434: 2014/11/07(金) 21:25:25.95 ID:DGNJ89WXo
少しだけ借ります



大切な人



「大丈夫?」

「疲れてない?」


両手を後ろに組んで、普段はちょっぴり釣り気味の眉をハの字に落とし、こちらの顔を覗き込むようにして彼女

はそう呟いてくれる。

大して疲れてなくても、本当に疲れていても、彼女のこの一言があるだけで本当に疲れなんて消し飛んだ。


「大丈夫か?」

「疲れてないか?」


彼女の台詞を真似て見ても、彼女のかける魔法の言葉には程遠い。

効き目があるのかどうか、それ以前の問題で、声自体が届いているのかさえ怪しい。

ベッドの中の彼女は、それは穏やかな表情で眠っている。

その表情だけ見れば、彼女が今危機的状況にあるなど誰しも思いもしないだろう。


「提督、私はあなたを護るため、どんどん強くなってあげる!」

「はは、それじゃ俺はお前の尻に敷かれるのか?」

「ふふふ~、好きなくせにぃ~♪」

「まっ、お前に護られるってのは、それはそれで幸せかもしれないな」

「でっしょー?でも、もし危なくなったら、すぐに逃げるって約束してね」

「…ああ、解った。約束しよう。けど、それはお前も一緒だぞ?」

「うんっ!私もね、もう大切な人を失いたくないんだ」


そう言ってたのに、あいつは仲間を助ける為に単身、敵陣へと乗り込んでいった。


「ここまで、かぁ……だめ…沈んじゃう…皆、逃げて……」


彼女が助けた艦隊が奇しくも彼女を救出することになった。

助けられた艦娘達も、自らの命を顧みず彼女の盾になり、身を呈して救出してくれた。

結果として大怪我を負った者も居たが、全員きっちりと帰還してきてくれた。

それなのに、彼女だけが目を覚ましてくれない。
艦隊これくしょん -艦これ-
435: 2014/11/07(金) 21:26:55.78 ID:DGNJ89WXo
「俺にとって、大切な人ってのがお前なのに、約束もしただろう。危なくなったら逃げるって、俺を護ってくれ
るんじゃなかったのか…?目を、覚ましてくれ……」


上体を抱き起こし、優しく両手で正面から包み込み、俺は彼女の肩口で小さく嗚咽を漏らす。


「だい、じょーぶ?」

「……っ!」

「疲れて、なーい?」


おはよう、ただいま、おかえり、起きた?────目覚めの言葉は色々あるだろう。

だが、俺にとっての目覚めの言葉、再会の言葉はやはり彼女の『魔法の言葉』以外にはありえないのかもしれない。


「大丈夫、疲れてないよ」

「良かった」

「俺の台詞だ」


そっとベッドに彼女の上体を下ろし、真っ直ぐに彼女の顔を見る。

少し疲れた表情、気が弱っているのだろう、少しハの字に垂れた眉、彼女のチャームポイントでもある大きな瞳

はいくらか潤んでいるようにも見える。

が、それは今の自分の瞳も同様だろう。

力なく、よろよろと差し伸べられた手を両手を受け止め、自分の頬に宛がう。

ほんのりと暖かく、確かな温もりがそこにある。実感できる。彼女がそこにいるのだと、改めて実感して初めて

涙袋に溜まった涙が筋を作って自分の頬を伝い流れた。


「この温もりを忘れないでくれ。お前じゃなきゃダメなんだ。頼むよ、衣笠」

「うん…うん……っ!ごめんね、あなたを護るって言ったのにね。でもね、安心して…もう二度と提督、あなた
を一人にはしないから……衣笠さんに、お任せ」


彼女の言葉がどれほど自分に気力と活力を漲らせてくれるか、彼女自身は理解しているのだろうか。

それでも、彼女の魔法の言葉がある限り、彼女と一緒で居る限り、俺達に負けの二文字はないと確信できる。

436: 2014/11/07(金) 21:28:06.18 ID:DGNJ89WXo
以上終わり
お目汚し失礼しました

衣笠さんの労いの言葉は魔法の言葉だと思いました

437: 2014/11/07(金) 21:57:22.96 ID:rDLMK0Sqo
乙です

438: 2014/11/08(土) 04:43:29.25 ID:k+4OKYhYo
キヌガッサさんいいね

引用: 艦これSS投稿スレ3隻目