706: 2017/08/12(土) 22:15:56.48 ID:JLyLhH+h0
前回はこちら
私の主人は足が速い。急に走り出して、追いかけるのが大変なこともよくある。
昔は寂しげな表情を浮かべて全てを振り切るように海を航行していたが、今はもっぱら陸を縦横無尽に笑顔で駆け回っている。本当に、とても楽しそうに。
きっと、私の体が彼女達に近ければ、言葉が話せたなら、主人も孤独感をあんなに感じずに済んだのだろう。ただただ、その後ろをついていくことしか出来なかったことが、とても歯痒かった。
兵器ではなく、ただの友人として彼女と過ごせたなら、それはとても幸せなことだっただろう。
いずれ、この身は主人より早く役目を終えてしまう。だけど、同時に主人がいつまでも笑って暮らせる世界が訪れたということだ。
その隣にいれないのは凄く寂しいけれど、あの笑顔が永遠に曇らないなら、私に悔いはない。
――だから、それまでは精一杯隣に居よう、同じ物言わぬ仲間と共に。
「何たそがれてるの連装砲ちゃん、行くよ!」
(行くってどこに――ちょっと待ってってばー島風ちゃん!)
704: 2017/08/03(木) 13:40:44.01 ID:J7Sg5r270
・天津風『真夏の秘め事(R-18)』
・秋月『妹が個性的すぎて私の影が薄い気がする』
・衣笠『衣笠丼』
以上三本でお送りします
・秋月『妹が個性的すぎて私の影が薄い気がする』
・衣笠『衣笠丼』
以上三本でお送りします
705: 2017/08/12(土) 22:13:55.38 ID:JLyLhH+h0
undefined
707: 2017/08/12(土) 22:44:32.87 ID:JLyLhH+h0
一日の始まりは大抵、日の出前後。老人はどうしてこう朝が早いのか。
寝癖を軽く整えて、寝間着のまま台所へ直行すると、夕べのうちにタイマーセットしておいた炊飯器の米をかき混ぜる。
釜で炊けとか言っていたボケ老人には釜を全力で投げつけたが受け止められた、まだまだしぶとそうだ。
朝食の献立は焼き鯖、大根の味噌汁、筑前煮、茄子のおひたし。昨日の残り物もあるから調理にそう時間はかからない。
味が薄いと最近うるさいが、歳を考えろと言うとおとなしくなる。念のために言っておくが、健康診断で引っ掛かられると面倒なだけで心配など微塵もしていない。
食事の準備を済ませ、着替えてから庭に回り、手近な小石を木刀の素振りをしている背後から投げ付ける。
――残念ながら、今日も弾かれた。
食事を終えて暫くすると、迎えの車が到着する。基本的に、完全にスイッチを入れるのはここからだ。
二人が家に居る間は、朧・曙・潮の三人が交代制で周囲を警戒している。水入らずの時間を少しは取って欲しいという配慮らしいが、別にどっちでもいい。ただ、多少気を抜けるのは有り難いのでお言葉に甘えている。
最近でこそ平和になったが、闇討ちや狙撃、爆弾などのトラップは飽きるほど経験してきた。後処理が非常に面倒なので、本当にやめて欲しい。
どうせ老い先短いくたばりぞこないなんだから、放っておけばいいのに。
寝癖を軽く整えて、寝間着のまま台所へ直行すると、夕べのうちにタイマーセットしておいた炊飯器の米をかき混ぜる。
釜で炊けとか言っていたボケ老人には釜を全力で投げつけたが受け止められた、まだまだしぶとそうだ。
朝食の献立は焼き鯖、大根の味噌汁、筑前煮、茄子のおひたし。昨日の残り物もあるから調理にそう時間はかからない。
味が薄いと最近うるさいが、歳を考えろと言うとおとなしくなる。念のために言っておくが、健康診断で引っ掛かられると面倒なだけで心配など微塵もしていない。
食事の準備を済ませ、着替えてから庭に回り、手近な小石を木刀の素振りをしている背後から投げ付ける。
――残念ながら、今日も弾かれた。
食事を終えて暫くすると、迎えの車が到着する。基本的に、完全にスイッチを入れるのはここからだ。
二人が家に居る間は、朧・曙・潮の三人が交代制で周囲を警戒している。水入らずの時間を少しは取って欲しいという配慮らしいが、別にどっちでもいい。ただ、多少気を抜けるのは有り難いのでお言葉に甘えている。
最近でこそ平和になったが、闇討ちや狙撃、爆弾などのトラップは飽きるほど経験してきた。後処理が非常に面倒なので、本当にやめて欲しい。
どうせ老い先短いくたばりぞこないなんだから、放っておけばいいのに。
708: 2017/08/12(土) 22:45:08.16 ID:JLyLhH+h0
機密って何だっけというレベルで露出している艦娘の今後についての議論。予算、情報規制、必要性のアピール方法、安全性のアピール方法、各国との連携、野良艦娘の保護等、議題は尽きない。勢いを失ったとはいえ、艦娘否定派が完全に消えたわけではない。愛人だろうという下卑た視線も、恐ろしいものを見るような視線も、未だに感じる場面は無くならない。
それでも私は、この場に立つことを苦痛とは全く思わない。
「とうとう気でも触れたんですか?」
「冗談で娘をくれなどとぬかすから脅したまでじゃ」
「本気だったら?」
「三枚におろしてやるわい」
「嫁にすらいかせてもらえないんですね」
「儂の目の黒いうちはやらん」
「さっさとくたばるぴょん」
「いーやーじゃー」
「……じゃあ、しょうがないですね」
他の誰かにこんな面倒な老人任せられない。仕方ない。しょうがない。
――だから、これ以上面倒を増やす奴は首置いてけぴょん。
それでも私は、この場に立つことを苦痛とは全く思わない。
「とうとう気でも触れたんですか?」
「冗談で娘をくれなどとぬかすから脅したまでじゃ」
「本気だったら?」
「三枚におろしてやるわい」
「嫁にすらいかせてもらえないんですね」
「儂の目の黒いうちはやらん」
「さっさとくたばるぴょん」
「いーやーじゃー」
「……じゃあ、しょうがないですね」
他の誰かにこんな面倒な老人任せられない。仕方ない。しょうがない。
――だから、これ以上面倒を増やす奴は首置いてけぴょん。
710: 2017/08/12(土) 23:10:36.36 ID:JLyLhH+h0
ヴォーパルバニー卯月です
712: 2017/08/12(土) 23:11:48.43 ID:JLyLhH+h0
「いててて……そりゃこっちの台詞だ、今にも泣きそうな顔でフラフラと歩いていきやがって。この辺道路の反対側に渡る場所少ないから苦労したぞ」
「あー、アレね、目にゴミが入っちゃってさー」
「目にゴミが入った程度で弱るような奴だったか?」
「うるさいなー、北上様だってそういう日もあるんだよー」
泣いていた顔を見られたくなくて、咄嗟に北上は顔を背けた。しかし、気になることもあるのでそれを確認する。
「さっきの女の人、置いてきて良かったの?」
「あぁ、下らない用事ならもう終わったから問題ない。今頃結婚記念日ドッキリの準備に取りかかってるだろうよ」
「結婚記念日、ドッキリ?」
「さっきのアイツ、海軍学校の同期でな、同期同士で結婚して退役したんだが、旦那にドッキリ仕掛けるから付き合えと無理矢理呼び出されたんだよ……それで、浮気ドッキリ用の腕組んだ写真は提供してやったから後は知らんと逃げてきた」
「……鼻の下、伸びてたじゃん」
「……根掘り葉掘り聞かれてたんだよ、色々と」
「色々って、何を?」
「色々は色々だ、ほら、さっさと帰るぞ!」
「ちょっ、気になるじゃんかさー教えてよ」
「うるさい、勘違いして泣いてた奴は黙って歩け」
「教えないと大井っちにチクるよ?」
「おいコラ、冤罪で海に沈めようとするな」
「はいはい、分かりましたよーだ」
「――バーカ」
「ん? 何か言った?」
「何でもねぇよ。ついでだからラーメンでも食って帰るか」
「おっいいねぇ、じゃあゴッテゴテのギットギトのにしましょっかね」
「断固拒否する!」
「あー、アレね、目にゴミが入っちゃってさー」
「目にゴミが入った程度で弱るような奴だったか?」
「うるさいなー、北上様だってそういう日もあるんだよー」
泣いていた顔を見られたくなくて、咄嗟に北上は顔を背けた。しかし、気になることもあるのでそれを確認する。
「さっきの女の人、置いてきて良かったの?」
「あぁ、下らない用事ならもう終わったから問題ない。今頃結婚記念日ドッキリの準備に取りかかってるだろうよ」
「結婚記念日、ドッキリ?」
「さっきのアイツ、海軍学校の同期でな、同期同士で結婚して退役したんだが、旦那にドッキリ仕掛けるから付き合えと無理矢理呼び出されたんだよ……それで、浮気ドッキリ用の腕組んだ写真は提供してやったから後は知らんと逃げてきた」
「……鼻の下、伸びてたじゃん」
「……根掘り葉掘り聞かれてたんだよ、色々と」
「色々って、何を?」
「色々は色々だ、ほら、さっさと帰るぞ!」
「ちょっ、気になるじゃんかさー教えてよ」
「うるさい、勘違いして泣いてた奴は黙って歩け」
「教えないと大井っちにチクるよ?」
「おいコラ、冤罪で海に沈めようとするな」
「はいはい、分かりましたよーだ」
「――バーカ」
「ん? 何か言った?」
「何でもねぇよ。ついでだからラーメンでも食って帰るか」
「おっいいねぇ、じゃあゴッテゴテのギットギトのにしましょっかね」
「断固拒否する!」
713: 2017/08/12(土) 23:12:29.15 ID:JLyLhH+h0
「元気そうだったよ、アイツ」
「何で来てねぇんだよ、あのバカ」
「私の色仕掛けなんてサラッと流して、自分のところの艦娘見つけて血相変えてすっ飛んでっちゃったのよ」
「はっはっは、話には聞いてたけどあんな偏屈で頑固な奴を落とした艦娘達にゃ一度会ってみてぇなぁ」
「一度会いに行ってみる? まだいっぱい話聞きたいし」
「そうだな、会いに行ってやるとするか。我等が英雄様の鎮守府にな」
「今から目に浮かぶわ、物凄く嫌そうな顔が」
――提督、海に沈めるって言いましたよね?
――俺はやましいことは何もしとらん。
――北上さんを泣かせた時点でギルティです。
――北上、お前からも何か言え。
――そういえばあの時、息を荒げて変Oみたいに襲おうともしてきたよねー。
――北上ー!?
「何で来てねぇんだよ、あのバカ」
「私の色仕掛けなんてサラッと流して、自分のところの艦娘見つけて血相変えてすっ飛んでっちゃったのよ」
「はっはっは、話には聞いてたけどあんな偏屈で頑固な奴を落とした艦娘達にゃ一度会ってみてぇなぁ」
「一度会いに行ってみる? まだいっぱい話聞きたいし」
「そうだな、会いに行ってやるとするか。我等が英雄様の鎮守府にな」
「今から目に浮かぶわ、物凄く嫌そうな顔が」
――提督、海に沈めるって言いましたよね?
――俺はやましいことは何もしとらん。
――北上さんを泣かせた時点でギルティです。
――北上、お前からも何か言え。
――そういえばあの時、息を荒げて変Oみたいに襲おうともしてきたよねー。
――北上ー!?
714: 2017/08/12(土) 23:15:04.75 ID:JLyLhH+h0
近場のコンビニに出掛けるときは、上下ジャージ、サンダル、勿論ノーメイク。戦いが終わってからは以前にも増して緩い雰囲気で、マイペースが歩いているようだとどこかのあぶなんとかが言っていた。
何故か駆逐艦になつかれるようで、ウザいウザいと言いながらお菓子をあげていたりもする。常に渡す為に多めに買っているのではと指摘すると、にへらーと笑うだけだった。
――だから、彼女のその表情はとても貴重なものだろう。
何故か駆逐艦になつかれるようで、ウザいウザいと言いながらお菓子をあげていたりもする。常に渡す為に多めに買っているのではと指摘すると、にへらーと笑うだけだった。
――だから、彼女のその表情はとても貴重なものだろう。
715: 2017/08/12(土) 23:15:41.21 ID:JLyLhH+h0
(提督と、露出の高い、うちの艦娘じゃない、女)
コンビニに出掛けた北上と道路をはさんで、女性と歩く提督の姿。それを見る彼女の顔には、表情がなかった。
自然とその足が二人の方へ向かい始めたのも、唯一の装飾品である指環を右手で固く覆うように握っているのも、無意識だ。
(母親、にしては若すぎるよねー。姉妹、一人っ子って言ってたじゃん。誰なんだろうねー、あの女)
鎮守府の誰と歩いていようが、それは普通のことだ。だが、一般人とおぼしき女性と提督が歩いているのは異常――そこに思考がたどり着いた時、北上は足を止めた。
(……まぁ、現状の方が異常なんだよねー)
提督は人だ、普通に一般人として生活する選択肢も存在する。彼がそれを万が一にも望んだとしたら、否定する権利は自分にはないと北上は来た道を戻ろうとした。
しかし、何故か徐々にぼやけていく視界がおかしくて、立ち止まって目を擦る。擦っても擦っても一向に視界は鮮明にならず、脇道の壁に寄りかかって蹲る。
(おっかしいね、整備不良かな、全然止まんないや)
あり得ないと頭で分かっていても、心はそれを受け入れない。結婚式の時、ケッコンカッコカリした時、自分を迎え入れてくれた時、想い出が、胸を締め付ける。
(いやーまいったね、意外に乙女だ、私)
この程度でここまで取り乱していることに驚きつつも、徐々に冷静さを取り戻してきた彼女は、目の前に息を荒げて自分を見下ろす男の存在に気づく。こんな時に変Oか何かか、とより冷静になった北上は立ち上がるのと同時に拳を振り抜き、顎を打ち抜いた。
「弱ってる女の子の前で息を荒げてたんだから、今のは正当防え――ありゃ?」
「おはへ、おへひはんはふらひへほはるのは?」
「……提督、何やってんの?」
コンビニに出掛けた北上と道路をはさんで、女性と歩く提督の姿。それを見る彼女の顔には、表情がなかった。
自然とその足が二人の方へ向かい始めたのも、唯一の装飾品である指環を右手で固く覆うように握っているのも、無意識だ。
(母親、にしては若すぎるよねー。姉妹、一人っ子って言ってたじゃん。誰なんだろうねー、あの女)
鎮守府の誰と歩いていようが、それは普通のことだ。だが、一般人とおぼしき女性と提督が歩いているのは異常――そこに思考がたどり着いた時、北上は足を止めた。
(……まぁ、現状の方が異常なんだよねー)
提督は人だ、普通に一般人として生活する選択肢も存在する。彼がそれを万が一にも望んだとしたら、否定する権利は自分にはないと北上は来た道を戻ろうとした。
しかし、何故か徐々にぼやけていく視界がおかしくて、立ち止まって目を擦る。擦っても擦っても一向に視界は鮮明にならず、脇道の壁に寄りかかって蹲る。
(おっかしいね、整備不良かな、全然止まんないや)
あり得ないと頭で分かっていても、心はそれを受け入れない。結婚式の時、ケッコンカッコカリした時、自分を迎え入れてくれた時、想い出が、胸を締め付ける。
(いやーまいったね、意外に乙女だ、私)
この程度でここまで取り乱していることに驚きつつも、徐々に冷静さを取り戻してきた彼女は、目の前に息を荒げて自分を見下ろす男の存在に気づく。こんな時に変Oか何かか、とより冷静になった北上は立ち上がるのと同時に拳を振り抜き、顎を打ち抜いた。
「弱ってる女の子の前で息を荒げてたんだから、今のは正当防え――ありゃ?」
「おはへ、おへひはんはふらひへほはるのは?」
「……提督、何やってんの?」
716: 2017/08/12(土) 23:16:19.68 ID:JLyLhH+h0
「いててて……そりゃこっちの台詞だ、今にも泣きそうな顔でフラフラと歩いていきやがって。この辺道路の反対側に渡る場所少ないから苦労したぞ」
「あー、アレね、目にゴミが入っちゃってさー」
「目にゴミが入った程度で弱るような奴だったか?」
「うるさいなー、北上様だってそういう日もあるんだよー」
泣いていた顔を見られたくなくて、咄嗟に北上は顔を背けた。しかし、気になることもあるのでそれを確認する。
「さっきの女の人、置いてきて良かったの?」
「あぁ、下らない用事ならもう終わったから問題ない。今頃結婚記念日ドッキリの準備に取りかかってるだろうよ」
「結婚記念日、ドッキリ?」
「さっきのアイツ、海軍学校の同期でな、同期同士で結婚して退役したんだが、旦那にドッキリ仕掛けるから付き合えと無理矢理呼び出されたんだよ……それで、浮気ドッキリ用の腕組んだ写真は提供してやったから後は知らんと逃げてきた」
「……鼻の下、伸びてたじゃん」
「……根掘り葉掘り聞かれてたんだよ、色々と」
「色々って、何を?」
「色々は色々だ、ほら、さっさと帰るぞ!」
「ちょっ、気になるじゃんかさー教えてよ」
「うるさい、勘違いして泣いてた奴は黙って歩け」
「教えないと大井っちにチクるよ?」
「おいコラ、冤罪で海に沈めようとするな」
「はいはい、分かりましたよーだ」
「――バーカ」
「ん? 何か言った?」
「何でもねぇよ。ついでだからラーメンでも食って帰るか」
「おっいいねぇ、じゃあゴッテゴテのギットギトのにしましょっかね」
「断固拒否する!」
「あー、アレね、目にゴミが入っちゃってさー」
「目にゴミが入った程度で弱るような奴だったか?」
「うるさいなー、北上様だってそういう日もあるんだよー」
泣いていた顔を見られたくなくて、咄嗟に北上は顔を背けた。しかし、気になることもあるのでそれを確認する。
「さっきの女の人、置いてきて良かったの?」
「あぁ、下らない用事ならもう終わったから問題ない。今頃結婚記念日ドッキリの準備に取りかかってるだろうよ」
「結婚記念日、ドッキリ?」
「さっきのアイツ、海軍学校の同期でな、同期同士で結婚して退役したんだが、旦那にドッキリ仕掛けるから付き合えと無理矢理呼び出されたんだよ……それで、浮気ドッキリ用の腕組んだ写真は提供してやったから後は知らんと逃げてきた」
「……鼻の下、伸びてたじゃん」
「……根掘り葉掘り聞かれてたんだよ、色々と」
「色々って、何を?」
「色々は色々だ、ほら、さっさと帰るぞ!」
「ちょっ、気になるじゃんかさー教えてよ」
「うるさい、勘違いして泣いてた奴は黙って歩け」
「教えないと大井っちにチクるよ?」
「おいコラ、冤罪で海に沈めようとするな」
「はいはい、分かりましたよーだ」
「――バーカ」
「ん? 何か言った?」
「何でもねぇよ。ついでだからラーメンでも食って帰るか」
「おっいいねぇ、じゃあゴッテゴテのギットギトのにしましょっかね」
「断固拒否する!」
717: 2017/08/12(土) 23:16:54.12 ID:JLyLhH+h0
「元気そうだったよ、アイツ」
「何で来てねぇんだよ、あのバカ」
「私の色仕掛けなんてサラッと流して、自分のところの艦娘見つけて血相変えてすっ飛んでっちゃったのよ」
「はっはっは、話には聞いてたけどあんな偏屈で頑固な奴を落とした艦娘達にゃ一度会ってみてぇなぁ」
「一度会いに行ってみる? まだいっぱい話聞きたいし」
「そうだな、会いに行ってやるとするか。我等が英雄様の鎮守府にな」
「今から目に浮かぶわ、物凄く嫌そうな顔が」
――提督、海に沈めるって言いましたよね?
――俺はやましいことは何もしとらん。
――北上さんを泣かせた時点でギルティです。
――北上、お前からも何か言え。
――そういえばあの時、息を荒げて変Oみたいに襲おうともしてきたよねー。
――北上ー!?
「何で来てねぇんだよ、あのバカ」
「私の色仕掛けなんてサラッと流して、自分のところの艦娘見つけて血相変えてすっ飛んでっちゃったのよ」
「はっはっは、話には聞いてたけどあんな偏屈で頑固な奴を落とした艦娘達にゃ一度会ってみてぇなぁ」
「一度会いに行ってみる? まだいっぱい話聞きたいし」
「そうだな、会いに行ってやるとするか。我等が英雄様の鎮守府にな」
「今から目に浮かぶわ、物凄く嫌そうな顔が」
――提督、海に沈めるって言いましたよね?
――俺はやましいことは何もしとらん。
――北上さんを泣かせた時点でギルティです。
――北上、お前からも何か言え。
――そういえばあの時、息を荒げて変Oみたいに襲おうともしてきたよねー。
――北上ー!?
718: 2017/08/12(土) 23:20:39.93 ID:JLyLhH+h0
また失敗した…
・連装砲ちゃん物思いに耽る
・首狩りウサギの日常
・魚雷乙女
でした
リクエストはもうちょっと待ってください……
・連装砲ちゃん物思いに耽る
・首狩りウサギの日常
・魚雷乙女
でした
リクエストはもうちょっと待ってください……
726: 2017/09/25(月) 22:42:47.43 ID:om2j+I5c0
・秋月『妹が個性的すぎて私の影が薄い気がする』、投下します
727: 2017/09/25(月) 22:44:02.97 ID:om2j+I5c0
「秋月姉、一緒に遊ぼー」
「私ト遊ブンダヨネ、秋月姉」
「姉さん、缶詰のストックが足りないから買い足してきた」
「今洗濯物畳んでるんだから引っ張らないで、初月は備蓄食料って言葉の意味を辞書で調べてきて」
「じゃあ終わったら一緒に遊ぼ」
「何スル? 的当テ? 潜水艦ゲーム?」
「馬鹿にしないでくれ姉さん。備蓄食料は腹が減っては戦ができぬからすぐに食べられるよう確保しておく食料のことだろう?――この鯖缶もなかなか美味いな」
(……贅沢かもしれないけど、長十センチ砲ちゃんと二人の頃の静かな生活が恋しい)
「秋月姉」
「秋月姉ッテバ」
「間宮さんにシュールストレミングを仕入れて欲しいとお願いしたら断られたんだが、買っても構わないか?」
(……きっとお母さんってこんな感じなんだろうなぁ)
深海棲艦と双子みたいになっている妹、気付けば缶詰を食べている妹、二人に比べれば普通という自己認識をしている秋月からすれば、少し羨ましいと思う面もあった。
しかし、長女であるからしっかりせねばと自由奔放な妹達の面倒を見るので精一杯で、最近は秋月自身の自由な時間が無く、何か趣味の一つでも持とうにも余裕がない日々である。
そんな彼女に、いつものように悩んだ様子もなく彼はこう言った。
「クレー射撃でもやってみるか?」
「私ト遊ブンダヨネ、秋月姉」
「姉さん、缶詰のストックが足りないから買い足してきた」
「今洗濯物畳んでるんだから引っ張らないで、初月は備蓄食料って言葉の意味を辞書で調べてきて」
「じゃあ終わったら一緒に遊ぼ」
「何スル? 的当テ? 潜水艦ゲーム?」
「馬鹿にしないでくれ姉さん。備蓄食料は腹が減っては戦ができぬからすぐに食べられるよう確保しておく食料のことだろう?――この鯖缶もなかなか美味いな」
(……贅沢かもしれないけど、長十センチ砲ちゃんと二人の頃の静かな生活が恋しい)
「秋月姉」
「秋月姉ッテバ」
「間宮さんにシュールストレミングを仕入れて欲しいとお願いしたら断られたんだが、買っても構わないか?」
(……きっとお母さんってこんな感じなんだろうなぁ)
深海棲艦と双子みたいになっている妹、気付けば缶詰を食べている妹、二人に比べれば普通という自己認識をしている秋月からすれば、少し羨ましいと思う面もあった。
しかし、長女であるからしっかりせねばと自由奔放な妹達の面倒を見るので精一杯で、最近は秋月自身の自由な時間が無く、何か趣味の一つでも持とうにも余裕がない日々である。
そんな彼女に、いつものように悩んだ様子もなく彼はこう言った。
「クレー射撃でもやってみるか?」
728: 2017/09/25(月) 22:44:42.20 ID:om2j+I5c0
妖精さんの仕事は早い。提督から言われた翌日には、新たな娯楽施設がそこには誕生していた。
「ここに弾を込めて、こうやって撃つ」
「若葉、やったことあるの?」
「ゲームセンターだけでは満足できなくなって、色々とやってる」
(初霜が部屋に色々物騒なものが増えたって言ってた気がするけど、若葉のだったんだ……)
「艦載機程不規則には飛ばないが、風の影響を受けやすいし射撃時に微妙な調整が必要だ。艤装とは多少勝手が違うのに注意した方がいい」
「うん、教えてくれてありがとう」
とんでも兵器を量産している妖精さん達からすれば、クレー射撃用の銃を作ったり安全に加工したりは至極簡単で、今秋月が持っているものも彼女に合わせて調整されていた。
試しに構えてみると、驚くほど手に馴染み、早く撃ってみたいという気持ちが秋月に沸き上がってきた。
「的一つにつき二射まで、最初だから的は十個にしておく」
「分かった。じゃあお願い」
横で応援するように長十センチ砲ちゃんがぴょこぴょこと動いているのを撫でてから、構えて集中する。
最初は色々と戸惑いもあったが、今の彼女には目の前に飛んでくる的のことしか頭になかった。
(――来た。軌道を読んで……今!)
一射目、命中。
(次は……ここ)
二射目、命中。
(よし、次も――あっ)
三射目、失敗。
(今度は風もちゃんと計算して……ここ!)
四射目、命中。
(このまま最後も絶対、当てる!)
五射目、命中。
「――――ふぅ」
「どうだった?」
「思っていた以上に楽しかったかも」
「そうか、それは良かった」
「……もう一回やってもいい?」
「気が済むまでやっていくといい」
「うん!」
「流石は防空駆逐艦だな」
「いいストレス解消になっている」
「不要なガラクタとかを再利用してるからエコにもなる」
「外すと勿体ないと言っていたぞ」
「勿体ないって、アイツらしいな……」
「提督、お前もどうだ?」
「遠慮しとく」
「ここに弾を込めて、こうやって撃つ」
「若葉、やったことあるの?」
「ゲームセンターだけでは満足できなくなって、色々とやってる」
(初霜が部屋に色々物騒なものが増えたって言ってた気がするけど、若葉のだったんだ……)
「艦載機程不規則には飛ばないが、風の影響を受けやすいし射撃時に微妙な調整が必要だ。艤装とは多少勝手が違うのに注意した方がいい」
「うん、教えてくれてありがとう」
とんでも兵器を量産している妖精さん達からすれば、クレー射撃用の銃を作ったり安全に加工したりは至極簡単で、今秋月が持っているものも彼女に合わせて調整されていた。
試しに構えてみると、驚くほど手に馴染み、早く撃ってみたいという気持ちが秋月に沸き上がってきた。
「的一つにつき二射まで、最初だから的は十個にしておく」
「分かった。じゃあお願い」
横で応援するように長十センチ砲ちゃんがぴょこぴょこと動いているのを撫でてから、構えて集中する。
最初は色々と戸惑いもあったが、今の彼女には目の前に飛んでくる的のことしか頭になかった。
(――来た。軌道を読んで……今!)
一射目、命中。
(次は……ここ)
二射目、命中。
(よし、次も――あっ)
三射目、失敗。
(今度は風もちゃんと計算して……ここ!)
四射目、命中。
(このまま最後も絶対、当てる!)
五射目、命中。
「――――ふぅ」
「どうだった?」
「思っていた以上に楽しかったかも」
「そうか、それは良かった」
「……もう一回やってもいい?」
「気が済むまでやっていくといい」
「うん!」
「流石は防空駆逐艦だな」
「いいストレス解消になっている」
「不要なガラクタとかを再利用してるからエコにもなる」
「外すと勿体ないと言っていたぞ」
「勿体ないって、アイツらしいな……」
「提督、お前もどうだ?」
「遠慮しとく」
729: 2017/09/25(月) 22:45:11.84 ID:om2j+I5c0
「秋月姉、最近ちょっとおかしくない?」
「クレー射撃ノイメトレダッテ」
「よし、今日は大和煮の缶詰にしよう」
(急な風が吹いても対応できるようにこうして……でもこれだと低空に合わせづらいかな……)
「クレー射撃ノイメトレダッテ」
「よし、今日は大和煮の缶詰にしよう」
(急な風が吹いても対応できるようにこうして……でもこれだと低空に合わせづらいかな……)
731: 2017/11/11(土) 00:20:14.98 ID:70WzCzds0
・衣笠『衣笠丼』?、投下します
732: 2017/11/11(土) 00:21:07.80 ID:70WzCzds0
「衣笠さん食べられちゃうの!?」
「食わん、最近胃もたれが酷い」
「そういう問題なの……?」
「それより、自分の名前の食い物だ、しっかり共食いしろ」
「言い方!」
「油揚げと玉葱、シンプルだが美味いぞ」
「提督、衣笠さんの扱い雑じゃない?」
「俺の扱いが雑になってる奴が多すぎるせいだろ」
「それだけ信頼してるってことだと思うよ。提督だって、今更気を遣われたら居心地悪くない?」
「一理ある。ただな、忘れてると思うが、俺、お前らの提督な」
「ねぇねぇ提督、このゆずシャーベット後で頼んでもいい?」
「……衣笠茸のシャーベットを作らせて食わせてやる」
「うん、絶対食べないからゆずシャーベット頼むね」
「青葉もお前も段々からかいがいがなくなってきてつまらん」
「慣れもするってば、青葉なんて大体秘書艦日の次の日はベッドで悶えてたし」
「じゃあ今度心霊ツ――」
「そういうのは青葉の担当だから普通にデートしよ?」
「今してるだろ」
「次は水族館行きたい!」
「寿司か?」
「食べることから離れてよ」
「気付かないうちに営業再開してたんだな、水族館」
「生態系の異常な変化がないかとか、深海棲艦が潜んでないかとかで、結構時間がかかったみたい」
「流石に青葉のアシか、そういう情報には詳しいよな」
「あの子の嗅覚にはまだまだ敵わないけどね、どっから仕入れてくるのか分かんないネタの山でいっつも整理が大変なの」
「……危ないネタにはあまり深く触れないように釘刺しといてくれ」
「心配しなくても大丈夫だって、ちゃんと手綱は握ってるから」
「そうか、ソロモンの狼もリードがついてりゃ問題ないな」
「――何より、提督を悲しませるようなことをあの子がするはずないし」
「そりゃ助かる」
「じゃあそろそろ行こうよ提督」
「あぁ、そうだな」
――――何かあの魚、イ級っぽいね。
――――(イ級は流石にうちの奴等みたいになってないはず……だよな?)
「食わん、最近胃もたれが酷い」
「そういう問題なの……?」
「それより、自分の名前の食い物だ、しっかり共食いしろ」
「言い方!」
「油揚げと玉葱、シンプルだが美味いぞ」
「提督、衣笠さんの扱い雑じゃない?」
「俺の扱いが雑になってる奴が多すぎるせいだろ」
「それだけ信頼してるってことだと思うよ。提督だって、今更気を遣われたら居心地悪くない?」
「一理ある。ただな、忘れてると思うが、俺、お前らの提督な」
「ねぇねぇ提督、このゆずシャーベット後で頼んでもいい?」
「……衣笠茸のシャーベットを作らせて食わせてやる」
「うん、絶対食べないからゆずシャーベット頼むね」
「青葉もお前も段々からかいがいがなくなってきてつまらん」
「慣れもするってば、青葉なんて大体秘書艦日の次の日はベッドで悶えてたし」
「じゃあ今度心霊ツ――」
「そういうのは青葉の担当だから普通にデートしよ?」
「今してるだろ」
「次は水族館行きたい!」
「寿司か?」
「食べることから離れてよ」
「気付かないうちに営業再開してたんだな、水族館」
「生態系の異常な変化がないかとか、深海棲艦が潜んでないかとかで、結構時間がかかったみたい」
「流石に青葉のアシか、そういう情報には詳しいよな」
「あの子の嗅覚にはまだまだ敵わないけどね、どっから仕入れてくるのか分かんないネタの山でいっつも整理が大変なの」
「……危ないネタにはあまり深く触れないように釘刺しといてくれ」
「心配しなくても大丈夫だって、ちゃんと手綱は握ってるから」
「そうか、ソロモンの狼もリードがついてりゃ問題ないな」
「――何より、提督を悲しませるようなことをあの子がするはずないし」
「そりゃ助かる」
「じゃあそろそろ行こうよ提督」
「あぁ、そうだな」
――――何かあの魚、イ級っぽいね。
――――(イ級は流石にうちの奴等みたいになってないはず……だよな?)
751: 2018/02/26(月) 14:34:18.25 ID:FrkCOtyt0
・神風『陸』?、投下します
752: 2018/02/26(月) 14:35:25.97 ID:FrkCOtyt0
「――最近の艦娘は普通に着任しちゃいけない決まりでもあるのか?」
「流石僕の姉貴、意表をついてくれる」
「神風、推参しました。司令官、これからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼む。――で?」
「その水槽、何?」
提督と松風と着任したての神風は今、執務室にいる。提督は椅子に、松風はその横で立っていて、神風はというと――カート台車の上の水槽で水に浮かんでいる。
「これは、その、やむにやまれぬ事情があって」
「まぁそういうのには慣れてるからいいが、普通にここで生活するには不便そうだな」
「この際だから全面バリアフリーにでもするかい?」
「それもありかもしれん」
(何この司令官、松風も平然とし過ぎじゃない……? だって水槽よ? このレベルのおかしさに慣れてるって、どれだけこの鎮守府変わり者だらけなの?)
――かみかぜは こんらん している。
「提督、遊ビニ来テアゲタワヨ」
「リト、ちょっと今忙しいから金剛のところにでも行ってろ」
「アラ、ワザワザ来テアゲタ私ヲ無視――ッテコラてーとく、私ハ金剛ノトコロニ行クナンテ一言モ言ッテナァァァァ……」
「相変わらず面白いね、あの子達」
「あんな奴等に負けかけてたかと思うとたまに虚しくなる」
(今のって大きさはだいぶ縮んでるけど深海棲艦、よね? ここに住んでるの? 普通に暮らしてるの?)
――かみかぜは ますます こんらんしている。
「それで神風、部屋なんだが――」
「提督、ヒトゴマルマル、午後の甘味はいかがですか?」
「帰れ!」
「今のはほっぽの真似なのか? 全然似てなかったよ」
「そういうのいいから早くソイツ追い出せ!」
「かしこまりました。すぐにこの二人を追い出して瑞穂と二人っきりになりましょうね」
「お前に言ったんじゃない!」
「瑞穂は今日も平常運転のようだ」
(……この鎮守府、まともな人居ないのかも)
――かみかぜは かんがえるのを やめた。
「流石僕の姉貴、意表をついてくれる」
「神風、推参しました。司令官、これからよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく頼む。――で?」
「その水槽、何?」
提督と松風と着任したての神風は今、執務室にいる。提督は椅子に、松風はその横で立っていて、神風はというと――カート台車の上の水槽で水に浮かんでいる。
「これは、その、やむにやまれぬ事情があって」
「まぁそういうのには慣れてるからいいが、普通にここで生活するには不便そうだな」
「この際だから全面バリアフリーにでもするかい?」
「それもありかもしれん」
(何この司令官、松風も平然とし過ぎじゃない……? だって水槽よ? このレベルのおかしさに慣れてるって、どれだけこの鎮守府変わり者だらけなの?)
――かみかぜは こんらん している。
「提督、遊ビニ来テアゲタワヨ」
「リト、ちょっと今忙しいから金剛のところにでも行ってろ」
「アラ、ワザワザ来テアゲタ私ヲ無視――ッテコラてーとく、私ハ金剛ノトコロニ行クナンテ一言モ言ッテナァァァァ……」
「相変わらず面白いね、あの子達」
「あんな奴等に負けかけてたかと思うとたまに虚しくなる」
(今のって大きさはだいぶ縮んでるけど深海棲艦、よね? ここに住んでるの? 普通に暮らしてるの?)
――かみかぜは ますます こんらんしている。
「それで神風、部屋なんだが――」
「提督、ヒトゴマルマル、午後の甘味はいかがですか?」
「帰れ!」
「今のはほっぽの真似なのか? 全然似てなかったよ」
「そういうのいいから早くソイツ追い出せ!」
「かしこまりました。すぐにこの二人を追い出して瑞穂と二人っきりになりましょうね」
「お前に言ったんじゃない!」
「瑞穂は今日も平常運転のようだ」
(……この鎮守府、まともな人居ないのかも)
――かみかぜは かんがえるのを やめた。
753: 2018/02/26(月) 14:36:10.60 ID:FrkCOtyt0
――数日後。
「どうだ神風、不自由なことはあるか?」
「お陰様で大丈夫です。強いて言うなら……」
「何だ、何かあるなら遠慮なく言ってみろ」
「普通に対応され過ぎて逆に怖いです」
「そのうち嫌でも慣れるから安心しろ、ここの半数以上が歩んできた道だ。水槽に入ってる程度なら気にもならなくなる」
「……どうしてこうしてるかは、書類で知っているんですよね?」
「書類にあったことだけはな」
「私、陸に上がると動けないほど気持ち悪くなるんです。最初は目眩程度だったのがどんどん悪化して、今ではこうして海水の入った水槽がないと海から上がることすら出来ないんです」
「艤装を常時着用は弾薬とかを込めなきゃ問題ない。別に邪魔になるわけでもない。後はその不便さの解消と、特にこれをこうしてほしいとかはあるか?」
「……ここから出ろとは言わないのね」
「出たいなら出ればいい、それを決めるのはお前だ。俺じゃない」
(本当に自由なのね、ここって。じゃあ少しお言葉に甘えても、いいかな)
「――このまま自力で動けるようにって、出来る?」
「まずはありとあらゆる施設のバリアフリー、それからオートバランサーの付いた手動自動切り替え型の歩行水槽。勿論強度は最高クラスだ、頼めるか?」
「メカ夕張、推定作業時間は?」
「二百時間もあれば可能です」
「よし、じゃあまずは榛名さんと武蔵さん、大和さんに協力要請。それから明石に神風ちゃんの個人データ送って発注。着工スケジュールは霧島さんに出来次第送って施設の解放時間の打ち合わせ。手が足りないようなら日向さん、利根さん辺りに頼んで」
「オッケーです、マスター」
(……予想の遥か上過ぎて怖い)
――かみかぜの りくにたいするきょうふが ご あがった。
「どうだ神風、不自由なことはあるか?」
「お陰様で大丈夫です。強いて言うなら……」
「何だ、何かあるなら遠慮なく言ってみろ」
「普通に対応され過ぎて逆に怖いです」
「そのうち嫌でも慣れるから安心しろ、ここの半数以上が歩んできた道だ。水槽に入ってる程度なら気にもならなくなる」
「……どうしてこうしてるかは、書類で知っているんですよね?」
「書類にあったことだけはな」
「私、陸に上がると動けないほど気持ち悪くなるんです。最初は目眩程度だったのがどんどん悪化して、今ではこうして海水の入った水槽がないと海から上がることすら出来ないんです」
「艤装を常時着用は弾薬とかを込めなきゃ問題ない。別に邪魔になるわけでもない。後はその不便さの解消と、特にこれをこうしてほしいとかはあるか?」
「……ここから出ろとは言わないのね」
「出たいなら出ればいい、それを決めるのはお前だ。俺じゃない」
(本当に自由なのね、ここって。じゃあ少しお言葉に甘えても、いいかな)
「――このまま自力で動けるようにって、出来る?」
「まずはありとあらゆる施設のバリアフリー、それからオートバランサーの付いた手動自動切り替え型の歩行水槽。勿論強度は最高クラスだ、頼めるか?」
「メカ夕張、推定作業時間は?」
「二百時間もあれば可能です」
「よし、じゃあまずは榛名さんと武蔵さん、大和さんに協力要請。それから明石に神風ちゃんの個人データ送って発注。着工スケジュールは霧島さんに出来次第送って施設の解放時間の打ち合わせ。手が足りないようなら日向さん、利根さん辺りに頼んで」
「オッケーです、マスター」
(……予想の遥か上過ぎて怖い)
――かみかぜの りくにたいするきょうふが ご あがった。
757: 2018/02/27(火) 21:01:07.66 ID:JLhFD6rK0
舞風『12時に切れる魔法』に変更します
投下は来週までには出来る予定です
投下は来週までには出来る予定です
760: 2018/03/05(月) 21:53:07.16 ID:HEzz1bxk0
――踊る、踊る、優雅に踊る。
「ダンス、覚えてくれたんだ」
――踊る、踊る、少女は踊る。
「足、踏まない程度にはな」
――踊る、踊る、心は踊る。
「ドレス、変じゃない……?」
――踊る、踊る、胸が踊る。
「あぁ、よく似合ってる」
――踊る、踊る、夜空に踊る。
「何か、全部夢みたい」
――踊る、踊る、月が踊る。
「夢で、いいのか?」
――踊る、踊る、世界が踊る。
「うん、だから――これでおしまい」
「ダンス、覚えてくれたんだ」
――踊る、踊る、少女は踊る。
「足、踏まない程度にはな」
――踊る、踊る、心は踊る。
「ドレス、変じゃない……?」
――踊る、踊る、胸が踊る。
「あぁ、よく似合ってる」
――踊る、踊る、夜空に踊る。
「何か、全部夢みたい」
――踊る、踊る、月が踊る。
「夢で、いいのか?」
――踊る、踊る、世界が踊る。
「うん、だから――これでおしまい」
761: 2018/03/05(月) 21:53:55.65 ID:HEzz1bxk0
「もういいのか?」
「いいの、もう十分」
「あれだけ踊りたがってたくせに、えらくあっさりしてるな」
「だって、幸せすぎて夢から覚められなくなりそうだから」
「――ガラスの靴を、置いていけばいいだろ」
「私にお姫様なんて似合わないって」
「それなら俺だって王子って柄じゃない」
「ほらね? だから、終わりでいいの。私は艦娘で、提督は提督。ここはお城じゃなくて鎮守府で、皆と暮らす今を守るのが私のやりたいこと」
「……魔法が解けるには、まだもう少しあるな」
「提督……?」
「お前がそんなに夢から覚めたいっていうなら、望む通りにしてやるよ」
「それって――」
――――舞風、舞風ー?……ダメね、全然聞こえてないわ。
――――(昨日の提督、カッコ良かったなぁ……またあんなキスして欲しいな……)
「いいの、もう十分」
「あれだけ踊りたがってたくせに、えらくあっさりしてるな」
「だって、幸せすぎて夢から覚められなくなりそうだから」
「――ガラスの靴を、置いていけばいいだろ」
「私にお姫様なんて似合わないって」
「それなら俺だって王子って柄じゃない」
「ほらね? だから、終わりでいいの。私は艦娘で、提督は提督。ここはお城じゃなくて鎮守府で、皆と暮らす今を守るのが私のやりたいこと」
「……魔法が解けるには、まだもう少しあるな」
「提督……?」
「お前がそんなに夢から覚めたいっていうなら、望む通りにしてやるよ」
「それって――」
――――舞風、舞風ー?……ダメね、全然聞こえてないわ。
――――(昨日の提督、カッコ良かったなぁ……またあんなキスして欲しいな……)
763: 2018/03/05(月) 21:56:30.45 ID:HEzz1bxk0
戦った。戦い続けた。腕が折れたこともあった。足の骨が見えたこともあった。それでも私は戦った。ただただ敵を葬り続けた。
ある時、急に体にガタがきた。既に前線で戦っている最初の仲間は私一人になっていた。その仲間の一人に頼まれ、後進を育成することになった。
どうすれば艦載機は意のままに動き、敵の攻撃を掻い潜り、仕留められるかを毎日毎日骨の髄まで叩き込んだ。
鬼、悪魔、血の通っていない鉄の女、そう陰で呼ばれていたこともあった。ただ生き残り、ただ敵を倒す術を教えていただけだというのに、彼女達には仲間の血と肉で作られた航路の上を歩いている自覚が無いのだろうと、私は思った。
こうしている間にも、前線では仲間が一人、また一人と散っている。無為に命を散らせての現状維持など、何の意味もない。
(あの二人が残してくれた活路、絶対に守らないと)
「――その顔、どうにかならないの?」
「……笑い方なんて、忘れてしまいました」
「そんなんじゃお嫁の貰い手がなくなるぴょん」
「貴女は別の意味で無さそうですね」
「大きなお世話でぇーっす」
「――ねぇ、卯月」
「何だぴょん?」
「ここで私がこうしていることが、本当に終戦への手助けになっているんでしょうか」
「少なくとも、あのまま前線で戦い続けて沈まれるよりはなってるぴょん」
「まだ、普通になら戦えます」
「――貴女は敵を倒したいの? それとも仲間を守りたいの?」
「……さぁ、もう分からなくなってしまいました」
「だったら、一度思い切って戦いから離れてみたらどう?」
「そんなこと出来るわけ――」
「卯月を、誰の秘書艦だと思ってるぴょん」
「……貴女が羨ましいわ」
「結構大変よ、老人の介護って」
「いつかは、貴女みたいに見つけられるのかしら」
「“手を伸ばさぬ者は願うなかれ”、まずは自分で色々やってみるぴょん」
「あの御方の言いそうなことですね。――それにしても、いつの間にか似てきたわね、貴女」
「それ、全然嬉しくない」
(私の、私だけの為すべきこと……本当にそんなもの、あるのかしら)
ある時、急に体にガタがきた。既に前線で戦っている最初の仲間は私一人になっていた。その仲間の一人に頼まれ、後進を育成することになった。
どうすれば艦載機は意のままに動き、敵の攻撃を掻い潜り、仕留められるかを毎日毎日骨の髄まで叩き込んだ。
鬼、悪魔、血の通っていない鉄の女、そう陰で呼ばれていたこともあった。ただ生き残り、ただ敵を倒す術を教えていただけだというのに、彼女達には仲間の血と肉で作られた航路の上を歩いている自覚が無いのだろうと、私は思った。
こうしている間にも、前線では仲間が一人、また一人と散っている。無為に命を散らせての現状維持など、何の意味もない。
(あの二人が残してくれた活路、絶対に守らないと)
「――その顔、どうにかならないの?」
「……笑い方なんて、忘れてしまいました」
「そんなんじゃお嫁の貰い手がなくなるぴょん」
「貴女は別の意味で無さそうですね」
「大きなお世話でぇーっす」
「――ねぇ、卯月」
「何だぴょん?」
「ここで私がこうしていることが、本当に終戦への手助けになっているんでしょうか」
「少なくとも、あのまま前線で戦い続けて沈まれるよりはなってるぴょん」
「まだ、普通になら戦えます」
「――貴女は敵を倒したいの? それとも仲間を守りたいの?」
「……さぁ、もう分からなくなってしまいました」
「だったら、一度思い切って戦いから離れてみたらどう?」
「そんなこと出来るわけ――」
「卯月を、誰の秘書艦だと思ってるぴょん」
「……貴女が羨ましいわ」
「結構大変よ、老人の介護って」
「いつかは、貴女みたいに見つけられるのかしら」
「“手を伸ばさぬ者は願うなかれ”、まずは自分で色々やってみるぴょん」
「あの御方の言いそうなことですね。――それにしても、いつの間にか似てきたわね、貴女」
「それ、全然嬉しくない」
(私の、私だけの為すべきこと……本当にそんなもの、あるのかしら)
769: 2018/03/08(木) 23:39:21.72 ID:NfR/XS+M0
宛もなく、目的もなく、ただ逃げていた。野草を食み、海で魚を獲り、その日をただ生きていた。
理由なんて無かった。ただ色々なことがどうでも良くなって、フラリと散歩でもするように逃げ出した。
逃げてから数十回目の日没と日の出を見た頃、どこかの鎮守府の裏手の山で野宿していたら、楽しそうな声に目が覚めた。
(一……二……三……艦娘三人と人間が一人か)
スコープ越しに覗いた先には、夜空を見上げてはしゃぐ駆逐艦と、その保護者のような男が一人。ラフでそんな雰囲気は一切無いが、艦娘と一緒に居る以上司令官と見て間違いない。
(……アタシもあんな風になれる可能性があったんかねぇ)
自分には与えられなかった、信頼と信用が生まれるかもしれない日常。気付けば、スコープの先へと右手を伸ばしていた。
(――もう遅い、か)
伸ばした手を引っ込め、スコープから顔を背ける。そこにある幸せは、自分には眩しすぎたから。
ただ、暫くここに居るぐらいはいいかもしれないと、そう思った。
理由なんて無かった。ただ色々なことがどうでも良くなって、フラリと散歩でもするように逃げ出した。
逃げてから数十回目の日没と日の出を見た頃、どこかの鎮守府の裏手の山で野宿していたら、楽しそうな声に目が覚めた。
(一……二……三……艦娘三人と人間が一人か)
スコープ越しに覗いた先には、夜空を見上げてはしゃぐ駆逐艦と、その保護者のような男が一人。ラフでそんな雰囲気は一切無いが、艦娘と一緒に居る以上司令官と見て間違いない。
(……アタシもあんな風になれる可能性があったんかねぇ)
自分には与えられなかった、信頼と信用が生まれるかもしれない日常。気付けば、スコープの先へと右手を伸ばしていた。
(――もう遅い、か)
伸ばした手を引っ込め、スコープから顔を背ける。そこにある幸せは、自分には眩しすぎたから。
ただ、暫くここに居るぐらいはいいかもしれないと、そう思った。
771: 2018/03/08(木) 23:40:49.80 ID:NfR/XS+M0
「――そんな話はなかったが、拾ったのなら面倒を見ろ。着任申請は出しておく」
翌日提督執務室に連れていかれたアタシを待っていたのは、尋問や睦月への叱責でもなく、まるで捨て猫を拾った子供への対応だった。
この鎮守府、大丈夫なのかと悩むアタシの横では、ぴょんぴょん跳ねながら嬉しそうに腕を引っ張る姉の姿。うん、やっぱりダメかもしれない。っていうか眼鏡がずれるからやめて欲しい。
「あのさ、ちょっといい?」
「何だ? 分からないことは睦月に聞けば問題ないぞ」
「食料庫に忍び込んでた素性の知れない艦娘に何も聞かないの?」
「言いたいなら言えば良い。結果は変わらずここで面倒を見るだけだ。腹を空かせてボロボロの服で鎮守府に忍び込むしかないようなお前を放り出しなんぞしたら、俺はお前の姉に一生恨まれる。帰りたい場所があるなら話は別だが」
「それは……」
迷う。その言葉を信用していいのか、ここに居ていいのか、そもコミュニケーションというものがほぼ皆無な環境だったのだから、より一層頭の中で思考が縺れていく。
答えが出ず、急に渇いてきた喉が更に言葉をつまらせる。そんな時、不意に体が横へ引っ張られた。
「えと、何……?」
「大丈夫、大丈夫だよ」
心臓の音が、聞こえてくる。素性がバレていないかとか、ここに居たら迷惑をかけるんじゃないかとか、そんな考えが頭に浮かんでは、スーっと消えていった。優しく、温かい体温に包まれていると、自然と複雑に絡んでいた思考がほどけて、一つだけが残った。
「――アタシ、ここに居たい」
――目標を確認、これより特務を開始します。
翌日提督執務室に連れていかれたアタシを待っていたのは、尋問や睦月への叱責でもなく、まるで捨て猫を拾った子供への対応だった。
この鎮守府、大丈夫なのかと悩むアタシの横では、ぴょんぴょん跳ねながら嬉しそうに腕を引っ張る姉の姿。うん、やっぱりダメかもしれない。っていうか眼鏡がずれるからやめて欲しい。
「あのさ、ちょっといい?」
「何だ? 分からないことは睦月に聞けば問題ないぞ」
「食料庫に忍び込んでた素性の知れない艦娘に何も聞かないの?」
「言いたいなら言えば良い。結果は変わらずここで面倒を見るだけだ。腹を空かせてボロボロの服で鎮守府に忍び込むしかないようなお前を放り出しなんぞしたら、俺はお前の姉に一生恨まれる。帰りたい場所があるなら話は別だが」
「それは……」
迷う。その言葉を信用していいのか、ここに居ていいのか、そもコミュニケーションというものがほぼ皆無な環境だったのだから、より一層頭の中で思考が縺れていく。
答えが出ず、急に渇いてきた喉が更に言葉をつまらせる。そんな時、不意に体が横へ引っ張られた。
「えと、何……?」
「大丈夫、大丈夫だよ」
心臓の音が、聞こえてくる。素性がバレていないかとか、ここに居たら迷惑をかけるんじゃないかとか、そんな考えが頭に浮かんでは、スーっと消えていった。優しく、温かい体温に包まれていると、自然と複雑に絡んでいた思考がほどけて、一つだけが残った。
「――アタシ、ここに居たい」
――目標を確認、これより特務を開始します。
772: 2018/03/08(木) 23:41:31.58 ID:NfR/XS+M0
ここに今居る睦月型は睦月・如月の二人。気を遣われたり、昔の話を聞かれたりもせず、ただ妹として迎え入れられ、逆に落ち着かないのが数日鎮守府で過ごした感想だ。
牽制の為に司令官へ面倒事は一切引き受けないと言ったが、自分のことを自分でするならそれで構わないと返され、本当に普通の生活というものが送れていた。
幾つかの鎮守府を見てきたけれど、ここ以上に“日常”というものを感じさせるところはなかったように思う。
――だからこそ、それは由々しき事態だった。
「砲撃も魚雷も対空も赤点、ある意味すごいなお前」
「しゃーないじゃん、戦ったことほとんどないし」
(海の上では、だけど)
「んー……まぁ慣れれば問題ないだろう。とりあえず、睦月達と暫く海の上で鬼ごっこでもしてろ」
「鬼ごっこって、普通演習とかじゃねーの?」
「まずは海上での動きに慣れろ、陸上と一緒の感覚で動くから反動で照準がブレるんだ」
「……りょーかい」
今までほとんど任務は陸の上。海はほぼ移動経路でしかなく、反動のキツイ装備は固定して使用が基本だった為、単装砲すら撃てばブレてしまう。
こんなことなら、多少なりともアイツみたいに海上での戦闘も経験しておくべきだったかもしれない。
「あっ、鬼は神通な」
「それごっこじゃなくね?」
牽制の為に司令官へ面倒事は一切引き受けないと言ったが、自分のことを自分でするならそれで構わないと返され、本当に普通の生活というものが送れていた。
幾つかの鎮守府を見てきたけれど、ここ以上に“日常”というものを感じさせるところはなかったように思う。
――だからこそ、それは由々しき事態だった。
「砲撃も魚雷も対空も赤点、ある意味すごいなお前」
「しゃーないじゃん、戦ったことほとんどないし」
(海の上では、だけど)
「んー……まぁ慣れれば問題ないだろう。とりあえず、睦月達と暫く海の上で鬼ごっこでもしてろ」
「鬼ごっこって、普通演習とかじゃねーの?」
「まずは海上での動きに慣れろ、陸上と一緒の感覚で動くから反動で照準がブレるんだ」
「……りょーかい」
今までほとんど任務は陸の上。海はほぼ移動経路でしかなく、反動のキツイ装備は固定して使用が基本だった為、単装砲すら撃てばブレてしまう。
こんなことなら、多少なりともアイツみたいに海上での戦闘も経験しておくべきだったかもしれない。
「あっ、鬼は神通な」
「それごっこじゃなくね?」
773: 2018/03/08(木) 23:42:16.80 ID:NfR/XS+M0
徐々に鎮守府での生活も慣れてきて、ただの艦娘としてこのまま過ごしていけるかと思った、秋の夜。姉二人より先に風呂から上がり部屋へ戻ると、昔のように音もなく、彼女は窓辺に立っていた。
「――久しぶり、“月光”」
「……」
「とりあえず、表出てからでいい? 今は風呂入ってるけど、十分もしたら二人とも戻ってくるし」
「十分もいりません。このまま――特務を遂行します」
「相変わらず融通きかねぇなー全くもうっ!」
接近主体の元相棒の力量はよく知っている。正直言って、本気で来られたら一分ももたない。
それでも、せめて僅かの間楽しい時間を過ごせたこの部屋を自分の血で汚したくはなかった。
(なんとか気を逸らして外へ――)
「随分、甘くなりましたね!」
「ぐぅっ!?」
脇をすり抜けようとした途端、横っ腹に強烈な一撃をもらい壁まで吹き飛ばされる。なんとか受け身はとれたものの、状況は絶望的だった。
「……殺らないの?」
「……」
目の前で鈍く光っている鉄の爪。彼女がその気になれば、一瞬で自分の首は宙を舞うだろう。
しかし、いつまで経ってもその瞬間は訪れなかった。
「……て」
「?」
「どうして?」
消え入りそうなか細い声と、頬を伝い落ちた雫。それを見たとき、ようやく気付いた。
――私は、逃げ出した理由を置いてきてしまっていたんだ。
「……三日月ってさ、シャンプーとか使ったことある?」
「シャンプー……? いったい何を言って――っ!?」
咄嗟に手元に隠したトラベル用のシャンプーを顔に向かって投げつけ、同時に突進して押し倒す。長い付き合いで反射的に爪で防御することはわかっていたからこそ、出来たことだ。
物騒なものが床に当たって忙しなく音を立てているが、気にしている余裕はない。
「こっの、ちょっ、暴れんなってば!?」
「私は、零番隊旗艦として特務放棄を許すわけにはいかないのっ!」
「そんなめんどくさいもんに縛られて生きてて楽しいのかよっ!」
「だって、私も貴女もそれしか生き方を知らないじゃない!」
「ずっと見てたなら分かんじゃん!」
「分かりません!」
「――おりょ? 喧嘩?」
「――久しぶり、“月光”」
「……」
「とりあえず、表出てからでいい? 今は風呂入ってるけど、十分もしたら二人とも戻ってくるし」
「十分もいりません。このまま――特務を遂行します」
「相変わらず融通きかねぇなー全くもうっ!」
接近主体の元相棒の力量はよく知っている。正直言って、本気で来られたら一分ももたない。
それでも、せめて僅かの間楽しい時間を過ごせたこの部屋を自分の血で汚したくはなかった。
(なんとか気を逸らして外へ――)
「随分、甘くなりましたね!」
「ぐぅっ!?」
脇をすり抜けようとした途端、横っ腹に強烈な一撃をもらい壁まで吹き飛ばされる。なんとか受け身はとれたものの、状況は絶望的だった。
「……殺らないの?」
「……」
目の前で鈍く光っている鉄の爪。彼女がその気になれば、一瞬で自分の首は宙を舞うだろう。
しかし、いつまで経ってもその瞬間は訪れなかった。
「……て」
「?」
「どうして?」
消え入りそうなか細い声と、頬を伝い落ちた雫。それを見たとき、ようやく気付いた。
――私は、逃げ出した理由を置いてきてしまっていたんだ。
「……三日月ってさ、シャンプーとか使ったことある?」
「シャンプー……? いったい何を言って――っ!?」
咄嗟に手元に隠したトラベル用のシャンプーを顔に向かって投げつけ、同時に突進して押し倒す。長い付き合いで反射的に爪で防御することはわかっていたからこそ、出来たことだ。
物騒なものが床に当たって忙しなく音を立てているが、気にしている余裕はない。
「こっの、ちょっ、暴れんなってば!?」
「私は、零番隊旗艦として特務放棄を許すわけにはいかないのっ!」
「そんなめんどくさいもんに縛られて生きてて楽しいのかよっ!」
「だって、私も貴女もそれしか生き方を知らないじゃない!」
「ずっと見てたなら分かんじゃん!」
「分かりません!」
「――おりょ? 喧嘩?」
774: 2018/03/08(木) 23:43:00.53 ID:NfR/XS+M0
「……」
「やばっ、むー姉逃げて!」
出会ったときと同じように、何の敵意も、警戒も見せず、ただ部屋の入り口からこちらを眺める姉。見られた以上、三日月が彼女を放置するはずがない。
それだというのに、いつもと変わらず満開の花のような笑顔で、とてとてと歩み寄ってくる。正直、ここまで頭の中がお花畑だとは思っていなかった。
「――月影、これが貴女の選択の代償です」
「待て三日月!」
動揺で緩んでいた拘束を振りほどき、三日月が姉へと迫る。
――ダメだ、間に合わない。
「っ……え?」
「喧嘩するのはいいけど、ちゃんと仲直りしないとダメだよ? こんなのつけてたら邪魔だから外すにゃしぃ」
「な、何するの、放してっ」
「ん~、また妹が増えて睦月、感激ー」
「むぐぅぅぅっ!?」
(……マジで?)
向かってくる爪を押し退けた左手から血を流しながら、力一杯姉は三日月を抱き締めている。アレは普通に怪我を負うより痛いはずなのに、そんなことはお構いなしだ。
あまりの事態に混乱してもがいている三日月を見ていると、どういうわけだか笑いが込み上げてきて、大声で笑ってしまった。
その後、髪を乾かして戻ってきた如月姉にお願いして司令官を連れてきてもらって彼女の処遇を決めてもらったり、ケガしてることすら忘れてはしゃぐむー姉を如月姉と手当てしたり、どうしていいか分からず戸惑う三日月に色々な話を聞かせたり、一晩中その日は賑やかに過ごした。
結局、この話で何が伝えたかったかって言うと――私達姉妹は、皆むー姉には頭が上がらないってこと。
――――今もその時の傷、残ってるよ?
――――どうしてそれをそんな嬉しそうに見せられるのさ……。
――――だって、三日月がここに来た記念にゃしぃ。
――――(やっぱむー姉もいい意味でだけどぶっ飛んでるわ)
「やばっ、むー姉逃げて!」
出会ったときと同じように、何の敵意も、警戒も見せず、ただ部屋の入り口からこちらを眺める姉。見られた以上、三日月が彼女を放置するはずがない。
それだというのに、いつもと変わらず満開の花のような笑顔で、とてとてと歩み寄ってくる。正直、ここまで頭の中がお花畑だとは思っていなかった。
「――月影、これが貴女の選択の代償です」
「待て三日月!」
動揺で緩んでいた拘束を振りほどき、三日月が姉へと迫る。
――ダメだ、間に合わない。
「っ……え?」
「喧嘩するのはいいけど、ちゃんと仲直りしないとダメだよ? こんなのつけてたら邪魔だから外すにゃしぃ」
「な、何するの、放してっ」
「ん~、また妹が増えて睦月、感激ー」
「むぐぅぅぅっ!?」
(……マジで?)
向かってくる爪を押し退けた左手から血を流しながら、力一杯姉は三日月を抱き締めている。アレは普通に怪我を負うより痛いはずなのに、そんなことはお構いなしだ。
あまりの事態に混乱してもがいている三日月を見ていると、どういうわけだか笑いが込み上げてきて、大声で笑ってしまった。
その後、髪を乾かして戻ってきた如月姉にお願いして司令官を連れてきてもらって彼女の処遇を決めてもらったり、ケガしてることすら忘れてはしゃぐむー姉を如月姉と手当てしたり、どうしていいか分からず戸惑う三日月に色々な話を聞かせたり、一晩中その日は賑やかに過ごした。
結局、この話で何が伝えたかったかって言うと――私達姉妹は、皆むー姉には頭が上がらないってこと。
――――今もその時の傷、残ってるよ?
――――どうしてそれをそんな嬉しそうに見せられるのさ……。
――――だって、三日月がここに来た記念にゃしぃ。
――――(やっぱむー姉もいい意味でだけどぶっ飛んでるわ)
777: 2018/03/12(月) 00:57:28.95 ID:FJwxr0YXO
「うーちゃん、人間とか正直どうなろうが知ったこっちゃないぴょん」
「はっはっは、そりゃ困ったな」
私達の出会いは、こんな風だった。今よりもひねくれていた私と、今よりも能天気な当時は少将だった元帥。
協力的な艦娘達に対してですら、何か化物を見るような視線が大半だというのに、非協力的な私にしつこく話しかけてきたのが、あの人だった。
不自由はないか、飯はどうだ、好きなものはあるか、気になるものはあるか、とにかくついてきて話しかけてくるので凄く鬱陶しいと何度も思った。
どうせ戦わせる為のご機嫌取りだろう、そう思って意地悪なことも何度も言った。しかし、予想に反してある程度は要望に応え、出来ないときは“今は無理だ”と頭を下げてきた。
それでも当時の私は意地が悪く、酷いことを言ったり、変わらず非協力的な姿勢を貫いていた。今にして思えば、見た目通り子供だったのだと思う。
やがて、少しずつ深海棲艦との戦いに艦娘が投入され、私にも出撃命令が出された。
行かない、と口にした私を、あの人は叱責した。行け、責務を果たせ、と。結局他の人間と変わらない、所詮はコイツもただ戦わせたいだけだったんだと思った。何故か胸が苦しくなったのを無理矢理誤魔化すように、私は海に出た。
あまり語られてはいないが、私を含めた“始まりの艦娘”は最初からそこそこの強さと僅かながら特異な能力を持っていた。それでも苦戦するほどに、最初期の戦況は壮絶だった。
――だから、そこへ送り込むという選択しかなかったあの人の心中など、あの時の私はこれっぽっちも知りはしなかった。
「はっはっは、そりゃ困ったな」
私達の出会いは、こんな風だった。今よりもひねくれていた私と、今よりも能天気な当時は少将だった元帥。
協力的な艦娘達に対してですら、何か化物を見るような視線が大半だというのに、非協力的な私にしつこく話しかけてきたのが、あの人だった。
不自由はないか、飯はどうだ、好きなものはあるか、気になるものはあるか、とにかくついてきて話しかけてくるので凄く鬱陶しいと何度も思った。
どうせ戦わせる為のご機嫌取りだろう、そう思って意地悪なことも何度も言った。しかし、予想に反してある程度は要望に応え、出来ないときは“今は無理だ”と頭を下げてきた。
それでも当時の私は意地が悪く、酷いことを言ったり、変わらず非協力的な姿勢を貫いていた。今にして思えば、見た目通り子供だったのだと思う。
やがて、少しずつ深海棲艦との戦いに艦娘が投入され、私にも出撃命令が出された。
行かない、と口にした私を、あの人は叱責した。行け、責務を果たせ、と。結局他の人間と変わらない、所詮はコイツもただ戦わせたいだけだったんだと思った。何故か胸が苦しくなったのを無理矢理誤魔化すように、私は海に出た。
あまり語られてはいないが、私を含めた“始まりの艦娘”は最初からそこそこの強さと僅かながら特異な能力を持っていた。それでも苦戦するほどに、最初期の戦況は壮絶だった。
――だから、そこへ送り込むという選択しかなかったあの人の心中など、あの時の私はこれっぽっちも知りはしなかった。
778: 2018/03/12(月) 00:58:23.96 ID:FJwxr0YXO
「卯月!」
「うるさいぴょん」
「どうして撤退命令を無視した!」
「勝ったんだから文句言われる筋合いないでぇーっす」
「馬鹿者っ! 大局を見て動けっ! たかだかあの程度の作戦で轟沈などしてみろ! いい笑い者だ!」
「っ……別に人間にどう思われようがどうでもいいぴょん」
「お前という奴は……次に命令に背いた時は厳重処罰も覚悟しておけっ!」
「――大丈夫だったかぐらい、言ったらどうなんだぴょん」
今にして思えば、この時もあの人は色々な事を考えてくれていたのだろう。艦娘が命令に背けば反対派の攻撃材料になりかねず、艦娘の立場も危ぶまれる。取るに足らない作戦で轟沈が出れば、所詮はその程度と評価される。
そんな危うい行為をした後も私達が普通に過ごせていたのは、きっとあの人が身を粉にして艦娘という存在を守ってくれていたからだ。
――あの厳しい言葉の一つ一つに込められた想いに私が気付けたのは、もう私達が半分に減ってしまった後の事だった。
「うるさいぴょん」
「どうして撤退命令を無視した!」
「勝ったんだから文句言われる筋合いないでぇーっす」
「馬鹿者っ! 大局を見て動けっ! たかだかあの程度の作戦で轟沈などしてみろ! いい笑い者だ!」
「っ……別に人間にどう思われようがどうでもいいぴょん」
「お前という奴は……次に命令に背いた時は厳重処罰も覚悟しておけっ!」
「――大丈夫だったかぐらい、言ったらどうなんだぴょん」
今にして思えば、この時もあの人は色々な事を考えてくれていたのだろう。艦娘が命令に背けば反対派の攻撃材料になりかねず、艦娘の立場も危ぶまれる。取るに足らない作戦で轟沈が出れば、所詮はその程度と評価される。
そんな危うい行為をした後も私達が普通に過ごせていたのは、きっとあの人が身を粉にして艦娘という存在を守ってくれていたからだ。
――あの厳しい言葉の一つ一つに込められた想いに私が気付けたのは、もう私達が半分に減ってしまった後の事だった。
779: 2018/03/12(月) 00:59:12.22 ID:FJwxr0YXO
「……何でだぴょん」
「……」
「何で……何であの二人を見頃しにした!」
「お前達の、私達の、未来の為だ」
「ふざけるなっ! 神通はお前を慕ってた! 信濃はいつか皆で平和な世界を旅しようって、それなのに何で……何で二人が沈まなきゃいけなかったのっ!?」
「そうしなければ、作戦は失敗していた」
「……そっか、そうだ。所詮は、ただの道具だもんね、私達。沈もうが、体が吹き飛ばされようが、敵に食われようが、胸が痛むはずないもんね」
「……必要だった」
「黙れ」
「あぁするしか、なかった」
「黙って」
「尊い、犠牲だった」
「いいから黙れっ!」
「黙ってなどいられるかあっ!!」
「っ!?」
「あの犠牲を誇らねば、あの二人は名すら残せない! あの犠牲を乗り越えて進まねば、あの二人は無駄氏にでしかない! あんな犠牲を出さねば戦況を覆せなかった現状を、世に知らしめることができない! もうあんなことはたくさんだ! 決氏の覚悟で戦場を駆けるお前達を、安穏と遠くから眺める奴に笑われてなるものか! 俺の頼もしき戦友を、優秀な部下を、愛すべき娘達を、誇れぬ世などあっていいはずがない!」
「……ただの夢想を叫んで、どうしたいの?」
「夢想で終わらせる気など毛頭ない。俺は人と艦娘が共に歩める世界を作る。それが、俺に出来る唯一の手向けだ」
(――あぁ、そっか。だから二人とも最期は笑って……)
「……やるぴょん」
「む?」
「お前一人じゃ出来そうにないから、手伝ってやるぴょん」
「人間は嫌いなんじゃなかったのか?」
「今も嫌いだぴょん。でも――」
――――不細工なその泣き顔は、嫌いじゃないぴょん。
「……」
「何で……何であの二人を見頃しにした!」
「お前達の、私達の、未来の為だ」
「ふざけるなっ! 神通はお前を慕ってた! 信濃はいつか皆で平和な世界を旅しようって、それなのに何で……何で二人が沈まなきゃいけなかったのっ!?」
「そうしなければ、作戦は失敗していた」
「……そっか、そうだ。所詮は、ただの道具だもんね、私達。沈もうが、体が吹き飛ばされようが、敵に食われようが、胸が痛むはずないもんね」
「……必要だった」
「黙れ」
「あぁするしか、なかった」
「黙って」
「尊い、犠牲だった」
「いいから黙れっ!」
「黙ってなどいられるかあっ!!」
「っ!?」
「あの犠牲を誇らねば、あの二人は名すら残せない! あの犠牲を乗り越えて進まねば、あの二人は無駄氏にでしかない! あんな犠牲を出さねば戦況を覆せなかった現状を、世に知らしめることができない! もうあんなことはたくさんだ! 決氏の覚悟で戦場を駆けるお前達を、安穏と遠くから眺める奴に笑われてなるものか! 俺の頼もしき戦友を、優秀な部下を、愛すべき娘達を、誇れぬ世などあっていいはずがない!」
「……ただの夢想を叫んで、どうしたいの?」
「夢想で終わらせる気など毛頭ない。俺は人と艦娘が共に歩める世界を作る。それが、俺に出来る唯一の手向けだ」
(――あぁ、そっか。だから二人とも最期は笑って……)
「……やるぴょん」
「む?」
「お前一人じゃ出来そうにないから、手伝ってやるぴょん」
「人間は嫌いなんじゃなかったのか?」
「今も嫌いだぴょん。でも――」
――――不細工なその泣き顔は、嫌いじゃないぴょん。
780: 2018/03/12(月) 01:00:09.09 ID:FJwxr0YXO
――聞こえるか?
「聞こえないぴょん」
――よし、聞こえとるな。
「どうして出撃中までその声を聞かなきゃいけないぴょん」
――まぁそう言うな。交戦中は通信を切っておくし、邪魔はせんさ。
「それで? 用件は何だぴょん」
――いや何、ようやくお前を俺の秘書艦とする手筈が整ったのを知らせておこうと思ってな。
「勝手にうーちゃんを秘書艦にするんじゃねーぴょん」
――ふむ、では武骨大将がお前を気に入っとるようだからあちらに行ってみるか?
「……帰ったら覚えてろぴょん」
――かっかっか、おぉ怖い怖い。
「そろそろ、交戦開始するぴょん」
――うむ、待っとるぞ。
「…………」
水平線の彼方に、揺らめく敵が見える。数は四十と少し。
対してこっちはたったの一人。先の大規模作戦で主力を半数も失い、まともに敵の主力級と戦えるのはたったの三人。後進育成なんてとてもじゃないけど間に合わない。比較的安全になったのは近海付近のみで、沖に出れば相変わらず深海棲艦は掃いて捨てるほどいる。前線の戦況は最初期に比べれば多少マシといったところでしかない。
それでも、不思議とこの身は戦意に高揚している。
「ふふっ、くふふっ、あはははははっ!」
清々しい。本当に清々しい。これでようやく、下らない大義名分を放り投げて自分の為だけに戦える。どうしようもなくバカな夢想の為だけに、この命を賭けられる。
――さぁ、さっさとその首を置いてくぴょん。
「聞こえないぴょん」
――よし、聞こえとるな。
「どうして出撃中までその声を聞かなきゃいけないぴょん」
――まぁそう言うな。交戦中は通信を切っておくし、邪魔はせんさ。
「それで? 用件は何だぴょん」
――いや何、ようやくお前を俺の秘書艦とする手筈が整ったのを知らせておこうと思ってな。
「勝手にうーちゃんを秘書艦にするんじゃねーぴょん」
――ふむ、では武骨大将がお前を気に入っとるようだからあちらに行ってみるか?
「……帰ったら覚えてろぴょん」
――かっかっか、おぉ怖い怖い。
「そろそろ、交戦開始するぴょん」
――うむ、待っとるぞ。
「…………」
水平線の彼方に、揺らめく敵が見える。数は四十と少し。
対してこっちはたったの一人。先の大規模作戦で主力を半数も失い、まともに敵の主力級と戦えるのはたったの三人。後進育成なんてとてもじゃないけど間に合わない。比較的安全になったのは近海付近のみで、沖に出れば相変わらず深海棲艦は掃いて捨てるほどいる。前線の戦況は最初期に比べれば多少マシといったところでしかない。
それでも、不思議とこの身は戦意に高揚している。
「ふふっ、くふふっ、あはははははっ!」
清々しい。本当に清々しい。これでようやく、下らない大義名分を放り投げて自分の為だけに戦える。どうしようもなくバカな夢想の為だけに、この命を賭けられる。
――さぁ、さっさとその首を置いてくぴょん。
781: 2018/03/12(月) 01:01:01.57 ID:FJwxr0YXO
「そういえば、結局卯月ってどのぐらい戦果上げたの?」
「そんなの覚えてないぴょん」
「元帥は“バカな夢想を実現できる数じゃ”って言ってたけど」
「朧、あのクソジジイの言うこと真に受けちゃダメだぴょん」
「ふーん、じゃあ毎年カレンダーにこっそり丸してるあの日は何の日なの?」
「あっ、うーちゃん用事思い出したぴょん。その話はまた――」
「それ、私も気になってました」
「ちょっ、何鍵かけてるぴょん」
「卯月ちゃんはもうちょっと素直に色々と私達に話してくれてもいいと思う。ね、曙ちゃん」
「うえっ!? べ、別に私はどっちでも……」
「ほら、曙ちゃんも気になってるみたいだし」
「一言もそんなこと言ってないぴょん!」
「それで、何の記念日?」
「……娘に、された日」
「じゃあその日は二人でどこかにお出かけだね」
「うん、そうだね」
「スケジュール、ちょっと調整しとくわ」
「別に気を遣わなくていいぴょん」
「逆だよ卯月ちゃん。私達に気を遣いすぎ、少しぐらいわがまま言ってくれていいんだよ」
「二人が喜ぶなら、私達も嬉しい」
「あんた達二人とも働きすぎなんだから、ちょっとは休めば?」
「余計なお世話だぴょん。……でも、今回はお言葉に甘えます。ありがとう」
――――あー、いい湯じゃ。
――――……。
――――何じゃ卯月、珍しく静かじゃの。
――――……せ。
――――む?
――――背中、流しましょうか、お父さん。
「そんなの覚えてないぴょん」
「元帥は“バカな夢想を実現できる数じゃ”って言ってたけど」
「朧、あのクソジジイの言うこと真に受けちゃダメだぴょん」
「ふーん、じゃあ毎年カレンダーにこっそり丸してるあの日は何の日なの?」
「あっ、うーちゃん用事思い出したぴょん。その話はまた――」
「それ、私も気になってました」
「ちょっ、何鍵かけてるぴょん」
「卯月ちゃんはもうちょっと素直に色々と私達に話してくれてもいいと思う。ね、曙ちゃん」
「うえっ!? べ、別に私はどっちでも……」
「ほら、曙ちゃんも気になってるみたいだし」
「一言もそんなこと言ってないぴょん!」
「それで、何の記念日?」
「……娘に、された日」
「じゃあその日は二人でどこかにお出かけだね」
「うん、そうだね」
「スケジュール、ちょっと調整しとくわ」
「別に気を遣わなくていいぴょん」
「逆だよ卯月ちゃん。私達に気を遣いすぎ、少しぐらいわがまま言ってくれていいんだよ」
「二人が喜ぶなら、私達も嬉しい」
「あんた達二人とも働きすぎなんだから、ちょっとは休めば?」
「余計なお世話だぴょん。……でも、今回はお言葉に甘えます。ありがとう」
――――あー、いい湯じゃ。
――――……。
――――何じゃ卯月、珍しく静かじゃの。
――――……せ。
――――む?
――――背中、流しましょうか、お父さん。
782: 2018/03/15(木) 03:18:51.74 ID:KC88wasA0
ええ話や
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります