1:◆G4SP/HSOik 2013/09/28(土) 09:41:51.95 ID:5H8gBlq40
初回:
一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」【前編】
一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」【後編】
前回:
ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」【前編】
ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」【後編】
IS〈インフィニット・ストラトス〉第1期のREWRITEの最終作となります。
今回の織斑一夏は、――――――いろんな意味でかなり邪道。
全体の流れと結果は変わらないが、かなり脚色された展開となっているのでご容赦を。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380328911
3: 2013/09/28(土) 09:54:26.79 ID:mq5otnXP0
女性にしか扱えないIS〈インフィニット・ストラトス〉と呼ばれる世界最強の兵器の登場によって、女尊男卑が当たり前となってしまった時代に突入して……
ISの世界大会『モンド・グロッソ』の第2回決勝戦を目前にして、俺は何者かに誘拐された。
その結果、第1回『モンド・グロッソ』総合優勝者“ブリュンヒルデ”織斑千冬は、大切な試合を放棄して俺のことを救い出してくれた。
だがそれと引き換えに、世間では連覇は確実視されていた“ブリュンヒルデ”の試合放棄に世界が沸き立つ。
その結果、織斑千冬という一人のISドライバーの栄光の道はやがて閉ざされることとなった。
そして、俺の人生も雷鳴轟く嵐の夜に大きな転機を迎えることとなり…………
ゴロゴロ、......ピカーン!
一夏『ち、千冬姉……』オドオド
千冬『………………』
一夏『俺は家に帰されるんじゃなかったの……?』キョロキョロ
一夏『ど、どうして――――――』
一夏『財閥の豪邸でこんな饗しを受けているの……?』ブルブル
千冬『いいか、一夏。お前は今日からここで暮らすんだ』
一夏『――――――この財閥の跡取り息子として、な』
一夏『どういうこと、千冬姉!? 俺たちに親なんて――――――』
爺様『それについては儂からぁ説明しよう、――――――孫ぉ』
一夏『――――――は、“孫”?』
爺様『別におかしくはなかろう。人として生を受けるには必ず親がいて、またその親もいる…………』
一夏『今更会いたいとも思わない』バンッ
一夏『俺の記憶は小学1年の時の千冬姉との入学式の時から始まっているんだ!』
一夏『俺にとって千冬姉以外に親なんて存在しない!』
千冬『………………』
一夏『帰してくれ! 俺たちとあなたは無関係だ!』
爺様『だが、己の非力さをぉ悔やんではいないかぁ?』
一夏『――――――う! そ、それは…………』
千冬『お前が気にすることはない』
爺様『そして、お前はもう日常に帰ることはできない』
爺様『何故なら、お前は他ならぬ“ブリュンヒルデの弟”だからだ』
一夏『あ、ああ………………』
爺様『お前が日常に帰った所で、再びお前が織斑千冬の弱みとなるのは明白だぁ』
一夏『――――――千冬姉!? お、俺は……』
千冬『待て、勘違いをするな。これは互いにとってWin-Winな交渉だ』
千冬『私とお前が引き離されるというわけではない』
一夏『じゃ、じゃあ、二人揃っての養子縁組ってことなの?』
千冬『ああ、そうだ。私たちはこの人の養子となる』
4: 2013/09/28(土) 09:55:52.43 ID:mq5otnXP0
爺様『――――――ただし、姓を改める必要はない』
一夏『ど、どういうこと……? 養子になったら普通 義父の――――――』
爺様『すでに織斑千冬は“ブリュンヒルデ”としての名声を得ており、“世界のオリムラ”として認知されている』
爺様『そのネームバリューをわざわざ失わせる意味はぁ無い』
一夏『――――――くぅ、それを俺が…………』
千冬『何度も言わせるな。家族を守ること以上に尊いものはない』
一夏『つまりこれで、千冬姉は俺のためにドイツ軍で働くことになって、俺は財閥の会長の養子となって…………」
一夏『――――――どうすればいい?』
爺様『もちろん、儂の後継者として教育を受け、儂を支えてくれ』
爺様『そして、お前も家族を守れるだけの力を蓄えろ』
一夏『――――――!?』
千冬『………………』
一夏『ねえ、千冬姉はいつ知り合ったの?』
千冬『最初からだ。あの二人の生活を追跡していて、私たちが捨てられた時にいろいろ手を差し伸べてくれた……』
一夏『そうか。そうだったんだ…………』
爺様『納得してもらえたかな?』
一夏『わかった、わかりました』
一夏『……最後に訊いていいですか?』
爺様『良かろう』
一夏『俺は両親のことなんて知らない……知りたくもない……』
一夏『財閥の跡取り息子だったか、箱入り娘だったかは知らないけど、』
一夏『駆け落ちした末に生まれた俺たちのことを捨てたような男と女だ!』
一夏『そんな二人の落とし胤の俺でいいのか……?』
一夏『本当は知っているんでしょう! 二人の行方ぐらい!』
爺様『――――――今はお前が居る』バサッ
――――――お前しかいない。
一夏『あ…………』
5: 2013/09/28(土) 09:57:06.26 ID:5H8gBlq40
一夏『……千冬姉』
千冬『……何だ』
一夏『俺、千冬姉のために頑張るよ』
千冬『そうか』
一夏『俺には千冬姉しか居なかったから、千冬姉を守れる力を!』
千冬『それだけじゃダメだ』
一夏『わかっているよ。それが千冬姉の“強さ”だから』
――――――俺は千冬姉を、そして関わる人全てを守る!
千冬『それでいい』ナデナデ
一夏『うん』
爺様『……ふふ』
こうして俺はISとも関わりのある財閥の総帥後継者として、過去を切り捨てた新しい人生を始めることとなった。
それはこれまでの全てと決別した、夢のように現実感のない出来事のようにも捉えられた。
あの日を境に、住み慣れた故郷や、これまでの朋友関係、その他もろもろを全て捨て去ったのだ。
まるで自分が自分とは違う人間にでもなったかのような、奇妙な感覚に囚われ続けたが、
やがてはそれを日常として受け容れていき、考え方も物の見方も変わり果てた。
そして、俺は順調に爺様の庇護の下に社交界を渡り歩けるようになった。
だが、――――――運命の悪戯か、俺は千冬姉と同じ道へと進むことになった……
6: 2013/09/28(土) 09:58:50.00 ID:5H8gBlq40
第1話 クラス対抗戦・裏
The Obsolete Gentleman
――――――IS学園、始業日
女子「」ジー
女子「」ジー
女子「」ジー
一夏「(見渡す限り女の子しかいないヒミツの花園……)」
一夏「(まさか本当にIS学園に入れられるとはな…………)」
一夏「(堂々としていればいい…………社交界の下衆どもの欲望に塗れた視線よりは断然心地よい)」
一夏「(入学生のデータを見る限り、社交界と縁がある人物は居ないことだし、)」
一夏「(俺は『白式』の運用データを取っていればいい――――それだけのことだ)」
一夏「(気楽にいかせてもらおう。授業内容も中の上程度だし、ついでに年頃の女性の扱いには慣れておかないとな……)」
一夏「(そこから、ISドライバーでしか得られない貴重な人脈を大切に育てていこう!)」
山田「みなさん、入学おめでとう!」
山田「私は1年1組副担任の山田真耶です」
一夏「よろしくお願いします、山田先生」ニッコリ
山田「はい、こちらこそよろしくお願いします」
山田「今日からみなさんはこのIS学園の生徒です」
山田「この学園は全寮制――――学校でも放課後でも一緒です」
山田「仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」
一夏「そうですね。楽しくしていきましょう」ニコニコ
山田「(ありがとうございます、織斑くん!)」カルクオジギ
一夏「(さ、続けてください)」ニコニコ
山田「それでは、自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で――――」
山田「それでは、織斑一夏くん。お願いします」
一夏「はい、織斑一夏です。世間で騒がれている“世界で唯一ISを扱える男性”とは私のことです」
一夏「でも、“それだけが特別”なだけで、“織斑千冬の弟”だとか他にもありますが、」
一夏「そんなつまらないものに怖がらずに分け隔てないお付き合いしていただけると幸いです」
一同「おおお!」
一夏「……これで、いいかな?(そう、これでいい。“財閥総帥後継者”であることは知る人ぞ知るものでいい)」ニッコリ
山田「はい、ありがとうございました」
周囲「キャーーーカッコイイーーー」ガヤガヤ
一夏「はは、ありがとう。でも、まだまだ自己紹介は続くからここまでにしてね?」サワヤカ
周囲「ハーイ」
山田「では、次の方――――――」
箒「………………一夏」ジー
千冬「フッ」
The Obsolete Gentleman
――――――IS学園、始業日
女子「」ジー
女子「」ジー
女子「」ジー
一夏「(見渡す限り女の子しかいないヒミツの花園……)」
一夏「(まさか本当にIS学園に入れられるとはな…………)」
一夏「(堂々としていればいい…………社交界の下衆どもの欲望に塗れた視線よりは断然心地よい)」
一夏「(入学生のデータを見る限り、社交界と縁がある人物は居ないことだし、)」
一夏「(俺は『白式』の運用データを取っていればいい――――それだけのことだ)」
一夏「(気楽にいかせてもらおう。授業内容も中の上程度だし、ついでに年頃の女性の扱いには慣れておかないとな……)」
一夏「(そこから、ISドライバーでしか得られない貴重な人脈を大切に育てていこう!)」
山田「みなさん、入学おめでとう!」
山田「私は1年1組副担任の山田真耶です」
一夏「よろしくお願いします、山田先生」ニッコリ
山田「はい、こちらこそよろしくお願いします」
山田「今日からみなさんはこのIS学園の生徒です」
山田「この学園は全寮制――――学校でも放課後でも一緒です」
山田「仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」
一夏「そうですね。楽しくしていきましょう」ニコニコ
山田「(ありがとうございます、織斑くん!)」カルクオジギ
一夏「(さ、続けてください)」ニコニコ
山田「それでは、自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で――――」
山田「それでは、織斑一夏くん。お願いします」
一夏「はい、織斑一夏です。世間で騒がれている“世界で唯一ISを扱える男性”とは私のことです」
一夏「でも、“それだけが特別”なだけで、“織斑千冬の弟”だとか他にもありますが、」
一夏「そんなつまらないものに怖がらずに分け隔てないお付き合いしていただけると幸いです」
一同「おおお!」
一夏「……これで、いいかな?(そう、これでいい。“財閥総帥後継者”であることは知る人ぞ知るものでいい)」ニッコリ
山田「はい、ありがとうございました」
周囲「キャーーーカッコイイーーー」ガヤガヤ
一夏「はは、ありがとう。でも、まだまだ自己紹介は続くからここまでにしてね?」サワヤカ
周囲「ハーイ」
山田「では、次の方――――――」
箒「………………一夏」ジー
千冬「フッ」
7: 2013/09/28(土) 10:00:23.38 ID:5H8gBlq40
――――――さて、俺がこのIS学園に入学させられた理由なのだが、ほとんど偶然の産物でしかなかった。
女性にしか扱えないISではあるが、整備科などの後方支援として男性に対しても門戸が開かれているIS学園。
しかし、普通なら財閥の跡取りがたかだか表向きは競技種目にしか使われていないスポーツに精力を傾けるはずがない。
何故入学させられたかと言えば、俺が女性にしか扱えないISを動かせたという“特異ケース”だったからであった。
だが、これだけでは入学するほどの理由にはならない。使えるのならば、護身用に少し動かせるだけで十分だからだ。
俺が爺様にこの学園で掴みとってくるように命じられたのは、
――――――最初に、“世界で唯一ISを扱える男性”であることによる唯一無二の人脈の構成
これは言うまでもないだろう。間違いなくこれは俺だけの財産となる。
ただし、財閥の御曹司であることは公言せずに、“織斑千冬の弟”であることを前面に押す。
元々知っているならそれでいいが、金や地位が絡んでくるとたちまち人というものは信頼できなくなる。
信頼できないやつかどうかは、金になる木を見た時の反応で判断できる。
だから、俺は一人ひとりにある判断機会を逃したくないので公言しない。学園の教員たちにも緘口令が敷かれている。
爺様はIS学園の高級スポンサーなので、俺に対して粗相を働くものならIS学園の存続の危機に直面するので、学園側が口外することはまずないだろう。
――――――次に、IS産業が抱えている矛盾や欺瞞を知ること
ISはアラスカ条約によって軍事利用は禁止されており、もっぱら競技用に利用されている。
しかしその実、ISの大多数を運用しているのは世界各国の軍であり、
大きな戦争こそ起きていないからこそいいが、ISの実戦配備は着々と進められている。
ISという従来の兵器を駆逐した最強兵器に直に携わって、将来起こりうる戦争の在り方などを学べということである。
――――――最後に、次期総帥として学園生活を最高に盛り上げること
言うなれば、ノルマである。俺の次期総帥としての手腕が問われている。
手段は問われていない。場合によっては、爺様の力――――財閥からの支援を受けてもいい。
とにかく次期総帥としての才覚の片鱗を見せつけないといけない。実績を出すのだ。
IS学園の欠点を補強してもいいし、“世界で唯一ISを扱える男性”としての伝説を残してもよし。
在籍している間に学園内外のより多くの人心を掴むのだ!
8: 2013/09/28(土) 10:02:08.53 ID:5H8gBlq40
そして俺とIS学園の接点は、去年のオープンハイスクールの時のこと――――――。
第一線を退いてIS学園の教員として勤めている千冬姉を労うために訪れた時のことである。
今の状況と同じように俺以外に女性しかいない見学客の中に紛れていろんな視線を浴びながら、
千冬姉たちの仕事振りを実際に見聞きして一日をIS学園の見学に費やし、もう二度と来ることもないだろう学園に来た記念としてISに触れた時だった。
一夏『…………あ、あれ』
千冬『こ、これは――――――!?』
山田『お、織斑先生!?』
千冬『――――――緘口令を敷く! 幸いオープンハイスクールも終了間近で、私たちしか人がいない』
千冬『一夏、すまないが本当にISを動かせたとしたら――――――』
一夏『あ、ああ……わかったよ、千冬姉』
一夏『まさか、このままIS学園に入学なんてさせられないよね…………』
こうして俺は、IS適性:Aランクの優秀な素質が判明し、爺様と学園側との間の半年に渡る討議の末にIS学園の入学が決定したのである。
本来ならば名門校に入れられており、こうして貴賎が交わる場所に降り立つこともなかったことだろう。
ちなみに、俺が“世界で唯一ISを扱える男性”と公表されたのは、つい最近である。
それと同時に、爺様の財閥の株価や日本円の為替相場が急上昇し、世界中で連日のように俺のことがニュースで取り上げられるようになった。
記者会見もしたのにインタビューで同じ内容を何十回言わされたことか…………
とにかく俺は経済的な側面から見ても、俺自身の存在の大きさを自覚することとなる。
しかし、俺が爺様の養子となった時と同じく、この編入に対して完全に納得できたわけではなかった。
こうやって俺の意思を無視して環境を変えられるのはこれで2度目である。
いくら貴重な体験とは言え、同性の仲間が居ないのも少しばかりきつい。
また、俺はセレブの世界に来てわずか数年とはいえ、その感覚に慣らされて久しいので、庶民感覚の欠如が心配された。
とにかく、昔の感覚を掴みつつ爺様の子と恥ずかしくない振る舞いをしないといけないという、
相反するような要求に対する不安と葛藤があったので自分の立居振舞には気を遣いっぱなしだった…………
9: 2013/09/28(土) 10:03:31.42 ID:mq5otnXP0
一夏「久しぶり、篠ノ之箒。6年振りだね。すぐにわかったよ」
一夏「中体連剣道女子の部、優勝おめでとう」ニコニコ
箒「…………ああ、ありがとう」オドオド
一夏「物怖じせずに、さあ! ここを逃したら、きっと満足に喋る機会を失うぞ」
一夏「わかっているだろうけれど、昔とは変わったからな……」
一夏「箒と同じように俺もIS絡みでな……」
一夏「――――――重要人物保護プログラム」
箒「……知っていたのか」
一夏「情報っていうのは偉いやつの許に流れてくるものさ」
一夏「最初の文明が築かれた場所に大河が流れているように……」
箒「そ、そうなのか……?」
一夏「――――――辛かったろう?」
箒「え……」
一夏「俺、良家の養子にならなかったら、箒がどんな思いで毎日を生きているのか考えることもなかった」
一夏「何故突然引っ越してしまったのかその理由も知らずに…………」
一夏「ここでは“篠ノ之 箒”でいられるのだろう? “篠ノ之 箒ではない別な誰か”を演じる必要もない――――――」
一夏「ここで出会えたのは奇跡だ! 不謹慎かもしれないけど、分かり合える仲、だからさ――――――」
一夏「だから、昔のような付き合いをお願いしたい」
一夏「俺は剣道は辞めたけど、居合術は辞めずに磨いてきたんだ」
一夏「中体連ナンバーワンの箒が稽古の相手をしてくれると助かる」
箒「…………い、一夏」
一夏「ほら、約束してくれ」
一夏「押しが弱いと損をするよ。社交界ってそういうところだから」
箒「あ、ああ! これからよろしく頼む、一夏!」ガシッ
一夏「これで昔のように――――――とはいかないところもあるけれど、頑張っていこう」
一夏「できる限りを尽くすよ」ニコッ
箒「……ありがとう、一夏。本当に変わった…………昔以上に頼もしくなった」
箒「また会えてよかった……本当に……(だが、少し…………)」ニコー
10: 2013/09/28(土) 10:06:04.57 ID:5H8gBlq40
一夏「今日は、挨拶回りしながら生活をする上での改善点を確認していこう」ブツブツ
一夏「あとはアリーナやグラウンドを見て回らないとな(オープンハイスクール以来だからあんまり覚えていないし)」ブツブツ
セシリア「ちょっとよろしくて」
一夏「はい。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさん」ビシッ
セシリア「まあ、今ので日本の紳士というのを少し見直しましたわ」
一夏「それは光栄です」
セシリア「あら、本当に礼儀作法をわかっておりますのね」
一夏「代表候補生であるあなたには敬意を払うのが当然かと。あなたのような人をエリートっていうのかな?」
セシリア「そう、私はエリートなのですわ! 本来ならば、私のようなエリートと同じクラスになっただけでも奇跡! そう、幸運なのよ!」
セシリア「あなたはその現実をよく理解していらっしゃいますわね」
一夏「(あ、こいつ、悪い見本だな。ちょうどよく居てよかった。この人を反面教師にして、対照的な立ち位置になれば上手くいくな)」
一夏「(というか、ただの代表候補生なんかよりも俺のほうがよっぽど奇跡だという事実に気づかない辺りがね――――――)」
一夏「さすが、入試首席で唯一試験官を倒したエリート中のエリートですね」
セシリア「そうですわ! 私はエリート中のエリートですわ!」
一夏「(ま、黙っておくか。それより、専用機持ちと乗りたての初心者とを比べてそんなに嬉しいか?)」
一夏「(しかしまあ、女尊男卑ってのはあんまり社交界だと感じなかったけど、)」
一夏「(何というか世間一般には浸透しているって言うのが如実に感じられる一幕だったな)」
一夏「(だがそれ以上に、――――――この人、おだてられたら何でもしちゃいそうだな)」
一夏「(……探りを入れてみるか。代表候補生との繋がりを得れば俺の影響力は増すし、この人は磨けば人を惹きつけるだけの華やかはあるだろうからね)」
一夏「自信に満ち溢れていて眩ゆい限りですね」
セシリア「そういうあなたも紳士としての堂々とした態度がいいですわね」
一夏「私も気に入っています」
セシリア「ふふふ、あなたとは仲良くできそうですわ」
一夏「はい。そう信じていただけるなら、きっとそうなることでしょう」ニコニコ
11: 2013/09/28(土) 10:07:44.07 ID:5H8gBlq40
一夏「よし、初日はシミュレート通りの完璧な結果になったな」
一夏「元々純粋な好奇心と好意が働いていたことだし、思った以上に感じが良かったぞ」
一夏「さて、あとは俺の部屋の確認と、食堂とトイレだな」
一夏「この部屋だな(――――――あれ、何で開いているんだ? 俺だけの部屋なのに)」ガチャ
箒「――――――い、一夏!?」ユアガリシタギスガタ
一夏「ん? 失礼しました」バタン
一夏「あれ、部屋を間違えたか? それともこっちの情報が間違っているのか?」
一夏「えっと、寮長に訊いたほうが早いか。確か、1年の寮長は千冬姉だったな」
箒「ま、待ってくれ、一夏!」ガチャ
一夏「ん? ああ、やっぱり目の錯覚じゃない……(急いで応対するために所々開けているな……)」
箒「わ、私に用があったのだろう?」ワタワタ
一夏「こいつを見てくれ。この割り当て、どう思う?」
箒「え……そ、そんな馬鹿な…………」
千冬「部屋の都合がつかず、自動的に割り振られてしまったようだな」
千冬「すまない。こちら側のミスだ」
箒「織斑先生……」
一夏「それじゃ、俺は帰っていいですか?」
千冬「……どこにだ?」
一夏「――――――実家に」
箒「え!?」
一夏「久々に実家で寝泊まりしたのは昨日と一昨日だけだったし……」
千冬「外泊は許可できん」
箒「そ、それじゃ、一夏は私と――――――」
一夏「あ、それじゃ、ここがいいな、――――――寮長室」
一夏「どうせ臨海学校の時とかの部屋割りで妥協する場面なんてくるんだからさ、家族水入らずってことで」
千冬「む、確かにそうかもしれないが、寮長としてはそれは承諾しかねる」
一夏「そんな堅いこと言わずに、ねえ? ねえ!」
箒「――――――い、一夏!」
一夏「え、何?」
箒「わ、私が我慢すればいいだけの話だ。それでこの話は終わりだ」
一夏「……それでいいの? まあ、俺は箒なら“きちんとしておけば”問題無いと思うけど」
箒「そ、そうか(『きちんとしておけば』――――――?)」
12: 2013/09/28(土) 10:09:14.82 ID:5H8gBlq40
千冬「くれぐれも間違いは起こすなよ。そうなれば、二人の命は無いからな」
一夏「ああ、まったくだ。後で公式の謝罪文をいただきますよ?」
千冬「そうだな。至急用意させておこう」
箒「えっと、そこまでしなくてもいいのでは…………?」
一夏「何を言っているんだ? しかたがないとはいえ、こんなことが世間に知れ渡ったらスキャンダルものだ」
一夏「ただでさえ、俺の入学には各方面からの賛否両論の板挟みになっているのに……」
一夏「それに相部屋が“篠ノ之 束の妹”だからな……」
一夏「ゴシップ記者の飯の種にさせるわけにはいかない」
一夏「こういうところははっきりさせておかないといけないのさ」
箒「あ…………(私は自分のことしか――――――)」
一夏「それがわかったら早く行こう」
一夏「私 織斑一夏は篠ノ之 箒との一時的な同室を望む」ビシッ
千冬「ああ、確かに聞き届けた」
千冬「さあ、篠ノ之、もう遠慮することはない」
箒「は、はい! 私も武士としての節度を似って――――――」
一夏「相変わらず堅いな、箒は」クスッ
箒「な、それはお前がそうさせたのだろう!?」
一夏「さ、部屋に行こう、俺のベストルームメイト」ニッコリ
箒「………………卑怯だぞ、一夏」ボソッ
一夏「む? はっきり言わないとわからない」
箒「何でもない! それよりもこれから一緒に過ごす以上は――――――」ムスッ
千冬「とっとと戻れ、お前たち」
一夏「はい! おやすみなさい、寮長!」パシッ
箒「あ、おやすみなさい! ――――――って一夏、引っ張るなぁああ!」
千冬「ああ、おやすみ」
千冬「ふふ、根っこは変わっていないらしいな……」ヤレヤレ
13: 2013/09/28(土) 10:10:54.86 ID:5H8gBlq40
千冬「これより、再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める」
一夏「具体的にはどういうものなのでしょうか?」
一夏「(さて、これになるべきか否か)」
千冬「織斑か。クラス代表者とは、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会の出席など――――まあ、クラス長と考えてもらっていい」
一夏「(俺が財閥総帥後継者であることが周知されていないことを前提とすると、)」
一夏「(俺としては、総帥後継者の色眼鏡なしに俺個人の実績を立てたいという気持ちがある)」
一夏「(それに、財閥総帥にISドライバーとしての力量は要らない。むしろ、人の上に立つ者として、適切な指導や協力をして成功に導いたほうが価値がある!)」
千冬「自薦他薦は問わない。誰かいないか?」
一夏「(そうなれば、――――――先手を打つ!)」
一夏「では、代表候補生:セシリア・オルコットを推薦します」
セシリア「わ、私――――――!?」
セシリア「コホン、さすがは織斑一夏。こういうのは代表候補生たる私にこそふさわしいことを心得ていますわね」
セシリア「そうですわ! 私はエリート中のエリートなのですから!」
周囲「エー、オリムラクンガイイナー」ザワザワ
周囲「デモ、アノオリムラクンガイッタコトダシー」ザワザワ
千冬「他にはいないのか? いないなら、無投票当選だぞ?」
一夏「さて?」ニコニコ
一同「………………」
千冬「なら、クラス代表者はセシリア・オルコットに決定だ」
セシリア「おまかせください! このイギリス代表候補生 セシリア・オルコット、立派に務めを果たしてみせますわ」ドヤッ
一夏「頑張ってください、レディ」ニコニコ
一夏「(――――――機先を制したな。俺の決定に異を唱える女子は出なかったな。よし)」
一夏「(面倒事は出世欲――――いや、上昇志向の強いやつに任せればいい)」
一夏「(俺はIS乗りにはなったけど、別に『モンド・グロッソ』に出られるような代表操縦者になるつもりなんて毛頭ないからな)」
一夏「(それよりも、これでセシリアに恩を売って俺の影響力が更に大きくなるな)」
一夏「(ま、俺のところにお見合いの打診がないぐらいの没落貴族のお嬢だが、練習相手にはなってくれるだろう)」ニヤリ
箒「………………?(何だ? 一夏から違和感を覚えたのだが…………)」
千冬「………………」
14: 2013/09/28(土) 10:12:46.53 ID:5H8gBlq40
山田「ここまで何か質問はありませんか?」
女子「はい、質問!」
女子「“パートナー”って“カレシカノジョ”の関係みたいな感じですか?」
山田「――――――え!? あの、私には経験がないのでそういうことは……」モジモジ
女子「アハハハハ! カウイイー!」
一夏「うん、こんなもんか(何というか、これが女子校のノリってやつなのか)」
一夏「(貴重な体験だが、ハシタナイというか、な…………)」
一夏「(しかし、ISは“パートナー”ね……)」
一夏「(大事に使うっていう意味では間違ってないけど、今の世界はそれを平然と戦争の道具にしているのが何ともいえない……)」
一夏「(かつて宇宙開拓用のマルチフォームスーツを空戦用パワードスーツとして利用しているんだからな)」
一夏「(その事実から目を逸らすために、ここの生徒にはそう言っているのだろうな)」
一夏「(『モンド・グロッソ』出場を目指して専心する純粋な競技者は一握りだな、たぶん)」
一夏「(ここを卒業していったい何人、純粋なISドライバーとしていられるかな…………)」スタスタ
一夏「箒さん。篠ノ之さん。私と食事に参りましょう」
一夏「どなたかご一緒しませんか?」
女子「イクヨー! チョットマッテー!」
女子「オリムラクン! オリムラクン!」
一夏「ほら、箒さん。せっかく“篠ノ之 箒”でいられるのに、友達がいないままっていうのは哀しいだろう?」
箒「…………確かにそうだが、私は行かない」
一夏「そう言うなって」パシッ
箒「おい! 私は行かないぞ」
箒「放せ、ええい!」
その時、箒は軽く一夏の手を払いのけようとしたのだろうが、それが一転して思い切り体当りして突き倒す形になった。
一夏「おっと!」
箒「――――――あ(一夏の胸板が…………!)」ボフッ
しかし、一夏は箒の手を自分の身体の後方へと引っ張ることで相手の体勢を崩し、受け流したのであった。
一夏「凄いな、今の! 咄嗟にできたんだろう?」
一夏「総合武術もやってたのか! 腕を上げたな、箒さん!」
箒「こんなのは、剣術のおまけだ(そういう一夏も赤子の手を捻るように軽く受け流したではないか……)」
一夏「やっぱり、箒さんがいてくれてよかった」ニコニコ
箒「あ…………」
一夏「さあ、みんな、食堂へ参りましょう!」
女子「オー!」
箒「(一夏が私の手をしっかりと握ってくれている…………すぐに手が出るようなこんな私のを!)」ドキドキ
15: 2013/09/28(土) 10:13:40.64 ID:mq5otnXP0
一夏「小学1年生の時、剣道場で顔を合わせてから小学4年生までの間柄」
一夏「家族ぐるみの付き合いで、幼馴染で同門――――――しかも、強い!」
一夏「私なんかよりもずっと辛い思いしてきたんだから、“篠ノ之 箒”でいられる今は楽しんでくれよ」
箒「…………その、ありがとう」ニコー
一夏「うん。いい感じだよ。しかし相変わらず、恥ずかしがり屋だな、箒さん」
一夏「後で記念撮影なんかどう?」ニコッ
箒「え、いいのか!?」
女子「おおおおお!」
一夏「一人ずつお相手するよ」
女子「オリムラクン! オリムラクン! オリムラクン!」
女子「キャー! ワタシモ、ワタシモー!」
周囲「ワーワーギャーギャー」ガヤガヤ
箒「おい、一夏…………」ギリッ
一夏「あらら、騒ぎになってきたな……(いかん、責任持って場を鎮めないと!)」ガヤガヤ
一夏「みんな、騒がないで! えっと、このノートに氏名とクラス番号を『静かに!』記入してくれ!」
周囲「ハーイ!」
一夏「そうそう、私もみんなのこと知っておきたいからね。日時は――――――」ニコニコ
箒「一夏……(一夏が社交界の習慣でああいう振る舞いを日常的にしていると考えると、無性に腹が立ってくる……!)」イライラ
箒「いかんいかん……抑えろ……(せっかく、一夏が私を特別扱いしてくれているのに、何て理解がないんだ、私は……)」ハア
16: 2013/09/28(土) 10:15:15.40 ID:mq5otnXP0
――――――放課後、部活棟内 剣道場
一夏「でえええええええい!」
箒「はああああああああ!」
女子「織斑くん、頑張れー」
女子「織斑くんも篠ノ之さんも凄い」
女子「確か、篠ノ之さんって中学剣道の優勝者なんですって」
女子「そして、あの篠ノ之博士の妹さんなんだってね」
箒「」ピクッ
一夏「――――――!(――――――隙ありだ!)」
その瞬間、一夏は箒の竹刀を巻き取るようにして吹き飛ばした。
箒「――――――!(し、しまった!?)」
一夏「突きぃ!」
箒「くっ……(まさか巻き技を使うだなんて思いもしなかった…………それにこの突きの速さ! ――――――昔よりも格段に強くなってる!)」
そして、一夏の放った突きは無防備な相手の喉元目掛けて一直線に寸止めしていたのであった。
一夏「勝負ありだな」
箒「ああ、悔しいが私の負けだ」
女子「おおおおおお!」パチパチパチ
一夏「………………」ジー
箒「な、何だ、一夏?」
一夏「気にしているのか、――――――束さんのこと」
箒「そ、それは――――――いや、違う…………ただ単に勝負に集中できなかった私の負けだ」
一夏「…………そうか」
17: 2013/09/28(土) 10:15:56.74 ID:mq5otnXP0
一夏「みんな? 応援してくれるのは構わないけれど、一対一の競技では些細な事が命取りになるから、見守るだけにしておいてね」
一夏「――――――お願いだよ」
女子「ハーイ!」
箒「………………」ハア
一夏「(これは相当重傷だな…………しかたない!)」
一夏「明日もまた一緒にやろう。な?」
箒「…………一夏」
一夏「本当は結構危なかったんだ。俺はその、セレブの世界に移り住むまでは中学校は帰宅部だったからさ」
一夏「継続して剣道してた箒と比べると基礎体力が、ね?」
一夏「だから、箒に遅れを取らないように俺は頑張るよ。箒はどうなんだ?」
箒「そ、そうか……(明日も一夏と二人っきりで稽古ができるのか……!)」ニヤー
箒「ふふ――――――な!?」
一夏「よかった。こんなことでしか励ませなかったけど、箒が喜んでくれて」ニコニコ
箒「くぅうううう」
一夏「それだけ強いんだったら、ISの方もお願いしてもいいかな?」
箒「え?」
18: 2013/09/28(土) 10:17:53.79 ID:mq5otnXP0
――――――後日のアリーナ
一夏「さて、偽装のために初期化された『白式』の「最適化」を図るか」ボソッ
一夏「来い、『白式』!」
一夏「うん、懐かしいというか、動きが鈍いというか……」
一夏「どうだ、箒? 入試以来の『打鉄』の乗り心地は?」
箒「まあまあだ。それよりも、訓練機の使用許可を取り付けてくれてありがとう」
箒「だが、知らなかったぞ、一夏。お前が専用機持ちだっただなんて」
一夏「俺も『打鉄』で良かったんだけど、――――――“特別”だからさ、データ取ってこいって宛てがわれているだけさ」
箒「そ、そうなのか。なあ、一夏?」
一夏「何、箒?」
箒「来月の学年別個人トーナメントに参加する気はあるのか?」
一夏「確かIS学園のインターハイみたいなものか?」
一夏「……どうだろうな? 特に考えてないよ」
一夏「箒だけには教えたけど、俺はセレブだからISドライバーとしての大成なんて考えていない」
一夏「ここにいるのはセレブの社会勉強の一環だからな」
一夏「それに、目立ちすぎると記者がうるさいし…………ここの熱心な新聞部の人を見ればわかるだろう」
箒「そうか。でも、稽古はしてくれるのだろう?」
一夏「もちろんさ。自分や身近な誰かを守れるぐらいの強さっていうのは磨いておいて損はない」
箒「そ、そうか……」テレテレ
一夏「それじゃ、基本動作からやってみようか」
箒「ああ!(一夏と二人だけのIS予習か……)」
19: 2013/09/28(土) 10:19:58.88 ID:mq5otnXP0
一夏「やっぱり、こうしてみると生の戦いとは大違いだな」
箒「そうだな。直感的に動かせるのはいいが、足を地につけていない感覚がな……」
一夏「生の戦いとの違いはそれだけじゃない」
一夏「この『白式』と『打鉄』とでは重量差があるから、まともにやりあったら俺の『白式』が打ち負かされる可能性が大きいんだよな」
一夏「現実でフライ級とヘビー級とではどちらが勝つかなんて火を見るより明らかだろ? 格闘戦において重量は大切だ」
一夏「俺の機体はスペックから判断するに高機動戦法を持ち味としているから、これまたリアルとは違った戦い方をしないといけない」
一夏「まあ、剣道とは違って居合術のように『斬り捨て御免!』な戦い方になるだろうから俺の性にはあっているかな」
箒「なるほどな。そうなると、人類最初の第1世代型IS『暮桜』と似ているな」
一夏「――――――!」
一夏「そうだな、確かに、織斑千冬の『暮桜』も剣1つでの高機動戦闘で『モンド・グロッソ』を総合優勝したっけな」
一夏「おお、何だか愛着が湧いてきたぞ! まさか千冬姉の機体と接点があっただなんて!」
一夏「雪片弐型――――――偶然かと思っていたけど、姉弟揃って同じ特性の機体か」
箒「嬉しそうだな、一夏」
一夏「あの“ブリュンヒルデ”と同じだなんて言われたら、誰だって感じるものあるだろう?」
箒「そうだな」
一夏「よし。今日のところはこれでいいだろう。明日からよろしく」
箒「ああ、まかせておけ!」
セシリア「アリーナの下見に来てみましたけれど、驚きましたわ」
セシリア「まさか織斑一夏、あなたも専用機持ちだっただなんて」
一夏「あ、セシリアさん」
セシリア「なるほど、道理で篠ノ之さんの訓練機の使用許可が下りたわけですわ」
セシリア「織斑一夏。もし、訓練の相手が不足しているなら、この私と一緒に訓練しませんこと?」
箒「――――――な!?」
一夏「いいですよ」
箒「え!? おい、一夏!?」
一夏「ただし、私も箒さんも格闘機乗りなので、そちらの遠距離射撃型IS『ブルー・ティアーズ』のお相手が務まるようには思えませんが?」
セシリア「別に構いませんわ。今年の入学生で専用機持ちは私とあなたと、誰だったかしら――――もう一人だけですから」
一夏「なるほど。まあ普通は、直感的に動せる『打鉄』を選ばざるを得ないから、学年別個人トーナメントは『打鉄』だらけになりますね」
セシリア「そうですわ。ですから、誰が相手になっても変わりませんの」
セシリア「それならば、早期にISの訓練に励んでいるお二人と訓練するのがベストかと思いまして」
一夏「わかりました。それで手を打ちましょう」
箒「おい、一夏!」
一夏「では、私たちは一通りの動作を確認し終えたので、――――――ごきげんよう」
セシリア「はい、明日からお願い致しますわ」
20: 2013/09/28(土) 10:21:29.96 ID:mq5otnXP0
箒「これはいったいどういうことだ、一夏!」
一夏「箒、放課後はセシリアを交えての訓練になったから、箒と“二人っきり”の稽古は時間を変えよう」
箒「“二人っきり”――――――あ、そういうつもりなら、別に構わないが」
一夏「えっと、部活棟の開放時間は5時からだな」
一夏「よし、朝練にしよう。気持ちいい汗を掻いていい一日にしよう」
箒「それなら異論はない(しかし、何だかいいように丸め込まれた気分だな……)」
一夏「そうだ、何故セシリアとの訓練を引き受けるかについて説明していなかったな」
箒「いや、それはわかっている。代表候補生から操縦技術を学ぶためだろう?」
一夏「まあ、訓練っていうのは上手いやつから学ぶのは鉄則だよな」
一夏「だけど、それだけじゃないんだ、箒」
箒「そうなのか?」
一夏「もちろん、俺自身もセシリアとはより良い関係を持ちたいと思っている」
一夏「だけど、押し付けがましいけど、」
一夏「――――――箒には、俺を通して友達を作っていって欲しいんだ」
箒「一夏…………」
一夏「だって、せっかく“篠ノ之 箒”でいられるのに、それを覚えてくれている人が誰もいないだなんて哀しいだろう?」
箒「一夏……(何故だろう? 一夏はあの手この手、私のために手を尽くしてくれているのにイライラが止まらない)」
箒「(それに、調子が狂わされるというか…………)」
箒「(セシリアもどうやら一夏に興味を持ち始めたようだし――――――)」ムカムカ
一夏「………………」
21: 2013/09/28(土) 10:22:42.69 ID:5H8gBlq40
一夏「あ、そうだ。言っておくことがあったな」
一夏「はい」ドサッ
箒「な、何だコレは!?」
一夏「お見合いのリストだよ。俺と許婚の関係になろうとしている女たちの」
一夏「まあ、ほとんどは国内のセレブからが多いんだけど、中には海外からのものもあってね」
一夏「それでね? ――――――その中に、セシリア・オルコットはいなかったぞ」
箒「は?(それはつまり――――――)」
一夏「………………」ハア
一夏「…………ごめん。お節介が過ぎたな」
箒「あ、一夏?」
一夏「俺、意外と焦ってんだな…………社交界の洗礼を浴びた後、こうしてヒミツの花園に居るとさ、いろんなことに怯えないといけないからさ」
一夏「ごめんな、巻き込んで。止めるんだったら、止めてもいいぞ?」
箒「違う! そんなつもりじゃ――――――」
一夏「ちょっと飛ばし過ぎた感がある」
一夏「稽古も訓練もする。だけど、気持ちが落ち着くまであまり干渉しないことにするよ」
一夏「困ったことがあったら、“箒の方から”遠慮無く言ってくれ。力になるからさ」
箒「あ、ああ、わかった」
一夏「それじゃ、食堂に行こう(これで箒は自分から動くしかなくなる……!)」
一夏「(そうなれば、積極性が増して友達が増えて、……いけばいいな)」
箒「(そうか、一夏の方も私との適切な距離感が掴めなくて苦悩しているのだな……)」
箒「(なら、私も変わらないといけないな…………)」
一夏「(ダメだな。セレブの世界の感覚が抜け切れなくて――――――それどころか、俺が変わり過ぎて箒から拒否されている感がある)」
一夏「(しばらくは経過を見守るしかないが、信頼を勝ち取るにはまだまだ時間がかかりそうだ……)」ハア
22: 2013/09/28(土) 10:24:26.58 ID:5H8gBlq40
――――――休日
パシャパシャ
カメラマン「はい、オッケーです!」
女子「ありがとね、織斑くん!」
一夏「うん。それじゃ、写真はちゃんと寮に送られるからね」
一夏「………………」フゥ
一夏「えっと、次の方は――――――いない!」
一夏「終わりです。ありがとうございました!」
一夏「いやあ、さすがに数十人と連続で相手するのは疲れたなー」ゴクゴク
一夏「お、箒からメールだ。――――――喜んでくれているようで何よりだ」
爺様「ほほう、最初にやることがこれか」
一夏「じ、爺様――――――いや、会長!?」
爺様「様子を見に来てやったぞ、孫ぉ」
一夏「今日は父母参観じゃないですよ」
一夏「……俺が入学したことへのアフターフォローに来たってところですか?」
爺様「まあ、そんなところだ」
一夏「会長がIS学園に多額の出資を行っているから、俺への対応が色が良すぎて困ってます」
一夏「俺が訓練の相手が欲しいからISの使用許可を求めたら、即座に許可が下りましたし」
爺様「で、どう思う? ――――――ここ、IS学園について」
一夏「…………そうですね」
一夏「やっぱり、公正中立のIS学園も金の力には逆らえない――――『誰かの思惑に流されるNGOなんだなー』と思いました」
一夏「そして、…………アラスカ条約の精神に則って、軍事利用禁止の思想が根付いているのはひしひしと感じられました」
一夏「何というか、日本国憲法に対する戦後生まれの感性と似ているって感じです」
一夏「しかし、外部から育てられて派遣されている代表候補生の機体を見ればわかる通り、ISには最新鋭の兵器がゴマンと搭載されています」
一夏「明らかに軍事利用されているのにスポーツだと言い張る姿勢に、」
一夏「世界で唯一のIS専門の教育機関を日本に設置したのは正しい判断だったと感心せざるを得ませんでした」
爺様「そうだな。開発されたのが日本だったからという理由もあるし、そういうネジレた許容の仕方をできたからとも言えるな」
爺様「ISの軍事利用の件で、一番に揉めたのは他でもない我が国だったからなぁ」
爺様「『白騎士事件』以来、日本の世論は自衛力拡大に一気に傾いたぁ」
爺様「その一方で、平和憲法の精神に則って、ISの開発の凍結及び破棄を篠ノ之博士に突きつけられたが、大人の事情で取り消された」
一夏「――――――大人の事情ですか」
爺様「ああ、大人の事情だぁ」
爺様「最終的にアラスカ条約で、軍事利用の禁止と開発国である日本が独占している技術の公開を義務付けられ、」
爺様「こうしてISは表向きは健全なスポーツとして普及していったというわけだ」フゥー
一夏「タバコはマズイんじゃないの、会長」
爺様「気にするな。儂は後先短い老いぼれだぁ」
23: 2013/09/28(土) 10:25:53.43 ID:5H8gBlq40
爺様「まあ、ISの登場によって世界的に軍縮が進み、その一方で我が国は自衛力の強化に繋がって、」
爺様「総合的に見て、ISの登場で一番得をしたのがまた他でもない我が国だ。冷戦の時と同じだな」
爺様「スポーツ用品の開発生産という名目で、純国産の兵器を以前よりも堂々と開発生産できるようになったのだからな」
爺様「そして、国際IS委員会によるISのコアの割り振りでは確実に我が国が一番多く割り振りされるようになっている」
爺様「まさに、ISとは戦後の日本に突きつけられた答えの1つだったというわけだ」
一夏「女性にしか扱えないと言っても、それだけですからね」
爺様「掴みは上々のようだな」
一夏「ええ。ここはまさに現代社会の縮図ですね。男女比がおかしいですけど、社会勉強の場としては最高です」
爺様「――――――で、めぼしい女を見つけられたか?」
一夏「はあ!?」
爺様「後継者がいないのは大きな問題だからな」
一夏「今ここで見つけなくてもいいじゃないですか! 下手したらスキャンダルものですよ!」
一夏「世間的には女尊男卑の風潮なんですから、財閥総帥といえどもただではすまされませんよ!?」
爺様「はっはー! 少しからかってみただけだ。気にするな」
一夏「………………(そう言って新しいお見合いのリストを寄越すのかよ)」
爺様「さて、おしゃべりが過ぎたな。ではな、孫ぉ」
一夏「…………お達者で、爺様」ハア
一夏「財閥総帥の跡取り息子としての勉強も続けているし、社交パーティにだって出なくちゃいけないけどさ……」
一夏「もうちょっと今の生活を楽にしたいな……」
一夏「――――――近々故郷を歩いて回ろうかな」
一夏「『あの日』から捨て去った、――――――なんと小さな世界」
一夏「だけど、俺も跡取り息子ではない“織斑一夏”としていられる今のうちに――――――」
24: 2013/09/28(土) 10:27:18.74 ID:5H8gBlq40
――――――週明けのアリーナ
一夏「さて、今日は実際の試合の流れを把握するためにハンガーから出撃して帰還するまでの流れを確認しよう」
一夏「アリーナの空間の広がりを把握するための飛行訓練も兼ねる。明日の実習で専用機持ちがやることになっているからな」
箒「わかったぞ、一夏」
一夏「そして、余裕があればダメージを把握するために掛り稽古もしてみよう」
一夏「では、セシリアの方はすでに準備できているようだから、行ってみよう」
一夏「来い、『白式』!」
セシリア「私のお誘いを受けてくださって感謝しますわ、織斑一夏」
一夏「いえいえ、代表候補生のあなたから指導していただけるのは光栄です」
一夏「――――――と、まだ空を飛ぶのには慣れない、箒さん?」
箒「先週の1回だけではまだ何とも…………」
箒「それよりも一夏、お前は本当に初心者なのか? かなり手馴れているではないか」
一夏「IS適性の高さ――――――いや、私と『白式』の相性がそれだけいいってことなんでしょうね」
一夏「でも、ISは直感的な操作なので、俺と同じく箒さんもおそらくすんなり上達していくと思いますがね」
一夏「では、まずは着陸してみましょうか」
セシリア「ふふふ、見ていてください、織斑一夏」
ヒュウウウウウウウン
セシリア「」ドヤッ
一夏「お、急降下と完全停止ですね。あれは低空飛行の移行や叩き落とされた時の復帰に使う技術ですね。さすが代表候補生」
一夏「私たちは無理せずに安全に着陸するために完全停止を心掛けて降下しましょう」
一夏「では、見ていてください」
箒「わかった(しかし、一夏が公衆の面前では『私』に『さん付け』、『敬語』と言うのは何とも違和感があるものだな……)」
ヒュウウウウウウン
一夏「1,2,3! はい、こんな感じだね」
セシリア「お上手ですわね」
一夏「ありがとうございます」ニコッ
箒「………………」イラッ
一夏「よし、箒さん! ゆっくりでいいから完全停止のやり方を忘れずに!」
箒「よし、行くぞ!(――――――降下!)」
ヒュウウウウウウン
箒「――――――は?!」
一夏「――――――危ない!」
セシリア「織斑一夏!?」
箒は一夏の言われた通りに余裕を持って降下するつもりだった。
しかし、代表候補生であるセシリアへのちょっとした対抗心から、意に反して急降下を行ってしまったのだった。
とてつもない加速で落ちるよりも早く地表へと転落していく箒は思わず目を覆ってしまう。
25: 2013/09/28(土) 10:29:21.54 ID:mq5otnXP0
一夏「ぐぅううう…………!」
一夏「はあ……よかった。絶対防御で守られているとは言え、心までは絶対防御されていないからな。トラウマになったら大変だ」
一夏「怖くなかったか、箒さん?」ニコッ
箒「――――――は!(い、一夏の顔が、こ、こんなにも近い!?)」カア
しかし、織斑一夏は迅速に対応して衝撃を和らげた。
一夏の『白式』は圧倒的な速度で迫る箒の『打鉄』の勢いに圧されて地面に激突したが、驚くことに土煙が舞うことなく穏やかに地面と激突したのだ。
一見すると到底地味だが、とてつもなく高度な機体制御の技術であった。
何故なら、衝突による強い力を引き受けて相手を優しく受け止めた一方で、大地に接触した時の反作用を受け止めた相手に返さないようにしたのだから。
セシリアは専用IS『ブルー・ティアーズ』が空中で狙撃するために機体制御を重視した運用をしているためにその凄さをよく理解できた。
そして、物腰柔らかく寝そべる貴公子の上に乗りかかる乙女の図は、すぐ側で見ていたセシリアの心を捉えて放さなかった。
セシリア「――――――あ」ポー
箒「うわあああああああああ!」ドタバタ
一夏「よっこらしょっと」
一夏「ISの欠点は、脳波コントロールだから計器を見ながら速度調節がしづらいことに尽きるよな」
一夏「自動車教習のように恐る恐るメーターをチラ見しながら加速することができないんだもんな」
一夏「こればかりは、織斑先生が言うように『身体に染み込ませる』他ない」
一夏「俺たちは他の生徒よりも時間があることだし、丁寧に技術を習得していこう、ね?」ニコッ
箒「あ、ああ…………」ドキドキ
一夏「セシリアさん、今度はアリーナを旋回してみま――――――セシリアさん?」
セシリア「――――――あ、はい!」ドキッ
一夏「…………どうしたというのだ?」
箒「………………」ドキドキ
セシリア「………………」ポー
一夏「――――――訓練! 訓練中ですよ!」
箒「あ、すまない!」
セシリア「ご、ごめんなさい!」
一夏「うん…………?」
一夏「どうします? 模擬戦までやろうとは思っていたんですけど、中止にしますか?」
一夏「ISは脳波コントロールだから――――――いや、ISに限らず、精神状態が安定しないのならば安静にすることが一番です」
一夏「二人共、ピットまで帰れますか? 私はこのまま明日の飛行訓練に備えて続けますけど」
一夏「(――――――いや、ここは様子を見るか)」
一夏「それじゃ、後のことは自己責任でお頼みしますよ?」
箒「あ、うん…………」
セシリア「…………はい」
一夏は飛んだ。
財閥の提供で獲得した専用IS『白式』は入学前から乗りこなしていたとは言え、一夏の思うがままに飛んだ。
そして、財閥がスポンサーのISドライバーになってから漠然と“ブリュンヒルデ”織斑千冬を目指していた。
一夏と『白式』が描く軌跡は変幻自在であった。それは誰の目から見ても初心者のそれではないことを理解させるに足る流麗なものだった。
27: 2013/09/28(土) 10:31:28.13 ID:mq5otnXP0
一夏「早くファーストシフト(第一形態移行)させたいけど、実戦に勝る訓練は無いから結構掛かるかな…………」
セシリア「あ、あの、織斑一夏!」
一夏「おや、セシリアさん。大丈夫なんですね?」
セシリア「は、はい!」
セシリア「そ、それであの――――――」モジモジ
セシリア「この私の『ブルー・ティアーズ』、あなたの『白式』でワルツを踊っていただけませんか?」
一夏「――――――わ、ワルツ?(社交ダンスをISで!? というか、何故それをやらないといけないんだ?!)」
セシリア「ダメですか…………」ショボーン
一夏「ああ……(こ、これはどういう意図があるのだ? あまりにもぶっ飛んでいて理解が追いつかないが、――――――チャンスだ)」
一夏「いえ、――――――では、1曲いかが?」ニコッ
セシリア「はい!」ニッコリ
一夏「(…………箒はどうした?)」キョロキョロ
一夏「(ああ、帰っちゃったか…………まあ、本調子じゃないのを重たく受け止める性分だし、帰ったら慰めておこう)」
一夏「これはイギリス代表候補生のISの機体制御の訓練の形態ですか? 洒落てますね」
セシリア「そ、そうなんですの。あなたは踊れますか?」
一夏「経験があまりありませんが、嗜み程度には踊れるつもりです」
一夏「(えっと、男は左腕を伸ばして、右手は相手の脇の下を潜らせる…………っと)」ガシッ
一夏「(うわ、ISのガントレットがISスーツを直接触れているよ…………だだだだ、大丈夫なのか!?)」
セシリア「」ニコッ
一夏「では、軽くシャッセ・ロール――――――え、傾けて?(うわ、これ結構キツイ! 斜めに落ちながらワルツするとか鬼のような特訓だな、おい!)」
セシリア「お上手ですわ、織斑一夏」ドキドキ
一夏「あの、どこまで落ちるつもりですか?(ちょっと、さすがにこれは俺でも怖いと思うぐらいだぞ……)」アセタラー
一夏「あれ? もしもーし(微動だにしないだと!? イギリスの新人教育はこれほどまでに完成されていたというのか!?)」
セシリア「(――――――ああ)」(恍惚)
一夏「(ちょっ、テレスピンで加速ついてきたぞ、おい!?)」アセダラダラ
一夏「(物凄い勢いで落ちるぞ!? 何これ、新手のチキンレース!?)」
一夏「(1,2,3、1,2,3…………ああ、止まらない…………!)」
一夏「(ワルツの作法が骨の髄まで染み込んでいるから流れに乗って踊り続けちゃう…………!)」
一夏「(って、もう地表じゃないか! ――――――フィニッシュだ! 早く!)」アセダラダラ
セシリア「――――――」(恍惚)
一夏「ああ、もうぉおお!」ダキッ
セシリア「――――――あ」
28: 2013/09/28(土) 10:33:00.69 ID:5H8gBlq40
一夏「はあはあ…………私の負けです」ゼエゼエ
セシリア「へ? あ、あの…………?(お、男の方の胸板――――――!?)」ドキドキ
一夏「これって地表に落ちるまでどちらがワルツを続けられるかを競うものだったんでしょう?」
一夏「ISの機体制御や度胸、優雅さ――――――気品あふれる英国紳士淑女養成にうってつけの完成された訓練ですね……」ゼエゼエ
一夏「驚きました。こちらは内心ビクビクしながら必氏に合わせていたのに、セシリアさんは本当に動じることがなく、優雅で――――――」
一夏「まさしく、エリート中のエリート――――――その真髄をしっかりとこの目に焼き付けました」
一夏「どうか、クラス代表者として頑張ってきてください!」ガシッ
セシリア「――――――と、当然ですわ! 私はエリート中のエリートなのですから!」
セシリア「…………本当はただ、その――――――」ボソッ
一夏「今日はこれで終わりにしますね。それでは、お先に失礼します!」
セシリア「あ…………」
一夏「(いやあ、内心小馬鹿にしていたけど、やっぱり本物は違うんだな。機会があれば、またやってみたいな)」
セシリア「(ああ、織斑一夏…………)」
セシリア「(――――――って何を考えていますの、私!? 男なんてみんな、父と同じように…………)」
セシリア「(それに、文化としても後進的なオリエントで暮らさないこと自体、苦痛――――――じゃない? むしろ――――――)」
セシリア「ど、どうしてしまったんでしょう、私は…………」カア
29: 2013/09/28(土) 10:34:39.52 ID:5H8gBlq40
――――――平日のとある日
一夏「代表候補生っていうのは、国家や企業と契約して専用ISを提供してもらっている関係上、」
一夏「お呼び出しがあれば、IS学園のことは捨て置いてすぐに馳せ参じる義務があるわけだ」
一夏「俺の場合は、爺様の財閥に所属しているから、今日は平日だけど公欠をもらってこうしてここにいるけれど……」
――――――どうして、実弾を含めた特殊部隊の合同演習に参加させられているんだあああああ!?
一夏「くそ、ISの絶対防御に守られているだけだぞ、――――――俺が“特別”なのは!」
一夏「PICや脳波コントロールがなくちゃ、この実戦装備、めちゃくちゃ重い! アサルトライフル自体が重いのに、弾の1発1発がずっしりと重い!」
一夏「はあはあ…………目標ポイントに到着…………!」ゼエゼエ
爺様「精が出ているようだな、孫ぉ」
一夏「――――――会長!?」
一夏「これはいったいどういうこと!? 社交界のセレブ、そしてただの学生の俺がどうして硝煙臭い世界に放り込まれなくちゃいけないんだ!」
爺様「許せ。高いIS適性を持ち、こちらの内情を知るISドライバーのお前にしか適任者がいなくてな……」
爺様「それに、様々な意味で“特別”なのだからやっておいて損はないはずだぁ」
一夏「確かにそうだけれども、人頃しになるつもりはない……」
爺様「――――――儂は人頃しだ」
一夏「…………はい?」ゼエゼエ
爺様「誰かによって環境を変えられるということがぁ、すまないと思うことがぁある」
一夏「…………確かに直接的に人を殺めることはなくても、生きる希望を失わせて悲惨な末路を辿らせることも罪だと主張することは容易いよな」
一夏「それが、人の上に立つ者ならば尚更…………」ゼエゼエ
一夏「それで、『白式』のデータだけならともかく、今回の演習における俺のデータまで取って何をするつもりなのさ?」
爺様「お前のことはただ単に趣味だ。儂の孫がどれほどのものか、興味がある」
一夏「…………それだけじゃないように思うけれど」
一夏「あ、――――――小休止は終わり? それじゃ、行ってきます」
爺様「ああ、気をつけてな」
一夏「…………白々しい」
爺様「フッ」
30: 2013/09/28(土) 10:36:14.66 ID:5H8gBlq40
それから一夏は、平日の2日、山間の廃墟となった街をアサルトライフルを握って駆け回り、
隊長「グレネード!」ポイ
一夏「了解!」ポイ
隊長「よし、3カウントで一斉射だ!」
一夏「了解!(何で俺が少年兵の真似事をしなくちゃならないんだよおおおお!)」
隊長「3,2,1! 撃てええええ!」
一夏「ええい!(マズルジャンプがキツイ!)」
隊長「よし、制圧を確認! 次のフロアに移動する!」
一夏「リロード、リロード…………あ、間違えた」アセアセ
隊長「何をしている!? 弾倉はこういう順番で交換しろと言ったはずだ、馬鹿者!」
隊長「遊びじゃないんだぞ!」
一夏「申し訳ありません!」
一夏「く、リロード完了!」
隊長「急げ! ウスノロ野郎!」
一夏「(くそ、社交界やIS学園でチヤホヤされてきたから、久々に怒鳴られるのは結構堪えるぜ…………)」
特殊部隊の実戦ノウハウを身体に叩き込まれることになった。
おかげで、セレブの御曹司のくせに軍事能力を有するという極めて異質な特技が備わり、
後にIS用の射撃武器を握った時もマニュアルで百発百中の命中率を誇ることになった。
しかしこれは、IS学園が始まって2週間も経っていない時期のことである。
果たして、この織斑一夏が向かう先にあるものとはいったい…………?
セシリア「あの織斑先生? 織斑一夏はまだ…………?」
千冬「安心しろ。明日には顔を出す。お前はクラス対抗戦に備えてしっかりと準備しておけ」
セシリア「は、はい!」
セシリア「織斑一夏…………」
31: 2013/09/28(土) 10:37:31.14 ID:mq5otnXP0
――――――クラス対抗戦まで残り数日
一夏「セシリアさん、もうすぐクラス対抗戦ですね」
セシリア「はい、今日もよろしくお願いしますわ、織斑一夏」ニッコリ
女子「何ていうか……、セシリア、変わった?」ヒソヒソ
女子「そうよね。同じ専用機持ちだし、織斑くんと訓練しているうちに――――――」ヒソヒソ
女子「そうだ、2組のクラス代表が変更になったって聞いてる?」
女子「ああ、中国から来た何とかって言う転校生に替わったのよね」
一夏「転校生に替わった?(クラス代表ってそんな簡単に委譲できるのか?)」
セシリア「ふん。私の存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら?」
一夏「この時期に転入できるほどの権限を持つとなると、――――――専用機持ちか」
一同「――――――!?」
セシリア「それは本当ですの、織斑一夏!?」
一夏「たぶん、そうだと思います」
一夏「最近、中国で第3世代兵器搭載のISがロールアウトされたって聞いてますから、おそらくそれです」
鈴「――――――その通りよ!」
一同「――――――!?」
鈴「2組もクラス代表が専用機持ちになったの! そう簡単には優勝できないから!」
一夏「え、――――――鈴!? お前、鈴なのか!?」ガタッ
鈴「そうよ! 中国代表候補生:凰 鈴音! 今日は宣戦布告しに来たってわけ!」
セシリア「これはこれは、ご丁寧なご挨拶痛み入りますわ」
セシリア「私がクラス代表、イギリス代表候補生:セシリア・オルコットですわ」
セシリア「クラス対抗戦――――――どちらが強く、より優雅であるか、教えて差し上げますわ」
鈴「もちろん、私が上なのはわかりきっているけど?」
セシリア「うふふ、弱い犬ほどよく吠えると言うけれど、本当ですわね」
鈴「どういう意味よ?」イラッ
セシリア「自分が上だってわざわざ大きく見せようとするところなんか典型的ですもの」
鈴「その言葉、そっくりそのまま返してあげる!」プルプル
セシリア「あら、それができるかしらね?」ゴゴゴゴゴ
周囲「ナ、ナンカケンアクナフンイキ・・・」ザワザワ
――――――そこまでにしてください。
一同「――――――!?」
32: 2013/09/28(土) 10:38:35.99 ID:5H8gBlq40
一夏「あなた方が代表候補生として国家の威信を背負って、ライバル意識を持つことは一向に構いません」
一夏「しかし、私たちは武力で以って相手を屈服させる軍人ではないのです」
一夏「ここではISドライバーとして、スポーツマンシップに則って健全な人間関係であることを求められています」
一夏「相手を挑発し、愚弄するような発言は互いに控えてください」
一夏「――――――以上です」
周囲「おおおお!」
鈴「………………」ポカーン
セシリア「………………」カオヲミアワセル
鈴「ま、まあ、ここは礼儀正しく去ることにするわ。それに、私には他にも用があるしね」
セシリア「そ、そうですわね。この場は改めて、正々堂々試合で優劣を競うことにしますわ」
鈴「また後で来るからね、一夏! ふん」
一夏「よかった…………」ホッ
箒「一夏…………(それよりも、今のは誰なんだ? 随分親しそうだったではないか…………!)」
千冬「ショートホームルームを始めるぞ。席に着け」
一夏「あいつが代表候補生…………」
千冬「おい、織斑」
一夏「あ、すみません」
33: 2013/09/28(土) 10:40:32.20 ID:mq5otnXP0
――――――同日、昼休み
鈴「あんた、ある日突然いなくなるだなんてどういうことよ!」
一夏「それは………………」
鈴「どれだけ心配したと思ってんよ、馬鹿!」
鈴「姉弟揃って家から居なくなっているし、何をしても連絡先には通じないし、いったい何があったって言うの!?」
一夏「(これはほとほと弱ったな。あれから一度も連絡を取っていなかったもんな……)」
一夏「(表向きは転校したことになっていたけど、唐突の不自然な転校じゃこうもなるよ……)」
一夏「(そして、昔のことを忘れてしまうぐらいの社交界の洗礼に受ける日々…………)」
一夏「(つい先日も、生身の軍事演習に参加させられたし…………)」ハア
一夏「ごめん……答えらない……」
一夏「でも、今は帰ってきているんだ。そういうことにしてくれないか……」
鈴「…………そうなんだ」
一夏「ごめんな、心配かけちゃって…………俺も近々会いに行こうとは思っていたんだ」
鈴「そうだったんだ。うん、忘れてなければそれでいいの、それで」
一夏「ありがとう。そういうところ、凄く助かる(…………本当に)」ニコッ
鈴「か、感謝しなさいよね、馬鹿」カア
鈴「で、でもまさか、“千冬さんの弟”のあんたまでISが動かせるだなんて驚いたわ」
一夏「俺だってまさかこんなところに入るとは思わなかったからな」
鈴「入試の時にISを動かしちゃったんだって?」
一夏「何でって言われてもな……(もちろんこれも偽装工作。俺は夏のオープンハイスクールで動かしていた)」
箒「一夏! そろそろ説明して欲しいんだが……(これ以上は見てられない)」バン
セシリア「」ジー
鈴「ちょっと、何? 今、一夏は私と話をしているんだけど」
一夏「落ち着いてくれ。二人共、どちらも俺――――私の幼馴染だよ」
箒「幼馴染……?」
一夏「そうか。ちょうど箒さんとは入れ違いに転校してきたんだっけな」
一夏「篠ノ之 箒さん。いつか話した、ファースト幼馴染だ」
一夏「それで、鈴さんはセカンド幼馴染だ」
箒「ファースト……」テレテレ
鈴「へえ、初めまして。これからよろしくね」
箒「ああ。こちらこそ」
セシリア「」ジー
一夏「(ああ、これは友達同士に、ならないか…………?)」
一夏「(う~ん、それと、セシリアがジーっとこっちを見ているな。俺に興味を持ち始めたというところか)」
一夏「(それはありがたいことなんだけど、悩みの種が増えたな…………)」ハア
34: 2013/09/28(土) 10:41:42.32 ID:5H8gBlq40
――――――同日、放課後
一夏「何、怒っているんだ、箒!?」ガキーン
箒「うるさい!」ガキーン
一夏「――――――冷静になれ!」
箒「――――――な!?」
一夏は箒と生で試合をした時に見せた巻き技で、箒の『打鉄』の太刀を再び巻き取ってみせた。
巻き上げられた『打鉄』の太刀が宙を舞って音を立てて大地に置かれた。
一夏「大丈夫なのか? いや、――――――話してくれ! そうじゃないと俺はどうすればいいのかわからない!」
箒「――――――っ!?」イラッ
箒「…………最近、セシリアとも仲が良いようだな」
一夏「それはそうだろう? 最初からそのつもりだったんだし」
箒「それなのに、また女をたらしこんで…………」
箒「――――――弛んでるぞ!」
一夏「……鈴のことか」
一夏「…………俺は中学のある時を境にセレブの世界に行くことになったんだ。それまでの全てをバッサリ捨てて、な」
一夏「鈴はただ単に俺のことを心配してくれていただけだ」
一夏「俺はそういう意味では誠意を見せないといけないな…………」ハア
箒「あ、すまない……(何で私はこんなふうにしか振る舞えないんだ……)」
箒「(一夏がモテるのはこの学園ではほぼ当たり前のようなことだと言うのに……)」
セシリア「遅れましたわ」
一夏「セシリアさんか」
箒「む…………」イラッ
セシリア「」ドヤッ
セシリア「さあ、織斑一夏。私のお相手をお願いしますわ」
一夏「わかりました(まだエネルギーは十分だな)」
箒「ま、待ってくれ、一夏! もう一度、手合わせしてくれ」ジャキ
一夏「――――――何!?(ちょっと待て…………!?)」
箒「さあ、かかってこい、一夏!」
セシリア「さあ、織斑一夏! 来なさい!」
一夏「な、え……!?(『ブルー・ティアーズ』と『打鉄』のタッグだと!?)」キョロキョロ
一夏「(接近戦では『打鉄』に圧され、そこを一方的に『ブルー・ティアーズ』に狙撃されてしまうではないか!)」
一夏「(――――――何だこの、黄金タッグは!?)」
一夏「(え? 何で俺がこんなのと戦わないといけないの?)」
箒「」ゴゴゴゴゴ
セシリア「」ゴゴゴゴゴ
一夏「(――――――な、何だこの、プレッシャーは!?)」
一夏「ああ……、やれるだけやってみるかな……?(ファーストシフトもすんだことだし、経験値集め――――――)」
35: 2013/09/28(土) 10:42:56.68 ID:5H8gBlq40
一夏「まったくひどい目に遭った……」
鈴「おつかれ、一夏。はい」
一夏「ずっと待っていてくれたのか」
鈴「まあね」
鈴「……やっと“二人っきり”だね」モジモジ
一夏「え?(そのフレーズ、俺も使ったことがある。ってことは――――――え!?)」
鈴「一夏さ、やっぱ私がいないと寂しかった?」
一夏「そうだな――――――っ!?」ドクン
その瞬間、『あの日』の一夏の悲壮な決意と何もかもが変わってしまった当惑の日々が筆舌しがたく思い出された。
一夏「――――――ああ、そうだな」ウツムク
鈴「あ……」
一夏「……ごめんよ。いなくなるならせめて、別れの挨拶ぐらいしておけばよかった…………」
一夏「中学のみんな 元気にしているかな……」
鈴「…………ごめん。そういうつもりじゃなかったのよ!」アセアセ
鈴「ただ、一夏が変わっていないかなって確かめたかっただけで――――――」
一夏「なあ、鈴?」
鈴「な、何?」
一夏「クラス対抗戦が終わったら、みんなに会いに行こう」
鈴「そ、そうね。私もあれからどうなったのか気になっているし。――――――特に五反田兄妹がね」
一夏「ああ。本当にな……(箒と同部屋であることはしばらくは隠しておこう)」
鈴「(本当は、昔のことを覚えてくれているか聞き出そうと思っていたけど、触れないでおこう)」
鈴「(それと、二人っきりの時は砕けた口調なのはいいけど、人前の口調――――すごく違和感あってね……)」
36: 2013/09/28(土) 10:43:50.91 ID:mq5otnXP0
――――――クラス対抗戦、当日
一夏「再来週なんていうのもあっという間だな」
一夏「光陰矢の如し――――――『あの日』のことも昔のことのようだ」
セシリア「こちらの準備はよくってよ?」
一夏「セシリアさん。相手は『白式』と同じ近接格闘型の分類ですけど、確実に中距離用の射撃武器を持っているはずです」
一夏「十分に距離を取って戦ってください。『ブルー・ティアーズ』のオールレンジ攻撃の使い方が勝敗を分けますよ」
セシリア「はい。あなたや箒さんとの経験を活かして勝利を掴み取って見せますわ」
一夏「それでは、健闘を祈ります」
セシリア「はい!」
アナウンス「両者、規定の位置についてください」
セシリア「では、参ります!」
一夏「これはわからないな。ただ言えることは、長期戦になればセシリアが不利になっていく――――――」
一夏「先に得意レンジに入った方が勝ちだ。開始直後の中距離戦闘が勝敗を分けるはずだ」
一夏「それだけに――――――」ゴクリ
箒「一夏、客席に行くぞ」
一夏「いや、ここでいい」
37: 2013/09/28(土) 10:45:11.10 ID:5H8gBlq40
鈴「さて、来たわね。この前 言ったこと憶えているわよね?」
セシリア「はい。――――――弱い犬ほどよく吠える、と」ニコー
鈴「」ムカ
鈴「あの時は一夏の顔に免じて見逃してやったけど、容赦はしないわよ!」
セシリア「そういうところが弱い犬らしいとお気づきにならないのかしら」クスッ
鈴「……そうね。口で言ってもわからないなら、身体に叩き込んであげるわ」
鈴「それがあんたのことだってね!」
アナウンス「試合開始」
試合は近距離型と遠距離型の熾烈な距離の奪い合いになっていた。
近距離型の『甲龍』が近づこうとすれば、遠距離型の『ブルー・ティアーズ』は離脱しようとする。
『甲龍』が予想通り積んでいた第3世代兵器の衝撃砲『龍咆』による射角が無限の見えない砲撃を浴びせようとすれば、
負けじと機体と同名の第3世代兵器である『ブルー・ティアーズ』によるオールレンジ攻撃で牽制する。
それぞれの国が威信をかけて搭載した第3世代兵器の正面対決が火花を散らして白熱していた。
しかし、試合は膠着するに従って、ここで機体の特性による差が大きく出始めることになった。
圧されてきたのは、セシリアの『ブルー・ティアーズ』だった。
徐々に『ブルー・ティアーズ』のオールレンジ攻撃の精度が落ちていき、セシリアの表情に焦燥が見え始めていた。
それは第3世代型ISの特徴的な弱点の現れだった。
第3世代型ISは第3世代兵器と呼ばれるイメージ・インターフェイスを利用した直接脳波で自在に操作できる兵器を積んでいる。
しかし、基本的にISはシールドエネルギーによって一括で動作するのだが、第3世代兵器を動作させるためにエネルギー効率がかなり悪かった。
更に、ISは脳波コントロールなのでイメージ・インターフェイスによる脳波コントロールと被っているので、
使い分けるために機体制御を放棄して、第3世代兵器の運用に意識を集中しなければならないという共通の欠点があった。
特に、第3世代兵器の操作自由度が高ければ高いほど機体制御は大きく失われ、棒立ちになって隙を晒すことになった。
さて、今回の戦いの場合、射角が無限の『龍咆』とオールレンジ攻撃の『ブルー・ティアーズ』――――――、
いったいどちらがより集中力を必要とし、隙が大きいかと言えば、
当然、4基のレーザータイプと2基のミサイルタイプもあってISとは別に独自に行動できる『ブルー・ティアーズ』である。
更に、鈴の『甲龍』は同じ第3世代型ISでも燃費と安定性を重視した特異的な設計なので、
長期戦になればなるほどセシリアの『ブルー・ティアーズ』は追い込まれていくことになる。
また、後ろに下がることは前進することよりも難しいために、セシリアが距離を取ろうと離脱しようと思えば離脱先を考えないといけないという苦労もあった。
鈴は追う側なのでそれをただ相手を追いかけるだけでいいので、そこまで負担にはならなかった。
昔から相手から大きく距離を取るための後退は前進するよりも遥かに難しいとされており、撤退戦の名手はそれだけで戦上手と言われた。
織斑一夏が見るに、この戦いの対戦ダイアグラムは4対6。基本的にセシリアが不利だが、どちらも十分に勝機がある戦いであった。
ISはパワードスーツ――――つまり、身体の動きが直接動作する類の兵器である。
そして、ISは起動から基本動作全てを脳波コントロールしているので、疲れて一瞬でも気が緩めば負けなのである。
38: 2013/09/28(土) 10:46:23.90 ID:5H8gBlq40
一夏「試合時間は8分を超えたか」
一夏「中学剣道の試合で3分、高校生以上は4分。延長戦は3分だから、少なくとも延長戦2回は入っているぐらいだな」
一夏「やはり、機体特性の差が出てきたな……」
箒「セシリア、頑張れ…………」
一夏「だが、鈴の方も疲れている。一瞬の気の緩みが勝敗を分ける。まだまだ勝負はわからない」
一夏「もし、俺が二人とそれぞれ戦うことになったら――――――まあいい」
一夏「何にせよ、専用機持ちの真剣勝負は代表候補生のプライドを賭けた戦いだ」
一夏「終わったら、どっちもしっかりと労ってやらないとな」
箒「―――――― 一夏?! これは!?」
一夏「…………そろそろ決まるか」
そして、試合は互いの氏力を尽くした運命の交差点へとついに進んだ。
セシリアの『ブルー・ティアーズ』に鈴の『甲龍』の衝撃砲『龍咆』が直撃し、
吹き飛ばされたものの、セシリアは不退転の意思でレーザーライフルを構えたのだ。
そして、それに飛び込み、得意の接近戦で一気に勝負を決めようとする鈴の『甲龍』!
次の瞬間には、どちらかが勝者となり敗者となる。そんな一瞬が――――――。
だが、その時――――――!
セシリア「――――――!?」
鈴「――――――!?」
一同「――――――!?」
一筋の巨大な光の柱がアリーナの天井を突き破り、アリーナの大地を焼き払ったのだ!
千冬「試合中止! オルコット、凰、直ちに退避しろ!」
観衆「キャアアアアアア!」
一夏「映像が途切れた!?」
箒「一夏、避難勧告が出たようだぞ!」
一夏「………………」
箒「…………一夏?」
39: 2013/09/28(土) 10:47:34.92 ID:mq5otnXP0
セシリア「ようやく、距離を取れたと思いましたのに……」
鈴「ようやく、体勢を崩せたのに……」
セシリア「いったい何が起きましたの!? グラウンドが火の海に…………」
鈴「わからないわよ! とにかくすぐにピットに戻るわよ」
セシリア「そうですわね――――――は、アラート!?」
セシリア「な、何ですの、この『所属不明のIS』というのは!?」
鈴「私も捕捉されたわ! ――――――何? 何なのよ!」
鈴「こんな異常事態、すぐに学園の先生たちが駆けつけて事態を収拾してくれるはず……!」
セシリア「――――――砲撃、いきましわよ!」
鈴「くっ!」
セシリア「BT兵器のレーザーを軽く上回る戦略級レーザー!?」
セシリア「そんなものが実装されているだなんて、それでは私の機体の存在意義が――――――」
鈴「何あれ? ――――――フルスキンのIS?」
山田「オルコットさん、凰さん! すぐにアリーナから脱出してください!」
山田「すぐに先生たちがISで制圧にいきます!」
セシリア「しかし、そんな悠長なことを言っていられませんわよ!」
鈴「来た! く、あれだけの出力のレーザーを雨のようにバラ撒くだなんて!」
鈴「先生たちはまだ来ないの!?」
セシリア「ああ……、エネルギーがもうすぐそこを尽きますわ!」
謎のIS「――――――」グッ
セシリア「…………はっ!?」ゾクッ
――――――不覚! 一生の不覚!
その時、セシリアは氏を覚悟した。目の前には謎の黒尽くめのフルスキンのISが立ちはだかり、視界いっぱいいっぱいのパンチが飛び込む!
鈴の『甲龍』の『龍咆』がある程度直撃していたが、そんなものをもろともせずに押し迫る巨大な魔の手!
セシリア「きゃああああ!」
鈴「倒れなさいよおおおおおお!」
謎のIS「――――――」
恐怖のあまりに縮こまるセシリア! だが、次の瞬間――――――!
――――――俺は関わる人、全てを守る!
鈴「え」
セシリア「……あ、あら? 攻撃は――――――?(そして、今の声は――――――)」
謎のIS「――――――!?」
――――――声が聞こえた。
40: 2013/09/28(土) 10:49:11.02 ID:mq5otnXP0
まさに一瞬の出来事だった。
セシリアがとりあえず助かったと理解した時には、目の前には背を向ける白い機体がそこにいて、黒いISの両腕がなくなっていたのである。
見覚えのある白い機体が握る太刀には光の刃が発生しており、今まさに自分の命を脅かした強大な悪の権化たる黒いISを一刀両断にするところであった。
何が起きたのか、目の前で起きたことが信じらなかったセシリアが鈴の方を見ると、鈴の方も同じような反応だった。
そして、白い機体は黒い機体の胸に光の刃を突き刺し、そのまま燃え盛るグラウンドの炎の中へと消えていったのだ。
セシリア「あ、――――――織斑一夏! 織斑一夏!」
鈴「一夏、応答して! ねえ!」
セシリア「こちらもダメですわ。あちらから通信を切っておりますわ」
鈴「これじゃ、どうなったのかわからないじゃない!」
セシリア「互いにエネルギー残量は残りわずか…………(ああ、織斑一夏――――――!)」
一夏「うううおおおおおおおおおお!」
謎のIS「!!??………… 」ガクッ
一夏「………………ふぅ」
一夏「――――――機能停止を確認!」
一夏「セシリア・オルコット、凰 鈴音――――両名の無事を確認!」
一夏「他の人命の損失も無し!」
一夏「やったよ、千冬姉……!」
一夏「――――――俺は守れたんだ」
鈴「ねえ、見て!」
セシリア「あれは――――――!」
山田「二人共、大丈夫でしたか!? 今、アリーナの機能が回復して、教師部隊が突入します!」
鈴「今更来られてもね…………」ハア
セシリア「あ…………」
煙の中から煌めく、青白さをまとった光の刃が天を向く。
それは全てが終わったことを表したサインだった。
そして、教師部隊が今更ながら到着したのを見て取ると、セシリアと鈴はホッと息を吐いたのだった。
しかし、次の瞬間には青筋の光の正体は煙が晴れていくのと同様に姿を消していた。
41: 2013/09/28(土) 10:50:36.80 ID:mq5otnXP0
――――――その夜
一夏「ふぅ、今日は二人の命を救えて万々歳だ」
一夏「他にもアリーナに居た全員が脅威に晒されたんだから、ISドライバーとしての実績は十分すぎるぐらいだな」
千冬「ああ、お前はよくやってくれた」
千冬「しかし、わざわざ教師部隊に隠れてあの場を去る必要はなかったんじゃないか?」
一夏「…………そのことなんだけどさ」
一夏「俺の勘だけど、あの二人は俺に好意を抱いている気がするんだ」
千冬「………………それで?」ヤレヤレ
一夏「あそこで命の恩人として印象付けたら、きっと一生俺についてきてしまいそうな気がして――――――」
一夏「俺は確かに“特別”だし、憧れを持って近づいてくるのは別に構わないけど……」
一夏「でも、住む世界や見えるものが全く違うんだよ、俺とあの二人とでは――――――いや、みんなと」
一夏「社交界の洗礼を受けたからわかるけれど、あの世界は今回の襲撃事件以上に陰湿でしんどい世界だ」
千冬「………………」
一夏「ほら、これ。お見合いのリスト」
一夏「このリストを見るとわかるんだけど、その人の父親や一族の職業、年収なんかの欄が自己紹介よりも大きく載っていてさ」
一夏「これを見る度に、俺と千冬姉を捨てた顔も知らない両親への言い知れない衝動が湧き上がっていってね……」
一夏「それに、セシリアは両親が氏んだ後、一族で財産の奪い合いを経験しているし、」
一夏「鈴の場合は、日本から離れた理由が離婚なんだって」
――――――嫌になるよ。男と女の関係っていうのが。
一夏「そんなのよりは、より多くの人々を守る役割がいいな。千冬姉や爺様がそうであるように」
千冬「そうか」
一夏「まあ、爺様からは結婚――――というよりは子供をもうけろって言われてはいるんだけどさ」
一夏「…………」フゥ
一夏「さて、あの無人のISはやっぱり――――――」
千冬「ああ、国際IS委員会が管理している絶対数:467のコアのどれでもないものだった」
一夏「篠ノ之博士が新しく開発したのか、それとも第三者が新造したのか――――――これからどうなるんでしょうね?」
一夏「今更ながら、俺はとんでもない世界に来ちゃったな……」
千冬「…………そうだな」
セシリア「あの時 聞こえたあの声は間違いなく……」
――――――俺は関わる人、全てを守る!
セシリア「そして、あんなにも『白式』の背中が雄々しく見えたのは、やはり私は――――――」
セシリア「そう、あの方はいつもいつも毅然としていて、それでいてそつがなくて――――――」
セシリア「きっと、私はあの方に――――いえ、私はもうあの方の――――――」
セシリア「…………織斑一夏」
セシリア「私は――――――」
42: 2013/09/28(土) 10:51:57.94 ID:5H8gBlq40
第2話 学年別個人トーナメント・裏
Wise Decision of Lord
――――――ある日の休日。
弾「一夏、生きていたのか! 本当に良かったぜ…………!」グスン
蘭「一夏さん! 私は一夏さんが帰ってくることを信じていましたよ!」グスン
一夏「ああ……、兄妹揃って泣くなよ」
鈴「本当にベッタリなのね、あんたたち」
弾「おお、鈴も帰ってきていたのか!」
一夏「いや、中国の代表候補生っていうことで滞在しているだけさ。でも、3年間は昔のように一緒にいられる」
一夏「それでなんだが、――――――何も言わずに転校していったこと、本当にすまなかった!」
一夏「どうやって詫びればいいか、俺にはわからない……」
一夏「だから、煮るなり焼くなり殴るなり、好きにしてくれ!」
弾「バカヤロー! こうやって無事ってだけで俺はそれで満足だよ!」ポロポロ
蘭「そうですよ! 何故転校してしまったのかは気になりますけど、こうしてまた会えただけで本当に嬉しいんですからね!」ポロポロ
一夏「ありがとう。そう言われて安心できたよ。ずっと気懸かりだったからさ」フゥ
鈴「よかったわね、一夏」
一夏「ああ、本当に…………」
弾「でも、何というか変わったな。気品が備わったっていうか、おどけた表情しかしていなかったのが嘘のように感じる」
蘭「そうですね。昔よりもずっと――――――」
一夏「そりゃ、どういう意味だ? 俺はいつもまじめに取り組んでいたつもりだけど?」
弾「あ、本質的にはあまり変わってないのね」
弾「………………鈴も気の毒に」ボソッ
鈴「何か言った?」ニコニコー
弾「な、何でもありません……」ニコー
一夏「???」
43: 2013/09/28(土) 10:53:15.12 ID:5H8gBlq40
山田「織斑くん、篠ノ之さん」ガチャ
箒「山田先生?」
山田「部屋の調整がついたんです。篠ノ之さんは別の部屋に移動です」
箒「ま、待ってください! それは今すぐでないといけませんか?」アセアセ
一夏「そうですよ。そういうことは早めに知らせてくれないと困ります」
山田「あ、そうでしたね。――――――ごめんなさい! 副担任の私のミスでした」
山田「とにかく、年頃の若い男女が同室で生活をするというのは、お互いにくつろげないでしょう?」
箒「そ、それはそうだが――――――」チラッ
一夏「山田先生、箒のルームメイトは誰です?」
箒「い、一夏?!」
山田「はい。鷹月 静寐さんですね」
一夏「ああ、『クラス一のしっかりもの』の彼女ですか。なら、安心だな」
一夏「箒。いずれはこうなることを重々承知していたはずだ」
一夏「環境は常に与えられるもの――――――そこから何を選ぶかは本人次第」
一夏「だから、環境に負けるな! 流され続けるな! 今のお前は“篠ノ之 箒”なんだから!」
箒「――――――あ。そうだな、わかったよ。おかげで目が覚めた」
箒「明日の放課後は暇をもらうぞ」
一夏「ああ、俺からも言っておいておくから、しっかりとルームメイトと仲良くするんだぞ」
山田「本当に、織斑くんは素晴らしいですね」
山田「やっぱり、姉弟揃って似てますね」
山田「うん。きっと織斑くんなら問題ありませんよね」
44: 2013/09/28(土) 10:54:50.76 ID:mq5otnXP0
――――――翌日
一夏「さて、今日で箒とのルームシェアも終わりか」
一夏「どうなることかと思っていたけど、楽しかった」
箒「ああ、私も、……楽しかったぞ」テレテレ
一夏「よしよし、恥ずかしがり屋の篠ノ之さん、よく言えました!」ナデナデ
箒「子供扱いするなぁ!」カア
一夏「ああ、……ごめん。俺の中で箒は小学生の時のまんまだったからさ……」
一夏「つい手が出てしまった…………紳士にあるまじき無礼、申し訳ありませんでした」
箒「あ…………」
一夏「さて、食堂に向かおう――――――ん、着信? こんな時に何だ?」ピピピ
一夏「すまない。先に行ってくれ」
箒「あ、ああ…………」ガチャ、バタン
一夏「ああ……、また呼び出しかよおおおおお!」
一夏「今度のはいつ? ああ……、また休日が潰れる…………」ハア
一夏「まあいい。腹ペコだし、早く食堂に行こう」
トントン
一夏「はい?(早朝から客人?)」ガチャ
箒「………………」
一夏「何だ? 忘れ物か?」
箒「……は、話がある」
一夏「それは、ここで言う内容か?(何だ、何故改まっている?)」
一夏「(――――――あ、なるほど! 今日で一区切りが付くことだから、それまでのお礼を言おうとしているのか!)」
一夏「(よかったよかった。恥ずかしがり屋の箒も成長しているんだな、うんうん)」ニコニコ
箒「来月の学年別個人トーナメントだが…………」
一夏「(――――――あれ?)」
箒「…………わ、私が優勝したら、」
――――――つ、付き合ってもらう!
一夏「…………はい?(????????)」
45: 2013/09/28(土) 10:55:38.63 ID:5H8gBlq40
一夏「(な、何の付き合いだって? まあ、俺は結構忙しいから休日なんかは誰かと遊びに行くなんてことできなかったしな……)」
一夏「(それに、――――――『優勝したら』? 何故そんな条件をわざわざ付ける?)」
一夏「(ああ、そうか。条件付けすることでこのアポの申し入れの優先度を上げるつもりだからか。頑張るなあ…………)」
一夏「(それにセカンド幼馴染の鈴と前に出かけたんだから、このまま何もしてあげなかったらファースト幼馴染の箒が可哀想だしな)」
一夏「わ、わかった。考えておくよ」(アポの予約という意味で)
箒「そ、そうかぁ!」キラッ
一夏「お、おう(やっぱり、昔のまんまだな、箒。素直じゃないんだから……)」
箒「よし! では、行くぞ、一夏!(――――――よし!)」ニコニコ
一夏「(だけど、お礼を言われると思ったのにちょっと期待外れ――――――っていうのは無しにしよう、うん)」ニコニコー
一夏「さあ、今日も張り切って行こう!」
箒「おお!」
46: 2013/09/28(土) 10:57:44.31 ID:5H8gBlq40
山田「今日はなんと転校生を紹介します!」
周囲「エ、テンコウセイ?」ザワザワ
一夏「へえ」
シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」
シャル「みなさん、よろしくお願いします」ニコッ
周囲「オ、オトコ?」
シャル「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を――――――」
周囲「キャーーーーーーー!」
箒「(――――――何!? それじゃ、私が部屋を追い出されたのは…………)」
シャル「え?!」ビクッ
一夏「…………?(何だ、この違和感は…………)」
千冬「騒ぐな! 静かにしろ」
周囲「…………」
千冬「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合」
千冬「それから、織斑」
一夏「――――――了解しました」
千冬「なら、いい。では、解散!」
シャル「きみが織斑くん? 初めまして僕は――――――」
一夏「挨拶はいい。女子が着替え始めるからこの場は早く移動しないといけないんだ」パシッ
シャル「うわっ」
箒「………………」ジー
セシリア「………………」ジー
一夏「――――――痛かったか?」
シャル「……あ、ううん、大丈夫」
一夏「どんな生活をしてきたかは知らないけれど、人類の半分が経験し得ないヒミツの花園にようこそ」
一夏「俺たちは“世界で唯一ISを扱える男性”だから珍獣のように扱われるから、覚悟しておけよ」
シャル「あ、うん。そうだね」
一夏「…………ともかく、IS学園は実質女子校だから、男性の俺たちには不便なところは多いけど、早めに慣れてくれよな」
シャル「うん。わかったよ、織斑くん」
女子「キャーー!」
一夏「みんな? これからIS実習だから道を開けてね」
一夏「そういうのは放課後にね」ニコッ
女子「ハーイ!」
47: 2013/09/28(土) 10:59:23.39 ID:mq5otnXP0
一夏「問題なく到着できたな。更衣室が遠いから、実習がある日は本当に大変だ」
一夏「これから毎日、女の子に付きまとわれることになるから、ちゃんと自分の意思で受け答えするんだぞ」
一夏「付きまとわれて嫌ならちゃんと嫌って答えるように」
シャル「うん。わかったよ」
一夏「それじゃ、これからよろしくな」バサッ
シャル「―――――― 一瞬で着替えた!?」
一夏「驚いたか?」
一夏「この学園の制服はカスタムメイドできるから、あらかじめISスーツを着ておいてすぐに脱げるように加工しておいたんだ」
一夏「いやー、こういうのには憧れていたからさ……」
一夏「あとはロッカーに畳んだ制服をしまってっと」バタン
一夏「それじゃ、遅れるなよ――――――って、シャルルもマスターしていたのか!?」
シャル「まさか、僕と同じことを考えていた人がいただなんてホント驚いだよ」
一夏「ほほう、お主、なかなかの腕前と見た。それじゃ、行こうか」
シャル「うん、織斑くん」
一夏「そういえば、フランスから来たってことはデュノア社からの後援を受けているのか?」
シャル「そうだよ。父がそのデュノア社の社長をしているんだ」
一夏「……へえ、デュノア社の御曹司だったわけか」
一夏「となると、『ラファール』乗りなのか?」
シャル「うん、そうだよ」
一夏「ここの学園も『ラファール』を採用しているけど、それとはいろいろ違うんだろうな」
一夏「楽しみだな。拡張領域の多さを活かした『ラファール』乗り十八番の戦法『高速切替』!」
シャル「楽しみにしててね。結構自信があるから」
48: 2013/09/28(土) 11:01:20.86 ID:5H8gBlq40
――――――同日、放課後
箒「それじゃ、一夏……」
一夏「ああ、今までありがとう。これは餞別だ。上手いことやっていってくれ」
箒「」チラッ
シャル「おーい、織斑くん」
箒「」イラッ
箒「ああ、ありがとう。それじゃ」
一夏「うん(何だ……? 少し苛立っていたな)」
シャル「さっきの人って、確か“篠ノ之博士の妹”の箒さん? IS実習の時、お姫様抱っこされていたよね」
一夏「ああ、そうだよ。俺とルームシェアしていた相手だ」
シャル「え!?」
一夏「(さて、コイツには俺が財閥総帥後継者であることを――――いや、デュノアと爺様がどの程度の面識なのか確認しておかないとな)」
一夏「それじゃ、学園を案内してあげるよ。次いでに、ここの女の子の扱い方を伝授してやろう」
一夏「俺とシャルルはもしかしたら生涯に渡る付き合いになるかもしれないし、少なくともここでは俺とのペアは当たり前になるだろうから、」
一夏「ISドライバーとしての健全なお付き合い、よろしくお願いします」ニコッ
シャル「あ、うん。こちらこそ、よろしくね」
一夏「さて、もうそろそろ部屋の整理が終わる時間だし、軽く学園を見て回ろう」
シャル「うん」パシッ
一夏「………………?(今、自然と俺の手を掴んだよね? そういう子なのか?)」
一夏「(まあ、ともかく行ってみるか……)」
一夏「(だけど、セレブ出身だからわかるんだけど、デュノア社社長の御曹司にしては立居振舞が不自然なところがあるな……)」
一夏「(何だか社交界にデビューしたての自分を見ているようで――――――ん!?)」
――――――まさか、俺と同じ!?
49: 2013/09/28(土) 11:03:05.99 ID:mq5otnXP0
――――――部活棟にて。
一夏「一通り、部活動は見てこられたかな? シャルルは何か部活するの?」
シャル「まだ、決まらないかな? そういう織斑くんはどうなの?」
一夏「俺はその、無理だと思う。俺のスポンサー、結構呼び出しかけてくるからさ」
一夏「今日もまた、呼び出しを受けたよ。今度のは平日じゃないからいいけど、……大変だよ、本当に」
シャル「へえ、そうなんだ…………」
一夏「…………さて、ここは音楽部、かな? ――――――グランドピアノに社交ダンスするのに打ってつけの空間」
シャル「え? ――――――社交ダンス?」ビクッ
一夏「珍しくもないだろう? 俺は“世界のオリムラの弟”だから、千冬姉に連れられて社交パーティに行ったことがあるんだよ」
シャル「あ、そういうこと……」
一夏「(もちろん、嘘だよ。俺は『あの日』までほとんど千冬姉の世界とは無縁の生活をしてきたんだから)」
一夏「さて、初めて来たけど、少し演奏してみるか」
シャル「ピアノ、弾けるの!?」
一夏「ははは、昔取った杵柄だから上手くいくかはわからないけど(――――――うっかりしてた。喋り過ぎたな……)」
一夏「よし、シャルルはそこに掛けて――――――」
一夏「では、聴いてください」
――――――チャイコフスキー作、『くるみ割り人形』より“花のワルツ”。
シャル「あ、聞いたことのあるメロディー」
シャル「へえ、これが『くるみ割り人形』が有名な理由か……」
一夏「(結構憶えているもんだな。最初の頃ぐらいだよ、ピアノの演奏会なんて)」
一夏「(懐かしいな。最初に爺様や千冬姉に聞いてもらった時は、必須スキルじゃないと言ってはいたけれど、二人共褒めてくれた)」
一夏「(小学校の時、ピアノの稽古に行く連中を少し小馬鹿にしていたけど、やってみると凄く楽しい!)」
50: 2013/09/28(土) 11:04:22.72 ID:5H8gBlq40
一夏「(――――――フィニッシュ!)」フゥ
一夏「」ニコッ
パチパチパチパチパチパチ
一夏「おお……いつの間にかギャラリーが」
シャル「…………感動した。凄いよ、一夏」グスン
女子「オリムラクン! オリムラクン!」
一夏「ありがとう、ありがとう!」
一夏「ふう…………」
女子「オリムラクン! コンドハオドッテー!」
女子「ワタシガカワリニヒキマスカラー」
一夏「え? 社交ダンスをするって?」
女子「オリムラクン! ワタシ、ワタシ!」ギャーギャーワーワー
一夏「さすがに、この数のお相手はキツイな…………」
一夏「申し訳ありません! さすがに全員のお相手をするのはキツイです」
女子「エー! ジャア――――――」ジー
シャル「え?」
女子「デュノアクン、オネガイ!」
シャル「ぼ、僕……?」
一夏「ははは、何かごめんね?」
シャル「だ、大丈夫だよ! 僕もそれなりに社交ダンスできるから!」
一夏「あ、ああ…………(あれ――――――?)」ガシッ
一夏「それじゃ、軽くロール…………」
シャル「う、うん」ドキドキ
一夏「(あれ? 今さっき、自分から俺の左手を掴んだよな?)」クルクル
一夏「(しかも、これは明らかに言い逃れできないぐらいのレベルだぞ!?)」クルクル
一夏「はい、ポーズ!」
シャル「ど、どうだったかな、みんな?」ドキドキ
女子「キャーーー! ステキー! サイコー!」
女子「オリムラクントデュノアクン、ビケイガフタリ!」
女子「IS学園に入ってよかったー!」ワーワー
シャル「よかった」フゥ
一夏「………………(間違いない。やっぱり…………!)」
51: 2013/09/28(土) 11:05:24.46 ID:mq5otnXP0
一夏「ふぅ、男同士っていうのはいいものだな」
一夏「やっぱり、人間というのは不便なもんだよな。ずっと“ある”ことの偉大さを噛み締めていられればいいのに」
シャル「紅茶とはずいぶん違うんだね。不思議な感じ。でも、美味しいよ」
シャル「そういえば、織斑くんは放課後にISの特訓をしているって聞いたけど、そうなの?」
一夏「ああ。けど、俺はISドライバーを本業にするつもりはないから、ISよりも剣の稽古がしたいな」
一夏「でも、クラスメイトが頑張っていることだし、今のところはこうやって戦術論の研究をしているんだけどね」
シャル「僕も加わっていいかな? 型は古いけど『ラファール』だからいろいろな戦術の研究に役立てると思うんだ」
一夏「…………ああ、ぜひ頼む。ここの専用機持ちは万能型がいないから」
シャル「うん、まかせて」
一夏「それじゃ、今夜はおやすみなさい」
シャル「うん。今日はいろいろとありがとう。明日からもよろしくね」
52: 2013/09/28(土) 11:07:02.76 ID:5H8gBlq40
――――――真夜中の屋外
一夏「やっぱり個人情報が…………」プルル、カチャ
一夏「――――――爺様? 今日、フランスのデュノア社から代表候補生が転校してきたんだけど」
爺様「ほう?」
一夏「名前はシャルル・デュノア。デュノア社社長の息子らしいんだけど、何か知らない?」
爺様「ほう、あのデュノアに息子……」
一夏「どうにも釈然としないんですよね」
一夏「まず、転校してきた時期――――――」
一夏「“世界で唯一ISを扱える男性”を擁するメリットはデュノア社ほどの大企業ならばデメリットを考慮してもお釣りが来るぐらいだ」
一夏「こういうのは話題性を考えても2番じゃダメなんだ。先手必勝――――先駆者になることで主導権を握らないと意味が無い」
一夏「それが何故、“俺が現れた後”に出てきたのか?」
一夏「次に、学園が管理しているはずのプロフィールに、シャルル・デュノアのデータが無かった」
一夏「もうこれだけで疑わしい…………」
爺様「ふむ」
一夏「――――――決定的な証拠が欲しい。例えば、デュノア社からIS学園への投資金が増えたとか、そんな感じの」
爺様「……今、デュノア社は経営危機に瀕しているいるからな。なりふり構わず打って出たというところだろうな」
爺様「――――――だが、織斑一夏」
一夏「何、爺様?(この声色は――――――)」
爺様「これでお前は、デュノア社、そしてシャルル・デュノアの命運を握ることになった」
爺様「お前はそのことをどう受け止めるつもりだ?」
一夏「……え?」
爺様「デュノア社はどのみち破滅する運命にあるのは確実だろう」
爺様「“たまたま”『ラファール・リヴァイヴ』というベストセラーが出ただけで、その上で胡座をかいていたのだからな」
爺様「滅ぶべくして滅ぶというわけだ」
爺様「だが、――――――それでも、だ」
爺様「“今”滅びるか、“後”で滅びるかで状況は必ず変わっている」
爺様「そのことをよく考えた上で、そういうことは行いなさい」
爺様「お前の要求は受け取った。ではな」ガチャ
一夏「………………あ」
一夏「……そうだった。俺は財閥総帥後継者だ」
一夏「爺様が俺にしたように、――――――誰かの環境を変えられる存在」
一夏「自分がしようとしていたことの意味を――――人の首を切ることの意味を軽く捉えていた…………」
一夏「胡座をかいていたのは俺だった…………」
一夏「俺は無自覚のうちに多くの人の人生を――――――人頃しをしようとしていたのか…………」ゾクッ
一夏「この手で身近な誰かを救ったことで思い上がっていたのか…………」ブルブル
一夏「これは重要な案件だな…………俺が財閥総帥後継者に足るかを問う――――――」
一夏「………………」ヨゾラヲミアゲル
一夏「焦ることはない。卒業するまでに考え抜こう…………」
53: 2013/09/28(土) 11:08:50.88 ID:mq5otnXP0
一夏「うんと、月末に学年別個人トーナメントがあってだな……」
一夏「俺自身のISドライバーとしての箔は非公式ながらあの襲撃事件で付いたことだし、」
一夏「――――――俺は参加しない」
一夏「こちらとしてもお呼び出しで忙しいしな」
一夏「財閥のIS部門は、俺がISドライバーでいられるうちに直接的に多くのミッションをしておきたいという考えだしな」
一夏「さて、行こうか。今週から、大会に参加する面々のサポートも本格化させていかないとな」
一夏「で、休日は楽しい楽しい本格サバイバルゲーム…………」トホホ
――――――アリーナ
一夏「効率良く勝つんだったら、『打鉄』の特性をよく把握すればいいのです」
一夏「その点、射撃武器が搭載されている機体は有利ですね」
一夏「私の見立てだと、セシリアさんと鈴さん――――専用機持ちの独壇場になっちゃうかなー」
セシリア「当然ですわね」
鈴「格の違いってやつよね」
セシリア「まあ、たとえ専用機持ちでも私の足元には及びませんけどね」
鈴「はあ? あの時、横槍を入れられなかったら勝っていたのは私なのに?」ゴゴゴゴゴ
セシリア「そうだったかしら? 自分から撃たれに来ていたように思いましたけど?」ゴゴゴゴゴ
一夏「はい、そこまで」
箒「く……(――――――確かに、専用機は強い。しかし、山田先生がやってみせたようにやりようはあるはずだ!)」
一夏「だけど、接近戦に持ち込めれば箒さんの技量なら独壇場になるはずですから、箒さんも諦めずにいきましょう」
箒「ああ、もちろんだとも!」
一夏「セシリアさんも鈴さん。今はISに不慣れな初心者しかいないけど、来年になったらわかりませんから、気を抜かずに研鑽してくださいよ」
セシリア「あ、はい!」
鈴「って、言われなくてもわかっているわよ!」
一夏「なら、いいのですが……」
54: 2013/09/28(土) 11:09:31.29 ID:5H8gBlq40
シャル「織斑くん!」
一夏「お、シャルルか。デュノア社ご自慢の『ラファール・リヴァイヴ』か」
一夏「なるほど、軍用機とは違って純粋に競技用としての性能を重視した感じか」
シャル「うん、そうだよ。『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』――――それがこの機体の正式名称」
一夏「シャルルは大会に出るのか?」
シャル「うん。そのつもりだよ」
一夏「そっか。それじゃ、優勝はシャルルで決定だな」
シャル「そ、そうかな…………」
一同「――――――!?」
セシリア「そ、それはどういうことですか!?」
鈴「専用機だからって、――――――第2世代型ISよ、それ!」
箒「そうだぞ、一夏! 何も知らないのにどうしてそんなことが言える!」
一夏「おいおい、シャルルが転校した初日に二人掛かりで挑んで山田先生の『ラファール』にまとめて撃ち落とされたのは誰と誰ですか?」
セシリア「あ、あれは、その――――――」
鈴「……偶然よ、偶然! 次は負けないんだから!」
一夏「理由は言わない。それを言って、戦意喪失してもらっては困るからね」
一夏「むしろ、食って掛かるぐらいの勢いで戦力差を埋めて欲しい」
一同「………………」
55: 2013/09/28(土) 11:10:55.62 ID:5H8gBlq40
シャル「ところで、織斑くん? 僕、『白式』と戦ってみたいんだ」
一夏「え? 私は大会には出ないつもりだよ?」
箒「一夏、たまに全力を出してみたらどうだ? 私との朝稽古の時のように」
セシリア「そうですわ! これだけ長い付き合いですのに、『白式』がどれほどの性能なのかまったくわかりませんし」
鈴「そうね。たまにはコーチの実力というものを見せて欲しいわね」
一夏「いや、戦うまでもないだろう? 相手は万能型――――――いや、何でもない(ここで逃げたら、みんなに悪影響だな)」
一夏「わかった。では、模擬戦を開始するので、安全な場所に退避してください」
シャル「じゃあ、いくよ、織斑くん」
一夏「おう」ジャキ
セシリア「え? 何ですの、あの不思議な構え方は? まるでサムラーイのように剣を腰に下げるように……」
箒「――――――居合の構え? IS用の太刀で抜刀するつもりなのか、一夏!?」
鈴「あ、量子化しちゃったわよ!? 丸腰じゃない!」
シャル「え、織斑くん?」
一夏「大丈夫だ。それじゃ、カウントスタートだ」
3,2,1,パーン
両者向き合って、最初に接近戦に持ち込んだ。
だが、次の瞬間――――――、
シャル「行くよ――――――は、早い!?」
一夏「――――――」ズバン
シャル「(シールドエネルギーが一瞬で半分も無くなった……!?)」
一夏「――――――」ドカッ
シャル「うわあああ!(え、ここまで押し飛ばされるなんて…………)」
一夏「――――――終わり」ズバン
シャル「え!?」(戦闘続行不能)
周囲「――――――え?」
箒「…………は」ポカーン
セシリア「」カオヲミアワセル
鈴「」カオヲミアワセル
それはまさに一瞬だった。
試合時間わずか5秒にも満たない一瞬だった。
自分が推した大会優勝候補をまさかの秒殺である。
これには誰もが目を疑った。何かの間違いなんじゃないかと。
何が起きたのか、対戦相手であるシャルルでさえ一瞬のことだったので理解できなかった。
誰もがこの一瞬に慄然とする中、織斑一夏は周囲の驚愕をよそにいつもの表情を絶やさなかった。
そして、さらりと言うのだった。
一夏「――――――わかった? 一瞬でも気を抜くと誰でも敗けるってことがさ」
56: 2013/09/28(土) 11:12:28.04 ID:mq5otnXP0
読者のために、あの一瞬で何が起きたのかを説明すると、
開始直後にまず互いに接近戦を挑もうとしたわけだが、
一夏の『白式』はイグニッションブーストで急接近して、シールドを貫通する『零落白夜』による居合斬りを放ったのだ。
シャルルは認識できなかった。気づいたら、押し飛ばされてそれで負けていたのだ。
最初の接近で、予想接触時間を遥かに超えたスピードによって不意を突かれて、
接近してからどうしようかと遅れて考えているうちに、
シールドエネルギーが半分無くなり、
次の瞬間には居合斬りを終えてそのままの勢いで体当りしてきた『白式』に押し飛ばされ、
そして、状況の整理が付かないうちに押し飛ばされて更に混乱しているうちに、
一夏は再び距離を詰めて神速の居合斬りを放ったわけである。
次の展開を思考→超スピード→驚く→エネルギー半分消失→動揺→押し飛ばされる→混乱→とどめ→ポカーン
この早業は織斑一夏と『白式』だけが使える単一仕様能力『零落白夜』によって初めて実現された恐るべき殺陣であるが、
――――――“それだけではない”ことはご理解いただけるであろう。
織斑一夏としては、これ以外勝てる方法が無かったので非常に手に汗握っていた。
それだけに闘志をみなぎらせていた一瞬だった。
剣道には、次のような考えがある。
――――――鍔迫り合いの前後が一番に気が緩む。
鍔迫り合いというのは一種の膠着状態を生み出し、互いにとって攻撃されづらい無意識に安心してしまう一時となってしまう。
剣道のみならず、至近距離での掴み合いはクリンチと呼ばれ、ボクシングやK-1など投げ技が認められない格闘技では見栄えが悪いので制限されている。
そういう側面があるために、休憩や時間稼ぎの鍔迫り合いとみなされた場合、剣道では反則となるのだ。
特に、ISは絶対防御が働いている上に一撃で戦闘不能になることはまずないので、
しっかりとした装備で臨んだ上での試合開始直後の接近戦では心の何処かに大きな隙が生まれているものである。
織斑一夏が最初の一合に全てを賭けたのは、相手の方から距離を詰めてくれる以上に、この奇襲が確実に成功するのは開始直後のみと踏んでいたからである。
――――――そこにしか勝機がないからである。
だが、おそらく単一仕様能力『零落白夜』による規格外の攻撃力がなくともこの戦法で確実に出鼻をくじいて追い詰めたことだろう。
それだけの力量を備えていたということである、この織斑一夏は。
57: 2013/09/28(土) 11:13:45.70 ID:5H8gBlq40
――――――同日、食堂にて
シャル「あれだけ強いなら大会に出たらいいと思うんだけど……」
女子「モッタイナイナー」
一夏「私は代表候補生じゃなくてただのテストパイロットなので、私自身はそこまで強さは求めていないんです」
一夏「それにスポンサーの意向が強くて、いつ呼び出しが来るかわかりませんし」
一夏「それで、私の当面の目標は、代表候補生が無事に代表操縦者になれるように同じ目線に立って指導することなんですよ」
鈴「それじゃあ、あの一件の時と言い、先生たちの立場がないじゃない(でも、それはそれでカッコイイじゃない!)」
箒「そうか。相変わらず大変だな(知ってはいたけれど改めて聞かされると、一夏は本当に別の世界の住人になってしまったように感じられる…………)」
セシリア「残念ですけれど、しかたがありませんわね(ああ……、また私と踊ってくださらないかしら…………)」
一夏「悪いね。今週の休日もお呼び出しだ」
シャル「そうなんだ…………」
一夏「(そう、これが俺がIS学園で目指す実績――――――というより、人の上に立つ者として必要な指導力を得るための練習台だがな)」
一夏「(そして、スポンサーの方針で極力『白式』の戦闘は抑えるようにも言われている)」
一夏「(俺が“特別”でかつ立場上扱いやすいテストパイロットだから、そのデータをスポンサーが独占したいわけだ)」
一夏「(だから、お呼び出しが他よりも多いわけで――――――はっきり言えば、別にIS学園に在籍する必要は全くない)」
一夏「(しかし、ここで得られる人脈は魅力的というわけで、俺は社会勉強も兼ねて在籍させられているわけだ)」
一夏「(この辺が、開発国の優越だな)」
一夏「(他国が遠路遥々 代表候補生をIS学園に送り込んで必氏に新技術の運用データを収集しているところを、俺はコーチングを理由にじっくりたっぷりとやすやすとデータを共有して、)」
一夏「(俺は国内のスポンサーとの提携を深めながらお呼び出しを受けて、運用データを外部に漏らすことなく、質の高い短気集中訓練でパワーアップしている)」
一夏「(つまり、俺と『白式』のデータを欲しがっている連中に吠え面をかかせているわけだ)」
一夏「(そして、――――――代表候補生ではないことがミソだ)」
一夏「(代表候補生は代表操縦者への登竜門なので、操縦技術の高さを競う必要があり、必然と公の戦闘実績が必要となってくる)」
一夏「(しかし、ただのテストパイロットなら戦闘実績は求められていないので、必然と武功の箔をつける必要がなくなってくる)」
一夏「(それに戦闘実績の箔はあの襲撃事件のおかげで付いたし、今回のシャルルとの模擬戦で不動のものとなった。これでもう、俺の評価と信望がどん底に落ちることはない)」
一夏「(それに俺自身が個人の強さの限界を噛み締めているからこそ、マンパワーを活かす立場を選んでいるんだ)」
一夏「(頭を悩ませることが多いけれども、財閥総帥後継者としてバッチリ捌いてみせる!)」
一夏「(それが、俺が関わる人全てを守ることに繋がるのだから――――――!)」
58: 2013/09/28(土) 11:16:13.24 ID:mq5otnXP0
――――――休日、要人護衛ミッション
一夏「なんて理不尽さ――――――!」
一夏「ヘリに向かって発射されたスティンガーミサイルを撃墜しろとか…………俺はいつSPの仕事人になったんだよおおおお!」
一夏「くそ、こんなミッションは万能型の『ラファール』でやればいいんだよ!」
一夏「拡張領域がゼロのこの機体じゃ、誘爆覚悟で斬り落とすしかないじゃないか!」
一夏「だけど、こういうのは『白騎士事件』を思い出すな…………」
一夏「部分展開、部分展開、部分展開…………高速展開、高速展開、高速展開…………」
敵役「氏ねえええええ!」ダダダダダ
要人「うわ!? テ口リストが銃を乱射してきたぞ!」
一夏「専務!」バッ
一夏「シールド展開範囲を拡大!」
SP1「敵グレネード!」
一夏「グレネードなんか! 雪片で軽く弾く!」
一夏「弾いた――――――今です! 迎撃してください!」
SP1「おまかせを!」パン
SP2「狙いは外さない!」パン
敵役「うわああああああ!」(氏亡判定)
SP1「ターゲットの撃破を確認!」
SP2「クリアー!」
一夏「その他の反応なし!」
一夏「これからどうします? このまま展開していきますか?」
SP1「目標地点まであとわずか」
SP2「若様、シールドエネルギーはどれくらい残ってます?」
一夏「9割残っています。レールガンやアンチマテリアルライフルでもない限りは致命打になりません」
要人「た、大切なのは私を五体満足で送り届けることだぞ!?」
一夏「ただ送り届けるだけなら『白式』のシールド展開範囲を最大にして一点突破を図ればいいけど……」
SP1「そこまで実戦は甘くない」
SP2「第一、シールドの範囲を広げても絶対防御の範囲までは変えられないから、抱え込んだ要人がビビってオモラシする可能性もある」
一夏「『白式』に拡張領域があれば、後付装備で部隊の目や盾になれるのにな…………」ハア
要人「全くその通りだ! 飛び道具が主役の現代戦で格闘戦しかできないなんて、ただの的じゃないか!」
SP1「ボヤいてもしかたない。最高精度のライフルが競技で華々しい戦果を挙げても、実戦で役に立たないように――――――」
SP2「『白式』は元々欠陥機だしな…………競技用としてまともな性能を発揮できていること自体が奇跡なんだし」
要人「…………拡張領域ゼロの機体などすぐに初期化したいところだが、単一仕様能力を発現してしまっては」ハア
一夏「では、行きましょう」
59: 2013/09/28(土) 11:17:50.02 ID:5H8gBlq40
一夏「無事に要人護衛ミッションが終わったと思ったら、ISで射撃訓練…………」
一夏「トリガーガードを外しているからガントレットでも銃爪をちゃんと引けるけれど、使う機会は一切無いだろうな…………」
一夏「しかし、展開している状態では生身の時と撃ち方が変わってくる」
一夏「ISはPICで空中静止しながら撃つことができるから銃床や銃架が要らないし、」
一夏「反動を抑えこむのが容易だから、アンチマテリアルライフルも楽々撃てる」
一夏「さすがパワードスーツだ。生身ではできないことを容易にやってのける」
主任「そろそろいいでしょう。次はこの装備を試してくれ」
一夏「ようやく、IS用装備か」ジャキ
一夏「…………使いづらい! 照準器すら入っていないから、それを前提にしたレーザー誘導式じゃまるでダメだ!」
一夏「それに、マニュアル射撃しようにも人間用のに慣れていたから、でかくて取り回しが悪い!」
主任「なら、このデバイスを」
一夏「なるほど、照準器が入ったデバイスゴーグルなら――――――ってこれ、同期が上手くいってませんよ!」
主任「誰だ、こんなものを造ったのは!」
一夏「結局、『白式』には旧来のマニュアル射撃が有効ということなのか……」
一夏「量子化できないならIS用の装備は『白式』には無用の長物だな……」
主任「しかし、今回の運用データから人間・IS両用デザインの開発の目処が立ちましたよ」
主任「純粋なパワードスーツの装備を前提としたものよりは威力や照準精度は落ちますが、汎用性は今まで以上に上がることでしょう」
一夏「爺様は、俺がトニー・スタークを演じることを望んでいるのか……?」
一夏「とにかく、それを訓練以外で使うような状況がこないことを祈ります」
60: 2013/09/28(土) 11:19:04.78 ID:mq5otnXP0
――――――シャルル・デュノアの転校から週明け
山田「えっと……、今日も嬉しいお知らせがあります」
山田「また一人、クラスにお友達が増えました」
山田「ドイツから来た転校生の、ラウラ・ボーデヴィッヒさんです」
ラウラ「………………」
周囲「ドウイウコトー?」
山田「みなさん、お静かに! まだ自己紹介が終わっていませんから」
千冬「挨拶をしろ、ラウラ」
ラウラ「はい、教官」
一夏「(教官――――――それじゃ、この子は千冬姉がドイツに居た時のか)」
ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
山田「あ、あの……、以上ですか?」
ラウラ「以上だ」
一夏「ラウラさんに質問」スッ
山田「あ、織斑くん」
一夏「あなたは代表候補生ですか? それとも代表操縦者ですか?(この場合、軍人はどういう扱いになるんだ?)」
ラウラ「貴様が、織斑教官の…………」ジロッ
山田「あ、それについては、代表候補生としての転校となっています、織斑くん」
一夏「それじゃ、ラウラさんは最近 IS業界の注目の的になっている第3世代型ISの専属ってことなんですね?」
周囲「――――――!?」
箒「ど、ドイツの第3世代型だと…………!?」
セシリア「コンペティションで最強の格付けをされた、あの『シュヴァルツェア・レーゲン』――――――!?」
周囲「」ザワザワ
61: 2013/09/28(土) 11:20:22.91 ID:5H8gBlq40
ラウラ「………………」ジー
一夏「………………」ジー
シャル「ど、どうしたんだろう、二人共……」
山田「あ、あの……、ラウラ・ボーデヴィッヒさん?」
ラウラ「――――――少しはやるようだな」
ラウラ「だが、織斑一夏。これだけは覚えておけ」
ラウラ「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、」
ラウラ「――――――認めるものか」
一夏「そう」ニコー
周囲「――――――!?」ザワザワ
一夏「ところで、ラウラさんも知っているだろうけど、月末に学園名物の学年別トーナメントがあるんだ」
一夏「私は、優勝はもちろん専用機持ちが代表操縦者になれるように指導しているから、ラウラさんもどう?」スッ
ラウラ「――――――!」ギリッ
ラウラ「そんなもの、必要ない!」バチン
シャル「織斑くんの手を払いのけた……!(それなのに、全く意に介さない織斑一夏……)」
一夏「気が変わったらいつでもどうぞ」
ラウラ「…………私は貴様を許さない! 貴様は排除する」ゴゴゴゴゴ
一夏「ああ、用心するよ」
山田「あ、あの…………」オドオド
千冬「山田先生、転校生のことはこれで終わりだ。さっさと授業に移るぞ」
山田「あ、はい!」
箒「(いったいあの二人にどんな因縁があると言うのだ…………)」
セシリア「(物凄く険悪そうな雰囲気でしたわ。今にも殴りかかりそうなぐらいに……)」
シャル「(織斑一夏、普段何を考えているかは未だにわからないところがあるけれど、これは一波乱ありそう……)」
62: 2013/09/28(土) 11:21:21.99 ID:5H8gBlq40
一夏「さて、ラウラ・ボーデヴィッヒについて、教官を務めていた千冬姉に訊ねておくか」
一夏「…………先客がいたか」ガチャ
ラウラ「む、織斑一夏!」ギロッ
ラウラ「よくも、よくもよくも、私の教官を…………!」タッタッタッタッタ
一夏「おおう、怖い怖い…………本職は凄みが違う」ガチャ
千冬「む? 来たか、織斑」
一夏「織斑先生。確認しておきますけど、IS以外の兵器の持ち込みは無かったですよね?」
一夏「俺、お呼び出しで特殊部隊の訓練を受けているといっても、相手は本職だからあっさり殺されそうなんだけど……」
千冬「ラウラが事を荒立てるようなことは私が目の黒いうちはさせん」
一夏「大人しくしていればいいのですが…………」
一夏「しかし、織斑先生も問題児をこうもたくさん抱えて大変でいらっしゃる」
一夏「1組だけ、専用機持ちがこれで4人になってしまった……」
千冬「気にするな。それが私の役目だ」
一夏「最初の1年は代表候補生をクラス毎に一人ずつに分けるのが普通なのに、」
一夏「一人だけ順当に割り振られた鈴がかわいそうだ……」
一夏「俺はまあ、“特異ケース”だから織斑先生が直々に面倒を見ることになったのは互いに承知しているけれど、」
一夏「シャルルとラウラの場合も配慮があってのことなんでしょう?」
千冬「…………まあな」
一夏「シャルルの場合は、俺とコンビを組ませやすくするために同じクラスに編入させた」
一夏「そしてラウラは、明らかに他では手に負えないから織斑先生が引き取った」
一夏「俺、灰汁の強い専用機持ちを率先してまとめあげようとしてきたけど、織斑先生はどう思いますか?」
一夏「財閥総帥後継者として人の良し悪しを見極め、適切に指導するための訓練として付き合っているけれど……」
千冬「いや、私からは特に言うことはない。それに評判は聞き及んでいる」
千冬「――――――私はお前を誰よりも信頼している。空回りしないようにしっかりと見据えていけ」
一夏「ありがとうございます」
――――――でも、俺はラウラのこと、嫌いです。
63: 2013/09/28(土) 11:22:26.70 ID:mq5otnXP0
――――――ある日のアリーナ
一夏「よし、いい感じだぞ、みんな!」パンパン
一夏「それぞれの機体の長所と短所を把握してから、戦い方が洗練されてきた」
一夏「箒さんの剣筋は戦っていて恐ろしいと思うぐらいだ」
箒「そ、そうか。そこまで私は上達していたのか……」グッ
一夏「元々身体能力が高いんだから、慣れればこんなもんだったね」
一夏「セシリアさんも、『ブルー・ティアーズ』の使い方が上手くなった」
一夏「これなら不得意な接近戦も完全な氏角には成り得なくなった。迎撃用ミサイルも温存できて自衛力は十分ですね」
一夏「さすがは、エリート中のエリートです」
セシリア「もう、そんなにおだてても何も出ませんわよ」テレテレ
一夏「鈴も適切な間合い取りがうまくなった」
一夏「射角が無限なのに頼り過ぎてスピードに翻弄されるということも無くなったし、格闘機として申し分ない」
鈴「ふっふーん。いつまでも昔のままだと思わないことね、コーチ」ドヤッ
一夏「シャルルは、…………言うことないか」
一夏「うん、完成された芸術品だ」
シャル「それだけなのはちょっと不公平……」ムスッ
一夏「え?」
シャル「何でもないよ、織斑くん!」
シャル「はい!」スッ
一夏「え? どうしたの、手なんか出して?」
シャル「僕の操縦技術を評価してくれているならさ、その……」モジモジ
シャル「――――――ぼ、僕と踊ってくれない?」
一夏「は?」
セシリア「シャルルさん!?」ドキッ
鈴「――――――お、踊る? ISで? 男同士で?」
箒「…………一夏、これはどういうことだ!?」ゴゴゴゴゴ
一夏「誰から聞いたのかは知らないけれど、あれは相当キツイぞ……?」
シャル「え――――――う、うん! 僕、自信があるから! 早く、手をとって、コーチ!」
一夏「言っていることの意味が本当にわかっているのか? ――――――男と男だぞ?」
シャル「じ、実は、この前の続きが見たいって声がね……」ドキドキ
一夏「そういうことならしかたがないのかな…………」ガシッ
一夏「(まさか、相手を変えてまたできるなんて光栄だけど、やっぱりシャルルは…………どうしておこうかな?)」
64: 2013/09/28(土) 11:24:44.31 ID:mq5otnXP0
一夏「えと、とりあえず、どの程度のものか見せてもらおうか? 俺はメンズしかできないから、シャルルがレディースになってくれるのか?」
シャル「う、うん。僕、こんな中性的な顔付きで背丈も低いからそれで結構からかわれてね……」
一夏「大変だな、美男子っていうのも……(やっぱり、自分から抱きつきにきてるな…………)」
一夏「1,2,3、1,2,3……(しかし、『白式』の指先は痛いだろうな。仕様変更してもらえないかな……)」クルクル
シャル「………………」ドキドキ
一夏「よ、よし。緩やかに角度を付けて落ちていくぞ(前みたいに身体が鋭角向いて落下していくのはごめんだからな)」
シャル「う、うん…………」ウツムク
一夏「おいおい、社交ダンスは互いの目と目を見ながらするものだぞ?」
一夏「どれくらいのことを要求されたかは知らないけれど、どうする? 前と同じく10秒ぐらいやって終わる?」
シャル「あ、そ、その…………」カア
一夏「とりあえず、軽くやってみようぜ、シャルル」
シャル「あ、うん…………」
そして、一夏とシャルルは踊った。たった5秒とは言わずに、10秒ぐらい。
しかし、ISという無骨なパワードスーツを装着しているのにも関わらず、
それを通り越してドライバーである一夏とシャルルの気品さと華やかさが満ち溢れ、
見る者を一瞬だけ、一瞬にして魅了した、華麗な一時だった。
一夏「はい!」
シャル「あ、はい!」
観衆「おおおお!」パチパチパチパチ
一夏「これで満足してくれるかな?」
シャル「う、うん! いいよ、凄く!」
一夏「そうか(しかし、これでISによる華麗なワルツが流行しそうだから怖い)」ハア
一夏「――――――は!?」
セシリア「」ゴゴゴゴゴ
鈴「」ワナワナ
箒「」プルプル
一夏「ちょっと待ってください、ね?(か、囲まれた、だと……?!)」
セシリア「私だけの、私だけの、特権が…………」
鈴「あんた、やっぱり男もイケる口だったわけね…………」
箒「許さない! 絶対に許さない!」
一夏「ま、待て!(あ、実戦モードに入っている!? ヤバイ、半頃しにされるううう!)」
一夏「は、実戦モード!? ――――――1機だけ!? (それもこれは――――――!?)」
ラウラ「織斑一夏――――――!」カコン、バン、バン
一夏「全機、散開!」
一同「――――――!?」
シャル「――――――あ」
65: 2013/09/28(土) 11:26:20.71 ID:mq5otnXP0
一夏「くっ!(シャルル、何をしていた!?)」ガシッ
一夏「しっかりしろ! ISを展開している間は何が何でも警戒は怠るなって言ったはずだろう!?」
シャル「ご、ごめん、織斑くん……(あ、お姫様抱っこ…………)」カア
一夏「いきなり戦いを仕掛けてくるなんて、見下げ果てたなやつだな……!」
一夏「――――――ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
シャル「あ……(もう終わり……)」
ラウラ「これが貴様の指導というわけか…………」
ラウラ「やはり、貴様は教官の面汚しだ! 万氏に値する!」バン、バン
ラウラ「そして、この学園の連中は教官の教えを受けるに足る人間など一人もいない! ISをファッションか何かと勘違いしている!」
一夏「(まあ、俺も学園に対して思うところはあるけれど――――――しかしだな!)」
シャル「織斑くん! ここは僕が盾に――――――(え、前に出て――――――)」
一夏「」スパスパ、チュドーン
ラウラ「…………レールガンを斬り払ったというのか!」
一夏「実力“差”がよくわかっただろう? ここは小手調べということにしろ。これ以上見苦しいことをするなら織斑千冬の顔に泥を塗る」
ラウラ「……ふん! 今日のところは引いてやろう」
一夏「ああ、それでいい。いい子だ」
シャル「………………」ポカーン
箒「いったいどういうことだ、一夏!?」
セシリア「あの方とあなたの間に何がありましたの?」
鈴「まさか、これも話すことができないことなの…………?」
一夏「…………ああ、その通りだ。私はみんなに隠し事をしている――――――だがそれは、関係ないことだ」
一夏「私怨を以って学園の風紀を乱すつもりなら、私は義によって不届き者を討ち果たすまで」
一夏「だから、安心して学園生活をして欲しい。ISに関して質問や要望があるなら、いつでも相談に応じる」
一夏「では、今日は先に上がらせてもらう」
箒「あ、待ってくれ、一夏!」
セシリア「『ISに関することなら』聞き入れてくださる…………」ブツブツ
鈴「ああ、もう! いくら何でも変わり過ぎよ、一夏の馬鹿ぁ!」
シャル「…………僕は何をしているんだろう」
66: 2013/09/28(土) 11:27:23.85 ID:mq5otnXP0
俺とラウラの因縁は、他でもない『あの日』から始まっていた――――――
俺は『あの日』から、これまでの全てを捨てて爺様の跡目としての教育を受け、社交界の洗礼を受けていた頃、
千冬姉は俺を救出するために協力してくれたドイツ軍で1年とちょっとの間 ISの指導を受け持つことになっていた。
その時、千冬姉の指導を受けていたドイツ軍のISドライバーの一人にラウラ・ボーデヴィッヒがいたというわけである。
それ故に、俺とラウラには直接の面識は一切なかった。会ったのは今日が初めて。
しかし、あれだけの恨みを初対面の相手に抱かれていたのは、
ラウラ・ボーデヴィッヒが信奉する“ブリュンヒルデ”織斑千冬の栄光に止めを刺したのが、『あの日』誘拐された俺だったからに他ならないからだ。
大会連覇は確実視されていただけに、ファンとしては怒りが収まらないことだろう。
『あの日』のことは世間的にはどういう理由かはわからないが秘密にされているので、無知の知ったかぶりが横行したこともあるだろう。
そういうことから生涯“師”と呼び慕う人物の侮辱に対する怒りが禁じ得ないのはわかる。
だから、千冬姉は最初から許してくれていたが、俺はいつか第三者によって『あの日』のことを糾弾されることを覚悟して生きてきた。
許してくれたからといっても、犯した罪は一生ついてまわるのだから。
しかし、そういうやつに限って、その人のことを理解していないことを俺はよく理解していた。
言うなれば、人間性を無視して能力の強弱や経歴の優劣だけで判断するデータマニアの考えであった。
――――――遊び心もユーモアの欠片もないつまらないものの考え。
俺は社交界に行くまで何者でもなかったが、社交界に出た瞬間に俺は“爺様の息子”という一面だけでしか見られなくなった。
誰も俺に備わった個性を見ようとはしてくれなかった。求めているのは俺と爺様との繋がりだけ。外付けされた爺様のブランドだけである。
だから俺は、自分を自分として認められるように努力してきた。そうしていることを必氏にアピールしてきた。
――――――だから、わかる。
――――――あいつは織斑千冬を理解しようとしないファンの風上にも置けないやつだと。
ラウラ・ボーデヴィッヒにとって、俺は“ブリュンヒルデ”の汚点なのだろうが、
逆に俺にとっては、アイドルの素顔に失望して憤りを抑えられないキモオタのようなものに感じられた。
とにかく似ていたのだ。俺から爺様に取り入ろうとする社交界の豚どもと、ラウラの抱く憧れや羨望というものが。
それ故に、俺もラウラのことを憎々しげに思っていた。
しかし、だからと言って俺には排斥するだけの理由はなかった。それが許されるほど偉くなったつもりもない。
だから、やり方を変えることにした。
ラウラが俺を好意的になるようにこちらから歩み寄る決心をしたのだ。
基本的によほどの理由がない限りは、敵意を抱いている相手には近寄らないに限るが、
少なくとも俺は『関わる人全てを守る』ことを座右の銘にしているので、IS学園にいる間だけでもそれなりの付き合いにするつもりだった。
そしてこれは、――――――他でもない千冬姉への恩返しにもなる。
面倒事はどんどん増えていっているが、今の俺は目標に向かって心が震え、魂が燃え上がっているようだった。
67: 2013/09/28(土) 11:28:56.00 ID:mq5otnXP0
――――――同日、夜
一夏「なあ、シャルル?」
シャル「な、何? 織斑くん?」ドキッ
一夏「俺はずっと悩んでいたんだけど、シャルルと一緒に考えたいことがある」
シャル「え、何……?」
一夏「ああ、とても重要な問題だ。しっかりと考えておかないといけない問題だ」
一夏「何故なら、――――――お前の家、デュノア社のことだからな」
シャル「へ…………?」
一夏「デュノア社が経営危機に陥っているのは知っている」
一夏「第3世代型の開発に移行できなくて、そろそろコアの割り当てがなくなることを知っている」
シャル「………………」
一夏「訊きたいのは、お前はデュノア社と心中したいのかどうかだ」
シャル「ど、どういう意味かな……」
一夏「――――――いいのかそれで?」
一夏「それでいいのか? いや、いいはずないだろう!」ガシッ
シャル「い、一夏…………」
一夏「――――――親がいなけりゃ子供は生まれない」
一夏「そりゃそうだろうよ! でも、だからって何もしていいなんて、そんな馬鹿なことが…………!」
シャル「ちょっと痛い…………」
一夏「あ、すまない……」
一夏「だけど、お前はこれからどうするつもりだ!?」
一夏「デュノア社は完全に将来性がない。お前の登場でコアの供給停止が先延ばしになったところで――――――」
シャル「…………わからない。僕はデュノア社にとっては時間稼ぎの駒でしかないから」
一夏「――――――満足しているのか、それで?」
一夏「…………それで満足ならこれ以上言うことはないが」
シャル「あ…………」
シャル「…………わかったよ、織斑くん。僕、正直に告白するよ」
シャル「――――――僕はデュノア社に恩義も愛着もないよ」
シャル「――――――僕は本妻の子じゃないんだ。2年前に妾の母が亡くなってから引き取られたんだよ」
シャル「父がIS会社の社長で僕が女だったからIS適性を検査したら、意外なことに高い適性があって、だから――――――」
一夏「わかった。それ以上は言う必要はない」
一夏「それじゃ、極端な話だけど、――――――頼みがある」
シャル「な、何かな……」
――――――俺に貰われてください。
シャル「え……(そ、それって――――――!?)」ドキッ
68: 2013/09/28(土) 11:30:46.37 ID:mq5otnXP0
一夏「まあ、『結婚してくれ』なんていう不躾な意味じゃないから安心してくれ」
シャル「あ、そ、そうだよね、あははは…………(少し残念…………)」
一夏「優秀で気品のある逸材が野に埋もれるのがいやだから、俺のスポンサーに養ってもらうってことだ」
一夏「あるいは、ISドライバーを辞めて路頭に迷うようなら、俺が養う! それで俺の秘書なり家令なりになってくれ」
一夏「できるならば、俺が卒業するまではISドライバーを続けて欲しいところだけど、どうだ?」
シャル「………………」
一夏「亡命工作なら任せてくれ!」ペラペラ
一夏「――――――IS学園特記事項」
本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない
一夏「つまり、この学園に居れば、少なくとも3年間は大丈夫ってことだ」
一夏「その間に、とるべき道を選んでくれ」
シャル「凄いんだね、織斑くんは。特記事項なんて55個もあるのに」
一夏「これぐらい、誰かの人生を救えると思えば、容易いことさ」
シャル「そうなんだ」
シャル「織斑くん――――――僕、一夏って呼んでもいい?」
一夏「答えは決まったようだな」
――――――僕のこと、貰ってくれてありがとう。
シャル「本当のことを話したら、気が楽になったよ」
一夏「よくぞ決心してくれた! 生涯の友を得たぞ!」
シャル「約束だよ……?」
一夏「ああ、見捨てはしない……!(これから大変になるな。だけど俺は、財閥の力がなくてもきっと彼女の力になっていただろうな…………)」
シャル「よかった…………これで一夏と…………」フラフラ
一夏「(だが、デュノア社は知ぃらないっと。いずれ俺やシャルルとも無関係になるのだからな。――――――俺は関わっていない)」
一夏「(そんなことよりも、女子供を政治の道具に使う人間のクズは滅びな……!)」
一夏「(だがこれで、俺はシャルルの環境を変えてしまった。初めて環境を変える力を行使してしまった……)」
一夏「(その影響と責任に関してはしっかりと考えぬいたはずだ…………恥じることはない)」
一夏「(気をつけないとな…………力に溺れてしまうから…………)」
シャル「うふふ、あはははは…………」クラクラ
一夏「お、おい!」ドサッ
シャル「ははは…………」プシュープシュー
一夏「――――――凄い汗! 熱もあるようだ。まあ、人生を左右する選択を投げかけたからな。その緊張は計り知れない」
一夏「ともかく、ベッドに寝かせておこう(ん? 何か妙にふんわりとしたようなものが当たっているけれど……、今はそんなことよりも身体を冷やすが先だ!)」
一夏「えっと、冷蔵庫に……、氷枕があった。これにタオルを巻き付けてっと」
69: 2013/09/28(土) 11:32:16.15 ID:5H8gBlq40
一夏「さて、これでいいだろう。食堂のおばちゃんに病人食を用意させないとな」
コンコン
一夏「ん? はい」ガチャ
セシリア「お、織斑一夏……」
一夏「セシリアさん?」
セシリア「私とご一緒しませんこと?」
一夏「はい、そうしましょう。ちょうど支度を済ませたところですから」
セシリア「…………? あの、シャルルさんはどうなさいました?」
一夏「ああ、シャルルは体調を崩したから寝かせておいたところです」
セシリア「まあ、それはお気の毒に」
セシリア「では、参りましょう!」ガシッ
一夏「お、おお…………(シャルルとのワルツ以来、3人娘が積極的になってきたな……また面倒事に起きそうだな……)」
箒「な、何をしている?!」
一夏「あ…………(早速これかよ…………)」
セシリア「これから私たち、“一緒に”夕食ですの」
箒「だからと言って、腕を組んで密着する必要がどこにある!?」
セシリア「あら、殿方がレディをエスコートするのは当然のことです」ニッコリ
一夏「肩が凝るから体重はかけないで……(そういえば、この感触はさっき体験したような…………)」
箒「それなら、私も付き合おう! 今日の夕食は少々物足りなかったのでな」
セシリア「あらあら、箒さん? 食べ過ぎは体重を加速させますわよ」
一夏「いや、その心配はないでしょう。むしろ、あなたたちの食事量は少なすぎると思うんですが……(……何言ってんだ、コイツら?)」
箒「で、では、参るとするか」ドキドキ
セシリア「箒さん……!? 何をしていらっしゃるのかしら?」イライラ
箒「男がレディをエスコートするのは当然なのだろう?」
一夏「ははは、箒さんとセシリアさんが遠慮のない仲になってくれたのは嬉しい限りですよ。それと、肩が痛い……」
箒「あ……そうだったな」
セシリア「そ、そうですの! 私と箒さんは仲がよろしいですわ」
一夏「(ああ、よかった。とりあえず、箒とセシリアを引き合わせた俺の目的がようやく達成されたというところか。よかったよかった…………)」
一夏「(だが、俺の腕にすがりつくことで双肩にかかるこの重みと煩わしさに、富貴貧賤は関係ない…………)」
70: 2013/09/28(土) 11:33:54.49 ID:5H8gBlq40
――――――食堂
一夏「運動した後は、しっかりとアミノ酸を補給すること!」
一夏「だから、箒さんは豚汁がいいんじゃないかな? 小腹を満たす程度にはちょうどいいはずだよ」
箒「そうか。なら、それにしよう」
セシリア「織斑一夏? 私は何を――――――」
一夏「え? それはセシリアさんのご自由に」
一夏「私は、今日の和食定食をいただくけどね。――――――あ、今日はきんぴらごぼうに焼き魚か」
セシリア「わ、私もそれを――――――」
一夏「やめておきなさい」
セシリア「あ、はい…………」
一夏「」パクパクムシャムシャ
箒「………………」ジー
セシリア「………………」ジー
一夏「……? どうしました?」キョトン
箒「いや――――――」
セシリア「惚れ惚れするような食べっぷりですわね。本当に美味しそうに、そして優雅な姿に私は――――――」
一夏「おお、そうか。それは嬉しいことだ(ようやく和食のきれいな食べ方を実践できるようになったってことか)」
一夏「では、ごちそうさまでした」
箒「あ……、ああ、私も! ごちそうさまでした」
セシリア「これがサムラーイなのですわね」
箒「そうだな。きっとこれが武士の作法なのだろう」
一夏「ははは、大袈裟だな」
一夏「あれ、そういえば箒さんに訊きたいことがあったんだ」
箒「へ? わ、私にか?」
一夏「前に言ったよな?」
――――――学年別トーナメントに優勝したら、付き合ってもらう!
一夏「って」
周囲「!!!???」
箒「な――――――!?」ガタッ
セシリア「箒さん…………!?」ジロッ
箒「こ、これは、その――――――」アセアセ
一夏「『優勝したら』なんていうかなり難しい条件を課した以上、実現できたら私にできる範囲で付き合ってあげますよ」
71: 2013/09/28(土) 11:34:52.73 ID:mq5otnXP0
一夏「ご褒美をねだるなんて、恥ずかしがり屋の箒さんも成長したもんだな」ニコニコ
箒「い、一夏! それはちが――――――」
セシリア「――――――そ、それは本当ですの!?」
セシリア「『優勝すれば』、織斑一夏――――あなたとお付き合いできるというのは!?」
一夏「うん? なんだ、セシリアさんも何か一緒にやって欲しいことでも――――――うお!?」
周囲「オリムラクン! オリムラクン! ワタシモ、ワタシモー!」ギャーギャーワーワー
一夏「な、何だ、みんな? そんなに私からご褒美が欲しいのか?」
一夏「でも、私でもこれだけの数を捌き切るのは無理だから、ね?」
セシリア「わかりましたわ! 絶対に優勝しますわ!」メラメラ
一夏「お、おう、頑張れよ……」
箒「ふざけるな! あの約束は私だけのものだ!」
箒「いや、私が『優勝すれば』問題ない! ならば、全てを打ち倒すまでのことだ!」メラメラ
一夏「期待しているぞ……」スタスタ
一夏「さて、――――――おばちゃん、お粥ください!(みんなが大会に向けてやる気を出してくれたのはいいけど…………)」
一夏「(本当に俺なんかの些細なご褒美でいいのか? どういうことなんだ? 大会景品や名誉よりも俺のご褒美が欲しいだと……?)」
一夏「わからん。どういうことだ……(それだけ俺の影響力が学園中に満ち満ちていったということなのか?)」
一夏「(まあ、釈然としないが、これは喜ぶべきことなのだろう……)」
一夏「(まずは、満足だ。これでもっと行動しやすくなる……!)」
一夏「(でも、何かおかしい…………でも、その何かがわからない…………何なんだ、この現状は?)」
今のところ織斑一夏は、順調に学園生活を送っていた。
しかし、織斑一夏は財閥総帥後継者という責任ある立場なので、
曖昧な表現を許されず、はっきりとした言動しか受け取らないように教育されていたために、
――――――今回のような意識のすれ違いが起こっていた。
そして、残酷なことに、織斑一夏が自身が敬愛してやまない織斑千冬と比肩する偶像にもなったのにも関わらず、
本人は最初から学園での生活を二の次に捉えていたので、織斑一夏に憧れや恋心を抱く乙女の心には眼中になかったのである。
72: 2013/09/28(土) 11:35:37.63 ID:mq5otnXP0
――――――学年別トーナメントまで残り数日
一夏「トーナメントの規定が変わったか。――――――タッグマッチか」
一夏「となると、どうしようかな? 誰と誰を組み合わせる?」
一夏「あの4人だったら、どんな組み合わせをしても『打鉄』しかいない即席のタッグなんて一蹴できるからな……」
一夏「だったら、彼女たちに任せることにするか。そして、俺は中立であろう(あれ? 何か大切な要素を見落としているような…………)」
一夏「う~む、しかし、――――――『優勝したら』か。まあ、一人増えたくらい、どうってことないか……」
一夏「それよりも、爺様が顔を見せるからな…………」
一夏「その時、シャルルと引き合わせてっと……(何だろう? まだ何か忘れている気がする……)」
一夏「…………考えていてもしかたないか。今日で俺が大会優勝のために指導するのは最後だと告げに行こう」
一夏「よし、急いでアリーナに向かおう!」ピピピピ
一夏「何? こんな時に――――――って、ああ……、やっぱりお呼び出しかよおおお!」
一夏「――――――って違う。これはシャルルの亡命工作に関する計画内容か」
一夏「やっぱり、デュノア社は賄賂を送っていたか…………」
一夏「他にも何か――――――」
73: 2013/09/28(土) 11:36:53.95 ID:5H8gBlq40
――――――アリーナ
鈴「さて、大会まであと数日――――――」
鈴「ライバルたちが最後の悪足掻きをする前に、と!」
鈴「一夏と付き合うのは私なんだから!」
セシリア「あら?」
鈴「早いじゃない」
セシリア「てっきり私が一番乗りだと思っていましたのに」
鈴「私はこれから学年別トーナメント優勝に向けて、特訓するんだけど?」
セシリア「あら、私もまったく同じですわ」
鈴「」ゴゴゴゴゴ
セシリア「」ゴゴゴゴゴ
鈴「この際、どっちが上かはっきりさせておくっていうのも悪くないわね」
鈴「そうすれば当日、尻尾を巻いて逃げ出すしかなくなるしね?」ニヤ
セシリア「よろしくってよ。“私の”コーチのご指導の成果をここで披露するのも一興ですわ」
セシリア「そして、今度こそ本当の決着をこの場でつけて差し上げますわ!」
鈴「さあ、準備オッケー!」
セシリア「今度こそ、踊らせてあげますわ! 私と織斑一夏によって洗練された『ブルー・ティアーズ』が奏でるワルツで!」
ラウラ「ふん」バーン!
鈴「――――――な!?」
セシリア「こ、これは――――――!?」
ラウラ「相変わらずろくな生徒がいないようだな、ここには」
鈴「ドイツ第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』!?」
セシリア「……ラウラ・ボーデヴィッヒ」
鈴「どういうつもり!? いきなりぶっ放してくるなんて! いい度胸しているじゃない!」
セシリア「そうですわ! あなたはそれでも代表候補生なのですか!?」
ラウラ「ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」
ラウラ「ここしばらく貴様たちの生活を見ていたが、あれで強くなった気でいるのが実に滑稽だったぞ?」
ラウラ「貴様たちのような者が、私と同じ第3世代型の専用機持ちとはな……」
ラウラ「よほど人材不足と見える」ニヤリ
鈴「この人、スクラップがお望みのようね!」
セシリア「そのようですわね!」
ラウラ「ふん、二人掛かりできたらどうだ?」
ラウラ「くだらん種馬を取り合うな雌に、この私が敗けるものか」
ラウラ「そして、貴様らを血祭りにあげてあの男の無能さを世に知らしめてやる」
鈴「あんたねぇ! どうしてそこまで一夏のことを目の敵にしているかは知らないけど!」
セシリア「それ以上の侮辱は許しませんわ! ここでその軽口を叩けなくして差し上げますわ!」
ラウラ「さっさと来い」クイクイ
74: 2013/09/28(土) 11:37:48.67 ID:mq5otnXP0
箒「先に一夏はセシリアと鈴と一緒に第3アリーナに向かったそうだな」
シャル「今日はたぶん、一夏は公平を期すために監督を辞めることを伝える気でいるんじゃないかな」
箒「そうだろうな(そういえば、シャルルは“一夏”と呼ぶようになっていたな…………)」
女子「――――――第3アリーナで代表候補生3人が模擬戦しているって!」
女子「ホントー?!」タッタッタッタッタ
箒「この時期に代表候補生3人って言ったら!?」
シャル「急ごう、箒!」
75: 2013/09/28(土) 11:39:13.39 ID:mq5otnXP0
セシリアと鈴のタッグとラウラの2対1の対決は、最強を豪語するだけのラウラの圧倒的な実力を見せつけるかのように単独優勢で進んでいた。
各国の第3世代兵器の単体の性能では、イギリスの『BT兵器』、中国の『龍咆』、ドイツの『AIC』が3すくみのように牽制しあっている。
『BT兵器』は『龍咆』に比べて燃費が悪く、第3世代兵器を代表するように典型的に長期戦に不利な代物で、
『龍咆』は純粋なエネルギー攻撃なので、エネルギーフィールドを展開する『AIC』の前では弾丸の重量による打撃もないので完全に無力。
『AIC』は集中力次第であらゆるものの動きを封じられるが、『BT兵器』のような流動的でイメージしづらいものに対しては効果が薄い。
よって、この場合だと完全に鈴の『甲龍』はラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』に対して完全に無力であった。
相手の動きを封じるために精一杯囮の役割を果たすのがこの対戦における最善の策だが、
仲間のための捨て身の戦法など代表候補生がするようなものではないので、そんなことをする発想自体がない。
そもそも、タッグマッチを想定しての訓練の経験がほとんどない、スタンドプレーを前提とした第3世代型IS乗りの代表候補生ともなればこうなるだろう。
そして、幸運にも『シュヴァルツェア・レーゲン』に対して射撃戦で有効打が与えられることになる『ブルー・ティアーズ』だが、
武器の性能に問題はないが、機体の運用法が長距離精密射撃型なので攻撃するのに一々足を止めてしまうので、攻撃速度に難があった。
最悪なことに、さすが第3世代型IS最強と謳われるだけの中距離両用型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』は汎用武器こそ持っていなかったが、
全6門の宙を自在に舞うワイヤーブレードによって複数を同時に撹乱・拘束できるので。限定的にだが得意の1対1の直接対決に持ち込むのが容易だった。
『シュヴァルツェア・レーゲン』の強みはこの操作可能なワイヤーブレードによる制圧力と重武装の瞬間火力の高さによる高速で各個撃破する電撃戦にあった。
76: 2013/09/28(土) 11:40:44.46 ID:5H8gBlq40
事実、戦いはまともな連携行動のできないセシリアと鈴を各個撃破するような流れで、均等にダメージを蓄積させていき、
最後にワイヤーブレードで拘束した『甲龍』を『ブルー・ティアーズ』にぶつけるという荒業でまとめて始末する段階まで進んだ。
しかし、ここで咄嗟にセシリアが迎撃ミサイルを射出し、さすがのラウラも対応しきれずに直撃を受けることになった。
観衆も当事者2人もホッと一息つくのだが――――――、
ラウラは軍人としての高い身体能力を発揮してしっかりと防御してダメージとその衝撃を和らげ、爆煙が晴れた瞬間にワイヤーブレードを射出したのだ。
そして、ラウラはここで悪魔の所業に打って出る!
ラウラ「この程度の仕上がりで第3世代兵器とは笑わせる」
ラウラ「そして、体たらくっぷり…………」
セシリア「うぅ…………!(首が絞まる…………!)」
鈴「く、苦しい…………!」
ラウラ「やはり、私の敵ではないな! 私と『シュヴァルツェア・レーゲン』の前では他の代表候補生など有象無象でしかない」
ラウラ「消えろ」
ワイヤーブレードをセシリアと鈴の首に絞めつけ、あろうことかそのまま相手を嬲り頃しにするために殴打を加えたのだ。
基本的にISは模擬戦モードで運用され、安全のためにシールドエネルギーは最低限温存されるようになっているのだが、
このように直接生体に攻撃を加え続けると絶対防御が必ず働くことになり、実戦モード以外では温存される全てのシールドエネルギーがパイロットの生命維持のために使われる。
しかし、それでもシールドエネルギーが使われる続けるなら、いずれは残量はゼロとなり、強制解除されることになる。
だが、強制解除されたからといって致命的な攻撃が途端に終わることはない。
原因を取り除かなければ、ISが解除された瞬間に本当の致命打を受けることになるのだ。
ラウラは本当に二人を頃す気、あるいは再起不能にするつもりだったのだ。
どよめく観衆。もがき苦しむセシリアと鈴。そして、圧倒的な力の前に無様に乱れていく二人の様を見て悦びに浸るラウラ。
箒「昔の私だ…………ただ暴力を振るうことしかできなかった昔の――――――」ゾクリ
シャル「ねえ、あれって――――――!?」
観衆「!」ザワザワ
――――――そこまでにしておけ、小娘!
――――――声が聞こえた。
77: 2013/09/28(土) 11:43:04.24 ID:5H8gBlq40
ラウラ「――――――っ!?」ビクッ
その瞬間、頭の中が真っ白になった感覚になった。
それによって、『シュヴァルツェア・レーゲン』の動きが止まり、ワイヤーブレードの首締めも緩くなった。
ラウラが予想外の声――――――否、存在の襲来に驚いて振り向くと、
ラウラ「な、何だと――――――!?(いつの間に、シールドエネルギーがここまで…………!?)」
一夏「…………」
いつ来たのか、織斑一夏は広大なアリーナの中心まで気配を悟らせることなく接近し、ラウラの背後を取っていたのだ。
そして、ISを展開させることなしに雪片弐型から迸る『零落白夜』の青白い光の剣を素手で持ち、
セシリアと鈴の首を絞めるワイヤーブレードを断ち切った上で、流れるようにラウラの首筋に当てていたのだった。
その早業は、かつてシャルル・デュノアを秒頃した時のことを思い出させる一瞬だった。
まさにイナズマのごとき太刀筋だった。ラウラにも周囲の人間にも一瞬で何が起きたのか理解できた人間はいなかった。
一夏「織斑千冬の名誉を重んじるなら、ISを解除しろ」ゴゴゴゴゴ
ラウラ「――――――っ!?」ゾクッ
ラウラ「く、私がこんなやつに背中を取られるなど…………」
だが、織斑一夏の表情には多量の汗が流されているのが見て取れ、ここに至るまで全力疾走してきたことを窺わせた。
しかし、そんな状態でありながら息が乱れることもなく、突きつけた光の剣は一切の震えがなかった。そして、眼差しに一切の曇りもない。
そして、危機を脱したものの深刻なダメージ蓄積で強制解除されて力無く床に伏すセシリアと鈴。
一夏「…………間に合わなかったか。すまない」
鈴「い、一夏…………」
セシリア「無様な姿をお見せしましたわね…………」
そして、一夏は今まで見せたことのような暗い表情を二人に覗かせて、すぐにISを解除した力の暴徒と再び向き合う。
一夏「命あっての物種。失ったことよりも遅れを取り戻すことを考えていてくれ」
一夏「この問題は私が解決する。巻き込んでしまったことを許してくれ……」
鈴「あ……」
セシリア「そんなこと…………!」ゴホゴホ
78: 2013/09/28(土) 11:45:06.84 ID:5H8gBlq40
一夏「ラウラ・ボーデヴィッヒ」
ラウラ「…………私に殺されに来たのか」
一夏「あれ以来大人しくしてくれていると思ったら、まさかこんな卑劣な手段に打って出るとは思いもしなかったよ」
一夏「私との実力差に驚いて無関係の人間を襲うだなんて、――――――なんてやつだ!」
ラウラ「ふざけたことを抜かすな! 私は負けたとは思っていないぞ!」
一夏「まあ、そうだな。今までのやり方じゃ、何とでも言い訳ができるからな」
一夏「だから、今度は私の方から勝負を仕掛ける!」
ラウラ「ようやく、その気になったか」
――――――お前を倒すのに『白式』は要らない。
セシリア「え!?」
鈴「嘘!?」
ラウラ「ほう? これは面白いことを言う」
――――――私が出るまでもなく、第2世代型ISのデュオで十分だ。
ラウラ「何……? 舐められたものだな」ギリッ
一夏「俺がプロデュースする第2世代型のデュオと戦え! 学年別トーナメントで!」
一夏「俺はあの二人が優勝するように全身全霊を込めた! 今は教師の道を進む織斑千冬と同じく導いた――――――」
ラウラ「貴様! 教官の戦士としての経歴に傷をつけただけじゃなく、指導者としての道にも邪魔立てするつもりか!」
一夏「おっと! お前が代表候補生としてここにいる以上は、無作法は控えろ!」
一夏「それとも、それができないぐらい、お前の教育係は無能だったってことかな?」
ラウラ「くぅ…………」
ラウラ「わかった。貴様の挑発に乗ってやる! まずは貴様が育てたその二人と戦ってやろうじゃないか!」
ラウラ「織斑教官の教えを賜って部隊最強となった私が、貴様などの教えを真に受けた軟弱者の一人や二人に敗けるはずがないがな」
一夏「ああ、ぜひ見せてくれ。織斑教官の教えを賜って強くなった“気でいる”お前の勇姿を」
一夏「ああ、そうだ。大切なことがあった。これは伝えておかないと不公平だな」
一夏「学年別トーナメントはルール変更でツーマンセルになるから、パートナーを見つけておけよ。でないと、ランダムで組まされるから」
ラウラ「必要ない。この学園に居る連中――――――教官の教えを受けるに値しない者たちなど!」
一夏「そうかい。では、用がなくなったらとっとと失せな。他の利用者たちの邪魔になる」
ラウラ「貴様の言う2人とは、フランスの第2世代型と専用機持ちでもない小娘のことなのだろう」
ラウラ「そいつらを排除したら、次は貴様だ!」タッタッタッタッタ
79: 2013/09/28(土) 11:46:23.37 ID:mq5otnXP0
一夏「さて、行ってくれたか」
一夏「ストレッチャーを――――――ってさすが、織斑先生。早いですね」
千冬「以後、学園別トーナメントまで私闘の一切を禁止する! ――――――解散!」
一夏「あららら…………早急に問題を沈静化させたのに、本番の練習するつもりだった人たち、ごめんなさい、だな」
千冬「すまない……あんなことを言っておきながら、私は――――――」
一夏「――――――いえ、咎を受けるべきは私です」
一夏「私が到着するのが早ければ、セシリアさんと鈴さんはトーナメントに出られたというのに…………!」ギリギリ
一夏「この問題は私とラウラだけの問題――――第三者が何かすれば事態を避けられたとかそういう結果論なんていうのは何もしなかった卑怯者の言うことです」
一夏「全身全霊を賭けた選択をしたことのないような有識者気取りに、歴史を創ってきた先達たちの悪口は言わせない」
一夏「だから、問題を外部に拡げてしまった私にこそ非があります」
千冬「……お前は大会に出ないが、本当に勝算はあるのか?」
一夏「ありますよ。残ったのが『打鉄』と『ラファール』なら、十分に勝ち目があります」
一夏「確かに単機の性能では右に出る者無しの『シュヴァルツェア・レーゲン』ですが、『PIC』を無力化できれば割りと高確率で倒せそうです」
千冬「まるで2対1で挑むような物の見方だな」
一夏「断言しますよ。ラウラを徹底的に追いかけ回す戦法を使えば、ラウラの方から2対1にしてくれます」
一夏「それに、箒もシャルルも強いですから」
千冬「そうか」
千冬「…………一夏」キッ
一夏「来るか、千冬姉!」キッ
ガキーン!
――――――瞬間、IS用の太刀を互いに部分展開して激突し合った。
千冬「さすがに鍛え方が違う」
一夏「当然!」
一夏「俺は限りある時間を無駄なく使って特化した練習しかしていないけど、」
一夏「“ブリュンヒルデ”を超える訓練だけは欠かさずやってきたんだ」
一夏「でも、その千冬姉も更に強くなっているからな……」
千冬「私もお前と同じように、鍛え方が違うからな」
一夏「いずれ満足に訓練できなくなる日が来てしまうのだろうけれど、俺はこの強さを忘れない!」
一夏「そして、俺が関わる人全てを守るんだ!」
千冬「ああ、それでいい。それで」
千冬「だが――――――」ギロッ
一夏「あ、“織斑先生”、でしたね……」
80: 2013/09/28(土) 11:47:58.96 ID:mq5otnXP0
――――――同日、病室
一夏「(セシリアと鈴を大会不参加にさせてしまったことは俺の失敗だと認める他ないが、)」
一夏「(本当に取り返しの付かない事態に陥ったわけではないので――――――)」
一夏「それよりも、何故ラウラと戦うことになったんだ? 私はラウラと一切関わるなと言ったはずなんだがな……」
一夏「これでわかっただろう? ――――――実験機と完成された兵器との差というものが」
一夏「第3世代兵器を搭載しているからと言っても、それは競技用だから通用するのであって、軍事用の機体には遠く及ばないってことが」
セシリア「面目ありませんわ…………」
鈴「でも、あいつ、言っちゃいけないことを言ったから、お灸を据えてやろうと――――――」
一夏「その結果が、国家の威信を賭けた専用機の中破か……」
一同「………………」
一夏「本当は今日、学年別トーナメントがツーマンセルになったから、好きに組んでもらうことにして、それからは見守るだけにするつもりだった」
シャル「え、そうだったの?」
箒「初耳だぞ?」
セシリア「そ、そうでしたの……」
鈴「そんな…………」
一夏「私も今日知ったことだ。とにかく、私が指導したことを活かして、どういう戦略を立てるのか楽しみにしていた」
一夏「けれど、すまない」
一夏「勝手なことながら、シャルルと箒であの『シュヴァルツェア・レーゲン』を撃破してもらいたい」
シャル「――――――!?」
箒「で、できるのか、本当に!?」
一夏「勝算がないんだったら、こんなことは言わない。そんなことさせたら、一生のトラウマを植え付けて選手人生を台無しにしかねないからな」
一夏「それに、戦い方はいくらでもある。勝つだけだったら、あんなのを倒すのは意外と楽だぞ?」
一同「………………」
一夏「私の問題に巻き込んでしまって本当に申し訳ない。トーナメントが終わって落ち着いてきたら、お詫びとしてお付き合いいたします」
一夏「それで許してもらおうとは思いませんが、どうか当初の目的通り優勝を目指して力を振るってください」
一同「(――――――お付き合い?!)」ワナワナ
一夏「………………(やっぱり身勝手過ぎたか。そうだよな、俺は結局この4人を巻き込むことしかできなかった)」
一夏「すまない。忘れて――――――」
セシリア「そ、それは本当ですか!?」
鈴「許してあげるから、その約束 忘れないでよ!」
一夏「は?」
箒「よし、シャルル! 他でもない一夏のためだ! 絶対にあいつを倒すぞ!」
シャル「うん! 一夏にはそれだけの恩があるし、これは絶対に負けられないね!」
一夏「…………ありがとう?」
一同「どういたしまして!」
一夏「それじゃ、決意表明のためにこの参加申込書に名前を書いてくれ」
一夏「それから、――――――対策会議を行う!」
一同「了解!」
81: 2013/09/28(土) 11:48:49.51 ID:5H8gBlq40
一夏「(俺、これでよかったのかな? 失墜まではしないまでも、少しぐらい失望されるものだと覚悟していたのに…………)」
一夏「(でも、俺の代わりにあの『シュヴァルツェア・レーゲン』と戦うのだから、意気揚々であって欲しいと願っていた。これはいいぞ)」
一夏「(スポンサーにはまた迷惑に掛けることになるな、これは)」
一夏「それじゃ、エントリーお願いします」
山田「はい。素晴らしいリーダーシップですね」ニコニコ
山田「それに、意外と似合っていますよ、この写真」
一夏「おっと、場を盛り下げる真似はしないでください」
山田「あ、ごめんなさい。でも、これは――――――」
一夏「トーナメントが終わるまでは取り締まってください。さもないと、…………学園を訴えますよ?」
山田「ご、ごめんなさい。すぐに手配しますね」
一夏「………………」ハア
一夏「まさか、俺とシャルルのダンスシーンを加工した写真が出回っているなんてな……」
一夏「(男の娘だからいいのであって、普通の女の子だと知れ渡ったら阿鼻叫喚ものだな……)」ハア
一夏「(とにかく、約束は果たす――――――!)
82: 2013/09/28(土) 11:49:53.47 ID:5H8gBlq40
――――――学年別トーナメント、当日
一夏「あれが、私のスポンサーだ。顔ぐらいは知っているだろう?」
シャル「うん! これが終わったらあの人と話をするんだよね」
一夏「くれぐれも慎重に頼む」
一夏「そして――――――」
シャル「わかっているよ、一夏」
シャル「世代の壁が絶対じゃないことを、僕と箒で証明してくるから!」
一夏「ああ。ちゃんと鼻栓はしたな?」
シャル「うん。凄いね、この鼻栓。素顔を歪めることなくしっかりと防臭してくれるから」
一夏「それじゃ、パートナーとの最終確認をしておいてくれ」
シャル「わかったよ」
一夏「……さて、初戦からラウラと対決することになったか。勝ち上がる手間が省けたからいいが」
一夏「――――――セコンドとして待機しているべきか?」
一夏「どうにも、今回のツーマンセルは前回中止になったクラス対抗戦の尾を引いているような気がしてならない…………」
一夏「また、あんなことが起こるような気がしてならない…………」
一夏「それにしても、社交界じゃ顔を合わせることがなかったが、これがIS業界の重鎮たちってわけか」
一夏「うん。女尊男卑の風潮だからといって、重役全てが女性じゃないってところが世間とは違うって感じがするな」
一夏「おお、爺様の貫禄は凄いな…………俺はあんな感じになれるのだろうか」
一夏「悩んでいてもしかたがないか。俺はやれること、やるべきことを尽くしたと思っている」
一夏「あとは、結果に任せるしかない」
一夏「さあ、戦いの火蓋は切って落とされる…………!」
83: 2013/09/28(土) 11:51:44.21 ID:5H8gBlq40
シャル「――――――箒」
箒「ああ、わかっている。一夏は私たちに必勝の策を授けてくれた。あとは、私たちがそれをやれるかにかかっている」
ラウラ「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」
ラウラ「自分で戦おうとしない臆病者の身代わりにされたことを後悔するがいい」
箒「そちらこそ、そんな調子だと足元を掬われるぞ?」
箒「それに、一夏の言葉に屈して尻尾を巻いて逃げ出していたお前の言葉など恐るるに足りん!」
シャル「未だに量産化の目処が立たないドイツの第3世代型よりはやれると思うんだけどね?」
シャル「それに、戦う意思を捨てなければ、ロレーヌ十字が敵を追い払うからね」
ラウラ「面白い。世代差というものを教えてやろう。あの二人のように、惨めな敗北の恐怖を叩き込んでな!」
シャル「(抽選で組まされた人、蚊帳の外に置いてごめんなさい!)」
箒「(だが、ラウラは同僚のことなど眼中にないだろう。そこが勝負どころとなる!)」
箒「行くぞ、ラウラ!」
3,2,1,試合開始――――――!
ラウラ「叩きのめす!」
箒「はああああああああ!」
ラウラ「――――――む!?(…………予想以上に早い? 『打鉄』にこんな加速性能があったというのか?!)」
ラウラ「だが! この『停止結界』の前では!」
箒「くぅううう!(こ、これが『AIC』……! 本当にピクリとも動かない……!)」
ラウラ「あの男なら先制攻撃も納得だが、貴様ごときの無名の雑兵が真似したところで無意味だということがこれでわかっただろう?」カコン
箒「そうだな……こういうのを『狙い通り』と言うのだろうな!」ニヤリ
ラウラ「――――――何!?」
シャル「その隙、もらったよ!」バン、バン
ラウラ「く…………(読まれた?! 読まれていたと言うのか、私の行動が!?)」
シャル「逃がさない! その間に、箒!」
箒「ああ、任せろ!(『シュヴァルツェア・レーゲン』は汎用武器を持っていないことが災いして中距離戦闘は苦手だ)」
箒「その隙に、もう一方を片付ける!」
箒「はあああああああああああ!(小手、面、胴、小手、面、胴――――――!)」ガキンガキーン!
鈴「…………凄い。普段、一夏との鍔迫り合いしか見ていなかったからその凄さを実感できなかったけれど、」
セシリア「こうして見ると、代表候補生にも引けを取らない圧倒的な格闘戦のセンスが感じられますわ!」
鈴「そして、――――――来た! 『高速切替』!」
セシリア「拡張領域の多さを活かした『ラファール』乗り特有の単独一斉射による弾幕形成ですわ!」
一夏「うまく戦闘を分断できた。これで戦況は一気にこちらに傾いた」
一夏「思ったよりもこちらの戦力は上だったな。――――――いや、今日という日を迎えてベストテンションに達しているのかもしれない」
一夏「これで作戦通り、この戦いの前提となる2対1の状況が作り出せる」
一夏「抽選で貧乏クジを引いた方、後でお見舞いしますから気を落とさないでくださいね……」
84: 2013/09/28(土) 11:52:55.93 ID:5H8gBlq40
箒「よし、動きを封じた!(――――――シャルル!)」
シャル「(ラウラが大きく後退した今が好機!)」コクリ
シャル「あ、――――――下がって、箒!」
箒「な、何!?(ワイヤーブレードが伸びて来ている!? ――――――しまった!)」
ラウラ「邪魔だ」ポイ
箒「味方を投げ――――――うわあ!?」チュドーン
シャル「く、箒!(フレンドリーファイアは避けたい……! なら、今のうちに動けない方を――――――!)」
箒「――――――ま、まだまだ!」ガキーン
ラウラ「しぶとい……!(あの小賢しいフランスの第2世代型をワイヤーブレードで捕らえる……!)」チラッ
箒「あ、今だ――――――!」
箒「体当たりだああああああ!」ドガシャ
ラウラ「な、何だと、この訓練機風情が…………!」
シャル「ナイスアシスト! これで片方は終わりだよ!(あれも一夏の秘策だけど、それをやってのけた箒も凄い……!)」バン、バン
観衆「おおおおおお!」
セシリア「素晴らしい援護でしたわ、箒さん!」
鈴「うわあ……箒の格闘センス、軽く私を超えているかも……頑張らないとな……」
山田「第2世代型だけでここまでできるだなんて――――――」
千冬「当然だな。ボーデヴィッヒは自分側が複数での状態を想定していない。パートナーのことはハナから数に入れていない」
千冬「それでも機体そのものの戦力差は歴然だ。そうなれば、初心者狩りをしようとも早めに有利な状況を築きあげるしか勝機がない」
山田「そうですね。そして、今回の篠ノ之さんとデュノアくんの連携は素晴らしいの一言ですね」
千冬「このくらいは、できて当然だ。――――――織斑が指導したのだからな」
山田「そうですね」
85: 2013/09/28(土) 11:54:05.22 ID:5H8gBlq40
ラウラ「追い詰められているのか、――――――この私が!? 世界最強の第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』が!?」
ラウラ「こんな連中に――――――!? 第2世代型ごときに――――――!?」
シャル「ちゃんと鼻栓はしてるよね? タイミングは任せるよ!」
箒「ああ。エネルギーも余裕がある。決めに行くぞ!」
さて、ここまで来れば、こちらの戦意は大幅に上がり、あちらの戦意は大幅に下がっていることだろう。
ラウラにとってはこの上ない屈辱が、第2世代型で追い詰めた二人には達成感が満ち満ちていることだろう。
これは何も偶然こうなったというわけではない。ドライバーの力量こそ物を言ってはいるが、機体と武器の性能も大切な要素であった。
特に、中距離両用型『シュヴァルツェア・レーゲン』は確かにどの距離でも対応でき、撹乱ができるいやらしい武器を搭載しており、
そして、単独で戦う上では『AIC』によってまさしく単体最強の性能を誇るのだが、汎用武器を持っていないために、
安定した格闘能力を持つ『打鉄』と援護能力を持つ『ラファール』の2機に抑え込まれるともうどうしようもないのだ。
格闘戦用のプラズマブレードは『打鉄』の太刀に比べれば威力はあるがリーチとエネルギー効率に難があり、
間接武器であるレールガンとワイヤーブレードは迎撃には向くが、『ラファール』の通常兵器と撃ち合いをするには分が悪すぎる。
要するに、特殊武装を詰め込みすぎて汎用性を犠牲にしたツケがここで大きく現れたというわけである。
そして、『シュヴァルツェア・レーゲン』の特徴である『AIC』は1対1ならば最強の武装だが、
こうして距離の分担を行ってくる敵に対しては隙を晒すだけの、せいぜい咄嗟の防御用に使うしかない無用の長物と化していたのだ。
それに、『AIC』は相手の動きをただ単に封じるだけで、極端な話、一撃必殺というわけではないので、
織斑一夏はそれを見抜いて大会直前の訓練において、『AIC』など『零落白夜』の神速の居合斬りによる一撃必殺に比べれば生温いものだと教え込み、
更に、ツーマンセルであることを活かして、むしろ攻撃のチャンスだとしてパートナーを互いに信頼して積極的に動きを封じるように指導していたのである。
その訓練の甲斐あって、試合開始当初はプレッシャーを感じていた箒とシャルルだったが、今では格好の獲物としてラウラを追い詰めていた。
まさしく『AIC』は、大会環境(ツーマンセルや『AIC』以上の脅威の存在)によって割りを受けてしまった不遇の兵器と化したのだ。
86: 2013/09/28(土) 11:55:49.89 ID:mq5otnXP0
爺様「ほう、あれが」
来賓「今年の入学生は逸材が揃っていますね、会長?」
爺様「そうだな。優秀なISドライバーが多く輩出されるだろうな。再来年が楽しみだな」
来賓「しかし、残念です。会長がお抱えする“世界で唯一ISを扱える男性”織斑一夏と『白式』の活躍が見られなくて…………」
来賓「会長の力添えで、どうかその勇姿を見せていただくことはできませんかねー?」
爺様「しかたあるまい。あれは元々ISとは無縁の生活を送っていたが故に、大会で活躍するほどの実力は今のところはないと聞いている」
来賓「会長がそういうのならしかたありませんね……」ブツブツ
爺様「(フッ、さすがだな、孫。よくぞ短期間でこれだけの戦果を挙げてくれた。勝負はまだついていないが、勝敗は明らかだ)」
爺様「(そして、あれがシャルル・デュノアと篠ノ之 箒か…………)」
爺様「(デュノアのご落胤と重要人物保護プログラムで日本政府に保護されている神社の小娘…………)」
爺様「(だが、織斑一夏ならばぁ――――――)」
箒「はああああああああ!(あれで行くぞ!)」
シャル「うおおおおおおおお!(――――――了解!)」
ラウラ「く、だが、正面に捉えて『AIC』を発動すればどちらの攻撃も防ぎきれる!」
シャル「なら、これならどう!?」ヒューヒューヒューヒュー
山田「あれは小型の4連装ミサイルランチャー!? あんな装備は――――――」
千冬「いや、山田先生があの二人の参加申込書を受け取った後、武器の登録申請があった」
千冬「――――――受付時間ギリギリにな」
山田「しかし、決定力不足だからといって『AIC』の前では無力では?」
千冬「まあ、こんなことを思いつくのはあいつぐらいだ。何が起きるのか少し楽しみにして見ていろ」
山田「…………はい」
千冬「(おそらく投げ返された時のために何かしらの細工を施しているだろうが、見せてもらうぞ、一夏!)」
ラウラ「ミサイルだと? ありがたく利用させてもらう!」
箒「はあああああああああ!」
ラウラ「――――――む(どういうことだ!? 何故攻めてこようとする? 誘爆を恐れていないのか? それとも相打ち覚悟?)」
ラウラ「――――――だが、これだけ対象が大きいなら、『停止結界』で動きを封じ込めるのも容易い!」
ラウラ「はあ――――――!?」
バン!
箒「はああああああ!」ブン
87: 2013/09/28(土) 11:57:03.62 ID:5H8gBlq40
一夏「ここまで読み通り事が進むと薄ら寒いものを感じるが、」
一夏「――――――これでチェックメイトだ」
一夏「あのミサイルは『減速した瞬間に爆発する』ようにセットされている」
一夏「そして、それはコンマゼロ秒単位で爆発するようにしてあるから、爆発に備えて『AIC』の防御を変更する暇も与えない」
一夏「何よりも、そんなことをしても無駄だ。何故なら、弾頭の中身は無色透明の液体なのだからな」
一夏「流体に対して『AIC』はほとんどその性能を発揮することができない」
一夏「それに、この液体は無色透明だが、カメラには映らないある決定的な破壊力がある!」
一夏「もちろん、それは酸や有毒ガスなどの化学兵器の類ではない。そんな残虐非道なことをする気はない」
一夏「さて、あのラウラがどう反応するか楽しみだな」
セシリア「い、いったいあのミサイルは何でしたの? フェイクだったのでしょうか?」
セシリア「『AIC』を誘発させてその隙を狙うためのものだとすれば辻褄が合いますけれど…………」
鈴「でも、見て! 何だかラウラの動きが何というかどことなく鈍くなってない?」
鈴「――――――決まったわ! そして、――――――吹っ飛んだ!」
セシリア「あれは第2世代兵器最強の『盾頃し(シールド・ピアース)』ですわ!」
鈴「なるほど、決定力は元々あったってわけね」
鈴「それにしても、あのミサイルが何なのかはわからないままだけどね……」
セシリア「本当にあの『シュヴァルツェア・レーゲン』を第2世代型で倒してしまいますわね…………」
鈴「そうね。いくら相性が悪かったからとか言っても、負けた悔しさだけは変えようがないわよね……」
鈴「強くならなくちゃ……」
セシリア「……そうですわね」
88: 2013/09/28(土) 11:58:24.11 ID:5H8gBlq40
ラウラ「ぐあ…………(……私は負けられない!)」
ラウラ「がは…………(…………負けるわけにはいかない!)」
ラウラ「ぐふ…………(――――――教官の栄誉のために!)」
――――――彼女は極めて有能な教官だった。
――――――彼女の導きによって、“出来損ない”だった私はIS部隊最強の座に君臨することができた。
――――――しかし、その強さの秘密に触れた時に私は動揺した。
――――――違う! どうしてそんなに優しい顔をするのですか…………?
――――――私が憧れるあなたは強く、凛々しく、堂々としているのに…………!
――――――だから、許せない!
――――――教官をそんな風に変える男が…………!
――――――だから、よこせ、力を。比類なき最強を!
ラウラ「うわああああああああああ!」
箒「な、何だ? 新手の新装備か?!」
シャル「く、距離をとる!」
箒「しかしこれは、明らかにおかしい…………!(機体がドロドロに溶けて、パイロットが呻き苦しむような装備なんて!)」
セシリア「いったい何が……?」
鈴「わからない。けれど、ただごとじゃないわよ、これは!」
来賓「ああ、あれは――――――」
爺様「ほう……(――――――VTシステムか。まさかこんなものがまだこの世に存在していたとはな)」
千冬「レベルDの警戒態勢を」
山田「了解!」
アナウンス「非常事態発生! トーナメントの全試合は中止!」
アナウンス「状況はレベルDと認定! 鎮圧のため、教師部隊を送り込みます」
アナウンス「来賓、生徒はすぐに避難してください!」
来賓「は、早く行きましょう、会長!」
爺様「まあ、そう慌てるな。このアリーナは分厚いシールドエネルギーの層で守られている」
爺様「見たところ、大量破壊兵器も無いことだろうし、ここで教師部隊がどう対処するのか見物したいぐらいだ」
来賓「会長~!?」
SP1「しかし、ここは誘導に従ってください」
SP2「そうですよ。ここは彼に任せましょう」
爺様「ああ、そうだな」
来賓「“彼”?」
爺様「さぁて、それでは堂々と避難しようではないかぁ」ワッハッハッハッハ
89: 2013/09/28(土) 12:00:05.50 ID:mq5otnXP0
箒「非常事態――――――なら、こいつは倒すべき敵なのか?」
シャル「わからない。けれど、このまま放置しておくのは危ないかも……」
箒「――――――え、あれってよく見たら、雪片弐型…………?」
シャル「確かに似ている…………」
箒「それに、あの顔付き、見憶えがあるぞ……!」
シャル「あ、言われてみれば、そうだね」
――――――そうだよ、あれは“ブリュンヒルデ”だ。
一夏「…………」
箒「い、一夏――――――!?(い、いつの間に…………!?)」
シャル「あれが何か知ってるの?」
一夏「第1回『モンド・グロッソ』総合優勝者である織斑千冬のコピー」
一夏「これがお前が望んだ強さの在り方なのか? …………がっかりだよ」
一夏「だったら、“お前”は要らないな?」
一夏「――――――その妄執にケリを付けてやるよ」ジャキ
一夏「下がっていろ、二人共。すぐに決着は付く」
箒「な、何を言っているのだ、一夏……?」
箒「止めろ、一夏! 相手はあの“ブリュンヒルデ”なのだろう!?」
箒「そ、それに、何故雪片弐型しか出していないのだ! 斬られたら、どうするつもりだ!?」
シャル「…………これが一夏の覚悟」
シャル「どんなに相手が強くても逃げない――――いや、自分が勝つと信じてひたすら前を進むのが織斑一夏」
シャル「………………」ゴクリ
箒「……わかった。一夏、氏ぬな。絶対に氏ぬな!」
一夏「俺を信じろ。そして、昔とは違うことを自覚してくれ」
箒「ああ…………(昔とは違う……?)」
シャル「そうだね……(もう昔の僕じゃないよ、一夏!)」
一夏「(ラウラ、お前の中で織斑千冬がそのままなら、お前の強さもそこまでだ)」
ラウラ「――――――」
一夏「………………」
一夏「――――――」
ラウラ「――――………… 」ズバン
一夏「――――――ほらね? 遅い」
――――――俺も千冬姉も昔よりも強くなっているのだから。
90: 2013/09/28(土) 12:01:26.23 ID:5H8gBlq40
――――――それは神速だった。疾風だった。迅雷だった。
あの“ブリュンヒルデ”が剣を抜く前に織斑一夏は青筋の光の剣で逆袈裟斬りで下から上に斬り裂いたのである。
そう、この織斑一夏にとって、“ブリュンヒルデ”と呼ばれていた頃の織斑千冬など相手にもならないぐらいだったのである。
その一方で、織斑千冬も成長し続けており、“ブリュンヒルデ”を超えてさえいる織斑一夏に未だに遅れを取ることがなかった。
織斑一夏は戦闘の天才というほどではなかった。ただ財閥の力を利用して効率よく状況に特化した訓練を積み重ねていただけにすぎない。
それ故に、咄嗟の機転や智謀で相手を打ち負かすようなことや、相手の機微や弱点をその場で見抜いて本能的に対処するような器用な真似はできなかった。
言うなれば、この織斑一夏は戦略・運用管理の天才とも言うべき存在で、ある目的に沿って効率よく成果を出すことに長けていたのである。
そういう特長の持ち主故に、財閥に入って数ヶ月で“ブリュンヒルデ”を超えるという目標はすでに達成済みであった。
つまり、一夏にとってラウラが目指していたものなど滑稽でしかなかったのである。
しかし一夏は、浅く斬り裂いたスキンから力無く倒れこんだラウラを優しく抱き抱えた。
経験者である一夏はよく知っていた。
――――――事件は終わった後から心を縛り上げていくということを。
終わってから気づく事件の影響力。自分の立ち位置、実力、悲哀…………
ここからがラウラにとっての本当の戦いとなってくるだろう。
だから、せめて疲れきって倒れこんだ今だけは良い夢を見られるようにと、優しく抱き寄せて、鼻栓を付けてあげるのだった。
――――――腐卵臭をこらえて!
91: 2013/09/28(土) 12:02:28.53 ID:mq5otnXP0
ラウラ「お前はどうして強い? まるで織斑教官そのもののように感じられた…………」
一夏「それは買い被りだ。これでも実力としては織斑千冬には遠く及ばない」
一夏「もし俺が強いって言うなら、それは強くなりたいから強い――――それに尽きる」
一夏「強くなったら、より多くのものを守れるようになるだろう?」
一夏「俺は自分の全てを使って、関わる人全てを守りたいんだ」
ラウラ「それはまるで、あの人のようだ…………」
一夏「それはそうだ。今の俺があるのは織斑千冬の教えがあったからこそだ。俺は肉親である以上に人生の師として敬愛している」
ラウラ「私は、織斑一夏――――お前のようになれるだろうか?」
一夏「なりたいという気持ちが強くあるのなら、――――――可能性は見つかったよ」
一夏「だけど、ただ強いだけじゃダメなんだ。そこに他者を思いやる心がなくちゃ、何も変わらない」
一夏「心を育てるためには、いろんな人の心に触れて、様々な経験を積んでいかないといけない」
一夏「ISだって同じだろう? ISはパイロットと一緒に経験を積んで、パイロットの特性を理解しようとし、そして「最適化」してくれる」
一夏「ISと同じように他者を理解することができるようになれば、織斑千冬に近づけるよ」
一夏「それができるようになるまで、――――――お前は俺が守る」
一夏「だから、安心してくれ。俺はお前のこと、嫌いじゃなくなったから」
一夏「今はゆっくりと、休んでいてくれ」
――――――おやすみなさい、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
ラウラ「…………温かい」
92: 2013/09/28(土) 12:04:19.79 ID:mq5otnXP0
――――――同日、夜
爺様「はははは! わはははははは!」
一夏「会長、笑いすぎですよ……」
爺様「いや、なるほどと思って感心せずにはいられんかった」
爺様「あのミサイルの中身はなんと“腐った卵の白身”だったのだぞぉ!」
爺様「お前の狙い通りに、あの悪臭を前にしてあのドイツの小娘は取り乱して、そこを鼻栓をした二人が強襲する――――――」
爺様「確かに、無色透明で肉眼でも見落とすような代物だから何が起きたのかVTRでは確認できんし、」
爺様「化学兵器ではないから取り締まることもできない――――――」
爺様「これは傑作だな! 歴史上でも腐った卵を武器として使った記録もあることだし、それをまさか現代戦――――しかも、ミサイルに入れてなぁ?」
一夏「別にあれがなくても、シャルルと箒さんなら信じていましたよ」
一夏「ただ私のやり方だとどうしても意表を突いてからの猛攻撃が性に合っていて、」
一夏「――――――つまり、決定的な敗北感を植え付けるやり方を勧めてしまったというわけです」
シャル「あはははは……鼻栓をしていたからわかりませんでしたけど、救護班や教師部隊が一瞬凄い形相になったのが忘れられません」
箒「まさか、鼻栓にそういう意味があっただなんて知りませんでした。てっきり、爆煙が強いものだと思い込んでいましたので」
爺様「おおっと、そう畏まらなくていいぞ、嬢ちゃんたち?」
箒「あ、はい……(え? 嬢ちゃん“たち”?)」
一夏「会長、それは難しい話ですよ」
爺様「ははははははは」
爺様「さて、食事も歓談も十分にしたところで、本題に移ろうか」ビシッ
シャル「――――――!」
箒「………………!?」
爺様「だがその前に、これから話すことは他言無用としてもらいたいが、それができないなら今すぐ退出してもらってもかまわない」
爺様「約束してもらえるかな、嬢ちゃんたち?」
シャル「はい、覚悟はできています」
箒「……わかりました。口外いたしません」
爺様「よし、儂は聞いたぞ? お前はどうだ、織斑一夏?」
一夏「こちらもしっかりと耳に入れました」
爺様「では、本題に入ろうか、シャルル・デュノア?」
シャル「はい!」
爺様「その決意表明として、あちらの部屋で着替えてきて欲しい」
シャル「わかりました」
箒「………………?」
爺様「さてその間、こちらのお嬢さんと話をすることにしようか、織斑一夏」
一夏「……本当は箒を招く必要はなかったんだ。でも、箒にとって悪い話じゃないと思うから…………」
箒「あ、ああ…………(いったい何を話すというのだ……?)」
爺様「話の内容はこうだ」
――――――篠ノ之 箒の身柄を日本政府から貰い受けたいということだ、織斑一夏が。
箒「は、はあ!?(そ、それって――――――!?)」
93: 2013/09/28(土) 12:06:30.30 ID:5H8gBlq40
一夏「もちろん、『結婚する』っていう意味じゃないから安心してくれ」
一夏「ただ、社会人になるまで“篠ノ之 箒”でいられる居場所を用意してあげたいって思っていたんだ」
一夏「扱いとしては秘書か家令かってところなんだけどさ。まあ、養子っていうのもありだけど……」
箒「………………」ポカーン
箒「――――――はっ!?」
箒「た、確かに一夏は、セレブの世界に入ってお見合いリストとにらめっこするぐらいの立場なっていたのは知っていたが、」
箒「お前はいったいどういう経緯でセレブの世界に入ったと言うのだ? 教えてくれ……」
一夏「えっと……(まあ、こうなるよな…………わかってはいたけど、面と向かうとなかなか…………)」
爺様「ああ、それはだな、――――――儂の世継ぎの末席だ」
箒「え!? か、会長の世継ぎで、ありますか……?」
爺様「ああ。儂の血縁者だ。だから、こちら側に連れてきた」
一夏「(なるほど、爺様はそういうふうにするつもりか。なら――――――)」
一夏「末席とは言え、私も屋敷では家令たちに傅かせる身分。箒さんを養うことぐらい簡単ですよ」
箒「そうか、本当に遠い世界の住人になっていたのだな……」
一夏「でも、それだけの力を俺は手にしようとしている」
一夏「個人の強さだけではどうしようもないものをどうにかすることができる力を――――――」
一夏「…………これは強制じゃない。ただの提案だ」
一夏「誰かの環境を変えるだけの力を俺は持ってしまった……」
一夏「ただその力の意味は環境を与える側と与えられる側では一致しないことが常だ」
一夏「答えはこの場で決めなくてもいい。“篠ノ之 箒”でいられる間までに出してくれればいい」
箒「一夏…………」
一夏「(おそらく箒には、――――――この提案を受け容れる余裕はない。この場で丁寧に断るに違いない)」
94: 2013/09/28(土) 12:07:22.61 ID:5H8gBlq40
箒「…………すまない、一夏」
爺様「ほう……」
一夏「(ほらな。でも、これでいいんだ。『提案したこと』に意味があるのだから)」
箒「会長も一夏も、私が重要人物保護プログラムによって一家離散したことはご存知ですよね」
箒「私だけが安穏と暮らしていいのものか、私にはわかりません…………」
一夏「(自分の想い、誠意というものは行動と結果によってのみ、初めて他者に示され、伝わり、理解される)」
一夏「(この提案は箒にとって大きな心の支えとなってくれるはずだ……)」
一夏「(これは、ありのままの“織斑一夏”を支えてくれたお前への感謝の気持ちだ)」
箒「よって、ありがたい申し出ですけれど、私は拒否させていただきます」ポロポロ
箒「本当に、本当に、感激のあまりに、嬉し涙が出るくらいですけれど、」
箒「すまない、一夏…………」
一夏「……そうか。だけど、それも“篠ノ之 箒”だ。自分に恥ずかしくない選択をよくしてくれた」ニコッ
爺様「お前の言った通りの筋の通った立派なお嬢さんだな、一夏?」
一夏「当然です。“篠ノ之 箒”は私が誇りに思う大切な幼馴染ですから」
箒「お前にだけは泣き顔を見せまいと振舞っていたのに、こんな…………」
一夏「気にしないで。さっきも言ったけど、それが“篠ノ之 箒”なんだから」
コンコン
爺様「どうやら、あちらの準備もできたことだし、お嬢さん? あちらの部屋にどうぞ」
箒「ありがとうございます…………では、失礼します」
一夏「………………」
一夏「さて、箒は行ったか」
爺様「では、入ってきなさい」
シャル「は、はい……」ガチャ
95: 2013/09/28(土) 12:09:04.89 ID:mq5otnXP0
爺様「――――――両手に花、だな」
一夏「こういうふうにべったりと身体をくっつけるのはハシタナイよ?」
シャル「う、うん……」テレテレ
箒「い、今だけはこうさせろ……」テレテレ
今、一夏の両腕に抱きついているのは、純白なドレスに身を包んだ篠ノ之 箒と、
太陽のように眩い山吹色のドレスに身を包んだシャルル・デュノア――――否、シャルロット・デュノアであった。
一夏「俺の登場に合わせて男性としての立居振舞の訓練をさせられても、所詮は1ヶ月程度の粗末なものだから些細なところで正体に気づいた」
一夏「例えば、こう――――――」パシッ
シャル「やっぱり、そうだったんだね…………」
箒「ど、どういうことだ、一夏?」
爺様「それはつまり、社交ダンスで相手と組んだ時、咄嗟にどちらの手が先に伸びるかということだな」
爺様「こういうのは反射的に、あるいは本能的に身体が動くものだからな。相当期間をかけて意識的に矯正しなければすぐにボロが出るわけだ」
一夏「ええ、おっしゃる通りです。しかも、一度踊ってみて完璧にこなせていたのですぐに確信できました」
シャル「さすがにバレたと思ってドキドキが止まりませんでした」
一夏「その後、ISで社交ダンスするようにねだってきてね…………ヤケクソになっていたのか、あの時は?」クルクル
シャル「あ、そ、その時は…………」アセアセ
一夏「はい、ターン! フィニッシュ!」
箒「むぅ…………こういう時にシャルロットの育ちの良さが羨ましい」
箒「でも、あの時と同じように、本当に優雅で気品にあふれていて…………」
爺様「……む」ガチャ
爺様「…………ほう。わかった、すぐに伝えよう」ガチャリ
96: 2013/09/28(土) 12:10:03.60 ID:mq5otnXP0
一夏「おや」
爺様「一夏、先程から千冬から連絡があった」
一夏「――――――!」
爺様「ラウラ・ボーデヴィッヒが息を吹き返したそうだ」
一夏「」フゥ
一夏「――――――よかった。これで関わる人全てをまた守れた」
箒「一夏…………(一夏はどんどん大きくなっていく。それに比べ、私は…………)」
一夏「シャルロット、あの子の面倒を頼む。部屋割りの都合もあるが、任せられるのはシャルロットだけだ」
シャル「わかったよ、一夏」
一夏「さて、最後に……、篠ノ之さん?」
箒「な、何だ……?」
――――――私と踊ってくれませんか?
箒「え?!」ドキッ
シャル「そうだよ。せっかくこんな素敵なドレスを着ているんだからさ」
シャル「大会が中止になって『一夏からのご褒美』を誰も受け取れなくなったからこそ、ここは受け取るべきだよ」
箒「わ、私はダンスなど――――――」
シャル「大丈夫! 僕が一通り手取り足取り丁寧に教えてあげるから、ね?」
箒「そ、そういうことなら、頼もう、かな…………」
一夏「まったく恥ずかしがり屋なんだから。だが、微笑ましい」
箒「………………笑うな」プクゥ
爺様「はははははは! では、目一杯楽しむといい。――――――時計の針が12時を指すまでな」
一同「はい!」
――――――夜は更けていく。
97: 2013/09/28(土) 12:10:51.89 ID:mq5otnXP0
それから程なくして、シャルル・デュノアはデュノア社と手切れし、シャルロット・デュノア――――“ありのままの姿”でIS学園に再入学することになった。
そして、ラウラ・ボーデヴィッヒもかつての教官から何か諭されたらしく、かつての険しさがなくなり、“歳相応の女の子らしさ”を見せ始めることになった。
学園生活も、臨海学校までは特に年間行事がないために、無人ISによる襲撃事件やVTシステム騒ぎの熱が徐々に冷めていき、落ち着きを取り戻していった。
しかし、学年別トーナメントから臨海学校までの間に、織斑一夏の運命はここで大きな転換点を迎えることとなった。
一夏とISとの繋がりは去年の夏のオープンハイスクールからなので、間もなく1年を迎えようとしているこの頃――――――。
ここからが、財閥総帥後継者の試練となっていくのであった…………
98: 2013/09/28(土) 12:11:56.94 ID:5H8gBlq40
第3話 IS開発競争・裏
Nameless One for ONE SUMMER
織斑一夏は多忙であった。
IS学園の1年1学期のビッグイベントである学年別トーナメントが終わり、次の目玉行事である臨海学校まで時間はたっぷりあるのだが、
織斑一夏に対しての各国の専用機持ちや企業からの挑戦状や合同演習の誘いが絶え間なく送り届けられていたのだ。
しかし、一夏のスポンサー――――――財閥のIS部門は相変わらず秘匿の姿勢を貫こうとしていた。
――――――だが、それ故の反動でもあった。
ついには、国際IS委員会の緊急会議の開催までに至り、織斑一夏と『白式』のデータの公開を突きつけられたのである。
それによって、お呼び出しで受けていた時のデータ以外――――つまりはIS学園での運用データは全て可能な限り公開されることになった。
その裏で、壊滅的な損害を受けていた大手IS企業があったことを明言しておく。フランスの――――――。
ともかく、例の無人ISやVTシステムなどの公開できない機密事項以外で公開された情報として、
シャルル・デュノアの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』とラウラ・ボーデヴィッヒの『シュヴァルツェア・レーゲン』を秒頃したことが公式実績として挙げられたために、
競技用に特化した第2世代型の傑作機と、コンペティション最強の第3世代型という全く違った方向に完成された両機を秒頃した、
織斑一夏と『白式』に再び世界中から関心が寄せられたのである。それは当然、IS学園でももちきりの話題となっていた。
だから、織斑一夏は多忙であった。
一夏「これで俺の影響力は学園はおろか外部にすら行き渡ることになったが、」
一夏「…………これでは身動きがとれん」ハア
一夏「軽率だったか? 明らかに学園の有名人というレベルではなくなってきている…………」
公式の会見まで行ったのに、それでも毎日のように訪れるエージェントや野次馬、ファンの群れにほとほと疲れきっていた。
また、経済的な影響も与えてしまったので、全く関係ない経済関係の人間や、果ては政治家まで来る始末である。
TV出演やCMでの起用、果てはお見合いのお誘いなんかも殺到した。
幸い、財閥総帥後継者であることは徹底的に伏せられていたので、“織斑一夏”として振舞えていたので幾分か気が楽だった。
99: 2013/09/28(土) 12:12:51.82 ID:mq5otnXP0
一夏「元々、IS業界の不動のNo.2VIPだからこうなるとは思ってはいたけど、――――――俺はハリウッドの映画スターでも何でもないんだぞ!」
一夏「結局、貧乏人からも金持ちからも搾り取られる立場にあるのか、俺は…………」
一夏「これはなかなかキツイ…………業界人やセレブだけとの醜い付き合いですめばよかったのに、もう世間では国民的なアイドルの扱いだ」
一夏「国民栄誉賞だとか何だとか、そういう声も上がっているぐらいだ……」
一夏「なかなか難しいな…………」ハア
一夏「あんなのも俺が守るべき『関わる人全て』に入ってしまうのか…………」
一夏「上に立つっていうのはなかなか難しいことだったんだな…………」
爺様「辛そうだな……」
一夏「ええ。爺様のように上流階級だけのお付き合いですめばよかったのに、低俗なマスコミやら何やらに追い掛け回されてクタクタだ……」
一夏「爺様がある程度手を回して事態の収拾にあたってくれたので、これでも最初の頃の3割ぐらいに収まりましたけど、」
一夏「場数を踏んでいない俺では体力が保ちません…………」フラッ
一夏「せっかく、ただの“織斑一夏”として気楽に振舞えていたのに、周囲の目に怯えながら生活することになってしまった……」
一夏「俺もかつてのラウラのようなキモオタに追い掛けられる偶像になってしまったのか……」
一夏「部屋に居る時も、どこかに盗聴器やカメラが仕掛けられているんじゃないかって不安になって落ち着かない…………」
一夏「唯一落ち着くところが、よりにもよって爺様のお膝下だけになったのがどうにも心苦しい…………」
一夏「俺が財閥総帥後継者であることを世間に知られないように極力来ないことにしていたのに、このザマですよ」
爺様「こちらも手を尽くしてはいるが、勢いだけはどうしようもならんからな…………」
一夏「お見合いリストの他に挑戦者リスト、野次馬リストまで増えて、もうイヤだ…………」
一夏「…………ダメだな。責任ある立場として「最適化」していかなければならないのに」
爺様「これは耐えて時が移るのを待つ他ないな……」
一夏「そういえば、爺様。珍しいですね、のんびりと映画鑑賞しているなんて」
爺様「たまには、な」
一夏「『スターシップ・トゥルーパーズ』、『2001年宇宙の旅』に、劇場版『銀河英雄伝説』とか…………」
一夏「――――――コズミック系が本当に好きなんですね」
爺様「戦後の人間にとって――――いや、高度経済成長期の日本人なら誰しも宇宙に思いを馳せたことはあるものだ」
一夏「――――――IS〈インフィニット・ストラトス〉も宇宙開発用のマルチフォームスーツだったのに」ボソッ
爺様「………………」
一夏「それじゃ、そろそろ学園に帰りますね」
爺様「見送ろう」
一夏「ありがとうございます、爺様」
爺様「これぐらいのことしかできないが、強くあってくれ」
爺様「金、権力を持つということは常に、危険と隣り合わせだということを、忘れるでないぞ?」
一夏「もちろん」ニコッ
爺様「フッ」
100: 2013/09/28(土) 12:14:09.73 ID:mq5otnXP0
ザーザー
ゴロゴロ、...ピカーン!
一夏「何か思い出すな、この激しい雨音と雷鳴…………『あの日』の衝撃が思い出されるようだ」
一夏「……うん?」
運転手「どうなさいました?」
一夏「停車してくれ。――――――何かおかしい」
運転手「わかりました……」キキー
一夏「この道を通ると方角的に必ず本社の明かりが見えるはずなんだけど、それが見えない……」
運転手「あ、本当だ…………」
一夏「しかも、辺り一帯が停電しているわけじゃないのに、ビルに取り付けられているヘリの誘導灯も見えない」
一夏「ということは、予備の電源すら落とされているってことだ――――――!」ピポパ
一夏「」プルル、プルル......
一夏「これは間違いない! 本社のフロントに繋がらない!」
一夏「――――――非常事態だ! テ口リズムだ!」
運転手「な、何ですって!?」
一夏「警察を呼びますから、そちらは警備会社を!」ピポパ
運転手「わかりました!」ピポパ
一夏「――――――この時期に財閥本社を襲撃」
一夏「狙いは俺か? それとも、爺様か?」ガチャ
101: 2013/09/28(土) 12:14:52.34 ID:mq5otnXP0
ザーザー
運転手「――――――な、バリケード!?」
一夏「わずかな時間の間に道路封鎖までしていたか…………ヘリを寄越すように要請しておいて正解だったな(だが、この悪天候では…………)」
運転手「ど、どうします!?」
一夏「ここからは俺一人でいい。おそらく、フロントをはじめとする下層のエリアは制圧されている」
運転手「何をおっしゃいます!?」
一夏「相手はプロだ。無用は殺生はせずに、目標確保を迅速に急ぐはずだ」
一夏「確か、あなたはこの辺の地理のことは手に取るようにわかると聞きましたが?」
運転手「あ、はい……」
一夏「では、命じます。テ口リストたちがこの状況で逃走するためには空路はまずありえません。確実に人目の付かない道を選んで逃走を図るはずです」
一夏「あなたはテ口リストの逃走経路を予測して、待機しているはずのお仲間さんの逮捕に協力してください」
一夏「私は潜入して世界最強の兵器の力を以って会長の安全を確保してきます」
運転手「そ、そんな…………」
一夏「深夜とはいえあそこには会長の他にも財閥の下で日々の糧を得ている数多くの従業員や顧客が居る――――――」
一夏「何もできないよりは、何かできたほうがいい……」
運転手「――――――!」
運転手「わかりました! 無事を祈っています!!」
一夏「ありがとう」
一夏「さて、おそらく俺が駆けつけてくることも計算のうちなのだろうな」
一夏「ISのコアの位置情報を遅らせる機能を使えば、1時間は悟られずにすむ」ピピ
一夏「待っていてくれ、爺様! 絶対に助け出す!」
102: 2013/09/28(土) 12:15:38.32 ID:mq5otnXP0
ザーザー
運転手「――――――な、バリケード!?」
一夏「わずかな時間の間に道路封鎖までしていたか…………ヘリを寄越すように要請しておいて正解だったな(だが、この悪天候では…………)」
運転手「ど、どうします!?」
一夏「ここからは俺一人でいい。おそらく、フロントをはじめとする下層のエリアは制圧されている」
運転手「何をおっしゃいます!?」
一夏「相手はプロだ。無用は殺生はせずに、目標確保を迅速に急ぐはずだ」
一夏「確か、あなたはこの辺の地理のことは手に取るようにわかると聞きましたが?」
運転手「あ、はい……」
一夏「では、命じます。テ口リストたちがこの状況で逃走するためには空路はまずありえません。確実に人目の付かない道を選んで逃走を図るはずです」
一夏「あなたはテ口リストの逃走経路を予測して、待機しているはずのお仲間さんの逮捕に協力してください」
一夏「私は潜入して世界最強の兵器の力を以って会長の安全を確保してきます」
運転手「そ、そんな…………」
一夏「深夜とはいえあそこには会長の他にも財閥の下で日々の糧を得ている数多くの従業員や顧客が居る――――――」
一夏「何もできないよりは、何かできたほうがいい……」
運転手「――――――!」
運転手「わかりました! 無事を祈っています!!」
一夏「ありがとう」
一夏「さて、おそらく俺が駆けつけてくることも計算のうちなのだろうな」
一夏「ISのコアの位置情報を遅らせる機能を使えば、1時間は悟られずにすむ」ピピ
一夏「待っていてくれ、爺様! 絶対に助け出す!」
103: 2013/09/28(土) 12:16:55.40 ID:5H8gBlq40
SP1「く、まだ外部との連絡がつかないのか!?」
SP2「さすがに要人護衛をしながらこの数を捌くのは無理があるか…………」
爺様「すまんな…………」
SP1「いえ、会長が気に病むことはありません」
SP2「そうですよ。人には得手不得手がある。会長には会長の、俺たちには俺たちにできることとできないことがあるんだからさ」
爺様「そうだな…………」
SP1「しかし、深夜の激しい雨の中、堂々と襲撃してきたせいで虚を突かれた」
SP1「まさか、トレーラーで乗り込んでくるとは…………!」
SP2「しかも、相手は本格的な重装タイプと軽装タイプの2つで構成されてるときたもんだ」
SP2「こっちは拳銃しか無いのに、あっちは盾と機関銃持ちだ。この戦力差はいかんともし難いね」
爺様「さて、どうする? “アビス”に逃げこむか?」
SP1「――――――それは!?」
SP2「確かにあそこは核シェルターを兼ねる場所で、こういう時のための迎撃用装備も仕込まれてますけど、時間稼ぎにしかならないでしょうな……」
SP1「それに、“アビス”の存在はごく一部の人間にしか知られていません。それを晒すのは――――――」
SP2「最大戦力もここにはいないことだし…………」
爺様「覚悟を決めねばならんか……」
SP1「お供します」
SP2「希望はあります。会長の意思は受け継がれた――――――」
爺様「フハハハハ! 人生、長生きしてみるものだな…………果報者だ、儂は」
SP1「む?」
ピカー!
SP1「――――――何の光!?」
SP2「雷ではない――――――は、この音は!」
バララララ
SP2「しめた! SP隊のヘリの応援だ! どうやらまだ次代に思いを馳せる時じゃないようですよ」
爺様「驚くほど早かったな…………逸早くこの事態を察知し、手を回せるだけの人物と言えば――――――」
104: 2013/09/28(土) 12:17:32.53 ID:5H8gBlq40
その時、遠くで大きく窓ガラスが砕け散る音が鳴り響いた。
次の瞬間には、爺様とSPに向けて放たれていた弾幕が一斉に途切れたのだった。
そして、耳を澄ませば、隊列の乱れた銃声音と悲鳴がこだまする。
「うわああああ!」「逃げるんだ…………勝てるわけがない!」「あ、悪魔だ…………」
SP1「何だ? 何が起きた…………」
SP2「俺が様子を見てきます」
爺様「やめておけ。それにもうじきこちらに来る」
一夏「会長おおおおお!」
SP1「おお! これで最大戦力は確保できました!」
SP2「これぞ、天のお導き!? これなら“アビス”に行っても――――――!」
爺様「やはり、か」ニンマリ
一夏「早く避難してください! 軽く薙ぎ払っただけでまだまだたくさんテ口リストがいます」
爺様「では、そうしようか」
SP1「警備保障の応援を頼んでくれたのは、若様ですか?」
一夏「はい! 警察にもすでに――――――」
SP2「いやあ、ここまで頭がきれるご子息が羨ましい!」
一夏「それよりも早く避難を!」
SP1「よし、――――――要人護衛の訓練、憶えているな?」
SP2「頼りにしてるぜ、若様。文字通り、会長を守る盾となるんだ」
一夏「はい!」
爺様「よもや、こういう形で守ってもらうことになるとはな……」
一夏「俺も特殊部隊の訓練を実践する日が来るなんて思ってなかったよ……」
一夏「けど、――――――守る!」
爺様「頼んだぞ。今はお前だけが頼りだ」
SP1「俺と若様が先行して通路を確保する! 行くぞ!」
一夏「了解!(――――――本当に『金、権力を持つということは常に、危険と隣り合わせ』だよ!)」
一夏「(だが、俺はそれでも掲げ続ける!)」
――――――俺は関わる人全てを守る!
105: 2013/09/28(土) 12:18:25.12 ID:5H8gBlq40
世界最強と謳われるISの力の程は絶大であった。
ロケットランチャーの直撃を受けてもシールドエネルギーはわずかに減る程度であり、
築かれた防御陣を全く怯むことなく正面から捻じ伏せ突破できる力が顕わとなる。
改めて織斑一夏は世界最強の兵器たる所以を認識した。
絶対防御、PICによる常時浮遊可能、そして何より人間サイズのパワードスーツであることが最も脅威であった。
戦車や戦闘機よりも遥かに強力な兵器を屋内戦闘でも扱えるわけなので弱いはずがない。
しかし、織斑一夏と『白式』はその圧倒的なまでの戦闘能力を発揮して血路を開いていくが、状況としては依然として追い詰められていた。
一夏「これで何人の人間の顎を砕いたことか……(さぞかし、裁かれる側としては悪鬼のように感じられたことだろうな)」
一夏「(過ぎた暴力を振るっているという点では、あの時のラウラと全く違わない)」
一夏「(俺は頃しはしないが、積極的に人を傷つけている…………)」
一夏「(爺様と同じく人頃しの業を背負うのも時間の問題かもしれないな…………)」
「貴様ら、金持ちはいつもいつも我々貧しき者を虐げる!」
「我々の些細な抵抗でさえ、こうも簡単に――――――!」
「許さない! 絶対に許さない――――――あっ…… 」ガクッ
SP1「そうかい。自分が地獄を見たからって、他人にそれを押し付けていいってことはないのに」
SP2「馬鹿だな。テ口リズムを成功させたところで心穏やかに余生を過ごせるわけないのに」
SP1「敵の重装備を確保できたことで余裕ができてきたな」
SP2「武器さえあればこっちのもんさ。本当の地獄を生き抜いてきた俺たちに敵うわけないだろう!」
一夏「…………地獄、か。それを感じるのに環境は関係あるのだろうか」
爺様「そうだな。全体から見れば相対的な価値観ではあるが、当人にとっては絶対的な価値観とも言える」
106: 2013/09/28(土) 12:19:04.68 ID:5H8gBlq40
爺様「よし、ここがシェルターへのエレベーターだ。ここまでくれば、後はお前が呼んでくれたSP隊と警察の手で鎮圧されることだろう」
一夏「まだ気を抜いちゃいけない! まだ、要人の安全は確保されてないんだから!」イラッ
爺様「おおう、殺気立っているな」
爺様「怖いか、――――――人を守るということが?」
SP1「………………」キョロキョロ
SP2「………………若様」カシャカシャ
一夏「ああ、怖いさ。暴力なんて使いたくない。けれど、それを使わざるを得ない時が来てしまった……」プルプル
一夏「暴力なんてどこか遠い世界の現象だってずっと思っていた。暴力なんて振るうやつの気持ちが知れない、最低だなっていうぐらいに」
一夏「でも、相手にどれだけ非があろうとも、こちらにどんな大義名分があろうとも、そこには痛さと怖さと狂気と矛盾があって、」
一夏「『やらなきゃやられる』とか『そんなつもりはなかった』なんていう言い訳が通じない、誰しも1つの命の尊さを感じて…………」
一夏「今日、この『白式』の手は、数多くの人間の顎や歯、肋骨を砕いてきた。その血の跡と砕いた感触と未だに残り続けている……」
一夏「こんなことなら『強くなどなりたくなかった』とさえ思うほどに打ち震えている…………」
爺様「一夏…………」
SP1「到着したようです。早く乗り込みましょう……」
SP2「そうそう、――――――後悔先に立たず。まずは安全を確保しましょう。ね、若様も会長も」
一夏「…………そうだった。気を抜いていたのは俺の方だった…………すまない」
爺様「どんなに哀しくても感じる心を止めてはぁならない」
爺様「さもなければ、守るべきものを見失ってしまい、自分さえも失ってしまうのだから……」
爺様「お前は正しい。怒りに呑まれるな……!」
107: 2013/09/28(土) 12:19:51.46 ID:5H8gBlq40
SP1「これで地上の状況がわからなくなってしまった」
SP2「あとは、“アビス”の最深部で追手に備えて鎮圧が終わることを祈るだけだ」
一夏「その“アビス”の最深部までどれくらい掛かるの?」
爺様「そうだな。迷路状になっているから、早くて20分ぐらい掛かるな」
一夏「そんなに?!」
SP1「ここは侵入者撃退も意図されているからそれぐらいは当然」
SP2「けど、こんな空洞があの高層ビルの下にあるっていうのも不思議なもんだな」
一夏「待って。エレベーターが動いてる」
爺様「どうやら、すぐに追手が来たようだな」
SP1「若様、『白式』で会長を運んで少しでも早く最深部に到着して地上との連絡を!」
SP2「俺たちはこういうふうに用意されている武器や罠でできる限りのことをしておくから安心してくれ。迷路も把握してる」ジャキ
一夏「無事で! あなた方も俺が守るべき『関わる人全て』なのだから!」
SP1「ありがたきお言葉、痛み入る……!」
SP2「氏なねえよ。それで、会長が引退したら今度は若様を付きっ切りで守ってやるから!」
一夏「その言葉、忘れるな!」
爺様「ではな」
SP1「はい」
SP2「会長もお元気で!」
一夏「(俺は、二人を笑顔で送り出すことしかできなかった……)」
一夏「(おそらく二人は氏を覚悟していたと俺は思う。相当数のテ口リストを葬ってきたが、まだその規模は把握していなかった)」
一夏「(そして、テ口リストの目的も不明である)」
一夏「(もしかしたら、爺様ではなく、財閥そのもの――――いや、金持ちに対しての積年の恨みで動いていたのかもしれない)」
一夏「(そういうことから、ビル全体を爆破するという可能性もあったのだ。莫大な損害を与え、社会的信頼を失墜させるつもりなら十分ありえた)」
爺様「待てぃ! それ以上、進むな!」
一夏「しまった!? レーザーネット!?(――――――あそこに安全地帯!)」
一夏「――――――間に合え!」
一夏「くそ、爺様を安全地帯に避難させられたが、まともに食らってエネルギーが3割もない!」
一夏「すまない、会長…………俺はあなたのことを――――――」
爺様「過ぎたことを悔やむな。ともかく、後もう少しで到着なのだからもう少しゆとりを持って進んで行け」
一夏「………………」ブルブル
爺様「教えたはずだ。後悔するということは時間を無駄に浪費し、自己陶酔と自己正当化に繋がる現実逃避でしかないと」
爺様「結果を出さなければならない立場にある人間に後悔することは許されない!」
一夏「――――――わかってる! 上に立つ者はみんなを導かないといけないから!」
爺様「………………相当追い詰められているな」
108: 2013/09/28(土) 12:21:11.58 ID:mq5otnXP0
爺様「さて、織斑一夏ぁ?」ピッピッピ
一夏「何、会長? このハッチが開くまで小話?」
爺様「ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』を知っているか? 1959年発表だがな」
一夏「何ですか、こんな時に……?」
爺様「原題、そして映画化された時のタイトルは『スターシップ・トゥルーパーズ』だ」
爺様「しかし、小説と映画では大きな違いがあった」
一夏「はあ……(そういえば、爺様はそれを観ていたな……)」
爺様「――――――パワードスーツの有無だよ」
一夏「パワードスーツ?(こんな時に何が言いたいんだ、爺様は?)」
爺様「パワードスーツの登場するSFの原点とも呼べる代物に、80年代の若造どもは心躍らせた」
爺様「そして、その熱意を受けてアメリカ軍でもパワードスーツの開発が行われていたが――――――」
一夏「そんなことは世界中の人間が知っている! 結局、実用的なものは開発できずに、」
一夏「日本の天才科学者:篠ノ之 束によって、IS 〈インフィニット・ストラトス〉という空戦用パワードスーツが実現されましたよ」
爺様「ああ、そうだ」
爺様「だがぁ、それだけでパワードスーツの開発史が終わると思うかね?」
一夏「………………は?(爺様は無駄話は一切しない。そうなれば――――――!?)」
一夏「何を言っているんです!? それじゃ、まるでこのハッチの向こうに――――――」
爺様「そうだ。ワンオフ機の実用的なパワードスーツがある!」
一夏「――――――っ!?」
一夏「爺様は何を考えている?!」
一夏「ISの導入によって阿鼻叫喚を巻き起こして崩れ去った男と女のミリタリーバランスがようやく安定してきたっていうのに、」
一夏「爺様は『白騎士事件』のようにまた――――――!」
爺様「安心しろ。ISのシールドエネルギーとのハイブリッドエンジンだ」
爺様「つまり、IS適合者でなければ動かん」
爺様「お前はこれを使って二人の応援に向かえ。迷路の地図データもちゃんと入っている」
一夏「俺に、本当の人頃しをやれというんですか……?」ゴクリ
爺様「大丈夫だ。武装は全て硬質ゴムや催涙弾だ」
一夏「見たところ、胸部以外の大部分が露出するように見えますが? フルアーマーですらないじゃないですか! ISの絶対防御なんて無いんですよ!?」
爺様「ハイブリッドだと言っただろう?」
一夏「ハイブリッドだから――――――?」
爺様「このパワードスーツは空戦用のISとは違って、地べたを駆け回るしかできない陸戦用だが、ISを通してシールドエネルギーを供給することができる」
爺様「ISのような量子化そのものは実現できなかったが、その代わりにパワードスーツそのもののノウハウは着実に他の技術に利用されたというわけだ」
爺様「更に、IS用のパワーバッテリーも2基搭載されている。これをISのエネルギー充填に使うことも可能で、部分展開と出力調整次第でISのPICや量子化装備も問題なく使える」
爺様「名付けるならば、…………“FS”でいいか」
――――――FS〈フィニット・ストラトス〉だ。
109: 2013/09/28(土) 12:22:14.83 ID:5H8gBlq40
一夏「こんなパチモン、本当に役に立つのか……?(ISをコアにしたフルアーマーパワードスーツ…………アーマードc(自主規制)ってところか)」
一夏「IS自体も物理法則なんてあったもんじゃない摩訶不思議兵器だけど、人型二足歩行兵器っていうのも非現実的な最も不安定な形だ」
一夏「“鉄の城”なんて風が吹いただけで倒れるぐらいの不安定さだって聞くぐらいだし…………」
一夏「なるほど、ISとの併用を前提にした兵器だから、装着の仕方もISの物理装着と全く同じか。お、解除の仕方はこうなっているのか…………」
一夏「あ、これは俺専用なのか…………『白式』の待機形態のガントレットを覆えるように非対称の腕の造りだ」
一夏「ガントレットじゃなかったら――――――いや、ネックレスやイヤーカフスの形は同期させるのが難しそうだし、これでいいのか」
一夏「で、このFSのコードネームは? 起動キーにしたい」
爺様「――――――『無銘』だ」
一夏「え?」
爺様「その機体はワンオフ機であり、そして量産する気も公表する気もない」
爺様「それはどこにも所属していない、儂の趣味で創りあげた私物ということだ」
爺様「証拠に型式番号も割り当てられていない」
爺様「それ故に、――――――『無銘』だ」
爺様「この存在は噂の域をでない無色透明のような幻の機体ということだ」
爺様「いつだったかの“腐った卵の白身”のようにな」
一夏「………………」
爺様「安心しろ。この区画はこのメンテナンスルーム以外、外部への通信が遮断されている領域だ」
一夏「………………今日、俺が気紛れで来なかったらどうするつもりだったんです?」
爺様「さあな? 儂はお前がいたからここに逃げたまでのこと――――――」
一夏「長生きするわけだ……」
一夏「――――――メインシステム起動、『白式』との同期完了、「最適化」開始!」
一夏「シールド展開のテスト、――――――クリア!」
一夏「――――――『無銘』、発進する!」
キュイイイイイイイイイン! キュウウウウウウウウウン!
110: 2013/09/28(土) 12:23:40.12 ID:mq5otnXP0
一夏「(武装は硬質ゴム弾のフルオートショットガン2丁と腰に帯びた各種グレネードとショットシェルしかないシンプルな装備――――――)」
一夏「(――――――だからなのか、あまり重くない!)」
一夏「(これ、シールドエネルギーが無かったら相当アレなんじゃないのか? いくら携行火器しかないとはいえ、どうやったらこんな軽量化が…………)」
一夏「(ISより挙動は重たいけど、とんでもない足回りだ! どんなモーター積んでるんだ、これ!?)」
一夏「(それにISのシールドバリアーを前提にして脚部には装甲がほとんどないから、階段も少し重い程度に足を上げて上れる!)」
一夏「(これは間違いなくお呼び出しでの経験とデータが活きている! 念入りに俺と『白式』のデータを取っていたのはそのためか)」
一夏「(あとは、生かすも頃すも俺次第だ――――――!)」
キュイイイイイイイイン!
SP1「さすがにキツイな……」
SP2「隠れる場所が多いと言ってもここは地下で、無限に広がる外じゃないからな……」
SP1「何だ…………?」
キュイイイイイイイイン! キュウウウウウウウウウン!
SP2「“アビス”の奥からだぜ! これは間違いない――――――!」
「うわああああ!」「何だあれは?!」「――――――ISなのか?!」
SP1「どうやら、無事に最大戦力の補充ができたようだ」ジャキ
SP2「それじゃ、反撃と洒落込みますか!」ジャキ
111: 2013/09/28(土) 12:24:24.51 ID:5H8gBlq40
一夏「(さすが世界最強の兵器:IS――――――)」
一夏「(――――――そして、そのISを動力として動くFSだ!)」
一夏「(バチモンだと馬鹿にしてたけど、高い完成度だ)」
一夏「(基本はローラー移動だけど、しっかりと足を付けて動くからISよりも動きが安定している)」
一夏「(そして、しっかりとシールドも機能している。特殊作戦用の取り回しを重視した武装なんかじゃシールドエネルギーの1%も削れないぞ!)」
「グレネードだ! グレネードで対処するんだ!」ポイポイ
一夏「そんなもの!(イグニッションブースト――――――うお!?)」
「何だ、あのパワードスーツは!?」
「ローラー移動したかと思ったら、ISのように宙を浮いて猛スピードで来たぞおおお!」
「逃げろおおおおお!」
「逃げるな! しっかりと盾を構えていれば――――――」
一夏「まとめて薙ぎ払う!(――――――回し蹴り!)」ドガシャ
「うわあああああああああ!」
「…………嘘だろう? 鋼鉄のシールドが粘土のように千切れ飛んだぞ?」
「『白式』以外にもあんな化物がいるなんて聞いてねえよ!」
「シールドバリアー、圧倒的機動性、そして破壊力――――――どうすればいいんだよ!」
「早く、エレベーターをおおおおおお!」
一夏「(どうだ! ISの絶対防御によって剛体化したパワードスーツの鋼鉄の足から繰り出されるこの回し蹴りの威力は――――――!)」
一夏「(さて、エレベーター前まで押し込めたが、一気にエレベーター前を占拠する!)」
一夏「(さすがに素手で殴りつけるのは骨が折れる。他に接近戦の武器は――――――スタンロッドがあった!)」
一夏「(イグニッションブースト!)」ビリリバチバチ
「うわあああああ!」「ぐあ!?」「のわああああ!」ドカバキバチチ
ドサッバタッ、シーーーーーン
一夏「よし、これで――――――」フゥ
SP1「よくやってくれた」パン、パン
SP2「後は一人ひとり、弾丸をプレゼントしてあげるだけだ」パン、パン
一夏「え」
112: 2013/09/28(土) 12:25:18.71 ID:mq5otnXP0
SP1「その機体は“アビス”と共に封印されるべき代物だ。外部に漏れれば、新たな軍拡の火種になりかねない」
SP2「そういうこと。自衛に使うのは構わないけど、侵略するのに使われるのは御免こうむるってわけさ」
SP1「世の中には、知らないほうがいいこともある――――――それだけのこと」
一夏「……それはわかっている! だけど、だからと言って、頃す必要なんか――――――」
SP2「若様。残念だけど、こいつらはもう犯罪者なの。生かしておいたところでムショにぶち込まれてまともな人生を送れるわけないじゃん」
SP2「ここで一思いに頃してやったほうがこの先苦しまずにすむんだから、慈悲ってもんだよ? ずっと苦しんできたんだしさ」
一夏「そんなこと――――――」
SP1「この人たちが今日に至るまで苦しみ続け、我慢しきれずに凶行に走った哀れな存在だということには同情する」
SP1「しかし、同情はするが愚かな選択をした以上は許す訳にはいかない」
SP2「まあ、さんざん人を頃してきた俺たちもいずれ裁きを受けることになるが、それでより多くを救えるなら…………!」
一夏「………………う」ピピピ
一夏「(む、何故無線通信が? 専用の回線が『無銘』にはあったということか。さながら、ラビリントスのミノタウロスだな……)」ピッ
爺様「聞こえるか、一夏?」
一夏「会長。“アビス”に侵入した敵は全て、…………“射頃しました”」
爺様「…………そうか」
爺様「よく聞け。テ口リストの多くは突入した部隊によって鎮圧された。一部取りこぼしたようだが、直に捕まることだろう」
一夏「そう…………」
爺様「しかし、どうやら地上部分を吹き飛ばすために爆弾を仕掛けていたらしい」
一夏「何でこう悪い予想ばかり…………」
爺様「確認された爆弾は全てで5つだそうだ」
爺様「そのうち、エントランスや地下に仕掛けられていたものは解除された」
一夏「じゃあ、残された3つはどこに?」
爺様「この“アビス”専用のエレベーター地上口と、最上階付近に2つだ」
一夏「残り時間は?」
爺様「爆弾処理班の推測だと20分だ。おそらく爆発しても“アビス”は無事だろうが、脱出は困難となるだろうな」
一夏「わかった。解除に向かう」ピッ
一夏「爆弾を仕掛けていたらしい。残り1つはエレベーター地上口にあって、2つは最上階付近にあるらしいから、エレベーターのは頼む!」
SP1「爆弾解体か。久々だな」
SP2「それじゃ、こっちは会長の護衛とここの後片付けに回る。ついでにその機体からエネルギーを補充しておけ。その機能、あったろ」
一夏「そうだった。では、――――――早い!?」
SP2「そりゃ、エネルギーパックを2個積んでいるからな」
SP1「よし、エレベーターが到着した。急ぐぞ!」
一夏「『無銘』解除――――――ありがとう」
一夏「さあ、行くぞ!」
113: 2013/09/28(土) 12:25:52.75 ID:mq5otnXP0
一夏「くそ、長い長いエレベーターだった」
一夏「――――――残り時間は?」
爺様「10分だ」
一夏「来い、『白式』! イグニッションブースト!」
SP1「ご武運を!」
一夏の『白式』は真っ先にビルの外に出るためにあらゆる障害物を突き飛ばして駆けていった。
防弾ガラスなど『零落白夜』の月光のように青く淡い光の剣にとってやすやすと砕け散り、
ビルの外に出ると再びイグニッションブーストの急発進で垂直に昇っていく。
外は雨はザーザーと激しい音を立てて降っていた。
一夏「くぅううううううう!」
爺様「爆弾があるのは儂の部屋と屋上のようだな」
一夏「うおおおおおおお!」
それは隕石のようにビルを突き破り、内装をメチャクチャにして、爆弾目掛けて突入する。
一夏「これが爆弾か!(…………どういうことだ? この程度の爆弾ではこのビルを倒壊させることなんて不可能だぞ!?)」
一夏「解体に後回しにして、最後の爆弾を!」
爺様「頼むぞ」
そして、爆弾を刺激しない程度に来た道を引き返す。
メチャクチャにして入ってきたのと対照的に比較的ゆったりと出て行ったために、己がどれだけの破壊をもたらしてしまったのかがよくわかってしまう。
一夏は目的のために必要とされる損害のことを考えて、つい溜め息を吐いてしまう。
だが、この程度で怯んではいられなかった。いや、怯んでいては全てを失うのだ。
何かを失うことは哀しくとも、全てを失うよりはこれまで通りを演じていた方が圧倒的に損害が少ないのだ。生きる希望は氏なないのだ。
だから、一夏は今は止まらなかった。上に立つべき者は前に進むことしか許されない。
114: 2013/09/28(土) 12:27:44.49 ID:5H8gBlq40
ザーザー
ゴロゴロ、
一夏「さて、屋上だが、――――――あれは何だ?」
一夏「爆弾らしきものを発見したが、明らかに普通の爆弾とは違う…………!」
一夏「――――――何だろう、かなり大きい」
主任「聞こえますか、若様!」
一夏「主任か! 見えますか、あれが? まさかあれが本命?」
主任「落ち着いてよく聞いてください」
一夏「?」
――――――あれは戦略級核弾頭です。
一夏「何だと!!!?」
...ピカーン!
主任「実はある筋によると、最近フランスが所有する戦略級核弾頭が1基行方知れずとなったという話が――――――」
主任「そっちのチャチなおもちゃの方は空中に放り投げて処分すれば問題はないでしょうが、」
主任「戦略級核弾頭ともなれば――――いや、基本的に戦略級だとか言うのはミサイルの有効射程の話であって威力の大小ではなかった……」
一夏「威力のことなんかわかりきってますよ! 大都市1つが消し飛んで数多の人命や生活が失われる――――――」
一夏「どうすればいいんです!? とりあえず、こっちのはすぐ処分しますから」ポイ、パン、パン、チュドーン
主任「ブラックボックスである以上は迂闊なことはさせられない…………」
一夏「爆弾っていうのは信管が作用しないと爆発しないんでしょう? だったら、爆弾と信管を分断できれば――――――」
主任「やめるんだ! 核弾頭は放射性物質が充満している! 爆発はしなくとも致氏レベルの放射線がバラ撒かれる恐れがある!」
一夏「なら、解体は諦めて外部入力を遮断して信管を無力化するしかないか」
主任「それしかない! だが、ブラックボックスではどうすればいいのか…………」
一夏「予想される残り時間は5分もない……」アセダラダラ
一夏「どうすればいい!? どうすれば…………?!」
一夏「あれ? ここの反応が出ていたってことはこれにも時限爆弾が――――――あった」
一夏「…………待てよ? 核弾頭に時限爆弾を括りつけて使うか、普通?」
一夏「となると、核弾頭を起爆させるだけの能力もなく、ただ単に放射線漏れを狙っているだけなのか?」
主任「確かに、起爆用のプルトニウムの方が放射能としては強力だ。起爆させないほうが放射線被曝としての被害は甚大だ」
主任「そう、核融合反応を利用する水爆にしろ、基本は核分裂反応で起こす原爆の膨大なエネルギーが必要」
主任「とにかく、起爆剤となる一段目のプルトニウムの処理が問題であって、核融合物質や劣化ウランなんかは大した問題じゃない」
一夏「ISの絶対防御なら核弾頭に穴を開けるつもりの爆弾をまともに受けても、たとえ『白式』が大破しても最低限俺は無事だろう」
主任「無理やり爆弾を引き剥がそうというのか!? それは至難の業だぞ! 微振動信管が備わっているはずだ!」
一夏「そう、失敗すれば核弾頭にヒビでも入ってプルトニウムが真っ先に俺の身体を蝕み、一帯は氏の大地と化す――――――!」プルプル
一夏「何で俺がいきなり世界を救うだなんていう責任を負わされているんだ!?」ポロポロ
115: 2013/09/28(土) 12:28:35.43 ID:5H8gBlq40
一夏「俺が“世界で唯一ISを扱える男性”で、“ブリュンヒルデの弟”で、ざ……セレブの御曹司――――――誰が見ても勝ち組だからか!?」
一夏「それだけの業を背負うってことなのか…………!?」
一夏「千冬姉、みんな――――――!」
一夏は泣きべそをかきながらも己の使命に突き動かされて、核弾頭に取り付けられた触るべからずのチャチな爆弾を眺めた。
――――――ただ進むしかない!
それが何かをできる人間の特権でもあり、責任でもあった。
どんなに愚かな選択であろうと結末が変わらないのならば、より良い未来を信じて一刀を振るうだけである。
切断するには明らかに大きすぎる雪片弐型を展開し、核弾頭を傷つけないように先端で切除するように慎重に距離を調整する。
周りには誰もいない、駆けつけても間に合わない、世間一般ではほとんどの人間が眠りに就いている今日と明日の境目――――――。
――――――生と氏の境目。
116: 2013/09/28(土) 12:29:19.42 ID:5H8gBlq40
ザーザーと降り注ぐ闇夜の雨が一夏の視界を奪い去るが、一夏の心に曇りはない。
予測された残り時間は1分を切り、ついに関係各位一同が覚悟を決めることになった。
一夏「それじゃ、通信は切る。――――――また会えることを」
爺様「ああ。また会おうぞ」
SP1「どうか、ご無事で!」
SP2「会長が老いてから授かった命なんだ。早氏したら許さないからな!」
主任「若様! 我々一同は織斑一夏と『白式』を信じていてます!」
一夏「………………」ピッ
一夏「………………」フゥ
ゴロゴロ、
――――――9,
――――――8,
――――――7,
――――――6,
――――――5,
――――――4,
――――――3,
――――――2,
――――――1,
ピカーン!
一夏「――――――!(――――――逆袈裟斬り!)」ズバッ
一夏「…………!」
一夏「やった!(爆発よりも早く核弾頭から引き剥がすことができた! 後はこいつを遠くに――――――)」ピカッ
チュドーン!
一夏「ぐわああああああああ!(やはり、微振動信管が入っていた…………!)」
一夏「かはっ……(――――――だが、何だこの威力は!? 威力が段違いじゃないか!?)」
一夏「…………落ちていく(…………失敗したのか)」
一夏「………………すまない、みんな(俺は何も――――――)」
ザーザー
ゴロゴロ、......ピカーン!
117: 2013/09/28(土) 12:30:48.87 ID:mq5otnXP0
一夏「光…………」ウウーン
一夏「あ、手の温もり――――――あ」
千冬「………………」
一夏「千冬姉……」
爺様「目が覚めたようだな……」
一夏「じ……会長!」
爺様「お前はよくやってくれた」
一夏「え、どういうこと!?」
一夏「俺は爆弾の切除には成功したけど、予想以上に爆弾の威力が大きくて吹っ飛ばされてそれから…………」
一夏「そうだ、――――――核弾頭は?!」
爺様「結論から言おう」
――――――核弾頭はそこにはなかった。
一夏「――――――は?」
一夏「何を言っているんです! 『白式』のモニターを追尾していたんでしょう?」
一夏「それともあれは虚仮威しだったって言うんですか?」
爺様「確かに、壊滅的な被害を目論むならあの程度の新型爆弾では力不足だった」
爺様「先日フランスで核弾頭が紛失したことも合わせると、あれが強奪された核弾頭であることは状況から見て明らかだった」
爺様「屋上は完全に跡形もなく消し飛んだが、――――――しかし、プルトニウムなどの放射性物質は一切検出されなかったのだ」
一夏「は?」
爺様「お前は新型爆弾を切除した瞬間に核弾頭から完全に目を離したが、」
――――――本当にそこに核弾頭はあったのか?
一夏「――――――消えた核弾頭……?」アセタラー
118: 2013/09/28(土) 12:31:20.41 ID:mq5otnXP0
爺様「お前は引き剥がした爆弾を空中で掴み、視点はそのまま空の彼方を向いていた」
爺様「その一瞬の間に何か変わったことが起きなかったか?」
一夏「わからないよ、そんなの。雨だって降っていたし、非常用の誘導灯だって点いていなかったんだから――――――」
一夏「切除する時に少し核弾頭の表面も削りとっていったかもしれないけど、放射性物質が漏れたってわけじゃないんでしょう?」
爺様「ふぅむ。消えた核弾頭は早急に足取りを追わないといけない案件だ」
爺様「後日、状況を再現したセットで流れを再現しろ。これは早急に対応しないといけない問題だ」
一夏「ああ、問題だ」
爺様「だがそれまではぁ、ゆっくりと養生するといい。お前はぁよくやってくれた」
爺様「儂はお前のことを誇りに思うぞ」
一夏「…………そう」
爺様「ではな。また元気な姿を見せてくれ」バタン
一夏「………………核弾頭が消えた?」
一夏「どういうことだ? あの場に他に誰か居たのか? あの一瞬で安全な場所まで持ち出したというのか?」
一夏「だが、そうだとすればまた問題がややこしくなっていく……」
一夏「考えても苦しいだけだけど考えずにはいられない…………」
千冬「…………一夏」スゥスゥ
一夏「でも今は、爺様の言う通り、少し休もうか…………」
一夏「千冬姉…………きれいな横顔…………」ドキドキ
――――――大好きだ、千冬姉。
一夏「やっぱり、千冬姉と一緒が…………へへへ」ニヤニヤ
119: 2013/09/28(土) 12:32:27.81 ID:mq5otnXP0
一夏「さて、模型でしかないけど、これが本社ビルの屋上風景か」
千冬「普通に考えるなら、弟が無力化した核弾頭を強奪しようとした第三者の犯行となるだろうが…………」
SP1「身を隠せるほどの場所はほとんどない……」
SP2「それかまたは、ISを使って運び出したとも考えられるけどそんな気配はなかったしな…………」
爺様「ともかく、出来る限り流れを再現してみせろ」
一夏「わかりました。――――――来い、『白式』!」
SP2「そういえば、『白式』の損傷が軽くてよかったな」ヒソヒソ
SP1「そうだな。ファーストシフトの段階で単一仕様能力を発動できたぐらい、若様との相性はバッチリだったからな」ヒソヒソ
SP1「世界広しといえども、おそらく若様にふさわしい機体はあれ以外に存在しないだろうよ」ヒソヒソ
SP2「まったくだ。もう『白式』は若様の身体の一部だからな。無事でよかったよ」ヒソヒソ
爺様「何かな?」ジロッ
SP2「何でもございません!」ビシッ
SP1「失礼いたしました」コホン
120: 2013/09/28(土) 12:33:20.86 ID:5H8gBlq40
千冬「やはり、モニターの記録と大して差がないか…………」
主任「そうですね」ウーム
爺様「何か重要な要素を見落としているのかもぉしれん」
SP1「逆転の発想だな」
SP2「こういう時の基本って、今の関心を別のものに向けることから始めるんじゃなかったっけ?」
千冬「…………そういえば、どうやってテ口リストたちはこの核弾頭を運び出して来たんだ?」
爺様「おお?」
主任「確かに…………少なからずテ口リストは若様の神の一手で全員逮捕あるいは射殺されたはず」
SP1「聞いた限りだと、屋上に仕掛ける爆弾が核弾頭ということを知っていたのは全くいなかったらしい」
SP2「ということは何? テ口リストたちが囮で、空中から核弾頭をさっさと仕掛けてトンズラした主犯がいるわけ?」
爺様「だが、それでは――――――いや、言うまい」
主任「空中から高速でかつ手間を掛けずに侵入することができるとしたら、――――――ISと量子化武装」
主任「――――――まさか!?」
千冬「あの核弾頭は量子化できるIS対応装備だったというわけか…………核兵器の量子化も行われていたか」
SP1「つまり、『白式』が消えた核弾頭の答え?」
SP2「待ってくださいよ! 『白式』には拡張領域が無いからそれは無理! だから、剣1つで戦うしかなくなったんでしょう?」
主任「むむむ、いい線だと思ったんだがな…………」
爺様「――――――技術的に可能だと思うか?」
主任「え?」
爺様「つまり、ISの量子化を応用して“枝豆”のように『ある武器を器にして別の武器を容れる』ことはできるかと訊いている」
千冬「もしそれが実現されているのなら、『白式』は――――――」
爺様「一夏を呼べぃ!」
SP1「ハッ!」
SP2「え、もし会長の考えた通りにそれが実現していたら、第3世代兵器がゴミにならね?」
爺様「………………」
千冬「長らく放置されてきた欠陥機――――――まさか、本当に束が手を加えていたというのか…………」
121: 2013/09/28(土) 12:34:36.87 ID:mq5otnXP0
一夏「消えた核弾頭の謎の答えが、俺の『白式』にあるだって……?」
爺様「厳密に言えば、雪片弐型の方なのだがな」
一夏「確かに、拡張領域の全てをこの剣1つで埋めているのは不自然だと思ってたけど、単一仕様能力を使いやすくするためのデータで埋められているって話じゃ?」
主任「それはあくまでも推論だ。ともかく、あの核弾頭が量子化兵装と仮定した場合、辻褄が合うんだよ」
千冬「試しに、雪片からあの核弾頭を取り出すようにイメージしてみろ」
一夏「こう、ですか?(…………核弾頭を取り込んだというのか? 釈然としないけれど――――――)」
一夏「………………!(位置はあの辺にして、核弾頭が本当に入っているのなら――――――)」
一夏「――――――出ろ!」ブン
ポン!
一同「――――――!?」
一夏「は? あっちにあった模型じゃないよね?」アゼーン
爺様「全員、その場を動くな!」
一同「――――――!」
爺様「主任、確認してくれ」
主任「わかりました……」オソルオソル
主任「…………間違いありません。爆弾を切り取った痕から見ても、これは消えた核弾頭です!」
一夏「…………ちょっと待って。それじゃ、俺だけじゃなくて『白式』も“特別”だったっていうのか?」
千冬「………………」
SP2「どうします? これ、明らかにオーパーツですよね?」
SP1「もしかしたら、雪片弐型を基本形にして量子変換による変形とかするかもしれないぞ?」
一夏「え、何それ……」
爺様「試してみろ」
千冬「では、私の使っている機体の太刀はどうだ。アンロックした」
一夏「えっと、雪片弐型を近づけて…………(取り込め、取り込め、取り込め……)」
一夏「あ」
爺様「ほう……」
一夏「…………できちゃった。あ、雪片弐型が本当に変形した」
千冬「なるほど…………」
主任「会長、これは――――――」
爺様「一切の口外を禁止する!」
一同「――――――了解!」
――――――俺が一人で抱えていくにはあまりにも多すぎる衝撃の事実の連続であった。
122: 2013/09/28(土) 12:35:33.97 ID:5H8gBlq40
それから程なくして財閥本社襲撃事件は公表されることになり、全国紙どころか世界中で大々的に報道されるほどのビッグニュースとなった。
取り調べの結果、テ口リストの多くがフランス人であり、とある企業と縁がある経歴の持ち主が多いことが判明した。
他にも日本やアメリカ、ドイツなどの先進国の人間も見られたが、いずれも貧困層の出身であることがわかった。
そして、この襲撃事件は直接の因果関係は明らかでないが、俺は本能的に自分がしてきたことへの報復だと感じ取っていた。
俺はこの機にスポンサーの見舞いを口実に公欠して長らくIS学園から離れていたが、臨海学校前には復帰することになった。
しかし――――――、である。
123: 2013/09/28(土) 12:36:15.10 ID:mq5otnXP0
――――――氏体安置所
一夏「貧乏人と金持ちの関係は、歴史を見れば分かる通り、ほとんど相容れない関係だ」
一夏「その証拠に、ただの一般人だった俺はセレブ入りして強烈な洗礼を受けることになった。――――――ほとんど別世界だった」
一夏「地獄の沙汰もカネ次第とは言うけど、どうしてテロを実行する勇気と結束力を別のことに使えなかったんだ…………」
一夏「大人になれずに逝く人類が存在する一方で、たった一発の銃火で積み上げてきた全てを失う人類もいる――――――」
一夏「自ら愚かな選択をする自由だってあるさ! 自らに由る(=因る)ことが自由ってことなんだからさ!」
一夏「なら、どうすればいい!? 俺はお前たちを氏なせたくはなかった! 罪を償ってやり直して欲しかった……!」
一夏「氏んだら何もかも無駄になるじゃないか! せっかく大人になれたっていうのに…………」グスン
一夏「財閥のために頑張ろうとすればその一方で、独善的だと後ろ指を指されるし、何が大切なんだ!?」
一夏「身近な誰かのために尽くすことを第一にしちゃダメなのか!?」
一夏「それとも、――――――数字か!? より多くを救えればそれでいいのか!?」
一夏「わからない、わからない、わからない…………!」
SP2「やっぱり! また、こんなにところに閉じこもって、若様……!」
一夏「なっ、放せ! 俺はどうすればこの人たちに償えばいいのかわからないんだ!」
SP1「」バチン
一夏「あ…………」
SP2「………………話を聴かせるにはそうするしかないけどさ」
SP1「ご無礼をお許しください。しかし、――――――あなたは財閥総帥後継者なのです」
SP1「悼むのは結構ですが、いつまでもそれを理由にしてあなたの責務を放棄しないでください」
SP2「………………平和の国で生まれた“ただの15歳”にキツイことを言うなよな」
一夏「…………あ」
124: 2013/09/28(土) 12:37:11.14 ID:mq5otnXP0
SP1「鏡を見てください! ここに通い詰めてから若様の表情は苦悶に満ちています……! ――――――会長や千冬様が心を痛めるほどに!」
SP2「……この際 便乗させてもらうけど、――――――悄気た顔をしているやつを見ていると酒が不味くなるとか言うだろう?」
SP2「残酷かもしれないけど、若様は哀しんで悲しませることが仕事じゃないんだ。むしろ、組織全体の士気を維持するためにこういう時は気丈に振る舞うぐらいのことをしないと」
SP2「つまり、上に立つ者は顔役なんだからさ、表情は常に明るく――――――わかるよな?」
一夏「…………そんなにも俺は?」
SP1「はい。変わりました。もう、ここには来ないでください」
SP1「あなたにはあなたの戦いがある。それはあなたにしかできないことなのだから――――――」
SP1「本当に申し訳ありませんでした…………あなた様の無垢な手を煩わせたことを深くお詫び申し上げます」プルプル
SP2「本当にな…………だから、汚れ役っていうのは必要なのさ」
SP2「俺たちは最初から汚れていたからな。でも、満足してる」
SP2「“ただの少年兵”が、会長や若様のような御人の側――――人として誇れる大業を成す側においてもらっているのだから」
SP2「だから、……何というか無礼かも知れないけれど、――――――夢を見させてくれ。俺たちに共有させてくれ、若様」
SP2「そんな訳で、いい笑顔を見せてくれよ…………痛々しくてこっちまで哀しい気分になってくるよ」
一夏「…………」
一夏「」ニコー
一夏「ごめん。何か、やり方が……」
SP1「練習が必要ですね」
SP2「ちょうどいいじゃないですか! 初心に帰るってやつで」
一夏「本当にありがとう。爺様は本当に果報者だ…………」
すっかり俺は変わってしまった…………
125: 2013/09/28(土) 12:39:44.77 ID:mq5otnXP0
6月。雨の季節である。ジューンブライドの時季でもある。
この梅雨の時季はジメジメとして憂鬱とした気分にさせられるが、まさにその通りであった。
俺は血の雨で大地を踏み固めた結果、これまで苦痛でしかなかった世間の喧騒やセレブのお付き合いというのが途端に何とも思わなくなったのだ。
これは嬉しい変化なのだろうが、俺の表情はどこか苦渋と疲労を感じさせるものとなっていた。
要するに、老けたのである。
虚無感に包まれた表情には以前にみんなに振り撒いていた若さが失われていた。
落ち着いた感じではあるが、梅雨のジメジメとした感じのように気持ちのよいものではない。
カリスマ性溢れる青二才から老獪という言葉が似合うような老策士のような印象に変わっていたのだ。
だが、それでもその鈍った眼差しの奥にある情熱は冷めることはない!
――――――俺は関わる人全てを守る!
126: 2013/09/28(土) 12:42:10.17 ID:5H8gBlq40
これにて、前半の部を終了いたします。
本当なら、台風やサーバエラーが無ければ完結していたのですが、申し訳ありません。
本放送前に終わらせたかったけど、しかたない。
予定としては、来週の同じような時間に再開しますので、またよろしければどうぞ。
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