付けのお店というのはやはり決まってきますし、あそこは名前に惹かれるものがありますから」

「何てったって“鶴”って入ってるし」

「――鶴の和菓子は売ってないのか?」

「あるけど……何か嫌だから買っちゃダメ」

「そうね、わざわざ買わなくても鶴ならここに居るもの」

(あるなら食べてみたいだけだったんだが……)
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録
397: 2014/06/22(日) 09:21:01.77 ID:SxrB0VlAO
――――着物呉服店。

「提督さん、選んで」

「提督、選んで下さいますか?」

「おい待て、入店直後に言うセリフか?」

「だって、それが目当てで来たんだもん。ね、翔鶴姉ぇ」

「えぇ」

(即断即決の嵐はそういう理由かよ……)

「真剣に選んでくれないと爆撃しちゃうから」

「私達姉妹に似合うと思うものをお願いします」

「難易度だけ跳ね上がっていくんだが、俺に着物を選ぶセンスなんか無いぞ?」

――――1時間後。

「翔鶴にはコレ、瑞鶴にはコレ、もう限界だからそれで我慢してくれ……」

「我慢だなんてそんな……こんなに真剣に選んで頂いて、本当にありがとうございます」

「――ねぇ、何で、コレ?」

「最近は翔鶴と一緒に居る時間が増えた分、どっかの一航戦が演習以外でお前が来ないって言ってたんでな。それ着て行ってたまには茶入れてやれ、喜ぶぞ」

「……提督さんがそこまで言うなら、着たげる」

「私のは縁起が良い柄ですね」

「名前と華やかさで選んだ。翔鶴なら柄の迫力に負けずに着こなせると思ったからな」

「あら、綺麗だと暗に仰って下さってるんですか?」

「言うまでもないだろ、そっちでむくれてる瑞鶴も可愛いぞ」

「む、むくれてなんかないってば! 変なこと言うと爆撃しちゃうんだからね!」

「ははは、まぁ気に入ってもらえて何よりだ。会計してくるから待ってろ」

「え? いいの?」

「そんな、選んで戴いた上にお会計までお任せする訳には……」

「俺が選んだなら俺が払うべきだろ。不満なら両手に華で歩けた俺からの礼だと思っとけ」

「……うん、ありがとね、提督さん」

「この感謝はまた何かの形でお返し致しますね?」

「それ着て見せてくれりゃいいさ。じゃあ行ってくる」




――――……着物で夜戦はダメだよね?

 ――――脱がすのを楽しんで頂くとかなら……。

  ――――(この会話に飛び込むと大変な目に遭いそうだな、もう少し待つか)

398: 2014/06/22(日) 09:22:36.20 ID:SxrB0VlAO
着物の柄は

翔鶴→鶴と梅の柄

瑞鶴→加賀友禅

でした

それではまた明日

404: 2014/06/23(月) 11:07:38.16 ID:ZDrAGx8AO
・飛鷹『いつ何がどうなるかなんて分からない』、投下します

会話のみだとしんどかったので、最初みたいに地の文ありで書きました

読みづらかったらすいません

405: 2014/06/23(月) 11:09:12.18 ID:ZDrAGx8AO
――――提督私室。

 四角いガラスのテーブルを挟んで座り、二人は酒を酌み交わす。いつもならば笑い声や怒声などが廊下まで聞こえてくるのだが、この日に限っては静かなものだった。

「――で、酒を飲みながら少し話したいことって何だ?」

「アバウトであるけど、ここの今後についてってとこかな」

 目の前のグラスの縁を指先でなぞりながら、飛鷹は一度目を伏せる。
 普段は隼鷹共々騒がしくしている事も多く、彼女からはがさつな印象を受けやすい。しかし、たまに見せるこういった仕草や立ち居振舞いは、内に秘めた上品さを感じさせた。

「今後って、本当にアバウトだな」

「どこがどう、って話をしててもきりがないでしょ?」

 今度は視線と視線を合わせ、飛鷹は軽く微笑む。真面目な話でもしていなければ、思わず目を奪われそうな魅力的な笑みだと、不真面目な事を提督は考えていた。
 だが、返す言葉を考えていなかった訳ではない。

「……ずっと今のままの状態を維持することが難しいのは、分かってるさ」

「経営的に言ってる? それとも、私達のことについて言ってる?」

「後者しか無いだろ」

 今度は迷わず、提督は即答する。逆に言えば、迷う余地の無い、即答出来る選択肢しか用意されていなかったということだ。

「そう……提督の考え、聞かせてもらっていい?」

「成長しているって事は、老衰もする。お前達が人間に近付けば近付く程、鎮守府としての体裁を保つのは難しくなる。……それと、唐突に世界に現れたお前達や妖精達が、ある時不意に世界から消えない保証も、無い」

「……」

 訪れた沈黙。飛鷹が何も言葉を返さずにいるのは、同じ事を考えていた証拠だ。
 ――カラン、とグラスの中の氷が音をたてて静寂を破り、彼女もそれに続いて口を開く。

「私は貨客船になるはずだった。でも、こうして今は軽空母としてここに居る。運命なんて誰にも分からないし、この先私達がどうなるかなんて、考えるだけ無駄じゃない?」

「だが、一人でも誰かが欠けた時点で、この場所に意味は無くなる」

「――意味なら、ちゃんとあるわ」

406: 2014/06/23(月) 11:09:46.07 ID:ZDrAGx8AO
 提督は意味が無いと言い、飛鷹は意味ならあると言う。柔らかいその声音に、提督は続く言葉を待った。

「私達は意思を持つことが出来て、提督や仲間達と思い出をここでたくさん作った。それは例えここが無くなったり、私達が消えてしまったとしても、決して無かったことにはならないわ」

「……怖く、ないのか?」

「お酒が飲めて、毎日騒げて、好きな相手ともこうして一緒に居られる。一瞬一瞬を楽しんでいれば、怖さなんてどこかへ行っちゃうもの」

 だから貴方も楽しんで、そう言外に伝え、飛鷹はグラスに口をつける。氷が溶けて冷えきったカクテルが体を巡り、自然と熱を帯びていた体も一度は冷えていく。

「――いっそ軍から買い取るか、ここ」

「……え?」

 同じようにグラスに注がれていたカクテルを一気に飲み干し、提督はとんでもないことを口にする。今まで冷静に話をしていた飛鷹も、流石に呆気にとられてしまい、返す言葉を失った。

「俺はずっとこのままでないと嫌だ。ここに居たいし、ここでお前等とずっと過ごしたいし、お前等に消えて欲しくなんかない」

「まるで子供のわがままじゃない……」

「悪いか?」

 酔っているのか真面目に言っているのか、飛鷹には判断がつかなかった。しかし、その子供の様に願いを口にする姿を見て、それを叶えてあげたいと思ってしまっている辺りが、惚れた弱味というやつなのかもしれない。




――――何だ、コレは……?

 ――――霧島とかに作ってもらった買い取りの計画書よ、読んでおいて。

407: 2014/06/23(月) 22:01:18.74 ID:ZDrAGx8AO
北上『提督、ちょっとごっこ遊びに付き合ってよ』、投下します

気が向けばでいいので、以前までの会話のみ形式と、今回の様な地文ありの形式と、どちらが良いかお聞かせ下さい

特に無ければ、その時の気分で形式は決めようかと思います

後、省いた最終決戦を今書き溜めてるので、読みたい方居るか分かりませんが、書き終えたらまとめて投下します

408: 2014/06/23(月) 22:06:03.69 ID:ZDrAGx8AO
――――???

 “ごっこ遊びに付き合ってよ”、そう北上に言われ、提督は内容を聞かずに了承する。彼女がそんな子供らしい事を言うのは珍しく、付き合うのも吝かではないと思ったからだ。
 ――その結果、彼は現在、目隠しとロープと耳栓で自由を奪われ、とある場所へと連れて来られていた。

(俺、北上に何かしたか……?)

 こんな扱いを受ける心当たりが、彼には無い。むしろ、愛情表現が最近は過多になりつつある彼女ならば、今の提督を見れば心が痛むとさえ思っていた。 だが現実問題、提督を縛ったのは北上だ。

(何か忘れてたとか、気付かないうちに怒らせたとか……ダメだ、分からん)

 暗闇と無音に包まれながら冷静でいられるのは、こんな状況でもやはり北上が自分を好いてくれているという自信があるからだ。
 しかし、何か原因はあるのだろうと北上に関連する日付や行動を一から順に頭の中で追っている最中、音が彼の元へと急に返される。

「提督、今からちょっと着替えて欲しいんだけどいいー?」

「ロープで体を巻かれてるから無理だな」

「今からほどくから大丈夫だよー。あっ、目隠しはそのままね」

「なぁ、ごっこ遊びの話はどこへいったんだよ」

「これからするんだよ、これはその準備。はい、コレ着てコレを上に羽織って、コレ履いてねー」

 三つ衣類が手渡され、提督はその感触を確かめる。シャツとジャケットのようなもの、それとスラックスのようなモノだ。

「サラリーマンの格好でもさせる気か?」

「んー、まぁそんな感じー。着替えたらちょっと待ってて、後で大井っちが呼びに来るから」

「はぁ……付き合ってやるけど、後でちゃんと説明しろよ?」

「説明の必要はないから大丈夫だよ。じゃあまた後でねー」

 声がドアの向こうへと消え去り、提督は着替えを開始する。

(この感じ、まさか……)

 段々と袖を通していく内に、最初の予想が間違いであったとすぐに気付く。
 少しこのままコレを着ていいのかという考えが頭を過るが手は止めず、暗闇の中での着替えは特に問題なく終わり、提督は黙って迎えを待つのだった。

409: 2014/06/23(月) 22:08:08.71 ID:ZDrAGx8AO
 ――二十分後。

「あら、ちゃんと目隠ししたまま待ってるなんて律儀ね」

「北上が理由も無くこういう事をする奴じゃないって、お前が一番知ってるんじゃないか?」

「当然です。北上さんについてなら提督より詳しいですよ?」

「張り合う気は無いさ。良いところなら大体知ってるしな」

「――魚雷、撃っていいですか?」

「北上相手に妬くのはやめろ、流石に身が持たん」

「じゃあ冗談はこれぐらいにして、行きましょうか」

「あぁはいはい、何処へなりと連れていけ」

 提督は大井に腕を引かれ、何処かも分からない場所をひたすら進んでいく。今から何のごっこ遊びをするか既に予想出来ていたが、本当にそうだった時にどうすればいいかを、必氏に頭の中でシミュレートする。

「――着きましたよ」

 大井の手が腕から離され、目の前で大きな扉が開く音がしたことに提督は気付く。これからどうすればいいのかを、まだ近くに居るであろう案内役に確認しようとした瞬間、背中に軽い衝撃を受けて、二三歩前へと彼の体が進む。

「提督、目隠し外して下さい。後はお二人でごゆっくりどうぞ」

 背後で閉まっていくドアの向こう側に大井の声が消えていくのを感じながら、提督はようやく出された指示に従った。
 暗闇から解放された直後の人間には少し眩し過ぎる光に目を細めながら、彼は前方に立つ待ち人を視界に収める。




「待たせた、馬子にも衣装、何でこんな手間のかかるマネをした。どれが一番最初に言って欲しい?」

410: 2014/06/23(月) 22:12:17.38 ID:ZDrAGx8AO
「ちょっと提督、イジワルやめてよ」

「――綺麗だぞ、北上」

「……うん、ありがとね」

 純白のウェディングドレスに身を包んだ北上。いつもとは全く違う可憐で清楚な彼女の姿に、提督は平静を装う為、最初はからかい混じりの言葉を口にした。
 しかし、それを聞きそっぽを向いて頬を膨らます姿を見て、今度は素直な感想が彼の口から発せられる。

「提督も――うん、まぁ、そこそこ?」

「そこはお世辞でもカッコイイとか言えよ」

「えー? 正直微妙だし」

「着替える、帰る」

「わーていとくかっこいいなー」

「言えばいいってもんでもないからな?……まぁ、主役は俺じゃないしいいか」

 結婚式場を使った、二人きりのごっこ遊び。神父も参列客も居ないその静かな空間で、二人は隣り合って立つ。

「指輪なんて用意してないぞ」

「コレ、填めてくれればいいよ」

「本当にコレでいいのか?」

「ごっこ遊びって言ったじゃんか」

 手渡された指輪は、ケッコンカッコカリの時の物。既に“ごっこ遊び”と言い張るには苦しい状況で、本当にコレでいいのかと提督は悩む。

(――ん? そういえばコレ渡したの四年以上前だったよな……)

 葛藤の最中、指輪が未だに渡した時の光を失っていないのに気付き、北上がそれを大事に扱っていた事を知る。

(普段は結構適当な癖に……)

 相手役が指輪を見つめて固まってしまい手持ち無沙汰だったのか、ウェディングドレスを引っ張ったりヒラヒラさせながら待つ彼女へと、提督は視線を戻す。つい今しがた知った嬉しい事実も相俟って、彼はより目の前の人物をいとおしく感じた。

411: 2014/06/23(月) 22:14:02.37 ID:ZDrAGx8AO
「指輪、填めるぞ」

「え? あぁ、うん、はい」

 背中の方が気になっていたのか、提督から首を背けていた北上は、弾かれたように彼へと顔を向ける。そして、左手を突き出すように差し出した。

「誰も居ないと締まらないよな、このやり取り。そもそも指輪一つだし」

「いいのいいの。堅っ苦しい誓いの言葉とか、あたし言いたくないしね」

「恥ずかしいからか?」

「うるさいなーいいからさっさと填めてよ、ほら」

「はいはい、分かったよ」

 プラプラさせている左手を掴み、指輪を薬指へと填めていく。ジッとその様子を見つめる北上の顔は、ほんのりと紅潮していた。

「――これからも、一緒に居てくれるか?」

「……うん、居る」

「俺の事、好きか?」

「好き、かな」

「誓いのキス、するか?」

「……遊びじゃなくて本気で誓ってくれるなら、したいよ」

「――ん」

 返事は言葉ではなく、行動で示される。例え本当に結婚出来なくても、自分だけを見てくれるのが今だけであっても、彼女はこの瞬間を一生の大切な思い出として、胸に刻み込むのだった。




――――あっ、衣装と式場の使用料、よろしくー。

 ――――おい、請求額七桁あるんだが……。

414: 2014/06/24(火) 03:14:19.46 ID:gCxvKsIAO
・でち公『海の中を一緒に見たいでち』、投下します

415: 2014/06/24(火) 03:15:15.31 ID:gCxvKsIAO
――――海上。

「提督、準備はいい?」

「あぁ、いつでも大丈夫だ」

「じゃあ行くでち!」

 海上から髪と同じ色のビキニを着たゴーヤが消えたのを確認し、提督もその後を追う。
 PUKAPUKA丸が正常に航行できるかの確認という名目で海上に出た二人。その真の目的は、海上ではなく海中にある。

(――凄いな、コレは……)

 深海棲艦が現れて以降、戦いが終わって今に至るまで、提督は海へと潜ったことがなかった。
 ゴーヤに誘われて再び足を踏み入れた海の中。そこは、幻想的という言葉が相応しい世界だった。

『海の中はどう?』

『凄いって言葉しか出ないな』

『良かったでち。もっと提督にいっぱい見て欲しいでち』

 筆談を交わしながら、ゴーヤは提督を先導して泳いでいく。
 透き通った水、悠々と泳ぐ色とりどりの魚、様々な形をした岩、そして、時折振り返りながら笑顔を見せる彼女の姿。

(海の中が似合うな、やっぱり)

 まるで、一枚の絵を見ているような感覚。海の中というだけで、提督にはゴーヤが人魚のように思えてきていた。

『どうしたの?』

『お前を見てた』

『ゴーヤはいつでも見れるよ?』

『今のお前を、この眼に焼き付けておきたいんだ』

 二人の筆談は、唐突にそこで一度終了する。
 水底へと沈んでいくゴーヤのボードを見送った後、提督は更に文章を書いて彼女へと見せる。

『海の中でも顔って赤くなるんだな、そういうところも可愛いぞ』

 それを見た瞬間、流石潜水艦娘と言うべきなのか、ゴーヤは物凄い勢いで提督の元へと泳いで戻る。そして、ボードを強奪して筆を走らせた。

『そういう事は海の上で提督の口から聞きたいでち!』

 顔を隠すように突き出されたボード。提督はそこへとまた返事を書いて裏返し、ゴーヤへと見せた。

『背中のを外しても助けてくれるなら、今すぐに口でこの気持ちを伝えてやるぞ』

 ――裏返してからおよそ十秒後、ボードの裏から顔を覗かせたゴーヤは、小さく頷いて返事をする。

(こういう姿も可愛いな、本当に)

 息を大きく吸い込んだ後、提督は口につけていた物を外し、こっちへ来いと指で合図を送る。
 次の瞬間には、身体に密着する柔らかい身体の感触と、髪を揺らめかせながら見上げるゴーヤの瞳に、彼は心を奪われていた。そして、徐々に訪れる息苦しさの事も忘れて、口で気持ちを伝えるのだった。

416: 2014/06/24(火) 03:16:35.25 ID:gCxvKsIAO
――――PUKAPUKA丸、甲板。

「マジで氏ぬかと思った。やっぱ水中で外したら危ないな、うん」

「提督、キスは嬉しいけど、海の中で力抜ける程激しいのはしちゃダメだよぉ……」

「悪い、いつもと雰囲気が違うから気分が乗って止まらなくなった」

「今度からは気を付けてくだちぃ」

「――ゴーヤ、ここなら海の上だよな?」

「正確には船の上でち」

「甘いゴーヤが食べたい」

「……食べても、いいよ?」




――――しょっぱい。

 ――――そりゃそうでち。

419: 2014/06/25(水) 00:16:02.52 ID:sOvYp5mAO
タイトル変更

・隼鷹『あたしはアンタのモノ』、投下します

ここまでで今回は堪忍してつかぁさい……

420: 2014/06/25(水) 00:17:49.62 ID:sOvYp5mAO
――――???

 隼鷹からの誘いを受け、提督は鎮守府内のとある場所へと来ていた。

(いいこと、ねぇ……)

 案内された先は、少し前まで懲罰房として使われていた部屋。使われていたといっても、半ば冗談半分の反省部屋と化していたので、提督すらそんな部屋があったことを今の今まで忘れていた程だ。
 そして、現在は――。

「なぁ隼鷹、元懲罰房が酒の保管庫になってるとか聞いてないんだが?」

「そりゃー言ってないからね。加賀は鳳翔さん経由で話を通したから黙認してくれてるし」

「はぁ……酒の事となると手回しが良くてほとほと感心させられるよ、お前には」

 つくづく呆れたという表情を浮かべながら、提督は近場にある酒を順番に眺める。いまいちピンと来ない名前のモノから、有名なモノまで、数多くそこには並べられていた。

「それで、今日呼んだ目的は何だ。俺があまり酒飲めないのは知ってるだろ」

「ちゃんと最初にいいことしたげるって言ったじゃんか。まぁ座って座って」

 促されるままに、提督は木の椅子に腰掛けた。すると、その椅子の前の机へと隼鷹は徐(おもむろ)に、液体の入ったコップを幾つか並べていく。

「おい、だから飲めないって言ってるだろ」

「まぁまぁ待ちなって」

 コップを並べ終えると、今度はもう一つある椅子を提督の横に置き、そこへ隼鷹も腰掛ける。そして、怪訝そうに一連の行動を眺めていた彼に、彼女は飛鷹が以前見せたような笑みを見せながら、こう言った。




――――ゲームに勝てたら、あたしを今日1日好きにしていいよ。

421: 2014/06/25(水) 00:20:20.04 ID:sOvYp5mAO
 ゲームの内容は至って単純。五分以内に目の前のコップに入っている全ての酒に口をつけられたら提督の勝ち、出来なければ隼鷹の勝ちというものだ。
 賭けるのは互いを1日好きにしていい権利。制限を設けて然るべきだろうが、互いに一切制限はない。

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「酒の種類なら飲むまで教えないからね、口に入れてからのお楽しみってやつさ」

「酒の種類なんか俺に言われても分からん。お前の言う“いいこと”は勝った時限定ってことなのか?」

「さぁ、どうだろうねぇ? まぁそれも後のお楽しみってことで」

 別にいいことに執着しているわけではない。だが、提督は負けた場合の隼鷹からの要求が、女装をしろだとか着ぐるみを着ろといった系統であった場合の事を恐れ、是が非でも勝とうと決意する。コップは全部で八個、あまりにもアバウトなルールの穴とその対策を考えると、勝負は最初の一瞬にかかっていた。

「じゃあ準備はいいかい?」

「いいぞ」

「よーい――始め!」

 開始と同時、提督は目の前のコップを一ヶ所に集める。そして、行儀や形振りに構わず、持ち上げないまま舌先で一つずつ舐めていくという作戦に出る。

(――っ!?)

「ごほっげほっ!」

「あはははは! 予想通りの行動と反応してくれたねぇ」

「おまっ……コレ……」

「おっ、気付いちゃった? それ、前に提督が一回飲んでのたうちまわったスピリタスだよ」

(こんな遊びで出すもんじゃねぇよ!)

 声にならない怒りを隼鷹にぶつけながら、残りの七つのコップに視線をやる。提督が今危惧している通り、残りも全てスピリタスが入っている。

「後四分だね、どうする? 降参しちゃうかい?」

「お前、最初から勝たせる気無かっただろ……」

 妨害してはいけないと言ってないにも関わらず、隼鷹はゲームが開始されてから少しも動こうとはしなかった。それは、提督ではコレを飲めない事がはっきりと分かっていたからだ。
 逆に、無理して飲もうとすれば止めようという考えはあり、二つ目以降に口をつけ始めたら動こうとしていた。

「こんなもんに後七回も口をつけられるかってんだ……」

「へー意外にあっさりと諦めるんだね」

「明日に差し支えるようなのは勘弁なんだよ」




「ふーん、じゃあまだ時間には早いけど――」

422: 2014/06/25(水) 00:23:40.29 ID:sOvYp5mAO
 提督が見ている前で、隼鷹はコップに一つずつ口をつけていく。そして、残りのコップ七つ全てに口をつけると、横に居る不機嫌な男の顔をがっちりと掴んだ。

「待て、お前何を――んぅ!?」

 口付けと共に酒を流し込まれ、強烈な酔いが身体を駆け巡り、提督は動きを封じられる。そして、深く絡められた舌の感触もまた、自由を奪っていた。

「――よし、勝負はこれでアンタの勝ち、あたしを好きにしていいよ?」

「っ……最初からそのつもりなら、飲ませなくて、良かっただろ……」

 フラつく思考と身体を何とか支えての、精一杯の虚勢。しかし、既に半分隼鷹に抱き着いているような体勢では、格好がつく筈もない。

「全くだらしないなぁ。あたしが好きにしていいって言ってるのに、押し倒す気力も無いわけ?」

「わざとか? 嫌がらせか?」

「――ん」

 ――ちゅ、れろ、はむ、ちゅっ。

「ほら、早くしないとこんな風に、負けたあたしの好きにしちゃうからね?」

「――どうしたんだ? いつもと少し違うぞ、お前」

「……何でそうやって気付くかなぁ、アンタは」

 バツが悪そうに、胸に提督の頭を抱きながら、隼鷹はいつもの雰囲気とは違った声を出す。 徐々に抱く力も強くなっていき、その豊満な胸に顔が埋もれきる前に、提督は呼吸が出来るように顔を下向きにする力

「何かあったなら、話聞くぞ」

「――提督、私を解体せずにこうしてお側に置いてくださり、心よりお礼申し上げます」

「……ふっ」

「ちょっと、人が真面目に礼を言ったのに鼻で笑うって失礼じゃないのさ」

 癪に触ったのか、隼鷹は提督の顔を掴み、目線が合うように持ち上げる。見えてきた顔は、酔いで真っ赤だ。

「昔の事に思いを馳せるのもいいが、お前はいつもみたいにバカ騒ぎしてろよ。でなきゃ落ち着かん」

「人がいつも騒いでるみたいな言い方は酷くない? まぁ、強ち間違っちゃないけどさ……」

「心配すんな、お前の綺麗な部分も可愛い部分もちゃんと知ってる」

「かなり酔ってるね、アンタ――ん?」

 唇を押し付けるようなキス。隼鷹が支えなければ、そのまま床に倒れ込んでいる勢いだ。

「頭突きじゃないんだから、もっと優しくしてよ」

423: 2014/06/25(水) 00:25:00.39 ID:sOvYp5mAO
「……脱げ」

「いきなりだね」

「脱ーげー」

「はいはい……愛してるよ、世界でただ一人、アンタだけを」

「……誰かに渡す気は無い、お前は俺のだ」

「――あぁ、あたしはアンタのモノだ。これからも、この先も、ね」




――――さっさと脱ーげー。

 ――――(酔うと若干幼くなるね、コレはコレでいけるかも……)

430: 2014/06/25(水) 11:21:05.59 ID:sOvYp5mAO
頑張らずに書きました

・大井『北上さんとしたなら、私ともして下さい』、投下します

431: 2014/06/25(水) 11:21:33.31 ID:sOvYp5mAO
――――提督執務室。

「提督、次は私の番ですよね?」

「待て待て待て待て、アイマスクと耳栓は分かるが、手錠と足枷って何だ」

「だって、逃げられたら嫌じゃない」

「逃げないからそれは置いてけ」

 最初から使う気は無かったのか、持ってきた物を全て放り出し、大井は提督の腕を取って歩き出す。口調は相変わらずキツいものの、態度や行動は以前にも増して優しくなっていた。

「それで? またごっこ遊びに付き合わされるのか?」

「私とが嫌なら、このまま執務室に帰ってもいいんですよ?」

「そんな勿体無いマネはしたくないな」

「――ふふっ」

 少し腕を掴む力を強めながら、大井は上機嫌で提督を引っ張るように歩き出す。こんな姿を見せられては、部屋に帰ろうなどと思うはずもない。
 鎮守府の外でタクシーを拾って移動する最中も、その腕が離されることはなかった。

432: 2014/06/25(水) 11:22:24.02 ID:sOvYp5mAO
――――???

「……こう来たか」

 以前はタキシードを着せられた挙げ句、北上に散々な事を言われた提督。今度も、その道は避けて通れそうになかった。

(タキシードもだが、紋付袴も一生着る機会は無いと思ってたんだがなぁ……)

 こういった礼装を苦手とする彼からすれば、ほとんど日を置かずに和と洋両方のものを着させられるなど、拷問にも等しかった。

「提督、着替え終わったー?」

「あぁ、大井は?」

「大井っちの方はもうちょいかな、女の子の方が時間かかるからねー」

「そうか。そういえば北上、神主には何て言って来たんだ?」

「お金だけ払って、細かいの全部無しで自由にさせてって言っといた。凄い顔してたよー提督にも見せたかったなー」

(だろうな……)

 金は払う。場所だけ貸せ。本当に結婚するわけじゃないし、雰囲気を味わって満足したら帰るから邪魔するな。
 はっきり言って滅茶苦茶な要求だ。コレで許可してくれたのだから、ここの神主は心が相当広い。

「んー……そろそろいいかな。私は大井っちの花嫁姿見たら帰るし、後は二人でごゆっくりー」

「あぁ、またな」

 提督の暇潰しに付き合っていた北上は、大井の元へと戻る。それを見送ってすぐ、彼もまた部屋から移動するのだった。

433: 2014/06/25(水) 11:23:45.63 ID:sOvYp5mAO
――――神社、境内。

「――提督」

 声のした方向に提督は視線を向ける。そこには、日の光の中でさえ眩しく感じる程優しい笑みを浮かべた、花嫁が立っていた。

「……」

「黙ってないで、何か言ったらどうですか?」

「――ん? あぁ、うん、綺麗だ、もっと近くで見たい」

「はい」

 歩み寄る大井。普段はキツめの口調や行き過ぎた行動などに隠れて目立たなかったが、ずっと彼女は彼を献身的に支えようという姿勢を見せていた。
 だからこそ、この白無垢という衣装に身を包んだ大井に、提督は一瞬言葉を失うほど目を奪われていた。

「タキシードもだったけど、やっぱりいまいちね……」

「今ぐらいは毒吐くのやめないか?」

「だって事実だもの」

「相変わらず容赦無いよな、お前」

(まぁ、今はそのお蔭で助かってるんだがな……)

 目の前まで歩み寄って来ての第一声が予想していた通りのもので、若干提督は平常心を取り戻す。辛辣な言葉を有り難いと感じるなど、滅多に無い経験だ。

「提督」

「何だ?」

「今、幸せですか?」

「……あぁ」

「じゃあこれからも幸せで居て下さい。でないと、私は貴方を恨みます」

「……あぁ、分かってる。今の日々に後悔は無いし、お前にまたケツを叩かれなきゃならない状態にはならないさ」

「――もう、私の支えはいりませんか?」

「急に不安になるからそういう事を言うのはやめてくれ」

「……ふふっ、しょうがない人ですね、提督は」

「チキンだからな」

「純情童Oは卒業しちゃいましたけどね」

「――初夜はごっこ遊びに含まれるのか?」

「魚雷、何本いっときます?」

「今は魚雷無いだろ」

「チッ……」

「――大井」

「はい?」




――――今までずっと支えてくれてありがとう、愛してる。

 ――――……ずっと、これからも愛してますよ、提督。

440: 2014/06/26(木) 17:49:06.56 ID:mS8YYX1AO
――――海水浴場。

「司令、この水着どうですか?」

「あぁ、似合ってるぞ」

「コレ、金剛お姉様に選んでもらったんです。そう言ってもらえると悩んだ甲斐がありました!」

 常に元気で明るい印象の比叡。そのイメージをより際立たせる、健康的な白色のビキニ。
 フリルで可愛らしさを出しつつ、その引き締まったボディラインで魅力的な女性らしい部分もしっかりと披露していた。

(サラシで普段は押さえ付けてるからだが、改めて見ると比叡も結構胸あるよな……うん、足もスラッとしてていい)

「あの、司令? あんまり見つめられると流石に私も恥ずかしいというか、なんというか……」

「減るもんじゃないから気にするな。――で、どうする?」

 ここへ来たのは海で遊ぶ為であって、眼福な水着姿を見る為ではない。提督の言葉にグルリと辺りを見回し、比叡はある一点を指差した。




「あそこへ泳いで行きたいです!」

441: 2014/06/26(木) 17:50:46.59 ID:mS8YYX1AO
――――???

「……」

「司令? 砂浜に顔を埋めたら口に砂が入りますよ?」

「分かってるよそんなことは……」

 うつ伏せから仰向けになり、顔に付いた砂を払い、提督は空を見上げる。雲一つ無い快晴に、身体には日の光がこれでもかというぐらい降り注いでいた。

「こんなにまだ日が高いのに体力使いきった挙げ句、氏にかけるとは思わなかったぞ……」

「一キロ程度なら司令は楽勝だと思ってたんですが……」

「生憎体育会系じゃないんでな、帰りはずっとお前に背負って泳いで欲しいぐらいだ」

 途中で足がつり溺れかけた提督を比叡が背負って泳ぐというアクシデントを乗り越え、二人は海水浴場から見える無人島へと来ていた。特に何かがあるわけでもないので、地元の人間も滅多に訪れない場所だ。

「林と砂浜以外、何もないな」

「はい、清々しいぐらい何にも無いですね」

「何でここに来たかったんだ?」

「……ふ、二人っきりになりたいなーなんて」

「ほーそうかそうか――比叡、ちょっとここに座れ」

 寝転がったまま、提督は自分の傍へと座るよう比叡に指示する。膝枕でも要求されるのかと喜んで彼女はそこへと座るが、待っていたのは全く別の事態だった。

「ヒェー! 頭をグリグリしないで下さい!」

「二人になりたいならもっと他にも場所があっただろうが!」

「だってここが良さそうに見えたんですよー!」

「見えただけで選ぶんじゃねぇ!」

 少し身体を起こし、こめかみ辺りに拳を当てて提督は比叡へお仕置きを開始する。確かに二人にはなれる場所だが、戻らないと食事も出来ず、疲れきってしまっていては遊ぶことすらままならないのだ。

「はぁ……まぁ止められなかった俺も悪いか。少し休みたいから膝貸せ」

「はい! どうぞ!」

 今の今までお仕置きされていたとは思えない元気な返事に苦笑しながら、提督は比叡の太ももに頭を預ける。肌で温もりを感じながら間近で顔を見れるこの状況に、見下ろす彼女の顔はとても満足そうでにこやかだ。

442: 2014/06/26(木) 17:52:31.15 ID:mS8YYX1AO
「司令と無人島で二人っきり……いっそこのままここに住んじゃいたいです」

「金剛はどうするんだよ」

「お姉様も呼べば万事解決ですね!」

「金剛だけじゃなく、全員この島に来るだろうけどな」

「それだったら鎮守府の方が暮らしやすいですから、鎮守府でいいです」

「だろうな」

「……司令は、私と二人っきりは嫌ですか?」

「そんなしょげた顔は似合わんからやめろ。嫌ならこんなところまで付き合うかバーカ」

「何もバカって言わなくてもいいじゃないですか! 司令のっ――うーん……えっと……」

 とっさに悪口が出てこず、眉を寄せて悩む比叡。その可愛らしい姿を見て、提督は顔を綻ばせる。

「比叡」

「うーん……司令の悪いところ……悪いところ……」

「ひーえーいー!」

「はいっ!? な、何ですかっ!?」

「お前と居ると退屈はしないし、可愛い部分がいっぱい見れて良いことだらけだ。ありがとな、比叡」

「――司令は、ズルいです。そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃいますよ……」

「悪口言う奴にはこうだ」

「ん……」

 甘い蜜の様なお仕置きを、比叡は目を閉じて受け入れる。そのまま、お仕置きは二分程続くのだった。




――――気合い! 入れて! 泳ぎます!

 ――――(本当に背負われて帰ることになるとは思わなかった……)

443: 2014/06/26(木) 17:54:10.25 ID:mS8YYX1AO
・比叡『気合い! 入れて! 泳ぎます!』、投下しました

先にタイトルを書くの忘れてました……

445: 2014/06/27(金) 00:47:25.77 ID:AjAqnLUAO
――――服屋。

「鳥海って大人しい見た目の割に、服はちょっと派手なの持ってるよな」

「摩耶姉さんとお揃いで買ったりしていますので……」

(背中が丸見えなのとか持ってたのはそれが理由か……)

「今日は折角ですし、司令官さんに一着選んでもらいたいです」

「別にそれは構わないんだが、最近コンタクトをしてるんだよな?」

「はい、していますよ?」

「でも、今日は眼鏡なんだな」

「その日の服や気分によって変えています。どこか、おかしいですか?」

「いや、おかしくないし似合ってるぞ。ただ、選ぶなら眼鏡かコンタクト、どっちに合わせようかと思っただけだ」

「司令官さんは、どちらの方が好み――」

「眼鏡」

「そこは即答するんですね」

「百五十人近く居る中で、鳥海を含めて眼鏡かけてるの五人しか居ないからな、出来ればかけてて欲しい」

(司令官さんは眼鏡もお好きの様ですね、しっかりデータを収集しないと)

「正直、いつもの戦闘用の服がかなり似合ってて個人的には好きだ」

「司令官さんの好みを把握しておきたいので、好きに選んでもらっていいですよ」

「分かった、ちょっと待ってろ」

446: 2014/06/27(金) 00:48:08.41 ID:AjAqnLUAO
 ――十分後。

「上はコレとコレ、下はコレでどうだ?」

「ちょっと待ってて下さい、試着してみますね」

 ――試着中。

「――着れました」

「見ていいか?」

「はい、その為に着ましたので――どう、でしょうか?」

 試着室のカーテンが開かれ、提督の選んだ服に身を包んだ鳥海が姿を見せる。少し自信が無いのか視線は横に向けられているものの、ちゃんと見てもらいたいという意思の表れが、後ろに回された両手から見て取れた。
 上は身体のラインがはっきり分かるTシャツに短めのデニムジャケット、下は普段の服によく似たプリーツスカート。背伸びでもしようものなら、思わず見てしまいたくなるヘソと、触り心地の良さそうなむっちりとした太ももが顔を覗かせる組み合わせだ。

「うん、いいな。その格好で眼鏡の位置を直す仕草とかされたら、結構グッとくる」

「……こういうのですか?」

 鳥海は片手を腰の後ろに回したまま、もう片方の手で眼鏡を軽く持ち上げる。今度は、視線をしっかり提督へと向けていた。

「――やっぱりいいな、眼鏡も」

(反応は上々、これからは少し意識してやってみましょうか)

 彼女の提督に関して集めているデータが、また更新される。提督に関してのデータとはいっても、好かれる為のデータであって、脅せる様な秘密などを知っている訳ではない。

「今日はそれで一緒に出掛けないか?」

「はい、司令官さんがそうして欲しいのでしたら」

「あぁ、じゃあそうしてくれ」

「――でも、その前にまだやることが残っています」

「……早く会計を済ませよう鳥海、そっちは紳士物で今は関係無いから引っ張るのをやめろ、俺はこのままでいい!」

「私も選びたいので、付き合ってもらいます」

「カッターシャツにジーパンが一番楽だから、これでいいんだよ俺は」

「デニムって言ってください、まだ若いんですから」

「そういうのが面倒だから、自分の着る服はどうでも良くなったんだ」

「この際ですからしっかりコーディネートしてあげますね。後、伊達眼鏡も買いましょう」

「やーめーろー!」




――――お互い選んだ服で歩くって、少し気恥ずかしいですね。

 ――――(試着室に一時間も押し込まれたのは地獄だったが、照れてる鳥海を見られたからよしとするか……)

449: 2014/06/27(金) 07:54:34.63 ID:AjAqnLUAO
・初霜『かすり傷一つ負わさせません』、投下します

450: 2014/06/27(金) 07:55:13.28 ID:AjAqnLUAO
――――街中。

「なぁ初霜」

「はい、何でしょうか?」

「お前なりに考えての行動っていうのは分かってるんだ。――でもな、曲がり角の度に壁に張り付いて、進行方向の安全を確認するのはやめろ」

「護衛術が身に染み付いているので、つい……」

 肩がぶつかりかければ相手を投げ飛ばし、鳥の糞が頭上に落ちかければ袖に仕込んだ警棒で弾き飛ばし、光を反射する何かが視界に入れば射線を塞ぐように立ちはだかる。
 それもひとえに提督を守りたいが故の行動であり、彼女に一切悪気はなかった。

「お前の気持ちは凄く有り難いが、これじゃ手も繋げないだろ? そうそう俺だって簡単に氏にゃしないから大丈夫だ」

「手を、繋ぎたかったんですか?」

「嫌か?」

「いえ、そんなことはないわ」

(片手でも、護衛は出来るわね……)

 手を繋ぎ、二人は再び歩き始める。しかし、やはり周囲が気になるのか、初霜の視線は背後や物陰へと注がれている。
 その小さいながらも凛とした姿を見て、提督は頼もしさを感じると同時に、少し物悲しさも感じていた。

「――初霜、俺と一緒で楽しいか?」

「えぇ、楽しいわ」

「そう、なのか……?」

 予想外の素早い返答に、提督は言葉を詰まらせる。それに対して初霜は、真っ直ぐに彼の目を見つめて柔らかな笑みを浮かべた。

「今こうして二人で街を歩いている。それだけで、私は満足なの」

「――“もしも戦いが終わったら、街を二人で歩いてみたい”、だったか」

「そう、ちゃんと提督は私との約束を守ってくれた。だから、貴方の護衛には尚更気が抜けない――のっ!」

 提督の後頭部付近を飛んでいた蜂が、警棒により叩き落とされる。片手が塞がっていても、彼女の動きは全く鈍ってはいなかった。

「何か国のお偉いさんにでもなった気がしてくるな」

「提督は誰かに狙われる可能性が十分にあるわ。外を出歩く際は細心の注意を払ってね」

「大抵一人では出歩かないし、そんなに心配しなくても俺は誰かに狙われたりしないさ」

(狙撃されかけたのは一度や二度ではないのだけど……)

「――でも、いつも守ってくれるのには本当に感謝してる。ありがとな、初霜」

「あっ……」

 頭を優しく撫でられ、初霜は少し嬉しそうに頬を染める。一緒に歩くだけで満足とはいっても、それ以外を全く望んでいないわけではないのだ。

451: 2014/06/27(金) 07:56:07.36 ID:AjAqnLUAO
「これからも、提督のことは絶対に私達が守るわ」

「守られっぱなしってのは歯痒く感じるが、無茶して余計に心配かけないよう気を付ける」

「無茶しようとしたら気絶させて運びます」

「肝に銘じとく」

「それならまず、物陰を歩くよう心掛けて。後、私から半径1メートル以上離れないで」

「離れたら?」

「気絶させるわ」

「じゃあ手をしっかりと繋いでおくか」

「うん、逃げる時にちょうどいいわ」

「逃げなきゃならんような目には遭いたくないな……」




――――今度から外出の際は防弾チョッキを着用してね。

 ――――そこまでしなくてもよくないか……?

452: 2014/06/27(金) 08:00:02.57 ID:AjAqnLUAO
九本終了

8時半まで艦娘指定受け付けますので、まだ書いて欲しいなんて方が居るならお願いします

459: 2014/06/27(金) 08:32:27.97 ID:AjAqnLUAO
・夕張『工廠から引っ張り出された』

・川内『あの忍者っていうの夜戦得意そうだよね!』

・大鳳『チョコレートがあったから食べてみた』

・夕立『最高に素敵なパーティーがしたいっぽい!』

・那珂『皆ー! 那珂ちゃんだよー!』

の、五本です

463: 2014/06/27(金) 12:02:13.09 ID:AjAqnLUAO
読みたい方居るのか分かりませんが、前スレで省いた部分の導入をば投下します

リクエストも随時書いてますのでご安心を

464: 2014/06/27(金) 12:02:41.69 ID:AjAqnLUAO
 ――その報は突然にもたらされ、全世界へと広まった。





“深海棲艦の発生源を突き止めました!”






465: 2014/06/27(金) 12:03:39.06 ID:AjAqnLUAO
 ――――提督執務室。

「――謎の結晶?」

「はい、恐らくは未知の物質かと」

 手元の資料を捲りながら、加賀は淡々と説明を続けていく。

「現在到達可能な海域付近から、空母数百名の超大編成で更に先の海域を艦載機に偵察させたところ、一つの海域から大量に溢れ出る深海棲艦を発見。無数の艦からの対空放火によりほぼ全機撃墜されたものの、その中の一機が、海上に浮かぶ謎の結晶から深海棲艦が生まれるのを確認したそうです」

「発生源……」

 提督も加賀の報告を聞きながら、手元の資料を捲っていく。最近確認されたレ級や、姫や鬼といった主力級も多数確認され、二度目の偵察部隊は近付く間すら与えられず迎撃されたと、そこには書かれていた。

(軍全体があれだけの戦果を挙げているにも関わらず、深海棲艦が減る気配が無いのは、時間が経てば復活するからだと思っていたが……)

 何度海域を制圧したとしても、時間が経てばまた何処からともなく現れ、圧倒的な物量で一定のラインまで押し戻される。当然、大規模な作戦の度に少なからず犠牲は出てしまい、新しく艦娘を建造したとしても、練度の問題が出てきてしまう。
 一方、大半の深海棲艦は意思を持たず、沈むことに何の抵抗も無く、艦娘を誰か一人道連れに出来れば上々という戦い方だ。更に、統率する意思を持った艦が居れば、高度な戦術を用いてくることもあり、余計に質が悪い。
 それが無尽蔵に湧くというのだから、問題は更に深刻となる。

「例えこの情報が正しかったとしても、その結晶が破壊出来るかどうかは不明。世界に一つだけなのかも不明。また出現するかも不明。破壊すれば戦いが終結するかも不明。――それでもやるしかない、か」

「はい、この一縷の希望に、大本営は餌に群がる鯉のように食い付きました。主だった鎮守府には既に、全戦力を“結晶破壊作戦”へと投入するよう、命令が下されています」

「で、当然うちにも来てる、と」

 執務机に広げられた一枚の書類。そこには作戦への参加命令と、大雑把な作戦内容が書かれていた。

466: 2014/06/27(金) 12:04:24.52 ID:AjAqnLUAO
(こんな馬鹿げた作戦に付き合わせたくはないが、先々の事を考えればそうも言ってられんな……)

 日に日に敵の戦力は増すものの、艦娘の強化や補充には限度がある。いつかはじり貧になり、打つ手が一切無くなるのは目に見えているのだ。

「――提督」

「あぁ、分かってる」




「全艦へ通達! “結晶破壊作戦”に俺達も参加する! 傍迷惑な結晶を破壊しに行くぞ!」

467: 2014/06/27(金) 12:08:39.45 ID:AjAqnLUAO
 ――作戦決行日。

「待機は夕張と明石だけって……大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。工厰に籠って普段は出てこないけど、夕張だって強いもの」

「あの人の目が届かんからって、鎮守府を爆発させるようなことやらかさんか心配やけどな」

 着任した時とは全く別の不安を漏らす大鳳。それを、瑞鳳と龍驤は明るく笑い飛ばす。

「……そうね。ありがとう、二人とも」

「今回もいつもみたいに戦って、いつもみたいにただいまーって帰るだけだよ」

「ちゃっちゃとぶっ倒して帰るで!」

 ――また勝って、ここへ帰る。

 今回の作戦に参加する者全員の心の中には、この思いがどこかに必ず存在していた。例え今回の作戦について、“最後は各自の持てる力を尽くして帰って来い”という抽象的な指示以外、事前にされていなかったとしても……。

468: 2014/06/27(金) 12:09:59.89 ID:AjAqnLUAO
 ――提督執務室。

「俺もPUKAPUKA丸で、作戦海域の近くへ後から向かう。出来る限り状況を把握して、全艦に指示は出す。だが――」

「勝つと信じて戴けていれば結構です。あとは、私が何とかします」

「……そうだな、“信じる”のが俺の仕事だ」

「えぇ、いつものように、御自分の責務を全うして下さい」

 普段の出撃と今回の作戦。そこには何の違いもないのだと、加賀は提督の焦りや不安を見越して口にする。その言葉の一つ一つが、彼の眉間に寄っていた皺を消していく。
 絶対的自信、信頼、誇り、絆。それらの全てが、彼女の言葉に確かな安心感を持たせていた。

「では、私も準備がありますのでコレで失礼します」

「あぁ」

 踵を返し、執務室のドアへと手をかける。そこで、彼女の動きは一度停止した。

「……提督」

「何だ?」

「全部終えたら、今度は私に膝枕をして下さい」

「……あぁ、お安い御用だ」

「――コレで気分が高揚しました。失礼します」

 答えに満足し、今度こそ加賀は執務室から姿を消す。廊下には暫く規則正しい足音が響き、次第にそれも提督の耳には届かなくなった。

(全員無事で帰って来てくれさえすれば、何だってしてやるさ。――だから、帰って来い)

469: 2014/06/27(金) 12:10:48.13 ID:AjAqnLUAO
 ――第一出撃艦隊、待機場所。

 第一艦隊の主な役割は、退路の確保と挟撃への警戒にある。駆逐と軽巡、重巡、航巡、軽空母、そして戦艦と揚陸艦一名で編成されており、総数はおよそ五十名程。敵の足止めと主力艦隊のバックアップを同時にこなさなければならず、いかに砲撃と雷撃と爆撃の雨を止ませる事無く持続できるかが肝となる。
 第一艦隊所属艦は、吹雪型、綾波型、初霜を除く初春型、朝潮型、秋雲を含む夕雲型、長良と五十鈴を除く長良型、阿賀野型、天龍型、球磨と多摩、古鷹型、青葉型、最上型、飛鷹型、祥鳳型、あきつ丸、長門という大所帯。
 これに更に他鎮守府の艦娘も多数加わるというのだから、そうそう簡単にこの布陣が崩れる恐れは無かった。

「皆、絶対に勝つよ!」

「天気もいいですし、頑張りましょー」

「妾達の力、余すこと無く見せてやるのじゃ!」

「この大勝負、司令官の為に受けて立ちます!」

「提督が気兼ね無く甘えてくれる日々の為に!」

「て、提督さんの為に、頑張ります」

「提督さんと毎日お昼寝する為に頑張る!」

「一番長く戦えるなんてツイてるじゃねぇか!」

「優秀な球磨と多摩に任せるクマー」

「性能だけじゃない重巡洋艦の良いところ、見せてあげる!」

「勝利インタビューって誰にすればいいんですかね? やっぱり司令官?」

「皆、衝突禁止だよ!」

「景気良く派手にやっちゃいましょ」

「小柄な私だって、やる時はやるんです!」

「これが終わったらゆっくりするであります」
「この長門がここに居る限り、何も臆することはない!」

 第一艦隊は最も長く戦闘を継続しなければならず、その負担は計り知れない。しかし、誰一人としてその目に恐れや不安は見せる者はいなかった。

470: 2014/06/27(金) 12:14:44.31 ID:AjAqnLUAO
 ――第二艦隊、待機場所。

 第二艦隊の役割は、敵を撹乱することにある。小回りの利く艦と潜水艦で敵の隊列を乱し、一部の主力艦でそこを突き、どこか一点へ敵が集中して進行することを防ぐのだ。
 第二艦隊編成は、島風、天津風、雪風、睦月型、長良、潜水艦娘全員、翔鶴型、伊勢型。
 第一艦隊に比べれば小規模ながら、連携と瞬間的な火力については申し分ない。彼女達の働き次第で第一艦隊と第三艦隊へかかる負担が相当減る為、なるべく長く被弾をせず回避し続けることが、彼女達の最重要事項となっていた。

「出撃おっそーい!」

「島風、先行しすぎちゃダメよ?」

「絶対、勝ちます!」

「睦月達だってやる時はやるんだから!」

「持久力なら私だって負けないわ!」

「運河じゃないけど攻め落としてやろうじゃない!」

「瑞鶴が隣に居てくれるなら、私に怖いものは無いわ!」

「日向じゃないけど、晴嵐飛ばして突撃すればいいだけよ!」

 囮としての役割が強く、一人一人が引き受ける敵の量もかなりの数が予想される。しかし、積み重ねてきた経験と絶え間ない努力、そして自分達へ向けられた信頼が、彼女達に恐れぬ勇気を与えていた。
 その心が折れぬ限り、彼女達を捉えるのは、容易ではない。

471: 2014/06/27(金) 12:17:47.70 ID:AjAqnLUAO
 ――第三艦隊、待機場所。

 第三艦隊の役割は、所謂露払いというものだ。敵陣に風穴を開け、消耗させることなく第四艦隊を送り届けるのを目的に編成されており、層的には一番ここが厚くなっている。
 第三艦隊編成は、暁型、白露型、残る陽炎型全員、北上、大井、川内型、妙高型、高雄型、鳳翔、龍驤、千歳型、二航戦、金剛型、扶桑型、陸奥、独艦娘三人。
 敵陣を切り開いていく以上、姫や鬼、フラグシップ級も多数相手にせねばならず、かなりの激戦が繰り広げられることはまず間違いない。だが、それを十分に可能とするだけの戦力が投入されていることも確かだった。

「一人前のレディーとして頑張るんだから!」

「一番先に、敵陣突破します!」

「陽炎の戦い、見せてあげるわ!」

「大井っちー酸素魚雷撃って撃って撃ちまくろうねー」

「えぇ、北上さん。冷たくて素敵な魚雷で、冷たい海の底に還してあげないと」

「夜戦になったら私達の出番だね!」

「終わらせましょう、全てを」

「あの方が笑っていられる未来の為に!」

「畑の手入れもありますし、なるべく早く終わらせましょう」

「舐めとったら痛い目見せたるでぇ!」

「帰ったら鳳翔さんのお店で一杯飲みたいわね」

「多聞丸、見ててね……」

「飛龍と私のコンビネーションは凄いんだから!」

「パーフェクトな勝利をテートクにプレゼントするヨー!」

「私も、山城も、欠陥戦艦なんかじゃないっとことを証明して見せるわ」

「あらあら、コレは私も頑張らないといけないわね」

「私達ドイツ艦も負けていられないわ、やるわよ!」

 勝利を疑う者はなく、気負う者もない。その統一されきった意思は、槍のように鋭い。

472: 2014/06/27(金) 12:18:21.25 ID:AjAqnLUAO
 ――第四艦隊、待機場所。

 第四艦隊の役割は当然ながら、敵陣最奥部の結晶を破壊することにある。破壊後は第三艦隊と合流しながら残存勢力を蹴散らす仕事も担っている。
 第四艦隊編成は、木曾、利根、筑摩、大鳳、加賀、赤城、大和、武蔵の八名。
 島風を除く待機組と、利根と加賀との連携に適した二人、そして一航戦の二人をバックアップする大鳳という布陣だ。

「あんまり潜水艦の相手は得意じゃないが、居たら俺に任せろ」

「有象無象の雑魚共は吾輩と筑摩が引き受けよう」

「姉さんの後ろは、私が守ります」

「加賀と赤城の二人には、敵を一切近付けさせないわ」

「制空権は譲りません」

「間宮さんがご馳走を作って待っているそうですので、手早く片付けましょう」

「大和と武蔵は戦艦級のお掃除ですね」

「大和型二隻が揃って相手をしてやるのだ、多少は歯応えのある相手が居ることを期待しよう」

 一騎当千の強さを持つ者達と、その力を更に引き出す者達。出鱈目の強さを誇り、然れど傲らず、もたらすのは常に勝利の二文字のみ。
 溢れんばかりの闘志を内に秘め、いつもの気楽さを崩さず、来るべき時が来るまで、彼女達は力を蓄えるのだった。

473: 2014/06/27(金) 12:18:58.17 ID:AjAqnLUAO
 ――そして、時は来る。




 ――――“全艦抜錨、出撃せよ!”

481: 2014/06/27(金) 14:11:06.98 ID:AjAqnLUAO
・夕張『工廠から引っ張り出された』、投下します

昼に蕎麦食べたのでちょうど良かった

482: 2014/06/27(金) 14:14:25.75 ID:AjAqnLUAO
――――工廠。

「夕張ー」

「提督? 今から執務室に行こうと思ってたんですけど、何か急ぎの用件ですか?」

「飯食いに行くから着替えろ」

「……はい?」




――――京都。

「夕張が蕎麦好きってのを思い出したら、急に蕎麦が食いたくなってな」

「蕎麦を食べに来たんですか?」

「あぁ、祖母に良く連れてこられた店があるんだ。お品書きに“みそぎ蕎麦”っていうのがあってな」

「みそぎ蕎麦?」

「ざるそばなんだが、ちょっと普通とは違う。――白い蕎麦だ」

「白い蕎麦、ですか?」

「一番粉を使っててな、元々は献上品だったものらしい」

「更科蕎麦とはまた違うのね」

「……次は更科蕎麦食いに行きたくなったな、今度は大阪行くか」

「とりあえず、今日はそのみそぎ蕎麦っていうのを早く食べてみたいです」

「それもそうだな。――着いたぞ」

483: 2014/06/27(金) 14:14:51.80 ID:AjAqnLUAO
 ――店内。

「良い雰囲気のお店ねー……」

「蕎麦を食べに来る店だからな、自然と客層も落ち着いててゆっくり出来る」

「提督もみそぎ蕎麦を?」

「いや、俺は今日は普通のざるそばと木の葉丼にしとく」

「それは、私に他のメニューも食べさせてくれるってことかしら?」

「食べ比べてみるのもいいだろ?」

「えぇ、せっかくだから色々なメニューを味わいたいわ」

「じゃあ注文するぞ」

 ――十五分後。

「コレがみそぎ蕎麦ね、いただきます」

「どうだ?」

「――美味しい。あっさりしてて、のど越しも軽いわね」

「そうか、気に入ってもらえたなら何よりだ」

「あの、そっちのも食べてみたいんだけど」

「ん? じゃあ、ほれ」

(意図せずあーん状態ですって!?)

「早く食え、俺も食いたいんだ」

「え、えぇ……あーん――うん、こっちは蕎麦の風味を感じられて美味しいわね」

「じゃあそっちのも食わせろ」

(デ、デートっぽい……)

「おい無視すんなコラ、海老天食うぞ」

「へっ!? あっ、はい、どうぞ!」

「蕎麦くれって言ってんのに、海老天を尻尾側から差し出されてどうしろってんだよ……」

「し、尻尾も試してみればいいんじゃないかしら!?」

「俺は尻尾は食わない派だ!」




――――木の葉丼って木の葉が入っているの?

 ――――そんなわけあるか。

484: 2014/06/28(土) 12:05:33.97 ID:8e/6w9oAO
・川内『あの忍者っていうの夜戦得意そうだよね!』、投下します

485: 2014/06/28(土) 12:06:57.09 ID:8e/6w9oAO
――――提督執務室。

「提督、こうするとカッコ良くない?」

「クナイみたいにそれ使ったら自爆すんぞ、お前。まぁマフラーとそのポーズは決まってるな」

「えへへ、この前見た漫画でこういう格好したくの一っていうのが夜戦してたから、私も真似してみたくなったの」

 夜戦バカ、五月蝿い5500t級、夜行性艦娘等々、様々な呼ばれ方をしていた川内。しかし、夜戦が好きという部分以外に目を向けて見れば、妹思いの優しい艦娘という面が見えてくる。
 主君と仲間を守る為、日のある内は身を潜め、夜を駆ける忍者。目の前で嬉しそうに話す川内を見ながら、彼女に忍者は似合うかもしれないと提督は考えていた。

「この格好で那珂のライブに“川内参上!”とか言って、乱入したら受けるかな?」

「あぁ、面白いと思うぞ」

「海での夜戦は出来なくなったけど、那珂のライブ見てると夜戦してる時みたいな不思議な高揚感があって、ちょっと参加してみたくなる時があるよ」

「――じゃあちょっと演出考えてやるから、本当に忍者みたいな事をやってみないか?」

 最初は軽いノリと、夜戦が出来なくなったと話す彼女が少し寂しそうに見えたというだけの理由から、それは始まった。

486: 2014/06/28(土) 12:08:08.11 ID:8e/6w9oAO
――――鎮守府裏手の山。

(冗談のつもりだったんだがな……)

「コレで良かったの?」

「あぁ、バッチリだ。っていうかよく出来たな、凄いぞ川内」

 二本の木の幹を交互に蹴りながら上へと登り、枝に飛び乗るという技。提督は冗談でやってみろと言っただけだったのだが、彼女は見事に十メートル上の枝まで到達して見せた。

「提督にそう言ってもらえるなら、もっと色々やってみたくなるね」

 思ったことを隠さずに伝える傾向のある川内。枝の上に座り本当に嬉しそうにしているのを見て、自然と提督も笑みを浮かべる。

「魚雷の代わりにクナイっぽいのを用意させるから、それ投げる練習をしてみろ。後、枝から枝へ跳び移ったりするのと、マフラーが引っ掛からない動きもな」

「任せといて、すぐにマスターして提督に見せてあげるよ!」

「そりゃ楽しみだ。本当にこの感じならライブの演出として参加も出来そうだし、那珂と神通、後ステージ設営やってる明石にも話をしとかないとな」

「那珂、怒らないかな……?」

「お前と一緒ならむしろ喜ぶと思うぞ、何だかんだお前等仲良いし」

 妹のライブの邪魔になるのではと、川内は少し躊躇いを見せる。しかし、普段の三人の和気藹々とした雰囲気を見る限り、それは無いと提督は優しく諭す。

「――うん、後で私も那珂にお願いしてみるよ。提督、ありがとう」

「俺もちょっと楽しみになってきたからな、協力は惜しまないさ」

「じゃあもっともっと頑張るね!」

 枝の上で立ち上がり、川内はやる気をアピールする。
 ――その時、不意に風が吹き抜けた。

「あっ」

「……今、見た?」

「綺麗な白いのが――って危なっ!?」

「不発にしてあるから大丈夫」

「不発でもその高さから投げられたらヤバイわ!」

「見たの忘れてよ! 夜戦以外で見られるのは流石に恥ずかしいんだから!」

「だからって魚雷投げるのは止めろ! っていうかさらっと跳び移りながら追いかけて来てんじゃねえか!」

「はーやーくーわーすーれーてー!」




――――夜戦、いっぱいしてくれるなら許してあげるよ?

 ――――そういう時もストレートだよな、お前。

487: 2014/06/28(土) 12:09:01.81 ID:8e/6w9oAO
――――深夜、裏山。

「やっぱり、夜はいいよね」

「もう夜戦は出来ないけど、こうしてゆっくり夜を感じることが出来て、提督や妹達と楽しく過ごせるだけで、私は今幸せなの」

「――だから、邪魔しないでよ」




『加賀さん、裏山で五人倒れてるから、後処理お願いしてもいいかな?』

『分かりました。夜間警備、引き続きよろしくお願いします』
『こうしてると本当に忍者になったみたい』

『そうね、静かになった今なら忍者というのも似合うかもしれないわ』

『だって、騒いだら忍者っぽくないもの』




 夜戦忍者川内が居る限り、鎮守府の夜の平和は安泰です。

490: 2014/06/28(土) 20:35:18.44 ID:8e/6w9oAO
大鳳のを書いてる途中なのですが、皆さんにご協力をお願いしたいです

安価下1~3で犠せ――じゃなくて、駆逐艦娘(浦風除く)をお選び下さい

誰を出すか迷ってしまったので……


引用: 【艦これ】大鳳「出入り自由な鎮守府」