251: 2014/11/21(金) 12:51:56.27 ID:J58pkFNX0


前回:吹雪青葉古鷹「「「……邪魔」」」提督「っ!?」【中編】

 艦娘は、提督を選べない。

 提督は、艦娘を選べない。

 その出会いがもたらすのが何なのかは、蓋を開けてみなければ分からない。




「吾輩が利根である。吾輩が艦隊に加わる以上、もう索敵の心配は――お主、何をしておるのだ?」

「『この部屋は盗聴されている可能性がある。適当に話を合わせながら筆談させてくれ』」

(と、盗聴じゃと!?)

「利根、良く来てくれた。俺達の鎮守府はお前を歓迎する」

「『少し前から秘書艦娘の三人の様子が明らかにおかしいんだ。その理由をお前には密かに調べて欲しい』」

「う、うむ、もう吾輩が来たからには心配はいらんぞ」

「『調べろと言われても、吾輩も来たばかりで右も左も分からんぞ? それに、共に戦う仲間を疑うような真似はしたくないんじゃが』」

「重巡洋艦は最上型、青葉型、古鷹型がうちには居る。まずはそこと顔合わせしてみるといい」

「『朝起きたら、俺が知らないうちに作られた合鍵で三人に私室に入られてた。他の奴等はそれとなく話を振っても、口を開こうとしない。もう頼れるのは新しく来た利根しか居ないんだ。頼む、俺を助けてくれ』」

「……そうじゃな、まずは同じ重巡洋艦達と会ってくるとしよう」

「『承知した、吾輩に任せておけ。その様な不安を抱えたまま艦隊指揮をされては困るからな、提督ならばもっと堂々としておれ』」

「……あぁ、そうしてくれ」

「『努力はしよう』」

「うむ、ではまた後でな」




(――ど、ど、どうすれば良いのじゃ!? 吾輩とんでもない鎮守府に着任してしまったのではないか!? 大見得切った手前、何もせんという訳にもいかん……それとなく協力してくれそうな者が居ると良いんじゃが……はっ!? もしやコレは吾輩を試しているのやもしれん。むむむ、どうすれば良いのだ吾輩は……)




 類は、友を呼ぶ。
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269: 2014/11/21(金) 23:05:16.37 ID:J58pkFNX0
 誰かに頼るのは、悪いことではない。共倒れという可能性も考えられるが、人知れず潰れてしまうのも問題だ。
 それが、提督という立場にある人間なら尚更である。

 ――しかし、頼られた方は堪ったものではない。




(……迷った、ここはどこなのだ?)

「――アンタ、誰?」

「っ!? わ、吾輩は利根である。今日からこの鎮守府で世話になることになった」

「へー、あたしは加古ってんだ、よろしくな」

「うむ、よろしく頼む。――そうじゃ、加古は秘書艦娘の三人とは仲が良いのか?……というか、この鎮守府の秘書艦娘とは誰なのだ?」

「提督からそんなことも聞いてないの? 秘書艦娘は吹雪と青葉と古鷹の三人だよ」

「古鷹ということは、お主の姉だな。ちょうど良い、少し話を――」

「あの三人について知りたきゃ、フタマルマルマルに明石さんのところへ来なよ。知らない方が幸せかもしんないけどね」

「……聞いたらその瞬間に背中から撃たれたりせんじゃろうな?」

「さぁてね、どうだろ?」




 一方通行の地獄への下り道に、Uターンは存在しない。

272: 2014/11/22(土) 09:35:28.24 ID:hA0H7t6B0
 後戻りの出来ない道を進んでいる時、精一杯の抵抗として出来ることは、立ち止まってみることだ。

 ――きっと、徐々に傾斜がついて転がり落ちることになるだろう。




「――吾輩は今すぐ異動する! こんな鎮守府には居れぬ!」

「無理、最低でも一ヶ月はここ」

「別に邪魔さえしなきゃ、青葉も他の二人も何もしないし」

「触らぬ神に祟り無し、ってね」

「お主達は平気なのか?」

「貧血、立ち眩み、目眩、胃痛」

「ちょっと過食症気味かも」

「不眠症」

「うむ、やはり異動一択じゃな」

「したいなら止めない。けど、どうなっても知らない」

「異動したいなら理由、必須だよ?」

「よっぽどの事が無いとその申請通んないって、前に古鷹に聞いた」

「――つまり、吾輩はここに居るしか無いというわけか?」

「「「正解」」」

(何じゃこの鎮守府は命の危険に晒されておったのは提督ではなく吾輩の方ではないか索敵に失敗するしない以前に味方を警戒しなければならぬなどまともな神経の持ち主ならばすぐに発狂してしまうぞ筑摩はどこだ吾輩も妹に会いたいぞそうだ提督に建造してもらえばよいのだ今すぐ執務室に行かねば!)




 重巡洋艦は九隻、艦娘の建造は運任せ、現実は非常である。

294: 2014/11/22(土) 23:13:28.74 ID:hA0H7t6B0
「利根さん、良かったらコレ食べて下さい」

「う、うむ、有り難く頂くのじゃ」

「青葉もコレあげちゃいます」

「う、うむ?」

「一緒にお茶でも飲みませんか?」

「いや、吾輩は――」

「ね?」

「……うむ」




「『どうだった?』」

「『吾輩は何の力にもなれそうにない、すまぬ』」

「『何かされたのか?』」

「……お主、難儀な男じゃな」

「それはどういう意味だ」

「吾輩にはあの者達の趣味は理解出来そうもない。失礼するぞ」

「――俺は、一体何をしたんだ……?」




 シュレッダーは、万能ではない。

304: 2014/11/23(日) 01:55:53.74 ID:VF1v1n5o0
「司令官が私を疑ってるなんて何かの間違いだよねきっとそうだよだって司令官は私のことを好きなんだもん一番最初に司令官に会ったのも私最初の秘書艦娘も私一番信頼されてるのも私私私私何で邪魔するんだろあの二人司令官が相手にするわけ無いのに無駄なのに司令官は私の司令官なのに隣に立つのは私なのに恋に障害は多いって何かで読んだけど本当なんだ障害ならやっぱり排除しないと頭が一番確実だけど的が小さいし狙うなら心臓かお腹かな演習でもっと精度を上げなきゃ待ってて司令官私が貴方を苦しめる存在を消すからだから全部終わったら頭を撫でて優しく抱き締めて離さないで――あっ、磯波ポッキー食べる?」




 上司を気遣える部下の存在は、貴重である。

309: 2014/11/23(日) 16:11:58.96 ID:VF1v1n5o0
 提督は知らない、自分を狙うのは鉛の弾ではなく金の矢だということを。
 彼女達は信じない、提督から向けられているのは愛情ではなく恐怖だということを。
 他の者達は目を背けている、既に仮初めの平和は崩れ始めているということから。

 ――狂気は、溢れ始めれば洪水のように全てを呑み込んでいく。




「曙、次の作戦のことについて話が――」

「それ以上近寄らないでよクソ提督、話ならそこで出来るでしょ」

「そう、だな……次の作戦は駆逐艦のみで行う。その作戦においての艦隊旗艦を曙、お前に任せたい」

「何で私な訳? 駆逐艦メインなら吹雪を旗艦にするのが普通でしょ」

「最近、吹雪を含めた数人の様子が明らかにおかしい。出来れば俺も吹雪に任せたかったが、今の彼女に任せるのは危うい気がしてな」

「ふーん……私はやってもいいけど、まずは吹雪に許可を得てからにして。秘書艦娘を差し置いて大事な作戦の旗艦とか、余計な軋轢生みそうだし」

「分かった、話をしておく。また後で詳しい内容については口頭で伝えるからそのつもりで居てくれ」

「分かったからさっさと行きなさいよ」




「――司令官、私じゃなくて曙がいいの?」

328: 2014/11/24(月) 14:14:36.04 ID:MLOyaKRO0
「吹雪、次の作戦について話が――」

「私が旗艦で出撃します」

「いや、今回は曙に任せようと思う」

「司令官、曙も優秀な駆逐艦なのは私も知ってます。でも、戦艦や空母の方々の助力を得られない状況下で艦隊旗艦を務めた経験が、彼女には無いんです。今回の作戦に一番適しているのは、私です」

「……すまない、俺が間違っていたようだ。吹雪、お前に次作戦の艦隊旗艦を任せる。頼んだぞ」

「ありがとうございます!」

(俺の悪い癖だ、何時も悪い方向に物事を考えてしまう。こんなに頼りになる秘書艦をどうして俺は疑っていたんだろうな……)

(やっぱり司令官は私を選んでくれる。司令官は私を必要としてくれてる。頑張らなきゃ、頑張って他の誰よりも司令官の期待に応えなきゃ、渡さない、誰にも司令官は渡さない)




「司令官」

「何だ? 作戦の詳しい内容は既に――」




「好きです」

340: 2014/11/24(月) 18:26:08.55 ID:MLOyaKRO0
 戦果を挙げよう。そうすれば、目標にまた一歩近付く。
 戦果を挙げよう。身体は修復材が癒してくれる。
 戦果を挙げよう。心は何時も高揚している。
 戦果を挙げよう、戦果を挙げよう、戦果を挙げよう。




「ちょっと吹雪! 旗艦が突出してどうすんのよ!」

「……す……せる」

「吹雪、私達はどうしたら、いい?」

「……す……せる」

「ふぶ――」

「全部倒す、戦いを終わらせる、司令官が待っててくれる」

「……うん、分かった」

(――もう、私達のこと見えてないんだね、吹雪)




 戦果を挙げよう、戦果を挙げよう、戦果を挙げよう。
 二人の未来の為に、戦果を挙げよう。
 “今”聞けない答えを聞くために、戦果を挙げよう。
 分かっている答えをただ聞くために、戦果を挙げよう。
 戦果を挙げよう。戦果を挙げよう。戦果を挙げよう。




 ――“戦いが終わるまでは、そういう関係をお前達の誰とも築くつもりはない”

353: 2014/11/24(月) 22:37:10.73 ID:MLOyaKRO0
「司令官司令官、戦いが終わるまでは誰ともお付き合いとかしないって聞いたけど、ホント?」

「あぁ」

「じゃあ待ってて下さいね? 青葉、頑張っちゃいます」

「そうか……何?」

「吹雪なんかより、青葉は司令官のこと大好きです」

「やっぱりお前も、なのか……?」

「やだなー司令官、青葉はずっとずーっと司令官のこと見てたじゃないですか。気付かなかったとは言わせませんよ?」

「いや、俺は――」

「じゃあ青葉、今から衣笠達と演習してきますね。もっと強くなって、あっという間に深海棲艦を一匹残らず駆逐しちゃいます」

「……あぁ、頼んだ」




 例え、先送りにして解決することではないと分かっていても、そうせざるを得ないこともある。

383: 2014/12/01(月) 22:47:01.32 ID:6disF1780
 ドア越しに、彼女は聞いていた。
 帽子越しに、彼女は見ていた。
 焦らなかった。疑いもしなかった。

 ――ただ、笑うだけだった。




「アレ? 古鷹、帽子は?」

「帽子なら部屋にちゃんと大事に置いてあるよ」

「何で急に被るのやめたのさ」

「この眼が、証拠だから」

「証拠?」

「うん、提督が私を愛してくれてる証拠。この眼を綺麗って言ってくれた提督の気持ちは、絶対に嘘じゃないもん」

「――古鷹は、好きって言わなくていいの?」

「言葉にしなくったって、提督に私の気持ちは届いてるから大丈夫だよ、加古」

「……そっか」




 綺麗なモノを見ることに抵抗を感じる者は、少ないはずだ。
 彼女から提督へ贈られたそれは、彼の私室の壁に飾られた。



 執務室が彼の寝室も兼ねるようになったのは、その直後のことだ。

391: 2014/12/03(水) 20:49:38.25 ID:9q7qMNIP0
 疑心暗鬼の最大の問題は、疑う対象が無尽蔵に増えていくことだ。
 好意の裏を読み、誰かの視線に常に怯え、心は徐々に摩耗していく。
 悪意は目には見えないが、善意もまた、目には見えない。

 ――憔悴した彼がすがったのは、一度は手を振り払った相手だった。




「――利根」

「む? 何じゃ、吾輩に何か用か?」

「お前の目から見て、俺はどう映っている?」

「ふむ、酷い顔色をしておるな、まともに寝ておらぬのか?」

「そういうのを聞いたんじゃない。そうじゃ、ないんだ……」

「……お主は、提督には向いておらん」

「……そうか」

「じゃがな、向いておらんでも今のお主は提督なのだ。お主がそのような顔をしておると、艦娘全体の士気に関わる。吾輩も、そう肝が据わっておる訳ではない。あまり不安にさせんでくれ」

「……あぁ」

「そうじゃ、モノは相談なのだが、吹雪と青葉と古鷹と艦隊を組むのは、ちと息苦しい。なるべく吾輩をあの三人とは別に組んではもらえぬか?」

「善処はする」

「絶対じゃぞ!?」




「――善処する代わりに、部屋で茶を淹れてくれないか?」

403: 2014/12/05(金) 21:02:01.27 ID:zWYip0Hy0
「――司令官」

「っ……青葉か、何だ?」

「利根三回加賀一回赤城一回望月二回夕立一回陸奥一回伊勢一回神通二回那珂一回文月一回、青葉のところにはお茶飲みに来てくれないんですか?」

「お前達とは四六時中顔を合わせている。作戦を立てるためには、全艦娘の状態把握も大事だ。ただ茶を飲んで談笑している訳じゃない、勘違いするな」

「青葉のことなら手にとるように分かるから必要無いってことですね。流石司令官、青葉ちょっと照れちゃいます。――でも、あんまり他の子と親しくしないで下さいよ? 青葉、ヤキモチ妬いちゃいます」

「……分かった、今度紅茶を飲みに行く。それでいいか?」

「はい! 朝でも昼でも夜でもいつでもいいですから待ってます! ではでは司令官、青葉、出撃してきます!」

「あぁ、良い戦果報告を期待している」




(――衣笠と、今日は話そう……)

411: 2014/12/07(日) 18:41:20.15 ID:FTuzwR160
 初雪は、頻繁に体調を崩すようになった。

 磯波は、過呼吸を起こすようになった。

 白雪は、笑わなくなった。

 川内は、吹雪を避けるようになった。

 神通は、何かを振り払うように敵を葬っていた。

 那珂は、笑みがぎこちなくなっていた。

 長門は、なるべく吹雪と出撃するようになった。

 陸奥は、初雪達と過ごす時間を増やした。

 吹雪は、何かにとり憑かれた様に出撃し続けていた。

412: 2014/12/07(日) 18:41:47.88 ID:FTuzwR160
 衣笠は、食べたものを吐くようになった。

 隼鷹は、酒を飲むのを控えるようになった。

 夕立は、考えられないような誤射をするようになった。

 磯風は、作戦中に仲間を視界に入れることに怯えるようになった。

 金剛は、比叡から片時も離れなくなった。

 比叡は、金剛の言う通りに一日を過ごすようになった。

 青葉は、現実と虚構の境が曖昧になっていた。

413: 2014/12/07(日) 18:42:16.29 ID:FTuzwR160
 加古は、現実と夢の境で日々を過ごすようになった。

 最上は、三隈のベッドで寝るようになった。

 三隈は、夜な夜な壁に頭を打ち付けるようになった。

 鈴谷は、熊野と全てをお揃いにするようになった。

 熊野は、掠り傷ですら即座に修復材を使用するようになった。

 文月は、敵を沈めることを楽しいと感じるようになった。

 弥生は、歪んだ笑みを覚えた。

 翔鶴は、加賀に依存するようになった。

 飛龍は、誰に対しても多聞丸と呼ぶようになった。

 古鷹は、朝に撮った自分の眼の写真を、毎日提督の部屋に飾るようになった。

431: 2014/12/09(火) 16:37:33.43 ID:ZHswbrvt0
 まだ、誰も沈んでいない。

 まだ、誰も氏んでいない。

 まだ、誰も頃していない。

 ――ただ、それだけでしかない。




「演習、及び合同作戦中に異常が見受けられた艦娘多数。調査の必要ありと判断します」

「仮に交戦することになった場合、鎮圧出来るのか?」

「はい、その点についてなのですが、出来れば力をお貸し頂けると……」

「武蔵と朧の二人で良ければ連れていけ、水陸共にこなせる者の方がいいだろう」

「ご配慮痛み入ります。明朝、マルロクサンマルの出発予定です」

「分かった、私から伝えておく。下がっていいぞ」

「失礼します」

(手遅れでなければ、良いのだがな……)




 救済(おわり)を告げる、鐘が鳴る。

432: 2014/12/09(火) 16:41:12.21 ID:ZHswbrvt0
 加賀は、自分を慕う翔鶴をどうにか正気に戻そうと努力していた。

 赤城は、既に狂気に侵され始めている加賀の背中を守り続けていた。

 伊勢は、日向に延々語りかけるようになった。

 日向は、空を見上げて何もしない時間が増えた。

 球磨は、妹に危険が及ばないように細心の注意を払っていた。

 多摩は、昼寝をしなくなった。

 北上は、全てを分かった上で何時も通りを貫いていた。

 大井は、北上に合わせて重い空気を少しでも軽くしようと努めていた。

 木曾は、もしもの事態に足手まといにならないよう演習に励んでいた。

 曙は、クソ提督と呼ぶことすらも止めた。

 満潮は、全てを既に諦めていた。

 霞は、作戦以外で一切口を開かなくなった。

 望月は、どこか寂しげに弥生と文月を見つめるようになった。

 利根は、ここには居ない妹が見えるようになった。

456: 2014/12/11(木) 18:01:37.19 ID:oQfpbjib0
 何が、間違っていたのだろうか。

 何を、間違えたのだろうか。
 どうすれば、良かったのだろうか。

 ――問うたところで、既に意味は無い。




「本日は、どのような御用件でこちらに?」

「友軍艦隊への誤射や非協力的な態度、撤退合図後の突撃、艦娘の異常行動及び身体異常等、軍内部のみならず近隣住民からも、この鎮守府の艦娘に関する報告を多数受けている。何か、事実と違う点はあるか?」

「……あぁ、やっとか」

「やっと、だと? どういう意味だ」

「もう、疲れました。あの三人を解体するなり何なりして下さい。他の者も解体するならして下さい。軍法会議にかけて頂けるなら、即刻お願いしたい。出来れば、軍から離れるような形を望みます」

「待て、貴様何を言っている……?」

「提督になどならなければ良かった。あの時、教官の言葉に心が動かなければ、そもそも親に逆らって軍に入る道を選ばなければ、艦娘を“道具”として見れていればっ! こんな、ことには、ならなかった!」




 扉の向こうで、何かが落ちる音と、ナニカガコワレルオトガシタ。

469: 2014/12/11(木) 23:24:03.54 ID:oQfpbjib0
 壊れたナニカ達が、扉を破り中へと飛び込む。

 ――コイツ等が来たからおかしくなった。コイツ等を消せば、きっとこの人は正気に戻る。

「司令官、大丈夫です。私がついてます」

「司令官を洗脳しましたね、青葉は騙されませんよ?」

「提督、今助けます」

「なるほど、コレは解体してやった方が幸せかもしれん」

「武蔵さん、感心してる場合じゃないと思う、多分」

「いい加減に気付けよっ! お前達が見ている俺はただの虚像だ! 全ての行為は嫌われない為のご機嫌取りだ! そこに、特別な感情なんて無いっ!」

「ごめんなさい司令官、私が最初からこんな人達をここに通さなければ良かったんです……」

「(武蔵さん、朧さん、鎮圧は可能ですか?)」

「(可能だが、ここでは少し狭すぎるな)」

「(一度退いた方がいい、絶対)」

「――お前達、そこの男を元に戻して欲しいか?」

「戻せ、早く、今すぐに」

「戻さないと、コロシマス」

「そうか、ならばこっちだ! お前達の愛する男はこの武蔵が預かる!」

「離せっ! もう俺は艦娘には関わりたくない!」

「少し黙っていろ、気が散る」

「ぐっ……」

「提督っ!?」

「朧さん抱えて跳ぶなら先に言って下さい!」

「黙ってて、着地で舌噛む」




 窓から飛び出した四人を追う三人。皮肉なことに、彼女達はこの時初めて協力して戦うことを選んだ。

476: 2014/12/12(金) 01:08:56.26 ID:O7UVGGF60
 ――司令官を助けなきゃ。私が助けなきゃ。アレは敵だ。味方じゃない。

 ――司令官待っててね。青葉は司令官を信じてます。司令官、司令官司令官司令官シレイカン。

 ――提督に見て欲しい。私を見て欲しい。あんな嘘信じない。だって、提督は、いつだって私に優しかったもん。

 ――アレは、テキダ。殺セ、ころセ、コロセ。

 ――彼以外、もう何もいらない。




 ――ダイスキダヨ、アナタ。




 遅れて窓から飛び出してきたのは、“艦娘”でも、“少女”でも、“深海棲艦”でもない、愛に狂った化物達だった。

478: 2014/12/12(金) 02:23:56.77 ID:O7UVGGF60
「司令官ヲ返して!」

「そこまで愛した男がコレとはな、同情を禁じえんよ」

「黙レ! 貴女達に司令官の何が分かるんでスカ!」

「分からないよ、知らないし」

「だったら、邪魔をシナイデくれます?」

「それは無理な相談だ。艦娘とは平和と秩序を守るべき存在であり、今のお前達のように脅かす存在であってはならない」

「ソンナのどうだってイイ。司令官、司令官をカエセ、カエセカエセカエセ!」

「……朧、なるべく一撃で眠らせてやるとしよう」

「……うん」




 何故、艦娘が強いのか、それは学ぶ兵器だからだ。

 何故、艦娘が強いのか、それは感情を持つからだ。

 何故、艦娘が深海棲艦と似ているのか、それは正と負の違いだからだ。

 もし、彼が彼女達に正面から向き合えていれば、彼等は多大な功績を残しただろう。

 もし、誰かが彼を助けていれば、こんな結果にはならなかっただろう。

 意識の無い彼の横で、全てが終わりを迎えようとしていた。




 ヒトマルマルマル、吹雪・青葉・古鷹の三名を拘束、解体決定。

479: 2014/12/12(金) 04:07:03.33 ID:VVfPjfKko
もうちょっとだけ続くんじゃ

488: 2014/12/12(金) 15:21:29.12 ID:O7UVGGF60
 待ってはいけなかった。行動を起こさなければいけなかった。

 だが、頭の片隅に残っていた共に過ごし笑い合った記憶が、幾度となくその決心を鈍らせた。

 派閥など無かったあの日を、歓迎会で騒いだ夜を、彼女達は忘れられなかった。

 一人、また一人と心を蝕まれていく中、それでも願わずにはいられなかったのだ、過ぎ去りし日の“日常”が再び訪れるのを。




「――様子見をしていたお前達も、そろそろ出てきたらどうだ?」

「……吹雪、止めてくれて、ありがと」

「青葉の顔、ちゃんと見たの久しぶりかも」

「コレ、現実だよね?」

「現実だよ、多分」

「そこで多分を付けないで下さい、話がややこしくなります」

「他の者達はどこだ?」

「比較的正気保ってる人が、暴れそうな人、拘束してる」

「幸い、戦艦とか空母の皆は結構正気保ってたからね」

「でも、かなり抵抗されて皆ボロボロ」

「――いいの? 三人はコレで」

「……いい」

「また一緒にバカやりたかったけど、もう無理だもん」

「悪い夢はさ、ずっと見てたくないじゃん?」

「悪い夢、か。ならば覚ましてやるのが優しさというものだな」

「解体の儀始めるのに、どのぐらい時間かかるの?」

「……今からだと、一時間といったところです」

「なら、それまで見張ってないと。武蔵さん、この三人お願い。アタシは他を見てくる」

「あぁ、任せておけ」




 気絶している三人に、語りかける妹達。

 その言葉のどこにも恨みや怒りが無かったのは、彼女達もまた、姉を心の底から大事に思っていたからに他ならない。

489: 2014/12/12(金) 15:22:05.30 ID:O7UVGGF60
「……流石にコレは、報告するのが大変そうですね」

「彼女達の希望だ、尊重してやるべきだろう」

「アタシも、そう思う」

「分かっています。――それでは、コレより解体の儀を執り行う」

490: 2014/12/12(金) 15:22:43.51 ID:O7UVGGF60
「司令官……司令――」

 吹雪、艦娘という存在から逸脱した為、解体。

「ふぅ……疲れた」

 初雪、吹雪と共に解体されることを望んだ為、解体。

「また、きっと会えます」

 白雪、同上。

「解体、痛くなくて良かった……」

 磯波、同上。

「またバレーボール、やろうね」

 川内、同上。

「次もまた喧嘩したら、止めます」

 神通、同上。

「次は皆でアイドルとかやりたいなー」

 那珂、同上。

「最後まで付き合おう、それが私なりの責任の取り方だ」

 長門、同上。

「ホント、手間のかかる子達ね」

 陸奥、同上。

491: 2014/12/12(金) 15:23:17.56 ID:O7UVGGF60
「青葉は……青葉はただ司令官に――」

 青葉、艦娘という存在から逸脱した為、解体。

「次は取材、いつだって付き合っちゃうから」

 衣笠、青葉と共に解体されることを望んだ為、解体。

「夕立は、夕立はもっと戦いたいっぽい!」

 夕立、敵味方の区別が付かなくなり、危険な為、解体。

「もう、これで何も見なくていい……」

 磯風、戦闘出来る状態ではなく、本人が強く解体を希望した為、解体。

492: 2014/12/12(金) 15:23:50.97 ID:O7UVGGF60
「提督……私の眼、もっと見――」

 古鷹、艦娘という存在から逸脱した為、解体。

「古鷹、お休み。もう起こさなくていいかんね」

 加古、古鷹と共に解体されることを望んだ為、解体。

「加賀さん、加賀さんっ!」

 翔鶴、依存度が高く、加賀が自身の解体を望んでいる為、暴走を危惧して解体。

493: 2014/12/12(金) 15:24:24.11 ID:O7UVGGF60
「翔鶴、ごめんなさいね」

 加賀、見て見ぬ振りをした結果の惨状に戦う意欲を失い、解体を希望した為、解体。

「沈みたいと願う私が、居てはいけないんです」

 赤城、解体される者達と共に消えることを望んだ為、解体。

494: 2014/12/12(金) 15:24:52.71 ID:O7UVGGF60





 ――以上、十八名を解体処分とする。





496: 2014/12/12(金) 15:37:20.40 ID:O7UVGGF60
「――お前達は、コレで良かったのか?」

「誰かがさ、酒でも飲みながら思い出してやんねぇと可哀想だろ?」

「多少伊勢が五月蝿いのと、最上達を正常に戻すのに時間はかかるだろうが……まぁ、何とかしてみせる」

「弥生姉も文月姉もあたしが責任持って面倒見る。めんどくさいけど、姉妹だしね」

「環境が最悪なのなんか慣れてるわ、また次の鎮守府で戦うだけよ」

「さて、次はどこに配属されるのかしら」

「提督がまともならどこだっていい」

「戦いさえ終われば、きっとこんなこともう起きないクマ」

「加古の使ってたタオルケット、貰って行くにゃ」

「まぁなんて言うの、すっごく今更だけどやれることをやってから消えたいじゃん?」

「私は、北上さんについていきます」

「消えるだけが、責任の取り方じゃねぇだろ」

「吾輩も、吾輩なりの責任を取らせてもらう。のぅ、筑摩」

「アタシ、朧」

497: 2014/12/12(金) 15:38:05.56 ID:O7UVGGF60
 隼鷹、他鎮守府へ異動。終戦まで生き延びた後、十九個の盃を並べて解体を望み、解体。

 伊勢、徐々に正気を取り戻し、日向と共に大本営所属の戦艦となった。

 日向、伊勢と共に大本営所属の戦艦となった。最上型四隻のメンタルケアにも協力し、今は六人で生活している。

 最上、三隈と共依存状態に陥っていたが、過度のストレスから解放され徐々に正気を取り戻していった。現在は復帰し大本営所属。

 三隈、頭を打ち付けていた名残で、親しい者に頭を擦り付ける癖が残ったものの、精神状態は安定した。大本営所属。

 鈴谷、熊野への愛情は元からあったものであり、正気を取り戻した今もベッタリとくっついている。大本営所属。

 熊野、抵抗を諦めた。大本営所属。

 金剛、妹を守らなければならないという強すぎる思いから解放され、現在は別々の鎮守府で過ごしている。今度は榛名が姉の愛を一身に受けているようだ。

 比叡、金剛と離れることで次第に正気を取り戻し、現在は別の鎮守府に配属され元気にやっている。メールは一日百通、普通だ。

 望月、姉二人の面倒を見ながら大本営所属の艦娘として生活。めんどくさいと笑顔で言うようになった。

 弥生、無表情に戻った。望月と文月と居る時は時折笑うらしい。大本営所属。

 文月、自分のしていた行為を正しく認識したのと古鷹達が居なくなったことで暫く塞ぎ込んでいたが、次第に昔の明るさを取り戻していった。大本営所属。

 霞、他鎮守府へ異動。ケッコンカッコカリするまでに信頼した提督と氏別。仇を討った後、海へと還った。

 満潮、転々と鎮守府を異動。最後に行き着いた鎮守府で幸せな毎日を送っている。

 曙、朧が連れて帰った。頭にクソと付ける呼び方は変わらなかったが、今の生活に不満はないらしい。

 球磨、妹四人と同じ鎮守府へと異動。やる気に満ち溢れているが空回りする提督の面倒で毎日忙しいらしい。

 多摩、加古のタオルケットで昼寝を再開、たまに涙を流しているのを四人は知っているが、誰もそれに触れることはしなかった。

 北上、球磨と共に提督の空回りを制御する日々。気だるそうな雰囲気はそのままに、頼もしさは増していた。

 大井、舌打ちの回数が日に日に増えている以外は、特に問題は無い日々を送っている。

 木曾、雷巡になった。勝手に演習を申し込んでは姉達に怒られている。だが、懲りる気は更々無いらしい。

498: 2014/12/12(金) 15:38:36.30 ID:O7UVGGF60
 利根、筑摩の居る鎮守府に異動。妹に甘える姉の姿は、見る者の癒しとなっていた。

499: 2014/12/12(金) 15:39:09.07 ID:O7UVGGF60





 提督、精神に異常を来しているため、入院。要望通り、軍から彼の名前は抹消された。




 これでこの話はおしまい、めでたしめでたし、完。




 ――そうは問屋が卸さない。

500: 2014/12/12(金) 15:39:37.98 ID:O7UVGGF60
 ――髪留めと、ペンと、帽子を手に、窓から外を眺める。

 ――何度も、何度も、彼女達の声が自分を呼ぶ。

 ――彼女達の出会った頃の笑顔が、頭から離れない。

 ――彼女達が狂った原因は、自分だ。

 ――そうだ、俺だ。

 ――償わないと。

 ――でも、どうやって?




「司令官」
「司令官」
「提督」




「……あぁ、お帰り。今度は行こうか、一緒に」




 その日、病院から患者が一人消えた。




~ハ ッ ピ ー エ ン ド~

501: 2014/12/12(金) 15:42:37.34 ID:O7UVGGF60
本編中は轟沈してない鬱は最初からだから展開してないほのぼのがやっぱり性に合ってる完!

後は質問感想ご意見等々あればどうぞ、明日にはHTML依頼出します

502: 2014/12/12(金) 15:45:32.76 ID:vss1lLwdO

夕立の末路がなんか哀れだ
狂犬になった末に処分か…

引用: 吹雪青葉古鷹「「「……邪魔」」」提督「っ!?」