119: 2013/12/25(水) 00:41:07 ID:1xOQ04uA


前回:ミカサ「あやかし奇譚、花の精─はなのせい─」


120: 2013/12/25(水) 23:24:08 ID:6S8qLQlQ
【其の八、鈴彦姫─すずひこひめ─】


アルミン『ねぇ、エレン、ミカサ。クリスマスって知ってる?』


エレン『何だそれ。ミカサ、知ってるか?』


ミカサ『いいえ、知らない』


アルミン『おじいちゃんの本で見付けたんだ。すごいんだよ、それがね……』



──そこで、私は目を覚ました。
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)

121: 2013/12/25(水) 23:24:48 ID:6S8qLQlQ
随分、懐かしい夢を見てしまった。
まだ私達がシガンシナ区で平和に暮らしていた頃の夢だ。

あの頃は、アルミンが毎日のようにおじいさんの本を持ち出してきて、私達に面白い話を聞かせてくれていた。

アルミンが聞かせてくれた話の内容は、大体覚えている。
ので、先程の夢の話も、もちろん覚えている。


クリスマス。
神の子と呼ばれる人の聖誕祭。

もみの木を飾り付け、讃美歌を歌い、ご馳走を食べる。

そして子供達が寝静まった夜にはサンタクロースと呼ばれるお爺さんがベルを鳴らしながらやって来て、枕元にプレゼントを置いていく。

そんな、夢のような日だ。

確か日付は、12月25日。

……ああ。
そういえば今日は12月25日だった。

だから、あの夢を見たのかもしれない。

122: 2013/12/25(水) 23:25:23 ID:6S8qLQlQ
外はまだ薄暗い。

もう一眠りしようかと思ったけれど、目が冴えてしまって寝付けそうにない。

私は体を起こしてベッドから下り、コートを手に取った。
朝食までの時間潰しに、外を歩こうと思ったからだ。

コートを着て、マフラーを巻き、しっかりと防寒対策をしたところで、私は静かに部屋を出た。


外に出ると、きんと冷たい空気が頬を刺すようだった。

けれど、歩いているうちに少しは温かくなるだろうと、私は歩き出す。

霜の降った土が、ザクッと音を立てた。

123: 2013/12/25(水) 23:26:02 ID:6S8qLQlQ
行くあては決まっていないので、とりあえず、訓練所の周りを一周してみることにした。


何をするわけでもなく、ただ歩く。

すると、私の足音の他に、木々の葉が風に揺れる音や鳥の鳴き声が聞こえてきた。

冬の朝特有の澄んだ空気と相まって、何だか爽やかな気分にしてくれる。

意外と、こういうのも悪くないかもしれない。

今後、今日のように早起きしたら出歩いてみるのも悪くない。

……なんてことを思いながら、歩いていると。


しゃん、と。


木々の音でも、鳥の鳴き声でもない音が、私の鼓膜を揺らした。

124: 2013/12/25(水) 23:26:38 ID:6S8qLQlQ
最初は、気のせいかと思った。

けれど、音は確実に大きくなって、私の方へと近付いてくる。


──しゃん、しゃん、しゃん。


鈴のような、ベルのような音だ。

私は、今日の夢にも見た、アルミンに教えてもらった話を思い出す。

クリスマスに、ベルを鳴らしながら、子供たちにプレゼントを持ってやって来るお爺さん……サンタクロースのことを。


まさか、まさかこの音は……。

125: 2013/12/25(水) 23:27:23 ID:6S8qLQlQ
と、わずかな期待を胸に抱いていた私の前に現れたのは、
当然のことながら、サンタクロースではなかった。


現れたのは、一人の女性だ。
頭に大きな鈴を付けて、手にも鈴を持った女性。

もちろん、普通の女性ではない。
あやかしだ。

彼女の名前は確か、

ミカサ「……鈴彦姫?」

鈴彦姫「おや」

鈴彦姫は立ち止まり、私を見つめた。

鈴彦姫「これはこれは、私の姿を見える人間に出会おうとは」

そう言いながら、私の顔を穴が空いてしまいそうな程にじぃっと見つめてくる。

126: 2013/12/25(水) 23:28:00 ID:6S8qLQlQ
ミカサ「あの……」

鈴彦姫「いや、すまない。人間と話すなんて久々で、嬉しくなってしまってね」

ミカサ「いえ」

鈴彦姫「しかし、もっと話したいのは山々だが、私は今から用事があるものでね……」

そう言って、鈴彦姫は心底残念そうな表情を浮かべた。

私も残念に思う。
鈴彦姫は付喪神の一種だ。

なので、私よりもずっと昔から生きている。
そんな彼女から話を聞くのは、とても楽しそうだし、為になると思ったからだ。


鈴彦姫「もう行かなければならないんな……そうだ」

127: 2013/12/25(水) 23:28:36 ID:6S8qLQlQ
鈴彦姫が頭に付いている鈴を一つ、外した。

そして、私の髪に付けたのだ。

しゃん、と、小さな鈴の音が優しく鼓膜を揺らした。

鈴彦姫「うん、よく似合っているぞ」

ミカサ「これは」

鈴彦姫「また会えるように、という願いを込めた。私の鈴の音が聞こえたらその鈴を鳴らせ」


「また会おう」そう言って、鈴彦姫は鈴をしゃらんと鳴らしながら去っていった。

128: 2013/12/25(水) 23:29:41 ID:6S8qLQlQ


──サンタクロースは、ベルを鳴らしながら、子供たちにプレゼントを持ってやって来る。


鈴彦姫はあやかしだ。

サンタクロースとは程遠い。

けれど。


髪に付けられた鈴を外す。
金色の、可愛らしい鈴だ。
揺らしてみれば、しゃんと優しい音を立てた。


ミカサ「……素敵なプレゼントをありがとう」

ミカサ「また、会おう」


気付けば、辺りは明るくなりかけていた。



終わり
其の九に続く?

129: 2013/12/26(木) 00:10:18 ID:NaFAOauE
独特な雰囲気が良い。鈴を着けたミカサは、可愛いだろうな。乙。

引用: ミカサ「あやかし奇譚」