43: 2013/12/20(金) 10:30:55 ID:NMrjzF.Y
前回:ミカサ「あやかし奇譚、雨降小僧─あめふりこぞう─」
44: 2013/12/20(金) 23:06:47 ID:S99mwmlY
【其の三、月兎─つきのうさぎ─】
馬術の訓練が終わり、馬を小屋へ返し、エレンとアルミンと話をしながら寮へと向かっていた時だった。
私は、紙袋が歩いているのを見付けてしまった。
正確には自分の体ほどの大きさの紙袋を持って歩いている“あやかし”を、だけれど。
ヨタヨタと、おぼつかない足取りで歩いている。
一体どうしたのだろう、と、思わず凝視していると。
隣を歩いているアルミンが、不思議そうな表情でこちらを見てきた。
アルミン「ミカサ、何を見てるの?」
そう言いながら、私の視線を辿っていく。
けれど、アルミンにはあやかしが視えない。
ので、その目に映るのは何の変哲もない景色だけだろう。
首を傾げているアルミンに、何とか誤魔化さなくてはと思った私は、咄嗟にこんなことを言っていた。
ミカサ「あ」
アルミン「あ?」
ミカサ「蟻の行列」
馬術の訓練が終わり、馬を小屋へ返し、エレンとアルミンと話をしながら寮へと向かっていた時だった。
私は、紙袋が歩いているのを見付けてしまった。
正確には自分の体ほどの大きさの紙袋を持って歩いている“あやかし”を、だけれど。
ヨタヨタと、おぼつかない足取りで歩いている。
一体どうしたのだろう、と、思わず凝視していると。
隣を歩いているアルミンが、不思議そうな表情でこちらを見てきた。
アルミン「ミカサ、何を見てるの?」
そう言いながら、私の視線を辿っていく。
けれど、アルミンにはあやかしが視えない。
ので、その目に映るのは何の変哲もない景色だけだろう。
首を傾げているアルミンに、何とか誤魔化さなくてはと思った私は、咄嗟にこんなことを言っていた。
ミカサ「あ」
アルミン「あ?」
ミカサ「蟻の行列」
45: 2013/12/20(金) 23:07:29 ID:S99mwmlY
エレンとアルミンには「小屋に落とし物をした」と言って、先に寮へ戻ってもらった。
二人の姿が完全に見えなくなったのを確認してから、私は紙袋の元へと歩み寄った。
近くに来てみると、紙袋で隠れてしまっていたあやかしの姿を認めることが出来た。
──白くてふわふわの毛に、長い耳。
その姿は、一言で言ってしまうと“兎”だ。
兎が自分の体ほどの荷物を持って歩いている姿は、形容し難い愛らしさがあった。
ミカサ「何を運んでいるの?」
私は、兎に声を掛けてみた。
46: 2013/12/20(金) 23:08:16 ID:S99mwmlY
なるべく驚かせないようにと気を付けたつもりだったけれど、驚かせてしまったらしい。
兎は、「ひゃあ」と声を上げながら、言葉通り跳び跳ねて驚き、びくびくしながら私へ目を向けてきた。
ミカサ「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかった」
兎「い、いえ……こちらこそ」
そうは言うものの、兎は訝るような目で私を見る。
「怪しいものではない」私は、敵意がないことを証明するために、両手を挙げながら言った。「あなたが何をしているか気になっただけ」
兎は、私のことを頭から爪先までまじまじと見つめた。
そして、自分の敵ではないと判断してくれたのか、口を開いてくれた。
兎は、「ひゃあ」と声を上げながら、言葉通り跳び跳ねて驚き、びくびくしながら私へ目を向けてきた。
ミカサ「ごめんなさい、驚かせるつもりはなかった」
兎「い、いえ……こちらこそ」
そうは言うものの、兎は訝るような目で私を見る。
「怪しいものではない」私は、敵意がないことを証明するために、両手を挙げながら言った。「あなたが何をしているか気になっただけ」
兎は、私のことを頭から爪先までまじまじと見つめた。
そして、自分の敵ではないと判断してくれたのか、口を開いてくれた。
47: 2013/12/20(金) 23:09:15 ID:S99mwmlY
兎「人を探しているのです」
ミカサ「人……?」
兎「はい、私を助けてくれた人間です」
ミカサ「え……人間が、あなたを?」
思わず聞き返してしまったのは、無理のない話だ。
あやかしは、普通の人間には視えない。先程のアルミンが良い例だ。
いわゆる霊感の強い人間なら視ることが出来るが、そのような人間は稀だ。
少なくとも、私の知っている限りでは、私を除いてそのような人間はいない。はずだ。
私の考えていることを察したのか、兎は「助けられたといっても、間接的にですけれど」と言った。
ミカサ「人……?」
兎「はい、私を助けてくれた人間です」
ミカサ「え……人間が、あなたを?」
思わず聞き返してしまったのは、無理のない話だ。
あやかしは、普通の人間には視えない。先程のアルミンが良い例だ。
いわゆる霊感の強い人間なら視ることが出来るが、そのような人間は稀だ。
少なくとも、私の知っている限りでは、私を除いてそのような人間はいない。はずだ。
私の考えていることを察したのか、兎は「助けられたといっても、間接的にですけれど」と言った。
48: 2013/12/20(金) 23:10:05 ID:S99mwmlY
兎「私、蔦に足が絡まって動けなくなっていたのです……」
兎は語り始めた。
助けられた時のことを。
──それは、つい先程の話らしい。
兎は蔦に足を取られ、身動き出来なくなっていた。
自分でほどこうと試みるも、余計に絡まってしまい、更に動けなくなってしまった。
どうしよう、と、困り果てていると、そこに人間が通り掛かった。
助けを求めようにも、人間に兎の姿は視えない。
兎は素通りされるのを、ただ見ていることしか出来なかった。
が、ここで、奇跡としか言い様のない出来事が起こる。
その人間が、蔦に引っ掛かり、転んだのだ。
人間は、「蔦の分際で」と怒り、その蔦を引きちぎった。
その時に兎に絡まっていた蔦も引きちぎられ、結果的に助かったらしい。
兎は語り始めた。
助けられた時のことを。
──それは、つい先程の話らしい。
兎は蔦に足を取られ、身動き出来なくなっていた。
自分でほどこうと試みるも、余計に絡まってしまい、更に動けなくなってしまった。
どうしよう、と、困り果てていると、そこに人間が通り掛かった。
助けを求めようにも、人間に兎の姿は視えない。
兎は素通りされるのを、ただ見ていることしか出来なかった。
が、ここで、奇跡としか言い様のない出来事が起こる。
その人間が、蔦に引っ掛かり、転んだのだ。
人間は、「蔦の分際で」と怒り、その蔦を引きちぎった。
その時に兎に絡まっていた蔦も引きちぎられ、結果的に助かったらしい。
49: 2013/12/20(金) 23:10:40 ID:S99mwmlY
語り終えた兎は、恍惚の表情を浮かべながら、ほうと溜め息をついた。
兎「あの時のあの人、それはさながら王子様のようでした」
ミカサ「……そう」
話を聞く限りでは、王子様には程遠いように思えたが、兎がそう思うのならそれでいい。
兎「それで、お礼をしたくて探しているのです」
ミカサ「なるほど」
兎が持っている紙袋は、その人間へのお礼の品なのだろう。
と、ここで、兎は恍惚から焦燥へと表情を一変させた。
兎「けれど、急がなくてはなりません。……今夜は満月。私は月へ帰らなくてはならないのです」
ミカサ「月……あなた、月兎だったの」
兎は頷いた。
50: 2013/12/20(金) 23:11:17 ID:S99mwmlY
しかし、これは大変。
もう既に日が傾き始めている。夜はもうすぐそこだ。
このままだと、兎は王子様に会えずに月へ帰ることになってしまう。
ミカサ「……私も協力しよう」
兎「いいのですか!?」
ミカサ「ええ。ので、その人の特徴を教えて」
兎「特徴……ええと……そうだ、馬、馬を連れていました!」
ミカサ「馬」
なんと、馬を連れていたなんて、本当に王子様なのだろうか。
と、そんなことを考えていたところで、私は思い出した。
私達の今日の訓練が、馬術だったということを。
もう既に日が傾き始めている。夜はもうすぐそこだ。
このままだと、兎は王子様に会えずに月へ帰ることになってしまう。
ミカサ「……私も協力しよう」
兎「いいのですか!?」
ミカサ「ええ。ので、その人の特徴を教えて」
兎「特徴……ええと……そうだ、馬、馬を連れていました!」
ミカサ「馬」
なんと、馬を連れていたなんて、本当に王子様なのだろうか。
と、そんなことを考えていたところで、私は思い出した。
私達の今日の訓練が、馬術だったということを。
51: 2013/12/20(金) 23:12:48 ID:S99mwmlY
ミカサ「……もしかしたら会えるかもしれない」
兎「本当ですか!」
ミカサ「ええ。行こう、急がないと日が暮れてしまう」
兎を抱き上げて、私は駆け出した。
向かうは、104期生の寮だ。
向かっている途中、私はふとある疑問を抱いた。
ミカサ「そういえば、お礼はどのようにするの? あなたの姿はその人には見えないはず」
兎「それは、心配ご無用です。少しの間だけですが、人間に化けられます」
ミカサ「それならいい」
そんなことを話しているうちに、寮の近くに到着した。
兎「本当ですか!」
ミカサ「ええ。行こう、急がないと日が暮れてしまう」
兎を抱き上げて、私は駆け出した。
向かうは、104期生の寮だ。
向かっている途中、私はふとある疑問を抱いた。
ミカサ「そういえば、お礼はどのようにするの? あなたの姿はその人には見えないはず」
兎「それは、心配ご無用です。少しの間だけですが、人間に化けられます」
ミカサ「それならいい」
そんなことを話しているうちに、寮の近くに到着した。
52: 2013/12/20(金) 23:13:29 ID:S99mwmlY
物陰に隠れ、兎に訓練兵一人一人の顔を確認させる。
あの人でもない。
この人でもない。
その人も違う。
そうやって確認を始めてから、何人目だろうか。
ついに兎が「ああ!」と嬉しそうな声を上げた。
兎「いました、あの人です!」
そう言うなり、兎は人間へと化けた。
その姿は、私達くらいの年頃の女の子だった。
兎は、居ても立ってもいられないといった様子で物陰から出ようとする。
が、私は慌ててそれを止めた。
兎が何をするんだと言いたげな表情を浮かべ、私を軽く睨む。
53: 2013/12/20(金) 23:14:26 ID:S99mwmlY
ミカサ「それは目立つ。ので、このマントを」
それ、とは、兎の頭にピンと立った耳だ。
姿は人間だけれど、耳だけは兎のままだったのだ。
自分のマントを兎に着せ、そしてフードを深く被せて耳が隠れたのを確認してから、私は兎の背中を押した。
ミカサ「いってらっしゃい」
ピョンと跳び跳ねるようにして、兎は物陰から出て、駆け出した。
彼女が向かった先にいたのは──。
それ、とは、兎の頭にピンと立った耳だ。
姿は人間だけれど、耳だけは兎のままだったのだ。
自分のマントを兎に着せ、そしてフードを深く被せて耳が隠れたのを確認してから、私は兎の背中を押した。
ミカサ「いってらっしゃい」
ピョンと跳び跳ねるようにして、兎は物陰から出て、駆け出した。
彼女が向かった先にいたのは──。
54: 2013/12/20(金) 23:15:02 ID:S99mwmlY
兎「ありがとうございました、お陰でお礼も言えました!」
兎が深々と頭を下げる。
彼女はもう兎の姿に戻っていた。
そして、辺りはもう暗い。夜になったのだ。
ミカサ「いいえ、私は何も」
兎「そんなことはありません。あなたが声を掛けて下さらなければ、私はちゃんとお礼することは出来ませんでした」
ミカサ「……役に立てたのなら、良かった」
兎「あなたにも、いつかお礼を致します。今日はもう帰らないといけないので」
ミカサ「お礼なんていい。気を付けて」
兎「はい、本当にありがとうございました」
そう言って、兎が満月に向かってピョンと跳ねると。
次の瞬間には、その姿は消えていた。
55: 2013/12/20(金) 23:15:59 ID:S99mwmlY
──さて、兎と別れた後、寮に戻り着替えた私は、食堂へやって来た。
既にエレンとアルミンはいて、私の席も取っておいてくれている。
二人にお礼を言いながら、私は兎の王子様を探した。
その姿は、すぐに見付かった。
私のテーブルの隣のテーブルにいたからだ。
彼は、友人と話している。
大きな声なので、耳をすまさなくても会話は聞こえてきた。
「そんで、お礼だって紙袋を渡してきたんだけどよ……」
話の内容は、先程のことらしい。
「中を見たらニンジンがぎっしり詰まってたんだよ。なあ、これって……」
56: 2013/12/20(金) 23:16:40 ID:S99mwmlY
59: 2013/12/21(土) 03:01:33 ID:Vfg8dHwQ
アヤカシを退治ではなく手助けするのがなんか良いな
しかも東洋人の血を引くミカサに合うキャスティング
続き楽しみにしてる乙です!
しかも東洋人の血を引くミカサに合うキャスティング
続き楽しみにしてる乙です!
引用: ミカサ「あやかし奇譚」
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