297: 2016/02/28(日) 21:20:34.29 ID:GywQrqR2O


前回はこちら


「大淀、五十鈴は?」

「イオナ級の潜水艦が出たら行くそうです」

「アイツは良い勝負しそうだからな……」

「ちょっと待って、いくらなんでも積みすぎじゃない!?」

「マスター、爆雷とソナーガン積みはロマンです」

「身体にくくりつけられても発射出来ないんだけど!?」

「ヴェールヌイ、出撃する」

「やめてヴェールヌイちゃん、この艦隊ツッコミが少ないからウォッカ置いて早く爆雷持ってきてー!」

「吹雪、そういう君も寝巻きだよ? 良いボケだね」

「皆準備おっそーい!」




一時間後、こんな艦隊に海域は攻略された
艦隊これくしょん ‐艦これ‐ 艦娘型録
298: 2016/02/28(日) 22:02:12.60 ID:8bUT7qS7O
「日向ー対抗して瑞雲ガン積みしなくていいからねー」

「タービンガン積みのお前には言われたくないな」

「ご飯を回収しに行くっぽい?」

「ご飯を回収したらお茶ですねー」

「何で北上さんと一緒じゃないのかしら、編成が悪いのよ……」

「艦戦ガン積み? いいけれど」




鎮守府にガン積みブーム到来中

306: 2016/03/09(水) 23:01:24.37 ID:GRV+Gax60
 泣くことを忘れ、怒ることを忘れ、悲しいを忘れ、楽しいを忘れた。

 消耗品に感情はいらない、そう司令官は言った。

 だから、ただ毎日深海棲艦と戦った。

 ある日、司令官は捕まった。

 次はどこの海域へ行けばいいか捕まえに来た人に尋ねたら、暫く戦わなくていいんだよと言われた。

 その後、連れて来られた鎮守府で言われた通り部屋で次の戦いを待った。

 ――それは、雪の降る寒い冬の日の事だった。



「弥生、あの時凄く寒かったよ」

「部屋にずーっと引きこもってたらキノコが生えちゃうぴょん。だから換気してあげただけぴょん」

「雪玉、投げられた」

「手が滑っただけでぇーっす!」

「……怒ってないから、ちょっとそこに座って」

「うーちゃんは賢いから騙されないぴょん、弥生のその顔は怒ってる時の顔だぴょん!」

「怒って、ないよ?」

「絶対絶対ぜーったい怒ってるぴょん!」



 弥生には特別な思い入れのある曲がある。
 泣き顔でもなく、鉄パイプも持っていなかったけれど、彼女にとっては、卯月こそが笑顔を再び取り戻すきっかけを与えてくれた存在だった。



――――トラブルメイカーの方が合ってそうだがな、アイツの場合。

 ――――卯月は誰かの笑顔が無いと氏んじゃうって言ってたよ?

――――やれやれ……本当に厄介な兎だな、お前の妹は。

 ――――睦月にとってはただちょっとイタズラが好きな可愛い妹なのですよー。

315: 2016/03/14(月) 18:20:17.26 ID:Mnpv0MUNO
「うっひゃーやっぱすっげー」

「こんな格好をするだけでいいの?」

「うんうん、いやー雲龍さんスタイル的にもバッチリだし捗るわー」

「何だかよく分からないけど、新しい包丁お願いね」

「秋雲さんにまっかっせなさーい。で、それどんな包丁?」

「これ」

「……ん?」

『最高級包丁、百年研がなくても大丈夫! 二百九十八万円』

「はっは~いやそんなまさか」

『二 百 九 十 八 万 円』

「……う、雲龍さ――」

「包丁、お願いね」

「アッハイ」




 一ヶ月後、満足そうな雲龍の前で真っ白に燃え尽きた秋雲の姿があったそうな。

333: 2016/04/06(水) 19:51:38.59 ID:spruwVTO0
・朝潮『いぬのきもち』、投下します

334: 2016/04/06(水) 19:52:04.62 ID:spruwVTO0
 誰からも許された訳ではない一人の散歩。
 宛もなく、ただ足の赴くままに街を歩く。
 その足がとある店の前で止まったのは、見慣れた顔を見付けたからだった。

「――朝潮、何してるんだ?」

「っ!? し、司令官?」

「何をそんなに驚いてるんだよ。見てたのは、コイツか?」

 ――わんっ!

「犬、好きなのか?」

「別に好きかと聞かれるとそこまでではないのですが、この子は何故か気になってしまって……」

 ――わふぅ……わふっ!。

(そう言われると確かにどこか気になるな、この犬)

 少し眠気が来たのかあくびをして一度頭を下げるが、気合いを入れるように吠えてしっかりこちらを見つめてくる雑種らしきもふもふの犬。
 朝潮に話を聞くと、誰かが近寄ってくると去ってゆくまでこうしてジッとこちらを見つめてくるそうだ。

「まだまだ遊び盛りでそんな訓練も受けてそうには見えないんだがなぁ……」

「この子自身の性格なのかもしれません」

 誰に言われた訳でも教えられた訳でもなく、自然とそうしてしまう。
 その姿が誰かと重なって見え、気になった原因が何であるか理解する。

(待てって言われたら餓氏するとしても食わなそうだな……)

「――司令官? 私の顔に何かついていますか?」

「目と鼻と口がついてる」

「?」

 真剣に考え込もうとし始めた朝潮の頭を撫でつつ、値札を見た。
 小言が何方向かから飛んでくる程度で済むゼロの数がそこには並んでおり、財布の中の諭吉で足りるかを頭の中で確認した後、念のために確認をする。

「――コイツ、飼いたいか?」

335: 2016/04/06(水) 19:52:31.53 ID:spruwVTO0
「あら~」

「もふもふ尻尾に小さい身体、可愛いです」

「……んちゃ」

「一言の相談も無しに買ってきたの?……まぁ、いいけど」

「可愛いわねー朝雲姉ー」

「か、噛んだりしないわよね……?」

「名前は綿雲です。皆、出来る範囲でいいので飼うのを協力してもらえないでしょうか」

 それぞれ肯定的な返事を口にし、朝潮はほっと胸を撫で下ろす。
 当の本人(犬)はというと、誰の方を向けばいいのか判断がつかず、グルグルと部屋の中心で回っていた。

「綿雲、今日からここがあなたの家です。明石さんが外に犬小屋も作って下さるそうなので、楽しみにしてて下さい」

 ――わんっ!

 雰囲気からようやく自分の主人を朝潮と判断し、綿雲は彼女の方を向いて一度鳴く。
 そして、抱き上げられると糸が切れたように静かに寝息を立て始めるのだった。




――――全く、何でこんなところに来たのかしら……。

 ――――わふ?

――――っ……す、少しだけだからね。




 世話の頻度は意外にも満潮が高い模様。

341: 2016/05/03(火) 00:43:44.84 ID:nrp8O1QP0
・鳳翔&葛城『二日灸』、投下します

鳳翔さんだって女の子…子?

更新遅れていて申し訳ない

342: 2016/05/03(火) 00:44:14.25 ID:nrp8O1QP0
「鳳翔さん、あの……初めてなので、優しくして下さい」

「えぇ、最初は少し戸惑うかもしれませんけど、すぐに気持ち良くなりますから」

(……何かいかがわしく聞こえるのは青葉がおかしいんでしょうか?)

「んっ……ちょっと、ムズムズします」

「あまり動くと危ないですよ」

「うんうん、動くと危ないから我慢して下さいね天城さん」

(主に撮影的な意味で)

「お灸を据えるのなんていつ以来かしら。懐かしいわ……」

「こんなことも出来るなんて、やはり鳳翔さんは皆さんが言うように凄い方なのですね」

「ふふ、ちょっと皆より長生きなだけよ」

(そういえば、鳳翔さんって艦娘になって何年になるんだろ……)

「それじゃ火を点けますね」

「何だか、緊張してきました……」

「大丈夫です、私達の肌ならそうそう火傷にはなりませんし」

「そもそも艦娘にお灸を据えて意味があるんですかねー」

「桃の節句や端午の節句、そういったものと同じですよ。私達が艦娘だからこそ、こういったことを疎かにしてはいけません」

「艦娘だから、か。青葉、ちょっと目から鱗が落ちた気分です」

「やっぱり、鳳翔さんは凄い方です」

「あらまぁ、二人ともおだてても何も出ませんよ?」

「――そういえば、司令官には二日灸してあげないんですか?」

「……提督に、ですか」

(あら? 鳳翔さんの様子が急に……)

「ここのところ店に顔をお出しになりませんから、便りが無いのは良い便りと言いますし、あの人には必要ありません」

「ソ、ソウデシタカー」

(こ、心なしかお灸から感じる熱が増したような……それに、背中になんともいえない重い空気を感じます……)

「新らしく着任する子も次々と増えていますし、仕方ありません。私の店で憩う暇も無いのでしょう」

「あ、あの~非常に恐縮ですが青葉はこれから取材の記事をまとめないといけないので失礼しまーす!」

「青葉さん、まだ途中――で、出ていってしまいました……」

「そういえば、加賀も最近めっきり顔を見せなくなりましたね。龍驤も忙しそうでしたし、時折誰も来ない日も……」

(……私、お灸が終わるまでこの話を聞かなければならないのでしょうか?)




 健全な精神は健全な肉体に宿るというが、病は気からともいう。
 天城の話を聞いた鎮守府の面々が鳳翔の店へ通う頻度を増やしたのは、言うまでもない。

346: 2016/05/12(木) 12:04:40.70 ID:1X8ZBZlg0
・間宮『ご飯を食べてくれるということ』 、投下します

待つことも戦いである

347: 2016/05/12(木) 12:05:09.81 ID:1X8ZBZlg0
「――間宮さんは、どうしてここへ?」

 不意に伊良湖ちゃんにそう聞かれた私は、少し昔を思い出しました。
 私、給糧艦『間宮』もご多分に漏れず、他の鎮守府からここへ流れてきた、いわゆる訳あり艦娘でした。
 以前、お世話になっていた鎮守府でも私の料理や甘味は皆さんに喜ばれていました。
 戦いの疲れを少しでも癒せるよう、自分に作れる最高のモノを作り続ける日々でした。
 でも、いつしか私は――。

348: 2016/05/12(木) 12:05:37.77 ID:1X8ZBZlg0
「本日付でこちらの鎮守府にお世話になることになりました間宮です。よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく頼む」

「あの、こちらの鎮守府では食事は……」

「今うちに居る艦娘の六割程度は料理が出来る。その中で一週間の当番を決めて回してる形だ」

「そう、ですか」

「お前に関しての話は聞いている。――が、働かざる者食うべからず、だ。洗濯や掃除、食料の調達なんかはしっかりやってもらうぞ?」

「調達、ですか? 配給されるんじゃ……」

「“働かざる者食うべからず”、まだまだここは戦果もろくに挙げていない鎮守府だ。それ相応の量しか配給されないんでな、食い扶持だけは多いし足りないんだよ」

(そこまで逼迫した状況で、どうして私を受け入れてくれたんでしょうか……)

「とにかく、家庭菜園もどきやその辺に生えてる野草なんかも立派な生命線だ。しっかり頼むぞ」

「は、はい!」

349: 2016/05/12(木) 12:06:05.59 ID:1X8ZBZlg0
「吹雪ちゃんは秘書艦、なのよね?」

「はい、そうですけど」

「秘書艦も当番に組み込まれてていいの?」

「はい! 少しでも皆が過ごしやすくするのも秘書艦の務めですから!」




「白雪ちゃん、今日は掃除当番の日なの?」

「いえ、少しここが汚れていたので拭いていたんです」




「よい、しょ……ふぅ」

「初雪ちゃん、せめて部屋まで布団運んでから寝ましょ? ね?」




「深雪スペシャルカレー、一丁上がり!」

「も、もう少し具材を小さく切った方がいいんじゃないかしら……」




「ひゃあぁぁぁぁぁっ!?」

(農薬、使ってないものね)

350: 2016/05/12(木) 12:07:24.91 ID:1X8ZBZlg0
「どうだ? ここでの暮らしは」

「大変、という言葉しか浮かびません……」

「ははは、まぁ間宮が着任する鎮守府なんて基本的にはどこも戦いに集中出来る環境が整ったところだろうからな。料理以外の家事をやらされる経験なんぞ今まで無かっただろ」

「“『給糧艦』の作る食事は艦娘にとって他の艦娘や人間の作るそれに無い何らかの疲労回復と高揚効果がある”。だからこそ私達は戦えないながらも重用されています」

「大半の艦娘はそれを知らん。美味しい料理や甘味を作ってくれる非戦闘用員艦娘、その程度の認識だ」

「……何故、ですか?」

「何故、とは?」

「何故、私をここへ?」

「評判の良い間宮が居て、どこも受け入れない。そりゃ喜んで受け入れるだろ」

「今は料理が作れなくても、ですか?」

「それのどこに問題がある」

「どこに、って……」

「“調理”という工程に関わる作業をすると強烈な吐き気に襲われる、そこにどんな理由があるかは今の俺には分からん。だが、また作りたくなるかもしれないだろ」

「……めて」

「ん?」

「やめて、下さい……私には、もう無理なんです……」

「そうか。なら、この話はこれで終わりだ」

「そう、ですか……では、荷物を――」

「じゃあ、明日からも頼んだぞ」

「……え?」

「最初に言っただろ、働かざる者食うべからず、だ」

「どう、して?」

「どうしてって、タダ飯ぐらいを置くほどうちに余裕が無いのは見れば分かるだろ。それに――そこの当番表、また組み直したら遠征やら何やらの予定まで変えなきゃならんから面倒だ」

351: 2016/05/12(木) 12:08:11.25 ID:1X8ZBZlg0
(包丁……最後に握ったのは、いつだったかしら)

「――アレ、間宮さん?」

「あぁ、吹雪ちゃん。料理当番?」

「はい、今日はきのこカレーです!」

「……ねぇ、吹雪ちゃん」

「はい?」

「提督は、どうして私をここへ呼んだんだと思う?」

「ん―……私達の司令官がお人好しだから、じゃないでしょうか」

「お人好し?」

「那珂さんはアイドルになりたいそうです」

「・・・・・・え?」

「加古さんは一日十二時間以上寝たい、北上さんは改装したくない、由良さんは単装砲しか積みたくないそうです」

「それは、許されることなの……?」

「普通は絶対に許されないと思います。でも、司令官ですから――あっ、そこのマイタケ取ってもらえますか?」

「上からは何も言われないの?」

「そういう艦娘達を受け入れる場として黙認されてる、って司令官が言ってました。叢雲が“艦娘は捨て猫じゃないんだからほいほい拾ってくるんじゃないわよ!”ってこの前怒ってましたけど。戸棚からカレールウ、お願いします」

「カレールウ……あった、これね。でも、那珂ちゃんや他の皆も普通に出撃してるのよね?」

「そうですね、何か特別な事情が無い限りは全員持ち回りで出撃してますよ。――うん、こんな感じかな」

「やりたいことがあったり、嫌なことがあってここへ来たのなら、皆はどうしてあんな平気な顔で出撃しているの?」

「それは……私達が艦娘だから、だと思います。守りたいものがあって、帰りたい場所があって、戦う力を持ってる。“アイドルになったって、ファンが居ないと意味無いよ!”って那珂さんは言ってました」

「……ねぇ、吹雪ちゃん。いつもの食事に知らないうちに戦うための薬が入っていたとしたら、食べたくなくなる?」

「そんなの、私だって料理を作る時は毎回入れてますよ?」

「入れてるって、何を……?」

「薬とはちょっと違うかもしれませんけど、とっておきの隠し味です。ほら、よく言うじゃないですか。――“料理は愛情”って」

352: 2016/05/12(木) 12:08:38.46 ID:1X8ZBZlg0
「間宮さーん、オムライスお願いします」

「あら吹雪ちゃん、いらっしゃい。ちょっと待ってね、すぐ作るから」

「食べたくなって自分で作ろうかと思ったら、冷蔵庫に玉子が無くて……」

「ふふ、たまにでいいからこうして食べに来てね。最近皆料理出来る子ばかりになっちゃったから赤城さん以外あんまり来なくなっちゃって……」

「間宮さんの料理だとついつい食べ過ぎて体重計に乗るのが怖くなるから、って皆言ってますよ」

「当然です。だって私の料理には隠し味がたくさん入ってますから」




――――愛が重い女とはまた言い得て妙だな。

 ――――提督、給糧艦に練度が無くて良かったですね。

――――……最近、昔ほど食えなくなってきてるんだが。

 ――――お残しは許しません。

363: 2016/06/08(水) 00:10:56.53 ID:pNVHfKEG0
 ――背中に、暖かい感覚が広がる。冷えた身体に染み渡るようなその暖かさは、とても気持ち良い。
 全身から滴る水で床が濡れるのも構わず、タオル片手に迎え入れてくれた鳳翔さん。
 何かあるとここへ何故か足が向くという人が多いのも、分かる気がする。

「……ねぇ、鳳翔さん」

「何?」

「瑞鶴先輩に、私じゃ近付けないのかな」

「どうしてそう思うの?」

「演習の相手をしてもらえばしてもらうほど、先輩の凄さがはっきり分かったの……」

 ただ憧れるだけじゃなく、必氏に近付こうとしてはみたけれど、あまりに道は遠く険しく、果てしなかった。
 掠りもしない攻撃、その反対に回避を許さぬ的確な爆撃、何度となく繰り返される同じ結末。
 いずれは憧れの先輩に届くかもしれないというのは甘い考えだった、そう口にする私を見て、鳳翔さんは何かを思い返すような素振りを見せた後、微笑んだ。

「私が知っている子も、今の葛城みたいに一人の艦娘に認めて欲しくて何十回、何百回と挑んだの。相手した子も頑固で、挑まれたからには手は抜かないって全力で相手をしていたわ」

「その人は、結局どうしたの? 挑むの、諦めちゃったの?」

「諦める、なんて言葉はその子の辞書には無かったみたい。何度敗北を重ねても、天と地ほどの差があっても、いつかは追い付いて認めてもらえるようにって頑張っていました」

「……追い付けたの?」

「追い付いた、と私が判断することは出来ないですけど、少なくとも認めてはもらえたんじゃないかしら」

「ふーん……そうなんだ」

 お風呂で暖まるのとはまた違った熱が身体を巡り、その心地好さに澱んでいた気持ちもスーっと晴れていく。
 きっと私が憧れている人に少しでも近付くには、ここで立ち止まっている場合じゃない。

「――ん~よしっ! ありがとっ鳳翔さん。すっごく元気になった」

「ふふっ、頑張ってね」

 優しいその笑顔に見送られながら、いつの間にか晴れ間を覗かせている空の下に出ていく。
 きっとまだまだ先輩には届かないけれど、何度だって挑み続けよう。鳳翔さんの話してくれた人のように、認めてもらえる日がくるその時まで。

364: 2016/06/08(水) 00:11:23.04 ID:pNVHfKEG0
「良い教え子が出来ましたね」

「慕ってくれるのは嬉しいけど、教えるなら私より適任が居ると思うんだけどなぁ……」

「あの子の理想はあくまで貴女であって、他の誰でもありません。それを否定してはいけませんよ」

「それは分かってるんですけど……何かこう、背中がむず痒くて」

「あら、背中に蜘蛛が」

「くっ、蜘蛛!? 鳳翔さん、早く取って、取ってー!」

「あらあら、あんまり動くと灸の火が燃え移ってしまうからジッとして」

「本当に足がいっぱいあるのは無理なんですってばー!」

368: 2016/06/12(日) 16:31:19.32 ID:GtXTsnXO0
・赤城『ある冬の日のこと』、投下します

何事にも全力

369: 2016/06/12(日) 16:33:22.46 ID:GtXTsnXO0
 一つ、また一つと籠から消えていく炬燵のお供。
 その消えていく先をぼんやりと眺めていると、目が合った。

「あの、何でしょうか?」

「いや、別に」

 こちらとみかんの間で暫し視線をさ迷わせた後、再び食べ始める赤城。
 皮を剥き大きく四つに割った後、一つ一つに分けて口に運んでいく。
 白い筋と袋は剥かないまま食べている為、みかん一個が目の前から消えるまでそう時間はかからなかった。

「それ、剥かずに食べるんだな」

「勿論です。栄養価も高いですし、捨てるなんてあり得ません。皮もちゃんと後で間宮さんにお渡ししてきます」

「そ、そうか……」

 これだけの大所帯になってからも食品廃棄量を最小限に保てているのは、それぞれの意識の高さもあるが赤城や秋月の様な存在が大きいのも確かだ。
 消費量も凄まじくはあるものの、赤城が居ることで様々な面で鎮守府が豊かになっているのも事実として全員に認識されている。

「提督は、みかんはお好きですか?」

「果物の中で特別好きって訳じゃないが、好きだぞ」

「そうですか……」

 何かを考え込むような素振りを見せる赤城を再び眺めていると、徐に彼女は立ち上がって座る位置を対面から向かって左へと変えた。
 一体どうしたのかと身構えていると、赤城はみかんを先程と同じ様に剥き始める。
 そして、剥き終えると一呼吸置いてからその一つをつまんで、こちらへ差し出した。

「あ……」

「あ?」

「あーん……」

(――これ、食べずに暫く眺めるのもありだな)

 急に大胆な行動を取ることもあれば、些細なことに緊張を見せる赤城。
 その何ともいえないギャップに可愛らしさを感じ、イタズラ心が沸き上がる。

「もっと近付け、遠い」

 言われるがまま距離を詰め、炬燵の角を挟んだほぼ真横に移動してくる。
 手を伸ばせば届く距離、気付けば無意識に左手が彼女の頬に触れていた。

370: 2016/06/12(日) 16:33:58.00 ID:GtXTsnXO0
「あの、提督? みかんはいらないのでしょうか?」

「……気にするところを間違えてるぞ」

「……あまり気にしてしまうと、恥ずかしいところをお見せしてしまいそうなので」

 そう言ってから、みかんを直接俺の口に押し当てる赤城。
 流石にこれ以上放置するのはみかんにも赤城にも失礼なので素直に口を開いた。

「美味しいですか?」

「ん、うまい」

「そうですか」

 赤城の手に既にみかんは無いが、その差し出された手はまだ宙をさ迷っていた。
 一方俺の左手は、今も赤城の頬に添えられている。

「もっと、求めていいんだぞ」

「……よい、のでしょうか」

「炬燵は人間をダメにする文明の利器の一つだ、お前もそれにあやかればいい」

 全てを炬燵のせいにして、今日ぐらいはと自分を甘やかして、ただただしたいようにするだけの時間を過ごしたって、ここにそれを責めるような奴は居ない。
 ――だというのに、相変わらず目の前で手は時間が止まったかのように静止している。

「はぁ……航空母艦、赤城」

「は、はい!」

「――命令だ、今日は俺に甘えろ」

371: 2016/06/12(日) 16:34:40.04 ID:GtXTsnXO0
(いや、甘えろとは言った、甘えろとは言ったが……何だこの状況……)

「提督、次はそこのお造りが食べたいです」

「あぁ、うん、はい」

 幸せそうに差し出された鯛の造りを頬張る赤城。
 本当に幸せなのだろう、俺の両腕は休む暇が無い。

「赤城、そろそろ自分で食べないか? なかなかこれだと満腹にならないだろ」

「提督、食後はみかんを剥いて下さい」

「赤城? 話聞いてるか?」

「みかんです」

「……了解」

 白旗を掲げ、要求を呑む。自分で言ったからには責任は持たねばならない。

(明日、腕が動くといいな……)

 炬燵と俺の間で小さい子供のように飯を待つちょっと大食いな空母。
 左手をしっかりと握り締めた彼女の笑顔を腹一杯になるまで満喫しながら、いつ終わるともしれない夕食を俺は続けるのだった。




――――提督……。

 ――――ん? どうした加賀、珍しく疲れてるな。

――――昨日、赤城さんに一日捕まりました……。

 ――――……アイツ、ひょっとして……。

――――反動、ではないかと。

 ――――(だとすると、次に狙われるのは……)




 明くる日、霞が脱け殻のような状態で発見された。

388: 2016/08/09(火) 00:04:17.23 ID:adXzGEwm0
「どこへ行く気?」

「……執務室」

「その体調で?」

「最近前より面倒な外来関連の案件が多い、任せて休んでられるか」

「そう」

「……どけ」

「お断りします」

「多少の無理で氏にはしない」

「そうね」

「………………重い」

「頭に来ました」

「痛い重い苦しい!」

「私は重くありません」

「撤回する……撤回するから早く上から退いてくれ……」

「いいでしょう。では、大人しくしていることね」

「はぁ……で、誰に対応させる気だ?」

「球磨姉妹にさせます」

「その人選穏便に済ませる気無いだろお前」

「お粥でいいですか?」

「人の話をっ……卵とじうどんにしてくれ、粥は飽きた」




 熊と猫が鎮守府で暴れているとお昼の鎮守府放送で流れたが、提督は卵とじうどんと加賀のうなじに集中していた。

389: 2016/08/09(火) 00:05:24.92 ID:adXzGEwm0
ウイルス性胃腸炎でぶっ倒れてました、

396: 2016/08/09(火) 10:00:47.55 ID:1Pkl3y7SO
乙です
そしてお大事に



引用: 【艦これ】大鳳「衣食住に娯楽の揃った鎮守府」浦風「深海棲艦も居るんじゃ」