609: 2015/04/23(木) 22:28:54.70 ID:r04OVrsN0
前回はこちら
「う~さぎうさぎ、何見て跳ねる、怖いお空を見て跳ねる~」
跳ねるように、ステップを踏むように、卯月は艦載機を落としながら追い詰めていく。
対する加賀は、勝機を掴める一瞬をひたすらに待っていた。
(……こんなに戦っていて気分が高揚するのは、いつ以来かしらね)
平和が、安らぎが、無意識の内に彼女の“艦娘”の部分を弱めていた。
勝利への渇望、生氏をかけた緊張感、秘書艦としての責務。
捨てたわけではなく、ただどこかでもう必要ないと切り捨てた“力”を、再び加賀は身体に巡らせる。
「――この勝負は、譲れません」
(これが、あの武蔵の認めた力ですか……)
艦載機の動きはより滑らかに、より激しく、兎を狩ろうと牙を剥き出しにする。
そう簡単に狩られる程この兎は弱くないものの、表情からは余裕が消えていた。
「どうしました? 歌わないのですか?」
「ここからは、そんな遊びは必要無いでしょう」
「そう……」
「えぇ、では――」
――――私も本気で行きます。
610: 2015/04/23(木) 22:29:24.95 ID:r04OVrsN0
「――で、結果が同時轟沈判定か?」
「私の方が早く落としました」
「うーちゃんが先にビシッと決めたぴょん」
「こりゃ修繕費は折半かのぅ」
「それぐらい払えこの古狸め」
「ほーしょーさーん」
「千歳、お願いだから離れてちょうだい、ね?」
「曙ちゃんはね、とっても可愛いんです。ずっと見てるだけで幸せになれるぐらい好きなんです」
「そ、そうか、それほど大事に想える相手が居るのはいいことじゃな」
「曙、顔赤いよ?」
「うっさい!」
「ずっと殴り合ってたって……お前等も大概だな」
「つい止まらなくなってしまって……」
「とても有意義な時間でした」
「あまづがぜぇ……良いどころ見ぜられながっだよぉ……」
「はいはい、貴女もちゃんと役割を全うしてたんだからそんなに落ち込まないの」
「――さて、それじゃあそろそろお暇しようかの」
「次は葬式ぐらいまで顔を会わせないことを願いますよ元帥殿」
「お前の葬式なんぞ来たくも無いわ」
「アンタのだよ!」
「(相変わらずですね、この二人は)」
「(とっても仲良しだぴょん)」
「二度と来るなクソ爺ー!!」
――――して卯月よ、もう懸念は無いか?
――――無いです。例え次の世代へバトンを繋いでも、彼女達が居れば崩れることは無いでしょう。
――――そうか……では、もう一踏ん張りするとしよう。
――――はい、付き合いますよ、最後まで。
「私の方が早く落としました」
「うーちゃんが先にビシッと決めたぴょん」
「こりゃ修繕費は折半かのぅ」
「それぐらい払えこの古狸め」
「ほーしょーさーん」
「千歳、お願いだから離れてちょうだい、ね?」
「曙ちゃんはね、とっても可愛いんです。ずっと見てるだけで幸せになれるぐらい好きなんです」
「そ、そうか、それほど大事に想える相手が居るのはいいことじゃな」
「曙、顔赤いよ?」
「うっさい!」
「ずっと殴り合ってたって……お前等も大概だな」
「つい止まらなくなってしまって……」
「とても有意義な時間でした」
「あまづがぜぇ……良いどころ見ぜられながっだよぉ……」
「はいはい、貴女もちゃんと役割を全うしてたんだからそんなに落ち込まないの」
「――さて、それじゃあそろそろお暇しようかの」
「次は葬式ぐらいまで顔を会わせないことを願いますよ元帥殿」
「お前の葬式なんぞ来たくも無いわ」
「アンタのだよ!」
「(相変わらずですね、この二人は)」
「(とっても仲良しだぴょん)」
「二度と来るなクソ爺ー!!」
――――して卯月よ、もう懸念は無いか?
――――無いです。例え次の世代へバトンを繋いでも、彼女達が居れば崩れることは無いでしょう。
――――そうか……では、もう一踏ん張りするとしよう。
――――はい、付き合いますよ、最後まで。
613: 2015/04/24(金) 21:23:55.13 ID:cy/MYjqB0
赤城『筍の季節』、投下します
牡丹が咲くと筍の全盛期
牡丹が咲くと筍の全盛期
614: 2015/04/24(金) 21:25:47.26 ID:cy/MYjqB0
「ほら提督、ここにもあそこにもありますよ」
「パッと見ただけで分かるのは流石だな」
「詳しい方に教えて頂きましたから」
筍は土から完全に出ているモノではなく、頭が少し出た程度のモノを掘るのが基本だ。
猪などはこれを掘り起こし食べるので、食べるのに適しているのがそのタイミングだということは動物達が証明してくれている。
「先を越される可能性もある、ってことか」
「逆に言えば、自然界の動物も狙いたくなる美味しさだということです。あまり出来が良くないと見向きもしないそうですよ?」
「赤城も出来が良くないのは見分けられそうだな」
「流石にそこまでは――あっ、これ美味しそうな感じがします」
(断言出来ないだけで感じ取りはするのか……)
傷付けないように手際よく掘るのを見ながら、無人島でも彼女なら確実に生き残るだろうと提督は考える。
しかし、それと同時に以前にも増して可愛く笑う赤城の姿に、彼も自然と笑みを浮かべていた。
「最近は鎮守府に居る時間も増えて、毎日色々な話を駆逐艦娘達に催促されてるらしいな」
「旅行の参考になるからと、ひっきりなしです」
「土産が減ったとボヤく奴も数名居るが、それ以上に他の奴等がそこかしこに今は旅行に行ってるからトントンか」
「たまにその案内役に駆り出されたりもしますし、結構大変です」
「大変そうには全然聞こえんぞ?」
「ふふっ、そうでしょうか」
そんな会話をしているうちにある程度の量が貯まり、二人は竹林の持ち主に挨拶をして山を下りる。
そして、掘り立ての筍を間宮の元へと持ち帰った。
「パッと見ただけで分かるのは流石だな」
「詳しい方に教えて頂きましたから」
筍は土から完全に出ているモノではなく、頭が少し出た程度のモノを掘るのが基本だ。
猪などはこれを掘り起こし食べるので、食べるのに適しているのがそのタイミングだということは動物達が証明してくれている。
「先を越される可能性もある、ってことか」
「逆に言えば、自然界の動物も狙いたくなる美味しさだということです。あまり出来が良くないと見向きもしないそうですよ?」
「赤城も出来が良くないのは見分けられそうだな」
「流石にそこまでは――あっ、これ美味しそうな感じがします」
(断言出来ないだけで感じ取りはするのか……)
傷付けないように手際よく掘るのを見ながら、無人島でも彼女なら確実に生き残るだろうと提督は考える。
しかし、それと同時に以前にも増して可愛く笑う赤城の姿に、彼も自然と笑みを浮かべていた。
「最近は鎮守府に居る時間も増えて、毎日色々な話を駆逐艦娘達に催促されてるらしいな」
「旅行の参考になるからと、ひっきりなしです」
「土産が減ったとボヤく奴も数名居るが、それ以上に他の奴等がそこかしこに今は旅行に行ってるからトントンか」
「たまにその案内役に駆り出されたりもしますし、結構大変です」
「大変そうには全然聞こえんぞ?」
「ふふっ、そうでしょうか」
そんな会話をしているうちにある程度の量が貯まり、二人は竹林の持ち主に挨拶をして山を下りる。
そして、掘り立ての筍を間宮の元へと持ち帰った。
615: 2015/04/24(金) 21:26:31.23 ID:cy/MYjqB0
「筍ご飯に焼き筍、筍の刺身に煮筍、筍の佃煮、贅沢な筍のフルコースですね」
「これだけ並ぶと凄いな」
「アクがほとんど出ない良質な筍でしたし、作っている最中に絶対に美味しいと分かりましたよ」
「では、早速いただきます」
「いただきます」
「――刺身は筍本来の味がしっかりと感じられて美味しいですし、焼き筍はワサビ醤油が凄く合いますね」
「筍ご飯も美味いな、これを食べてから今度は白米に佃煮と山椒、フキを乗せた茶漬けで食べるのも最高に良い」
「先端と輪の部分の食感の違いも堪りません」
「これは来年も掘りに行くべきだな」
「えぇ、その時はまたお供します」
「当たり前だ、猪避けが居ないと危なくて行けんぞ」
「猪……出来れば山の中で静かに暮らしているモノには会わずに済ませたいですね。田畑を荒らしている訳では無いのであれば、わざわざ戦う理由もありませんし」
「前に山に探しに行かなかったか?」
「アレは人里に近付かないように追い払っただけですから」
「そうか、てっきり食べたくなって探しに行ったのかと……」
「提督、流石に私も傷付きますよ……?」
「冗談だ冗談。ほら、しっかり食べろよ」
「そうですね、今日のところは筍に免じて聞かなかったことにしておきます」
(……妙に子供っぽい時が増えた気がするが、良い傾向……だよな?)
――――赤城、何して――。
――――提督、静かにして下さい。
――――(……霞?)
――――旅の話をしてたら寝ちゃったんです。
――――……お前は、本当に良く分からんな。
――――はい?
――――いや、何でもない。じゃあまたな。
「これだけ並ぶと凄いな」
「アクがほとんど出ない良質な筍でしたし、作っている最中に絶対に美味しいと分かりましたよ」
「では、早速いただきます」
「いただきます」
「――刺身は筍本来の味がしっかりと感じられて美味しいですし、焼き筍はワサビ醤油が凄く合いますね」
「筍ご飯も美味いな、これを食べてから今度は白米に佃煮と山椒、フキを乗せた茶漬けで食べるのも最高に良い」
「先端と輪の部分の食感の違いも堪りません」
「これは来年も掘りに行くべきだな」
「えぇ、その時はまたお供します」
「当たり前だ、猪避けが居ないと危なくて行けんぞ」
「猪……出来れば山の中で静かに暮らしているモノには会わずに済ませたいですね。田畑を荒らしている訳では無いのであれば、わざわざ戦う理由もありませんし」
「前に山に探しに行かなかったか?」
「アレは人里に近付かないように追い払っただけですから」
「そうか、てっきり食べたくなって探しに行ったのかと……」
「提督、流石に私も傷付きますよ……?」
「冗談だ冗談。ほら、しっかり食べろよ」
「そうですね、今日のところは筍に免じて聞かなかったことにしておきます」
(……妙に子供っぽい時が増えた気がするが、良い傾向……だよな?)
――――赤城、何して――。
――――提督、静かにして下さい。
――――(……霞?)
――――旅の話をしてたら寝ちゃったんです。
――――……お前は、本当に良く分からんな。
――――はい?
――――いや、何でもない。じゃあまたな。
623: 2015/04/26(日) 22:03:47.55 ID:XhO0FJBu0
・飛鷹『コンビーフって何?』、投下します
日々お品書きが増えていく居酒屋鳳翔
日々お品書きが増えていく居酒屋鳳翔
624: 2015/04/26(日) 22:04:26.43 ID:XhO0FJBu0
「コンビーフって、牛缶とは違うの?」
「牛缶は濃い目に既に味付けされた後に詰められてる。コンビーフは塩漬けにしただけだから、色々応用が利くんだよ」
「ふーん、提督は良く食べるの?」
「いや、俺も実はあまり食べたことがない。たまたまこの前鳳翔が作った試作品を食べたら美味かったから、お前もどうかと思ってな」
「そういうことなら、試してみよっかな」
「では、お二人分用意しますね」
マッシュポテトに混ぜ込んだモノ、ワサビとマヨネーズで和えたモノ、ピザ風にチーズとトマト、玉葱と一緒にトーストに乗せたモノ。
シンプルな品々がカウンターに並んでいくものの、酒の肴に相応しいように鳳翔が細かい手間を加えているので、見た目だけで味を判断することは出来ない。
「はい、どうぞ」
「おっ、出来たか」
「へー、コンビーフってこういうものなのね」
「クラッカー等も用意してますので、お好きに召し上がって下さい」
「じゃあまずはこのマッシュポテトから」
「飛鷹はワインか……じゃあ何か俺も軽いのを頼む」
「はい、すぐにお入れしますね」
「――もっとしつこいかと思ったんだけど、思ったよりさっぱりしてるわね」
「調理の仕方もあるが、じゃがいもと合わせるのが一番ポピュラーなだけあって、相性がいいんだよ」
「こっちはクラッカーに乗せるの?」
「そのままでもいけるぞ」
「じゃあまずはこれだけで……うん、少しツンと来るけど酒の肴にはピッタリね」
「牛肉とワサビは結構合うからな、味が多少濃くてもワサビが後味をさっぱりさせてくれる」
「ついつい食べ過ぎそう……」
「こっちのトーストを食べ過ぎたら間違いなく太る」
「提督? まだ食べてない状態でそういうこと言わないでくれない?」
「ワイン二杯目要求しながら言われても申し訳無いとは思えんぞ」
「仕方無いじゃない、美味しいんだもの」
「ふふっ、ありがとうございます」
――――結局あの後出されたのも完食しちゃったわね……。
――――次も頼もうって気にはなったか?
――――頼むのは四回に一回ぐらいにする。
――――(……三回に一回ぐらいにはなりそうだな)
「牛缶は濃い目に既に味付けされた後に詰められてる。コンビーフは塩漬けにしただけだから、色々応用が利くんだよ」
「ふーん、提督は良く食べるの?」
「いや、俺も実はあまり食べたことがない。たまたまこの前鳳翔が作った試作品を食べたら美味かったから、お前もどうかと思ってな」
「そういうことなら、試してみよっかな」
「では、お二人分用意しますね」
マッシュポテトに混ぜ込んだモノ、ワサビとマヨネーズで和えたモノ、ピザ風にチーズとトマト、玉葱と一緒にトーストに乗せたモノ。
シンプルな品々がカウンターに並んでいくものの、酒の肴に相応しいように鳳翔が細かい手間を加えているので、見た目だけで味を判断することは出来ない。
「はい、どうぞ」
「おっ、出来たか」
「へー、コンビーフってこういうものなのね」
「クラッカー等も用意してますので、お好きに召し上がって下さい」
「じゃあまずはこのマッシュポテトから」
「飛鷹はワインか……じゃあ何か俺も軽いのを頼む」
「はい、すぐにお入れしますね」
「――もっとしつこいかと思ったんだけど、思ったよりさっぱりしてるわね」
「調理の仕方もあるが、じゃがいもと合わせるのが一番ポピュラーなだけあって、相性がいいんだよ」
「こっちはクラッカーに乗せるの?」
「そのままでもいけるぞ」
「じゃあまずはこれだけで……うん、少しツンと来るけど酒の肴にはピッタリね」
「牛肉とワサビは結構合うからな、味が多少濃くてもワサビが後味をさっぱりさせてくれる」
「ついつい食べ過ぎそう……」
「こっちのトーストを食べ過ぎたら間違いなく太る」
「提督? まだ食べてない状態でそういうこと言わないでくれない?」
「ワイン二杯目要求しながら言われても申し訳無いとは思えんぞ」
「仕方無いじゃない、美味しいんだもの」
「ふふっ、ありがとうございます」
――――結局あの後出されたのも完食しちゃったわね……。
――――次も頼もうって気にはなったか?
――――頼むのは四回に一回ぐらいにする。
――――(……三回に一回ぐらいにはなりそうだな)
632: 2015/04/30(木) 00:52:23.62 ID:QBDe6fQF0
タイトル変更
・皐月&磯風『可愛いね』、投下します
フリルのついた服を着ていた模様
・皐月&磯風『可愛いね』、投下します
フリルのついた服を着ていた模様
633: 2015/04/30(木) 00:53:11.16 ID:QBDe6fQF0
(今度の秘書艦日はこれを着て司令官をびっくりさせちゃおっかな――アレ?)
夕暮れ時、皐月は買い物から鎮守府へと帰って来た。
そして、駆逐艦寮へ戻る途中、ある艦娘が寮の屋上に居るのを見つける。
その姿に遠目ではあるものの何か放っておけない雰囲気を感じ取り、彼女は部屋へとすぐには戻らず屋上を目指した。
階段を上がり扉を開けると、その艦娘はすぐに皐月に気付き、柵に背中を預けながら後ろへと振り返る。
「どうした皐月、こんな時間に屋上に用か?」
「そういう磯風こそ何してるのさ」
「私は、海を眺めていた」
「わざわざ屋上の鍵を借りて海を見に来たの?」
「何故か、そういう気分になった」
「ははっ、変なの」
歩み寄って隣に立ち、皐月は同じ様に柵へと背中を預けた。その直後、少し強めの風が吹き、二人は髪を押さえる。
「――如月」
「如月姉がどうかした?」
「如月が口癖の様に言う“髪が傷む”というのが、私にはよく分からない」
磯風の言っているのがただそのままの意味でないことは、皐月にもすぐに分かった。
必要以上に如月が髪を気にかけるのは深海棲艦との戦いの名残からであることを、妹の彼女が知らないはずもない。
「バッシバシに固まったり、焦げたり抜けちゃったり、結構大変だったんだよ。あんまり昔は気にしてなかったけど、今同じ様になったらボクもかなり気にするかも」
「入渠すればそれは治るのではないのか?」
「アレ、浸かってないと意味が無いんだよ。首から上はタオルに染み込ませて当てたりしなきゃいけなくってさ、すっごく面倒なんだ」
「……そういう知識も、私には無い。再び戦いが起こることを願ったりはしないが、お前達のその共有してきた時間と経験は、純粋に羨ましいと思っている」
「それってつまり、自分が仲間外れみたいで寂しいってこと? ははっ、磯風にもそういう可愛いところあったんだね」
「寂しい、か……だからなのかもしれないな。皐月、話に付き合ってくれて感謝する。――それと、可愛いという言葉は今のめかし込んだお前の方が相応しいぞ」
屋上から歩き去る磯風。その後ろで、皐月は照れ臭そうに笑うのだった。
夕暮れ時、皐月は買い物から鎮守府へと帰って来た。
そして、駆逐艦寮へ戻る途中、ある艦娘が寮の屋上に居るのを見つける。
その姿に遠目ではあるものの何か放っておけない雰囲気を感じ取り、彼女は部屋へとすぐには戻らず屋上を目指した。
階段を上がり扉を開けると、その艦娘はすぐに皐月に気付き、柵に背中を預けながら後ろへと振り返る。
「どうした皐月、こんな時間に屋上に用か?」
「そういう磯風こそ何してるのさ」
「私は、海を眺めていた」
「わざわざ屋上の鍵を借りて海を見に来たの?」
「何故か、そういう気分になった」
「ははっ、変なの」
歩み寄って隣に立ち、皐月は同じ様に柵へと背中を預けた。その直後、少し強めの風が吹き、二人は髪を押さえる。
「――如月」
「如月姉がどうかした?」
「如月が口癖の様に言う“髪が傷む”というのが、私にはよく分からない」
磯風の言っているのがただそのままの意味でないことは、皐月にもすぐに分かった。
必要以上に如月が髪を気にかけるのは深海棲艦との戦いの名残からであることを、妹の彼女が知らないはずもない。
「バッシバシに固まったり、焦げたり抜けちゃったり、結構大変だったんだよ。あんまり昔は気にしてなかったけど、今同じ様になったらボクもかなり気にするかも」
「入渠すればそれは治るのではないのか?」
「アレ、浸かってないと意味が無いんだよ。首から上はタオルに染み込ませて当てたりしなきゃいけなくってさ、すっごく面倒なんだ」
「……そういう知識も、私には無い。再び戦いが起こることを願ったりはしないが、お前達のその共有してきた時間と経験は、純粋に羨ましいと思っている」
「それってつまり、自分が仲間外れみたいで寂しいってこと? ははっ、磯風にもそういう可愛いところあったんだね」
「寂しい、か……だからなのかもしれないな。皐月、話に付き合ってくれて感謝する。――それと、可愛いという言葉は今のめかし込んだお前の方が相応しいぞ」
屋上から歩き去る磯風。その後ろで、皐月は照れ臭そうに笑うのだった。
634: 2015/04/30(木) 00:53:50.36 ID:QBDe6fQF0
――――磯風と皐月って、仲が良いの?
――――理由は知らんが、最近よく一緒に居るな。何にせよ、色々な艦娘同士に交流が生まれるのは良い傾向だ。
――――浜風がハラハラしながら後ろをついて回ってるようだけど……。
――――アイツは子離れ出来ない親か……。
――――理由は知らんが、最近よく一緒に居るな。何にせよ、色々な艦娘同士に交流が生まれるのは良い傾向だ。
――――浜風がハラハラしながら後ろをついて回ってるようだけど……。
――――アイツは子離れ出来ない親か……。
641: 2015/05/02(土) 00:13:30.40 ID:dIMR0tET0
「提督、いつものです」
「またか……で、今回は誰でどこにいる?」
「先程は瑞鶴のところに居ましたが、今は雲龍型の私室だと思います」
「分かった。加賀、ちょっと書類任せるぞ」
「空母ですので、あの子にも話をしておいて下さい」
「了解、飛龍と蒼龍にも声をかけておくことにする」
「葛城、おにぎり食べる?」
「葛城、一緒に歌を歌ってみませんか?」
「えーっと……何、この状況?」
「慣れなさい、ここはこんな感じだから」
姉妹の挨拶もそこそこに、葛城は姉からおにぎりとマイクを差し出される。
一緒についてきた瑞鶴が平然としているのを見て、彼女も一瞬でここではこういうのが普通なのだと察した。
「俺だ、入るぞ」
「提督もおにぎり、いる?」
「男女のデュエット曲も覚えました」
「おかかがあればもらう、カラオケはまた今度にしてくれ。それでお前が雲龍型の葛城……だよな?」
「そうよ、見て分かんないの?」
「……瑞鶴、そこの二人だと色々抜けるかもしれん。ついでだしお前が面倒見ろ」
「私はいいけど、葛城は?」
「是非!」
「じゃあ決ま――」
――――葛城が発見されました。
――――提督が口におにぎりを突っ込まれながら歌を歌わされました。
「またか……で、今回は誰でどこにいる?」
「先程は瑞鶴のところに居ましたが、今は雲龍型の私室だと思います」
「分かった。加賀、ちょっと書類任せるぞ」
「空母ですので、あの子にも話をしておいて下さい」
「了解、飛龍と蒼龍にも声をかけておくことにする」
「葛城、おにぎり食べる?」
「葛城、一緒に歌を歌ってみませんか?」
「えーっと……何、この状況?」
「慣れなさい、ここはこんな感じだから」
姉妹の挨拶もそこそこに、葛城は姉からおにぎりとマイクを差し出される。
一緒についてきた瑞鶴が平然としているのを見て、彼女も一瞬でここではこういうのが普通なのだと察した。
「俺だ、入るぞ」
「提督もおにぎり、いる?」
「男女のデュエット曲も覚えました」
「おかかがあればもらう、カラオケはまた今度にしてくれ。それでお前が雲龍型の葛城……だよな?」
「そうよ、見て分かんないの?」
「……瑞鶴、そこの二人だと色々抜けるかもしれん。ついでだしお前が面倒見ろ」
「私はいいけど、葛城は?」
「是非!」
「じゃあ決ま――」
――――葛城が発見されました。
――――提督が口におにぎりを突っ込まれながら歌を歌わされました。
645: 2015/05/02(土) 20:47:11.27 ID:dIMR0tET0
・プリンツ『接客のノウハウ』 、投下します
ドイツのパンなら間違えない
鳳翔と間宮は凄すぎて逆に聞けなかった模様
ドイツのパンなら間違えない
鳳翔と間宮は凄すぎて逆に聞けなかった模様
646: 2015/05/02(土) 20:47:52.45 ID:dIMR0tET0
~大鯨のアドバイス~
「接客のノウハウ、ですか?」
「う、うん」
「そうですね……お客様に笑顔で接すること、でしょうか」
「笑えばいいの?」
「はい、笑顔が一番だと私は思います」
「プリンツ、何度も言うけどお客様を攻撃しようとしちゃダメだよ?」
「笑顔なら許してくれるって大鯨が……」
※言ってません。
~早霜の場合~
「どうして、私に……?」
「接客向いてなさそうなのに、バーやってるし」
「まずはその発言が問題だと思うのだけれど……口は災いの元、発言に注意するのも大事では無いのかしら」
「そっか、ダンケダンケ!」
「無言で仕事は出来ないよ、プリンツ」
「だって話しちゃダメって早霜が……」
※言ってません。
~金剛のアドバイス~
「そんなのvery very easyデース。ちゃんとTea timeを取れば気分もrefresh出来て仕事も上手くいくはずネー」
「ティータイム? お茶飲めばいいの?」
「仕事休憩に飲む紅茶は極上の味がしマース!」
――ヒェー!? ミルクを泡立ててたら飛び散りましたー!
――比叡姉様、それに気合いはいれなくて大丈夫です。
――泡立ちは十分かと、三番テーブルに運んで下さい。
「……大丈夫なの?」
「これぐらいで慌ててたらやってられないネー」
「……それで? 疲れたらティータイムにしたいって言いたいのね?――注文がまともに取れるようになってから言いなさい!」
(ビスマルク姉様にティータイムが必要かも……)
「接客のノウハウ、ですか?」
「う、うん」
「そうですね……お客様に笑顔で接すること、でしょうか」
「笑えばいいの?」
「はい、笑顔が一番だと私は思います」
「プリンツ、何度も言うけどお客様を攻撃しようとしちゃダメだよ?」
「笑顔なら許してくれるって大鯨が……」
※言ってません。
~早霜の場合~
「どうして、私に……?」
「接客向いてなさそうなのに、バーやってるし」
「まずはその発言が問題だと思うのだけれど……口は災いの元、発言に注意するのも大事では無いのかしら」
「そっか、ダンケダンケ!」
「無言で仕事は出来ないよ、プリンツ」
「だって話しちゃダメって早霜が……」
※言ってません。
~金剛のアドバイス~
「そんなのvery very easyデース。ちゃんとTea timeを取れば気分もrefresh出来て仕事も上手くいくはずネー」
「ティータイム? お茶飲めばいいの?」
「仕事休憩に飲む紅茶は極上の味がしマース!」
――ヒェー!? ミルクを泡立ててたら飛び散りましたー!
――比叡姉様、それに気合いはいれなくて大丈夫です。
――泡立ちは十分かと、三番テーブルに運んで下さい。
「……大丈夫なの?」
「これぐらいで慌ててたらやってられないネー」
「……それで? 疲れたらティータイムにしたいって言いたいのね?――注文がまともに取れるようになってから言いなさい!」
(ビスマルク姉様にティータイムが必要かも……)
647: 2015/05/02(土) 20:48:59.27 ID:dIMR0tET0
~漣のアドバイス~
「むしろそれを売りに! その制服と天然系路線でktkrってなるご主人様(かねづる)をじゃんじゃん囲っちまうのね!」
「ふんふん、つまり今のままの私でいいってことね! 漣、ダンケグート!」
「(あ、曙ちゃん、アレ止めた方が……)」
「(もう手遅れよ、諦めなさい)」
(カニパン食べたい)
「レーベ、マックス、これどういうことなのかしら……」
「売上、プリンツ来てから雑費が増えたのに伸びてるね……」
「ふーん……まぁ、下がってないなら良いと思うけど」
「四番テーブル、グリュッケパンに、ピーターパン、後スカルミリョーネだよビスマルク姉様!」
「分かったわ、次七番テーブルにこれを運んでちょうだい!」
「Ja!――ってうわっ!?」
(((今日はまだ料理飛ばすの二回目か、頑張ってるなぁ……)))
色々な意味で看板娘街道爆進中のプリンツなのでした。
「むしろそれを売りに! その制服と天然系路線でktkrってなるご主人様(かねづる)をじゃんじゃん囲っちまうのね!」
「ふんふん、つまり今のままの私でいいってことね! 漣、ダンケグート!」
「(あ、曙ちゃん、アレ止めた方が……)」
「(もう手遅れよ、諦めなさい)」
(カニパン食べたい)
「レーベ、マックス、これどういうことなのかしら……」
「売上、プリンツ来てから雑費が増えたのに伸びてるね……」
「ふーん……まぁ、下がってないなら良いと思うけど」
「四番テーブル、グリュッケパンに、ピーターパン、後スカルミリョーネだよビスマルク姉様!」
「分かったわ、次七番テーブルにこれを運んでちょうだい!」
「Ja!――ってうわっ!?」
(((今日はまだ料理飛ばすの二回目か、頑張ってるなぁ……)))
色々な意味で看板娘街道爆進中のプリンツなのでした。
667: 2015/05/03(日) 22:38:35.32 ID:4MBGEQBm0
・Z3&谷風『おぅ、景気いいかい?』
・村雨『村雨』
・清霜『食生活で超弩級駆逐艦目指す』
・朝潮『いつでも受けて立つ覚悟です』
・陽炎s対Vsながもん『酔った駆逐艦に迫られて私はもうダメかもしれない』
・舞風『野分が最近何かそわそわしてる』
以上六本でお送りします
・村雨『村雨』
・清霜『食生活で超弩級駆逐艦目指す』
・朝潮『いつでも受けて立つ覚悟です』
・陽炎s対Vsながもん『酔った駆逐艦に迫られて私はもうダメかもしれない』
・舞風『野分が最近何かそわそわしてる』
以上六本でお送りします
671: 2015/05/06(水) 10:05:24.94 ID:WSN3RGqb0
・Z3&谷風『おぅ、景気いいかい?』、投下します
(外れに)当たらなければどうということはない
(外れに)当たらなければどうということはない
672: 2015/05/06(水) 10:05:57.02 ID:WSN3RGqb0
「景気? 売り上げなら伸びているけど」
「そりゃ結構なこった。いっつも景気悪そうな顔してっから赤字なのかと思ってたよ」
「ふーん……一度来れば分かると思うわ、ズッペぐらいならサービスするわよ?」
「おぅ、そいつはいいねぇ! そういう粋なのは谷風さん大歓迎!」
「じゃあ、私は開店準備があるから後で」
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」
「三千円のお預かりで、三百八十円のお返しです」
「ご注文繰り返します! テーとカフィーとプリンツ・オイゲンですね!……って私!?」
(かぁーっ、開店三十分でコレはやるね)
「谷風、いらっしゃい。あそこの席が空いているから座って待っていて。パンのリクエストがあれば先に聞いておくけど」
「そんじゃマックスのオススメ三つ」
「私のオススメ? ふーん……まぁ、いいけど」
「そりゃ結構なこった。いっつも景気悪そうな顔してっから赤字なのかと思ってたよ」
「ふーん……一度来れば分かると思うわ、ズッペぐらいならサービスするわよ?」
「おぅ、そいつはいいねぇ! そういう粋なのは谷風さん大歓迎!」
「じゃあ、私は開店準備があるから後で」
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」
「三千円のお預かりで、三百八十円のお返しです」
「ご注文繰り返します! テーとカフィーとプリンツ・オイゲンですね!……って私!?」
(かぁーっ、開店三十分でコレはやるね)
「谷風、いらっしゃい。あそこの席が空いているから座って待っていて。パンのリクエストがあれば先に聞いておくけど」
「そんじゃマックスのオススメ三つ」
「私のオススメ? ふーん……まぁ、いいけど」
673: 2015/05/06(水) 10:06:35.70 ID:WSN3RGqb0
「――マックス、他二つはいいとして、こりゃ何だい?」
「私のオススメだけど」
「お、おぅ……」
一品目、カリーブルストロール。カリーブルストをホットドッグの具に使ったもの。
二品目、カルトッフェルプッファーサンド。ハッシュドポテトみたいなものをパンで挟んだもの。
三品目、ボムベブロート。中身不明のパン、日によって具が変わる。通称“爆弾”。
「ズッペはツヴィーベルズッペ、お代わりは遠慮なく言って」
「でさぁマックス、このパンの中身は――」
「大丈夫よ、食べられるモノしか入れてないわ」
(何か不安だけど、出されたからには全部食べるのが粋ってもんだ!)
「いただきます!」
――――谷風、どうだった?
――――意外と色んな具が絡み合ってイケたし、谷風さん的には大満足だね!
――――(ふーん……当たりを引いたのね、まぁいいけど)
「私のオススメだけど」
「お、おぅ……」
一品目、カリーブルストロール。カリーブルストをホットドッグの具に使ったもの。
二品目、カルトッフェルプッファーサンド。ハッシュドポテトみたいなものをパンで挟んだもの。
三品目、ボムベブロート。中身不明のパン、日によって具が変わる。通称“爆弾”。
「ズッペはツヴィーベルズッペ、お代わりは遠慮なく言って」
「でさぁマックス、このパンの中身は――」
「大丈夫よ、食べられるモノしか入れてないわ」
(何か不安だけど、出されたからには全部食べるのが粋ってもんだ!)
「いただきます!」
――――谷風、どうだった?
――――意外と色んな具が絡み合ってイケたし、谷風さん的には大満足だね!
――――(ふーん……当たりを引いたのね、まぁいいけど)
681: 2015/05/06(水) 19:14:08.52 ID:WSN3RGqb0
「――ちょっと待って頂けますか元帥殿? どうしてまたうちなんです」
『先方のたっての希望だ。安心しろ、名目上は“交換”だがお前の鎮守府から誰かを送ることはない』
「当然だ。そんなことを要求しやがったら全力で無かったことにしてやる」
『行きたがっている艦娘に心当たりがあったんでな、こちらから送る艦娘は既に手配しとる。ちと向こうで何かやらかさんか心配じゃが……』
「はぁ……で、来るのは構いませんけど交換ならそのうち帰るんでしょうね?」
『それは当人次第じゃな。ドイツに行った艦娘も何人かはそのまま居着いて帰ってきよらんかったし、お前のところにも帰らんかった前例が居るだろうが』
「まぁ、それは、確かに」
『うむ、では頼んだ。着任はヒトフタマルマル予定じゃからもう着いとるかもしれんのぅ』
「おいちょっと待て、最初からそのつもり――クソッ、切りやがった……とりあえず、迎えに行かんと不味いよな」
(ここにあの本の作者が、是非会って話を聞かないと)
――――リットリオが着任してきました。
『先方のたっての希望だ。安心しろ、名目上は“交換”だがお前の鎮守府から誰かを送ることはない』
「当然だ。そんなことを要求しやがったら全力で無かったことにしてやる」
『行きたがっている艦娘に心当たりがあったんでな、こちらから送る艦娘は既に手配しとる。ちと向こうで何かやらかさんか心配じゃが……』
「はぁ……で、来るのは構いませんけど交換ならそのうち帰るんでしょうね?」
『それは当人次第じゃな。ドイツに行った艦娘も何人かはそのまま居着いて帰ってきよらんかったし、お前のところにも帰らんかった前例が居るだろうが』
「まぁ、それは、確かに」
『うむ、では頼んだ。着任はヒトフタマルマル予定じゃからもう着いとるかもしれんのぅ』
「おいちょっと待て、最初からそのつもり――クソッ、切りやがった……とりあえず、迎えに行かんと不味いよな」
(ここにあの本の作者が、是非会って話を聞かないと)
――――リットリオが着任してきました。
689: 2015/05/08(金) 22:39:01.48 ID:/B+awqgA0
・村雨『村雨』、投下します
雨天特化型
雨天特化型
690: 2015/05/08(金) 22:39:32.63 ID:/B+awqgA0
少し昔の、忘れられない、思い出したくもない夢を見た。
雨天での戦いに慣れていなかった私達の隊は敵本隊を発見するも、急な雨の影響で敵旗艦を後少しのところで撃破し損ねてしまった。
たった三分、然れど三分の雨が、作戦を失敗へと導いた。
――“村雨”を旗艦にしたのがいけなかったのか?
酷い言いがかりよね、名前で作戦が失敗するというのなら、台風や竜巻を意味する名前の子はどうしたらいいのかしら。
結局、私はその作戦以降縁起が悪いと艦隊から外され、不要になった艦娘を引き受けていると私達の間で噂されていたここへと異動になった。
――そして、私は提督と姉妹達に出会ったの。
雨天での戦いに慣れていなかった私達の隊は敵本隊を発見するも、急な雨の影響で敵旗艦を後少しのところで撃破し損ねてしまった。
たった三分、然れど三分の雨が、作戦を失敗へと導いた。
――“村雨”を旗艦にしたのがいけなかったのか?
酷い言いがかりよね、名前で作戦が失敗するというのなら、台風や竜巻を意味する名前の子はどうしたらいいのかしら。
結局、私はその作戦以降縁起が悪いと艦隊から外され、不要になった艦娘を引き受けていると私達の間で噂されていたここへと異動になった。
――そして、私は提督と姉妹達に出会ったの。
691: 2015/05/08(金) 22:40:01.36 ID:/B+awqgA0
「一番先に、村雨発見!」
「やぁ、良い雨だね」
何の因果か、着任日は雨。出迎えてくれた姉二人はレインコートを――ううん、時雨は何故か着てなかったんだっけ。
後で理由を聞いたら、雨を傘やレインコートで遮るなんて勿体無いって言われたのを今でも覚えてる。
「はいはーい、村雨、着任しました」
「じゃあ提督の部屋に案内するね!」
「こっちだよ」
廊下を濡らしながら、二人は執務室へと案内してくれた。
中へ入るとすぐ、大きくため息を吐いた提督が時雨に注意してたっけ。
「――何はともあれ村雨、着任を歓迎する。経緯は聞いているからお前への最初の命令を言っておく。“雨の中で勝てるようになれ”、以上だ」
その命令は“雨の中で勝てないような奴はいらない”、とも取れた。
でも、隣でにこやかな笑顔を提督に向けている二人を見て、“見返してやれ”と言われているのだと分かったの。
だから、自然と私はこう返していた。
――――村雨の、ちょっと良いとこ、すぐに見せたげる。
「やぁ、良い雨だね」
何の因果か、着任日は雨。出迎えてくれた姉二人はレインコートを――ううん、時雨は何故か着てなかったんだっけ。
後で理由を聞いたら、雨を傘やレインコートで遮るなんて勿体無いって言われたのを今でも覚えてる。
「はいはーい、村雨、着任しました」
「じゃあ提督の部屋に案内するね!」
「こっちだよ」
廊下を濡らしながら、二人は執務室へと案内してくれた。
中へ入るとすぐ、大きくため息を吐いた提督が時雨に注意してたっけ。
「――何はともあれ村雨、着任を歓迎する。経緯は聞いているからお前への最初の命令を言っておく。“雨の中で勝てるようになれ”、以上だ」
その命令は“雨の中で勝てないような奴はいらない”、とも取れた。
でも、隣でにこやかな笑顔を提督に向けている二人を見て、“見返してやれ”と言われているのだと分かったの。
だから、自然と私はこう返していた。
――――村雨の、ちょっと良いとこ、すぐに見せたげる。
692: 2015/05/08(金) 22:40:35.93 ID:/B+awqgA0
「残念、すぐに止んでしまったね」
「雨だと服が汚れるって怒られるし、止んでくれた方が夕立は嬉しいっぽい!」
「村雨姉さん、取り込んだ洗濯物畳んでおきました」
「うぅ……一枚転んでグチョグチョにしちゃった」
「一枚で済んだだけ良かったってもんさ」
「でもそれ、涼風のだよ?」
「え゛っ」
賑やかな鎮守府と、賑やかな姉妹達。
通り雨が運ぶのは嫌なことも当然あるけど、良いことも運んでくれると、私はもう知ってる。
「はいはーい、みんな外に注目!」
空に架かる七色のアーチを七人の姉妹で見ている内に、私はその日見た嫌な夢などすっかり忘れたのだった。
――――村雨、打電しておいたぞ。
――――打電? 誰に?
――――“雨天ニ目標ヲ無事撃破。貴公ノ育テタ艦娘ハ大変優秀ダ、感謝スル”。
――――提督も嫌味言ったりするんだ。
――――礼を言ったまでだ、どこにも嫌味なぞないさ。
「雨だと服が汚れるって怒られるし、止んでくれた方が夕立は嬉しいっぽい!」
「村雨姉さん、取り込んだ洗濯物畳んでおきました」
「うぅ……一枚転んでグチョグチョにしちゃった」
「一枚で済んだだけ良かったってもんさ」
「でもそれ、涼風のだよ?」
「え゛っ」
賑やかな鎮守府と、賑やかな姉妹達。
通り雨が運ぶのは嫌なことも当然あるけど、良いことも運んでくれると、私はもう知ってる。
「はいはーい、みんな外に注目!」
空に架かる七色のアーチを七人の姉妹で見ている内に、私はその日見た嫌な夢などすっかり忘れたのだった。
――――村雨、打電しておいたぞ。
――――打電? 誰に?
――――“雨天ニ目標ヲ無事撃破。貴公ノ育テタ艦娘ハ大変優秀ダ、感謝スル”。
――――提督も嫌味言ったりするんだ。
――――礼を言ったまでだ、どこにも嫌味なぞないさ。
698: 2015/05/09(土) 21:54:45.75 ID:iIh3vUzM0
タイトル変更
・清霜『涓滴岩を穿つ』、投下します
真っ直ぐにも種類がある
・清霜『涓滴岩を穿つ』、投下します
真っ直ぐにも種類がある
699: 2015/05/09(土) 21:55:20.57 ID:iIh3vUzM0
「武蔵さん、お願いします!」
「どこからでもかかって来い!」
イメージするのは、先日の朧と武蔵の一戦。
攻められれば退き、退けば攻める。自分の力ではなく相手の力を応用していく戦法。
拳は受け流し、絡めとる。掴まれれば巻き込む。
ただ強くなりたいと口にするだけでなく、しっかりと鍛練を積んだ彼女のそれは、武蔵と戦えていると言えた。
「いいぞ、その調子だ」
「……」
褒める武蔵を他所に、清霜は表情を曇らせていく。そして、ついには動きを止めて距離を取った。
「どうした清霜、まだ始めたばかりだぜ?」
「ごめんなさい、武蔵さん……でもね、何か違うの」
「ふむ、どう違うんだ?」
「確かに今のも強いしカッコいいと思う。――だけど、清霜はやっぱり武蔵さんみたいになりたい!」
武蔵に憧れ、少し変わっていて情けないところも見せる彼女に戸惑いつつも、先の演習ではやはりその堂々とした貫禄に胸が高鳴るのを清霜は感じた。
だからこそ、彼女は武蔵を目の前で負かした朧ではなく、武蔵を目指したいと口にする。
その目には、子供がただ憧れているのではないという真剣さが宿っていた。
「そうか……清霜よ、ならば私に憧れるのはやめておけ」
「え……?」
「――この戦艦武蔵を越えて見せろ。お前の望むやり方で、な」
ニヤリと笑った後、武蔵は再び構える。
一瞬動揺を見せた清霜も、すぐに表情を引き締め直し、拳を構えた。
「さぁ来い、私はここから一歩も動かんぞ!」
「はい! 清霜、行きます!」
「私もうかうかしていられないな」
「長月、嬉しそうですね」
「あぁ、そのうち手合わせ願いたい」
「今日のところは、大和で我慢してください」
「……この前のアレを見て、やはり姉なのだと痛感した」
「ナ、ナンノハナシデスカ?」
――――それで? 私達の力では到底大和型の装甲は貫けないと思うのだけれど、どうするの?
――――が、頑張ればそのうち出来るもん!
――――そう……少し、その純粋さが羨ましいわ。私も強くなれば、変われるのかしら……。
「どこからでもかかって来い!」
イメージするのは、先日の朧と武蔵の一戦。
攻められれば退き、退けば攻める。自分の力ではなく相手の力を応用していく戦法。
拳は受け流し、絡めとる。掴まれれば巻き込む。
ただ強くなりたいと口にするだけでなく、しっかりと鍛練を積んだ彼女のそれは、武蔵と戦えていると言えた。
「いいぞ、その調子だ」
「……」
褒める武蔵を他所に、清霜は表情を曇らせていく。そして、ついには動きを止めて距離を取った。
「どうした清霜、まだ始めたばかりだぜ?」
「ごめんなさい、武蔵さん……でもね、何か違うの」
「ふむ、どう違うんだ?」
「確かに今のも強いしカッコいいと思う。――だけど、清霜はやっぱり武蔵さんみたいになりたい!」
武蔵に憧れ、少し変わっていて情けないところも見せる彼女に戸惑いつつも、先の演習ではやはりその堂々とした貫禄に胸が高鳴るのを清霜は感じた。
だからこそ、彼女は武蔵を目の前で負かした朧ではなく、武蔵を目指したいと口にする。
その目には、子供がただ憧れているのではないという真剣さが宿っていた。
「そうか……清霜よ、ならば私に憧れるのはやめておけ」
「え……?」
「――この戦艦武蔵を越えて見せろ。お前の望むやり方で、な」
ニヤリと笑った後、武蔵は再び構える。
一瞬動揺を見せた清霜も、すぐに表情を引き締め直し、拳を構えた。
「さぁ来い、私はここから一歩も動かんぞ!」
「はい! 清霜、行きます!」
「私もうかうかしていられないな」
「長月、嬉しそうですね」
「あぁ、そのうち手合わせ願いたい」
「今日のところは、大和で我慢してください」
「……この前のアレを見て、やはり姉なのだと痛感した」
「ナ、ナンノハナシデスカ?」
――――それで? 私達の力では到底大和型の装甲は貫けないと思うのだけれど、どうするの?
――――が、頑張ればそのうち出来るもん!
――――そう……少し、その純粋さが羨ましいわ。私も強くなれば、変われるのかしら……。
700: 2015/05/10(日) 08:36:15.93 ID:Lw0wMLTdO
乙です。
清霜が可愛く格好いい。
育てよう
清霜が可愛く格好いい。
育てよう
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