303: 2014/01/27(月) 00:06:12 ID:HFRHjeQQ
前回:ミカサ「あやかし奇譚、ぬっぺふほふ」
304: 2014/01/27(月) 00:30:58 ID:EZJm.IW.
【其の十八、髪鬼─かみおに─】
同期の女の子が独房に入れられたらしい。
ミカサ「なぜ?」
ユミル「私も詳しいことは知らねぇが、何でも、上位に食い込もうとして色々してたらしい」
ミカサ「色々、とは?」
ユミル「だから、詳しいことは知らねぇって言っただろ。……んで、それが教官にバレて頭冷やせって独房にぶち込まれたんだと」
そう言って、ユミルはにやにやと悪どい笑みを浮かべてみせた。
ユミル「しかし、そいつも馬鹿だよな。そういうのはバレねぇようにやらねぇと」
同期の女の子が独房に入れられたらしい。
ミカサ「なぜ?」
ユミル「私も詳しいことは知らねぇが、何でも、上位に食い込もうとして色々してたらしい」
ミカサ「色々、とは?」
ユミル「だから、詳しいことは知らねぇって言っただろ。……んで、それが教官にバレて頭冷やせって独房にぶち込まれたんだと」
そう言って、ユミルはにやにやと悪どい笑みを浮かべてみせた。
ユミル「しかし、そいつも馬鹿だよな。そういうのはバレねぇようにやらねぇと」
305: 2014/01/27(月) 00:31:34 ID:EZJm.IW.
バレるバレないの問題ではなく、そもそも、そういう悪いことをしてはいけないのではないだろうか。
と、思っていると、ユミルの隣で話を聞いていたクリスタも同じ気持ちだったようで、ユミルを睨み付けた。
クリスタ「それ以前に、悪いことはしたら駄目だよ!」
ユミル「……あー、そうだな。ったく、クリスタはいい子ちゃんだな」
クリスタ「ユミル!」
ユミル「はいはい、悪かったよ。もう言わねぇって」
肩をすくめながらユミルが言う。
……その様子が、あまり悪いと思っていなさそうに見えるのは私だけだろうか。
と、思っていると、ユミルの隣で話を聞いていたクリスタも同じ気持ちだったようで、ユミルを睨み付けた。
クリスタ「それ以前に、悪いことはしたら駄目だよ!」
ユミル「……あー、そうだな。ったく、クリスタはいい子ちゃんだな」
クリスタ「ユミル!」
ユミル「はいはい、悪かったよ。もう言わねぇって」
肩をすくめながらユミルが言う。
……その様子が、あまり悪いと思っていなさそうに見えるのは私だけだろうか。
306: 2014/01/27(月) 00:32:20 ID:EZJm.IW.
クリスタはユミルが反省したと思ったのか、
それともこれ以上は何を言っても無駄だと諦めたのか、
「分かったならいいけど」と言って、それ以上は何も言おうとしなかった。
クリスタ「……、そういえば!」
先程までの様子とはうってかわって、クリスタが明るい声を上げた。
クリスタ「街に新しく雑貨屋さんが出来たらしいの、今度皆で行こうよ!」
ユミル「じゃあ、今度の休みにでも行ってみるか」
クリスタ「うん! ミカサはどうする?」
ミカサ「では、ぜひ一緒に」
──それから。話題が最初に戻ることはなかった。
それともこれ以上は何を言っても無駄だと諦めたのか、
「分かったならいいけど」と言って、それ以上は何も言おうとしなかった。
クリスタ「……、そういえば!」
先程までの様子とはうってかわって、クリスタが明るい声を上げた。
クリスタ「街に新しく雑貨屋さんが出来たらしいの、今度皆で行こうよ!」
ユミル「じゃあ、今度の休みにでも行ってみるか」
クリスタ「うん! ミカサはどうする?」
ミカサ「では、ぜひ一緒に」
──それから。話題が最初に戻ることはなかった。
307: 2014/01/27(月) 00:33:06 ID:EZJm.IW.
その日の夜。
誰かの囁き声で、私は目を覚ました。
体を起こし、誰の声だろうと周りを見る。
しかし、誰一人として起きている様子はない。
気のせいか、それとも誰かの寝言か。
そう結論付けて、私は寝直そうと横になろうとした。
が、その時。
また、囁き声が聞こえてきた。
今度は先程よりもはっきりと聞こえてくるではないか。
308: 2014/01/27(月) 00:34:47 ID:EZJm.IW.
“怨めしい”
“憎らしい”
“私だって、私だって”
聞こえてくる声は、何かを憎み、妬んでいるような内容だった。
一体、これは誰の声なのだろう。
一体、何を憎んでいるのだろう。
と、そんな疑問を抱いていると。
背後に、何かが忍び寄ってくる気配がした。
“憎らしい”
“私だって、私だって”
聞こえてくる声は、何かを憎み、妬んでいるような内容だった。
一体、これは誰の声なのだろう。
一体、何を憎んでいるのだろう。
と、そんな疑問を抱いていると。
背後に、何かが忍び寄ってくる気配がした。
309: 2014/01/27(月) 00:35:21 ID:EZJm.IW.
慌てて振り向く。
そこにいたのは。
ミカサ「……あなた、は?」
長い髪をした、女性がいた。
その顔は、髪に覆われてしまって見えない。
しかし、時折髪の隙間から覗く目は、ギラギラと光り、憎しみを込めて私を見据えていた。
当然ながら、訓練兵にこのような女性はいない。
ということは、あやかしなのだろうけれど。
ミカサ「あなたは、誰なの? 何の目的があって私に……」
女性「あんたが憎らしい、怨めしい」
ミカサ「……」
そこにいたのは。
ミカサ「……あなた、は?」
長い髪をした、女性がいた。
その顔は、髪に覆われてしまって見えない。
しかし、時折髪の隙間から覗く目は、ギラギラと光り、憎しみを込めて私を見据えていた。
当然ながら、訓練兵にこのような女性はいない。
ということは、あやかしなのだろうけれど。
ミカサ「あなたは、誰なの? 何の目的があって私に……」
女性「あんたが憎らしい、怨めしい」
ミカサ「……」
310: 2014/01/27(月) 00:35:57 ID:EZJm.IW.
私は、あやかしに怨みを買うようなことをした覚えはない、はずだ。
何度か危ない目には遭遇しているが、それは各あやかしの性質というもので、私に怨みがあるわけではなかった、はずだ。
けれど、このあやかしは私に明確な憎しみと怨みといったを抱いている。
私は一体、何をしてしまったのだろう。
女性「あんたがいけなれば」
ミカサ「……」
女性「私だって、私だって」
ひたり、女性が一歩、私に近付く。
女性「もっと上位を狙えたのに」
ミカサ「……上位?」
何度か危ない目には遭遇しているが、それは各あやかしの性質というもので、私に怨みがあるわけではなかった、はずだ。
けれど、このあやかしは私に明確な憎しみと怨みといったを抱いている。
私は一体、何をしてしまったのだろう。
女性「あんたがいけなれば」
ミカサ「……」
女性「私だって、私だって」
ひたり、女性が一歩、私に近付く。
女性「もっと上位を狙えたのに」
ミカサ「……上位?」
311: 2014/01/27(月) 00:36:38 ID:EZJm.IW.
そうだ。
ここで、私は唐突に思い出した。
このあやかしの正体は髪鬼。
女性の嫉妬や怨みの念があやかしと化したものだ。
ミカサ「あなたは……もしかして」
昼間のユミルとの会話が思い返される。
ミカサ「独房にいる子の、怨みの念?」
女性「……そうよ。あんたがいなければ、あんた達がいなければ、私だって」
ずるり、と髪が伸びていく。
どうやら、怨みの念が大きくなるほど髪も伸びていくらしい。
ここで、私は唐突に思い出した。
このあやかしの正体は髪鬼。
女性の嫉妬や怨みの念があやかしと化したものだ。
ミカサ「あなたは……もしかして」
昼間のユミルとの会話が思い返される。
ミカサ「独房にいる子の、怨みの念?」
女性「……そうよ。あんたがいなければ、あんた達がいなければ、私だって」
ずるり、と髪が伸びていく。
どうやら、怨みの念が大きくなるほど髪も伸びていくらしい。
312: 2014/01/27(月) 00:37:18 ID:EZJm.IW.
ミカサ「……仮に私がいなくても、今のあなたでは上位になれない」
女性「なん、ですって?」
ずる、ずる、ずるり。
髪はついに、床にまで到達した。
しかし、私は続ける。
ミカサ「あなたが何をして独房に入れられたのかは知らない。けれど、人のせいにしているばかりでは……上位になんて、なれない。違う?」
女性の動きが止まった。
髪の隙間から見える目は、私を見据えている。
私もまた、彼女の目を見据えた。
女性「なん、ですって?」
ずる、ずる、ずるり。
髪はついに、床にまで到達した。
しかし、私は続ける。
ミカサ「あなたが何をして独房に入れられたのかは知らない。けれど、人のせいにしているばかりでは……上位になんて、なれない。違う?」
女性の動きが止まった。
髪の隙間から見える目は、私を見据えている。
私もまた、彼女の目を見据えた。
313: 2014/01/27(月) 00:37:53 ID:EZJm.IW.
女性「だったら……どうすればいいの」
遂に、女性はその場に力なく座り込んでしまった。
女性「私なんかが何をしたって……」
ミカサ「……例えば、座学なら、アルミン」
女性「……え?」
ミカサ「立体機動なら、ジャン。馬術ならクリスタ。対人格闘なら私やアニ、が」
女性「?」
ミカサ「教えられる。ので、いつでも声をかけて。皆……少なくとも私は、嫌な顔はしない」
私の言葉に、女性は呆然と私の顔を見つめてきた。
遂に、女性はその場に力なく座り込んでしまった。
女性「私なんかが何をしたって……」
ミカサ「……例えば、座学なら、アルミン」
女性「……え?」
ミカサ「立体機動なら、ジャン。馬術ならクリスタ。対人格闘なら私やアニ、が」
女性「?」
ミカサ「教えられる。ので、いつでも声をかけて。皆……少なくとも私は、嫌な顔はしない」
私の言葉に、女性は呆然と私の顔を見つめてきた。
314: 2014/01/27(月) 00:38:34 ID:EZJm.IW.
ややあってから、女性はクスクスと笑いだした。
嫌な感じはしない。
心の底から笑っているようだ。
女性「誰かに教わるなんて、考えもしなかった。蹴落とすことばっかり考えてた」
ミカサ「では、今から考えを改めればいい」
女性「うん、そうする。……独房から出てきたら質問攻めにしてやるから、覚悟しておいてね」
ミカサ「楽しみにしている」
長い髪がみるみるうちに短くなっていく。
彼女の怨みの念が消えた証だろう。
女性「ありがとう」
笑いながら、彼女は消えた。
嫌な感じはしない。
心の底から笑っているようだ。
女性「誰かに教わるなんて、考えもしなかった。蹴落とすことばっかり考えてた」
ミカサ「では、今から考えを改めればいい」
女性「うん、そうする。……独房から出てきたら質問攻めにしてやるから、覚悟しておいてね」
ミカサ「楽しみにしている」
長い髪がみるみるうちに短くなっていく。
彼女の怨みの念が消えた証だろう。
女性「ありがとう」
笑いながら、彼女は消えた。
315: 2014/01/27(月) 00:39:11 ID:EZJm.IW.
──数日後。
今日は訓練が休みの日であり、クリスタ達との約束の日だ。
クリスタ「お待たせ、準備できたよ!」
ユミル「おー。じゃあ行くか」
準備が出来た私達が、訓練所の敷地を出ようとした時。
「あの!」と、声をかけられた。
周りに私達以外の人間はいない。
ので、声は私達三人のうちの誰かにかけられたのだろう。
一斉に振り向く。
今日は訓練が休みの日であり、クリスタ達との約束の日だ。
クリスタ「お待たせ、準備できたよ!」
ユミル「おー。じゃあ行くか」
準備が出来た私達が、訓練所の敷地を出ようとした時。
「あの!」と、声をかけられた。
周りに私達以外の人間はいない。
ので、声は私達三人のうちの誰かにかけられたのだろう。
一斉に振り向く。
316: 2014/01/27(月) 00:39:49 ID:EZJm.IW.
ユミル「ああ、あんた……」
ユミルがクリスタを守るように一歩前に出た。
ユミル「何の用だ? また独房にぶち込まれるようなことしに来たのか」
その口振りで、声をかけてきたのが例の独房に入れられた訓練兵だということが分かった。
訓練兵「あ、えっと……」
ユミル「言っとくが、クリスタには手を」
クリスタ「ユミル!」
ユミルの言葉を遮り、クリスタが脇腹に頭突きを食らわせた。
中々の威力だったようで、ユミルはその場にしゃがみこんでしまった。
ユミルがクリスタを守るように一歩前に出た。
ユミル「何の用だ? また独房にぶち込まれるようなことしに来たのか」
その口振りで、声をかけてきたのが例の独房に入れられた訓練兵だということが分かった。
訓練兵「あ、えっと……」
ユミル「言っとくが、クリスタには手を」
クリスタ「ユミル!」
ユミルの言葉を遮り、クリスタが脇腹に頭突きを食らわせた。
中々の威力だったようで、ユミルはその場にしゃがみこんでしまった。
317: 2014/01/27(月) 00:40:37 ID:EZJm.IW.
クリスタ「失礼なこと言わないの! ……ごめんね、何か用だった?」
訓練兵「その、私……ミカサに」
ミカサ「私?」
訓練兵「色々、教えてもらいたくて!」
思い出すのは、数日前の夜のこと。
彼女は……というより、彼女の念はあやかしになっていたけれど、覚えているのだろうか。
彼女は、続ける。
訓練兵「急に何をって思われるかもしれないけど、何でかミカサに聞かないとって思って……」
訓練兵「その、私……ミカサに」
ミカサ「私?」
訓練兵「色々、教えてもらいたくて!」
思い出すのは、数日前の夜のこと。
彼女は……というより、彼女の念はあやかしになっていたけれど、覚えているのだろうか。
彼女は、続ける。
訓練兵「急に何をって思われるかもしれないけど、何でかミカサに聞かないとって思って……」
318: 2014/01/27(月) 00:41:09 ID:EZJm.IW.
ミカサ「もちろん」
頷くと、彼女は表情を輝かせた。
ミカサ「けれど、今から街に行くので……」
クリスタ「だったら、あなたも一緒に行こうよ!」
訓練兵「え?」
クリスタの思わぬ提案に、彼女、それに私やユミルは目を丸くした。
クリスタ「それなら歩きながら話を聞けるし! ね、いいでしょ?」
ユミル「……。クリスタに何かしたらただじゃおかねぇからな」
素っ気なく言い放つと、ユミルは立ち上がってすたすたと歩き出した。
クリスタ「もう、ユミル!」
その後を、クリスタが追う。
頷くと、彼女は表情を輝かせた。
ミカサ「けれど、今から街に行くので……」
クリスタ「だったら、あなたも一緒に行こうよ!」
訓練兵「え?」
クリスタの思わぬ提案に、彼女、それに私やユミルは目を丸くした。
クリスタ「それなら歩きながら話を聞けるし! ね、いいでしょ?」
ユミル「……。クリスタに何かしたらただじゃおかねぇからな」
素っ気なく言い放つと、ユミルは立ち上がってすたすたと歩き出した。
クリスタ「もう、ユミル!」
その後を、クリスタが追う。
319: 2014/01/27(月) 00:41:39 ID:EZJm.IW.
訓練兵「えっと」
彼女は本当に一緒に来てもいいのか分からずに、その場でオロオロしている。
そんな彼女に、私は言った。
ミカサ「行こう。まず、何が知りたい?」
訓練兵「あ、ありがとう!」
私が歩き出すと、彼女も一緒に歩き出す。
彼女は笑っている。
楽しそうに、笑っている。
──きっと、もう髪鬼は出ないだろう。
終わり
其の十九に続く?
彼女は本当に一緒に来てもいいのか分からずに、その場でオロオロしている。
そんな彼女に、私は言った。
ミカサ「行こう。まず、何が知りたい?」
訓練兵「あ、ありがとう!」
私が歩き出すと、彼女も一緒に歩き出す。
彼女は笑っている。
楽しそうに、笑っている。
──きっと、もう髪鬼は出ないだろう。
終わり
其の十九に続く?
321: 2014/01/27(月) 00:59:36 ID:VakOpYyA
更新乙。いい話。ミカサもだけど、各キャラを丁寧に書いてて好感が持てる。
引用: ミカサ「あやかし奇譚」
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