196: 2015/11/06(金) 21:34:32.43 ID:Hty5ueCQ0
・磯風『提督、何をしている』

・飛鷹『その手を取って』

・雲龍『握りたいもの』

・天城『見初められて』

・村雨『Girl or Lady?』

・速吸『時給850円』

以上六本でお送りします



前回はこちら




199: 2015/11/18(水) 01:44:15.98 ID:CvUsdiL00
・磯風『提督、何をしている』 、投下します

コーディネートby陽炎型

200: 2015/11/18(水) 01:44:56.77 ID:CvUsdiL00
 額に触れる手。想像していたよりも少し男らしく、普通に返すつもりが声が上擦る。
 今まで感じたことの無かった気恥ずかしさに距離を取ろうとするも、着なれない服に足を取られた。

「おい、大丈夫か?」

「……」

 抱き止める腕の優しさに胸が熱くなり、何も言えないまま提督の顔を見上げる。
 誰かがこう言っていた、“気付いた時にはもう手遅れ”と。

(……あぁ、確かに手遅れだ)

 そろそろ体勢が辛いと情けない言葉を吐く目の前の男が、私は堪らなく――。

「暫くこのままで居させてくれ、今とても気分が良い」

 他の誰かがこうも言っていた、“あの男を困らせるのは楽しい”と。
 確かにこれは少し楽しい。

「――提督、この服は、その……」

 また、言葉に詰まる。
 これは私も知っている、“提督はお世辞を言わない”。
 この磯風をここまで臆病にさせるとは、やはり提督はただ者ではない。
 夜の散歩は充実した時間だった。
 記憶はあやふやだが二人で酒を飲んだ日もとても気分が良かった。
 もっと、もっと私は――。




「今頃磯風、うまくやってんのかしら?」

「心配なら執務室に聞き耳たててきたらえぇやん」

「絶対やらないわよ」




 規則正しい寝息と、幸せそうな寝顔。
 ギュッと服を握って放さないのが愛らしく、そういえば磯風の姉妹艦にはこの癖がある者が多いなと思い至る。
 自分に似合う可愛い服とは何か、自分に似合う髪型とは何かを悩み、姉妹や仲間の力を借りて精一杯着飾った彼女は普通の女の子であり、素直に可愛いと思った。

「にしても寝不足で寝落ちとは、この落ち度は不知火のがうつったか?」

 頬を軽くつつき、暇を潰す。
 時折身をよじるが、起きる気配はない。

「ん……笑って……な?」


「寝言、か」

 つつく、つつく、つつく、つつ――突く。

「寝相は……時津風……だ、な……」




 その日、磯風は提督の指揮の元で戦い、最後は敵をアッパーで沈める夢を見た。
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録
205: 2015/11/28(土) 11:03:38.23 ID:696lXeHP0
・飛鷹『その手を取って』、投下します

自然体で周りに気を配るのは難しい

206: 2015/11/28(土) 11:04:08.66 ID:696lXeHP0
 私が不覚にも惚れてしまった相手は口が悪い。
 口喧嘩してしまうことも多々あり、デ―ト中に一切会話が無い時間が出来ることも少なくない。
 切っ掛けはほんの些細なことで、次の日には忘れている様なレベル。
 ――そんな関係が、私にはちょうどいいらしい。




「……」

「……」

 無言で劇場までの道を歩く二人。これからオペラを見に行くところなのだが、どちらからも楽しみにしているという様な雰囲気は見受けられない。
 互いに視線を合わそうともせず、ひたすらに歩を進めていく。

(はぁ……何時もより気合い入れたっていうのに、無反応とか冗談じゃないっての)

 イブニングドレスに身を包み、暁がなりたいと願う一人前のレディーそのものといって差し支えない気品を纏(まと)っている飛鷹。
 髪や化粧、その他諸々の準備を含めると、彼女はこのデ―トの為に実に六時間も費やしていた。
 それ故に、鎮守府の入口で合流してからタクシーに乗り、渋滞を避け近場で降りて歩き、劇場が視界に入った今に至るまで、およそ一時間半もの間無反応というのは飛鷹には色々な意味で耐え難かった。

(……何時もなら、馬子にも衣装ぐらいは言ってくれるのに)

 拗ねた様な、寂しげな視線を隣を歩く男の横顔に向ける。
 想いが通じ合っていればいついかなる時でも相手の考えが全て分かるなどというのは幻想であり、そこから何を考えているかは彼女には読み取れなかった。

「――手」

「きゅ、急に何よ」

「いいから手出せ」

 訳も分からぬまま言う通りにした飛鷹の手を取り、提督は再び歩き始める。
 そして少し歩くと、すぐに彼女にも何故彼が今そんなことを言い出したのかが理解できた。

「落ちそうになったらちゃんと支えてよ?」

「いいから前見てしっかり歩けアホ」

 何てことはない普段通りのやり取り。しかし、だからこそ彼女には嬉しくあり、繋いだ手をギュッと握りながら自然と笑みを浮かべるのだった。




――――気の利いた言葉は出てこんし慣れない靴と服のせいかお前の歩くスピードは遅いし変なのが居ないか周りは気になるしお前は人の顔見て前見てないし大変だったんだよこっちは。

 ――――だったら階段以外でも手を握るなり腕を組むなりすれば良かったじゃない。

――――……うるさい、察しろ。

 ――――んー? 何々?

――――マジでやめろ、踏み外して二人で転げ落ちかねん。

209: 2015/12/05(土) 01:37:09.98 ID:qxXLZ2110
「大鳳」

「どうしたの提督、眉間に皺なんて寄せて」

「……手続きが面倒って理由で着任了承の書類がうちだけ免除になったって通知が来たんだが、これまた来るってことだよな?」

「……寮、増築した方が良いわね」

「……だな」




――――近日新規艦娘数名着任予定。

212: 2015/12/13(日) 16:37:57.98 ID:nX7BHkNv0
・雲龍『握りたいもの』 、投下します

ニギニギ

213: 2015/12/13(日) 16:38:29.74 ID:nX7BHkNv0
 握る。手綱を握る。把握する。握り潰す。人心掌握。
 “握る”という言葉にも多様性が存在する。
 ――では、彼女が真に願う、待ち望む、“握る”とは何なのだろうか。




「俺が悪かった。悪かったからこの方向性は勘弁してくれ」

「美味しくなかったの?」

「不味いとは言わない。が、好みじゃない」

 イチゴ、キウイ、オレンジ、桃、メロン。
 フルーツの盛り合わせの様なラインナップが盛り付けられているのは器ではなくシャリの上であり、皿の上には色鮮やかな寿司が並んでいた。

(ちょっと珍しいのが食いたいとか言うんじゃなかったな)

「出来れば、どういうものが食べたいか言って」

「そうだな……炙りとか漬けとかそういうタイプの寿司にしてくれ」

「うん、分かった」

「それにしても、本当に寿司まで覚えてくるとは思わなかったぞ」

「握るの、好きだから」

(赤城が連れてきた時は多少心配もあったが、もう大丈夫だな。別の意味で心配はあるが……)

 最初は無機質でどこか儚い表情を浮かべていた雲龍。良くも悪くも刺激的な毎日に、柔らかな笑みを浮かべるちょっと天然な優しい艦娘となっていた。

「――提督」

「何だ?」

「お願いを、聞いて欲しいの」

「艦載機か? それとも包丁か?」

 今までは大抵その二つだったのだが、雲龍は首を横に振り違うと伝える。
 思えばその二つしかねだられたことが無かった為、提督は何を望んでいるのか見当が付かず、首を傾げた。

「――手」

「手?」

「手を、出して」

 提督は言われるがままに手を前に出し、彼女が動くのを待つ。
 ジッとその手を見つめた後、雲龍はただ静かに彼の手を握った。

「ずっと……ずっとこうして握っていられたらいいのに」

「……なぁ、雲龍。改めて聞くが、俺はただの節操無しの強欲でワガママな人間だ。それでもいいのか?」

「私は、もう多くを貴方に貰ったもの。他の誰でもない、貴方の艦娘で居させて欲しい。嫌だと言っても、もう握って放さないから」

「その頑固さは、誰に似たんだろうな」

「さぁ、誰かしらね」




 彼女の“握る”は、思いを伝える手段であり、願いそのもの。
 彼女の手から伝わった思いはとても暖かく、大切なモノを守りたいという強さで溢れていた。




――――ここを握ればいいの?

 ――――そこは握らんでいい!

217: 2015/12/19(土) 21:41:43.60 ID:NHd/p6gF0





 ――――最後に見たあの子の顔は、笑顔でした。




218: 2015/12/19(土) 21:42:11.23 ID:NHd/p6gF0
 深海棲艦との戦いは終局を迎え、新たな戦火の種火も種火のまま消えてゆき、歪だった艦娘と人の在り方は正しくなり始めようとしている。
 しかし、その正しさを万人が受け入れられる訳ではない。
 そもそも“正しいこと”や“正義”の基準など曖昧で、立場と思想と価値観の違いで簡単にひっくり返るものだ。
 清濁合わせ飲み、自分を貫き通す覚悟があれば、その行いが誰からも正しくないと思われたとしても、間違いだと断ずることは出来ない。
 ――つまり、これから繰り広げられる全ての出来事にも何一つ問題は存在しないのである。




「……生憎と、俺にこっちの趣味は無いんだが?」

「これを機会に目覚めてみませんか?」

「遠慮させてくれ」

 執務室の床に組み伏せられた提督と、笑顔の香取。
 あまり緊迫した雰囲気に感じられないように思えるが、このまま彼を頃すことなど、彼女には容易いことだった。

「それで? そちらさんの要求は何なんだ?」

「綺麗すぎる池には住めないモノも存在すると知って欲しいそうです」

「別に今だって苔ぐらい生えてるだろ」

「濁ってうっすらと泳ぐ魚が見える程度が理想でしょうか」

「今だって十分濁っているのを特殊なフィルターで誤魔化しているだけだってのに……まぁ、そっちは今回は関係無いんだろうがな」

「ともかく、こちらを着けて頂けますか?」

「何だよ、それ」

「ふふっ、周囲に被害が出ない安全な爆弾です」

「周囲には、か。そりゃ安心だな」

「あら、もう少し情けない反応を期待したのですが」

「残念ながら俺が怖いのはアイツ等が居なくなることだ、俺が氏ぬ分には別に怖くない。恨まれるのは若干怖いが」

「……本当に、羨ましい限り」

「羨ましがる必要なんて無いさ。お前ももう――」

219: 2015/12/19(土) 21:42:38.70 ID:NHd/p6gF0
「ね、子日、今日は布団に籠る日~……」

「初春、アレをどうにかしなくていいのか?」

「放っておけばよいわ。明日には落ち着いておる」

(提督のバカ提督のバカ提督のバカ提督のバカ提督のバカ提督のバカ提督のバカ……)

 風切り音が絶え間無く聞こえる初春型私室。
 本日初霜は待機の日。

220: 2015/12/19(土) 21:43:04.26 ID:NHd/p6gF0
 ――鎮守府正面海域。

「出迎えがあの大和とはな、相手にとって不足は無い!」

「あらあら、長門ったらはしゃいじゃって」

「油断するな二人とも、あの元帥艦隊に退けを取らぬと言われる鎮守府の艦娘達だ」

「そんなこと言って、那智姉さんだって憧れの艦娘に会えて興奮してるくせに」

「う、うるさい!」

 大和、赤城、伊勢の三人はその会話を聞きながら、少し予想していた雰囲気と違うことに顔を見合わせる。
 しかし、そこで気を緩める程彼女達も甘くはない。

「大和型一番艦大和、推して参ります!」

「私の認知度ってどのぐらいなんでしょうか?」

「まっ、適当にやりますかー」




 ――出迎え艦隊、戦闘開始。

221: 2015/12/19(土) 21:43:31.34 ID:NHd/p6gF0
 ――鎮守府内某所。

「目的は鬼の確保、ないし匿っている証拠の入手。各隊一・三のフォーマンセルにて作戦に当たれ。以上、状況開始」

 闇に紛れる数十もの影。今までここへ潜入した部隊とはその手際が一線を画していた。
 潜入される前に察知出来ず、潜入されてからその事態を察知したのは今回が初めてのことだ。
 ――しかし、それはあくまで防衛機能が察知出来たかという話でしかない。

「っ! 散れ!」

「ふむ……やはりこういう役回りは性に合わん」

 堂々と道の中央に構えていた武蔵。遭遇した部隊は彼女を囲むように散開し、各々特殊な形状をした武具を取り出す。

「ほぅ、艦娘と人の混合部隊とは珍しいな」

「――シッ!」

「むっ?」

 左後方から放たれ、腕に絡み付く鎖。そんなもので拘束されはしないと言わんばかりに武蔵は腕に力を込めるが、キツく食い込むだけでほどけはしなかった。

(対艦娘用装備、といったところか。これは流石に他の者達も手を焼くかもしれんな)

「ふっ……ふふふっ……面白い、戦艦武蔵、久々に本気で暴れさせてもらう!」




 鎮守府内防衛隊、戦闘開始。

222: 2015/12/19(土) 21:43:57.76 ID:NHd/p6gF0
 ――???

「あっちはうまくやってるかなー」

「うまくやってるに決まってんじゃん。だって私達の鎮守府だよ?」

「青葉が心配なのは“スクープ! 一夜でまたも半壊した鎮守府!”とかになってないかなーっと」

「きっと大丈夫だって、今回は加賀さんとか大淀さんとかストッパーが――そこに隠れてる奴、出てきなよ」

 差し掛かった廊下の曲がり角、そこからゆらりと現れた艦娘。
 右手には小型連装砲、左手には何やら文字の書かれた小刀の様な物を手に持ち、完全に話し合いなど通じない雰囲気を醸し出していた。

「うわぁ……よりによって一番やりにくい相手じゃん」

「青葉もあんまり戦いたくありませんねー……」

「――誰であろうと、この先は通しません」




 隠密部隊、戦闘開始。

223: 2015/12/19(土) 21:44:24.68 ID:NHd/p6gF0
「総員、作戦行動に入りました」

「そう、後は報告を待つだけね」

「ここは私一人でも問題ありませんし、提督のところへ向かっても大丈夫ですよ?」

「総指揮を一任された以上、ここを離れる訳にはいかないわ」

「そうですか。作戦が終了したら、また執務室が賑やかになりそうですね」

「……提督の隣は譲れません」

「私も、少し本気を出します」

 ――ちょっとー、お守り組のこと忘れないでくれない?

 ――間宮さんと伊良湖ちゃんのお菓子で今は皆大人しいです。

 ――長引きそうなら蒼龍と瑞鶴の裸踊りでどうにかします。

 ――ちょっと飛龍!?

 ――何で私まで!?

「……異常無し」

「はい」




 作戦、今のところ順調に進行中。

224: 2015/12/19(土) 21:44:50.46 ID:NHd/p6gF0
「薙ぎ払え!!」

「ってぇー!!」

「あら、あらあら」

 轟音が唸り、空気が震え、衝撃が絶え間無く海を揺らす。
 一人で二人を相手取っている大和の砲は、以前霧島と戦った時とは性能がまた向上しており、安定性と速射性が増していた。
 対する長門と陸奥は、真っ直ぐ敵だけを見据える姉とそれを柔軟に補佐する妹という連携の取れた動きを武器に対抗していた。
 一対一であれば大和が十割勝てる勝負だが、現状は七・三。不確定要素次第では一気に形勢を逆転されるかもしれないという状況だ。

(負い目が無い、真っ直ぐな戦い方……どういう形であれ、彼女達にも信念があって今この場に居るということですね)

「――なればこそ、ここで大和が負ける訳にはいきません」

「……陸奥」

「えぇ、分かってる」

 長門と陸奥の装甲を震わす“戦艦大和”の静かながら圧倒する様な気迫。
 砲撃にはより重みが増し、攻撃に転じる隙を与えない苛烈な攻めを見せ始める。

「くっ……だが、私達とて氏地を潜り抜けて来たのだ!」

「この程度で退いてちゃ、ビッグセブンの名折れよね?」

 至近弾には目もくれず、多少の被弾をモノともせず、主砲と副砲、機銃が撃てる限り戦うという不退転の意思を二人は見せる。
 止めるには轟沈寸前まで追い詰めなければならない現状――だからこそ、彼女は闇に紛れてその隙を窺っていた。

「っ!? 陸奥!」

「えっ――」




 彼女達が最後に見たのは、一切脅威も恐怖も敵意も感じさせない、気にも留めていなかった三人目の敵だった。

225: 2015/12/19(土) 21:45:17.21 ID:NHd/p6gF0
「最初から降参は、してくれませんよね?」

「そんなことは出来ん」

「当然! こんな機会滅多に無いもの!」

「……仕方ありません。一航戦赤城、参ります」

 実のところ、艦娘とこうして真っ向から戦うことになるのがかなり久しぶりな赤城。故に、一つだけ心配があった。
 それは――。

(どのぐらい手加減すればいいのかしら?)

 ――ん゛にゃー!?

 ――真上だと!?

(この後お夜食とか出るんでしょうか……)

 ――那智姉さん! 対空! 対空射撃!

 ――くっ、動きが早すぎる……。

(お茶漬けとかいいですね)

 ――最初からこれだけの数を飛ばしてたっていうの? こんな暗い中で!?

 ――秘書艦加賀以外も空母は全員艦載機という名の魔物を飼っているとは聞いていたが、これ程とは……。

(あっ……そういえば今日は間宮さん達もう寝てましたね……残念です)

 ――カツカレー……足りなかった……かな……。

 ――むしろ……食べ過ぎ……だ……。

(電ちゃんなら作ってくれるでしょうか……)

「――? 第二次攻撃隊は……いりませんよね?」




 赤城、夜食はおにぎりに決めた模様。

235: 2016/01/01(金) 19:59:50.96 ID:pRGGjO9G0
「提督、明けましておめでとう」

「あぁ、明けましておめでとう大鳳」

「……それだけ?」

 新年らしく着物を着て、普段より大人びた雰囲気の大鳳。
 小首を傾げる仕種も子供っぽさは無く、どこか女性らしさを秘めていた。

「それだけって、何のことだ」

「……お年玉」

「子供かお前は。それより大鳳、若干顔が赤いが大丈――ぶっ!?」

「おーとーしーだーまー」

「浦風! 浦風ぇっ! ちょっとこの酔っ払い引き取りに来い!」

「ふふっ、つかまえた~」

 ていとく は ひっしにもがいている!

 しかし、ぬけだせなかった。

 たいほう の きくずれる!

 たいほう の いろけ が あがった。

 ていとく は さらにひっしにもがいている!

 しかし、たいほうにしっかりとおさえこまれてしまった!

「んー……あつい」

 たいほう の ゆうわく!

 たいほう の いろけ が グーンとあがった!

「浦風ー!」

 ていとく の たすけをよぶ!

 しかし あたりにおおごえがむなしくこだまするだけだった……。

「……わたしのこと、きらい?」

 たいほう の なみだめ!

 こうかはばつぐんだ!

(……最近相手してやれてなかったし、今日ぐらいはいい――)
「――提督さん?」

 押し倒し返した体勢、着崩れて涙目の大鳳、半分脱ぎかけの提督、若干頬が赤らんでいる浦風、導き出される結論は――。

(どう転んでも俺にはハードそうだな……)

 ていとく は めのまえがまっくらになった……。




――――提督、新年早々やつれてるけどどうしたの?(記憶無し)

 ――――……伏兵が居た。

――――う、うちが栄養あるもの作るけぇしっかり食べて元気出すんじゃ!(記憶あり)

240: 2016/01/12(火) 09:18:05.93 ID:IYIFGmMGO
「タコアゲ、ヤリタイ」

「オレ、上ガリタイ」

「子供ネ二人トモ……マ、マァ私モ付キ合ッテアゲテモイイケド」

「リトは素直じゃないですネー」

「済マナイガ、頼ム」

「別に気にしなくていいわ、暇してたし」

「先輩先輩、蛸って上がるものなの?」

「ヒィッ!?」

(そういえば昔蛸に絡み付かれて蛸嫌いになってたわね、瑞鶴……)

「レキちゃん、どんな凧にしたの?」

「磯波」

「……え?」

「磯波ガ鏡ノ前デ――」

「ひやぁぁぁぁぁっ!?!?!?」

「ほっぽちゃん、楽しい?」

「ウン、楽シイ!」

「リト、もっと風をうまく掴むデース」

「言ワレ、ナクテモ……分カッテルワヨ!」

(これは暫く見てるだけで楽しめそうネー)




 尚、スイカクがこっそり上げた凧は烏が何故か群がった模様。

241: 2016/01/12(火) 10:19:34.86 ID:IYIFGmMGO
「おっそーい!」

「羽子板で土煙上がるような動きするアンタの方がおかしいのよ……」

「はいはーい、曙ちゃんも罰ゲームね」

「く・そ・提・督・ラ・ブっと。うん、良い感じに書けたかな」

「ちょっと時雨! 何てこと書いてんのよ!?」

「何って、本当のことを書いたまでさ。そのまま提督のところに行ってみたらどうかな?」

「しぃぃぃぐぅぅぅれぇぇぇ……」

「シャッターチャンスktkr!」

「っ!? 何勝手に写真撮ってんのよこのバカなみー!」

「朧的には、力作」

「すっごーい、本物の蟹っぽい!」

「筆、くすぐったかったよぉ……」

(いやー新年早々良いもの見せてもらったなー新作は潮ちゃんのちょっとえOちぃのにしよっかねー)



 後日、秋雲をフル装備で追いかける潮の姿が鎮守府で見かけられたそうな……。

244: 2016/01/12(火) 23:11:47.39 ID:w/iLDdOF0
・天城『見初められて』 、投下します

天城越えの手順、まず学ランを着て前を開けます、そしておもむろに眼鏡を装着し、テ・イ・ト・クと唱えましょう

きっと明石が修理してくれることでしょう

245: 2016/01/12(火) 23:12:22.51 ID:w/iLDdOF0
「――お見合い、ですか?」

「……あぁ」

 執務室に呼ばれた天城に告げられたのは、自分への見合い話だった。
 艦娘に見合い話を持ち込むなど普通ならばあり得ないことだが、相手が相手である為、提督も眉間に深く皺を刻みながら彼女に話すことを決めたのだ。

「当然ながら一般人じゃなくて相手は提督だ。たまたまここへ訪れた時にお前を見かけたらしくてな、その時に……まぁ……一目惚れ、したらしい」

「は、はぁ……」

 突拍子も無い話に天城は困惑した表情を浮かべながら、提督の次の言葉を待つ。

「一応念のために言っておくが、断りたいなら断っていい。それと、相手のことは俺もよく知ってる。生真面目を絵に描いたような奴でな、話を聞いた時は耳を疑ったぐらいだ」

「そんな方が、どうして私を?」

「お前、たまにその辺の建物の裏とかで歌ってるだろ。そこに出くわしたらしくてな、そのまま彼の言葉を伝えるなら、“女神だと思った”そうだ」

「め、女神ですか!?」

 女神と言われ、天城は目を白黒させる。
 言った提督も複雑な心境なのか、そこで一度話すのを止めた。

「えーっと……私はどうすればいいんでしょうか?」

「お前が会ってもいいと思うなら、会ってみるといい。気に入らないなら断ればいい話だ。そもそもそんな気が無いなら見合い自体を断っても構わん」

(お見合い、かぁ……)

「――会うだけ、なら」

「……そうか」

 提督としては断って欲しかったところだが、艦娘の意思を最大限尊重するのが信条である以上、天城が行くと言うなら止めるという選択は彼には無かった。
 ――こうして、前代未聞の艦娘と提督の見合いというものが実現することとなったのだった。

246: 2016/01/12(火) 23:13:25.49 ID:w/iLDdOF0
「あ、ああああ天城さん! こうしてお話出来て光栄です! 自分は奥手提督といいます!」

「あ、あはは、ありがとうございます」

(悪い奴ではないんだが……)

(おぉおぉ顔に出とるのぅ、愉快愉快)

(卯月ちゃんにバレたらお説教されちゃうだろうなぁ)

 見合いの席に同席することになったのは、当事者二人に提督、元帥、潮の五人。
 艦娘と提督の色恋沙汰が大好きな老人とそのお付きと被害者達という組み合わせだ。
 奥手提督は見るからに体育会系で、その勢いと体格に天城は若干引き気味になっていた。

「天城さん!」

「は、はい」

「す、す……」

「す?」

「す――好きな歌は何ですか!?」

「えーっと、『ヒカリ』、『空のリフレイン』、『翼』などでしょうか」

「り、りふ? 残念ながらどれも存じ上げませんが、さ、さぞ良い歌なんでしょう!」

 必氏な奥手提督、終始苦笑いの天城、こめかみを抱える提督、肩を震わせる元帥、LINEで実況中の潮。
 見合いの席に選ばれた少しお高めな料亭の雰囲気とはかけ離れた空気に、最初に動いたのは元帥だった。

「さて、儂としてはこの縁談がうまくいってくれることを期待しておるのだが、どうじゃお二人さん?」

「お会いして確信しました、やはり天城さんは私の理想の女性です!」

(うーん……悪い人には見えませんけど、そういう風にはちょっと……)

 どう断ろうかと悩む天城、その表情から提督が口を挟もうとした次の瞬間、襖が急に開き一人の艦娘が乱入する。
 その表情はいつも通りそのものだが、手には包丁が握られており一瞬場に緊張が走ったのを誰もが感じ取った。
 そして、いつも通りの口調で一言言い放った。




「天城は私の妹だから、ダメ」

247: 2016/01/12(火) 23:13:53.28 ID:w/iLDdOF0
「雲龍姉様」

「何?」

「お見合い、正式にお断りしてきました」

「そう」

「あの方には、少し悪いことをしてしまいました」

「どうして?」

「最初からお断りすることになるだろうとは思ってましたから」

「なら、気にしなくていいと思う」

「でも、包丁持って脅すのはやり過ぎですよ、雲龍姉様」

「脅してない、たまたま手に持ってただけ」

「もう、姉様ったら……でも、何だか少し嬉しかったです。ありがとうございます、雲龍姉様」

「――するなら、提督とすればいい」

「へ?」

「お見合い」

(提督とって……姉様的にそれはありなんでしょうか……)

 つい先日ケッコンカッコカリをして心なしか幸せオーラを漂わせている姉の単純な様で複雑怪奇な思考に悩まされつつも、炬燵で三人で過ごす時間は確かに失いたくないものだと再認識するのだった。




――――……ずいかくしぇんぱ~い……むにゃむにゃ……。

 ――――この子の面倒を見るのも、一人だと大変。

――――ふふっ、確かに心配ですね。

248: 2016/01/12(火) 23:14:20.82 ID:w/iLDdOF0
~奥手鎮守府~

「今回は残念じゃったのぅ、まぁお前さんなら良い相手が必ず見つかるはずじゃて」

「爺さんの言う通りだ、お前はもう少し視野を拡げて周りを見てみろ」

「周り……ですか……?」

 断られて意気消沈している奥手提督の元を訪れた二人。
 その二人に言われ、彼は自分の周囲に居る女性の顔を思い浮かべる。
 未だに面と向かって会話が出来ない秘書艦羽黒、常に一定距離を保ち決して近付いて来ない不知火、話し掛けると十歩飛び退く名取。

「……魅力的だと思える者は居ますが、自分に縁があるように思えません」

「ほぅほぅ、魅力的だと感じる艦娘はここに居るんじゃな?」

「……わざとらしいぞ、爺さん」

 執務室のドアの向こうに聞こえるように声を強めた元帥に呆れた声を漏らしつつも、提督自身も心の中で頑張れよと三人の艦娘にエールを送るのだった。




――――艦娘は提督に似るなんて迷信があるが、強ち間違ってないのかもしれんな。

 ――――雲龍姉様が自由過ぎるのは提督に似たのでしょうか?

――――俺はあそこまで自由人になった覚えはない。

252: 2016/01/25(月) 20:05:12.85 ID:WVVsPJXk0
「とおぉぉぉ~」

「熊野、その掛け声気が抜けてタイミングズレそうなんですけどー」

「し、自然に出てしまうのですから仕方ありませんわ」

「集中しないとホントに手を突かれるよ鈴谷」

「これがホントのお手突き、ですわ」

「ちょっと三隈~笑わせないで――」

「とおぉぉぉ~」

「~~っ!? いっったいし~!」

「ご、ごめんなさい鈴谷。大丈夫ですの?」

「ボク、明石さんに高速修復軟膏貰ってくるよ」

「三隈ももがみんについていきます」

「正月早々こんなのマジであり得ないんですけどぉ……」

「よ、よそ見をした鈴谷もいけませんのよ?」

「変な声出す熊野が悪いに決まってんじゃん。うっわ、腫れてきたし」

「……本当に、ごめんなさい」

「――ぷっ」

「す、鈴谷?」

「この程度で腫れる訳無いじゃん。鈴谷の演技力も大したもんでしょ?」

「演技……そうでしたの。大したことなくて、本当に良かったですわ」

「へっ? いや、そ、そうだし、杵で百発殴られたって鈴谷は平気だよ」

「――じゃあ、試してみてもよろしくって?」

「・・・え?」




「軟膏貰ってきた……よ?」

 ――とおぉぉぉ~!

(三隈ももがみんとあんな風にもっと仲良くなりたいですわ……)

 ――ちょっ、うわっ!? 頭にフルスイングはマジでヤバイんですけどぉ!?




 実は本当に腫れてて箸が握れずあーんされる鈴谷は、また、別のお話。

253: 2016/01/25(月) 20:05:46.55 ID:WVVsPJXk0
「ハラショー、これはいいな」

「だかりゃあ、あかちゅきが一番ってこちょよね?」

「いかずちだもん……かみなりじゃないもん……」

 平気なヴェールヌイ、完全に呂律の回らない暁、涙目で普段は見せないような弱気な姿を見せる雷。
 駆逐艦娘に甘酒を振る舞っていた間宮が気付いた時には遅く、食堂は大惨事になっていた。
 実は厨房もこの時甘酒を味見した伊良湖の暴走で大変なことになっていたのだが、間宮は知る由も無い。

「あっ、陽炎ちゃんに吹雪ちゃん! 二人は平気――」

「なーにー? あたしとーヒック、おはなししたいのー?」

「はい! 吹雪は平気れす!」

(じゃ、ないみたいね……他に大丈夫そうな子は……)

「んふふっ、酔うと皆こんな風になるのね、んふ、んふふ」

「ビスマルク、重いよ、起きてってば……」

(早霜ちゃんは大丈夫……大丈夫なのよね、アレ。レーベちゃんは何故かビスマルクさんに押し潰されかけてるし助けないと)

 あたふたする間宮さんの氏角、そこで今行われようとしているある遊び。
 それは――。

「ぐへへーよいではないかよいではないかー」

「や、やめてよぉ漣ちゃん……」

「ほんのり上気した肌、嗜虐心をそそる涙をうっすらと溜めた目、着物の緩んだ胸元から見える豊かな双丘、これを放置する手があるか? 否、否ですよ潮!」

(ダメだ……漣ちゃん完全に酔っちゃってる……)

 ※平常運転です。

「秋雲ちゃん、目が怖いのです……」

「はぁ……はぁ……ちょこっとだけ、ちょこっとだけスケッチのネタにする為に回すだけだから……」

「はにゃー!?」

 甘酒が苦手で飲まなかった為酔わずに済んだ電。しかし、それが却って彼女に不幸を招いた。
 ある種のリミッターを外す作用が例の物には入っているらしく、今の秋雲から逃げるには戦艦クラスの力が必要だったのだ。
 そして、後日イラストを描こうとした彼女は当然以下略である。




 主犯卯月:背中に辛子を塗られ、六十度の熱湯で軽く茹で兎にされる。尚、全然懲りていない模様。
 共犯時雨&谷風:節分の豆を艦娘全員分(提督から見た)年齢だけ小袋に分けていく作業の手伝い。尚、金剛の袋に百以上入れてあげた模様。
 潮&電本:検閲により販売差し止め。

260: 2016/01/30(土) 01:27:04.82 ID:sVAMow7+0
タイトル変更

・村雨『彼女の見付けたもの』、投下します

事務員は五月雨

261: 2016/01/30(土) 01:27:41.30 ID:sVAMow7+0
 それは明確にそうだと思わせる決定的な要因が存在するものではない。
 ふとした時に、何となく、個人の価値観に基づいて、その人物はそうであると判断されるものだ。
 故に、彼女がそうなったと提督が判断したことに、全ての人間が納得するような答えは存在しないのである。




「――“村雨の、ちょっと良いとこ、見せたげる”、だったか?」

「ちょっ、やめて、思い出すと恥ずかしくなっちゃうからー」

「まぁ確かに見せてはもらったが」

「……今思うと、提督って結構変Oだったり?」

「誰が変Oだ、艦隊戦の話に決まってるだろ」

「ふふっ、ちゃんと分かってるってば」

「どうだかな」

「――ねぇ、提督」

「何だ?」

「艦娘に関する法律が出来るかもしれないって、ホント?」

「……そういう動きがあるのは、確かだ。艦娘を人間と変わらない存在として認識している人間が増加している一方で、やはり違う存在だと主張する人間もいる。戦時化とは違って今や街中を艦娘が好きに出歩くのが黙認された現状で、国としては何か大きな問題が無い今のうちに作ってしまいたいんだろう」

「提督は……どう考えてるの?」

「悪いことすりゃ裁かれる、何もしてなけりゃ裁かれない、例えそうなったとしても何の問題もない。――表向きは、だろうけどな」

「……」

「それで? こんな話を俺にしたのはどうしてだ?」

「ふふ~ん、ヒ・ミ・ツ」

「ほぅ、俺に隠し事か」

「乙女に秘密は付き物よ?」

「乙女って程ウブでもな――痛っ!?」

「ん~?」

「ムラサメハオトメダナー」

「よろしい!」

(はぁ……やりたいことを見付けたのを喜んでやるべきなのか、わざわざそんな地雷源みたいな場所に飛び込むのはやめろと言うべきなのか……まぁ、後者を俺が言うわけにはいかんか)

「提督」

「ん? 何だ?」

「――村雨の、ちょっと良いとこ、また見せたげる!」




 ――はいはーい、こちら村雨艦娘相談所よ。今日はお姉さんにどんな相談かしら~?

264: 2016/02/01(月) 00:04:11.58 ID:bEiwjw1B0
・速吸『時給850円』 、投下します

バイト艦速吸

265: 2016/02/01(月) 00:04:43.88 ID:bEiwjw1B0
「提督さん、仕事を下さい!」

「アイドルマッサージ屋喫茶店メイド喫茶パン屋服飾万屋夜警監視員イベント運営委員その他好きなものを選べ」

「一番時給の良い場所でお願いします!」

「いや、うちに時給制度は無いんだが……」

「じゃあ、賄いのあるところで」

(一体どういう生活してきたんだコイツ……)

「とにかくまずは喫茶店に行ってこい、責任者の金剛には俺から話を通しておく」

「ありがとうございます! ところで提督さん、段ボールと新聞紙ってどこでもらえますか? ジャージ一枚だと流石に寒くって……」

「・・・ちょっと待ってろ。荒潮、至急執務室まで来い。繰り返す、荒潮は至急執務室まで」

「あっ、後この辺で食べられる野草がいっぱい生えてるところとか知りませんか? それと、寮って家賃はどのぐらいなんでしょう?」

「野草については詳しい奴が――ってそうじゃない。お前にはまず一般的な生活ってのを教えてやる」

「は、はぁ……」




 仕事の前に衣食住の問題が無いことや施設は自由に使用出来ること、補給用燃料は誰も狙っていない等の説明に小一時間かかりました。

266: 2016/02/01(月) 00:05:18.47 ID:bEiwjw1B0
「よろしくお願いします!」

「よろしくデース」

「カレー担当の比叡です! カレーの事なら任せて!」

「フロア担当の榛名です。分からないことがあれば榛名に聞いてくれれば大丈夫です」

「経理と会計担当の霧島です」

「それで、私は何をすればいいんでしょうか?」

「榛名と一緒にフロアをお願いしマース」

「了解です!」

「後、一つ聞いておきたいのですが、貴女は何か特技は持っているかしら?」

「特技ですか? 特技なのかはちょっと分かりませんけど――」




「三百八十七グラム」

「こっちはどう?」

「二百四十五ミリリットル」

「……えぇ、どちらも量ってみたけど正しいわ」

「ひぇー……」

「面白い特技デスネー」

「元々は給油して減った分をすぐに確認出来るようになればいいなって思ったのがきっかけなんです。量り売りしてたので」

「は、量り売り? 燃料の、ですか?」

「結構需要はあったんです。戦争が終わって廃業になっちゃいましたけど……」

「ちょっと地味ですけど、これはこれでありかと」

「グラムでしっかり管理出来るのは良いデスネー」

「お客様に合わせて量を調節しやすいです」

「あのー……」

「どうしたデース?」

「この特技で賄いが豪華になったりしますか?」




 速吸の賄いはカレーにトッピング三品まで自由となりました。

283: 2016/02/07(日) 15:39:34.26 ID:6aC4VHUy0
・春雨『始めてのお出かけ』 、投下します

春雨ノ…海ニ…沈ンデ…イキナサイ(グルグル目)

284: 2016/02/07(日) 15:41:07.27 ID:6aC4VHUy0
 トレードマークの白い帽子を片手でおさえながら、彼女は彼の元へと駆けていく。
 待ち合わせはヒトヒトマルマル、鎮守府を出たのがヒトヒトマルマル。
 どこでもドアでも持っていない限り、鎮守府の前が待ち合わせ場所でもなければ確実に遅刻である。

「――し、司令官! 遅れてごめんなさい!」

「別に急ぐ用も無いし構わんさ。どっかの古鷹型みたいに三時間寝坊されたら流石に怒るがな」

「服がなかなか、決まらなくって……」

「とりあえず一回息を整えろ、通行人が思わず振り返る走りっぷりだったぞ」

「だって、楽しみに、して、たから……ふぅ~……」

 深呼吸をしてようやく落ち着いたのか、春雨は乱れた髪を手で軽く整え、にこりと微笑む。
 そこにある真っ直ぐな好意は誰から何度向けられても気恥ずかしくなるもので、提督は視線を逸らし、代わりに手を差し出した。

「行くか」

「はい!」

 飛び付くように握られた手。“白露型は犬だ”と誰かが言っていたのは強ち間違いでもないと思いながら、白い帽子に視線を落とす。
 今日はその中に住人は居らず、完全に二人っきりだ。

「――? 司令官、どうしたんですか?」

「いや、なんでもない。それより今日はどこへ行きたいんだ?」

「あの、実は前から気になっていたのになかなか行く機会が無かったお店があって……」

「そうか、じゃあとりあえずそこから行ってみるか」

 淡い桃色のセーター、赤のチェックスカート、可愛らしいショルダーポーチ。
 きっとそれらのどれか一つには二人で選んだものが含まれており、お気に入りなのだろうと提督は考える。
 ここには居ないその子の“ドウダ、可愛イダロ?”という声が聞こえた気がして、彼はなんとなく帽子をぴょこぴょこさせながら横をついてきている春雨の頭を繋いだ反対側の手で撫でた。

「ひゃうっ!? 急にどうしたんですか?」

「いつもは撫でようにもアイツが居るから今撫でてみた」

「びっくりしちゃいますからいきなりはやめてください」

「その割には嬉しそうだが?」

「それは……そうですけど……」

 帽子を少し下に引っ張り、目を隠す春雨。
 そんな仕種も可愛らしいなと思いつつ、目的地への道中そんな他愛もないやり取りを彼は繰り返すのだった。

285: 2016/02/07(日) 15:41:40.45 ID:6aC4VHUy0
「――なぁ、春雨。ここか? 本当にここか?」

「はい、ここです」

「そ、そうか……」

 思わず念入りに確認をしたくなる店構え、内装、メニューの数々。
 おおよそデートには似つかわしくないその店で、春雨は目を輝かせていた。

(春雨丼? 春雨巻き? メニューから料理の想像が出来ん……)

「司令官はどれにしますか?」

「えっ、あぁ、うん、春雨はどうするんだ?」

「悩みましたけど、やっぱり春雨丼と麻婆春雨に決めました」

(何をどう悩んだか具体的に教えてくれれば参考になりそうなんだが、さっぱり分からん……)

 こういった場面で同じものを頼むのがタブーであることぐらい提督も重々承知している。
 しかしながら、挑戦し尚且つ春雨も喜びそうなメニューがどれかなど彼には見当も付きそうになかった。

(えぇい、こうなったら適当に指して決めてやる!)

「じゃあ――これで」




「お待たせしましたー春雨丼に麻婆春雨、春雨焼きでございまーす」

 注文した料理がテーブルに並び、春雨は姉妹に見せるのだとスマホを構える。
 その撮影の間に提督は料理の材料などを推察する。

(春雨丼は春雨を中華餡と絡めてご飯の方にも調理が施されてる感じか。春雨焼きは……何だこれ、モチーフはたこ焼きか? 周りは春雨なんだろうが焼いてるから中身が見えん……)

「司令官、もう大丈夫です。早く食べないと冷めちゃいますよ?」

「あ、あぁ」

 言うや否や春雨丼に箸をつけ始める春雨。その様子をジッと見つめながら、彼女の反応を待つ。
 一口、二口と口の中に消えていく春雨丼。その度に溢れる笑みが、味を雄弁に語っていた。

(美味いのか、アレ。ならこれもきっと大丈夫なんだろうな……多分)

 恐る恐る、一口大の丸い物体を口許へと運ぶ。そして、意を決して口の中へ放り込んだ。

「司令官、どうですか?」

「カリカリの春雨の層とプチプチとした春雨らしい食感の層、最後にト口リとしたピリ辛のあんが口の中に広がって、面白いな」

「美味しそう……春雨も一つ食べたいです」

「あぁ、ほら」

 皿を春雨の方に近付ける提督。しかし、何かを考えるような素振りを見せた後、もじもじとしながら彼女は箸を置いた。

「……あ、あーん」

「……」

 ――この時、提督の頭を過ったのは朝潮に待てをした時の反応だった。

286: 2016/02/07(日) 15:42:07.85 ID:6aC4VHUy0
――――デートハドウダッタ?

 ――――……司令官が意地悪だった。

――――フーン? ソレハ良カッタナ。

 ――――良くないよぉクーちゃん……。

290: 2016/02/24(水) 20:28:30.98 ID:HNvGqrhtO
リアルシュラバヤ沖海戦中なのでまた遅れます、本当に申し訳無いです…

日曜日には確実に更新します




加賀さんが艦これ改で初正規空母でした

291: 2016/02/24(水) 20:29:08.03 ID:RBZXVXAxo
報告乙



引用: 【艦これ】大鳳「衣食住に娯楽の揃った鎮守府」浦風「深海棲艦も居るんじゃ」