557: 2014/12/08(月) 20:29:29.57 ID:NQwrdw4Ho
  
  岩、岩、蟹、岩、岩

  蟹の周囲の岩を石で叩いて振動を送ってみる。出てこない。

  波打ち際に漂っていた木の枝でつついてみる。嫌がって奥の方に行く。

  このままでは埒が明かない。えいやままよと指を突っ込んでみる。挟まれる。

  (痛え……)

  急いで指を引っこ抜くと指先が切れて血が滲んでいた。しかし、此処まで来たら後は意地だ。
 何とかして穿り出してやる。そう思って木の枝を突っ込み、むりくりに引きづり出そうとして……

  「あたしがやりましょうか」

  そんな声が聞こえて、餌の括り付けられた紐を持った手が横を通り過ぎた。
 その女の子女の子してる手は手慣れた様子で、こちらが感嘆しそうなほど容易に引きずり出す。

  「……やるなあ」

  そういいながら後ろを振り向くと、ちょうど目の前で、別の蟹の鋏が交差する。
 思わず驚いて、ちょっと引き上げていたズボンが尻餅ついて濡れてしまった。つめて!

558: 2014/12/08(月) 20:30:30.06 ID:NQwrdw4Ho
  
  「へーん、ペットの蟹のお嫁さん探しにねえ……」
  
  関心した様子で繰り返すと、栗色の髪をして、頬の絆創膏が特徴的な朧は小振りにうなづいた。 

  視線を移すと四匹の雌蟹に囲まれた蟹が忙しなく足を動かしている。
 ……いい思いをしてるなあ。 俺にも一人寄越せよな。 そう呟くと、朧はクスクス笑い出す。

 「提督って結構子供っぽいんですね」

  蟹相手に、あんなに必氏になるなんて。朧は言って蟹を近くに集める。
 反論しようとして、しかし、岩の間の蟹を見ただけで、子供のころの沢蟹を思い出した、なんて。

 (十分こどもっぽい……か)

  そもそも息抜きで磯遊びに来るってこと自体どうなんだろうなあ。
 そう思いながら、蟹に餌をあげている朧の手元を見つめている。今夜はカニ鍋……
 いかん、いかん、さすがにデリカシーがない。誤魔化すように声をかけた。

 「しっかしその蟹、でかい鋏だな……」

  聞きつけた朧は自慢げな顔になる。

 「アタシが結構、手間かけて育ててきたから……」

  あんまり見ない表情をして話す朧に、すこし、悪戯心というか、そういうものがうかんだ。
 こどもっぽいって言われても、否定できないかもしれない。

 「あ、そういえば、さっき、それよりもでかい鋏のかにをみたなー」
 
 「……へえ、そう、ですか……」

  あれ、地雷を踏んだか? すぐに冗談めかそうと思っていたが。
 ……そういえば、結構こいつ、負けず嫌いなところがあった……か。

 「そう、へえ、朧のO-11号よりも鋏が大きいって……」

 この後、結構骨を折ることになりそうだった。

559: 2014/12/08(月) 20:31:44.94 ID:NQwrdw4Ho


  で、朧と二人で探し回って、それなりの蟹を見つけたが、そこからが問題。
 蟹対蟹、戦わせて、どっちが強いかはっきりさせようと、いう話になっていた。
 しかもそこそこ大きい蟹を捕まえて調子に乗り、勝ち負けの賭けをしようという話になる。

  しかし、結果は惨敗。俺の提督丸は近寄られただけで、さっさと岩の影に逃げて行ってしまうのだった。

  なんだか、財布が、軽くなるみたい。

560: 2014/12/08(月) 20:33:04.46 ID:NQwrdw4Ho



  波の満ち引きの音を聞きながら、海岸沿いの道を連れだって歩く。
 片手には第七駆逐隊への土産。曙と漣には髪留め、潮にはカチューシャ、が入っている。
 どれも朧が選んだ値段はそこそこで、だが、センスは良いものだ。

  「……朧、お前はよかったのか、そんなチャチなお菓子で」
 
  少し前を歩く朧は、振り返りもせずにいーよと、返事をする。
 ……多分、こいつは、他の三人娘のを買ったとき、自分用を買ってないと気づいたのだろう。
 負けず嫌いなところもあるが、こういうところでは潮並に遠慮がちと言うか……。

  夕日でできた朧の影を負いながら、声をかけた。
 振り返った朧に軽く、紙袋から取り出した物をなげる。
 飛んだものを朧は取り損ね、絆創膏の右辺りに当たって落ちた。

  「へぷ……」

  「大丈夫か」

  朧は、……なんですかと言いながら、地面に落ちたやわらかい感触を探す。
 そうして落ちている蟹のぬいぐるみを見つけて、驚いたか、判別がつかないような声を出す。

  「提督、これ……」

  「あー、それは……」

  何かいい表現を口ごもりながら探す。普通に話すと朧は、気にするかもしれない。

  「戦利品……だ」

  「戦利品……?」

  「さっきの蟹相撲……すもう? で、負けたからな。だから、それは戦利品だ。
   煮るなり焼くなり自由に使え、……次に勝ったときには、俺がそれをもらうとしよう」

   朧は少し頭を下げて考え込むような仕草をすると、いつもと違うゆるんだ顔になった。

  「提督のそういうとこ、キライ……じゃ、ないです」

   そういうと、朧は隣を歩いて、空いている方の腕の袖を、掴んだ。
  ……まあ、財布もそこまで軽くならなかったし、こいつのいつもと違う一面も見れた。
  
  結構、いい息抜きになっただろう。

561: 2014/12/08(月) 20:35:05.50 ID:NQwrdw4Ho
投下終了です 最近のジョジョリオンは面白い

562: 2014/12/08(月) 20:51:51.34 ID:NQwrdw4Ho
 と 思ったら潮は鉢巻でした すみませんでした

563: 2014/12/08(月) 23:46:15.88 ID:f3+zA/gko

引用: 艦これSS投稿スレ3隻目