62: 2013/12/21(土) 12:06:33 ID:9v0iunoM


前回:ミカサ「あやかし奇譚、月兎─つきのうさぎ─」


63: 2013/12/21(土) 22:48:16 ID:VF/RhzTw
【其の四、枕返し─まくらがえし─】

ここ数日、訓練兵の間で不気味な現象が起きている。


朝起きたら、体の向きが上下逆さまになっているのだ。


それが一人や二人だけの話なら、なんて寝相が悪いんだという笑い話になるのだが、
一人や二人だけではなく、ほとんどの訓練兵が逆さまになっているのだから笑えない。

その“ほとんどの訓練兵”の中には、私やエレン、アルミンも含まれている。

ので、これは他人事ではない。



──今日の朝食の時間も、この話でもちきりだった。
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64: 2013/12/21(土) 22:48:59 ID:VF/RhzTw
エレン「しかし、本当に変な話だよな。オレもアルミンもミカサも、そんなに寝相悪くねぇのに」

アルミン「そうだね。一体、何が起こってるんだろう。ただの寝相とは思えないよ」

エレン「体が逆さまになってるだけで他に何かあるってわけじゃねぇけど、気味悪いよな」

アルミン「本当だよ。ねぇ、ミカサも変だと思わない?」

アルミンが私の方へと顔を向けてきた。

その時の私はというと、ちょうどパンを口に入れたばかりだった。

早くアルミンに答えなければならないと思いつつ、しかしよく噛んで食べなければならないとも思ったので、私は急いで咀嚼をする。

「あ、そんなに急がなくてもいいよ」アルミンが苦笑する。「ゆっくりよく噛んで食べて」

65: 2013/12/21(土) 22:49:36 ID:VF/RhzTw
──実のところ。

私は、この現象はあやかしの仕業なのではないかと思っている。

そして、この数日で調べた結果、“枕返し”というあやかしの仕業だということが分かった。

何の仕業か分かれば話は早い。

これ以上、エレンやアルミンを不安にさせるわけにはいかない。

ので、私は早急にこの問題を解決することにした。


枕返しが現れるのは皆が寝静まった真夜中だ。

……今夜は、眠れない覚悟をしておかなければならない。

66: 2013/12/21(土) 22:50:15 ID:VF/RhzTw

さて、そんなこんなで、夜。

眠る前に「また上下逆さまになったらどうしよう」と不安そうにしていた皆も、睡魔には勝てずにすっかり夢の中だ。

皆の気持ち良さそうな寝息を聞いていると、つい私も寝そうになってしまうが、痛み刺激を与えて何とか眠らずに済んでいた。

しかし、そろそろ現れてくれないと私の眠気もそろそろ限界を迎えてしまう。

早く出てきて。
そして、早く眠らせて。

と、強く願っていた時だ。

ペタペタと、明らかに人間ではない者の足音が聞こえた。


──枕返しの登場だ。

67: 2013/12/21(土) 22:50:53 ID:VF/RhzTw
私は、息を頃し、なるべく音を立てないように体を起こす。

そして、足音がした方へと目を向ける。

暗くてはっきりと見えないが、人間のものではない影があった。

まず、誰を逆さまにしようか考えているのだろうか。
ウロウロとさ迷い歩いている。

そして、さ迷うこと数十秒。
ようやく誰にするか決めたのか、枕返しは歩みを止めた。


そこは……アニのベッドだった。

68: 2013/12/21(土) 22:51:27 ID:VF/RhzTw
枕返しが、アニに手を伸ばす。

しかし、私がそれを許さない。

ベッドから降りて駆け寄り、伸ばしかけた手を掴んだ。

ミカサ「させない」

枕返し「え!?」

ミカサ「これ以上、皆を不安にさせるのは止めて」

ぎゅうっと力の限り掴んだ手を握ると、枕返しは「ぎゃあっ」と叫んだ。

枕返し「痛い! スゲー痛い! 離してくれ! 話を聞いてくれ!!」

ミカサ「……話?」

枕返し「そう! 俺がこんなことしてる理由を!」

そう言われては、聞かないわけにはいかない。
私が手の力を緩めると、枕返しはほっとしたように息をついた。

69: 2013/12/21(土) 22:52:13 ID:VF/RhzTw

枕返しから話を聞くために、私達は部屋の外へ出た。

「それで」私は早速、話を切り出した。「理由とは?」

因みに、掴んでいる手は離していない。
万が一、逃げられたらいけないと思ったからだ。

枕返し「ああ……最初はな、悪戯してやろうと思ったんだよ」

ミカサ「最初?」

枕返し「そう。あんた、俺のこと知ってんだろ? どういうあやかしなのか」

それは、調べたので知っている。

枕返しというあやかしは、人間が寝ている間に枕を引っくり返したり、体の向きを変えるといった“悪戯”をするあやかしだ。

“悪戯”された人間は二度と目覚めることがないとか、不幸になるなど、様々な伝承があるようだが。

70: 2013/12/21(土) 22:53:10 ID:VF/RhzTw
枕返し「けどな、ここの奴らのほとんどは悪戯するまでもなかったんだよ!」

ミカサ「どういうこと?」

枕返し「皆! 北枕、北枕、北枕! 何なんだよお前ら、不吉過ぎるだろうが! えげつねぇ寝相の奴もいるし!」

枕返しが叫ぶ。

……が、私は言葉の意味が分からずに首を傾げた。

ミカサ「きたまくらって、何?」

その問い掛けに。
枕返しは目の玉を落としそうなほどに目を見開いたかと思うと、また、叫んだ。

枕返し「そこからかよ!!」

71: 2013/12/21(土) 22:53:50 ID:VF/RhzTw
枕返しは教えてくれた。

枕返し「北枕っていうのはな、北に枕を向けて寝ることだ」

ミカサ「それの何が悪いの?」

枕返し「東洋ではな、氏人を北枕にして安置するんだ。だから縁起が悪い、不吉って言われてんだよ」

その説明を聞き、納得した。
なるほど、確かに縁起が悪いかもしれない。

……と、いうことは。

ミカサ「あなたは、私達のためを思って上下逆さまにしていたの?」

枕返し「まぁな。見てるこっちまで不吉になってきたんだよ」

ミカサ「そうだったの……ごめんなさい、理由を知らなかったとはいえ、酷いことをしてしまった」

謝ると、枕返しは指先で頬を掻きながら「いや、俺も悪戯しようとしたんだし、どっちもどっちだよ」と言った。

72: 2013/12/21(土) 22:54:43 ID:VF/RhzTw

結局。
この日の夜は、枕返しに皆の体を上下逆さまにしてもらった。

しかし、この現象が起こるのは今夜で最後となるだろう。

ミカサ「では、明日の朝、皆に話してみる。北枕について」

枕返し「おう、ぜひそうしてくれ」

ミカサ「……今回はあなたに感謝するけれど、次、悪戯に来たときは容赦しない。ので、そのつもりで」

枕返し「わ、分かったよ、何もしねぇよ。だからそんなに睨むなって……」

ミカサ「それから、聞きたいのだけど。さっき言っていた“えげつない寝相”って、誰のこと?」

枕返し「ああ、あいつな……本当にすごかった。男でな、高身長だった。あいつには頼まれても悪戯したくねぇよ……」

73: 2013/12/21(土) 22:55:30 ID:VF/RhzTw


──次の日。
私はすぐに、北枕を止めるように言った。

私の話を聞いた時、皆は半信半疑だったが、止めた途端に上下逆さまになることはなくなったのでとても感謝をされた。


さて、それから数日のことだ。
私は、ライナーに呼び止められた。

ライナー「なぁ、ミカサ。相談なんだが」

ミカサ「ライナーが私にとは珍しい。何?」

ライナー「あれから俺達の妙な寝相は収まったが、……ベルトルトは相変わらず酷いんだ。何か、治す方法はないか?」

ライナーの言葉を聞き、あの時の枕返しの言葉を思い出す。

──頼まれても悪戯したくねぇよ。

ミカサ「……ごめんなさい、私には分からない」

枕返しですら音をあげるような寝相の持ち主を、私がどうにか出来るわけがない。


終わり
其の五に続く?

76: 2013/12/22(日) 02:38:58 ID:C.B8uWQ2
ぬーべー仕様じゃなくて良かったwww
しかししょーもない妖怪多いよな

引用: ミカサ「あやかし奇譚」