154: 2013/12/28(土) 03:15:32 ID:/CIMaDdw

前回:ミカサ「あやかし奇譚、桂男─かつらおとこ─」


155: 2013/12/28(土) 23:41:36 ID:oJxojGDI
【其の十、鳴釜─なりがま─】

食事の準備は、基本的に訓練兵が行う。

野菜の皮を剥く係、
それを切る係、
さらにそれを煮る係など、
担当はその日によって変わってくる。

今日の私は、スープを煮込む係だ。

なので、まずは鍋にお湯を沸かさなければならない。
の、だけれど。

どういうことか、鍋が見つからない。

これではスープを作れない。
どうしようか、と、困り果てている時だった。
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156: 2013/12/28(土) 23:42:27 ID:oJxojGDI
食器の横に、見慣れない形の鍋が置いてあるのを見つけたのだ。

こんな鍋、あっただろうか。
と、思ったが、他の鍋は見当たらないし、これを使うことにした。


その鍋を持ち、水を汲みに行こうとした。
その時。

「待て、待ってくれ、私に何をする気だ!」

と、声がした。

どこから?
……今、持っている鍋から。

突然のことに驚き、鍋を落としかけたが、何とか持ちこたえることが出来た。

私は周りに誰もいないことを確認して、鍋を地面に置いた。

そして、話し掛けてみる。

ミカサ「あなたは、何者?」

157: 2013/12/28(土) 23:43:09 ID:oJxojGDI
すると。
鍋は急に蒸気を出し始めた。

そして、その蒸気に全体が包まれたかと思うと。
次の瞬間には、胴体が生えていた。

私が鍋だと思っていたそれは、あやかしだったらしい。

ミカサ「……あなた、は……?」

「私か。私は鳴釜だ」

ミカサ「鳴釜?」

鳴釜「いかにも」

その名前は聞いたことがある。

確か、付喪神の一種だったはずだ。

158: 2013/12/28(土) 23:43:47 ID:oJxojGDI
ミカサ「……せっかく鍋の代わりにしようと思ったのに」

鳴釜「何をしようとしていたかと思えば、私で調理をするつもりだったのか……」

鳴釜が心底ホッとしたような声色で言う。

しかし、そんな鳴釜とは正反対に、私は溜め息のひとつでもつきたい気分だった。

せっかく代用できるものが見つかったと思ったのに、それがあやかしだったとは。
また鍋を探さなければならなくなってしまった。

そんな私を見て、鳴釜は「どうした」と言った。「何か困っているように見えるが」

159: 2013/12/28(土) 23:44:19 ID:oJxojGDI
ミカサ「鍋を探している」

鳴釜「なるほど」

ミカサ「早くしないと、スープが作れなくなってしまう。探さなければ」

鳴釜「まあ、待て」

調理場に戻ろうとした私を、鳴釜が引き留める。

振り返ると、鳴釜はどこからか小さな絵付の木の板を取り出して、私に向かって言った。「私が見つけてやろう」

それは、一緒に探してくれるという意味だろうか。

確かに、一人より二人の方が見つかりやすいかもしれない。
そう思った私は、「それでは、お願い」と、鳴釜に探してもらうように頼んだ。

160: 2013/12/28(土) 23:45:07 ID:oJxojGDI
すると。

鳴釜はおもむろに持っていた木の板を振り始めたではないか。

ミカサ「……、あの」

何をしているの、と言おうとしたが、鳴釜に「いいから見ていろ」と言われてしまった。
ので、色々と言いたい気持ちはあったが、まずは黙って見守ることにした。


さて、見守ること数秒。

木の板を振る手を止めて、鳴釜は顔(と思われる部分)を上げた。

鳴釜「マルコに聞け、と」

ミカサ「……マルコ?」

161: 2013/12/28(土) 23:45:54 ID:oJxojGDI


鳴釜に言われた通り、私は芋の皮を剥いているマルコの元へ向かった。

ミカサ「マルコ」

マルコ「ミカサ? 何か用かな」

ミカサ「ええ。あなたは、スープ用の鍋がどこにあるか知っている?」

マルコ「鍋……?」

と、怪訝そうな表情を浮かべたマルコだったが。

マルコ「ああ、そうだ! ちょっと待ってて!」

そう言って、どこかへ行ってしまった。


言われた通り待っていたら、彼はすぐに戻ってきた。

その手に鍋を持って。

162: 2013/12/28(土) 23:46:30 ID:oJxojGDI
マルコ「ごめんごめん、洗った後、元の位置に戻すのを忘れてた。はい」

ミカサ「そうだったの。ありがとう」

マルコ「それより、よく僕が最後に使ったって知ってたね」

ミカサ「それは……」

まさかここで、あやかしのお陰だとは言えるわけがない。

私は、少し悩んだ末に、こう言った。


ミカサ「勘、のようなもの」

163: 2013/12/28(土) 23:47:09 ID:oJxojGDI


ミカサ「ありがとう」

鍋に水を入れながら、私は鳴釜にお礼を言った。

鳴釜「構わん。それに、あそこで占っていないと、お前は私を鍋代わりに使っていただろう」

ミカサ「そんなこと……」

ない、とは言い切れない。

全く見つからなかった場合、鳴釜には悪いが、代わりに使っていたかもしれない。

鳴釜は私の様子を見て、「やはりか」と呆れたような声色で言った。

ミカサ「それも占ったの?」

鳴釜「違う。ただ、お前はそんなことをしそうだと思っただけだ」

なるほど。
失礼な話だ。

164: 2013/12/28(土) 23:48:20 ID:oJxojGDI
鳴釜「では、私はもう休む。占いは神経を使うので、疲れた」

ミカサ「そう。本当にありがとう」

鳴釜「構わん。私はいつでもここにいる。何かあったら呼ぶといい。占いくらいしか出来ないがな」

そう言うと、鳴釜は先程の鍋のような姿に戻った。

私はそれを持ち上げて、元いた場所に戻しておいた。



──さて、次は何を占ってもらおうか。



終わり
其の十一に続く?

165: 2013/12/29(日) 00:13:26 ID:YFwNqTWA
この人は、ミカサの魅力をすごく引き出してる。凄い。乙。

引用: ミカサ「あやかし奇譚」