766: 2014/08/19(火) 16:53:39.02 ID:xZKSHolEo
救い




『救い』はあると思いますか?

私は、あると信じたい。

けど、あの時の私達は差し伸べられた手を振り解いてしまった。

暖かい、優しい、裏表のない、純粋に差し伸べられた手。



大淀「────本日付でこちらの鎮守府に着任して頂く提督です。既存の艦娘の皆さん、並びに秘書艦の加賀さん、
こちらの鎮守府でのイロハの鞭撻はそちらにお任せしますので宜しくお願いします」

加賀「了解しました」

提督「宜しくな、えーっと、加賀?」

加賀「」ペコリ



きっと、最低な第一印象だったでしょう。

右も左もわからない。着任当日なのだから当たり前なのに、それを疎いと、面倒と感じていた私。

あの人ならそんな事もない。二言目には作戦指揮が飛び、遠征の任務から今日の第一艦隊に通達する任務、全てを

理解し、即座に私へ通達を促していた。

私はそれを然として受け止め、待機する他の子達へ通達する。

皆も戦意高翌揚し、提督の為にと獅子奮迅の働きをする。

けど、この人はどうだろう。

フワフワとした感じで緊張感もまるでない。

ソワソワしていて挙動も怪しい。

全てが癇に障る。

してはいけないと解っていても、比べてしまう。

前提督だったら……と。
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767: 2014/08/19(火) 16:54:05.63 ID:xZKSHolEo
加賀「本日の指示をお願いします」

提督「あー、えっと…うん、第二艦隊と第三艦隊は遠征に……」

加賀「お言葉ですが、提督。この鎮守府には現在、第三艦隊はもう存在しません」

提督「え…?」

加賀「はぁ、何の通達も無しにこちらへ配属されたわけではありませんよね?経緯は伺っているはずと、大淀さん
からは聞いているんですが?」

提督「あ、ああ…先月の、AL/MI作戦、敵の別働艦隊がこの鎮守府付近まで押し寄せて、待機していた前提督の指
揮の下、第三艦隊と非稼動だった艦娘で対応したが、大半を大破・ロスト…前提督も艦娘を庇って戦氏されたと…」

加賀「」ギリッ…

提督「す、すまない。言葉を選ぶべき……」

加賀「自覚してるならはじめから間違わないで下さい」

提督「うん、了解だ。気をつけるよ!」



私達は最低だ。

提督は何も悪くないのに、ただ前提督の面影を引き摺ってるだけの私達。

それでも提督は私達を叱る事なんて一度もなかった。

私達の苛立ち、自分が疎外されてるのを感じ取ってるはずなのに、笑顔を絶やさない。

それが何より苦しく、辛い。

どうせなら、こんな辛いだけの思いを強いられるのなら、氏にたい。

もう一度、深海棲艦が攻め込んでくれば、提督の指示を無視してでも前線に赴いて、そのまま戦氏してしまえばいい。

768: 2014/08/19(火) 16:54:32.38 ID:xZKSHolEo
提督「なぁ、皆!今日はもう任務もないし、どうだ、一緒に間宮さんのアイスでも食べに行かないか?」

加賀「私は遠慮します。演習で確認しておきたい事がありますから」

蒼龍「ゴ、ゴメンね、提督。私も今はちょっと…」

木曾「ねーよ。ご機嫌取りのつもりかよ。ったく、ウゼー…」

伊勢「私も別にいらないかなぁ。また今度ね、提督」

那智「不要だ。何かの戦術行動なら稚拙な出来だ」

島風「いっらなーい!いこっ、連装砲ちゃん!」

提督「そ、そうか。いや、すまないな。じゃあ、またの機会にしよう」



余所余所しいって言葉がしっくり来る。

それが尚更、癪に障る。

実際にそう思ってた訳じゃねぇのに、ご機嫌取りって……

違うって解ってんのに、どうしても重ねてる自分に尚更腹が立つ。

そうでもしないと気が狂いそうになる。もっと俺が早く戻れてれば前提督や他の皆は氏なずに済んだかもしれない。

そうすりゃ、こんな胸糞悪い気持ちになる事もなかったんじゃないのかって……

今の俺を見たら、前提督はきっと言うんだろうな……ナシだなって。

769: 2014/08/19(火) 16:55:00.75 ID:xZKSHolEo
提督「今回の任務の作戦だが、他に何か提案、もしくはこうした方がいいって案はないかな?」

加賀「特に何も」

蒼龍「まぁ、良いんじゃないですか。提督がそうしたいなら、私達は従うだけです」

木曾「近海の任務だろ。どうってことねぇよ」

伊勢「資材も今は少ないんだし、無理は出来ないもの。これ以上何かをする必要もないと思うわ」

那智「一々面倒な司令官だな。貴様がトップなのだから命令を下せば良いだろう」

島風「難しいのは私解んないからパース。適当に決めていいよー」



彼が新しい提督として着任して、初めて、かな……

怒鳴ったのは。

驚きもあったし、逆にそれが私達との溝を深めたようにも感じて、何だか少し、胸が痛んだ。

怒鳴ることないじゃない。

そう思うと同時に、そういう風に仕向けていたのが自分達だと皆解ってるから、押し黙って…

結局、また最初に戻る。

殻に閉じ篭るようにして提督が歩み寄ろうとしてるのは見て見ぬ振り。

彼は前に、未来に向かって歩んでいるのに、私達は過去に、前に向かず背を向けて、前提督の面影だけに追い縋っていた。

770: 2014/08/19(火) 16:55:43.26 ID:xZKSHolEo
提督「いい加減にしろ!」

加賀「……!」

提督「何か言ってくれなきゃ、どんな小さな事も大きな事も解る訳ないじゃないか!何がダメで、何が良いのか、
そんな些細な事でもお前達がただそうやって適当に流してるだけじゃ解らないんだよ!頼むよ、前提督がどれだけ
優秀だったのか、俺にだって解ってるよ。それでも、彼の代わりにならなくても、俺はこの鎮守府の提督なんだ!」

蒼龍「…………」

伊勢「…………」

木曾「ちっ……」

島風「な、なによ…そんな、怒んなくたって…」

那智「…言葉が過ぎました。司令官の指示された方針に問題はありません。そのまま継続遂行して頂いて構いません」



正直言って面倒でしかありませんでした。

前司令官以外の司令官など、私にとってはありえない事実だったから。

ただの置物として存在してくれればいいものを、無駄に歩み寄ろうとし、あまつさえ前司令官の真似事をしようとする。

それが尚更、私には許せなかった。

面影だけを纏い、中身は違う。

それはただの偽善で幻でしかない。

だが最も、前司令官…如いては私達を纏め上げる彼等を、侮辱し軽蔑していた私達が、一番……最高に愚かだった。

その事に気付くのに、私達は遅すぎた。

771: 2014/08/19(火) 16:56:15.93 ID:xZKSHolEo
ビー、ビー、ビー、ビー!


提督「深海棲艦がまた攻め込んできたのか!」

加賀「敵の規模は戦艦タ級のフラグシップ型を旗艦とし、戦艦ル級のフラグシップ型一隻、空母ヲ級フラグシップ
型が二隻、重巡リ級のフラグシップ型二隻です」

提督「精鋭部隊か…出払っている艦隊を至急呼び戻して、防衛ラインを形成…同じ過ちを繰り返させない!」



同じ過ち。

その部分には共感を覚えました。

私達にとっても、その言葉だけは共感せざるをえなかった。

前提督の弔いとも言うべき、この同じシチュエーション。

だからといって、どこまでも鏡映しに似せる必要が何処にあったのか。

それとも、これは私達に対する戒めだったのか。

772: 2014/08/19(火) 16:56:44.67 ID:xZKSHolEo
加賀「てい、とく……」

提督「無事、だね。加賀……」

木曾「あんた、なんで…」

伊勢「どうして、私達より前に出てるの!」

那智「…………」

提督「油断、するなと…言っただろう…」

島風「て、提督……」

加賀「何を、しているんですか」

提督「息のあった、深海棲艦が、お前に砲口を向けていた…声で、知らせるより、早いかなって…」

加賀「違います!何故、どうして庇うような真似を…」

提督「迷惑、掛け通しだったからなぁ……最後くらい、役に立てて、良かった…」

木曾「最後とか縁起悪ぃ事いってんじゃねぇ!ざけんなっ!」

提督「そうだな、すまん。ごめんな…」

蒼龍「謝るの、私達なのに…」

加賀「もう喋らないで下さい。傷口に障ります」

提督「いやぁ……流石に、もう、無理ってのが、わかる…」

島風「そんな…私、今度はちゃんと言う事聞くから!だから……!」

提督「大丈夫……加賀や、那智は、しっかりしてる。蒼龍や島風は、機転が利くし……伊勢、木曾は部隊を鼓舞
して、士気を盛り上げる。君達なら、大丈夫……」

木曾「おいっ、寝るな!目ぇ閉じるな、提督っ!!」

提督「……救いは、きっとある。だから、腐るな…お前達なら、大丈夫だから……」

773: 2014/08/19(火) 16:57:11.70 ID:xZKSHolEo
奇しくも、前提督と提督は、同じ形で亡くなった。

ただ一つ、違いがあるとすれば、提督をむざむざ氏なせてしまった責任の一端が私達にある、ということ。

前提督から教えられた知識。

提督から学んだ歩むべき道。

もう二度と、迷わないと誓うために。

憂いだけを引いていても、仕方がない。

前を向いて歩かないと未来は見られない。

だから────



大淀「────本日付でこちらの鎮守府に着任して頂く提督です。既存の艦娘の皆さん、並びに秘書艦の加賀さん、
こちらの鎮守府でのイロハの鞭撻はそちらにお任せしますので宜しくお願いします」

提督「よろしく」

加賀「航空母艦、加賀です。あなたが私達の提督なの?それなりに期待はしているわ。宜しくお願いします」

提督「勝気だな。まぁ、よろしく頼むよ」



もう二度と、救いがないとは思わない。

差し出された手を放さない。

今度こそ、必ず……


救い  完

774: 2014/08/19(火) 16:57:59.87 ID:xZKSHolEo
終わり


救いのない話って言うのはやっぱり書き始めて難しいと思った
書ける人は凄いね

775: 2014/08/19(火) 17:05:48.88 ID:umeh4k/fO


まだ救いがあるな

776: 2014/08/19(火) 17:47:27.31 ID:OXon8fZEo
自己憐憫に浸り続けられるだけ、救われまくりですな

引用: 艦これSS投稿スレ2隻目