791: 2018/05/06(日) 21:20:32.31 ID:bYGiu8qd0
・朝風『三分の一』?、投下します
前回はこちら
792: 2018/05/06(日) 21:21:08.56 ID:bYGiu8qd0
「……何なのかしら、この既視感」
「朝……朝はまだなの……」
「あっもしもし浦風? 散歩の途中でいつもの光景に出くわしたんだけど、ちょっと神風か松風探してもらえない? 多分、この服だと同型艦だと思うの。――特徴? えっと、朝ってずっと言ってるからもしかしたら川内と真逆なんじゃないかしら」
「朝日……朝日を……」
「とりあえず、このままにしておけないから連れて帰るわ。提督にも連絡しておいて貰える? えぇ、えぇ、ありがとう。それじゃあ切るわね――ふぅ、これでよし、と」
「夜なんて……無くなればいいのに……」
(川内とは仲良くなれそうにないわね……)
行き倒れ艦娘を拾い、夜の散歩から帰る大鳳。通りすぎた警官が会釈だけで何も聞かない辺り、この町での彼女たちへの信頼が窺い知れる。
最も、色々と騒動を起こして顔が広い、というのが大鳳の場合は主な理由である。
(終戦後も次々に増えてるけど、やっぱり提督から艦娘を引き寄せるフェロモンでも出てるのかしら)
まだ正式に所属していない艦娘や提督とケッコンカッコカリしていない艦娘も、いずれはどうせ出られなくなっていくんだろうなと、大鳳は自分の昔を思い返しながらゆっくりと帰路を歩くのだった。
「えーこちら鈴谷ー大鳳がお姫様だっこで艦娘を連れ帰る事案が発生ー」
「仕方ないでしょ、背負うよりこっちのが楽だったんだから」
「朝……朝はまだなの……」
「あっもしもし浦風? 散歩の途中でいつもの光景に出くわしたんだけど、ちょっと神風か松風探してもらえない? 多分、この服だと同型艦だと思うの。――特徴? えっと、朝ってずっと言ってるからもしかしたら川内と真逆なんじゃないかしら」
「朝日……朝日を……」
「とりあえず、このままにしておけないから連れて帰るわ。提督にも連絡しておいて貰える? えぇ、えぇ、ありがとう。それじゃあ切るわね――ふぅ、これでよし、と」
「夜なんて……無くなればいいのに……」
(川内とは仲良くなれそうにないわね……)
行き倒れ艦娘を拾い、夜の散歩から帰る大鳳。通りすぎた警官が会釈だけで何も聞かない辺り、この町での彼女たちへの信頼が窺い知れる。
最も、色々と騒動を起こして顔が広い、というのが大鳳の場合は主な理由である。
(終戦後も次々に増えてるけど、やっぱり提督から艦娘を引き寄せるフェロモンでも出てるのかしら)
まだ正式に所属していない艦娘や提督とケッコンカッコカリしていない艦娘も、いずれはどうせ出られなくなっていくんだろうなと、大鳳は自分の昔を思い返しながらゆっくりと帰路を歩くのだった。
「えーこちら鈴谷ー大鳳がお姫様だっこで艦娘を連れ帰る事案が発生ー」
「仕方ないでしょ、背負うよりこっちのが楽だったんだから」
793: 2018/05/06(日) 21:22:08.38 ID:bYGiu8qd0
――翌朝。
「朝日! 朝日よ!」
「お、おぅ……」
「うちの妹がすみません……」
(こうして見ると、ボクだけ普通だな)
「それで、何で行き倒れてたんだ?」
「昼にはここへ着くはずだったんですけど、ちょっと道に迷ってしまったの」
「半日で行き倒れって……お前の妹は燃費がとんでもなく悪かったりするのか?」
「いえ、単純にこの子の場合は……」
「どうせ姉貴のことだから、朝以外に動くのがてんでダメなんだよ」
「松風、そんな昔の夜戦大好きなアイツみたいな奴が――」
「昼と夜なんて無くなってしまえばいいのよ」
(居たのか……)
「朝! 朝! 朝! でいいの。東から朝日が昇った後に西からも朝日が昇って、順番に四方から太陽が昇ればずっと朝だわ」
「地球が終わって朝どころじゃなくなるがな」
「長女は水槽の中、次女は朝日大好きっ子、ホントボクの姉妹は面白いな」
「ちょっと松風、私は別に好きで水槽の中にずっと居るわけじゃないからね?」
「ここって凄い物が作れる艦娘が居るんでしょ? ここだけずっと朝に出来る機械とか作れたりしないの?」
「仮に作れても絶対に作らせねぇよ、そんな危険物」
「何よ、ここって艦娘の願いを何でも叶えてくれる魔法の鎮守府じゃないの?」
「どんな噂が広まってるか知らんが、ここは普通の鎮守府だ」
「え?」
「ははっ、その冗談はちょっと無理があるよ司令官」
「とにかく、別にここへの着任は拒みはしないが、その願いは却下だ!」
「……いいわ。ここに居れば、幾らでも機会はあるもの」
(最近は瑞穂で手を焼いてるってのに、また手のかかりそうなのが増えたな……はぁ)
――太陽を増やそうとする艦娘、朝風が着任しました。
「朝日! 朝日よ!」
「お、おぅ……」
「うちの妹がすみません……」
(こうして見ると、ボクだけ普通だな)
「それで、何で行き倒れてたんだ?」
「昼にはここへ着くはずだったんですけど、ちょっと道に迷ってしまったの」
「半日で行き倒れって……お前の妹は燃費がとんでもなく悪かったりするのか?」
「いえ、単純にこの子の場合は……」
「どうせ姉貴のことだから、朝以外に動くのがてんでダメなんだよ」
「松風、そんな昔の夜戦大好きなアイツみたいな奴が――」
「昼と夜なんて無くなってしまえばいいのよ」
(居たのか……)
「朝! 朝! 朝! でいいの。東から朝日が昇った後に西からも朝日が昇って、順番に四方から太陽が昇ればずっと朝だわ」
「地球が終わって朝どころじゃなくなるがな」
「長女は水槽の中、次女は朝日大好きっ子、ホントボクの姉妹は面白いな」
「ちょっと松風、私は別に好きで水槽の中にずっと居るわけじゃないからね?」
「ここって凄い物が作れる艦娘が居るんでしょ? ここだけずっと朝に出来る機械とか作れたりしないの?」
「仮に作れても絶対に作らせねぇよ、そんな危険物」
「何よ、ここって艦娘の願いを何でも叶えてくれる魔法の鎮守府じゃないの?」
「どんな噂が広まってるか知らんが、ここは普通の鎮守府だ」
「え?」
「ははっ、その冗談はちょっと無理があるよ司令官」
「とにかく、別にここへの着任は拒みはしないが、その願いは却下だ!」
「……いいわ。ここに居れば、幾らでも機会はあるもの」
(最近は瑞穂で手を焼いてるってのに、また手のかかりそうなのが増えたな……はぁ)
――太陽を増やそうとする艦娘、朝風が着任しました。
795: 2018/05/07(月) 00:00:54.10 ID:hBvHVUF60
馬鹿にされるのは慣れている。でも、本気でそうなりたいと願った気持ちに偽りはない。
ブレず、めげず、曲げず、路線変更なんて絶対にしない。
いつだって笑顔で、苦しい顔なんて見せず、誰かの希望になれる存在でありたい。
この歌は誰かの為に、この踊りは明日の為に、絶望なんて笑顔で吹き飛ばしてしまいたい。
――艦隊のアイドル、そう名乗り続ける限り、私は何だって出来る。
「今日もレッスンか?」
「うん、今日も那珂ちゃんゼッコーチョー」
「よくあの神通のメニューこなしてそれだけ動けるな」
「これぐらい出来なきゃ、艦隊のアイドルなんてなれないもん」
「あぁ、そうだな。初ライブを成功させるためにも、とっとと戦況を引っくり返すぞ」
「――提督は、あの時どうして笑わなかったの?」
初めて会ったあの日、提督はアイドルになりたいと言った私に真剣に応えてくれた。正直言って、まともな神経なら真剣に応えてくれるはずがないのは理解してる。
だから、その理由がどうしても気になった。
「“那珂ちゃん”を認めたのは、どうして?」
「お前の目は本気だった。あの時も、そして今も。ここはそういう奴等を否定しない場所にしたい。だから――お前が思うように、全力でやってみろ」
この時だけだった。あの大戦中に“那珂ちゃん”からただの“那珂”に戻ったのは。
そして、決意したのもこの時だった。いずれはこの人の為だけのアイドルになろうと決めたのは。
絶対に、絶対に夢中にさせてみせる。那珂ちゃんスマイルはいつだって無敵なんだから。
ブレず、めげず、曲げず、路線変更なんて絶対にしない。
いつだって笑顔で、苦しい顔なんて見せず、誰かの希望になれる存在でありたい。
この歌は誰かの為に、この踊りは明日の為に、絶望なんて笑顔で吹き飛ばしてしまいたい。
――艦隊のアイドル、そう名乗り続ける限り、私は何だって出来る。
「今日もレッスンか?」
「うん、今日も那珂ちゃんゼッコーチョー」
「よくあの神通のメニューこなしてそれだけ動けるな」
「これぐらい出来なきゃ、艦隊のアイドルなんてなれないもん」
「あぁ、そうだな。初ライブを成功させるためにも、とっとと戦況を引っくり返すぞ」
「――提督は、あの時どうして笑わなかったの?」
初めて会ったあの日、提督はアイドルになりたいと言った私に真剣に応えてくれた。正直言って、まともな神経なら真剣に応えてくれるはずがないのは理解してる。
だから、その理由がどうしても気になった。
「“那珂ちゃん”を認めたのは、どうして?」
「お前の目は本気だった。あの時も、そして今も。ここはそういう奴等を否定しない場所にしたい。だから――お前が思うように、全力でやってみろ」
この時だけだった。あの大戦中に“那珂ちゃん”からただの“那珂”に戻ったのは。
そして、決意したのもこの時だった。いずれはこの人の為だけのアイドルになろうと決めたのは。
絶対に、絶対に夢中にさせてみせる。那珂ちゃんスマイルはいつだって無敵なんだから。
796: 2018/05/07(月) 00:02:16.38 ID:hBvHVUF60
「よくよく考えると、神通と川内にいつも合わせてきた那珂が一番体力あるんじゃないのか?」
「那珂ちゃんはアイドルだから皆の声援があればいつだって元気だよー?」
「ある意味、軽巡で一番底が知れんのはお前だったりしてな」
「んー、アイドルだから熊と素手で殴り合うのはちょっとNGかな」
「……球磨型も大概だったな、確かに」
「――それとも、アイドル辞めた“私”が見たくなった?」
「ファン第一号としてそりゃ許可出来んな」
「……なーんて那珂ちゃんジョークだよ、次のライブ早く考えてね?」
「あぁ、考えとく」
きっと、私はこのままずっとアイドルを続ける。例え提督と二人きりでも、私は“那珂ちゃん”であり続ける。
だって、“那珂ちゃん”こそが提督と私の絆そのものだから。
――――小さくなっても歌って踊れるんだな、アイツ。
――――あの……三人小さくなった状態でライブをしたいと那珂が……。
――――色々な意味でそれだけはやめてくれ。
「那珂ちゃんはアイドルだから皆の声援があればいつだって元気だよー?」
「ある意味、軽巡で一番底が知れんのはお前だったりしてな」
「んー、アイドルだから熊と素手で殴り合うのはちょっとNGかな」
「……球磨型も大概だったな、確かに」
「――それとも、アイドル辞めた“私”が見たくなった?」
「ファン第一号としてそりゃ許可出来んな」
「……なーんて那珂ちゃんジョークだよ、次のライブ早く考えてね?」
「あぁ、考えとく」
きっと、私はこのままずっとアイドルを続ける。例え提督と二人きりでも、私は“那珂ちゃん”であり続ける。
だって、“那珂ちゃん”こそが提督と私の絆そのものだから。
――――小さくなっても歌って踊れるんだな、アイツ。
――――あの……三人小さくなった状態でライブをしたいと那珂が……。
――――色々な意味でそれだけはやめてくれ。
800: 2018/05/16(水) 22:39:19.45 ID:h8iiIMe80
春の穏やかな昼下がり、山城は縁側で寛いでいた。彼女が愛してやまない姉の扶桑は現在秘書艦日を満喫中でここには居ない。
特に予定もなく、時雨達も出掛けていて訪ねてくる人物などいるはずもない――はずだった。
「――私に何の用?」
「お姉さん、今幸せ?」
「見て分からない、縁側でお茶飲んでるのよ」
「へー、幸せなんだ。あんなに不幸だったのに、良かったね」
「……大鳳と加賀が会ったって言ってたの、貴女ね」
猫を抱いた謎の少女、二人から聞いた特徴と服装も一致しており、山城は警戒を強める。話だけでは分からなかった不気味という印象も、実際に相対してみて彼女も同じものを感じていた。
「凄いよね、絆の力って。だいぶ堕ちてたのに、あんな簡単に引き戻しちゃうなんて」
「……」
「ねぇ、お姉さんはどうかな? 戻ってこれる?」
「――ふふっ」
「?」
「あー、不幸だわ。ホントに不幸。舐められたものね、今更トラウマを抉られても絶望を突き付けられても苦でも何でもないわ。ゼロどころかマイナスから始まった第二の生がまたゼロに戻ったって、上を向いて歩ける今の私に、精神攻撃なんて無駄なの。分かったら出てって、今日は暴れる気分じゃないんだから」
「そっか、お姉さん“を”攻撃するのは無駄なんだ。じゃあ時雨って娘? それとも満潮? ねぇ、誰がいい?」
「勝手にすれば? 加賀が戻れたならあの子達も必ず戻れるんでしょうし、無駄だと思うけど」
「へー、本当に揺らぎもしないなんて、これはちょっと予想外だったかな」
楽しそうに、心底楽しそうに少女は笑っている。山城は何故この少女に不気味という印象を受けたのか、理解した。
どう足掻いても得たいの知れないモノの掌の上にいる、そんな感覚がずっと拭えないのだ。
「……貴女、何が目的なの?」
「人生には適度な刺激が必要って言うでしょ? そんな感じ」
「もう人間の一生分ぐらいの刺激があったからいらないわよ」
「――ねじれたものが元に戻るとき、元通りになるとは限らないから」
特に予定もなく、時雨達も出掛けていて訪ねてくる人物などいるはずもない――はずだった。
「――私に何の用?」
「お姉さん、今幸せ?」
「見て分からない、縁側でお茶飲んでるのよ」
「へー、幸せなんだ。あんなに不幸だったのに、良かったね」
「……大鳳と加賀が会ったって言ってたの、貴女ね」
猫を抱いた謎の少女、二人から聞いた特徴と服装も一致しており、山城は警戒を強める。話だけでは分からなかった不気味という印象も、実際に相対してみて彼女も同じものを感じていた。
「凄いよね、絆の力って。だいぶ堕ちてたのに、あんな簡単に引き戻しちゃうなんて」
「……」
「ねぇ、お姉さんはどうかな? 戻ってこれる?」
「――ふふっ」
「?」
「あー、不幸だわ。ホントに不幸。舐められたものね、今更トラウマを抉られても絶望を突き付けられても苦でも何でもないわ。ゼロどころかマイナスから始まった第二の生がまたゼロに戻ったって、上を向いて歩ける今の私に、精神攻撃なんて無駄なの。分かったら出てって、今日は暴れる気分じゃないんだから」
「そっか、お姉さん“を”攻撃するのは無駄なんだ。じゃあ時雨って娘? それとも満潮? ねぇ、誰がいい?」
「勝手にすれば? 加賀が戻れたならあの子達も必ず戻れるんでしょうし、無駄だと思うけど」
「へー、本当に揺らぎもしないなんて、これはちょっと予想外だったかな」
楽しそうに、心底楽しそうに少女は笑っている。山城は何故この少女に不気味という印象を受けたのか、理解した。
どう足掻いても得たいの知れないモノの掌の上にいる、そんな感覚がずっと拭えないのだ。
「……貴女、何が目的なの?」
「人生には適度な刺激が必要って言うでしょ? そんな感じ」
「もう人間の一生分ぐらいの刺激があったからいらないわよ」
「――ねじれたものが元に戻るとき、元通りになるとは限らないから」
801: 2018/05/16(水) 22:40:42.54 ID:h8iiIMe80
「ちょっと、それってどういう意味?」
「そろそろ怖いお姉さんが二人来そうだから行くね、バイバイお姉さん」
「待ちなさい、まだ話は――何だったのよ、アイツ……」
最初から存在しなかったかのように少女は消える。それと同時に、少女以外の存在が消えていたかのように静かだった周囲の音が、山城の耳へと戻ってきた。
すっかり冷めたお茶を飲み干し、彼女が今のことを報告しに行こうと部屋を出ると、扉の前には意外な二人が立っていた。
「鳳翔さんと、鹿島?」
「……逃げられてしまったようですね」
「そうみたいね」
「二人とも、もしかして――」
「ごめんなさい、詳しくは聞かないで頂けますか?」
「あんなモノに関わらない方が、貴女のためにもなりますよ」
――まだもう少しこのまま、もう少しだけ見ていようかな。人と人ならざるあの子達の選択の行く末を。
「そろそろ怖いお姉さんが二人来そうだから行くね、バイバイお姉さん」
「待ちなさい、まだ話は――何だったのよ、アイツ……」
最初から存在しなかったかのように少女は消える。それと同時に、少女以外の存在が消えていたかのように静かだった周囲の音が、山城の耳へと戻ってきた。
すっかり冷めたお茶を飲み干し、彼女が今のことを報告しに行こうと部屋を出ると、扉の前には意外な二人が立っていた。
「鳳翔さんと、鹿島?」
「……逃げられてしまったようですね」
「そうみたいね」
「二人とも、もしかして――」
「ごめんなさい、詳しくは聞かないで頂けますか?」
「あんなモノに関わらない方が、貴女のためにもなりますよ」
――まだもう少しこのまま、もう少しだけ見ていようかな。人と人ならざるあの子達の選択の行く末を。
803: 2018/05/24(木) 22:00:59.64 ID:92Q53J6P0
・秋月『病気』、投下します
804: 2018/05/24(木) 22:02:16.68 ID:92Q53J6P0
妹のご飯を作ってから行きます、朝にそう秋月から連絡があり提督は執務室で一人書類を整理していた。朝食を作っているだけにしてはやけに遅いなと提督が思っていると、早いリズムのノックから返事も待たずに扉が開く。
「提督」
「初月か、急にどうした」
「秋月姉さんの様子がおかしい」
「おかしいって、何かあったのか?」
「味噌汁に味噌が入ってなかった」
「提督」
「初月か、急にどうした」
「秋月姉さんの様子がおかしい」
「おかしいって、何かあったのか?」
「味噌汁に味噌が入ってなかった」
805: 2018/05/24(木) 22:02:53.32 ID:92Q53J6P0
どうしても自分でなければ片付けられない書類の処理を終え、提督は廊下をフラフラと歩いてきた秋月を私室へと連れていく。
彼女が執務室とは違う方向に引っ張られていることに気付き、色々と何か言おうとしているのを完全に無視し、部屋へ着くと早々に提督は秋月はベッドへと放り投げる。
「い、いきなり何するんですか」
「病人はおとなしくそこで寝てろ」
「別に私は病気なんて――」
「斬新な節約だな、味噌無しの味噌汁とは」
「アレは、おすましにするつもりで」
「とにかく今日は休め。初月から“提督が見ておかないと秋月姉さんは絶対に何かしようとするから見張っててくれ”って言われたんでな、諦めて俺にここで見張られてろ」
「……執務はどうするんですか?」
「悲しいことにはい分かりましたで引き継ぎ完了だ。とっとと行けのオマケ付きでな」
「私の体調管理が不十分だったせいでご迷惑をおかけする訳には――」
「仲間が熱を出してんだ、誰が迷惑がるってんだよ」
優しく頭を撫でながら、提督は起き上がろうとする秋月を制する。大人びていても、まだ少女と呼んで差し支えない彼女を気遣ってやれなかったのは自分に責任があると、提督は悔いる。
「今日は一切気を遣わず俺に甘えろ、妹の目もないから心配するな」
「……はい」
彼女が執務室とは違う方向に引っ張られていることに気付き、色々と何か言おうとしているのを完全に無視し、部屋へ着くと早々に提督は秋月はベッドへと放り投げる。
「い、いきなり何するんですか」
「病人はおとなしくそこで寝てろ」
「別に私は病気なんて――」
「斬新な節約だな、味噌無しの味噌汁とは」
「アレは、おすましにするつもりで」
「とにかく今日は休め。初月から“提督が見ておかないと秋月姉さんは絶対に何かしようとするから見張っててくれ”って言われたんでな、諦めて俺にここで見張られてろ」
「……執務はどうするんですか?」
「悲しいことにはい分かりましたで引き継ぎ完了だ。とっとと行けのオマケ付きでな」
「私の体調管理が不十分だったせいでご迷惑をおかけする訳には――」
「仲間が熱を出してんだ、誰が迷惑がるってんだよ」
優しく頭を撫でながら、提督は起き上がろうとする秋月を制する。大人びていても、まだ少女と呼んで差し支えない彼女を気遣ってやれなかったのは自分に責任があると、提督は悔いる。
「今日は一切気を遣わず俺に甘えろ、妹の目もないから心配するな」
「……はい」
806: 2018/05/24(木) 22:03:57.87 ID:92Q53J6P0
観念してベッドに顔を埋めた秋月。その頭上から提督は優しく語りかける。
長十センチ砲ちゃんも今は空気を呼んで照月のところだ。
「ルキはどうだ? 照月と相変わらず喧嘩してるのか?」
「はい、毎日朝から晩まで喧嘩です。片方だけ構うともう片方が拗ねちゃいますし……」
「たまにはほっといて趣味に没頭してもいいんだぞ」
「没頭し過ぎると今度は初月が買い置きの缶詰を食べ尽くしちゃうので……」
赤城とまではいかないが、大体何かを食べている場面にしか遭遇しないのが初月だ。秋月の言う通り、本当に部屋の備蓄を全部駆逐されていても不思議ではない。
「今も、少し心配です」
「大丈夫だ、流石にアイツもそこまで大喰らいじゃないだろ」
心の中で提督が多分、と付け加えたのは朝の去り際も何かを食べていたのを思い出したからだ。自分の目でも確認しているので、秋月の不安にも納得せざるを得なかった。
「――でも」
「?」
「やっぱり、あの子達が来てくれて、本当に……」
「……寝たか」
腰かけている提督の服を掴んだまま、秋月は規則正しい寝息を立て始める。その寝顔を見ながら、今度姉妹全員を何処かへ連れていく計画を彼は立てるのだった。
――――(秋月姉ぇ、早く良くなって……)
――――どうした、食べないのか?
――――鯖ノ味噌煮ト鯖ノ水煮ト、シーチキンノ缶詰……全部缶詰ジャン!
長十センチ砲ちゃんも今は空気を呼んで照月のところだ。
「ルキはどうだ? 照月と相変わらず喧嘩してるのか?」
「はい、毎日朝から晩まで喧嘩です。片方だけ構うともう片方が拗ねちゃいますし……」
「たまにはほっといて趣味に没頭してもいいんだぞ」
「没頭し過ぎると今度は初月が買い置きの缶詰を食べ尽くしちゃうので……」
赤城とまではいかないが、大体何かを食べている場面にしか遭遇しないのが初月だ。秋月の言う通り、本当に部屋の備蓄を全部駆逐されていても不思議ではない。
「今も、少し心配です」
「大丈夫だ、流石にアイツもそこまで大喰らいじゃないだろ」
心の中で提督が多分、と付け加えたのは朝の去り際も何かを食べていたのを思い出したからだ。自分の目でも確認しているので、秋月の不安にも納得せざるを得なかった。
「――でも」
「?」
「やっぱり、あの子達が来てくれて、本当に……」
「……寝たか」
腰かけている提督の服を掴んだまま、秋月は規則正しい寝息を立て始める。その寝顔を見ながら、今度姉妹全員を何処かへ連れていく計画を彼は立てるのだった。
――――(秋月姉ぇ、早く良くなって……)
――――どうした、食べないのか?
――――鯖ノ味噌煮ト鯖ノ水煮ト、シーチキンノ缶詰……全部缶詰ジャン!
827: 2018/10/18(木) 00:01:26.05 ID:DP9O5HBO0
・舞風『取り扱い注意』?、投下します
828: 2018/10/18(木) 00:01:53.62 ID:DP9O5HBO0
「駆逐とブランデーケーキって何でだよ」
「えー? だって見た目と実年齢って関係無いし、洋酒ケーキって強烈なのじゃなきゃ子供でも食べたりするよ?」
「それにしたって、どうしてお前なんだ」
「ダンススクールのレッスンに来てたんだって、三越の会長のお孫さん」
「うちとまた変な繋がりが増えたか……まぁ、悪い縁ではないな」
「因みにこれ、私がプロデュースして実際に作ったやつだけど、提督も味見……する?」
「そうだな、三時のおやつの時間だしな」
「もー、子供扱いしないでよー」
頬を膨らませる仕草は幼く、可愛らしい。舞風は成長が緩やかな方で、終戦後も見た目はそのままだ。
暗い雰囲気や寂しい雰囲気は今も苦手で、騒がしいといつの間にかしれっと混ざっていたりする。
そんな彼女の“素”を垣間見るのは、酒を飲んだときである。
「えー? だって見た目と実年齢って関係無いし、洋酒ケーキって強烈なのじゃなきゃ子供でも食べたりするよ?」
「それにしたって、どうしてお前なんだ」
「ダンススクールのレッスンに来てたんだって、三越の会長のお孫さん」
「うちとまた変な繋がりが増えたか……まぁ、悪い縁ではないな」
「因みにこれ、私がプロデュースして実際に作ったやつだけど、提督も味見……する?」
「そうだな、三時のおやつの時間だしな」
「もー、子供扱いしないでよー」
頬を膨らませる仕草は幼く、可愛らしい。舞風は成長が緩やかな方で、終戦後も見た目はそのままだ。
暗い雰囲気や寂しい雰囲気は今も苦手で、騒がしいといつの間にかしれっと混ざっていたりする。
そんな彼女の“素”を垣間見るのは、酒を飲んだときである。
829: 2018/10/18(木) 00:03:04.35 ID:DP9O5HBO0
「なぁ舞風、これかなり酒キツくないか?」
「そう? ちゃんと適量入れたよ?」
「俺が弱いからそう感じるだけか……?」
「提督はホントお酒弱いねー」
「体質の問題なんだから仕方ないだろ。お前や早霜達と一緒にするな」
「そうそう、偶々その早霜とお酒の話になって、レッスンに来てたお孫さんが好きなら是非にって話になって、気付いたら決まってたんだよね」
「どうせ大本営はイメージの為に許可するだろうし、お前が満更でもないなら俺としては止める理由もなかったしな」
「――ねぇ、提督」
「ん?」
「こういうのに選ばれる私は、ちゃんと魅力があるってことかな?」
「そりゃいくら何でもダンススクールの生徒だからって理由だけで、お前を推薦しようとはしないだろ」
「じゃあ、提督もそう思ってる?」
「少なくとも魅力が無い艦娘はここには一人も居ないと思ってる」
「……そっか。じゃあ提督、もっと甘いおやつあげるね」
「あまり甘過ぎるのは――」
「ヤバい……アレはヤバい……」
「戻ってきてからずっとあんな感じだけど、舞風どうかしたの?」
「ブランデー濃い目のケーキ食べながらブランデー飲んで、提督にディープキスして襲ったらしくて……」
「あぁ……なるほどね」
(私もやっちゃったけど、提督も酔うとヤバい……二度とやらないようにしなきゃ……)
「そう? ちゃんと適量入れたよ?」
「俺が弱いからそう感じるだけか……?」
「提督はホントお酒弱いねー」
「体質の問題なんだから仕方ないだろ。お前や早霜達と一緒にするな」
「そうそう、偶々その早霜とお酒の話になって、レッスンに来てたお孫さんが好きなら是非にって話になって、気付いたら決まってたんだよね」
「どうせ大本営はイメージの為に許可するだろうし、お前が満更でもないなら俺としては止める理由もなかったしな」
「――ねぇ、提督」
「ん?」
「こういうのに選ばれる私は、ちゃんと魅力があるってことかな?」
「そりゃいくら何でもダンススクールの生徒だからって理由だけで、お前を推薦しようとはしないだろ」
「じゃあ、提督もそう思ってる?」
「少なくとも魅力が無い艦娘はここには一人も居ないと思ってる」
「……そっか。じゃあ提督、もっと甘いおやつあげるね」
「あまり甘過ぎるのは――」
「ヤバい……アレはヤバい……」
「戻ってきてからずっとあんな感じだけど、舞風どうかしたの?」
「ブランデー濃い目のケーキ食べながらブランデー飲んで、提督にディープキスして襲ったらしくて……」
「あぁ……なるほどね」
(私もやっちゃったけど、提督も酔うとヤバい……二度とやらないようにしなきゃ……)
833: 2018/12/27(木) 22:25:38.45 ID:eU7JvC/h0
・不知火『伝えきれない』?、投下します
色々あって遅くなり申し訳ありません
色々あって遅くなり申し訳ありません
834: 2018/12/27(木) 22:26:13.05 ID:eU7JvC/h0
戦いは終わった。嬉しい。もう陽炎も、黒潮も、他の姉妹も、司令も、傷付かない。
でも、だとしたら、戦いの終わった今、ここで不知火に出来ることなんてあるのだろうか。
この眼以外に何も持たない不知火は、これからどうすべきなのだろうか。
――その答えは、不意な知らせと共に訪れた。
「改二になってどうだ? どこか変わったところはないか?」
「……」
「どうした、執務室なんて見慣れてるだろ?」
「――不知火は、ずっと思っていました。不知火がもっとうまく立ち回れたら、陽炎達はもっと苦労せずにいられたのでは、と。鎮守府でも、作戦中でも、気苦労をかけずに済んだのに、と」
呟くように、零すように、不知火は言葉を紡ぐ。いつかの彼女もそうだったように、自分の出来の悪さを悔いていた。
ただ、今の不知火に以前のような翳りはない。ずっと全てを取り零さないように足掻いていたその“眼”で、提督を正面から見据える。
「司令、不知火は今まで落ち度だらけでした。だから、これからは不知火でもしっかり出来ることを頑張ろうと思います」
「一応聞いておくが、答えるかはお前に任せる。何があった、もしくは、何を知った?」
「ほんの些細な、今となってはどうでもいいことです。強いて言うなら――不知火は、司令や、陽炎や、黒潮や、この鎮守府の仲間が、大好きだと再認識しました」
「……そうか。じゃあ、陽炎達にもその改二姿をお披露目してやってこい」
「はい、失礼しま゛っ!?……しつれい、します」
(……落ち着いたように見えたが、落ち度は健在のようだな)
でも、だとしたら、戦いの終わった今、ここで不知火に出来ることなんてあるのだろうか。
この眼以外に何も持たない不知火は、これからどうすべきなのだろうか。
――その答えは、不意な知らせと共に訪れた。
「改二になってどうだ? どこか変わったところはないか?」
「……」
「どうした、執務室なんて見慣れてるだろ?」
「――不知火は、ずっと思っていました。不知火がもっとうまく立ち回れたら、陽炎達はもっと苦労せずにいられたのでは、と。鎮守府でも、作戦中でも、気苦労をかけずに済んだのに、と」
呟くように、零すように、不知火は言葉を紡ぐ。いつかの彼女もそうだったように、自分の出来の悪さを悔いていた。
ただ、今の不知火に以前のような翳りはない。ずっと全てを取り零さないように足掻いていたその“眼”で、提督を正面から見据える。
「司令、不知火は今まで落ち度だらけでした。だから、これからは不知火でもしっかり出来ることを頑張ろうと思います」
「一応聞いておくが、答えるかはお前に任せる。何があった、もしくは、何を知った?」
「ほんの些細な、今となってはどうでもいいことです。強いて言うなら――不知火は、司令や、陽炎や、黒潮や、この鎮守府の仲間が、大好きだと再認識しました」
「……そうか。じゃあ、陽炎達にもその改二姿をお披露目してやってこい」
「はい、失礼しま゛っ!?……しつれい、します」
(……落ち着いたように見えたが、落ち度は健在のようだな)
835: 2018/12/27(木) 22:27:24.11 ID:eU7JvC/h0
「で、たんこぶのお披露目だっけ?」
「違います。改二です。陽炎がまだだからあうっ!」
「んー? いつからそういう小生意気なことが言えるようになったの、不知火ー?」
「やめ、痛っ、陽炎、デコピンは、痛いっ」
「そのへんにしといたげ。はしゃぎたいんは分かるけど、あんまりやると不知火の落ち度が酷なるかもしれんやろ?」
「黒潮、地味にそれも失礼です」
「はいはい、それで改二の調子はどうなの? どこか変わった感じは?」
「特にはこれといって、こんな風に――」
「んっ!?」
「ある程度この“眼”がどういうものか知ったぐらいです」
(動けない!? 何で!?)
「深海棲艦だけじゃなく、艦娘にも制限はありますが有効のようです」
「ちょっと、本気で動けないんだけど!?」
「暫くそのままで居てください」
「不知火、何するつもり? さっきのを怒ってるなら謝るってば、ねぇ、聞いてる? ちょっ、待っ――」
「……陽炎と出会えたから、今の不知火があります。これからも、不知火と居てください」
「へ? あぁ、うん、言われなくてもそのつもりよ。だからそろそろ解放してくれない?」
「嫌です」
「嫌って、アンタねぇ……」
「皆ー、今なら陽炎に抱きつき放題みたいやでー?」
「こら、黒潮何余計なこと言ってんのよ!?」
――改二化により、不知火の“処理落ち”が軽減されました。
「違います。改二です。陽炎がまだだからあうっ!」
「んー? いつからそういう小生意気なことが言えるようになったの、不知火ー?」
「やめ、痛っ、陽炎、デコピンは、痛いっ」
「そのへんにしといたげ。はしゃぎたいんは分かるけど、あんまりやると不知火の落ち度が酷なるかもしれんやろ?」
「黒潮、地味にそれも失礼です」
「はいはい、それで改二の調子はどうなの? どこか変わった感じは?」
「特にはこれといって、こんな風に――」
「んっ!?」
「ある程度この“眼”がどういうものか知ったぐらいです」
(動けない!? 何で!?)
「深海棲艦だけじゃなく、艦娘にも制限はありますが有効のようです」
「ちょっと、本気で動けないんだけど!?」
「暫くそのままで居てください」
「不知火、何するつもり? さっきのを怒ってるなら謝るってば、ねぇ、聞いてる? ちょっ、待っ――」
「……陽炎と出会えたから、今の不知火があります。これからも、不知火と居てください」
「へ? あぁ、うん、言われなくてもそのつもりよ。だからそろそろ解放してくれない?」
「嫌です」
「嫌って、アンタねぇ……」
「皆ー、今なら陽炎に抱きつき放題みたいやでー?」
「こら、黒潮何余計なこと言ってんのよ!?」
――改二化により、不知火の“処理落ち”が軽減されました。
836: 2018/12/27(木) 22:27:55.13 ID:eU7JvC/h0
「湯飲みは飛んでこないけど、茶葉入れすぎ。料理も辛すぎたり甘過ぎたりが大半。完成しない、爆発する、ってのは無くなったんだけどね……」
「前よりは並行して出来るんやけど、どっか抜けるんは相変わらずやわ」
「つまり?」
「不知火は不知火ね」
「せやなぁ」
「だよなぁ……」
――不知火に、何か落ち度でも?
「前よりは並行して出来るんやけど、どっか抜けるんは相変わらずやわ」
「つまり?」
「不知火は不知火ね」
「せやなぁ」
「だよなぁ……」
――不知火に、何か落ち度でも?
842: 2018/12/28(金) 12:48:59.65 ID:TACKgml10
・山風『名は体を表す』
・羽黒『明石印の医薬品』
でお送りします
・羽黒『明石印の医薬品』
でお送りします
857: 2020/05/12(火) 23:48:16.86 ID:AYwNKrtc0
・山風『儚いモノ』、タイトル変更で途中まで書いてたとこまで投下しときます。
858: 2020/05/12(火) 23:48:49.62 ID:AYwNKrtc0
希薄、希薄、何もかもが希薄。ここで、ただ消え去る時を待とう。
どうせ、きっと、誰にも--。
「艦娘の幽霊?」
「幽霊クマ」
「艦娘の幽霊が、なんだって?」
「裏山に出るらしいクマ。木曾が様子を見に行ったっきり帰ってこないクマ」
「幽霊は俺の担当外だ、他を当たれ」
「つべこべ言わずに来るクマ」
「ちょっ、待て、絞まる、襟首掴んで引きずぐぇっ!?」
「何人か助っ人も呼んでるクマ、急ぐクマー」
「わがっだ、わがっだがら、じぬ」
それは、いつものように舞い込んだトラブル。もう日常と化していて、何だいつものことかとすれ違う艦娘達は気にもとめない。
--そこに、確かに何かが起きていることに変わりはないというのに。
どうせ、きっと、誰にも--。
「艦娘の幽霊?」
「幽霊クマ」
「艦娘の幽霊が、なんだって?」
「裏山に出るらしいクマ。木曾が様子を見に行ったっきり帰ってこないクマ」
「幽霊は俺の担当外だ、他を当たれ」
「つべこべ言わずに来るクマ」
「ちょっ、待て、絞まる、襟首掴んで引きずぐぇっ!?」
「何人か助っ人も呼んでるクマ、急ぐクマー」
「わがっだ、わがっだがら、じぬ」
それは、いつものように舞い込んだトラブル。もう日常と化していて、何だいつものことかとすれ違う艦娘達は気にもとめない。
--そこに、確かに何かが起きていることに変わりはないというのに。
859: 2020/05/12(火) 23:49:25.96 ID:AYwNKrtc0
大木の虚(うろ)、その中に大柄な影と、それに覆われるような影が一つ。
先にここへ来ているはずの数名が見当たらないのは、これを見たからだ。
「帰りが遅いから心配して来てみれば、何やってんだクマ」
「添い寝」
「いや、そういうこと聞いてんじゃないと思うぞ」
クマにしがみつかれながら寝転がっている妹に溜め息を吐きつつも、球磨は近付いていって臆病なペットと妹の頭を乱暴に撫でる。
幽霊とやらは真っ昼間でも現れるらしく、木曾も一度は遭遇したものの見失い、ここで再度出現するのを待っていたとのことだった。
「先に来た奴等はどうしてるクマ?」
「周辺の見廻りに行ったぜ。一人はそこだ」
「うあー……だりー……」
「人選ミスだろ、アレ」
近くの木の上の方でだれきって、なまけものよりなまけている睦月型の脱力系。一応、一緒になって寝転がっていないだけマシなのだが、やる気は皆無といっていい。
「相方はどうした?」
「あっち、さくてきちゅー」
「そうか。で、他には誰が来てるんだ?」
「はいはーい、私だよ!」
「……で、他は?」
「時雨と龍驤に声かけたクマ」
「ちょっ、無視はひどくない!?」
「山で何か起きてお前が動いてないわけないだろ。現状報告」
木々の枝を飛び移りながら現れた川内曰く、目標はやはり艦娘であり、発見しても追跡は困難。そして何より、誰の目にも彼女は艦娘であることしか分からなかった。
(厄介だな。どの“目”にも引っ掛からないってことは相当特殊な艦娘か個体ってことか)
認識阻害、存在の希薄性、他にも原因は考えられるが、一々確認していてはキリがない。ざわざわと木々が騒ぐのを聞きながら、提督は幽霊のような艦娘をどうすれば捕捉出来るかと考えに耽るのだった。
先にここへ来ているはずの数名が見当たらないのは、これを見たからだ。
「帰りが遅いから心配して来てみれば、何やってんだクマ」
「添い寝」
「いや、そういうこと聞いてんじゃないと思うぞ」
クマにしがみつかれながら寝転がっている妹に溜め息を吐きつつも、球磨は近付いていって臆病なペットと妹の頭を乱暴に撫でる。
幽霊とやらは真っ昼間でも現れるらしく、木曾も一度は遭遇したものの見失い、ここで再度出現するのを待っていたとのことだった。
「先に来た奴等はどうしてるクマ?」
「周辺の見廻りに行ったぜ。一人はそこだ」
「うあー……だりー……」
「人選ミスだろ、アレ」
近くの木の上の方でだれきって、なまけものよりなまけている睦月型の脱力系。一応、一緒になって寝転がっていないだけマシなのだが、やる気は皆無といっていい。
「相方はどうした?」
「あっち、さくてきちゅー」
「そうか。で、他には誰が来てるんだ?」
「はいはーい、私だよ!」
「……で、他は?」
「時雨と龍驤に声かけたクマ」
「ちょっ、無視はひどくない!?」
「山で何か起きてお前が動いてないわけないだろ。現状報告」
木々の枝を飛び移りながら現れた川内曰く、目標はやはり艦娘であり、発見しても追跡は困難。そして何より、誰の目にも彼女は艦娘であることしか分からなかった。
(厄介だな。どの“目”にも引っ掛からないってことは相当特殊な艦娘か個体ってことか)
認識阻害、存在の希薄性、他にも原因は考えられるが、一々確認していてはキリがない。ざわざわと木々が騒ぐのを聞きながら、提督は幽霊のような艦娘をどうすれば捕捉出来るかと考えに耽るのだった。
860: 2020/05/12(火) 23:49:55.96 ID:AYwNKrtc0
楽しそう。きっとあの艦娘達は優しさに包まれている。
私からは全てが抜け落ちていくだけ、もうほとんど“私”は残ってない。
だから、もう放っておいて、探さないで、希望なんて、何処にもありはしない。
提督達のたった数十メートル先、そこに立っていた艦娘は、音もなくその場から去っていった。
私からは全てが抜け落ちていくだけ、もうほとんど“私”は残ってない。
だから、もう放っておいて、探さないで、希望なんて、何処にもありはしない。
提督達のたった数十メートル先、そこに立っていた艦娘は、音もなくその場から去っていった。
861: 2020/05/12(火) 23:51:05.01 ID:AYwNKrtc0
「やっぱり空からやと木が多くて、ちと難しいわ」
「そもそも広範囲索敵だと難しいかもね、視認してて見失うぐらいだから」
「時雨呼んだんは“運”頼み、って訳でもなさそうやな。それなら雪風呼ぶやろし」
「どちらかというと“勘”かな。今日はなんとなく、僕が行かないといけない気がしたんだよ」
「私ともっちーは何で呼ばれたのかしら」
「嵐に追われてるから、かもね……」
「時雨? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ。次はあっちを探してみようか」
(うち、今回いらんのと違うかコレ。まぁ暇やしえぇけど)
どこか察した龍驤は、頭をガシガシと掻いてから艦載機をくるくると旋回させて遊ぶ。彼女が空に描いた文字は、少し間が長く開いている“嵐”という漢字だった。
「そもそも広範囲索敵だと難しいかもね、視認してて見失うぐらいだから」
「時雨呼んだんは“運”頼み、って訳でもなさそうやな。それなら雪風呼ぶやろし」
「どちらかというと“勘”かな。今日はなんとなく、僕が行かないといけない気がしたんだよ」
「私ともっちーは何で呼ばれたのかしら」
「嵐に追われてるから、かもね……」
「時雨? 何か言った?」
「いや、なんでもないよ。次はあっちを探してみようか」
(うち、今回いらんのと違うかコレ。まぁ暇やしえぇけど)
どこか察した龍驤は、頭をガシガシと掻いてから艦載機をくるくると旋回させて遊ぶ。彼女が空に描いた文字は、少し間が長く開いている“嵐”という漢字だった。
862: 2020/05/13(水) 00:58:03.15 ID:Ry0QatC80
少しして、提督と合流した時雨達。結局件の艦娘は見付からず、当事者ならぬ当クマは相変わらず木曾にベッタリとくっついている。
「さて、三日月、望月、お前らから見てどうだ?」
「確かに何かが居るような雰囲気はするんですけど……」
「そこ止まりだね、スコープで覗いた瞬間気配が霧散するって感じ」
「龍驤は?」
「さっぱりやわ、うちら以外の反応は艦載機からやとなーんもあらへん」
「球磨」
「毛が逆立つ感じはないし、少なくとも敵意とかはないと思うクマ」
「時雨」
「そうだね……そこ、かな?」
そう言うと、時雨は誰も見ていない方向を急に指差す。それは、ほんの数メートル先で、今まで誰もそこには存在していない、はずだった。
「誰!?」
「川内、大丈夫だよ。アレは--僕の妹だと思うから」
淡く消えてしまいそうな程存在が希薄なその艦娘は、ただボーっとそこに立っていた。感情の読み取れない表情、辛うじて白露型の艦娘と同じ出で立ちをしていることは認識できたので、他の面々も時雨の言葉に納得する。
「ねぇ、どうしてこんなところに一人で?」
「……」
「聞こえてないのか?」
「違う、と思う。あの表情は、僕もよく知ってるから。だから多分、必要なのは……“見付けたよ、山風”」
「……!」
名前を呼んだ声に呼応するように、山に風が吹き荒れる。落ち葉が舞い、全員が目を閉じた。
そして、風が止み目を開けた者達の目に映ったのは、新しい鎮守府の仲間が時雨を押し倒して頬擦りしているシーンだった。
「時雨姉時雨姉時雨姉時雨姉」
「僕も会えて嬉し--いや、山風? そこに頭突っ込んじゃ、だ、誰か止めて!?」
(こりゃまた凄そうなのが来たクマ)
(あー……姉妹の再会だ、そっとしておこう)
(球磨姉も抱き着いたらこんな風に落ち着くのかな……)
「ホントにダメ、助けて、助けてってば!?」
----山風が着任(?)しました。
「さて、三日月、望月、お前らから見てどうだ?」
「確かに何かが居るような雰囲気はするんですけど……」
「そこ止まりだね、スコープで覗いた瞬間気配が霧散するって感じ」
「龍驤は?」
「さっぱりやわ、うちら以外の反応は艦載機からやとなーんもあらへん」
「球磨」
「毛が逆立つ感じはないし、少なくとも敵意とかはないと思うクマ」
「時雨」
「そうだね……そこ、かな?」
そう言うと、時雨は誰も見ていない方向を急に指差す。それは、ほんの数メートル先で、今まで誰もそこには存在していない、はずだった。
「誰!?」
「川内、大丈夫だよ。アレは--僕の妹だと思うから」
淡く消えてしまいそうな程存在が希薄なその艦娘は、ただボーっとそこに立っていた。感情の読み取れない表情、辛うじて白露型の艦娘と同じ出で立ちをしていることは認識できたので、他の面々も時雨の言葉に納得する。
「ねぇ、どうしてこんなところに一人で?」
「……」
「聞こえてないのか?」
「違う、と思う。あの表情は、僕もよく知ってるから。だから多分、必要なのは……“見付けたよ、山風”」
「……!」
名前を呼んだ声に呼応するように、山に風が吹き荒れる。落ち葉が舞い、全員が目を閉じた。
そして、風が止み目を開けた者達の目に映ったのは、新しい鎮守府の仲間が時雨を押し倒して頬擦りしているシーンだった。
「時雨姉時雨姉時雨姉時雨姉」
「僕も会えて嬉し--いや、山風? そこに頭突っ込んじゃ、だ、誰か止めて!?」
(こりゃまた凄そうなのが来たクマ)
(あー……姉妹の再会だ、そっとしておこう)
(球磨姉も抱き着いたらこんな風に落ち着くのかな……)
「ホントにダメ、助けて、助けてってば!?」
----山風が着任(?)しました。
867: 2020/05/18(月) 01:29:18.05 ID:KMWHr9Kg0
「提督、あなた様の瑞穂です」
「断じて違う」
こんなやり取りが繰り返されて何度目か分からないが、提督は瑞穂に対しての苦手意識がどうしても拭えずにいた。好意を向けられることには馴れてきたものの、鎮守府に来た当初から彼女の態度はストーカーレベルであった為、恐怖が先に立つのだ。
「俺はお前にそうまでさせるようなことを何かしたのか? 全く身に覚えがないんだが」
「ふふふ、提督にはそうだと思います。ただ、瑞穂は知っているのです。五十鈴さんや龍驤さん達のように、私はあなた様のことを知った上で此方へやってきました」
五十鈴と龍驤、その名前が出たことに少し提督は驚きを見せる。確かに二人とも流れ着いてきたのではなく、自らの意思でこの鎮守府へ志願してやってきた変わり種の一角だ。
ただ、対外的には明確にその二人だけがそうであると分かるような噂は当時流れてはいなかった。にも拘わらず、瑞穂は明らかにそれを事実として知っている体で話していた。
「断じて違う」
こんなやり取りが繰り返されて何度目か分からないが、提督は瑞穂に対しての苦手意識がどうしても拭えずにいた。好意を向けられることには馴れてきたものの、鎮守府に来た当初から彼女の態度はストーカーレベルであった為、恐怖が先に立つのだ。
「俺はお前にそうまでさせるようなことを何かしたのか? 全く身に覚えがないんだが」
「ふふふ、提督にはそうだと思います。ただ、瑞穂は知っているのです。五十鈴さんや龍驤さん達のように、私はあなた様のことを知った上で此方へやってきました」
五十鈴と龍驤、その名前が出たことに少し提督は驚きを見せる。確かに二人とも流れ着いてきたのではなく、自らの意思でこの鎮守府へ志願してやってきた変わり種の一角だ。
ただ、対外的には明確にその二人だけがそうであると分かるような噂は当時流れてはいなかった。にも拘わらず、瑞穂は明らかにそれを事実として知っている体で話していた。
868: 2020/05/18(月) 01:30:02.28 ID:KMWHr9Kg0
「……どこから仕入れた」
「提督は自分が思っていらっしゃる以上に有名人ですよ。元帥の教え子であり、西の軍神と朱姫の同輩」
嫌な名前の羅列に露骨に顔をしかめたくなったものの、それよりも完全に一部の人間しか知り得ない情報が出てきて更に提督は語気を強める。
「お前、本当に何者だ?」
「あなた様の瑞穂です」
「以前に居た鎮守府はどこだ、何の作戦に参加した」
「過去は捨てました」
「これは命令だ、答えろ」
「……蛇大将筆頭秘書艦、よく知っておられるであろう呼び名でしたら--」
「お前があの“拷問姫”、だと……? いや待て、今も蛇大将は瑞穂を秘書艦としていたはずだ」
「影武者です」
「影武者って、お前……」
「立場的にこちらへ来るのに少々問題がありまして」
人相手なら明らかに非人道的だと非難される作戦や実験を数々と実行してきた大将。人相手にも一切容赦なく大将の障害を排除してきた秘書艦。
敵も多く、機密情報もそこそこ抱えた艦娘、更には大将の秘書艦娘ともなれば簡単に転属など出来ようはずもない。
「蛇大将も影武者の方もよく納得したな」
「元々お互いのことには口を挟まないという条件で秘書艦娘になっておりましたし、影武者の子も喜んで引き受けてくれました」
それが真にせよ嘘にせよ、今までの中でも上位に入る厄介な存在だと分かり、提督は頭を抱える。その姿を見て、瑞穂はうっとりとした表情を浮かべた。
「うふふ、提督はやはりその何かに困っている状態のお顔が一番素敵です」
(よし、コイツとだけは絶対にケッコンカッコカリしない)
翌日、提督の半径二メートルに近づくことを禁止された瑞穂が距離を保って常に追いかける微笑ましい光景が鎮守府にはあったそうな。
「提督は自分が思っていらっしゃる以上に有名人ですよ。元帥の教え子であり、西の軍神と朱姫の同輩」
嫌な名前の羅列に露骨に顔をしかめたくなったものの、それよりも完全に一部の人間しか知り得ない情報が出てきて更に提督は語気を強める。
「お前、本当に何者だ?」
「あなた様の瑞穂です」
「以前に居た鎮守府はどこだ、何の作戦に参加した」
「過去は捨てました」
「これは命令だ、答えろ」
「……蛇大将筆頭秘書艦、よく知っておられるであろう呼び名でしたら--」
「お前があの“拷問姫”、だと……? いや待て、今も蛇大将は瑞穂を秘書艦としていたはずだ」
「影武者です」
「影武者って、お前……」
「立場的にこちらへ来るのに少々問題がありまして」
人相手なら明らかに非人道的だと非難される作戦や実験を数々と実行してきた大将。人相手にも一切容赦なく大将の障害を排除してきた秘書艦。
敵も多く、機密情報もそこそこ抱えた艦娘、更には大将の秘書艦娘ともなれば簡単に転属など出来ようはずもない。
「蛇大将も影武者の方もよく納得したな」
「元々お互いのことには口を挟まないという条件で秘書艦娘になっておりましたし、影武者の子も喜んで引き受けてくれました」
それが真にせよ嘘にせよ、今までの中でも上位に入る厄介な存在だと分かり、提督は頭を抱える。その姿を見て、瑞穂はうっとりとした表情を浮かべた。
「うふふ、提督はやはりその何かに困っている状態のお顔が一番素敵です」
(よし、コイツとだけは絶対にケッコンカッコカリしない)
翌日、提督の半径二メートルに近づくことを禁止された瑞穂が距離を保って常に追いかける微笑ましい光景が鎮守府にはあったそうな。
870: 2020/05/24(日) 00:19:38.65 ID:1DRKBrmR0
・羽黒『明石印の医薬品』、投下します
871: 2020/05/24(日) 00:20:19.42 ID:1DRKBrmR0
「司令官さん、どうですか?」
「とりあえずこっちに来て後ろ向いて動くな」
秘書艦日に軽いサプライズを用意していた羽黒。早速反応があり、ドキドキしながら言われた通りにする。
「この感じ、エクステとかじゃないな。この短期間に伸ばせる訳がないし……明石にでも頼んだか?」
「出来ませんかってお願いしたら、需要がありそうって作ってくれました」
一口飲めばあら不思議、短髪だったあの子がものの数分でロングヘアーに大変身。明石印の艦娘長毛剤、近日発売予定。
「いつもの羽黒ぐらいの長さも好きだが、こうしてロングになるとまたイメージが変わるな」
「えへへ、司令官さんが喜んでくれて嬉しいです」
色々と後ろから髪を弄りながら楽しそうにしている提督を見て、羽黒は穏やかな笑みを浮かべる。特別何かをしている訳でも、何かを出来るわけでもない今の彼女からすれば、こういった日常の中のほんの些細なサプライズを考えるのが羽黒なりの提督へのアピールだった。
「那智も色々と弄らせてもらったが、羽黒だとまた違った印象になるな」
編んだり括ったりと子供のようにはしゃぐ提督の手を、羽黒はとてもいい笑顔で、掴む。
「? どうした? やりすぎたか?」
「司令官さん。実はこの薬、とっても嬉しい副作用もあったみたいなんです」
「副作用、だと? それ、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。ねぇ、司令官さん……」
気付く。羽黒の息が荒い。顔は紅潮し、手から伝わる体温も高い。
「昔は見られたら恥ずかしくて恥ずかしくて耐えられなかったんです。でも、今は--見ても、触っても、いいんですよ?」
注、副作用として多少媚薬のような効果が出てしまう場合があるので、ご注意ください。
「とりあえずこっちに来て後ろ向いて動くな」
秘書艦日に軽いサプライズを用意していた羽黒。早速反応があり、ドキドキしながら言われた通りにする。
「この感じ、エクステとかじゃないな。この短期間に伸ばせる訳がないし……明石にでも頼んだか?」
「出来ませんかってお願いしたら、需要がありそうって作ってくれました」
一口飲めばあら不思議、短髪だったあの子がものの数分でロングヘアーに大変身。明石印の艦娘長毛剤、近日発売予定。
「いつもの羽黒ぐらいの長さも好きだが、こうしてロングになるとまたイメージが変わるな」
「えへへ、司令官さんが喜んでくれて嬉しいです」
色々と後ろから髪を弄りながら楽しそうにしている提督を見て、羽黒は穏やかな笑みを浮かべる。特別何かをしている訳でも、何かを出来るわけでもない今の彼女からすれば、こういった日常の中のほんの些細なサプライズを考えるのが羽黒なりの提督へのアピールだった。
「那智も色々と弄らせてもらったが、羽黒だとまた違った印象になるな」
編んだり括ったりと子供のようにはしゃぐ提督の手を、羽黒はとてもいい笑顔で、掴む。
「? どうした? やりすぎたか?」
「司令官さん。実はこの薬、とっても嬉しい副作用もあったみたいなんです」
「副作用、だと? それ、大丈夫なのか?」
「大丈夫です。ねぇ、司令官さん……」
気付く。羽黒の息が荒い。顔は紅潮し、手から伝わる体温も高い。
「昔は見られたら恥ずかしくて恥ずかしくて耐えられなかったんです。でも、今は--見ても、触っても、いいんですよ?」
注、副作用として多少媚薬のような効果が出てしまう場合があるので、ご注意ください。
869: 2020/05/20(水) 10:44:09.85 ID:gKioafxYo
おかえり
待機しててよかった(ง ˙-˙ )ง
待機しててよかった(ง ˙-˙ )ง
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります