965: 2014/09/03(水) 02:29:13.30 ID:Klo13bRNo
「曙、山城がまた一隻沈めたぞ。やっぱやるときゃやるなあ、あいつ」
「うるさいわよ、このクソ提督! そもそも司令部が前に出すぎてどうするのよ!」
太陽が傾き水面に沈もうとしている。
本土近海での決戦の戦局は防衛側に傾き、深海からの侵略者は多くが無残な姿をさらしている。
やはりこの提督の才覚は常軌を逸している、と曙は思う。
本土の他のどの提督があれほどの艦隊を撃退できるというのか。
昨年の鉄底湾のときもそうだった。
この提督は、この国でただ一人だけ轟沈した艦娘を出さず敵中枢を撃滅したのだ。
国はこの提督を英雄として祭り上げ、国民もそれを歓迎した。
「うるさいわよ、このクソ提督! そもそも司令部が前に出すぎてどうするのよ!」
太陽が傾き水面に沈もうとしている。
本土近海での決戦の戦局は防衛側に傾き、深海からの侵略者は多くが無残な姿をさらしている。
やはりこの提督の才覚は常軌を逸している、と曙は思う。
本土の他のどの提督があれほどの艦隊を撃退できるというのか。
昨年の鉄底湾のときもそうだった。
この提督は、この国でただ一人だけ轟沈した艦娘を出さず敵中枢を撃滅したのだ。
国はこの提督を英雄として祭り上げ、国民もそれを歓迎した。
966: 2014/09/03(水) 02:30:24.08 ID:Klo13bRNo
「いいじゃないか。
なんかこう、すごい一体感を感じる……! みたいな感じを味わいたいんだよ」
「アホみたいなこと言ってるんじゃないわよ……」
にもかかわらず、この提督は失脚し、辺境に左遷され、春の作戦にもALMI作戦にも参加できなかった。
原因は自身が愛し、手塩にかけてきた艦娘を失った海軍将校たちの嫉妬だ。
自分は失ったのになぜあいつだけは失わないのか。
なぜ失わないあいつが英雄としてまつりあげられているのか。
なぜ……
967: 2014/09/03(水) 02:32:11.16 ID:Klo13bRNo
「いいぞ、扶桑! 自信もってうちゃあ、お前の弾で沈まない艦なんてないんだ!」
「つべこべ言わずにさっさと快速艇をさげなさい!
いくら私が守ってるからって、あんた弾が当たって氏ぬわよ!」
そもそも、この戦いの才覚と国への忠誠心しか持たない、政治力皆無の男は、
同期の友人達に嵌められるなどとは毛ほど考えていなかった、
志のために皆が団結できると信じて疑っていなかったのだ。
だからこそ裏切られたとき、今までに見たことがないほどにまで狼狽し、
ほうっておけば氏んでしまうくらいにまで意気消沈していた。
「なに、平気さ。今までこの距離で俺の船に弾を当てられた敵がいたか?
いないだろう?」
「次は当たるかもしれないでしょ! あんたに氏なれたら皆困るのよ!」
そうして彼を左遷したくせに、ALMIと続けて成果を残せず
本土を奇襲される体たらくだ。
本土の危機に陥ってようやく、奴らはこの提督を呼び戻し、
防衛の指揮にあたらせたのだ。あの恥知らずども。
969: 2014/09/03(水) 02:33:21.46 ID:Klo13bRNo
「平気だ平気、それにもし俺がいなくなっても大丈夫なように、ちゃんと後釜も見つけた
俺と遜色なくてしかも政治もできる、性格だって良い万能軍人さ!」
「本気で言ってんの! バカ! 皆あんたじゃないとだめなのよ!」
彼は、そうして舞い戻り、また快活な笑みを浮かべて、
文句ひとつ言わずに指揮をとっている。
そんな彼だからこそみんなは生き残ってこれたし、
彼だからこそみんな氏力を尽くし、団結して戦えるのだ。
「ハハハ、ありがとよ! お前らが部下で本当に良かったよ!」
日がほとんど沈む。水の入った袋が破れる音がする。
「ゲホ、……けほ」
「クソ提督……?」
970: 2014/09/03(水) 02:35:00.21 ID:Klo13bRNo
最後の大きな戦艦が轟沈し、皆が歓声をあげている。
小さな船の上で、少女が一人縋り付いて泣いている。
「あんた、氏んでもいいって、思ってたんでしょ、氏のうとして、前に出たんでしょ」
「参った、げほ、な。お前、わかってたのか。ゲホ」
「どうしてよ、なんで、なんでこんなことしたのよ」
「俺は、気づいてなかったんだ。お前らがどれだけ俺の中で大切になってたか。
だから、あいつらに嵌められたとき、おれは、意味が分からなかった。
そうして、辺境にとばされて、腑抜けた俺に、お前らは文句も言わずについてきてくれた。
それで、俺の中の序列が入れ替わっちまった」
「それなら、それでいいじゃない、どうしてよ、なんで……」
「俺の強さは国のためだったから、発揮できたんだ、お前らが沈まなかったのはその副産物だったんだ。
だからもしお前らのために戦って氏傷者が出たり、あいつらみたいに人を陥れたりしちまって、
お前らに失望されたりすることが怖くて、ゲホ、怖くて、たまんなくなっちまった。
俺はそこから、軍人じゃなくなっちまったんだ。ごほ、ゴホ!」
「わけわかんない理屈で納得してるんじゃないわよ! クソ提督! あんた高潔すぎんのよ!」
「これから、俺の政治センスってやつじゃ、お前らをきっと守り切れるかわからない。
それにまた国に戻れば、海軍が割れて、敵に付け込まれちまう
俺が、俺の、後任に選んだ奴は、本物の天才だ、きっと、お前らを守って…」
「どんな理由があっても、私はあんたと一緒にいたいのよ!ばか、バカ!」
「……嬉しいなあ、ゲホ! げほ、なあ、最後、の命令だ」
「最後なんて言うんじゃないわよっ! やめてよ、ねえ……」
「きっと、いつか、みんなで、幸せになれるときがくる。それまで、しんじて、いきてくれ……」
「私の! 私の幸せは、あんたと一緒にいることなの!
……ねえ、しなないでよう、いなくならないで、ねえ、いやよ、ねえ
わたし、かなしくて、しんじゃうよ、ねえ……」
小さな船の上で、少女が一人縋り付いて泣いている。
「あんた、氏んでもいいって、思ってたんでしょ、氏のうとして、前に出たんでしょ」
「参った、げほ、な。お前、わかってたのか。ゲホ」
「どうしてよ、なんで、なんでこんなことしたのよ」
「俺は、気づいてなかったんだ。お前らがどれだけ俺の中で大切になってたか。
だから、あいつらに嵌められたとき、おれは、意味が分からなかった。
そうして、辺境にとばされて、腑抜けた俺に、お前らは文句も言わずについてきてくれた。
それで、俺の中の序列が入れ替わっちまった」
「それなら、それでいいじゃない、どうしてよ、なんで……」
「俺の強さは国のためだったから、発揮できたんだ、お前らが沈まなかったのはその副産物だったんだ。
だからもしお前らのために戦って氏傷者が出たり、あいつらみたいに人を陥れたりしちまって、
お前らに失望されたりすることが怖くて、ゲホ、怖くて、たまんなくなっちまった。
俺はそこから、軍人じゃなくなっちまったんだ。ごほ、ゴホ!」
「わけわかんない理屈で納得してるんじゃないわよ! クソ提督! あんた高潔すぎんのよ!」
「これから、俺の政治センスってやつじゃ、お前らをきっと守り切れるかわからない。
それにまた国に戻れば、海軍が割れて、敵に付け込まれちまう
俺が、俺の、後任に選んだ奴は、本物の天才だ、きっと、お前らを守って…」
「どんな理由があっても、私はあんたと一緒にいたいのよ!ばか、バカ!」
「……嬉しいなあ、ゲホ! げほ、なあ、最後、の命令だ」
「最後なんて言うんじゃないわよっ! やめてよ、ねえ……」
「きっと、いつか、みんなで、幸せになれるときがくる。それまで、しんじて、いきてくれ……」
「私の! 私の幸せは、あんたと一緒にいることなの!
……ねえ、しなないでよう、いなくならないで、ねえ、いやよ、ねえ
わたし、かなしくて、しんじゃうよ、ねえ……」
971: 2014/09/03(水) 02:35:43.26 ID:Klo13bRNo
それから、数年が経って、私はあの鎮守府にいることをやめた
後任の提督はよくしてくれたが、それでも日々あのクソ提督の影が消えていくのが、怖くなったのだ
そのあと、別の艦隊を渡り歩いているが、私の性格ではどうにもなじむことができないし、
したくもなかった。どんな提督でも、わたしにとって一番の提督があの人だということは揺るがない。
そうして、また他の艦隊に移って、何かをふりはらうように一心不乱に戦って、ふと思う。
もしあのときあの人と一緒に[ピーーー]ていたら、どれだけ幸せだっただろう。
972: 2014/09/03(水) 02:36:20.80 ID:Klo13bRNo
あけぼの、曙!
は、え、なに、なによこのクソ提督!
どうしたんだ、こんな時間にこんなところをうろついて。
うるさい、私にもいろいろ理由があるのよ!
まあ、そうカリカリするな。お、曙、そういえば、そろそろ日の出の時間だぞ。
そう、もうそんな時間なのね。
いっしょに見ようか。今日は確か、一等、きれいに見える日らしい
ふん、まあいっしょに見てあげるわ、感謝しなさいよね!
ほら、見ろ! お前の名前と同じ、きれいな曙だ。なあ、きれいだなあ!
973: 2014/09/03(水) 02:37:08.88 ID:Klo13bRNo
投下終了です
引用: 艦これSS投稿スレ2隻目
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