329: 2013/06/19(水) 23:57:30.64 ID:X4wY0kcq0
あわや今日は眠れないかと思ったわ
前回:魔王「私が勇者になる……だと?」【7】

330: 2013/06/20(木) 09:02:14.29 ID:OitLkm8hP
……
………
…………

船長「出せ! ……全速力でこの海域を離れろ!」
女剣士「よしよし、大丈夫だよ ……怖くない、怖くない……」フギャァ、フギャア……
魔法使い「……」ギュ
船長「! ……空が!」

キィイイイン!

女剣士「うわ!」ギャアア、ウワァアア!
魔法使い「何だ、この音……ッ」
女剣士「大丈夫……!大丈夫!!」ギュ。ナデナデ
船長「耳鳴り……!? ……あ!?」
女剣士「船長、何…… ああ!?」
魔法使い「紫の雲が……迫って……いや……!」
船長(……光、か!? 雲を、切り裂く光……!!)

パアアア……パァン!

船長「うわ!」
女剣士「!?」
魔法使い「ぎゃあ!」

ウワァアアン、アアン……

女剣士「あ、ぁあ……」ギュ
女剣士「……よし、よし」
魔法使い「な、何だったんだ、今のは……」
船長「魔王……」
船長(側近……無事、なのか!?)
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

331: 2013/06/20(木) 09:07:54.49 ID:OitLkm8hP
……
………
…………

盗賊「な、何だ、今の……」
盗賊(北の方……まさか、魔王……!?)

バタバタバタ

鍛治師「盗賊!」
盗賊「……見たか、今の」
鍛治師「ああ……北の空の紫の雲の間を、光が走り抜けた」
盗賊「……」
鍛治師「魔王か……側近に、何か……」
盗賊「わからねぇ。わからねぇけど…… あ……」

ポツ……ポツポツ……ザアアア……ッ

盗賊「雨……」
鍛治師「濡れるよ、盗賊!ほら、走って!」
盗賊「あ、ああ……」タタタ
盗賊(側近……魔王……!)

332: 2013/06/20(木) 09:20:28.78 ID:OitLkm8hP
……
………
…………

使用人「う、ぅ……ッ」ズキズキ
使用人(……生きて、る)ハッ
使用人(側近様!)ガバッキョロキョロ
使用人「……ッ 側近様!!」タタタ……ガバッ
使用人「側近様!側近様!?」
側近「……ぅう」
使用人(生きてる……)ホッ

ヒュウ……

使用人「寒…… ……!?」
使用人(風…… 城内なのに!?)バッ
使用人(でも……側近様……目を離す訳には)

339: 2013/06/20(木) 13:28:18.01 ID:OitLkm8hP
側近「そこに……い、るの……使用人ちゃん、か…… ……?」
使用人「側近様!」
側近「あ、あ…… 正解。怪我は……」
使用人「わ、私は大丈夫です!それより……ッ」
側近「う……ッ」ズキズキ
使用人「側近様!急に起き上がっては……」
側近「……目、が」パチパチ
使用人「……目?魔王様の目ですか……?」
側近「目が、見えない」
使用人「え……?」
側近「すげぇ光が見えた。輝く光……なのに、真っ暗だ」
使用人(光……確かに、あの時……まさか、あの光に焼かれて……?)
側近「……風が吹いてる。ここは……外、か?」
使用人「いいえ……ここは食堂です。風は多分、奥から……」
側近「奥……魔王様!!」ガバッ
側近「う、痛……ゥッ」
使用人「無茶しないで! ……私が見て来ます。側近様はここに。良いですね?」

341: 2013/06/20(木) 15:46:45.29 ID:OitLkm8hP
側近「……やだ、て言っても聞かないわな」
側近「大人しく待ってるよ……でも」
使用人「確かめたらすぐ戻ります」
側近「……ん」
使用人「……」スタスタ
使用人(目が……見えない?)
使用人(魔王様の目は……関係ない?いや、でも……私も、あの光を浴びた)
使用人(……違う!光を発したのは、多分……側近様自身。やっぱり……ッ)ハッ
使用人「……!! 魔王様!?」タタタ
使用人(封印した筈の扉が開いてる……!!)
使用人「……ま、魔王、様……?」ソロ……
使用人(……寝具に人影……否、あれは、あの……黒い髪は魔王様)キョロ
使用人(……あれか。天井に、穴。 ……!?)
使用人「……下から、突き上げた様な」
使用人(魔王様の身に何か……しかし……)

カタン……

使用人「ひ……ッ」ビクッ
使用人「だ、誰です!?」

354: 2013/06/21(金) 09:49:00.60 ID:8ZimG/J2P
使用人「……?」
使用人(気のせい…… ……?)ソロソロ……
使用人「!!」タタタッガバッ
使用人「……こ、れは……!!」
??「…… ……」スゥスゥ
使用人「あ、か……ちゃん?何で……?」ダッコ
使用人(寝てる……)ギュ
使用人(金の髪……いや、なんで、こんな所に……)
使用人(……!! ……『生と氏』 ……まさか!?)タタタッ
使用人「魔王様!!」ソ口リ……ナデ
使用人(暖かい……生きてる……? 否、でも……)
使用人「失礼します!」バッ バサバサッ
使用人(……微かだけど、胸が上下してる。考えすぎ?)
使用人「で、でも……じゃあ、この子は……!?」

カタン

使用人「!」ビクッ
側近「使用人ちゃん?大丈夫か……」
使用人「側近様!」
側近「ああ、居た……良かった。魔王様の部屋だよな、此処」
使用人「あ、あの、側近様!金色の、あか、赤ちゃんが!」
側近「…… お、落ち着け。何言ってるんだ?」
使用人「ここに赤ちゃんが落ちてたんです!」
側近「赤ちゃん落としちゃ駄目だろ……」
使用人「そうじゃなくて!」
側近「……いや、御免。赤ちゃんならさっき、船長が……」
使用人「ここにも居るんですよ!金の髪の赤ん坊が!」
側近「な、なんで……幻覚じゃなくて!?」
使用人「貴方こそ落ち着いて下さい!」スタスタ
使用人「ほら、ここ……触って!」グイ
側近「……ふにふにしてる」カチャ
側近「おっと……」ギュ
使用人「それは、魔王様の剣!?」

355: 2013/06/21(金) 09:58:00.93 ID:8ZimG/J2P
??「……」スゥスゥ。パタ……トン
使用人「あ、危ない!手が……ッ」
側近「……傍に落ちてたから、拾って…… ……ッ」

パアアアアアアッ

使用人「うぅ……ッ」
側近「な、何だ……ッ」ドクンッ
使用人(また、光……ッ !?)
??「……」スゥスゥ
側近「……う、ぁ……ッ」
使用人「側近様!?」
側近?「……使用人、か」
使用人「え……」
使用人(この声……魔王様!?)
側近?「? ……目が見えん」
使用人「ま、魔王様!!魔王様ですか!?」
側近?「使用人、側近の目はどうした?」
使用人「…… ……」ポカーン
側近?「使用人?」
使用人「あ、ああ……すみません。余りに突飛な出来事が重なりすぎて……」
側近?「……無理も無い。そうか、側近の目は……そうか……」
使用人「あ、あの……魔王様?」
側近?「今私の手が剣に触れただろう……どうなっている?」
使用人「え? ……!! な、何故……!?」
側近?「…… ……」
使用人「……金、色…… ……に……」
側近?「ふむ……成る程」
使用人「あの……魔王様?」
側近?「余り長居すると側近の身に負担が掛かるな。すまんが使用人」
側近?「腕に掴まらせてくれ。この場所に居ない方が良い……そうだな」
使用人「あ、は、はい」
側近?「食堂の方へ案内してくれ。歩きながら……手短に話す」

356: 2013/06/21(金) 10:06:14.57 ID:8ZimG/J2P
使用人「は、はい……」スタスタ
側近?「……どうやら私は、氏んだ様だ」スタスタ
使用人「え!?」
側近?「否、違うな……それ、が私だ」ス……
使用人「それ……こ、この赤ちゃんですか!?」
側近?「証拠は剣だ。私の手が触れたら、金色になったのだろう」
使用人「は、はい」
側近?「……意識のある内に手短に話す」
側近?「失った『欠片』を探し出せ」
使用人「欠片……ですか」
側近?「……大きな光が、抜け出ていくのを感じた」
使用人(天井を突き破ったあの光……!)
側近?「恐らく、吸収してしまった……魔王の剣の欠片。歴代達の意識だ」
使用人「……歴代の意識?」
側近?「『生と氏』『表裏一体』『光と闇』……」
使用人「さっきの……言葉ですね。側近様が発せられた……」
側近?「……私の身体に急速に『言葉』が流れ込んできた」
側近?「全て飲み込めば全てが消える……咄嗟に、願ったのだ」
使用人「……何を、です」
側近?「ただ……『否』と」
使用人「……」
側近?「世界は繰り返されている。何度も」
側近?「歴史は繰り返されている。生と氏、破壊と再生……全て、表裏一体」
使用人「そ、れは……どういう……?」
側近?「私にもハッキリとは解らない。だが、あの部屋にあった私は氏んだ『器』」
側近?「そしてそれ……赤子は、生きた『中身』だ」
使用人「……」
側近?「欠片を探せ。器は何れ……内包する魔力を押さえきれなくなり」
側近?「暴走する」
使用人「!!」

357: 2013/06/21(金) 10:21:54.90 ID:8ZimG/J2P
側近?「……側近は私の目を持っていた」
使用人「何故、過去形なのです」
側近?「恐らく……私が言葉を、あの意識を撥ね除けた時に」
側近?「欠片が吸収して言ったのだろう」
使用人「そうか!あの光は、側近様の身体から……!」
側近?「……ついでに光を奪っていったのだろう」
側近?「剣を手にしていたのはあいつだろう?」
使用人「……で、では、側近様の目は……」
側近?「……今も見えていない。だが、残照がある」
使用人「え?」
側近?「長く体内に取り込まれていたからな。あいつの一部として残っているんだ」
側近?「で、なければ、こうして私が話すこと等できん」
使用人「……魔王様、規格外ですから」
側近?「……お前、酷いな」フフ
側近?「だがそれももう終わりだ。その赤子は……人間の筈だ」
使用人「え!?」
側近?「魔族が光等抱きえん。 ……目が覚めたら、瞳を覗き込んでみるが良い」
使用人「し、しかし!魔王様は魔族の王です!転生されたのなら、何故人間などに……!」
側近?「魔王は今や『器』だ。そして、すべて、は……表裏一……体 ……」
使用人「魔王様!?」
側近?「良いな、欠片……を、探し…… だ、せ。そして、必ず ……」
側近?「『魔王』を…… 倒、せ……! ……『勇者』!」バタン!
使用人「魔王様!」
側近「……いってえええええええええええええええええ!?」
使用人「!」ビクッ
??「……う、ァ ……うわああああああああああん!」
側近「わぁッ!?」
使用人「あ、ああ、えっと!? ……よ、ヨシヨシ……」
??「うわあああん、うわああああん」
側近「え、え、え!?」
使用人「……ん、冷たい…… ああ!?」
使用人「そ、側近様!お、おむつ!」
側近「え!?そ、ちょっと待っ」ガバッダダ……ゴン!
使用人「そこ、壁です!」
??「うわあああああああああああん!」
側近「あれ!?ここ何処!?」
使用人「あああ、ちょっと待ってね!?ええっと……ッ」
側近「何、何がどうなってるの!?」
使用人「あ……!と、取りあえず私が探してきますから、側近様抱っこ!」グイ

358: 2013/06/21(金) 10:31:34.18 ID:8ZimG/J2P
側近「ええええええええええええええ」ダキ
使用人「待ってて下さいね!」タタタタ……
側近「えええ!?よ、よーしよーし……?」
??「うわぁ……あ……ん」

……
………
…………

使用人「……」グッタリ
側近「……」グッタリ
??「…… ……」スゥスゥ
使用人「バタバタで、船長さんが粉ミルク置いて行ってくれて助かりました……」
側近「……で、こいつが……魔王様だって言ったのか。魔王様、が」
側近「ややこしい……」
使用人「はい……」
側近「で、こいつどうすんの」
使用人「どうするの、って放置しておく訳にいかないでしょう!」
使用人「魔王様ですよ!?」
側近「いや、そりゃまあ……魔王様じゃ無くても赤ちゃん放置する訳にはいかんけどもさ」
使用人「……そうですよ」
側近「とりあえず……整理しよう。うん」
側近「何がなにやらさっぱりだ」
使用人「側近様の身体を借りて、魔王様が仰ったのはさっきの話で全部です」
使用人「……船長さん達がいらっしゃった時、ご自分で発せられた事は」
使用人「覚えてらっしゃらない、のですよね?」
側近「ああ……ええと、何だっけな」
使用人「『揃った』『生と氏』『特異点』『王』『拾う者』」
使用人「『受け入れる者』『表裏一体』『欠片』知を受け継ぐ者』」
使用人「それから……『光と闇』『勇者と魔王』」
側近「『拒否権のない選択を受け入れ、美しい世界を守り、魔王を倒す者』」
側近「『我が名は、勇者』」
側近「『光に導かれし運命の子』」
使用人「『闇に抱かれし運命の子』」
使用人「『汝の名は、魔王』」
使用人「『途切れる事無く回り続ける、表裏一体の運命の輪』」
側近「……で、『腐った世界の腐った不条理を断ち切らんとする者』か」
使用人「……『生と氏』は、女海賊さんと、赤ちゃん……ですか」

359: 2013/06/21(金) 10:41:59.14 ID:8ZimG/J2P
側近「魔王様だろう。否……どっちも、かな」
使用人「女海賊さんの『氏』と赤ちゃんの『生』」
側近「魔王様……『氏』んで『器』になった。そして、転生……って言って良いかわからんけど」
側近「こいつ……が『生』まれた『中身』」
使用人「……表裏一体、ですか。『破壊と再生』にも当てはまりますね」
側近「さっき、ミルクやってる時に見たんだろう」
使用人「……はい。美しい金の瞳をしていらっしゃいましたよ」
側近「金……光、か」
使用人「『光と闇』『勇者と魔王』……こちらも、表裏一体」
側近「……姫様が言ってたこと、本当になっちまったな」
使用人「『貴方は魔王であり勇者だわ』……ですか?」
使用人「……こじつけ、とは言えませんね。もう」
側近「女海賊とあの赤ん坊の生と氏が引き金になったか……」
使用人「その辺は何とも言えませんよ……わかりません」
側近「……で、欠片、てのが……俺から光を奪っていった、と」
使用人「先ほど、回復魔法使っていらっしゃったでしょう?」
側近「痛みは引いたが、目は見えん…… ……ま、仕方無いな。魔王様の所為じゃ」
使用人「……なんかトゲがありますね」
側近「当たり前だろう!?俺、またこいつ育てないといけないんだよ!?」
使用人「ま、まあ……そうですけど……」
側近「肝心の本人は消えちまいやがるしさああああああああ!」
使用人「……魔王様、本当に……」
側近「また、魔王様になるのさ。あ、いや……『魔王』じゃ無いんだな、もう……」
側近「……男だよな?」
使用人「はい。男の子です」
側近「また引っかけられるのかなぁ……」
使用人「何をです?」
側近「聞かないで!」

360: 2013/06/21(金) 10:53:18.55 ID:8ZimG/J2P
側近「そ、それで……残りは何だ?」
使用人「え?あ、はい……えーっと」
使用人「『欠片』はそのまま……飛び出していった魔王様の『欠片』で良いのでしょう」
使用人「後は『特異点』『王』『拾う者』」
使用人「『受け入れる者』……『知を受け継ぐ者』ですが……」
側近「ん?」
使用人「……いえ、あの時『知を受け継ぐ者』と、じっと私を見据えて……言われた、ので」
側近「……ふーむ」
使用人「……」
側近「まあ、とにかく」フゥ
側近「こいつのおもりをしながら、俺たちは欠けたパズルのピースを集めて」
側近「完成させなきゃいかん、て事だな」
使用人「……やはり、そうなるのでしょうか」
側近「……魔王様、言ってたんだろう」
側近「欠片を探し出せ。そして……」
側近「『魔王を倒せ、勇者』」
使用人「……『勇者』」
側近「名前もつけてやらなきゃいかんだろ」
使用人「……」
側近「魔王様の命令は絶対だ。俺は……魔王様の『側近』だからな」
使用人「……はい。私も、氏ぬまで魔王様にお仕えします」
側近「良し!お前の名前は勇者だ!」
勇者「…… ……」スゥスゥ
使用人「『勇者が魔王を倒す』……『中身』が『器』を頃すのですか」
側近「『表裏一体』なんだろ? ……それにもう一度『揃え』にゃならん」
使用人「……『欠片』はどこに?」
側近「さあな……俺たちが探すのか、こいつが探すんだろう」
使用人「まずは、城の修復ですね」ハァ
側近「……使い魔共は?」
使用人「もうやらせてます……が、何人かはあの光に驚いて逃げ出したか」
使用人「……飲まれたか」
側近「勇者に必要な物も揃えないとな」

361: 2013/06/21(金) 11:04:48.64 ID:8ZimG/J2P
使用人「……船長さんに、と言いたいところですが」
使用人「急を要しますね」
側近「ああ……転移石、まだあるか?」
使用人「行って帰る分ぐらいは」
側近「そうか、じゃあ……」
使用人「私が行きます」
側近「え。俺がこいつのおもり!?」
使用人「城の中は良いですが、どうするんです。貴方目が見えないでしょう?」
側近「……それこそ、こいつのおもりどうすんの」
使用人「使い魔が居ますよ」
側近「あ……そうか」
使用人「……その前に、もう一度剣を見せて下さい」
側近「? ああ……はい」
使用人(刀身が殆ど無い……亀裂も入っているし)
使用人「……これじゃ、魔王様は倒せませんね」
側近「……南の島!」
使用人「え?あ……!鉱石、ですか!」
側近「……しかし、鍛冶師には頼めないな」
使用人「え?何故です?」
側近「どうやって、誰が取りに行くんだよ」
使用人「あ……そ、そうか……流石に、あっちこっち回ってくる訳にはいきませんね」
側近「まあ、もし本当に剣が必要になる頃まで、まだ時間がある」
側近「ゆっくり考えても間に合うだろうさ」
使用人「……取りあえず、港街に行きます。街も大きくなったでしょうし」
使用人「勇者様に必要な物は一通り揃うでしょう」
側近「解った。俺は書庫で……あ、目、見えないのか」ガックリ
使用人「……なんか、すみません」
側近「いや、良いさ……使い魔に読んで貰うよ」
使用人「ものすごく嫌がられそうな気がしますけど」
側近「……やっぱりそう思う?」

362: 2013/06/21(金) 11:24:02.42 ID:8ZimG/J2P
勇者「うわあああ、うああああ……」
側近「お、腹が減ったか……ヨシヨシ、今作ってやるぞ」
使用人「お願いしますね……行ってきます」
側近「おう……あ、先におむつか」ゴソゴソ
使用人「適当に使い魔捕まえて下さいね!」シュゥン
側近「おう、まあこんぐらい……わぶっ」
勇者「うあーぁ……」
側近「…… ……」ベショベショ
側近「……誰かー」

……
………
…………

シュゥン

使用人(ええと……こっち……え!?)
使用人「ここが……港街!?」

ザワザワ……ガヤガヤ……

使用人(凄い人……随分、大きくなったのですね)
使用人(……確か、あっち……)スタスタ
使用人(ここ、盗賊さんの……)コンコン

カチャ

女「はい?」
使用人「!? ……お、恐れ入ります、あの、ここ……盗賊さん、の……?」
女「ああ!盗賊さんのお知り合い?」
女「あの方は結婚されて、隣の小さな島にお引っ越しされましたよ」
使用人「結婚……ですか……」
女「ええ。一日に一本、船も出てますよ」
使用人「そうですか……ありがとうございます。申し訳ありません」
女「いいえ。それじゃ」

パタン

使用人(隣の小さな島……始まりの大陸?)スタスタ
使用人(……船が、何隻もある。船長の船は……流石に無いか)
使用人(あの距離じゃ……まだまだかかる)

363: 2013/06/21(金) 11:33:42.86 ID:8ZimG/J2P
使用人(仕方無い……先に買い物……あ!)スタスタ
使用人(そうだ、教会に……)

コンコン。カチャ……

使用人「……失礼します」
女神官「ようこそ……何かご用でしょうか?」
使用人「? ……あの、神父さんはいらっしゃいますか」
女神官「……どっちの、でしょうか?」
使用人「どっち?」
女神官「あ……ご存じないのですね。ここを作られた神父様、でよろしいですか?」
使用人「え、ええ……多分」
女神官「……」ス
使用人(窓の外……? ……! あれは、十字架!?)
女神官「魔除けの石、と言う……石を作られていたことはご存じですか」
使用人「え、ええ……あれ、その……棚の上の、そうじゃないのですか……あ!」
使用人「この顔……女さん!?」
女神官「まあ……女様もご存じなのですか?」
使用人「……これ……誰が……」
女神官「大変敬虔な、隻腕の祈り女であられたと聞いております」
女神官「……神父様が亡くなられる少し前に、鍛冶師さんと仰る方が作られたのですよ」
女神官「神父様が、娘さんの様に可愛がっていらっしゃった、とかで」
使用人「え、ええ…… ……やはり、亡くなられた、のですか」
使用人「神父さん……」
女神官「ええ。私達……神官の皆と、盗賊さんと仰られる方と鍛冶師さんと」
女神官「皆で……看取らせて頂きました」
使用人「そう……でした、か……」
女神官「あの、失礼ですがどういったご用件で……」
使用人「あ……いえ、昔、神父さんや盗賊さん、鍛冶師さんにお世話に、なったもので」
使用人「……近くまで来たので、お顔をと……思っただけです」
女神官「そうでしたか……盗賊さん達は……」
使用人「お引っ越しされた、と伺いましたが」

364: 2013/06/21(金) 11:46:00.58 ID:8ZimG/J2P
女神官「ええ……ここで、結婚式を挙げられてすぐに」
使用人「……そう、ですか。あ!あの……すみません、話逸らせてしまって」
女神官「え?」
使用人「あの、魔除けの石……」
女神官「ああ……そうでしたね。神父様は、女様が亡くなられた後」
女神官「魔除けの石の生成に没頭されましてね」
使用人「……」
女神官「ご高齢であられたので……ご無理されていたのかもしれません」
使用人「そうですか……あ、あの」
使用人「差し支えなければ、で結構ですが、もう一人の神父さん、と言うのは?」
女神官「……神父様がご存命であられた頃……と、言っても」
女神官「女様が亡くなられた後、の話ですが」
女神官「私も含め、多くの聖職者を志す者が、神父様の元に集ったのです」
女神官「その中に、もう一人の神父……新米神官と言う者が居たのです」
使用人「……」
女神官「彼は優秀でしたし、誰よりも神父様を慕っていました。ですが」
女神官「魔除けの石の生成には反対していたのです」
使用人「何故……です?」
女神官「……神父様も、それを売買する事には否定的……であられました」
女神官「しかし、街を大きくする為と、一応了承はされていたのですが」
女神官「……娘の様に思っていた女様が亡くなってから、本当に……」
使用人「没頭されていた、と仰っていましたね」
女神官「はい。取り憑かれた様にと迄は申しませんが……」
使用人「……方法を教えたのが女さんだとお聞きしています」
女神官「ええ……寂しさを紛らわせていらっしゃったのかも知れません」
女神官「背景をしっているだけに、お止めして良い物かと私達も……」
使用人「……」
女神官「新米神官は神父様の身を案じていたのだと思います」
女神官「……優秀で、真面目でした。金銭に換える事も良く思っていなかった」
女神官「神聖な物なのに、と……何時もいっていましたから」

365: 2013/06/21(金) 11:55:50.42 ID:8ZimG/J2P
使用人「……」
女神官「神聖な物だからこそ、ある程度の金額をつけないと、と」
女神官「神父様は笑っていらっしゃいましたけれど、ね」
使用人「……偽物が出回らない様、ですか」
使用人(神父さんはインキュバスの魔石を知っている……彼が、女さんにした事も)
使用人(……神父さん)
女神官「それで……神父様の氏を切欠に、此処を出て行くと、言って」
使用人「本当に……出て行かれた、のですか」
女神官「ええ……ただ、神父様の事は本当に尊敬しているのだと」
女神官「だから、神父様の教えは守っていくと。それで……」
使用人「?」
女神官「……神父、の名を名乗るのを許して欲しい、と……」
使用人「ああ……だからどちらの、とお聞きになったのですね」
女神官「……そうでないと、この女様の像を壊すのだと言われまして、ね」
使用人「そんな……」
女神官「彼には、魔除けの石の生成を教えた女様も、これを作った鍛冶師さんも」
女神官「……魔石を流通させようとする盗賊さんも、憎しみの対象になってしまっていた様でした」
女神官「私達、残された神官の中で、私は年齢が一番上だったので」
女神官「暫定的に此処を管理する立場になっています。ですから……」
女神官「私は、彼のその申し出を受け入れざるを得なかったんです」
女神官「……神父様が愛された女様の像を、壊されるのは阻止したかった」
使用人「……」
女神官「それに、ここから離れて言ってしまった者が、何処でなんと名乗ろうと」
女神官「止められる物ではありません……不器用ですが」
女神官「彼は……真面目故に、許しが欲しかったのでしょう」
使用人「そして、真面目故に本当に壊してしまう可能性もあった?」
女神官「……はい。多分」
使用人「愛し方の違い……ですね」
女神官「私達も確かに、神父様を敬愛して止みません。差違は無い筈なんですけれど……ね」
女神官「出来れば、何時か……彼の憎しみが溶けてしまう事を祈るばかりです」

366: 2013/06/21(金) 12:03:16.58 ID:8ZimG/J2P
使用人「……ありがとうございます。お話下さって」
女神官「いいえ……お礼を言うのは此方です」
女神官「私も……誰かに話したかった、のかもしれません」
使用人「え?」
女神官「……鍛冶師さんや、盗賊さんには……言えなくて」
使用人「そうですか……いえ、そうですよね」
女神官「貴女は……盗賊さん達に会いに行かれるのですか?」
使用人「え、ああ……いえ。どうしようかな、と……」
女神官「もうすぐ、始まりの大陸行きの船が出ますよ」
女神官「あちらの街も、既に復興準備が始まっていますし……」
使用人「そうですか……ありがとうございます」
使用人「……神父さんのお墓、寄らせて貰っても?」
女神官「ええ、勿論です。喜ばれますよ」
使用人「ありがとうございます。それじゃ……」
女神官「貴女に、神のご加護があります様に……」

カチャ。パタン……

使用人(…… ……)スタスタ……ス
使用人(神父さん……)
使用人(貴方も、女さんを愛して居られた?)
使用人(否、娘の様……とは、嘘ではないのだろうけれど)
使用人(…… ……愛、か)
使用人(難しい、な)ス……
使用人「さて……急がないと。買い物済ませて……」タタタ

……
………
…………

盗賊「あー……これ、どうするよ、鍛冶師」
鍛冶師「城ねぇ……必要?」
盗賊「だよなぁ。王様っていやぁ、血がーとか血統がーとか……」
鍛冶師「一緒だから、それ」
盗賊「……うっせぇな」

367: 2013/06/21(金) 12:11:54.20 ID:8ZimG/J2P
鍛冶師「これだけの土地があれば結構家とか建てれると思うけど」
鍛冶師「……それ程要る、かな」
盗賊「だよな。移住希望する人達、殆ど船でこっち来たけど」
盗賊「足りてるしなぁ……しかし、城なんか建設しようと思ったら」
盗賊「それこそ、資材が……」

ポー……ゥ……

鍛冶師「お、汽笛だ……船が着いたよ」
盗賊「良し、資材運ぶか。あっちで余ったの回して貰えるのはありがたいね」
鍛冶師「魔石も順調に売れてるんだろ?」スタスタ
盗賊「……どうだかな。魔除けの石は何時の間にやら、結構な高額で」スタスタ
盗賊「取引されてるみたいだけどな」
鍛冶師「……神父さんが亡くなったから、か」
盗賊「こんな言い方したくは無いが……女神官のと比べるとな」
盗賊「まあ、彼女はまだまだこれから、だろう。まだ若いんだし」
鍛冶師「僕と同じぐらいだっけ?」
盗賊「20前後だろ?そんなもんじゃネェの」
鍛冶師「……一番優秀だったのって、新米神官なんだろ?」
盗賊「あいつは魔除けの石作るの嫌がってたからな」
盗賊「それに修行に出たんだろ?」
鍛冶師「らしいね」
盗賊「ま……仕方無いよ。魔石も最初程じゃないけど、そこそこ売れてるんだ」
盗賊「大事な収入源だけど、やろうと思えば誰にでも作れるし……」
盗賊「それだけ、港街が大きくなった。それだけ人が自立してきたって考えれば」
盗賊「嬉しいことだよ」
鍛冶師「まあ、ね……あれ!?」
盗賊「ん?」
使用人「お久しぶりです」
盗賊「使用人!」
鍛冶師「やっぱり使用人ちゃんか!」

368: 2013/06/21(金) 12:19:05.28 ID:8ZimG/J2P
使用人「……お元気そうで良かった。ご結婚おめでとう御座います」
鍛冶師「ありがとう」
盗賊「お、おう……」
盗賊「しかし、どうしたんだ?態々船で……」
使用人「港街に用事がありまして。こっちにお引っ越しされたと聞いたので……」
鍛冶師「転移石、は?」
使用人「……魔王様が眠られてからは、作る事ができませんから」
使用人「城に帰る分で、最後なんです」
鍛冶師「そ、そうか……」
盗賊「……でも、良かった。元気なんだな」ホッ
盗賊「……北の方で、さ……なんか、光が……」
使用人「…… ……」
鍛冶師「やっぱり……何かあった、のか」
使用人「お時間、あります?お仕事があるのでは?」
盗賊「あ、ああ……でも……」
鍛冶師「僕が行ってくるよ。盗賊は使用人ちゃんと一緒にいな」
盗賊「鍛冶師……」
鍛冶師「大丈夫。一人でもなんとかなる」
鍛冶師「使用人ちゃん、戻らなくて大丈夫なの?」
使用人「ええ。用事も済みましたし、私は大丈夫です」
盗賊「でっかい荷物だな…… ……粉ミルク!?」
使用人「……どこかで、お話しましょうか」
盗賊「あー……え、ええっと。じゃああっちの城跡んとこで」
盗賊「雨上がったばっかだから、影の下じゃ無いと濡れてるしな」
鍛冶師「じゃあ、行ってくる。後でね、使用人ちゃん!」タタタ
使用人「……さて、どこから話しましょう、か」

370: 2013/06/21(金) 12:57:50.17 ID:8ZimG/J2P
盗賊「やっぱり何かあったんだな」スタスタ
使用人「まあ……一応、無事ですよ。私も側近様も」スタスタ
盗賊「お前が城を離れてるって事は魔王も……だろ?」
盗賊「……ここなら影になってるし……座れるな。よっと」トン
使用人「その、魔王様……なのですが……」トン
盗賊「……その粉ミルクと関係ある?」
使用人「まあ。そうですね。必要無ければ買いに来ませんし」
盗賊「……そりゃそうだ。 ……あ!」
使用人「?」
盗賊「あれか!?姫に子供が生まれたのか!?」
盗賊「……あ、でも姫は……産まれたら……」
使用人「盗賊さん、違いますよ」
盗賊「へ?」
盗賊「それに……姫様は50年程妊娠された侭、なんでしょう?」
盗賊「……あ、そうか」
盗賊「でも……完全なエルフだったら、の話だろう」
使用人「まあ……そうですけど。半分人間の血が入ってると考えて」
使用人「妊娠期間も半分としても、まだ20年以上ありますよ」
盗賊「……そ、そうか……じゃあ、誰の子……?」
使用人「…… ……ここ、お城なんですよね」
盗賊「あ?ああ……何だよ急に」
使用人「……『揃った』……『王』……」
盗賊「??」
使用人「……知人さんのお墓」
盗賊「おい?」
使用人「ここは……清浄な土地、何ですよね?」
盗賊「? あ!そうだよ、お前……ッ 大丈夫か!?」

371: 2013/06/21(金) 13:15:11.21 ID:8ZimG/J2P
使用人「え?ええ……あ、そうか……いえ」
使用人「知人さんの加護はペンダントに移したましたから」
盗賊「あ……そうか……」
使用人「あの場所……何か、変化はありましたか?」
盗賊「……そうか、お前はしらないか」
盗賊「女も、あそこに埋めたんだ。寂しくない様に、って」
使用人「神父さんは……何故、あちらに?」
盗賊「聞いたのか」
使用人「ええ」
盗賊「……神官共もいたしな。単純に、定期便で……運んでくれとは」
盗賊「言えない、てのもあったさ」
使用人「……」
盗賊「確かに、此処は空気も環境も良いよ」
盗賊「あの丘の上に眠る二人のおかげ……かもな」
使用人「女さんも、ですか?」
盗賊「……魔王を愛してた、んだろう?」
盗賊「魔王が守りたいと思ってるなら、女だって同じ筈」
使用人「……魔王様の、為に」
盗賊「……」
使用人「愛…… ……」ブツブツ
盗賊「おい、使用人?」
使用人「……『王』!」
盗賊「何なんだよ、さっきから!オウ、てなんだ?」
使用人「『王』です!『王様』の『王』!」
盗賊「だから……!」
使用人「ここ、そもそもお城だったんですよね!?」
盗賊「おい!解る様に話せよ!」
使用人「……ッ」
使用人(一つ、欠片が揃う……!『欠片』その物じゃ無く、全てが欠片なのだとしたら)
使用人(些か……否、殆どこじつけに近いけれど……ッ)
使用人「盗賊さん!」
盗賊「んあ!? ……な、何だよ!」
使用人「……今から、全て話します。しっかり、聞いて下さい」

372: 2013/06/21(金) 13:41:34.96 ID:8ZimG/J2P
……
………
…………

魔法使い「おい、女剣士」
女剣士「ん? ……ああ、魔法使い。終わったの?」
魔法使い「ああ……船で氏んだら、水葬ってのにする、て言うからさ」
女剣士「水葬……」
魔法使い「あいつは、海賊だったんだ。だから」
女剣士「……」
魔法使い「魔王に届けるはずだった花しか無かったけど。充分だろ」
女剣士「そうか……」
魔法使い「枯れさせるよりマシだ。あそこには当分……近づけねぇだろ」
魔法使い「……俺は、二度と行かネェ」
女剣士「好き、だったのか?」
魔法使い「……違うな。あいつは仲間だ。仲間として、大事だった。それは否定しねぇけど」
魔法使い「好きだの惚れただの、そんなんじゃネェ。男と女しか居ないからって」
魔法使い「愛か否か、単純に二分されるもんじゃネェってのは覚えておけ」
女剣士「…… ……」
魔法使い「チビは?」
女剣士「ちゃんと娘って名前があるだろ。寝てるよ、アタシの部屋で」
魔法使い「見て無くて大丈夫なのか?」
女剣士「海賊が一人、一緒に昼寝してる。アタシは、船長に呼ばれたんだよ」
魔法使い「お前もか」
女剣士「……アンタも?」
魔法使い「ああ。気が済んだら来い、てな」
女剣士「……今、どの辺なんだろ」
魔法使い「陸伝いに走ってる訳じゃなさそうだ。とにかくあそこから離れろとしか」
魔法使い「……言ってなかったからな」
女剣士「そっか……」
魔法使い「とにかく、行こうぜ。さっさと済ませて、寝たいよ俺は」スタスタ
女剣士「あ、ああ……」タタタ

コンコン

魔法使い「船長。入るぜ」

373: 2013/06/21(金) 13:46:42.26 ID:8ZimG/J2P
船長「おう……ご苦労だった」
魔法使い「……嫁とは言わネェよ。愛が無かったのも」
魔法使い「あいつが押し切っただけなのも理解はしてら」
魔法使い「でもな、お前……!」
女剣士「お、おい、魔法使い、お前……そんないきなり……!」
船長「……構わん」
女剣士「……」
魔法使い「娘は……チビは間違い無くお前の子だろうが!」
魔法使い「お前の子供の母親だぞ!?女海賊は……!!」
船長「言い訳はせん。責めたい気持ちは当然だろうしな」
船長「だが……その娘を守る為にも、急いで離れる必要があっただろう」
船長「……俺が舵を握らなけりゃ進路を見失う」
魔法使い「……充分言い訳じゃネェか」チッ
魔法使い「……殴った事は謝らネェからな!」ドサッ
魔法使い「疲れたんだ。座らせて貰うぜ……さっさと用件言え」
女剣士「そ、そうだ……よ、用事って何なんだ?」

376: 2013/06/21(金) 17:10:17.41 ID:8ZimG/J2P
船長「魔法使い、お前……船、降りろ」
魔法使い「!?」
女剣士「な……ッ!?」
船長「……好きな場所まで連れて行ってやる」
魔法使い「……どういう意味だ」
船長「辛いだろう。無理に乗ってる必要はネェ」
魔法使い「…… ……邪魔になったのか」
船長「そういう意味じゃネェ」
魔法使い「じゃあ、どういう意味なんだ!」バン!
女剣士「!」ビクッ
船長「……蹴るな」
魔法使い「女海賊が、あいつが氏んで、俺がこの船降りりゃ」
魔法使い「お前に文句言う奴も居なくなるってか!?」
船長「そんな意味じゃネェっつってんだろ!」
船長「……ここに残ったって、お前は辛いだけ……」
魔法使い「信じられるか!んな事!!最初っから、俺たち乗せるのに」
魔法使い「いい顔しなかったしな!これ幸いとお払い箱かよ!」
船長「……だから、違うって言ってんだろ」ハァ
船長「お前が乗っていたいと言うのなら、乗っていれば良い」
船長「確かに、お前の雷の魔法は助かる。海の魔物には良く効くからな」
船長「……降りない、と言うのなら歓迎するさ」
魔法使い「……ッ ふざけやがって!」バンッ
女剣士「蹴るな、って……」
魔法使い「煩ぇ!」
女剣士「…… ……」ハァ
魔法使い「俺はぜってぇ降りないからな!覚えとけ!」スタスタ

バターン!

女剣士「……船長」
船長「すまんな、女剣士」
女剣士「いや、アタシは良いけどさ……」

377: 2013/06/21(金) 17:20:41.05 ID:8ZimG/J2P
船長「……良かれと思って提案したんだがな」
女剣士「今は……そっとしておいてやれよ」
女剣士「多分、何言ったって……反発しかしないよ」
船長「お前は、ちょっと見ない内に随分物わかり良くなったジャネェか」
女剣士「……」
船長「ま……あんなの見せられちゃ、な」
女剣士「娘……どうするんだよ」
船長「どうするって……育てるさ。俺の娘だ」
船長「聞いてただろ、今」
女剣士「……アタシ、女海賊からも聞いてたよ」
船長「……何?」
女剣士「船長を怨むな、だっけ?あ、責めるな……だったかな」
女剣士「……なんか、そんな感じの事」
船長「そうか……」
女剣士「女、だっけ。そっくりだったな」
船長「……何が言いたい」
女剣士「いや……御免。何でも無い。何でも無いけど……」
船長「……暫く、娘を頼んでも良いのか?」
女剣士「え? ……ああ。それは別に良いよ。子供好きだし」
船長「正直……助かる」
女剣士「アタシも、北の街には帰れないしな」
船長「取りあえずは……港街を目指そうと思う。お前も、降りたければそこで」
船長「降りれば良い……盗賊と鍛冶師がいるし、生活はどうにかなるだろう」
女剣士「そりゃ……まあ。だけど、娘はどうするんだよ」
船長「……急ぐ理由もネェ。随分変な航路通っちまってるからな」
船長「港街に着くまでに、一年以上はかかる。途中、補給も済ませないといかんしな」
女剣士「……北の街に、寄るのか?」
船長「否。ここからだと……そうだな。随分掛かるが」
船長「それでも鍛冶師の村が近いだろうな」
女剣士「……そうか」
船長「それまで、頼んで良いか」
女剣士「解った。娘に必要な物とかは揃ってるのか?」
船長「女海賊が随分買い込んでたからな」

378: 2013/06/21(金) 17:29:32.98 ID:8ZimG/J2P
女剣士「そっか。ならまあ……心配無いな」
船長「魔法使いがいるから、戦闘もどうにかなるだろう」
船長「……素直に、言う事聞いてくれりゃ、だが」
女剣士「大丈夫だろ。娘が乗ってんだし」
船長「ん? ……ああ、成る程な」
女剣士「……なあ、船長」
船長「ん?」
女剣士「落ち着いたら……側近の所、連れてってくれよ」
船長「……料金は頂くぜ。娘に免じて、格安にはしてやるよ」
女剣士「……サンキュ。んじゃ、娘んとこ戻るな」スタスタ
船長「ああ……頼む」

パタン

船長「…… ……」ハァ

……
………
…………

鍛冶師「……は?」
盗賊「…… ……なあ」
使用人「無茶は、承知しています」
鍛冶師「無茶、て言うか……申し訳ないけど」
鍛冶師「流石にこじつけにも程がある、と思う……よ?」
使用人「…… ……」
鍛冶師「話は分かった。けど……魔王は『揃った』って言ったんだろう?」
鍛冶師「だったら……僕が、僕たちが此処の『王』になったところで」
鍛冶師「意味が……無いと思うんだ」
盗賊「……うん」
鍛冶師「『王』になる、なれる……うーんと、資格?のある人?が」
鍛冶師「どこかに、出てくるって事じゃ無いのかな」

379: 2013/06/21(金) 17:42:37.70 ID:8ZimG/J2P
使用人「……やはり、そう……でしょうか」
盗賊「何か、お前らしくネェなあ、使用人……」
盗賊「……いや、まあ。流石に。聞く限り……そりゃ、慌てるってか」
盗賊「なんてっか……焦るのも解る、けど」
鍛冶師「それに、魔王だって『王』だろう?」
使用人「あ……!」
鍛冶師「『魔王と勇者』って対にされてるけど……」
盗賊「……人間の王、って限定されてる訳じゃないもんな」
使用人「……そうか。『王』はもう……居た、のですね」
盗賊「って、訳だ。悪いな。いきなり言われてっての除いても……」
盗賊「アタシ達、王様だとかそんな器じゃネェよ」
鍛冶師「そうだね。それに……いきなりこの島に住んで、中心になってるからって」
鍛冶師「『私が王様だ!』なんて言ったって、誰も着いて来ないよ」
使用人「それは……鍛冶師さんと盗賊さんなら問題無いと思いますけど」
盗賊「買いかぶり過ぎさ」
鍛冶師「そうだよ。しかし、まあ……今までの経緯知っててもおいそれとは信じがたいよな」
盗賊「何だよ、疑ってるのか?使用人達の事……」
鍛冶師「いや、そういう訳じゃ無いけどね」
使用人「……私だって、信じられませんよ。ですが……確かに、赤ん坊の手が触れた途端」
使用人「魔王様の剣が、金に輝き出したんです。あれは……」
鍛冶師「……今、なんて言った?」
盗賊「あ、剣の話忘れてたな」
使用人「え、ええ、ですから……魔王様の『中身』だと言う赤ちゃんが……」
鍛冶師「その次!」
使用人「……ッ 輝き出したのですよ、剣……刀身が」
鍛冶師「紫だった刀身が、金に……闇が、光に転じた!?属性が、変わった!?」
使用人「え、ええ……だって、そういう剣なのでしょう、あれ……」
盗賊「落ち着け、鍛冶師……あれは魔王の持ち物だったから」
盗賊「その、『中身』?が……確かに、魔王だと確信した、んだよな」
鍛冶師「ちょ、初耳!」
盗賊「御免、忘れてた」

380: 2013/06/21(金) 17:57:14.24 ID:8ZimG/J2P
使用人「はい。側近様や私が触れた所で、何の変化もありませんでしたから」
鍛冶師「そ、その目で見たのか……! 良いなぁ……!」
盗賊「鍛冶師!」
使用人「……魔族が光など抱きえない、と。魔王様は仰っていました」
使用人「だから、中身は……人間であると。ですが……」
使用人「赤ん坊は、金の瞳をしていました……光の加護、と思って良い、んでしょうけど……」
盗賊「……魔王の紫の瞳が闇の加護だと考えれば、正反対だけど……」
盗賊「だからこそ、納得できる、のかもな。表裏一体……」
鍛冶師「……それで、魔王である器を倒せ、てか」
使用人「はい。欠片を探し出せ、そして倒せ、と」
使用人「……ですが、あれが……光の剣と仮定しても」
使用人「あの侭では……とても、魔王様を倒す事等できません」
使用人「そもそもあれでは剣とも呼べませんよ」
鍛冶師「……欠片が見つかれば、復活するんじゃ?」
使用人「と、思いたいですけどね。『欠片』だけで良いのか」
使用人「全てを欠片と捕らえて良いのか……」
盗賊「で、『王』に据えようとした訳な」
使用人「……すみません」
鍛冶師「光の剣……光の剣……」ブツブツ
盗賊「おーい、鍛冶師。戻って来い」
鍛冶師「どこかで、何かで読んだぞ、なんだっけな……!」
盗賊「聞けよ」
使用人「まあ、まあ……何か思い当たることがあるのでしたら」
使用人「聞かせて頂きたいですし」
盗賊「……長いぜ?大丈夫か?」
使用人「勇者様には側近様も使い魔も着いてますから」
鍛冶師「!! それだ!」
使用人「え?」
盗賊「わあッ ……急にでかい声だすな!」
鍛冶師「それだ!『勇者の剣』だ!」

381: 2013/06/21(金) 18:03:06.85 ID:8ZimG/J2P
鍛冶師「ずっと引っかかってたんだ……ッ」
鍛冶師「持つ者が持たなければ真価を発揮しない、幻の魔法剣」
鍛冶師「勇者のみが持つことを許され、勇者のみが使用する事ができる」
鍛冶師「勇者の剣……ッ 『光の剣』だ!」
盗賊「おい。盛り上がってるとこ申し訳無いんだけどな」
盗賊「それ……神父さんから借りたあの、物語の中の話じゃネェのか」
鍛冶師「……え?」
使用人「え? ……あ、側近様が持って言った……あれ、ですか」
盗賊「ああ。あれにそんな一節があったぞ」
鍛冶師「違う、違う違う!子供の頃に鍛冶師の村に居る時に読んだ」
鍛冶師「魔法剣に関する本で読んだんだ!」
盗賊「……それも、御伽噺じゃないって確証あんのか?」
鍛冶師「…… ……」

385: 2013/06/22(土) 08:57:04.43 ID:SNKKy0NvP
使用人「ま、まあまあ……でも」
盗賊「ん?」
使用人「……モデルがあったから、お伽話になったのかもしれません。勿論……お伽話から、ヒントを得た可能性、も」
鍛治師「そ、そうだよね!そうだよ!」
盗賊「いや、そりゃ別に頭ごなしに否定する気はネェけどさ」
使用人「あの本は、私も読みました。まあ……だからと言ってはっきり覚えている訳じゃありませんけど」
使用人「それに……鍛治師さん程、剣に興味や知識がある訳じゃ無いので、その辺は特に曖昧ですが……」
鍛治師「……一応、僕の知識が、そのお伽話の類から得た物じゃない、と前置きしとくけど」
盗賊「拘るなぁ」
鍛治師「……ちょっと位プライド保たせて」
鍛治師「そ、それで、だ」

386: 2013/06/22(土) 09:07:07.47 ID:SNKKy0NvP
鍛治師「……鉄や鋼じゃ魔法剣には向かないんだ。かと言って、希少な鉱物は中々手に入らないし」
鍛治師「勿論、打つには腕もいる」
鍛治師「……そんな条件をクリアして、最高の鍛治師が鍛えた剣が世界の何処かにある、と言う」
盗賊「それが……持つ者が持てば真価を発揮する、勇者の剣?」
鍛治師「可能性はあるだろう。光の加護を持つその子が触れたら光の剣に変じたんだ!」
盗賊「けど、元は魔王が持ってたんだぜ?」
盗賊「魔王の剣、だったんだ」
鍛治師「……あ、そうか」
盗賊「しかも、前魔王の時は赤、魔王は紫に……それぞれ炎、闇に変じてるぞ?」
盗賊「選ばれた奴しか使えないんじゃ無いのかよ」
鍛治師「…… ……」

387: 2013/06/22(土) 13:13:49.97 ID:SNKKy0NvP
使用人「……以前、側近様とお話してたのですが」
鍛治師「ん?」
使用人「魔族は、強大な力を有する故に、それに依存しがちです。側近様や、私ですらも」
盗賊「?」
使用人「要するに、技より力を選び……ます。勿論皆が皆そうでは無いしょうが……」
盗賊「ああ、まあ……そうだよな。弱い、ちゃ語弊があるが、細かい細工や技巧にゃ人間の方が長けそうだ、て事か」
使用人「はい。だから……魔族が作ったと考えるより、人が作った物を奪ったと言う方が」
使用人「……しっくり来ません?」

388: 2013/06/22(土) 13:21:41.60 ID:SNKKy0NvP
盗賊「……んん?」
鍛治師「……人間が作った勇者の為の剣を魔王が、勇者から奪った、と言いたいのか」
使用人「魔族が作ったと言うより納得できる、と思うだけです。先代……魔王様のお爺様ですね……は、好戦的であったとも聞きました」
使用人「本来の魔族の性質が先代様のものに近いなら、遥か昔……そうして魔王の剣と成した可能性は否定出来ないでしょう?」
鍛治師「し、しかし……勇者の剣は、勇者にしか……!」
使用人「表裏一体」
盗賊「魔王は……勇者になった」
使用人「魔王様はこうも言っておられました。世界は、歴史は繰り返される、と」
鍛治師「し、しかし、いや……えーと?」
盗賊「落ち着け、て」
鍛治師「わ、わかってるけど、ややこしくて……」

393: 2013/06/23(日) 09:11:13.87 ID:91x0c+4gP
使用人「仕組みを理解している必要はありません。『勇者』の光の剣が『魔王』の手に渡り……」
鍛治師「持つ者に寄り、属性が変わる……だから必然的に闇の……『魔王の剣』になった、のか!」
使用人「表裏一体であるのなら。『勇者と魔王』がイコールで結ばれる存在ならば……考えられる話です」
盗賊「でもさ。前魔王は炎の加護を受けてた……んだろ?」
鍛治師「加護が何だろうが、魔王が使える……魔王の加護に変じる、てのが重要なんだよ」
盗賊「……あ、そっか」
使用人「繰り返されていると言うならば、歴代の中に闇の加護を持つ方がいらっしゃった可能性もあります」
使用人「まあ……全て推測、ですけどね」

394: 2013/06/23(日) 09:17:24.72 ID:91x0c+4gP
盗賊「んー……」
鍛治師「どした?」
盗賊「いや、剣の話は面白いし良いんだけどさ。話逸れてるなぁと」
鍛治師「え?」
盗賊「そりゃ無関係じゃないけどな。欠片を集めなきゃ、魔王の器だっけ?の……暴走を止められない、んだろ?」
使用人「はい」
鍛治師「それは確かな話なの?」
使用人「魔王様の言い置きですから……私は……」
鍛治師「あ、ごめん。疑ってる訳じゃ無いんだ」
使用人「いえ……何にしても見えない物が多すぎて、私も……混乱してます」
使用人「南の島に何やら不思議な鉱石があるらしいのですが」
使用人「取りに行くわけにも……」
鍛治師「……鉱石!?」
盗賊「何だそれ」

396: 2013/06/23(日) 12:30:57.31 ID:91x0c+4gP
使用人「城の本の中にそう言うのが……」
鍛治師「希少な……鉱石?」
使用人「さ、さあ……私も見ましたが、そもそも掠れててはっきり読めませんし」
使用人「ただ、南の島に、えっと……魔法に強い?だとか……何だったか」
鍛治師「……」ブツブツ
使用人「鍛治師さん?」
盗賊「またどっかいっちゃってるからほっとけ」ハァ
盗賊「……で?」
使用人「それがあれば鍛治師さんならどうにかできるかな、とは思いましたけど……」
使用人「取りに行く手段が無いのです」
使用人「転移石ももう……」
鍛治師「場所は?」
使用人「え? ……あ、えっと。側近様が女剣士さんのお父様に頂いた地図にそれらしきものは載ってましたが……」
使用人「確証がありません。さっきも行った様に、手段も……」
鍛治師「足ならある。船長がいる」
盗賊「お前……」ハァ

399: 2013/06/24(月) 10:27:35.49 ID:dDCoWkGKP
鍛冶師「その地図、今持ってたり……」
使用人「……流石に、しません」
鍛冶師「だよな……」
盗賊「地図があったとしても、船長がそんな依頼受けてくれるかわかんないだろ?」
鍛冶師「いやいや、それは……大丈夫だろう。魔王が世界を滅ぼすとあっちゃ、ね?」
盗賊「そんな事言えば、世界を滅ぼさない為に、王様になってくれって言われて」
盗賊「はい、って言うのかよお前は」
使用人「と、盗賊さん……」
盗賊「いや、別に船長に頼むのを反対してる訳じゃねぇんだ」
盗賊「……こいつ、本当に魔法剣の話になるとさ……」
鍛冶師「そうか!王様になったら可能か……!」
盗賊「血迷うな、阿呆!」
使用人「……」クスクス
盗賊「何で笑うんだよお前も……そもそも言い出したのは……!」
使用人「すみません……笑ってる場合じゃないんでしょうけど」
使用人「仲良しだなぁ、と思って」
盗賊「……あのな」
鍛冶師「御免、ちょっと話戻すけど」
使用人「はい?」
盗賊「何だよ」
鍛冶師「さっきのその、『王』の話だけどさ」
鍛冶師「魔王は確かに『王』だ。魔族の王」
鍛冶師「……人の世界に、王って……居るのか?」
盗賊「……ここに居た、んだろうな。城があるって事は、さ」
使用人「私も世界の全て、なんて知ってる訳ではありませんから、何とも言えませんが……」
使用人「……あ」
盗賊「何だ?」

400: 2013/06/24(月) 10:48:22.74 ID:dDCoWkGKP
使用人「……側近様が人間だった頃、住んでいらした街」
盗賊「ああ……前魔王、ん?先代だっけ、に吹き飛ばされたって奴な」
使用人「はい。王様に旅立ちを急かされた……とか」
盗賊「あ!」
鍛冶師「え、何それ」
盗賊「ああ、そうか……あん時、お前居なかったっけ?」
盗賊「まあ、その話は取りあえずややこしいから後な」
使用人「すみません……そうです。その街にも……『王』が居ました」
鍛冶師「……今はもう無い、んだよな」
使用人「はい。此処と違い……島毎沈められたと仰ってました」
盗賊「その側近の居た島と、此処には昔王が居た」
盗賊「……が、両方とも『魔王』に滅ぼされた、か」
使用人「何か理由があったのかもしれません。単純に邪魔、だっただけかもしれませんが」
鍛冶師「魔王が『王』に拘る理由って……これといって思いつかないな」
盗賊「え?」
鍛冶師「だって……人と魔を比べるだけでも、圧倒的な力の差がある訳だろ?」
鍛冶師「島まで沈めちゃうんだしさ」
使用人「……勇者に関係しているのかもしれませんよ」
使用人「側近様達も、王様に旅立ちを……と言ってましたし」
盗賊「指導者がいれば捗る、的な?」
鍛冶師「戦争とかだったらまあ、そうかもしれないけど……」
使用人「技術を持たれるのは厄介だった、とか……」
使用人「推測の域は出ませんけど、勇者の剣……光の剣、なんて物を作れる技術があるのなら」
使用人「立場を脅かされる可能性は否定は出来ません。やられる前にやっとけ、的な……」
鍛冶師「まあ……考えられなくは無い、かな」
盗賊「……勇者の剣を奪って、魔王の剣に変えちゃう位の力があっても、か?」

401: 2013/06/24(月) 10:58:51.02 ID:dDCoWkGKP
鍛冶師「その技術すら『人間』がもたらした物なら……重要だろう?」
盗賊「……ああ、そうか。だけど……いや、うーんと……」
使用人「乱暴な思考で多分正解です。勇者をけしかけられるのも、面倒」
使用人「だったら国を、人を纏める『王』を滅ぼしてしまえ……と」
鍛冶師「統率者が居なくなれば、魔王ほどの力を持っていれば」
鍛冶師「人を支配し、滅ぼすのも簡単、て事ね」
使用人「……それに、その南の島が乗っていた地図……女剣士さんのお父様にもらった地図には」
使用人「側近様の島も乗っていたのです」
盗賊「相当古い物なんだな」
鍛冶師「鉱石のある場所を記憶から消し去れば、まあ……でも」
鍛冶師「それこそ、吹き飛ばしちゃえば良かったんじゃ?」
鍛冶師「……いや、良くは無いけど」
使用人「側近様が魔王様のお城にたどり着いた時には、既に前魔王様に世代交代していたと言ってましたから」
使用人「前魔王様が地図を改ざんした可能性だってありますよ」
使用人「人の記憶から、とか、魔族に有利に、と言うより」
使用人「争いの記憶を消してしまいたかったのかも知れません」
使用人「……前魔王様は、人との共存を願っていらっしゃったらしいですし」
盗賊「複雑だなぁ……」
使用人「やはり……『王』は重要なのでは無いでしょうか」
盗賊「え?」
使用人「鍛冶師さんは、魔王様が既に『王』だと言われましたが」
使用人「人の子の『王』が……必要、なのでは」
鍛冶師「……そんなじっと見ないでよ」
盗賊「だ、だからって、さ……アタシらに王になれってのも暴論だって!」

402: 2013/06/24(月) 11:21:42.88 ID:dDCoWkGKP
使用人「充分承知してます。先ほどの話……じゃ無いですけど」
使用人「船長さんの……」
鍛冶師「世界を滅ぼすのを阻止するためなら……?」
使用人「……はい」
盗賊「鍛冶師!」
鍛冶師「自分で言っちゃった事だからね……」フゥ
鍛冶師「勿論、鉱石の話も魅力的さ。だからって、まあ……勿論解ったとは言えない」
盗賊「……そうだよ」ホッ
鍛冶師「言えない、し……こればっかりは、此処に住もうとしてる人に聞く必要もある」
盗賊「おいおいおいおいおい!」
鍛冶師「し、俺たち二人で話し合う必要もある、だろ?」
盗賊「……お、おう。だけど……!」
鍛冶師「確かに、そんな器じゃないさ。けど……イエスもノーも、今言う必要は無い、よね?」
使用人「勿論、です。無茶苦茶言ってる自覚はあります」
盗賊「……」ハァ
使用人「もし、そうなれば良いな、とは思ってます」
盗賊「お前達に取って都合が良い、だろ?」
使用人「姫様も喜びます」
盗賊「それは卑怯!」
使用人「……解ってますよ」
盗賊「……良く、話し合うよ。それで……勘弁してくれ」
使用人「当然です……それに」
使用人「別に、私に宣言する必要もありませんよ」
鍛冶師「不可能、の間違いだろ」
盗賊「え?」
使用人「…… ……」
鍛冶師「もう転移石が無いんだろ?」
盗賊「あ……」
使用人「船長さんに連絡が取れたら、必要な物を届けて貰います」
使用人「……良いと言ってくれたら、になりますけど」

403: 2013/06/24(月) 12:07:40.08 ID:dDCoWkGKP
盗賊「勇者、だっけ……のだったら、請け負ってくれるんじゃね?」
鍛冶師「船長、優しいからね」
使用人「だと、良いですけど。当分の物はまあ……買いましたし」
使用人「……荷が重いです。子育てなんて」
鍛冶師「まあ……側近、いるんだろ?」
使用人「使い魔も居ますし、ね」
盗賊「……」
使用人「すみません、長々と」
盗賊「そんなの、良いよ。でも……」
使用人「はい?」
盗賊「……いや。頑張れよ」
使用人「貴方達こそ、です」
鍛冶師「……うん」
使用人「では、失礼致します……また」

シュゥン……

盗賊「……また、か」
鍛冶師「どうなんだろう、ね」
盗賊「何が」
鍛冶師「ん? ……んー。世界の謎?」
盗賊「解る訳ねぇだろ、んなもん……」
鍛冶師「明日……街の人達と話してみよう」
盗賊「え?何を?」
鍛冶師「城の再建。もし……必要って事になったらさ」

404: 2013/06/24(月) 12:14:53.51 ID:dDCoWkGKP
鍛冶師「誰かが……王、になる必要はある訳、だ」
盗賊「お前……まじで王になったら南の洞窟?行けるとか思ってるだろ」
鍛冶師「否定はしない。しない、けど」
鍛冶師「……なるとしたら僕じゃ無い」
盗賊「誰か祭り上げるつもりか!?」
鍛冶師「……君しか居ないでしょ」
盗賊「…… ……アタシ!?冗談……!!」
鍛冶師「必要とされるとしたら、だよ」
盗賊「…… ……」
鍛冶師「そういう声があれば、無視は出来ないだろ」
盗賊「……やだな。何か踊らされてるみたいだ」
鍛冶師「使用人ちゃんに?」
盗賊「魔王に……か?」
鍛冶師「世界に、かなぁ……」
盗賊「ついこの間まで、劣等種だなんだって蔑まれて来たアタシが」
盗賊「王様!冗談じゃないよ!」
鍛冶師「……解放したのは確かに君だろ?」
盗賊「劣等種達を、か? ……魔王だろ」
鍛冶師「でも、君が魔王を見込んで声をかけなかったら」
鍛冶師「こうはなって無かったんだ」
盗賊「……お前、何その気になってんだよ!」
鍛冶師「魔法剣だ鉱石だって……ま、関係無いよ。本当に」
盗賊「どうだか……」
鍛冶師「触れられる機会があれば、そりゃ嬉しいけどね」
盗賊「ほら見ろ!」
鍛冶師「でも、僕か君かで言うと……君だ」
鍛冶師「そこは……確かだと思うよ」
盗賊「…… ……」
鍛冶師「ま、明日だ。仕事は待ってくれないしさ」
盗賊「そりゃ、な……港街の勇者とまで言われた魔王の為、と思えば」
盗賊「頑張ってやりたいとは思うよ。思うけど……!!」

405: 2013/06/24(月) 12:23:49.06 ID:dDCoWkGKP
鍛冶師「まあ、まあ」
鍛冶師「何にしたって街を作る。それが最優先だろ?」
鍛冶師「……港街だって、始めに比べれば立派になった」
鍛冶師「余計な事はおいておいても、城を再建しようとした時点でぶつかっても」
鍛冶師「おかしく無い問題だったってだけさ」
盗賊「……うん、まあ」
鍛冶師「使用人ちゃんも帰っちゃったし、僕たちも休もう」
鍛冶師「身体に触るよ」
盗賊「あ……使用人に言い忘れた」
鍛冶師「えー……」
盗賊「し、仕方無いだろう、あんな話……!」
鍛冶師「まあ……船長だって何れ戻ってくるし」
鍛冶師「伝えておけば、耳には入る……か、な?」
盗賊「……だったら良い、けど」ハァ
鍛冶師「……人と魔の共存、か」
盗賊「え?」
鍛冶師「皆が皆、使用人ちゃんや側近みたいな人なら」
鍛冶師「余裕で可能な気がするな、と思って」
盗賊「……側近は魔王と同じだぜ。徹底した不干渉、だ」
鍛冶師「そっか……て事は、使用人ちゃんも、か」

407: 2013/06/24(月) 13:15:50.10 ID:dDCoWkGKP
盗賊「魔王の意思に従って、こうやって……」
鍛冶師「盗賊……」
盗賊「徹底的な不干渉の為に、アタシ達に手を貸してくれる、に過ぎないんだよな」
鍛冶師「……世界を救う為、だろ?」
盗賊「最終的には……まあ、そうだよな。それすらも」
鍛冶師「勿論、魔王の為。でも……当然だよ」
鍛冶師「僕たちは人……人間達の為、引いてはやっぱ自分の為だろ?」
鍛冶師「大事な人の為、って言っても、結局は自分の為さ」
鍛冶師「『自分の大切な物』を『守りたい自分』の為」
盗賊「……うん」
鍛冶師「皆が自分勝手で良いんだよ……程度はあるけどね」
盗賊「だからって、王様になって魔法剣……とか駄目だからな!」
鍛冶師「解ってるってば」
鍛冶師「……技術が失われたは、勿論……利害とか、色々あったんだろうけどさ」
鍛冶師「世界が必要としない、からだろう。身に余る力を持つと」
鍛冶師「人……生き物、は狂うのさ」
盗賊「……魔導の街の人達、思い出す」
鍛冶師「力ある者に媚びて我先に、って?」
盗賊「それが全てとは思わないけど、さ」
鍛冶師「五年、だったっけ。保護期間って」
盗賊「ああ…… ……」
鍛冶師「どうした?」
盗賊「アタシが、その5年が過ぎるまでの間に」
盗賊「……王様になれば、抑止も効くか、と思って」
鍛冶師「結構その気なんじゃん」クス
盗賊「求められるのなら、だよ! ……ああ、でも」
盗賊「やっぱり踊らされてる様で、むかつく……!」
鍛冶師「何にだよ……ほら、イライラしないの」

408: 2013/06/24(月) 13:43:32.95 ID:dDCoWkGKP
鍛冶師「本当に休もう……お腹冷やしちゃ駄目だよ」
盗賊「……ん」
鍛冶師「この子の為にも……一番良い方法をチョイスしよう。ね?」
鍛冶師「……世界が滅ぶのは、厭だ。子供には美しい世界を見せてやりたいよ」

……
………
…………

女剣士「大丈夫か?」
魔法使い「…… ……話かけんな」
女剣士「何だよ、冷たいな。なぁ?」
娘「あう?」
魔法使い「糞、船長の野郎……!こき使いやがって……!」
女剣士「仕方無いだろ、アタシ娘見てなきゃいけないんだし」
女剣士「アンタの魔法は海の魔物には有効なんだし」
魔法使い「…… ……」
女剣士「船降りないって決めたの、自分だろ」
魔法使い「……そうだけど」
女剣士「無事に鍛冶師の村に着いたんだから。飯でも行こうよ」
娘「だー。う……」
女剣士「おう。ちゃんと娘のミルクも持ったからなー」
魔法使い「飯……ああ、腹減った……」
女剣士「だろ?ほら……行こうぜ。あそこに飯屋あるよ」スタスタ
魔法使い「……船長は?」
女剣士「船に居るってさ。補給とか済んだら声かけろって」
魔法使い「自分もちっとは動けよな……」カチャ

イラッシャイマセー

女剣士「あれ?」
魔法使い「おい、早く閉めろよ扉」

410: 2013/06/24(月) 16:19:58.87 ID:dDCoWkGKP
女剣士「あ、ああ……悪い」パタン
魔法使い「何だよ?」
女剣士「いや、教会?の前に随分人が居たからさ」
魔法使い「ふぅん……あ、おばちゃーん!注文良いー?」
おばちゃん「はいよ。何にする?」
魔法使い「えーっとねぇ……」
女剣士「あ、なあ……おばちゃん、あの教会ってさ……前からあったよな?」
おばちゃん「ああ、建物自体は古いよ。無人の期間が長かったけど」
魔法使い「ん?聖職者が居ないって事か?」
おばちゃん「……何年か前まで、男前の神父さんが居たんだけどねぇ」
おばちゃん「その神父さんの後追いかけてきたシスターと駆け落ちしたって噂でね」
女剣士「駆け落ち!」
娘「だぁ。あ~」
女剣士「あ、ごめんごめん、ミルクだな」
おばちゃん「おや可愛いお嬢ちゃんだね……若いお母さんで良いねぇ」
女剣士「いや、アタシの子じゃ……」
魔法使い「それより飯だって!俺、ペペロンチーノ」
おばちゃん「パンとサラダで良いかい?」
魔法使い「ああ……んで、駆け落ちして何だって?」
おばちゃん「いやね、二人ともある日突然消えちまったんだよ」
おばちゃん「神官とシスターの禁断の恋とか、羨ましいねって」
おばちゃん「一時期凄い噂になってたのさ」
女剣士「禁断の恋……」
おばちゃん「そりゃあもう綺麗な男だったんだよ!」
おばちゃん「この村の女は皆、魅入ってたしね」
魔法使い「不公平だなぁ、世の中ってのは」ハァ
おばちゃん「あら、お兄ちゃんも良い線言ってるって!」アハハ
魔法使い「……わっかりやすいお世辞ありがとよ」
おばちゃん「で、教会が何だって?」
女剣士「アタシカルボナーラ……ああ、いや。随分人が集まってたからさ」
おばちゃん「あいよ……ああ。そうそう。久しぶりに教会に神父さんが来たのさ」
魔法使い「またあれか。男前って騒いでんのか!」

411: 2013/06/24(月) 17:06:44.90 ID:dDCoWkGKP
おばちゃん「いやいや。まあ、可愛い顔してるけど」
おばちゃん「若い子だよ。真面目そうだったかな」
魔法使い「しっかりチェックしてるんだな」
おばちゃん「港街からの船で来たんだよ、あの子」
おばちゃん「新しくできた街だって言うから、みんな話を聞きたがるのさ」
女剣士「!」
魔法使い「へぇ……」
おばちゃん「まあ、心のよりどころが出来るのは嬉しい事だよ……ああ、ちょっと待ってね」
魔法使い「……港街から、ねぇ」
女剣士「女や……神父さんの事、知ってんのかな」
魔法使い「さあな。俺ゃ興味ねぇよ」
おばちゃん「はい、お待たせ!」
魔法使い「お。旨そう……いただきます」
女剣士「……頂きます」
魔法使い「気になるなら散歩がてら見てくりゃいいんじゃねぇ?」
魔法使い「俺は飯食ったら船に戻る。どうせまたこき使われんだろうからな」
女剣士「ああ……うん」
魔法使い「若いとミーハーだな。可愛い顔とやらに興味あんのか?」
女剣士「馬鹿!そんなんじゃネェよ!アタシは……」
魔法使い「側近が好きだから、かよ」
魔法使い「…… ……ま、良いさ。ご馳走さん」
女剣士「もう食ったの!?」
魔法使い「ゆっくり食ってけって……俺は眠いの!」スタスタ
女剣士「……すっかりひねくれたよな、あいつ」
女剣士「て、程……知らないけど……なぁ?」
娘(すやすや)
女剣士「……ありゃ、ミルク空っぽ。お前も良く飲むね」
女剣士「まあ……赤ちゃんは寝て飲んで、が仕事だな……」カタン
女剣士「おばちゃん、ご馳走様」

412: 2013/06/24(月) 17:15:33.44 ID:dDCoWkGKP
おばちゃん「はいよ、お粗末様」
おばちゃん「旦那は先に出てったのかい?」
女剣士「だ、旦那じゃ無いって!」
おばちゃん「なんだ、違うのかい」
女剣士「……やめてくれよ、もう」スタスタ
おばちゃん「また来ておくれよー?」

カチャ、パタン

女剣士「……お、さっきより減ってる」スタスタ
女剣士(神父さん、ね……港街から、か。アタシの知ってる人かな)
女剣士「あー、えっと……すみません。アンタが此処の……聖職者、さん?」
神父「おや、可愛い赤ちゃんですね……はい。と言っても」
神父「この間、この教会に居を移したばかりですが」
女剣士「……えっと、港街から、来た……って人、で良いんだよな?」
神父「ええ。そうです。神父、と言います」
女剣士「え!?」
神父「……え?」
女剣士「あ、いや……え?」
女剣士「港街の教会にも、神父って……高齢の、さ……」
神父「!!」
女剣士「……? どうした?」
神父「……いえ。今日は風も強いですし、どうぞ……よろしければ中へ」
女剣士「良いのか」
神父「ええ、赤ちゃんも居ますし」
女剣士「じゃあ……えっと、ちょっとだけ。準備が出来たら船に戻らないと行けないんだ」
神父「船……」カチャ
女剣士「お、お邪魔します……?」
神父「……貴女は、神父様にお会いした事が……?」
女剣士「あ、ああ……まあ。元気にしてんのかな」
女剣士「もう、随分前だけど……さ」
神父「……神父様はお亡くなりになりました」
女剣士「え!?」

414: 2013/06/24(月) 17:26:01.25 ID:dDCoWkGKP
神父「……僕は、新米神官、と言う者です」
神父「ですが……あの街を出る時に、神父様の教えを忘れない様」
神父「……敬愛する神父様を忘れない様、名前を頂いたんです」
女剣士「あ、ああ……そうだったんだ」
女剣士「そっか……神父さん……」
女剣士「あ、じゃあ……アンタはもう、港街には戻らないのか?」
神父「ええ。この街の奥に……小さな小屋があるのです」
神父「見晴らしの良い、丘の上です。あの街の教会とどこか似ていて……」
神父「……そこに、居を構えさせて頂ける事になったので」
女剣士「丘……へぇ?そんな場所あったっけ?」
神父「……貴女は、この村の方、ですか?」
女剣士「いや、違うよ。アタシは……出身は北の街だ」
神父「ああ……山の向こうの。そうですか……」
神父「小屋まで、結構歩きますよ。でも川沿いの……美しい場所です」
神父「僕は……あの場所に骨を埋めるつもりです」
女剣士「そっか……港街から来たって言えば、皆話を聞きたがるだろう?」
神父「そうですね。確かに活気のある街です」
女剣士「まじで?アタシが居た時は、まだまだ……作ってる途中!って感じだったのにな」
神父「……随分前に離れられたのですね」
女剣士「ああ。でも多分……これから港街に向かうんじゃないかな」
神父「そう……ですか……」
女剣士「……なんだ?」
神父「いえ。僕は……ああいう、活気のある場所より」
神父「こういう静かな方が好きなので……」
女剣士「……さっきちらっと見たけど、あれだけ騒がれてたら」
女剣士「充分煩いと思うけどな」
神父「物珍しいだけですよ。何れ落ち着きます」
女剣士「そういうモンかな」
神父「多分、ですけどね」
女剣士「……神父さんの、お墓は?」
神父「港街のあの教会の裏に」
女剣士「そっか……寄ったら、会いに行くよ」
神父「ええ……喜ばれますよ」
娘「ふえぇ……」
女剣士「お。起きちゃったか」

417: 2013/06/25(火) 10:14:18.27 ID:9y+OQNiUP
女剣士「お邪魔しました。何か言われたら、元気だったって伝えておくよ」
神父「……ええ」
女剣士「じゃあ……頑張ってな」
神父「貴女の旅の無事を、お祈りしておきます」

カチャ、パタン

神父「…… ……」フゥ
神父「返すべき、だったか……」ガサガサ……トン
神父(黙って……持ってきてしまった、この本)
神父(……童話の類かと、軽い気持ちで……)ペラペラ
神父(神父様は、一度だけエルフの娘にお会いしたと言っていた)
神父(この絵の……お姫様の様に美しかったと)
神父「…… ……」
神父(皮肉だ……この村が、魔除けの石の発祥であっただなんて)フゥ
神父(否……僕には、寧ろ丁度良いのかもしれない)
神父(神父様の教えを広げ……魔石等。魔除けの石等……)
神父(人々の記憶から、払拭しないと……!)

コンコン、カチャ

神父「はい?」
女「神父様、良ければ外でお茶にしませんか。良い天気ですし」
女「また、港街のお話をお聞かせ下さい」
神父「……ええ、良いですよ」
女「あら……綺麗な絵」
神父「あ……これは……」
女「教会に置かれる本ですか?」
神父「……これは、ただの童話ですよ。御伽噺です」
女「まあ!子供達が喜びますね!」
神父「子供に読ませる内容では……」
女「え……」
神父「……ああ、いえ。氏等……なんて言うか」
神父「ちょっと、暴力的な表現も多いのですよ」
神父「めでたしめでたし、で終わる本では無いのでね」
女「ああ、そうなのですか……」
神父「僕も……頂き物、ですので」
神父「…… ……」
女「私は、読んでも……良いですか?」
神父「ええ……それは、ご自由にどうぞ。こちらに置いておきますから」
神父「とりあえず……行きましょうか」

418: 2013/06/25(火) 10:31:00.24 ID:9y+OQNiUP
女「ああ、そうですね。皆待ってますし」
神父「どうぞ、またお時間のある時にお越しになって下さい」
女「ええ、ありがとうございます!」
神父(焦る必要は無い……どうせ、港街の話と同じように)
神父(何れ……落ち着く)
女「では、行きましょう」スタスタ
神父「……はい」スタスタ
神父(神父様……僕は……)

カチャ
ボーゥ…… ……

女「あら、あの船……出発したんですね、もう」
神父「……便利になった物ですね」
女「ええ、本当に。私も何時か、港街に行ってみたいわ」
神父「賑やかで……良いところですよ」
女「今は神父様のお話を皆、楽しみにしていますよ」
神父「この間、何処まで話しましたっけ」
女「街がどうやって大きくなったか、です」
女「魔王の復活が囁かれている中、人が集まって」
女「こうして……力を合わせて街を作ったりできるのって素晴らしいですよね」
神父「……ええ。そうですね。人一人はか弱くても、力を合わせ」
神父「負けない、屈しないと言う意思が原動力になりますから」
女「此処の者は鍛冶を生業にしてますから。潤うのは嬉しいけど」
女「争いは厭ですものね」
神父「そうですね」
女「そういえば、以前此処に居られた神父様は魔除けの石を配っていらっしゃいました」
女「……お話しましたっけ」
神父「ええ。居なくなってしまった、と言うのは……残念ですけど」
神父「…… ……」
女「神父様?」
神父「あ……すみません。残念ですけど、あれは随分体力や精神力を消耗しますから」
女「まあ……!」
神父「ですから……僕は」
女「あ、ほら、神父様、あっち!皆待ってます!」タタタ……
神父「あ…… ……」ハァ
神父(焦らない、焦らない……何れ、風化する)
神父(僕は……僕の思うとおり。神父様の、様に……!)スタスタ
神父「お待たせ致しました。港街のお話、ですね」
女「ええ、お願い致します!」
おばさん「楽しみにしてたんだよ!ほら、神父さんも座って!」

419: 2013/06/25(火) 10:41:18.35 ID:9y+OQNiUP
……
………
…………

使用人「もうちょっと!もうちょっと……頑張って下さい、勇者様!」
側近「痛い痛い痛い!」
使用人「勇者様が頑張って立とうとしてるんですから、我慢して下さい」
側近「ちょ、爪切ってやってよ使用人ちゃん!」
側近「食い込んでる食い込んでる!」
勇者「うー!」
使用人「歩いた!コッチですよ、勇者様……っと!」ダキ!
勇者「あー!」
使用人「うんうん!凄いです!歩けましたね!」
側近「……痛かった」
使用人「よく頑張りましたー!」ナデナデ
側近「俺も撫でて欲しいわ……いてぇ」
使用人「何気持ち悪い事言ってるんですか」
側近「ひでえ!」
勇者「そっきんー」
側近「ん?」
勇者「かちこい」ナデ
側近「……ありがとよ」
使用人「にやけないで下さい、気持ち悪い」
側近「もうちょっと労れ!」
使用人「さて、じゃあ勇者様はそろそろねんねしましょうか」
勇者「うん」
側近「おう……俺もそろそろ休むかな」
使用人「あ、側近様はもうちょっと待ってて下さい」
使用人「……ちょっと気になる事があったので」
側近「ん?ああ……別に良いけど」
使用人「勇者様寝たら戻りますから」スタスタ
勇者「おやすみ!」
側近「あいよ、おやすみ」

パタン

420: 2013/06/25(火) 10:51:07.67 ID:9y+OQNiUP
側近「気になる事、ねぇ……」
側近「…… ……」
側近「茶でも入れておいてやるか……」スタスタ
側近(えーっと……)トン
側近(壁と……扉。って事はここから、いち、にい……)スタスタ
側近「……お、ビンゴ」
側近(コーヒーはどれかなーっと……)

カチャ

側近「ん?」
使用人「何やってるんです?」
側近「お茶でも入れてやろうかと」
使用人「……慣れ、って凄いですね」
側近「まあ、見えないは見えないなりに、な」
使用人「後は私がやります……大丈夫ですか?」
側近「俺?別に眠くないけど」
使用人「いえ……まあ、体調とか」
側近「……なんだよ、急に」
使用人「…… ……何時言おうかと迷っていたんです」
側近「?」
使用人「毎日見てますが……側近様……」
側近「な、何だよ」
使用人「……老けて、ます」
側近「…… ……俺が」
使用人「はい」
側近「えーと……それは、確か?」
使用人「嘘吐いても仕方無いでしょう……お茶、置きます」
側近「あ、ああサンキュ……老けた、てどんな風に?」
使用人「髪の色が……抜けてます」
側近「……はい?」
使用人「色がだんだん薄くなってます。目に見えて解る位だから」
使用人「……ちょっと、気になって」
側近「…… ……他に、変化は?」
使用人「…… ……」ゴトン
側近「何の音だ」

421: 2013/06/25(火) 10:58:14.07 ID:9y+OQNiUP
使用人「ま……勇者様の剣です」
側近「……?」
使用人「微かに、何ですけど……光が、増えてます」
側近「何?」
使用人「感じる力……魔力、で良いのか解りませんが」
使用人「勇者様の成長に伴って、大きくなってます」
側近「…… ……ふむ」
使用人「以前、魔王様が仰ってました。側近様には残照があると」
側近「魔王様の目、のか」
使用人「はい。 ……側近様は、『欠片』に目の光を奪われた」
使用人「もし、残りの……その、残照とやらが」
使用人「……剣に、奪われて行っているのだと、したら」
側近「気がついたのは何時だ?」
使用人「本当についこの間、なんです」
使用人「急速に……なので。気になって……」
側近「勇者様の成長に合わせて、か?」
使用人「そんなに徐々に、だったら……毎日顔会わせてるのに」
使用人「気がつきませんよ、多分」
側近「…… ……」
使用人「私が港街から戻って、もうすぐ一年ぐらいです」
側近「まあ、勇者様が歩く様になる位だからなぁ」
使用人「あの時点で、船長さんには小鳥を飛ばしましたが」
側近「……たどり着いてると仮定しても、来るかどうかの保証は無い、だろ?」
使用人「はい。どこに居るのかもわかりませんからね」
側近「うん」
使用人「外の様子が全く分かりませんから……何とも言えませんが」
使用人「……お話、したじゃないですか」
使用人「盗賊さんと、鍛冶師さんに……」
側近「王になれ、て奴な」
使用人「はい」

422: 2013/06/25(火) 11:11:37.27 ID:9y+OQNiUP
側近「それがどうした?」
使用人「それが、叶ったのかな、って……」
側近「ピースが一つはまった? ……しかしなぁ、都合良すぎないか」
使用人「……ですよね」
側近「それに、光は成長に伴って増えてるんだろ?」
使用人「と、思います……ただ、側近様の、その……変化が」
使用人「急に……だったので。確かめて見たら……その」
側近「別に気にしなくて良いだろ。俺は結構な時間生きてるしな」
側近「寿命的に、そろそろであったっておかしく無いんだぜ」
使用人「…… ……」
側近「で……何か外で変化があったのか、と思った訳ね」
側近「しかし……確かめる方法がネェからな」
使用人「そうなんです。もう少し勇者様が大きくなられたら」
使用人「船で出る事も可能なんですが……」
側近「……どうだかな」
使用人「え?」
側近「勇者様は人間なんだろう。此処にずっと……大きくなる迄置いとくってのは」
側近「どうだかな、て」
使用人「し、しかし……!」
側近「……場合に寄っちゃ、俺や使用人ちゃんだって敵になるんだ」
使用人「!」
側近「まだ何も解っちゃ居ない子供だ。だが……」
側近「『勇者』として育てるのなら……」
使用人「…… ……」
側近「……何れ、旅立たせないと行けないんじゃないか、と」
側近「思うんだけど、な」
使用人「…… ……その為の、王」
側近「…… ……」
使用人「やっぱり……私、もう一度、港街へ……!」
側近「まあ、待てって……後一年、待とう」
使用人「え?」

423: 2013/06/25(火) 11:32:55.27 ID:9y+OQNiUP
側近「……勇者様は、まだ子供だ。船長が一年、この城に来なかったら」
側近「俺が、勇者様を連れて此処を出る」
使用人「ど、どうやって、ですか!」
側近「残照がある内に……魔王様の目の残りの魔力を使えば」
側近「行くだけなら、どうにか……」
使用人「……ッ だ、駄目です、そんな事したら貴方の身が……!」
側近「…… ……お前なら、身を案じて違う方法を探すか?」
使用人「…… ……」
側近「一年。船長を待とう。来たら……」
使用人「私が、それで港街へ……」
側近「違う。俺が……勇者様を連れて此処を出るんだ」
使用人「!?」
側近「前に行っただろう。俺は『側近』の地位を使用人ちゃんに譲る、と」
使用人「そ、それはお断りした筈です!」
側近「『側近』の名を継ぐ事は、だろ? ……俺の仕事は全部」
側近「引き渡したつもりだぜ」
使用人「で、ですが……『魔王様』はどうするのですか!」
使用人「そ、そりゃ……全力で、どうにか、しようとは……」
側近「間に合わす為の勇者様、だろ?」
側近「……『中身』が『器』を倒さないと、多分意味が無い」
使用人「…… ……」
側近「俺は目が見えない。だから……申し訳無いが誰かを頼らざるを得ない、だろうが」
側近「ここを守る者も必要だろう。幸い、魔王様は眠ってる。動かない」
側近「……そんで、それはお前に任せる方が良いのさ」
使用人「城を……私が、守る、のですか」
側近「ああ……魔王様の目も、魔王様の剣も……もう」
側近「俺にはどうにも出来ない。なら」
側近「……勇者様を安全な場所に送り届けるのが、俺の最後の役目、だろうさ」
使用人「側近様……」

427: 2013/06/25(火) 12:05:12.40 ID:9y+OQNiUP
側近「魔王様、言ってただろ?何かあったら、目と剣で自分をどうにかしろって」
使用人「……はい」
側近「魔王様は勇者様、だ。目と剣を必要とするのは?」
使用人「勇者様です。器を……魔王様を、倒す為に」
側近「ほら。俺の役目、だ」
使用人「……何も、文句などはありませんよ。ただ……」
側近「俺か? ……ま、大丈夫さ」
側近「俺は魔王様の側近だ。最期は……ちゃんと、帰ってくるさ」
使用人「さ、いご……だなんて」
側近「さて、寝ようぜ。明日も勇者様、早起きだろ」
使用人「……そう、ですね」
側近「転がって目瞑ってな。勇者様に蹴られネェようにな」
使用人「毎日ですから、慣れましたよ」
側近「……ご苦労さん」ハハ
使用人「……明日は側近様、一緒に寝ます?」
側近「使用人ちゃんと!?」
使用人「勇者様と、です!」
側近「ですよねー」
使用人「もう…… ……では、おやすみなさい」チラ
側近「おう。おやすみー」
使用人(…… ……もう一度、船長さんに手紙を出しておこう)
使用人(間に合って……!!)

……
………
…………

女神官「まあ、船長さん!」
船長「……これ、神父さんの墓か」
女神官「……ええ」
船長「…… ……」
女神官「何時、お戻りに?」
船長「さっき、船で着いた。随分時間掛かったみたいだな」
船長「一瞬街を間違えたかと思ったぜ」
娘「とーちゃん!」タタタ
女神官「……? とー…… ……船長さんの、お子様ですか?」
船長「ああ、まあな……ほら、娘。こんにちは、は?」
娘「こんにちは!」
女神官「はい、こんにちは」ニコ

428: 2013/06/25(火) 13:23:09.69 ID:9y+OQNiUP
女神官「吃驚しました……何時の間に、ご結婚されたのです?」
船長「ま、色々あってな……おい、女剣士は?」
娘「なんかくってた」
船長「『食べてた』 ……ったく」
娘「あ!おんなけんし!」タタタ……
女神官「可愛い……お母さん似、ですか?」
船長「……だな。俺に似てるのは口の悪さ位か」
船長「……否、あれの母親も大概だったが」
女剣士「急に走っていくから吃驚しただろ!もう!」タタ……
娘「えへ」
女剣士「あ、船長。なんか魔法使いがキレてたけど」
船長「あ?ああ……買い物頼んだからな……おい、娘と先に船に戻れ」
船長「用事済んだら出るぞ」
女剣士「え!?もう!?」
船長「のんびり……するつもりだったが、用事が出来た」
女剣士「用事、って?」
船長「女神官、だったな。始まりの街はどうなってる?」
女神官「あちらへも既に定期便が出ているらしいですね」
女神官「私も詳しくは解りませんが……でも」
女神官「確か、一週間後に戴冠式があったはずです」
船長「戴冠式……マジ、だったのか」
女剣士「あ、そうそう!さっき、定食屋のおっさんが言ってたよ」
娘「おっさんー!」
女剣士「……アタシが悪かった。おじさん、な」
娘「おっさんー!!」
船長「何を、だ?」
女剣士「城が出来たって奴さ。王様に子供が生まれたとかさ」
船長「…… ……」
女神官「ええ、そうらしいですね。どちらに似ているのでしょうねぇ」
女剣士「へ?」
娘「あかちゃん!」
女剣士「あ、ああ。赤ちゃんだな。でも、どっちって……?」
船長「盗賊か、鍛冶師か……だろ?」
女神官「ええ、そうです」ニコ
女剣士「ええええええええ!?」

434: 2013/06/26(水) 08:53:39.44 ID:0SXJL3UjP
娘「おんなけんし、うるしゃい」
女剣士「ご、ごめん。でも……ええ?」
船長「俺に娘が居るぐらいだ。別におかしくネェだろ」
女剣士「そっちじゃ無いよ!」
船長「あ? ……ああ、そうか」
女神官「城を再建、となると……王を立てる必要が出てきます。妥当では?」
女神官「あの二人以外……おりますまい」
船長「一週間後、か……」
女神官「……喜ばれると思いますよ?」
船長「……」
女神官「火急の用事ならば仕方ないですけど……」
船長「女剣士」
女剣士「ん?」
船長「魔法使い手伝ってやってくれ。ついでに、この手紙渡してくれ」カサ
女剣士「あ、ああ……別に良いけど」
娘「むすめがもつ!」
船長「無くすなよ」
娘「おんなけんし、よんで!」
女剣士「見て良いのか?」
船長「構わん。使用人からだ」
女剣士「!」
船長「俺は出航急がせる……始まりの街に行くぞ」スタスタ

435: 2013/06/26(水) 09:05:38.12 ID:0SXJL3UjP
娘「よんでー」
女剣士「待て待て……えっと」カサ

『お買い物をお願いしたいです。リストは別紙にて』
『何度も申し訳ありません。港町まで二人、運んで頂きたいのです。叶う限り、早急に』

女剣士(二人……? 使用人と、側近?)
女剣士(でも……何でわざわざ船で?)
娘「おかいもの!おかし!」
女剣士「え?あ、ああ……わかったわかった。とりあえず魔法使いんとこ行こうか」
娘「だっこ!」
女剣士「……歩いてよ。重いんだから」
娘「やだ」
女神官「ふふ……」
女剣士「……はいはい。よいしょ……じゃあ、えっと……」
女神官「ええ……あ、女神官と申します」
女剣士「……新米神官、に会ったよ」
女神官「……え?」
女剣士「神父さんの名前、貰って頑張る、てさ」
女神官「あ、あの……彼は、どこに!?」
女剣士「鍛治師の村に。ちょっと話しただけだけど、元気そうだったよ」
女神官「そうですか……あ、あの……それ、だけ……ですよね」
女剣士「ん?うん、まあ……?」
女神官「……いえ、良いのです」
女神官「教えて下さって、ありがとうございました」

436: 2013/06/26(水) 09:17:27.80 ID:0SXJL3UjP
女剣士「どういたしまして……じゃあ」
娘「はやくー」
女剣士「はいはい」スタスタ
女神官「貴女方に、神のご加護があります様に……」
女神官「……神父様。申し訳ありません」
女神官「あの本は……」
女神官(言付けてくれていないかと……思ったけれど)
女神官(……せめて、大事にして下さい。新米神官……)

……
………
…………

魔法使い「んで?後何だ?」
魔法使い「なんで俺がこんな事……」ブツブツ

438: 2013/06/27(木) 08:55:43.19 ID:zz0YbUxSP
魔法使い「これは買った、これも……後は……」
娘「まほうつかいー!」
魔法使い「お、娘……歩いて来たのか、賢い賢い」
女剣士「アンタが見える迄抱っこだよ……」
魔法使い「やっぱりか」ハハ
娘「おかいもの?」
魔法使い「後は花の苗だけだ。めんどくせぇし、お前が選べ、娘」
娘「ぴんくー!」
女剣士「買い物リストはやっぱり、魔法使いが持ってたんだな」
魔法使い「やっぱ?」
女剣士「船長が渡しとけ、て」カサ
魔法使い「…… ……」
魔法使い「……花の苗、で怪しいと思ってたよ」
魔法使い「使用人とやらからか……」
女剣士「……どうするんだ?」
魔法使い「……船長は?」

439: 2013/06/27(木) 08:59:55.98 ID:zz0YbUxSP
女剣士「出航急がせるって戻ったよ」
娘「きいろ!みろり!」
女剣士「みどり、な」
娘「みろり。あと、しろー!」
女剣士「おいおい、んな一杯……」
魔法使い「とーちゃんの金だ。好きなだけ買え」
女剣士「……先に始まりの街だとさ」
魔法使い「戴冠式か。ガキも産まれたらしいな」
女剣士「知ってたのか」
魔法使い「噂で持ちきり、て奴だ」
娘「むらちゃき!」
女剣士「そんくらいにしな。持てないよ」

440: 2013/06/27(木) 09:09:09.94 ID:zz0YbUxSP
魔法使い「……良し。荷物運ぶか」
魔法使い「娘、船すぐそこだし歩けよ。俺も女剣士も荷物あるからな」
娘「えー」
女剣士「頑張れ。娘なら出来る!」
娘「……えー」
女剣士「……行く、だろ?」
魔法使い「どーすっかな」スタスタ
女剣士「……」スタスタ

……
………
…………

男「鍛治師様!花届きましたよ!」
鍛治師「あ、こっちに……て、凄い量になってきたなぁ」
男「そりゃ、祝い事続きだからねぇ」
鍛治師「後、様、て……やっぱさ……」
男「まだ言ってんですか。いい加減慣れて下さいよ」ハハハ
鍛治師「笑い事……かなぁ」
男「城の再建も、王になるのも、うちら街の人間皆が言い出した事だ」
男「鍛治師様達も気にしてたってなら」
男「何の問題も無いじゃないか」
男「……言っただろ。アンタ達二人しか居ない、てさ」
鍛治師「正確には王は僕じゃ無くて盗賊だけどね」
男「ああ、そうだ。二人はどうです?」

441: 2013/06/27(木) 12:30:04.22 ID:zz0YbUxSP
鍛治師「さっき見に行ったけど、同じ格好して寝てたよ」
男「あはは!」
鍛治師「後……一週間、か」
男「派手にやりましょうや。盗賊様の言う通り、魔道の街の抑止効果も狙って、ね」
鍛治師「ああ……そうだね」
鍛治師「……」
男「鍛治師様?」
鍛治師「……いや。やっぱり、運命に踊らされてるのかな、て」
男「はい?」
鍛治師「ううん……何でもないさ」

443: 2013/06/28(金) 08:49:52.72 ID:h8HD8waiP
鍛治師(運命、か……盗賊の言う通り)
鍛治師(……否。結局は使用人ちゃんの……魔王の言う通り。思う通り……願う通り)
鍛治師(叶った……満足か?魔王……)
男「ん?」
鍛治師「どうしたの?」
男「何か下が騒がしいな……見てきますわ」
鍛治師「ああ、僕が行くよ」
男「んじゃ俺は仕事に戻りますわ」
鍛治師「うん、無理しないでよ」スタスタ
鍛治師(玄関……じゃないや、城門の方か)
娘「かじしー?」タタタ
鍛治師「……え?何で僕の名前……」
娘「かじし?」
鍛治師「うん、そうだよ。君は何て言うの?」
娘「とーちゃん!かじし!いた!」
鍛治師「? お父さ……え!?」
船長「よう。久しぶりだな」
娘「とーちゃん!」
鍛治師「え、えええええ!?」

444: 2013/06/28(金) 09:20:23.41 ID:h8HD8waiP
船長「何でそんな驚くんだよ」
船長「お前だって父親だろ、もう」
鍛治師「……だ、誰の子か聞いても良いかな」
船長「そこら辺も含めて話しようや」
船長「娘、女剣士んとこ……」
娘「やだ。とーちゃん」
鍛治師「……女剣士も居るのか!?」
鍛治師「あれ、て、事は……魔王の城に行ったんだ……よね?」
船長「ああ……色々あってな」
船長「その辺も含めて……」
鍛治師「じゃあ……勇者の事は知ってるんだな?」
船長「……勇者?」
鍛治師「……あれ?」
娘「とーちゃん!あちょぶ!」
船長「お、おう、ちょっと待て、娘」
船長「……勇者、て誰だ?」
鍛治師「え、え?だって城に寄ったんだろ?」
船長「……話を整理する必要があるな。女剣士を呼んで来る」
娘「とーちゃん!」
鍛治師「僕が呼んで来るよ。娘ちゃん?と居てあげなよ」
船長「盗賊は?」
鍛治師「1番上の寝室で子供と寝てるよ」
娘「あかちゃん!」
鍛治師「うん、赤ちゃんだよ……見てくるかい?」

451: 2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN ID:h8QhxO/vP
娘「あかちゃん!」
船長「駄目だって、こいつ起こしちまうぜ」
鍛治師「お話、の仲間はずれにする方が後が怖いよ」
鍛治師「呼んで来たらすぐに戻る。この奥に広い部屋があるから、そこに」スタスタ

カチャ、パタン

娘「とーちゃん、あかちゃん!」
船長「わかったわかった……起こすなよ?」
娘「つんつんする」
船長「駄目!」

452: 2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN ID:h8QhxO/vP
……
………
…………

女剣士「じゃあ、アタシ達が城を出てすぐに……その、勇者ってのは産まれた、て事になるな」
船長「あの飛び出して行った光と関係は……ある、んだろうな。魔王の言うところの『欠片』」
鍛治師「探し出せ、か」
船長「一つは見つかっただろ?」
盗賊「……『王』か。断ったんだけどな。一応」
船長「結局はなった訳だろう。使用人は願いを叶えた」
鍛治師「引いては魔王が、だね」
盗賊「この件に関してはな……仕方なかった気はするが」
盗賊「あんな言い方されたら、身構えちまうよ……しかも、揃わなければどうなる?」
盗賊「……アタシ達は嫌と言う程、魔王の力を知ってる」
船長「ならざるを得ない?」
盗賊「状況を加味すりゃ、確かに……アタシ達しかいない」
鍛治師「盗賊が王に立てば助かるんだ、確かに」
船長「魔道の街への牽制、な」

453: 2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN ID:h8QhxO/vP
盗賊「劣等種と呼ばれたアタシが街を作り、ついには王様になっちまった」
盗賊「……魔王の後ろ盾あってこそ、だ。感謝してもしきれネェ」
盗賊「やれる事ならしてやりたい。協力だって惜しまない」
盗賊「だがなぁ……何が出来る?」
船長「良いんだろうよ。出来る事をやる……それで、さ」
盗賊「……アタシが王になったのも、意味はある。氏ぬ程厭って訳でも無い」
盗賊「もうすぐ、魔導の街からの援助も終わるんだ。タイミングも何もかも」
盗賊「上出来過ぎて怖くなるぐらいだ。だからこそ」
鍛冶師「しっくり来ない……んだよね」
女剣士「どういう意味だ?」
盗賊「……街を作り、国を作り、子供……未来を作るのさ。今、生きているって事はな」
盗賊「で、あれば……それを守って行きたい、良くしていってやりたいって思うのは当然だろう?」
鍛冶師「盗賊は頑張って……ここまで来たんだ。充足感だって随分あったんだと思う」
鍛冶師「……魔王から、使用人ちゃんから聞いた限りじゃさ……どうにも」
鍛冶師「敷かれたレールの上、歩いてる様な気にもなっちゃってさ」
船長「……気にしすぎ、とは言えんかもな」
女剣士「船長!?」
船長「だからといって、別に文句だとか言う気はネェぞ」
船長「……魔王の為なら、と思うのは俺も一緒……だ」
盗賊「ああ……ま、言っても仕方無い事なんだけどな」
盗賊「……良し。チビ共、寝てる間に本題に入ろうか」
鍛冶師「ああ……あ、そうだ、船長。魔法使いは?」
船長「俺よりそっちに聞いてくれ」チラ
女剣士「え? ああ……『俺には関係のネェ話だ』ってさ」
盗賊「……ま、ご尤も、だな」

454: 2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN ID:h8QhxO/vP
船長「…… ……」
鍛冶師「起きるまでに相談しちゃおう。船長、もう一回手紙を見せてくれ」
船長「……おう」カサ
盗賊「『港街まで二人』か……側近と勇者、か使用人と勇者、だろうな」
女剣士「……だよな」
鍛冶師「勇者が人間で、子供である以上……あの城に置いてはおけないと判断した、のか」
盗賊「何かがあったか、だ。早急に、と言うのが気に掛かる」
船長「俺に頼むって事は、転移石はもう無いと考えて良いんだろうな」
盗賊「あいつらは『王』を探してた。魔王も王だろうとは言ったけれど」
盗賊「人の子の王、と言う意味なら……港街よりこっちに呼んだ方が良いだろう」
女剣士「城はどうするんだ?」
船長「『二人を運べ』ってあるだろ? ……どっちか残ってるじゃネェか」
女剣士「あ……そ、そっか」
船長「育てて、と考えると着いてくるのは使用人だろうな」
盗賊「ついでに、頼みたい事もあるんだ、船長」
船長「ん?」
盗賊「使用人でも側近でもどっちにでも良いんだが」
盗賊「南の島の洞窟、とやらを調べてくれないか?」
船長「……さっき行ってた魔法に強い鉱石だとか言う話だな」
鍛冶師「使用人の話では、古い地図の小さな南の島に×印だかが着いてたって言ってた」
船長「…… ……」
鍛冶師「現行の地図からは存在を消されたんだろうって話だ」
女剣士「アタシの親父から貰ったって奴だろ……側近の住んでた島も乗ってた、んだよな」
盗賊「そうだ。もしその鉱石とやらがあれば……」
船長「……無理だ、と言えば?」
女剣士「え?」
船長「女海賊と魔法使いが、俺の所に来た時に持ってきた地図に」
船長「……南の小さな島に、×印が着いていた」
女剣士「古い地図、だったのか」

455: 2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN ID:h8QhxO/vP
船長「ああ。地図自体は……もう魔法使いに返しちまったが」
船長「船に乗せてくれたら、何でもする。だから連れて行け、とな」
船長「……持ち逃げもしネェ。だから……と」
鍛冶師「……行ったんだな?」
船長「理由も無く反対はしネェよ」
盗賊「……何があった?」
船長「三つ頭の魔物が居た。魔法使いの魔法も言う程効かなかった」
女剣士「……まじか」
船長「ああ。お前は……暫く船に乗ってたからあいつの実力は知ってるだろう」
船長「……女海賊が怪我したのもあの島だ」
船長「直接の氏因だとは言えないが……出来れば、魔法使いの前で」
船長「あの島の話してやりたくは無いな」
盗賊「……」
船長「依頼なら受ける。だが……島へ渡すだけだ」
船長「生半可な腕なら……危険に飛び込むだけだと忠告はしておく」
鍛冶師「そう……か……」
船長「あいつは……魔王の城にももう行かんと言っている」
女剣士「…… ……」
盗賊「解った……悪かったな」
船長「俺は……良いさ」
盗賊「……娘の母親だろう。一度しか会った事無いけど、よく似てる」
船長「…… ……」
鍛冶師「船長、行って帰ってどれぐらいだ」
船長「幸い、潮の大人しい時期だ。行って帰って……1年半て所だな」
盗賊「娘はどうするんだ?」
船長「女剣士と置いて行っても良いが……」
女剣士「アタシはどっちでも良いよ。娘について行く」
女剣士「……娘は、とーちゃんと行くって言うと思うが」
船長「……だろうな」

456: 2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN ID:h8QhxO/vP
鍛冶師「戴冠式……には、出られない、よな」
船長「一週間後だろう……出席したいのは山々だがな」
盗賊「仕方無いさ……次に会う頃には、王子も今の娘ぐらいになってるか」
船長「……良し、女剣士、娘連れて来い」
女剣士「もう行くのか!?」
船長「魔法使いにも話さなきゃならんだろう。あいつは……今度こそ、降りると言うだろう」
女剣士「…… ……」
盗賊「アタシ達は受け入れの準備をしておく」
盗賊「……人として、王として、出来るだけの事はする。惜しまない、と」
盗賊「伝えておいてくれ」
船長「……解った」
女剣士「娘……娘?」ユサユサ
娘(すうすう)
王子(ぐうぐう)
女剣士「……駄目か、よいしょっと」ダッコ
船長「ああ……すまん」
女剣士「抱き変えたら起きるだろ。このままで良いよ」
鍛冶師「慌ただしいな……久しぶりに会えたのに」
船長「依頼は依頼として、きちんと遂行しねぇとな」
女剣士「先行くぜ……準備しとくよ」スタスタ……パタン
盗賊「……なあ、船長」
船長「ん?」
盗賊「アタシ達は人間として……親として、さ」
盗賊「……出来る事、やれば良いんだよな」
船長「当たり前だ……そりゃ、王としての責任ってのはあるだろうが」
船長「……人として、ってのとそう変わりはしねぇだろ」
鍛冶師「今まで、君が街の為に、劣等種の為にとやってきた事と同じだ。そこは」

457: 2013/07/01(月) NY:AN:NY.AN ID:h8QhxO/vP
盗賊「…… ……」
船長「どうした?珍しく不安そうな顔をして」
盗賊「こいつが……王子が居るからな」
盗賊「……意地でも守りたいと思うものが増えた。魔王が姫を、と」
盗賊「……美しい世界を、だっけ……思った様に、さ」
鍛冶師「…… ……」
盗賊「思う事は同じ筈、なのに……守りたいと動く、魔王が同時に滅ぼす者であるって」
盗賊「……思うと、やりきれないな」
鍛冶師「今なら、ちょっとは理解できるよ」
盗賊「え?」
鍛冶師「……徹底した不干渉、さ」
盗賊「…… ……ああ」
船長「……行くぜ」スタスタ
盗賊「あ……船長……気をつけてな!」
王子「ふ…… ふやあぁ、おぎゃああぁ」
盗賊「あ、お腹減ったか。よしよし」ダッコ
鍛冶師「……また、船長」
船長「おう……またな」パタン
鍛冶師「勇者は……金の瞳をしているんだったね」
盗賊「ん?ああ……よっと、ほら、おっOいだよ、王子」
鍛冶師「……住居、少し離した方が良いだろう」
盗賊「え? ……城の中じゃ駄目か?」
鍛冶師「あんまり人目につかない方が良いだろう」
鍛冶師「……側近か使用人ちゃんか……どっちが来るかわかんないけど」
盗賊「……ああ、そうか」
鍛冶師「まあ、一年の間に考えよう」
盗賊「そうだな。まだもう少し……街だって、落ち着いて無いし」
盗賊「やる事は一杯だ」
鍛冶師「……後、もうちょっと胸元、しまって?」
盗賊「……お父ちゃんえOちだなぁ、王子」
王子「あー」
鍛冶師「え!?」

……
………
…………

魔法使い「俺は降りない、って言っただろ?」
船長「……魔王の城に行くんだぞ?」
魔法使い「城には行かネェよ。船で留守番してら」
魔法使い「話はそれだけか?」

469: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「……良いのか?」
魔法使い「何度も言うな」スタスタ
女剣士「……」

カチャ、パタン

船長「……」
女剣士「何でそんな……頑なに魔法使いを下ろしたがる、んだ?」
船長「そう言う訳じゃネェよ……娘は?」
女剣士「甲板で海賊と走り回ってるよ」
船長「……良かれ、と思ってんのは俺だけなのかね」
女剣士「半分、意地になってるのもあると思うけど」
船長「俺が?」
女剣士「向こうが……かな」
船長「…… ……」
女剣士「アタシも……船に居るよ。娘連れて行くのも大変だしな」
船長「お前も?」
女剣士「どうせ戻ってくるだろ、船長は」
船長「もし……一緒に来るのが使用人だったらどうするんだ」
女剣士「?」
船長「側近に会えないぞ」
女剣士「ああ……うん。だけど」
女剣士「……会っちゃったら、又……一緒に居たくなるだろ」
船長「……冷めたのか?いや……違うか」
女剣士「何だろうな。でも……流石に、な」
女剣士「もう随分……会ってない、しな」
船長「……そう、か」
女剣士「側近とか使用人にとっては、実感無いのかもしれないけどさ」
女剣士「一年、二年とか、って」
女剣士「けど……アタシ達は、アタシは、違う」
女剣士「人間と魔族の差、って奴、やっと、ちょっと解った気がするんだ」

470: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「……お前が良いなら、良いさ」
女剣士「随分……色々あったな」
船長「…… ……」
女剣士「なあ、船長」
船長「ん?」
女剣士「ちょっと相談があるんだけどな」
船長「ああ……だが先に出港したい。後でも良いか?」
女剣士「何時でも良いよ。んじゃアタシも、娘を拾いに行ってくる」
船長「ああ……舵は俺が取る。寝でもしたらこっちへ来てくれ」
女剣士「ああ」スタスタ

カチャ、パタン

女剣士「えっと、娘、は……と」スタスタ
娘「きゃー!」
海賊「む、娘ちゃん、もうそろそろ……」ハァハァ
女剣士「……まだやってんのか」
女剣士「おーい、娘!そろそろバターになっちまうよ、お前」
娘「だいじょぶ!」
女剣士「海賊もしんどいってさ。それに船が出るよ」
女剣士「船室に戻らないと、落っこちちゃうぞ」
海賊「た、助かりました……」
女剣士「お疲れ……魔法使い知らねぇ?」
海賊「さあ……こっちには来てねぇっすよ」
女剣士「そっか、サンキュ……ほら、娘おいで」
娘「んー……」ゴシゴシ
女剣士「疲れて眠くなったか?」
娘「だっこー……」
女剣士「はいはい」ダキ
娘「……」ウトウト……ポテ
海賊「子供って凄いっすねぇ……」
女剣士「ん?」

471: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
海賊「チャージした体力、全部使い切って一気に燃料切れて寝るっていう……」
女剣士「ははは。止まらないからなぁ」
海賊「寝かしてきましょうか?」
女剣士「……がっしり捕まえられてるから良いよ。アンタも休んできなよ」
海賊「すんません。じゃあ……遠慮無く」
女剣士「さて、アタシらも早く中に入るか、娘」
娘(スゥスゥ)

シュッパツダー!
アイアイサー!

女剣士「…… ……」
女剣士「側近……」
女剣士「…… ……」スタスタ

……
………
…………

側近「はっくしょん!」
使用人「風邪ですか」
側近「……魔族って風邪引くのかね」
使用人「どうでしょうねぇ」
側近「……もうすぐ、一年だな」
使用人「…… ……」
側近「そんな顔すんなよ」
使用人「見えてないのに何言ってんですか」
側近「何となく解るよ……船長、間に合えば良いが」
使用人「待てない、んですか。来るまで……」
側近「何回目だよその話……」
使用人「……」

472: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「もうすぐ三歳だ、ぎりぎりだろ」
使用人「……です、けど」
側近「この間も話しただろう。三歳の誕生日まで、だ」
側近「……連れて行くぐらい、大丈夫だ。願えば叶う」
側近「魔王様の目の力……俺の中の残照とやらを使えば」
使用人「……」
側近「港街に着けば、どうにでもなる。誰か、居る」
側近「……勇者様が無事に、人として……成長さえ、してくれれば」
使用人「……もう、誰にも氏んで欲しくないだけです」
側近「それも何度も話しただろう?」
側近「俺は、もうそろそろ寿命が来てもおかしく無いんだって」
使用人「……」
側近「お前には授けるだけの『知』を授けただろう」
使用人「……『知を受け継ぐ者』に私を無理矢理据える気ですか、やはり」
側近「無理矢理じゃネェだろ? ……魔王様は、お前を見据えて言ったんだろ」
側近「それに、盗賊と鍛冶師に『王』を押しつけようとしたお前が言うな」ハハ
使用人「……それを言われるとぐうの音も出ません」
側近「『側近』の名を受け継ぐのを拒否しただけで」
側近「その役目はもう、お前に譲ったんだよ、使用人ちゃん」
側近「相応しいのさ。充分に」
使用人「……」
側近「一人じゃ寂しいか?」
使用人「そういう問題じゃありません!」
側近「……城を。魔王様を……守ってくれ」
側近「俺は……勇者様を守る。だから……」

パタパタパタ……バタン!

使い魔「申し訳ありません、側近様、使用人様!」
側近「どうした?」
使い魔「……船が、見えます!」
使用人「!!」
側近「馬車を用意しろ。すぐにだ」ガタン
側近「使用人ちゃん、勇者様はまだ眠ってるな?」
使用人「は、はい」
側近「良し、じゃあ……起こさない様に連れてきてくれ」
使用人「え、でも、船長さんが此処に着く迄は……」
側近「こっちから出向く方が早い」
使用人「!」

473: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「……剣も忘れるなよ」
使用人「私も、行きます」
側近「へ?」
使用人「貴方は目が見えないんですよ、側近様」
使用人「……剣も勇者様も持たせては、不安です」
側近「寂しいなら寂しいって……」
使用人「違いますってば!」
側近「……悪い。じゃあ、頼む」
側近「馬車も、城に戻さないと行けないしな」
使用人「……そうですよ」
使い魔「ば、馬車でしたら僕が……」
側近「しぃ……」
使い魔「…… ……」
側近「そこは、察するところ」
使い魔「も、申し訳ありません」
使用人「違います! ……とにかく、勇者様をお連れします」
使用人「側近様、手を」
側近「ん?」ス……
使用人「……勇者様の、剣です」
側近「……ん」ギュ
使用人「使い魔、側近様を連れて先に城門へ」
使用人「……すぐに、行きます」スタスタ

パタン

側近「……頼んだぞ、使い魔」
使い魔「はい?」
側近「使用人ちゃん、多分泣いちゃうから」
使い魔「使用人様、お強いでは無いですか。まさか……」

474: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「解ってないねぇ。女の子だよ?」
側近「……ついこの間まで、ただの人間の女の子だったんだよ」
使い魔「……泣き顔なんか見たら、ぶっとばされませんか」
側近「まあ、そこは責任持たないけど」
使い魔「そんな……行きましょう」スタスタ
側近「……おう、掴まらせてくれな」スタスタ
側近「使用人ちゃんには、結局全部押しつけちゃったからなぁ」
側近「…… ……」
使い魔「……側近様?」
側近「……何でもネェよ」

パタパタパタ

側近「お、来たか」
使い魔「はい。勇者様、起きてますよ」
側近「え!?」
使い魔「一緒に走ってきました」
使用人「すみません、起きちゃったみたいで」
勇者「そっきん、ぼく、ふねにのるの!?」
側近「お、おお……まあな」
勇者「どこいくの!?どこいくの!?」
側近「嬉しそうだなぁ……そうだな。ここから、ちょっとばかし遠い国だ」
側近「俺も一緒に行くからな」
勇者「うん!」
使用人「……ほら、勇者様。マントを……海の上は、冷えますから」
側近「良し、馬車に乗り込め。入れ違いになると面倒だ」
勇者「ぼく、しようにんのひざのうえ!」
使用人「はいはい。ちゃんと掴まってて下さいね」
使い魔「……では、出します!」

カラカラ……

側近「……」
使用人「……」
勇者「ねえ、そっきん、うみって、あのうみ!?」
勇者「まえにはなしてくれた、あの、うみ!?」

475: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「あんまり喋ると舌噛むぞ……ああ、そうだよ」
側近「青くて、広いでっかい海だ。船に乗ってな」
側近「……遠い街まで、行くのさ」
勇者「たのしみ!」
使用人「……勇者様、ちゃんと側近様の言う事を聞いて下さいね」
使用人「あんまり、我が儘言っちゃ駄目ですよ」
勇者「……しようにんは、いかないの?」
使用人「私には城を守る義務があります。ですが……」
勇者「……い、かないの……?」
使用人「そんな悲しそうな顔をしないで下さい、勇者様」
使用人「私は、ずっとあの城に居ますから。何時でも、会おうと思えば、会えますから」
勇者「……でも」
使用人「じゃあ、お約束、しましょう」
勇者「やくそく?」
使用人「はい。お約束……必ず、戻って来て下さい。会いに来て下さい」
使用人「……お友達、連れて。ね?」
勇者「……うん!」
使用人「美味しいお茶と、美味しいフランボワーズケーキ、ご用意して」
使用人「……待ってます、から」
勇者「うん!うん!やくそく!ね!」
使用人「…… ……はい」
側近「そろそろ、か?」
使用人「はい……誰か歩いてきますね……船長です」
側近「良し、止めろ!」

カラカラ……カラ……

使用人「勇者様、掴まって……よい、しょ」
勇者「あ、うん……っと」
側近「…… ……」

タタタ

船長「使用人……! ……その、ガキが勇者、か……」
勇者「……」ジロジロ
使用人「勇者様、船長さん、です。こんにちは、は?」

476: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
勇者「こん、にちは……」
船長「おう。こんにちは……娘と同じぐらい、か?」
使用人「そうですね……殆ど、同じに産まれた、と」
使用人「……言って、良いのだと思います」
側近「ある程度の話は聞いてるみたいだな」
船長「新しい王様から、な」
使用人「! ……では……!」
船長「お前さんの願いは叶った、てこった……使用人」
使用人「……魔王様の願い、ですね」
側近「『欠片』が一つ、か」
側近「……話は船でしよう。ほら、勇者様……行くぞ」
勇者「う、うん……!」
勇者「しようにん!またあとでね!」スタスタ
側近「あ、待って、手、手!」スタスタ
船長「……側近が一緒に行くのか」
使用人「女剣士さんは喜びますね……会える距離が近くなって」
使用人「港街に居るのですか?」
船長「否、結局……あれからずっと船に居てくれてるんだ」
船長「……ガキだガキだと思ってたが……頭があがらねぇよ」
使用人「そうですか……」
船長「側近……暫く見ない内に、老けたな」
使用人「…… ……彼の、魔族としての寿命は……もう」
船長「……それで早急に、か」
船長「やれやれ、ぶっとばしてきた甲斐があった……と」
船長「思って良いんだろうな」
使用人「間に合って良かったです。三歳になれば」
使用人「勇者様を連れて港街へ飛ぶと……仰ってました、から」
船長「転移石、まだあったのか」

477: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
使用人「いいえ……身の内にあるだろう、魔王様の目の残照で、と」
船長「……やばくないか、そんな事すりゃ」
使用人「ええ。ですから……助かりました」
船長「……アンタはどうするんだ」
使用人「私には、魔王様を守る義務があります。ですから……」
船長「……そんで赤い目してるのか」
使用人「ちょっと擦っちゃっただけです」
船長「……先に乗せちまって良かったのか」
使用人「約束しましたから」
船長「『またあとで』?」
使用人「…… ……はい」
船長「何かあれば、すぐに手紙寄越せよ」
船長「……一方通行だが、今までもちゃんと届いてる」
使用人「……はい。ありがとうございます」
海賊「船長、これ、荷物どうします!?」
船長「おう。馬車に積み込んでやれ」
使用人「え?」
船長「頼まれてたモンだ。勇者のだろうってのは、船に残してある」
船長「娘がやたらめったら花の苗を買いやがったからな」
使用人「……ありがとうございます」
船長「おう。代価は……側近から貰えば良いな」
使用人「あ、いえ……こちらでお支払いします」ジャラ
船長「え……おいおいおいおい。随分多いぞ」
使用人「二人分の渡航代も入ってます」
船長「それでも、だよ」
使用人「残りは側近様にお渡し下さい」
使用人「……詳しくは、側近様がお話しすると思いますが」
使用人「側近様……視力を失われています」
船長「!?」
使用人「……港街に着いたら、色々不便もおかけすると思いますが」
船長「……いや、行き先は始まりの街だ」
使用人「え?」
船長「こっちからも様子を知らせられると良いんだがな」

478: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
使用人「いえ、それは……」
船長「今は王政のあの街の方が、過ごしやすいだろう。それに」
船長「……あそこには、エルフの加護がある」
使用人「あ……!」
船長「『勇者』が育つには打って付けだろう」
使用人「…… ……ありがとうございます」
船長「俺に言うこっちゃネェだろ」
船長「……積み込みも終わったな。行くぜ」
使用人「勇者様を……宜しくお願い致します」
船長「心配すんな。世界を救う勇者様だ……無事に、港街に送り届けるさ」
使用人「……はい」
船長「じゃあな……元気で」
使用人「はい。また……です、船長さん」

スタスタ

使用人「…… ……」

フネヲダスゾー!
ジュンビハイイカ、ヤロウドモー!
アイアイサー!

使用人「…… ……」
勇者「しようにーん!」
使用人「! 勇者様、そんなに甲板から身を乗り出したら、危ない……!」
勇者「ぼく、ぜったいかえってくるからねー!」
勇者「なかまと、いっしょにもどってくるから!」
勇者「だから、またあとでー!」
使用人「勇者様……」
勇者「やくそくだからー!だから……」
勇者「いってきまーす!」
使用人「……いって、らっしゃい。勇者様……」ポロポロ
勇者「ばいばーい!!」

ボオオォ……

使用人「お気をつけて、勇者様……」
使用人「…… ……」グイ。ゴシゴシ
使い魔「あの……使用人様……」
使用人「……城に戻りましょう……あ」
使用人「随分……一杯ありますね、花の苗」
使い魔「……」
使用人「戻ったら、植えてやらないと。手伝って下さいね?」
使い魔「は、はい!」

480: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
……
………
…………

女剣士「側近!」
側近「よう……その声、女剣士か」
女剣士「え?」
側近「勇者様は?」
女剣士「娘と遊んでるよ、操舵室で走り回って船長がキレてたけど」
側近「はは……そうか。そりゃ良かった」
女剣士「……みんな吃驚してたよ」
側近「ん?」
女剣士「金の髪に、金の瞳……あんな神々しい子供、見た事無い、て」
側近「……目立つ、んだろうな」
女剣士「側近……目が、見えないって本当だったんだな」
側近「船長から聞いたのか」
女剣士「ああ……後、航路が落ち着いたら皆で話そうって言ってたから」
女剣士「迎えに来たんだ……食堂まで行こう」
側近「ああ……しかし」
女剣士「子供達は大丈夫だ。海賊達が遊んでてくれる」
側近「そうか……助かる」
側近「……始まりの街に行くんだってな?」
女剣士「ああ。盗賊と鍛冶師が居るからな」
側近「お前達もある程度……知識があると思って良い、んだよな?」
女剣士「うん。使用人があの二人に話した位は、かな」
側近「重畳……」
女剣士「あ、そこ柱……!」
側近「え? ……ッ」ゴン!
側近「……いってぇ」
女剣士「ご、ごめん……」
側近「あー大丈夫大丈夫……悪いけど、手、繋いで貰って良い?」
女剣士「え!?あ、うん!喜んで!」ギュ
側近「なんだそりゃ」ハハ

481: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
女剣士「…… ……」ギュ
側近「老けただろ、俺」
女剣士「え!?」
側近「使用人ちゃんに言われたんだよ。急激に老けた、てな」
側近「何でも、勇者の剣に光が増えた、とかな」
女剣士「光……」
側近「まあ、ゆっくり話すよ ……ん?」
女剣士「魔法使い!」
魔法使い「…… ……」
側近「足音がすると思ったら。久しぶりだな」
魔法使い「……お前、目見えてない、ってマジ?」
側近「おう。マジ。だから……ほれ」ブンブン
側近「なれて無いから、手繋いで貰わないとな」
魔法使い「…… ……」
側近「これから話し合い、するけど。お前は来ないの?」
魔法使い「俺には関係ネェよ」
女剣士「魔法使い……」
魔法使い「……なあ」
側近「ん?」
魔法使い「何で、そこまで他人の為に必氏になれるんだ?」
魔法使い「……何で、怒らないんだよ」
側近「何で、て言われてもなぁ……」
魔法使い「そりゃ、勇者とやらに罪はネェ……んだろうけどさ」
魔法使い「視力奪われて、さ…… ……ッ」
女剣士「…… ……」
魔法使い「厭にならネェのか!?」
魔法使い「こんな、こんな目に……ッ て、むかつかネェのかよ!!」
側近「魔王様だからなぁ。仕方無いだろ」
魔法使い「投げ出したくならネェの!?なるだろ!?」
側近「……じゃあ、なんでお前、まだ船に乗ってんの?」
魔法使い「……ッ お前に、関係ねぇだろ!」タタタ……
女剣士「あ、おい……!」

482: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「……気持ちは解る、けどね」フゥ
女剣士「側近?」
側近「んや、何でもねぇよ……船長んとこ、急ごうぜ」

……
………
…………

船長「じゃあ……本当に見えてないのか」
側近「ああ。話したとおり、だ」
側近「……あの後、勇者様が産まれ……うーん、まあ、産まれた時には」
側近「もう、な……」
女剣士「その、老けだしたってのは……」
側近「使用人ちゃんも気がついたのは……話したとおり」
側近「急激だったから、って言ってたが」
船長「『王』と言う欠片がはまったから、か」
側近「……こじつけな様な気もするけどな」
女剣士「明確な時期がわからないからな……つっても、なあ」
側近「パズルが目の前にある訳じゃないからな」
船長「もう一回聞いても良いか?」
側近「おう。『揃った』」
側近「『生と氏』『特異点』『王』『拾う者』」
側近「『受け入れる者』『表裏一体』『欠片』」
側近「『知を受け継ぐ者』『光と闇』『勇者と魔王』」
女剣士「揃った、てのが……『生と氏』だって言ってたな」
側近「多分、だ。女海賊の氏、娘の生」
側近「そして……勇者様の生。魔王様の氏。『勇者と魔王』も消えるな」
船長「『光と闇』にも当てはまる」
船長「で……『王』か」
側近「『知を受け継ぐ者』 ……は、使用人ちゃんだ」
女剣士「『表裏一体』てのもじゃないか?」

483: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
女剣士「……て言うかその後のがさっぱりわかんねぇな」
側近「『欠片』だってわかんねぇんだよ。飛び出していった『アレ』の事なのか」
側近「この言葉の全てを『欠片』と取って良いのか……前にも」
側近「使用人ちゃんと同じような話はしたがな」
船長「……考えても仕方無い、な。それで答えが出る様なモンじゃなさそうだ」
船長「剣に光が……と言うのも同じ、か」
側近「それについては一つ聞きたい事があるんだが」
船長「南の島の魔法の鉱石の話、だな」
側近「何だ、知って……ああ、そうか」
側近「……使用人ちゃんだな」
船長「ああ。盗賊達から聞いた」
側近「鍛冶師はキラキラしてたんだろうな」ハハ
女剣士「……でも、女海賊が怪我した、んだろう。そこで」
船長「……そうだ。あいつらが持って来た地図が……あ」
船長「見えなかったな……すまん」
側近「否、気にするな……場所が同じだったとすれば」
側近「もう一度、と言いたいが?」

484: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
おひるごはーん

485: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「俺たちは逃げ帰った、のさ」
船長「三つ頭の化け物が居た。剣も……魔法も、大して効かなかった」
側近「三つ頭……」
船長「お前さんだと解らんがな、俺たち三人じゃ歯も立たんかったよ」
側近「成る程な…… 解った。それも保留にしておこう」
女剣士「良いのか?」
側近「……この剣は勇者様のものだ。必要とあれば、勇者様が行けば良い」
女剣士「え!?」
側近「その……魔物も倒せない程度じゃ、魔王様を倒す事なんて」
側近「到底できねぇよ」
女剣士「そ、そりゃそうだろうけど……」
側近「してやれる事はしてやりたいが、な」
側近「あいつが……そうだなぁ。勇者として旅立つ頃まで」
側近「俺が無事でいれるかどうかなんかわかんねぇしな」
女剣士「……!」
船長「おい。女剣士」
女剣士「え?」
船長「……さっきの話、側近にしてみたらどうだ」
側近「ん?」
女剣士「アタシ……側近と一緒に、始まりの街で船を下りようと思ってるんだ」
側近「お前……」
女剣士「あ!勘違いするなよ! ……そりゃ、一緒に、てのが」
女剣士「無いとは言わない。言わないけど」
女剣士「……船長にも、一緒に鍛冶師と盗賊を説得して貰うつもりなんだ」
側近「……?」
船長「ちなみに、俺も女剣士の話には賛成だ」
女剣士「始まりの街に、城が出来ただろう。て、事は」
女剣士「それを守る……騎士みたいな奴ら、必要じゃないかなって」
側近「!」
女剣士「盗賊達の事だから、アタシなんかが言い出す前に考えてるかもしれないけど」

486: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
女剣士「もし、まだ考えられてないのなら、進言してみても良いかなって」
女剣士「で、もし……もう、案が出ていれば、アタシは志願するつもりなんだ」
側近「女剣士……」
女剣士「アタシはもう、北の街には帰れない」
女剣士「だけど……そりゃ、アンタほど強くは無いけれど」
女剣士「それでも、街の人や王様達を守る一段に入る位は可能だろうと思うんだ」
船長「女剣士の腕はお前も知ってるんだろ?」
船長「海の魔物退治に随分協力して貰ったからな。俺は充分だろうと思うよ」
側近「……成る程な。そっか……そうだな」
側近「自分で決めたんだな?」
女剣士「うん」
側近「……うん。良いと思うよ。できれば、勇者に剣を教えてやって欲しい」
側近「俺はもう目も見えない……し、ま、そもそもそっちは本職じゃないしな」
側近「しかし娘はどうするんだ?」
側近「随分、お前になついてるんだろ?」
女剣士「アタシはお母さんじゃないし、一緒に降りるのはアタシは良いけど」
女剣士「娘本人が嫌がると思うよ」
船長「俺はどっちでも良いさ。娘がしたい方にすれば良い」
女剣士「それに……さっきも言ったけど」
女剣士「お母さん、海の女、て奴だろ?」
船長「…… ……」
側近「…… ……」
女剣士「てか、それはアタシが娘に聞く事じゃない」
女剣士「お父さんの役目。だろ?」
船長「……ああ」
側近「随分……」
女剣士「ん?」
側近「いや……随分。うん、そうだな」
側近「大人になったなぁ……」
女剣士「惚れ直した?」
側近「……ああ」
女剣士「え、え!?」
側近「聞いといて照れるなよ」

487: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
女剣士「え、あ、いや、うん……あの」

バタバタバタ……
コラ、マテオマエラ!

バターン!

魔法使い「待てってば!」
勇者「やーだよ!」
娘「まほうつかい、おそーい!」
側近「おっと……」
女剣士「こらこらこら、甲板以外で走り回っちゃ駄目って言ったろ!」
娘「だって、うごいてるあいだはだめっていうもーん」
女剣士「だからって部屋の中でおっかけっこするんじゃないの!」
魔法使い「こ、こいつら、すばしっこい……」ゼェゼェ
女剣士「あー、もう。ほら、あっちでおやつ貰おう、ね?」
勇者「おやつ!」
娘「おやつ!おやつ!」
女剣士「手洗ってからね!ちゃんと洗える人!」
娘「はーい!」
勇者「あ、は、はーい!」
女剣士「良し!じゃあ、二人とも着いておいで」
女剣士「走っちゃ駄目だよ!」スタスタ

パタン
キャッキャッ

側近「……」
船長「……」
魔法使い「……」
側近「生きてるか?」
魔法使い「水、くれ……」

488: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「子供の順応力ってのはすげぇな……ほらよ、水」
魔法使い「おう……サンキュ」
側近「…… ……良いのか。女剣士下ろして」
船長「本人が望んだ事だ。それに、あいつはそもそも海賊じゃネェよ」
魔法使い「始まりの街の騎士に、て話か……」
船長「聞いたのか」
魔法使い「ちらっとな……娘は、どうするんだ」
船長「…… ……あれの母親も海賊だ。それに、俺の娘だ」
魔法使い「!」
船長「……海賊は、海に生きるモンさ」
魔法使い「……フン。好きにしたら良いさ」
船長「女剣士が居なくなったら、皆で娘の面倒を見ないといけないな」
魔法使い「そりゃそうだろ。まだまだガキんちょ何だから」
船長「……頼むぞ、魔法使い」
魔法使い「何で俺が!」
船長「お前も海賊だろう。この船の。降りないと決めたのはお前自身だろ」
魔法使い「…… ……」
側近「……」
魔法使い「……側近」
側近「ん?」
魔法使い「さっき、悪かったな」スタスタ
側近「いや?」
船長「どこ行くんだ」
魔法使い「見張りだよ。これからは女剣士に頼れないだろ」
魔法使い「精々こき使われてやるよ、船長」

パタン

側近「……お前ら、もしかしてアレからずっと喧嘩してたのか?」

489: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「喧嘩って訳じゃネェだろ」
側近「……あいつ、女海賊に惚れてたのか?」
船長「さあな。だが……蟠りがあって当然だろう」
側近「……随分嬉しそうってか……すっきりした声してたジャネェか」
船長「そうか?」
側近「目が見えなくなってから、そういうの結構敏感になってね」
船長「…… ……」
側近「お前は……ふっきれたのか」
船長「……二人とも、氏んじまったからな」
船長「本来なら……母親に似てきた、と思うべき何だろうな」
側近「俺には、見えないから解らないけどな」
船長「…… ……」
側近「でも、お前の娘だ」
船長「……ああ」
側近「それは、愛だろ?」
船長「…… ……ああ」
船長「何だったんだ?」
側近「ん?」
船長「魔法使いが悪かったな、て……奴だ」
側近「ああ……まあ、他人の為にそこまでして、振り回されて」
側近「それで良いのか、てさ」
船長「……鍛冶師と盗賊も言ってたな」
船長「運命に踊らされているみたいだ、てな」
側近「……『拒否権のない選択を受け入れ、美しい世界を守り、魔王を倒す者』」
船長「?」
側近「『我が名は、勇者』『光に導かれし運命の子』」
側近「『闇に抱かれし運命の子』『汝の名は、魔王』」
側近「『途切れる事無く回り続ける、表裏一体の運命の輪』」
側近「『腐った世界の腐った不条理を断ち切らんとする者』」

490: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「魔王の言葉、か」
側近「ああ……全貌を紐解く事は、俺らには多分……出来んよ」
側近「確かに、踊らされてるのかもしれないがな」
側近「……俺の意思は、魔王様の意思だ」
船長「人と魔の違い……か?」
側近「個々の、だな。何もどれも一括りには出来ん」
船長「人に取っても、魔族に取っても……魔王が、意思もなく」
船長「この世界を滅ぼそうとするのは、阻止せねばならん」
側近「そうだな……」
船長「勇者に……『魔王』を倒す『勇者』に未来を託すために」
側近「……未来を守る為に」
船長「出来る事を無条件でしてやりたい、と思うのが『親』だな」
側近「俺は親じゃ無いけどねぇ……」
船長「勇者にとりゃ、親みたいなモンだろ」
側近「何。俺お父さん?使用人ちゃんはお母さんか……」
側近「……聞かれたらぶっ飛ばされそう」
船長「ははは!」
側近「何大笑いしてんだよ……」
船長「お前達はそういう関係じゃ無かったのか?」
側近「違うなぁ……同士、かな」
船長「……使用人も、魔王に惹かれてた?」
側近「俺も、みたいな言い方しないでくれる」
側近「あれも愛、だろうけどな。でも所謂男女の愛、じゃネェさ」
船長「姫も、女も……まあ、勇者様と考えれば、な」
船長「仕方ねぇんだろうけど、よ……」
側近「姫様のもちょっと違うと思うけどな」
側近「でも愛の形も千差万別。コレ、て決まってる訳じゃネェからな」
船長「……わかんないねぇ」
側近「俺もだよ」

491: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「……お前と、愛について語る日が来るとはな」
側近「俺も吃驚だよ」
船長「さて……始まりの街に着くまで、まだ暫く掛かる」
船長「船の中は自由に使え……この季節だと、一年は掛からずに着くだろう」
側近「そうか……」
船長「娘と遊んでりゃ、あっと言う間だと思うけどな」

コンコン

船長「はい?」
女剣士「船長、側近は……ああ、居た居た」
側近「女剣士か、どうした?」
女剣士「ずっと船の中も退屈だろう。娘との遊びに勇者も入れてやって良いかと」
女剣士「思ってさ」
側近「遊び?」
船長「丁度良いじゃネェか……まあ、遊びって言う名の剣の稽古、だな」
側近「お。そりゃ願っても無いね」
女剣士「娘用の小さい木刀もあるしな。側近が良いなら、一緒にやるよ」
側近「おう。是非是非頼むぜ。そろそろ体力もつけないとな」
女剣士「良し、じゃあ早速だ!邪魔したな!」

パタン

船長「お前も、遠慮無く何でもいえよ?」
船長「その目じゃ不便じゃネェことが寧ろ無いだろ」
側近「んじゃ、海賊一人貸してくれねぇ?」
船長「おう、適当にその辺のとっ捕まえていきゃ良い」
側近「この船には確か書庫があっただろう」
船長「……? あ、ああ……だが」
側近「借りて良いんだろ?読んで貰うさ」

492: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
船長「そ、そりゃ構わネェが……」
船長「……とりあえず、じゃあ書庫まで連れて行ってやるよ」
側近「おう、頼むぜ」
船長(側近に読み聞かせ……想像したら噴き出しそうだな)

……
………
…………

盗賊「あ……おい、鍛冶師知らないか?」
男「鍛冶師様は王子様を連れて、庭で遊んでましたよ」
盗賊「そうか……じゃあ良い。ありがとう」
男「それより盗賊様。魔導の街の使者が来てます」
盗賊「又かよ!用件は?」
男「直通の船がどうとか……」
盗賊「却下!船は全て要の港のある港街を通す以外は認めない」
盗賊「そう伝えて追い返せ」
男「は! ……それから、騎士団の件ですが」
盗賊「あー…何?」
男「街の人達からの嘆願書です」
盗賊「嘆願書!?」
男「街への出入りが激しくなって、人も物も情報も入ってきますから」
男「……魔王復活の噂がある以上、王を守る者は必要だと」
男「騎士団設立を願う声と、志願書、ですね」ドサ
盗賊「うわ……ッ こ、こんなに!?」
男「全て目を通して下さいね。では」スタスタ
盗賊「……こ、こういうのは鍛冶師に……あ……ッ」
盗賊「アタシがやらなきゃ行けない、んだ、よな……ッ 解ってる、けど!」

493: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
盗賊「……ハァ」パラパラ

バタン!

盗賊「何……ッ」
王子「おかあさま!」パタパタ
盗賊「あ、ああ王子か……鍛冶師は?」
王子「ふねー!」
盗賊「船?」
王子「うん!こっち、こっち!」グイグイ
盗賊「え、ちょっとちょっと、アタシが此処を離れる訳に……」
王子「ほら!みて!」
盗賊「バルコニーか……ん? ……!あの船、は……!」

ザワザワザワ……
ワアアアアアアアアアアアアアアアアア!

盗賊「な、何の騒ぎ……」

バタバタバタ……バタン!

男「失礼します、盗賊様!」
盗賊「何だ何だ!?」
男「……ッ ゆ、勇者様が現れました!」
盗賊「! ……落ち着け、勇者と名乗る者が現れた、のか?」
男「あ……ッ いえ、その……」
男「……船長様の船から、金の髪に金の瞳を持つ男の子を連れた者が……」
盗賊「!」
男「……街の者は、口々に……光の子だの、勇者様だの……と」
盗賊「……鍛冶師が港に向かったはずだが」
男「は……ッ」
盗賊「共に戻れば、通せ。後の者は皆下がれ!」
男「は!」

494: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
盗賊「…… ……」
王子「おかあさま?」
盗賊「ん?ああ……大丈夫。お友達がね……来るんだ」
王子「おともだち?」
盗賊「そう……お友達。ほら、こっちおいで」
王子「あそぶ?」
盗賊「ああ、そうだね……一緒に遊べるな。お兄ちゃんだよ、王子の」
王子「おにーちゃん!」

バタン!

鍛冶師「王子!」
王子「おとうさま!おにいちゃんは!?」
側近「よう、久しぶりだな」
勇者「そっきん、あかちゃんがいるよ!」
側近「……赤ちゃん、か?」
盗賊「赤ちゃんっていうにはもう大きいな」
女剣士「大きくなったなぁ……」
盗賊「女剣士!」

ボーォオオウ……

盗賊「……汽笛?」
女剣士「船長と魔法使いは、もう行ったよ」
盗賊「え!?」
側近「王城に海賊なんて出入りするもんじゃネェ、んだってよ」
盗賊「娘は?」
女剣士「……行っちゃヤダ、て泣いてたけどな……」
側近「勇者とも随分仲良くなってたからな……」
盗賊「……そう、か……ん?あれ、て事は……お前は?女剣士……」

495: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
女剣士「えっと……」キョロ
盗賊「人払いはした。心配すんな」
鍛冶師「……良し、上の部屋で遊んでおいで、王子」
側近「勇者、一緒に行きな……面倒見てやれよ」
勇者「うん!えっと……おうじ?いこ!」
王子「うん!」

タタタ……

女剣士「船長にも一緒に説得して貰うつもりだったんだけどな」
女剣士「……盗賊、この城の騎士団を作るつもりは、無いか?」
盗賊「!」
鍛冶師「話ってそれか……」
盗賊「聞いてたのか?」
鍛冶師「いや、街の人に囲まれたからね。勇者の見かけがあれじゃ……」
側近「……魔王様の復活がどうとか、聞こえたな」
盗賊「ああ……この街も出入りが激しくなったからな」
盗賊「噂も……良くも悪くも色々入ってくるんだ」
鍛冶師「魔王が復活して、世界を滅ぼそうとしている」
鍛冶師「……人が増えたからかも知れないが、魔物の目撃情報も増えてるんだ」
鍛冶師「それも、噂に拍車をかけてる」
側近「成る程ね……」
盗賊「これを見てくれ」バサッ
女剣士「うわ、何この紙の束……」
盗賊「……騎士団設立の、嘆願書と志願書」ハァ
女剣士「……わーぉ」ペラペラ
側近「俺たちが言い出す迄も無かった、か」
盗賊「しかしな……今、そんな資金が出てこないんだ」
盗賊「給料は愚か、兵舎なんかも作ってやれないんだ」

496: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
鍛冶師「……でも、逆に今しか無いんじゃないかな」
盗賊「え?」
鍛冶師「勇者を見た皆の様子をちらっとだけど見たけど……」
鍛冶師「……言い方は悪いが、利用させて貰ったら良いんじゃないかな」
側近「成る程な」
盗賊「え?え?」
側近「勇者は……まあ、見るからに神々しい、んだろう」
側近「その不穏な噂を利用して、最初は無給、もしくはただギリギリ、出せる分だけ、で」
側近「それでも良いならって交渉すれば良い」
盗賊「……お前、簡単に言うなぁ。見ろよその束……志願者だけでも凄い数なんだぞ?」
側近「そうなのか?」
女剣士「まあ……相当の数だな」
盗賊「? ……側近、お前」
側近「ああ、悪い。俺……目見えてないんだわ」
盗賊「え!?」
鍛冶師「え!?」
側近「……お前ら仲良いな」
女剣士「ふぅん……志願者の方はどうにかなるんじゃないか?」
盗賊「ん?」
女剣士「船で船長にも聞いたけど、この島の魔物は随分弱いんだろう?」
女剣士「その魔物に勝てる奴は一杯居るだろうが……」
女剣士「アタシは、北の街の出身だ。自分は強いって驕る気は無いけど」
女剣士「ここらで魔物を倒して満足してる奴よりかは、腕が立つと思う」
盗賊「ま、まあ……そりゃそうだろうな」
側近「それは俺も保証するよ。随分前だが一緒に戦闘した経験もあるしな」
側近「船長も言ってた。海の魔物を退治するにも、随分助けて貰ったってな」
鍛冶師「選出を任せても良い、て事……で良いのかな」
女剣士「ああ。アタシで良いなら、だが」
盗賊「そりゃ助かる……が、兵舎はどうすんだよそんな土地も、資金も……」
側近「強制にしなきゃ良い。城に開いている場所があれば」
側近「狭くても寝具だけぶちこみゃ良いんじゃないか?」
側近「基本この島の住人に限れば、その問題も解決するだろう」
盗賊「……ふむ」

497: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
鍛冶師「そうだな。仕事はこの街と城を守る事、だからな」
鍛冶師「……それなら、どうにかなる」
側近「さっき鍛冶師が言った通り、当分無給に近ければどうにかなるだろう?」
側近「……勇者の噂が広がれば、街に噂も人も、金も集まってくる」
盗賊「しかし……」
側近「ただでさえ、この街の世話になるつもりで来たんだ。それぐらい利用してくれて構わん」
側近「……俺がこんな状態で、何時どうなるかもわからん以上、どうせ守って貰わにゃならん」
盗賊「……え?」
鍛冶師「…… ……」
側近「老けたろ?俺……ま、詳しい話は後でな」
盗賊「アタシ達、一応さ」
側近「ん?」
盗賊「……この、城の横の細い道を上った先にある丘……の中程に」
盗賊「小さな小屋を建てておいたんだ」
盗賊「……お前の見た目は、時を重ねても変わらないだろう」
側近「…… ……」
盗賊「お前か使用人か解らなかったからな。勇者が大きくなるまで」
盗賊「この街で過ごすと言うのなら……人目に付かない方が良いと思ってな」
側近「そうか……なら、尚更だ。良い様に利用しろ」
側近「そこまでして貰って、アレは駄目コレは駄目、なんて言えないよ」
女剣士「……アタシは、騎士団に入れて貰えるのなら何だってする」
女剣士「盗賊達も、側近も勇者も、守ってみせる」
盗賊「女剣士……」
鍛冶師「盗賊」
盗賊「……女剣士。お前には、騎士団初代団長の地位を与える」
女剣士「え!?」
盗賊「今の段階では、どれほど腕の立つ奴が居ようとお前には敵わないだろ?」
盗賊「城の一室を使え。すぐに整えさせる……けど」
盗賊「……期待はすんなよ」
女剣士「アタシは……飯食わせてくれりゃ、給金なんていらねぇよ」
鍛冶師「女剣士?」
女剣士「……充分だ。守りたい者を守れる。それだけで良い」
盗賊「…… ……解った。足りない物があればすぐに言えよ?」
女剣士「ああ」

498: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
盗賊「……女剣士、悪いがそこの階段を上がって、王子と勇者を呼んできてくれ」
女剣士「え?ああ……」スタスタ
盗賊「鍛冶師、城の者を集めろ」
鍛冶師「OK」スタスタ
側近「……すっかり王様らしくなったな」
盗賊「アタシはそんな器じゃないって言ってんのにな」
側近「そんな事ないさ。見えなくても解る」
盗賊「……アタシは、う……」
側近「『運命に踊らされてるみたい』?」
盗賊「…… ……ああ」
側近「存分に踊ってやれよ。舞台があって、じっとしてる方がもったいないぜ」
盗賊「側近……」
側近「……もし、俺に何かあれば、勇者様を頼む」
盗賊「…… ……ああ」

トントン……

王子「おかあさま?」
勇者「そっきん、どうしたの?」
女剣士「呼んできたぞ」
側近「…… ……」スタスタ
側近「勇者様」ガシ
勇者「え? ……な、なに」
側近「いや……『勇者』」
勇者「……は、はい!」
側近「お前は、光に導かれし、運命の子……勇者だ」
勇者「ゆ、うしゃ」
側近「そうだ。今、魔王が世界を滅ぼそうとしている」
側近「……それを、阻止できる……止められるのは、お前だけなんだ。勇者」
勇者「ぼく……だけ……?」
側近「……そうだ。その為には、強くならなければいけない」
側近「皆を、街を、世界を……お前が、守るんだ」
勇者「ぼくが……まもる……」
盗賊「……」
女剣士「……」

499: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「……大丈夫だ。お前なら出来る」
側近「俺も、女剣士も……ここに居る王様も、皆お前の味方だ」
側近「だから、強くなれ。最強の剣となれ」
側近「世界を守るんだ、勇者」
勇者「……うん!ぼく、つよくなる!」
勇者「しようにんとも、やくそくした。いつか、かえるって」
側近「…… ……ああ」
勇者「しようにん、とおいところにいるんでしょう?」
勇者「あいにいけるぐらい、つよくなる!」
側近「うん…… ……そうだな」
女剣士「明日から特訓だな、勇者」
勇者「うん!がんばる!」

コンコン

鍛冶師「集めたぞ、盗賊」
盗賊「良く聞け!ここに居るこの、光の子供は、魔王を倒すべく産まれた勇者だ!」

ザワザワザワ……!

盗賊「我が国は、この勇者を保護する事とする!」
盗賊「これを持って我が国の騎士団の設立を同時に宣言する!」

ザワザワザワ……!

盗賊「だが、恥ずかしい話、この国はできたての弱小国に過ぎない」
盗賊「資金も乏しいと言って過言では無い」
盗賊「……街の人や、皆からの嘆願書も読んだ」
盗賊「勝手な話だが、志願した者に充分な給金を出す余裕が無い」

500: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
盗賊「それでもと思う者は集え!ただし、この国に住居を構える者のみに」
盗賊「志願資格を与えるものとする」
盗賊「……そしてその中から、この騎士団長、女剣士の認めた者のみ」
盗賊「騎士団への入団を許可する者とする」

ザワザワザワ……!
ダレダアイツ、ミタコトナイゾ……!

女剣士「お、おい……!?」
側近「し……ッ」
女剣士「お前、何ニヤニヤしてんだよ……!」
鍛冶師「……」クスクス

盗賊「静かに!」

シー………ン

盗賊「……以上、街に向けて宣言を出してくれ」
盗賊「ああ、それから勇者は確かに保護するが、その確かな居所は内密とし」
盗賊「口外する事は相成らん。良いな!」

アレガ、ユウシャ……サマ?
シカシ、タシカニコウゴウシイ……
キンノカミニ、キンノヒトミ……
ヒカリ……ヒカリノカゴ?
ヒソヒソ……
ガヤガヤ……

盗賊「解散!」

501: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
ザワザワ……
ヒソヒソ……

パタン

女剣士「……」ポカーン
側近「……」クック
王子「おかあさま、かっこういい!」
鍛冶師「ねー」クスクス
勇者「すごー……い……」
側近「そうだな」クックック
盗賊「……何時まで笑ってるんだよ」
勇者「ひと、いっぱいいた……!」
側近「そっち!?」
女剣士「おいおいおい、あんな事言って良いのかよ!?」
盗賊「ん?」
側近「良いんじゃないの、秘密は知りたいと思うのが真理だし」
側近「条件としちゃ、甘い位だと思うけどなぁ?」
女剣士「ち、違う違う!そうじゃなくて!」
女剣士「いきなり知りもしない女が騎士団長って……!」
盗賊「ああ、なんだそんな事か」
盗賊「そこは、実力でなんとかしてくれ。それこそ甘い条件だろ?」
側近「……食えない女だなぁ」
鍛冶師「だろ? ……僕よりよっぽど王様に相応しいよ」
盗賊「さて、じゃあ小屋に案内しようか」
盗賊「積もる話は夜にして、少し休んでくれ」
鍛冶師「女剣士もおいで。部屋を用意させてるから」
鍛冶師「そこを見たら少し……街を案内するよ」
女剣士「あ、ああ……」
鍛冶師「盗賊、そっちは任せたよ」
盗賊「おう。お互い様」スタスタ
側近「勇者、手繋いで?」
勇者「うん」
鍛冶師「王子は僕と一緒に来るかい?」
王子「ゆ、ゆうしゃといっしょにいってもいい?」

502: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
鍛冶師「うん、行っておいで……じゃあ、盗賊、宜しく」
盗賊「あいよ」

パタン

鍛冶師「……何時まで口開けてんの。行くよ」スタスタ
女剣士「いや、その……ねぇ」スタスタ
鍛冶師「……今、盗賊達が行った方」
女剣士「え?」
鍛冶師「小屋までの途中に、小さな物置が設置してある」
鍛冶師「……そこに、勇者達の食料や、衣料品を届けるのは」
女剣士「アタシの役目、って言いたいのか」
鍛冶師「ああ。今の段階で……勇者が人目に触れる事は正直、メリットの方が」
鍛冶師「大きいと思う。目で見た物は信じるしかないのが人間だろ?」
女剣士「……」
鍛冶師「だけど、何年経っても見た目が変わらない側近を人前にさらす訳には、ね」
鍛冶師「……勇者が産まれたって噂は、あっと言う間に世界中に広がるだろう」
鍛冶師「利用しようと言う者だって、出てこないとは限らない」
女剣士「……ああ」
鍛冶師「その存在を明らかにする必要はあるが、さっき盗賊が言ったとおり」
鍛冶師「居所の詳細は……知らすべきじゃ無いと思う」
女剣士「…… ……」
鍛冶師「実力の件は勿論、疑っては居ないけど」
鍛冶師「今のところ、色んな意味で……君以上の人材は居ないんだ」
女剣士「……解ってる」
鍛冶師「まあ、でも本当に期待してるよ」
鍛冶師「……対魔族だけ……とは、限らないしね」
女剣士「え?」
鍛冶師「人同士の争いの可能性をさ……100%否定できるとは言えないだろ?」
鍛冶師「僕らは厭でも『支配する側』なんだ」
女剣士「……ああ」

キィ

鍛冶師「良し……取りあえず、一杯やりますか。飲めるだろ?」

503: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
女剣士「街の案内じゃないのかよ」
鍛冶師「小さい街だ。すぐに終わる……あっちが、宿。あの奥が……」

タタタ……

鍛冶師「ん?」
女「あの!お城の方ですよね?」
女剣士「この人は……ッ」ムグッ
鍛冶師「お城の方に用事?」
女剣士「……ッ」ドンドン……ップハ!
女「あ……御免なさい、お城から出ていらっしゃったので……」
鍛冶師「いえいえ……貴女は、どこから?」
女「先日、船で観光に来ました。先ほど、港で……光の様な子供を見たと聞いたので」
女「勇者様がこの街にいらっしゃったと聞いたので……!」
女「是非……この、お花を!」
女剣士「……可愛い」
鍛冶師「摘んできたの?」
女「は、はい。川辺に、綺麗に咲いていたので……」
鍛冶師「ありがとう。僕は会えるかどうかわかんないけど……お城の人に渡しておくよ」
女「ありがとうございます!あ……!」
女「勇者様に……光の子、万歳!」

バンザイ……ヒカリノコ……
バンザイ!ユウシャサマ、バンザイ!
ユウシャサマ、バンザーイ!
ユウシャサマ、バンザーイ!

ユウシャサマ、バンザーイ!

女剣士「…… ……」
鍛冶師「…… ……」
女「勇者様、万歳!」
鍛冶師「……飲みに入ろう。ね?」
女剣士「……ああ」

504: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
……
………
…………

側近「……街の方が随分騒がしいな」
盗賊「勇者様フィーバーだろうさ」
勇者「ふぃーばー?」
盗賊「……しかし良く聞こえるな」
側近「目が見えない分、だろうな」
勇者「…… ……」ウトウト
盗賊「眠いのか?」
勇者「ん……」
側近「布団入れ、寝て良いから」
盗賊「疲れた、んだろう」
側近「……当てられたんだろ。立派な王様の姿に」
盗賊「やめろよ……」
王子「ぼくも……」コテ
盗賊「おいおい……抱えて帰るのかよ……」
側近「ん? ……ああ、何だ。王子も寝たか?」
盗賊「いきなり燃料切れになるからな」
側近「子供はそんなもんだろう」
盗賊「……アタシや鍛冶師はあんまり城を開ける訳には行かないからな」
側近「そりゃそうだろう。あの城は誰でも入れるんだろ?」
盗賊「ああ。これからまた、志願だのなんだので煩くなるだろうしな」
側近「…… ……ま、仕方無いな」
盗賊「女剣士にも場所は教えておく。ちょこちょこ顔出して貰う様にするから」
盗賊「何かあれば言ってくれよ」
側近「ああ……あ、そうだ、これ」ジャラ
盗賊「…… ……何のつもりだ」
側近「当面の宿代にするつもりだったんだがな。預けておく」
盗賊「いや、しかし……」
側近「使い道は好きにしろ。余れば返してくれれば良い」
盗賊「側近!」
側近「……勇者の為に使う事も多いはずだ。俺にはもう、必要ない……し」
側近「使おうと思っても、俺はここから離れるのも侭ならん」
側近「やる、って言ったって受け取らないだろ?」
側近「……だから、預けておく」
盗賊「…… ……解った」
側近「使い道は……本当に、任せるから」
盗賊「阿呆……着服なんかしねぇよ」
側近「ハハ!」

505: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
盗賊「…… ……女剣士は」
側近「ん? ……俺とは、何の関係にも無いぞ?」
盗賊「そうなのか? ……随分、大人になったもんだ」
側近「そうだな……俺も驚いた」
盗賊「……言おうかどうしようか、迷ってたんだがな」
側近「ん?」
盗賊「……魔導の街との、約束の五年がもうすぐなんだ」
側近「もう、そんなになるのか」
盗賊「金銭面での押さえはきかなくなる。アタシが王に着いた事で」
盗賊「事情を知る者故の押さえにはなると思うんだが」
盗賊「……勇者の件を知れば何か企むかもしれん」
側近「何か動きがあるのか?」
盗賊「否……今のところ、そういうのは無いんだがな」
側近「……覚えとくよ」
盗賊「ああ……さて」
盗賊「……これ、抱えて帰るしかないかぁ……やっぱり」
側近「盗賊」
盗賊「ん?」
側近「…… ……もし、俺に何かあったら」
盗賊「…… ……心配すんな。そんなこと」
側近「……ああ」
盗賊「よ、いしょ……重ッ」
側近「なあ……」
盗賊「何だ?」
側近「勇者は……そんなに、神々しいのか」
盗賊「顔は……魔王にそっくりだぜ」
盗賊「髪や瞳の色が違うだけで、こんなに印象が違うモンなんだな」
側近「……そっか。引き留めて悪かったな」

506: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
盗賊「いや……しかし本当に一人で大丈夫か?」
側近「場所に慣れればどうにでもなる。勇者も居るしな」
盗賊「ああ……本当に、何かあったらすぐ言えよ!」
側近「サンキュ……お休み」
盗賊「おやすみ……またな」パタン
側近「……」
側近(ここが……壁……いち、にい……)ソロソロ
側近(こっち、が……)トン
側近(扉。で…… ……いち、にい……)フニ
側近(……ふに?)
勇者「うーん」
側近(……)フニフニ
側近「……勇者の手か」
側近(小さい手だ…… ……俺は、見る事は叶わん)
側近(思い出すな、魔王様が……産まれた時の事)
側近(……昔話、か)
側近(……良い。もう、良いんだ。全て……使用人ちゃんに与えた)ストン
勇者「そ、っきん……」
側近「ここに居る」ポンポン
勇者(スウスウ)
側近「…… ……運命に導かれし光の子、か」
側近(……昔話、だ。もう)

……
………
…………

使用人「で、何のお話です……昔話って」
側近「それより、俺の作ったフランボワーズ、どう?」
使用人「美味しいですよ? ……魔王様のには、及びませんけど」
側近「あ……そう……糞、あいつは本当に魔王かよ」
使用人「ケーキの話、ですか?昔話って……」

507: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「阿呆か、違うわ」
側近「……俺が、まだ人間だった頃の話、だ」
使用人「…… ……」
側近「姫様も眠った。魔王様も……だ」
側近「俺と使用人ちゃん、二人っきりだし?愛でも語る方が良い?」
使用人「貴方には女剣士さんが居るでしょう」
側近「……やめてくれよ。俺にそんな気はネェって……」
使用人「じゃあ、ふざけてないで話して下さい」
使用人「……『側近』の名以外の全てを譲る……魔王様とチェスやら将棋やら」
使用人「オセロやらに興じている時に、いってらしたアレの一端、のつもりなのでしょう」
側近「……本当に、優秀だねぇ使用人ちゃんは」
使用人「……褒められてる、んですよね?」
側近「間違い無く、ね」
側近「……でも、愛を語る、も間違いじゃないんだぜ」
使用人「え?」
側近「俺が知る限り、愛って言えば、アレなんだ」
使用人「……?」
側近「前魔王様と、后様……あれこそが、愛、なんだ」
使用人「…… ……」
側近「……俺が産まれたのは、今はもう大海の大渦の底の小さな島だ」
側近「小さな街に小さな城。仲間と一緒に……旅立ってすぐ。先代様に沈められた街」
側近「今はもう、地図からも消えちまった……美しい島」
側近「そこで出会った勇者になるだろうと言われた剣士と、俺と……魔法使いの三人の」
側近「……弱い人間の下らない昔話さ」
使用人「…… ……」
側近「聞くか?」
使用人「勿論です。側近様の……名以外の全ては、私が『受け継ぎ』ます」
側近「……ああ。ありがとう。安心して逝ける」
使用人「まだ早いです!」
側近「怒るなよ……さて、どこから話そうかな」

508: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
側近「俺は……僧侶だった。それからさっきも言った剣士と、魔法使い」
側近「若いだけの、無鉄砲な……ちょっとばかし腕に覚えがあっただけの三人組」
側近「ある日、王様に呼ばれてさ。こんな話をされたんだ」

……
………
…………

王「良く来た、勇者達よ……そうかしこまる必要は無い、面を上げよ」
剣士「は……」
魔法使い「は、はい!」
僧侶「……はい」
王「魔王が力をつけだして久しい。以前勇者と呼ばれた者が旅立ってからも同じく、じゃ」
剣士「聞いております。勇者と呼ばれた若者が……帰る事は無かったと」
魔法使い「魔王は大変好戦的で、この人の世を支配せんと、恐怖を振りまこうとしていると」
僧侶「そして……その凶悪な爪が、今正に振り下ろされんとしていると」
王「今日そなた達ををここへ呼んだのは……分かるな?」
剣士「……必ずや、魔王を倒してごらんに入れます」
魔法使い「旅立ちを許して頂いた名誉にかけて、必ず……!」
僧侶「今度こそ、本当の勇者、と呼ばれる為に!」
剣士「世界の平和の為に!」
王「うむ……頼んだぞ、選ばれし者達よ!」

……
………
…………

側近「……ここから、始まるんだ。物語は……ここから」

509: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:QrtmNKDvP
魔王「私が勇者になる……だと?」

おしまい

勇者「俺に魔王になれ……と言うのか!」

に、続きます

513: 2013/07/03(水) NY:AN:NY.AN ID:5rNlevSY0
乙!!
おもしろかった

引用: 魔王「私が勇者になる……だと?」 【3】