124: 2013/07/27(土) 21:38:47.53 ID:igkI/qdJ0

一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」【前編】


5話 福音事件 篠ノ之箒
EVIL SHINE


一夏「…………朝だな」

一夏「何だろう? 久々に悪くない寝起きだな」

一夏「うん?」

ラウラ「ZZZZZ」

一夏「ああ、なるほどラウラか。寝心地が変わっているなと思ったら、ラウラが脇で寄り添っていたから」

一夏「まあいいや。今日は休日だし」

一夏「スゥ」
IS<インフィニット・ストラトス>1 (オーバーラップ文庫)

117: 2013/07/27(土) 20:30:48.63 ID:igkI/qdJ0
筆者だが、投稿前の準備と入ります。

誤植修正
禁止コードに引っかかったところがあり、
まとめる場合はそこは申し訳ないですが、
補っていただけると幸いです。


15,人を[ピーーー]→K O R O SU わけでもない。

17,アナウンス「試合開始」→上下共に2行のスペース
※基本的に明確な場面の節目は2行分のスペースを置いたつもりだった。

19,[攻撃翌力]→攻撃力だけ見ればこの単一仕様能力によって唯一無双の最強の攻撃手段を持っており、
※なんだ[翌力]って? 改行した際のミスか?

21,千冬「織斑は元々『零落白夜』の特性を知っていて使用を控えていたが、」←
※一行当りの表示数を考慮して投稿フォームで改行したので時々括弧を忘れていた。

23,セシリア「私が気づかないうちに[背追い]→背負い込んでいたものの正体を見破ってくださいました」

25,箒『ふふふ、そうかそうか[///]→削除』
※こういうAA表現を使うべきか悩んだが、全部取り消すことにした。

28,一夏「おかしいです。ベタベタする料理――――私が中華料理を毛嫌いするまでになった重要な人物なのに、」←

34,千冬「アレは私が剣一つで世界大会『モンド・グロッソ』を完全制覇するのに一役買った、 」←

37,[拠点攻撃翌用]→拠点攻撃用
※こんな変な入力予測の履歴はないのにどういうことだ?

42,医師「それでも全治数ヶ月、あるいは命に別条はなくても再起不能と判断できるほどの怪我が、 」←

70,一夏「――――――まるでお母さんみたい」 →上下共に2行のスペース
※印象的なセリフなどは全て大きくスペースをとるつもりだった。

75,シャル「だから、僕はね、一夏。後ろ指指されながら去っていく姿を一夏に見せたくないんだ」←

78,[ピーーー]→K O R O SU気か!!」

79,一夏「誰だ! お前にこんなISの使い方を教えた奴は!」 →上下共に2行のスペース

103,もしお前が[ピーーー]→SI NEば


119: 2013/07/27(土) 21:00:53.23 ID:igkI/qdJ0
なるほど、なるほど、了解いたしました。

ご助言感謝いたします。

今しばらく、参照されたサイトを読んでから投稿させて頂きます。

120: 2013/07/27(土) 21:08:05.73 ID:igkI/qdJ0
>>118 に改めて感謝いたします。
誤植なんかの訂正をしたかったのは正直なところでしたが、以後精進いたします。

[saga]→文字フィルター回避
[トリップ]→乗っ取り、なりすまし回避

では、投稿させて頂きます。

121: 2013/07/27(土) 21:22:51.54 ID:igkI/qdJ0

原作と本SSにおける設定の差異
改変度:A~E

ISドライバー:何気なく『パイロット』と同義の言葉で登場させているが、IS乗りの特殊性を強調させた表現として用いた
『私』:わたし、わたくし、あたし と読ませているので、キャラ毎に補完してもらいたい。


織斑一夏……改変度:A

このSSの根幹となる人物。
初期モデル:『ZETMAN』の神埼人(筆者の一押しキャラ)
セリフ回し:織斑一夏の中の人のいろいろ
思考回路:最後に目的を果たすためなら、必要に応じて自己犠牲も厭わない

織斑一夏誘拐事件の後に、織斑千冬の“師匠”である“じィちゃん”の許で世界各地を転々として修行生活をしたというオリジナル設定が大きな違い。
そして、『白式』もその武者修行中に獲得しており、
パイロットとしての経歴は意外と長く、更に実戦なれもしている。
最初から『白式』との因縁を強調させた展開になっている。

アニメを見ていると「根拠の見えない自信」が目についたので、
黙っていても説得力のあるような「洗練された戦術眼に裏付けされた自信」を持つようにした。

基本的に「熱血」であることには変わりない。
ただ、その方向性は“じィちゃん”の哲学に由来した理知的なものになっている。


異性からの恋愛に対しては「朴念仁」であることは変わらないが、
彼は“じィちゃん”との壮絶な氏別を経験し、諸行無常、明日の命さえわからないものと本気で考えている。

また“一人よりも二人”の座右の銘によって、
愛する人(一緒に寄り添ってくれる人)は多ければ多いほどいいと考えている。

つまり、原作の「朴念仁」は完全に無自覚に口説くイケメンだが、
この「朴念仁」は半分は無自覚に、半分は意識的かつ、節操が無いというか何というか、

老いていようが若かろうが男だろうが女だろうが異種であろうが取り込んでしまえるヒトタラシなのだ。

豪放磊落……一般人の価値観から超越したところにいる人物である。

ちなみに、性的知識や経験がなく、それを知る前に過酷な修行によって「性を捨て」て『人間』として振る舞うようになっているので、ラウラ並みに貞操観念が大きく欠落している。
種の生存本能の中で、性欲よりも安堵感を求めているために恋愛には発展できない。

嗅覚の鋭さは単なるお遊び。
だが、アニメだけだと伝わりづらい、IS産業が抱えている闇を端的に表現するのにはうってつけだった。


122: 2013/07/27(土) 21:28:38.10 ID:igkI/qdJ0

篠ノ之箒……改変度:E
ほぼ原作通りの設定。
ただし、原作では「湯上りの裸姿を見られて当たり散らした」ことで一夏との距離を自分で作ってしまうが、
こちらは「一夏がすぐに寝ていたので裸体を見られなかった」ので衝突もなく、落ち着いて話し合うことができ、
一夏との隔たりがなく、また一夏の影響で性格が丸くなっている。

アニメだけだと暴力女にしか見えないが、

幼い頃から証人保護プログラムによって偽の人生を強いられ、
心身ともに苦痛を感じながら生きてきたために、
非常に繊細で短気な性格になった

という立派な成因がある。

見せ場がなく、影が薄いのはしかたがない。だが、そこが一夏にとってはイイ。
一夏にとっては「自分と同じものに運命を翻弄された同類」「記憶の彼方から現れた幼馴染」


セシリア・オルコット……改変度:D
原作でも今作でも「一番に一夏と接点がない」人物。なので、変えようもないチョロインなのだが、
原作通りにしてしまうと箒を除いた改変度の高いヒロインに埋もれてしまうので、
ゆかな声の慈愛の女神をイメージした改変を行った。

一夏にとっては「自分の罪を洗い流してくれる慈愛の女神」


凰鈴音……改変度:A
一夏との接点や一夏に好意を抱く背景が完全に異なっている、一番の影響を受けた人物。全くの別キャラ。
基本的にここの箒と同じく、ツンデレなところはなくし、一途に一夏の背中を追いかける活発な少女をイメージした。

五反田兄妹との絡みも鈴との交友関係と合わせて中国に居住していたから友達になれたことにして整合性をとっている。

一夏にとっては「応援したくなる後輩」「自分を思い出させる思い出の欠片」


123: 2013/07/27(土) 21:37:06.03 ID:igkI/qdJ0

シャルロット・デュノア……改変度:C
基本的には原作通りだが、
アニメだけだとシャルロットのパイロットとしての凄さが伝わらないので出来る限りの特長を挙げてみた。
また、原作の一夏とこのSSの一夏との違いを明確にするために、正体を明かす経緯が大きく異なる。

ISの考察を独自に行なっている学士崩れの筆者だが、
このSSの一夏がどうやったらラウラ・ボーデヴィッヒを倒すのかをまじめに検討した結果、
シャルロットの称賛ばかりになってしまった。

とにかく美味しい役どころ、痒いところに手が届くキャラ設定だったので、縦横無尽に活躍してもらった。

一夏にとっては「母親のような存在」。


ラウラ・ボーデヴィッヒ……改変度:B
ラウラとの件は原作とは手段が大きく異なっており、この一夏だったらどうこの鬼門を突破するか考察した結果、
血塗れになって論破したり、他人のISの装備を使ってみたり、手段を尽くして救済することになった。

ラウラ戦はこのSSの総決算となっており、SS界隈における一夏(ワンサマー)の可能性を感じてもらえたことだろう。

一夏を原作の「嫁」ではなく「兄嫁」と言っているのは、「兄(弟子)で俺の嫁」だから。
ここの一夏が武道家としての性格を全面に押し出した結果、二人の関係に兄弟子と妹弟子という新たな観点が生まれたので採用してみた。
それに伴い、ここのラウラは私的な面で一夏に対して「お兄さま」と呼ぶようになり、他人の前では「兄嫁」と呼ぶようになった。


一夏にとっては「妹(弟子)」。


織斑千冬……改変度:C
原作と比べると、弟に相当甘くなっているが、その理由は割愛。
原作を見る限りだと黒のセーラー服ですでに居合術の達人になっていたので、いかに超人だったかわかる。


ちなみに、このSSの織斑一夏は書いてみて気づいたが、この一夏は織斑千冬の成分を多分に投与した感じである。
それが端的に現れていたのが、VS.無人IS(ゴーレム)においてアリーナの機能が停止して周囲が慌てふためいている中、「冷静」かつ「理知的」に状況判断し、コーヒーに砂糖と間違えて塩を入れるという「天然ぶり」を見せている。


つまり、このSSは結果的に「織斑千冬らしさを持った織斑一夏が主人公だったら」というような内容に近くなっている。


では、本編を再開。


125: 2013/07/27(土) 21:41:17.48 ID:igkI/qdJ0

箒「一夏、起きているか? 朝稽古を始めるぞ」ガチャ

箒「って、まだ眠っていたか」

箒「む? 今日の一夏はとても健やかな寝顔をしているな」

箒「…………」キョロキョロ

箒「休日だし、た、たまにはこういう日があったっていいはずだ」アセアセ

箒「それじゃ――――――む!?」

箒「な、何かいる!?」バサッ

箒「――――――ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

箒「な、何故裸で寝ているのだ、き、貴様っ!!」

ラウラ「ああ、朝か。あ、おはよう」

箒「『おはよう』ではない! 早く服を着ろ。そして、ベッドから出ろ!」

ラウラ「ああ、そうだな。」

ラウラ「起きてください、お兄さま!」

一夏「ううん……」

箒「早く服を着ろおおお!!」

一夏「んあ? ああ、ラウラと箒ちゃんか。おはよう」

箒「い、一夏、み、見るな!」

ラウラ「そんなに気にする必要があるのか? 一夏は私の兄嫁だぞ?」

箒「な、何なのだ、兄嫁とは? とにかく服を!」

ラウラ「む? 一夏は私の兄弟子で嫁だ。だから、兄嫁だ」

箒「な、何を言っているのか、意味がわからないぞ」

ラウラ「ああ、日本文化に詳しい私の部隊の副長に、私と一夏の関係はそう表現されるものだと言ったぞ」

箒「聞いたことがない。その副長は本当に日本文化に通じているのか?」

一夏「…………スコッチのバクローマン、鉄子にどうしても会えん…………寝よ」

箒「って、寝るな! 私と朝稽古をするんだ!」

一夏「今日は気分がいいからしたくない。この余韻をまだ味わっていたい」

一夏「ああ、そうだ。一緒に寝よ?」

箒「な、何を……」

一夏「箒ちゃんと一緒に寝るのは久々だし、今日は朝の風を感じながら眠るのも乙かなって」

ラウラ「お兄さま! 私も!」

一夏「うん、いいよ」

箒「わ、私は……」

一夏「ほら」

箒「あ…………」

一夏「風が気持ちいいな」

一夏「“一人よりも二人”、二人よりも三人……」


126: 2013/07/27(土) 21:42:18.85 ID:igkI/qdJ0










箒「わ、私はなんてことを…………」

ラウラ「どうしたのだ? 私の兄嫁はもう行ってしまったぞ?」

箒「ああ……自分の甘さを呪いたい……」

ラウラ「では、私は先に行くからな」

箒「くぅうう…………」

127: 2013/07/27(土) 21:44:46.73 ID:igkI/qdJ0

――――――同日、午前


シャル「ねえ、一夏?」

一夏「何だい、シャル」

シャル「学年別タッグトーナメントの後――――――そう、僕とラウラの“二度目の転校の儀”をしてからだと思うんだけど、」

シャル「――――――何か思い詰めてない?」

一夏「え?」

シャル「一夏ってさ、その日見た夢の内容がはっきりと態度に現れるからわかりやすいんだ」

シャル「でも、最近はため息をつく回数が異常に多い気がする」

一夏「凄いな。そんなに俺、溜め息吐いてた?」

シャル「何か、悩んでない?」

一夏「そんなことは…………」

シャル「でも、今思えばやっぱり学年別タッグトーナメントの夜から、一人でいる時、ずっと何かを考え込んでいたよね」

シャル「話しかけるまで僕に気づかないぐらいだったし」

シャル「偶然かと思っていたけど、やっぱりIS産業絡みのことじゃないかって思うんだけど、どう?」

一夏「……それもあるかな」

シャル「………………」

シャル「ごめんね。変なこと聞いちゃって」

一夏「え? いや、そんなことは……」

シャル「でも、一夏?」

一夏「?」

シャル「頼ってね。待ってるから」

一夏「……ありがとう、シャル」

128: 2013/07/27(土) 21:46:18.15 ID:igkI/qdJ0

――――――同日、弓道場にて。


一夏「もうすぐ臨海学校か」

一夏「何しようかな」

一夏「一挙一動の如く、また何か良くないことが起きそうだな……」

一夏「“じィちゃん”……俺は生きていていいのかな?」

一夏「……あ。外しちゃった」

一夏「………………」

一夏「箒ちゃんもラウラも俺もISの登場によって翻弄されて生きてきた」

一夏「箒ちゃんは実の姉であるIS開発者:篠ノ之束によって、一家離散の憂き目に遭っている」

一夏「ラウラはIS登場以前は優秀な戦闘機械だった。しかし、IS適性が低かったばかりに“出来損ない”扱いされて心に傷を負った」

一夏「そして、俺は『モンド・グロッソ』覇者:織斑千冬の弟であることから誘拐された。…………たぶん」

一夏「…………また、か。迷いは“強さ”を頃すか」

一夏「でも今は、本当に充実している毎日を送っている」

一夏「それは幸せなことのはずなんだけど……」

一夏「だけど、つい思うことがある」


――――――もしもISが無かったら?


一夏「今以上に俺やみんなは幸福で居られたのかな、と」

129: 2013/07/27(土) 21:53:37.20 ID:igkI/qdJ0

ISは現在でこそ戦場の花形となっているが、全世界での保有数はわずか500未満。
それを各国で分割しているのだから頑張っても一国で機甲師団並みの数を揃えられない、増やすことが一切できないものに、
世界構造――――――特にミリタリーバランスは大きく変わった。

ISは開発者である篠ノ之束という世紀の大天才が創りあげたブラックボックスの塊であり、彼女にしかISのコアは造れない。
ある日、突然生産を止めたために世界は今まで流通してきたISだけでやりくりしていた。


そもそも何故女性のみにしか扱えないのかでさえわかっていない。
ただその事実だけで世界的な人間意識――――――女尊男卑の世界観の形成に繋がった。


正確には国防に関してISを扱える女性が重く用いられるようになったことで、
これまでの軍事力の構成員であった屈強な男たちが土塊同然に軍事的価値に低下しただけである。

軍事的にはただそれだけである。

しかし、ISの導入によって軍縮が大幅に進んだのも事実だった。
それによって、問答無用でISの使えない男性兵士の雇用、それに連なる下請け企業の受注も失われていき、
軍需産業で大きなリストラの嵐が吹き荒れた。

しかし、フェミニズムや女性の社会進出が進んでいた現代においては、ISの登場は庶民の感覚に大きな変化を与えた。
何せISという従来兵器を遥かに凌駕しする力が女性にしか扱えないとあれば、
これまで暴力亭主やセクハラに苦しめられてきた女性たちにとっては足りなかった力が補えるように思えたからだ。


――――――ISによる圧倒的なまでの男への報復。


それは誰もが魔法少女になれる、まさしく夢のようなものと受け止められた。
実際はIS適性が高く、満足に動かせる女性というのは一握りなのだが、
それでも男にはできないことをできる側にいるという優越感が世論となっていった。

ほんの一握りの女性しかISなど扱えないのにも関わらず、さも全女性の武器のように思われたのだ。

そして、男らしさや女らしさがあやふやになっている時勢において、
女性優遇が推進されていたこともあり、男たちはただ女性に従わされるようになった。

だが、実態をみれば軍事の分野で女性が優位になった程度であり、ISと関係のない社会では何も変わっていない。
強いて言えば、前より女性の活躍が多く取り上げられるようになった程度。

それなのに、女尊男卑の風潮を生み出す原動力となった。


――――――簡単なことだ。


あらゆる価値観が許されるようになった時代で強かったのが女性であり、男性は単にその時代では強くなかった。それだけである。

だが、どんな時代であろうと『人間』としての気高さだけは共通の宝となっており、
女尊男卑の世の中だからといっても、これまでどおり世間は偉人に対しては男女の別なく敬意を払った。


織斑一夏の生き方とはそういうものだった。一夏の生き方に性別はない。ただ『人間』として恥じない生き方を貫いているだけ。
そして、それは師である織斑千冬、“じィちゃん”もそうだった。

しかし、世界はそこまで『人間』としてできていなかった。

一夏にとっては別に無くても困らないISの力だが、
男女同権を食い物にされて女性の社会支配を面白く思わない男たちの勢力がこぞってISの男性利用のヒントを求めて織斑一夏と『白式』を付け狙うのだった。

そして、それを阻止し、現状の支配を更に盤石なものとしようとする反対側の勢力も存在していた。


130: 2013/07/27(土) 21:57:30.00 ID:igkI/qdJ0

一夏「革新的な軍事技術となったISの登場によって一番損害を被った男性兵士と軍需産業」

一夏「そして、今の世界の軍事の中心にいる奴ら」

一夏「俺はそいつらに――――――!」

一夏「わかんない、わかんないよ! そんなくだらないこと!」

一夏「“じィちゃん”……! 俺はこのままでいいのか、全然わからない」

一夏「俺の存在が旧き時代を再来させる元凶となるのか、それとも新たな混沌の時代を呼び覚ますパンドラの箱となるのか」

一夏「今はここにいるから安心だけど、ここを出てしまえばまた俺は――――――!」

そう、世界的にIS関連のVIPランキングで言えば、1位が開発者である篠ノ之束ならば、
その次に来るのは確実に、織斑一夏という“世界で唯一ISが扱える男性”しかありえなかった。

世界の命運を左右すると言っていい立場をただ『人間』であろうとする、ただの少年は背負わされていた。
そして、現状を打破する手段を彼はただ1つしか思いつかなかった。

一夏「エージェントとの接触なら数え切れないぐらいしてきたけど、ゲロ以下の臭すぎるお偉方を前にして思い知った……!」

一夏「あいつらは俺を救世主であるかのように心の底から――――――!」

一夏「そして、俺に厚かましさを隠して媚びた態度で俺に期待を寄せていた……!」

一夏「穢らわしい…………!!」ブルブル

一夏「このままだと入学前と同じようにひたすらどの勢力にも属さずに逃げ続けるか、鳥かごの中に閉じ込められてしまう!」

一夏「どうすればいいんだ!?」

一夏「いつか、仲間を、お姉ちゃんを守るために、離れていくしか…………」

一夏「“じィちゃん”……! 俺が生きていていいことあるのかな?」

一夏「俺は、俺は、俺は…………!」

一夏「………………」ハア

一夏「ふうっはっはっはっはっはっは!!」

一夏「…………」

一夏「………………あんまりすっきりしなかった」


一夏「そういえば、もうすぐ箒ちゃんの誕生日だったっけな」

一夏「箒ちゃんはどうなんだろう? IS学園に入学するまで証人保護プログラムで転々とするうちに一家離散して、」

一夏「しかも偽の戸籍を与えられて、自分を偽って生きてきたんだよな」

一夏「俺のほうがまだマシなのかな? “じィちゃん”の許で茨の道を進んだけど、伸び伸びと生きてこられた、のかな?」


131: 2013/07/27(土) 22:01:44.82 ID:igkI/qdJ0

――――――同日、市街にて


鈴「ねえ、セシリア。一夏って自由人だけどさ、私たちって一夏の懐の深いところまでいっているのかしら?」

セシリア「さあ? 殿方の懐の大きさは身を以って知っておりますけれど」

鈴「普通だったら、お、男と女なんだからさ、誰かとこ、恋人になる段階じゃない?」

セシリア「そ、そうですわね」

セシリア「身も心も捧げた一心で一夏さんを励ましても何もない――――そんな気はしてはいましたけれど、少しだけ虚しくなりますわね」

鈴「一夏の“師匠”と一緒の時のことを知っているからわかるんだけど、」

鈴「やっぱり一夏は私たちには言えないような秘密を抱えているんじゃないかしら」

鈴「そりゃあ、誘拐されたり、“師匠”との修行の旅で何かしらのトラウマだってあるだろうし、あんたのことで気に病んでいるのもあるけど、」

鈴「何というか、底が見えないぐらいの暗闇があって、漠然とした不安を覚えるのよね」

セシリア「わかりますわ。一夏さんは人前で弱音だって吐ける、甘えん坊で寂しがり屋の普通の……いえ、普通ではない男の子ですけれど、」

セシリア「時折覗かせるすごい迫力から、人には言わない重みのようなものを抱えているってことを感じてしまいますわ」

セシリア「一夏さんの“強さ”はそこからくるものだとわかってはいますけれど、織斑先生よりも『近くて遠い存在』のような感じを覚えていたのは否めませんわ」

鈴「要するに、私もあんたも一夏と同じ視点――――――何て言えばいいのかわからないけれど、同じ悩みを共有していないから、」

鈴「普通の人だったらもう恋人同士になるラインを越えていておかしくないのに、いつまで経ってもそのラインが見えてこない」

鈴「私たちは一夏のことが好きなのに、一夏にとっては“ただの仲間”でしかない」

鈴「もちろん一夏にとっては“仲間”っていうのは十分“特別な関係”なんだろうけれど、」

鈴「私たちの感覚で言う“特別”じゃない」

鈴「その感覚の違いが、『近くて遠い存在』のように思えるの、かも」

セシリア「なるほど、素晴らしいですわ! 鈴さんの説明のおかげでこの気持ちの正体に気づけましたわ」

セシリア「凄いですわね。どうしたんですか、鈴さん。何かあったのですか?」

鈴「実は、最近たまたま一夏が一人だけになっている時を何度か見かけたんだけど、」

鈴「何だか溜め息が多いし、浮かない顔をしているからさ、声を掛けてみたの」

鈴「すると、全部何も無かったかのように振る舞うのよ。私が悩みを聞いてあげようとしたんだけど、適当にあしらわれちゃった」

鈴「でもよく考えたら、一夏って本当の意味で自分の事で誰かに相談したことなんか一度もなかったような気がしたの」

セシリア「…………え?」


132: 2013/07/27(土) 22:03:44.45 ID:igkI/qdJ0

鈴「だって、一夏はそりゃ“一人よりも二人”を座右の銘にして、」

鈴「私たち仲間に全幅の信頼を置いているし、私たちを頼ったり、弱音を吐いて慰められたりもしたよ」

鈴「でも、一夏は“強さ”はあくまでも手段だって言い切っていたし、」

鈴「シャルロットやラウラの件では、あらゆる手段を模索して実践してみて見事に二人を救ったわ」

セシリア「あれは後から裏話を聞いて感動しましたわ。本当に」

鈴「だから、おかしいのよ」

セシリア「どういうことですの?」

鈴「クラス対抗戦の事件、覚えているわよね」

セシリア「ええ。一夏さんが壮絶な空中戦の末に謎のISを撃破した――――――」

鈴「あの時の一夏、鬼のような形相をしていたのよ」

鈴「私、知らなかった。人間って本気の本気で怒ったらあんなにも怖いものだっただなんて……」

鈴「これまでも一夏は非道を許せずに憤ってきたけど、いつだって相手の更正を願ったやり方だった」

鈴「いつだって冷静に目的を果たす算段をして」

鈴「でも、あの時の一夏は全然違った。『刺し違えてでも“師匠”の仇はとる』って言わんばかりに無茶苦茶で力任せに剣を振るってた」

鈴「たぶん、あの時の一夏が本当の一夏だったんじゃないかって思うの」

鈴「だから、私はもっと一夏のことを知りたい! IS学園に入学するまでどんな武者修行をしていたのかを! そこで何があったのかを!」

セシリア「そうですわね。私たちは仲間ということで一夏さんと互いに支え合っていたつもりでしたけれど、」

セシリア「一夏さんは私たちについて詳しくても、私たちはそうではない……」

セシリア「一夏さんは抜けているところがありますけれど、それを補って有り余るほどの優れた知性と道徳があって、」

セシリア「私たちはそればかりに囚われて、それに頼り、甘えて、一夏さんのことが見えていませんでしたわ」

セシリア「鈴さん! もうこの際、一夏さんを独占できるかどうかなんて捨て置きましょう」

セシリア「この命は一夏さんによって永らえたもの――――――それと同じように、身命を賭して本当の支えになってあげましょう!」

鈴「最初っからそのつもりよ! 私がこうしてここにいるのも一夏のおかげなんだから!」


133: 2013/07/27(土) 22:05:49.06 ID:igkI/qdJ0

――――――同日、午後


箒「一夏」

一夏「どうしたの、箒ちゃん」

箒「すまない、一夏にはきちんと言っておこうと思ったことがある」

箒「姉さんが私専用のISを用意してくれると」

一夏「…………それで?」

箒「それで、ようやく私は一夏と一緒に戦える。一夏を守ることができる」

箒「それを前もって伝えようと思って……」

箒「だけど――――――」

一夏「それは織斑先生には?」

箒「いや、まだだ。一夏にまず聞いてもらいたくって」

一夏「なるほど、だから――――――」

一夏「あのISの開発者:篠ノ之束が自分のために作ったISの“強さ”に溺れないか心配だ」

一夏「だから、俺から答えを聞きたい――――、と」

箒「――――――!? そうか、そこまでわかっていてくれたか……」

箒「ああ。私は怖いんだ」

箒「私は剣道で全国大会を優勝することができたが、その剣道は邪道と陰口を叩かれるほどの、ただの暴力でしかなかった」

箒「そして、ラウラとのタッグマッチで身を以って暴力の怖さ、“強さ”を持つことの責任というものを感じた」

箒「一夏は言ったな? “強さ”はどこまでいっても手段でしかないと」

箒「どうすれば自分をコントロールできるか、それを知りたいのだ」

一夏「そうか、だったら、簡単だ」

一夏「極めて簡単だ。あることをすれば」

箒「ほ、本当か? それじゃ、あることとは?」


134: 2013/07/27(土) 22:11:20.03 ID:igkI/qdJ0

一夏「――――――篠ノ之箒!」ゴゴゴゴゴ

箒「は、はい!(な、何だ、この一夏の気迫は!?)」ビクッ

一夏「その真剣で俺を斬れ」

箒「――――――い、一夏!?」

一夏「さあ、刀を抜け! その刃を俺に向けるんだ! そして、斬れ!」

箒「そ、そんなことできるわけないだろう!」

一夏「何故だ? 武器を持っているということはそれだけで強くなっただろう? 周りを怖がらせて言いなりにすることだってできるぞ」

一夏「いくら俺でも丸腰じゃ勝ち目はない。けど、そんな剣捌きならあるいは、な?」

箒「そ、そんな……(何を言っているのか全然わからない、一夏……)」

一夏「どうした、“強さ”を求めるお前の覚悟はそんなものか!」

箒「違う! だけど、だけど――――――!」

一夏「……しかたない」

一夏「斬るのか、斬らないのか、斬りたくないのか、斬れないのかどっちだ!」

箒「わ、私は…………」

一夏「声が小さい!」


箒「――――――私は斬らない!!!」


箒「誰が何と言おうと、私は一夏という大切な人を斬らない! それが、それが私の覚悟だ」

箒「はあはあはあ…………」シンゾウバクバク

一夏「………………」ジー

箒「………………う」

一夏「………………」ジー

箒「………………うう」

一夏「………………それでいい」

箒「………………ほっ」

一夏「でも――――――」

箒「…………え?」

一夏「ごめんなさい、箒ちゃん……!」ポロポロ

箒「い、一夏……?!」

135: 2013/07/27(土) 22:12:32.69 ID:igkI/qdJ0

一夏「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

箒「ま、待ってくれ、一夏! どうしてそうなったのか順序立てて説明してくれないと、」

箒「結局私の覚悟が正しかったのかわからないのだが……」

一夏「正しいかどうかなんて知らないよ!」

箒「え!?」

一夏「それが本当に篠ノ之箒が考えぬいた上で出した結論ならば、俺がとやかく口を挟むことなんかない」

一夏「結局、“強さ”は目的を果たすための手段でしかない」

箒「ああ」

一夏「でも、その“強さ”を目的を果たすために扱えるかは、結局のところ、与えられた本人の考え方次第なんだよ?」

一夏「言われたからやるんじゃなくて、言われてみて本当にそれが自分や他の人の最大の利益に繋がるのかを考えることができれば、俺としては大満足」

一夏「その結果として、箒ちゃんに斬られても文句はない」

一夏「感情に任せて目先の利益だけを追求するような真似さえしなければ、箒ちゃんの選択を俺は受け容れる」

箒「…………一夏」

一夏「だから――――――」

一夏「たかだが未成年の俺の考えでここまで苦しめたこと、本当にごめんなさい!」

一夏「箒ちゃんにはいつも助けられてきたのに、こんな気分を害するような手段でしか教えてあげられなかった、馬鹿な俺を許してくれなくてもいい!」

箒「い、言っていることが――――――(違う、私が言うべきことは)」

箒「…………一夏は優しいな。優しいし、私なんかよりもずっと賢い」

箒「だから、私なんかが思いもしないところで気を配ったりできて、その分傷つきやすい。それで、こんなにも涙を流して……」

箒「でも、私はそんな一夏が大好きだぞ?」

箒「ありがとう、一夏」

箒「“強さ”はただの手段。そのことを私は胸に刻んだ」

箒「だから、ほら泣き止んで」

箒「そうだ。また、一緒に朝の風を感じながら寝よう。な?」

一夏「……うん」

箒「やれやれ、こういうところは本当に子供なんだから。何も変わっていない……」


136: 2013/07/27(土) 22:15:04.04 ID:igkI/qdJ0

――――――臨海学校、初日


一夏「そろそろだね」

一夏「臨海学校っていっても専用機組以外は特に用もない慰安旅行みたいなもんだな」

セシリア「でも、各国の代表候補生のISの拡張武装稼働試験がありますわよ?」

一夏「その拡張装備って後付装備とは違うんだったっけ?」

セシリア「ええ。拡張領域を使う点は同じですけれど、」

セシリア「このパッケージは換装装備なので、用途に応じた基本装備の互換や大幅な変更が施されますわ」

セシリア「私の今回のパッケージは強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』」

セシリア「誘導兵器『ブルー・ティアーズ』をスラスターにして、更に狙撃機としての性能を底上げする内容となっておりますわ」

セシリア「これなら、一夏さんの実戦級の空中戦の援護ができてお役に立てますわ」

一夏「ありがとう」

一夏「でも、どちらも必要となる状況が来なければそれに越したことはないよね」

セシリア「あ、ご、ごめんなさい……。せっかくの楽しい臨海学校なのに物騒なことを言ってしまって……」

一夏「気にしないで。俺にとってはこうしてセシリアさんと手を取り合って今を生きることができているのが幸福なことだから」

一夏「ここでの生活はあの頃からすれば、夢のようなものだからね」

一夏「大きくなってからこんなふうに保養地で遊ぶなんてことは初めてだから、目一杯楽しみたいな」

セシリア「い、一夏さん……」

セシリア「はい、楽しみましょう!」


137: 2013/07/27(土) 22:18:03.96 ID:igkI/qdJ0

一夏「なあ、鈴ちゃん」

鈴「何、一夏?」

一夏「そう言えば、今回は専用機持ちが勢揃いするって話だったけど、それじゃついに4組の専用機持ちの人と会えるんだよね?」

一夏「どんな人だろう? どこの誰で、どんなISを使うんだろ?」

一夏「クラス対抗戦もあれから再開する気配もないし、トーナメントにも参加してないようだったから、会うのが楽しみ!」

鈴「あ、それはできないわ、一夏」

一夏「どういうこと?」

鈴「専用機の組立がまだ終わっていないんだって。クラス対抗戦の時、同じ専用機持ちとして挨拶しに行った時、そう言われたわ」

鈴「だから、私たちの訓練には参加しないし、顔を合わせることもないんじゃないかな」

一夏「そうなの? 残念だな。でも、クラス対抗戦の時に聞いて、まだ完成しないなんておかしな話もあるもんだ」

鈴「あのね? 実は、その理由も聞いておいたんだけど…………」

一夏「――――――わかった、聞こう」

鈴「い、一夏? 私はまだ何も…………」

一夏「鈴ちゃんが俺の前で口籠るってことは、その事に俺が関わっているってことだろう。……悪い意味で」

鈴「わかったわよ。でも、あまり気にしないでね」

鈴「実はその子ね、日本の代表候補生だったの。でも、肝心の専用機が、一夏の『白式』の整備や解析に回されて完成できなかった――――――」

一夏「はは、そうか、また俺のせいだったのか……。悪いことをしたな……」

一夏「俺が今年に入学していなければ……」

鈴「馬鹿!」

鈴「一夏は何も悪くない! そうやって、何でもかんでも手の届かないことでウジウジするのって、らしくないわよ」

鈴「あの子のことはただ不幸な出来事、大人の都合でそうなったんだから一夏が口を挟む余地なんかなかったわよ」

鈴「もしその子が一夏のことを恨むようなら私が一夏を庇ってあげるから、安心してよね?」

一夏「…………そうだったね」

鈴「あと、それに実際に出来上がってからケアしてあげても遅くないと私は思うの」

鈴「何て言ったか名前忘れたけど、見た感じ私と正反対の――――ううん、違う。昔の私そっくりな内気な子だったから、」

鈴「きっと一夏が手を差し伸べてあげれば喜んでくれると思うよ」

鈴「だって、一夏は勇気を与えてくれるみんなのヒーローなんだから!」

一夏「……ありがとう、鈴ちゃん」

一夏「鈴ちゃんは思い出の欠片――――いや、自分を見つめ直す鏡みたいだ」

一夏「そう言い続けてくれることで俺は俺の生き方を無意識で肯定していられる」

一夏「迷った時はこうやって自分の進むべき道を辿り直すことができる」

一夏「俺は自分がヒーローになっただなんて傲慢にも思わないけれど、」

一夏「俺の生き方が、俺の在り方が誰かの助けになるなら、そのヒーローの称号を戴くのも悪くない……」

鈴「ね? 私は役に立つでしょ? ヒーローのメンタルケアを施し、一緒に戦場に立つ美少女カウンセラーを持てて嬉しいでしょ?」

一夏「うん。相変わらず、夏場に中華料理を食べさせたがる厭味ったらしさが無ければ最高なのにね」

鈴「あははは、やっぱりダメ?」

一夏「風土にあった料理を食べるのが一番に決まってるじゃないか」

一夏「歴史ある国なら、それぐらいわかってくれよ」

鈴「そうね。この機に料理のレパートリーを拡げてみるのも悪くないかも!」

138: 2013/07/27(土) 22:18:48.36 ID:igkI/qdJ0

山田「今11時で~す! 夕方までは自由行動。夕食に遅れないように旅館に戻ること」

山田「いいですね?」

一同「はーーーい!」



女性「あれ、織斑くん、どこ?」

セシリア「一夏さんはいったいどちらへ?」

鈴「ああ、あいつなら正午までオリエンテーリングしてくるって」

セシリア「そ、そんな……私を置いて秘境に出かけて行かれるなんて……」

シャル「あちゃー、一夏ってば本当にやんちゃなんだから……」

シャル「あれ、ラウラは?」


139: 2013/07/27(土) 22:20:33.24 ID:igkI/qdJ0

一夏「よし、これでコントロール(通貨ポスト)もあと僅か! お、ここのパンチは星形か」

ラウラ「さすがお兄さまは私の兄嫁! 一介の軍人でもここまで素早く山岳地帯を歩き回ることはできないぞ」

一夏「正午まで後どれくらい?」

ラウラ「おお、後20分はあるな」

一夏「順番通りに回るだけのポイント・オリエンテーリングじゃ難易度が低いから、上級者用(1時間から2時間程度)コースを選んでみたけど、やっぱりこんなもんか」

一夏「というか、ラウラも凄いんだな。俺と違ってずっとISの訓練ばかりしているものだと思ってた」

ラウラ「ISに乗る前までは私は兵士としてあらゆる分野でトップクラスだったからな」

ラウラ「あの頃と比べれば衰えた感が否めないが、まだまだ現役だ」

一夏「そうか。それだけの“強さ”ならいろんなことができるな」

ラウラ「うむ。私も段々と“強さ”の意味を掴んできたぞ」

一夏「よし、このままこのコースの永久不動の最速記録の樹立まで一直線だ!」

ラウラ「うむ。全軍、突撃いいいいいい!」


140: 2013/07/27(土) 22:22:35.72 ID:igkI/qdJ0

一夏「いい汗掻いたな……」

ラウラ「お兄さま、これを」

一夏「ありがとう、ラウラ」

ラウラ「…………普通、こういう時は“妹”と返すものじゃなのか?」

一夏「え、どうだろう? “〇〇お兄ちゃん”っては言えるけど、“△△妹”だと“△△の妹”って意味になるから、日本語としても普通じゃないな」

一夏「それでも、いいなら――――――」

一夏「いつもありがとう、妹」

ラウラ「お、おお!」

一夏「うん。今日は何だか凄く実りを感じさせる甘い香りがするね」クンクン

ラウラ「」

一夏「どうしたの、妹? せっかくだからここ、ここ」

ラウラ「はうっ!?」イチカノヒザノウエ

一夏「うん。やっぱり身体全体だと少し重たいけど、朝と同じ感じがするね」

ラウラ「あうあうあう……」

一夏「『あうあう』? よくわからないけど、凄く可愛らしいね」

一夏「そうだね。やっぱりこうして見ると、ラウラも年頃の女の子なんだね」

ラウラ「お、おお、おお……」

一夏「あれ、食が進んでないみたいだけど大丈夫? この後、みんなで1時間ぐらい海で遊んだら旅館で宿題をするんだけど」

ラウラ「お、お、お兄さまのために、私頑張る!」

一夏「お姉ちゃんもこんな感じで愛でていたのかな。想像してみると――――――」

ラウラ「お、織斑教官が私を――――――」

一夏「ふふふ、本当に良かった。心がすくすく育って」

一夏「(“じィちゃん”。人を活かす剣の1つの成果がここにあるよ)」

一夏「でも、俺は…………」

ラウラ「………………?」


141: 2013/07/27(土) 22:25:09.20 ID:igkI/qdJ0

一夏「ここで決着を付ける!」

セシリア「頑張って、一夏さん!」

シャル「相手は世界最強の強敵!」

鈴「頼んだわよ、一夏! これに全てが懸かっているんだから!」

箒「……えと、何をしているのだ?」

鈴「箒、どこ行ってたの! 今、人類最大の決戦が行われるんだから、見ておきなさい」

箒「人類最大の決戦……?」



千冬「ふん、ガキどもが。私に勝てると思うな」

一夏「悪いけど、勝つのは俺だ!」

ラウラ「今日こそは教官に!」

山田「あの、私なんかが肩を並べていていいんでしょうか?」

女子「さあ、賭けた賭けた!」 

女子「箒ちゃんもどう? 誰が勝つか当てられたら、今日の織斑くんの隣の席を座る権利が与えられるよ?」

箒「一夏の隣の席……」

箒「いや、いい(私は十分すぎるほど近くに置いてもらっているからな)」

女子「そう。それじゃ、泣いても笑ってもこれで最後!」

女子「ランダムビーチフラッグ、5ゲーム目最終戦! 運命の女神がランダムに展開するビーチフラッグを制するのは果たして誰なのか!」

女子「運命のカウントダウンが今、スタート!」


3,2,1,START


千冬「…………!(振り返る向きが逆だったら出遅れたな)」

一夏「…………!(まさか、ほぼ真横に出てくるなんて!)」

ラウラ「くっ、完全に出遅れた」

山田「あれええええ」

女子「おおっと、フラッグは何と右側に出現! 振り向く方向や位置ですでに勝敗がわかれた! なんという運命のいたずら!」

女子「並びとしては右端だったら織斑先生が断然有利! しかし、その隣だった織斑くんも負けていない!」

一夏「うおおおおおおお!」

千冬「やるな…………!」

女子「両者、並んでほぼ同時に飛び込んだああああ!」


142: 2013/07/27(土) 22:28:12.47 ID:igkI/qdJ0

――――――同日、夕方、旅館にて


一夏「ランダム性の強いビーチフラッグだとは聞いていたけれど、まさかマイナス点があったなんて」

シャル「でも、それで一夏がこのゲームを制したんだよ? それに織斑先生と互角の勝負をしたじゃない」

一夏「いや、あれは水着だったからというハンデがあったし、」

一夏「結局のところ俺は最後の最後で紙一重でお姉ちゃんには敵わなかった。ルールに救われただけなんだ」

一夏「まだまだってところだな、俺」

シャル「よしよし、自分を追い詰めなくて偉いよ、一夏」

一夏「ありがとう、シャル」

セシリア「…………」ブルブル

一夏「セシリアさん、そういう時は足を崩してもいいんだよ。食事の始めと終わりに正せばいいから、無理して苦しむことはない」

セシリア「そ、そうでしたの……教えてくださってありがとうございます」

一夏「それよりも美味しいね、鯨の肉」

一夏「“じィちゃん”と一緒に北の海で捕鯨に参加した時のことがありありと思い浮かぶ」

セシリア「く、鯨でしたの、これ……!?」

一夏「うん。やっぱり、神の恵みというだけあって良い味をしているね」

一夏「あ、鯨と言えば、そうだ!」

一夏「――――――女将さん!」スッ

一同「ア、オリムラクンガナニカシヨウトシテル」

一夏「竜涎香拾ったんですけど、あげます」

一同「………………」

一同「えええええええええええ!」

143: 2013/07/27(土) 22:29:52.45 ID:igkI/qdJ0

箒「りゅ、竜涎香……!?」ガッ

女子「ビッグニュース、ビッグニュース!」

女子「織斑くんの側にいれば常に話題が絶えないわ!」

セシリア「何ですの? 竜涎香というのは?」

一夏「ああ、マッコウクジラのは……から出る分泌物が流れ着いたものだよ」

一夏「歴史ある高級香料でね、売ればいい値段になるよ」

シャル「へえ、どれくらい」

一夏「あの大きさだと時価500万円ぐらいするんじゃないかな」

セシリア「500万円も!?」

シャル「え、いいの? ただ流れ着いただけでそれだけの価値があるものなんてそうそう手に入るものじゃないんじゃ」

一夏「う~ん、海から帰る際に何か沖のほうで臭うものがあったから採ってきたんだけど、」

一夏「あれって「保留剤」だから他の香料と混ぜないと、臭いだけの代物なんだよね」ギャーギャー

一夏「だから、IS学園がお世話になっているこの旅館のギャラリーにでも、と思ってね」ワーワー

一夏「…………金ならIS産業からの投資金をもらっているからさ」ワーワー

シャル「…………そうだったね」ギャーギャー

セシリア「それにしても本当に凄い強運の持ち主ですわ、一夏さん!」

一夏「…………それで一生分の幸福を使いきってなければいいんだけどね」ワーワーギャーギャー

セシリア「え、今何て? 一夏さん」ワーワーギャーギャー

シャル「一夏?」ワーワーギャーギャー

一夏「………………」ワーワーギャーギャー

バタン

千冬「貴様ら、静かにしないか! あ、これは女将さん、申し訳ありませんでした」

千冬「何ですって、織斑が竜涎香を?」

千冬「全く織斑は、騒ぎを持ち込まないと居られないトラブルメーカーだな」

千冬「昔から…………」

一夏「………………」

セシリア「あの、一夏さん?」

一夏「あ、何だい?」

シャル「…………」ギュ

セシリア「…………」ギュ

一夏「おいおい、これじゃ箸が持てないじゃないか」

シャル「…………」

セシリア「…………」

一夏「ありがとう、二人共」


144: 2013/07/27(土) 22:32:42.00 ID:igkI/qdJ0

――――――同日、食後


一夏「いいもん! 一緒に温泉に入れなくったって!」

一夏「要は、一緒に入っているという気分を味わえればいいんだから――――――」

一夏「露天風呂の壁越しから聞こえてくる声から一緒に入っているって想像すれば、寂しくないもん!」







一夏「う、くそ……、話の内容がわからなくて逆に疎外感を覚えるなんて……」

一夏「セシリアさんの胸が大きいから何だって言うんだ? 何で箒ちゃんや鈴ちゃんが悔しがるんだ? 胸が大きいと何かいいことがあるのかな?」

一夏「聞いてみればよかったかな……」

一夏「でも、最近はそういうこと訊いてセクハラとして起訴された件も多いらしいから止めておこう」

一夏「どうでもいいことだしね」

一夏「でも――――――」

一夏「ついにこの日が――――――!」

一夏「この学園に入ってから初めてお姉ちゃんと一緒だ!」

一夏「楽しみだな! 昔みたいにはいかないだろうけど、すっごく楽しみー!」

一夏「…………あれは、ラウラ? どうして俺とお姉ちゃんの部屋から辺りを見渡して出てきた?」

一夏「何しに来たんだろう?」

一夏「…………これは何かありそうだな」

一夏「何か部屋に異常は? っと」クンクン

145: 2013/07/27(土) 22:35:00.85 ID:igkI/qdJ0



千冬「全く馬鹿どもが」

ラウラ「まさか、兄嫁に出るところを見られていたとは……」

シャル「30分で仕掛けた盗聴器の全てが5分で見つかっちゃうなんてね」

箒「わ、私はただ……」

セシリア「あはははは、やっぱり盗み聞きなんて一夏さんの前では無意味でしたわね」

鈴「姉弟水入らずの場をお邪魔して申し訳ありませんでした……」

一夏「みんな、異様に臭かったよ? そりゃもう、学園に居る時とは比較にならないぐらいに」

一同「――――――!!」アセアセ

一夏「それでいて、今までになかった変な臭いなんだよな」

一夏「欲望に塗れたものなんだけど何というか、昔の鈴ちゃんの臭いと似ていたというか……」

一夏「それと同時に妙にお姉ちゃんと似たような臭いもしてるし…………」

セシリア「…………鈴さん」

鈴「…………何よ! あんただってあんなこと言いながら――――――」

シャル「やっぱり、一夏って――――――」

ラウラ「に、臭い……」(昼間のことを思い出す)

箒「そ、そうか(千冬さんと同じ感じになりつつあるのか!)」

一夏「で、この場合の欲望って何だろう?」

一夏「俺、鼻が利くからさ、ある程度香料について知識はあるんだけど、」

一夏「この臭いって5人の気持ちが1つになったから、ただの欲望の臭いじゃなくなってんのかな?」

一夏「ま、嗅いでいて不快になる臭いではないかな。物凄く鼻に付くけれど」

千冬「…………なるほど」

千冬「織斑、ちょっと買い出しに行ってこい」

一夏「え?」

千冬「私はこの馬鹿どもに少しお説教をしておきたいから、席を外せと言ったんだ。長引くようなら本でも読んで待っていろ」

鈴「ええええ」

一夏「まあ、そういうことなら」

一夏「じゃあ、またね」

セシリア「ああ、一夏さん……!」

146: 2013/07/27(土) 22:38:37.02 ID:igkI/qdJ0

千冬「さて、お前たち」

一同「はい!」

千冬「正直弟のことをどう思っている? 織斑一夏という奇妙な存在を」

箒「(…………弟)」

千冬「おい、篠ノ之、酌をしろ」

箒「は、はい!」

箒「(生徒の面前で酒を飲みだしたということは、ここにいるのは教師としてではなく姉として私たちと向き合っているということなのか)」

千冬「…………ぷはあ! 相変わらず、この旅館の酒は格別だ」

鈴「イッキ飲みはまずいんじゃ」

千冬「気にするな」

千冬「で、お前たちは“世界で唯一ISが扱える男性”織斑一夏をどう思っている?」

一同「………………」

千冬「意外だな。すぐに答えが出ると思ったが」

千冬「それじゃ、問題を変えよう」

千冬「お前たちは織斑一夏の“居場所を守り通せる”か?」

セシリア「――――――居場所を」

鈴「――――――守り通す?」

千冬「弟は本当にただの少年だった。それこそそこら辺にいるような凡庸な少年――――いや、違ったな。人の痛みを感じられる優しい少年だったよ」

千冬「だが、第2回『モンド・グロッソ』でただの少年の居場所は失われることになった」

ラウラ「――――――誘拐事件!」

千冬「そう。どことも知れないテ口リストの手にかかって弟は誘拐された」

千冬「そして、私が救助した」

千冬「しかし、それによって織斑一夏は自分がこれまでどおりの生活ができる人間ではなくなったことを自覚してしまった」

千冬「元々、両親に捨てられ、こんな私が母親代わりとして女手一つで育てたんだ。その時点で普通ではないんだがな…………」

シャル「………………」

千冬「さて、救助したはいいが、私は救助を協力してくれた組織に1年間のISの指導をしなくてはならなくなった。だが、それは機密事項の多く、拘束力の強い組織だった」

千冬「それ故にこのままでは私は再び弟を一人だけにしてしまう。そうなれば、再び織斑一夏というただの少年の尊い人生が脅かされてしまう可能性が出た」

千冬「当初は日本政府に保護してもらう案もあったが、それはある代案によって事なきを得た」

箒「………………」

鈴「じゃあ、それが――――――」

千冬「ああ、名は明かせないが私の“師匠”だ。居合術の師匠である以上に人生の師匠であった」

千冬「だから、私は“師匠”に預けた。一夏も“師匠”とは親しかったし、誘拐されたショックから“強さ”を求め、私と同じく“師匠”からそれを学ぶことになった」

千冬「元々“師匠”はIS開発から携わっている協力者でもあり、私と一緒にISの運用法を追究した人物でもあった」

千冬「それ故に、“師匠”はISの技術指導者としての才もあった」

シャル「…………なるほど(だから、一夏の操縦は基本とは異なった独特なものに――――――。そして――――――)」


147: 2013/07/27(土) 22:42:23.53 ID:igkI/qdJ0

千冬「だが、それ以後のことは私はほとんど知らない。何故弟が『白式』という専用ISを得たか、その経緯でさえも」

鈴「…………え?」

千冬「何故なら、それが学園上層部の決定だからだ」

箒「そういえば、『白式』が一夏の許に「初期化」されて返ってきたのは……」

セシリア「な、何故そこで学園上層部が出てくるんですか!」

千冬「………………」

鈴「ああ……はっきりとはわからないけど、これが一夏が抱えている闇の部分ってわけね」

ラウラ「織斑一夏と“師匠”の旅は、結局は――――――」

箒「証人保護プログラムに依らずに各地を転々として自発的に魔の手から逃げ続ける旅だったというのか(そうか、そういうことだったのか)」

セシリア「だから、“居場所を守り通せる”かと訊いたわけなんですね」

千冬「そして、“師匠”は氏んだ。織斑一夏という立派な『人間』を仕上げてな」

千冬「その後、しばらくしてからだな。IS学園に入学することになったのは」

千冬「私は『白式』を回収し、上層部に提出する程度のことしかしていない」

千冬「だが、上層部から報告されたのは『白式』を断りもなく「初期化」して、蓄積されたデータも抹消されたことだけ」

千冬「私にも弟が上層部とどういう交渉をしていたのかはわからない」

千冬「あるいは、単に喋る気がないのかはわからないが、」

千冬「“師匠”が氏んだ時のことやそれから具体的にどんなふうにして生活をしていたのかさえ、私は聞き出すことができていないのだ」

一同「………………」

千冬「そして、――――――“一人より二人”だ」

千冬「弟は独りであることをとにかく怖れるようになった」

千冬「私の前では完全に幼児退行したかのように振る舞い、“千冬姉”という呼び方から“お姉ちゃん”という呼び方に変わった」

千冬「あの子は確かに対外的には『人間』――――それこそ人としての正しい道を突き進む立派な子に育ってはいるが、」

千冬「内面的には歳相応――――あるいはそれ以下の精神年齢で止まっているように思える」

千冬「あの子は賢い。そして、“強さ”もある。それこそ大の大人が持ち得ないような純然たるものを」

「だが、わずか15歳のただの少年でもある。それも、人の痛みをよく理解できる、な」

ラウラ「………………」

千冬「あの子は自分の感情に素直な――――というのも変だが、とにかく直情的な性格だった」

千冬「現在では非常に理知的に振る舞っているが、私が思うに弟の直情的な面は別な所に向けられているように感じられる」

千冬「私が危惧しているのはIS学園を卒業した後のことを今現在に予見して、結論を焦ってこの学園を出て行こうとすることだ」

一同「………………」

千冬「長話が過ぎたな」ゴクゴク

千冬「私は眠い。お前たちはとっとと部屋に帰って、明日に備えろ」

千冬「自分でもだらだら言っててわからんことを言った気がするから、改めて考えを整理しておきたい」

千冬「では、解散」

一同「はい!」


148: 2013/07/27(土) 22:46:32.99 ID:igkI/qdJ0

箒「(一夏は考えぬいた上での結論なら正しいかどうかは関係ないと言っていた)」

箒「(それが信条なら、私やラウラの時のように自分のことでさえも――――――!)」

セシリア「(まさか、鈴さんの推測が織斑先生のものと重なるなんて……)」

セシリア「(悔しいですが、さすが一夏さんの背を追いかけ続けただけのことはありますわね……)」

鈴「(やっぱり千冬さんも同じ事を感じていたか……。本当に現実で英雄と呼ばれるようなヒーローなのよね、あいつ)」

鈴「(私欲よりも人道的な正しさを選び続けて、逆にその清廉さを疑われて最期は守ってきた人たちに裏切られるって感じの)」

シャル「(やっぱりだ。やっぱり、一夏はあの日から――――――)」

シャル「(僕はこのまま見守っているだけでいいのかな…………)」

ラウラ「(兄嫁よ。居場所がなくなったなら、私が身命を賭して部隊に連れ帰ろう)」

ラウラ「(兄嫁と教官を守るためなら、私は――――――!)」



一夏「あ、流れ星。キレイだなー」

一夏「あれは大気圏の摩擦で最期の輝きを放つ燃えカス…………」

一夏「晩節の功とも言えるものかな」

149: 2013/07/27(土) 22:50:20.99 ID:igkI/qdJ0

――――――翌日


千冬「よし、パッケージの換装はすんでいるな?」

千冬「これより、拡張武装稼働試験を実施する――――――織斑?」

一夏「織斑先生! 上から何か来ます! 吐き気を催す何かが!」ウップ

千冬「上、だと……!?」

ヒュウウウウウウウン

一夏「オウエエエエエエエエエエ」

箒「備え付けの応急キットにエチケット袋があって助かったな」

シャル「一夏、しっかりして」セナカヲサスル

ラウラ「いったいどこの組織の襲撃だ!」

ラウラは咄嗟にISを起動し、『AIC』で飛来物を受け止めた。

それは八面体のコンテナであった。

鈴「前にもこんな感じ、あったわよね、イギリスで」

セシリア「ええ。そして、その悪臭の原因は――――――」

束「ヤアアアアホオオオオオオオオオ」

束「ちぃいちゃあああああああん!」

千冬「(アイアンクローで鷲掴み)」

束「やあやあ、会いたかったよ、ちぃちゃん! さあ、ハグハグしよう愛を確かめ合おう!」

千冬「うるさいぞ、束」

箒「ね、姉さん……」

シャル「え、ま、まさか、あの人が――――――」

鈴「象徴的なピンクウサギ――――――」

セシリア「間違いありませんわ」

千冬「ああ、こいつが篠ノ之束だ」

ラウラ「こ、この人がIS開発者……」

一夏「感じる……世界を覆うようなドス黒いエゴが……」

一夏「香水瓶を……」

シャル「う、うん……」

一夏「はあはあ…………」クンクン

一夏「近くにいるだけで俺の鼻がダメになるぐらいの強烈な臭い……この人、こんなに怖かったっけ……」


150: 2013/07/27(土) 22:53:00.87 ID:igkI/qdJ0

千冬「それで、何の用だ」

束「ああ、そうだった。夢中になってすっかり忘れそうだった!」

束「箒ちゃんへの誕生日プレゼント!」

一夏「………………」

箒「何?! それじゃ、その中に――――――」

束「さあ、しかと刮目せよ~!」

束「じゃじゃ~ん! これぞ箒ちゃん専用第4世代型IS『紅椿』!」

シャル「え、今、『第4世代型IS』って……」

セシリア「各国でようやく第3世代型の試験機ができた段階ですわよ……」

ラウラ「さすが、ISの生みの親にして、第一人者。その歳でIS業界最大のVIPと言われてきただけのことはある……」

鈴「と言うことは、とんでもないスペックってことよね」

一夏「冗談じゃない! 俺という火種が存在するのに、この世界にもう1つの火種を散らして世界大戦を引き起こすつもりか……!」ゴゴゴゴゴ

束「ちょっといっくん怖いなー」

一夏「――――――ふざけないで!」

一夏「妹の誕生日だからって、こんな……こんなものをプレゼントして知らん顔だなんて、」

一夏「あなたはそれでも篠ノ之箒の肉親なんですか!?」

束「ちょっとそれ、心外」

一夏「あなたがISを開発したせいで、箒ちゃんは実の両親と離れ離れになって、偽の誰かの人生を演じさせられたんですよ!」

箒「…………一夏」

シャル「………………」

束「だけど、その心配はもう要らないよ!」

束「なんてったって、この『紅椿』に対抗できるのは同じ第4世代の『白式』しか存在しないからね」

一夏「あなたはただ見ているだけで、一緒に居ようとも――――――!」

束「『紅椿』は『白式』の雪片弐型が進化した姿なんだよ」

一夏「…………何?!(それじゃ拡張領域を全部使っていたのって――――――)」

束「うん。“白”に並び立つ“紅”――――――いいコンセプトだと思わない?」

束「さあ、箒ちゃん! レッツゴー!」

箒「…………い、一夏」

一夏「………………」

ラウラ「やはり、ここは拒否――――――」

一夏「とりあえず見せてくれないか? 第4世代型の力ってやつを」コウスイクンクン

シャル「意外…………でも、ないか」

鈴「そうね。まずどれくらいの性能があるのか見てみないと何とも言えないし」

箒「そ、そうか。そうだったな。“強さ”はあくまでも手段だったな」

箒「一夏、お前が教えてくれたことを今、実践してみせる」

千冬「…………ほう」

千冬「では、篠ノ之」

箒「わかりました」


151: 2013/07/27(土) 22:56:05.28 ID:igkI/qdJ0

一夏「ISスーツの柄が更新された。紅に対する白だから凄く際立ってる」

束「準備オッケー! 「最適化」完了! ちょー速いね、さすが私!」

束「さ、試運転も兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りにいくはずだよ」

箒「それでは試してみます」

箒「行くぞ、『紅椿』!」

鈴「信じられないスピードで、しかも人力で「最適化」を終了させただなんて、やっぱり――――――」

シャル「こうして見ると、本当に稀代の天才っていうのがありありと……」

鈴「って、何この初速――――――!? あっという間にあんな高さにまで……!」

ラウラ「これだけでとんでもないスペックなのがわかってしまったな」

セシリア「私の『ストライク・ガンナー』が霞むぐらいの機動性……」

一夏「楽しそうだな、箒ちゃん」

千冬「………………」

一夏「お――――――!」

ラウラ「おお、右手の刀を突いたら瞬時に複数のレーザーが」

シャル「雲が……」

束「ようし、次行ってみよ~! は~いっと」

ラウラ「な、量子化したミサイルポッドだと……!?」

シャル「いくらなんでもやりすぎじゃ……」

一夏「――――――いや、この程度なら余裕で捌けるということだ」

セシリア「――――――!? 左手の刀を振るったらレーザーが!?」

鈴「一瞬であのミサイル群を薙ぎ払うだなんて、出力・範囲ともに規格外じゃない!」

束「いいねいいね~! あははは、うふふふ」

千冬「………………」


152: 2013/07/27(土) 22:57:18.55 ID:igkI/qdJ0

セシリア「試験運用、ご苦労様でした、箒さん」

箒「ああ、この機体ならやれそうだ。この『紅椿』なら」

鈴「だけど――――――」

箒「ああ、わかっている。この“強さ”の意味を決めるのは私自身だ。一夏を手本として慎重に扱っていこう」

一夏「なら、いいよ」コウスイビンヲハナニアテテイル

一夏「IS学園の保護下にあるなら安心だ……」

束「やったー! 箒ちゃんが喜んでくれたー!」

束「いっくんも認めてくれたー! やったやったー! ブイブイ! イエーイ!」

一夏「でも――――――」ゴゴゴゴゴ

シャル「い、一夏?」

一夏「ちくしょおおおお! 俺の雪片弐型もレーザーが出れば、今までの苦労は無かったのに…………!」

一夏「いつか「最適化」して『零落白夜』の光の剣が鞭状にしなったり、射撃武器として機能したりする日を心待ちにしていたのに…………」

セシリア「で、でも、お、おかげでその分の努力で、一夏さんの素晴らしさは周知の事実となりましたし、それに――――――」

山田「大変です! 織斑先生!」

千冬「……特命任務レベル:A。現時刻より対策を始められたし」

千冬「テスト稼動は中止だ。お前たちにやってもらいたいことがある」

一同「――――――!」

束「何かな何かな?」ウキウキ

一夏「………………」ジー

一夏「う」ウップ

153: 2013/07/27(土) 23:00:41.87 ID:igkI/qdJ0

千冬「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエルの共同開発の第3世代型IS『銀の福音』が制御下を離れて暴走」

千冬「監視区域より離脱したとの報があった」

千冬「情報によれば、……無人のISだそうだ」

セシリア「あ…………」

鈴「一夏…………」

一夏「………………」ハナセンヲシテイル

千冬「その後、『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することがわかった」

千冬「時間にして50分後」

千冬「学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

千冬「教員は学園の訓練機を使用し、空域及び海域を封鎖を行う」

千冬「よって、本作戦の担当は専用機持ちに担当してもらう」

千冬「それでは、作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

一夏「………………」モグモグ(カ口リーメイトで栄養補給中)

セシリア「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

千冬「ふむ。だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

一同「」コクリ

一夏「これがデータか。………………?」モグモグ

セシリア「広域殲滅を目的とした戦略級特殊射撃型で、オールレンジ攻撃が可能……」

鈴「私の『甲龍』と同じく、航行能力の高さが目を引くわね。さすが戦略級というだけあって自衛能力は高そうじゃない」

鈴「だけど、それを無人機で……」チラッ

一夏「…………でもこれだけじゃ何が何だか。格闘能力とかこの特殊装備のことが全然」

シャル「もっと情報は無いんですか?」

ラウラ「偵察はできないのですか?」

千冬「それは無理だ。超音速飛行をしている。アプローチは1回が限界だ」

山田「となると、攻撃のチャンスは1回だけ」

シャル「となると、」

ラウラ「うむ」

箒「ここは一夏の独壇場だ」

一夏「……そうですね、私の『白式』のイグニッションブーストによる高機動戦闘と『零落白夜』の出番ですね」

154: 2013/07/27(土) 23:02:45.98 ID:igkI/qdJ0

一夏「ですが、いくらイグニッションブーストでも超音速飛行に追いつけるのですか? あれはマッハ1にも達していないはず」モグモグ

セシリア「そうですわね。それに、単騎で出向くとなれば推力の消耗もしますし、コース上にのろのろと飛び続けていたらコース変更される可能性が出てしまいますわ」

セシリア「ですから、別の機体で一夏さんを該当空域まで運び、奇襲の形で速攻撃破を目指すしかありませんわ」

セシリア「私のISは強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』の換装が済んでいます。超音速飛行はできずともイグニッションブーストと同等のスピードを出せます」

千冬「なら、セシリアに輸送を任せるほかないか。まだ慣らし運転もしていないが、それでいくしかないか」

千冬「篠ノ之はまだあらゆる経験不足で投入するには早すぎる」

箒「そうですね……」

鈴「そうなると、射程を強化したセシリアは使えなくなる」

鈴「となれば悔しいけど、あとは一夏が空中戦の一騎討ちを制するのを祈るしかない」

鈴「この前の無人機と同じような氏闘にならなきゃいいんだけど……」

箒「だが、それでもやるんだろう、一夏?」

一夏「…………またこんなことになっちゃいましたね」

一夏「今度は戦争を回避するため。そして、世界最強の兵器が世界一集まっている学園のメンツのために」

箒「あ…………」

一同「………………」


155: 2013/07/27(土) 23:05:30.45 ID:igkI/qdJ0

千冬「……織斑、お前はこれまで数多くの激闘を繰り広げてきた」

千冬「だが、今ならまだこの作戦を拒否する権利はある。どうする?」

一夏「いえ、現状では自分にしかできないことです」

一夏「やります。身命を賭して任務を遂行してみせます」

一夏「しかし、聞かせてください」

千冬「何だ?」

一夏「海域封鎖とはいったいどういった感じなんでしょうか?」

一夏「『地球がアリーナだ!』みたいな感じにシールドバリアーを張る感じなのでしょうか?」モグモグ

箒「むむ?」

千冬「…………なるほど、そういうことか」

セシリア「え、どういうことですの?」

鈴「ああ、何となくだけど、一夏が危惧していることが何なのかわかった」

ラウラ「どういうことだ?」

鈴「万が一、海上封鎖しきれてなかった時に漁船なんかが巻き込まれたら、このミッションの機密性が危ぶまれるってことよ」

シャル「そうか、日本政府が正式に封鎖令を出すにしてももう時間が無いんだ」

ラウラ「わかった。つまり、遅くてもいいから残ったメンバーも出撃して、海域に船舶が存在した場合、これを保護して欲しいのだな?」

千冬「となると、依然として問題は変わらないが、作戦における不確定要素の排除に繋がったか」

一夏「え、あの……」

箒「どうした、一夏。進展はしなかったが、重要な提案をしたではないか」

一夏「いや、違うんだ。俺が言いたかったことは」

鈴「え?」

一夏「海上封鎖するだけの広域のシールドバリアーを展開する装置があるなら、」

一夏「それを使って直接網にかけて動けなくなったところを、『零落白夜』で一息にって…………」

千冬「…………何?」

シャル「い、一夏……」

一同「」

一夏「で、できないのか、それ?」アセアセ

束「へえ、それって面白そうだよね~。今度作ってみようかな~?」

一夏「――――――っ!? 天井からゲロ以下の、嫌な臭い!!」

セシリア「い、一夏さん!」

箒「ね、姉さん……」

鈴「鼻栓をしてこれだけ苦しむなんて、どれだけ邪悪なオーラを放っているのよ、この人は!?」

束「ひっどいなー。私はただ純粋に力添えしにきただけなんだよ~」


156: 2013/07/27(土) 23:07:31.22 ID:igkI/qdJ0

束「それでねそれでね、ここは断然『紅椿』の出番なんだよ!」

束「第4世代型ISの力を使えば、この問題も楽にクリアーできるよ!」

一夏「――――――!? そうか、この欲望に塗れた臭い、あなたがっ…………!」ウプ

シャル「一夏!」

千冬「……話を聞こう」

束「『紅椿』の展開装甲をこうこうこうこう変形すればね、超音速飛行も可能になるんだよ」

束「しかも、変形次第で攻撃にも防御にも使えるようになるから、あらゆる状況も展開装甲の調整で対応可能!」

束「まさしくパーフェクトな出来栄え!」

千冬「それが第4世代型の特徴というわけか」

セシリア「そ、それでは私たちが試験稼働させようとした換装装備は……」

ラウラ「第4世代型では無用の長物となってしまったということなのか」

シャル「確かに、こんなのが世間に知れ渡ったら、第3世代の試験機の着手で手一杯の世界情勢が一気に変わってしまう」

シャル「パッケージによる多機能化を目指したIS業界の努力を全て無かったことにしてしまうほどに……」

鈴「戦争の火種になるっていうのもいよいよ真実味を帯びてきたわね」

箒「」ゾクッ

箒「い、一夏……、わ、私は…………」

千冬「どうする、篠ノ之(そして、織斑一夏。お前の返答が全てを決める)」

千冬「だが、その前に部外者は出て行け」

束「ああん、ひど~い! でも、いっくんだったら答えは決まっているよ」

束「信じてるよ、いっくん~! それじゃ、しばしお別れ! バーイ!」

鈴「これで邪魔者は居なくなったわね」

ラウラ「さあ、おにい……織斑一夏よ。どう答えるのだ!?」

箒「…………一夏」

一夏「よく聞いてくれ、箒ちゃん、みんな……」


157: 2013/07/27(土) 23:09:25.64 ID:igkI/qdJ0

箒「いくぞ、一夏」

一夏「ああ、何もかもが初めてなことしかないが、やるしかない!」

箒「だが、私たちならやれるさ! 一夏が示してくれた“強さ”の在り方を実践してみせる!」

一夏「頼もしい」

箒「“一人よりも二人”。私たちなら――――――!」

セシリア「これが決戦に赴く一夏さんの在り方」

セシリア「普通ならもっと緊迫した雰囲気を醸し出すものでしょうけれど、見ているこっちも安心して来ましたわ」

ラウラ「うむ。指揮官や隊長の動揺は士気に影響を与える。兄嫁はそれを誰に教わることなく自覚しているのだ」

シャル「でも、まさか今回の戦いの鍵がアレになるなんて思いもしなかったね」

鈴「当然といえば当然よね。ヒーローの“強さ”は常に時流に合わせたものじゃないと」

鈴「ISの技術が進歩して“ブリュンヒルデ”のように剣1つだけで勝ち続けるのを再現しづらく環境が移り変わったんだから、自ずと手段を変えるのは当然よね」

千冬「よし、では頼むぞ、織斑、篠ノ之。健闘を祈る」

シャル「下のことは気にせず、敵の撃破に集中してね」

ラウラ「万が一の船舶の保護は身を挺して行おう」

セシリア「一夏さん、箒さん、ご武運を! 神よ、殿方たちを導き給え!」

箒「では、発進します!」

一夏「織斑先生、みんな、行ってきます!」

千冬「我々もクルーザーで沖に出るぞ」

一同「了解!」


158: 2013/07/27(土) 23:13:23.54 ID:igkI/qdJ0

一夏「(凄い加速だ! イグニッションブーストなんか目じゃない加速性能だ!)」

箒「目標の現在位置の確認に成功。一夏、一気に行くぞ!」

一夏「おう!(これでまだ全速力じゃないんだから末恐ろしい)」

一夏「(だけど、懐かしいスピードの感覚だ)」

一夏「よし、捉えた。あれが『銀の福音』か」

箒「相変わらず、カメラより見通せる目だ」

箒「よし、10秒後に接触する」

一夏「加速どうぞ!」

箒「――――――加速!」

一夏「『零落白夜』起動!」

一夏「いっけええええええええ!」

銀の福音「――――――!」

箒「――――――く、あともう少しだったのに!」

一夏「追跡してくれ! どっちみち、こうなるのはわかっていた! シールドバリアーが0になってもいいから、ぶつかる勢いで!」

箒「そうする他ないか!」

銀の福音「――――――」

一夏「――――――!! 話に聞いていたオールレンジ攻撃か!」

箒「くぅ! ……被弾したか」

一夏「左右から同時に攻めるぞ! 左は頼んだ!」

箒「了解した!」

箒「はああああああああ!」

一夏「うおおおおおおおお!」

一夏「――――――(くそ、この程度のノロマな敵に対応できないことが悔しい)」

箒「――――――ええい!」

一夏「さすがにキツイな……」

箒「一夏! 私が動きを止める!」

一夏「お、『紅椿』にも誘導兵器があったのか!?」

一夏「よし、追い込んだ! ――――――展開」

箒「今だ、一夏!」

一夏「よし、もらった――――――ん(沖に漁船だと)!?」

一夏「(危なかった……! もし、沖にラウラたちを展開させていなかったらあの漁船が沈没していたかもしれない!)」

一夏「(そうなれば、学園の管理運営能力が問われてIS学園が解体されるかもしれない!)」

一夏「(そうなれば、俺どころか箒ちゃんまで…………)」

ラウラ「(兄嫁よ、読みは正しかったな。さすがだ)」

一夏「うおおおおおおおおおお!(やはり、「初期化」されたのは痛かったけど……)」

一撃必殺の一閃が振り下ろされた。

箒「やった!」

銀の福音「――――――!」

勝負は呆気無く終わりを迎えだ。


159: 2013/07/27(土) 23:15:29.08 ID:igkI/qdJ0

――――――だが、

銀の福音「――――――!」

箒「うわ?! 馬鹿な、まだ生きている!?」

一夏「(しまった! 一瞬、遅れたせいだ!)」

一夏「(それにしても何という回避能力だ)」

一夏「(一瞬だけ身を捩らせて『零落白夜』の一撃必殺を耐え切るとは……)」

一夏「(それだけ格闘戦に長けた兵士をモデリングしていたということなのか……)」

一夏「だが――――――」

一夏「楔は打ち込んである!」

一夏「もう逃さない!」

銀の福音「――――――!?」

一夏はある一計を案じていた。

万が一斬りが浅かった場合など仕損じた時のことを考えて、ある小細工を行っていたのだった。


160: 2013/07/27(土) 23:21:05.12 ID:LW2PPCI30

一夏『よく聞いてくれ、箒ちゃん、みんな……』

一夏『作戦は箒ちゃんで輸送・援護してもらう。そして、みんなは海域に存在する船舶の保護に向かってもらう』

一夏『だけど、念には念を入れて斬り損じた時の対策をしておきたい』

シャル『じゃあ――――――!』

鈴『あの時みたいに武器を遠隔展開したいのね?』

一夏『そうだ。だけど、今回はそんな時間も余裕もない。箒ちゃんは実戦経験が一度もないし、遠隔展開の訓練もしていない』

一夏『それに高速戦闘にもなれば、他人に気を配る余裕というのはほとんどない』

箒『すまない』

一夏『謝らないで。与えられた任務が不可能ってわけじゃないから』

セシリア『それではどうするのですか?』

一夏『こいつがある!』

箒『――――――雪片弐型?』

一夏『篠ノ之束は言った。『紅椿』はこの雪片弐型が進化したもの――――――そして、進化したものというのが展開装甲』

鈴『どういうこと?』

シャル『雪片弐型で拡張領域を全部使っている――――――そうか!』

ラウラ『雪片弐型は拡張領域そのものになる武器だったということか!』

一夏『その通りだ』

セシリア『ですが、『白式』そのものの拡張領域は大きくは無かったはずですわ』

セシリア『いったい何を私たちから借りるというですか?』

一夏『本当だったらシャルの盾頃し(シールド・ピアース)を使いたかったけど、それを使いこなす自信もないし、拘束力が足りない』

一夏『だから、今回使うのは――――――』

一夏『ラウラとセシリアさんの武器だ』


162: 2013/07/28(日) 00:35:32.46 ID:J5YptBWF0

ラウラ『――――――な、何!?』

セシリア『いったい何を!?』

一夏『急いでくれ!』

ラウラ『わ、わかった、お兄さま』

セシリア『え、ええ……』

一夏『そして、鈴ちゃん。すまないけど、エネルギーを補給してくれ』

鈴『ええ!? 私ってそんな扱い!?』

一夏『良燃費が売りの『甲龍』だから頼んでいるだ。時間がない!』

鈴『わかったわ!』

ラウラ『お兄さま! 私の武器から何を?』

一夏『ラウラ、ワイヤーブレードを3基を長さ半分で出してくれ』

ラウラ『…………?? わかった』

一夏『そして、セシリアさん。『インターセプター』を!』

セシリア『え!? あれを……!? わ、わかりましたわ』アセアセ

千冬『まさか、織斑が造ろうとしているのは……」

一夏『どっちもアンロックしておいてくれ!』

ラウラ『よし、できたぞ』

セシリア『こちらも用意できましたわ』

一夏『悪いね、ラウラ。あとで武器の修理代は弁償しておくから。『零落白夜』!』

一夏『そして、――――――完成だ!』

一夏『そしてもう1つ、ここで実現させる! ――――――シャル!』

167: 2013/07/28(日) 11:53:17.53 ID:r0Kd2tZX0

そう、一夏は斬り抜けると同時に、

ワイヤーブレードを絡めたショートブレード『インターセプター』が『銀の福音』の斬り裂かれた首筋に突き刺さり、首に絞まるようにしたのだ! 
ワイヤーブレードは誘導兵器であり、分断して即席で造り上げた不完全な出来ではあったが、一夏の集中力が不足を補った。

三重に巻かれたワイヤーブレードはフルスキンのISの動きを封じた。
そして、ワイヤーブレードは『白式』の左腕に巻かれており、容易に解けそうになかった。

一夏「次は外さない!!」

一夏はイグニッションブーストによる急旋回と首に巻かれたワイヤーブレードによる引力で相手を遠心力で撹乱する。
『銀の福音』もたまらず抵抗をするが、完全にコントロールを奪われていた。
いくら最高速を上回る機体とは言え、慣性の渦に一度呑まれたら何もできはしない。

そして、一夏は機を計り、突撃した。
しかし、振りかぶって斬りかかればそれだけで隙を産み、
『零落白夜』の突きでは身を捩らせて回避されてしまう可能性があった。

そこで、最後の仕掛けが発動した!

一夏「“逆さま”ぁあああああ!」

『白式』が持っていた雪片弐型の向きが突然変わった。
瞬時に光の剣を逆手に持ち、最高速を維持したまま『銀の福音』を通り抜けたのだ。
同時に、必氏の抵抗を続ける『銀の福音』を容赦なく上と下に斬り裂いたのである。

これはシャルロット・デュノアが得意とする『高速切替』の応用であった。

168: 2013/07/28(日) 12:07:36.61 ID:r0Kd2tZX0

箒「一夏! まだ『銀の福音』が生きている!」

だが、上半身だけになっても『銀の福音』は生きていた。さすが戦略級は頑健である。

そして、本体以外を攻撃していなかったので、『銀の福音』の翼にある兵装もまだ健在。

一夏「(エネルギーもあとわずか……)」

一夏は残された最後のエネルギーを振り絞り、もう一度アタックを敢行する。

箒「止めろ、一夏ああああああああ!」

だが、度重なるレーザーを浴びて、エネルギーが0になり、

一夏「うおおおおおおおおお!」

――――――『銀の福音』に飛びついたのだ! 

そして、浅く斬り裂かれた『銀の福音』の頭部に指を伸ばし、あらん限りのアイアンクローで力で押し潰そうとするのだ。

一夏にとっての武器とは――――“強さ”とは、ISだけではなかったのだ。

銀の福音「!!!???」

この奇襲にはさすがの無人ISは対応に困った。

ISはシールドバリアーに守れており、身体に直接密着されるなど全く想定されていないからだ。

更に、『零落白夜』によって切断されたスキンのダメージコントロールのために余計なエネルギーも消費していた。

切断箇所に絶対防御を再展開するための修復作業の演算も入り、ますます混乱する。



そして、これが本当のアイアンクローと言わんばかり、一夏の豪腕によって『銀の福音』の頭部がひしゃげていく。

更に、アンロックされて実体化し続ける、突き刺さったショートブレードと首に締まったワイヤーブレードの継続ダメージもまだ続いている。

量子コンピュータで動くISだが、歪んでいく輪郭に伴い、直接の機能の故障が起こり始めた。

銀の福音「――――――!!!」

暴れる『銀の福音』だが、一夏の2つのアイアンクローは決して身体が宙吊りになっても放さない。

むしろ――――――、

一夏「――――――ガブッ!」

フルスキンのISに噛み付いたのだ! 

たとえ、絶対防御やシールドバリアーによって従来兵器が弱体化していても、ISにはちゃんとダメージが通る!

むしろ、ISは諸機能を全てシールドエネルギーでまかなっていることが普通なので、
逆に言えば、どんな攻撃手段も有効打になり得るのだ!


ISが機能停止してなお生身で立ち向かい、その果てに絶対防御を超えてISのスキンをも食い千切る――――――まさに空前絶後の氏闘!


169: 2013/07/28(日) 12:12:32.60 ID:r0Kd2tZX0

そして、ついに――――――


銀の福音「………………」グシャ

『銀の福音』の息の根は止まった。元々『零落白夜』を二度も受けてシールドエネルギーが激減していたことも功を奏した。

量子化した武装は全て解除され、自律機能を総括するメインコンピュータが停止したことで、PICが停止――――――海面へと落下を始めた。

そして、一夏は――――――、

ラウラ「――――――!」

海上に展開していたラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』の『AIC』によって受け止められた。
元々はPICを発展させたものだが、集中力次第であらゆるものを受け止められる。

そして、ラウラの集中力はこの時、人一倍抜きん出ていた。ラウラの“強さ”が一夏を救ったのだ。

ラウラ「やったな、お兄さま!」

一夏「………………」(顎と全身の筋肉が疲労で全く動けない)

ラウラ「わかっている! 私たちの勝利だ!」

箒「私はほとんど何もできなかった。ただ邪魔にならないように見ているだけ――――」

ラウラ「何を言っている? この作戦の大前提は篠ノ之箒、お前だぞ」

ラウラ「初戦で高速戦闘にしては立派にやれたではないか。喋れない兄嫁に代わって、私が褒めておくぞ」

一夏「」ニコッ

箒「そうか」

シャル「おーい!」

千冬「無事かああああ!」

箒「クルーザーが来たか」

ラウラ「さあ、凱旋しよう! 栄えあるこの勝利に祝福を!」

箒「ああ!」

ラウラ「お?」

一夏「」ヒッシニユビヲサス

箒「あっちに何かあるのか?」


それは――――――


170: 2013/07/28(日) 12:18:11.59 ID:r0Kd2tZX0


千冬「2つ目の竜涎香だと…………!?」

セシリア「一夏さんは本当に神の恩寵を受けておられるんですわ」

シャル「ここまで来ると、一夏は本当に――――――ねえ?」

鈴「でも、当分身動きが取れそうにないから私たちがお世話しないとね……」

ラウラ「そうだな。あれだけの戦いぶりだ。しっかりと食べ物を喉に通せるかもあやしい」

箒「姉さんを一夏に近づけないようしないと!」

一夏「」ニコッ

一同「………………」

千冬「………………ん?」

セシリア「握ってあげてください。最愛の弟の手を、その力強い手で」

シャル「ここには僕たちしかいませんので」

一同「………………」

千冬「あ、ああ…………」

一夏「」ニパア

千冬「…………」ヤレヤレ

一同「(よかった。これが互いにとっての一番の薬)」

171: 2013/07/28(日) 12:23:40.04 ID:r0Kd2tZX0

――――――同日、夕方


一夏「………………」

一夏「(風が気持ちいい)」

ロッキングチェアに揺られながら、縁側で沈む夕陽を見送る一夏。

だが、今の彼は全身筋肉痛のために喋ることも動くこともままならなかった。

快復するのには少なくとも数日かかることは明白だった。

それ故に、7月7日――――――今日この日にやってあげようと思ったことができずに一日が終わりを告げようとしていることに、涙が零れた。

さながらその光景は老いた退役軍人が昔を偲んで涙するものと似通っていた。

動かせるのは目とわずかな表情、そして力なくプルプルと震え続ける指先だけ。

見る人が見れば、氏期が近いと予感させるものであった。それを引き立てるように、少年の表情には諦めにも似た清々しさがあったのだ。

だが、一夏にとってはここで風を感じながら揺れていられるのは幸福なことだった。

ただ病床に縛り付けられて何も感じなくなるよりは、自分が生きていると感じられる刺激と変化に満ちた外で、
日の入りや星空の煌めき、風のせせらぎ、海の満ち干きを記憶したかった。

そして、満足に意思表示もできない一夏のそんな望みを叶えたのが――――――

箒「一夏、夕食を持ってきたぞ」

今日この日、一夏が言葉を伝えようとした人物であった。

夕食と言ってもおかゆなのだが、その味は一夏にとっては感じられる味だった。

箒「フー、フー」

箒「あーん」

一夏「......」

わずかにしか開かない口に互いに苦労しながら、箒は甲斐甲斐しく介護をする。

今日よりしばらく、なすがままにされる日々は、これまで一夏の人生には無かった新鮮なものとなった。

172: 2013/07/28(日) 12:28:03.76 ID:r0Kd2tZX0

おしめの交換から身体の汗まで隅から隅まで拭き取り、車椅子に乗せられて自分の生きたい場所へと連れて行ってくれる、

――――――そんな日々が一夏には強烈に新鮮だった。

これまで他者との関わりを拡げる一方で、自己完結していた一夏にとっては、とっても。

他人のことはよくわかる一夏。しかし、その一方で、自分への理解を求めて来なかった一夏にとって、
一般的な意思疎通能力を欠いた状態なのに箒はよく一夏の欲求に応えてみせた。

一夏「(俺のことをこんなにもわかってくれているのか)」

この日々を通じて、一夏は初めて他人に心の内を読まれていてもいいように思えた。

一夏にとって、自分の存在はおそらく篠ノ之束以上の災厄そのものであり、
“じィちゃん”を失ってからは人並みの幸せを最終的に掴む権利は捨てていた。

それ故に、一夏は誰に対しても一線を引いていた。たった一人だけの肉親にさえも。

しかし、難儀なことに、ここにおいては独りでは居られない心の傷を抱え、
“じィちゃん”の『人間』としてあるべき道を示すために、他人との関わりあいを捨てられずにいた。

そのことが一夏に大きな葛藤を招き、重き荷となっていた。

だが、この数日のうちに一夏は少し変わった。まだ考えが変わったわけではないが、少し変わったのだ。


それから臨海学校の翌週に、驚異的な回復力で一夏は現役復帰を果たしたのであった。


173: 2013/07/28(日) 12:33:50.65 ID:r0Kd2tZX0

――――――夏季休業前のある日


一夏「…………はあはあ」

ラウラ「頑張れ、お兄さま!」

一夏「…………ええい!」

鈴「よし、あともう少し!」

一夏「…………ご、ゴール」

観衆「わああああああお!!」

箒「文句なしの首位独走だ!」

シャル「凄いよ、一夏! このロードレースを飛び入り参加で制覇しちゃったよ!」

セシリア「もう、感無量ですわ!」

セシリア「リハビリを兼ねたアマチュアのロードレースでしたが、初心者とは思えない駆け引きとアタックの応酬で、ワールドツアーの選手をも下しましたわ!」

ラウラ「もうこのビデオは一生の宝物だ!」

シャル「ロードレースって本当にいいよね」

鈴「あははは、ヨーロッパ人にとってはサッカーの次に熱くなる競技っていうし、すごい温度差……」

箒「だけど、本当によく回復してくれたものだ……」

箒「さあ、今日の優勝者を迎えに行こう!」

一同「おお!!」


174: 2013/07/28(日) 12:39:15.40 ID:r0Kd2tZX0

千冬「校外活動での活躍は見事だったが、私の断りなく参加したのはいただけないな」

千冬「残念だが、アマチュアでも公式大会ではないから内申点はあげられんぞ」

セシリア「でもでも、凄かったですわ! ワールドツアーの選手も参加していて、それをアタックの応酬の激闘の末に、最後に圧勝しましたもの!」

ラウラ「織斑先生! これがビデオです。お納めください!」

千冬「まあ、生徒が努力したことは認めてやろう。よく頑張ったな、織斑」

一夏「へへへ」

千冬「もう大丈夫なんだな?」

一夏「はい。今まで動けなかった分、収まりがつかないぐらいですよ」ニコッ

千冬「まったく……」クスッ

鈴「あれから一夏と千冬さんの姉弟、よく笑い合うようになったわよね」

箒「きっと臨海学校の時、千冬さんは気持ちの整理がついたからなんだろうな」

シャル「そして、一夏は身動きの取れなかった介護生活で、一皮剥けたんだろうね。一夏、前よりも優しい目をしているよね」

鈴「まあ確かに、おしめの交換までされちゃうほどの関係にまでなったら、そうもなるわよね」

箒「ああ、あれは…………」

シャル「大変だったけれど、その……いい経験になったよね?」

鈴「…………そうね」

箒「ただ相変わらず、一夏が何を考えているかがわからないがな……」


千冬『私が危惧しているのはIS学園を卒業した後のことを今現在に予見して、結論を焦ってこの学園を出て行こうとすることだ』


箒「臨海学校で千冬さんが最後に告げた危惧感がただの杞憂であればいいのだが……」

シャル「そうだね。竜涎香を2つも見つけた幸運もいつまで続くかわかったもんじゃないし、一夏も自分のことで頼ってくれるようになるといいね」

鈴「でも、まだ1年目の夏季休業前――――――。いろんなことがありすぎたわね」

箒「そうだな。だが、災いの中心に居たのはいつも一夏だった…………」

箒「……よく考えてみたら、一夏にとっては“師匠”が氏んでから1年も経っていないうちの事件の連続だったのではないのか?」

箒「“師匠”が氏んだのがいつなのかがわからないが、」

箒「一夏にとってこれまでの学園生活……たった3ヶ月――――――それも私たちにとって宝石のような日々も、」

箒「まだ今現在を安住と考えるには時期尚早として一線を引いているのかもしれないな」

シャル「そうだとしたら、時間が解決してくれるといいね」

箒「そう、時間が――――――」

175: 2013/07/28(日) 12:44:17.94 ID:r0Kd2tZX0

――――――同日。自室にて


織斑一夏は絶望していた。

一夏「もうダメだ。おしまいだ」

一夏「逃げられるのか、今度は……」

一夏「俺は世界最初のISドライバー:織斑千冬とその“師匠”の指導によって得た“強さ”で、『銀の福音』の撃破に成功してしまった」

一夏「――――――してしまったんだ」

一夏「失敗だった。失敗だった……」

この事実が一夏をある絶望へと駆り立てることになった。

一夏「同じだ。『白騎士事件』と全く同じ事を俺は――――――!」

――――――『白騎士事件』

それは10年前、篠ノ之束がISを発表して1か月後に起きた壮絶なる軍事事変。
各国の戦略級ミサイル二千超が一斉に日本へ発射され、世界が混乱する中、
現れた人類最初のIS『白騎士』によって全てのミサイルが撃破され、事無きを得た。
そして、これがきっかけで篠ノ之束が開発した、ISは軍事力の要として用いられるようになったのである。

その『白騎士』のドライバーは篠ノ之束の協力者であった織斑千冬であった。

だが、それ以上に恐るべき事実は、――――――証拠はないが、
世界中のミサイルを日本へと発射させてISの有用性を示し、一気に時の人となった篠ノ之束、
――――――という頭のネジが外れた大天才によるマッチポンプであった可能性が――――――いや、一夏はそう確信した。

つまり、この事件こそが『ISのある世界とない世界の分岐点』とも言えた。

状況がとにかく似ていた。結果として一夏が成し遂げってしまったことも。そして、あまりにも都合が良すぎた。

一夏「お、俺は吐き気を催す邪悪に踊らされて、『白騎士事件』でISの軍事的価値を認知させたように、」

一夏「今度はこの事件で“世界で唯一ISが扱える男性”の“強さ”を示してしまった……!」

一夏「今でも信じられないが、俺はあんなゲロ以下の臭いをプンプンさせている連中の野望の道に光を照らす救世主になってしまったのか……?」

一夏「どのみち、この事実はIS業界で流布してしまうだろう……」

一夏「俺は、俺は――――――!」

一夏「嫌だ! 俺が『白式』の力を授けられたのはこんなふうに力を誇示するためじゃない!」

一夏「ただ『人間』として生きていくため、ただそれだけのために…………!」

一夏「俺はいったい何をやっているんだあああああああ!」

176: 2013/07/28(日) 12:49:05.09 ID:r0Kd2tZX0

最終話 『可能性』 -セカンドシフト-
Alone in the DARK and... Hope from the LIGHT

――――――夏季休業前日 夜


千冬「どうした、織斑? 私の部屋を訪ねるとは珍しい」

一夏「織斑先生」

千冬「…………む、どうした」

一夏「退学させてください」

千冬「どういうことだ」

一夏「こういうことです」

一夏「『白式』展開」

一夏「………………」

千冬「………………むう」

一夏「俺、IS使えなくなっちゃった……」

一夏「俺が望んだからなのか? これが“最善の形”だからなのか……?」

千冬「…………退学は許可できない。調査が必要だからな」

千冬「(ついに恐れていたことが起こってしまった……)」


177: 2013/07/28(日) 12:53:20.83 ID:r0Kd2tZX0

千冬「IS適性は絶対の指標ではないのは知っているな?」

千冬「あれはあくまでも肉体的素質であって訓練と使っているISと「最適化」を繰り返すうちに上がっていくものだ」

一夏「俺が最初にお姉ちゃんと一緒に測ってもらった時は“B”だった」

千冬「そして、入学当初で“S”――――すなわち“ヴァルキリー”クラスの適性にまでお前は成長していたというわけだ」

千冬「……入学以前の経歴を抹消した関係上、表向きでは“B”のままだったがな」

千冬「IS適性が低かったラウラも今ではAランクだ」

千冬「しかし、ISには開発者自身も理解に及ばない奇妙な特性があるのは、知っているな? いや、覚えているな?」

一夏「何となく、だけど……」

千冬「私にもわからんことだらけだが、ISはドライバーによる運用と経験の蓄積で、「最適化」を設定して自ら進化―――――「形態移行」する」

千冬「そして、ISのコアには独自の意識が宿っているそうだ」

千冬「もし、そのコアの意識がドライバーの意思に感応しているのだとしたら、」

千冬「お前がISが突然使えなくなった原因はそこにあるのだろう」

一夏「そうか、やっぱり俺が――(中略)――して手に入れた“強さ”はいずれ封じられるように「最適化」されるのが筋ってやつか……」

千冬「な、何だと……!? 今、何て言った……」

一夏「………………」

千冬「(泣いて謝らないだと!?)…………だ、だが、私にはわかるぞ。そうせざるを得なかった事情があったのだろう?」

一夏「でも、たとえそうだったとしても、俺がしたことの事実も罪も俺自身が許せないんだ……」

千冬「許せない……? 自分を?」

一夏「……俺はもうここには居られない。居たくないんだ!」

千冬「な、何を言っている! 血迷ったか!?」

一夏「やっぱり俺は“世界で唯一ISが扱える男性”という歪んだ存在」

一夏「入学してから3ヶ月余り、居着いてみたけれど、結局俺は災厄をもたらさずには居られなかった」

一夏「一挙一動、何かある度に事件が起こり、俺以外の他人が巻き込まれるのを見るのはもううんざりなんだ」

一夏「だから、アラスカでもどこか地の果てで隠遁生活を始めることにするよ」

千冬「ま、待つんだ、一夏! 結論を出すにはまだ早すぎるぞ!」

一夏「早くなんかないさ。ほんの数ヶ月前、それこそIS学園に入学するちょっと前まで、俺は一人で旅をしていたんだからさ」

千冬「ここを出て行ったら、お前を慕っているあの子たちはどうなる!?」

一夏「………………」

一夏「………………」

一夏「…………いいんだ、これで」

千冬「…………何!?」

178: 2013/07/28(日) 12:59:35.64 ID:r0Kd2tZX0

一夏「俺が何か無茶をやる度に心を痛めるんだから、俺のことでこれ以上苦しまなくなるならそれでいい」

千冬「………………!」バチン

千冬「………………」ポロポロ

一夏「…………だって、そうだろう!?」ジンワリ

一夏「…………お姉ちゃんだってそうだ!」ポロポロ

一夏「俺が毎日どんな生活を送っていたかを逐一伝えていたら……」

一夏「世界で一番俺を愛してくれているお姉ちゃんは心が壊れてダメになってしまう!」

一夏「俺なんかのためだけに、みんなから愛されているお姉ちゃんをダメにしたくない!」

一夏「ダメになったそんなお姉ちゃんなんて、俺が見たくない!」

一夏「だから、ごめ……いや、さようならだ!」

千冬「待て、逃げられるとでも思っているのか!」

一夏「うん! だって、これが学園――――――お姉ちゃんは俺に優しいから」バタン

千冬「――――――あ」

千冬「私は何てことを…………!!」

千冬「まさか、学園がこういった約定を結んでいただなんて……」

千冬「こんなんでIS操縦の第一人者とは聞いて呆れる……」

千冬「世界でたった一人の肉親だなんて胸を張れたもんだ…………」

千冬「うおおおおお!」ガランガシャン

179: 2013/07/28(日) 13:07:51.02 ID:r0Kd2tZX0

――――――翌朝


箒「雨でも振りそうな天気だな。だが、私たちのやることは変わらない」

箒「一夏、朝稽古を始めるぞ!」ガチャ

箒「…………一夏?」キョロキョロ

箒「一夏がいない?」

箒「どういうことだ? しかも妙に部屋が小ざっぱりしているような……」

箒「先に出たのか?」

箒「お、ずいぶんと激しい雨が降りだしたな」ザーザー

ラウラ「…………お兄さま、いったいどこへ」シクシク

箒「って、ラウラ!? いったいどうしたというのだ!?」

ラウラ「兄嫁が帰ってこないのだ。いくら通信を待っても返事がない」

ラウラ「こんなことは初めてだ」

箒「…………ま、まさか」


千冬『私が危惧しているのはIS学園を卒業した後のことを今現在に予見して、結論を焦ってこの学園を出て行こうとすることだ』


箒「織斑先生! ――――――え」ガチャ

千冬「ああ……篠ノ之か」ゲッソリ

箒「この部屋の荒れよう……先生、いったい何があったんですか!? まさか、一夏のことで――――――」

千冬「私は引き留めることができなかった」

箒「」ピカーゴロゴロゴー

箒「ああ……い、一夏が……」ガタガタ


夏季休業開始と同時の織斑一夏の出奔はまさに青天の霹靂とも呼べる大事件となった。
学園側はこのことに緘口令を敷き、夏季休業が終了するまでに事態の解決に至らなかった場合に公表する流れとなった。

世界中で話題になった“世界で唯一ISを扱える男性”が行方不明になったことが報道されれば、様々な波紋を呼ぶことは明白だったからだ。


織斑一夏の行方はようとして知れない。わかったことは、一夏が誰にも触らせようとしなかった櫃もなくなっていたという程度だった。

元々“世界で唯一ISが扱える男性”織斑一夏はあの誘拐事件で“織斑千冬の弟”ということで一躍認知されるまで注目されなかった存在であり、
そしてIS学園に現れるまで歴史の表舞台から抹消されていた存在であった。

それ故に、実の姉でさえもその実態を掴めずにいた。


彼の存在は季節風が運んできてくれた一時の夢幻だったのかもしれない――――――そう捉える者も居た。


181: 2013/07/28(日) 13:18:05.48 ID:r0Kd2tZX0






箒「……一夏。来月の今頃、私は夏祭りで神楽舞を舞うことになった」

箒「だから、――――――見て欲しかった」

箒「一夏、今、お前はどこにいるんだ?」

箒「………………」グスン

箒「さ、寂しくなんかないぞ! 私はお前と違って大人なんだからな」

箒「だから……」

箒「早く帰ってこーい!」

箒「私は、私たちは、待って……いる……からな…………!」

182: 2013/07/28(日) 13:23:02.86 ID:r0Kd2tZX0

シャル『ぼ、僕のせいだ……! 僕がもっと一夏の悩みに気づいて慰めてあげられたら、こんなことには――――――』

ラウラ『ああ……お兄さま……。私は、私は……お兄さまの許で何を学んでいたのだ!』

セシリア『そ、そんな……! シャルロットさんのせいでもラウラさんのせいでもありませんわ!』

鈴『でも、私がこの学園に来たのは“一夏がいたから”なのよね――――――』

箒『………………』

シャル『僕も同じだよ! “一夏がいるから”ここにいるのに…………』

ラウラ『私もだ! 兄嫁に出会っていなかったら私はずっと織斑教官を裏切り続けていただろう。ただの暴力しか持たない“出来損ない”のままでいただろう』

セシリア『わ、私も、一夏さんと出会っていなかったら、きっとみなさんとこうして苦楽を共にするような間柄にはなりませんでしたわ』

セシリア『きっと、他の皆さんと同じように異邦の地で独りぼっちでしたわ……』

鈴『一夏が居てくれたからこうしてみんなと楽しくいられたのに、どうして一人でどこかに行っちゃうのよ! 馬鹿ああああああああ!』

シャル『僕はいったいどうしたらいいの? 教えて、一夏……』

ラウラ『私はすぐにでも兄嫁を探しに行くぞ!』

セシリア『わ、私も――――――!』

箒『ま、待ってくれ、みんな!』

鈴『何よ! 何か考えがあるの!?』

箒『きっと、一夏を追ったところで一夏が受け容れるとは到底思えない』

箒『千冬さんですら引き留められなかったんだ。私たちが行っても連れ戻すことができるとは思えない』

鈴『あ…………確かにそうね。そうだったわね。やると決めたらやるやつだったわ』

シャル『そ、それじゃ、どうすればいいの……?』

箒『みんな、臨海学校で千冬さんが私たちに言ったことを思い出してみてくれ』

シャル『…………あ』


千冬『お前たちは織斑一夏の“居場所を守り通せる”か?』


セシリア『……そうでしたわ』

セシリア『――――――“居場所を守り通す”こと』

鈴『寄る辺を持たない一夏が帰ってこれる場所を守り通す――――そっか、そういうことか』

鈴『やっぱり、血の繋がりっていうのは馬鹿にならないものね』

ラウラ『そんなことでいいのか、箒よ? そういうお前が本当は今すぐにも飛び出したいのではないのか?』

箒『そう。否定はしない』

箒『だけど、一夏はIS学園に居た時から部屋に一人でいるのが嫌で嫌でしかたなかっただろう』

ラウラ『…………! そうか、確かに仲間が散り散りになったところで帰り着いたとしたら、兄嫁はとても悲しむ』

ラウラ『そうなれば、ますます私たちとの接点が失われていく』

箒『だから今は、一夏を信じて待つしかない…………』

一同『………………』

183: 2013/07/28(日) 13:29:33.00 ID:r0Kd2tZX0

鈴『……そうよね。ヒーローっていうのはいつも危険と隣り合わせで、無事にすぐに帰ってこられるとは限らない』

鈴『――――――私は待つわ!』

シャル『僕もそうする!』

シャル『…………そういうのも少しいいよね』

セシリア『待たされるのはとても嫌ですわ!』

セシリア『でも、一夏さんのためなら例え幾千の月日が過ぎようとも待ち続けますわ!』

ラウラ『私は、織斑教官の容態を見て判断する』

ラウラ『――――――だが、今しばらくは待つことにする。そして、“強さ”を磨いておく』

箒『そうか、みんな、ありがとう』

ラウラ『礼を言う必要はない。そうすることが兄嫁にとっても、ここにいる全員にとっても、そして私自身にとっても最善だということに気づけたのだ』

シャル『むしろ、礼を言うのはこっちの方だよ。僕、一夏の母親代わりだと調子に乗って、逆に僕がずっと一夏に甘えてきていたことをすっかり忘れていた』

セシリア『今度会えた時のためにしっかりと抱きとめる練習をしませんと!』

鈴『やっぱりこうやって誰かのために人が集まるのは、一夏の立派な特技よね』

鈴『それで自分で言うのも難だけど、私たちって本当にいい仲間よね』

箒『ああ、そのとおりだとも』

鈴『こうして出会えた縁、大切にしていこうね』

ラウラ『もちろんだ』

シャル『僕も一生忘れないよ』

セシリア『ええ、入学してまだ半年も経っていませんが、毎日が宝石のようでしたわ』

箒『それじゃ、みんな、一夏が帰ってくるその日まで――――――!』


箒「私たちは、待っているからな」

晴れ渡った澄んだ空を見上げて、呟く。


――――――また、あの空で逢えるから。



185: 2013/07/28(日) 13:37:23.80 ID:r0Kd2tZX0

※ここからしばらくは、趣が変わり、

このSSでの一夏の明かされるべきではない過程なので、

興味の[ある方]以外の方はエピローグまでお待ちください。

それでは、もうしばらくお付き合いください。

186: 2013/07/28(日) 13:42:16.85 ID:r0Kd2tZX0
最終話 『可能性』 -セカンドシフト- 完結篇
Alone in the DARK and... Hope from the LIGHT

その頃――――――


一夏「そんなもん持って人を襲うってことは、奪われてこうなる可能性も考えてあるんだよね?」

一夏「学校で習わなかったのか? 自分が嫌がることを他人にしちゃいけないって」

テ口リストA「う、うわあああああ! い、命だけは――――――!」

一夏「大丈夫、命は奪わないさ。ただ、親指と小指だけは置いていけ」

テ口リストA「あああああああああ!」

テ口リストB「ば、化け物だ! じょ、冗談じゃねえ! ISが使えるだけのただのガキって話じゃなかったのかよ!」

テ口リストC「こ、こんなグリーンベレー何人分のやつに敵いっこねえ! 逃げるんだ!」

テ口リストD「ふ、ふざけやがって!」

一夏「ファイア」

テ口リストD「ぐあああああああ! 俺の指が……!」

一夏がテ口リストAから取り上げた自動拳銃は正確にテ口リストDのカービンを持つ親指を貫いた。
そして、その弾みでカービンの引き金が引かれ、それが自分の頭を撃ち抜くことになった。

一夏「命を奪えるものの重みを理解せずに、人に向けることの愚かしさを噛み締めているといい」

一夏はそれを一々気にすることもなく、しかも、無表情に次々と正確に小指と親指を根本から吹き飛ばしていく。

一夏は殺人はいっさい行わず、急所への攻撃も避けているが、
こと正当防衛に関しては小指と親指を吹き飛ばすという徹底したこだわりがあり、
その特徴的な手口からその手の世界では名の通った“シリアルアベンジャー”として有名だった。

実は、織斑一夏が射撃武器をスコープ無しで撃てたのも最初から銃の扱いに慣れていたから、
そして、常にスコープに頼らない精密射撃を求められていたからであった。
それも一般的な軍隊が想定しているものではなく、特殊部隊や戦闘諜報員に求められる高度な戦場におけるそれを。

187: 2013/07/28(日) 13:49:02.89 ID:r0Kd2tZX0

一夏「それにしても……」

一夏「まったく何も知らないで襲い掛かってくるなんて……」

一夏「もしもし△△社特務科ですか? ああ、“掃除”をお願いしたいんですが」

一夏「ええ、場所は――――――」

一夏「さっそく俺が国外に逃げたことがバレていたあたり、俺への監視は緩んでないんだな。小銭稼ぎで人を頃すようなあんな底辺のチンピラにまで情報がいっているぐらいに」

一夏「さて、ここがダメならどうする? 情報屋に今度はガダルカナル島に行ったことにするかな」

一夏「せっかくハワイに来たっていうのに台無しだ」

一夏「…………独りなんか怖くない」

一夏「金ならスイス銀行のがいくらでもあるし、何だってできるさ」

一夏「何だって……欲しいものは……」

箒『一夏!』

セシリア『一夏さん!』

鈴『一夏!』

シャル『一夏』

ラウラ『織斑一夏…………お兄さま!』

生徒『織斑くん!』

山田『織斑くん』

千冬『………………』

千冬『…………一夏、大きくなった』

千冬『本当に大きくなった』ダキアウフタリ

一夏「だから、寂しくなんか…………」ソラヲミアゲテ、ウツムク

188: 2013/07/28(日) 13:54:09.54 ID:r0Kd2tZX0

――――――とある豪華客船


一夏「やっぱり、土地柄にも臭いっていうのがあって、犯罪が多い場所だと街全体が欲望に塗れた臭いがして、入ってみてぱっとここが危険な街かどうかがわかる」

一夏「それでも、居続けなければならなければいずれ慣れてはいくんだよね」

一夏「そういう意味で、祖国は無味無臭って感じがして、臭いで相手の機微が掴みやすいから暮らしやすいんだけど…………」

一夏「もう忘れてくれているよね、みんな。きっと」

一夏「いつまでも過去に囚われずに、学生の本分を貫き通してくれればいいな」

一夏「………………」

一夏「しかし、迂闊だったな」

一夏「この船、日本に向かっているんだよな」

一夏「飛行機を乗り継ぎまくって24時間のうちに地球を5回ぐらい回ってみて、飽きたからアメリカ西海岸の豪華客船に乗ったはいいけど、こんなことになるなんて…………」

テ口リストP「この船に“世界で唯一ISを扱える男性”織斑一夏が乗っているはずだ。そいつを我々に差し出せば、こいつらに危害は加えない」

一夏「学園に守られていたおかげだったのか、その分のツケが回って出奔してから1ヶ月間で5回も襲われているぞ、俺」

一夏「しかも、思いっきり名指しされているし」

一夏「どれだけ逃げ切ろうとしても尾行を振り払えない」

一夏「まさか篠ノ之束…………のような存在にリークされているのか? それで俺が誘導されていたのか?」

189: 2013/07/28(日) 13:59:42.04 ID:r0Kd2tZX0

テ口リストP「日本人でたった15ぐらいの小僧だ! この写真のガキだ。誰か見たものは居ないのか!」

乗客「………………」カオヲミアワセル

テ口リストP「ならば残念だが、人質の命はない!」

一夏「ガセ情報だったんじゃないの?」スッ

テ口リストP「な、何だ貴様は!?」

一夏「ただの乗客だよ。どうやらそんなの居ないようだし、とっとと帰れば?」ゴゴゴゴゴ

テ口リストP「な、何だこの気迫!?」

テ口リストQ「こいつ、日本人でさあ」

一夏「そうそう、俺はただのソマリア生まれの日系人だよ。うん、それも日本人の血であるという共通点だけで今、大義の銃を向けられている哀れな子羊だよ」

テ口リストP「むむ!」

テ口リストR「なめた口、聞いてんじゃねえ!」

テ口リストP「止めろ! 我々には大義がある。ここで関係ない者まで犠牲にするのは人道にもとる」

テ口リストQ「こんなこと言ってますけど、こいつ織斑一夏じゃあないすかね?」

テ口リストP「馬鹿を言え! 人を頃したことのある目をしているこいつが、平和ボケした日本人である、この写真の小僧と同じわけがないだろう!」

テ口リストP「この写真はIS学園に居た時のなんだからな。出奔したという情報からまだ1ヶ月も経っていないんだぞ!」

テ口リストR「それじゃ、どうするんです? 俺たち、後がねえってのに……」

テ口リストP「く、だがな、我々は今の世界秩序に屈服したわけではない! 我々はISなどというものによって歪められた世界を正す使命があるのだ!」

テ口リストQ「リーダー! だったら、アレを試してみるのも?」

テ口リストP「しかたなかろう! こうなれば、アレに頼る他ない」

一夏「…………アレねえ?」


190: 2013/07/28(日) 14:04:29.43 ID:r0Kd2tZX0

一夏「それで、いつぞやの無人ISの亜種か」

一夏「――――――豪華客船は今、あの無人ISによって廃墟となった」

一夏「テ口リストも逃げ出す始末だし、シールドバリアーや絶対防御を崩せない従来兵器では対処しようもない」

一夏「ISを前にしたら、人は為す術もなく蹂躙されるしかない」

一夏「対人用に改良されたガトリング砲の威力は凄まじいな」

一夏「面白いように綺羅びやかだった内装が粉々になり、人がドロドロの肉塊や欠片になって飛び散っていくよ」

一夏「さすがに見過ごすわけにもいかないか」

一夏「…………俺のせいだからな」

一夏「現代兵器で歯が立たないISが相手なら、『零落白夜』を使わざるを得ない」

一夏「……『零落白夜』起動」

一夏「――――――」ズバリーン

そう言って、ホールで暴れていた無人ISを一刀両断して、何事も無かったかのように自室へと帰るのであった。
そして、櫃を量子化してたった1つだけの脚を腕輪にすると、急いで蜂の巣になって内部から大破した豪華客船から脱出するのであった。


これが織斑一夏にとっての日常であった

行く先々で彼の存在を知ってか知らずか何かしらの事件が起こり、氏屍累々。
人災だけでなく、天災にまで出くわすこともあり、一夏に安息は無かった。

一夏「…………氏ぬことが罪ならば、生きていることは罪にはならないのかな?」

191: 2013/07/28(日) 14:09:52.67 ID:r0Kd2tZX0

――――――夏の嵐の夜


一夏「(必要だから、使うまでだ……)」ズバリーン

一夏「(必要になってしまったから、また使えるようになったのか……)」

一夏が構える雪片弐型の光の剣が、たちまち無人ISを斬り伏せた。

テ口リストX「ば、化け物だ……正真正銘の化け物だ……」

テ口リストY「な、生身の身体でISを圧倒するなんて、やつは人間じゃねえ!」

テ口リストZ「しかも、IS用の剣を手足のように振り回して、もうゴーレムをISを展開することなく3機倒しているぞ……」

テ口リストY「それだけじゃない! 素手で木を打ち倒したんだぞ、あいつ」

テ口リストZ「やっぱ、俺たちの手に負えるやつじゃなかった……」

テ口リストW「何をやっている、お前たち!」

テ口リストX「あ、姉御、奴を殺さずに捕らえるなんて無理な話だよ」

テ口リストY「あの野郎、この暗闇の風雨の中で正確に俺の親指を狙い撃ちしてきやがったんですよ? 対策してなかったら、麻酔銃持った親指が吹っ飛んでたぞ」

テ口リストZ「もう止めましょう! ゴーレムを8機貸してもらって、もう4機も大破しているんです」

テ口リストZ「船で1機、山に逃げ込むまでにまた1機、そして今度は2機同時に出してこれですよ? これ以上は仮に捕まえられても組織に――――――」

テ口リストW「甘ったれるんじゃないよ! ここで諦めたら、1ヶ月間の追跡も無駄になって、それこそ全てが終わりだよ!?」

テ口リストW「よく考えな。やつは船から脱出して、日本に上陸してからエネルギー補給をする余裕なんてなかった。そして、ここにきて光の剣の使用も景気悪くなってきたじゃないか」

テ口リストW「それにやつも人間だ。休みを取らなきゃ野垂れ氏ぬんだよ? 連日追い立てられて、心休まる気がしなかっただろう」

テ口リストW「いいかい、やつは追い詰められているんだ。こっちが苦しい以上にあいつは孤立無援――――自分で鳥カゴを出たいいカモなんだ」

テ口リストW「それにもう2機追加で頂戴しちまったから、腹を決めな!」

テ口リストW「それがわかったら、とっとと見つけ出すんだよ!」

テ口リストX「へい! マム!」


192: 2013/07/28(日) 14:14:07.11 ID:r0Kd2tZX0

一夏「…………山に逃げ込んだはいいが、迂闊だったな。これからどうするべきなんだ、俺?」

一夏「追い掛け回されてシールドエネルギーの補給もできないし、あっちには量産化された無人機がまだ控えに残っているみたいだし」

一夏「くそ、一発いいのをもらった……」ミギウデヲオサエル

一夏「日本だから派手な行動はしないと高をくくっていたら、徹底的に追い込むつもりだった」

一夏「IS学園にいる間にテ口リストの手口も洗練されたもんだ」

カエル「ゲコ」

一夏「………………」グウウ

一夏「――――――どうする?」ゴックン

一夏「俺はもうあそこには帰らないって誓ったんだ。もう誰の記憶からも思い出されないように――――そう思って海外へ行ったのに……」

一夏「――――――気づいたらここだよ!」

一夏「何でだ? 何で俺は再びこの地を踏んでしまった?」

一夏「ここ以外だったらどこでも良かったのに…………」

一夏「気づいた時に即刻下船することだってできただろうに…………」

一夏「――――――!? 来るなら来い!」チャキ

洞穴で雨風を凌いでいた一夏はすぐ近くに人の気配を感じ、麻酔銃を構える。だが、そこに現れたのは意外な人物であった。

束「いぃぃっくぅぅぅん!」

一夏「(そんな馬鹿な! いくら風雨の中とはいえ、この人の臭いを感じないわけが)――――――!」

思わず一夏は麻酔銃を放ち、射出された注射筒が見事に篠ノ之束のおでこに命中する。

しかし、勢いそのままに一夏に抱きつくのであった。

一夏は必氏に振り払おうとするが束の力は凄まじく、一夏のアイアンクローにすら怯まなかった。

むしろ、逆に一夏のほうが束に揺さぶられるのだった。

193: 2013/07/28(日) 14:19:13.43 ID:r0Kd2tZX0

実はこう見えて、この篠ノ之束という人物は世紀の大天才であるだけでなく、織斑千冬に匹敵するほどの身体能力の持ち主であり、
一夏のように過酷なサバイバルの末に得たものを軽く超越した何かを持っているために、一夏は愕然としてしまった。

束「いっくん、やっぱりお腹空いているよね」 

束「ジャーン! 束さんお手製伝説の超健康食だよ! ほらほら、成長期なんだから偏った食事なんかしちゃだめだよ~」

一夏「…………モガ!」

束「さあさあ、どんどんお食べ! いっくんのことはずっと見守っているからね」

束「本当はこう、箒ちゃんだけを連れてきたかったけど、さすがの私でもそれは無理だったから、ごめんね~」

194: 2013/07/28(日) 14:24:37.37 ID:r0Kd2tZX0



一夏「…………束さん、何から何まで施しありがとうございました」ジェットヒーターゴーゴー

一夏「ですが、私にはあなたを満足させるお礼の仕方を知りません」

束「えー? いっくん、本当にそう思っているのかな~? ニパー」

一夏「正直なところ、食糧よりもエネルギーのほうが欲しかったです」

束「そういうことなら、おまかせあれ!」

一夏「ああ…………、ありがとうございます(半分しか回復していない、か)」

束「いっくん、そう堅くならないで。私といっくんの仲じゃない」

束「なんてったっていっくんは世界最年少のIS乗りなんだから」

一夏「あれは単に反応しただけで動かせたわけじゃ…………」

束「ほらほら見て見て! 『白騎士』装備の織斑一夏くんでーす! 小さくてすっごくプリチー!」

一夏「…………何で俺はこの人を前にして平気でいられるんだ? 俺の鼻がもうダメになったのか?」

束「もうつれないな、いっくん~! でも、」

束「――――――昔の顔に戻ってきたね」

一夏「………………!」

束「ちょっと前まで誰が見ても眩しくかっこいいいっくんだったのに、今のいっくんは更にちょっと前の痺れるようなかっこいいいっくんの目をしているよ」

束「こっち側に帰ってきたって感じ」

一夏「………………」

一夏「………………そうか。だから、平気なんだ」

一夏「――――――今の俺は束さんと同じ臭いしかしないから」

一夏「だから俺は入学当初、何でもないような好奇の視線が怖く感じたんだ」

一夏「そのうち、あそこに居る間に俺は俺に戻っていたんだ」

束「うんうん」

一夏「そして、今の俺はIS業界最大のVIPとしての業を背負う――――――」

束「違うよ、いっくん。私と同じく、“選ばれた人間”のオーラを放っているのだ! ブイブイ!」

一夏「こんな世界にしておいて、か?」

束「――――――いっくんは、今の世界は楽しい?」

一夏「…………俺にはわからない。今もわからない。俺はただずっとお姉ちゃんの背中だけを追いかけてきた」

一夏「そして気がついたら、こっち側に居た。“じィちゃん”と一緒に世界を駆け巡っていて…………」

一夏「でも、ISによって女尊男卑な世の中になっても今も昔も人は何も変わっていないってことを俺は知っている」

一夏「何て言うか、世の中って結構いろいろと戦わないといけないだろう? どんな時代になっても道理のない暴力や理不尽っていうのは絶えない」

一夏「だから、そういうのから大切なものを守れる“強さ”が大事だっていうのも」

束「ふふふふ」

束「だよねー。やっぱり、そんなもんだよねー」

束「でも、今も昔も変わらないっていうなら誰かが何かをしても同じってことだよね」

一夏「………………」

195: 2013/07/28(日) 14:29:27.12 ID:r0Kd2tZX0

束「いっくん、お礼の話なんだけどさー」

一夏「……何がいいんです、束さん」

束「身構えないで、いっくん。私たちは家族なんだから」

束「それに、とっても簡単!」

束「――――――待っている人の所に帰ること! 具体的には箒ちゃんとちぃちゃんのところに」

一夏「俺がそんなことをすると――――――あ!」

束「ふふふん」

一夏「だから、俺は再びこの地を踏むことに…………」

束「だけど、外には無人のISが6機も居るよ」

一夏「6機も!? この1ヶ月近くでもう4機も倒しているのに、まだそんな戦力が…………」

束「だったら、少し前みたいにセカンドシフト(第二形態移行)すればいいじゃない」

一夏「セカンドシフト……」

束「あの頃の『白式』は本当に最強だったよね! 『紅椿』もあの時の『白式』に近づけようとして頑張って造ったんだけど、私の腕でもまだまだってことね。ドンマイ」

一夏「だけど、あれは本当に剣だけに特化した進化で――――――」

束「――――――弱かった? そんなことないよね、いっくん」

束「だって、いっくんが望んで得た“強さ”の形なんだよ?」

一夏「………………」」

束「常時超々音速飛行で『零落白夜』を纏って通り過ぎただけで全てを斬り刻む、旋風のような『白式』だったよね」

束「まさしく世界を制する“強さ”!」

一夏「………………」

束「学園側も馬鹿だよね。下手に解析しようとして「初期化」させちゃうんだから」

束「でも――――――」

束「今度の『白式』はどんな進化を遂げるんだろうね? IS学園でやってみせたことを学び取って、どんな仕様になるのか、今から楽しみー!」

束「それじゃ、いっくん、頑張ってねー!」

束「ちゃんと待っている人のところに帰るんだよ! 箒ちゃんとちぃちゃんのところに」

束「行かなかったら、その櫃:量子化ボックスの中の思い出の全てをブラックボックスの彼方に封印しちゃうよ?」

一夏「…………約束はできない」

束「ふふん。それじゃアディオス! いっくん!」ヒュウウウウウン

一夏「ああ、待ってください! そんな派手に飛び出して行ったら居場所が――――」

テ口リストX「居ましたぜ、姉御!」

テ口リストY「行け、ゴーレム! 数の暴力で捩じ伏せてしまえ」

一夏「く、櫃を収納!」

一夏「嵐が明けて新しい朝を迎えるって時に……」

一夏「『白式』のエネルギーは半分だけ。回復してもらえただけまだマシか」

一夏「絶体絶命だな」


196: 2013/07/28(日) 14:34:12.33 ID:r0Kd2tZX0

一夏「はあ……はあ……」

テ口リストX「やっぱ、化け物だわぁ」

テ口リストY「結局、ゴーレムのほとんどが生身の人間が持つIS用装備の光の剣だけ使い物にならなくなっちまった」

テ口リストY「そして、見ろよ」

テ口リストZ「ZZZZZZ」

テ口リストY「あんな状態から見事に俺の麻酔銃で狙い撃ちだぞ」

テ口リストW「だけどこの戦い、勝ったわ!」

テ口リストX「何を言っているんです、姉御! 見てくださいよ、最後のゴーレムですら――――――ええ!!?」

テ口リストY「な、何だ! ISを覆うように何か黒いものが……」

テ口リストW「ふふふふ、どうやら幸運にも1機が引き当てたようね」


テ口リストW「――――――VTシステムを」


テ口リストW「しかも今回、どう足掻いても勝てない相手が用意されているわ」

テ口リストY「“ブリュンヒルデ”のコピーすら打ち破ったという、あの化け物の中の化け物に正面から挑んで勝てる“ヴァルキリー”なんていましたか?」

テ口リストW「お前たち、居るじゃない! 目の前に――――――」

一夏「どういう……ことだ……」

一夏「こいつの剣! 輪郭! 立ち回り!」

一夏「このVTシステムは――――――!?」

テ口リストW「何を隠そう、あれは――――――」


――――――織斑一夏なのだから。


197: 2013/07/28(日) 14:39:14.87 ID:r0Kd2tZX0

一夏「さすがに生身では――――うわあああああ! がはっ!」

テ口リストW「さあ、“ヴァルキリー”織斑一夏!」

テ口リストW「いいえ、あなたは“ブリュンヒルデ”織斑千冬に導かれし、世界の業を背負った風雲児“エインヘリヤル”織斑一夏!」

テ口リストW「その哀れな半身をぜひヴァルハラの館へと連れて帰るのです」

テ口リストX「すげえ! 本当にあれが元がゴーレムだったってことを忘れさせるようなとんでもねえアクロバティックな動きをしやがる」

テ口リストY「単一仕様能力はない分、相変わらず一撃でやられる可能性があるものの、」

テ口リストY「今のやつはほとんどエネルギーを使い尽くしているし、勝手を知っている自分とはやり辛いものだな。面白いように後手に回っているぞ」

テ口リストW「さあ、お前たち! 今のうちにゴーレムを応急修理して更に追い詰めるのよ!」

テ口リストX「合点承知でさ、姉御!」

テ口リストY「ふふふ、ついに“世界で唯一ISが扱える男性”を我らの手に……ぐふふ」

テ口リストY「やつの精0や細胞だけで億万長者となる光景が目に浮かぶ! わはははははは!」

一夏「く、逃げないと…………!」

一夏「――――――は!?」

一夏「先回りされたか! さすが自分と褒めておこう」

一夏「自分でも悪魔と思うぐらいの迫力だな……!」

一夏「――――――!?」

VTシステム特別仕様機――――――ETシステムで再現された織斑一夏は、織斑一夏が遭遇したどの敵よりも遥かに厄介だった。

基本的に単一仕様能力が使えない雪片弐型を持つ無人ISなのだが、
AIの織斑一夏の再現率が非常に高く、機体状況に合わせた凄まじい思考処理によって、ISで肉弾戦も普通に行うのだ。

中身がゴーレムなので重量は圧倒的にオリジナルを上回っており、やや反動が大きいのが玉に瑕だが、
その戦闘能力はVTシステムで再現された織斑千冬を大幅に上回るオーバースペックであった。

一瞬で山々の木々を越えて宙に身体が舞う一夏。

そこに“エインヘリヤル”のゴーレムが追撃をかける。

空中で一夏を掴み取ると、そのまま容赦なく岩盤へと叩きつけたのだった。

一夏「――――――!!」

声にならない嗚咽と共に口から血を吹き出す一夏。そして、

一夏「が、はっ…………」

一夏の意識は失われた。それと同時に“エインヘリヤル”も活動を停止した。

198: 2013/07/28(日) 14:44:12.29 ID:r0Kd2tZX0

テ口リストX「や、やったよ、姉御! 化け物には化け物をってやつだ」

テ口リストY「誤って頃しちゃいないだろうね! そうなったら、報酬が半分の半分になるんだぞ!」

テ口リストZ「し、信じられませんが、……け、健在です」

テ口リストX「と、とんでもねえタフさだ。いったいどうやったらこんな硬い筋肉が付くんだよ!」

テ口リストW「お前たち、相変わらず、馬鹿だね。“シリアルアベンジャー”織斑一夏が人を頃すと思う?」

テ口リストX「ああ、そう言われれば……、姉御の言う通りかも」

テ口リストY「だが、これで俺たちは極貧生活とおさらばして、輝かしいバラ色人生を送れるんだな?」

テ口リストZ「ここまで耐え忍んできてよかったです。これで故郷のみんなに食わせることができる…………」

テ口リストW「だが、用心するに越したことはない。『白式』は私が預かろう」

テ口リストW「む! こいつは…………」

テ口リストX「姉御……?」

テ口リストW「外れない。しかも、接着剤かなんかで肌に密着している感じだから、無理に剥がそうとしたらこいつの命がないかも――――――」

テ口リストW「…………悔しいが、外さないことにする」

テ口リストW「だけど、ここまで来たんだからぬかるんじゃないよ、馬鹿ども!」

テ口リストX「はい、姉御!」


――――――その時であった。


199: 2013/07/28(日) 14:50:53.54 ID:r0Kd2tZX0


千冬「――――――貴様ら、汚れた手で弟に触わるな!!」


テ口リストW「――――――“ブリュンヒルデ”織斑千冬!」

テ口リストZ「な、何ですって!? どうしてこんな場所に!」

テ口リストX「目撃者は皆頃しだ! 行け、“エインヘリヤル”! 今や世界最強のお前の力で過去の栄光の蹂躙しろ!」

千冬「愚かだな」

テ口リストX「え?」

すでに“エインヘリヤル”は形を留めていなかった。いつの間にか間合いに入り込んでいた千冬の神速の居合術によって斬り捨てられていたのである。

千冬「あれが動いていたらどうなっていたかわからなかったがな」

テ口リストX「ち、ちくしょう! そいつを連れて早く逃げろ、姉御!」

テ口リストW「言われなくてもそうしてるよ!」

テ口リストY「だが、壊れかけとは言え、いかに“ブリュンヒルデ”と言えども、5体のゴーレムが同時にかかれば――――――!」

千冬相手に無人ISが一気に5機も迫った。所々で一夏が破壊した箇所が直っていないのが目立ったが、腕部のレーザー砲などは健在であった。

しかし、それは尽く退治されてしまうのであった。


セシリア「お披露目の機会がようやくいただけて満足ですわ」

セシリアのIS『ブルー・ティアーズ』は強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』で換装した、
身の丈を超えるほどの砲身のレーザーライフル『スターダスト・シューター』でたちまちゴーレムの群れにレーザーの雨を浴びせる。

テ口リストY「密集していたらまずい。迎撃に向かわせろ!」

そういってゴーレム2体を空に差し向け、依然として千冬に対して威圧を掛け続ける。

鈴「飛んで火に入る夏の虫ってこのことよね!」

飛んできた瞬間に機能増幅パッケージ『崩山』を換装した鈴の『甲龍』の4門に増幅・強化された『龍咆』による拡散衝撃砲で、
以前効果を与えられなかったゴーレム相手に有効打を与えた。

だが、ゴーレムも負けじにガトリング砲をばら撒く。とてつもないビームの嵐が強化された『甲龍』を襲うが、

シャル「鈴! 前に出すぎだよ」

そこをすかさず防御パッケージ『ガーデン・カーテン』を換装したシャルの『リヴァイヴ・カスタムⅡ』が防ぐ。
以前からシャルは咄嗟の防御にも対応でき、この防御パッケージによる換装で実体とビームそれぞれの巨大な盾を獲得し、
得意の『高速切替』で防御の合間を縫ったより堅実な戦いを展開するのだった。

ラウラ「よし、動きが止まった! これで仕留める!」

ラウラ「私の兄嫁に手を出した報いを受けろ!!」

そして、ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』が空中の2体のゴーレムを砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』で両肩に追加されたレールカノンで完全に沈黙させた。

テ口リストZ「そ、そんな……ゴーレムがこうも簡単に撃破されるなんて……」

200: 2013/07/28(日) 14:55:09.76 ID:r0Kd2tZX0

箒「今です! 千冬さん」

呆気に取られたテ口リストの隙を突いて、箒の『紅椿』がゴーレム3体を第4世代型の圧倒的パワーで突き崩し、

そして――――――、

箒「一夏は返してもらったぞ!」

テ口リストW「く、しまった!」

テ口リストX「姉御!」

千冬「さあ、これでお終いだ」

残ったゴーレム3体も制空権を支配されて、上空から一方的に打ちのめされて沈黙するのであった。

テ口リストY「どうやら、ここまで……」

テ口リストZ「そんな、あれだけの戦力を投じておきながら…………」

千冬「私は警察ではない。これ以上の抵抗をするのなら少々手荒な真似をしたっていいんだぞ?」ゴゴゴゴゴ

テ口リストX「あ、姉御…………!」

テ口リストW「………………」

テ口リストW「………………」

テ口リストW「…………勝った」ニヤリ

箒「この期に及んで、何を!?」

セシリア「見苦しいですわよ、犯罪者のあなた!」

テ口リストW「…………そうよ。この手はすでに血で汚れている」

テ口リストW「そうしないと守ることができなかった……それでも守ることができなかった……」

テ口リストW「だけど、まだ終わっていない!」

テ口リストW「私はいつか、こんな世界にした奴らに復讐してやるんだから!」

鈴「え、これって…………」

千冬「いかん! 全員退避しろ!」

シャル「そ、そんな……これってあの時の…………」

ラウラ「VTシステム機が3体だと…………!」

鈴「し、しかもあれって……」

セシリア「い、一夏さん……!?」

テ口リストW「さあ、“エインヘリヤル”たち! “フレイヤ”の命により今こそ全ての鎖を解き放つわ! 目の前の全てを神の名の下に討ち滅ぼすのよ!」 

テ口リストW「あははははは!」

箒「そ、そんな、勝てるわけがない……」


――――――敵、VTシステム機、“エインヘリヤル”織斑一夏、3体


201: 2013/07/28(日) 15:00:10.50 ID:r0Kd2tZX0








――――――俺は氏んだのか?


少女「また会えたね」

一夏「そうだね。懐かしい……」

気づくとどことも知れない澄み渡った空と海が融け合った場所だった。そして、見上げるばかりの星空が世界を照らしている。

だが、織斑一夏はここを知っていた。いや、正しくは一度来たことがあった。

騎士「“強さ”を欲しますか」

一夏「…………俺は」

――――――何も考えたくない。

言葉にしてはいないが、それが本当の気持ちだった。

――――――生きるも地獄、氏ぬも地獄。

逃げ続けるのにも、誰かに運命を弄ばれ続けるのも、痛みを感じ続けるのも嫌になった。
本当は結論を出した時点で――――唯一の肉親を泣かせてまで出奔を決意した時点で、この世の全てに飽きてしまっていたのだ。

――――――氏に場所を探していたのだ。


――――――それが一番手っ取り早く全てを解決する唯一の方法だったから。


だが、少女は星空を眺めて言うのだった。

少女「呼んでる」

一夏「………………っ!」

一夏「聴きたくない!」

少女「呼んでる。ほら、あそこ」

箒『みんな、大丈夫か!?』

セシリア『何とか凌ぎましたけれど、もうシールドエネルギーが……』

鈴『あいつが3人も居るなんてとんだ天国じゃない……』

シャル『残念だけど、もうシールドエネルギーが限界……』

ラウラ『隙のない連携だ。『AIC』もままならないとは……。敵に回られていかに織斑一夏という存在が強大であったか、身を以って噛み締めている』

千冬『ここは私が引き受ける。お前たちは行け!』

箒『千冬さん!?』

千冬『すまない、一夏を頼む!』

一同『織斑先生ーーーーーー!!』

少女「行かなきゃ」

一夏「いやだ!」

一夏「俺はもう誰も傷つけたくない! 傷つきたくない! どうしてあんな世界に帰らないといけないんだ!」

一夏「怖い、怖い……! いやだ、いやだ……!」

203: 2013/07/29(月) 04:20:40.95 ID:PhQsz/zr0

じィちゃん「お前はワシにとっての生きた証! 簡単に氏ぬつもりならワシの時間を返せ、愚か者!」

一夏「え、嘘?! “じィちゃん”……?!」

じィちゃん「お前にはワシの全てを叩き込んだ! お前がワシの教えを守ってさえいれば、忘れなければ、ワシの意思は潰えんのだ」

一夏「…………」

じィちゃん「よいか、人の一生の価値は他人からその存在や想いを覚えていてもらえるかで決まる。もしお前が氏ねば本当の意味でワシも氏ぬのじゃ!」

一夏「でも、俺は……俺が――――――!」

じィちゃん「まったく大馬鹿者が! だから、お前はアホなのだ」

一夏「うう…………」

じィちゃん「許す」

一夏「え?」

じィちゃん「許すといった」

一夏「何で? 何で簡単に許すの!?」

じィちゃん「甘ったれるな、小僧!」

一夏「――――――!!?」

じィちゃん「貴様、いつまでワシの意思を無視する気だ。ワシへの介錯を利用して逃げ続けるな!」

じィちゃん「ワシはあの時、すでに氏んでいたのだ」

じィちゃん「氏してなお、傀儡として使役される哀しみをお前はあの時、汲んだ。そして、ワシを救ってくれたのだ」

一夏「――――――それでも!」

じィちゃん「喝!」

一夏「………………っ」

じィちゃん「貴様、自分が“選ばれた人間”だとでも思っているか!?」

一夏「なら、俺はどうしたら…………」

じィちゃん「……どうもお前は融通無碍にとはいきそうにないな」

じィちゃん「よいか、人間は自分の考えて自ら律し決断する生き物だ」

じィちゃん「その決断する意思を失った者は『人間』ではなくなるのだ。それは傀儡でしかない」

じィちゃん「そして、欲望に身を委ねる者も『人間』ではなく、餓鬼畜生だ」

じィちゃん「『人間』とはそういった低俗で狭量な者たちを正せる存在なのだ」

じィちゃん「人を活かす剣とは何を斬るものだ」

一夏「心を斬るため…………」

じィちゃん「そうだ。剣とは“強さ”――――すなわち手段」

じィちゃん「『人間』だけが持つ、誤った決断を下す者の心を正す手段」

じィちゃん「心に芽生えた悪鬼羅刹の相を斬り落とし、朝不謀夕の惑う者たちを曇りなくする方策」

じィちゃん「そして、命を奪える剣の重みとは暴力になることを防ぐ戒め」

じィちゃん「お前はワシに到底及ばないとばかり言っているが、」

じィちゃん「ならワシから受け継いだ剣を活かすことはできなかったのか。ワシの人生は無駄だったのか」

一夏「そんなことはない! それでも……!」

じィちゃん「…………世話が焼けるな。馬鹿な子ほど可愛いとはこのことだ」

204: 2013/07/29(月) 04:25:13.54 ID:PhQsz/zr0

じィちゃん「この子たちを見るがいい」

少女「………………」

騎士「………………」

じィちゃん「この子たちから悪意やエゴといったものを感じるか?」

一夏「そんなことは…………」

じィちゃん「ワシがお前に『白式』を渡した時のことを覚えているな」

一夏「それはもう絶対に忘れることができない出来事です」

一夏「自分をこんな風にした元凶であると同時に、お姉ちゃんの後をこれで追いかけることができるっていう、嬉しさと苦しさがありました」

一夏「でも、小さな時にはできなかった、お姉ちゃんと同じように空を自由に飛べるという感動がそれらを上回っていました」

少女「………………」

騎士「………………」

じィちゃん「――――――同じ事だ」

一夏「え?」

じィちゃん「お前も知っているだろう? ISという画期的な軍事技術が世界に変革をもたらしたからといって、」

じィちゃん「大多数の人間の生活が劇的に変わることはなかった」

じィちゃん「それなのに、世界は変わった」

じィちゃん「何故だと思う?」

一夏「それは、『白騎士事件』によってISの存在への認知が広まったから……」

じィちゃん「それはきっかけに過ぎない」

じィちゃん「歴史を振り返れば、どんなに馬鹿げた理由と明白にわかっていることでも人は様々な愚行を積み重ねてきた」

じィちゃん「だがしかし、時には世間一般が言う非常識な愚行によって新境地に至ったという例がある」

じィちゃん「時代とは常にこれまでに無かったものによって変化してきた」

じィちゃん「コロンブスの卵とかマイクロプロセッサなんかがそうだな」

じィちゃん「人は愚行とわかっていても、あるいは罵られてもやる時はやるものだ」

じィちゃん「そして、人の意思というのは定義されるほど定まってもいない、非常に流動的なもの」

じィちゃん「己の主義主張を概念や言葉通りに果たせる者など一人として存在しない」

じィちゃん「ISがお前にとって忌むべきものであると同時に、親近感と感動を抱いていることに何の矛盾はない」

じィちゃん「熱さと冷たさ――――2つの相反するものを同時に物理的にも精神的にも感じられるようにな」

じィちゃん「人というのは新しきと旧きを感じて、時代と共に移り変わっていくものなのだから」

一夏「………………あ」

205: 2013/07/29(月) 04:31:26.16 ID:PhQsz/zr0

じィちゃん「ならそれでいいではないか」

じィちゃん「お前は多くの人の心を斬り、実際に救ってきたではないか」

じィちゃん「しっかり見ていたぞ。ワシがここに今こうして居られるのはお前がワシの意思を活かしていたからだ」

じィちゃん「――――――“0じゃない”」

じィちゃん「“一人よりも二人”ならば、“0よりも有る”だろう?」

じィちゃん「誇るがいい! その“強さ”で誰かを救えたという揺るぎなさを」

一夏「俺はこれまで事実しか見ていなかったという事なのか…………」

一夏「そこにあったはずの真実を――――――」

じィちゃん「これでお前は、全てを正しく裁量している“選ばれた人間”ではないことが証明されたな」

じィちゃん「だが、『人間』としての正々堂々した振る舞いができている。そうでなければ、ワシはここには居なかっただろう」

一夏「…………“じィちゃん”」グッ

騎士「“強さ”を欲しますか」

少女「行こう」

じィちゃん「……いつまでも過去の感傷に浸らせているわけにはいかんな」

じィちゃん「お前には待っている人が居る。その手を握り締める者がいる」

一夏「待っている人――――――お姉ちゃん、みんな、……箒ちゃん」

箒『…………一夏!』

一夏「そうだね。行かないと……」

じィちゃん「では最後に、お前自身を救う奥義を今こそ伝授しよう」

じィちゃん「お前が真にワシの意思を受け継ぎ、人を活かす剣を振るう『人間』となったかが試される」

じィちゃん「さあ、聴くのではなく、感じるのだ、奥義を!」

じィちゃん「今までを振り返れ。答えはすぐ側にある」

じィちゃん「――――――――――――」

一夏「――――――――――――」

一夏「――――――! そうか!」

一夏「はは、はははははは! そうか、そういうことだったんだね、“じィちゃん”!」

一夏「……俺ようやく、自分がなんでここにいるのかがわかったような気がします」

少女「行かなきゃ」

少女「ほら、ね?」パシッ

一夏「ああ、もう大丈夫。今度はもう放さない」

一夏「また会えてよかった――――――いや、違った」


――――――思い出せてよかった。



206: 2013/07/29(月) 04:37:50.53 ID:PhQsz/zr0

じィちゃん「では、行け! そして、『人間』だけが体現できる『可能性』を――――!」

じィちゃん「その時 人は、人自身に宿す内なる神を見る――――――」

じィちゃん「ワシはここからお前のことを見ているぞ」ニンマリ

騎士「“強さ”を欲しますか」

一夏「ああ。けど今度は、世界を制する“強さ”はもう要らない」

一夏「俺はもう――――――」

少女「」ニッコリ

騎士「」ニコッ


一夏「“じィちゃん”、お姉ちゃん、みんな、……ごめん」

一夏「俺、行くよ」



一夏「――――――セカンドシフト!」


一夏「『白式』! もう一度、俺に力を貸せ!」

一夏「今度はもう迷わない! 俺は世界に見せる――――――!」

207: 2013/07/29(月) 04:43:10.88 ID:PhQsz/zr0

エピローグ 帰るべき場所はここに
Have a STOUT HEART for the NEXT STAGE

――――――夏祭りの夜


箒「みんな、来てくれてありがとう」

セシリア「当然ですわ。親友の晴れ舞台を見に行かなくて、どうして親友ですの」

鈴「まあ、ISの修理ですることもなくて暇だったっていうのもあるけどね。神楽舞、楽しみにしているわよ」

シャル「そういうのは言わない約束だよ、鈴」

ラウラ「しかし、兄嫁はついに現れなかったな」

一同「………………」

ラウラ「すまない」

箒「気にしないでくれ。待つことをみんなに言い出したのは私だ」

箒「それに、一夏はきっとこの同じ星空の下で同じものを眺めているはずだから」

シャル「うん! そうだよ! 一夏は必ず僕たちの許に帰ってくるから」

鈴「そうね。それにちゃんとIS学園に復帰することも千冬さんから聞いたし、心配することなんて何もないわね」

ラウラ「だから、私は兄嫁の部屋を掃除して、いつでも迎えられる準備をしているのだ」エッヘン

セシリア「そうですわね。御中元も届いてますし、離れていく気配がなくて何よりですわ」

箒「それじゃ、私はそろそろ」

鈴「頑張ってね、箒!」

シャル「それじゃ僕たちも場所取りに行こうか」

セシリア「この場に居ない一夏さんのためにしっかりとカメラに収めますわ」

ラウラ「私は兄嫁が近くにいないか見ておこう」

208: 2013/07/29(月) 04:51:21.56 ID:PhQsz/zr0

――――――とあるバー


山田「みんな成長していくんですよね」

山田「いろいろやって、いろいろあって……」

千冬「そうだな、真耶。私も今年になって学んだことがたくさんあった」

千冬「(特に、弟のことや世界のことに関してな)」

山田「そうですね。特に、柔らかな笑顔を見せるようになりましたよね」

千冬「そうだったか?」

山田「はい。これも織斑くんとの素敵な再会があってこそですよ」

千冬「そうかもしれないな」

山田「織斑先生。これからもIS学園、頑張って行きましょう。私、力になりますから」

千冬「ああ(“師匠”、あなたの教えはこうして弟を救ってくださいました)」

千冬「(そして、あなたの教えを受け継いだ弟の影響を受けて、教え子の娘たちも大きな成長を見せました)」

千冬「(改めて、本当にありがとうございました。あなたの事績を私たちは生涯忘れることはないでしょう)」

千冬「(どうか、弟たちの行く末を末永く見守っていてください)」

千冬「しかし、先程のは年寄り臭かったぞ――――――」

山田「ああ、ひどいですよ。織斑先生の方が年上なのに――――――」


209: 2013/07/29(月) 04:54:12.99 ID:PhQsz/zr0

210: 2013/07/29(月) 04:59:07.69 ID:PhQsz/zr0

――――――展望台までの道


箒「もう少しでつくぞ。あそこが花火鑑賞の絶景ポイントなんだ」

セシリア「それは本当に楽しみですわ」

鈴「でも、箒の神楽舞、本当に綺麗だった。何て言うか、感動した」

シャル「そうだね。東洋の神秘ってやつを感じたよ」

ラウラ「兄嫁は見つからなかったが、非常に興味深かったぞ。クラリッサに報告しておこう」

箒「改めて、こんなふうに一緒に祭りや花火を楽しめることがすごく嬉しい」

セシリア「本当ですわね。あの日の誓いが昨日の出来事のように思い出されますわ」

鈴「一夏の“居場所を守り通す”こと――――それがひいては私たちのためにもなる」

シャル「こんなことを言うと不謹慎かも知れないけれど、」


――――――ISがこの世にあってよかった。


ラウラ「同感だ。ISが無ければ教官や兄嫁にも会うことなく、人として生まれた喜びを味わうこともなかっただろう」

箒「(――――――苦しいこともあった。――――――哀しいこともあった)

箒「(だけど、私たちは今こうして一緒に笑っていられる)」

箒「――――――よし!」

シャル「どうしたの、箒?」


箒「私は一夏に出会えて本当に良かったぞおおおお!」


セシリア「わ、私も……!」

鈴「いいね。私もやるやる!」


セシリア「一夏さん! 私は一生あなたをお慕いしておりますわ! 神よ、一夏さんに幸をもたらしたまえ!」


鈴「一夏あああああ! 今度は来世でもパートナーでいようねえええ!」


ヒュウウウウウウ、パーン

シャル「あ、花火始まっちゃったね」

ラウラ「少し遅れたか。だが、日本の花火とは素晴らしいものだ」

箒「さあ、行こう。展望台まであともう少しだ」

211: 2013/07/29(月) 05:00:49.61 ID:PhQsz/zr0

ヒュウウウウウウウ、パーン

セシリア「おや、展望台にすでに先客が――――――」

鈴「ねえ、あれって……」

一同「――――――」カオヲミアワセル

箒「ああ、間違いない!」

一夏「」ヨゾラヲミアゲルイチカ

一同「――――――」スゥ

箒「一夏ああああ!」

セシリア「一夏さあああああん」

鈴「一夏あああああ!」

シャル「一夏!」

ラウラ「お兄さま!」

一夏「――――――!」

一夏「………………」オドオド

一夏「」ニッコリ

ヒュウウウウウン、パーン


――――――また、あの空で逢えるから。


TO BE CONTINUED 


214: 2013/07/29(月) 05:43:04.63 ID:1lsWnA62o
乙です

引用: 一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」