77: 2013/12/22(日) 03:55:52 ID:G8l78V5U

78: 2013/12/22(日) 23:24:10 ID:/E0U4shA
【其の五、轆轤首─ろくろくび─】

この冬の時期は、どこにいても寒くていけない。

例えば、今、私がいる街の図書館もそうだ。

暖炉があるにはあるのだが、暖かいのは周りだけ。
本を探そうとそこから離れれば、たちまち寒さがこの身に襲いかかってくる。


私は、暖炉から随分と離れた場所で、寒さに身を縮めながら目的の本を探していた。

早く見つけ出して暖炉で暖まりたいと思うのだけれど、そういう時に限って中々見付けられないのだから、不思議な話だ。

ミカサ「寒い……」

思わずひとりごちる。
すると。

「本当に寒いわねぇ」

と、後ろから私の言葉に同意する声がした。
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)

79: 2013/12/22(日) 23:25:08 ID:/E0U4shA
私以外に人はいないと思っていたものだから、声がしたことに驚いて、振り向いてみる。

と、そこには、一人の女性が立っていた。

女性は私と目が合うと、「あら」と目を丸くしながら声を上げた。

女性「ごめんなさいね、驚かせてしまったかしら?」

ミカサ「……少し」

女性「そんなつもりはなかったんだけど」

そう言いながら、女性は私の隣までやって来て、にっこりと笑いかけてきた。

女性「何の本を探しているの? 手伝ってあげましょうか」

ミカサ「え?」

見ず知らずの人に探し物を手伝わせるのは気が引けたし、何よりいきなりそんなことを言ってくるなんて怪しすぎる。

結構です、と断ろうとしたが、女性は更に言葉を続けた。

80: 2013/12/22(日) 23:26:01 ID:/E0U4shA
女性「遠慮しなくていいのよ。困った時はお互い様じゃない」

ミカサ「……」

女性「それに、私、探し物は得意なのよ。何せ……」

そう言うと。

信じられるだろうか。
女性は、首を長く伸ばしたのだ。

長くなった首を蛇のようにぐにゃりと曲げて、女性は私と目が合う位置に顔を寄せた。
そして、笑みを絶やさぬまま、言う。

女性「こういう身なの」

ミカサ「……轆轤首?」

女性「ご名答。ほら、何を探しているのか言ってみて」

81: 2013/12/22(日) 23:26:57 ID:/E0U4shA
手伝ってもらおうか少し悩んだけれど、確かに、轆轤首に手伝って貰えたら、すぐに見付かるかもしれない。

そう思った私は、彼女の言葉に甘えることにした。

探している本の題名を伝えると、轆轤首は「任せておいて」と言って、本を探しにかかってくれた。


──それから、数分も経たないうちに。
轆轤首は、本を見付けて来てくれた。

女性「はい、これでいい?」

ミカサ「ええ、ありがとう。助かった」

轆轤首から本を受け取りながらお礼を言うと、彼女は首を元に戻して「いいのよ」と頭を振った。

改めてお礼を言って、暖炉で暖まりながらこの本を読もうと、轆轤首に背を向けた時だ。

ぐいっと、手を引かれた。

女性「待って。次は、私のお願いを聞いてくれない?」

82: 2013/12/22(日) 23:27:53 ID:/E0U4shA
それが目的だったの。
と、思ったけれど、手伝ってもらった手前、嫌とは言えない。

まずは、轆轤首の“お願い”の内容を聞いてみることにした。

女性「さっきあなたも言っていたけれど、寒いでしょう? 特に私は轆轤首だから首もとが冷えて仕方ないの」

それならこの時期に首を伸ばさなければいいのでは、と思ったけれど、そんな野暮なことは言わないでおく。

なるほど、と頷きながら、続きを促す。

女性「そこで。あなたのソレ、貸してくれない?」

そう言いながら女性が指差してきたのは、私の首に巻かれている、マフラーだった。

83: 2013/12/22(日) 23:28:49 ID:/E0U4shA

このマフラーは大切なもの。

一時もこの身から離したくないと思う、大切なもの。

いくら探し物を手伝ってくれたからといって、そう簡単に貸せるものではない。

ミカサ「駄目」

女性「あら。寄越せって言ってるわけじゃないのよ?」

轆轤首が口を尖らせるが、何を言われようと貸すつもりなんてない。

「駄目」もう一度、強い口調で言う。「このマフラーだけは、貸せない」

轆轤首は、私が絶対に貸してくれないと分かったのか、不服そうな表情を浮かべながらも、「じゃあいいわ」と諦めてくれたようだった。

84: 2013/12/22(日) 23:30:04 ID:/E0U4shA
ミカサ「……。このマフラーは貸せない、けれど」

女性「え?」

ミカサ「あなたにマフラーを贈ることは出来る」

女性「どういうこと?」

ミカサ「言葉通り。行きましょう」

不思議そうにしている轆轤首の手を引き、本の貸し出し手続きをしてから、図書館を出た。

85: 2013/12/22(日) 23:30:54 ID:/E0U4shA

──やって来たのは、雑貨屋だ。

さすがにこの時期は、豊富な種類のマフラーが揃っている。

ミカサ「好きなものを選んで」

女性「え? けど、これ売り物よ?」

ミカサ「言ったでしょう、贈ることは出来るって」

女性「いいの?」

ミカサ「ええ、本を探してくれたお礼。それに、困った時はお互い様なのでしょう?」

私の言葉に、轆轤首は「じゃあ遠慮なく」と、マフラーの品定めを始めた。

86: 2013/12/22(日) 23:31:49 ID:/E0U4shA


さて、品定めを始めてから十数分。

悩みに悩んでいたようだけれど、ようやく轆轤首のお眼鏡にかなうものが見付かったらしい。

女性「これにするわ!」


そう言って彼女が手にしたのは、

赤いマフラーだった。


ミカサ「これ、は」

女性「あなたとお揃いね」

ミカサ「……どうしてこれに?」

女性「深い理由なんてないわ。あなたの赤いマフラーが暖かそうだったから、私もそれがいいって思っただけ」

87: 2013/12/22(日) 23:32:44 ID:/E0U4shA



──会計を済ませ、轆轤首にマフラーを渡す。

彼女は大変喜んでくれて、着用するなり「すごく暖かいわ!」と顔を輝かせた。

女性「ありがとう。これで、寒さ対策も万全よ」

ミカサ「喜んでもらえてよかった。私の方こそ、ありがとう」

女性「うふふ、困った時はお互い様。また何かあったら呼んでね、私も呼ぶから」

轆轤首は軽く手を振りながら、赤いマフラーを揺らして、去っていった。

88: 2013/12/22(日) 23:33:23 ID:/E0U4shA



轆轤首に探してもらった本を胸に抱き、マフラーに顔を埋めながら彼女の言葉を思い返す。


──あなたの赤いマフラーが暖かそうだったから。


彼女は中々、見る目がある。

このマフラーは、エレンが巻いてくれたマフラーは、何よりも暖かいのだから。



終わり
其の六に続く?

89: 2013/12/22(日) 23:38:16 ID:AJcHLGhQ
更新きた。ほのぼのだけど不思議な感じがいいですね。ミカサの違った魅力がみれる。乙。

引用: ミカサ「あやかし奇譚」