104: 2014/11/10(月) 17:03:59.25 ID:CIpyBPj80


前回:吹雪青葉古鷹「「「……邪魔」」」提督「っ!?」【前編】

 古鷹は優しい。そこに偽りはない。
 古鷹は怖い。そこにも偽りはない

 ――古鷹は、どんな時でも笑みを崩さないから。

「今日はケーキを焼いてみたの、食べる?」

「うっわマジで美味しそう」

「いただきますわ」

「ぼくも食べるよ」

「三隈もお言葉に甘えさせていただきますね」

「もらっちゃって、いいの?」

「あたし、ケーキだーいすきー」

「翔鶴さんと飛龍さんもどうですか?」

「それじゃあ頂こうかしら」

「うん、もらおうかな」

「紅茶にジュース、コーヒー、好きなのを言ってね。淹れてくるから」

「鈴谷と熊野は紅茶だよー」

「もがみんと三隈も紅茶をお願いします」

「オレンジジュースがいい、です」

「アップルジュースー」

「私も紅茶を」

「じゃあコーヒーで」

「加古はいつものでいい?」

「うん」




「――そういえば、艦娘に毒って効くのかな?」




 素朴な疑問を投げかける彼女の顔は、とても良い笑顔だった。
Model Graphix ARCHIVES 艦隊これくしょん 「艦これ」2
111: 2014/11/10(月) 20:44:07.72 ID:CIpyBPj80
「曙、次の遠征アンタにご指名よ」

「分かった。他の子と旗艦は誰か聞いてる?」

「旗艦は木曾、他は満潮と望月ね」

「霞は? 出撃?」

「吹雪と古鷹と青葉と出撃。ホント、やりにくいったらないわ」

「それはご愁傷様」

「加賀も赤城も出撃するのが救いね、空は気にしなくていいから」

「クソ提督は練度的に一番安定する艦隊編成にしたんでしょうね」

「編成的には正解だけど、安定性は皆無よ。いつ味方を狙って誤射するか分かったもんじゃないわ」

「“意識をあれだけ他に向けながら戦えるなら、集中すれば更に戦果を挙げそうだよね”って、伊勢さんが苦笑混じりに言ってたわよ」

「お互いの位置を確実に意識してるから、連携は取れてるの……ホント、皮肉よね」

 ――それは球磨のだクマ、返すクマ。

 ――早い者勝ちにゃ。

 ――北上さん、はいどうぞ。

 ――じゃあ私は木曾にあーん。

 ――絡むな姉貴、今から遠征で忙しい。

「……あんな風に我関せずを貫き通せたら、楽でいいわね」

「出撃から帰ったら明石に頭痛薬貰うわ……」

122: 2014/11/10(月) 22:25:40.52 ID:CIpyBPj80
 提督の朝は、三つのノックから始まる。だが、眠りが深いとそれに気付かないこともある。
 そういう時は秘書艦娘達が部屋に入り、優しく起こすのだ。

「司令官、朝ですよ」

「司令官は寝坊助さんですねー」

「提督、起きて下さい」

「……ん?――っ!?」

「どうしたんですか司令官、そんなにビックリした顔して」

「写真、撮っちゃいますよ?」

「お水、飲みますか?」

「お前達、何で中に……それに、艤装……」

「不用心ですよ司令官。鍵、閉め忘れてました」

「青葉もたまにやっちゃうんですよねー」

「何事かと心配しちゃいますから、気を付けて下さいね」

「あ……あぁ……すまん」




 爽やかな朝に、可愛らしい笑顔、寝覚めは最高だ。これ以上無いというぐらいに、彼の意識は覚醒した。

130: 2014/11/11(火) 19:29:20.41 ID:dBPhrOgV0
 欲しいものがある時、人は我慢したり、欲の赴くままに手にしたり、誰かから奪おうとする。勿論奪えば罪となるが、他人の物を心の中で欲することは、何ら罪ではない。

 ――例えそれが誰の物であっても、だ。

「初雪、今少し時間いいか?」

「だいじょぶ、です」

「そうか、ならコレを受け取って欲しい」

「――低反発枕と、アロマキャンドル……?」

「見たところ、最近特に疲れが溜まっているように見える。疲労は思わぬ事態を招きかねないから、良ければ使ってみてくれ」

「ありがと、です……」

「用件は以上だ。明日からまたしっかり頼むぞ」

(枕……昼寝、しよ)




「――初雪」

「っ!?」

「司令官に、何、貰ったの?」

「ま、枕……」

「ふーん、そっか。良かったね」

「……うん」




「――吹雪、その枕どうしたの?」

「初雪が交換してくれたの。新しい枕より前の枕の方が寝やすいからって、ね?」

「……うん」




 欲しいと心の中で念じることは、何ら、罪ではない。

134: 2014/11/11(火) 21:29:42.12 ID:dBPhrOgV0
 深海棲艦との戦いは、常に命の危険が付きまとう。一瞬の油断が、簡単にその身を海へと還す。

 ――だからこそ、彼女達は誰よりも出撃を繰り返すことを望む。




 二つの砲撃が、目標から少し離れた地点で着弾した。黄色く光るイ級は、その身を正確に捉えた砲弾により力を失い、海中へと消えていく。
 そちらに一切視線を向けず、青葉と古鷹は向かい合って連装砲を構えたまま、笑う。


「(ワ・レ・ア・オ・バ)」

「(ふふ、挑発してるのかな?)」




「器用よね」

「アレじゃ誤射と言い張れないと思うクマ」

「満潮、球磨、貴女達も無駄口を叩いている暇があったら、残りを叩いて下さい」

「あらあら、加賀まで怖い顔しちゃダメよ?」

「戦いの最中に、あの様に笑え、と?」

「それはもっと怖いからやめてちょうだい」




 出撃すれば、三人は必ず戦果を挙げる。ただ、彼女達が満足のいく戦果を挙げられたことは、まだ、一度も無い。

145: 2014/11/12(水) 14:39:05.38 ID:Jz0oC1L20
 ――駆逐艦Sの証言。

「派閥とは何か、ですか? 一番交友が深い者を応援すると同時に、危険な行動を起こさないように見張る為のもの、でしょうか」

「確かに、“派閥”と呼ぶのは少し仰々しいかもしれないですね。でも、そう呼んだ方が私達が応援していると認識してもらいやすいですから」

「司令官に対する想いが強すぎて、多少行き過ぎた行動を取ることもあります。ですが、日々命を懸けた戦いをしている中で心の拠り所を見付けたら、誰だってそれを奪われまいと必氏になると思いませんか?」




「――私の心の拠り所、ですか? 秘密です」

153: 2014/11/12(水) 19:30:04.78 ID:Jz0oC1L20
「ツモ! イーペーコータンヤオドラドラ!」

「まぁ、そうなるな」

「ハコテン……ねぇ、長門? 少し分け――」

「断る。勝負は勝負だ、諦めろ」

「あら、冷たいのね」

「どうしたのさ日向、今日は調子悪いじゃん」

「こういう日もある」

「戦艦が揃いも揃ってプリッツ点棒にして麻雀とか、情けないと思わないの?」

「時には息抜きをするのも大事だ。ずっと気を張り詰めていれば、このビッグセブン長門といえど疲れはするさ」

「霞も今日は出撃無いんでしょ? あっちで遊んできたらどう?」

「お断りよ、アレに混ざるとか冗談じゃないわ」

「……アレ、トランプしてるのよね?」

「トランプで殺気か、相変わらず穏やかではないな」

「あそこに混じって平気なのは夕立くらいよ。たかだか明日の昼食で誰が隣に座るかを決めるぐらいで、ホンット下らないわ」




 金銭の絡まない健全な賭けに、問題は無い。

161: 2014/11/13(木) 01:10:03.68 ID:4Pt3maxv0
 ――重巡洋艦Kの証言。

「はーいお待たせ、きぬが――え? 名前言っちゃダメなの? 匿名って体でやるんだ……」

「うん、青葉は秘密をいっぱい知ってるし、それを使って色々やってるみたい」

「えっ? 直接脅したりはしてないよ。脅した時点で吹雪と古鷹に弱味を握られちゃうもん」

「記事にも嘘とか他人を貶す様な文章は書かないし、そこはちゃんとしてるの」

「確かに物陰から青葉がこっち見てると背筋がゾクッとしちゃうけど、提督見付けたら髪整えて深呼吸して走っていくのは可愛くない?」




「――青葉、可愛いよね?」

169: 2014/11/15(土) 18:53:45.63 ID:aTfuVLRi0
 艦隊の士気を保つのも、提督の重大な責務の一つである。甘味、贈り物、労いの言葉、時には叱責することも大事だ。
 但し、贔屓や下心あり、好意ありと認識される可能性も考慮しなければならない。

 ――既に手遅れの場合は、その身尽き果てるまで奮励努力せよとお悔やみ申し上げる。




「髪留めって、女の子として意識してなきゃくれないと思いませんか?」

「このペンは記者としての青葉も応援してるから頑張れってメッセージに決まってます」

「帽子をくれたのは、自分だけに見せて欲しいって意思表示みたいなものだと思うな」

「都合の良い解釈って行き過ぎると滑稽ですね」

「まだまだお子ちゃまな吹雪には分からなくても仕方無いですねー」

「……綺麗って言われたことも無い癖に、何を言ってるんだろ」

「「「――ごちそうさま」」」




「よくあの三人で昼食を食べているけど、どうしてなのかしら?」

「しやすいからじゃねーの?」

「望月、何をしやすいの?」

「監視」

「あぁ……お団子、いる?」

「ん、もらう」

(さてと、加賀さんと赤城さんを探さないと)




 恋は、盲目。

172: 2014/11/16(日) 15:08:04.87 ID:2t0oE0MB0
「磯風磯風、コレ分かる?」

「なぞなぞ、というヤツか?」

『問題、人が三人居て、リンゴが一つだけあります。ナイフを二回だけ使って文句の出ないように分けてください』

「リンゴが何グラムあるかは書いていないのか……難しいな」

「昨日からずっと考えてるけど全然分からないっぽい……」

「他の者の知恵も借りてみよう」

「じゃあ青葉さん探すっぽい!」





「――なぞなぞですか? どれどれ……」

「半分に切ってもう一回半分にしても、四つになってちゃんと分けられないっぽい」

「どのように切っても三の倍数にはならない。三人で分けるのはどう考えても不可能だ」

「なるほどなるほど、青葉にはすぐに分かっちゃいました」

「ホント!? 青葉さんすごいっぽい!」

「何か特殊な切り方が存在するのか?」

「それは――」




 答えを聞いた二人は、しばらく物を分け合うという行為に恐怖を感じるようになった。

191: 2014/11/17(月) 01:43:36.76 ID:i96qO0fE0
 ――重巡洋艦Kの証言。

「…………何? 起きてるよ、目瞑ってるだけ」

「何時も寝てるのに何で眠そうなのかって? だってアレ、狸寝入りだし」

「寝てるフリすれば相槌打たなくていいし、何より古鷹の――やっぱ何でもない」

「古鷹には幸せになってもらいたいけど、提督を“お兄ちゃん”は無理」

「……薬、効かないな……」

「夢の中だとさ、皆普通に仲良いんだよ。吹雪と青葉と古鷹も普通に笑い合っててさ」




「――こっちが夢だったり、しない?」

200: 2014/11/17(月) 10:03:59.93 ID:i96qO0fE0
「じゃあ青葉さん、斬って下さい」

「え、やですよ。切った時手元狂うかもしれないし選べない分絶対損じゃないですか」

「なら古鷹さん」

「私もパスかな、だって斬ったら中からーー」

 この三人には無理でした。

 元々は三人で2つのリンゴをナイフ一回で分けるというものでした。



 appleとadmiral

207: 2014/11/18(火) 19:30:17.18 ID:Q6E2fm/80
 恋は、盲目だ。意中の相手以外見えなくなる。
 それは同時に、意中の相手以外に恋愛感情を持たないということでもある。
 ただ、この鎮守府には男性が一人しか居ない。必然的に、争奪戦は発生してしまう。

 ――“男性”が対象であれば、の話だが。




「ねぇ熊野ーお風呂行こ」

「私はもう少し後で入りますわ、先に入ってらっしゃいな」

「えー? じゃあ鈴谷も後にする」

「わざわざ待たなくてもよろしくってよ?」

「お風呂で全身隅々までマッサージしてあげるから」

「結構ですわ」

「――熊野は、鈴谷のこと嫌い?」

「ちょっと、何でそうなりますの?」

「だって、お風呂一緒に入るの拒否るじゃん」

「別に嫌だから断ってるわけではありませんのよ?」

「じゃあ何で?」

「私は小破で、鈴谷と他の方達が大破しているからに決まってますわ」

「熊野と入れるなら痛いけど待つよ」

「私と一緒に入る為に血だらけで待つとか、あり得ませんわ……」

「えへへー熊野ー」

「ちょっと鈴谷!? 今抱き着かれると――はぁ……着替えた意味が無くなってしまったじゃありませんの」




 愛する者と一緒に居られるなら、多少の痛みは我慢出来る。
 全身血塗れで片目が開かず、腕があらぬ方向に折れているぐらい、何てことはない。

221: 2014/11/19(水) 12:01:18.35 ID:kQgeYrP30
 ――戦艦Hの証言。

「ここはとっても良い鎮守府ですよ。青葉さんも皆さんも親切にしてくれますし、何より金剛お姉様が居ます!」

「解体されかけた理由? 居眠りしてて起きたら目の前に司令の顔があって、殴ったのが原因ですね」

「全治三週間だったそうで、軍指令部から解体処分を言い渡されました」

「私も申し訳無い気持ちがありましたし、上官を殴ったとあっては処分されても仕方ありません」

「でも、司令が病院から色々根回ししてくれたみたいで、青葉さんとこちらの司令が保護観察処分という名目で私を助けてくれたんです」

「だから、以前よりも更に気合いを入れて戦って、お世話になった皆さんに恩返しをしたいと思ってます」




「金剛お姉様も、ずっと必ず傍で見守ってくれてますから。――ほら、今もアナタの後ろに」

224: 2014/11/19(水) 12:56:50.87 ID:kQgeYrP30
 鎮守府とは、一種の共同体だ。一つ一つの歯車が噛み合わなければ、機能しなくなってしまう。
 では、歪な歯車がある場合はどうすれば良いかと問われれば、三つの解を返そう。
 一つ、その歯車を排除する。
 二つ、その歯車を矯正する。
 三つ、その歯車に周囲が適応して形を変える。

 ――この鎮守府の選択は、もうお分かり頂けているはずだ。


「今回の出撃では吹雪が至近弾により中破、青葉と古鷹も至近弾により小破……最近お前達の損傷率が増している気がするが、体調でも優れないのか?」

「私は元気です。お二人はどうか分かりませんけど」

「疲労は見えないところで現れますからねぇ、吹雪も中破しちゃうのは隠れ疲労が溜まってるんじゃありませんか?」

「吹雪、少し秘書艦休んだらどうかな?」

「お気遣いありがとうございます。でも、問題ないですから」

「何にせよ、あまり無茶をしないようにしてくれ。とりあえず、今日はもう休め。秘書艦はこの鎮守府の艦娘達の規範となるべき存在だ。休養も必要な行為だと改めて認識するように」

「「「了解」」」




 秘書艦娘は、艦隊の、規範である。

229: 2014/11/19(水) 23:33:18.74 ID:kQgeYrP30
『〇月×日、司令官が青葉にお菓子をくれました。とっても甘くて美味しかったです』

『〇月△日、司令官に吹雪がよろけたフリをして抱き着いてました。司令官は優しいから許してたけど、青葉は許さないよ』

『〇月○日、古鷹を■り損ねちゃいました。ヘ級が邪魔しなければ絶好の機会だったのに、残念残念』

『△月×日、司令官の部屋の合鍵を吹雪と古鷹も持ってるみたい。青葉が司令官を守らなきゃ』

『×月×日、火力が、火力がちょこっと足りないのかしら?』

『×月〇日、三隈が新しい連装砲を古鷹にあげてたのを見ちゃいました。青葉も衣笠にお願いしてみよっと』




『×月△日、やっぱり駆逐艦は速いですねぇ、また■り損ねちゃいました。明日からまた頑張るから待っててね、司令官』

235: 2014/11/20(木) 22:50:11.32 ID:pAOD3nj+0
 艦娘は“人”であり、“兵器”だ。自分で考え、自分で行動し、泣き、笑い、怒り、喜ぶ、兵器だ。
 だが、彼女達は誰よりも秩序と平和を望む存在でもある。深海棲艦との戦いに終わりを迎えられたならば、速やかに兵器としての役割を彼女達は放棄するだろう。

 ――最も、既に“兵器”としてではなく、“人”としての生にのみ価値を見出だした者も、少なくはない。




「古鷹、何見てんの?」

「コレ? 結婚式場のパンフレットだよ」

(やっば、地雷踏んだ……)

「加古は結婚式、どういうのが良いと思う?」

「あ、あたしはそういうの興味ないから分かんないや」

「加古だって女の子なんだよ、少しはそういうのに興味持たなきゃ」

「いいよあたしは、戦いが終わったら日がな一日寝て過ごせれば満足だし」

「ダメだよ、加古。加古にはちゃんと子守りしてもらうからね」

「……子守り?」

「うん、私と提督の子」

(……艦娘に子供は出来ないって、古鷹も知ってるはず……“重巡洋艦の良いところ”、口にしなくなったの何時からだっけ……)

「早く戦いを終わらせるために頑張ろうね、加古」

「……うん、頑張るよ」




 全てが終われば昔の姉に戻ると信じて、虚ろな瞳をした艦娘は、今日も深海棲艦を屠り続ける。


吹雪青葉古鷹「「「……邪魔」」」提督「っ!?」【後編】

引用: 吹雪青葉古鷹「「「……邪魔」」」提督「っ!?」