131: 2013/12/26(木) 13:30:58 ID:TxOwq0SI

前回:ミカサ「あやかし奇譚、鈴彦姫─すずひこひめ─」


132: 2013/12/26(木) 23:01:00 ID:ooK475dE
※エレミカ風味

【其の九、桂男─かつらおとこ─】

冬の時期は日が短い。

夏の時期にはまだ明るかったこの時間も、すっかり日が暮れてしまい、空には月と星が光っている。


本日の訓練──立体機動訓練を終えた私は、馬車に荷物を積みながら、夜空を眺めていた。

煌々と照る月を見て思い出すのは、以前出会った月兎だ。

彼女は元気にしているだろうか。
月で暮らしながら、王子様ことジャンを想っているのだろうか。

また、会えるだろうか。

と、そんなことを考えながら月を見ていると。


「こんばんは、月が綺麗ですね」


後ろから、誰かに話し掛けられた。

振り向いてみると、そこには見知らぬ男性が立っていた。
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)

133: 2013/12/26(木) 23:01:56 ID:ooK475dE
“白皙の美青年”

その男性を見て、最初に頭に浮かんだのはその言葉だった。

私はあまり人の容姿の美醜にこだるような性格ではないと思っているけれど、そんな私から見ても、男性はとても美しい。

月の青白い光が、美しさを一層引き立てていた。

男性「すみません、驚かせてしまいましたか」

ミカサ「いえ……」

男性「それは良かった。それより、先程から月を眺めているようでしたが」

ミカサ「……知り合いを思い出して」

と、ここまで言って、私はハッとした。

月に住んでいるのは、月兎だけではないことを思い出したのだ。

134: 2013/12/26(木) 23:02:37 ID:ooK475dE
月を眺めていると現れるあやかし。

その姿は絶世の美青年だが、彼に手招きされると寿命が縮むと言われている。

ミカサ「あなたは……桂男?」

男性「はい、そうですよ」

桂男は私に正体を見破られても、特に驚く様子も慌てる様子も見せず、笑った。

食えない態度に警戒する。

すると、それが伝わったのか、桂男は「やだなぁ」と困ったように笑った。「そんなに警戒しないでくださいよ」

そう言われても、するな、という方が無理な話だ。

135: 2013/12/26(木) 23:03:22 ID:ooK475dE
男性「大丈夫、何もしません」

ミカサ「信じられない」

男性「貴女におかしなことをしたら、月兎に何と言われるか」

ミカサ「! 月兎と知り合いなの?」

男性「はい。話を聞いて、ぜひ僕もお会いしたいと思ってやって来た次第です」

そう言いながら、桂男は私の手を取った。

けれど、いくら月兎の知り合いとはいえ、そう簡単には信用できない。

ので、私はその手を振り払った。

私の行動に、桂男が目を丸くする。

136: 2013/12/26(木) 23:04:11 ID:ooK475dE
男性「参ったな、そんなに信用できませんか?」

ミカサ「できない」

男性「即答とは。傷付きますねぇ」

とは言っているものの、桂男は笑みを絶やさない。

この状況を楽しんでいるのが手に取るように分かった。

ミカサ「私にはもう会った。目的は果たせたはず。だから、帰って」

桂男「これは手厳しい。そうですね、目的は果たせたので帰りましょう。けれど、ひとつだけ」

そう言って、桂男は私の腕を掴み、引いた。

先程のように振りほどこうと思ったけれど、意外にも力が強くて、それは叶わなかった。

137: 2013/12/26(木) 23:04:50 ID:ooK475dE
桂男が私の耳に口を寄せて、囁くように言った。

男性「最初に言った言葉の答え、期待しています」

ミカサ「最初……?」

男性「では、また」

腕を掴んでいた手を離して、桂男は消えた。

彼は、最後まで笑みは絶やさなかった。

138: 2013/12/26(木) 23:05:28 ID:ooK475dE
──さて、私はというと、桂男に最初に言われた言葉を思い出していた。

確か、“こんばんは、月が綺麗ですね”と言われたはずだ。

それが何だというのだろう。
ただの挨拶のように思えるのだけど。

しかし、桂男は答えを期待していると言った。

あの言葉には、挨拶以外の意味が含まれているというのだろうか。

と、頭を悩ませていると。

エレン「おい、ミカサ。何してんだよ、帰るぞ」

エレンに話し掛けられて、私は我に返った。

139: 2013/12/26(木) 23:06:23 ID:ooK475dE
ミカサ「……ごめんなさい。考え事をしていた」

エレン「考え事? 何をだよ」

ミカサ「……エレンは、“月が綺麗ですね”って知っている?」

その問い掛けに、エレンは眉を寄せながら「はぁ?」と首を傾げた。

エレン「その言葉のまんまじゃねぇのか」

ミカサ「私もそう思ったのだけど」

エレン「何だそりゃ。つーか、誰に言われたんだよ」

その疑問はもっともだ。

私は何と答えるべきか悩んだ。
まさか、あやかしに言われた、なんて言えるわけがない。

140: 2013/12/26(木) 23:09:24 ID:ooK475dE
散々頭を悩ませたが、残念ながらいい答えは出てこなかった。

ミカサ「……急に頭に浮かんで」

中々、苦しい言い訳だと思う。

エレンもそう思ったのか「はぁ?」と怪訝そうな表情を浮かべた。

エレン「意味わかんねぇぞ」

ミカサ「ごめんなさい」

エレン「いや、別に謝らなくてもいいけどよ……まあ、でも確かに」

エレンが夜空を見上げる。

つられて、私も見上げた。

夜空には、相変わらず月と星が光っている。


──エレンが、続ける。

141: 2013/12/26(木) 23:10:01 ID:ooK475dE



エレン「月が綺麗だな」



終わり
其の十に続く?

142: 2013/12/26(木) 23:27:05 ID:cgO07zAg
とてもいい

133: 2013/12/26(木) 23:01:56 ID:ooK475dE
“白皙の美青年”

その男性を見て、最初に頭に浮かんだのはその言葉だった。

私はあまり人の容姿の美醜にこだるような性格ではないと思っているけれど、そんな私から見ても、男性はとても美しい。

月の青白い光が、美しさを一層引き立てていた。

男性「すみません、驚かせてしまいましたか」

ミカサ「いえ……」

男性「それは良かった。それより、先程から月を眺めているようでしたが」

ミカサ「……知り合いを思い出して」

と、ここまで言って、私はハッとした。

月に住んでいるのは、月兎だけではないことを思い出したのだ。

134: 2013/12/26(木) 23:02:37 ID:ooK475dE
月を眺めていると現れるあやかし。

その姿は絶世の美青年だが、彼に手招きされると寿命が縮むと言われている。

ミカサ「あなたは……桂男?」

男性「はい、そうですよ」

桂男は私に正体を見破られても、特に驚く様子も慌てる様子も見せず、笑った。

食えない態度に警戒する。

すると、それが伝わったのか、桂男は「やだなぁ」と困ったように笑った。「そんなに警戒しないでくださいよ」

そう言われても、するな、という方が無理な話だ。

135: 2013/12/26(木) 23:03:22 ID:ooK475dE
男性「大丈夫、何もしません」

ミカサ「信じられない」

男性「貴女におかしなことをしたら、月兎に何と言われるか」

ミカサ「! 月兎と知り合いなの?」

男性「はい。話を聞いて、ぜひ僕もお会いしたいと思ってやって来た次第です」

そう言いながら、桂男は私の手を取った。

けれど、いくら月兎の知り合いとはいえ、そう簡単には信用できない。

ので、私はその手を振り払った。

私の行動に、桂男が目を丸くする。

136: 2013/12/26(木) 23:04:11 ID:ooK475dE
男性「参ったな、そんなに信用できませんか?」

ミカサ「できない」

男性「即答とは。傷付きますねぇ」

とは言っているものの、桂男は笑みを絶やさない。

この状況を楽しんでいるのが手に取るように分かった。

ミカサ「私にはもう会った。目的は果たせたはず。だから、帰って」

桂男「これは手厳しい。そうですね、目的は果たせたので帰りましょう。けれど、ひとつだけ」

そう言って、桂男は私の腕を掴み、引いた。

先程のように振りほどこうと思ったけれど、意外にも力が強くて、それは叶わなかった。

137: 2013/12/26(木) 23:04:50 ID:ooK475dE
桂男が私の耳に口を寄せて、囁くように言った。

男性「最初に言った言葉の答え、期待しています」

ミカサ「最初……?」

男性「では、また」

腕を掴んでいた手を離して、桂男は消えた。

彼は、最後まで笑みは絶やさなかった。

138: 2013/12/26(木) 23:05:28 ID:ooK475dE
──さて、私はというと、桂男に最初に言われた言葉を思い出していた。

確か、“こんばんは、月が綺麗ですね”と言われたはずだ。

それが何だというのだろう。
ただの挨拶のように思えるのだけど。

しかし、桂男は答えを期待していると言った。

あの言葉には、挨拶以外の意味が含まれているというのだろうか。

と、頭を悩ませていると。

エレン「おい、ミカサ。何してんだよ、帰るぞ」

エレンに話し掛けられて、私は我に返った。

139: 2013/12/26(木) 23:06:23 ID:ooK475dE
ミカサ「……ごめんなさい。考え事をしていた」

エレン「考え事? 何をだよ」

ミカサ「……エレンは、“月が綺麗ですね”って知っている?」

その問い掛けに、エレンは眉を寄せながら「はぁ?」と首を傾げた。

エレン「その言葉のまんまじゃねぇのか」

ミカサ「私もそう思ったのだけど」

エレン「何だそりゃ。つーか、誰に言われたんだよ」

その疑問はもっともだ。

私は何と答えるべきか悩んだ。
まさか、あやかしに言われた、なんて言えるわけがない。

140: 2013/12/26(木) 23:09:24 ID:ooK475dE
散々頭を悩ませたが、残念ながらいい答えは出てこなかった。

ミカサ「……急に頭に浮かんで」

中々、苦しい言い訳だと思う。

エレンもそう思ったのか「はぁ?」と怪訝そうな表情を浮かべた。

エレン「意味わかんねぇぞ」

ミカサ「ごめんなさい」

エレン「いや、別に謝らなくてもいいけどよ……まあ、でも確かに」

エレンが夜空を見上げる。

つられて、私も見上げた。

夜空には、相変わらず月と星が光っている。


──エレンが、続ける。

141: 2013/12/26(木) 23:10:01 ID:ooK475dE



エレン「月が綺麗だな」



終わり


142: 2013/12/26(木) 23:27:05 ID:cgO07zAg
とてもいい

147: 2013/12/28(土) 00:23:58 ID:oJxojGDI
【閑話】


しのぶれど


色に出りけり


わが恋は


物や思ふと


人の問ふまで

148: 2013/12/28(土) 00:24:54 ID:oJxojGDI
私は知っている。
エレンへのこの気持ちが、家族に向けるべきものではないということを。


私は知っている。
この気持ちは、誰にも気付かれてはいけないということを。


だから私は、誰にも悟られないうちに心の奥底に閉じ込めた。

そして、これからも悟られないように、細心の注意を払っていた。


……つもりだった。

149: 2013/12/28(土) 00:25:33 ID:oJxojGDI

それは、エレンが自主訓練をしている姿をアルミンと見守っていた時のことだ。

走り込むエレンの姿を見ていたアルミンが、不意に口を開いた。

アルミン「そういえば、ミカサってさ」

ミカサ「何?」

アルミン「エレンのこと、好きなんだよね?」

その言葉に。
ドクンと心臓が高鳴った。

けれど、ここで動揺するのは肯定したようなもの。

私は努めて平静を装いながら、「どうして」と問い掛けた。

150: 2013/12/28(土) 00:26:20 ID:oJxojGDI
アルミン「あれ、違った?」

ミカサ「……もちろん、好き。家族だから当然」

するとアルミンは「そう言うと思った」と笑いながら言った。「そういう意味じゃなくて」

アルミンがこの後に何と言うか容易に想像がついた。

ミカサ「アルミン」

アルミン「ん?」

ミカサ「それは……、あの、気のせい」

アルミン「……、そっか」

そう言ってアルミンは笑い、それからは何も言ってこなかった。

151: 2013/12/28(土) 00:26:57 ID:oJxojGDI

私は、なぜかこれ以上エレンを見ていることも、アルミンを見ることも出来ずに、足元に目を落とした。


隣でアルミンが、小さく笑った。

気がした。



心に秘めてきた私の恋は、表情や態度に出てしまっていたようだ。

「何か物思いがあるのか」と人に問われるまでに。


終わり


引用: ミカサ「あやかし奇譚」