110: 2014/08/28(木) 08:36:18.21 ID:VOafPGt10

111: 2014/08/28(木) 08:37:47.72 ID:VOafPGt10

第3話A 目覚める刃
The Edge of Rebellion

――――――5月


山田「今日はなんと転校生を紹介します!」

周囲「え、転校生?」ザワザワ

朱華「………………」(剥製人形のようだ)


シャル「シャルル・デュノアです。フランスから来ました」


シャル「みなさん、よろしくお願いします」ニコッ

周囲「お、男……?」

シャル「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転入を――――――」

周囲「キャーーーーーーー!」

シャル「え?!」ビクッ

周囲「二人目の男子! しかもうちのクラス!」

周囲「美形! 守ってあげたくなる系の!」

千冬「騒ぐな! 静かにしろ」

一同「…………」

千冬「今日は2組と合同でIS実習を行う。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合」

千冬「それから、“アヤカ”」

朱華「………………」ピクッ

千冬「デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子同士だ」

千冬「では、解散!」

朱華「………………」(それっきり動く気配はなかった)

箒「…………やはり私がいないとダメだな、こりゃ」ハア



112: 2014/08/28(木) 08:39:14.74 ID:6c5AavVa0


【IS】一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」【1】

シャル「きみが“アネス”くん? 初めまして僕は――――――」←フランス人に“HANEZU”という名はなかなかに言いづらいようだ

朱華「………………」

シャル「……あ、あの?」

箒「シャルルとか言ったか?」

シャル「あ? う、うん……」

箒「呼びづらいんだろう? こいつのことはみんな“アヤカ”と呼んでいるからそう呼んでやってくれ」

シャル「あ、そうなの……」

箒「私は篠ノ之 箒だ。私はこいつの――――――」


――――――お母さん。


箒「!?」カア

シャル「へ」

本音「“アヤヤのお母さん”!」

谷本「そう、“お母さん”!」

相原「それで、“アヤカ”くんは“グレた息子”なの!」

本音「“息子”のことをどうかよろしくお願いしま~す」ペコリ

箒「なっ!?」カア

シャル「あ、あははは………………」アセタラー

朱華「………………」(まるで石像のようにピクリとも動かない)


113: 2014/08/28(木) 08:39:49.85 ID:VOafPGt10

箒「ハッ」

箒「ほら、朱華。挨拶をしろ。初対面に対しては少しぐらい愛想よくしてみせろ」

朱華「…………わかった」

箒「よし」

朱華「初めまして、朱華雪村です」

箒「おい」

朱華「?」

箒「それだけか?」

箒「――――――『それだけか』と訊いている」

朱華「………………」クルッ

シャル「?」

朱華「至らぬところが多いですが、どうかお見捨てなきよう…………」

シャル「あ、うん」

箒「うんうん。まあ やればできるではないか」ドヤァ

周囲「ニヤニヤ」

箒「あ!」

箒「だーかーらー!」カア

周囲「ワーイ!」ワイワイ

シャル「ははは、これからよろしくね、篠ノ之 箒さん」ニコニコ

シャル「それと、“アヤカ”くん」

シャル「僕のことは“シャルル”でいいよ」

朱華「これからよろしく、シャルル」

シャル「うん。みんないい人そうでよかった」ホッ

朱華「…………それじゃ、急ぐ」

シャル「うん。案内してね、“アヤカ”くん」


タッタッタッタッタ・・・


セシリア「いってらっしゃいませ、“アヤカ”さん」ニッコリ




114: 2014/08/28(木) 08:40:56.73 ID:6c5AavVa0

――――――IS実習


千冬「今日からIS実習を始めるが、その前に簡易戦闘を行う」

セシリア「簡易戦闘というのは?」

鈴「何? この場でクラス対抗戦の決着をつけさせてくれるの?」

千冬「慌てるな、馬鹿共。対戦相手は――――――」


ヒューーーーーーーーーーーーーン!


山田「うわああああああああああああああああああ!」

一同「!?」

シャル「え」←朱華の後ろに並んでいる

朱華「………………」(棒のように突っ立っている)

山田「ど、どいてくださあああああああああああい!」ヒューーーーーーーーーーーーーン!

周囲「こっちに落ちてくるぅうう!」タタタッ!

周囲「に、逃げろー!」

箒「あ、――――――朱華!」

セシリア「あ、“アヤカ”さん!?」

鈴「あ、あの馬鹿!?」

朱華「………………」(天を仰ぎ見てそのまま)


「……………………フッ」


シャル「“アヤカ”!」グイッ(IS展開!)

朱華「………………!」

箒「シャルル!」

山田「きゃあああああああああああああああああああああああああ!」ヒューーーーーーーーーーーーーン!


ドッゴーン!


箒「くっ……!」

周囲「………………!」

千冬「………………」



115: 2014/08/28(木) 08:41:47.01 ID:VOafPGt10

土煙が晴れていき――――――、


朱華「………………」

山田「す、すみませんでした…………」

セシリア「や、山田先生?」

鈴「だ、大丈夫ですか?」

千冬「やれやれ、またアガってしまったのか、山田くん。そんなんだから代表候補生止まりだったんだぞ」

山田「す、すみません」

千冬「さっさと立て。今回ばかりは『熟練者でも失敗はつきもの』といういい見本だが、これ以上は起こすなよ」

千冬「さて――――――」チラッ


朱華「………………」

箒「大丈夫か、朱華!」

朱華「問題ない」

箒「馬鹿者! どうしてすぐに逃げなかった! シャルルが何とかしなかったら危うく衝突していたのだぞ!」

箒「それと、ちゃんとシャルルにお礼を言え」

シャル「あ、いや……、僕は当然のことをしたまでで――――――」

朱華「ありがとうございました」

シャル「あ、どういたしまして」

朱華「?」チラチラッ

シャル「?」

山田「?」

朱華「――――――同じ機体?」

シャル「あ、うん。そうだよ。僕のは山田先生が使っている『ラファール・リヴァイヴ』のマイナーチェンジ版なんだ」

シャル「ISバトルに特化した全距離万能型『カスタムⅡ』」

箒「確かに、色合いも明るいからそれだけで印象が変わっていたが、4枚羽がなくなってすっきりした印象だな。気づかなかったよ」


セシリア「よかったですわ。“アヤカ”さんに何ともなくて」ホッ

鈴「あいつ、実はとんでもない天才か馬鹿なんじゃ――――――」

千冬「さて、小娘共。さっさと始めるぞ」

セシリア「え? あの、『2対1』で?」

鈴「いや、さすがにそれは――――――」

千冬「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

小娘共「…………!」ムッ

山田「準備出来ましたか?」

セシリア「いつでもいいですわ!」

鈴「第2世代型ごとき、軽くぶちのめしてあげる!」

千冬「では、――――――始め!」




116: 2014/08/28(木) 08:43:06.64 ID:VOafPGt10

――――――結果、


山田「これで終わりです」バァーン!

小娘共「きゃああああああああああああああ!」チュドーン!


ヒューーーーーーーーーーーーーン! ドッゴーン!


セシリア「ううぅ……、まさかこの私が――――――!」

鈴「あ、あんたね……! 何 おもしろいように回避先 読まれてんのよ!」

セシリア「鈴さんこそ! 無駄にばかすか撃つからいけないのですわ!」

小娘共「グヌヌヌ・・・! ギィイイイイイイ!」

千冬「これで諸君にも、教員の実力は理解できただろう」

山田「」ニコッ

千冬「以後は敬意を持って接するように」

千冬「次に、グループとなって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやること」

千冬「では 別れろ」


ワーワー! ザワザワ! ガヤガヤ!


朱華「………………」

箒「よし、朱華。せっかくだからシャルルのところへ――――――」

千冬「おっと、そうだった(確かめなければならんからな、――――――例の件について)」

箒「織斑先生?」

千冬「朱華。お前は私のところだ。ほら、来い」

朱華「わかりました」

箒「え? あの…………」

千冬「つべこべ言わずにお前も来い」

箒「あ、はい……」

シャル「あ………………」

周囲「デュノアくんの操縦技術 見たいなー」

周囲「ねえねえ! 私もいいよね?」


セシリア「では、順番に装着してみてくださいな」

鈴「勝手にあちこち触っちゃダメよ。怪我しても知らないからね」


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

――――――
教員:2名、専用機持ち:3名(セシリア、鈴、シャルル) 
一般生徒:63ー3=60名
     ↓
1グループ当たり:12人……多すぎないか?

合同なので、2組の教員(当然 IS乗り)もいるものだと考えたい……
――――――


117: 2014/08/28(木) 08:44:50.35 ID:VOafPGt10








千冬「さて、次で最後だな」

千冬「――――――“アヤカ”!」

朱華「はい」スタスタ

朱華「――――――装着完了」ビシッ(物理装着)

周囲「オオー!」

箒「さすがに先に訓練していただけあって手馴れているな」

千冬「みんな、最終的にはあいつのように手早く物理装着をこなせるようになれ」ピピッ(最後に計器を操作して点検)

周囲「ハイ!」

千冬「(どうやら、特に問題はなかったようだな。あれは単なる事故だったということだな)」

朱華「一通り、終わりました」シュタ(物理解除)

周囲「速い!」

千冬「ご苦労だった(…………時間が少し余ったな)」

千冬「そうだな(――――――念には念を入れておくか)」

千冬「最後に1回だけ乗りたいものはいるか?」

千冬「ISの実力は搭乗時間に比例するものだ。少しでも上達したいのなら積極的になれ!」

周囲「ハイ! ハイ!」

千冬「うん。では、お前だ」

女子「やったー!」

周囲「ウウー!」


118: 2014/08/28(木) 08:45:45.77 ID:6c5AavVa0

箒「…………機会を逃してしまったか」グムムム・・・

箒「ん?」

朱華「………………」ジー

箒「…………朱華?(視線の先にあるのは――――――)」

千冬「………………」チラッ


山田「」コクリ

山田「それでは、みなさん よく頑張りましたね」

山田「お疲れ様でした!」ニコニコ

山田「それでは、最後に私が乗ってみて、流れを確認しますね」(『ラファール』物理装着)


箒「???」

箒「おい、朱華――――――」

朱華「………………」

女子「よいしょっと」ガコン

女子「これでよし、っと」ジャコン(物理装着)

千冬「では、もう一度やってみせろ」

女子「はーい」

女子「…………あれ?」ガコンガコンガコン

箒「…………?」

朱華「………………」

千冬「どうした?」

女子「変です? 勝手に身体が――――――!」


シャル「ふぅ、なかなか大変だった…………」ドクンドクン

鈴「教えるっていうのも簡単じゃないわね」

セシリア「あら――――――?」



119: 2014/08/28(木) 08:46:26.85 ID:VOafPGt10

千冬「山田先生! 取り押さえろ!」

山田「了解!」ヒュウウウウウウウウウウン!

女子「あ、あれえええええええ!? 勝手にISが動き出してるよおおおおおおおお!」ガコンガコンガコン!

箒「な、何が起きたというのだ?!」

周囲「何々?! 何が起きたの?」

千冬「くっ……(暴れだす程度ではないが、やはりこれも――――――!)」チラッ


朱華「………………」(立ったまま眠っているかのようにピクリとも動かない)


千冬「これは……、強制停止プログラムの導入も已む得ないか」

女子「お、おおおおお!? ――――――空を飛んでる!?」ヒュウウウウウウウウウウン!

山田「――――――ワイヤーネット、発射!」バァン!

セシリア「何が起きましたの、あれは?」

シャル「え? チラッと全体の様子は見ていたけど、特に異常なんてなかったよね?」

鈴「…………あれの前に乗っていたのは“彼”だったわよね?」

セシリア「え?」

鈴「ともかく、万が一に備えて私も加勢するわ!」(IS展開)

ヒュウウウウウウウウウウン!

セシリア「あ、私も!」(IS展開)

シャル「ぼ、僕も!」(IS展開)

ヒュウウウウウウウウウウン! ヒュウウウウウウウウウウン!







120: 2014/08/28(木) 08:47:18.52 ID:6c5AavVa0




箒「結局、IS実習の最後に起きた騒動はすぐに収まったのだが、」

箒「この一件によって、“彼”の周りの評判は徐々にだが落ち始めていった」

箒「今回の暴走だけならば単なる偶然の事故と片付けられたのだが、」

箒「つい先月、『上級生のクラス対抗戦において暴走事故があった』という噂が尾を引いており、」

箒「不幸なことに、どちらの件についても『朱華雪村が乗っていた』事実が槍玉に挙げられ、」

箒「今回の件でただの噂に過ぎなかったことが、今では確信へと変わり、“彼”をよく知らない人間たちは一様な恐怖を抱くようになったのだ」

箒「“彼”の普段の態度も大きく取り沙汰となり、何を考えているかわからない得体の知れない怪人物としてこれまでの歓迎の風潮に陰りが見え始めた」

箒「学園側もさすがに表沙汰にせざるを得なくなり、原因究明に乗り出して、根拠の無い噂による誹謗中傷を取り締まるように動き出した」

箒「学園側としてはあくまでも“彼”に責任はなく、それをちゃんと観測していたことを述べ、“彼”の保護に尽力する」

箒「しかし、その学園側も一枚岩ではないらしく、クラス対抗戦における暴走事故についても未だに原因不明という事実が漏れてしまい、」

箒「今回の件も原因不明であることから、このことと『“彼”が乗っていたこと』を結びつけて“彼”に原因を求める論調が多くの生徒の共通認識となっていた」

箒「1年1組の面々ぐらいだろう。――――――“彼”の存在について肯定的なのは」

箒「それぐらい“彼”には人望もなく、信望もなく、独りであった」

箒「“彼”の態度は少しずつ良くはなってはいるが、全体的な雰囲気は変わっておらず、入学当初とあまり違いを大きく感じられないことも原因だった」

箒「そして、担任の千冬さんは普段では絶対に見せないような溜め息をふと漏らしていたところを私は見てしまった……」

箒「どうやら人間というのは、一度 誰かの悪口を言い始めると次から次へと悪口を飛び火させて拡げていくものらしく、」


――――――今の学園の雰囲気は最悪だった。


箒「根拠の無い憶測だけの流言飛語が飛び交い、それを真実と捉えて前提にした誤った認識が更なる誤解を生み出してったのだから…………」

箒「その度に私は、もはや過去のものとなっていたはずの6年間の暗黒時代のことを鮮明に思い出してしまい、悪夢にうなされることがしばしば――――――」


「これはまいりましたね。記憶を消して事実関係が表層的に消失しても受けた印象までは無意識の深淵にあって忘れないものですから…………」



121: 2014/08/28(木) 08:48:33.06 ID:VOafPGt10

――――――数日が経ち、


箒「朱華? 大丈夫か?」コンコン

箒「入るぞ?」ガチャ

箒「うっ………………床に散らばる手紙の数々(たぶん、これって――――――)」

朱華「どうしました?」(床に散らばる手紙など意に介さず、机に向かって勉強をしていたようである)

箒「いや、最近の学園はどうにも居心地が悪くてな」


朱華「あなたが“篠ノ之 束の妹”であることを悪く言われたんですね」


箒「!?」

箒「いや、そんなことは――――――」アセアセ

朱華「わかります」


――――――僕もその一人でしたから。


箒「あ」

朱華「でも、あなたは“あなた”ですし、僕はあなたに恩があります」

朱華「ですから、僕が憎ければどうぞお好きな様になさってください」

箒「…………いや、そういうわけじゃない。そういうんじゃないぞ、朱華」

朱華「でも、僕との関係があの暴走事故の原因だって疑っている人間も最近は多くなったようで――――――」

箒「言うな。それはもうどうしようもないことだろう?(そうだとも。誤解されやすいのはもうどうしようもないんだ)」

箒「けど、そんな私たちだからこうして仲良くなろうと互いに歩み寄ったのではないか」

箒「――――――結局、どうなのだ? 暴走事故の原因について思い当たることはないのか?」

朱華「わからない」

箒「まあ そうだよな……。そんなことはすでに織斑先生が聞き取りしていることだし」

朱華「ただ――――――」

箒「――――――『ただ』?」


――――――僕自身が自覚していない何かにISが触れた結果、暴走事故が起きたのではないかって。


箒「――――――『何か』」

箒「(『ISには心のようなものがある』って言われてはいる――――――けど、そんなのはただの迷信だ。AIの学習能力の高さに対する比喩に過ぎない)」

朱華「僕にはわからない」

朱華「ただ毎日を人間らしく生きるだけ――――――そうあるように考えているはずだから」

箒「そういう物言いからして普通の人間の物の考え方ではないのだがな……」

箒「(だが、重要人物保護プログラムによる苦痛でそうなったのなら――――――)」

コンコン!



122: 2014/08/28(木) 08:49:19.00 ID:6c5AavVa0

シャル「失礼します!」ガチャ

箒「あ、シャルル! 急に突然――――――」

シャル「あ、あの! かくまって!」アセダラダラ

箒「な、何が起きたというのだ!?」

シャル「あの、えと…………(え? 何だろう、この床に散らばってるたくさんの手紙は――――――)」

朱華「…………好きにすればいいよ」

シャル「あ、ありがとう……」

箒「いったい何が起きたというのだ?」

シャル「それは、その――――――」

箒「ずいぶん憔悴しきった顔じゃないか」

箒「朱華、悪いが冷蔵庫のものを出させてもらうぞ」

朱華「どうぞ」

シャル「あ、ごめんね」

箒「まあ、まずはこれを飲んで落ち着け」

シャル「う、うん(あ、これってフレーバーティーかな? よく冷えた中で柑橘の風味が広がっていて心地いい……)」ゴクッ

箒「ところで、『かくまえ』だなんて――――――」

箒「もしかして、お前も男だから風当たりが強くなってきたのか?」

朱華「………………」

シャル「う、うん……」

箒「そうか。お前も災難だったな……」

箒「しかし、改めて考えると、どうして千冬さんはせっかく男2人なのに一緒の部屋にしなかったのだろうな?」

シャル「確かに、そうだよね(そのせいで、僕としては――――――)」


朱華「織斑先生がシャルル・デュノアでは相手が務まらないと判断したからだろう」


シャル「え!?」

箒「落ち着け、シャルル。こいつの言うことはいちいち真に受けてはいけない」

箒「言ってることが正しいかどうか、果たして自分がその通りだったのかを考えるようにしてから反応しろ」

箒「でないと、剃刀のような鋭い指摘の数々に心が抉られるぞ」

箒「こいつは不躾だからな。遠慮というものを知らない。それでいて言うことがたいてい的を射ているから余計に危ない」

シャル「あ――――――、うん。そうだね」

シャル「僕じゃとても“アヤカ”くんの相手は務まらなかった気がするよ」

シャル「さすがは“アヤカくんのお母さん”だね」ニコッ

箒「だーかーらー!」カア

朱華「フフッ」

シャル「あ」

シャル「今、“アヤカ”くんが笑った?」

箒「おお! そういうシャルルもだいぶ気が楽になったようじゃないか」

シャル「あ、そうだったね。ありがとう、二人共」ニコッ



123: 2014/08/28(木) 08:50:20.47 ID:6c5AavVa0

――――――話が弾み、シャルルの身の上話になり、


箒「――――――そうか。デュノア社の御曹司のお前も大変だな」

シャル「うん……(本当はそれ以上のことで苦しんだけどね)」

箒「私も、姉さんが“ISの開発者”だったばかりに――――――」ハア

朱華「………………」ジー

シャル「?」

シャル「どうしたの、“アヤカ”くん?」

箒「何か発見でもあったのか?」


朱華「シャルルってやっぱり――――――いや、何でもない」


シャル「え、何? 気になるんだけど……」アセタラー

箒「そうだぞ。もしかしたらその言わなかった一言が現状を打開する一言になったかもしれないのだぞ」

箒「言うだけ言ってみろ。ここには私たちしかいない」

朱華「いや、ここで言うべきことではないと判断しただけ」

朱華「でないと、もっと状況が悪くなる――――――そう確信したから」

箒「そうか。お前がそこまで言うのなら忘れよう」

シャル「そう……(『言ったら状況が悪くなる』って、もしかして――――――でも、今じゃなくてよかった)」ホッ

シャル「でも、ありがとう、二人共」

シャル「おかげで、凄くに楽になったよ」

箒「私の方から寮長の織斑先生に頼み込んでおこうか?」

シャル「ううん。大丈夫。大丈夫だから、ね?」

箒「お前がそう言うのなら」

朱華「………………」

シャル「ありがとう、箒、そして“アヤカ”くん」ニッコリ




124: 2014/08/28(木) 08:51:11.19 ID:VOafPGt10

――――――某所


山田「――――――『凍結』、ですか?」

千冬「ああ。それが結論だ。――――――コアナンバー36『13号機』は凍結だ」

山田「そんな! ただでさえ貴重なコアの1つを凍結しては――――――」

千冬「確かにそうだが、原因不明の暴走を引き起こしたコアを「初期化」してもその因子を確実に除去できたかは確認しようがない」

山田「それでは“アヤカ”くんはこれからどうするのですか!?」


千冬「よって、これからコアナンバー36『13号機』は“アヤカ”の専用機とする」


山田「!」
   ・・・
千冬「ある筋に調査を依頼したところ、『量産機としてのリミッターが解除されかかっていた』という報告があった」

山田「へ」

千冬「訓練には必ず私が付き添って状態の確認もしていた。“アヤカ”の方から何かしたということはまず考えられん」

千冬「おそらく、IS自身が『量産機であることを拒否しだした』のではないかと思うのだ」

山田「そんなことはこれまで――――――」

千冬「だが、ISにも心がある。乗り手を選り好みする趣味嗜好が少なからず存在する」

千冬「その最たるものが、形態移行や単一仕様能力だ」

千冬「だいたいにして、“世界で唯一ISを扱える男性”そのものが前例のない存在なのだ」

千冬「『前例がないから』といって、全ての可能性をたったそれだけの理由で看過するのは間抜けの発想だ」

山田「それって、つまりは――――――」

千冬「まあ まだ仮説でしかないが、そういうことだ」


――――――“アヤカ”は“世界で唯一ISを扱える男性”以上の存在である可能性が極めて高い。


千冬「それを確かめるために、“アヤカ”を電脳ダイブさせて仮想空間を造り上げる」

山田「!?」

山田「それは、学園上層部の――――――」

千冬「学園だけじゃない。国際IS委員会からの要望でもある」

山田「そ、そんな!? それでは“アヤカ”くんのプライバシーは――――――」

千冬「残念だが、“彼”にはそんなものは最初からない」

千冬「“あれ”はすでに人間としての全てを失った存在なのだからな……」

山田「………………」

千冬「そして、“彼”にはボディガードに宛てがう」

山田「……それは誰なんです?」


――――――あいつしかいないだろう、“彼”を真に理解してやれるやつなんてのは。



125: 2014/08/28(木) 08:52:04.19 ID:6c5AavVa0

――――――休日

――――――篠ノ之神社


箒「ここが私の実家だ」

朱華「…………ここが」

朱華「――――――神社」キョロキョロ

箒「ああ。私はこの神社の住職の生まれでな、夏祭りや年末年始は大忙しさ」

朱華「それと、竹刀と竹刀の剣戟――――――」

箒「お、本当に耳がいいんだな」

箒「そうだ。境内には剣道場もあってな、私の父はそこの道場主を務めていた」

箒「娘の私が言うのも難だが、――――――本当に素晴らしい人で、私も父のようにありたいと精進を重ねてきたのだ」

朱華「――――――『父のように』か」

箒「…………?」

箒「まさか、IS学園に入学することで懐かしの我が家にこうして帰ってくることができるようになるとはな…………」

朱華「よかったですね」

箒「ああ。本当によかった――――――」

箒「ハッ」ゾクッ

箒「すまない! お前だってずっと独りだって言うのに私だけ――――――」


朱華「よかったですね」


箒「へ」

朱華「本当によかったですね」

箒「あ……、ありがとう」クスッ

朱華「フフッ」


コツコツコツ・・・・・・




126: 2014/08/28(木) 08:52:52.86 ID:VOafPGt10

箒「しかし、本当に懐かしいものだな」

箒「私の家はこんな山奥にあったのかと思うぐらいに、森が生い茂っていて――――――」

箒「そうだ。夏祭りの時なんかに打ち上げられる花火の絶景スポットがあってだな――――――」

箒「それで、私は七夕の日のお願いごとを――――――」

朱華「………………」

箒「ハッ」

箒「すまない。延々とくだらないことを――――――」

朱華「続けて。僕は楽しい」

箒「あ……、ああ」ニコッ

朱華「あ、人がいる」

箒「ああ、それはそうだろう。参拝客だって住職もちゃんといるんだからさ――――――ん?」

箒「あれって――――――」

箒「あ……」ドクン

朱華「………………」


その時、少女の胸が大きく高鳴った。


雪子「また寄っておいで」ニコニコ

「ああ……、はい。雪子さん」アセタラー

雪子「どうしたのかしら、顔が赤いようだけれど……?」

雪子「さすがに5月ともなれば陽射しも強くなってきたことだし、お風呂に入っていかない?」

「お気持ちはありがたいんですけど――――――」ドキドキ
          ・・
「別にいいと思うよ、一夏――――――」’ジトー


――――――『一夏』。


箒「――――――『一夏』」

箒「――――――『織斑一夏』?」

「あ、ほら、人が見ていますし――――――うん!?」

「あ、あの娘と、それに――――――」’

「箒ちゃん!? 篠ノ之 箒か!?」

雪子「まあ!」

箒「あ、ああ…………」ポロポロ・・・

箒「ようやく、帰れた…………ようやく」グスン

箒「う、うう、うわあああああああああああああん!」

朱華「………………」スッ (ハンカチを黙って差し出す)

箒「ありがとう、朱華…………」グスングスン


127: 2014/08/28(木) 08:54:08.54 ID:VOafPGt10

――――――それから、


一夏「何ていうか、本当に大きくなったな、――――――箒ちゃん(ああ あの箒の胸にあんな立派なものが実るとはな…………)」チラチラッ

箒「お、お見苦しいところをお見せしました……」

雪子「それぐらい気にしない気にしない。――――――家族なんだから」

箒「……はい」

朱華「………………」

雪子「それにしても、一夏くんも箒ちゃんもホントに大きくなった」

雪子「えと、一夏くんと箒ちゃんって歳 いくつだったっけ?」

一夏「え? そりゃ俺は23で、確か箒ちゃんは誕生日の7月7日を迎えてないから14だったはずだけど」

友矩「すると、9つの差ですね」

箒「よくもまあ、そんなことを覚えていたものだな」テレテレ

一夏「忘れるわけないじゃないか。――――――“大切な妹分”なんだしさ」

箒「………………『妹分』」ムムム

朱華「………………」

雪子「しかし、あの箒ちゃんがねぇ…………」ニヤニヤ

箒「へ?」

一夏「いやぁ俺も驚いたよ」


――――――まさか箒ちゃんがボーイフレンドを連れて帰って来るなんてねぇ?


箒「ええ!?」カア

雪子「お名前は?」

朱華「――――――朱華雪村です」ススッ(手帳を取り出して筆ペンで達筆に氏名とフリガナを書いてみせた)

雪子「まあ 達筆ですこと。お上手お上手」

雪子「なるほど、『雪村』というのは私の“雪”と同じなのねえ。ふ~ん」

一夏「初見じゃ絶対に読めないな」

友矩「そうですね。こんな珍妙な――――――」

朱華「なので、みんなからは“アヤカ”と呼ばれています」

雪子「へえ、“アヤカ”ね。そのほうがカワイイし、良いと思うわよ、“アヤカ”くん」

一夏「それじゃ、俺のことも“一夏”って呼んでくれ、“アヤカ”」

一夏「それと、隣にいるこいつは俺の相棒の“友矩”だ。大学時代の親友でな」

友矩「初めまして。夜支布 友矩です」

朱華「こちらこそよろしくお願いします」

雪子「まあ! 礼儀正しくて堂々としてるわね」

雪子「箒ちゃんったら、本当に素敵なカレシを――――――」ニッコリ


箒「あ、あの! 私の話を聞いてください!」バーン!


一同「!」ビクッ

朱華「………………」


128: 2014/08/28(木) 08:54:55.52 ID:6c5AavVa0

一夏「び、びっくりするじゃないか、箒ちゃん」

箒「あ、その……、一夏が話をこじらせるのがいけないんだからな!」フンッ!

一夏「あははは…………」

友矩「それじゃ、“アヤカ”くんは箒ちゃんの何かな?」

雪子「うんうん何かな?」ニコニコ

箒「あ――――――(まずい! 学園での私たちの関係のことは――――――!)」

箒「(というか、自然に雪子おばさんと並んで話しかけてくる このヤギュウ トモノリとかいうやつは――――――)」

箒「朱華、お前は何も言うな――――――」


――――――篠ノ之 箒は“僕の母親”。


箒「」

一同「」

朱華「“母と子の関係”だそうです」

箒「オワッタ…………(――――――穴があったら入りたい)」ウルウル

一同「」


129: 2014/08/28(木) 08:56:18.17 ID:6c5AavVa0

友矩「ハッ」

友矩「落ち着こう、うん。落ち着こう、みんな」アセアセ

一夏「あ、ああ。友矩の言う通りだぜ。ここは落ち着こうぜ」ドキドキ

雪子「そ、そうよねぇ」オロオロ


――――――まさか箒ちゃんがその年で子持ちだなんて、そんな馬鹿なことあるわけないわよねぇ。


箒「うわあああああああああああああ!(あらぬ誤解を受けてるううううううううううう!)」ジタバタ

一夏「おい、箒ちゃん! 落ち着けってぇ!?」

箒「もうオワリだあああああああああ!(一夏にこんな誤解を受けてしまって“約束”以前に私はどう顔を合わせれば――――――)」ドタバタ

友矩「それで、どういう意味で『母親』だって? 比喩でそう言ってるんでしょう?」

朱華「はい。篠ノ之さんには大変にお世話になっておりまして、『友達になろう』って声をかけてくださいました」

一夏「おお! あの箒ちゃんが積極的に!」

朱華「他にも、剣道部に誘ってくださいましたし、僕の至らぬところを丁寧にわかりやすくその都度 教えてくださいました」

朱華「おかげで、女子しかいないIS学園での日常もだいぶ楽になりました」


朱華「感謝してもしきれません」ニコッ


箒「ふぇ!?」ドキッ

一夏「そうか。そうだったのか……」

雪子「立派に成長してくれたんだねぇ……」グスン

友矩「よかったですね、雪子さん」スッ(ハンカチを差し出す)

雪子「うん。本当によかったよかった……」

箒「あ…………」

朱華「………………」

箒「なあ、朱華? さっき お前――――――」

朱華「何でしょう?」

箒「………………いや、何でもない」フフッ


――――――私は見逃さなかった。


あの時だけ、“朱華雪村”という少年が暖かな笑みを浮かべくれたことをくれたことを。

普段は決して語ることのないように思われた私への日頃の感謝の思いをこういった場面に伝えてくれたことだけでも感激だというのに、

あのとっておきの笑顔は本当に今日まで悩みながらも頑張ってきた私にとって神様が与えてくれたご褒美に思えたのだった。

――――――今日はとても良い日だ。吉日だ。
・・・・・・・・・・・・・・
私の頑張りが初めて報われた日であり、幼き日に将来を誓い合った二人がこうして再会することができたのだから。

まあ、もうちょっとおとぎ話のように感動的なものでありたかったが、わかっていたことだが 私にはそういった器用な真似はできそうもない。

ただただ、その日の感謝の思いでいっぱいで幸せで満ち足りていたのだから、これ以上の贅沢はバチが当たるというものだ。

あの時の私はとにかく暖かな祝福の中で満ち足りていたのだった。


130: 2014/08/28(木) 08:57:22.05 ID:VOafPGt10

しかし――――――、


友矩「さて、そろそろお暇しようか」

一夏「そうだな。さすがに長居しすぎたことだしな」

雪子「そんなことはないわよ、一夏くん」

雪子「だから、もうちょっとだけ、もうちょっとだけ――――――」グイッ

一夏「ええ……、それはさっきも言われたことなんだけど…………」アセタラー

友矩「雪子さん? また逢えますから、ね?」

雪子「で、でも…………」

箒「…………?」


――――――気のせいだろうか?


箒「あの……、雪子おばさん?」

雪子「あ、何かしら、箒ちゃん?」

箒「一夏が『行く』と言っているのですし、それに私と朱華が来たせいで引き留めてしまったようだし――――――」

雪子「そんなことはないわよね、一夏くん?」

一夏「いや、さすがにそこまでお世話になる気はありませんから…………」アセダラダラ

雪子「でも、さっきから汗をいっぱい流していることだし、やっぱりお風呂に入ってきなさいってば」

一夏「え、ええええええ…………(やっぱり、そこなの!?)」

友矩「では、シャワーだけを――――――」

雪子「そんなこと言わずにしっかりと湯船に浸かっていきなって」ニコニコ

雪子「そうだ、“アヤカ”くんもどう? 日頃 箒ちゃんがお世話になっているようだし、日頃の感謝の意味を込めて」

箒「え? 朱華もか!?」

雪子「そうそう、箒ちゃんもいつまでも“ハネズ”だなんて呼ばずに、“雪村”って呼んであげなさいよ」

箒「ま、まあ それぐらいなら、別にいいけど…………」

雪子「どうかしら?」

朱華「………………」


――――――『日頃の感謝』って具体的には?


箒「へ」

友矩「…………!」ゾクッ

一夏「何となくだが、――――――やばい選択肢を選んだことだけはわかるっ!」アセダラダラ

雪子「ああ……、そうだったわねぇ。結構ウブなのね」ニコニコー


雪子「――――――お背中、お流しいたしますわ」ポッ


一同「」

朱華「そうなんだ」


131: 2014/08/28(木) 08:58:22.82 ID:6c5AavVa0

一夏「いやいやいや! さすがにそれはマズイって!」アセアセ

友矩「…………喰われる!?(そして、それを平然と受け流す朱華雪村!)」アセダラダラ

箒「雪子おばさん!? それってどういう意味ですか!?」カア

雪子「あら? 箒ちゃんにはちょっと早かったかしら?」

雪子「そうねぇ、箒ちゃんも好きな殿方のためにできるようになるといいから、一緒においで」チラッ

朱華「………………」

箒「だーかーらー!」

箒「『朱華は違う』と言っている!」

雪子「こらこら、“朱華”じゃなくて“雪村”。名前で呼んであげなって」

箒「あ、ああ うん」

箒「――――――って、そうじゃなくて!」

雪子「?」

一夏「ほ、箒ちゃん! 何とか言ってやってくれ! さっきから雪子さん、この調子で帰してくれないんだよ!」ガタガタ


――――――いくら将来を誓い合った相手だからって、裸になって、それも他の男がいる中でできるかあああああああ!


一同「」

箒「ゼエゼエ」

一夏「へ……?」

雪子「え!? まさか箒ちゃんも――――――」

友矩「ああ やっぱりぃ…………!(もうヤダ! 何なのこのスケコマシは!? 9つ下の娘にまで手を出していたのかぃいいいいい!?)」

朱華「………………」


132: 2014/08/28(木) 08:59:26.08 ID:6c5AavVa0

雪子「ちょっとそれ……、どういうことかしら、箒ちゃん?」

箒「そ、そういう雪子おばさんこそ! わ、私の将来の相手に手を出すんじゃない!」

友矩「どういうことだい、一夏? まさかこんな一回りも下の娘にまでフラグを立てていただなんてね?」ニコニコー

一夏「え? 知らない! どういうことだよ、箒ちゃん!?」アセダラダラ

箒「な、なにぃ!? ――――――憶えてないというのか、一夏!?」

箒「だって、婚約指輪に……、き、キスまでしてくれただろう!」

雪子「ど、どういうことだい、一夏くん!?」

一夏「えと、――――――『婚約指輪にキスまでした』だって?」

一夏「うぅ、思い出せない。そんな衝撃的なことを忘れるはずがないんだがな…………」
・・・・・・・・
友矩「じゃあ一夏、それはたぶん一夏にとってはその程度の出来事と受け流していたんじゃないの?」ジトー

友矩「だって、大学時代のきみはそうやって数多くの女性を振ってきたんだからね?」

箒「なに……?」ゴゴゴゴゴ

一夏「え、ええ……、だって、憶えてないだもん、しかたないだろう? ねえ、箒ちゃん?」ニコニコー

雪子「さすがにそれは私でも擁護できないかな…………はい、箒ちゃん」ニコニコー

箒「ありがとうございます、雪子おばさん」ジャキ

一夏「ちょっと……、人に竹刀を向けるのは道義に反するんじゃ――――――」

友矩「…………一夏」

一夏「助けてくれ、友矩ぃ!」アセアセ

友矩「大学時代に数多の女性に愛され、“童帝”と呼ばれたきみでも少しは分別はあると思っていたけれど、」

友矩「さすがにこれは、言えることは1つだけだよ」


――――――馬に蹴られて氏ね!


一夏「ちょっと、友矩まで――――――」アセダラダラ

雪子「…………一夏くん?」ニコニコー

箒「天誅うううううううううううう!」ゴゴゴゴゴ


一夏「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!」


朱華「………………」ゴクゴク

朱華「フゥ」

朱華「ごちそうさまでした」ニコッ



133: 2014/08/28(木) 09:00:57.97 ID:VOafPGt10

――――――その夜


シャル「僕だよ、入っていい?」コンコン
――――――

朱華「どうぞ」

シャル「お邪魔します」ガチャ

朱華「粗茶ですが、どうぞ」

シャル「あ、ありがとう――――――柑橘の臭い」ゴクッ

シャル「これってアールグレイだよね? 柑橘のすっきり爽やかな甘みと香りにほどよく冷えていて本当に美味しいよ」ニコッ

朱華「それはよかったです」

シャル「…………男同士っていいもんだなぁ」

朱華「………………」

シャル「あ、それでね? 今、学園中で持ちきりの話なんだけど――――――、」


シャル「『例の13号機』を専用機として受領したって本当の話なの?」


朱華「――――――『例の』?」

シャル「ほら、学園で持ちきりになってる“呪いのコアナンバー36の13号機”のことだよ」

シャル「その……、“アヤカ”くんが乗ってたやつ」

朱華「それは事実」

シャル「ならさ? 僕と一緒に放課後にISの訓練をしない? 専用機があるから役に立てると思うんだ」


朱華「やだ」


シャル「え、ええ?!(ストレートに断れるなんてさすがに予想外!)」ガーン!

朱華「放課後は箒と剣道部の稽古がある」

シャル「で、でも! IS学園の生徒の本分はIS乗りとして大成することだよ! 専用機持ちになったんだし、これから積極的に乗らないと損だよ」アセアセ

朱華「僕がどう生きようとあなたには関係ないことです」

シャル「え、ええ…………(助けて、篠ノ之さん! やっぱり僕じゃ“アヤカ”くんの相手は務まらない!)」


朱華「ですが、それ以外の時間ならば問題はありません」


シャル「あ」ホッ

シャル「び、びっくりさせないでよ、まったく……」

シャル「もうイジワル~」


朱華「本当はそんなことを訊きに来たんじゃないんでしょう?」


シャル「!?」

シャル「え」

朱華「………………」


134: 2014/08/28(木) 09:01:31.73 ID:6c5AavVa0

シャル「えと、僕のことはどこまで――――――」

朱華「………………」

シャル「…………わかったよ、“アヤカ”くん。本題に入らせてもらうよ」


――――――“2年前に日本で発見されたっていうISを扱える男性”ってやっぱりきみなの?


シャル「それを確かめたいんだ」

朱華「………………」

シャル「だって、きみの経歴を丹念に調べあげていくと全然噛み合わないだもん」

シャル「それに、2年前の発見の報が本当にデマだったとしても、いろいろと不自然な点が多いんだもん」

シャル「“アヤカ”くんって本当は“朱華雪村”って子じゃないんだよね? そうなんでしょう?」

朱華「………………それを確かめてどうなる?」

シャル「…………そのね?」


――――――フランスに亡命しない?


シャル「……そういう話だよ」

朱華「………………」

シャル「………………」ゴクリ

シャル「(さあ、これで僕に与えられた任務の1つはいよいよ終わりを迎える)」ドクンドクン

シャル「(どうなる? ――――――どう出る、“アヤカ”くん!?)」


朱華「信用できない。だから お断りします」


シャル「…………ああ やっぱりか(いきなりこんなこと言われても納得できるわけないよね……)」ハア

朱華「こんな三文芝居にあなたを付きあわせている組織のほうが信用できない――――――そういうことです」

シャル「え? それって――――――」

朱華「それと、“2年前に現れたというISを扱えたという男性”の存在ですが、」


朱華「――――――確かにいたのかもしれません」


シャル「え……(何その、他人事みたいな物言いは――――――?)」

朱華「けれども、それは今の“僕”のことではありません。人違いです」

朱華「では、そういうことで。おやすみなさい」

シャル「???」

シャル「あ、うん。ごちそうさまでした……」


シャル「(その時、僕は“アヤカ”くんに言われるままに部屋を出る他なかった…………不思議なほどに押し切られてしまうのだった)」



135: 2014/08/28(木) 09:02:09.36 ID:VOafPGt10






―――――― 一方、その頃


箒「ふふ、ふふふふ……」ニタニタ

鷹月「今日はお楽しみだったんだね、篠ノ之さん……」アハハ・・・

箒「そ、そう見えるか? すまない」ウキウキ

鷹月「そりゃあ、ね?(いつもまじめな篠ノ之さんがいつになく頬が緩んでいて呆けていれば誰だって気づくよ)」ニコニコー

箒「ああ! どうすればこの顔の緩みを抑えられるというのだああああああ!」ウガー!

鷹月「何かすっかり垢抜けたって感じよね……」

鷹月「何ていうか、『子は鎹』って本当かもねえ」ドキドキ

鷹月「いいなー。私も“アヤカ”くんのお世話してみようかな?」

箒「(一夏に会えた一夏に会えた一夏に会えた一夏に会えた一夏に会えた!)」

箒「(わ、私はこれから一夏のところへ――――――!)」ドキドキ

箒「ふふ、ふふふふ…………」



136: 2014/08/28(木) 09:03:51.36 ID:VOafPGt10

――――――週明け


山田「えぇと……、きょ、今日も、嬉しいお知らせがあります……」

山田「また一人、クラスにお友達が増えました」

山田「ドイツから来た転校生の、」


――――――ラウラ・ボーデヴィッヒさんです。


ラウラ「………………」

女子「どういうこと?」ヒソヒソ

女子「この短期間にまた転校生……」ヒソヒソ

箒「今度の転校生はどうも取っ付き難そうだな…………」チラッ

雪村「………………」(精神統一しているわけでもなく瞑想しているわけでもなくただボーっとしている)

箒「雪村のやつ、目の前に転校生がいるのに相変わらずどこ吹く風だな」ヤレヤレ

山田「み、みなさん お静かに。まだ自己紹介が終わってませんから――――――」

千冬「挨拶をしろ、ボーデヴィッヒ」

ラウラ「はい、“教官”」

セシリア「――――――『教官』?(それはもしや織斑先生の教え子だということでしょうか? なんて羨ましい)」


ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ


一同「…………」

山田「あ、あの……、――――――以上、ですか?」

ラウラ「以上だ」チラッ

雪村「………………」(望遠鏡で遥か遠くを覗いているかのように焦点はここに定まらない)

ラウラ「おい、貴様」

雪村「…………僕のことか?」ムクッ

周囲「キャー! シャベッター!」

ラウラ「…………!?」ビクッ

ラウラ「ハッ」

ラウラ「……貴様、いつもそうなのか?」

雪村「それで何か?」

ラウラ「ゴホン」

ラウラ「不本意だが、教官から貴様の面倒を見るように言われている」

一同「!?」


137: 2014/08/28(木) 09:04:37.88 ID:6c5AavVa0

シャル「それってどういう――――――」

ラウラ「“世界で唯一ISを扱える男性”だか何だかは知らないが、貴様のような何の覇気も感じられん素人相手に、」

ラウラ「ドイツ最強のIS乗りであるこの私が教鞭を執ってやるのだ」

ラウラ「ありがたく思うのだな。これは挨拶代わりだ」スッ

箒「なっ!?」


バシィン!


雪村「………………」

ラウラ「ほう? 案外タフなのだな。それとも恐怖で感情が氏んでいるのか――――――」

箒「ちょっと待て、お前! いきなり手を上げるとはどういうことだ!」ガタッ

ラウラ「どこの誰だかは知らないが、これが私のやり方だ。口を挟まないでもらおうか」

箒「織斑先生!」

千冬「篠ノ之、これは私がやらせていることだ。いわば、特別メニューだ」

千冬「月末の学年別個人トーナメントでこいつがベスト8まで勝ち上がることを国が望んでいる」

千冬「そうなるように、それにふさわしい特訓相手を宛てがってやっただけに過ぎん」

シャル「本当に大丈夫なんですか?」

千冬「安心しろ。これはボーデヴィッヒにとってもいい経験になる」

千冬「期待を裏切らないでくれよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ?」

ラウラ「はっ! 教官のご期待に沿うように微力を尽くす次第です」

千冬「――――――だ、そうだ」

箒「………………」

シャル「…………“アヤカ”くん」

セシリア「…………箒さん」



138: 2014/08/28(木) 09:05:47.46 ID:6c5AavVa0

――――――アリーナ


ラウラ「さて、“アヤカ”とか言ったか、貴様」

雪村「お好きな様にお呼びください。人がそう呼んでいるだけなので」

ラウラ「貴様、それが教官である私に対する態度なのか? もしや、これまでもその態度を以って織斑千冬に接してきたのではなかろうな?」

雪村「はい、その通りです、教官」

ラウラ「…………貴様、舐めているのか?」ギロッ

雪村「この場合の適切な振る舞い方がわからないだけです。どうかご教授してくださると大変助かります」

ラウラ「私はブートキャンプの教官ではないぞ」ギラッ

雪村「『ブートキャンプ』って何ですか? 教えてください」

ラウラ「ぬっ!(何だ、こいつは? ――――――今までにないダルさを感じた!?)」

ラウラ「そもそも貴様は、どういった意思を持ってこの場に存在しているのだ!」

ラウラ「どうしてIS乗りになった? ――――――言え!」

雪村「気づいたらIS乗りになっていました」

ラウラ「なっ!? ぐぬぬぬぬ…………」




139: 2014/08/28(木) 09:07:07.29 ID:6c5AavVa0

箒「ラウラとかいうドイツの代表候補生、完全にドツボに嵌っているな」

セシリア「いったいどうなることかと思いましたけれど――――――」

シャル「やっぱり、篠ノ之さんって凄かったんだな……」

千冬「フッ、まだまだだな、ラウラも」

セシリア「あ、織斑先生……」

箒「もしかして、こうなることがわかってラウラに教官役を?」

千冬「まあ そういうことだ」

千冬「あと正直に言えば、私も暇ではないからな。ラウラにその役を押し付けた」

小娘共「!?」

千冬「どんなに理由を取り繕うとも、基本的に私は多忙でな。楽ができるのならば楽をするさ」

千冬「そして、『私のようになりたい』と言ってくるやつに私の仕事を肩代わりさせただけに過ぎん」
・・・・・・・・・・・・
千冬「こればかりは特別な資格は何も要らないからな」

箒「あ……(――――――『特別な資格は何も要らない』か。確かにそうかも)」

千冬「それに、様々な人間と触れ合うことで“朱華雪村”としての人間性が詰まっていくのだ。満更、悪いことでもなかろうて?」

千冬「篠ノ之、お前も“アヤカの子守”をやってみていろいろと気付かされたことがいっぱいあるだろう?」

千冬「私はそれをラウラ・ボーデヴィッヒにも期待しているからこそ、こうして “アヤカの教官役”を任せたのだ」


140: 2014/08/28(木) 09:07:41.82 ID:VOafPGt10

千冬「これで納得しただろう? ではな」

シャル「わざわざそのことを説明するためだけに?」

千冬「おいおい? ちゃんと説明してやらなかったらお前たちは今回の件について不満を抱えたままだろう?」

千冬「そうなったら、いろいろと面倒なことになる」

千冬「だから、言葉を尽くしたのさ」

箒「あ……、ありがとうございました」


千冬「ま、ラウラも私が教鞭を執った当初はあんな感じの分からず屋だったのだから、私がどれだけ苦労させられたのかを思い知ればいい」


小娘共「?!」

千冬「はははははは」スタスタスタ・・・

シャル「何か、織斑先生の印象が少し変わった気がする……」

セシリア「そ、そうですわね。少なくとも優雅とは程遠いのですが、あの方がなさることはどこまでも晴れやかな印象がありますわ……」

箒「それはきっと――――――」

シャル「?」

セシリア「何ですの?」

箒「いや、何でもない」フフッ

セシリア「気になりますわ! 教えてください、箒さん!」

シャル「もしかして、“アヤカ”くんの面倒を見ている中で気づいたこと?」

箒「こればかりは教えらないぞー! 私だけの宝物だ! わーはっはっはっはっは!」タッタッタッタッタ!

シャル「ああ ズルい!」

セシリア「お待ちになってください、箒さーん!」


141: 2014/08/28(木) 09:09:15.42 ID:6c5AavVa0




雪村「――――――何を当たり前のようなことを言ってるんですか?」

ラウラ「こ、この…………!(――――――教官、これが教官のお勤めなのですね?)」

ラウラ「(た、耐えるのだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ! 私はこれまでどんなに苦しい訓練にも耐えてきたのだぞ!)」

ラウラ「(教官がこれに毎日 耐え忍んでいるのならば、私がそれを肩代わりして教官の支えとならねば――――――!)」

雪村「さすがに、これまでの人生の中で『全裸待機』なんてしている人なんて見たことありません」

ラウラ「馬鹿な!? それでは私の副官の言っていたことは――――――」

雪村「もしかして僕の教官(=ラウラ)は僕よりも非常識で人の話を鵜呑みにして思考停止しているんですか?」

ラウラ「な、何を言うか!? 貴様こそ、貴様こそ――――――!」グググ・・・





――――――その夜


箒「それで、あのラウラとか言うやつと初めての訓練はどうだったのだ?」

雪村「うん。何か楽しかった。ずっとおしゃべりしているだけだったけど」

箒「ああ…………(ドイツ代表候補生:ラウラ・ボーデヴィッヒ、ご愁傷様だな……)」

雪村「思ったよりも楽しくなりそう」

箒「そうか。それはよかったな」

雪村「うん」

箒「ハッ」

箒「――――――す、凄い!」

雪村「?」

箒「(最初の頃は無口で無愛想で無礼だった雪村がここまでハキハキとモノを言うようになるなんて! 効果覿面だな)」

箒「(なるほど。確かに教育というものは教える側にも教えられる側にも発見があるというものだな)」

箒「(雪村ではないが、『楽しくなりそう』だ、これから――――――!)」ウキウキ

雪村「それで、ラウラさんって凄く変な人でして」

箒「お前よりも変なやつなんてこの世の中にいるか――――――あ、居たな」ハハハ・・・







ピッ

ラウラ「クラリッサ、私だ。自分に自信がなくなった…………どう対処すればいいのかまったくわからない」ウウウ・・・



142: 2014/08/28(木) 09:10:09.05 ID:VOafPGt10

――――――それからの日々


何だかんだで、ドイツから来た国家代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒは凶悪そうな雰囲気に反して穏やかだった。

最初の自己紹介で雪村に手を上げたことでクラスから浮いており、誰からも一定の距離感が置かれるものだと思われていたが、

織斑千冬がラウラ・ボーデヴィッヒを“アヤカ”の教官役に宛てがったことで、ラウラには“アヤカ”との関係が結び付けられることになったのだった。

それ故に、ラウラは他にすることがなければ“アヤカ”の観察に終始することになり、やがて“アヤカ”の代表的な行動に注目することになった。

そうしたことから、ラウラは一部では“雪村のストーカー”と思われて生暖かい眼差しを向けられるようになったのである。

そして、学園において“アヤカ”はそんなことは意に介さず、用がなければ1ミクロンも動くことなくその場で固まっていることが常だった。

――――――ラウラは唖然とさせられた。

『時間を潰すために何かをする』――――――密林の狙撃手のように獲物を待ち続けているわけでもなく、

『ただ何もすることがないから何もしない』という常人ならば発狂しかねない行為を“アヤカ”は全く苦に思うことなく行えていたのだ。

試しにラウラも真似してみて、そして段々と頭が割れるような思いに襲われるのであった。



143: 2014/08/28(木) 09:10:44.12 ID:6c5AavVa0

ラウラ「あ、頭がおかしくなりそうだ…………」ガーンガーン!

千冬「何をやっているのだ、お前は?」

ラウラ「あ、教官……。教官から託された新人教育を果たすために、“アヤカ”の観察をしていたのですが――――――」

千冬「なるほど。確かに適切な教育を施すためには普段の生活の様子を観察して、日頃の思考や癖を把握するのも大事だな」

ラウラ「教官、それで私も“アヤカ”が普段から行っているこの行為を真似してみて、」

ラウラ「“アヤカ”がどんな気持ちでこれを行っているのかを推し量ろうとしたのですが――――――」

千冬「そうか」

ラウラ「何もしないと身体が落ち着かず、思考に集中するとどんどんどんどんあらぬ妄想に没頭してしまって――――――」アセダラダラ

千冬「止めておけ、瞑想にも正しい所作がある――――――いや、あれは瞑想ですらない」

千冬「完全にこの世の世界とは意識を断絶しているのだ。そうとしか思えん」

ラウラ「!?」

千冬「あれを理解する必要はない。事前に説明してやらなくて悪かったな」

千冬「もう少しでお前のことを誤った道へと堕としてしまうところだった…………」

千冬「(そう、『頭を空にする』ということは何も全てが良い悟りを得させるものではないからな。文字通り『頭を空にする』のだから――――――)」

千冬「私自身、“アヤカ”の扱いにはだいぶ心を砕いている。そして、頭を悩ませてもいるのだ」

ラウラ「教官が、ですか?」

千冬「そういうお前も、私がドイツでお前たちの教官に就任した時はずいぶんと舐めた態度をとってくれたな?」ニヤリ

ラウラ「あ、あの頃は私は何も知らず――――――」アセアセ

千冬「それと同じだ。今のお前は私と同じ立場となり、その時のお前に“アヤカ”がなっているのだ」

千冬「“アヤカ”を少し前の自分だと思って、――――――心構えを説く必要はないから、さっさとISに乗せて訓練を始めろ」

千冬「月末の学年別トーナメントで目覚ましい活躍をさせてくれなければ、この私が恥を掻くからな?」ニヤリ

ラウラ「あ、――――――わかりました、教官!」ビシッ

千冬「くれぐれも無茶はするな。無理強いをして身体を壊すようなことになれば体調管理ができない間抜けな教官だと思われるからな」

ラウラ「はい!」

千冬「(これぐらいでいいだろう。私自身の名誉などどうでもいいものだが、この娘を誘導するにはちょうどいいお題目だ)」

千冬「(さて、これから問題となるのは、電脳世界において“アヤカ”の心象風景を写しだして仮想世界を構築することだが、)」

千冬「(電脳ダイブ自体がアラスカ条約で禁止されているものであり、それをアラスカ条約によって設置された国際IS委員会が命令するとは…………)」

千冬「(もちろん、禁止されるからにはそれなりの理由がある――――――が、だからこそ国際IS委員会が命令してきたことに怒りを禁じ得ない!)」グッ




144: 2014/08/28(木) 09:11:34.14 ID:VOafPGt10

――――――アリーナ


雪村「………………展開」(IS量子展開)

雪村「なかなかに洒落てるじゃないか」ガチャガチャ

雪村「コアナンバー36の訓練機:第2世代型IS『打鉄』“呪いの13号機”――――――」

雪村「4×9=36、4+9=13」 

雪村「見事に忌み数字が並んでる」 4=シ=氏、9=ク=苦

雪村「ふふふふふふ……」

雪村「そして、それを創りだしたのがこの僕か」

雪村「乗っただけでISを暴走させるなんて、やっぱり僕はおかしいんだろうな……」

雪村「さて、超国家機関:IS学園の訓練機をついに専用機として借り受けてしまうとは――――――」

雪村「最初の「専用機化」は終了している。待機形態は腕輪。これが第1形態」

雪村「基本的に初期形態から第1形態へと形態移行するわけだけど、よほど尖った経験を積まなければ設計通りの第1形態になるという」

雪村「そこから、第2形態・第3形態へと形態移行していく。――――――そこからは完全にパーソナライズして個人所有しなければ辿り着けない領域」

雪村「僕ができることなんてたかが知れていることだけれど、――――――これからよろしく」

雪村「そうだな。『呪いの13号機』というのもなかなか呼びづらい。それに『鈍いの重惨』とも読み替えられそうだし、変えよう」

雪村「何がいいかな? そもそも機体色がスポーツ用なのに地味目だからな…………」

雪村「13繋がりで『足利義輝』、『豆名月』、『薩摩芋』――――――」

雪村「日本国憲法第13条――――――『個人の尊厳』」





雪村「よしわかった。今日からお前は『知覧』だ。『知っている人はご覧になってくれている』――――――それがお前だ」


鈴「なんでやねん!」ズコー

雪村「…………?」

鈴「どうして仰々しく13繋がりで最後に『知覧』なるのよ! さっき辞書で確認したら、九州の南の鹿児島県の小さな町じゃない!」

雪村「どう思われようが関係ないです。その時々に相応しいと思ったものを名づけたまで」

鈴「ああ……、そう」ヤレヤレ


145: 2014/08/28(木) 09:12:26.37 ID:6c5AavVa0

雪村「………………」ジー

鈴「な、何よ! 私だってここで訓練する気でいたんだからね。悪く思わないでよ」ドキッ


雪村「…………名前なんでしったっけ、2組の人?」


鈴「はあああああああああああああ!?」

鈴「これまでだってクラス対抗戦や合同実習の時に散々 呼ばれてたじゃない、私の名前!」

雪村「ごめんなさい。これまで全然興味がなかったのでまるで憶えてませんでした」

鈴「あんた、いい度胸してるわねぇ?」ニコニコー

鈴「せっかく専用機をもらった――――――まあ 学園の訓練機なんだけど! 『どうぞ 遠慮無くぶちのめしてください』ってことでいいのね?」ゴゴゴゴゴ

雪村「はあ 稽古をつけてくださるのですか。ありがとうございます」

鈴「こ、このぉ…………(これまでいろんな人間がこいつの相手をしてきてほとほと疲れきるのを見てきたけど、これは本当にメンドイ…………)」

鈴「あんた! やる前に訊くけど、ちゃんと空を飛べるようになってる?」

雪村「飛べません。最初はちょっとできていたのですけど、なぜか今はできなくて――――――」

鈴「ああ もう! それじゃ勝負にもならないからこっちも飛ばないであげる! これがせめてもの情けよ!」

雪村「ありがとうございます」

鈴「それじゃ、模擬戦! さっさとやるわよ! 覚悟なさい!」

鈴「それで、中国代表候補生:凰 鈴音の名を胸に刻みなさい!」

雪村「何? ――――――“ファン・イーリス”?」

鈴「違あああああああう!」

鈴「もう! “鈴”って呼びなさい! あんまり気安くされるのも嫌だけど」

雪村「ああ……、“鈴”か。そうですか、道理で本名の方を思い出せなかったわけだ」

鈴「…………こいつ、本当に疲れる」ハア





146: 2014/08/28(木) 09:13:18.72 ID:VOafPGt10


――――――3、2、1、スタート!


鈴「はああああああああああ!」ヒュウウウウウウウウウウン!

雪村「………………」ブン!

ガキーン! ガキーン!

鈴「初心者にしては、初撃を防ぐだなんてやるじゃない(思った以上に攻撃が重たい! 『打鉄』の鈍重さが『甲龍』の格闘力を上回らせているってこと……)」

鈴「けど、今のは小手調べ――――――ん」

雪村「おっと、おっと、おっと…………」ガコンガコンガコン!

鈴「なんでマニュアル歩行なんてしてるわけ? 滑走できなさいよ……」

雪村「………………」ガコンガコンガコン! ジャキ!

鈴「…………まさか、ここまでダメなやつだったなんて思わなかったわ(飛行できないどころか滑走もできないなんてね)」ハア

鈴「世界に467しかない1つを専用機として貰い受け――――――借り受けてるのに、そのザマだなんて」

鈴「いいわ。格の違いってのを見せつけてさっさと終わらせてあげるわ」ジャキ!

鈴「それじゃ、――――――本番 行っくわよおおおお!」ヒュウウウウウウウウウウン!

雪村「………………!」

鈴「でえええええええええええい!」ブン!

雪村「………………!」ブン!

鈴「!!?!」ガキーン!

鈴「なっ!?(な、何!? さっきのと全然重みが違う!? 私と『甲龍』が押し負けた?!)」

鈴「くっ」

雪村「おっとっと……」ガコンガコンガコン!

鈴「???」


147: 2014/08/28(木) 09:13:50.62 ID:6c5AavVa0

鈴「(どういうことよ? 格闘戦で相手を圧倒するには『質量』『速度』『姿勢』の3つが重要よね?)」

鈴「(いくら『打鉄』が鈍重でその分 どっしりしてるからって、『姿勢』を押し切る『勢い(=速度)』があれば崩すのなんか容易い――――――)」

鈴「(それが、その場に留まって振りかぶった一撃のほうが遥かに強いだなんて どういうことよ!?)」

鈴「(確かに格闘戦ではドライバーの力量がそのまま反映されるけれども、ISのパワーアシストで基本的な出力は一定のはず……)」

鈴「(この『甲龍』は最新テクノロジーをふんだんに取り入れて『打鉄』を完全に凌駕している機体なのよ。パワーだって何割増しの)」

鈴「(それがどうして、第2世代型IS相手に押し切られてるのよ!)」

鈴「(まさか、実はこいつの実力は代表候補生に匹敵するぐらいの才能があるとか――――――?)」

鈴「(――――――ないないない! だってこいつは、空も飛べないぐらいの凡人なのよ? 私なんて4,5回でいけたのに)」

鈴「(けど、こいつは“世界で唯一ISを扱える男性”であり、初めての合同実習の時に私の目の前でISを暴走させた張本人なのよ?)」

鈴「(――――――そうか! だからか! ――――――何かインチキを使っているから『甲龍』が訓練機なんかに!)」

鈴「そういうことね」ジロッ

雪村「………………?」ジャキ

鈴「あんた、インチキ使ってるでしょ! そうでなくちゃ『甲龍』が訓練機に負けるはずがない!」

雪村「そういうものなのか?」

鈴「まだ白を切るつもりなの!? いいかげんになさい!」

雪村「………………」

鈴「あんた! 1ミクロンも動くんじゃないわよ! 動いたら容赦なく『龍咆』でボコるから!」ギロッ

鈴「管制室! ちょっと来て、取り調べを!」ピッ

雪村「………………そういうことなら」ピタッ

鈴「は?」

雪村「………………」(石化した)

鈴「………………は?(本当にピクリとも動かない。まるで機能を停止した鋼鉄の機械のように…………)」


148: 2014/08/28(木) 09:14:58.27 ID:VOafPGt10

――――――それから、


雪村「………………」

鈴「ホントのホントに何も異常はなかったっていうの!?」

教員2「残念ながら、本当に何も」

整備課生徒1「でも、性能差を覆せるなんてやっぱりおかしい!」

整備課生徒2「もう少し調べて――――――」

教員2「止めておけ。例の暴走事故だって原因不明だっていうのに、最初から疑ってかかるのはいけない」

教員1「他に何があると言うのですか!」

教員1「“彼”のせいで、代表候補生の1人が未だに意識不明なんですよ!」

教員2「けど、明確な証拠もない。そして、その責任を追及する方法もないではないか」

教員2「それに、学園が率先して“世界で唯一ISを扱える男性”を白い眼で見ているこの現状を政府に知られてしまったら、どうなる?」

教員1「ぐっ」

教員2「『男憎し』だか何だか知らないけど、生徒は生徒。区別など無い」

鈴「………………」

教員2「そもそも根本的な問いかけをしていないんじゃないか?」

一同「?」

教員2「おい、“アヤカ”」

雪村「はい」


教員2「お前はどういった感じで剣を振っていた?」


雪村「ちょっと浮いてPICを切って『知覧』に攻撃を任せて――――――」

一同「!?」

雪村「?」

教員1「何を言っているのかがわかんないだけど……」

雪村「ですから、だいたいのことは『知覧』に任せて僕はベストだと思う立ち回りを――――――」
・・・・
鈴「………………あんたが戦っていたわけじゃないの?」

雪村「どういう意味ですか?」

鈴「私が戦っていたのは『知覧』であって、あんたはその微調整役に過ぎなかったっていうの?」

雪村「あ、そういうことです。ああ よかった、そういえばよかったのか……」

鈴「はあ?」

雪村「?」

鈴「そんな馬鹿なことあるわけないじゃない! そんな馬鹿なこと――――――」プルプル

鈴「………………」

雪村「………………?」


千冬「やれやれ、大の大人も混じって何 一人の子 相手に本気になってる?」


一同「!」

鈴「ち、千冬さん……」



149: 2014/08/28(木) 09:15:48.05 ID:6c5AavVa0

雪村「………………!」

千冬「探したぞ、“アヤカ”」

教員1「織斑先生……! 今、大切な話をしているので――――――」


――――――“アヤカ”に電脳ダイブさせる。


千冬「だから、今日はお開きだ」

教員1「電脳ダイブですって!?」

整備課生徒1「???」

整備課生徒2「???」

鈴「…………?」

教員2「そうですか」

教員1「――――――先生!?」

教員2「良かったじゃないですか。これで原因究明がはかどりますよ」

教員1「そ、それは…………」

千冬「そういうことだ。学園の大型サーバ1つを使わせてもらうぞ」

教員2「わかりました。良い結果が出ることを期待しております」

千冬「では行くぞ、“アヤカ”。これから週に一度、電脳ダイブで仮想世界を構築するぞ」

雪村「よくわかりませんが、よろしくお願いします」


鈴「あ、あの!」


千冬「何だ、凰?」

鈴「第3世代型ISが第2世代型に負けるってことは――――――いえ、同じ接近格闘機ならば世代を経たほうが――――――」

千冬「愚問だな。そんなのは乗り手次第だろう」

鈴「そうじゃなくて……」

教員1「基本性能を圧倒的に凌駕している『甲龍』が『打鉄』に接近戦で遅れをとるというのは――――――」

千冬「………………ハア」

千冬「お前たちは一からISというものを学び直したほうがいい」

千冬「ISはただのパワードスーツではない。乗馬に喩えられるものなんだぞ?」

千冬「ISの力はどこまでもISによるものだ。それをより活かしきったほうが勝つのは当たり前だろう」

千冬「こいつはそういった他力本願に優れていた――――――だから、勝っていたのではないか?」

鈴「…………『他力本願』?」

千冬「それを理解せずに、己の力を誇示するやり方だけを貫くのならばこいつには絶対に勝てないぞ。いずれそうなるだろう」

千冬「ではな。時間が押してるんだ。さらばだ」

雪村「それでは」

スタスタスタ・・・

一同「………………」
・・・・・・・・・・
鈴「だって、ISは人間が動かすものじゃない…………」




150: 2014/08/28(木) 09:16:34.24 ID:VOafPGt10

――――――IS学園地下秘密区画


雪村「具体的にはどうすればいいんですか?」(電脳ダイブ専用シートに身を預けている)

――――――
千冬「専用機を介してお前の意識を電脳に直結させた後、こちらで誘導し、あるサーバにお前の全てを記録する」
――――――

雪村「そんなことができるんですか?」

――――――
千冬「ISには心がある。お前の心を――――――自分が気づいていないものも全て見ている。その性質を利用してISに仮想世界を構築させるのだ」

千冬「だが、電脳ダイブはお前の意識を直接 電脳世界に送り出すために、そこでの肉体の感覚は現実世界におけるお前自身の心そのものだ」

千冬「よって、電脳世界での肉体が欠損すれば、その痛みがお前の心を蝕むことだろう」

千冬「最悪の場合は、電脳ダイブによって廃人になる危険性がある。そして、ISコアも「初期化」しないと使い物にならなくなる」

千冬「だからこそ、表向きでは電脳ダイブ行為はアラスカ条約で禁止されている」
――――――

雪村「………………」

――――――
千冬「だが、安心しろ。電脳世界でのお前を守るのは他でもないお前自身の専用機だ」

千冬「お前は自分のISを信頼して全てを委ねていればいい」

千冬「それじゃ、始めるぞ」
――――――

雪村「…………はい」

――――――
千冬「――――――始めてくれ」


山田「……はい」

友矩「わかりました。微力を尽くしましょう」

一夏「…………“アヤカ”。もし何かあっても俺が助け出すからな」グッ
――――――

雪村「………………」


雪村「…………


雪村「……」」


雪村「」





151: 2014/08/28(木) 09:17:35.70 ID:6c5AavVa0

――――――数時間後、


雪村「!」ガバッ

雪村「………………」ハアハア

千冬「ご苦労だった、“アヤカ”」(彼の側に立っていた)

雪村「…………疲れた」アセダラダラ

千冬「まあ そうだろう。だからこそ大事を取って週一で、少しずつ仮想世界の構築を進めるつもりだ」フキフキ(手ずからタオルで汗を拭ってあげる)

千冬「電脳ダイブではほんの些細なことが命取りになる可能性がある。一気に押し進めるのは危険だ」

千冬「今回はここまでだ。ゆっくり休んでくれ。寝坊はするなよ?」スッ(そして、タオルを渡す)

雪村「……はい」ゴシゴシ

雪村「あ」

千冬「どうした?」

雪村「帰り道がわかりません」

千冬「フッ、そうだったな。これから毎週ここに通い詰めるのだからデータをやろう」フフッ

千冬「そして、今日は私が送っていこう。最初だからな」

雪村「ありがとうございます」


スタスタスタ・・・











――――――
一夏「!」ガバッ

一夏「………………!」ゼエゼエ

山田「大丈夫ですか、一夏くん!」オロオロ

一夏「…………危なかった」ゼエゼエ

友矩「危うく取り込まれるところだったね……」アセダラダラ
                                                        オーバーロード
一夏「あ、あれが“アヤカ”の世界――――――、“アヤカ”が感じる世界の実相――――――、人の無意識の中に存在する“魔王”――――――」ゾゾゾッ

一夏「このまま仮想世界の構築を進めていったら――――――」

一夏「けど、これで少しは“アヤカ”も人間らしさを取り戻してくれればいいんだけど…………」フゥ

友矩「…………難しいよね」


――――――人の心と向き合うっていうのは。


――――――

152: 2014/08/28(木) 09:18:54.04 ID:VOafPGt10

登場人物概要 第3話A

朱華雪村“アヤカ”
専用機:第2世代型IS『打鉄』 ペットネーム『知覧』 通称:“呪いの13号機”
ランク:A 
 格闘:A 射撃:E
 回避:E 防御:A
 反応:A 機転:A
 練度:E 幸運:E

専用機として学園の訓練機を日常的に貸し出された、世界的にも稀有な経緯で誕生した専用機持ち。
他の人間が一様に“彼”を“アヤカ”と呼ぶのに対して篠ノ之 箒だけが“朱華”と呼び続け、彼女が“雪村”に呼び改めたことから“雪村”表示に改まっている。
また、本筋の主人公である織斑一夏との接点もどんどん深まっていっており、これからの関係に乞うご期待である。
他人との関わり方を知らないことから他人と話している時はぶっきらぼうな言い方になっているのに対して、一人の時は普通に喋ることが確認される。

人から疎まれる才能の持ち主であり、基本的にメンドイ性格である。
それ故に、“彼”と接した人間は基本的には否定的な感情を持つことになり、そもそもの前評判でますます損することになる。
しかし、それを気にしなくなっているのが“彼”であり、とことん気にせずマイペースで在り続ける。
“彼”が乗った後に暴走事故が二度起きていることから1年1組以外の大半の学園関係者からは危険視されており、脅迫の手紙が送りつけられるぐらいである。
だが、それでもやっぱり気にしない。読んだところで何かが変わるわけではないことを見透かしているように。
一方で、“彼”のせいで何の罪もない噂の転校生かつ優等生であるシャルル・デュノアが肩身狭い思いをする羽目になっている。

――――――なにせまったく気にしてないから。良識がないから。何が正しいのかを見失っているから。

かなり淡々と綴って場面を省略しているが、“彼”以外の“ISを扱える男性”とされるシャルル・デュノアとはルームシェアをしていない。
そうしたのはもちろん寮長である織斑千冬であり、どう考えても同室にさせることはシャルル・デュノアにとってマイナスにしかならないからである。

かなりの教養があるのか、はたまた重要人物保護プログラムで津々浦々を転々とさせられた経験の賜物なのか、
貸し出された『打鉄』に『知覧』というペットネームを付けるぐらいの珍妙なネーミングセンスとウンチクを発揮している。
また、皮肉屋な一面も独り言に現れており、人前では努めて愚物を演じて、本当の性格は相当に暗いことを伺わせている…………
洞察力も非常に鋭く、実は“彼”の言葉の端々に相手の短所や欠点を突いたり、ピンポイントに神経を逆撫でしたりするものが自然と含まれている。

織斑千冬からは『他力本願を使いこなす天性の才能がある』と評価されており、ラウラ・ボーデヴィッヒの相手もいずれ務まると見られている。
IS乗りとしてはまさしく初心者でしかないが、ISに力を発揮させることに関しては代表候補生を軽く凌駕しているとのこと。
それ故に、“彼”のIS適性がランクAなのも頷けるものがあり、初心者だと甘く見ていると痛い目に遭うことだろう。
ただし、専用機が鈍重な『打鉄』なのでセシリアの『ブルー・ティアーズ』などの空中戦主体の射撃機には絶対に勝てない。機体相性までは覆せない。



153: 2014/08/28(木) 09:19:49.73 ID:6c5AavVa0

篠ノ之 箒
改変度:S
メインヒロイン。この物語においては“アヤカ”の保護者――――――“母親役”がすっかり板についてきた。
彼女もそれを受け容れて得たものがあるらしく、“アヤカ”に対する態度に慈愛の念がこもるようになってきた。
ただし、あくまでも本命は別におり、“アヤカ”については彼女自身は恥ずかしがって認めていないが“母と子の関係”という言葉がしっくりくる関係になっている。
“アヤカ”を実家に連れてきたことで更にその関係が深まるのだが、同時に彼女にとって最も大切な存在との繋がりにも再び触れることにもなった。

しかし、“アヤカ”と繋がりが深いために、“アヤカ”と“呪いの13号機”の件で彼女も悪く言われるようになり、
“篠ノ之博士の妹”であることが取り沙汰されて、“アヤカ”ほどではないにしろ、彼女も暴走事故の関与が疑われている。
それでもそんな意見を持つ人は極一部であり、基本的には“アヤカの子守”あるいは物好きとして応援されているぐらいである。

今作では全面的に“アヤカ”の世話に終始しているためか、ISでの訓練も人並みにしかやっておらず、原作以上にIS搭乗の経験が浅い。
しかし、“アヤカの子守”を通じて剣道部の活動に精を出したり、積極的に“アヤカ”の人間関係の構築に奔走していたりするので、
その頑張りを周囲に認められて、一般生徒でありながら代表候補生並みに一歩抜きん出た存在として人望を集めることになる。
また、原作とは違って恋のライバルの仁義無き争奪戦がなく、馬鹿な想い人の動向に一喜一憂することがなくなっており、
普通の女子高生らしく晴れやかな青春期を送っており、性格も原作とは打って変わって頼り甲斐のある人間性に変わっている。


セシリア・オルコット
改変度:A
今作では影が薄い。織斑一夏と関わらなければ最新鋭機の専属パイロットという程度の人。
それでも、見下しているはずの男である“アヤカ”に対する態度は柔らかく、その“子守”をしている箒には敬意を払っている。
クラス代表やイギリス名門貴族:オルコット家の当主としての気品から黙っていてもその存在感を放ち続けているのだが、
“アヤカ”からすれば、積極的に関わることがなければ路端の石ころと同じ程度の認識である。


凰 鈴音
改変度:B
2組。
――――――以上。

番外編ではトップヒロインだったが、ここでは“アヤカ”との接点が一切ないのでまさしく赤の他人である。
原作でも噛ませ犬扱いされる場面が多く、初期ヒロインにおいて一人だけ2組なのを筆頭に不遇に次ぐ不遇に苦しめられているキャラである。
友人・腐れ縁ポジションとしては絶妙の位置に立っているのだが、幼馴染と同じくらいに噂の転校生の攻勢に圧されるものである。
しかし、今作ではヒロインズの大半が尽くモブに近い扱いなので、等しく不遇となっている。そもそも“アヤカ”とは友人ですらない。


シャルル・デュノア
改変度:A
原作では圧倒的な存在感を放つあざとい存在だが、“世界で唯一ISを扱える男性”が織斑一夏ではないばかりにその高貴な存在感が埋没している。
やはりハーレムものの主人公は織斑一夏ほどではないにせよ、好奇心や義理人情で人の中に踏み込む性格でないとどんなキャラもモブに変わり果てる。
なかなかに匙加減が難しいものである。主人公というのは“鎹”でなければならない――――――!

“もう一人の男子”でかつ優等生なので転校当初は“アヤカ”などという根暗な存在と比べられて高い人気を誇ることになるが、
何かと“アヤカ”と比べられて引き立てられて、異常なまでの期待感を背負わされて息苦しい毎日を送らされることになってしまう。
また、“アヤカ”との同室も望んでいたがそれが叶わず、寮室も引き離されているので気が重たくなっている。
それ故に、シャルル・デュノアの方からあんな発言が出るくらいに憔悴することになった。

“アヤカ”に対してはむしろ好印象なようで、特に積極的に踏み込んでくるわけではないが、それは逆にこちらにとっても気が楽であり、
“彼”に対しては自然と親近感を覚えており、また“彼の子守”である箒に対しては強い信頼を置いている。


ラウラ・ボーデヴィッヒ
改変度:A
“世界で唯一ISを扱える男性”が“教官の汚点”ではなくなっていることを踏まえて、なんと今作では“アヤカの教官役”として登場する。
そのせいか、これまで挑発的で凶暴な一面が鳴りを潜めることになり、割りと真っ当に先輩教官としての立居振舞をすることになった。
『“アヤカ”が以前の自分と同じ』であることを諭されたことから、生まれた小鹿のようにIS操縦が下手くそな“アヤカ”を気遣うようになる。
それと同時に、“アヤカ”に対しては底知れぬ潜在能力を見抜いており、適度な距離感を保つことになっている。

――――――『性格が違い過ぎる』だって?

よく振り返ってみよう。今作の織斑一夏(23)の冒頭の発言と織斑千冬の対応を見れば、織斑姉弟の影響を受けているラウラだって変わる。


154: 2014/08/28(木) 09:23:34.61 ID:6c5AavVa0

第2世代型IS『打鉄』 ペットネーム『知覧』“呪いの13号機” 
専属:朱華雪村“アヤカ”
攻撃力:D+無いとは言わないが、格闘戦は搭乗者の力量に左右されるので
防御力:A 第2世代型IS最高の防御力
機動力:D-機動力は低いが、最低ではないのに“アヤカ”はPICコントロールが下手なのでマニュアル歩行してしまう
 継戦:E 一応、アサルトライフルがあるようだが誰も使ってないので
 射程:E アサルトライフルを使わないせいで格闘1つだけ
 燃費:S 太刀しか使わない・出力も低い・防御力も高いの3点張り

コアナンバー36。所属番号『13号機』であることも合わせて、4+9=13,4×9=36となる忌み数に相応しい不吉な経緯を持った機体……らしい。
基本性能は一般機とまったく同じ平凡な訓練機であり、この時点では特に戦力の違いはないどころか、
“アヤカ”のPICコントロール精度が下の下でマニュアル歩行しかまだできてないので、フットワーク面で筋の良い同級生に大きく出遅れることになる。

電脳ダイブによる仮想空間の構築とデータ収集に専念できる専用機を元々から必要としていたこと、
この機体に偶然にも“アヤカ”が乗った直後に意識不明の重体に陥る暴走事故が起き続けたことからの隔離の必要性から、
何の罪もないが事件の元凶である朱華雪村の専用機として宛てがわれることになった。

“呪いの13号機”というのは、“アヤカ”が暴走事故を起こす以前から付けられていた仇名だったらしいが、暴走事故から通称として定着したものらしい。
つまり、“アヤカ”の出現以前から元々“曰くつきの機体”として敬遠されていたらしい。
オカルトの域を出ないが、極端にこの機体による勝率が低いらしく、この機体に乗ることになった生徒は大小差はあるものの決まって嫌な態度をとるとのこと。
しかし、詳細な戦績とその追跡記録による裏付けがないにも関わらず、誰もがそう納得していることに誰も疑問を持たない…………


補足事項 ルビがずれていたので
“魔王”=オーバーロード 
これからたびたび話にあがってくる電脳ダイブにおいて登場する概念。
一夏曰く、「人の無意識の中に存在する“魔王”――――――」であり、
今作では屈指の鋼のメンタルを持つ一夏を戦慄させるほどの存在であるらしい……


155: 2014/08/28(木) 09:24:18.18 ID:VOafPGt10

第3話B 一夏の願い
Unknown THE Gentleman

――――――5月

――――――地下秘密基地


一夏「へえ、今度は学年別個人トーナメントなんてあるんだ」

弾「IS学園の公式行事の中では最大の目玉で、1週間ぶっ続けで行われる晴れ舞台ってやつさ」

弾「世界に467しかないうちの最大数をここが保有しているわけで、それはそれは輝かしい舞台だろうよ」

友矩「しかし、単純に考えて1学年120人を1対1ずつ試合をしたとなると、その総数は――――――、」

友矩「まず、2の乗数にしないと1対1の戦いが続かないので、120に最も近い2の乗数は2の7乗で128――――――」

友矩「つまり、単純計算で参加枠128のトーナメントとなり、7回勝ち上がらないと決勝戦にはなり得ない」

弾「うえっ!? 7回も勝たないといけないのか!?」

友矩「そして、試合数は3位決定戦も含めるのでそのまま128試合!」


→64(第1回戦)+32(第2回戦)+16(第3回戦)+8(ベスト8)+4(準々決勝)+2(準決勝)+1(決勝戦)+1(3位決定戦)=128


弾「だ、だりぃ…………(確か、1学年1つのアリーナで同時進行だから分割進行もできないんだっけな…………)」

弾「しかも、身内に贈られる招待券って1日だけしか有効にならないんだよな?」

一夏「あ、ホントだ」

友矩「それに加えて、トーナメント表は当日になって発表される上に、平日もお構いなしに開催されるので、」

友矩「家族が娘さんの応援に行くのはかなり難しく、それは来賓としても同じわけなんだね」

弾「ああ……、だから、その前座としてクラス対抗戦っていうのがあったわけね」

弾「クラス対抗戦に選ばれるのはたいてい代表候補生で、その年の最強候補でもあるわけだから」

友矩「そういうことだね」

友矩「日を追う毎に来賓席はガランとしてくるし、早々に敗退した選手たちも連休だと喜んで違った空気を醸し出す」

友矩「身体とボール1つあればすぐに再開できるサッカーと違って、ISは乗馬に喩えられるスポーツ故に調整が極めて大変――――――」

友矩「ましてや、人数分もまかなえずに乗り回ししているのだから、尚更だよ」

一夏「本当に専用機持ちって優遇されてるんだな」

弾「何を他人事のように言ってんだよ」

友矩「それで、今年からは時間の短縮のためにツーマンセルに変えるそうで」

一夏「そうか。となると、1枠2人になるわけだから試合数が人数の半分の半分になって第1回戦が32回に圧縮されるのか」

一夏「すると、圧縮された64回分 試合が無くなって試合数も半分に抑えられるってわけか」

弾「128と64では偉い違いだな」

友矩「それと、クラス対抗戦で損壊した第1アリーナの修理自体は来月中には終わるようで」

一夏「そっか。早いな。そいつはよかったよかった」

弾「(実は、『あの無人機』よりもアリーナを破壊して回った一夏が澄ました顔で言えたことじゃないんだけどな……)」

弾「それで、1年は第1アリーナの代わりに第4アリーナを使うってことなんだな?」

友矩「そういうこと。無駄にアリーナが多くて救われたね」


156: 2014/08/28(木) 09:24:51.82 ID:VOafPGt10

友矩「近々、またIS学園に出動の予定が組まれているらしいよ。――――――大会とは別件でそれが何かはわからないけど」

弾「そうか。まあ そんな気はしていたよ。今度は以前のようにはならないと信じたいな」

一夏「そうだな。あそこまで苦戦したのは初めてだよ」

友矩「それもこれも、僕たち“ブレードランナー”の正しい運用の仕方をお偉方が理解していなかったからこその苦戦であって、僕たちに非はない」

一夏「また、『あんな無人機』みたいなのが来なければいいんだけど……」

友矩「それが一番の悩みだね……」

弾「まったくだぜ…………」

男共「………………」ハア
・・・
一夏「そうだ。本当に今更だけど、今度 篠ノ之神社にお参りしてこよう。IS学園にあの娘がいるって話だし、土産になるはずさ」

友矩「そうだね。気休めだろうけど、発願しないことには何も始まらない。意思表示や声明があって初めて理解されるものだから」

弾「そうかい。それじゃ俺は仕事に戻るよ」

一夏「ああ。いってらっしゃい」

友矩「事故には気をつけて」

弾「ああ、わかってるよ。それじゃあな」


スタスタスタ・・・


友矩「さて、それじゃ僕たちは『白式』の新装備の確認でもしようか」

一夏「ああ。パイルバンカーやグレネードランチャーの次が出たのか?」

友矩「今度のは後付装備ならぬ外付装備のタクティカルベルトだよ」

一夏「おお。ポーチがいっぱいついてるな」

友矩「ポーチ以外にもホルスターなどに換えることができて、目的に応じた適切な小物装備の選択ができるようになるよ」

友矩「今のところはないけど、長期任務で必要なサプリメントや水筒を容れたり、小道具なんかを持ち運んだりする時に便利なはずさ」

一夏「うんうん。どんどんできることが増えていくな」

友矩「それでも、“ブレードランナー”は“ブレードランナー”であってそれ以上でそれ以下でもないんだけどね」

一夏「…………『白式』の拡張領域が自由に使えたらここまで苦労はしなかったのにな」

友矩「それでも、第1形態から使える単一仕様能力『零落白夜』のおかげでここまでこれた実績もあるから余計に質が悪い……」

友矩「それじゃ、装着してみて着心地や感覚の変化を確認しよう」

一夏「ああ。よろしく頼むぜ」



157: 2014/08/28(木) 09:25:27.66 ID:6c5AavVa0

――――――それから、


一夏「…………ここに鈴の親父さんが経営してる中華料理屋があったんだよな」

友矩「そうだね。この1年で何が起きたんだろうね」

友矩「その1年だけで鈴は中国代表候補生にまで昇りつめたんだから、相当な覚悟があったはずだよ」

一夏「確か5,6年前だったかな? 鈴がこの街に引っ越してきたのは」

友矩「僕は大学時代からの付き合いだからその辺のことはわからないけど、」

友矩「どういった経緯で彼女と知り合ったんだい?」

一夏「簡単だよ。『この街に新しい中華料理屋ができる』ってことだから、同じ中華料理屋の息子の弾と一緒に敵情視察しに行った時にな」

友矩「ああ なるほど。それで?」

一夏「それで、俺と弾はその時にできる限りの情報を聞き出すように一人3人前は注文してみたんだ」

一夏「意外なほどにぺろりと食べられたもんで、本場中華料理の味ってやつが一種のブームになって俺は自然と店に足を運ぶようになったんだ」

友矩「なるほど。常連客になったことから――――――」

一夏「そうそう。それで、鈴とは“常連客のあんちゃん”って感じで打ち解けていったわけさ」

一夏「そういえば鈴って、やっぱり本土を離れて異邦の学校に一人入れられていたわけだから、付き合い方がわからなくって孤立していたようだったな」

一夏「それで鈴や親父さんから『日本の慣習や礼儀作法を教えて欲しい』って頼み込まれたっけな」
・・・・・
友矩「…………へえ(まさかね? いや、そんな理由だけでそんなことになるとは思えないが――――――だけど、こいつは一夏だし!)」アセタラー

一夏「またこの店の中華料理が食べたかったんだがな…………」

友矩「それは残念なことで」

一夏「ああ……、言ってたら中華料理が食べたくなってきた。五反田食堂に行こう」

友矩「はいはい」


スタスタスタ・・・



158: 2014/08/28(木) 09:26:24.08 ID:VOafPGt10

――――――五反田食堂


一夏「美味い!」モグモグ

友矩「そうだね」モグモグ

蘭「………………」ドキドキ

蘭「あ、あの!」

一夏「?」

蘭「あの……、家庭教師の件、考えてくれましたか?」モジモジ

一夏「ああ…………」チラッ

友矩「…………」(首を横に振る)

一夏「それがやっぱりダメなんだ。ごめんな」

蘭「……そう ですか」シュン

一夏「でも、今日は時間があることだし、蘭の宿題を見てやるぐらいはできるぜ? 何か困ったことはないか?」

蘭「あ…………(くぅうううう! どうして今日はこんなにもてきぱきと宿題を済ませてしまったのかしら! 私の馬鹿ぁ!)」

蘭「あ、大丈夫です! 私、生徒会長ですから! みんなの模範になるように頑張ってますから!」

一夏「そうか。立派になったな。あの蘭が生徒会長になるんだもんな。兄とは違ってホントにまじめな優等生だな」

蘭「あ、あはは……!(……違う! こんな益体もない話をしているだけじゃダメ! 何か少しでも新しい情報を――――――)」クスッ

友矩「一夏、今日はどうしようか? 実家に泊まるか? それとも――――――」

蘭「(――――――それだ!)」


159: 2014/08/28(木) 09:26:51.27 ID:6c5AavVa0

蘭「あ、一夏さん?」

一夏「どうした、蘭?」

蘭「一夏さんの新居ってどちらでしたっけ?」ニコニコ

蘭「……いつか遊びに行っていいですか?」ドキドキ

一夏「そっか。まだ教えてなかったっけか」

一夏「XXXX駅降りたところすぐのマンションだ」

蘭「へ!?」

蘭「それって、確か今年できたばかりの高級マンションのことじゃ――――――」

一夏「へえ、そうなんだ。実家と似た感覚で駅前で交通の便があってスーパーにも近い場所を選んだんだけどな?」

友矩「まったく一夏は………………僕がいなくちゃ本当にダメなんだからね」フフッ

蘭「!?」

蘭「あの友矩さん?」

友矩「どうしたのかな、蘭ちゃん?」

蘭「あの……、友矩さんは一夏さんと――――――」

一夏「ああ 同居してるけど?」

蘭「!!!?」ガーン!

蘭「あ、あの、どうして…………」

一夏「だって、二人で住んだら経済的だろう? それに俺と友矩は一緒に組んで仕事することが多いしさ」

一夏「いやぁ、これが本当に楽でさ。俺が疲れた時は友矩が料理も洗濯も全部やってくれるから大助かりだぜ」

友矩「そして、細かい予定の確認をして一夏をちゃんと仕事場に送り出すのも僕の仕事となりつつあるんだけど…………」ジトー

一夏「あ…………すまん」

蘭「友矩さん、一夏さん…………」フラッ

蘭「(この人、ただでさえ 宝塚に出てくるような美形さんだから一夏さんと並んでいると男と女のように見えちゃうっていうのに――――――、)」

蘭「(まさか一夏さんとそんな関係にまでなっていただなんてぇ…………)」

一夏「あ、おい! 蘭!? どうしたんだよ!」ガシッ

蘭「(ああ……、一夏さんの声が遠くに聞こえる――――――)」


友矩「…………憧れに対する恋などすぐに冷めろ。憧れという現実と掛け離れたものに踊らされたって虚しいだけだよ」




160: 2014/08/28(木) 09:27:33.33 ID:VOafPGt10

――――――休日


一夏「シャルル・デュノア。“二人目の――――――」(黒服)

弾「いや、お前がいるから“三人目”だろう?」(黒服)

友矩「政府からは非公式の存在として隠蔽されているので、世間的にはシャルル・デュノアは“二人目”です」(黒服)

弾「そうですかい」

弾「で? なんで俺たちが遠く離れた空港にいるんだ?」

一夏「誰かを迎えにいく任務か? けど、それは俺たちの作戦能力だと――――――」

友矩「大丈夫です。護衛対象の方が強いので」

一夏「!」

弾「それって、IS乗りが来るってことか!?(だって、そうだよな! IS乗りの一夏よりも強いとなれば――――――)」

友矩「そういうことです。ドイツから来た代表候補生を学園まで橋渡しするのが今回の任務です」

友矩「弾さん、運転には細心の注意を払ってください」

弾「お、おう!(代表候補生だって!? ということは、またまた美少女のご登場か! どんな子なんだろうな!)」ドキドキ

一夏「けど、どうしてわざわざ俺たちが迎えに?」

友矩「今回の護衛対象は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』。きみの姉さんに教えを受けた優秀な娘だそうです」

一夏「!!」

一夏「それって――――――」

友矩「一夏はあくまでもIS適性のない一般人の振りをしていてください。それが大前提です」

一夏「ああ……」

友矩「そして、護送中は『IS学園の風紀やマナーを教えこめ』とのことです」

一夏「???」

友矩「僕もそうすることの意味がわかりませんが、できるかぎり話し合ってみて『ラウラ・ボーデヴィッヒの人柄を報告しろ』ということなんでしょう」

友矩「とにもかくも、会ってみればその必要性が自ずとわかるのではないでしょうか」

一夏「…………そっか」

弾「えと、確か……、あの便じゃねえか? ドイツから来るんだったらフランクフルトからのだろう?」

友矩「そうですね。時刻としてもそれでしょうね」

友矩「では、迎えに行きましょうか」

一夏「ああ…………」


――――――ドイツか。あまり思い出したくないことも思い出すからできるならば触れたくはなかったんだがな。




161: 2014/08/28(木) 09:28:10.21 ID:6c5AavVa0


ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ


黒服「お、おう! ようこそ、ラウラちゃん!(うっへえ! 超小柄だけど精巧な人形みたいでめちゃくちゃカワイイ!)」”

黒服「(けど、眼帯ってどういうことだろう? もしかしてそういったハンデを背負って代表候補生になったってことなのかな?)」”

黒服「(くぅー! 健気じゃないか健気じゃないか! でもそのためか、目付きがすっごくきつい…………)」”アセタラー

黒服「ようこそ、いらっしゃいました」’

黒服「遠路遥々お疲れ様でした」

黒服「どうですか? 時間に余裕もありますし、空港内の見物をしていっても問題ないですよ」

ラウラ「必要ない。すぐに学園へと連れて行け」

黒服「わかりました。お車へとご案内いたします」’

黒服「では、こちらです、お嬢様」”ウキウキ

ラウラ「………………」ジー

黒服「……どうしました?」

ラウラ「貴様――――――いや、何でもない」スタスタスタ・・・

黒服「………………」



162: 2014/08/28(木) 09:28:46.80 ID:6c5AavVa0

――――――移動中:リムジン


弾:運転席「………………」

友矩:助手席「………………」

――――――
ラウラ「――――――」

一夏「――――――」
――――――

弾「なあ、友矩?」

友矩「何です?」

弾「二人っきりにして大丈夫かな?」

友矩「それはどういう意味で? 運転に集中してください」

弾「え? そりゃまあ――――――って、安心しろ。俺は運転中は片時も気は抜かねえよ」

弾「けど、気になるだろう? あの“唐変木の中の唐変木”がIS学園についてどんな話をしでかすのかを」

友矩「それは気になるところではありますが、説明に必要な資料は最初から用意されてるのでそれを使って説明すればまったく問題ありません」

弾「それはそうなんだがよ……」

弾「常人には理解できない思考回路の持ち主だから、余計なことを言わないか心配で心配で……」

友矩「まあ それはありますね」

友矩「けれども、それは常人では思い至らないような新たな発見にも繋がっているからこそ、僕たちがその良さを引き出すのですよ」

友矩「決して一夏の感性は狂ってなどない。その違いを理解してうまく利用することを覚えるべきです」

弾「なるほどね。『自由な発想の持ち主として珍重するべき』ってわけか」

友矩「実際にアリーナをあれだけ景気良く破壊して回れる度胸やそこを進撃路に選ぶ発想があって『無人機』を撃退できたのです。それが何よりの証です」

弾「だな。あれには心底驚かされたぜ」

友矩「しかし、あれはどうにも女性を狂わす何かを秘めているらしい」

弾「それには同意だな。怪電波でも発信してんじゃねえの?」

友矩「彼なら有り得そうだね。大学時代に“童帝”と呼ばれたスケコマシ伝説の数々から言っても、生まれる時代が違っていれば英雄になれたかもしれない」

弾「ははは、だろうな!」

弾「けど、『英雄』っていうのはどんなに人から褒め称えられても最終的には人に殺されるもんだし、そう考えるとあんまり羨ましい生き方とは思えねえけどな」

友矩「そうですね。だからこそ、俗と聖の間の妙に位置する存在であるように僕たちが導かなければなりません」

弾「――――――『俗と聖の間』か。――――――哲学的だな」

友矩「それが“人を活かす剣”に必要なものですから」


163: 2014/08/28(木) 09:29:22.03 ID:VOafPGt10

――――――
黒服「どうだい、ラウラちゃん? 一通りの説明はすんだけれど何か訊きたいことはないかな?」

ラウラ「………………」ジー

黒服「まあ 男の俺から言えることは少ないし、一人にして欲しいのならば次にパーキングエリアで前の席に移るぞ?」

黒服「カーテンも締めれば前の席からは見えなくなるし、完全防音でこちらから通信しなければ何も聞かれることはないから安心してくれ」

ラウラ「………………」ジー

黒服「???」

黒服「(いろいろあれこれ突っ込んだ質問をしてくるんじゃないかと身構えていたけど、彼女 ずっとこんな調子だな。ずっと不機嫌そう――――――)」

黒服「ハッ」

ラウラ「?」

黒服「そういうことか! これは失礼した――――――(そうだよな。代表候補生でも女の子だもんな。そういうことは言い出せないよな――――――)」ピッ
                ・・・・・・・・・・・
黒服「次 停めてくれ………………対象がガマンしてるから」

ラウラ「?!」カア

ラウラ「ちょっと待て――――――」
――――――

弾「了解! こっちも休憩に入らせてもらうぜ」

友矩「…………『ガマン』ですか」ハア

友矩「もうちょっと表現を模索して欲しかったですね……」ヤレヤレ





164: 2014/08/28(木) 09:30:04.27 ID:VOafPGt10

――――――パーキングエリア


ラウラ「ほう? 日本の高速道路というのはこうなっているのか」

ラウラ「我が国のそれ(=アウトバーン)とはずいぶんと趣が違うのだな」

黒服「あ、ラウラちゃん。もうそろそろ臨海特区には着くけれど、船舶に乗り換えていくからまだまだ掛かるよ」

黒服「だから、ほら! アイスクリーム!」スッ

ラウラ「む、別に私は――――――」

黒服「ほら」グイッ

ラウラ「あ…………」

ラウラ「そ、そこまでするのなら、う、受け取ってやらんでもない……」オソルオソル

ラウラ「……」ペロッ

ラウラ「!」

ラウラ「…………美味い」パッチリ!

黒服「良かった。それとIS学園の寮は二人一部屋だからルームメイトになった人用におみやげも」

ラウラ「え?! こ、こんなにもらっていいのか!?」ドキドキ

黒服「今日はラウラちゃんが日本に初めて来た記念にね」

黒服「たくさんあるから学園に着くまでにいくつか食べちゃってもいいぞ」

ラウラ「…………あ、ありがたくちょうだいする」テレテレ

黒服「うんうん。これで入学はばっちりだな」

ラウラ「――――――おかしな男だな、お前は」フフッ

黒服「へ、そうかな?(あ、ようやく笑ってくれたよ)」

ラウラ「ここまで見ず知らずの護衛対象の世話する必要などなかろう?」

ラウラ「お前と私の関係などこれが終わるまでのそれっきりのものだ」

ラウラ「どうしてそこまで私のことを気に掛ける?」

黒服「『どうして』って……、人とは極力 仲良くしたいと思うのが人の性だろう?」

ラウラ「私は戦うために生まれた戦士だ。私の前には敵と味方しかいない」

黒服「じゃあ、――――――俺は敵か? 味方か?」

ラウラ「………………」

黒服「味方に対してもそんな冷たい態度なのは寂しいだけだと思うけどな」

黒服「ラウラちゃんにだって大切にしたいって思える人がいるはずなのに、その人の前でもそんな固い態度なのは損だぜ?」

黒服「こう……、笑顔で接してくれたら誰だって気分がよくなるって」ニカー

ラウラ「………………」

ラウラ「あ」タラー

ラウラ「た、垂れてきた…………!」アセアセ

黒服「あ、ごめん! 長話に付きあわせちゃって!」

ラウラ「うわっ! しまった!(ほっぺたにアイスクリームが――――――!)」ツーン!

黒服「ああ……、とりあえずアイスを食べきってからにしよう」

ラウラ「う、うむ……」ペロッ


165: 2014/08/28(木) 09:31:05.39 ID:6c5AavVa0


ペロペロペロ・・・・・・


ラウラ「マッターホルンのような形からドーム状になった…………(うぅ、手がギトギトしているな……)」

黒服「あ、ちょっといいかな、ラウラちゃん?」

ラウラ「?」

ラウラ「別に構わないぞ」

黒服「じゃあ、ちょっと我慢しててね」スッ

ラウラ「はぅ!?」ドキッ(温かいおしぼりでラウラの頬についていたアイスクリームを優しく拭った)

黒服「はい。これでほっぺについたアイスクリームはちゃんととれたはず」

ラウラ「おぉ………………」ドクンドクン

黒服「それじゃ、アイスクリームを最後まで食べちゃって」

ラウラ「あ、ああ!」ドクンドクン

ラウラ「(さっきから私はどうしたというのだろう? 普段なら他人に肌を触らせることなど絶対ないというのに…………)」




166: 2014/08/28(木) 09:31:39.84 ID:VOafPGt10

友矩「見た?」

弾「ああ、見たぞ」

友矩「あれが彼のスキンシップだ」

弾「うらやま……けしからん! 完全に犯罪だぞ、この野郎! 1回りの年下の娘相手にあんなにも気安く――――――!」

弾「イリーガル・ユース・オブ・ハンズだ! 逮捕されろ、リア充!」

友矩「基本的に的外れな気配りしかできない彼だが、時折 狙いすましたかのように見事に相手の心を射止めることがある」

友矩「それ故に、数多の女性の心を次々と鷲掴みすることができたのだ」

友矩「言わば、スケコマシの才というのはあの『零落白夜』のように真芯を捉える力に求められてくるわけだ」

友矩「ポイントなのは最初から真芯を捉えることじゃなく、その他大勢と同じくらいの凡庸さだ」

友矩「その凡庸さがあることによって抜きん出た存在ではない親近感を、真芯を捉える力によって一歩抜きん出た特別感を同時に演出させる」

友矩「親近感と特別感という相反した実感を同時に演出させることで、深い信頼感を醸し出すというわけ」

友矩「最初から『強いぞ』『凄いぞ』オーラを出して相手を身構えさせるのではなく、油断させてから本丸を狙い撃つといった感じだね」

弾「なるほど。落としてから上げたほうが確かにカッコ悪いものもかっこよく見えるマジックが働くもんな」

友矩「今、おそらくあのラウラって娘は仕事以上の付き合いをしてくれた人は初めてで、それに感銘を受けているはずだよ」

友矩「そして、彼の懐の深さを直感的に悟り、だからこそあそこまで態度が柔らかくなっているんだと思う」

友矩「こればかりは本当に天性の才能だよ。技術だけじゃない。信頼に足る人物かどうか直感的に見極める判断を早めに促せるのはその才能に尽きる」

弾「そう聞かされると、本当に凄かったんだな…………」

友矩「そういうきみだってモテる分にはモテてたって話じゃないか。――――――リア充」ボソッ

弾「あ、それはその………………」

友矩「彼のように星の数ほどの女性を同時に相手にしていたわけでもないのに、――――――反省なさい!」

弾「…………面目ないです」

友矩「さて、僕たちの任務も港まで。そこからはIS学園からのお迎えがくる」

友矩「そこまで無事に辿り着けるように、気合を入れ直してまいりましょう」

弾「おお!」


167: 2014/08/28(木) 09:32:18.87 ID:6c5AavVa0

――――――港まであと僅か


――――――
ラウラ「――――――」ニコニコ

一夏「――――――」ニコニコ
――――――

弾「ああ……、最初の固い感じはすっかりなくなったな(目付きが変わってるよ、この短時間でよ……)」

友矩「これこそが彼の最大の武器なのです」

友矩「『彼が泣きつけば財界の人間も動き出す』と言われてるほどですから、彼は実は凄いんですよ?」

弾「まさしく“童帝”だな。現代社会に必要なありとあらゆるものを取り揃えていやがる」

弾「生身の実力は世界最強の“ブリュンヒルデ”に準じるぐらいで、」

弾「それでいて、世界最強の兵器までも使えてそれを一方的に打ち勝つ必殺剣まであるんだから、――――――言うことなしじゃん」

友矩「けれども、その世界最強の能力をどう使いこなすかが最も難しい課題でしてね……」

弾「そうだな。バカとハサミも使いようだしな」

友矩「それを活かしきるために僕たちはここに居るわけで、誰一人欠けてはならないのです」

弾「うん。俺も事故を起こさないようにますます気をつけねえとな」


168: 2014/08/28(木) 09:34:05.33 ID:6c5AavVa0

――――――
黒服「さて、そろそろ港に着く頃かな」

ラウラ「むぅ……、もうそんな時間か」

黒服「これから世界唯一のIS学園での毎日が始まるんだ。どうか楽しい日々であって欲しいな」

ラウラ「…………お前は来ないのか」

黒服「残念だけど、『IS学園にはこうして度々仕事で来る』って程度かな」

ラウラ「………………」

黒服「………………」

ラウラ「なあ、お前――――――」

黒服「何かな、ラウラちゃん?」


ラウラ「――――――名は何というのだ?」


黒服「!?」

黒服「それは、その…………」

ラウラ「わかっている。私とお前の関係なんてこれっきりのものだということは」

ラウラ「しかし、私はこうして国を離れて再び織斑教官の許で教えを賜る機会を得られたのだ」

ラウラ「いつかまた、こうしてお前とも会える日が来ないとも限らないではないか」

黒服「………………」スッ(通信スイッチに指を伸ばす)

ラウラ「押すな、貴様!」

黒服「…………!」ピタッ

ラウラ「お前はどことなく織斑教官に似ている」

ラウラ「お前となら、その、――――――“友達”というものになれる気がするのだ」モジモジ

黒服「…………ラウラちゃん」

ラウラ「………………」

黒服「………………」

黒服「わかった。二人だけの秘密だぞ?」

ラウラ「そ、そうか! できるならば、そのサングラスも外して――――――」

黒服「けど、俺からもお願いしたいことがあるんだ」

ラウラ「何だ? 言ってみろ」

黒服「IS学園にいる“世界で唯一ISを扱える男性”のこと、できることなら助けてやって欲しい。理解してあげて欲しい」

黒服「“彼”の側に俺は居てあげられないから、俺の代わりに助けてやってはくれないか?」

黒服「これが俺からのお願い。そして、できるかぎり楽しい思い出をIS学園で築いてきて欲しい」

ラウラ「………………」

ラウラ「わかった。善処しよう。――――――お前の頼みなら」

黒服「ありがとう」
――――――


169: 2014/08/28(木) 09:34:41.32 ID:VOafPGt10

ガチャ

黒服「到着しましたよー、お二人共ー」”ニコニコー

ラウラ「あ」

黒服「…………もしかして待たせちゃった?」

黒服「1,2分ほど」’

黒服「あ……、こうしちゃいられない! さあ、ラウラちゃん。土産物 持って」ギュッ

ラウラ「あ、ちょっと――――――(あ、どうして私はこの男にこれほどまでに――――――)」

黒服「さあさあ(この野郎、ドイツの銀髪口リ人形の綺麗ですべすべな手と自然な流れで繋ぎやがって…………!)」”

黒服「あちらの船です(きみはさすがだよ。最後の最後まで“彼”のことを気遣っていた――――――)」’

黒服「あの岸の向こうに見えるのがIS学園だぞ」

ラウラ「確認した(だが、まだ私はお前の名前を――――――!)」

ラウラ「(どうしてだろう? ずっとこの手を引いていってもらいたい気がした)」

教員「お、眼帯をした娘――――――、若干時間に遅れたけど余裕を持った日程だから問題ないか」

教員「こちらですよー!」


スタスタスタ・・・・・・




170: 2014/08/28(木) 09:36:04.44 ID:6c5AavVa0

黒服「お疲れ様です。こちらの娘がドイツから来た――――――」

ラウラ「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」ビシッ

教員「ああ……、はい。それじゃボーデヴィッヒさんはこちらへ――――――」

ラウラ「………………」チラッ

黒服「?」

ラウラ「………………!」ギリッ

ラウラ「……もういい」フン!

教員「どうしました? 早く船へ――――――(この娘、見た目に反して結構なお土産を持参してきて――――――)」

黒服「あ、ラウラちゃん。背中にゴミがついてた。ちょっと動かないでくれる?」

ラウラ「なに?」

教員「?」

黒服「………………」サワッ

ラウラ「!?」ビクッ

ラウラ「(く、くすぐったい!? いったい何を――――――)」プルプル


「H」「A」「J」「I」「M」「E」


ラウラ「“HAJIME”――――――」

ラウラ「!」

黒服「よし、とれた。これで大丈夫かな」

黒服「それじゃ、行ってらっしゃい! 楽しい学園ライフを送ってくれよな」

ラウラ「………………」

黒服「?」

ラウラ「……ああ。そうさせてもらおう」フフッ


171: 2014/08/28(木) 09:36:52.18 ID:VOafPGt10

教員「もう大丈夫ですか」

ラウラ「ああ。手間取らせてすまなかった。案内してくれ」

教員「あ、はい(あら、思ったよりも可愛げのある娘じゃない)」ニコッ

教員「それでは、お疲れ様でした」

黒服「ああ(さて、これで仕事も一段落だな――――――)」


スタスタスタ・・・


ラウラ「………………」クルッ

黒服「あ」

ラウラ「――――――」フフッ


Auf Wiedersehen


そして、ドイツから来た銀髪の小柄な少女は本土と学園島を結ぶ定期便に乗って、目的の地へと辿り着くことになった。

「また会いましょう」という言葉と微笑みを残して、少女は未知の世界へと旅だったのであった。

これから彼女がどんな学園生活を送ってくれるのかはどこまでも気になるものであったが、そこからは彼女の道と弁えて風の知らせを待つことにした。

しかし、一夏としては本名を明かせなかったことがどうしても心残りであり、苦し紛れに“ハジメ”と名乗ったことに良心の呵責のようなものを感じていた。

けれども、“ブレードランナー”織斑一夏の人生は彼方に見えるIS学園をいつまでも見つめることだけが全てではなかった。

振り返れば見えてくるこれまでの景色の中で息づいている人々の全てを守るための遙かなる戦いが待ち受けていたのである。

そのことを再び自覚し、彼はまた一人の少女の心に太陽のような暖かい光を灯してあげた後、力いっぱい大地を踏みしめて来た道を引き返し、

それぞれの日常へと――――――それぞれの戦いの日々へと帰っていくのであった。



172: 2014/08/28(木) 09:37:49.94 ID:6c5AavVa0

第4話A 光と影の交差する場所
VirtualSpace "Pandora's Box"


――――――学年別トーナメントまで残り2週間ほど

――――――放課後

――――――アリーナ


ラウラ「…………今日はここまでだ」

雪村「……ありがとうございました」ハアハア

箒「凄いじゃないか、雪村!」

シャル「うんうん。初心者とは思えない動きだったよ」

雪村「ありがとうございます」

箒「それに、ラウラも。さすがは代表候補生だ」

ラウラ「当然だ。私は織斑教官の教えを賜って最強になれたのだ。これぐらいのことは実に容易い」

ラウラ「そういう貴様らはこんなところで油を売っていていいのか?」

箒「?」

シャル「…………!」

ラウラ「確か貴様は、あの“篠ノ之博士の妹”らしいではないか」

箒「…………!」

ラウラ「――――――どういうつもりだ?」

箒「…………『どういうつもり』とはどういうつもりだ?」

ラウラ「貴様は“篠ノ之博士の妹”として――――――いや、だからこそ、この男に肩入れしているのか?」

ラウラ「見たところ、貴様はろくに訓練にやらずに、この男の世話ばかりしているようだが…………」

箒「それは…………」

シャル「箒…………」

箒「…………好きでやっていることだ」

ラウラ「そうか」

ラウラ「…………理解できなくはないが、どうにも納得がいかないな」

ラウラ「それとも、弱い者同士の傷を舐め合う道化芝居ということか?」

シャル「ラウラ――――――!」ガタッ

箒「いや、いいんだ、シャルル。お前が怒るようなことじゃない」

シャル「で、でも――――――」

ラウラ「ほう?」


箒「私にとってIS〈インフィニット・ストラトス〉が全てではない」


ラウラ「…………なに?」

雪村「………………」


173: 2014/08/28(木) 09:39:15.36 ID:VOafPGt10

箒「確かに姉さんがISを開発したせいで、否が応でも私は“ISの開発者:篠ノ之 束の妹”になってしまったが、」

箒「私の人生には元々ISなどなかったことだし、私はこのIS学園で私が生きたいように生きることを覚えた」

箒「だから、別にISバトルの勝ち負けなんかに興味はない。人並みに使えればそれでいいと思ってる」

箒「私の適性などたかだかCだし、私よりも適性の高い人間など山ほどいるからな。今 努力したところで急に強くなれるわけでもない」

箒「けどな? だから私は、今までの私ができなかったことに挑戦しようと思っているのだ」

ラウラ「何だ、それは?」


箒「学園のみんなと一緒になることだ。独りにならないことだ。独りにさせないことだ」


シャル「――――――『独りにならない』、――――――『独りにさせない』」

雪村「………………」

ラウラ「…………なるほど。弱い奴は弱い奴なりに考えがあるということか」

箒「わかってくれたか」ホッ

ラウラ「この私に対して物怖じせずにここまで言い切ったやつはこの学園ではお前が初めてだ」

ラウラ「――――――敬意を表す」

シャル「…………箒!」

箒「ありがとう、ラウラ・ボーデヴィッヒ」


174: 2014/08/28(木) 09:39:54.46 ID:6c5AavVa0

ラウラ「………………」

雪村「?」

ラウラ「いや、“アヤカ”。お前は帰っていいぞ。お前たちもだ。これ以上は時間の無駄だ」

雪村「では」

箒「ああ。今日もお疲れ様」

シャル「それじゃ」

ラウラ「…………ああ」

スタスタスタ・・・・・・

ラウラ「………………」

ラウラ「…………教官、確かにあいつは昔の私と同じでした」

ラウラ「そして、おそらくは――――――」

ラウラ「ふふ、最初はどうなることかと思っていたが、やってみるとなかなかに――――――」


Auf Wiedersehen


ラウラ「ハジメ、私はちゃんと約束を守っているぞ」フフッ

ラウラ「たぶん、お前の正体は――――――」


――――――また会いたいな。



175: 2014/08/28(木) 09:40:35.97 ID:VOafPGt10

シャル「これならベスト8も余裕だよ、“アヤカ”くん」

雪村「でも、PICコントロールが未だにうまくいかないから、射撃機と当たったらそれで終わってしまう……」

箒「それはどうしようもないことだな。ましてや乗り始めてすぐのトーナメントだからな…………」

箒「まあ 最初の1年はそういうものだと、見る方もわかっていることだし、本当の勝負は来年からだ。そう気を落とすな」

雪村「ありがとうございます」

シャル「…………ねえ、“アヤカ”くん?」オドオド

雪村「……何?」

シャル「その……、トーナメントで一緒に組むとしたら誰がいいの?」

雪村「………………」

シャル「ああ……、やっぱり――――――」

箒「どうしたというのだ、シャルル? 藪から棒に?」

シャル「あ、いや……、僕はその――――――」

箒「………………あれ?」

シャル「?」

箒「お前、少し見ない間に窶れてないか?」

シャル「そんなことは――――――」

箒「…………シャルル」ヤレヤレ

箒「お前も案外 不器用なやつなんだな、私が言うのも難だが」

シャル「…………?」

雪村「………………」


176: 2014/08/28(木) 09:41:37.41 ID:VOafPGt10

箒「私はこの学園に来るまで“姉さんの――――――“IS開発者の妹”として執拗なまでの監視と聴取を受けてきたんだ」

シャル「…………そうなんだ(それっぽいことは以前にも、さっきラウラに言っていたけど――――――)」

箒「そのせいで、自分でも嫌になるぐらい荒んだよ」

箒「歳が10も離れた姉さんがISを開発したせいで、片田舎の神社の一家は世界中の人間の注目を集めてしまい、」

箒「姉さんを含む私の家族は逃げるように各地を転々とすることになった」

箒「けど、姉さんのせいで各地を逃げ回るようになったのに、姉さんは自重することなくあっちこっちで人に迷惑を掛けて――――――」

箒「最初から最後まで姉さんに振り回されて、気づけば父も母も姉さんとも離れ離れに暮らすことになっていた」

箒「おかげで、私は見ず知らずの人間を何人も親として接するように強制され、ニセの親子の間に交わされたことは常に姉さんのことばかりだった」

箒「そして、私は転校に次ぐ転校を重ねていく中で友達らしい友達もできず、」

箒「ニセの名前を与えられた私ではない私を次々と演じさせられ、誰の記憶にも残らない存在になっていった」

箒「回数を重ねていけばいくほど、私への政府の対応というものも酷いものになっていた…………」

雪村「………………」

箒「でもな、シャルル? そんな中で気付かされたことがあるんだ、ここに来て」

シャル「それは、何?」

箒「確かに最初こそは周りが変わって、自分のことを苛んでいるように思えることだろう」

箒「でも、それは違うんだ。――――――雪村との付き合いの中で私はそれを確信している」

箒「周りは何も変わることはない」


――――――変わったのはあくまでも自分だった。


箒「それはつまりは――――――、」


――――――自分が変われば世界が変わる。


箒「そういうことなんだ」

シャル「え…………」

箒「周りはごく自然な対応として私たちに接してきているだけに過ぎない」

箒「それを苦に思うのならば、原因は自分の中にあってそれを受け容れることから始めないと何も変わらないし、自分が救われない」

雪村「………………」


177: 2014/08/28(木) 09:42:21.10 ID:6c5AavVa0

箒「こいつはな、シャルル? 入学当初は本当に最悪なやつだったよ」

箒「人の話はちゃんと聞いてはいるようだけど、それを態度に表さずにそっぽを向いたままで応対するし、口数も少ないし屁理屈も言うしさ」

箒「最初の頃のセシリアなんて雪村のことが大嫌いで仕方がなかったな」

シャル「………………そうだったんだ」

箒「だから、周囲の反応も今ほど肯定的なものではなかった。元々の雰囲気からして世界的な有名人にも関わらず期待されていなかったようだしな」

箒「けど今は、雪村のことをクラスのみんなが理解して気軽にふれあっている」

箒「これは雪村が少しずつ自分を変えていった結果なんだ」

箒「最近は暴走事故の件で以前ほどよく思われてはいないんだけど、暴走事故が起きる少し前までは学園の噂の的だったんだ」

箒「だから、『周りが悪い』『自分は悪くない』ってそこで立ち止まって『白馬の王子様が助けに来てくれるまでジッとしている』のは違うと思う」

箒「………………男のシャルルにこんなことを言うのは変かもしれないけど」

シャル「………………」

箒「今が苦しいのなら、今を変えるための何かを始めるべきだと思うんだ」

箒「雪村が今のようになれたのは、自分から変えようとみんなに立居振舞を教わったり、少しでもわかってもらえるように話しかけたりするようになったからだ」

箒「シャルルも、まずは誰かに自分の中の苦しさを話す努力をするべきだと思う。それは私でもいいし、少し頼りないがこいつにだっていい」

箒「同じ代表候補生のセシリアだっているし、世界一の織斑先生や山田先生だっているんだ」

箒「自分が話しやすいと思った人に思いきって声を掛けてみなって。それで自分が変われば世界の方から変わっていくから、な?」

シャル「………………」

シャル「……ありがとう、箒」

シャル「そっか。二人共、苦労してきたんだね……」

箒「ああ。最初の一歩を踏み出す勇気が一番難しいんだけどな」

箒「けど、その一歩さえ踏み出すことが覚えれば、あとはもう行くところまで行くさ」フフッ

シャル「そんな気がするよ、今の箒を見てたらさ」

シャル「(そうか。そういう考え方があるんだ……)」

シャル「(今の僕に必要だった答えがここにあったんだ…………)」ドクンドクン

雪村「………………」


「……………………フフッ」




178: 2014/08/28(木) 09:43:23.08 ID:VOafPGt10

雪村「………………!」ピピッピピッ

箒「あ」

シャル「プライベートチャネルの通信だね」

雪村「……………」ピッ

――――――
千冬「“アヤカ”、週一の定期検診だ。夕食を摂ったらすぐに来い」

千冬「わかったな? 待っているぞ」
――――――

雪村「わかりました」ピッ

箒「何だって?」

雪村「週一で定期的な検査を受けることになりました。夕食は早めに摂らせていただきます」

箒「そうか。行って来い(――――――ということは、雪村にどうしてIS適正があるのかを本格的に調べることになったのか?)」

雪村「はい」

シャル「………………」ジー

箒「どうした、シャルル? 今からでも、私で良ければ相談に乗ってやるぞ?」

シャル「ううん。そうじゃなくてね」

シャル「本当に二人は『信頼しあってるんだな』って」

シャル「でも、それは恋人って感じでもないし、何だか本当に巷で言われている“母と子の関係”っていうのがしっくりくるよね」

箒「……もうそれでいい。私としても変に関係を疑われるより気分が楽だ」ハア

シャル「ははは……、箒ってその、何ていうか時々『男らしい』っていうか凄く堂々としていてかっこいいよね」

箒「そ、そうか? まあ 父のようにありたいと日々 精進してきたからな」

箒「そう思われてもしかたないか…………(やはり、『女らしくない』と思われているのだろうな…………)」ハア

シャル「?」


179: 2014/08/28(木) 09:44:03.47 ID:6c5AavVa0

雪村「………………」ジー

箒「む? どうした、雪村? 早く着替えてきなって――――――」


雪村「お母さん」ボソッ


シャル「へ」

箒「は……」

雪村「………………」プイッ

タッタッタッタッタ・・・・・・

箒「あ、雪村…………!?」ドクンドクン

シャル「…………行っちゃった」

箒「何だったのだ、今のは……(びっくりして心臓が凄く高鳴ってる……)」ドクンドクン

シャル「もしかして、――――――『言ってみたかった』とか?」

箒「ハッ」

箒「も、もしかして――――――(…………雪村は察していたのだろうか? けど――――――!)」カア

箒「ああもう! 調子が狂う!」

箒「まったく、雪村め!」プンプン

箒「見てろ! 今度はこっちがびっくりさせてやるんだからな!」テレテレ

箒「行くぞ、シャルル。いつまでもここで油を売っていられるか!」

シャル「う、うん……(何ていうかやっぱり、安易に恋愛だとくくれない不思議な関係も素敵だよね……)」ニコニコ




180: 2014/08/28(木) 09:44:41.04 ID:6c5AavVa0

――――――夜

――――――地下秘密区画


雪村「………………」(電脳ダイブ専用シート)

――――――
千冬「さて、これで二度目の電脳ダイブとなるが、気分はどうだ?」

千冬「少しでも不調があるなら遠慮なく言え。1年は50週はあるのだからな、3年あれば150週だ」

千冬「今日できなければ、次にやればいいだけのことだ」
――――――

雪村「では――――――、」


――――――電脳ダイブの時についてくる人は誰ですか?


雪村「ただのサポートプログラムだと思えなかったのですが」

――――――
千冬「…………それは私だ」
――――――
・・・ ・・・・・・
雪村「それはあなたのことですか? それとも“織斑千冬”のことですか?」

――――――
千冬「………………」

千冬「…………なるほどな(さすがに感づいているか)」

千冬「(元々の素養もあるが、これまでの日々の中で他者への警戒心から洞察力が恐ろしく発達したと見える)」

千冬「安心しろ。どちらにせよ、お前の味方だ」

千冬「私を信じろ。私もお前を受け容れよう」
――――――

雪村「わかりました。始めてください」

――――――
千冬「ああ。それじゃ狎れを起こすといけないから、毎回毎回 馬鹿丁寧にいくぞ」

千冬「では、――――――始めるぞ」
――――――

雪村「…………!」


雪村「……」


雪村「」





181: 2014/08/28(木) 09:45:25.83 ID:VOafPGt10

――――――月夜


雪村「………………」

雪村「………………」

雪村「………………」

雪村「――――――!」ササッ


――――――捕まえた。


「あっ…………」ビクッ

雪村「お久しぶりです、」


――――――織斑一夏さん。


一夏「あっちゃー、見つかっちゃったなー」ドクンドクン

雪村「篠ノ之神社ではお世話になりました」

一夏「うん。元気しているようで何よりだよ」アセタラー

一夏「それじゃ――――――」

雪村「…………今日もありがとうございました」

一夏「えと、何のことかな~?」アセアセ


雪村「先週も今日も仮想空間で助けていただきました」


一夏「いや、それは千冬姉がやったことで――――――」アセアセ

雪村「外部の人間がどうして仮想空間のことを知ってるんですか?」(ハッタリ)

一夏「…………!」

一夏「えと俺は――――――、そう! 友矩が――――――」

雪村「ああ 友矩さんも居たんですか」

一夏「あ」

雪村「もう何も言わないほうがいいのでは?」

一夏「ああ…………」シュン

一夏「………………わかった。わかったよ!」


――――――どういたしまして! これからもお前のことを守ってやるぞ!


一夏「……これでいいか?」

雪村「はい。ありがとうございました」


182: 2014/08/28(木) 09:46:16.35 ID:VOafPGt10

一夏「けど、どうしてこんな真暗闇の中、俺がここに来るってわかったんだ?」

雪村「『知覧』が教えてくれました」

一夏「――――――『知覧』?」

一夏「ああ! お前の相棒の名か!」

雪村「はい」(待機形態の銀灰色の腕輪を見せつける)

一夏「…………あれ?」

一夏「どうして俺はそんなことを知ってるんだ?(初めて聞いた名なのに、――――――俺、冴えてる?)」

雪村「………………」

一夏「まあいいや。夜も遅いし、寝坊しちゃまずいから子供は早く部屋に帰りな」

雪村「いえ、まだ言うことがあります」

一夏「?」


――――――ラウラさんに僕のことをよくしてもらうように頼んだのは一夏さんなんでしょう?


一夏「いっ!? そこまでわかってたの――――――」

雪村「ラウラさん、“ハジメ”って人に恩義があるのを一人呟いていたから」

雪村「そして、僕も“ハジメ”って人には一人 心当たりがあって――――――」

一夏「あ…………」

・・・
友矩『ハジメの馬鹿がお騒がせしました。どうぞ、我々のことはお気になさらず。――――――では』


一夏「ああ…………、まさかそういう繋がりでバレるとは…………」

雪村「それに、友矩さんの方は声の調子をちゃんと変えてましたけど、」

雪村「一夏さんは迂闊にも黒服の状態でも平服の状態でも声を変えずに喋ってましたからね」

雪村「この前の日曜日、篠ノ之神社でお会いした時にすぐに気づきましたよ」

雪村「そして、友矩さんの一夏さんに対する態度も黒服の時とそっくりそのままでしたので自然と重なったんです」

一夏「ま、マジかよ…………(俺、意外と隠密には向いてないんだな。そういうところの気配りなんてできない……)」


雪村「でも、そんな人に守ってもらえてることがすごく嬉しいです」ニッコリ


一夏「あ……、“アヤカ”(おお! 篠ノ之神社で見せてくれた笑顔と同じ――――――いやそれ以上のものじゃないか!)」ホッ


183: 2014/08/28(木) 09:48:12.15 ID:VOafPGt10

一夏「…………なあ、“アヤカ”?(よかった。本当によかった――――――)」

雪村「何ですか、一夏さん」

一夏「お前の人生を写しだした仮想空間がどういうものなのかは自分の中でははっきりしているのか?」

雪村「いえ。意識そのものは完全になくて、そちらで削除しきれずに『知覧』に残されたデータと眠っている間に呼び起こされた感覚ぐらいしか――――――」

一夏「そっか。そりゃそうか。自分の心の世界を写しだすのに起きていたらいろいろと心が揺れ動いて安定しなくなるもんな」

雪村「…………どんな感じなんです? ――――――僕の世界というのは」

一夏「ああ。どこまで話していいのかわからないけど――――――、」


――――――IS学園がまずあって、外にはブラックホールが渦巻いていた。


一夏「そんな感じだったよ」

雪村「………………」

一夏「俺はその……、フロイトやユングの心理学を少し囓っただけでその光景がどういった意味なのかまで正しい分析なんてできないけど、」

一夏「電脳ダイブでの仮想空間の構築っていうのは、表層的な心理から徐々に徐々に心の奥深いところへと入っていくものだって聞いてるから、」

一夏「少なくとも、俺が電脳ダイブして入り込んだIS学園っていうのは最近の“アヤカ”の精神世界を表しているんだと思う」

雪村「なるほど」

雪村「それで、少なくとも退廃的だとか暗いイメージはなかったんですね?」

一夏「ああ。電脳ダイブのスタート地点のお前の寮室は物凄い暖かさに包まれていて、そこにいるだけで俺も満たされた気分になったぞ、ホントに」アセタラー

雪村「そうなんだ。よかった……」ホッ

一夏「………………ホッ」

一夏「それで、今日の仮想空間の構築でIS学園の外に通じる道と街ができていてな」

雪村「…………!」

雪村「もしかして、K県?」

一夏「ああ……、たぶんそうだったんじゃないかな? そんなイメージの名産や代表的な山や像がなぜか町中で目立つように存在していたし」

一夏「けど、ブラックホールへと伸びていく道の途上にあるせいか、IS学園に比べると何だか人が住んでる感じじゃなかった」

雪村「………………」

一夏「これってもしかして、“アヤカ”がここに来る前に住んでいた街だったのか?」

雪村「…………たぶん」

一夏「すると、これからの仮想空間の構築で増えていく領域っていうのは“アヤカ”にとっての過去の世界が続いていくってことなのかな?」

雪村「わかりません。自分のこともわからないので」

一夏「…………そうだな(この言葉に偽りはない。――――――仮想空間はまさに言葉通りの世界だったから)」

一夏「あれ?(でも、もしかしてこれは――――――)」アセタラー


184: 2014/08/28(木) 09:49:09.42 ID:6c5AavVa0

雪村「どうしたんです?」

一夏「お前って仮想空間の構築中じゃ意識がないから、俺がそこで何をしているのかなんてわからなくなるはずじゃ――――――」

雪村「でも、知っています。だから、僕と一夏さんはこうして話をしている」

雪村「僕自身の精神が電脳ダイブでの体験を覚えていたのか、『知覧』が密かに記録していたことを教えてくれていたのかはわからないけど」

一夏「…………そっか」ホッ

雪村「?」

一夏「あ、もうこんな時間だよ。子供は早く寝床につきなさい」

一夏「今日はこんな形で話し合うことになったけど、前々からこうやって同じ“男子”同士で話してみたかったんだ」

一夏「よかったよ。思っていたよりもずっと明るい子で」

雪村「僕もこうして“織斑千冬”であるあなたともお話することができてよかったです」

雪村「それに、仮想空間がどんなものなのかも気になってましたし、本当にお話できてよかったです」

一夏「そうだな……」


――――――自分の左手で自分の左手を掴めないように、自分の心を自分の心で正しく見ることはできないもんな。












「そうですか、一夏。あっさりバレちゃいましたか……」’ニコニコー

「そして、対象に仮想空間の実態をある程度 喋っちゃいましたね?」’

「この馬鹿者が……。あれだけ『用心に用心を重ねろ』と――――――」プルプル

「い、一夏くん……」オロオロ

「だ、だって! ――――――こんな夜遅くに! ――――――検診が終わって1時間は経っていたのに! ――――――誰もいない真っ暗なところに!」アセダラダラ

「言い訳無用! 貴様はいつになったら社会人としての自覚と責任感を持って事に当たるのだ!」ボカスカ

「いだっ! ちょっ、やめてとめてやめてとめて――――――」ドカバキ

「ぐはっ!?」

「どうした、一夏? 積もる思いはまだまだこんなものではないぞ?」ゴゴゴゴゴ

「た、助けてえええええ! 友矩ぃいいいい! 真耶さああああああん!」ゴキバキ

「ご、ごめんなさい、一夏くん…………(それに織斑先生、どことなく楽しそうだし、邪魔しづらい…………)」

「これは罰です。守秘義務を破ったことに対する当然の処置です」’

「そ、そんな――――――、」

「ふんっ!」バキッ!

「うわああああああああああああああああああああああああああ!」・・・・・・ゴキャ!



185: 2014/08/28(木) 09:49:48.56 ID:VOafPGt10

――――――休日


箒「確か、XXXX駅 降りてすぐの高級マンションだったはず……」

箒「おお! あれか! 駅からでも見えるぞ!」

箒「そして、ここから学園までモノレールで直通、近くにはショッピングモールもあって庶民向けの手頃な店がいっぱい軒を連ねている――――――」

箒「へえ、確かに凄くいい立地条件だな。――――――独り立ちしたらこういうところに住みたい、なんてね」フフッ

箒「さあ、参ろう! 一夏の家へ!」ウキウキ









ピンポーン!


箒「………………」ドキドキ

――――――
「はい。どちらさま――――――」
――――――

箒「あ、私だ、一夏――――――」ドクンドクン

――――――
「おお? 箒ちゃんじゃないか!? あれ?」

「――――――あ! 今日だったじゃないか!」
――――――

箒「………………」イラッ

箒「帰ってもいいのだぞ?」ジトー

――――――
「い、今 開けるからな!」アセアセ
――――――

ガチャリ・・・

一夏「よ、ようこそ、我が家へ」ニコニコー

箒「忘れていたな」ジトー

一夏「ごめん。忙しかったから……」シュン

箒「……上がらせてもらうぞ」

一夏「あ、うん……」


186: 2014/08/28(木) 09:50:39.90 ID:6c5AavVa0

―――――― 一夏のマンション


箒「おお!」キョロキョロ

箒「なんという開放感! 学園の寮も素敵だが、さすが高級マンションなだけあって品が良い」

箒「(そうか。こんなところに一夏は住んで――――――)」ドキドキ

一夏「悪いな、箒ちゃん。いつもなら友矩が掃除をしている頃なんだけど、なぜか今日は朝 起きたら友矩は出かけていてさ」

箒「………………ムゥ」

一夏「どうした、箒ちゃん? ほら。とりあえず、駆けつけ1杯のアールグレイな。ベルガモットの爽やかな風味が最高だぜ」ニコニコ

箒「あ、ああ。ありがとう…………(アールグレイか。実は結構飲んでるんだよな、雪村のところで――――――だが、美味しい)」ゴクッ

箒「けど――――――」 ボソッ

一夏「?」

箒「(うん。知ってはいた。―――――― 一夏と友矩さんがルームシェアしていることは知ってた。当人たちから教えられたことだから)」

箒「(だから、何となくここに来るのには勇気が必要だった。妙な親近感を覚えるのが友矩さんだけど、やっぱり私からすれば一夏の友人でしかないし)」

箒「(しかし、――――――悲しいかな、友矩さんは今日のことをしっかり覚えていてわざわざ気を利かせてくれたのに、)」

箒「(この唐変木は、そもそも私が来ること自体 忘れていたし、友矩さんがどうして出かけていったのかさえも察していない!)」

箒「(本当にこのベルガモットのフレーバーティーの爽やかさと同じくらいに、一夏は無邪気で混じりけがない)」

箒「………………ハア」

一夏「?」

箒「(きっと一夏は、私がどういう思いでここに来たのかもわかっていないのだろうな……)」


箒「(しょ、将来を誓い合った仲だというのに、あまりにも薄情ではないか……!)」


箒「(うぅ……、そう考えると何だか突然 緊張してきたではないか…………)」ドキドキ

箒「(一夏め! ここは男らしく私の気持ちを察してくれ!)」

一夏「???」


※織斑一夏(23)←大変重要。篠ノ之 束と織斑千冬と1歳しか違わない。(21)ではない
篠ノ之 箒(14)←結婚もできない齢の“篠ノ之 束の妹”。1年1組のマドンナ


187: 2014/08/28(木) 09:51:39.11 ID:VOafPGt10

一夏「えと……」

一夏「(マズイ! 俺一人で“束さんの妹”に何を話せばいい!? 友矩が居てくれれば何とか上手くいくんだけど――――――)」

一夏「(何か共通の話題を! そこから活路を見出すしかない!)」

一夏「(俺の経験からすると、この娘は俺とは顔馴染みで久しぶりに会ったんだから昔語りするのがベストか?)」

一夏「(いや、昔語りすると――――――!)」


――――――いくら将来を誓い合った相手だからって、裸になって、それも他の男がいる中でできるかあああああああ!


一夏「(ダメだ! 確実に身に覚えがない結婚の話になって、また『天誅』されてしまう!)」

一夏「(なら、俺と箒ちゃんの間にある共通の話題ってのは何だ? これがベターなはずだ)」

一夏「(けど、束さんのことを訊くのはさすがにマズイのは俺でも理解している! 何か他にないのか?)」


――――――そうだ、“朱華雪村”だ!


一夏「(そういえば“アヤカ”はどうしてるかな? 何か学園での様子を聞く限りだと箒ちゃんはいっつも“アヤカ”と一緒みたいだけど)」

一夏「(よし! これなら安牌だろう。箒ちゃんのイメージだとそこまで男子と仲良くなりそうなイメージがなかったことだし、喜ばしいことだ)」


188: 2014/08/28(木) 09:52:27.50 ID:6c5AavVa0

箒「………………」ドキドキ

一夏「どうだい、箒ちゃん? アールグレイのおかわりなんてどうだ?」

箒「も、もらっておこうか……(一夏め! 何をウジウジしているのだ。焦らすんじゃない!)」

一夏「それでだな?」

箒「な、何だ、一夏……(――――――ようやくか!?)」ドクンドクン

一夏「その……、大丈夫だったか?」

箒「へ」

一夏「そのさ、――――――箒ちゃんも年頃になってきたことだしさ?」プイッ

一夏「『似てきた』って感じだよ、本当に。お前の母さんや父さんの雰囲気がある」

箒「と、突然 何を――――――(これはまさか――――――、その『まさか』なのか!?)」ドキドキ


一夏「そのせいかな? だから、“アヤカのお母さん役”がサマになってたのかも」


箒「…………へ」

一夏「いや だからさ、『本当に箒ちゃんは良い方向に変わったな』って」

一夏「うん。“アヤカ”は幸せなやつだよ。こんな気立ての良い美人さんがつきっきりで面倒を見てくれてるんだもん」

箒「…………一夏?」ピクッ

一夏「それに、箒ちゃんとしてもいい経験が積めてることだろうし、良いお母さんになれると思うぞ、うん」ニコニコ

箒「おい、一夏…………」

一夏「?」

箒「それは、つまり――――――、」


――――――『私と結婚してくれ!』という意味か!?


一夏「は」

箒「え」

一夏「だから、なんでそうなるの……?(あれ? 結婚の話は回避していたはずなのになんでこうなるの!?)」アセタラー

箒「はあ?!」

箒「それじゃ、どういうことだ、これは! 一夏!」ムカー!

一夏「いやいやいや! お兄さん、何を言ってるのか、全然 わからないぞー?!」アセアセ

箒「私と結婚するという約束をしてくれたではないか!」

一夏「だから! 箒ちゃんはまだ14じゃないか! まだ結婚できないって」

箒「そんなのは関係ないではないか! 私の許婚としての自覚がないとはどういうことだ! 私のファーストキスまで捧げたと言うのに!」

一夏「そんなこと言われても――――――、それじゃ具体的に今の俺に何を期待してるって言うのさ!」

箒「な、なにっ!? そ、それは当然――――――」

箒「!」カア

箒「い、言わせるな、馬鹿者!」テレテレ

一夏「支離滅裂だ!(助けてくれ、友矩! 今まで相手にしてきた女の子の中で一番やりにくい相手かもしれない!)」

一夏「(ああ でも、何というか束さんを思い出すな、この感じ。――――――やっぱり姉妹だよ!)」

一夏「(そういえば、束さんもどうしてるんだろう? 3年前に最後のコアを置いて失踪して以来――――――)」




189: 2014/08/28(木) 09:53:12.50 ID:VOafPGt10

箒「うぅ…………」シュン

一夏「……落ち着いた? お昼にしようか」

箒「私はいったいどうすれば…………」ドヨーン

一夏「その……、お付き合いの話は社会人になってから、な?」ニコー

一夏「それに、結婚を急いでるようだけどさ、箒ちゃんには花嫁にふさわしい能力はちゃんとあるの?」

一夏「結婚するって言ったって、おままごとじゃないんだからなさ?」

箒「ば、馬鹿にするな! 料理ぐらいちゃんと作れる!」

一夏「本当? じゃあ、今日の昼食をお願いしていい?」

箒「あ」

箒「ああ! 待っていろ。私がお前の腹を満たしてやる!」

一夏「材料がなかったら近くのスーパーで買い出しに行ってもいいからな? 付き添うぜ?(――――――何だ、今の間は?)」

一夏「(これまでいろんな女性に料理を振る舞われたことがあるけど、これは久々に嫌な予感がする……!)」アセタラー

※織斑一夏(23)は大学時代において超モテモテの経験豊富な“童帝”←ただし、超朴念仁なので特定の誰かと男と女の関係(=本番)になったことがない




190: 2014/08/28(木) 09:53:57.88 ID:6c5AavVa0

――――――それから、


箒「で、できたぞ……」コトッ

一夏「………………」

一夏「ねえ、箒ちゃん?」

箒「ど、どうだ?」ドキドキ

一夏「これ、何? ――――――リゾット? ――――――おかゆ? ――――――雑炊?」

箒「なっ?! どこからどう見てもチャーハンだろうが!」

一夏「なら、これはあんかけチャーハンか?(トロトロっどころか水気が多すぎてグジュグジュだけどな!)」
・・・・・・・・
一夏「(――――――予感的中だな。これは“彼”のためにもただで帰すわけにはいかなくなったぞ)」

箒「ええい! 見た目のことはどうでもいいだろう! 食べてみろ、とにかく!」

一夏「それじゃ……(料理っていうのは総合芸術だ。味だけが良ければいいって話じゃないのにな…………)」パクッ

一夏「………………」

箒「ど、どうだ?」ワクワク

一夏「はい、あーん」

箒「へ」

一夏「あーん」

箒「お、おお!(ま、まさかこれは――――――!)」ドキドキ

箒「!」パクッ

箒「………………う」

一夏「美味しいか?」ジトー

箒「全然……」

一夏「味見してないでしょう? 自分がどんなふうに味付けしたかもわからないのにそれを人様に出すとは恐ろしいやつだな……」

一夏「ましてや、自分が美味しいとも思わないものを人様に出すとは――――――、相手を思うことがない自分本位の料理のどこに真心がある?」

箒「…………ごめんなさい」グスン

箒「うぅ……………、うわああああああああああああああああああああああああああん」ポロポロ

一夏「………………ハア」

一夏「(最近の娘って上手くいかないと赤ん坊のようにすぐ泣くよな。それもしかたがないことか)」


191: 2014/08/28(木) 09:54:41.52 ID:6c5AavVa0

一夏「ま、出されたものはとりあえず全部食べるけどな」

箒「え」

一夏「ごちそうさまでした」ペロリッ

箒「無理に食べなくてもよかったのに…………」グスン

一夏「料理っていうのは1つの総合芸術だ。プロを気取って少し気に入らなかったからといって残飯入れにすぐに捨てるのは生命への冒涜だ」

一夏「それは食材を作ってくれた生産者への冒涜だし、食材を買うお金をくれた人への冒涜だし、1つの料理に関わる全ての人に対する冒涜になる」

一夏「俺がここで食べきらなかったら、箒ちゃんの気持ちを踏みにじることになるからね。大丈夫、別に食べて氏ぬようなものじゃないから」

一夏「――――――世の中には居るんだよな、たまに(………………殺人料理:謎の物体Xを作っちゃうようなザンネンな娘がさ!)」アセタラー

箒「…………?」

一夏「そして、今度からは自分でちゃんと味見をして、研究して、責任を持つこと」

一夏「いいね?」ナデナデ
         ・・・・・
箒「う、うん……、お兄ちゃん」

箒「ハッ」

一夏「――――――“お兄ちゃん”か。ずいぶん懐かしい呼び方をしてくれたもんだ」フフッ

箒「うぅ…………」テレテレ

一夏「さて、最初から不味い料理を『不味い』と否定するのは簡単だけど、実際に食べてみてどういう料理を目指してどう料理に心を向けていたのかを問わないとな」

一夏「せっかく来たんだからさ、1つぐらい学園でも作れるような美味しい料理の作り方をおみやげに帰ってくれよな」

一夏「ついでに、料理のいろはってやつを教えてやるから。そうすれば自分であれこれ料理を作れるようになるはずだぜ」ニコッ

箒「うん」

一夏「さて、チャーハンか。チャーハンにもいろいろ種類があるけど、」

一夏「どんなチャーハンを作りたかったのかな? まずはそこをはっきりさせようか」


こうして歳の離れた奇妙な関係の男女は健全な距離感で美味しいチャーハンとたまごスープの料理教室をしていきましたとさ。

しかし、一筋縄ではいかないのがこの二人の痴情のもつれであった。

これこそが織斑一夏が“童帝”である所以であり、篠ノ之 箒が“篠ノ之 束の妹”である所以であった。


192: 2014/08/28(木) 09:55:39.35 ID:VOafPGt10

一夏「よし。これで料理の作り方も一通り覚えたことだし、自分でちゃんと作れるようになるだろう」

一夏「ちゃんと美味しくなっていたぜ、お前のチャーハン」

箒「…………今日は本当にありがとう、一夏」

一夏「もう“お兄ちゃん”って呼んではくれないのか」

箒「あ、あの時は――――――!」

箒「は、恥ずかしくて二度と言えるか、そんなこと!」カア

一夏「ははっ、そういうことにしてあげる」フフッ

箒「くぅう…………」

一夏「門限があるんだっけ? なら、遅れないようにな。駅まで送っていくよ」

箒「さ、さすがに、そこまではしなくてもいい」テレテレ

箒「(下手をしたら、IS学園まで一直線だから学園の誰かに見られるかもしれないし)」

一夏「そうか」

一夏「それじゃあな」ニッコリ

箒「ああ。今日は本当にありがとう。またな」ニッコリ


バタン!


一夏「………………フゥ」

一夏「本当に女の子らしくなったよな、箒ちゃん」

一夏「けど、束さんと比べたら『小さいかな』って……」

一夏「にしても、――――――友矩のやつ、ずいぶん遅いな。丸一日空けてるつもりなんだろうか?」


ピンポーン!


一夏「はい?(――――――おや、宅品便かな? 珍しいな)」

ガチャ

箒「………………」

一夏「何だ? 忘れ物か?(…………箒ちゃん?)」

箒「は、話がある……」

一夏「何だよ、改まって……」

箒「月末の、学年別個人トーナメントだが……、」

箒「わ、私が優勝したら…………、」ドキドキ


箒「つ、付 き 合 っ て も ら う ! 」


一夏「…………はい? ――――――『学年別個人トーナメント』? ああ……、IS学園の――――――」


193: 2014/08/28(木) 09:56:37.69 ID:VOafPGt10

箒「そ、そういうことだから――――――!」ガバッ

箒「…………!」カア

一夏「ちょっ――――――!?」ドキッ

一夏「箒ちゃん、当たってるんだけど――――――!」カア

箒「こ、これで、その……、」

箒「…………意識するのか?」ドクンドクン

一夏「はい?(『意識』って――――――、俺は口リコンじゃないって!)」

箒「だ、だからだな――――――、」ドキドキ

一夏「うおっ?!(え、何!? 自分から揉ませて――――――)」モミモミ
 箒「きゃっ」ドクンドクン

箒「私を異性として意識するのか、訊いているのだ……」ドクンドクン

一夏「あ、ああ……、まあな…………」(――――――妹分として)アセダラダラ

箒「そうか」

 箒「………………」ポッ
一夏「……………………」

一夏「(で、いつまで俺の手は箒ちゃんの胸を揉んだままなのかな…………?)」

一夏「(助けてくれ、誰か……)」


「ハックショイ!」


一夏「あ」

箒「!?」ビクッ

箒「ハッ」

箒「う、うわあああああ! わ、私は――――――」カア

一夏「ああ……、あははは…………」ニコー

箒「そ、そんなわけだからな! 首を洗って待っていろよ! うわああああああああ!」


タッタッタッタッタ・・・・・・


一夏「行っちゃった……」

一夏「…………どうしてあそこまで必氏になれるんだよ」ハア


194: 2014/08/28(木) 09:57:25.09 ID:6c5AavVa0

一夏「――――――ダメだ。中学以前のことが思い出せない」

一夏「確か、箒ちゃんは小学4年の時に重要人物保護プログラムでいなくなったんだから、婚約の話があったとすれば最低でも6年前か」

一夏「6年前と言うと、俺が17歳の時だから高校3年か。だったら違うな」

一夏「千冬姉も束さんも高校を卒業して本格的にISの道に入り、俺も上京のための勉学に勤しんであまり付き合いがなかったはずだからな」

一夏「となれば、10年ぐらい前まで――――――、俺が13歳で箒ちゃんが4歳ぐらいの時までが限界か?」

一夏「けど、中学時代も結構あやふやなんだよな、記憶が――――――」

一夏「そう、たとえば『束さんがどうやってISを造ったのか』ということもまったく憶えてないんだ」

一夏「知っているはずなのに……知っていたはずなのに…………」

一夏「……………………」

一夏「………………にしても大きかったな」ドキドキ


友矩「ずいぶんとお楽しみでしたこと」ニコニコー


一夏「ハッ」

一夏「わわわ、友矩! いったいどこほっつき歩いてたんだよ! 大変だったんだぞ!」ドキッ

友矩「きみは女性を狂わせるようなフェロモンでも分泌しているのかな?」

友矩「一方的な婚約宣言をされて、これからどうするつもりなんだい?」

一夏「そうは言われても、まるで憶えてないんだ。身に覚えがない」

一夏「たぶん、10年くらい前のことなんじゃないかって思うんだけど、なぜかその頃の記憶が全然思い出せないんだ……」

友矩「なら今度、実家に帰って思い出の品を漁ってみよう。できることから始めようか」

一夏「そうしよう。これははっきりさせないとダメだな……」

友矩「うん。傍から見ていて、箒ちゃんとのやりとりを本当に他人事のようにしていたからね。見ている方が居たたまれなかったよ」

一夏「確か、話を聞く限りだと結婚指輪まであったらしいけど、本当に俺はそんなものまで贈ったのか?」

友矩「そうだね。唐変木の一夏にあるまじき行為だよね。だからこそ、忘れているのかもしれないし」

一夏「そうだな。そうかもしれない……」

友矩「ともかく、月末の学年別トーナメントには僕たちも行くことだし、少しでも問題となりそうな芽は摘んでおかないと」

一夏「『問題となりそうな』――――――」

一夏「あ、そうだ。さっきのことで頭が沸騰していてそうだから、」

一夏「せっかく教えた料理のいろはとか忘れてないか、チェックしておこう」

一夏「いるんだよね。のぼせあがって頭の中が本当に空になっちゃう娘って」

一夏「ああ……、やっぱり送っていけばよかったかな?」

一夏「いや、ちゃんと学園に帰り着くまで確認し続ければいいか」

友矩「…………こういった心配りを経験でできるのは『“童帝”ならでは』、だね」ハア

友矩「(けど、仮想空間の構築によって“朱華雪村”の過去に触れていく中で、一夏も振り返ることがなかった自身の過去を強く意識し始めている)」

友矩「(やはり、人間にとっての最高の教科書というのは人生経験そのものだね)」


――――――愚者は経験に学び、賢者は歴史に学び、そして 人に歴史あり。



195: 2014/08/28(木) 09:58:25.05 ID:6c5AavVa0

――――――同日


雪村「………………」

本音「あれ~、“アヤヤ”が一人だ~?」

相川「いつも一緒の“お母さん”がいない!?」

谷本「これは――――――」


3人娘「大ニュースだ!」


雪村「何がです?」

谷本「だって、篠ノ之さんったら“アヤカ”くんを置いてどこか行っちゃったんでしょう?」

谷本「これってネグレクト?!」

雪村「?」


雪村「どういう意味かはわかりませんが、今日は許婚だという人に会いにいったようですが」


3人娘「?!」

本音「おお?!」

相川「そっちのほうがもっと大ニュースだよ!」

薫子「何? 何々? その話、詳しく!」

雪村「誰ですか、あなたは?」

薫子「忘れちゃった? 整備科2年にして新聞部 副部長のエース:黛 薫子でーす」

雪村「ああ 新聞部ですか(何だろう? 新聞部にはあまり良い印象がないんだけど……)」

薫子「いつもいつもネタをありがとね、“アヤカ”くん」

雪村「僕が許した覚えもないし、僕がそれで気に障ったこともないので、礼なんて要りませんよ」

薫子「まあ そうなんだけどね……」

薫子「でも、最近の新聞のネタに必ずと言っていいほど、“アヤカ”くんのことばかりが取り上げられるから、」

薫子「たまにはちゃんとインタビューをして正しい情報を載せておかないといけないと思って」

雪村「そうですか」


196: 2014/08/28(木) 09:59:34.29 ID:VOafPGt10

薫子「それで、さっきのはどういうこと?!」ドキドキ

谷本「うんうん。気になる気になる」ワクワク

相川「あの篠ノ之さんに許婚がいたなんて――――――、ちょっと興味があるっていうか、ね?」ドキドキ

本音「“アヤヤ”はどう思ってるのー?」

雪村「思うことですか?」


雪村「――――――『9つ違う相手とうまくいくのかな』って」


一同「!?」

谷本「ねえ、それって――――――」

本音「おねシOタ?」

相川「あんた、普通 逆だと思うけど……」


セシリア「それは本当ですの!?」


谷本「わあ セシリア!? びっくりした……!」

セシリア「“アヤカ”さん! 箒さんに許婚が居たというのは本当のことですの?!」

雪村「本人はそうだと言っていました。再会できたことに涙を流すほどでした」

セシリア「まあ! そういうことでしたらよかったですわ」ホッ

本音「せっしー、何かやけにがっついてるー」

薫子「ところで“アヤカ”くん、――――――『は』ってことは?」

谷本「ん?」

雪村「どうもその人には身に覚えがないようで」

雪村「それでいて、近所の女の子と遊んであげるような“近所のお兄さん”といった風でしたので、」

雪村「互いの感情に擦れ違いが起こっていました」

相川「えと…………」

谷本「ちょっと待って」

谷本「二人の関係は歳の差9つなんだよね」

雪村「はい」

谷本「となると、篠ノ之さんが14でそれに9つ足せばいいから――――――、」カキカキ

谷本「その人は23歳ってことじゃない!」

相川「大学を出ていたら社会人になったばかりって感じだね」

薫子「なるほど……、これは確かに互いへの感情が違って当然かもね。世代が完全に違うんだもん」

薫子「となると、この許婚の話も――――――、」

谷本「幼い女の子が自分に良くしてくれる男の人にするような口約束だった可能性が強いわね……」

相川「うわー、篠ノ之さんったら凄く純情! いいなー、うらやましいなー」

セシリア「何というかそういうのはロマンチックですわね(政略結婚で歳の大きく離れた二人が結婚するという話はよく耳にしますが、これは――――――)」


197: 2014/08/28(木) 10:00:57.63 ID:6c5AavVa0

谷本「でも、篠ノ之さんって本当に普通の人じゃ体験できないような人生経験しているね」

雪村「どういうことです?」

谷本「それはきみもそうだよ」

雪村「?」

谷本「つまりね――――――、」カキカキ


谷本「同い年の“アヤカ”くんと“母と子の関係”になっていて、」

谷本「9つ上の男性が許婚だって言い張っていて、」

谷本「それでいて姉が“ISの開発者:篠ノ之 束”なんだもん」


本音「おおー、なるほどー」

薫子「うんうん。“アヤカ”くんも取材対象として本当に興味深いけれども、篠ノ之 箒さんも負けず劣らずって感じね!」

相川「これはもう他の男の人に目が行かなくなるねー! 篠ノ之さん、最後までファイト!」

雪村「………………」

谷本「恋愛小説でも見ないようなスゴイ関係になってるけど、もし篠ノ之さんが他の男の人に振り向くようなことがあるとしたら――――――!」


シャル「きっとそれはアウトローでワイルドな人かも」ドキドキ


セシリア「……そういうものなのでしょうか? ――――――って、」

一同「!?」

雪村「………………」

シャル「あ、ごめん。邪魔した?」

谷本「ううん。意外とありかもしれない――――――いや、むしろそういった方向性じゃないと絶対にありえないと言ってもいいわ!」

セシリア「何にせよ、箒さんには友人として長年の想いが実って幸せになって欲しいものですわね」

相川「うんうん。幼い頃から育ててきた想いが相手に伝わるといいよねー」

本音「でも、相手としては口リコン扱いは避けられないのだ~」


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!



198: 2014/08/28(木) 10:01:46.30 ID:VOafPGt10

雪村「シャルル」

シャル「あ、何? “アヤカ”くん」

雪村「――――――詳しいな」

シャル「へ」

一同「!」ピタッ

雪村「僕は恋愛をした記憶がないけど、シャルルはしたことがあるの? だから、そういうものだと――――――」

シャル「?!」ビクッ

谷本「そうね。ちょうどいい! 白状なさい!」

シャル「え、えと、それは…………(うわあ! 僕の馬鹿! 僕の馬鹿ああああ! 藪蛇だあああああ!)」アセアセ

シャル「な、無いよ! うん、全然!」ニコー

薫子「それじゃこれからこの学園で作る気はない? みんな、デュノアくんに興味津々よ」

シャル「し、新聞部の副部長さんが居る前でそんなこと言えるわけないじゃないですか!」

セシリア「あら、シャルルさんは箒さんとよく親しそうにしているのをお見かけしましたけれど?」フフッ

シャル「ちょっとセシリア!?(どうしてそんな火に油を注ぐようなことを言うの!?)」

谷本「な、なななんななんと!?」

相川「意外な真実!?」

本音「でゅっちーは母親好き?」

シャル「え、ええええええええええ!?(――――――『母親好き』!?)」ドキッ

シャル「いや、ちょっと待ってよ! 篠ノ之さんはあくまで“アヤカ”くんの付き添いであって――――――」

雪村「…………そうだったのか」

シャル「あ、違うんだ、“アヤカ”くん! これはその――――――」アセアセ


そんなこんなで、いつの間にか話題がシャルル・デュノアの篠ノ之 箒への横恋慕疑惑へと移り変わり、

その口火を切った張本人である“アヤカ”に対する追及は特にされることがなく、シャルル・デュノアは大いに振り回されたのであった。

いつも通り、澄ました顔で“アヤカ”はその場に静かにひっそりと確かに存在し続けるのであった。

ところで、この話題における一番の被害者は言うまでもなく、この場に居ない件の人物なのだが――――――。


199: 2014/08/28(木) 10:02:50.67 ID:6c5AavVa0

雪村「ところで、質問があります」

薫子「あ、何かしら? 何でも訊いて」


雪村「僕の専用機に関する情報が欲しいです」


一同「!」

本音「“アヤヤ”の専用機というとー――――――、」

相川「“呪いの13号機”のことだよね?」

セシリア「たかだか偶然の事故が2回続いたからといって、不名誉な仇名が付けられるのはあまり感心しませんわね」

セシリア「いくら世界に467しかないうちの貴重なISの1機でも、厄介払いするように渡された専用機など――――――」

シャル「そうだよね(それに、“アヤカ”くんの評判に引き摺られて僕も居づらくなっているし……)」

谷本「それはそうなんだけどね…………実際に3年の先輩が未だに意識不明になっていることだしね」

薫子「そうね……」

薫子「そうだ。前に“呪いの13号機”に関する記事を組もうとして“アヤカ”くんに不利益を被らせそうな子がいたから却下したんだけど、」

薫子「その子の書いた記事が凄まじい内容でね。確か――――――、」


「“呪いの13号機”は、極端に敗戦に敗戦を重ねたISであり、」

「その恨み辛みから女性に対して潜在的な敵意を持つようになり、」

「それによって、“特異ケース”である“アヤカ”くんに強い興味を持ち、“アヤカ”くん以外の人間の搭乗を拒否するようになった――――――」


薫子「――――――なぁんて、オカルトチックな記事だったのよね」

セシリア「は、はあ…………」

薫子「さすがに、客観的な事実に基づかない内容を記事にするわけにいかなかったけどね」

谷本「でも、『ISには心がある』って言うし、百物語の題材になるぐらいには説得力はあるかも……」アハハ・・・

相川「ちょっと怖いかも……」ゾゾゾ・・・


200: 2014/08/28(木) 10:03:41.40 ID:VOafPGt10

シャル「実際にどうなんです? “呪いの13号機”は本当に負け続けた機体だったんですか?」

薫子「う~ん、過去の利用記録は生徒ならいつでも自由に閲覧できるんだけど、さすがに模擬戦を含めた対戦成績まで事細かく残したものまでは…………」

薫子「それに私は整備科だから実際にそういったデータの管理や取り扱いの仕方も勉強し始めているけど、」

薫子「基本的に一般機っていうのはパーソナライズしないようにリミッターが掛けられていて、」

薫子「搭乗中に変更した設定も降りたらすぐに一般設定に戻るようになっているんだよね……」

薫子「厳密には、搭乗中ならリミッターを掛けられていても微妙に「最適化」はされてはいるらしいけれど、それを実感するようなことはまずない」

薫子「けど、訓練機全ての稼働データそのものはIS学園のコンピュータに逐一 記録されているって話なの」

セシリア「つまり――――――?」


雪村「記録そのものは学園側で残している可能性が高いけど、まず参照することは無理――――――」


雪村「そういう話ですね」

薫子「そう。そこからは学園の最高機密に触れることになるのよね……」

セシリア「それに、『今の自分が何番の機体に乗っている』と自覚しながら搭乗している人も少ないことでしょうしね」

相川「乗り回さないといけないから、狙って特定の機体に乗り続けるのも難しいよね」

谷本「けど、“呪いの13号機”の『呪い』って私が聞いた感じ、“アヤカ”くんそのものを指している印象はないんだけどね……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
谷本「何ていうか、元々ただ単に“13”だからそういうふうに見られてきたっていうか――――――」


雪村「………………!」

セシリア「それはあまりにも曖昧では?」

谷本「私もそう思うんだけどね……」


201: 2014/08/28(木) 10:04:27.26 ID:6c5AavVa0

本音「およ?」

雪村「………………」

本音「どしたの、“アヤヤ”?」

シャル「あれ、ホントだ。どうしたの、“アヤカ”くん?」


雪村「…………そうか。そういうことだったのか」


シャル「え」

一同「!」

シャル「何かわかったの?」

雪村「――――――僕と同じだったのか」(待機形態である銀灰色の腕輪を掲げて見る)


雪村「たまたま『“13号機”に割り振られた』それだけで――――――」

シャル「へ」


――――――その瞬間!


ピカァーーーン!

一同「?!」

シャル「な、何の光――――――!?」

谷本「『打鉄』の待機形態の腕輪が光って――――――!」

薫子「こ、これは特ダネ 間違いなし!」スチャ(ビデオカメラ起動)

セシリア「“アヤカ”さん!?(この光をISを展開した時のものとはまるで――――――!)」

本音「“アヤヤ”ー!」

相川「何?! いったい何なのー?!」

雪村「………………!」


まるで金色の太陽のような眩いながらも眼を灼くことがないソフトな優しさに満ちた暖かな光が辺りを照らした。




202: 2014/08/28(木) 10:05:10.99 ID:VOafPGt10

シャル「い、いったい何が――――――」

セシリア「しかし、ようやく光が収まって来ましたわ」

シャル「ハッ」

シャル「“アヤカ”くん、それ――――――!」

雪村「………………」

本音「おおー!」

谷本「待機形態の腕輪が銀から金に変わってる?!」

相川「え、どういうこと?!」

薫子「こ、こんなことが――――――」

薫子「あ! ちゃんと撮れてはいるけれど、光が強すぎて結果しか残ってない…………これじゃあまり周囲を納得させるだけのものにはならない」ハア


雪村「きみのままで変われたわけか」


セシリア「“アヤカ”さん!」

雪村「はい」

セシリア「今すぐアリーナか、整備室で機体を確認しましょう!」

シャル「そうだよ! 何か凄いパワーアップをしたって感じだし、すぐに調べるべきだよ」

雪村「わかりました。行きましょう」

薫子「あ、ちょっと待って! 学園に先駆けて新聞部が号外を出しちゃうわ! 独占取材させてー!」


タッタッタッタッタ・・・・・・


本音「何か凄いものを見たねー」

谷本「唐突過ぎて何が何だかさっぱり…………」

相川「でも、“アヤカ”くんとしては何だか進展があったみたいでよかった」

本音「これからどうするー?」

相川「後は専用機持ちのみなさんに任せて、私たちは“アヤカ”くんの誤解が解かれるように何をすべきか考えよう」

谷本「そうね! そうしましょう」

谷本「でも、ここには居ない篠ノ之さん、帰ってきたら驚くだろうなぁ」

谷本「あ」

谷本「ふふふふふ……」ニヤニヤ

相川「そうだね。『今日はお楽しみでしたね』っと」ニヤニヤ

本音「さあ、レッツゴーなのだー」

3人娘「おおー!」



203: 2014/08/28(木) 10:05:59.81 ID:VOafPGt10

――――――某所


1「――――――仮想空間の構築」

1「国際IS委員会の決定とはいえ、まさか本当に実行するとはね……」

1「織斑千冬は本気で我々女性を裏切り、敵に回したいようだな?」

2「いえ、千冬様は極東の地において高校教師などという首輪を繋げられてしまった哀れな存在なのです」

2「それもこれも、“織斑一夏”という獅子身中の虫の存在が千冬様をここまで縛り付けているのですよ」

3「…………落ち着け。国際IS委員会の命令であろうとなかろうといずれはやらなければならなかったことだ」

3「それに、この仮想空間“パンドラの匣”へのアクセスは並大抵の精神力を持った専用機持ちでは遂行不可能と報告されている」

3「世界的にも貴重な専用機持ちをこの極秘プロジェクトのために喚ぶわけにもいかないのだから、日本政府秘蔵の“織斑一夏”の存在はまさに適役だろう」

3「我々としても、『ISがなぜ女性にしか扱えないのか』そのメカニズムを知る手掛かりとして成り行きを見届けるべきなのだ」

1「はっ、話にならないねぇ」

1「私たちはさっさと始末するように言われてここにいるんだよ? “男性ISドライバー”の痕跡を抹消するのが仕事――――――」

3「それならば、どうして“2人目”と“3人目”が登場した? すでに日本では万が一の替えが用意してあるのだぞ?」

1「知らないね。どちらにしろ、日本政府がその存在を隠していることなんだし、世間に出てきたら出てきたらでその時に始末すればいいよ」

1「私たちの仕事は『この世の秩序を乱す芽を摘む』という崇高な使命なんだ」

1「ISは我々女性に与えられた女性だけのものなんだよ」

1「ようやく掴んだ女性による平和をむざむざ男の手に返すつもりはないよ」

2「そうですわ。これで千冬様を穢らわしい野蛮な男たちからお救いすることができますわ」

3「女性のためにあの篠ノ之博士がIS〈インフィニット・ストラトス〉を開発したわけがないというのに――――――」

3「…………もはや語るまい。私は監視者として言葉は尽くした」

3「後は、実働部隊の意思に委ねて見守るほかない」

1「そういうことだよ」

1「口ばっかりで協力する気のない役立たずのあんたはとっとと帰りな」

3「………………」

2「けど! 本当に忌々しい! ――――――織斑一夏!」

2「千冬様の御姿をあそこまで真似て――――――!」

2「しかも、そんなやつ相手に大切な機体を2機も失うだなんて――――――、もう最悪ですわ!」

1「盗られたコアの奪還は進んでいるんだろうな?」

3「ええ。進んではいます」

1「そうかよ」

1「それじゃ、後はあのガキがさっさと“世界で唯一ISを扱える男性”とかいう異物をこの世から消し去ってくれることを――――――!」

2「そうですわね。あんな生きる価値もないゴミ人間はさっさと処分するに限りますわ。千冬様もさぞお喜びになられるでしょう」

2「そしたら今度は織斑一夏、あなたの番ですわよ。オーホッホッホッホッホッ!」

3「………………」

3「いったいいつから組織はこんなにも歪んでしまったのだろうか……」ハア




204: 2014/08/28(木) 10:06:45.23 ID:6c5AavVa0

第4話B 蠢く陰謀
A Secret Intrigue

――――――学年別トーナメントまで残りわずか


ザーザー、ザーザー

友矩「一夏……、きみってやつは――――――」ヒソヒソ

一夏「………………悪い」ヒソヒソ

友矩「僕たちの役目を自覚してないわけじゃないんだよね?」ヒソヒソ

一夏「それは当然だ!」ヒソヒソ


友矩「だったら、どうして見ず知らずの女の子を家に連れ込むなんてことになるんだい?」


友矩「………………」ジロッ

シャル「!」ビクッ

シャル「ご、ごめんなさい……」ヒッグ

シャル「僕、これからどうしたらいいのか、全然わからなくて……」グスン

一夏「あ、おい! 怖がってるじゃないか!」

友矩「家出してきたのか」

一夏「ただの家出じゃない! 放っとけるわけないだろう!」

友矩「また一人、獲物を拾ってきたわけだね……」

一夏「え」

友矩「何でもないよ、うん」

一夏「………………」

友矩「とりあえず様子を見ようか。引き取らせるにしても今の状態じゃ素直に帰ってくれそうにないから」

一夏「ああ……」

――――――――――――

―――――――――

――――――

―――




205: 2014/08/28(木) 10:07:27.59 ID:6c5AavVa0

――――――1時間前、


一夏「今日は強い雨が降りそうだな」

一夏「傘、傘――――――さっさと家に帰ろう」アセタラー


ポツポツ・・・、ザーザー、ザーザー!


一夏「ああ……! 降ってきちまったよ…………!」

一夏「急げ 急げ!」


タッタッタッタッタ・・・


一夏「ん?」バチャバチャ

少女「………………」

一夏「(何だ、あの子? 見たところ、天然金髪の長髪に156cmぐらいの低身長だな)」

一夏「(――――――西洋人の女の子か? にしては、どこかで見たことがあるような感じがするが)」

一夏「(だけど、こんな雨の中、傘を差さずに雨宿りもせずに重い足取りでいるだなんて――――――!)」

一夏「おーい!」

少女「?」

一夏「何やってんだよ。ズブ濡れじゃないか。見てらんないよ」パシッ

少女「あ」


タッタッタッタッタ・・・・・・バチャバチャ・・・・・・




206: 2014/08/28(木) 10:08:09.43 ID:VOafPGt10

――――――マンション:フロント


一夏「…………ようやく帰り着いた」ハアハア

少女「………………」ハアハア

一夏「まったく雨に打たれて何してたんだよ――――――うおっ!?」ドキッ

少女「?」(ズブ濡れのためにスケスケ!)

一夏「…………このままだと、お前 風邪を引くぞ」

一夏「部屋まで来い。シャワーを貸してやるから」

少女「え……」

一夏「(本当ならフロントに雨宿りさせるだけにしたかったけど、さすがにズブ濡れのあれとか見えてる状態のままにしたら相当マズイ!)」

一夏「ほら。お前だってこのままベタベタしてるのは嫌だろう?」グイッ

少女「………………」


――――――ありがとう。



207: 2014/08/28(木) 10:08:50.00 ID:6c5AavVa0

――――――それから、


――――――
ジャージャー
――――――

一夏「…………まったく」(金髪の少女に先にシャワーを使わせて、自身は着替えて清潔さを保つ)

一夏「あの娘が着られそうなのはさすがに無いな…………パンツとかどうしよう? 男物のデカイのしかないぞ」ガサゴソ

一夏「しかたがないから、一通りのものを容れておくか。勝手に着てくれるだろう」

一夏「よし、バスタオルも籠に入れたことだし、着替えを置いてこよう」

一夏「(別に、家出少女を拾ったのは初めての経験じゃない)」

一夏「(けど今回のは、相手が外国人というだけあって一筋縄ではいかないことは薄々感じてはいた)」

一夏「(それなのに関わってしまったからには、その時点で俺は何かに敗けていたのかもしれないのだけれど…………)」


ガチャ・・・


一夏「着替え、ここに――――――」

ガララ・・・

少女「へ」

一夏「あ」

少女「………………」

少女「あ」

少女「うわっ!」カア

一夏「…………それじゃ、着替えをここに置いとくから」

一夏「俺もシャワーを使うから、俺に見られちゃ困るものはそのバスケットに入れて自分の近くに置いておけよ」

少女「う、うん。ありがとう…………」ドクンドクン


ソー・・・バタン


一夏「結構デカかったな…………着痩せするタイプだったのか」

一夏「それじゃ、暖かい飲み物でも準備しておくか」


208: 2014/08/28(木) 10:09:51.44 ID:6c5AavVa0

―――――― 一夏、入浴後


ガチャ・・・

一夏「ふぅ……」サッパリ

少女「あ」

一夏「どうした? コンソメスープのおかわりか? 体の芯まで温まれよ」

一夏「それとも冷たいのがいいか? ――――――アールグレイだけど」

少女「あ、違うんです」

少女「その……、どうして僕のことを…………?」

一夏「…………そうだな」

一夏「別に、きみが初めてってわけじゃないから。こういったことには慣れてるのさ。――――――俺、経験豊富だから」

少女「あ……、そうなんだ。だから――――――」
シロイ
一夏「俺は“皓 ハジメ”だ。きみは?」

少女「あ…………」


少女「……シャルロット・デュノアです」


一夏「そうか。シャルロットちゃんか」

一夏「『デュノア』っていうと、フランス人か? それもIS産業のデュノア社に縁がある者か?」

少女「うん。僕はフランス最大のIS企業:デュノア社社長の妾の子なんです」ズーン

一夏「……そうかい。ほら、もう1杯」

少女「あ、ありがとうございます……」


209: 2014/08/28(木) 10:10:35.61 ID:VOafPGt10

少女「ああ……、美味しい…………」ゴクッ

一夏「それはよかった。美食大国のフランス人に褒められる腕なら三ツ星も狙えるな」ゴクゴク

少女「…………“妾の子”の相手をするのも初めてじゃない?」

一夏「そうだな。別に初めてじゃないよ」

少女「………………」

一夏「どうしたんだよ? まだ寒いのか?」


・・・・・・カチャリ、ガチャリ!


一夏「ん」

少女「あ」


友矩「…………雨の日になると、捨て犬を拾いたくなる衝動が一層強くなるようで」ニコニコー


友矩「きみは何回繰り返せば気が済むのかな?」ゴゴゴゴゴ

少女「…………ひっ!」ビクッ

一夏「帰ってきたのか……」アセタラー

ザーザー、ザーザー

友矩「一夏……、きみってやつは――――――」ヒソヒソ

一夏「………………悪い」ヒソヒソ


―――

――――――

―――――――――

――――――――――――



210: 2014/08/28(木) 10:11:26.89 ID:VOafPGt10


ザーザー、ザーザー

――――――
シャル「ZZZ...」スヤスヤ・・・
――――――

一夏「ようやく、寝かしつけることができたか……」

友矩「なるほど。状況が掴めたよ」

友矩「IS学園も一枚岩ではなかったようだね」

一夏「――――――というと?」

友矩「これはまた、“ブレードランナー”としての仕事が一段と険しいものとなった……」

一夏「…………!」

友矩「ともかく、彼の所在ははっきりした」

一夏「え? ――――――『彼』?」

友矩「なんだ、気付かなかったのかい?」

友矩「彼はフランス代表候補生“シャルル・デュノア”だよ」

一夏「は? シャルル・デュノアっていうと、IS学園に今月 転校してきた“二人目”だよな?」

一夏「けど、あの娘はシャルロット・デュノアであって、胸だってあったし、デュノア社社長の妾の子って――――――」

一夏「あ」

友矩「そういうことだよ。実に陳腐な発想の作戦だね」

友矩「ま、最初から僕は疑ってはいたんだけどね」

友矩「けどそういった間者の摘発は僕たち“ブレードランナー”の役割じゃないし、その権限もない」

友矩「そして、それに気づかない学園でもない――――――」

友矩「明け方、学園まで送って行こう」

一夏「ちょっと待ってくれ。その前に、安否確認はすませてあるのか?」

友矩「ええ。織斑先生に直接――――――」

一夏「それなら安心だな」

友矩「けど、これは幸いなるかな?」スッ

一夏「何だよ、その小瓶?」

友矩「――――――致氏量の薬物が詰まったバイアルだよ」

一夏「!?」

友矩「誰に対して使うものだったのか、一夏でもだいたい想像がつくんじゃないかな」

友矩「自頃するためにわざわざ用意していたものとは思わないよね?」

一夏「それは…………!」アセタラー


211: 2014/08/28(木) 10:12:08.86 ID:6c5AavVa0

まるでカカアのように頭が上がらない友矩を前にしていた一夏はいよいよ本格的に大粒の冷や汗を流すこととなった。

いったいいつくすねたのか、そしてどうやって密閉された小瓶の中身が致氏量の薬物なのかを自信を持って断定できたのかはわからないが、
ベストパートナー
一夏はこれまでもずっとに一緒に氏線を潜り抜けてきた最高の戦友の言葉をただ信じ抜いた。

織斑一夏も何度もIS学園に“彼”の定期検診のためにやってきていたために、“彼”の周辺事情を聞く機会が何度もあった。

また、“彼”や“彼の子守”をするようになった少女とも言葉を交わしており、件の人物:シャルル・デュノアについてそれとなく知っていたつもりであった。

少なからず、織斑一夏が受けていた印象からすればシャルル・デュノアが“彼”に仇をなす人物には到底 思えなかった。

そして、どういうわけか平日なのに学園を飛び出して雨に打たれながらも覚束ない足取りで自分の行く末も定まらない様子だったことが一番に印象的だった。

更に、名前を訊ねた時に躊躇なく彼が“シャルロット・デュノア”と名乗った点からも、後になって一夏にはあまりにも痛ましいものに思えてきた。

友矩が帰ってきた時の反応からしてもそうだった。友矩の剣幕に圧されてすぐに泣き崩れそうになっていたし、捨て犬のように彷徨える者の怯えた眼をしていた。

そこに登場したのが、――――――致氏量の薬物が詰まったバイアルであり、この危険物の存在1つでとある1つの陰謀劇の脚本を覗くことになったのだ。


すなわち、“彼”――――――“世界で唯一ISを扱える男性”こと朱華雪村“アヤカ”の暗殺であった。


社会人に至るまでに小学生の時からずっとモテモテだった“童帝”織斑一夏はこれまで星の数のようにたくさんの女性との付き合いがあった。

人には妬まれるが故に表立って誇れない伝説的なその経験の数々が1つの確信を直感としてもたらすのであった。

『“シャルル・デュノア”――――――彼はそのことに耐えかねて逃げ出してきたのだ』と。

年端もいかない子供に暗殺を任せることに憤りを感じるのだが、それ以上に“彼”が人知れず暗殺されそうになっていたことに戦慄した。

そう考えると、夜支布 友矩の分析は織斑一夏の“童帝”としての女性付き合いにおける絶対の勘と同じようにピンとくるものがあったのであろう。

それ故に、彼の私物を漁ってその中にあったバイアルを毒殺用の危険物と断定するに至ったのではないかと織斑一夏は思うのであった。


しかし、そんな陰謀がIS学園で蠢いていることを知って秘密警備隊“ブレードランナー”の一夏には何ができるというのであろう?


“ブレードランナー”の仕事は『対IS戦の切り札として敵ISの無力化』が一番の仕事であり、それ以外は隠密行動が前提の特殊作戦ばかりである。

こういった超国家規模の陰謀に対してはあまりにも非力でありすぎた。所詮は日本政府にこき使われる末端の兵士でしかないのだ。

これから何をしていけばいいのか、皆目検討もつかなかった。考えたところで一夏の考えは狭量で的外れであるから、そういうのは友矩に全部任せていた。


――――――ならば、ここで一夏が選ぶべき道は今も昔も変わらず1つであった。




212: 2014/08/28(木) 10:12:49.90 ID:VOafPGt10

一夏「…………友矩、俺はこれからどうすればいい?」

友矩「まずは、一般人を装うのが一番でしょう。そのために偽名は名乗ったのでしょう?」

一夏「ああ。“皓 ハジメ”ってな」

友矩「なら僕は、怒りん坊の“赤城義典”ってことでよろしく」

友矩「それと、シャルル・デュノアの記憶も消し去ってしまいましょう」

一夏「それもいたしかたなしか……」

友矩「ま、ISの脳波コントロール技術を分析して造られたこの『ニュートラライザー』も万能ではないんだけどね」

友矩「事実関係の記憶を消し去ることはできても、肉体や精神に刻まれた奥深いものまでは消すことが出来ない――――――」

友矩「記憶は消えても認識が完全には消えない特性を利用して、人間関係の解消などに利用される目的で造られたものだけど、」

友矩「やっぱり使いすぎると、痴呆になりやすくなるリスクが飛躍的に高まるという報告があるから…………」

一夏「うまく使ってくれよ?」

友矩「どうだろうね? 本人が憶えてなくてもISのほうがバックアップをとっている可能性も否定できない」

友矩「けど、本質的な解決まではそう時間は掛からないだろうから、一時的に忘れているだけでも十分だよ」

友矩「彼が起きたら、昨日今日の出来事について念入りに思い出させてその瞬間に記憶を抹消する――――――!」

友矩「だから、うまいこと話題を誘導してね。それとサングラスも忘れずに」

一夏「ああ。サングラスは絶対に必要だな」

友矩「後は、マンションの管理人に『ニュートラライザー』を使ってきみがシャルル・デュノアを拉致してきた映像記録を抹消させ、」

友矩「変装してシャルル・デュノアを送り返せば、おそらくは昨日の大雨で痕跡はほとんど残ってないことだろう」

友矩「ただ、バイアルに関しては記憶はもちろん実物も処分する」

友矩「これがだいたいの流れだ」

一夏「わかったぜ」

友矩「さて――――――ん?」

一夏「どうしたんだよ、友矩?」

友矩「…………何だろう? 確かに懸念材料はいっぱいあるんだけれどもそれは何とかなりそうな気はするんだ」

友矩「けど、何か安心できない。何かとてつもない見落としをしているような気がしてならない」

一夏「そんなこと言っていてもどうしようもないだろう? わかんないもんはいくら思い出そうとしてもわかんないんだから」

一夏「それじゃ交代で仮眠をとろう。1時間半毎にな」スタスタ・・・

友矩「あ、ああ…………」

友矩「明日に備えてやれることからやっておかないとな(シャルル・デュノアは客間に閉じ込めておいたから抜け出されることはないはず)」

友矩「(シャルル・デュノアにこちらの動きを盗聴される可能性もほとんどないし、されたとしても『ニュートラライザー』を使えばいい)」

友矩「(でも、これまで一夏と組んできて完璧なようでいていつもいつも予想外の展開が起きることが日常茶飯事だった)」

友矩「(今回もそうなるのではないかという胸騒ぎが止まらない…………)」

友矩「(僕はいったい何を見落としているのだろうか?)」

――――――
シャル「ハ、ハジメファアン・・・」スヤスヤ・・・
――――――



213: 2014/08/28(木) 10:13:28.27 ID:6c5AavVa0

――――――翌朝

――――――IS学園前駅


男性「それじゃ、シャルルくん。元気でな」

シャル「あ、はい。ありがとうございました、ハジメさん」ニッコリ

男性「それじゃあな、ぼうや」’

シャル「あ、はい……。ありがとうございました……」ニコー

男性「………………」’

山田「デュノアくーん!」

シャル「あ、山田先生! 昨日は本当にごめんなさい……!」

山田「いいんですよ。こうして無事ならば、何でも……」

山田「お二人がデュノアくんを保護してくれたんですね?」

男性「赤城義典だ。もう二度と学園から逃げ出さないようにきっちりと世話をしてやんな」’ジロッ

山田「はい。今回のようなことが二度と起きないように副担任として責任を以ってデュノアくんのケアをしようと思います」

男性「そうかい」’チラッ

シャル「うぅ…………」

男性「気にするなって。これも何かの縁なんだし、得るものがあればそれでいいよ」ニッコリ

シャル「本当にお世話になりました」ドキドキ

男性「………………」’

男性「ではな。辛いことがあれば、人を頼るんだぞ。人は一人では生きてはいけないのだから」

シャル「うん」

男性「では 行くぞ。今日が始まる」’

男性「ああ」

山田「本当にありがとうございました!」

シャル「また会えますよね?」

男性「生きている限り『不可能』という言葉はないよ」


――――――心を強く持て。それが今を変える力になるよ。



214: 2014/08/28(木) 10:14:10.53 ID:6c5AavVa0

――――――曇り空の下の朝の陽射しの中で


友矩「…………これは意外だな」ヒソヒソ

一夏「どうした、友矩?」ヒソヒソ

友矩「――――――尾行されてる」ヒソヒソ

一夏「…………!」

友矩「――――――捕まえるか? ――――――逃げるか?」ヒソヒソ

友矩「捕まえる場合のリスクは、追跡者の抵抗に遭う。おそらく相手はIS乗りだ」ヒソヒソ

友矩「逃げる場合のリスクは、追跡者の存在を放置する心理的圧迫だね」ヒソヒソ

一夏「なら、――――――捕まえる!」ヒソヒソ

一夏「万が一に備えて、『タクティカルベルト』だけでも装備していてよかったぜ」ヒソヒソ

友矩「こちらとしても最強の撃退兵器『ニュートラライザー』がある。機体を見られても何とかなるかもしれないが、極力――――――」ヒソヒソ

一夏「ああ」ヒソヒソ

友矩「それじゃ、まだオープンしてない朝のデパート群を抜けて外れの臨海公園に誘い込もう」ヒソヒソ

一夏「よし」ヒソヒソ

友矩「(…………XXXX駅に直接降りなくて正解だったな)」ピピッ


ラウラ「………………」




215: 2014/08/28(木) 10:14:43.78 ID:VOafPGt10

――――――臨海公園


バキューン!

男性「!」

男性「何しやがんねん!」’
テロリスト
叛徒A「そこまでだよ」

叛徒B「………………!」ジャキ

男性「うおっ!? どしてこないなとこでISが!?(――――――『ラファール・リヴァイヴ』が2機か)」’

男性「逃げよう!」アセアセ

男性「アホか! IS相手に逃げるなんて手段が通じるかいな!」’

叛徒A「ふん」

バキューン!

男性「うわほっ!?」’

男性「だ、大丈夫か、義典!」

男性「なるべく大きな幹の背に隠れろ!」’

男性「お、おう!」

ササッサササッ!

叛徒A「ふん。無駄なあがきを」


IS学園前駅から直通の駅を降りて、デパート街の離れにある臨海公園において二人の青年は謂れのない襲撃を受けていた。

威嚇射撃で対人用よりも遥かに大きい口径の対IS用ライフルの弾が大地を大きく抉り、早朝の涼し気な臨海公園で余暇を楽しもうとしていた二人の肝を冷やした。

腰が抜けそうなのを必氏にこらえて見晴らしがよすぎる臨海公園で唯一の遮蔽物となりそうな太い樹木に這々の体で逃げこむしかなかった。

なにせ相手は史上最強の兵器:ISであり、第一 銃を持った相手に対して丸腰の一般人ではあまりにも戦力差がありすぎた。比べることすら馬鹿らしいほどに。

しかし、ISは世界に467しかない――――――その正確な数こそあまり知られていないが、
・・・・・
一般的に、ISを所有している人間はとりあえずごく少数だということは世間的に知れ渡っていることなので、

一般市民からすればこうしてISに襲われるということ事態がお先真っ暗の悪夢のような出来事であった。


216: 2014/08/28(木) 10:15:41.02 ID:6c5AavVa0

男性「て、てめえら! 人様に銃を向けておいてただですむと思うな! すぐに人が来ててめえら全員 お縄じゃ!」’

叛徒A「ほう? 警察ごときに私たちを捕まえられるとでも本気で思っているのか?」

叛徒B「男が女より偉かった時代は終わった――――――それがISの力だ。冥土の土産に覚えておくのだな」

男性「こ、このアバズレどもが……」’プルプル

叛徒B「今、何と言った?」

男性「だいたいにして、どうしてワイらが命 狙われなきゃあかんのじゃ! 何かしたか、ボケぇ!」’

叛徒A「ふん。確かにお前たちのような生まれながらの凡俗である男と積極的に関わるだなんて大金積まれたってお断りだね」

男性「だったら――――――!」アセアセ

叛徒B「運がなかったんだよ。――――――あの子と関わったからね」

男性「はあ? わけわからんわ。これだから女の言うことは支離滅裂で頭が悪そうなんじゃ、ボケぇ!」’

叛徒B「」カチン

叛徒B「力がないくせにでかい口ばかり叩く男がそうやって偉そうに……!」ゴゴゴゴゴ

叛徒B「お情けはここまでだ! あの世にいく準備はできたかい! ――――――今 始末してやる!」ジャキ

男性「う、うわあああああああ!」

男性「お、おい! 落ち着け、皓ぃ!」’


――――――状況は最悪である。完全に詰んだ状況である。

今の季節だと初夏の陽射しが浅く差し込み 清涼な空気に満ちる朝方、ジョギングに来る人たちが結構訪れてるのだが、

しかし、昨夜からの大雨の影響であちこちに水たまりができ、天気も所々で晴れておらず、雨がまた降りそうな感じもしたので、人が来る気配がまるでなかった。

そして、ただでさえ健康作りに精を出す老人や若者以外 人が訪れることがない早朝のために、何かあったらたいてい手遅れなのは火を見るより明らかである。

それ故に、世界に467しかないISで堂々と人を頃すにはうってつけの状況となっていた。

なぜなら、ISは量子化を駆使した隠密行動が自在であり、ISの装備全てが虚空より召喚され、仕事が終われば最初から存在しなかったかのように消滅するのだ。

威嚇射撃で大地に撃ち込んだ弾丸や排莢も、環境保全の名目で使用後は量子化されて回収される仕組みとなっており、銃頃しても物的証拠が残らないのだ。

朝の静寂に包まれた公園で堂々と銃声を響かせても、元々 人気のない場所なので気づく人も極小であるし、『気づいたからどうした』という話である。

ISは史上最強の兵器として一般市民の間では羨望と畏怖の対象であり、たとえロケットランチャーを撃ち込んだとしてもそれ1発では絶対に倒せないのだ。

ISを待機形態にして擬態させて知らぬ存ぜぬを貫いてもいいし、逆に居直りを決めてそのまま恐喝してもいい。やりたい放題なわけである。

となれば、一般市民にとって悪魔のような兵器を前にして少しでも生き残ろうとするのなら、できることはほぼ1択でしかなかった。


217: 2014/08/28(木) 10:16:58.98 ID:VOafPGt10

男性「助けてください! 命だけは命だけは……!」orz

男性「や、止めろ、皓ぃ! みっともねえだろうがぁ! それでも男か!」’

叛徒B「ふん。そうやって地面に頭を擦り付けてればいいんだよ、男は」

叛徒B「シロイとか言ったか、このヘタレ! まあ お前だけは助けてやってもいいぞ?」

男性「本当ですか!? 何でも言うことを聞きますから、どうかお命だけは何卒、何卒――――――!」

男性「おい、皓ぃ! 自分だけ助かろうだなんて、見下げ果てたやつだ! 失望したぞぉ……!(――――――けど、もう二人の距離は十分だよね?)」’グスン

叛徒A「おいおい、さっきまでの威勢の良さはどうしたんだい? 情けないねぇ?」

叛徒A「さあて、一人いればそれ以上は要らないよ。さっさと始末しな。木が1本折れたぐらいじゃ何の問題もないさ」

叛徒B「それじゃ、氏んで?」ジャキ

男性「う、うおおおおおおおおおおお!(――――――今だ!)」’

男性「――――――!」スッ


――――――ほう? 弱い者いじめしか能がないテ口リスト風情がずいぶんと偉そうだな?


一同「!?」

男性「――――――は?」ピタッ

男性「…………あんれ?」’

叛徒A「な、なに!?」

叛徒B「あれは――――――」


ラウラ「喜べ。お前たちのようなクズ共相手に欧州最強の『シュヴァルツェア・レーゲン』が相手をしてやるというのだぞ?」ニヤリ


叛徒A「ドイツの第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』!?」

叛徒B「ラウラ・ボーデヴィッヒだと!? 馬鹿な、どうしてここに!?」


ところが、状況は一変するのである!

なんと、絶体絶命となり 自分一人だけでも助かろうとみっともなく命乞いをした矢先、正義の味方が参上したのである!

正義の味方の名は、ドイツ代表候補生にしてドイツ軍 IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』隊長:ラウラ・ボーデヴィッヒ!

早朝の爽やかな空気に馴染む綺羅びやかな銀髪に 黒くて大きな眼帯をした 精巧な人形のような無機質な白肌の こんな子供みたいなのが救い主であった。

そして、そんな綺羅びやかな彼女の銀灰色に反して、彼女が身にまとう史上最強の兵器は正義の味方であることを感じさせない純黒に染め上げられていた。

その機体の名は、ドイツ第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』。欧州連合統合防衛計画:イグニッションプランで最強の評価を与えられた機体である。

それに対してテ口リスト2人の機体は第2世代型ISであり、基本性能においては圧倒的に『シュヴァルツェア・レーゲン』に劣っていた。

たとえ2機掛かりであろうとも、――――――もちろん彼女たちとしても自分の腕に覚えはあったが、果たしてどこまで通用するのか甚だ疑問であった。

更に言えば、2人はテ口リストであるためにどちらか一方でも撃破されて捕縛されでもしたら貴重な同志と機体、組織の秘密を失うことになるのだ。

今回の目標がたかだか一般人であることを考えても、最悪の場合 捨て置いたほうがプラスになることはなくてもマイナスにはならないのだ。

これによって、今度はテ口リストの側が運命の決断を迫られることになったのであった。



218: 2014/08/28(木) 10:17:53.75 ID:6c5AavVa0

ラウラ「どうする? 今なら見逃してやったっていいのだぞ? 私もお前たちのようなくだらんゴミクズの相手などしたくないからな」

叛徒A「くっ……」

叛徒B「ど、どうする!?」

叛徒A「IS戦闘などさすがに考慮に入れていない。それこそ『シュヴァルツェア・レーゲン』クラスの機体とは――――――」

叛徒B「だったら――――――!」チラッ

男性「………………あ」orz

叛徒B「お前だけでも持ち帰れば――――――!」

ラウラ「…………!」

男性「今だああああああああ!」’

叛徒B「――――――!?」


男性「なめるなああああ!」スクッ、バキッ! ――――――顎先に肘打ち!


叛徒B「きゃああ…………     」バタンキュー!

叛徒B「」ガクッ

叛徒A「なにぃ!? おい、応答しろ!(馬鹿な、一撃だと?! あの身のこなし――――――、只者ではなかったのか!?)」

ラウラ「ほう。やるではないか。私も負けておられんな(――――――戦闘モード起動! 手早く片付ける!)」ニヤリ

ラウラ「では、こちらも始めようか?」

叛徒A「――――――捕捉された?! し、しまった!?」ピィピィピィ


こうして、形勢は一気に逆転するのであった。

テ口リストBが命乞いをするために飛び出て土下座していた皓という男を拉致しようとした瞬間――――――、

木の幹に隠れていた赤城の号令と共に大地に頭を擦り付けていたはずのヘタレの皓が急に立ち上がり、

勢い良く迫るテ口リストBの装甲が展開されてない顎先に顔面を粉砕するような強烈な肘打ちを叩き込んだのである!

史上最強の兵器と呼ばれるISでも完全無欠というわけではなく、こうして装甲がない部分を攻撃されればそれ相応のダメージを受けるのだ。

完全に虚を突かれたテ口リストBは人間の急所の1つである顎先に重たい一撃をもろに受けてしまい、一撃でダウンしてしまったのである。

顎が砕かれることはISの防御機構であるシールドバリアーによって辛うじて防がれたが、脳震盪までは防ぐことができず あえなくノックアウトである。


――――――わずか5秒足らずの出来事であった、


同志がせめてもの慰めにターゲットの一人を連れ帰ろうと、自分だけ助かろうと平気で雨上がりの地面に頭を擦り付けられるヘタレを確保しようとした瞬間、

木の幹に隠れている臆病者が突然 声を発したかと思った次の瞬間には、史上最強の兵器を身にまとった同志が吹っ飛んで再び起き上がることがなかったのである。

これにより、ISに生身の人間が太刀打ち出来ないという常識に囚われていたテ口リストAはもはや冷静ではいられなくなっていた。

そして、一般市民を絶望に陥れていた自分が今度は世界最新鋭のウルトラハイスペック機相手に一人で戦いを挑まないといけない地獄に陥ったのであった。


――――――結果は言うまでもないだろう。




219: 2014/08/28(木) 10:18:43.51 ID:VOafPGt10

ラウラ「雑魚が。所詮は旧世代――――――、『シュヴァルツェア・レーゲン』の敵ではない」

叛徒A「くっ……!」

叛徒A「こ、こんなはずでは…………」(戦闘続行不能)

ラウラ「む」チラッ




叛徒B「」




ラウラ「――――――逃げたか。懸命な判断だな(追えば すぐに見つかるだろうが――――――)」

ラウラ「まあいい。情報源として価値があるのはこっちの方だからな(しかし、あの身のこなしと言い、引き際と言い――――――)」

ラウラ「今日のところは無事に帰り着けたと信じて、この社会のゴミ2つの後始末をしないとな」

叛徒A「くぅうううううううううう! こんな小娘ごときにぃ……!」ギリギリ

ラウラ「ふん。織斑教官の教えを賜って最強になった私に貴様らのような有象無象が敵うものか」

叛徒A「――――――『織斑教官』?」

叛徒A「それは織斑千冬のことか?」

ラウラ「その通りだ」

叛徒A「ふん。第2回『モンド・グロッソ』で大会連覇は確実視されながら棄権したような臆病者に――――――」

ラウラ「――――――!」

パチィン!

叛徒A「………………!」ヒリヒリ

ラウラ「黙れ。貴様ごときに教官を語る資格などない。おとなしくしていろ」ギラッ

叛徒A「くっ……」





220: 2014/08/28(木) 10:19:55.84 ID:VOafPGt10







友矩「あのままでも、十分に対処できたんだけどね」

一夏「まさかの援軍だったな」

友矩「そうだね。おかげでいろいろな面倒を省くことができた」

一夏「ラウラちゃん、どうして俺たちを尾行していたんだろう?」

友矩「おそらく、学園のほうでも何か不穏な空気が漂っていたからではないだろうか?」

友矩「今回の尾行も彼女の独断だと思うよ」

一夏「千冬姉、昨日はシャルルくんで今日はラウラちゃんが学外で問題行動か……」ハア

一夏「1年1組は問題児だらけだな」

友矩「これでテ口リスト側の戦力を事前に2つも無力化することに成功した」

友矩「世界に467しかないISをこんなところで無力化できたんだ。快挙というか、間抜けというか…………」

一夏「でも、秘密警備隊“ブレードランナー”の最初の任務も『ラファール・リヴァイヴ』2機が相手だったしな……」

一夏「まあ その時はトレーラーの荷台から飛び立つ前にザシュザシュってこっちも自分のトレーラーから貫いて終わらせたんだけどな」

一夏「所要時間10秒足らずの仕事だったな」

友矩「そして、IS学園のクラス対抗戦において『謎の無人機』を代表候補生2人のお膳立てと第1アリーナを犠牲にして仕留めた」

友矩「今日のはラウラ・ボーデヴィッヒが実際に戦って捕らえたことになるけど、いなくても何とかなっていたから、」

友矩「今日までで5機のIS(内1つは未登録コア)を撃破した世界最高のISハンターなんだよ、一夏は」

一夏「何ていうか実感が湧かないな、そういうの」

友矩「実際の戦争においては敵機を5機撃墜したらエースって呼ばれるくらいなんだから、自信を持っていい」

一夏「はは、そうか。それじゃ、そう思うことにする」

一夏「でも、本当にラウラちゃんが来てくれて助かったよ」

一夏「来てくれなかったら、俺に不用意に寄ってきたテ口リストの脇腹を『零落白夜』で斬り裂かなくちゃならなかったしね」

友矩「そうなったら、顎を砕かれて脳震盪を起こす以上に、出血多量で絶対防御が発動する中 もがき苦しむ生き地獄を味わっていたろうね」

友矩「それで1対1になれば、『ラファール』ごとき一蹴する『白式』の世界最高クラスの機動力で一瞬で勝負が着くという算段だった…………」

友矩「人が来ることのないあの状況で『ニュートラライザー』があるとは言え、グロテスクでバイオレンスな光景を目にすることがなくて本当によかった」

一夏「まったくだよ」

一夏「あんなのをいちいち相手にしてられないし、人を傷つけるのは何だって嫌だしさ」


――――――力はどこまで行っても手段でしかない。力を正しく利用できた時にそれは“人を活かす剣”となるのだ。



221: 2014/08/28(木) 10:21:14.76 ID:VOafPGt10

友矩「けど、久々に“赤城義典”をやってみたけど、だいぶ忘れてるな……」

一夏「せっかく『タクティカルベルト』から催涙手榴弾とかポイポイ投げてみたかったのに残念だ……」

友矩「そうだ。ボイスチェンジャーもそろそろ完成する頃なんだよね。学年別トーナメントまでに実装できればいいんだけど」

一夏「…………ボイスチェンジャーか。役に立つかな?(千冬姉の演技はあまり自信は無いんだよな、俺。それにさ――――――)」

友矩「にしても、ISでもやはり顎先にクリーンヒットすれば一撃で脳震盪を起こすものなんだね」

一夏「ああ。俺も驚いてる。俺も初めてのことだからな」

一夏「あれは紛れもなく無想の一撃だったわけだから、あのキレを再現できるかはまったく自信がない」

友矩「人 対 ISだからこそ実現した大反撃というわけだね。IS同士の戦闘となれば空中戦が主体だから」

友矩「まだまだ、対IS用近接戦闘術にも実践と改良が必要だね」

一夏「ああ。今回は相手が相当な間抜けだったから助かったようなものであって」

一夏「いくら『白式』が『G3』を体現した現状で卓越した性能を持っていたとしても、剣1つだけじゃ戦術的にはどうしようもないからな」

一夏「だからこそ、“ブレードランナー”においては暗殺術だろうが抜刀術だろうが積極的に取り入れて確実な無力化をものにしなくてはならない」

友矩「けど、今回の件でIS学園は大きく変わることでしょう」

友矩「そして、変革の流れを制するのが、“ブレードランナー”であることを切に願っています」

一夏「…………任せておけ、友矩」

一夏「千冬姉も“アヤカ”も箒も――――――、」


一夏「俺は関わる人全てを守る!」


――――――その時こそが“人を活かす剣”の真価が問われる!



222: 2014/08/28(木) 10:24:15.38 ID:6c5AavVa0

登場人物概要 第4話

朱華雪村“アヤカ”
一応は、本編:Aサイドの主人公という立ち位置ではある。メインヒロインである篠ノ之 箒の方が主人公している感が否めないが。
3人の主人公の中では最も影が薄く 地味で没個性な存在だが、今作における“ISを扱える男性”の謎に深く関わる存在であり、
物語が進むに連れて“パンドラの匣”の開拓が進み、“アヤカ”の過去が明らかになっていくに連れて――――――。

今作では1年1組のクラスメイトとの交流が多く描かれており、特に過酷な生い立ちではない少女たちとのふれあいを通じて常識などを学んでおり、
原作の織斑一夏が我の強い小娘共に阻まれてモブにとっては決して手の届かない存在のように描かれているのに対して、
“アヤカ”は近寄りがたい雰囲気こそあるものの、逆にモブの中に埋没するぐらいの平凡さがあるので結果としてモブとの交流が描きやすい。

ただし、ある人物に対しては作中の通り かなり辛辣に当たっており、しかも狙って追い詰めている面があり、
善意の塊である織斑一夏とはまったく違って、人並み――――――それ以上の悪意を背負っていることを忘れてはならない。
しかしながら、基本的に誰に対しても笑顔を貫ける織斑一夏のほうが常人離れしているのだが…………一夏も“アヤカ”も別のベクトルでおかしいので比較しづらい。
誰に対して“アヤカ”がそうしてるのかがこの時点で理解できていたら、筆者としては『ちゃんと読んでくれているだな』となって嬉しいです。

模擬戦での成績は、同じ『打鉄』に対しては圧倒的な強さを発揮するが、射撃武器を使う専用機の前では機動力が皆無なために蜂の巣にされている。
それ故に、トーナメントにおいて1年生123人居る中の専用機持ち4人と鉢合わせしなければベスト8以上は確実視されるぐらいの実力はある。


篠ノ之 箒
メインヒロイン。もういろいろと運命に翻弄されすぎてかなり複雑でアブノーマルな人間関係に振り回されて混沌としている。
しかしながら、まるで主人公のように自分の意志を持って堂々とIS学園の日々を送る姿にちょっとした感動を覚えたものもいるであろう。

そうです。今作は篠ノ之 箒がひたすらメインヒロインの物語なのです! 何者でもなかった篠ノ之 箒だからこそここまで行ける物語なのです!

幼いころに女の子がよくする『お父さんやお兄さんと結婚する』という約束を真に受けて未だにそれを諦めようとしない純情な娘である。
しかし、織斑一夏(23)からすれば歳の差9歳の“友人の妹(14)”という感覚しかなく(実際に一夏からは“子”ではなく“娘”と見られている)、
痴話話の焦点となる婚約・キス・指輪に関する記憶が織斑一夏から欠落しているので、どこまで言っても“近所のお家の妹分”としか見られていない。
そのことを挽回するために、行き急ぐ箒は部外者の一夏を前にして『学年別トーナメントで優勝する』という凄まじい目標を掲げることになり、
幸いにも対戦内容がツーマンセルに変わったことで“アヤカ”と組むことになり、“アヤカ”との抜群のコンビネーションで勝ち上がっていくことになる。

模擬戦での成績は、『打鉄』同士の戦いにおいては基本的には無敗であり、『知覧』をはじめとする専用機には機動力の面で追いつけないので勝てない。
本質的に同じ『打鉄』である『知覧』(=“アヤカ”)に勝てないのは、純粋にドライバーの腕力があちらが上だから。
それ故に、“アヤカ”とのタッグにおいては箒はフットワークを活かして戦い、“アヤカ”はその場に留まって迎え撃つスタイルに差別化される。


223: 2014/08/28(木) 10:26:12.88 ID:VOafPGt10

織斑一夏(23)
この物語の真の主役だが、物語の舞台であるIS学園の部外者という矛盾した存在となっている。
しかし、仮想空間“パンドラの匣”の構築やIS学園でのイベント警備員で頻繁に喚ばれるようになったので、一定の存在感を保ち続けている。
それ故に、徐々に徐々に物語の裏と表の境界線が曖昧になりつつある。

常人では決して味わうことができない壮絶な人生経験や相応に歳を重ねてきたために、原作と比べれば遥かに頼りになる存在になっており、
完成された大人(23)としての抜群の包容力で迷える子猫たちを適切にあやしていく。
やはり、織斑一夏は織斑千冬同様に常人にはない光る個性はあるものの、常人には理解できない境地ゆえ一人では決して大成できない親分肌である。

作中の通り、血を見ることも厭わない非情さが備わっており、“ブレードランナー”に必要な攻撃性はすでに養われている。
思春期を終えて社会人としての分別や常識が備わった結果とも言えるのだが、基本的にお人好しな性格そのものは損なわれていない。
力はあくまでも手段であり、力はどこまでいっても暴力であるという認識はランクS:『人間』の一夏と同じであり、
今作がランクSの物語とは別にして生まれた本質的に同一の趣向の物語なのがわかることだろう。“人を活かす剣”というキーワードも共通している。
身体能力も、奇襲とはいえ一撃でISを沈黙させるだけの常人離れの生身の戦闘力を有しており、IS狩りの達人と言っていいほどである。
ちなみに、筆者の初作であるランクS:『人間』の一夏と、今作の剣禅編:織斑一夏(23)のどちらが強いかというと、
残念ながらランクS:『人間』の一夏が圧倒的な強者であり、実戦経験や生身の戦闘力だけ見ても織斑一夏(23)は彼には到底 及ばない。


夜支布 友矩
物語の狂言回し的な立ち位置のBサイドの織斑一夏のベストパートナーであり、織斑一夏という親分肌を支える参謀・縁の下の力持ち・内助の功である。
読み物の傾向として、物語の起こりは何にしても話題を提供したり、事件を嗅ぎつけたりできるブレインの存在が不可欠であり、
そういう意味では物語の中での存在感は主人公である織斑一夏よりもかなり大きく感じられるはずである。

一夏と友矩の関係は、番外編における“マス男”と“プロフェッサー”の関係に類似しており(あっちは織斑千冬と同い年である)、
友矩と“プロフェッサー”とでは後方支援担当のブレインという意味では役割は共通しているが、
置かれている立場の重要性の違いから“プロフェッサー”の方が遥かに精神的にも辛い立場であり、更には世界情勢を左右できるだけの頭脳すら持ち合わせている。
それ故に、自分より上の立場の人間が居ないために自分で全てを決断しなければならず、その責任の重大さは日本政府の犬に甘んじている友矩とは比較にならない。
しかし 逆に言えば、友矩にはそういった重圧が無いので極めて健全で安定しており、“プロフェッサー”とは違って身体能力も極めて高い。
それ故に、後方支援としては“プロフェッサー”には能力面では決して及ばないが、安定感においては友矩の方が勝っている。



224: 2014/08/28(木) 10:27:51.49 ID:VOafPGt10

シャルル・デュノア
原作よりも遥かに辛い立場に置かれてしまったブロンドの貴公子。
二次創作において誰が“世界で唯一ISを扱える男性”であろうとそれで救えるわけではない一例を示す結果となった。
特に、二次創作ではよく見られるオリジナル主人公と同室になる展開が今作には無いし、癒やしである“アヤカ”に何かを期待することもあまりなく、
どちらかと言うと“アヤカの母親役”の篠ノ之 箒の言葉に光明を得ていたので、“アヤカ”に対する入れ込み具合も他と比べるとかなり希薄。
そもそも、シャルル・デュノアは他者に依存しないと生けていけない――――――単独では存在感を発揮できないあざといキャラなのでしかたがない。
本質的に織斑一夏以上に受動的なキャラなので、お節介焼きの主人公がいなければ実際は篠ノ之 箒と大差がない孤独感を背負っているキャラなのである。
そういう意味では、今作の“オカン”篠ノ之 箒の存在が支えとなっており、篠ノ之 箒に強い信頼を置くようになるのも納得であろう。

なお、IS乗りとしての実力そのものは1年の中ではラウラに次ぐ実力者であり、専用機が安心と信頼の万能型の制式量産機であることが何よりも大きい。
ISバトルという競技においては、格闘機が優遇される傾向にあるが格闘もこなせる射撃機のほうがもっと強いので、普通に強いのは当たり前。


ラウラ・ボーデヴィッヒ
原作よりも遥かにおとなしい存在になっており、驚くほど健全な存在になっている。
それもそのはずであり、そもそも原作では憎悪していた織斑一夏に対する印象や織斑千冬が施した処置がまったく異なるので、
ラウラ・ボーデヴィッヒ自身も高潔な軍人らしく振る舞うことができている。
というより、今作の織斑一夏(23)の過去が原作のそれとは掛け離れた武勇伝に彩られており、IS乗りであることもまだ知らないので、
織斑一夏を“素人”と見下すことができなくなっている(=そもそも接点がない)のが大きく響いている。
IS乗りでもない一般人にISのことで威張っても意味が無いし、一夏が織斑千冬に準じる類稀な身体能力の保持者なので迂闊なことが言えないわけである。

ドイツ軍最強のIS乗りとしての本領を発揮しており、原作よりも侮りが少なく比較的冷静なためにまさしく1年の中では最強の戦闘力を発揮する。
また、“アヤカの教官”になったことで寛容さや客観的思考力など人間性も磨かれているので、
1組の面々からは徐々に『おっかないけどいざとなったら頼りになる先輩』という印象までになっている。
この辺は、まさに“アヤカ”という落ちこぼれとラウラの過去が符合したところが大きく、珍しく“アヤカ”の人間性でプラスになった例である。


225: 2014/08/28(木) 10:32:57.79 ID:6c5AavVa0

というわけで、今回の投稿はこれで終了させていただきます。

箒のキャラが中の人が演じてきたキャラっぽくなり、
一夏はナンバーズハンターっぽくなり、
千冬がやけに優しい――――――、

そんな感じになってまいりました。

そして、まさかの訓練機を専用機として借り受け、更には――――――してしまった“アヤカ”。

物語はいったいどこへと向かうのか。

次週、ようやく学年別個人トーナメント開幕です。


それでは、ご精読ありがとうございました。

付録を載せておきますので、参考までにどうぞ。

【IS】一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」【3】

引用: 一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」