816: 2015/06/11(木) 16:44:36.62 ID:9Z4VHUGi0
・磯風『夢で分かるもの』

・多摩&北上『ゆるゆると』

・葛城『前向きに真っ直ぐに』

・大鯨『あなただから』

・『検品』

・大鳳『出会ってしまった少女』

以上六本でお送りします

前回はこちら



819: 2015/06/13(土) 14:28:18.69 ID:+7HC/v0j0
・磯風『夢で分かるもの』 、投下します

甘えたくなる時だってある

820: 2015/06/13(土) 14:28:53.32 ID:+7HC/v0j0
 ――雪風、どうした? 何故私に砲を向けている。

 ――違う、それはもう過去の話だ。

 ――くっ、身体が……動け、動けっ!

 ――雪風、雪風っ!




「っはぁ、はぁ……夢、か」

 全身を襲う強烈な不快感と虚脱感。
 いつもより動作の鈍い身体をゆっくりと動かし、額に貼り付いた髪を払いのけた後、その下ろした手が何かに当たるのを磯風は感じた。

「すぅ……すぅ……」

(相変わらず寝相があまり良くないな、雪風は)

 自分の布団にまで転がってきていた雪風を見て、先程まで見ていた夢を彼女は思い出す。
 それは、今の姿で再現された昔の姿の最後の記憶。

(話に聞いてはいたが、これを毎晩見るのは流石に遠慮願いたいな)

 少し楽になった身体を起こし、雪風に布団をかけ直すと磯風は一人部屋を後にする。
 日の出は徐々に早くなりつつあるものの、まだ空が白み始める時間には早く、廊下は音もなく静まり返っていた。

(こんな時間に起きている者など、居るはずも――む?)

 何気無く窓から見下ろした先に見えた人影。不審者が侵入した可能性など皆無だとは分かっていても、その後を追って走り出すのを磯風が躊躇うことはなかった。
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録
821: 2015/06/13(土) 14:29:28.75 ID:+7HC/v0j0
「司令、こんな時間に何をしている」

「磯風か。お前こそ寝間着でこんな時間に何してるんだ?」

「不審者の追跡だ」

「不審者?……それ、ひょっとして俺のことか?」

「こんな時間に司令が一人で護衛もつけずに出歩いているとは、普通思わんさ」

「一向に書類が片付かなくて息抜きの散歩してたんだよ。まだ起きてる奴も居るには居るが、わざわざ声をかけるのもどうかと思ってな」

 比較的新顔である磯風にすら分かる事実として、提督に誘われてそれを煩わしく思う者などここでは皆無に等しかった。
 無論、彼女も断ることなどありはしない。

「では、この磯風が付き合おう」

「良い子は寝る時間だぞ」

「良い司令は今すぐ執務に戻ろうな?」

「……磯風、散歩に付き合ってくれ」

「了解した」

 静かな夜の鎮守府。聞こえるのは二人の足音と、海の音。
 特に何を話すわけでもなく、ただただ二人はぐるりと鎮守府を巡る。

「――司令」

「どうした? 眠くなってきたか?」

「“夢”と上手く付き合っていくには、どうすればいい」

「夢、か……」

 足を止め、二人は再び向き合う。
 以前にもこうして磯風が急に質問をすることは何度かあったが、今回のそれは今までとは別の類いのものだった。

「気に病むな、とは言わない。ただ、今の雪風はお前が思っているよりも強いし、また会えたことを何より嬉しいと感じてる。それを忘れないことだ」

「私はまだ夢の内容について一言も口にしていないはずだが……」

「色々な艦娘からそれについては話を聞いたからな、大体分かるようになった」

「そういうものなのか? しかし、まぁ、感謝する」

「散歩に付き合ってもらった礼だ、気にしなくていい」

 軽く返す提督に、磯風は暫く何か思案する素振りを見せた後、再び口を開いた。




「司令、今日は一緒に寝てもいいだろうか」

822: 2015/06/13(土) 14:30:04.53 ID:+7HC/v0j0
――――(どうしてこうなった……)

 ――――うん、悪くない寝心地だ。

――――朝にはちゃんと部屋に戻れよ?

 ――――あぁ、分かっている。




 朝、探しに来た浜風が提督の横で寝間着のはだけている(汗が気持ち悪くて自分で緩めた)磯風を見て固まったのは、また別のお話。

825: 2015/06/14(日) 14:25:08.47 ID:buCtwjJK0
・多摩&北上『ゆるゆると』、投下します

めんどくさがり&めんどくさがり

826: 2015/06/14(日) 14:25:49.03 ID:buCtwjJK0
 秘書艦日を終え、部屋に戻った北上を待っていたのは扇風機の前で寝転がっている多摩だけだった。
 一応は起きているようなので近付いてしゃがみ、彼女は姉へと声をかける。

「ただいま多摩姉、他の皆は?」

「朝帰りするような妹に育てた覚えは無いにゃ」

「いや、多摩姉と球磨姉に鍛えられはしたけど、育ててもらった覚えはないよ? で、他の皆はどうしたのさ」

「大井は木曾と鬼ごっこ、球磨は赤城さんと海鮮丼」

「大井っちは最近木曾にご執心だねー、球磨姉は赤城さんとご飯か……で、多摩姉は何で行かなかったの?」

「今日は暑いのにゃ」

 冬は炬燵と陽当たりの良い屋根、夏は涼しい場所を求めてさ迷う多摩にとって、三十度を越す日に出歩くなど考えられなかった。
 そんな姉を相変わらず猫だなと思いながら、話を一度そこで終えて冷蔵庫へと向かう。

「北上、ミルクココア」

「ホット?」

「何でホット飲まなきゃいけないのにゃ」

「妹のお腹冷やさないようにって気遣いですよー」

「そんな柔じゃないにゃ」

「じゃあ作るけど、多摩姉が昼御飯担当でいいよね」

「……手間なのじゃなければ」

「多摩姉特製ざるつけ麺」

「何でよりによってそれなのにゃ」

「いやほら、だって暑いし」

「それ作るのはもっと暑いし手間なのにゃ」

「まぁまぁこのアイスミルクココアでも飲んで、可愛い妹に美味しいもの作ってよ、ね?」

「……仕方無いにゃあ」

 差し出された冷たいミルクココアを受け取り渋々承諾する姉に、何だかんだ自分達姉妹も妹には甘いなと北上は考える。
 それと同時に、滅多にない二人きりの状況を堪能しようと思い立つ。

「――何してるにゃ」

「んー、たまには姉妹の親睦を深めてみるのもいいかなーって」

「暑い」

「じゃあ、えいっ」

「にゃあっ!? にゃ、にゃにするにゃ!?」

「ご注文通り、冷たい氷を首筋にピタッとしたまでですよー」

「……」

(――ありゃ? ひょっとしてちょっとまずった感じ?)

「北上、ちょっとこっち」

「多摩姉? 猫じゃないんだから襟首掴んで引き摺るのはやめてくんない? おーい、多摩姉ー?」




 この後めちゃくちゃ氷を服の中に流し込まれた。

827: 2015/06/15(月) 14:01:54.65 ID:kZYu5orV0
・葛城『前向きに真っ直ぐに』 、投下します

握り飯、歌、そしてボール

828: 2015/06/15(月) 14:02:27.43 ID:kZYu5orV0
「危ないっ!」

「なんぶふっ!?」

 昇る朝日、徐々に白みゆく空、心地好い風。
 ――そして、提督の顔面を捉えた白と黒の球体。

「あっ、あなた大丈夫!?」

「け、結構痛かったが、大丈夫だ」

 爆発、流れゴム弾、連装砲ちゃんに比べればダメージは軽微であり、提督はすぐに立ち上がった。
 チカチカとする視界もそう時を置かずして元へと戻り、自分にぶつかった物とぶつけた者を確認する。

「誰かと思えば葛城か、何でこんな時間に一人でサッカーなんかしてたんだ?」

「それは、その、秘密よっ!」

「だったら天城と雲龍、後は瑞鶴にでも聞いてみるか」

「それだけは絶対にやめてっ!?」

「冗談だ。まぁ無理に聞く気は無いが、顔面にボールが飛んできた経緯ぐらいは説明してくれよ?」

「ご、ごめんなさい……実は――」




(空母に“ノーコン”……そりゃ気にするなってのは無理な相談か)

「子供達に悪気が無かったのも艦載機を操るのとは訳が違うっていうのも分かるんだけど、言われたままにしておけないなって思って、それで……」

「こんな時間に秘密の練習をしていた、と」

 子供達に蹴り返したはずのボールがあらぬ方向へ飛んでいった。
 これが五月雨などならいつものことで済まされるのだが、葛城にとっては早朝に人知れず特訓する程の大問題だった。

「蹴り方が悪いとかじゃないのか?」

「だったらあなた、ちょっとそこで見ててくれない?」

「別に俺はサッカーに詳しいわけでもないし、見てどこが悪いとか分からんぞ?」

「それでもいいわ」

 言うや否や駆けていき、ボールを地面に置いて少し離れると、助走から綺麗にボールを蹴り上げる。
 そして、お約束のように提督へとそれは吸い込まれていくのだった。




――――結局、葛城にはどういう風に指導したの?

 ――――インサイドで蹴れと言っといた。

――――じゃああの変な曲がり方をするボールはもう見られないのね、少し残念だわ。

 ――――大鳳、お前もあの漫画みたいな回転のかかったボール顔面に喰らってみるか?

――――……武蔵が蹴ったボールで中破、今となっては良い思い出よ。

829: 2015/06/15(月) 14:02:58.22 ID:kZYu5orV0
「その後はどうだ? ノーコンの汚名は返上出来たか?」

「えぇ、しっかりとね。今はたまに一緒にサッカーして遊んでるんだから」

「そりゃ良かったな」

「最近はこれの練習をしてるのよ。“リフィーディング”、だっけ?」

「……リフティングな、ちゃんと間違えずに覚えとけ」

「あっそれよそれ、リフティング。私、何で間違えたのかしら?」

(単語のみ知識として持ってる感じか。まぁ葛城が意味を知ったところで問題はないし、放っておくとしよう)

「よっ、ほっ――あっ」

「へぶっ!?」




 執務室でのリフティングは禁止されました。

830: 2015/06/16(火) 23:32:51.27 ID:PQE2RNS30
・大鯨『あなただから』、投下します

E:バケツ

831: 2015/06/16(火) 23:36:20.38 ID:PQE2RNS30
 家族連れ、カップル、友人同士、色々な人間が海へと入っていく様子を眺めながら、提督は荷物の側で一人ぼんやりとしていた。
 時折女性を目で追ってしまうのは鎮守府の誰かに似ていたという理由だけで、普段恵まれ過ぎている環境に身を置く彼が鼻の下を伸ばすようなことはなかった。

「ごめんなさい、少し遅くなりましたあ」

「気にするな、平和な海をボーっと眺めてるのも悪くない」

「あの、提督……」

「――水着、よく似合ってるし可愛いぞ」

「本当、ですか?」

「嘘や世辞は苦手だ」

「ふふっ、とっても嬉しいです」

 パッと花が咲いたように、大鯨は満面の笑みを見せる。
 その笑顔は、提督に決断させるには十分な威力だった。

832: 2015/06/16(火) 23:36:53.12 ID:PQE2RNS30
「なぁ、大鯨」

「はい、何でしょうかあ?」

「そのバケツって、いつも使ってるやつか?」

「違います。これは砂遊び用です」

 大鯨曰く、水を運ぶ用、食料運搬用、物資運搬用と様々なバケツがあるらしく、提督は彼女へ贈り物をする時の選択肢にバケツを密かに増やした。

「提督、ひょっとして退屈されてますか?」

「いや、昔からボーっと眺めるのは割と好きだし苦にはならん。出来上がりを楽しみにしながらのんびりするさ」

「そんなに得意じゃありませんし、出来上がりに期待はしないで下さいね?」

 泳ぐのもそこそこに砂で鯨を作り始めた大鯨の横で、提督は楽しそうにペタペタと砂を固めていく彼女を見つめる。
 最初に鎮守府へ来た頃は少しオドオドとしていたのが嘘のように、今見ている横顔には暗さは微塵も感じられない。

「――大鯨」

「何でしょうかあ?」

「お前が望んでいるものを与えれば、“今”よりもお前は毎日を楽しめるか?」

「……楽しくなるのかは、正直分からないです」

 砂を触る手を止め、少し考えながら大鯨は思いを口にしていく。

「ちょっぴり皆さんに嫉妬しちゃうかもしれません」

「少し、わがままを言って困らせてしまうかもしれません」

「――でも、一つだけ、これだけは絶対に分かります」




「提督とそうなれたら、私は今よりも幸せになれます」

833: 2015/06/16(火) 23:37:24.21 ID:PQE2RNS30
「提督? て・い・と・く!」

「――ん? あぁ、大鯨か」

「あぁ大鯨か、じゃないです。今日の約束、ちゃんと覚えてますか?」

「鯨に乗ってハネムがふっ!?」

「新しいバケツ、どうでしょうかあ」

「つっ、使い方が間違ってるだろ……」

「と・に・か・く! 早く準備して下さいね?」

「分かった、分かったからちょっと待ってろ」

(全くいらんところが周りに似てきやがって……まぁ、でも、前よりももっと良い笑顔が見れるなら悪くはないか)




――――今日は二匹作ったのか。

 ――――はい、鯨の夫婦ですよ。

――――……鯨料理が食べにくくなるな。

 ――――……提督? あの、それなら――。




 美味しい鯨料理が振る舞われました。

841: 2015/06/23(火) 17:50:29.36 ID:8IXDUv/O0
・『検品』 、投下します

842: 2015/06/23(火) 17:51:19.56 ID:8IXDUv/O0
「司令官、箱が三つあるのは気のせいじゃないですよね」

「普通なら二つでいいんだがな……売れる、売れない、危険物で分けていくぞ」

 吹雪と提督の前には、バザー出品用に集められた品物の山があった。
 そのうち何割が売り物となるか一抹の不安を覚えながら、二人は仕分けを開始する。

「この辺のは初雪達のゲームだし、大丈夫かな」

「服も大概は問題ないだろ、私服以外が混じってたらマズイが」

「あっ……シオイのスク水、紛れ込んでました」

「突き返しとけ」

「他には――っ!?」

「? どうした吹雪」

「い、いえ、何でもありませんっ!」

「そ、そうか」

(誰の? これ誰の下着!? 何か透けてるっ!?)

「これは大丈夫、この筋トレグッズは大鳳か? 次は――吹雪、至急潮を呼んでくれ」

「潮ですか? 了解しました、すぐに呼び出します」




「こんなところに居たんだ……探したんだよ、ヲーちゃん」

「ヲ!」

「流石に売れんな」

「そういう以前の問題だと思います、司令官」

843: 2015/06/23(火) 17:51:54.19 ID:8IXDUv/O0
「次は帽子か」

「響の使わなかったのがほとんどですね」

「結局どれもしっくり来ないって言ってたからな」

「こっちにあるのはオモチャみたいです」

「ラジコン系は日向として、原人コッツにミニテトリス、ギャオッピ……夕張の参考資料ってとこか」

「この“危険”ってラベルの付いたステッキみたいなのは……」

「危険箱に入れておけ、後で取りに来るように言っておく」

「このティーセットは金剛さんで、お茶碗とかは間宮さんか鳳翔さんですよね」

「その辺は問題ないはずだ」

「次は――司令官、これはどうしたら……」

「魚雷クッションに航空甲板ちゃぶ台、単装砲型チャッカマン、明石もまた色々と作ったもんだ……一応安全かどうか点検して、安全なら売っていいだろ」




 結果、売れる4、売れない4、危険2の割合に収まりました。

844: 2015/06/23(火) 17:52:30.14 ID:8IXDUv/O0
「で、売り子は誰になったんだ?」

「一番この辺だと顔が広い白雪と、逆に顔があまり知られていないユーと葛城に決まりました」

「何とも言えん組み合わせだな」

「白雪が一緒なら大丈夫ですよ、司令官」

「そうだとは思うが、一応後で見に行くぞ」

「了解しました」




「持ってけドロボー、合ってる?」

「ユー、それは買ってくれた方に言うにはおかしいです。お買い上げありがとうございました」

「えっと、これが千九百八十円で、こっちが三百六十円……二つで二千円です!」

「葛城さん、素直に電卓を使って下さい。いつも美味しい果物をありがとうございますお爺さん。二千円におまけ致しますね」

(意外にこれはこれで好評か)

(やっぱり白雪が居ると皆集まるなぁ。最近は私もだいぶ顔が広くなったと思うし、私がやっても集まる……よね?)




 無事に完売しました。
 売れた中に明石作万能(まな板から鉄まで何でもござれ)包丁が紛れ込んでいて回収騒ぎになったのは、また別のお話。

850: 2015/06/25(木) 08:14:29.21 ID:9YYZHmUG0
・大鳳『出会ってしまった少女』、投下します

妖精さん

851: 2015/06/25(木) 08:17:05.89 ID:9YYZHmUG0
 いつも通りの日常、いつも通りの風景を眺めながら、大鳳はいつものように遊戯場のベンチで時折寄ってくる子供達に自分達の話をして時を過ごす。
 もう昔の話だと、しかし忘れてはいけないと、親が子に語り継ぐように話す彼女の顔は、とても穏やかなものだった。
 そして、今日もまた一人の少女が彼女の元へと歩み寄る。

「こんにちは、お姉さん」

「こんにちは。あら、可愛い猫ね」

「可愛いんだけれど、イタズラが好きで困ってるの」

 茶色いおさげに白い帽子、セーラー服を着た少女の腕には、三毛猫が抱かれていた。
 拘束されているのが相当不満らしく、しきりに逃げ出そうとしているが、全く抜け出せず不満そうな表情をしている。

「それで、私に何か用かしら? 迷子という歳でも無さそうだけれど」

「うん、今日はお姉さんに話を聞こうと思って来たの」

「艦娘の話、でいいの?」

「ううん、“お姉さん達と保護してる深海棲艦の話”がいいな」

「っ……貴女、何者?」

「そうだなぁ、この子と一緒に居るのがほとんどだし、猫娘って呼んで」

 見た目は可愛らしく身長は小学四年生程度、しかし、ひしひしと伝わってくる異様な雰囲気に大鳳は笑みを崩し、鋭い視線を送る。
 それを意にも介さず、猫娘と名乗った少女は話を続ける。

「お姉さん達は、彼女達を許したの? いっぱい仲間を沈めたんだよ? 人をいっぱい頃したんだよ?」

「私にそれを聞いて、貴女はどうするつもり?」

「質問に質問で返さないでよお姉さん。でも、答えてあげるね。別にどうもしないから安心して、私は知りたいだけだから」

「……負の気持ちが以前の彼女達を産み出したのだとしたら、彼女達を憎み続けても同じことを繰り返すだけ。だから、私達は今の彼女達に危害を加える気は一切無いし、守ると決めたの」

「もし、また前みたいに人やお姉さん達を襲ったら?」

「その時は全力で止めるだけよ、その為に私達は今もこうして鎮守府で備えているんだから」

「ふーん、そうなんだ。ありがとうお姉さん、答えてくれて」

「今度は私の番よ。貴女は――」

「残念、時間切れ。今日は話してくれてありがと。またね、バイバイ」

「待ちなさっ……消えた?」

 文字通り目の前から消えた少女の居た場所を見つめ、大鳳はただ呆然とするのだった。

852: 2015/06/25(木) 08:17:44.14 ID:9YYZHmUG0
「目の前で消えた? そんなバカな話があるか――と、言いたいところだが、加賀、吹雪、どう思う?」

「子日のように特殊な状況下で転移することが可能な艦娘、という可能性が一番高いかと」

「でも、ヲーちゃん達のことを知っていた理由が分かりませんね……」

「えぇ、吹雪の言う通りそこが問題なの。それに、断言は出来ないけど、アレは艦娘じゃないと思うわ」

「では、何だというの?」

「……分からない。ただ、少なくともこれまで以上に警戒は強めるべきなのは確かよ」

「分かった、こちらでそれについては手を打っておく。後、この件は一部の者以外には口外しないように、いいな?」

「了解しました、司令官」

「警備担当と特務担当、待機艦隊には私から知らせておきます」

「……」

「どうした大鳳、何かまだあるのか?」

「……提督、これは私がそう感じただけで、確証のようなものは何も無いのだけど、あの女の子――」




――――どことなく、妖精さんに似ていたの。

853: 2015/06/25(木) 08:18:30.11 ID:9YYZHmUG0
「……」

 足下で走り回る自分達用ミニ艤装を開発した妖精さん。

「……」

 その後ろを追う妖精さん作イ級ラジコン。

「……」

 開発スペースではサバゲー用の特殊ペイント弾を製造中。

(無法地帯って、こういう状況にも使っていいのかしら)

 勝手に魔改造や危険物を作られたり、艦娘を建造されるよりはマシだと提督が一定の資材を自由に使用していいと許可を出した為、終戦後の妖精さん達の日常はこの通りである。
 実際のところ、妖精さんの技術力は艦娘よりも危険という認識をしている者も少なくはない。
 にも関わらず、妖精さんへ対しての何かしらの排斥運動が確認されないのは、実行に移せない“何かの力”が存在するからである。

「夕張、妖精さん達が何なのか考えたことはある?」

「何度か考えたことはあるけど、謎な部分がありすぎるのと私にとっては良きパートナー達というのもあって、深く考えないようになっちゃったかな」

「貴方達、とっても仲良しだものね」

「はい、ずっと一緒に居るようなものですから」

 頭と肩に飛び乗ってきた妖精さんにお菓子をあげながら、夕張は微笑む。
 その様子を見て、大鳳も夕張の言う“良きパートナー”という認識が一番正しいと実感する。
 先日の少女のことは気になりながらも、暫し夕張と共に暇そうな妖精さん達の相手を彼女もするのだった。




――――今度は誰に話を聞くのがいいかな、ねぇ、エラー。

854: 2015/06/25(木) 08:24:05.32 ID:9YYZHmUG0
次のリクエストは今日の昼12時から三つ、夜21時から三つ受け付けます

朝霜と高波は居ないので対象外です

猫娘もリクエストは受け付けません

868: 2015/06/25(木) 23:37:41.00 ID:9YYZHmUG0
・『高速戦艦のカイ』

・雷『記念日』

・『まな板の逆襲R』

・五月雨『アレ? おっかしいなぁ……』(R-18)

・球磨&羽黒『動物』

・鳥海&香取『情報』

以上六本でお送りします

873: 2015/06/28(日) 10:50:02.21 ID:NyzWya2r0
「海? 行ってらっしゃい」

「……何で俺の方から誘うと毎回断るんだ、お前は」

「人前で肌を晒すのはあまり好きでは無いわ」

「だったら鎮守府のプールはどうだ?」

「お断りします」

「……そうか」

(……ここのプールなら管理者権限で貸し切りにしてしまえば、提督と二人きりで過ごせそうね)




 断った理由、二人きりで過ごしたかったのと、他人に素肌を晒したくないから。

877: 2015/07/03(金) 08:06:44.57 ID:3INXMqsF0
・『高速戦艦のカイ』、投下します

新商品開発

878: 2015/07/03(金) 08:07:18.37 ID:3INXMqsF0
「それでは第一回、高速戦艦の会を始めマース!」

「(金剛お姉様、急にどうしたんでしょうか)」

「(親睦会的なものかと、主にあそこで微妙な距離感のある三人の為の)」

「(だからわざわざ“高速戦艦”に限定したのですね)」

「Heyビスマルクー、今日の為に色々なパンを用意してくれてThank youネー」

「礼には及ばないわ」

「リットリオとローマも彩り鮮やかなパスタをThank youデース」

「いえ、作ったのは全てローマですから」

「姉さんが作ると作りすぎてしまうもの」

「の、残したことは無いから別にいいじゃない」

「残さず……食べて……榛名は大丈夫です……」

「榛名? どうしました?」

(鈴谷よりは軽症のようだけど、榛名も軽いトラウマを抱えているみたいですね)

「――イタリア、ローマ、ちょっといいかしら?」

「……」

「……私達に、何か?」

「新しく作るパンのアイデアの為に、イタリアの一般的な食事というのを教えてもらいたいの。このパスタも食べるだけで凄く参考にはなったんだけど、良ければ材料や作り方も教えてちょうだい」

「べ、別にそれぐらいなら構わないけど……」

「Danke! 助かるわ。出来たら真っ先に試食してもらうわね」

「で、出来ればパスタとパンの組み合わせで一品……」

「いいわよ、このドイツが誇る超弩級戦艦ビスマルクに任せなさい」

「Grazie!」

「姉さんったら……」

「ローマ」

「貴女は確か、霧島? 貴女も何か用なの?」

「私のデータによると、かなりイケる口だそうですね」

「そ、そんなデータどこから……」

「細かいことは抜きにして、同じ眼鏡戦艦として今日はとことん飲みましょう」

「それは確か、ニホンシュというものね。いいわ、興味があったのは事実だし付き合ってあげる」

「(リットリオ、ローマはお酒強いんデスか?)」

「(あの子、飲み始めたらワインを数本空けるのが向こうではほとんどでした)」

「(だったら問題ないデース。この鎮守府には飲酒は絶対にoutな艦娘が居ますから、注意して下さいネー?)」

「カレーパスタもなかなかな出来です! 頑張った甲斐がありました!」

「榛名はこんなに普通にパーティーが出来るだけで満足です」




 ひっそりとその中に清霜が紛れ込んで後日自慢して回ったのは、また別のお話。

883: 2015/07/06(月) 13:12:39.09 ID:DJZ/RPcC0
・雷『記念日』 、投下します

見付けた新たな道

884: 2015/07/06(月) 13:13:20.71 ID:u6LAvU/iO
「司令官、今日は何の日か覚えてる?」

「今日?……すまん、記憶に無い」

「覚えてなくても無理無いわ。今日はね、私が司令官に会った日なの」

「雷を建造した日、か。懐かしいな」

「何だかその言い方だと凄く歳を取ったみたいに聞こえるんだけど」

「俺は取ったぞ、今じゃ立派なおじさんだ」

「言うほど老けてないじゃない。でも、出会った時より立派になったのは確かかしら」

「中庭の草むしりしてる提督が立派か?」

「当然よ、だって私達の司令官だもん」

「ははは、それを否定は出来んな」

「――ねぇ、司令官」

「何だ?」

「私にとって誰かの力になれるのは凄く嬉しいことだしし、生き甲斐みたいに思ってるわ。だからね、戦いの終わった今、自分に出来ることをずっと考えてたの」

「それで、答えは見つかったのか?」

「――“鎮守府の何でも屋”、やってもいい?」

「……具体的な話をしないと、今すぐにやってもいいぞとは言えん」

「うん、分かってる。だから司令官に先にこれだけ聞いておきたかったの。どうすれば私は――ううん、私“達”は皆の役に立てるかしら?」

「大事なことは二つだ。一つは、今お前が自分で言い直したように何でも一人でやろうとせず、出来ないことは誰かを頼れ。もう一つは、相手の気持ちを相手の立場で考えてから依頼を受けろ。今の雷なら、分かるよな?」

「当然よ。この雷様にはそのぐらい簡単に決まってるじゃない」

「なら、問題ない。ちゃんとした申請書を出して来さえすれば、加賀達も受理するはずだ」

「分かったわ。……ありがと、司令官」

「礼を言われる程のことはしてないぞ」

「いいの、私が言いたいんだから」

「こら、背中に体重をかけるな雷。結構腰にくる」

「何それ、重いって言いたいの? ひどーい」

「酷くない、酷くないから一度体勢をだな……」

「嫌」

「雷様ー?」

「いーやー」




――――私を呼び起こしてくれて、ありがとう、司令官。

888: 2015/07/10(金) 00:48:37.03 ID:0ViFVMpy0
・『まな板の逆襲R』 、投下します

成長した彼女達のある意味逆襲

889: 2015/07/10(金) 00:49:11.98 ID:0ViFVMpy0
 人によって、他人を評価する基準や判断材料が違うのは当たり前のことだ。
 容姿、性格、家柄、年収、仕事、趣味、他にも多種多様なものを総合して人は他人を見ている。
 その一つとして、彼女達は身体のある一部分に対しての評価をとても気にしていた時期があった。
 しかし、今の彼女達は以前と同じ様には気にしてはいない。
 では、今はどうなっているかというと――。

890: 2015/07/10(金) 00:49:43.21 ID:0ViFVMpy0
「あー……暑いわ―……」

「龍驤、アイス食べる?」

「おーナイスや大鳳、ありがとな」

「ちょっと大鳳、私のは?」

「ちゃんと瑞鳳のもあるわ」

「ひかひアレやな。蒸れるっひゅうんも大変ほうやな」

「食べながら話すの行儀悪いわよ?」

「たははーつい口から離すんも億劫なってもうてん。以後気を付けるわ」

「まぁでも確かに大変そうよね。祥鳳お姉ちゃんも練習後は念入りにケアしてるし」

「愛宕なんか足元に落とした物が一歩下がらないと見えないって言ってたわ」

「ピッチリとした服だと飛鷹みたいに入らなくなって慌てて買い直すなんてこともあるし」

「そういやさ、瑞鶴と葛城はどこ行ったん?」

「瑞鶴は終わってから倒れられたら迷惑だって水用意して待機、葛城はそれについて行ったんじゃない?」

「相変わらずあの子加賀にベッタリやなホンマ、葛城もやけどようやるわ」

「私にとっての浦風みたいな――」

「「それはない」」

「言い切る前に否定しないでくれない?」




 空母による着ぐるみ艦載機ショー、多少人員選考に偏りがあったのはスポンサーの意思(汗に蒸れた女子の谷間が好き)だとかいうことは決してない、多分。

891: 2015/07/10(金) 00:50:13.74 ID:0ViFVMpy0
「のぅ筑摩」

「何ですか利根姉さん」

「先日いんたあねっととやらでとある記事を見付けたのだ」

「どんな記事ですか?」

「うむ、女子の胸は平均的に大きく育つようになっておるらしいのじゃ」

「そ、そうなんですか。知りませんでした」

「そうか、これでまた一つ勉強になったな筑摩。――ところで筑摩」

「はい、何ですか?」

「お主が新しく買ったぶらじゃあのサイズは幾つだったかのぅ?」

「Dですよ、利根姉さん」

「ほほぅ、Dであったか……吾輩もちと勉強になったぞ、“F”は“D”と読むのだな」

「・・・・・・利根姉さん?」

「何じゃ筑摩」

「姉さんの胸も形が良くてとても素敵ですよ」

「……寝る」

(姉さんが胸のことで拗ねてしまうなんて困りましたね……でも、拗ねている姉さんも可愛らしくていいかもしれません)




 やっぱり平均という数字には少し気分が沈んだ利根と、やっぱり姉は可愛いとしか思わない筑摩。

898: 2015/07/10(金) 01:23:00.21 ID:cp5DEtOMO
乙です

899: 2015/07/10(金) 12:54:19.38 ID:K3Fk4P1FO

利根知らないふりとかやるなww



引用: 【艦これ】浦風「姉さんが拗ねとる鎮守府」大鳳「最近私の影が薄い鎮守府」