408: 2014/02/25(火) 22:50:30.54 ID:VwvWUx0H0
前ループで青年が会ってた「娼館の少女」はどうなるのかと思ってたけど、この流れだと…?

前回:魔王「真に美しい世界を望む為だ」【5】

409: 2014/02/26(水) 09:34:19.94 ID:ec2NuAM/P
剣士「……遺言なのだろう。盗賊の」
青年「紫の魔王の言葉、でもあるな……でも、だからって」
青年「もう、終わってしまったこと、だ」
剣士「…… ……」
青年「『国』も無いのに、どうやって『王』になる……否」
青年「あったとしたって、僕は……興味無いね」
剣士「……癒し手の願いでもある、んだろう」
青年「…… ……」
剣士「…… ……」
青年「行こう。もう……本当に用事等無い」

スタスタ

剣士「……待て」ゴソゴソ
青年「? ……何やって…… ……あ」
青年「それ、鍛冶師様の……魔導師が、君に持って来いって言った奴か」
剣士「どれが一番必要なのか解らんが……持てそうな物だけ、でもな」
青年「……鉱石の洞窟だの、鍛冶の道具だの」クッ
剣士「何故笑う」
青年「『俺は魔王を倒す』んだと。それが叶うなら何をも厭わないと言う割に」
青年「……君は、僕達の意見に結局……賛成してくれるんだな、と思って」
剣士「やれる事はやる……最終手段だとして、厭わないと」
剣士「話し合った、だろう?」
青年「……まあ、ね」
剣士「此処にこのまま、あったのに置いて言ったと知られれば」
剣士「……それこそ、魔導師に怒られるだろう」
青年「『夢』の話を聞いた限りじゃ……結構、きついもんな、あいつ」クスクス
剣士「良し…… ……ん?」
青年「? 何だよ」
剣士「…… ……船だ」
青年「船?」
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)
410: 2014/02/26(水) 09:40:59.88 ID:ec2NuAM/P
剣士「……」スッ
青年「……こっちに向かってるな。港か」
剣士「……どうする」
青年「走れば間に合うな……行くよ」
剣士「良いのか?」
青年「様子を見に来た船ならば、港街迄ぐらい乗せてくれるだろう」
青年「君は?」
剣士「俺は……何処にでも行けると言っただろう。早く行け」
青年「ああ……又後で、剣士」

タタタ……

剣士「…… ……」

シュゥン……

……
………
…………

船長「流石にもう、火は消えてるか」
海賊「誰も居ないと思いますけど?」
船長「解ってるよ…… ……でも」
海賊「……はいはい。何度も聞きましたよ」
海賊「『何かお宝があるかもしれない』からでしょ」
船長「お、おう」
海賊「……で、生き残りが居れば救いたい、んですよね?」
船長「! お、俺そんな事……!」
海賊「顔に書いてあります、って……でもね、船長」
海賊「あの炎で逃げちまったかも知れないけど」
海賊「この大陸の魔物は、弱い方、ですけど!」
船長「……解ってるって。無茶はしないから!」
海賊「……ついでに、俺達ァ正義の味方じゃないんですからね」
船長「それも……ッ」

411: 2014/02/26(水) 09:52:45.89 ID:ec2NuAM/P
海賊「解ってんなら良いんです…… ……ん?」
船長「……な、何だよ」
海賊「人、だ」
船長「え!?」

タタタタ……

青年「!」
青年(……船員……だろう、か。片方は……随分若いな)
海賊「……おう、兄ちゃん。こんな所で何やってんだ?」
青年「……あの船は、君達の?港街から来たのか?」
船長「俺達は海ぞ……ッ ……!?」ムグッ
海賊「先にこっちの質問に答えて貰おうか」
青年「僕は……」
船長(ムガムガムガ!)
青年「…… ……離してやれば」
海賊「答えろって」パッ
船長「……ッ」ハァ
青年「様子を見に来ただけだ。親戚が住んで……た、からね」
船長「…… ……」ジロジロ
青年「何だよ?」
船長「あ、いや……」
船長(この兄ちゃん、似てる……じいちゃんの島にあった、あのエルフの像に……!)
海賊「……誰か、生き残ってたか?」
青年「否。氏体の数までは数えてないけどね」
船長「……アンタ、そんな細い身体で、大丈夫なのか?」
青年「え?」
船長「弱いとは言え、魔物が出るんだろ?」
青年「……ああ、それは別に。この大陸の魔物ぐらい」
青年「それに……今は、姿を見せないよ」

412: 2014/02/26(水) 10:33:39.14 ID:ec2NuAM/P
海賊「……あんなけ燃えりゃ、な」
青年「だろうね」
船長「…… ……」ジロジロ
青年「……君は、なんなんだいさっきから」
船長「知ってる人に、似てるんだ」
青年「……僕が?」
船長「ああ」
青年「……他人の空似、じゃないの」
船長「アンタみたいな綺麗なの、そこら中に居てたまるかよ」
青年「あいにく僕は、天涯孤独、な身だけど?」
船長「そうなのか? ……僧侶さんにそっくりなのに」ボソ
青年「!?」
青年(僧侶!? 何故こいつが……!?)
青年(……目立つ、か。僕も……母さんも……)ハァ
海賊「船長。喋りすぎですぜ」
青年「……何!?」
海賊「な、何だよ」ビクッ
青年「……船長。君が!?」
船長「な、何だよ! そりゃ、まだガキかもしれないけど!」
船長「俺は……!」
青年(あれは……あの船は、海賊船か……!?)
青年「……否、疑っている訳じゃ無い」
青年(……しまったな。剣士と別れるんじゃなかった)
青年(必要としていたのは、あいつなのに……僕が)
青年(鉱石の洞窟に行ったところで……)

413: 2014/02/26(水) 10:40:19.43 ID:ec2NuAM/P
海賊「……まあ、良い。とにかく、生き残りは居ないんだな?」
青年「え? ……ああ……と、思うよ」
青年「あの……丘の麓の小さな村にも」
青年「誰も残ってなかったみたいだけど」
海賊「ですってよ」
船長「……そうか」ホッ
青年「何だよ。海賊の君達が人助け、とでも言うのかい」
海賊「!?」
船長「な!? 何で……!?」
海賊「……俺の後ろに、船長。アンタ、何モンだ?」
青年「物騒な物出さないでよ? ……別に、怪しい者じゃ無いよ」
海賊「信じられると思うか? ……こんな場所に一人で」
海賊「フラフラして……」
青年「……まあ、そうか」ハァ
青年「お前、僧侶を知ってるんだろう?」
船長「え!?」
青年「……親類が住んでた、って言っただろう」
船長「え、え!? ……だ、だって、アンタ、さっき……天涯孤独、って……」
青年「氏んだからさ」
船長「……!」
海賊「……僧侶さんの、親戚……か?」
青年「まあ……血のつながりがあるのに間違いは無いね」
青年(親戚、と言うか……母親、だけど)
青年(……それは、言えないな)

432: 2014/02/27(木) 09:37:12.18 ID:Kv9cvE1tP
船長「…… ……」
海賊「…… ……」
青年「……疑わないの」
海賊「船長?」
船長「……寧ろしっくり来るよ。アンタ、本当にそっくりだ」
船長「髪と瞳の色は違うけど……」
青年「……僧侶、から聞いてる。君のお母さんの事もね」
船長「え!?」
青年「君が話したんだろう? ……『チビ、会いたかった』と……彼女は……」
海賊「おい!」
船長「……俺は大丈夫だ」
青年「…… ……」
船長「アンタ、名前は?」
青年「青年だ」
船長「海賊も、ほら。もうそんな怖い顔やめろって」
船長「……兄ちゃ……青年は、怪しい奴じゃ無いって証明されただろ」
海賊「……そりゃ。そんな話されりゃ疑いようもネェですけど」
青年「身の潔白が証明された所で、相談なんだけど」
船長「ん?」
青年「港街までで良い。連れて行って貰えないか?」
青年「……此処に何時までも居ても、仕方無いからね」
船長「そりゃ、別に……良い、よな?」チラ
海賊「……船長の命令は絶対ですからね」ハァ
青年「勿論金は払うよ?」
船長「え、えーっと」
海賊「当然です!」
船長「……うん」

433: 2014/02/27(木) 09:44:35.14 ID:Kv9cvE1tP
青年「君、船長なんだろ……」
船長「な、何だよ!」
青年「もうちょっとしっかりしないとな」クスクス
船長「わ、解ってるよ! ほら、着いてきな!」

スタスタ

海賊「…… ……」
青年「……なんだよ。何か言いたげだな」
海賊「あんまり、要らんこと吹き込まないでくれよ?」
青年「船長に、か?」
海賊「ああ」
青年「……港街までなんて、すぐじゃ無いか」
海賊「船長は『知りたがり』だからな」
青年「……まあ、好奇心旺盛なモンでしょ、あの年頃の子は」
海賊「行き過ぎた詮索ってのはな……」
青年「時に身を滅ぼす、んだろ? 後……仲間ってのは信用するもん、だったか?」
海賊「……アンタ、女船長の事も知ってんのか」
青年「知人から話を聞いたに過ぎないよ」
海賊「知人……?」
青年「……紫の瞳のね」
海賊「! ……お前、本当に何者だ!?」
青年「そんな顔するって事は、知ってるんだな、剣士の事」
海賊「…… ……」
青年「不思議じゃ無い筈だ。彼は……歳を取らないんだから」
海賊「何で、俺にそんな話をするんだ」
海賊「……簡単に手の内を明かす何て、馬鹿のする事だぜ」
青年「……必要としてたからさ」
海賊「?」
青年「剣士が、君達を……船を、かな」
海賊「な……?」

434: 2014/02/27(木) 09:55:27.60 ID:Kv9cvE1tP
青年「僕が代わりにお願いしても良いけど、多分意味が無いし」
青年「……僕には、他にやらないと行けない事もある」
海賊「……さっぱり意味がわからねぇ」
青年「これ以上話す気は僕にも無い。けど……」
青年「……剣士にどこかであったら、願いを叶えてやって欲しい」
海賊「そんな義理は……」
青年「あるだろ、君達と剣士の間には」
海賊「…… ……船長が決める事だ」
青年「それで良いさ」

船長「おーい! 二人とも、さっさと来いよ!」

青年「……短い間だけど、宜しく」
海賊「…… ……」

スタスタ

……
………
…………

魔王「…… ……」
癒し手「……魔王様」
魔王「ああ……大丈夫、だよ」
金魔「……これも、『無かった事』だな」
金髪紫瞳の男「ああ」
魔王「始まりの国が滅びてしまう事、か? でも……」

436: 2014/02/27(木) 13:03:00.22 ID:Kv9cvE1tP
金魔「ん?」
魔王「一度、滅びているんだろう?」
癒し手「あ……そうですね。紫の魔王様も…… ……知らない、時……代」ハッ
魔王「癒し手?」
癒し手「……『今』」
金髪紫瞳の男「…… ……」
魔王「え?」
癒し手「……今も、紫の魔王様は、知り得ない時代」
金魔「…… ……」
魔王「え? え?」
癒し手「私達……は、『過去』しか見られない筈だった」
癒し手「なのに、『違う』んです、よね?」
金魔「……ああ。お前達には『現在』の出来事だ」
癒し手「……そうですね。肉体は朽ちたけれど」
魔王「…… ……」
癒し手「『私達の時代』に間違いは無い……筈です」
金髪紫瞳の男「俺達にしてみればこれは確実に『未来』」
金魔「……だな」
魔王「ん、んん?」
金魔「……そろそろちょっと不憫に思えてきた」
魔王「あ、哀れんだ目を向けるなよ!」
癒し手「『違う』筈なのに……『同じ』なんですね」フゥ
金髪紫瞳の男「……偶然、では無い、んだろうな」
魔王「…… ……」ハァ
癒し手「えっと……すみません、ややこしい言い方して」
金魔「癒し手の所為じゃ無い。本当に我が息子ながら……」ハァ
魔王「煩いな!」
癒し手「『紫の魔王様の知らない時代に、始まりの国は滅びた』んですよ」
癒し手「『過去』も『現在』も……『未来』も」
癒し手「この事実は……変わらない、んですよ」
魔王「…… ……うん」
金魔「お前解ってないだろ」
魔王「そ、そんな事無い!」

437: 2014/02/27(木) 13:09:54.54 ID:Kv9cvE1tP
魔王「……あれ?」
金魔「やっぱり解ってないじゃないか」
魔王「違う! それじゃ無くて……」
魔王「……此処には、特異点が集まってる、んだよな」
金魔「まあ、そうだな」
魔王「……女魔王は、どうしていないんだ?」
金髪紫瞳の男「『生きている』からだ」
魔王「え……」
金髪紫瞳の男「正確に言えば、お前もまだ氏んでは居ない、が」
金髪紫瞳の男「『夢』の様な物だからな。眠った侭、目も開かない、動かないお前が」
金髪紫瞳の男「見ている、夢……」
魔王「…… ……」
金魔「お前が俺を倒そうと旅立った後。お前が産まれた後、か」
金魔「……俺も、ずっとこんな『夢』を見てたんだ」
金魔「その時には、女魔王は居たぞ。お前は……居なかったがな」
魔王「……過去の、俺も?」
金魔「『同じ』なんだよ、俺達は……多分、だけどな」
金魔「同時に同じ人物が二人、あっちとこっちに、何て」
金魔「……流石に、そりゃ不可能だろうよ」
魔王「……な、るほど…… ……?」
癒し手「…… ……」クスクス
魔王「笑うなよ……」
癒し手「……ご免なさい」

438: 2014/02/27(木) 13:22:59.50 ID:Kv9cvE1tP
魔王「……同じ、じゃないさ」
癒し手「え?」
魔王「俺は『干渉』した。癒し手もな」
魔王「……それに、呪い」
癒し手「…… ……」
魔王「あれは……良く解らないけど、今までに無かった、んだろう?」
金魔「……まあ、正直喜べる変化とは言えないだろうが」
魔王「それに何より……紫の魔王はもう居ない」
金髪紫瞳の男「……ああ」
魔王「完全に『消失』してしまったんだろう? ……だったら」
魔王「『同じ』は、もう……繰り返さない筈だ」
金魔「……そう、だな」
魔王「后達は……逃げたんだろう」
癒し手「……ですね。後は、勇者様が育って、旅立たれて……」
癒し手「……今度こそ。断ち切って下されば……」
魔王「でも……癒し手、お前は……」
癒し手「はい。私も見ました……『過去』は」
癒し手「……『器は間に合った』」
魔王「……お前の『器』は、消えてしまった、んだよな」
癒し手「ええ。だから……さっき、言った様に」
癒し手「私は、終わったんだと思ったんです。又後で、の……」
癒し手「……約束は、果たせなくなってしまった、けれど」
魔王「しかし…… ……お前は、此処にいる」
癒し手「…… ……はい」
金魔「俺達に出来る事は何も無い」
金魔「……なあ、魔王」
魔王「ん?」
金魔「『勇者』がたどり着くまで。仲間は、魔力を『魔王』にぶつけて」
金魔「押さえてくれている。暴れ出さない様に」
魔王「あ、ああ……」
金魔「前后……お前の母さんとさ。魔導将軍と、前側近が」
金魔「……ずっと、魔力を注いでくれてる時、思ったよ」
魔王「?」

439: 2014/02/27(木) 13:40:11.57 ID:Kv9cvE1tP
金魔「あれは……『想い』だ」
魔王「想い……?」
金魔「ああ。絡繰りなんてもんは、何も解らない」
金魔「『世界』の事も、『運命の輪』も、『特異点』って奴も、何も」
金魔「だけど、あいつらの魔力は『想い』だ」
癒し手「…… ……」
金魔「俺を想ってくれる気持ちだったり、世界を救おうとする気持ちだったり」
魔王「…… ……」
金魔「……お前も、解るよ。后と側近の『想い』」
魔王「……うん」
金髪紫瞳の男「……俺にだけは、解らないんだな」
魔王「え? ……ああ、そうか、お前は……」
金髪紫瞳の男「俺は……俺だけは『魔王になれない』」
癒し手「…… ……あ!」
魔王「癒し手?」
癒し手「……貴方は、女勇者様と、青年の……子供」
魔王「それがどうした?」
癒し手「…… ……」
金魔「…… ……」
魔王「? 癒し手?」
癒し手「……貴方は、どうあがいても、魔には変じられない」
魔王「え? 何で…… ……あ!」
癒し手「青年の子である以上。彼は……純粋な人間では無いからです」
魔王「で、でも! ……『勇者』は人間なんだろう!?」
魔王「何で……ッ」
金魔「……何度も言うが、本当に絡繰りなんて解らない、んだよ」
金魔「だが、彼は確かに『魔王にはならなかった』」
魔王「…… ……」
癒し手「でも、不思議です。魔王様の言う様に」
癒し手「……勇者は……人間、なのに」
金髪紫瞳の男「これは……俺にも解らない」

457: 2014/03/03(月) 11:29:50.25 ID:VRQZbvv0P
魔王「『魔王にならなかった』んじゃなくて……なれなかった、のかもな」
金魔「……どっちでも良いさ、そんなもん」
金魔「お前が駄目で……女勇者が駄目で」
癒し手「…… ……」
金魔「もし、こいつが、今度駄目だったとしたら、それはそれで」
金髪紫瞳の男「『変わる』か」
金魔「……そうだ」
癒し手「……でも、どこかで、必ず、断ち切る必要があるんです」
癒し手「今度、こそ……!」

……
………
…………

スタスタ

船長「なあ、青年」
青年「ん……船長か。何だい、君……舵握って無くて良いの」
船長「……まだ一人では出来ないんだ。任せてきた」
青年「……幾つ?」
船長「え?俺? ……何でだよ」
青年「子供に見える、からさ」
青年(まあ……魔導師よりかは大きい、か。それでも……)
船長「……そりゃ、まだガキだよ。でも……!」
青年「解ってるよ……『船長』は君だ」
青年「だからこそ、だ。一人では無理でも」
青年「……放って置いて良いのかい」
船長「…… ……」
青年「港街はすぐそこだ……で、何?」
船長「え?」
青年「用事があったから来たんだろう?」

458: 2014/03/03(月) 11:36:21.13 ID:VRQZbvv0P
船長「……アンタ、勇者じゃ無いのか?」
青年「……は?」
船長「だ、だって!勇者は……『金色』何だろう?」スッ
青年「……金の髪の奴なんて、腐るほど居るだろ」ハァ
青年「それに、勇者が金色ってのは……『瞳』の話だ」
船長「え?」
青年「勇者以外、誰も持ち得ない『金の瞳』……『光の加護』」
青年「……どう頑張ったって、瞳の色だけは変える事ができない」
船長「金色の、瞳…… ……あ!」
青年「な、何だよ」
船長「……あ、いや」
船長(少し前に、船から見た……! 海上ですれ違った、小さな船……)
船長(……あの船には、金の瞳の人が乗ってた!)
青年「おい?」
船長(……でも、あの人は金の髪じゃ無かった)
船長(それに…… ……)ブツブツ
青年「おい、ってば」
船長「わぁッ」
青年「……何なんだよ。急に黙って」
船長「あ、ああ……ご、ごめん」
青年「…… ……」
船長「そっか……アンタじゃ無いのか」
青年「……何。勇者を船に乗せたとあれば。船に箔がつくとでも言いたいの」
船長「え!? ……そ、そんなんじゃネェよ!」
青年「……そう」
船長「……なあ」
青年「ん」
船長「さっき、海賊から聞いたんだ」
青年「? 何を」

459: 2014/03/03(月) 11:45:11.35 ID:VRQZbvv0P
船長「……剣士、て人の話、さ」
青年「……ああ」
船長「『逸話』? って言うのか?」
青年「?」
船長「残ってる……てか、聞いた事がある」
青年「…… ……」
船長「母さんが、拾った紫の瞳の人、の話」
船長「まだ母さんが若い頃の話だって言ってた。海のじいさんが人魚に……」
青年「…… ……」
船長「……食われて、氏んで、少しした頃に。その人を、母さんが」
船長「最果ての地で、拾った、って」
青年「……らしい、ね」
船長「紫の髪に紫の瞳で、歳を取らない不思議な人だったって言ってた」
青年「…… ……」
船長「魔法剣、って言うのか。剣を媒介にして、様々な魔法を使いこなす」
船長「……凄く強い人だった、って」
青年「それが……どうかしたのかい?」
船長「……行き過ぎた詮索は身を滅ぼす」
青年「…… ……」
船長「それは、解ってるんだ。でも!」
船長「その、剣士って人に会えば、俺……!」
船長「……母さんの事、知る事ができるのかと思って」
青年「君はずっと……この船に乗ってたんじゃないのか?」
船長「昔は、そうだったよ。でも……母さんが氏ぬ前に」
船長「俺は一回、この船を下りてる。父さんのじいちゃんの島で暮らしてたんだ」
青年「島?」
船長「行ったら吃驚するぜ……僧侶さんにそっくりの、エルフの像があるんだ」
青年「!」
船長「じいちゃんの趣味は骨董品……てか珍品集め、でね」
船長「……正直あんまりセンス無いと思うんだけど。でも」
船長「あのエルフのお姫様の像は綺麗だった。誰が作ったかは知らないけど」
青年「…… ……」
青年(……あの村長か。あれが……この船長のじいさん)
船長「機会があれば見てみると良いよ。アンタにもそっくりだよ、青年」
青年「…… ……」

460: 2014/03/03(月) 12:16:51.90 ID:VRQZbvv0P
船長「俺が、もう一回船に乗ったのは……母さんが氏んだ後だ」
船長「……父さんは船を下りた。海は……もう怖い、んだって」
青年(あの島に……父親がいるのか)
青年(……じいさん、そんな事一言も言ってなかったな)
船長「その時に僧侶さんに会ったんだ」
船長「……僧侶さんと、戦士さん。それから」ジッ
青年「?」
船長「その二人の、子供……青年、って名前だった」
青年「!」
青年(僕も……居たのか!?)
船長「金の髪に蒼い瞳の綺麗な男の子だったよ」
船長「……最果てまで送っていったんだ。俺の初航海だ。忘れるはずも無い」
青年「…… ……」
青年(勇者様が……産まれる前……そうか)
青年(……よく考えれば、解ることだ。こんなご時世)
青年(最果てまでの船なんて。海賊船以外……!)
船長「さっき、始まりの国でアンタの名前を聞いたときにはピンと来なかった」
船長「……だけど、良く考えて見ると……」
青年「その、二人の息子の『青年』と、僕が同一人物だとでも言いたい訳?」
船長「思い出したんだよ」
船長「その子は、『母さんはエルフだから嘘が吐けないんだ』って言った」
青年「!」
船長「それから……『今度は勇者を連れてくるから。その時には又』」
青年「…… ……」
船長「『船長の船に乗せてくれるか?』 ……って。だから」
船長「あの男の子。小さい青年は、実は……勇者だったのかと思ったんだ」

461: 2014/03/03(月) 13:19:51.37 ID:VRQZbvv0P
青年「……だから僕にあんな事を聞いた、のか」
船長「俺は……何時も、知りたがって海賊達に怒られる」
青年「…… ……」
船長「エルフってのは、不思議な生き物だってじいちゃんが言ってた」
船長「……僧侶さん達を乗せた時に聞いた時は、子供の……」
船長「他愛ない、さ。お話しだと思ってたんだ」
青年「…… ……」
船長「でも、アンタは……『自分は勇者じゃ無い』ってハッキリ否定した」
青年「……本当に違うからな」
船長「そうだな。瞳の色が変えられないってんならそうだろうな」
船長「……僧侶さんは、エルフだったのか?」
青年「…… ……」
船長「アンタも、エルフなのか? あの時の……青年なのか?」
青年「…… ……答える必要は無い、な。海賊からも言われたよ」
青年「お前に、妙な事を吹き込むなって」
船長「否定も肯定もしないんだな」
青年「…… ……」
船長「約束は守ってやるよ」
青年「え?」
船長「剣士って人が、来たら。船に乗せてやる」
青年「…… ……」
船長「母さんの話も聞いてみたい」
船長「それから、もし『青年』が『勇者』を連れてきたら」
青年「…… ……」
船長「その時も。ちゃんと、乗せてやる」
青年「…… ……」
船長「…… ……」

ボーゥ……

青年「!」ビクッ
船長「……着港だ。行かなきゃ」
青年「あ、ああ……」

462: 2014/03/03(月) 13:25:31.60 ID:VRQZbvv0P
船長「なあ」
青年「……なんだよ。まだ何かあるのか」
船長「アンタは勇者じゃ無い」
青年「……そう言っただろ」
船長「でも、勇者はいるんだよな?」
青年「……ああ」
船長「今度は、ちゃんと答えてくれたな」ニッ
青年「!」
船長「見てろよ、青年! 俺はまだガキだけど」
船長「母さんや、海のじいちゃんに負けない位、立派な船長になって」
船長「約束、守ってやるからな!」

タタタ……

青年「…… ……」ハァ
青年「一人で……好き勝手喋って行きやがって」
青年(立派な船長に、か)
青年(……彼も、運命の輪、の中の一つ……なのか?)

スタスタ

海賊「おう」
青年「……何。別に何も喋っちゃ居ないよ」
海賊「……船長が、剣士の居そうな場所を聞いておけ、ってよ」
青年「先にその話を船長にしたのはそっちだろう」
海賊「解ってる……睨むなよ。責めたい訳じゃ無い」
海賊「……なんか知らんが、立派な海賊になるだの、船長になるだの」
海賊「はりきってんだよ、船長」
青年「……良いんだか悪いんだか」ハァ
海賊「一生懸命仕事覚えようとしてくれるのは……まあ。飯の食い上げに」
海賊「なる可能性が低くなるっつー事だろうよ」
青年「……成る程。でも、残念だけど」

463: 2014/03/03(月) 13:33:43.80 ID:VRQZbvv0P
青年「剣士が何処にいるか、行くのか……は」
青年「僕には解らないな」
海賊「……そうか。まあ、ならそれで良い」
海賊「俺たちゃ海賊だ……海がある場所なら、何処にでも行ける」
青年「……世話になった。金は言われた通り用意しといたよ」ジャラ
海賊「ああ……じゃあな」
青年「あ、そうだ」
海賊「ん?」
青年「『またな』って……伝えて置いて」
海賊「? 船長にか?」
青年「ああ。『男と男の約束』だって、ね」

スタスタ

青年(……港街、か。さて)
青年(母さんの話では、確か……この辺、か?)
青年(教会に行く道が…… ……!?)
青年(…… ……平地になってる!? 小さい丘があった筈……!)
老婆「何か捜し物かね?」
青年「! ……あ、ああ……この辺に、教会に続く道が」
青年「あったって聞いて……るんだけど」
老婆「教会……? ああ。そういえば会ったらしいね」
青年「らしい……?」
老婆「アタシも最近、始まりの大陸からこっちに来たところなんだ」
青年「!」
老婆「知り合いにずっとこの街に住んでるバァさんが居るけど」
老婆「聞いてみるかい?」
青年「……ああ。お願いできるなら」
老婆「…… ……」ジロジロ
青年「? ……何」
老婆「否。お兄ちゃん綺麗な顔してるな、と思ってね」
青年(何だ、この婆さん……)
老婆「いやいや、悪いね。商売柄、ね……」ハハッ
青年「商売……?」

464: 2014/03/03(月) 13:38:05.53 ID:VRQZbvv0P
老婆「まあ、それは良いよ。着いておいで」
老婆「この時間なら店にいるはずだ」
青年「…… ……」
老婆「しかしお兄ちゃんも、随分古い話を知ってるんだね」
青年「え?」
老婆「この街の教会がちゃんと教会として、あった時代なんて」
老婆「もう、随分昔だって聞いてるよ」

スタスタ

青年「……母から聞いただけだ」
老婆「ああ、そうかい……ほら、此処だよ」
青年「随分……でかい建物だな。何の……」
老婆「段々人と、需要が増えてね。さ、入っておくれ」

キィ

青年「…… ……」
老婆「すぐに呼んでくる。茶も運ばすよ」
老婆「……まあ、寛いでておくれ」
青年「おい、此処は何の店……」

バタン!

青年「……ッ ……糞。どいつもこいつも、人の話を聞かない……」
青年(ベッド……に、浴室?)
青年(宿……か? それにしては、随分華美だな)
青年(……趣味は悪く無い、が。しかし……)

コンコン

青年「! ……はい」
少女「失礼、します」

カチャ

青年「!」
少女「お茶をお持ち…… ……!?」

465: 2014/03/03(月) 13:45:28.98 ID:VRQZbvv0P
青年「……何、やってる」
少女「……貴方、は、青年!?」
青年「! 危ないッ」ガシャン!
少女「あ……ッ 熱……ッ」
青年「……遅かった、か」
少女「ご、御免なさい……」ハッ
少女「……すぐに、片付け……」
青年「手当が先」パァッ
少女「!」
青年「……良し。他には?」
少女「……貴方の方が濡れている。すぐに着替えを……」
青年「良い……中身はただのお湯だろう?すぐに渇く」
青年「……ティーカップとポットは、粉々だけどね」
少女「…… ……」
青年「何処も切ってない。大丈夫だ」
少女「…… ……」
青年「こっちへ……踏むなよ」グイッ
少女「…… ……」
青年「座れよ…… ……此処は、何だ?」
青年「さっきの老婆はどうした。この街に古くから住む婆さんを」
青年「連れてくると言ってたはずだ。君じゃない……何故」
青年「君が来る? ……否、此処に。港街に居るんだ」
少女「…… ……」
青年「少女?」
少女「…… ……」ハァ
青年「此処は、宿か?」
少女「……違う。此処は娼館だ」
青年「娼館!?」
少女「港街に、魔導の街から……娼館が移された話は知っているだろう」
青年「……違う。そうじゃなくて!」
青年「どうして、そんな場所に君が居るんだ!?」
青年「……以前より、腹も目立つ」
少女「!」ビクッ
青年「そんな身体で、君は……!」

470: 2014/03/04(火) 10:08:35.95 ID:4K1MtLfpP
少女「……客は取っていない」
青年「え……?」
少女「貴方の様に、此処に通された客に……茶を振る舞ったり」
少女「その客が買った女が来るまでの話し相手、をしているだけだ」
青年「……僕は客じゃ無いぞ」
少女「解って居る……だが」
青年「あわよくば、って事か……全く」ハァ
青年「しかし、だからってな。お前、そんな身体で……」
少女「……金も何も持たない身重の女が、安くても給金を貰えるだけ」
少女「ありがたいと思わねばならんのだろう」
青年「……他に、仕事なんて幾らでもあるだろう?」
青年「今は……それで良いかもしれないけどね。お茶出して、喋って……」
青年「……産まれたらどうするんだ。身体が回復すれば……!」
少女「客を取れと言われるだろうな」
青年「!」
少女「……老婆はその後、やりたければやれば良いと言っていたが」
少女「随分、世話になっている……恩を返せと言われるだろう」
少女「……客と居る間、手の空いている女達に子供を見て貰う事も可能だし、な」
青年「お前、解ってるなら、何故……!」
少女「善意だけで、困ったときはお互い様、なだけで」
少女「……こんな待遇に置いてくれている等とは流石に思わない」
青年「…… ……」
少女「今回を例にとっても解る……こうして、顔と名を売れば」
青年「産んだ後、客の覚えがあれば売れるだろう、ってか……!」
少女「……私に、他に出来る事等」
青年「馬鹿か、君は!」
少女「…… ……」
青年「……そりゃね。君がそれで良いって言うのなら、止める権利は無い」
青年「この仕事をしてる人達を蔑む気も無い。だが……!」
青年「…… ……」ハァ
少女「不思議だな」

471: 2014/03/04(火) 10:24:45.83 ID:4K1MtLfpP
青年「何がだよ」
少女「……あの時、私を放って……転移、だったか」
少女「逃げ出した貴方達が。貴方が……今更、私の何を案じる必要がある」
青年「…… ……」
少女「……ご免なさい。責めている訳では無いんだ」
青年「……否。責められても当然だろう。確かに僕達は……」
少女「私まで助ける義理は無かった、んだろう?」
青年「…… ……まあ、ね」
少女「ならば尚更だ。何故今になって?」
青年「……后様は気にしてた。少女は大丈夫だったか、と」
少女「それだけか?」
青年「知らせてやれば、ほっとはするだろうけどね」
少女「驕りで無ければ……貴方自身の言葉の様に聞こえたけれど」
青年「……子供に罪は無いんだ」
少女「貴方と……何の血の繋がりも無いのにか」
青年「そう言う問題じゃ無い。蔑む気は無いとは言ったが……!」
少女「……此処でこうして産まれ、育てば、か」
青年「…… ……」
少女「二の轍を踏ますのは、な。確かに……な……」
青年「……本当に。解って居るのなら」
青年「もう少し、考えればどうだ」
少女「…… ……」
青年「始まりの国を焼け出された人は君だけじゃ無いだろう」
青年「……こんな、安易な道に逃げなくても」
青年「救済の手立ては、あった筈だ!」
少女「……そう、だな」ハァ
青年「…… ……」
少女「…… ……」
青年「まあ、良いよ……確かに。僕には関係の無い話だ」
青年「君がどうなろうと。君と……衛生師の子が、どうなろうと」
少女「…… ……」

472: 2014/03/04(火) 10:40:01.50 ID:4K1MtLfpP
コンコン

少女「!」
青年「……あのババァか」

カチャ

老婆「お待たせ……おや、まあ」
少女「あ、すみません……すぐに片付けます」
老婆「ああ、悪かったねお兄ちゃん、とんだ粗相を……」
青年「……良いよ、怪我も無いし。それより、アンタの知り合いの婆さんってのは」
青年「どうしたんだ」
老婆「ああ、今手が離せなくてね……どうだい、お兄ちゃん。時間があるなら」
少女「…… ……」カチャカチャ
青年「此処が娼館だって最初からなんで言わなかったんだ」
老婆「ん? ……ああ、別に、ね? 女を買う気が無かったのなら、ほら」
老婆「関係無いだろう?」ニヤニヤ
青年「……フン。で、時間があるなら何だって言うんだい」
老婆「いや、ね。粗相もしちまったみたいだし」
老婆「……どうだい。少し割り引いておくよ。そうやって待ってりゃ」
老婆「時間なんてあっと言う間だ」
青年「……どれぐらい、掛かるの。そのばあさんは?」
少女「!?」
老婆「ん? そうさねぇ……まあ、1時間……否」
老婆「2時間ぐらいかな」
少女「お、おい……いや、あの!?」
老婆「ほら、さっさと片付け!」
少女「…… ……」チラ
青年「……2時間、ね。じゃあ、新しいお茶持ってきて」
青年「話し相手してくれるかい」
少女「……わ、たし?」
老婆「え? いや、この子は……」
青年「彼女でないなら帰る。日を改めるよ」
老婆「……いやいや。構わないけどね。でも、この子は身体が……」
青年「話し相手、って言っただろ」

473: 2014/03/04(火) 12:27:49.71 ID:4K1MtLfpP
青年「身重の女を抱く趣味なんか無い……し、他の女にはもっと興味が無い」
老婆「おやおや、まあまあ……そうかい。それはそれは」ニヤニヤ
老婆「じゃあ、此処はアタシが片付けておくとしようかね」

スタスタ

少女「あ……すみません」
老婆「ほうら、ね。お茶出しでもこういう奇特な客が居るんだから」ボソ
少女「…… ……」
青年「……良いよ、此処で。面倒臭い」
老婆「そうかい? じゃあ、すぐに片付けるからね」
老婆「魔法使い、アンタはすぐに新しいお茶を用意しておいで」
青年「!? 魔法使い!?」
少女「あ…… ……いや、あの」
老婆「何だ、この子自己紹介もしてなかったのかい」
少女「…… ……」フイッ

スタスタ、カチャ、パタン

老婆「いやあ、でも良かったよ。あの子は何て言うかね」
老婆「……ま、あんな身体じゃ、仕方無いけど」
老婆「中々綺麗な顔してるんだから、もっと笑えば良いのにねぇ」

カチャ、カチャ……

青年「…… ……」
老婆「何、産まれて少し経てばね。ほら……まだ若いしね」
老婆「うん、でも良かったよ。アンタみたいな綺麗な兄さんに気に入られたら」
老婆「魔法使いも、嬉しいだろうよ……良し、と」
老婆「じゃあ、まあ……2時間程度。ごゆっくり?」

スタスタ、パタン

青年「…… ……」ハァ
青年(本当に良く喋るババァだな)
青年(……2時間、か)

カチャ

少女「……貴方は、何を考えて居るんだ!?」
青年「今度は零さないでくれよ」
少女「青年!」

474: 2014/03/04(火) 12:58:49.58 ID:4K1MtLfpP
青年「心配しなくても、そんな気になんかなれないよ」
青年「……あの後の事を聞きたかっただけだ」
少女「あの後の事……ああ。貴方達が消えてから、か」
青年「それから、君の名前の事も、ね」
少女「…… ……」
青年「何故、『魔法使い』だ等と名乗った」
少女「……解らない。あの老婆に名を問われたときに、つい口から出ただけだ」
青年「本名を名乗るのは厭だったのか」
少女「……それも、あるのかもしれない。でも……」
少女「本当に……自分でも解らないんだ」
青年「……フン。まあ、別に何でも良いけど」
少女「…… ……」
青年「で?」
少女「え?」
青年「あの後の事、だ。衛生師は外に飛び出していっただろう」
少女「……彼のその後は解らない。すぐに……姿は見えなくなった」
少女「衛生師は……あの炎からは逃れられなかった筈だ」
青年「君は……炎の優れた加護を持っている、んだろう」
少女「……でなければ、助かっていない」
少女「私も、一つだけ聞いても良いだろうか」
青年「……聞くだけなら、どうぞ」
少女「あの時……貴方達が消える直前……否。急に炎が噴き出した時の事だ」
青年「…… ……」
少女「魔法使いさん……后、だったか? 彼女……は、『熱い』と」
青年「魔法の事に関しては、僕に聞くまでも無いだろう、君は……」
少女「……ああ、いや。そうじゃ無い」
少女「彼女が、優れた加護を持っていないと言うのは……それは」
少女「勿論……初めは驚いた、が。そうでは無くて」
青年「……何だよ」
少女「……あれは、勇者様から放たれた様に見えた」
青年「…… ……」

475: 2014/03/04(火) 13:22:11.91 ID:4K1MtLfpP
少女「優れた加護を持たないならば、自らの魔法でも怪我をする事は解っている」
少女「……だがあの時、彼女は……勇者様を抱いている腕に、火傷を負ったように」
少女「見えた。だから…… ……だが」
青年「……だが?」
少女「あの赤子は、勇者……『光の加護』を受けている、んだろう?」
青年「…… ……」
少女「…… ……」
青年「…… ……」
少女「……聞くだけならば、だったな」
青年「君は」
少女「?」
青年「僕達が……消えた後。あの炎の中を逃げ出した、んだな」
少女「……そうだ。衛生師の姿は見失ってしまったし」
少女「いくら……炎に焼かれる事の無い身だとは言え」
少女「……腹に、子も居る。それに……崩れてくるだろう瓦礫や」
少女「倒れるだろう木から逃れる術は無い」
青年「…… ……まあ」
青年「こんな状況に身を置かれても、氏のうとしないだけ……」
青年「偉そうな言い方かも知れないが。褒めてやるよ」
少女「…… ……」
青年「衛生師が発したあの『呪いの言葉』」
少女「…… ……」
青年「女の声だった。君は『お姉さま』だか何だと言っていたな」
少女「……忘れる筈の無い声だ」
少女「この世を、私を……『世界』を怨んで、氏んで行ったのだろう」
少女「あの……衛生師の行動の絡繰りは解らない」
少女「彼は、確かに好奇心旺盛だった。知識を生かし、怪しげな研究をしていたのも」
少女「知って、は居た」
青年「研究?」
少女「私には知識が無いから良く解らないが。薬草?だとか何だとから……」
少女「良く解らないが……薬、の様な物を作っていたらしい」
青年「…… ……薬」
少女「そこは本当に良く解らない。が…… ……あれは」
少女「彼の実験……の類では無い、んだろうな」ハァ
青年「君達人間には解らなかった、だろうが」
少女「え?」
青年「……始まりの大陸は、黒い靄の様な物に覆われていた」
青年「魔導師も言ってたな。何も見えないし特に何かを感じる事もないけれど」
青年「妙にイライラする、てね」
少女「……黒い、靄」

476: 2014/03/04(火) 13:31:02.93 ID:4K1MtLfpP
青年「『とてつもない悪意』『激しい憎悪』……『呪い』」
少女「!」
青年「……呼び方なんてどうでも良いけど。様するにあれは」
少女「……お姉さまの、怨念、か」ハァ
青年「だろうな。愚かな人間の末路だと。君も言ってたな。あの時」
少女「貴方には……見えていたのか」
青年「剣士にもね」
少女「! そうだ、あの男……!」
青年「……君には今更だ。詳細を話す気は無いが……后様にも見えていた」
少女「……優れた加護等」
青年「え?」
少女「それこそが至上、至高だと領主様達……魔導国の人々は言っていたが」
青年「……君もだろう」
少女「ああ……」
少女「……だが、魔法使いさんを……剣士や、彼女のあの魔力……」
少女「見てしまえば……そんな物だけに拘っていたのが馬鹿らしく思えた」
青年「…… ……」
少女「『出来損ない』だと呼ばれる筈の……立場に居たであろう彼女の」
少女「あの魔力は、能力は……凄まじい……!」
青年「…… ……」
少女「……だが、逆に」
青年「?」
少女「あんな物を見てしまえば、私達……『領主の血筋』とやらに」
少女「『古の魔の血』が混じっていると言われても、不思議では無いなと思ってしまう」
青年「!」
少女「……否、あ、あの。だからと、秘書と同じように……盲信している訳では……!」
青年「あ……ああ…… ……」
青年(『魔の血が混じってる』……まさか……ッ!?)
少女「青年?」
青年「!」ハッ
青年「……否。何でも無い」
青年「そうだな……そう思ってしまいそうになる、と言う気持ちは解る」

477: 2014/03/04(火) 13:39:42.12 ID:4K1MtLfpP
青年(后様は、今は魔だ……元、人間の)
青年(僕は、その絡繰りを知っているから……転移しようが、遠見しようが)
青年(そんな物だと、知っているから……思いつかなかった。けど)
青年(……まさか……!)
少女「彼女は……何者なんだ?」
青年「え?」
少女「……『出来損ない』だからと、言いたい訳じゃ無い」
少女「この言葉も……その。使いたくて使っている訳では無いんだ」
青年「……まあ、それは良いよ。此処には僕しか居ないし」
少女「……ありがとう」ホッ
少女「彼女は、確かに優れた魔法の使い手だ。凄まじい魔力を持っているんだろう」
少女「だが、ただの人間に……あんな事ができる物なのか?」
青年「……聞くだけなら、と言った筈だ」
少女「…… ……そうか」
青年「…… ……」
少女「否、良い…… ……私は、もう魔導国の……否、書の街の人間でも」
少女「王妃、でも無い…… ……私は」
青年「……『魔法なんて使い様』」
少女「え?」
青年「『願えば叶う』…… ……そう言う事だ」
青年「……願ったところで、母さんは生き返らないけれどね」
少女「! ……貴方、は」
青年「言った筈だ。僕は僧侶と戦士の子供。エルフの血を引く……」
少女「……やっぱり、あの青年、なんだな」
青年「エルフは嘘はつけない」
少女「……産まれてすぐに、私は貴方に会っている」
青年「え!?」
少女「僧侶さんは、始まりの国で貴方を生んだんだ」
少女「……私は『王妃になる者』として、城に居た」
青年「…… ……ああ、そうか。そう……か」
少女「……亡くなった、のか」
青年「そう言っただろう」

478: 2014/03/04(火) 13:49:34.35 ID:4K1MtLfpP
少女「……悪かった」
青年「…… ……」
少女「優しそうな人、だった。貴方と同じ蒼い…… ……」ジッ
青年「……? 何」
少女「……王が、言っていた」
青年「は?」
少女「思い出した。あ、ああ……否……」
青年「……なんだよ。ハッキリ言えよ」
少女「……私は、緑だと言ったんだ」
青年「? だから、何が…… ……」
少女「貴方の瞳だ……今の、貴方は……」
青年「…… ……?」
少女「僧侶さんと同じ、蒼」
青年「……そうだな。僕は水の加護を受けている」
少女「産まれたばかりの貴方を見た時…… ……私には、緑に見えた」
少女「それを王に伝えたら、蒼だ、と言い切られたのを思い出した、んだ」
青年「……何が言いたいのかさっぱりわからないんだけど」
少女「王は……貴方が僧侶さんにそっくりだと安堵していた」
少女「……戦士さんは、確か優しそうな緑の瞳をしていたな」
青年「父さんは……緑の加護を受けているからな」
少女「……王は、貴方の中に戦士さんの面影を見つけるのが厭だったんだろうが」
少女「あの時の、貴方の瞳は、確かに…… ……」
青年「似た色だよ。光の加減で蒼にも、緑にも見えても不思議じゃない」
少女「王だったか、衛生師だったか……他だったか忘れたが」
少女「……確かに、そう言われた覚えもある」
青年「……だから、何が言いたいんだ、よ」
少女「否……瞳の色を変える事だけは、出来ない」
青年「…… ……」
少女「ふと……思い出しただけだ。話の腰を折って悪かった」
青年「…… ……」
少女「……何の話を、していた……かな」ハァ

489: 2014/03/06(木) 18:41:44.49 ID:ZBtEY4360
青年「…… ……」
少女「ああ、あれからどうなったか、だったか」
少女「……私が、貴方に伝えられる事は……もう、無いな」
青年「衛生師は氏んだ……のか」
少女「……あの炎の中をフラフラとしていれば、そうだろうな」
青年「どこかで見た、と言う話とかは無かったのか?」
青年「あの国から出るには、あの港から船に乗るしか無い。それに」
青年「……偽物であれ、彼は『王』だったのだろう」
少女「衛生師が『王』を名乗りだしてから、彼の姿を見たのは」
少女「私と、城内警備の近衛兵だけだろう」
青年「……ああ、そうか。立入禁止、だったんだっけ」
少女「『衛生師』の顔を知っている者は多いはずだが……」
少女「……そんな話は、聞いていない。城一つ、街一個……」
少女「壊滅してしまうほどの火事だ……被害も大きかった筈だし」
少女「……皆、自分の事で手一杯で当然だろう」
青年「そうだな……」
少女「もし、生きていたとしても……」
青年(あの黒い靄。黒い触手……あれに、飲まれていたら)
青年(……どちらにせよ、タダではすまない、か)ハァ
少女「……力になれなくて、すまない」
青年「…… ……君、って人は」
少女「?」

490: 2014/03/06(木) 18:53:04.12 ID:ZBtEY4360
青年「…… ……」
少女「な、何だ」
青年「知りたい、とか。そう言う欲は無いの」
少女「え?」
青年「否、そう思われたって困る、んだけどね……でも」
少女「……疑問を口にし、問う割に……と言いたいのか?」
青年「物わかりが良すぎる、と言えば……聞こえは良いかもね」
少女「……人形の様だと言われたな」
青年「王に、か」
少女「衛生師にも……否。彼には、そんな風に言うな、とかな」
青年「…… ……」
少女「その癖、柳のように何でも受け流す事は得意なのだろう、と」
少女「……そんな事も言われた、かな」
青年「……君は」
少女「?」
青年「王を愛していたのか?」
少女「……二択の選択肢しか無いのだとすれば、NOだな」
青年「……じゃあ、衛生師か」
少女「…… ……それも、NOだ。多分」
青年「…… ……」
少女「王に……そうだな。情、はあったと思う。似ていると思ったことも」
青年「君と?」
少女「ああ。『責任』を押しつけられた傀儡に似た何か」
青年「…… ……」
少女「事実、そうであったかどうか、じゃ無い」
少女「そうであるに過ぎない、違い無いと……思ってしまっている節があった所」
少女「……かな」
青年「……君は書の街の代表者だったな」
少女「私は……ただのお人形さんだ。秘書達旧貴族の。王の妃と言う名ばかりの」
少女「……随分と立派な、鳥籠の中の」
青年「君のその、柳の様な何とかってのは」
青年「……傷付くのを防ぐ為の術だとでも?」
少女「『諦め』? ……そうだな。そうなのかもしれない」
少女「……『それ』は『そういうもの』なのだと」
少女「文言通りを受け入れられれば、何も揺らがないから」
青年「……ふぅん」
少女「…… ……」
青年「まあ、良いよ。こっちにとって不都合は無いしね」
少女「……興味を持たれないこと?」
青年「それもある……説明してやる義務は無い。僕にはね」
少女「……魔法使いさんと、勇者様は、元気にしていらっしゃるのだな?」
青年「え? ……あ、ああ。まあ、それは」
少女「貴方は、勇者様と共に行くのか」
青年「……勇者様が、選ぶ事だ」
少女「そうなのか?」
青年「そりゃそうだろう。誰も彼もついていきます!なんて言って」
青年「それを全て受け入れて居たら、どんな大所帯になる」
青年「……選ばれし光の子に、選ばれた一行。それが」
青年「『勇者達』だろう?」

510: 2014/03/12(水) 09:59:05.50 ID:qhb22RQz0
少女「…… ……」
青年「何だよ」
少女「そう、だと解って居て、何故そこまで必氏になれるんだ」
青年「……は?」
少女「自分が選ばれると決まった訳では無いのに……」
青年「…… ……」
少女「僧侶さんや戦士さんが、元勇者一行だから、か?」
青年「決まっては居ないけど、自信がある……そうにでも、見える?」
少女「否定はしない。だけど」
青年「選ばせれば良い」
少女「……その、保証も…… ……」
青年「無いのに何故、って?」
少女「…… ……」
青年「常に受け身で居たって、何も始まらない」
青年「……待っているだけで、望む状況が天から振ってくる、来てくれる」
青年「君は本当に、そう信じるの?」
少女「…… ……」

チリン、チリン……

青年「? 何の音だ」
少女「……時間、だ」

511: 2014/03/12(水) 10:08:30.51 ID:qhb22RQz0
青年「……ああ」
少女「老婆等の目的も果たされた……すぐに、来るだろう」
青年「…… ……」
少女「ありがとう、青年」
青年「……別に礼を言われる様な事、しちゃ居ない」
少女「…… ……」

スタスタ、カチャ

少女「…… ……」
青年「行かないのか」
少女「……否」

パタン

青年「…… ……」ハァ
青年(お節介だな、僕も)

カチャ

老婆「どうだった? ……楽しい時間だったかい」
青年「……もうこれ以上文句を言うのも疲れる」
青年「見え見えのお前の手に乗ってやっただろう?」
老婆「まあまあ、そう言いなさんな……ちゃんと連れてきたよ」

カチャ

館長「私に用事があるってのはアンタかい、兄さん」
青年(……似た様なババァが二人、か)ハァ
青年(少女は、こいつ等の何処をどう見たら、純粋な人助けをしてくれそうに)
青年(見える、ってんだ?)
青年「……教会の事を聞きたいんだ」
館長「教会の何を、だい」
青年「墓があっただろう。始まりの国の小高い丘の上に。移されたと言うのは聞いている」
館長「ああ、そうだね……それで?」
青年「あの教会は朽ちる侭そのままに……そう言う約束だった筈だ」
青年「何故更地になってるんだ?」
館長「……アタシが買い上げたんだよ」
青年「何……?」
館長「この娼館だけじゃ、手一杯になって来たからね」
青年「!?」
館長「始まりの国のあの火災で、どれだけ人が流れてきたと思う?」
館長「……ま、働き手が増える事は、アタシにはありがたい話さ」
青年「王は、あのままにしておく事を了承していたはずだ!」ガタン!

512: 2014/03/12(水) 10:17:30.93 ID:qhb22RQz0
館長「もう居ない王に、アタシら港街の住人が」
館長「何故従う必要がある」
青年「……ッ」
館長「結構前から王は替え玉だって噂、あったんだよ、兄さん」
館長「……頭がおかしくなっちまった、もう氏んじまった、てね」
青年「お、お前達は、おば…… ……盗賊様の……!」
館長「恩を忘れたとでも責めたいのかもしれないけどね、兄さん」
館長「……アタシ達は生きていかないと行けないんだよ」
館長「さっきの魔法使いだってそうだ」
青年「…… ……」
館長「身重の身で。金も無く。ねぇ?」
館長「居るんだよね。金で女を買いに来た癖に、偉そうに説教する奴ってのはさ」
青年(聞かれていた!? ……否、それは無い筈だ)
館長「アンタだって、話だけ、だなんてさ?」
館長「格好つけているつもりかい? ……否、別にね。金さえ払って貰えれば」
館長「アタシとしてはそれで良いんだよ」
青年「……それと教会の話と、何の関係がある」
館長「変わってく、んだよ、兄ちゃん」
青年「…… ……」
館長「何時までも昔に縋ってちゃ何にもならない」
館長「……魔法使いだって、考えるさ。何れ」
館長「この老婆がね、厭ならやめれば良いって言ったのは事実だし、嘘じゃ無い」
館長「あの娘が、子を産んで、その後、自分で考えて『変わって』行くんだよ」
青年「だが……!」
館長「『過去』に固執した侭の『現在』を『未来』にして」
館長「……それは、必ずしも幸せなのかい?」
青年「…… ……ッ」
館長「アタシ達も、魔法使いも」
館長「……アンタだって。生きていかなくちゃ行けないんだ」
館長「『不変』を守って行く事だけが、未来の幸せに繋がる訳じゃ無い」
館長「……もう無い国に。もう亡い救世主……盗賊、って人に」
館長「操を立て続けて、食える飯があるかい?」
青年「…… ……ッ」

513: 2014/03/12(水) 10:28:53.13 ID:qhb22RQz0
館長「……話は、終わりだね」
青年「…… ……」カタン
館長「又ね、兄さん」
青年「……もうこんな場所に用事は無いよ」

スタスタ

老婆「魔法使いに送らせようか?」
青年「結構」

バタン!

青年(『過去』に固執した『現在』に、幸せな『未来』は無い?)
青年(……糞。見透かされた訳でもあるまいし)ハァ
青年(僕達がやっている事は、模倣なのか?)
青年(……僕達は、間違えて居るのか?)
青年(母さん…… ……)
青年(…… ……)

……
………
…………

516: 2014/03/12(水) 14:29:30.48 ID:qhb22RQz0
剣士「……此処から、北に向けて発ったのが……二週間前、か」
娘「それぐらいかな。航路とか良く解りませんけど……」
剣士「否……充分だ。ありがとう」

スタスタ

剣士(北、か……鍛冶師の村か、北の街)
剣士(……鍛冶師の村、か。寄っても良い……が)
剣士(二週間。ギリギリか……)

カチャ

司書「いらっしゃいませ……お探しの本はおきまりですか?」
司書「此処は広いですから。お手伝いさせて頂きますよ」
剣士「……人を探しに来た。深い青の瞳に、茶の髪の」
剣士「少年は、来ていないか?」
司書「ああ、魔導師君かな? ……今日は、あっち……あの緑の棚の辺りに居ますよ」
剣士「……ありがとう」

スタスタ

魔導師(……成る程。こっちが、これだとすると……)ペラペラ
剣士「…… ……」
魔導師(あっちの本……あ、あれ此処じゃないや。えっと……)クルッ
魔導師「…… ……ッ け、け……ッ」
剣士「シッ」
魔導師「……ど、どうしたんですか!?」
剣士「静かにしろ…… ……様子を見に来る、と言ってあっただろう」
魔導師「……はあ、でも、こんなに早く……」
剣士「……海賊船の目撃情報を追いかけてたら、な」
魔導師「船長さんの船、ですか……」
魔導師「……青年さん、は?」
剣士「港街に向かった後は解らん。奴からは接触できる、だろう」
魔導師「小鳥、ですね……まだ便りは無い、んですか」
剣士「どうだ?」
魔導師「え? ……あ、ああ。僕ですか」
魔導師「……正直、どれだけ時間があっても足りないんじゃ無いかと思います」
魔導師「でも……気が済んだら、南の島に戻ります」
剣士「……ああ。まだ、時間はある」
魔導師「剣士さんは……今から何処へ?」
剣士「北へ向かったらしい……鍛冶師の村か、北の街か」
魔導師「……お願いがあります」
剣士「? 何だ」
魔導師「寄るのなら、で良いです……息子さんから」
剣士「……本を借りてこい、と?」ハァ
魔導師「此処にも、詳しい本は結構ありました。でも」
魔導師「……やっぱり、あれ……必要です」
剣士「……本当にお前は、さらっと無茶を言う」
魔導師「すみません。でも……」
剣士「……努力はしてみる」
魔導師「ありがとうございます!」

517: 2014/03/12(水) 14:35:46.68 ID:qhb22RQz0
剣士「頻繁に顔を出す訳には行かないが……」
魔導師「合流した後でも良いですよ。本は……后様にでも」
魔導師「預けて置いて下されば」
剣士「……お前も青年も」ハァ
魔導師「? はい?」
剣士「人を便利屋か何かと勘違いしていないか」
魔導師「……そ、そんな事ありませんよ!」
剣士「まあ、良い……俺は、鉱石の洞窟に行った後」
剣士「すぐに、あの……南の島に戻る」
魔導師「……はい」
剣士「ついでに、これを」ガシャン
魔導師「わッ ……!?」
剣士「……何が重要なのかは解らんからな。持てる物だけだが」
魔導師「! これ、鍛冶師様の……!?」
剣士「大がかりな物は……起きっぱなしだ」
魔導師「あ……ありがとうございます!」
剣士「……じゃあな」

スタスタ

魔導師「剣士さん……はい!」

パタン
ゴリヨウアリガトウゴザイマシタ……

魔導師(……僕には『僕』が授かった『知』がある)
魔導師(できる限り、知り得る限りを、学んで……)
魔導師(……南の島へ。勇者様の元へ……!)

……
………
…………

518: 2014/03/12(水) 14:49:27.67 ID:qhb22RQz0
息子「……綺麗になりましたね、随分」
シスター「そうね。これで、後は……遊具が揃えば」
息子「船で運んでくれるそうですからね……もう数日すれば」
息子「着くんじゃないですか」
シスター「……仕方無い、って解って居るけど」ハァ
息子「海賊船、て言ったってね。何も、荒らして回るとか」
息子「略奪行為を繰り返す、とか……そう言うのじゃ無いらしいですよ」
シスター「らしいわね。まあ、信じるのなら……だけど」
息子「義賊みたいな物なんですかね」
シスター「だったら、海賊だなんて名乗らなければ良いのに」
息子「……まあ、まあ。助かる事に変わりは無いでしょう」
シスター「…… ……そうだけど」
息子「……船長、はまだ、ほんの子供だそうですよ」
シスター「え!?」
息子「……元気に、してますかね。魔導師」
シスター「…… ……」
息子「シスター……あの。貴女が、彼を心配しているのは、解って居ます」
息子「でも……」
シスター「……過剰に反応してしまっているだけ、ていうのは」
シスター「私にも……解って居ます。でも!」

519: 2014/03/12(水) 15:12:12.12 ID:qhb22RQz0
息子「…… ……」
シスター「……もう一杯、如何」
息子「あ……いえ、俺は…… ……いえ。頂きます」
シスター「無理しなくて良いのよ?」
息子「付き合います。折角のお誘いですから」
シスター「……そう?」
息子「子供達も寝てしまいましたしね」
シスター「……兄が、よく見てくれる様になったから助かるわ」
シスター「魔王が……復活する、のよね」
息子「…… ……」
シスター「魔物の数が増えて、強くなって……」
息子「……勇者様は、どうなってしまった、んでしょうね」
シスター「…… ……」
息子「……黒髪に金の瞳の勇者様達も」
シスター「始まりの国は……本当に滅んでしまったの?」
息子「噂では、ね」
シスター「……新たな勇者様が、折角……現れた、と言うのに」ハァ
息子「魔法使いさん、ですよね」
シスター「え?」
息子「……『帰還者』」
シスター「……戦士さんと僧侶さん以外には、彼女しか居ないでしょ」
息子「……黒髪の勇者の、娘」
シスター「行方は……解らない、のよね」
息子「そう言う話、ですね。始まりの大陸にはもう、誰も……」
シスター「…… ……このまま、魔物達の力が強くなっていって」
シスター「このまま、魔王が復活したら……!」
息子「…… ……」
シスター「良かった、のかしら」
息子「え?」
シスター「確かに、鍛冶は……もう、この村では出来ない。でも!」
シスター「私達は……間違えたんじゃないかって……!」
息子「…… ……」
シスター「戦争の道具。人を傷付ける物……もう、魔法剣なんて……!」
シスター「今でも、確かにそう思うわ。でも……!」

520: 2014/03/12(水) 15:16:55.05 ID:qhb22RQz0
コンコン

息子「!」
シスター「!」ビクッ
息子「……こんな時間に、誰が……」
シスター「あ、兄かしら……子供達に、何か!?」

コンコン

息子「はい……どなた、ですか?」
シスター「…… ……」
剣士「……俺だ」
シスター「!?」
息子「え!?」
剣士「……剣士だ」

カチャ

息子「剣士さん!?」
剣士「……ああ」
シスター「まあ、貴方…… ……! 魔導師は!?」
シスター「魔導師は、一緒じゃ無いの!?」
息子「シスター、落ち着いて……」
剣士「その魔導師に頼まれてきた」
息子「え?」
剣士「……否、先に……船は、来たか?」
息子「船……?」
シスター「……入りなさいよ。息子さんと私しか居ないわ」
剣士「…… ……ああ」
息子「あ、す、すみません!」

パタン

シスター「何故……貴方一人なの……いえ、どうやって来たの!?」
シスター「こんな時間に……!!」
息子「シスター、落ち着いて……ね」

521: 2014/03/12(水) 15:25:11.59 ID:qhb22RQz0
シスター「…… ……ッ」
剣士「定期便が、機能していないのは知っている」
剣士「……この村に、用事のある者は、もう余りいないのだろう」
息子「それを知っている貴方が……どうやって来たのかは解りませんけど」
息子「……貴方ほどの腕の方だ。まあ……どうにでもなる、んでしょうね」
剣士「…… ……」
息子「船、と言うのは?」
シスター「待って!」
息子「な、何です」
シスター「どうなっているの!? 貴方達、始まりの国の船で……!」
シスター「魔導師は!? あの、もう一人の男性は……」
シスター「勇者様は、魔法使いはどうなったの!?」
剣士「……知りたければ話す、が。船の話を先に」
シスター「貴方ねぇ……!?」
剣士「時間が無いんだ、シスター」
剣士「……海賊船が、北に向かって行ったと聞いた。行き先はこの村か?」
息子「貴方が、海賊船に……用事、があるんですか」
剣士「…… ……」
息子「…… ……」ハァ
息子「……貴方には、世話になっています。隠すつもりはありません」
シスター「息子さん!」
息子「それを教えれば、俺達の質問にも答えて貰えますか?」
剣士「……時間が許すなら。答えられる範囲なら」
息子「充分です……心配、しているだけなんです」
息子「……海賊船なら、二、三日中にこの村に着きます」
剣士「間に合った、か」ハァ
息子「……取り壊した鍛冶場を、子供達の遊び場にするんです」
息子「その遊具を購入したので、運んで貰って居るんです」
剣士「……成る程な」
シスター「今度は、貴方が答える番よ、剣士さん!」

522: 2014/03/12(水) 15:35:50.96 ID:qhb22RQz0
剣士「……魔導師は今、書の街に居る」
息子「魔法や、魔石の事……鍛冶の事を学ぶ為、ですか」
シスター「あの子、まだ……!」
剣士「……そうだ。あいつの力無くしては、魔王は倒せない」
シスター「え!?」
剣士「何度も言ったはずだ。俺は……俺達は、魔王を倒さなくてはならない」
シスター「……勇者様が選ぶんでしょう、そんなもの!」
シスター「それに、勇者様は……!」
剣士「始まりの国はもう無い……全て、失われた」
息子「…… ……ッ」
剣士「……だが、きさ……魔法使いも、勇者も無事だ」
シスター「え……」
剣士「……安全な場所に避難している」
息子「そ、う……でしたか」ホッ
剣士「……魔導師に頼まれたんだ」
息子「此処にある、鍛冶の本、ですか……」
シスター「! 息子さん!」
息子「持って言ってもらうのは、構いません。此処にあっても……もう、どうしようも無い」
息子「でも……魔法剣、なんて、もう……」
剣士「……光の剣を、修理せねばならん」
シスター「!」
息子「……! 黒髪の勇者様の持って居られた、あれですか!?」
息子「無茶だ! いくらなんでも……! た、確かに魔導師は優秀です!」
息子「でも、本の知識だけじゃ……!」
剣士「……彼で無くては出来ないんだ、息子。頼む」
シスター「…… ……」
息子「剣士さん……」
剣士「俺達は……勇者は、必ず魔王を倒す」
剣士「だから、その為に……頼む」
シスター「……必ず、平和にしてくれる、んでしょうね」
息子「シスター?」
シスター「私達に出来る事なんて何も無い。勇者様が魔王を倒して」
シスター「平和になるのを祈っている事ぐらいしかできない」
シスター「他力本願も良いところよ。解って居るわ」
シスター「……でも、もう本当に厭よ。厭なのよ!?」
剣士「……解って居る」
息子「…… ……シスター」
シスター「魔導の国も、始まりの国ももう無い!」
シスター「私達を守ってくれる者は、もう勇者様しか居ないのよ!」
剣士「…… ……」
息子「…… ……」

523: 2014/03/12(水) 15:44:51.42 ID:qhb22RQz0
シスター「……無事、なのね。魔法使いも……勇者様も……ッ」ポロポロ
剣士「……お前は本当に良く解らないな。己の心配だけをしているのかと思えば」
息子「剣士さん!」
剣士「……魔法使いや、勇者を思って泣くのか」
シスター「巻き込まれたくなんか無いわ。蚊帳の外で居たかった」
シスター「戦争も、勇者様や魔王や……そんな物の何も無い」
シスター「小さくて、平凡でも……明るい、何も無い場所で!」
シスター「穏やかに、毎日を過ごしたいだけよ!何が悪いの!」
剣士「……何も。だが、それを魔導師に押しつけるのは間違えて居るだろう」
シスター「…… ……」
剣士「彼は自分で選んだ。この村……小さな『世界』を飛び出した」
シスター「…… ……」
息子「…… ……」
剣士「2.3日、だな?」
息子「え? ……あ、ああ、はい……あ、良いですよ、あの」
息子「……家に居て貰っても」
剣士「……どう考えても邪魔だろう」
シスター「私、そこまで言わないわよ。息子さんが良いなら」
剣士「……良いのか?」
シスター「? そんな所まで、私別に……」
剣士「…… ……まだくっついてないのか」
息子「け、剣士さん!?」

524: 2014/03/12(水) 15:56:18.85 ID:qhb22RQz0
シスター「え?」
剣士「……否。悪かった」
息子「ほ、本、持ち出しやすいように纏めておきますね!」

パタパタ、バタン!

シスター「え、む……息子さん!?」
剣士(こういう所は鈍いのか)
剣士「…… ……」
シスター「…… ……」
剣士「……お前は、ずっと此処にいるのか」
シスター「帰る場所なんて無いわ……いえ。此処が……この村が」
シスター「私の『家』よ……子供達も居る」
シスター「……二度と、私の様に」
シスター「『誰か』の愛も知らない様な、子にしてはいけない」
剣士「……その為にも、必要なんだ。あの本が。魔導師が」
シスター「……元気にしているのね?」
剣士「ああ……確かに、優秀だな。あいつは」
シスター「……そう。なら……良いわ」
剣士「そうだ、シスター」
シスター「え?」
剣士「息子なら、『鍛冶師の村の伝承』を知っているよな?」
シスター「え? ……ああ、知っているんじゃ無いかしら。でも」
シスター「魔導師だって……」
剣士「あまり覚えて居ないそうだ」
シスター「……そう。聞いてみたら?教えてくれるかどうかは知らないけど」
剣士「……ああ」
シスター「……のんびりしてて。手伝ってくるわ」
剣士「あ、ああ……」

パタン

剣士(居辛い、か)ハァ
剣士(少し、時間がある。その間に……話を聞いて)
剣士(……海賊船。船長……女船長の、息子)
剣士(時間が合わん。俺の子供……では無い、な)フゥ

525: 2014/03/12(水) 16:13:29.52 ID:qhb22RQz0
剣士(……生殖能力の有無。青年が言っていたな)
剣士(鉱石の洞窟へ行って。それが済めば……)
剣士(……南の島へ。勇者の元に……ッ)

……
………
…………

勇者「あー、ぅ」ヨチヨチ
后「そうそう、こっちよ!頑張って……勇者!」
勇者「だう!」ギュ!
后「凄いわ!」ギュ!
爺「ほーう……急に凄いなぁ、この子は」
后「ああ、おじいさん……こんにちは」
爺「はい、こんにちは……しかしまぁ、長生きはするもんじゃのう」
后「またそれですか」クス
爺「……僧侶さん、と言ったかな。この像にそっくりの美しい娘さんに会えたときにも」
爺「思ったが……青年という彼にまで」
后「…… ……」
爺「氏ぬまでに一度、本物のエルフに会いたいと思っていたんじゃよ」
后「……青年は……」
爺「否、良いんだよ。本当にいるのかどうか、な……しかし」
爺「驚くほどにそっくりじゃった。僧侶さんにも。この像にも」
后「…… ……」
爺「いいや。それどころか。まさか……勇者様にまで、会えるとはなぁ……」
后「……本当に、助かります」
爺「女手一つで、育てるのは大変じゃろう。この島には何も無いが」
爺「気にする必要は無い」
后「……はい」

526: 2014/03/12(水) 16:28:54.98 ID:qhb22RQz0
爺「……さて、儂も阿呆息子の様子を見てくるかな」
后「あ、あの……ご免なさい。私、お役に立てなくて」
爺「何。別に……仕方無いさ」
后「……青年がいれば、回復魔法を使えるのだけど」
爺「身体は丈夫な奴じゃよ……あれは、心の方さ」
爺「……望んで船を下りた癖にの。日がな一日、海を見て……」ハァ
后「チビさん……船長さんが心配なんでしょう」
爺「まあ、の……そりゃ儂もじゃよ。だが」
后「…… ……」

剣士『后』

后「!?」
爺「ん、どうした?」
后「……い、いえ」

后『剣士? ……ちょっと、待って頂戴』
剣士『…… ……』

爺「もうすぐ一年だな……アンタ達が突然現れて」
后「え、ええ……」
爺「……勇者様も、順調に育って居るようで、何よりじゃ」
爺「さて、邪魔したの……」

スタスタ

剣士『后? 聞こえるか?』
后『……ええ、もう大丈夫。どうしたの』
剣士『青年の気配を探って欲しい』
后『え?』
剣士『……拾って、戻る』
后『!』
剣士『とはいえ、場所に寄れば一年以上掛かるだろうが……』
后『……そうね。まさか転移してくる訳には……』
剣士『魔導師も迎えに行かねばならんからな』
后『解ったわ……ちょっと待って』
后『…… ……え!?』
剣士『何だ?』
后『…… ……北の街。いえ……北の塔……』
剣士『!?』

527: 2014/03/12(水) 16:38:33.84 ID:qhb22RQz0
剣士『北の塔……!?』
后『……ええ。それより、貴方は今どこに?』
剣士『鉱石の洞窟に向かっている所、だ』
后『! 船長の船!?』
剣士『ああ……もう、着く』
后『……そう』
剣士『化け物ももう居ないだろう。採取出来れば……北の塔に向かう』
后『勇者……歩いたわよ』
剣士『……そうか』
后『…… ……』
剣士『后?』
后『いえ……気をつけて』
剣士『……ああ』

后(……あの話。剣士には告げるべき、なのかしら)
后(女船長さん……彼女が、最後に見た物……!)
后(……人魚の魔詩。私達が見た、『夢』)
后(魔導師が受け継いだ『知』)
后(……もう少し。欠けている何か。それが、見えてくれば……!)
后(…… ……手が届きそうなのに。もどかしい……ッ)
勇者「あ……ま、ぁま」
后「はぁい?」
勇者「ちゅ、き」ギュ
后「……うん。私もよ」ギュ
勇者「んー」
后(……後五年もすれば、この子は残酷な真実を知る事になる)ギュゥ
勇者「ん?」
后(私は、全てを告げなくてはならない……!)
后(……それまでに、もっと……!)

528: 2014/03/12(水) 17:09:24.98 ID:qhb22RQz0
……
………
…………

側近「…… ……」
魔王「…… ……」
側近「なあ、魔王」
魔王「…… ……」
側近「俺達、何度もこんな事をしてきたのか」
魔王「…… ……」
側近「癒し手は……何度も……ッ」ポロポロ
魔王「…… ……」
側近「……癒し手は、もう……何処にも居ない。消えてしまった」ポロポロ
側近「もう、会えないんだ。変わったんだ」
側近「……喜ばなくてはいけない!?」
側近「喜べるか! ……ッ 俺は……ッ」
魔王「…… ……」
側近「……もう、繰り返さなくて良いと」
側近「今度こそ、終わるのだと、喜べだと!?」
側近「……ッ 冗談じゃない……ッ」

使用人「…… ……」
使用人(側近様、后様のあのお話しを聞かれてから……)
使用人(……魔王様の部屋から、出てこられない)
使用人(癒し手様……)ポロ……グイッ
使用人(喜べない。でも、喜ばなくてはならない)
使用人(……整理しないと。側近様を頼れない以上)
使用人(私が……一人で……)

スタスタ、カチャ……パタン

使用人(魔導師様に倣って、一応書き付けた、出来事)
使用人(……違う点だけ抜き出して……纏めて)カキ
使用人(…… ……あれ?)

529: 2014/03/12(水) 17:22:28.23 ID:qhb22RQz0
使用人(……否、あってる)
使用人(私は、『知を受け継ぐ者』)
使用人(……『過去』に倣うなら、受け継ぐのは魔導師様)
使用人(后様の話に寄ると、彼は……『夢』の中で、向こうの私から)
使用人(あの時点での全てを受け継いでいる)
使用人(……『過去』を『現在』にして『未来』にしようとしている)
使用人(『回り続ける運命の輪』から外れてる?)
使用人(否! そんな事は無い……でも……ッ)
使用人(……彼こそ『知を受け継ぐ者』。私が、知を授ける相手)
使用人(…… ……ああ、駄目だ)ハァ
使用人(一人では何も……出来ません、紫の魔王様)
使用人(……行き止まり、です。世界の謎を探り、紐解いていく……)
使用人(そんな事、本当に可能……なんですか……?)

530: 2014/03/12(水) 17:54:21.42 ID:qhb22RQz0
使用人「……泣き言、言ってても始まらない」
使用人(もう一度、最初から……って、最初って、何処……)
使用人(……ん?)

バタバタバタ……
バタン!

側近「使用人!」
使用人「! 側近様……ど、どうしたんですか」
側近「早く……! 魔王が……ッ」
使用人「ま……魔王様が何か!?」ガタン!
側近「……喋ってる」
使用人「え!?」
側近「否、目は覚ましていないんだ……だが……!」
使用人「す、すぐに行きます……!」

パタパタ

側近「……こんな事は、あったのか」
使用人「魘される様に、うわごとを言う事は……」

バタン!

魔王「……し、よ……に」
魔王「そ…… ……っき」
使用人「魔王様!?」
側近「…… ……」
魔王「……『干 ……渉』 ……で、き……て、 ……?」
側近「干渉……?」
魔王「……い、や…… ……は、こ…… ……」
使用人「魔王様!? 目覚められたんですか!?」

531: 2014/03/12(水) 18:00:23.60 ID:qhb22RQz0
側近「魔王!」
魔王「…… ……」
使用人「魔王様!」
魔王「…… ……」
側近「…… ……な、んだったんだ今の、は」
使用人「魔王様……?」
魔王「…… ……」
使用人「……わ、かり……ません……でも」
使用人「こんな事、今まで……!」
側近「……『干渉』と、聞こえた気がする」
使用人「はい……でも、どういう意味……?」
側近「…… ……」
使用人「あの……側近様?」
側近「……否。長く……済まなかった」
使用人「あ、いえ……あの、それは。仕方……ありません」
側近「……癒し手は、嘘は吐けないと言った」
使用人「…… ……」
側近「『又後で』と……言ったのに、と。思うと」
使用人「…… ……」
側近「『向こう』では、器は間に合った。俺は……会えた筈だ」
側近「……だが、青年の話では……癒し手の身は風に攫われ消えてしまったと言う」
使用人「…… ……」
側近「もう、二度と会えないのかと思うと……ッ」
使用人「側近様……」
側近「……だが、俺だけ何時までも嘆き悲しんで居られない」
使用人「…… ……」
側近「まだ……后も戻っては来ない。それまで、何処まで出来るか解らんが」
側近「……出来る限り……ッ」ビリッ
使用人「……! 魔王様!?」ビリビリッ

532: 2014/03/12(水) 18:03:34.64 ID:qhb22RQz0
魔王「……ゥ、う……あ、ァ……ッ」
使用人「魔王様!」
側近「……さっきのが、何か影響してるのか……!?」
使用人「そんな、勇者様は、まだ……!」
魔王「……あ、ァ……ッ」
側近「! 出ろ、使用人! 俺が……ッ」

シュゥン!

后「魔王!」

スタ……ッ タタタ、ギュウ!

使用人「后様!?」
側近「后……!」
魔王「…… ……」
后「……魔王」ギュ
使用人「どう、して……!? 后様、勇者様は……!」
后「……『仲間』に託してきたわ」
使用人「え!?」

536: 2014/03/13(木) 09:25:10.18 ID:bUd5ZPqt0
おはよう!
おむかえまでー!

538: 2014/03/13(木) 09:58:06.47 ID:bUd5ZPqt0
后「『仲間』よ…… ……剣士と、青年と、魔導師」
使用人「で、ですが、勇者様は、まだ……!」
側近「……勇者は人間だろう、后!」
側近「まだ、ほんの小さな……!」
后「五歳よ。五歳になった……理解して居るとは思えない。でも」
后「自分が『勇者』であり、倒すべき者が『魔王』であると、解ってる」
使用人「……全てを、告げるのでは無かった、のですか」
后「それも含めて、託してきたのよ」
后「何もかもを倣う必要なんて、無い」
后「……否。寧ろ否定しなければ行けない……ッ」
使用人「……『否定』」
側近「し、しかし、お前……」
后「……癒し手の、力は頼れない」
側近「!」
后「確かに、向こうでは『器は間に合った』」
后「……勇者が此処にたどり着くまで、癒し手が居なかったのは一緒よ」
后「でも、前にも話したとおり……こっちでは」
使用人「『間に合わない』」
側近「…… ……」
后「……合流してから、色々話し合ったの。向こうでは」
后「私が、あの子達を呼び寄せた。勇者として……勇者一行として」
后「『ほぼ何も経験していないあの子達』を」
使用人「…… ……」

539: 2014/03/13(木) 10:31:48.69 ID:bUd5ZPqt0
側近「……ペンダント、か」
后「そう……勿論、あれも勇者に渡してきたけれど」
后「……色々、話し合って。達した結論が」
使用人「『否定』ですか」
后「……思い出して、使用人」
使用人「え?」
后「紫の魔王が、金の髪の勇者様と……『光と闇』に別れたときの事」
使用人「……!」
使用人「紫の魔王様の身体に急速に『言葉』が流れ込んできて」
使用人「ええ、と……『全て飲み込めば全てが消える』?」
后「そう。そして……紫の魔王は……願ったんでしょう」
使用人「ただ……『否』!」
側近「……否定」

540: 2014/03/13(木) 11:35:47.59 ID:bUd5ZPqt0
后「……勇者は、まだ五歳。『魔王』を倒しに出るには早い」
使用人「向こうでは……『16歳』の時」
使用人「……『王』の元から、『仲間』を『選んで』旅立った」
側近「……成る程。しかし……」
使用人「何です?」
側近「……大丈夫なのか。間に合うのか?」
側近「魔王は、さっき……」
后「……大丈夫よ。私も此処に居る」
使用人「あ、いえ……その。后様が戻られる前に」
后「え?」
使用人「……喋った、のですよ」
后「……ッ 魔王が!?」
側近「『干渉』と聞こえた気がしたがな……ハッキリとは」
側近「その後、静かになったと思えば、あれだ」
后「…… ……」スッ
使用人「……后様?」
后「魔導師が言ってたわ。向こうでは、私……ずっと、あの子達を見てた」
使用人「ああ……前后様も、気配を追っていらっしゃいました」
后「……ううん、違うのよ。説明する前に…… ……見てて」

541: 2014/03/13(木) 11:41:46.13 ID:bUd5ZPqt0
魔王「…… ……」
后「魔王……手伝ってね」スッ
使用人「后様!? むやみに触れられては……!」
后「……幻視を映し出すの」
側近「幻視?」
后「そう……魔王の魔気を取り込んで……ね」ポウ
使用人「! 無茶です、いくら后様で、も…… ……あ!?」
側近「……! こ、れは……ッ 青年、剣士……!?」
后「母は強し、よ……聞くより見る方が早いでしょ……」フゥ

剣士『……では、行こうか』
青年『今頃、后様と父さんと……使用人が見てるかな』
魔導師『ちょっと!二人で遊んでないで、抱っこ変わって下さいよ!?』
勇者『やだーまどうしがいいー』

使用人「……す、ごい……」
后「……私、ね。向こうでもこうやって、魔王の魔力を借りて」
后「あの子達の旅を、見てた……らしいの」
側近「……大丈夫なのか」
后「側近も手伝ってよ……魔王を、押さえて置いてくれないと」
后「暴走されると……危険だもの」
側近「あ、ああ……それは、勿論だが」
使用人「……それも、向こうの私が授けた、知……」
后「……ええ。私が魔王の力を使うだけでも抑止になる」
后「…… ……さて。勇者が、勇者達が。此処にたどり着くまで」
后「ゆっくりと……話しましょうか」

542: 2014/03/13(木) 11:46:40.74 ID:bUd5ZPqt0
……
………
…………

船長「剣士、これ以上船で入るのは無理だ…… ……剣士?」
剣士「あ、ああ…… ……解った。降りる」
船長「……何ぼおっとしてんだよ。大丈夫か?」
剣士「……考え事だ」
剣士(青年は北の塔か……まさか、此処で放って帰れとも言えんな)
船長「で……俺達は此処で待ってれば良いんだな」
剣士「……やっと諦めてくれたか」
船長「それも料金の内だって言われりゃ、仕方ねぇだろ」
剣士「危険は無いとは思う、がな……何があるか解らん」
船長「……アンタが強い、てのは解った。解ったけどさ。そりゃ、あんな簡単に」
船長「海の魔物、やっつけちまったらな!? でも……」
剣士「……心配してくれているのか」
船長「だ、誰が!そんなんじゃネェや!」カァッ
剣士(……照れるところでは無いと思うがな)ハァ
剣士「……気持ちはありがたいがな。俺一人の方が動きやすい、し」
剣士「さっきも話しただろう……採取出来たら、の前提にはなるが」
剣士「分けて欲しいと言うのなら、わけてやる」
船長「…… ……おう」

543: 2014/03/13(木) 11:52:00.43 ID:bUd5ZPqt0
剣士「……すぐに戻る」タッ……ドボン!
船長「気、気をつけろよ!?」

ザバザバ……

海賊「……凄い男だな、しかし」
船長「あ、海賊……」
海賊「……女船長さんの話は、聞けたんですかい」
船長「……ああ。でも、本当にあいつなのか?」
海賊「さてね……まあ、本当だったとしたら」
海賊「あいつが、最初にこの船に乗った時にいた奴は、全員、もう……」
船長「……老いて船を下りてる。氏んでる……か」
海賊「魔法使いのジジィの事も知ってましたしねぇ」
船長「……じゃあ、あいつ。やっぱり人間じゃネェんだな」
海賊「…… ……仲間、ですからね。女船長の」
船長「不思議だよな。怖いとか……思えねぇんだよ」
船長「話が残ってたから、てのもあるけど。否、あんのかな。わかんねぇけど」
海賊「…… ……」
船長「剣を媒介?だっけ? に、様々な属性の魔法を使いこなす」
船長「……紫の瞳の男」
海賊「…… ……」
船長「母さん、綺麗な人だったんだって、若い頃」
海賊「……充分綺麗でしたよ?覚えてるでしょ」
船長「うん……」

544: 2014/03/13(木) 11:56:57.31 ID:bUd5ZPqt0
船長「……母さん、あいつのこと好きだったのかなぁ」
海賊「え?」
船長「だって、さ……はっきりどれぐらい前、ってわかんないけど」
船長「……父さんと結婚して、俺が産まれても、さ」
船長「ずっと……この船に語り継がれる位……さ」
海賊「……そりゃ、あんな規格外だからでしょ」
船長「……かな。でもさ」
海賊「?」
船長「みんな、案外あっさりと受け入れたよな。何でだ?」
海賊「……そりゃ、船長。当然でしょ」
海賊「『船長の命令は絶対』だ。それが……この船の掟ですからね」
船長「……船長。母さん、か」
海賊「女船長の意志を継いだのがアンタでしょ、船長」
海賊「……剣士が戻ったら、次はどこ行くんでしたっけ?」
船長「…… ……あ。聞くの忘れた」
海賊「おい……」
船長「で、でも待ってろって言ってたよ!?」
海賊「……はいはい。じゃあ、戻る迄お勉強しますよ……この岩礁地帯離れたら」
海賊「一人で舵握って貰うんですからね」
船長「お、おう!」

……
………
…………

545: 2014/03/13(木) 12:35:26.70 ID:bUd5ZPqt0
ザバザバ……ザバッ

剣士「…… ……」フゥ
剣士(洞窟。あれか…… ……魔物の気配は無いな)

スタスタ……ガサガサ……

剣士「……中、は」スッ
剣士(鉱石……洞窟の壁一面に……!)コンッ
剣士(……堅いな。削り取れるか。しかし……もし、これで光の剣を修理すると)
剣士(するならば……どれぐらい必要なんだ?)
剣士(……確か、随分と扱いが難しい、と聞いたはず、だが)コンコン
剣士(……魔法で何とかなるものなのか……)グッ
剣士「……風よ」ビュウ……ッ

キィン……ッ
パラパラパラ……

剣士「!」
剣士(砕けた!? ……専用の器具……道具が、いるか)
剣士(もう一度……今度は……)
剣士「炎よ!」ボゥ……ッ

パリィン……ッ

剣士「……駄目、か」トン

546: 2014/03/13(木) 12:47:00.69 ID:bUd5ZPqt0
剣士(確か……金の髪の勇者、は)
剣士(…… ……否。鍛冶師の部隊の者が採取した、しか聞いていない)
剣士(魔導師を連れてくるべき、だったか)
剣士(…… ……欠片)パラ
剣士(そろっと拾わねば崩れる……無理か)
剣士「…… ……」コンコン
剣士(剣の柄で小突いた位では無理か……仕方無い)
剣士(……少しだけでも、持って帰るか)サラサラ
剣士「……泳いで戻るのも面倒、だが……」
剣士(船長の手前。仕方無い……)

スタスタ…… ……ドボン!
ザバ……ザバ……

剣士(……三つ頭の化け物が居た、と言っていたな)
剣士(男の魔法使い……あのジジィが、持っていた、古い地図)
剣士(……×印の着いた、この洞窟。誰が、何の為に)
剣士(守、を置いた? ……魔導の街の手が入らなければ、否)
剣士(……それこそ海賊でも無ければ、あんな場所……それに)
剣士(普通、では。使い道も無い鉱石。何故……)

ザバ……ザバ……ッ

船長「あ、剣士!」
剣士「……待たせたな」
船長「お、おい!上げるの手伝え!」

アイアイサー

剣士「……すまん」
船長「どうだった?」
剣士「……駄目だな。専用の道具……の様な物があるのか、わからんが」
剣士「俺にどうこう、出来る代物じゃ無い」
船長「え……」
剣士「……無駄足、に近かったかもしれん。悪かったな」
海賊「俺達ゃ構わネェよ。仕事だからな」
剣士「…… ……」
船長「ほら、身体拭けよ…… ……で、どうするんだ?」
剣士「? ……ああ、もう出してくれて良い」
船長「いやいや、何処に行くんだって」
剣士「…… ……良いのか?」
船長「……いきなり最果てに行けとか言われたら、追加料金頂戴するけど?」
剣士「そんな事は…… ……」
船長「おい?」
剣士「……北の街、否。北の塔へ」
船長「え!? また遠いな……」
剣士「無理なら構わん」
船長「……いや、そりゃ別に構わネェよ。 ……ええっと、どの航路を……」
剣士「否、待て……待ってくれ」
船長「ん?」
剣士「……先に書の街へ。一人……拾う」
船長「お、おう……?」
剣士「大丈夫だ。料金は払う」
船長「……それ、もしかして勇者か?」

547: 2014/03/13(木) 13:25:39.26 ID:bUd5ZPqt0
剣士「……何?」
船長「勇者、を拾うのか?」
剣士「……違う。魔導師という少年だ」
船長「金の瞳の? ……あ、違うか。勇者って、女の子だっけ……」
剣士「…… ……青年か」ハァ
船長「約束したんだ。アンタの助けになってやって欲しい、てのと、もう一つ」
船長「勇者を連れて来たら、船に乗せてやる、ってな」
剣士「……成る程」
船長「……あいつ、人間じゃ無いんだろ? あ。あいつも、か」
剣士「本人に聞いたのか」
船長「青年は肯定も否定もしなかったよ」
船長「……アンタまで、自分は嘘は吐けないとか言い出すんじゃないだろうな?」
剣士「…… ……」
船長「ま、良いよ……行き過ぎた詮索は身を滅ぼす」
剣士(……女船長の……この海賊船の掟、か)
剣士(こいつは……本当に、女船長の息子……なんだな)
剣士(……複雑な気分だ)
船長「ま、良い……書の街な、オーライ」
剣士「……ああ、その後、北の塔まで運んでくれ」
船長「OK……その後は?」
剣士「そこまでで良い」
船長「え!? でも、あんな場所で……」
剣士「……身を滅ぼす、んだろう?」
船長「…… ……」グッ
剣士「もう少し、世話になる……甲板に居る。魔物は任せろ」

スタスタ

船長「あ、おい……! ……チッ」
船長(知りたいよ、そりゃ! だけど……!)
船長(……母さんは、もっと何か知ってた、のか?)
船長(俺は…… ……俺には。知れない、のか?)
船長(……我慢、って辛いな)グッ
船長「野郎共!船を出すぞー!」

アイアイサー!

……
………
…………

548: 2014/03/13(木) 13:49:36.96 ID:bUd5ZPqt0
魔導師「おはようございます、司書さん」
司書「ああ、おはよう御座います、魔導師君」
司書「……しかし、毎日頑張るね。この街に来てからずっとでしょう」
魔導師「そうですね……でも、折角お勉強させて頂ける機会ですから」
司書「偉いねぇ……三年、だっけ? もう」
魔導師「そんなもの、ですかね……じゃあ、今日もお願いします」
司書「はい、ごゆっくり」
魔導師(……流石に、世界一の図書館と言うだけはある。これでも)
魔導師(随分選んで、本を読んでいる筈だ。それでも……まだまだ……!)
魔導師(……『僕』の鍛冶の知識があって助かった。あれが無いと)
魔導師(倍の時間があっても、足りなかっただろうな……)
魔導師(……勇者様が、魔王城に向けて出発する迄はまだまだある。だけど)
魔導師(駄目だ……焦っても仕方無い。ある程度、纏めてはみた物の)
魔導師(まだまだ、パズルの完成にはほど遠い……!)
魔導師(……剣士さんの、事。光の剣……魔王と、勇者……!)
魔導師(『世界』…… ……)ブツブツ

キィ、パタン

魔導師(……ん、こんな朝早く、誰か? ……珍しいな)
魔導師(何時ものあの男の子は、昼からだし……おばあさんかな?)ヒョイ
剣士「……ここに居たか」
魔導師「! ど、どうしたんですか!? また……!?」
剣士「迎えに来た」
魔導師「え…… ……で、でも、勇者様は……」
剣士「……充分だろう、とは言わん。だが……」スッ
魔導師「……小瓶? ……中身は、砂……ですか?」
剣士「……あの鉱石の欠片だ」
魔導師「!」
剣士「船長の船で行ってきた……が、専用の道具でも無い限り採掘は無理だ」
剣士「……魔法をぶつけると、そんな風に割れてしまう」
魔導師「…… ……」
剣士「もし、あれを用いて……と言うのであれば、お前の力が要る」
魔導師「まさか……これからそこに向かう、と!?」
剣士「……否。青年が北の塔に居るらしい」
魔導師「北の、塔…… ……」
剣士「……青年を拾って、一度南の島に戻ろうと思う」
魔導師「し、しかし勇者様は、まだ……」
剣士「……始まりの国はもう、無いんだ。15だか16迄」
剣士「旅立ちを待つ必要は無い」
魔導師「! ……で、でも、后様は……!?」
剣士「……それを話す為にも、だ」
魔導師「…… ……」
剣士「まだ、此処に居たいか?」
魔導師「……いえ。仲間の提案、ですから」
剣士「我慢する必要は無いぞ」
魔導師「正直、キリはありません。それに……」
魔導師「……何か。考えがある、んですよね?」
剣士「……ああ」
魔導師「わかりました。行きましょう」
剣士「……大きくなったな」
魔導師「三年、経ちましたからね」

549: 2014/03/13(木) 17:04:06.86 ID:bUd5ZPqt0
剣士「……そうだな。もう、と言うべきか、否か」
魔導師「貴方には……正直、余り実感が無いでしょう」
剣士「……かもな」
魔導師「北の塔まで、てん…… ……その、魔法で?」
剣士「否。船長の船で行く……鉱石の洞窟も、俺はハッキリとした場所が解らなかったからな」
魔導師「ああ、成る程……では、青年さんも最近ですか……あれ、でも」
魔導師「……ここから、北の街まで結構掛かるでしょう。間に合いますか」
剣士「……青年が北の塔にいる様だと后に聞いたのは、もう随分前になる」
魔導師「え!?」
剣士「俺が、鉱石の洞窟に向かう前だからな……ああ、丁度」
剣士「勇者が歩いた、とか言ってたな」
魔導師「え、ええ!? それからずっと……塔に!?」
剣士「否。どうやら街と塔を行き来しているようだ、と……」
魔導師「……ど、どうやって!? あの塔には、確かに魔法がかけられていると」
魔導師「言っていた筈ですが、でも……!」
剣士「……それを確かめる為にも、だ。最悪……俺が居る。どうにでもなる」
魔導師「ま、まあ……そうです、けど……」
剣士「……此処から北の街までは、補給無しで行ける」
魔導師「……そこから、先は?」
剣士「船長達とはそこで別れる……どうせ、俺達も塔に上ることになるだろう」
魔導師「……もう一回、聞きますけど」
剣士「解って居る。考えあって、の事だ……鍛冶師の村から持ち出した」
剣士「息子の本は……」
魔導師「!」
剣士「……船に置いてある。お前は、退屈しないだろう」
魔導師「はい……!」

550: 2014/03/13(木) 17:25:49.94 ID:bUd5ZPqt0
……
………
…………

キィ……シュゥ……

青年「……また、か」
青年(振り向くと……もう、見えない)ハァ
青年「…… ……」キョロ
青年(何度も見ても……同じ場所。北の街の、僕が泊まってる宿の、裏側)
青年(何故だ……? 否、確かに。父さんと母さんも)
青年(扉を開けたら、全然違う場所に出た、と言っていた)
青年(……お祖母様も、か。鍛冶師の村の神父に、産まれたばかりの母さんを)
青年(託したのだと、言う事は……あの、小屋のすぐ傍だったはずだ)
青年(……父さんと母さんは、剣士の居た辺り……小屋から少し離れて居た筈、だが)
青年(何故、僕だけ此処に? ……否)
青年(…… ……そもそも、どういう絡繰り、なんだか)ハァ

ガサ…… ……

青年「!」
男性「あ……ッ と、アンタか」
青年「……ああ、宿屋の」
男性「何やってんだ、こんな所で……」
青年「いや……別に。雑草に混じって薬草が生えていたからね。ほら」プチ
男性「……へ?それが薬草?」
青年「まあ、ありきたりな物だけどね」
青年「……小さな怪我ぐらいには効く、かな」
男性「何だ……アンタ、そんな弓持ってる位だから」
男性「……そっちにも強い、のかい」
青年「そっち、て?」

551: 2014/03/13(木) 17:34:38.04 ID:bUd5ZPqt0
男性「いや、小舟で海に出て行くぐらいだから、腕には自信あるんだろうと」
男性「……思ってたが」
青年「ああ……こういうのの知識、って事か」
男性「……まあ。こんなご時世に、いくらすぐ傍だとは言え、なぁ」
男性「北の塔に行くんだって聞いたときはびっくりしたが」
青年「船を貸して貰うか、譲って貰おうと思ったんだけどね、最初は」
青年「……街長には、断固拒否されちゃったし」
男性「まあ……そりゃ仕方無いさ。あの塔は……な」
青年「聞いたよ。昔……」
男性「誰も話したがらない話だ」
青年(言っておいて、これ以上言うな、ってか……まあ、仕方無いけど)
青年「……もっと止められるかと思ったけどね」
男性「正気の沙汰じゃ無いと思ったよ。瓦礫集めて何やってんだかと思えば」
男性「……小舟、着くって……行って、帰って来ちまったんだからな」
青年「僕は海の魔物には強いのさ……空の魔物、にもね」
男性「……翼のある魔物は、風の魔法や弓に弱いんだってな」
青年「ああ」
男性「アンタは弓に長けるし、優れた水の加護があるから……」
青年「……そう。ダメージを受けない」
男性「人魚の……魔詩も平気なんだって?」
青年「そうだよ。実際何度も遭遇したけど……あれが効かなきゃ、あいつ等」
青年「僕に手出しは出来ないからね」
男性「…… ……」
青年「……なんだよ。未だに歓迎されてないのは知ってるよ」
男性「否、違う……そうじゃ無いんだ」
青年「? 何だとよ」
男性「……アンタが、小舟で海に出る度に、蝙蝠共をやっつけてくれるから、さ」
青年「…… ……」
男性「いや……勝手な事を言ってるのは解ってる。だがな」
男性「……まあ、なんだ。気をつけてな?」
青年「ああ……まあ」

552: 2014/03/13(木) 17:47:24.61 ID:bUd5ZPqt0
男性「……じゃあな。もう、夜も遅い。ほどほどにしろよ」

スタスタ

青年(……女剣士様と、紫の魔王の側近の時は、まあ……仕方無いとは言え)
青年(疑心暗鬼になった上に、当時の町長……女剣士様の父親を追い出して置いて)
青年(……今になれば、どうやら、街を助けているらしい僕には)
青年(取りあえずのお礼でも言っとけ、てか?)ハァ
青年(……まあ、歓迎されてないのは解ってたさ。長居するつもりもないけど)
青年(無事に行って、無事に帰ってくる、て……さ)
青年(そりゃそうだ。何回上っても、部屋に入っても。もう一度扉を開ければ)
青年(……此処に出て来るんだから。無事に決まってる)ハァ

ガサ、ガサガサ……

青年「……? 何だい、まだ僕に何か、用…… ……」
魔導師「ああ、居た。居ましたよ、剣士さん!」
剣士「ああ」
青年「!? 剣士…… ……に、お前、魔導師か……!?」
剣士「……静かにしろ」
青年「お前達、なんで…… ……」
剣士「迎えに来た……否、一緒に行く為に、か」
青年「……どうやって、は愚問だな。后様か」
魔導師「船長さんの船で、来たんですよ、此処までは」
青年「え!?」
魔導師「あ、勿論……居場所を教えてくれたのは、后様ですけど」
剣士「……北の塔に、何かあったのか」
青年「否……そう言う訳じゃ無いんだ。だけど」
青年「……何度言っても、此処に出る」
魔導師「此処?」
青年「塔の扉をくぐれば、後は……階段が続くだけだ」
青年「突き当たりに扉があって、小さな部屋がある」
魔導師「……姫様、が眠っていた場所、ですよね」
青年「そうだ。そして、もう一回扉をくぐると」
剣士「……此処に出る、か」
青年「……別に、これと言って用事がある訳じゃ無いんだ」
青年「だけど、勇者様が……旅立つ年齢になるまで。時間はあるからな」

553: 2014/03/13(木) 17:55:04.69 ID:bUd5ZPqt0
魔導師「……それ、何ですけど」
青年「ん? ……ああ。お前達が二人揃って僕の所に来るぐらいだ」
青年「何かあった、んだろう」
剣士「そう言う訳では無いんだけどな……一度」
剣士「あの島へ戻る気は無いか」
青年「……考え無しに行っている訳じゃ、勿論ないよね」
剣士「当然だ。魔導師にはもう話したが……后の同意も居る」
青年「……話は聞くよ。夜も遅いし、もう寝ようか……と、言いたいところだけど」
剣士「塔に行く気か!?」
青年「……君達と三人揃って、朝まで待つ方が酔狂だろ」
魔導師「まあ……それはそうかも知れませんけど」
青年「あっち……あの入り江に、僕が作った小さな小舟がある」
青年「その辺で待っててくれ。荷物を取ってくる」

タタタ……

剣士「おい、青年……せっかちだな」ハァ
魔導師「嬉しいんじゃ無いですか?」
剣士「……気持ち悪い事、言うな。行くぞ」
魔導師「はいはい」クス

スタスタ

剣士「……小舟、てあれか!?」
魔導師「青年さん…… ……ある意味、器用ですね」
剣士「……まあ、ある意味」
魔導師「これ……瓦礫、かな? ……しかしまぁ、よく沈みませんね」
剣士「…… ……俺とお前も、これに乗るんだろう」
魔導師「拒否して良いですかね。剣士さん、居ますし」
剣士「お前達を抱えて転移しろと!?」
魔導師「だって、塔あれでしょ……見えてますし」

554: 2014/03/13(木) 18:08:18.70 ID:bUd5ZPqt0
魔導師「……『夢』でも見てるでしょう。癒し手様と側近様のラブシーンとか」
剣士「……お前は、歳を取って可愛げが無くなったな」
魔導師「向こうの『僕』は今の僕よりまだ、大人でしたよ」
剣士「……もう良い。面倒だ」
魔導師「向こうの剣士さんは、もう少しぶっきらぼうでしたよね」クス
剣士「……お前からの話しか聞いてないんだ。判断のしようが無い」
魔導師「青年さんとは、仲よさそうでしたけどね」
剣士「……だから、気持ち悪いと言っているだろう」
魔導師「僕は……貴方の方が好きですよ。向こうの貴方より」
剣士「…… ……」
魔導師「そんなウンザリした顔しないで下さい……あ、来ましたね」

タタタ……

青年「何だ、先に乗っていれば良かったのに」
魔導師「拒否します……僕、泳げないんで」
青年「……お前ね」
魔導師「剣士さんが居るから大丈夫です……それに」
剣士「おい」
魔導師「……塔から、南の島に飛ぶつもりなんでしょう。だったら」
魔導師「小舟もどきは置いておいた方が賢明です。同じ、唐突に姿を消してしまった男、に」
魔導師「なるのなら、塔より街から出たんだろう、って思われる方が、ね」
青年「……まあ、そうか、もな」
剣士「…… ……」
魔導師「こっちからあっち、あっちから南の島、じゃ剣士さんも疲れるでしょうけど」
剣士「……まあ、海に落ちるよりはマシだな」
青年「…… ……魔導師さぁ」ハァ
剣士「かわいげが無くなっただろう」
青年「全くだ」
魔導師「……あのね」
剣士「まあ、良い……掴まれ。この海域には人魚も居るだろうしな」
青年「……ああ、そうか。僕だけが平気でも意味無いな」
青年「剣士が魅了されたら目も当てられない、所じゃ無い」
剣士「……行くぞ」

シュゥン……!

555: 2014/03/13(木) 18:27:41.98 ID:bUd5ZPqt0
スタ……スタ!

魔導師「……おっと…… ……うわ!?」
魔導師「……間近で見ると、まあ……本当に凄いですね。圧倒される」
剣士「! 扉が、見えている……!?」
青年「……言っておくけど、僕じゃ無いぞ」
剣士「側近か……癒し手と二人で訪れた時、か」
魔導師「剣士さんがラブシーンを覗き見した時、ですね」
剣士「……殴るぞ、魔導師」
魔導師「厭です……ええっと。これか、鎖の欠片」チャリ
青年「……可愛げが無くなったと言うより、図太くなった、かな」クス
剣士「…… ……」ハァ
魔導師「……随分、古い。錆びてるし……」
剣士「紫の魔王の側近が……そう言っていた位だ。相当、だろう」
青年「海風での腐食もあるんじゃないか。いくら……目に見えない、と言ったって」
青年「確かに『此処』にあるんだから」
魔導師「……よ、いしょっと」グッ

ギギギギ……ギィ

魔導師「開いちゃいましたね」
青年「僕も何度も入っているからな」
魔導師「ああ、そうか……あれ、ほんのり明るい……?」
剣士「おい、待て……先に……」

スタスタ、コツン、コツン…… ……バタン!

剣士「!」
魔導師「うわ!?」
青年「……勝手に締まる、んだよ」
魔導師「あ、ああ……成る程。後は……一本道、ですか?」

556: 2014/03/13(木) 18:37:21.93 ID:bUd5ZPqt0
青年「そうだ。暫く上れば小部屋がある」
魔導師「……剣士さん?どうしたんです?」
剣士「……紫の魔王、の魔力……か?」
青年「え?」
剣士「…… 否、違う。これは…… ……」
魔導師「何か、感じますか……青年さんは?」
青年「……僕に解るのは、何らかの魔法が掛かってる、て事ぐらいだよ」
青年「確かに、力の強い魔族、の。どこか懐かしい気はするけど……」
青年「……でも、それは多分、お祖母様……姫様の、だろう」
剣士「……『魔王』には違い無い」
魔導師「紫の魔王様、ですか」
剣士「……否、ああ確かに……それも感じる。俺、の魔力とよく似ているから」
青年「君は、欠片だからね」
剣士「……だが、それだけじゃ無い。それだけじゃ無い……んだが」
剣士(何だ……? また、だ)
剣士(悲しくて切なくて、苦しくて……嬉しい。だが)
剣士「……俺が、もしくは、紫の魔王。代々の魔王が……」
剣士「知っている、『誰か』」
青年「……その誰かの判別は着かないのか」
剣士「魔法そのものが古い物だ。流石に……」
魔導師「……ふむ。でも、無駄では無かったですよ」
魔導師「青年さん、姫様は、始まりの国のあの地から」
魔導師「使用人さんが、ペンダントに移したエルフの加護を……」
青年「ああ。あの小部屋の中で放った、筈だ」
魔導師「……剣士さん、息苦しさとかは?」
剣士「魔族の魔力と相殺されているのかは解らんが……特に感じないな」
魔導師「うーん……」
青年「……なんだよ?」
魔導師「いえ。人間、の僕はまあ、当然の様に何も感じないんですけどね」
青年「……それだって、もう『古い物』さ」
魔導師「まあ、そうですけど……」
青年「魔族が魔法をかけた割に、僕もどうにもないって事は」
青年「……相殺、ってので当たらずとも遠からず、何じゃないのかな」
剣士「……扉。あれか」
青年「ああ。開けるぞ」

キィ……

573: 2014/03/17(月) 09:40:03.97 ID:U4iir8Rn0
魔導師「…… ……ッ」ゲホッ
剣士「何も無い、な」
青年「おい、魔導師。扉締まらないように押さえて置いてくれ」
魔導師「埃っぽい……ッ は、はい」ケホ。グッ
剣士「……扉を閉めなければ、どうなる?」
青年「塔の下までは行ける」
剣士「と言う事は……何らかの魔法が掛かっているとすれば、この」コン
魔導師「……『扉』ですね」
青年「だが、さっきくぐった入口は開かない、んだ」
剣士「勝手に締まったな」
青年「もう見えないはずだ」
魔導師「見えない?」
青年「そう。壁になってしまっている」
剣士「……成る程。完全な一方通行か」
青年「そう言う事。今は君達が居るから良いけど」
青年「僕一人じゃ、結局この」コン
青年「……扉を閉めて、開くしかない」
魔導師「剣士さん、下に戻って、さっきの入口見てきて下さい」
剣士「…… ……良いだろう」

スタスタ、コツンコツン……

青年「剣士が素直に従ってる、てのも……ね」
魔導師「青年さんは扉押さえて下さいよ。僕も部屋の中が見たい」
青年「……人使いが荒くなったな」ハァ……スタスタ。ギュ

574: 2014/03/17(月) 09:51:44.76 ID:U4iir8Rn0
魔導師「お互い様でしょ……それに」

スタスタ

魔導師「こういうのは目を変えてみる方が良い……し、そうすべきだ」コンコン
青年「…… ……」
魔導師「僕は、青年さんみたいに『感じる力』も、剣士さんみたいに」
魔導師「『察知出来る程魔力』も持ってませんからね」キョロキョロ
青年「……何も、目立った物は無いよ」
魔導師「……ですね」

コツンコツン……

剣士「確かに、壁しか無かったな」
青年「……だろ?」
剣士「消えてしまう入口、に……どこかへ転移する扉か」
魔導師「! 転移……!」
青年「え?」
魔導師「青年さん、その扉から、何か感じませんか!?」
青年「え……? い、否……特に……あ、いや」
青年「……そうか。扉に、転移魔法をかけた!?」
剣士「出産を控えた姫を、無事に……彼女の望む場所に送り届ける為、か」
魔導師「そうなると…… ……魔法をかけたのは、間違い無く紫の魔王様って事になります」
青年「……否、それはおかしい」
魔導師「え?」
青年「ああ、悪い……紫の魔王が魔法をかけた、は良いんだ。多分……それであってる」
青年「……と言うか、それしか考えられないだろう。気分は悪くは無いんだが」
青年「確かに『力の強い魔族』の魔力は感じる」
魔導師「え、では……」
青年「『お祖母様の望む場所』だよ。僕は男だから解らないけど」
青年「……否、出産だけじゃ無い。自らの命の炎が今にも消えようとしている」
青年「『幼子を抱いた母』が望む場所って……どこだよ?」
魔導師「……姫様の場合、紫の魔王の傍、ですか? いや……違うな」
魔導師「癒し手様はエルフの血を引いている。それだけは駄目だって思うはず」
剣士「現に、姫の行き先は……お前が育った小屋の傍、なのだろう、青年」
青年「……お祖母様にとって、母さんにとって」
青年「『一番都合の良い場所』だよ」
剣士「!」
魔導師「……で、でも、姫様はエルフですよ!? もし、変な人に見つかったら……」
剣士「……『拾う者』か」
魔導師「『拾う者』?」

575: 2014/03/17(月) 10:00:39.29 ID:U4iir8Rn0
剣士「……紫の魔王が、紫の魔王の側近の身から発した言葉だ」
青年「鍛冶師の村の神父……か」
魔導師「……姫様を見つけ、秘密裏に癒し手様を育てた……人!」
剣士「『一番都合の良い場所』なのだろう」
青年「……父さんと母さんは、お前の居るすぐ傍に出た、んだよな」
剣士「俺が『欠片』で、この……この塔の紫の魔王の魔力とリンクして」
剣士「引き寄せた、と言う可能性もゼロとは言えないかもしれないが」
剣士「……それは俺の『意思』じゃ無い」
魔導師「お話しを聞く限り……確かに都合は良かったでしょうね」
魔導師「青年さんを始まりの国の庇護下で生み出すことが出来た」
青年「……僕が、何度この扉をくぐっても、北の街のあの宿屋の裏に出た、のもか」
剣士「『都合が悪い』とは言えないだろう……塔の麓にあった」
剣士「あのガラクタ船を何隻か、作らないと行けない位、のもんか?」クス
青年「……ちゃんと浮かぶし、ちゃんと進むんだからな」ムッ
魔導師「成る程。此処から一方通行じゃ、船置き去りですもんね」
青年「転移するのは僕だけだからな。最低三隻無いと、もう一回こっちに来れないだろ」
魔導師「……船だけ引きずって戻ったんですか、態々」
青年「僕は剣士みたいに便利屋じゃないんだよ」
剣士「おい……」

576: 2014/03/17(月) 10:07:09.63 ID:U4iir8Rn0
青年「……そんな話はどうでも良い。扉閉めるぞ……どいて」
剣士「…… ……」ハァ

キィ……パタン

魔導師「…… ……」
剣士「…… ……」
青年「これで、もう一度扉を開いて、くぐれば」
剣士「……俺達の一番『都合の良い場所』に出る、て訳か」
魔導師「……本当に凄い人……凄い魔族、だったんですね」
魔導師「紫の魔王様、って」
青年「そりゃ、なんてったって規格外、だからね」
青年「……剣士見てれば解るでしょ」
剣士「お前は、さっきから人を何だと」
青年「『欠片』だろ」
剣士「…… ……」ハァ
青年「始まりの国で、自分で后様に言ったんじゃ無いか」
青年「『紫の魔王に出来て、自分に出来ない筈が無い』」
剣士「……そうだが」
魔導師「でも。『知』によれば、剣士さんは」
魔導師「……『代々の魔王の欠片』の筈ですよ。残留思念」
剣士「『回り続ける運命の輪』の『欠片』だ。紫の魔王自体も」
青年「解けないのか」
剣士「?」
青年「その理屈で行くと、だ……お前は、紫の……『魔王』の『欠片』」
青年「で、あれば……だ。この塔の魔法を、だ」
剣士「……俺に、解けと?」
魔導師「……不可能では無いかもしれませんけど」
青年「さっきも言ってただろう。自分の魔力とよく似ているって」
剣士「『1』が『10』を上回ることは不可能だ、青年」
青年「……そうか」ハァ
剣士「やってみる価値はあるかもしれん、が……俺が無事で居られる保証は……」

579: 2014/03/17(月) 11:32:56.32 ID:U4iir8Rn0
青年「…… ……」
魔導師「剣士さん、似てませんか」
剣士「?」
魔導師「船の中で、僕に話してくれた話に、です」
青年「ん? ……ああ、一度南の島に戻る、って言う」
青年「『考え』か」
剣士「……ああ。成る程な」
青年「何だよ?」
剣士「『願えば叶う』だ…… ……そもそもは姫の言葉だったはずだ」
青年「?」
剣士「何かを『こうしたい』『こうなって欲しい』と言う強い思い」
青年「…… ……」
剣士「俺達は、そもそも……それに振り回されていないか」
青年「? どういう意味だ?」
剣士「魔導師が『知』を受け継いだ事も、こうして」
剣士「今、俺達がやっている事も……『あっち』には無かった事だろう?」
青年「あ、ああ……」
剣士「……前と同じにならないように。『未来を変える為に』」
剣士「『回り続ける運命の輪』を『腐った世界の腐った不条理を断ち切る為』に」
青年「……『願えば叶う』」
魔導師「そうです。『勇者は必ず魔王を倒す』」
魔導師「……そうしないと、『世界』終わってしまう」
剣士「だが、俺達が……否、黒髪の魔王……黒髪の勇者がやったことは何だ?」
青年「! ……模倣……」
剣士「そうだ……既に、俺達は……『あっち』を知っている」
青年「倣う必要は無い、と言いたいのか」
剣士「……少し違う、な」
魔導師「良いところは倣えば良いんですよ。折角……僕達は」
魔導師「今まで、知り得なかった事を知ることが出来た、んですから」
青年「……じゃあ、何だって言うんだい」
剣士「『倣わない』……すなわち?」
青年「反対の行動を取る、と言うのか? しかし、何の意味が……」
魔導師「『表裏一体』何でしょう……」
剣士「『倣う』……過去を『肯定する』事、だろう」
青年「! 『否定』しようと言うのか!?」

580: 2014/03/17(月) 11:39:22.82 ID:U4iir8Rn0
魔導師「……全てが全て、じゃ無くて良いとは思います」
魔導師「今も言った様に……」
青年「間違い探しをして、良いとこ取りしよう、てか」
剣士「……お前達が散々、俺に詰め寄った事だろう」
青年「え?」
剣士「『欠片』である俺が、自らを解放し」
剣士「……光の剣を完璧に為すのは、最終手段だと」
青年「…… ……」
剣士「出来る事はやれば良い。だが……何もかも、倣う必要は無い」
剣士「……そもそも、倣えない事だってあるだろう」
青年「! ……始まりの国からの旅立ち」
魔導師「はい。登録所を利用する事だってできません。国が無いんですから」
剣士「勇者が仲間を選ぶ、事もだ」
青年「…… ……」
剣士「お前、自分で言っていただろう。選ばれないなら選ばせれば良い」
魔導師「勿論、后様のお許しは必要です。その為には」
青年「……僕達『三』人が揃っていないと、か」
剣士(……『三』)
魔導師「そうです」
青年「……しかし、勇者様はまだ……」
剣士「そろそろ、五歳ぐらいになるはずだ」
魔導師「后様さえ宜しければ……僕達が、勇者様に世界を見せてあげられます」
魔導師「『あっち』では……僕達は、殆ど何の経験も無い侭」
魔導師「『世界』を青年さんの口から聞いただけで、受け入れてしまった」

581: 2014/03/17(月) 11:44:48.69 ID:U4iir8Rn0
魔導師「……今度は、勇者様本人に、ちゃんと」
剣士「受け止めて貰う。それで……それでも、もし終わらなければ」
青年「……それすらも『否定』させるつもりか!?」
剣士「それは勇者が決める事だ」
魔導師「…… ……」
剣士「だが、后は全て、勇者に話すつもりだ、と」
青年「…… ……」
魔導師「『黒髪の勇者』様は、その仲間は」
魔導師「『何も知らずに旅立った』」
魔導師「……僕達は、それを否定するんです。青年さん」
青年「…… ……無茶苦茶だな」クス
剣士「ならば何故笑う」
青年「決まっているだろう。面白そうだと思うからさ」ニッ
魔導師「……では、長居は無用、ですね」
青年「僕達に取って、一番都合の良い場所は?」
剣士「……扉を、開けてみれば解る」
魔導師「必要があれば、また来れば良いんです」
魔導師「……勇者様を連れて、ね」
青年「そうだな。僕達は何処にでも行ける」
剣士「……人を便利屋扱いするのはやめろ」
青年「何も言ってないだろ」
剣士「顔に書いてあるんだ!」
魔導師「仲、良いなぁ」クス
青年「何処が!」
剣士「何処がだ!」
魔導師「開けますよ……」クスクス

キィ……

……
………
…………

582: 2014/03/17(月) 12:16:36.73 ID:U4iir8Rn0
魔王「……伝わった、かな?」
癒し手「どう、でしょうね」フゥ
魔王「ああ、悪い……疲れただろう、癒し手」
癒し手「いえ……大丈夫です」
癒し手「……不思議ですね。まだこうして、魔王様のお役に立てるなんて」
魔王「考えて見ればおかしな話だよな。俺は……俺だけ」キョロ
金魔「…… ……」
魔王「まだ、氏んでないのに此処に居る」
金魔「『曖昧』なのさ。お前も、俺も」
魔王「曖昧?」
金魔「前にも言っただろう。紫の魔王、紫の側近……奴らはもう」
金髪紫瞳の男「失われてしまった。彼らはもう、この世界の何処にも居ない」
魔王「……ああ」
癒し手「…… ……」
金魔「しかしまぁ、無茶するよなお前達」
魔王「え?」
金魔「一回干渉できた……干渉してしまったからって」
金魔「もう一回やってみましょう、って……」
癒し手「す、すみません……」
金魔「あ、悪い……責めてないって」
魔王「でも、癒し手が言ってくれなかったら、思いつきもしなかったよ」
魔王「もう一回、なんて……」

583: 2014/03/17(月) 13:14:57.94 ID:U4iir8Rn0
癒し手「可能なのか、どうかは……やってみるまで、解りませんでしたけど」
癒し手「……いえ。成功したのかどうか、確かめる術もありません、ね」
魔王「…… ……」
金魔「俺達は『過去』しか見られない筈だった。それが……こうして」
金魔「お前達にとっての『現在』、俺達にとっての……」
魔王「『未来』だな」
金魔「……ああ」
金髪紫瞳の男「『過去』に干渉できたから、『現在』にできない保証も無い」
金髪紫瞳の男「……癒し手は、そう言いたいのだろう、が」
癒し手「金の髪の魔王様は……『想い』だと仰いましたから」
金魔「…… ……」
癒し手「側近さんや、后様は、魔王様の為に……世界の為に」
癒し手「力を……想いをぶつけて、魔王様を押さえていらっしゃる筈です」
癒し手「『向こう』から出来るなら、『こちら』からも可能であっても」
魔王「……おかしく無い、か」
金魔「まあ……確かに可能性はゼロじゃ無い」
金髪紫瞳の男「影響が無ければ良いが」

588: 2014/03/18(火) 09:39:24.23 ID:kAXFwRpB0
魔王「……影響?」
金髪紫瞳の男「こっちから向こうに『干渉』した……『代償』だ」
癒し手「そ、そんなものがあるんですか?」
金髪紫瞳の男「定かでは無い……何も、な」
魔王「……まあ、あっちはあっちでどうにかしてくれる、んじゃないか?」
魔王「何かあったって」
金魔「お前な……」
魔王「ここで見てるだけ、であったって……どうせ、俺は」
魔王「……側近や后の力を借りないと、何れ……な」ハァ
金魔「そりゃそうだが……」
魔王「それに、悪い影響だけだとは限らないだろ?」
金魔「……無駄にポジティブだな」
魔王「無駄って言うな!」
癒し手「……何かを変えるには、多少の犠牲も必要です」
金魔「癒し手……」
癒し手「『器は間に合った』……それも、変わってしまった」
癒し手「側近さんにとっては……自分で言うのは、ちょっと恥ずかしいですけど」
癒し手「私に……もう会えない、と言う……『代償』です」
魔王「…… ……」
癒し手「以前……『あっち』ですっけ」
癒し手「では、どうだったか解らない、ですけど」
癒し手「同じように、私は……器、に戻る迄」
金髪紫瞳の男「ここで、こうしていたかもしれない、と?」
癒し手「……はい」

589: 2014/03/18(火) 09:48:45.00 ID:kAXFwRpB0
金魔「それは無いな。俺がこうして、此処で」
金魔「お前さんに会うのは初めてだよ、癒し手」
癒し手「……そう、ですか」ハァ
金髪紫瞳の男「確かに変わってる、んだ」
金髪紫瞳の男「……お前達が、変えようともしている。今も」
魔王「ああ」
癒し手「…… ……?」キョロ
魔王「癒し手?」
癒し手「いえ……今、光った……様な」
金魔「何か見えたか?」
金髪紫瞳の男「……否」
魔王「光……?」

パアアアアアアアアアア!

魔王「!」
魔王(な、んだ…… ……紫…… ……否!)
魔王(……金色、の…… ……光!)

剣士『……う、うわああああああああああああ!』

ガシャン!

魔導師『あ、つ……ッ 剣士さん!?』

剣士『……!!』

バタン!

勇者『剣士!……ッ 青年、離して……ッ』

青年『駄目だ、勇者様…! ……危ない!』
剣士『………う、ぅ……』
魔導師『剣士さん、剣士さん!』
青年『……どいて、魔導師……勇者様を』
魔導師『は、はい……! ……勇者様、こちらへ……』
勇者『…… ……』ガタガタ、ギュ……
青年『……剣士?』ポウ……

魔王(……あれは『あっち』、の出来事……だよな?)
魔王(『過去』…… ……勇者は、まだ子供の筈だ)
魔王(……時間の経過が解らんから、何とも言えないが)
魔王(でも、俺がまだ此処に居る、って事、は)
魔王(勇者は……まだ、俺にたどり着いてない、んだよな?)

590: 2014/03/18(火) 09:54:52.04 ID:kAXFwRpB0
剣士『……う、ぅ』
青年『……気を失ってるだけだろう、が……』
青年『…… ……』チャキ
青年『……光が弱くなってる』
魔導師『……え?』
勇者『失敗……した、の……』

魔王(失敗……? 否、でもあれは……!)

青年『……否。刀身は……完璧に治ってた……よね?魔導師』
魔導師『は、はい!后様の魔法の炎で……』
青年『……前ほどの光を感じない』
勇者『貸して……!』チャキン

魔王(……后の、魔法の炎。魔導師は鍛冶を学んでた、んだよな)
魔王(鍛冶師の村の……あれ?)
魔王(……魔導師って、こんな歳だっけ?)

勇者『軽い……前より、手になじむ。でも……』
勇者(……光が、少ない)
勇者『……どうして』

魔王(光が、少ない…… ……)
癒し手「……吸い込まれた様に、見えましたよね」
魔王「癒し手」
癒し手「剣を握った、剣士さんの手に……と、言うか身体、に」
魔王「剣士は、魔王の……『紫の魔王』の欠片、なんだろう?」
癒し手「……それを知っているのは、私達、だけなんですよね」
癒し手「私達は、何度も何度も、こうして……見た、から」
魔王「そうだな。どうにか伝えてやれる術があれば……」
魔王「……さっき見たいに、もう一回干渉できたら……!」
金魔「俺はお勧めしないけどね」
魔王「父さん……」

591: 2014/03/18(火) 10:05:46.69 ID:kAXFwRpB0
金魔「気持ちは解る。んだがな」
金魔「あいつが言ってた様に、何らかの影響が出て」
金魔「……ああ。勿論、癒し手の言う、さ」
金魔「多少の……てのも、理解した上で、だぜ?」
癒し手「…… ……」
金魔「もし、勇者がまだ幼い時期に、お前が耐えきれなくなったら?」
魔王「!」
金魔「……まあ、何事も恐れるばかりじゃ何も出来んけども、さ」
魔王「そりゃ、どこまで伝わってるかもわかんないからな……」
金髪紫瞳の男「どうにか、伝える術があれば……」
金髪紫瞳の男「何か、変わるのか?」
癒し手「え……」
魔王「……さっきの、光は、さ」
癒し手「剣士さんが、光の剣の…… ……まさしく、光を吸い取ってしまった」
癒し手「……ん、でしょうか」
魔王「だけど、あいつは魔王の欠片だろ?」
金魔「『表裏一体』だろ」
魔王「……あ、そうか」
癒し手「もし、彼が紫の魔王の……代々の魔王の残留思念だと」
癒し手「気付かせてあげる事ができれば……光の剣は……否」
癒し手「彼は、失われずにすむ、んでしょうか……」
魔王「……もしくは、此処で終わるのだろうか、だろ」
癒し手「はい」
金髪紫瞳の男「…… ……」
金魔「そうしたら、お前は消えるな『青年』」
癒し手「あ……!」
金髪紫瞳の男「『犠牲』はつきものなんだろう?そんな顔するなよ」
癒し手「…… ……」
魔王「どっちにしたって。お前は……」
金髪紫瞳の男「……『魔王』にはなれない」

592: 2014/03/18(火) 10:30:35.64 ID:kAXFwRpB0
癒し手「……でも。彼がまた……『世界』を産んでしまったら……!」
金魔「堂々巡りだな……この『回り続ける運命の輪』とやらも」
金魔「俺達のこの議論もどき、もな」
魔王「…… ……」ハァ
金髪紫瞳の男「もし、俺が『世界』を産んでしまっても」
癒し手「え?」
金髪紫瞳の男「『変わってる』よ。その『世界』そのものが」
魔王「……紫の魔王は、もう何処にも居ない」
癒し手「…… ……で、でも!」
金魔「ん?」
癒し手「『悠久なる空の彼方へ還り、世界へ孵る』のでは無いのですか!?」
癒し手「金の髪の魔王様は、紫の魔王様はもう……!」
金魔「そうだよ。彼は何処からも失われた」
癒し手「……思い出しました。前后様……魔王様の、お母様は、確かに……!」
金魔「『悠久なる空の彼方へ還り、世界へ孵る』……か」
魔王「……世界へ、『孵る』……!」
金髪紫瞳の男「だが、確かだ。紫の魔王も。彼の側近も」
金髪紫瞳の男「何度も、言う。もう……彼らは『亡い』」
金魔「……最初に言っただろう。もう、お前は……お前達は」
金魔「違う道を歩み始めたのさ、魔王」
魔王「…… ……」

594: 2014/03/18(火) 15:24:16.26 ID:kAXFwRpB0
癒し手「……もどかしいですね。自由に繋がれない以上」
金魔「全て後手後手だからな。だが」
金魔「……こうして、何度も何度も繰り返す不毛な議論も」
金髪紫瞳の男「積み重なって……やっと、此処まで来たのかもしれない」
魔王「そうか……何度も、繰り返している筈、だもんな」
金髪紫瞳の男「何も無駄にはならない。確かに代償はあるかも知れないが」
金髪紫瞳の男「お前達が……試みた事も」
魔王「……だったら、良いがな」
癒し手「願います。叶う様に…… ……勇者様が、今度こそ」
癒し手「腐った世界の腐った不条理を、断ち切ってくれると……!」

……
………
…………

595: 2014/03/18(火) 15:38:03.85 ID:kAXFwRpB0
后「……『否定』」
剣士「……ああ」
青年「『世界』はまだまだ、謎だらけだ……后様」
青年「僕が行った北の塔もそう。剣士の行った……南の洞窟も」
魔導師「……始まりの国の呪いだってそうです」
后「…… ……」
剣士「あの国が滅んでしまった以上、勇者の行方は知れず……と、されている」
青年「そうだな。僕が転々としている間も、その話は結構聞いた」
魔導師「書の街でも、ですよ。でも…… ……たった、五年」
魔導師「なのに……人々はもう、忘れている」
后「……勇者は、氏んでしまった、と?」
剣士「そうじゃ無い。何時か、勇者様が現れて……と」
剣士「そんな期待は、胸の内にはあるのだろう。だが」
后「……日々の生活からは、かけ離れた話題、なのね」
青年「確かに、魔物も力をつけてきているだろうが」
青年「……『受け身』なんだよ。世界も……『あっち』の僕達も」
后「…… ……」
剣士「全てを否定する、と言ったって、出来る事は知れている。だが」
后「……実際に勇者を連れて世界を回り、その目で見てもらえば」
后「希望は大きくなるわね」
魔導師「魔王が復活する、って言う恐怖もより身近な物になりますけど」
魔導師「……それで良いんだと思いますよ、僕は」
魔導師「『あっち』の僕達もそうでした、けど」
魔導師「……本当に、何と言うか……どこか遠い世界のお話、なんですよね」

596: 2014/03/18(火) 16:10:45.02 ID:kAXFwRpB0
剣士「…… ……」
魔導師「『願えば叶う』……それは、勇者様や、一緒に旅をする僕達だけの」
魔導師「特権じゃ無い筈だ。世界中の人達が」
魔導師「『勇者は魔王を倒すんだ』と願ってくれれば……!」
后「……解ったわ」ハァ
后「勇者を呼んでくる。少しだけ待ってて頂戴」

スタスタ

青年「后様は、反対はしない、と思っていたけど……」
剣士「……なんだ」
青年「否。それにしても随分あっさりだな、と思って」
魔導師「……そうでしょうか」
青年「何だよ」
魔導師「本来なら、って言い方もおかしいですけどね。決まってる訳じゃ無いし」
魔導師「でも、16歳まで後、10年以上……あるんです」
魔導師「……10年以上も早く、離ればなれになってしまう」
青年「…… ……」
魔導師「辛い選択を迫ってしまった、のかもしれません」
剣士「……これも、自分で選んだ道、だ」
魔導師「剣士さん……」

599: 2014/03/19(水) 15:07:34.49 ID:EUXpJI9r0
剣士「『腐った世界の腐った不条理を断ち切る為の』通過点」
青年「…… ……通過点、ね」
魔導師「…… ……」

タタタ……ガシッ

魔導師「わッ!?」
勇者「…… ……」ギュ……ジィ
魔導師(赤茶の髪……金の瞳!)
魔導師「勇者様……ですか?」
勇者「おにいちゃんが、せいねん?」
青年「青年は、僕だ。それは、魔導師だよ」
勇者「まどうし!」
魔導師「はい……こんにちは、勇者様」
勇者「じゃあ、あなたが、けんし」
剣士「……ああ」
勇者「ぱぱににてる」
剣士「!」
青年「…… ……ッ」ブフッ
剣士「……青年」
青年「い、いや、うん……ご、ごめ……ッ」アハハ
魔導師「気持ちは、わ、わか……わかります、けど……ッ」プッ
剣士「…… ……」ウンザリ
勇者「ぱぱじゃないのは、しってるよ。ままがいってた」
剣士「……覚えて居るのか」
勇者「ぱぱのこと? ……うーんと」

タタタ……

后「勇者、もう……!」ハァ
青年「…… ……」クスクス
魔導師「…… ……」クスクス
后「……??」

600: 2014/03/19(水) 15:13:37.53 ID:EUXpJI9r0
勇者「わかんない。けど、にてる。きがする、よ?」
剣士「……そうか」ハァ
后「勇者」
勇者「まま!」ギュ!
后「…… ……」ギュ
勇者「どうしたの、まま?」
后「勇者……良い、良く聞いて」グイッ
勇者「ないてるの?」
后「……貴女は、『勇者』ね?」
勇者「うん!あたし、ゆうしゃ! ……おおきくなったら、なかまといっしょに」
勇者「まおうをたおすの!」
魔導師「…… ……」
青年「…… ……」
剣士「…… ……」
后「……ええ。その為には、一杯剣の練習もしないといけないし」
后「一杯、強くなって……辛いこと、とか。色々……」ポロ
勇者「だいじょうぶだよ、まま。しんどくても、こわくっても」
勇者「あたしは、ゆうしゃだから! がまんする! できるよ!」
后「……ママが、居なくても?」
勇者「……え?」
后「ずっと話してたでしょう。貴女は、仲間と一緒に……旅に出るの」
勇者「…… ……」
后「その為には、ママと離れないと駄目なの」
勇者「ままは……ぱぱのそばに、いないと、だめ」
后「……そう。パパを一人にしておくと、寂しくって泣いちゃうからね」
勇者「…… ……じゅうろくさい、じゃなかったの」
勇者「あたし、まだごさい、だよ?」
后「…… ……」
勇者「やだ、よ……ままも、いっしょじゃなきゃ、やだ……!」ポロ
后「勇者……!」ギュッ

601: 2014/03/19(水) 15:20:40.84 ID:EUXpJI9r0
青年「……勇者様」
勇者「え?」
青年「ほら、これ……何だか解る?」コロン。チカチカ
勇者「! どうしてせいねんがもってるの!?」
勇者「……あ、あれ。あたしの、ある」ゴソ。コロン。チカチカ
后「…… ……」
魔導師「僕も。持ってますよ」コロン。チカチカ
勇者「ひかるいし。いやしてさまのおまもり……」
青年「これ、どうして光っているかわかるかい?」
勇者「……ううん」
青年「喜んでいるんだよ。きっと」
勇者「よろこんでる?」
青年「ああ。勇者様が、勇気を出して……僕達と一緒に」
青年「旅に出てくれる……なら、嬉しいな、って。きっとね」
勇者「……いやしてさま、って。せいねんのおかあさん、でしょ?」
青年「ああ。もう……氏んでしまった、けれど」
勇者「なんで?」
青年「……寿命、かな」
勇者「じゅみょう??」
青年「んーと…… ……難しいな」
魔導師「癒し手様は、勇者様に……託されたんですよ」
魔導師「ああ、えっと……お願い、されたんです」
勇者「おねがい……あたしに?」
魔導師「はい。辛いでしょうけど……寂しいでしょうけど」
魔導師「頑張って、魔王を倒して……この、世界、をね」
魔導師「救って欲しい、って」

602: 2014/03/19(水) 15:27:30.42 ID:EUXpJI9r0
勇者「せかいを、すくう……」
剣士「そうだ。お前にしか出来ない……勇者、様」
勇者「あたしに、しか?」
剣士「『勇者は必ず魔王を倒す』んだろう」
勇者「う、うん!」
后「……勇者。貴女には、まだまだ理解出来ない事だと思う」
后「もっともっと、知る事は一杯あるし……厭だな、って思う事も」
后「……一杯、ね。あると思うの。でも」
勇者「…… ……いい、よ。まま」
后「勇者……」
勇者「ままは、あたしが、まどうしや、せいねんや、けんしと」
勇者「たびだって、『りっぱなゆーしゃ』になったら、うれしい?」
后「……ッ ええ、勿論よ」ポロ
勇者「それに、そうなったら、ぱぱは、めをさますんだよね?」
勇者「ぱぱ、よろこぶんだよね?」
后「…… ……ッ」ギュ
勇者「……」キョロ
青年「ん?」
勇者「みんな、いっしょにいてくれる、んでしょう?」
青年「……当然だ。僕達は『勇者の仲間』だからね」
勇者「じゃあ……あたし、がんばる」
勇者「まま、また……すぐ、あえるんだよね?」
后「勿論よ。パパと一緒に、待ってるから……」
勇者「……ッ うん。じゃあ、あたし……がんばる」
后「勇者…… ……」

603: 2014/03/19(水) 15:39:57.43 ID:EUXpJI9r0
勇者「あたしは、ゆうしゃ、だから」
勇者「ままと、ぱぱがよろこんでくれるなら、がんばって」
勇者「まおう、をたおすよ。それに……」コロン。チカチカ
勇者「いやしてさまも。せいねんのおかあさんも、よろこんでくれるなら」
勇者「あたしも、うれしい、かな?」エヘ
后「…… ……ッ」ギュッ
剣士「……后。勇者様には何処まで?」
后「理解出来るだろうところまでしか……ほんの少ししか話していないわ」
后「自分は、勇者で……何時か、魔王を倒さなくてはいけないんだ、と……ぐらい」
剣士「解った……後は」
青年「僕達に……任せて、后様」
后「……ええ」
魔導師「さて……じゃあ、さしあたってどうしましょう、か」
剣士「何処へでも行ける……とは言え、な」
后「……私は、戻るわ」
魔導師「え、もうですか!?」
后「決めてしまった以上、長居すべきではないでしょう」
后「……勇者の、気の変わらないうちに、ね」
勇者「まま?」
后「……勇者。その癒し手のお守りと……これ」スッチャリン
勇者「…… ……ペンダント?」
后「そう。パパがママにくれたの。これを、パパとママだと思って」
后「大事にして?」
勇者「……わ、わかった」ギュッ
后「……それから、これ」チャキン
勇者「さ、さわっていいの……ひかりの、けん」ソッ……
后「これは、貴女の物よ、勇者」
后「……今はぼろぼろだけど。これをどうするかは、皆で良く相談して。ね?」
勇者「う……うん」ギュ
后「…… ……」スッ
勇者「まま……?」
后「いってらっしゃい……私の可愛い勇者」チュッ
后「……又後で。ね?」

シュゥン……!

勇者「!? まま……ッ …… ……まま!?」

604: 2014/03/19(水) 15:49:56.39 ID:EUXpJI9r0
魔導師「随分……あっさり、ですね」ハァ
剣士「長引かせても辛いだけだ」
勇者「まま…… ……」ギュッ
青年「……いいかい、勇者様。君のママは、とても強い力を持つ」
青年「炎の、魔法使いだ。君も、その血を受け継いでいる」
勇者「……ッ」グッ
青年「君のパパも、とても強い勇者だった」
勇者「……うん。あたしも、りっぱなゆうしゃになる」
勇者「それで……まおうを、たおす……ッ」
青年「……うん」ポンポン
剣士「勇者様」
勇者「ん?」
剣士「……大切な事だ。良く聞いて欲しい」
勇者「う、うん!」
剣士「これから、この島を出て『世界』を巡る」
勇者「…… ……」
剣士「剣は俺が教えよう。魔法は、青年と魔導師に教われば良い」
青年「僕は回復魔法担当だね。勇者は確か……使える筈だ」
勇者「うん……まほうのつかいかたは、ままがおしえてくれたよ」
魔導師「まあ……回復も攻撃も……っていうか」
魔導師「后様は、基礎がしっかりしていらっしゃいますしね」
青年「魔導の街の出身だもんな……良し、じゃあ、見せてくれる?」
勇者「良いよ…… ……炎よッ」ボゥッ
剣士「…… ……」
青年「!」
魔導師「…… ……ッ」
勇者「……あ、あの……まだ、ちっちゃいの、しか、できないけど……」

605: 2014/03/19(水) 15:56:27.12 ID:EUXpJI9r0
剣士「……何故驚く。向こうでもそうだっただろう?」
青年「否……やっぱりか、と思っただけだよ」
勇者「あ、あの……?」
魔導師「上手です、勇者様。小さいのに、上手なのでね」ナデ
魔導師「吃驚したんですよ、僕ら」
勇者「あ……うん!」ニコッ
魔導師「回復魔法は、使えますか?」
勇者「やり方は教えて貰ったんだけど……」
青年「大丈夫……勇者様なら出来る筈だよ。僕がちゃんと教えてあげるし」
剣士「……さて。ひとまずどうするか」
青年「ここに居たって仕方が無いだろう?」
魔導師「そうですね……とは言え」ハァ
魔導師「……北の塔の扉を開けたら此処に出た、てのは、助かりましたけど」
魔導師「睡眠が足りてないのは結構辛いです……」フア
青年「まあ、な……あの時間に后様たたき起こす訳にも行かず」
青年「結局野宿みたいなもんだったしな……」
勇者「あたしのおうち、くる? ……まま、どこか……いっちゃった、し」
剣士「まあ、荷物も纏めねばならんだろう……が」
剣士「……どこか、転移で…… ……」
魔導師「? 剣士さん、どうしました?」
青年「! 誰か、来る」

スタスタ

606: 2014/03/19(水) 16:01:41.88 ID:EUXpJI9r0
男「……アンタが、剣士か」
剣士「……あ、あ」
勇者「あ、おとこさん」
青年「何だ、知り合い?」ホッ
勇者「おとこさんはね、そんちょーさんのむすこさんだよ」
魔導師「村長……あのおじいさんの、ですか」
男「親父から、聞いた。勇者様達を連れに来た奴の中に」
男「……闇色の瞳を持つ、男がいるってな」
剣士「……何の用だ?」
男「どこかへ行くのか」
剣士「……お前に話す必要は無い」
男「……海賊船を頼るつもりか」
剣士「!?」
男「現船長は俺の息子だ」
青年「!」
魔導師「……勇者様、おうちに案内して貰えますか?」
勇者「え?」
魔導師「旅立つ為の支度を調えて、おやつにしましょう」
勇者「おやつ……」
魔導師「はい。美味しいお店教えて下さい……よっと」ダキッ
勇者「キャッ」
魔導師「……意外と重い」
勇者「まどうし、しつれい!」
魔導師「ご、ごめんなさい」
青年「……僕も行くよ。お腹すいたし。剣士は甘い物食べないでしょ」
剣士「…… ……」
青年「後でおいで……じゃあね。行こうか、魔導師」
魔導師「は、はい……」フラ
男「…… ……」

スタスタ

剣士「…… ……」

607: 2014/03/19(水) 16:09:10.58 ID:EUXpJI9r0
男「……そう警戒するな。別に…… ……」
剣士「何も無いと言うのであれば、何故態々此処まで来た」
剣士「村長から聞いている。女船長を亡くして船を下りて以来」
剣士「……日がな一日、海を見て過ごしている息子が居る、と」
男「知ってたのか」
剣士「……初対面だろう」ハァ
男「…… ……アンタ、なんだな」
剣士「…… ……」
男「恨み言の一つ、言えりゃ……良かったのかもしれねぇな」ハァ
剣士「……?」
男「聞いてるんだろう。あいつが、氏ぬ瞬間」
男「……俺でも、チビでもない。お前の名を呼んだ事を……!」
剣士「!?」
男「……ッ 態とらしい反応すんな!」
剣士「…… ……」
男「あいつの心の中に、誰か他の男が居たのは知ってたさ」
男「……俺は、こんなご面相だ。腕っ節に自信があると行ったところで」
男「お前にゃ遠く及ばネェ……あいつが、なんで俺を選んだのか不思議な位だ」
男「だがな……だが、ナァ!?」グイッ
剣士「……ッ」
男「…… ……チビには、言うな。絶対にだ!」
剣士「い、う……ッ わ、けないだろう……ッ は、な……ッ」
男「…… ……ッ」ギリギリ
剣士(凄い力……ッ く、首、が……ッ 締ま……ッ)
男「…… ……」パッ
剣士「…… ……ッ」ゲホッ
男「……もう、巻き込まないでくれ」
剣士「…… ……」
男「お前、人間じゃネェんだろう。しかも、勇者様と旅に出るんだろう」
男「……協力してくれる奴なんざ、わざわざ海賊を選ばなくたって」
男「なんぼだって…… ……居るだろうよ」

クルッ スタスタ

剣士「…… ……おい」
男「悪かったな」
剣士「…… ……」ハァ

608: 2014/03/19(水) 16:17:41.01 ID:EUXpJI9r0
剣士(……女船長が。俺を)ケホッ
剣士(こういう時……人、と言うのは泣くんだろうか)
剣士(…… ……)ハァ
剣士(悲しい……切ない? ……否。嬉しい……苦しい)
剣士(……女船長は、もう居ない。もう…… ……)

スタスタ

青年「……やあ、お帰り。色男は大変だね」
剣士「お前にだけは言われたくないな」
青年「何でだよ」ムッ
勇者「けんしはたべないの、けーき」
剣士「俺は良い……口についてるぞ、クリーム」
勇者「……ん」ゴシ
魔導師「さて、どうしますか? ……勇者様の荷物は、持ってきましたけど」
青年「村長さんにも挨拶しておいたよ……君は、複雑だろうし?」
剣士「……取りあえずは、この島から出ないとな」
魔導師「定期便は来ませんし……青年さんに、船長さんに手紙出して貰いますか?」
魔導師「時間は掛かるかもしれませんけど……」
青年「まあ、船長なら喜んで乗せてくれるんじゃない。今度は」
青年「正真正銘、勇者様、が一緒だしね」
剣士「……否。港街まで転移しようと思う」
魔導師「え……大丈夫ですか?四人抱えて……」
剣士「その後は全て、定期船を利用する」
青年「…… ……まあ、良いんじゃないの」
魔導師「青年さん?」
青年「その方が、勇者様の経験にもなるだろうしね。全て僕達頼り、じゃ」
青年「こんな事した、意味も無い」
勇者「ふねにのるの!?」
魔導師「……そうですね。ひとまず、大きい街に行きましょうか」

609: 2014/03/19(水) 16:25:35.47 ID:EUXpJI9r0
青年「港街、か……」ハァ
魔導師「どうしました?」
青年「……別に。ご馳走様」ガタン
勇者「まどうし、だっこ!」
魔導師「え!? ……ちょ、ちょっとだけですよ……」
青年「…… ……」
剣士「どうした、空を見て」
青年「『向こう』でもそうだった。后様は……ちゃんと見守ってくれている筈、だ」
剣士「……そうか」
青年「港街に着いたら……どうするんだ」
剣士「ひとまず、勇者に必要な物を買いそろえないとな」
剣士「……子供用の剣などもあそこなら手に入るだろう」
青年「ついでに、勇者様は無事ですよ-、って触れ回らないと、だろ」
剣士「……ああ」
青年「…… ……」
青年(母さん……とうとう、此処まで来たよ)
青年(……全て、『否定』する。きっと、終わらせてみせる、から……!)
剣士「……では、行こうか」
青年「今頃、后様と父さんと……使用人が見てるかな」
魔導師「ちょっと!二人で遊んでないで、抱っこ変わって下さいよ!?」
勇者「やだーまどうしがいいー」
青年「年も近いし、良いじゃ無いか……なつかれて嬉しいでしょ」クス
魔導師「……体よくお守りを押しつける気ですね……ッ」
剣士「さっさ歩け……人気の無い場所で飛ぶぞ」
魔導師「……勇者様、歩いて下さいよ……ッ」
勇者「もーちょっとー!」

……
………
…………

612: 2014/03/20(木) 09:35:54.87 ID:UkSoO2uj0
少女(やっと、寝てくれた……)フゥ

コンコン

少女「はい」
女性「『魔法使い』、お客様が見えたよ」
少女「あ、はい!」

カチャ

女性「子供は見ておくから……ああ、寝ちゃったんだね」
少女「はい……すみません、お願いします」

パタン、スタスタ

少女(…… ……)ハァ
少女(あっと言う間だ。あっという間に……!三年……否、もうすぐ四年、か?)
少女(健康に……育ってくれるのは嬉しい。こんな場所で、と思いはする、が)
少女(だが……おかげで、食うには困らない)
少女(暖かい布団で眠れる。客に買われる為だとは言え)
少女(……綺麗な、服を着て…… ……)ハッ
老婆「全く、遅かったね『魔法使い』」
少女「……すみません」
老婆「子供は?」
少女「寝ました……女性さんが見てくれています」
老婆「そうかい……ほら、お待たせしてるんだから、さっさとしなよ」ニヤニヤ
少女「…… ……?」
少女(何だ、不気味だな……)
老婆「アンタには感謝して欲しいね、本当に」
少女「……それは、勿論」
老婆「ほら、さっさと行きな」

コンコン。カチャ

少女「失礼致します…… ……!」
青年「……元気そうでなにより」

613: 2014/03/20(木) 09:42:58.39 ID:UkSoO2uj0
少女「青年…… か!?」
青年「何で驚くの」
少女「…… ……」
青年「聞いてる?」
少女「あ、ああ……」
青年「……大人っぽくなったね。少し見ない間に」
少女「貴方は……変わらないな」
青年「そりゃね。僕はエルフの血を引いているから」
少女「……どうして」
青年「『君の事が忘れられなくて』……とかは、口が裂けても言えないけど」
少女「…… ……」クス
青年「何故笑う?」
少女「否……変わらないな、と思って」
青年「客を取ってるんだって?」
少女「……ああ。子供達を食わしていかなければいけないからな」
青年「子供……達? ! お前……」
少女「……客の子を孕んだ、とかでは無い」
青年「…… ……」
少女「双子、だったんだ…… ……茶の瞳のな」
青年「!」
少女「しかも男女の、だ」
青年「…… ……」
少女「『始まりの姉弟』を思い出したか?」
青年「…… ……」
少女「……私もだ。出産時、女の子が先に出て来た」
少女「老婆に、もう一人いると言われた時には血の気が引いた」
青年「…… ……」
少女「言葉も無いか?」
青年「否、そん…… ……いや」
少女「似た様な心地だった。いやに腹は大きくなるし」
少女「……陣痛も、思っていたよりも早かったからな」

614: 2014/03/20(木) 09:59:44.00 ID:UkSoO2uj0
青年「『始まりの姉弟』は……双子では無いんだろう?」
少女「……と、聞いては居る。が、遙か昔の……確証も無い話だ」
少女「ただ、雷の加護を持つ姉と弟としか……」
青年「…… ……」
少女「私自身が双子だ。だからか……と思った、が」
青年「……雷、か」
少女「始まりの姉弟、の事と共に……姉の事を思い出した」
青年「秘書、だったか。彼女は、雷の加護を持っていたんだったな」
少女「……それだけじゃない」
青年「え?」
少女「忘れた訳では無いだろう……『呪い』だ」
青年「!」
少女「姉は私に言っていただろう……『お前を呪ってやる』と」
青年「考えすぎだ。あの土地は……」
少女「解って居る。始まりの国はもう無い」
少女「……魔導の国、もな」
青年「……此処で、育てて行くのか」
少女「当分は」
青年「…… ……そう、か」
少女「不思議だな。あれほど……厭だと思っていた」
少女「生娘でもあるまいし……とは思うが」
青年「……職業に貴賎は無い。と、思いはするけれど……ね」

615: 2014/03/20(木) 10:17:38.67 ID:UkSoO2uj0
少女「姉は……喜んでいるのだろうか」
青年「は?」
少女「……炎の加護を持つ私から、雷の加護の……しかも、男女の双子」
青年「呪いなんて物は…… ……」
少女「解って居る。だが、喜んでいるのだろうな」
青年「おい」
少女「……ご免なさい」
青年「良いけどね、別に」
青年「……誰にも言えないだろうし、な」ハァ
少女「今日は、どうしたんだ」
青年「え?」
少女「態々此処に……私に会いに来た、訳ではないんだろう?」
青年「君が忘れられなかった訳じゃ無い、と言っただけで会いに来たのに違いは無い」
少女「?」
青年「……勇者様を連れて来た、のさ」
少女「え!?」
青年「今は仲間と買い物に行っている……君は外に出る事はあるのか?」
少女「……別に、外出は自由だ。客が来る時間が無ければ」
少女「私は……用事が無い限り、あまり出ないが……」
青年「あの火事騒ぎ……で、勇者様の行方も解らなくなっていた筈だからね」
少女「……しかし、旅立つ、と言うにはまだ……!」
少女「では、魔法使いさんも一緒、なのか!?」
青年「否。后様は…… ……やらなきゃ行けない事があるからね」
少女「……そう、か」
青年「君は、后様の事を……気にするよな。何故だ?」
少女「え? ……ああ」
青年「『魔法使い』なんて、名を偽るぐらい」
少女「…… ……解らない。だが」
少女「勝手な親近感、かな。失礼な話……なのかもしれないが」
青年「…… ……」

620: 2014/03/21(金) 18:25:57.78 ID:1bJSABns0
少女「あんな出会いで無ければ。もし……まだあの国があって」
少女「勇者様と、彼女が……いて。許されるのならば」
青年「姉のように、慕いたかった……か」
少女「……青年」
青年「何だよ」
少女「貴方は私に会いに来た……と、言ったが」
青年「ああ」
少女「勇者様をお連れしたのだ、と……態々、告げる為に?」
青年「……君を、これっぽっちも気にしなかった、と言えば嘘になるかもしれないが」
青年「一つには、噂を広げて……否」
青年「君に伝えておけば、広がるかもしれないな、って言う期待」
少女「……成る程。あの一件以来、行方不明と言う形になっていたから、か」
青年「まあね」
少女「…… ……」
青年「後は、言った通り。少しばかり……気にしてた」
少女「…… ……」
青年「君を抱く気にもならないし、好意を抱いたりもしていないけど」
青年「……君が無事だと教えたら、良かった、と言っていたから」
少女「魔法使いさん、か」
青年「案外、后様も……同じだったのかもな」
少女「?」
青年「……妹のように、かな」

チリン、チリン……

青年「時間だな」
少女「……ああ」
青年「名は?」
少女「え?」
青年「子供の名前だよ」

621: 2014/03/21(金) 18:34:10.34 ID:1bJSABns0
少女「……『少年』と『少女』」
青年「…… ……」ハァ
少女「言いたいことは……解るさ」
青年「顔に書いてでもあったかい」
少女「……否」
青年「良く解らないね、君は」
少女「そう、かな……そうだな」
青年「本来、自分の名である物を娘に与えてどうなるんだか」
少女「自己満足だ……ただの」
青年「それ以外の説明はつかないね、僕にも……じゃあ」
青年「今度こそ、さようなら『少女』」
少女「…… ……あ、あ」

スタスタ、カチャ……

少女「青年!」

タタ、グッ

青年「……ッ 何だ、よ」
少女「行くのね」
青年「当然だ」
少女「引き留めたい……訳じゃない」
青年「そうされる理由は無い」
少女「……『解って、る』」
青年「……優しくする理由も無い」
少女「『否……貴方は、優しいよ』」
青年「『…… ……』」
少女「貴方達が世界を救うのと……私が氏ぬの。どっちが早いかな」
青年「……さぁな」
少女「できれば、貴方が作った平和な世界を生きて『みたかった』」
青年「願えば、叶うさ」
少女「……そうか」
青年「…… ……」
少女「……青年」
青年「何さ」
少女「……ありがとう」
青年「……ああ」

622: 2014/03/21(金) 18:37:42.03 ID:1bJSABns0
少女「『時間、だな……』」
青年「……そうだね」
少女「『…… ……』」
青年「…… ……」

カチャ

少女「……青年!」
青年「……なんだよ」
少女「世界を救って! ……願ってる」
青年「世界を救うのは、僕じゃなくて勇者様だけどね」
少女「願えば叶うんだろう」
青年「そうだよ……勇者は、魔王を倒す」
少女「……ありがとう。元気で」
青年「…… ……」

パタン

少女(さようなら、か)
少女(……当然だ)
少女(自己満足。その通りだ。彼に縋っても仕方が無い)
少女(……寂しいだけなんだ。誰も、居なくて)
少女(否。子供達が居る…… ……大事な、娘と息子)
少女(なのに……嬉しかった。寂しかったし……悲しかった)
少女(……切ない、な。馬鹿らしいと思うが)
少女「……戻らないと、な」ハァ
少女(さようなら、青年……貴方達が、世界を救うだろう事を)
少女(…… ……祈っている。心から)

643: 2014/03/26(水) 14:15:37.84 ID:X6k4OSqU0
……
………
…………

剣士「もう良いのか」
青年「! 剣士……」
剣士「顔を下げて歩くとは珍しい。惚れたか?」
青年「……冗談でしょ」
剣士「…… ……」
青年「魔導師と、勇者様は?」
剣士「教会跡を見に行っている」
青年「……更地だろう。ああ……工事が始まっている、のか」
剣士「大きな建物になるんだ、と……勇者は喜んでいたがな」
青年「…… ……」
剣士「……墓も無い。全て始まりの国のあの丘の上に……」
青年「解ってる!」
剣士「……悪い」
青年「否…… ……悪かった。母さんが……あそこには」
剣士「何も無くなっても、思い出は無くならん」
青年「…… ……」
剣士「昼過ぎには書の街行きの船が出る」
青年「……ああ。それまでに買い物と食事を済まさないとな」

スタスタ

剣士「元気だった、か?」
青年「……双子が産まれたそうだ。茶の瞳の」
剣士「!」
青年「……皆、同じ事を思うんだな」
剣士「…… ……」
青年「始まりの姉弟、は双子では無かったんだろう?」
剣士「……話で聞いたに過ぎない、が」
青年「…… ……」
剣士「お前が前に言っていた話は……」
青年「それを調べる為に、行くんだろう。書の街に」
剣士「…… ……」
魔導師「あ、青年さん、剣士さん!」
勇者「せいねーん!おそいー!」

644: 2014/03/26(水) 14:33:31.21 ID:X6k4OSqU0
青年「……もう用事は終わったよ、勇者様」
青年「ご飯食べたら船だ」
勇者「しょのまち! ……ねえ、えほんあるかな?」
剣士「ここに居ても仕方が無い、行くぞ、勇者」
勇者「だっこ!」
剣士「……歩け」ハァ
魔導師「……もう、良いんですか」
青年「お前までそんな顔するなよ」
魔導師「いえ、別に……変な意味じゃ無いですよ」
魔導師「場所も……その。場所ですから、あの……」カァッ
青年「……あのね。彼女を抱きに行った訳じゃ無いんだから」
魔導師「だ……ッ」
剣士「……青年。魔導師はまだ子供だぞ」ハァ
青年「そう言う場所だって知識はあるんだろ……そう言うつもりじゃ無いって」
青年「行く前にも言っただろう」
魔導師「あ……あの、お元気……でしたか?」
青年「先に移動しよう、魔導師」
青年「……お腹減ると、勇者様煩いしね」
勇者「やだ!だっこ!」
剣士「……結構重いんだって事を自覚してくれ」ハァ
魔導師「……そうですね。食べてると大人しいですから……」ハァ

……
………
…………

649: 2014/03/27(木) 11:12:02.68 ID:ZA/ILpCp0
勇者(すぅすぅ)
魔導師「……幸せそうな顔、してますねぇ」クス
青年「勇者だ、なんて言ったってまだ子供だよ。ほんの小さな」
剣士「食べて寝て、か……何時かは話さねばならん……が」
剣士「今は、寝ていてくれるほうが助かるな」
青年「……で、話戻すけど」
魔導師「茶の瞳の双子、ですか……でも」
青年「引っかからない、と言えば嘘になるだろ?」
魔導師「それは解ります。でも……」
青年「…… ……」
魔導師「青年さん?」
青年「……本人が気付いているかどうかは解らない。多分、気がついて居ないだろうが」
青年「多分……あいつは、長く無い」
魔導師「え?」
青年「……母さんと一緒なのかどうかは解らない。だけど、僕にも」
青年「『感じる力』があるんだ。彼女の命の炎は……」
魔導師「!」
剣士「……病か」
青年「僕は予言師じゃ無い……不慮の事故なんかで氏ぬだろうって」
青年「人の寿命が解ってしまう訳じゃ無い」
青年「そう、だろうと思う、だけだ」
魔導師「少女さん……が」
剣士「……無茶な扱いをされてきた、んだろうな」
青年「話を聞く限り、王様は大事にはしていたんだろうけど」
青年「……少女からは何が何でも生きてやる、って気概は感じないな」
魔導師「……不思議な人ですね。何か……うーんと」
魔導師「全て、諦めてしまっている様な……感じの方です」
青年「そうして生きてきた、って側面はあるんだろうけどね」
魔導師「……でも、そうしたら……子供達は……」
剣士「冷たい言い方かも知れないが、それは……俺達の関知する問題じゃ無い」
魔導師「…… ……」
青年「さっきも言ったけど、引っかからない訳じゃ無い。だけど」
青年「……少女は、多分長く無い。それに彼女はきっと」
剣士「『話さない』か」
青年「……ああ」

650: 2014/03/27(木) 11:19:56.08 ID:ZA/ILpCp0
魔導師「……そうですね」
青年「『魔法使い』だなんて名を名乗るぐらいだ」
青年「……否、関係無いのかもしれないけど。彼女の言う通り」
剣士「時代が違えば、立場が違えば……か」
青年「多分どこかで血は繋がっているんだろう。境遇も……似て無くは無い、って」
青年「言って、差し支えも無いとは思う」
青年「……下らない感傷だとも取れる」
魔導師「もう……魔導の街、国も。領主の血筋、も……」
剣士「蔑称すら存在しない……教える必要も無いだろうしな」
青年「子供達がどんな生活をしていくのか……剣士も言う通り関係無い」
青年「……僕達に出来るのは、魔王を倒す事だけだ」
魔導師「勇者様をお守りする事も……ですよ」
剣士「しかし…… ……お前の、仮説はどうする」
青年「まあ、時間はあるんだから。調べて置いて損では無いだろう?」
魔導師「……今更、では無いんですか?」
青年「君は興味無いとは言わないだろう、魔導師?」
魔導師「まあ……そりゃ、そうですけど」

651: 2014/03/27(木) 11:36:15.63 ID:ZA/ILpCp0
青年「……まさか、と気がついたのは、あの娼館で最初に」
青年「少女と話したときだ」
剣士「……ああ」
魔導師「僕達は『知っていた』から思いつかなかった」
青年「ああ。魔導国の領主……后様のジジィと、父親は否定していたんだったな」
魔導師「ジジィ、て……領主、ですよ」
青年「呼び方なんてどうでも良いだろ」
剣士「母親は信じていた様だがな」
青年「秘書も、だろ」
魔導師「旧貴族達の総意……では無いのが不思議、ですけど」
剣士「男女の差、性格の差、と言うのはあるだろうが」
剣士「……前者が大きいのでは無いか。女の方が強かな生き物だ」
魔導師「……魔の血が混じってる、か」ハァ
青年「どう思う? 魔導師」
魔導師「成る程、とは思いましたよ。確かに考えられない事じゃ無い」
魔導師「……インキュバスさんの魔石で、領主さんが魔……に、いえ」
魔導師「『魔物』になってしまった、て前例も確かにありますし。でも」
剣士「『魔王』以外に可能かどうか、だろう」
青年「……可否だけで言うなら可能だろう。魔導師が今言ったように」
青年「立派な前例がある」
魔導師「ただそれが、后様や、側近様の様に」
魔導師「理性も感情も残ったままに……と言うのが可能なのか」
魔導師「しかも……その状態で、子を成せるのかどうか、ですよね」
剣士「青年の言うとおり……魔導の街の領主の血筋……」
剣士「あの『一族』が、魔に変じた元人間の末裔だと言う仮説が」
剣士「信憑性のある物にしようとすれば、それが前提、だ」
青年「…… ……」

652: 2014/03/27(木) 11:49:18.17 ID:ZA/ILpCp0
魔導師「でも。昔……あの最果ての街は」
魔導師「……僕達がこうして暮らしている様に、魔族達が……暮らして、いたんでしょう」
剣士「……どれもこれも、確かめる術など無い、がな」
青年「今よりももっと、力のある魔族が居たって不思議じゃ無い」
青年「……紫の魔王の時代がそうだっただろう?」
青年「男の魔導将軍、狼将軍……鴉、にジジィ、だっけ?」
青年「紫の魔王の母親だって魔族だったはずだ」
魔導師「……そうですね。それに、紅の魔王様は、好戦的な魔王様から」
魔導師「力を受け継いだ時に……」
青年「自分の意にそぐわないだろう奴らを頃した、筈だ」
剣士「……戯れに人を魔に帰る位、やってのける輩が居た、と」
剣士「否、居なかった、とは言い切れないな」
魔導師「……でも。そもそも……その」
魔導師「『元人間の魔族』間……もしくは、タダの人間、と」
魔導師「ええと。異種族、で……子供を作れる物、なんですか」
青年「そんな事言っちゃったら僕はどうなるんだよ」
魔導師「あ」
剣士「それこそ前例がある……エルフの姫と旅人の子供」
青年「……母さん、か」
魔導師「そ……そうか……」
青年「僕もだ、魔導師。僕は……『側近』の子だ。『戦士』ではなくてね」
魔導師「……うぅん」
剣士「加護……」
青年「ん?」
剣士「『産まれて来るときに精霊と交わす契約の様な物』」
剣士「……だったな」
青年「と、言われているね」

653: 2014/03/27(木) 12:04:51.92 ID:ZA/ILpCp0
剣士「位の高い精霊と契約する事が易い、エルフは優れた加護を持って生まれることが……」
青年「多い、らしいだけだ……し、後付の可能性だってあるぜ」
青年「説明をつけただけ、ってね」
魔導師「ふむ」
青年「どうした?」
魔導師「『魔王』だから『勇者』だから、と……その『特別』を」
魔導師「一度取っ払って考えて見ても良いかもしれませんね」
剣士「……?」
魔導師「勇者様は……回復魔法を使えます、よね?」
青年「あ、ああ……」
魔導師「回復魔法は人間の特権……でも、僕は使えません」
魔導師「水……まあ、氷の加護、を受けているから、かもしれませんけど」
青年「『魔法を使う』と言う基礎は一緒でも、得手不得手はあるからな」
魔導師「水の加護、大地や緑の加護を受けている人が得意とするんですよね?」
青年「ああ……勇者様は『光の加護』だ。唯一の」
魔導師「そして、炎の魔法も使える」
青年「……何が言いたい?」
魔導師「すみません、僕も手探りなんで、上手く説明出来ませんけど……」
魔導師「使用人さんの仮説、だと」
剣士「『魔王』……否、『父と母』の『人間の部分』を奪って、か?」
魔導師「それです。黒い髪の魔王様と、勇者様との違いです」
魔導師「后様は、自分の身の内に『人間の時の后様の炎の魔力』を押しとどめた」
青年「……『人間部分を奪う』の一部、か」
魔導師「はい」
剣士「だが、なら青年はどうなる?」
魔導師「癒し手様の優れた水の加護と、回復魔法を使える部分」
魔導師「……風の魔法が使えるのは、側近様の緑の加護、です」
青年「そりゃ解ってるけど。母さんは后様みたいになんかした訳じゃない」
青年「それに……父さんにそんな真似が出来るとは思えないだろ?」
剣士「側近の人間の部分の緑の加護を奪った、とは言え」
剣士「あいつは魔法はからきしだぞ」
魔導師「加護自体は平等ですよ。『魔法を使えるかどうか』が別なだけです」

655: 2014/03/27(木) 12:22:00.94 ID:ZA/ILpCp0
魔導師「で、さっきも言いましたけど、僕は回復魔法は使えません」
魔導師「『魔法なんて使い様』って言う、前后様の考えや言葉を否定する訳じゃないんですが」
魔導師「やっぱり『素質』って大事なんだと思うんですよ」
青年「素質……」
魔導師「突き詰めちゃえば、何でもありになっちゃいます。でも」
魔導師「……本当に『使い様』なら、それって使いこなせるかどうか……ええと」
魔導師「『力の引き出し方をしっているかどうか』でしょう?」
青年「…… ……成る程」
魔導師「で。さっき青年さんが言った様に……貴方は」ジッ
青年「な、なんだよ」
魔導師「『側近様』と『癒し手様』の子供。ですよね?」
青年「あ、ああ…… ……ッ」ハッ
魔導師「勇者様と同じ条件は揃ってますよ。貴方は純粋な『人』ではないけれど」
魔導師「『魔』の部分は受け継がれず、『側近様の人間部分』と『癒し手様のエルフの部分』を」
剣士「……『奪って、産まれてきた』」
青年「…… ……」
魔導師「その上、力の引き出し方を知っている、とあれば」
魔導師「……不思議、じゃないかもしれません」
青年「成る程な。その説明で行けば突き詰めれば……」ジィ
剣士「なんだ」
青年「君が規格外ってのも説明もつくって事さ」
剣士「……俺は『欠片』だから、だろう」
魔導師「一緒ですよ。紫の魔王様は規格外だったんですから」
剣士「……それは、まあ」
魔導師「『魔法なんて使い様』って言ったって、はいそうですかって出来るもんじゃ」
魔導師「無いでしょ? ……勿論、加護にも寄るんでしょうけどね」
剣士「青年が言ってた得手不得手、だな」
魔導師「はい。僕に回復魔法が使えないのは……加護の力も勿論ありますが」
魔導師「それ以上に『素質』が無いからだと思います」
青年「でも君は、鍛冶師の村で……」
魔導師「……あれぐらいなら、出来ると思いますよ。ギリギリ迄力を押さえたに過ぎません」
魔導師「傷付けたく無い、と『願った』に過ぎないんです」
青年「一緒じゃ無いのか?」
魔導師「……解りません、けど。でも。書の街で、勉強して……」ゴソ
魔導師「これを読んで、そう思いました」ドサ

656: 2014/03/27(木) 14:15:57.37 ID:ZA/ILpCp0
青年「息子から借りてきた鍛冶の本か」
魔導師「僕には『向こうの僕』の『知』があります」
魔導師「全部、此処」トントン
剣士「……頭の中に入っている、か」
魔導師「はい。本来の僕なら、とても理解出来る様な内容じゃありません」
魔導師「……鍛冶の知識を有し『魔法剣の鍛え方、作り方』を……まあ、盤上の知識に」
魔導師「過ぎません、けど。それでも……持っているから、理解出来ます」
魔導師「『剣に魔法を注ぐ』とか、ですけど……」
青年「そこは良いよ。僕達は全く知識がないから、聞かされてもちんぷんかんぷんだ」
魔導師「……ですね。まあ、詳しくは割愛します、けど」
魔導師「要するに、これだって『使い様』でしょ?」
剣士「まあ、そうだな」
魔導師「でも、多分これって……『素質』とは別です」
魔導師「一人で書の街に居る時に、回復魔法の練習もしてみましたが」
魔導師「……やっぱり僕には出来ませんでした」
青年「剣士は……まあ、規格外だから良いとして」
剣士「おい……」
青年「僕にその『素質』とやらがあったとして」
青年「それがどうしたって言うんだよ」
魔導師「……勇者様に、その『素質』があると思いますか?」
青年「え……?」
魔導師「女勇者様……この、小さな子供は」ナデ
勇者「うぅん…… ……」スゥ
魔導師「光の加護を受けています。それ自体は『特別』です。確かに」
魔導師「他の誰もが持ち得ない、光に選ばれし運命の子……でも」
魔導師「この子が使う炎の魔法は……『素質』だと思います、か?」
剣士「……難しいな。使用人の仮説が正しいと仮定しても」
剣士「俺は……少し違う気がする」
青年「…… ……」
魔導師「僕もです。どちらかと言えば、後天性の物だと思うんですよ」
青年「……后様の『愛』か」
魔導師「え?」
青年「母さんが言っていたんだ。僕が……父さんの緑の加護を」
青年「……風の魔法を使う事ができるのは、『子を思う親の愛』だと」
魔導師「…… ……」
青年「だが、一緒だとなると、勇者様の炎だって」
青年「『素質』じゃないのか?」
魔導師「僕は……ですけど。『素質』は『力の引き出し方を知っている』事だと」
魔導師「言いました……だけど」
魔導師「……一つだけ、疑問が残るんですよね」
剣士「…… ……」フゥ
青年「剣士?」
剣士「『光の魔法』だろう」
青年「!」

657: 2014/03/27(木) 14:25:34.40 ID:ZA/ILpCp0
魔導師「……そうです」
青年「光の魔法……」
魔導師「勇者様は、まだ赤ん坊の時……始まりの国で」
魔導師「無意識に炎の魔法を使っていらっしゃいます」
魔導師「……南の島では、見せて下さいました」
剣士「それに……俺達はそもそも」
青年「『光の魔法がどんなものか』を知らない……!」
魔導師「……はい。昔、南のあの鉱石の洞窟で」
魔導師「金の髪の勇者様が、全身から光を発され……三つ頭の化け物を倒された」
魔導師「……多分、それだけしか知らないんです」
青年「ま、まてまて。それと素質とどう関係が……」
魔導師「無意識で使える、と言うのは、例えば……大きくなれば、とか」
魔導師「習えば、とかで、克服できる類の物だと思うんです」
魔導師「……紫の魔王の側近様がそうだった筈です。赤の魔王様に……」
剣士「教えて貰って、風の攻撃魔法を使える様になっている、な」
魔導師「はい」
青年「でも、あいつは紫の魔王の瞳を…… ……ッ 否、その前か!」
魔導師「そうですよ。それに、紫の魔王様の瞳を持っていたから、と言って」
魔導師「……転移まで、されている」
剣士「それについては待った方が良い、魔導師」
剣士「……『人間の部分を奪われた』と言う仮定が成立するとしても、だ」
魔導師「……ああ。そうか」
剣士「前后、も……后も、使えているんだ」
青年「…… ……」
魔導師「さっきも言った様に、『勇者と魔王』とか『特別』を取っ払って考えても……」
青年「いや、違う! ……金の髪の勇者も、あれ一度きりだった筈だ!」
魔導師「……いいえ」
青年「え?」
魔導師「推測です……けど」
魔導師「……紫の魔王様と対峙したとき、です」
剣士「……?」
魔導師「握っていた剣の…… ……始まりの国の、剣の文様が焼き付き」
魔導師「それが『勇者の印』になったんでしょう?」
青年「!」バッ ……ギュ
勇者(すぅすぅ)ゴロン……
青年「……光が、溢れてる。んだよな? 光ってる、て事は」

658: 2014/03/27(木) 14:59:21.89 ID:ZA/ILpCp0
魔導師「……今見てらっしゃる通りでしょう。それに」
魔導師「貴方なら感じられるでしょう、青年さん」
青年「…… ……」
剣士「……これ、だな」チャキ
青年「剣士?」
剣士「これも確かな話ではないが……使用人、曰く」
剣士「これが、多分……金の勇者の使っていた剣だ」
魔導師「え!? は、初耳なんですけど!?」
剣士「……そうだったか?」
魔導師「そうですよ!」
青年「……騒ぐなよ。起きるぞ……船室だからとは言え」
魔導師「あ……す、すみません」
青年「剣の話は後でにして、続きを、魔導師」
魔導師「あ……は、はい。えっと」
魔導師「……凄い光が、溢れたんでした、よね?」
剣士「その筈……だ。扉を隔て、魔王と勇者が叫び声を上げ……眩い光が溢れた」
剣士「そして、勇者の手と、魔王の手に…… ……この剣の『印』」
青年「……勇者様のこの光は『全き光』だ」
魔導師「はい……僕は感じる事はできないので、推測ですけど」
青年「大丈夫だ……僕が保証する。母さん程じゃないが」
青年「……それでも、僕にでも解る。混じり気のない光」
魔導師「混じり気のない光が、勇者様の手のひらから溢れた。皮膚を焼いた」
魔導師「……『勇者と魔王は表裏一体』です。ましてや紫の魔王様と、金の髪の勇者様は」
剣士「人の子の命の理を介していない……まさしく『光と闇』」
魔導師「そうです……だから、お二人の手に」
青年「同時に、剣の文様が出来た、と言いたいのか」
魔導師「……光が溢れ出しているのなら、闇が溢れ出してもおかしく無いと思いません?」
青年「溢れ出す……」
魔導師「……否、言葉のアヤですけど」
剣士「……どうした?青年」
青年「いや…… ……そうか。しかし……」
剣士「……なんだ。ハッキリ言え」
青年「溢れた光は、闇は……何処に行くんだ」
魔導師「え?」
青年「…… ……いや、良い。後だ」
青年「それが光の魔法だと言いたい、って事だよな?」
魔導師「……だと、思ったんです、けど」
剣士「成る程、と素直には納得できん……な」
魔導師「……です、よね」

659: 2014/03/27(木) 15:10:04.28 ID:ZA/ILpCp0
青年「……その話で行くと、いや」
青年「『光と闇』は『表裏一体』で行くと……『光の魔法』てのは」
青年「『闇の魔法』と同一、って考えられなくもない」
魔導師「……実際、光や闇の魔法、ってのは、どんな文献にもないんです」
魔導師「『勇者』と『魔王』であるなら、無くて当然……かもしれないですけどね」
青年「さっきの『素質』の話に戻る、が」
魔導師「はい」
青年「……要するに、自由に力を引き出せないから、勇者様には『素質』が無いと」
青年「言いたい訳、だな?」
魔導師「まあ、そうなんですけど……」
青年「何だよ?」
魔導師「……言い方、悪くなるのは先に謝っておきます、けど」
剣士「?」
魔導師「あの……その。『勇者と魔王』って……その」
魔導師「段々、劣化してません、か?」
青年「劣化……?」
魔導師「はい。后様の炎の魔法を受け継いだ、とか」
魔導師「そう言う事実だけ見ると、強化されている様に見えるかもしれませんけど」
魔導師「外的要因……要するに、後天性の部分が、多くなるにつれ、です」
剣士「……始まりを紫の魔王とみるのなら、そうかもしれないな」
剣士「何せ……『勇者』は人間だ」
青年「…… ……」
魔導師「金の髪の勇者様が『始め』とするなら」
魔導師「黒の髪の魔王様達が建てられた仮説……と言うか、キーワードは」
青年「『三』か」
魔導師「……はい。女勇者様で『三人目』です」

660: 2014/03/27(木) 15:28:44.80 ID:ZA/ILpCp0
魔導師「紫の魔王様の分身でもあった……金の髪の魔王様」
魔導師「彼と、前后様の子供である黒い髪の魔王様……『人間部分』を奪って」
魔導師「産まれた、純粋な人間、ですよね?」
青年「……まあ、勇者は人間だからな」
魔導師「いえ、そうでは無くて……ちゃんと、命の理……ええと」
魔導師「その。『二人の子』でしょ?」
青年「二つの血が混じって出来た……『人間』か」
剣士「金の髪の魔王の『血』は、段々薄まっていく、な」
魔導師「はい……青年さんが、血の分量で行くなら」
魔導師「『1/4のエルフの血』と言うのと一緒ですよ」
青年「……それと素質と……」
魔導師「直接関係ないかもしれませんけどね。でも」
魔導師「後天性の部分が多くなる、ですよ。さっきも言った……」
魔導師「もし、素質があるのなら。そんな……事に負けず」
魔導師「『特別な勇者様』の名の通り……そうですね」
魔導師「紫の魔王様と同じように、規格外でもおかしく無い、と思いません?」
剣士「……些かこじつけの様な気がしなくもない、が」
剣士「言いたいことは理解が出来る。実際……俺という『欠片』があるんだ」
剣士「それだけでも充分『劣化』と取れる」
青年「…… ……」
魔導師「僕は」
剣士「何だ」
魔導師「……素質を持つのは、貴方と」
青年「僕?」
魔導師「使用人さんと……紫の魔王の側近さん。その『三人』だと思うんです」
青年「……まあ、その二人については。否定は出来ない、かな」
魔導師「これから書の街に行って、色々調べたり、勇者様の魔法の練習したり」
魔導師「……する、つもりなんですけど。あの」
青年「? 何だよ」

661: 2014/03/27(木) 15:34:35.66 ID:ZA/ILpCp0
魔導師「……僕達、『否定』するんですよね?」
青年「あ、ああ……だから、何だ?」
魔導師「…… ……」チラ
剣士「? ……ハッキリ言え」
魔導師「もし……もし、です。もし、これで終わらなければ」
青年「…… ……」
魔導師「……次、の勇者様が必要になるじゃないですか」
剣士「…… ……」
魔導師「だから、あの」カァッ
青年「……まさか、愛の告白じゃないだろうね」
魔導師「は!? な、なななな、なんで、僕が青年さんに!?」
勇者「……うぅん……もう、ついた……?」
青年「……ああ、もう」ハァ
魔導師「あ、す、すみません……」
勇者「あぅ……せいねん、だっこ……」ギュ
青年「はいはい……」

ポーゥ……

剣士「……タイミング的には、丁度だな」ハァ
魔導師「すみません……」
青年「話の続きはまたにしよう」ダキッ
勇者「……もうちょっと、ねりゅ」スゥ
青年「仕方無いな」ハァ
魔導師「……荷物、持ちます。あ! ……剣士さん、後で剣見せて下さいね!」
剣士「あ、ああ……それは構わん、が」
魔導師「先行きます……よいしょ」

タタタ……

剣士「……終わらない、と確信しているんだろうな」
青年「魔導師か? ……かもね」

662: 2014/03/27(木) 15:45:38.31 ID:ZA/ILpCp0
剣士「次の勇者が必要……か」
青年「……『三』じゃないのか?」
剣士「始まりを何処にするかで自由に変わる、ぞ」
青年「…… ……」
剣士「だが、使用人も言っていた通り。此処で食い止めない事には」
剣士「……女勇者は、確実に最強の魔王になる」
青年「劣化しているのに?」
剣士「『母は強い』……それは後天性の物だと言えるか?」
青年「……微妙、だけど」
剣士「それに、俺が……『欠片』で無くなれば尚更だ」
青年「! 君、まだそんな事を……!」
剣士「……避けて通れると本当に思っているのか?」
青年「…… ……」
剣士「さっき、魔導師が言いかけた事……何となく解る、がな」
青年「え?」
剣士「……紫の魔王の側近と使用人の共通点は?」
青年「? ……元人間」
剣士「それだけじゃ無いだろう」
青年「…… ……?」
剣士「『親ではない』」
青年「?? ……それが何だよ」
剣士「……俺達は『否定』するんだ」
青年「…… ……ッ !?」
剣士「思い当たったか」クス
青年「べ、別にお前でも良いだろう!? 僕は……!」
剣士「俺に生殖能力があるとは思えないが」
青年「……出来る癖に」
剣士「それとこれとは別だろう」
青年「ま、まだ五歳だぞ!?」
剣士「……勇者が『女性』になる頃、お前は変わっていると思うか?」
青年「……じょ、冗談じゃない! 僕はそんな趣味は……!」
剣士「魔導師が言いたかっただろう事を言っただけだ」
青年「…… ……」チラ
勇者(ぐぅぐぅ)
青年「……冗談きついよ」

663: 2014/03/27(木) 15:53:29.78 ID:ZA/ILpCp0
剣士「やってみなければ解らん、さ」
青年「……そんな羽目にならない為にも、僕は意地でも終わらせるさ!」

スタスタ

剣士「…… ……」フゥ
剣士(『三』『劣化』…… ……な)

スタスタ

……
………
…………

側近「……どう思う?」
后「私は……終わらないと思う、わ」
側近「…… ……」
后「解き明かされていない謎が多すぎる、とか……そんなんじゃないの」
后「……そりゃ、勿論……解放して欲しい。勇者に……娘に」
后「こんな……あの小さな方に。大変な重責を背負わせたくなんて無かった」
后「だからこそ、今度こそ……! そう、思うけど」
側近「お前も……『三』だと思うのか」
后「魔王が勝手に言い出したキーワードよ。盲信してる訳じゃ無い」
后「……だけど。紫の魔王と金の魔王……あの二人は」
側近「始まりではない?」
后「……ええ」

コンコン

使用人「失礼致します……后様」
后「ああ、ご免なさい使用人、使ってしまって」
使用人「いえ……これで良いですか」ドサ
側近「お前、こんな本……」
后「人魚の話、したでしょ。折角青年が確かめてきてくれたんだもの」

664: 2014/03/27(木) 16:34:48.74 ID:ZA/ILpCp0
使用人「……魔詩、やっぱりあの古詩だったんですね」
后「ええ……それも『逆さまの詩』ね」
側近「しかし……物語の最後に、逆さまからの詩が乗って居るんだろう?」
后「……ええ。人魚の魔詩はその逆さまの方、みたいなのよね」
使用人「……確か、ですか?」
后「青年が言っていたのよ。何度も確かめたって」
后「『終わりは、始まりだった』から、歌い出すのだと」
側近「……終わりだの始まりだの、何がなんだか」ハァ
使用人「チョコレート、食べます?」
側近「…… ……ああ」
后「古詩の方は『始まりは、終わりだった』から始まるの……だから」
后「小説の最後に乗って居る、こっちであってるのよ」
使用人「……しかし、だからなに、って話ですよね」
后「…… ……そうなのよね」ハァ
側近「……本当に、何か意味があるのか?」
后「さっぱり解らないわ。それこそ、人魚にでも聞かない限り」
使用人「そんな無茶な……」
后「謎を探っておいてくれ、何て言われたけれど」ハァ
后「……これ以上、どうしようもないもの」
使用人「本当に、なんか…… ……これに振り回されてる、感じですね」
后「古詩、小説…… ……そうなのよね」
后「私達、こじつけが過ぎて迷路に迷い込んじゃったのかもしれないわ」
后「……魔王の『三』にしたってそう」
側近「あいつらが……それに惑わされなければ良いがな」
后「…… ……」
使用人「しかし……后様、疲れないのですか」
后「え? ……ああ、大丈夫よ。魔王の魔力を借りているし」
使用人「……あれ以来、大人しいですね、魔王様」
后「……『干渉』だったかしら」
使用人「はい」

665: 2014/03/27(木) 16:42:59.83 ID:ZA/ILpCp0
側近「……さっくりと物語の様には進まん」
使用人「本当に……誰が書いた、んでしょうね」
后「使用人……まさか、まだ信じてるの?」
使用人「え? ……あ、いえ。そう言う訳では無いんですけど」
使用人「……でも、本当に振り回されている気がするんです」
使用人「いえ……捕らわれすぎ、なんでしょうけど」
后「でも……いったん全部をクリアにして考え直せ、と言われても」
后「正直……もう無理よね」
使用人「…… ……」
側近「…… ……書の街に着いたな」
后「え? ……ああ」
使用人「私達に……出来る事は、本当にもう、無いんですね」
側近「使用人?」
使用人「見守るしか、できません」
后「……そう、ね。勇者…… ……」
使用人「…… ……」
側近「良いんだ、それで。俺達は、あいつ等が此処に、自力でたどり着くまで」
側近「あいつ等の『否定』を……邪魔しないようにする、だけだ」
后「…… ……ええ」

……
………
…………

勇者「ん…… ッ!」

キィン!

剣士「遅い!」ビュン!
勇者「! ……キャッ ……ッ」バシッ
青年「……ああ、今のは痛い」クス
勇者「……笑い事、じゃない……ッ」
青年「ほら、こっちおいで、勇者様」パァッ
勇者「……ああ、痛かった」
剣士「魔法を使っても良いと言っただろう」
勇者「なんかヤダ」
青年「もうちょっと手加減してやれば?」

632: 2014/03/23(日) 11:06:33.33 ID:DL1GVqF80
おはよう!
幼女春休みでなかなか思うように時間が取れないから
暫くのんびりですー
魔王「真に美しい世界を望む為だ」【7】

引用: 魔王「真に美しい世界を望む為だ」【2】