440: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP

前回:勇者「俺に魔王になれ……と言うのか!」【2】
魔王「あ、ああ……俺は大丈夫だけど……」チラ
后「お腹……すいた」
魔王「え……気分悪く無いのか?」
魔導将軍「もうぺっこぺこだわ!」
側近「俺もー」
魔王「……悪い。すぐに準備してやってくれるか」
使用人「はい」クスクス

……
………
…………

盗賊「で、この島が……」
弟王子「はい」

バタバタバタ……!

盗賊「ん?」
女剣士「失礼します、王様!」

バタンッ

女剣士「! ……ッ これは、弟王子様……ッ」
弟王子「大丈夫ですよ、今は僕とお母様しか居ません」
盗賊「どうした?」
女剣士「……各地で、魔物の弱体化が報告されている」
盗賊「……何?」
女剣士「南の洞窟の警備隊からも、交戦中だった海の魔物が……」
女剣士「……剣も通さない硬い鱗を持つ魔物が……魔力の切れた魔法隊の杖の一打で」
女剣士「……絶命した、と」
盗賊「な……!?」
女剣士「数も徐々にだが、減って行っている様だ」
弟王子「では……勇者様達が!」
盗賊「早まるな、弟王子。まだ……わからん」
女剣士「可能性は高いと思う……が」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

441: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
盗賊「ああ……多分、間違いは無いだろう。無いと思いたい、が……!」
女剣士「…… ……」
盗賊「事が事、だからな。慎重になるべきだろう。鍛治師は?」
女剣士「研究室だろう」
弟王子「では、僕が呼んで来ますよ」
盗賊「いや……あ、うん」
弟王子「?」
盗賊「……何時迄も過保護にしていても仕方ない。頼めるか」
弟王子「はい!」スタスタ、パタン
女剣士「今迄……城内どころか、部屋から余り出なかったもんな」
盗賊「あいつの立場を考えるとな」
盗賊「……全て伝えて、先を委ねる事も考えたが……」
女剣士「親バカ」クス
盗賊「……否定はしないさ」
盗賊「だが……間違えては居なかったと思いたい。勇者が……魔王を倒したのだとすれば」
盗賊「尚更、な」

442: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
女剣士「ああ……そうだな」
盗賊「お前、時間はあるのか?」
女剣士「バタバタはしているんだ。本当に報告が相次いでいるからな」
女剣士「……まあ、悲鳴を上げたいのは私じゃ無くて、対応に追われてる事務方と騎士達だろうが」
盗賊「……じゃあ、弟王子と鍛治師が戻れば急ぎ対策を立てよう」
女剣士「弟王子も?」
盗賊「ああ……今も地図を広げて」
盗賊「……情勢を説明してた所さ。誰に似たんだか……頭良くて助かるよ」
女剣士「なら……先に始めていてくれ」
女剣士「なるべく、状況を正確に把握したいだろう。ちょっと戻ってくる」
盗賊「解った……頼む」
女剣士「ああ」

スタスタ……パタン

盗賊「…… ……」
盗賊「勇者……そうか」フゥ
盗賊(喜ばなくてはいけない。アタシ達は……だが)
盗賊(……複雑だ。勇者は、魔王。魔王は……勇者)
盗賊(……早く、戻れよ、勇者)

443: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
働いてきます!

448: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
……
………
…………

弟王子(ええと……お父様の研究室は)キョロキョロ

ドン!

弟王子「あ、ごめんなさい!」
女「申し訳ありません」
弟王子「いえ、僕が前見て無かったから……」
女「何かをお探しのご様子ですが……私で宜しければ、ご案内致しますが」
弟王子「あ……え、と……鍛治師……様、の研究室を探してるんですが」
女「ああ、この先の一番奥の扉です」
弟王子「ありがとうございます!良かった……」
女「新しい研究員の方ですか」
弟王子「いえ……そう言う訳では……」
弟王子(言わない方が良い……んだよね)
弟王子(お母様に……余り人目につくなと言われているし)
弟王子「すみません、足を止めてしまって。それじゃ」ペコ……パタパタ
女(…… ……)ガサ
女(……似ている。人相書きでは限度もあるが……)
女(面差しは父親似か……鍛治師の顔は確認したし)
女(城から、どころか部屋から余り出ないと言われているらしいが……)
女(……あの階段から降りてきた。あれは玉座の間に続いたはず)
女(多分……間違いないな)
女(……城が一般人の立ち入り自由なのは助かったが……さて)
女(どうやって近づくかな)

449: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
女(……盗賊や鍛治師と違い)
女(警戒が足りないな、弟王子)フフ
女(……しかし、王族と言うだけで)
女(優れた加護も持たないだろう、劣等種……何故、私が……ッ)
女(……勇者の方が良かったが、仕方が無い)
女(御しやすくはありそうだ……さて、長居は無用。策を練る……か)

450: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
スタスタ……ピタ
女「…… ……」クル、スタスタ…
女(……何を話しているのか)

弟王子「……と、女剣士が」
鍛治師「本当に!?」

女(ん……聞こえにくい、な……)

弟王子「ですが、お母様が焦っては、と……」
鍛治師「……そうだね。油断は禁物だ。それで……戻れと?」
弟王子「はい」
鍛治師「そうか……本当なら、嬉しい話……なんだ、よな」
弟王子「お父様……?」
鍛治師「……否。僕達は喜ばなくてはいけない、んだ」
鍛治師「魔王が……勇者に倒された、なら……」

女(……!)
女(勇者が……魔王を倒した!?)
女(……否、確定では無いのか……しかし)
女(彼が……弟王子だという確証は得た。収穫はあり、だな)
女(…… ……)

タタタ……

451: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
仕事おわた!
また明日!

453: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
と、思ったけど少しだけ

454: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
鍛冶師「ん…… ……」
弟王子「? お父さ……」
鍛冶師「シッ」
弟王子「…… ……」
鍛冶師「気のせい、だったら良いけど」
弟王子「??」
鍛冶師「……否、足音が聞こえたからね」
弟王子「え……」
鍛冶師「本当に……喜ぶ事態であれば、良いんだけど」ハァ
弟王子「…… ……?」
鍛冶師「まあ、良い。盗賊の所に戻ろう」
弟王子「は、はい……あの、僕……」
鍛冶師「気にしないで良いよ。お前は時期が来れば……王になる」
鍛冶師「確かに、盗賊が言う様に警戒は必要だ。色々な問題については……」
鍛冶師「……そろそろ。知って良いかもしれない」
弟王子「……」
鍛冶師「そんな、怯えた様な顔しなくていいよ」
鍛冶師「聞いた上で、判断するのはお前だ。何時までも僕たちの影に」
鍛冶師「隠れている訳にも行かないんだから」
弟王子「……はい!」
鍛冶師「ん。でも気張りすぎない様にね。お前が望むなら」
鍛冶師「僕たちは何時だって、お前を助ける」
弟王子「はい、お父様……!」
鍛冶師「さ、行こう。女剣士も待ってる」

……
………
…………

女剣士「以上が、現状の報告だな」
盗賊「……判断に足りると言えばそうだし、足りないと言えば……それもまた、だな」
女剣士「増えてくるのだろうと予測は出来る……が」

カチャ

455: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
鍛冶師「待たせたね、盗賊、女剣士」
盗賊「人払いは済ませてある。弟王子、お前も座りなさい」
弟王子「え、でも……」
盗賊「お前の意見も聞きたいんだ」
弟王子「……はい!」
鍛冶師「……で、何だって?」
盗賊「世界中の魔物の弱体化、だ。鍛冶師……数も減ってるが」
盗賊「……どう見る?」
鍛冶師「勇者が魔王を倒したか、か」
女剣士「そうだ。これからも同様の報告は増えるだろうと予想される……し」
女剣士「……旅人の目撃例もある。『勇者様が本懐を遂げたのだろう』と」
女剣士「……喜ぶ声も、な」
鍛冶師「噂は……怖いな。あっと言う間に広がるだろう」
弟王子「ええと……それは、広がると困る、のですか」
盗賊「もしそうで無かった時の落胆が怖いんだよ。上がって落ちた絶望程」
盗賊「怖い物はない……だろう」
弟王子「……そう、ですね」
女剣士「先走って、王が宣言を出すには慎重にならざるを得ない……が」
女剣士「決め手には欠けるんだ。勇者が戻れば何よりなんだが……」
弟王子「で、でも……何れは戻られる、のでは?」
鍛冶師「……世の中に『絶対』は無いんだ、弟王子」
弟王子「…… ……」
盗賊「しかしな……どこかで決断は下さなきゃいけない、んだ」
女剣士「……噂が広がるのは時間の問題だろうな」
女剣士「お祭り騒ぎは結構、だが……」
弟王子「お祭り……」
鍛冶師「ん?」

456: 2013/07/24(水) NY:AN:NY.AN ID:ehXPaQcJP
弟王子「……何も言わず、式典など開くのはどうでしょう」
女剣士「式典?」
弟王子「はい。そうですね……闘技大会なんて、どうでしょうか」
盗賊「闘技大会……」
弟王子「それで勇者様の魔王討伐の噂が消えるとは思いませんが」
弟王子「何食わぬ顔して、開くんです」
弟王子「そうすれば……気は、逸らせます」
女剣士「しかし、それでは……勇者の帰還を祝う様ではないか?」
弟王子「人々は勘違いします。その間に知らせが届けば、勇者様が戻れば」
弟王子「それで良し。宣言も出来るかもしれません」
鍛冶師「時間稼ぎか」
弟王子「何も無ければ……そうですね。建国祭、とかでも良いのでは」
盗賊「建国祭か……まあ、確かに何もしていなかった、がな」
鍛冶師「盗賊、そういうの苦手だもんね」
弟王子「建国祭であれば、『未だ魔王討伐を叶える為に頑張る勇者様を讃えて』と」
弟王子「名目は着けられますよ」
盗賊「……成る程な」
鍛冶師「今年で丁度……ん、何年だっけ」
盗賊「否、何年でも良いさ……何より」
女剣士「『面白そうだ』?」
盗賊「勇者が旅立ってそろそろ一年だ。キリは良いかもな」
鍛冶師「期待と不安は表裏一体だしね」
女剣士「……表裏一体、ね」
弟王子「……やはり、甘い……でしょう、か」
盗賊「否。詰める必要はあるが……考えて見よう」
盗賊「ありがとう、弟王子」
弟王子「あ、いえ……その…… ……嬉しい、です。お役に、立てるかもしれない、なら」

460: 2013/07/25(木) NY:AN:NY.AN ID:rcEOLLPQP
ドウモ( ・∀・)っ旦
電車で書けるだけー

462: 2013/07/25(木) NY:AN:NY.AN ID:rcEOLLPQP
盗賊「闘技大会、か……」
女剣士「騎士団の関係者は参加できんな」
弟王子「え……何故です?」
女剣士「大会を催そうとするなら、周辺警備は必要だろう。救護班、審判もな」
女剣士「審判が騎士であれば、公平を期す為に、な」
鍛治師「家族なんかが出場しちゃうと、ね」
盗賊「表立っての文句は出ないかもしれんが、徹底しておくに越した事はないな」

463: 2013/07/25(木) NY:AN:NY.AN ID:rcEOLLPQP
弟王子「あ……成る程……」
鍛治師「ささやかな賞金ぐらいは用意すべきだな」
女剣士「まあ、金が一番無難だろうな」
盗賊「……あんまり出せないぞ」
鍛治師「ま、話題になれば街も潤う。投資だと思えば良いだろう」
女剣士「建国際とするには時期は微妙だな……さっきの」
女剣士「『勇者を讃えて』的なので良いんじゃないかな」
盗賊「そうだな。国の祭りと称するには準備ももっと……必然的に大掛かりになる」
盗賊「鍛治師、先に触れを出してしまおう」
弟王子「え!?」
盗賊「魔物が弱ってきてるのは、勇者が頑張ってるから、て事に違いは無い。嘘でもない」
女剣士「……では、騎士を集めるか」
弟王子「え、え!?」

464: 2013/07/25(木) NY:AN:NY.AN ID:rcEOLLPQP
盗賊「開催時期は決めておかないとな」
盗賊「すぐにはどっちみち無理さ」
女剣士「……盗賊、一つ頼みがある」
盗賊「ん?」
女剣士「前哨戦と称して、一勝負させてくれないか?」
鍛治師「ああ、それは良いね。騎士同士の勝負なんてなかなか目にする機会も無いし」

466: 2013/07/25(木) NY:AN:NY.AN ID:rcEOLLPQP
鍛冶師「……盗賊?」
盗賊「うん。良いんじゃないか?」
盗賊「ただ、メンバーはどうする。一人か?」
女剣士「トーナメント式にしようと思う。ある程度人数は絞っておくが……」
女剣士「勝ち抜いた一人と、私が戦おうかな」
弟王子「それも『公平性』ですか」
女剣士「そうだな。旨を伝え、我こそはと思う者、と」
盗賊「……なら、賭けでもするか。祭りの……そうだな。前夜祭って事で」
鍛冶師「王様自ら賭け事認めるの?」
盗賊「今回限り、さ。しかも『公式』なんだ」
盗賊「……逆に、盛り上がると思わねぇ?」
鍛冶師「まあ……隠れてされるなら、寧ろ堂々とってのは」
鍛冶師「…… ……まあ、良いか」ハァ
盗賊「どうせならパァッとやろうぜ」
女剣士「不正を防ぐにはまあ、良いかもしれないな」
弟王子「……あ、の」
女剣士「ん?」
弟王子「兄さんは……」
女剣士「希望するなら参加させるが……実力で勝ち上がって来ない事には」
女剣士「私にもどうにも出来ないよ」
弟王子「そう、ですよね」ホッ
盗賊「……なんだ?」
弟王子「いえ。どうせなら正々堂々と、『強い兄さん』を見たいですから」
鍛冶師「うん。僕もだよ」
鍛冶師「……盗賊は、負けた王子を見ると、げらげら笑いそうだよね」
盗賊「当たり前だろ。お前弱いな!って大笑いしてやるけど?」
女剣士「……良い親を持ったな、弟王子」
弟王子「え? ……はい。そうですね」
弟王子「流石に……僕は笑いませんけど」
盗賊「笑ってやれば良いんだよ。励みになるさ」
鍛冶師「…… ……いや、それは……どう、かなぁ……」
女剣士「では、私は騎士団に伝えて良いんだな?」

469: 2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN ID:WpcjpFR5P
盗賊「ああ。詳しい日程はもう少し、弟王子と詰めよう」
弟王子「え……あ、あの。僕で良いのですか」
盗賊「当たり前だ」
鍛冶師「決まったらすぐに連絡するよ」
女剣士「頼む……では早速、希望者を募るとするかな」スタスタ

カチャ、パタン

弟王子「……嬉しそうですね、女剣士さん」
鍛冶師「そう……かい?」
弟王子「え?」
盗賊「……嬉しいのさ。あってるよ」
鍛冶師「…… ……」
弟王子「あ、あの……」
盗賊「……アタシ達と同じ気持ちさ。嬉しくて、少し寂しい」
弟王子「寂……しい?」
盗賊「…… ……」
鍛冶師「何時か、ね。お前にも解る時が来ると思うよ」
弟王子「は……はい」
盗賊「さて。準備に……どれぐらい掛かるかな」
盗賊「決定から開催日まで……今の状態だと余り伸ばさない方が良いだろうな」
鍛冶師「そうだな。まあ……スペースの確保ぐらいか」
弟王子「騎士団の演習場は如何です?」
鍛冶師「屋内か……見物人を入れる事を考えたらちょっと手狭だな」
盗賊「城の庭で良いんじゃないか?狭い事に変わりは無いが」
盗賊「何も頃し合いをする訳じゃ無いからな」
弟王子「ルールも決めないといけませんね」
盗賊「ルールか……そうだな。魔導の街のアレを参考にさせてもらうか」
鍛冶師「ああ……そういえばあの街もそういう大会、やってたね」

470: 2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN ID:WpcjpFR5P
電車でかけたら後ほど!

471: 2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN ID:WpcjpFR5P
盗賊「致命傷に繋がる攻撃や、急所への攻撃は禁止、とか」
鍛治師「騎士に審判やらすなら、まあ……そこは大丈夫だと思いたいけど」
鍛治師「周りの人に被害行かない様にしないとなぁ」
弟王子「的を作るのは如何ですか?」
盗賊「的?」
弟王子「身体に……そうですね。風船とか印を着けて、壊されたら負け」
弟王子「ちょっと緊迫感には欠けますけど……」
鍛治師「成る程ね。まあ、攻撃魔法や剣だって当てに行くものだしね」
盗賊「物理攻撃する奴には模造刀使わせるか」
鍛治師「魔法は威力絞って当てれば問題ないな」
盗賊「風船はちょっと可愛い過ぎるが……」
弟王子「す、すみません」
鍛治師「いやいや、発想は悪くないよ」
鍛治師「プレートに何か印を着けたら良いだろう。防御にもなる」

472: 2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN ID:WpcjpFR5P
盗賊「それで行くか」
鍛治師「後は細かい調整だなぁ……前哨戦は良いけど、何人位になるかにもよるなぁ」
盗賊「現状そのまま情報出して良いだろ?」
鍛治師「へ?」
弟王子「現状、確認しながら……街の人達、楽しめる、て事ですか」
盗賊「そういう事」
鍛治師「まあ……まあ、良いか」ハァ
盗賊「出場者の募集は登録所にやらせよう。騎士の管理やらは女剣士に任せるから」
盗賊「騎士団で女剣士に挑みたい奴募集中って情報も含めて」
盗賊「うまい事頼むよ、鍛治師」
鍛治師「はいはい……弟王子、手伝ってくれる?」
弟王子「は、はい!喜んで!」

473: 2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN ID:WpcjpFR5P
……
………
…………

女剣士「と、言う訳だ」
騎士「勝ち残った奴が女剣士様と勝負……」ヒソヒソ

オレハヤルゼ!
オレモ!ワタシモ!

女剣士「騎士であれば誰でも構わない。我こそはと言う者は……そうだな。早急で申し訳ないが」
女剣士「三日後迄に名乗り出るが良い!」

オオオオー!

王子「女剣士様、俺は出ます!」
女剣士「ああ。勝ち上がれよ、王子!」
王子「勿論です!」
騎士「私も出ます!王子、負けないわよ!」

カチャ

盗賊「悪いな、邪魔するぜ」
騎士「こ、これは王様!」
女剣士「如何なさいました?」
盗賊「今街全体に触れを出させたところだ」
盗賊「あー、と。騎士はこれで全員じゃないよな?」
女剣士「はい。締め切りは3日後と考えて居ますが……」
盗賊「ああ。構わない……が、まあ、大勢になるだろうしな」
盗賊「祭りは二週間後に決定した」
盗賊「それまでに上位二名を決めてくれ」
盗賊「祭りの前日に女剣士に挑む奴を決める試合を行う」
女剣士「はい」
盗賊「そして当日、闘技大会の前に、前哨戦を行おうと思うが……良いか?」
女剣士「はい!」

474: 2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN ID:WpcjpFR5P
盗賊「城の庭に会場を作ろう。時間を決めて、審判を立て試合で決めてくれ」
盗賊「誰でも見にこれる様にするから、格好悪いところ見せるなよ?」ニヤニヤ
騎士「は、はい!」
盗賊「用事はそれだけだ。邪魔したな」

パタン

騎士「……楽しそうね、王様」
王子「…… ……」
女剣士「王子?」
王子「あ、いえ……」
女剣士「良し、では解散!持ち場に戻れ!」
王子「…… ……」グッ
王子「女剣士様!」
女剣士「なんだ?」
王子「後で、お時間宜しいでしょうか」
女剣士「あ、ああ……では、夕刻、私の部屋に」
王子「ありがとうございます!」
女剣士「……ああ」スタスタ

パタン

475: 2013/07/26(金) NY:AN:NY.AN ID:WpcjpFR5P
騎士「何よ、王子……怪しいな」
王子「変な勘ぐりすんなよ……」
騎士「何の相談よ」
王子「……騎士団長に、勝ったら」
騎士「ん?」
王子「……い、祈り女に、結婚申し込む!」

オオオオ!?
マジデ!?ガンバレヨ!
ソシシテヤル!オレモ!アタシモ!

王子「……負けないからな!」
騎士「尚更全力で行かなくちゃ!」
王子「勿論だ!」
騎士「で、女剣士様に相談?」
王子「一応、結婚の許可貰わないとな。それに……」
騎士「ん?」
王子「全力で、叩き潰す! 」
騎士「宣戦布告?熱いわねぇ」

478: 2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:Kh8M2IefP
王子「真剣なんだよ!」
騎士「……うまくいくと良いわね」
王子「おう」
騎士「ま、勝てたらね?」
王子「……絶対勝つ!!」

……
………
…………

コンコン

后「魔王、入るよ」カチャ
魔王「ああ……」
后「どうしたの?」
魔王「え?」
后「食事の時から、なんか元気無いなあと思ってたからさ」
魔王「……これ、読んでたんだ」
后「ん……小説?」パラ
魔王「古詩、かな……はっきりとじゃないけど……覚えてる」
后「え?」
魔王「まだ俺が小さい頃……紫の瞳の魔王の側近が、聞かせてくれた。何度か……」
后「へぇ……」
魔王「愚図って寝ない時とかさ」
后「ふふ……私にも聞かせてよ」
魔王「……え?読むの?」
后「うん。魔王の声で知りたい」

479: 2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:Kh8M2IefP
魔王「……恥ずかしいんだが」
后「私と魔王しかいないよ」コロン
魔王「……お前、膝の上……」
后「待ってる」
魔王「…… ……」
魔王「『始まりは終わりだった。古の神との忘れらた契約』……」

……
………
…………

船長「……闘技大会?」
海賊「はい。始まりの街でやるんですって」
剣士「国を上げて頃し合いか」
海賊「……いや、ただの試合だから」
船長「んで、それがどうした?」
海賊「船長、出たらどうです?強いんだし」
船長「なら、アタシより剣士だろ。ナァ?」
剣士「……俺は、良い」
船長「何でだよ、このアタシを負かしたんだぜ?お前は」
剣士「正確には勝負はついていないだろう」

カチャ

ジジィ「でっかい声で何話してんだ。廊下まで聞こえておるわ」
海賊「おう、ジジィか……体調大丈夫か」

480: 2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:Kh8M2IefP
ジジィ「何とかな……年には勝てん。すまんが何か飲むものくれんか」
海賊「おう……飯は?」
ジジィ「いらん……すまんな」
剣士「大丈夫なのか」
ジジィ「生きてるだけで丸儲けだ」
剣士「…… ……」
船長「流石に今回はくたばっちまうかと思ったぜ、ジジィ」
ジジィ「熱が引かんかったからな……」
ジジィ(……やはり、見れば見るほど……勇者に似てる、この男)ジィ
剣士「……何だ」
ジジィ「お前さんはやめておけよ、剣士」
剣士「?」
ジジィ「その闘技大会、とやらじゃ」
剣士「……出るつもり等微塵も無い」
船長「何だよ、珍しく弱気な事言うから、たまには心配でもしてやろうかと思ったら」ハァ
船長「しっかり聞き耳立ててんじゃネェか」

481: 2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:Kh8M2IefP
ジジィ「お前の声がデカイからだ、小娘」
ジジィ「……剣士の風貌は嫌でも目立つ。髪はどうにでもなるが……瞳の色は変えられん」
船長「……しかしな、今んとこ行くあても、やる事もネェんだよナァ」
海賊「港街で聞いただけだから、もう終わってるかも知れませんけど」
海賊「行くだけ行ってみます?すぐですし」
ジジィ「……あんまり目立つ事はすんなよ」スタスタ
船長「お前もたまには、気分転換に船降りれば?」
船長「街の近くに不思議な丘があるとか聞いたぜ」
ジジィ「……ありゃ、墓だ」ボソ
剣士「墓?」
ジジィ「…… ……」
ジジィ「面倒だ……部屋で寝てる」パタン
海賊「……ジジィも、長くないのかもなぁ」
剣士「…… ……」
剣士(丘の上の……墓。墓……)ズキッ
船長「剣士?」
剣士「……その、墓とやら」
船長「気になるのか?」
剣士「知って……いる、様な気が」
船長「……記憶の手掛かりになりそう、か?」
剣士「解らん……が」

487: 2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:Kh8M2IefP
船長「良し、んじゃ行くか!」
海賊「船長!?」
船長「目立たない様に、ローブ着て行きゃ大丈夫だろ」
剣士「……しかし」
船長「別に闘技大会に出場する気なんてネェよ」
船長「ま、ほら。デートだと思って、気軽に楽しもうぜ?」
海賊「……本当、剣士には甘いんだからなぁ……」
船長「ほら、さっさと船出せ!」
海賊「あ、アイアイサー!」タタタ

パタン

剣士「お前は我儘だな、船長」
船長「やる事ある時は、いくらお前だって、こんな風にはしネェよ」
剣士「……まあ、な」
船長「良いじゃネェか。たまには」
剣士「…… ……」
剣士(墓……しかし、始まりの大陸?)
剣士(俺は……行った事があるんだろうか)ズキ
剣士「……ッ」
船長「剣士?」
剣士「……見舞いに行く」
船長「は?」

488: 2013/07/27(土) NY:AN:NY.AN ID:Kh8M2IefP
剣士「ジジィの所だ。お前は舵を取るんだろう」
船長「ここから、始まりの大陸迄位…… ……否、良いよ。行ってこい」
船長「邪魔して欲しく無いんだろう」
剣士「……行ってくる」スタスタ

パタン

船長「…… ……」ハァ
船長(『惚れたか』か……糞ジジィめ)
船長(……訳ありに、深入りしても、な。解って……る、さ)

489: 2013/07/28(日) NY:AN:NY.AN ID:sBeF5QKlP
……
………
…………

魔導将軍「ねー側近」バサバサ
側近「んー? ……お前、羽煩い。つか飛ぶな」
魔導将軍「飛行訓練よ。やっと落ちなくなったの!」
側近「……そう言えば何回か壁に激突してたな」
魔導将軍「天井にもね……じゃなくて!」
側近「何だよ」
魔導将軍「魔王と后は毎日毎日、書庫に篭って何やってんのかしらね」
側近「楽しいらしいぜ?后曰く、知識が増えるのは快感なんだとよ」
魔導将軍「いやらしいわね」
側近「お前な……」
魔導将軍「まあ、ね。使用人に聞くだけじゃ、わかんない事も多いわよね」
側近「そりゃな。使用人だって、全てを知ってる訳じゃない」

490: 2013/07/28(日) NY:AN:NY.AN ID:sBeF5QKlP
魔導将軍「……后がね」
側近「ん?」
魔導将軍「『早く魔王の赤ちゃんが欲しいなぁ』なんて、言うのよ」
側近「……複雑だな」
魔導将軍「うん……『魔王の世代交代』が『親頃し』なら」
側近「魔王と后の子は……勇者になる、よな」
魔導将軍「やっぱり……そう考えちゃう、わよね」
側近「わからんけどな。こればっかりは……やってみないと」
魔導将軍「……でも、子供が出来なければ、魔王は多分」
魔導将軍「紫の瞳の魔王と……同じ道を辿る事になる」
側近「……『繰り返される運命の輪』」
魔導将軍「あの言葉って、それを指してるのかしらね」
側近「さあな……まだまだ知らない事が多すぎる」
側近「……全部、は無理でも少しでも多く残してやりたいがな」
魔導将軍「そうね。次期勇者の為に」
側近「ああ……んで、その為には、俺達も頑張って」
側近「軍隊作れる位の子供つくんないとな!」ガバッ
魔導将軍「きゃ……ッ 物みたいに言わないでよ」
側近「んなつもりあると思ってんのかよ」
魔導将軍「……ふふ」チュ

491: 2013/07/28(日) NY:AN:NY.AN ID:sBeF5QKlP
……
………
…………

コンコン

ジジィ「開いてるぞ」

カチャ

剣士「少し……良いか」
ジジィ「お前か……何だ?」
剣士「……お前は、俺を知ってるのか?」
ジジィ「何故、そう思う」
剣士「顔を合わす度、ジロジロ見られれば、な」
剣士「……物珍しいのだと言われれば、それ迄だが」
ジジィ「…… ……」
剣士「俺の瞳は目立つのだろう。それに……墓、と教えてくれたのはお前だ」
ジジィ「逆に聞きたい。その『墓』をお前は……知ってるのか?」
剣士「……俺には記憶が無い。だが……引っかかる事は確かだ」
剣士「お前が……俺を知ってる、のなら」
ジジィ「何でも良いから教えろ、とでも言いたいか」

492: 2013/07/28(日) NY:AN:NY.AN ID:sBeF5QKlP
剣士「……否定はしない」
ジジィ「俺はただの……海賊のジジィ、だ。くたばり損ないのな」
剣士「…… ……」
ジジィ「気になるならその目で確かめろ。空振りに終わっても、マイナスなんぞには」
ジジィ「決してならん」
剣士「……俺は、人間なんだろうか」
ジジィ「何で俺に聞く」
剣士「船長が……お前は、『自称物知り』だと」
ジジィ「本当に……あの小娘は」ハァ
ジジィ「小娘やお前より、ちょっとばかし長く生きてんだ」
ジジィ「知ってる事が多くて当然だろうが」
剣士「…… ……」
ジジィ「役に立てずすまんな」
剣士「……否」
ジジィ「…… ……」
剣士「…… ……」
ジジィ「まだ……なんかあるのか」
剣士「『勇者』とは何者だ」
剣士「魔王を倒す、選ばれた存在なのか。金の髪に金の瞳」
剣士「……光に、選ばれた者だと聞いた」
ジジィ「それこそ、だ。自分の目で確かめれば良い」
剣士「会えるかどうか等……」
ジジィ「『会う事は無い』と思うのか?」
剣士「…… ……」
ジジィ「『魔王を倒さねば』と言ったお前が?」
剣士「……だが」
ジジィ「機会が無いなら作れば良い。本当に必要だと思うのなら」
ジジィ「そうするべき、物だろう」
剣士「……『願えば叶う』?」
ジジィ「小娘にでも聞いたのか」
剣士「…… ……否」
剣士「何となく……出て来ただけだ」
ジジィ「…… ……」
剣士「どこかで……聞いた、んだろうな」

493: 2013/07/28(日) NY:AN:NY.AN ID:sBeF5QKlP
ジジィ「……自分で自分を人で無いと思うのか?」
剣士「……わからん」
ジジィ「ならば……案外それは正解かもしれないな」
剣士「?」
ジジィ「『人間』は自分が『人間』である事に、疑いなど持たないのかもしれん」
ジジィ「……そう思っただけだ。現にお前は……紫の瞳をし」
ジジィ「その……たかだか鋼一本。それを媒介に、様々な属性の魔法を使う」
ジジィ「……疑問に思うても、不思議では無いだろうな」
剣士「…… ……」
ジジィ「……もう良いだろう。横にならせてくれんか」
剣士「……すまん」
ジジィ「…… ……」
剣士「……」スタスタ

パタン

剣士(……俺は……何なのだろう)
剣士(船長に問うた所で……『お前はお前だ』としか帰って来ない)
剣士(何時もの様に……だが)
剣士(それは確かに真実。しかし……)
剣士(俺は……『人間』なのか?)
剣士(……否であれば。俺は……なんだ?)

495: 2013/07/29(月) NY:AN:NY.AN ID:Bz/7a+Q+P
……
………
…………

船長「盛り上がってんナァ」
剣士「…… ……船長」
船長「……解ってる、てば……丘の墓に行くんだろ?」
剣士「試合を見たい気持ちは解るが、余り目立ちたくは無い」
船長「それだけ目深にフード被ってりゃ大丈夫だよ」
船長「知り合いでも居るのか?」
剣士「否……そう言う訳じゃ無いが」
船長「えっと……あ、あそこか」スタスタ
剣士「おい……ッ …… ……」ハァ。スタスタ
船長「お……見ろよ、剣士。意外と本格的だぜ」
剣士「…… 城の騎士同士の試合らしいな」
船長「そうなのか? ……いい勝負だな。互角、か?」
剣士「さっき話してたのが聞こえた。 ……否。男の方が圧倒的に……」
船長「え?でも……あ!」

キィイン!

船長「剣を弾いた……!」

496: 2013/07/29(月) NY:AN:NY.AN ID:Bz/7a+Q+P
審判「そこ迄!武器を離しては続行不可のだ!」
審判「……勝者、王子!」
王子「ッ ……しゃあ!」
騎士「糞ッ ……流石に強いわね……」

船長「ほーう……お前の言う通りだったな」
剣士「……もう良いだろう。行くぞ」

497: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
船長「へいへい……一回街を出るぞ」
剣士「ああ…… ……」チラ

審判「王子は次の戦いへ!敗戦者は救護班の措置を……」
王子「もう少しだ……ッ 騎士団長に、勝って……」チラ
王子「……!? ……ゆ ……ッ !!」

剣士「…… ……?」

王子(……あの顔……勇者!?まさか……ッ)タッ
騎士「王子?どうしたの」
王子「…… ……」
騎士「……?」
王子「……い、や…… ……」
王子(フードの下……見えた顔は……否、しかし……!?)
王子(……あの、顔は。確かに……だが……!)
王子(ちらっと見えた、瞳は…… ……紫!?)
騎士「王子、ってば!」
王子「あ、ああ……悪い……」
王子(……否。見間違い、だろう。紫の瞳なんて、聞いた事が無い)
王子(ましてや、勇者だったら……あいつの瞳は金だった)
王子(……他人の、空似……だ、よ……な)

船長「剣士?」
剣士「……行こう」スタスタ
剣士(あの……王子、と呼ばれた奴……俺の顔を見て、驚いた様な顔をしていた)
剣士(……紫の瞳を見られたか? ……否、あの距離では……)
剣士(…… ……まあ、良い。さっさと、去るに限る)

498: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
……
………
…………

船長「大した魔物にも会わず、まあ……ラッキーだったな」
剣士「お前と一緒だ。心配等」
船長「そりゃ、アタシの台詞……」

ザアアアアアアアアァァ……

船長「……風が気持ちいいな」
剣士「……ああ」
船長「しかし……ちょっと話と違わないか?」
船長「『四季折々の花が枯れずに咲き乱れ』……なんて、さ」
剣士「…… ……」
船長「確かに、綺麗だけど……」
剣士(墓……か。しかし、墓標も何も無い)
剣士(心地よい風が吹く、心地よい場所。 ……その言葉に違いは無い、が)
船長「……剣士?」
剣士「お前に同意、だ。確かに美しい。 ……が」
船長「それだけ、だな。 ……何か、思い出したか?」
剣士「…… ……否。これと言って」
剣士(見覚えがある……訳でも無い)
剣士(……空振り、か)
船長「収穫無し、か」フゥ
剣士「悪かったな、付き合わせて」
船長「別に良いさ。言っただろう?偶にはデートのつもりで、てな」
剣士「…… ……」
剣士(『空振りでも、マイナスにはならん』……それは、そうだが)
船長「…… ……」
船長(心ここにあらず、か)ハァ
剣士「……戻るか。次は何処に行くんだ?」
船長「何処でも。小鳥も来ないし、アテもネェよ」
剣士「……そうか」スタスタ
船長(…… ……現実、てのは……上手くいかネェな)スタスタ

499: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
おはよう!
のんびりー

500: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
……
………
…………

審判「勝者!王子ー!!」
王子「よっしゃああああああ!!」

ワアアアアアアアアアアア!!

審判「明日、騎士団長様に挑む優勝者を決定する試合を行う!」
審判「両者、ゆっくりと身体を休め、明日に備えてくれ!」

ワアアアアア!
オウジー!ガンバレヨー!
オウジニマケルナー!

女剣士「二人ともよく頑張った!」
女剣士「明日の試合後、私と勝負だ……全力で行く!遠慮はいらん!」

ワアアアアアアアアアアアア!

盗賊「王子は順当に勝ち残った、な」
鍛冶師「……変装してまで見に来るって、親ばかだねぇ」
盗賊「お前は人の事全く言えないだろうが」
鍛冶師「ばれちゃう前に戻ろうか」
盗賊「明日は弟王子も連れて、堂々と観戦できるしな」
鍛冶師「……帰ったらもう一度、出場者の名簿に目を通しておくよ」スタスタ
盗賊「ああ。私も騎士達ともう一度安全確認をしておこう」スタスタ

女剣士「では、解散!騎士は持ち場に戻れ!」
王子「はい!」

タタタ……

祈り女「王子様、おめでとうございます」
王子「祈り女!」
祈り女「流石です……お怪我は、ありませんか?」

501: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
王子「ああ、大丈夫だよ」
祈り女「……あ、腕……ッ」
王子「え? ……怪我って言う程じゃ無いさ」
王子「転んだ時に擦り剥いただけだ」
祈り女「……」パァッ
王子「大袈裟だな……ありがとう」
祈り女「明日……頑張って下さいね」
王子「うん…… ……もし、俺が女剣士様に勝ったら、さ」
祈り女「はい?」
王子「…… ……お祝い、しような」
祈り女「勿論です!」
王子「じゃあ、仕事に戻ろう」スタスタ
祈り女「ええ」スタスタ
王子(明日……ッ 絶対に、女剣士に勝つ!)
王子(勝って…… 祈り女に……!!)

ガサ

女(……行った、か)
女(王子の恋人と言うのがあの祈り女と言う女……)
女(……お父様の言う通り、此方は王になる訳でも無い)
女(しかし、予想以上に……王のガードが厳しい)
女(弟王子には中々近づけん……明日、何とか勝ち上がって)
女(……チャンスを作らねば……!)

……
………
…………

側近「魔王、いるか?」コンコン、カチャ
魔王「おう……ってかお前さ、それノックの意味あるの」
側近「さぁ?」
魔王「……別に良いけど。后と魔導将軍は?」

502: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
側近「使用人と庭いじりしてたけど」
魔王「庭いじり?」
側近「……紫の瞳の魔王とお前の戦いで、花が軒並み枯れたからな」
魔王「ああ……まあ、他にやる事も無い、もんな」
側近「帰れる訳でも……無いしな」
魔王「……そう、だな」
側近「お前が帰れば、嘘を吐く事になる」
魔王「まるっきりの嘘じゃ無い。確かに……俺は」
魔王「『勇者』は『魔王』を倒したんだ」
側近「…… ……」
魔王「それだけで終わらなかった、だけだ。『勇者』はもう居ない」
魔王「俺は……勇者は、魔王になっただけ、だ」
側近「『だけ』って形容して良いモンかどうか」ハァ
魔王「……確かに俺は姿形は変わってない」
魔王「后にしたってお前にしたって……見た目は何も変わらない」
側近「……魔導将軍、か」
魔王「ああ……彼女だけ置いて帰る事はできないよ」
魔王「何れ、此処に帰ってくるにしたってな」

503: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
側近「…… ……」
魔王「盗賊や女剣士には申し訳無いけど……何も、言える事なんか無いんだ」
側近「王様や鍛冶師様……騎士団長、は、さ」
側近「知ってたんだろう?全て」
魔王「……ああ。だからこそだ」
側近「そう……だな」
魔王「紫の瞳の魔王の側近を失う事も……あの人達は解ってた」
魔王「だけど……国のため、人の為に。平和の為に」
魔王「……これで、良いんだ」
魔王「使用人に、船長って人に小鳥を飛ばして貰った」
側近「何を頼んだんだ?」
魔王「世界の情勢を教えてくれ、ってな。ついでに花の苗も、とか」
魔王「言ってたよ」
側近「それで庭いじり、か」
魔王「……だろうな」
側近「魔導将軍がな……せめて、羽をしまえればな」
魔王「叶った所で……だ」
魔王「俺達がまた……『人の世界』に顔を出したって、良い結果にはならんだろう」
側近「…… ……」
魔王「俺は……何れ……」
側近「…… ……」

コンコン

后「魔王?」
魔王「どうした?」
后「お茶にしましょうか、て、使用人が」カチャ
后「あ、側近も居たのね」
側近「本読んで、お茶して、飯食って……」
側近「優雅な生活だよな、俺達」
后「仕方無いよ。他に……何もやる事なんか無いもの」

504: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
后「何処に行けるでも、何が出来るでも……」
魔王「……聞いてたのか?」
后「え?」
側近「……考える事は似たり寄ったりだろうよ」ハァ
后「そんな話、をしてたの?」
魔王「魔導将軍は?」
后「使用人を手伝ってる……待ってるから、早く行こう」
后「……考えたって仕方無いんだよ、魔王」
魔王「…… ……」
后「私達の出来る事は、世界を守る事。次代へ『受け継ぐ』事」
側近「『欠片』を探す事……だけど」
側近「この城から、大陸から出れないんじゃ……どうしろ、ってんだよな」
魔王「……だからこそ、次代を育むしか出来ないんだよ」
魔王「この……腐った世界の腐った不条理を押しつけて」
魔王「俺達が出来なかった事を引き継がせて……断ち切らせる、んだ」
后「喜ばなくちゃいけないのよ。私達は」
側近「喜ばなくちゃいけない……か」ハァ
后「ほら、行くよ……魔導将軍、怒っちゃうよ」

……
………
…………

盗賊「皆、良く集まってくれた!」
盗賊「これより、第一回闘技大会を行う!」

ワアアアアアアアアア!!

盗賊「まずは、先日、騎士団から勝ち上がってきた二人の戦いだ!」
盗賊「勝った方には、騎士団長である女剣士と戦って貰う!」
盗賊「……まァ、国民皆の前で無様な負け方しない様に?」
盗賊「挑戦者の二人には頑張って貰いたいもんだ」アハハ!

鍛冶師「……盗賊、一番楽しんでるんじゃ無いかなぁ」
弟王子「兄さん、緊張で凄い顔してますけど……大丈夫でしょうか」
鍛冶師「まあ、大丈夫でしょ。女剣士に勝ったらプロポーズするとか」
鍛冶師「言ったらしいじゃないか」ニヤニヤ
弟王子「……お父様も楽しんでますね」

505: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
盗賊「女剣士に挑む奴が決まったら、準備が終わる迄の間に」
盗賊「どっちが勝つかの賭の申し込みの受付を始めるぞ!」

ウワアアアアアアアアアアア!
ソリャキシダンチョウサマダロ!
イヤイヤ、マダワカラナイゾ……!

弟王子「……ああ、言っちゃった」ハァ
鍛冶師「今更になって、思いとどまると思った?」
弟王子「いいえ……」

盗賊「ま、長ったらしい話はこの辺にしといて、さっさと始めるか!」
盗賊「……王子!炎使い!前へ!」

ワアアアアアアアアアアアアアア!

王子「……負けないからな」
炎使い「俺だって、だ!」

盗賊「……良し、女剣士、後は頼んだぜ」
女剣士「お前、マジで賭なんかやるつもりなのか……」
盗賊「まァまぁ、良いじゃないか。折角の祭りなんだしさ」
女剣士「全く……一国の王ともあろう者が」ハァ
盗賊「アタシがこういう奴だって皆知ってるさ。取り繕っても仕方無いだろ、今更」
盗賊「ほら、二人とも待ってるぜ。開始の合図頼むよ、騎士団長殿」ポン
女剣士「やれやれ……」スタスタ
女剣士「……健闘を祈る!始め!」

ワアアアアアアアアアアアアア!

506: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
弟王子「兄さん……!頑張って……!」
鍛冶師「応援しておいてやりなさい」
盗賊「見ていかないのか?」
鍛冶師「登録所見ておかないとね」
弟王子「ああ、危ない……ッ 兄さん、そこ!右です!」
女剣士「私が行く。折角だ、家族で応援してやれよ」
鍛冶師「え?でも……」
女剣士「私は立場的にどちらも応援できんさ。すぐに戻るよ」スタスタ
弟王子「兄さん、良し!行け!」
盗賊「……興奮してんなぁ、弟王子……」
鍛冶師「まあ、中々こんな機会も無いしね」
盗賊「お前、どっちに賭ける?」
鍛冶師「え?王子と炎使い?そりゃ……」
盗賊「違う違う、勝った方と女剣士だよ」
鍛冶師「……本当に心底楽しんでるだろ」
盗賊「アタシは女剣士に賭けるぜ」
鍛冶師「勝ち上がってきたのが王子でも!?」
当然「当たり前だろ?」
鍛冶師「…… ……そ、そう」

ワアアアアアアアアアアアアアア!!

審判「そこまで!勝者、王子ー!」
王子「……ッ」ハァ、ハァ
炎使い「……お前、マジで……強くなったな……ッ」ハァハァ
王子「……ッ ありがとうございました!」

弟王子「やったー!」
盗賊「ほーぉ……やるじゃん」ニヤ。スタスタ
鍛冶師「ぼろぼろだけどね」

507: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
盗賊「良し!ではただいまより賭の受付始めるぞ!」
盗賊「女剣士が勝つか!王子が勝つか!」
盗賊「アタシは女剣士に賭けるけどな」ニヤ

王子「まじで!?」
炎使い「……俺はお前に賭けるぞ、王子」
審判「……俺は参加出来ないんだよな」
王子「出来たらどっちに賭けるんだよ」
審判「騎士団長様に決まってるだろ」
王子「えええ……」

盗賊「では、半刻後に集合!」
盗賊「炎使いと王子は、回復を受けておく事」
盗賊「特に、王子! ……万全の体制で挑め!」
盗賊「女剣士は決して弱く無い!手を抜く事も無いだろう」
盗賊「……ま、期待してるぜ?」

王子「……はい!」
炎使い「でも、王様は女剣士様に……」
王子「黙れって……」
審判「母親だろうに……冗談だろ?ありゃ」
王子「ああいう人だ、あの人は」ハァ

盗賊「では、一端休憩だ!試合開始までに申し込めよー!」
盗賊「解散! ……さて、アタシは女剣士に一口、と」
弟王子「ほ、本気だったんですか!?」
盗賊「当たり前だろ……お前はどうする?」
鍛冶師「……ま、王子かな」
盗賊「弟王子は?」
弟王子「え、僕も!?」
盗賊「良いじゃネェか。無礼講さ……で、どっちだ?」
盗賊「小遣いで参加するなら文句はネェよ」
弟王子「そ、そりゃ、兄さんです!」

508: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
盗賊「何だ、二人とも王子かよ……ま、良いか」
鍛冶師「……あんまりはしゃぎすぎない様にね!?」
盗賊「おう、大丈夫だって、心配すんな」スタスタ
弟王子「…… ……お母様」ハァ
鍛冶師「ねえ、弟王子」
弟王子「はい?」
鍛冶師「そりゃ、僕だってさ。できれば王子に勝って欲しいよ」
鍛冶師「プロポーズの話まで聞いちゃってるしね」
弟王子「……はい」
鍛冶師「だからこそ、女剣士も本気で行くだろう。そうじゃ無いと……」
弟王子「それは……解ります。兄さんが本気だから……」
鍛冶師「ああ……だけど……」
鍛冶師「…… ……」
弟王子「お父様?」
鍛冶師「……お母様は、王子に結婚して欲しくないとか、そんなんじゃ無いんだよ」
鍛冶師「『何時までも、女剣士には長であって欲しい』だけなのさ」
鍛冶師「……勿論、それが無理だって事も解ってる」
弟王子「この間言っていた……嬉しくて、寂しい、と言う奴、ですか?」
鍛冶師「うん……そうだね」
鍛冶師「不変の物は無いんだ。絶対もあり得ない」
鍛冶師「けど……すがりつきたくもなる。そういう物に」
弟王子「……ですが、やっぱり僕は、兄さんに買って貰いたいです」
弟王子「時期、騎士団長として……!」
鍛冶師「お前は、それで良いんだよ……未来を紡ぐ為には」
鍛冶師「それで、良いんだ」

……
………
…………

女剣士「名前を呼ばれて居ない者は居ないな?」
女「……一つ、宜しいでしょうか」
女剣士「何だ?」
女「優勝したら賞金が頂けると聞きましたが、私はお金はいりません」

ザワザワ……
ヒソヒソ……

女剣士「…… ……」
女「ですので、もし私が優勝した暁には」
女「一つ、願いを聞いて頂きたく思います」
女剣士「それは聞くも決めるも私では無いだろう」
女剣士「……勝てたその時に、王様に伺うのだな」
女「……解りました」
女剣士「……では、私は失礼する。お前達は此処で待て」
女「試合を見る事はできないのですか?」

509: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
女剣士「私と王子の、か?」
女「はい」
女剣士「希望するなら後から来る騎士の指示に従え」
女剣士「守れない者は出場の資格を失うと思え……良いな」

スタスタ、パタン

女(……優勝すれば王にお目通りが叶う、と言う事か)
女(であれば……この祭りの中。弟王子も傍に居るだろう)
女(ならば、どうにか……)
雷使い「ねえ、ちょっと……貴女」
女「何だ?」
雷使い「貴女、随分な自信ね。そんなに腕に自信があるの?」
女「出来損ないが、気安く話しかけるな」
雷使い「な、何ですって!?」
女「…… ……全員敵だろう。私はなれ合うつもりなど無い」
雷使い「ちょ……ッ アンタねぇ!?」

ガチャ

騎士「何を騒いでいる! ……今より、女剣士様と王子の試合を行う」
騎士「見学を希望する者はついてくるが良い」
雷使い「……ッ 覚えてなさいよ!?」
女(……フン。下らん、劣等種が……ッ)

……
………
…………

女剣士「緊張した顔だな、王子」
王子「……そりゃ、ね」

510: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
女剣士「お前のこの間の相談、嬉しかったぞ」
王子「……全力で、お願いしますよ、騎士団長殿」
女剣士「当然だ……すっきり勝たねば、言う物も言えないだろう」
王子「貴女は憧れでした、昔から。今日こそ……貴女に勝って」
王子「俺は……ッ」
女剣士「……始めるぞ。審判、合図を!」

審判「では、これより女剣士様と王子の試合を始める!」
審判「両者、一歩後ろへ……始め!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

盗賊「緊張してるなぁ、王子」
鍛冶師「そりゃそうでしょ。相手はあの女剣士だもの」
弟王子「……に、兄さん、どうしたんです……ッ防戦一方じゃないですか!」
盗賊「……女剣士の一撃は重いよ。回復を受けたとは言え」
盗賊「まともに受け続けりゃ、体力が奪われてく」
鍛冶師「王子……」
盗賊「スピードはともかく、力と体力はなぁ……」
鍛冶師「……ん?」
弟王子「あ、返した……!」
盗賊「女剣士が……よろけた……!」
鍛冶師「……バランスの悪い一打を見逃さなかったな、あいつ」
弟王子「兄さん、今だ! ……良し、形勢逆転……!」
盗賊「得意のスピード生かして打ち込んでる、けど……」
鍛冶師「大して効いてないねぇ……」

511: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
祈り女「……王子様……ッ」ギュ
治療師「目瞑っちゃ駄目よ、祈り女。ちゃんと見なさい」
祈り女「で、でも……ッ」
治療師「王子が頑張ってんのよ! ……良し、そのまま……ッ」
治療師「アンタがちゃんと見届けないと、王子悲しむわよ!」
祈り女「……ッ は、はい……ッ」
祈り女(王子様……ッ)

女剣士「ぐ、ぅ……ッ 流石早い、な。だが……スタミナ切れか!?」ブゥン!

キィン! ……ギリギリギリ……ッ

女剣士「……ッ 何時まで、耐えられるかな……ッ」
王子「貴女に教わったんだ……ッ相手の方が、力が上な場合……ッ」

スルリ……

女剣士「!」
王子「受け流せ、とな!」シュ……ブン!
王子「スピードは、俺が上だ!」
女剣士「しま……ッ」
王子「うわあああああああああああ!」

ガン! ……カラン、カラン……ッ

盗賊「あ……ッ」

祈り女「剣が……ッ」

シィン……

王子「…… ……」ハァ、ハァ
女剣士「……ッ 痛、ゥ……ッ」

審判「……ッ」ハッ
審判「そ、そこまで!女剣士様、剣を取り落とし、続行不可能!」
審判「しょ、勝者…… 王子ー!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!

513: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
女剣士(……柄を打たれたか…… 腕が、まだ痺れて……)フゥ
王子「か ……た。勝った……!」

祈り女「王子様……!」
治療師「やったああああ!」

弟王子「兄さん!やった、兄さんが勝った!」
鍛冶師「…… ……お見事」
盗賊「ち、マジで勝ちやがったか……あいつ……」
鍛冶師「泣きそうな顔してるよ、盗賊」
盗賊「……複雑だな。母親としては嬉しい。王としてもな」
盗賊「育ってくれる、と言うのは……だが」
鍛冶師「寂しい?」
盗賊「……老いるんだ。アタシも、お前も……女剣士も」
盗賊「解ってるんだけどな……」
盗賊「……少しだけ、な」

王子「……女剣士様」
女剣士「見事だ、王子。私の負けだよ」
女剣士「……だが、忘れるなよ」
王子「解ってます。驕りません……決して」
女剣士「うん ……強くなった。大きくなったね、王子」
王子「……ッ ありがとう、ございました……ッ」
女剣士「泣くなよ、馬鹿」クス
女剣士「まだもう一仕事あるだろう、お前は」
王子「……ああ。祈り女!」

祈り女「!」ビクッ
治療師「呼んでるよ。行っておいで」
祈り女「え、でも……」
治療師「あっちからじゃ、こっちは見えてないよ。行かないと」トン
祈り女「……あ」オロオロ…… ……タタタ

王子「祈り女!見ててくれただろう!?どこだ!」

514: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
弟王子「あ…… あっちから走ってくるあの人、祈り女さん、ですかね」
盗賊「公開プロポーズかよ、あいつ……興奮して、アタシらが見てるのも」
盗賊「忘れてんじゃネェの」
鍛冶師「まあ、ここテラスの上だしね……」
盗賊「文字通りの高みの見物、だ」
鍛冶師「良いじゃないの。盗賊の涙、見られる事無くて」
弟王子「な、泣いてるのですか、お母様!?」
盗賊「泣いてネェよ! ……仕方無いから」ハァ
盗賊「見守ってやるかね……」
鍛冶師「……後で真っ赤っかになるまで冷やかす気だろ」
盗賊「当然だ」

祈り女「王子様……!」タタタ……
王子「祈り女!」ギュ
女剣士「…… ……」スタスタ
祈り女「え、あ、あの!?王子様!? ……は、恥ずかしいです……!」
王子「女剣士様に勝ったら、言おうと決めていた」
祈り女「は、はい!?」
王子「……俺と、結婚して下さい!」

ワアアアアアアアアア!
キャアキャア、ヒュウ!

祈り女「え、ええええええええええ!?」
王子「……大事にする。絶対。だから……ッ」
祈り女「あ、あの、その!? ……わ、私、等で……!?」
王子「お前じゃ無いと厭だ!」

ワアアアアアアアア!
オウジサマカッコイー!
イノリメチャン、ヘンジハー!?

515: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
王子「……御免。居てもたっても居られなくて、俺……」
王子「でも……勝ったら、言おうと決めてた。だから……!」
祈り女「王子様……!」ギュ

オオオオオオオオオ!
キャアキャア!ワアアアアアアアア!

祈り女「……ずっと、離さないで下さい……!」

ワアアアアアアアアアアアアア!
オメデトウ!シアワセニナー!

盗賊「…… ……」
鍛冶師「はい、ハンカチ」
盗賊「お前が先に使えよ」
鍛冶師「僕は大丈夫。盗賊、鼻も垂れてる」
盗賊「!」グイッゴシゴシ
弟王子「兄さん……おめでとうございます……!」

王子「女剣士様!」
女剣士「……おめでとう。私は邪魔なだけだろうに、何故呼び止める」クスクス
王子「い、いえ、あの、その……ッ」
女剣士「……まあ、良い。王様の許可を貰ってから、と思ったが」
王子「?」
女剣士「良い機会だ……今、なのだろうな」
王子「……女剣士?」
女剣士「……私は、今日お前に負けたら、騎士団長を引退しようと思っていた」
王子「!?」
祈り女「そんな……!?」
女剣士「身体はまだ動く。が……それも、何時までも変わらない物じゃ無い」
王子「し、しかし……!」
女剣士「だからといって、いきなりお前に全てを丸投げする訳には行かん」
女剣士「……騎士団長の座を譲りはするが、暫くは指南役として」
女剣士「お前を導こうと思う」
女剣士「……不必要だと思えば、何時でも行ってくれれば良い」

516: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
盗賊「…… ……何話してんだ、あいつら」
鍛冶師「声迄は聞こえないな」

王子「不必要だなんて! ……そ、それに、驕るなって言ったのは……!」
女剣士「確かに私だ。だけどな……王子」
女剣士「変わらない物は無い。変わっていかなくてはならない」
女剣士「そんな泣きそうな顔をするな。私は……私達は」
女剣士「喜ばなくてはいけないんだよ」
祈り女「女剣士様……」
女剣士「…… ……祈り女。王子を支えてやってくれ」
女剣士「王様には、後から話しておく。後日改めて」
女剣士「騎士団へも通達しよう」
王子「た、確かに時期騎士団長としてって話は聞いてたが」
王子「俺には、まだ早い……ッ」
女剣士「そんな事は無い…… ……世界は、これから平和になっていくだろう」
王子「え……それ、は …… ……!!」
王子(そうだ、この間、街で勇者そっくりな奴を見た……!)
王子(まさか……勇者は、魔王を倒した!?)
王子(……しかし、あの…… ……紫の瞳、は……!!)
女剣士「まだ、詳しくは話せない。後ほど……な」
女剣士「この後が祭りの本番だ。今から闘技大会が始まる。二人とも任務があるだろう」
女剣士「……行きなさい。また、後で」クル、スタスタスタ
王子「女剣士……」
祈り女「…… ……喜ばなくてはいけないんでしょう、王子様」
王子「祈り女……」
祈り女「取りあえず、行きませんか?」
祈り女「……私、恥ずかしくて氏にそうです」
王子「あ……ッ ご、ごめん!」

517: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:2OYZg5oPP
盗賊「……大体、想像はつくけどな」
鍛冶師「だ、ね」フゥ
弟王子「あ……!」
鍛冶師「ん?」
弟王子「……闘技大会に出場する人達、来ました……あ!」
盗賊「ああ、そうか……忘れてた」
鍛冶師「どうした、弟王子?」
弟王子「あの……女の人」
鍛冶師「ん……ああ、あのショートカットの?」
盗賊「…… ……」
弟王子「この間……お父様を呼びに研究室に行った時に会いました」
鍛冶師「……あー」

カチャ

女剣士「ただいま」
弟王子「女剣士様!ご苦労さまです……」
女剣士「……ああ」
盗賊「早速で悪いが、女剣士。やはり、あの女……」ヒソヒソ
女剣士「……ああ。やはり、か。先ほどもな……」ヒソヒソ
鍛冶師「……懲りないなぁ」
弟王子「お父様?」
鍛冶師「さて、後はゆっくり見物でもしていようか、弟王子」
鍛冶師「お母様と女剣士は、ちょっとばかり……忙しくなるからね」
弟王子「??」

……
………
…………

ピィ……

剣士「ん?」
船長「お……やっと来たか。おいで」

ピィ……クルクルクル

剣士「何だ、この緑の小鳥……! ……こいつか」
船長「ああ。足に手紙が着いてるだろう……って」
船長「随分、気に入られた、のか?」
剣士「……おい、髪を咥えるな……ほら、手紙」ポイ
船長「……」クスクス……カサ

520: 2013/07/30(火) NY:AN:NY.AN ID:lI6I/Mmr0
いつも楽しみにしています。
ムリせずに頑張ってください。

BBAのスコーン食べたひ

522: 2013/07/31(水) NY:AN:NY.AN ID:eJSqIAtnP
剣士「……おい。纏わり付くな」

ピィ……ピィ

船長「放っておけ。何時もすぐに霧散する……ほら」ポイ
剣士「……見て良いのか」
船長「『仲間』だろうが、お前は」
剣士「……」カサ

『世界の情勢をお知らせ下さい。後、花の苗をお願い致します』

剣士「……世界情勢に、花の苗?」
船長「あんな場所に居れば、噂ってのも流石に届かないんだろうよ」
船長「……花はいつもの事だ。怪しい実験でもやってんじゃネェの」
剣士「それは……」
船長「……『皆にとって不利益な事は決してしてない』てのは聞いてる」
剣士「信じるのか」
船長「……商売ってのは、信頼関係が大事なんだぜ」
剣士「…… ……」

ピーィ……

船長「……本当に随分気に入られたな」
剣士「何時まで居るんだ、こいつは」
船長「さあな……何時もはすぐに……」

バタバタ!バタン!

海賊「剣士、来てくれ!船長も!」
船長「魔物か!」
剣士「……行こう」カタン

523: 2013/07/31(水) NY:AN:NY.AN ID:eJSqIAtnP
船長「おい、場所はどの辺だ、今」
剣士「……先に行くぞ」スタスタ

パタン

海賊「港街を通り過ぎた所ですよ」
船長「……戻るには遅いか。良し、進路を魔導の街へ」
船長「戦闘が終わったら、上陸する」
海賊「アイアイサー! ……あれ?」

ピィ!
コンコン!

船長「……扉突っつくな! ……なんだよ、剣士について行きたいのか!?」
海賊「まだ消えてないんすか、こいつ」
船長「随分剣士が気に入ったみたいだなぁ……ほら」カチャ

ピィ!パタパタ……

海賊「あ、行っちまいやがった……大丈夫ですか?」
船長「『魔法で出来た鳥』なんだろ? ……気にすることは無いだろ」
船長「何時も、すぐに消えちまうのにな……何でだろうな」フゥ
海賊「……小鳥に迄ヤキモチ焼くのはどうかと思いますけど」
船長「阿呆か!お前もさっさと行け!」

524: 2013/07/31(水) NY:AN:NY.AN ID:eJSqIAtnP
……
………
…………

審判「勝者、女! ……第一回闘技大会、優勝者の決定だ!」

ワアアアアアアアアアアアア!

女「…… ……当然だ」
雷使い「……ッ あ、アタシの魔法が、通じない、なんて……!」ハァハァ
女「同じ属性であることが災いしたな」
雷使い「…… ……アンタ、優れた加護持ってたのね」
女「…… ……」スタスタ

審判「では、優勝者は此方へ」
女「…… ……はい」
審判「夕刻、城門前に来なさい。王様からお話と、優勝賞金の授与がある」
女「!」
女(拝謁するのなら……弟王子にも会える可能性が高い)
女(……願っても無い。テラスに居るとは聞いていたが)
女(このチャンスを逃す手は無いな)
女「わかりました」
審判「それまで、ゆっくり身体を休めなさい」
女「はい」
審判「静かに! ……鍛冶師様よりお話がある!」

鍛冶師「皆さん、ご苦労様でした!」
鍛冶師「テラスの上からで御免ね。少しだけ話を聞いて欲しい」

女(鍛冶師と……弟王子か。王の姿は見えないな……)
女(……女剣士も、居ないか)

鍛冶師「大したトラブルも無く、無事に全て済んで良かったよ」
鍛冶師「楽しんで貰えたのなら何より!」
鍛冶師「優勝者には、後ほど賞金を授与するとして」
鍛冶師「……お祭りは、今からが本番!今日は飲んで食べて」
鍛冶師「明日からは、また仕事とか、頑張って欲しい」

525: 2013/07/31(水) NY:AN:NY.AN ID:eJSqIAtnP
弟王子「僕も、とても楽しかったです!」
弟王子「……これから、世界はきっと平和になっていくのだと思います」
弟王子「僕はそう信じてます!」

ワアアアアアアアア!

弟王子「勇者様が帰られる迄、帰って来られた時、笑顔で迎えられる為に」
弟王子「今日はしっかり息抜きして、明日からまた、頑張りましょう!」

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

鍛冶師「……ん、上出来」
弟王子「き、緊張しました……!」
鍛冶師「さて、僕らも少し休んで、盗賊達の所に戻ろう」
弟王子「はい……!」
鍛冶師「もう一仕事、待ってるからね」
弟王子「……はい!」

女(平和の為に、か…… ……勇者はまだ、魔王を倒して居ないのか?)
女(……未確認、と言ったところか)
女(勇者が戻れば、弟王子など……否、しかし……)
女(……一度、お父様と連絡を取るべきだな)
女(まだ、時間はある……)スタスタ

……
………
…………

コンコン

盗賊「来たか?」
女剣士「かな……入れ!」

カチャ

雷使い「あ、あの……失礼致します」
盗賊「まずはお疲れさん……残念だったな」
雷使い「あ、ありがとうございます! あの、私……?」

526: 2013/07/31(水) NY:AN:NY.AN ID:eJSqIAtnP
女剣士「緊張しなくて言い。少し聞きたい事があるだけだ」
盗賊「……他言無用、は約束してくれるな?」
雷使い「あ、はい!それは……さっき、騎士の人に聞きましたけど……」
雷使い「一体、何なのです、か……」
盗賊「決勝戦でお前が当たった相手だ。お前と同じ属性だった奴」
盗賊「あいつにはお前の魔法が一切効かなかった」
雷使い「あ、ええ。優れた加護を持っていたんでしょう。悔しいけど……」
雷使い「……こればっかりは仕方ありません」
女剣士「聞き慣れない言葉を耳にしなかったか?」
雷使い「え? ……いいえ、特には…… ??」
盗賊「そうか……流石に、無いか」
雷使い「あ、でも……会場に行く前に」
雷使い「あいつ、アタシの事出来損ない、って!」
盗賊「……『出来損ない』ね」
雷使い「そりゃ優れた加護持ってりゃ、自信もつくんだろうけど」
雷使い「全員敵だし、気安く話しかけるな、って」
女剣士「成る程なぁ……」
雷使い「あの……それが何か?」
盗賊「いやいや。ちょっとな」
女剣士「ありがとう。疲れているところ、申し訳無かった」
雷使い「?? ……いいえ……」

カチャ

鍛冶師「ただいま……っと」
弟王子「戻りました」
雷使い「鍛冶師様!お、弟王子様も!?」
盗賊「あー。丁度良いところに。弟王子、準優勝者の雷使いだ」
盗賊「労いの言葉ぐらい、かけてやれよ」
雷使い「え!?」

527: 2013/07/31(水) NY:AN:NY.AN ID:eJSqIAtnP
弟王子「え!? ……あ、あの、お疲れ様でした!」
弟王子「……試合は残念でした、けど。貴女の魔法、とても綺麗でした」
雷使い「あ、ありがとうございます!」
鍛冶師「……綺麗、て」クスクス
女剣士「……笑ってやるな」ボソ
雷使い「あ、あの!では、失礼します!」スタスタ

パタン

弟王子「お父様、女剣士様、聞こえてます」ハァ
弟王子「僕、何か変な事言いましたか……」
盗賊「いやいや。素直な感想なんだろ?良いじゃないか」
盗賊「アタシには言えない言葉だなぁ……」
女剣士「さて……問題は次だな」
弟王子「次?」
鍛冶師「さっき話しただろう。大丈夫。フォローはするから」
弟王子「……は、はい」

コンコン

騎士「優勝者が参りました、王様」
盗賊「うん、通せ。見張りの騎士は扉の内側に待機」
騎士「はッ! ……入りなさい」

カチャ

女「失礼致します」

534: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
おはよう!

535: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
鍛冶師「……間違いないね?」
弟王子「はい。彼女です」
女「……!」
弟王子「前に、廊下でお会いしましたね」
弟王子「お父様の研究室に案内して頂きました」
女「……はい」
盗賊「さて、まずは優勝おめでとう……で、優勝賞金だが」
女「恐れ入りますが、王様」
盗賊「『金はいらんから、一つ願いを聞け』か?」
女剣士「…… ……」
女(女剣士が伝えたか……まあ良い。手間が省ける)
女「はい。差し出がましいのは承知で、お願い致します」
盗賊「聞ける事とそうで無い事がある、というのは解っておいて欲しいね」
女「無理難題を申すつもりは勿論、ありま……」
弟王子「お母様。その前に一つ、宜しいでしょうか」
盗賊「何だ、弟王子」
弟王子「事前に身辺調査も兼ねて、全ての書類に目を通しましたし」
弟王子「調査報告も聞いておりますが……」
女(……何?)
弟王子「この城は誰でも自由に入り、望めば自由に王に謁見できる」
弟王子「だから、あそこで僕が貴女に会った事は不思議ではありません」
弟王子「ですが何故、貴女は父の研究室をご存じだったのです?」
女「それは……何度か城を拝見する内、鍛冶師様の出入りをお見かけしましたので」
弟王子「成る程。では何故僕に、『新しい研究員か』とお尋ねになったのです?」
弟王子「僕は『次期国王』として、ここ最近お母様と行動を共にする事が」
弟王子「増えましたから。良くいらっしゃっていたのなら」
弟王子「僕の姿を見かけられる事も多かったと思いますよ?」
女「……いえ、残念ながら私にその機会は無かったのです」
女「それに、ふと疑問が口から出たに過ぎず……他意は御座いません」
女「ご無礼は、お詫び致します」

536: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
弟王子「成る程。僕こそ失礼しました。答えて頂いてありがとう」
女「いえ……」
女(……身辺調査、ね。書類に不備は無かった筈、だが……)
盗賊「アタシからもちょっと聞きたい事がある」
盗賊「……お前、魔導の街から来ているだろう」
女「…… ……はい」
盗賊「まあ、それ自体はそれ程問題じゃ無い。昔……色々と確執があったとは言え」
盗賊「今は、もう終わった話だからな。だがな、やはり警戒すると言う事は覚えて置いて欲しい」
盗賊「……それを踏まえた上で、先に聞こう。お前の望みは?」
女「大した事では御座いません。私はこの街が気に入りました」
女「ですので、移住の許しを頂きたく思います」
盗賊「…… ……結論から言うと、却下だ」
女「何故です?」
弟王子「それを言わせるのですか?」
女「失礼ながら……魔導の街の出身と言うだけで却下されると言うのは納得いきません」
盗賊「それだけだと思っているのか?」
女「……如何いう、意味でしょう」
弟王子「お母様、僕が……」
盗賊「……うん」
弟王子「『出来損ない』とはどういう意味です?」
女「!」
弟王子「……雷使いさんに放った言葉です。試合も、皆が観戦していたのはご存じでしょう」
弟王子「貴女が優れた加護を持っている事はすぐに解る」
弟王子「あの街で優れた加護を持っている者……それは何を意味します?」
弟王子「そんな貴女が、何故この国に移住を考えられるのか……」
弟王子「厭でも、警戒は致しますよ」
女「王様も仰る様に、警戒はご尤もです。ですが……」
女「優れた加護を持つ者があの街で……特別な意味を持つ事も、周知の事実でしょう」
女「それを自信に、移住を願う者は今でも後を絶ちません。ですが」
女「本当に他意は無いのです。私は、この街が……」
弟王子「質問には答えて頂けないのですか?」

537: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
盗賊「言葉を換えようか。何故『劣等種』と言わなかった?」
女「……そんな言葉は、初耳で御座います」
女「願わくば、意味をお聞かせ願えますか」
盗賊「……先に質問に答えろ」
女「…… ……気が、立っていましたので。優勝し、移住を願いたい一心で……」
弟王子「ならば、余計に許可を出す事はできません」
弟王子「……物騒な考え方をされる方を、この国に住まわす訳には行きません」
弟王子「『王』として、国を守る者であれば、当然でしょう?」
女(……糞ッ。御しやすいと見えたのは……早とちりだったか……)
盗賊「お前は優勝者には変わりない。賞金は予定通り授与する」
盗賊「……許せ。弟王子の言う様に、アタシ達には国を守る責任がある」
盗賊「アタシ達からは以上だ……女剣士!」
女剣士「はい……多くは無いが、此方が優勝賞金だ。受け取られよ」
女「……はい。ありがとうございます」
女(……ッ 引いておくが吉、か。糞……ッ 劣等種の分際で……ッ)
弟王子「ああ、そうだ。もう一つお伺いしても宜しいですか」
女「……なんでしょうか」
弟王子「貴女の街には大きな図書館があると聞きました」
弟王子「一度、訪ねて見たいと思っているのですが」
女「弟王子様が……ですか?」
弟王子「はい。『次期国王』として、『知る』事は大事な事でしょう?」
女「……何時でも歓迎致します。我が領主にも伝えておきましょう」
盗賊「良い機会だ。女が国を出る時に、一緒に発てば如何だ?」
女(……これは、これでチャンスか。弟王子一人なら……)
女(どうにでもなる、かもしれん。引き留める事は不可能でも)
女(最悪、血だけでも……)
女剣士「では私も同行致しましょう。弟王子様一人では……」
盗賊「否、私が行こう」
女「こ、国王……自ら!? し、しかし、それでしたら、日を改めて頂ければ……」
盗賊「私も多忙の身でね……何、特別な歓迎なんかいらないよ」
盗賊「日を跨ぐなら宿でも取るし。お忍びとまでは行かないが」
盗賊「公式訪問なんて堅苦しいのは御免だ」

538: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
女(……魔導の街までの監視のつもりか!?)
女(確執……娼館の解体と劣等種解放の事を言いたいのだろうが)
女(…… ……しかし、否と言い続けるのも……)
女(この二人の目があれば、余りに食い下がるのも……糞……ッ)
女剣士「お留守の間は、鍛冶師様は私がお守り致します」
盗賊「ああ、頼んだ。ついでに船の手配もな」
女剣士「では、すぐに」スタスタ

パタン

女「…… ……」
弟王子「女さん、図書館、ご案内して頂けますか?」
女「私で……良ければ、喜んで」
鍛冶師「色々勉強してくると良い……二人とも、女剣士が戻る迄に準備をしておいで」
鍛冶師「女さん、あらためて優勝おめでとう。船まではすぐに行かせるから」
鍛冶師「騎士、女さんの分の船の手配も伝えてきてくれ」
鍛冶師「ついでに、ご案内してあげて」
騎士「はッ」
女「い、いえ、そこまでして頂かなくても……」
騎士「どうぞ、ご案内致します」
鍛冶師「遠慮しないで。こちらの我が儘でもあるんだから」
女(……どうあっても、目を離さないつもりか……!)
女「……では、失礼致します」

パタン

鍛冶師「…… ……弟王子?」
弟王子「なん、でしょう」
鍛冶師「目が笑ってないよ」クス
弟王子「緊張したんです!」

539: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
盗賊「上出来上出来……向こうも詰めが甘いな」
盗賊「ばれてないと思ってたのか、何なのか……」
弟王子「出任せも良いところです……僕、殆ど部屋から出てないのに」
鍛冶師「はったり、と言うの……まあ、良いじゃないの」
盗賊「実際、魔導の街からの移住なんて認める訳には行かない」
弟王子「……でも、正直書類の偽造等……」
鍛冶師「容易いし、余程じゃ無いと……わからないよ、確かに」
鍛冶師「だけど、プライドが邪魔するのさ。あの街の人間はね」
盗賊「女だって、結局の所……無意識であれどうであれ」
盗賊「……『出来損ない』と言う言葉にそれが表れてる」
鍛冶師「後は……目だな。僕たちには向けない様にしていても」
鍛冶師「試合を見ていれば、わかっただろう?」
弟王子「……はい」
盗賊「他者を……『劣等種』を蔑む目」
弟王子「…… ……何度聞いても、酷い言葉です」
鍛冶師「そうだね」
盗賊「アタシは散々あの目を見てきた……消えていった言葉だ、と思いたいが」
盗賊「『初耳だ』とは言ってたが……どうだかな」
弟王子「優れた守護を持つ者は……あの街で、権力を持つんでしょう?」
盗賊「ああ。領主の血筋かどうか迄は解らんが……」
盗賊「……逆に、そうで無いならそれこそ、何を企んで」
盗賊「この街に移住なんて願う?」
弟王子「領主の血筋であるか、それに近しいと推測する方が」
弟王子「……まあ、妥当です、よね」
鍛冶師「恐らく……お前の細君の座でも狙っていたんだろうな」
盗賊「まあ、本当に弟王子が惚れた娘が魔導の街の娘だったら」
盗賊「認めざるを得ない、けどねぇ……」
弟王子「……僕は、お父様とお母様が選んだ人で良いんですよ」
鍛冶師「それもどうかと思うんだけど」ハァ
盗賊「まあ……まだ先の話だ。もう一人のあの恥ずかしい奴を先に」
盗賊「祝ってやらないとな」

コンコン。カチャ

540: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
女剣士「失礼致します……準備が出来ました、王様、弟王子様」
盗賊「ご苦労……んじゃま、行こうか」
弟王子「はい」
鍛冶師「気をつけて行ってらっしゃい」
女剣士「……後で王子が報告にくるってさ」
鍛冶師「盗賊達が帰ってからになるな、正式に発表するのは」
盗賊「何、2、3日で戻るさ」
女剣士「行きは港街でそのまま乗り換えだ。帰りは港街でも一泊してくればどうだ?」
盗賊「あー……良いのか?」
鍛冶師「こっちは構わないよ」
女剣士「滅多に無い機会だ。弟王子の勉強にもなるしな」
女剣士「あの女は港で騎士に見晴らしている……闘技大会が始まる前に」
女剣士「接触した魔導の街の者がいたそうだが、そっちにも見張りはつけているよ」
鍛冶師「今の所接触は?」
女剣士「あいにく、港町行きの船はもう満席なのさ」
鍛冶師「了解」
盗賊「次の便で慌てて追いかけてくる、んだろうけど」
女剣士「盗賊達が乗る魔導の街行きの船の次の便は」
女剣士「明日の朝まで無い」
女剣士「どっちにしたって、もう一人の方は間に合わないよ」
弟王子「…… ……『王』になると言うのは、大変なんですね」
盗賊「確かに大変だけど、難しい事では無いよ」
盗賊「……鍛冶師と女剣士が居てくれたからってのもあるけど」
盗賊「アタシでも慣れたんだ。お前は……大丈夫だよ」
鍛冶師「ほら、二人とも急いで。乗り遅れたらしゃれにならないよ」
盗賊「ああ……じゃあ、言ってきます」
弟王子「いってきます!」

スタスタ、パタン

541: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
女剣士「……さて、鍛冶師様」
鍛冶師「何だよ、様って……」
女剣士「王子様と祈り女が謁見願ってますが、どうします?」クス
鍛冶師「『もう一人の恥ずかしい奴』ね」
女剣士「?」
鍛冶師「……呼んでくれ。僕しか居ないけどね」
鍛冶師「勇者の話も……しておかないとな」
女剣士「ああ……そうだね」スタスタ、カチャ
女剣士「王子、祈り女!入りなさい」
王子「失礼致します……」
祈り女「し、失礼致します!」
鍛冶師「そう緊張しなくて良いよ。王も弟王子も居ない」
鍛冶師「僕と女剣士だけだから……と、言っても」
鍛冶師「無理があるよね、祈り女さんには」ハハ
祈り女「……は、はい……」
女剣士「騎士と私は下がります……では、失礼致します」
鍛冶師「良いのか?王子」
王子「……騎士団長様には出来れば、ご同席願いたいのですが……」
鍛冶師「お前がそう願うなら……良いかい?女剣士」
女剣士「お許し頂けるなら……では、騎士だけ下がらせましょう」

パタン

鍛冶師「……何時もの調子ではいかない、かな」
鍛冶師「盗賊と弟王子には会ったかい?」
王子「はい。先ほど……そこですれ違いました」
鍛冶師「うん。 ……なんか調子狂うな。良いか、もう」
王子「……鍛冶師様」
鍛冶師「だから良いって……楽にしなさい」
鍛冶師「家族になるんだろう、彼女も」
王子「……うん」
鍛冶師「女剣士も」
女剣士「……お前がそういうなら、良いけど」ハァ
祈り女「え!?」

542: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
女剣士「私と鍛冶師と盗賊……王様はね。まあ……古い知人でね」
王子「……公の場で、態度を崩す様な子じゃ無いよ、祈り女は」
鍛冶師「まあ、プライベートって事で、ね」
鍛冶師「……二人は留守にしてるから、一応全権預かってる」
女剣士「今更だよな。あれだけ恥ずかしい事をしておいて」
王子「女剣士!」
女剣士「盗賊が居れば、穴掘って埋まっても足りないぐらい、二人して」
女剣士「冷やかされてたと思うけどな」
祈り女「……」カァ
王子「…… ……お母様が帰れば、改めて報告はさせて貰うよ」
王子「一応……その。祈り女との結婚を……認めて、下さい」ペコ
祈り女「あ……あの、ふつつか者ですが……ッ」
鍛冶師「はいはい、それについては問題も文句も無いよ」クスクス
鍛冶師「だが、お前は……王位継承者じゃ無い。勿論、親子には違い無いけど」
鍛冶師「……それから、以前女剣士が話したとおり」
鍛冶師「次期騎士団長として、次期国王である弟王子を支えてやってくれ」
鍛冶師「お前以上、これ以上……力強い守護者も居ないだろうしね」
女剣士「私も……一つ。良いだろうか」
王子「女剣士、本気なのか……!?」
鍛冶師「……引退するのか」
女剣士「やはり気がついていたか?」
鍛冶師「何年の付き合いだと」ハァ
女剣士「公の場で、王子は私に勝った。このタイミングを逃すのも、な」
女剣士「王子には伝えたが、暫し指南役として……残ろうとは思う」
鍛冶師「解った……否、とは言えないな」
王子「お父様!」
鍛冶師「盗賊も同じ事を言うと思うよ。寂しいけれど」
鍛冶師「変わらないものは無いんだ……喜ばなければ行けない、んだ」
王子「……お父様」
女剣士「『騎士団長』の何恥じぬ様、決して驕らず、励めよ?」
王子「はい!」
女剣士「……支えてやってくれよ、祈り女」
祈り女「は……はい!」

543: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
鍛冶師「まあ、任されてるとは言え、王不在、だからね」
鍛冶師「決定は帰ってから、改めて……発表するとしよう」
鍛冶師「双方、それで良いね?」
王子「はい」
女剣士「はい」
祈り女「は、はい……!」
王子「…… ……あ、の」
鍛冶師「ん?」
王子「ちょっと話したい事があるんだ、お父様」
鍛冶師「うん、何だい?」
王子「お母様が帰ったら、一日だけ休暇願を出して城に戻っても良いだろうか」
鍛冶師「それは構わないけど……女剣士?」
女剣士「まあ、祈り女の件もあるしな。別にそれは構わないが」
祈り女「あ、あの……私、先に失礼致しますので……」
王子「あ……!ち、違うよ、聞かれて困る様な話じゃ……!」
祈り女「折角の親子水入らず、なのですから。良いんです」
女剣士「……まあ、それはそれとして、祈り女の意見には賛成だな」
女剣士「お前は私が送っていこう。祭りで人出も多いだろうし」
女剣士「何せお前達二人は『時の人』だからな」フフ
王子「女剣士……」ハァ
女剣士「宿舎まで送ろう。色々疲れただろう、ゆっくり休むが良い」
祈り女「は、はい……申し訳ありません」
女剣士「では、行こう……失礼致します」
祈り女「し、失礼致します!」

カチャ、パタン

王子「……気を遣わせちゃったかな」
鍛冶師「まあ、早急に話しておきたい事もあったんだけどな」
鍛冶師「後で女剣士に言伝ようかとも思ったんだけど、丁度良いかな」

544: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
王子「……お母様達は、何処へ?」
鍛冶師「魔導の街だ……まあ、ちょっと長くなるからそっちは後」
鍛冶師「お前の話、て言うのは?」
王子「あ、ああ……この間……えっと、俺が騎士と試合をした日だ」
王子「……勇者によく似た、男を見たんだ」
鍛冶師「……え?」
王子「目深にフード被ってたし、ハッキリとは……遠目だったし……だけど」
王子「……紫の瞳をしてたし、違うかもしれないんだ。だけど……!」
鍛冶師「紫の……瞳!?」
王子「うん。珍しいだろう?」
鍛冶師「…… ……」
王子「多分、違う人なんだろうけど、よく似てた……と、思う」
王子「否、他人の空似だったとしても、その瞳の色が気になって……」
鍛冶師「そうか……観客、だったんだよな?」
王子「だと思うよ。人の出入りも激しいから、もう街には居ないかもしれないけど」
鍛冶師「……解った。ありがとう」
王子「勇者……じゃ、無いよな?あいつがこんな所に居る訳無いし」
王子「……瞳の色って、変えられる、のか?」
鍛冶師「否。それは……無理だ。瞳は加護を映し出す」
鍛冶師「……決して、変える事なんて……できない、筈だ」
王子「……世界の魔物が、弱くなってるって噂になってる」
王子「このお祭り騒ぎでちょっと落ち着いたけど……」
鍛冶師「うん。それは僕たちの耳にも届いてる」
鍛冶師「……確証が、ね。もう少し時間をかけないと……ね」
王子「そう……だよな」
王子「それに、約束したよ、勇者と」
王子「必ず……魔王を倒して帰ってくる、って」
鍛冶師「うん。勿論……お前だけじゃ無い」
鍛冶師「僕たちも、街の人達も、皆……勇者の帰還を、待ってるよ」
王子「……吃驚するだろうな。勇者……俺が、結婚なんかしてたら」
鍛冶師「綺麗な子だったね。自慢するんだろう、お前」クス
王子「当然だ! ……うらやましがらせてやるさ!」クスクス

545: 2013/08/01(木) NY:AN:NY.AN ID:XoIRjqJhP
……
………
…………

盗賊「ほーう。こっちの街も随分変わったなぁ」
弟王子「人が多いですね、結構……『優れた加護を持つ者しか居住出来ない』って」
弟王子「聞いてたのに……」
女「……立ち入りは自由ですから。では、まずは……」
盗賊「取りあえず図書館だな」
女「い、いえ……領主様のお屋敷にご案内を……」
盗賊「あんまり時間が無いんだって。弟王子の勉強がメインだからな」
盗賊「お忍びとは言わないが、公式訪問でも無いと行っただろう?」
女「ですが、王であられる事に変わりは……」
盗賊「まあ、それも尤も、だけど」
女「では……」
盗賊「後で挨拶に行くことにしよう。先に図書館へ頼む」
女「……どうしても、ですか」
盗賊「頼むよ……なあ、弟王子?」
弟王子「はい。ご案内して下さるお約束でしたよね?」


引用: 勇者「俺に魔王になれ……と言うのか!」