184: 2014/01/02(木) 03:13:46 ID:39clV//g

185: 2014/01/02(木) 23:42:56 ID:rkRruLEk
【其の十二、送り提灯─おくりちょうちん─】

本日は休日だけれど、体を鈍らせてはいけないと思い、丸々1日を使って自主訓練をしていた。

結果。

気付いたら日が暮れていて、辺りはもう暗くなっていた。

暗くなっているのに気付いた時、しまった、と思った。
こんな時間まで訓練しようとは思っていなかったので、ランプなどの明かりは持ってきていないからだ。

訓練場から寮まで帰る道には、明かりはない。

ので、暗い中を歩いて帰らなければならない。
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)

186: 2014/01/02(木) 23:43:30 ID:rkRruLEk
運が悪いことに、本日は雲が出ている。
月は分厚い雲に隠されてしまっていて、月光を頼りにすることは出来ない。

寮まで続く道を見やる。
先は、闇色に包まれていた。

これは、歩く時に足元に気を付けなければならない。
落ち葉などで滑って転んでしまう恐れがあるからだ。

私は訓練に夢中になりすぎて、周りが見えていなかったことを悔いた。
せめて日の傾きには注意しておくべきだった。

……けれど、もう過ぎてしまったこと。

後悔するのは後にして、まずは寮に帰ることにする。

187: 2014/01/02(木) 23:44:02 ID:rkRruLEk
今は何時頃だろうか。
皆に心配をかけていないだろうか。

そんなことを思いながら、帰路を辿る。

覚悟はしていたが、やはり暗い。

せめて月明かりがあってくれたら、少しは違っただろうに。

と、そんなことを考えた時だ。


突然。
前方に、光が現れた。
ランプのような光だ。

もしかしたら、誰かが探しに来てくれたのだろうか。

そう思い、近付いていくと。
光は、すぅっと消えてしまった。

188: 2014/01/02(木) 23:45:01 ID:rkRruLEk
ミカサ「……?」

見違えだったのだろうか、と、首を傾げた時。

また前方に光が現れた。

やはり見違えではなかった。
私は、また光に近づこうとする。

けれど、もう少しというところで光は消えた。


──と、ここでふと思い出す。

確か、こういう怪異があったはず、と。

暗い夜道に現れ、追い付こうとしたら消えてしまう明かり。

それは。

ミカサ「送り提灯?」

189: 2014/01/02(木) 23:45:38 ID:rkRruLEk
私が口を開いた瞬間。
今度は先程よりも近くに、というよりも目の前に光が現れた。

思わず目を丸くしてそちらを見れば、提灯を持った女性が立っていた。

送り提灯「見破られてしまいましたか」

ミカサ「あなた、が」

送り提灯「いかにも送り提灯です」

笑みを浮かべ、送り提灯が頷いた。

送り提灯「本当はあのまま森の深くへ送るつもりでしたが……まさか見破られるとは」

その言葉を聞き、安堵した。

光の正体を気付いていなければ、私は今ごろ森の奥へ誘われていたかもしれない。

190: 2014/01/02(木) 23:46:16 ID:rkRruLEk
送り提灯「見たところ、明かりが無くて困っているご様子。私が目的地まで照らしましょう」

ミカサ「……本当に?」

ありがたい言葉ではあるけれど、素直に頷けない。

当然だろう。
森の深くへ送るつもりだった、なんて聞いてしまったのだから。

私の疑いの眼差しに気付いたのか、送り提灯は「大丈夫ですよ」と笑いながら言う。「正体を知られてしまっているんですから」

……確かに、そう言われてみればそうかもしれないけれど。

送り提灯「それに、違う道へ入ろうとしても、あなたは付いてこないでしょう?」

191: 2014/01/02(木) 23:46:53 ID:rkRruLEk


結局、送り提灯に照らしてもらいながら、寮へ帰ることにした。

どうやら彼女は本当に寮まで送ってくれるようだ。
疑ってしまったことを申し訳なく思う。

「あの」ここで、不意に送り提灯が口を開いた。「ありがとうございます」

急にお礼を言われて、私は首を傾げた。
お礼を言うのは、明かりを貸してもらっているこちらの方だと思うのだけれど。

首を傾げている私を見ながら、送り提灯は続ける。

送り提灯「気付いてもらえて、嬉しかったから」

その言葉に、いつかの煙々羅が言っていたことを思い出す。

“誰にも気付かれないというのは──”

192: 2014/01/02(木) 23:47:27 ID:rkRruLEk
ミカサ「……」

もしかしたら、彼女も寂しかったのかもしれない。

ミカサ「……あの」

送り提灯「はい」

ミカサ「私は自主訓練をしていると、つい時間を忘れてしまう。今日もそうだった」

送り提灯「そうなんですか」

ミカサ「きっとこれからも、暗くなっていることに気付かずに訓練してしまう」

送り提灯「はあ」

ミカサ「……ので。次、また今日のようなことがあったら、こうして明かりを貸してもらえないだろうか」

私のその言葉に、送り提灯はぽかんと口を開いている。

ミカサ「迷惑?」

193: 2014/01/02(木) 23:48:13 ID:rkRruLEk
問い掛けてみると。
送り提灯は、勢いよく頭を振った。

送り提灯「いいえ、喜んで!」

ミカサ「ありがとう、よろしく」

送り提灯「こちらこそ、よろしくお願いします!」

そう言った送り提灯は、とても嬉しそうにしていた。



──さて、そんな会話をしている間に、寮の近くまで到着してしまった。

ミカサ「ここで大丈夫。助かった」

送り提灯「お役に立てて良かったです」

ミカサ「本当にありがとう。それでは」

と、寮まで戻ろうとした時だ。

「あの」と、声をかけられたので、私は立ち止まった。

194: 2014/01/02(木) 23:48:49 ID:rkRruLEk
ミカサ「何?」

振り向いて問い掛けると、送り提灯はモジモジしながら言葉を続ける。

送り提灯「あの、次はいつ、自主訓練するんですか?」

ミカサ「次の休日に。一週間後」

送り提灯「分かりました! 待っていますね!」

ミカサ「ええ。では、また今度」

そう言うと。
送り提灯は顔を輝かせながら、答えた。

送り提灯「また今度!」



終わり
其の十三に続く?

195: 2014/01/03(金) 00:46:56 ID:MS2U3T5c
とてもいいです。乙。

引用: ミカサ「あやかし奇譚」