197: 2014/01/04(土) 02:59:17 ID:YognZJUY

198: 2014/01/05(日) 00:06:39 ID:SCkdvNCY
【其の十三、豆腐小僧─とうふこぞう─】

食事を済ませて寮に戻る途中、一人の男の子が泣いているのを見付けた。

周りの人が気付いていないところを見ると、彼はあやかしなのだろう。

けれど、一体どんなあやかしなのだろうか。
一見すると普通の男の子のようだけど。

私は、出来るだけ不自然にならないように気を付けながら男の子に近寄り、
彼の目線と合うようにしゃがみこんだ。

ミカサ「どうしたの?」

声を掛けると、男の子は涙でぐしゃぐしゃになっている顔を上げた。
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)

199: 2014/01/05(日) 00:07:16 ID:SCkdvNCY
男の子「うわああああん!!」

そして、私の顔を見るなり大きな声を上げて泣き出した。

……以前にも、こんなことがあったような。
と、思っていると、涙声で男の子が訴えかけてきた。

男の子「僕の豆腐を知りませんか!?」

ミカサ「……とうふ?」

聞き慣れない言葉に首を傾げると、男の子は更にわんわんと泣き出してしまった。

落ち着いて、と声を掛けてみるも、私の言葉など聞こえていないようだ。

……とりあえず、助けようにも話を聞かないことにはどうにもならない。

ので、私は男の子が泣き止むのを待つことにした。

200: 2014/01/05(日) 00:08:01 ID:SCkdvNCY
さて、泣いて、泣いて、ようやく男の子は落ち着いてくれた。

そんな彼に向かって、改めて問い掛ける。

ミカサ「一体、どうしたの?」

男の子「豆腐を無くしたんです……」

ミカサ「とうふ、とは?」

男の子「食べ物です。白くて、柔くて、四角い、美味しい食べ物。僕の……僕の、存在意義です」

その説明ではよく分からないけれど、その“とうふ”というものが彼にとってとても重要なものということだけは分かった。

ミカサ「……聞いてもいい?」

男の子「どうぞ」

ミカサ「あなたは、どんなあやかしなの?」

私の問いに、「はい」と男の子が答える。「豆腐小僧です」

201: 2014/01/05(日) 00:08:51 ID:SCkdvNCY
豆腐小僧。

聞いたことがないあやかしだけど、その名前から考えるに、とうふに関するあやかしで間違いないだろう。

それは一体、何をするあやかしなの?
と、聞こうとした時だ。

今まで落ち着いていた豆腐小僧が、また涙をポロポロと流し始めた。

ミカサ「ど、どうしたの?」

男の子「ぼ、僕は、豆腐小僧、なのにっ」

ひっく、ひっくと肩を震わせしゃくりながら、豆腐小僧が続ける。

男の子「飛べない豚はただの豚であるように、豆腐のない小僧はただの小僧……ッ!」

なるほど。

意味が分からない。

202: 2014/01/05(日) 00:09:41 ID:SCkdvNCY
ミカサ「……よく分からないけれど、私も一緒に探そう」

男の子「ほ、本当ですか!?」

ミカサ「ええ。だから、心当たりはあるか考えてほしい。どこに置き忘れたか」

服の袖で涙を拭いて、豆腐小僧は考え始めた。


……考える豆腐小僧を待つこと数分。
頭を抱えていた彼が、顔を上げた。

ミカサ「思い出した?」

男の子「思い当たるところはいくつか……」

ミカサ「では、行ってみよう」

ということで、私は豆腐を探しに行くために立ち上がった。

203: 2014/01/05(日) 00:10:26 ID:SCkdvNCY

豆腐小僧が思い当たった、いくつかの場所。

屋根の上、
木の上、
倉庫の中、
水汲み場。

それらを回ってみたけれど、豆腐らしきものは見当たらなかった。

無い、と分かった時に、ひどくがっかりする豆腐小僧の姿を見るのはいたたまれない気持ちになった。

けれど、まだ希望を捨ててはいけない。
まだ探していない場所が残っている。

ミカサ「では、残りの場所を探そう」

豆腐小僧は、何も言わずに頷いた。

204: 2014/01/05(日) 00:11:22 ID:SCkdvNCY
さて、やって来たのは食糧庫だ。

教官にバレたら大目玉を喰らうことは確実なので、物音を立てないように細心の注意を払いながら、探す。

豆腐小僧曰く、白くて、柔そうで、四角く、美味しそうなものを。


こっちには無い。
そっちにも無い。
では、あちらには……無い。


見落とさないように、隈無く探しているつもりだけれど、それらしきものは見付からない。

男の子「やっぱり、ここにも……」

豆腐小僧が諦めてうつ向いた。

まだ諦めてはいけない、と、豆腐小僧を言おうと彼へ目を向けた、時。

205: 2014/01/05(日) 00:11:56 ID:SCkdvNCY
私は、見付けた。

彼のすぐ後ろにある箱の上にある、白い物体を。

ミカサ「……とうふ、というものは」

ゆっくりと、豆腐小僧が顔を上げる。

ミカサ「もしかして、あれのこと?」

男の子「え……?」

私が指差した先へ、豆腐小僧が目を向ける。


次の瞬間、彼の顔は輝いた。

206: 2014/01/05(日) 00:12:37 ID:SCkdvNCY



男の子「ありがとうございました!」

豆腐を片手に、豆腐小僧は深々と頭を下げてくれる。

ミカサ「いいえ、気にしないで」

男の子「本当に、何とお礼を言えばいいのか……これで僕はただの小僧から豆腐小僧に戻れました」

ミカサ「よく分からないけれど、見付かって良かった」

そう言うと、彼は「はい!」と言いながら、豆腐に頬擦りしそうな勢いで顔を近付けてた。

その行動は、離れ離れになっていた恋人に“もう離さない”と言っているようにも見える。

相当、豆腐を愛しているのだろう。

207: 2014/01/05(日) 00:13:14 ID:SCkdvNCY
男の子「また今度、お礼をしに来ます」

ミカサ「気にしないでほしい。ただ、もう無くさないように気を付けて」

男の子「はい、勿論です。では、今日はこれで」

もう一度礼をして、豆腐小僧は去って行った。



──さて、その後。
私は豆腐小僧が何をするあやかしなのか、調べてみた。

ミカサ「豆腐を持って、人のあとをつけてくる……だけ?」

世の中には、首を傾げてしまうようなあやかしもいる。



終わり
其の十四に続く?

208: 2014/01/05(日) 00:19:24 ID:8g9DMcYw
更新乙。豆腐小僧って確か映画化してた気がする。

209: 2014/01/05(日) 02:11:53 ID:b0tScSN2
豆腐小僧ググってみたがかわいいな
なんかコニー的な…www
このSSが続いたら再会するアヤカシも出てくるのだろうか
続き楽しみにしてる!乙乙!

引用: ミカサ「あやかし奇譚」