321: 2014/03/17(月) 08:19:44.72 ID:TGLi8lbx0
それでは、たぶんこのスレでの最後の投稿となるかもしれません。

一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」【中編】


一夏と大人たちの物語はいよいよ一つの佳境へと参ります。



322: 2014/03/17(月) 08:22:38.37 ID:TGLi8lbx0

第5話 福音事件・表
Past,Present and Future...

――――――7月


副所長「誕生日プレゼントは決まったかい?」

一夏「いえ、全然…………とりあえず街に出てみて探してみようかと思います」

一夏「副所長も何かプレゼントを?」

副所長「今のところ、“プッチン”のやつがすでに用意してきたってさ」

一夏「……えと、それって個人的なものですか?」

副所長「いや、『日本政府の良心と誠意を見せるため』と、いつもながら国の代表としての意識が強いな」

副所長「まあ、“極東のプーチン”として日本政府の顔役の一人になってしまったからな……」

一夏「…………そうですね(それは俺も同じことだ)」

副所長「あと、絶対に“グッチ”のやつもね」

一夏「そうですね」

副所長「で、俺と“マス男”は合同で、特大プレゼントを用意しているところさ!」

一夏「そっか。用務員さんは来れないのか」

副所長「ああ。だから、俺と共同でね」

一夏「いったい何です、それ?」

副所長「ふふふ、聞いて驚け!」


――――――“安心”と“信頼”だ。


一夏「???」

副所長「“束の妹”には、これから一番必要になるものだからさ」

副所長「それにその日は7月7日だし、七夕の願掛けしているだろう? だから次いでに、お前たち生徒全員にもお裾分けしてやるよ」

一夏「あ」

副所長「」フフッ

一夏「ありがとうございます!」



323: 2014/03/17(月) 08:23:33.62 ID:TGLi8lbx0

一夏「それじゃ、俺はこの駅で」スチャ(スポーツバイザー&スポーツサングラス)

副所長「気に入っているようだな、それ」ニコニコ

一夏「ええ。本当に」ニコッ

副所長「それでは、しばしの別れだ。今度はしっかりとしたダイビングボートを持ってきてやるからな」

一夏「はい。楽しみにしています!」ニッコリ


ジリジリ・・・


一夏「…………夏だな」

一夏「さて、臨海学校だもんな。用務員さんが来れないのは残念だけど、俺は俺で頑張るから」

一夏「だけど、その前にプレゼントを買っておかないとな」

一夏「何がいいかな? 箒が喜びそうなもの――――――」


一夏『久しぶり。6年ぶりだけど、すぐに“箒”ってわかったぞ』ニッコリ

箒『え……』カア

一夏『ほら、その髪型、昔と変わってないし』

箒『!』

箒『よ、よくも憶えているものだな……』テレテレ


一夏「よし。決まった」

一夏「何というか安っぽいけど、こういうのって形式に込められた気持ちが大切なはずだもんな」

一夏「それじゃ、目的のものがありそうな場所を探してみるか」


ラウラ「こちら、クロウサギ。目標を発見した。追跡を開始する」




324: 2014/03/17(月) 08:24:40.87 ID:TGLi8lbx0


一夏「えと、こういう所を利用するのは初めてで……」

店員「あら、カノジョさんのプレゼントですか?(おや、バイザーとサングラスが似合うイケメンさんだこと……)」ニコニコ

一夏「あ、いや……、幼馴染の誕生日のプレゼントに」テレテレ

店員「あらまあ」ニヤニヤ

一夏「それで――――――」


ラウラ「………………」ジー








一夏「たぶん、これでいいはずだ。箒に似合うのはたぶんこんな感じで……」

一夏「そうだな。この際、他の子に贈るプレゼントの候補を探して回るのもいいかもしれないな」

一夏「でもな……、箒にはわかりやすい特徴があったから思いついたけど…………」

一夏「…………使いやすいスポーツ用品でもピックアップしておくか?」

一夏「バスタオルとかいいんじゃないか? 仮に使って貰えなくても使い道はいくらでもあるしな」

一夏「となると、気軽に使えるような柄や肌触りがな――――――」ブツブツ


ラウラ「目標はどうやらスポーツ用品店に向かう模様…………」




325: 2014/03/17(月) 08:25:23.69 ID:TGLi8lbx0

一夏「ふむふむ。参考になった。最近の商品って凄かったんだな。面白いなー」

一夏「…………相変わらずパターゲームができないな」

一夏「さて、本気で商品調査をすると、時間があっという間に過ぎるもんだな」

一夏「もう昼時を軽く過ぎてるよ…………」

一夏「まあ、そのほうが空いていてすぐに食事にありつけるというか…………」

一夏「あ」

一夏「こういうところって、ヘルシーフードはちゃんとあるのかな?」

一夏「久々の買い出しで財布の紐が緩いからって、ファストフードで無駄な油分を摂るわけには――――――」

一夏「!」サッ


鷹月「――――――」

箒「――――――」


一夏「…………よかった。ちゃんとルームメイトとして仲良くやれているようだ」

一夏「しかし、箒のやつ…………女の子らしい服装も似合うようになっていたんだな」

一夏「箒一人だけだと全然そうは思えなかったけど、見違えたもんだ」

一夏「さて、昼飯は何にしよう…………」

ラウラ「い、一夏……!」バッ

一夏「あ、ラウラじゃないか……(やばい、今の聴かれてたか……!?)」

ラウラ「話は聴かせてもらった!」

一夏「な、なにっ!?(さっきの独り言、全部聴かれちゃった!? また、機嫌が――――――って、あれ?)」

ラウラ「では、私と一緒に食べに行こうではないか」ギュッ

一夏「あ、えと…………」

ラウラ「さあ!」ニコニコ

一夏「…………何を食べに行くのかを聞かせてはくれないか?」

ラウラ「ああ! 聞いて驚け!」


ラウラ「“ お で ん ”だ!」




326: 2014/03/17(月) 08:26:33.78 ID:TGLi8lbx0

――――――臨海学校、1日目


山田「今11時です! 夕方までは自由行動! 夕食に遅れないように旅館に戻ること!」

山田「いいですね?」


一同「ハーイ!」







――――――ダイビングツアー


副所長「さてさて、正式に何だか学園の開発棟の副所長になってしまった俺だ」

副所長「それじゃ、みなさん、おまたせ!」

副所長「本日の大目玉であるダイビングツアーへようこそ! 午前に第1部、午後に第2部・第3部だけ行うスペシャルプログラム!」

担当官「スキンダイビング用の装備は6人まで、ダイビングボートは2人用が2つなので、ごめんなさいねー!」

一同「ワーーーーーーー!」

副所長「クルーザーで牽引はするけど、沖に流されないように沿岸部を回るだけだぞー」

担当官「ライフガードは私が務めますので、私の指示に従って行動してくださいべ」

副所長「それじゃ、カプセル投下っと!」バシャーン

担当官「こっちも投下!」バシャーン

プクゥウウウウウウ

周囲「マエヨリオッキイー!」

副所長「さあ、共に水の世界へ!」




327: 2014/03/17(月) 08:27:55.36 ID:TGLi8lbx0

――――――スイカ割り


一夏「…………」(目隠し+雪片弐型+ハイパーセンサー)

鈴「一夏! 私の声がする方にスイカはあるわよ」ニヤリ

ラウラ「違うぞ、一夏! お前の右側にスイカはあるぞ!」

一夏「…………視覚情報を封じられただけでもえらく苦戦するもんなんだな(だって、普通だったら全身に目がついたような感覚なんだぜ?)」

一夏「(だから、目隠しした程度なら楽勝だと思っていたけど、これは思い違いだったな…………)」

一夏「(この訓練を提案した“プロフェッサー”が言うには、人間が取り入れる情報量の8割が視覚、1割が聴覚に頼ったものらしい…………)」

一夏「(そういう意味では、視覚情報を封じられただけでISからの情報処理能力がここまで落ちるのは無理もないのか?)」

一夏「(とにかく、残った感覚を研ぎ澄ますんだ! ISが取り込んでくれる正確な情報を目ではなく頭で直接繋ぎあわせろ!)」

一夏「(そうだ。スイカは“丸いもの”だ。えともちろん人間の頭とか眼球じゃないぞ。“丸いもの”をイメージして探すんだ、『白式』!)」

一夏「(そうそう、だんだんと見えてきたぞ。“丸いもの”が――――――っ!?)」ビクッ

一夏「…………?」

シャル「どうしたの、一夏?」

一夏「おい、スイカは1つだけだよな? ビーチバレーに使う球と同じぐらいの大きさの!」

シャル「……まあ、そうだよ? 一夏も見たよね?」

一夏「お前たちのほうに“小さなスイカ”が4つぐらいあるようなんだが……?」

ラウラ「…………?」

シャル「え、…………“小さなスイカ”?」

鈴「…………まさか」

セシリア「みなさん、何をしていますの?」

一夏「その声、セシリアか? お前、何か“丸いもの”でも持っているのか?」

セシリア「え? “丸いもの”ですか?」

セシリア「いえ、私もみなさんも何も持っておりませんわよ?」

一夏「おかしいな。反応が正しいなら、シャルロットとセシリアが小さいスイカか何かを2個ずつ持っているようなんだがな…………」

シャル「え」

鈴「…………」プルプル

一夏「???」


328: 2014/03/17(月) 08:28:49.99 ID:TGLi8lbx0

一夏「(…………『白式』! お前は何をイメージして俺に見せているんだ? というか、スイカは!? スイカはどこだ!?)」キョロキョロ

一夏「(そうだ、――――――“緑と黒の縞々の人間の頭ぐらいの丸い物体”を探せ!)」

ラウラ「どうしたのだ、シャルロット?」

シャル「い、一夏のえOち……」テレテレ

鈴「――――――!」ダッ

セシリア「あ、鈴さん――――――?!」

一夏「(あ、この反応は鈴か? なんだ? なんでこっちに向かってくるんだ?)」

鈴「一夏の馬鹿ああああああああああ!」バーン!

一夏「のわあああああああああ!?」ドサッ

一夏「な、何をするんだ!? 目隠ししている相手に卑怯だぞ!(何かされた!? いや、――――――反応が鈍いぞ、『白式』!)」

鈴「うるさいうるさーい!」

鈴「どうせ、私にはたわわに実ってないわよ。馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああ!」ズドドドド・・・・・・

一夏「は?(反応、急速離脱………………)」ヨロヨロ

一夏「…………何だったんだ?(ともかく、スイカはどこだ? 砂の上に置かれているはずだぞ!?)」キョロキョロ
                                        ・・・・・
一夏「――――――あ、あったあった。これだろ?(あれ? 待てよ、このスイカ……、縦に長いぞ!?)」

一夏「だからなのか!?(だから、“丸いもの”で探知できなかったのか!?)」

一夏「やられた!(“プロフェッサー”め! こんな罠を仕掛けているだなんて…………)」

一夏「ええーい! ふん!」ブン!

スパッ

セシリア「お見事ですわ、一夏さん!」

一夏「こんなもんだろう(そうか。鈴に吹っ飛ばされて視点が変わったことで今までで見ることができなかった“丸い一面”を捉えることができたのか)」

一夏「なんというか、常識に囚われることの恐ろしさを今更ながら強く体感したな……(最初によくスイカを見ていなかった・見ようとしなかったのが原因か)」

一夏「上手く斬れているはずだが…………(そういえば海外のスイカってこんな形が一般的だってどこかで聞いたことがあったな……)」バッ

一夏「うん。中身をぶちまけてないな(何だかんだで“プロフェッサー”の与える課題はISの操縦だけじゃなく、自分の認識を改めるものがあって身になるな)」


329: 2014/03/17(月) 08:29:31.41 ID:TGLi8lbx0

一夏「(…………『白式』! お前は何をイメージして俺に見せているんだ? というか、スイカは!? スイカはどこだ!?)」キョロキョロ

一夏「(そうだ、――――――“緑と黒の縞々の人間の頭ぐらいの丸い物体”を探せ!)」

ラウラ「どうしたのだ、シャルロット?」

シャル「い、一夏のえOち……」テレテレ

鈴「――――――!」ダッ

セシリア「あ、鈴さん――――――?!」

一夏「(あ、この反応は鈴か? なんだ? なんでこっちに向かってくるんだ?)」

鈴「一夏の馬鹿ああああああああああ!」バーン!

一夏「のわあああああああああ!?」ドサッ

一夏「な、何をするんだ!? 目隠ししている相手に卑怯だぞ!(何かされた!? いや、――――――反応が鈍いぞ、『白式』!)」

鈴「うるさいうるさーい!」

鈴「どうせ、私にはたわわに実ってないわよ。馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああ!」ズドドドド・・・・・・

一夏「は?(反応、急速離脱………………)」ヨロヨロ

一夏「…………何だったんだ?(ともかく、スイカはどこだ? 砂の上に置かれているはずだぞ!?)」キョロキョロ
                                        ・・・・・
一夏「――――――あ、あったあった。これだろ?(あれ? 待てよ、このスイカ……、縦に長いぞ!?)」

一夏「だからなのか!?(だから、“丸いもの”で探知できなかったのか!?)」

一夏「やられた!(“プロフェッサー”め! こんな罠を仕掛けているだなんて…………)」

一夏「ええーい! ふん!」ブン!

スパッ

セシリア「お見事ですわ、一夏さん!」

一夏「こんなもんだろう(そうか。鈴に吹っ飛ばされて視点が変わったことで今までで見ることができなかった“丸い一面”を捉えることができたのか)」

一夏「なんというか、常識に囚われることの恐ろしさを今更ながら強く体感したな……(最初によくスイカを見ていなかった・見ようとしなかったのが原因か)」

一夏「上手く斬れているはずだが…………(そういえば海外のスイカってこんな形が一般的だってどこかで聞いたことがあったな……)」バッ

一夏「うん。中身をぶちまけてないな(何だかんだで“プロフェッサー”の与える課題はISの操縦だけじゃなく、自分の認識を改めるものがあって身になるな)」


330: 2014/03/17(月) 08:30:30.49 ID:TGLi8lbx0

一夏「(…………『白式』! お前は何をイメージして俺に見せているんだ? というか、スイカは!? スイカはどこだ!?)」キョロキョロ

一夏「(そうだ、――――――“緑と黒の縞々の人間の頭ぐらいの丸い物体”を探せ!)」

ラウラ「どうしたのだ、シャルロット?」

シャル「い、一夏のえOち……」テレテレ

鈴「――――――!」ダッ

セシリア「あ、鈴さん――――――?!」

一夏「(あ、この反応は鈴か? なんだ? なんでこっちに向かってくるんだ?)」

鈴「一夏の馬鹿ああああああああああ!」バーン!

一夏「のわあああああああああ!?」ドサッ

一夏「な、何をするんだ!? 目隠ししている相手に卑怯だぞ!(何かされた!? いや、――――――反応が鈍いぞ、『白式』!)」

鈴「うるさいうるさーい!」

鈴「どうせ、私にはたわわに実ってないわよ。馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああああ!」ズドドドド・・・・・・

一夏「は?(反応、急速離脱………………)」ヨロヨロ

一夏「…………何だったんだ?(ともかく、スイカはどこだ? 砂の上に置かれているはずだぞ!?)」キョロキョロ
                                        ・・・・・
一夏「――――――あ、あったあった。これだろ?(あれ? 待てよ、このスイカ……、縦に長いぞ!?)」

一夏「だからなのか!?(だから、“丸いもの”で探知できなかったのか!?)」

一夏「やられた!(“プロフェッサー”め! こんな罠を仕掛けているだなんて…………)」

一夏「ええーい! ふん!」ブン!

スパッ

セシリア「お見事ですわ、一夏さん!」

一夏「こんなもんだろう(そうか。鈴に吹っ飛ばされて視点が変わったことで今までで見ることができなかった“丸い一面”を捉えることができたのか)」

一夏「なんというか、常識に囚われることの恐ろしさを今更ながら強く体感したな……(最初によくスイカを見ていなかった・見ようとしなかったのが原因か)」

一夏「上手く斬れているはずだが…………(そういえば海外のスイカってこんな形が一般的だってどこかで聞いたことがあったな……)」バッ

一夏「うん。中身をぶちまけてないな(何だかんだで“プロフェッサー”の与える課題はISの操縦だけじゃなく、自分の認識を改めるものがあって身になるな)」


331: 2014/03/17(月) 08:32:05.57 ID:TGLi8lbx0

シャル「こっち向いて、一夏」

一夏「ああ、早速スイカを分けて食べようぜ」クルッ

一夏「――――――ラウラ!?」

ラウラ「あ……」(バスタオルお化け)

シャル「ほら、一夏に見せてあげたら? 大丈夫だよ」ニヤニヤ

ラウラ「だ、大丈夫かどうかは私が決める…………」

一夏「ああ…………(ラウラの誕生日プレゼントにバスタオルは必要なさそうだな…………他のを考えておこう)」

シャル「せっかく新しい水着を買ったんだから、一夏に見てもらわないと」コソッ

ラウラ「ま、待て。私にも心の準備というものがあって…………」アセアセ

セシリア「まあ! 時間は随分とあったはずだと思いましたけど?」

ラウラ「そ、それは…………」

シャル「ふぅん」ニヤリ

シャル「だったら、僕だけ一夏と海で遊んじゃうけど、いいのかな~?(二人だけでおでんを食べに行った罰だよ~っと)」ニヤニヤ

ラウラ「そ、それはダメだ!」

ラウラ「え、ええーい!」バッ

ラウラ「わ、笑いたければ。笑えばいい……」モジモジ

シャル「おかしなところなんてないよね、一夏?」

セシリア「そうですわ。とっても可愛らしいですわ。妖精みたいに可憐ですわよ」

一夏「おお。かわいいと思うぞ」ジー

ラウラ「はぅ!?(“嫁”からの視線が、肌を焼くような太陽光線よりも強く感じる……!)」ドキドキ

一夏「(それにしても、さすがは軍人というだけあって、いい感じに身体が引き締まっているなー)」ジロジロ

シャル「い、一夏!?(あれ!? さっきの反応からするとむ、胸の大きい方に興味があるって思ってたのに…………)」アセアセ

セシリア「い、一夏さん!?(ど、どういうことですの、一夏さんのこのいつになく真剣な眼差しは――――――!?)」アセアセ

一夏「あ、すまない。こういうのってあまりお目にかかれないもんだから、つい…………(いけないいけない。いい筋肉だからって見世物じゃないんだから……)」

シャル「!?」

セシリア「!?」

ラウラ「そ、そうか。わ、私はか、『かわいい』のか……」モジモジ

ラウラ「そのようなことを言われたのは、初めてだ…………」テレテレ

一夏「さあ、このスイカをみんなで食べようぜ」ニコッ

ラウラ「お、おお……!」

シャル「ああ……、うん(やっぱり、よくわからない。男装できちゃう僕でも結構身体には自信あったんだけどな…………)」ハア

セシリア「あははは…………(出会った時から私の予想を斜め上を行くのが“織斑一夏”、その人ですわ。まったく、いつもこの人は…………)」クスッ

一夏「?」ニコニコ




332: 2014/03/17(月) 08:33:04.94 ID:TGLi8lbx0

――――――地上絵


一夏「へえ、凄いもんだな。ノートなんかよりもずっと大きいのによくこんなでかい絵を描けるもんだ」

簪「そんなに難しいことじゃないと思うけど。キャラクター弁当とかラテアートとかも簡単だよ?」

簪「大切なのは、自分がどこの軌跡を描いているのかを意識することだよ。大まかな位置を把握すること」

一夏「位置を把握すること…………」

簪「そう。宇宙って比較するものが何も無いからどれくらいの速度と距離なのかを掴むのが凄く難しいんだよ」

簪「だから、こうやって目一杯に収まらないような大きなものを描く時は、自分の中で単位を決めて、一歩二歩確かめながら線を引くの」

一夏「なるほど。それじゃ試しに、何か描いてみよう…………(けど、何を描こうかな? 初心者の俺だけどちょっとぐらい難しそうなのを描いてみたいな)」

一夏「そういえば箒はどこに行ったんだろう?(慣れ合いを嫌って引っ込んだ? いや、鷹月さんと買い物していたし、それはないか?)」

一夏「とりあえず、単純で簡単そうなものを――――――(箒は――――――)」

一夏「あ、これで行ってみるか。やっぱり初心者だし、まずは自分でできると思ったレベルからやってみよう」




333: 2014/03/17(月) 08:33:52.55 ID:TGLi8lbx0


一夏「よし! 一応できたぞ。生まれて初めての地上絵!」

一夏「来い、『白式』!」

ヒュウウウウン!

一夏「さてさて、どんな感じ?」

一夏「…………もうちょっと丁寧にできなかったかな」


         ホ ウ キ


一夏「あ、そうだ。――――――こいつを」スチャ(スポーツサングラス)

一夏「こいつで地上絵を撮って、『白式』のハイパーセンサーでどこがいけないかを比較!」ピピッ

一夏「ああ、なるほどなるほど。活字体と比べると随分粗雑なのがまるわかりだ」

一夏「つまり、あの辺をもうちょっと直せば…………!」

ヒュウウウウン!

一夏「で、さっき撮った地上絵に現在の位置データを同期させる!」

一夏「お! できるもんだな! 一枚のキャンパスに収まっているみたい!(へえ、ISってこういう使い方もできるんだなー)」

一夏「なるほど、簪の頭の中ではこんなふうになっていたのか、へー」

鈴「…………一夏」ザッ

一夏「おお、鈴じゃないか。どうした?」

鈴「――――――『甲龍』!」

一夏「え!?」

鈴「こんなの!」バンバン

ドゴーン!

一夏「ああー! 俺の地上絵があああああああああああ!(せっかくの誕生日プレゼントの1つがあああああああああああああ!)」

鈴「ふん!」ザッザッザ・・・

一夏「何をするんだああああああああああ!(――――――ん?)」

一夏「あれ、『龍咆』でいい感じに砂浜に穴が空いたな…………何かに利用できそうだな」

一夏「でも、イメージは掴めたぞ! 今度は何を描こうかな?」

簪「一夏!」

一夏「お、簪! そっちは完成したの? 俺はひと通りできたから、仕切り直しといくんだけどさ」

簪「うん。見てみて」ニコッ

一夏「へえ、何だろうな?」

ザッザッザ・・・・・・

ピカーン! ヒュウウウウン!


鈴「………………一夏ぁ」ジー




334: 2014/03/17(月) 08:35:37.98 ID:TGLi8lbx0

――――――ダイビングツアー 第3部


一夏「特に問題も無かったじゃないですか。『白式』で随伴する意味なんて…………」

担当官「念のためだ。日も暮れてきたからな。それにISによる海難救助も経験したほうがいいだろう」

副所長「それに、シャワーに着替えに身だしなみ――――それらを行う時間を逆算して集合時間ぎりぎりになるだろうこのツアーは人が少ない」

副所長「スペシャルゲストを招くにはうってつけだ」

一夏「え」

副所長「ともかく、ISに絶対防御が備わっていようとも、きっちりとボンベにマスクをしていなければ絶対防御もまったく無意味だ」

副所長「ある意味においてISを倒す最終手段とは、PICで受け切れない外部の重量のおもりを括りつけて海に沈めることだからな」

副所長「PICもそこまで万能ってわけではない。もし完璧なら格闘戦で機体が押し負けるだなんてことがまずありえないからな」

一夏「…………なるほど」

副所長「それじゃ、最後のツアーに参加してくれるのは誰でしょう?」

担当官「さて、来たみたいだぞ。あれは――――――」


千冬「よう、お前たち」

箒「あ……、い、一夏…………!?」ドキッ


一夏「ちふ……織斑先生に、箒か!(へえ、箒はやっぱり“白”か。イメージ通りだったな)」

箒「み、見るな……」カア

一夏「似合ってるじゃん、箒。やっぱり箒は“白”だな」ニコッ

箒「ほ、本当かっ!?」

担当官「良かったね、箒ちゃん(こうでもしないと、せっかくの勝負水着が無駄になっちゃうからな。千冬もご苦労さん!)」ニコニコ



335: 2014/03/17(月) 08:36:47.92 ID:TGLi8lbx0

担当官「さて、スキンダイビングに参加してくれる子はいないか? さすがに夕暮れに入ったし、海水浴もみんな飽きた頃だから当然か?」

副所長「なら、始めるぞ」

副所長「ようこそ、最後のダイビングツアーへ」

副所長「どうやら、他に来る子もいないようだし、お好きなダイビングボートにどうぞ」

副所長「そうだな。せっかくだから、――――――これも海難救助の一環だ。“白のナイト”に乗せてもらいましょうか」ニヤニヤ

一夏「え? 俺が……?」

箒「な、なにっ?!」ドキッ

担当官「(――――――ナイスアシスト!)」グッ

千冬「では、やってもらおうか?」

一夏「えっと、それじゃ千冬姉……、どうぞ」

千冬「…………まさか、こういう日が来るとはな」ボソッ

一夏「え」

千冬「何も言っていないぞ。それにここでは――――――いや、早く運べ」

一夏「ああ。まかせてくれよ、千冬姉」

千冬「フッ」ニコッ

一夏「よっと」フワァ・・・

担当官「…………千冬のやつっ!(なんだ今の、――――――甘い表情!)」プルプル

副所長「プククク・・・・・・(――――――“弟”大好きすぎだろう!)」プルプル

箒「あ、ああ…………」ドクンドクン

一夏「それじゃ、千冬姉と同じのがいいか?」

箒「えと、私は…………」アセアセ

担当官「――――――『お前の胸の中がいい』とか言うんだ!」ハラハラ

副所長「…………時々お前って生真面目を通り越して阿呆になる時があるよな」ヤレヤレ

副所長「(まあ元々、学園に殴りこみに来た辺り、モンスターペアレントというか兄バカな気質はあったことだし、責任感の強さからくる奇行だしな……)」

一夏「それじゃ、しっかり捕まってろよ」

箒「え、ああ…………」

箒「(これが伝説の、――――――“お姫様抱っこ”というやつか!)」ドクンドクン

一夏「はい。それじゃ、楽しんできてね」スィイイイイ

箒「あ、ああ!」ニコニコ

担当官「ちっ」

副所長「…………こいつ、まるで懲りてない」

副所長「まあいい」

副所長「それじゃ、最後のダイビングツアー、出航!」

担当官「おー!」ニコニコ

一夏「げ、元気だな、“グッチ”さん……(あれ、この人ってこんな感じだったっけ? 初めて会った時のことが何か思い出せなくなってきた…………)」

箒「い、一夏ぁ……(一夏に抱っこされたぁ…………)」ニヤニヤ




336: 2014/03/17(月) 08:39:02.83 ID:TGLi8lbx0

――――――夕食後


チャプン

一夏「はあ、気持ちいい」

一夏「今日はいろいろと修行になったな…………」

一夏「さすがは“プロフェッサー”だ。やることなすことに間違いがない」

一夏「でも、――――――明日、か」

一夏「何も起きなければいいんだけどな…………」

一夏「でも、束さんはきっと来る。その時、千冬姉たちはどうするつもりなんだろう?」

一夏「…………考えていてもしかたないか」

一夏「俺は信じてる」


――――――“奇跡のクラス”を。







「で、お前、――――――いつ結婚するつもりなんだ?」

「はぁ?」’ギロッ

「止めておけ。三十路手前の榊原先生が余計かわいそうになるぞ」”

「女尊男卑の世の中になったって、“男と女の関係”は必要不可欠なんだし、意識してたっていいと思うんだが」

「そういうお前こそ、相手がいないようだな……」’

「……仕事柄仕方のないのことなんだ。わかるだろう?」

「それなら私も“プロフェッサー”も結婚できないな」’

「そうだな。家庭を持つよりも国の将来を担う人材や技術の開発を受け持っているからな」”

「そういう意味では『全員が子持ち』と言える立場になっていて、人間としての充足感は十分に得られていることになる」”

「…………そうだな」’

「……そうかい」

「………………“マス男”のやつ、どうするつもりなんだろう?」ボソッ

「何か言ったか?」’

「何でも…………」



337: 2014/03/17(月) 08:41:13.73 ID:TGLi8lbx0


「――――――“結婚”といえば、どうも黒い噂が絶えないぞ」”

「……何だ?」’

「実は一部の過激派フェミニストが、『同性婚の普及』と『そうした場合に、クローニングあるいは人工授精による子孫繁栄の推進』と声高に訴えているらしい」”

「なに!?」

「つまり、“男と女の関係”というかつての男尊女卑の発生の大元の原因を、人間の理性と権利によって取り除こうということらしい」”

「愚かな…………」’

「これもまた、女尊男卑の風潮と行き過ぎた権利意識によるモラルの低下がなせる業だな」”

「大丈夫なのか、世界は……」

「どうにもならないんじゃないか?」”

「あの“二束三文の女”が『女尊男卑の世の中にしてやろう』と思って、ISを開発したわけじゃないのはわかるだろう?」”

「そりゃあ、あいつは駄々っ子だ。“不束者”だからな。そんな大それたことを考えているはずがない」

「そう。開発者の意図とは別に、創りだしたものに意味と存在価値を与えるのが世界であり、開発者は常に欲に塗れた俗物たちの餌食となっていった……」”

「そう考えると、俺のやっていることは――――――俺がこうなって欲しいと祈りを込めて創りだすものは俺のものじゃなくなる…………」”

「正しいことと善いことは一致しなくなり、ただひたすらに世界は正しいことを選び続けて自滅の道を歩んでいく…………」”

「…………すまない」’

「…………難しいな」

「ああ……、難しいよ」”


「それじゃ、続けるか」




338: 2014/03/17(月) 08:42:39.46 ID:TGLi8lbx0


「なあ?」

「どうした?」”

「あいつ、何のためにISを造ったんだろうな?」

「どうした、“グッチ”? らしくないことを言う」’

「いや、『自分の発明をひけらかすため』なのは当然だけど、なら『どうしてひけらかしたいのか』って……」

「そうだな。人間の欲求というものは必ず連続性と原因がある」”

「だから、あいつは精神年齢がまんま小学生レベルだから、案外千冬と一緒に居た頃の出来事が大きいんじゃないのか?」”

「………………」’

「どうなんだその辺は? 私やみんなは中学2年の特別学級“奇跡のクラス”になるまでは――――――、な」

「よし、行くぞ! そりゃ!」”カランカラン

「ああ……、――――――ゴケだ」”ガックリ

「ションベンよりは遥かにマシだけど……」”

「よし、私の番だな。行け!」カランカラン

「やった! ――――――シンゴロウ!」

「私の勝ちは堅いな」フフッ

「言っていろ。はっ!」’カランカラン

「クズだ! クズになれ! よし!」

「いや、これは――――――」”

「はあ!?」

「フッ」’






339: 2014/03/17(月) 08:43:53.61 ID:TGLi8lbx0

――――――入浴後


一夏「あれ?」スタスタ・・・

一夏「お前ら、何をやって――――――(千冬姉の部屋に聞き耳を立てて何をやってるんだ?)」

ラウラ「あ、――――――よ、“嫁”!?」ビクッ

鈴「な、なんであんたが部屋の外にいるわけえええええ!?」

簪「違うよ、一夏。これは、あのえと、私は止めようって言ったんだけど――――――」アセアセ

シャル「ああずるいよ! 簪だって途中から僕たちと同じことをしだしたんだから」

セシリア「ちょっと、みなさん! ――――――あ」グラッ

箒「あ、あああああああああああああ!」

バタン!

小娘共「あう!」


千冬「…………何をしているんだ、小娘共?」ギロッ


担当官「あ…………」

副所長「よし、これで勝負はお流れ――――――」

千冬「ふざけるなよ? 負け分として大人のつまみはお前らが持ってこい」ギロッ

担当官「…………くそ」

副所長「…………まあ、これ以上続かないんだから安い出費だろう」

副所長「それじゃ、ちょっと席を外すよ」

担当官「…………私もだ」

セシリア「えと、お茶碗だけ……?」

鈴「でも、ずいぶんと酷いことを言っていたような…………」

一夏「どういうことだと思って聞き耳を立てていたんだよ、お前たち?」

箒「いや、それは、その、決して疚しいものではなくってな…………!」アセアセ

ラウラ「そうか。私はてっきり――――――」

シャル「何も言わないで、ラウラ!」

千冬「何でもいいから早くふすまを元に戻せ、馬鹿共が」

小娘共「あ、はい」

一夏「何やってるんだか」

一夏「それじゃ、お供します」

副所長「ああ、助かるよ(次いでに、明日のことについても話しておく必要があるからな)」

担当官「くそ、ここぞと言う時の勝負運は相変わらず強いな、千冬のやつ」

担当官「アラシかよ」

千冬「それじゃ、小娘共。あいつらが帰ってくるまでに聞いておきたいことがあるから、ここに座れ」

小娘共「!!」




340: 2014/03/17(月) 08:45:24.90 ID:TGLi8lbx0

――――――臨海学校、2日目


担当官「ただいま参りました」

箒「遅れてしまって、申し訳ありません」

千冬「よし、専用機持ちは全員揃ったな?」

鈴「ちょっと待ってください」

鈴「他の生徒たちはどうしたんですか? 専用機持ちだけで試験を行うなんて聞いてませんですけど?」

千冬「では、説明しよう」

千冬「実はだな――――――」


「やああああああああああああほおおおおおおおおおおおおお!」


一同「!?」

千冬「…………」

箒「う……」サッ

一夏「…………箒」

副所長「…………来たか(相変わらず規格外っぷりだな。“プッチン”とは逆の意味で気分が滅入ってくるよ)」

担当官「できれば二度と会いたくはなかったがな(――――――“不束者”めぇ!)」

束「ちぃいいいいいいいいいいいいいちゃああああああああああああん!」ヒューーーーーーーン!

千冬「ふん!」ガシッ

束「やあやあ会いたかったよ、ちぃちゃん! さあハグハグしよう、愛を確かめ合おう!」ギュゥウウウウウ!

千冬「うるさいぞ、束」

束「相変わらず容赦の無いアイアンクローだね」スッ

副所長「!」

担当官「…………千冬のアイアンクローを軽々引き離した。やっぱり人間じゃねえ」


341: 2014/03/17(月) 08:46:25.07 ID:TGLi8lbx0

束「じゃじゃーん!」

束「やあ」

箒「どうも……」

束「いっひひーん」

束「久し振りだねー。こうして会うのは何年振りかなー? 大きくなったねー、箒ちゃーん!」

箒「うぅ……」

担当官「おい、篠ノ之 束!」

束「!」

束「あれー? どっかで見覚えがある顔だぞー? 誰だったかなー?」

束「そうだ、“グッチ”だ! やあ、おひさー」

担当官「自己紹介ぐらいしろ(この女! 誰のせいで箒ちゃんが苦しんできたと思っていやがるっ!)」ゴゴゴゴゴ

担当官「それに、今は私がこの子の保護者なんだからな。以後、しっかりと覚えておけ」

束「あ、どこかで聞いたことのある声だと思ったら、あれも“グッチ”だったんだー。それは知らなかったよ、てへー」

担当官「この女ぁ……!」プルプル

副所長「堪えろ。それに、お前では束には勝てない……」

担当官「くっ」


束「私が天才の束さんだよ、ハロ~」


束「終わり~」

鈴「“束”って――――――」

シャル「“ISの開発者”にして天才科学者の!?」

ラウラ「…………篠ノ之 束」

簪「えと、みんな……?」

副所長「お前ら、代表候補生なのに知らないのかよ…………3年前の世界同時生中継インタビュー直前に最後のコアを残して失踪するようなやつだぞ」

セシリア「あの、篠ノ之博士、私は――――――」

束「さあ、大空をご覧あれ!」

一同「!?」


ヒューーーーーーーン! ドーーーン!



342: 2014/03/17(月) 08:47:41.80 ID:TGLi8lbx0

一夏「何だこの、八面体は!?」

副所長「――――――IS反応、これがプレゼントか」

束「じゃじゃーん!」

束「これぞ、箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全スペックが現行ISを上回る、束さんお手製だよー」
   ・・・・・・
束「なんたって『紅椿』は、天才:束さんが造った第4世代型ISなんだよー」

一同「!?」

担当官「なんだと!?(この女! そんなものを渡したらどうなるのか、考えたことないのかあああああああああああああ!)」

ラウラ「第4世代…………!?」

セシリア「各国で、やっと第3世代型の試験機ができた段階ですわよ……」

シャル「なのに、もう…………」

束「そこがほれー、――――――『天才:束さん』だから」

束「さあ、箒ちゃん。今からフィッティングとパーソナライズを始めようか」

千冬「…………さあ、篠ノ之」

箒「…………」

箒「これが、私の専用機“白に並び立つ者”『紅椿』……」ジー

副所長「…………!」

簪「ねえ、一夏? あのデザインってどこかで見たことがない?」

一夏「あれ? 確かに……(ちょっと待ってくれ! あのデザインは――――――!)」

鈴「(6月に私たちを襲ってきた朱い無人機と意匠が似ている…………まさか、ね?)」

一夏「あの、“プロフェッサー”、――――――っ!?」

千冬「…………」ゴゴゴゴゴ
副所長「…………」ゴゴゴゴゴ
担当官「…………」ゴゴゴゴゴ

一夏「…………どうしたんだろう?(――――――まるで“敵”を見ているかのようにきつい目をしている!)」

束「ふふ~ん」




343: 2014/03/17(月) 08:49:25.90 ID:TGLi8lbx0

束「箒ちゃんのデータはほとんど先行して入れてあるから、後は最新データに更新するだけだね」ピピゥtピピッ

副所長「(そのデータを取り続けて提供したのは俺だがな! それが無かったら15秒は掛かるんじゃないのか?)」フンッ

束「はい、フィッティング終了! 超速いね、さすが私!」ピッ

鈴「え、もう終わったの……?(――――――5秒も経ってなかったじゃない!)」

束「それじゃ、試運転を兼ねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよー」

箒「ええ。それでは試してみます」

箒「…………行くぞ、『紅椿』」ヒュウウウ・・・


ヒュウウウウウウウウウン!


鈴「何これ、速い!」

シャル「これが、第4世代の加速――――――、ということ?」

束「どうどう? 箒ちゃんの思った以上に動くでしょー」

箒「ええ、まあ……」

箒「(『打鉄』なんか比じゃない! 確かに、全てにおいてあらゆるISを凌駕している!)」

箒「(しかも前使っていた時よりも、『空裂』『雨月』の威力や性能が遥かに上がっている!)」

箒「やれる! この『紅椿』なら――――――!」フフッ


束「うふふふ、あははは…………」

副所長「で、天才:束さん? 我が学園の生徒に機体を預ける以上、」

副所長「何を以って即時万能対応機である第4世代型としているのか教えていただけないでしょうか?」

束「あ、そう言うのは“プロフェッサー”だなー! 懐かしー!」

束「え、何々? 同窓会でもやるの? 楽しみだなー!」

副所長「教えてください」

副所長「(俺の研究所を爆破したって自覚は無いんだな。まあ、こいつにとっての俺は“プロフェッサー”だから、しかたないか)」


344: 2014/03/17(月) 08:50:46.54 ID:TGLi8lbx0

束「ふふーん! 聞いて驚け!」

束「即時万能対応機という机上の空論を可能にした第4世代技術の名は、――――――『展開装甲』!」

副所長「…………『展開装甲』」

束「一言で言っちゃうと、――――――『紅椿』は雪片弐型が進化したものなんだよねー」

一同「!?」

千冬「…………!」

担当官「???」

束「なんと全身のアーマーを『展開装甲』にしてみました。ブイブイー!」ニコニコ

一夏「どういうこと、それ?」

シャル「雪片弐型の特徴って、それだけで『白式』の拡張領域を埋めていることだよね……?」

ラウラ「ファーストシフトの段階で、単一仕様能力を使えるようにしたためにそうなったとされるが…………」

副所長「なるほどな。合点がいったよ」

副所長「やはり『白式』はお前が完成させた機体なんだな」

一夏「!?」

鈴「え」

簪「ま、まさか――――――!?」

束「凄いね、“プロフェッサー”! どうしてそんなこと知ってるの? 昔から物知りだったよねー? どうしてー?」

副所長「昔から言われてきただろう?」


――――――俺とお前は“対極の存在”だとな。


副所長「“底辺の天才”と“天才の中の天才”だからこそ、だ」

束「何言っているのか、よくわかんないよー、“プロフェッサー”?」


副所長「実は俺もなんだ」


一同「!?」

シャル「『俺も』って…………」

ラウラ「まさか、すでに――――――!?」

副所長「『打鉄弐式』を設計してしばらく、第4世代型のアイデアはもう完成していたんだ」

副所長「お前がこの時期に第4世代型を出すっていうのなら、俺も第4世代型でも出そうかな?」

簪「え、ええええええええええええ!?」

ラウラ「う、嘘だと信じたいが、…………確かに“プロフェッサー”ならありえる」

一夏「ラウラ――――――あ」


副所長『『造れ』と言うのであれば、別に構わないがな。ドイツの第3世代型以上の機体ぐらい余裕で造ってやる』


一夏「…………“プロフェッサー”」

鈴「同じ“奇跡のクラス”の一員だもん、ね?(ええ、何このレベルの高さ…………)」
                                               ヒイヅルクニ
セシリア「欧州連合の『イグニッション・プラン』が霞んでしまいますわ…………(お、恐るべし極東の日出国…………!)」

セシリア「(“ブリュンヒルデ”といい、“ゴールドマン”といい、これだけの天才を擁している国を前にしたら、どんな国も後進国に――――――)」


345: 2014/03/17(月) 08:51:41.03 ID:TGLi8lbx0

副所長「多くを語るつもりはない。見てからのお楽しみということで」

束「へえ、すっごく楽しみー! 今度見せて見せてー」

副所長「ああ……、また会うことができたらな」

シャル「僕たち、とんでもない人たちの許で学園生活を送っていたんだね…………」

ラウラ「ああ…………」

担当官「私には、さっぱり話が見えてこない…………」


山田「大変です!」タッタッタッタッタ


一同「!?」

山田「これを!」スッ

千冬「…………特命任務レベル:A」
                              トップシークレット
担当官「――――――『特命任務レベル:A』、だと?(それって“最重要機密”って意味じゃないか!)」

千冬「テスト稼働は中止だ」

千冬「お前たちにやってもらいたいことがある」

担当官「おい、千冬!?」

副所長「さてと(――――――ここからが俺とお前との叡智を賭けた勝負だ!)」ゴゴゴゴゴ

束「ふふーん」ニヤリ




346: 2014/03/17(月) 08:53:08.32 ID:TGLi8lbx0

――――――対策本部


千冬「2時間前、試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発にあった第3世代のIS『銀の福音』が制御下を離れて暴走――――――」

千冬「監視空域より離脱したとの報があった」

千冬「情報によれば、――――――無人のISということだ」

担当官「…………無人機だって? どういうことだ、“プロフェッサー”?」ヒソヒソ
                                    ・・・・・・・・・・・・・・
副所長「黙っていろ。今は関係ないことだ(――――――アメリカめ。そんなに誰の手を汚さない人道的な兵器を造り上げたいか)」ヒソヒソ

千冬「その後、衛星による追跡の結果、『銀の福音』はここから2キロ先の空域を通過することがわかった」

千冬「時間にして50分後――――――」
                 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
千冬「学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった」

一夏「は」

一夏「…………えと(どういうことだよ、それ?)」キョロキョロ

小娘共「…………」

一夏「え、ええ……?(みんな、どうして何も思わないんだ?)」オロオロ

千冬「どうした、織斑? ブリーフィングはちゃんと聞いていろ」

一夏「…………はい」

担当官「…………」

担当官「(“千冬の弟”よ。お前の言いたいことは痛いほどわかる! 私も心の中で叫ぼう)」

担当官「( 何 故 な ん だ !? )」

千冬「教員は学園の訓練機を使用して、空域および海域の封鎖を行う」
                    ・・・・・・・・・・・・・
千冬「よって、本作戦の要は、――――――専用機持ちに担当してもらう」

一夏「は、はい!?」

ラウラ「つまり、暴走したISを我々が止めるということだ」

一夏「ま、マジか!?」ガタッ

鈴「いちいち驚かないの。それに、過去に二度は外敵を退けてきたんだから驚くこともないでしょう?」

一夏「え……(こんなの絶対おかしいよ……)」


347: 2014/03/17(月) 08:55:56.42 ID:TGLi8lbx0

千冬「それでは作戦会議を始める。意見があるものは挙手するように」

セシリア「はい! 目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

千冬「ふむ」                                       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
千冬「だが、決して口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも2年の監視が付けられる」

担当官「え」

一夏「…………は?(おい、ふざけんな!)」イライラ

小娘共「」コクリ

千冬「どうした、織斑? なぜデータを開こうとしない?」

一夏「………………」ムカムカ

簪「一夏?」

箒「どうしたと言うのだ、一夏?」

一夏「………………」ムカムカ

鈴「何よ、はっきりしなさいよ」

千冬「………………一夏」

担当官「(このままじゃいけない! けど、私は何をするべきなんだ――――――あ)」

副所長「すまない、織斑先生。ちょっと織斑一夏を借りて行くぞ」

鈴「え」

副所長「行くぞ、一夏」

一夏「…………はい」

副所長「作戦案は最低でも2つは用意しておいてくれ」

副所長「ではな」スタスタ・・・

一同「………………」

担当官「(さすがは“プロフェッサー”だ)」

担当官「(となると、この場合の私の役割は、――――――見守ること、だけか)」




348: 2014/03/17(月) 08:58:09.42 ID:TGLi8lbx0

――――――旅館裏


一夏「ふざけんな!」バンッ

一夏「なんで俺たちがやらなくちゃいけないんだ!」

一夏「なんで軍法会議に掛けられなくちゃいけないんだ!」

一夏「なんでそれを何も疑わずに受け容れてるんだよ!」

       ・・・・・・・・
一夏「まるで、俺だけがおかしいみたいじゃないか!」


副所長「…………わかっただろう?」


――――――これがアラスカ条約体制の欺瞞だ。


副所長「それにな、代表候補生っていうのはこういった有事に対応するために、軍人としての教育も受けているんだ」

副所長「つまり、――――――『そういう事態が起こる』ということを黙認しているわけなんだ」

副所長「ISの軍事利用はアラスカ条約で禁止されているのに、世界に実戦配備されているISの数は322機だ」

副所長「つまり、全てのISが467であるから、およそ3分の2が実戦配備で、残り3分の1が研究用と大別されることになるな」

一夏「“プッチン”さんが言っていた事がよぉくわかったよ」


外交官『残念だが、――――――国際社会とは口で言うほど遵法精神旺盛ではないのだよ』


一夏「ふざけるなふざけるなふざけるな! どこまで他人の人生を弄べばいいんだよ!」



349: 2014/03/17(月) 08:59:28.66 ID:TGLi8lbx0

副所長「それと、教員たちが海上封鎖に回る理由の1つとして、教員の扱いが日本の公務員であることが挙げられるな」

副所長「アメリカとしてはアラスカ条約に基づく『IS技術の公開』を現在進行形で破っているわけだから、日本の公務員には知られたくないというわけだ」

副所長「専用機持ちは建前上はあらゆる国家・組織・団体から独立した扱いやすい駒だからこそ、今回の作戦の要となるわけだ」

一夏「…………こんのぉ!!」
                               ・・・・・・・・・
副所長「ふん。IS学園の運営・管理・報告を全て我が国に押し付け、公平な『技術公開』を迫っておいて、自分は手の内を明かそうとしないというわけだな」

一夏「…………何だよ、それ! IS学園はあらゆる圧力から干渉されないんじゃないのかよ!」

副所長「確かに学園の内ではあらゆる組織から独立しているが、IS学園そのものは日本の一高等学校だからな」

一夏「…………!」

一夏「…………やるしかないんですか?」ハア


副所長「安心しろ。すでに手は打ってある」ニヤリ


副所長「それこそが、俺と“マス男”からの特大プレゼントなのだからな」

一夏「!」


――――――“安心”と“信頼”!


副所長「アメ公に意趣返しをしてやろうじゃないか」

副所長「あ、――――――今もう、取り返しのつかないことになってるんじゃないか?」ニヤニヤ

副所長「だから、一夏はそこまで気負う必要はないぞ。もしかしたら、出る幕もないかもな」

一夏「おお……!」

副所長「とはいったものの、やっぱり出番はあるかもしれないな、相手が戦略級ISともなればな」

副所長「しかしだ。お前を拘束しようとする棍棒外交の大義名分を失わせることにはなる」

副所長「やらざるを得ないにしても、嫌味ったらしい連中に頭ごなしに命令されて使われるより、自由意思で身近な人を守るためだけに戦えたら気が楽だろう?」

副所長「だから、ちょっと待ってろ。手は打ってあるから」

副所長「あ、これ、秘密ね。そうしないとお前も牢屋行きだから」

一夏「わかってます、“プロフェッサー”!」パァ


――――――やっぱり“奇跡のクラス”って凄いや!





350: 2014/03/17(月) 09:00:41.56 ID:TGLi8lbx0

――――――2時間以上前、IS学園


使丁「さて、“プロフェッサー”の指示通りに中継アンテナの設置は完了した」

使丁「しかし、学園上層部に送られてくる通信を盗聴するだなんて、こんなことが知られたら――――――」

使丁「ともかく、“プロフェッサー”のやることに間違いはないんだ」

使丁「俺は“プロフェッサー”との友誼と為人を信じて、今日が無事に終わることを願うばかりだ」


使丁「束、お前は世界をどうしたいんだ?」


使丁「…………」

使丁「さて、お仕事お仕事っと」

使丁「あ、轡木さん。何です?」

使丁「え? 国連から〈イオス〉の試作機が送られてきた――――――?」







――――――そして、時は流れて、別な場所で


ピピッ

外交官「ほう? これはどこからの秘匿通信だ?」

外交官「…………なるほど、『ハワイ沖で公開されていない戦略級ISの暴走』か」

外交官「まるで成長していない」ハア

外交官「そして、――――――『白騎士事件』の再現でもしようっていうのか、束?」ピッ

外交官「なら、望み通りにしてやる。このままだと歴史の闇に埋もれてしまうからな」プルルルル・・・

外交官「幕僚長、スクランブルだ! 予想よりわずかに早かったが、待機中の部隊を展開して捕捉してくれ」

外交官「これで米国に対する絶好のカードが手に入る」

外交官「学園側が作戦行動に移る前に時間を稼いでくれ。撃破および鹵獲ができるのならばそれで構わないがな」

外交官「捕捉でき次第、日本政府から『所属不明機の撃破』を正式に依頼してくれ。こうすればやりやすいはずだ、あちらとしても」

外交官「俺も現地に向かって、篠ノ之 束の拿捕を行う!」ピッ

外交官「よし、出してくれ」

運転手「了解!」

外交官「(さて、国際秩序を保つために、――――――篠ノ之 束、お前は野放しにはできない)」

外交官「今日こそは――――――!!」ゴゴゴゴゴ




351: 2014/03/17(月) 09:02:10.67 ID:TGLi8lbx0

――――――所戻って、対策本部


セシリア「一夏さん、どうしたのでしょうか?」

ラウラ「まさか、事態の重要性を痛感して逃げ出した――――――いや、そうだとは思いたくないな」

シャル「そうだよ。いつだって一夏は命懸けで僕たちを守ってきたんだから!」

担当官「それで、やはり一夏くんの『零落白夜』による一撃必殺で撃破するしかないと……」

鈴「それしかないのよね…………高速戦闘が可能で一撃必殺ができる機体なんて、まんまあいつの機体のことだし」

シャル「けど、『零落白夜』に使うシールドエネルギーは残しておきたいから、誰かが輸送する必要がある……」

セシリア「それでしたら、簪さんの『打鉄弐式』と私の『ストライク・ガンナー』の出番ですわ」

セシリア「特に、『打鉄弐式』の多連装誘導ミサイル48発に加え、荷電粒子砲なら足りないところを補うことができますもの」

簪「うん。まかせて!」

鈴「こうして見ると『打鉄弐式』って、やっぱり“プロフェッサー”が造っただけあって、状況を選ばない超高性能機よね」

箒「………………くっ」

千冬「うん。では、この作戦に出撃してもらうのは、オルコットと更識、それと織斑――――――」


束「その作戦は、ちょっと待ったなんだよー」


束「とーーーー!」

ラウラ「天井裏から、――――――いつの間に!?」

束「ちぃちゃん、ちぃちゃん!」

束「もっと凄い作戦が、私の頭の中にナウプリンティング~」

担当官「部外者は出て行け!(―――――― 一応、今の私は日本政府から正式に送り込まれた査察官だから、部外者ではない)」

束「“グッチ”もそんな冷たいこと言わないで、聞いて聞いて!」

束「ここは断然、『紅椿』の出番なんだよ! “プロフェッサー”だってそう言うに決まってるよ!」

箒「…………!」

担当官「なにっ!?(やっぱり束、貴様――――――!)」

千冬「『紅椿』に搭載されている『展開装甲』とやらが、この作戦を成功に導くと言うのだな?」

束「イエース」ニコッ



352: 2014/03/17(月) 09:03:03.51 ID:TGLi8lbx0

――――――作戦準備


担当官「では、クルーザーを出して少しでも距離を稼ぎます」

セシリア「では、お先に!」

簪「頼んだよ、一夏、箒!」

副所長「シャルロットは防御パッケージ『ガーデン・カーテン』でクルーザーを守ってくれ」

副所長「最悪クルーザーが沈没しても、俺たちは救命いかだに避難するから、最終的に五体満足で陸に送り届けてくれればそれでいい」

シャル「了解です!」


ブゥウウウウウウウウウウウウン!


ラウラ「行ったか……」

鈴「私たちは予備戦力として待機、か……」

鈴「大丈夫よね? 4対1なんだから余裕よね……」

ラウラ「だといいのだが…………」



353: 2014/03/17(月) 09:05:38.88 ID:TGLi8lbx0

箒「一夏? 本当に相手の機体データ無しで戦うと言うのか?」

一夏「俺はアメリカの機密保持――――――尻拭いに協力したってわけじゃない」

一夏「だから、データなんて要らない(それに、データならすぐに新鮮なものが送り届けられることになってるしね)」

箒「え」

一夏「それよりも、箒にとっては実質的に初めての実戦だ。無理はするなよ?」

箒「大丈夫だ。むしろ、お前を送り届けるだけじゃなく、私がきっちりお前を守ってやる」

一夏「あ、ああ…………(何か不安だな。あれ以来、箒も落ち着いてきたのは確かなんだけど、)」

一夏「(以前に“プロフェッサー”が言って聴かせてきたことが急に現実味を帯びてきたぞ…………)」


副所長『俺が思うに、将来あの子は絶対にどこかで慢心を起こして重要な局面で致命的なミスを起こしそうなんだ』

副所長『束が強力な専用機を渡せば、確実にそうなるのが目に見えている』

副所長『あの子は自分の剣の腕に絶対の自信を持っている』

副所長『そこから己の強さを過信して、今回みたいな襲撃事件に遭えば率先して勇ましく戦うだろうな』

副所長『ただ、勇ましく戦うのはいいんだが、自分がやれば全てうまくいく――――――』


――――――だから、自分のやることを邪魔するな、あるいは従え!


副所長『なーんてことになるんじゃないかって思う』


一夏「(何なんだ、この嫌な感じは…………)」

一夏「(今の箒はなんだか、何かを見落としているような気がするんだ……)」

一夏「(やる気が感じられないっていうか、気持ちがどこか浮ついているというか、――――――真剣勝負の気迫がこもってない)」


一夏「そうだ!(――――――真剣勝負だ!)」


一夏「箒、1回だけ打ち合ってみないか? どれだけの馬力なのかを体感してみたい」

箒「ああ、いいぞ!」

一夏「いくぞ!」ブン!

箒「はあああああああああ!」ブン!


ガキーン!




354: 2014/03/17(月) 09:06:43.86 ID:TGLi8lbx0

一夏「!?」ジィイイン

箒「これが、私の専用機『紅椿』だ」

一夏「打ち合って腕が痺れるなんてこと、実際にあるんだな…………」ブルブル

箒「どうだ、一夏。これなら、お前のことを守ることなんて簡単だろう」

一夏「…………まあ、そうだが(――――――失敗した、これは)」

束「何かいい感じじゃん」

箒「!」

箒「そ、そんなことはない……」プイッ

束「そんなぶすーっとした顔しないで。笑って笑って」

箒「この顔は生まれつきなので…………」

束「そーだっけ?」

一夏「………………束さん(やっぱり束さんは――――――)」


山田「大変です! 織斑先生!」


千冬「今度はどうした?」

山田「今度は日本政府からの依頼です!」

山田「我が国の領空を侵犯した『所属不明機の撃破あるいは拿捕を行なえ』とのことです!」

山田「すでにその『所属不明機』と交戦し、映像データも送られています」

千冬「…………なるほど」

千冬「そいつをあいつらに見せてやれ」

山田「はい!」ピピッ

山田「なお、接触はできたものの、取り逃してしまったそうです……」

山田「私たちの作戦行動には一切影響はないと思われますが、どうします?」

千冬「いや、日本政府からの依頼は、今の織斑にとっては願ってもない一報だ」

千冬「(さすがの根回しだ、――――――“プッチン”!)」




355: 2014/03/17(月) 09:07:44.96 ID:TGLi8lbx0

――――――11:30 作戦開始!


一夏「来い、『白式』!」

箒「行くぞ、『紅椿』!」


一夏「じゃあ箒、よろしく頼む」

箒「本来なら、女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、」

箒「今回だけは特別だぞ?」ニコッ

一夏「よし、もう一度確認するぞ?」

一夏「いいか、箒? これは訓練じゃない。十分に注意をして取り組――――――」

箒「無論わかっているさ。一夏は心配症だな」

箒「心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる」フッ

箒「大船に乗ったつもりでいればいいさ」

一夏「…………心配してし過ぎることなんてないぞ?」

一夏「俺は怖いよ。実戦なんて何が起こるかなんてわからないんだからさ(それで何度、“氏”を体験したことか……)」

箒「え」

一夏「箒はさ、もうちょっとイメージトレーニングをしておくべきなんじゃないのか?」

一夏「いくら束さんが造った最強のISだからといって、エネルギー兵器をあれだけ高出力で使ってるんだから燃費だって相当悪そうだぞ?」

箒「何を言っているんだ、一夏。状況としては4対1なんだし、私は『紅椿』のことをよく理解している」

箒「そして、私はいつも通りだ」

箒「一夏こそ、作戦には冷静に当たることだ。過度の心配で仕損じるなよ?」

一夏「…………わかったよ。ちゃんと運んでくれよ(それ以外は期待しないことにしよう。ダメだ、話が通じない)」


――――――“束の妹”が偉そうなことを言っても聞き流せ。


一夏「(“プロフェッサー”のいうことに間違いはなかった…………)」

一夏「(だけど、彼の名誉にかけて、この指摘は外れて欲しかった…………)」


一夏や周りの大人たちが懸念していたことは、普段とは異なるいつになく冗長な口数の多さによって、的中していたことがすぐに浮き彫りになっていた。

一夏は何とか気合を入れ直そうとこの瞬間まであの手この手 言葉や手段を考えて尽くしてはみたものの、徒労に終わってしまった。

また、この時の一夏にとって、箒の覚悟など本物の氏線や逆境を体験してきた彼からすれば不覚悟なものだと決めつけてもいた。

6月での幼馴染との再会と擦れ違いは、7月の今日になって決定的な不信感を一夏に植えつけていたのである。なまじ見識が拡がったばかりに。

そのことにまるで気づかない箒のどこか緩んだ表情に哀れみを感じながら、一夏はこの戦いの先に待つ虚しさを一人堪能していた。

無事に『銀の福音』の撃墜に成功すれば、箒は間違いなく増長するし、

かといって、『銀の福音』の撃墜そのものに失敗し、取り逃がすことになれば、学園の信用が失われることになる。

一番に理想とするのは、ほどほどに苦戦して、箒の中での認識が改まって、『銀の福音』を撃墜することである。

だが、誰もが体験したことがない軍用機との実戦に、彼も言ったように戦いに挑むのは怖かった。無視したかった。胸に秘めた怒りの丈をぶつけたかった。

それでも一夏は、自分の中で戦う理由を見出し、日本政府から提供された映像記録の中の『銀の福音』の行動パターンを思い出しては気合を入れるのであった。



356: 2014/03/17(月) 09:09:10.76 ID:TGLi8lbx0


千冬「織斑、篠ノ之、聞こえるか?」
――――――

一夏「……はい」

箒「よく聞こえます」

――――――
千冬「今回の作戦の要は一撃必殺だ。4対1という有利な状況になるとはいえ、短時間での決着を心がけろ」

千冬「討つべきは、――――――『銀の福音』」
――――――

両者「了解」

箒「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

一夏「(――――――『状況に応じて』って、具体的にはどうするってことだよ?)」

――――――
千冬「……そうだな」

千冬「だが、無理はするな。お前は『紅椿』での実戦経験が皆無だ」

千冬「突然何かしらの問題が出るとも限らない」
――――――

箒「わかりました」

箒「ですが、できる範囲で支援をします」

一夏「…………」

一夏「(これって、入学当初の俺以上に楽観視していないか、この状況を……)」

一夏「(それにセシリアや簪との連携を、ちゃんと意識しているのだろうか? 連携行動っていうのは互いのことを知り尽くしてこそ発揮されるもんだ)」

一夏「(今の箒に、セシリアや簪の姿は見えているのだろうか?)」

――――――

357: 2014/03/17(月) 09:10:15.15 ID:TGLi8lbx0

鈴「あの子、何だか声が弾んでない?」

ラウラ「確かにそう聞こえた」

鈴「わからなくはないけど…………」

ラウラ「だが、今回の作戦の要である以上、どうこう言うにはすでに遅すぎる。士気に関わる」

千冬「………………」

千冬「織斑へのプライベートチャネルを」

山田「はい」ピッ

千冬「……一夏、どうも篠ノ之は浮かれているな」

千冬「あんな状態では何かを仕損じるやもしれん。いざという時はサポートしてやれ」
――――――

一夏「やっぱり、そう見えますか」

一夏「“プロフェッサー”がオペレーターになって直接指揮を執ることができたらよかったんですけど……」

一夏「ともかく、意識しています」

――――――
千冬「うん」

山田「オープンチャネルに切り替えます」ピッ

山田「スタンバイどうぞ」

千冬「先行しているクルーザーとの同期もとれた」

千冬「では、始め!」
――――――

箒「行くぞ」

一夏「おお!」


ブゥウウウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウ!




358: 2014/03/17(月) 09:11:10.05 ID:TGLi8lbx0

――――――クルーザー


担当官「動きました!」ピピッ

副所長「さて、『紅椿』のスペックがデータ通りならそろそろ行ってもらおうか」

副所長「二人の任務は、『銀の福音』を『白式』の『零落白夜』で一撃必殺させることだ」

副所長「決して『銀の福音』を自分たちの手で撃墜しようと欲を出すな。そうなると視野が狭まり、高速戦闘での連携行動を損なう可能性がある」

副所長「さて、衛星からの情報だと……、ありゃま『銀の福音』は予想されたルートをちょっとばかり転進していたらしい」ピピッ

副所長「少しばかり距離が開いてしまったな(どうやら、うまくいってくれたようだ!)」

副所長「よし、出撃だ!」パンパン

セシリア「了解!」
簪「了解!」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウ!


副所長「『白式』と『紅椿』、『銀の福音』との接触には多分な誤差が生じているはずだ」

副所長「それを上手く調節してくれよ」

副所長「後は、『銀の福音』に肉薄することになる2機の連携が鍵となるが…………」

シャル「…………?」

副所長「どうした、シャルロット?」

シャル「いえ、…………気のせいかな?(――――――海上封鎖はしてあるはずだし)」

担当官「武運を祈るよ、箒ちゃん!(頼む! どうかこの作戦がみんな無事で終わることを…………)」





359: 2014/03/17(月) 09:12:26.75 ID:TGLi8lbx0

箒「見えたぞ、一夏!」

一夏「あれが『銀の福音』……(送られてきた映像資料によると、武器はあの大型スラスターから出るオールレンジ攻撃だけ! 無力化するならそこだ!)」

箒「加速するぞ。目標に接触するのは10秒後だ」

一夏「よし、セシリアや簪も追いつく頃だ」

一夏「行ってくれ!」

箒「よし!」

ビュウウウウウウウウン!

一夏「うおおおおおおおお!(――――――『零落白夜』発動!)」

福音「!!!???」クルッ

一夏「(――――――気づかれた!?)」ブン!

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウン!

一夏「箒、このまま押し切る!(巡航速度とほぼ同等のイグニッションブーストを使ってくるのか。『AICC』なんて役に立ちそうもないな)」

箒「ああ!」ビュウウウウウウウウン!

一夏「だけど――――――!(――――――俺の武器は『AICC』だけじゃない!)」


セシリア「いただきましたわ!」バヒュン!


福音「!!!!」ドゴーン!

一夏「ナイスアシスト!(そう、――――――仲間との連携だ!)」

福音「!!!!」

一夏「もらったあああああああああ!」ブン!

福音「――――――!」ヒュウン!

箒「あ」

一夏「ぐぅわあああああああ!(――――――「超高速切替」!)」ブン!

福音「!!!!」ザシュ

箒「え!?(いつの間に投げた――――――いや、さっき斬っていたよな!?)」

一夏「やった…………いや、半分だけか」

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウン!
     ・・・
一夏「もうこの手は使えないな……(腕部の自動操縦による斬撃と素手による投擲を合わせた「超高速切替」の奥義――――――)」


ステルスモードで機を狙っていたセシリアの『ブルー・ティアーズ』からの長距離精密射撃による闇討ちによって、『銀の福音』は一瞬だが大きく制御を失い、

その一瞬によって、『銀の福音』の第3世代兵器『銀の鐘』に片方の羽を大きく『零落白夜』の光の剣が突き刺さった。

それにより『銀の福音』はいきなり主力の半分を失うことになり、大きく戦力ダウンを起こすことになった。100点とはいかないが及第点の初撃である。

だが、前方に意識を集中していた箒からでは『銀の福音』と肉薄した瞬間に起きた一瞬の人間離れして神業を理解することはできなかった。


―――――― 一夏はどういうトリックを使って、躱されたのにすぐに追撃できたのだろうか?



360: 2014/03/17(月) 09:15:36.81 ID:TGLi8lbx0

実は一夏は――――――、

『白式』の右腕部が『零落白夜』の光の剣を振り下ろした瞬間に、

右肩から順に量子解除をしつつ光の剣を握る右手を脳波コントロールで自動操縦して斬撃を続行させ、

装甲から引き抜いた生身の右腕を素早く天に突き出し、

右肩、右腕、右手、雪片弐型の順にと量子化していくよりも早く、

天にかざした右手に『零落白夜』の光の剣を呼び出して、

無造作に『AICC』を繰り出したのである。ほぼ反射的に投げつけていたのだ。


光の剣を振る→『銀の福音』に左側に躱される→振った右手だけ残して生身の右腕を装甲から引き抜いて太刀投げの構え→
    振り終わった光の剣を「超高速切替」で右手に展開→『AICC』(ただし、勘で投げつけた)→『銀の福音』の片翼を貫く


結論:剣で斬ると同時に同じ剣を投げつけた


『白式』から見て左側に急速旋回して躱そうとする『銀の福音』ではあったが、セシリアからの闇討ちによって一瞬という大きな時間 反応が遅れ、

大ぶりの斬撃こそ躱すことはできたものの、「超高速切替」から繰り出される光のシャワーに喩えられる太刀投げまでは躱しきれなかったのである。

だが、生身の腕を超音速の世界に一瞬だけ突き出してしまったので、装甲によってすぐに守られたが一夏の右腕はソニックブームで血煙を噴いて赤く染まっていた。
                                            ・・・
装甲に隠れてはいるが、一夏の紅く染まった右手は言うことを聞かなくなっていた。だから、もうこの手は使えない。



361: 2014/03/17(月) 09:16:43.65 ID:TGLi8lbx0

一夏「くっ、分離して追い込むぞ! 片翼をもいだからには勝利は固いぞ!」ズキズキ

箒「応!」

一夏「(俺の右腕はもう使えないだろうが、『銀の福音』の片翼をもいでやったんだから、後は何とかなるはずだ!)」ニヤリ

簪「私もここにいるよ!」ピピッピピッ

簪「ターゲット・ロック! ――――――『山嵐』!」

セシリア「では、私はまたステルスモードで!」

福音「――――――!」シュババババ

一夏「来た!(一度に36個も誘導レーザーを放つ圧倒的な弾幕だったけど、半分ともなると捌き切るのは案外容易だ!)」

一夏「そして、第3世代兵器の共通の弱点――――――!(イメージに集中してターゲット・ロックしている時はPICが機能しなくなる!)」

一夏「!!」

福音「――――――!」シュババババ

一夏「……速い!?(隙らしい隙がほとんど一瞬じゃないか! 学園に送られてきている最新鋭の第3世代機なんかよりも遥かに――――――!)」

一夏「くっ! さすがに簡単には近寄れないか……(イメージせずに使うのなら多連装レーザー砲として普通に使える辺り、凄い完成度だ)」

一夏「これが軍用機ってやつなのか(――――――普通に考えて、戦力としての次元が違い過ぎる!)」

一夏「(ラウラの機体も軍用機で隙のない完成度だったけど、『こいつ』は言うなれば、――――――究極兵器としての位置づけだ)」

一夏「(アメリカはやっぱり横暴だ。IS学園を国費で運営させるように圧力を掛けておいて、その成果は『ただでよこせ』だなんて…………!)」


一夏「………………ふざけやがって!(やっぱり、是が非でも意趣返ししないとな!!)」ゴゴゴゴゴ



362: 2014/03/17(月) 09:18:41.65 ID:TGLi8lbx0


ボゴンボゴンボゴーン!


福音「!!!?」

簪「誘い込んだ! 決めて!」

箒「はああああああ!」ガキーン!

福音「!!!!」

箒「掴んだぞ!」

箒「よし、今だ! 一夏、やれ!」

一夏「おおおおおおおおおおお!(これで終わりだあああああああ!)」ヒュウウウウン!

福音「――――――!」シュババ

箒「うわっ」ヨロッ

一夏「なにっ!?(至近距離でも対応できるだなんて! だが、この距離なら――――――!)」

箒「……こいつ! おとなしくしていろ!」カッ

箒「逃がすものか! ――――――『空裂』!」ブン! ブン!

福音「!!!!」ボゴーン!

箒「よし! このまま――――――」ブン!

一夏「おわっ!?(――――――「完全停止」!)」

一夏「横着するな、箒! 無闇やたらに振り回すな! エネルギーが保たなくなるぞ!(1対多を想定した武器なんて相性最悪じゃないか!)」


あと一歩のところまで『紅椿』の高性能ぶりと簪やセシリアの的確な援護で追い込んだのだが、

『銀の福音』を捕まえた箒の『紅椿』に、標的は器用に至近距離の敵に対して誘導レーザーを中てていく。まさにオールレンジ攻撃!

だが、その程度の攻撃では『紅椿』は損傷にはならず、すぐにまた捕まえて、そのまま『零落白夜』による確実なフィニッシュが訪れる――――――はずだった。


ところが箒は、カッとなって一撃を加えてしまったのである。


何が致命的なのかと言えば、粘っていればそのまま一夏の『白式』が垂直降下で一気に『零落白夜』で一刀両断できたのに、

わざわざ相手を押し退けてしまうような大振りのレーザー攻撃を繰り出し、せっかく掴んだチャンスを自分の手で潰してしまったのである。

それだけならまだ良かったのだが、箒はつい僚機と戦っていることを忘れて『銀の福音』への攻撃に集中したために、

いつこちらに1対多の『空裂』の飛んでくる広範囲薙ぎ払い攻撃が飛んでくるかが周囲の不安を煽り、味方の攻撃が一番の脅威となりつつあったのである。

また、一夏が推測していた通り、『紅椿』は第4世代技術『展開装甲』とその高性能ぶりで目を見張る機体だが、それだけに燃費の悪い機体でもあり、

きっちりと下積みを積んで『白式』に乗り換えた一夏にとって、いくら「最適化」されているとはいえ『紅椿』は初心者の箒の手に余る機体だと認識していた。

他にも、いろいろ言いたいことは山ほどあるが、言うなれば、――――――あれである。

箒の勇ましさは、かつての一夏と同じく 無知から来る蛮勇でしかなく、箒と周りの専用機持ちにどれだけの差があるかなど知らないのだ。


結論:箒は『紅椿』のことを機体を通して誰よりも理解しているが、逆にそれ以外のことはまったく理解していなかった。



363: 2014/03/17(月) 09:19:41.16 ID:TGLi8lbx0

――――――仮にである。


仮に、ラウラ・ボーデヴィッヒと同じ頃にIS学園に転入していれば、きっとラウラを反面教師にして自省する可能性はあったかもしれない。

あの時のラウラの傍若無人な振る舞いは、どこかしら篠ノ之 箒と通じる所があったからだ。

これが“天の時”というものであった。




出会いは人を変えるが、いつどんな時に出会うかによっても人との繋がりの意味は七色に変わっていってしまうのである。



364: 2014/03/17(月) 09:21:21.16 ID:TGLi8lbx0


膠着状態に陥った戦況に、誰も彼もが疲れを溜めていき、鬱憤を内部に溜め込んでいく。

しかし、ジッと堪え続けてきた一夏の心境も、話を聞かない箒の横着を歯痒く思っているうちに、

やがて、――――――ある考えがよぎり始めた。

それは、膠着状態に陥った戦場にある転機が訪れてからであった。


一夏「――――――うん?(…………細い雲筋が複数眼下に見える? いや、俺たちは雲よりも高いところにいるんだから飛行機雲なわけがない!)」
                 ウェーキ
一夏「これは…………(――――――航跡だ! 海上封鎖しているはずなのに、なんでそんなものが……!?)」

一夏「セシリア! 海上に船が複数見えたような気がするんだが、どうなってる!?」

セシリア「え」

セシリア「あ、一夏さん! 海域に船が3つ確認できましたわ!」

セシリア「しかもこれは、――――――国籍不明ですわ! 密漁船のようですわ!」

一夏「なんだと……!?(どうする!? いや、やることは変わらない!)」

一夏「セシリア、シャルロットに船を守らせろ! このままだと、いずれは流れ弾がそっちにいくぞ」

セシリア「わかりましたわ!」

一夏「高度を取れ、箒! 船がいるんだ! 『銀の福音』の攻撃が海上に向かないようにしろ!」

箒「なんだと!? 海上封鎖されているのではなかったのか?」ピピッ

箒「――――――密漁船? この非常事態に!?」

福音「――――――!」シュババババ

箒「くっ」ヒュウン!

一夏「こっちだ、『銀の福音』! でやああああああ!(――――――『AICC』!)」ブン!

福音「――――――!」シュババババ

一夏「そうだ! こっちを狙え! 太陽を背にした俺を!(片翼をもいでもこれだけの戦闘能力か…………4対1であっても関係ないな、これは)」

福音「――――――!」シュババババ

一夏「さ、捌き切れない……(まずいな。利き腕じゃないから思ったよりも捌けなかった…………『零落白夜』を使う余裕がなくなってきている)」

一夏「これは本気で――――――(それなのに、『銀の福音』のエネルギーは無尽蔵か!? これが軍用機――――――!!)」

一夏「あ」

一夏「…………」フフッ


この時、織斑一夏に現状に対する大いなる不満と抗議の念が生み出した 一種の破滅願望みたいなものがチラついた。




365: 2014/03/17(月) 09:22:20.67 ID:TGLi8lbx0

一夏「(そうだ、俺たちIS学園の生徒が戦わなくてはいけないのは、大人たちが駆けつけるまでの時間が足りないからだ)」

一夏「(となれば撃墜はできなくても、時間稼ぎにさえなればそれ以上の文句は言えまい……!)」

一夏「(無力化するのが最優先事項なんだよな? なら、その手段は何であろうと構わないよな……?)」フフッ


一夏は事前にこの戦いの結末を予想していた。

無事に『銀の福音』の撃墜に成功すれば、箒は間違いなく増長するし、

かといって、『銀の福音』の撃墜そのものに失敗し、取り逃がすことになれば、学園の信用が失われることになる。

一番に理想とするのは、ほどほどに苦戦して、箒の中での認識が改まって、『銀の福音』を撃墜することである。

しかし、現状としてはただの消耗戦なだけで、箒はこちらの制止を聞かず、苦しいだけで何の旨味もない戦いになっていた。

だから、一夏は仕返しとばかりに、ある奥の手を使うことも辞さない狂気じみた鬱憤晴らしをしようと暗に狙い始めるのであった。



――――――頭に来た! 意趣返ししてやる! あいつにもこいつにも!




366: 2014/03/17(月) 09:23:53.03 ID:TGLi8lbx0

箒「何をしている! お前から的になってどうする!」

箒「お前の『零落白夜』が作戦の要なんだぞ! 忘れたのか!」ブン!

福音「――――――!」ヒュウン!

箒「また、避けた…………」グッ

一夏「箒こそ冷静になれ!(だったら、こっちがしやすいように支援に徹してろよ…………)」

箒「やつらは犯罪者だ! 構うな!」

一夏「見頃しにはできない! というか、無闇に攻撃するのは止めろ! それで巻き込んだらどうするつもりだ!」


――――――人頃しになりたいのか、お前は!


箒「!?」

箒「馬鹿者! 犯罪者などを庇って! そんなやつらは放っておい――――――」

一夏「箒!」

箒「!」ピクッ

箒「………………黙れ」プルプル

一夏「あ、おい!(――――――通信を切りやがった! 何を考えているんだ!?)」

セシリア「何がどうなっておりますの!?」

簪「箒と一夏が戦闘中なのに口論している!」

一夏「二人共、箒が通信を切った! これじゃ連携も何もあったもんじゃない!」

一夏「頼む! こっちはエネルギーがギリギリだ」

一夏「ステルスモードで隙を狙う! だから、箒のバックアップに回ってくれ」

セシリア「わかりましたわ!」

簪「次は無いってこと……(『山嵐』も残り2射しか残ってない。使いきったら、荷電粒子砲『春雷』で牽制するしかない)」

簪「両機の性能はほぼ互角のように見えるけど…………」

セシリア「ええ。実力の差は大きいですわ(アメリカがあれほどの無人機を開発していただなんて…………欧州連合はますます差を付けられてますわね)」




367: 2014/03/17(月) 09:25:14.85 ID:TGLi8lbx0

箒「私は、私は――――――!」

箒「私はあああああああああああああああ!」


――――――また逃げた。


自分が何をやっているのかは自分でよく理解していた。

だが、止められなかった。血迷った箒に自分を止める術はない。それを知らない。

やり直しが利かないと思い込み、ズルズルと自分の力だけで状況を打開しようとしてジリ貧になっていっている。敗け分を独力だけで取り戻そうと必氏である。

まるで、ギャンブルで勝つまで止められずにやがて一文無しになる 引くことを知らない愚か者である。

だがそれが、この少女にとっての日常であり、安息でもあった。

引くに引けない状況にまで追い込み追い込まれ、どうしようもなくなっても、保護者である担当官“グッチ”さんがまた新しい場所を用意してくれる。

そして、“グッチ”さんはそんな少女の咎を全て許し、全てをリセットしてくれるのだ。

それが幸か不幸か、善か悪かは読者の判断にお任せする。

だが、今この少女が必氏なのは本当のことである。

やがて、箒の猛追が『銀の福音』をついに単機だけで追い詰めたのであった。


福音「!!!!」

箒「はあああああああああ!」

箒「――――――はっ!?」

福音「!!!!」グググッ

箒「……こいつ!(――――――馬鹿な!? 剣を掴んで抵抗するだと!? しかも『紅椿』と互角以上の力がある!?)」

セシリア「あれだけ密接していては誤射してしまいますわ!」

簪「箒、武器を捨てて離脱して! このままだと格好の的だよ!」

簪「あ……、そうだ。通信が――――――!」

セシリア「箒さん!」

簪「そんな…………」


しかし、少女の全身全霊の猪突猛進もそこまでであった。

『紅椿』の性能は理解できても、戦場でのペース配分や出力調整は専用機をもらったばかりで実戦経験に乏しい箒にできるはずがなかった。

確かに『紅椿』は箒の意のままに動き、その圧倒的な性能を発揮しているが、機体には備わっていないそれ以上のことは発揮されることは絶対にない。

かくして、やっとの思いで追い詰めたのだが、そこで息切れを起こしてしまうのであった。

そして、自分で通信を切ったことに激しく後悔しながらも、やはりズルズルと独断専行し、最終的には追い詰めて逆にチェックメイトを受けることになったのだ。



368: 2014/03/17(月) 09:27:36.70 ID:TGLi8lbx0

箒「くぅうう、敗けられない……!」グググッ

箒「ん」ピィピィピィ

箒「――――――機体のエネルギーが!?」DANGER! DANGER!

福音「――――――!」スッ

箒「あ、ああ…………(さっきの至近距離で射つやつだ! これを受けてしまったら――――――!)」

箒「私は…………」

福音「――――――!」


どこで間違えた? ――――――最初からだ。

少女の“憧れ”であった少年からの再三の忠告に一度でも素直に耳を貸すことさえできていれば…………

言い逃れのできない詰めを受け、初めて少女は自分がどういうところにいるのかをはっきりと理解できた。

エネルギーが尽きれば、ISは強制解除されて、海に真っ逆さまである。着水すれば水がクッションになって助かるとは信じていない。

少女は初めて氏ぬほど後悔した。――――――次があれば。

だが、もう次はない。

結局、少女は“篠ノ之博士の妹”としか人々の記憶の中に残らないのだろうか?

そう思うと、少女は涙をこぼさずにはいられなかった。少女にあったのはそのことばかりであった。

思えば、実の姉がISを開発さえしなければ、きっと自分は“憧れ”の少年と一緒に他愛もない会話をして穏やかに成長してこられただろう。

そして、末期の言葉が胸の奥から放たれた。


――――――助けて!


少女がずっと言えなかった言葉が嗚咽と共に青い空に響き渡らない。ただその青さの中にに溶けていく――――――そのはずであった。


――――――まったく頑固でどうしようもないな。昔から変わらないよ、箒は。


箒「!?」


通信は切っていたはずである。

それなのに、――――――声が聞こえたのである。

それは、まぎれもなく――――――、




369: 2014/03/17(月) 09:29:13.19 ID:TGLi8lbx0


ビュウウウウウウウウン!

一夏「はあああああああああああああああああああああああああ!(イグニッションブーストおおおおおお!)」

福音「!!!!」ドーン!

箒「――――――『銀の福音』が消えた!?」

箒「いや、一夏!? 一夏あああああああああああああ!」

簪「このままだと、海に転落――――――!」

セシリア「一夏さん!」

箒「動け、『紅椿』! 何をしている!」(戦闘続行不能)


ビュウウウウウウウウン!


一夏「……なあ、『銀の福音』?(ああ……、垂直降下で真っ逆さまに海に落ちていくよ。もう「完全停止」できる距離でもないし、――――――ならば!)」

一夏「一人で氏んでいくのは嫌だろう?(――――――『零落白夜』解除。とは言っても、元々ミリぐらいしか残ってなかったんだ)」

一夏「一緒に海の底に沈もうか(――――――装甲以外の量子化装備を全て解除。まあさっきの一撃で残った片翼の上半分削れたしな)」ニコッ

福音「!!??」ジタバタ

一夏「大丈夫だ。もう放さないよ(――――――PICカット。これによりISは、ただ重たいだけの鉄の塊になる)」ヒューーーーーーーン!

一夏「(そして、『銀の福音』の主力装備はレーザーだから、水に浸かれば攻撃手段は何もかも失われる。まあ、相手としてもすでに満身創痍なんだが)」

一夏「(だが、それでも高速戦闘に対応できる機体でなければまず接敵することもできないんだから、確実に『やつ』を仕留めるには――――――!)」


副所長『ある意味においてISを倒す最終手段とは、PICで受け切れない外部の重量のおもりを括りつけて海に沈めることだからな』


一夏「………………!(――――――これしかない!)」

福音「!!!!」


ザバアーーーーーーーーーーン!


一夏「!!!!」ボボボボ・・・・・・

福音「!!!!!!!!!!」ボボボボ・・・・・・



――――――ごめん、千冬姉、みんな。

――――――俺、頭に来たから、意趣返ししてやる!

――――――今は反省している。

――――――けど、俺ばっかり心配させられてるのはフェアじゃないから。

――――――だから、一世一代の意趣返しをさせてもらった。

――――――もしこれで生きていたとしても、「心配掛けてごめん」だなんて言わないんだからな!

――――――そういうわけで、さようなら、みんな。


箒「一夏あああああああああああああああああああああああ!」



その日、少年に海に消えた。大いなる傷跡を人々の心に残して。






370: 2014/03/17(月) 09:31:19.02 ID:TGLi8lbx0


ビュウウウウウウウウン!

一夏「はあああああああああああああああああああああああああ!(イグニッションブーストおおおおおお!)」

福音「!!!!」ドーン!

箒「――――――『銀の福音』が消えた!?」

箒「いや、一夏!? 一夏あああああああああああああ!」

簪「このままだと、海に転落――――――!」

セシリア「一夏さん!」

箒「動け、『紅椿』! 何をしている!」(戦闘続行不能)


ビュウウウウウウウウン!


一夏「……なあ、『銀の福音』?(ああ……、垂直降下で真っ逆さまに海に落ちていくよ。もう「完全停止」できる距離でもないし、――――――ならば!)」

一夏「一人で氏んでいくのは嫌だろう?(――――――『零落白夜』解除。とは言っても、元々ミリぐらいしか残ってなかったんだ)」

一夏「一緒に海の底に沈もうか(――――――装甲以外の量子化装備を全て解除。まあさっきの一撃で残った片翼の上半分削れたしな)」ニコッ

福音「!!??」ジタバタ

一夏「大丈夫だ。もう放さないよ(――――――PICカット。これによりISは、ただ重たいだけの鉄の塊になる)」ヒューーーーーーーン!

一夏「(そして、『銀の福音』の主力装備はレーザーだから、水に浸かれば攻撃手段は何もかも失われる。まあ、相手としてもすでに満身創痍なんだが)」

一夏「(だが、それでも高速戦闘に対応できる機体でなければまず接敵することもできないんだから、確実に『やつ』を仕留めるには――――――!)」


副所長『ある意味においてISを倒す最終手段とは、PICで受け切れない外部の重量のおもりを括りつけて海に沈めることだからな』


一夏「………………!(――――――これしかない!)」

福音「!!!!」


ザバアーーーーーーーーーーン!


一夏「!!!!」ボボボボ・・・・・・

福音「!!!!!!!!!!」ボボボボ・・・・・・



――――――ごめん、千冬姉、みんな。

――――――俺、頭に来たから、意趣返ししてやる!

――――――今は反省している。

――――――けど、俺ばっかり心配させられてるのはフェアじゃないから。

――――――だから、一世一代の意趣返しをさせてもらった。

――――――もしこれで生きていたとしても、「心配掛けてごめん」だなんて言わないんだからな!

――――――そういうわけで、さようなら、みんな。


箒「一夏あああああああああああああああああああああああ!」



その日、少年は海に消えた。大いなる傷痕を人々の心に残して。






371: 2014/03/17(月) 09:33:15.33 ID:TGLi8lbx0

最終話 壁を乗り越えて
-SECOND SHIFT-

――――――林間学校、2日目 夕方


箒「…………うぅ、一夏」グスン


鈴「…………」

ラウラ「…………最後の頼みの綱は、“プロフェッサー”からの報告だけか」

シャル「…………い、一夏。一夏がいなくなったら、僕、どうすればいいの?」グスン

セシリア「シャルロットさんも泣かないでください! 私も耐えているのですから……」ウルウル

簪「…………一夏」ウルウル


副所長「…………」


担当官「帰ってきたぞ」

千冬「それで、どうなのだ……?」

シャル「一夏は、一夏は無事ですよね……」


副所長「…………すまない」


一同「………………!」
    ・・・・・・・・・・
副所長「何も見つからなかった」

鈴「え」

シャル「『何も』――――――?」

担当官「それはどういうことなんだ! 説明してくれ、“プロフェッサー”!」グラグラ

副所長「…………落ち着け。話ができん」

千冬「止めろ。大の大人が見苦しい……」

担当官「…………くっ」

千冬「それで、『何も見つからなかった』というのは?」

副所長「言ったとおりだ」

副所長「奇妙なことに、海域をどれだけ探しまわっても、一夏の『白式』はおろか『銀の福音』すら見つからなかった」

セシリア「へ」

シャル「そ、それって――――――!」


副所長「――――――『可能性は残された』ということだ」


一同「…………!」パァ

千冬「ということは――――――」

副所長「そうだ。目標の撃墜が確認できない以上、厳戒態勢は継続だ」

一同「!!」


372: 2014/03/17(月) 09:34:33.78 ID:TGLi8lbx0

副所長「明日には、自衛隊の部隊が海域に派遣されることになる。それまでの辛抱だ」

鈴「――――――『それまでの辛抱』?」

鈴「それってどういうことよ!?」

副所長「…………質問の意味がわからないな」

副所長「ああ、そうか」

副所長「おそらくは明日の正午まで厳戒態勢が続くと思うぞ」

副所長「徹夜を強いるわけにはいかないから、夜戦準備をしてから交代制で仮眠をとってくれ」

鈴「違ああああう!」

簪「副所長! 私たちが訊きたいのは、『部隊が派遣された後、私たちがどうなるか』です」

副所長「それはもう――――――、」チラッ


千冬「我々は予定通りIS学園に帰ることになる」


一同「!?」

セシリア「それはいったいどういう――――――」

鈴「『このまま見捨てて帰れ』って言うの!? 一夏は帰ってきないのよ!」

副所長「すでにこれは国際問題となっており、IS学園は日本政府の所属だ。日本政府の決定には従う義務がある」

鈴「な……」

シャル「そんな! IS学園はあらゆる国家や団体から不干渉のはずじゃ…………」

副所長「何か勘違いをしていないか?」

副所長「今回の『銀の福音』撃破作戦は、IS学園内での事件ではなく、外部の組織にIS学園が戦力を提供したものにすぎない」

副所長「要するに、お前たちは傭兵として外部で起きた紛争のために派兵されたにすぎない」

副所長「それに、軍人でもないお前たちにこれ以上の軍事行動に参加させるわけにもいかないからな」


――――――常識的に考えて。


シャル「………………」


373: 2014/03/17(月) 09:35:38.02 ID:TGLi8lbx0

副所長「他に訊きたいことはないか?」

副所長「無いのなら、解散して、夜明かしの準備をしてくれ」

副所長「では、織斑先生。後のことはお任せします」

千冬「ああ。ご苦労だった……」

鈴「…………待ちなさいよ!」

副所長「ああ、そうだ。重要なことを言い忘れていた」

副所長「例の海域は日本政府によって侵入禁止となった」

副所長「もし許可無く侵入するものがあれば、侵犯したものと看做される」

副所長「――――――IS学園の専用機持ちとて同じだ」ジロッ

一同「!!」

副所長「それじゃあな」スタスタ・・・

担当官「ま、待ってくれ……」スタスタ・・・

千冬「では、聞いたとおりだ。厳戒態勢を継続する」

一同「………………」

千冬「各人は夜戦準備をし、各々で仮眠の班分けをすること」

千冬「それ以外は、用がないなら待機だ」

一同「…………」

千冬「返事は全て『はい』だ!」

一同「は、はい!」

千冬「では、解散!」


スタスタ・・・・・・


千冬「………………」

千冬「…………馬鹿野郎が」




374: 2014/03/17(月) 09:36:50.81 ID:TGLi8lbx0

・・・・・・・・・・・・
――――――この結末は、最善にして最悪の解決手段によるもの。


副所長「………………」

担当官「おい、本当のことを言え!」

副所長「しつこいぞ。事実は事実だ。それを受け容れろ」

副所長「逆に、それ以上やそれ以下の希望的・絶望的観測を勝手にされても困るのだがな」

担当官「…………くそ」

副所長「それよりも、今後について協議する必要がある」

担当官「?」

副所長「明後日からは、査察官としての役目は解任されるんだぞ? わかっているのか?」

担当官「確かにそうだが……、あんな状態の箒ちゃんを放っておけるか!」

副所長「いないものにいつまでも固執したところで前進はない」

副所長「それとも彼は、実体の無い“神様”だったということかな? それを毎日拝んでご利益に与ろうって縋ってきたってわけか」

副所長「いや、“束の妹”にとってはそれが日常だったか」フッ

副所長「なら、何も変わらないな。心配することはない」

副所長「お前がまたリセットしてやればいいだろう?」ニヤリ

担当官「貴様っ!」ブン!

副所長「ぐっ…………相変わらず手が早いな」ボコッ

副所長「だが、お前がやってきたことはそういうことだ!」

副所長「この大馬鹿野郎!」ブン!

担当官「はぅ…………!」ボガッ

副所長「――――――『馬鹿は氏ななきゃ治らない』というがまさにその通りだよ」

副所長「やっぱり人間、ドン底に落とされてそこから這い上がってくる経験がないと一人前とは言えないなー!」

副所長「お前の攻撃は素直すぎて、武に劣るはずの俺でも対処できるぞ!」

担当官「黙れ!」



外交官「 や め ろ 」



両者「!!!?」ピタッ


375: 2014/03/17(月) 09:38:16.13 ID:TGLi8lbx0

外交官「………………」

副所長「なななな何だよ、居たのかよ…………居るなら居るって言ってくれよ。心臓に悪い」アセタラー

担当官「よう、久し振りだな、…………“プッチン”」アセダラダラ

副所長「そうだ……、――――――束はどうした? 捕まえられたのか?」

外交官「残念ながら。やはり我々の手には負えない存在だった」

外交官「ISを生身で解体された」

担当官「――――――解体!? 戦闘不能とかじゃなくて!?」

外交官「ああ、スパスパと斬られた。ISが紙切れのようにな」

外交官「束はすでに対IS用兵器を完成させていたようだ」

担当官「!!」

外交官「おかげで、貴重な機体を2機失うことになった。コアが損傷したわけじゃないから再利用できるがな」

外交官「まあ、今回の作戦では全滅を覚悟していたことだし、コアそのものが破壊されるよりはマシだ」

外交官「せっかく、窓際席の口ばかり立派なお役人様がコアを4つもらってくるという偉業を成し遂げたのに、…………すまないな」

副所長「へえ、そうだったんだ。あれから4つも手に入ったのか」

担当官「そう、今回の交渉で得たISコアの数は4つ。これによって、我が国の優位は揺ぎないものになった」

担当官「だが、それと同時に、“篠ノ之 束”の周辺人物への危険度も更に増したということなんだ…………」

外交官「その用途は、その束が妹のために造り上げた『紅椿』、次に織斑一夏――――――彼の身柄をISコア1個と引き換えに保証するために用意させた」

外交官「そして、3つ目は我が国がもらい、4つ目はIS学園が実験用に正式に貰い受けるという流れとなっている」

担当官「けど、その彼は………………」


副所長「ま、十中八九生きているだろうな」


担当官「はあ!?」

担当官「お前、なんでそういうことを早く言わない!」

副所長「馬鹿か? 希望的観測で軽々しくものを言うもんじゃない。そう言っただろう」

副所長「もしかしたら、俺の予測は外れているかもしれないし、事実と違ったことを真に受けて騙されたと言われて責任をとりたくはないんでね」

担当官「こ、こいつ…………」


376: 2014/03/17(月) 09:39:25.73 ID:TGLi8lbx0

外交官「それで、それが真実だとするのなら、織斑一夏はどこにいると思う?」

副所長「…………どっかに隠れてるんじゃないか?」

担当官「は?」

担当官「何のために?」

副所長「――――――意趣返しをするために」

担当官「『意趣返し』だって? いったい誰に、何の仕返しをしようっていうんだ?」

副所長「…………知らないな」

担当官「ええ…………」

外交官「では、その方法はどうなる?」

外交官「自ら海に沈んだということは、状況から推測して『零落白夜』のエネルギーが足りなくなったのが一番の理由だろう?」

担当官「前提からしておかしい気がするが――――――、確かに勝てる戦いなら無難に勝つのが一番だと思うな」

副所長「俺もそう思う。――――――最後に勝てばいいのだから、命は軽々しく投げ捨てるべきではないからな」

外交官「ならどうやって、あの海域から姿を消すことができる? 無酸素空間で装備なしではいくらISと言えども活動できないはずだ」

担当官「そうだよな。常識的に考えたら、すでに溺氏しているはずなんだ」

  ・・・・・・・・
――――――常識的に考えたら。


副所長「――――――『常識的に』か」

副所長「…………その言葉がどれだけ虚しい響きか」ボソッ

担当官「?」

副所長「それで、密漁船はどうした?」

外交官「海保に拿捕させた。アメリカに今回の暴走事件の言い訳がつかぬよう、そして某国への態度を改めてもらうためにな」フフッ

副所長「これで何かが変わるとは思えないがな」

外交官「少なからず、外交カードは手に入った。――――――それだけだな」

副所長「ああ。その通りだ」
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
外交官「だがあんなのでも、もし沈んでいたら学園側の責任を問われる事態になっていたな」

外交官「運が味方していたとはいえ――――――いやあんなのが海域にいた時点で運がいいかはわからないが、守り切れただけ最低限の面目は保たれたな」

担当官「…………」

副所長「…………あまりそういうことをネチネチと言うな」

外交官「それが俺の役目だからな。こればかりは止められない」

担当官「…………私にできることは何もないのか?」

外交官「お前は査察官だ。見たことを報告すればいいじゃないか」

担当官「そうじゃなくて…………」

副所長「そうだな、あるとすればだ――――――」






377: 2014/03/17(月) 09:41:00.72 ID:TGLi8lbx0


箒「………………」


千冬『『作戦完了』と言いたいところだが、『銀の福音』の撃破が確認されていない以上、作戦は継続だ』

千冬『以後、状況に変化があれば招集する』

千冬『お前たちは機体の整備をして、待機しろ』

箒『え…………』

箒『ま、待ってください…………!』

箒『(どうして、一夏のことを、ここにはいない一夏のことを――――――!)』

千冬『………………』スタスタ・・・

箒『あ…………』


箒「私は………………」


一夏『俺は怖いよ。実戦なんて何が起こるかなんてわからないんだからさ』

一夏『箒はさ、もうちょっとイメージトレーニングをしておくべきなんじゃないのか?』

一夏『いくら束さんが造った最強のISだからといって、エネルギー兵器をあれだけ高出力で使ってるんだから燃費だって相当悪そうだぞ?』


箒「違う、違うんだ…………見えなくなったわけじゃない」


箒『やつらは犯罪者だ! 構うな!』

一夏『見頃しにはできない! というか、無闇に攻撃するのは止めろ! それで巻き込んだらどうするつもりだ!』


箒「やつらが“弱いやつ”とでも言うのか? “守るべき存在”だと……?」

箒「やつらは秩序を乱している――――――」

箒「なのにどうしてお前はやつらを許せる……?」

箒「それが、お前の“強さ”なのか?」

箒「だからお前は、強いのか?」

箒「お前に比べて私は――――――」


――――――人頃しになりたいのか、お前は!



378: 2014/03/17(月) 09:41:59.55 ID:TGLi8lbx0

箒「…………力の赴くままに暴力を、振るっていただけだったのだろうか?」

箒「一夏にとって、密漁船も私も、等しく“守るべきもの”だったというのに…………」

箒「私は…………」

トントン・・・

山田「篠ノ之さん」

箒「…………」

山田「あなたも少し休んでください」

山田「根を詰めて、あなたまで倒れてしまっては……、」

山田「みんな心配しますよ」

箒「…………ここに居たいんです」

山田「いけません。休みなさい」

山田「これは、織斑先生からの要請でもあるんです」

箒「…………」

山田「いいですね?」

箒「…………わかりました」






379: 2014/03/17(月) 09:43:40.64 ID:TGLi8lbx0

――――――夕陽の海岸


箒「………………くぅ」

タッタッタッタッタ・・・

箒「はあはあ…………」


一夏『久しぶり。6年ぶりだけど、すぐに“箒”ってわかったぞ』ニッコリ

箒『え……』カア

一夏『ほら、その髪型、昔と変わってないし』

箒『!』

箒『よ、よくも憶えているものだな……』テレテレ

一夏『いや忘れないだろう、幼馴染のことぐらい』


箒「………………」グスン

箒「私にはもう、このリボンを付けている資格は、ない」シュルシュル・・・

バサァ・・・・・・

箒「これで、本当にただの“篠ノ之 束の妹”となったわけだ…………」ハハハ・・・


――――――ドン底である。

篠ノ之 箒は未だかつて経験したことがない逆境に立たされていた。

“憧れの人”からのせっかくの忠告の数々を無視し続けてきた過去の行いへの大きな後悔と罪悪感に苛まれていた。

だが、これは“篠ノ之 箒”にとっては、大きな経験となっていた。


大切な人を失うことで、少女は初めて自分の非を認め、悔いたのである。


だがその一方で、“篠ノ之博士の妹”とでしか見られていなかった少女が、自分を“篠ノ之 箒”とする何よりの証“ファースト幼馴染”を自ら捨てようとする。

彼がいたからこそ、今日まで自分は重要人物保護プログラムの耐え難い苦痛を耐え続けて“篠ノ之 箒”としていられたのに、

その彼を失った以上、もうこれからは“篠ノ之 箒”であり続けることはできなかった。できそうもなかった。

――――――他でもない、自分の過失によって失ったようなものだから、尚更。

今、夕陽の海岸に佇む少女は、“篠ノ之博士の妹”という当人にとって全く無価値なレッテルだけを残された、何者でもない“篠ノ之 箒”であった。



380: 2014/03/17(月) 09:44:44.62 ID:TGLi8lbx0

箒「………………」チリン(左手の金銀の鈴が虚しく鳴る)

箒「『紅椿』、もう私には…………」


――――――箒。


箒「…………!」

鈴「あーあ、わっかりやすわねー」

鈴「あのさ!」ジロッ

鈴「一夏がこうなったのもあんたのせいなんでしょ!」

箒「…………」

鈴「で? ――――――『落ち込んでます』ってポーズ?」

鈴「っざっけんじゃないわよ!」グイッ

箒「…………」

鈴「やるべきことがあるでしょうが!」

鈴「なーに、海辺をほっつき歩いて黄昏れてんのよ!」

箒「…………」

鈴「…………」ジー

箒「………………もうISは、使わない」

鈴「!」カッ

パーン!

箒「…………」ドサッ

鈴「甘ったれてんじゃないわよ!」

鈴「専用機持ちっつうのはね! そんなわがままが許されるような立場じゃないの!」

鈴「それともあんたは、戦うべき時に戦えない卑怯者なわけ!?」

箒「………………どうしろと言うんだ」ワナワナ

箒「もう倒すべき仇もいない。許しを請うべき相手もいない…………」

箒「――――――戦えるのなら! ――――――謝れるのなら!」

箒「私だって戦う! それに、」

箒「…………会いたい、一夏に」グスン

鈴「」ニヤリ


鈴「やっと本音を言ってくれたわね」ハア



381: 2014/03/17(月) 09:45:56.58 ID:TGLi8lbx0

箒「あ…………」

鈴「あーあ、めんどくさかった。シャルロットの相手もしてきたっていうのに、本当に大変よ」

簪「本当にお疲れ様、鈴」ニコッ

セシリア「こちらもようやく落ち着きましたわ」

箒「な、何……?」

シャル「…………こういう時こそ、結束が大事なんだよね」ニコー

シャル「それに、一夏はずっと箒のことを気にかけていたし、僕としても一人にさせちゃいけないって…………」

箒「けど、一夏は――――――」

シャル「 生 き て る ! 」

箒「!?」

シャル「そう信じて、帰りを待つことにしたんだ」

シャル「だから、一夏が帰ってきてがっかりしないように、今はみんなと協力して笑顔で迎えられるようにしたいんだ」ニコニコー

箒「シャルロット…………」

箒「だが、私のせいで――――――」

ラウラ「自惚れるな、ルーキー!」

箒「!」

ラウラ「新兵のお前に、私はそこまで期待などしていなかった」

箒「…………」
            ・・・・・・・・
ラウラ「だから、…………むしろよくやったとは思っている」

箒「…………ラウラ」

ラウラ「さあ、こっちに来い。一緒に夜を過ごす準備をするんだ」

シャル「ね?」

箒「…………」グスン

箒「ありが、とう…………」ポロポロ

箒「こんな私だが、仲間に入れてくれるのか……?」

鈴「あったりまえじゃない!」ニコニコー

鈴「一夏だったらそういう決まってる! だから一夏は、あんたをあんなにも気にかけていたんじゃない」

鈴「それは私たちだって同じよ。みんな、一夏がいたからこうして知り合えたんだから」

箒「はは……、なんで今まで気づかなかったんだろう?」

箒「そうか。本当は私が――――――」

箒「うわああああああああああああ!」

鈴「ヨシヨシ」


セシリア「何とかなりましたわね」ヒソヒソ

簪「うん。二人共、一夏に指輪を渡すぐらいだったから…………」ヒソヒソ

セシリア「けれど、確かにクルものがありますわね……」ヒソヒソ

簪「そうだよね。私たちが一夏と一番付き合いが長いだけにね……」ヒソヒソ

セシリア「一番辛いはずの鈴さんも辛いのを必氏にこらえているのですから、私たちも――――――」ヒソヒソ

簪「うん。――――――仲間として、ね」ヒソヒソ



382: 2014/03/17(月) 09:47:13.90 ID:TGLi8lbx0

箒「す、すまなかった……」

箒「それじゃ、行こうか。みんなには迷惑を掛けて本当にすまなかった……」

シャル「いいんだよ、箒。――――――最後に笑えればいいんだから」

ラウラ「うむ。これで、まずは一段落と言ったところだな」

鈴「うん……」


ボゴーン!


小娘共「!?」

セシリア「な、何が起こりましたの!?」

簪「まさか…………?!」

箒「そんな!?」

ラウラ「いや、付近にIS反応はない!」

シャル「でも、今凄い爆音が…………」

鈴「確かめに行くわよ、箒!」

箒「あ、ああ!」



383: 2014/03/17(月) 09:49:04.65 ID:TGLi8lbx0

“鬼”「オラァアアアアアアアア!」

担当官「ぐおわああああああああああああ!」ゴロンゴロン

担当官「くはっ…………」ゼエゼエ(ボロボロの道着)

“鬼”「………………その程度か?」ポキポキ(黒尽くめの防弾コート+サングラス)

担当官「さすがは“最恐”なだけはある…………(日本人離れした2m近くある巨体からの威圧感――――――!)」アセダラダラ

担当官「あの“不束者”ですら冷や汗を流すんだから、私なんかじゃ敵うわけないか…………」ブルブル

“鬼”「俺としては『今すぐにあの小娘にしかるべき処置を与えるべきだ』と進言してきたが、」

“鬼”「今日の失態が貴様の教育のせいである以上、その責任を問わねばならんな?」グッ

担当官「…………く、首が絞まる!」ジタバタ

“鬼”「…………」ブン!

担当官「がはっ」ズサアーー

担当官「ゴホゴホ・・・・・・」

“鬼”「どうした? 剣を持たなければただの凡人か」

担当官「私の剣は人を斬るための、ものじゃない……!」

“鬼”「馬鹿な。武器や武術の存在意義は“力”だ」

“鬼”「では、お前がかつての保護対象から奥義皆伝を受けた篠ノ之流剣術というものは、チャンバラ以下の役に立たない見世物だったということか」

担当官「貴様っ!」ブン!

担当官「…………なっ!(手応えがない! まるで巨木のようにピクリともしない!)」

“鬼”「無駄だ。お前の攻撃は直線的で実に受けやすい。そして、この防弾コートの厚みではお前の攻撃など痛くも痒くもない」

“鬼”「ふっ飛べオラァ!」ドン!

担当官「うわあああああああああああああああ!」ヒューーーーーーーン!


ゴロンゴロン・・・


担当官「やっぱり強いぜ…………別次元だ」ゼエゼエ


384: 2014/03/17(月) 09:50:47.56 ID:TGLi8lbx0

箒「“グッチ”さん!?」

担当官「な、箒ちゃん!? それに、みんな!?」

担当官「なぜここにいる!? 待機中のはずだろう」ゴホゴホ・・・

箒「そ、それは…………」

鈴「そんなことよりも、――――――どうしてこんなボロボロの道着なんて着て、そしてボコられてるのよ!」

鈴「というか、あの黒尽くめの大男は誰なのよ!」アセダラダラ

シャル「な、何だろう、鳥肌が立ってきたんだけど…………」ブルッ

簪「この感じ…………」アセダラダラ


近くで起きた轟音を聞きつけて専用機持ちたちが駆けつけるが、夕陽に照らされる海岸に浮いて存在する黒尽くめの大男の存在が一同を戦慄させる。

代表候補生は軍人としての一応の教育も受けており、精神的にも頑強とされているのだが、例外なく誰もが大男からの言い知れない何かを感じ取り怯んでいた。

だが、ここで勇ましく前に出るものが一人――――――。


ラウラ「止まれ! 何者だ! 所属と官名を名乗れ!」


それはドイツ軍IS特殊部隊隊長であるラウラ・ボーデヴィッヒであった。

ラウラは今までに対峙したことがない殺気とも違ったものを前にして溢れてしまいそうな感情を抑えて、毅然とした態度で臨む。

ラウラの見立てでは、相手は特殊部隊の出身の対ISに長けた刺客である。自身がドイツ軍最強を自負していても慎重にならざるを得なかった。


ラウラ「さもなければ――――――」

“鬼”「――――――『さもなければ』、どうだというのだ?」

“鬼”「それよりも、お前から名乗ったらどうだ、“ラウラ・ボーデヴィッヒ”?」

ラウラ「なにぃ……!?」


だが、黒尽くめの大男は意外な切り返しをしてきた。

相手の名前を自分で言っているのに相手に名乗ることを要求してくるという、一見すると意味不明な切り返しなのだが、

“ラウラ・ボーデヴィッヒ”にとってはとてつもない意味を持つことになり、

更に――――――、


“鬼”「そうか、お前には人間としての名など生まれた時には付けられていなかったか」

“鬼”「それは失礼なことを言ったな。反省している」

“鬼”「C-0037」

ラウラ「!?」


ラウラの思考が一瞬止まった。


385: 2014/03/17(月) 09:52:33.34 ID:TGLi8lbx0

セシリア「――――――“C-0037”?」

シャル「何かのコールサインかな?」

ラウラ「貴様、なぜそれを知っている!?」アセダラダラ

“鬼”「さて、な? VTシステムを公然と導入しているような恥知らずな国を信用していなかったってだけじゃないのか?」

ラウラ「くっ!」ダダダダダ・・・


思わずラウラは正体不明の刺客に向かって走り出していた。

後に軽率だったとラウラ自身が思うのだが、なぜ身体がそう動いていたのかはまだわかっていなかった。

ただ、これ以上何かを喋らせたらまずいという確たるものに突き動かされていた。


担当官「や、止めろ! お前に勝てる相手ではないぞ! 関わるな!」ヨロヨロ・・・

鈴「そ、そんなこと言われても、放っておけるわけないでしょう!」

箒「そうですよ! 他でもないあなたが何者かに命を狙われていると言うのなら、見捨てるわけにはいきません!」

担当官「…………箒ちゃん」

担当官「くっ(――――――情けない! 保護対象に気遣われるなんてな)」

担当官「あ……、そういえばどうしたの、箒ちゃん? その髪――――――」

箒「あ」(リボンが無くなり、ポニーテールではなくなっていた)



386: 2014/03/17(月) 09:54:29.06 ID:TGLi8lbx0

小柄ながらも優れた身体能力を発揮してあっという間に距離を詰めるラウラだが、


ラウラ「はああああああああああ!」ブン!

“鬼”「確かに並外れた身体能力だが――――――!」

ラウラ「なにっ!?(――――――速い!? 馬鹿な、これだけの反応速度が!?)」

“鬼”「軽すぎるな! 全体重を乗せた体当たりで返り討ちだオラァ!」ドーン!

ラウラ「うああああああ!(――――――『シュヴァルツェア・レーゲン』!)」

シャル「ラウラ!」


相手の力量を読み間違え、待ち構えていた相手に逆に体格差で押し飛ばされるのであった。

明らかに刺客のほうが実力が上手であった。それこそ彼女たちが敬愛する“ブリュンヒルデ”織斑千冬と同等以上の戦闘力があると見ていい。

機体を展開してISのPICによって受け身をとったラウラに追撃が迫る!

さらりとこう書いているが、生身の人間がISに立ち向かうなど無謀でしかない――――――それなのに、ラウラや周囲は圧倒されていた。

生身の人間が何十人いようがIS1体に敵うはずがないのに、ラウラは目の前の存在をISを装備した自分以上の存在だと認識し、緊張していた。

ラウラの漆黒のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』よりも遥かに不気味な黒尽くめの何かが数値では表せない圧倒的な何かを放って迫ってくる!


ラウラ「くっ……」

“鬼”「――――――!」ダダダダダ・・・

鈴「何あれ!? あのデカブツ、とんでもない身のこなしじゃないよ!」ブルブル

シャル「あれ、おかしいな…………なんで震えが止まらないんだろう」ブルブル

箒、「け、けど! 生身でISをどうにかできるわけが――――――」

ラウラ「くっ……(来るか! だが、生身の人間相手にプラズマブレードはダメだ。となれば――――――)」

ラウラ「だが、これまでだ!(――――――『停止結界』!)」フッ

“鬼”「愚かな。それが慢心というのだ」

ラウラ「……!」


ラウラが必殺の『AIC』を展開しようとしたその瞬間、黒尽くめの大男は思いっきり海岸の砂を蹴りあげたのである。


ラウラ「…………砂!?」

ラウラ「こ、小癪な……!(――――――しまった! これでは『停止結界』が!?)」

“鬼”「ふん」


『AIC』はイメージ・インターフェイスで認識したものの慣性をゼロにするという普通に使ったら機動兵器が持つ武器では最強クラスなのだが、

人間が正確に認識できるものなどたかが知れており、――――――極端な話、肉眼で瞬時に捉えられる固体しか停止させることができないのだ。

つまり、液体や気体、プラズマ、レーザーなどの粒子レベルで動くものを停止させられないのは人間という種の限界として当然として、

巻き上げられた粉塵や砂利などの非常に細かい固体に対しても1つ1つを正確に瞬時に認識しない限りは絶対に防げない。

この刺客はそのことをよく理解しており、ラウラの見立て通りにIS技術に精通した刺客であった。

しかしそれ以上に、ラウラが史上最強の兵器であるISを展開していることで、生身の人間ならどうとでも抑えられると心の何処かで慢心していた節があり、

そして『AIC』さえ使えば相手がどんな奇計奇策を使おうと対処できると思い込んでいた矢先、

『AIC』では対処できない砂塵をぶつけられてしまい、視界を潰され、呼吸を乱され、思考を狂わされてしまうのであった。

当然そうなれば、『AIC』など効果を発揮するわけがなかった。

かつて織斑一夏に『AICC』という型破りの戦法によって常識を超越した敗北を喫していたのに、まるで成長していない。


387: 2014/03/17(月) 09:56:00.96 ID:TGLi8lbx0

ラウラ「あ」

“鬼”「どおりゃあああああああああああ!」ガシッ

ラウラ「な、なんだとおおおおおお!?」


ドスーン!


一同「!!!?」

ラウラ「ぐぅううう」ドサァー

担当官「やっぱり、別次元の強さだよ…………」

“鬼”「ふん」ビシッ


そして、黒尽くめの大男はそのままラウラの懐に入り込んで、『シュヴァルツェア・レーゲン』を軽々と投げ飛ばしてしまうのだ。

いや、ISには反重力システムであるPICによってフワフワと常時浮遊しているので、大男の膂力が特筆すべきものということではない。

それでいて残念なことに、素手でISのシールドバリアーを破壊し尽くすのは無理であり、どちらにしろまともに戦えばISが勝つのは必然であった。

しかし、だからこそ、生身の人間がIS相手に先制攻撃できたことは大きな衝撃を与えるのである。

それは、生身の人間に機体ごと投げられたのは二度目の経験となってしまったラウラにとって、言葉に出来ない敗北感を与えた。


“鬼”「さて、気晴らしはこれでいいだろう」スチャ

シャル「え……」

鈴「あ、あんたって…………」ガクガク

箒「え、ええええええええええええ!?」

担当官「………………」



――――――“極東のプーチン”!?




388: 2014/03/17(月) 09:58:03.57 ID:TGLi8lbx0

外交官「その通りだ」

鈴「ど、どうして、日本政府の“鬼”がここにいるわけ…………?!(こ、こここんなにヤバイ人だなんて思わなかった…………)」ガクガク

鈴「(こんなのとまともに相手ができる人間なんてそう多くない! そりゃあ、私の国の政治家たちが及び腰になるわけだわ…………)」ガクガク

セシリア「に、日本って本当に凄い国ですわね…………(外交官になんでISと互角に戦える能力が…………)」アセダラダラ

セシリア「ま、まさかこれが“NINJA”というもの…………!?」

シャル「こ、怖い…………」ブルブル

簪「大丈夫、ラウラ?」

ラウラ「あ、ああ…………」ヨロヨロ

外交官「さて、自己紹介の必要はないだろう」

担当官「実力は見ての通りだもんな、“プッチン”」

箒「え?」

小娘共「(――――――“プッチン”?)」キョトーン

担当官「騙して悪かった」

担当官「実は、日本人離れしたこの御仁だが、私や千冬、束の中学の時の同級生なんだ」

鈴「あ」

小娘共「!?」

鈴「そうだった、そんなことを前に一夏に教えられてたっけ…………(でも、実物を目の前にして、そんな些細なこと頭から吹っ飛んじゃったじゃない!)」

簪「それじゃ、御二方がここで殴り合っていたのって…………」

担当官「ああ。箒ちゃんが海に行ったのを見ていたから、――――――誘い出すために、な?」

セシリア「そ、そうだったんですか……(でも、演技にしては容赦が無さ過ぎるというか、下手をしていたらラウラさんに――――――)」

外交官「ま、全てが演技ってわけでもないんだがな」スチャ(サングラス)

シャル「へ」ゾクッ

外交官「それで、日本政府からの意思を直接伝えに来た」

箒「え」


――――――織斑一夏は我々が責任持って必ず見つけ出す!


小娘共「!」


389: 2014/03/17(月) 09:59:21.56 ID:TGLi8lbx0

外交官「そして、――――――篠ノ之 箒」

箒「わ、私……?」ドキッ

外交官「今まですまなかった。日本政府を代表して謝罪する」

箒「えっと……(え? え? え? ええ…………)」

外交官「謝ってすむ話ではないが、どうかこれからの生活を“篠ノ之 箒”として生き抜いてもらいたい」

外交官「口だけの卑怯者と受け取ってもらっても構わないが、」


――――――今日は7月7日だ。


外交官「日本政府からの精一杯の贈り物を進呈する」スッ

箒「…………封筒?(しかもずっしりと重い。いったいこの中に何が詰まっていると言うのだ?)」クルッ

箒「――――――!」


外交官「では、私はこれで一旦帰らせてもらう」

外交官「すまないな。学生であるあなたたちにこのような辛い仕打ちを味わわせてしまって」

外交官「長い夜となるだろうが、明日の正午までよろしく頼む」

外交官「それと、シャルロット・デュノア」

シャル「は、ひゃい?!」ビクッ

外交官「まだ非公式ではあるが、――――――フランス政府からの言付けだ」

シャル「…………!」


――――――今後も我が国の代表候補生として、より一層の活躍を期待する。


外交官「――――――以上だ」

シャル「!」

外交官「では、さらばだ」


外交官「誕生日おめでとう、“束の妹”――――いや、“篠ノ之 箒”」フフッ




390: 2014/03/17(月) 10:00:48.41 ID:TGLi8lbx0

箒「あ、ありがとうございました!」

シャル「あ……、ありがとうございました!」

鈴「い、行っちゃったわね……」ホッ

鈴「まったく生きた心地がしなかったわ……」アセダラダラ

担当官「まったくだ。あいつは“最恐”と呼ばれた男だからな。生半可な人間じゃ失神や失禁は免れない」

セシリア「それで、箒さん? その封筒は、何ですの?」

箒「あ、これは――――――」

担当官「おっと、それ以上はいけない」

セシリア「え」

担当官「どうする、箒ちゃん? ここで中を見るか?」

箒「…………お願いします」

担当官「はい、ペーパーナイフ」スッ

箒「みんな、すまない。ちょっと一人にさせてくれないか?」

一同「………………」

セシリア「わかりましたわ、箒さん」

簪「待ってるからね、箒」

鈴「まったくしかたないわね。今更遅くなったところで差なんてないし、好きにしなさい」

ラウラ「ただし、班はこちらで勝手に決めておくから、そのつもりでいろ」ニコッ

シャル「それじゃあね、箒」

箒「ありがとう、みんな!」



391: 2014/03/17(月) 10:02:00.90 ID:TGLi8lbx0


ザー、ザー、ザー、ザー


箒「…………」ジー

担当官「…………」フゥ

担当官「さて、上着っと……」ザッザッ

箒「…………父さん、母さん」ポロポロ・・・


“鬼”の外交官こと“プッチン”が日本政府からの粗品と称して渡したものは、


――――――今は行方知れずとなった両親からの誕生日祝いの手紙だった。


篠ノ之一家の重要人物保護プログラムの担当官であった“グッチ”ですら箒の両親の行方は杳として掴めなかったのだが、

“プッチン”は独自の情報網から両親の行方を探し出しており、密かに接触していたのである。

何枚にも渡る直筆の手紙の厚みと重みが、そこに込められた娘への想いを如実に語っており、始めの数枚を読んだだけで胸がいっぱいになってしまう。

他にも一家の住処であった篠ノ之神社の管理人となった箒の叔母への手紙も同封されており、家族の絆が断ち切れていないことを強く感じさせられた。

夕焼けに照らされた涙が少女の希望の光となる。その横顔が美しい。


――――――その瞬間、彼女の中の世界が拡がった。


そして、思い出す。思い出した。思い出してしまった。

つい昨日の夕方、この海岸で一夏と一緒にダイビングツアーをしたことを。

伝説の“お姫様抱っこ”をしてもらった時に感じた、伝わる彼の力強さとその懐の深さ、寄せられる心地よさを。


少女の中には確かにその感触が残っており、胸の内を締め付けるようなものはいつの間にか消え去っていた。


この日、少女は新しく“篠ノ之 箒”として生まれ変わったのであった。




392: 2014/03/17(月) 10:02:38.32 ID:TGLi8lbx0


ザー、ザー、ザー、ザー


箒「…………」ジー

担当官「…………」フゥ

担当官「さて、上着っと……」ザッザッ

箒「…………父さん、母さん」ポロポロ・・・


“鬼”の外交官こと“プッチン”が日本政府からの粗品と称して渡したものは、


――――――今は行方知れずとなった両親からの誕生日祝いの手紙だった。


篠ノ之一家の重要人物保護プログラムの担当官であった“グッチ”ですら箒の両親の行方は杳として掴めなかったのだが、

“プッチン”は独自の情報網から両親の行方を探し出しており、密かに接触していたのである。

何枚にも渡る直筆の手紙の厚みと重みが、そこに込められた娘への想いを如実に語っており、始めの数枚を読んだだけで胸がいっぱいになってしまう。

他にも一家の住処であった篠ノ之神社の管理人となった箒の叔母への手紙も同封されており、家族の絆が断ち切れていないことを強く感じさせられた。

夕焼けに照らされた涙が少女の希望の光となる。その横顔が美しい。


――――――その瞬間、彼女の中の世界が拡がった。


そして、思い出す。思い出した。思い出してしまった。

つい昨日の夕方、この海岸で一夏と一緒にダイビングツアーをしたことを。

伝説の“お姫様抱っこ”をしてもらった時に感じた、伝わる彼の力強さとその懐の深さ、寄せられる心地よさを。


少女の中には確かにその感触が残っており、胸の内を締め付けるようなものはいつの間にか消え去っていた。


この日、少女は新しく“篠ノ之 箒”として生まれ変わったのであった。




393: 2014/03/17(月) 10:03:43.71 ID:TGLi8lbx0

――――――臨海学校、3日目


副所長「うまく夜を過ごせたようだな」

箒「……はい」

副所長「一般生徒はすでに学園に帰っていったことだし、寂しくなったもんだな」

箒「ええ……」

副所長「もうしばらくの辛抱だ」

副所長「それなりに専用機持ちになるための下準備はしてきただろうが、さすがに交代で夜明かしは疲れただろう?」

副所長「千冬も仮眠に入っていることだし、気晴らしに出かけていいぞ。一時的に、千冬から指揮権を移譲されているからな」

箒「ありがとうございます……」

副所長「ではな」ニコッ

箒「……はい」ニコッ

副所長「うん(――――――飾り気のない、いい笑顔だ)」


スタスタ・・・


副所長「憑き物が取れたな……(まあ、あの曖昧な表情――――――大切な人が生氏不明となって『すぐに割り切れ』というのが無理な話だ)」

副所長「(だがようやく、“篠ノ之 箒”という一人の人間の両足が地についたという感じだな)」

副所長「(今度こそ“束の妹”は、自分や自分を取り巻く世界に目を向けられるようになった)」

副所長「(まだ1ヶ月も経っていないはずなのに、ここまで来るのが長かった気がする…………)」


394: 2014/03/17(月) 10:05:24.77 ID:TGLi8lbx0


――――――最善にして最悪の解決手段。


副所長「(だが俺は、一夏は、結局そんな方法でしか“束の妹”を変えさせることができなかった…………)」

副所長「(どうして一夏は、普段は鈍感なくせにピンポイントで相手の急所を突くやり方ばかりやってしまうのか……)」

副所長「(俺の入れ知恵で最善の方法を知ったとしても、最善の方法の中で最悪な手段を選んでしまうのがあいつの性なのか)」

副所長「(これから俺がすべきことは、そうさせてしまうもっと奥深いところにあるものをどうにかすることではないのだろうか?)」

副所長「(だが、俺にはもう一夏やみんなの様子を見続ける余裕はない)」

副所長「(“篠ノ之 束”が学園にちょっかいを出してくるようになってきたからには、こちらとしてもそれを迎え討つ準備がいる)」

副所長「(それを具体的に形にするのが、…………俺しかいないんだよ!)」


副所長「………………」


副所長「どうすればいいんですか、“お師さん”」

副所長「俺一人では無理だよ、全てを司るだなんて……」

副所長「それに、肝腎の一夏がここにいない現状で、第4世代型とか対IS用兵器とか造ったところで何の抑止力にもならない…………」

副所長「さっさと戻ってきてくれ…………」


――――――なかなかキツイぜ、この意趣返しは。




ピィピィピィ

副所長「……緊急通信?」

副所長「どうしました、山田先生?」ピッ

山田「大変です! 今すぐ避難を!」

山田「たった今、学園上層部からの通達によって、」


山田「スペースデブリや人工衛星が大量にこの地に降ってきているらしいのです!」


副所長「は」

山田「ですから、衛星軌道上にあった人工衛星やスペースデブリがこの辺一帯を目掛けて墜落してくると――――――」

副所長「緊急招集だ! 織斑先生も叩き起こせ!」

副所長「それと、今すぐ使える交通手段をすぐに確認! そして、スペースデブリの落下予測地点と被害予想のデータを今すぐに!」

山田「了解です!」

副所長「すぐに戻る」ピッ

副所長「…………」


副所長「篠ノ之 束ええええええええええええ!!」ダダダダダ・・・



395: 2014/03/17(月) 10:06:40.42 ID:TGLi8lbx0

――――――旅館上空


ラウラ「当てにさせてもらうぞ、箒」

箒「ああ」

鈴「けど、何だって言うのよ、これは!」

シャル「空からたくさんのスペースデブリが落ちてくる……」

簪「くっ、反応が多すぎて破壊すべきデブリがわからない……」

セシリア「それに、不意に太陽を直視してしまいそうで狙撃もままなりませんわ!」

――――――
副所長「墜落してくるスペースデブリの数はこちらの粗末なレーダーで確認できているもので数千以上だ」

副所長「スペースデブリはかつて米ソが老朽化した人工衛星の破壊実験によって、微小な破片を数えて数百億以上は発生したとされる」

副所長「それに比べれば遥かに少ないものだが、スペースデブリは圧倒的な勢いで増加の一途を辿っている」

副所長「それらが一斉に降ってきたら、地上への物的被害や健康被害は免れない」

副所長「だが、今回のようにピンポイントの座標のスペースデブリが降ってくることはまずありえない。何かしらの原因があるはずなんだ」

副所長「デブリの種類からいって、低軌道上にあるスペースデブリが降ってきているようだ」

副所長「おそらく、低軌道上に何らかの誘引装置があるのかもしれない」

副所長「しかし、ISの装備では雲の上までで精一杯だ」

副所長「地上への被害は極めて限定的と言えるが、来年から臨海学校が中止になるぐらいに被害は大きい」

副所長「史上最強の兵器がこれだけあっても、やれることはたかが知れてる」

副所長「そこで、付近の住人が避難するまでの時間稼ぎと、墜落してくる大型のデブリ及び人工衛星の破壊だけを目標とする」
――――――

小娘共「了解!」

――――――
副所長「基本的に、安全地帯への誘導と優先撃破対象の参照はこちらで行う」

副所長「だが油断するな。シールドバリアーに反応しない微小なデブリが後々になってお前たちの身体を蝕む可能性がある」

副所長「こちらのレーダーでは表示しきれない微小なデブリに関しては、各々の判断で動いてもらいたい」
――――――

ラウラ「つまり、我々は特に指示がない場合は避難者の護送に従事していればよろしいのですね?」

――――――
副所長「そうだ」

副所長「護送車両として、自衛隊からの人員輸送車がこちらに向かっている。でかい的だ。しっかり守ってくれよ」

副所長「我々対策本部は最後に旅館から撤収することになる。それまでよろしく頼む」

副所長「おそらく、正午までが勝負といっただろう」

副所長「では、作戦開始だ! 最初の人員輸送車が来たようだ」
――――――

小娘共「了解!」





396: 2014/03/17(月) 10:07:53.57 ID:TGLi8lbx0

シャル「それじゃ、バスの護送は僕が引き受けるよ」

シャル「昨日の『銀の福音』撃破作戦でも、クルーザーの防衛の任に就いていたことだしね」

シャル「昨日は出番がなかったけど、防御パッケージ『ガーデン・カーテン』の真髄を見せる時だね!」

一同「異議なし!」

鈴「それじゃ、デブリの撃破は私の『甲龍』の機能増幅パッケージ『崩山』の4門に増設された『龍咆』でいくわ」

鈴「デブリなんて焼き払ってみんな消し炭にしてやるわ!」

ラウラ「私の装備ではデブリの殲滅や護送には向かないな」

ラウラ「では、優先撃破対象の撃破に専念させてもらう」

ラウラ「砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』は遠距離からの精密射撃を得意とする」

セシリア「それならば、私の『ブルー・ティアーズ』は微力ながら援護に徹しますわ」

セシリア「強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』では今回の作戦では力不足ですし」

セシリア「それに、誘導兵器も使えませんので、実質的に『スターダスト・シューター』を射つしか能がありませんもの」

鈴「となると――――――」

ラウラ「うむ」

シャル「箒の『紅椿』が墜落してくる人工衛星の撃破の要となるね」

箒「ああ、任せておけ!」

簪「それじゃ、私が箒のバックアップに回るよ。燃費は悪いけど、攻撃力と機動力はあるから」

箒「わかった。頼んだぞ、簪」

箒「うん」

ラウラ「それでは、指示があるまでは対策本部と護送に専念するぞ!」

小娘共「応!」



397: 2014/03/17(月) 10:09:21.67 ID:TGLi8lbx0

――――――旅館:対策本部


担当官「旅館のみなさん! 落ち着いて、順番に!」

シャル「僕たちが守り通すので安心してくださーい!」

自衛隊「積み荷は最小限に! 生きてさえいれば、どうとでもなりますから!」

――――――

副所長「どこだ? どこに装置がある? それを見つけ出してミサイルで撃ち落としてもらう!」カタカタカタ・・・

山田「巨大な質量を確認しました!」

千冬「篠ノ之! 来たぞ! 迎撃に迎え!」

山田「データ送ります!」ピッ

バッ

担当官「第一陣の避難が開始されました!」

担当官「対策本部も撤収の準備をお願いします!」

千冬「ああ……」

副所長「くそっ!(せめて簡単な防塵マスクを支給してもらえれば、不安の種は全くなくなったのだが…………)」カタカタカタ・・・

副所長「まずいぞ、これは…………!」

副所長「…………束め!(低軌道上の人工衛星やデブリがどんどん墜落していっている…………!?)」

副所長「(このまま放置していたら、低軌道上のデブリがこの辺一帯を汚染し尽くしてしまうぞ!)」

副所長「(間違いなく、2000発以上のミサイルが我が国に向けて放たれた『白騎士事件』に匹敵する大事件だな!)」

副所長「(きっと世界中で大きな騒ぎになっているだろうよ!)」

副所長「…………最初からこうするつもりだったのか?」

副所長「(つまり、『白騎士事件』で自分の発明品の宣伝をし、今度は『福音事件』で妹の専用機デビューを華々しく飾らせたということ!)」

副所長「(相変わらずだな、――――――“二束三文の女”め! あと三文やるから三途の川の向こう側にとっとと逝け!)」

副所長「(だが、幸いと言っていいのかはわからないが、低軌道上に分布する衛星は通信衛星が主だ)」

副所長「(そして墜落するデブリを見る限り、現在稼働しているISSの高度よりも低い高度のものが墜落している)」

副所長「(それ故に、ISSを彼女たちの手によって搭乗員ごと撃墜するようなことがなくって、少しばかりホッとしている)」

副所長「(だが、恐ろしい兵器を開発していたものだな…………低軌道上の衛星やデブリを墜落させる装置とはな)」

副所長「(しかしタネがわかったとしても、それを即時撃墜する手段がない以上は、デブリの雨が振り続けることになる…………)」



398: 2014/03/17(月) 10:10:37.59 ID:TGLi8lbx0

――――――上空


箒「いくぞ、『空裂』!」

箒「はああああああああああああああああああ!」ブン!

ラウラ「てーーーーーーーーー!」バンバン!


ボゴーン!


簪「墜落してくる通信衛星の破壊を確認!」ピィピィピィ

簪「また降ってきた……!」

箒「切りがないな……」

ラウラ「作戦開始からすでに1時間は経過しているが、この調子では…………」

セシリア「津波が起こらないように細かく砕くというのはわかりますけど…………」

鈴「それじゃ、微小なデブリを焼き払う意味があんまりないじゃないのよ!」

箒「だが、やるしかない!」

箒「行くぞ、『紅椿』!」

鈴「……そうね。やらないよりやったほうが数倍マシよ!」

セシリア「何もしないで終わるのを見ているのは性に合いませんものね!」

ラウラ「旅館に残っているのは本部の先生たちと女将さんたちだけだ!」

ラウラ「がんばれ! もう少しの辛抱だ!」

簪「ターゲット・ロック! ――――――『山嵐』!」

ラウラ「てーーーーーーーーー!」バンバン!

鈴「喰らえええええええ!」

セシリア「…………そこっ!」バヒュン!

箒「はああああああああああ!」ブン!





399: 2014/03/17(月) 10:12:30.00 ID:TGLi8lbx0

――――――再び、旅館:対策本部


バッ

担当官「撤収だ!」

千冬「総員、退避!」

一同「了解!」

タッタッタッタッタ・・・

副所長「あともう少しで絞り込める…………!」カタカタカタ・・・


ミシミシミシ・・・・・・


千冬「ん」

千冬「――――――“プロフェッサー”!」

副所長「!?」


ボゴーン!


副所長「なにぃいい!?」
――――――

担当官「なんだと!? 人工衛星が直撃したのか!?」

山田「いえ! 旅館に直撃する巨大な質量の軌道は一切に確認されませんでした!」

千冬「違う……! 大量のデブリの破片が旅館の天井をその重みで崩したんだ……!」

担当官「“プロフェッサー”!」

――――――
副所長「無事だ……! だが、それよりも――――――!」


ミシミシミシ・・・・・・ボゴーン!




400: 2014/03/17(月) 10:15:10.88 ID:TGLi8lbx0

山田「ひっ!」ビクッ

――――――
副所長「行け! 俺に構うな!」カタカタカタ・・・

副所長「それに、あともう少しで、この事態の原因の特定ができるんだ……!」カタカタカタ・・・
――――――

担当官「馬鹿を言うな! お前を置いていけるか!」

――――――
副所長「馬鹿はお前だ! 崩落した梁に阻まれているのにどうやってこっちに来るっていうんだ!」カタカタカタ・・・
――――――

担当官「くっ、それは…………」

担当官「だったら、専用機持ちの誰かを呼んで――――――

担当官「そうだ、シャルロットを呼べば――――――」


ボゴーン!


担当官「!?」

――――――
副所長「呼んでも間に合わん!」

副所長「ならば、…………できることをするだけだろうが」
――――――

山田「そ、そんな…………」

――――――
副所長「急げ。あと10分もすると、衛星が一気に5つぐらいこの近辺に落ちてくるぞ」カタカタカタ・・・
――――――

千冬「…………!」

担当官「何とかならないのか!」

千冬「くぅ……」

――――――
副所長「千冬! ここではお前が司令官なんだぞ!」

副所長「お前はお前の役目を果たせ、給料泥棒!」
――――――

千冬「くっ、――――――撤収だ!」

担当官「千冬!?」

千冬「やつは氏なん! 絶対にだ!」

担当官「………………くそ!」

担当官「生きろよ、――――――生きて戦勝パーティに顔を出せ!」

――――――
副所長「ああ。とびっきりのサプライズを用意してやるよ!」

副所長「では、行け!」



401: 2014/03/17(月) 10:16:39.10 ID:TGLi8lbx0

ドドドドド・・・・・・


副所長「………………」

副所長「たとえこっちに来られても、下半身は梁の下なんだよな…………」

副所長「だが、最期の仕事はきっちりこなせそうだ」カタカタカタ・・・

副所長「――――――見つけた」ニヤリ

副所長「位置情報をオープンチャネルで、……送信」カタッ

――――――送信完了

副所長「これで、俺のできることは全て終わった…………(すべきことはまだまだ残ってはいたが…………)」

副所長「結局俺は、束には一生届かないのだな……」ハア

副所長「…………“氏”を体験するのは別にこれが初めてじゃない」

副所長「5月に研究所を爆破されたり、昨年に――――――」

副所長「心残りといえば、俺の全知全能を込めて設計・理論化した第4世代型のお披露目が叶わなくなるってことかな…………」


――――――その名は、『白き閃光』。


ミシミシミシ・・・・・・ボゴーン! 








キュイーーーーーン! ブゥーーーーン!


402: 2014/03/17(月) 10:18:03.51 ID:TGLi8lbx0

――――――上空


簪「旅館付近に衛星が、6つほぼ同時に墜落する!」

セシリア「なんですって!?」

ラウラ「くっ! 避難の状況は!?」

                           ・・・・・
シャル「みんな、今バスが出たところだよ! ――――――全員無事で」


箒「なら、護送に影響が出る衛星を破壊するだけだ!」

箒「簪! どれだかわかるか?」

簪「待って、今データを――――――えっ!?」ピピッピピッ

簪「最低でも4つは破壊しないと、まずい」

一同「!!」

ラウラ「放火を集中して血路を開くぞ!」

簪「ここまで来てもう出し惜しみはしない!」ピピッピピッ

セシリア「火力が足りなくても、軌道を少しでも変えるぐらいは!」ジャキ

鈴「諦めないやつが勝つのよ、こういうのは!」

箒「行くぞおおおおおおおお!」


シャル「僕も微力ながら迎撃に参加するよ!」ジャキ



ボゴーン! ボゴーン!

箒「しまった、破片が――――――!」

鈴「そんなもの、私が――――――!」ヒュウウウウウン!

ガン!

鈴「くっ」

ラウラ「無茶をするな!」

鈴「ここで命を懸けないで、どこに命を懸けるっていうのさ!」

セシリア「ISは世界最強の防御力を持った機動兵器ならばこそ、――――――この身を賭して人々を守る盾となりましょう!」

鈴「……セシリア」

セシリア「今回ばかりは他のみなさんに出番をお譲りいたしますわ」

鈴「相変わらず、損な役回りね。機体特性もあって…………」

セシリア「そういう鈴さんこそ」


403: 2014/03/17(月) 10:19:58.09 ID:TGLi8lbx0

箒「…………くっ!(――――――さすがにエネルギーがもう保たないか)」ピィピィピィ

箒「あともう少しなんだ! 保ってくれ、『紅椿』!」

簪「………………『山嵐』も残り斉射2連だけ」

簪「けど、『春雷』にエネルギーを使うよりは、『紅椿』にエネルギーを渡した方が…………(けど、稼働中の機体にエネルギーの譲渡はかなり難しい……)」

ラウラ「くっ、残り2つだ!(――――――残弾がもう、ない)」

ラウラ「(落ち着け。作戦目的は人員輸送車の護送だ。となれば――――――!)」

ラウラ「こうなれば、『AIC』で――――――!」ヒュウウウウウン!

鈴「ちょっとラウラ、どうしたのよ!」

ラウラ「弾が無くなった……! 『AIC』で衛星を受け止める!」

鈴「そんなことできるの!? 『AIC』なら確かに止められるかもしれないけれど、範囲に収まんなかったら意味ないわよ!」

ラウラ「わかっている! だが、目的は護送だ! これさえ凌ぎきれば作戦完了なんだ!」

ラウラ「それに、あれには織斑教官や尊敬すべき方々が乗っておられる! 何が何でも氏守する!」

鈴「ラウラ……」

鈴「うん!」


シャル「来るよ! 迎撃して!」バンバン!


箒「くそ、いったいいつまで降り注ぐんだ、このデブリの雨は――――――!」ブン!

簪「箒! 一旦、降りて!」

箒「こんな時に何だ!?」

簪「『打鉄弐式』のエネルギーを解放する! だから、それで――――――」ピィピィピィ

箒「くそ! 迎撃が追いつかない! 行くぞ、簪!」ヒュウウウウウン!

簪「そんな 待って、箒!」ヒュウウウウウン!


――――――私は、今度こそ自分の居る場所を守り抜くんだ!

―――――― 一夏とまた出会うことができた一緒に帰れる場所を!

――――――だからもっと力を貸せ、『紅椿』!


簪「!?」

簪「箒、機体から光が――――――!」

箒「へ」

箒「これは、エネルギーが回復している…………?」

箒「まだやれるぞ、私と『紅椿』は!」


――――――単一仕様能力『絢爛舞踏』!


箒「はあああああああああああああああ!(――――――出し惜しみはなし! 全力で行く!)」ブン!


ボゴーン!


簪「やった……!」

箒「やった、やったぞ、私は……!」

簪「うん!」


404: 2014/03/17(月) 10:22:13.22 ID:TGLi8lbx0


シャル「あ、危ない!」


箒「!?」

簪「あ、ラウラたちは――――――!?」ヒュウウウウウン!

箒「くぅ!」ヒュウウウウウン!


ラウラ「くぅううううううううう!」

鈴「が、頑張るのよ……、『甲龍』!」

セシリア「バスが通過するまでの辛抱ですわ……」

シャル「み、みんな……!」

シャル「離れるべきか否か…………指示を、指示をお願いします!」

ラウラ「くぅああああああああああ――――――あ(…………『AIC』のエネルギーが無くなった)」ピィピィピィ

鈴「あ」

セシリア「え」


ヒューーーーーーーン!


――――――
千冬「…………!」

山田「あ、あああ…………」

担当官「わかっていても、怖いな、これ……」


――――――けど、“奇跡”っていうのは準備していないものには掴めない。


使丁「偶然も必然も全てが結果なのだから」

副所長「そうだな。その通りだ」(安静)

使丁「さあ、翔べええええええええ!」
――――――

箒「み、みんなああああああああああああああ!」ヒュウウウウウン!

簪「――――――IS反応!? それも2つ!?」ピィピィピィ

箒「自衛隊の救援か?」

簪「違う。この識別コードは――――――!」


405: 2014/03/17(月) 10:24:17.29 ID:TGLi8lbx0


シャル「あ、ああ…………(い、一夏ぁああああああ!)」


バスの上を陣取っていたシャルロットの眼前に迫り来る巨大な質量のスペースデブリ――――――。

逃げようと思えば簡単に逃げられる。だが、自分の足元にはかけがえのない人たちがそこにいる。

シャルロットは逃げたい衝動に駆られながらも必氏に堪えて、最後の悪足掻きとばかりに最も威力がありそうなものを乱射し続けた。

そうしないと、自分が自分で無くなってしまうような気がして…………!

しかし、痛みを感じないただの塊に対して通常火器などなんと無力なことか…………

IS3機掛かりで押し留めようとしたスペースデブリの勢いは『AIC』によって前のほんの一部分にかかった加速度が失っただけで全体の運動量の1割も奪えていない。

まさに、逃げ出すこともできずに守るべき人々と一蓮托生となろうとした、


――――――その時!


ビュウウウウウウウウウウン!

スパァー

ゥウウウウウ、バーーーーーーーーン!


シャル「!?」

箒「!」

簪「!」

ラウラ「!!!?」

セシリア「!?」

鈴「!!!!」

山田「!!??」

担当官「ホッ」

千冬「…………フッ」

副所長「お前の意趣返しにはまいったよ…………こんな展開 俺でも予想できなかった」

使丁「そ、ヒーローっていうのはこうでなくちゃ!」


―――――― 一夏くん!



406: 2014/03/17(月) 10:26:25.33 ID:TGLi8lbx0

一夏「ふぅ、これで後は何とかなるだろう」

一夏「ナイスアシスト、――――――『銀の福音』!」(第2形態)

福音「――――――!」(第2形態)


最後の護送車の上に降り注いだ最後の人工衛星は、突如として現れた2体の見たこともないISによって排除された。

正確には一部の形状が変形したあの2機であった。

突如として現れた『白式』第2形態『雪羅』は左手の高出力エネルギー砲を連続放出して衛星を真っ二つに引き裂き、

分離した衛星の残骸を光の翼を展開した『銀の福音』第2形態が収束させたエネルギー砲で押し退けたのだ。

これによって、最後にして最大の脅威を乗り切ることができたのである。

周囲が危地を脱したことに安堵している中、この2機は更に動いた――――――!



一夏「それじゃ、いくぞ! 背中を貸してくれ!」ガシッ

福音「――――――!」コクリ


ビュウウウウウウウウウウン!


一夏「気をつけろ、『銀の福音』! スペースデブリは今も数限りなく降っているぞ!」

福音「――――――!」ビュンビュン!

一夏「衛星からのデータリンク完了! 目標までの距離は約300キロ! このまま直進してくれ」

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウウウン!

一夏「『雪羅』エネルギー充填……!」

一夏「…………冷たくなってきたな。100m上がる毎に気温って下がっていくんだっけな」ハアハア・・・

一夏「エネルギー全部使って届くかな? いや、届けてみせる! 当たりさえすれば――――――!」

一夏「10秒後に発射する! 目標に向けて直進し続けてくれええええええ!」

福音「――――――!」ビュウウウウウウウウウウン!



407: 2014/03/17(月) 10:28:27.19 ID:TGLi8lbx0


10、9、8、7、6、5、4、3、2、1――――――!


一夏「行っけえええええええええええええええええええええええええええ!」

一夏「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

一夏「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」















――――――目標撃破


一夏「………………終わった」ピィピィピィ

一夏「それじゃ後は頼むぜ、『銀の福音』」(強制解除)

一夏「!?」

一夏「ハアハア・・・・・・(わかってはいたけど、呼吸と、体温が、まずい…………)」ゼエゼエ

福音「――――――!」(光の翼で優しく包み込む)

一夏「・・・・・・アタタカイ(そんな器用なこともできるのか、お前は…………)」ニコッ

福音「La」


――――――数時間後、低軌道上にあった人工衛星やスペースデブリが墜落し続けるという異常現象はその元凶が絶たれたことで、やがては収束していった。


篠ノ之博士によるIS〈インフィニット・ストラトス〉の発表の1ヶ月後の『白騎士事件』以来の大事件となったこの一件は、

この事件の功労者であるIS学園の生徒と、――――――ある1機の所属不明機の名に因んで『福音事件』と呼ばれることとなった。

なぜ所属不明機がその場に居合わせたのか、そしてなぜ低軌道上のスペースデブリが墜落し始めたかは、その後の調査で明らかになることはなかった。

事件の関係者たちは答えることはなく、また日本政府も詳しい発表を行うことはなく、事件の真相は謎に包まれたままであった。


ただ、その所属不明機とセカンドシフトを果たした『白式』のツーショットが電脳上に拡散されており、
それによりこの事件が単なる歴史の闇に沈むことはなく、ISを語る上で絶対に外せないミステリーの1つとして、
長らく人々の記憶の中に残されることになったのであった。



408: 2014/03/17(月) 10:30:18.46 ID:TGLi8lbx0

――――――全てが終わって、


使丁「うまく決めたな、一夏くん」

一夏「」コクコク(担架)

副所長「やれやれ、また病院行きか…………」(担架)

一夏「」フフッ

副所長「今、笑ったな?」

使丁「“プロフェッサー”も元気なようで」

使丁「それじゃ、後はゆっくりと養生していてくれ」

使丁「後始末をしておくから」

担当官「しかし、どういうことだ、“マス男”?」

担当官「なぜIS学園で勤務中のお前がパワードスーツで駆けつけて、しかも一夏の消息まで――――――?」

使丁「それじゃ、まずは順を追って説明しようか」

千冬「頼む」


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――



409: 2014/03/17(月) 10:32:15.89 ID:TGLi8lbx0

――――――臨海学校、2日目

――――――IS学園


使丁「轡木さん、いい調子ですよ」

                      イオス
使丁「国連で開発している外骨格攻性機動装甲――――――、試験運用としてはまずまずです」


使丁「劣化ISとか思ってましたけど、やっぱりパワードスーツが動くと作業が楽になっていいです――――――」ピピピッ


使丁「ん? ちょっと待ってください」ピッ


使丁「おや、一夏くんじゃないか? ――――――臨海学校で何かあったのかい?」


使丁「…………わかった。明日にも駆けつけよう、サプライズをもって!」







――――――臨海学校、3日目

――――――臨海学校近辺に設けられた自衛隊による道路封鎖


自衛隊「困ります!」

使丁「状況は把握している。この時こそ、災害救助用に開発されたEOSの出番だ」

使丁「帰りは捨ててっていい。避難者をバスに乗せるまでが仕事だからな」

自衛隊「ええ…………」

外交官「連れてってやれ。旅館が積み重なったデブリの重みで崩落する可能性を考えると、保険として持っていくのが最良の選択だ」

自衛隊「…………わかりました」

自衛隊「しかし、遅くなりますよ?」

外交官「別のクルマで運んで、帰る時はきみもバスに乗って帰ればいい」

自衛隊「…………了解です」

使丁「すみませんね。生身の力だけじゃどうしようもない時っていうのがあるので」







410: 2014/03/17(月) 10:33:41.34 ID:TGLi8lbx0

――――――そして、


副所長「心残りといえば、俺の全知全能を込めて設計・理論化した第4世代型のお披露目が叶わなくなるってことかな…………」


――――――その名は、『白き閃光』。


ミシミシミシ・・・・・・ボゴーン! 








キュイーーーーーン! ブゥーーーーン!


副所長「は」

副所長「何だこのローラーの音は? 幻聴じゃあるまいな……」
――――――

使丁「せーのっと!」


ボゴーン!


副所長「おわっ!?」ゴロンゴロン・・・

使丁「よう、無事だったか、“プロフェッサー”?」

使丁「それじゃ、さっさと脱出しようぜ!」

副所長「え、なぜここにお前が――――――って、おい!」

使丁「仕事道具もちゃんと抱えたな?」

使丁「ちゃんと役に立つじゃないか、この。いったいどこが欠陥品なんだ?」

副所長「――――――だって?」

副所長「まさかそんなものが学園に回されていただなんて――――――、うわああああ!?」


キュイーーーーーン! ブゥーーーーン!




411: 2014/03/17(月) 10:35:04.60 ID:TGLi8lbx0

担当官「“プロフェッサー”!」

副所長「よう。また会ったな…………」

使丁「はいはい! いっちょ上がりだぜ」

使丁「それじゃ、はここに放置だ。金属の塊なんだし、少しぐらいデブリを浴びたって大丈夫だろう」プシュー

千冬「…………感謝している」

使丁「千冬、礼は後できっちりと聴くから、今は逃げよう!」

自衛隊「急いでくださーい!」

使丁「ほらほら」

千冬「ああ…………」

千冬「デュノア! 対策本部や女将たち、全員無事に乗車できた!」

千冬「これで最後だ。最後の正念場をやりきってくれ」

シャル「了解!」

                           ・・・・・
シャル「みんな、今バスが出たところだよ! ――――――全員無事で」


―――

――――――

―――――――――

――――――――――――



412: 2014/03/17(月) 10:37:05.28 ID:TGLi8lbx0

――――――そして、今に至る。


担当官「まだわからないことがいっぱいあるのだが…………」

使丁「正式の場での調査報告の機会を得るまではこれで満足してください」

使丁「俺としても、国連から回されたを旅館に置いてきちゃったから、伸び伸びとしていられる立場じゃないんで」

使丁「一夏くんがどうやって水没しておきながら海域から姿を消し、更には暴走無人機を手懐けることができたかは――――――、」

使丁「同じく怪我の功名で病室送りになったIS学園開発棟副所長からの報告を待ちましょう」

千冬「そうだな」

トントン・・・

千冬「ん」

ナターシャ「久し振りね、“ブリュンヒルデ”」

千冬「お前は――――――」

担当官「えと、誰だ? 関係者以外は立入禁止のはずだが……」

ナターシャ「はじめまして、ナターシャ・ファイルスよ。アメリカのISドライバーよ」

担当官「まさか!」ギラッ

ナターシャ「そう、『あの子』のテストパイロットは私」

担当官「『ISの軍事転用を危ぶむ』などとほざいて、真っ先に軍事転用を行った国の人間がのこのこと……!」グイッ

ナターシャ「…………っ!」

千冬「よせ!」
             ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
担当官「止めるな、千冬! 善良な人間が同じ善良であると思われる人間に意見具申をしているだけだ!」ゴゴゴゴゴ

担当官「貴様らのような人間のせいで、“篠ノ之 箒”という一人の人間が享受すべき尊い人生は失われた!」

担当官「それでいて、『白騎士事件』で国家開闢以来 最大の国防危機を招いてしまったくせに、」

担当官「今度は自分たちで後始末をできない破壊天使なんか生み出しやがって! 自爆装置を付けろよ、まったく!」

担当官「何が超大国だ! 世界の警察だ! お前たちの正義は血を見ることで成り立っているようだな!」

担当官「だが残念だったな! 貴様ら戦争屋の陰謀も白日の下に晒された!」

担当官「今日のことで、少しばかりはせいせいしている!」

担当官「だが忘れるな! 自分たちの権益を守ろうとして造った兵器によって、自らの首を絞めることになっているとな!」

担当官「“織斑一夏”に氏ぬほど感謝しておけよ。――――――ハラスメント国家が」プイッ

ガチャ、バタン・・・

千冬「…………すまないな」

ナターシャ「気にしないで。今回の一件には私自身も不甲斐なさを感じているから……」

ナターシャ「それに、彼の言うとおり、今回の一件で軍のメンツが潰れたのは事実」

ナターシャ「…………IS学園に難癖をつけて責任転嫁するのが目に見えるわ」ハア

千冬「その時は、アメリカの管理能力の無さを指弾すればいいだけのことだ」
                            
千冬「それに、日本政府が世間に公表するかはわからないが、“偶然にも”『銀の福音』と接触してしまったことでこちらとしてもやりやすくなった」

ナターシャ「相変わらず、あなたやあなたの周りは化け物揃いね…………」

ナターシャ「けれど、本当によかった…………」

ナターシャ「暴走してしまった以上、危険因子が組み込まれたコアとして封印されることは確定なんだけど、」

ナターシャ「最後にあんなにも元気に飛び回る『あの子』の晴れ姿を見ることができて、私としてはそれで満足よ」


413: 2014/03/17(月) 10:39:22.29 ID:TGLi8lbx0

使丁「」ニコニコ

ナターシャ「“ゴールドマン”」

使丁「何だ、ナターシャ?」

ナターシャ「ハワイで待ってるから。その時は“白のナイト”も一緒に」ニコッ

使丁「ああ」ニッコリ

ナターシャ「それと、二人のことを首を長~くして“彼女”が待っているわ」

千冬「あいつか」フッ

使丁「…………あれ以来だな」フフッ

ナターシャ「それじゃ、日米の協議で『あの子』の引き渡しがすむまでしばらくこの地に滞在しているから」

使丁「何か困ったことがあったら頼ってくれ」

ナターシャ「ええ。遠慮無く頼らせてもらうわ」ガチャ

千冬「それでは、さらばだ」


バタン


使丁「千冬」

千冬「何だ?」

使丁「お前も来い」

千冬「考えておこう」

使丁「素直じゃないな、まったく」ニコニコ

千冬「フッ」

千冬「………………本当によかった」ホッ



414: 2014/03/17(月) 10:40:42.06 ID:TGLi8lbx0


「そっか」

「――――――『白い女の子』と『白いIS』に夢の中で出会っていたというわけか」

「なるほど、確かにISは「形態移行」する過程でエネルギーが回復することが確認されている。これもISが持つ特殊能力の1つだな」

「そして、まさか『潜水機能』まで得ちゃうとはな…………ま、ボンベは付いても体温調節機能までは完備していないようだが」

「なんだ、これは“あいつ”の影響か? そうとしか考えられないな」

「しかし、ここまで相互意識干渉が起こるとはな。それで『銀の福音』の暴走を止めることができたというわけか」

「『銀の福音』は暴走したことによって周囲の全てが敵だと認識していた――――――」

「だからお前は、それを知って『銀の福音』の恐怖心を取り払ってくれたのだな。一生懸命に慰めたのだな」

「次いでに、仲良しにもなったか。実に興味深いな、無人機との連携とは」

「『敵は“敵”』だと思っていたが、お前は違った」

「お前は筋金入りのスポーツマンだよ」


――――――その心が本当に平和を導いてしまったのだから。


「やっぱり、お前は凄いよ。IS適性だとか学力だとか、そんなんじゃ測れないものを持っている」

「もう俺から教えるようなことは何も無いかもしれないな」

「お前は人どころか、ISまでも救ってしまったのだからな」


――――――見違えるようになったな、この3ヶ月間で。


「あ、――――――調子に乗るなよ?」
        ・・・・・・・・
「そうだ、お前は最善で最悪の方法を平気で実行してしまうような『デリカシーの無さ』という大きな課題が残っていたな」

「待っていろ。退院したらその性根を叩き直す特別メニューを用意してやる」

「フッ、お返しだよ。心配させやがって」

「それと、――――――これからも簪ちゃんのことをよろしく」ニヤリ



415: 2014/03/17(月) 10:42:50.95 ID:TGLi8lbx0

――――――それから、


オツカレサマデシター

箒「ふぅ」(剣道着)

箒「(あれから、もう2週間か…………)」

箒「(一夏は何をやっているのだろうな……)」

担当官「箒ちゃん」(剣道着)

箒「あ、はい」

担当官「強くなったな。私から1本取れるようになった」

担当官「それでいて、すっかり見違えるように爽やかな剣筋だったぞ」

箒「あれは、“グッチ”さんがわざと隙を作ったんじゃないんですか?」

担当官「…………!」

担当官「そこまで気づくようになったか(物事の興味関心が拡がったおかげだろうな、これは)」

箒「私も、『変われた』ってことなんでしょうかね……」

担当官「ああ。その通りだ(それは私も同じことだ)」

担当官「そうだ。大切な報せがある。この地図にある学内の“ここ”に19時に来てほしい」

担当官「服装は自由、夕食が出る。2,3時間は掛かると思うから、必要だと思うものは持ってきてくれ」

箒「わかりました」

担当官「よし。それじゃ、お疲れ様でした」

箒「はい、お疲れ様でした」ニコッ



416: 2014/03/17(月) 10:45:16.09 ID:TGLi8lbx0

――――――19時前、某所


箒「IS学園にはこんなところがあるんだな…………」

箒「地図が無かったら何が何だか…………」

箒「で、ここか……」

箒「?」

箒「真っ暗だぞ? 部屋を間違えたか?」

箒「!」


ピカァー! パァーン!


担当官「さあ、最後のゲストの登場です!」


副所長「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
使丁「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
千冬「フッ」パァーン!(クラッカー)
山田「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
簪「い、いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
本音「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
セシリア「い、いえええええい! ですわ!」パァーン!(クラッカー)
シャル「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
ラウラ「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)
その他「いえええええい!」パァーン!(クラッカー)


箒「こ、これはいったい…………?」

鈴「なにそこに突っ立ってんのよ。さあ」

鷹月「篠ノ之さん、こっちこっち」

箒「あ、鷹月さん! …………『用事がある』ってこのことだったのか」

箒「あれ、――――――副所長がいる(確か副所長は一夏と一緒に病院に搬送されていた――――――)」

箒「――――――ってことは!?」


一夏「よっ! しばらくぶりだな」


箒「い、一夏……」ウルウル

一夏「さ、みんな揃ったことだし、始めようか!」

一同「おー!」

箒「な、何をだ……?」

副所長「夏季休業直前の慰労会――――――、」

使丁「兼 臨海学校全員生還の祝勝会――――――、」

一夏「兼 箒の誕生日祝い!」ニッコリ

箒「え、ええええ!?」

鈴「あんたの誕生日が災難だったから、“あくまでも祝勝会の次いでに”あんたの誕生日を祝おうって運びになったのよ、ほら!」


417: 2014/03/17(月) 10:47:12.00 ID:TGLi8lbx0

シャル「どいてどいて」ゴロゴロ・・・

担当官「ケーキが通ります。道を開けてください」

箒「お、おお!」

周囲「ワーー!」

一夏「ありゃま……、料理部に誕生日ケーキを頼んだけれども、これって――――――」

鈴「ウェディングケーキじゃない!」

シャル「ふふふーん」ニコニコ

ラウラ「おお! 何という圧倒感!」

一夏「それだけじゃないぜ」

一夏「はい。プレゼント」

箒「え……」

一夏「本当は誕生日に渡しておきたかったんだけど、渡しそびれてな」

箒「…………リボン」

一夏「ああ……、リボンは辞めたのか? その髪型を見るに」

箒「あ、それは、そのだな…………」

箒「気持ちの整理をつけてきたんだ。今の私ならお前のリボンが似合うかな?」

一夏「似合ってると思うぜ? 俺のセンスに間違いがないならな」

箒「ありがとう、一夏。それじゃ、早速このリボンを――――――」

鈴「何いい雰囲気になってんのよ」
           ・・・・・・・・
一夏「別にいいだろう。5分で済むんだし」

箒「…………一夏」イラッ

一夏「あ、はい!」

箒「ど、どうだ?」オソルオソル

一夏「うん。似合っていると思うぞ」

副所長「はい、姿見」

箒「…………悪くない。むしろ、いい!」ニッコリ

一夏「喜んでもらえて何よりだ」ニコニコ

担当官「それじゃ、私からもプレゼントを渡そう」

箒「あ、また封筒…………(何か入っている。今度は薄いけど、何か券のようなものが……)」

担当官「おっと! そいつは帰ってからのお楽しみって言うことで。みんなには内緒だ」

副所長「何渡したか教えてくれない?(まあ、大方予想はついてるんだけどさ)」

担当官「ノーコメント」


418: 2014/03/17(月) 10:49:49.44 ID:TGLi8lbx0

担当官「それでは、みなさん。グラスにドリンクを注いでください!」

一同「ハーイ!」

担当官「では、“篠ノ之 箒”の誕生日、そして無事にこうして全員が揃って1学期が終わったことを祝して――――――、」


担当官「 乾 杯 ! 」


一同「かんぱーい!」


ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ・・・





鈴「入院してから今日まで何をして過ごしていたのよ」

一夏「ああ、もちろん健康調査とセカンドシフトした『白式』のチェックをな――――――」

シャル「ねえ、一夏」

一夏「何だ、シャルロット?」

シャル「僕が作ったケーキ、一夏が切り分けて」テレテレ

セシリア「…………シャルロットさん?(何でしょう? 良からぬことを考えているのが見えますわね)」

一夏「ああ、いいぞ」

一夏「でも、せいぜい5ホールで十分だったんじゃないのか? 大人数だからってウェディングケーキっぽいものを作るなんてな」

一夏「あ、そうだ。16本分の蝋燭立てて箒に吹き消してもらわないと…………」

箒「え」

鈴「ちょっと待ちなさいよー!」

担当官「あ、そうだった。誕生日ケーキにはそれが必要だったな。うっかりしてた……」

副所長「しかたがないから、それに敗けないぐらいみんなで熱唱しようではないか」ニヤニヤ

千冬「フッ、喜べ。私も祝ってやろう」ニヤリ

箒「ち、千冬さん!?」カア

箒「いや、いいですって。お気持ちはいっぱい受け取りましたから…………」テレテレ

担当官「………………」フフッ

シャル「そ、そうだよ。だから、ね?」

一夏「わ、わかった」

一夏「でも、こういうのはもうちょっと待とうぜ。目の前にこんなごちそうがあるんだしさ」

ラウラ「そうだぞ、シャルロット。まずは目の前にあるものを平らげるべきだと思う」

シャル「…………わかったよ」

一夏「よし。それでだな――――――」


419: 2014/03/17(月) 10:51:30.36 ID:TGLi8lbx0


副所長「千冬の恥ずかしい話を聴きたい人ぉおおおお!」


一同「!?」

千冬「!!」ガタッ

鈴「え、千冬さんの――――――」

シャル「ちょっと聴いてみたい気も――――――」

ラウラ「織斑教官にそんなものはない!」

箒「ち、千冬さん!?」

使丁「わあ! 止めろ、千冬! “プロフェッサー”!」

山田「アワワワ・・・」

副所長「ふははは! 見たか、小娘共! この千冬の取り乱し様!」

簪「副所長! やりすぎです!」

一夏「そうですよ! ああ……、“グッチ”さんも手伝って!」

担当官「あ、ああ!」



「今度こそ私の役目は終わりを迎えるのだろうな」

「そして、新しく生きるための目標を見つけられた…………」

「思えば、6年か………………長かった。もうリセットは必要ない」

「けど、繰り返されたリセットの中でも得たものはあった」
                 ・・・・・・・・・・・
「来年、手紙を書いてくれたあの子がまたあなたの後輩となる日をみんなで迎えることができますように…………」

「そして、同封されている私からのプレゼントは――――――」



420: 2014/03/17(月) 10:53:34.77 ID:TGLi8lbx0

使丁「写真は十分に撮ったな。よし!」

セシリア「ばっちりですわ、“ゴールドマン”」

セシリア「けど、どうしても名残惜しいですわね。せっかくの力作…………」

鈴「でも、美味しそうじゃない! 凄いわ、シャルロット!」

シャル「トホホ・・・・・・(せっかく、夫婦初めての共同作業の光景が…………)」

副所長「ふふふ、千冬のケーキにアラザンをぶっかけてやる!」ニヤニヤ

副所長「あ、違った」

副所長「今のうちに、どの段のどのケーキを食べるかをよく考えておけよ」キリッ

簪「……副所長」ヤレヤレ

ラウラ「教官! もっと教官のことを教えてください!」キラキラ

周囲「チフユサマー!」キラキラ

千冬「おいラウラ。しつこいぞ。それにお前たちもだ」

担当官「では、ケーキ入刀です!」

箒「さあ、やれ! 一夏」ニコニコ

周囲「オリムラクーン!」

一夏「応!」

一夏「でやあ!」ブン!










鈴「やるじゃない!」

使丁「見事!」

千冬「フッ」

一夏「いえーい!」ニッコリ



“奇跡”はまだ終わらない。

“運命”は動き始めたばかりである。

“尊い日”はこれからも続いていく…………




―――“奇跡のクラス”から“希望の次代”へと―――



421: 2014/03/17(月) 10:54:56.08 ID:TGLi8lbx0



今作のイメージ:ひとりじゃない
http://www.youtube.com/watch?v=7Um2BGjH21Q




422: 2014/03/17(月) 10:56:20.26 ID:TGLi8lbx0

これにて、織斑一夏と大人たちの物語(第1期)は完結となります。

ご精読ありがとうございました。

最後は、付録としてアンコールで登場する“奇跡のクラス”の7人目までのキャラのプロフィールとなります。


今回の物語の主役は“大人たち”であり、“大人”が子供のために力と誠意を尽くしているようにしたかった。
“大人”が積極的に行くべき指針を示し、導いて、成長させていくさまを描こうとした。
もちろん、“大人”であろうとも「人間」としては未熟な存在であり、完全無欠ではない。間違っていたり、ぶつかりあったり、後悔したり、いろいろあった。
一緒の時を過ごし、逆に教えられることもあって、大人も成長していくさまこそが、一番の在り方なのではないかと思う。


なお本作のオリジナル設定の根本となる“奇跡のクラス”が10人もいる理由は特にない。

物語としては運命の3人と織斑千冬・篠ノ之 束の5人だけで事足りたのですが、
せっかくなので、某『ロボットよりも生身の人間の方が凄い』傑作アニメを真似て10人としてみました。


423: 2014/03/17(月) 10:59:23.31 ID:TGLi8lbx0

“奇跡のクラス”
織斑千冬の中学時代の面々の10人。
忘れられがちだが、担任だった“師”を除いて全員が現在20代半ばぐらいであり、世界トップクラスの人間になっているわけである。
しかし、いずれも必ずしも行ったことが全て正解となることはなく、彼らは彼らで大人として非常に思い悩んでいる姿が見られる。
彼らは決して完璧超人としては描いていない。『できることややれることが常人よりも広くて多いだけ』としている。
その象徴として、生身でISを倒す場面は一切出てこない。


1,使丁“マス男” -まっすぐでマッスルな男-
実質的に織斑一夏が漠然と目指していた1つの男性像を具現化しているのが彼であり、誠実で義侠心あってフランクで誰からも頼りにされる実力者。
千冬曰く、「全てがでかい一夏」であり、気質そのものは非常に織斑一夏と似通っていたとされ、
知的で気が利く印象であるが、素手でISに単身で挑むという無謀極まりない行動にも打って出ることもあるので、
本質的には一夏と同じく、「義を見てせざるは勇なきなり」直情的な性格である。そう見えないのは経験とそれに裏付けされた知恵と知識による分別があるから。
その蛮行と結果を見て一夏は自省・自制することになり、良くも悪くも教師としては体を張って最高の教育を施し、見本を示した。

元々は柔道の覇者であったが、トライアスロンに転向してすぐに結果を出している。

力関係では、千冬には負けるが、千冬に敗けない“ある女性”には決して敗けないという、奇妙な3すくみが成り立っている。
よって、束と“プッチン”が別次元の存在として扱われているので除外すると、“奇跡のクラス”の3強に数えられている。


2,副所長“プロフェッサー”-教え授ける者の至り-
担任であった“師”からの評価が一番の“奇跡のクラス”のバランサーにして知恵袋。
ISの開発者である同じ“奇跡のクラス”の篠ノ之 束に比べると全体的に劣っているが、稀代の発明家の一人であることに違いない世界的な天才の一人。
当時は、よく考え、よく周りを見、よく実行する発明ボーイであり、「周りを盛り上げよう」「今を面白楽しく」「便利に」という思いで発明をしてきており、
この辺りから篠ノ之 束とは技術者としては極めて“対極的存在”といえる。

“師”からの信頼は絶大であり、他が渾名を与えられているの対して、彼だけには号を与え、他の渾名の由来についても教えている。

実際に“師”が見込んだ通り、知恵袋にしてバランサーの役割を果たし、技術者としても世界トップレベルの人材に大成にしている。
技術者としては束に遠く及ばないが、人間としては彼のほうが遥かに優れている。

しかし、“奇跡のクラス”において、束は論外として、彼以外に技術者がいないことから徐々に………………

勤務先である倉持技研第一研究所が爆破されて職場を失ったので、日本政府からの要請でIS学園に赴任させられることになった。
開発棟の副所長になったので、呼称は相変わらず“副所長”のままである。
実質的に、2度目の引き抜きとなり、その職域を拡大しつつある。
ちなみに、彼の最初の職場は二輪や楽器、プールなどの某メーカー。“次いでに”ISにも使える機材も独自設計している……


3,担当官“グッチ” -愚直だがいい仕事(Good Job)をしてくれる-
“師”からその将来性を一番に心配されていた生真面目すぎる青年。
事実、中央省庁の国家公務員ではあるが、閑職にも近い重要人物保護プログラムの監視人兼担当官にいきなり落ちこぼれている。
一応、“奇跡のクラス”として篠ノ之 束とは同窓生であったので、その繋がりから篠ノ之一家の保護を担当することになった。
そういう意味では、わずか20代の新米国家公務員としてはあまりにも重すぎる大役を任されているが、
篠ノ之 束とまともに話せる数少ない人間だったので、彼以外に適任者がいないこともあり、異例の大抜擢を受けている。
本人としても、昇進よりも道理を通すことを一番としていたある意味無頓着な性格だったので、嬉々として受け容れ、現在に至っている。

“師”からその将来性を一番に心配されていた通り、社会人としてはあまりにも取り付く島もなくて可愛げのない生意気な若造として疎まれている。
剣道の実力がずば抜けて高く、その他の能力も平均以上の卓越した万能さを持っているが、柔軟性や配慮に欠ける性格で全てが台無しになっている。
風紀委員タイプの潔癖症であり、「義に過ぐれば固くなる」の典型的な悪例となっている。
それさえ抑えれば、ほとんど欠点のない人間性になれたのだが…………
『悪いものは悪い』とはっきり言ってしまう性格なので、そのせいでかなり口が悪い人に見えてしまう。
この性格は厳格な父の気質を受け継いだ篠ノ之 箒と共通するところがあり、それによって互いに信頼を得ることができていたのだが、
ある意味において「ペットは飼い主に似る」「類は友を呼ぶ」「篠ノ之 箒の将来図」の生きた見本となっている。

実質的に重要人物保護プログラムの保護対象である篠ノ之 箒の秘匿が必要なくなったために、御役御免になるかと思われたが、
束から新しいコアを4つ貰い受けるという偉業を果たしたので、これまでと打って変わって立場は安泰となった。
引き続き 保護対象:篠ノ之 箒の担当官として、そして日本政府の査察官として定期的にIS学園を具に見に来ることになった。
日本政府とIS学園を直接結ぶ存在となった。

一番の常識人(=普通・特長がない)であり、織斑一夏と篠ノ之 箒の不遇を一番に理解して代弁している人物。
礼儀作法として、楽しむ時は楽しむべきとしているので、オンオフで態度がかなり異なってきている。

ちなみに、重要人物保護プログラムの監視人としていくつもの偽名を使って保護対象と接触しており、いずれも“グッチ”の名を想起させるものを使用していた。
例)樋口、牟田口、矢口、野口......etc.



424: 2014/03/17(月) 11:01:05.59 ID:TGLi8lbx0

4,織斑千冬
女性ながら男勝りな腕っ節の強さと女手一つで弟を養っているという意志の強さから、当時から凄まじい迫力をみなぎらせていた御仁。
束やもう一人の女性があれな性格だったので、硬派な人間が多くを占める“奇跡のクラス”の実質的な紅一点として存在感が大きかった。
だが、あまりにも男前な性格で、女子力ゼロもあって、男と同列に扱われることが多かった。
彼女の気迫と存在感が“奇跡のクラス”の超人化を促しており、やはり千冬は千冬であった…………

「女性を渾名で呼ぶのは失礼」という“師”の考えから渾名は与えられていないが、
そのために“ナイフ”“姐御”“スケバン”など各人で思った通りの渾名が付けられている。

しかし、千冬いえども完璧超人ではないために、いろいろと失敗も犯していたらしく、“奇跡のクラス”の面々が前だと普段の硬い態度が軟化する。
何だかんだで“奇跡のクラス”の面々を自身と同格とみなし、全幅の信頼を寄せているために前と比べて非常に気が楽になっているようだ。

当時の実力としては“奇跡のクラス”“最強”であったが、現在は現役を引退しているのでどの程度の差があるのかは不明。
たまに、本気の稽古を“奇跡のクラス”の面々にしてもらっているが、本気の勝負はやっていない。やったら確実に氏闘になりかねないので。


5,篠ノ之 束
諸悪の根源。全ては彼女から始まった。
結局、“奇跡のクラス”の面々はISという束が開発した史上最強の兵器を中心に再結集していくことになる…………

「女性を渾名で呼ぶのは失礼」なので渾名は特に決まってないが、
“ピンクラビット”“不束者”“二束三文の女”など、当時から毛嫌いされていることがうかがえる。

“奇跡のクラス”“最凶”の存在で、当時から評判はすこぶる悪い。
“師”の教育指導として、「顔を見れば思い出せる」ぐらいには仲良くなっていたので、一応の付き合いをしてはいたが…………

異次元の身体能力の持ち主と感性から人間扱いされておらず、“プッチン”共々、“奇跡のクラス”のランキング外の扱いとなっている。


425: 2014/03/17(月) 11:02:23.15 ID:TGLi8lbx0

6,外交官“プッチン”ー怒らせたらマジヤバイ甘党ー
“奇跡のクラス”“最恐”の存在で、黙っていても何をしても多くの人を怯えさせてしまう天性の才能があり、それを活かして外交官の道を“師”に薦められる。
結果として、わずか20代で諸国家にとって「会談に出てくるだけで胃痛が悪化する」要注意人物となっており、“極東のプーチン”と畏怖されることになる。
それは“奇跡のクラス”の面々からも同様であり、千冬ですら冷や汗を流すほどであり、あの束が特に苦手としている人物である。
対“篠ノ之 束”最終兵器であり、過去に十数回もの追跡と抗争が繰り広げられてきた。

彼の影響力を見込んで自然と人が集まるようになっており、その独自の情報網から“極東のKGB”と比喩されており、
実際に『彼を怒らせたらただではすまされない』という認識が多くの人々の意識に植え付けられており、“生きた恐怖政治家”とも形容される。

最近はその影響力を十分に浸透させた後は、若手外交官としての修養を重ねている一方で、
今年のIS学園で起きた数々の出来事について、日本政府の人間を代表して国際IS委員会に監視・報告の任に就いている。

“奇跡のクラス”の面々をIS学園に集結させるように政治工作してきたのも彼であり、行き場を失った3人の男にIS学園との接点を斡旋するようにさせたのも彼。


7,大佐“時雨”
“奇跡のクラス”所属の千冬、束に続く、最後の女子。
アメリカ ハワイ生まれの日系ハーフの留学生であり、一緒にいられた期間は短かったが、“奇跡のクラス”の人間にふさわしい実力と人格の持ち主であった。
千冬が男勝りで女っ気がなく、束が他人に対して無関心を決め込むのに対して、それと比べて彼女は極めて女性らしい感性の持ち主ではあったのだが、
あまりにもハイテンションで落ち着きがない性格であったために、普通の人間では相手をするだけで疲れてしまうのだ。

“時雨”というのは渾名であり、珍しく「女性を渾名で呼ぶのは失礼」とする“師”の教えに基づかないものだが、
“師”が公式に渾名を贈らないだけで全員が渾名で呼び合っていたことから、彼女は“奇跡のクラス”の一員としての証として渾名を求めた。
“時雨”とは『ジウ』と『シグレ』で2つの意味があるが、たまたま降っていた季節雨に因んだネーミングで意味などなかったが、
季語としての『時雨』→冬→大の親友となった織斑千冬
漢語としての『時雨』→本名の音写
というふうに、後に好意的に解釈されるようになったので、今でも自身の通称として愛用している。

“奇跡のクラス”では“最強”とされる千冬に対して何故か必ず勝ってしまう天性の相性があるらしいのだが、
逆に千冬に勝てない“マス男”には絶対に敗けてしまうという、奇妙な3すくみになっている。
純粋な力量では千冬を上回る能力であるはずなのに、千冬に劣る“マス男”には勝てないという不可解な相性となっている。
そのため、“奇跡のクラス”の面々の間での評価としては、とりあえずこの3人が“3強”ということに落ち着いている。
この辺りも、1つで完全無欠の存在ではないことが示されている。

ナターシャ・ファイルスと同じ米国のテストパイロットであり、訓練相手としても立ち会っていたので、今作の『銀の福音』の強さを間接的に底上げしている。


8,???

9,???

10、“師”
稀代の天才児・問題児を寄せ集めた学級閉鎖レベルのゴミ組を“奇跡のクラス”としてまとめあげた当時20代の偉大なる教師。
ただし、教師としては“穀潰し”“ひとでなし”“教師の風上に置けない”と評されている問題教師ではあるが、
問題の本質に真っ向から立ち向かう真摯な姿勢と問題児たちを躾けられるだけの力量を持っていた、――――――“最後の天才・問題児”。

人を見る目は確かであるが、結果として彼が予想した通りの大人にみんななっており、それが彼にとっての大きな悩み・悔いであったという。

現在、消息は不明だが、きっとどこかで問題児たちの心をまっすぐに見つめ、叩きなおしていることだろう。



426: 2014/03/17(月) 11:04:24.89 ID:TGLi8lbx0


従来の二次創作の2倍以上の文量になったせいで、
いつも通りに、第1期OVAアンコール分の内容をこのまま続けて投稿するかはちょっと考えております。

更にアンコールの内容は、現在構想を練っている第2期のテーマにおいて重要なイベントとなるので、
まだ内容を確定するわけにいかないので続けて投稿できそうにありません。申し訳ありません。


そんなわけで、――――――2週間以内に投稿がなければ、このスレでの投稿はこれで完結したものと見なしてください。


それでは、アンコールの内容のあらすじとなりますが、

――――――――――――――――――――――――

――――――夏休み、ハワイ3泊4日の合宿・観光旅行


トライアスロンをやることを“ゴールドマン”と約束していた一夏は、約束通り夏休みにトライアスロン本場のハワイ島を訪れることになる。

そこで、“奇跡のクラス”7番目の“時雨”というハワイ生まれの日系ハーフの女性の歓迎され、彼女に雄大なハワイ島の美しい自然を案内され、

実際の『アイアンマンレース』スイム3.8km、バイク180km、締めくくりのランはフルマラソンの42.195km、――――――総距離225.995kmに挑戦するのであった。

そんな一夏の決意とは裏腹に、それぞれの手段でハワイに来て激しく火花を散らす乙女たち…………

そこに、セカンドシフトした『白式』に戦いを申し込む国家代表の姿が――――――。


そして一夏は、夕陽に照らされる中 見つめ合う男女の姿を見るのであった…………


――――――――――――――――――――――――

427: 2014/03/17(月) 11:08:31.88 ID:TGLi8lbx0

さて、少なくとも、第1期の二次創作・再構成(私が提示するIS〈インフィニット・ストラトス〉の「もしも」の物語)はこれで最後です。

全部読んでいただいた豪の者も、そうでない御方も、ここまでご精読ありがとうございました。

続編の投稿は第2期終盤の修学旅行に関する情報の詳細が明かされない限り、出し渋りとなってしまうことでしょう…………


【IS】一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」


引用: 一夏「出会いが人を変えるというのなら――――――」