901: 2015/02/09(月) 22:43:03.43 ID:UzlNWqzx0
・秋月『質素倹約』 、投下します


前回はこちら

連装砲ちゃん○
連装砲くん◎
長十センチ砲ちゃん×

902: 2015/02/09(月) 22:43:29.30 ID:UzlNWqzx0
 物が必要最小限しか無く、整理整頓された部屋。悪く言えば殺風景な部屋で、秋月は牛乳パックを再利用して小物入れや家庭菜園用の鉢を作っていた。

 その隣では、長十センチ砲ちゃんが丸めたビニール袋を上に飛ばして対空射撃して遊んでいる。たまに秋月に当たっているが、その度にコツンとつつくだけで、やめさせようとはしない。

 “内職をする母親”、というのが今の提督から見た彼女の印象だ。

「――あの、見ていて面白いですか?」

「面白くはないが、懐かしい」

「懐かしい、ですか?」

「母親が家で内職の様なことをしていたんでな、その横で遊んだり、膝枕してもらったりしていたのを思い出す」

 どう反応するのが正解なのだろうと、微妙な笑みを浮かべた秋月。それを察してか、提督は更に言葉を続ける。

「質素倹約、良い心がけだ」

「使えるものは使わないと、勿体無いです」

「その点については優秀な場所だぞ、ここは。残飯や廃棄物が出ないからな」

「はい、とても素晴らしいと思います。少し、食事が豪華過ぎて気後れしてしまう時もありますけど……」

「ただ高いだけのものを用意してるわけではないし、間宮達なりにコストを最低限に抑えつつ最高の料理を振る舞ってるんだ。遠慮しないで食べるのが、一番勿体無くないぞ?」

「……はい、提督の仰る通りですね」

「勿論、秋月のその倹約精神は貴重なものだ。豪勢に暮らせとは言わんし、ここが無駄だと思ったら俺に遠慮なく言ってくれて構わん。出来る限りのことはする」

「――じゃあ、暖房が勿体無いのでもう少しこちらに来られませんか? ホットカーペットで十分温かいですよ?」

「……秋月に一定以上近付くと何故か長十センチ砲ちゃんに突撃されたり踏まれるんでな、遠慮しておく」




――――長十センチ砲ちゃん、提督にイタズラしちゃダメよ?

 ――――(ボディーガードのつもりなんだろうな……別に何もしないってのに、はぁ……)
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録
918: 2015/02/14(土) 00:00:06.10 ID:sXLbPOOU0
「マルマルマルマル。提督、どうぞ」

「?――あぁ、バレンタインか」

「忘れていたの?」

「忘れていたというか、忘れていたかったというか……」

「ホワイトデー、楽しみにしています」

「毎回地獄なんだぞ、一週間前から準備で大忙しだ」

「では、これは赤城さんに」

「待て、貰わないとは言ってない」

「嫌々受け取られると、流石に私も傷付きます」

「……不意打ちで渡されたから焦っただけだ。嬉しくない訳無いだろ」

「……そう」

「今年は何だ?」

「フォンダンショコラです。赤城さんに試食してもらったので、味は保証します」

「そうか、じゃあ紅茶二人分淹れてくれ」

「二人分?」

「こんな時間に食べさせようとする秘書艦には付き合ってもらわんとな」

「別に構わないけれど……」

「――それにしても、毎回この時期に間宮が取り寄せるバレンタインチョコの材料の量は凄まじいな」

「艦娘全員が別々の場所で買うよりは、効率的で安く済みますから」

「冷やかされたくなくて、わざわざ外に買いに行く奴も居るみたいだがな」

「――どうぞ、それなりに期待して良い出来です」

「紅茶がか?」

「……」

「分かった、分かったから無言で頭を掴みに来るのはやめろ。いただきます」

「……どうかしら」

「――うん、美味い。ほろ苦くてちょうどいいぞ」

「そう」

(最初は市販品。次は手作りだったが甘過ぎ、三回目でまともになって、今は好みに合わせた味……これを受け取って、嬉しくない訳無いよな)

「? 私の顔に、何かついていて?」

「チョコレート」

「そんなはずありません」

「本当だ、ちょっと顔をこっちに寄せろ。取ってやる」

「自分で取れます」

「いいから、ほら」

「……では、お願いします」




――――っ……やはり嘘でしたか。

 ――――ホワイトデーの少し前払いだ。

――――この程度では全然足りません。

 ――――じゃあ続きはコレ、食べてからな。

922: 2015/02/14(土) 10:13:55.49 ID:sXLbPOOU0
――――マラソン大会スタート地点。

「何で全員参加なの? 長良姉と鬼怒だけ走ればいいのに……」

「阿武隈、そう言わずに付き合ってあげよ、ね?」

「ひっ、人がいっぱい……」

「当たり前よ、マラソン大会だもの」

「よーし、張り切って行こー!」

「目指せ一位から六位独占!」

 名前入りTシャツ阿武隈、マイペース由良、人が多いと目がぐるぐるする名取、揺れる五十鈴、マジパナイ鬼怒、この前まで着れていたデニムが太股から上がらなくなってきた長良。
 長良型六姉妹、揃ってスタート地点につきました。華やかで個性的な彼女達に、周囲の参加者も大会とは別の意味で色めき立っております。

「帰ったらすぐお風呂入らなきゃ」

「提督さん、見てくれてるのかな?」

「て、提督さんが見てるなら頑張らないと……」

「名取、手と足が一緒に動いてるわ」

「もうすぐスタートだよっ!」

「コンディション最高、良い記録出せそう!」

 テンションにバラツキはあるものの、長女を筆頭に個々の能力は非常に高く、記録には期待が持てます。
 ――それではマラソン大会、スタートです。

923: 2015/02/14(土) 10:14:25.12 ID:sXLbPOOU0
「長良の足についてこれる?」

「相変わらず長良姉の加速マジパナイ」

 先行で飛び出したのはやはり長良、それを追う形で鬼怒、後の四名は少し出遅れたような形となりました。他の参加者もトップを走る長良の後ろに続いたものの、最初から一キロ二分ペースで走るのはハーフとはいえ苦しいと感じ、大半は徐々に速度を落としていきます。

「五十鈴姉さん、何だか周りから視線が……」

「――走るには邪魔よね、コレ」

「え?――っ!?」

「名取、急に早くなったね」

(……私だって、そのうちあのぐらい大きくなるもん)

 遅れていた四人組から最初に飛び出したのは名取、凄い勢いで先頭(人が少ない所)を目指します。何とは言いませんが、加速すると同時にアレも上下にかなり揺れています。

「五十鈴と阿武隈はどうするの?」

「最後で抜けばいいだけよ、焦る必要無いわ」

「このまま団子で走る、皆を風避けにしてれば楽だし」

「じゃあ私もこのまま走ろうかな」

 会話しながら走るというのはかなり体力を消耗し、息も切れるもの。しかしそこはやはり歴戦の艦娘、喫茶店で午後のティータイムを楽しむかのように会話に花を咲かせながら、上位集団に混じっています。

「遅い! 全然遅い!」

「長良姉と私が速すぎるだけだって」

 一位長良、二位鬼怒と続き、後続との差はかなり開いております。当然のことではありますが、一般人と一緒に走るとその身体能力差は歴然となってしまう模様です。

「――お、追い付いたぁ……」

「あっ名取、追い付いたんだ」

「名取姉、後の三人は?」

「最後まで前には出てこないんじゃないかな」

「名取は何で前に来たの?」

「ま、周りに人が少ないから……」




 そして、大会は先行する三人を追う形のまま終盤戦へと突入します。

924: 2015/02/14(土) 10:14:51.74 ID:sXLbPOOU0
「――そろそろ、いいんじゃない?」

「うん、いいと思う」

「六位以内にならなきゃ後で走り込み付き合わされそうだもんね……」

「じゃあ行くわよ、五十鈴について来て!」

「阿武隈、提督さんに早く会いたいね」

「べ、別に鎮守府でいつでも会えるし、私は心待ちになんかしてないんだから」

 大会も終盤に差し掛かった頃、長く疎らに伸びた走者の列を怒濤の勢いで追い抜いていく三人組。胸に目が行き、揺れる長い髪に目が行き、“阿武隈”と書かれたシャツに目が行き、一呼吸置いてからその速さに走者達は驚きます。

 ――五十鈴さん、陸でも速いでち。

 ――普段はマイペースだけど由良もやっぱり速いのね。

 ――ゴールしたら阿武隈の前髪弄ってやろっと。

925: 2015/02/14(土) 10:15:18.78 ID:sXLbPOOU0
――――ゴール地点。

「提督ーもうちょいそっち」

「何でわざわざゴールラインの先に居なきゃならない」

「てーとく、いいからこっち来て」

「絶対その方が面白くなるわ。次は私も出場してみようかしら」

「――おっ、来たっぽいよ」

 ゴール目掛けて迫る六つの影。その誰しもがゴールラインの先を見て更に速度を上げる。
 提督目掛けて突撃する者、ゴーヤ目掛けて突撃する者、北上からなるべく遠い場所を駆け抜けようとする者、皆長距離走の締めとは思えない加速だ。

「提督ー! 長良の走りどうだったー!?」

「五十鈴的には間宮さんのアイスよりゴーヤの方が疲労回復に最適だわ」

(提督さんにこんな人前で抱き着いたら迷惑かな……)

「提督さん、受け止めてくれるよね」

「おーい提督ー! 鬼怒の走りマジパナイでしょー!?」

「何で北上さんが居るの!?」




――――勝利勝利大勝利ー! 最高の響よね。

 ――――この後祝勝会でハッスルする?

――――勢い余って頭突きしちゃった……うぅ……。

 ――――名取、ナイスヘッド。

――――阿武隈、私は盾じゃないんだけど。

 ――――だって北上さんが狙ってるんだもん!

926: 2015/02/14(土) 10:16:07.41 ID:sXLbPOOU0
・長良型『ハンデ』、投下します

長良型は陸上競技にて最強

927: 2015/02/14(土) 10:17:40.71 ID:sXLbPOOU0
『マイク、音量大丈夫? チェック、ワン、ツー。さぁ始まりました市民駅伝大会。参加者は一般人から学生、社会人、艦娘と幅広く参加しています。この度は鎮守府にも状況が逐一伝わるよう、私、金剛型四番艦霧島が実況を務めさせていただきます』

(長良姉と鬼怒と島風ちゃん達でチーム組めばいいのに……)

『第一走者は胸と背中に自分の名前が書かれたシャツを着た、阿武隈です。やはり前髪を気にしているのか、ペースはややゆっくりといったところでしょうか』

 ――阿武隈っちー手抜いて走ってたら、名前目立たないよー。

 ――阿武隈さん、頑張って下さい。

「き、北上さんと潮ちゃん!?……わ、私だってやる時はやるんだから!」

『応援の効果により、阿武隈の速度上昇しました。このままの調子なら第一区間でも良い順位が狙えそうね』

「阿武隈、御期待に応えまうっ!?」

『おっと、まさかの前方不注意により前を走る選手と衝突した模様です。流石は阿武隈、期待に応えてくれますね』

「そういう意味じゃないもん!」

928: 2015/02/14(土) 10:18:08.38 ID:sXLbPOOU0
『さぁいよいよ第二走者へとタスキが渡る時間がやってまいりました。ただいま順位は十八位、可もなく不可もなくといったところでしょうか。第二走者は長良型のダジャレ担当鬼怒、ここからの巻き返しに期待したいところです』

「ダジャレ担当じゃないよ!?」

「鬼怒、パス!」

「お疲れ阿武隈。鬼怒、行きまーす!」

『えー今手元にある私の集めたデータによりますと、“パナイ島マジパナイ”を面白いと解答した艦娘は三名だけのようね』

「このタイミングでその話題出す霧島さんがマジパナイ」

『それはともかく早々と二人抜かし、現在順位は十六位となっています。長女程ではないにしろ、日頃トレーニングしている成果が出ている模様です』

「このまま一気に順位を上げるよ!」

 ――鬼怒、頑張るクマー。後十五人抜くクマー。

 ――抜けない鬼怒はただのおにおこにゃ。

「無茶振りやめて二人とも。後、多摩はおにおこ言うなっ!」

『暖かい声援を受け、第三走者へと良い順位でタスキを繋ぐ為に更に速度を上げます。両腕を上げながら走る彼女のパフォーマンスにも期待したいところです』

「だから無茶振りやめてってば!」

929: 2015/02/14(土) 10:18:34.35 ID:sXLbPOOU0
『駅伝大会も中盤戦、第三走者は長良型のマイペースクイーン由良。今、彼女へとタスキが渡ります』

「ごめん由良姉、思ったより順位上がんなかった」

「お疲れ様、後は任せて」

『さぁ現在順位は更に二つ上がって十四位。まだまだ一位を狙うのも不可能ではありません』

「タスキって、右肩からかけるの? 左肩から?」

『駅伝では正式なタスキのかけ方に関するルールは無いようね。由良の好きなかけ方でいいんじゃないかしら』

「うん、じゃあ右肩からかけようかな」

『私のデータによると、司令に物をねだるのが上手という意外な一面もあるようです』

「ずっと見ていると、何故か買ってくれるの」

『司令曰く、“あの視線に逆らえた試しが無い”そうです。その粘り強さがこの駅伝でも発揮されることを期待しましょう』

「頑張ったら提督さん、褒めてくれるよね、ね?」

『褒めない方がおかしいかと』

「うん、とりあえず一桁まで頑張る」

『流石は司令効果、データ以上の速さで走り始めました。このペースなら順位を一桁まで上げるのは私の計算上可能ね』

(提督さんに会ったら夕立ちゃんのマネ、してみようかな)

930: 2015/02/14(土) 10:19:01.06 ID:sXLbPOOU0
『有言実行、九位で第四走者名取へと由良のタスキが渡ります』

「名取、はい」

「頑張ったね由良。私も頑張らなきゃ」

『普段は気弱な性格ではありますが、いざ戦場に立つと並々ならぬ実力を発揮した長良型のメイン家事担当。彼女が一日部屋を開けると何がどこにあるか分からず阿鼻叫喚になるそうです』

「だって、皆覚えてくれないんだもん……」

『そして何より注目すべきはやはりブルマでしょう。ハーフパンツが主流の中、長良と名取だけは昔ながらのブルマを愛用しています』

「こ、コレじゃないと何だか走りにくいからで、別に愛用してるわけじゃないです」

『走りにくいと言うだけあってブルマを履いたその足は速く、一気に八位の走者へと距離を縮めます。観客からも見た目とは裏腹な身体能力に、感嘆の声が上がっているようね』

 ――揺れてるな。

 ――あぁ、揺れてる。

『(……名取には黙っておいてあげましょう)』

「お、応援ありがとうございます!」

931: 2015/02/14(土) 10:19:29.51 ID:sXLbPOOU0
『とうとう駅伝大会も終盤戦。名取が五位に迫る追い上げを見せ、タスキは長良型の潜水艦係、五十鈴へと渡されます』

「五十鈴姉さん、お願い!」

「任せて、五十鈴にはもう勝利が見えているわ」

『当鎮守府で待機組に含まれない影の実力者の一人、彼女の未来予知とも思える戦いがこの駅伝大会でも披露されることを期待しましょう』

「追撃戦は十八番よ。五十鈴の韋駄天さも見せてあげる」

『瞬く間に一人追い抜き、現在の順位は五位。四位を捉えるのも時間の問題ね』

「あら、四位なんてもうとっくに捉えてるわ。二位までは確実、後はアンカーに委ねて終わりよ」

『自信に満ち溢れた発言、それを慢心とも思わせない素晴らしい走りを見せています』

 ――さ、さっきより更にすげぇ……。

 ――アレで良く走れるな。

 ――五十鈴さん、頑張って。

「ふふふ、帰ったらたっぷりあの子達で補給ね」

 ――ゴーヤに疲労回復効果は無いでちよ!?

『私のデータによると、潜水艦娘と過ごした次の日の五十鈴のコンディションは常に最高です』

932: 2015/02/14(土) 10:19:57.00 ID:sXLbPOOU0
『遂にこの時がやってまいりました。いよいよ最終走者、長良へと五人分の想いを乗せたタスキが繋がれます』

「舞台は整えてあげたわ。後はよろしく」

「最高のお膳立てありがと五十鈴!」

『一位との差は約二分。かなり絶望的な状況ではありますが、彼女ならやってくれるでしょう』

「追撃します! 逃げる隙など与えません!」

『島風と陸の上ならば互角に渡り合えるその速さは正に神速。駅伝で区間は限られているとはいえ、最初からトップスピードで駆け抜けます』

「遅い! 全然遅い!」

『声援が届く前に過ぎ去るかのような走り、既に一位との差はかなり詰まっています。しかし、流石は現在一位チームのアンカー、逃げ切ろうと相手も速度を上げました』

「よーし燃えてきたぁー!」

『追い上げる、追い上げる、まだまだ追い上げる。ラスト五百メートルで差は五十メートル、勝つのは彼女か、セリフすら無いモブAか!』




――――今、ゴールテープが切られました! 勝利を手にしたのは――。

933: 2015/02/14(土) 10:20:24.53 ID:sXLbPOOU0
「勝利勝利大勝利ー! 最高の響きよね!」

「いくらハンデとはいえ、これを着けて走るのは二度と勘弁だわ」

「うん、重かった……」

「コレって、重いの?」

「この重り気にならないとか由良姉マジパナイ」

「きっ、北上さん近くに居ないよね?」




 艤装よりは軽いけど陸だと重い。長良型は(姉妹艦の多さと日頃の長女のトレーニングに付き合わされていることにより)陸上競技にて最強。

941: 2015/02/14(土) 11:43:04.81 ID:sXLbPOOU0
「司令官、はい、チョコレートよ」

「雷マークのチョコケーキか。また凝ったのを作って来たな」

「当然じゃない、この雷様が毎年同じものを作るとでも思ってたの?」

「去年は文字クッキーだったか」

「アレは型抜きだし皆で作ったから簡単だったわ」

「――少し甘めだが、しつこくなくて食べやすいなコレ」

「味見役に木曾さんに協力してもらったの。木曾さんもほろ苦いの好きだって聞いてたから」

(球磨のケーキを今頃ホールで食ってるんだろうな、アイツ)

「ねぇ司令官、来年はどんなのが食べたい?」

「そうだな……冬っぽいのとかいいかもしれん」

「分かったわ司令官、来年も楽しみにしててね。私、うーんと頑張っちゃうから」

「あぁ、楽しみにしておく」




 本日ミニホール二つ目。

942: 2015/02/14(土) 12:26:50.09 ID:sXLbPOOU0
「司令、今日はばれんたいんとやららしいからチョコレートを浜風と作ってみた。食べてくれ」

「は、浜風は試食したのか……?」

「あぁ、食べていたぞ。“一挙手一投足に至るまで目を離さなかった甲斐があった”と涙ぐんでいた。少し大袈裟だと思わないか?」

(浜風、よくやった!)

「いつまでも見ていないで食べてみてくれ。早くしないと溶けてしまう」

「あぁ、今食べる」

「――どうだ司令、最後にかけたタバスコが程よく甘さを抑えてくれているだろ?」

「っ~~!?」

「……甘いのが苦手と聞いたからタバスコを最後にかけたんだが、何かまずかったのか?」




 磯風はタバスコがお好き。

944: 2015/02/14(土) 12:59:46.02 ID:sXLbPOOU0
「提督、私もチョコレートを作ってみましたのでどうぞ」

「わざわざ他の奴が俺に作ってるからって、お前まで作らなくても良かったんだぞ?」

「いえ、皆さんが作った時に微妙に残ってしまった材料をかき集めて作ったものですので、気になさらないで下さい」

「まぁ確かにボウルとかに多少残るが……全員のところを回ったのか?」

「はい、その時に試食もしていけと皆さんがチョコを下さったので、今月は少し甘味は控えようと思います……」

「チョコレート、美味しかったか?」

「はい!」

「そうか――甘いな、このチョコ」

「も、もしかして提督は甘いチョコは苦手でしたか……?」

「いや、味はほろ苦い」

「甘くて、苦い?」

(わざと余らせたなアイツ等。全員の思いが籠った、優しい味のするチョコだ)




 普段は綺麗に舐めたりパンに付けて処理しています。

945: 2015/02/14(土) 13:31:00.22 ID:sXLbPOOU0
「司令官、チョコレートです」

「三角巾とエプロンってことは、ついさっき作ったのか。でも、冷ますのはどうしたんだ?」

「たった今冷めたので、切り分けて持ってきました」

「……お前、ひょっとして冷めるまでずっと冷蔵庫の前で待ってたのか?」

「はい、司令官に出来立てを食べて頂きたかったので」

「あぁ、じゃあ早速もらう」

「だいぶ慣れてはきましたが、やはりお菓子作りはまだ不安が多くて、あの、お味はどうでしょうか?」

「――うん、ココアパウダーがチョコレートそのものの甘さをちょうど良い甘さに抑えていて美味い。食感も生チョコだから柔らかくて食べやすいな」

「本当ですか? 一週間前から試作に試作を重ねておいて良かったです」

「一週間前から作ってたのか……朝潮、口開けてみろ」

「?」

「そんなに作って疲れただろ。さっき間宮から貰ったチョコ飴だ、お前にやる」

「はひはほうほはいはふ」

「来年も期待してるぞ、朝潮」

「はひっ!」




 試作品は朝潮型で美味しく頂きました。

946: 2015/02/14(土) 14:01:06.57 ID:sXLbPOOU0
「司令官、少しお時間いいですか?」

「春雨か、何だ?」

「チョコレートヲ渡シタインダヨ、ソレグライ察シロ」

「クーちゃん!?」

「そりゃそうか。ありがとな春雨――まさか、チョコ春雨とかじゃないよな……?」

「ちっ、違います」

「それなら安心だ。今、ここで食べた方がいいか?」

「出来れば、感想も聞きたいので」

「じゃあ早速――ん? これは……」

「チョコポテトチップスにしてみました。以前に食べているのをお見かけしたので大丈夫かなと思って……あの、ダメでしたか?」

「いや、変化をつけてくれるのは正直有り難い。やっぱりどうしても同じ物ばかりは段々キツくなってくるんでな、いただきます」

「ど、どうでしょうか?」

「うん、塩気もキツすぎず、かといって甘過ぎず、甘じょっぱくて良い感じだ。チョコで食感が重くなってもいないし、美味いぞ」

「良カッタナ」

「うん、クーちゃんにも後であげるね」

「――サッキソイツガ言ッテイタチョコ春雨トヤラ、実際ニ作ッテミナイカ」

「えっ?」

(流石にそれだけは美味しいとは思えないんだが……)



 チョコ春雨、ここに封印する。二度とその姿を見た者は無かった。

959: 2015/02/14(土) 19:33:25.59 ID:sXLbPOOU0
「提督、チョコは……いりませんよね?」

「何故そうなる」

「もうだいぶ召し上がっているようですから」

「身体がチョコになりそうではあるが、好意を無下にする気は無い」

「――では、気合いを入れて下さいね?」

「・・・・・・は?」

「バケツプリンというのがありましたので、バケツで作ってみました」

「待て、いやちょっと待て、流石にこれは食いきれんぞ」

「好意を無下にはしないと仰ったばかりですよ?」

「……何が狙いだ?」

「どうしても食べきれないのでしたら、私に食べさせて下さい」

「九割お前の胃袋に入れることになるぞ、コレ」

「それは大変ですね」

「嬉しそうに言うな」

「――食べさせ方は、提督にお任せします」

(……うちの一航戦が時折子供っぽくなるのは、良いこと、なのか?)




 一時間ほどかかりました。

963: 2015/02/14(土) 20:53:38.81 ID:sXLbPOOU0
「司令官」

「早霜か、お前もバレンタインのチョコか?」

「えぇ、良ければ受け取って下さるかしら」

「あぁ、有り難くもらう」

「こういった物を作るのは初めてだから、お口に合えばいいのだけれど……」

「これは――キャラメルか?」

「はい、キャラメル、美味しいですよね」

「キャラメルはキャラメルでも、普通のじゃないな……イチゴチョコのキャラメルか」

「お味は、どうでしたでしょう?」

「イチゴの程好い風味が口に広がって、しつこくもなくちょうどいい」

「ンフッ……フフフッ……そう」

「夕雲や他の艦娘にはあげたのか?」

「えぇ、姉さん達と清霜、那智さん、弥生さん、不知火さん、ヲーちゃんには渡したわ」

「来年はもっと作って、他の奴にも渡してみろ」

「……努力は、してみます」




 私室に置いてきた残りは全部巻雲に食べられていた模様。

964: 2015/02/14(土) 20:54:06.04 ID:sXLbPOOU0
「ほらよ」

「おっと、毎年の事だが投げ付けるのはやめろ。落としたらどうする」

「いいからさっさと食えよ」

「お前のは毎年安定してるからな、特に心配も無く食える」

「ウザい、黙って食え」

「――苦いな、やっぱり九十九パーセントは伊達じゃない」

「わざわざこの摩耶様が毎年作ってやってんだ。来月はしっかり返せよな」

「半分鳥海に手伝って貰ってるようだし、鳥海にその分多く返すとするか」

「……こっ、今年はアタシが一人で作ったんだぞ、それ」

「知ってるぞ、先に鳥海に聞いたからな」

「おまっ!? 知ってたんなら先に言いやがれっ!」

「本人から聞いてこそ意味があるだろやっぱり。とうとう“鳥海に付き合わされて”、が使えなくなったな」

「っ……クソがっ、ホワイトデーのお返し覚えとけよ!」

「あぁ、ちゃんと考えてるし覚えてるから安心しろ」




 摩耶様、初めて一人でのチョコ作り。

965: 2015/02/14(土) 21:52:24.68 ID:sXLbPOOU0
「司令官、青葉の本命チョコです!」

「その言い方だと義理も誰かに渡したことになるが、誰にだ?」

「出版関係の人達ですよ? やだなー司令官、ひょっとしてヤキモチですか?」

「そうだって言ったらどうする?」

「……あー、ちゃんと渡せましたし、青葉はコレで失礼しちゃうね」

「まぁ待て青葉、まだ食べた感想を一言も言ってないぞ」

「じゃあ一言お願いします今すぐお願いします」

「コーヒーが欲しくなったから淹れてくれ」

「……司令官の意地悪」

「何の事か分からんな」

「ニヤニヤしながら言っても説得力無いよ!」

「いや、耳たぶが赤いから外が寒かったのかと心配してるんだ」

「もうっ! いいから早く食べて下さいよ!」

「分かった、分かったから叩くな。――青葉らしいな、カメラの形のチョコクッキーか」

「メモ帳とペンも考えたけど、青葉にあの二つの再現は難しすぎました……」

「うん、味も良い。これなら全部簡単に食べられそうだ」

「クッキーも、チョコも、青葉にお任せ!……なんちゃって」




 可愛かったので少し取材してから帰しました。

967: 2015/02/15(日) 08:23:03.03 ID:vVyxVwG70
「木曾はチョコスフレか」

「お前に合わせて作った、ちゃんと食えよ?」

「心配するな、ちゃんと食う」

「コーヒー、淹れてやる」

「あぁ、頼む」

「姉貴達にはもう貰ったのか?」

「貰ったぞ。年々球磨のがアートみたいになってきてて、若干食べるのに気が引ける」

「俺にはあそこまでの器用さはないから羨ましいよ」

「そこで羨ましがるだけじゃなく努力するから、こうやって俺は美味いチョコスフレを食べられてる」

「……いくら今日がバレンタインでも、甘い言葉はいらないぞ?」

「じゃあ口直しにコーヒーかチョコスフレ、一口どうだ?」

「お前の魂胆はお見通しだ。いらないね、そんなものは」

「そうか……少し残念だが、仕方無い」

「――まぁ、ちょっとばかしなら付き合ってやっても、いいぜ?」




 食べてるものは苦い、食べてるものは。

968: 2015/02/15(日) 08:24:26.93 ID:vVyxVwG70
バレンタインネタこれにて終了

スレタイ?あぁ…アイツは良い奴だったよ…

973: 2015/02/15(日) 13:26:26.51 ID:vVyxVwG70
・川内型『休日の過ごし方』 、投下します

揃ってオフなら出掛ける三人

974: 2015/02/15(日) 13:26:55.19 ID:vVyxVwG70
――――ゲームセンター。

「神通ー! 那珂ー! こっちこっちー!」

「姉さん、あまり大きな声で呼ばないで下さい……」

「アイドルの那珂ちゃんだってバレたら大変だよー?」

「いいじゃんいいじゃん。ほら、これやろうよ」

「ダンスゲーム、ですか?」

「あっ、那珂ちゃんこれ知ってる」

「画面の矢印があそこに重なるのに合わせて同じ床のパネルを踏むだけ、これなら簡単でしょ?」

「ルールは分かりましたけど、ゲームをやったことのない私に出来るでしょうか……」

「神通お姉ちゃん、アイドルは何でもやるチャレンジャー精神が大事だよ! って訳でゲームスタート」

「えっ、あっ、まだ心の準備が――」




(うんうん、流石は神通だよね。――ちょっとスイッチ入っちゃってるけど)

「リズムとタイミングは把握出来ました。次、この曲にします」

「な、那珂ちゃん今日そこまで激しく動ける服着てきてないよっ!?」

「ようやく、身体が火照ってきました」

「これ戦うゲームじゃないよねっ!?」




 終わってからギャラリーの多さに逃走する神通でした。

975: 2015/02/15(日) 13:27:23.95 ID:vVyxVwG70
「次は私とコレやろうよ」

「今度は、ガンシューティング……」

「(ね、ねぇ川内お姉ちゃん、コレ大丈夫かな?)」

「(大丈夫大丈夫、完全にスイッチ入ったりしないって)」

「持った感じが軽いので、照準が合わせにくいかもしれません」

「それもやってるうちに慣れると思うよ。じゃあゲームスタート!」




「弱点を見せましたね、次発も装填済みです!」

「(スイッチ、入っちゃってるよ?)」

「(あはは……帰ったらおとなしく演習付き合おっか)」

「ふぅ、クリア出来てしまいました。――名前入力? 2…S…S、と」

「何で2SSなの?」

「二水戦、だよね?」

「はい、他に思い付かなかったので」

「じゃあ結構遊んだし、そろそろ帰ろっか」

「あ、あの……」

「分かってるよお姉ちゃん、帰ったら演習でしょ?」

「そうじゃなくて、夕飯の買い物をして帰らないと、冷蔵庫に何も無かったはずです」

「じゃあカレーの材料買って帰って、三人で作ろうよ」

「はい、二人がそれでいいなら」

「那珂ちゃんはー手が荒れるからあんまり料理は――」

「那珂? やっぱり演習しますか?」

「那珂ちゃん料理頑張ります!」




「――神通さんか、相手にとって不足はない」




 謎のWKBから神通がライバル認定を受けました。

979: 2015/02/15(日) 15:02:02.70 ID:vVyxVwG70
「提督、チョコレートです」

「レンジは爆発しなかったか?」

「アレは最初の一回だけ、いい加減その話は忘れてちょうだい」

「どうせお前のことだから浦風に大量に作って部屋に置いてきたんだろ」

「今年は浦風には一つしか作ってないわ」

「俺のがこのトリュフ、ってことは別に作ったってことか。何を作ったんだ?」

「特大チョコフレンチクルーラーよ」

「それ、今頃どうやって食べるか悩んでるんじゃないか?」

「それより今は早く提督が食べてくれないかしら」

「それもそうだな、じゃあ遠慮なく――手で溶けず、口で溶ける、柔らかさはバッチリだな。口に残る感じもそこまでじゃない」

「そう、気に入ってもらえて良かったわ。――提督、たまに思うんだけど、バレンタインが冬じゃなかったらどうなってたのかしら?」

「一つだけ確かなのは、チョコレート以外が贈る物として選ばれてただろうな」




 その頃浦風はナイフとフォークを手にしていたそうな。

980: 2015/02/15(日) 15:02:42.19 ID:vVyxVwG70
 ――どしたのぼのぼの。

 ――別に、何でも無いわよ。っていうかぼのぼのって私のこと?

 ――とりあえずどーん!

「きゃっ!? いったたた……何すんのよ漣!」

 ――御主人様にチョコレートを持った可愛い曙ちゃん一名様ご案内~。

「――と、漣が言ってるが、くれるのか?」

「……はい、コレ」

「ありがとな曙。じゃあ早速――花の形のチョコレート、か」

「わざわざ手間かけて作ったんだから全部ちゃんと食べなさいよ、このクソ提督」

「言われなくてもそのつもりだ」

「ふんっ、チョコレートの食べ過ぎで鼻血出しても知らないから」

「――曙、ティッシュ」

「は? えっ、本当に出たの? 軽く下向きなさいクソ提督」

「悪い、今すぐは全部食えそうに無い……」

「バカなこと言ってないで大人しく鼻摘まんでれば。全く、余計な手間かけさせないでよね」




 鼻血を口実に暫く居座ったのは内緒のお話。ぼのぼのわさわさ。

981: 2015/02/15(日) 15:03:23.20 ID:vVyxVwG70
「提督よ、一応今年も作ってみたが、食うかい?」

「お前は毎回絶対それだよな」

「それだけ自慢の一品ってことさ」

「――しっとりとした食感、しつこさを感じさせない甘さ。確かに完成されてるし、毎年コレでも飽きないって味だ」

「欲しいなら何本でも作ってやるぜ。私もどうせ食べるから、いくらあっても問題はない」

「お前のカステラ好きも大概だな」

「これでもうら若き乙女だからな、私が甘いものに目が無くてもどこもおかしくはないさ」

「うら若き乙女が冬場でもサラシ一枚で外を歩くとか聞いたことが無いんだが?」

「いや何、冷えたら惚れた男に暖めてもらえばいいだけの話だろ?」

「ホットチョコかけてやろうか?」

「……流石にそういう趣味は無いんだが、相棒が望むというなら、まぁ、考えないこともない」

「冗談に決まってるだろ」




 やるならお風呂にしましょう。

982: 2015/02/15(日) 15:06:52.13 ID:vVyxVwG70
終わりと書いたな、アレは嘘だ

ネタが思い付いたしついでってことで

977: 2015/02/15(日) 13:45:45.10 ID:vVyxVwG70

引用: 【艦これ】大鳳「浦風が可愛い鎮守府」提督「多分一応は鎮守府」