1: ◆G4SP/HSOik 2013/07/26(金) 22:33:08.93 ID:RSWVhOEU0
基本的な流れは本編と同じにしてありますが、
一部の登場人物の背景が大きく異なっているものもあります。
また原作にはない挿話も入れております。
大体がアニメ基準。もちろん展開も演出もこちらのほうで好き勝手やらせていただきますが、
アニメ基準のほうが想像しやすいので
初めてなのでレスアンカーや投稿の仕方に
自信がありませんがやってみます。
ちなみにこのSSの着想となった、
このSSの織斑一夏の初期モデルが誰だか想像してみてください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1374845588
一部の登場人物の背景が大きく異なっているものもあります。
また原作にはない挿話も入れております。
大体がアニメ基準。もちろん展開も演出もこちらのほうで好き勝手やらせていただきますが、
アニメ基準のほうが想像しやすいので
初めてなのでレスアンカーや投稿の仕方に
自信がありませんがやってみます。
ちなみにこのSSの着想となった、
このSSの織斑一夏の初期モデルが誰だか想像してみてください。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1374845588
2: 2013/07/26(金) 22:33:54.77 ID:RSWVhOEU0
1話 クラス代表決定戦 セシリア・オルコット
Welcome to the CRASY TIME
――――――IS学園 始業日にて。
一夏「これまで海外で暮らしてましたが、」
一夏「こ、こういう人がいっぱいいる場所は久しぶりなので、」
一夏「世事に疎くて、至らぬところがあるかもしれませんが、」
一夏「ど、どうかよろしくお願いします」ヒキツッタエガオ
山田「はい、ありがとうございます」
一夏「ふぅ」チラッ
千冬「………………(よくやった)」ウナヅク
一夏「(良かった。練習したとおりにできた)」
一夏「(でも――――――)」
周囲「キャーカッコイイー!」ワーワージーーー
一夏「(何で? 何でそんなに俺を見るの?!)」ゾクゾク
一夏「(何この学園! 怖い! 早く帰りたい!)」シンゾウバクバク
Welcome to the CRASY TIME
――――――IS学園 始業日にて。
一夏「これまで海外で暮らしてましたが、」
一夏「こ、こういう人がいっぱいいる場所は久しぶりなので、」
一夏「世事に疎くて、至らぬところがあるかもしれませんが、」
一夏「ど、どうかよろしくお願いします」ヒキツッタエガオ
山田「はい、ありがとうございます」
一夏「ふぅ」チラッ
千冬「………………(よくやった)」ウナヅク
一夏「(良かった。練習したとおりにできた)」
一夏「(でも――――――)」
周囲「キャーカッコイイー!」ワーワージーーー
一夏「(何で? 何でそんなに俺を見るの?!)」ゾクゾク
一夏「(何この学園! 怖い! 早く帰りたい!)」シンゾウバクバク
3: 2013/07/26(金) 22:36:46.06 ID:RSWVhOEU0
――――――数日前。
一夏『へえ、ここが千冬姉のお家なんだ』
千冬『ああ。今まで迎えに行けなくて本当にすまなかった』
一夏『それは…………千冬姉は悪くないよ。それに“じィちゃん”のことは……お互い様だし』
千冬『だが、血の繋がった肉親に捨てられたお前に、私は再び親を失う悲しみを与えてしまった』
千冬『本来ならばお前のことを守り続ける役目が私にはあったのに!』
一夏『でも、千冬姉。俺を助ける見返りでドイツで働くことになったんでしょ?』
一夏『結局、それじゃまた俺一人で生活することになっちゃうから、』
一夏『千冬姉が一番に信頼できる“じィちゃん”に預けてくれたんでしょ?』
千冬『あの時はそうすることがベストだとしか考えられなかった……』
一夏『“じィちゃん”が言っていたよ』
一夏『世界で一番俺を大切に想っているのは千冬姉だって』
一夏『生ある者はいつか氏ぬ運命にある。それが天地の理」
一夏『だから、“じィちゃん”のことは哀しいけれど、千冬姉の師匠でもある“じィちゃん”を信じている』
一夏『だから、俺は千冬姉の正しさを信じる』
一夏『そして、今度は一緒に居られる』
一夏『俺の成長ぶりを見ていてくれよ。“じィちゃん”と千冬姉の正しさを俺が守るから』
一夏『千冬姉は昔のように……とはいかないかもしれないけれど、』
――――――ただいま、お姉ちゃん!
千冬『………………』ブワッ
千冬『大きくなったな。本当に大きくなった』ダキアウフタリ
千冬『おかえりなさい、一夏』
一夏『うん、ただいま、お姉ちゃん!』
一夏『へえ、ここが千冬姉のお家なんだ』
千冬『ああ。今まで迎えに行けなくて本当にすまなかった』
一夏『それは…………千冬姉は悪くないよ。それに“じィちゃん”のことは……お互い様だし』
千冬『だが、血の繋がった肉親に捨てられたお前に、私は再び親を失う悲しみを与えてしまった』
千冬『本来ならばお前のことを守り続ける役目が私にはあったのに!』
一夏『でも、千冬姉。俺を助ける見返りでドイツで働くことになったんでしょ?』
一夏『結局、それじゃまた俺一人で生活することになっちゃうから、』
一夏『千冬姉が一番に信頼できる“じィちゃん”に預けてくれたんでしょ?』
千冬『あの時はそうすることがベストだとしか考えられなかった……』
一夏『“じィちゃん”が言っていたよ』
一夏『世界で一番俺を大切に想っているのは千冬姉だって』
一夏『生ある者はいつか氏ぬ運命にある。それが天地の理」
一夏『だから、“じィちゃん”のことは哀しいけれど、千冬姉の師匠でもある“じィちゃん”を信じている』
一夏『だから、俺は千冬姉の正しさを信じる』
一夏『そして、今度は一緒に居られる』
一夏『俺の成長ぶりを見ていてくれよ。“じィちゃん”と千冬姉の正しさを俺が守るから』
一夏『千冬姉は昔のように……とはいかないかもしれないけれど、』
――――――ただいま、お姉ちゃん!
千冬『………………』ブワッ
千冬『大きくなったな。本当に大きくなった』ダキアウフタリ
千冬『おかえりなさい、一夏』
一夏『うん、ただいま、お姉ちゃん!』
4: 2013/07/26(金) 22:44:26.90 ID:RSWVhOEU0
一夏「(俺はお姉ちゃんの支えになるんだ!)」
一夏「(ISのことなんか全然わかんないし、俺以外女の子しかいないけど、)」
一夏「(世間知らずだって言われて、お姉ちゃんと“じィちゃん”に恥をかかせないよう頑張らないと!)」
セシリア「あの、よろしくて?」
一夏「あ、はいっ!?」ビクッ
セシリア「まあ、素っ頓狂なお声を上げますこと」
一夏「(うん? 確か、イギリスの、代表候補生の、……何だっけ?)」
一夏「(まずい! まだトイレの場所とか俺の寮室とか、今日いろいろと――――――思い出せ、さっき聞いたばかりだろ!? 何やってんだ俺!?)」アセアセ
一夏「え、えっと、何でしょうか? ――――あ」クンクン
セシリア「……世界で唯一ISを扱える男性がまさかこんなへっぴり――――って聞いてますの?(何かしら、ジーっと見て。とても――――――)」
一夏「――――あなたは凄く損をしている」
セシリア「――――急に何を!?」
一夏「だって、あなたは凄く綺麗な顔立ちをしているのに、凄く険しい顔をしているよ? せっかくの美人さんなのに台無しだよ」
周囲「――――――!?」チュウモク
箒「…………一夏?」
セシリア「な、何なんですの!? からかうのもいい加減に――――――」
一夏「それに凄く辛そう。まるで、迫り来るハリケーンに怯えて家の地下で震える人たちのように、」
一夏「気丈に振舞ってはいるけど先行きを見通せない怖さに駆られれている、ていうのかな」
セシリア「…………っ!? あ、あなたがこのセシリア・オルコットの何をわかっているっていうの!?」ケワシイヒョウジョウデツメヨル
周囲「ドウシヨウナンカフンイキヤバイヨ」オロオロ
箒「…………一夏」
一夏「あ!」
セシリア「こ、今度は何ですの!?」
一夏「セシリア・オルコットって言うんだった。それだそれだ!」
セシリア「へ?」
周囲「え?」ボウゼン
箒「…………一夏」アキレ
セシリア「どういうことですの?」アキレ
一夏「思い出せてよかった」スッキリサワヤカ
セシリア「まさか、この私の名前を覚えていなかったのですか?」ワナワナ
一夏「え、ソ、ソンナコトハナカッタデスヨ?」メガオヨグ
セシリア「うううう、覚えてらっしゃい!」キョウシツヲトビデル
一夏「あ、待ってください、えっと……セシリアさん! ごめんなさい!」ソレヲオイカケル
箒「…………いったいどうしてこうなった」
箒「しかし、先ほどの一夏はいったい……?」
5: 2013/07/26(金) 22:47:52.73 ID:RSWVhOEU0
千冬「ではクラス代表を決めるぞ。自薦他薦問わない。誰かいないか?」
女子「織斑くんを推薦します」
周囲「私もそれがいいでーす」ガヤガヤ
千冬「だ、そうだが、どうする織斑?」
一夏「おれ……私は初心者ですし、こういったことは経験したことはありませんが、他にいないのなら――――――」
セシリア「納得いきませんわ!」バンッ
セシリア「そんな人選認められませんわ! クラス代表が男だなんていい恥さらしですわ!」
セシリア「―――(中略)―――だいたい文化的にも後進的な極東の辺境の島国で暮らさなくてはならない事自体、私にとっては耐え難い苦痛で――――――」
一夏「へえ……」ピクッ
セシリア「あらどうしました?」
千冬「………………!」
箒「(千冬さんの表情が変わった?)」
一夏「確かにイギリス王室の気高さは素晴らしいものでしたよ。まさに神の御加護を受けし世界に冠たる国です」
セシリア「当然ですわ」
一夏「それならクラス代表、セシリアさんがなってくれるってわけですよね」
セシリア「あら、やはりあなたはいくじなしですわね。ほら、見なさい。男なんてみんなこういうものなのよ」
一夏「でも、いいかな? さっきの言葉だけは許せないから」
セシリア「『男である』ことをなじられたのが気に障ったかしら?」
一夏「そんなことじゃないよ。そんなことじゃ」
一夏「………………ふう」シンコキュウ
一夏「自分の優位性を示すためなら相手を貶める物言いを平気でするあなたの人間性を疑っている」
山田「お、織斑くん……(ゾクゾクするような凄く冷ややかな視線)?!」
一夏「代表候補生の品格とはそんなもんですか? それとも、」
一夏「――――――大英帝国の品位とはそこまで堕ちたのですか?」
セシリア「」カチン
セシリア「あなた、よくも祖国の侮辱を…………!」
千冬「………………」ヤレヤレ
セシリア「決闘ですわ! あなた、私と戦いなさい」
一夏「いやだ」
セシリア「なっ!?」
一夏「決闘……? 私闘は禁止でしょ――――――おね……織斑先生?」カタニノセラレタテ
千冬「織斑。売り言葉に買い言葉だ。お前も捲し立てた以上は、互いの信念と矜持をかけて決闘を受けてやれ」
一夏「……わかりました」
セシリア「ふん」
箒「(一夏、お前はいったいどうしたというのだ?)」
6: 2013/07/26(金) 22:52:01.57 ID:RSWVhOEU0
――――――同日、夕方にて。
一夏「(今日は初日なのに大変な一日だったな。女の子にまとわりつかれて学園の探検が遅れたし、男子トイレが1箇所しかないとか…………)」
一夏「(……せっかく懐かしい学校生活なのに早速突っかかっちゃった。今でも心臓の鼓動が大きく弾んでいる)」
一夏「(でも、放っておけなかったし……)」
一夏「(“じィちゃん”、俺、頑張れるかな? “じィちゃん”の言われたとおりにできるかな?)」
一夏「えっと、この部屋だったっけ? うん、鍵は合っている。ここだ」ガチャ
一夏「…………この学園の寮が全部ダブルなのは把握しているけど、これから毎日『隣には誰もいないベッド』があるのか」
一夏「できれば、そんなの撤去させたいんだけど。どうせ、俺以外にISが使える男性なんて出てくるわけないし」ハア
一夏「……疲れた。まだ初日なのにこんなにもクタクタだ」
一夏「“じィちゃん”に預けられてからは集団生活なんてしてこなかったから、ドキドキ感がまだ少しだけ止まらない。慣れてはいくんだろうけど」
一夏「こうして好奇の視線に晒されて、すっごく落ち着かなかった」
一夏「それでいて、部屋に帰っても誰もいないという虚脱感……」
一夏「思ったより疲れるわけだ……」バサッ
一夏「(いい寝心地……これから毎日このベッドで眠るのか……こんなのに身を預けていたら天国にいる“じィちゃん”の所に逝きそうで怖いな…………)」
一夏「ZZZZZZZZ」
箒「…………い、一夏」ゼンラデイチカノヌギステヲダキシメテイル
――――――それから、
箒「起きろ、一夏。朝稽古の時間だぞ」
一夏「……うん、わかったよ……箒ちゃん」
箒「まったく世話の焼ける///」ホオヲナデル
一夏「(今日は初日なのに大変な一日だったな。女の子にまとわりつかれて学園の探検が遅れたし、男子トイレが1箇所しかないとか…………)」
一夏「(……せっかく懐かしい学校生活なのに早速突っかかっちゃった。今でも心臓の鼓動が大きく弾んでいる)」
一夏「(でも、放っておけなかったし……)」
一夏「(“じィちゃん”、俺、頑張れるかな? “じィちゃん”の言われたとおりにできるかな?)」
一夏「えっと、この部屋だったっけ? うん、鍵は合っている。ここだ」ガチャ
一夏「…………この学園の寮が全部ダブルなのは把握しているけど、これから毎日『隣には誰もいないベッド』があるのか」
一夏「できれば、そんなの撤去させたいんだけど。どうせ、俺以外にISが使える男性なんて出てくるわけないし」ハア
一夏「……疲れた。まだ初日なのにこんなにもクタクタだ」
一夏「“じィちゃん”に預けられてからは集団生活なんてしてこなかったから、ドキドキ感がまだ少しだけ止まらない。慣れてはいくんだろうけど」
一夏「こうして好奇の視線に晒されて、すっごく落ち着かなかった」
一夏「それでいて、部屋に帰っても誰もいないという虚脱感……」
一夏「思ったより疲れるわけだ……」バサッ
一夏「(いい寝心地……これから毎日このベッドで眠るのか……こんなのに身を預けていたら天国にいる“じィちゃん”の所に逝きそうで怖いな…………)」
一夏「ZZZZZZZZ」
箒「…………い、一夏」ゼンラデイチカノヌギステヲダキシメテイル
――――――それから、
箒「起きろ、一夏。朝稽古の時間だぞ」
一夏「……うん、わかったよ……箒ちゃん」
箒「まったく世話の焼ける///」ホオヲナデル
10: 2013/07/26(金) 23:03:59.59 ID:RSWVhOEU0
――――――クラス代表決定戦まで残り数日のこと
セシリア「………………」
一夏「隣、いいかな?」
セシリア「何ですの……? 私たちは敵同士。慣れ合うつもりは――――――」
一夏「これ、食べていただけますか? ――――――ヒキガエル」
セシリア「まあ……。それではいただきますわ」
セシリア「……凄くもちもちしていて、それでいてそのままで何枚でも食べられるような、飽きのこない甘さがありますわ」
セシリア「とっても美味しいですわ!」
セシリア「これ、あなたがお作りになったのですか?」
一夏「はい。本当は甘味のない塩と牛乳の風味だけのものですけど、私の国で流通しているミルク風味のこのコッペパンの味をプディングに再現したものなんです」
一夏「日本の米のようにどんな味や食感にも合うようにしてみました」
セシリア「意外ですわ。まさか、これほど美味しいヨークシャー・プディングを作れる腕前だとは思いもしませんでしたわ」
一夏「美味しいものは美味しいですよね。イギリス料理も」
一夏「それに――――――」ジー
セシリア「な、何ですの?(何故かしら? この方の目に見つめられていると……)」
一夏「ようやく見せてくれましたね」ニッコリ
12: 2013/07/26(金) 23:05:32.66 ID:RSWVhOEU0
セシリア「な、何をですか(え、いったい何ですの)!?」
一夏「あなたの澄んだ笑顔。思った通り、綺麗ですね。もっと多くの人の前でその笑顔を見せられたらいいですよね」
セシリア「ななな、何を……あ、あなた、私をまたからかって――――」
一夏「セシリアさんはここに居るのが耐え難い苦痛なのでしょう? でも、ここに居なきゃいけない。そうですよね?」
セシリア「ととと、当然ですわ!」
一夏「だから、セシリアさんが楽になるよう、日本の土地が好きになってしまうようにしたいんですよ」
セシリア「へ? 今、何とおっしゃい――――――」」
一夏「それに私も、日本が祖国とはいえ、少し前までずっと海外で暮らしていました」
一夏「ですから、セシリアさんと同じように今の日本は不慣れでして……」
一夏「似たような境遇のあなたを放っておけなかったんです」
一夏「“一人よりも二人”ですよ」ニッコリ
セシリア「」プシュー
セシリア「ごごごご、ごちそうさまでした!」
一夏「お粗末様でした」
セシリア「おお、織斑一夏!」
一夏「はい」
セシリア「きょ、今日のことは褒めて差し上げますが、あ、あまり私を甘く見ないでくださります……」
セシリア「そ、そう! クラス代表の座を賭けた決闘、覚悟していてくださいね」
セシリア「あ、あなたはこのイギリス代表候補生:セシリア・オルコットの名に賭けて、無謀にも挑戦した愚か者として裁きますわ」
一夏「ああ。経緯がどうであれ、決闘するからには正々堂々と勝負だ」キリッ
セシリア「…………あ(どうしてこの方はこんなにも私の心を――――――)」
セシリア「お、覚えてなさい!」タッタッタッタッター
一夏「あ、セシリアさん!」
一夏「…………まずまずってところなのかな?」
箒「ここに居たか一夏、今日もやるぞ」
一夏「あ、はい。お願いします、箒ちゃん」
セシリア「何故私はこんなにも胸が高鳴っているのでしょう?」
セシリア「男なんてみんな、私に媚びへつらうようなものだと……」
一夏『――――あなたは凄く損をしている』
一夏『だって、あなたは凄く綺麗な顔立ちをしているのに、凄く険しい顔をしているよ? せっかくの美人さんなのに台無しだよ』
一夏『あなたの澄んだ笑顔。思った通り、綺麗ですね。もっと多くの人の前でその笑顔を見せられたらいいですよね』
一夏『だから、セシリアさんが楽になるよう、日本の土地が好きになってしまうようにしたいんですよ』
一夏『“一人よりも二人”ですよ』ニッコリ
セシリア「織斑一夏……」
セシリア「はっ!? 私は今、何を……!」
セシリア「違う、違うんですの! 私とあの方は敵同士で――――――!」
セシリア「そう! 私がここにいるのは祖国の威信のためであって…………」
セシリア「ああもう! とにかく織斑一夏! 覚悟なさい!」
13: 2013/07/26(金) 23:08:46.56 ID:RSWVhOEU0
>>7
初投稿でレスアンカーも右左わからぬ筆者だが、
さすがに女体化まではしませんよ。
シリアス目にアニメ基準に話が進むので、
じっくり時間をかけちゃうので、ご了承ください
初投稿でレスアンカーも右左わからぬ筆者だが、
さすがに女体化まではしませんよ。
シリアス目にアニメ基準に話が進むので、
じっくり時間をかけちゃうので、ご了承ください
14: 2013/07/26(金) 23:12:42.13 ID:RSWVhOEU0
――――――クラス代表決定戦当日。
一夏「箒ちゃんのおかげで様になってきた。でも、いつになったら――――――」
箒「一夏、ついにセシリアとの決闘の時が来たな。準備はいいか?」
一夏「あ、はい。箒ちゃんのおかげで今までわからなかったことがわかるようになってきました」
箒「そうか(欲を言えば、その他人行儀な喋り方を止めて欲しいが、今は試合に集中させよう)」
箒「(窮屈そうに制服を着て、ぎこちない喋り方をしているのも社会復帰の一環だから我慢我慢)」
箒「だが、万全というわけではないようだな。どうしたのだ、一夏?」
一夏「それがですね、いつになってもおr……私のISが来ないんですよ」
箒「…………? それはどういう意味だ。一夏には個人所有する機体があったのか?」
一夏「はい。おn……織斑先生に渡したから盗まれたとかはないと信じているんですけど」
箒「初耳だ」
一夏「…………慣れたとはいえ、やっぱり自分ので戦いたいですね」
15: 2013/07/26(金) 23:13:35.14 ID:RSWVhOEU0
山田「織斑くん! 織斑くん!」
一夏「山田先生! ということは――――――!」
山田「はい、お待たせしました。織斑くんの専用機が届きました!」
一夏「よし、すぐにでも――――――え?」
箒「白い機体。これが一夏の専用ISなのか?」
山田「はい、コードネーム『白式』です」
一夏「あれあれあれあれあれ?」
箒「一夏、どうした!?」
一夏「戻っている? 戻っている? 戻っている?」
一夏「なんで「初期化」されてるの?」
千冬「すまない、織斑。お前の学園生活以前の記録は全て消去させてもらった。もちろん、設定から何もかもだ」
箒「そんな……」
一夏「はあ……」イキヲオモイッキリハク
一夏「わーはっはっはっはあ!」
箒「はう!?」ビクッ
山田「どうしたんです、織斑くん!?」
一夏「ああ、すっきりした」
一夏「で、織斑先生?」
千冬「何だ」
一夏「ISには絶対防御とシールドバリアーの二重の安全対策が施されているんですよね?」
箒「それは基本中の基本だぞ、一夏? どちらもシールドエネルギーで作用する」
一夏「じゃあ、勝っても負けても命に別条はないんですよね?」
千冬「そうだ。シールドバリアーのエネルギーが切れればその時点で勝敗が決するルールだ。それと同時に全ての兵装が機能停止する」
一夏「じゃあ、安心だ。人を[ピーーー]わけでもない。決まるのは、たかだかクラス代表の座だけ。気楽に行かせてもらいます」
千冬「…………ああ、行ってこい」
箒「一夏?(訓練の時も思ったが、一夏は本当に言うほどの初心者なのか?!)」
山田「織斑先生? 織斑くんはいったい…………」
千冬「まあ、見ていればわかる」
一夏「よし、行きます!」
16: 2013/07/26(金) 23:16:57.78 ID:RSWVhOEU0
セシリア「逃げずによく来ましたわね。代表候補生であるこの私の前に」
セシリア「どうやら専用のISを持っていらしたようですが、所詮は初心者」
セシリア「これは決闘! 真剣勝負ですわ!」
セシリア「しかし――――――」
セシリア「最後のチャンスをあげますわ。ここで今までの数々の無礼を謝るなら、」
セシリア「…………少し痛めつける程度で許してあげますわ」
一夏「………………」
一夏「(…………大丈夫、大丈夫)」
一夏「(「初期化」されたISでも俺の方までは初期化されていない。『白式』の特性は百も承知だ)」
一夏「(ちゃんと身体の方が覚えてくれている……はずだよね?)」
一夏「(だが、まいった。セシリアさんの機体は明らかに射撃戦の機体じゃないか)」
一夏「(今の『白式』が選べる戦法は遮蔽物からの不意打ちしかないのに、アリーナにはそんなのはない)」
一夏「(かといって、盾の代わりが転がっているわけじゃない)」
一夏「(“じィちゃん”。どうやら最初から割に合わない戦いだったみたいだ)」
セシリア「さっきから黙りこんでいて大丈夫かしら?」
セシリア「だんまりを決め込むのも構いませんが、その口から泣き声を上げさせて差し上げますわ」
一夏「……クラス代表の座なんて興味ないです。ただセシリアさんの強張った表情を解したいだけなんです」
17: 2013/07/26(金) 23:23:51.35 ID:RSWVhOEU0
アナウンス「試合開始」
セシリア「さあ、踊りなさい! 『ブルー・ティアーズ』が奏でるワルツで!」
一夏「………………」ヒョイヒョイ
観客「おお!」
セシリア「や、やりますわね。初見でこうも軽やかに避けたのはあなたが初めてですわ」
セシリア「しかし、こちらの弾切れを狙って距離をとったらどうなるのか少し想像力が足りなくて?」
一夏「………………!?」
一夏「(何だあれ!? アフガンで見た無人兵器の類か!? これが第3世代型の特殊兵装ってやつなのか!?)」
一夏「くっ(捌き切れないか…………)」
セシリア「どうかしら、この機体の名を冠するオールレンジ兵器の味は?」
一夏「(でも、思ったよりも命中率が低い。ライフルと同じように距離をとっているからなのか?)」
一夏「(だとすると、完全なAI制御でもない)」
一夏「(基本的にISの兵装――――アリーナで使える武器に外部からの火器管制システムが載せられるわけないから、)」
一夏「(これを直接操っているのはやっぱりセシリアさんになるのか?)」
一夏「(だが、さすがにこのままではジリ貧だ……!)」
一夏「――――――加速!(……これは遅い)」ガシッ
セシリア「なっ!?」
箒「何!?」
千冬「ほう」
セシリア「シールドバリアーが減るくらいなら『ブルー・ティアーズ』から真正面からぶつかって――――――!」
箒「掴んだ一基で別の『ブルー・ティアーズ』を撃ち落とした!?」
山田「そのまま掴んだものを盾の代わりにして、安全にもう一基を叩き落としました!」
観客「おおおおお!!」
一夏「(『白式』は常に片手が空いている。そして、あの誘導兵器によるダメージも低い。だったら、真正面から捉えてより多くを打ち払う!)」
箒「この勝負、ようやく一夏にも勝機が見えてきたが、こんなにも一夏がISを使えただなんて…………」
千冬「(一夏は確かに正規の訓練を受けていない。そういう意味ではド素人)」
千冬「(だが、私の“師匠”の許で過ごしたのだ)」
千冬「(どうやら、私以上に“師匠”の教えを受け継いだらしい。さすがです、“師匠”)」
千冬「(それに、成熟せざるを得なかったという事情もあったが、)」
千冬「(弟の空間認識能力は並みのISドライバーを遥かに超えている)」
千冬「(素人と高をくくって油断していればこうもなろう)」
18: 2013/07/26(金) 23:28:24.18 ID:RSWVhOEU0
一夏「残り1基だ」
一夏「(さて、やはり外見通りの板切れだけに装甲はアレだったな)」
一夏「(あれをセシリアさんが操っているとしたら、残しておいたほうが集中力を分散させられるかもしれない)」
セシリア「くっ、『ブルー・ティアーズ』を撃ち落としたぐらいで調子に乗らないでくださる?」
セシリア「まだこちらは無傷でしてよ!」
一夏「(あのライフルは直接スコープを覗かないと照準が付けられない!)」
一夏「(そして、砲身も巨大でかつ曲がるビームを撃つわけじゃないから見ただけで射線がわかる!)」
一夏「よし!」ヒュンヒュン
セシリア「くぅ、どうしてこうも当たらないのですか!」
箒「…………すごい」
千冬「(おそらく弟はアラートの警告音なしに直接相手の微かな挙動だけで攻撃を見切っていることだろう)」
千冬「(肉眼では追えない銃弾を撃たれてから回避するのは困難)」
千冬「(事前に射線から避けるのならば確実だが、これも困難)」
千冬「(だが、弟はそれをやってのける)」
千冬「(『白騎士』時代の私と一緒にISの運用法を追究した“師匠”の許での修行の成果は絶大だな)」
箒「凄い! 距離を詰められたぞ!」
一夏「そこだ!」
セシリア「と、思いましたか? 『ブルー・ティアーズ』は4基だけではありませんわ!」(震え声)
一夏「――――――これは!?」
一夏「(あっちから向かってくる!? 2基のミサイル!? 回避しきれない!?)
箒「一夏あああああ!」
爆発音と煙幕が場を覆う。固唾を呑んで見守る観衆。勝ち誇るセシリア。だが、
一夏「うおおおおおおおおおおお!!」
セシリア「――――真下から!?(な、何ですの!? この加速は――――――?!)」
観衆「おおおおおおお!」
それは煙幕の中をISを解除して自由落下し、そこから再展開して一気に相手の虚を突く
Vの字マニューバによる神速の一撃だった。
ほんの一瞬、まさしく一瞬の出来事だった。
その時、一夏の機体の形状が変化していたことはあまり注目されていなかった。
セシリア「シールドバリアーが貫かれ――――――!」
セシリアは自分の認識を超えた速度で一夏の鬼気迫る面が迫り、
原始的なものに駆られて反射的に身を縮めこんでしまうのであった。
『ブルー・ティアーズ』のシールドバリアーを貫いて『白式』の剣:雪片弐型が展開した光の刃を以ってセシリアに迫る。
だが、この時、一夏は恐るべき幻影を目にする。
19: 2013/07/26(金) 23:30:36.39 ID:RSWVhOEU0
一夏が土壇場になって『白式』が一夏と「最適化」したことで
『白式』唯一の武器である剣:雪片弐型の単一仕様能力『零落白夜』が発動した。
その効果は自身のシールドエネルギーと引き換えに、
相手のシールドバリアーを斬り裂き、直接相手に打撃を与えられるというものだった。
しかし、ここで思い出して欲しいことがある。
一夏『ISには絶対防御とシールドバリアーの二重の安全対策が施されているんですよね?』
箒『それは基本中の基本だぞ、一夏? どちらもシールドエネルギーで作用する』
ISの安全対策である絶対防御とシールドバリアーはどちらもシールドエネルギーでまかなわれており、
特に絶対防御の存在によってISは量子化武装の存在を除いても世界最強の兵器の座を獲得している。
絶対防御とは簡単に言えば、シールドエネルギーを物体にまとわせてを物体を剛体化させるものである。
つまり、通常ならば人間などただの肉塊と化すような圧力を耐え切るほどの頑強さを付与するのだ。
さすがに運動エネルギーを完全に受けきることはできず、直撃を受ければ慣性で吹き飛ばされるが、
それでも形が崩れることも内部組織が破裂することもなく、
更に外部のシールドバリアーによって元々の衝撃も緩和されている。
――――――これがISの“強さ”である。
しかし、この『零落白夜』はシールドエネルギーを根こそぎ奪い尽くし、
ISの安全神話を根底から破壊し尽くしてしまえる究極の兵装なのだ。
ISどころか地球上に存在するあらゆるものを一刀両断できるほどの…………
一夏自身は『白式』は戦術的には最弱クラスの機体と卑下しているが、
攻撃翌力だけ見ればこの単一仕様能力によって唯一無双の最強の攻撃手段を持っており、
『白式』はただの最弱を超えて、ハイリスクハイリターンを体現したような機体特性となった。
そして、この剣:雪片弐型自体も人間よりも遥かに頑丈なISの装備を一刀両断出来るだけの斬れ味を誇る。
――――――その性能を一夏はよく知っていた。
20: 2013/07/26(金) 23:33:06.78 ID:RSWVhOEU0
そう、この時――――――、
一夏には振りぬいた雪片弐型から出た光の刃が、
セシリアを上と下にと斬り捨てるおぞましい瞬間が見えたのだ。
一夏「ああああああああああ!!」
セシリア「きゃああああ!」
アナウンス「試合終了、勝者、セシリア・オルコット!」
観衆「――――――?」
箒「どういうことだ、明らかに一夏が圧していたではないか!?」
山田「織斑先生!」
千冬「はあはあ、あと一瞬遅かったら織斑とオルコットは…………」
セシリア「どうして、私は勝て――――――いえ、どうして、あなたは、」
セシリア「泣いているのですか」
一夏「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」ポタポタ
セシリア「あ、あの、え、いったいどういうことですの?」
セシリアは一瞬前までに自分を怯えさせた一夏の涙の意味がわからなかった。
またセシリアはうっすらと自分も涙を零していたことに気づいていなかった。
しかし、セシリアはあの一瞬、目を瞑ってしまったのでわからなかったが、首筋には…………
21: 2013/07/26(金) 23:35:16.73 ID:RSWVhOEU0
――――――同日、夕方。
セシリア「あの、織斑さんはどうしていますか?」
千冬「…………重傷だ」
箒「いったいどういうことですか?」
千冬「率直に言おう。私も迂闊だった」
千冬「織斑の『白式』の単一仕様能力『零落白夜』はISの絶対防御を貫通する能力があった……」
セシリア「………………!?」
箒「………………!?」
千冬「つまり、試合中に危うく殺人事件が起きそうになったということだ」
千冬「織斑は元々『零落白夜』の特性を知っていて使用を控えていたが、
千冬「運悪く「最適化」してあの時は必氏だったからそれに気づくこともできなかった」
千冬「最後の一撃は『零落白夜』を前提としなかった攻撃だったから、あれほど踏み込んだ攻撃になった」
箒「……織斑先生」
千冬「すまない! セシリア・オルコット!」
セシリア「せ、先生!?」
千冬「私はこの試合、勝つのは弟だと期待していた」
千冬「私に成長した姿を披露してくれるものだと舞い上がっていた!」
千冬「最初から弟が勝つと決めつけていた!」
千冬「私は教師という領分を超えて弟を贔屓目に見た!」
千冬「その結果、オルコットを危険に晒し、大切な弟に心の傷を負わせてしまった!」
千冬「――――――教師失格だ!」
千冬「すまない、すまない!」
セシリア「あ、あの私はこうして何ともありませんから、どうかお気になさらず」
セシリア「私も織斑さんの言う通り、代表候補生としての品性と英国人としての礼儀を失していました」
セシリア「あの、事の元凶である私が言うのは図々しいかもしれませんが、織斑さんの事を任せていただけませんか?」
千冬「すまない、オルコット。そうしてやってくれ」
千冬「あの子は独りであることに何よりも怖れる。きっと人の手の温もりを求めて悶えていることだろう」
千冬「私はこの通り、手がずっと震えてかけるべき言葉も喉から出せない」ブルブル
箒「私も……!」
千冬「すまないが、篠ノ之。ひとまずは当事者に任せてはくれないか。その後で、協力して弟の面倒を頼む…………」
箒「わかりました」
セシリア「箒さん。こんな私ですが、どうかその時は……」
箒「ああ、わかった。任せておけ」
千冬「…………本当にすまない」
22: 2013/07/26(金) 23:36:28.42 ID:RSWVhOEU0
セシリア「あの、お邪魔します。織斑さん?」
一夏「ブツブツブツブツ」
セシリア「布団にくるまって塞ぎこんでいますわね」
セシリア「あの、織斑さん?」バサッ
一夏「俺ガ斬ッタ、俺ガ斬ッタ、俺ガ斬ッタ、俺ガ斬ッタ、俺ガ斬ッタ」ガタガタ
一夏「お姉ちゃん、“じィちゃん”、ミンナゴメン、ゴメンナサイ!」ガタガタ
一夏「セシリアサン、ゴメンナサイ! ゴメンナサイ! ゴメンナサイ!」ガタガタ
セシリア「あの、織斑さん!」
一夏「ハハ、何ダカセシリアサンノ凛ト透キ通ッタ声ガ聞コエテクル」
一夏「キット俺ハモウダメダ…………当然ノ報イサ…………アンナコトヲシチャッタンダカラサ」
セシリア「………………!」パンッ
一夏「ム?」
セシリア「織斑さん! よく見てください、セシリア・オルコットはここにいますわ!」
一夏「オカシイ。コレガ氏後ノ世界ッテヤツナノカナ。薄暗クテヨク見エナイケド、セシリアサンラシキ人ガイル」
セシリア「――――――っ!」ヘヤノアカリヲツケル
セシリア「これで大丈夫でしょう。ちゃんと見てください」
セシリア「――――――いえ、感じてください!」ガッ
一夏「(あ、すごくすべすべな手だ。お姉ちゃんや箒ちゃんとは違った手触り……)」
一夏「(あれ、何だろう? すごく柔らかいものが頭に触れている。何だか奇妙な感じだけど、すごく安らぐ)」
23: 2013/07/26(金) 23:40:34.54 ID:RSWVhOEU0
セシリア「織斑さん――――いえ、一夏さん、よく聞いてください」
セシリア「実は私は、最初に一夏さんを一目見た時から惹かれていたかもしれません」
セシリア「今まで接してきたどの男性とも違った力強い何かを感じたからなんです」
セシリア「でも、それを私は愚かにも気の迷いだと思いました。話してみてつまらない人だと決めつけてしまって」
セシリア「でもそれは、私自身が目を曇らせていたからそういう風にしか捉えられなかったんですね……」
セシリア「一夏さんは私に臆することなく常に毅然として、私を気遣い、それでいて」
セシリア「私が気づかないうちに背追い込んでいたものの正体を見破ってくださいました」
セシリア「そうです。私にとっては自分以外の誰もが敵にしか見えませんでした」
セシリア「両親の遺産を守るために必氏になってから、ずっと味方なんていないと思い込んでいました」
セシリア「IS学園にいる私と同い年の子たちも、私を脅かす存在だとばかり…………」
セシリア「でも、一夏さんはそうじゃないことを教えてくださいました」
セシリア「私、一夏さんにずっと悪口ばかりしか言ってませんでしたよね」
セシリア「ですから、お願い、一夏さん」
セシリア「――――――ごめんなさい!」
セシリア「あなたの優しさに気付かずに、一方的に嫌って」
セシリア「こんな自分でも怖いと思う私にあなたは綺麗だって言ってくれたのに……」
セシリア「私の目を見て言ってくれたのは一夏さんが初めてだったというのに!」
セシリア「私は一夏さんの優しさでこうして生き永らえたのに……」
セシリア「こんな私なんかのために優しいあなたが潰れるなんてイヤ!」
24: 2013/07/26(金) 23:42:05.29 ID:RSWVhOEU0
セシリア「お願い、一夏さん! 私は一夏さんを憎んでいません」
セシリア「許しを請うならばそぐに許すって言ってあげますから!」
セシリア「だから、だから…………」ポタポタ
一夏「…………いいの?」
セシリア「…………え?」
それは恐ろしく縋るように甘えた声だった。
そこにはあの一瞬でセシリアを縮こませたような恐ろしい何かは感じられなかった。
セシリアは感じた。この純真さこそが織斑一夏の本質なのだと。
身体は大人でも心はいい意味で子供っぽく、しかし、それでいて毅然としていて……
なら、この子をあやすのに必要なものは――――――
一夏「俺、思い上がってた、ばかりに、セシリアさんを、頃してしまいそうだった」
一夏「いや、カッとなって、つい、反射的に頃しそうになった……」
セシリア「そ、それはただの事故ですわ」
一夏「…………怖かった、よね? そんなはず、ないよね?」
セシリア「それは、確かに…………」
一夏「なのに、どうしてそんな簡単に、許すって言えるの?」
一夏「だって、その首筋の……」
セシリア「それは、その…………」
一夏「………………」
セシリア「ああもう、一夏さんのバカアアアアアア!」ポカポカ
一夏「っ!?」
セシリア「一夏さんは私の苦しみを取り払ってくださいましたよね?」
一夏「具体的なことは何も…………」
セシリア「私はそれで今凄く気分が楽になっているんです! 一夏さんの言葉で私は救われたんです」
セシリア「じゃあ、私は私の言葉であなたの苦しみを救いたいんです! ダメですか!」
一夏「………………」
一夏「………………」
一夏「………………」ポロポロ
一夏「ねえ」
セシリア「一夏さん!?」
一夏「もう少しこのままでいい、セシリアさん?」
セシリア「…………はい。一夏さん」クスッ
セシリア「私へのお礼は明日までにいつもの一夏さんに戻ること」
セシリア「わかりましたか?」
一夏「ありがとう。ありがとう…………」
セシリア「…………一夏さん」
箒「……少し歯痒いものを感じるが、今はセシリアに任せるか」
25: 2013/07/26(金) 23:47:40.50 ID:RSWVhOEU0
2話 クラス対抗戦 凰鈴音
Strange Journey
女子「ねえ、織斑くんがクラス代表になってからセシリア、なんか近くない?」
女子「二人で織斑先生のところに行って何か謝りに行ったって言うよ」
女子「今のところ、セシリアが一番近いのかもね」ワイワイガヤガヤ
箒「………………」
箒「…………ふ、たとえセシリアに今はリードされていても相部屋の私に氏角はない」
――――――
一夏『何だか凄く懐かしい……』
箒『そ、そうか(新品よりもお古の着物のほうが一夏には覿面)』
一夏『よかった。箒ちゃんと相部屋で。“一人よりも二人”だけど、箒ちゃんと一緒だったら少しも寂しくない』
箒『ふふふ、そうかそうか///』
一夏『俺にとっては何もかもが変わりすぎてついていける自信がなかったけど、』
一夏『箒ちゃんと一緒ならやっていける気がしてきているよ』
一夏『明日も、これからも、よろしくね、箒ちゃん』
箒『ああ、任された』
――――――
箒「(だいぶ昔の感じに戻ってきたし、一夏は毎日に私に甘えに…………!)」
女子「そろそろクラス対抗戦だね」
女子「織斑くんも最近の調子はどう?」
一夏「はい、絶好調ですよ。今日も箒ちゃんとセシリアさんのおかげで」
箒「ふふ」
セシリア「嬉しいですわ」
一夏「でも、やっぱり『白式』じゃ優勝は難しいです」
Strange Journey
女子「ねえ、織斑くんがクラス代表になってからセシリア、なんか近くない?」
女子「二人で織斑先生のところに行って何か謝りに行ったって言うよ」
女子「今のところ、セシリアが一番近いのかもね」ワイワイガヤガヤ
箒「………………」
箒「…………ふ、たとえセシリアに今はリードされていても相部屋の私に氏角はない」
――――――
一夏『何だか凄く懐かしい……』
箒『そ、そうか(新品よりもお古の着物のほうが一夏には覿面)』
一夏『よかった。箒ちゃんと相部屋で。“一人よりも二人”だけど、箒ちゃんと一緒だったら少しも寂しくない』
箒『ふふふ、そうかそうか///』
一夏『俺にとっては何もかもが変わりすぎてついていける自信がなかったけど、』
一夏『箒ちゃんと一緒ならやっていける気がしてきているよ』
一夏『明日も、これからも、よろしくね、箒ちゃん』
箒『ああ、任された』
――――――
箒「(だいぶ昔の感じに戻ってきたし、一夏は毎日に私に甘えに…………!)」
女子「そろそろクラス対抗戦だね」
女子「織斑くんも最近の調子はどう?」
一夏「はい、絶好調ですよ。今日も箒ちゃんとセシリアさんのおかげで」
箒「ふふ」
セシリア「嬉しいですわ」
一夏「でも、やっぱり『白式』じゃ優勝は難しいです」
26: 2013/07/26(金) 23:49:51.41 ID:RSWVhOEU0
一夏「セシリアさんの『ブルー・ティアーズ』のような誘導兵器を搭載できれば、」
一夏「剣1つしかない『白式』でも必勝法が編み出せるのですが……」
一夏「後付装備ができないという欠陥仕様でどうしようも…………」
女子「でもでも、ISドライバーとしての技量はあの織斑先生に匹敵するかもしれないんでしょ」
女子「そうだよ。専用機持ちはここと4組しかいないから、最低でも準優勝は確実じゃない」
女子「そうだよ! 最低じゃなかったら、優勝間違いなし!」
鈴「その情報、古いよ!」
鈴「2組も専用気持ちが代表になったの。そう簡単に優勝できないわよ」
一同「――――――!」
鈴「中国代表候補生、凰鈴音よ。今日は宣戦布告にやってきたってわけ、一夏!」
一夏「………………」
一同「………………」
鈴「……あれ?」
箒「お前宛てじゃないのか、あの子は?」
一夏「ごめん、覚えてない」
鈴「なんでよ!」
27: 2013/07/26(金) 23:50:53.72 ID:RSWVhOEU0
鈴「――――――っ! ああ、そっか、はいコレ」
一夏「弁当箱? くれるの!?」
箒「むむむ!」
セシリア「何ですの、あの方は? 一夏さんにこうも図々しく」
一夏「いただきます! ――――――あ」
鈴「どう、思い出した?」
一夏「うん。久しいね、鈴ちゃん」
鈴「へへへ」
一夏「ねえ……脂っこいの俺嫌いなのわかってるよね?」
一夏「こぼした時ベタベタして嫌で嫌でしかたないのに」
一夏「せっかく会えたっていうのに酢豚を選ぶあたり、何も変わっていないんだね」
鈴「ふふ、まあね」
鈴「でもね、一夏。私の髪型を見て思う所あるんじゃない?」
一夏「あ!?」
箒「………………!?」
一夏「変わったんだね。すごく可愛らしいよ」
一夏「ああ、だからか。だから、気づかなかったのか」
鈴「えへへ」
セシリア「ええええええええ!?」
周囲「ええええええええ!?」
28: 2013/07/26(金) 23:53:47.49 ID:RSWVhOEU0
箒「一夏、説明してもらおうか」
セシリア「そうですわ、一夏さん。この人は一夏さんの何なのです?」
一夏「えっと、その……」
周囲「織斑くんがつい砕けた口調で話すぐらいの相手……」ゴクリ
一夏「鈴ちゃんはね、私の大切な友人なんですよ」
セシリア「そ、それは、ど、どれくらい……?」
一夏「そうですね。“じィちゃん”と一緒に旅をしていた時の思い出の欠片くらい――――――って、あれ~?」
箒「ほ……(何だその程度か)」
セシリア「(勝ちましたわね)」
一夏「ねえ、どうしてドヤ顔しているんですか?」
鈴「一夏~!」(哀しみ)
一夏「おかしいです。ベタベタする料理――――私が中華料理を毛嫌いするまでになった重要な人物なのに、
一夏「こんな扱いはおかしいです!」
鈴「一夏~!」(怒り)ベシッ
一夏「あいたっ」
一夏「え、なんで怒っているの? 俺にとってはすごく重要なんだけど」
鈴「ああもう、どうしていつも一夏は…………」
一夏「あの、ごめんなさい」
鈴「いいわよ。でも、思い出さない? こんなやり取り」
一夏「そうだね。よく喧嘩ばかりしていたね」
一夏「確か、『そんなにベタベタを拭くのが嫌だったら私が一生拭いてあげる』って言って、」
一夏「無理やり食べさせられたっけか。それでもって、“じィちゃん”と鈴のお爺ちゃんによく笑われていたっけ」
鈴「そうね」
箒「(あれ、意外とこれは――――――)」
セシリア「(――――――油断ならない間柄!?)」
周囲「おおおおお!」
一夏「ああ、そうだ。俺、」
一夏「“じィちゃん”が亡くなったからおn……織斑先生の所に引き取られてこの学園に通うことになったんだ」
鈴「そうだったんだ。私はてっきり一夏が――――――じゃなくて、それは私の方も似たような感じよ」
一夏「そうか、そうなんだ」
箒「………………」
29: 2013/07/26(金) 23:55:14.18 ID:RSWVhOEU0
――――――同日、夜中
箒「なあ、一夏」ヒザマクラ ミミカキ
一夏「……何?」
箒「お前の、その、“師匠”と一緒の旅ってどんなものだったんだろうって」
一夏「…………知らないほうがいい」
箒「…………一夏!?」
一夏「言えることは、箒ちゃんと同じ、――――――IS産業の暗黒面から逃げる旅」
箒「……そうか」
箒「じゃあ、あの鈴という子はそのことは……」
一夏「たぶん知らないと思う」
箒「なあ、一夏。一夏はこのままISドライバーとしての道を進むのか?」
一夏「わからない。ただ……」
箒「ただ?」
一夏「ISドライバーの道を選ぶなら、武器なんか捨てて、本来の用途だった宇宙進出の道がいい」
一夏「“じィちゃん”は若い時の宇宙への興奮を俺に教えてくれた」
一夏「俺は“じィちゃん”の時代には叶わなかった、誰もが宇宙から地球を眺め、その美しさを讃える世の中を創りたい――――――ってね」
箒「そうか」
一夏「まあ、今まで深く考えたことなかったから、ただの思いつきだけど」
箒「一夏は昔からそうだったな。そういうところはずっと――――――」
ピンポーン
一夏「…………ん」
箒「すまない一夏。私が出るからそのままゆっくり、」
――――――おやすみなさい
一夏「うん……おやすみ」
一夏「スゥ」
30: 2013/07/26(金) 23:56:18.86 ID:RSWVhOEU0
箒「ふふふ、いつもは冴えないのにここぞという時にかっこよくなるのだから」
箒「さて(誰だ、一夏との時間を邪魔するのは)」ガチャ
鈴「あれ、一夏の部屋ってここじゃなかったっけ?」
箒「お引取りください」
鈴「何よ! ここが一夏の部屋かって訊いているだけじゃない」
箒「一夏なら今寝かしつけたばかりだ。用があるなら明日出向けばいい」
鈴「“寝かしつけた”って何? あんたは一夏の何なの?」
箒「私は織斑先生から一夏の面倒を正式に頼まれたからここにいる」
鈴「信じられない」
箒「そう言うのは勝手だがな」
鈴「ムキー」
箒「フッ」
千冬「おい、お前ら!」
箒「はっ」
鈴「あ、織斑先生」
千冬「もう消灯時間はとっくに過ぎているぞ! 織斑の関係者が増えたと聞いて網を張っていればこれだ」
千冬「おい、篠ノ之。そろそろお前も部屋を移ってもらうからな」
箒「え、それは……」
千冬「何か勘違いをしているようだが、部屋の都合がつくまでが期限だと言ったはずだがな」
千冬「普通なら男女が同じ部屋で寝泊まりするなど言語道断だ」
千冬「それにお前だから任せられただけであって、お前がその信頼を裏切るならそれまでの話だ」
箒「……わかりました」
千冬「凰も、問題行動を起こそうものなら、即刻退学してもらう」
鈴「わかりましたよ、織斑先生」
千冬「まったく、これだから……(しかし、一夏としてはこれは耐え難い苦痛になるだろうな)」
千冬「(だが、何とか克服してもらわねばならん。これが姉としてのできる限りの心配りだ)」
31: 2013/07/26(金) 23:57:30.29 ID:RSWVhOEU0
一夏「お姉ちゃんから、箒ちゃんが引っ越すことが言い渡された」
千冬『いいか、一夏。お前もいずれは独り立ちすることになるだろう』
千冬『その時、常に誰かと一緒にいるということはないだろう』
千冬『お前がいつまでも寂しがり屋じゃ、保護者として、姉として、心配で心配でしかたないのだ』
千冬『だから、消灯時間まで誰かを部屋に誘ってもいいから、消灯時間までには寝ろ』
千冬『――――――以上だ』
一夏「俺は学園に入る前にお姉ちゃんの前で誓ったんだ」
一夏「お姉ちゃんと“じィちゃん”の正しさを守るって。だから、俺も強くならないと」
32: 2013/07/26(金) 23:58:45.17 ID:RSWVhOEU0
――――――クラス対抗戦、当日
箒「一夏、ついにこの日が来た。クラス対抗戦の日が」
一夏「初戦から鈴ちゃんとやりあうのか。まあ顔見知りだろうと関係ないけど」
セシリア「……あの一夏さん」
一夏「大丈夫だよ、セシリアさん。あの時みたいなミスはもう起こさない」
一夏「気楽に自分がどこまでやれるのか試すだけさ」
一夏「だから、セシリアさんは俺の勝ち負けなんか気にしないで、」
一夏「無事に試合が終わるのだけ見守ってくれていればいいから」
セシリア「一夏さん」
箒「一夏」
一夏「箒ちゃんには本当に助けられてきた。本当に今までありがとう」
一夏「箒ちゃんが引っ越してからは結構クるものがあったけど、」
一夏「でっかいテディベアの差し入れ、ありがとう! 本当に助かった!」
箒「ここまでしたのだから、ベストを尽くせよ」
一夏「よし、それじゃあ行ってくる!」
33: 2013/07/27(土) 00:01:13.80 ID:sm8a3fLu0
鈴「こうやってヒーローと同じ戦場に立つなんて夢を見ているみたい」
鈴「それが共闘関係だったら最高だったんだけど」
鈴「覚悟はいい、一夏! 私を幻滅させないでよね!」
一夏「だったら、俺はその期待に応えてやる!」
一夏「天国の二人に恥じない戦いを!」
一夏「そして、おn……織斑先生に俺の全力を見せてやるんだ!」
アナウンス「試合開始!」
一夏「(とにかく俺の機体は剣しかないどうしようもない代物だ)」
一夏「(現代兵器であるISに飛び道具を載せないなんて馬鹿げた設計の機体が『白式』以外に存在するはずがない)」
一夏「(となれば、鈴ちゃんの機体『甲龍』には必ず飛び道具があるはず。それがどれほどの性能かで決まる!)」
一夏「くっ!」ガキーン
鈴「どうしたの、一夏? 鍔迫り合いするまでもなく圧されているようだけど?」
一夏「(まずい! 重量差が半端じゃない! 下手をしたら唯一の武器である雪片弐型が弾き飛ばされて、)」
一夏「(――――――ものすごくカッコ悪い!)」
一夏「(そんなの誰も望まない結末だ!)」
一夏「なら――――――!」
鈴「剣しか武器がないことで有名なのに、どうして距離を取ろうとしているのかわからないけど――――――!」
一夏「(――――――何だ!?)」
一夏「(――――――ちい、ままなれよ!)」ヒュン
鈴「やっぱり一筋縄じゃいかないか」
一夏「(砲身が見えない!? セシリアさんの『ブルー・ティアーズ』といい、)」
一夏「(第3世代型ISは本当に未来技術の結晶なんだな…………)」)」
一夏「(想像もつかないような兵器がこれからもどんどん出てくるんだろうな。なんだかワクワクしてきたあ)」
34: 2013/07/27(土) 00:04:08.71 ID:sm8a3fLu0
一夏「スゴイスゴイ」ヒョイヒョイ
セシリア「私の時と同じく、相手の露出した表情や挙動から相手の狙いがどこにあるかを見切っているのですわ」
セシリア「さすがですわ」
セシリア「そして、いつ見ても、予測射撃を裏を行く変幻自在の軌道は素晴らしいものですわね」
箒「普通いきなり、何もないと思ったところから撃たれたら対応できるはずがないのに、さすがの一言だな一夏」
箒「(こうして見る度に、IS適性の低い私とあそこで華麗に空を舞う一夏との差を思い知らされる)」
箒「(私は一夏の支えに、いや足手まといにならずにすむのだろうか?)」
鈴「はあ、やっぱあんた相手じゃ見えない、射角も自由の衝撃砲『龍咆』も当たらないか」
鈴「『ブルー・ティアーズ』との戦いを見ておいたからこうなるんじゃないかってわかってたけど」
鈴「でも、得意のインファイト――――というか、インファイトしか手段がないのに、」
鈴「この『双天牙月』2つの青龍刀の前では太刀打ちできないのをわかっていて、まだ距離を取るつもりなの?」
千冬「織斑はアレを使う気だな」
山田「アレとは?」
千冬「オルコットもよく見ておけ。お前の時にも咄嗟に使っていた」
千冬「アレは私が剣一つで世界大会『モンド・グロッソ』を完全制覇するのに一役買った、
千冬「雪片の特性を最大限活かした戦術――――――」
一夏「(よし、距離は掴めた。いくぞ、これが別に初めてじゃない!)」
一夏「(だけど、「最適化」されていないからどこまでやれるかわからないけど……)」
一夏「(正攻法で勝てず、搦め手が使えないなら、)」
一夏「(最後に残された手段は『特攻』するしかないじゃない!)」
一夏「鈴ちゃん!」
鈴「何よ!」
一夏「全力だぞ!」
鈴「来なさい!」
一夏「(いくぞ、これが『白式』と同系統の雪片しか持っていなかった『暮桜』を駆る、)」
一夏「(“ブリュンヒルデ”が世界を完全制覇した、至高の戦術――――――!)」
一夏「イグニッションブーストだああ!」
鈴「来た! って、速すぎる!?」
35: 2013/07/27(土) 00:06:43.95 ID:sm8a3fLu0
一夏「(――――――やばっ! 目で追うのが精一杯。頭で情景を繋いで状況を把握するのもいっぱいっぱい!)」
一夏「(俺の集中力が切れたらそれで試合終了だあああああああ!)」
箒「な、何という高速移動だ! あのスピードじゃ、とてもじゃないが並みの機体じゃ対応しきれない!」
セシリア「優勝できないと言いましたけれど、歴然とした力量の差がありますわ!」
鈴「な、何なのよ! こんなことができたなんて――――――え!?」
一夏「(でも、“じィちゃん”。空を飛ぶって気持ちいいことだよね)」
一夏「(“じィちゃん”にとって空は夕陽をB29爆撃機が覆い尽くすような怖い怖いものだって言ってたけど、)」
一夏「(今はこうやって戦闘機の代わりにISというパワードスーツが空を飛ぶ時代になったよね)」
一夏「(“じィちゃん”。でも、今の俺だったら感じられるよ! はっきりと!)」
山田「織斑先生! 織斑くんが目を開けていません!」
山田「もしかして「最適化」が進んでいなかったせいであまりの加速に目が――――――!」
千冬「いや、違う。よく動きを見ろ。本当に失明しているのだったら、あそこまで正確に追い回すことはできない」
セシリア「それじゃ織斑先生、一夏さんは本当に相手を見ずに?」
千冬「ああ、目で追わずとも相手の位置がわかっているんだ」
千冬「高度の高速戦闘においては瞬きすら厳禁の世界だ」
千冬「信じられるもの――――自分の勘と計器や周囲の景色の情報から、自分が戦場でいったいどんな状態にあるのか」
千冬「それを想像しながら戦いにフィードバックしていくのだ」
千冬「言うなれば、プロのチェス選手と同じく何手も先の状況を想定し、あらゆる状況に対応するといった感じだ」
千冬「ただ織斑の場合は、このアリーナの狭い空間程度なら見ないで全てを把握できているようだが」
千冬「しかし、それは同時に自分との過酷な戦いでもある」
千冬「一度自分を見失えば、後はない」
36: 2013/07/27(土) 00:07:36.64 ID:sm8a3fLu0
箒「すごいぞ一夏! あっという間に鈴の機体を捉える!」
セシリア「まさしく、――――――チェックメイト、ですわ」
山田「――――――!? 織斑先生、アリーナの真上から謎の高エネルギー反応の報告が!」
千冬「何! 織斑、凰、試合中止だ! 退避しろ!」
セシリア「何ですって!」
箒「一夏!」
37: 2013/07/27(土) 00:09:36.60 ID:sm8a3fLu0
一夏「な、何だ!? 速攻でカタがつくと思ったのに……(危うくセシリアさんの時のことを思い出してしまった)」
一夏「(何だってこんなタイミングに……)」ブルブル
鈴「ねえ、一夏、あれ!」
一夏「アリーナのバリアーを破るなんてとんでもない出力だぞ!」
一夏「えっと、そういうのって確か…………拠点攻撃翌用、つまり戦略級、って言うんじゃなかった?」
鈴「戦略級……IS程度のシールドエネルギーじゃあっという間に蒸発しちゃうじゃない!」
一夏「く、アリーナの観客の避難はまだ…………」
一夏「鈴ちゃん、なるべく観客席に向けられないようにバラバラに回りこむんだ!」
一夏「互いにシールドエネルギーが満タン近く残っているとはいえ、無茶は禁物だ」
鈴「さっすが一夏! それぐらい頼りにならないと私がIS乗りになった意味が無いじゃない!」
一夏「おいおい、遊びじゃないんだぞ」
鈴「いたって真剣よ。でも、こうやって憧れの人と一緒に並び立つのって何だかワクワクするじゃない」
鈴「それに――――――」
鈴「こういう時は“一人よりも二人”じゃない!」
一夏「……初めて会った時と随分変わったね。すごくイキイキしている」
鈴「へへ、一夏が教えてくれたからでしょ。“自分らしく”って」
一夏「ごめん、覚えてない。酢豚の衝撃のほうが酷かったから」
鈴「もう、台無し! せっかくこの髪型だって一夏が褒めてくれたから――――――」
鈴「あ、一夏! 爆煙が晴れてきたわよ!」
一夏「あれは………………!」ワナワナ
鈴「ど、どうしたの一夏。そんなにこ、怖い顔をして!」
――――――ユルサナイッ!!
鈴「」ビクッ
38: 2013/07/27(土) 00:10:47.24 ID:sm8a3fLu0
一夏「……織斑先生、あのISからの応答はありましたか」
千冬「…………どうした、織斑?(声が強ばって……?)」
一夏「応答はあったんですか、無かったんですか!」
千冬「――――――! いや、応答には一切応じなかった」
セシリア「い、一夏さん……?」
箒「あ、あんなにも語気を荒げる一夏は初めてだ」
一夏「じゃあ、緊急事態に展開する制圧部隊の出撃状況と、アリーナの避難状況は?」
山田「今のところ――――――」
一夏「5分」
山田「え?」
一夏「5分で救援が間に合わないなら、奴の狙いは俺のようだから俺が奴を無力化しておきます」
セシリア「一夏さん、それは無謀ですわ!」
一夏「こんな狭いアリーナじゃ被害が大きくなるばかりだ。だったら、太陽を背に広大な戦場で戦いを挑むほかない!」
一夏「エネルギーも満タン近くあります」
箒「落ち着け、一夏!」
千冬「よし、行け!」
山田「織斑先生!?」
千冬「ただし、援軍は期待できない。奴が強力なジャミングを行なっているらしく、アリーナが実質的に牢獄状態だ」
千冬「私たちも制圧部隊も観客も閉じ込められている有り様だ」
千冬「今度こそ決めてこい。ただし、お前からの成功の報告しか受け取らん」
一夏「ありがとうございます」
一夏「こっちだ! ついてこい!」
鈴「待ちなさいよ、一夏!」
箒「私はただ見ていることしかできないのか…………」
千冬「それどころかアリーナ上空に戦場を移すつもりだから、ここのカメラで追跡することできない」
箒「く、一夏……!」
40: 2013/07/27(土) 00:12:23.73 ID:sm8a3fLu0
一夏「(許せないんだ許せないんだ許せないんだ許せないんだ)」ゴゴゴゴゴ
鈴「いけない! 一夏が完全に冷静じゃない!」
鈴「あの一夏をここまで怒り心頭させるなんて、あのISといったいどんな因縁があったっていうのよ!」
鈴「……すごい。私にやろうとしたアレって傍から見るとあんな感じ……!」
鈴「でも、明らかに無理をしているってわかるほどに技の乱れが……!」
一夏「(あんただけは、あんただけでも、あんたはここで墜とす!)」
鈴「今は一人で圧倒しているけれど、あの高速機動も光の剣も長くは続かないはず!」
鈴「所々でビームに当たっているし、攻撃も単調で隙だらけになっているのに、なんで攻撃の手を緩めないのよ!?」
鈴「しかも、あのISもあれだけの猛攻を徐々に見切ってきたって感じだし」
鈴「私が突っ込んでも邪魔にしかならない……」
鈴「一夏を助けたい。あの人の支えになりたい……!」
鈴「でも、『龍咆』の衝撃砲程度じゃ足止めにも…………そうか!」
鈴「一夏、受け取ってえええええええ!」
一夏「(……何かが飛んでくる!)」
鈴が咄嗟に閃いた行動とは、
2振りの青龍刀『双天牙月』は連結することで投擲武器になる。
それを『龍咆』で加速して射出すれば少しは勝機に繋がる。
と考え、実行したのだ。
41: 2013/07/27(土) 00:13:51.14 ID:sm8a3fLu0
一夏「(あの飛来物は鈴ちゃんからの贈り物か! 待っていた!)」
一夏は明らかに血色の悪い表情でありながら微かな笑みを浮かべた。
一夏は賭けに勝ったのだ。
完全に鈴を蚊帳の外に置いた戦闘という単調な状況を全力で作り出し、相手をパターンに嵌めたのである。
あるいは、相手の行動予測をいっぱいっぱいにまで追い詰めたのだ。
そこに想定以上の想定外の方法で射出された『双天牙月』が謎のISの行動に一瞬の隙を生んだのだ。
隙になるものだったら、何でも良かった。
だが、ここでの鈴の機転が一夏を救ったのだ。
高速戦闘における一瞬の隙は氏を招いた。
一夏「............!」
声にもならない声を上げて、しかもシールドエネルギーが少し足りなかったのでISを腕部だけ展開して、
イグニッションブーストの残された勢いのまま必殺の『零落白夜』を叩き込んだのだった。
機体は完全に一刀両断され、力を使い果たした一夏もまたイグニッションブーストの慣性に乗って地面に伏す――――――鈴には最悪の展開が垣間見えた。
鈴「一夏あああああああああああ!」
一夏「(やったよ、“じィちゃん”。仇は…………)」
一夏「(落ちていく感覚も何だか気持ちのいいものだね)」
一夏「(やっぱり人は地面の上に立っている方が似合う生き物だからかもしれないけど)」
一夏の意識はそこからはなくなっていた。
だが、次に目覚めた時、彼を迎えるものは決して“じィちゃん”ではなかったことは明記しておく。
42: 2013/07/27(土) 00:16:15.45 ID:sm8a3fLu0
――――――数日後
千冬「つまり、どういうことだ」
医師「それが、織斑くんは全身の内臓破裂や複雑骨折もなく九氏に一生を得てこうして安静となっていますが、」
医師「それでも全治数ヶ月、あるいは命に別条はなくても再起不能と判断できるほどの怪我が、
医師「ここ数日で回復の兆しを見せたんです」
山田「そんな奇跡のような話が……」
鈴「よかった……」
セシリア「本当ですわ」
箒「本当によかったですね、織斑先生!」
千冬「あ、ああ……」
千冬「だが、私はまた弟を危険な目に合わせてしまった!」
千冬「教師失格以前に肉親の愛情すら疑われる次元だ!」
箒「織斑先生、それは考え過ぎでは!」
千冬「おそらく、あのISのことを弟は知っている」
千冬「私でもあれだけのイグニッションブーストによる高速戦闘はしたことがない」
千冬「「最適化」もされていない『白式』でアレの再現は今後一切不可能だろう」
千冬「それだけ執念がこもった一戦だった」
千冬「誰に対しても温和な弟がここまで相手を追い詰めようとする相手となれば、」
千冬「“師匠”を殺害したというIS、あるいはその系列の機体しか私の思い当たる相手はいない」
一同「………………」
千冬「だからこそだ。私はまたしても弟を見誤ってこうして追い込んでしまった」
千冬「『弟ならできる』という公私入り混じった期待感と私の甘さがまた招いたことだ」
千冬「もし三度目があるならば、私はどうして弟に顔向けできよう」
鈴「織斑先生……」
43: 2013/07/27(土) 00:17:51.20 ID:sm8a3fLu0
一夏「なあ、鈴ちゃん。俺はどれくらい眠っていた?」
鈴「だいたい1週間ぐらい」
一夏「ダメだな、俺。守るって言って、またお姉ちゃんを心配させちゃった」ポロポロ
鈴「起きて早々それ? まったく、言うこと為すことが昔と変わらないじゃない」
一夏「そうだっけ? ごめん、覚えてない」
鈴「あんたのその言い回しにもいい加減慣れてきたわ」
鈴「ほら、その、あんたっていっつも織斑先生のことを思って泣いていたじゃん?」
一夏「それ話したっけ?」
鈴「そんなの、あんたの“師匠”とあんたの織斑先生を見る目を見ればわかるわよ、誰でも」
鈴「ほら、こんな風に泣いてばかりだったあんたの涙を拭いてあげたのも私だったんだからね」
一夏「……そう。よくそんな泣き虫、見捨てずにいたね。やっぱり鈴ちゃんって偉いよな」
鈴「昔は『女はでしゃばるな』って言われ続けてずっとそれが正しい生き方だと思ってたけど…………一夏のおかげよ」
鈴「――――――“自分らしい”自分になれたのも」
一夏「おr」
鈴「おっと、あんたは今は黙って聴いていればいいの。よく聴いていなさいよ!」
44: 2013/07/27(土) 00:19:27.86 ID:sm8a3fLu0
鈴「私にとってね、一夏はヒーローだったんだよ? 私にはできないことを全部できて、ずっと羨ましかった」
鈴「そしたら、ただ眺めていただけの私に一夏は手を差し伸べて引っ張ってくれた」
鈴「それから世界が変わった」
鈴「私との思い出があんたにとって欠片ほどの価値しかなかったって言われても、もうそれでいいって思えてきた」
鈴「だって、あんたは昔と全然変わらない、お人好しで泣き虫で強くて優しくて、」
鈴「私の記憶の中に居続ける最高のヒーローで在り続けたから」
一夏「………………」
鈴「だから、昔のことなんてもういいの」
鈴「せっかく同じ場所に居ることができるようになったんだから、」
鈴「これからも一夏は一夏らしく、私は私らしく、楽しい学園生活にしようね!」
一夏「ありがとう」
鈴「それで、も、もしも、もしもなんだけどさ」
一夏「?」
鈴「あんたが望むんだったら、あんたの涙も口についたものも私がずっとついて拭きとってあげるからね?」
一夏「いえ、あんかけ料理はもう嫌です。ベタベタするから」
鈴「何よ、一夏。こぼしたら私が代わりに拭いてあげればいいことでしょう」
鈴「お腹も空いていることでしょう! ほら、酢豚食べなさい、酢豚!」
一夏「脂っこくてベタベタするのやだー!」
鈴「じゃあ、何よ。100のソースがあるっていう美食大国フランスに喧嘩売ってんの?」
一夏「うん、大嫌い。フルコースなんて食べられたもんじゃないよ」
一夏「やっぱり俺に合うのは醤油と味噌しかない! “じィちゃん”も言ってた。和食がナンバーワンだって!」
鈴「じゃあ、一夏が美味しいって言ってくれる酢豚ができたら――――――」
一夏「もう酢豚から離れようね?」
鈴「さすがに怒ったわよ、一夏ああああああ!」
セシリア「ああ!? 鈴さん、抜け駆けは許しませんわよ!」
箒「そういう、セシリアだってそうだろう?」
一夏「…………そういえば、おね……織斑先生は?」
45: 2013/07/27(土) 00:20:50.77 ID:sm8a3fLu0
番外編 アウトドア派な一夏
一夏「ダメだ。今日も負けた」
箒「やはり飛び道具のない機体では勝ち目はないか」
セシリア「一夏さんの本領は競技レベルを超えた実戦レベルの高速戦闘ですからね」
鈴「でも、ガチでやりあったら間違いなく一夏が強いっていうのは周知の事実なのよね」
鈴「たぶん、三年の精鋭でも太刀打ちできないぐらいに」
鈴「だから、初戦であれだけ度肝を抜かれた私たちにあっさり負けるのはね……」
鈴「自分たちでやっておいて難だけど、心苦しいものが…………」
一夏「ダメだ。今日も負けた」
箒「やはり飛び道具のない機体では勝ち目はないか」
セシリア「一夏さんの本領は競技レベルを超えた実戦レベルの高速戦闘ですからね」
鈴「でも、ガチでやりあったら間違いなく一夏が強いっていうのは周知の事実なのよね」
鈴「たぶん、三年の精鋭でも太刀打ちできないぐらいに」
鈴「だから、初戦であれだけ度肝を抜かれた私たちにあっさり負けるのはね……」
鈴「自分たちでやっておいて難だけど、心苦しいものが…………」
46: 2013/07/27(土) 00:22:01.77 ID:sm8a3fLu0
一夏「“じィちゃん”の教えに間違いはないんだ」
一夏「その“じィちゃん”の教えを受けてお姉ちゃんは“ブリュンヒルデ”になれたんだから。『暮桜』と『白式』の性能差は問題じゃない」
一夏「要は俺の腕が悪いからなんだ。そうに違いないんだ。イグニッションブーストをもっと使いこなせれば、絶対に――――――!」
箒「待て、一夏。もうイグニッションブーストに頼るのは止めて違う面に目を向けたほうがいいんじゃないか? イグニッションブーストに固執して基本が疎かになってきているぞ」
一夏「例えば?」
箒「敵を知り己を知れば百戦危うからず」
一夏「なるほど、さすがだね、箒ちゃん」
セシリア「そうですわね。ISにも機体毎に運用目的や特徴が変わりますものね。それに違う武器を使ってみて相手の手の内を知るのもいいかもしれませんわ」
鈴「でも、ISって従来の兵器と違って、後付装備を量子化しているから、外見通りの武装だけが全てじゃないっていうのも曲者よね」
一夏「それじゃパターンが多すぎて把握しきれないな」
一夏「それじゃ、『白式』と相性が極端に良い敵と相性が極端に悪い敵に分けたらどうだろう?」
セシリア「いいアイデアですわ。それじゃ、えっと…………」
箒「普通の機体だったら有利・不利を判定できるだろうけど……」
鈴「肝心の接近戦も『甲龍』と当たり負けするぐらいじゃね……」
一夏「なんてこった! 俺のISはこんなにも使えない機体だったのか!」
一夏「でも、お姉ちゃんは“ブリュンヒルデ”だ! やっぱり俺には才能がないのか!」
セシリア「八方塞がりですわ」
鈴「一夏がダメなわけじゃない。でも、織斑先生の実力に辿り着くまでは――――」
箒「――――道が険しすぎる」
箒「『モンド・グロッソ』の時と比べてIS技術も進歩したせいというのもあるが……」
鈴「このままじゃ一夏がいじけるんじゃないかって心配になってきた」
箒「私もそう思う」
セシリア「そんなの嫌ですわ。私を救ってくださった殿方の惨めな末路など見たくありませんわ!」
箒「そこで、だ」
47: 2013/07/27(土) 00:23:49.84 ID:sm8a3fLu0
箒『なあ、一夏。今度の休暇、キャンプにでも行かないか?』
一夏『キャンプだって? どうして急に? どこのキャンプ場?』
箒『実は、イギリスだ』
一夏『へ?』
――――――イギリスにて
セシリア「ようこそ、一夏さん。お待ちしておりました」
一夏「セシリアさん、どうして急にキャンプを? て、その格好は狩りにでも行くの?」
セシリア「一夏さんが主賓ですから、さあ早く私の手に掴まってください」
一夏「いや、俺の方は心の準備も何もできていな――――――」
セシリア「いいですから、早く早く!」
一夏「あ、せ、セシリアさああああああん!?」
鈴「……どうしてイギリスで狩りだなんて?」
箒「私は一夏がその“師匠”の許でどんな修行をしてどんな能力を身につけていたのか興味があった」
箒「あと、一夏は人里を離れて修行していたから、たまにはこういった所にでかければ、」
箒「いい気分転換になるんじゃないかって」
箒「だから、本当はわざわざイギリスにまで来てこんなことをするつもりはなかったんだが……」
鈴「まあ、セシリアがね…………」
48: 2013/07/27(土) 00:27:23.94 ID:sm8a3fLu0
一夏「あ、あそこにクロウサギ! 捕まえてくる!」
セシリア「待ってください、一夏さん!」
一夏「ほら、捕まえた! クロウサギ獲ったどー」
セシリア「まあ、なんて逞しい」
セシリア「一夏さん一夏さん。川に出ましたわ」
一夏「よし、ほら、捕まえた!」
セシリア「すごいですわ、一夏さん!」
一夏「本当は槍や弓矢があればもっといろいろ採れたんだろうけど、」
一夏「イエーイ!」
セシリア「イエーイ! ですわ」
箒「まあ、楽しそうで何より」
鈴「そうね。それじゃ、私たちもそろそろ混ざりましょう」
鈴「一夏! 私と魚捕りで競争よ!」
一夏「よしきた!」
箒「一夏ばかりに目を取られていたが、鈴の運動神経もなかなか」
セシリア「一夏さん、素敵ですわ!」
49: 2013/07/27(土) 00:30:15.93 ID:sm8a3fLu0
セシリア「素晴らしい狩りでしたわ」
一夏「ほら、箒ちゃん、鈴ちゃん、これ」
箒「ありがとう、一夏。これ、一夏があの木を登って採ってきてくれたんだな」
一夏「ああ。これぐらい朝飯前さ」
鈴「ねえ、何人肩車したらあの木の実採ってこれるのかしらね」
箒「私に聞くな。私だって一夏がここまで野生児だっただなんて思いもしなかった」
鈴「私も一夏に憧れて鍛えていたけど、私も一夏と同じくまだまだってことか」
一夏「………………」クンクン
セシリア「どうしたんですの、一夏さん? 何だか凄く無理をなさっているような」
一夏「あの、セシリアさん。俺、もう川の匂いとかクロウサギの臭いとか、いろいろしてないよね?」
セシリア「…………? ええ。しっかりと清潔さが一夏さんを包み込んでいますわ」
一夏「………………」
セシリア「何ですの、急に真面目な顔になって(こんな力強い目で見つめられたら、私…………)」
一夏「何だろう、凄く嫌な臭いが……」
一夏「血糊の臭いよりも遥かに吐き気を催すようなゲロ以下の臭いがプンプンする」
一夏「まさか、カラーボールをぶつけられた強盗でも近くに潜んでいるんじゃ?」
箒「それは本当か、一夏」
鈴「特別な臭いなんて全然しないわよ?」
一夏「でも、何かが近くにいるのは間違いない!」
セシリア「こ、怖いですわ、一夏さん」ダキッ
一夏「ちょっと離れてて」
鈴「い、一夏、急に木によじ登ってどうしたの?」
一夏「ふん!」
箒「太い木の枝を素手で叩き折った!?」
一夏「これで武器らしい武器にはなったか」
一夏「――――――と、そこだ!」
一夏が武器をこしらえたのは実は陽動であった。
敵が動くのは何か大きな行動の直後:隙を見せた瞬間と相場が決まっていた。
だから、一夏は武器を作ると同時に相手の出方を窺える行動をとったのだ。
一夏の瞬発力は電光石火だった。
獲物に飛びかかる肉食獣のそれと全く同じに見えた。
その一瞬だけ覗かせた虎の表情を鈴は見逃さなかった。
50: 2013/07/27(土) 00:30:46.84 ID:sm8a3fLu0
一夏「捕まえたぞ!」
箒「一夏!」
セシリア「一夏さん!」
一夏「………………」ウップ
鈴「え、何それ? ねえ、一夏、凄く顔色悪いけど、大丈夫?」
鈴「え、なんかピンクのウサギみたいなの渡されても困るんだけど」
一夏「オウエエエエエエエエ」
セシリア「い、一夏さああああああん!?」
鈴「ねえ、このピンクウサギ、なんか触った感じ、違和感が凄すぎるんだけど」
箒「まさか、ピンクウサギって! 鈴、それを置け!」
鈴「任せた!」
箒「天誅ううううううう!!」
51: 2013/07/27(土) 00:32:03.57 ID:sm8a3fLu0
箒「全くまさか姉さんがあんなものを使って尾行させていたなんて」
鈴「よくわからないけど、あんたの姉さんの為人がよくわかった」
セシリア「一夏さんと同じぐらいに苦労なされているのですね」
箒「ああ、そうだ。一夏に比べればそこまででもないが、姉さんはいつもいつも…………」
鈴「でも、一夏って不思議な嗅覚の持ち主よね」
鈴「あのウサギ、一夏が言うほど臭くなかったけど。そりゃ胡散臭さなら言うまでもないけど」
セシリア「何となくですけれど、もしかしたら一夏さんのいう嗅覚というのは、」
セシリア「本能的に物事の善悪を察知する力を備えているのかもしれませんね」
セシリア「初対面の時、私の心情をあれだけ正確に当てられたのもその偉大な鼻のおかげですわ」
箒「なるほど、そう考えると、やはり姉さんは――――――!」
鈴「一夏が本能的に拒絶するほどの大悪党ってことに……」
箒「間違っていないんだから言葉を濁さなくていい」
箒「あれが私の姉であることがずっと疑問だったのだ。何かの間違いであって欲しいと常々思っていた」
セシリア「でも、今日は一夏さんの雄々しい姿をこれでもかと見られて、大満足ですわ!」
箒「うむうむ。私もそう思う」
箒「しかし!」
52: 2013/07/27(土) 00:33:10.44 ID:sm8a3fLu0
鈴「どうしてセシリアは一夏の部屋の鍵を持っているのかな?」
セシリア「おほほほ……えと、これは招待客の安否を確認しないといけない当主の務めであって……」
セシリア「その、決してそのやましい思いがあるわけでは…………」
箒「まあいい。一夏の面倒を任されているのは私も同じだからな」キリッ
鈴「って、何保護者面して部屋に入ろうとしているの! だったら、私は一夏の――――――!」
チェルシー「廊下ではお静かに」ガチャ
セシリア「ちぇ、チェルシー!? ど、どうして!?」
箒「ほう、そうだった。ここは敵地だった。言うなれば――――――!」
チェルシー「私どもメイドが御客人のお世話をして何かおかしいですか?」
鈴「ああ、ごもっとも」
箒「すまなかった」
セシリア「そ、そうですわね。ご苦労様、後は私が――――――」
箒「――――――!!」ゴゴゴゴゴ
鈴「――――――!!」ゴゴゴゴゴ
セシリア「な、何でもありません……」
53: 2013/07/27(土) 00:34:09.82 ID:sm8a3fLu0
3話 学年別個人トーナメント 《シャルロット・デュノア》 ラウラ・ボーデヴィッヒ
The Lonely Crowd
――――――弓道場にて
一夏「………………」
一夏「………………!」
スト ドマンナカ
一同「おおおおおおお!」
箒「すごい、もう的の真ん中の赤いところが見えないぐらいの……」
箒「何て言えばいいのか……とにかくすごい弓の腕前だ!」
一夏「………………」
一夏「………………!」
一夏「………………!!」
一同「おおおおおおおおおおおお!!」
鈴「すごい、動いている的を矢継ぎ早に全て射抜いた!」
セシリア「本当に素晴らしい弓使いですわ」
一夏「ふう。ありがとう、セシリアさん。譲っていただいた弓は大事にしますね」
セシリア「ええ。誰も引くことのできないものを飾っておくよりは一夏さんに使ってもらえて光栄ですわ」
鈴「ほんと、どこにそんな力があんのかわからないぐらい力強いわよね」
鈴「あの弓、ISを使ってようやく引けるってどんな素材でできているのよ!」
一夏「でも、俺のISで使えないのが残念だな。『白式』の指じゃ矢を番えないし」
箒「だが、これで一夏は射撃も問題ないレベルだということはわかった」
セシリア「そうですわね。明日からは私の狙撃銃を使ってみてください」
一夏「うん。やってみるよ、俺」
千冬「そこに居たか、織斑」
一夏「おn……織斑先生だ」
セシリア「織斑先生! 一夏さんの弓の腕前、すごいんですよ!」
千冬「ほう。なるほど、珍しい場所で人集りができていると思ったらそういうことか」
千冬「織斑、話があるからついてこい」
一夏「わかりました、先生」
一夏「それじゃ、今日はありがとう、みんな!」
一同「まったね~!!」
The Lonely Crowd
――――――弓道場にて
一夏「………………」
一夏「………………!」
スト ドマンナカ
一同「おおおおおおお!」
箒「すごい、もう的の真ん中の赤いところが見えないぐらいの……」
箒「何て言えばいいのか……とにかくすごい弓の腕前だ!」
一夏「………………」
一夏「………………!」
一夏「………………!!」
一同「おおおおおおおおおおおお!!」
鈴「すごい、動いている的を矢継ぎ早に全て射抜いた!」
セシリア「本当に素晴らしい弓使いですわ」
一夏「ふう。ありがとう、セシリアさん。譲っていただいた弓は大事にしますね」
セシリア「ええ。誰も引くことのできないものを飾っておくよりは一夏さんに使ってもらえて光栄ですわ」
鈴「ほんと、どこにそんな力があんのかわからないぐらい力強いわよね」
鈴「あの弓、ISを使ってようやく引けるってどんな素材でできているのよ!」
一夏「でも、俺のISで使えないのが残念だな。『白式』の指じゃ矢を番えないし」
箒「だが、これで一夏は射撃も問題ないレベルだということはわかった」
セシリア「そうですわね。明日からは私の狙撃銃を使ってみてください」
一夏「うん。やってみるよ、俺」
千冬「そこに居たか、織斑」
一夏「おn……織斑先生だ」
セシリア「織斑先生! 一夏さんの弓の腕前、すごいんですよ!」
千冬「ほう。なるほど、珍しい場所で人集りができていると思ったらそういうことか」
千冬「織斑、話があるからついてこい」
一夏「わかりました、先生」
一夏「それじゃ、今日はありがとう、みんな!」
一同「まったね~!!」
54: 2013/07/27(土) 00:34:40.46 ID:sm8a3fLu0
一夏『寮ってことは、寮長としての話ですか?』
千冬『………………』ウナヅク
一夏『え、まさか…………!?』
千冬『いや、新しくお前と相部屋になるやつが現れた。だから、部屋の片付けをしろ』
一夏『…………え』
千冬『規則は曲げていない』
千冬『これがどういうことを意味するかわかるな?』
一夏『ホントに!?』
千冬『ああ、辛かったな。よく耐えた! よく頑張った! たった一人で!』
一夏『うん、俺頑張ったよ!』
千冬『さ、私と一緒に片付けようか』
一夏『うん、お姉ちゃん!』
千冬「――――――だなんて、言えるわけない!」ガッ
山田「織斑先生!?」
55: 2013/07/27(土) 00:35:18.28 ID:sm8a3fLu0
箒「やけに上機嫌だな、一夏」
一夏「まあ見てなって!」
山田「今日はなんと転校生を紹介します!」
セシリア「…………え」
シャル「シャルル・デュノアです。みなさん、よろしくお願いします」
一同「きゃああああああ!」
一夏「イエエエエエイ!」
セシリア「えええええええええ!?」
シャル「うわ!?」
千冬「うるさい、黙れ。静かにせんか、バカどもが」
千冬「今日は2組と合同演習する。各自は素早くグラウンドに集合」
千冬「それから織斑」
一夏「はい!」
千冬「ではな」
シャル「きみが織斑くん? 初めまして僕は――――」
一夏「早速で悪いけど、走るぞ」《パシ》
一夏「…………」《...》
シャル「え」
一夏「ほらほら~」
一同「ああ、織斑くんとデュノアくん、行っちゃった」
箒「そうか、昨日一夏が織斑先生に呼び出されたのはこのことで……」
セシリア「それじゃそれじゃ、もう一夏さんの部屋には…………」
箒「ああ。悔しいが、自重しないといけないな」
56: 2013/07/27(土) 00:37:41.49 ID:sm8a3fLu0
――――――同日、昼休み
シャル「ほんとに僕が同席してよかったのかな」
一夏「ああ。まだ不慣れな土地でわからないことだらけで不安だろうから、まずは俺の仲間を紹介しておこうと思ってな」
箒「篠ノ之箒だ。一夏とは朝稽古しているから朝早くにお邪魔することになるだろうが、よろしく頼む」
セシリア「セシリア・オルコットですわ。一夏さんとはいろいろ親しくお付き合いしていますわ」
鈴「凰鈴音。みんなからは鈴って呼ばれてる。一夏の幼馴染よ」
箒「私だって、幼馴染だ!」
一夏「ああ、鈴ちゃんだけ2組な」
鈴「余計なこと言わないで」
シャル「ははは。みんな、すごく仲が良いんだね」
一夏「ああ。みんな、一緒にいて凄く心安らげる良い人たちだから、シャルルも男だからって気にせず頼ってね」
シャル「ありがとう、一夏」クスッ
鈴「どうしたの」
シャル「いや、噂に聞いていた『世界で唯一ISが扱える男性』でどんな人かって思ってたから、何て言うか」
セシリア「わかりますわ。私も最初は筋骨隆々の逞しいお方だと思っていましたら、」
セシリア「甘えん坊で子供のように無邪気な方でしたから、感動しましたわ」
箒「おい」
シャル「ははは、セシリアさんほどじゃないけど、」
シャル「少なくとも今抱いている気持ちは悪いものじゃないから安心して、ね?」
一夏「それじゃ、自己紹介もすんだし、メシにするか!」
鈴「賛成!」
セシリア「では、」
一同「いただきます!」
「チャーハンよ! ほら食べなさい、今食べなさい!」
「ああん? あんかけはやめてって言ったよね!」
「一夏さん! 私のサンドイッチはいかがかしら!」
「うん! モグモグ……すっごくまずいよ」ニッコリ
「ふえええええええ! いい笑顔ではっきり言われました!」
「一夏、今日作ったこれなんかどうだ」
「あ、隠し味にあれ使っているでしょ!」
「どうしてわかった!?」
「だって、今日の箒ちゃんの手からあれの臭いが微かにしてるもん」
「すごいな、一夏は」
「ほら、シャルルもちゃんと食べなよ」
「うん、ありがとう一夏」
「本当に楽しい」
57: 2013/07/27(土) 00:38:20.78 ID:sm8a3fLu0
一夏「ここが俺たちの部屋だ」
シャル「ず、ずいぶん個性的なものが置いてあるね。おっきな熊のお人形とか人一人分の大きさの抱き枕とか」
一夏「ああ、俺一人でいるのが凄く怖くてな。だから、見兼ねた箒ちゃんとセシリアさんがプレゼントしてくれたんだ」
シャル「あと弓とか、あれ何だろう? チェスト? 凄く価値の有りそうなものだね」
一夏「ああ、あの弓はセシリアさんから譲ってもらった。実際に騎士たちが使っていたという年代物」
一夏「あっちは、俺の私物入れ、かな。悪いけど他は触ってもいいけど、あの櫃だけはダメな」
シャル「うん、わかったよ」
一夏「それじゃ、IS学園ガイドは終了します。お疲れ様でした」
シャル「本当にありがとう。お疲れ様」
一夏「ああ、そうだ。あと最後に決めておくことがあった」
シャル「何を?」
一夏「こういうこと!」バサッ
シャル「うわあ!?」
一夏「…………」
一夏「うん、わかったよ。着替えとかする時はこうスクリーンをして、シャワーを浴びるならこれをしておいてね」
一夏「悪いけど、シャワーは先に使わせてもらうよ」バタン
シャル「う、うん。………………一夏のエOチ」
一夏「…………」
一夏「(可愛いなあ)」
58: 2013/07/27(土) 00:40:53.35 ID:sm8a3fLu0
――――――数日後
一夏「やっぱり登録されない武器の使用は禁止か……」
シャル「おかえり、一夏。また、本を抱えているね。読書家なんだ」
一夏「シャルルか。いや、本当ならISの訓練をしていたいんだけど、現状ではどうしようもない壁にぶつかっていて」
一夏「だから今は書籍を読み漁って解決の糸口を探そうとしているんだ」
一夏「知ってはいるだろうけど、俺の『白式』は飛び道具がないし、」
一夏「唯一の取り柄の『零落白夜』の一撃必殺も、肝心の格闘能力が高くないから当たり負けするんだ」
一夏「しかも唯一の武器である剣が拡張領域を全て使っているというわけのわからない仕様のせいで汎用性すらない」
一夏「だから、武器の直接の持ち込みだったら良いんじゃないかって訊いてみたんだけど……」
一夏「『登録されていない』――――『登録できない』――――『量子化されないアナログ兵装』はダメなんだって」
シャル「大変だね。でも、今のところ公式試合では実質的に全勝なんでしょ?」
一夏「え? 俺、セシリアさんに負けて、鈴ちゃんとのあれは無効になって……まあいいや、そういうことで」
一夏「でも、今は一度打ち負かした相手に勝てなくなった」
一夏「やっぱり戦闘パターンが限定されていると、人は慣れていくものだから、対応されるようになってね」
一夏「だから俺に残された道は」ハア
一夏「『白式』がイグニッションブーストを「最適化」するまでひたすらGに耐え続けるしかなくなった」
シャル「なるほどね」
一夏「せめて剣が2つあれば投げるなり、もっと戦術の幅が広がっただろうに……」
一夏「そうなると、鈴ちゃんの『甲龍』が俺の理想的な武装のISになってくるんだけど、」
一夏「それでも俺は『白式』じゃないといけないんだ」
シャル「それはどうして?」
一夏「…………俺の『白式』はおね……織斑先生が現役時代に搭乗した『暮桜』の装備を継承した不思議なISなんだ」
59: 2013/07/27(土) 00:43:58.04 ID:sm8a3fLu0
一夏「“ブリュンヒルデ”の『暮桜』は雪片の剣だけで第1回『モンド・グロッソ』を完全制覇した」
一夏「俺は何度も何度もその当時のビデオを再生しては目に焼き付けていった」
一夏「そして、俺もいつかあんな風に空を舞いたいって。《叶わない願い》だって知りながらね」
シャル「…………そ、そうだね」
一夏「俺がISを使えるようになって一番驚いたのは、俺の『白式』があの『暮桜』と同じ雪片を持っていた――――」
一夏「いや、正確には単一仕様能力までも同じだったから、かな」
一夏「こんなにも運命を感じたことはない」
シャル「運命…………」
一夏「でも、勝てないんだ、俺じゃ……」
シャル「一夏…………」
一夏「ごめんな、シャルル。こんな愚痴なんか聞かせて」
シャル「ううん。《世界で唯一ISを扱える男性》が抱える悩みっていうのが聞けて《タメになった》よ、本当に」
シャル「それよりも一夏。みんなが呼んでいたよ」
一夏「そうか、悪いことしたね。それじゃ、行ってくるよ」
シャル「うん。行ってらっしゃい」
60: 2013/07/27(土) 00:45:59.35 ID:sm8a3fLu0
一夏「…………まあ、何だっていいさ。いてくれるなら」
箒「一夏、遅かったじゃないか」
一夏「ごめんね、箒ちゃん。大会規則に穴がないか今日はIS学園の特記事項を重点的に見ていたよ」
箒「最近のお前は本の虫だな。織斑先生も山田先生も褒めていたぞ。私も負けてられないな」
一夏「そうか。おね……織斑先生が喜んでくれているなら少しは気が楽になったかも」
箒「なあ、一夏」
一夏「ん?」
箒「シャルルのことは“シャルル”と呼ぶのに、何故私は“箒ちゃん”なのだ」
箒「昔にようにただ“箒”と呼んではくれないのか?」
箒「それに私の前だったら無理して千冬さんのことを“織斑先生”と言い直さなくても」
一夏「ごめん。ケジメなんだ」
一夏「織斑先生もここでは教師としての責任を全うしようとしている」
一夏「だから、俺は個人的な意思で織斑先生に恩返ししようとしている――――そういうことなんだ」
一夏「シャルルについては先に相手がそう呼んで欲しいって言ってくれたから」
一夏「あと、かけがえのない同性の仲間だからっていうのもあるかな」
箒「そ、そうか。それは野暮なことを聞いた」
一夏「それで“箒ちゃん”っていうのはDVD&BDの売上の――――――」
箒「一夏が今凄く失礼なことを言ったような気がしたが、聞かなかったことにしよう」
一夏「あ、織斑先生」
千冬「ああ、織斑か」
箒「…………どうしたんですか?」
千冬「……実は来週のことで少し考え事をしていてだな」
一夏「……難題ですか?」
千冬「ああ、極めて取り扱いが難しい一件だ。だが、一生徒であるお前には関係ないことだ」
一夏「そう、ですか……」シュン
箒「(見ているのが辛くなるぐらい悲しそうな目を……)」
千冬「………………」
千冬「……最近のお前はよくやっている。勉学も実習も弛まぬ努力と熱意が見て取れる」
千冬「月末のトーナメントの戦果を期待している」
千冬「とりあえず、明日ぐらいはゆっくり休め。ではな」
一夏「はい、ありがとうございます、織斑先生!」ニパア
千冬「フッ」
一夏「へへへ」
箒「(一夏と千冬さんの関係はいつ見ても……。なのに、どうして私の姉は…………)」
61: 2013/07/27(土) 00:47:10.78 ID:sm8a3fLu0
番外編 休日での再会
五反田「お前、一夏じゃないか!」
一夏「え、あれ、――――――ごめん、覚えてない(誰だっけ)」
鈴「あ、弾じゃない」
一夏「ああ、そうか。」
一夏「――――――五反田 弾。俺が中国に居た時に一緒に修行した仲間だ」
一夏「それがどうしてここに?」
五反田「ちょっと哀しいぜ、一夏。俺はお前の“じィちゃん”に氏ぬほどシゴカれたのによ」
鈴「あ、ということは、蘭、IS学園に進学するつもりなんだ」
五反田「おう。蘭がISの適性が意外と高いことがわかってこの機に本土に帰ってきたってわけだ」
鈴「ふーん」
一夏「どうしたんだよ、鈴ちゃん。不機嫌そうな顔して」
鈴「そんなんじゃないわよ」
五反田「一夏、お前全く興味無さそうだけどよ、鈴と同じで妹はお前に会いたく――――――」
鈴「それ以上言わないほうが、――――身のためよ?」
五反田「あ、あははははは」
一夏「おかしいな。俺の知っている五反田 弾ってこんな感じだったっけ?」
五反田「お前、一夏じゃないか!」
一夏「え、あれ、――――――ごめん、覚えてない(誰だっけ)」
鈴「あ、弾じゃない」
一夏「ああ、そうか。」
一夏「――――――五反田 弾。俺が中国に居た時に一緒に修行した仲間だ」
一夏「それがどうしてここに?」
五反田「ちょっと哀しいぜ、一夏。俺はお前の“じィちゃん”に氏ぬほどシゴカれたのによ」
鈴「あ、ということは、蘭、IS学園に進学するつもりなんだ」
五反田「おう。蘭がISの適性が意外と高いことがわかってこの機に本土に帰ってきたってわけだ」
鈴「ふーん」
一夏「どうしたんだよ、鈴ちゃん。不機嫌そうな顔して」
鈴「そんなんじゃないわよ」
五反田「一夏、お前全く興味無さそうだけどよ、鈴と同じで妹はお前に会いたく――――――」
鈴「それ以上言わないほうが、――――身のためよ?」
五反田「あ、あははははは」
一夏「おかしいな。俺の知っている五反田 弾ってこんな感じだったっけ?」
62: 2013/07/27(土) 00:48:37.55 ID:sm8a3fLu0
五反田「ああいいな、一夏め一夏め。お前は昔と全然変わってなくて」
一夏「何だよ。あの頃よりもずっと強くなっているぞ俺? それに、変わらないことがそんなに悪いことかよ」
五反田「いや、そうじゃないって一夏」
五反田「こうして何年も会ってなかった友と再会してみるとこみ上げてくるものがあるんだ」
鈴「そうよ、一夏。一夏は一夏らしく、私は私らしく――――」
五反田「お、だったら、俺は俺らしく――――――」
鈴「ああ、ずっと妹の尻に敷かれているのね」
五反田「ちょっと!?」
一夏「でも、嬉しいな。また会えて」
五反田「さっきまで完全に忘れていたくせに……」
五反田「まあいいや。今度俺んちに来いよ。待ってるからよ」
一夏「うん。また一緒にシようね」
五反田「いやだあああああああ!」
鈴「ははははははは! 未だにトラウマ抱えてるぅ!」
五反田「腹を抱えて笑うやつがあるかよ、普通!」
一夏「え?」キョトン
五反田「え、じゃないから、そこ!」ハア
五反田「でも、あの一夏がこんなおめかしをするようになるなんてな」
五反田「変わった――――いや、立派になったな。男の俺が嫉妬するぐらいのイケメン……とは違うな」
五反田「とにかく眩しいくらいに甘いマスクになってよ」
一夏「そうか? 俺、生活を改めたつもりはないんだけど」
五反田「修練の積み重ねってやつなんだろうな。一夏の“じィちゃん”の教えは間違いなかったんだな」
五反田「かあー、俺もまじめにやっておけばよかったよ。そうすれば一夏と同じくらい…………」
一夏「…………?」
五反田「いや、なんでもない」
五反田「引き止めて悪かったな。最後にメアド交換してくれ」
五反田「よし、じゃあな。遊びに来いよ!」
一夏「うん。必ず行くからね!」
鈴「また会おうね!」
五反田「おう!」
63: 2013/07/27(土) 00:49:14.74 ID:sm8a3fLu0
鈴「また会えて嬉しそうね、一夏」
一夏「“一人よりも二人”だよ。こんな俺のことを覚えてくれている人がいてくれて本当に嬉しい」
鈴「私も忘れてなかったからね!」
一夏「うん。ありがとう」ナデナデ
鈴「えへへ」
64: 2013/07/27(土) 00:50:58.49 ID:sm8a3fLu0
――――――週明け
山田「な、なんと今日もうれしいお知らせがあります。またクラスにお友達が一人増えます」
山田「ドイツから来た転校生のラウラ・ボーデヴィッヒさんです」
周囲「また転校生? どういうこと?」ザワザワ
千冬「挨拶をしろ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」
ラウラ「はい、教官」
一夏「(ドイツ……教官……眼帯……)」
ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
山田「あ、あの、他には……」
ラウラ「以上だ」
周囲「………………」
一夏「………………」
箒「週明けの転校生……。そうか、千冬さん……」
箒「……あ(動いた?)」
周囲を慄然とさせたラウラの威容はすぐ目の前の席の一夏の許へと赴いた。
そして、ラウラは明確に一夏をゾッとするような眼で見下ろし、
ラウラ「貴様が、織斑教官の…………」
すっと腕を伸ばしたかと思うと、それは振り下ろされ、
パーン!
一夏「イエーイ!」
一同「………………!?」
ラウラ「………………!」
教室中に響き渡るハイタッチになったのだ。
65: 2013/07/27(土) 00:52:28.99 ID:sm8a3fLu0
シャル「(後ろの席ではっきり見えなかったけど、)」
セシリア「(明らかに一夏さんを叩こうとしましたわね、あの人!)」
箒「(だが、一夏は自分に向けられた敵意を受け流した)」
箒「(やはり、一夏は強い。私が追い求めている“強さ”の在り方を一夏は一瞬で実践してみせた)」
一夏「効いたぜ。これがIS時代の軍人ってやつか」ワナワナ
箒「………………?」
一夏「――――――かっこいい!」オメメキラキラ
周囲「!!!???」
ラウラ「な、愚弄しているのか!?」
一夏「でも、織斑先生?」スッ
千冬「何だ、織斑」
一夏「この人は“高潔なドイツ軍人として”ここに居るんですか?」
周囲「どういうこと?」
ラウラ「…………!」
千冬「(なるほど、上手い返し方だな)」クスッ
千冬「そこまでにしておけ」
ラウラ「……は、織斑教官」
千冬「違うぞ、織斑先生と呼べ」
ラウラ「は、織斑先生」
ラウラ「……これだけは言っておく、織斑一夏」
ラウラ「私は貴様があの人の弟だなどと認めない。認めるものか」
一夏「望むところだ!」
ラウラ「…………ふん、噂以上の馬鹿のようだな」
山田「えっと、じゃあ、ボーデヴィッヒさんの席はあちらです」
一夏「…………」クンクン
ラウラが席に移るために一夏の横を通り抜けている時、
箒「あ…………」
一夏「………………」
千冬「………………」
姉弟の間に一瞬だけ気まずさが互いに行き交ったのが見て取れた。
66: 2013/07/27(土) 00:53:41.01 ID:sm8a3fLu0
――――――放課後
シャル「一夏に『用事があるから夕食を済ませるまで部屋には来ないで』って言われちゃった」
箒「ところで、いったいどうしてあの時、ラウラとかいうのは退いたんだ?」
セシリア「私にはわかりますわ」
箒「わかるのか」
セシリア「ええ。以前の私に一夏さんが言ったことと全く同じ事ですわ」
セシリア「ただ、私の時よりは直接的でない表現でしたけれど」
箒「そうか。軍人なら軍人にふさわしい態度をとれってことか」
シャル「え? 軍人のつもりじゃなくて学生として振る舞えってことじゃ?」
セシリア「おそらくそのどっちもですわ」
セシリア「軍から派遣され、いずれの国家に帰属しないIS学園の生徒になった以上は、」
セシリア「生徒としても軍人としても立派に振舞わなくてはなりません」
セシリア「私もIS学園の生徒として、そして祖国の代表として――――――」
セシリア「ここに居る以上は誰に対しても恥ずかしくない振る舞いをしませんと」
セシリア「それにしても、本当に素晴らしいですわ、一夏さん! ああいうのをサムラーイっていうのですわよね?」
セシリア「最近、新渡戸稲造の「武士道」を読みましたが、まさしく「武士道の究極とは平和」ですわね!」
箒「ああ! 一夏は現代のサムライだ! 私も立派なサムライガールになってみせる!」
シャル「…………生徒としても国の代表としても立派に、か」
シャル「本当にすごいんだね、一夏って」
67: 2013/07/27(土) 00:54:54.54 ID:sm8a3fLu0
ラウラ「ここが奴の部屋か」
ラウラ「それにしても、やはりIS学園の生徒など吐いて捨てるような連中しかいないのだな」ガチャ
ラウラ「貴様の望みどおり、来てやったぞ!」
ラウラ「……いないのか。時間を指定したくせに何を企んでいる」
ラウラ「ん?」
ラウラ「…………何だ、あのおっきな熊のぬいぐるみは?」
ラウラ「…………」キョロキョロ
ラウラ「…………」サワサワ
ラウラ「………………」ニヤア
一夏「………………」クンクン
一夏「後れてごめんなさい!」
ラウラ「な、なんだと!? 貴様、いつの間に!?」
一夏「あ、やっぱり“高潔なドイツ軍人”もやっぱり人の子だったんですね」ニコニコ
ラウラ「こ、これは違…………! 謀ったな、貴様ああああ!」
一夏「え?」
ラウラ「ふわあああああああああ!!」
一夏「あ、行っちゃった……」
一夏「ま、いっか。可愛い映像も撮れたことだし、ともかくこれで険悪な関係を改善する糸口になったはずだ」ニッコリ
68: 2013/07/27(土) 00:57:20.24 ID:sm8a3fLu0
4話 学年別タッグトーナメント シャルロット・デュノア ラウラ・ボーデヴィッヒ
We stand Alone TOGETHER
――――――アリーナ
一夏「よし、こい!」
シャル「行くよ、一夏!」チャキ
一夏「ほっ…ほっ…あらよっと!」ヒョイヒョイ
シャル「当たれ!」
アナウンス「勝者、シャルル・デュノア」
一夏「ああやっぱりだめだ。近寄れない」
シャル「凄いね、一夏。中距離のマシンガンも、遠距離のライフルもほとんど当たらなかったじゃない」
一夏「でも、ライフルは避けられてもマシンガンを捌ききれていない」
一夏「結局、近寄れなくってカス当たりのダメージだけで負ける」
一夏「近寄れたとしても二丁ショットガンが怖くて踏み込めない」
一夏「ホント、俺はダメだな」
シャル「そ、そんなことはないよ! 絶対に!」
シャル「先日のボーデヴィッヒさんの一件だって丸く収めたじゃない」
シャル「もし誰かが一夏が勝てないことで嫌味を言うなら、僕が一夏を庇ってあげるからね」
一夏「ありがとう、シャルル。やっぱり、持つべきものは仲間だな」
We stand Alone TOGETHER
――――――アリーナ
一夏「よし、こい!」
シャル「行くよ、一夏!」チャキ
一夏「ほっ…ほっ…あらよっと!」ヒョイヒョイ
シャル「当たれ!」
アナウンス「勝者、シャルル・デュノア」
一夏「ああやっぱりだめだ。近寄れない」
シャル「凄いね、一夏。中距離のマシンガンも、遠距離のライフルもほとんど当たらなかったじゃない」
一夏「でも、ライフルは避けられてもマシンガンを捌ききれていない」
一夏「結局、近寄れなくってカス当たりのダメージだけで負ける」
一夏「近寄れたとしても二丁ショットガンが怖くて踏み込めない」
一夏「ホント、俺はダメだな」
シャル「そ、そんなことはないよ! 絶対に!」
シャル「先日のボーデヴィッヒさんの一件だって丸く収めたじゃない」
シャル「もし誰かが一夏が勝てないことで嫌味を言うなら、僕が一夏を庇ってあげるからね」
一夏「ありがとう、シャルル。やっぱり、持つべきものは仲間だな」
69: 2013/07/27(土) 01:00:05.75 ID:sm8a3fLu0
一夏「でも、凄いな。シャルルの《『高速切替』》」
一夏「距離に応じて的確にライフル、二丁マシンガン、二丁ショットガンとを素早く切り替えて絶え間なく弾幕形成」
一夏「あれはスタイリッシュだ」
一夏「凄いな。あれだけの武器を詰め込んでいて《火器管制が大変なのにそれでいて基本も忠実にできている》」
シャル「そんなことはないよ」
シャル「はい、ライフル」
一夏「おう」
ピ、ピ、ピ、スタート
バキューン バキューン バキューン
シャル「そういえば、一夏って月末の学年別個人トーナメントに出るの?」バキューン
一夏「いや、出ない。戦術の幅がどうしようもないんだ」バキュン
一夏「後付装備のできない『白式』でも直接の武器の持ち込みがありだったら勝機はあったけど……」
一夏「純粋な装備だけで戦いをしろって言われたら勝ち目がない」バキュン
一夏「だから、出ない」バキュン
シャル「……そう」バキューン
一夏「もし、もしもだよ?」バキュン
一夏「今使っているライフルのように僚機から借りられるなら、また違うんだけど」バキュン
パーフェクト! サイソクキロクコウシン!
シャル「そうだね。もったいないよね」
シャル「スコープを覗くことなく反射的に命中させられるだけの技量だってあるのにね」
一夏「でも、それでも俺が負担になるのは間違いないんだけどさ」
一夏「なにせ、それしか使えないなら僚機で穴を埋めようっていうのは誰でも思いつくことだからさ」
一夏「手の内を最初から読まれている。これじゃ勝てない」
70: 2013/07/27(土) 01:02:12.73 ID:sm8a3fLu0
一夏「“じィちゃん”が言ってた」
一夏「常に手段を用意しておけって。『謀無き者は謀多き者に劣る』ってね」
一夏「結局、俺は弱いままなのか……」
シャル「でも、良いんじゃないかな、それで」
シャル「一夏の優しさや“強さ”はみんな知っているよ」
シャル「『白式』だけが一夏の全てじゃないから、ね? だから、元気出して」
一夏「ホントにすまないな、シャルル。何だか泣き事ばっかで」
シャル「うん。いいのいいの。僕だって一夏の一夏らしさが大好きだからさ」
一夏「ホント、シャルルって頼り甲斐があるよな」
一夏「――――――まるでお母さんみたい」
シャル「えっ!?」
シャル「え、えっと……僕は男の子だよ?」
一夏「ああ、そうだった。悪い悪い。でも、俺、両親に捨てられて父親とか母親っていうの、よくわかんないんだ」
一夏「俺の親代わりはおn……織斑先生と“じィちゃん”っていう、」
一夏「それはもう最高に強くて優しくてかっこいい人たちだったからさ、こう、何というか……」
一夏「あの人たちの前に立つとしっかりやらなくちゃって思うんだけど、」
一夏「箒ちゃんやセシリアさん、鈴ちゃんの前だと何だかとても甘えたくなるような気分になるんだ」
一夏「シャルルも箒ちゃんたちと同じものを感じるから、つい」
一夏「その中で、シャルルと一緒の時が一番心安らぐっていうかさ。そんな感じで」
シャル「アワワワワ……」
一夏「え、シャルル、どうしたの? 熱でもあるの?」
シャル「ご、ごめん一夏。今日は先に上がるね」
一夏「あ、ああ……。でも、シャルル」
シャル「な、何、一夏?」
一夏「シャルルがシャルルなら男も女も関係ないと思うんだ。これからも仲間としてよろしく頼むよ」
シャル「う、うん」
71: 2013/07/27(土) 01:03:08.84 ID:sm8a3fLu0
シャル「はあはあ……思わず逃げ出しちゃった」
シャル「ああ、びっくりした」
シャル「い、一夏ったら、そういう目で僕のことを見ていたんだ」
シャル「ば、バレてないよね? あんなこと言われたけど……」
シャル「…………僕が僕らしくなったら、どうなる――――――」
シャル「…………うん、そうだよね。僕もこんな僕が嫌だ」
シャル「僕は僕らしく、なってもいいのかな?」
72: 2013/07/27(土) 01:04:31.54 ID:sm8a3fLu0
一夏「……え、何?」
女子「織斑くん、織斑くん!」
セシリア「一夏さああああん!」
鈴「一夏あああああああ!」
一夏「何の騒ぎ?」
女子「織斑くんって、月末の学年別個人トーナメントに出るんだよね?」
一夏「出ませんよ。シングルじゃ勝ち目がありませんから」
セシリア「じゃあ、かかかc、カップル――――タッグなら参加してくれますわよね?」
一夏「え?」
鈴「一夏、あんたのために大会主旨が変更されたのよ」
鈴「凄いのよ。一夏の戦闘をこの目で見たいってスポンサーの声が大きくて、」
鈴「あんたがイエスといえばタッグ戦になるのよ」
セシリア「しかも、タッグ戦を想定して練習していた方々なんてほとんどいませんから、」
セシリア「一夏さんにも十分に勝機がありますわ」
鈴「ちなみにノーと言えば、大会の後にスポンサーの目の前であんたのIS技術のお披露目になるわよ」
女子「どっちを選んでも織斑くんの勇姿が見られてWin-Winよ!」
セシリア「さあ、一夏さん! 私の手を取ってください!」
鈴「一夏! 一夏と一番合わせられるのはこの私よ!」
一夏「………………」
一夏「返事はいつまでにすれば?」
女子「急なことだけど明後日まで」
一夏「…………考えさせてください」
女子「えええええええ」
73: 2013/07/27(土) 01:05:34.75 ID:sm8a3fLu0
――――――その夜
一夏「なあ、シャルル。話って何だ? 改まって」
シャル「あのね、一夏。僕、この学園を去らなくちゃいけないんだ」
一夏「え? どうして? 困るよ、それ!」
シャル「(こうして見ると本当に一夏は僕に心の底から甘えているんだね。凄く可愛く見えてきた)」
シャル「あのね、僕、ISが使える男の子じゃないんだ」
一夏「うん。そうだね」
シャル「――――――え? 知ってたの?」
一夏「え? どうしたの?」
シャル「えっと……あのね、僕は性別を偽っていたって言ったんだよ」
シャル「あ、あの恥ずかしいけど……」
一夏「――――――あ」
シャル「どう? 胸があるでしょ?」
一夏「うん。凄く柔らかくて温かい。確かに女の子だね。身体は」
シャル「ええっ!?」
一夏「違うの? てっきりインターかと思っていたよ。最初」
シャル「い、インター……?」
一夏「貞子だよ、貞子」
シャル「ごめん、わからない」
一夏「…………ごめん。正直に言うと、転校初日から身体は女の子だってわかってた」
シャル「え!?(『身体は』――――――?!)」
一夏「うん。だって、年齢の割には背も何だか低いし、手を繋いでみたら凄く身体が軽く感じた」
一夏「そして何よりも、」
一夏「――――――女の子の臭いがしたからね」
シャル「に、臭い!?」
一夏「それに、何だか大きな嘘を付いている臭いもした」
シャル「そ、そうなんだ(話には聞いていたけど、一夏って本当に……)」
74: 2013/07/27(土) 01:11:31.83 ID:sm8a3fLu0
一夏「それで、性自認も女――――つまり、完全な嘘を付いているって確信したのも、」
一夏「俺の昔話を聞かせた時に《本気で感心してた》ってところかな」
一夏「それと、『高速切替』をマスターしているほどの練度を持っていながら表舞台で一度も騒がれたこともない、」
一夏「ごく最近見つかった男性ISドライバーということにしても、本国では全く反応がないし、」
一夏「シャルルが稀代の天才というには俺よりもISの知識に精通しているし、あまりにも基本がよくできている」
一夏「じゃあそれなら逆に、フランスの――――デュノア社の秘密兵器として満を持して表舞台に出た――――」
一夏「っていうのも考えられたけど、」
一夏「シャルルのバックに付いているデュノア社が第3世代型の着手に手間取って経営危機に瀕しているから、」
一夏「それもない。そんな余裕はないはずだ」
一夏「男性のIS適正者はどこの勢力も喉から手が出るほど欲しいものだ。これを利用しないはずがない」
一夏「そして、やたらと俺の愚痴や昔話を親身になって聞いてくれるし」
一夏「あ、勘違いしないでね。俺はシャルルのそういうところ大好きだよ」
一夏「でも、純粋な善意の裏に仕事意識を持つことには何の矛盾はないからね」
一夏「だからシャルルが、俺に近づくためによこされたデュノア社の回し者っていうのは想像ついてた」
シャル「…………凄いね。ここまで来ると清々しいくらいだよ」
シャル「でも、そこまでわかっていたのに、どうして何も言わなかったの?」
一夏「え!? そしたら、シャルルがこの部屋から引越しちゃうじゃないか!」
一夏「嫌だ! せっかく隣のベッドに誰かが居てくれるようになったのに、やっぱり独りは嫌だ!」
一夏「“一人よりも二人”だよ!」
シャル「い、一夏……」
一夏「このままでずっといようよ、シャルル。お願いだから!」
75: 2013/07/27(土) 01:14:16.02 ID:sm8a3fLu0
シャル「……一夏って本当に甘えん坊さんなんだから」
一夏「じゃ、じゃあ!?」
シャル「でも、ごめん。僕、自分を偽っているのが嫌になったんだ」
シャル「本当の自分に戻りたい! 女の子の僕として一夏と触れたい!」
シャル「その気持ちが大きくなるに連れて、シャルル・デュノアでいることが難しくなっちゃってね」
シャル「きっと近いうちに露見するんじゃないかって思うんだ」
シャル「だから、僕はね、一夏。後ろ指指されながら去っていく姿を一夏に見せたくないんだ。
シャル「だから、そうなる前に、ね」
一夏「じゃあ、その後は? ねえ、その後はどうなるの?」
シャル「わからない。ただ、間違いなくデュノア社の経営に関わることだから、無事では済まされないだろうね」
一夏「そんな…………」
シャル「僕はね、デュノア社社長の妾の子でね。僕にIS適性があるってわかったから、僕を引き取ったんだ」
シャル「でも、たった2回しか顔を合わせなかったし、話した時間も一時間に満たなかったよ」
シャル「だから、僕のことなんか使い捨ての駒ぐらいに思っているだろうね」
一夏「――――――許さない!」
シャル「」ビクッ
76: 2013/07/27(土) 01:16:07.79 ID:sm8a3fLu0
一夏「よくもシャルルを――――――! それに軍需産業相手なら気兼ねする必要もない!」
一夏「成敗してくれる!」
シャル「い、一夏、落ち着いて。ただの生徒の僕たちにできることなんてないよ」
一夏「いや、ある」
シャル「どういうこと?」
一夏「えっと、ちょっと待ってて」
一夏「これ。IS学園特記事項!」
『本学園の生徒はあらゆる国家、組織、団体に帰属しない』
一夏「つまり、この学園の生徒であるならどんな組織や団体の要求でも拒否する権利が与えられる!」
一夏「つまり、シャルルが嫌だといえば、親子の縁を切ることだってできるんだ。…………在学している間だけな」
一夏「だから、卒業までに絶交するなり、亡命するなりすればいい」
シャル「凄いね。よくそんなもの覚えて……ああ、最近読んでいたね」
一夏「交渉の主導権を握っているのは俺たちだ」
一夏「もし、公表するなら俺が織斑先生やその他もろもろに力添えを頼んだっていい」
一夏「そうだ! 月末のトーナメントだ!」
シャル「え、トーナメント?」
一夏「月末のトーナメントでIS産業のお偉方が俺見たさに、戦闘内容をタッグマッチに変更するって言われた」
一夏「チャンスじゃないか! それぐらい俺に関心が集まっているなら、」
一夏「そこで俺が条件としてシャルルの身柄の解放を要求すれば呑まざるを得ない」
一夏「だから、シャルル!」
一夏「ここに居てくれよぉ~!」スガル
シャル「………………」
シャル「はあ、全く一夏ったら本当に甘えん坊さんなんだから」
一夏「寂しいものは寂しい!」
シャル「……わかったよ、一夏。僕も一夏と一緒に居たい!」
一夏「良かったよ……」ポロポロ
シャル「よしよし」
77: 2013/07/27(土) 01:20:39.99 ID:sm8a3fLu0
一夏「よし、シャルル! 戦術は考え尽くしたから、後は実際の連携の具合の確認といこう!」
シャル「任せて、一夏!」
女子「ユウジョウッテスバラシイナ」
箒「はあ、一夏はシャルルを選ぶのだろうな。水魚の交わりとはあんな感じなんだろうな」
一夏「よし、アリーナに到着!」
シャル「ねえ、一夏、あれ!」
箒「セシリアと鈴、そして相手はラウラ・ボーデヴィッヒか!」
一夏「………………!?」
一夏「何だあれ! 砲撃を受け止めた!?」
シャル「『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』、通称『AIC』だよ!」
箒「ISの空間移動制御――――ISの基本システム:PICの応用で、あらゆる物体のコントロールを強奪できる兵装だ!」
一夏「よくわかんないけど、Iフィールドビーム駆動のMSをIフィールドバンカーで動きを封じるのと似ているな」
シャル「……えっと、たぶんそんなイメージで合ってると思うよ」
箒「一夏は馬鹿だが阿呆ではないから、どう評価してやるべきか困る。知識は無くても本質を見抜いているからな……」
一夏「でも、あれって使い所の難しそうな装備に思える」
一夏「一対一だったらまさしく最強だろうけど、力場を生成するためのエネルギー消費も凄そうだし、」
一夏「表情が力んで動きが鈍るってことは『ブルー・ティアーズ』と同じ、集中力を要する兵装なんだろうな」
箒「(ここからの距離でISドライバーのわずかな表情の変化も見逃さないか)」
箒「(それにここまでの分析力……)」
箒「(最初の頃のように『白式』以外の機体のことなどまるで知らなかったのにこうも……)」
箒「(ふふ、努力が無駄ではなかったことの証だな)」
一夏「あのラウラの黒いISって銃とか剣持ってないけど……」
シャル「でも、右肩のレールガンで遠距離に対応し、追尾する6基のワイヤーブレードで中距離を撹乱」
シャル「そして、至近距離で『AIC』で動きを止めた相手をプラズマ手刀で撃退する――――――」
箒「なんて隙のない機体だ!」
一夏「でも、そんなに強いんだったら何で制式採用しないんだ?」
シャル「ああ、それは“強すぎるから”だよ」
箒「確かに、機体性能が高くなっていくと乗り手に要求する能力が必然と高くなっていく」
箒「『AIC』の実用化は各方面で進められてきた」
箒「だが、あそこまで実用的なものを搭載しているのはそれだけハイエンドな機体になっているはずだ」
箒「“使いやすさ”を犠牲にすれば“強さ”は簡単に手に入れられるってことだ」
シャル「それに武装もかなり特殊なもので固められている実験機だから、」
シャル「僕の『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』のように一般機の延長線上にある“使いやすい機体”でもない」
箒「だが、“使いやすさ”を度外視したあの第3世代型は圧倒的な強さだ!」
箒「『白式』では勝ち筋が見えないほどに……」
一夏「なるほど、あの黒い機体を使いこなせるラウラの実力は間違いなく本物ってわけか」
一夏「まさしく“強さ”の象徴…………」
78: 2013/07/27(土) 01:22:45.20 ID:sm8a3fLu0
観衆「ああっ!」
一夏「…………おい、ラウラのやつ、何をやってるんだ!?」
一夏「何で首を絞めてるんだよ! ワイヤーブレードだろ!? [ピーーー]気か!!」
ラウラ「…………ふ」ニヤ
一夏「……あいつ! そうか、俺を誘き出すために!」
箒「(同じだ。あの頃の、全てに当たり散らし、剣道の理念など忘れたただの暴力を振るっていた私と)」
一夏「………………」ゴゴゴゴゴゴ
箒「一夏?」
一夏「こんのおおおお、わからず屋ああああ!」
観衆「オリムラクンガオコッタ」ビクッ
『零落白夜』はアリーナのIS数十体分もの防御力を持つシールドバリアーを一瞬で斬り裂いた。
この斬れ味を認識する度に、一夏は力の使い方を問い直す。
そして、誰もがこのままラウラと砲火を交わすものだと思われた。
一夏「その手を放せえええええええ!」
ラウラ「来たか、織斑一夏! 先日の借りを返させてもらうぞ!(想像以上に速いだと!?)」バッ
一夏「放したな! よし」
一夏「うわっととと!」
ラウラ「な、何!? 何故ISを解除する」
『白式』には剣しかないのはラウラは知り尽くしていた。
それ故に、『AIC』で余裕着々で動きを封じて、プラズマ手刀でバラバラに引き裂こうと思っていた矢先だった。
一夏はイグニッションブーストで急接近したかと思うと、
突如ISを解除して地面を勢い良く転がりながら足元にまで来たのだ。
起き上がって見せた端正な顔からは皮膚が裂けて流れた血が顔の半分を真っ赤に染めていた。
79: 2013/07/27(土) 01:26:08.30 ID:sm8a3fLu0
だが、一夏の目は痛みに慄えることもなく、一心不乱に毅然とラウラの目と目を見た。
ラウラ「な、何だ、こいつの、目は…………(こ、この目はあの人と――――――)」
そして、予想を遥か上を行く一夏の奇行に呆気に取られたラウラを尻目に、
ぐちゃぐちゃに裂けた制服を出来る限り整えてから言うのであった。
一夏「誰だ! お前にこんなISの使い方を教えた奴は!」
ラウラ「――――――!?」
天を呑む覇気とはこのことなのだろう。広大なアリーナに響き渡る一夏の怒声に――――――というより、
まさか自分がこんな形で叱られるとは思わなかったので、ラウラはただ目を丸くしていた。
一夏「――――――答えろ!!」
ラウラ「そ、それは…………」
一夏「答えらないほどの凡庸な人物に教えを賜ったのか!」
ラウラ「き、貴様! 織斑教官を、じ、実の姉を、愚弄するのか!?」
ラウラには信じられなかった。頭が真っ白になりそうだった。
今ここに立って自分を貫くかのような力強い眼光を放つ、織斑教官がひたすら愛している者が、
臆面もなく自分の敬愛してやまない人物を凡庸と言い放ったことに。
悔しいことにこの時、ラウラは自分が初めて織斑一夏と織斑千冬の姉弟の繋がりを心の中で認めていた。
一夏「そうか、『二連覇し損ねた』旧世界覇者“ブリュンヒルデ”織斑千冬に、か」
一夏「どうやら織斑千冬は選手としては比類なき存在でも、人を育て成長させることに関しては下手だったんだな」
ラウラ「こ、これ以上の教官への暴言は許さないぞ、織斑一夏!」
ラウラ「それに、その原因を作ったのは貴様ではないか!」
激昂するラウラであったが、先程までの残酷なまでの冷酷さの意気は見られない。
一夏「そうだ。俺こそが織斑千冬の栄光の道を汚した最大の汚点だ」
ラウラ「ならばこそ、貴様は……貴様は……!」
一夏「お前がそんなに織斑千冬を敬愛するなら、お前に何をしたんだ?」
ラウラ「私は戦うために造られた戦士だ」
ラウラ「だが、IS適性が低く、適性強化に失敗してこの醜い烙印を目に押された後は“出来損ない”と言われてきた」
ラウラ「だが、織斑教官はそんな私を救ってくださった。そして、今では部隊最強の座を得るまでに育ててくださった」
ラウラ「だから、私は織斑教官を戦士として敬愛している! そして、同時に織斑教官の栄誉を汚すものは許さない!」
一夏「なるほど、なるほど」
一夏「言いたいことはわかった」
ラウラ「だから、最大の汚点である貴様を八つ裂きに――――――」
一夏「お前も織斑千冬の栄誉を汚す汚点だよ」
ラウラ「っ!? な、何を言って…………」
一夏「なら、もう一度言うよ」
一夏「誰だ! お前にこんなISの使い方を教えた奴は!」
ラウラ「――――――!?」
80: 2013/07/27(土) 01:28:17.45 ID:sm8a3fLu0
一夏「織斑千冬はお前を部隊最強にするためにこんなふうに誰かを傷つけるようなISの使い方を教えたのか!」
一夏「だとしたら――――――」
一夏「織斑千冬にとってお前は“出来損ない”だよ」
ラウラ「で、“出来損ない”……わ、私が織斑教官の“出来損ない”…………?」
一夏「そうだとも! 織斑千冬にとって勝負は遊びじゃない!」
一夏「いつだって真剣で、それでいて相手に敬意を払ったものだった!」
一夏「本気じゃない織斑千冬の教えで最強になって、有頂天になっているのも大概にしろ!」
ラウラ「ち、違う……きょ、教官は私に厳しくもよくしてくれた――――――」
一夏「だとしたら、これは何だ!?」
一夏「織斑千冬の薫陶を受けて織斑千冬至上主義を標榜するお前が!」
一夏「織斑千冬の教えにないようなこんな残虐な行いをして恥ずかしくないのか!?」
一夏「織斑千冬の“師匠”の許で修行してきた俺でもその高みに辿り着いていないのに、」
一夏「お前その歳で、織斑千冬と同じ“選ばれた人間”にでもなったつもりか!」クラッ
ラウラ「」
箒「一夏!」
シャル「一夏!」
一夏「すまない、血を流しすぎた……クラクラする……」
青褪めた表情。二人に肩を貸してもらった状態だったが、それでもその眼光はラウラを問い詰めていた。
ラウラ「わ、私は――――――」
千冬「そこまでだ、お前たち」
シャル「織斑先生!」
千冬「模擬戦をするのは結構」
千冬「だが、アリーナのシールドバリアーを破壊するような騒ぎを起こすのは教師として見過ごすことはできん」
千冬「トーナメントも近い。これ以上の揉め事が起きるのは大会主催者にとって不都合だ」
千冬「よって、今からトーナメントが終了するまでアリーナの個人的な利用は禁止とする」
千冬「どこかの誰かが、グラウンドを血で汚したからな。それを完全に除去する必要が出てしまった」
一夏「………………申し訳ありません、織斑先生」
千冬「以上だ。織斑もお前もとっととアリーナから出て行け!」
ラウラ「…………! わかりました、織斑先生」
81: 2013/07/27(土) 01:32:20.35 ID:sm8a3fLu0
シャル「頑張って、一夏! もうすぐ担架に乗せるから」
一夏「悪い、シャルル。アリーナ使えなくしちまった。いろいろと調整が必要だったのにな」
シャル「ううん、いいんだよ、そんなこと。だって、一夏はかけがえのない仲間の生命を救ったんだもん。むしろ僕はそれを仲間として誇らしく思うよ」
一夏「箒ちゃんも悪いな……」
箒「私もシャルルと同じ気持ちだ」
箒「だけど、もうあんな体を張った交渉なんてしないでくれ。私はお前が無茶をする度に胸が苦しくなるのだ」
一夏「おね……織斑先生、怒ってたね……。同じ事だよね?」
箒「ああ、そうだとも。だから――――――」
一夏「約束はできないけど、努力するよ。誰だってこんなふうにはなりたくないもん」
一夏「必要だったからしかたなくやっただけだ……」
箒「…………え」
一夏「だけど、ラウラ・ボーデヴィッヒって子があんなふうになったのは全部俺のせいなんだ」
一夏「だから、憎まれ続けてもいい」
一夏「ただ織斑千冬の教え子に醜い行いはさせたくなかったんだ」
箒「……難しい間柄だな。師の名声のために兄弟子と妹弟子が啀み合う」
一夏「う~ん、まあそういう関係になってくるのかな」
シャル「でも、兄弟子としての言葉はちゃんと響いたはずだから、きっと大人しくなると思うよ」
一夏「いや、俺が思うに、まだ足りない。響いたけど、届いていない」
箒「これ以上何が必要だと言うんだ?」
一夏「あいつは“強さ”が絶対だと思い込んでいる」
82: 2013/07/27(土) 01:34:46.23 ID:sm8a3fLu0
一夏「実はさ、身元を確認したら、ドイツ軍の少佐だった」
シャル「少佐!?」
一夏「あの歳で少佐っていうことは、物心ついた時から軍人だったんだろう」
一夏「軍隊のことはわかんないけど“じィちゃん”が言うにはさ、」
一夏「軍隊っていうのは“強さ”を貪欲に求めるところだから、」
一夏「『勝てば官軍負ければ賊軍』みたいな熾烈な競争、極端な価値観を強いられてきたんだと思う」
一夏「だから、あの子が人間らしくなるには、簡単な話、俺があの第3世代型ISに勝たないといけないってわけなんだ」
一夏「あれはまさしく考えられる上での最強の機体。あいつの考えている“強さ”の象徴だ」
一夏「あれに乗ってからはおそらく負け無しだろう」
一夏「だから、その不敗神話を打ち砕けば、あとは“強さ”とは違う価値観に目が行くはずだ」
一夏「あの子は今、戦闘機械と人間の間で揺らいでいる」
一夏「だけど、このままだとせっかく芽生えた心が壊れて人間ではなくなってしまう!」
一夏「そうなったら、本当の“出来損ない”になってしまう! だから――――――」
一夏「俺は兄弟子として妹弟子を助けたい」
シャル「なら、負けられないね」
箒「…………そうだな」
箒「なら、シャルル。一夏のことを頼む」
シャル「え?」
箒「あの専用ISに勝つには専用機の力が必要不可欠だ」
箒「そして、一夏に協力的な専用機持ちはシャルル、お前だけになった」
一夏「ああ、俺もそう考えていたところだ」
シャル「……本当にいいの?」
箒「一夏と一緒に戦いという気持ちがないと言ったら嘘だ」
箒「だが、それ以上に一夏の使命を応援したいという気持ちが勝ったんだ」
箒「頼むぞ、シャルル。私もトーナメントには出るが、ラウラ・ボーデヴィッヒを打ち倒すまでは絶対に負けるな!」
シャル「うん! わかった」
一夏「じゃあ、ひとまずは…………」タンカニノセラレル
箒「ああ、セシリアたちによろしくな」
シャル「一夏、絶対に安静にしていてね!」
83: 2013/07/27(土) 01:36:21.22 ID:sm8a3fLu0
――――――数日後、学年別タッグトーナメントまで残りわずか
一夏「それじゃ、一足早くにここから出て、ラウラ・ボーデヴィッヒとの決戦の準備にとりかかるよ」
セシリア「はい。お任せしましたわ、一夏さん」
鈴「一夏! 私の代わりに、あの娘をコテンパンにしなさいよ!」
一夏「ああ、そのつもりだ」
一夏「だけど、その前に…………!」
一夏「セシリアさん、鈴ちゃん。実は頼みがある」
セシリア「何ですか、一夏さん。一夏さんの頼みなら、何でも聞いてあげますわよ」
鈴「こんな状態で一夏の役に立てることなんてある?」
一夏「簡単な話だよ――――――シャルル!」
一夏「心配しないで。二人はもう十二分に俺の力になってくれたよ(可哀想だが、嘘じゃない)」
一夏「大会主催者には感謝してもしきれないな。これであのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』と戦う準備はできた」
一夏「作戦にはシャルルの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』の拡張領域の高さが必要不可欠」
一夏「あとは、用意したものを俺自身が活かせるかだ」
一夏「セシリアさん、鈴ちゃん……! 二人の犠牲は無駄じゃなかった!」
一夏「そして、箒ちゃん……! 俺のためなんかに自分の気持ちを抑えて、シャルルの背を押してくれて」
一夏「“じィちゃん”、見ていてくれ――――――」
一夏「あなたが教えてくださった、人を活かす剣の極致を見せるのはここにおいて他にない!」
84: 2013/07/27(土) 01:40:44.14 ID:sm8a3fLu0
一夏「ああでも……新しく買ってもらった制服、やっぱ着心地悪いな……」
一夏「思い切ってカスタムメイドにして、こう身体を締め付けない感じのにすればよかった……」
一夏「縫った後もなんか気になるし」
一夏「――――――!」
一夏「(あそこにいるのは織斑先生と、ラウラ・ボーデヴィッヒ!)」
ラウラ「――――――ここにいる人間はISをファッションか何かと勘違いしている!」
ラウラ「そのような者たちに教官が時間を割かれるなどと――――――」
千冬「そこまでにしておけよ、小娘。それにここでは教官ではなく、先生と呼べと言ったはずだがな」
ラウラ「……はっ、申し訳ありませんでした」
千冬「少し見ない間に偉くなったな」
千冬「15歳ですでに“選ばれた人間”気取りとは恐れ入る」
ラウラ「――――――(やつと同じ)!? わ、私はただ――――――」
千冬「寮に戻れ。こんなところで道草を喰っていると足元を掬われてるぞ」
ラウラ「くぅ…………」タッタッタッター
85: 2013/07/27(土) 01:42:49.69 ID:sm8a3fLu0
千冬「………………」ハア
千冬「そこの男子、盗み聞きか」
一夏「いえ、夕日に照らされた池を眺めていました」
千冬「ほう、何が見えた」
一夏「池の波紋で歪む二人の距離感」
千冬「……そうか」
一夏「自分でやったといえ……、相当まいってますね」
一夏「これだけは言ったほうがいいんじゃないんですか」
一夏「『愛していた』って。そうすれば――――――」
千冬「それを言ったところで、感じることはできないだろう」
千冬「私にそれができなかったことぐらい知っているだろう」
一夏「でも、俺は織斑先生がどれだけ生徒を大事に――――愛を注いでいるかわかっています」
一夏「ここの卒業生たちはみんな織斑先生に『ありがとう』の声を揃えて言うんですよ」
一夏「あの子だって同じだ。ただの戦闘機械だった彼女は今の自分の気持ちに戸惑っている」
一夏「あの縋るような目を見れば、わかるでしょう、何を求めているか」
千冬「………………」
一夏「俺に対して敵愾心を抱いているのは、単純に俺が“ブリュンヒルデ”織斑千冬の経歴に傷をつけたから」
一夏「――――――だけじゃない!」
一夏「そんな不甲斐ない俺に織斑千冬が家族としての無償の愛を注いでいることに腹が立っているんだ」
一夏「『こんなにも頑張ったのに、必氏に努力して強くなったのに、なんであいつは私以上に織斑教官に近しい存在なんだ』ってね」
千冬「…………似た者同士だな」
一夏「だって、織斑千冬という偉大な人を師とする兄弟子と妹弟子ですから」
千冬「なら、勝てよ。そして、正してやってくれ」
一夏「俺が誘拐されてからは優しくなったね」
一夏「言葉遣いが柔らかくなってる。昔だったら『正してやれ』って言うところなのにね」
千冬「私も人の子だ。お前ほどではないが、寂しいのは苦手でな」
一夏「……それじゃ、今日はお疲れ様でした」
千冬「ああ」
千冬「………………」フゥ
千冬「…………こうなったのもお前が大きくなったせいなんだがな」
千冬「肩の荷が軽くなって、たるんだものだな、この私も」
86: 2013/07/27(土) 01:44:40.15 ID:sm8a3fLu0
――――――タッグトーナメント当日
セシリア「一夏さん、ついに学年別タッグトーナメントの日がやって来ましたわね」
一夏「俺一人のために主旨が変わるなんてな。やっぱり俺って普通じゃないんだな」
セシリア「直接会場で応援することができないのが残念ですけれど、病床から精一杯応援させていただきますわ」
一夏「なあ、セシリアさん。ふと思うんだけど、俺はやっぱり公式戦とかに出ない方がいいのかもしれない」
セシリア「ど、どうしたんですの、急に……?」
一夏「ああ、ちょっとしたジンクスだよ」
一夏「俺の公式戦、全部が全部、まともな終わり方じゃなかったからね」
セシリア「そ、それは…………」
一夏「セシリアさんとのクラス代表決定戦、鈴ちゃんとのクラス別対抗戦。いずれもまともな状態での帰還はなかった」
一夏「今のところ、一番の被害を受けたのはセシリアさんだから……」
一夏「それに、クラス別対抗戦の時に俺はセシリアさんに『無事の帰還をただ見守っていて欲しい』なんてことを無責任に言い放った」
一夏「そして、セシリアさんの今の怪我の原因も俺が関与している」
一夏「だから、もし今回も何か起きたら一番にセシリアさんが心を痛めるんじゃないかって思って……」
一夏「言い訳がましいけど、観戦はせずに安静にしていて欲しい」
セシリア「……そうですか」
一夏「恨んでくれても構わない。クラス代表決定戦の時からずっと迷惑ばかりかけてきた」
一夏「それで少しでも快復が早まるよう願う、卑怯者の言い分だ」
セシリア「まったく一夏さんたら、本当におバカさんなのね」
一夏「………………?」
87: 2013/07/27(土) 01:46:50.25 ID:sm8a3fLu0
セシリア「ちょっと一夏さん、こっちへ」
一夏「…………ああ」
セシリア「えい!」
一夏「わっ!?」
懐かしい感覚がした。それはあの日セシリアが見せた慈愛の抱擁だった。
この柔らかさと温かさから伝わる想いが一夏に勇気を与える。
セシリア「前にも言いましたように、私は一夏さんに助けられてきました」
セシリア「ですから、私から一夏さんを助けたいとずっと思っていたんですよ」
セシリア「この傷は一夏さんへの想いから覚悟して受けた傷です」
セシリア「どこにも一夏さんが責任を感じるべき余地はないのです」
セシリア「むしろ、こんな私を助けるために、制服をボロボロにして、あちこち打って、何針も縫うような怪我をしてまで体を張った説得までさせてしまった…………」
セシリア「私の方が一夏さんに申し訳ないぐらいです」
セシリア「それに、これから一夏さんはあのラウラ・ボーデヴィッヒさんを救うための戦いに赴くのでしょう」
セシリア「大丈夫です。必ず勝てますわ。神の御加護は常に一夏さんにありますから」
セシリア「ですから、私のことは気にせず、一夏さんは一夏さんの心のままに空を舞ってください」
一夏「わかった、セシリアさん」
セシリア「では、行きなさい。セシリア・オルコットは織斑一夏の勝利を心待ちにしておりますわ」
一夏「ありがとう、セシリアさん」
一夏「では、行って参ります」
セシリア「神よ、殿方の行く手を照らし給え」
88: 2013/07/27(土) 01:48:03.00 ID:sm8a3fLu0
一夏「……喜ぶべきか、否か。いや、これでいい」
鈴「一夏、ここにいたの」
一夏「お、鈴ちゃん。退院、早くて何より」
鈴「お嬢様とは鍛え方が違うからね。それにこれくらいで倒れていたら、あんたの相棒になんかなれないじゃない」
一夏「心強いや」
鈴「へへへ」
鈴「でも、意外な対戦カードになったわね。まさか、いきなりあんたとラウラがぶつかるなんてね」
鈴「しかも、よりにもよってラウラの相方が箒になるなんて」
鈴「送り出した手前、どちらとしてもやり辛いね」
一夏「そうか? 俺はむしろ部外者がアリーナに入らなくてよかったと思ってる。そのほうがやり辛いからな」
一夏「手は抜かない。相手に失礼のない戦いをする。それがラウラへの説得力に繋がる」
鈴「やっぱヒーローは言うことが違うわ」
一夏「そうでもしないと果たせないからするんだよ。俺だってこんな手間のかかることなんかしたくない」
一夏「“強さ”を得ることはどこまでいってもただ手段でしかない」
一夏「それでそれ以上の何かを果たせない“強さ”なんてただの暴力だからね」
鈴「あんた、“じィちゃん”に似てきたわね」
一夏「そうかな? 俺、全然だと思ってるけど。漠然と真似ているというか」
鈴「自分ではわからなくても、こうして時間を置いて見るとはっきりとわかることだってあるもんよ」
鈴「でも、一夏は一夏らしく、昔と変わらない。それが一番だと思うよ、私」
鈴「ヒーローにとって大切なのは“強さ”だけじゃない、心の在り方だもんね」
一夏「それが“強さ”を求める者、“強さ”のある者の課題だからな」
鈴「さ、こんなところで道草喰ってないで行きなさいよ。シャルルが待っているわよ」
一夏「ああ、ありがとう、鈴ちゃん。決意が堅くなったよ」
鈴「なんとしてもあのISをボコボコにしてやりなさいよ!」
一夏「ははは、出来る限りね」
89: 2013/07/27(土) 01:49:11.34 ID:sm8a3fLu0
一夏「お待たせ、シャルル」
シャル「一夏、僕の方の最終確認は終わったよ」
一夏「ああ、俺もだ。立ち向かう勇気を分けてもらった」
一夏「しかし、臭い連中ばっかりだな、IS産業のお偉方っていうのは」
一夏「ゲロのような臭いが画面を通してプンプンする」
一夏「やっぱりタッグマッチを選んで正解だった。あんな連中の下卑た視線に当てられたら精神的に逝っちゃうよ」
シャル「ねえ、一夏」
一夏「ああ、シャルル。織斑先生に頼んでデュノア社や他のところのエージェントと接触できるようにしたから」
一夏「だから、今はラウラとの決戦に集中してくれ」
シャル「本当にありがとう、一夏」
一夏「礼を言うのはこっちだって同じだよ」
一夏「戦術的な面で言えば、シャルルのISと組めなかったら俺はタッグマッチでもろくに活躍できなかっただろう」
一夏「そして、今日も朝起きたら隣にはシャルルが居てくれた」
一夏「この場合において、こんなにも心強いパートナーは他にはいない」
シャル「ちょっと引っかかる言い方だけど、嬉しいよ、一夏」
シャル「あ、そろそろだね」
係員「次の織斑一夏選手、シャルル・デュノア選手の準備をお願いします」
一夏「よし、行くぞ、シャルル!」
一夏「俺たち仲間の結束の力が、“強さ”の不敗神話に終止符を打つんだ!」
90: 2013/07/27(土) 01:52:04.28 ID:sm8a3fLu0
ラウラ「………………」
一夏「前の威勢はどうした、ラウラ」
ラウラ「……私が私であるために、私は貴様を叩き潰す」
一夏「わかりやすい。口では勝ち目がないと判断したか」
箒「まったく、数奇な巡り合わせだな」
一夏「互いに手加減はなしだ」
箒「ああ、シャルルもな」
シャル「箒に託された想い、ここで果たすよ!」
アナウンス「試合開始」
ラウラ「………………行くぞ!」
一夏「(さあ、いろいろありすぎて何だか久々な気がする戦闘――――――)」
一夏「(いや、俺がアリーナを使用禁止にしたからだけど……)」
一夏「(この一戦は、俺が持てる全てを投入した戦いだ)」
一夏「(まず、基本的な方針は先に箒ちゃんを倒す)」
一夏「(箒ちゃんは『打鉄』。ISの基礎を学ぶ上で最も採用される量産機)」
一夏「(機動性はないが性能が安定していて使いやすい機体で、格闘能力は『白式』も喰える性能を持っている)」
一夏「(ただし、個人所有できるISではないので単一仕様能力は皆無)」
一夏「(また、接近戦主体の機体なのでセシリアの『ブルー・ティアーズ』が相手だと手も足も出ない)」
一夏「(『白式』が『ブルー・ティアーズ』に一矢報えたのは空戦能力が高かったからだ)」
一夏「(他に欠点を上げるとすれば、後付装備の射撃武器が中途半端な性能なので、)」
一夏「(これは完全に『白式』と同じく剣1つで戦わざるを得ない仕様となっている。訓練機故に致し方ない)」
91: 2013/07/27(土) 01:55:28.61 ID:sm8a3fLu0
一夏「うおおおおおおおおお!」
ラウラ「開幕直後の先制攻撃! やはり、そうきたか。それしかないからな!」
一夏「(来た、『AIC』! あれは捕まったら最後のタイマン最強兵器! だけど!)」
シャル「僕も居ることを忘れないでよね!」
ラウラ「くっ! こちらが『AIC』で迎撃すると読まれていたか」
一夏「(そう。これは“俺のために”用意されたタッグマッチなのだ)」
一夏「(『AIC』で拘束するのはいいが、集中力を大きく割くので他への注意が疎かになり、)」
一夏「(実質的に『AIC』使用時は無防備状態になると考えていい。そこを狙い撃ちにすることができる)」
一夏「(この対戦形式の変更により、俺はこの恐るべき“強さ”の象徴である『シュヴァルツェア・レーゲン』と戦うことができた)」
一夏「(もしシングルのままだったら、間違いなく俺は戦おうとも思わなかっただろう)」
一夏「(ピンチがチャンスに変わるのだ)」
一夏「(それともう1つ、俺たちには強みがあった)」
一夏「(相手のタッグの空戦能力が低く、『白式』のイグニッションブーストを捉えることは不可能だということ)」
一夏「(もちろん、『シュヴァルツェア・レーゲン』には高威力の対空兵装が備わっているので過信は禁物だ)」
一夏「(レールガンなんて俺なら避けられるだろうけど、シャルルが避けられるとは限らないし、)」
一夏「(そして何より、6基の自在に宙を舞うワイヤーブレードが非常に厄介だ)」
一夏「(『ブルー・ティアーズ』と同じ誘導兵器で、やはり使用中は集中力が分散するので機体の動きが鈍る)」
一夏「(だが、相手は戦闘のプロだ。こちらが狙い撃ちしてもワイヤーブレードで捉えられるなら、構わず操作を続け、そこをレールガンで畳み掛けるだろう)」
一夏「(さて、ここまで言えば、いかに『シュヴァルツェア・レーゲン』が恐ろしい性能かわかるはずだ)」
一夏「(そこで、俺は機体を使うISドライバーの戦術思考に注目したのだった)」
92: 2013/07/27(土) 01:56:42.56 ID:IUYxfxtp0
箒「行くぞ、一夏!」
シャル「あっちは僕に任せておいて!」
一夏「おう!」ガキンガキン
ラウラ「く、時代遅れの第2世代型ISの分際で!」
シャル「量産の目処が立たない第3世代型の鈍重な機体でどこまで捌けるかな?」
一夏「(実は、俺はタッグマッチのパートナーは戦術的な選択ではシャルルしかありえなかった)」
一夏「(まず、シャルルの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』は とにかく拡張領域を追求して、なんと原型機の2倍にまで増やしており、この積載量が重要だった)」
一夏「(『ブルー・ティアーズ』も『甲龍』も俺に武器を貸すほどの拡張領域を持っていなかったからだ)」
一夏「(そして、豊富な武装を活かせるシャルルの特技『高速切替』によって、パートナーとしての地位を不動のものとしている)」
一夏「(『高速切替』とは量子化した武装を取り出す予備動作をせずに、最小限の動作や音声入力で戦闘中に間断なく武装を変えて、怒涛の弾幕を形成することができる高等テクニックだ)」
一夏「(後付装備が20もいっている機体で、目的に沿った装備を的確かつ迅速に選択でき、高い命中精度で相手を追い詰めるシャルルの火器管制能力には舌を巻くしかない)」
93: 2013/07/27(土) 01:58:17.06 ID:IUYxfxtp0
一夏「さすがに強いな、箒ちゃん」
箒「まだまだこんなもんじゃないぞ、私の実力は!」
シャル「――――――あ、一夏!」
一夏「――――――あいつ! 箒ちゃん、離脱しろ!」
箒「何!?」
ラウラ「邪魔だ」
箒「な、何だと! 味方に攻撃されるとは…………」
鈴「タッグマッチの僚機を投げ飛ばすなんて正気の沙汰じゃない!」
織斑「やはり、そうなるか」
山田「織斑先生……」
一夏「……心の底からどうしようもないやつだ!」
シャル「これは絶対に――――――」
一夏「ああ、負けられない!」
一夏「(残酷なことを正直に告白すると、箒ちゃんはこうなると思っていた。だから、敵としては数えていなかった)」
一夏「(ラウラにとっては自分以外――――自分の“強さ”以外信じられない)」
一夏「(だから、基本的に1対2のハンデマッチという意識で挑むことはわかりきっていた)」
一夏「(そうさせたのは何もかも、あの機体のせいだ)」
一夏「(あの機体はどの武装も高威力かつ迎撃能力に長けており、もしかしなくても1機だけでIS部隊を殲滅できるぐらいの性能を持つ。元から連携を意識させるような機体じゃないのだ)」
94: 2013/07/27(土) 02:01:14.90 ID:IUYxfxtp0
一夏「それでも! 個人の“強さ”なんていうものにはどうあがいても限界があるんだ! それを教えてやる!」
一夏「“一人よりも二人”だ、シャルル!」
シャル「了解!」
一夏のシークレットコードによって、
シャルルは『高速切替』で二丁のマシンガンと二丁ショットガンによる弾幕で牽制し、
更にシャルルが青い煙幕を空に撃ち上げたのだった。
一夏の『白式』はイグニッションブーストでアリーナの限界高度へと一気に離脱した。
ラウラ「く、この程度の攻撃なら余裕で『AIC』で防ぎきれる!」
ラウラ「それよりも何故『白式』が離脱した? あの青い煙幕はただの目眩ましではないな」
ラウラ「く、やつめ、煙にまぎれて何をする気だ!?」
一夏「(見せてやるぞ、これが俺の全力だ!)」
鈴「始まったわね!」
セシリア「この病室からも見えますわね。あの青い煙幕」
セシリア「そして、この戦い最大の秘策が幕を開けますわ!」
山田「『白式』が何か展開をして――――――え!?」
千冬「まさか織斑がとった策とは…………これはさすがの私も驚いたぞ」
ラウラ「――――――な、何!? レーザーだと! これは『AIC』でも防ぐのは困難!」
ラウラ「だが、そんなものは二人の装備になかったはず!?」
ラウラ「しかもあの距離から!?」
ラウラ「まさか、接近戦でも能がない『白式』があそこまで距離をとったのは――――――!?」
山田「あ、あれは『ブルー・ティアーズ』のレーザーライフル『スターライトmkⅢ』じゃないですか!?」
山田「どうして、織斑くんの機体が!? 確か後付装備はできなかったはずですが!?」
千冬「考えられるのは、あれがデュノアの機体の後付装備であり、それを遠隔展開させたのだろう」
山田「でも、それを何故デュノアくんが?」
千冬「簡単なことだ。織斑は必要と思ったこと、必要と思われることは全て追究してきた男だ」
千冬「つまり、そういうことだ(本当に“師匠”に似てきたな)」
95: 2013/07/27(土) 02:06:13.11 ID:IUYxfxtp0
ラウラ「何故だ! 何故こうも正確に狙いを付けられる!?」
ラウラ「あの機体には射撃翌用火器管制システムさえも搭載されていなかったはずだ!」
シャル「そんなのは一夏には必要ないんだよ!」
観客「あれが、“ブリュンヒルデ”織斑千冬の弟にして」
観客「“世界で唯一ISが使える男性”と謳われた」
観客「織斑一夏の実力!」
観客「おい、あれはスコープなしで乱射しているだけではないのか?」
観客「いえ、恐るべき事実ですがスコープなしで連続で精密射撃を行なっています!」
観客「おお、何と素晴らしい戦闘力だ…………!」
観客「我々はいずれは――――――」
ラウラ「何という事だ! ここまで一方的に追い詰められるとは!」
ラウラ「――――――何だと、こっちはイグニッションブーストだと!?」
シャル「それだけ入念な対策を施してきたってわけだよ!」
シャル「この距離なら外さない! 止めだよ、一夏!」
観客「今度はなんだ? 何か撃ち上げたぞ!」
観客「炸裂した! ペイントボールか?」
観客「いや、マゼンタのような赤みがかった黒の煙の雲を作ったぞ」
観客「雲型煙幕弾?」
一夏「作戦通りだ、シャルル! よし、これでえええ!」
シャル「どうだい『盾頃し(シールド・ピアース)』の威力は!」
ラウラ「かはっ!」
鈴「すごい威力。あの黒いのがものすごい勢いで壁まで吹っ飛んだわ」
ラウラ「まだだ! ここで終わるわけには!」
一夏「(いや、終わりだ。作戦通りにいけば、その壁際がお前の磔刑所だ!)」
鈴「来た!」
山田「あ、あれは……!」
千冬「あれも持ち出すあたり、やることなすことが徹底的だな!」
山田「こ、今度は『甲龍』の『双天牙月』のブーメラン!?」
ラウラ「ば、馬鹿な! そんなものなど、『AIC』で簡単に…………!」
一夏「ファイア」
ラウラ「………………何だと(このタイミングでレーザーライフル)!?」
ラウラ「(あれだけ撃っておいてまだ弾切れじゃなかったのか!?)」
96: 2013/07/27(土) 02:09:03.04 ID:IUYxfxtp0
ラウラ「ぐはっ(そんな、私はこの程度で……!?)」
――――――出来損ない
ラウラ「(嫌だ、違う! 私は“出来損ない”なんかじゃない!)」
――――――出来損ない
ラウラ「(私は負けられない! 負けるわけにはいかない!)」
ラウラ「(私は、私は――――――!)」
ラウラ「うわあああああああああああああああああ!!」
一夏「な、何が起きた!?」
山田「な、何ですか、あれは!?」
千冬「レベルDの警戒態勢を」
山田「りょ、了解」
アナウンス「非常事態発令! トーナメントの全試合は中止!」
アナウンス「状況はレベルDと認定! 鎮圧部隊による安全確保を行います」
アナウンス「来賓、生徒の方々はすぐに避難してください」
一夏「何てこった! またかよ! これで三度目だ!」
一夏「セシリアさん、ごめんなさい。俺ほんとについてないな」
シャル「い、一夏、機体の変Oが終わったみたいだよ。どうするの!?」
一夏「あれが何なのかはわからないけど、鎮圧部隊が送られるぐらいだ。俺たちも出来る限り、相手を――――――」
一夏「……え、あれは剣? 見覚えがある形だ! まさか雪片なのか!?」
シャル「一夏!?」
一夏「――――――な、何!?」ガキーン
一夏「い、居合術!? この機動力、イグニッションブースト!? そして何だその、フルフェイススキンの輪郭は?!」
一夏「(俺は知っている! 何度も見直して目に焼き付けた――――――)」
一夏「間違いない! こいつは……!」
一夏「手を出すな、シャルル!」
一夏「等身大じゃないが、こいつは『モンド・グロッソ』総合優勝した時の織斑千冬のコピーだ!」
一夏「迂闊に飛び込んだら刀の錆になるぞ!」
シャル「で、でも、一夏! 鍔迫り合いで圧されて……」
箒「い、一夏あああ!」
97: 2013/07/27(土) 02:11:38.82 ID:IUYxfxtp0
一夏「く、一回りも二回りも実物より大きいけどこれが“ブリュンヒルデ”の太刀か。やっぱり強いな」
一夏「おい、ラウラ。聞こえているなら、返事をしてくれ!」
一夏「驚いたよ! こんな隠し芸を持っていたなんて!」
一夏「けど、もう十分だろ?」
ラウラ「――――――」
シャル「剣を引いた?」ジャキ
一夏「――――――!? 不用意に照準を合わせるな! 離脱しろ、シャルル!」
シャル「――――――え、は、速い!?」
箒「ば、馬鹿な! あの距離を一瞬で詰めたのか!?」
シャル「うわあ!? シールドエネルギーが!?」
一夏「(く、『白式』のエネルギーはまだ半分以上あるが、どうする?!)」
一夏「(あれを停止させるにはシールドエネルギーを空にすればいいのか?)」
一夏「(となれば、『零落白夜』による一撃必頃しかない。それが俺にできることだ)」
一夏「(だが、迂闊に斬っていいのだろうか? 誤ってラウラを斬り捨てることにはならないか?)」ジンワリ
一夏「(何をしているんだ、織斑一夏!)」
一夏「(倒し方はわかっているんだ! あれを倒すのなんか今の俺なら造作もないことだぞ!?)」
一夏「(ならセシリアさんの時のことが、どうしてこうも……!?)」ブルブル
一夏「(“じィちゃん”。どうやら俺はこの戦いに仲間の力を結集させ、“強さ”の象徴である黒いISを撃破出来ました)」
一夏「(しかし、最後には俺自身の“強さ"が試されるようです)」
シャル「うわああ!」
一夏「(く、迷ってなんかいられるか!)」
一夏「――――――そこのIS、俺と勝負しろ!」
ラウラ「――――――」
シャル「はあはあはあ……」
箒「応じた!? シャルル、大丈夫か」
箒「一夏、どうする気だ!?」
一夏「この一振りに勝負をかける!」
98: 2013/07/27(土) 02:13:52.34 ID:IUYxfxtp0
一夏「腕部以外の機能を停止。『零落白夜』起動」
箒「止めろ、無茶だ! 手加減できる相手じゃないんだぞ!」
シャル「一夏!」
一夏「(俺は『勝負しろ』と言ってしまった。そして、やつも『応じて』くれた)」
一夏「(どういう思考で動いているか知らないが、近寄られたら叩き斬られる他ないから、他の装備なんて要らん)」
一夏「(背水の陣! 甘えをなくせ! 手の震えを止めろ!)」
一夏「(簡単なことだ。『零落白夜』で浅く斬ってシールドエネルギーを空にする。簡単なことじゃないか)」
一夏「(必要なのは、命を奪えるこの剣の重みだけ! あとは機を計るのみ!)」
一夏「(そして何より、この怒りだ――――――!)」ゴゴゴゴゴ
箒「互いに構え終わったぞ」
シャル「全く動かないね」
箒「私は剣道しかやっていないからよくは知らないが、」
箒「居合術はいつ仕掛けるかの読み合いが重要な武術だ」
箒「ああやって睨み合いを続けて一瞬でも集中力を欠いたところを一瞬で斬り捨てるものらしい」
箒「考えられる上で最強の敵に、たった一振りで勝負を決めようだなんて、私はどうしていればいいんだ!?」
シャル「見守るしかない。信じるしかない。僕たちは待っているしかない!」
箒「……鎮圧部隊が到着したようだな」
シャル「どうやら、あれの対処を一夏に任せているみたい」
箒「(まさしく正念場だ。頑張れ、一夏!)」
99: 2013/07/27(土) 02:18:20.12 ID:IUYxfxtp0
ラウラ「――――――」
一夏「――――――っ!」
一夏「――――――むん!」ズバーン
勝負は長引かせておきながら呆気無く終わった。
確かにコピーの“ブリュンヒルデ”はどれをとっても隙のない究極の性能を示した。
しかし、一夏は知っていた。そこに決定的な弱点があったことを。
結論から言えば、
相手は確かに完璧なコピーであったが、
――――――完璧であったがゆえに敗北した。
何百回も『モンド・グロッソ』における織斑千冬の戦闘を見て目に焼き付けていた一夏は、
使用していた居合術の一の太刀が返されたことがなかったことに気づいていた。
何故それが一夏にとって最大の勝因になったのかと言えば、
それに対する返し方があったからであり、一夏は形の通りの流れるように返り討ちをしたのである。
『モンド・グロッソ』を総合優勝した織斑千冬の完璧なコピーだったからこそ、
『モンド・グロッソ』での戦闘しかコピーしていなかったからこそ、
一夏の返し刀に対応できず、一夏は容易に討ち果たせたのである。
本物が相手だったらこうはならなかっただろう。
しかし、真に驚嘆に値するのは、攻略法を知っていたにせよ、
腕部と雪片弐型だけを展開したほぼ生身の状態で、
圧倒的加速力と迫力で迫ったそれを返り討ちにさせた、
一夏の反射神経・瞬発力・空間認識力であり、それを実現させただけの超人的な身体能力である。
この“強さ”の片鱗は、彼の語られない伝説としてまことしやかに囁かれていくことだろう。
100: 2013/07/27(土) 02:21:53.02 ID:IUYxfxtp0
ラウラ『お前はどうして強い? どうしてその強さを得たのだ』
一夏『最初はただの遊びみたいなものだった。そこまで“強さ”なんてものにこだわっていなかった』
一夏『でも、どうしてもそれが必要だっていうことがわかったんだ』
一夏『あの日、テ口リストに誘拐されて『モンド・グロッソ』2連覇の栄光を投げ出してまででも俺を助けに来てくれた織斑千冬を前にして、強くないものはこうやって誰かの足を引っ張るっていう罪悪感を覚えた』
一夏『だから、俺は“じィちゃん”の許で強くなろうと決めたんだ』
一夏『“強さ”はただ手段でしかない』
一夏『自分の全てを使ってでも守りたいと思えるものを守れなかったら、悔いても悔やみきれないだろう?』
一夏『“強さ”っていうのは本来そうあるべきものなんだよ』
ラウラ『それはまるであの人のようだ…………』
一夏『それはそうだろう。だって、世界覇者:織斑千冬を鍛え上げた人が“じィちゃん”なんだからさ』
一夏『姉弟揃って同じ人の許で修行をしたんだ。似て当然だよ』
一夏『ラウラ。だから、お前もそういう守りたいものを見つければいい。そうすれば、自然と力が湧いてくる』
一夏『今度はできるはずさ!』
一夏『だって、俺とお前は織斑千冬という同じ師を持つ兄弟子と妹弟子なのだから、できないという道理はない!』
一夏『困った時は頼るんだ!』
一夏『どうしても自分一人じゃ越えられない壁も“一人よりも二人”なら越えられるかもしれない!』
一夏『そうやって、一緒にあの人の高みにまでいこう』
一夏『――――――“一人よりも二人”だ』
一夏『もう、ひとりじゃないよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ』
一夏『守ってやるよ』
101: 2013/07/27(土) 02:24:17.34 ID:IUYxfxtp0
――――――同日、夕方
一夏「織斑先生、ラウラの容態は?」
千冬「ああ、意識が戻った。憑き物が落ちたように歳相応の無垢な表情を見せていた」
一夏「そうですか。よかった、ちゃんと届いてくれたか」
千冬「しかし――――――」
一夏「IS業界はゲロ以下の臭いにまみれた連中ばっかりだ!」
一夏「涼しい顔でニコニコしやがって! 自分たちは関係ないとでも思っているのか、鬼畜生共め!!」カベドン
一夏「VTシステム:ヴァルキリー・トレース・システム……!」
一夏「『モンド・グロッソ』部門優勝者“ヴァルキリー”の戦闘データを再現・実行するという、禁忌のシステム」
一夏「そんなものが何故搭載されていた!」
一夏「“じィちゃん”が尽力して葬った代物が何で……!」
一夏「不完全なデッドコピーでしかないあれをISで再現した場合、乗り手の精神から完全にコントロールが奪われ、最悪ドライバーの安全性すら無視してしまうような明らかな欠陥品!」
一夏「そんなのが第3世代型ISに搭載されるぐらい研究がどこかで続いていたなんて許せるか!」
千冬「………………いつの時代も禁忌に手を出す邪な連中はいるものだ」
千冬「織斑。そんなことよりもデュノアの件だが、うまくいったぞ」
一夏「――――――! あ、ありがとうございます!」
千冬「いや、こちらは指示通りに従っただけで、頑張ったのはデュノア本人だ」
千冬「トーナメントよりもよほど緊張していたのか、控え室で寝こけていたぞ。後で労ってやれ」
一夏「はい」
一夏「ところで、織斑先生」
千冬「何だ? これ以上、何かあるのか」
一夏「俺の公式戦、3度も潰れましたね」
千冬「………………」
一夏「やっぱり俺は“じィちゃん”を氏なせたように……」
一夏「いずれ世界を混乱に招くかもしれない芽として早々に摘まれたほうがいいのですかね」
千冬「………………!」バチン
一夏「………………」
千冬「大人を見縊るなよ。それにその責任を負うべきは私とあの女だけでいい」
千冬「……しかし、わずか10年で世界はこうも変わり……」
千冬「そしてブラックボックスだらけのISを早速悪用する輩が出てくる始末。人類の業は深いな」
一夏「そうですね。今は最強兵器であるISを国際社会が制御していても、いずれは不正な量産技術が発達し、」
一夏「やがては顔の見えている世界大戦へと発展していくんでしょうね」
一夏「どうして人はこうも…………」
一夏「人を活かす剣なんていうのは所詮は夢幻に過ぎないのでしょうか」
一夏「かつての宇宙開発用の理念は今は消え去り、ただ兵器としての利用ばかりが進んでいる」ハア
一夏「またどこかで災厄の火種が芽吹いているんだろうな」
102: 2013/07/27(土) 02:25:35.83 ID:IUYxfxtp0
――――――その夜。
シャル「トーナメントはデータを取りたいから1回戦だけは全部やるんだって」
一夏「そう。まあ、一応の成果は出たってことか」
一夏「ま、嘘や欲望に塗れたお偉方とこれ以上関わらなくすむならそれでいいや」
シャル「うん、そうだね。今日は本当にありがとう、一夏」
一夏「じゃあ近々、みんなで戦勝を祝おう。俺たち仲間の結束の力の勝利を祝って!」
山田「ここに居ましたか、織斑くん、デュノアくん」
シャル「あ、山田先生、どうしたんですか?」
山田「お二人に朗報です。ついにできたんです」
一夏「え、何かあったっけ?」
山田「ふふふ、聞いて驚け~! 男子の大浴場なんです!」
シャル「やっぱり僕も入らないとダメかな?」
一夏「よく考えたら、」
一夏「俺以外誰も居ない浴場だなんて寂しいじゃないかああああ!」
一夏「だから、頼む! 近日中には《シャルロット・デュノア》に戻るんだろ?」
一夏「今日だけでいいから!」
シャル「はあ、まったく一夏ったら本当に甘えん坊さんなんだから」
シャル「今日だけだよ」
一夏「やった!」
シャル「もう、一夏のエOチ」
103: 2013/07/27(土) 02:28:36.28 ID:IUYxfxtp0
一夏「いい湯だったね。今日は難題ばかりの互いにやるべきことに追われたけれど、どれも無事に良い結果に終わった」
一夏「――――――良い夢を見られそう」
シャル「うん。それじゃ、おやすみ、一夏」
一夏「うん」
一夏「スゥ」
――――――
一夏『“じィちゃん”! “じィちゃん”!』
じィちゃん『ワシのことはもう構うな……! 自分の身体のことはよく、わかっている……!」
一夏『嫌だ、嫌だよ、“じィちゃん”!』
じィちゃん『ワシの財産はこのタブレットに入っている』
じィちゃん『そして、良いか? 安全な場所まで行ったら、これから言う電話番号で保護を求めるのだ』
一夏『う、う…………』
じィちゃん『たわけ!』バキッ
一夏『うわあ!』
じィちゃん『貴様、いつまで泣いておる!』
じィちゃん『ワシは後先短い老いぼれだ。だが、貴様は生きねばならん!』
じィちゃん『お前にはワシの全てを叩き込んだ! お前がワシの教えを守ってさえいれば、忘れなければ、ワシの意思は潰えんのだ』
一夏『…………』
じィちゃん『よいか、人の一生の価値は他人からその存在や想いを覚えていてもらえるかで決まる。もしお前が[ピーーー]ば本当の意味でワシも氏ぬのじゃ!』
じィちゃん『お前はワシにとっての生きた証! 簡単に氏ぬつもりならワシの時間を返せ、愚か者!』
一夏『わ、わかったよ、“じィちゃん”。俺、“じィちゃん”がいなくても生きていくよ! 生き抜いてみせるよ!」
じィちゃん『まったく、しかたのない馬鹿弟子だよ。しかし、ワシはそんなお前のことが好きだったぞ』
じィちゃん『――――――――――――』
一夏『――――――――――――』
じィちゃん『よし、決して忘れるでないぞ。では、さらばだ!」
一夏『逃げるしかないのかよ……! くっそおおおおおお……!」
じィちゃん『さあ、来るがいい! 生身と言えども、この刀――――触れれば、斬れるぞ!』
じィちゃん『きええええええええええ!』
一夏『“じィちゃああん”…………!!』
――――――
一夏「くぅうぅううううう……!」
シャル「…………一夏、また怖い夢を見ているんだね」
シャル「でも、僕がずっとこの手を握っていてあげるからね」
一夏「“じィちゃあああああああああん”…………!!」
織斑一夏は何日か1度こうやって頻繁に悪夢にうなされていた。
それ故に、織斑千冬は織斑一夏を一人だけにすることに抵抗があった。
104: 2013/07/27(土) 02:31:23.17 ID:IUYxfxtp0
今、現在、ルームメイトとなっているシャルロットはこうやってしっかりと手を繋ぎ続けた。
そして、息子を看病する母親のように夜通し握り続けて、その果てに眠りに落ちることが数度あった。
一夏はその手の温もりの正体を確認する度に妙な既視感のようなものを感じていたのだった。
そして――――――、
一夏「ふと、思い出したがある」
シャル「どうしたの、一夏?」
一夏「どうしてシャルロットから一番母親らしさを感じたのか、その答えをね」
シャル「(誰にも触らせない櫃の中から何かを探してる)」
一夏「えっと、このアルバムだな。そう、この写真」
一夏「見て見て。このフランス人、シャルロットと面影が似ているんだ。この人にはお世話になった」
シャル「――――――! この人は…………」
一夏「そうだな、あれは“じィちゃん”に付いて行くのを始めた頃で、本当にあの頃は惰弱だった」
一夏「その頃の俺は誘拐されてから“じィちゃん”に引き取られたばかりだったから、」
一夏「無駄に力が入り過ぎて、強がろうとしていた」
一夏「いや、弟子入りしたからすぐに強くなったもんだと勘違いしていた」
一夏「だけど、初めての場所なのに強がって“じィちゃん”のために飲み物でも買おうとしてたら、」
一夏「案の定、迷子になっちゃってね」
一夏「それで、俺はフランスの田舎町で親切なこの人に介抱してもらったんだ。たった一晩だけ」
一夏「その後の忙しない修行生活の中で忘れていったんだけど、」
一夏「でも、覚えているんだ。あの感じ」
シャル「……一夏」ジー
一夏「……? どうした、シャルロット」
一夏「……悪い、興味なかったか」
シャル「これ、僕のお母さん」
一夏「…………へ?」
シャル「僕のお母さんだよ……懐かしい……」ポロポロ
シャル「それにね、一夏? もしかしたら僕はその時、一夏に会っていたかもしれない」
一夏「ほ、本当に?」
シャル「かもしれない。お母さんがある日、どこの子とも知れない子のお世話をしていたから」
シャル「こんな、こんなことがあるんだね、一夏」
一夏「なんというめぐりあわせ……運命っていうのを信じてみたくなるもんだ」
シャル「うん、本当にね」
一夏「なあ、シャルロット」
シャル「なに、一夏」
一夏「これから末永いお付き合いをよろしくお願いします」
シャル「うん!」
「一人よりも二人」
105: 2013/07/27(土) 02:33:39.58 ID:IUYxfxtp0
山田「えと……今日はみなさんに転校生を紹介します」
シャル「シャルロット・デュノアです。みなさん、改めてよろしくお願いします!」
周囲「………………え?」
セシリア「――――――はい?」
箒「ど、どういうことだあああああああ!」
一夏「イエーイ!」
山田「えと、“デュノアくん”は“デュノアさん”ということで……」
鈴「一夏ああああああああああ!!」バン
一夏「あ、おはよう」
鈴「『おはよう』じゃないわよ!』
鈴「ど、どういうことよ!? こいつが女だったってことは、つ、つまり――――――」
箒「同棲……不純異性交遊ではないかあああああああ!」
セシリア「『あなたが言うな!』ですわ!」
周囲「え、つまり今までずっと男と女が一緒に寝食を共にしてきたってこと?」
周囲「ねえ、私男子用の大浴場に毎日二人で入っていくの見たんだけど」
箒「私が部屋から出て行ったのに、女を連れ込んでいるとはどういう了見だ!」
セシリア「し、しかも、お、お風呂にふ、二人っきりで……」
一夏「独り身は寂しい!」キリッ
箒「そのためにジャンボサイズのテディベアをあげただろう!」
セシリア「そ、そうですわ。私だってその、抱き枕を……」
一夏「でも、肌の温もり、吐かれる息の味わい、隣にいてくれる安堵感に代えられるものはないよね」
鈴「」アゼーン
セシリア「」ガビーン
箒「そうだ、こいつはそういうやつだった……!」
セシリア「そ、そんな……! 誰でもいいのですか……?」
一夏「え、心外だな。誰でもいいわけないじゃないか」
一夏「“一人よりも二人”だよ? そして、二人よりも三人、三人よりもたくさん……」
一夏「一人とは限らず心安らげる仲間たちと一緒に明日を迎えられたら、最高だよね」
周囲「さっすが織斑くん! 言うことが違う!」キャーキャー
山田「うんうん、素晴らしいです、織斑くん!」
鈴「それとこれとは全然違う…………」
一夏「俺の仲間に要らないやつはいない! 居て欲しくないやつはいない!」
一夏「な、ラウラ」
シャル「さあ、次はきみの番だよ」
周囲「えっ?」
106: 2013/07/27(土) 02:35:37.20 ID:IUYxfxtp0
ラウラ「ら、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。その、みんな、先日までは本当にすまなかった」
ラウラ「だ、だから、その友達になってくれると、嬉しい……」ウサギミミ
ラウラ「そして、今度は、私がみんなを守る!!」キリッ
箒「」ポカーン
セシリア「ず、ずいぶん丸くなりましたわね」
鈴「あ、あんた、本当にあのラウラ・ボーデヴィッヒ?」
周囲「キャー、カワイイー!」ワーワー
ラウラ「……だが、みんなよく聞いてくれ!」
ラウラ「私はみんなを守ると言ったが、ある人の大きな支えとなることを許してくれ」
ラウラ「今からその契りを結ぶ!」
セシリア「ち、“契り”ですって?!」
箒「な、何をする気つもりだ!?」
ラウラ「一夏」チュ
セシリア「」
鈴「」
箒「」
シャル「………………」ニコニコ
ラウラ「お前は私の“兄嫁”にする。決定事項だ。異論は認めん!」
一夏「力の限りを尽くすんだぞ!」
ラウラ「はい、お兄さま!」
周囲「………………」ゴゴゴゴゴ
周囲「きゃあああ!」
周囲「大ニュース、大ニュース!」キャーキャーワーワー
箒「ど、どこの世界に口付けを交わす兄妹の契りがあるんだあああああ!」
セシリア「あわわわわわ……」
鈴「一夏ぁ……」
シャル「………………」ニコニコ
ガラッ
千冬「貴様ら、静かにせんかああああああ!!」
一夏「こうして、“二度目の転校の儀”によってシャルロットとラウラが俺の仲間となり、」
一夏「改めてクラスに迎えられ、俺の学園生活は充実していくのだった――――――」
千冬「いくらなんでもやり過ぎだぞ、この愉快犯!」ボコッ
一夏「ごめんなさい、おねえ……織斑先生…………」ボコボコ
シャル「よしよし、いたいのいたいのとんでいけー」
ラウラ「私もやってろう、お兄さま。いたいのいたいのとんでいけー」
一夏「イエーイ!」
107: 2013/07/27(土) 02:46:04.80 ID:IUYxfxtp0
筆者です。このメッセージにまで目を通してくれている方がいると幸いです。
常日頃、SSというものを書いてみたいと思っていたわけでしたが、
実際投稿してみると、凄い勢いでスレが流れていくのを感じました。
そして、投稿する毎にいちいちトップに戻ってスレに入って投稿フォームで80行の制限を確認しないといけないので、
ただ写しを手直し・投稿するだけこんなにも時間と労力がかかりました。
アニメ第一期分(OVA含む)に相当するシナリオはすでに書き終えているので、
翌日の夜にまた続きを投稿させて頂きます。
ただし最初は、原作とこのSSにおける改変度の差をネタバレしない範囲で簡単に記した、
キャラ紹介をさせていただくのであしからず。
その後は、臨海学校の事件、それから――――――
さて、このSSの原案となった、この織斑一夏の初期モデルを当てられる人はいるか、ちょっと楽しみです。
では、おやすみなさいませ。
ちなみに、私はインフィニッ党。無駄なキャラは一人もいないというスタンスで見ています。
作画監督続投できなかったけど、二期が楽しみ楽しみ~
常日頃、SSというものを書いてみたいと思っていたわけでしたが、
実際投稿してみると、凄い勢いでスレが流れていくのを感じました。
そして、投稿する毎にいちいちトップに戻ってスレに入って投稿フォームで80行の制限を確認しないといけないので、
ただ写しを手直し・投稿するだけこんなにも時間と労力がかかりました。
アニメ第一期分(OVA含む)に相当するシナリオはすでに書き終えているので、
翌日の夜にまた続きを投稿させて頂きます。
ただし最初は、原作とこのSSにおける改変度の差をネタバレしない範囲で簡単に記した、
キャラ紹介をさせていただくのであしからず。
その後は、臨海学校の事件、それから――――――
さて、このSSの原案となった、この織斑一夏の初期モデルを当てられる人はいるか、ちょっと楽しみです。
では、おやすみなさいませ。
ちなみに、私はインフィニッ党。無駄なキャラは一人もいないというスタンスで見ています。
作画監督続投できなかったけど、二期が楽しみ楽しみ~
108: 2013/07/27(土) 02:50:16.45 ID:P3lxI8rCo
乙
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります