167: 2013/12/29(日) 09:32:11 ID:aAzyBne.

168: 2013/12/31(火) 02:22:54 ID:vcXzxZp2
【其の十一、雪ん子─ゆきんこ─】

寒い夜。
朝までまだ遠いこの時間に目を覚ましてしまったのは、笑い声が聞こえたからだ。

横たえていた体を起こして、耳を澄ます。
声はどうやら、この部屋からではなく、外から聞こえてきているようだった。

こんな夜更けに、しかもこんなに寒い中、笑うもの。
もしかしなくても、あやかしだろう。


出来るなら、極寒の地と化している外には出たくない。

けれど、もしも、万が一、笑い声を上げているあやかしが人間にとって善くない者であったら。

そう思うと、放ってはおけない。

私はベッドから降り、外套とマフラーを着用し、ランプを持って部屋の外に出た。
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169: 2013/12/31(火) 02:23:34 ID:vcXzxZp2

外は。
私の想像通り、極寒の地だった。

風が吹き、雪が積もっている。
ちなみに雪は現在進行形で降っている。中々の勢いで。

ベッドに戻りたい。
そう思った私は、早くあやかしを見付けてしまおうと、ランプをかざした。

すると、先程は暗くて見えなかったが、積もった雪に足跡がついているのが確認できた。

あやかしのもので間違いないだろう。

足跡は小さい。
そして、規則的ではなく、縦横無尽につけられている。

まるで、子供がはしゃいでいるような。

170: 2013/12/31(火) 02:24:06 ID:vcXzxZp2
その時だ。

私の耳に、さくさくと雪の上を歩くような音と、楽しそうに笑う声が聞こえてきた。

十中八九、あやかしのものだ。

聞こえてきた方向へ目を向ける。

すると、そこには。

女の子「雪、雪ー」

と、まるで子犬のようにコロコロと楽しげに走り回る女の子がいた。

雪のように白い髪と白い服。
そして、驚くことに素足だった。

見ているこちらの方寒くなる格好だ。

171: 2013/12/31(火) 02:24:42 ID:vcXzxZp2
私は、女の子へと歩み寄った。

すると、今まで走り回っていた女の子は立ち止まり、きょとんとしながら私を見つめた。

努めて優しい声を作り、話し掛ける。

ミカサ「こんばんは」

始めは、自分が話し掛けられているとは思わなかったらしい。

女の子はキョロキョロと辺りを見回した。

そして、誰もいないことを確認すると、ようやく自分に声を掛けられたと分かったのか、表情を輝かせながら私を見た。

女の子「こんばんは! お姉ちゃん、私が見えるんだね!」

ミカサ「ええ。やっぱり、あなたはあやかしなのね。見たところ、雪ん子?」

女の子「うん、そうだよ!」

172: 2013/12/31(火) 02:25:20 ID:vcXzxZp2
雪ん子は雪の精。
この季節にしか現れず、人間に悪さをするようなあやかしではない。

なので、心配しなくても大丈夫。

正体も分かったことだし、これで安心して眠れる。
そう思った私は、部屋に戻ろうとした、のだけれど。


グッと外套の裾を掴まれる。

誰に、とは愚問だ。
雪ん子に、だ。

「あの」振り向いて、聞いた。「なに?」

雪ん子は、私に満面の笑みを向けながら言った。

女の子「遊びましょ!」

173: 2013/12/31(火) 02:26:06 ID:vcXzxZp2
本当は、早くベッドに戻って暖まりたい。

明日も訓練があるので、眠りたい。

そう、思っている、というのに。


雪ん子の笑顔を見たら、私は何故だか断ることが出来ずに、頷いてしまった。

すると雪ん子は更に表情を明るくさせ、裾から手を離した。

そして、今度は私の手を握ってきた。

さすが雪の精、雪のように冷たい手をしている。
けれど私は振りほどけずに、その手を握り返した。

女の子「行きましょ!」

そう言うや否や、雪ん子は私の手を引いて駆け出した。

174: 2013/12/31(火) 02:26:41 ID:vcXzxZp2
「あの」雪ん子の後を走りながら、口を開く。「遊ぶって、何をするの?」

その問い掛けに、雪ん子はぴたりと足を止め、振り向いた。

女の子「……分かんない!」

ミカサ「え?」

女の子「だって、誰かと遊ぶのって初めてだから」

ミカサ「あ……」

それもそうなのかもしれない。

雪が降っている間だけ現れる雪ん子は、他のあやかしと交流するのは難しいのだろう。


思わず、雪ん子の手をぎゅっと握り締める。

彼女は、不思議そうに私を見つめた。

175: 2013/12/31(火) 02:27:30 ID:vcXzxZp2
……私も、多くの遊びを知っているわけではない。

けれど、エレンやアルミンに教えてもらったので、いくつか知っている。

その中で、二人で出来る遊びといえば……。

ミカサ「雪だるま、なんてどうだろう」

女の子「ゆきだるま?」

ミカサ「そう。説明するより、実際に作ってみた方が早い」

雪ん子は少し戸惑っているようだったけれど、「やろう」と促すと、頷いてくれた。

と、いうことで、まずは雪玉を作る。

176: 2013/12/31(火) 02:28:06 ID:vcXzxZp2
私が雪玉を作るのを見ながら、雪ん子も雪玉を作っている。

中々綺麗に出来ないらしく、苦戦しているようだ。

女の子「難しいんだね」

ミカサ「最初はそんなもの。けれど、あなたは上手い。私が初めて作った時はもっといびつな形で、土で汚れてしまっていたから」

そう言うと、雪ん子は嬉しそうな表情を浮かべ、雪玉を作る作業を再開させた。

楽しそうにしている横顔を見つつ、私も作業を続けたのだった。

177: 2013/12/31(火) 02:28:42 ID:vcXzxZp2

──さて、作り始めてから一時間といったところだろうか。

雪ん子の作った雪玉を私が作った雪玉に乗せて、木や石で顔を作り、雪だるまが完成した。

あまり大きくはないし、形もいびつになってしまった。
決して素晴らしい出来とは言えない。

けれど、雪ん子はとても嬉しそうに、雪だるまの周りで跳んだり回ったりしている。

女の子「雪だるま! 私の雪だるま!」

彼女のあまりのはしゃぎっぷりに、私は思わず小さく笑った。

そこまで喜んでもらえたら、教えた甲斐があるというものだ。

178: 2013/12/31(火) 02:29:53 ID:vcXzxZp2
ひとしきりはしゃいで満足したのか、雪ん子がこちらへ駆け寄ってきた。

女の子「お姉ちゃん、遊んでくれてありがとう!」

ミカサ「いいえ、喜んでもらえて良かった」

女の子「また遊ぼうね、約束!」

ミカサ「ええ」

雪ん子が小指を差し出してくる。

それに私の小指を絡ませ、指切りをした。


雪ん子は満足そうに笑い、消えた。


気付いたら、もう雪はやんでいた。

179: 2013/12/31(火) 02:30:35 ID:vcXzxZp2


──その後、ベッドに戻ったが、雪ん子と遊んでいた為、眠れたのは二時間程度だった。

まだ眠り足りないけれど、訓練があるので仕方なく起き上がる。

眠い、と、あくびをしていると、既に準備を終わらせ、部屋を出ていったクリスタが「大変!」と駆け込んできた。

サシャ「どうしたんですか?」

クリスタ「雪……!」

サシャ「雪? それがどうかしたんですか?」

クリスタ「雪だるま! 昨日、無かったはずの雪だるまがあるの!」

180: 2013/12/31(火) 02:31:10 ID:vcXzxZp2
その雪だるまは、私と雪ん子が作ったものだろう。

私は真実を知っているので何とも思わないが、何も知らないクリスタ達からすると、
朝になったら突如現れた雪だるまというのは中々に恐いかもしれない。

クリスタ「その周りにもね、足跡があって……ひとつは大人の、もうひとつは子供の!」

サシャ「そ、それはちょっと恐いかもしれませんね……」

クリスタ「だよね!? ねぇ、ミカサは……」

不意に、クリスタがこちらへと振り向いた。

けれど、私の表情を見て首を傾げている。

クリスタ「ミカサ、何だか楽しそうじゃない?」

ミカサ「……いいえ、別に」



終わり
其の十二に続く?

182: 2013/12/31(火) 04:58:41 ID:eQAQnkAI
乙!
ミカサも話の雰囲気もとても好きだ

引用: ミカサ「あやかし奇譚」