140: 2014/03/12(水) 08:12:34.09 ID:nYyIS+0E0
さて、時間を見つけてまとめて投稿開始。

もう傍点やルビ振りはあきらめたので、申し訳ありませんが脳内保管でお願いします。

一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」【前編】

141: 2014/03/12(水) 08:13:25.08 ID:lu3tS7gx0

――――――数日後


一夏「ファーストシフトした『白式』の性能はなかなかだけど、根本的な相性を覆すほどのものでもない」

一夏「ただ、単一仕様能力には驚かされた。駆け引き次第でどんなISでも下すことができる」

一夏「これならタイマンでの『シュヴァルツェア・レーゲン』撃破を目的とした『AICC作戦』も絵空事ではなくなってきたぞ!」

一夏「ようし!」

シャル「じゃあ、僕は先に部屋に戻っているからね?」

一夏「へ? ああ……」ジロッ

シャル「な、何かな?」

一夏「お前、いつもそうだよな」

シャル「え!?」

一夏「なんで俺と着替えるのを嫌がるんだよ~」

シャル「べ、別に、そんなことないと思うけど…………」アセアセ

一夏「そんなことあるだろう?」ニコニコ

一夏「たまには一緒に着替えようぜ」ペタペタ

シャル「え、え、い、い、いや――――――」

一夏「そう連れないこと言うなって」

一夏「俺も結構鍛えたから密かに自慢したくてさ」

シャル「う、う、うぅ……」カア

シャル「うわああああああああああああ!」タッタッタッタッタ

一夏「シャルル――――――!?」

一夏「…………ああ、せっかく硬くなった腹を触ってもらおうと思ったのにな」

一夏「まあいいや。シャワー浴びよ」スタスタ・・・


キュッ、ジャージャー・・・



142: 2014/03/12(水) 08:14:05.03 ID:lu3tS7gx0


バチィン!


ラウラ『私は認めない。貴様が“あの人の弟”であるなどと――――――!』

ラウラ『認めるものか!』


第2回『モンド・グロッソ』:ISの世界大会――――――。

その決勝の日、俺は何者かに誘拐された。

どういう目的があったのかは未だにわからない。

俺は拘束されて閉じ込められた。

それを助けてくれたのが、決勝戦を放り出して駆けつけてくれた、千冬姉だった。


――――――決勝戦は千冬姉の不戦敗。


誰もが二連覇を確信していただけに、決勝戦棄権は大きな騒ぎを呼んだ。

そして、俺に監禁場所に関する情報を提供してくれたドイツ軍に借りを返すため、1年ちょっとの間 ドイツ軍IS部隊の教官をやってたってわけだ。


全て、俺の不甲斐なさのせい…………


一夏「…………情けない弟だよな」

けど、俺は千冬姉のかつての級友たちの指導を受けて、

――――――少しずつ強くなった。

――――――いろんなことも考えられるようになった。

――――――無理して背伸びする必要や気負う必要はないって言ってもらえた。

――――――こんな俺にみんなは“俺”として接してもらえた。

――――――それが大人の役目なのだと背中で語るかのように。


だから、俺が千冬姉に報いるために必要なことは確かにわかりかけてきていた。
         ・・・・・・・・・
今の俺はちゃんと、強くなってきている。だから、今はそれでいい。

それ以上のことだ。――――――千冬姉にしてあげられることとは!



143: 2014/03/12(水) 08:15:17.48 ID:lu3tS7gx0


一夏「ただいま」ガチャ

シャル「おかえり」

シャル「最近、帰りが遅くなったね、一夏」

一夏「まあな。秘密の特訓をしていたんだよ」

シャル「へえ」

一夏「聞いて驚け! ――――――『シュヴァルツェア・レーゲン』を剣1つで倒す特訓だ!」

シャル「え、えええ!?」

一夏「だから、秘密なんだ。悪いな、シャルル」

シャル「そうなんだ……」

一夏「そうなんだよ(パソコンとシャワールームの監視カメラはちゃんと機能していたかな)」ニコニコ

一夏「トーナメントが楽しみだぜ!」

シャル「そうだね…………」









144: 2014/03/12(水) 08:16:00.44 ID:nYyIS+0E0

――――――翌日


一夏「トーナメントがツーマンセルに?」(左手で砂と水の詰まった瓶を素振りしている)

セシリア「そうなのですわ!」

鈴「で、誰と組むのよ! 当然、ここは私よね?」ドキドキ

周囲「ズルイズルイー!」

周囲「オリムラクン! ワタシトー!」

ラウラ「…………」ジー

一夏「俺は、そういうのはな…………」

鈴「どうしたのよ?」

使丁「察してやりな、嬢ちゃんたち」

セシリア「どういうことですの?」

使丁「一夏くんは個人競技のアスリートを前提に修養してきたから、誰かを選ぶっていうことには慣れてないんだよ」

使丁「それに、一夏くんは『シュヴァルツェア・レーゲン』を一人で倒すことを目標に取り組んでいたから、尚更ね」

一同「!?」

ラウラ「!」

セシリア「それは本当ですの!?」

鈴「あの機体を一人で!? 剣だけで『AIC』をどうやって突破するのさ?」

一夏「そこは、対戦してからのお楽しみってわけだ」ニコッ


一夏「ラウラ!」(一升瓶を向けて)


ラウラ「!」

周囲「!」

一夏「いい勝負にしようぜ、IS学園の生徒として、――――――同じ千冬姉の教え子として!」ビシッ

ラウラ「言っていろ。その減らず口を叩けなくしてやる……!」ギロッ

使丁「よしよし」ニコニコ

ラウラ「ちっ」


145: 2014/03/12(水) 08:16:53.70 ID:lu3tS7gx0

セシリア「で、どうなさいますの?」

一夏「正直誰と組んでも最善を尽くすことに変わりはないからな」(やっぱり瓶を振っている)

一夏「ラウラは誰と組むんだ?」

ラウラ「必要ない!」

一夏「ふうん」

一夏「なあ、これって一人じゃ参加できないのか?」

ラウラ「む? 貴様、まさか――――――」

女子「抽選で組まされるって聞いているけど…………」

鈴「ちょっと馬鹿ぁ! そんなこと言ったら――――――」

一夏「わかった。なら、対等の条件で戦おう」

セシリア「あ…………(この流れはどこかで――――――)」アセタラー


一夏「俺は誰とも組まない! ラウラと同じく、ランダムで行かせてもらう!」


使丁「ほう?(この啖呵を切る様子は入学当初を思い出すな。だが、あの頃とはまるで違う――――――)」

一同「!?」

ザワザワ・・・――――――阿鼻叫喚!


146: 2014/03/12(水) 08:17:39.40 ID:nYyIS+0E0

一同「キャアアアアアアアアア!」

ラウラ「貴様……、私を甘く見るなよ? 私の『シュヴァルツェア・レーゲン』の前に平伏すがいい」

一夏「俺もそこそこやれるようになってきたし、お前という強敵と戦えるのが楽しみでならないぜ!」

ラウラ「どこからそんな自信が湧いてくるのかは知らないが、二度と顔も上げられないぐらいに、――――――叩き潰す!」

鈴「ちょっと、あんた! その言葉、今すぐ取り消しなさいよ~!」

一夏「男が言ったことを覆せるか」


一夏「俺はパートナーは決めない」


周囲「ソ、ソンナー」

セシリア「あ、あははは…………(でも、この物事に真摯な態度が一夏さんの良さですわね)」

セシリア「(最終的にはたった1週間でこの私を追い込んだのですから、やってくれますわ、きっと!)」

使丁「いやはや、大言壮語もまんざら嘘でもなくなってきたな」


シャル「みんな、おはよう」


周囲「!」キラーン

使丁「あ」

シャル「へ」

周囲「ワタシトクンデー、デュノアクーン!」

ドタバタ、ワイワイ、ガヤガヤ・・・

シャル「ええと……」

鈴「ああもう…………!(優勝したら一夏と二人っきりでハワイ旅行だったわよね!?)」

鈴「こうなったらやってやるわ!(でも、一夏は最初からラウラと戦うことしか頭にないみたい…………)」

使丁「これは、いったいどうなることかね…………(やばい、まさかペアを組むことになるなんてな…………今から予約を増やせるかな?)」

使丁「(だが、『より実戦的な模擬戦闘を行うため』だというが、これはやはり先月の――――――)」


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・


千冬「静かにしろ! ホームルームが始まるぞ!」

周囲「ハーイ!」

セシリア「ここは万が一の可能性を信じるしかありませんわね」

鈴「一夏! 覚悟してなさいよ!」

一夏「じゃあな」(やっぱり、瓶を小刻みに振っている)

ラウラ「ふん」

シャル「これはどうしようかな……」アセタラー



147: 2014/03/12(水) 08:19:12.08 ID:lu3tS7gx0

――――――放課後


一夏「慣れたもんだな、これも」ブンブン

一夏「ん、簪さん?」

簪「あ、お、織斑くん……」

一夏「教室に一人残ってどうしたのさ?」

簪「な、何でもないの……」

一夏「どうしたんだよ、泣いた跡があるじゃないか!」

一夏「……何かあったのか?」

簪「…………」グスン

一夏「よっと(こういう時は急かしちゃダメなんだっけな。ここは待ってみるか)」ニコニコ

簪「あ…………」







簪「ありがとう、織斑くん」

一夏「俺、何かしたっけ?」

簪「けど、――――――ありがとう」ニコッ

一夏「それじゃ、――――――どういたしまして」ニコッ

一夏「それで、どうしたんだよ、簪さん?」

簪「その、実は……、副所長との連絡が全然取れなくて…………」

一夏「え」

簪「いつも、何かあったら励ましてくれたのに、こないだからそれがなくなって…………」グスン

一夏「ああ…………(研究所を爆破されて入院しちゃったせいでケータイとか持ってないから…………)」

一夏「(いや、それだけじゃない。回復するまでは厳重な警護に置かれているから、連絡したくても連絡できない状態になっているんだったっけか…………)」

一夏「(それに、代表候補生の専用機の設計開発をした所が狙われたということを世間に知られるとマズイということで、箝口令も敷かれているんだっけな)」

一夏「あの、俺…………(けど、伝えるべきなのか? この一件に関しては“プッチン”さんから一切口外しないように言われたけど…………)」

簪「え? 織斑くん、何か知ってるの?」

一夏「落ち着いて聞いて欲しいんだ」

簪「う、うん……」

148: 2014/03/12(水) 08:19:59.10 ID:nYyIS+0E0

一夏「実は、副所長は、怪我をしたらしく、入院してるんだ」

一夏「だから、簪さんのせいじゃ、ないよ」アセタラー

簪「そ、そうだったの? そんな、なんでそんなことを知らなかったんだろう……」

簪「あれ? でもどうして織斑くんは知っているの?」

一夏「あ、それはだな……(やばい! 口を滑らせてしまった! だけど、こうなったら行けるところまで行ってやる!)」

一夏「えっとさ、千冬姉の中学時代のクラスメイトのこと、知ってるだろう?」

簪「う、うん」

一夏「実は、副所長はその顔馴染みに会いに行った帰りに怪我をしたらしくてさ?(よく考えろ! 何故俺だけが知っているか、つじつまを合わせろ!)」

一夏「詳しいことは知らないけれど……、用務員さんがそんなことを話してくれた。たぶん、話す頃合いを見計らっていたんだと思うよ?」アセダラダラ

一夏「(何言ってるんだろう、俺? 確かに何があったかは少しは話したけど、いろいろ叩けば問題が――――――)」

簪「………………」

一夏「と、とにかく、副所長は入院しちゃった。だから、連絡を取ることができなかったんだよ、きっと。ほら、病院ってケータイ禁止だし」

簪「………………」

一夏「ああ……、ごめん。うまく伝えられなくてさ」

簪「あ、そ、そんなことないよ、織斑くん」

簪「それよりも、――――――本当にありがとう」ポッ

一夏「あ、ああ……」

一夏「たぶん、副所長はきっと5月が終わる頃までにはちゃんと返事をしてくれるだろうからさ?」

一夏「俺なんかで良ければ、こうやって相談や悩み事を聴いてやれるからさ?」

一夏「一人で抱え込むよ?」

一夏「同じ専用機持ちだし、俺だって副所長には良くしてもらったからさ……」

簪「う、うん! 今日は本当にありがとう……」ニッコリ

一夏「あ、そうだ! えと、ちょっと前に副所長からもらってたものがあったんだ」

一夏「見てみない? 俺も中身までは見てないから、今日開けてみようと思うんだ」

簪「あ……、うん!」

一夏「それじゃ、訓練が終わったら食堂でな!」

簪「わかった」ニコッ


スタスタ・・・


簪「………………」ドキドキ

簪「もしかして、副所長はちゃんと造って、くれたんだ…………」ポロポロ

簪「でも、私、どうしちゃったのかな……?(けど、織斑くんには――――――)」ドクンドクン



149: 2014/03/12(水) 08:21:14.32 ID:lu3tS7gx0

――――――それから、夕食前


一夏「よし! だいぶ見えてきたぞ、――――――『AICC作戦』!」

一夏「あとは俺がどれだけ、これまで教えこまれた技術を活かせるかだな(そういえば、まだ1ヶ月しか経ってないんだよな…………強くなっているよな、俺?)」

一夏「ただいま」ガチャ

一夏「シャルル、戻っているか?」


ジャージャー


一夏「シャワーの音……(シャワーを浴びているのか。それじゃ、簪さんとの約束もあることだし、副所長からの贈り物を持っていこう)」

一夏「えっと、これだこれだ」

一夏「うん、――――――特に何かされた形跡はないな」

一夏「それじゃ、行くか――――――」

ガチャ

一夏「――――――あ?」
シャル「――――――あっ!」


ボヨーン、ゴッツーン!


一夏「うわっ!?」
シャル「きゃっ!」


ドタッ!


一夏「???」

シャル「あいたたた…………(まさか、出合い頭にぶつかるなんて、――――――僕の馬鹿! 何やっているんだよ)」

一夏「何が起きた…………(シャルルがシャワーから上がったってことは間違いないけど、ぶつかる一瞬 何か柔らかいものがあたったような…………)」

シャル「ごめんね、一夏…………(でも、一夏が部屋に戻ってきていたなんて、まったく気づかなかった――――――)」

シャル「あ!」ゾクッ

一夏「あ……」チラッ

シャル「うわっ!」ビクッ

一夏「え…………(えっと、あれ? いや、知っていたつもりだけれども…………あれー?)」ジー


シャル「…………」(身体や頭を被ったバスタオルが解け、イロンナトコロが丸見えに!)




150: 2014/03/12(水) 08:22:11.91 ID:nYyIS+0E0

一夏「す、すまん!(うわあああああああああああ! お、女の子のぜぜぜぜぜんr――――――!?)」カア

一夏「えっと……、コレヲキロ!(隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せ隠せええええええええ!)」ガバッ

シャル「あ、ありがとう…………(い、一夏のジャケットだ…………)」

一夏「ああ……それじゃあな…………」ガチャ

シャル「あ、うん……」


バタン


一夏「ふぅ……(廊下の空気で一気に気分が落ち着いて――――――)」

一夏「うおっ!?(って、や、やばいよ! 心臓の鼓動が止まらない! きっと顔も真っ赤だ! こんな状態で人前に出られないよ…………)」ドクンドクン

一夏「って、うわああああ! よく考えたら――――――!(荷物も落としたままだし、上着もやっちゃった!)」

一夏「き、気まずい…………(取りに戻らないと行けない! 今出てったばかりなのに!?)」

一夏「で、でも、約束があ、あるんだ…………(そうだ。ここで怖気づいたら男が廃る……! や、やるぞ…………)」

一夏「し、深呼吸――――――!」スゥーハァーー

一夏「よ、よし! まずはノックからだ……!(きっと出てったばかりだからまだ着替え終わっていないはずだ…………)」ドクンドクン


コンコン! ガチャ


一夏「これで――――――え(開くの早すぎやしないか?)」

シャル「ま、待って、一夏……」ウルウル(一夏のジャケットを羽織っただけ!)

一夏「うわっ!(何考えてんだよ、シャルルはあああああああああ!?)」

シャル「うぅ…………」ギュッ

一夏「わ、わかった!(何がわかったんだよ、俺!?)」

一夏「と、とりあえず、着替えて落ち着いて話を聞こうじゃないか!」ハラハラ

シャル「う、うん……」

一夏「さ、湯冷めするし、早く、な?(落ち着けー、俺ー……!)」ニコー



151: 2014/03/12(水) 08:22:58.60 ID:nYyIS+0E0

一夏「そ、それじゃ、汗も掻いただろうし、ここは少し温かいスポーツドリンクを……(――――――嫌な汗を、な)」

シャル「うん。もらおうかな……」(寝間着)

一夏「はい……(気分を落ち着かせるには一気に飲めない温かい飲み物を出すに限る。俺もこれ飲んで心を落ち着かせよう…………)」スッ

一夏「(――――――平常心! 平常心だ、何事も!)」ドクンドクン

シャル「あ、ありがとう……」サッ

バチッ!

シャル「あ」ビクッ

一夏「うわっ!? ――――――お、おい!」バチャー

一夏「おわっち! あちゃ、あちちちち!(――――――火傷したら冷やすんだあああ!)」ダダッ

シャル「ご、ごめん!」

ジャー

一夏「落ち着け、俺…………!(簪さんにしてあげたように、相手が話しやすいようにリラックスさせるんだ)」ドクンドクン

一夏「(そのためには、俺がまず落ち着いてみせなければ…………)」スゥーハァーースゥーハァーー

シャル「大丈夫!? ちょっと見せて」ムニュ

一夏「!?」ドクン!

シャル「うわ、赤くなってる! 本当にごめんね」

一夏「いや、大したことない…………それよりも、その、当たってるんだが」ドクンドクン

シャル「え! はっ…………」カア

シャル「…………」ジー

一夏「?」


シャル「一夏のえOち」


一夏「なんでだよ!?」



152: 2014/03/12(水) 08:24:36.12 ID:nYyIS+0E0

一夏「よし。落ち着いて、きたな……」ゴクゴク

シャル「う、うん」

一夏「それじゃ、まず言いたいことはあるか? 無いのなら、こちらから訊かせてもらうぞ?」

一夏「そうだ。言いたくないことや言いづらいことがあるんだったら、言わなくてもいいぞ」

シャル「…………優しいんだね、一夏って」

シャル「それじゃ、僕がどうして男のふりをしていたかを言うよ」

一夏「無理は、するなよ?」

シャル「大丈夫だよ、一夏」

シャル「それでね。僕が男のふりをしているのは、――――――実家から『そうしろ』っていう命令でね」

一夏「お前の実家っていうと、フランス最大のIS企業のデュノア社だよな」

シャル「そう。僕の父がそこの社長――――――その人からの直接の命令でね」

シャル「――――――『日本で出現した“特異ケース”と接触してこい』って」

一夏「……そうか(デュノア社は第3世代型の開発が難航して欧州で進められている『イグニッション・プラン』に名を連ねることもできなかった)」

一夏「(つまり、国家や巨大な組織からの開発補助金や奨励金を得ることができずに、経営難に陥ったというわけだ。量産機の世界シェアでは第3位だけれども)」

シャル「あまり多くは訊かないんだね」

一夏「あ、ああ…………(――――――いや、わかってはいた。事前に何もかも聞かされていたから)」

一夏「(けど、やっぱり俺はせっかく得た友人を追放するかなんていう選択に向き合えなくて…………)」

シャル「そう、『きみのデータを盗んでこい』って言われているんだよ、僕はあの人にね」

一夏「……事情はわかった」

シャル「僕はきみを騙していたんだよ? もっとこう、怒る、とかってないの?」

一夏「いや、経営不振で喘いでいる親のために頑張っているのに、俺はそこまで怒る気はないよ。ISが登場してから失業者っていっぱいだったし」

一夏「(でも、俺はこれから決断しなければならない。――――――シャルル・デュノアを学園から追放するか否かを)」

一夏「(だからと言って、他人の人生を簡単に台無しにするような大それたことはしたくない…………!)」

一夏「(頑張って情報を集めよう! これから一緒にこの学び舎でやっていけるか否かを見定めるんだ!)」

一夏「(――――――せっかくの専用機持ちなんだしさ。仲間は多いほうがいいさ)」

シャル「本当のこと話したら楽になったよ」ハア

シャル「聴いてくれてありがとう」

シャル「それと、今まで嘘を吐いていてごめん」

一夏「いや、嘘を吐いていたのはそこだけだろう。俺は気にしてないよ」

シャル「本当に優しいね、一夏は」

シャル「それと、僕はね、一夏?」

一夏「何だ?」

シャル「父の本妻の子じゃないんだ」

一夏「え……」



153: 2014/03/12(水) 08:25:22.89 ID:lu3tS7gx0


――――――――――――(中略)――――――――――――


一夏「いいのかよ、それで?(シンパシーを感じるっていうのかな、こういうの――――――!)」

シャル「え」

一夏「それでいいのか? いいはずないだろう!」ギュッ

シャル「い、一夏……?」

一夏「親がいなけりゃ子は生まれない――――――そりゃそうだろうよ」

一夏「でも、だからって何をしてもいいなんて、そんな馬鹿なことが…………!」プルプル

シャル「一夏…………」

一夏「俺も、俺も千冬姉も両親に捨てられたから――――――」

シャル「…………!」

一夏「俺のことはいい。今更会いたいとも思わない」

一夏「だけど、お前はこの後どうするんだ?」

シャル「どうって…………」

シャル「女だってことがバレたから、きっと本国に呼び戻されるだろうね」

シャル「後のことはわからない…………良くて牢屋行きかな」

一夏「!」


一夏「 決 め た ! 」


シャル「へ」

一夏「(ごめん、“プッチン”さん。確かにあなたの言うとおりにしておけば、結果的に真っ当に生きているみんなが幸せになれるんだろうけれども、)」

一夏「(俺には目の前で困っている人を見捨てることなんてできない!)」

一夏「(第一、ここまで話を聴いて見捨てたら気分が悪いじゃないか!)」

一夏「(俺だけじゃない! シャルルが突然いなくなったらみんなだって悲しむし、何とも言えない気分に染まっちゃうだろう!)」

一夏「(これでいいんだ!)」


――――――IS学園特記事項

本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない


一夏「(ここはIS学園だ! シャルルはもちろん、俺自身や世界から隔絶されたIS学園のみんなのためにこの権限を利用させてもらう!)」

一夏「(これでいいんだ、これで。――――――直接的に誰かを傷つけずに、誰かを救えるんだから)」

シャル「…………一夏?(どうしたんだろう? 固まっちゃったけど…………)」

シャル「あ!?(も、もしかして――――――!?)」

シャル「み、見られたよね、――――――全部」アワワワ・・・

シャル「あ、あは、アハハハハハハハ・・・・・・」カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!

シャル「ア、アレ・・・? チョットヒエチャッタカナ・・・」フラフラ、ドサッ

一夏「ん? シャルルぅううううううう!?」





154: 2014/03/12(水) 08:25:59.40 ID:nYyIS+0E0

――――――そして、


一夏「待たせちゃったな、簪さん」

一夏「シャルルが夏風邪引いちゃったらしくてさ? 大変だったよ」

一夏「ごめんな、食堂で集合って話だったのに……」

簪「それなら、しかたないよね。うん、気にしてない」ドキドキ

一夏「それじゃ、行こうか。箱の中身は何だろうな?」
              ・・
簪「あの、――――――い、“一夏”!」ドキドキ

一夏「うん? 何だ、簪さん?」

簪「か、“簪”で――――――」


セシリア「一夏さん。これから私と一緒に夕食と参りませんか?」


一夏「ああ、セシリアか」

簪「…………」ハア

セシリア「私も“偶然”夕食がまだなんですのよ。ご一緒しませんこと?」

一夏「いいぜ。せっかくだし、この箱の中身も見てもらうよ」

セシリア「まあ、何ですの、それは?」

一夏「俺もわからないんだ。だから、簪さんと一緒に開けてみようと思ったんだ」

セシリア「まあ、それは楽しみですこと」ニコニコ

簪「…………」イジイジ

一夏「ほら、簪さんも一緒に、な」ニッコリ

簪「あ…………うん」ニコッ

一夏「それじゃあ行こう!」ニコニコ

セシリア「はい!」ニッコリ


ラウラ「…………」ジー



155: 2014/03/12(水) 08:26:56.91 ID:lu3tS7gx0


「そうか。それがお前の答えか」

「…………いや、お前がそう決めて助けを求めるのなら俺は助力を惜しまない」

「だが、告発を促しておいて難だが、」

「――――――自分が一度決めたことは何が何でも貫き通せ」

「他人の人生を左右する決断を二転三転させるような輩には誰も付いて行くことはできない」

「まあ、変えるべき時に方向性を修正することも必要なことだが、くだらない理由で翻すのはもってのほかだ」

「お前の決断が全てを決めるだろう」

「さあ、このまま来月を迎えることができるのだろうかね?」


「…………すまん」


「俺はどうも言い過ぎる。他人を気負わせてしまう。そういうふうに自分を磨いただけにな…………」

「俺は『お前のことを外から守る』と言った」

「だからお前には、『自分の周りや内側を自分の手で守るように』と言った」

「だがそのせいで、お前の人生や価値観を歪めてしまうのは忍びない」

「だからこそ、今回のお前の決断は小気味よいものだった」

「お前の決断に、俺は賛成する。賞賛に値するよ」

「これからもお前は、お前の道を進んでいけ」

「――――――以上だ」






156: 2014/03/12(水) 08:28:08.18 ID:nYyIS+0E0

――――――学年別トーナメントまで残り1週間ほど

――――――アリーナ


一夏「さてと。そろそろ仕上げだな、『AICC作戦』も」(スポーツバイザー&スポーツサングラス)

一夏「ラウラを倒すためのアイデアは陸上競技にあった! これを以って“ゴールドマン”の弟子らしく、アスリートらしく勝つ!」

一夏「(だけど、ラウラのやつはここまで訓練をしているところなんて一切見せなかったな。そこが気掛かりだ)」

一夏「(――――――『実戦に勝る訓練は無い』とはいうがな)」

一夏「(試してみて勝てればそれでいいが、基本的にこういうのは一度見せたら次は対策を講じられるだろうし、負けたらそれはそれでな…………)」
         ・・・・・・・・・・・
一夏「――――――普通に戦ったら勝てない」

一夏「だからこそ、ここまで策を練ったがな……」

一夏「本番前に誰かと思いっきり戦ってみたいな(“ブリュンヒルデ”や“ゴールドマン”相手じゃこっちがボロ負けだけどさ)」

一夏「そうだな。月末のトーナメントで戦わない上級生の専用機持ちと一度試合を申し込んでみようかな?」

鈴「一夏!」

一夏「ああ、来たのか」

鈴「珍しいわね。アリーナでの訓練なんて週1ぐらいだったのに」

鈴「てっきり今日も陸上競技場で走り高跳びとか槍投げ、ハンマー投げとかやっているものだと思ったわ」

一夏「そろそろ仕上げだからな。秘密の特訓の成果を確かめてみたくて」

鈴「ふぅん……(副所長からのプレゼントのバイザーとグラサンを付けてるせいで全然違って見える……)」ジー

鈴「すっかり夏の日差しが似合うアスリートになってきたわね……」」

一夏「あ、どうした、鈴?」スチャ

鈴「あんた、そんなに気に入ったの? そのバイザーとグラサン」

一夏「ああ。これが凄いんだぜ! さすがは“プロフェッサー”!」

一夏「どっちもIS用の簡易ディスプレイを兼ねていてさ、この軽さでカメラ機能やレコード記録なんか簡単に取れるんだ」

一夏「だから、よく周りを見るようにもなったし、毎日のジョギングもタイムがわかるようになったからいろいろと試せるようにもなった」

鈴「どんどん一夏がアスリートになっていく…………」ボソッ

一夏「ほら! ちょっとだけだけど“ゴールドマン”や“ブリュンヒルデ”のように腹だって硬くなってる!」

鈴「ああ、ほんとだ…………中学はずっと帰宅部だった一夏が」

一夏「ああ……、そんな頃もあったな…………そうか、まだ2ヶ月しか経ってないんだな」

鈴「そうなんだ。2ヶ月でこんなにも…………」

一夏「そういう鈴だって、たった1年で代表候補生にまでなったじゃないか!」

一夏「むしろ、そっちのほうが凄いと思うぞ、俺!」

鈴「ああ……、そうね。そうだったわね」

鈴「ところで、秘密の特訓の成果を試してみたいんでしょう?」

鈴「久々に私と戦ってみない?」

一夏「そうか。それじゃよろしく頼む(本当は、トーナメントで戦うかもしれない相手とは模擬戦はしたくはなかったんだけどな)」



157: 2014/03/12(水) 08:29:14.61 ID:nYyIS+0E0

一夏「よし! それじゃ、準備はいいか?(さて、5月に入って世界最強のコーチ陣に本格的に鍛えてもらってどこまでやれるか…………)」

鈴「いつでも来なさいよ! 返り討ちにしてあげるんだから!(トーナメント優勝で一夏とハワイ旅行なんだから、たとえ一夏が相手になっても――――――!)」


3、2、1、スタート!

一夏「でやあああああああああああ!」
鈴「はああああああああああ!」


ガキーン!


一夏「っ!(やっぱり格闘戦は重量だな。最初の頃と比べれば受け止めることができるようになったけど、やっぱり青龍刀と太刀とでは確実に打ち負ける……!)」

鈴「くっ!(ちょっとぉ! いったい何したら少し見ない間にここまで打ち合えるようになるのよ……! 油断してたら逆にこっちが押されたじゃない!)」

一夏「せいっ!(でも、ISでの戦いにおいて重要なのは、いかに効率よくシールドエネルギーを奪うかだ!)」

一夏「でやっ!(単一仕様能力無しでどれだけ効率よく接近戦を制してダメージを与えられるかが、千冬姉の『暮桜』と同じくする『白式』の戦いの肝だ!)」

鈴「はあっ!(一方的に打ち負かして畳み掛けることができなくなったから、徐々に取り回しに悪い青龍刀が圧されてきている……!)」

鈴「てやっ!(けど、青龍刀の使い方もその弱点もよくわかっているつもりよ。相手が油断したところを一気に力を入れて体勢を崩しさえすれば…………!)」


ガキーン!


ラウラ「中国の『甲龍』に、…………織斑一夏の『白式』か」

ラウラ「どちらも接近戦しか能がない時代遅れの機体だな。これで第3世代型とはな」

ラウラ「さて、どれほどの訓練をしてきたのかを見せてもらおうじゃないか。そして、化けの皮が剥いでやる」

ラウラ「これより排除を開始する!」ガコン


バーン!


両者「!」ビクッ

ラウラ「フッ」ニヤリ

鈴「ドイツ第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』!」

一夏「何のつもりだ、ラウラ! 模擬戦の最中だぞ! 話があるなら、所定の手続きで模擬戦を中断させろ! 競技規定違反だ」

鈴「そうよ、どういうつもり? いきなりぶっ放すだなんていい度胸してるじゃない!」

ラウラ「さあ、織斑一夏! 私と戦え」

ラウラ「お前が専用機持ちになってこの1ヶ月足らずでどの程度のものになったか、私が直々に見てやるとしよう。ありがたく思え」

ラウラ「私を倒すのだろう?」フッ

一夏「…………!(これはまたとないチャンスでもあるけれども…………)」チラッ


158: 2014/03/12(水) 08:30:09.70 ID:lu3tS7gx0

鈴「何? やるの? わざわざドイツからやってきてボコられたいなんて、大したマゾっぷりね」
         ・・・・・・・・・・・・
一夏「よせ、鈴! これは俺とラウラの問題だ……(それに、『AIC』対策をしていないだろうお前の機体じゃ絶対に勝てない……!)」アセタラー
    ・・・・・・・・・・・・
ラウラ「中国の『甲龍』に用はない。お前はもう帰っていいぞ」

鈴「っ」ピクッ
      ・・・・・・・・・・
鈴「なによ、私だけ除け者みたいに…………」ボソッ

一夏「え……(今、何て――――――?)」

ラウラ「どうした? 数ぐらいしか能がない国の住人なら、頭数を揃えてから出直して来い。私も弱い者いじめをする趣味はないから一向に構わないぞ?」

鈴「…………っ!」プルプル

一夏「やめろ、ラウラ! それ以上は国際人としてのドイツ人の品格が疑われるぞ!(抑えろ! ここで俺が抑えなかったらきっと俺は――――――)」プルプル

ラウラ「事実を言ったまでだがな」

鈴「この人、スクラップがお望みみたいよ!」

ラウラ「ふん。二人がかりで掛かってきたらどうだ?」

ラウラ「もっとも、力がなかったが故にあの人の顔に泥を塗り、奪った栄光を我が物にしようとする恥知らずに負けるつもりはないがな」

一夏「…………くぅ」

鈴「……一夏!?」

鈴「あんたねぇ! あんたが何のことで一夏に根に持っているのかは知らないけれど、今確かに言っちゃいけないことを言ったわよね!?」ゴゴゴゴゴ

鈴「それって、『どうぞ好きなだけ殴ってください』って言ってるってことでいいのよね!?」

ラウラ「とっとと来い。タイマンだろうがハンデマッチだろうが好きにするがいい」クイクイ

鈴「上等――――――きゃっ!?」ガシッ

一夏「…………」

ラウラ「…………貴様?」


159: 2014/03/12(水) 08:31:23.58 ID:nYyIS+0E0

鈴「何すんのよ、一夏! 一緒にあいつをボコボコにして吊るし上げるのよ!」

一夏「ダメだ、鈴。俺はいつだってフェアな勝負しか認められないんだ」

一夏「やるんだったら、模擬戦形式で1対1でレギュレーションに沿ってやってもらいたい……」

鈴「何言ってんのよ! 悔しくないの、あんなこと言われてさ」

ラウラ「ほう? 貴様、また逃げる気か? あの時はISエンジニアを盾にしたな」

一夏「…………何と言われようと、IS学園の生徒として規則には従ってもらうぞ」

                            ・・・・・・
一夏「頼む! これは俺だけじゃなくて、1年を監督している千冬姉のためでもあるんだ……」


両者「!」

鈴「し、しかたがないわね。中国代表候補生としての礼儀はしっかりとしておかないとね……」アセアセ

ラウラ「…………いいだろう。貴様と違って私は織斑教官の面子に泥を塗る面汚しではないからな」

一夏「わかってくれたか(さすがは千冬姉だな。凄い効き目だ)」

鈴「いいわ! 少し痛めつけるレベルを下げてあげる!」

ラウラ「フッ、ドイツ軍最強の私がこんな第3世代型もどきに遅れを取るわけがない」

一夏「模擬戦だからな……!」

鈴「わかってるわよ! あんたはそこで見てなさい!」

ラウラ「すぐに終わらせてやるから貴様は心の準備をしているといい」

一夏「そうか。それじゃ、カウントを始めてくれ」


3、2、1、スタート!


一夏「これでよかったのか…………?(鈴に勝ち目のない戦いを挑ませてしまったのに、これで妥協してよかったのか?)」

一夏「だが、俺には言葉が見つからなかった……(二人共、話を聞いてくれそうもなかった。落とし所が見つかってよかったとしか…………)」

一夏「難しいんだな、交渉ってやつは……(俺、思い上がっていたかもしれない)」

一夏「何も起きるなよ?(…………“プッチン”さんや“プロフェッサー”はいつもこんな感じに悩みながら言葉を紡いでいたのかな)」


160: 2014/03/12(水) 08:32:31.23 ID:lu3tS7gx0

――――――

鈴「喰らえええええ!」

ラウラ「無駄だ! この『シュヴァルツェア・レーゲン』の『停止結界』の前ではな!」

鈴「なっ!?」

――――――

一夏「やはりダメか……(しかし、間近で仮想敵の動きを見ることができるとは棚から牡丹餅というか何というか…………)」

一夏「さすがに、観客も集まってきたな……(頼むから穏やかに終わってくれ…………!)」

――――――

鈴「くぅ、ここまで相性が悪いなんて……!」

ラウラ「どうした? 先程までの勢いはどこへいった?」 ワイヤーブレード射出!

鈴「きゃっ!」ヒュルヒュル!

ラウラ「この程度の仕上がりで第3世代兵器とは笑わせる」

ラウラ「ふんっ!」

鈴「きゃああああああああああ!」

ドッゴーン!

鈴「くぅううう…………」

――――――

一夏「…………ここまでだ(本当に完封じゃないか! よく俺、こんなのと戦おうなんて思ったもんだ!)」

一夏「だけど――――――(『やれる』と思っている自分がいることに変わりない……」

一夏「――――――って、おい! 何をする気だ、ラウラ!?」

――――――

161: 2014/03/12(水) 08:33:23.24 ID:nYyIS+0E0

鈴「うぅ…………(首がし、絞まる…………)」

ラウラ「ふんっ! 『少し痛めつけるレベルを下げて』このザマか」ボカスカ

鈴「きゃあ……(シールドエネルギーが…………)」ピィピィピィ・・・

一夏「やめろ! これは模擬戦だろう! 勝負はついているぞ!(まずい! 人体への直接攻撃は絶対防御を発動させてシールドエネルギーが急速に減っていく!)」

一夏「(そうなれば、機体表面のシールドバリアーが実質的に無効化されて、ISの剛体化が失われる! このまま殴打を浴びせられたら機体が――――――!)」

ラウラ「フッ」ニヤリ

一夏「こ、このやろう…………(人の善意を何だと思っていやがる…………!)」ゴゴゴゴゴ

一夏「その手を放せええええええ!(こんな卑劣漢に温情を与える必要などもうない!)」

ラウラ「来たか! ようやくその気になったな?」

一夏「ううおおおおおおおおお!(――――――『零落白夜』発動!)」

ラウラ「やはりな。――――――感情的で直線的」

ラウラ「絵に描いたような愚か者だな――――――っ!?」

一夏「ここから出て行けええええええええええ!」

バリーン!

ラウラ「馬鹿な!? 『停止結界』が、破られた、だと…………?!(あの光の剣を水平に構えて突進してきたと思ったら――――――)」


一夏「…………消えろ、フーリガン!」ギラッ


ラウラ「!?」ゾクッ

一夏「予備パーツはいくつある?」

一夏「まあ、お前の都合なんてもう知らないけどな(スポーツを冒涜する者はこの場からいなくなれっ!)」

スパスパ、ズバッ!

ラウラ「馬鹿な…………!?(ワイヤーブレードはおろか、右肩ワイヤーブレード射出器とそれに接続されているレールカノンまでが斬られただと…………!?)」


162: 2014/03/12(水) 08:34:33.26 ID:nYyIS+0E0

一夏「どけ!」ドガッ!

ラウラ「な…………」ドサァ

鈴「い、一夏…………」

一夏「よかった。強制解除される前に何とかなったな(機体の損傷はあるだろうけど、まだ1週間ほどあるから修理は間に合うだろう)」

一夏「さ、早く修理に行こう。強制解除するほどの致命傷じゃなかったんだ」

一夏「大丈夫。一矢報いておいたから、今は養生してくれ」

鈴「で、でも…………」
        ・・・・・・
一夏「いいんだ。大切な幼馴染があろうことか世界で一番安全なスポーツで命を落としそうになったんだから」

一夏「ルールなんかよりもお前の命のほうが大切だ」

鈴「う、うん…………(大切な幼馴染、か…………)」フフッ

鈴「あ、――――――い、一夏!」

一夏「…………!(――――――背後に感! 残った武装からして、プラズマブレードか! 間に合うか――――――!?)」ピィピィピィ

ラウラ「よくも私の『シュヴァルツェア・レーゲン』に…………!」

一夏「くぅ(飛ぶか、振り向くか、――――――飛べえええええ!)」

ラウラ「遅い!」ブンッ

鈴「い、一夏ぁ!(って、――――――え!?)」

「――――――!」シュッ!
「――――――!」ブンッ


ガキーン!


千冬「――――――っ!」

ラウラ「――――――はっ、教官!?」

一夏「行っけええええええええ!」ヒュウウウウウウウン!
鈴「ちょっ、なんて加速――――――!」

千冬「やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

千冬「やれ」

使丁「はいよ」シュタ!

ラウラ「なっ、貴様、いつの間に――――――あっ!?」グラッ

千冬「言ったはずだぞ、ラウラ?」

                      ・・・・・・・・
千冬「――――――『こいつは教員ではないが、私と同程度の戦力だから敬意を持って接するように』とな」


使丁「ほらよっと!」 片手で首根っこを掴んで地面にたたきつける!

ラウラ「ぐわっ!?」ドッゴーン!

使丁「この程度の体罰で済んでよかったと思え」

使丁「模擬戦をするのは構わないが、競技規定違反やスポーツ精神に悖る態度はいただけんな」


163: 2014/03/12(水) 08:36:08.02 ID:nYyIS+0E0

千冬「…………まったく何をやっているんだ」

千冬「月末のトーナメントまで残り1週間のこの時期に、こんな乱闘騒ぎを起こすとは…………」

使丁「彼がその気になっていたら首から上が飛んでいたぞ? それぐらいされても文句を言えないぐらいの卑劣な行為に及んだんだ」

使丁「わかっているのか」

ラウラ「…………何故なんです、織斑教官」ウルウル

千冬「………………」

ラウラ「答えてください……」

使丁「しかたない。ガキだと思って諦めるか。“プロフェッサー”の言った通りだったな」

使丁「これは強制送――――――」


一夏「待ってください!」


ラウラ「!?」

千冬「………‥何だ、織斑」

一夏「この乱闘騒ぎは俺のせいでもあるんです。ラウラだけに責任は負わせないでください」

一夏「…………俺、ラウラのISの装備をことごとく破壊してしまったので、このままだと月末の大会に参加できなくなってしまいます」

一夏「俺は、その…………、」
  ・・・・・・
一夏「あ、――――――この乱闘騒ぎにおいてはISの装備を破壊したということで、一番に罪が重いはずです」

使丁「…………一夏くん(ボーデヴィッヒ少佐殿は倫理的にそれ以上の行為に及んで――――――ああ、そういうことか!)」

使丁「」コクコク

一夏「!」パァ

千冬「それがお前のけじめの付け方か」

一夏「……はい。規則は絶対です」

千冬「…………わかった」

使丁「それがきみの選択ならばな」


千冬「織斑一夏、お前は今日から部屋で謹慎していろ」


一夏「はい」

使丁「謹慎期間はそうだな…………」チラッ

千冬「」コクリ

使丁「月末になったら謹慎は解いていいよ」

一夏「わかりました……」

スタスタ・・・・・・

ラウラ「???」

使丁「それじゃ、ボーデヴィッヒ少佐殿は、……そうだな、今回の被害者である凰 鈴音に謝罪とISの使用許可を一時的に凍結する」

使丁「それでいいかな、織斑先生」

千冬「ああ。凍結期間は――――――」





164: 2014/03/12(水) 08:38:45.65 ID:nYyIS+0E0

――――――それからの1週間


鈴「仇をとってくれたのは嬉しいけれど、どうしてあんたまで罰を受けなくちゃいけなかったのよ」

簪「しかも、自分の方から進んで受けるだなんて…………」

セシリア「そうですわ! トーナメントの参加は許していただけたようですけれども、これでは身体が鈍ってしまいますわ」

一夏「気にするなよ。規則は規則だからさ」
                     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「俺はラウラと同じようにそれを破った。規則や規律が有名無実化する無法地帯よりはずっといいさ」

シャル「確かに、そうだけどもさ…………」

一夏「それに、実際のラウラと『シュヴァルツェア・レーゲン』を間近で見ることができた上に、『AICC作戦』もほとんど上手くいったから大丈夫さ」

シャル「本当に、正面からボーデヴィッヒさんと戦うこと以外考えていないんだね……」

一夏「ああ。俺は千冬姉のようにはなれないと思っているからさ(――――――そう、何もかもが違い過ぎるからな)」

鈴「そ、そんなこと、……無いと思うわよ、多分(だって、現に一矢報いてくれたし……)」ドキドキ


千冬『1つのことを極めるほうが、お前には向いているのさ』

千冬『なにせ、“私の弟”だ』フフッ


使丁『俺は、一夏くんが“織斑一夏”として自分を見つめ直し、自分で感じ取った最良の鍛錬をしたほうがいいと思っている』

使丁『もちろん、千冬の戦い方を基本にして上達するのはかまわないけど、スポーツの世界も刻一刻と進化していることを忘れないでくれ』


副所長『お前は“織斑千冬”とは違うんだ。そして状況もその時とは全く異なるのだから、真似して勝てるほど甘くはないぞ』

副所長『だが、お前からは千冬とは違った才能を感じている。それを引き出して、千冬以上のIS乗りになってみせろ』


外交官『はっきり言って、俺が“織斑一夏”に求めていることは唯一つだ』

外交官『お前の世界の真実はお前だけのものだ。考えて、考えて、考え抜け!』


一夏「だから、俺は1つのことをひたすら追求していくことに決めたんだ」

簪「1つのことをひたすら…………」

一夏「そう。俺の『白式』は拡張領域がゼロの時代遅れの欠陥機だからさ、近づいて斬りつけることしかできない」

一夏「それに、今になって射撃武器の使い方なんて学んだところで付け焼き刃だろうからさ、」

一夏「そういうのは全部諦めて、剣1つでどうすれば勝てるのかを必氏に考えたんだ」

シャル「その究極が『AICC作戦』なんだね」

簪「1対1最強の機体と格付けされている『シュヴァルツェア・レーゲン』を真っ向から打ち倒す…………」

一夏「そういうこと」

一夏「最初から無理と決めつけて逃げるのはどうかと思ってな」

一夏「機体の相性を乗り手の機転と努力と勢いで突破できればどんな困難にも立ち向かえるようになれるって、千冬姉は言っていた」

一夏「俺はそのことを信じて、やってみるだけだ」

一夏「幸い、『白式』の運用法が“ブリュンヒルデ”の『暮桜』と全く同じだから、何とかなるって」ニッコリ

一同「ホッ」


165: 2014/03/12(水) 08:39:30.64 ID:lu3tS7gx0

一夏「けど、思ったよりもまいったな……」

一夏「トイレの利用以外は外に出ちゃいけないからさ」

一夏「腹が減ったな…………意外ときつい」グゥウウウ・・・

一同「!」

一夏「食堂も利用できないからな…………ここはおとなしく寝て体力を温存させておくしかないか」

ガヤガヤーーーーーーーーーーーーーーー
鈴「だったら、私が差し入れに来てあげる!」ワクワク
セシリア「一夏さん! 私の料理を召し上がってくださりませんこと」キラキラ
簪「い、一緒に、食べよう……!」モジモジ
シャル「ぼ、僕なんかのでよければ、作ってあげるよ!」ドキドキ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーワーワー


一同「ム!?」


一夏「ごめん。一度に言われたから、全然聞き取れなかった……」

一夏「というか、いつの間に随分仲良くなったんだな、みんな」ニコッ

一夏「何というか、――――――見違えたよ」


鈴「そ、そうかな…………」テレテレ

セシリア「ま、まあまあ…………」キラキラ

簪「そんなに変われた、かな……?」モジモジ

シャル「きっとそうなったのも、一夏のおかげ、なんだからね!」ドキドキ


一夏「あ、ああ…………」

一夏「まあ、とにかく、シャルルにはより一層迷惑を掛けるだろうから、よろしくな?」

シャル「う、うん! ま、まかせてよ、一夏」ニッコリ

セシリア「私がいることもお忘れなく!」

鈴「そうそう! なんてったって幼馴染である私がいるんだからね」

簪「また、おにぎりと漬物、持ってくるね」

一夏「ありがとう、ありがとう…………!」


それから織斑一夏の部屋に差し入れが恐ろしいほど届けられたのは言うまでもない。




166: 2014/03/12(水) 08:40:19.95 ID:lu3tS7gx0

――――――織斑一夏の部屋の前に積まれている差し入れの山


ラウラ「…………」ジー

ラウラ「…………」スッ

ラウラ「…………ふ、ふんっ!」スタスタ・・・


使丁「…………」コツコツコツ

使丁「…………」スッ

使丁「…………」スタスタ・・・


千冬「…………」キョロキョロ

千冬「…………」ゴホン

千冬「…………」スッ

千冬「…………」スタスタ・・・

使丁「プククク・・・」プルプル
山田「…………」アセタラー

千冬「!?」カア

使丁「!!」ビクッ
山田「!!」ビクッ


千冬「――――――!」ダッ

使丁「――――――!」ダダッ
山田「――――――!」スッテンコロリン!

ガチャ

一夏「???」



167: 2014/03/12(水) 08:41:25.54 ID:lu3tS7gx0

――――――学年別トーナメント当日


一夏「へえ。しかし、凄いなこりゃ」

シャル「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認に、それぞれ人が来ているからね」

使丁「そして、1年には2ヶ月でどの程度かを見て、その将来性を占う場となるわけだ」

使丁「まあもちろん、専用機持ちが優勝となることが普通だ。むしろ、そうならないと代表候補生の立場がない」

一夏「ふうん。ご苦労なことだ」

シャル「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいだね」

一夏「まあな。宣言した手前、何としてでも勝つぞ」

一夏「――――――『AICC作戦』始動だ!」

使丁「うん。気合十分だな。適度の緊張感と冷静さを保っている。最高の状態だな」

一夏「はい。最強のISに対して、IS乗りに成り立ての俺が下克上してやるぜ!」

使丁「よしよし」

使丁「さて、そろそろお待ちかねの抽選結果の発表だ!」

使丁「まず、――――――『誰と戦う』のかではなく、――――――『誰と組む』のかが見所となっているぞ、今回は!」

シャル「そうですね。みんな、僕や一夏と組もうとしてペアを作ろうとしなかったからね」

パッ

シャル「へ!?」

一夏「うえっ!?」

使丁「これは、予想外すぎるぅ…………!」


1年Aブロック
参加枠:14ペア(シード枠:第1ペア、第14ペア)

――――――第1ブロック

第1ペア(シード枠):織斑一夏&ラウラ・ボーデヴィッヒ


――――――――――――

――――――第2ブロック

第9ペア:凰 鈴音&更識 簪

第13ペア:セシリア・オルコット&シャルル・デュノア



使丁「これ、ちゃんと抽選された結果なんだろうか? 専用機持ちが全てペアを作るとか…………Aブロックが実質的な決勝トーナメントじゃないか」

シャル「えと、これはなかなか…………」

一夏「 そ ん な 馬 鹿 な !? 」ガビーン!

使丁「ああ…………」

一夏「なんでよりによって一番組んじゃいけない相手と組むことになってるんだよ!?」
   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一夏「勝ち上がる手間をどれだけ掛けても絶対に戦うことができないじゃないか!」


一夏「最悪の組み合わせだ…………」orz


シャル「一夏……」

使丁「…………」


168: 2014/03/12(水) 08:41:54.26 ID:nYyIS+0E0

――――――第1回戦終了後


山田「意外な組み合わせとなってしまいましたね」

千冬「ああ。よりによって、専用機持ち同士でペアを組んだか」

千冬「そして、織斑とラウラの二人が――――――、な」

山田「他の専用機持ちの子も非常に優秀なんですけど、織斑くんとボーデヴィッヒさんのペアが優勝候補の筆頭ではないでしょうか?」

山田「二人共、注目の的ですから」

千冬「…………果たして素直に大会に興じてくれるのだろうか」





169: 2014/03/12(水) 08:43:38.40 ID:nYyIS+0E0

――――――第2回戦、第1試合


一夏「…………確認するぞ、ラウラ」

ラウラ「…………何だ?」

一夏「相手は専用機持ち以外は全て『打鉄』だ」

一夏「そして見たところ相手は、小競り合いを制して勝つぐらいがやっとってところだ」

一夏「特に苦戦することもなく勝てるだろうな」

ラウラ「当然だな」

一夏「そこでだ」

ラウラ「?」

一夏「第2回戦が終われば、午前の部は終わり、そこから昼食の時間となる」

一夏「だが、俺たちの場合は最初に試合を行うから、時間が大いに余る」

ラウラ「!」


一夏「…………第6アリーナで待つ」


一夏「そういうことでいいな?」


170: 2014/03/12(水) 08:44:25.24 ID:lu3tS7gx0

ラウラ「フッ」

ラウラ「まさか貴様の方から掟破りをするとはな」

ラウラ「そこまで私との決着に拘る――――――その心意気に、少しは見直してやろう」

ラウラ「だが、それで私が貴様を再起不能にしたらどうするつもりだ?」

一夏「どちらかが再起不能になれば、相方が試合放棄のソロのハンデマッチに移行する」

一夏「まあ、お前の実力ならソロでも勝っていけるだろうけどさ」

一夏「俺だってこんなやり方はしたくはなかったが、お前とやりあうために養ってきた英気を無駄にしたくない」

ラウラ「どこまでも感情的なのだな」

一夏「お前こそな。はるばるドイツからやってきて未練がましく“織斑教官”に縋る――――――」

ラウラ「!」イラッ


両者「………………」ゴゴゴゴゴ


一夏「それじゃ、出撃の準備だ。抜かるなよ?」

ラウラ「貴様こそ!」


タッタッタッタッタ・・・


使丁「………………」

使丁「やれやれ、確かにこれは『ガキの相手は疲れるな』」

使丁「ここは少しばかり成就させてから止めさせるか」

使丁「さて、『打鉄』用の予備の太刀でも準備しておくか(まあ、シールドバリアーに守られてないから使ったらぶっ壊れるだろうけど…………)」


「あれ、もしかしてお前は…………」


使丁「ん?」

使丁「ああ! そういうお前は――――――」



171: 2014/03/12(水) 08:45:50.67 ID:nYyIS+0E0

――――――1年Aブロック第2回戦 1戦目


一夏「はああああああああああああ!」ブン

対戦相手1「きゃあああああ!」

ラウラ「終わりだ!」バーン!

対戦相手2「うわああああああ!」



アナウンス「試合終了! 勝者――――――」



山田「予想通りの展開でしたね」

千冬「…………そうだな」

山田「織斑先生?」

千冬「いや、あいつらが素直に試合をしてくれていれば、私から言うことはない」

山田「こうなると、第3回戦で当たることになる第2ブロックの専用機ペアのどちらかが勝つかが気になりますね」

千冬「そのどちらか勝ったペアが第4回戦:Aブロック決勝でこの2人と戦うことになるわけだが…………」

山田「織斑先生としては、楯無さんとデュノアくんのペアと、オルコットさん・凰さんのペアのどちらが勝つと思います?」

千冬「随分と性格の違いがはっきりしている組み合わせだな」

千冬「前者は全距離万能のタッグで、後者は得意レンジが正反対の役割がはっきりしているタッグだな」

千冬「そして、搭乗者の性格から見ても、前者が慎重なのに対して、後者は攻撃的な立ち回りだ」

千冬「言うなれば、盾と矛の対決だな」

山田「なるほど……」

千冬「基本的にどのドライバーも実力差はほとんどないと言っていいな」

千冬「誰が味方で敵になるかわからない状況に陥ったせいで、タッグマッチの訓練をまじめにできた生徒は少ないだろう」

千冬「そういう意味で全員が、タッグマッチという対戦環境では初心者だ」

山田「そうなると、勝敗を分けるのは――――――」

千冬「そうだな。勝つとしたら――――――」






172: 2014/03/12(水) 08:46:39.77 ID:lu3tS7gx0

――――――しばらくして、第6アリーナ


一夏「よし。“プロフェッサー”がくれたデータ通りだ」

一夏「これで管制室の制御はいただいた。遮断シールド展開っと」ピッ

ラウラ「…………まさかここまでやるとはな、あの男」


副所長『これで撃てないだろう?』

副所長『うん。やっぱり外してくれた』ニヤリ

副所長『軍人ならはっきり言えよ!! そんな曖昧な受け答えしかできねえのか!!』


ラウラ「………………」

一夏「このアリーナは高速戦闘専用で学園のシンボルの中央タワーのすぐ隣だが、」

一夏「邪魔が入らずに戦える空間が十分にあれば何だっていいだろう?」

ラウラ「ふん。なら、あの中央タワーが貴様の墓標だ」

一夏「それじゃ、5分後に開戦だ。いいな?」

ラウラ「ああ。この手で貴様を――――――」

一夏「こっちこそ、邪魔の入らないこの場所でスポーツマンシップに則ってその性根を叩き直してやる!」

両者「フン!」プイッ



一夏「来い、『白式』!」

ラウラ「排除を開始するぞ、『シュヴァルツェア・レーゲン』!」




173: 2014/03/12(水) 08:48:07.22 ID:lu3tS7gx0

一夏「さて、状況を確認するぞ?」

一夏「第3回戦開始まで2時間以上は余裕がある」

一夏「時間を気にすることなく、心置きなく戦えるというわけだ」

ラウラ「ふん。10分だけあれば十分だったのだがな」

一夏「同感だ。俺たちの戦いはすぐに決着がつくはずだ」

一夏「お前の機体に1対1最強の『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー』があるように、」

一夏「こちらには『アクティブ・イナーシャル・キャンセラー・キャンセラー』がある!」

ラウラ「…………!」

一夏「こいつの斬れ味は身を以って理解しているだろう?」


一夏が見せつけるように剣を振り抜くと、ラウラの表情に緊張が走った。無理もないことである。

なぜなら、『白式』の情報に関しては一切公開されておらず、国際IS委員会に提出されていた開発当初のデータしか資料となるものがなかったのだ。

しかもファーストシフトした結果、セカンドシフトしてから発生するのが普通とされる単一仕様能力に目覚め、
『AIC』を斬り裂くような超絶威力のエネルギーブレードが展開されるようになっていたのだから、警戒せざるを得ない。

また、ドライバーとの「最適化」を重ねてセカンドシフトに成功しても、
ISとドライバーの相性が最高値になった時に発生するとされる単一仕様能力を獲得できた例が少ない昨今の事情を考えても、
『白式』という機体がただの接近格闘機だと思うわけにはいかなくなった。

更には、カタログデータ以上の性能を発揮しているのだ!

ラウラとしては、単一仕様能力以外のISが持つ特殊能力を活かしきる目的で造られた第3世代型ISなのに、
使える武器が剣1つという第1世代レベルの出来損ないと見ていただけに、その異様さは得体の知れない不気味さを醸し出していた。


――――――ISドライバー歴わずか3ヶ月未満でここまで機体を使いこなしている“あの人の弟”が動かしているということもあって。


一夏「さて、おしゃべりが過ぎたな」

一夏「競技規定に則り、正々堂々と戦おう」

ラウラ「さあ来い!」


3、2、1、パーン!


両者「 叩 き の め す ! 」




174: 2014/03/12(水) 08:49:42.50 ID:lu3tS7gx0

一夏「うおおおおおおおおおおおお!(――――――単一仕様能力『零落白夜』発動!)」ヒュウウウウウウウン!

ラウラ「ふんっ!(やはり来たか! 『AIC』――――――)」

一夏「対策はできてるんだよ! 喰らえっ!」ブン!

ラウラ「なにっ!?(――――――剣を投げつけた、だと!?)」


試合が始まって早々、いきなりラウラは度肝を抜かされてしまった。

以前の経験から言って、『白式』の唯一の得物である雪片弐型から発している光の剣は間違いなくエネルギー兵器なので、『AIC』で止めるのはほぼ不可能。
       ・・・・・・・・・・          ・・・・・・・・・・・
それ故に、直接剣を『AIC』で止めるのではなく、剣を握る手を『AIC』で固定することによって、攻撃動作を停止させて攻撃を無効化することが考えられた。

しかし、試合開始早々、絶大な威力を誇る謎のエネルギーブレードで先制攻撃を仕掛けてくる――――――それ以外手段がないと決めつけていたラウラは、
『AIC』で直接止めるのが難しいエネルギーブレードを投げつけられて、一夏が狙った先制攻撃を許してしまうのである。

つまり、『AIC』によって『零落白夜』の強みが殺されるのなら、殺されないようにすればいい――――――それが織斑一夏の結論だったのである。




175: 2014/03/12(水) 08:51:09.81 ID:lu3tS7gx0

ラウラ「くっ」ガキーン!

一夏「やるじゃないか(瞬時に腕部プラズマブレードを展開して弾き飛ばしたか。あのまま『AIC』を使ってくれていれば一合で勝ってたんだがな……)」

ラウラ「……『いい攻撃だった』と、ここは褒めてやろう」アセタラー

ラウラ「だが、たった一つの得物を手放してどうなるのかは考えてなかったのか? やはり、所詮は浅知恵だったな」


ラウラはしばらく経験することがなかった冷や汗を掻くものの、すぐにいつもの冷酷な眼差しを一夏に向けた。

だが、一夏の表情は一切揺るがなかった。まるで、そうなるのも予定のうちと言わんばかりに――――――!


一夏「へえ」(槍投げのモーション)

ラウラ「…………?(剣も無いのに、さっきのように投げるモーション――――――?)」

一夏「だが、攻撃は止まない」

一夏「(瞬時に量子武装を回収して更に『零落白夜』をも継続させる「超高速切替」の猛追を受けてもらう!)」ブン!

ラウラ「なにっ!?」

一夏「ここからが始まりだあああああああ!」ブン!


ラウラは再び冷や汗を流すことになった。いや、流し続けることになる!

なぜなら、一度投げて失ったはずの雪片弐型の光の剣が再び『白式』の手に展開され、それが物凄い速さの投擲フォームで投げつけられてきたのだ。

それも一度や二度ではない。疲れ知らずのように、あるいはバッティングマシーンのようにひたすら光の剣をペースを崩すことなく延々と投げてくるのだ。

そして、とにかく距離と対象物と投擲物の大きさの関係で、ラウラは一人の手によって放たれる光のシャワーを受けきれずにジリジリと追い詰められていった。

咄嗟に後退しようとすれば、一夏の『白式』はその分だけ距離を詰めてくるし、隙あらば本命の斬撃を叩き込もうとする気配すら見せている。

とにかく、付かず離れずの絶妙な間合いを維持して光のシャワーを浴びせてくるのだ。

ラウラは、未だかつてこれほどの敵に会ったことがなく、どう対処すべきなのかを過酷な流れ作業の中で必氏に頭を働かせることになった。



176: 2014/03/12(水) 09:04:05.38 ID:nYyIS+0E0

一夏「どうだ! これが『AICC』だああああああ!(「高速切替」を超えた「超高速切替」の威力だああああああああ!)」ブン!

ラウラ「くそっ!」カンッ!

ラウラ「(格闘戦をする気がないのか、こいつは…………!?)」ヒュン!

ラウラ「(いや、こちらが隙を見せたら一気に間合いを詰めて斬りかかってくることは間違いない……!)」サッ

ラウラ「(唯一の得物の太刀をここまで――――――)」ヒュン!

ラウラ「(馬鹿な! この『シュヴァルツェア・レーゲン』が格闘機相手に防戦一方だと…………!?)」カンッ!


アリーナはすでに雪片弐型の単一仕様能力『零落白夜』の光の剣が地面に突き刺さってできた穴ぼこがいくつもできていた。

『白式』は常にラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』よりも高度をとって光の剣を投げつけており、投擲フォームをとりながらPICでスライド移動するのだ。

また、一夏は直接『零落白夜』の光の剣を『シュヴァルツェア・レーゲン』本体に中てるようなことはせずに、敢えて本体の上下左右に狙いを付けて投げていた。

これは機体周囲に発生するシールドバリアーを斬り裂いて十分にダメージを与えられる他に、相手の動きを制限する効果もあった。

そして何よりも、シールドバリアーやその他様々なエネルギーを無効化するこの攻撃を直撃させてしまったら、相手を氏に至らしめる可能性があったからであった。

この辺が織斑一夏の甘さでもあるのだが、競技規定に最大限則ったやり方を思いつけただけでも、いかに『AICC』にまじめに取り組んでいたかがわかることだろう。

事実、『AICC』は対『シュヴァルツェア・レーゲン』及びラウラ・ボーデヴィッヒ対策としては覿面の効果を発揮しており、
相手の動きを停止させる『AIC』を持つ『シュヴァルツェア・レーゲン』の動きを逆に停止させているかのように追い詰めたのである。


ちなみに、エネルギー兵器を全て無効化する『零落白夜』をプラズマブレードで防げるわけがない。

実際にはラウラは『零落白夜』の本質を知らないために、とりあえず直撃さえ回避すればいいと妥協し、
手刀で直撃を受けないように払いのけて、なるべく無駄のない動きをしているつもりなのだが、
『シュヴァルツェア・レーゲン』本体の腕部が知らぬ間にどんどん切り刻まれていった。


ISは通常兵器を寄せ付けない強度のシールドバリアーに守られていて、一撃必殺というものは常識的に考えてありえない。


だからこそ、ラウラは『AICC』の本当の恐怖を感じ取れず、対応が遅れたのだ。

これが『零落白夜』の脅威であり、いかに規格外でインチキで、
使う人間次第でIS界において神にも悪魔になれる能力か、おわかりいただけただろう。


177: 2014/03/12(水) 09:06:02.62 ID:lu3tS7gx0

一夏「動きが鈍いぞ、ラウラ!(フッ、無理もないぜ!)」ブン!

一夏「(『零落白夜』の光の剣を『AIC』で止めるには、柄の部分を中心に全体の慣性を光の部分に触れずにゼロにしなくてはならない)」

一夏「(あんまり物理とかは得意じゃないけど、――――――“プロフェッサー”曰く、)」

一夏「(『『AIC』は停止させたいものを包み込んで停止できるタオルのようなもので、『零落白夜』はそれをいとも容易く斬り裂く刃物――――――!』)」

一夏「(つまり、『零落白夜』の光の剣さえ振れれば、『AIC』は俺と『白式』の敵じゃなかったというわけだ!)」

一夏「(しかし、相手も馬鹿じゃないから、『零落白夜』に対して正面からタオルを広げて受け止めることは『AIC』では不可能なことにすぐに思い至る)」

一夏「(刃物に触れないように、今度は刃物を振り回す腕や身体のほうを包み込もうとするだろう。むしろ、得物より相手の身体そのものの動きを止めるのが普通)」

一夏「(だから近づいてしまっては、どうしても『AIC』のエネルギー力場に機体が捕まって、せっかくの武器の相性が吹っ飛んでしまう)」


一夏「(そこで編み出されたのが、――――――『零落白夜』の槍投げ戦法だった)」


一夏「(いや、――――――太刀投げ、か)」

――――――――――――

―――――――――

―――――

――


178: 2014/03/12(水) 09:06:32.88 ID:nYyIS+0E0

――――――“ブリュンヒルデ”との秘密の特訓その2


使丁「――――――!」

一夏「はあああああああああああ!」
千冬「はあああああああああああ!」


ガキーン!


一夏「…………」

千冬「…………」

一夏「…………」

千冬「…………フッ」

一夏「や、やった…………」

千冬「これでひとまずは十分だろう」

一夏「ありがとうございました!」

使丁「やったな!」

一夏「はい!」

千冬「…………やれやれだな」

使丁「これで接近戦は大丈夫だろう」

一夏「はい」

使丁「だが……、確かに『零落白夜』が通ればどんなISだろうと一撃で倒せるだろう――――――しかし、『AIC』が相手では心許ないな」

一夏「あ…………」

使丁「すまない。せっかく鍛錬を積んだのにこんなことを言って」

一夏「…………事実です」

一夏「接近戦しか能がないんじゃ、簡単に対策されちゃう…………」

一夏「けど、『白式』には拡張領域がないから、武器を増やすことすらできない…………」

使丁「困ったもんだな、それは」

一夏「けど、これで剣の間合いは掴めました! 俺の立ち回りさえ良くすれば、『AIC』ごと斬り裂いて勝利を掴み取れます」

使丁「まあ極論を言えば、懐まで潜り込んで『零落白夜』を叩き込めればそれでいいのだからな」

一夏「後は、それを少しでも容易にするためのとびっきりの『何か』があれば完璧なはず…………」

使丁「幸い、時間もまだあることだし、周囲を見渡してアイデアを探してみることだ」

一夏「はい」

一夏「それでは、稽古ありがとうございました!」

千冬「ああ」フフッ



179: 2014/03/12(水) 09:07:13.94 ID:lu3tS7gx0

――――――それから、数日後のある練習風景


一夏「ううん」

一夏「『AICC作戦』を確実なものにする戦法が思いつかないな」

簪「一夏」

一夏「あ、簪さん。簪さんも来たんだ」

簪「さっきはありがとう」

一夏「ああ。俺で良ければ、何だって言ってくれ。力になるからさ」ニコッ

簪「う、うん。ありがとう……」モジモジ

一夏「そういえば、簪さんって接近戦では向かうところ敵なしだよな。側面に展開される荷電粒子砲もあって」

一夏「副所長も言っていたけど、(機体だけの)相性としては『打鉄弐式』は『シュヴァルツェア・レーゲン』を上回るんだってな」

一夏「簪さんなら地力をつけていけば、あのラウラに勝つことだって容易だよな」

簪「…………そんなことはないと思うよ?」

一夏「どうして?」

簪「だって、『シュヴァルツェア・レーゲン』の『AIC』で砲口を向ける前に固定されたらどうしようもなくなるし」

一夏「ああ……、そっか」

一夏「『AIC』は第3世代兵器――――――イメージ・インターフェイスを利用して、イメージした物体の慣性を操作する能力がある」

一夏「その性質上、固体に対しては極めて有効だが、液体や気体あるいは群体に対しては効果は薄い」

一夏「(ただし、『AIC』は慣性を制御する力があるので、空間圧兵器などの純粋な質量を持たない兵器では力場によって無効化される)」

一夏「エネルギー兵器などは細かく見れば微小な粒子の集合体なので、これを『AIC』で止めるのならばその1つ1つをまとめて認識しないといけない」

一夏「だから、武器としての相性では荷電粒子砲を持つ『打鉄弐式』や『BT兵器』主体の『ブルー・ティアーズ』が有利なんだけどな…………」

一夏「う~む」

一夏「――――――って、違う違う! 俺はラウラに勝つことに専心しているんだ」

一夏「考えろ! ――――――剣1つしか許されていない『白式』でどう勝利の方程式に結びつけるのかを」

簪「…………ねえ」

一夏「あ……、ごめん。何だい?」

簪「久々に私と『打鉄弐式』とやってみない?」
                ・・・・・・・・・・・・・・・・・  
一夏「ああ、いいよ。手の内なんて最初からずっと居てくれていた簪さんにはバレバレだし、隠す必要はないよね」

簪「あ…………」

一夏「それで、どこまでやる?」

簪「えっと、格闘戦だけで。荷電粒子砲は使わないよ」

一夏「わかった」



180: 2014/03/12(水) 09:07:57.11 ID:nYyIS+0E0


カン! カン! ガキーン!


一夏「やっぱり、簪さんって凄いよな…………代表候補生だ」ハアハア

簪「そういうい、いち……織斑くんだって、凄く強くなっているよ……」ハアハア

一夏「行くぞおおおおおおおお!」ヒュウウウウウウウン!

簪「来てええええええ!」ヒュウウウウウウウン!


ガキーン!


簪「あ…………(――――――『夢現』が弾き飛ばされた)」

一夏「やった……!(初めて力で打ち勝った…………!)」

一夏「俺の勝ちだ――――――」

簪「まだだよ、一夏!」

一夏「え」

簪「えい!」グイッ

一夏「なにっ!?(弾き飛ばした薙刀を見えない何かで手繰り寄せたのか?!)」

一夏「あっ(見惚れてる場合じゃない!)」ガタッ

簪「隙ありいいいいいい!」ブン!

一夏「うわああああああああ!(上から! 両手で太刀を水平に――――――!)」スッ


ガキーン!


一夏「くぅううううううううう!」

簪「はああああああああああああ!」

両者「………………」

一夏「…………フゥ」

簪「ホッ」

一夏「あ」


――――――これだ! 唯一の得物を即座に回収することができれば!


一夏「見えたぞ! ――――――『AICC作戦』の真髄が!」

一夏「ありがとう、簪さん!」ギュッ

簪「へ、へ?!」カア

一夏「やってやるぜ!(どこまで仕上げられるかはわからないけれど、まだまだ時間はある!)」

一夏「(用務員さんにぜひ協力を仰ごう! 槍投げならぬ太刀投げの練習とそれを即座に回収して再展開する「高速切替」の練習もしておかないと!)」


――

―――――

―――――――――

――――――――――――


181: 2014/03/12(水) 09:08:47.36 ID:lu3tS7gx0

一夏「(それから俺は、“ゴールドマン”と一緒に今度は陸上競技場で基礎体力作りをする傍ら、いろんなモノの投げ方を学び、独自の太刀投げの型を模索した)」ブン!

一夏「(そして、療養中の“プロフェッサー”にデータを送ってプログラム化して安定して投げ続けられるモーションパターンを実装させた)」ブン!

一夏「(だから、少なくとも近距離の相手には確実に狙った場所に投げられるようになっている!)」ブン!

一夏「(後は、俺がしっかりと「超高速切替」をこなして、パターンを続けられるかだ)」ブン!

一夏「(こっちも『零落白夜』でエネルギーが減り続けているけど、俺の予想ではそれ以上に――――――)」ブン!


ラウラ「くぅううううう!(あのエネルギーブレードの回収と再投擲の間隔が徐々に速くなっているのか…………違う! 距離を詰められている!)」ガキーン!

ラウラ「(…………マズイ。防戦一方で、直撃こそないがあのエネルギーブレードが掠り続けるせいでエネルギーがどんどん削られていく!)」サッ

ラウラ「(そして、こちらも迎撃のためにプラズマブレードを展開しているから、エネルギーの消耗が激しい……!)」

ラウラ「(ワイヤーブレードを同時に使ってもいいだろうが、あの展開の速さなら簡単に対処されてしまうだろう…………!)」

ラウラ「(ひたすらエネルギーブレードを高速で投げ続けるバカの一つ覚えな戦法に、ヨーロッパ最強の『シュヴァルツェア・レーゲン』が負ける!?)」

ラウラ「(――――――打つ手なし、だと!? 認めない、認められるものか!)」


一夏「…………!」ブン!

一夏「(動きが鈍くなっている? 押しても引いてもままならない状況に心の中で徐々に負けを認めつつあるのか、ラウラ?)」ブン!

一夏「(そして、エネルギー消耗も後が無いぐらいまでいったってわけか)」ブン!

一夏「(なら、ここまで来れば最後の一押しで“ラウラ・ボーデヴィッヒ”は崩れる!)」ブン!

一夏「(――――――止めを刺してやる)」ブン!



182: 2014/03/12(水) 09:09:34.32 ID:nYyIS+0E0

一夏「…………行くぞ、ラウラ!(――――――投げつけた太刀よりも速く!)」ブン!

一夏「(これが千冬姉から受け継いだ伝家の宝刀!)」

一夏「イグニッションブーストだあああああああああああああ!」

ラウラ「くっ(いつまで続くのだ…………)」

ラウラ「あ……(いつの間に『白式』がこんなにも近く――――――)」

ラウラ「ああああああああああああああああ!?」

ラウラ「――――――って! 愚かな!(わざわざ自分から網にかかりにくるとは…………あっ)」


ラウラは一瞬で失念していた。

――――――『AIC』で抑えることができない光の剣の存在を! それと並行して『白式』が突撃してくるのだ!

『AIC』を使って『白式』の動きを封じれば第3世代兵器の性質上足を止めなくてはならず、投げられたあの光の剣が間違いなく刺さってしまう!

かと言って、『AIC』を使わずに回避に徹しようとすれば、とんでもない加速で視界いっぱいに突っ込んでくる『白式』を止められない!


183: 2014/03/12(水) 09:10:20.97 ID:lu3tS7gx0

ラウラ「あ、ああああああああ!(マズイ! あれの直撃を受けては――――――、だが、今目の前には『白式』が――――――)」

一夏「…………遅かったな(ブレーキを踏む気なんてハナっからない!)」ニヤリ

一夏「行っけええええええええええ!」ヒュウウウウウウウン!

ゴツーン!

ラウラ「ぐわあああああああああああああ!」
一夏「くうううううううううううう!」ヒュウウウウウウウン!

ドゴーン!

ラウラ「ぐわはっ……」パラパラ・・・

一夏「…………どうだ、究極の2択を迫られた気分は? どっちにしろ「超高速切替」でこの通りだけどな!」ジャキ

ラウラ「くっ」

一夏「はあ!」ブン!

ラウラ「くっそおおおおおおおおお!」


    ・・・・・・・・
副所長『普通じゃ勝てない』

副所長『――――――がね?』
    ・・・・・・・・・・・・
副所長『普通じゃないなら勝てるよ』



――――――これが“プロフェッサー”が示してくれた研鑽の成果だ!



184: 2014/03/12(水) 09:11:05.83 ID:nYyIS+0E0

使丁「凄い展開だな。どういった攻略法なのかは予想できていたけど、ここまでいけるとはな…………」

担当官「これが、“ブリュンヒルデの弟”でもあり、“千冬の弟”でもある“世界で唯一ISを扱える男性”の戦いか……」

担当官「見事だな。それしか言葉が見つからない」

使丁「一応言っておくけど、―――――― 一夏は俺が育てた」エッヘン

担当官「なるほど。だが、それだけじゃないように思えるな」

使丁「ああ。“プロフェッサー”も関わっているからな」

担当官「やっぱり。お前の影響より断然“プロフェッサー”の影響の方が強いな。お前と千冬の二人ではこんなやり方 思いつかん」

使丁「まあな。これまでの健闘ぶりは全て“プロフェッサー”が示してくれた作戦によるものだったし、それは否定しないよ」

使丁「ところで、なんでお前がここに来たんだ?」

使丁「というか、お前の職業って何? 確か国家公務員だったよな? 俺はここにはコネで入った口だけどさ」

担当官「実は、私が面倒を見ている子をこの学園に入れるために来た」

担当官「その次いでに、“世界で唯一ISを動かせる男性”織斑一夏を見にね」

使丁「…………?」

担当官「わからなくたっていい。理解することをお前には求めていない。そういう仕事に就いている」

使丁「そうなんだ。まあその場合は、“世界最強の用務員”である俺がしっかり守ってやるよ」

担当官「心強いな。その時は頼む」


パチパチパチ・・・・・・


両者「!」


185: 2014/03/12(水) 09:11:43.79 ID:lu3tS7gx0

政府高官「いやはや素晴らしい!」ニコニコ

使丁「えと、誰だ?」

担当官「…………政府のお偉方だ。またの名を“俗物”だ」ヒソヒソ

使丁「お前、…………相変わらずだな」ヒソヒソ

担当官「どうしたんです? こんなところまで来て」

政府高官「我が国が誇る専用機持ちの第2回戦はもう終わったからな」

担当官「…………『我が国が誇る』ねえ(今年の代表候補生の更識 簪の専用機の完成を後回しにするように指示していたくせに……!)」ボソッ

政府高官「それで、織斑一夏くんに是非とも挨拶をしておこうと思ってな」

使丁「ああ! どっかで見たことある顔だな」ヒソヒソ

担当官「図々しさと自己顕示欲の塊だからな。メディア露出は大物政治家ほどではないが多いはずだ」ヒソヒソ

政府高官「彼も初戦で快勝した後はどうせ暇だろう? この空き時間を利用して会っておくのが賢いと思ってな」

政府高官「その彼を探していたら、きみの姿を見かけてな? それでだ」

担当官「…………気持ち悪いって言ったらありゃしない」ヒソヒソ

使丁「……そうかい。苦労してるんだな」ヒソヒソ

政府高官「それじゃ、見事にドイツの最新鋭の第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』を打ち破った彼の健闘を讃えようではないか」



「うぅわあああああああああああああああああああああ!」



一同「!?」ビクッ

政府高官「な、何だ!? 何の光――――――!?」

使丁「ちぃ! 何事かは知らないが――――――」ダッ(打鉄用の太刀を手に取る)

政府高官「おわっ!? それってIS用の――――――」

担当官「貸してもらうぞ」ガシッ(同じように、打鉄用の太刀を軽々と持って駆けつける)」

政府高官「は…………え?」


186: 2014/03/12(水) 09:12:50.65 ID:nYyIS+0E0


ラウラ「うわああああああああああああああああああああ!」


一夏「ラウラ!?」

使丁「何が起きた、織斑一夏!」

一夏「あ、用務員さん! とどめを刺そうとしたら、こんな感じにスパークして――――――って誰です、隣の人?(太刀を軽々と持っているよ、この人も!)」

担当官「あ、私は――――――」

使丁「――――――“奇跡のクラス”の一人だ」

一夏「なるほど!」

使丁「こいつは“グッチ”って呼ばれていたからそう呼んでやれ」

担当官「…………まあいいだろう、“千冬の弟”(――――――いや、あの子にとってそれ以上の存在!)」ジー

一夏「?」

担当官「いったい何が起きているというのだ? たちまち機体がドライバーを呑み込んでメタモルフォーゼしていく…………」

使丁「シールドエネルギーの残量は?」

一夏「『零落白夜』の一撃を叩き込むので精一杯なぐらいしか残ってません」

使丁「まいったな。こんな非常事態になるんだったら、剣だけじゃなくてエネルギーパックを持ってくればよかった」

担当官「二人共! ――――――『シュヴァルツェア・レーゲン』が!」

使丁「メタモルフォーゼが終わったのか。しかし、この装備はいったい…………」

使丁「なんだ、あれは…………ISのようだが」

一夏「え…………あれって、まさか――――――」


――――――千冬姉なのか!?


使丁「なに!?」

担当官「それじゃこれは……、千冬のISといえば、――――――『暮桜』だ。それに擬態しているというのか」

使丁「確かに、見慣れた顔付きに身体つきだ。見間違えるはずがない」

一夏「くっそ、何だよこれ! ふざけるなよ! そんなに千冬姉に成りたかったっていうのか!」ワナワナ

使丁「…………だとしてもこれはいったい?」


187: 2014/03/12(水) 09:13:18.44 ID:lu3tS7gx0


結論:あのラウラってクソ生意気な小娘の機体に、この禁止されたシステムが搭載されている可能性が大!


一夏「あ、これがもしかして、――――――『VTシステム』ってやつなのか?」

使丁「…………VTシステム? 何だそれは? “プロフェッサー”が何か言ったのか?」

一夏「そんなことをラウラを調べていた“プロフェッサー”が言っていましたけど、詳しいことは何も…………(それで追放できるってことしか…………)」

担当官「――――――VTシステムだと!?」

使丁「知っているのか?」

担当官「その名の由来しかわからないが、確かアラスカ条約で禁止されている技術だ」


――――――ヴァルキリー・トレース・システム。


担当官「『モンド・グロッソ』部門優勝者“ヴァルキリー”をトレースするってことらしいのだが…………」

一夏「――――――『トレースする』って、何だよ!?」

担当官「わからない。私はIS技術者じゃないからな」

担当官「だが、『トレースする』ってことの意味を体現したようなものがそこにあるのではないか」

一夏「…………!」


ラウラ?「――――――」


使丁「この場合、千冬は総合部門の優勝者だから“ブリュンヒルデ”をトレースしているわけか」

使丁「まあ、あの子がトレースしたいドライバーと言えば、千冬しかいないだろうからな。当然と言えば当然か」

担当官「あまり目立たないけど、格闘部門も制覇しているから“ヴァルキリー”なのは間違いない」


188: 2014/03/12(水) 09:14:21.94 ID:lu3tS7gx0

一夏「それで、何だって言うんです、これが?」


ラウラ?「――――――」


使丁「見たところ、姿形は真似てもサイズは余剰分だけ拡大しているのか。そして、メタモルフォーゼした機体のカラーにも影響を受けているようだな」

担当官「だが、このままの状態にしておくわけにはいかないだろう」

担当官「呼びかけてみろ」

一夏「わかりました」

一夏「ラウラ! 聴こえているか! 返事をしろ!」

ラウラ?「――――――」

一夏「ダメだ」

使丁「それよりも、敵意がないように思えるが……」

担当官「こちらが何もしなければ相手も何もしてこない防衛システムが働いているのか?」

担当官「いや、VTシステムが“ヴァルキリー”を完全にトレースするというのなら、千冬の行動・思考パターンも再現されているということなのか?」

一夏「それが本当なら、千冬姉の戦いは“守るため”のものなのか」

使丁「そうだろうな。少なくとも、お前のことを何が何でも守り通そうとしていたからな」
                       ・・・・・・・・・・
使丁「暴れ回ることが趣味じゃなくてよかったな。少佐殿とは正反対だな――――――あ」

一夏「けど、これじゃ何も進まない。そもそもラウラはどうなっているんだ!?」

一夏「ISの中に取り込まれたようだけど、呼吸とか大丈夫なのか?」

使丁「!」

担当官「確かに! 呼吸できているのか、あれは? どこからどう見ても酸素供給ができているように思えないが…………」

使丁「そうだ! それ以上にマズイことがある!」

一夏「?」

使丁「ISは脳波コントロールするものだ。それを強制的に他者の思考パターンで動かすとなれば――――――」

一夏「!」

担当官「――――――自我が塗り潰される危険性があるのか!」

使丁「そして、“ヴァルキリー”としての思考しか残らないことになるから、人間としては完全に廃人となるのか…………酸欠も考えると」

一夏「なんだって! それじゃ、助けないと!」

使丁「待て! 早まるな!」ガシッ

一夏「…………!」

担当官「あれもISとしての機能があるのなら、シールドエネルギーを空にすれば解除されるはずだが…………」


――――――相手は“ブリュンヒルデ”だ。


一同「…………」アセタラー


189: 2014/03/12(水) 09:15:26.07 ID:lu3tS7gx0

一夏「けど、こうなったのも俺の責任だ。俺のせいなんだ…………俺が、やる!」

担当官「いや、ここは私が――――――」

使丁「なあ、一夏くん」

一夏「え……(なんだ、“ゴールドマン”がクールダウンしている?)」

使丁「一夏くんは『AICC』のために、千冬から“ブリュンヒルデ”の戦い方を学んだな」

使丁「そして、その仕上げに織斑千冬の居合術を物にした(まあ、手加減したレベルではあるんだけど)」

一夏「はい! だから、俺が――――――違う! 全然違う!(そうだ。わざわざ俺が出張る必要は全くない。だって、“ゴールドマン”がいるし……)」

一夏「(けど、これは――――――!)」


一夏「 俺 が や り た い か ら や る ん だ ! 」


使丁「気合充分じゃないか」

担当官「……そういうことか、“マス男”」フッ

使丁「わかった。やってみろ」

一夏「!」

使丁「お前が仕損じても、俺たち二人が何とかする」

使丁「だから、お前はお前としてお前の全力を出しきれ! 今がその時だ!」

担当官「見せてもらおうか、“千冬の弟”」


――――――世界への挑戦、その第一歩だ!


一夏「……わかりました(――――――『世界への挑戦、その第一歩』、か)」

一夏「…………」スゥーハァーー

一夏「では、行って参ります」キリッ


スタスタスタ・・・




190: 2014/03/12(水) 09:15:56.00 ID:nYyIS+0E0

使丁「…………落ち着いたようだな」

担当官「ああ。『人を救う』とか大層な理由なんて必要ない。気負うことはない」

担当官「ただ子供は大人に守られ、守られながらもその背中を見続けていればいい」

担当官「ただの子供が激情に駆られながらも『誰かを守る』ことを自らに義務付けて自らを縛り上げるのは傲慢なことじゃないか」

担当官「――――――大人の役目を奪うな」

担当官「そうは思わないか」

使丁「………………お前らしいな」

担当官「ところで、剣の心得はあるのか?」

使丁「無い。力任せに振り回すだけだ。槍投げは彼の訓練に付き合ってやってみたが」

使丁「それよりも、男子高校剣道優勝者としての栄光に陰りはないよな?」

担当官「その心配はない。私はずっと剣道を続けてきた。一人の娘の剣の行末を見届ける義務もあってな」

使丁「?」

担当官「さて、――――――あ、勝ったな」

使丁「なに?!」



一夏「はあっ!」ブン!


ズバン!


ラウラ?「!!!!…………    」


ラウラ「アア・・・・・・」

一夏「ラウラ!」ギュッ


191: 2014/03/12(水) 09:16:54.08 ID:nYyIS+0E0

担当官「見事な剣の間合いだ。素人なら空振りするか中身ごと切り捨てていたことだろう」

使丁「こうして見ると、確かに小学校の時は剣道は強かったというのは満更嘘でもないようだな」

担当官「――――――“千冬の弟”だぞ?」
   ・・・・・・・・・・・・・・
使丁「その一言だけで人を決めつけるのは良くないことだが、そう言われて納得している俺がいるのも事実だ」

使丁「(けど、もうそろそろ、“千冬の弟”として見るのは止めるべきだよな。――――――反省)」

担当官「さて、いいものが見られたことだし、彼女を急いで医務室に連れて行かないとな」

担当官「後始末は頼んだぞ、用務員さん?」ポン

使丁「あははは……、どうしようか、この始末…………」


一夏「用務員さん、えと“グッチ”さん!」(ラウラをおんぶしている)


一夏「ありがとうございました!」

使丁「よくやったな」キリッ

担当官「ああ。見せてもらったぞ、お前の剣を」

一夏「それじゃ、俺はラウラを医務室まで運んでいきます」

担当官「私も付き添おう(そういえば、あの俗物はどうした? 余計なことをしていなければいいのだが――――――)」

ラウラ「…………?」トローン

使丁「目を開けている必要はない。今はゆっくりおやすみなさい」ナデナデ

ラウラ「ウ、ウン・・・・・・」スヤー

使丁「さあ、行きなさい。ここは私が後片付けする(イヤだー! 人を呼びに行くのが凄く気不味い!)」


ヒュウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウン!


一同「!」


192: 2014/03/12(水) 09:17:41.46 ID:lu3tS7gx0

担当官「…………『ラファール・リヴァイヴ』」アセタラー

使丁「…………教師部隊か」

一夏「おい、何だって言うんだ!」

担当官「あの俗物っ!」ボソッ


政府高官「ラウラ・ボーデヴィッヒ! 貴様と貴様の祖国ドイツはアラスカ条約の精神を貶めた!」


政府高官「よって、IS学園を管轄する日本政府の義務として貴様の身柄を拘束する!」

一夏「ちょっと待ってくれ! いきなり出てきて、あなたは何なんだ!」

政府高官「おお、きみが織斑一夏くんか」

政府高官「ご苦労であった。ラウラ・ボーデヴィッヒはこちらで預かるから、さあ早くこちらに」

担当官「この下衆が! したり顔でしゃしゃり出るな!」ボソッ

一夏「どういうことなんだ? ラウラはどうなるんだ!?」

ラウラ「」

担当官「いいか、“千冬の弟”。あいつは『国のために』と言って忠勤者を気取っている政治屋だ。しかもろくな実績を残さずに天下りしたようなやつだ」ヒソヒソ

担当官「あいつは今回のVTシステムをネタに、『シュヴァルツェア・レーゲン』を接収しようって考えているようだ」ヒソヒソ

一夏「!」

担当官「そして、それによる功績でとある大物政治家からの覚えを良くしてもらおうってな。必氏なんだよ」ヒソヒソ

一夏「けど、日本政府にはIS学園で起きたことについて報告する義務が課せられているんでしょう?」

担当官「まあな。だが、忘れてはいないか?」

担当官「――――――IS学園特記事項」

・・・・・・・・・・
本学園における生徒は、その在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない


一夏「…………そうだった」
        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
担当官「だから、渡さなくていい権利がIS学園の生徒であるきみにはある。私やこいつにはない。――――――お前の意思次第だ」

一夏「!」ゴクリ



193: 2014/03/12(水) 09:18:42.47 ID:lu3tS7gx0


政府高官「どうした! さあ、早く!」


一夏「確認させてくれ!」

政府高官「何だね、確認したいこととは?」

一夏「これは学園長からの正式な許可があってのことなのか?」

政府高官「ぬぅ」

一夏「それが確認されないようなら、IS学園特記事項に従い、あなたの言うことには従わない。従う義務はない」ビシッ

政府高官「こ、このぉ…………」プルプル

使丁「そうだぜ。ここは特殊国立高等学校:IS学園だ」

使丁「日本政府の仕事はIS学園で起こったことを調査し、世界に対して報告・説明することだけであって、それ以上のことは他国同様に許されていない」

政府高官「き、貴様ら…………」プルプルプルプル・・・

担当官「そういうことだ。最終的な判断は学園に任せられている。私やあなたが決めることではない」

政府高官「くぅ…………!!」ムカムカムカムカ

担当官「今日の所はお引取りください。そうでないと――――――、」


担当官「 私 の 仕 事 が 滞 り ま す の で 」


政府高官「あ」パッ

政府高官「うむ。そうであったな」キリッ

政府高官「いやはや、何やら離れで怪しいことをしていないか心配になって、先生方をお呼びしたのだが、何事もなかったようで何よりだ」ニコニコ

政府高官「それでは、私はこれにて。昼食を摂ろうかね。わはははははは……」ニコニコ


スタスタスタ・・・


一同「………………」

一夏「ホッ」


194: 2014/03/12(水) 09:19:14.13 ID:nYyIS+0E0

一夏「助かりました……」

担当官「正しいことをしたまでだ。誇るほどのことではない」

担当官「それよりも、毅然としていて立派だったよ」ニコッ

一夏「ははは、ありがとうございます」

使丁「おーい! 先生方! ここは閉鎖するぞ! 手伝ってくれ!」

使丁「私は、学校長と織斑先生に事の一部始終を報告するからー!」



一夏「ラウラ」

ラウラ「」

一夏「俺は今回のように、本当にいろんな人に教え導かれ守られながら生きているよ」

一夏「俺もそうすることができるその一人になれるように、強くなろうと思っているんだ」

一夏「お前とのわだかまりを捨てたわけじゃない。きっちり謝らせようとは思っている」

一夏「けど、お前がさっきのような理不尽な目に遭うってわかった瞬間に、――――――『お前のことを守ろう』って思えたから」

一夏「『旅は道連れ』とも言うし、せっかく知り合えた仲なんだ。もっとこう、気持ちのいい関係になりたい」

一夏「なんたって、“千冬姉”っていう偉大な人を通じて知り合えたんだからさ」

一夏「それに、今この学園には千冬姉の偉大な同級生たちも顔を出していることだし、そういう人たちともふれあってみないか?」


一夏「ラウラはこれからどうしたい?」



――――――こんな“奇跡”の一時は他にはないのだから。





195: 2014/03/12(水) 09:20:07.53 ID:lu3tS7gx0

――――――その夜


チャプン

一夏「いい湯だな~」

使丁「ああ、いい湯だな」

一夏「そういえば、今日は帰らないんですか?」

使丁「報告書を出すのに時間掛かっちゃったからな。今日は宿直室を使わせてもらうよ」

使丁「それに、今日開いたばかりの大浴場の感動をかつてのルームメイトと分ち合おうと思ってな」

一夏「…………そうですね」ハハハ・・・

使丁「………………」

使丁「大丈夫だ。千冬は自分の教え子を絶対に見捨てたりはしない」

使丁「何かあったって、――――――『学園の1つや2つ守ってやる』なんて豪語しているんだ。何とかなるさ」

一夏「……それもそうですね」

使丁「それよりも、だ」

一夏「?」

使丁「“ラウラ・ボーデヴィッヒ”の問題は千冬が何とかしてくれるだろう」

使丁「けど、――――――“シャルル・デュノア”の今後についてはまだ“答え”は出てないんじゃないか?」

一夏「…………はい」

使丁「結果として、お前は二人を学園から追放する気はないんだろう?」

一夏「はい」

使丁「だが、いつまでも“男のまま”っていうのもどうかと思うぞ?」

使丁「バレるまでが長引けばそれだけ裏切られた感が大きくなるし、今は出ていないようだが誰かが本気で恋い慕う可能性だってある」

一夏「…………うん。シャルルは俺とは違って誰からも愛される性格だからな」

一夏「俺なんて、万年誰かに慕われたことなんてないからさ」ハハハ・・・

使丁「…………本気で言っているのか、それは」ボソッ

一夏「え」

使丁「いや、何でもない。シャルル・デュノアの身の振り方について少し考えてくれればな」

使丁「(教えたところで無意味だよな。なんてったって、…………言いたくはないが、――――――“千冬の弟”だもん)」

使丁「政治だとか経済だとか、そういった大人のゴタゴタは関係ない。そんなのは根回しや言い訳をつけようでどうとでもなる」

使丁「だが、『本人が将来どう生きたいのか』をはっきりさせないと、手助けする側としても気を揉む」

一夏「そうですね。言われてみれば、凄く深刻な問題だったんですね……」

使丁「まあ、今すぐに『道を示せ』とは言わない。まだ時間があるし、本人の意思次第だからな、こればかりは」ニコッ

一夏「はい」


196: 2014/03/12(水) 09:21:10.56 ID:lu3tS7gx0


一夏「けど、今日のことは本当に反省しています」


一夏「俺のせいで、1年のトーナメントは中止になっちゃったから」

一夏「もう私闘はやりません…………今後一切」ハア
――――――

一夏「(結果として、俺とラウラは初戦突破だけした後は棄権したので、会場は大いに混乱した)」

一夏「(それはまるで、第2回『モンド・グロッソ』――――――『あの日』の千冬姉の時を彷彿させた)」

一夏「(そして、俺に何事があったのか心配になった会場のみんなが一斉に俺の捜索に動き出してパニックとなり、棄権者・怪我人が続出――――――!)」

一夏「(こうして今年の1年のトーナメントはめちゃくちゃになって終わってしまった…………)」

――――――
一夏「なんてことをしてしまったんだ…………(こうなったのも全部、俺がラウラとの対決に拘った結果なんだ…………)」

使丁「ああ、そうだったな(俺が後片付けしている間にそんなことになっていたとはな…………)」

使丁「すまないな。棄権を許してしまって…………(あ、――――――と言うことは、だ)」

使丁「(ぐわはっ! ハワイ旅行の旅券その他諸々が無駄になるってことじゃあないかあああああああああああああ!)」

使丁「(もったないねえええええええええ!)」

使丁「(こうなったら誰でもいいから来てくれえええええええ!)」

使丁「それじゃ、俺は先に上がるよ。また明日会おう」

一夏「はい。また明日」ニコッ


197: 2014/03/12(水) 09:22:00.60 ID:nYyIS+0E0

ガラララ・・・・・・

使丁「さて、これからどうしたものかなー」

使丁「む」


シャル「あ」バサッ・・・(全裸)


シャル「うぅうう…………」プルプルプルプル・・・

使丁「…………やれやれ」

使丁「どうした? 物珍しそうな顔をして」ニコッ

使丁「早く入ってきなよ。一夏くんに話があるんだろう?」

シャル「!」

使丁「大丈夫。ここはIS学園だ。きみの選択を全力で支持するよ」

使丁「それじゃまた明日」


――――――シャルロット・デュノア。


シャル「あ、はい! 用務員さんもまた明日!」

ガラララ・・・・・・

シャル「お、お邪魔します……」

一夏「な、のあ!?」バシャーン!


使丁「ふふふ、――――――これが若さか」ニヤニヤ














ピピピ・・・

「やあ、今日は彼にちゃんと会うことができたよ」

「そうだな、“千冬の弟”って感じがありありと伝わった」

「まあ子供っぽいところはあるが、それは当然だ。そこまで言う必要はないだろう?」フフッ

「けど、いいコーチに巡り会えたおかげで、実力はかなりのものだ。『シュヴァルツェア・レーゲン』を一応、正々堂々と剣1つで倒したからな」

「それじゃ、編入の手続きはできたから、今度こそ“ありのままの自分”として学園生活を楽しんできてくれ」


――――――篠ノ之 箒。



198: 2014/03/12(水) 09:22:55.37 ID:nYyIS+0E0

――――――翌日


セシリア「……一夏さん」

鈴「昨日は本当に何をやったのよ?」


鈴「また謹慎だなんて」


一夏「いや、これは俺なりのケジメの付け方なんだ」

一夏「昨日は考えなしに棄権なんてしたから、結果として大会が中止になっただろう?」

簪「そ、それは確かにそうだけど…………」

一夏「今まで俺はスポーツマンを気取ってたけど、実際はラウラを倒すことしか頭になくて、…………何も見えていなかった」

一夏「…………この2ヶ月で自分の立場と軽率さというものがようやく理解できたよ」ハア

一夏「“ブリュンヒルデ”や“ゴールドマン”に比べたらちっぽけかもしれないけれど、」

一夏「俺は『~である責任』だとか『~としての責任』ってやつを身を以って知ったんだ」

セシリア「一夏さん……」

一夏「だから、これから“世界で唯一ISを扱える男性”として、一人のアスリートとして、どう振舞っていくべきなのかをよく考えておこうと思って……」

一夏「同じようなことを、シャルルやラウラは考えていると思うよ」

簪「そうなんだ」

鈴「わかったわ(なんかどんどん逞しくなっているわね、一夏…………)」

鈴「けど、ラウラはまだ入院しているけれど、シャルルはどうしたのよ?」

一夏「ああ、シャルルか」


――――――“シャルル・デュノア”はもう帰ってこないと思うよ。


一同「!?」

セシリア「あの……、シャルルさんは国からのお呼び出しで少しの間だけ帰ったって話では…………」

簪「そ、そうだよ。何かあったの…………?」

鈴「そうよ。せっかく感じのいい子が来てくれたのに…………」

一夏「家庭の事情なんだ。これ以上は言えない」

一同「(…………家庭の事情)」

鈴「そう、そうなんだ。それなら、しかたないわよね(あれからもう1年以上になるけれど…………)」

セシリア「はい。そうですわね……(どうして私の両親はあの日の時ばかりは一緒にだったのか……)」

簪「そうだね(私もずっとお姉ちゃんのことが…………)」


199: 2014/03/12(水) 09:24:17.26 ID:nYyIS+0E0

一夏「なあ、鈴」

鈴「あ、何?」

一夏「今度、みんなでピクニックとか行ってみないか?」

鈴「どうしたのよ、急に……(そりゃ一夏から誘われたら嬉しいけど…………どうしてそこで私を呼んだのかしら?)」

一夏「『あんなことになるなんて思わなかった』ってことが立て続けに起こってさ…………」


織斑一夏は振り返る。――――――“氏”とは無縁だった、世界で一番安全なスポーツの世界で起こりかけた数々のことを。


最初は、クラス対抗戦での無人機襲撃事件であった。

ISごと吹き飛ばすようなレーザーがセシリアを襲い、次にピットに逃げ込むセシリアを見送った後に今度は自分自身が光の奔流に呑み込まれそうになり、

最後には、“ゴールドマン”が超人的な戦闘力で時間を稼いでくれたが、自由落下+メガトンプレスのダブルコンボで押し潰されてしまい、

あの時は本当に、世界で一番に尊敬している男性の氏というものを体験させられた。

“氏”や“別れ”については、漠然とだが少しばかり“ゴールドマン”との1ヶ月の同居生活の中で意識させられていたが、

『少なくとも今ではない』とばかり思い込んでいただけに、とてつもなく鈍感だった一夏でさえ空前絶後の悲劇的興奮に心が高鳴ってしまっていた。

『昨日までは居てくれた人が急にいなくなる』という恐怖に打ち震え、“ゴールドマン”が氏んでしまったという事実から目を逸らしたくてしかたがなかった。

実際は九氏に一生を得て今はピンピンしているが、それは超人的な肉体を持つ“ゴールドマン”だったから生存・全快したのであって、

常人ならば圧氏、あるいは良くて重度の後遺症を残すぐらい容易に理解させられる絶望の光景を見せられてしまったのだ。――――――ただの15歳の少年が。

あの時ほど心を抉られた体験は無かった。そして、『あの日』の罪悪感とは違ったものを幼気な少年の心に深く刻み込んだのである。


続いて、学年別トーナメントまでの恐怖体験は、だいたいラウラのせいなのだが、

これまで緻密な戦術戦略と適切な叱咤激励で支えてくれた“プロフェッサー”が、威嚇射撃とは言え、ラウラにレールカノンで撃たれたのだ。

その時、この世の正気というものを疑うほどに怒り狂った――――――いや、あまりにも非常識な出来事に怒りよりも驚きでいっぱいいっぱいになっていた。

また、ラウラのことを調べていたところ、研究所を爆破され、救助に駆けつけていなかったら間違いなく氏んでいたという事実に、後からまた大粒の汗を流した。

そして、――――――簪さんの涙、遺品になりかけた自分への贈り物。


だが、今回のざわめきはまだまだ収まる気配がなかった。

ルームメイトのシャルル・デュノアが産業スパイ、宿敵のラウラ・ボーデヴィッヒがアラスカ条約違反者として追放すべきというお声を頂いてしまったからだ。

しかも、そうすることが自分や祖国のためになると信頼できる人から太鼓判を押されてしまったのだから、余計に聞き流せなかった。

だが、ただの子供でしかない一夏、誰かに守られて教え導かれて日々成長している一夏、誰かといがみ合うよりは仲良くしていたいと願う一夏、

そんな当たり前のような少年に、この選択は社会の現実というものを痛感させるほどの難問となった。

幸いなことに、シャルルに対しては元々好意的であった上に、データを盗んだこともしかたのないことと捉えていたので、まだ健全な選択をできた。

しかし、ラウラに対しては今でも複雑な感情は拭えなかった。

力を信奉し、傍若無人に振舞い、ただ己の感情のままに他者を攻撃し、生身の人間に対してもレールカノンで威嚇射撃をしたような輩を、どうして許せるのか。

“織斑千冬の教え子”でもなかったら間違いなく情け容赦ない何かをしてしまったに違いない。その点では、同族嫌悪と自己嫌悪に陥っていた。

最終的に『AICC』によって、ラウラの中の最強伝説を打倒し、勝者と敗者の図式を改め、これからのラウラの改心を期待した矢先、

VTシステムの発動――――――そんなものを積んでまで“織斑千冬”になりきろうとしていた彼女の性根に我慢に我慢を重ねてできた堰が切れそうになった。



200: 2014/03/12(水) 09:25:12.67 ID:lu3tS7gx0


だが、幸いなことに織斑一夏には、優しく力強く支えてくれる頼れる大人たちが常に側にいてくれていた。


だからあの時も、純粋に自分の実力がどの程度まで通じるのかを試すまたとない機会として、あの勝負を手に汗握るものとして楽しんでしまえた。

そして、全力を出し切り、解放されたラウラのあどけない顔を見たら、なぜだか今まで抱え込んでいた負の感情が全て吹っ飛んでいた。

“ブリュンヒルデ”に勝ったという喜びもはしゃぎ回りたいほどに大きかったのだが、やっぱり頼れる大人たちの応援が全てだったと思っている。

だから、そんな頼れる大人たちに憧れ、自分もそうなることを背中で眠っている少女に囁きながら誓うのであった。

しかし、その雰囲気をぶち壊して現れた存在についても忘れることはできない。


この世は清濁併せ呑んで様々なものが同時に存在し、自分もまた清濁併せ呑み、時として清く、時として濁った存在になることをこの2ヶ月で強く感じたのである。








201: 2014/03/12(水) 09:26:37.45 ID:nYyIS+0E0

一夏「ようやく千冬姉が勧めていたことの意味が理解できるようになってきたんだ」


――――――過去に誰と一緒にいたのかを思い出せるようにしろ。


一夏「そんなようなことを言われ続けて、定期的に写真だとか日記だとかするようになったけど、」

一夏「せっかく例年よりも専用機持ちが多いことだしさ、――――――他に思い出を作っておきたいなって思ったんだ」

一夏「学校行事だけじゃなくてさ、プライベートな関係でも思い出を作りたいっていうか…………」

一夏「…………ダメかな?」

鈴「!」
セシリア「!」
簪「!」

一同「………………」

一夏「ああ……、ごめん。考え無しだった。忘れてくれ――――――」

鈴「一夏」

セシリア「YESですわ、一夏さん」

簪「私も、私たちも、同じ気持ちだよ?」

一夏「…………そうか、ありがとう」

一夏「そうだ、そういえば、鈴」

一夏「鈴の酢豚も美味いけど、親父さんの料理も美味いもんな。また食べたいな、今度はみんなと一緒に」

鈴「あ、その……、お店はしないんだ」

一夏「え、なんで?」

鈴「私の両親、――――――離婚しちゃったから」

鈴「国に帰ることになったのもそのせいなんだよね…………」

一夏「あ…………」

セシリア「………………」

簪「………………」

鈴「気にしないで。家庭の事情だし、私は寂しくなんかないから」


202: 2014/03/12(水) 09:27:16.89 ID:lu3tS7gx0

鈴「それよりもさ。一夏が言ってくれように、思い出を作ろう」

鈴「ここだけの関係で終わるっていうのも寂しいじゃない。せっかく3年間同じ寮で暮らす仲になったんだしさ」

セシリア「そ、そうですわね。私も本国での務めがありますけれども、みなさんとの思い出を作っていきたいものですわ」

簪「うん! 一夏、こんな私だけどこれからもよろしくね」

一夏「ありがとう」

簪「それと、一夏?」

一夏「?」

簪「わ、私のこと……、――――――“簪”でいい!」ドクンドクン

一夏「呼び捨てで呼んでもらいたいってこと?」

簪「う、うん。そのほうが性に合ってるかなって」

一夏「わかった、“簪”」

簪「あ、いい」テレテレ

鈴「…………むむ」

一夏「それじゃ、腹が減ったな」

一夏「今日はそうだな。――――――鈴にお願いしていいかな?」

鈴「!」

鈴「ま、任せておきなさいよ、一夏!」

セシリア「わ、私も――――――!」

一夏「あ、いや、…………セシリアさんはティータイムとか専門にしてもらえると嬉しいな(やっぱり朝食以外はメシマズ世界王者だったよ!)」アセダラダラ

セシリア「まあ! そういうことでしたら」ニコッ

簪「それじゃ、普通通りに登校できるようになったら、またおにぎり作ってくるからね」

一夏「ああ、本当にありがとう、みんな。楽しみにしているよ」


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー


こうして、2人の転校生の登場から端を発する波乱の日々もこれにて収束することになった。

これでしばらくは落ち着いた日々を送れるようになったものだと、誰もが思っていた。

しかし、二度目の謹慎が解けて再び登校できるようになった俺を待っていたのは、俺の選択が招いた新たなドタバタな日々の始まりであった…………



203: 2014/03/12(水) 09:28:12.89 ID:lu3tS7gx0


一夏「…………は?」アセダラダラ


シャル「シャルロット・デュノアです。みなさん、これからよろしくお願いします」(女子制服)

シャル「織斑一夏くんに頼って預けておきたいものがあるんだ」


ラウラ「お、お前に渡したいものあってだな……」モジモジ

ラウラ「さあ、受け取れ――――――」


一夏「えと、何これ…………開けるよ?」パカッ


――――――結婚指輪。


一夏「」

一同「」

シャル「」テレテレ

ラウラ「」ドヤァ

一夏「はあああああああああああああああああ!?」


シャル「これからずっとよろしくね?」

ラウラ「お前は“私の嫁”にする! 決定事項だ、異論は認めん!」


――――――阿鼻叫喚、再び!



204: 2014/03/12(水) 09:28:51.95 ID:nYyIS+0E0

一夏「何じゃあこりゃあああああああああああああああああああ!?」

使丁「さすがは“千冬の弟”…………モテるね~」ヤレヤレ

使丁「ま、“プッチン”の外交工作が上手くいったようだし、」

使丁「“プロフェッサー”も職場を失ったけど無事に退院できたことだし、」

使丁「結果として、失うものは無かったんだから、」

使丁「万々歳だね、一夏くん!」ニヤニヤ

一夏「見てないで助けてくださいよ、用務員さあああああああああああん!」

使丁「大丈夫。IS学園は基本的に無法地帯だから、3年間は学園の規則に抵触しないなら自由に結婚生活(自称)も満喫できるぞ」

一夏「他人事だと思ってえええ!」

使丁「さて、これからの関係、卒業してからの関係をどう将来設計していくのかは、お前次第だ」


使丁「別れが人を変えるように、ある1つの出会いが人生を左右することもある」


使丁「これからどうなっていくのか楽しみだな、千冬」

千冬「………………」ピクピク

一夏「あ! 千冬姉、これはそんなんじゃないから――――――」

千冬「学園では“織斑先生”と呼べと言っているだろうが、馬鹿共があああああああ!」

一夏「ぐああああああああああああああああああああああああああああ!」


一夏「せっかく、いい感じに締められると思ったのに、あんまりだぁ…………」


チャンチャン


205: 2014/03/12(水) 09:29:56.37 ID:nYyIS+0E0

ここまでの状況:第3話


織斑一夏
頼れる大人との出会いと別れによって、だいぶ自分や自分を取り巻く環境がいかなるものかを真剣に意識し始めている。
また、いろんな意味でチートな大人の指導もあって、ようやく『シュヴァルツェア・レーゲン』を単独で撃破できる型破りな戦術を編み出すまでに至る。
――――――――――――――――――
以前に描いた一夏たちとはまるで方向性や趣が違う展開になるように心がけた。
『シュヴァルツェア・レーゲン』の撃破方法に関しても、

Sランク 『人間』の一夏は、
正面からラウラの言動を論破し、『人間』としての格の違いを見せつけて畏怖させている。
本戦では、あらかじめラウラの本質を見抜いて無難に2対1の有利な状況に持ち込んで、仲間の武器を使って一矢報いるという粋な戦法で勝った。
VTシステムに対しては、少々不安があったが流れるように反撃の型にはめて落ち着いて返り討ちにした。

Aランク 落とし胤の一夏は、
今作の一夏同様に戦えば『AIC』を斬り裂いて倒せるぐらいに最初から実力差があるのだが、
IS指導している立場であることと決定的な敗北感を与えるために、自分が指導した量産機のタッグで『シュヴァルツェア・レーゲン』を完封した。
VTシステムに対しては、相手が振り抜くよりも速く、逆袈裟斬りで斬り捨てた。

Cランク ザンネンな一夏は、
大会前にわざとラウラを挑発して暴力行為に及ばせ、それを織斑千冬に咎めさせ、それを庇うことによって、戦う前に戦意や敵意をある程度喪失させている。
またそれ以前にラウラに襲撃されていたものの、運を味方につけて相手の装備を破壊し、悠々と逃走し、黒星を与えているので精神面では終始圧倒していた。
本戦では、完全に自分を囮にして攻撃は相方任せという奇天烈な立ち回りかつ『零落白夜』を効率的に活かして相手の装備を破壊し、ゲームを完全に支配した。
VTシステムに対しては、まさしく氏闘――――――痛ましくて見るに耐えないものとなった。
――――――――――――――――――

あくまでも自分が“アスリート”あるいは“子供”であることを留意し、素直に経験者や知恵者の言葉に耳を貸しているので成長も順調である。

だが、なんといっても入学して最初の1週目をしっかりとこなせたことが、この織斑一夏にとっての最大の宝であり、その将来性を素直に期待できることだろう。

偉大な大人たちの影響力で、非常に身近に感じられる親しみやすさと頼りがいのある存在に仕上がったというわけである。

残念ながら、夢に向かって邁進する青春を送るタイプの少年なので、恋愛に現抜かすようなことは頭にない朴念仁であることに変わりない。

しかし、そうなると一夏よりも周りの方が…………それでも抑えられてはいるのだが。

今作では恋愛描写も過去作とは大幅に異なっており、他とは違った雰囲気の恋模様が展開されている。

また、スポーツものらしく、仲間との感情を共有しあう描写が多いはず。


『あの日』――――――第2回『モンド・グロッソ』決勝戦の裏で起こった織斑一夏誘拐事件を境に、

過去作では、生き方や価値観そのものが根本から変わり、実質的に織斑一夏とは全く違う別キャラのようなIFの一夏を描いたが、

今作“Re-Born”では、偉大な出会いと偉大な別れを経て、(比較的にだが)少しずつ心境や価値観が変化していくように描いてみた。

しっかりと変化を受け止めて、自分なりに考えを出して、自分が取った行動に対する反省をしている様を念入りに描いたつもりである。

アスリートの一夏の特徴
・「超高速切替」+ 太刀投げ +『零落白夜』=『AICC』
「高速切替」と呼ばれる高等技術とは、
大容量拡張領域(バススロット)を使って、通常1~2秒かかる量子構成をほとんど一瞬で、それも照準を合わせるのと同時に行う

「超高速切替」とは、
投げた武器を素早く量子解除して回収し、再び手許に量子展開させて間断なく投げ続けられるレベルまで正確に量子化コントロールを精密操作する
という「高速切替」とは求められるものがまるで違うものとなっている。

ISの量子化武装の性質を利用した投擲武器の回収は珍しくはないが、それを相手の動きを封じるレベルにまで至らしめているのは、
ひとえに『白式』の単一仕様能力『零落白夜』のバリアー無効化能力の脅威があるから成り立つ戦法であり、他のISでやったところで効果はない。
この戦法によって、中距離でも割りと戦えるようになったので、対『AIC』のみならず、中距離までならどんなISでも太刀投げと体当たりの二択を迫れる。
剣があるのに体当たりも普通に使う辺りが、他とは違うところであり、どちらにしろ近づいて『零落白夜』で一撃必頃することに変わりない。
ただし、『零落白夜』の特性上本体に当てればパイロットを直接頃しかねないので、機体のバリアー発生範囲を掠めるように狙いを付けている。


・アスリート
成長期を迎えていることもあって、一夏の身体能力の向上はアスリートとしてのきっちりとした生活管理によってメキメキと効果を上げている。
1学期が終わる頃には、体力やスポーツ実技はぶっちぎりで学年首位を狙える→女性しかいないこともあるのだが、超人の仲間入りも近い?
また、漠然と“世界最強の姉”である千冬に憧れ続けていたことから、彼女と同等以上の実力者である“ゴールドマン”や“プロフェッサー”に素直に師事し、
世界トップクラスの人間の指導によって、弛んだ運動能力だけでなく、知性や人間性も磨かれていっている。
年季の違い・月日の積み重ねで、彼ら“奇跡のクラス”の境地に達する日は遥か遠いが、彼らとは違った栄光の道を進むことは想像に難くない。


・織斑千冬以外の目標がいる
というか、これまでの過去作もいずれも人との出会いによって、織斑一夏の為人が変わっていたので、そこまで大仰に言うほどのものではないか。
しかし、特に彼自身に明確な目的というものがあるわけではなく、今は流れに従ってアスリートとして学園生活を貫こうとしているに過ぎない。
だが、まだ将来を考えるという時期にいるわけでもない上、どうなるかも誰にもわからないので、それはそれでいいのだ。

206: 2014/03/12(水) 09:31:13.48 ID:nYyIS+0E0

第4話 正しいこと、善いこと
Who is Wrong?

――――――6月の半ば頃


一夏「え?」

鈴「だーかーらー!」

鈴「転校生が来るって話じゃない!」

一夏「そうだったのか? 俺は何も聞いてないぞ」

鈴「1組の机が増えていたじゃない」

一夏「…………そうだったんだ」

鈴「…………まあ、いいわ」

一夏「……何がだよ」

鈴「…………自分で考えなさいよ、朴念仁!」フン

一夏「???」



一夏「――――――っていうことがありまして」

使丁「う~む。どうしたものかね……(本当に姉弟揃って鈍感だからな……)」

一夏「最近の鈴の不機嫌さをどうにかしたいんですけど…………」

一夏「ちょっと前までは本当にいい感じに付き合えていたんだけどな……」

使丁「たぶんそれは、環境の変化を目の当たりにして不機嫌になっているんだと思うよ」

一夏「え?」

使丁「たぶん鈴ちゃんは、中学時代と同じふうに幼馴染と接することができるものだと期待していたのに、それが裏切られつつあるからじゃないのか?」

一夏「???」

使丁「つまりだな……(この鈍感さはどうしようもないな…………かと言って、教えるわけにもいかないしな)」

使丁「(教えたところで実感がないとなれば、彼にとってそういうものとして認知されてしまう可能性があるからな)」

使丁「(それに、俺としては校内恋愛は反対だからな。どう考えても風紀上よろしくない)」

使丁「(だが、仲を取り持つことや人生の先輩としての指導なら――――――)」


207: 2014/03/12(水) 09:31:53.42 ID:lu3tS7gx0

使丁「鈴ちゃんは、一夏くんに自分のことが忘れられてしまうのが怖くて、あんな態度になっているのだと思うよ」

一夏「ええ!? 俺が鈴を忘れる? そんなこと――――――」

使丁「一夏くん。人間関係っていうのは結構理不尽さに満ち溢れているものなんだよ」

使丁「自分では最善を尽くしているつもりでも、相手に自分の誠意が伝わるとは限らないし、場合によっては自分には理解できない理由で機嫌を損ねる」

使丁「たとえば、シャルロットとラウラのように――――――」

一夏「あ…………」


2度目の謹慎が解けて俺を待っていたのは、シャルル・デュノア改めシャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒからの実質的な求婚であった。

シャルロット・デュノアは俺が謹慎している間にどうやら“プッチン”さんの手引きでデュノアと縁を切ったらしく、

以前に俺と二人きりの大浴場で語った通り、“ありのままの自分”で学園に残ることを決めた。

そのため、形式として一度シャルル・デュノアは退学し、シャルロット・デュノアとして新たに編入してきた形でIS学園に残ったのである。

それで、預けられたのは、――――――母親の形見である結婚指輪!


一方、宿敵同士であったラウラ・ボーデヴィッヒもどうやら俺の目論見通りに、決定的な敗北を経て自分の考えを改めるようになったようだ。

どうやら千冬姉から軍人である自分を捨てて学生らしい生き方をするように言われたらしく、また原隊の副官からの助言もあって、

その結果が、――――――“俺の嫁”である!

あれから誰でもない“ラウラ・ボーデヴィッヒ”の自分探しの旅が始まり、相部屋となったシャルロットに一人の女の子の生き方を教わりつつ、

“ドイツの冷水”と敬遠されていたイメージを一発で払拭するような素っ頓狂な人格を形成しつつある。

だが、これまでの傲慢で他者を寄せ付けない雰囲気はなくなり、今ではクラスのみんなとも話す姿が見られるようになってきた。それは喜ばしいことだ。

けど! 6月になって初めて会った時に押し付けられたものは、――――――ドイツが誇るクリスチャンバウアーの結婚指輪!



208: 2014/03/12(水) 09:32:54.57 ID:nYyIS+0E0

一夏「………………」

使丁「たぶん、鈴ちゃんは『寂しい』って心の中で声を上げているんじゃないかな」

使丁「そりゃあ、専用機持ちとして毎日訓練に追われていてゆっくりとおしゃべりしたり、遊んだりできない状況だからさ」

使丁「しかし、最初の頃はそうなるとは互いに思わなかったはずだ」

一夏「そう、ですね……」

使丁「だからだよ。IS学園っていう全寮制の小さな生活圏の中で暮らしているのに、まるで『近くて遠い存在』のように互いの距離感が拡がっていく…………」

使丁「でも、あの子が素直に『助けて』と言えると思えるかい?」

一夏「……想像できないな」

使丁「だろ。俺も想像できない」

使丁「けど、このまま放置していたらきっと二人の関係は冷えきることになる」

一夏「そ、そんなこと――――――!」

使丁「だから、気づいた一夏くんが気づかせてあげるんだ」

一夏「!」

一夏「わかりました、“ゴールドマン”! やってみます」

使丁「ああ。やってこい」




209: 2014/03/12(水) 09:33:32.59 ID:lu3tS7gx0

一夏「あ、いたいた」

鈴「あ、一夏…………」

鈴「今日はどうしたのよ。シャルロットやラウラと一緒じゃないの?」プイッ

一夏「いつも一緒にいたいってわけじゃない」

一夏「俺だって、たまには鈴の顔だって見たいし、話をしたいんだ」

鈴「ふーん」

鈴「じゃあ、一夏はあの二人のことをどう思っているわけ?」

一夏「え」

鈴「満更悪くないって思ってるんでしょう?」

一夏「そりゃあ、産業スパイや俺の命を執拗に狙うおっかない軍人だった頃よりずっといいに決まってる」

一夏「それに、専用機持ち同士、仲良くできたら最高じゃないか」

鈴「そうじゃないのよ、そうじゃ…………あ」

鈴「じゃあ、一夏は二人から指輪をもらったけど、結婚したいって思っているの! どうなのよ!」

一夏「!」


両者「………………」


鈴「ごめん。せっかく一夏が私に気を遣ってくれたのに…………」

一夏「いや、俺も軽率だったとは思ってる」

一夏「けど、俺はこの歳で結婚なんて考えてないし、第一まだ結婚できる年齢にもなってないし、結婚を考える時期を迎えたってわけじゃない」

一夏「俺は、ただ単に友人から大切なモノを預かっているだけで、受け取った覚えはないぞ」

鈴「けど、ここは実質的に無法地帯なのよ? 形ばかりの結婚生活だってできるもんよ」

一夏「それは…………そうじゃない、そうじゃないんだ!」ガシッ

鈴「ちょっと痛いわよ……」

一夏「それじゃ、こう言えば機嫌を直してくれるか?」

鈴「?」


一夏「俺が鈴に話しかけるのに所帯持ちであることが障害になるって言うのなら、俺は結婚なんてしない!」


鈴「!!!?」


210: 2014/03/12(水) 09:34:16.44 ID:nYyIS+0E0

鈴「いやあの、そこまでは…………」アセアセ

一夏「結婚して友達が離れていくんだったら、俺はそんなものに憧れたりはしない!」

一夏「だって、悲しいじゃないか。これまで上手く続いていた関係が壊れて、友達が友達だと思えなくなるなんて…………」

鈴「…………あ」

一夏「それに、曲がりなりにも俺たちは、このIS学園で出会えた切磋琢磨しあうことを誓い合った仲間じゃないか!」

一夏「まだ入学して1年も経っていないのに、誰かと誰かが啀み合うようなところなんて見たくない!」

一夏「もし前みたいな無人機が襲来した時、誰かがピンチになって心の中で『ざまあみろ』と思うような人間がいると思ったらやっていけない……!」

一夏「嫌なんだよ、そういうの…………」

鈴「…………一夏」

一夏「頼むよ、幼馴染でIS学園の水先案内人のお前にそっぽ向かれたら、俺はダメになるかもしれない…………」

一夏「お前が居てくれたから、IS学園のみんなと仲良くなれたんだ。やっていけるって思えたんだ」

一夏「だから頼む、機嫌直してくれよ…………」


使丁『鈴ちゃん』

使丁『この通り、私たち二人はISについては全くのド素人で、しかも周りが女性しかいない環境なので大いに戸惑っている』

使丁『幼馴染であるきみが一夏くんを支えてやってくれ』


鈴「あ」

鈴「…………ごめん、一夏」

鈴「私、ずっと自分のことしか見えてなかった」

鈴「一夏だって、いろいろ考えていろいろ悩んでいるのに、私は――――――」グスン

鈴「ホントにごめんね、一夏」ポロポロ

一夏「泣かせるつもりはなかったんだけど、――――――こっちこそ、ごめんな」ギュッ

鈴「うん。許す」

鈴「だから、これからも――――――!」グスン

一夏「ああ、よろしくな」



211: 2014/03/12(水) 09:35:53.29 ID:nYyIS+0E0


ザーザーザー、ゴロゴロ...


使丁「まいったもんだね、まったく」

使丁「姉弟揃って優しさに境界線がないんだから」

使丁「だが、千冬の時とはまるで違う。――――――修羅場だな」

使丁「調子に乗ってあんなことを言ってしまったのは俺の最大の失態だったな…………お子様の遊びと思って冗談で言ったことなのにな」

使丁「これも女尊男卑の世界だからこそ起きてしまった悲劇というべきなのか…………それが許されてしまう異常な環境の成せる業」

使丁「何にせよ、やはり女子校にただ一人放り込まれた一夏くんの精神の柱になるのは、幼馴染の鈴ちゃんか」

使丁「だが、男の甲斐性がどうのこうの言って、自分の気持ちも伝えようともしないのはどうかと思うがね」

使丁「そこがまた、新たな問題を生む温床にならなければいいのだが…………」

使丁「“プッチン”にこっぴどくお叱りを受けた以上は、何とかこの女難を穏やかに解決に導かないとな」

使丁「本当に申し訳ない、一夏くん」


ピカーン!


学校用務員は降りしきる雨と響き渡る雷の音にまぎれて、これから起こるであろう痴情のもつれを危惧するのであった。

そう、6月はジューン・ブライドよろしく、俺にとって女難最大の厄月であった。

そして、7月7日を過ぎるまで、俺やみんなは非常にやりづらい空気の中に置かれるのであった。

そうなるのは、俺たちIS学園の生徒だけではなかったのである。



212: 2014/03/12(水) 09:37:45.85 ID:nYyIS+0E0


外交官「さて、“マス男”からの報告を見る限り、――――――まさしく修羅場だな」

副所長「ああ。修羅場だな」

外交官「“マス男”の見立てだと、織斑一夏に並々ならぬ好意を寄せているのは、3名」

副所長「1,織斑一夏の幼馴染の中国代表候補生:凰 鈴音」

外交官「2,元産業スパイのフランス代表候補生:シャルロット・デュノア」

副所長「3,織斑一夏に敵意を持って近づいてきたドイツ代表候補生:ラウラ・ボーデヴィッヒ」

外交官「…………身の程知らずだな。というか、代表候補生だろ、お前ら」

副所長「いや、シャルロット・デュノアに関してはもう、実質的にフランス代表候補生ですらないけどな」

外交官「まあその通りだ。私としても延命装置を取り付けられて生き恥をさらしているデュノア社を楽にしてやろうと思って、織斑一夏に協力したわけだしな」

外交官「フランス政府としてもせいせいしていることだろうよ。これまで第3世代型の開発の目処の立たない赤字部門を切り捨てられなかったことだし」

副所長「やっぱ容赦無いな、“プッチン”。さすがは“極東のプーチン”だよ」

外交官「だが、誇り高きドイツ軍人であるラウラ・ボーデヴィッヒが“俺の嫁”宣言をするというスキャンダルを起こしているのはどういうことだ?」

副所長「どういうことかと言われても…………」

外交官「こいつは本当に軍人なのか? そもそも少年兵を堂々と利用しているとはな、ドイツ軍よ?」

副所長「しかも、遺伝子強化素体らしいね。国家機密だけどさ。さすがは俺!」

副所長「でも、少年兵の利用と言い、こんなのが普通に罷り通るんだから、女尊男卑の風潮に世界が陥るのは無理もないか」

外交官「世間的には、シャルロット・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒの結婚宣言は、“世界で唯一ISを扱える男性”のファンサービスとしているが、」

外交官「この2人の愛のほうが、その程度のファンサービスなのかもしれないな」

副所長「手厳しいことをおっしゃる」

外交官「あの二人は以前の生き方しか知らなかったから、いざ新しい生き方を模索しても何も思いつかず、安易に結婚だなんて話が飛躍したんだろうよ」

外交官「簡単に言うと、」


――――――己の人生を人質にして、織斑一夏に己の存在価値を貢がせている。


外交官「そんな状態だ」

外交官「特に、シャルロット・デュノアは“マス男”からの報告を見る限りだとそんなやつのように思える」

副所長「あんまり悪く言っていると、“千冬の弟”からの評価が下がるぞ……」

外交官「事実を言ったまでだ」

外交官「それに俺の仕事は、正論を叩きつけて、嫌われ、怖れられることだ」

外交官「俺はそのことを誇りに思っている。――――――こんな顔でも社会の役に立つのだからな」

副所長「そうか。そうだったな。お前はとことんそれを極める道に進んだんだもんな」


213: 2014/03/12(水) 09:39:19.55 ID:nYyIS+0E0

外交官「少なくとも、簡単に家族と縁切りを決められた辺り、本国に対して思い入れがあまり無かったと見える」

外交官「薄情なものだな。友達はいなかったのか?」

外交官「まあ、それらは我々の情報網で確定情報として上げられているがな」

副所長「はあー、怖いねー。なんだい、“極東のプーチン”には “極東のKGB”もあったってことかい」

外交官「どう思おうが構わないが、――――――フランスが我が国に対して産業スパイを送り込んだことは断罪させてもらった」

外交官「その後、この子がどうなろうと正直どうでもいい」

副所長「はっきり言うなー」

外交官「だが、我が国が誇る“世界で唯一ISを扱える男性”に対し、改めて害をなすのならば、こちらとしても考えがある」

副所長「もうちょっと軽く考えられないかねぇ」

副所長「それじゃ、ラウラ・ボーデヴィッヒについてはどう思っている?」

外交官「…………はあ」

副所長「え」

外交官「正直扱いに困っている。結婚は認めない。当然だがな…………」

外交官「しかし、この変節について、どこまで本気なのかが読みきれない…………織斑一夏や“マス男”からの評価も一転している」

副所長「あんまり深刻に考えるなって」

外交官「それはわかっているつもりだ。この小娘たちが言う結婚は思春期特有の肥大化した自意識と無知が結びつけた虚構だとな」

副所長「やれやれ、そこは譲れないんだ……」

外交官「乙女の純情だか何だか知らないが、はっきり言って学園にとってはいい迷惑だろうよ」

外交官「学生の本分は学業なのであって、学園は学業をするところであって不純異性交遊する場所ではないのだから」

副所長「まあ、風紀を考えればごもっともな意見だな」


214: 2014/03/12(水) 09:40:21.16 ID:nYyIS+0E0

副所長「だがそれを言ったら、織斑一夏を通わせていること自体が問題じゃないか」

外交官「俺もその通りだと思っている」

外交官「だが、政治屋共が言うには『IS学園の檻の中に閉じ込めておけば安心だから』だとさ」

副所長「一理あるというか、完全に扱いに困っているってことだろう、それ」

外交官「そうだな。“世界で唯一ISを扱える男性”を世界の公共財産として扱おうと世界中の国々からの圧力があるからな」

外交官「他にも、責任持って管理・養育できる適当な場所が見つからなかったというのもある」

副所長「一度誘拐されてるんだ。今度誘拐されたら凄まじい国の損失と失態に繋がるからな」

外交官「だから、世界でも最高峰のセキュリティと教育施設があるIS学園に入れざるを得なかったわけだ」

副所長「しかし、やはり“あの女”の前では世界最高峰のセキュリティとやらも簡単に突破される」

外交官「ああ。10年前と同じだな」


副所長「で」


副所長「これから、そんな修羅場に“新たな火種”が送り込まれるわけ?」

外交官「元々政府の意向に、ついに“保護対象”が同意したのだ。こればかりは言ってもしかたがない」

副所長「まあ、俺のところの簪ちゃんやイギリスのオルコットもみんな彼に好意を寄せているし、他の連中もそうなんだけどさ、」

副所長「いよいよもって、修羅場がますます殺伐としてくるわけか」

外交官「だが、そのおかげで我が国としては、新品のコアと最新鋭機を2つも手に入る予定となっている」

副所長「俺、ISの設計技師だけどさ、――――――そこまでコアって大切?」

外交官「負の野心が渦巻く世界でならな」

副所長「そうか。やっぱり、くだらない世界だな」

副所長「やるんだったら、正の野心――――――建設的なことに使って欲しかったよね」

副所長「例えば、――――――宇宙開発とかさ」

外交官「まったくだな」

副所長「さて、“千冬の弟”には頑張ってもらわないとな」

外交官「そうだな。恋に恋しているような連中に毒されないで欲しいものだ」

副所長「それじゃ、俺もIS学園という新しい職場で働かせてもらうよ」

外交官「頼んだぞ。特に――――――」

副所長「わかってるって」

副所長「俺に仕事を押し付けるだなんて、…………いい加減にしろよ!」プルプル







215: 2014/03/12(水) 09:41:10.01 ID:lu3tS7gx0

――――――某日


一夏「それじゃ、お疲れ様でした」ニコッ

使丁「ああ。いつもありがとう」ニコッ


タッタッタッタッタ・・・


一夏「あ、そうだ。タオル置いてきちゃった…………取りに戻らないと」クルッ

一夏「……うん?」
――――――
千冬「………………」

使丁「………………」
――――――

一夏「こんな朝から珍しいな。千冬姉と用務員さんが何やら深刻そうな表情で話し合ってる」

――――――
千冬「!」ジロッ

使丁「……」ジー
――――――

一夏「あ」

千冬「盗み聞きとは感心しないな」

一夏「いや、俺はタオルを取りに戻ってきただけで…………」

使丁「ああ、これか。ほら」

一夏「ありがとうございます」


一同「………………」


一夏「あの、俺で良ければ、力になりますよ?」

使丁「――――――『俺でよければ』、か」

千冬「………………」

一夏「えと、千冬姉……?」


216: 2014/03/12(水) 09:41:39.67 ID:lu3tS7gx0

使丁「一夏くん」

一夏「はい……」

使丁「実は今日、転校生がくるんだ。他でもない1組にね」

一夏「え…………」

使丁「そうだ。特別な事情を持っている子だったから、千冬が引き取ることになった」

一夏「それって、ラウラやシャルロットの時のような?」

使丁「違う。今度の転校生は専用機持ちというわけではない――――――いや、でもあるのか」

一夏「???」

使丁「そんなことは些細な事だ」

使丁「その子はね、“世界で唯一ISを扱える男性”織斑一夏に匹敵するほどのIS業界でのキーパーソンだ」

一夏「そんな人が来るんですか!?」

千冬「やれやれ…………」ハア

一夏「な、なんだよ、千冬姉。その溜め息…………」

使丁「こう言えば、わかるか?」


使丁「小学4年生の時、誰か転校していなかったか?」


一夏「えっと、――――――小学4年生の時に? えっと…………」

一夏「あ…………ああ!?」

一夏「え? でも、俺に匹敵するほどのキーパーソンって言ったら、――――――え?」

千冬「そうだ。今日転校してくる小娘は、」


――――――“篠ノ之 束の妹”だ。




217: 2014/03/12(水) 09:42:25.78 ID:nYyIS+0E0

――――――ホームルーム


一夏「………………」

千冬「………………」

使丁「………………」

山田「それでは、また一人、クラスにお友達が増えることになりました」


――――――篠ノ之 箒さんです。


箒「………………」

ザワザワ・・・

周囲「"シノノノ"ッテモシカシテー」

山田「静かに! えと、質問があるのなら手を挙げてください」

女子「あの先生、篠ノ之さんって“篠ノ之博士の関係者”なんでしょうか?」スッ

千冬「そうだ。篠ノ之は“あいつの妹”だ」

周囲「エエエエエエエエエエ!?」

女子「嘘、お姉さんなの!?」
女子「篠ノ之博士って、今行方不明で、世界中の国や企業が探しているんでしょう?」
女子「どこに居るかわからないの?」

千冬「…………」

使丁「これは…………(誰一人として、“篠ノ之 箒”のことを話題にしていない。我が生徒ながら残酷なものだな……)」

一夏「ほ、箒…………(今の俺だったらよく理解できるし、そもそも束さんとは性格が全然違うのに、こんなのって…………)」


218: 2014/03/12(水) 09:42:56.11 ID:lu3tS7gx0

山田「あ、みなさん、お静かに――――――」


箒「 あ の 人 は 関 係 な い ! 」


一同「!」

箒「…………私は“あの人”じゃない」

箒「教えられるようなことは何も無い」プイッ

周囲「………………」

箒「山田先生、私の席はあそこですよね?」

山田「あ、はい。そうですけど…………」

箒「では、自己紹介はこれぐらいにさせてもらいます」スタスタ・・・

一夏「あ」

箒「」ニコッ

一夏「あはは…………」ニコッ

使丁「…………」

千冬「それじゃ、ホームルームはこの辺で終わりとする」

千冬「そうそう、期末試験の準備をそろそろ始めておけよ?」

千冬「とりあえず、言うべきことは全部だな」

千冬「では、解散!」


セシリア「…………」

シャル「…………」

ラウラ「…………」




219: 2014/03/12(水) 09:44:13.45 ID:nYyIS+0E0

――――――業間、屋上


一夏「それで、何の用だよ」ニコニコー

箒「う、うん……」モジモジ

一夏「(あの自己紹介は無いだろう、さすがに…………それこそあの時のラウラと同レベルじゃないか)」

一夏「(『根暗なやつ』のレッテルを貼られているぞ――――――って、俺も人に褒められるような自己紹介ができてなかったな)」

箒「…………」チラチラ

一夏「6年振りに会ったんだ。何か話があるんだろう?」

一夏「(けど、俺に見せてくれたあの笑みって何だったんだろう? 今も俺に対しては態度がどことなく柔らかいし)」

箒「あ…………」モジモジ

一夏「そうだ!」

箒「……!」

一夏「久しぶり。6年ぶりだけど、すぐに“箒”ってわかったぞ」ニッコリ

箒「え……」カア

一夏「ほら、その髪型、昔と変わってないし」

箒「!」

箒「よ、よくも憶えているものだな……」テレテレ

一夏「いや忘れないだろう、幼馴染のことぐらい」

箒「…………」ジー

一夏「?」ニコニコ

――――――
簪「…………“篠ノ之博士の妹”」ジー

セシリア「それはわかっておりますけど…………」ジー

鈴「誰なのよ、……あの子!」ギラッ

ラウラ「私というものがありながら、“私の嫁”としての自覚が足りんぞ、あいつめ!」ゴゴゴゴゴ

シャル「けど、少なくともあの二人は知り合いのようだね」


220: 2014/03/12(水) 09:44:54.18 ID:lu3tS7gx0


使丁「何だ? 揃いも揃って」


小娘共「!?」ビクッ

セシリア「あ、用務員さん、あの、これはその…………」アセアセ

鈴「お、驚かせないでよ、バカぁ!」ドックンドックン

使丁「ははーん、なるほどねー」ヒョイ

鈴「ああちょっと……」

ラウラ「?」

シャル「えと、用務員さんは二人の関係をご存知なんですか?」

使丁「ああ。というか、一夏くんと箒ちゃんは私の“同窓生の身内”だからな。会ったことはなかったけど、知ってるぞ」

簪「それって、つまり――――――?」

使丁「あれ? 知らなかったのか?」

使丁「織斑千冬と篠ノ之 束は年来の同級生だぞ? つまりそれは、私としても同じことだ」

小娘共「!!??」

ラウラ「お、織斑教官と篠ノ之博士は同級生だった!?」

シャル「そういえば、織斑先生は篠ノ之博士のことを『あいつ』って言い表していたよね!?」

使丁「そこまで驚くか? 開発当初から二人揃って名を連ねているんだからさ」

使丁「それとも実感が湧かないのか? みんなと同じ歳頃でISの開発者となって、IS操縦の第一人者になっていたってことが」

セシリア「あ、確かにそうでしたわね……」


221: 2014/03/12(水) 09:45:26.72 ID:nYyIS+0E0

使丁「そうそう。簪ちゃんに用があったんだ」

簪「私、ですか?」

使丁「ああ」ニコッ
                ・
使丁「今日から副所長――――――元副所長がIS学園に赴任することになったんだ」

簪「ほ、本当ですか!」パア

使丁「ああ。今までよく頑張ってきたな、簪ちゃん」

鈴「そうなんだ! よかったわね、簪!」

セシリア「そうですわね! 無事で何よりでしたわ!」

ラウラ「そうか。あの人がこの学園に赴任してくるのか……」

シャル「ラウラ……?」

ラウラ「実は、“嫁”からこれまで迷惑を掛けた人に謝っておくように言われていて、最後の一人がその人なんだ……」

簪「!?」

使丁「簪ちゃん、違うよ。副所長の怪我はそれとは無関係だ。何があったのかは想像に任せるけどね」

簪「……それなら、よかった」

ラウラ「すまない」

簪「気にしてないよ、私」

ラウラ「…………ありがとう」

使丁「それよりも、みんな?」

使丁「そろそろチャイムが鳴ることだし、あの二人の関係については昼休みで訊くことにしよう」

鈴「そうね。質問攻めするにしても、……時間が、ね?」

セシリア「そうですわね。“篠ノ之博士の妹”がどの程度の人物なのか、じっくりと見極めさせていただきますわ」

使丁「では、解散解散!」

小娘共「ハーイ!」

タッタッタッタッタ・・・・・・

使丁「…………さて、ここからだな」ハア



222: 2014/03/12(水) 09:46:22.49 ID:lu3tS7gx0

――――――昼


一夏「えと…………」アセタラー

ラウラ「…………」

シャル「…………」ニコー

鈴「…………」ムカムカ

箒「…………」プイッ

セシリア「み、みなさん? 改めて自己紹介をしませんこと?」ニコニコー

簪「そ、そうだよ。仲良くしよう?」オドオド

箒「一夏」

一夏「は、はい!」

箒「これはいったいどういうことなんだ?」ゴゴゴゴゴ

一夏「どういうことって…………ここにいるのは――――――ああ、そっか」

一夏「じゃあ、食べながらでいいから、俺が紹介していくよ」

セシリア「そ、そうですか。ぜひお願いしますわ」

簪「うん」


一夏「えっと、それじゃまず――――――、」チラッ

小娘共「」ワクワクドキドキ

箒「…………」

一夏「順番に行こうか」

シャル「…………」プクッ

ラウラ「おい!」ムカッ

一夏「ら、ラウラ!?(――――――って、俺のことを“嫁”なんていってくるラウラに喋らせたら、話の収拾がつかなくなる!)」アセアセ

一夏「えと、“とっておき”っていうのは最後にとっておくから“とっておき”って言うんだぜ?」アセタラー

ラウラ「!」

ラウラ「そ、そうか。ふむふむ」テレテレ

一夏「それじゃ、まずは簪さんから(なんか自分でも何言ってんのかよくわかんないことで納得してもらえた…………)」

簪「え、私?」ドキッ

鈴「むむむ」

セシリア「てっきり私からと思っていましたけど、『順番』っていうのはそういうこと…………」



紹介の順番 = 訓練仲間になった順
簪→鈴→セシリア→シャルロット→ラウラ→一夏→箒


223: 2014/03/12(水) 09:46:48.84 ID:lu3tS7gx0



一夏「これで、だいたいみんなのことがわかっただろう?」アセダラダラ

箒「まあ、よくわかった」プイッ

一夏「やれやれ…………」フゥ

鈴「…………ファースト幼馴染ねぇ」

シャル「そうか。一夏にとっての一番って…………」

ラウラ「やはり、同じ恩師の許で知り合ったもの同士のほうが…………」

セシリア「…………一夏さん」

簪「大変だね、一夏って」


一同「………………」


一夏「あれ?(なんかさっきよりも…………)」

鈴「どうしたのよ」

一夏「な、何でもない!(気のせいだよな? 何かさっきよりも凄く感じが悪くなってきてないか?)」

一夏「それじゃ、食後のデザートを――――――」

簪「あ、はい。一夏」

一夏「ありがとう、簪」

一夏、「おお、今日はレモンの蜂蜜漬けか。こいつがいいんだよな」カジッ

一夏「あ」

箒「…………」サッ

一夏「あの、箒さん?」

箒「何か用か?」ムスッ

一夏「あの、何か不安なことがあったら、遠慮なく頼ってくれよ、ファースト幼馴染なんだからさ」

箒「…………何も無い」スッ

一夏「そう、それじゃあな」

小娘共「………………」


224: 2014/03/12(水) 09:48:01.45 ID:nYyIS+0E0

――――――開発棟


副所長「…………“グッチ”めぇ」

使丁「どうしたんだ、“プロフェッサー”?」

副所長「あいつは本当に馬鹿だよ!」

副所長「これを見ろ!」ペラッ

使丁「えと……、ええ!? これって――――――」

副所長「今日からしばらく一夏と同じ部屋で寝泊まりするんだとさ」

使丁「…………しかたがないところもあるとは思うがな」

副所長「1年の寮長は千冬だ。つまり、この決定には千冬も賛同していることになるな」

使丁「…………“束の妹”に敵意でもあるのか?」

副所長「いや、ない。会ったこともない」

使丁「…………」

副所長「だが、考えてもみろ」

副所長「恋に恋しているような連中が多いこの狭い寮で、周りがそれをどう思うのか」

使丁「……!」

副所長「間違いなく例の3人は敵意を剥き出しにしているだろうな」

副所長「これ、“プッチン”が知ったら間違いなく乱痴気騒ぎどころじゃなくなるんだよ!」

使丁「それは、まずい!」


225: 2014/03/12(水) 09:48:21.95 ID:lu3tS7gx0

副所長「しかもだ」

副所長「“グッチ”が束のやつとどう話をつけたのかは知らないが、実質的に2個の新しいコアを獲得するというとてつもない功績を上げた」

副所長「それはいいんだ」
              ・・・・
副所長「だがな、それは全部“愛しの妹”のためでしかなくってな」

副所長「世紀の大天才:篠ノ之 束直々に製作している妹専用ISの完成までの繋ぎとして、この学園に装備1式を送り付けてきやがった」

副所長「そして政府は、学園の『打鉄』1機を、俺が以前に一夏にしてやったように調整しろなんてことを要求してきやがったんだよ」

使丁「おいおい、何だよそれ」

副所長「ちょうどよく、俺は研究所を爆破されて職場を失って新しい配属先の通達を待っているご身分だったからな……」

副所長「政府としてはちょうどいい暇人だって思ったんだろうよ。簪ちゃんの他にも一夏の面倒も見ていたことだしな」

副所長「人使いが荒いぜ、まったく……」

使丁「…………送りつけられた装備を訓練機の標準装備に更新するわけにもいかないから、パッケージ化するんだろう?」

使丁「それは、どれくらいで完成するんだ?」

副所長「――――――『1週間で仕上げろ』なんて言ってきやがった。おそらく整備科の人間の手を借りてでも早急に完成させろという意味なんだろう」

使丁「本当に何を考えているんだ……」

使丁「手伝えることがあったら言ってくれ、“プロフェッサー”」

副所長「猫の手も借りたいところなんだが――――――、」

副所長「お前はそれよりも織斑一夏の近辺の痴話喧嘩を何とか抑えておいてくれ」

使丁「!」

副所長「あの小娘たちが今回の件で一気に機嫌を悪くすることは火を見るより明らかだ。衝突も時間の問題だ」

副所長「それで暴力沙汰にまで発展したら、“プッチン”が動くぞ?」

副所長「“プッチン”が学園に降臨したら間違いなく、――――――情け容赦ない制裁が行われる!」

副所長「そうなれば、お前の一番弟子が最も泣きを見るぞ」

使丁「!」

副所長「だが、今回の元凶は“グッチ”だ。何を考えているんだ、あいつは……!」

使丁「…………」




226: 2014/03/12(水) 09:48:55.65 ID:lu3tS7gx0

――――――そして、その夜


一夏「…………え」
箒「…………なっ!?」カア(湯上がり)


箒「い、い、一夏…………」

一夏「(あれ、こんなようなトラブルが前にもあったな…………)」ドクンドクン

一夏「こ、ここ、コレヲキロ!」バサッ

箒「あ、ああ…………(一夏の――――――)」

一夏「なななななんで、箒が俺の部屋にいるんだよ!?」

箒「ハッ」

箒「そ、それはこっちのセリフだ! なぜお前がここにいる!?」

一夏「ここは俺の部屋だ! そっちこそ部屋を間違えたんじゃないのか?」

一夏「えと、部屋の鍵はどこだ?」

箒「そ、そこだ。言っておくが、私は間違えてなんていないぞ!」

一夏「えっと、俺の鍵と見比べて――――――」

一夏「なにぃ!? お前、俺と同じ部屋なのか!?」

箒「!?」カア

箒「!!」サッ

一夏「え」

箒「はああああああああ!」

一夏「え、ええ!? ――――――まずい!(なんて身のこなしだ! 去年、剣道で全国一になったって話に偽りはないってことか!)」

箒「待てええええ!」

一夏「『待て』と言われて、待つやつがあるか!」

バタン!

一夏「はあはあ…………とにかくまずは落ち着こう。あっちだって湯冷めしたらマズイしな(あれ? この流れ、まんまあの時と――――――)」

一夏「あ、上着が――――――まあいい! とにかく、状況を確認しないと!」

一夏「えと、そうだ、千冬姉はここの寮長だった。聞きに行こう」

タッタッタッタッタ・・・

箒「一夏!」ガチャ

箒「あ…………」キョロキョロ

箒「私は…………」

バタン


ラウラ「これはいったいどういうことなんだ、……“嫁”よ?」ゴゴゴゴゴ



227: 2014/03/12(水) 09:49:35.35 ID:nYyIS+0E0

――――――翌朝


一夏「…………気不味いです」ハア

使丁「……そうだな、一夏くん」ハア

一夏「まさか、箒とラウラがいきなり俺の部屋で喧嘩しているなんてな…………」

使丁「俺が来ていなかったら、確実に“プッチン”が来るような事案になっていただろうな」

使丁「元々、ラウラとシャルロットは一夏くんに依存しているのに、そこに“ファースト幼馴染”の同居人が来たとなったらな?」

一夏「俺が昨日感じ取っていた不安ってそういうことだったのでしょうかね?」

使丁「(本当はもう1人身近にいるのだがな…………)」

使丁「まあ直感に従って、シャルロットが性別を偽って同居人になっていたことやラウラのかつての傍若無人な振舞いについて触れなかったのは正解だよ」

使丁「(どうやら鈍感な一面は改善されつつあるようだな。その点に関しては、千冬よりも一歩前に進んでいる気がするな)」

一夏「それで、“プロフェッサー”はどうなんですか?」

使丁「箒ちゃん専用の『打鉄』用パッケージの製作に徹夜して取り組んでいるよ。俺もこの仕事が終わったら差し入れとか手伝いをするつもりだ」

一夏「それだったら、俺も手伝わせてください!」

使丁「そうか。だったら、これ持って先に行っていてくれ」

使丁「俺は食堂から朝食をデリバリーしてくるから」

一夏「わかりました。では」

使丁「ああ」


228: 2014/03/12(水) 09:50:06.36 ID:lu3tS7gx0

――――――開発棟


副所長「なあ、“千冬の弟”」ムシャムシャ

一夏「何です、“プロフェッサー”?」

副所長「お前は、篠ノ之 束についてどう思ってる?」カタカタカタ・・・

一夏「えと……」

副所長「いや、お前と束の繋がりはそこまで強いものじゃない。答えられなくたっていい。期待はしていなかった」カタカタカタ・・・

一夏「…………少なくとも、家族に対する愛情は本物だと思ってます」

副所長「まあ、そうだろうな」カタカタカタ・・・

副所長「だが、あいつは本当に人間の見分けが付かないらしいぞ」カタカタカタ・・・

副所長「あいつにとって家族以外の存在は、地球上で今最も繁栄している生物:ホ〇・サピエンスの1個体として認識されているらしいからな」カタカタカタ・・・

一夏「…………」

副所長「まあ、“俺たち”のように付き合いが長い場合は、覚えてはいないけど見れば誰だかは思い出す程度にはなっているようだが…………」カタッ!

副所長「もっとも、俺だってイギリス人とアイルランド人の違いなんてわからないし、あいつのそういう極端なところを責める気はないがな」ジー

副所長「よし、これでパッケージの基礎はできたかな」フゥ

一夏「一日でこれだけの文量のプログラミングを…………」

副所長「束に比べると俺は凡人に等しいのかもしれないが、これでも世界最新鋭の第3世代型ISの開発設計を行える世界トップクラスの天才のうちだぞ?」

副所長「逆にこれぐらいの処理能力が無ければ、『打鉄弐式』は並みのドライバーには扱えない機体だったんだ」

副所長「実質的に、倉持技研第一研究所は外部から副所長に据えられた俺の手によって改革されたといっても過言ではない。――――――さすがは俺!」

一夏「一息付けたのなら、気分転換に朝日を浴びませんか? 午後は雨になるって話ですし」

副所長「そうさせてもらおうか。技術職っていうのは寝食を忘れて取り組むのが普通で、一日の感覚が狂うものだからな…………」

一夏「お疲れ様です」

副所長「どうも」


229: 2014/03/12(水) 09:50:48.54 ID:nYyIS+0E0

――――――朝陽


副所長「眩しいなぁ……」パチパチ

副所長「もうすぐ夏だよな。湿気も多くなってきたし」

一夏「はい」

副所長「お前は千冬とは違って、男だから女にモテるのは辛いよな?」

一夏「あ……、はい」

副所長「俺はずっと女尊男卑の風潮は現代文明が招いたモラルの低下が原因だって思っている」

副所長「だからというわけでもないが、」

副所長「俺はずっと『高度な文明に相応しい精神性が持てるようなものを造ろう』と思って技術職になったんだ」

副所長「日本にはそういう伝統が残っているからな。『侘び寂び』とか『幽玄』とか『武士道』とか各地の銘品の匠の業とか……」

一夏「わかります」

副所長「だから、女尊男卑の風潮を招いたものが束の造ったIS〈インフィニット・ストラトス〉だけではないと思っている」

副所長「元々そういう土壌があって、ISはきっかけになっただけで、いつかはISに因らずともそうなっていたんだ」

副所長「けど、俺はいつの間にか倉持技研第一研究所の副所長になって、こうやってISという女尊男卑を象徴するものを造る側に立つことになった」

副所長「だから時々、虚しくなって思うことがあるんだ」


副所長「――――――『ISなんて無くなればいい』って」


一夏「………………“プロフェッサー”?」


230: 2014/03/12(水) 09:51:59.00 ID:nYyIS+0E0

副所長「だから俺は、『打鉄弐式』の設計を始めるのと同時期に、束の造ったインフィニット・ストラトスを抑止するための兵器の実用化も始めていたんだ」

一夏「え……」

副所長「まだ実物は完成していないが、理論や設計はほとんど完成していた」

副所長「――――――だからなのかもしれないな」

副所長「5月に、俺の研究所が爆破されたのは……」

一夏「!!!?」
                                                    ・・
副所長「きっかけはラウラ・ボーデヴィッヒの調査でVTシステムの情報を入手したことだったが、それ以前から俺は何者かにマークされていた」

副所長「そして、VTシステムにも手を出しているのではないかと勘違いされて、爆破に至った」

一夏「………………」

副所長「それから数日経ったドイツのとある研究所も、深夜のうちに跡形もなく爆破されました、と」

副所長「俺が不正アクセスした繋がりでとばっちりを受けたんだろうな」


231: 2014/03/12(水) 09:52:50.03 ID:lu3tS7gx0

一夏「どうして、それを俺に話すんです……?」

副所長「何故だろうね?」

副所長「もしかしたら今の俺の心境が今の織斑一夏の状況に似ているからなのかもしれないな」

副所長「――――――どちらもアラスカ条約体制や女尊男卑の風潮に振り回されて疲れてきているってところが」

副所長「まあ要するに、同族意識を感じたからか?」

一夏「だから、――――――『一緒に頑張っていこう』ってことですよね?」

副所長「あるいは、――――――『一緒に世界をぶっ壊してくれる同志を暗に求めていた』のかもしれないな」

一夏「じょ、冗談ですよね……?」ニコー

副所長「俺にもよくわからない」

一夏「え………………」


両者「………………」


一夏「つ、疲れているんですよ、“プロフェッサー”は」アセアセ

一夏「そうですよ。疲れると気が立ったり、気が弱くなったりして人間誰でも不安でいっぱいになるでしょう?」

一夏「だから、それは一時の気の迷いですよ」

一夏「しっかり休んで、しっかり食べて、しっかり眠りましょう」

副所長「ああ……、そうだな」

副所長「パッケージの基礎はできたんだ。一旦は、整備科の先生方に進めてもらうことにしよう」

副所長「幸い、装備はIS用の太刀と専用のエネルギータンクが2つずつだからな。極めてシンプルな追加武装だ」

副所長「それじゃ、俺は宿直室でぐーすか眠るとするよ。たぶん、半日以上寝てるんじゃないかな?」

一夏「…………」

副所長「心配するな。派遣社員のような扱いとはいえ、日本政府としては俺に氏なれては困るからな」

副所長「養生するよ」

一夏「そうしてください」


使丁「おお。なんだ、終わっていたのか?」ゴロゴロ・・・(サービスワゴンに朝食2人分と軽食1人分)


副所長「ああ。パッケージの基礎はできたから、後は任せて俺は一旦眠るわ」

使丁「そうか。いつもながらご苦労様、“プロフェッサー”」

副所長「いや、そっちこそ。これから大変になっていくんだから、“千冬の弟”共々気をつけるんだぞ?」

使丁「ああ、わかった」

使丁「それじゃ、朝食にしようか、一夏くん?」

一夏「はい……」

副所長「さあ、みんなで朝ご飯を食べよー」

使丁「おー!」
一夏「お、おー……」



232: 2014/03/12(水) 09:53:34.48 ID:nYyIS+0E0

――――――篠ノ之 箒専用パッケージ完成まで


はっきり言って、“篠ノ之 箒”という少女に、際立った長所や才能があるわけではなかった。


だが、“篠ノ之博士の妹”であるという点が、周囲が過度に彼女への期待や先入観からくる嫉妬を招いており、

俺という“特異ケース”の存在によって、更に“篠ノ之博士の妹”への落胆と蔑視は大きくなってしまっていた。

俺と箒――――――比べるといろいろと似通った状況になっているが、俺があまりにも“特異ケース”の成功例でありすぎた。

そして、箒には無い尊いものをこれでもかと俺には与えられており、
それが今の“織斑千冬の弟”と“篠ノ之 束の妹”の差となって現れたのだろう。






233: 2014/03/12(水) 09:54:32.82 ID:lu3tS7gx0

――――――IS訓練


使丁「一応、一夏くんとは違って座学はしっかりとやってきているようだが……」

一夏「旧い電話帳か何かと間違えて捨てるようなことはもうしません…………」

セシリア「さて、どんな動きを見せてくれるのでしょうか?」

鈴「専用機を約束されているなんて、いいご身分よね」

鈴「それも、あの篠ノ之博士からの機体だなんて」

シャル「あんまりそういうことは――――――」

ラウラ「――――――いや素人だな。あれは」


箒「くっ」ガクン

簪「あ、大丈夫?」

箒「いや、いい。自分で何とかする」

簪「う、うん……」




234: 2014/03/12(水) 09:54:53.87 ID:nYyIS+0E0

副所長「やれやれ」スッ(ビデオカメラで撮影している)

一夏「あ、“プロフェッサー”」

副所長「適性ランク:Cでかつ出遅れで、そんなんで専用機をもらえてしまえる――――――」

副所長「心苦しい立場だな」

一夏「…………箒」

副所長「俺から言わせれば、“あの子自身”には何の価値もない。価値が有るのは“篠ノ之博士の妹”である点のみ」

一夏「…………!」

副所長「あの子は、何も知らずに入れられたお前よりも価値がないんだよ」

副所長「だから、入学する気はなかった」

一夏「え」

一夏「それならどうして、今のこの時期に転入なんか…………」

副所長「…………あまり筋がいいようには見えない、あの娘」

一夏「…………」

副所長「それに、呑み込みもかなり悪そうだ」

副所長「人の話を聞こうとせず、助けを仰ごうともしない頑迷さが適性:Cの所以なんだろうな」

一夏「いや、箒はそこまで頑固じゃ――――――」

副所長「お前だって、――――――俺が活を入れていなかったら、」

副所長「常に『何とかなるだろう』『周りが何とかしてくれるだろう』って甘ったれていた自分から変わることができなかったかもしれないぞ?」

一夏「あ…………」

副所長「要は、あの子の保護者の教育、経験してきた出会いと別れの数々が今の人格を形成してきた――――――」

副所長「だから、…………“グッチ”の大馬鹿野郎がぁ!」ゴゴゴゴゴ

一夏「あ、あの、“プロフェッサー”?」

副所長「いや、すまない。どうも気が立っているようだ。撮影が終わったら、横になりながら気持ちを落ち着けることにしよう」

一夏「“グッチ”さんって確か、学年別トーナメントに来ていた人ですよね」

副所長「ああ、来ていたな」

副所長「あいつはその将来性を一番に危ぶまれていたんだ。それが今、結実してしまった…………」

一夏「え? でも、とても理知的で誠実そうな人でしたよ?」

副所長「そこだよ」

副所長「そこが問題で、今の“篠ノ之 箒”を作り上げてしまったんだ」

一夏「え? えと、“グッチ”さんと箒ってどういう関係なんです?」

副所長「あ…………」

副所長「――――――どっちも篠ノ之パパの教え子で、兄弟子と妹弟子だ」

副所長「そういったほうがわかりやすいだろう」

一夏「…………!」



235: 2014/03/12(水) 09:55:20.45 ID:nYyIS+0E0

――――――料理


一夏「………………」モグモグ

箒「ど、どうだ?」ドキドキ

一夏「…………味がない。水気ばかりでチャーハンがチャーハンじゃない。炒めてないよ、これ」

一夏「かと言って、この水気でこの味のなさはリゾットとして認めるわけにもいかない」

一夏「…………塩コショウをくれ」

箒「う、うぅ…………」

一夏「料理はあんまり得意じゃなかったのか…………まさか飯盒で炊いてるってわけじゃないよね、これ?」

一夏「チャーハンに使うんだったら、炊く時の水の量は少し減らして水気を減らしたサラサラなものを使うとか、――――――うん、わかってないよな?」

一夏「この水気は、おかゆを作るつもりだったのか?」

箒「わ、私は――――――!」

一夏「その……、料理が上達したいんだったら、4組の簪を頼ってくれ。訓練の時も甲斐甲斐しく面倒を見てくれたろ」

箒「あ、ああ…………」

一夏「前に紹介したように、俺の昼食のおにぎりの大半を作ってきてくれているのが簪だからさ」

一夏「まずは、おにぎりを作ってみてくれよ。これが結構、料理人の腕や個性っていうのを引き立ててくれるからさ」

一夏「それに、おにぎりを極めれば米料理のほとんどに通用するようになるから、箒はまずおにぎりを美味しく握れるようになってくれ」

一夏「な?」

箒「わ、わかった、一夏…………」

一夏「それじゃ、ごちそうさまでした」

箒「…………それでも平らげてくれるのだな、一夏は」ボソッ

一夏「え」

箒「な、何でもない……」テレテレ

一夏「…………」



236: 2014/03/12(水) 09:56:15.41 ID:nYyIS+0E0

――――――部活動


ワイワイガヤガヤザワザワ・・・


箒「…………」ポツーン


一夏「ああまた独りだよ、箒ってば……(いつも不機嫌そうにしているから余計に近寄りがたい雰囲気だ……)」

一夏「どうしたもんかな?(同じ日本人で親しみやすく一番関係が良好そうな簪は4組だし、ラウラとシャルロットが睨んでくるし…………)」

一夏「いろいろと気不味くなっていて踏み出しづらいことはわかってはいるんだけど、自分から変えようとしない限り何も変わらないぞ……」

一夏「あ、そうだ!」




237: 2014/03/12(水) 09:56:49.94 ID:lu3tS7gx0

――――――ところ変わって、部活棟:剣道場


オツカレサマデシター!

一夏「終わった終わった……」フゥ

箒「一夏…………」

一夏「懐かしいな。こういうふうに竹刀持って面を打ち合うの」

一夏「箒の見た目も変わってないし、本当に昔に戻ったみたい」

箒「そうか……!」ニコニコ

一夏「やっぱり、全国一の肩書きに嘘がないわけだ。強い強い」

一夏「“グッチ”さんも剣道全国一なだけあって、その人の下で日夜剣道に明け暮れたら、そりゃ強くなるわな」

箒「その……、一夏?」

箒「気のせいかもしれないが、動きが剣道のものじゃなかったような気がする。面しか打ってなかったよな?」

箒「面打ちは凄いのだが、小手打ちは明らかに狙いが狂っていたし、そして胴打ちに至っては狙える場面で一切使わなかった」

箒「もしかして、長らく剣道をしていなかったのか?」

一夏「ああ。そうだぜ」

一夏「だって、ISを動かすことが今の俺の役目だから、『白式』に合わせた剣の振り方が身体に馴染んじゃってさ」

一夏「竹刀なんて、砂と水を詰めた瓶に慣れていると、ちょっと気を抜いただけでスッポ抜けちゃうぐらいに軽くてさ」

一夏「それにISだと、狙いが大雑把でもシールドバリアーさえ削ればいいわけだから、」

一夏「小手打ちを正確に狙うなんてことがなくなって、胴なんて完全に感覚を忘れちゃってた」

一夏「実は剣道やったのも今日で数年ぶりなんだよな…………」

箒「そ、そんな! 弛んでいるぞ、一夏!(小学生の時、私よりも断然強かった一夏はもう――――――)」

一夏「そ、そこまで驚くなよ。剣道辞めてたって面だけでいい勝負できただろう?」

箒「ああ…………(確かに、面打ちのレパートリーやその鋭さは大したものだったが…………)」

一夏「それよりも、これで友達ができるといいな」
      ・・
箒「…………友達?」ピクッ

一夏「そうだぜ。これから3年間はこの狭い空間の中で暮らしていくんだから、俺以外によろしくやれる相手を見つけておかないと」

一夏「いや、そもそもいつまでも同じ部屋で寝食を共にするわけにもいかないから」

箒「…………ああ、そうだな!」プイッ

一夏「箒……?」

箒「…………」スタスタ・・・

一夏「とりあえず、剣道部の面々と仲良くなってくれると嬉しいな……」



238: 2014/03/12(水) 09:57:21.37 ID:lu3tS7gx0

――――――就寝


一夏「よし、明日の準備はOK!」テキパキ

一夏「日記も付けたし、飲料に軽食、着替えも用意できている!」

箒「…………おお」

一夏「鍵も掛けたし、トイレにも行った」

一夏「これで明日を迎えられる!」

一夏「それじゃ、おやすみなさい」ガバッ

箒「あの一夏がこんなにも――――――」

箒「………………」ドキドキ

箒「わ、私も早く寝ておこう……!」ガバッ






一夏「ZZZ...」スヤー


箒「…………一夏」ジー

箒「(なんと気持ちの良さそうな寝顔をしているのだ……)」

箒「そうっと……(い、一夏の顔がこんなにも近く――――――)」


ガチャリ・・・


箒「!?」ビクッ

箒「!」バサッ

使丁「うん。ちゃんと寝ているよな? 侵入された様子はないっと」

バタン、ガチャリ・・・

箒「…………」ホッ

箒「!?」カア

箒「!!!!!!」ジタバタ

箒「…………!」

箒「………………」

箒「……………………」スヤー

箒「ZZZ...」グゥー


ガチャリ・・・




239: 2014/03/12(水) 09:57:58.32 ID:nYyIS+0E0

一夏「で、目が覚めたら、」

一夏「何がいったいどうなったら――――――、」


一夏「箒とラウラが組み合って床の上で寝転がるようなことになるんだ?」


箒「ZZZ...」スヤー

ラウラ「ZZZ...」グゥー

一夏「揉み合った結果なのか、ラウラと箒の服が乱れて所々が肌けてまあ…………」

一夏「ほらよっと!」

一夏「箒は箒のベッド! ラウラは、もういい。 俺のベッドで寝ていろ」ドサッ

一夏「寝冷えして風邪を引かれたら困るからな」

一夏「それじゃ今日も1日、張り切って行こうか」

ガチャ、バタン・・・

ラウラ「ヨ、ヨメェ・・・」ムニャムニャ

箒「イ、イチカァ・・・ウヘヘヘ・・・・・・」ムニャムニャ


そして、俺が朝のジョギングを終えて部屋に戻った時、何故か俺のベッドに箒とラウラが眠っていた…………




240: 2014/03/12(水) 09:58:36.15 ID:lu3tS7gx0

番外編:一夏の部活動


一夏「そういえば、この学園って何かしらの部活動に所属してないといけなかったのか? 初めて聞いた」

使丁「ああ、そうだったね。今まで放課後はISの訓練や自主練で使いきっていたから、部活動する余裕なんて無かったからな」

一夏「でも、今更選ぶなんて…………」

使丁「そうだ! トライアスロン部を作ろう! 顧問は俺だ!」(提案)

一夏「それ、いいですね!」(即答)

使丁「あっ! でも、バイクがな…………それにIS学園はクロスカントリーに向いた場所が近くにないしな」

使丁「バイクに乗るんだったら、ISに乗れって言われそうだし、廃案か」

一夏「……まあ、しかたないですね。俺もバイクなんて無いですし」

使丁「となると、陸上部と水泳部を掛け持ちして、バイクは自費で賄ってトライアスロンとするか?」

使丁「バイクは俺が使ってきたのが1ダースほどあるし、十分だろう」

一夏「けど、それをどこに置きます?」

使丁「そうなんだよな…………部活棟にまさか私物のバイクを置かせてもらうわけにもいかないし、通勤用の二輪置き場を占領するのもどうかと…………」

一夏「…………空回りか」(バイクだけに)

使丁「まいったな」

使丁「とにかく、箒ちゃんが転校してきたことで、これまで大目に見てもらっていた一夏くんの部活動の所属を考えないといけない」

使丁「『生徒は必ず何かしらの部に所属する』っていうのは、学園長の意向でもあるからな」

一夏「それじゃ、陸上部と水泳部の見学でもしてきますよ。その前に――――――」カキカキ

使丁「なんか今更って感じだな。陸上競技場は学年別トーナメント前だったから好き勝手に使えていたんだけどさ」


241: 2014/03/12(水) 09:59:48.84 ID:lu3tS7gx0

箒「い、一夏!」ゼエゼエ

一夏「あ、箒じゃないか。どうしたんだ、走ってくるなんて?」

箒「一夏! まだ部活動を決めていないのだろう」

一夏「え、いや――――――」

箒「なら、剣道部に入れ。私が鍛えてやる」

一夏「……まあ、たまにやるぶんにはいいかな」

使丁「おいおい、そういう受け答えは――――――」

箒「そうか。なら今すぐ――――――」

鈴「ちょっと待ちなさいよ!」

一夏「!」

箒「…………セカンド幼馴染」ジロッ

鈴「一夏! ラクロス部よ。一緒にラクロスしましょう」

一夏「…………ラクロス? ラクロスって、何?」

使丁「さあ? 聞いたことはあるけど、どんなのだっけ?」

鈴「ちょっと! 一夏はともかく、なんで用務員さんも知らないわけ!?」

使丁「いや、部活棟は私の管轄外だからな。男の私が更衣室まで管理するようになったら、榊原先生の立つ瀬がないでしょう」

鈴「あ、それもそうね。…………ごめんなさい」

箒「こら、鈴とか言ったか! 一夏はこれから私と剣道を一緒にするのだ!」

鈴「気安く呼ばないでよ! ファースト幼馴染だか何だか知らないけど、後から出てきて何よ!」

箒「なにぃ!」

使丁「…………何をしているのかなー」ニコニコー

鈴「!」
箒「!」

鈴「な、何でもありません!」
箒「と、取るに足らない私事なのでお気になさらず……」

使丁「そうそう」ニコニコ


242: 2014/03/12(水) 10:00:49.96 ID:lu3tS7gx0

ラウラ「ここにいたのか、“嫁”よ」

一夏「あ」

箒「は? ――――――“嫁”?」キョトン

鈴「あ、あんた――――――!」

ラウラ「さあ、私と一緒に茶道部に入るのだ。そこで淑女の嗜みというものをだな――――――」

一夏「いや、俺は――――――」

使丁「ラウラちゃん、IS学園の茶道部は女流の流派だから男は門前払いだぞ?」ヤレヤレ

ラウラ「な、なにぃ!?」ガビーン!

ラウラ「そ、そんな…………」orz

一夏「ああ…………」

箒「ホッ」

鈴「何とかなったわね」

鈴「あ」

鈴「(ラクロス部に入れたとして、一夏はマネージャーにするぐらいにしかできないじゃない!)」

鈴「(そうなったら、難癖つけて一夏が連れ出されるのは確定的じゃない…………!)」

シャル「あ、一夏。そこにいたんだね」

一夏「しゃ、シャルロットまで!?」

使丁「…………さ、捌ききれるのか?」アセタラー

シャル「あ、いや僕は別に部活動の勧誘に来たってわけじゃないんだ」

シャル「前に一夏が『アスリート向けの献立を作ろう』って言っていたから、料理部でもそれに取り組むことになったんだ」

一夏「おお!」

使丁「へえ……(あ、なんか展開読めた。さすがはシャルロット・デュノアというべきか)」

シャル「だからその……」モジモジ

シャル「メニューができたら、試食しに来てくれるかな?」

シャル「できれば、今一番アスリートを目指して頑張っている一夏に食べてもらいたいから、最初に試食をお願いしたいの」

シャル「 ダ メ か な ? 」

一夏「ああ、いいぜ! 絶対に行くからな」

シャル「うん。料理部一同、心から一夏が来るのを楽しみに待っているからね」(計画通り)

一同「!?」

シャル「それじゃ、僕はこれで」スタスタ・・・

一夏「ああ!」

一同「…………」


243: 2014/03/12(水) 10:01:11.19 ID:nYyIS+0E0

使丁「ははは……(――――――まんまと乗せられたよ、一夏くぅん! そして、華麗に去っていくシャルロット・デュノアぁ!)」

使丁「(やはり、この熾烈な激戦を制するのは知略に長けたシャルロットというところか……)」

ラウラ「そうだ! 私が“嫁”を茶でもてなしてやろう」

ラウラ「だから、茶道部に今すぐ来てくれ!」グイッ

一夏「ちょ、ちょっと……!?」

箒「!?」

箒「は、破廉恥な……!」プルプル

鈴「ちょっと待ちなさいよ、ラウラ! 一夏は――――――」

一夏「あ、あれえええええええええ!?」ズルズル・・・

一夏「あ」パラパラ


ワーワーガヤガヤドタバタ・・・


使丁「とりあえず、この入部届を彼に代わって出してこよう」ヒョイ

使丁「けどこの様子だと、正式に入部しても波乱は続きそうだがな…………」






244: 2014/03/12(水) 10:01:42.76 ID:nYyIS+0E0

――――――そして、篠ノ之 箒、本格的なISデビューへ


副所長「何とか5日でパッケージを完成させられた…………」

一夏「は、早い……!」

副所長「パッケージそのものはただ単に送られた量子化武装を量子変換して格納するだけで『はい、終わり』だったんだけど、」

副所長「さすがに『オリムラ・チューン』を機体に施して元に戻すまでやるのがもう嫌だったから、パッケージに最初から入れようと思ってな」

副所長「設定をパッケージのアップデートデータに格納するのに時間がかかった」

一夏「そのアップデートデータをパッケージに一から作り直して入れたってことですよね?」

副所長「ああ。記録していたデータは研究所ごと消滅したからな。記憶を頼りに一から全部だ」

一夏「それは――――――」

千冬「ご苦労だった」ヒョコ

一夏「ちふ……織斑先生」

副所長「やあ、千冬の姐御。派遣社員だけど特別手当くれる?」

千冬「まあいいだろう」

千冬「だがお前には、来月もたっぷり働いてもらうから覚悟しておけよ?」

千冬「ではな」コツコツコツ・・・

副所長「…………ああ」

一夏「“プロフェッサー”?」

副所長「いや、大丈夫だ。やることはそこまで難しいものじゃない」

副所長「7月に臨海学校があるだろう?」

一夏「そういえば」

副所長「あの臨海学校はな、――――――『校外特別実習期間』っていうのが正式名称で、」

副所長「ISの非限定空間における稼働試験をする名目で、各国から代表候補生にパッケージを送り付けてくることになっているんだ」

一夏「ああ……」

副所長「そ。だから、またパッケージの調整を俺がすることになっていてね」

副所長「だが、そんなことでくよくよしているのではない!」

副所長「研究所を爆破されたから、俺が丹精込めて造った『打鉄弐式』用の本気装備のパッケージが…………!」ウルウル

一夏「あ、ああ…………」

副所長「で、もちろん『白式』には拡張領域がないから新装備はなしだ」キリッ

副所長「そして、おそらくなのだが…………」

一夏「?」

副所長「篠ノ之 箒の誕生日はいつだっけ?」

一夏「えと、――――――あ」

一夏「――――――7月7日!」

副所長「そ、重なってるんだよ」

副所長「おそらくその日に、“愛しの妹”専用ISが届けられるんじゃないかっていうのが、“俺たち”の見解だ」

一夏「…………!」



245: 2014/03/12(水) 10:02:26.50 ID:lu3tS7gx0

――――――アリーナ


箒「これが私の専用機…………」

担当官「――――――の繋ぎだ」

担当官「“プロフェッサー”が言うには、換装したパッケージは束が用意しているISの主力装備のプロトタイプだそうだ」

担当官「射撃性近接ブレード『空裂』と『雨月』だ」

箒「射撃性――――――?」

担当官「おそらく、エネルギー攻撃を剣から放つことができるのだろう」

担当官「パッケージのインストールが終われば、自然と理解できるようになるはずだ。そろそろだ」

箒「わかりました」

箒「………………」

箒「――――――!」

箒「これが、姉さんが用意してくれた『空裂』と『雨月』!」スチャ

担当官「なるほど。篠ノ之流剣術を意識した二刀流――――――だと思いたい(…………二刀流の基本は小刀と太刀だぞ。両方共、太刀とはな)」

担当官「(たぶん『妹は剣道ができる』という認識しかないんだろうな、きっと。それともISのハイパーセンサーとパワーアームで取り回しを克服するのか?)」

箒「試し撃ちしていいですか?」ウズウズ

担当官「ああ。それじゃあな」

スタスタ・・・・・・

担当官「予定よりも2日早かったが、これできみは晴れて専用機持ち一歩手前まで来たわけだ」

担当官「――――――私の役目はここまでだな」ボソッ

担当官「(長かった…………ようやくこの子に安息の時が訪れるのだな)」

担当官「後は頼んだぞ、“織斑一夏”」


ドゴーン!


箒「ふふ、ふふふふふ…………」

箒「これで一夏を『守る』ことができる……」

箒「そうだとも!」



―――――― 一夏、お前の背中は私が守る!




246: 2014/03/12(水) 10:03:20.76 ID:nYyIS+0E0

――――――数日後、訓練機による勝ち抜きバトル


休日に開催される非専用機持ち(=一般生徒)のための訓練機の開放日であり、基本的に訓練機を一日中好きに使える。

4月は始まったばかりで1年の利用者がゼロに等しかったが、学年別トーナメント前には申し込みが殺到し、生徒たちのやる気の具合を見る機会ともなっていた。

さすがに全校生徒に回せるだけの機体などどこにもないわけで、基本的にグループで割り当てされることになっている。

そして誰が提案したのか、グループ対抗の勝ち抜きバトルが行わていた。

その中で、一際存在感を放つ存在が一人――――――。


箒「はあああああああああああああ!」ガキーン!

女子4「きゃあ!」(戦闘続行不能)

箒「さあ、次だ!」

女子5「格闘戦がダメなら、射撃でどう!」ババババ・・・・・・

箒「甘いぞ!」

女子5「ひ、怯まない…………!?」ババババ・・・・・・

箒「面、面、面、面ええええええん!」ガキンガキンガキンガキーン!

女子5「ま、まいった……」(戦闘続行不能)

女子6「やるじゃない、ルーキー! だったら、2年生相手ならどう!」ブン!

箒「!」ガキーン!

女子6「ほらほら! 基本がなっていないよ、基本が!」

箒「くぅぅぅうう!」ジリジリ・・・

女子4「頑張れー、先輩!」

女子5「“開発者の妹”だか知らないけど、やっちゃってくださーい!」

箒「!」ピクッ

箒「――――――『空裂』!」

女子6「……くっ!」バッ

箒「でやああああああああ!」スカッ

女子6「二刀流!? けど、踏み込みが甘い――――――え!?」


今、5人抜きしている箒をじっくりと動きを観察してから戦いを挑んできた2年生の先輩は確かにIS乗りとしての技量は確かなものだった。

鍔迫り合いに持ち込み、機体制御が不十分な相手を一気に押し倒そうとするのだが、すかさず箒が片手を剣から放してその手を腰に宛てたのだ。

それを見た2年の先輩は、反射的に後退した。――――――訓練機の『打鉄』には太刀とアサルトライフルが1つずつしかないことがわかっていても。

だが、その直感は正解であった。

本来装備されていないもう1振りの太刀を取り出してきたのだから。

しかし、箒の繰り出した反撃は「高速切替」していない通常の量子展開からだったので1~2秒も間があって、見てから回避が余裕であった。

客観的に見れば回避できて当然なのだろうが、使い慣れていた機体からあり得ない装備が出てきたの見てすぐに対応できる者はどれくらいいるのだろうか?

そういう意味では、この2年生はかなりの手練であった。

しかし――――――、


ドッゴーン!

女子6「うわ!?」


247: 2014/03/12(水) 10:04:01.73 ID:lu3tS7gx0


女子4「え!?」

女子5「どういうこと!?」


ザワザワ・・・


周囲「今の見た?!」

周囲「隠し刀を持っていただけじゃなくて、」

周囲「レーザーが出た!」

周囲「しかも、備え付けのアサルトライフルよりも凄そうだったよ」

周囲「ひ、卑怯だ! そんなのを隠し持っているだなんて!」


ブーブー


間違いなく、2年の先輩の『打鉄』は箒が繰り出した奇襲を躱したのである。

しかし、箒が振り抜いた刀から、それに追い打ちをかけるかのようにエネルギー波が打ち込まれたのである。

しかも、明らかにアサルトライフルの一斉射以上の面制圧力を持っており、

鍔迫り合いからの奇襲を避けただけでも凄かったのだが、さすがにそこから追撃されるとは思いもよらず、直撃を受けたのである。

これが篠ノ之 束が妹のために送りつけた射撃性近接ブレード『空裂』であり、通常は実体剣としても使うのだが、

エネルギーを剣にまとわせることでエネルギーブレードとして威力を向上させ、勢い良く振り抜くことで射撃攻撃にも使えるのだ。

威力も範囲も奇襲性能も申し分なく、これさえあれば一夏が編み出した『AICC』も必要なく『シュヴァルツェア・レーゲン』に勝ててしまえる。

ただし、専用のエネルギーパックを入れないと『打鉄』ではまともに扱えないほどの高出力=燃費の悪さでもあるので、

箒はしぶしぶ『打鉄』の標準装備の太刀で戦っていた。


しかし、一人だけ特別仕様の訓練機に乗っているとなれば、そこに不満を覚えない者などいなかった。

しかも、噂の転校生“篠ノ之博士の妹”となれば、身内からのえこひいきを受けていることは疑いようがない。

かくして、大ブーイングが起こるのだが、


女子6「うるさい! 気が散る! 黙れ!」


周囲「!?」

箒「…………!」

女子6「さあ、続きをやりましょう、ルーキー?」

箒「フッ」

箒「では、参る!」


2年の先輩は、まさしく一夏が目指している気高きアスリートの姿であった。

たとえ理不尽であろうとも自分に言い訳をせず、これを自分を向上させるために課せられた試練だと考えて、前向きに挑戦していく。

そんな姿が、アリーナの管制室から見ていた織斑一夏の心を強く打った。


248: 2014/03/12(水) 10:04:50.60 ID:lu3tS7gx0

一夏「あの人、何て人なんです?」

使丁「私も知りたいですね。ぜひとも、お話してみたい」

山田「えと、ちょっと待っていてください」カタカタカタ・・・

千冬「…………誰も篠ノ之のことを褒めようとは思わないんだな」

副所長「――――――褒める?」

副所長「ご冗談を」

副所長「誰がどう見ても、姉から送られたチートアイテムで弱い者いじめをしているようにしか見えないし、」

副所長「どこに感動する要素があるっていうんだ?」







249: 2014/03/12(水) 10:06:08.14 ID:lu3tS7gx0


ドゴーン!


千冬「…………訓練機相手にこれで10連勝か」

山田「パッケージを換装したことによる戦力強化が大きいですけれど、接近戦での立ち回りの強さは本物です」

副所長「ただやはり、初心者の動きであることには変わりないがな」

一夏「…………箒」


使丁「このままじゃダメな気がする」


山田「どういうことです? 武器に頼りきっているところは確かにありますけれど、ISに乗って数回の動きじゃないと思いますけど?」

山田「確かに、1週間でオルコットさんと互角以上に戦えた織斑くんと比べたら――――――」

使丁「違うんだ、山田先生」

使丁「この調子で専用機に乗せてしまったら、きっと“篠ノ之 箒”という人間の成長は訪れないじゃないかって思ってる」

山田「え」

千冬「…………」

副所長「顔を拡大してよく見てみなよ。あれが健全なスポーツマンの顔に見えるか?」

副所長「健全なスポーツマン精神がもたらすものは戦った相手への尊敬だと聞く」

副所長「剣道やってたんだよな? 全国一になるぐらいに」

副所長「だったら、こんな立居振舞は厳禁のはずなんだが」

一夏「…………」

副所長「俺が1つ、活を入れてきてやろうか?」

副所長「あの娘、きっと重大な局面で独断専行に走ってチームワークを乱すぞ」

使丁「私もそう思います」

使丁「けど、ダメです」

副所長「?」

使丁「一夏くんに活を入れたのとわけが違う。ジェンダーの問題だ」

使丁「私や“プロフェッサー”が折檻したら、即刻懲戒免職を受けることだってありえます」

使丁「やるのでしたら、同性の方に敗北の味を覚えさせるべきだと思います」

使丁「ご決断を!」

千冬「……………」

一夏「ちふ……織斑先生?」

千冬「なかなかの難問だぞ、これは」

千冬「なにせお前たちの指導が効果を上げたのは“織斑一夏”という根性のある男性だったからであって、」

千冬「それを“篠ノ之 箒”という小娘に同じようしたところで、意味は無い」

千冬「文字通り、何もかもが違い過ぎるのだ」

千冬「だから、私も判断に迷っている」


250: 2014/03/12(水) 10:06:40.18 ID:nYyIS+0E0

使丁「嘘だろう、千冬!?」

使丁「やるべきことはわかっているはずだ! 何を手間取っているんだ!」

副所長「よせ、“マス男”。千冬のいうことももっともだった。――――――何もかもが違い過ぎた」

副所長「あの時の“織斑一夏”と今の“篠ノ之 箒”とでは、本人のやる気と真剣度に差がありすぎる」

副所長「むしろ、あれで上手くいったのは、織斑一夏が単純馬鹿で無知で素直ないい子だったってところが大きいからな」

一夏「…………褒めているんだか貶しているんだか」

副所長「どっちもだよ」

一夏「あらら…………」

副所長「匙加減が難しいんだ」

副所長「負かすにしても、専用機持ちをぶつけたとしても初心者だから負けて当然だって思われるからな」

副所長「むしろ、実力の差を弁えずに必氏になって絶対的な壁である専用機持ちに何が何でも勝ってやるって喰らいついていったように、」

副所長「強敵に立ち向かう義務感があれば楽なんだが、特に“束の妹”にはそういった強い動機がないから、性格の矯正・人間的な成長ができないんだ」

使丁「…………その将来性の危うさがわかっても適切な指導がわからないわけだ」

使丁「つまり言い訳や逃げ道を作らせずに敗北を認めさせて、今の在り方を変えさせるやり方が現段階では見つからないわけだ」

千冬「そうだ。今負けても、7月には専用機をもらうから所詮は繋ぎだと敗北を直視しない可能性がある」

副所長「だが、束のことだ。渡す専用機は確実に現行機を超えた何かの可能性が大だ。それに勝てるかどうかが問題なんだよな」

副所長「くっそ、“グッチ”の野郎おおおおお!」

副所長「お前がついていながら、何だよこのザマは!」

副所長「何も見えていなかったのか、お前にはあああああああああああ!」

一同「………………」




251: 2014/03/12(水) 10:07:44.91 ID:lu3tS7gx0

――――――その夜


ザーザー、ゴロゴロ・・・


一夏「…………」

箒「どうしたんだ、一夏? 考え込んでいるなんて、お前らしくもない」

一夏「俺が何か考え込んでいるのがそんなに変かよ」

箒「ああ。お前はよくくだらないことを言ってみては、周りをしらけさせたりしたではないか」

一夏「いつの話だよ!」

箒「お前はいつだって向こう見ずで無茶ばかりしていたんだ」

箒「私が見ていなかったらどうなっていたことか」
      ・・・・・・・・・・・・・・・
箒「だから、昔みたいに私がお前を守ってやる」

一夏「え……(あれ、何だろう? 箒と話していると――――――)」

箒「なんだ、その目は? 私じゃ力不足だとでも言いたいのか?」

箒「安心しろ。私は今日の勝ち抜きバトルで10連勝もしたぞ」

一夏「いや、必要ないって。そこまでしなくたっていい」

箒「…………?」

箒「何を言っているんだ、一夏? 私は十分に戦える。だから――――――」

一夏「俺だって十分に戦えるよ! そのために猛特訓して専用機持ちにふさわしくなったんだから」

箒「いや、お前は口ではそう言ってもどこか抜けている――――――」

一夏「いつまでも子供扱いするなって!」

箒「!?」


...ピカーン!


一夏「俺は、箒が『昔と変わってなくて良かった』って思ってたけど、大間違いだった」

箒「な、何を言っているんだ、一夏?」

一夏「俺は一人じゃない。仲間がいる。IS学園に入って新しく友達になれた人がいっぱいいる」

一夏「だから、お前がそこまで俺を守ることに熱心にならなくたっていいんだぞ?」

一夏「むしろ他にやるべきことがいっぱいあるだろう、今!」

箒「!」

一夏「もっと仲良くやろうぜ? 剣道部のみんなとか、1組のみんなとかさ」

一夏「それに俺からしたら、いつまでも友達と仲を深めようとしないお前の方がよっぽど子供に見えるぞ」
   ・・・・・・・・・・・
一夏「昔からそうだったもんな」

箒「!!」

一夏「剣道は『礼から始まって礼に終わる』ものだろう?」

一夏「何というか、最初は箒の剣捌きに唸ったのに、箒がISに乗って間もなくして10連勝もしたのにちっとも嬉しいとか思わなかった」


一夏「…………感動しなかった」


一夏がそう言うと、今まで必氏になって何かを堪えていた、あるいは否定していた箒の中の何かが切れた。



252: 2014/03/12(水) 10:08:54.03 ID:lu3tS7gx0

箒「…………何を言っているんだ、一夏?」

箒「なあ、何を言っているんだか、私にはさっぱりわからないぞ……」


箒は縋るような目で一夏に問いかける。

だが、それが何について問いかけているのかが聞く側として伝わらない。逆に、何を言ってもらいたかったのか、こっちが訊きたいぐらいである。

そして、一夏には箒が抱えている歪な何かを感じ取ることができても、それが具体的には何なのかがまるでわからなかった。

かつて副所長がしてくれたように、冷静に箒が置かれている状況を分析し、何をすべきかを自分なりに考えて相手を思って告げたのだが、

人生経験の何もかもが不足していた一夏の次の一言は、箒の心を鋭く貫くのである!


一夏「俺もだよ」


箒「!!??」

一夏「…………」

箒「お前も――――――」ワナワナ

一夏「?」

箒「お前も、私のことを――――――」ヒッグ

箒「うわああああああああああああああああああああああああああ!」ダッ

一夏「箒!」ガシッ

箒「放せ、触るなあああああ!」

一夏「え」

ドンッ!

一夏「だあああああああああああああ?!」ドタ

バタン

一夏「箒! 箒ぃいいいいい!(あ、脚が――――――!)」ガクッ


ザーザー




253: 2014/03/12(水) 10:09:30.17 ID:nYyIS+0E0

他人への配慮――――――デリカシーのなさが成せる無情の一言が、彼に縋ろうとしていた少女の心を木っ端微塵にした。

箒は思わず居た堪れなくなり、物凄い勢いで部屋を抜け出そうとするのだが、扉を開けようとしたところで一夏がその手を掴んだ。

しかし次の瞬間には、自分よりも背が低くなった女の子から物凄い力で突き飛ばされ、一瞬足が地面から離れ、身体が浮かんだのだ。

尻餅をついてしまった一夏はすぐに後を追おうと立ち上がろうとするが、脚にうまく力が入らず、前に進めない。

その間にも、部屋を飛び出していった箒は一夏との距離を離していく。

いや、どこへ行ってしまうのだろうか? どこへ行こうとしているのだろう?

一夏は何がいけなかったのかを考えるよりも、とにかく箒を追って連れ戻すことだけを考えていた。

まともに歩くこともできずとも何とか扉を開けて、外の空気を感じていると――――――、


一夏「うぅ…………」ヨロヨロ

使丁「何があった!」ダダダダダ!

一夏「あ、用務員さん! 箒が出て行った!」

使丁「なにっ!?」

使丁「いや、それよりもどうした!? 脚をやられたのか!?」

一夏「尻餅をついて、脚が…………」

使丁「そうか。なら、部屋に戻って何があったのかを教えてくれないか?」

一夏「いや、それよりも箒を――――――」


使丁「今のお前に、あの子に掛けられる言葉はあるのか?」


一夏「!?」

使丁「それとも、無理やりこの部屋に連れ戻して、鎖で繋いでおくのか?」

一夏「そういうわけじゃ…………」

使丁「安心しろ。IS学園から脱走することなど不可能だ」

使丁「そして、外は雨も降っていることだし、雨宿りのために逃げこむ場所は限定されてくる」

使丁「後のことは、お前と“篠ノ之博士の妹”を一緒に部屋にさせた寮長に任せることにしよう?」ピポパ

一夏「……はい」

使丁「寮長か。実は――――――」





254: 2014/03/12(水) 10:10:24.47 ID:lu3tS7gx0

―――――― 一夏が先程までの箒とのやりとりを説明し、


一夏「――――――って感じで……」
               ・・・・・・・・
使丁「そうか。考えられる上で、最善で最悪の方法を選びとってしまったわけか……」

一夏「え」

使丁「こうなったら、俺たちも腫れ物に触るように接することはやめることにする」

一夏「あの…………」

使丁「なあ、一夏くん?」

使丁「どうして小学4年生の時に、篠ノ之御一家が引っ越してしまったか、その理由を知っているかい?」

一夏「え」

使丁「まあこれも国家機密なんだけど、幼馴染を他人と思わないきみを信用して真実を告げよう」

使丁「口外は厳禁だ(織斑一夏そのものが国家機密の塊なんだし、今更1つ国家機密を公開したって――――――)」

一夏「…………わかりました」





255: 2014/03/12(水) 10:11:01.96 ID:nYyIS+0E0

――――――重要人物保護プログラムの真相を告げられて、


一夏「そんな……、そんなことが…………」

一夏「去年の新聞で『剣道の全国大会で優勝した』ってあったけど、それから間もなく引っ越しを余儀なくされて…………」

使丁「だから、一夏くんが箒ちゃんに言った内容はことごとく箒ちゃんのトラウマを抉ることになったんだ」

使丁「だけど、全うな人間として生きるために、誰かがそれを言わなくちゃいけなかったんだ」

使丁「むしろ、よく言ってくれたと思う」

使丁「俺はそのことに感謝しているんだ。大人になると冗談でも真剣でも許されなくなることが多くてな」

使丁「一夏くんだって、――――――本当のことを言われて、それを見つめ直して、今の自分になれただろう?」

一夏「はい」

一夏「おかげで、箒が抱えている歪な何かを感じ取れるぐらいには――――――いや、俺もあんな感じだったんですね」

一夏「漠然と千冬姉に自分を無理やり重ねようとしていて…………」

使丁「誰だって、精神的支柱を必要とするものだ。そうなるのは人間として当然だ」

使丁「だが、やがてそれを失う時が必ずくるんだ」

使丁「その時、それを乗り越えられる心の強さが必要となってくる」

使丁「一夏くんだって60歳を迎えた時、千冬や俺が生きているかどうかなんてわからないし、人間誰しも氏を免れないことぐらい理解できるだろう?」

一夏「……はい」

使丁「その時、心がいつまでも千冬や俺によって支えられているようではダメなんだ」


使丁「要するに、来るべき時までに自立独立していける強い心と生き抜くための術を磨いていって欲しいんだ」


使丁「だからそういう意味では、――――――“篠ノ之博士の妹”はかなり危ない」


256: 2014/03/12(水) 10:12:18.85 ID:lu3tS7gx0

使丁「目に見えてわかりやすい不健全さだったら、注意できる。矯正できる」

使丁「けど、健全そうに見える不健全さだからこそ、それがしづらくて、その将来性を“俺たち”は危ぶんでいるんだ」

使丁「これは箒ちゃんだけじゃない。シャルロットやラウラにも共通して言えることだ」

一夏「!」

使丁「けど、やっぱり一番深刻なのが“束の妹”なんだよな……」ハア

使丁「姉妹揃って面倒ばかり掛けやがって」

一夏「…………」

使丁「二代に渡って世話をすることになるとはな…………人生とはわからないものだ」

使丁「やっぱり、姉妹ってことなのかな?」

使丁「束もいつまでも変わらない子供の精神だけど、結構根に持つやつだったからな」

一夏「え」

使丁「ともかく、これからの箒ちゃんとの付き合いとなるが、」

使丁「専用機持ちでもいいから、1組で彼女を気にかけてくれる友人を用意する必要がある」

使丁「その子に今度のルームメイトを引き受けてもらいたいところなんだが…………」

使丁「確かまだ、空いている部屋が2つぐらい残っていたはずなんだ。そこに引っ越させるんだ」

一夏「……わかりました。俺も、頑張って探してみます」

使丁「すまないな。――――――情けない大人で」


ザーザー


使丁「こんな世の中になったのも、道を示すべき大人が平和と繁栄の豊かさの中でその義務を忘却してしまったから…………」


ゴロゴロ・・・


一夏「…………用務員さん」

使丁「俺も人のことを偉そうに説教できる資格を持つ人間じゃないことは、わかっている」

使丁「俺は、…………救うことができなかったから」

使丁「(そう。だから俺は、人の氏をも厭わない覚悟で、ISに生身で立ち向かったんだ…………)」

使丁「(『あれ』が無人機かどうかは関係なく、全身全霊で本気で頃す気で立ち向かい、)」
                ・・・・・・・・
使丁「(そして、結果として俺も、最善で最悪の方法で織斑一夏に教訓を残すようなことをしてしまったんだ)」

使丁「(だが、それでもいい。人間は自分が知っていること以上のことは知らないし、対処できない。経験こそが全てなのだから)」

使丁「(だから、俺で慣れておけ)」


使丁「俺は“世界最強の用務員”として、IS学園の秩序と健やかなる毎日を守ってみせる!」グッ


ピカーン!



257: 2014/03/12(水) 10:12:51.83 ID:nYyIS+0E0

――――――6月の終わり頃


一夏「(あれから俺と箒の距離感は、用務員さんや千冬姉の執り成しによって、破局とまではいかなかった)」

一夏「(しかし、目に見えて元気がなくなり、最初の頃の険しさは鳴りを潜めた代わりに、)」

一夏「(――――――物凄く、意気消沈した『根暗なやつ』に成りつつあった)」


一夏「ああ……、どうすればいいんだ!?」

一夏「俺の言葉なんて聞きたくもないらしいし、あのままじゃ本当に人間としてダメになる!」

一夏「昔から『デリカシーがない』って言われ続けていたけど、俺は――――――!」


鷹月「ねえ、織斑くん? どうしたの、そんな深刻そうにして…………」


一夏「え」




258: 2014/03/12(水) 10:13:24.09 ID:lu3tS7gx0

――――――IS学園正門


使丁「お帰り願おうか」

担当官「いや、織斑一夏に物申さぬ限りは……!」


両者「…………」ゴゴゴゴゴ


使丁「ふざけるなよ、“グッチ”」

使丁「誰の教育で“束の妹”があんな風になったと思っているんだ?」

使丁「お前は昔から自分の正しさを絶対として、人の話を聞かなかったもんな」

使丁「ある意味そっくりだったよ、束と」

担当官「!!」イラッ

担当官「あの女と一緒にされては困る!」

担当官「私は、あの子の父親から直々に託されてあの子を見守り続けてきたんだ」

担当官「だから、あの子がどれだけ辛い思いをしてきたのか――――――」

担当官「私はその側であの子の叫びを受け止め、涙を拭い、励ましてきたんだぞ!」

担当官「それを、自分が蒔いた種なのに自分だけのうのうと姿をくらまして好き勝手にやっているあんなやつと一緒にされるとは心外だな!」

使丁「場当たり的な慰めや励ましばかりやってきたから、今のような状況に陥ったんだろうが!」

使丁「――――――『小善は大悪に似たり』とはこのことだな」

担当官「!?」

     ・・・・・・・・・・・・・・
政府高官『小善のために大善を見誤るなよ』


担当官「…………他人事だと思ってぇ!」ギリギリ・・・

担当官「私は、人間として得るべき当然の権利や幸福を奪われた“対象”のために、最善を尽くしてきた身だ!」

担当官「誰もそのことにケチは付けさせない! たとえ、“マス男”や“プロフェッサー”であろうともな」

使丁「そうかい!」ギロッ


両者「………………」ゴゴゴゴゴ


鷹月「あ、あの…………」

両者「!?」ビクッ

259: 2014/03/12(水) 10:14:05.02 ID:nYyIS+0E0

使丁「あ、ああ……、1組の鷹月静寐さんか」ニコニコ

担当官「や、やあ、こんにちは……」ニコニコ

担当官「その袋を用務員さんに届けに来たんだね」ニコッ

鷹月「はい。轡木さんが渡すようにと」

担当官「…………轡木さん、か(この学園の実質的な運営者の御老体か。相当な切れ者で老獪だと聞く)」

使丁「届けてくれて、ありがとう」ニッコリ

鷹月「はい。それでは」

タッタッタッタッタ・・・

両者「………………」

担当官「…………いい子だな」

使丁「ああ。真面目でとってもいい子だよ。気さくだし、割りとジョークもいける口で、堅物のお前より頭の柔らかい子だ」ガサゴソ

使丁「お前にはああいう大らかな性格の子がお似合いだ。それだけめんどくさい人間なんだよ、お前は」

担当官「…………フン、余計なお世話だ」

担当官「お前だって、未だに“時雨”や千冬の――――――」

使丁「さて、行こうか」

担当官「どこへだ?」

使丁「轡木さんが気を利かせてくれたらしい。――――――柔剣道場の鍵とボロボロの道着が2着だ」

担当官「……ほう」

担当官「白黒つけようじゃないか(そうか。やはり御老体は――――――)」

使丁「ああ。仕切り直しだ」


両者「………………」ゴゴゴゴゴ



260: 2014/03/12(水) 10:14:39.25 ID:lu3tS7gx0

――――――同じ頃


鈴「あんたにとって、一夏って何なのさ!」

箒「…………」

鈴「ここのところの二人の様子を見る限りだと、どうやらお互いに思い描いていた通りの相手じゃなかったって感じね」

鈴「ファースト幼馴染だからって、一夏のことを自分のものとでも勘違いしていたんでしょう」

箒「違う!」

鈴「どこがよ!」

鈴「あんたが好きなのは“昔の一夏”であって、“今の一夏”じゃないんでしょ!」

箒「!!」

鈴「(そう。これは私も同じことだった)」

鈴「(だから、箒が何を考えて、何を感じていたのかは私も痛いほどわかっていた)」

箒「貴様!」バッ

鈴「!」ガキーン!


激高した箒はすぐに木刀を手にとって殴りかかろうとするが、実力の差は著しく大きかった。


箒「なっ!(――――――部分展開! しかも速い!)」

鈴「今の、生身の人間だったら本当に危なかったわよ?」

箒「くっ……」


あっさりと対応されて、しかも冷静に正論をつきつけられ、

また、箒自身が『すぐに手を出してしまう』自分の悪癖を自覚していただけに、

鈴との間に天と地ほどの格の違いがあったことを痛感させられてしまった。

つい先日、自分が守ろうと思っていた対象:一夏から逆に『子供』だと指摘されていただけに、

自分が想っていた相手から強く否定され、そして自分で自分を否定する局面にまで追い詰められつつあった。

だが鈴は、相手の心が氏にゆくのを傍目で見ながら心の中で嘲笑う気はなかった。

なにせ、気分が悪くなる。そんな様子を見届けるのも、そんなふうに追いやる自分に対しても。

だから――――――、


鈴「でも、いいわ」

鈴「今のは私に対して決闘の手袋を投げてよこしたものだと解釈してあげる」


鈴「勝負よ、“ファースト幼馴染”篠ノ之 箒!」


箒「…………!」

箒「受けて立つ!(専用機持ちを倒せる実力を私が持てば、きっと一夏も私に守られてくれるはず……)」

鈴「…………やっぱりね(そうよね。勘違いとは言え、これまで『好きだ』って思っていたこの気持ちを今更捨てられないもの)」



261: 2014/03/12(水) 10:15:10.97 ID:nYyIS+0E0

――――――時間は少し遡り、


一夏「聴いてくれてありがとう、鷹月さん」

一夏「“クラスで一番のしっかり者”が鷹月さんで良かった」

一夏「あ、いやいや――――――、鷹月さんが“クラスで一番のしっかり者”で良かった……」

鷹月「ふふっ、おかしい……」プルプル

一夏「ご、ごめん!」

鷹月「気にしてないから、安心して……」プルプル

鷹月「でも、言う順番が変わるだけで印象が全然違ってくるもんなんだね」

一夏「そうだな。俺が“世界で唯一ISを扱える男性”だからみんなに好かれるのか、」

一夏「それとも、“世界で唯一ISを扱える男性”が俺だからみんなに好かれているのか――――――」

鷹月「う~ん。ちょっと前までは、織斑くんが“世界で唯一ISを扱える男性”だったからみんな興味津々だったけど、」

鷹月「今は違うかな」

鷹月「“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑くんだから、みんな織斑くんに夢中なんだと思うよ」

一夏「(あれ、何気なく言ってみたけど、これって意外と核心を突いているような――――――)」

一夏「あ」

一夏「…………」ハア

一夏「そうだよな。最終的に行き着くのってそこなんだよな」ハハハ・・・

一夏「“先生”だから言うことを聞きたくて聞くってわけじゃない」

一夏「その人が“先生”にふさわしくないと思っているから言うことを聞かないっていうのが本質だよな」

一夏「千冬姉だって、“ブリュンヒルデ”になったから世界最強なんじゃなくて、世界最強だったから“ブリュンヒルデ”になったんだ」

一夏「似ているようで、全然違う」

鷹月「織斑くん」

鷹月「あのさ、篠ノ之さんのことなんだけど、」


鷹月「私がルームメイトになってあげるよ」


一夏「!」

一夏「本当か!」

一夏「あ、いや……、同情でルームメイトを希望されても箒は拗ねるだろうな」

鷹月「大丈夫! 私に任せて」

一夏「……そうだな。“クラス一のしっかり者”の鷹月さんに期待させてもらうとするよ」

一夏「そう言ってくれて、本当に助かったよ……」

鷹月「どういたしまして」

鷹月「それじゃね」

一夏「ああ……」


262: 2014/03/12(水) 10:15:39.80 ID:lu3tS7gx0

――――――そして、時は流れて


一夏「そうだよな。俺はもっと広い目で世界を見るべきだったんじゃないか?」

一夏「鷹月さんのように、話せば“篠ノ之 箒”という一人の人間のことを理解してくれる人だっているんだ」(ある程度真相は隠蔽しているが)

一夏「 逆 転 の 発 想 だ ! 」

一夏「『AIC』によって近づいて攻撃できないなら、近づかずに攻撃すればいい『AICC』の時と同じやり方をすればいいんだ!」

一夏「つまり、箒が友達を作るように働きかけるのではなく、赤の他人が箒と友達になるように働きかけるべきだったんだ!」

一夏「今までそれができなかったのは、重要人物保護プログラムのせいだったけど、」

一夏「今はありのままの“篠ノ之 箒”でいられる!」

一夏「 こ れ だ ! 」


女子「ねえ、今アリーナで噂の転校生と2組の代表候補生が戦ってるんだって!」

女子「へえ、そういえば“篠ノ之博士の妹”ってこの前の勝ち抜きバトルで飛び入り参加で10連勝したんだって」

女子「でも、訓練機相手だったんでしょう? さすがに専用機相手に勝てっこないって」

女子「そうそう。織斑くんの時とは勝手が違うって。だって、織斑くんは“千冬様の弟”で、転校生は“開発者の妹”だもん」

女子「はやくはやく!」


一夏「…………鈴と箒が?」

一夏「何か問題が起きなければいいのだが…………(あれ? 俺、セシリアに勝ったことになっているのか? そういうふうに聞こえたが……)」



263: 2014/03/12(水) 10:16:12.46 ID:nYyIS+0E0

――――――アリーナ


鈴「少しはやるじゃない!(改めて『打鉄』の防御力と安定性に驚かされるわ。さすがは世界シェアNo.2)」

箒「まだまだぁ……!(こいつに打ち勝てば一夏もきっと見直すに決まってる! 負けられない!)」

鈴「けど!(箒ってたぶん私と同じように積極的に攻めこむタイプだろうから、『打鉄』の機動力の乏しさにイライラさせられているはず)」ヒュウウウン!

鈴「うらあああああ!」ブンブン!

箒「はあああああああ!」ガキンガキーン!


――――――
一夏「あいつら、何をやってるんだ?」

一夏「(二人揃って手加減でもしているのか? それとも、レクリエーションで格闘縛りでもやっているのか?)」

一夏「(なぜ鈴は『龍咆』を撃とうとしない? 勝つだけなら、距離を取って一方的に撃てばそれですむはずだろ?)」

一夏「(そして箒も、必殺の『空裂』『雨月』を使おうとしない。あくまでも、二刀には二刀って感じに振るっているだけ……)」

一夏「正々堂々、自分たちのプライドを賭けて戦っている――――――、というのか?」

一夏「なぜそうなったのかはわからないけど、――――――いい傾向と見るべきなのだろうか?」
――――――


ガキンガキーン!


箒「これで、18合ってところか……」ハアハア・・・

鈴「結構やるじゃない……」ハアハア・・・


――――――
一夏「格闘戦ともなったら機体性能や適性よりも、パイロットの直接の戦闘能力が勝負を左右する」

一夏「そして得物が大きい分、鍔迫り合いになりやすく、互いになかなかダメージを通すことができない」

一夏「一方は、第2世代型ISにおいて最高の防御力を誇る『打鉄』」

一夏「もう一方は、第3世代型ISにおいて燃費と安定性を重視した最新鋭機『甲龍』」

一夏「基本的にこの格闘縛りで戦うのであれば、長期化は必至!」

一夏「となれば、どちらかが先にぶっ倒れるまで勝負は続く…………」

ラウラ「大した根性だ。少しは見直してやる」

一夏「ラウラか」

シャル「僕もいるよ、一夏」

一夏「おお、シャルロットもか」

セシリア「私もおりましてよ」

簪「私も」

一夏「おお」

簪「頑張っているよね、箒」

一夏「ああ。今まで意気消沈していたのに、何があそこまで箒を突き動かしているんだろう…………」

一夏「それに鈴だって、射撃が不慣れな箒に遠慮することなく射撃戦に持ち込めばあっさり勝てるのに…………」

セシリア「一夏さん」ハア

簪「そんな単純な勝負じゃないと思うよ、一夏」

一夏「え」
――――――

264: 2014/03/12(水) 10:16:54.94 ID:lu3tS7gx0


鈴「…………」スゥーハァーー

箒「…………来る!」

鈴「でやああああああ!」ブン!

箒「はああああああああ!」ブン!

ガキンガキーン!

鈴「くぅ……」ゼエゼエ

箒「…………く」ゼエゼエ


――――――
一夏「……もういい」

一夏「やめていい! やめていいから! やめてくれ! ――――――やめろよ!」

一夏「休み休みやっているとはいえ、明らかに度を越しているぞ!」

一夏「機体が壊れるよりも先に、お前たちの身体が壊れるぞ!」

一夏「見てられるか!」ダッ

シャル「一夏!」

セシリア「一夏さん!」

ラウラ「…………?」

ラウラ「あれは何だ?」

簪「どうしたの?」

ラウラ「アリーナの天井に何か、……いる?」

シャル「何だろう?」

簪「管制室に確認をとってみる」ピピッ

セシリア「――――――っ!」ダッ

シャル「セシリア!?」
――――――

265: 2014/03/12(水) 10:17:35.13 ID:nYyIS+0E0

――――――アリーナの外


使丁「急げええええええええええ!」ダダダダダ・・・(ボロボロの道着)

担当官「言われるまでもなああああああい!」ダダダダダ・・・(同じく、ボロボロの道着)

使丁「束めええええええええええ!」(身体のあちこちが痣だらけ)

担当官「好きにやらせるかああああああああ!」(同じく、身体のあちこちが痣だらけ)

千冬「揃いも揃って馬鹿共が! 手間を掛けさせるな!」ダダダダダ・・・

副所長「急げ! アリーナを乗っ取られてからでは何もかもが遅すぎる!」ダダダダダ・・・

副所長「アリーナには篠ノ之 箒と凰 鈴音が試合中! 試合時間30分以上――――――!?」

副所長「どういう試合展開だ、これは……?」

千冬「だが、戦力と数えることはできそうもないだろう。そこを襲われたらひとたまりもないぞ!」

使丁「鈴ちゃああああん!」ダダダダダ・・・

担当官「箒ちゃああああん!」ダダダダダ・・・


ドドドドドドドドドド!

266: 2014/03/12(水) 10:18:05.10 ID:lu3tS7gx0

――――――場面はアリーナに戻り、


一夏「まだ、続いているのか……」ハアハア・・・

一夏「もうやめろ、二人共……!」


箒「ふあああああ!」

箒「(ここで折れたら、私が私で無くなってしまう気がして…………)」

鈴「はぁああああ!」

鈴「(こんなのは代表候補生がする試合じゃないってのはわかってる。けど、これが女の意地ってやつよ!)」


――――――負けたくない!



一夏「え」ピィピィピィ

一夏「――――――IS反応、――――――『未確認』!?」

一夏「あ!」


ヒュウウウウウウン!


一夏「退避だ! 退避しろおおおおおおおおお!」

箒「…………一夏?」ゼエゼエ

鈴「げ、幻聴じゃないわよね?」ゼエゼエ

鈴「けど、退避って――――――」ピィピィピィ

鈴「…………上?」

鈴「あ――――――、危ない!」ガシッ

箒「あ……」

ドッゴーン!

箒「な、何だ、こいつは…………」

鈴「こ、こんなことがまた起こるだなんて…………」


――――――夢なら醒めてよ、まったく。



267: 2014/03/12(水) 10:18:43.42 ID:nYyIS+0E0

無人機「――――――!」

一夏「くそっ! いつだったかの無人機の仲間か!(今度のは朱くて鎧武者って感じがするな。見た目通り、接近戦が得意なのだろうか?)」

セシリア「一夏さん!」バヒュン!

一夏「セシリア!?」

セシリア「一夏さんが行ってしまわれた直後に、怪しげな影がアリーナ天井付近で確認されたので、もしやと思い、すぐに追いかけてきましたわ」

一夏「助かったぜ、セシリア! 俺だけじゃ不安だったからな」

一夏「それじゃ、行くぞ!」

セシリア「はい!(以前は助けられる側でしたが、今度はお助けいたしますわ!)」

――――――
ラウラ「なにっ! シャッターが!」

シャル「これじゃ、外に出ることもできないよ!」

簪「また、こんなことが起こるなんて、――――――そうだ! 前と同じように!」ピピッ

簪「副所長――――――」
――――――

268: 2014/03/12(水) 10:19:13.46 ID:lu3tS7gx0

無人機「――――――!」ダダダダダ・・・

一夏「なんて弾幕だ……(こいつ、前のが極太レーザーだったのに、今回のはそのレーザーを散弾にして撃ちだす感じになってやがる……!)」

セシリア「こ、これでは近づくこともできませんわ!(圧倒的な面制圧力で回避で精一杯……!)」

一夏「危なっ――――――(――――――『零落白夜』!)」スパッ

一夏「なにっ!?(シールドバリアーが反応した!?)」

一夏「嘘だ! 『零落白夜』だったらどんなレーザーだって――――――」

一夏「いや、まさか…………(――――――レーザーじゃないなら“それ以外”しかあり得ないじゃないか!)」

一夏「こいつ、実弾も紛れ込ませているのか!(これじゃ、一か八か『零落白夜』を構えながら突撃だなんて無理じゃないか!)」

一夏「とにかく、……鈴と箒が離脱するまでの辛抱だ!(くそ、距離が遠すぎるけど――――――『AICC』!)」

一夏「とりゃああああ!」ブン!

セシリア「距離が全然足りてませんわ、一夏さん!」

一夏「…………回避に徹するしかないか(中距離までなら狙いは完璧だけど、それ以上は絶対に届かないし、いろいろと隙だらけだ!)」

一夏「(何とかセシリアが攻撃できる隙を作ることができれば、でかい的だし当てるのも簡単で、一気に崩して俺が『零落白夜』でとどめを刺せるのに……)」

無人機「――――――!」

一夏「くっ」

セシリア「…………くぅ!」

一夏「(二手に分かれているのに、器用に両手でそれぞれ別の標的を狙えるだなんて、隙が無さ過ぎる……!)」



269: 2014/03/12(水) 10:19:48.84 ID:nYyIS+0E0

鈴「…………エネルギーは十分でも中身がこんな状態じゃ、まともに戦えないわよね?」ゼエゼエ

箒「…………い、一夏ぁ」ゼエゼエ

箒「お前は、私が守る――――――」

鈴「あんたねぇ! こんな状態でしゃしゃり出たって邪魔になるだけよ!」

鈴「あっちが今求めているのは、――――――速やかなる撤退、それだけよ」

箒「いやだ、私は――――――」

鈴「…………呆れた」

鈴「(けど、このまま撤退できるのかしら? いや、していいのかしら?)」

鈴「(セシリアが開幕の先制攻撃で気を逸らしてくれたおかげで、照準があっちに向いてくれたけど、とんでもない弾幕じゃないのよ!)」

鈴「(こんなのとまともにやりあって勝てるISなんて存在しないはずよ…………いたら正真正銘の化け物よ)」

鈴「(やるとしたら、誰かが囮になって攻撃を引き付けて、その隙を突いて側面を突くっていうのがセオリーだけど…………)」

鈴「(けど、生半可な攻撃じゃ、あのどっしりとした朱い機体を怯ませることができないだろうし、逆にこっちが蜂の巣にされちゃう)」

鈴「あ」

鈴「ねえ、あんた。そんなに一夏の役に立ちたいって言うんなら、『あれ』使いなさいよ!」

箒「なに……!」

鈴「『あれ』だったら倒せないまでもあの二人が反撃に転じる隙を造り出すことができるはずよ!」

鈴「それで、あんたが狙われたらさっきみたいに私があんたを運ぶから!」

箒「わ、わかった!」

鈴「一夏、セシリア、聞こえてる――――――」ピッ

箒「――――――『雨月』、行くぞ!」

箒「…………」スゥーハァーー

鈴「行くわよ、みんな! さあ、やって!」


一同「応!」


箒「…………!」カッ

箒「突きぃいいいいいいいいいいいい!」ブン!

ドッゴーン!

無人機「!!!!」グラッ

一夏「やった!」

セシリア「今ですわ!」ジャキ、バヒュンバヒュン!

一夏「行くぜ、イグニッションブースト!(ここで一気に間合いを詰めなきゃ、いつやれるよ!?)」ヒュウウウン!


中学剣道全国一になった篠ノ之 箒にとって、剣道の突き技はまだ経験が無かったのだが、すでにISでは何度か使っており、

この篠ノ之 束が妹のために送りつけたもう1振りの太刀『雨月』は、『空裂』と同じエネルギーブレードであり、

『空裂』は振り抜くことで、巨大なエネルギー波を放出して広範囲を離れながらに薙ぎ払うことができ、

『雨月』は突きを放つことで、同時に複数のエネルギー波を直線上に放つことができ、衝撃力ならば『空裂』を凌駕していた。

『雨月』の直撃を受けた朱い無人機は大きく体勢を崩し、セシリアの『ブルー・ティアーズ』による追撃を受けて、体勢を立て直す暇を奪われる。

そこにイグニッションブーストによって止まることができない暴走列車のごとき勢いで、一夏の『白式』が迫り来る!


270: 2014/03/12(水) 10:20:29.02 ID:nYyIS+0E0

鈴「やった! これで決まりよ!」

箒「あ、ああ……」

一夏「うおおおおおおおおおおおおおお!」ブン!

無人機「――――――!」

ガキーン!

一夏「なんだと!?(腕部に大型ブレードを展開した!? しかも硬い! 短期間で進化していると言うのか!?)」

無人機「――――――!」ブン!

一夏「うわあああああああ!(重量差で『白式』が押し負けた! レーザーブレードだったらそのまま押し切れていたのに…………)」ゴロンゴロン!

セシリア「一夏さん!?」

セシリア「くっ、やらせませんわ!」バヒュンバヒュン!

セシリア「な!?」

無人機「――――――」サッ

セシリア「展開したブレードをシールドのようにして、『スターライト』を防いでいる!?(いえむしろ、逆なのでは? あれは元々はシールド――――――)」

一夏「くそ…………」ムクッ

一夏「え」アセダラダラ

無人機「――――――!」ジャキ

一夏「…………嘘だろう(この距離であんなガトリング砲を撃たれたら、―――――― 一瞬だ。一瞬で蜂の巣にされるじゃないか)」

一夏「(しかも、セシリアの狙撃を見向きもしないで片手で防いで全く動じていない!?)」

一夏「(くそ、俺に向けられたもう片方の手のガトリング砲から今にもレーザーの嵐が…………)」

一夏「(すぐに立ってイグニッションブーストしかない! 方向はどこへ? ――――――どこでもいい!)」

271: 2014/03/12(水) 10:21:02.80 ID:lu3tS7gx0

一夏「うわああああああ!(イグニッションブースト!)」スッ

箒「一夏、今助け――――――あ」

鈴「どうしたの! ――――――あ」

無人機「――――――!」ダダダダダ・・・

箒「一夏ああああああああ!」

一夏「間に合ええええええええええええ!」ヒュウウウウウウン!

セシリア「一夏さん!」バヒュンバヒュン!

鈴「やらせない! ――――――『双天牙月』!」グルングルン!

無人機「!!!!」ガシッ

箒「あれを掴んだのか!?」

鈴「これでいいのよ!」

箒「あ」

一夏「両手が塞がってるぜええええええ!」

無人機「!!!!!!!!」

一夏「はあああああああああああああああ!」ブン!

ズバッ

無人機「!!!!」

無人機「!!!!…………    」

バタン

一夏「…………」ハアハア・・・

箒「やった、のか?」ゼエゼエ

鈴「やったわよ!」ゼエゼエ

セシリア「やりましたわ、みなさん!」


――――――逆転はいつでも起こる。



272: 2014/03/12(水) 10:21:57.34 ID:lu3tS7gx0

まさかの接近戦対策の実体ブレードによって『零落白夜』の一撃必殺が通らず重量差であっさりと押し返されて、逆に窮地を迎えた一夏ではあったが、

偶然が重なり合い――――――否、それぞれが最善を尽くした結果が一筋の逆転劇を生み出したのだ。

セシリアは必氏に遠距離からの正確な射撃をし続けたことで攻撃は防がれ続けたものの、それによって朱い無人機はその場に釘付けとなり、

一夏もまた、最後まで諦めずに撃たれながらも緊急離脱によって被弾を抑え、『零落白夜』に使うエネルギーを温存することができた。

そして、極めつけは土壇場になっての鈴の『甲龍』の2振りの青龍刀『双天牙月』を連結させたブーメランである。

このブーメランは距離による減衰の激しい『龍咆』よりも重量もあって相手の体勢を崩すのにはベストだと思われた。

箒も助けたかったのはやまやまだが、『空裂』や『雨月』を使ったらすぐ近くで転がっている一夏まで巻き込んでしまう。

威力がありすぎるのも考えものだったために攻撃を躊躇う箒を見て、鈴が咄嗟に投げつけたのであった。

結局、『双天牙月』は朱い無人機によってセシリアの狙撃同様に余所見もせずに余裕で掴まれてしまったのだが、

あまりにもAIの頭が良すぎたせいで、逆に正面の一夏への攻撃を中断して両手を両側面からの攻撃の防御に向けてしまい、

せっかくの防御兼用の腕部大型ブレードも真正面からの『零落白夜』の斬撃を防ぐことなく、一瞬で一刀両断にされたわけである。


まさしくこの勝利は、諦めない者が最後に勝つ華麗な勝利であった。


そして、この勝利が一人一人の貢献によってもたらされたものであることを全員が強く認識したのである。


一同「(勝ったあああああああ!!)」

セシリア「やりましたわ、みなさん!」

鈴「なんだい、案外やれるじゃない、私たち」

箒「は、ははは…………」


だが――――――!


一夏「やったな――――――は、警告音?」ピィピィピィ

ドスーン!

無人機’「――――――!」

一夏「は」ポカーン


273: 2014/03/12(水) 10:22:40.94 ID:nYyIS+0E0

無人機’「――――――!」ブン!

一夏「うわああああああああああああああああ!」ヒュウウウウウン!

ドゴーン!

一夏「がはっ……」

一夏「」ガクッ

セシリア「なんですって!?」

鈴「もう1機!?」

箒「そ、そんな……!?」

無人機’「――――――!」ジャキ

鈴「や、やばいわよ! 離脱よ、速く!(こ、こっちに照準が――――――!)」アセダラダラ

箒「わ、私は――――――!」アセダラダラ

セシリア「こ、この!(――――――反応が鈍い! まだ終わってませんのよ、私!?)」

無人機’「――――――!」ダダ


――――――これ以上はやらせん!


ラウラ「てええええええ!」バン!

無人機’「!!!!」ボゴーン!

鈴「あ、ラウラ!」

シャル「さあ、二人共! 早く離脱を――――――!」

箒「あ、ああ…………」


――――――貸してくれ、『雨月』と『空裂』を!


箒「!」

使丁「絶対防御で砕けないのなら、使い道は他にあるはずだ!」(ボロボロの道着で痣だらけ)

担当官「エネルギーは十分に残っているな? 遠隔展開まで展開範囲を広げてくれ」(同じく、ボロボロの道着で痣だらけ)

箒「わかりました! えと……(なんでこの御二方はこんなボロボロの道着で痣だらけなんだ……)」

使丁「おや、雪片弐型が落ちているな」(空裂)

担当官「ああ、しかも『零落白夜』が展開されたままだな」(雨月)

使丁「なら、やるべきことは――――――」

担当官「――――――決まったな」

箒「あれ……(私はなんで生身の人間にIS用の太刀を疑うことなく渡してしまったんだろう…………)」

シャル「どうしたの、早く!」

箒「あ、ああ……、すまない」


274: 2014/03/12(水) 10:23:10.64 ID:lu3tS7gx0


副所長「『ブルー・ティアーズ』と『打鉄弐式』は攻撃を続行! 撹乱して、決して照準を地上に向けさせるな!」


セシリア「了解ですわ!」

簪「わかりました!」

セシリア「簪さんが来てくれたおかげで、ずいぶんと楽になりましたわ!(足を止める以上、『ブルー・ティアーズ』が使えないのが辛いところですけれど)」

簪「任せて!(さすがに欲張りすぎると危ないけれど、1斉射だけなら!)」ピピッピピッ

簪「ターゲットロック! ――――――『山嵐』!」

ドゴンドゴーン!

無人機’「!!!!」

ラウラ「なんて耐久力だ…………さすがの『シュヴァルツェア・レーゲン』でもあのような機体相手では分が悪すぎるな」

千冬「となれば、とっとと終わらせる手段は一つだけだな」

ラウラ「織斑教官!」

千冬「配置についたか?」


副所長「確認した。いつでもいけるぞ!」


千冬「よし、5秒後に仕掛ける!」

使丁「やれやれ、氏ぬなよ?」

担当官「お前こそな」

――――――5,

――――――4,

――――――3,

――――――2,

――――――1,


副所長「攻撃停止! 『シュヴァルツェア・レーゲン』は俺の号令に従って撃ちこめ! 撃て!」


ラウラ「了解」バン!

セシリア「!?」

簪「りょ、了解です……」

セシリア「わ、わかりましたわ……」

ラウラ「ご武運を!」

千冬「でやああああああああああああああ!」ダダダダダ・・・
使丁「うおおおおおおおおおおおおおおお!」ダダダダダ・・・
担当官「はああああああああああああああ!」ダダダダダ・・・


275: 2014/03/12(水) 10:24:19.98 ID:lu3tS7gx0

シャル「え!?」

鈴「なんで大人3人が生身で突っ込むのよおおおおお!」

箒「千冬さん!? “グッチ”さん!? 用務員さん!?」

一夏「ウ・・・ウウン・・・・・・」

一夏「・・・・・・チフユ、ネエ?」



まさかの2回戦突入によって、戦況は一気に混沌の様相を呈した。

新しく投入された無人機はちょうど一夏の目の前に降下してきたので、基本的な配置は変わっていない。

ただし、1回戦で戦った面々はセシリアを除いて全て戦闘続行不能となって離脱・撃破・放置されており、

空中で高機動型の2機が早速新しい無人機を釘付けにしている間に、決着をつける準備が整えられた。

とどめを刺すのは、なんとISではなく、3人の超人であった(ただし、やっぱりIS用の武器は必要)。

男2人は箒から受け取った射撃性近接ブレードを生身で持ち、まるで重量を感じさせない俊足で一気に無人機にまで接近した。

それはおそらく10秒とかからない時間だった。

無人機は空中からの攻撃が止んでもしばらくは攻撃をし続けており、ピットからのラウラの砲撃が続いたこともあって視線が空を向き続けていたのだが、

それが二人が接近することを察知させるのを大きく遅らせることとなり、

その一瞬がもたらすものとは――――――、


使丁「押し倒すぞ!」

担当官「わかっている! それしか時間を稼ぐ方法はない!」

無人機’「――――――!」クルッ

使丁「遅かったな?」

担当官「右脇!」

使丁「左脇!」

両者「とったあああああああああああああ!」

無人機’「!!!!????」フワッ

使丁「でえええええええええええい!」
担当官「うおおおおおおおおおおおお!」

ブン!

ドゴーン!

無人機’「!!!!?????」

担当官「とどめを刺せ、千冬!」

千冬「はあああああああああああああああ!」ダダダダダ・・・(雪片弐型『零落白夜』)

千冬「終わりだ!」

ズバズバズバ!

無人機’「!!!!…………    」

千冬「こんなものか」ブン!


副所長「IS反応の消失を確認! 制圧したぞ!」



276: 2014/03/12(水) 10:24:40.24 ID:nYyIS+0E0

鈴「」

箒「」

シャル「」

ラウラ「」

簪「」

セシリア「」


一夏「…………やったぜ! ……あ」ガクッ


一同「ワーーーーーーーーーーーーー!」


――――――湧き上がる勝利の歓声!



277: 2014/03/12(水) 10:25:06.79 ID:nYyIS+0E0

戦いは終わった。

最初に接近した男2人はあくまでも時間稼ぎに過ぎず、本命は『零落白夜』による一撃必殺であった。

千冬は、一夏が落としてまだエネルギーが残り続けて光を放つ雪片弐型を回収してから駆けつける必要があり、

そのために男2人は、打ち合わせもしていなかったが、直感的に2人いるのだから敵ISの両脇から太刀で押し倒すことを考えついて実行したのである。

副所長はあまり活躍していないように見えるが、オペレーターとして現場で具に戦況を見渡し適切な指揮を執った。

ラウラの砲撃は全て副所長の号令で1発1発撃たれており、絶妙なタイミングで無人機が振り向くように仕向けたのである。

それによって、一気に懐まで潜り込んだ男2人は立ち止まって上半身だけこちらを向いた無人機の脇から太刀を肩に引っ掛けて通り抜け、

そして、勢いのままに無人機を全力投球して大地に倒れこんだ。投げつけた無人機に後ろからぶつからないように回避したのである。

その間に、千冬は雪片弐型を迅速に回収して、男2人が見せつけた俊足以上の速さで倒れた無人機に容赦なく光の剣を浴びせたのである。

無人機は哀れにも、真っ二つにされるよりも酷いバラバラの刑に処され、完全に沈黙した。

それから間もなくして、『白式』のエネルギーが切れ、『零落白夜』の光の剣は千冬の手から光となって消え去った。


――――――まさしく超人の戦いぶりであった。


前衛も後衛も指揮もタイミングも、全てが神憑り的な連携行動であったのである。


――――――これが“奇跡のクラス”の実力であった。


彼らに“偶然”という言葉は似合わない。

あるのは、互いの実力を知り 全てを任せ ただ無心に力を出し切って掴みとる“必然”のみ!

4人の天才が集結すれば、IS単機を圧倒することぐらい容易いことだったのである。

だが、やはり純粋な装備で戦闘続行不能に追い込むのは、この天才たちの力量を持ってしても不可能であった。


――――――ISを倒せるのはISだけ。


これは“奇跡のクラス”の一番の出世頭である、ISの開発者:篠ノ之 束の言である。

事実、一夏が残した『零落白夜』が無ければ、きっとこんな戦法は実行されることはなく、戦いは消耗戦に陥っていたことだろう。

それでも、場にはあらゆる状況に対応できる十分な戦力が揃っているので、副所長の指揮の下に鎮圧されていたことは容易に想像がつく。

やはり、“奇跡のクラス”に隙はなかったというわけである。


278: 2014/03/12(水) 10:25:45.94 ID:lu3tS7gx0

――――――夕方、病棟


箒「…………むむむ」(病床)

鈴「…………身体が鉛のように重い」(病床)

一夏「ところで、何だって二人がバトルすることになったんだ?」

一夏「しかも、格闘縛りの耐久レースなんて、身体を壊すだけだろうが」

鈴「えと、それは…………」

箒「何というかだな、女として敗けられなかったというかだな…………」モゴモゴ

一夏「は」

箒「こんなことを言わせるな、馬鹿者!」カア

一夏「いや、言ったのお前だし」

一夏「それに、辛いのなら言わなくたっていいぞ?」

箒「あ…………」

一夏「ともかく、無事で何よりだ」

一夏「箒は誕生日が近いことだし、その前に力尽きたら氏んでも氏に切れないだろう?」

箒「…………一夏」

一夏「鈴も今日は本当によく頑張ったよ。やっぱりいつもいてくれる相手が急にいなくなっちゃうのは結構キツイもんだからさ」

鈴「…………一夏」


一同「…………」


一夏「なあ、箒?」

箒「な、何だ、一夏……?」

一夏「俺、この学園に入って凄く良かったと思ってるんだ」

箒「何だ藪から棒に……」

一夏「聴いてくれ」

箒「あ、ああ……、わかった」

鈴「…………」


279: 2014/03/12(水) 10:26:19.59 ID:nYyIS+0E0

一夏「俺はさ、IS学園に入れられたのなんか、たまたま『ISを動かした』――――――それだけの理由で無理やり入れられて今までの何もかもが奪われた気がした」

一夏「だって、俺には今までの中学の友人だっていたし、入学先に困るほど学力は悪くなかった」

一夏「それを、いきなり世間から隔絶された全寮制の女子しかいない学園に入れられたら、びっくりするだろうよ」

一夏「実際にIS学園には俺の中学から入ってきた顔馴染みなんかいなくて、本当に不安だった」

一夏「世間は女尊男卑だしさ、下手なことをしたらすぐにおまわりさんのお世話になることだってありえたからさ」

一夏「俺には俺なりに思い描いていた将来設計っていうのがあったのに――――――、もう最悪だよ」

一夏「けど、俺はそこで千冬姉や用務員さん、セカンド幼馴染の鈴と出会うことができたんだ」

一夏「特にさ、千冬姉も用務員さんも居てくれて本当に助かったけど、一番に居てくれてありがたいと思ったのは鈴の存在で」

一夏「いろいろと気軽に女子のエチケットってやつを教えてもらえたから、俺はこうして差し障りなく生活を送ることができるようになったんだ」

一夏「だから、俺は鈴には凄く感謝している」

一夏「けどさ? もしこれが、俺の方から女子のエチケットを訊き出すことになったら、きっといい顔なんてされなかったと思う」

一夏「というか、俺だけだったらどう振舞っていいのかわからなくて、きっと俺は“俺”じゃなくなっていたかもしれない」

一夏「要するにだ……」


一夏「俺と一緒に、この学園で新しい人生を始めてみないか?」


一夏「IS学園には俺がいるし、千冬姉やその他の頼れる大人もたくさんいる」

一夏「それに、ここにいれば学園の特記事項によって、箒の生活は3年間守られる」

一夏「そして、その3年間のうちに実力をつけて名を挙げれば、もう誰も箒のことをただの“束さんの妹”だって思わなくなるからさ」

一夏「俺は、IS学園に入れたから今の“俺”になれた」

一夏「そして今度は箒――――――お前とまた会うことができたんだ」

一夏「だから、鈴が俺のことをIS学園で導いてくれたように、今度は俺が箒を新しい世界に導いてやる!」

一夏「えと……」


――――――だから、お前はもうひとりじゃない。




280: 2014/03/12(水) 10:26:47.49 ID:lu3tS7gx0
――――――
使丁「なあ」(病床)

担当官「何だ?」(病床)

千冬「どうした、馬鹿共?」

使丁「これって、俺たちの取り越し苦労だったのかな?」

担当官「…………言うな」

使丁「――――――『子供の喧嘩に親が出る』ってやつか、これは?」

担当官「まあ、…………大人気なかったのは認めよう」

千冬「今頃気づいたのか?」

使丁「いや千冬はいつも、分かった風に言ってはいるけど、実際はわかってなかったろ?」

担当官「そうだぞ。だったら、どうして何もしなかった?」

千冬「…………簡単な話だ」

千冬「私の狙いは、くだらないことで悶々としているお前たちを徹底的にぶつかりあわせ、自らの行いの虚しさを自覚させることにあったのだからな」アセタラー

使丁「ふーん」ジトー

担当官「もっともらしいことを言って誤魔化すな!」

千冬「…………貴様ら」

使丁「どうやら、“ブリュンヒルデ”となって天狗となって久しいらしいな、千冬」

担当官「その伸びきった鼻面を圧し折ってやろうか?」

千冬「…………いいだろう。怪我が治ったら柔剣道場に来い」

千冬「 後 悔 さ せ て や る か ら な ! 」フフフ・・・

使丁「いいぜ! また今度のような時のために身体を鍛えておくのは大事だからな」

担当官「別に、今からでもいいんだぜ?」

使丁「……お前、仕事はどうしたんだ?」

担当官「今回の件を報告したところ、――――――『臨海学校まで学園の監視を行え』とのお達しが」

使丁「…………お前ぇ」

千冬「………………」

担当官「どうした? なぜ哀れむような目で私を見る?」

使丁「お前がいなくても通常運転の職場って…………(本当に厄介者扱いされているんだな)」

千冬「――――――『類は友を呼ぶ』、か」


千冬「束、お前を考えている?」



281: 2014/03/12(水) 10:27:20.54 ID:lu3tS7gx0

――――――夜、大浴場


ガララ・・・

一夏「あ」

副所長「やあ、“千冬の弟”。お先に入らせてもらっているぜ」

一夏「はい」

副所長「なあ、一夏?」

副所長「今日の戦いはどうだった?」


――――――感動できたか?


一夏「…………はい」

副所長「そいつは良かった。それはきっと、“束の妹”も同じだろうよ」

副所長「お前たちは独力でそれぞれが最善を尽くして無人機1機を撃破したんだ」

副所長「その興奮と喜び――――――つまり、感情を共有しあうことができたんだ」

一夏「はい」

副所長「人と人とがより親密な関係になる条件っていうのが、感情を共有しあうってことなんだ」

副所長「今日の出来事は、孤立無援だと思い込んでいた“束の妹”に一筋の光を差し込む結果になったはずだ」

一夏「はい」

副所長「だが、俺としては不十分に思っている」


副所長「根本的な問題は解決されたとは言えない。ただ単に今日の出来事で解決への糸口が見つかっただけなんだ」


副所長「それに、7月には臨海学校があって、そこで誕生日に専用機をもらうことになるはずだ」

一夏「!」

副所長「あの子は強い。腕っ節は強い」

副所長「けど、心は重要人物保護プログラムで人生の全てを奪われた時から停まっている」

副所長「どこかで徹底的な敗北感を与えて、自分を見つめ直して改める機会があればよかったんだが、それが無かった」

一夏「…………」


282: 2014/03/12(水) 10:28:05.85 ID:nYyIS+0E0

副所長「進化論は信じるか?」

副所長「生存競争に勝つために古来より生物は他の種よりも優れるために進化を繰り返してきた」

副所長「だが、食物連鎖の頂点に立つと、どうやら生物というのは安定の中で進化する能力を失っていくものらしくてね」

副所長「つまり、腕っ節が強いやつほど自分を改めるってことをほとんどしないってことだな」

副所長「まあ、変える必要がないから変えないだけなのだが、もし変える必要が迫られた時はどんな状況になっているか、理解できるよな?」

一夏「……はい」

副所長「俺が思うに、将来あの子は絶対にどこかで慢心を起こして重要な局面で致命的なミスを起こしそうなんだ」

副所長「束が強力な専用機を渡せば、確実にそうなるのが目に見えている」

副所長「あの子は自分の剣の腕に絶対の自信を持っている」

副所長「そこから己の強さを過信して、今回みたいな襲撃事件に遭えば率先して勇ましく戦うだろうな」

副所長「ただ、勇ましく戦うのはいいんだが、自分がやれば全てうまくいく――――――」


――――――だから、自分のやることを邪魔するな、あるいは従え!


副所長「なーんてことになるんじゃないかって思う」

一夏「た、確かに、そんな気はするけど…………」

副所長「現代のプロファイリングを舐めるなよ?」

副所長「どんな性格が適材適所だとか、こいつの手癖や人相は育ちが悪いなとか、そういうのは統計的にわかってきているんだから」

副所長「俺が簪ちゃんに『打鉄弐式』を託したのも、簪ちゃんの力量もそうだけど、その性格や人柄を見て選んだからだ」

副所長「『俺はこんなにも難解な装備を使いこなせる凄いやつなんだぞー』みたいな性格のやつが専用機持ちだったら、周りはどう思う?」

一夏「…………少なくとも良い気分はしません」

副所長「そう。だから、専用機持ちは“エリート”であってもいいから、自重あるいは愛嬌が求められる」

副所長「その点でお前は、どっちもあるから安心だ」

副所長「逆に、どっちもないから“束の妹”に専用機を渡すのが不安なんだ」

副所長「…………なかなか難しいね、教育ってやつは」

一夏「はい」


283: 2014/03/12(水) 10:28:23.83 ID:lu3tS7gx0

副所長「――――――教育といえば、わかりやすい悪例があったな」

一夏「え」

副所長「あの朱い無人機だよ」

副所長「あれ、どんな攻撃にも瞬時に対応できるようにAIを高性能化していった結果、最後は無防備を晒してお前に斬られただろう」

一夏「ああ……!」

副所長「何事も程々っていうのが大事なのさ」

副所長「伊達政宗の家訓にこんなものがある」


仁に過ぐれば弱くなる
義に過ぐれば固くなる
礼に過ぐれば諂となる
智に過ぐれば嘘をつく
信に過ぐれば損をする


一夏「どこかで聞いたことがありますね」

副所長「人間の素晴らしさっていうのは、この0か1以外の判断ができることにあるんだ」

副所長「あの無人機は確かに素晴らしい人工知能を搭載していたが、まだまだ人間には敵わないレベルだったな」

副所長「何が正しくて、何が善いことなのか」

副所長「それは時代の常識が常に移り変わるように、移ろいゆくのが必定」

副所長「ましてや、時代を構成している今を生きる人々の生態などあっという間に何から何まで変わっていくものだ」

副所長「だから、常識に囚われないでくれ。もちろん、常識にも則ってくれ」

副所長「わかったな?」

一夏「はい」


284: 2014/03/12(水) 10:29:01.32 ID:nYyIS+0E0

副所長「長話が過ぎたな」

副所長「最後に言っておくぞ?」


――――――“束の妹”が偉そうなことを言っても聞き流せ。


一夏「え」

副所長「さっき話した内容の通りだ」

副所長「お前の状況判断のほうが遥かに信頼できるし、総合的な実力としては間違いなくお前が1年でNo.1だ」

一夏「…………何かが起こるって言うんですか?」アセタラー

副所長「…………じゃあな」


ガララ・・・


副所長「(俺はあんなことを言って、一夏に何をやらせようとしているのだ?)」

副所長「(ともかく、できる限りのことを始めよう。――――――今日みたいなことが起こった以上は何もしないわけにはいかない)」

ラウラ「む」

副所長「おや」

ラウラ「ぷ、“プロフェッサー”……」(旧型スクール水着)

副所長「……なんだ、ラウラか。今入るのか?」ニコッ

副所長「それならこのクレヨンを持って行くといい。これで今日の記念でも残すといい」

ラウラ「“プロフェッサー”!」パァ

副所長「お前はいい子だ。ちゃんと謝れるんだから」ナデナデ

副所長「それじゃ、仲良く、礼儀正しくな」

ラウラ「はい!」ニッコリ

ガララ・・・

ラウラ「来てやったぞ、“嫁”ええええええええ!」

一夏「ら、ラウラ!?」バシャーン!


副所長「いい笑顔だ……(――――――これが“千冬の弟”が“織斑一夏”としてこの学園に来て築きあげてきたものなんだ)」




285: 2014/03/12(水) 10:29:42.82 ID:nYyIS+0E0

第4.5話 ハワイ旅行券争奪戦
First Friends

――――――翌日、学園プール


一夏「本当に悪いな、みんな」(競泳水着)

女子「織斑くんの頼みとあらば、喜んで!」

一夏「(で、鷹月さんからの提案で、水泳部の活動が終わった後にプールを貸し切りにしてもらったけど、)」

一夏「本当に箒は来てくれるのだろうか?」

一夏「鷹月さんの考えって何だろう?」

ドドドドド・・・・・・

一夏「お、来たか」

一夏「プールサイドは滑りやすいから走らないで」

一夏「うえ!?」

周囲「オリムラクン! オリムラクン!」(競泳水着)

周囲「オリムラクン! オリムラクン!」(ビキニ)

周囲「オリムラクン! オリムラクン!」(ワンピース)

一夏「ちょっと何この人数!?」

スッ・・・・・・

使丁「ええ、マイクのテストテスト……」

使丁「驚いてもらっているようだね、一夏くん!」

一夏「用務員さん!? いったいこれは何の騒ぎなんです!?」

使丁「いやあ、5月の学年別トーナメントで、優勝景品として“ハワイ旅行”を進呈しようとしてたんだけど、それがお流れになってね……」

使丁「このまま2人分余らせてキャンセル料金支払うよりは、いっそのこときみを餌に参加者を集めて、改めてタッグトーナメントをやることにした」

一夏「え…………(今何て言った…………!?)」

使丁「競技種目は至って簡単――――――!」ピッ


――――――ウォーターバスケットボールだ。



286: 2014/03/12(水) 10:30:09.57 ID:lu3tS7gx0

一夏「え? ウォーターバスケットボール? 何それ? それをこんなたくさんいる中で? 何時間かかると思っているんだ」

担当官「道を開けてくださーい」ゴロゴロ・・・

副所長「台車が通るよー」

周囲「ハーイ!」

一夏「何これ?」

副所長「このカプセルを水面に投下して引っ張ると――――――!」バシャーン

プクゥウウウウウウウウ!

周囲「オオオオ!」

副所長「はい。――――――救命いかだの完成だ」

副所長「こいつは俺のコネで譲り受けた試作品でね。で、カプセルは引き上げるっと」

一夏「なるほど。これをバスケット代わりにするんですね」

副所長「そうそう。もちろんバスケットボールをするんだから、天蓋の部分は取り外してね」スィイイイイ

一夏「あれ? 中というか、底は透明なんですね」スッ

副所長「ああ、それはな!」ニヤリ

一夏「?」

担当官「許せ、これも箒ちゃんのためだ…………」スッ

一夏「あ」

ドーン!

一夏「ぐへっ」

スイッ

一夏「あ、あれええええええええええ!?(身体が、沈む…………)」


救命いかだの中を覗き込んでいた一夏を担当官が背後から押し飛ばすと、一夏の身体は救命いかだの中に飛び込んでいった。

一夏の身体は、予想していたゴムの弾力によって受け止められることはなく、スライムに呑み込まれるように床面に沈んでいくのであった。

床は無色透明のビニールか何かでできており、見回すとさながら水族館の水中トンネルのように水の中を展望できるようになっていた。

場所がただのプールで何もなくて非常に殺風景なのが玉に瑕なのだが、体験したことがない未知の光景に一夏の心は弾んだ。

287: 2014/03/12(水) 10:30:49.64 ID:lu3tS7gx0

一夏「おお! 何かすげえ!」

担当官「そうそう。しっかりとチャックを閉めないとな。これで浸水は大丈夫だな」スィイイイイ

ラウラ「おお! まるでくらげのようだな!」(旧型スクール水着)

シャル「すごいね!」(水色ビキニ)

副所長「驚いたかい? そいつは救命いかだを流用して造ったダイビングボートなんだ」

副所長「まあさすがに水深2m程度の浅瀬までしか使えないが、水に浸かることなく水中世界を観察することができるってわけだ」

副所長「――――――今回のは特別製だけどね?」ニヤリ

副所長「どうだい、みんな? 少しは南海のイメージが湧いてきたかな?」

周囲「ハーイ!」

周囲「ワタシモノッテミターイ!」

周囲「ゼッタイニハワイニイクゾー!」

シャル「へえ。浅瀬の海を…………(ああ……、これは絶対に勝ってハワイ旅行に行かなくちゃね!)」ドキドキ

ラウラ「ハワイか。いったいところなんだろうな」ワクワク

鈴「一夏! どんな感じ? そもそも聞こえてる?」(黄色ビキニ)

一夏「ああ、鈴か。ちゃんと声は聞こえてる――――――って!?」ツルッ

一夏「うわ! 何これ?! つるつる滑ってまともに立ち上がれないって!」バタバタ

一夏「しかも、足場が安定しなくて――――――、どうすればいいんだ!?」ドテンバタン


いざ救命いかだを改造したダイビングボートなるものから出ようとするのだが、まるで立ち上がることができずにいた。

今の一夏の置かれた状況を一言で比喩すると、――――――袋の中の鼠である。

袋とは言っても、レジ袋のように底が直線上になっているものではなく、風呂敷かばんのように底が不安定なものを想像して欲しい。

フライパンで喩えるなら、ダイビングボートの底は中華鍋のように油が一点に集中するような造りとなっている。

それだけなら、まだ立つことはできるはずなのだ。

それが、まず取っ手がこの閉鎖空間に一切ないので手で何かを支えにして立つことができない。しかも出入口は外側からチャックで閉められた。

また、中華鍋と比喩したが実際は一夏の重量でそこだけが沈んでいる有り様であり、一夏が外に出ようと2つの足で立とうとするとグラグラ揺らされるのだ。

しかも、何やらゴム以外の臭いがする何かが全体に塗りたくられており、それがますます不安定な足場の悪さを酷くしていた。

288: 2014/03/12(水) 10:31:31.05 ID:nYyIS+0E0

鈴「うわあ、中でもみくちゃになってるわね……」

副所長「今回のは水深1m用小児1人保護者同伴用かつ、中に潤滑剤を塗りたくってまともに立てないようにしておきました」

副所長「更に!」ポチッ

一夏「うわ、うわわわ!?」ゴロンゴロン

シャル「一夏?!」

ラウラ「むむ! プールに水流ができたようだな」

一夏「ああああれえええええええええええ!」


――――――嵌められた!

どうやら最初からこうすることが狙いであったと一夏が悟ったら、今度は凄い勢いで一夏を呑み込んだダイビングボートを押し流していった。

水面は大きく荒れ、水面上のいかだがグラグラと傾くことによって、底面の袋の中の一夏も大いに揺らされることになった。

水面上の救命いかだそのものは常に安定していて、転覆するということはないのだが、水面下の一夏の身体はもろにその影響を受けていた。

しかも、ただでさえ足場が不安定で潤滑剤が塗りたくられて滑るのだから、何度も何度も顎や顔面を袋の中の壁にぶつかってはぶつかることに…………

まるで洗濯機の中に入れられたかのようなあらゆる感覚を吹っ飛ばす暴力に、一夏はただただ翻弄されるしかなかった。


289: 2014/03/12(水) 10:32:06.23 ID:lu3tS7gx0

箒「つまり、激しく流れている荒波のプールを浮かぶダイビングボートにこのボールを入れればいいのですか?」(赤ビキニ)

使丁「そういうことです」

使丁「ただし! 制限時間はたったの5分! タッグに与えられたボールは1点、2点、3点の書かれた軟式ボール3つのみ!」

使丁「水の上に落ちたボールを回収しにプールに入ってもいいですが、流れが激しいので救命浮輪を付けて入ってくださいね」

使丁「制限時間終了時の計測で最高得点を叩き出したタッグだけが残り、それを延々と繰り返して、最後の1組になったものが勝者となります」

副所長「この激しく流れるプールの水流は、この乱数スイッチで逆回転するから規則性は無いと言っていいぞ」

副所長「確実に入れるのなら泳いで近づいていれるのがベストだが、泳ぎが得意じゃないなら素直にプールサイドから投げ入れることをおすすめする」

担当官「救命浮輪はこちらです!」

担当官「そして、第1回戦は4回にわけて行うので、どの回に参加するかによって、混み具合で投げやすさが変わるのでよく考えてください!」

担当官「ではまず、エントリーシートをお配ります! 記入したらエントリーシートを参加したい回の数字が書かれた箱にいれてくださいね」


担当官「それでは、受付を開始します!」


周囲「ワーーーーーーーー!」


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・


大会主催者からの競技ルールの説明が終わり、参加者の受付が始まった。

学年別トーナメントの中止によってうやむやにされた織斑一夏とのハワイ旅行獲得のリベンジを夢見る乙女たちが、

今回の競技の内容を吟味して、改めて己の夢を共有できるパートナーを見つけ出しては共にエントリーしていく。

元から二人仲良く参加することを決めていた者もいれば、確実に勝てるパートナーを求めて人混みの中を流離う者もいる。

だがその中で、組む相手が思いつかず、呆然と立ち尽くす少女が一人いた。


箒「………………」



290: 2014/03/12(水) 10:32:31.30 ID:nYyIS+0E0

篠ノ之 箒は孤独であった。

厳格な父によく似て昔気質であるが気難しい性格に加え、人付き合いが下手ときている。

かと言って、積極的にそれを改善しようと努力することもなかった――――――否、努力するだけ無駄だと人知れずに教えこまれた彼女に罪はない。

だが、もし最初からIS学園に入学することを選んでいたら、どれだけ楽に生きられたことだろうか。

6月の中途半端な時期に転校してきたのは、政府が元々薦めていたIS学園に彼女の心の支えになった織斑一夏という少年が入学していたからであった。

それを知ったのは4月であり、すぐにでも転校しようとも思ったのだが、せっかく自分の意思で入ることを決めた学校をすぐに転校するのを躊躇ったのだ。

しかし、心機一転して新しい生活を始めていくのだが、やはり愛想がなく女尊男卑の世相に男っぽい性格が仇となって疎まれ、すぐに嫌気が差すことになった。

それにより、彼女の実質的な保護者である担当官“グッチ”は見兼ねていよいよIS学園への転校を再び提案する。

こうして、保護対象:篠ノ之 箒の担当官である彼は各方面に頭を下げて回り、そうして転校の手続きを済ませていよいよIS学園に転校してくる運びとなった。

ただ、今までと違うのは、偽の自分としてではなく“篠ノ之 箒”としていられることにあった。そのことと一夏とまた会えることが現状での救いとなったのだ。

だが、自分で選んで入った学校ですぐにふてくされた彼女にとって、やはり最初に入学できなかったのは非常に難易度が高かった。

織斑千冬のお情けでかつての幼馴染である一夏と同室となって胸が弾む毎日を送っていたのだが、自分にばかり付きまとう箒に一夏は冷ややかな目で見ていた。

それを知って思わず一夏の前ですら逃げ出してしまった箒にすでに寄る辺などなかった。あの夜は千冬に慰められながら一夜を過ごした。

だが幸いなことに、一夏がまじめになって解決策を求め、それを自ら実践してくれたので、現在は少なくとも前よりはマシな関係にはなっていた。
トモ
しかし、やはり同性の友達がいないことには変わりなく、彼女が「強敵」と呼べる人物は一夏のセカンド幼馴染のみ。他は全て一夏の友人でしかなかった。

この大会は先月の学年別タッグトーナメントの(優勝景品的に)再戦とも言った内容であり、元からタッグを意識していた周りと違って、

学年別トーナメント未参加でそれを意識したことがなかった箒はただ立ち尽くすばかりになっていた。

すると――――――、


鷹月「ねえ、篠ノ之さん」

箒「えと……、鷹月さん?」

鷹月「私と組もう」ニコッ

箒「え……」



291: 2014/03/12(水) 10:32:54.87 ID:lu3tS7gx0

副所長「どうだった? バランスの取れない世界っていうのは」スィイイイイ

一夏「…………危うく吐きそうになりましたけど、何とか堪えました」

一夏「それよりも早く引き上げてくれませんか? 中がスベスベでしかも不安定でこうやって手を伸ばしていることですら、相当なバランス感覚が…………」プルプル

副所長「やだよ。というか、それが今回の訓練内容だからな」

一夏「ええ!? 何ですかそれ……!?」

副所長「繊細なバランス感覚を研ぎ澄ます訓練だ」

副所長「しかも、ボールが入ってくるからますます足場が悪くなり、バランス感覚は非常にシビアになってくる」


副所長「だが、これを乗り越えた時に、きっと以前よりも強くなれるはずだ」


一夏「!」

一夏「わかりました。やってみます!」

副所長「ああ」

副所長「それより、鷹月さんと“束の妹”がペアになったみたいだぞ。見えるだろう?」

一夏「あ…………(――――――鷹月さんはこのことを知っていた?)」

副所長「いい子よ、あの子。あの子だったらきっと、“束の妹”の支えになってくれると思うぜ」

一夏「そうですね(そうか、なるほどな……)」フフッ

副所長「はい。それじゃ、集計も終わったことだし、1回戦第1試合始まりね」スィイイイイ

一夏「ちょっと待って! ああ――――――!」グデングデン


292: 2014/03/12(水) 10:33:36.79 ID:nYyIS+0E0

――――――1回戦第1試合


担当官「では、参加する回に間違いはありませんね? それ以外の選手はプールサイドから出てください」

周囲「ハーイ!」

使丁「おお?(2,4,6,8――――――)」

副所長「おや、たった8タッグだけ?」

担当官「みんながみんな様子見をしようとしたのか、最初の混み合いを避けようとしたのか――――――、どっちにしてもこれは圧倒的に有利ですね」
――――――
一夏「何でもいいから、早く始めてくれえええええ!」アセアセ
――――――

箒「ボールの感覚はこんなもんか。加減が難しそうだな」

鷹月「そうね。思い切ってプールに入っちゃおうかしら?」

箒「いや、さすがにそれは危ない」

箒「そうだ! 私と鷹月さんでプールを挟んで投げ入れれば、入る可能性は結構あがるんじゃないのか?」

鷹月「そうね。それがいいかも」

鷹月「あ……、けど、誰がどのボールを持ってく?」

箒「そうか。ボールは3つで、それぞれ1点、2点、3点となっているから、ただ入れればいいって話じゃないのか」

鷹月「なかなか悩ましいね」

箒「それじゃ、私が1点と2点のやつを持って、鷹月さんが3点ので、どうだ?」

鷹月「いいんじゃないかな? なるべく手前に来た時に入れるのがいいよね」

箒「そうだな。そうしよう。うん」ニコッ

鷹月「うん」ニコッ


使丁「よし、カウントを始めてくれ」

副所長「試合開始5秒前――――――!」
――――――
一夏「ぬうええええ、このおおおおおお…………」プルプル
――――――
箒「よしよし、こっちにこい、こっちにこい!」

鷹月「頑張って、篠ノ之さん!」フフッ


3、2、1、ピーーーーーーーーー!


使丁「試合開始!」



293: 2014/03/12(水) 10:34:21.85 ID:lu3tS7gx0

周囲「エイエイ!」ブンブン!

スカスカ

周囲「アア・・・・・・」ガックリ

箒「結構手前に見えるけれど、なかなか入らないもんなんだな…………どうする?」

箒「(いや、ここで迷ってどうする! 入ると思わないから入らない――――――、ここは無心でいくぞ!)」

箒「えい!」ブン!

ストン!
――――――
一夏「よし、何とか安定してきたぞ。しばらくこのままでいてくれよ」コン

一夏「あ!? 何か入ってきた!?」グラッ

一夏「あ、ああああああああああああ!」ゴロラゴロラ
――――――
鷹月「ナイスシュートだよ、篠ノ之さん!」ニコニコ

箒「あ、ああ! やったぞ! えと、――――――2点だ!」ニコニコ


使丁「おおっと! これは開幕直後の先制点! 入れたのは、篠ノ之さんと鷹月さんのペア:7班のようです!」

使丁「さて、ここで戦法が大きく二分されてきた模様――――――」

副所長「今回は人が少ないから、広々としていることを活かしてゴールを追う側と待ち構える側にわかれたようだな」

担当官「プールサイドは滑りやすいので走らないでくださーい!」


鷹月「もうちょっと近づいて来てくれないかな……」

箒「むむむ……、一夏め! 流されてばかりいるな!」
――――――
一夏「くそっ、たかだかボール1個2個で、こんなに感覚が違ってくるなんて…………」

一夏「えっと、こうか?」プルプル・・・

一夏「こうやって、両手両足を付いてっと……」

一夏「この体勢を維持できるようになれば、バランス感覚が鍛えられるはず…………」プルプル・・・

一夏「おっとっと……」

一夏「体重の掛け方でこうも変わってくるんだな……」アセダラダラ

一夏「バランス感覚を鍛えるスポーツっていうのもなかなか…………」フフッ
――――――
箒「…………何とかならないのか、この波模様は?」

鷹月「さっき3ポイント入れたところもいるし、どこかで勝負を仕掛けないとまずいよね?」

箒「そうだな。最後の30秒は荒波のプールに入ることも考えないといけないか……?」


294: 2014/03/12(水) 10:35:01.09 ID:nYyIS+0E0

副所長「さて、残り1分を切ったってところか」

副所長「第1試合としてはもっとバタバタして水面にボールがたくさん浮かんでいるのを想像していたけど、これまた予想外の展開になったな」

副所長「それと、みんな……、もう“千冬の弟”が水面下でどうなっているかなんて忘れちゃっているよね。悲しいかな悲しいかな……」

副所長「けど、随分慣れたものじゃないか、一夏よ?」


箒「あ、絶好のチャンスだ! えい!」ポイッ

ストン!

箒「やった! これで3点だ!」

鷹月「ああ……、躊躇っちゃった」

鷹月「(どうしよう? ここで私が3点入れないと、ここだけで勝敗を決めるわけじゃないから、6点全部入れないと多分勝ち抜けないよ……)」

鷹月「うぅ……」

箒「あ、どうした、鷹月さん?」

鷹月「私には無理そうだよ。篠ノ之さんが投げて」

鷹月「役に立てなくてごめんね」

箒「あ…………」

箒「いや! 私は鷹月さんを責めない! だから、思い切って投げてくれ! そのほうがせいせいする!」

鷹月「ありがとう、篠ノ之さん」ニコッ

箒「あ、いや、私の方こそ、組んでくれて、ありがとう」モジモジ


副所長「残り20秒……」


鷹月「それじゃ、投げるね?」

箒「ああ。思いっきりいけ!」

鷹月「…………ええーい!」ポイッ

周囲「エイ!」ポイポイ


使丁「意を決したかのように、それぞれが最後のチャンスとして一斉に投げたああああああ!」

担当官「さあ、どうなる?(神よ、箒ちゃんに味方し給え…………)」

副所長「今のところ、最高得点が3点。これ以上得点が上がることがあれば、後続に対して大きなプレッシャーとなるな」

副所長「ここが回を分けたことによる戦略の差よ。第1試合を選んだ連中は運がいいな」

副所長「(このことをきっかけにして、よく考えることをより多くの生徒が学ぶことを切に願う)」




295: 2014/03/12(水) 10:35:34.30 ID:lu3tS7gx0


ストン


鷹月「…………入った?」

鷹月「今、……入ったよね?」

箒「すまない。球がいくつか入ったのは確かに見えたが、私たちの球だったかまでは…………」

箒「けど! よくやったと思っているぞ、私は!」アセアセ

鷹月「大丈夫。篠ノ之さんのことはさっきのでよくわかったから」ニコッ

箒「!」

箒「そ、そうか……」


3,2,1,ピーーーーーーーーー!


使丁「では、第1試合終了です!」

使丁「さて、ダイビングボートから球の中身を確認するので、しばらくお待ちください」

副所長「現在のところ、1回戦の最高得点は3点のようだが、これ以上となると第2試合以降のみんなが苦しくなるな」

副所長「さて、確認しようか」スィイイイイ

一夏「あ、“プロフェッサー”…………」グッタリ

副所長「さすがに5分間も緊張状態が続けば疲れるものだな」

副所長「だが、少なからず後4回はやってもらう」

一夏「うええ!? 勘弁してください。全身油塗れでヌルヌルだ…………」

副所長「それじゃ、このおたまに球を1個ずつ載せていってくれ」

一夏「げえ!? なんでおたまで――――――!」

一夏「えっと、こうやって球をとって、体重をこう掛けて…………」プルプル・・・

副所長「頑張れ頑張れ」

一夏「…………はい」ポトッ

副所長「えっと、普通の球は1点で、番号は5」

副所長「次――――――」

一夏「うええ…………」

担当官「さて、こっちはこっちで水面の球の回収――――――」


鷹月「入ったのかな、入らなかったのかな?」ドキドキ

箒「頼む。入っていてくれ……」ドクンドクン


296: 2014/03/12(水) 10:36:10.04 ID:nYyIS+0E0

一夏「これで、最後ですよ……」プルプル・・・

ポトッ

一夏「あ、ああああ! くそ、疲れる……」バタン

副所長「あ、これは…………」


鷹月「最後の球は――――――」

箒「…………!」


副所長「赤球3点、番号は7!」

副所長「7班の得点:6点!」


鷹月「聞き間違い、じゃないよね……」ドクンドクン

箒「いや、確かに『番号は7』だって……」ドクンドクン


使丁「おめでとうございます! 7班の篠ノ之さんと鷹月さんのペア、見事にパーフェクトです!」

使丁「みなさん! 盛大に拍手をお願いします!」

パチパチパチパチパチ・・・・・・

使丁「いきなり優勝確定か!? 2回戦に入るためには満点を取らなければ即敗北となります!」


箒「や、やったぞ! 鷹月さん!」

鷹月「ありがとう、篠ノ之さん!」


鈴「へえ、やるじゃないの」

シャル「これはいきなりハードルが高くなったね」

ラウラ「任せておけ、シャルロット。投擲には自信がある」

シャル「そうなんだ。それじゃ、頼らせてもらうよ」

鈴「絶対に勝あああああつ!」ゴゴゴゴゴ



297: 2014/03/12(水) 10:36:51.70 ID:nYyIS+0E0

――――――そして、1回戦が終了して、


使丁「最初の7班によって上げられたハードルによって、参加したペアのほとんどがふるいにかけられてしまいました」

使丁「残ったペアはたったの6組12人!」

使丁「よって、これより決勝戦を開始したいと思います!」

周囲「イエーーーーイ!」パチパチパチパチパチ・・・・・・

副所長「とは言っても、大体が代表候補生なんだけどさ」

使丁「では、ゴールの準備もできたようなので、」

使丁「――――――選手入場です!」
――――――
一夏「これでやっと終わるんだ…………」アハハ・・・
――――――

7班:篠ノ之 & 鷹月    (第1試合)

22班:鈴 & 相川清香    (第2試合)

34班:のほほんさん & 簪  (第3試合)

50班:ラウラ & シャルロット(第4試合)

EX :織斑先生 & 山田先生 (第4試合)


副所長「やっぱり、千冬の参加は無しにしたほうがよかったんじゃないのか?」

担当官「そんなこと言われても、生徒たちが面白がって、こちらとしては断りづらい雰囲気になって…………」

副所長「お前としてはどの班に勝ってもらいたい――――――いや、愚問だったな」

担当官「ああ、愚問だな。言うまでもなく、――――――7班だ」

担当官「しかし、まさかラクロス部とハンドボール部部員の力があれほどとは…………」

副所長「相川清香か。とっても元気が良くて、これまたいい子だぞ」

担当官「まったくこういうところで、球技部の距離感の強さが著しく発揮されたもんだ」

担当官「ラクロスというものは初めて見たが、あんなにも球が速く飛んで行くんだな」

担当官「しかも、一番人数が集中して混雑した激戦区を突破できた辺り、悔しいけどこれは優勝するだろうな」

副所長「けど、更識家の二人もよくやってるじゃないか」

担当官「そうだな」

担当官「…………底が知れないな、本音ちゃんは(あれも徹底的な教育の賜物なのだろうか)」ボソッ

副所長「簪ちゃん、もうちょっと頑張ってみてくださいや(まあ、参加してくれているだけでも大きな進歩だけどな)」ニコニコ


298: 2014/03/12(水) 10:37:54.52 ID:nYyIS+0E0

シャル「学年別トーナメントが全生徒強制参加で、このリベンジマッチが自由参加なのはわかるんだけど…………」

ラウラ「どうした、シャルロット?」

シャル「確実に勝つ手ってないかな………………強敵が多すぎるよ」ハア


鈴「ふん! ふんっ!」ブン!

相川「これは私たちの勝利まちがいなしよ!」


本音「さあ、カンちゃん! 優勝してハワイに行こー」

簪「いや、私は別にそこまで行きたいってわけじゃ…………」

本音「いいのいいの。何でも経験が一番なのだー」

簪「う、うん。確かにそうかもしれないけど…………」


箒「強敵揃いだが、勝ち上がったのは天運のはずだ!」

箒「一緒にハワイ旅行を掴みとるぞ!」

鷹月「おー!」


山田「あの……、飛び入り参加して景品を横取りするようなことって、なんだか大人気ないような…………」

千冬「なに、ちょっとばかりこの余興に緊張感を与えるだけだ。そこまで私はがめつくはない」

山田「…………本当は弟さんがどの子と一緒にハワイに行くことになるのか気になっているくせに」ボソッ

千冬「何か言ったか、山田先生?」ギロッ

山田「い、いえ、何も…………」



299: 2014/03/12(水) 10:38:45.28 ID:lu3tS7gx0

使丁「さて、ルールを確認しますが、――――――制限時間は5分! 合計で6点となる3つの球を荒波に揺れるゴールに入れることができれば得点となります」

使丁「ISおよび水に沈むものの使用、ゴールの動きを制限する行為は禁止ですが、それ以外なら何をどう使って入れても構いません」

使丁「そして、最高得点を出したペアが優勝となりますが、同点となった場合はその班だけで延々と延長線を行います」

副所長「誰がどう見ても、1試合だけで優勝が確定するようには思えないがな……」

使丁「(あ、そこまで考えてなーい! まあいいや、5分のうちに考えておこう。もしかしたら、それで優勝となる可能性だってあることだし…………)」

使丁「では、用意を! ――――――カウント!」

副所長「はいよ」ポチッ


3,2,1,ピーーーーーーーーー!


使丁「決勝戦開始!」


――――――
一夏「あ、始まったのか……(でも、4回も水底で揺らされて何か掴めたような気がする――――――だから!)」
――――――


300: 2014/03/12(水) 10:39:20.58 ID:nYyIS+0E0

ラウラ「…………」ジー

鈴「…………もうちょっと留まりなさいよ、そこに」

簪「ここはまだ…………」ジー

箒「ダメだな。もうちょっと寄ってくれないと…………」

千冬「どう見る?」

山田「えと、弾丸の扱いなら得意ですけど、こういうのはちょっと…………」

周囲「・・・・・・」


担当官「大丈夫なのか、これは?」

副所長「乱数マップを見る限りだと、そこまで偏ってはいないんだがな……」

副所長「まあ、こういうのもありだろう。――――――集中力の勝負だな、これは」

使丁「ここにきてプールの流れが安定せず、付かず離れずの距離でゴールが揺れていて、まだ誰も球を投げていません」


相川「むむむ……」

鈴「さすがにあんなに揺れてちゃ…………」

鈴「(こういうのって反射神経と粘り強さの勝負よね)」

鈴「(…………大丈夫よ、私なら! セシリアや箒と耐久レースをしたことがあるんだから)」

鈴「(こういうのは、実際に追い込まれた者にこそ勝機がやってくるもんなのよ)」

鈴「(だから、ここぞという時まで待つのよ、私……!)」

ラウラ「(『AIC』で動きを止められるのなら楽なのだが、さすがに簡単にはいかせてはくれないか)」

ラウラ「(私は洋上任務の経験がないから、船乗りたちが持つ長年の経験と勘など持ち合わせていない)」

ラウラ「(だが、数秒は安定する一瞬があるはずだ。そこを狙えば、造作も無いはず――――――!)」

シャル「(今回のことはラウラに全部任せちゃっているけど、僕にできることは本当に無いのかな?)」キョロキョロ

シャル「(けど、この急流を泳ぎ切ってダイビングボートの側まで行くのって難しそうだし…………)」

箒「(――――――わかっている。機が熟すまで待つんだ)」

箒「(だが、――――――どういうことだ、これは?)」

鷹月「……波の向きはちゃんと変わってるよね?」

箒「ああ……、そのはずなんだが…………」

簪「…………?」

本音「どしたのー、カンちゃん?」

簪「そういえば、一夏って今どうしてるのかな?」

本音「ああ…………」

本音「ちょっと遠いし、波もあってよくわかんないねー」

山田「織斑先生……?」

千冬「待て。残り時間が半分を切るまではよく見ていろ」

山田「はい」

周囲「ドウシタンダロー?」


301: 2014/03/12(水) 10:39:54.16 ID:lu3tS7gx0

使丁「???」

担当官「どういうことだ? あれだけの荒波や急流の中で一定の範囲から食み出さずに漂っているぞ……」

副所長「へえ、そんなことまでできるようになったんだ」

使丁「…………今どうなってる?」

副所長「みんなは波だとか的だとかそういう表層的に見えることだけに囚われて、水面下の出来事にまで目がいかないようだな」

副所長「そういえばラウラが、今の一夏の状態を“くらげ”のようだと喩えたが、ある意味それは正しい」

副所長「だが、底が浅いな」

担当官「はあ…………」

副所長「知っているか? ――――――くらげの生態・飼育のやり方ってやつを」

使丁「いや、知らないな。教えてくれ、“プロフェッサー”」

セシリア「それはぜひとも私にもお聞かせください、“プロフェッサー”」

担当官「おお、オルコット嬢」

副所長「それじゃ、」


――――――プランクトンって言葉を知っているかい?


プランクトンっていったら最近の理科の教科書だと顕微鏡を覗いて初めて目にできるミドリムシとかアメーバとかのことを指してるんだけど、

実際はプランクトンは遊泳能力が無い・乏しい水生生物のことを指す生態学の用語でね。ミドリムシとかアメーバみたいなのは底生生物:ベントスと呼ぶ。

――――――さて話は戻すが、くらげはプランクトンであり、ただ海流に揺られているだけに見える。

だがな、ああいうのを飼う時には必ず水流を水槽に造ってやらないといけないんだ。

そうしないと自らの重量でどんどん沈降していって、ぷにぷにの身体が地面について、身体に害してしまう。

だから、遊泳能力のないプランクトンだけど、必氏になって泳いで大切な身体を触らせないように頑張る。

放っておくと、やがては衰弱氏する運命にあるというわけだ。

そう、――――――『漂う』っていうことはただ力を抜いてそこに居続けているというわけではないのだ。

そこには繊細な力加減――――それこそ無駄な力みを排する合理化が図られており、全力を出しきることよりも遥かに難しい奥深い世界があるのだ。

ほら、見てご覧。


――――――荒波の中を漂い、そこに居続ける彼の姿を。



302: 2014/03/12(水) 10:40:42.73 ID:nYyIS+0E0

――――――
一夏「………………」

一夏「…………随分と穏やかだな」

一夏「こんなふうに身体を伸ばしていられるなんて、外はどうなったんだ? 固定でもされてるのかな?」

一夏「まあ、楽できているのは結構だけどさ」

一夏「あ、そういえば、ボールってあの穴から入ってくるんだったっけ」

一夏「変な感じだな、水底から空を見上げているっていうのも……」

一夏「………………」

一夏「………………のどかだな」


――――――きれいなそら。


一夏「――――――!?」ガタッ

一夏「と、ととと…………」アセアセ

一夏「……危ない危ない」フゥ

一夏「…………今のは?」

一夏「――――――気のせい、だよな」

一夏「けど――――――、あれ~?」
――――――


一夏「あのー? 外はどうなってます? 何かあったんですか?」


一同「!?」


使丁「とっとと…………」

使丁「一夏くん! 聞こえてるか?」

使丁「今、残り時間1分をもう間もなく切る頃!」

使丁「そろそろみんなが勝負に出る頃だから、心の準備をしておいてくれ」


一夏「はーい」


担当官「驚いたな。喋る余裕なんて最初は無かったのに、ずいぶんと余裕そうだったな」

セシリア「本当にあの一夏さんがゴールをあの場所に漂わせているのでしょうか?」

副所長「詳しいことはわからない。この乱数スイッチで流れる向きが変わっていく中で、水面下の水流がどう形成されているかなんて予想がつかない」

副所長「たまたま水流が衝突しあっている場所が形成されたのかもしれない」

副所長「けれど、あそこに漂っていられるのは、まぎれもなく織斑一夏が掴みとった繊細なバランス感覚が成せる業だ」


――――――彼は決して流されることなく、そこに確たるものとして漂い続けているのだ。


使丁「さあ、面白くなってまいりました」

使丁「よりにもよって、プールのど真ん中を漂い続けるゴールを前に沈黙が続き、刻一刻と過ぎ去っていきます」

使丁「ここからは純粋な運否天賦となります。――――――運も実力の内!」


303: 2014/03/12(水) 10:41:28.64 ID:lu3tS7gx0

鈴「…………残り1分」

相川「覚悟を、決めないとね」

鈴「そうね(お願い、神様! 私を勝たせて…………)」


ラウラ「…………くっ」

ラウラ「(――――――何故だ? 何故この手はこんなにも震えている?)」

ラウラ「(私は冷静だ。こんな程度のことに何を怖気づくことがある…………)」ジワリ

シャル「…………ラウラ」

シャル「(やっぱり、僕が泳いで近くから投げ入れた方がいいかも。――――――よし!)」サッ


本音「どうするどうするー」

簪「本音、ここまで来たら、思い切って投げちゃうよ。宝くじだって、買わなかったらずっと確率はゼロだもん!」

簪「ここまで来て、何もしないなんて、何だかもったいない気がする……!」

本音「おおー、カンちゃん、がんばれー」


千冬「…………そうか。なるほどな」

山田「え、何がです?」

千冬「いや、別に。ちょっと小娘共を驚かせてやろう」ポイッ

山田「あ」

周囲「(織斑先生が投げたあああああああ!)」

ストン!

周囲「オオオオオオオオ!」パチパチパチパチパチ・・・・・・

山田「お見事です、織斑先生」

千冬「それじゃ、私はこれで帰るよ。後は、山田先生がやってくれ」スッ

山田「え、ええええええええ!」

山田「あ」ポロ・・・

箒「…………!」

箒「山田先生の手にあるのは、赤球と黄色の球だ……!」

鷹月「それじゃ、織斑先生は1点だけ入れて帰っていったってこと……?」


――――――たかが1点、されど1点。


千冬「超えられるか、この壁を?」フフッ


304: 2014/03/12(水) 10:42:19.19 ID:lu3tS7gx0

ラウラ「な、なんという大きな壁だ…………(どうしたのだ、本当に……? これが織斑教官と私との差なのか……)」

シャル「えい!」バシャーン!

ラウラ「シャルロット!?」

シャル「それじゃ、――――――任せたよ、ラウラ!」バシャーン!

シャル「…………くっ!(凄い急流だ!? 救命浮輪に繋げられたロープから手を放したら確実に溺れる…………!)」

ラウラ「…………シャルロット」

ラウラ「………………」

ラウラ「よし」キリッ

ラウラ「はああああああああ!」ポイ

ストン

ラウラ「よし!(――――――まずは2点!)」

シャル「」グッ

ラウラ「」グッ

鈴「えいや!」ブン!

ストン!

鈴「よし!」


使丁「さてさて、どうやら各班が順調に球を1つずつ入れることに成功していったようです」

使丁「織斑先生が与えた壁をなんとか乗り切ることができたようです!」

使丁「だが、もう時間がない! どうなる!?」


305: 2014/03/12(水) 10:42:54.43 ID:nYyIS+0E0


ストン!

鷹月「あ、――――――入った! やったー!」

箒「よし、こっちもこの1点の球を入れることができれば――――――!」ポイ

ボトッ

箒「あ!?」

箒「ここまで来て…………(しかも、残り時間10秒じゃまず取りに行っても間に合わない…………)」チラッ

箒「すまない……」

鷹月「いいんだよ」ニコニコ

箒「あ」

箒「」ニコッ


簪「それ!」

ボトッ

本音「…………赤球しか入らなかったねー」

簪「1個入ったよ! やったー!」

本音「うん、そうだね。やったー!」


担当官「…………」ウルウル

副所長「…………」ニヤニヤ

セシリア「あ、あの、御二方…………?」ニコー

担当官「私は泣いてなんかいないぞ……」

副所長「すまん。どうすればこのニヤケを止められるのか、教えてくれ」

セシリア「まあ……(なぜだか私、この御二方を見ていて、父のことを思い出してしまいましたわ…………)」

セシリア「(この御二方と比べたら、なんて父はなんと卑屈なことだったか……)」

セシリア「でも…………」フフッ

セシリア「(そういえば、父はこんな感じで私のことを見守ってくれていたのでしょうか?)」



306: 2014/03/12(水) 10:43:32.31 ID:nYyIS+0E0

使丁「残り時間、10秒――――――!」

使丁「(球の色でここからでも得点はわかるが、球に書かれている番号まではさすがにわからないから、どこが勝っているのか見当がつかない…………)」

使丁「(このまま行くと、5点入れることができた7班の勝ちは堅そうだが…………)」



ラウラ「あっ(――――――し、しまった!?)」

ボトッ

シャル「大丈夫!」バチャバチャ

シャル「とったぁ!(後はこれを入れれば――――――!)」

シャル「えっと、…………えーい!」ポイ

相川「決めちゃって!」

鈴「泣いても笑ってもこれが最後よ!」ブン!


使丁「おそらく最後のシュートがいったあああああああ!」

周囲「・・・・・・!」ゴクリ

担当官「(外せ外せ、どっちも外せ…………!)」
           
セシリア「(まあ私は、“たまたま偶然”ハワイに行くことがありまして、参加するまでもないのですが、手に汗握るとはこのことですわね…………)」

副所長「この状況で一番有利なのは転校生組だが、あるいは――――――」

ストン!

ボトッ

一同「!!!」


3,2,1,ピーーーーーーーーー!


使丁「試合終了!」

使丁「さあ、激戦を制したのは果たして――――――?」



一夏「終わったああああああああああ!」



307: 2014/03/12(水) 10:44:10.15 ID:lu3tS7gx0

――――――その後


副所長「さて、排気・乾燥できた頃かな……」

使丁「臨海学校での使用が楽しみだな」

使丁「まあ、俺は用務員として学園に残るんだけどな…………トライアスロンをするまたとない機会を逃してしまうとはな」

副所長「そのためのトライアスロン本場へのハワイ旅行だろう? 自重せよ」

使丁「そうだな。代わりに公費で“グッチ”も付いていくことだし、……………まあ多少は不安は残るが、何事も無くすめばいいな」

副所長「確かにな。あいつはお前以上に1つことに集中するから思い入れや情熱は誰にも敗けないんだが、柔軟性に欠くからな……」

副所長「けど、あいつはあいつで誠心誠意やってるから質が悪いというか…………」

使丁「今日の様子を見る限りだと、箒ちゃんは少しずつ変わっていけそうだね」

副所長「ああ……、少しずつだな」

副所長「――――――本質そのものを変えて万全の体制にするには時間が足りなすぎたな」

使丁「…………言っていてもしかたがないじゃないか」

副所長「まあ、その通りだ。7月7日までにこの俺の才知を賭けて事件など未然に防いでみせる」

使丁「おお……!」

副所長「そこでなんだが、――――――“マス男”?」

使丁「はい、来た! 何かな?」

副所長「詳しいことは臨海学校の留守番をしている間に届けられるブツの仕様書に書かれているのだが――――――」


副所長「――――――」ゴニョゴニョ


使丁「!」

使丁「わかった。やってはみるが、俺一人で設置なんてできるのか?」

副所長「大丈夫だ。設定は事前に業者にやらせているし、俺がその設定を使って実際に動かしたんだから、細かいことは気にしなくていい」

使丁「なるほど。“プロフェッサー”のやることだ。間違いはないさ」

副所長「ああ……、そうだな」

使丁「?」

副所長「さて、救命いかだを改造したダイビングボートの片付け方だが、強力ゴム製のやつは畳むのに一苦労さ」

使丁「こういうのまで取り扱えるなんて、やっぱり“プロフェッサー”は凄いぜ」


副所長「けど、俺には文明の担い手に相応しい技量も精神性もない」


使丁「……何を言っているんだ?」


308: 2014/03/12(水) 10:44:52.76 ID:nYyIS+0E0

副所長「俺は篠ノ之 束と昔から比べられてきた。“対極的な存在”だと常に言われ続けてきた」

副所長「なら、篠ノ之 束の抑止力となるべきなのは俺なのか? だが、あまりにも差がありすぎる………………」

使丁「馬鹿を言うな」

副所長「……?」

使丁「お前は“お前”だろう? “お前”のやりたいようにすればいいじゃないか。束は関係ない」

使丁「能力の高さだけが評価基準だとすれば、就職試験に面接なんて必要ないし、人事課に人数を割く必要なんてないじゃないか」

副所長「…………」

使丁「じゃあ、見方を変えよう」

使丁「『一緒にいたい』『一緒にいい仕事がしたい』『一緒に労苦を分かち合いたい』って思わせることができるのも、立派な能力だとは思わないか?」ニコッ

副所長「………………!」

副所長「似るもんだな。いや、これもまた運命なのかもしれないな」フッ

使丁「?」

副所長「最初に“千冬の弟”を見た時、誰かと重なって見えると思ったら、お前だったのか」

副所長「そういえばそうだな。お前も一夏と同じ歳の頃は、ただひたすらに精進し続けようとしていたな。精進さえしていれば何でも叶うと思っていたな」

使丁「あ…………」

使丁「脳筋一辺倒だったあの頃のことは…………」

副所長「はは、懐かしいもんだな」

副所長「けどこれで、――――――目が覚めたよ」

副所長「何だかんだ言って、やっぱり“マス男”が“奇跡のクラス”の一番だ。お前の似姿の織斑一夏がそうであるように」

使丁「俺なんかの浅知恵で助けになったのなら、光栄だ」

副所長「これからもよろしく頼むぜ、“ゴールドマン”」

使丁「ああ!」

副所長「それじゃ、やっていきますか!」




309: 2014/03/12(水) 10:45:32.50 ID:lu3tS7gx0

副所長「なんとかカプセルに収まったな」

副所長「プールで救命いかだを使って一日で畳み込める設計技師は世界広しと言えども俺ぐらいだろう。さすがは俺!」

使丁「ああ。その調子だ!」

一夏「“ゴールドマン”! “プロフェッサー”!」ゴロゴロ・・・(サービスワゴンに夕食3人前)

使丁「あ、悪いね、一夏くん。もうそんな時間だったっけ」

一夏「はい…………」

副所長「…………?」

副所長「どうした? 何か気になることでもあったか?」

一夏「あの、軽いパニックに陥って見てしまった幻覚だったのかもしれませんけど、聞いて欲しいことがあるんです……」

使丁「?」

副所長「遠慮無く言ってみろ。不見識だろうと俺は責めない。俺も“束”ではないから多くを答えられそうもないからな」

一夏「では……、実は――――――、」


―――――― 一瞬 世界が鮮明に水と空の世界に変わって、そこで白い女の子が俺に笑いかけたんです。


使丁「???」

副所長「――――――相互意識干渉の一種か」

副所長「(そうか。やはりお前と『白式』はそういう運命にあるのか)」

副所長「(コアナンバー001、通称『白騎士』と呼ばれたISの生まれ変わりと、その専属だった――――――)」




310: 2014/03/12(水) 10:46:10.88 ID:nYyIS+0E0

――――――同じ頃


箒「ここが私の新しい部屋か……」ガチャリ

鷹月「や、篠ノ之さん」

箒「鷹月さん!?」

鷹月「私も今日からこの部屋なんだ。よろしくね」ニコッ

箒「…………そうか、そういうことだったんだ」

箒「それじゃよろしく、鷹月さん」ニコッ

鷹月「うん。今日からよろしくね、篠ノ之さん」

鷹月「ところで篠ノ之さんって、こういうの興味ない?」

箒「えっと……」

鷹月「ほらほら、今日は突然で準備できなかっただろうけど、今日のことでみんな臨海学校に向けて新しい――――――」

箒「た、確かに――――――」

鷹月「この白いのなんてどう? 今年の流行は『寄せて上げる』ものだよ」

箒「こ、こんなのを着るのか!?」カア

鷹月「でも、篠ノ之さんって胸が大きいし、結構良い感じだと思うなー」

箒「いや、その……、ちょっと発育が良すぎるんじゃないのか、これって……」テレテレ

鷹月「へえ、篠ノ之さんってそういう顔もするんだ」ニコニコ

箒「あ」

鷹月「それじゃ、これは――――――?」

箒「そうだな――――――」






担当官「…………」

千冬「どうした、“グッチ”?」

担当官「千冬か」

担当官「なんでもない」フフッ

千冬「憑き物でもとれたか? 今のお前は険しさよりも清々しさを感じるぞ」フフッ

担当官「そうかもな」フッ

担当官「(そう、これから始まっていくんだ。一人の少女の新たな人生が)」

担当官「(――――――大したやつだよ、“織斑一夏”)」

担当官「(お前の出した答えが、箒ちゃんの新たな人生を築き上げたんだ)」

担当官「(感服したよ。さすがは“千冬の弟”と言ったところだな)」

担当官「(鷹月さん、ルームメイトとしてどうか箒ちゃんをよろしくお願いします)」

担当官「(そして、“織斑一夏”に学園のみんなも、より良き人生へと導いてやってください)」

担当官「(私自身も、己を磨き直し、学園のみなさんのために力を尽くす所存です!)」


311: 2014/03/12(水) 10:46:56.32 ID:lu3tS7gx0

ここまでの話の整理:第4話

・織斑一夏
自分に対する興味関心に無頓着で鈍感な朴念仁のせいで、冴えない印象があるが、元々の洞察力はかなり高い。
また、その性格と人生経験の不足からくるデリカシーの無さによる失敗こそあるが、
失敗を次に繋げることに腐心するようになったので、割りとまともな性格に矯正されており、
良き大人からの知識や経験談を授けられることで、いろいろと物事を考えられるようになっている。

才能は“ブリュンヒルデ”譲り、知性は“プロフェッサー”譲り、人間性は“ゴールドマン”譲りとなっている。

失敗や不明を抱えながらも、順調に大人の階段を登りつつある。

1つのことを極めていった結果が、『AICC』や「超高速切替」であり、この調子で他のことについても考察が行き届くようになったので、
結果として、1つのこと以外にも極めていくことができるようになった。


・凰 鈴音
今回の物語の再構成で一番輝いているセカンド幼馴染。
相談相手になってくれる大人がいて、最初からいたことによって、スタートダッシュはど安定!
気性の荒さも抑えられており、一夏も一夏の方で大人からのアドバイスによって正直な気持ちを伝えるようになっているので、
意思疎通の不足によるすれ違いがすぐに解決しており、まさに順風満帆である!
また、同期のセシリアや簪が一夏の魔性に落とされてないことや、鈴が一夏に好意を寄せていることを察して一歩引いた立場になっているので、
このままいけば、少なくとも掛け替えの無い存在として不動の仲にはなるのは時間の問題と思われた(国籍を日本に移さない限り、結婚は無理だが)。

一方で、毎回毎回災難に遭っているのが彼女でもあり、
4月は黒い無人機に襲われ、
5月はラウラにボコられ、
6月は朱い無人機に襲われ、
7月は『銀の福音』に立ち向かってボコられる予定である。

だが、そこから割って入ってきたのがシャルロットとラウラであり、更にはファースト幼馴染である箒まで入ってきたので、彼女の心中は非常に穏やかでない。


副所長「あの中では一番に“織斑一夏”を正しく理解しているな」

外交官「だが、結婚などもっての外だ!」=それ以外なら十分に信頼に値する


・篠ノ之 箒
セカンド幼馴染がこの物語で優遇されている一方で、その煽りを受けて扱いが悪いファースト幼馴染。
というか、原作でも専用機『紅椿』を得るまでは本当にモブと変わらない扱いで、ヒロインとしては専用機を得てから本番なのであんまり扱いが悪い気がしない。
姉が開発したIS〈インフィニット・ストラトス〉の軍事利用を危ぶまれ、その周囲の人間に危害が及ぶとされて、重要人物保護プログラムを受けることになったが、
結局、一番に害していたのが重要人物保護プログラムであるという皮肉な状況に陥り、精神年齢:小学生並みと揶揄されることになる。
その将来性を一番に危ぶまれた担当官“グッチ”しか相談相手がいなくなったのが致命的であり、互いに生真面目な性格だからこそ信頼し合えたのだが、
もし“グッチ”が場当たり的に「次こそは」「次こそは」と言い続けることなく、現在を受け容れさせて新たな人生観を与えることができれば、
ここまで歪むことはなかったはずである。
言うなれば、勝つまで辞められないギャンブル(全うな人生環境を得るまで)にハマってどんどん負債(トラウマ)を増やし続けている状態。
どこかで普通の人生をはっきりと諦めさせていれば――――――。

ただし、IS学園に“篠ノ之 箒”として編入されたことから、彼女の人生は大きく変わり始めることになる。
もちろん、失敗や不明はあるだろうが、――――――間違いなく良い方向に。


副所長「こうなったのって、やっぱり束がISを開発したからだよな」

副所長「してなかったら、重要人物保護プログラムを受けずにあそこまで歪むことはなかったし」

外交官「結論:束が悪い」


312: 2014/03/12(水) 10:47:38.27 ID:nYyIS+0E0

・シャルロット・デュノア、
ISで人気ナンバー1ヒロインなのだが、本作では何だか端役みたいに活躍の場がない。
ただし、ラウラと同時期に婚約指輪を贈りつけるなど、このシャルロットは思いっきり一夏に依存している。
もちろん、一緒に混浴もしているし、一夏に甘えさせてもらって“あーん”もしてもらっている。
というか、いろんなところを男2人に見られてしまっているので、彼女の中で何かが弾けたようである。

ラウラと比べて、彼女のほうが将来性が危ういと見られており、
ラウラには帰るべき場所と確固たる地位があるのに対して、彼女はそれを全て捨てて一夏に全てを委ねているので、
卒業した後をどうするつもりなのかで周りの大人たちは頭を悩ませている。
なにせ、簡単に祖国(というよりは家族)との縁を切ってしまった――――――否、一夏という好物件を見つけて乗り換えたように見えるので。
頭もいいので、尚更矯正するのが難しい。この辺は地道な矯正で塗り替えていくしか無い。


副所長「それで、具体的に彼女はどうなるって?」

外交官「優秀なISドライバーであることに変わりないから、フランス政府としても支援は続ける」

副所長「それで大丈夫なのかい?」

外交官「フランス政府にとって要らないのは、第3世代型も開発できない金食い虫となっていたデュノア社であって、」

外交官「IS適性:Aで早熟のパイロットをどうして捨てられる? ましてや国のアイドルのようなものだぞ?」

外交官「むしろ、――――――外堀を埋める作戦に使えるだろう?」

副所長「ああ……、囚われの姫君を救った王子様との関係ってね。――――――姦計だけに」


・ラウラ・ボーデヴィッヒ
原作とあまりやっていることが変わらないが、千冬並みの人間が何人も学園にいたせいで萎縮させられていた。
また、織斑一夏もかなりの切れ者となっていたので、無知なラウラはあっさり撃破されることになる。
しかし、その頼もしさには定評があり、戦闘においては絶対欠かすことができない戦闘員として、要所要所で活躍する。
一夏に負けてはいるが、実際にその強さはIS学園有数の実力であることに変わりないのだから。

シャルロットと同じく、織斑一夏に対して結婚宣言をするスキャンダルを起こしているが、箒やシャルロットに比べたら物凄く安全であり、
基本的に精神構造が初期の織斑一夏と変わらない無知で素直でいい子なので、しっかりと教え込めば限りなく善に近い存在になれる。
箒やシャルロットが恐ろしいのは、健全そうに見えて不健全で表立って矯正できない点であり、その意味でラウラは信頼できる。
加減や程度を知らずやり過ぎるところがあるが、そこは大人がきっちりと矯正すれば問題なし。


副所長「うん。いい子だね。銀髪の天使だな」

外交官「果たして遺伝子強化試験体としての呪縛から解放されるのだろうか?」

副所長「その辺は難しいね」

外交官「少なくとも、アラスカ条約体制崩壊に伴う戦争は回避してみせる!」

副所長「頼んだぜ。せっかくいい子に育っているんだから、平和で豊かな間に血を見ることなく天に召されて欲しいものだ」

外交官「遺伝子操作して生まれた生命を迎え入れる天の門などあるのだろうか?」



313: 2014/03/12(水) 10:48:08.62 ID:lu3tS7gx0

・更識 簪
この再構成で、もっとも健全な学園生活を送れるようになった人。
活躍は地味だが、日本代表候補生として初心者の一夏と箒のIS指導を行ったり、荷電粒子砲やミサイルポッドで局面をいくつも変えてきている。

一夏への好感度は『気がある程度』であり、普通の女の子として一夏に少しばかり興味を持って接していた(不器用な性格で『自分には無理だ』と思っているが)。
しかし、最初に幼馴染である鈴の存在に知り、一歩引いた立場を維持し続けており、
専用機持ち同士の付き合いとして一緒にいることは多いが、一夏やその取り巻きの様子を眺めているだけに過ぎない。
自分に自信がないことが一番の原因だが、何だかんだで天然ジゴロの一夏の側にいるだけでも十分楽しめているので特に不満があるわけではない。


副所長「うん。簪ちゃんはいい子よ。いい子すぎて損してるんだけどさ!」

外交官「あれはどういう立ち位置なのだ? 一夏に恋をしているのか?」

副所長「いや。あれは脇から見て楽しんでいるタイプだな。つまり、学園ラブコメをビデオ鑑賞しているって感じの」

外交官「けど、前にお前にプレゼントを造るように言ってきたじゃないか。あれは?」

副所長「ああ。あれは珍しく簪ちゃんが背伸びしてみたんだ。結局、それっきりだけどな」

副所長「けど、奥手な彼女が同年代の異性との付き合いができて、少しずつ友達も増えてきているんだ」

副所長「焦ることなく、その成長を見守ろうではないか」

外交官「そうだな。我が国の宝だからな」


・セシリア・オルコット
チョロインの代名詞である彼女は、今作だと全くデれていない! 非常に貞淑なレディに仕上がっている。
性格が変わったのではなく、状況が変わったことで、彼女の立居振舞が大きく変化している(むしろ、これが本来あるべき立居振舞ではないかと思う)。
具体的には、織斑一夏以外の男性で偉大な大人の存在――――――“ゴールドマン”の存在が一番大きく、
・男が一人だけなら、その一人は女子しかいない環境で否が応でも女子の社会に適応しなくてはいけなくなるのだが、同性の仲間がいることで男としての社会性を維持されている。
→織斑一夏の関心が女子よりも同性に傾いていて、しかも水魚の交わりのように周りに映っているので、特別な関係の二人の間に割り込みづらい。
・女尊男卑の世の中だが、“ブリュンヒルデ”に匹敵する“ゴールドマン”という偉大な存在に敬意を表しているので、見下すことができない。
・クラス代表決定戦に至るセシリアの問題発言に対してさりげなく“ゴールドマン”に釘を差されたので、やや負い目を持っている。
・“ゴールドマン”>織斑一夏という構図なので、一夏にべた惚れするには“ゴールドマン”という天上の存在が常にちらついていて目の上の瘤になっている。
・“ゴールドマン”が立派なアスリートで良識的な大人なので、名門貴族の当主である彼女も自然とそれに相応しい振る舞いをせざるを得ない。
→“ゴールドマン”の存在から、羽目をはずしてハジケルことを自重しているので、非常に理性的なレディに落ち着いている

原作でのハチャメチャっぷりは今作では絶対に見られないのだが、何だかんだで出番はかなり多い。
弱い弱い言われている専用機だが、支援機としては抜群なのでラウラとは違った意味で安定感がある(むしろ、なぜあの武装で1対1で戦おうとするのか…………)。
筆者が思うに、典型的なイギリス料理を作れるのなら、ブリティッシュ・ブレックファストは上手に作れると思うんだ。そう信じたい。

立ち位置としては簪同様に『気がある程度』であり、やはり鈴や大人の存在が最初にある(恋愛にはちゃんと興味はあり、それを羨ましくは思っている)。
もしくは『一夏(アスリート)のパトロン』になりたいと思うぐらいに関係は健全で良好である。
今回の一夏が色気や唯一の肉親への強い愛情を示すことがなく、知的で求道的な人間性になったので、この姿にキュンキュンさせられる人間はあまりいないと思う。
それよりも、人間としての尊敬の念が勝ってしまうのではないだろうか?


副所長「この子もいい子だね。まさしくイギリス淑女って感じで」

外交官「3年前の列車事故で両親を亡くし、遺産相続の内紛を制してオルコット家の当主になったんだ。風格が違う」

副所長「まあ、人はいいんだけど、…………機体がな」

外交官「ああ。――――――使い捨てる気満々だな」

副所長「いかんですよ! こんな欠陥機に乗せておいてその上で勝利しろだなんて! 無茶ぶりにも程がある!」

外交官「そういう意味では、織斑一夏は凄まじい欠陥機でありながら自分から高い目標意識を持って鍛錬しているから、いい傾向だな」

副所長「だろ! だから、“織斑一夏”は凄いんだよ」


314: 2014/03/12(水) 10:49:30.22 ID:nYyIS+0E0

女性関係まとめ

一夏に好意を寄せる幼馴染コンビ
・凰 鈴音
・篠ノ之 箒
今作のメインヒロインの2人である。
「一方的な好意を寄せて」「想いを口に出さない」「一夏の幼馴染」という共通点を持っているが、それ以外はほとんど正反対の対極的な関係である。
大人たちが見てる手前、暴力行為に走ることはなくなり、原作より遥かにお淑やかなのだが、何だかんだで問題の中心となってくるのがこの2人である。


一夏との婚約を迫る転校生コンビ
・シャルロット・デュノア
・ラウラ・ボーデヴィッヒ
大人たちから言わせれば、危険分子の2人。相手の気持ちや性愛の理解といった過程をすっ飛ばして、いきなり結婚に結びつけて迫る。
今作では、一夏とシャルロットの距離感が原作より大きく感じられたためか、気が急いてシャルロットもラウラと同レベルのことをしでかしている。
ラウラは平常運転だったのだが、敬愛する織斑教官と同等の戦闘力や気概を持つ大人たちの存在によって、凶暴性は鳴りを潜めることになった。
2人共、機体としては前衛も後衛もこなせる万能機に乗っているが、日英の代表候補生コンビよりも出番がない。
主役になれる戦闘があれば心強いだろうが、今作それがないために戦闘においては支援に長けている日英の二人ばかり起用されている。


一夏との交友関係を快く思っている僚友コンビ
・更識 簪
・セシリア・オルコット
今作では最初から居る2人であり、なんとチョロインではない!
一応、一夏に恩義以上の念を抱いてはいるものの、一夏の幼馴染である鈴の気持ちを知って応援あるいは一緒に混ざって楽しんでいる。
セシリアの場合は、一夏が性格を矯正させられて一人の男としての色気よりも一人のアスリートとしての英気が滲み出ているので、性愛よりも敬愛の念が強い。
簪の場合は、姉に対するコンプレックスが鳴りを潜めるほどに恵まれており、引っ込み思案な性格も相まって一夏との関係をそこまで求めていない。
2人共、僚機としては抜群の性能を誇る機体に乗っており、脇役扱いながらも代表候補生としての(比較的高い)技量の高さを活かしてしっかり脇を固めている。



315: 2014/03/12(水) 10:50:20.88 ID:lu3tS7gx0

・アニメ基準という言葉について


実は原作では、はっきりと6月末に学年別トーナメントがあることが明記されているのだが、それは全員強制参加のために1週間かけて行われるものとされている。
それを素直に受け取ると、7月7日とその前日には臨海学校に行っているので、まさか中止になったからといって予定を前倒しにして行ったとは思いがたい。

よって、アニメでは具体的な年月日を告げる描写が乏しいので、今作のように、

4月、クラス代表決定戦、クラス対抗戦(無人機襲撃事件1)
5月、学年別個人トーナメント(VTシステム騒ぎ)
6月、オリジナルストーリー
7月、臨海学校(福音事件)
8月、夏休み(福音強奪未遂事件)
9月、学園祭(オータム襲撃)、キャノンボール・ファスト(M襲撃)
10月、専用機限定タッグマッチ(無人機襲撃事件2)
11月、修学旅行(修学旅行襲撃事件)

時期をずらして、1ヶ月毎に何かしらの事件や出来事があるように描いています。そのほうが時間の経過がイメージしやすかったので。

第2期からは特にイベントの開催時期や詳細などの違いが大きく異なってくるでしょう。

しかし、やはり原作知識もないと物語の再構成なんてできないわけで、アニメでは明確にされなかった設定も引用していますが、
こちらで詳細が確認できなかった設定や背景に関しては、好き勝手にイメージして二次創作させていただいております。


316: 2014/03/12(水) 10:58:18.15 ID:lu3tS7gx0
それでは、今日の投稿はこれにて終了となります。

ご精読ありがとうございました。

次回の投稿も1週間をめどにやらせていただきます。

型破りな展開がここからも続くので、お楽しみに。


ちなみに、運命の男たち3人にはモデルがいないのでCVは特に考えておりません。
運命の男たち3人と千冬と束を除いて、残り5人についてはモデルが存在し、
すでにキャラクター性も確定しているのでどんなやつなのかをご想像していただけると、筆者としてはちょっと嬉しい。
二次創作だから掘り下げる余裕もないので、イメージの借用についてはご容赦願います。


筆者が想定している残り5人のCV
ヤナダ、イトウ、ツクイ、ユサ、???

男女比=7:3

引用: 一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」