24: 2009/01/06(火) 00:52:33.31 ID:JZRQg3If0

 僕は思わず呟いた。
 その声は鞄の中に軽く響いたが、真紅はグッスリ眠っているので安心だ。
 目の前には真紅の靴。
 二人が同じ方向に頭を向けて寝るのは窮屈だから、お互いに頭に足を向けるようにして寝ている。
 それに、そうしないと体が当たってしまって真紅が起きてしまうかもしれない。
 そう、僕は――

 ――真紅に無断で、彼女の鞄に入り込んでいるのだ。

 それが何故なのかと問われれば、真紅が可愛いからとしか答えようがない。
 真紅が可愛い理由は……言うまでもないだろう。

 僕が毎晩のようにジュンくんの家に忍び込み、
鞄の中に入り込んでいると知ったら真紅はどういう表情をするのだろうか?
 ……いつもその素敵な状況を想像するのだが、流石に本当にバレる訳にはいかない。
 だって、



 もし真紅がこの事を知ってしまった場合、寝ている真紅を楽しめなくなるから。

「たまらないよ……!」

 ――嗚呼、キミは本当に最高だよ!

 僕は、鞄の中の真紅の匂いを思い切り吸い込んだ。
ローゼンメイデン BIGアクリルスタンド Bloom ver./真紅
30: 2009/01/06(火) 01:04:50.67 ID:JZRQg3If0

 濃密な真紅の匂いのせいで思考が揺らいだ。

 ――真紅が起きても構わない!
 ――むしろ、起きて嫌がる真紅に無理矢理ちゅっちゅしたい!

 そんな思いが頭をよぎったが、なんとかそれを振り切り彼女の靴の匂いを嗅いだ。
 慎重に、勢いに任せて彼女の足にむしゃぶりつかないようにゆっくりと。

 ……素晴らしい。

 人間では、こうはいかない。
 普通ならば“臭い”という靴の匂いだが、ドール――真紅のものは一味、いや、一香違う。
 彼女の放つ薔薇のような匂いが濃厚に、そして、生活を感じさせる靴の匂いすらも絶品。
 この靴を脱がせて、持って帰ってしまいたい。
 そうだ、そうすれば一日中真紅の匂いが楽しめる。名案だ。

「……でも、どうしよう」

 靴を僕が持って帰ってしまっては、真紅が困ってしまうだろう。
 可愛い真紅に、スリッパを履かせるなんて言語道断。

 ――嗚呼、けれどそれも可愛いかもしれない。

 靴がなくなって、困っている真紅。
 仕方なくスリッパを履く真紅。

「どうしようかな……」

 本当に困った。

35: 2009/01/06(火) 01:17:12.16 ID:JZRQg3If0

 靴を持って帰るべきか否か。
 僕は、そんな事を考えながら真紅の足の匂いを嗅いでいた。
 僕達ドールは、一度深い眠りについてしまえば滅多な事では目を覚まさない。
 多少無茶をしようとも真紅が目を覚ますことはない……はずだ。

 けれど、靴を脱がしている最中に、もし真紅が目を覚ましてしまったら?

 ……そう考えるだけで――とても興奮する。
 リスクに見合ったリターンと、リスクから生まれるリターンが存在する。
 けれど、僕はそのどれも選べなかった。

 真紅にバレずに、これからも夜中に鞄に忍び込む。

 真紅にバレずに、靴をゲットする。勿論、これからも夜中に鞄に忍び込む。

 真紅にバレて、靴をゲット出来ない。勿論、これからも無理矢理夜中に鞄に忍び込む。

「……どれも魅力的だね」

 どれも、と口に出してみたが、既にその時の僕は真紅靴をゲットしないという選択肢を
頭の中から除外していた。
 むしろ、今までどうして真紅の靴をゲットしなかったのかと自問自答した。

 だが、結局その答えを出す事は諦めた。
 僕は、既に真紅の靴に手をかけていたから。

 大切なのは、何故今までやらなかったのかではない。
 これから何をするかだ。

38: 2009/01/06(火) 01:29:14.17 ID:JZRQg3If0

 寝ている真紅は膝を折り曲げていたので、
彼女の名前の通りの紅いスカートが靴に少しかぶさっていた。
 靴をスムーズに脱がせるためには、そのスカートを少しばかりめくらなくてはならない。
 真紅のスカートをめくる。
 その事には興奮を覚えるが、同時に申し訳なくもある。
 レディーのスカートをめるくなんて、ね?

「~♪」

 僕は、真紅が起きるかもしれないというのに鼻歌を歌いだした。
 しかし、それも仕方の無いことだ。
 だって――楽しすぎるから。

「たとえ火の中水の中草の中~森の中~♪」

 鼻歌が、自然と歌声に変わっていた。
 けれど、真紅が起きる様子はないので僕は歌い続けた。

「土の中雲の中真紅のスカートの中~♪」

 真紅の“キャア!”という声は、とてもそそるんだろうな。
 聞いてみたいけれど、それはまたの機会にしよう。

「ナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカ」

 今ハ、真紅ノ靴ヲげっとスルノガ僕ノ目的ダカラネ。

49: 2009/01/06(火) 01:40:14.72 ID:JZRQg3If0

 上になっている方の右手でスカートを軽くめくった。
 軽くだというのに、その中からは濃厚な真紅の匂いが溢れ出てきた。
 鼻腔をくすぐるなどという、生易しいものではない。
 鼻や口から入り込み、僕にその器官が備わっているかわからないけれど、
肺の隅々までを侵略していく真紅のスカートの中の匂い。

「くぴぷ」

 一瞬、意識が完全に飛んでいた。
 紡がれる言葉は全く意味をなさず、その瞬間は、
ただ幸福感だけが僕を支配していた。
 このままドロワースの匂いを思い切り嗅いだら――

「っ! それは……駄目だ……!」

 そんな事をしたら真紅が起きてしまう。
 目が覚めて、姉にドロワースの匂いを思い切り嗅がれているのを見たら、
真紅は悲しんでしまう。
 彼女の悲しむ表情もきっとそそるものだろうが、僕は真紅の姉だ。
 妹を悲しませるわけにはいかない。
 だから、

「靴を……ゲットしよう」

 そうすれば、誰も悲しまなくて済む。
 ……少しだけ、真紅は困るかもしれないけれど。

56: 2009/01/06(火) 01:52:53.12 ID:JZRQg3If0

 鞄の中という完全に暗闇の中を真紅の靴という光を求めて僕の手は進んでいった。
 真紅の体に触れないように、慎重に、慎重に……。
 よし、靴に辿りつい――

「ん……」
「!?」

 ――今、僕が触ったのは靴じゃなかった!?

 感触を思い出してみる。
 ……少し、柔らかかった。
 慎重に手を動かしていたから、ふくらはぎという事はないだろう。
 それに、ふくらはぎだったならばもっと柔らかいはずだ。
 なにせ、真紅は少し長くなる移動はジュンくんにだっこしてもらったり、
鞄を使用するなど少しものぐさな一面がある。
 だから、真紅のふくらはぎはぷにぷにだろう。
 僕が触ってしまったのは恐らく――足首。

「……んん」

 真紅が少し身じろぎした。
 当然、僕は動けずにいた。
 本当ならば、今すぐにでも真紅の足首に触った自分の手をしゃぶりたかったけれど。

59: 2009/01/06(火) 02:03:45.31 ID:JZRQg3If0

 どれだけ時間が経ったのだろう。
 僕は既に、時間感覚を失いつつあった。

 鞄の中に立ち込める、濃密な真紅の匂い。

 先ほどの、真紅の甘く可愛らしい寝息と声。

 そして、

「んぅっ……ふ……ちゅ」

 間接的にだが味わっている、真紅の芳醇な足首の味。

 自分の指の味が混じってしまう事がとても残念だ。
 出来ることならば、直接真紅の足首に舌を這わせたい。
 けれど、そんな事をしたら確実に真紅は起きてしまう。

「……ぷはぁ」

 真紅の足首の味が指からなくなり、僕は自分の指を舐めるのをやめた。
 どこかで拭かなければと思ったその時、僕の中の悪魔が囁いてきた。

 ――真紅のスカートで拭いちゃいなよ。

 いいや、そんな事は駄目だ! だって――

 ――ねえ、興奮するでしょ?

 ……その悪魔の囁きは、抗い難い魔力があった。

64: 2009/01/06(火) 02:10:48.82 ID:JZRQg3If0

 ――妹の――真紅のスカートに自分の唾液を付ける?


 そんな事が出来る訳が無い。
 そんな事をしたら、彼女が汚れてしまう。

 僕の手が、真紅のスカートに近付いていった。


 ――僕の唾液が、真紅のスカートに染み込む?


 妹にそんな真似をするなんて有り得ない。
 まともじゃない、汚い。

 僕の手が、真紅のスカートに近付いていった。


 ――僕の唾液が染み込んだスカートを真紅がはく?


 僕は変Oじゃない。
 変Oじゃ……

 僕の手が、真紅のスカートに触れた。
 真紅のスカートは、みるみるうちに僕の手についていた粘性のある水を吸収していった。

68: 2009/01/06(火) 02:21:22.85 ID:JZRQg3If0

「あ……あぁ……あぁっ……!」

 真紅のスカートにより、僕のおててはキレイキレイになっていった。
 そして、抑えていた感情が一気に押し寄せてきた。

 真紅を汚してしまった。

 その事が重く心にのしかかり、押しつぶされそうになる。
 真紅を起こさないように、慎重にスカートに伸ばしていた手を引っ込め、
そのまま自らの胸に当てた。
 目をつぶり、心の中で真紅に謝罪をする。

 ――ごめんよ真紅! ごめんよ!

 いくら謝っても、どうにもならない事はわかっていた。
 だが、謝罪せずにはいられなかった。

 夜が明けて、真紅が目覚めたらこの事を言えば済む事だろう。
 しかし、それは出来ない。

 保身のため?――否。
 悲しませないため?――否。

「ごめんよ真紅……!」

 僕は、搾り出すように言った。

「……凄く、興奮する……!」

71: 2009/01/06(火) 02:35:15.38 ID:JZRQg3If0

 ……その時、僕は気付いてしまった。
 自分の胸元から、濃厚な真紅の匂いが漂ってきている事に。

「あ……そうか」

 真紅のスカートにツバをつけるためとはいえ、直接“それ”に手で触れたのだ。
 匂いがつかないはずがない。

「あ~……」

 ならば、する事は決まっている。
 真紅のスカートの味を楽しむのだ。
 真紅の味がついた手を迎え入れるために、僕は口を大きく開いた。
 が、

「っ!」

 ――駄目だ!

 ――そんな事をしたら、同じ事の繰り返しになるじゃないか!

 すぐにその事に気付いてしまった。
 さっきのように、手に付いたツバを真紅の服で拭う。
 そして、その手をしゃぶる……これではキリがない。

「……あ……くぅ……っ!」

 僕は、意識を総動員し手を口元から遠ざけた。
 恐らくその時の僕の表情は、負の感情を押し頃した醜いものだっただろう。

78: 2009/01/06(火) 02:47:38.98 ID:JZRQg3If0

 随分時間を消費してしまった。
 真紅を起こさない程度に、深く深呼吸をする。

「……ふーっ」

 ……最近の僕はおかしい。
 今までは、真紅と一緒の鞄に入って匂いを嗅ぎ、
たまに聞こえる真紅の寝声が聞ければ満足出来ていたのだ。
 なのに、それだけでは満足出来なくなっていた。

 深呼吸をしている今も、真紅のスカートに顔を思い切り近づけている。
 異常だとは思いつつも、

「すぅーっ……ふーっ……」

 やめられない。
 やめなくてはいけないとわかっている。
 だが、

「……ん」

 僕は、真紅のスカートにそのまま顔をうずめていった。

「んすぅ~っ……むふぅ~っ……」

 こんな姿を見られたら、どうなってしまうのだろうか。
 ……想像したくない。想像してはいけない。
 想像したら――余計興奮してしまう。

82: 2009/01/06(火) 03:00:27.77 ID:JZRQg3If0

「はあぁ……っ」

 五臓六腑に染み渡る、という表現が一番正しいように思えた。
 僕はドールだ。
 けれども……それでも、真紅の匂いは僕の体を満たしていった。

 ――もっと真紅を!

 僕の心が……ローザミスティカという与えられたものではない、
僕自身の心が真紅を求めていた。
 それは、欲情という下品なものでは決して無い。

「真紅かわいいなぁ」

 純粋に真紅がいとおしい。
 ただ、それだけの事だった。

 鞄の中は狭く、そして暗い。
 それに上下逆に寝ているので、
彼女の顔を見るのは無理な体勢ととらなければいけない。
 けれど僕は、球体関節がきしみをあげるのにも構わず
真紅の寝顔を覗き込んだ。
 可愛らしい唇からは寝息がこぼれ、
閉じた瞼の上の長いまつ毛が揺れていた。

「たまらないよ……真紅」

89: 2009/01/06(火) 03:20:37.68 ID:JZRQg3If0

 そのまま真紅の寝顔を見ていたかったが、そうも言っていられない。
 夜が明けてからでは遅いのだ。
 もしも太陽が昇ってから鞄を空けたら、
差し込んできた光のせいで真紅が目覚めてしまうかもしれない。

「……今日は、この位にしておくよ」

 真紅の靴をゲットするのは、またの機会にしておいた方が良いだろう。
 今から真紅を起こさないように靴を脱がすのは難しそうだ。
 機会は何度でもある。

 僕は、ゆっくりと音を立てないように鞄を内側から開け、
真紅を起こさないように慎重に鞄の外に体を出した。
 真紅の服が少し乱れていた。とてもそそる。
 しかし、バレる訳にはいかないので、軽く彼女の服の乱れを整えた。
 その時、スカートの一部分がしめっているのを確認し、
今さらながらに恥ずかしい事をしてしまったとハッキリと理解した。

 頬が熱を帯びていくのがわかる。
 必氏でその事を頭から追い払おうとするが上手くいかない。
 そして、僕は真紅の寝顔を見た。
 見てしまった。

「……かわいいなぁ」

 僕は、鞄を出てそのまま帰ろうとしていた。
 真紅の寝顔を見るまでは……。

92: 2009/01/06(火) 03:33:23.60 ID:JZRQg3If0

 僕達ローゼンメイデンは、戦い――アリスゲームに勝利し、
究極の少女になる事が使命だ。
 それなのにも関わらず、真紅は無防備な寝顔を僕に晒してしまっている。
 これは、明らかに気の緩みの表れではないだろうか。
 ローゼンメイデンとして。
 いや、姉として妹のそんな所を見過ごす訳にはいかない。

「……真紅~」

 真紅に“聞こえないように”小声で警告をした。
 これで起きれば、僕は真紅に何もせずに帰る。
 起きなければ、

「チュウしちゃうよ~」

 再度、“聞こえないように”小声で注意した。
 よし、起きない。
 起きな――

「……ん」
「!?」

 真紅が寝返りをうった。
 今まで横向きだった体勢が仰向けになった。

 嗚呼、これはもう――チュウをしろということなのだろう。

 僕の頭の中では、勇壮で壮大な行進曲が流れていた。

99: 2009/01/06(火) 03:44:54.63 ID:JZRQg3If0

 おでこにチュウ――それは逃げだ。

 おはなにチュウ――それは逃げだ。

 ほっぺにチュウ――それは逃げだ。

 まぶたにチュウ――それは逃げだ。

 おくちにチュウ――チュウチュウチュウ!

「……き、キミが悪いんだからね……真紅」

 そう、僕は何も悪くは無い。
 僕が真紅にチュウをするのは、姉としてゆるみきった妹に対するお仕置きなのだ。
 真紅の花の蕾のような唇が近付いてきた。
 さっきは、真紅のものとはいえ服の味だった。
 彼女の肌――それも、唇の味はどれほどのものなのだろうか。
 ……想像がつかない。

「ん~……」

 まあ、すぐにわかるか。

 僕は真紅に顔を近づけていった。
 チュウをする時に目をつぶるのはおかしなことではない。
 僕も、当然その時は目をつぶっていた。
 ……だから、チュウをしようとする僕に向けられた視線に気付く事が出来なかった。

107: 2009/01/06(火) 04:00:53.84 ID:JZRQg3If0


 夜、カーテンから差し込む月の光で目が覚めた。
 その事を幸いと思うか、不幸と思うかは人によって異なるだろう。
 だが、そのドールが思ったのはどちらでもなかった。
 ……混乱。
 ただ、混乱していた。

(……ど、どうして蒼星石の顔が目の前にあるの!?)

 目が覚めなければ、姉にチュウをされそうだという事態には気付かなかった。
 そして、これから起こる事も知らずにいられた。
 しかし、真紅は起きてしまったのだ。
 蒼星石の唇と、己の唇が重なるその直前に。

「んっ」
「!?」

 真紅と蒼星石の柔らかい唇が重なり、その形が溶け合うように変わった。
 真紅はチュウをされているという事に驚くばかり。
 大きな声を出すという選択肢が頭に浮かんだが、
そんな事をしては何があったのか他の皆に知られてしまう。
 蒼星石を突き飛ばして、彼女が声をあげてしまっても同じ事。
 故に、

「んっ……ちゅ」
「……!」

 真紅は、蒼星石の唇をただ受け入れることしか出来なかった。

111: 2009/01/06(火) 04:14:44.16 ID:JZRQg3If0

 最初は触れ合うだけだったチュウは、次第に激しさを増していった。
 蒼星石は、貪るように真紅の唇を蹂躙していく。
 姉妹同士でチュウをしているという事に真紅は罪悪感と背徳感を覚えていたが、
蒼星石はその事は全く気にしていなかった。
 そして、そのまましばらく経った後、ようやく蒼星石は真紅から唇を離した。

「……んっ」

 その表情はとても満足げで、達成感に満ち溢れていた。

(……どうしてなの……?)

 真紅は蒼星石を問い詰めたいという思いを押し頃し、
そのまま寝ているフリを続けた。
 蒼星石が冷静だったならば、真紅の頬が紅潮している事に気付いただろう。
 だが、幸いにも蒼星石は冷静さを欠いていたので、
真紅が起きている事には気付かなかった。
 ……まさしく、“不幸中の幸い”という訳だ。
 未だに混乱し、寝たふりを続ける真紅に蒼星石は言った。

「――ごちそうさまでした」

 真紅は、

(何がなのよ!)

 心の中で、盛大にツッコミを入れた。

117: 2009/01/06(火) 04:26:34.70 ID:JZRQg3If0
     ・    ・    ・

 その日の朝の真紅の目覚めは、爽快とは言い難いものだった。
 姉妹に――蒼星石にチュウをされたのだから当然だろう。
 だが、

「……あれは夢よ。そうに違いないのだわ」

 真紅はその現実を受け入れようとはしなかった。
 そのために、混乱する思考を押さえつけ強引に眠りについたのだ。
 目を閉じ、次に目が覚めた時は今まで通り。
 有り得ない事ならば、夢で済ませてしまった方が良い。
 現実逃避と言ってしまえばそれまでだが、
それは心の平穏を保つためには必要な行為だ。
 ……しかし、

「あら? 何か鞄の足元に――」

 真紅は見つけてしまった。

「っ!? これは……」

 気付かなければ今よりも多少は幸せでいられた、もう一人の侵入者の形跡を。


「――水銀燈の羽?」


おわり

121: 2009/01/06(火) 04:29:09.21 ID:8mPdazW/0
うは、視線は水銀燈だったのかwww

引用: 蒼星石「真紅かわいいなぁ」