134: 2013/10/05(土) 09:42:44.92 ID:VtjwWFxF0

一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」【前編】
一夏「おれ……えと、私は織斑一夏と言います」【後編】


ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」【前編】
ザンネンな一夏「俺は織斑一夏。趣味は――――――」【後編】


落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」【前編】

落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」【後編】



最終話 福音事件・裏
MAD -Mutual Assured Destruction-

――――――臨海学校まで残り数日


一夏「はあ…………」ゲッソリ

一夏「静養していた頃が恋しい…………」

一夏「何で俺なんかが千冬姉や爺様以上の存在になっているんだ…………」ゲンナリ

一夏「本当に嫌になる――――――人を守るってことがさ」

一夏「何だったか、“漫画界の鉄人”の漫画に、守るべき人類に失望して最後の最後に世界を滅ぼす――――なんていうのがあったような」

一夏「いや、“人の革新”が待てず人類の粛清を宣言した――――っていうのもフィクションの世界にはよくあるな」

一夏「現実もそう。“共和制の名の下に”フランス革命を主導したジャコバン派による粛清を行われたし、」

一夏「そうだ――――――ISだってそうだ。よせばいいのに、我先にと絶対数の乏しいISを導入するのに高いカネ出して、」

一夏「最も安定している職業の1つと言われた職業軍人やそれに連なる企業が次々と解雇・倒産していった。――――――軍縮だとか何とか言ってな」

一夏「その結果、世界は未曾有の軍事クーデターの脅威に晒されることになった」

一夏「本当に馬鹿だよな。だが、本当の意味で世界が平等で対等になるためにはMAD戦略は必須となってくる」

一夏「持たざる者はその存在を認められない…………」

一夏「ハッ、覇権思想が見え隠れしているぜ。所詮、平和というのは次の戦争を準備するための期間――――戦間期でしかないということか」

一夏「俺は『白式』の専属となって、IS学園に入って、みんなを指導をして――――――、」

一夏「そして、実際にテ口リズムに遭遇して、それを自分の手で鎮圧して、世界を命運を左右する選択を迫られて――――――、」

一夏「ようやくわかったんだ。俺がどうあるべきなのかを」

一夏「それは――――――」コンコン

一夏「………………録音終了」ピッ

一夏「――――――時間だったな。さて、お相手しましょう」ハア

一夏「…………っ!?」バチィ

一夏「……最近多いな。何だろう? でも――――――」

一夏「――――――よし」ニコッ


一夏「――――――お待たせしました」ニコニコ
IS<インフィニット・ストラトス>1 (オーバーラップ文庫)
132: 2013/10/05(土) 09:40:59.34 ID:vMP5JNPt0

織斑一夏

着想:専用機持ちであることを前面に出す
結果:財閥総帥の一粒種となって、財閥の力を利用して栄達していく若きカリスマ
特技:目標に沿った運用管理、短期間で無理なく成果を出せる指導力

原作との分岐点→自分たちを捨てた両親が財閥の跡取りだった。
また、財閥麾下の日本籍企業の所属という明確な違いがあり、学園での入学動機ともに一線を画す振る舞いをしている。
初期ISランクはA。得意技は逆袈裟斬り、完璧な勝利。


居合術においてのみ“ブリュンヒルデ”を凌駕している、とびっきりの居合の達人。
ISドライバーとしての実力は、専用機に合わせて短期決戦に特化しているので総合的に見ると持久力に欠ける。過大評価気味。
お呼び出しでの訓練内容も所詮は限定的なものなので、基礎体力ばかりはどうしようもない。しかし、非常事態での対応力や指揮能力は抜群である。
短期間で求められた成果を無理なく出そうとする効率厨なので、鍛え方次第で短期間に弱くも強くもなる。本人の体力ばかりはどうしようもないが。

他の専用機持ちと決定的に違う点は、『代表候補生』ではなく『ただのテストパイロット』であることに終始していることであり、
そこまで勝ち負けに拘らず、自身の影響力を拡げてコネを獲得することを学園生活の要としているので、公式戦に出る気は一切ない。
むしろ、指導する立場になって優勝に導いたという実績の方が財閥総帥後継者としては有益と判断しており、
本職の教員たちの仕事を奪うぐらいに独創的でかつ効果的な指導を親身になって行っている。

その他にも、財閥の力を利用して秘密の特訓や裏工作などもしており、いろいろ『腹黒い一夏』像となっている。IS学園では彼に逆らえる人間はまずいない。
財閥総帥後継者ということで物の見方が完全に一般人とは異なっており、恋愛に関しては否定的。自身が財閥総帥後継者になった経緯を含めてのことである。


早くから社会人(=財閥総帥後継者)としての自覚と責任を持って生きてきたので、学園生活よりも財閥関係者(力を持つ人たち)との大人の付き合いに重きを置いている。
財閥総帥後継者としての『関わる人全てを守る』という壮大な信条のために特に責任や恩義がない場合は誰であろうとヒロインたちへの愛着もかなり薄い。特に、セシリアと鈴。
『朴念仁』なのは相変わらずであり、社交界の価値観と合わさってますますツンデレや健全な育ちの人間は損することになった。
優柔不断というわけではなく、自身の影響力をよく理解しているために、簡単に結婚するつもりもないし、軽率に選べないという立場。
いろいろと仕事や時間に追われる中でも、しっかりと誠意を持って一人ひとりに応対しているので、文句をいうことができない雰囲気すらある。
ハードスケジュールを理由に、常に忙しそうに振る舞うことで(実際忙しいが)、誰に対しても平等に接することへの口実にしているのだ。

そのせいで関係が全然進まないという、攻略難易度がずば抜けて高い人物像になっている。

ちなみに、スキャンダルには神経を尖らせており、シャルとの混浴、ラウラとのファーストキスなどの不祥事は回避している。
箒とのルームシェアはまさしく奇跡的なレベル。そういう意味では、ずば抜けて箒が優遇されている。


135: 2013/10/05(土) 09:43:31.88 ID:vMP5JNPt0

一夏「う~ん、台風が臨海学校の日に上陸しそうだな」

一夏「誕生日を兼ねた臨海学校としてはあんまりいいものじゃなくなりそうだな…………」


俺はノートパソコンを打ちながら、巨大なモニターに映し出されるリアルタイムの気象図を見て、溜め息を吐いていた。

あれから俺の部屋は邪魔なものは取り払って模様替えされていた。

主に、俺が安心してプライベートな時間を過ごすためである。そのために徹底的な改修工事がなされ、完全な私室と化したのである。

それによって、3画面のマルチディスプレイのPCが設置されていた。32インチ。

こんなことができるのも財閥の力があってこそだった。つくづく、人と人とが一体化した法人の力の程は恐ろしいと感じた。

一方で、もう片方の巨大な画面にはシミュレータが起動しており、代表候補生4人の対戦ダイアグラムが表示されていた。


一夏「ダメだな、『ブルー・ティアーズ』は…………他の専用機と比べて利点が少なすぎる」

一夏「遠距離射撃型――――――それは結構」

一夏「だが、基本的にIS学園での模擬戦は1対1だ。狙撃手は安全な場所で狙撃してこそその真価を発揮する」

一夏「それに、ISの戦闘スピードは従来の白兵戦の比じゃないから、狙撃するまでの時間が従来と同じレベルじゃ簡単に距離を詰められてしまう」

一夏「更に言えば、シールドバリアーの存在によって一撃氏はあり得ないから、ISの戦いはいかに相手に効率良くダメージを与えられるかにかかってくる」

一夏「つまり、コンセプト自体がISの1対1の総合戦闘には向かない…………狙撃手の持ち味である“見えざる鉄槌”が活かせないんだな」

一夏「逆に言えば、機動力があって猛攻ができるような近距離格闘機が圧倒的に有利となるわけだ」

一夏「それは“ブリュンヒルデ”が『モンド・グロッソ』で見事にそれを証明している。まあ、一撃必殺持ちのイレギュラーだけどさ……」

一夏「セシリアには勝ち負けに拘るなと言うべきなのだろうか、狙撃特化はやめて中距離戦闘ができる装備を増やせと言うべきか…………」

一夏「まいったな。このままだと代表操縦者への道はかなり遠いぞ…………」


・俺の『白式』なら、『零落白夜』でレーザーを掻き消してしまえる上に、イグニッションブーストで距離を詰めるのは容易。ただし、初見限定でそれ以後はセシリアが有利。

・鈴の『甲龍』とは、中距離戦闘に膠着して先にセシリアの方がスタミナ切れになる可能性が大きい。勝てないとは言わないが、基本的に不利。

・シャルの『ラファール』とは、距離を選ばない戦い方ができる上に『高速切替』で変幻自在。一方で、一々足を止めてしまう『ブルー・ティアーズ』ではなかなか…………

・ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』とは、第3世代兵器だけ見れば相性はいいが、それしかない『ブルー・ティアーズ』では…………


一夏「聞く限りだと、本国からは『BT兵器』の運用データの収集を優先させられているから実弾兵器は支給されないらしいな……」

一夏「こうなったら俺の方で――――――」ピポパ

一夏「――――――主任、生産された両用量子化武装、臨海学校で使うかもしれないからカタログを送ってくれない?」

一夏「場合によっては、共同開発も――――――いや、忘れてくれ」



136: 2013/10/05(土) 09:44:22.97 ID:vMP5JNPt0

一夏「さて、久々に街に訪れることになったが…………」

シャル「日本の夏は凄いね、ラウラ」

ラウラ「うむ。適度に水分補給しなければならないな」

一夏「あの……、シャル、ラウラ?」

シャル「何――――――」
ラウラ「どうしたのだ――――――」


「――――――ご主人様?」


通行人「おおおお!」ジー

通行人「メイドダー」ジロジロ

通行人「スゲー、ホンモノハジメテミター!」パシャパシャ

一夏「暑いんだったら、メイド服を脱g――――――やめろよ! 暑苦しい!」

一夏「それに、そんな目立つ格好したらお忍びの意味がないだろう!」(お忍び中)

シャル「え、でも僕は、その、いち……ご主人様の使用人だし…………」テレテレ

ラウラ「男はこういうふうに奉仕されると嬉しいのだろう? それにメイドはこのままの格好で買い物に出かけると私の副官が言っていた」

一夏「………………変装術を学んでおいてよかった」ボソッ

シャル「ご主人様?」
ラウラ「…………?」

一夏「まあいい。今日、お前たちは水着を買いに来た。俺は実家の掃除をしに来た」

一夏「だから、ここでお別れ。それじゃ、送ッテクレテアリガトウ」タッタッタッタッタ

シャル「ええ……!?」

ラウラ「安心してくれ。ご主人様の実家の住所は把握している」

一夏「げ……」ピタッ

シャル「そ、そうだよ。僕たちは使用人なんだから、ご奉仕させて!」

ラウラ「何か問題でもあるのか?」

一夏「お前たちは事の重大さを理解していないな……!?(俺が何のために変装しているか理解していないだろう!)」

一夏「…………ここは暑いし人目もある。そこのデパートに入るぞ」ハア

シャル「はい、ご主人様!」ニコッ
ラウラ「ご主人様~!」ニッコリ

一夏「ははは、いいご身分だよな、俺…………(メイド服は目立ちすぎるから、私服を着せないと家に連れていけない!)」






137: 2013/10/05(土) 09:45:11.41 ID:vMP5JNPt0



一夏「さて、ここが俺の家だ。人目が付かないうちにさっさと入るぞ」

シャル「ここが、ご主人様のお家……」ドキドキ

ラウラ「教官の家ということでも実に興味深い」ワクワク

一夏「『あの日』以来、入学式直前だけだったからな…………結構埃かぶっているところもあるだろうな」

一夏「とりあえず、まずは昼食を摂ってから掃除をすることにするか――――――ん、どうした?」

シャル「ご主人様! 僕とラウラはご主人様の使用人なんだよ!」

ラウラ「そうだぞ! さっきから全く奉仕させてくれないではないか!」

一夏「そんなこと言われても…………(うん、シャルに倣うラウラの姿を見ていると、本当に姉妹だ…………)」

一夏「俺は生計を立ててくれている千冬姉を支えるために家事全般を習得していたから、使用人なんて要らないんだよ」

シャル「そ、そんな…………せっかくの機会が…………」ウルウル

ラウラ「そんな…………それでは私はどうやってご主人様の強さに触れれば…………」プルプル

一夏「あ…………(使用人要らずで屋敷のメイドたちを泣かせていたっけな…………)」

一夏「そ、そうだな。そこまで言うなら、奉仕されてやらなくもない……」

シャル「本当に!? ホントのホントに?」キラキラ

ラウラ「嘘じゃないよな、ご主人様!」ワクワク

一夏「(メンドクセー。善意の押し付け――――というよりは、依存か、これは。扱いに困るなー、これ)」

一夏「じゃあとりあえずは昼食ができるまで“大人しく”待っていてくれ」

一夏「これが最初の奉仕だ。ご主人様の仕事が滞りなく進むように見守るのも使用人の務めだ」

シャル「うん、わかったよ、ご主人さま!」

ラウラ「了解した」

一夏「(でも、このままだとやることがなくて暇そうだから、――――――しかたない!)」

一夏「ちょっと待ってくれ」

シャル「はい、ご主人様」ニコニコ

ラウラ「???」



一夏「はい、これ――――――俺と千冬姉のアルバム」

シャル「――――――!?」
ラウラ「――――――!」

一夏「こういうものしか思いつかなかったけど、それでも見ながら待っていてくれ」

一夏「今日の昼食は、そうめんと天ぷらってことで」

一夏「アルバムは現在も更新中だから、寮に帰ったら、ね?」

シャル「うん、凄くいいよ!」ドキドキ

ラウラ「こ、これが教官とご主人様の若い頃の…………!」ドキドキ

一夏「ははは……(さて、作りますか)」



138: 2013/10/05(土) 09:45:56.49 ID:VtjwWFxF0

あれから、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒはこの通り、女性らしさを演出するようになり、仲の良い姉妹のようになっていた。


そして何故か、――――――俺の専属メイドになっていた。


これは爺様の差し金らしく、そういう属性を与えることで宙ぶらりんになった自己像を再構築させる意図があるらしい。

爺様はいつの間にかラウラ・ボーデヴィッヒ面識を得ていたらしく、おそらく俺がシャルにラウラの面倒を見るようにした繋がりからそうなったようだ。

軍人が使用人になるのに抵抗がなかったのか気になったが、どうも使用人に対して悪い印象は持っていなかったらしく、その辺はラウラの副官やシャル、爺様の力添えのおかげのようだ。

使用人にプラスの価値を見出しているあたり、ラウラの今後は明るくなりそうだ。

しかし、俺には爺様が曾孫の顔が見たいから差し向けたようにも感じられ、二人の自重の無さから察するに爺様が背中を押したものだと疑っていた。

つまり、俺には秘密だが水面下で親公認の関係に発展していた可能性があったのだ。二人は何も言ってこないが…………


――――――ただ子を成すだけの関係ならそれも構わない。


と、一瞬だけ俺はそう思ったことがあったが、俺はすぐにその考えを打ち消した。

この二人も、倫理観の欠如した情けない大人たちの犠牲者なのだから、俺がその二人を汚すことは躊躇われたのである。

シャルとラウラが俺にこれだけ依存してきたということは、それだけ愛情に飢えていたことの証であり、

だからこそ俺は、俺ではない他の誰かとの末永い恋愛を願っていた。


――――――俺ではダメなのだ。俺では。


爺様は俺の血を引く子孫が欲しいと願って二人を差し向けたようだが、二人は俺からの愛情を欲していた。彼女たちは間違いなく“女”であった。

だから、俺とあの二人とではあまりにも価値観が違い過ぎた。俺は“男”ではなく、言うなれば“王”であったからだ。

――――――俺も随分と財閥の倫理観に染まったものである。子作りだけなら別に構わないと一瞬でも思ってしまったあたり…………

しかし、俺が背負うことになる業を共に受け止めてくれる人物が周りに誰一人としていないと思っていたのも事実であった。

同じ夢を語れる同志や労苦を分かち合える同年代の同胞が俺にはいなかったのだ。

その果てに、たとえ妻を娶り子を成したとしても、きっと“王”は家庭を顧みない。愛よりも義務を優先するに違いなかった。


――――――そして、その子はきっと“父”を憎むだろう。


それ故に、俺は“孤独な王”へとなっていくのだ。

進むのは修羅の道。より多くを救うために非情にならざるを得ない過酷な運命――――――。


誰か一人だけのために全てを捧げることはもう許されない――――――!


そう、だからこそ、何度も気高く宣言し続ける。それが『あの日』に生まれ変わった織斑一夏の存在理由!


――――――俺は関わる人全てを守る!



139: 2013/10/05(土) 09:47:03.78 ID:vMP5JNPt0

――――――部活棟、剣道場


一夏「どうした、箒? また剣筋が鈍っているぞ(アレの日だったっけ? いや、ルームメイトだった頃の様子を見ていたんだから、別の理由――――――?)」

箒「…………そうだ。私は覚悟が足りない未熟者だ」

一夏「………………」

箒「………………?」

一夏「………………」ジー

箒「…………あ、そういうことか(一夏は“私からの言葉”を待っているんだもんな)」

箒「実は、姉さんが私専用のISを用意してくれたのだ」

一夏「なるほど、それは大変だな……(それじゃ近々、篠ノ之博士が姿を現すということなのか……)」

箒「これで一夏と肩を並べられる――――っと一瞬だけ舞い上がったが、私なんかでは到底敵わないから……」ウツムク

一夏「…………なるほど、複雑だな」

一夏「確かに俺は他では真似できないような成果を出してきた。だから、そう思うのはしかたないだろうさ」

一夏「けれど、気持ちで負けていたらずっと負け続けるよ?」

一夏「それこそ、俺に戦わずして負けている――――――心を斬られた状態だ」

一夏「確かに、ある分野において互角の能力があればパートナーとしては心強いけれど、それだけがベストパートナーの在り方じゃないだろう?」

一夏「パートナーの弱点を補えることも重要な要素だ」

箒「だが、すでに一夏にとってのベストパートナーはすでにいるだろう…………」

一夏「確かにそうだけど、ISっていうのは多種多様の用途があって、ある目的にしか特化していないのが現状だ」

一夏「なら、今いるベストパートナーとは違うところを伸ばして、誰とも違う俺のベストパートナーになればいいさ」

箒「一夏…………」

一夏「とにかく、機体はまだ届けられていないんだ。話はそれからだろう?」ナデナデ

箒「そうだったな…………すまない、いつもいつも」

一夏「まったくもう…………」

一夏「(何か、構ってちゃんの雰囲気を出しているけれど、今はこれでいい。箒の実力は地味だが将来有望と教員たちの間では期待されているからな)」

一夏「(しかし、あの篠ノ之 束が来るというのか。何か一波乱ありそうだな…………用心しなければな)」


140: 2013/10/05(土) 09:48:12.13 ID:vMP5JNPt0

――――――臨海学校、当日


山田「今、11時です! 夕方までは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること!」

山田「いいですね?」

一同「はーい!」


一夏「(ここも爺様の息がかかった場所である。それ故に――――――)」スッ

一夏「さて、クーラーボックスにビーチパラソル、マットと警笛――――――」

千冬「…………何をしている?」

一夏「え? 何って、ビーチの監視ですけど?」

一夏「今年は例年よりも暑いことだし、台風だって近いから時化が出てくる可能性もある――――――」

千冬「そういう時のための役員はちゃんと割り振られている。これは大人の役目だ」

千冬「こんな時でもお前は…………」ヤレヤレ

一夏「ははは、職業病ですよ。関わる人全てを守りたくなる――――――そんな病」

千冬「こういう時ぐらい子供らしく遊んでこい。私も着替えてくるから」

一夏「――――――ホントに?!」ガタッ

千冬「そう、がっつくな。ではな」

一夏「イヤッホオオオオオオ!」ダダダダダダ

千冬「相変わらずだな、一夏のやつは……」クスッ





141: 2013/10/05(土) 09:49:52.79 ID:VtjwWFxF0

一夏「――――――次は誰……?」アセダラダラ

鈴「もう1回、私よ!」ピョイ

一夏「飽きないもんだな、ホントに……」ダッダッダッダッダ

一夏「もう、これぐらいでいいだろ? そろそろ肩が痛い……(15人ぐらい肩車して走り回ったからもう…………)」ゼエゼエ

鈴「情けないわねー」ニッコリ

セシリア「な、何をしていらっしゃいますの?」イラッ

鈴「見ればわかるでしょう? ――――――移動監視塔ごっこ」ギュッ

一夏「ああ……?!(体重を頭の方に掛けるなああああああ)」グラア

鈴「あらら」ピョイ

一夏「ぐふぅ……」バタン

セシリア「一夏さん? バスの中で私と約束したのを忘れました、の!?」バンッ

一夏「約束……?」ゲホゲホ

セシリア「さあ、一夏さん? お願いしますわ」チラッ

周囲「おおおお!」

鈴「あんたこそ、一夏に何させるつもりよ!」

セシリア「見ての通り、サンオイルを塗っていただくのですわ」

セシリア「レディとの約束を違えるなど、紳士のすることではありませんですわよ!」

一夏「わかった。その前に、給水させてくれ…………(最初に比べると随分と態度が変わったもんだな…………“一夏さん”ねえ?)」



一夏「」ゴクゴク

一夏「はあ…………(生き返るぅうううう!)」

一夏「よし、始めるか」

鈴「一夏、そのヤシの実ジュース 飲んでもいい?」

一夏「いいよ、別に。他にもいろんなフルーツジュースがあるから、好きに飲んでくれていいよ。ゴミは海の家でね」

鈴「やったね!」チュー

周囲「ええええええ!」

鈴「ふふふ、美味しい!(一夏の飲みかけ、一夏と間接キス…………えへへ)」ゴクゴク

セシリア「むむむ……!」

一夏「待たせてごめんね。私もオイルマッサージは1回しか経験ないから上手くできないだろうけれど、」

一夏「まずはこの香料を微かに感じながら気持ちよくなっていってね」

セシリア「はい!(何でしょう、この香料は? なんだかとっても良い心地になってきましたわ……)」

一夏「そうそう。マッサージを受ける時は力まずにしっかりと酸素を体内に取り込んで…………」スゥーハァー

セシリア「はあ、はあ…………」スゥーハァー

一夏「そうそう、そんな感じ」サワサワ

周囲「キモチヨサソー」

周囲「コッチマデドキドキシチャウ」

周囲「アトデワタシニモヤッテ、ヤッテー!」


142: 2013/10/05(土) 09:50:48.69 ID:VtjwWFxF0

セシリア「ハアハアハア…………」

一夏「大丈夫かな? ちょっと息が荒いよ? ほらほら、最初の呼吸を大切に――――――リラックスして、リラックス」ニコッ

セシリア「あ、はい…………」ポー

一夏「さて、首もそろそろ――――――」サワッ

セシリア「あ」ピクッ

一夏「(――――――な、何だ、今の?)」

セシリア「そ、その辺りを重点的にお願いしますわ……」ハアハア

一夏「はい?(?????)」キョロキョロ

周囲「」ジー

鈴「」ポー

一夏「やるしかないか……」サワサワ

一夏「首の辺りなんてそこまでやる必要ないだろうけれど、ここが気持ちいいのか…………え?」バチィ

セシリア「あ、ああ、もっとそこを――――――!」ハアハアハア

一夏「えっと、――――――こう?(な、何だ今の、静電気のようなものは……?)」グイッ


――――――バチバチィ!

セシリア「ふわあああああああ!?」ビクゥン


一同「――――――!?」ドキッ

一夏「うわあああああ!? どうしたの!?(って、俺も思わず飛び上がった――――――!?)」アセアセ

セシリア「な、何でも、ありませんわ……」ピクンピクン

セシリア「そ、それよりも、気持ちよかった、ですわ。また、いつかまた――――――」ニコー

一夏「そ、そうなの? えっと、これで終わり……?(な、何なんだ? このセシリアの、可愛さ――――違うな、何て言うんだろう、この感じ?)」キョロキョロ

一夏「――――――あれ、みんな、どうしたの?」

周囲「………………」カア

一夏「な、何もないんだったら、私は監視業務に戻ります。――――――それでは!」スタコラサッサー

一夏「(な、何だったんだ、今の“やっちゃった感”はああああああああ!?)」アセダラダラ

セシリア「い、一夏さん…………私、幸せですわ…………」ビクンビクン

周囲「イイナーウラヤマシイナー」ポー

鈴「………………」ポー





143: 2013/10/05(土) 09:51:57.59 ID:VtjwWFxF0

一夏「…………ウォーターアミューズメントパークの職員っていうのは思ったより大変なんだな」ハア

一夏「というより、ただ単に人数不足なだけか」

一夏「今のところ、電子ゴーグルや肉眼で沖まで泳ごうとしている生徒の姿は見えないっと」スッ

一夏「(このゴーグルは両用装備の簡易デバイスで、望遠拡大機能を標準装備し、更にアプリの内容次第で大人数の人間の監視も行えるすぐれものだ)」

一夏「(次いでに、3サイズも計測する機能も初期アプリに入っていた。…………爺様! ――――――お値段たったの8万円)」

一夏「目を離せないのが監視員の辛いところだな。俺も短期決戦にしか特化していないからそんなに集中力は長続きしないし、どうしたものかな……」

一夏「だけど、こういう時に空間認識能力は養われる。――――――パーティ会場に不穏なやつがいないかを見極めるためにも必要なのだ」

一夏「お、あっちのビーチバレーは確かこれで3-4……」

一夏「お、あれは――――――!」ガタッ


山田「ビーチバレーですか。楽しそうですね」

山田「いかがですか、織斑先生?」

千冬「では」

山田「はい、やりましょう」

周囲「おおおお!」


一夏「綺麗だな、千冬姉…………(上から88――――――!)」ジー

鈴「あんたって本当に千冬さんにベッタリよね……」ハア

一夏「俺のことをこの歳になるまで育ててくれた人なんだ」

一夏「そんな人を大事に思って何がいけない――――――はっ!?」ドキッ

鈴「やっぱり、一夏は重度のシスコン…………」ハア

一夏「迂闊…………!」ギリギリ

鈴「はい、かき氷」

一夏「ありがとう」キリッ

鈴「…………わかってはいたけれど、これは鬼門よね」ハア

鈴「でも、負けないわよ!」

一夏「あ、ああ……、より一層の努力を期待する…………(そうかそうか、やる気を出してくれるのは嬉しい限りだ)」

鈴「たぶんそれ、私の言っている意味と違ってる…………」ハア

鈴「(――――――こうなったら言質をとって有利に進めてやるんだから!)」

一夏「ははは…………ん?」ピピピ

一夏「やっぱり、台風は避けられないか。明日の運用試験は中止になるかならないか、際どいな…………」ブツブツ




144: 2013/10/05(土) 09:52:59.17 ID:vMP5JNPt0

――――――同日、夕食の席


一夏「辛いなら、テーブル席に移ろうか?」

セシリア「へ、平気ですわ」

セシリア「…………この席を獲得するのにかかった労力に比べれば、このくらい!」ブツブツ

一夏「――――――席? ああ、礼儀作法を学びたいってことなのか?」

セシリア「そ、そうですの! あははは…………」ニコニコー

シャル「一夏? “女の子”にはいろいろあるんだよ……」

一夏「そうなの?(“女の子”――――――やっぱり、俺と同じ視点にはいないということなのか…………)」

シャル「そうなの……!」

一夏「ともかく、楽な体勢になっていいから、ね? 最後だけ正座になればいいから」

セシリア「わ、わかりましたわ」

一夏「さて、改めていただきますか(…………シャルと箒が不機嫌そうだが今は何もできん。――――――許せ)」モグモグ

箒「………………」ムスッ



一夏「えっと、次はこの部屋の女子とやって、その次は――――――」ゼエゼエ

セシリア「い、一夏さん!?」

一夏「セシリアさん? この部屋でございましょうか?(うわ、メンドクセー)」

セシリア「そ、そうですの! さ、いらっしゃいな」キラキラ

一夏「お邪魔します」アセタラー

セシリア「ようこそ、いらっしゃいました」

女子「オリムラクンダー」

女子「ホントニキテクレター」

一夏「そ、それで何をご所望でしょうか?」





145: 2013/10/05(土) 09:53:55.24 ID:VtjwWFxF0

一夏「くそ、こういうのは苦手だな…………(確実性が皆無な運否天賦ではどうしようもない!)」

セシリア「ふっふっふっふ…………」

一夏「私は、ツーペア」ハア

セシリア「ロイヤルストレートフラッシュですわ!」ドヤア

一夏「ぎゃああああああ!」

セシリア「やりましたわ! このゲーム、私が勝者ですわ!」

女子「イイナー、セシリア」

一夏「負けた負けた…………」

セシリア「それでは、一夏さん!」

一夏「え、何? そろそろ行かないといけないんだけど…………わかった。何がお望みかな?」

セシリア「また、マッサージしてくださいね?」モジモジ

一夏「ああ、わかった。約束しよう……」

セシリア「はい!」

一夏「(…………何だろう? それにマッサージか…………あの時の感覚はいったい?)」バタン

セシリア「ふふ、ふふふ……(ああ、またあの絶頂が味わえるのですわ)」ニヤー

女子「セシリアガエロイコトカンガエテルー」

女子「セシリアハエロイナー」

セシリア「な!? え、工口くなんてありませんわ!」

セシリア「(で、でも、一夏さんになら、私は――――――)」ニヤー

女子「エロイナーエロイナー」

セシリア「ああもう!」カア



146: 2013/10/05(土) 09:54:45.76 ID:vMP5JNPt0

一夏「終わった…………今、11時か(5部屋×30分はキツかったな……)」

一夏「ハードスケジュールをこなしてこそセレブの嗜みと実力だけどさ…………」

一夏「ああ、ようやく帰りつけた……」ドサッ

一夏「布団フカフカ…………やっと一息…………」ハア

千冬「おお、帰っていたのか、一夏」

一夏「あ、千冬姉!」ガバッ

千冬「今日は監視業務や小娘共の接待――――――、いろいろご苦労だったな」

千冬「今日に至るまでお前の活躍には教員一同、賞賛の言葉しかない」

千冬「会長の支援があったとはいえ、女手一つでここまで立派に育ってくれたものだ」


千冬「――――――私はお前のことを誇りに思っている。私の宝物だ」


一夏「――――――!」ブワッ

一夏「その言葉が何よりも嬉しいです」スリスリ

千冬「よしよし」ナデナデ

一夏「それじゃ、ご褒美をください」

千冬「何だ? 言ってみろ」


――――――マッサージさせてください。




147: 2013/10/05(土) 09:56:06.99 ID:VtjwWFxF0

一夏「千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?」

千冬「そんなわけあるか、馬鹿者が」

千冬「あ……! 少しは加減をしろ……」

一夏「ごめん、ごめん。じゃあ、ここは?」

千冬「ま、待て、そこは…………や、止め――――――」

一夏「すぐに気持ちよくするね。だいぶ溜まっていたみたいだしね」

一夏「ここは?」

千冬「そ、そこは、ダメだって言っている…………」

一夏「でも、解されていっているのがわかるよ。気持ちいいんだね、千冬姉?」

千冬「そっちこそ、やけに気合が入っているではないか」ハアハア

一夏「だって、ずっとずぅっと千冬姉と一緒に居られる時間が無かったからさ……」

一夏「こうやって千冬姉の肌の温もりを確認できることがこの上なく嬉しいんだ……」

一夏「千冬姉が気持ちよくなっていくと、俺も段々と嬉しくなって気持ちいいよ」ハアハア

千冬「力が、強い…………」ハアハア

一夏「俺は『あの日』生まれ変わったんだ」

一夏「俺は千冬姉を、爺様を、そして関わる人全てを守るって!」

一夏「だから、この手はいずれ血に塗れようとも癒やしの力を秘めていたい……」ハアハア

一夏「ISのように無限の力を秘めた拳なんだ!」

千冬「そ、そうか――――――ああっ!」ハアハア

一夏「ところで、千冬姉?」ハアハア

一夏「ふすまの向こうで聞き耳を立てているやつが5人ぐらいいるっぽいんだけど」ボソッ

千冬「ほう……?」ピクッ

一夏「まあ、こんな時間に来るのは例の5人かな?」ハアハア

一夏「はははは、ちょうどいいや」

一夏「――――――全員ヤッちゃおうか、千冬姉?」

千冬「何をしているんだか、あの小娘共は…………」ハアハア

千冬「まあいい。好きにしろ」

一夏「うん。それじゃ最後に、はい!」グイ

千冬「――――――っ!」ビクン

千冬「………………」ハアハア

一夏「それじゃ、そこにいる5人、入ってきなよ」

千冬「………………」ヨロヨロ


千冬姉は徐ろに起き上がると、夜風を浴びながら冷やしておいたビールを一息に呑み干した。

その後、ふすまの奥で盗み聞きしていた例の5人が意を決して姿を見せる。

そして、頬を染めた5人に向けて千冬姉はこう言うのだった。


千冬「お前たち、腰を抜かすなよ?」ニヤリ






148: 2013/10/05(土) 09:57:47.60 ID:VtjwWFxF0

――――――翌日、7月7日早朝


一夏「いやはや、昨夜は疲れたな…………5人分面倒を見たのが失敗だった」

一夏「いくら無限の力を秘めた拳だからと言っても、ぶっ続けでやるのは限界がある……」

一夏「しかし、この空模様…………」

一夏「雲行きが怪しい。台風がずいぶん近づいてきたな」ピピピ

一夏「――――――爺様?」ガチャ

爺様「聞こえるか、孫ぉ?」

一夏「こんな時に会長直々にお呼び出しですか?」

爺様「――――――重大な問題が起こった」

一夏「…………何です?」

爺様「ハワイ沖で運用試験中のアメリカの戦略級ISが暴走したという情報が入ってきた」

一夏「…………戦略級が? でも、アメリカ軍ならそういった有事に備えて対処できるでしょう?」

爺様「普通ならそうだ。しかし、その装備には戦略級核弾頭ミサイルが搭載されている」

一夏「――――――何ぃ!?」ガタッ

爺様「しかもぉ! 核弾頭の中身は水爆だそうだ」

一夏「――――――水爆っ!?」ゾクッ

爺様「その戦略級ISは超音速飛行で太平洋を極東方面に横断しているという」

爺様「可能性として、この日本に領空侵犯してくる可能性がある」

一夏「しかし、台風が吹き荒れていてそれどころじゃありませんよ!」

爺様「最終的にどこへ向かっているのかは検討がつかないが、儂の財閥に所属する部隊を派遣した」

爺様「まさか、お前の予想通りに7月7日に有事が起きるとはな…………」

一夏「………………」

爺様「お前はこれから指定する座標で部隊と合流して、その戦略級ISの無力化を行って欲しい」

爺様「よいか、無理でもやってもらわねばならないことだ」

爺様「もし台風が吹き荒れる中、水爆が日本に向けて発射された場合、台風にのって放射性物質が日本中にバラ撒かれる恐れがある」

一夏「――――――!」

一夏「…………また俺に、その選択をしろと言うのですね」

一夏「学園には――――織斑先生には話してあるんですか?」

爺様「残念だがぁこれは、我々だけの情報だ」

一夏「産業スパイはどこにでもいるわけか…………」

一夏「わかりました。直ちに発進します! きちんと学園には報告しておいてくださいよ!」

爺様「わかっておる。では、健闘を祈る」プツッ

一夏「来い、『白式』!」




149: 2013/10/05(土) 09:59:02.02 ID:VtjwWFxF0

――――――朝食前


セシリア「一夏さん? 一夏さん? どちらへ行ったのですか?」

千冬「く、どこへ行ったんだ、一夏……」

山田「織斑先生!」

千冬「山田先生?」

山田「先程 学園から連絡がありました! 織斑くんをこの座標に向かわせるようにと……」

鈴「え? 一夏、行っちゃったの? また、お呼び出し?」

箒「………………一夏?」

千冬「そういうことなら、しかたあるまい…………」

千冬「織斑は早退してしまったが、予定通りに運用試験は執り行う」

千冬「雲行きは怪しいが、時間を繰り上げて早めに行うことにしよう」




150: 2013/10/05(土) 10:00:17.36 ID:VtjwWFxF0

――――――洋上、飛行中


一夏「これがアメリカの第3世代型IS『銀の福音』…………無人機なのか」

主任「戦略級なので我々の情報網では正確なスペックは明らかにはできませんでしたが、」

主任「衛星写真を見るに、パッケージなのか大型スラスターの上にミサイルコンテナを露出させた状態で飛行中です」

一夏「これほどのミサイルコンテナが量子化されたら、北極海に沈んでいる戦略級原潜も要らなくなるな……」

一夏「そう、軍事用ISの究極形はまさにこれだ――――――!」

一夏「核ミサイルを容易に運用でき、通常兵器を寄せ付けない防御力と機動力を両立させたISこそが――――――」

一夏「そう、運ぶだけでいい。それだけで十分…………核弾頭を持った世界最強の兵器が街の上にいたら――――――」

一夏「そういう意味では、燃費と安定性を重視した第3世代型の方が戦略的価値は高くなる」

一夏「鈴の『甲龍』も核弾頭装備のパッケージに換装すれば、あら不思議、戦略級ISに早変わり――――――!」

一夏「相互確証破壊、――――――MAD(狂気)!」

一夏「所詮、平和は戦間期――――――。ダモクレスの剣が続々と吊るされていくのを理解せずに、栄華の宴を繰り返そうとする…………」

主任「…………確かに狂ってますね」

一夏「こんなのとやりあうことに――――――いや、そういえば入学して間もない頃に戦略級レーザーを持ったISとやりあったっけな」

一夏「結局、今回だけが狂っているってわけじゃないか……」

一夏「――――――元々世界の方が狂っていたんだ。狂った世界から狂った状況しか生まれないのは当たり前じゃないか」

主任「……難しいですね。私も技術者として、戦争によって文明が発展していった事実に複雑な思いです」


151: 2013/10/05(土) 10:01:08.85 ID:VtjwWFxF0

一夏「話は変わるけど、確認しておくことがある」

主任「何でしょう?」

一夏「エージェントはどうやってコンテナの中身が核弾頭だとわかったんだ? 写真だけじゃそうだと判断できないだろう?」

主任「そ、それは…………」

一夏「エージェントなんて立ち会うだけで精一杯の連中なんだろう? たまたま機密を盗み聞きしたり、盗み見ることができたりしたのか?」

主任「それが……、『銀の福音』に無人AIを搭載して無人運用させることはエージェントの情報で前々からわかってはいたんですが、」

主任「今日になって、脈絡もなく本物の核弾頭を搭載して運用するという連絡が入ってきたんです」

主任「我々は真に受けなかったんですが、暴走直後のアメリカ軍の反応を見て、会長は早急に手を打つことを取り決めになったのです」

一夏「警戒してし過ぎることはないが、どうかデマであってくれ…………!」


152: 2013/10/05(土) 10:02:27.06 ID:vMP5JNPt0

主任「では、作戦ですが、作戦は一撃必殺です」

主任「我々が派遣したIS部隊は、第2世代型の長距離射撃型2機と高機動強襲型1機の自社製ISの3機編成の精鋭です」

主任「若様は、この3機で陽動を掛けますので、その隙を狙って『零落白夜』で仕留めてください」

一夏「おかしな話だ、ISを一撃必殺だなんて」

主任「そうですね…………それだけ若様と『白式』は“特別な存在”――――――言うなれば、最終戦力となることでしょう」

一夏「何故俺ばかりにこれほどの力が与えられたのかはわからないけど、作戦は遂行してみせる!」

一夏「間もなく合流座標…………あのタライみたいな艦?」

主任「あれは上陸用舟艇と呼ばれる艦艇です。ノルマンディー上陸作戦なんかで歩兵を上陸させるのに使われたのが有名で、揚陸艦はその母艦」

一夏「着艦します。しかし、台風の影響が大きくなっている…………揺れる揺れる」ヒュウウウン、スタッ

特務隊1「わお! 噂には聞いていたけど、あの子よ! “千冬様の弟”っていうのは!」

特務隊2「ISドライバーとしての実績は公式記録だと皆無に近いけど、その裏で伝説的な強さを秘めているという彼!」

特務隊3「揺れる船に綺麗に着地…………基本操作が洗練されていて、それだけで只者ではないことがわかる」

一夏「」ニコッ

一同「カッコイイ!」




153: 2013/10/05(土) 10:03:26.45 ID:VtjwWFxF0

――――――数時間後。


一夏「目標はどうなっています? 作戦は決行なんですか? 揺れが大きくなってきているが……」

主任「残念ながら、これは決行する他ない」

一夏「――――――予想コースは?」ピピピ

一夏「…………これは、臨海学校にかなり近いコースだ。5キロもないぐらいだ」

一夏「となると、臨海学校にいる専用機持ちにお声がかかってるんじゃ?」

主任「確認しましたところ、アメリカ軍から正式な依頼としてIS学園に『銀の福音』の拿捕あるいは撃破を求めた様子――――――」

主任「若様の予想通りですね。そして、織斑先生が討伐作戦の指揮を執ることになったようです」

主任「おや、どうやら学園側から若様を呼び戻すようにお達しが来ているようですね」

一夏「共同作戦はダメなのか?」

船長「それは難しいのではないでしょうか?」

船長「我々がこの海域に真っ先に展開した理由は、表向きはISの安全性を頼みにして台風の観測及び巻き込まれた船舶の救出訓練ということになっており、荒唐無稽です」

特務隊1「まあ、私たちが挑むものは台風以上に危険なものだけどね」

特務隊3「つまり、我々が戦略級ISを討伐するためにあらかじめ織斑一夏を呼び寄せた事実がバレてしまう」

一夏「そうだな。となると、我々の手で偶然討伐した形にしないといけない…………」

主任「その辺は問題ない。たった今、領海侵犯したISを偶然近くに展開していた我々が拿捕あるいは撃破するようにお達しが来ました」

一夏「さすが、手が早い」

船長「では、船を出します。それで、どのタイミングで目標を襲撃するかを早く決めてください」

特務隊2「この場合、一夏くんの『零落白夜』が勝負の要。だけど、超音速飛行している相手にまず追いつけない」

特務隊3「そこで、正面から妨害して減速させる。超音速飛行できる相手だからイグニッションブーストなんてできて当たり前だろうけど、」

特務隊1「こっちにはイグニッションブーストが使えるのが2人いる――――ってことでいいの、一夏くん?」

一夏「はい。ただし、こちらは競技において短期決戦に挑むようにしか訓練していないので、5分以上の高速戦闘は無理だと思います」

特務隊1「上等じゃない! 高速戦闘なんて一瞬で決着がつくからそれでいい!」

特務隊2「それじゃ、決まりね。私たちでこういうふうに追い込んでみせるから、一夏くんに繋いでみせて」

特務隊1「任せなさい!」


154: 2013/10/05(土) 10:04:48.78 ID:vMP5JNPt0

特務隊3「しかし、“千冬様の弟”とこうして共闘できるだなんて…………」

一夏「――――――“千冬様”?」

一夏「えっと、みなさんはIS学園の卒業生なんですか?」

特務隊2「そうよ。そうね……確か今、IS学園の教員で代表候補生だった山田真耶って子の同期よ」

特務隊1「私たちは3人でよくつるんで千冬様に叱られてったっけ」

一夏「そうだったんですか」

特務隊3「あなたはどう? “世界で唯一ISを扱える男性”だからいろいろ肩身が狭くなかった?」

一夏「それはもう慣れましたけど…………」

特務隊2「あんまり楽しくないの? 今年は代表候補生がいっぱい入ってきたってことで話題だけど?」

一夏「その、私は便宜上 代表候補生と同一視されてますけど、こうやってスポンサーのお呼び出しをこなすのが本業です」

一夏「“世界で唯一ISを扱える男性”だからこそ、少しでも多くの運用データをスポンサーが望んでいるわけでして、私としても代表操縦者になるつもりはないので、」

一夏「ISドライバーとして学園に籍を置いている理由はほとんどないんです……」

特務隊1「そういえば、あんたって学園中の女の子と丁寧に一人ひとり相手してやっているってホント?」
特務隊2「公式戦に一切出てないのに、フランスとドイツの代表候補生に勝ったんだって? もったいない」
特務隊3「あのドイツの第3世代型を『打鉄』と『ラファール』で撃破に導いたっていうのは?」

一夏「全部本当です。IS学園に在籍している意味はあまりないとはいえ、できる限りをことをしておきたかったので」

一同「おおおおおお!」


155: 2013/10/05(土) 10:05:41.18 ID:VtjwWFxF0

一夏「それで、段取りは決まりました。あとは、臨海学校に配置されている専用機持ちの動向ですが……、」

一夏「あそこには高機動強襲ができる機体がないから、まず同じ戦場に立つことができないでしょうね。――――――戦力外です」

特務隊3「それはしかたない。――――――競技用と品評用だから」

特務隊1「そうそう! 私たちみたいなへそ曲がりでもない限りは、平和の国で実戦用ISのパイロットになんてなれるわけないじゃん?」

特務隊2「…………一夏くん? あなたは今までどういう訓練を受けていたの? ――――――まるで覚悟が違う」

特務隊1「そうなのか?」

特務隊3「これほどまでに緊迫した状況で、IS乗りになって日が浅い15歳がここまで堂々としている方が異常」

特務隊1「じゃあ、私と同じか?」

特務隊3「あなたは緊張感がないだけ」

一夏「…………信じるか信じないか、」

一夏「――――――水爆の解体を行ったことがある」

一同「――――――!?」

一夏「だから、二度目なんです。――――――水爆の脅威と向き合うのは」

特務隊1「主任、それは本当か?」

主任「…………我 関せず」

一夏「………………」


156: 2013/10/05(土) 10:06:57.75 ID:VtjwWFxF0

船長「話はまとまりましたか? そろそろ台風の影響が強くなって作戦に支障をきたします」

一夏「目標は相変わらず?」

主任「そうですね。そのまま直進を続けています」

一夏「学園の戦力もあてにできないし、空も海も荒れつつある」

一夏「これはもう勝負に出たほうがいいと思う」

特務隊1「そうだな。予定通りにとっととシメちゃおうぜ!」

特務隊2「それじゃ、一夏くん。ジャミングを使って相手の目を奪うからその隙に先行して、雲の上に!」

特務隊3「ゴーグルは持って来てる?」

一夏「これ?」

特務隊3「そう。今からアプリを更新する。これで武装コンテナと目標の区別ができるようになる」ピピピ

一夏「仕事が早いな、主任」

主任「総力を上げて、しかも数時間もあれば余裕ですよ」

主任「しかし、高速戦闘ともなれば、動体視力と反射神経が全てを決めることになるから、気休め程度にしかならないでしょうね」

船長「では、頼みました。私は高速戦闘には参加できませんが、武装コンテナの回収やみなさんが撃墜された時の救助に専念します」

一夏「誰もまともに戦って勝てるとは思っていないんだ。みんなが持てる力の限りを尽くして、」


一夏「――――――勝ちに行くぞ!」


一同「おおおおお!」

一夏「来い、『白式』!」

特務隊2「カウント! 3,2,1、――――――行け!」

一夏「うおおおおおおおおお!」

特務隊2「広域ジャミングは精々2分しか保たない。その間に、目標に接触するよ!」

特務隊1「任せなさい!」

特務隊3「では、船は任せた」

船長「ええ。帰る場所の心配なんてせずに、前方の敵に集中してください!」

船長「――――――ご武運!」






157: 2013/10/05(土) 10:08:40.35 ID:VtjwWFxF0

一夏「今一瞬、曇天の空の下で黄色く表示されるものが見えた!」

一夏「だけど、やつの索敵範囲に入らずにここは垂直に昇りきる!」

一夏「作戦通りにうまくいってくれよ……!」ヒューーー

一夏「風が強くなってきているな…………」

一夏「勝利の神風が吹いてくれればいいのだが…………」


具体的な作戦の内容はこうであった。

一夏の『白式』は索敵範囲の外で『銀の福音』よりも高い高度に昇り、その場に待機する。

そして、超音速飛行で飛んでくる『銀の福音』を特務隊の2機が狙撃し、誘導する。

そこを特務隊の高機動強襲型が襲いかかり、イグニッションブースト同士の高速戦闘に持ち込み、

隙を見て一気に降下して『零落白夜』で直接の撃破あるいは武装コンテナの切除を狙うのだ。


特務隊2「来たわ! ミサイル一斉発射!」

特務隊3「了解。そして、撃った後は超射程の狙撃銃で狙い撃つ」


銀の福音「――――――!」


特務隊2「あれが、『銀の福音』の第3世代兵器なの!?」

特務隊3「大型スラスターと多連装誘導レーザー砲の組み合わせ……」

特務隊2「ミサイル第2射よ!」

特務隊3「しかし、これだけ風が強いと狙撃が無意味」

特務隊2「なら、接近して囮にでもなるわ!」

特務隊3「それしかない」


特務隊1「おらああああああああああ!」

銀の福音「――――――!?」

特務隊1「ち、ワイヤーを躱しやがったか…………!」

特務隊1「なら、ダブルマシンガンを喰らえええ!」

特務隊2「この距離ならある程度の強風も問題ない!」

特務隊3「誘い込んだ」

特務隊1「やれえええええええ!」

一夏「そこだああああああああ!」ズバン

銀の福音「――――――!!!」


――――――まさにそれは稲光であった。



158: 2013/10/05(土) 10:10:18.26 ID:VtjwWFxF0

音速の壁こそ超えないが超高速で真っ逆さまに落ちる一夏の『白式』の『零落白夜』の光の剣の青い軌跡は、

『銀の福音』本体と巨大なスラスター『銀の鐘』を見事に分断したのである。

当然、大型スラスター『銀の鐘』に付属していた武装コンテナも落ちていくのであった。

これによって、――――――水爆の脅威は去った。

核爆弾というのは緻密で高度な化学反応を積み重ねた上で爆発という現象まで持っていくので、
プラスチック爆弾やニトログリセリンとは違って、漏れだした放射線で被曝する可能性はあっても、正規の手続き以外で起爆することはまずありえない。

しかし、暴走したISをこのまま野放しにするわけにはいかない。

こうして一夏と『白式』はまた語らない伝説を築き上げることになろうとしていた。


特務隊1「どうやら戦力の全てをそのスラスターに集中していたようだな!」

一夏「イグニッションブーストすらも使えないなら、これでとどめだ!」

一夏「うおおおおおお!」


だが、その時――――――!


ヒューーーーーー!

一夏「な――――――(こんな時に突風――――――!?)」ズバン

銀の福音「………………」ザバーン

一夏「しまった! 手応えが――――――」

特務隊1「落ち着けよ! もうあいつに攻撃手段なんてないんだ。あとはとっ捕まえてシメちまえばそれでいいだろう?」

特務隊2「それに海もこれだけ荒れてきた。破損箇所に海水が流れ込めば場合によってはそのまま海の藻屑よ」

特務隊3「…………油断大敵」

一夏「…………主任! 水爆は海に沈んだようだが、位置は追跡できているか?」

主任「問題ありません。翌日になればすぐにでも、現場検証と称してサルベージさせます」

一夏「プルトニウムが海に漏れて『世界滅亡!』なんかになるなよ……」ピィピィピィ

一夏「――――――反応!? 何だこのエネルギーは!?」ピィピィピィ

特務隊1「な、何が起きたって言うんだよ!」

特務隊2「ま、まさか、これは――――――!?」

特務隊3「ありえない……」


銀の福音「――――――」


『銀の福音』は巨大な力場を生成して復活した。

そして、その背中には一夏と『白式』が斬り落とした大型スラスター『銀の鐘』の代わりとなる、光の翼が展開されていた。


159: 2013/10/05(土) 10:12:44.25 ID:vMP5JNPt0

一夏「――――――セカンドシフトだと!?」

特務隊2「こっちは主武装のほとんどを使い切っているっていうのに……!」

特務隊3「生き残るには、攻撃を分散させるしかない……!」

一夏「だが、今度は外さない……!」

特務隊1「そうだぜ! 止まっている今がチャンスだ!」

一夏「うおおおおおおお!」

特務隊2「危険よ! 止めなさい!」

銀の福音「――――――!」

一夏「なんだと…………(何もないところから極太レーザー!?)」

一夏「これが戦略級ISの底力なのか……!?(違う、あれは『龍咆』と同じ原理でレーザー砲を自由自在に収束させて撃ってるんだああああ!)」

特務隊1「ちぃいい――――――!」

一夏「うわあああああ――――――助かった…………ありがとうございます」ブルブル

特務隊1「生きているな! だけど、どうするよ!?」

特務隊3「戦力差は歴然……」

特務隊2「武装コンテナがなくなった分、遠慮も無くなったってわけ……?」

一夏「ダメだ、『零落白夜』を使うだけのエネルギーがもうない……!(よくて一発分保つか保たないか……)」

主任「撤退だ! 撤退するんだ! 水爆の脅威から世界を救ったというだけでも文句ない戦果だ!」

主任「大丈夫だ! ISは名の通りの無限の稼働時間を持っているというわけじゃない。展開している限りはエネルギーは無くなっていく」

主任「だから、時間に任せて自滅を待つんだ!」

一夏「前提として逃げ切れるんですか!? 相手は超音速飛行能力を取り戻したようですよ?!」

一夏「それに相手は戦略級だぞ!? 通常の機体の何倍もの――――――」

特務隊1「ぐあ!」

特務隊2「このままじゃ……!」

特務隊3「全滅は確実…………!」

主任「そ、それは――――はっ!? 海域に超音速飛行する未確認飛行物体を確認!」

一夏「――――――っ!? それはどの方角から来た!?(今日は7月7日。可能性としては――――――)」


箒「一夏ああああああああ!」


一夏「箒――――――、箒なのか!?(見たことのない機体。そして、超音速飛行をしてきた――――――)」


160: 2013/10/05(土) 10:14:16.50 ID:VtjwWFxF0

一夏「それが束さんからの誕生日プレゼントってわけか!?」

箒「そうだ! これが私の専用機『紅椿』だ!」

一夏「(名の通りの真紅の機体…………ずっしりとした外観は『打鉄』にも通じている。機種転換訓練なしに乗りこなせていると見るべきか)」

一夏「来てくれたのはありがたいけれど、俺たちにはもう戦う力は残されていない……」

一夏「撤退することしかできない。援護してくれ!」

銀の福音「――――――!!」

一夏「あ 回避しきれない……(イグニッションブーストのエネルギーもない!?)」

箒「一夏はやらせない――――――!」ダキッ

一夏「――――――速い!(『白式』のイグニッションブーストの比じゃない! 戦略級に匹敵する性能なのか!?)」

箒「一夏、お前の背中は私が守る――――――はっ!?」

一夏「何だ、これ? 機体から光が溢れてくる…………」

一夏「エネルギーが回復していく! ――――――まだ戦える!」

箒「こ、これが私と『紅椿』の単一仕様能力『絢爛舞踏』…………」

一夏「特務隊は撤退してください! あとは何とかなる……」

特務隊1「何言ってんだ、“千冬様の弟”!?」

特務隊2「だけど、戦略級ISの圧倒的な戦力に対抗できるのは『零落白夜』しかない!」

特務隊3「足手まといになるべきではない……!」

特務隊1「くそ! じゃあ、そこの新入生! 絶対に連れて帰れよ! わかったな!?」

箒「言われなくても、――――――私が一夏を守る!」

特務隊1「くそっ、情けないぜ!」

特務隊3「掛ける言葉はただ1つ」

特務隊2「――――――幸運を祈る!」

主任「…………頼んだぞ。そして、無事に帰ってきてくれ!」



161: 2013/10/05(土) 10:15:51.87 ID:VtjwWFxF0

一夏「挟み撃ちにするんだ! 左から頼む!」

箒「わかった!」

銀の福音「――――――!」

箒「はああああああああ!」

一夏「(自慢の超音速飛行も戦闘になれば発揮されないのが救いだな……)」

銀の福音「――――――!」

箒「な、接近してきた――――――!?」

一夏「馬鹿な! やつの武装は射撃武器だけ――――――はっ!? まさか!(『龍咆』と同じ原理なら射角は無限!?)」

一夏「ダメだ、距離を取るんだ! 離脱しろ!」

箒「はあああああ――――――はっ?!(な、双剣を受け止めた!? そして、光の翼が――――――!?)」

銀の福音「――――――!」


その瞬間、『銀の福音』の光の翼は箒の『紅椿』を覆った。

すると、一瞬のうちに激しい光が翼の中から溢れだしたのだ。

それがどういう攻撃なのかは一夏には理解できていた。

『銀の福音』第2形態は光の翼というエネルギー兵器を自在に操る能力を持っており、光の翼のあらゆる部分からレーザーを収束させて放つことができた。

つまり、あの光の翼に包まれればほぼ全方位から一斉にレーザーを浴びることになるのだ!

まさにそれは、一撃必殺の類であった。ただ単にダメージを与えるだけでなく、受ける衝撃や眩い閃光がパイロットの心身を大いに揺さぶったのだ。


箒「うぁ…………」ガクッ

一夏「箒いいいいいい!(だが、強制解除されていない…………何て装甲だ! 本物だな)」

銀の福音「――――――」ジー

一夏「く、今度は俺か!」

銀の福音「――――――」

一夏「くそ、俺にばかりは接近戦を挑んでこないか……(せっかく補充してもらったエネルギーもそろそろマズイ……)」


ついに戦闘可能なのが自分だけとなり、更にシールドエネルギーも余裕がなく、焦燥の色を見せ始める一夏。



162: 2013/10/05(土) 10:16:32.88 ID:vMP5JNPt0


ザーザーザーザー

ヒューーーヒューーーヒューーー

ザバーンザバーンザバーン

一夏「!?」


すると、激しい雨と風が吹き荒れた。

音を立てて叩きつける風、視界を奪い去る大粒の雨、不安を煽る波……


一夏「――――――風と雨が!」ヒューーーーーーー

一夏「ぬぅ!? このっ!(台風の暴風圏に入ってしまったのか?!)」

一夏「コントロールが…………!(目が回る…………マズイ、『銀の福音』が!)」

銀の福音「――――――!」

一夏「うあ!?(今度こそ終わりなのか…………!?)」


機体の制御を失った『白式』に『銀の福音』がとどめとばかりに収束させた極太レーザーを放った。しかし――――――、


――――――それこそが神風であった。



163: 2013/10/05(土) 10:18:23.43 ID:vMP5JNPt0

ヒューーーヒューーーヒューーー

一夏「――――――うん?」

銀の福音「!!??」


あっという間にレーザーが減衰してギリギリ回避することができた。

いや、それだけじゃなく、唐突に風に煽られて元々の射線がずれていたことも幸いした。

更に、『銀の福音』は多数のレーザーを放つが、幾重にも層をなす雨のバリアーによってまるで攻撃が届かなかった。

その隙に、ようやく一夏がコントロールを取り戻して『銀の福音』へと最後の突撃を敢行する。

当然、『銀の福音』は逃げ出すのだが、ここで肝腎な時に一夏の邪魔をしてきた風が今度は味方したのだ。


――――――風向きが変わった。流れが変わったのだ。


一夏「天は我に味方せり!(そうか、レーザーは空気中よりも水の中では大きく減衰する! それに大気の流れも大いに影響する!)」

銀の福音「!!!!!!????」

一夏「もらったああああああ!(今度こそ、とどめだああああ!)」


そう、台風の暴風雨は今度は『銀の福音』を檻の中に閉じ込めて、最後の最後に大逆転のチャンスを与えたのだ。


一夏「これで終わり――――――」

銀の福音「!!!!」

一夏「何!? こんのぉおおお!」


しかし、『銀の福音』もしぶとかった。

無謀にも、あらゆるものを両断してしまう『零落白夜』の光の剣をも身を削りながらも掴んで抵抗してみせたのだ。

更に、光の翼を一夏の身体を覆うように展開する。このままでは箒の二の舞を演じてしまう!

降りしきる雨によって威力は落ちていたが、元々使えるエネルギーが半分以下で『零落白夜』や度重なる攻撃でシールドエネルギーを消耗しきっていた『白式』にとどめを刺すには十分すぎた。

だが、ここで天は更なる味方を送り込んでいた!



164: 2013/10/05(土) 10:19:29.11 ID:VtjwWFxF0



ザバーン!

一夏「」ゴボボボ

銀の福音「!!!!!!!?!???」


高波に巻き込まれたのだ。

気づけば、二人の戦場は台風の下降気流に流されて大きく高度を奪われていた。

当然、光の翼は著しく威力を失い、氏に損ないの『白式』にとどめを刺すことすらできなかった。

むしろ、エネルギー出力を一定に保とうと無理に光の翼を展開しようとしたので一瞬で高波を霧散させたが、エネルギーを無駄に消耗してしまった。

一方で、『白式』の『零落白夜』はあらゆるエネルギーを無効化するので、水を被ろうが威力が減衰することが一切ないブラックホールであった。


一夏「今度は逃さねえええ!」

一夏「あんただけは、ここで墜とす!」

一夏「うおおおおおおおおおおおおおお!」


ゴロゴロ、ピカーン!


銀の福音「!!!!????」


そして、曇天の空に吹き荒れる台風の暴風雨に落とされる雷のごとき青い閃光はついに『銀の福音』を貫いた。

雷が天に坐す高貴なる存在から地に蔓延る悪しきを砕くために落とされるように、

最後の力を振り絞って『銀の福音』を捕らえた一夏と『白式』は薄暗く風も雨も波も全てが荒ぶる世界から底の見えない暗い暗い海の中へと沈んでいくのであった。






165: 2013/10/05(土) 10:20:27.15 ID:VtjwWFxF0


箒「――――――はっ!? 一夏は?!」ザーーーーーーーーー

箒「一夏ああああああああああ!」ピューーーーーーーーーー

箒「どこだ、一夏! 返事をしてくれ!」バシャーーーーーーーーーン

船長「暴れないで!」


ゴロゴロ、......ピカーン!


一夏、一夏、一夏あああああああああああ!


ザーーーーーーーーーー、ピューーーーーーーーーー、ザバーーーーーーーーン!


世界は残酷である。

少女の魂の叫びは無情にも圧倒的なまでの轟音の前に掻き消される。

それは一人の人間ごときちっぽけな存在の主張など気にすることなく平然と踏みにじる世界の真実の声のようでもあった。















166: 2013/10/05(土) 10:21:30.65 ID:vMP5JNPt0

――――――翌日


爺様「そうかぁ……懸命の捜索でもぉ見つからないかぁ」

爺様「いや、ご苦労であった。しっかりと休んでくれ…………」ガチャリ

爺様「『銀の福音』の残骸と武装コンテナはきっちり見つかったがぁ――――――」

千冬「一夏…………」グッ

爺様「ISのコアの反応もなくてはもうどうしようもないな……」

爺様「あの子は本当に優しい子だったぁ……」

シャル「そんな言葉、聞きたくありません!」

ラウラ「まだ氏んだと認めたわけではない!」

爺様「そうだな。水氏体が見つかったというわけでもない。希望はあるだろう……」

鈴「だけど、それじゃいったい一夏はどこへ流されていったっていうの……」

セシリア「ああ、一夏さん…………」

箒「………………一夏」



167: 2013/10/05(土) 10:22:30.72 ID:VtjwWFxF0

――――――雨の中


ずっと雨が降り続けていた。

日本は雨が多い国である。梅雨が終わったと思えば、蒸し暑い夏や台風がすぐ後に控えている。

雨の日は自然と心にモヤモヤとして悶々とした気分にさせられる。


――――――だが、俺は雨の日が好きだった。


俺は雨が明けた後の晴れた空が好きだった。

そして、空に架かる七色の橋を見るのが特に楽しみであった。

晴れた空の素晴らしさがわかるのは雨の日のおかげである。

“ない”よりも“ある”ことの素晴らしさを教えてくれるから――――――。

こんなふうに思うようになったのは『あの日』からである。それまでは雨の日は何となく嫌だった。

だが、『あの日』から俺は弱音を吐くこと――――泣くことを許されなくなった。


――――――俺が関わる人全てを守るために。


すると、世界が変わったのだ。変わって見え始めた。それは社交界の洗礼を受けたこともあったが、誓いを立てた『あの瞬間』から変わっていた。

まるで、俺の気持ちを代弁してくれるように降りしきる雨――――――。


168: 2013/10/05(土) 10:23:57.52 ID:vMP5JNPt0

俺は、ずぶ濡れだった。何も見えず、何も聞こえず、何も感じられなくなった暗闇の中を歩き続けていた。

気づくと、俺の目の前に女の子が雨に打たれていた。

だから、傘を差してあげた。自分でも意味がわからなかったが、そうしていた。

すると、雨は止み、雨上がりの爽やかな青天が雲の隙間から顔を覗かせた。

そして、大きな大きな水溜まりも潮騒の音が鳴り響く透き通った美しさを見せ始めた。


――――――見上げれば、天に架かる光の橋がそこにあった。


その橋の根本に今度は俺と女の子は居た。


――――――呼んでる。行かなきゃ。


俺が傘を差してあげた女の子はそう言った。

確かに、橋の根本の俺と女の子は手を降って何かを言っているようにも見えなくもない。

だが、よく目を凝らして見ると、そこには千冬姉や爺様、財閥で働いているみんな、学園で共に成長していくみんな、俺が関わる人全てがそこにいて、


――――――みんな、俺を見て手を振り、呼んでいたのだ。


その中で、俺と女の子があそこに居て、見せつけるように笑みを浮かべていた。


そして、眩い光に包まれたかと思うと、

今度は夕焼けに染まった橋の下に、見憶えのある鎧をまとった女性が一人。


――――――力を欲しますか?


答えよう。その答えならすでに持っている。

いつまでも変わることのない永遠の誓いを再びここで――――――!


――――――俺は関わる人全てを守る! 力が欲しい! そのための力が!


それが俺の真実だ。たとえこの先、どれだけの血と汗と涙が俺の選択の自由によって流されようともそれだけは変わることはない。


――――――だったら、行かなきゃね。


ああ、行こう。雨上がりの晴れた空に架かるあの橋の下へ!








169: 2013/10/05(土) 10:25:35.43 ID:vMP5JNPt0





一夏「…………ゴホゴホ」

束「や、グッドモーニング! ようやくお目覚めだね、いっく~ん!」

一夏「束さん…………?」

一夏「(何だここは? あちこちに精密機械がたくさん――――――)」キョロキョロ

一夏「そうか、ここが束さんのセーフハウスってことなのか」

束「おおう、凄い理解力! ザッツラ~イト!」ビシッ

一夏「俺は、この手で『銀の福音』をやったんだな……」グッ

束「いやあ、まさか『白式』だけであそこまでやっちゃうだなんて、大天才の束さんでも予想できなかったよ!」

束「ほとんどいっくんが倒しちゃったようなものだし~!」ブーブー

一夏「それは違うよ。僚機との連携が無ければ、『銀の福音』に接敵することすらできなかったんだから」

一夏「あれはみんなで掴んだ勝利なんだ。引き立て役も忘れないでください」

束「本当は、箒ちゃんの『紅椿』が主役になるはずだったんだけどさ~」ブーブー

一夏「不満そうですね。世界の危機が救われたっていうのに――――――はっ?!」


一夏「――――――『白騎士事件』とそっくりじゃないか!?」


一夏「まさか、あなたが関与していたのか……!?」

束「さて、どうでしょう~?」ニコニコ

一夏「『白騎士』と呼ばれたISによってあなたの発明品が世界中で注目を浴びたのと同じように、」

一夏「今度は妹の晴れ舞台のために『紅椿』とそれに相応しい敵を用意してきたというのか……!?」

束「」ニコニコ

一夏「……答えてはくれないか」


170: 2013/10/05(土) 10:27:37.36 ID:VtjwWFxF0

一夏「それじゃISの開発者なら、どうして俺が“世界で唯一ISを扱える”のかわかるだろう? 教えてくれ」

束「……残念だけど、どうしていっくんがISの適性を持っていたのか、私でもわからないんだ」

束「そして、いっくんの『白式』にもいろいろ謎が多いんだよね」

一夏「そんな……じゃあ、雪片弐型はどうなんだ? あれを造ったのは実は束さんなんじゃないのか?」

束「それは、それは、大・正・解! あれを全身の装甲にしたのが、今回『大活躍!』する予定だった箒ちゃん専用IS『紅椿』だったのさー」

一夏「あれには助けられた…………何度も何度も(そう、今回も俺を水爆の脅威から救ってくれた)」

一夏「では、千冬姉の『暮桜』と同じ単一仕様能力になったのは単なる偶然か?」

束「それもよくわかってないんだ。ただ、コア・ネットワークが『非限定情報共有(シェアリング)』を行って、」

束「ISとISが同じパイロットの情報を共有し合った結果、初期化されて全く別のコアになったと思われるISにも『零落白夜』が発現したんじゃないかなって」

一夏「それじゃ、最後に――――――」


一夏「――――――これから世界をどうしていきたいんだ?」


一夏「篠ノ之 束! 返答次第では、――――――斬る!」ジャキ

束「おおう、いっくん、怖いー!」

一夏「――――――狡猾な羊め!」ゴゴゴゴゴ

一夏「さっきので確信できた!」

一夏「――――――あなた以外にISのコアを造れるはずがない!」

一夏「学園を襲撃してきたあの無人ISに使われた未確認のコアを造ったのもあなただろう!」

一夏「俺は使い方を定義する――――環境を与える側の人間だ」

一夏「たとえ譲渡先の思惑を知らなかったとしても、俺は二度とあんな悲劇が起きないように、――――――警告する!」

一夏「まず、新しく造ったコアの絶対数と管理情報を国際IS委員会に公表するんだ」

一夏「そして、二度とISを悪用する裏組織に譲渡するな」

一夏「この2つを守れば、今回の件だって見逃してやる…………大事なのは今日から続く明日なんだから」

一夏「だが、どんな理由があろうとも、どんな不満があろうとも、人間には超えてはならない一線があるんだ!」

一夏「そう、超えてはならないものが…………」プルプル

束「……いっくん、昔よりずっとずっとカッコよくなったね。それでいて、昔のままの優しいいっくんだ」

束「そんないっくんが私は大大大好きだよ」

束「だから、そんな物騒なものはどけて――――――」ガシッ

一夏「何……!?(雪片弐型がピクリとも動かない!? いったいどこにそんな力が!?)」


171: 2013/10/05(土) 10:30:05.87 ID:VtjwWFxF0

束「ねえ、いっくん? 今の世界は楽しい?」

一夏「な、何だと…………?」

束「すぐに答えらない?」

一夏「…………楽しいと思えることよりも、苦しいとか辛いとか鬱陶しいとかそんなもんばっかりだよ」

一夏「どれだけ努力しても『関わる人全てを守る』ことができないのかもしれない」

一夏「けど! ――――――俺は確かに見たんだ! 確信できたんだ!」

一夏「雨上がりの晴れた空に架かる橋の下で、みんなが俺を見て手を振ってくれているのを!」

一夏「たとえ世界が狂気と矛盾に満ちたケイオスだったとしても諦めはしない…………!」

一夏「なら俺は、自分の意思と能力の全てを捧げて世界を楽園に変えるだけだ…………!」

一夏「どれだけ苦しもうとも、貶められようとも、疎まれようとも! 俺は“ある”者として『あの日』の誓いを果たし続ける!」


――――――俺は関わる人全てを守る!


一夏「何度でも言う! 何度でも言い聞かせる! 何度でも訴える!」

一夏t「それが、――――――“織斑一夏”だ!」

束「……そうなんだ」

束「ふふふ、みんなに愛されるわけだね。この束さんもキュンとなっちゃった」ポー

束「箒ちゃん、ごめんね……」

一夏「(動け、雪片! 何故ピクリとも動かない!?)」アセダラダラ

一夏「あ……」

束「」チュッ

一夏「な、何を、した…………」フラフラ

束「次に会う時は、もっともっと大きくなって狡猾な羊を御する羊飼いになってね」

束「バイバーイ」

バタッ







172: 2013/10/05(土) 10:30:58.52 ID:VtjwWFxF0

――――――夜、波打ち際


箒「私は、結局何もできなかった…………」

箒「世界最高峰の専用機を手に入れて、そして『白式』と相性がいい単一仕様能力を得てしても、私はお前を救うことができなかった……」

箒「私は何て情けない人間なのだ…………」

爺様「ここにいたかぁ、“篠ノ之 束の妹”」

箒「あ、会長…………私は…………」

爺様「みなまで言うなぁ。儂もお前と同じく、『こうすればよかった』『ああすればよかった』と考えこんでしまっていた…………」

爺様「それは時間を無駄にするだけの思弁――――現実逃避でしかないと一夏に教えてきたのに、儂自身……、動揺を隠せないようだ……」

爺様「儂は一夏に『銀の福音』討伐に際して、『無理でもやってもらう』ように強制してしまった……」

爺様「やれと命じた以上、一切の責任を負うのはこの老いぼれだぁ」

爺様「だから、気に病むなとは言わないが、若いお前にはしっかりと明日を見据えて再び歩き出して欲しい」

爺様「現実逃避することなく、はるか遠くにいる相手に恩返しをするとしたら、」

爺様「――――――しっかりと生き抜くこと」

爺様「それが最高の返礼と儂は考える。おそらく一夏もそうであろう」

箒「………………!」

爺様「さもなければ、尽くした誠意と努力が報われない…………」

箒「その言葉、胸に刻みます」

爺様「そうか。こんな老いぼれでもまだ役に立てて何よりだぁ」

爺様「ではな。強く生きよ、“篠ノ之 箒”――――織斑一夏が一番に救おうとした悲劇のヒロインよ」

箒「あ………………」



173: 2013/10/05(土) 10:31:54.73 ID:vMP5JNPt0


ザー、ザー


箒「――――――報われない、悲劇のヒロイン、現実逃避か」

箒「確かにそうなのかもしれない」

箒「私はずっと一夏に頼りきりだった。甘えてばかりだった。結局、一夏の気を引くために自分で自分を不安に陥れるだけの毎日……」

箒「一夏が私のことを“恥ずかしがり屋”と言い続けたのも、きっと私のそういった心の弱さを的確に捉えていたからなのかもしれない……」

箒「社交界は押しが弱いと損をすると最初に一夏は言っていた。それは本当のことだった…………」

箒「いや、それは社交界だけに限ったことじゃない」

箒「自分の思いをきちんと伝えることは人の営みの中では当たり前のこと…………」

箒「だから一夏は、私が言い出すまで――――――」

箒「………………」グスン

箒「帰ってきてくれ……一生のお願いだ……」

箒「私は一夏のことが大好きだあああああああああ!」

箒「だから、今はただ側にいさせてくれ…………頼むから」

箒「………………くぅ」

箒「うわああああああああああん!」



174: 2013/10/05(土) 10:33:20.81 ID:vMP5JNPt0


ザー、ザー


「俺は晴れた空が大好きだ」

「だけど、晴れた空になるためには晴れていない空が必要だ」

「どれだけ憂鬱な気分が続こうとも、気分が晴れた時の喜びは何物にも代えがたい」

「だから、俺は雨の日も大好きだ」

「悩める時も迷える時も涙ぐむ時も、いつかは晴れ晴れとした心持ちになって報われると信じて――――――」

「――――――止まない雨はない。その時が来るまでは氏ねないな」


箒「は…………」

一夏「よっ」ニコニコ

箒「一夏っ!」ギュゥウウウウ

一夏「ははは、心配かけたな」ナデナデ

箒「馬鹿者! 本当に弛んでいるぞ! こ、こんなもんで私の気持ちが収まるものか…………本当に良かった」ポロポロ

一夏「…………よっと」

箒「な、何を?」

一夏「もう7月7日じゃないけど、」


一夏「――――――誕生日おめでとう」


一夏「何となく白を選んでみたんだけど、どう?」

箒「あ、ああ! 嬉しいぞ、一夏」

一夏「あのISのように紅い印象が強いけれども、心は白ですね~」

箒「か、からかうな…………その、恥ずかしい」ポー

一夏「さ、手を」

箒「え?」


一夏「――――――私と踊っていただけませんか? ISで」


箒「あ、それは…………喜んで」ポー

一夏「素直でよろしい。それじゃ――――――」

一夏「来い、『白式』!」

箒「『紅椿』、行くぞ!」


一夏「さあ、天の川の下で、彦星と織姫の再会を祝す優雅なひとときを――――――」






175: 2013/10/05(土) 10:34:17.92 ID:VtjwWFxF0

爺様「ほう……」

SP1「無事で何よりでしたね」

SP2「本当によかった…………これで次代への希望は生き続ける」

千冬「………………一夏」ポロポロ

山田「しかし、これまでどこに……?」

爺様「良いではないか、良いではないかぁ!」

爺様「終わり良ければ全て良しぃ! 我々の明日はぁ昨日より明るい!」

SP1「そうですね。今夜は日が昇るまで感動の余韻に浸りましょう」

SP2「そして、明日からは元通りの日常へ――――いや、次のステージへ!」

千冬「……そうだな。今年はまだ半分終えたばかりだ」

千冬「私も無事に年が明けられるように気を引き締めていこう」

山田「私も――――――あ、あれは!」



ヒュウウウウウウウウン

セシリア「一夏さあああああん!」

鈴「一夏ぁ!」

シャル「一夏!」

ラウラ「織斑一夏!」



爺様「さぁて、あの見目麗しき可憐なる戦う乙女たちの行末はいかにぃ……?」

SP1「そして、若き俊英とその学び舎の運命は――――――?」

SP2「それは行くところまで行かないと誰にもわからない。けど――――――」

千冬「――――――それを見届けるのが大人の務めだ」

山田「楽しみですね、将来が」

一同「………………」

爺様「それでは、我らはここらで退散するとしよう」

SP1「各方面に生存報告を送りませんと」

SP2「『福音事件』――――闇に葬られる運命であろうと、世界を救った名も無き英雄の物語はこれからも続いていく」

千冬「さあ、行け。――――――時代を導く風雲児よ」



――――――俺は千冬姉を、爺様や財閥の人たち、箒やIS学園のみんな、関わる人全てを守る!



The End......?

176: 2013/10/05(土) 11:38:12.88 ID:vMP5JNPt0

アンコール 平和な日常・裏
Interwar

――――――夏期休業前


一夏「さて、幼児教育ボランティアや高齢者ボランティア、企業の慰労訪問は終わりっと」カタカタ

一夏「うん! これで平の実績は十分」

一夏「2学期からは生徒会だな」

一夏「確か、のほほんさんが――――違う違う。布仏本音さんね。彼女が生徒会書記やってて、その3年の姉が会計だったな」

一夏「で、生徒会長が――――――うっ、頭が…………」ズキーン

一夏「…………ちょっとハードスケジュールだったから疲れたのかな」

コンコン

一夏「む、どうぞ」

ガチャ

シャル「一夏! ご主人様!」ニッコリ

ラウラ「お、お茶でもいかがでしょうか……」プルプル

一夏「ああ、ご苦労様……(おお、ラウラよ。落ち着け。零すなよ)」ハラハラ

一夏「はい、よく出来ました(えっと、……何考えてたんだっけ? まあいいや)」ナデナデ

ラウラ「ふふん……」エッヘン

一夏「これは、アレンジティーかな? 何か妙に紅みがかっている上に蜂蜜っぽい味に酸っぱさがある…………」

シャル「こちらもどうぞ」

一夏「これってヘクセンハウス(お菓子の家)じゃないか! 食べていいの?」

シャル「はい!」ニッコリ

一夏「あ、この香り――――――」クンクン

一夏「わかった、――――――生姜でしょ? それをトリックル(蜂蜜)で味付けしているんだな」

シャル「凄い!」

ラウラ「よ、よくわかったな」

一夏「安い生姜を使ったんだな…………紅生姜で直接ってところかな」

シャル「そ、そこまでわかるだなんて」

一夏「ははは、セレブの世界に入ってまずしたことは衣食住の可能性を追究したことだからね」

一夏「その中で、高級料理は無理だったけどお菓子作りが特にはかどってね」

一夏「だから、香辛料や香料の違いなんていうのはすぐにわかる」

一夏「でも、美味しくいただくよ」モグモグ


177: 2013/10/05(土) 11:38:35.73 ID:VtjwWFxF0

一夏「うん、美味しい。これならこういう形での奉仕もやぶさかでないね」

シャル「ご主人様!」
ラウラ「ご主人様!」

一夏「いいね。これは美味い! ほら、あ~ん」

シャル「あ~ん」パクッ
ラウラ「あ~ん」パクッ

シャル「僕、これ、好きだな……」
ラウラ「こ、こんなにも幸せなことがあるのか……」

一夏「うん(いやぁ、メイド姿が板についてきたな…………)」

一夏「お客さんをもてなすのに頼んでいいかな、こういうの」

一夏「セレブの俺が言うんだから自信を持っていいよ」ニッコリ

ラウラ「や、やったぞ、シャルロット!」ニッコリ

シャル「うん! やったね、ラウラ!」ニッコリ



178: 2013/10/05(土) 11:39:42.32 ID:vMP5JNPt0



一夏「いやぁ、ここまでお菓子作りができるようになるなんて思わなかったよ」(お忍び変装中)

ラウラ「軍隊ではローテーションで食事係をやっていたが、私でもこういうものを作れるようになるとは思いもしなかったぞ」モジモジ

一夏「さて、今日来たのはゲームセンターだ」ガヤガヤ

ラウラ「まるで戦場のような騒音だな。これではほとんど何も聞こえないではないか」ザワザワ

一夏「いや、意外とすぐに慣れていくもんだよ? 人間の持つ 必要な情報を選り分ける能力を身近に感じるところがここなのさ」

一夏「さて、ここに小遣い5,000円がある。今日はここで遊ぼう! 50回は遊べるはずだ」

ラウラ「わかった」

一夏「それじゃ、エアホッケーから行こうか」チャリン

一夏「――――――勝負だ! ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

ラウラ「なるほど、直感的に何をすればいいのかがわかるぞ」

ラウラ「では、ご……織斑一夏! その強さを学ばせてもらう!」

一夏「いや、確かにアメリカではスポーツにもなっているぐらいだけど、俺はプロじゃないぞ?」

ラウラ「行くぞ!」カンッ

一夏「なっ……(やはり、ドイツ軍最強のIS乗り! 本職なだけあって身体能力がずば抜けているな……)」ストン

一夏「だけど、テーブルに身体を載せずにパックがゴールに落ちなければいいのだから、こういうことだってできる!」カンッ

ラウラ「な、何ぃ!(マレットを両手に持っただと!?)」

一夏「ルール違反は一切してないぞ? パックを直接身体で受け止めることは反則だが、一人でパックを2つ使うことや片方のパックを置くことにペナルティはない!」

ラウラ「こ、これが、織斑一夏の戦術…………!」カンッ

一夏「だから、こういうふうにすることだってできる!」


ラウラから送り出されたパックを受け止め、自分のエリア内でパックを激しく弾き飛ばすと、一夏は両手のマレットを置いて居合の構えをとった。


ラウラ「どちらかのマレットを取って意表を突くつもりか!」

ラウラ「だが、そんなものに惑わされはしないぞ!」

一夏「………………!」


179: 2013/10/05(土) 11:41:35.96 ID:vMP5JNPt0


そして――――――、


一夏「はああああ!」

ラウラ「来たな!(やはり、右手で振りぬく先にある左側のマレットを手にしたな! ただの虚仮威しだったな)」

一夏「――――――ふん!」


しかし――――――


ラウラ「む?(掴んだマレットが左右を往復するパックに当たらなかった、だと? 馬鹿な、織斑一夏が外すわけが――――――はっ!?)」

一夏「はあっ!」カンッ

ラウラ「何だと――――――」ストン


――――――隙を作らぬ二段構えだった。

身体を前傾にして右手で左側のマレットを手にしてそのままパックを当てるものだと最初は思われた。

ラウラは居合の速さに反射的に身構えたほどだったが、意外と重くて扱いなれないマレットのせいで想像したよりは鈍かった。パックには当たらなかった。

しかし、そう思ったのも束の間、実は後れて逆の手で逆のマレットを掴んで、一瞬気が逸れた瞬間を狙い撃ったのである。


――――――まさに電光石火だった。


ラウラは一瞬 何が起きたのか全く理解できなかった。

織斑姉弟が居合の達人ということで、居合というものに興味を持ってビデオ鑑賞したり文献調査したりして研究しだしたラウラだったが、

まさか連続で居合抜きができるとは思いもしなかったので、想像を超えた技量を前にしてむしろ感動すら覚えていたのだった。


一夏「さあ、打ってこい!」

ラウラ「そうだ! それでこそ、私が憧れる織斑一夏だ!」カンッ

一夏「そこだっ!」カンッ

ラウラ「まだまだぁ!」カンッ



カンッ、カンッ、カンッ、カンッ............




180: 2013/10/05(土) 11:42:05.75 ID:VtjwWFxF0


一夏「今日は結構はしゃいだなぁ…………」

一夏「初見のガンシューティングを4コインでクリアしたり、クレーンゲームで大量のお菓子とぬいぐるみをゲットして、プリクラというものもしてみたり――――――」

ラウラ「また、ご主人様と来たいな……」ニコニコ

一夏「そうか。ラウラがそう望むならきっと叶うよ」

ラウラ「そうか、そうなのか。えへへ…………」ニヤー

一夏「プリクラのシールはもらうとして……、このぬいぐるみやフィギュア、キャラクタータオルは貰っていってくれ! 今日の記念として!」アセアセ

ラウラ「ほ、本当か!?」

一夏「ああ、これでベッド周りが思い出で埋まるだろう(こんなものを俺が持って帰ったら笑い草にされる!)」

ラウラ「ゲームセンター…………いいところだ」

一夏「ああ……、だけど、18歳未満は保護者同伴無しでは20時以降は入れないからそこは気をつけてね」

ラウラ「わかったぞ、ご主人様!」

ラウラ「今日の感動をクラリッサに報告しなければ!」ウキウキ

一夏「…………本当に変わった。こうして見ると本当に世間知らずなお嬢さんだな(だけど、あれで少佐なんだもんな……)」

一夏「(情報によれば、ラウラは表向きは孤児出身という話だが、軍用のデザインベイビーである可能性が高いとされる)」

一夏「(戦うためだけに生み出された生体兵器が、まさかこれほどまでの人間性を獲得するとは、何が起こるかわからないもんだな……)」

一夏「(いや、俺の人生もそうかもしれない)」

一夏「(『あの日』が無ければ――――――)」

一夏「(そして、『あの日』を境に、俺は自分の意思で財閥総帥後継者の道をひたすら行っている――――――)」

一夏「(その成果の1つが今、ここにある――――――!)」

一夏「卒業してからはわからない。でも、今だけでも“ラウラ・ボーデヴィッヒ”にしてあげられることを――――――」

ラウラ「さあ、行くぞ! シャルロットが待っている」ニコニコ

一夏「ああ」ニッコリ


181: 2013/10/05(土) 11:42:43.40 ID:vMP5JNPt0

――――――夏期休業の始め


シャル「次、僕だよね?」ドキドキ

一夏「それじゃ行こうか、お嬢さん?」

シャル「うん!」ニッコリ



一夏「ここが俺の――――与えられた屋敷だ(いやはや、まさか本職体験をご希望なさるとは…………これは本気で就職するおつもりだ)」

シャル「綺麗なところだね」

一夏「まあ、俺が衣食住に不自由していなかったからメイドたちが仕事を無くして徹底的な庭掃除に専念しだしたからね……」

爺様「いやあ、よく来てくれた。一夏、そしてシャルロット」

シャル「会長……」ペコリ

一夏「…………爺様は本気らしいな」








182: 2013/10/05(土) 11:43:56.35 ID:vMP5JNPt0


一夏「この小包みは?」

爺様「包みを開けてみよ」

シャル「…………札束? 日本円の?」

爺様「100万ある」

一夏「小切手とか電子マネーで生活していたせいで初めて見たけど、意外と――――――」

シャル「――――――薄い?」

爺様「そう、確かに薄く見えるかもしれんが、それを手にするのに普通の人は数ヶ月も働き、または人を欺き、犯罪を働く者までいる……!」

一夏「100枚“しかない”と考えるか、100枚“もある”と考えるかで重みが変わってくるな…………」

シャル「そうだね。そこが大きな違いだね」

一夏「だけど、ハイパーインフレを引き起こした戦前のドイツのように、ベビーカーに大量の札束を載せても紙くず同然にもなるんだから、」

一夏「カネの自在性と魔力は恐ろしいものがある。俺が“世界で唯一ISを扱える男性”と報じられただけで円高になるぐらいにね」

一夏「それだけに、心の弱い人間ほどカネの魔力に魅せられてしまう…………カネが“ある”か“ない”かで世界が大きく変わる」

シャル「…………そうだね」

爺様「――――――財が溢れるほど人間は本来の姿を失う」

爺様「お前はそのことがわかっているようだな」

一夏「」コクリ

爺様「ただ忘れてはならないことがある」

爺様「――――――財の価値は生き様の価値と同じだということを」

一同「――――――!」

爺様「よく覚えておけ」

爺様「財は力――――――、矛と盾、あるいは剣と鞘だ」

爺様「――――――財は人を生かし、財は簡単にその人生を断つ」

爺様「税金の匙加減で自殺者が増えたり減ったりするのを考えれば、よくわかるだろう」

爺様「そして、お前が手にする『零落白夜』の光の剣には我が財閥の未来だけでなく、世界の命運をも左右するだけの力がある」

一夏「…………」コクリ
シャル「…………」ゴクリ

爺様「だが、己の責務を全うするのにその道はあまりにも過酷だぁ」


爺様「――――――ここからが大切なことだ」




183: 2013/10/05(土) 11:44:22.95 ID:VtjwWFxF0


爺様「織斑一夏よ。決してお前は一人だけで戦っているものだと思い上がるでないぞ」

爺様「敵は多くとも、お前にはお前の手によって救われた者や導かれた者たちが確実にいる」

爺様「――――――味方は必ずいる!」

爺様「彼らの声に耳を傾ける余裕を失うでないぞ」

爺様「さもなければ、『あの日』、織斑一夏が世界と自分に対して掲げた誓いを見失うことになる」

爺様「決断はお前だけに与えられた自由と責任だが、その決断を支える者たちがいるということを忘れるでないぞ」

一夏「胸に刻みます」

爺様「そして、シャルロット・デュノア」

シャル「は、はい……!」

爺様「お前がこれから身を捧げることになろう相手は、自分の信念を貫こうして情熱に身を焦がす青二才だ」

爺様「それ故に、優しい。優しすぎる」

爺様「生まれてこの方、絶望といえるほどの苦楽を味わってこなかったおぼっちゃん故に、これから現実に対して悲観的になっていくだろうが、」

爺様「アイデンティティの原点として“織斑一夏”の在り方を定義し続けてやってくれ」

爺様「人間は最初から世界に奉仕するためにぃ生まれてくるのではぁない」

爺様「どれだけ壮大な目的があろうとも、その原点は身近な人間への思い入れがあってこそだ」

シャル「わかりました! 僕、やってみせます!」

爺様「良い返事だ、シャルロット・デュノア。お前にならぁ任せられるだろう」ニンマリ

爺様「では、朝から長話 すまなかったな。2泊3日、楽しんでいってくれ」バサッ

一同「…………」ペコリ

バタン



184: 2013/10/05(土) 11:44:50.60 ID:VtjwWFxF0

シャル「…………ねえ、一夏」

一夏「――――――俺も、『“シャルロット・デュノア”にだったら――――』と思う時があったよ」

シャル「え!?(それって“そういう意味”なのかな…………!?)」ドキドキ

一夏「これはISに関係なく、それ以前に財閥総帥後継者となった俺の問題だ」

一夏「俺はこの学園に入ってシャルとラウラを守ってやったな」

シャル「うん、そうだよ」

一夏「だけど、それだけじゃダメなんだって思い知らされたよ」

シャル「え?」

一夏「守ることも導くことも、これまでの環境をただ大きく変えるだけだから、それだけじゃダメなんだって」

一夏「俺はシャルにデュノア社と心中して欲しくなかったから声を掛けた」

一夏「俺はラウラに千冬姉の強さがいったい何なのかを教えるためにVTシステムの幻影を断ち切った」

一夏「でも、それだけでシャルもラウラも“今のほうがいい”と思えたか?」

シャル「え?」

一夏「そんなわけない。禍根を断ってやったとしても、それによる変化を受け容れて心が満たされなかったら意味が無い」

一夏「環境が変わり、その中での自由を享受できるかどうかにかかってくる」

一夏「俺は『あの日』、千冬姉に許してもらえたから“今の俺”になれたんだ」

一夏「もし、千冬姉が何も言わなかったら、きっと…………」

シャル「……そうだったね。僕もあの時、初めて自分が誰かに必要とされたように思えたから――――――」

シャル「きっとラウラもそれ以外の道を知ったから――――――」

一夏「俺はこれから環境を――――人の人生を思いのままに操ることも可能となっていくだろう」

一夏「だけど、俺が良かれと思ったことが必ずしも相手にとって良いことだとは限らない」

一夏「――――――ラウラはわからない。軍人だから」

一夏「けど、せめて“シャルロット・デュノア”だけは救われたって後になって振り返ってくれるように、」


一夏「――――――幸せになってくれ」


シャル「――――――!」ブワッ

シャル「うん! 幸せになるよ、一夏…………」ポロポロ

シャル「だから、一夏も、ね?」

一夏「ああ、ありがとう、シャル」

シャル「よぅし、頑張っちゃいますよぉ!」

一夏「楽しみにしているよ」ニコニコ



185: 2013/10/05(土) 11:45:24.42 ID:vMP5JNPt0

――――――夏期休業前、アリーナ


セシリア「さすがにアリーナでは『ストライク・ガンナー』は活かしきれませんわね」

鈴「私の方はあまり立ち回りが変わらない――――というより、セシリアだけパッケージによる変化が大きいのよね」

一夏「そうですね。他のは基本的に追加装備ですからね。その中で、唯一狙撃機としてのコンセプトを意地でも貫くこの仕様には…………」ウーム

一夏「これってもしかして……、『モンド・グロッソ』狙撃部門の独占へ向けての後ろ向きな狙いでもあるのだろうか……」

鈴「うわぁ……確かにISの精密射撃用兵装は未開拓部門だけど、機体よりもデカくて取り回しの悪いこの狙撃銃なんか対人戦を捨ててる感がバリバリよねぇ……」

セシリア「しかたありませんわ。それが祖国の意向ならば…………」ハア

一夏「その辺が第3世代兵器の開発に傾倒して兵器としての完成度を捨てた実験機の泣き所だな……(ひたすら技術革新していかないと生き残れないIS業界そのものが狂っているからしかたないか)」

一夏「そこで、謹製の武器を用意させてもらいました」パンパン

黒服「イギリス代表候補生:セシリア・オルコット様に本国より新装備の導入を仰せつかりました」

セシリア「ど、どういうことですの?」

黒服「私からはそれ以上のことは言えません。では」

鈴「随分小さい新装備ね。台車に載せられるぐらいの大きさだなんてね」

一夏「それはそうですよ。『ブルー・ティアーズ』のショートブレードの代用品として用意させたものですから」

セシリア「え?」

一夏「中身はFN P90のようなPDWをIS用に改良した代物です。誘導兵器による迎撃を前提として展開性と威力を重視したモデルです」

一夏「待望の迎撃用兵器と実弾兵器ってわけですよ」

鈴「何でそんなこと知っているのよ、あんた……?」

一夏「だってそりゃあ、その武器を注文したのは私ですから」

一同「――――――!?」

一夏「大したことじゃありません。スポンサーのコネ伝いに英国の“スポーツ用品店”に生産を依頼しただけです。弾もコストパフォーマンスに優れたものなので心配なさらず」

一夏「基本の立ち回りはあくまでも『ブルー・ティアーズ』による撹乱・迎撃――――でもこれで、少しは変わってくるでしょう?」

一夏「(それと、俺が頼んで爺様の口添えをしてもらって無理やりサイドアームとして認めさせたんだけどね。コネの力は偉大である)」

一夏「お気に召すと嬉しいです(正直、“物騒なもの”なのか、“スポーツ用品”なのか曖昧で複雑なプレゼントだ…………)」

セシリア「私のために!?」ブワッ

セシリア「ありがとうございます……」

鈴「あんた、随分とセシリアに優しいじゃない……」ジトー

一夏「…………そう感じるのは“ある”人の余裕と贅沢だよ」ボソッ

鈴「え?」

一夏「さて、私に休みはない! さあ、日本の夏を楽しもう!」

一同「おおお!」




186: 2013/10/05(土) 11:46:03.21 ID:VtjwWFxF0

――――――とある孤島


鈴「一夏ぁ! 早く早く!」

一夏「ああ…………」ゲンナリ

一夏「(何でこんな目に遭うんだあああああああ!)」

一夏「(そして、何故鈴はあんなにも元気なんだぁ…………)」


状況を一言で示すならば、4日間の無人島におけるサバイバル訓練であった。

もちろんこれは俺のスポンサーが訓練と称して実施している、俺と『白式』の経験値稼ぎであった。

いろんな体験をするのは結構なことだが、いくら何でもISと最低限の装備しか認められていないのはどうかと思う。

一応、宝探しとして生活物資はこの無人島に隠されているのだが…………。


一夏「焦るなよ…………まずは無人島の輪郭を把握してこの白地図を埋めるぞ」

一夏「宝探しは後だ。図鑑によれば、森の中には蛇なんかも生息しているらしいからな……」

鈴「ちょっとぉ! それを先に言ってよ!」ドタバタ



一夏「何とか夕暮れまでに島を1周できたな」

鈴「ISを使えばあっという間だったじゃない……」ゼエゼエ

一夏「おいおい、この程度で音を上げちゃいけないぞ。最初の威勢はどうした?」

一夏「それじゃあ、最初のお宝のテントをありがたく使わせてもらおう(きっとお情けだな…………うん、俺だけだったら絶対に無かった)」

鈴「うん!(せっかく4日間も一夏を独占できるんだから、弱音なんて吐いてられないわよ!)」ニッコリ






187: 2013/10/05(土) 11:46:38.09 ID:vMP5JNPt0


パチパチパチパチ

一夏「さて、明日から本格的に食糧やら何やら確保しないとな…………」

鈴「図鑑もあるんでしょう? なら、私にまかせなさい!」

一夏「頼む。幸い砂浜を拠点にしているから、出かける時は伝言板にしよう」

鈴「わかったわ」

鈴「…………ところで、一夏?」モジモジ

一夏「何?」

鈴「その……、一夏はテントに入らないの?」ドキドキ

一夏「野宿には慣れてる。それに、そのテントに二人はキツイだろう? 暑苦しくて眠れないぞ?」

鈴「――――――ダメよ!」

一夏「え?」

鈴「あ……、その、私が安心できないのよ……」

一夏「………………」

鈴「あ……、ごめんなさい。忘れて――――――」

一夏「わかった」

鈴「え、いいの!?」

一夏「だが、覚悟しておけよ。4日間を満足に生き抜くために――――――」

鈴「うん! まかせなさいよ!(や、やったぁ!)」ニコニコ


一夏「こういう時、ISスーツに着替えられるのは便利だな」

鈴「そ、そうね……」ドキドキ

一夏「緊張してるの?」

鈴「そ、そんなことないわよ!」

鈴「ほら、その……、私たちは幼馴染なんだから――――――(あ…………)」

一夏「そうだな」

鈴「(な、何でこんなことしか言えないの、私…………)」

一夏「(ISスーツは量子変換されて常時着替えられるのは利点だけど、出し入れのエネルギー消耗が激しいのが難点だから、一度取り出しておく必要がある)」

一夏「(――――――それはいいんだ!)」

一夏「(だけどこれは、ダイバースーツのようにピッチリと締め付けるからヒッカカルんだよな……)」

一夏「(それに朝起ちした時、どうなるか――――――)」ハア

一夏「(逆に女子用は、身体の輪郭線がはっきりくっきり浮き出るから、こうして狭いテントで密着されたら――――――)」


鈴『何すんのよ! 一夏の馬鹿ああああああああああ!』バキッ


一夏「(おお、怖い怖い! 鈴が眠りに就いたらさっさと抜けだそう…………む?)」ググッ

鈴「…………一夏ぁ」ムニャムニャ

一夏「腕を掴まれてしまった…………しかたのないやつ」クスッ






188: 2013/10/05(土) 11:47:08.66 ID:vMP5JNPt0

――――――帰還後


鈴「ふふん、一夏~!」ウキウキ

セシリア「二人共、いったいどちらに?」ムスッ

一夏「無人島で楽しくサバイバルしながら宝探ししてました」

セシリア「ええ!?(無人島で二人っきり――――――)」

鈴「ふふん、いいでしょう? 英国淑女には到底真似できない素敵な日々だったわよ」ニヤリ

セシリア「鈴さん!」イラッ

一夏「いや、鈴さんはこう言っているけれど、テントまであるのに一人じゃ眠れないって駄々をこねてさぁ…………」ヤレヤレ

セシリア「ふぇ!?」
鈴「い、一夏!?」

一夏「それに、調子に乗って素潜りなんかするから案の定溺れて心肺蘇生する羽目にもなった……」

セシリア「そ、それって…………」アワワワ
鈴「あ、あははは…………」ポー

一夏「他にもいろいろあったな」

一夏「夜明け前、一人で花摘みに行けずに私を叩き起こして5歩後ろの茂みで――――――」

セシリア「」
鈴「」

一夏「野宿する時の衣食住で一番後始末に困るのが…………すまない、言い過ぎた」

一夏「…………でも、楽しかったよ」


―――――― 一夏(ひとなつ)の思い出。


一夏「ありがとう。付き合ってくれて」

セシリア「あ……」ポー

鈴「こ、ここここっちこそ、楽しかったわよ!」プシュープシュー)

鈴「そ、それじゃあねえ!」ピュウウウウン

一夏「ああ、また会おう」




189: 2013/10/05(土) 11:47:59.49 ID:vMP5JNPt0

――――――屋敷


セシリア「こうしてゆっくりとお話する機会がいただけて本当に嬉しいですわ(待ちに待ったこの日が――――――!)」

セシリア「しかし、一夏さんがこのような邸宅にお住まいとは思いもしませんでしたわ」

一夏「これはスポンサーが“世界で唯一ISを扱える男性”を遇するために用意してくれた別荘ですよ」

一夏「それより、暑かったでしょう? 日本式のティータイムとしませんか」

セシリア「まあ、これが本当に食べ物なんですの!?」キラキラ

一夏「日本の伝統的なお菓子:WAGASHIです。このように見た目の美しさも追求されているわけです」

一夏「あ、安心してください。人工着色料や添加物は一切使っていない純粋な砂糖菓子ですから」

一夏「そして、こちらのお茶は口の中を甘くしすぎないように飲まれるもので、そのままだと渋いだけですので合わせてどうぞ」

セシリア「あの、これは一夏さんが自らお作りになったものなんですか?」

一夏「え? 何でわかったの?」

セシリア「素晴らしいですわ! ですが、その前に――――――」テマネキ

一夏「?」

セシリア「ほっぺにソースが付いていますわ」チュッ

一夏「あ…………!」ドキッ

セシリア「…………甘い」ウットリ

一夏「ああ……、ありがとうございました」


190: 2013/10/05(土) 11:48:45.09 ID:vMP5JNPt0

一夏「それでは、こちらの串を使ってください」キリッ

セシリア「あ、あの…………」モジモジ

一夏「あ、そうか。こういうところの作法がわからないか……」

一夏「それでは、この水羊羹から」

一夏「このように、和菓子は十分に串で裂くことができるぐらいの柔らかさでありながら、しっかりと指して口元に運べるぐらいの固さがあります」パクッ

一夏「そして、口の中が甘くなりすぎたと思ったら、茶を飲む」ズズズ

一夏「わかりましたか?」

セシリア「一夏さん、おすすめの品はどちらになるのでしょうか?」

一夏「む? そうですね、この赤・白・緑の菱餅なんかいいですよ」

セシリア「あ~ん」

一夏「では――――――(あれ? 何だこの吸引力…………)」

セシリア「」パクッ


セシリア「ふわああああああああ!」(ヘブン状態)


一夏「ど、どうだろう?」

セシリア「お、美味ひいですわぁ……うふ、うふふふふ……」ウットリ

セシリア「(ああ、口の中に広がるしっとりなめらかとした優しい甘さと風味が身体中に満ちていく感じですわ)」

一夏「それはよかった」ニッコリ

セシリア「(ああ、一夏さんの笑顔が太陽のように私に力を注いでくださります!)」

一夏「では、茶をどうぞ(少しぬるめでいいかな。せっかくの感動を熱さで冷めることがないように……)」

セシリア「いただきますわ」ゴク

セシリア「ほう…………落ち着きますわね」

一夏「それはよかったです」

セシリア「私、織斑一夏――――あなたに会えてよかったと思います」

セシリア「私、ずっと東洋なんて万年後進的な地域だと偏見を持っておりました」

セシリア「しかし、このように洗練された文化に直に触れてみて、どうしてかつての大英帝国がこの極東のサムラーイたちと同盟を結んだのかよくわかりましたわ」

セシリア「日本の紳士は英国の紳士にも劣らぬ気高さと優雅さを備えているのですね」

一夏「光栄です」

一夏「私も“もう一人のオリムラ”として、その名に恥じない生き方をこれからもしてまいります(――――――財閥総帥後継者としても!)」

セシリア「ああ、一夏さんが眩しい――――――」ウットリ





セシリア「ふふん~」

セシリア「今日は一夏さんといっぱいお話できて、新しい面に触れることができて大満足ですわ!」

セシリア「……あ! 婚約を持ちかけるのを忘れてしまいましたわ…………せっかくの機会が」ドヨーン

セシリア「で、でも今度は、故郷にお招きすることも約束できましたから――――――」

セシリア「うふふふふ…………」ニヤー


191: 2013/10/05(土) 11:49:16.04 ID:VtjwWFxF0

――――――縁日


女尊男卑の世の中になっても、道行く人たちの活気に満ちた表情は変わることがない。

その根本にあるものは今も古来より脈々と受け継がれており、文化という形で残り続けていた。

それ故に、俺は今の世の中に対してまだ絶望はしていなかった。



観衆「おおおおお!」ザワザワ

一夏「…………神楽舞か」

一夏「そういえば箒との関係も、『あの日』から切り捨てていたんだな」(お忍び中)

一夏「――――――綺麗だな、箒」

一夏「ずっと恥ずかしがり屋な印象しかなかったけど、改めて見ると青春している若い果実だな」

一夏「俺は老けたけど…………」

一夏「ISが存在しなければ、俺も箒もここにずっといて、こうして夏祭りに毎年参加していたんだな…………」

一夏「人生何が起こるかわからないな…………」

一夏「だけど、ISの登場で女尊男卑の世の中になっても変わらないものがある」

一夏「その中の尊いものを守るために俺は立っているのだ…………」

観衆「おおおおおおお!」パチパチパチパチ





192: 2013/10/05(土) 11:50:12.57 ID:VtjwWFxF0



箒「お前が来てくれるだなんてな…………」モジモジ

一夏「神楽舞――――――、よかった。凄くよかったと思うぞ」

一夏「様になっていて驚いた。女の子らしい格好が似合うようになっちゃって――――――いや、白のドレスが似合っていたんだ。当たり前か」

一夏「相変わらず綺麗でびっくりした」

箒「そ、そうか、ありがとう……」ニッコリ

一夏「いいね、その笑顔。ラウラとは違って、ようやく素直になれたって感じ」

一夏「この前 みんなと一緒に実家で過ごした時、凄く優しい顔をしていたよ」

一夏「――――――素敵だった」

箒「…………よ、よくもそんなことを平然と」カア

一夏「いろいろあったな、この1年…………1年で俺の人生は大きく変わった」

箒「え、1年――――――? 4ヶ月じゃなくて?」

一夏「そうか、この事は誰にも教えていなかったな」

一夏「じゃあ、種明かしをするよ」

箒「種明かし?」

一夏「実は俺、去年のオープンハイスクールで千冬姉の慰労に訪れた際にISを動かしていたんだ」

箒「何!?」

一夏「だから俺は、入学するまでにはISを使いこなせていたんだ。もちろん、IS適性が高かったこともあったけど」

一夏「でも、そんなことは些細なことだ」

一夏「箒も『紅椿』を得てどんどん強くなってきているし、スタートダッシュの貯金はもうなくなりそうだ」

箒「それはお前の指導が適切だったからだ。そして、お前に応えたいと思わせる誠意があったからだ」

一夏「わからないもんだな、人生ってやつは…………」

箒「一夏…………」

一夏「俺は人には言えないような秘密をいっぱい抱えて生きている」

一夏「でも、これから言うことは真実だ」

一夏「俺は今、こうしてIS学園に入れてよかったと思ってる」

箒「ど、どうして……?」


一夏「――――――そこに“篠ノ之 箒”がいたからだ」


箒「…………え!?」ドキッ


193: 2013/10/05(土) 11:50:56.95 ID:vMP5JNPt0

一夏「もし入学当初“織斑一夏”として接してくれる人間がいなければ、きっと今には繋がらなかった」

一夏「社交界の豚共を相手にするのと同じ感じ――――『この雌犬共がぁ!』とか思いながら学園生活を送っていたと思う」

一夏「鈴でもよかったんだけど、そこにはいなかったことだし――――――」

一夏「隣にいてくれる――――それだけで救われるってことがあったんだよ」

一夏「俺はその事をずっと“篠ノ之 箒”に感謝している」


一夏「――――――ありがとう、俺のベストパートナー」


箒「…………おお」モジモジ

一夏「ん?」

箒「その…………」モジモジ

箒「―――――― 一夏!」ポー

一夏「…………?」

箒「私はお前の――――――」ドキドキバクバク


ヒューーーーーン、

パーーーーーーーーーン!


一夏「久々の、花火…………」ジー

箒「あ………」ガッカリ

一夏「ここから照らされて見える街並みにはたくさんの人の営みがあって――――――」

一夏「やがては、目には見えないただの数字を相手に――――――」

一夏「だけど今は、この力を平和的に利用する道を探したい――――――」


一夏「俺は、IS〈インフィニット・ストラトス〉の可能性を示す!」


一夏「見ていてくれ、箒! 俺は世界を変えるぞ!」

箒「まったく一夏は…………」

箒「ああ、私も力を貸すぞ。私もお前のベストパートナーになれたのだからな」

箒「それで一夏。私はお前の…………いや、ここは、」


箒「――――――お前の背中は私が守る!」


一夏「…………そうか」

一夏「そして、変わらぬ誓いを今ここに――――――!」



――――――俺は関わる人全てを守る!



一夏「千冬姉も、箒も、セシリアも、鈴も、シャルも、ラウラも――――――みんなみんな、守ってみせる!」

箒「一夏…………それがお前の強さなのだな(そして、彦星と織姫は再び――――――)」

ヒューーーーーン、パン、パン






194: 2013/10/05(土) 11:51:31.91 ID:VtjwWFxF0

――――――夏期休業残りわずか


千冬「――――――」カッ

一夏「――――――」カッ


ガキーン!


一夏「………………」ギリッ

千冬「………………」ジー





千冬「ここまでだ」フゥ

一夏「相変わらず千冬姉は強いな……」ブルブル

山田「お疲れ様でした」

一夏「ありがとうございます、山田先生」ニッコリ

山田「はい!」ニッコリ

山田「しかし、生身でIS用の太刀で打ち合うのは世界広しと言えどもお二方だけですよ」

千冬「部分展開など基本中の基本だろう?」

山田「でも、身の丈よりも大きいものを平然と振り回せるのは普通じゃないと思います」

一夏「そうかな。人間には本来タンスやピアノを一人で持ち上げるだけの力が備わっているものです。昔の農村の田舎娘だって米俵背負っていたし」

一夏「ISの絶対防御を駆使すれば、人間本来の力を解放するなんて簡単なことじゃ?」

千冬「現代戦の要は飛び道具だからな。安定した銃火器に頼っていればリスクの大きい格闘戦など必要ないからそういう使われ方をしないのはしかたないか」

一夏「学園がどう評価しているか知らないけど、俺なんて千冬姉の足元に及ばない。千冬姉に冷や汗をかかせたことが無いんだ…………」

一夏「それに、あの篠ノ之 束ですら千冬姉と同等の力の持ち主なんだ。雪片弐型がピクリとも動かなかった…………」

一夏「だから、まだまだ遠い…………」

一夏「だけど、ここにいる間は諦めはしない。もっと強くなって、関わる人全てを守るんだ」

千冬「うむ」

山田「はあ……、姉弟揃って武道家ですね。そんな使い方を思いつくのはやっぱりお二方だけだと思いますよ」


195: 2013/10/05(土) 11:52:11.20 ID:vMP5JNPt0

千冬「そういえば、一夏。2学期からは部活に入っておけよ。苦情が寄せられていたからな」

一夏「必ずじゃないといけないんですか? 俺は代表候補生たちの指導で忙しいんだけどな……」

一夏「それに、オープンハイスクールの客寄せパンダになって十分学園に貢献したでしょう? あれは酷かった…………志望動機の集計結果」

山田「しかたありません。学園長としては例外は認めたくないとのことで」

千冬「こういうのは形式が大切なんだ。お前もよくわかっているだろう? 学園としてもお前の扱いには気を遣っているんだ」

一夏「それもそうですね。それじゃ、生徒会に入りますよ。クラス代表に立候補しなかったのも、最初から生徒会に入るつもりでしたから」

山田「そうですか! 織斑くんが生徒会に――――――。これは凄いことになりそうですね」

千冬「では、一夏。これからまた会長のところに行くのだろう?」

一夏「はい。夏期休業の内容を報告しに」

千冬「会長はああ見えて子煩悩だからな。足を運べない私に代わってよろしく頼む」

一夏「はい、千冬姉」

千冬「明日から私は“織斑先生”だぞ?」

一夏「わかったよ、千冬姉!」

千冬「フッ。では、行け」


山田「相変わらず仲が良いですね」

千冬「しかし、あいつにとってIS学園の日々は内地留学でしかない」

千冬「いずれは本来の役目に就いて、誰にも代わりが務まらない決断の数々に追われる、孤独な戦いの日々へと身を捧げていく」

千冬「果たして、一夏は――――――」

山田「きっと大丈夫です。織斑先生のことを卒業生がずっと敬愛し続けるように、織斑くんのことをずっと想い続ける人たちがたくさんいますから」

山田「…………私もその一人ですし」モジモジ

千冬「そういえば、お前の同期のあの3馬鹿から中元が来ていたな」

山田「そうなんですか!? どうして、あの3人が…………?」

千冬「……さぁな。だが、こうして会えなくとも関係が続いていくのは、その……、教師として嬉しいものがある」

山田「そうですよ! だから、大丈夫です!」

千冬「まさか、教え子に教えられることになるとはな……」

山田「嬉しそうで何よりです」ニコニコ




196: 2013/10/05(土) 11:53:34.98 ID:vMP5JNPt0

――――――“アビス”


キュイイイイイイイイイン、キュウウウウウウウウン!

主任「これで、この機体の再フォーマットは完了ですね。お疲れ様でした」

一夏「まさか迷路でトライアルができるなんて思わなかったけど、ISとは違った楽しさがありました」

一夏「ISにはこういう使い方もあるんですね。拡張装備と見ればパッケージの一種に含まれるけど、」

一夏「――――――このパチモン、もしかしたら第5世代兵装ぐらいの価値があるのかもしれない」

一夏「いや、それどころか、次の――――――」

SP1「ISは元々 マルチフォームスーツ――――拡張性は十分にあったんですがね。軍用機としての完成度…………違うな、新兵器の開発ばかりに熱心で、周りが」

SP2「こういうふうにISを前提とした別次元のフルアーマーパワードスーツをやろうとしたのはうちぐらいなもんだ」

主任「セカンドシフトした『白式』の形状に合わせて全体の輪郭の作り直しを行い、『白式』が新たに獲得した第4世代兵器『雪羅』の使用にも耐えうる仕上がりです」

主任「――――――完璧です。よし、第4世代兵器や『無銘』のデータの記録やエネルギーの供給、その他もろもろの後片付けも終わりました」

主任「これで“アビス”はまた封印されます。みなさん、お疲れ様でした」

一夏「ええ。お疲れ様でした」ニッコリ



一夏「これで“アビス”に眠るパチモン――――いや、もう一人のパートナーともお別れか」

一夏「だが、二度と使いたくないな、どっちも。特に、――――――『雪羅』は危険過ぎる」

一夏「攻撃力・防御力・機動力――――その全てがセカンドシフトしたことによって明らかに現行の最新鋭機を凌駕し過ぎている……」

一夏「どうにかして『白式』を表舞台で使わないようにしないと…………ここに眠れる『無銘』と同じく」

SP2「それは無理な話ですって。せめて雪片弐型だけで戦うとか、公開する範囲を最小限に留めることを視野に入れるしかないですよ」

SP1「ところで、若様? あなた様の名義で個人的な差し入れがあったのでいただきませんか?」

一夏「どういうことだ? そんなものは屋敷の事務所に届けられているはずだが」

SP1「――――――『銀の福音』のことは覚えていますよね」

一夏「…………核抑止力(笑)に定評のある、情けないアメリカ軍の第3世代型か。忘れるはずがない。凍結処置されたんだっけ?」

SP2「実は、ナターシャ・ファイルス――――『銀の福音』専属の国家IS操縦者からの個人的な感謝状と御中元が来たわけですよ」

一夏「それは――――さぞ、無念だったろうな。大人の事情でパートナーが無人機にされて、与り知らぬことで凍結処置されてしまったんだから」

一夏「とりあえず受け取ろう――――――って、何だ、このSDカードは?」

主任「これにメッセージデータを入れているのではないでしょうか?」

一夏「感謝状はデジタルってこと? まあ、個人的なメールサーバーはごく一部の人間にしか開いていないし、しかたないか」

SP1「よろしければ、私の端末で」

一夏「ありがとう」

一夏「えっと、何が入っているのかな――――――」ピッ

一夏「“最初にこれを読んでください”、“あなたやあなたが属する団体に対するアメリカ軍の感情”――――――」







197: 2013/10/05(土) 11:54:09.99 ID:VtjwWFxF0

――――――同日、夜


爺様「フハハハハ! 相変わらず楽しい学園生活を送っているようで何よりだ」

一夏「こっちとしては、責任ある立場だからヒヤヒヤものですよ、毎日…………」

一夏「ある貧乏人が言った」


――――――お前にカネが無い悔しさがわかってたまるか、と。


一夏「すると、ある大富豪がこう言い返した」


――――――そっちこそカネが有る苦労がわかってたまるか、と。


爺様「ふむ」

一夏「爺様が俺のために言って聞かせてくれた、このジョークの意味が今ならよくわかるよ」

一夏「“ある”人間と“ない”人間とではわかりあえない。わかりあうためには共通の何かを探しだすか、作り上げるしかないんだって…………」

爺様「ふむ。知識や経験はまだまだだが、――――――いい面構えだな」

一夏「心理学的な話――――――、“ない”ことを強く意識しているのは“ある”ことを切望していることの裏返しだって聞いたことがある」

一夏「それだけ執着しているってことだからね、――――――その価値基準に」

爺様「だが、その価値基準は時としてベクトルが異なってくる。“好き”の反対が“嫌い”だったり、“無関心”だったり、はたまたぁ“LOVE”だったりなぁ」

一夏「俺はさ、爺様――――――」

爺様「ふむ」

一夏「『守る』ことと『救う』ことの違いって何なのか、ずっと考えていた」

一夏「その答えが、――――――仏教的かもしれないけれど、その執着を捨てること――――意識させないことなんじゃないかって……」

一夏「有り体に言えば、どうでもよくすれば問題なくなるってこと」

一夏「ここを襲撃されたあの雷雨の夜、俺はテ口リストたちの声を聞いた。断末魔を見た。殺気に晒された――――――」

爺様「すまんな…………儂は二度も三度もお前自身と取り巻く環境を変えてしまった」

一夏「………………」


198: 2013/10/05(土) 11:55:10.03 ID:VtjwWFxF0

一夏「……なあ、爺様」

爺様「どうした?」

一夏「…………何であの二人は爺様から逃げていったの?」

一夏「千冬姉は答えてはくれなかった。だから、両親の事なんて全然知らない」

一夏「別に会いたくなったってわけじゃない」

一夏「今でも、会いたいとも思わない」

一夏「けど、今の爺様を見ていると、何故だか気になって…………」

爺様「…………ふむ」

爺様「そういえば、お前はまだ男と女の関係というものを今でも忌避しているのだったな」

一夏「…………当たり前だ」

一夏「子を成すこと以外に何の利益があるっていうんだ……」

一夏「社会を存続させるための必要悪だというのはわかっているけど、やっぱり必要悪でしかない」

一夏「それに――――――」


爺様「――――――それに、お前が肩入れしている小娘たちがみな大人の都合によって人生を狂わされていたことに怒りを覚えているのだろう?」


一夏「――――――っ!」ギリッ

一夏「そうだよ! だから嫌なんだ、男と女の関係ってやつが……」

一夏「俺はある時ふと『子を成すだけの関係なら別にいいか』だなんて思ってしまったことがある……!」

一夏「爺様からすれば満足かもしれないけれど、そんな鬼畜の所業ができるものか!」

爺様「………………」

一夏「俺の両親の失敗は、つまらない感情に流されて自分たちに酔い痴れて現実を見ようとしなかったからなんだろう?」

一夏「その結果が、俺なんだ! そんな俺に――――――」

爺様「ぶぅるらあああおおおおおおおおおおおう!」バシッ

一夏「うわっ!?」


199: 2013/10/05(土) 11:56:26.05 ID:VtjwWFxF0

一夏「……なあ、爺様」

爺様「どうした?」

一夏「…………何であの二人は爺様から逃げていったの?」

一夏「千冬姉は答えてはくれなかった。だから、両親の事なんて全然知らない」

一夏「別に会いたくなったってわけじゃない」

一夏「今でも、会いたいとも思わない」

一夏「けど、今の爺様を見ていると、何故だか気になって…………」

爺様「…………ふむ」

爺様「そういえば、お前はまだ男と女の関係というものを今でも忌避しているのだったな」

一夏「…………当たり前だ」

一夏「子を成すこと以外に何の利益があるっていうんだ……」

一夏「社会を存続させるための必要悪だというのはわかっているけど、やっぱり必要悪でしかない」

一夏「それに――――――」


爺様「――――――それに、お前が肩入れしている小娘たちがみな大人の都合によって人生を狂わされていたことに怒りを覚えているのだろう?」


一夏「――――――っ!」ギリッ

一夏「そうだよ! だから嫌なんだ、男と女の関係ってやつが……」

一夏「俺はある時ふと『子を成すだけの関係なら別にいいか』だなんて思ってしまったことがある……!」

一夏「爺様からすれば満足かもしれないけれど、そんな鬼畜の所業ができるものか!」

爺様「………………」

一夏「俺の両親の失敗は、つまらない感情に流されて自分たちに酔い痴れて現実を見ようとしなかったからなんだろう?」

一夏「その結果が、俺なんだ! そんな俺に――――――」

爺様「ぶぅるらあああおおおおおおおおおおおう!」バシッ

一夏「うわっ!?」


200: 2013/10/05(土) 11:57:37.88 ID:vMP5JNPt0

爺様「あの二人にどれだけ落ち度があろうとも、それ以上は許さぁん!」

一夏「何でだよ!? 覚悟も地位も能力も人脈も不揃いな二人だったからこそ、爺様の許から逃げ出すしかなかったんでしょう!」

一夏「爺様の傘の下にいれば、今ものうのうと暮らせていたろうに…………!」

爺様「確かにそうだ。あの二人には途方も無いぐらいの格差があった。身の程知らずもいいところだった」

爺様「あの二人が駆け落ちした時、儂は怒りに身を任せた」

爺様「あの二人に対して手を回して徹底的に迫害した。その結果、二人は――――――いや、言うまい」

爺様「だが、終わってみれば、儂は大きな過ちを犯したことに気づいてしまったのだよ」

一夏「………………?」

爺様「儂はな、一夏……」

爺様「人間というものはやはり愛が無ければダメなのだと思うのだ」

一夏「はあ…………?」

爺様「わからんのか、一夏よ?」

一夏「まったく…………その通りだとは思いますけど、それだけじゃダメなのは爺様がよくご存知でしょう?」

爺様「お前は打算的でかつ機械的な婚姻関係を嫌う一方で、結ばれるには取り巻く環境への覚悟が必要という、極めて対極的な結婚観を持っているな?」

一夏「当然じゃないか…………祝福されるべきものなんだから」

爺様「なら、それ相応の相手をこちらで見繕えばそれでよいのだな?」

一夏「…………言っている意味がわからない。それに、相変わらず俺の結婚に結び付けたいんだな、爺様は」

一夏「俺は爺様の財閥に所属する日本籍のISドライバーであり、財閥総帥後継者だぞ?」

一夏「その伴侶として相応しい――――、国籍も、家柄も、覚悟も、能力も、その全てを備えている人なんているんですかね?」

一夏「まず最初に、国籍は大切だ」

一夏「俺はれっきとした日本籍の企業と契約を結んでいるから、他所の代表候補生と婚姻を結ぼうものなら国家レベルの介入や干渉、監視が付く」

一夏「次に、家柄――――――」

一夏「言うまでもない。あの二人が爺様の許から逃げ出した事の大元は旦那の年収や学歴で世間体を気にするセレブの営みのせいだ」

一夏「付け加えて、IS学園の人間は完全に対象外だ。俺の正体を知る人間はわずかにいるけれど、それでも――――――」


爺様「――――――いるぞ? その全てを備えているのが」


一夏「…………どこかの組の未亡人だとかそんなんじゃないよね?」

爺様「お前よりも1つ年上だがな」


201: 2013/10/05(土) 11:58:44.67 ID:vMP5JNPt0

一夏「え、お見合いリストにそんな人がいたかな? それとも、社交パーティで会ったことがある人なのか…………?」

爺様「――――――織斑一夏」

一夏「――――――破棄します」

爺様「フッ、まだ何も言っていないではないか……」

一夏「流れからいってどうせ――――――、その女傑とやらと夫婦の契りを交わしてこいと言うのでしょう?」

一夏「爺様……、いくら晩節に出来のいい後継者を得られたからって事を急ぎ過ぎでは?」

一夏「俺は爺様にはまだまだ及びませんよ。これからも初めてのことを経験していくでしょうし、その時は――――――」

爺様「ならばこそだ。ここで1つ、結婚を前提にした異性との付き合いというのを経験してみてはどうだ?」

一夏「…………それが大人のスポーツ、ですか?」ハア

爺様「フハハハハ! そうだ! 色恋にも駆け引きは重要でな」

一夏「黙っていても鬱陶しいと思っていても、相手の方から擦り寄ってくるっていうのに…………」

一夏「で?」

爺様「ああ、そうだったな。お前の婚約者だったな」ニヤリ

爺様「言うなれば、アレだ」

爺様「ファースト幼馴染、セカンド幼馴染と来たら、」


――――――サード幼馴染だろ?


一夏「――――――!?」

一夏「まさか、“更識家”のあの人…………!?」ゾクリ

爺様「」コクリ」

一夏「……認めないぞ! そもそも、幼馴染と言えるほどの付き合いもしていない!」ガタガタ

爺様「震えているな?」ニンマリ

爺様「そういえば、あれはIS学園の生徒会長をしていたな?」

爺様「お前はいずれ次期生徒会長になるのだ。いい機会だから“いろいろ”教わってくるといい」

一夏「………………くぅうううう!」プルプル

一夏「爺様、言っておく」

爺様「何だ?」



一夏「今更会いたいとも思わない」




――――――与えられた自由に、“答え”は在るのか……?

.............MISSION IS UNFINISHED.




202: 2013/10/05(土) 11:59:18.54 ID:VtjwWFxF0

一夏のイメージ
Winners Forever - INFIX
http://www.youtube.com/watch?v=A_CIMjGfEaU


203: 2013/10/05(土) 12:01:35.88 ID:VtjwWFxF0


これにて、第1期分の創作は完結となります。台風だのサーバエラーだの無ければ、もっと早くに公開できていたのですが、

ご精読ありがとうございました。


作風を替えているとは言え、我ながらずいぶん描写がどんどん濃く変遷していったものだ。


数カ月後、全ての続編を公開できるかはわかりません。

そして、自宅では完全にスレ立てできないのでROMしかできない有り様で返信はできませんが、

よろしければ、最初に公開して欲しいシリーズの続編の順位を教えてもらえると幸いです。




1期の戦闘では『白式』が雪片弐型しかなかったのであまり大差の無い内容となりましたが、

第2期からセカンドシフトするまでの過程や戦力の違いが大きく反映されていくのでどんどん独自化していく予定です。


それでは、これからも別な形で投稿するかは未明ですが、

改めて、ご精読ありがとうございました。それでは、さらばです。



204: 2013/10/10(木) 00:07:08.10 ID:CKTp0ZGmo
今読み終わりました
終始楽しく読むことが出来てよかったです

続編があるなら今回のシリーズの続きが読みたいです

引用: 落とし胤の一夏「今更会いたいとも思わない」