649: 2013/10/16(水) 06:47:33.77 ID:hk0C6vkU0

前回:勇者「拒否権の無い選択などあるものか!」【4】
幼女「スコーンの無いBBAなどいるものか!」

650: 2013/10/16(水) 07:39:54.13 ID:KrJwm/KmP
癒し手「……不思議です。それだけで……」
シスター「そうね。何より『血』に拘る人達なのに」
シスター「いえ。だからこそ『出来損ない』なのよ」
癒し手「…… ……」
シスター「彼らは、自分達は『選ばれし者』だと言っていた。自分達こそ、ね」
シスター「優れた加護を持っていたとしたって、雷の加護で無ければ」
シスター「どこか、馬鹿にしている様な所もあったわ」
癒し手「雷……?」
シスター「ええ。何故か雷の加護を持つ人が多かったのよ」
シスター「……加護は、精霊との契約の様な物だと何かの本で読んだわ」
シスター「それこそ、『血』なんて何も関係ないと思うんだけどね」
癒し手「……雷、が何か特別だと言う様な話は……」
シスター「聞いた事無いでしょ?私もよ」
シスター「……領主の孫娘……魔法使い、だったっけ」
シスター「彼女は、確か紅い瞳をしていたわね」
癒し手「……はい」
シスター「領主の直系であり、特殊な関係で出来た子でしょ」
癒し手「……?」
シスター「彼女の瞳が雷を記す茶の色で無い事に……どこかほっとしてたわ」
シスター「醜いわよね。蔑まれるだけの生活から救い出して貰って」
シスター「ここで……子供達と、慎ましく幸せに生きようと思ったのに」
シスター「勝手な話だけど……あんな醜い感情が自分の中にあるなんて」
シスター「……ゾッとしたわ。八つ当たりみたいな事、しておいて……」
シスター「本当に、勝手だけど」
癒し手「あ、あの……」
シスター「え?」
癒し手「特殊な……関係、って?」
シスター「……聞いて、無いの?」
癒し手「優れた加護、の事ですか?」
シスター「……? ……!」ハッ
癒し手「シスターさん……?」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

661: 2013/10/17(木) 10:04:29.88 ID:67S+1sSRP
シスター「…… ……」
癒し手「……確かに、領主さん達は茶の瞳をしていらっしゃってましたし」
癒し手「き……魔法使いさんも、気にしてらした……と言うか」
癒し手「『雷でなく、炎だから期待なんて』とか……そういうのは聞きました。けど……」
シスター「……魔法使いは話していない、のね?」
癒し手「何、をです……?」
シスター「いえ……聞かされて居なかったのでしょうね」
シスター「彼女自身、知らなかったんでしょう……そりゃそうか……」ブツブツ
癒し手「……あの?」
シスター「…… ……母親様と父親様には、あった事、あるの?」
癒し手「……はい」
癒し手「あの……何の……話です?」
シスター「母親と父親は、実の兄弟よ」
癒し手「!?」
シスター「……魔導国の王……領主の娘と息子」
シスター「魔導国を作るきっかけになった、姉弟の話は知っている?」
癒し手「……魔族の血が入っている、と言う奴ですか?」
シスター「え!?」
癒し手「……あれ?」
シスター「わ、私が知っているのは、優れた加護を持つ姉弟が」
シスター「近親姦を繰り返した結果が、魔導国の領主の血筋の始まりだ、と」
シスター「……それだけよ」

663: 2013/10/17(木) 10:44:43.25 ID:67S+1sSRP
癒し手「私が、彼らから聞いたのは……」
癒し手「最果ての地に住むのを許された、唯一の人間であり」
癒し手「こんなにも優れた、力を持つのは魔族の血がどこかで混じっているからだ」
癒し手「……と。母親さん以外は、否定していらっしゃった様ですけど」
シスター「成る程……ね」
シスター「その……『始まりの姉弟』は、少し歳の離れた姉と弟で」
シスター「どちらも凄く強い魔法を使う事が出来た、とか」
癒し手「そして雷の優れた加護を持っていた?」
シスター「で、しょうね。口頭での伝聞に過ぎない様だし、真偽は分からないけど」
シスター「領主の血筋に雷の加護を持つ人が多いのは確か」
シスター「……もっとも、大昔は他の加護を持つと言うだけで『出来損ない』の」
シスター「扱いをされていたんでしょうけど」
癒し手「…… ……」ハァ
シスター「いくら何でもそれじゃ、人は一向に増えない」
シスター「だから……『優れた加護』なんて言葉を、作り出したのかもしれないわね」
癒し手「魔の血が入っているか否か……と言う話も」
癒し手「今となってはもう、わかりません、よね」
シスター「そりゃそうよ。確かめ様が無いもの」
癒し手「……母親さんと父親さん。それに、領主さんは」
癒し手「その、『始まりの姉弟』に倣った……のですか」
シスター「で、しょうね」
癒し手「なのに、魔法使いさんは……雷の加護でも無く」
癒し手「優れた加護も、持っていらっしゃらない」
シスター「……え?」
癒し手「……最後、ご自分でご両親に告げていらっしゃったので」
癒し手「話しても良いと思います」
シスター「そんな!あの子が!? な、何故……!」

664: 2013/10/17(木) 10:54:04.70 ID:67S+1sSRP
癒し手「……テストをされる、時に」
癒し手「剣士さんが、助けてくれたのだと仰っていました」
シスター「…… ……そう。魔法使いも……剣士さんに助けられた、の」
癒し手「不思議な方……です」
シスター「そうね……あの瞳の色も、面立ちも」
癒し手「そういえば……以前、私達がこの村へ来た時」
シスター「?」
癒し手「貴女は、勇者様を本物か、と問い」
癒し手「……剣士さんには、関わりたく無い、と仰って居ませんでしたか?」
シスター「ええ……そう、だったかな。そうだったわね」
癒し手「…… ……」
シスター「信じられなかったのよ。確かに、彼はあの家から……」
シスター「あの国から、私を助けてくれた。でも」
シスター「あの状態で、何が真実で、何が嘘か、なんて」
シスター「私には判断出来なかったわ」
癒し手「……そう。ですね」
シスター「最初、魔導国が無くなったんだ、って事を聞いた時だって」
シスター「……あの船でやってきた彼らの事だって、どうやって信じたら良いのか」
シスター「解らなかった。もう大丈夫、の『もう』っていう」
シスター「線引きの仕方なんて、知らないもの」
シスター「信じてしまって、裏切られたら? ……そう思うと怖かったのよ」
癒し手「…… ……」
シスター「貴女達に対するやっかみが、拍車をかけた事も……認めるわ」
シスター「世界中を自由に旅して……『魔王を倒す』なんて」
シスター「……凄い目標を持って、大変だろう、のに……イキイキしてる」
シスター「光に選ばれた勇者。騎士団長の息子」
シスター「魔導国の領主の孫娘に…… ……」
癒し手「…… ……」
シスター「エルフだと思われる、貴女」
癒し手「…… ……」

665: 2013/10/17(木) 11:20:39.77 ID:67S+1sSRP
シスター「凄いメンバーよね。全く、世の中って不公平」
癒し手「シスターさん……」
シスター「……勇者様を見た時は、驚いたわ。本当に金の瞳をしているんだもの」
シスター「確かに、疑いようも無い。あんな人、見た事無い」
シスター「魔導国で、剣士さんは……『魔導国の勇者様』だなんて騒がれていたけど」
シスター「……いえ。騒いでいたのは直系の人達だけね。今思えば」
シスター「すり込もうとしていたのかもしれないけど」
癒し手「…… ……」
シスター「紫の瞳なんて……それだけでも見た事無いのに」
シスター「……金の瞳をした勇者様とそっくりだなんて」ハァ
シスター「彼は、何者なの?」
癒し手「え?」
シスター「剣士さん、よ」
癒し手「……解りません。ご本人も、記憶を無くしていらっしゃる様ですし……」
シスター「……そう、よね」
癒し手「あっさり、信じてくれるんですね」
シスター「エルフは嘘は吐けないんでしょ」
癒し手「それも含めて、ですよ」
シスター「…… ……」

666: 2013/10/17(木) 11:33:55.00 ID:67S+1sSRP
シスター「貴女達は……戻って来た、もの」
癒し手「?」
シスター「私は……『金の髪の勇者』の事は知らないけど」
シスター「彼は……彼ら、は戻って来なかった」
癒し手「…… ……」
シスター「でも、貴女達は…… ……それに」
シスター「魔導国まで、無くしてしまった」
癒し手「そ、れは……!」
シスター「詳細は話せないって聞いてるわ、騎士さん達からね」
シスター「でも、これは……戦争だから」
シスター「始まりの国が勝ち、魔導国は負けた。簡素に言うとそういう事よ」
シスター「貴女達、勇者達は……関係していないのかも知れないけど」
癒し手「…… ……」
シスター「でも、救われたわ。魔導国に住む人達は大変な思いをこれから」
シスター「するのかもしれない。だけど!」
シスター「……確かに、私達は救われた。もう、怯えなくて良い」
癒し手「大変な、思い……ですか」
シスター「些細な事よ。世話をしてくれる『出来損ない』は居ない」
シスター「他人に命令したって、聞いてくれない」
シスター「敗戦を知って、彼らは初めて常識を知るのよ」
シスター「……些細な事よ。私達に、比べれば」
癒し手「シスターさん……」
シスター「『世界』は変わっていくわ。今から、きっと……どんどんと」
癒し手「変わって……」
シスター「そうよ。どんどん、良くなっていくのよ」
シスター「私達、『人間』が、住みやすい、平和な世界に……」
癒し手「…… ……」
シスター「……まだまだ、大変だろうけど、頑張ってよね」
癒し手「……はい」
シスター「まずは、元気な赤ちゃん、産まないとね」ニコ

667: 2013/10/17(木) 11:43:15.89 ID:67S+1sSRP
……
………
…………

騎士「き、騎士団長様!」

タタタ……

王子「ご苦労。国王様からの書簡は?」
騎士「……ここに」スッ
騎士「あ…… あの……」
王子「うん……ん?」
国王の息子「叔父上、任務ご苦労様です」
王子「…… ……え!?」
騎士「あ、あの……これについても、国王様からお言葉を預かっております」
国王の息子「邪魔は致しませんから」ニコ
王子「な、なん、な……え!?」
騎士「『後学の為、息子を頼みます』と」
王子「……ま、じかよ……」
国王の息子「身分を隠す隠さない等の判断は、叔父上にお任せするとのお話しでしたよ」
国王の息子「お父様は、本当はご自分がいらっしゃりたかったのでは無いかと」
国王の息子「思います。ですが、それは叶いませんので」
王子「……まあ、そりゃ……国王様は、国を離れるべきでは無い、が……」
王子(これからの未来を担う者……の、為、か?)
王子(……国王の。あいつの……考えそうな事、と言えばそうだが……)
国王の息子「鎧をお借りしようかと思ったんですが。僕にはちょっと重かったので」
国王の息子「衛生師達の服を借りてきました」
国王の息子「さっきも言いましたけど、邪魔は致しませんから」
国王の息子「宜しくお願い致します、『騎士団長様』」ペコ
王子「……まさか、追い返す訳にも行かないでしょう」ハァ
王子「解った。彼の身は俺が預かる……離れない様に」
国王の息子「はい!」
王子「……そんな恰好をしている事だし、身分は隠しておいた方が良いだろう」

669: 2013/10/17(木) 11:48:58.13 ID:67S+1sSRP
騎士「……無茶、なさいません様」
王子「俺?」
騎士「どちらも、です!」
国王の息子「はい」クス
王子(国王に似て聡明なのは救い、だが)
国王の息子「ご面倒、おかけしますが、宜しくお願い致します」
王子「ああ……」
王子(複雑だな。お母様も……こんなご気分だったのだろうな)
王子(子供の成長や、巣立ちは無条件で喜ばしいものだ。だが……)
王子(やはり、どこか寂しい)
王子「…… ……」
騎士「騎士団長様?」
王子「! ……ああ、すまん。では、今から書簡に目を通す」
王子「半刻後に、仮設本部に来る様にと、少女に伝達してくれ」
騎士「了解しました!」

スタスタ

国王の息子「……叔父上」
王子「ん?」
国王の息子「お父様……ここ何日も、お顔の色が優れません」
王子「!?」
国王の息子「疲れが出ているだけであれば良いのですが」
王子「…… ……そう、か」
国王の息子「『何かあれば、権限を一時的に兄さんに預ける』と」
国王の息子「……伝えて欲しい、と」
王子「な …… ……!?」

671: 2013/10/17(木) 11:59:06.35 ID:67S+1sSRP
王子「……そう、か」
国王の息子「…… ……はい」
王子(何か気付いている……のか)ナデ
国王の息子「な、何ですか」
王子「大丈夫だ……お前の言うとおり、疲れているだけ、だよ」
国王の息子「……だと、良いんですけど」
王子(国王は……昔から余り、身体が丈夫な方では無い)
王子(……だが、『権限を一時的に預ける』と言うのは……)
王子(もし、自分に何かあった時……こいつに。彼の息子……『次期国王』に)
王子(取り次ぎの役目を、頼むと言う……事か)ハァ
国王の息子「伯父上……?」
王子「…… ……」
王子(『王』を絶やすな、と言いたい……のだろうか)
王子(『少年』のあの、言葉の通り。『世界』の為に……)
王子「何でもない。書簡を読んだら、俺達も行こう」
王子「……大人しくしているんだよ」
国王の息子「ご、ご面倒はおかけしません!」
王子「まあ、お前に限ってはそんな心配、してないけどね……」シュル……
王子(…… ……国王。お前はまだ……若いんだぞ……!)

……
………
…………

騎士「お約束通り、騎士の半分はこの村へ。残りは北の街へと」
騎士「配備してあります」
村長「……ああ。助かった。ありがとう」
息子「村の者達も、戦える者は少しですが……居ますので」

672: 2013/10/17(木) 12:04:42.18 ID:67S+1sSRP
騎士「はい。時期が来たら、速やかに帰国させますので、ご安心を」

魔導師「そうりょのおねえちゃん、いっちゃうの?」
癒し手「うん。また……機会があれば、一杯遊ぼうね?」
魔導師「うん!ぜったいだよ!?おやくそくだよ!?」
魔導師「おやくそくは、まもらないといけないんだよ!?」
癒し手「はい……お約束、です」

兄「戦士様、ありがとうございました……あの」
兄「僕……強くなって、この村を守れる様に、頑張ります」
側近「ああ。毎日の鍛錬は欠かすなよ」
兄「はい!」

癒し手「あ……そうだ。これ……あげるね」コロン
魔導師「わ! ……きれい。あおいいし、だぁ……」
癒し手「魔導師君が、私にって……魔石、くれましたから」
癒し手「私からも、お礼です」
側近「……癒やしの魔石、か?」
癒し手「に、なると良いんですけど」
魔導師「ぼくがつくったの、ちゃんともっててね!」
癒し手「ええ、ほら此処に」コロン
兄「……少し色が違いますね」
癒し手「同系の加護、と言えなくも無いですけどね。水と氷じゃ、やっぱり」
癒し手「厳密には違いますからね」
側近「魔導師の方が、色が濃い、な」
癒し手「ええ。綺麗な青ですね」
兄「僧侶様のは……薄くて、綺麗な蒼ですね」
魔導師「ありがとう!たからものにするからね!」

673: 2013/10/17(木) 12:10:52.16 ID:67S+1sSRP
癒し手「ありがとうございます」クス
兄「……癒し、魔除けの石……ですよね」
兄「僧侶様は、聖職者様ですし……」
癒し手「……そんな、良い物じゃありませんよ」
兄「でも……」
癒し手「作り方を教えてくれたお礼ですよ、ただの」
癒し手「……感謝するのは、私の方なのかもしれません」
兄「え……?」

騎士「戦士様、僧侶様……宜しいでしょうか?」
癒し手「あ……ごめんなさい。お待たせしました」
側近「剣士は?」
騎士「先に船に乗ると言って、行きました」
側近「そうか……僧侶、シスターには挨拶しなくていいのか?」
癒し手「朝の内に、司書さんのお墓参りを兼ねて行ってきたので大丈夫です」
癒し手「…… ……」
側近「……どうした」
癒し手「いえ……後で、話します」
側近「…… ……」
騎士「では、失礼致します、村長さん、息子さん」
魔導師「おねーちゃん!おにーちゃん!ばいばい!」
兄「……」ペコ

スタスタ

騎士「船室に案内いたしますね。僧侶様、くれぐれも無理はなさいません様!」
癒し手「は、はい!」
側近「……あいつが一番張り切っている様に見えるが」
癒し手「側近さんも似た様なものですよ。大丈夫ですのに」クス

674: 2013/10/17(木) 12:17:14.47 ID:67S+1sSRP
剣士「……やっと、か」ハァ
騎士「船室に居ろと言っただろう、お前……」
剣士「……戦士、僧侶。少し話せるか」
騎士「おい!お前、僧侶様は……!」
側近「……」
癒し手「私も、お聞きしたい事がありましたので」
癒し手「大丈夫です。鍛冶師の村でもゆっくり休ませて頂けましたし」
癒し手「疲れも、取れましたから」
騎士「そ、そうですか……そう、仰るのでしたら……」
側近「俺達の部屋は何処だ?」
騎士「あ……えっと……」
剣士「俺の部屋が甲板に一番近い所だろう」
騎士「ああ……あの並びの一番奥の部屋だ」
剣士「……ついでだ。案内がてら一緒に行く」
剣士「話すのは、お前達の部屋で良いか?」
側近「ああ、構わん」
騎士「……失礼の無い様にしろよ!」
騎士「僧侶様!ご無理なさいません様に!」

スタスタ

剣士「……話した、のか?」
癒し手「いえ……夫婦だ、と。それだけ、言っただけ、何ですけど」
側近「それだけでも丁重に扱う、ってなもんなんだろう」
剣士「……成る程。此処だ」

キィ

675: 2013/10/17(木) 12:18:15.64 ID:67S+1sSRP
お昼ご飯食べて、おでかけー!

685: 2013/10/18(金) 23:47:57.01 ID:AZLrxpHBP
癒し手「鍛冶師の村にはまだ、魔石の生成方法が伝わって居るんです……剣士さん」
癒し手「以前……魔法使いさんが、兄君と魔導師君に教わって」
癒し手「会得していたので。私にも出来るかと、思って」
剣士「魔力の結晶、と……考えて良い、んだな」
癒し手「はい ……だから、貴方が魔族と仮定しても」
癒し手「これがあれば……当面は、大丈夫です」
側近「だが……これ自身も、お前の魔力なのだろう?」
癒し手「そうなんです、けど……ね」
剣士「『聖職者の作る、魔除けの石』か」
癒し手「……貴方は、『魔』なのですか」
剣士「…… ……」
側近「癒し手?」
癒し手「……解らない、のですよ」
癒し手「確かに、剣士さんは、人間では……無い」
癒し手「だけど…… ……そこから先が、解らないのです」
剣士「…… ……」
癒し手「確かにこれは、私の魔力で作った物。持っていると……楽、です」
癒し手「それは、気持ちの問題なのかも……しれない。でも」
癒し手「……苦しい、ですか?」
剣士「……解らない」
側近「解らない?」
剣士「……苦しい、と言うより…… ……『痛い』」
側近「……痛い」
剣士「ああ……切ない?」
癒し手「!」
剣士「……俺の事は気にしなくて良い。お前が大丈夫なのなら」
剣士「話を……続けても良いか」

690: 2013/10/19(土) 11:27:54.74 ID:7BHtmewWP
癒し手「私は……大丈夫です。だから、構いません」
癒し手「ですが……」ジッ
剣士「……?」
癒し手「もう一つ、だけ。その『痛み』は肉体的な苦痛、では無い、んですよね?」
剣士「……そう、だな。切なくて……胸が苦しい、様な」
剣士「不思議な感覚だ」
側近「……『苦しくて、悲しくて、切なくて……嬉しい』?」
剣士「……? なんだ、それは」
癒し手「…… ……」
側近「否、良い……癒し手に無理をさせる訳にはいかん。話を進めよう」
剣士「……お前達は、あれから、何処に行ったんだ?」
剣士「それに……確かに、今のお前は『魔』だ。一体……どう言う事だ?」
側近「…… ……」
癒し手「側近さん」
側近「しかし……」
剣士「『王に伝えるまで話せない』か」
癒し手「……いえ、お話しします」
側近「癒し手!」
癒し手「国王様は貴方に『知る限りの『世界』を教える』と言われたのでしょう」
癒し手「……何処まで、話されるおつもりなのかは解りませんけど」
癒し手「剣士さんには……伝えるべきだと、思います」
側近「だ、だが……!」
癒し手「貴方は……『魔王を倒す』のでしょう、剣士さん」
剣士「……ああ。だが……俺は『勇者』に選ばれなかった」
癒し手「……もう、その思いは消えてしまいましたか」
剣士「? ……否」
側近「…… ……」
癒し手「」

691: 2013/10/19(土) 11:43:35.49 ID:7BHtmewWP
癒し手「側近さん……」
側近「……解った、癒し手」ハァ
側近「一つだけ、条件がある」
剣士「……他言はしないと言っただろう。国王にも騎士団長にも」
剣士「お前が……魔へと変じた事は言わん」
側近「……ありがとう」
癒し手「私達は、魔導国であの時……どう、なったのです?」
剣士「……光に包まれて消えた、様に見えた」
剣士「強大な……魔の気を感じた。酷い頭痛が……したんだ」
側近「そういえば顔色が悪かったな」
癒し手「……私達は、転移したのです。最果ての……魔王の城まで」
剣士「……!?」
癒し手「魔力の主は……ま ……勇者様の、お母様でした」
剣士「……な、に?」
癒し手「『時間が無いから、呼び寄せた』のだと」
剣士「…… ……」
側近「信じられん、か?」
剣士「…… ……勇者の母、は人では無いのか」
剣士「あの小屋から……居なく……!」ハッ
剣士「転移……! しかし……!」
癒し手「『魔法なんて使い様』だそうですよ」
癒し手「……私も、この目で見るまで、信じられなかった」
側近「……俺が何よりの証拠だろう。人の身から……」
剣士「勇者の母も……魔に変じていた、と言うのか……」
癒し手「強大な魔力を感じたのでしょう?」
癒し手「……私も、感じました。彼女は確かに、魔だった」
癒し手「そして……知ったのです。『世界の裏側』を少しだけ」

705: 2013/10/21(月) 09:14:40.72 ID:vbJpRF+fP
剣士「『世界の裏側』」
癒し手「はい。あの時……私達はお母様の力に導かれて、魔王と対峙しました」
癒し手「……正確には、前魔王と、ですけど」
側近「…… ……」
剣士「前魔王? ……待て、お前達が此処にいる、と言う事は」
剣士「……否…… ……?」
側近「確かに魔物の力は弱くなった。それは……お前も知っての通りだろう?」
剣士「……結論を先に聞かせてくれ」
剣士「お前達は、魔王を……」
剣士(否、違う! 癒し手はさっき確かに『前魔王』と……!)
癒し手「……そうですね。手短に。結論から言うと、私達……黒い髪の勇者様は確かに」
癒し手「魔王を倒しました。そして……」
癒し手「……魔王に、なりました」

710: 2013/10/21(月) 15:49:21.27 ID:vbJpRF+fP
剣士「……魔王に、なった……」
剣士「…… ……」
側近「繰り返されたんだ」
剣士「……何が、だ」
癒し手「何のために……黒い髪の勇者様のお母様は、魔に変じられたと思いますか?」
癒し手「側近さん……戦士さんも、です」
剣士「…… ……」
癒し手「そして、貴方はどうして、まだ……『魔王を倒す』と、思うのか」
剣士「……魔物が居なくならない理由、か」
側近「まだ……終わって居ない、んだ」
側近「……残念でならない、が」

715: 2013/10/22(火) 09:28:51.16 ID:wi8dRQ9RP
剣士「…… ……」
癒し手「混乱なさるのも無理はありません。私達だって……信じられなかった」
側近「だが、目で見た物を……みてしまった物を否定するのは難しい」
癒し手「私は……貴方が『特異点』だと思います」
剣士「特異点?」
癒し手「……はい」
癒し手「『腐った世界の腐った不条理を断ち切る為』の『特異点』」
癒し手「あるいは、『欠片』」
剣士「……順序立てて話して貰えるだろうか」
剣士「これでは、推測にも憶測にも事足りん」
側近「『港街の勇者様』……『少年』は、魔王だった」
剣士「…… ……」
側近「驚かんのか」
剣士「魔導国の領主……否。母親と父親が」
剣士「そんな推測を立てていた……お前達もその場に居ただろう」
癒し手「……信じられていた、のですか。あの話を」
剣士「何と言えば良いのだろうな。あの場で……信じていた、とは言えんな」
剣士「だが、俺は『少年』では無い。『魔王』でも無い」
剣士「……だが、お前達の話を頭ごなしに否定する気にはなれん」
癒し手「エルフは、嘘は吐けません」
剣士「……?」
癒し手「優れた精霊と、人寄りも易く契約を交わす事のできる代償だとか」
癒し手「……聞いた話です。ですけど」
剣士「嘘を吐いたらどうなる?」
癒し手「その嘘は本当になってしまう。と……お母様は言ってらっしゃったそうです」
剣士「……姫、か。少年の……魔王の妻」
側近「お祖母様や領主……当時の、だな。に問われ、肯定してしまったらしい」
側近「なるべくしてなったのか、後で辻褄を合わせたのかは解らんがな」

716: 2013/10/22(火) 10:00:56.50 ID:wi8dRQ9RP
癒し手「……あの国の始祖だと言う……人達……」
側近「ん?」
癒し手「『始まりの姉弟』の話は、ご存じですか?」
剣士「……雷を加護に持つ姉と弟の話か」
側近「『始まりの姉弟』?」
癒し手「……後で、話しますと……さっき、側近さんに言った奴、です」
側近「ああ……」
癒し手「シスターさんから聞いた話なんです」
癒し手「彼女も、詳しくはご存じ無いと仰って居ましたけど……」
剣士「俺も、母親が独り言の様に熱弁を振るっていたのを聞いただけだ」
剣士「……あの国の生い立ちなど興味も無い。右から左に、等しかったから」
剣士「詳細は知らんが……あの時、お前達が居た時にも母親が言っていたな」
剣士「『魔族の血が入っている』と」
側近「父親や領主は否定するが、と前置いていた、あれか」
側近「俺も一つ気になっていた。あの時……母親は、父親を」
側近「『兄』と呼んでいた、だろう」
癒し手「…… ……」
剣士「あの二人……魔法使いの両親は、実の兄妹だ」
癒し手「本当……なんですね」
剣士「シスターから聞いたのか」
癒し手「はい…… ……魔法使いさん、は……ご存じ無い、のですよね?」
剣士「だと思う、が」
側近「……表情が優れなかったのはそれか?癒し手」

717: 2013/10/22(火) 10:15:28.37 ID:wi8dRQ9RP
癒し手「それだけ……では無いです」ハァ
剣士「…… ……」
癒し手「シスターさんが悪い訳じゃありません……それは解ってます」
癒し手「『金の髪の勇者様達』は戻って来なかった」
癒し手「……魔物は居なくならない。それは……以前も、同じでした」
癒し手「だけど、私達は……二人だけとは言え、戻って来た」
癒し手「直接的な関係……否、参加していなかった、とは言え」
癒し手「始まりの国は戦争に勝ち、魔導国は負けた」
側近「…… ……」
癒し手「だから……世の中は。『世界』は、これからどんどん、平和になっていく」
癒し手「『人間』の住みやすい世界にさらに、『変わっていく』のだろう、と……」
剣士「……シスターから。『人間』からみれば、それは確かに喜ばしい事だろうな」
剣士「黒い髪の勇者が次代の魔王になったのであれば、確かに……戻れない」
剣士「金の髪の勇者が戻れなかったのも同じ理由なのだろう?」
側近「……そうだ。黒い髪の勇者……現魔王のお母様は魔へと変じられ」
側近「金の髪のゆ……魔王、との間に、黒い髪の勇者を授かった」
剣士「……『勇者』の……否。『魔王』の子が、『勇者』……なのか」
剣士「ここに居ない魔法使いも……魔へと変じた、んだな」
癒し手「はい。魔法使いさん……今は、后さん、ですけど」
癒し手「……后さんは、次代の『勇者』を……産まれる、のでしょう」ハァ
剣士「『まだ終わっていない』か」フゥ
剣士「……成る程、な」
側近「俺達も知れない事はまだまだある。もう少し詳しく話してやりたいが」
剣士「否……良い。癒し手を寝かしてやれ」
癒し手「……すみません」
剣士「国王が……何処まで俺に教えてくれるつもりなのかは解らんが」

718: 2013/10/22(火) 10:21:55.84 ID:wi8dRQ9RP
剣士「お前達は……これを、告げるのだろう」
癒し手「はい」
側近「……俺達には知る権利がある。伝える義務も」
剣士「次代に、か」
癒し手「『未来』に、でしょうか」
剣士「……?」
癒し手「何時か訪れるだろう、美しい世界を守る為に」
癒し手「直接的には……『知を受け継ぐ者』に」
剣士「それは……誰だ」
側近「魔王の城に居る……使用人という少女」
剣士「少女……? それも、魔、か」
側近「ああ……俺達の知識も、彼女から教えて貰ったものだ」
側近「使用人も、魔導国の出身だ。お前は盗み聞きしてただろう」
側近「魔導将軍、と言うのもな」
剣士「……あいつは、少年に殺されたのでは無いのか?」
癒し手「名を受け継いだだけ、です。私達の知る魔導将軍は」
癒し手「背に紅い羽を持つ、女性です」
剣士「……頭が痛くなってきた」ハァ
癒し手「え!?」
側近「ややこしくて、だろう」
剣士「……俺も部屋に戻る。詳細は……始まりの国に着いたら、だな」
癒し手「……国王様は聡明な方です。貴方を謀る様な真似は」
癒し手「なさらないはずですよ」
剣士「……だろう、な」
剣士「邪魔をした。ゆっくり休んでくれ……後」
側近「?」
剣士「……ありがとう」

スタスタ、パタン

723: 2013/10/22(火) 22:27:35.10 ID:wi8dRQ9RP
癒し手「…… ……」フゥ
側近「目を閉じて眠れ……大海の大渦にさしかかれば」
側近「もっと揺れるぞ」
癒し手「……はい」
側近「良かった……の、だろうか」
癒し手「え?」
側近「剣士に……話してしまって、だ」
癒し手「解りません。だけど……駄目では無いと思います」
癒し手「国王様から……聞く、でしょう。何れ」
側近「叔父上が……全て話すと思うか?」
癒し手「はい」
側近「……あっさり、だな」
癒し手「勿論、私は……側近さん程、国王様を知りません、けど」
癒し手「……そんな気が、します」
側近「そう感じる、のか?」
癒し手「そういう訳じゃありませんけど…… ……あ!!」ガバッ
側近「! な、何だ、どうした!?」
癒し手「船長さんに連絡するの、すっかり忘れてました!」
側近「…… ……良いだろう、とは、言えん…… ……か」
側近「しかし……」
癒し手「大丈夫です……それに、流石に、ですよ」
癒し手「待たしてしまっているかと思うと……」プチ、プチ
癒し手「側近さん、申し訳ありませんが、荷物から筆記具を……」
側近「あ、ああ……」ゴソゴソ
癒し手「…… ……」カキカキ
側近「……『待つ必要はありません。依頼は完了として下さい』」
側近「随分簡素だな」
癒し手「言い訳を書いても仕方ありませんからね」

724: 2013/10/22(火) 22:34:13.71 ID:wi8dRQ9RP
癒し手「ええと……」カキカキ
側近「?」
癒し手「此方は、魔王様と后様へ、です」
癒し手「詳細な現状報告は後ほどする、として……」
癒し手「取りあえず……ですけど」
側近「…… ……これまた、簡素だな。驚かないか」
癒し手「喜んでくれると信じてますよ」
側近「そりゃ、俺達に子供が出来たというのは……」
癒し手「いえ……始まりの国に向かう事も。剣士さんの事も、です」
癒し手「勿論、鍛冶師の村の事もですけど」
側近「…… ……そう、か?」
癒し手「はい……『私達は、喜ばなければならない』」
側近「…… ……」
癒し手「良し……側近さん、申し訳無いですが……」
側近「ああ。飛ばしてくれば良い、んだな」
癒し手「はい……動くと、怒られそうなので」フフ
側近「良く解ってるじゃないか」
癒し手「じゃあ……」グッ

ピピ……チチチ、ピィ……

側近「……ッ こら、髪を咥えるな……」
癒し手「小鳥たちも、側近さんの事が好きなんですね」クス
側近「……ほら、お前は横になって目を瞑れ」
側近「すぐに、戻る」

スタスタ、ピィ…… ピピピ…… ……パタン

癒し手「……『特異点』か」フゥ。コロン
癒し手(やはり……彼、は。『欠片』?)
癒し手(紫の瞳の魔王……少年さんが、生きていれば)

725: 2013/10/22(火) 22:45:40.65 ID:wi8dRQ9RP
癒し手(剣士さんに……そっくり、だったんだろうな)
癒し手(勇者様……魔王様と、本当によく似てる。否)
癒し手(同じ顔をしている)
癒し手(…… ……もし、魔王様と后様に子供が……)
癒し手(『勇者』様が産まれたら……)
癒し手(二人が、旅を…… 共に、する……な……ら…… ……)スゥ

……
………
…………

王子「ご足労感謝する、少女さん」
少女「……国王からの書簡が届いた、のですね」
国王の息子「…… ……」
少女「…… ……」チラ
国王の息子「彼、は」
王子「……騎士の一人だ。騎士は他にも居るだろう?」
少女「……見張りの騎士……さ、んの姿は勿論見えています」
少女「見た事の無い、顔だったので」
王子「書簡を届けてくれた騎士の中の一人、だ」
王子「……彼は回復を得意とする部隊に所属してる」ハァ
少女「…… ……申し訳、ありません」
王子「君を責めている訳では……否」
少女「私は……代表者です、から。でも……」
王子「言う事を聞かない?」

726: 2013/10/22(火) 22:52:54.41 ID:wi8dRQ9RP
少女「…… ……」
王子「報告は勿論受けている。俺達の目の届く範囲でやらない辺り」
王子「姑息と言うか、罪の意識があるとみるべきか……悩むよ」
少女「…… ……すみません。やめろ、とは……伝えたんです!」
王子「さっきも言ったけど、君だけを責めても仕方無い」
王子「だが、これがこの国……否、この『街』の体質である事は」
王子「認めてくれている、と思って良い、んだね?」
少女「……年長者だ、代表者だと申し出たのは私ですから」
王子「…… ……」
王子「怪我をした住人の回復は、この……彼を含めた騎士達に任せて貰っても良いけど」
王子「……言う事を聞く、聞かないに限らず、君は」
少女「……解って居ます。『出来損ない』達に酷い事をするなと」
少女「伝える……事は、やめません」
王子「……その言葉を、使わない様には出来ないの?」ハァ
少女「で、でも……変わる言葉、等……」
王子「違うだろう。彼らも君達も、この街の住人だろう?」
王子「……命の重さや、存在の価値に差違なんか無いんだ」
少女「…… ……」
王子「まあ……正直に言うと、君が駄目だと……注意してくれていると言う事に」
王子「俺は驚いた、けどね」
少女「『敗戦国』だと。私達は……『敗戦者』だと言ったのは貴方でしょう、騎士団長様」
少女「……従う方が、賢いのだと思うだけです」
王子「……俺達が帰るまで?」
少女「そ……ッ そんな事、ありません!」
王子「この前も言った様に、俺達は君達の『支配者』じゃない」
王子「……まあ。言葉だけじゃ、ね」フゥ
少女「…… ……」

727: 2013/10/22(火) 23:06:16.49 ID:wi8dRQ9RP
王子「……取りあえず、書簡を読み上げるよ」
王子「質問があれば都度してくれても良いし、後で纏めてでも良い」
王子「読んだ後、君も目を通して……承諾の印を押して貰う」
少女「……拒否権は」
王子「……言うまでも無い、と思うけど」
王子「基本的に、無いと思ってくれて良い」
少女「…… ……」
王子「……一つ目」
王子「『国としての権利は剥奪し、街としての代表者を一人立てる事』」
王子「『尚、魔導の街と言う名は使用を許可しない』」
少女「……王か領主か、の呼び名の違い等」
王子「街長、だろうね。呼び名を言葉にするのなら」
少女「街長……!?」
王子「……不服?」
少女「…… ……ッ」
王子「…… ……」ハァ
王子「当面、君が街長だ、少女」
王子「仮の措置だけどね……大人が居ないというのなら、仕方無い」
少女「…… ……」
王子「手助けは勿論する。解らない事や困った事があれば、何でも言ってくれると良い」
少女「どうやって……です」
王子「二つ目」
王子「『当面の間、始まりの国の騎士を警備兵として配置する』」
王子「さっきの様な問題なんかも、まだまだ起こるだろう」
王子「治安の保全や、まあ……魔物の事もあるし」
少女「見張りも兼ねている訳ですね?」
王子「否定はしない」
少女「…… ……」
王子「三つ目」
王子「『出来損ない、等の蔑称の使用の禁止。伴い、身分制度の廃止を要求する』」
王子「……ま。これも当然だと解ってくれるよね?」

728: 2013/10/22(火) 23:16:39.38 ID:wi8dRQ9RP
少女「はいそうですかと、行かないと言ったのは貴方ですよ」
王子「だからこその『見張り』だろう?」
王子「……期間を指定しなかったのも、理解してくれると助かるけど」
少女「……ッ 拒否権が無いのは、仕方無いとは言え……ッ」
少女「『支配』と、何が違うと……!」
王子「『指導』だ」
王子「……野放しに出来ると思うのか。君は、同じ事を繰り返さないと」
王子「約束できるのか?」
少女「で、でも……ッ」
王子「さっきも言った。命の重さに差違は無い!」
少女「……ッ」
王子「たかだか血等で、それだけで!」
王子「蔑んで良い命だと、君達に決めつける権利が、何処にあるんだ!?」
国王の息子「お……騎士団長様」
王子「…… ……すまん」
少女「……ッ 終わり、ですか!?」
王子「…… ……四つ目」
王子「街の名前は、君達で決めれば良い。勿論……『魔導の街』以外で、だけど」
少女「え……?」
王子「呼び名が無いのは不便だ。新しいスタートだと、認識する必要がある」
王子「君達も……俺達も、ね」
少女「き、急に言われたって……」
王子「代表者は君だ。君が決めても良いと思うよ」
少女「…… ……」
王子「まあ、勿論今すぐに決めろ、とは言わない」
王子「考えて置いてくれると良い……五つ目。最後だ」
王子「鍛冶師の村への、直通便の廃止」
少女「…… ……」
王子「この街の港に着岸する船は当面、港街経由の」
王子「始まりの国の騎士の乗る、船のみとする」

729: 2013/10/22(火) 23:23:47.65 ID:wi8dRQ9RP
少女「…… ……」
王子(急に喋らなくなったな)ハァ
少女「……見せて下さい」
王子「どうぞ……改めて見直したら、サインをお願いするよ」
少女「…… ……」
王子「君は『代表者』だ。責任がある」
少女「…… ……」カキカキ
王子「……結構。街人達への通達は、俺達がやった方が良いかい?」
少女「結構です、と言って、承知して下さるのですか」
王子「見張りはつけるけどね」
国王の息子「……その役目、僕にやらせていただけませんか、騎士団長様」
王子「……え?」
国王の息子「勿論、騎士……様、達と……一緒に行きます」
王子「……まあ、良いだろう。万一暴動が起きた時に」
王子「お前じゃ手に余るだろうからね。同行する、と言うのなら、許可する」
国王の息子「ありがとうございます」
少女「……あの」
王子「ん?」
少女「街の名前、本当に私が考えて良いのですか」
王子「……君は『街長』だろう」
少女「…… ……暫く、時間を下さい」
王子「ああ。構わない……後」
王子「その書簡に書いては居ないが、少し落ち着いたら」
王子「我が国を訪ねて欲しい」
少女「私が……ですか!?」
王子「ああ。『街長』としてね」
少女「……それは、貴方の判断ですか」
王子「言い出したのは国王様だ。俺宛の書簡にその旨を伝えてくれと書いてあった」
王子「……まあ、俺も反対はしない。勿論、お膳立てはさせて貰うよ」
少女「監視……の間違いでしょう」
王子「…… ……」
少女「…… ……」

730: 2013/10/22(火) 23:31:11.15 ID:wi8dRQ9RP
王子「……質問が無ければ……」
少女「騎士団長、様」
王子「……何だい」
少女「一つだけ、質問します」
王子「…… ……」
少女「以前、お話しした時……はいそうですかと、簡単には行かない」
少女「……双方、覚悟は必要だ、と私に言いましたね」
王子「ああ…… ……?」
少女「その双方、と言うのは、私達……王さ……領主様達の血筋の者と」
少女「……『その他』の者、と考えて良いんですね?」
王子「……そのつもりで、言った」
少女「何故?」
王子「え?」
少女「私達は……不便になるでしょう。簡単に受け入れられません」
少女「ずっと蔑んできた人達が、私に……私達に」
少女「普通に話しかけ、一緒に食事をする等……ッ」
国王の息子「…… ……」
少女「だけど……彼らの覚悟とは、何です」
少女「……怨みや、憎悪を込めて、今度は、私達に……!!」
王子「その可能性も鑑みての『見張り』だ。『指導』だよ」
王子「……支配されるばかりで生きてきた人達に」
王子「『今日から君は自由だよ』と言って」
王子「……否、勿論、喜ぶだろう。安堵するだろう…… ……だけど」
王子「それこそ、はいそうですかと、受け入れられると思うか?」
少女「え……?」
王子「君の危惧ももっともだ。何をしても良いんだと言う思いが」
王子「歪めば、君達へ危害を加えようと企む人が居ないとは限らない」
国王の息子「……それ以上に、戸惑いが大きいでしょうね」
王子「…… ……」
国王の息子「『ずっと蔑まれて生きてきたのに。命令が無ければ何も出来ない』」
国王の息子「『何をし、何を思えば良いのか解らない』と」
国王の息子「騎士団長様は、それを危惧していらっしゃるのでは?」
少女「そ……ん、な……」

731: 2013/10/22(火) 23:40:25.71 ID:wi8dRQ9RP
国王の息子「貴方には、想像も出来ないでしょうけれど」
国王の息子「不思議では無いと思いますよ?」
少女「…… ……」
国王の息子「差違の無い筈の『命』を、そうして歪め」
国王の息子「圧迫し、隷属を強いてきたのは紛れも無い貴女達だ」
国王の息子「代表者だと言うのならば、その咎も責任も」
国王の息子「……全て、受け入れる義務があるんですよ。少女さん」
国王の息子「些細な幸せに笑い、悲しみや苦しみに憂う権利まで奪ったのは……」
国王の息子「誰でも無い、血統等と言う下らない言葉に胡座をかいてきた、貴女達なのですよ!」
王子「……それぐらいにしておきなさい」ハァ
国王の息子「……ッ …… ……すみません」
王子「途中で声を荒げた俺の言う台詞じゃないけどな」
少女「…… ……」ポロポロポロ
王子「……その、涙の意味を考えて欲しい」
少女「……?」
王子「怒鳴られ、詰られ辛いかい?」
少女「!」
王子「……さしたる理由も無く。優れた加護が無いと言うだけで」
王子「ずっと、そうされてきた人達に対する涙……で、無い事は解るけどね」ハァ
少女「そ……ッ」
王子「否定出来るの?」
少女「…… ……」
王子「……誰もが、そんな思いをしない『世界』になれば良いのにと思うけど」
王子「結論から言えば、無理だ。国王様もそれは解って居る筈だ」
少女「え……」
国王の息子「お …… ……騎士団長様?」
王子「悲しいけど、生きていく以上、弱肉強食は否めない」
王子「……だから、せめて」
王子「誰か。何かを……思いやる心を、気持ちを持って欲しいと思うよ」
王子「……今すぐ、理解してくれなくても良いから。な?」
少女「…… ……失礼、します」クルッ

スタスタ、バタン!

732: 2013/10/22(火) 23:43:37.72 ID:wi8dRQ9RP
限界!寝る!

758: 2013/10/24(木) 09:41:18.87 ID:RDY18F+yP
国王の息子「……申し訳ありません、伯父上」ハァ
王子「大丈夫……お前も、止めてくれてありがとうな」
国王の息子「時間……掛かりますよね」
王子「当たり前だ。物理的にも、精神的にも……な」
王子「時間をかけて、少しずつ……していかなければならないのさ。逆に」
王子「そうで無いと、見失うよ」
国王の息子「見失う?」
王子「うん。大事な事を、な……外見上だけを突貫で整えたって」
王子「それは、本物じゃないだろう? ただの……張りぼてさ」
国王の息子「……はい。それにしても、彼女……少女さん、ですか」
王子「うん……やはり、まだ幼い。逃げた大人をいぶり出すのはなぁ」
王子「……意味も無いだろうし、不可能だろう」
国王の息子「…… ……」
王子「彼女たちが、新しい街人として、この街を…… ……」
国王の息子「可愛かった、ですよね……」ポッ
王子「…… ……は?」

……
………
…………

カチャ、バタン

魔王「ああ、良い匂いだな……俺にもくれる?使用人」
使用人「はい、すぐにご用意致します」
使用人「おびき出されて……来ましたね」クス
后「頑張った甲斐、あったわね」クスクス
魔王「? 何の話だ?」
后「こっちの話……それより」
后「あんまり夢中になると疲れるわよ……あら……その鳥……」
魔王「書庫の扉に激突してきた……ほら、手紙が着いてたぞ」スッ
后「……ふふ、怪我は……大丈夫みたいね」

ピィッ

魔王「癒し手の使いらしい、と言えばそれまでなんだがな」
魔王「……で、何だって?」

764: 2013/10/25(金) 00:41:26.35 ID:9AXOO7JSP
使用人「魔王様、どうぞ」
魔王「ああ、ありがとう」
后「使用人、この蒼い小鳥さんにもお水あげて頂戴?」
使用人「はい……おいで」

ピピピ……

后「……癒し手、赤ちゃんが出来たんですって」
魔王「まじで!? ……そう、か……」
魔王「……先、越されたな」
后「…… ……」
魔王「……后?」
后「今から、始まりの国へ向かうそうよ」
魔王「!?」
后「…… ……」スッ
魔王「…… ……」カサ……
使用人「始まりの国、へ……? ああ、痛い痛い……引っ張らないで」

ピィ!

魔王「……鍛冶師の村の魔寄せの石……インキュバスの魔石、か」
魔王「それを破壊する為の任に着いていた剣士と思いがけず合流」
魔王「船で共に、始まりの国へ向かいます……と、それだけか」
使用人「…… ……剣士、さん。ですか」
后「詳しい話は、戻ってから……って」
后「思って良い、んでしょう……ね? 魔王」
魔王「……と、思いたい、がな」

765: 2013/10/25(金) 00:45:46.57 ID:9AXOO7JSP
使用人「…… ……剣士さんは、あの時」
使用人「貴方達が、此処へと……前后様の魔力で誘われた時」
使用人「魔導国に、いらっしゃった……の、ですよね?」
后「……ええ」
使用人「では、何故……」
魔王「…… ……魔導国に、何かあった……ん、だろうな」
后「…… ……」
使用人「……すみません、后様」
后「貴女が謝る事じゃ無いわ、使用人」
后「……答えは、きっと戻って来る」
魔王「…… ……」

775: 2013/10/26(土) 10:11:06.07 ID:7OPjLLWmP
ピィ……チチチ

使用人「あ……こら!」
后「ふふ……良いじゃ無いの」
魔王「具現化した小鳥がクッキー突っつくって ……何と言うか」
魔王「……流石癒し手の、だな。俺も貰って良い?」
使用人「勿論、魔王様の分もご用意してありますよ」
后「頑張って作ったんだから……書庫に篭もるのも良いけど」
后「少しぐらい、休憩なさい」
魔王「ああ……しかし、凄い量だよな」
使用人「魔導書から童話まで……魔王城にあって良いのかと」
使用人「思う物までありますからね」
魔王「……魔導書の類は、俺には良く解らないからみてないけど」
后「アンタも一応魔法使えるでしょうが」
魔王「専門じゃねぇよ。それに……『魔』になっちまえば、必要ないさ」
后「……願えば、叶う」
魔王「そう言う事」
后「便利なもんよね……昔、あれほど必氏に勉強したのに」
魔王「……魔導国にも、大きな図書館があるんだよな」
后「癒し手も……行ってみたかった、んでしょうね」
后「……戦争、終わったのかしらね」
魔王「后……」
后「……どうして魔王がそんな顔するのよ」
魔王「いや……」
后「剣士が、国王様に頼まれて……って、事は」
后「そういう事、なんじゃないかしら」
使用人「でも……まさか、あの後、直接……と考えても」
使用人「少し早すぎませんか?」
魔王「確かにな。国同士、力をぶつけ合って」
魔王「いきなり終結した、とは……考えにくい」

776: 2013/10/26(土) 10:26:32.96 ID:7OPjLLWmP
后「……憎んでいないと言えば嘘になる」
使用人「后様?」
后「だけど……牢の中でも良いから……生きていては、欲しいわ」
魔王「……まさか、国王様に限って……皆頃し、なんて命令は出してないだろ」
后「そうね……でも」
后「『戦争』ですもの」
使用人「…… ……ッ」
魔王「使用人?」
使用人「あ……すみません」
使用人「……厭な物、です。戦争、なんて……」
魔王「……紫の魔王の時代に、あったんだよな」
使用人「お若い時と…… ……姫様が、この城に来られた頃に」
后「紫の魔王に反旗を翻そうとした……えっと。狼将軍、だったかしら」
使用人「はい……鴉様と、ジジィ様……初代の魔導将軍様、が」
后「……亡くなられた、のよね」
使用人「…… ……」
魔王「……何の為に『力』なんてあるんだろうな」
魔王「啀み合って、傷付け合う為にある筈じゃないのにな」
使用人「…… ……」
魔王「書庫で……まだちょっとだけどさ。本読んでて思うんだよ」
魔王「必ずと言って良い程出て来るんだ。魔、だとか。魔法、だとか」
魔王「……必要、なのかな。そういうの」
使用人「魔王様?」
魔王「紫の魔王が言ってた、んだろう?」
魔王「……『魔王』は『勇者』に倒される為に、存在するのかもしれないって」
使用人「…… ……はい」
后「魔法なんて、無ければ……」
魔王「…… ……」
后「そんな物が、産まれなかった『世界』なら」
后「こんな……こんな事を、繰り返さなくて良かった、のかしら」

777: 2013/10/26(土) 10:29:45.70 ID:7OPjLLWmP
使用人「后様……」
后「魔導国で暮らしてる時は、とにかく難しい魔導書ばかり、読まされた」
后「……原理は、一緒なのよね、解ってさえしまえば」
魔王「ん?」
后「願えば叶う、よ……貴方のお母様が仰った通り」
后「『魔法なんて使い様』よ」
魔王「……まあ、だからって一朝一夕で身につくものでもないんだろ?」
后「そりゃそうだけど……」
使用人「基礎は大事ですよ。魔法に限った事じゃ……ありませんけど」

800: 2013/10/29(火) 10:23:51.69 ID:hfUPT27fP
使用人「きっと……その、原理を理解されていたのでしょうね」
后「紫の魔王も、貴方のお母様も、ね」
魔王「……母さんは、俺を産んで、回復魔法が使えなくなった、んだよな?」
使用人「はい……以前少しお話ししましたね」
魔王「俺達がここに来て……否」
魔王「紫の魔王を倒してすぐ……だな」
使用人「貴方も、もう使えないはずです。魔王様」
魔王「……ああ。前にこっそり試したけど、駄目だったよ」
后「何故なの? 紫の魔王の側近は……魔に変じたけど使えたんでしょう」
使用人「側近様は……男性です。『産んで』ませんから」
魔王「母さんも、魔に変じただけの時点では……使えた、んだよな」
后「……あ、そうか。そういえば、前にも聞いたわね」
使用人「差違はそこだと思われる、に過ぎませんけどね」
后「『勇者』と言う『人間』を産んで……完全な魔になった、か」
使用人「上手く言葉には出来ませんけど。人、の部分を『勇者』に奪われた」
使用人「そして、『魔』だけが残った……と、考えれば良いのか……」
魔王「……だけど、そうで無ければ、姫様や……紫の魔王の母親の様に……」
使用人「はい。強大な力を持つ者を産む代償として」
后「命を無くしてたかもしれない……か」
魔王「……だとすれば。后が『勇者』を」
魔王「俺の……『魔王』の子供を産んでも、お前は……」
后「無事だと……思いたい、わよね」
后「……楽観視はすべきで無いと思うけど」

801: 2013/10/29(火) 11:03:28.27 ID:hfUPT27fP
魔王「……で、お前も規格外になる訳ね」
后「アンタにだけは言われたくないわね!」
魔王「俺だけじゃ無いんだよな……」
后「え?」
魔王「紫の魔王の側近。使用人も、か」
使用人「……私、ですか?」
魔王「后達が魔に……ああ、后が、ほら。暴走した時だ」
魔王「使用人は、あっさりと防護壁?だっけ……風の……あの魔法さ」
使用人「ああ……はい」
魔王「使ったじゃ無いか。俺も見よう見まねって言うか……夢中で」
魔王「結界、とやら、張ったらしいけど」
后「私はその時の事はあんまり覚えて無いけど……」
魔王「後から癒し手に聞いたんだろう?」
后「ええ。魔王の黒い?様な魔気で息が出来なくなりそうだったけど」
后「使用人の、緑の風、と言うか……壁?の内側に居れば楽だった、って」
使用人「……使い様、ですね。紫の魔王様が眠りにつかれて」
使用人「紫の魔王の側近様も、金の髪の勇者様を連れて始まりの街に行かれて……」
使用人「もし何かあった時に、紫の魔王様をお守りできるのは、私しか居ませんから」
后「……どっちかって言えば、魔王から守る、よね」
魔王「それこそ無茶……じゃないか?」
魔王「我ながら……だけど。多分、この力……相当でかい、なんて」
魔王「そんな言葉でも足りないぞ」
使用人「仰るとおりです。だから……そうですね」
使用人「そうならない様に、魔王様をお守りする……でしょうか」
后「極上の布に緑の防護の魔法、って奴、ね」
使用人「はい。癒し手様にも……心地よいと言って頂きましたし」
使用人「……意味があった様で、良かったです」
魔王「優秀なんだよな……使用人も」ハァ
后「何でため息つくのよ……それに、『も』て?」
魔王「お前だよ、后……否、お前だけでも無いけど」

802: 2013/10/29(火) 11:13:56.81 ID:hfUPT27fP
后「?」
魔王「あー……魔導国、のさ。出身の人……は、かな」
后「…… ……」
使用人「基礎、の話ですか」
魔王「うん。さっき使用人が言ってただろ?」
魔王「基礎は大事、て奴さ」
使用人「……はい」
魔王「産まれてすぐに、劣等種だ出来損ないだって、扱われる訳じゃ無いんだろう?」
使用人「余程遅くても……8歳くらいまでには……だったと思います」
使用人「后様がされた様に……テストをされるケースが殆ど……でしょうね」
后「……そう、でしょうね」
魔王「……御免」
后「謝る事なんて無いわ……もし、こうならなければ」
后「戦争が無かったり、終わってなかったりして……」
后「あのまま、家が続いて居たら。私が子供の時に、優れた加護が無いと」
后「両親に解って居たら。この子が駄目なら次、って」
后「……あの人達の事よ。すぐに……」
使用人「……で、しょうね。家がそうでした」
魔王「え?」
使用人「私に加護が無いと知ると、すぐにあの娼館に売られ」
使用人「……一年後、位でしょうか。すぐに妹が出来たと聞きました」
魔王「…… ……」
后「態々……教えてくれたの?」
使用人「男の方の魔導将軍が、教えてくれましたよ」
使用人「まあ……大体が酔っ払って来られてたので。口が滑ったのかも」
使用人「知れません、けど」
魔王「……そう、か」フゥ

803: 2013/10/29(火) 11:19:37.46 ID:hfUPT27fP
使用人「どちらにせよ、もう生きては居ません」
使用人「……もう、自分がどれぐらい生きているのか、忘れました」
后「使用人……」
后「……もう、良いのよ。もう……あんな歴史は繰り返されない」
后「魔導国はもう……無いわ」
魔王「……詳細は、側近と癒し手が帰ってくるのを待てば良い、んだ」
魔王「そうすれば…… ……ッ!?」バッ
后「魔王?」
使用人「どうされました?」
魔王「…… ……ッ」
魔王(何だ、この…… ……気配……ッ!?)
使用人「魔王様……?」
魔王「……下がれ、何か…… ……来る……!!」
后「!?」
使用人「え……!?」

シュゥゥン……!

魔王「! ……お、前…… ……!?」
后「どこから……!?」
使用人(まさか! 転移……してきた!?)
剣士「…… ……黒い髪の勇者」
剣士「否、魔王……か…… ……成功した、か」フゥ
使用人「貴方が……剣士、さん。ですか……?」
剣士「ああ。使用人……と、魔法使い。否……后、だな」
后「!」

804: 2013/10/29(火) 11:32:56.67 ID:hfUPT27fP
魔王「……二人とも、下がれ」スッ
魔王「お前…… ……」
魔王(何故知ってる、は愚問か。側近と癒し手が話した?しかし……)
魔王「……始まりの国に向かっている、んじゃ無かったか」
剣士「……側近と癒し手から伝言だ」
后「え……?」
剣士「魔王と后に子供が出来たら」
剣士「使用人の小鳥で知らせて欲しい、と」
魔王「……お前、何処まで知ってる。何を知ってる」
剣士「『世界の裏側を、少しだけ』」
使用人「…… ……」
剣士「こうした方が早いと思ったからだ。それに……力を試してもみたかった」
后「……転移、ね」
剣士「『魔法なんて使い様』……お前の母の言葉だろう、魔王?」
魔王「!」
剣士「……国王から、ある程度の話は聞いた。側近と癒し手からの補足も受けた」
魔王「お前は……『魔王を倒す』んだろう?」
剣士「俺が倒すべき魔王はお前なんだろうな」
后「ちょ、ちょっと……!」
剣士「……今、どうこうしよう等と言う気は無い」
剣士「それに、魔王は勇者にしか倒せないのだろう」
使用人「……次代の勇者様と、共に旅立つ……と、言いたいのですか?」
剣士「お前には選ばれなかったからな」
魔王「…… ……」
剣士「全て話す。そうしてくれと……遺言だ」
魔王「……遺言?」
剣士「側近と癒し手の願いでもある」
后「遺言って…… ……ッ まさか……!?」
剣士「……元々身体が弱かったのだろう?」
使用人「……ま、さか」
魔王「……国王、さ……ま……!?」
剣士「…… ……」

805: 2013/10/29(火) 11:40:49.87 ID:hfUPT27fP
使用人「……それは、戦争の……」
剣士「疲労は溜まっていたのだろが…… ……氏因は病だそうだ」
剣士「……始まりの国には、騎士団長がいる。それに、新しい王も」
魔王「新しい王!? まさか……!!」
剣士「……側近は暫く離れられないだろう」
剣士「癒し手も、あの国で子を産むと言っていた」
后「あり得ないわ! 側近は……!」
剣士「落ち着け……国王には子が居た」
剣士「……新しい王には、彼が立った」
剣士「『王』を絶やしてはいけないんだろう?」
使用人「……全て、知っていると思って良いのですね?」
剣士「大凡は……解らない事は、お前に聞けと言われた」
剣士「お前は『知を受け継ぐ者』なのだろう……使用人」
使用人「……それでも尚、この道を歩むおつもりなのですね」
剣士「……ああ。俺は、魔王を倒さなくてはならない」
魔王「お前…… ……生きているのか?」
后「え……?」
剣士「……さぁな。俺は何も覚えて居ない」
后「と、ともかく! 順番に説明して頂戴!」
后「魔導国はどうなったの!? 側近と癒し手は、なんで……!」
后「……ッ 貴方は、何者なの、剣士!?」
使用人「后様……」
剣士「……解って居る。全て話す」
剣士「受け入れて……貰えると思って良い、んだな?」

806: 2013/10/29(火) 11:49:28.95 ID:hfUPT27fP
魔王「……敵意は感じないからな。それに……」ハァ
魔王「人の時には……『勇者』の時には解らなかった」
魔王「……お前は確かに人間じゃ無い。それは解る」
魔王「だが……お前は、何だ?」
剣士「…… ……癒し手にも同じような事を言われたな」
剣士「人で無い、だがその先が解らない、と」
使用人「……お座り下さい、剣士様」
后「ちょ、ちょっと使用人!?」
使用人「招かれざる客で無いのならば……歓迎致します」
使用人「私には、知り、受け継いで行く義務があります」
后「…… ……」
使用人「同席、お許し下さいますか、魔王様」
魔王「……当然だ」
使用人「ありがとうございます」
剣士「…… ……」
后「……本当に、他意は無いのでしょうね」
剣士「さっきも言っただろう。俺は……魔王を倒さなければならないんだ」
剣士「……何処から、話す?」
魔王「最初から最後まで……と言いたいが」
魔王「取りあえず……お前、なんで側近達とあったんだ?」
魔王「お前は……鍛冶師の村に居たんだろう」
剣士「夢を見たんだ」
后「……夢?」
剣士「ああ。石を破壊し、魔物を追う内に意識を失った」
剣士「……その時に、北の塔、だったか……に、居る二人が見えた」
使用人「見えた……?」

809: 2013/10/29(火) 13:03:56.52 ID:hfUPT27fP
剣士「ああ……夢でも見る様に」
魔王「…… ……」
剣士「その会話で知った。戦士が……魔に変じた事や」
剣士「あの塔の中に、姫と言う……エルフが眠っていたのだと言う事」
使用人「ですが……あの場所から鍛冶師の村は離れて居ます。どうして……」
剣士「それは俺にも解らん。あいつらが扉を開いた所で光が溢れ」
使用人「光……?」
剣士「そうだ。後で確かめたが……彼らも解らないと言っていた」
魔王「扉を開いたら外に出た、って……言ってなかったか?」
使用人「紫の魔王の側近様は、確かにその様に仰ってました」
剣士「側近達もそうだろうと思っていたのだろうな」
剣士「……気がつけば、傍にあの二人が立っていた。場所は……」
后「貴方が鍛冶師の村を出て……魔物を追っていた場所、ね」
剣士「ああ」
使用人「……何故?」
剣士「解らん、と言っただろう」
魔王「……癒し手は、何と?」
剣士「その件に関してはそこまでだ。その後、鍛冶師の村に戻り」
剣士「俺達は見張りの騎士達と別れ、始まりの国に戻った」
剣士「……その辺は、戻った時に聞いて欲しい」
后「……兄君や、魔導師君は元気だった?」
剣士「ああ……魔導師は別れる時に、癒し手の魔石を貰って喜んでいた」
剣士「兄は側近に件を教えて貰っていたな」
后「そう……」
剣士「……魔物が、家を襲ったんだ」
魔王「え!?」
剣士「言い忘れていたが、魔物の力は酷く弱っていた」
剣士「だが……強い力を持つとは言え、魔導師はまだ子供だ」

810: 2013/10/29(火) 13:19:37.10 ID:hfUPT27fP
剣士「……兄を守ろうと。自分を守ろうと……魔法を使い、結果」
剣士「兄を傷付けてしまった」
后「!」
剣士「……『魔法使いのお姉ちゃんと約束したのに』と泣いていた」
后「……覚えてて、くれたのね」
魔王「兄は……大丈夫だったのか?」
剣士「癒し手が居たからな」
后「癒し手に……魔石の作り方を教えたのは彼らなのね」
剣士「だろうな。俺は見ては居ないが……だが」
剣士「あれが無いと、辛いだろうと言っていた」
后「辛い?」
使用人「……此処に、戻られた時、ですね」
魔王「……紫の魔王も、姫様の為に魔除けの石を用意したんだったか」
使用人「ええ……船長さんに頼んで」
剣士「……少し、良いか」
魔王「ん?」
剣士「その、船長……の、事だ」
使用人「え?」
剣士「……癒し手達にもある程度の話は聞いた……が」
剣士「海賊船の……長。船長と言う名の女……」
魔王「……知ってる、のか?」
剣士「…… ……俺は、気がついたら最果ての街……この土地、だろうな」
剣士「に、一人で居たんだ」
魔王「……?」
剣士「紫の色の雲に、空。折れた十字架…… ……訳も分からず」
剣士「ぼうっとしていたら、一人の女に声をかけられた」
剣士「…… ……それが船長だ」
后「……それ、何時の話?」
剣士「もう随分と前だ……お前は、産まれていたのか否か」
剣士「……ああ。丁度……金の髪の勇者が魔王を倒した頃、か?」
使用人「……確か、ですか?」

811: 2013/10/29(火) 13:34:03.02 ID:hfUPT27fP
剣士「否、自信は無い……もう少し、前だったかも知れない」
剣士「……船長も随分と若かったしな」
剣士「唖然とする俺に、女は……船長は、ここは最果ての地だと教えてくれた」
剣士「……森の奥には、魔物の住む城があるのだと」
使用人「…… ……」
剣士「馬車が走っていくのも見た……乗って居たのはお前、だろう、使用人」
使用人「……間違い無いでしょうね」
剣士「名も、素性も解らない俺を船に乗せてくれた」
剣士「……俺に『剣士』と言う名を与えてくれ」
剣士「『受け入れて』くれた」
后「!」
魔王「……船長、だったのか」
剣士「?」
使用人「……『受け入れる者』……彼女、が」
剣士「…… ……何の話、だ?」
使用人「聞いていない、のですね……そこまでは」
后「…… ……揃った、のね。本当に。今度こそ」
魔王「でも……『拾う者』は?」
魔王「癒し手の神父様だとすれば……」
后「あ、そっか……でも……」
剣士「……聞かせて、貰えるのだろうか」
使用人「はい。ですが……先に、貴方の聞いたお話を」
使用人「魔王様、后様も。先に……剣士様のお話を聞きましょう」
使用人「……結論は、それからでも遅くありませんよ」
剣士「……俺達は鍛冶師の村を後にして、始まりの国に戻った」
剣士「騎士団長も、既に書の街から戻っていたんだ」
后「書の……え?」
剣士「……旧魔導国だ」
剣士「世界中の貴重な書を集め、保存する場所にするそうだ」
剣士「……大きな図書館があるからな」
后「『書の街』……」

812: 2013/10/29(火) 13:41:04.63 ID:hfUPT27fP
剣士「そこも追々話す……国王と騎士団長。それから」
剣士「側近、癒し手……それから、俺」
剣士「……随分長い間、話していたんだろうな」
剣士「…… ……国王が、倒れるまで」
使用人「…… ……」
魔王「……国王は、そのまま……?」
剣士「ああ……俺達が戻る前に」
剣士「王の座は、国王の息子に譲ったと、そこから話は始まったんだ」

……
………
…………

国王の息子「お父様、どうして……! 僕には、まだ……!!」
国王「……良く、お聞きなさい。そして……これだけは守って下さい」
国王「『世界』から『王』を絶やしてはならないのです」
国王の息子「で、でも! お父様は、まだ!!」
国王「魔導国から戻ったばかりのお前に、こんな事を話すのは酷かも知れません」
国王「ですが、今だからこそ……です」
国王「今、この時をもって、私は『王』をお前に譲ります」
国王「……私は、ただの『弟王子』であり」
国王「お前が新しい『王』です」
王「お父様!」
弟王子「……今は、詳しい話をしている時間はありません」

813: 2013/10/29(火) 13:47:49.94 ID:hfUPT27fP
王子「大丈夫だ、王……否、王様。俺達でしっかり補助をする」
王子「それに……弟王子だって、まだまだお前の後ろ盾になってくれる」
王子「……なぁ?」
弟王子「ええ、兄さん」ゴホッ
王「! お父様、顔色が……!」
弟王子「大丈夫です…… ……もうすぐ、騎士達と剣士が戻ってくる」
弟王子「私と兄さんは、彼らと話す事がありますし……」
弟王子「形式的に王の座を渡したとは言え、まだ発表は出来ません」
弟王子「……だから、今日はゆっくりとおやすみなさい」
弟王子「勝手でご免なさい。時間が無いなんて、言い訳に過ぎないけれど」
王「お父様……」
弟王子「魔導国での任務、ご苦労様でした」
弟王子「……その経験を、お前ならきっと……」
弟王子「これからの世界に。未来に……生かしていけると、思いますよ」
王「…… ……お父様」
弟王子「大丈夫。お前は聡明な子ですから。きっと、良い王になれます」
弟王子「……バタバタして、詳しい説明が出来ない事は許して下さい」
弟王子「後で、必ず……」

バタバタバタ……バタン!

騎士「失礼します、国王様!騎士団長様!」
騎士「こ、これは国王の息子様!」
王「…… ……」
騎士「鍛冶師の村からの船が、帰還致しました!」
弟王子「ありがとう。では彼らを此処へ案内して……人払いを」
騎士「は!」

814: 2013/10/29(火) 13:49:14.39 ID:hfUPT27fP
王「……約束、です。お父様」
弟王子「勿論ですよ、王様」ニコ
王「…… ……失礼します!」

パタパタ……バタン!

王子「納得してない顔だったな」
弟王子「……後は、頼みますよ兄さん」
王子「弱気な事言うな」
弟王子「気が楽になりました。背から重い荷物を下ろした様な……」

817: 2013/10/29(火) 15:48:31.81 ID:hfUPT27fP
王子「……まだ残ってるだろう。とびきり重たいの、がな」
弟王子「…… ……私は、まだ迷っているんです」
弟王子「私が氏ぬまでに……これから剣士と話すだろう事……」
王子「『世界の裏側』か」
弟王子「……はい。それを……受け継がせるべき、か。否か」
王子「…… ……」
弟王子「剣士の話を聞いてからでも、決断を下すのは遅くないと」
弟王子「……思いたい、のですけどね」
王子「……何にせよ」ハァ
王子「お前にはまだ、新しい王を導いて行く役目があるんだぞ、弟王子」
弟王子「……久しぶりに、その名で呼ばれました」フフ
王子「…… ……」
弟王子「今なら、少しお母様のお気持ちが解ります」
王子「すっとしたか?」
弟王子「本当に、少しだけ」
王子「…… ……」
弟王子「……書簡にも記しましたが」
王子「ん?」
弟王子「『何かあれば、権限を一時的に兄さんに預ける』と言う奴です」
王子「……それがどうした」
弟王子「あれは、その侭……有効ですからね」
王子「何言ってるんだ。新しい王が……」
弟王子「まだ、正式に発表していません。私と、兄さんと……新王しか」
弟王子「知らない話です。ですから」
王子「弟王子、お前……ッ」
弟王子「……頼みます、兄さん。私は…… ……」

コンコン、バタン!

騎士「し、失礼致します、国王様!」

818: 2013/10/29(火) 15:55:16.74 ID:hfUPT27fP
王子「何だ、さっきから……」
弟王子「騎士達が戻ったと言うのは、聞きましたが……どうしました」
騎士「あ、あの……!」
側近「……失礼する。お久しぶりです、叔父上……親父」
王子「! な……ッ お、お前……!」
癒し手「あの…… ……えっと……」
弟王子「……僧侶さん!?」
剣士「……今、戻った」
弟王子「戻った…… ……の、ですか……貴方達、が……!」
王子「戦士……!」
側近「……国王様に、ご報告申し上げます」
弟王子「ちょ、ちょっと待って下さい!」
側近「…… ……」
王子「騎士、人払いを」
騎士「は、はい!」
王子「それから……」チラ
剣士「…… ……」
癒し手「国王様、ご報告申し上げる前に、お願いが御座います」
弟王子「な、何でしょう……」
癒し手「……剣士さんと、私の同席をお許し下さい」
王子「僧侶は当然だろう、貴女は、勇者様と……」
剣士「…… ……」
王子「し、しかし……」
側近「俺からも、お願い申し上げます……叔父上」
弟王子「……そもそもは、私の知る『世界』を教えると言う条件で」
弟王子「剣士には、鍛冶師の村に向かって貰ったんです」
弟王子「……どうぞ。此処に残って下さい」
剣士「……感謝する」

819: 2013/10/29(火) 16:03:29.49 ID:hfUPT27fP
騎士「で、では……失礼致します」
王子「……長旅、ご苦労だった。今日はゆっくり休む様にと」
王子「伝えてくれ……鍛冶師の村への警護の交代要員の選別は」
王子「明日、行う予定だ」
騎士「は! では、失礼致します!」

パタン

弟王子「……戦士、僧侶さん……良く、良く戻りました……!」
王子「戦士……勇者様、は?」
王子「それに……もう一人。魔法使いは……」
癒し手「戻ったのは……私達二人だけです」
弟王子「……そ、れは……」
側近「……二人は無事だ。生きている」
王子「!」
側近「勝手を申し上げるのは承知です……が」
側近「先に、今の『世界』のお話しを聞かせて貰えませんか」
弟王子「……一つ、だけ。僧侶さん。会えて貴女にお聞きします」
癒し手「……はい」
弟王子「魔物が……弱くなっている。これは……」
弟王子「魔王が倒された、と……思って、良いのですね?」
癒し手「はい。確かに……『勇者』は『魔王』を倒しました」
王子「! ……そ、うか…… ついに……!」
癒し手「しかし……魔王は何れ、復活します」
弟王子「……え?」
癒し手「国王様が……何故私に聞かれたのか……」
剣士「……エルフは嘘は吐けない、からか」
王子「!?」
側近「親父、そんな顔をするな。剣士は……知っている」
王子「……ッ」
癒し手「そして……勇者も又…… ……産まれるでしょう」

820: 2013/10/29(火) 16:14:37.99 ID:hfUPT27fP
弟王子「……それは……絶対、なのですか……」
癒し手「……に、限りなく近いであろうと思っています」
癒し手「世の中に絶対は無い……だけど」
王子「な、何故言い切れる!? 魔王は、勇者に倒されたのだろう!?」
側近「ならば、何故魔物が居なくならない? ……と、言う疑問が産まれるだろう?」
王子「し、しかし……」
弟王子「……続きは後で、でしたね?」
側近「……申し訳ありません、叔父上」
弟王子「まず、最初に話しておかなければ行けない事があります」
弟王子「私は厳密にはもう……『国王』ではありません」
剣士「何?」
弟王子「『王』を絶やす訳にはいかない」
弟王子「……でしたね? 僧侶さん」
癒し手「…… ……」
弟王子「……貴女に隠す事はできないでしょう」
弟王子「私は……もう、長く無いでしょう」
側近「!? い……僧侶!?」
癒し手「…… ……ッ」
王子「……そ、んな……ッ」
弟王子「良いんです…… ……城の者には、気がつかれていないと」
弟王子「思います……が」
弟王子「兄さんが不在の間、咳をする度に何度も血を吐きました」
弟王子「幼少の頃から……身体が丈夫な方では無かった。なのに」
弟王子「此処まで生きながらえた……我ながら立派だと思います」
側近「叔父上……ッ」
弟王子「『王』は既に、息子に譲りました」
弟王子「……彼にしてみれば、いきなり何の説明も無く」
弟王子「重責を押しつけられたと思っているかもしれません、けど」

821: 2013/10/29(火) 16:27:12.75 ID:hfUPT27fP
弟王子「……もし、何かがあった時に、権限を一時的に兄さんに預けると」
王子「弟王子!」
弟王子「改めて此処に宣言しておきます……ああ、もう国王じゃ無いから」
弟王子「無効かな……」クス
側近「……新王は、何処に?」
弟王子「さあ。部屋に戻ったんだと思いますけど」
弟王子「……立ち会わせるか否か、話をしてから決めようと思っていたんです」
弟王子「だから……もし、伝えるべきだと決まったのなら」
弟王子「……申し訳無いけれど、お願いしますね」
剣士「可能ならば自分の口で伝えるべきだ」
剣士「……王としての最後の勤め。父としての……責務だろう」
王子「剣士……」
剣士「…… ……」
弟王子「……ですね。可能な限り……そうします」
弟王子「鍛冶師の村は……救われた、のですね?」
剣士「……魔寄せの石とやらは全て破壊した」
剣士「予測通り、魔物達は四散したが……その力は、弱っていた様だ」
剣士「北の街方面にも鍛冶師の村周辺にも、予定通り騎士が警護に就いている」
剣士「……予定より早く、引き上げれるかもしれんな」
王子「魔王が倒された……のであれば、納得出来る」
王子「魔導国の方の魔物達の力も弱まっている」
王子「……警護は居るだろうが、心配は無いと思われる」
癒し手「あの……魔導国は……どうなった、のですか?」
弟王子「……剣士からは、貴方達が光に包まれて消えた、と聞いています」
側近「俺達も船の中で……ある程度は聞いた」
側近「……インキュバスの魔石の所為で、領主は……魔気に食われ」
側近「獣へと成り果てた、のだろう……そして、父親は殺された」
癒し手「……母親さんは、牢の中……ですね」
王子「そうだ。母親は相変わらず……剣士に会わせろ、と」
王子「それしか、言わないそうだ」

822: 2013/10/29(火) 16:35:44.77 ID:hfUPT27fP
剣士「…… ……」
王子「魔導国の代表者は、少女、と言う…… ……子供、だ」
剣士「子供?」
王子「14、5だろうな、まだ……大人は、と聞いたが」
王子「……逃げ出したそうだよ」
癒し手「そんな……」
側近「始まりの国の支配下に入れる、のか」
王子「……支配等しない。指導していくだけだ」
王子「難しいだろう。勿論……時間も掛かる」
王子「少女には街長として、当面の間代表者になって貰う事になっている」
王子「……根深い問題だ。だけど……」
王子「……繰り返させてはいけない」
癒し手「……そう、ですね」
癒し手「では……魔導国は、魔導の街に戻る……のですか?」
弟王子「いえ……新しいスタート、と言う事で」
弟王子「けじめは必要でしょう。新しい名を考えて欲しいと、少女に伝えたんです」
側近「……自らに決めさせる、のか」
弟王子「私達は『指導者』ですからね」
王子「船を出す日に、教えてくれたよ。随分考えたんだろうけど」
剣士「……何と?」
王子「『書の街』だそうだ」
癒し手「書の街……」
王子「立派な図書館もあるしね……魔導書、と結びつくとも思えるけれど」
弟王子「良い名だと思いますよ。本自体が悪い物ではないのですから」
王子「領主達が住んでいたあの場所は……魔寄せの石があった場所でもあるしな」
王子「一度解体して、改めて居住区として、工事を進めていく」
王子「少女は、世界中の書を集めたいとも言っていた」
王子「……暫くは、検閲も必要かもしれないけどね」
剣士「俺は……あそこにある本に殆ど目を通したつもり、だが」
剣士「確かに、稀少な魔導書も難解な物も多くあったが」
剣士「……実際は、それを読んだからとどうできる物でもないだろうな」

823: 2013/10/29(火) 16:44:40.36 ID:hfUPT27fP
弟王子「……で、しょうね」
王子「ああ……そうか。お前も一度、お母様と行っていたな」
弟王子「『願えば叶う』…… ……それは、確かにその通りなのだろうなと」
弟王子「思います。だけど……それでも、基礎や素質は必要になってくる」
弟王子「いくら私が、父と同じ緑の加護を受けていても」
弟王子「癒やしの魔法以外の魔法を、使う事はできなかったんです」
弟王子「……はいそうですか、と。何事も簡単にはいきません」
癒し手「…… ……」
側近「…… ……」
剣士「母親はどうするんだ」
弟王子「……彼女を牢から出す事はできません」
弟王子「いくら魔導国が無くなったとは言え……あの街から大人達が」
弟王子「逃げ出した、と言う事実もありますし」
弟王子「当面……『処分保留』ですかね」
側近「……体の良い軟禁、だな」
王子「仕方無い……何をするかわからんからな」
弟王子「……さて、次は貴方達の番です、戦士」
側近「……剣士に、叔父上の知る世界の全てを話すと約束した事は」
側近「本当だと、信じて良い……のですね」
弟王子「……勿論です」
王子「…… ……」
癒し手「あの…… ……その前に、すみません」
側近「どうした、気分が悪いか?」
王子「……? 顔色が優れないな。疲れているのか?」
弟王子「あ……申し訳ありません」
癒し手「違うんです、その…… ……えっと……」チラ
側近「……俺から、話す」ハァ
剣士「…… ……」
側近「親父」
王子「あ? ああ……」
側近「叔父上」
弟王子「はい?」

824: 2013/10/29(火) 16:50:53.07 ID:hfUPT27fP
側近「……僧侶の腹の中には、俺の子供が居る」
王子「……え!?」
弟王子「ほ、本当ですか!?」
癒し手「あ、あの……すみません」
弟王子「何故謝るのです…… そう、ですか……」
王子「……お、俺、おじいちゃん!?」
弟王子「……そうですか……ふふ……もう少し、長生きしたかったな」
剣士「何を言う……」
弟王子「……僧侶さん。体調は大丈夫なのですか?」
弟王子「無茶は……」
癒し手「いえ、その……あの……」
癒し手「…… ……時間が、ありません、から……」
王子「え?」
剣士「…… ……」
弟王子「……そうでした。貴女には、解るのでしたね」
癒し手「……本当に無理だと思えば、私は席を外させて頂きます」
癒し手「だから…… ……ッ」
弟王子「…… ……」
王子「……ど、どうにか、ならないのか! 僧侶、アンタは……!」
側近「親父!」
王子「……ッ す、すまん……ッ」
癒し手「いえ……回復魔法で、どうにか……なれば」
癒し手「……本当に、良いのですけど……」
剣士「……氏ぬ前に、教えてくれ」
王子「剣士!」
剣士「知る義務がある。受け継いで……導いて行く義務があるのだろう」
剣士「ここに居る全ての者達に」
弟王子「……ええ。そうです」
弟王子「お話ししましょう。戦士と僧侶さんはもう、ご存じでしょうけれど」
弟王子「……お約束、してください、剣士さん」
剣士「何だ」

825: 2013/10/29(火) 17:00:54.51 ID:hfUPT27fP
弟王子「……魔王が、また復活して……勇者が再び産まれた時に」
弟王子「勇者と共に……今度こそ、魔王を倒すのだと」
剣士「……約束する。その為ならば何をも厭わない」
王子「…… ……」
弟王子「ありがとう、ございます」
弟王子「今度こそ……美しい世界を…… ……ッ」ゴホ、ゴホ……ッ
王子「弟王子!」
癒し手「…… ……ッ」
側近「叔父上!?」
弟王子「……だい、じょうぶ、です……ッ」ゴホッ ボタボタボタ……ッ
癒し手(こんなに、血を吐いて……!)
癒し手(この方は…… もう……ッ)
剣士「……ッ」
弟王子「……ッ 港街の、勇者……ッ 少年、は……ッ」
弟王子「魔王、でした……ッ お母様…… も、お父様……ッ も……ッ」
弟王子「ご存じ、だった…… ……ッ」
剣士「な、に!?」
王子「弟王子! 喋るな……今、医者を……ッ」ガタン!
弟王子「約束です、兄さん!」ガシッ
王子「!」
弟王子「……ッ 権限、預けて……あります、から……ね?」
王子「お前……ッ こんな時、に……ッ 離せ!」
弟王子「駄目、です……剣士さん、との約束です!」
弟王子「……ちゃんと、話し、 ……てッ さ、しあげ……ッ」ゴホゴホッ
癒し手「…… ……ッ」
側近「叔父上!」
弟王子「……未来を、担う……者、達の……手、で……」
弟王子「作るから、こそ…… ……世界、は ……ッ」
弟王子「……美しい、の…… ……です、よ…… せ…… ん、し……」

826: 2013/10/29(火) 17:06:32.93 ID:hfUPT27fP
側近「……ッ 叔父上! 叔父上!?」
癒し手「…… ……命の炎、は」ポロポロポロ
癒し手「も、う……ッ」
剣士「…… ……」
王子「弟王子! ……ッ う、ぅ……ッ」
癒し手「…… ……生きて、いらっしゃるのが、不思議な程でした」
癒し手「伝えなくては……と、必氏でいらっしゃった、のでしょう」
王子「…… ……ッ」ポロポロポロ
側近「……叔父上…… ……ッ」
王子「……剣士」
剣士「……なんだ」
王子「『遺言』だ……きちんと話せ、とな」
剣士「…… ……」
王子「だが……今は、無理だ」
剣士「……流石に、解るさ」
王子「以前使っていた部屋を使え」
王子「……戦士、悪いが手伝って貰えるか」
側近「……勿論だ」
癒し手「あ、あの……」
王子「僧侶は、無理をするな。妊娠しているんだろう」
王子「……俺の家に、案内させる。それで良いな? 戦士」
側近「ああ」
剣士「…… ……先に失礼する」
側近「…… ……」
剣士「こんな時に、俺は邪魔なだけだろう」

スタスタ、パタン

852: 2013/11/01(金) 01:05:06.70 ID:1cMqDkzrP
明日は休みやから、また!
送迎会とか嫌いやー!

856: 2013/11/01(金) 09:31:34.33 ID:1cMqDkzrP
王子「僧侶、すぐに騎士に案内させる。此処で待っていて貰えるか」
癒し手「は、はい」
王子「……戦士、すまんがそっちを持ってくれ」
王子「取りあえず寝室に運ぶ。顔も……綺麗に拭いてやらんとな」グッ
側近「ああ」ギュッ
側近「……先に寝てろよ、僧侶」
癒し手「……はい」

スタスタ、パタン

癒し手「…… ……」
癒し手(伏していらした場所に、血溜まり)
癒し手(……あんなに、沢山)ポロポロ
癒し手(もう……人が氏ぬところ等みたく無いと……思っていたのに)
癒し手(自然の摂理。寿命と思えば……怖くは無い。筈なのに)
癒し手(何時か、私も……)ナデ
癒し手(否。此処に宿る、輝かしい、新しい命の為にも)
癒し手(私は…… ……まだ、氏ねない……!)

コンコン

癒し手「は、はい!」

カチャ

騎士「僧侶様、ですね」
癒し手「はい」
騎士「……ッ 血…… ……」ギュッ
騎士「騎士団長様に伺っております……ご案内、致します」

857: 2013/11/01(金) 09:43:37.23 ID:1cMqDkzrP
……
………
…………

使用人「…… ……」
魔王「国王様……ッ」
后「…… ……」ポロポロ
剣士「……葬儀は、盛大に執り行われた」
剣士「次代の王の戴冠式も兼ねて、な」
使用人「……王子様には、何処まで話したのです?」
剣士「結論から言うと、『全て』だ」
魔王「……全て?」
后「全てって……」
剣士「何の為に……俺が此処に、来たと思う」
剣士「勿論……側近と癒し手から聞いた話の補足を、使用人に願う為でもある」
剣士「……その話を、騎士団長に……伝える為でも、だ」
使用人「……そう、王子様が望まれた、のですか」
剣士「ああ。知りうる限りの『世界の裏側』を」
剣士「『世界』を未来へと託す為に」
魔王「……新王に、話す……つもりなのか? 騎士団長様は」
剣士「決定では無いだろう。彼は……『知らないで居る権利もある筈だ』と」
后「……知らない権利」
剣士「未来は彼ら……『次代』の手が担うものだ」
使用人「……貴方は、自在に転移出来る、のですね?」
剣士「……の、様だな。『魔法なんて使い様』なんだろう」
使用人「…… ……」
剣士「少しでも多くの『世界の欠片』を拾いたいのだと言っていた」
后「世界の欠片…… …… ……ッ」ハッ
魔王「どうした、后?」
使用人「…… ……『揃った』」
剣士「…… ……紫の魔王が零したと言う、キーワードか」
魔王「え? え?」
后「『拾う者』よ!」
后「騎士団長様が、そうだとするなら……!」

858: 2013/11/01(金) 09:52:26.35 ID:1cMqDkzrP
剣士「…… ……」
魔王「じゃあ……次で、断ち切れる……?」
使用人「……今すぐ、后様が子供を授かったとして」
使用人「新たな勇者様の旅立ちまで、17年程」
使用人「……生きていらっしゃいますか。人間の……王子様が」
魔王「だ、だけど……!」
剣士「……魔王」
魔王「な、何だよ」
剣士「この城にも書庫があると聞いた」
剣士「……閲覧は許されるか?」
后「それは滞在も、と言う事よね?」
剣士「……ああ」
使用人「お部屋は、すぐにご準備致します……宜しいでしょうか、魔王様」
魔王「……拒否するつもりなんか無いよ」
剣士「……ありがとう」
使用人「できる限り……紐解きましょう。『世界』と『その裏側』」
后「……そうね。『次代達の未来』の為に、私達が唯一出来る事だわ」
魔王「…… ……『勇者』が出来る迄、しか」
魔王「俺には時間が無い」
剣士「……話を戻そう。国王が……氏んでから、だったな」
使用人「…… ……ちょっと、待って……下さい」
魔王「どうした、使用人?」
使用人「…… ……」チラ
剣士「何だ?」
使用人「……その、剣は……何処で?」
剣士「え?」
使用人「……貴方は、気がついたら最果ての地に一人でいらした」
使用人「…… ……剣は、船長さんに頂いた、のですか」
剣士「……否。この剣を握りしめ……ていた。しかし、それが……」
使用人「……見せて下さい!」
后「し、使用人?」

859: 2013/11/01(金) 10:10:38.83 ID:1cMqDkzrP
剣士「……あ、ああ……」スッ
使用人「……! あった!」
魔王「え?」
使用人「……ここです。随分、擦れてますけど」トン
后「……剣の、文様……! これ、始まりの国の!?」
魔王「……側近が持ってた物と……同じ?」
使用人「……王子様は、気がつかれなかった、のですか」
剣士「何も……言われていないが」
后「……でも、それが、どうしたのよ」
使用人「……何故、剣士様がこれを持ってこの地に……立っていらした?」
魔王「…… ……何処で手に入れた、か?」
魔王「でも、剣士は記憶が……」
使用人「……金の髪の勇者様が、紫の魔王様と対峙された時」
使用人「騎士団長様と交換したという、始まりの国の騎士の証……剣の文様が」
使用人「刻まれた剣を持っておられました」
后「…… ……で、も」
使用人「……お待ち下さい」

スタスタ、パタン

魔王「え、おい、何処に……ああ」
后「行っちゃったわね」
剣士「……それが、俺のこの剣だとするのなら」
剣士「この城を飛び出した光……『欠片』の証明になる、と言いたいのだろう」
魔王「!」
后「……紫の瞳と、闇色の髪を持ち」
后「魔王と……勇者と同じ顔をして……」
魔王「……剣がこの城に無ければ、決定、と考えても言い訳か」ハァ
魔王「しかし……そうなると…… ……」
剣士「…… ……」
魔王「お前は……なんだ?」

860: 2013/11/01(金) 10:41:08.76 ID:1cMqDkzrP
剣士「……『欠片』なんだろう」
后「紫の魔王の……?」
剣士「…… ……俺は、『人間』では無い」
剣士「だがその先は解らない。癒し手にも……お前にもそう言われたぞ」
魔王「『欠片』だと言われて、納得するのか?」
剣士「……さあな。お前が……俺に問うた事の返事を、俺は持っていない」
魔王「……『生きているのか』か」
后「…… ……」
剣士「『欠片』だとすると何だ? 俺は……『命』なのか?」
魔王「…… ……」
剣士「飯も食えば眠りもする。切りつけられれば痛みもある」
剣士「何なんだろうな……俺は」
魔王「…… ……使用人が戻るまで、待とう」フゥ
后「……『世界』って何なのかしらね」
魔王「え?」
后「意味の分からない事ばかり。魔王も……言ってたじゃない」
后「童話とか、古詩とか……神話とか」
后「必ず出て来る、魔、とか……魔法」
剣士「…… ……」
后「こんな物、存在しなければ……」
剣士「……無条件に平和、だったと思うか?」
后「…… ……」
魔王「『みんな仲良し、全てハッピーエンド』なんて」
魔王「それこそ、作り話の『世界』だけの特権だよ、后」
后「……そうね」
魔王「俺達は俺達で……出来る事をすれば良いんだ」
魔王「……それをする事しか、出来ないんだよ。結局」

コンコン

魔王「ああ、戻ったな」

カチャ

861: 2013/11/01(金) 10:49:14.84 ID:1cMqDkzrP
使用人「……お待たせ致しました」
后「剣は見つかった?」
使用人「……いいえ」
剣士「……金の髪の勇者の持っていた、物か。これが」
使用人「絶対の確信は……出来ません、けど」
后「……手を見せて、魔王」
魔王「ん?」スッ
后「…… ……ねえ、使用人」
后「この『勇者の印』…… ……金の髪の勇者が、紫の魔王と対峙した時に」
后「持っていた剣の文様……それが焼き付いたんだって言ってたわよね」
使用人「見た訳では無いのですけど……その可能性が高いだろう、と」
剣士「……真っ黒だな」
魔王「俺はもう、勇者じゃないからな」
使用人「魔王様のお母様達のお話では……手のひらから光が溢れていた、と」
使用人「紫の魔王様の手にも、同じ……黒いこの文様があった……と」
剣士「……俺にはないな。紫の魔王には……」
使用人「……いいえ。お二人が対峙される迄は、ありませんでした」
魔王「貸して…… ……ぴったり、だな」
后「……でも、文様は同じなんでしょう?」
后「側近の剣をマジマジとみたことは無いけど……」
剣士「……あった時に、確かめて見よう」フゥ
使用人「行き来……されるおつもりですか」
剣士「自由に動けるのは俺だけだろう」
使用人「……では、もう船長さんに何かを頼む必要はありませんね」
剣士「…… ……船長との接触は、避けたい」
后「……でも、貴方が……人で無いことは知っているんでしょう」

862: 2013/11/01(金) 10:59:36.50 ID:1cMqDkzrP
剣士「故に、だ」
剣士「……あいつにはあいつの人生がある」
剣士「生きる時間も……場所も違うんだ」
使用人「…… ……」
魔王「巻き込むべき、じゃ無いな」
魔王「船長は……剣士の事以外、何も知らないんだろう?」
使用人「……だと思います」
魔王「彼女の父は……知ってたんだよな」
使用人「はい…… ……船長さんが、お生まれになられたのは」
使用人「この、城ですから」
剣士「……何!?」
使用人「……『生と氏』です。船長さんのお母様である」
使用人「女海賊さんは……この城で船長さんを産まれてすぐに……」
剣士「…… ……」
后「お父様は……人魚に……って言ってた、わよね」
使用人「……はい。食われてしまった、の……だと、聞いています」
使用人「……繋がって、いるんです、剣士様」
使用人「彼女が、知る知らないに関わらず」
使用人「……彼女が『受け入れる者』であったのならば、尚更の事」
后「……因果なものね」ハァ
剣士「……魔法使いのジジィも、知っていたのか」
使用人「ああ……あの船に乗っていらしたのなら」
使用人「彼の事もご存じですね」
剣士「……訳知り顔の、斜に構えた男だった」
使用人「…… ……詳しくはご存じ無かったでしょう」
使用人「彼は、知る事を拒否されている様に見えました」
魔王「……『知らないで居る権利』は、あるもんな、そりゃ……」
使用人「お亡くなりになるまで、船に乗って居たと聞いています」
剣士「…… ……」
剣士「繋がっていようが、何だろうが」
后「?」
剣士「……船長には、平和な海を……渡らせてやりたかった」
魔王「……過去形、かよ」

863: 2013/11/01(金) 11:18:20.50 ID:1cMqDkzrP
剣士「…… ……今でも思っている。だが」
后「…… ……」
剣士「『願えば叶う』……も、万能では無い」
剣士「『世界』はそう都合良くは出来ていないんだろう」
魔王「……少なくとも、勇者が産まれれば……」
剣士「ああ。お前は力をつけていくんだろう」
剣士「……そして、『勇者は魔王を倒す』」
使用人「『揃った』んです。だから……次こそは……!」
后「『腐った世界の腐った不条理』を……断ち切れると、願うわ」
魔王「…… ……ああ」

……
………
…………

王「……お、じうえ……」カタカタ
王子「そんなに震えなくて大丈夫だから」ナデ
王「……で、でも……!」
王子「大丈夫だって。俺も居るし……戦士も、僧侶も傍に居てくれる」
王子「……ただの茶番だよ。台詞は何度も練習したろ?」
王「…… ……」
王子「……いきなり、重荷を押しつけてすまん」
王「……もう、謝らないで下さいと言った筈です」
王子「……人生は茶番の連続だ」
側近「お祖母様の言葉……だな」
王子「ああ」
癒し手「落ち着いて……大丈夫ですよ、王様」
王「僧侶さん……」
王子「……さあ、行け。みんな待ってる」
王「…… ……ッ はい!」

864: 2013/11/01(金) 11:25:03.13 ID:1cMqDkzrP
ザワザワ……
ワイワイ……

王「……お、お待たせ致しました、皆様!」

シィン……

王「……ッ 父の急逝は、確かに……悲しい物でした……で、ですが!」
王「ぼ……ッ 私達は、前を向いて生きていかなくてはならない」
王「未来を担い、紡いでいく義務が……あります」
王「……魔導国との戦争も終結し、書の街として生まれ変わり」
王「新たな、美しい未来への一歩となったと……信じています」
王「……だ、だから! 若輩者、ですけど…… ……ええ、と」
王「…… ……」
王「一緒に、『美しい世界』を作っていける様に、頑張りたいと思います」
王「どうぞ……ご指導下さい。お願い致します」

ワアアアアアアアアアア!
シンオウ、バンザイ!
オウサマー!

王子「……台詞全部吹っ飛んだな」ハァ
癒し手「彼らしくて良いんじゃないですかね」クス
側近「自分の言葉で語る方が、伝わるさ」
王子「……まあ、な」
王子「……戦士」
側近「…… ……」
王子「俺は……まだ、お前が……その」
側近「…… ……」
王子「……正直、何も受け入れられていない」
側近「……当然だ」

865: 2013/11/01(金) 11:32:08.68 ID:1cMqDkzrP
王子「……俺も歳を取った。僧侶……癒し手、に子が産まれれば」
王子「おじいちゃんだ」
癒し手「…… ……」
王子「……祈り女に、抱かせてやりたかった」
側近「…… ……」
王子「剣士の転移魔法とやらを目にした時も」
王子「……全ての話を聞いた時も……同じだ。今も……」
王子「まだ、混乱してる。だが……」
王子「…… ……上手く言えんな」
側近「信じてくれただけ……ありがたい」
側近「……こんな親不孝も無い。騎士団長の息子が、魔に……」
癒し手「側近さん、シッ…… ……王様が戻ってきますよ」
側近「…… ……話さないのか、王には」
王子「……剣士が戻れば考える。それにな、戦士」
側近「ん?」
王子「何よりの親不孝は、子が親よりも先に逝くことだ」
王子「……お前は、それだけはあり得ない。だから……」
側近「…… ……」
王子「ありがとう。戻って来てくれて」
側近「親父…… ……」
王子「……後で結婚式の打ち合わせをしよう」
側近「……俺はいらんと言った筈だが」
王子「そうはいかんよ。お前だって王家の血を引いているんだ」
側近「血、等……」
王子「……人々の為だ。希望の欠片ぐらいにはなってやれ」
王子「それも、勤めだ」

スタスタ

王「…… ……」
癒し手「……ご苦労様でした、王様。汗びっしょりですね」クス

866: 2013/11/01(金) 11:36:54.42 ID:1cMqDkzrP
王「す、すみません……あの、ちょっと横になって良いですか」フラ
癒し手「あ、あら……ご気分でも……?」
王「いえ……あの、ちょっと緊張しすぎて……」フラフラ
王子「おいおいおい……」
癒し手「一緒に行きます」クス
側近「無理するなよ」
癒し手「少しぐらいは動かないと。大丈夫ですよ」
王「あ、伯父上……後で、お話ししたいことが」
王子「ん? ああ。気分が良くなったら、呼んでくれ」
王「はい…… ……失礼します……」フラ
癒し手「掴まって下さい……大丈夫ですか?」
王「だ、大丈夫です……」

スタスタ

側近「…… ……」
王子「少し、腹が目立って来たな」
側近「……だな。しかし、あいつは……」
王子「……エルフの血、か」
側近「…… ……」
王子「姫様の妊娠期間は、随分と長かったんだろう」
側近「だが、紫の魔王の魔力で眠っていたんだ」
側近「……比較は出来ん」
王子「……お前が、魔に変じてから、出来た子、なんだよな」
側近「…… ……」
王子「言葉は悪いが…… ……何が、産まれる?」
王子「あ……ッ 疎んじてる訳じゃないぞ!?」
側近「……解ってる。俺にも……産まれて来る子が何者なのか、等」
側近「……わからん」

867: 2013/11/01(金) 11:42:43.74 ID:1cMqDkzrP
王子「…… ……」
側近「魔王と后の子は必ず人間だ」
王子「……『勇者』だからな」
側近「ああ。勇者は……人間。だが……」
王子「……『未来』には間違い無いんだ、よな」
側近「え?」
王子「未来を担う、子……子供達、だ」
王子「……健康であれば良い」
側近「……ああ」
王子「港街の教会で良いんだな?」
側近「……本当にやるのか」ハァ
王子「あそこで式を挙げたいというのは、癒し手の希望だぞ」
側近「どうせやるなら、だろ」
側近「……希望であれば、仕方無いけどな」
王子「……剣士が戻る迄は、どうしようもないな」
王子「俺も…… ……」
側近「何だ?」
王子「……否。本来なら、お前が跡を継いでくれれば良いんだけどな」
側近「丸くなったな、親父」
王子「え?」
側近「旅立つ前のお前なら、そんな事は絶対言い出さなかっただろう」
王子「……言い出せなかった、な」
側近「……本当に、引退するのか」
王子「まだ続けようと思えば続けられるけどな……でも、まあ」
王子「……女剣士様の、気持ちが分かるよ」
側近「嬉しい様な、寂しい様な……か。 ……後継は?」
王子「…… ……後で、王と相談するさ」
側近「……ああ。そうだな」
王子「あいつも話があるとか言ってたが…… ……もう少し後にするか」
側近「ああ。癒し手ももう戻るだろう」

868: 2013/11/01(金) 11:48:55.68 ID:1cMqDkzrP
王子「……できうる限りで良い」
側近「ん?」
王子「幸せになってくれ、戦士」
側近「…… ……」
王子「俺はお前を『側近』とは呼べん」
王子「……さっきも言ったが、何も受け入れて居ない。だけど……」
王子「この幸せを願わない親は居ない」
側近「…… す」
王子「もう謝るな……親不孝だとは、俺は思ってないからな」
側近「…… ……ありがとう」
王子「……『美しい世界』は、俺も見てみたかった」
側近「大丈夫だ。『勇者』は……必ず、戻る。此処に」
王子「…… ……うん」

スタスタ

癒し手「眠られましたよ、王様。余程お疲れになっていたようです」
側近「ああ、お疲れ様、癒し手」
王子「無理はするなよ……しかし、本当にあの小屋で良いのか」
癒し手「はい。城までの道のり、丁度良い運動にもなりますし」
側近「……黒い髪の勇者のお母様の、暖かい気配が心地良いそうだ」
王子「まあ、戦士がついてるんだし……大丈夫だろうけど」
側近「当然だ」
王子「じゃあ、俺も仕事に戻る」
王子「街に出るなら気をつけろよ。お祭りムードだからな」
癒し手「はい。ありがとうございます」
王子「……身体に、気をつけて」
癒し手「はい」
側近「何時でも会えるだろうが」ハァ
王子「忙しいんだよ!」

スタスタ

869: 2013/11/01(金) 12:04:08.41 ID:1cMqDkzrP
癒し手「…… ……」
側近「癒し手?」
癒し手「いえ…… お話した時、随分とショックを受けていらっしゃったので」
側近「……受け入れては居ないと、本人も言っていただろう」
癒し手「……はい」
側近「『美しい世界』の為だとは言え…… ……ショックで無い筈が無い」
癒し手「…… ……」
側近「……幸せになれ、と言ってくれた」
側近「それだけで充分だ」
癒し手「…… ……」
側近「行こう。小屋まで少しある」
癒し手「ええ……急いだ方が、良さそうです」
側近「……ん?」
癒し手「多分……雨が、振ります」ナデ
癒し手「……この子に、決して明るいと言えない未来を押しつけてしまうのは」
癒し手「正直……心苦しい、ですけど」
側近「……その先には美しい世界があるんだ。暗いとは言い切れん」
側近「……複雑だがな」
癒し手「……勇者は、必ず魔王を倒します……から」
側近「……」
癒し手「仕方ないのは分かっています。できれば……貴方と」
癒し手「この子と……みんなで、一緒に幸せになりたいと……思ってしまいます」
側近「……『我が子の幸せを願わない親は居ない』」
癒し手「……はい」
側近「とりあえず、急ごう」
側近「今は自分の身体を第一に考えてくれ、癒し手」
癒し手「はい」

870: 2013/11/01(金) 12:09:29.28 ID:1cMqDkzrP
……
………
…………

使用人「お加減、如何ですか后様……お茶をお持ちしました」
使用人「余り根を詰められてはお腹に悪いですよ」
后「ああ、ありがとう、使用人……魔王と剣士は??」
使用人「朝から書庫に篭もっておられます」
后「またなの……いえ、そうね。そうよね……」
使用人「……はい」
后「側近達からの連絡はあった?」
使用人「まだですが……そろそろ戻るのでは無いでしょうか」
后「そうね……どこまで行ってるんだかわからないしね、あの子達」
使用人「南へ行く……んでしたね、確か」
后「……地上であり地上で無い、この世の物とは思えない楽園、だっけ?」
使用人「エルフの里……ですか」
后「……光を掴んで、瓶に詰めようとするような物なのかもね」
使用人「…… ……」
后「赤ちゃん出来た、って……知らせたの何時だっけ」
使用人「私の小鳥を飛ばしたのが、もう三ヶ月程前ですからね」
后「男の子だって言ってたわね、癒し手の子供」
后「……青年、だっけ」
使用人「ええ。金の髪に緑の瞳、って書いてありました」
使用人「どっちに似てるんでしょうね」
后「…… ……」
使用人「后様?」
后「……子供を授かった事は、嬉しいのよ」
后「でも…… ……」
使用人「……『勇者』でしょうからね」
后「…… ……否応なく、過酷な運命を押しつける事になる」

871: 2013/11/01(金) 12:16:20.02 ID:1cMqDkzrP
后「複雑ね……」
使用人「…… ……」
后「……不可能であろうと思われる事ばかり、やってるのね、私達」
使用人「『願えば叶う』です」
后「…… ……叶ってくれる事を願うわ、本当に」
后「美しい世界……この子は、見る事ができるのかしら」

カチャ、パタン

魔王「使用人……! あ、后も居たか」
后「な、何よそんなに本抱えて……」

パタパタ……

剣士「おい、魔王、もう一冊忘れてる」
使用人「……あ、それは……」
魔王「……古詩。それから、勇者が魔王を倒す物語」
剣士「前編だけ持って言ってどうするんだ、お前は」ハァ
后「……ほこり臭い」ケホ
魔王「で、これだ」
使用人「紫の魔王様が書かれた……エルフのお姫様のお話、ですか」
魔王「……可能な限り、紐解くぞ」
魔王「時間が無い。勇者が産まれれば、俺は眠りについちまう」
后「な、何よ……何か解ったの?」
魔王「それを今から考えるんだよ!」
后「…… ……あ、ああ、そう」
剣士「最初から整理するんだ。使用人、できる限り詳細に思い出してくれ」
使用人「え? は、はい」
剣士「……それから、光の剣を。俺も魔王も触れん」
使用人「わ、わかりました……少々お待ちを」

パタパタ……

872: 2013/11/01(金) 12:52:11.54 ID:1cMqDkzrP
后「何なのよ……」
魔王「……なあ、后」
后「?」
魔王「『誰もがハッピーエンド。無条件の平和なんて作り事の特権』」
魔王「……そんな話、覚えてるか?」
后「え、ええ……それが、何よ」
魔王「……これだよ」バサッ
后「……『顔色の悪い蒼空』 ……『前』?」
剣士「後編はこっちだ」
后「……読め、って言うの?」
魔王「時間がある時で良い」
魔王「……多分、『欠片』がちりばめられてる」
后「……この、御伽噺の中に?」
剣士「…… ……」ペラ

剣士「『「良く来た、勇者よ……そうかしこまる必要は無い、面を上げよ」』」
剣士「『少年の俯く姿を見た王は、ゆっくりとそう告げた』」
剣士「『そういう訳では無いんだけどな、と心の中で呟き、少年はそろりと顔を上げた』」

后「ちょ、ちょっと……」
魔王「良いから」

873: 2013/11/01(金) 13:00:44.61 ID:1cMqDkzrP
カチャ

使用人「お、お待たせしました」ハァ
后「……魔王はともかく。剣士が触れないのは……何故?」
剣士「……『欠片』だからだ」
剣士「読み進めていけば解る」

剣士「『「は……」はい、とハッキリとした声を出そうとした意思とは反対に』」
剣士「『喉は緊張に渇き掠れた。誤魔化す様にこほん、と一つ咳き、そろそろと王の方へと視線を投げる』」
剣士「『貫禄のある姿、つやつやと油の乗った王の顔を、歩くスピードに合わせて視線で追う』」
剣士「『王座へと腰を下ろし、少年の金の瞳を見据える王の視線を捕らえた王は』」
剣士「『どこか満足気に頷き、恭しく口を開いた』」

后「……『金の瞳』」
使用人「確か……『魔王は闇の様に仄暗い紫の瞳をしていた』とありましたね」
魔王「使用人は読んだんだな」
使用人「随分前ですが……」
后「……まさか、模倣してる、とでも言いたい訳?」
魔王「確かに、こういう『御伽噺』なんて、どれも似たり寄ったりかも知れないけどな」
魔王「案外、何か…… ……見つかるかも知れないだろ?」
后「そ……う、かなぁ ……?」
使用人「冒頭は飛ばしましょう。后様には後で……あ」
使用人「そういえば、后様も何か読んでいらっしゃいましたよね」
后「……まあ、これも御伽噺の類だと思うわよ。何となくで持ってきた物だけど」
魔王「それ、後回しにしてこっち読んでみてくれ」
后「今から!?」

874: 2013/11/01(金) 13:11:33.82 ID:1cMqDkzrP
使用人「お時間のある時に……ええと」ペラペラ
剣士「そっちじゃない。人間と魔王が……」ペラペラ
使用人「え?」
魔王「『矢の如く飛来した氷の剣は、深々と炎の魔の王の心臓を貫いた』」
后「…… ……? それが、何か……」
剣士「話しただろう。鍛冶師の村で、村長が話した伝承……の様な物」
后「あ!」
使用人「……! し、しかし……流石に、偶然では?」
使用人「勇者様の剣は、光の剣です」
剣士「『光の剣』……この、魔法剣は」
剣士「持つ物の属性により、色が変わるのだろう?」
使用人「!」
剣士「紫の魔王の時はその色に。勇者が持てば……」
使用人「……確かに。紫の魔王の側近様は、紫の魔王の、お父様の時は……」
魔王「……刀身は真っ赤だった、んだろう。それに、使用人」
使用人「は、はい」
魔王「話してくれたじゃないか。いつかの魔王が、勇者から奪った物だとするのなら」
后「……! 力に頼る魔族が作ったとは考えにくい……!」
剣士「さっき、その話を魔王から聞いた」
剣士「……弱くて強い人の技術の賜だと考える方が自然だと、話していたのだろう?」
使用人「……さ、流石にこじつけでは……」
后「…… ……どうなってんのよ、この『世界』は」ハァ
剣士「……で、検証……だ」トン
后「解ったわよ……読むわよ」ハァ
魔王「良し。なるべく早くな」
后「無茶言わないで!」
剣士「一通り終われば……一度始まりの国へ戻るか」
使用人「でも、側近様達は、もう……」
剣士「解ってる。あの国には居ないのだろう」
剣士「……書の街にも寄ってくる。あそこにも何か、あるかもしれん」
魔王「必ず……次で、終わらせる」

875: 2013/11/01(金) 13:16:39.08 ID:1cMqDkzrP
后「魔王……?」
魔王「『模倣』であるのならば尚更だ。この本には」
魔王「三世代分の物語がある」
魔王「金の髪の勇者、俺……それから、産まれて来る命……次代の勇者」
使用人「…… ……」
剣士「……俺は、その為の『欠片』だ」
后「……上手く、行く……のかしら」
魔王「行かせるんだ。『願えば叶う』」
使用人「…… ……」
魔王「『美しい世界を守る為だ』……后」
后「…… ……そう、ね」
魔王「……良し、始めるぞ。使用人、頼む」
使用人「は、はい……ええと」
剣士「知りうる限りの初めから……『欠片』を全て拾うんだ」
魔王「『世界』を知るぞ……俺達には、その義務がある!」

876: 2013/11/01(金) 13:18:53.98 ID:1cMqDkzrP
勇者「拒否権の無い選択などあるものか!」

おしまい

魔王「真に美しい世界を望む為だ」 に続きます

892: 2013/11/01(金) 16:40:05.36 ID:1cMqDkzrP
魔王「真に美しい世界を望む為だ」


たてれちゃったよwww

少しだけー

引用: 勇者「拒否権の無い選択などあるものか!」【2】