322: 2014/01/27(月) 03:38:03 ID:vXKsV2JE

323: 2014/01/27(月) 23:18:46 ID:EZJm.IW.
【其の十九、鬼─おに─】

鬼。
と、言われて、どのようなものを想像するだろうか。

多くは、角が生え、鋭い牙と爪を持ち、人を襲う凶暴なものを想像するのではないだろうか。

確かに、そういう鬼は多い。

だが、中には例外もいるということを知っておいてほしい。


ミカサ「そろそろ落ち着いただろうか」

私は、目の前で大きな体を縮めて、さめざめと泣く鬼に声をかけた。

私の言葉に、鬼はこくりと頷きながら顔を上げた。

ミカサ「今度は何があったの?」

鬼「……花が枯れた……」


鬼の中には。
花が枯れたことに心を痛めて涙を流すものも、いるのである。
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)

324: 2014/01/27(月) 23:19:43 ID:EZJm.IW.
──私がこの鬼と初めて出会ったのは、訓練兵になったばかりの頃だ。

その時も、この鬼は泣いていた。

「どうしたの」と声をかけると、ぼろぼろと涙を溢しながら鬼は「花が咲いた」と答えた。嬉し泣きだったのである。

「それは良かった」私が言うと、鬼は泣きながら、しかし嬉しそうな笑みを浮かべながら頷いたのだった。


その日から。

泣き虫の鬼は、度々私の前に姿を現すようになったのだ。

325: 2014/01/27(月) 23:20:19 ID:EZJm.IW.


さて。

今回、鬼が泣いている理由は、先程の発言の通り花が枯れたからだ。

花が枯れ、散っていくのは自然の摂理。

鬼だってそんなことは知っているはずなのに、それでも辛いと彼は泣く。

鬼「あんまりだ、大切に育ててきたのに、こんなに早く散ってしまうなんて、あんまりだ」

ミカサ「……枯れない花はない」

鬼「そんなの知ってるさ」

そう言いながらも、鬼は涙で頬を濡らす。

326: 2014/01/27(月) 23:21:00 ID:EZJm.IW.
私は小さく息を吐き、鬼の目線に合わせるためにしゃがみこんだ。

よく見ると、彼の手には枯れた花が握られている。

ミカサ「その花は、綺麗に咲いた?」

鬼「もちろん、とても」

ミカサ「それなら、あなたの育て方が良かったおかげ。きっと、最後まであなたにたくさん感謝をしたいたに違いない」

私の言葉を聞いた鬼は、手の中の花を見つめた。

鬼「そうなのか」

ミカサ「ええ、きっと」

327: 2014/01/27(月) 23:21:46 ID:EZJm.IW.
しばらく花を見つめていた鬼だったが、やがてやや乱暴ぎみに涙を拭うと、「よし」と声を上げて立ち上がった。

鬼「この花、ちゃんと土に還してくる」

ミカサ「それがいい」

鬼「それから、また新しい花を育てる!」

ミカサ「とてもいいことだと思う」

鬼「じゃあ、またな、ミカサ。いつも情けないとこばかり見せて悪いな」

ミカサ「そんなの今更」

そう言うと、鬼は照れくさそうに笑った。

328: 2014/01/27(月) 23:22:26 ID:EZJm.IW.



きっと、また会う時にも彼は泣いているだろう。


けれど、今度はどうか嬉し泣きであるように。


心優しい泣き虫の鬼の話。



終わり

329: 2014/01/27(月) 23:22:57 ID:EZJm.IW.
【逢魔時─おうまがとき─】

今日もまた、一日が終わる。

太陽は橙に色を変え、山の向こうへ沈んでいく。


もうすぐ、夜が訪れる。


私達にとって、夜は休息の時間。

一日、頑張った体を休めて明日に備える大切な時間。


けれど、彼ら……あやかし達には、夜は本領発揮をする時間だ。

330: 2014/01/27(月) 23:23:29 ID:EZJm.IW.
ほら、鈴の音がする。
鈴彦姫がそこを通る。


ほら、雪の中を走り回る足音がする。
雪ん子が駆け回る。


ほら、あちらこちらに怪しい灯り。
送り提灯があなたを誘う。


ほら、子猫の鳴く声がする。
そこにはきっと、旧鼠がいる。


そして、ほら、振り向くと。
豆腐小僧が笑ってる。

331: 2014/01/27(月) 23:24:15 ID:EZJm.IW.
彼らはいつでもそこにいる。

私と出会い、別れていく。

今宵は誰と出会えるだろう。

明日は誰と出会えるだろう。

出会いは続く、きっと、ずっと。


あやし、あやしき、あやかし奇譚。


不思議な彼らの不思議な話。


一先ず、ここで終わりましょう。

332: 2014/01/27(月) 23:25:00 ID:EZJm.IW.
終わり

お付き合いありがとうございました

333: 2014/01/27(月) 23:34:22 ID:VakOpYyA
お疲れ様。とても楽しみな作品が終わるのは、残念だけどまた新しい作品を楽しみに待ってます。
ミカサを一番魅力的に書いた人だな。乙。

338: 2014/01/28(火) 11:38:08 ID:XUxVXpZY


こ、これは乙じゃなくて一旦木綿なんだからね!

337: 2014/01/28(火) 11:23:44 ID:/G6STHm.
終わっちゃったか
全部すごく良かった。乙!

もし、他にも書いてたら教えておくれ

339: 2014/01/28(火) 14:11:43 ID:qwYnqUR2
1です
乙と一旦木綿ありがとうございます

>>337
アルミン「海」

コニー「覚えてるか?」

リヴァイ「観念しろ」

オルオ「リヴァイ兵長とハンジ分隊長の間に流れる空気が重いんだが」

ハンジ「泊めてくれない?」

引用: ミカサ「あやかし奇譚」