399: 2016/08/26(金) 12:21:45.72 ID:EyCHElu5O
前回はこちら
ゆらゆら、ゆらゆら、漂う身体。
ぷかりと浮かぶ、山二つ。
帰る場所を失って、行くべき場所も分からずに、日がな一日ただただ大好きだった人の居た海をさ迷う。
(ニム、何処へ行けばいいのかな? ねぇ、おじいちゃん)
ぷかぷか、ぷかぷか、ぷかぷか、ぷかぷか、がしり。
(――ん?)
救いの手か、はたまた悪魔の誘いか、今分かっているのは――彼女は狙った潜水艦(えもの)は逃がさない、ということだけだ。
「提督、この子この鎮守府で引き取ってちょうだい」
「……五十鈴、誘拐は犯罪だぞ?」
「は・な・し・て・よー!」
潜水艦娘伊26が五十鈴に勧誘(らち)されました。
409: 2016/09/11(日) 20:03:09.40 ID:0dw/6jA10
・ヴェールヌイ『私の姉妹達』 、投下します
暁が一番
暁が一番
410: 2016/09/11(日) 20:04:42.56 ID:0dw/6jA10
――朝、目が覚めると時折自分のことが分からなくなる。
けれど、お腹を出して寝る姉と、洗濯をしている妹と、猫に餌をやる末妹の居る部屋が、私の居場所はここなのだといつも教えてくれた。
「――おはよう、雷、電。暁は……まぁ、このままでいいか」
「あかつきがぁ……いちばん……むにゃ」
「おはようなのです」
「おはよう響。朝御飯にするからついでに暁起こしてくれる?」
「頼まれたなら仕方無いな……。朝だ暁、起きないとその恥ずかしい姿をポスターにするよ」
「んにゅ……ぽるたぁがいしゅと……?」
「多分人間でいう思春期に当てはまるとは思うけど、暁は違うから顔を洗って目を覚ましてくるといい」
「ふあぁ~い……はうっ!? いったぁーいっ!」
週一程度で洗面所のドアにぶつかるのは、暁だからの一言に尽きる。
さて、もう完全に起きただろうから雷の手伝いをしようか。
「手伝うよ」
「じゃあそこのお味噌汁よそってくれる?」
「了解」
今日は純和風、日替わりで国が変わる四人の朝食は飽きないし、少し楽しみにしている。
ただ、たまに地獄が待っているのはどうにか避けたいものだ。
「明日は何にするか、雷は聞いてるかい?」
「トルテが嫌な人が食べるのかしらとか言ってたから、小麦粉が少なくなってたし昨日買ってきたわ。電ー暁ーもう出来るわよー」
明日は朝から台所の掃除が必要らしい。
暁なら必ずぶちまける、信頼の名は伊達じゃない。
「電は今日はどうするんだい?」
「今日は伊勢さんと刀のお稽古なのです」
「じゃあその子は私が見ておこう」
「ありがとうなのです。それじゃあ行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
司令官に相応しいお嫁さんになるためだと言っていたが、最近は鎮守府最強を目指しているんじゃないかと錯覚してしまう。
まぁ、強ちそれも間違いではないな。
けれど、お腹を出して寝る姉と、洗濯をしている妹と、猫に餌をやる末妹の居る部屋が、私の居場所はここなのだといつも教えてくれた。
「――おはよう、雷、電。暁は……まぁ、このままでいいか」
「あかつきがぁ……いちばん……むにゃ」
「おはようなのです」
「おはよう響。朝御飯にするからついでに暁起こしてくれる?」
「頼まれたなら仕方無いな……。朝だ暁、起きないとその恥ずかしい姿をポスターにするよ」
「んにゅ……ぽるたぁがいしゅと……?」
「多分人間でいう思春期に当てはまるとは思うけど、暁は違うから顔を洗って目を覚ましてくるといい」
「ふあぁ~い……はうっ!? いったぁーいっ!」
週一程度で洗面所のドアにぶつかるのは、暁だからの一言に尽きる。
さて、もう完全に起きただろうから雷の手伝いをしようか。
「手伝うよ」
「じゃあそこのお味噌汁よそってくれる?」
「了解」
今日は純和風、日替わりで国が変わる四人の朝食は飽きないし、少し楽しみにしている。
ただ、たまに地獄が待っているのはどうにか避けたいものだ。
「明日は何にするか、雷は聞いてるかい?」
「トルテが嫌な人が食べるのかしらとか言ってたから、小麦粉が少なくなってたし昨日買ってきたわ。電ー暁ーもう出来るわよー」
明日は朝から台所の掃除が必要らしい。
暁なら必ずぶちまける、信頼の名は伊達じゃない。
「電は今日はどうするんだい?」
「今日は伊勢さんと刀のお稽古なのです」
「じゃあその子は私が見ておこう」
「ありがとうなのです。それじゃあ行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
まぁ、強ちそれも間違いではないな。
411: 2016/09/11(日) 20:05:08.36 ID:0dw/6jA10
「――うん、うん、分かったわ。じゃあまたそっちに向かう時に連絡するわね、それじゃ」
「仕事の電話?」
「おばあちゃんからお買い物の依頼よ。実際はそれを口実に小一時間話がしたいってことなんだけどね」
「協力出来ることがあれば、いつでも協力するよ」
「うん、ありがとう響。その時はお願いするわ。それじゃ行ってくるから後はお願いね」
「了解、暁と猫の世話は任せてくれ」
――ちょっと響! 何でそこで暁の名前が出てくるのよー!?
後ろから猫と戯れていた長女の抗議が聞こえるが、事実なので問題ない。
妹二人が生き生きとしているのが見られるなら、このぐらいの任務は軽くこなしてみせるさ。
――あっ、こらてーとく、それは暁の牛乳とクッキーよ!
「仕事の電話?」
「おばあちゃんからお買い物の依頼よ。実際はそれを口実に小一時間話がしたいってことなんだけどね」
「協力出来ることがあれば、いつでも協力するよ」
「うん、ありがとう響。その時はお願いするわ。それじゃ行ってくるから後はお願いね」
「了解、暁と猫の世話は任せてくれ」
――ちょっと響! 何でそこで暁の名前が出てくるのよー!?
後ろから猫と戯れていた長女の抗議が聞こえるが、事実なので問題ない。
妹二人が生き生きとしているのが見られるなら、このぐらいの任務は軽くこなしてみせるさ。
――あっ、こらてーとく、それは暁の牛乳とクッキーよ!
412: 2016/09/11(日) 20:05:35.11 ID:0dw/6jA10
四人で大きな風呂に入り、お互いを洗いあって一日の疲れを癒す。
その日の出来事を話したり、どこかへ遊びに行く計画を建てたり、とても有意義で心地よい時間だ。
「――ねぇ、響」
「何だい?」
「きょ、今日は暁が一緒に寝てあげるわ」
「……怖い映画でも見たのか?」
「こここ怖い映画なんか一人前のレディーにはへっちゃらだし! いいから、今日は暁と一緒に寝ること! いいわね!?」
普段は抜けていて、背伸びし過ぎて転んで、四人の中では一番小さくなってしまったけれど、それでもやっぱり暁は私達の姉のようだ。
朝の目覚めが少し悪かっただけで、その時暁はまだ寝ていたはずなのに、一日を共に過ごしている間に些細な私の表情の翳りに気付かれたらしい。
決して一人前のレディーではないけど、暁は自慢の姉だ。
「……スパシーバ」
「ん? 何か言った?」
「ハラショー、見事な幼児体型だ」
「ぶ、ブラは必要だし!」
――――これは流石に狭いな……。
――――雷、もう少しつめて欲しいのです。
――――……電、またちょっと大きくなってない?
――――あ、暁が一番お姉さんなんだから!
その日の出来事を話したり、どこかへ遊びに行く計画を建てたり、とても有意義で心地よい時間だ。
「――ねぇ、響」
「何だい?」
「きょ、今日は暁が一緒に寝てあげるわ」
「……怖い映画でも見たのか?」
「こここ怖い映画なんか一人前のレディーにはへっちゃらだし! いいから、今日は暁と一緒に寝ること! いいわね!?」
普段は抜けていて、背伸びし過ぎて転んで、四人の中では一番小さくなってしまったけれど、それでもやっぱり暁は私達の姉のようだ。
朝の目覚めが少し悪かっただけで、その時暁はまだ寝ていたはずなのに、一日を共に過ごしている間に些細な私の表情の翳りに気付かれたらしい。
決して一人前のレディーではないけど、暁は自慢の姉だ。
「……スパシーバ」
「ん? 何か言った?」
「ハラショー、見事な幼児体型だ」
「ぶ、ブラは必要だし!」
――――これは流石に狭いな……。
――――雷、もう少しつめて欲しいのです。
――――……電、またちょっと大きくなってない?
――――あ、暁が一番お姉さんなんだから!
416: 2016/09/12(月) 22:35:00.28 ID:QY/SEkOx0
・朝潮『無自覚』 、投下します
天敵、現れる
天敵、現れる
417: 2016/09/12(月) 22:35:26.48 ID:QY/SEkOx0
「綿雲、お座り」
――わん!
「よし、良い子ですね綿雲」
――わふ~……。
「最初からそんな感じだったが、本当にお前に似てるな」
「そうでしょうか?」
――わふ?
(犬が二匹居るようにしか見えん)
「それで、今日はどのようなご用件でしょうか」
「世間話に呼んだだけだ、綿雲のことも気になったからな」
「気にかけていただきありがとうございます。やはり司令官はお優しいですね」
「俺が言い出したことだし、気にもなるさ。何か不都合があればいつでも――」
――わんっ!
「・・・・・・漫画で見たことはあったが、本当に噛んだままぶら下がるんだな」
「綿雲!? す、すいません司令官! 綿雲、司令官は敵じゃないからすぐに放しなさい!」
「主人を守ろうとしたんだな。俺は朝潮に酷いことなんてしないから大丈夫だぞー綿雲」
「そうよ綿雲、良い子だから放しなさい、ね?」
――くぅぅぅん……。
(ようやく離れたか……こりゃ暫く包帯巻かんといかんな)
「す、すぐに手当てを!」
「慌てなくても大丈夫だ、それより興奮してるから落ち着かせてやれ」
「そ、それはそうなんですが……」
(慌ててるところもそっくりだな。――ってそれどころじゃねぇ)
「綿雲、司令官は私の大切な人で、一生をかけてお守りすべき方なの。二度と噛み付いたりしてはダメ、分かった?」
――わん!
「きっと俺の下心を見抜いたんだろ。忠実で本当に良い犬だな」
「下心……あの、今は綿雲も居ますので、その……」
――ぐるるるる……。
(唸ってやがる……)
「ですが、私もやぶさかではないので綿雲を荒潮か霰に預けてからでしたら大丈夫です!」
「と、とりあえず、今日のところはこの手のこともあるしまた今度な?」
「そ、そうですか……。ですがこの朝潮、いつでも受けてたつ覚悟です!」
「あぁ、お前が望むなら俺も応え――」
――わんっ!
「……とりあえず、今日は綿雲を部屋に置いてきてくれ」
――――何であんなに綿雲には嫌われてるんだ、俺……。
――――良くも悪くも朝潮に絶対忠誠だからじゃないかしらぁ。
――――つまり、朝潮には相応しくないって思われてるってことか……。
――――うふふ、頑張って~。
――わん!
「よし、良い子ですね綿雲」
――わふ~……。
「最初からそんな感じだったが、本当にお前に似てるな」
「そうでしょうか?」
――わふ?
(犬が二匹居るようにしか見えん)
「それで、今日はどのようなご用件でしょうか」
「世間話に呼んだだけだ、綿雲のことも気になったからな」
「気にかけていただきありがとうございます。やはり司令官はお優しいですね」
「俺が言い出したことだし、気にもなるさ。何か不都合があればいつでも――」
――わんっ!
「・・・・・・漫画で見たことはあったが、本当に噛んだままぶら下がるんだな」
「綿雲!? す、すいません司令官! 綿雲、司令官は敵じゃないからすぐに放しなさい!」
「主人を守ろうとしたんだな。俺は朝潮に酷いことなんてしないから大丈夫だぞー綿雲」
「そうよ綿雲、良い子だから放しなさい、ね?」
――くぅぅぅん……。
(ようやく離れたか……こりゃ暫く包帯巻かんといかんな)
「す、すぐに手当てを!」
「慌てなくても大丈夫だ、それより興奮してるから落ち着かせてやれ」
「そ、それはそうなんですが……」
(慌ててるところもそっくりだな。――ってそれどころじゃねぇ)
「綿雲、司令官は私の大切な人で、一生をかけてお守りすべき方なの。二度と噛み付いたりしてはダメ、分かった?」
――わん!
「きっと俺の下心を見抜いたんだろ。忠実で本当に良い犬だな」
「下心……あの、今は綿雲も居ますので、その……」
――ぐるるるる……。
(唸ってやがる……)
「ですが、私もやぶさかではないので綿雲を荒潮か霰に預けてからでしたら大丈夫です!」
「と、とりあえず、今日のところはこの手のこともあるしまた今度な?」
「そ、そうですか……。ですがこの朝潮、いつでも受けてたつ覚悟です!」
「あぁ、お前が望むなら俺も応え――」
――わんっ!
「……とりあえず、今日は綿雲を部屋に置いてきてくれ」
――――何であんなに綿雲には嫌われてるんだ、俺……。
――――良くも悪くも朝潮に絶対忠誠だからじゃないかしらぁ。
――――つまり、朝潮には相応しくないって思われてるってことか……。
――――うふふ、頑張って~。
423: 2016/09/14(水) 12:42:09.00 ID:os/f4Vau0
・鳥海『乙女の願い』
・漣『ご主人様! 漣改装しちゃいました!』
・秋月『これ一着で約十年は…』
・漣『ご主人様! 漣改装しちゃいました!』
・秋月『これ一着で約十年は…』
426: 2016/10/09(日) 23:30:41.40 ID:RWv5ek1j0
・鳥海『乙女の願い』 、投下します
真の艦娘は目で頃す
真の艦娘は目で頃す
427: 2016/10/09(日) 23:31:08.65 ID:RWv5ek1j0
――きっと、その願いは叶わない。
「司令官さん、どうぞ」
「ん」
書類に真剣に目を通しながら湯飲みを受け取り、飲み干していく姿を眺める。
秘書艦業務の内容が以前と様変わりはしていても、そこにある恩恵は変わらない。
「鳥海、休憩にするからもう一杯くれ。後、そこに茶菓子が入ってるから頼む」
「分かりました」
休むという行為を思い出した司令官さんとの午後の一時。
恐らく誰かからの貰い物の羊羹を取り出し、小皿に取り分ける。
「今度はどなたから頂いたんですか?」
「雷の仲良くなった婆さん、色々あってお礼で鎮守府に贈られてきた」
「これ、結構有名なお店のです」
「みたいだな、前に赤城が小腹が空いたからって食ってたのを見た」
交わす会話に緊張感はなく、ありふれた日常会話が繰り返される。
それが当たり前であることは幸せで、だからこそこの胸に抱えた小さなモヤモヤは消えることはない。
「――なぁ、鳥海」
「はい、何ですか?」
「お前は頭がいい、物事を正しく判断できる力も持ってる。だからって全部割りきっちまうのは俺の鎮守府じゃ失格だぞ?」
「……どうしようもないことは、願えないですから」
「世界制服でもしたいのか?」
「――物語のヒロインに、なってみたかったんです」
平和な世界、訪れた日常、艦娘と人が手を取り合い共に歩み始めた歴史。
そこに、誰かの悲劇を生むような物語が生まれてはいけない。
「物語……物語か……よし」
「? 司令官さん、何を――」
『俺が一番鳥海を愛してる! 意外に乙女で恋愛小説が好きなところが可愛い! 時々天然気味なところも魅力的だ! 誰にも鳥海は渡さん!』
「・・・・・・」
緊急放送で鎮守府全体に響き渡る司令官さんの声。
頭が状況を判断処理出来ず、暫く思考が停止する。
「――ふっ、ふふふ」
ようやく正常に思考が出来るようになった時には、胸にあったモヤモヤはほとんどなくなっていた。
囚われのお姫様でなくても、恋に悩む女子高生でなくても、私も私だけの物語のヒロインなのだと思えるようになったから。
――――ヤバい、勢いでやったが執務室から一生出たくなくなってきた……。
――――腕を組んで今から散歩しましょう。
――――視線で氏ぬからマジでやめてくれ。
「司令官さん、どうぞ」
「ん」
書類に真剣に目を通しながら湯飲みを受け取り、飲み干していく姿を眺める。
秘書艦業務の内容が以前と様変わりはしていても、そこにある恩恵は変わらない。
「鳥海、休憩にするからもう一杯くれ。後、そこに茶菓子が入ってるから頼む」
「分かりました」
休むという行為を思い出した司令官さんとの午後の一時。
恐らく誰かからの貰い物の羊羹を取り出し、小皿に取り分ける。
「今度はどなたから頂いたんですか?」
「雷の仲良くなった婆さん、色々あってお礼で鎮守府に贈られてきた」
「これ、結構有名なお店のです」
「みたいだな、前に赤城が小腹が空いたからって食ってたのを見た」
交わす会話に緊張感はなく、ありふれた日常会話が繰り返される。
それが当たり前であることは幸せで、だからこそこの胸に抱えた小さなモヤモヤは消えることはない。
「――なぁ、鳥海」
「はい、何ですか?」
「お前は頭がいい、物事を正しく判断できる力も持ってる。だからって全部割りきっちまうのは俺の鎮守府じゃ失格だぞ?」
「……どうしようもないことは、願えないですから」
「世界制服でもしたいのか?」
「――物語のヒロインに、なってみたかったんです」
平和な世界、訪れた日常、艦娘と人が手を取り合い共に歩み始めた歴史。
そこに、誰かの悲劇を生むような物語が生まれてはいけない。
「物語……物語か……よし」
「? 司令官さん、何を――」
『俺が一番鳥海を愛してる! 意外に乙女で恋愛小説が好きなところが可愛い! 時々天然気味なところも魅力的だ! 誰にも鳥海は渡さん!』
「・・・・・・」
緊急放送で鎮守府全体に響き渡る司令官さんの声。
頭が状況を判断処理出来ず、暫く思考が停止する。
「――ふっ、ふふふ」
ようやく正常に思考が出来るようになった時には、胸にあったモヤモヤはほとんどなくなっていた。
囚われのお姫様でなくても、恋に悩む女子高生でなくても、私も私だけの物語のヒロインなのだと思えるようになったから。
――――ヤバい、勢いでやったが執務室から一生出たくなくなってきた……。
――――腕を組んで今から散歩しましょう。
――――視線で氏ぬからマジでやめてくれ。
434: 2016/10/31(月) 20:56:18.16 ID:yNBHGQU20
・漣『ご主人様! 漣改装しちゃいました!』、投下します
その振る舞いは何かを隠す為に
その振る舞いは何かを隠す為に
435: 2016/10/31(月) 20:56:43.37 ID:yNBHGQU20
「御主人様! 漣改装しちゃいました!」
今見えている姿が、全てではない。
「あのー、御主人様ー?」
その内に秘める何かに気付けなければ、艦娘相手でなくともいつかは誰かを傷付ける。
「目開けたまま眠るとか御主人様も面白い特技を身に付けましたね。とりあえず……」
この勝手に改装した服と艤装を着けた漣だって例外では――。
「覇王断空拳!」
「氏ぬわ!」
「あっ、起きてた」
「今踏み込みがマジだったろ……」
「御主人様なら避けれるかなって、テヘペロ」
「お前の御主人は金も権力も特殊能力も無い一般人だ」
「俺TUEE提督目指してまずは目からビーム出しましょ?」
「嫌な夢を思い出すからやめろ……」
無邪気に笑う鎮守府のお騒がせ娘の一角。主な被害は曙と潮、苦手なのは弥生。
「そんなことより御主人様! どうですコレ」
「いいんじゃないか、それぐらいなら足は隠れん」
「御主人様ー今更ですけどもう色々隠す気ありませんよねー」
「本当に今更だな。まぁ、お前には本当に似合ってると思うぞ、それ」
「御主人様のデレktkr!」
勢いとノリで行動するように見えて、その実、周囲を注意深く観察して動く慎重派。
今も俺が本当に似合ってると口にするまで、内心は不安でいっぱいだったはずだ。
「ツンが欲しいかそらやるぞ」
「あっ、ぼのぼので間に合ってます」
「一日一回は怒らせてるだろ」
「ぼのぼのの怒声を聞かないと落ち着かない体質に……」
「傍迷惑だから明石に治してもらえ、ついでに頭も」
「それは置いといて、御主人様さっきから何見てるんです?」
「コレか? 通りすがりの記者が撮影した写真だ」
「青葉さんがどうし――ちょっ待っ!?」
「おっと、珍しく焦ってどうした?」
「御主人様ー? 今すぐ、なう、その写真を漣に渡してください。でないとぶっ飛ばしますよ」
「断る。それより艤装置いてこい、ゆっくり座れんだろそのままじゃ」
「黒歴史を葬るために、今この艤装はあるんです」
「――ちゃんとお話、するんだろ?」
「……御主人様って意外にSですよね」
――――こんな漣はもう二度と見れないな。
――――……見たいの?
――――いや? 今はじっくり改装した姿を見たい。
――――……変O。
今見えている姿が、全てではない。
「あのー、御主人様ー?」
その内に秘める何かに気付けなければ、艦娘相手でなくともいつかは誰かを傷付ける。
「目開けたまま眠るとか御主人様も面白い特技を身に付けましたね。とりあえず……」
この勝手に改装した服と艤装を着けた漣だって例外では――。
「覇王断空拳!」
「氏ぬわ!」
「あっ、起きてた」
「今踏み込みがマジだったろ……」
「御主人様なら避けれるかなって、テヘペロ」
「お前の御主人は金も権力も特殊能力も無い一般人だ」
「俺TUEE提督目指してまずは目からビーム出しましょ?」
「嫌な夢を思い出すからやめろ……」
無邪気に笑う鎮守府のお騒がせ娘の一角。主な被害は曙と潮、苦手なのは弥生。
「そんなことより御主人様! どうですコレ」
「いいんじゃないか、それぐらいなら足は隠れん」
「御主人様ー今更ですけどもう色々隠す気ありませんよねー」
「本当に今更だな。まぁ、お前には本当に似合ってると思うぞ、それ」
「御主人様のデレktkr!」
勢いとノリで行動するように見えて、その実、周囲を注意深く観察して動く慎重派。
今も俺が本当に似合ってると口にするまで、内心は不安でいっぱいだったはずだ。
「ツンが欲しいかそらやるぞ」
「あっ、ぼのぼので間に合ってます」
「一日一回は怒らせてるだろ」
「ぼのぼのの怒声を聞かないと落ち着かない体質に……」
「傍迷惑だから明石に治してもらえ、ついでに頭も」
「それは置いといて、御主人様さっきから何見てるんです?」
「コレか? 通りすがりの記者が撮影した写真だ」
「青葉さんがどうし――ちょっ待っ!?」
「おっと、珍しく焦ってどうした?」
「御主人様ー? 今すぐ、なう、その写真を漣に渡してください。でないとぶっ飛ばしますよ」
「断る。それより艤装置いてこい、ゆっくり座れんだろそのままじゃ」
「黒歴史を葬るために、今この艤装はあるんです」
「――ちゃんとお話、するんだろ?」
「……御主人様って意外にSですよね」
――――こんな漣はもう二度と見れないな。
――――……見たいの?
――――いや? 今はじっくり改装した姿を見たい。
――――……変O。
436: 2016/11/01(火) 23:32:15.80 ID:G/QbhFDs0
~おまけ~
「陽炎、聞きたいことって何?」
「曙は分かりきってるからいいとして、潮は警戒心が解けて徐々に、朧は絆創膏、漣だけ経緯を誰に聞いても知らないんだけど」
「私が分かりきってるってどういうことよ……それで、漣だっけ?」
「そう、あの子ってそういう雰囲気を私達に一切見せないじゃない」
「まぁ、そうね。ただ、私達の中で一番デレッデレなのは間違いなく漣ね」
「曙より?」
「私は別にデレてないわよ」
「それで、結局どういう経緯なの?」
「他人ばっか気にしてる癖にあんな風に振る舞って色々抱えて自滅しかけてたのをクソ提督が救った、ここじゃ珍しくもないパターンでしょ」
「まぁ、確かに珍しくもないわね……でも、それにしてはあんまり普段積極的じゃないじゃない」
「あの子、超絶照れ屋だし」
「・・・・・・え?」
「たまに暴走して後悔して布団から出てこなかったり、秘書艦日は朝から緊張して普段やらかさないようなボケいっぱいやらかしてるわよ」
「随分私達の印象と違うわね……」
「潮は聞かれても答えないし、朧はスルー、私も基本は誰にも言わないもの」
「それ、私が聞いて良かったの?」
「陽炎なら言い触らさないでしょ」
「……アンタも大概甘いわね」
「うっさいシスコン」
「シスコン言うな。デレッデレの漣、ちょっと見てみたい気もするけど」
「やめときなさい。朝潮と初霜の時みたいになるわよ」
「……そうね、やめとくわ」
「また服に鼻水と涙擦り付けるなよ」
「……」
「つねるな、痛い。そんなにキツく掴まなくてもどこにも行かんから安心しろ」
「……うん」
(これはまた一日離れんっぽいな……まぁ、いいか)
「陽炎、聞きたいことって何?」
「曙は分かりきってるからいいとして、潮は警戒心が解けて徐々に、朧は絆創膏、漣だけ経緯を誰に聞いても知らないんだけど」
「私が分かりきってるってどういうことよ……それで、漣だっけ?」
「そう、あの子ってそういう雰囲気を私達に一切見せないじゃない」
「まぁ、そうね。ただ、私達の中で一番デレッデレなのは間違いなく漣ね」
「曙より?」
「私は別にデレてないわよ」
「それで、結局どういう経緯なの?」
「他人ばっか気にしてる癖にあんな風に振る舞って色々抱えて自滅しかけてたのをクソ提督が救った、ここじゃ珍しくもないパターンでしょ」
「まぁ、確かに珍しくもないわね……でも、それにしてはあんまり普段積極的じゃないじゃない」
「あの子、超絶照れ屋だし」
「・・・・・・え?」
「たまに暴走して後悔して布団から出てこなかったり、秘書艦日は朝から緊張して普段やらかさないようなボケいっぱいやらかしてるわよ」
「随分私達の印象と違うわね……」
「潮は聞かれても答えないし、朧はスルー、私も基本は誰にも言わないもの」
「それ、私が聞いて良かったの?」
「陽炎なら言い触らさないでしょ」
「……アンタも大概甘いわね」
「うっさいシスコン」
「シスコン言うな。デレッデレの漣、ちょっと見てみたい気もするけど」
「やめときなさい。朝潮と初霜の時みたいになるわよ」
「……そうね、やめとくわ」
「また服に鼻水と涙擦り付けるなよ」
「……」
「つねるな、痛い。そんなにキツく掴まなくてもどこにも行かんから安心しろ」
「……うん」
(これはまた一日離れんっぽいな……まぁ、いいか)
438: 2016/12/09(金) 22:12:05.92 ID:UolJqNcX0
・秋月『これ一着で約十年は…』、投下します
439: 2016/12/09(金) 22:12:35.20 ID:UolJqNcX0
秋月に贈り物をすると必ず、私に高価なモノは必要ないと一度は受け取るのを遠慮していた。
受け取ってくれなければ捨てるという言葉を添えるのが今では当たり前になっていたが、今回は予想を超えた反応が待ち構えていた。
(まさか、拝むとは思わなかった……)
浴衣に手を合わせる艦娘、という世にも珍しい光景を目の当たりにして、提督はこの後着てくれないのではないかと若干の不安を募らせる。
「その、だな、秋月。今からそれを着て一緒に祭に行かないか?」
「お祭り……これを着て……はい、ご一緒させていただきます!」
「お、おぅ」
目を輝かせて浴衣を抱き締めながら、大きく一歩こちらに寄ってきた彼女に一瞬気圧されるも、誘いを受けてくれたことにひとまず胸を撫で下ろす。
着替えや準備の時間も考慮し、現地で一時間後待ち合わせという話でその場は別れた。
別れた直後、とある艦娘に拉致され着替えさせられたのは記憶の底に深く深く沈めるのだった。
受け取ってくれなければ捨てるという言葉を添えるのが今では当たり前になっていたが、今回は予想を超えた反応が待ち構えていた。
(まさか、拝むとは思わなかった……)
浴衣に手を合わせる艦娘、という世にも珍しい光景を目の当たりにして、提督はこの後着てくれないのではないかと若干の不安を募らせる。
「その、だな、秋月。今からそれを着て一緒に祭に行かないか?」
「お祭り……これを着て……はい、ご一緒させていただきます!」
「お、おぅ」
目を輝かせて浴衣を抱き締めながら、大きく一歩こちらに寄ってきた彼女に一瞬気圧されるも、誘いを受けてくれたことにひとまず胸を撫で下ろす。
着替えや準備の時間も考慮し、現地で一時間後待ち合わせという話でその場は別れた。
別れた直後、とある艦娘に拉致され着替えさせられたのは記憶の底に深く深く沈めるのだった。
440: 2016/12/09(金) 22:13:10.25 ID:UolJqNcX0
鎮守府の近くで行われている、毎年恒例の秋祭。
先に待ち合わせ場所に到着し、すれ違う顔見知りに会釈をしながら秋月を待つ。
(なんだかんだ、俺の顔も広くなったな……)
極力イベントなどでは表に出ないようにしていたものの、時間の経過に伴い“あの鎮守府の艦娘さん達の提督さん”という認識は近隣住民に浸透していた。
あまり本意ではないが、それを補ってあまりある恩恵もあり、その一つがこちらへ駆けてくるのが見えた。
「提督、お待たせしました!」
「――荒潮に感謝しとくか」
「はい?」
「似合ってるぞ、その浴衣」
「あ……ありがとう、ございます」
白と黒で落ち着いた雰囲気を出しつつも、赤で歳相応の可愛らしさも引き出す。
正に今の秋月に相応しい浴衣だ。
「さて、何から回る?」
「そうですね……とりあえず、歩きながら考えましょう」
「じゃあそうするか」
特に宛もなく、そこそこの人混みの中を歩き出す。
屋台の中には明らかに鎮守府内に関係者がいるであろうものもチラホラとあり、見て回るだけでも退屈はしそうになかった。
(とりあえず、軽く食べられるものでも――?)
何か気になっていそうなものはないかと横をふと見てみると、隣に秋月が居ないことに気付く。
振り返ってみれば、ある屋台をジッと見つめて数歩後ろで立ち止まっていた。
「あの屋台が気になるのか?」
「ちょっとだけ、見てもいいですか?」
「俺に遠慮せず、好きに見ていいぞ。気付いたら居ないってのは勘弁だが」
「ふふ、気を付けます」
そっと差し出された手に手を重ね、気になっているという屋台へ歩み寄る。
その屋台で扱っているのは手頃な値段の装飾品らしく、値札の付いた籠が数個並べられていた。
先に待ち合わせ場所に到着し、すれ違う顔見知りに会釈をしながら秋月を待つ。
(なんだかんだ、俺の顔も広くなったな……)
極力イベントなどでは表に出ないようにしていたものの、時間の経過に伴い“あの鎮守府の艦娘さん達の提督さん”という認識は近隣住民に浸透していた。
あまり本意ではないが、それを補ってあまりある恩恵もあり、その一つがこちらへ駆けてくるのが見えた。
「提督、お待たせしました!」
「――荒潮に感謝しとくか」
「はい?」
「似合ってるぞ、その浴衣」
「あ……ありがとう、ございます」
白と黒で落ち着いた雰囲気を出しつつも、赤で歳相応の可愛らしさも引き出す。
正に今の秋月に相応しい浴衣だ。
「さて、何から回る?」
「そうですね……とりあえず、歩きながら考えましょう」
「じゃあそうするか」
特に宛もなく、そこそこの人混みの中を歩き出す。
屋台の中には明らかに鎮守府内に関係者がいるであろうものもチラホラとあり、見て回るだけでも退屈はしそうになかった。
(とりあえず、軽く食べられるものでも――?)
何か気になっていそうなものはないかと横をふと見てみると、隣に秋月が居ないことに気付く。
振り返ってみれば、ある屋台をジッと見つめて数歩後ろで立ち止まっていた。
「あの屋台が気になるのか?」
「ちょっとだけ、見てもいいですか?」
「俺に遠慮せず、好きに見ていいぞ。気付いたら居ないってのは勘弁だが」
「ふふ、気を付けます」
そっと差し出された手に手を重ね、気になっているという屋台へ歩み寄る。
その屋台で扱っているのは手頃な値段の装飾品らしく、値札の付いた籠が数個並べられていた。
441: 2016/12/09(金) 22:13:40.56 ID:UolJqNcX0
(屋台、というより露店みたいな感じだな)
「少し変わったものが多いですね。どこか、こう……懐かしい、みたいな感じです」
「懐かしい、か。欲しいのがあれば遠慮なく言えよ」
少し迷うような素振りを見せはしたが、素直に秋月は商品を選び始める。
手持ちぶさたになり、選んでいる後ろから浴衣姿を眺めたりうなじを眺めたりしていてると、ふと店主と目が合った。
椅子に座ってぬいぐるみを抱えている年齢不詳の女。店番をしているだけなのか選んでいる秋月に目もくれず、こちらを見つめている。
(何だ、コイツ……)
「――提督?」
「ん? 決まった、の、か?」
はっとして横に顔を向けてみれば、少し怒気をはらんだ笑顔が出迎える。
“独占欲”をしっかりと持ってくれた証拠であり嬉しくはあるものの、今はどうそれを処理するかで頭を働かせなければならない。
「決まったなら買うぞ。幾らだ?」
「大丈夫です。これぐらいなら自分で払います」
巾着から財布が取り出され、止める間もなく硬貨が一枚店主へと手渡される。
そのまま俺を置いて歩き去ろうとする秋月。その背を急いで追う俺の耳に、店主が呟いた言葉は届きはしなかった。
「――そんなに結んで、よく刺されないね」
「少し変わったものが多いですね。どこか、こう……懐かしい、みたいな感じです」
「懐かしい、か。欲しいのがあれば遠慮なく言えよ」
少し迷うような素振りを見せはしたが、素直に秋月は商品を選び始める。
手持ちぶさたになり、選んでいる後ろから浴衣姿を眺めたりうなじを眺めたりしていてると、ふと店主と目が合った。
椅子に座ってぬいぐるみを抱えている年齢不詳の女。店番をしているだけなのか選んでいる秋月に目もくれず、こちらを見つめている。
(何だ、コイツ……)
「――提督?」
「ん? 決まった、の、か?」
はっとして横に顔を向けてみれば、少し怒気をはらんだ笑顔が出迎える。
“独占欲”をしっかりと持ってくれた証拠であり嬉しくはあるものの、今はどうそれを処理するかで頭を働かせなければならない。
「決まったなら買うぞ。幾らだ?」
「大丈夫です。これぐらいなら自分で払います」
巾着から財布が取り出され、止める間もなく硬貨が一枚店主へと手渡される。
そのまま俺を置いて歩き去ろうとする秋月。その背を急いで追う俺の耳に、店主が呟いた言葉は届きはしなかった。
「――そんなに結んで、よく刺されないね」
442: 2016/12/09(金) 22:14:08.27 ID:UolJqNcX0
ただ、提督が他の女の人を見ていただけ。それだけで胸がざわついた。
隣に居て貰えるだけで、私をあの鎮守府に置いてくれるだけで、それだけで満足だった。
きっと、慣れない浴衣と慣れない履物のせいで疲れていただけ、そうに違いない。
――でも、追いかけてきてくれた貴方の顔がとても必氏で嬉しいと感じてしまった私は、もう手遅れみたいです。
「秋月、待てって!」
「……何ですか?」
「あー……二人で一緒に回らないと勿体無い、だろ?」
差し出された右手。すぐに掴むのは何だか恥ずかしくて、少し迷うような素振りを見せつつ、掴む。
「……確かに、勿体無いです」
「じゃあ、次の屋台行くか」
「――リンゴ飴」
「ん?」
「リンゴ飴、食べたいです」
「了解」
勿体無い、便利な私の口癖。
今の私にとって一番勿体無いのは、この時間を無為に過ごすこと。
だから、祭でいつもよりはしゃいだということにして、今日は目一杯振り回してみよう。
――防空駆逐艦秋月、推して参ります!
「で、はしゃぎすぎて屋台を片っ端から覗いてたらお腹が痛くなった、と」
「うぅ……はい」
(秋月ちゃんもまだまだ可愛いお年頃ですねー。……私もそろそろ提督とデート行きたいなー)
隣に居て貰えるだけで、私をあの鎮守府に置いてくれるだけで、それだけで満足だった。
きっと、慣れない浴衣と慣れない履物のせいで疲れていただけ、そうに違いない。
――でも、追いかけてきてくれた貴方の顔がとても必氏で嬉しいと感じてしまった私は、もう手遅れみたいです。
「秋月、待てって!」
「……何ですか?」
「あー……二人で一緒に回らないと勿体無い、だろ?」
差し出された右手。すぐに掴むのは何だか恥ずかしくて、少し迷うような素振りを見せつつ、掴む。
「……確かに、勿体無いです」
「じゃあ、次の屋台行くか」
「――リンゴ飴」
「ん?」
「リンゴ飴、食べたいです」
「了解」
勿体無い、便利な私の口癖。
今の私にとって一番勿体無いのは、この時間を無為に過ごすこと。
だから、祭でいつもよりはしゃいだということにして、今日は目一杯振り回してみよう。
――防空駆逐艦秋月、推して参ります!
「で、はしゃぎすぎて屋台を片っ端から覗いてたらお腹が痛くなった、と」
「うぅ……はい」
(秋月ちゃんもまだまだ可愛いお年頃ですねー。……私もそろそろ提督とデート行きたいなー)
452: 2017/01/01(日) 16:54:27.15 ID:YbI9iKe00
「新年明けましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願いします」
「ヒャッハー! 新年だー!」
「熱燗、もう一本ね」
「着物で新年から日本酒て、ホンマにうちは呑兵衛ばっかやなぁ」
「明けましてきゅーきゅーかんばくー」
「瑞鳳、九九艦爆はお祝いの言葉じゃないわよ」
「千歳お姉ぇ、着物の帯弛んでるよ」
「ふふふ、このまま提督のところにでも行こうかしら」
居酒屋鳳翔、今年も賑やかな一年になりそうです。
「ヒャッハー! 新年だー!」
「熱燗、もう一本ね」
「着物で新年から日本酒て、ホンマにうちは呑兵衛ばっかやなぁ」
「明けましてきゅーきゅーかんばくー」
「瑞鳳、九九艦爆はお祝いの言葉じゃないわよ」
「千歳お姉ぇ、着物の帯弛んでるよ」
「ふふふ、このまま提督のところにでも行こうかしら」
居酒屋鳳翔、今年も賑やかな一年になりそうです。
453: 2017/01/01(日) 16:54:52.71 ID:YbI9iKe00
「器用ナモノネ」
「窮屈ダゼ」
「ホッポ、アマリ走ルト危ナイ」
「大丈夫大丈――ホポォ!?」
「ヲ―、トッテモ綺麗」
「オ揃イ、カ……マァ、悪クナイワネ」
深海棲艦組も今年は着物でお祝いするそうです。
「窮屈ダゼ」
「ホッポ、アマリ走ルト危ナイ」
「大丈夫大丈――ホポォ!?」
「ヲ―、トッテモ綺麗」
「オ揃イ、カ……マァ、悪クナイワネ」
深海棲艦組も今年は着物でお祝いするそうです。
459: 2017/01/06(金) 00:30:37.94 ID:d8cfNidJ0
一人の力など、たかが知れている。
駆逐艦一隻の力など、たかが知れている。
だからといって、一人の力を軽んじていいはずがない。
「――長月だ。駆逐艦と侮るなよ、役に立つはずだ」
最初に着任した鎮守府で開口一番そう啖呵を切った私に待っていたのは、全てを諦めたような司令官の疲れきった顔だった。
その理由はすぐにそこに所属する艦娘達から聞くことが出来た。
着任より少し前、大規模な作戦に参加したこの鎮守府の艦娘が半数以上海に還り、それだけの犠牲を払ってなお一向に減らない深海棲艦の数に、心が折れたようだ。
それは司令官に限ったことではなく、話を聞かせてくれた艦娘もまた、目に力が全く宿ってはいなかった。
結局、数ヵ月もしないうちに問題が起こり私はその鎮守府を後にした。
駆逐艦一隻の力など、たかが知れている。
だからといって、一人の力を軽んじていいはずがない。
「――長月だ。駆逐艦と侮るなよ、役に立つはずだ」
最初に着任した鎮守府で開口一番そう啖呵を切った私に待っていたのは、全てを諦めたような司令官の疲れきった顔だった。
その理由はすぐにそこに所属する艦娘達から聞くことが出来た。
着任より少し前、大規模な作戦に参加したこの鎮守府の艦娘が半数以上海に還り、それだけの犠牲を払ってなお一向に減らない深海棲艦の数に、心が折れたようだ。
それは司令官に限ったことではなく、話を聞かせてくれた艦娘もまた、目に力が全く宿ってはいなかった。
結局、数ヵ月もしないうちに問題が起こり私はその鎮守府を後にした。
460: 2017/01/06(金) 00:31:04.23 ID:d8cfNidJ0
次に着任した鎮守府で、私は深海棲艦との戦いを初めて経験した。
身を守る為ではなく敵を葬る為の回避、身を削いでも完全に沈むまでは決して止まらない攻撃。
氏を恐れないのか、そもそも氏ぬという概念すらありはしないのか、その様に僅かばかりとはいえ恐怖で身がすくんだ。
(“役に立つはずだ”、か……この様では説得力もないな)
駆逐艦だから侮られているのではなく、私が弱いから侮られている。
(――ならば、今より強くなればいい。)
私は鍛えた。来る日も来る日も己を磨いた。許された範囲の中でやれることは全てやった。
だが、道は果てしなく、一歩前へ進めているのかすら認識できない日々が焦らせる。
強く、もっと強く、今より強く――それだけを追い求めた結果、私は大切な何かを見失っていたことに気付けなかった。
身を守る為ではなく敵を葬る為の回避、身を削いでも完全に沈むまでは決して止まらない攻撃。
氏を恐れないのか、そもそも氏ぬという概念すらありはしないのか、その様に僅かばかりとはいえ恐怖で身がすくんだ。
(“役に立つはずだ”、か……この様では説得力もないな)
駆逐艦だから侮られているのではなく、私が弱いから侮られている。
(――ならば、今より強くなればいい。)
私は鍛えた。来る日も来る日も己を磨いた。許された範囲の中でやれることは全てやった。
だが、道は果てしなく、一歩前へ進めているのかすら認識できない日々が焦らせる。
強く、もっと強く、今より強く――それだけを追い求めた結果、私は大切な何かを見失っていたことに気付けなかった。
461: 2017/01/06(金) 00:31:30.36 ID:d8cfNidJ0
「……長月だ」
「よろしく頼む。ここにも何人か睦月型が居るから分からないことがあればそいつ等に聞くか、吹雪か加賀にでも聞くと良い」
「……」
一礼だけして去っていく長月。その背中に自信や力強さは感じられず、手元の書類に書かれた内容の重みが提督の眉間にシワを作った。
(望月がうちに居るのを幸運と取るか不運と取るか……いや、悩むまでもないか)
面倒事を何より嫌い、彼女が本当に面倒だと感じることを何一つやらせないことを条件にこの鎮守府で共に戦うと誓った言葉の真の意味を思えば、そこに悩む必要などは無かった。
今の長月を見て、彼女が何と言うかなど提督には分かりきっていたから。
「よろしく頼む。ここにも何人か睦月型が居るから分からないことがあればそいつ等に聞くか、吹雪か加賀にでも聞くと良い」
「……」
一礼だけして去っていく長月。その背中に自信や力強さは感じられず、手元の書類に書かれた内容の重みが提督の眉間にシワを作った。
(望月がうちに居るのを幸運と取るか不運と取るか……いや、悩むまでもないか)
面倒事を何より嫌い、彼女が本当に面倒だと感じることを何一つやらせないことを条件にこの鎮守府で共に戦うと誓った言葉の真の意味を思えば、そこに悩む必要などは無かった。
今の長月を見て、彼女が何と言うかなど提督には分かりきっていたから。
462: 2017/01/06(金) 00:32:00.40 ID:d8cfNidJ0
「邪魔するぞ」
「んー……?」
「今日からここで世話になる長……望月、か?」
「そうだけど、何さ?」
「……いや、何でもない」
「ふーん。まぁよろしく。他の睦月型は今遠征行ったり出掛けてるから、適当に空いてる場所使っていーよ」
「あぁ、分かった」
(あー……何でこう次から次へと面倒そうなの連れてくんのさ司令官は……)
殆ど無いに等しい荷物を下ろし、壁に背中を預け、ただジッと虚空を見つめる姉妹艦の姿に頭をかきむしる望月。
きっと文句を言っても返される言葉は決まっていて、イラッとするだけなのが分かりきっている為、ズレた眼鏡を直して新たな同居人を正面から見据える。
そこには、普段の気だるさを微塵も感じさせない彼女の本当の姿があった。
「んー……?」
「今日からここで世話になる長……望月、か?」
「そうだけど、何さ?」
「……いや、何でもない」
「ふーん。まぁよろしく。他の睦月型は今遠征行ったり出掛けてるから、適当に空いてる場所使っていーよ」
「あぁ、分かった」
(あー……何でこう次から次へと面倒そうなの連れてくんのさ司令官は……)
殆ど無いに等しい荷物を下ろし、壁に背中を預け、ただジッと虚空を見つめる姉妹艦の姿に頭をかきむしる望月。
きっと文句を言っても返される言葉は決まっていて、イラッとするだけなのが分かりきっている為、ズレた眼鏡を直して新たな同居人を正面から見据える。
そこには、普段の気だるさを微塵も感じさせない彼女の本当の姿があった。
463: 2017/01/06(金) 00:32:45.08 ID:d8cfNidJ0
一人の力で出来ることなどたかが知れている。
理解していた、そのはずだった。
どれだけの突出した力があっても、力が合わさらなければ一は一を越えることはない。
“もっとさ、肩の力抜きなって”
失った一を取り戻す術が、決してありはしないのと同じ様に。
――――
―――
――
(……最悪な寝覚めだ)
額に汗で張り付いた髪を払いのけ、身体を起こす。
見慣れない部屋がまだ覚醒していない意識に飛び込んでくるが、すぐに自分が鎮守府を異動になったことを思い出した。
まずは顔を洗おうと洗面所に向かおうとすると、足元に膨らんだ毛布が無造作に転がっており、踏まないように跨いで通り過ぎる。
(そうか、ここにも“望月”が居るんだったな)
“同型艦の望月でーす。よろしくー”
「っ……」
洗面台の鏡に映った、彼女に似た自分の顔。目を背けるように視線を外せば、コップに立てられた歯ブラシに目が止まった。
(四……五……六……六人か)
出撃と遠征に他の同型艦は出掛けていると望月が言っていたのを思い出す。
(……私は、ここに居てもいいのか?)
その問いに返事があるわけもなく、手早く身支度を済ませて部屋を後にする。
行く宛などないものの、少なくとも望月と一緒の空間で一日を過ごすのだけは避けたかった。
(さて、どこに行くとしよう)
来たばかりで何がどこにあるかなど分かるはずもなく、本当に行き当たりばったりに右へ左へと進んでいく。
時折艦娘とすれ違うこともあったが、特に呼び止められることもなくただただ歩を進める。
――そして、行き着いた先は不思議な場所だった。
理解していた、そのはずだった。
どれだけの突出した力があっても、力が合わさらなければ一は一を越えることはない。
“もっとさ、肩の力抜きなって”
失った一を取り戻す術が、決してありはしないのと同じ様に。
――――
―――
――
(……最悪な寝覚めだ)
額に汗で張り付いた髪を払いのけ、身体を起こす。
見慣れない部屋がまだ覚醒していない意識に飛び込んでくるが、すぐに自分が鎮守府を異動になったことを思い出した。
まずは顔を洗おうと洗面所に向かおうとすると、足元に膨らんだ毛布が無造作に転がっており、踏まないように跨いで通り過ぎる。
(そうか、ここにも“望月”が居るんだったな)
“同型艦の望月でーす。よろしくー”
「っ……」
洗面台の鏡に映った、彼女に似た自分の顔。目を背けるように視線を外せば、コップに立てられた歯ブラシに目が止まった。
(四……五……六……六人か)
出撃と遠征に他の同型艦は出掛けていると望月が言っていたのを思い出す。
(……私は、ここに居てもいいのか?)
その問いに返事があるわけもなく、手早く身支度を済ませて部屋を後にする。
行く宛などないものの、少なくとも望月と一緒の空間で一日を過ごすのだけは避けたかった。
(さて、どこに行くとしよう)
来たばかりで何がどこにあるかなど分かるはずもなく、本当に行き当たりばったりに右へ左へと進んでいく。
時折艦娘とすれ違うこともあったが、特に呼び止められることもなくただただ歩を進める。
――そして、行き着いた先は不思議な場所だった。
464: 2017/01/06(金) 00:34:07.31 ID:d8cfNidJ0
(ここは、何だ?)
無数に並ぶ石、石、石。
表面には文字が刻まれており、それが艦娘の名前と日付であることは近付くとすぐに分かった。
「――何してんの?」
「っ……歩いていたら、偶然ここへ来た」
「ふーん」
いつからそこに居たのか、数メートル後ろに立っていた望月。
どうしていいか分からずに居ると、彼女はその石に歩み寄りながら話を始めた。
「艦娘ってさ、基本何にも残んないんだよ。戦歴は司令官の功績として残るけど、アタシ達は何を為そうが消えればそれでおしまい。身体は泡みたいに消えて、氏んだって事実すら残らない。だから、一秒でも長く誰かの記憶に残せるように、アタシ達が関わった誰かじゃないそいつの生きた証を、こうやって残してるって訳」
刻まれた文字を優しく指でなぞる望月の後ろ姿に、もう一人の彼女の姿が重なり、締め付けられるように痛む胸を押さえる。
「――そんなに面倒なら捨てちまえばいいんじゃねーの?」
「……?」
「思い出す度に湿気た面されるとかアタシだったらヤダよ、マジで」
「っ! 出会ったばかりのお前に、何が分かる」
「分かる訳ないじゃん。来たばっかで出会ったばっかの艦娘のことなんて」
「……すまん」
つい感情的になったものの、少し冷たくなった望月の声音に頭を冷やす。
視線は自然に下へと向き、気持ちも同時に沈んでいく。
「あー……とりあえず飯にしない? そろそろ皆も帰ってくるしさ」
「……あぁ」
このまま二人で居ることに何か意味があるとも思えず、出された提案を受け入れる。
他の姉妹艦ならば、普通に接することも出来るはずだ。
「あのさ」
「っ……何だ?」
「心構え、しときなよ?」
「……心構え?」
怪訝な顔をする私に何ともいえない表情を向けてきた望月の気持ちが、数分後には嫌というほど思い知らされることになるとは、この時の私には想像もつかなかったのだった。
無数に並ぶ石、石、石。
表面には文字が刻まれており、それが艦娘の名前と日付であることは近付くとすぐに分かった。
「――何してんの?」
「っ……歩いていたら、偶然ここへ来た」
「ふーん」
いつからそこに居たのか、数メートル後ろに立っていた望月。
どうしていいか分からずに居ると、彼女はその石に歩み寄りながら話を始めた。
「艦娘ってさ、基本何にも残んないんだよ。戦歴は司令官の功績として残るけど、アタシ達は何を為そうが消えればそれでおしまい。身体は泡みたいに消えて、氏んだって事実すら残らない。だから、一秒でも長く誰かの記憶に残せるように、アタシ達が関わった誰かじゃないそいつの生きた証を、こうやって残してるって訳」
刻まれた文字を優しく指でなぞる望月の後ろ姿に、もう一人の彼女の姿が重なり、締め付けられるように痛む胸を押さえる。
「――そんなに面倒なら捨てちまえばいいんじゃねーの?」
「……?」
「思い出す度に湿気た面されるとかアタシだったらヤダよ、マジで」
「っ! 出会ったばかりのお前に、何が分かる」
「分かる訳ないじゃん。来たばっかで出会ったばっかの艦娘のことなんて」
「……すまん」
つい感情的になったものの、少し冷たくなった望月の声音に頭を冷やす。
視線は自然に下へと向き、気持ちも同時に沈んでいく。
「あー……とりあえず飯にしない? そろそろ皆も帰ってくるしさ」
「……あぁ」
このまま二人で居ることに何か意味があるとも思えず、出された提案を受け入れる。
他の姉妹艦ならば、普通に接することも出来るはずだ。
「あのさ」
「っ……何だ?」
「心構え、しときなよ?」
「……心構え?」
怪訝な顔をする私に何ともいえない表情を向けてきた望月の気持ちが、数分後には嫌というほど思い知らされることになるとは、この時の私には想像もつかなかったのだった。
465: 2017/01/06(金) 00:34:34.23 ID:d8cfNidJ0
「――よぅ長月、かくれんぼでもしてんのか?」
眼帯が特徴的な軽巡、天龍に声をかけられる。
誰も通りそうに無い道の脇にある茂みの陰に居たというのに、何故見つかったのかと考えていると、横にどっかりと彼女は座り込んだ。
「見たところ騒がしい姉妹艦から逃げてきた、って感じだな」
「……」
「アイツ等、力が有り余ってるからな。また暫く遠征もねぇし、新しく姉妹が来て余計にはしゃいでんだよ」
はしゃぐ、という可愛げのある度合いを越えていたと告げると、大きく声をあげて笑われ、頭を乱暴に撫でられる。
抵抗するより早くその手は離れていき、代わりに今度は見た目からは想像出来ない優しい視線が向けられた。
「他人の生き方に口を挟むつもりはねぇけどよ、笑えない生き方は辛いだけだと思うぜ?」
余計なお世話だ、そう返すのを躊躇ったのはきっとあの一言を思い出したからだ。
(私に、笑って生きる資格が本当にあるのか……?)
“ずっとしかめっ面してて疲れねーの? ほら、たまには笑いなって”
眼帯が特徴的な軽巡、天龍に声をかけられる。
誰も通りそうに無い道の脇にある茂みの陰に居たというのに、何故見つかったのかと考えていると、横にどっかりと彼女は座り込んだ。
「見たところ騒がしい姉妹艦から逃げてきた、って感じだな」
「……」
「アイツ等、力が有り余ってるからな。また暫く遠征もねぇし、新しく姉妹が来て余計にはしゃいでんだよ」
はしゃぐ、という可愛げのある度合いを越えていたと告げると、大きく声をあげて笑われ、頭を乱暴に撫でられる。
抵抗するより早くその手は離れていき、代わりに今度は見た目からは想像出来ない優しい視線が向けられた。
「他人の生き方に口を挟むつもりはねぇけどよ、笑えない生き方は辛いだけだと思うぜ?」
余計なお世話だ、そう返すのを躊躇ったのはきっとあの一言を思い出したからだ。
(私に、笑って生きる資格が本当にあるのか……?)
“ずっとしかめっ面してて疲れねーの? ほら、たまには笑いなって”
466: 2017/01/06(金) 00:35:05.28 ID:d8cfNidJ0
この鎮守府に来て、三日目の夜。私はふと目が覚め、少し散歩をすることにした。
姉妹は全員優しく、暖かく迎え入れてくれたが、やはり自分には相応しくない扱いだという考えが何度も頭を過り、落ち着くということはなかった。
(私は、どうするべきなのだろうか)
自問自答を繰り返すうち、気付けば以前訪れたあの場所に来ていた。
そして、今度は彼女が先にそこへと立っているのを見付ける。
「――ここが気に入りでもしたの?」
「……邪魔なら他へ行こう」
「あのさー、アタシを避けるのはいいけどそのしかめっ面どうにかなんない?」
「……」
「作戦中に無茶した挙げ句に味方が自分を庇って轟沈。自業自得じゃん」
「……さい」
「沈む覚悟も仲間の氏を受け止める覚悟も無いなら、最初から戦わなきゃ良い話だし」
「……黙れ」
「そうすれば――その望月も無駄氏にせずに済んだんじゃね?」
「っ! 貴様あぁぁぁぁっ!」
「っ……今の長月に怒る資格あんの? 戦いから逃げ出して、折角助けられた命を粗末にしてるくせに」
「黙れ、黙れ黙れ黙れっ!」
「笑いたきゃ笑えばいいじゃん。泣きたきゃ泣けばいいじゃん。もがいて、苦しんで、あがいて、必氏に生きる。それが生かされた者のやるべき事なんじゃねーの?」
「それが……それが簡単に出来れば苦労はしない!」
「だったら周りを頼ればいいじゃん。まぁすぐには無理かもしんないけどさ、ここの連中は馬鹿で面倒だけど悪い奴等じゃねーよ」
「っ……わた、しは……」
「んー?」
「最後に感謝すら、伝えられなかったんだ……ありがとうの、一言すら、だから、だか……」
「――きっと、届いてたんじゃねーかな、言わなくってもさ」
「あ……あぁ……うあぁぁぁぁぁっ!」
(あー……泣き止むまでこうしてなきゃいけないとか、マジめんどくさ……)
“長月……そんな顔すんなって……アタシ、アンタの笑ってる顔が……”
姉妹は全員優しく、暖かく迎え入れてくれたが、やはり自分には相応しくない扱いだという考えが何度も頭を過り、落ち着くということはなかった。
(私は、どうするべきなのだろうか)
自問自答を繰り返すうち、気付けば以前訪れたあの場所に来ていた。
そして、今度は彼女が先にそこへと立っているのを見付ける。
「――ここが気に入りでもしたの?」
「……邪魔なら他へ行こう」
「あのさー、アタシを避けるのはいいけどそのしかめっ面どうにかなんない?」
「……」
「作戦中に無茶した挙げ句に味方が自分を庇って轟沈。自業自得じゃん」
「……さい」
「沈む覚悟も仲間の氏を受け止める覚悟も無いなら、最初から戦わなきゃ良い話だし」
「……黙れ」
「そうすれば――その望月も無駄氏にせずに済んだんじゃね?」
「っ! 貴様あぁぁぁぁっ!」
「っ……今の長月に怒る資格あんの? 戦いから逃げ出して、折角助けられた命を粗末にしてるくせに」
「黙れ、黙れ黙れ黙れっ!」
「笑いたきゃ笑えばいいじゃん。泣きたきゃ泣けばいいじゃん。もがいて、苦しんで、あがいて、必氏に生きる。それが生かされた者のやるべき事なんじゃねーの?」
「それが……それが簡単に出来れば苦労はしない!」
「だったら周りを頼ればいいじゃん。まぁすぐには無理かもしんないけどさ、ここの連中は馬鹿で面倒だけど悪い奴等じゃねーよ」
「っ……わた、しは……」
「んー?」
「最後に感謝すら、伝えられなかったんだ……ありがとうの、一言すら、だから、だか……」
「――きっと、届いてたんじゃねーかな、言わなくってもさ」
「あ……あぁ……うあぁぁぁぁぁっ!」
(あー……泣き止むまでこうしてなきゃいけないとか、マジめんどくさ……)
“長月……そんな顔すんなって……アタシ、アンタの笑ってる顔が……”
467: 2017/01/06(金) 00:35:31.37 ID:d8cfNidJ0
「へー、今の長月からは全く想像も出来ない話ね」
「がむしゃらに鍛えてるのはもう誰も失いたくないって気持ちからだ。最近はとにかく鍛えるのが主目的になってるような気もするがな」
「そういえば、望月についても色々気になったんだけれど」
「アイツについては……まぁ、本人から聞いてくれ。多分一切教えちゃくれないだろうがな」
「そうなの? 睦月や吹雪辺りにそれとなく聞いてみようかしら……」
(望月、か……次の秘書艦日は久しぶりにちょっとからかって遊んでやるかな)
――――長月、みかん取って。
――――自分で取れナマケモノ。
――――泣き疲れてアタシの上で寝たの誰だっけ?
――――そんな昔の話は覚えていない。
「がむしゃらに鍛えてるのはもう誰も失いたくないって気持ちからだ。最近はとにかく鍛えるのが主目的になってるような気もするがな」
「そういえば、望月についても色々気になったんだけれど」
「アイツについては……まぁ、本人から聞いてくれ。多分一切教えちゃくれないだろうがな」
「そうなの? 睦月や吹雪辺りにそれとなく聞いてみようかしら……」
(望月、か……次の秘書艦日は久しぶりにちょっとからかって遊んでやるかな)
――――長月、みかん取って。
――――自分で取れナマケモノ。
――――泣き疲れてアタシの上で寝たの誰だっけ?
――――そんな昔の話は覚えていない。
468: 2017/01/06(金) 00:36:58.67 ID:d8cfNidJ0
なんとなくシリーズ長月編、もっちーを添えて
473: 2017/01/12(木) 03:04:43.46 ID:CPn1F3CE0
・球磨型『球磨型全員でハイキングだクマー』 、投下します
ある日森の中
ある日森の中
474: 2017/01/12(木) 03:05:10.58 ID:CPn1F3CE0
「行かないにゃ」
「ごめんパス」
「北上さんが行かないなら私もパスで」
「俺もパス」
「行ーくークーマー」
「大体、何で急にハイキングなのにゃ」
「紹介したい相手がいるんだクマ」
「ありゃ、球磨姉浮気?」
「北上さん、こんな猛獣が提督以外になつくわけありません」
「誰が猛獣だクマ。愛らしくて可愛いって皆言ってくれるクマ」
(そいつ等の目は節穴じゃないがフィルターが凄そうだな)
「とにかく全員準備するクマー。行かないとスペシャル球磨コースを久しぶりにやらせるクマー」
「行くのも行かないのも罰ゲームにゃ……」
「いやいや、今のなまった体で流石にアレは無理っしょ」
「未だにアレをこなせる人達の方がおかしいのよ……」
「俺は別に問題ない」
「出発は明日のマルナナマルマルだクマー」
「多摩は布団で一日転がりたかったのに……」
「大井っちー寝てたらよろしくー」
「分かったわ、北上さんを背負って連れて行けばいいのね」
「普通に起こせよ」
スペシャル球磨コース。それは神通もにっこりな強化メニューである。
「ごめんパス」
「北上さんが行かないなら私もパスで」
「俺もパス」
「行ーくークーマー」
「大体、何で急にハイキングなのにゃ」
「紹介したい相手がいるんだクマ」
「ありゃ、球磨姉浮気?」
「北上さん、こんな猛獣が提督以外になつくわけありません」
「誰が猛獣だクマ。愛らしくて可愛いって皆言ってくれるクマ」
(そいつ等の目は節穴じゃないがフィルターが凄そうだな)
「とにかく全員準備するクマー。行かないとスペシャル球磨コースを久しぶりにやらせるクマー」
「行くのも行かないのも罰ゲームにゃ……」
「いやいや、今のなまった体で流石にアレは無理っしょ」
「未だにアレをこなせる人達の方がおかしいのよ……」
「俺は別に問題ない」
「出発は明日のマルナナマルマルだクマー」
「多摩は布団で一日転がりたかったのに……」
「大井っちー寝てたらよろしくー」
「分かったわ、北上さんを背負って連れて行けばいいのね」
「普通に起こせよ」
スペシャル球磨コース。それは神通もにっこりな強化メニューである。
475: 2017/01/12(木) 03:05:47.48 ID:CPn1F3CE0
「――それで、会わせたい相手ってのは誰なんだ?」
「ちょっとシャイで人前に出たがらない奥ゆかしい子だクマ」
「人前に出たがらないってレベルじゃないよねー。だってここ、山だよ?」
「そんな相手にどうして私達を会わせたいわけ?」
「人に馴れて欲しいクマ」
「……なぁ球磨姉、もしかしてそいつ――」
「あっ、居たクマ。おーい、会いに来たクマー」
――グルル……。
「・・・・・・多摩の目には人に馴れちゃいけない奴が映ってるにゃ」
「うん、まぁ、そうねぇ……熊だね」
「人前に出たがらないんじゃなくて人前に出れないだけじゃない……」
(球磨姉が熊と意思疎通してることには誰も突っ込まないんだな)
「よしよし、怯えなくていいクマ。皆球磨の自慢の妹だクマ」
「木曾、紹介されてるから挨拶してくるにゃ」
「俺だけじゃないだろ」
「多摩に姉なんて居なかったみたいにゃ」
「何さらっとお姉ちゃんの存在を抹消してるクマ」
「氏んだフリってダメなんだっけ?」
「目を合わせながらゆっくり後ずさるのがいいらしいです」
「大井、北上、球磨から後ずさるのやめるクマ」
「でも確かにソイツ、少し怯えてるみたいだな」
「そもそも冬眠してないのがおかしいにゃ」
「住んでた山が工事で無くなってここに逃げてきたらしいクマ」
「ありゃりゃ、そりゃ大変だったねぇ」
「それで? その人嫌いの冬眠してない熊をどうするつもりなの?」
「連れて帰りたいクマ」
「ペットにも限度があるだろ」
「裏山ならきっと大丈夫だクマ」
「提督は知ってるのにゃ?」
「“ちゃんと姉妹で面倒見て俺が襲われないならいい”って言ってたクマ」
「うわ、丸投げだ」
「いっぺん沈めてやろうかしら……」
「基本餌は自分で確保出来るし、山からは下りてこないよう言い聞かせるクマ。だから、協力して欲しいクマ」
「……はぁ、仕方ないにゃあ」
「時折様子見る程度だよね? まぁ、それぐらいならいいよー」
「北上さんがいいなら問題ありません」
「暴れたら止めればいいだけだろ?」
「ありがとだクマー。じゃあ今日はこのまま親睦会だクマ」
「ちょっとシャイで人前に出たがらない奥ゆかしい子だクマ」
「人前に出たがらないってレベルじゃないよねー。だってここ、山だよ?」
「そんな相手にどうして私達を会わせたいわけ?」
「人に馴れて欲しいクマ」
「……なぁ球磨姉、もしかしてそいつ――」
「あっ、居たクマ。おーい、会いに来たクマー」
――グルル……。
「・・・・・・多摩の目には人に馴れちゃいけない奴が映ってるにゃ」
「うん、まぁ、そうねぇ……熊だね」
「人前に出たがらないんじゃなくて人前に出れないだけじゃない……」
(球磨姉が熊と意思疎通してることには誰も突っ込まないんだな)
「よしよし、怯えなくていいクマ。皆球磨の自慢の妹だクマ」
「木曾、紹介されてるから挨拶してくるにゃ」
「俺だけじゃないだろ」
「多摩に姉なんて居なかったみたいにゃ」
「何さらっとお姉ちゃんの存在を抹消してるクマ」
「氏んだフリってダメなんだっけ?」
「目を合わせながらゆっくり後ずさるのがいいらしいです」
「大井、北上、球磨から後ずさるのやめるクマ」
「でも確かにソイツ、少し怯えてるみたいだな」
「そもそも冬眠してないのがおかしいにゃ」
「住んでた山が工事で無くなってここに逃げてきたらしいクマ」
「ありゃりゃ、そりゃ大変だったねぇ」
「それで? その人嫌いの冬眠してない熊をどうするつもりなの?」
「連れて帰りたいクマ」
「ペットにも限度があるだろ」
「裏山ならきっと大丈夫だクマ」
「提督は知ってるのにゃ?」
「“ちゃんと姉妹で面倒見て俺が襲われないならいい”って言ってたクマ」
「うわ、丸投げだ」
「いっぺん沈めてやろうかしら……」
「基本餌は自分で確保出来るし、山からは下りてこないよう言い聞かせるクマ。だから、協力して欲しいクマ」
「……はぁ、仕方ないにゃあ」
「時折様子見る程度だよね? まぁ、それぐらいならいいよー」
「北上さんがいいなら問題ありません」
「暴れたら止めればいいだけだろ?」
「ありがとだクマー。じゃあ今日はこのまま親睦会だクマ」
476: 2017/01/12(木) 03:06:13.25 ID:CPn1F3CE0
「――それで、例の熊は結局どうしたんだ?」
「あきつ丸さんが協力してくれて裏山まで連れて来てくれたクマ」
「なるほど、昔のツテか……ここに来てからの様子はどうだ?」
「川内が気に入って夜警のお供にしたり、木曾にモフられてるクマ」
「そうか、ひとまず問題は無いってことだな」
(艦娘、深海棲艦、クマ……次は何を拾ってくるのやら)
――――コイツすっごく暖かいにゃ。
――――おー、これはなかなか。
――――何で私と目を合わせたがらないのよ……。
――――(この触り心地、悪くないな……)
「あきつ丸さんが協力してくれて裏山まで連れて来てくれたクマ」
「なるほど、昔のツテか……ここに来てからの様子はどうだ?」
「川内が気に入って夜警のお供にしたり、木曾にモフられてるクマ」
「そうか、ひとまず問題は無いってことだな」
(艦娘、深海棲艦、クマ……次は何を拾ってくるのやら)
――――コイツすっごく暖かいにゃ。
――――おー、これはなかなか。
――――何で私と目を合わせたがらないのよ……。
――――(この触り心地、悪くないな……)
478: 2017/01/12(木) 13:37:51.72 ID:CPn1F3CE0
※映画ネタを含みます
「提督、私がヲ級になった時はお願いします」
「今度は私が加賀を迎えにいかないといけませんね」
「瑞鶴は私が何度でも迎えに行くわ」
「翔鶴姉、それ私沈む前提なんだけど……」
(加賀がヲ級になったら勝てる気がしないんだけど……っていうか私と浦風の出番は!?)
「夕立、結構頑張ったっぽい?」
「大井っちと私の良いとこ持ってかれちゃったねー」
「また暴走するかとヒヤヒヤさせられたわ……」
「ワレアオバ、ワレアオバ」
「青葉、自虐やめなさい」
「妖精さん、協力ありがとうございます」
「川内姉さんが被弾するのは、お芝居でもあまり気持ちのいいものではありませんでした」
(言えない、被弾よりその後の訓練メニューが増やされる方が怖かったなんて……)
「私はあまり指揮が得意ではないんだが……」
「連合艦隊旗艦経験者が何言ってるの」
「はい……はい……来場者特典はその方向で、水着プロマイドを案に含めた元帥は潮からお灸を据えておいてください」
「ブッキー、映画では大活躍だったネー」
「はい、謎の声に導かれたり希望だったり自分と向き合ったり、すっごく主役でした!」
「暁が一番頑張ったんだから!」
(錆びる艤装開発した私が一番頑張った……五徹……氏ぬ……)
「私、あんな優柔不断じゃないんだけどなぁ……」
「艦隊の頭脳としてはあまり活躍出来ませんでしたね」
「如月ちゃん、その特殊メイク似合ってるよ」
「睦月ちゃんにあんなに泣かれたら、何度でも戻って来ちゃうわね」
暫く深海棲艦メイクが鎮守符で流行りました
「提督、私がヲ級になった時はお願いします」
「今度は私が加賀を迎えにいかないといけませんね」
「瑞鶴は私が何度でも迎えに行くわ」
「翔鶴姉、それ私沈む前提なんだけど……」
(加賀がヲ級になったら勝てる気がしないんだけど……っていうか私と浦風の出番は!?)
「夕立、結構頑張ったっぽい?」
「大井っちと私の良いとこ持ってかれちゃったねー」
「また暴走するかとヒヤヒヤさせられたわ……」
「ワレアオバ、ワレアオバ」
「青葉、自虐やめなさい」
「妖精さん、協力ありがとうございます」
「川内姉さんが被弾するのは、お芝居でもあまり気持ちのいいものではありませんでした」
(言えない、被弾よりその後の訓練メニューが増やされる方が怖かったなんて……)
「私はあまり指揮が得意ではないんだが……」
「連合艦隊旗艦経験者が何言ってるの」
「はい……はい……来場者特典はその方向で、水着プロマイドを案に含めた元帥は潮からお灸を据えておいてください」
「ブッキー、映画では大活躍だったネー」
「はい、謎の声に導かれたり希望だったり自分と向き合ったり、すっごく主役でした!」
「暁が一番頑張ったんだから!」
(錆びる艤装開発した私が一番頑張った……五徹……氏ぬ……)
「私、あんな優柔不断じゃないんだけどなぁ……」
「艦隊の頭脳としてはあまり活躍出来ませんでしたね」
「如月ちゃん、その特殊メイク似合ってるよ」
「睦月ちゃんにあんなに泣かれたら、何度でも戻って来ちゃうわね」
暫く深海棲艦メイクが鎮守符で流行りました
479: 2017/01/20(金) 01:40:47.05 ID:JfqDQAU30
・磯風『奪い取れ』、投下します
朝食を作る手伝いをしてもらおうと
朝食を作る手伝いをしてもらおうと
480: 2017/01/20(金) 01:41:14.23 ID:JfqDQAU30
喪失も、無念も、残して逝く痛みも、残される痛みも知っている。
であればこそ、この命は簡単に預けることも出来ず、手の届く範囲などほんの数メートルだ。
だから、私は――。
「司令、ケッコンカッコカリだ」
「……おはよう磯風、とりあえず上から退いてくれるか?」
「大丈夫だ、このままでいい」
「何が大丈夫か分からないんだが?」
「明石から指輪と書類は預かってきている。手続きは後ですればいい」
「ちょっと待て、とにかく一度降りろ」
「金剛達から聞いている、司令を相手にする時は徹底的に退路を絶てばいいと」
「そんな教えは受けんでいい!」
「無駄な抵抗はやめて観念しろ」
「……理由を言え」
「司令を護りたい、失いたくない、離れたくない」
(ほんのりと顔が赤いし、緊張が隠せてない。本気で言ってるらしいな)
「――こうすれば、信じてくれるか?」
「っ!? おまっ、何して」
「司令に触れられているというだけで、鼓動がこんなに激しい。この磯風にここまでさせたんだ、まさか断ったりしないよな?」
「……あぁ、降参だ」
「そうか……なぁ、司令」
「何だ?」
「その、だな……私から仕掛けたことだが、そろそろ手を――」
「断る」
「何!?」
「やられっぱなしでいるのは卒業したんだ。お前から仕掛けたんだから文句は無いよな?」
「は、浜風から聞いて知識として知ってはいるがそこまでの心の準備はできていない!」
「磯風程の武勲艦が敵前逃亡なんてしないよな?」
「っ……本気で司令がそう望むなら、それに応えよう。……だが、その……」
「その?」
「――部屋の外に浜風を待たせている」
であればこそ、この命は簡単に預けることも出来ず、手の届く範囲などほんの数メートルだ。
だから、私は――。
「司令、ケッコンカッコカリだ」
「……おはよう磯風、とりあえず上から退いてくれるか?」
「大丈夫だ、このままでいい」
「何が大丈夫か分からないんだが?」
「明石から指輪と書類は預かってきている。手続きは後ですればいい」
「ちょっと待て、とにかく一度降りろ」
「金剛達から聞いている、司令を相手にする時は徹底的に退路を絶てばいいと」
「そんな教えは受けんでいい!」
「無駄な抵抗はやめて観念しろ」
「……理由を言え」
「司令を護りたい、失いたくない、離れたくない」
(ほんのりと顔が赤いし、緊張が隠せてない。本気で言ってるらしいな)
「――こうすれば、信じてくれるか?」
「っ!? おまっ、何して」
「司令に触れられているというだけで、鼓動がこんなに激しい。この磯風にここまでさせたんだ、まさか断ったりしないよな?」
「……あぁ、降参だ」
「そうか……なぁ、司令」
「何だ?」
「その、だな……私から仕掛けたことだが、そろそろ手を――」
「断る」
「何!?」
「やられっぱなしでいるのは卒業したんだ。お前から仕掛けたんだから文句は無いよな?」
「は、浜風から聞いて知識として知ってはいるがそこまでの心の準備はできていない!」
「磯風程の武勲艦が敵前逃亡なんてしないよな?」
「っ……本気で司令がそう望むなら、それに応えよう。……だが、その……」
「その?」
「――部屋の外に浜風を待たせている」
481: 2017/01/20(金) 01:41:39.31 ID:JfqDQAU30
「提督と磯風の問題ですので私としてはあまり口を挟みたくないのですが、いきなりはないと思います」
――私は、司令に全てを預けたい。
「成り行きだ、成り行き!」
――この磯風という全てをもって、司令を護りたい。
「……陽炎と黒潮には無理矢理襲おうとしていたと報告しておきます」
――今度は、この手でしっかりと掴んで離しはしない。
「合意の上だ! 断じて強要はしてないぞ!――ん?」
「司令、この磯風が身も心も預けるんだ、覚悟しような?」
――――朝から廊下でディープキスを見せつけられました……。
――――磯風も結構大胆やなぁ。
――――(このままだと妹にどんどん先を越されてくかもしんないわね……)
――私は、司令に全てを預けたい。
「成り行きだ、成り行き!」
――この磯風という全てをもって、司令を護りたい。
「……陽炎と黒潮には無理矢理襲おうとしていたと報告しておきます」
――今度は、この手でしっかりと掴んで離しはしない。
「合意の上だ! 断じて強要はしてないぞ!――ん?」
「司令、この磯風が身も心も預けるんだ、覚悟しような?」
――――朝から廊下でディープキスを見せつけられました……。
――――磯風も結構大胆やなぁ。
――――(このままだと妹にどんどん先を越されてくかもしんないわね……)
482: 2017/01/20(金) 01:42:58.49 ID:JfqDQAU30
たまには突発で、今から三つリクエストを受け付けます
488: 2017/01/21(土) 23:32:24.89 ID:AV8BgIIo0
笑いは大事や。笑えんようになったらおしまいや。
財布無くしたみたいな顔して生きてたって、良いことなんか一つもあらへん。
司令はんはそれがよう分かってるんやろなぁ。ここは笑顔に溢れとる。
おもしろない鎮守府やったら出ていこかな思ってたけど、そんな気全然起きんかった。
不知火なんて見てるだけでおもろいし、陽炎はなんだかんだお節介やきやし、司令はん自身もおもろい人や。
からかうのは、うちなりの親愛表現。だって、嫌いなんにわざわざ絡んでいくとかめんどいだけやん。
世界が危機やとか、うちらがそれを救う要やとか、そんなん正直どうでもえぇんよ。
うちらにしか出来ひんからはい気張ってやーって言われても、知らんがなってなるに決まってるやん。
こんなん言うたら怒られるんやろけど、世界を救った今でもうちの気持ちは変わってへん。
――そう、世界そのものはどうでもえぇねん。
財布無くしたみたいな顔して生きてたって、良いことなんか一つもあらへん。
司令はんはそれがよう分かってるんやろなぁ。ここは笑顔に溢れとる。
おもしろない鎮守府やったら出ていこかな思ってたけど、そんな気全然起きんかった。
不知火なんて見てるだけでおもろいし、陽炎はなんだかんだお節介やきやし、司令はん自身もおもろい人や。
からかうのは、うちなりの親愛表現。だって、嫌いなんにわざわざ絡んでいくとかめんどいだけやん。
世界が危機やとか、うちらがそれを救う要やとか、そんなん正直どうでもえぇんよ。
うちらにしか出来ひんからはい気張ってやーって言われても、知らんがなってなるに決まってるやん。
こんなん言うたら怒られるんやろけど、世界を救った今でもうちの気持ちは変わってへん。
――そう、世界そのものはどうでもえぇねん。
489: 2017/01/21(土) 23:32:51.60 ID:AV8BgIIo0
「司令はん、飴食べへん?」
「まともな飴はあるんだろうな?」
「もちろんあるで、とびっきり美味しいのや」
「ホントだろうな?」
「ほら司令はん、口開けてぇな」
「変なのだったら後で覚えとけよ……」
「そんな警戒せんでも大丈夫やって」
(司令はんにだけやで、このとびっきり甘いのあげるんは)
――――黒潮はどうしてケッコンカッコカリしたの?
――――司令はんの隣に居ったらいつでもおもろいことが起こりそうやん?
――――アンタの愛情表現ってかなり歪んでるわよね。
――――嫌やわ陽炎、うちは陽炎も大好きやで。
――――(嘘じゃないから始末に悪いのよ、ホント)
「まともな飴はあるんだろうな?」
「もちろんあるで、とびっきり美味しいのや」
「ホントだろうな?」
「ほら司令はん、口開けてぇな」
「変なのだったら後で覚えとけよ……」
「そんな警戒せんでも大丈夫やって」
(司令はんにだけやで、このとびっきり甘いのあげるんは)
――――黒潮はどうしてケッコンカッコカリしたの?
――――司令はんの隣に居ったらいつでもおもろいことが起こりそうやん?
――――アンタの愛情表現ってかなり歪んでるわよね。
――――嫌やわ陽炎、うちは陽炎も大好きやで。
――――(嘘じゃないから始末に悪いのよ、ホント)
490: 2017/01/21(土) 23:35:36.07 ID:AV8BgIIo0
敵に回すと割と本気で恐ろしい黒潮でした
次回はコチラ
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります