713: 2015/01/13(火) 09:26:39.61 ID:ucqf94uK0


【IS】一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」【7】


第10話B 一夏の剣  -福音事件・裏-
Sword of IS killer the Faith

――――――某所


ピピッピピッピピッピピッピピッピピッ

束「おお! そっかそっか~、あそこにあるのか~」ピッ!

束「は~い」

――――――
クロエ「束さま、パンが焼けました」
――――――

束「はいは~い」ニコニコ

束「えい」


ブォオオオオオオオ!


束「おまたせ~!」

束「わ~、いいにおいだね~!」

束「で、くーちゃん? ちょっとお使い頼まれてくれないかな~?」

クロエ「はい。何なりと」

束「もー、固いよー。くーちゃんは束さんのことを“ママ”って呼んでいいんだよ~?」

クロエ「…………すみません」

束「それでお使いって言うのは――――――」





714: 2015/01/13(火) 09:27:22.01 ID:ucqf94uK0

――――――地下秘密基地


弾「そっか。臨海学校の校外特別実習で一度にたくさんの機体を動かす関係で、半分以上の機体が臨海学校に――――――」

一夏「そうみたいだな。だから、上級生たちはこの3日間はISに触れることができないから――――――、どうなるんだ?」

友矩「しかし、問題なのは織斑千冬がこの地を一時的に離れるということ」

一夏「………………千冬姉、“アヤカ”(それと、箒ちゃんだろうな)」

弾「だな。絶好の犯罪日和ってやつだな……」

友矩「織斑千冬の留守を守るのが僕たち“ブレードランナー”の務めとなるわけですが、何も起こらないと考えるほうが難しい状況です」

弾「確か、学年別トーナメントで大規模なリストラが行われたんだよな?」

友矩「はい。IS学園は超国家組織ではありますけれども日本国に属するれっきとした組織であり、その治安維持や機密保持のために已む無しというわけです」

友矩「しかし、それによって学園は単純な人員不足だけじゃなく、組織内の信頼関係にヒビが入り、」

友矩「国際IS委員会によるIS学園の組織内部への介入が行われることになったんです」

友矩「つまりは、今のIS学園は日本の一高等学校でありながら、他国の人間が多く犇めくスパイ天国というわけですよ」

友矩「IS学園はアラスカ条約という名の日本を標的にした不平等条約の中で、飾りだけの平等性を法学者たちに見せつけるために、」

友矩「『IS技術および関連技術は一般公開すべし』という原則を無理やりねじこんだわけでして」

弾「そうなると、ISを軍事利用しようとする連中としては困るわけだわな。普通、軍事ってやつは最重要機密の塊だしよ」

弾「この時点で公平性も何もあったもんじゃねえな」

一夏「冷戦の勝者である日本が更には世紀末の覇者になるのを防ぐための枠組みと言ったところだな」

友矩「そうです。『白騎士事件』の影響で国防体制の急変で主要各国の政情が不安定になった中で日本だけが一人勝ちした状況を妬ましく思われてしまい、」

友矩「普通ならあり得ないような決定なのですが、世界に唯一ISの専門教育を行う教育機関であるIS学園を日本の一教育機関に入れたわけなんですよ」

友矩「こうすれば、経済力が実質的にアメリカを抜いて1位になっていた日本に多大な負担を強いて国力や発言力を抑えられますからね」

友矩「そして、そのIS学園は超国家組織としてあらゆる国家・団体・組織に帰属しない――――――無法地帯となっているわけです」

一夏「たかが一高等学校に国家と同等の治安維持能力はない。治外法権で無法地帯にすれば実質的にデータを盗み放題だな」

弾「つうか、治外法権ってよその国での罪状を自国の法律に照らし合わせて裁ける権利があるってことなのに、」

弾「超国家組織のIS学園における治外法権ってどこの国の法律で裁けるんだ?」

友矩「ですから、――――――治外法権ですらないんですよ、実態は。本当に無法地帯です」

一夏「“シャルル・デュノア”の転校なんてのはまさにそれだったな。――――――しかも、暗殺まで公然と」

友矩「つまり、各国がIS学園に関する諸問題に口を挟みたがらないのは、」

友矩「『白騎士事件』以降の自国の失策を日本になすりつける目的で公平性を投げ捨てるためなんですよ」

弾「ああ。後代の歴史家に後ろ指をさされるような暗黒時代だって言われるのをわかっているからなんだろうな」

一夏「そして、自分たちが後ろめたいことをIS学園で行うために暗黙の了解となっていた――――――」

友矩「ジャパン・バッシングという名の新たなイデオロギーの下にね」

友矩「どこの国も平和だとか正義だとか宣っているけれど、結局は誰とも仲良くする気がないんですよ」

友矩「自国が1番であるよう――――――、とにかく出し抜こうとしてまるで戦前とまったく変わらない」

友矩「ジャパン・バッシングという大義の下に結集したけれども、実質的には互いの権益を少しでも確保しようという水面下の争いは現在でも――――――」


715: 2015/01/13(火) 09:28:37.74 ID:ucqf94uK0

弾「でも、こんなスパイ天国の中で俺たちはどう活動すればいいんだ?」

友矩「ジャパン・バッシングという名の大義の下に結集している連中を分断すればいいんです」

一夏「どうやって?」


友矩「左派と右派の争いを助長させて内部崩壊させます」


一夏「…………!」

弾「左派ってやつは革新派、右派ってのが保守派だったっけ?」

友矩「具体的に言えば、――――――ISの男性利用を認めるのが左派、――――――ISの男性利用を認めないのが右派となります」

友矩「これは女性優遇が行き過ぎた女尊男卑の風潮での見方であり、旧来の時代や本来の男女平等の精神から言えば右と左は逆転しますけどね」

一夏「つまり、ジャパン・バッシング以前に女尊男卑で権益を得ている連中や不満の国々に揺さぶりを掛けて――――――?」

友矩「正確には、ジャパン・バッシングなどというくだらない小さな問題に目を向けさせるのではなく、」

友矩「それよりも世界共通の男女差別という大きな問題に目を向けさせて、国という垣根を越えて一人一人の良心に訴えかけていくのです」

友矩「そして、自由と平等の精神を声高に叫んで、女尊男卑を助長させる差別主義者を排外するように持っていけば、」

友矩「やがては、1国の権益だけの問題ではなくなるのです」

友矩「今の御時世、IS産業の人間は国家元首に匹敵する影響力を持っているので、その人間性が問われるようなことになれば――――――、」

弾「必然的に祖国の国際的信頼が墜ちるわけだからか!」

友矩「そう。あちらが権利の拡大を主張するのであれば、こちらは基本的人権の尊重を淡々と提示し続けていけばいいだけです」

一夏「基本的にIS学園は『IS適性がある人間』に開かれた学校だからな。“アヤカ”を保護するのは当然か」

友矩「問題は、これが政治活動なので即効性がないわけであり、この3日間をどう過ごすかについては現実的な手段にはなりえないことです」

弾「ダメじゃん」

友矩「そして、もう1つ!」

友矩「なるべく様々な職種や年代の女性の味方が欲しい」

一夏「どうして?」

友矩「女尊男卑の風潮においては、男性の主張に対してはそれをヘイトスピーチと頭ごなしに宣う能無しが多いので、」

友矩「なるべく、こういった活動では同じ女性を満遍なく使ったほうが揚げ足取りが起こらなくて主張がすんなり通るから」

弾「わかるわー。奴隷が基本的人権の尊重を訴えても認められてこなかったもんな」

一夏「そうだな。いつだって知識階級の人間が自分たちの権益の拡大のついでに奴隷解放なんかをやってきたのが歴史的な流れだもんな」

716: 2015/01/13(火) 09:29:10.45 ID:ucqf94uK0

一夏「そっか。『女性を味方にできれば――――――』か。難しい問題だな」

友矩「一夏…………」ヤレヤレ

弾「お前の手に掛かれば、意外と実現できるんじゃねえのか、そっちは?」

一夏「え」


友矩「さあ、今こそ“童帝”の魔力を見せつける時です!」


弾「30歳を超える以前から魔法使いのお前ならできる! 信じてるぜ!」

一夏「はあ? 何のことだよ!?」

友矩「打ち明けていうと? ――――――ハニートラップを仕掛けてこい」

弾「悔しいが、お前に託すしかないぜ! 針の筵から天国まで引き上げてくれ! 頼む!」

一夏「はああああああああああ!?」

友矩「いつも通りに、偉そうな女性に近づいておしゃべりして美味しいもの食べて基本的人権の尊重を促してくればいいです」(諦め)

一夏「簡単に言ってくれる!」

弾「できるできるー。お前は“童帝”だからー」(棒読み)


友矩「できなければ、織斑千冬と“アヤカ”の居場所はないけどいいの?」


一夏「…………!」アセタラー

一夏「わ、わかったよ! やればいいんだろう! やれば!」

一夏「こうなったら、やけくそだああああああああ!」タッタッタッタッタ・・・!

友矩「大丈夫ですって。あらかじめ織斑先生も事態を見越してめぼしい先生たちから色の良いお返事をもらってますから」(意味深)

弾「やっぱり姉弟だなー」



717: 2015/01/13(火) 09:30:40.18 ID:ucqf94uK0

――――――7月6日:臨海学校1日目

――――――IS学園


弾「しっかし、暇だなー」(黒服)

友矩「2,3日は例の場所に篭もりっきりになりますから、今のうちに食糧や娯楽品の持ち込みを考え直しては?」(黒服)

弾「何か今も実感が湧かないな」

友矩「?」

弾「ただの音楽関係の運送屋のローディーが“仕事人”になっちゃったんだから。実態としてはその片棒だけどさ」

弾「一般人が社会の裏世界に足を踏み込んじまったんだなって」

友矩「後悔してますか?」

弾「いや、俺は一夏を氏んでも信じてるし、一夏が信じてる友矩のことだって信じてるし」

弾「確かに俺だけ未だに場違いな雰囲気を醸し出しているっていう自覚はあるんだ。俺自身、そういうのに耐えられないところがあるし」

弾「けど、そんな俺のことを頼ってくれる二人のことを見ていると何となくだけどこんなところまで自然と足を運んじまってさ?」

友矩「…………続けてください。何もなければ閑散とした機能美あふれる部屋の中で暇を持て余すだけですから」

弾「ああ……」

弾「俺、本当はバンドマンになりたかったんだ。そのために高校ではギターだって買って最初は練習だってしてた」

弾「けど、そんなのは『青春』『青春』って騒ぎたいだけのガキの一過性のブームでしかなくって、」

弾「バンドメンバーは半年もしないうちにすぐにバンドのことなんて忘れて、結局はゲームの世界に帰ってっちゃったんだよな」

弾「こうなることは最初からわかっていたかもしれない。それでも俺たちは『青春』っぽいことをして大人ぶろうとしていたガキだった」

弾「一方で一夏はそんな『青春』に踊らされることなく、プロのISドライバーになった世界一の姉の弟にふさわしくあろうと勉学に励んでいて――――――、」

弾「馬鹿だった俺は友情よりも勉学の方をとった嫌なやつに思えて付き合いが悪くなったみたいに感じてはいたんだけれども、」

弾「実際は一夏は変わってなかったんだよな」

弾「もちろん、唐変木のくせにやたら女の子にモテまくるんだから、そういった嫉妬もあったけど、」

弾「――――――逆だった。俺たちのほうが『青春』ってやつに無闇矢鱈に憧れてできもしないくせに大きく見せてそれであやふやになって」

弾「そうだとも。いつだって一夏は中学時代の悪友である俺にはいつもと変わらない態度で接してきてくれるんだ」

弾「それでたまに、俺に弁当の差し入れなんかもしてくれるんだからさ?」

弾「いろいろツッコミどころがある愛情表現ならぬ友情表現だったせいで、一夏とのホ〇疑惑を掛けられたせいでバンド仲間たちとも居づらくなって、」

弾「ついに俺はある時 一夏に今までの恨み辛みを全部 一度ぶつけてみたことがあったんだけど、」

弾「逆に一夏の方から今まで通りに接してきたのにすげなくされたことをキレられてハッとさせられたよ」

弾「その時 初めて、俺は一夏のどうしようもなく良くも悪くもある純真さに触れられた気がした」

弾「それからは仲直りっていうか なあなあでいつの間にか中学時代みたいな仲に戻ってた」

弾「その一方で、俺はもう1回『バンドをやろう』ってかつてのメンバーに声を掛けていったんだけど、無残にも解散でね」

弾「俺、成績もあまりよくなかった半端者だったし、意地でも音楽関係の仕事に就こうと思って――――――」

弾「――――――『男に二言はない』、一度は決めたことを人生のどこかでやり抜かず、これすら投げ出したら人生なんてもうないと思って」

718: 2015/01/13(火) 09:31:12.65 ID:ucqf94uK0

弾「そういうわけで、俺はローディーに流れ着いたわけなんだけど、今はそれなりにギターを弾けるようになったんだ」

弾「何だかんだ言って、俺の人生は最初から一夏に救われていたようなもんだったんだな」

友矩「……そうだったんですか」

弾「そして、その一夏に人生を救われてローディーになって、そこで磨いた運転テクで人知れず世のため人のために勤しんで――――――」

弾「けっこう満足してるんだぜ、これでも俺は」

弾「人前じゃ言えない裏稼業なんだけれども、そこがカッコイイってことでね」

弾「ヒーローそのものにはなれなくても、その支えになれてることに誇りを感じてる」

弾「なんてったって、――――――眩しいんだ、一夏が。あそこまで純真でいられる一夏がさ」

弾「“男が惚れる男”だとは思わねえが、少なくとも尊敬に値する人間だし、素直に好意が持てる爽やかなナイスガイなんだよな」

弾「――――――それなのに唐変木で女の子の気持ちを平気で踏み躙る残酷さもあったけど」

友矩「まあ、それが一夏です。彼は太陽なのですから」

友矩「太陽の光は全てに遍く恵みをもたらすものですが、大気圏を越えたら容赦なく焼き殺されてしまいますから」

友矩「織斑一夏とはそういう存在です。本当に付き合い通したいのなら、宇宙服を着るなりして対策を練らないと」

弾「ははっ、言えてる。スイーツ(笑)な女なんかはあっという間にカサカサ肌のミイラにされちまう」

弾「でも、一夏から近づく場合だとそうでもないんじゃない? ――――――特に“アヤカ”の場合だとさ」

友矩「そうですね。“アヤカ”に対する態度だけは別格です」

友矩「しかし、やはり“アヤカ”という存在自体が別の星系の太陽だからこそ、同じ太陽同士でわかりあえるところあるのかもね」フフッ

弾「それは盲点だった! そう考えると合点がいく!」

男共「ははははは!」



719: 2015/01/13(火) 09:31:55.41 ID:ucqf94uK0


一夏「明日は七夕:7月7日――――――、」(黒服)

一夏「――――――臨海学校、無事に終わるといいんだけど」

コツコツコツ・・・

一夏「さて、さすがに今日は警備員が多いな」キョロキョロ

一夏「千冬姉がいないせいもあるけれども、やっぱり今の学園は――――――」

一夏「結局は、女尊男卑の風潮を象徴する場所だとしても、――――――所詮は箱庭の中の箱入り娘たちのお嬢様学校でしかない」

一夏「こうやって見渡すと、IS学園の外側には諸外国からのおっかないお雇い警備員がこれだけたくさん蠢いているんだな」


――――――最初からそんなことは知っていたはずだ。


一夏「だって、『白騎士事件』によって束さんと千冬姉は一挙に世界の最重要人物に仲間入りしたんだから」

一夏「その二人が興したベンチャー企業にお手伝いさんとして元から深く関わっていた俺は――――――っ?!」ズキン

一夏「………………っつう!?」ズキズキ

一夏「――――――なんで思い出せないんだ?! 10年以上の前のことがどうして思い出せない?! なんでだ!?」ヨロヨロ

一夏「俺は確かに全てを知っていたはずなんだ。どうして憶えていないんだ…………」アセダラダラ

一夏「10年以上の前のことを何も憶えていないなんて変じゃないか……」ゼエゼエ

一夏「………………」スゥーハァーー

一夏「よし。落ち着いたか……(ちょっとそこのベンチを使わせてもらうか。よっこらせ)」フゥ

一夏「昔のことを思い出そうとすると決まってこの頭痛だ…………まるで頭の中にプロテクトを掛けられてるみたいだ」


一夏「――――――『プロテクト』?」


一夏「そう言えば、電脳ダイブによって人間の精神をコンピュータ上から直接操作することが可能だって――――――」

一夏「でも、人間の記憶って暗証番号のようなナンバーロックできるようなものじゃないし――――――考え過ぎか」ハハッ

一夏「…………待てよ?」

一夏「それ以前にISにも心があり、展開中は常にハイパーセンサーを介して情報のやりとりをしているから――――――」


一夏「もしかして俺ってISに関わったばかりに記憶を――――――?」


一夏「いや、それはもっと考え過ぎか?(だいたいにして乗れるようになったのは去年からじゃないか)」

一夏「もっと現実的な手段を考えれば、――――――『ニュートラライザー』を使われたとか?」

一夏「(違う! 『ニュートラライザー』だけは絶対にあり得ない!)」

一夏「(『あれ』は電脳ダイブによる特別治療の過程で生まれたものだって話だから、IS登場以後じゃないと時系列的に合わない!)」

一夏「(そして、『ニュートラライザー』で何年も前の過去を全部消せたとしても、その副作用としてボケやすくなって思考力が低下するものらしい)」

一夏「(それなのに、俺の場合はそれとは正反対の慢性的な頭痛! 思い出す痛さを俺は感じている!)」

一夏「(なら、どういうことなんだ? 完全に忘れているわけじゃない気がするのはどういうことなんだ?)」

一夏「(やっぱり、俺も“アヤカ”と同じように特別治療を受けたほうがいいのかもしれないな)」

一夏「(けど、特別治療には患者に対する執刀医の人が当然いるもんなんだから信頼できる専用機持ちの協力が絶対だ)」

一夏「(そして、“アヤカ”の時のように、俺自身が思い出したくない記憶ほど、そのトラウマや黒歴史の結晶である魔物が阻止しようと妨害してくるわけだ)」

一夏「(“アヤカ”の場合は本当に“魔物”と呼ぶのに相応しいぐらいの人間にはとても見えない異形の何かが魔物だったけれども、)」

一夏「(俺の記憶の魔物はきっと、おっかない女の子ばかりになるんだろうな……。“アヤカ”の魔物と比べればずっとカワイイ魔物なんだけどね)」アセタラー



720: 2015/01/13(火) 09:32:42.01 ID:ucqf94uK0

――――――7月6日。

現在、IS学園は1年生の臨海学校の校外特別実習のために多くの機体が持ち出されており、

学園が所有している機体数が30程度でしかないので、当然ながら残された機体だけで通常通りの機体運用スケジュールが組めるはずがなく、

臨海学校の間は2.3年生はISの使用に大きな制限が掛かっており、おとなしく座学をしているのが習いとなっていた。

しかしながら、新年度早々の『黒い無人機』の襲撃やVTシステム騒ぎ、はては“世界で唯一ISを扱える男性”こと“アヤカ”の暗殺未遂事件――――――、

そういった数々のISテロがこの世間から隔絶された天上の箱庭で頻発したために、安全保障や学園の運営の在り方を根本から見直すことが求められることになった。

そして、織斑千冬は実に20代半ばの青二才でありながらも、IS〈インフィニット・ストラトス〉による一つの時代をもたらした者の責任として、

右派と左派が水面下で闘争を繰り広げる魔窟と化していたIS学園の組織改革を断行したのである。――――――その道の専門家も迎え入れて。

その過程において数々の粛清が行われ――――――、

まず、元々からIS学園が日本の管轄にあることに不満を持ち、あるいはIS学園の情報を外部に流していた不穏分子を一掃し、

次に、“世界で唯一ISを扱える男性”こと“アヤカ”に迫害を行ってきた実行犯や共犯者を見せしめに叩きのめし、

更に、VTシステム騒ぎにおいてISテ口リストとそれを手引した内通者を一挙に一網打尽にしたのであった。

特に、学園の機体にVTシステムを仕込んで学園から機体を強奪するという計画に一枚噛んでいた連中には氏ぬも地獄、生きるも地獄の制裁を与えた。

これによって、国家ぐるみの犯行が白日の下にさらされ、一番に悪影響を受けたのが“シャルル・デュノア”などという道化を送り込んだ某国――――――。

他にもIS学園の機密を盗んだり、機体を盗んだりしようとしていた ならず者国家は存在していたのだが、

専門家の助言により、あえて某国1国だけの存在を明るみにすることでアラスカ条約加盟国からよってたかって袋叩きに遭い、いい見せしめとなったのだ。

ついでに、この件で人権団体を別ルートから扇動して世界的なバッシングを浴びせられることになり、各方面からの信用を失う羽目になったのである。

当然ながら某国はその非難をまじめに取り合うつもりはないので、この件に最も絡んでいた某企業に責任転嫁をして居直りを決め込んだのであった…………。

これによって、『IS学園に対する不正行為がバレたらいったいどうなるのか』という実例ができあがり、それが各国に対する警告となったのだ。


――――――これがこの7月に至るまでの世界的な流れである。



721: 2015/01/13(火) 09:33:55.60 ID:ucqf94uK0

しかしながら、これによってIS学園の運営や“アヤカ”の安全が安泰になったのかと思えばそうではなかった。

内部粛清の結果として多くの職員を追放したので、当然ながらその中には学園の管理運営にも深く携わっていた人間も追放しているわけなので、

これまで成り立っていた学園としての運営にほころびが出始め、その穴を埋めるために外部から大量に職員を採用する必要性が出てきてしまったのである。

それで学園に仇なす裏切り者たちに大量に組織に入り込まれてしまったのでは内部粛清した意味がない!

一応、その道の専門家としては粛清した結果の職員の欠落を補うために人材の準備をあらかじめ進めさせてはいたものの、予想以上にIS学園内部に裏切り者が多く、

ある程度はまかせることにしていた千冬が徹底的に草刈りをしてくれたおかげで専門家としてはまだ見逃すべきグレーゾーンの人材までいなくなったので、

結果として、IS学園は確かに濁りのない澄んだため池のようになったのだが、生命の営みがなくなり、魚が寄り付かないような状態になっていたのだ。


白河の清きに魚の住みかねて もとの濁りの田沼恋しき


千冬としては“アヤカ”やその陰で活動している実の弟が生きやすい環境を創ろうと力を入れていたようなのだが、

IS学園という組織が立ち行かなくなるぐらいの慢性的な人員不足に陥って、そこに各国が目をつけて外部の人間が組織に大量に入り込む結果になったのである。

それでも組織の過半数以上は専門家が手配してくれた特殊国立高等学校の採用条件にあった、あるいはでっちあげた日本の国籍を持つ人間で占められたが、

特殊国立高等学校の日本としてのやり方になじまない・従わない・合わせようとしない傲慢な諸外国の職員たちとの諍いが絶えず、

かえってIS学園の平穏は千冬が願っていたものとは程遠いものとなってしまったのである。――――――粛清しないほうがマシだったと思えるほどに。

しかしながら、VTシステム騒ぎに関しては元々 息を長くして水面下で実行されていた計画であるので これに対する処罰は当然ではあるが、

それ以上にここまで性急で過激な粛清に発展するほどに、学園に不穏な空気が漂うになった最大の原因は何と言っても――――――、


――――――“アヤカ”の存在に他ならなかったのである。


“アヤカ”の存在によってISの男性利用の是非を問う右派と左派の抗争が勃発し、それが“アヤカ”への数々の迫害に繋がり、処罰の必要性が出てきたのである。

やはり入学当初から予想されていたように、“アヤカ”の存在が周りに与えてきた影響は本人が認識している以上に遥かに大きかったのである。

それは“アヤカ”が『男でありながらISに乗れる』という ただそれだけの理由で親の仇のように粘着してくる連中と同じぐらいに、

様々な目的や理由からそんな“彼”を守ろうとする側にもそれと関わることの重圧を一様に浴びせてくるのであった。

722: 2015/01/13(火) 09:34:26.08 ID:ucqf94uK0


そう、“彼”と関わることとは苦しめる側にしても守ろうとする側にしても平等に業の重みを背負うことになるのだ。


それが嫌ならば――――――、単純に“アヤカ”さえ存在していなければ、ここまで話が悪い方向に拡がっていくことはなかったのである。

そう、最初から日本政府が“彼”をIS学園の表舞台に立たせずにこれまでどおりの氏んだような人生を送らせていればよかったのである。

“世界で唯一ISを扱える男性”を擁していることを宣伝することで国際社会での発言力を得ようという目論見もあったのだろうが、

そもそも、ただでさえ間違った方向に人権意識が肥大化した世界に“彼”を放り出すことがいかに面倒なことを招くかぐらい――――――。

もっとも、日本政府に生きながらにして氏んでいた“彼”の使い道を思いつかせたのは、他でもない更に“もう一人”の出現があって――――――。

         ・ ・
――――――それが全ての始まりだった。これこそがこの物語にまつわる幾多の苦難や哀しみと愛憎劇の始まりだったのだ。

・ ・
それが何のことを指しているかは、ここまで丁寧に読んでくれている読者にとってはすぐに思いつくことだろう。
     ・ ・
しかし、それを認めてしまうことは少なくとも織斑千冬という一人の人間にはできそうになかった。


――――――他でもない ISによる女尊男卑の価値観を蔓延らせた張本人はそうであった。


一般的に織斑千冬という人間は IS学園が『IS適性のある人間』を入学条件にしていることに従って、

基本的人権を大義名分にして“ISを扱える男性”の保護はする中道左派の人間であるように右派や左派に関心のある人間たちから見做されているが、

『男が偉い』だの、『女が今では男よりも上』だとか、そんなくだらない話にはまったく興味がなく、そういった右派と左派の争いには無関心であったのだ。


そのことを思えば、この物語はなんと善因善果・悪因悪果の因果応報に満ちたものではないだろうか。


この状況で本当に罪深き者は誰なのであろうか? それとも誰のせいでもないのだろうか? 誰が元凶で誰が裁く者なのかは杳として知れず…………。

その一方で、時の河はゆったりと それでも流れを止めることはなく――――――。



723: 2015/01/13(火) 09:35:06.92 ID:ucqf94uK0


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー


一夏「………………」キョロキョロ

一夏「……………………ハア」

一夏「(確か 今のIS学園の職員の過半数は日本人――――――粛清以前の比率と比べるとずいぶんと日本人の割合が減ったな)」

一夏「(高齢化社会ってやつが国内人口に対する老人の割合が7%以上、高齢社会が14%以上、超高齢社会が21%以上――――――)」

一夏「(たった7%だけでも大いに問題視されるのに、――――――特殊国立高等学校の職員の日本人が過半数しかいないという事実!)」

一夏「(もう、これは国立といっていいのか? 元々が超国家機関という位置づけだったはずなのに――――――、)」

一夏「(各国が財政負担したくないために無理やり日本国の一高等学校に捩じ込んでおいて――――――、これが特例措置ってやつなのかよ!)」

一夏「(まあ、ISの登場によって既存の価値観が崩壊して、現在のやり方では対応できないからこその特例措置なんだろうけれど――――――、)」

一夏「(それを悪用されて祖国が不利益を被っているのに対してはさすがにいい気分じゃないな……)」

一夏「(けれども、こうやって新しく入ってきた職員の様子を見ていると、)」


――――――織斑千冬の大人のファンがどっと押し寄せてきた感があるな。


一夏「(そりゃそうか。千冬姉は圧倒的な強さと美貌にその気高さで同性からの人気が内外で凄いもんな)」

一夏「(どうにかして千冬姉とお近づきになりたいと思って、現役を引退している各国の元 代表操縦者や候補生がわんさかと入ってきているな)」

一夏「(たぶん、ISの独自開発ができるような大国との癒着でも無い限りはこの人たちはシロだろうな、きっと)」

一夏「(千冬姉の人気が出たおかげで、日本語をまじめに勉強して日本語ペラペラの外人さんも結構いることだしな)」フフッ

一夏「(そもそも、アラスカ条約に加盟している20以上の諸国家・諸地域の内でも、技術的にも待遇的にも格差が大きく出ているからな……)」

一夏「(俺たちがピリピリしているような謀略の渦とは無縁の、先進国から見れば底辺で大したこともないかもしれないけれど、)」

一夏「(『ISが国防力の要になってる』とか言うのは、ISコアを2桁以上まわしてもらっているところの話であって、)」

一夏「(他の2,3個ぐらいしかもらえてないようなところでは、装備や技術がどうだのじゃなくて――――――、)」

一夏「(そういった諸国家でのISの運用法っていうのは、ホントに人のために使ってくれてるもんだから応援したくなるんだよね)」

一夏「(でも、世界に467のISコアをアラスカ条約 加盟国21ヶ国+αに均等に配分するとなれば、1ヶ国当たり20個は貰えるはずなのにな)」

一夏「(ホント、G8の決定や声明だけが全てのように世界が回っているように感じられるよな、今の人たちは……)」

一夏「(――――――注意すべきはG8の中でも歴史的に野心的なアメリカ・ロシア・イギリスと、ついでに中国ぐらいか?)」

一夏「………………メンドクセ」ハア

一夏「(疑えば疑うほどドツボにはまる。考えれば考えるほど先が見えなくなる)」

一夏「(いいんだ。それを考えるのは俺の役目じゃない。俺の役目は事件が起こった時の具体的な解決力であることなんだから)」

一夏「(実際に社会だってそういうもんなんだ。経済学的に見たって何だって、分担してある分野に特化させたほうが効率が上がることなんだし)」

一夏「(俺はいつでもものを斬れるように刃を研ぎ澄ませておけばいいんだ。目を光らせていればいいんだ。それが俺の務めなんだ)」

一夏「(千冬姉だって千鶴さんだって、友矩や弾だって、それぞれが自分の立場の中での最善を尽くしてくれているんだ)」

一夏「(なら俺は、俺にできることを、みんなからまかされていることを、俺の信念に基づいて力を振るうだけだ!)」

一夏「(――――――今日は何事も起きませんように。明日も平和でありますように)」


724: 2015/01/13(火) 09:35:43.24 ID:ucqf94uK0

警備員「そこのジャパニーズ、暇してるなら付き合えよ」

一夏「ん?」

警備員「お前、どこの組織? いや、別にいいか。そんなの聞いたって事件になったら関係なくなるからな」

一夏「まあ、そうですけど(確かイギリス系の世界でもトップクラスの品質の警備保障会社の――――――)」

警備員「俺の所属する民間警備会社は世界で最も安全管理が行き届いている安心と信頼の警備保障だってのにひどいもんだぜ」

一夏「世界最強の兵器を使ったISテロに対応できるわけがありませんからね」

警備員「そう。いくら島の警備を任されてもIS相手にはもうどうしようもないことがこれで証明されちまってな」

警備員「世界でトップの警備保障が役に立たないとなったら、もう止めようがないってなってな」

警備員「ホント、10年前の『白騎士事件』が世界に撒いた災いの種が芽吹いちまってよぉ……」

一夏「けれど、『白騎士事件』が起こる前だって冷戦という名の核の恐怖に怯える時代が続いてたじゃないですか」

警備員「……んん、それも真理だな。核兵器もそれでそれで怖いもんだな。ISのNINJAみたいなマッポーめいた暗殺能力にはお手上げだぜ」

一夏「NINJAって……」ハハハ・・・

警備員「しっかし、これはある筋からの情報なんだが……」

一夏「?」

警備員「我らが祖国でISに関してまたよくないことがあったらしくてな」

一夏「え」

警備員「詳しいことは知らん。だが、少なくともISに関わったばかりに祖国の名誉が傷付けられることが重なったんだ」

警備員「もういっそのこと、人工衛星を打ち上げるのをやめたようにISからも手を引いたほうがマシなんじゃねーかって俺は思うのよ」

警備員「フランスはもうこの前のIS学園におけるテロの支援国として厳罰されてるし、」

警備員「かといって、キャベツ野郎の国が欧州連合で一番まともだとは認めたくはない」

一夏「コアの数が絶対的に少ない以上は国際IS委員会の査定が厳しくなるのはしかたがないとは思ってはいます」

警備員「その結果が今の歪んだ経済体制だろう? そんな中で日本はIS以外の分野でも躍進していってるから凄いよ」

一夏「は、はあ…………」

警備員「俺は仕事でここに初めて来ただけだったが、知れば知るほど言い知れぬ奥深さを感じている」

警備員「いいとこだな、ここ」

警備員「こんなところに10年前の世紀末にミサイルの雨を降らせようとしたやつがいたんだから信じられねえよな」

一夏「………………」

警備員「それじゃ俺の気晴らしに付き合ってくれてありがとな。ほれ、ちゃんと仕事してこいよ」

一夏「あ、はい!」

725: 2015/01/13(火) 09:36:39.30 ID:ucqf94uK0










一夏「ふわぁああ……、今 何時だ? こういつでも出動できるように待ち続けているのもけっこう苦痛だぜ……」

弾「だな……」グデー

友矩「いいですよ。二人は休んでいてください。仮眠してどうぞ」

弾「わりぃな」

一夏「密林のスナイパーのように集中力が長続きしねえ……」

一夏「何も起こるなよ、何も起こるなよ、何も起こるなよ…………」ブツブツ・・・

弾「それじゃ、俺はこの辺を使わせてもらうわー」ゴロン

弾「うん。ふかふかの枕と布団の組み合わせは最強だな」

一夏「俺は、ま、いつもどおりでいいか」ゴロン

一夏「…………そう言えば こんな時間だったのか」

一夏「すっかり忘れていたけれど、――――――“アヤカ”のやつ、今頃 何をしてるんだろうな? ちゃんとみんなとワイワイやれてるのかなー?」




――――――旅館:朱華雪村 様1名様の寝室


雪村「で、なんでみんなここにいるの?」

本音「さあ、早くお布団を敷くのだ~」

雪村「え、やだ」

相川「え?!」

谷本「布団、敷かないの!?」

雪村「枕さえあれば、後はバスタオルだけでいいです」

鷹月「な、何とも経済的だね……」

箒「そんなわけあるか、馬鹿者!」

雪村「ええ? どう寝るかなんて人それぞれでいいじゃないですか」

雪村「シーツを掛けるのが面倒だからいいじゃないですか」

箒「弛んどるぞ、雪村あああああ!」

ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


726: 2015/01/13(火) 09:38:11.24 ID:ucqf94uK0

――――――どことも知れない世界


一夏「ハッ」

一夏「?!」ビクッ

一夏「こ、ここは――――――?」キョロキョロ

一夏「しまった?!」アセダラダラ


ほぼ丸一日を地下秘密区画の1室で過ごして飽き飽きしていた一夏がようやくお許しをいただけた睡眠の世界に没入できたと思ったら、

目を覚ましたら辺り一面が真っ暗だったのだ。いや、ところどころで微かな明かりは見て取れ、小刻みに震えるような感覚も響いていた。

しかしながら、目を覚ました一夏が一番に気付いたことはまず寝転がっていたはずの自分が目を覚ましたら柱に手を回されてロープで縛られていたことだった。

それにしては、妙な落ち着きと興奮が同時に沸き起こっており、よくわかっているようなわかっていないような直感的な何かを一瞬で得ていた。

それは次第に意味が通じない漠然とした無意識から確固たる意識へと導かれていく。


――――――ここはIS学園 地下秘密区画ではない どこかで見たことがある場所だ!


一夏には明らかに憶えがあるというヴィジョンが胸の内に溢れ、この暗がりの身動きがとれない状況において何が起きるのか理解した。

そして、意識は甦る記憶と根源から湧き起こる衝動に上書きされ、一夏は突き動かされるのであった。


一夏「そうだ! 攫われた子を助けないと!」

一夏「この揺れ具合といい、ここはあの人攫いが利用している貨物船の中なのか? なんとしても許さん!」

一夏「うぐぅううううううううううううううう!」ググググググ!

一夏「うううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

ミシッ! パラパラパラ・・・!

一夏「ふんっ!」バッ! (力尽くでロープの拘束を打ち破り、よろよろと立ち上がる)

一夏「ふぅ」

一夏「ロープの痕が残っちゃったけど気にしてる場合じゃない!」

一夏「救うんだ! 今度こそあんなことになる前に…………!」

一夏「出口は――――――くそっ、何か明かりになりそうなもの…………壁伝いに進むしかないか」ソロリソロリ

一夏「…………………」

一夏「…………お、これか?」ググッ

ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・

一夏「うおっ、眩しい……」チカチカ

叛徒「?!」

一夏「おはようさん!(ぶら下げている短機関銃はそういうことなんだろう!)」ブン! ――――――斜め45°から振り下ろされるチョップ!

叛徒「あぐっ」

叛徒「」バタン

一夏「…………状況は掴めないけど身包み剥いでいくか」ガシッ

叛徒「」ズルズルズル・・・



727: 2015/01/13(火) 09:39:14.57 ID:ucqf94uK0


一夏「うへえ……、完全武装ってこんなにも重いんだ……」(叛徒に化けた)

一夏「そして、これが安全装置――――――」スチャ

一夏「(IS用銃火器は量子変換そのものが安全装置を兼ねているから安全装置がほとんどの場合ないんだったっけな)」

一夏「(でも、人間用のものならサバゲーマニアが一度 本物のアサルトカービンを見せてくれたから何をどうすればいいか俺はわかる)」

一夏「(千冬姉、俺、もしかしたら人を不幸にするかもしれません――――――あ!)」

一夏「今、何時だ!? ――――――決勝戦は!?」

一夏「くそ、時計持ってないのかよ、こいつ!(俺は服以外全部取り上げられて丸腰だってのに……)」ガソゴソ

一夏「くっ、ごめん、千冬姉……、勝つよね?(決勝戦、きっと相手は去年と同じイタリアの――――――)」アセタラー

一夏「………………往くか」

一夏「もう後戻りはできないんだ」

一夏「千冬姉、今までありがとうございました。俺の魂はここに置いていきます」

一夏「では、――――――往くぞ!」ギラッ


タッタッタッタッタ・・・!


一夏は駆けた。二十歳になったばかりの青年が銃をぶら下げて テ口リストに占拠された豪華客船の制圧に単身乗り出したのである。

後に『トワイライト号事件』――――――『織斑一夏誘拐事件』と呼ばれる歴史の闇に葬られるこの事件――――――、

そして、織斑一夏の全身全霊が込められたこの氏闘により、織斑一夏の人生に影を落とすことになり、陰の刃として生きる契機になったこの事件――――――。

織斑一夏(23)にとって忘れがたき運命の日になっていたことはこれまでの数々の出来事から窺い知ることができるのだが、

はたして、現在 織斑一夏(23)が体験しているこの光景は何なのであろうか? 読者としてもそこが気になるところであろう。

これは『トワイライト号事件』に魂を置いてきた一夏が無意識に築き上げた夢の世界なのだろうか? 

おそらく『そうだ』と言えばそうなのかもしれない。まるでアクション映画の主役のように一夏は縦横無尽にテ口リストたちを翻弄していったのだから。

しかし、だからといって夢であるかどうかは当人の意識が現実世界に帰ってこない限りはそうだと言い切ることはできない。

もしかしたら本当に現実なのかもしれないし、けど、やはりどこか現実離れした超然とした感覚が一夏の中にも次第に起きていた。

まるで似ていた。何か似ていた。織斑一夏(23)はこれが現実か夢幻か判別できないぐらいの確かなリアルの存在を知っていた。

そう――――――、


――――――仮想世界“パンドラの匣”



728: 2015/01/13(火) 09:40:31.20 ID:ucqf94uK0


一夏「はっ!」バキッ

叛徒「何をっ――――――!?」

叛徒「ぐあっ」ガクッ

叛徒「」

一夏「これで10人くらいか? すでに装弾されている1発を排莢して弾倉も取り上げてサイドアームもこうして――――――」ガチャガチャ

一夏「(何だろう? ここまで順調なんだけど、何だか俺が俺でないようなこの感覚は何なんだろう?)」

一夏「(この身体は確かに俺の意思で動いているはずなのに…………時折 身体の動きが合ってないような感覚がして)」

一夏「(――――――『動きが合ってない』?)」

一夏「(待て、俺は――――――)」


ここは仮想世界“パンドラの匣”の中の“彼”の記憶の断片――――――1つの時代なのではないかと思い至ったのだ。

そう考えるのならば、現在 感じているこの既視感や現実感を超えた超感覚にも納得がいった。

――――――いや待て! そう考えかけて一夏はテ口リストたちを10人以上をノックアウトにして身包みを剥いで無力化してそう思った。

なぜなら、あの時の織斑一夏(20)はとにかく生き残ったことがただ結果として残っただけでそれだけ無我夢中であり、

ここまで冷静にまるで結果がわかっていたかのように意識が落ち着いていられたのを逆に変だと思ったからなのだ。

現在の“ブレードランナー”としての織斑一夏の分別のある性格は彼の親友である夜支布 友矩との5年に渡る蜜月があって熟成されたものであり、

徐々に織斑一夏は自分が(23)であることをメタ的な面から思い出し、今 体験しているこの虚構の正体に気付き始めたのである。

読者には織斑一夏が味わっていた謎の感覚が理解できるだろうか? 言うなれば荘子で説かれている胡蝶の夢のような世界に迷い込んでいたのだ。

自分という存在も状況も確かに『3年前のあの日』とまったく同じものであるが、それを認識しているのは現在の(23)の今まで眠っていた自分なのだ。

そのことを悟ると、『あの日』の出来事を(23)の自分が再確認するだけのアクションエンターテイメントは終わりを告げたのである。


729: 2015/01/13(火) 09:42:12.08 ID:ucqf94uK0



一夏「!」ドクン

一夏「この感覚は、――――――『白式』!」

一夏「そうか、これはお前が見せてくれているものなのか?」

一夏「…………わかった。お前が言う真実ってやつを見に行ってやろうじゃないか」

一夏「来い、『白式』!」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウン!


この世界の真意を悟った一夏は本来 存在しないはずの専用機『白式』を展開させ、かつての自分が成し得なかったことを果たしに流れを加速させていった。























一夏「嘘だああああああああ!」



730: 2015/01/13(火) 09:43:09.32 ID:ucqf94uK0

―――

――――――

―――――――――

――――――――――――

一夏「嘘だああああああああ!」

一夏「ハッ」

弾「zzz」

一夏「ああ…………?」ゼエゼエ

一夏「今、何時だ?」ピッ

一夏「…………200X年7月7日5時過ぎ」

一夏「仮眠どころじゃないな。熟睡じゃないか……」

一夏「友矩が起こさなかったということは何もなかったということでいいのか?」

一夏「………………フゥ」

友矩「何が『嘘だ』って?」スッ ――――――スポーツ飲料

一夏「あ、友矩……」

一夏「えと、それは………………憶えてない。何か夢の世界でとんでもない真実に触れたというか何と言うか」

友矩「…………夢の話ならしかたありませんね」

一夏「ああ。どうしようもない」

友矩「また『3年前』の――――――?」

一夏「そうかもしれない。俺にとって『3年前のあの日』は生涯忘れ得ぬ運命の日だったから…………」

一夏「まったく夢ってやつはどうしようもない。何とかならないのかな……」

一夏「…………あれ?」

友矩「どうしました?」


一夏「――――――エネルギーが減ってる? 何これ、4分の1以上減ってるってどういうことだ?」


一夏「寝ている間に何が…………!?」

友矩「…………!」

友矩「“ブレードランナー”、機体のエネルギー再充填と食事によるあなた自身のエネルギー補給をしておいて」

一夏「あ、ああ……」

一夏「おい、弾。起きろ」ペチペチ

弾「あ、ああ……」ヨロヨロ

スタスタスタ・・・


731: 2015/01/13(火) 09:44:04.19 ID:ucqf94uK0

友矩「………………」

友矩「まさか、寝ている間に『白式』との『深層同調』が行われたというのか? そうとしか考えられない」

友矩「やはり『白式』のコアは篠ノ之 束が手を加えたものではないのだろうか?」

友矩「だが、何にせよ今日は7月7日――――――」

友矩「学園に対しても、臨海学校に対しても、そのどちらに対しても何か仕掛けてくることは容易に想像がつく」


友矩「しかし、まさかこの学園に眠れる『暮桜』から直接のメッセージをもらうことになるとはね……」


友矩「何かが起きようとしている……?」

友矩「いや、起こるのは間違いない。そして、やることは変わらない。何を迷う必要があるんだ」

友矩「さあ、激戦に備えよう」


――――――7月7日:臨海学校2日目


これが秘密警備隊“ブレードランナー”最後の戦いとなるのであった。




732: 2015/01/22(木) 08:58:02.31 ID:5VJHVI9r0

――――――10:00時頃、


一夏「…………退屈だな」

弾「ああ。でも、光学迷彩を警戒してモニターを見続けないといけないからなぁ…………」

一夏「仮眠してもこう退屈な時間が続くと疲れがとれた気がまったくしないな」

友矩「しかたありません。本来なら監視には最低でも後3人は欲しいところなんですがねぇ…………」

一夏「平和が一番なのにな」

一夏「どうして こう……、ISはスポーツだっていうのにこんなことをやらなくちゃならないのか」

弾「まったくだぜ。蘭のやつ、こんな物騒なところを入学しようって頑張ってるんだぜ? 何とかしないとな……」

友矩「それは開発者に文句を言ってください」


――――――白騎士事件


友矩「今のISの軍事利用の歴史は最初からここから始まっていたのですから」

友矩「あの強烈なデモンストレーションによって、本来はただの宇宙開発用マルチフォームスーツのISが空戦用パワードスーツになってしまったのですよ」

一夏「――――――『白騎士事件』か」

一夏「…………あれってやっぱり束さんがやったことなんだよな?」

弾「にわかには信じがたいことだけどな……、中学からの先輩があんな世界を震撼させたテロを引き起こしただなんてさ」

弾「下手をすりゃ――――――標的になったのは他でもないここ 日本なんだからよ!」

弾「知人がデモンストレーションのためにそんなことをしでかしたなんて信じたくないし、――――――関わりたくもないよ、そんな危険人物」

友矩「でも、ISなんていうものを一人で理論化・実用化させてしまったあの世紀の大天才 以外にできる人間は見当たらないし、」

友矩「――――――世紀末と言えども、冷戦が終わって世界は国際協調の時代に入りつつあったんです」

友矩「その流れを『白騎士事件』によって世界的な国防力の崩壊を招いて新たな軍拡の流れを作ったことは実に許しがたい」

友矩「幸いだったのは、各国が喉から手が出るほどに欲したISの性能とやらが第0世代型IS『白騎士』に並ぶほどではなかったということ――――――」

友矩「いや、よくないんです! 性能が『白騎士』に劣っていようが同じであろうが、いずれにしてもよくないんです!」

友矩「現に、今のコアの慢性的な不足によって現状の管理体制に不満を持たない国なんて1つもないことですし、」

友矩「ISがどこにでも持ち込めて手軽に扱える空戦用パワードスーツであるからこそのテロの脅威もありますし!」

弾「そうだよな……、現状でもこれだけ扱いに手を焼いているのに、他のISも『白騎士』並みだったとしたら、もう世界は――――――」

一夏「――――――破滅していただろうな」

一夏「『白騎士』ほどの性能であればすぐに隣国を攻めこむことができるし、宣戦布告と同時に要人抹殺を兼ねた広域殲滅も堂々と行えてしまえるだろう」

一夏「そうなれば、互いにISをどのように使うかで疑心暗鬼になって『白騎士事件』以上の混迷が巻き起こされたに違いない」

弾「だよな。ならず者国家に渡ったらそれこそ――――――」

友矩「何にせよ、篠ノ之 束が製造方法を明かさない上に製造を拒否して失踪した時点で、この世界の行く末がどん詰まりになったのは避けようがありません」

友矩「別にISはあっても問題ないんですよ? むしろ文明の利器としてどんどん戦争以外の目的で活用されるべきなんです」

友矩「問題なのはその数が絶対的に足りないことであって、せめて現在の467個の倍以上の数があればここまでの気苦労はないのですがね」

一夏「まったくだぜ」

733: 2015/01/22(木) 08:59:07.49 ID:5VJHVI9r0

弾「ん?」チラッ

一夏「どうした?」

弾「――――――さっき何か映った気がする」

一夏「!」

友矩「――――――どのカメラです?」

弾「こいつだ」

友矩「――――――巻き戻し」ピピッ

一夏「…………?」

弾「……あれ? 何も映ってない? ――――――見間違い? 気のせいだったか?」

友矩「“ブレードランナー”、ハイパーセンサーで可能な限り体感速度を落としてよく見てください」

一夏「わかった(――――――部分展開!)」

弾「そんなことができるのか!」

友矩「あまり使いたくはないんですけどね。やりすぎると脳細胞が破壊されますので」

弾「ひえっ」ゾクッ

一夏「………………!」ジー

一夏「何だろう? 一瞬だけど何か人型のような輪郭みたいなのが見えた」

友矩「何だと思います?」

弾「まさか幽霊とか――――――?」

一夏「――――――ちょっと見てくる」

友矩「いえ、ここは周辺ブロックのセキュリティとカメラの強化だけにとどめておきましょう」

友矩「ただ、“ブレードランナー”はいつでも出撃できるようにウォーミングアップをしていてください」

一夏「了解!」

弾「…………マジで侵入者なのか?」

友矩「わかりません。できれば何も来なければそれで万々歳ですが、何もないほうがおかしいぐらいですので……」

弾「よし、気合入れて監視だ!」

友矩「ええ」

友矩「そうだ。学園で何か動きがないか見ておかないと」カタカタカタ・・・

友矩「――――――うん?」カタ・・・

弾「どうした?」

友矩「何でしょう、これ? 外部からのセキュリティレベルの高い暗号通信が届いてますね。――――――アメリカから?」

弾「どうするんだ?」

友矩「…………無視しておきましょう。我々 秘密警備隊がすべきことをするだけですし、やれることも限られていますから」

弾「それもそうだな」

友矩「………………」カチカチ




734: 2015/01/22(木) 09:00:11.01 ID:5VJHVI9r0

――――――12:00時頃、


一夏「さすがにああいう無機質なところで寝るのはもう慣れっこだけども――――――」

一夏「今日もすでに半分が終わった。――――――何も起こるなよ。それが一番なんだから」

弾「そうそう。ほら見ろよ、あの三つ編みのメガネの娘なんかいいんじゃね?」

一夏「怒られるぞ?」

弾「いいのいいの。これも立派な監視だし!」

一夏「はあ」ヤレヤレ


しかし、その願いは虚しく破られ、突如としてIS学園はシステムダウンの闇に包まれることになった!


弾「!?」

弾「おい、モニターが一斉に真っ暗になったぞ!? あっちのカメラもだ。いや、ほとんど――――――」

一夏「…………全施設 停電!?」

一夏「緊急用の電源にも切り替わらないし、非常灯も点かないか」

一夏「――――――早速やってくれたな?」


友矩「“ブレードランナー”、予定通りに地下秘密区画 防衛のための迎撃態勢に入ってください」


弾「友矩!」

一夏「わかった」


タッタッタッタッタ・・・



735: 2015/01/22(木) 09:01:08.32 ID:5VJHVI9r0

友矩「いよいよというところか」

弾「で、俺たちはどうすればいいんだ?」

友矩「簡単ですよ。織斑先生はちゃんとこの非常事態における対策を一条先生と練っていたんです。その対策に従っていれば2,3日は大丈夫です」

友矩「その布石の1つとして、仲の悪い国家や組織の人間同士を意図的に組ませて互いを監視させるという班構成の警備体制なんです」

弾「なるほど! それなら確かに迂闊な行動ができないな!」

友矩「また、できるだけ実力が近いと思われる組み合わせや学園に味方しそうな人員のパワーバランスが大きくなるように割り振ってますので、」

友矩「まず、この非常事態に不審な動きをする職員は真っ先に潰されますね」

友矩「そして、この地下秘密区画は機密保持のための迎撃トラップがいっぱい仕掛けられてもいるんです」

友矩「超国家機関としての絶対的中立を保つための証拠隠滅も辞さない非情な罠の数々が――――――」

弾「え」アセタラー

友矩「簡単なものでいいんです。通路を封鎖したり、通路を危ない気体で充満させたり、スズメバチを放ったりね?」

友矩「あとは、超巨大ゴキブリホイホイに閉じ込めたり、恐怖を煽る粋な演出の数々で精神的に追い詰めたり――――――」

友矩「相手がどの程度の装備で来ているかで当然 対応を変えなければなりませんが、」

友矩「少なくとも、この地下秘密区画は独立した施設として機能しているので電力供給も問題なく、どうとでも対応は可能なんです」

736: 2015/01/22(木) 09:01:46.00 ID:5VJHVI9r0

弾「けどよ? こうも簡単に全セキュリティを奪われるってIS学園って本当に大丈夫なのかよ? 前に同じことがあったんだしよ」

友矩「前の時はあくまでアリーナ1つのコントロールを奪われただけでしたが、余裕で学園全体を掌握できることはわかってました」

友矩「しかし、IS学園のセキュリティは腐っても世界最高峰のものが使われているので、それを突破できるとなると2つの可能性しかあり得ません」

友矩「1つは、とある天才科学者によるセキュリティの正面突破」

友矩「もう1つは、内部からセキュリティの切り崩しを行うこと」

弾「…………!」

弾「どっちにしろ、それってヤバイってことだよな?」アセタラー

友矩「どっちが質が悪いのかは判断できませんが、」


――――――確かなことは、織斑千冬の留守を狙っての犯行だということ。


友矩「そして、単一組織による犯行とは断定できないことと誰が味方か敵なのかわからない今の現状こそが最も質が悪いです」

弾「現状のセキュリティ強奪が内部犯と外部犯の合同だとしても、侵入者同士がお仲間であるかは別ってことか」

弾「狙いは、――――――当然、4月のクラス対抗戦で出てきた『黒い無人機』とかとか?」

友矩「あるいは、『パンドラの匣』そのものかもしれませんし――――――、」


友矩「――――――『暮桜』」ボソッ


弾「ん?」

友矩「何にせよ 託された以上は、IS学園の宝物庫に眠れる数々のブラックボックスの保守を全力で行うだけです」

弾「おお!」

弾「で、“トレイラー”の俺は何してればいいの?」

友矩「“オペレーター”の僕の指示に従って火器管制や地下秘密区画の通路の開閉と監視を担当してください」

弾「お、おう! なんかいっぱいスイッチやモニターがあってどれがどれだか――――――」

友矩「さて、IS猟兵“ブレードランナー”の本領発揮です!(もちろん、何も起こらなければそれがいいんだけれども)」ピピッピピッピピッピピッ

友矩「(さてと、“オペレーター”として誘導と援護をしないといけない傍ら、セキュリティの奪回も進めないとな……)」ピピッピピッピピッピピッピピッピピッ

友矩「(とてもじゃないけど、2・3年生の精鋭ハッカー部隊の援護もあっても一向に埒が明かない!)」ピピッピピッ

友矩「(これはやはり、あの天才科学者が一枚噛んでいるのか――――――)」アセタラー

友矩「(けれども絶対に“パンドラの匣”だけは氏守する! 開拓はもう少しで佳境に入るんだ。今までの頑張りを無駄にさせてなるものか!)」ピピッピピッ



737: 2015/01/22(木) 09:02:20.36 ID:5VJHVI9r0

状況:現在、学園の全てのシステムがダウン。不正アクセスを受けているものだと断定する。

今のところ、生徒たちに直接の被害は出ていない。が、何としてでも学園のコントロールは取り戻さなければならない。

IS学園司令室と地下秘密区画はIS学園の最重要機密を取り扱っているので電源は別にして機能を維持しているが、

今回の事件に巻き込まれた一般生徒や職員たちが学園のそれぞれの施設に監禁されてしまった模様。早急に監禁状態からの解放を果たさなければならない。

また、この混乱に乗じて元々良からぬことを企てている輩が事を起こすだろうことは容易に想像がつく。

学園の表部分に関してはあらかじめ以前のアリーナ封鎖の前例をもって対策班が組織され、生徒たちから募集された精鋭部隊による自警団活動が展開され、

元々こういった場面に直面した時の対応についての教育を施されている2・3年生しか残っていないのでまだ恐慌は起こっていない様子。


なので、諸君ら“ブレードランナー”には地下秘密区画の防衛に専念してもらいたい。


しかし、精鋭部隊や新たに編成された教師部隊に回せるISが1年の臨海学校での校外実習でほとんど持って行かれているので恐慌も時間の問題だろう。

頼りになるとしたら上級生たちの専用機持ちとなるだろうが、残念ながら上級生には3人しか専用機持ちがいないので彼女たちの救助活動は微々たるものだろう。


となれば、今回の騒動の大元である不正アクセスによって奪われたIS学園のセキュリティを奪還するのが一番望ましい。


地下秘密区画の電脳からなら直接 IS学園の電脳の基幹部分にアクセスできるので腕利きハッカーによるセキュリティ奪還作業に専念してもらいたいところ。

あるいは、諸君らに馴染みが深い電脳ダイブによるアクセスで一挙に不正アクセスを断ち切ることも手段の1つだろう。

しかしながら、あまりにも信用に足る人材が乏しく、著しい人手不足によって この地下秘密区画の直接の防衛とセキュリティ奪還の板挟みになってしまう。


そこで、“ブレードランナー”にはまず最初に、この機に乗じて地下秘密区画に侵入してくるだろう刺客たちの迎撃をお願いしたい。


スパイだらけの教師部隊でも今回の警備配置によって目立った動きは抑えられるはずだが、外部からの突入部隊がいないとも限らない。

本来 味方であるはずの教師部隊が当てにならない以上は、それを秘密警備隊“ブレードランナー”の戦力だけで迎え討たなければならないわけだが、

仮にIS学園司令室が陥落しても今回のような非常事態においてはすぐに最寄りの自衛隊基地から部隊が救援に来るのでそれまで持ち堪えて欲しい。

そして、余力があればセキュリティ奪還に注力して、逸早くこの騒動を解決してもらいたい。


誰が味方で何が正しいのかさえ判然としない混迷とした現在の世界の縮図となった このIS学園をその力強い剣の威徳を以って救って欲しい。


                                                     秘密警備隊司令より


738: 2015/01/22(木) 09:02:54.18 ID:5VJHVI9r0

――――――時同じくして、

――――――臨海学校:旅館 対策本部


山田「学園上層部に作戦成功を報告いたしました」

千鶴「うん。普通ならこれで終わり(――――――そう、これでこれ以後の展開についての責任は少しでも回避される)」

千鶴「凰、警戒態勢は一応これからも続くことになるけど、おそらくはもう大丈夫でしょう。昼食を摂ってきなさい」

鈴「わかりました」フゥ

スタスタスタ・・・・・・

千鶴「…………篠ノ之博士は現在どこにいる?」

山田「今、確認しますね」ピピッピピッ

千鶴「それと、――――――まだ見つからないの?」ジロッ

千鶴「何をやってるの、捜索班は! そんなんじゃ生徒たちに示しがつかないよ!」ギリッ

千鶴「ん」

山田「え?! ディスプレイが歪んで――――――」

バチ、バチチ・・・・・・クァwセdrftgyフジコlp;@:「」

千鶴「――――――クラッキング!?」

千鶴「データの一切を消去して! 急いで! さっきまでのことを外部の人間に知られるわけにはいかない! 強制終了も!」

山田「は、はい!」アセアセ

教員「ひぃいいい!」アセアセ

千鶴「無理なら物理で! 早急に処分して! 急いで!」アセアセ

千鶴「いったい何が?! どこからの不正アクセスなの!? まさか学園で何か――――――!」アセタラー


ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン! ガサガサガサガサアアアアアアア! ドッゴーン!


千鶴「!」ビクッ

千鶴「全員、窓の近くから離れて!」

千鶴「くっ……」

一同「!?」

――――――――――――

739: 2015/01/22(木) 09:03:29.62 ID:5VJHVI9r0

――――――“ブレードランナー”戦闘準備


一夏「毎度毎度これを着るのは嫌だな。慣れないし…………(少しは改良を加えられて着やすくはなったけれども…………)」スィイイイイイ

――――――
弾「うおっ、やっぱキモいよ、そのスーツ!」
――――――

一夏「俺もそう思う…………千冬姉がモデルじゃなくなっただけいくらかマシなんだけれどもさ」(首から下はグラマラ~ス!)

一夏「これも女装癖のうちに入っていたらどうしよう?(重心がおかしくなりそうだな、これぇ)」(178cmの長身でかつ胸や尻がデカイ!)

一夏「さて、今回はどのパターンで行こうかな?」スチャ

一夏「用意されている武器は対人用、対IS用、対オートマトン用の3系統だけれど、」

一夏「今回はこの『イリュージュンオーブ』が役に立ってくれるといいな。ルンバ ルンバ」

――――――
友矩「とりあえず『イリュージュンオーブ』による援護はあまり当てにしないでください」

友矩「“オペレーター”としても侵入者の迎撃に専念したいですが、システムの奪還にも力を入れたいので」
――――――

一夏「わかった。慎重な立ち回りを心掛けるよ」

一夏「敵がIS単機で来てくれるんだったら『零落白夜』でイチコロなんだけどな」

――――――
弾「最初から自衛隊が常駐していればこんなことには――――――」

友矩「それを許すとなると、IS学園に在日米軍も近くに置いておきたくなるのが人間の性です」

弾「…………だから、IS学園の警備は民間警備会社に委託してるわけなんだな」

友矩「そういうことです」

友矩「本当は学園に送り込む代表候補生などの邦人の保護を目的に多国籍軍の常駐も初期の頃は考えられていたようなんですがね」

友矩「結局は国家間の利害の問題で当たり障りのない今の管理体制になったというわけでして」

友矩「ただ、これからはどうなるかはもうわかりません」

弾「…………だな」
――――――


740: 2015/01/22(木) 09:04:05.76 ID:5VJHVI9r0

第3世代型IS『白式』 秘密警備隊“ブレードランナー”特殊作戦仕様機
専属:織斑一夏
攻撃力:S 『零落白夜』による一撃必殺
防御力:B 装甲自体は他のISに比べれば多い
機動力:A 競技用の機体としては現行トップクラスの機動力
 継戦:E+外付装備によってある程度はマシになった
 射程:E+外付装備によってある程度はマシになった
 燃費:E+外付装備によってある程度はマシになった

本作においてはあまり活躍の場がない影の主役機。
搭乗者自身の能力が凄まじいので“ブレードランナー”特殊作戦仕様機としての全力を見せる場面すらもなく、
『零落白夜』だけを使って(本来の仕様ではそれしかないのだから当たり前だが)これまでの難事件を解決してきた。
“ブレードランナー”の命名から察するに、搭乗者と機体のどちらが主戦力なのか――――――。

基本的にISには量子化して物体を格納する能力があり、それを初期装備以外で自由に扱えるようにした(=後付装備)のが第2世代型ISであるが、
それ以降の第3世代型ISのくせに自由な装備ができない時点で第1世代レベルの欠陥機なのは理解できるはずである。
しかしながら、第1世代型ISでは普通にISを強化スーツとして扱って一般兵卒が使う小銃を持たせて運用する外付装備なんていうのは当たり前の発想であり、
それが当たり前じゃなくなったのは偏にISのシールドバリアーを従来火器の威力では突破できない(=一撃必殺できない)ところにあり、
これにより従来の対人用と対物用の他に対IS用という独自の基準が生まれ、現在ではISに搭載されているのは対IS用のシールドバリアー攻撃用がメインである。
話を戻すと、実質的な第1世代型の『白式』でも外付装備の工夫を凝らすことによって戦術に幅を持たせることができ、
ISバトルの競技規定に縛られれない非正規戦仕様ならではの戦力強化が施されており、“IS頃し”に特化した強みを持っている。

装備
・近接ブレード『雪片弐型』
・女性擬態ISスーツ ※織斑千冬からモデル変更されている
・外付装備
今作の特殊作戦が主となる『白式』の特徴的な装備であり、量子化していない直接 身体で携行して使う生身の人間が使うような装備群の総称である。
基本的には直接的な戦闘にはおいては決まって役に立たず あるいは劣化品であり、特殊作戦の遂行や長期の任務遂行に必要な支援物資の携帯などに用いられる。

|・タクティカルベルト 
|拡張領域を利用できない“ブレードランナー”のために、原始的だが あらかじめ様々な小道具をストックできるベルトを付ければいいということで、
|急遽用意された高級素材のタクティカルベルトであり、『白式』を展開した際の高速移動にもストックさせたものが耐えうる設計となっている。
|基本的に“ブレードランナー”の撃破対象がISなどの通常兵器では対処できない相手が多いので、ハンドガン程度の貧弱な火器をストックする意味は無いが、
|“ブレードランナー”が遂行する特殊作戦を少しでも楽にするための小道具をポーチに容れて手軽に持ち運べるという利点がある。
|しかし、拡張領域に収納されているわけではないので剛体化せず、ベルトやストックしたものが普通に破損する可能性があるので注意が要る。
|また、拡張領域に量子化しているわけじゃないのでストックした分の重みがかかり、ストックしているものが丸見えのアナログ装備でもある。
|よって、基本的には作戦内容や状況に合わせてベルトの着用と装備の選択が行われる。


|・パイルバンカー 
|第2世代においては最強クラスの『盾頃し』の異名を持つ対IS用のロマン武器。『盾頃し』の異名を持つがISにおいてはこれ自体が盾として使える。
|しかし、“ブレードランナー”が使う場合においては後付装備にできないので、量子化ができず収納できず、剛体化がないので反動で自壊する可能性もある。
|いかにISのシールドバリアーの恩恵の1つである剛体化が素晴らしいのかを教えてくれるありがたい装備である。
|採用の理由は、攻撃力十分・排莢しない・操作が簡単・比較的軽量――――――などなど。


|・グレネードランチャー
|『ラファール・リヴァイヴ』用の一般的なグレネードランチャー。グレネードランチャーは構造が単純でかつグレネードの種類を換えることで、
|様々な用途に対応できるために一般的な殺傷力を持つ炸裂弾以外にも冷凍弾や煙幕弾なども装填されて利用される。
|基本的に、『白式』には射撃管制装置が入っていないので通常の射撃戦がまったくできないのだが、
|グレネードランチャーに限って言えば、ある程度 飛距離が決まっており、ピンポイントに命中させる必要がないので汎用性と合わせて活用される。


|・イリュージュンオーブ
|遠隔操作・自走可能なホログラム発生装置のオートマトン。外見はロボット掃除機:ルンバであり、実際にそれを魔改造したのが本機である。
|“ブレードランナー”が使うルンバは前述のホログラム発生装置を備えているが、その他にも騒音機や振動機の機能や光学迷彩も備えている。
|遠隔展開にも対応しており、数々の妨害機能を駆使して侵入してきた敵を迷宮に誘い込み、実働戦力が1人しかいない“ブレードランナー”の援護をする。
|妨害電波発信モデル・自動機銃モデル・多目的用モデルなど様々なバリエーションがあり、“オペレーター”も前線での活動ができるようになる。


特技
・単一仕様能力『零落白夜』
・コア固有能力『生体再生能力』
・コアナンバー001:世界最初のIS『白騎士』のコア


741: 2015/01/22(木) 09:05:50.00 ID:5VJHVI9r0

――――――12:30頃、

――――――システムダウンした暗闇の通路


一夏「配置についたぞ」

――――――
友矩「同じく、精鋭部隊や教師部隊の表側の配置の完了が確認されました」

友矩「現在 裏側である地下秘密区画に存在するのは“ブレードランナー”ただ一人です」

友矩「問題行動は報告されてませんよね?」

弾「ああ。とりあえずあっちこっちのカメラに映ってる部隊は大丈夫そうだな」

友矩「しかし、世の中には光学迷彩という便利なものがありますから、様々なカメラやセンサーで見落とさないように気をつけて」

友矩「場合によっては、光学迷彩に合わせて吸音ブーツ・遮熱コートと併用してくる可能性もありますから」

弾「ホント、便利になった代償にいつ狙われるかわかったもんじゃないもんな……」

友矩「しかしながら! 光学迷彩にも弱点がありまして! それを理解すれば侵入者の規模と装備を把握でき、対策なんていうのもできるんです」

弾「え?」

友矩「簡単にいえば『部隊行動で光学迷彩を使用している場合の一番の不便とは何か?』ということです」

弾「えと?」

友矩「実に単純なことです」


友矩「光学迷彩が完璧であればあるほど、敵からはもちろん味方からも視認されなくなって連携行動が取りづらくなるんですよ」


弾「そっか――――――あれ? だったら、赤外線ゴーグルなんかを味方内でつけていけば――――――」

友矩「それが利用できるということは、こちらも赤外線カメラで光学迷彩を見破ることができるということですね」

弾「ああ なるほど! ――――――すでにこちらには光学迷彩に対するあらゆる備えがあるんだ」

友矩「そういうことです。光学迷彩対策はすでにこのIS学園の潤沢な資金源をもって完璧となってます」

弾「あれ? でも、連携行動におけるリスクを嫌って単身潜入してきたやつには手も足も出ないんじゃ――――――?」

友矩「ずいぶん賢くなりましたね。――――――実にその通りです」

友矩「しかしながら、やはりあり得ないです。特殊部隊の性質を考えると、連携行動による迅速な作戦遂行能力が求められていますから」

友矩「そして、IS学園の秘蔵品を盗み出す目的ならば、物理的に一人の人間の腕力で持ち上げられるようなものは何一つありませんし、運搬手段も限定されます」

友矩「基本的に離れた場所で二人で同時の操作を求められるロックも多用してますし、発破を使われようともバリアーを展開できますしね」

友矩「あとは、“ブレードランナー”が戦いやすいように敵戦力を分断するように通路の操作を正確に行うだけです」

弾「…………何か簡単に終わりそうな気がしてきたな」

友矩「そういう防衛機構なのですから、その安心感は必然のものでなければ嘘です。むしろ今までの出来事が現実を超越しすぎていたのであって」

友矩「さて、良からぬ輩の侵入に気をつけて」ピピッピピッピピッ

弾「ああ!」
――――――

一夏「その前に『イリュージョンオーブ』の同期がとれてるか確認してくれるか?」

一夏「実戦投入はこれが初めてなんだし」

――――――
友矩「わかりました」

友矩「――――――これが勝利の鍵となることを」カタカタカタ・・・

弾「おう!」
――――――



742: 2015/01/22(木) 09:07:05.29 ID:5VJHVI9r0






































――――――侵入警告!


少女「………………」(赤外線ゴーグル)

少女「フッ」ジャキ、バーン!  ――――――全機能が停止した通路の暗闇に向けて少女は不意に銃爪を引いた!

「うおおおおお!?」ドサッ ――――――何もないところから血が噴き出す!

「!?」ビクッ ――――――すると、たちまち姿は見えないのに人の気配が一気に騒ぎ出す!

「待ちぶせ!?」

「何者!?」ジャキ

「――――――背丈が低い!? まさか新手のIS乗り!?」

「馬鹿な?! 情報にはなかったはず――――――ハメられた!?」

少女「……………」コツコツコツ・・・

743: 2015/01/22(木) 09:07:37.42 ID:5VJHVI9r0

――――――
「聞こえるわね?」

「いい? あなたの身体には、監視用ナノマシンが注入されてるわ」

「命令通り、ミッションを遂行しなさい」
――――――

少女「ステルス迷彩――――――読み通りだったな」ピン!

特殊部隊「!」

特殊部隊「グレネード!」

特殊部隊「小娘がっ!」ズババババ!

少女「…………面倒だな」

少女「――――――!」シュッ

特殊部隊「!」

バァーン!

特殊部隊「スモーク!」

特殊部隊「撃つな! ここは退け! 想定外の事態が起きた!」

特殊部隊「ここは俺にまかせろ!」

少女「…………面白くない」シュッ

特殊部隊「うおおおおおお!」 ――――――突き出されたナイフ!

少女「うすのろが!」ヒョイ、ガン! ――――――軽くいなして背後に肘打ちを浴びせる!

特殊部隊「があっ!?」

特殊部隊「退け! 退けぇ!」ズババババ!

特殊部隊「くっ」タッタッタッタッタ!

少女「――――――『殺さない』というのは!」

少女「逃すと思うか?」パチン!

特殊部隊「!!??」


秘密警備隊“ブレードランナー”が地下秘密区画に防衛の網を仕掛けて待ち構えていた頃、

たった一人でISも展開することなく屈強な男たちで組織された特殊部隊に立ち向かう少女――――――。

少女と言うにはあまりにも殺伐とした雰囲気を醸し出しているそれが指を鳴らすと、

システムダウンの通路の暗闇を斬り裂くかのような一筋の光が稲光のようにギザギザとした軌跡を一瞬だけ描いて、

IS乗りと遭遇して即 脚を射ち抜かれた仲間を抱えて退却をし始めた――――――小娘ごときに尻尾を巻いて逃げ出す特殊部隊の脛を一斉に薙いだのだ!

1射で逃げ腰の標的全てを立てなくすることができなければ、間髪入れずにもう1射の光が無事だったやつを狩り尽くす。

あっという間に屈強な男たちが闇の中でもがき苦しんでのた打ち回り、全員が自身や仲間の脛から溢れ出る血の池に浸されるのであった。

それを見て少女はゴーグルによって目許はわからないが口をニタリと曲げて、手にした拳銃を改めて這い蹲る屈強だった男たちに向けるのであった。


744: 2015/01/22(木) 09:08:32.54 ID:5VJHVI9r0

特殊部隊「うわあああああああああああああああああ!」

特殊部隊「なんだと!?」ドサッ

少女「お前たちは運がいい」パン! パン!

特殊部隊「がああああああ!」ジタバタ

特殊部隊「脚があああ! 手がああああああ!」ビッシャー

特殊部隊「やめろ! 撃たないでくれぇえええ……!」ジョーーーーーーー

――――――
「いい子よ、M」

「楽しみにしているわ」
――――――

少女「…………ふん」パン! パン!

少女「さて――――――、」ガサゴソ

少女「国籍はアメリカで間違いないが…………」

――――――
「そうね。システムダウンの混乱に乗じて一挙に突入を行うものだと思っていたのだけれど」

「いつでも突撃できる監視体制を整えておいて対IS兵器も無しに見事に罠に掛かってくれた」

「どうやら、火事場泥棒をやろうとしてミイラ取りがミイラになったようね」

「…………ふがいないわねぇ」ボソッ

「これでIS学園に多大な借りができて、アメリカの国際的信頼は失墜して、大いなる不和の種が飛び散るわね」

「くれぐれも余計なことはしないでちょうだい、M ?」

「あなたに与えられた任務はIS学園への背信行為の生き証人を確保すること。自害なんてされないようにちゃんと見張っていてね」
――――――

少女「――――――生きてさえいればいいんだろう?」ニヤリ

特殊部隊「うぅ…………」コソコソ ――――――倒れたフリからの不意討ちを狙う!

少女「フン!」パン!

特殊部隊「あ、ああ…………?!」バキーン! ――――――だが、あっさり見抜かれて拳銃が銃弾によって弾かれるのであった。

――――――
「そうね。喋ることさえできればなんだっていいわ。あとは好きにしていいわよ」
――――――


745: 2015/01/22(木) 09:09:26.01 ID:5VJHVI9r0

少女「よし」ニター

特殊部隊「あ、あああ…………」ガタガタ

少女「ん」


ヒュウウウウウウウウウウン!


隊長「!」

特殊部隊「た、隊長…………」

隊長「お前たち……」アセタラー

少女「アメリカ第3世代型『ファング・クエイク』……」

隊長「仇はとってやる」ジャキ

少女「少しは楽しませてくれそうだな。ついでにその機体もいただくとしよう」スチャ ――――――赤外線ゴーグルを外す。

隊長「!?」

少女「――――――展開!」ピカーーン!

特殊部隊「!?」

隊長「まさかその機体は――――――、いやお前は――――――!?」

少女「フッ」



少女はゴーグルを外して素顔を見せたことにより、その場にいる全員が慄いたのに悦に感じながら、高らかにISの展開を宣言するのだった。

小柄ながら単身で不敵に立ち塞がった少女は暗闇の中で妖蝶へと羽化するのであった。そう表現するのが相応しいぐらいに奇怪なフォルムのISであった。


――――――その妖蝶の名は『サイレント・ゼフィルス』。


しかしながら、ここはアリーナほどの空間的広がりもない何の変哲もない冷たい通路であり、妖蝶が羽ばたくには狭すぎるように見えた。

また、その奇抜なフォルムからどこの国が設計したのかがわかってしまうようなゲテモノ機体であったのだが――――――。




746: 2015/01/22(木) 09:10:44.28 ID:5VJHVI9r0

















一夏「……どうなってる、これは!?」


少女「フッ」

隊長「くっ」


一夏「何だあの機体は?! あっちのはアメリカ第3世代型IS『ファング・クエイク』のように見えるけど――――――」

――――――
友矩「…………データ照合完了。シークレットデータベースに登録されている機体――――――っ!?」

友矩「あれはイギリス第3世代型IS『サイレント・ゼフィルス』!? 『ブルー・ティアーズ』の改良2番機の位置づけの機体?!」

友矩「いや それよりも、――――――アメリカとイギリスが最新鋭機を投じて水面下で争いを?」
――――――

一夏「どうすればいい?」

――――――
友矩「何もしなくていいです。どちらが味方で――――――いや、どちらかが味方であるかどうかさえも怪しいからには傍観です」

友矩「“ブレードランナー”は気付かれないように撤収して」

友矩「おそらくは一流のドライバー同士の頃し合いです。そして、この狭い通路内での戦いとなれば少なからず互いに消耗するはずです」

友矩「どちらが勝っても、そこから万全でない状態でこの地下秘密区画を突破できるという楽観的予測はしないと思います」

友矩「こちらとしても、セキュリティ回復に専念するためにできる限り迅速な侵入者の排除を求められてはいますが、」

友矩「IS相手の大立ち回りを1日に複数相手にするだけの余裕はありません」

友矩「よって、ここはできるだけ侵入者同士を鉢合わせにして潰し合いをさせます」

友矩「現在 監禁されている一般生徒や職員の方には悪いですが、確実性を採らせていただきます」
――――――

一夏「わかった。気づかれないうちに撤退するからどこまで退けばいいかナビゲートを」ソソクサ・・・



少女「――――――見つけた」

隊長「言った側からまた油断……、馬鹿は氏ななきゃ治らない――――――」ニター

少女「ああ……、お前にはもう飽きた」

少女「――――――氏ねっ!」ザシュ

隊長「グフッ!?」ガハッ

少女「もっとも絶対防御のおかげで氏にはしないか。――――――氏ぬほど痛いだけで」ニター

隊長「ぐぁあ…………」ドサッ


“仮面の守護騎士”こと豊胸くびれうなじおしりがグッドな擬態ISスーツをまとった、

“ブレードランナー”織斑一夏が密かに駆けつけた時には、所属不明のIS乗り同士の戦いはすでに大勢が決していた。



747: 2015/01/22(木) 09:12:35.64 ID:5VJHVI9r0

まず、状況と背景を説明しよう。

特殊部隊――――――アメリカの非正規特殊部隊“名も無き兵たち”の“隊長”の機体がアメリカ第3世代型IS『ファング・クエイク』であり、

アメリカ代表操縦者であるイーリス・コーリングのものとは違って、あちらが国際IS委員会における査定や試験装備の運用を前提にしたものに対して、

こちらは光学迷彩を搭載したステルス仕様であり、特殊部隊機らしくきっちり取り回しのいい銃火器などを取り揃えていた。

その他にも、ISのない主力である他の隊員たちの突入を支援するための妨害電波や破壊工作の装備も後付装備に入っており、

まさに施設に突入する特殊部隊の司令塔としての役割を持った機体となっており、

アラスカ条約で禁止されているはずのISの軍事利用化を最たるカスタマイズが施されたものであった。

そもそも、このアメリカ第3世代型IS『ファング・クエイク』の性能に関して言えば、

さすがは合理性の追求が絶対のアメリカという国のお国柄らしく、第3世代兵器とかいう不安定な兵器の搭載は避けて、

拡張領域の搭載によってマルチロール機になった第2世代型ISのブラッシュアップして汎用性と安定性を強化したのがこの『ファング・クエイク』であり、

簡単にいえば、第2世代型ISの傑作機である『ラファール・リヴァイヴ』をアメリカ風にごつく 第3世代レベルに強化した機体が『これ』である。

つまり、基本性能に関して言えば、汎用機としては極めて高水準にまとまっており、

軍事大国であるアメリカがかつて開発を進めていたハイテク強化服:ランドウォーリアの発展型とも言えるものなのである。

なので、基本性能に関して言えば申し分なく、あとは汎用機ゆえの装備の選択とドライバーの実力次第であらゆるミッションに対応可能であった。

ついでに言えば、この非正規特殊部隊“名も無き兵たち”が装着している光学迷彩付きのスニーキングスーツはランドウォーリアの正当発展型であり、

女性用のランドウォーリアの発展型がISならば、ISに乗れない男性にはIS技術で得た光学迷彩を施したスニーキングスーツが開発されていた模様。

しかも、ISのハイパーコンピュータを利用したことで実現した量子コンピュータによって飛躍的向上した精密工業力によって、

強靭な防護服の開発に成功しており、それが光学迷彩付きのスニーキングスーツにまで発展しているのだからISじゃなくても十分に凄いものになっている。

一方で、実はアメリカ最新鋭の第3世代機『ファング・クエイク』は世間一般に向けた戦略的には手を抜いた機体であり、

実際の本命は現在 ハワイで試験運用となっていた『銀の福音』という第3世代機であった…………。


一方で、侵入してきた特殊部隊の迎撃を“ブレードランナー”に代わって行ってくれていたのが、

“M”というコードネームを与えられた謎の少女兵士が駆る『サイレント・ゼフィルス』と呼ばれるイギリス第3世代型ISであった。

機体データは国際IS委員会にはすでに提出されていたらしく、位置づけとしては『ブルー・ティアーズ』改良2号機であり、

英国面として揶揄されるいかにもイギリスらしいセンスが光る“妖蝶”を彷彿させる巨大なウィングスラスターが印象的であった。

データによれば、この機体はBT兵器の試験機の2号機として新たなBT兵器であるシールドビットの運用を前提としつつも、

1号機である『ブルー・ティアーズ』で見られた第3世代兵器 特有の欠陥である使用中のPIC使用不能の不具合をある程度 改善しており、

それにより、高速化するISバトルにおいていちいち足を止めることなく、『ブルー・ティアーズ』の元々のコンセプトであった、

遠距離狙撃型らしい戦い方をストレスなく実現しており、ビットを撒いて逃げながら距離をとって狙い撃つ戦法が狙いやすくなっている。

ここで更に、BT兵器搭載試作2号機としてわかりやすい強化点として、主力のBTレーザーライフル『スターブレイカー』は複合武器となっているのだが、

ここでもまた英国 独特のセンスを発揮して、よせばいいのにまたもや余計なことをして頓珍漢な仕様になっていた。

1号機の『ブルー・ティアーズ』以上の出力のBTレーザーと大口径の実弾兵器に使い分けられるという一見すると順当な強化に見える代物だが、

欲張りすぎて、たたでさえ1号機の『ブルー・ティアーズ』のレーザーライフルが巨大であったために取り回しが悪かったのに、

それを遥かに超す巨大な武装に発展しており、その上で銃身を大剣として使えるように特異な形状に加工してあるのだ。

その結果、元々の取り回しの悪さが更に悪化して、大剣として扱うにしても狙撃銃として扱うにしても中途半端なものになってしまったのだ。

それ故に、使いやすくなったBTビットを主力にした立ち回りが基本となり、せっかく強化されたBTレーザーライフルはサブウェポン扱いである。

こういった記録が試作段階での運用記録に寄せられており、そんな機体をわざわざ使っているこのMという少女はいったい…………?



748: 2015/01/22(木) 09:15:10.63 ID:5VJHVI9r0

しかしながら、戦いの結果は先の通り、Mが駆る『サイレント・ゼフィルス』に軍配が上がっていた。

――――――それはなぜなのだろうか? 

実力の差もあるのだろうが、交戦しているのは派手な特徴はないが堅実に高水準にまとまった汎用機である『ファング・クエイク』であり、

こういった場合は、『ファング・クエイク』の堅実さに対する『サイレント・ゼフィルス』のトリッキーさで翻弄したことが考えられる。

状況としてはシステムダウンによる暗闇に閉ざされた狭い通路であり、取り回しの悪い『スターブレイカー』はまず使うことは難しい。

一方で、この『ファング・クエイク』は特殊作戦仕様なのでこういった閉ざされた屋内戦闘で使いやすい武装が入っているので、

基本的な立ち回りに関して言えば、『ファング・クエイク』が圧倒的優位に立つことは読者にも想像がつくことだろう。


しかしながら、イギリス第3世代型IS『サイレント・ゼフィルス』が『ブルー・ティアーズ』の後継機であるという事実を忘れてはいないだろうか?


『ブルー・ティアーズ』の特徴といえば、一撃必殺があり得ないISバトルの高速戦闘においてミスマッチの遠距離狙撃型という点以外に、

第3世代兵器である機体と同名の『ブルー・ティアーズ』というビット兵器を展開できるのが特徴であった。

こういったビット兵器――――――それによるオールレンジ攻撃というものは単純に同時発射できる砲門数や射角制限がなくなり、

それだけで単一目標に対する火力や命中率が向上するために、1発辺りの威力は他の武器に劣るだろうが確実性においてはこれに勝るものはない。

実は、『サイレント・ゼフィルス』における第3世代兵器『ブルー・ティアーズ』は1号機の4つに対して6つに増えており、

更には1号機の『ブルー・ティアーズ』の形状が羽のように大きなもの対して、2号機であるこちらは非常にコンパクトなものに小型化されていたのだ。

わかりやすくいえば、『ブルー・ティアーズ』のものはスーパードラグーン、『サイレント・ゼフィルス』のものはまさしくファンネルである。

つまり、より数を増やし、より小型化され、更には第3世代兵器の欠点であるPIC使用不能の不具合が解消されていることを踏まえれば、

実質的に“隊長”の駆る『ファング・クエイク』は狭い通路内で『サイレント・ゼフィルス』+6つのビット兵器からの同時攻撃を受けることになり、

手数においても機動力においても勝る『サイレント・ゼフィルス』の圧倒的な空間制圧力の前に屈するほかなかったのである。

となれば、攻撃が当たらない場所――――――すなわち敵ISの懐に飛び込みたいところではあったが、

ここで『サイレント・ゼフィルス』においてはお荷物であったはずのデカブツ『スターブレイカー』が図らずも狭い空間において巨大な障壁となり、

更にはミサイルビットの代わりの新開発のシールドビットが『ファング・クエイク』からの直撃を防ぎ、攻撃の勢いを削ぐので、

普通の特殊作戦機として普通の攻撃手段しか持たない『ファング・クエイク』としては攻めあぐねるのは必然であった。

元々、ISが史上最強の兵器として君臨していたのも、相手が数発で倒れる前提の通常兵器ではダメージを与えることが極めて難しかったからであり、

旧世代の強化服:ランドウォーリアの延長線的設計思想の『ファング・クエイク』の装備では突破は困難を極めた。

そして、ダメ押しとばかりに、“名も無き兵たち”の“隊長”とMと呼ばれるこの少女の実力を比べると圧倒的にMの方が上手であり、

総合的な機体性能では『ファング・クエイク』の方が優れてはいたものの、『サイレント・ゼフィルス』のトリッキーな機体特性も合わせて、

水面下で行われていたこのアメリカとイギリスの最新鋭の第3世代機同士の対決はこうして“妖蝶”の快勝という結果に終わったのである。




749: 2015/01/22(木) 09:15:53.74 ID:5VJHVI9r0












一夏「どうだった? 結果は――――――?」

――――――
弾「あのゲテモノ――――――『サイレント・ゼフィルス』の圧勝だったよ」

弾「でも、見間違いかな?」

弾「あのビットから放たれるBTレーザー?ってのが曲がったように見えたんだが…………当たってないはずなのに当たってる疑惑の判定が」

友矩「おや、やっぱり眼はいいんですね。さすがです、“トレイラー”」

弾「え?」

友矩「そもそも、『BT兵器』とはどういった第3世代兵器のことかわかりますか?」

弾「あれだろう? イギリス独自の改良エネルギー兵器の総称だろう?」

弾「一応、アニメのようなエネルギー兵器ってのは第1世代の段階でも実用化はされてはいたけれど、まだまだ改良の余地があってさ?」

友矩「まあ、それはそれで正解です」

友矩「しかし、『なぜそれが第3世代兵器なのか』については答えられてませんね」

弾「第3世代兵器――――――イメージ・インターフェイスを利用した自由度の高いこれまでになかった形の兵器群」

弾「確かにその定義からすれば、どこをどうとったらBTエネルギーとビット兵器が結びつくんだ?」

弾「どう考えても、BTレーザーの技術とビット兵器の技術は別物に思えるのに、どうして一纏めになってるんだ?」

弾「現に『サイレント・ゼフィルス』の戦い方を見ても、ビット主体で戦っていたんだからさ?」

弾「凄いぜ。『ブルー・ティアーズ』と比べると凄く動きが滑らかで狭い空間の中をホントに蝶のように舞う感じで戦ってたんだから」
――――――

一夏「そうか。相手(仮)は狭い空間で有利な機体なのか……」

一夏「これは管制室から援護してもらわないとか?」

750: 2015/01/22(木) 09:17:21.34 ID:5VJHVI9r0

――――――
友矩「――――――『種明かしをすれば』ですよ?」

弾「お、おう……」

友矩「先程“トレイラー”が言った、『レーザーが曲がったように見えた』と言うのは、」

友矩「――――――あれは事実なんです」

弾「マジで?! ホントに曲がってたの!?」

友矩「これこそが『BTレーザー』というよりは、『BT兵器』の特徴でしてね?」

友矩「そもそも、『BT兵器』と呼ばれているビット兵器『ブルー・ティアーズ』がどうしてイメージ・インターフェイスに対応しているかわかりますか?」

弾「え? ――――――第3世代兵器だからだろう?」

友矩「では、具体的にはどういった原理を利用して第3世代兵器を実現しているか、わかりますか?」

弾「わかんねぇよ、そんなの!」
――――――

一夏「…………あれだけの超常現象を起こしているように見えるIS技術だけれども、」

一夏「あくまでも超常現象の源はISコアただ1つだけであり、それ以外ISを構成している部品の全てが既存技術でできているんだから、」

一夏「何だろう? 通信チップか何かで制御してるんだろう、第3世代兵器って言ったってさ?」

――――――
弾「あ、なるほど……」

友矩「はい。身も蓋もない言い方をすれば、ナノマシン制御で動いているものなんですよ」

友矩「ただ画期的な点は、『レーザーと一緒にナノマシンを飛ばす』という点でしてね?」

弾「え」

友矩「つまり、イメージ・インターフェイスに対応した光学的ナノマシンをレーザーと一緒と飛ばすことによって、」

友矩「理論上は、本体からの任意の命令軌道をISが翻訳してナノマシンに伝達させてBTレーザーの偏向射撃が可能だと」

弾「そう説明されると、本当にできそうな気がするな!」

弾「ホント、ISってやつは名の通り『無限の可能性がある』わけだな」

友矩「しかしながら、ナノマシン程度の大きさの機材だけでレーザーを偏向させることは理論上は可能とされていても実践が難しく、」

友矩「ある種 独自の繊細で大胆なイメージ・コントロール力が求められるために、」

友矩「イギリスでは国産の第3世代型IS『ティアーズ型』独自の適性である『BT適性』を持ったドライバー志望の娘を探してましてね」

弾「それに採用されたのが、あのイギリス代表候補生:セシリア・オルコットちゃんってわけかぁ(イエス、ナイスバディ!)」

友矩「しかしながら、今 読んでいるシークレットデータベースの報告書によれば、」

友矩「暫定1位の『BT適性』を持っているセシリア・オルコットですらまだBTレーザーの偏向射撃はできていないというのに――――――」

弾「あ」

友矩「今、地下秘密区画でアメリカの特殊部隊と単身で迎撃して全滅させた『サイレント・ゼフィルス』のパイロットは――――――」

弾「セシリアちゃん以上の『BT適性』を持った――――――?」

友矩「いや、しかし……、それほどの実力者でしかも最新鋭機をこんなところに投入するかな、普通?」
――――――

一夏「もしかして、イギリス政府が水面下で俺たちに対してメッセージに送っているのか…………」

751: 2015/01/22(木) 09:18:00.32 ID:5VJHVI9r0

――――――
友矩「ともかく、――――――情報が足りない! 足りなすぎる!」

友矩「誰が味方で、誰が敵なのかも、国際情勢が明らかになっていない今、我々が選べる道は限られている…………」

弾「…………今 『サイレント・ゼフィルス』は、アメリカだよな?――――――その特殊部隊を拘束して、」

弾「――――――いたぶってやがる」アセダラダラ

友矩「なんですって!?」

弾「うげぇ!? こいつ、ナイフで面の皮を剥ごうとしてんのか?!」ゾクッ

友矩「ん? それよりも『サイレント・ゼフィルス』のドライバーのあの後ろ姿は――――――」

弾「え? あ、あれ……?」
――――――

一夏「どうしたんだよ? 他に侵入者はいないのか? 表側の方はどうなってるんだ? 俺はこのまま待機でいいのか?」 

――――――
友矩「――――――“ブレードランナー”は待機」

弾「…………“オペレーター”」
――――――

一夏「わかった。何か動きがあったら逐一 教えてくれよ。ここは真っ暗で俺には何にもわかんないんだからさ」

――――――
弾「あ、ああ……。俺たちがお前を導いてやるよ。“トレイラー”は“お前の足”として、“オペレーター”は“お前の頭脳”としてな」

友矩「ともかく、現状維持です。表側の方も依然として大きな動きはない――――――いえ、異常に気づいて自衛隊が発進しました」

友矩「これなら、夕方になる前には救助活動が始まって表側の方は大丈夫なのではないでしょうか?」

友矩「そして、同時にこの学園の裏側に忍び寄る魔の手も退かざるを得なくなるはずです」
――――――

一夏「そうあってくれ」

一夏「それじゃ、引き続き『サイレント・ゼフィルス』の監視と、他に侵入者がいないかを――――――」

――――――
弾「あ、どこ行った、あいつ!? アメリカの特殊部隊はそのまま這いつくばっているけど!」

友矩「!?」

友矩「しまった、光学迷彩――――――!」

友矩「“ブレードランナー”! 『サイレント・ゼフィルス』が向かっている可能性があります! ――――――臨戦態勢!」
――――――

一夏「…………!」

一夏「どう出てくる? ――――――敵か、味方か?」

一夏「いや、あの背中越しからでもわかる、あの禍々しさは――――――」

一夏「――――――来た」(擬態ISスーツ+フルフェイスメットで傍から見て背丈178cm超のぴっちりスーツのモデル体型にしか見えない)


コツコツコツ・・・・・・



752: 2015/01/22(木) 09:19:18.90 ID:5VJHVI9r0



少女「…………フッ」(赤外線ゴーグルを装備して目許が見えない)

番人「止まれ。協力には感謝するがこれ以上 先に進むことは許されない」ジャキ

番人「お前は味方か? そして、お前が交戦してきた連中はどうした?」

番人「(ん? あの髪型、あの体格に、目許はゴーグルで見えないけどあの顔は、妙な懐かしさは――――――)」

番人「(いやいやいや! 『サイレント・ゼフィルス』が相手なら小型化されて増設された新型の『ブルー・ティアーズ』を警戒しないと!)」

番人「(それに、曲がるレーザーの脅威もある! いつでもシールドバリアーを展開できるように構えて――――――)」

番人「(大丈夫だ。今の俺は“ブレードランナー(♀)”として周りから認識されてる。ISを展開することに問題はない!)」

番人「(さあ、どう出る!?)」

少女「これが噂の織斑千冬の懐刀、学園にたびたび現れるという背高の“ゴースト”――――――」

番人「(やっぱり! こいつ、明らかに西洋人じゃないな!? むしろ、こいつは――――――)」

少女「フッ」

番人「答えろ! さもなくば撃つぞ」

少女「なあ、そんな仮面なんか外して素顔を見せてくれないか、」スチャ ――――――ゴーグルを外し、素顔を見せる!


――――――にいさん。


番人「!?」

番人「お前は…………?」

753: 2015/01/22(木) 09:20:33.14 ID:5VJHVI9r0

少女「やっぱりそうなんだ」パァ

番人「あ」

番人「――――――何が『そうなんだ』?」アセタラー

番人「(落ち着け! こんなものはまやかしに決まっている!)」

少女「にいさんは私のことを憶えていないようだけど、」


M/少女「私の名は“織斑マドカ”」


番人「――――――『織斑マドカ』だと?」

M「そう、マドカだよ、にいさん」

番人「えと………………」

番人「(落ち着けぇ! これは罠だ! 巧妙な罠なんだ!)」

番人「(冷静に対処しろ、“ブレードランナー”! 今 俺が背負っているものは何だ? 思い出せ、学園のみんなを助ける崇高な義務がある!)」

番人「(そうだ。たとえ、相手が千冬姉の中学時代の姿にそっくりだとしても、仮に俺たち姉弟の隠された妹だったとしても――――――、)」

番人「(向かってくるのならば――――――、)」


――――――人としての情けを断ちて、神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬り、然る後、初めて極意を得ん!


番人「(いくぞ! ――――――来るなら来てみろ、“織斑マドカ”ぁ!!)」

番人「早々に立ち去れ。警告はしたぞ」

M「ちょっとぐらい遊んでくれると嬉しいな」ニヤリ

番人「――――――殺気!(やはり、戦うしかないようだな!)」

番人「(――――――“オペレーター”!)」

――――――
友矩「これより交戦状態に入ります」

友矩「後は手筈通りにお願いします、“トレイラー”」

弾「わかったぜ。極力邪魔にならないようにするし、それとは別に何かあったらすぐに知らせるから」

友矩「さて、これは手は抜けない! 地の利を活かして何としてでも『サイレント・ゼフィルス』を撃退する!」

友矩「(落ち着け! タイミングを見誤らなければISを無力化することなど実に容易い。ここはそういった仕掛けが大量に仕込んであるんだ)」

友矩「(しかし、――――――“織斑マドカ”? “マドカ”“円”“まど花”“円香”――――――“円夏”)」
――――――

番人「――――――警告は無駄だったようだな」

番人「排除を開始する」ジャキ ――――――グレネードランチャー!

番人「逃げるのならば今のうちだ」ゴゴゴゴゴ・・・

M「ふふふ」スチャ ――――――ハンドガン!

M「にいさんなら、私を楽しませてくれるよね?」ニタァ


バァアアン!


こうして謎のエージェント“織斑マドカ”と仮面の守護騎士“ブレードランナー”の暗闘が始まった。




754: 2015/01/22(木) 09:21:46.26 ID:5VJHVI9r0



チュドーーーン! ゴォオオオオオオオ!

M「フッ」タタタタタ!

番人「ちぃ(――――――なんて身体能力! 並みのISドライバーを軽く凌駕している! 代表候補生では相手にならないな)」

M「ふふふ」バンバン!

番人「だが!」ヒュンヒュン

M「むっ」

番人「そんなもの、避けるまでもない!(このまま組み伏せてISを展開したところを『零落白夜』で一瞬で終わらせる!)」シュッ

M「ちっ、あのISスーツは“名も無き兵たち”が採用している防弾繊維よりも強靭か」

M「なら、こんなものはもう要らない(そう、そうでないと! そうでなければおもしろくない!)」ポイッ

番人「うおおおおおおお!」

M「にいさん、足元がお留守だよ」シュッ

番人「(―――――― 一瞬で屈んで足払い!)」

番人「けど!(いいところにボール!)」

M「!」

番人「そっちこそ急所をさらした!(――――――瞬間展開! PICサマーソルトキィィック!)」クルリン!

M「くっ!」ヨロッ

M「ふんっ!」シュタ!

番人「敵ながらあっぱれな身のこなしだな(足払いに屈んだところをお見舞いしたサマーソルトキックを反射的に宙返りで受け流したか)」

M「ふふふふ、――――――楽しい、楽しいよ、にいさん!」ニタァ


755: 2015/01/22(木) 09:23:41.14 ID:5VJHVI9r0

最初に銃弾を放ったのは“ブレードランナー”の方であった。

“ブレードランナー”のIS用汎用グレネードランチャーに装填されていた火炎弾がシステムダウンの暗闇に包まれた通路を赤々と照らす。

この時、“ブレードランナー”は最初から相手を再起不能にするつもりで容赦なく火炎弾を放っており、

もしこれで相手が火だるまになっても鎮火用の消火弾が腰のタクティカルベルトにストックされているので氏なない程度に焼き頃すつもりであった。

しかしながら、対峙することになった謎のエージェント:Mは驚異的な瞬発力で放たれたグレネードランチャーの弾を潜り抜けて、

システムダウンの暗闇を赤々と照らす炎を背にして、手にしたハンドガンで“ブレードランナー”の急所を的確に狙い撃つ。

使用されている弾丸は“名も無き兵たち”の世界トップクラスの耐弾性を誇る強化服を打ち破るほどの小口径ながら破格の破壊力のものだったが、

驚くことに“ブレードランナー”が着ている擬態ISスーツはそれを上回る耐弾性を見せつけ、

Mが驚き 息つく間もなく“ブレードランナー”はこちらに距離を詰めてきたMに対して逆に大きく迫り、

体格差を活かして組み伏せようとMの視界いっぱいに見る者を畏怖させる何かをまとって飛びかかったのであった。

ところがところが、“ブレードランナー”とエージェント:M――――――互いに相手の二手三手先を行くアクションの応酬を見せつけあう。

今度は“ブレードランナー”の攻勢にMが防御する番になったが、

Mは怯む様子もなく、体格差を逆に利用して一瞬で“ブレードランナー”の視界から消えたかのような動きを見せ、

屈んだ直後に完全に無防備の“ブレードランナー”の足元に向けて渾身の足払いをMがお見舞いしようとする。

だがだが、“ブレードランナー”は瞬時にMが屈んだことを理解し 次なる状況を把握すると、

屈んだことによって“ブレードランナー”の身体全体が見えなくなり、頭の位置がちょうどよく実に蹴り上げやすいところにあると思った瞬間、

『白式』の上半身だけを瞬間展開してPICによる慣性制御を一瞬だけ得て、物理法則を曲げてサマーソルトキックに繋げたのである!

これには屈んだことによって姿勢が固着化してすぐには動けないことを悟っていたMの肝を冷やすことになった。

だが、これで凄いのは、すぐには動けないはずなのに“ブレードランナー”の容赦無い蹴り上げを間一髪で宙返りして受け流したMの身体能力であった。

言うまでもないだろうが、“ブレードランナー”の実力は世界最強のISドライバー“ブリュンヒルデ”に準じるレベルであり、

並みの代表操縦者や格闘者ならば、この物理法則を曲げたサマーソルトキックが見事に顎や鼻、額などの急所に突き刺さり 一発 K.O.である。

それを反射的に避けられたMの身体能力は“ブレードランナー”と同等のものがあると言えるだろう。

ただ、格闘戦においては重量のある方が有利であることから、両者の実力が互角ならば体格の大きい方が俄然有利であった。


だが、“ブレードランナー”を“にいさん”と呼び、自らを“織斑マドカ”と名乗るMは不気味なまでの歪んだ歓喜の相を浮かべるのであった。



756: 2015/01/22(木) 09:24:50.29 ID:5VJHVI9r0

M「そろそろ本気で遊ぼう、にいさん」ニタァ

番人「――――――来るか!」ポイッ

M「――――――展開!」ピカァーン!

――――――
友矩「…………!」ゴクリ
――――――


M「ふふふ」(IS展開)


番人「――――――『サイレント・ゼフィルス』」

番人「お前、“マドカ”とか言ったか?」

番人「その機体、どこで手に入れた? それはイギリスの最新鋭機だったはずだ」

番人「すでに学園にはデータ回収用の1号機が送り込まれているのに、なぜ改良2号機であるその機体がここに存在する?」

M「そんなことはどうだっていいじゃないか、にいさん。この機体の出処なんてものは私も知らない」

M「けど、にいさんと一緒に遊ぶのにはこれで困らないよね?」

番人「くっ」

番人「(何だ、こいつは? 何なんだ、こいつは…………? 千冬姉と同じ顔をしておいてその禍々しいものは…………)」アセタラー

番人「(待て、だが、恐れることはない。俺は“ブレードランナー”なんだ!)」

番人「(“人を活かす剣”の真髄をここで見せてやろうじゃないか!)」


――――――斯くの如くんば、行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なりとも、豈に遅れを取る可けんや。


番人「(来い! 悪鬼羅刹の化身であろうとも俺はもう遅れはとらないぞ!)」

番人「(これで終わりにしてやる! 一瞬だ、――――――勝負は一瞬!)」


番人「………………」

M「………………」

ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!

番人「……行くぞ」タタタッ!

M「にいさん。にいさんもISでやろうよ?」

M「でないと、――――――にいさん氏んじゃうよ?」

番人「行けっ!」ジャキ、バァアアン! バァアアン! ――――――グレネードランチャー!

M「おっと」ヒョイ


チュドンチュドーン! ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!



757: 2015/01/22(木) 09:25:47.37 ID:5VJHVI9r0


――――――こうして第2ラウンドが開始された。

しかしながら、エージェント:Mが『サイレント・ゼフィルス』を展開したのに対して、

“ブレードランナー”は専用機を展開することなく、第1ラウンドと同じく開幕にグレネードランチャーを乱射する。

狭い室内ではあるものの、『サイレント・ゼフィルス』の機動力は圧倒的であり、簡単に放たれた火炎弾を避けてしまう。

しかしながら、放たれた火炎弾は確実に轟々と激しい光と音を立ててこの狭い通路を更に赤々と照らす。

“ブレードランナー”が今 手にしているグレネードランチャーは6発入りの回転弾倉であり、

他にも装填できるグレネードはいろいろあったのだが、わざわざ全弾 火炎弾にしているのにはそれなりの理由があった。

まず、燃え盛る炎を狭い屋内で放つことで心理的な圧迫感や無意識の焦燥感を与えることができるという点。

次に、地下秘密区画の密閉構造を利用してガスマスクや耐火服を用意していない侵入者を炎で追い詰めることができる点。

最後に、対IS兵器としても非常に安定した火力を持っており、更に直撃すれば燃料油がまとわりついて容易に消化できない点。

この3つの点を持って、侵入者を殺さない程度に焼き頃す算段でいた。

当然ながら“ブレードランナー”の側としてはしっかりと対策を講じており、最終手段として自らが火だるまになって特攻することも考えていた。

しかし 地味ながら実に、対策を講じていない侵入者の側からすれば厄介この上ない迎撃手段であり、

施設の防衛のために自分から施設を放火するというやり口にはここに侵入を企てている者なら驚愕でしかないだろう。

なにせ、“ブレードランナー”が守っているはずの場所はIS学園の最重要秘密区画であり、どんな手を使ってでも守らなければ機密がそこにあるのだ。


――――――だからこそ、どんな手を使ってでも機密を守ろうと手段を選ばなかったのかもしれない。


いや、そうではないのだ。こういうやり方も普通に学園側も認めていたからこそ実行に移しており、

学園の絶対の中立を守るために侵入者を始末するためのあらゆる手段がとれるような構造にしてあるのが、この地下秘密区画なのである。

なので、たかだか火炎弾から発した火災ぐらいで地下秘密区画が灰燼に帰すようなことは決してない。

しかしながら、その中に閉じ込められた侵入者はどうなってしまうのだろうか?

つまり、施設は無事でも侵入者は見事に焼き殺せるようにしてあるのが地下秘密区画であり、

恐慌状態に陥った侵入者が壁を破壊して脱出を図ろうとしても、驚くことにこの地下秘密区画は大規模なシールドバリアーを張り巡らせることができ、

区画単位で包囲するようにシャッターと同時に展開してしまえば、戦略級兵器を使わない限り脱出不可の牢獄を作り上げることも可能なのだ。

それ故に、火炎弾で一帯を火の海にしたところをシールドバリアー付きで封鎖してしまえば、余裕で侵入者を始末することができてしまえる。

それを“ブレードランナー”は狙っており、少しずつだがそのエグさが侵入者に伝わり始めるのであった。



758: 2015/01/22(木) 09:27:02.08 ID:5VJHVI9r0

――――――
友矩「では、区画を閉鎖しますよ、“ブレードランナー”」ポチッ
――――――

M「くっ……(――――――息苦しくなってきた、だと?)」コホッコホッ

番人「これで全弾 撃ち尽くした。これはもう要らない(さあ、高感度センサーでシャッターがノロノロと閉まっていくのが感じられるはずだ)」ポイッ

番人「さて どうする? この炎の牢獄とその番人を突破する余裕なんてあるのか、“マドカ”?」

M「ふ、ふふ……」アセタラー

番人「どうした? 上も下も横も炎炎炎で立ち竦んでるのか?(これが閉所における火炎弾の威力だ! ISと言えども容易には突破できない!)」


番人「…………退け。今なら見逃してやる」


M「なに?」

番人「このままだと、お前は確実に炎に絡め取られて息絶えるぞ」

M「………………」

番人「(いくらISが史上最強の兵器とは言っても、それを動かす本体への保護が十分でなければどれだけ強力な機体であっても無意味)」

番人「(そして、こちらはこの状況に耐え得るだけの耐火服とガスマスクを備えた万全のISスーツであり、)」

番人「(“マドカ”の『サイレント・ゼフィルス』の本体部分の装甲はほとんどないと言える。バイザーがある程度)」

番人「(そんなんで、この炎の牢獄を突破できるとでも思っているのか?)」

番人「(まあ……、悔しいけれど、この擬態スーツのおっOいにフィルターを容れる余裕があるから実現できた戦法なんだよな…………)」

759: 2015/01/22(木) 09:27:58.41 ID:5VJHVI9r0


ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


番人「………………」

M「………………」コホッコホッ

M「そうか。やっぱりにいさんは強い」

M「まだだ。こんなにも楽しい時間を終わらせるだなんてもったいない!」ニヤァ

番人「なんだと……(いったい何がこの少女をここまで駆り立てているんだ……)」

M「行くよ、にいさん!」

番人「…………これは本気で倒さなければならないか(――――――どう出る? 改良されたビット攻撃か? BTレーザーの偏向射撃か?)」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウウン!


M「――――――!」

番人「――――――っ!」

番人「(やはり炎の中を勢い良く突破してきたか。そうだ、それしか安全に俺に迫る手段はない!)」

番人「(だが、そこを斬り落とすのが俺の狙い――――――)」

番人「(――――――だが、あれは『スターブレイカー』?! この距離で!? なぜあんなものを最後に展開した!?)」

番人「(馬鹿な、あの大型レーザーライフルがいくら大剣としての機能が付与されているとは言っても、ここでは明らかな――――――)」

番人「(――――――何かある!)」

番人「(そうとも。こいつは『ブルー・ティアーズ』の改良2号機だから俺やセシリアが知らない何かが――――――そうか!)」

番人「うおおおおおおおおおお!(――――――雪片、抜刀!)」ブン!

M「フッ」


ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!


番人「…………っ!」

M「なっ」



760: 2015/01/22(木) 09:30:02.02 ID:5VJHVI9r0


戦いは第3ラウンドにまでもつれ込んでいた。

第2ラウンドは“ブレードランナー”が辺り一面をグレネードランチャーの火炎弾で火の海にするところで終わった。

Mはどうやら自身が言っていたように『ずっと続けていたい遊び』として、殺さない程度に焼き頃すつもりの攻撃を嬉々として躱すだけだったのだが、

『遊び』のつもりでいるMに対して“ブレードランナー”は本気で再起不能にする気でいたので、

徐々に火の手が通路を覆うことによって、歪んだ歓喜の相を浮かべ続けていたMの余裕も徐々に息苦しさと共になくなっていった。

しかし、“ブレードランナー”が最後のお情けとして見逃すことを提案しても、Mは一向にこの戦いから退く素振りを見せないのである。

だが、Mとしてもこれ以上は限界であることはこれまで経験したことのない息苦しさから理解はしていたようであり、

更には、目の前の炎の牢獄の番人たる“ゴースト”と噂される背高ナイスバディの仮面の守護騎士はまだISを展開すらしていないのだ。

明らかに状況としては、己が追い詰められていることを嫌でも認めざるを得ないものとなっており、

ここに至り Mは『ここが潮時だ』と内心 うるさく繰り返された度重なる撤退命令を無視し続けてきてようやく意を決した。

最後の悪足掻きとばかりに意を決して『サイレント・ゼフィルス』を炎の牢獄へと飛ばし、その勢いで炎の檻を打ち破り、

勢いに乗ってそのまま圧倒的優位を誇っている“ゴースト”に巨大な大剣となっている狙撃銃『スターブレイカー』を振り上げて迫ったのであった。


一方、“ゴースト”と仇名された“ブレードランナー”はその瞬間に勝利を確信していた。

第3世代兵器『ブルー・ティアーズ』による圧倒的な空間制圧力を誇るのに『遊び』と称してそれを使わない、あるいはこの炎の中では使えないために、

『サイレント・ゼフィルス』が接近戦を挑んできたというのは、“ブレードランナー”からすればまさに格好の獲物であり、

専用機『白式』の単一仕様能力『零落白夜』による一撃必殺を狙える間合いにまで敵が自分から入り込んできたことに勝利を確信したのだ。

それだけ、“ブレードランナー”は己が振るう剣の腕――――――ひいては格闘戦における絶対の自信があったのだ。

勝負の結果は轟々と音を立てて燃え上がる炎に包まれて陽炎のごとく“ゴースト”だけがゆらゆらと立ち尽くすものかと思われた。

しかし、絶対の勝利を確信していた“ブレードランナー”にふと静電気の火花のようにある疑念と閃きが脳裏に走った。

相手は『ブルー・ティアーズ』の改良2号機なのである。それこそ自分や1号機の専属であるセシリア・オルコットが知らないような何かが――――――。

そう思った瞬間、――――――次の一瞬の攻防で勝敗が決したのであった!


――――――まさしく勝負は一瞬。けれども、その一瞬にどれだけのことが頭の中を巡っていったことか。



761: 2015/01/22(木) 09:31:44.01 ID:5VJHVI9r0


ズバァアアアアアアアアン!
ヒュウウウウウウウウウウウウウウウン!


番人「――――――仕留め損なった、か」

M「…………やっぱりにいさんはすごい」ニタァ

番人「……違う。断じてお前の“にいさん”ではない(その歪んだ笑みにはいったい何があると言うのだ……)」

M「それじゃあね。『帰れ』『帰れ』うるさいから今日はここまで。またいつか……」







ヒュウウウウウウウウウウウウウウウン・・・・・・      !







番人「………………」

番人「――――――“織斑マドカ”」

番人「……いったい何者なんだ?」


ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!


番人「………………」スッ ――――――タクティカルベルトから消火弾を取り出す


ポイッ、コロコロコロ・・・バァアアン! ゴォオオオホォォォォォォォォ・・・・・・


番人「………………フゥ」

番人「…………消火完了」

番人「…………ひとまずは、何とかなったのか?」

762: 2015/01/22(木) 09:32:39.58 ID:5VJHVI9r0

――――――
友矩「はい」

友矩「自衛隊の救援が到着しました。おそらく防衛に関してはこれで大丈夫でしょう」

友矩「IS学園との防衛協定に則り、自衛隊には学園司令室を通じてこちらが認可した領域まで入ってきてもらいます」

友矩「幸い、“ブレードランナー”が交戦した炎の牢獄と、アメリカの特殊部隊が転がってる場所は隔離できますから」

友矩「これで、侵入者の拘束や更なる警戒の必要はなくなりました。あとは自衛隊にまかせておきましょう」
――――――

一夏「そっか。ちゃんと自衛隊は駆けつけてきてくれたんだ…………」ホッ

――――――
友矩「大丈夫ですか? まだ学園全体のコントロールを奪還する大きな任務が残ってますが」

弾「おいおい、何とかならないのかよ?」

弾「電脳ダイブっていうのは精神を直接 電脳世界に送り込むんだろう?」

弾「あの修羅場を凌いだばかりなのに――――――、“ブレードランナー”を少しは休ませないと!」

友矩「――――――するかしないか、いつするかは“ブレードランナー”にまかせます」
――――――

一夏「……大丈夫だ、“トレイラー”。そんなに心配するなって」フゥ

一夏「俺はまだやれる」

一夏「千冬姉だって、“アヤカ”だって頑張ってるんだからさ?」ヨロッ

一夏「いやー、けど しんどかったー」

一夏「けど、あの娘は――――――」


――――――にいさん。



763: 2015/01/22(木) 09:33:43.78 ID:5VJHVI9r0

――――――
友矩「――――――“織斑マドカ”」 ――――――先程までの一部始終の記録映像を再生中

弾「そう言ってたよな? うわっ、中学の時の千冬さんそっくりだな、こりゃ確かに」

友矩「可能性としては、――――――非合法に造られたクローン人間か、――――――織斑千冬に似せて造られたチャイルドソルジャーか」

弾「どっちにしても厄介なやつが現れたもんだぜ……」

弾「だって、資料によれば『BT適性』が一番高いはずのセシリアちゃんにはまだできてないBTレーザーの偏向射撃をやってみせて、」

弾「アメリカの最新鋭機をコテンパンにやっつけちまったんだもんな……」
――――――

一夏「なあ、“トレイラー”?」

――――――
弾「どうした?」
――――――

一夏「あの娘に会ったことはないか?」

――――――
弾「え?」

友矩「それはつまり――――――、」


――――――本当の妹である可能性があると?


――――――

一夏「――――――『無い』とは言い切れないだろう?」

一夏「たぶん、千冬姉の中学時代に似通っていたから10歳ぐらい下の娘だと思う――――――」

――――――
弾「無い無い! それは絶対に無い!」

弾「そんなバイオレンスな妹に会っていたとしたら記憶に焼きついてるっての!」

弾「それに、年頃の女の子とは思えないようなモニター越しに伝わるあの禍々しさは何だってんだ?」

弾「あれか? 友矩が言うように、誘拐されてチャイルドソルジャーに仕立て上げられた影響ってやつか?」

友矩「…………!」

弾「でも、逆算したって精々あの“マドカ”ってやつは15ぐらいなんだろう――――――?」

友矩「いえ、案外その線は悪くもないかもしれませんよ」

弾「え?」


友矩「一夏の両親に会ったことがありますか? 僕は大学時代に知り合ったからそれ以前のことは知らない」


弾「え? いや――――――あ」

友矩「つくづく、織斑姉弟の影響力は凄いもんだね……」

友矩「“ブリュンヒルデ”織斑千冬の妹が仮に存在していたのなら――――――」

弾「!」
――――――

一夏「もしかして10年以上前の記憶を思い出せない理由ってのは――――――」


764: 2015/01/22(木) 09:34:11.50 ID:5VJHVI9r0
――――――
友矩「――――――けど、話はここで打ち切りです」

弾「え」

友矩「やるべきことが残されています」

弾「あ」
――――――

一夏「わかっているさ、“オペレーター”」

一夏「電脳ダイブしよう」

――――――
弾「……“ブレードランナー”」

友矩「場所はいつものところじゃないのはわかってますよね?」

友矩「今までのは独立したサーバに仮想空間を創り出すために用意された『特別な治療機器』です」

友矩「今度のはこのIS学園の基幹システムに直結した『特別なメンテナンス機器』です」

友矩「くれぐれも基幹システムを仮想的に破壊しないように気をつけてください」

友矩「そうなったらもうIS学園のコントロールを取り戻すどころじゃなくなるので」

友矩「こちらも片手間に進めてはいましたが、これはなかなか手強い…………」

友矩「最短ルートを表示します」

友矩「くれぐれも、今回の電脳ダイブに関しては任意であり、強制はしません。大事なことなので二回言いました」
――――――

一夏「わかった、“オペレーター”」

一夏「電脳ダイブするぜ」(大事なことなので二回言いました)


――――――いざ、電脳ダイブへ!


※電脳ダイブは表向きではアラスカ条約で全面禁止されているので『特別』なんです。



765: 2015/01/22(木) 09:35:39.50 ID:5VJHVI9r0

――――――
弾「ところでさ、“オペレーター”?」

友矩「何です?」ピピッピピッピピッ

弾「最後の“マドカ”との攻防なんだけど、辺り一面が火の海でカメラの映りが悪くて、」

弾「いったい何がどうなって“マドカ”が退くことになったのかがわからないんだけど……」

友矩「ああ それですか? 簡単に言えば――――――、」ピピッピピッピピッ


友矩「最初に足元に置いた『イリュージョンオーブ』を使って『白式』そのものを遠隔展開して攻撃を受け止めさせた隙に、」

友矩「その脇から『サイレント・ゼフィルス』に一撃必殺の『零落白夜』の光の剣で突いた」

友矩「しかし、“ブレードランナー”に匹敵する運動神経を持つ“マドカ”はまたもや間一髪で躱して、」

友矩「おそらくそれでエネルギーが危険域に入ったので撤退したのではないかと」


弾「え、えええ?」

弾「ま、まあ、“オペレーター”が言うのならそうなんだろうけど……、やっぱり映りが悪くて何が何だか…………」

友矩「では、順を追って説明しましょうか」カタカタカタッ

友矩「最初に『イリュージョンオーブ』を起動させたのはこの場面です」カチッ

――――――――――――

M「そろそろ、本気で遊ぼう?」ニタァ ← ISを展開するために一瞬だけだが思考の空白が生まれている

一夏「――――――来るか!」ポイッ ← この時に『イリュージョンオーブ』を投げている

M「――――――展開!」ピカァーン! ← 展開中、“マドカ”は閃光に一瞬 包まれているので見落とす

――――――
友矩「…………!」ゴクリ ← 『イリュージョンオーブ』という名の光学迷彩付きの魔改造ルンバの操作を開始
――――――


M「ふふふ」(IS展開)


――――――――――――

弾「あ、確かにルンバを投げてる」

弾「あれ? でも、なんで“マドカ”はそれに何の反応を示さなかったんだ?」

友矩「おそらく、ISを展開する一瞬の思考の空白に重なったものだと思われます」

友矩「プロのIS乗りはISを展開するのに1秒も掛かりませんが、」

友矩「そのために、本当に一瞬ですがそっちに意識が向けられて、思考の空白ができていたのではないかと」

弾「じゃあさ? 確かISのハイパーセンサーをいじるとゼロコンマの世界も認識できるようになるってそれっぽいこと言ってたよな?」

弾「割りとIS乗りを殺るんだったら、ISを展開しようとしているその一瞬の空白なんかが狙い目なんじゃねえか?」

友矩「論理的に考えればそうでしょうね」

弾「だろう?」

友矩「ですが、展開を確認して展開し終えるまでの一瞬に攻撃を当てられるかまでの物理的なタイムラグをどう克服するかの問題がありますね」

弾「ああ……、そりゃそうか」

弾「少し考えれば、『空中を歩く方法:右足を出したらすかさず左足を出し、またすぐに右足を前に出す』のと同じ机上の空論だったか……」

友矩「いえ、偶然が重なってその一瞬の隙を突かれて出落ちする可能性が万一あるということを知れたので、むしろいい発想でしたよ」

弾「お、そうか? やったぜ」パァ


766: 2015/01/22(木) 09:37:17.28 ID:5VJHVI9r0

友矩「そして、次はもう最後の場面まで飛びますが――――――、」

弾「おう、『イリュージョンオーブ』が勝敗をわける布石になったのはわかった。それで?」

友矩「あとは先程も言ったように――――――よし、これで少しは解像度や映像が綺麗になってみやすくなってるはず」ピピッピピッピピッ

弾「おお。ホントだ。前よりは見やすい(――――――けど、元々が暗闇で明かりが火炎弾の炎だから見づらいこと見づらいこと)」

友矩「“ブレードランナー”は『イリュージョンオーブ』に展開された『白式』を盾代わりにしたことで攻撃を防ぎ、」

友矩「その脇から『サイレント・ゼフィルス』に一撃必殺の『零落白夜』の光の剣で突いた」

友矩「しかし、“ブレードランナー”に匹敵する運動神経を持つ“マドカ”はまたもや間一髪で躱して、」

友矩「おそらくそれでエネルギーが危険域に入ったので撤退した――――――という流れです」

友矩「でも、詳しいことは本人から直接 訊けば確実です」


――――――――――――


ヒュウウウウウウウウウウウウウウウン!


M「――――――!」

一夏「――――――っ!」

一夏「(やはり炎の中を勢い良く突破してきたか。そうだ、それしか安全に俺に迫る手段はない!)」

一夏「(だが、そこを斬り落とすのが俺の狙い――――――)」

一夏「(――――――だが、あれは『スターブレイカー』?! この距離で!? なぜあんなものを最後に展開した!?)」

一夏「(馬鹿な、あの大型レーザーライフルがいくら大剣としての機能が付与されているとは言っても、ここでは明らかな――――――)」

一夏「(――――――何かある!)」

一夏「(そうとも。こいつは『ブルー・ティアーズ』の改良2号機だから俺やセシリアが知らない何かが――――――そうか!)」

一夏「うおおおおおおおおおお!(――――――雪片、抜刀!)」ブン!

M「フッ」


ゴォオオオオオオオオオオオオオオ!


一夏「…………っ!(――――――『白式』、ルンバから展開!)」

M「なっ」


――――――この時 Mは驚愕した。



767: 2015/01/22(木) 09:38:00.28 ID:5VJHVI9r0

Mはもはや大剣なのか狙撃銃なのかよくわからない巨大複合兵装『スターブレイカー』を振り上げて“ブレードランナー”に迫り、

“ブレードランナー”は得意の接近戦でかつ一撃必殺の間合いに入ったことから勝利を確信していた。

しかし、Mはこの咄嗟の一瞬の中に“ゴースト”に対する最大の罠を仕掛けていた。

そもそもMは“ゴースト”の正体を知っており、そして その専用機である『白式』の特徴についても元から知っているのだ。

つまり、この突撃は“ブレードランナー”の手の内を知った上でそれを利用したものであり、

この時 Mが咄嗟に思いついた戦法というのは――――――、

“にいさん”は間違いなく、デカブツの『スターブレイカー』を対処しつつ同時に得意の一撃必殺の『零落白夜』を叩き込んでくるので、

それを見越してこれまで使ってこなかった『ブルー・ティアーズ』にも一応 搭載されてきた近接武器『インターセプター』で受け止め、

そうして動きを止めたところに増設・小型化された第3世代兵器『ブルー・ティアーズ』で蜂の巣にするというものであった。

最初から『ブルー・ティアーズ』の全方位オールレンジ攻撃で空間制圧していれば、ここまで苦戦することはまずなかったのだろうが、

Mとしては『にいさんと遊びたい』心がありありとしていて、かつ炎の牢獄戦法という軽装のMでは対処不可能な迎撃手段を取られたこともあり、

殺さない程度に焼き頃すつもりでいる“にいさん”とは『遊び』を貫こうとしてその傲岸不遜とも言える余裕もあっさり崩されることになった。

なにせ、区画が閉鎖された密閉空間で勢いよく燃え盛る炎によって息苦しくなるわ、汗がどっと流れ落ちるぐらい室温が上がるわ、

エージェントとして極めて優れた戦闘能力を持つMではあったものの、所詮は年相応は未熟な肉体と精神性で場数も足りず、

意外にこういったことに対する耐性――――――すなわち根性や堪え性が圧倒的に不足しており、また小柄な体格なので相対的に熱に弱く、

自分でもわかるぐらいに思考が乱れることになり、更にはM自身が抱く“にいさん”への執着心が冷静な判断力と操作性度を鈍らせていた。

一方で、炎の牢獄の番人である“ブレードランナー”はこの作戦を使うにあたっての万全の装備をしており、

なおかつこれまでの様々な人生経験や体格の大きさからくる相対的な熱への強さから、こういった相手を文字通り焦らしてミスを誘う持久戦には滅法強く、

今日だって退屈で緊張続きの監視の時間をやり通してきたのだから、精神面から言ってもMでは話にならない根性と堪え性があるのがわかるだろう。

昔ならば――――――それこそMと同じくらいの年齢だったのなら、こんな持久戦による根比べは到底できなかっただろうが、

しかし、任務とはいえ、それを手段として自ら選び 耐え忍ぶ術を会得した彼はまさしく大人として雄々しく成長を果たしていた。

よって、燃え盛る炎によってシステムダウンの闇に包まれた通路は確かに明るく照らされてはいたものの、

Mは熱さや息苦しさに肉体的にも精神的にもジワジワと追い詰められていき、土壇場になって思いついた作戦にしてはよく考えついた方ではあったが、

時を経て、経験を積み、知恵を深め、己を磨き続けてきた“ブレードランナー”の年季の前にはまさしく児戯に等しかった。


――――――“ブレードランナー”は『サイレント・ゼフィルス』にも『インターセプター』にあたる近接武器があることを見抜いていたのだ。



768: 2015/01/22(木) 09:39:28.13 ID:5VJHVI9r0

果たしてどれだけの人がイギリス第3世代型IS『ブルー・ティアーズ』に搭載された『インターセプター』のことを把握していただろうか?

秘密警備隊“ブレードランナー”は基本的にIS学園に来ている国家代表候補生の情報なんかは興味があれば個人的に調べる程度であった一方で、

送り込まれた専用機――――――否、現在この世の中に送り出されているありとあらゆるISやIS技術の把握に力を入れていたので、

これまでのIS学園の公式戦においても一度も使われたことがないような武器の存在を一応は調べあげていた“ブレードランナー”のマメさの勝利であった。

となれば、相手の手の内が知れたので後はやり方次第でどうとでもなるというわけなのだが、

この間 実に1秒足らずであり、更に次の1秒足らずの時の中で迫り来る『サイレント・ゼフィルス』を仕留めなければならなかったので、

普通の人間からすればもはや為す術もなくMの勢いに呑まれてしまうように思えてしまう場面であった。

しかしながら、“ブレードランナー”はIS乗りであり、かつ常にISと共にある専用機持ちゆえに、

その思考はISのハイパーコンピュータによって活性化され、常人の数倍、数十倍、数百倍の判断処理力で無念無想の一手が下されたのである。

自分の足元には『イリュージョンオーブ』があり、あとゼロコンマで『サイレント・ゼフィルス』の大剣が届いてしまうだろう。

『サイレント・ゼフィルス』の『スターブレイカー』を躱すことぐらい“ブレードランナー”からすればわけないことなのだが、

問題は、『サイレント・ゼフィルス』を仕留めるチャンスはこの一度だけであり、同時に隠し持った『インターセプター』の存在が気になった。

そこで“ブレードランナー”は一瞬の刹那にとんでもない奇策に打って出たのである!

なんと――――――、


――――――『白式』のフレームそのものをアンロックして『イリュージョンオーブ』で遠隔展開させたのである。



769: 2015/01/22(木) 09:40:31.47 ID:5VJHVI9r0

さて、ここまで熱心に読んでくれている読者ならば、今作 初登場の『イリュージョンオーブ』についてその特性を把握していることだろうが、

『イリュージョンオーブ』という魔改造ルンバは本来は“ブレードランナー”のサポートメカとしての様々な支援機能を持たせているのだが、

共通してISからの遠隔操作に対応させるために行った改造の副産物としてIS装備の遠隔展開にも対応していた。

これは本来は“ブレードランナー”織斑一夏の『白式』が活用できる機能ではまったくなく、

先代“ブレードランナー”一条千鶴の『風待』の単独任務においてISでも進入できない領域でIS装備を遠隔展開して作戦遂行した時の改造の名残であった。

ご存知の通り、“ブレードランナー”の専用機『白式』は第1形態で単一仕様能力『零落白夜』が発動できる代償として、

拡張領域が固定されて使える武器が雪片弐型に限定されているだけでなく、それをアンロックして遠隔展開することすらできないので、

『イリュージョンオーブ』に備わったIS装備の遠隔展開機能を活かす機会は絶対にないと思われてきた。

しかし、この土壇場で驚くべき発想の大転換がなされ、『イリュージョンオーブ』の遠隔展開機能が勝利を紡いだのである。


――――――雪片弐型のアンロックが無理ならばそれ以外のアンロックできる箇所全てをアンロックして遠隔展開してしまえばいけるかも!


かくして、アンロックできない部分だけを残して、アンロックできる部分全てを『イリュージョンオーブ』から遠隔展開するという奇計奇策が成り、

その結果、Mが『スターブレイカー』を振り下ろした先の“ブレードランナー”を守る盾となるべく現れた無人の『白式』に攻撃が阻まれ、

呆気にとられたMを尻目に『スターブレイカー』に叩かれて倒れこむ『白式』の脇から“IS頃し”の一撃必殺の光の剣が飛び出す!






ズバァアアアアアアアアン!
ヒュウウウウウウウウウウウウウウウン!


一夏「――――――仕留め損なった、か(――――――『サイレント・ゼフィルス』。だてに“妖蝶”を象っているわけではなかったか)」

M「…………やっぱりにいさんはすごい(――――――シールドエネルギーが残り10%だけ、潮時か)」ニタァ

一夏「……違う。断じてお前の“にいさん”ではない(その歪んだ笑みにはいったい何があると言うのだ……)」

M「それじゃあね。『帰れ』『帰れ』うるさいから今日はここまで。またいつか……」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウウン!


――――――――――――

770: 2015/01/22(木) 09:42:03.58 ID:5VJHVI9r0






一夏「ま、ざっとこんな感じだったかなぁ」

一夏「役に立ってくれたぜ、このルンバ ルンバ」ニッコリ

弾「土壇場になるとその人間の本性が現れると言うか、何をしでかすかわからないと言うか、これは…………」

友矩「本当ですよね。こんな使い方が土壇場に思いつくだなんて、何と言うか、その――――――」


友矩「――――――『PICカタパルト』を発見した“アヤカ”のようでしたよ」


弾「お、おう……(何だったっけかな、その『PICカタパルト』って…………)」

弾「でも、“オペレーター”もよくあれだけ視界が悪いのに一目 見てわかったよな……」

友矩「まあ、僕も“ブレードランナー”程ではありませんが、“アヤカ”と関わっていくうちに知らぬ間に影響を受けていたかもしれませんね」

友矩「ただでさえ、“アヤカ”のやることなすことが奇想天外ですから」

友矩「あれのやることに驚かなくなると、目の前で起きるあらゆることがありのままに認識できるようになったというか、何と言うか…………」

弾「――――――“アヤカ”って凄いんだな」

一夏「ああ。“アヤカ”がいなかったら俺はここまで戦えなかったかもしれない」

771: 2015/01/22(木) 09:43:34.19 ID:5VJHVI9r0

弾「けど、今回のそのルンバ――――――『イリュージョンオーブ』だったっけか?をうまく使った今回の戦い方は凄かったぜ!」

弾「本人から直接 説明を受けるまで何やってるのか何度 巻き戻して見直してもまったく理解できなかったけど、凄い発見じゃん!」

一夏「でも……、たぶん他に使い道はないと思うな、これ」

弾「え、どうして?」

一夏「だって、『イリュージョンオーブ』で遠隔展開したのは『白式』のフレームのほとんどだけれども、」

一夏「ISって人が着て動かすパワードスーツじゃないか。――――――中身が無いISなんてただの鎧の置物に過ぎないぞ?」

一夏「遠隔展開したドライバー無しの状態の時の『白式』はPICが働いてなかったからIS本来の重量に戻っているから、もう――――――」

友矩「――――――言うなれば、世界で最も豪勢な案山子でしかないと」

弾「あっ」

友矩「結局、今回の発見があっても『白式』の戦術的価値はいまだに皆無なままというわけですか」

友矩「確かに、『イリュージョンオーブ』越しでしか遠隔展開できない上に、中身が入ってないので動かすこともできない――――――」

友矩「この奇計奇策が成功したのも今回限りの極めて限定的な要因の積み重ねによるものと言えますね」

弾「なんか残念だな。せっかく命懸けの状況の中で編み出した、まさに“氏中に活”を見た奥義だってのにな」


一夏「でも、本当に大切なのは1度きりの成功にいつまでも浸ることなく、これからもそういった“氏中に活”を編み出せるかどうかじゃないか?」


一夏「いつだって俺たちの活動はギリギリの状況がほとんどだったんだしさ」ゴクゴク

弾「…………そうだな」

友矩「ええ。本当にそうだと思います」

一夏「………………フゥ」

友矩「『白式』のエネルギーが全回復しました」ピピッ

一夏「よし。――――――次だな」


一夏「次で、学園を解放する!」


弾「ホントに気をつけろよ? いろいろ思うところがあるとは思うけど」

一夏「大丈夫だって。本当はすぐにでも電脳ダイブに向かいたかったけど、」

一夏「こうやってやっぱり大事を取って休憩だってとって万全の態勢で挑むことにしたんだからさ」

弾「それも、そうだな」

弾「じゃあ、行って来い、“ブレードランナー”」

一夏「ああ」

友矩「では、下の階に降りてあそこに見えるダイブマシンからIS学園の中枢電脳にアクセスしてください」

一夏「よし、じゃあ行ってくる!」


こうして灼熱の前半戦が終わりを告げ、いよいよ学園を解放するための最後の戦いへと“ブレードランナー”が赴くのであった。




772: 2015/02/17(火) 08:05:49.83 ID:vjaZff0t0

――――――電脳世界:IS学園基幹システム中枢電脳


一夏「――――――っと」

一夏「さてさて? 学園中枢のサーバか。いったいどんな世界が広がっているのか――――――」

一夏「!?」

一夏「――――――扉?」

一夏「しかも、5つ?(それ以外には何もないこの殺風景さはどういうことなんだ!?)」

――――――
友矩「なるほど……?」カタッ、カタッ、ピピッ

弾「へえ、これが電脳ダイブってやつか(アラスカ条約で禁止されている技術を堂々と学園も使ってるんだから闇が深いな……)」

友矩「あ――――――これはっ!? やられたっ!」ガタッ

弾「?」

友矩「電脳ダイブしてようやくはっきりとわかった…………忌々しい」ギリッ
――――――

一夏「どうしたんだ、“オペレーター”!?」

――――――
友矩「どうやら今回の騒動の大元であるクラッカーは5つの扉の中に鍵を隠しているようです」

弾「どういうことだ、そりゃ?」

弾「明らかにあの扉は罠なのは丸わかりだし、危険は百も承知だろう、“ブレードランナー”にしてもさ?」
――――――

一夏「ああ。急がないと!」


773: 2015/02/17(火) 08:06:19.88 ID:vjaZff0t0

――――――
友矩「――――――ああ やっぱり!」カタカタカタ・・・

弾「何が『やっぱり』なんだよ?」

友矩「これではっきりわかったのは――――――、」

友矩「今回のクラッキングはIS学園の支配を目的としているわけではなく、一時的なものということです」

友矩「しかも、出口を封じられた!」

弾「で、『出口』――――――?(『出口』も何も電脳世界に入ったばかり――――――)」

弾「あ!?」

弾「プラグアウトだ、“ブレードランナー”! すぐに現実世界に戻ってこい!」ガバッ
――――――

一夏「!?」

一夏「――――――『白式』! 今すぐブラウザバックだ、違った! オペレーション終了!」

一夏「………………!?(何も反応がない!? むしろ、この強引に押し戻されるような感覚は――――――!?)」アセタラー

――――――
友矩「くっ、本命はこっちだったのか!?(――――――ということは、すでにIS学園中枢での目的は果たされて、後は観察ということなのか!)」

弾「ど、どうすればいいんだよ!?」アセアセ

友矩「ん?」ピピピ・・・

友矩「――――――『メッセージ情報』?」

友矩「あ」

弾「どうするんだよ、“オペレーター”!」

友矩「今やってる!」カタカタカタ・・・

友矩「――――――なるほど!」ギリッ

友矩「状況を整理しましょうか」
――――――

一夏「“オペレーター”?」

774: 2015/02/17(火) 08:06:56.37 ID:vjaZff0t0

――――――
弾「で、どうなんだよ?」

友矩「クラッカーの目的はわかりました」

友矩「1つは、学園の支配などではなく――――――、」

友矩「この地下秘密区画に侵入してきた各国の刺客たちと同じように、電脳上に存在するIS学園の最重要機密の不正アクセスです」

弾「電子の海に眠れるお宝を盗りに来たっていうのか」

友矩「そして、もう1つは――――――、」


友矩「クラッカーの真の狙いは“ブレードランナー”のデータ採取です!」


――――――

一夏「!!」

――――――
友矩「先程 クラッカーからメッセージをいただきました」

友矩「要約すると、5つの扉の中にセキュリティの鍵を隠したそうです」

友矩「それを取り戻せば、今回の騒動の大元は絶てるようです。学園のコントロールを解放するそうです」

弾「!?」

友矩「おそらく、クラッカーの側は完全に秘密警備隊“ブレードランナー”の存在を把握しています」

友矩「そして、学園で噂になっている“ゴースト”の正体についてもある程度は想像がついているようです」
――――――

一夏「それって……」

――――――
友矩「もう確定ですね」

友矩「“ブレードランナー”の正体は裏社会ですでに露見しています」

友矩「その確固たる証拠を炙り出すために今回のサイバーテロが行われたのでしょう」

弾「マジかよ!?」

友矩「その扉の向こうにはコンピュータ上を漂う“ブレードランナー”の生身の生体データが計測されることでしょう」

弾「プロテクトやマスキングはできないのかよ!?」

友矩「やってはいますけど、学園中枢をこうも容易く制圧できた相手にどこまで通じるものか…………(その割には――――――)」
――――――

一夏「………………『秘密警備隊“ブレードランナー”、最後の戦い』か」



775: 2015/02/17(火) 08:07:41.25 ID:vjaZff0t0

――――――状況を整理しよう。


今回の事件は学園中枢の基幹システムに外部からのクラッキングを受けて、学園全体の機能が制御不能になったのが発端である。

その影響で学園全体が閉鎖され、学園内の各施設に一般生徒や職員たちが閉じ込められる事態に発展することになった。

また、学園機能が停止したのを見計らってどこぞの国の特殊部隊が地下秘密区画への侵入を開始し、それを未確認の専用機持ちが撃退することになった。

しかしながら、その専用機持ちは味方と思いきや“ブレードランナー”への追跡を始め、ついには“ブレードランナー”と交戦するに至る。

それ以上に驚かされたのは、その正体が“織斑マドカ”――――――中学時代の織斑千冬に瓜二つの顔でありながら邪悪な面構えをした少女であった。

戦いは辛うじて“ブレードランナー”の勝利とはなったものの、“ブレードランナー”と互角の戦闘力を見せつけていた。

そして、“にいさん”と呼び慕っていた様子からして、秘密警備隊“ブレードランナー”の存在を相手もよく把握しているようであった。

もっとも、それ以上に織斑マドカという少女自身の私情が大きく絡んでいたようにも感じられたが…………。

しかしながら、まだこの時点では知らぬ存ぜぬで“ブレードランナー”の正体を隠しきれる段階だったので気にすることではなかった。


さて、自衛隊の到着によってIS学園の表側の安全はほぼ確保され、その状況下で怪しげな行動を取り出す輩はいなくなり、

これでようやく事件の発端であるシステムクラックへの反撃に“ブレードランナー”は専念できるようになったのだが、

いざ電脳ダイブしてみれば、見事に罠に嵌ってしまい、秘密警備隊“ブレードランナー”の最重要機密が奪われる瀬戸際に追い込まれたのであった。

電脳世界に進入した“ブレードランナー”こと織斑一夏の精神は入り込んだ電脳に閉じ込められ、目の前には5つの扉が――――――。

犯人からのメッセージは要約すると『5つの扉の向こうにある電脳空間にある鍵を取ってくれば、学園のコントロールは返してもいいよ』であり、

学園のコントロールを奪っておきながらあっさり『返す』という意思表示、なおかつ電脳ダイブの出口を塞いでまでやらせようとしている意図――――――。


その2点から導かれる答えというのが、――――――電脳ダイブしてきた専用機持ちのデータ採取であった。


ISを介して電脳ダイブした時の肉体は現実世界と同じ姿をイメージとして顕現することが可能であり、

それはISに機体表面のシールドバリアーによる保護機能があり(絶対防御の副次的機能)、ISを介して電脳ダイブした際にはその機能が拡大利用されて、

電脳上における自分のイメージとして正確に搭乗者の肉体の輪郭のデータを採取して反映させているのだ。

つまりは、ISによる電脳ダイブによって搭乗者の正確な肉体データがアバターとして利用されることになっているのだ。

ありのままの生体データを電脳上に映し出してしまうのがISを介した電脳ダイブの特徴でもあり、ISが持つハイパーコンピュータが成せる完璧に近い投影である。

それ故に、腕の良いCGプログラマーが剥ごうと思えば、電脳ダイブにおいて仮面や衣服なんてのはただの取り外し可能なオプションにしか過ぎず、

電脳ダイブを利用する上で挙げられる数々の危険極まりないリスクの1つとして、

しっかりとマスキングやプロテクトを施さないとISドライバーの正体が露見するという点が存在していたのである。

今回のデータ採取というのはそのISが正確に電脳上に映しだした生体データを狙ったものであった。

一方で、電脳ダイブで転送される精神は肉体というイメージで再現されていることから、この電脳上での肉体を抹消されることは精神の抹消を意味し、

それはつまりは、電脳世界における肉体的な氏=現実世界における精神崩壊になる危険性があった。

それ故に、世界最高峰のセキュリティを誇るIS学園を制圧できるほどのクラッカーであるのならば、

電脳上でのISドライバーの抹殺もいとも容易く行われるはずなので、もしかしたらそちらが狙いである可能性もあったのだが、

“ブレードランナー”のブレインである夜支布 友矩はその可能性を完全に否定する。

なぜなら、そのメッセージの文面には――――――、


―――(中略)―――完成品の経過具合を見るために―――(後略)――― ← メッセージにあったある1節



776: 2015/02/17(火) 08:08:23.23 ID:vjaZff0t0

――――――第1の扉


一夏「さて、ここがショールームの始めか」キョロキョロ

一夏「(――――――選択の余地なんてなかった)」

一夏「(“ブレードランナー”の秘密を守るのと学園に閉じ込められたみんなの命を守ること――――――、そのどちらかを選ぶのなら)」

一夏「(けど、結成して半年も経っていないうちに正体がバレるだなんて、この世界に秘密なんてのはあってないようなものだよな……)」

一夏「…………完全に隔離されたな。通信機能が遮断された」ピーーー

一夏「(そして、俺の生体データがダウンロードされていることが反応でわかる。――――――逆探知は期待できないか)」

一夏「(結局、“アヤカ”がそう思っているように世界は人間の皮を被った魔物だらけというわけか)」

一夏「(けれども、けれども――――――!)


――――――それでも世界は回っている。


一夏「………………」

一夏「さて、ここは一見するとIS学園のアリーナのように見えるんだけど…………」


少年「うおおおおおおおおおお!」ヒュウウウウウウウウウウン! ブン!


一夏「!」ヒョイ

少年「あともう少しだったのに…………」

一夏「…………これがクエスト、課せられたタスク、あるいはミッションってわけなのか?」

一夏「相手は、――――――“織斑一夏”か」


一夏’「ふざけやがって! ぶっ倒してやる! あいつ、千冬姉の真似をして!」ジャキ


意を決して、とりあえず5つの扉を左から順番に攻略することにした“ブレードランナー”は『第1の扉』に入り、

転送されて白色光に全身が包まれたと思った次の瞬間には、早速 学園の機能回復の鍵を手に入れるための試練と遭遇した。

場所はIS学園のアリーナであり、観客席には所狭しと学園の生徒たちがひしめいており、会場は熱狂に包まれていた。

そして、会場の熱狂とは別に頭に血が上って熱くなっているのが、今 目の前に『零落白夜』の光の剣を構えてこちらを睨んでくる、


――――――『白式』を身にまとう織斑一夏(15)であった。


少年の怒気は凄まじく、まだISを展開してもいないはずの生身の“ブレードランナー”に対して一撃必殺の光の剣を振りかざしてくるのだ。

完全に我を忘れて人を頃しても何とも思わなそうな怒りで研がれた純粋な刃が状況を掴みかねている“ブレードランナー”を襲う。

しかしながら、この物語の主人公である織斑一夏(23)からすれば、(15)の自分というものをよく理解しており、

更には、積み重ねてきた年季の差で、(23)と(15)との間にある技量の差は歴然としていた。


777: 2015/02/17(火) 08:08:56.25 ID:vjaZff0t0

一夏’「このこのっ! 逃げるな!」ブン! ブン!

一夏「…………わざわざ中学卒業ぐらいの“織斑一夏”を差し向けてくる辺り、完全にバレてるな」ヒョイヒョイ

一夏「けれど、こんな頃もあったんだな…………(もし俺が千冬姉と時同じくしてIS乗りになっていたらどうなっていたんだろう?)」ヒョイヒョイ

一夏’「…………くっ」ゼエゼエ

一夏「ペース配分がメッチャクチャだぞ…………そんな力押しが通用すると思っているのか?(そうだ、この頃の俺には友矩がいないから――――――)」

一夏’「エネルギーが残り少ない……」 CAUTION! CAUTION!

一夏’「こうなったら一か八か――――――!」スゥーハァーー

一夏「…………俺ってあんなにわかりやすいんだ(『一か八か』で最後の突撃でもする気だな。客観的に見ると俺ってホントに単細胞だったんだ)」

一夏「(まあ、乗ってる機体が同じ『白式』だし、特性を知り尽くしているからこそのこの冷静な対処なんだけどさ)」

一夏「(普通に考えて、(15)が(23)に勝てるはずがないよな……)」


一夏’「はあああああああああああああああ!(――――――イグニッションブースト!)」ヒュウウウウウウウウウウン!


一夏「そういえば、ちゃんと外付装備もあるんだったんだな」ジャキ ――――――グレネードランチャー!

一夏’「!?」ビクッ

一夏’「そんなのありかよ!?」ヒュウウウウウウウウウウン! ――――――急ターン! 緊急回避!

一夏「うわっおもしろい。銃口を向けただけで逃げ惑ってるよ(これが不正規戦仕様の『白式』の強みだな。後付装備はできないけど外付装備はしてある!)」

一夏「俺、攻撃なんて1つもしてないのに勝手に自滅してくれそうだな」

一夏’「ど、どうすればいいんだよ!? 飛び道具を持ってるなんて、ますますふざけやがって!」アセアセ DANGER! DANGER!

一夏「…………『零落白夜』 切っとけばいいのに」

一夏「(接近戦をしている間なら発動させていても悪くはないけど、それ以外の時は基本的に封印 安定だろう? そんなことも思いつかないのか?)」

一夏「(まあ、あれぐらいの歳の世間一般の男子なら公式対戦ゲームのIS/VSの第1世代型ISぐらいしか知らないのかもしれないな)」

一夏「(動きがどう考えても第1世代型のそれにしか見えないし、ひねりがないから容易に対処できる――――――俺ってやっぱり単細胞だったんだな)」

一夏「(まあそうだよな。(15)ってのは俺の推測でしかないけれど、10年前に千冬姉がIS乗りになったのと合わせた設定だとするなら、)」

一夏「(第3世代型IS『白式』に乗っているのに第1世代型の動きってのも妙に納得かも? ――――――あれ、何かよくわからなくなってきた)」

一夏「(――――――というか、地味に嫌な精神攻撃だな! 俺に“もしも”の設定での若気の至りってやつを見せつけてそんなに楽しいか!?)」


778: 2015/02/17(火) 08:09:25.11 ID:vjaZff0t0

――――――結局、“ブレードランナー”は一切 攻撃することなく織斑一夏’を戦闘不能に追い込んだ。

というよりは、『零落白夜』の燃費の悪さを頭に入れずに馬鹿正直に突撃を繰り返すだけなので、グレネードランチャーを向けるだけで勝手に逃げ惑って、

その間に一夏’の『白式』がエネルギー切れを起こして、一太刀浴びせることも叶わず 無残にもISが機能を停止したのであった。

しかしながら、相手が自分だったから相手の立場になって考えを巡らせたのか、――――――『こうなるのもしかたないな』と同情する気持ちが自然と湧いてきた。

なぜなら、織斑一夏の専用機『白式』は単一仕様能力の発現のために拡張領域に空きがない仕様で後付装備ができないので、

競技規定に則った公式のISバトルだと『第3世代型ISでありながら剣1つで勝利を掴み取らなければならない』というあまりにも重すぎるハンデを背負っているのだ。

そして、拡張領域を犠牲にして実現した単一仕様能力『零落白夜』がまたクセモノであり――――――、

この機体は明らかに初心者向けの機体じゃないのだ。第1世代ならば通用する機体だが、対IS用火器が普及した第3世代では間違いなく最弱の機体でしかない。

それなのに、『零落白夜』の一撃必殺の存在のせいで『当てさえすれば勝ててしまえる』という魅惑的なギャンブル性が際立ってしまい、

本来ならば“世界で唯一ISを扱える男性”こと“アヤカ”のように相手の意表を突くのが得意な変幻自在なドライバーが使うのならまだいいだろうが、

どう考えても織斑一夏’――――――短気な性格の昔の自分には到底扱いこなせるはずがないことを嫌でも理解できてしまった。


――――――そう、昔の自分のことを記憶していた。


と 言うよりは、目の前で憎々しげにこちらを睨んでくる虚構の存在が迫真のリアリティを持って結果を強烈に示してくるのでそう思わされてしまうのだ。

ここが電脳世界であり、見えているものの全てがISが翻訳して搭乗者である人間の常識や認識に合わせた虚像でしかないのは理性で理解できていても、

電脳ダイブに顕現しているこの身体というものがコンピュータで書き換えができるようにデータ化されてる以上はいかようにも電脳上で干渉できるので、

そう思わされている可能性もあり、できる限り この電脳世界での出来事に思いを抱かないようにする必要があった。

なら、どう考えればいいか――――――。

この 果たして勝負と呼べるのかすら疑わしいほどに両者の間に圧倒的な力量差があった この対決は電脳上に演出されたシミュレーションみたいなものであり、

しかも現実では起こり得ない同一人物と同一機体によるエキシビションなので、考えてもびた一文にもならない思考実験でしかないのだ。

なので、現実と照らし合わせて『くだらない一幕だった』と切り捨てて、鍵を得るための目的である『倒す』ことを冷徹に実行に移すことにしたのであった。


779: 2015/02/17(火) 08:09:56.13 ID:vjaZff0t0

一夏「………………」ジャキ

一夏’「ち、ちくしょう……、千冬姉の紛い物なんかに…………」

一夏「………………」

一夏’「や、やれよ……!」

一夏’「俺は敗けてない! 敗けてないからな! 敗けを認めてない!」ジロッ

一夏’「……認めてなるものか! 化けて出てやる! 絶対に許さない!」ゴゴゴゴゴ

一夏「………………」ブン!

一夏’「!?」


――――――そして、振り下ろされた非情なる刃!


一夏「………………データを取得」

一夏「これが鍵か」

一夏「………………」クルッ

一夏’「」

一夏「………………悪趣味な」スタスタスタ・・・ピカーン! ――――――転送!


ふとアリーナのスクリーンを見上げると、そこに映っていたのはまるで裏キャラのように後光が差して面が見えないぐらい真っ黒い自分であった。

現在、“ブレードランナー”こと織斑一夏(23)はISスーツ――――――それも特注品の女性擬態スーツを装着しており、

モデルだった織斑千冬が表立って活動するようになったので、長身で腹割れもしているセクシーなものに変更した上で仮面だってしていたはずなのに、

スクリーンに映る自分はまるでポリゴンモデルを上塗りしたかのように“ブリュンヒルデ”織斑千冬の暗黒カラー版になっていた。

例えるならば、“ブリュンヒルデ”織斑千冬の裏キャラである“邪悪の化身 ブリュンヒルデ”みたいな感じの日光が弱点の悪の権化のように見えた。

『これなら確かに織斑一夏(15)が自慢の姉の偉容を汚されたように思って激高するのも当然』と妙に納得している自分がいた


――――――第1の扉 突破! 鍵は残り4つ!



780: 2015/02/17(火) 08:11:07.91 ID:vjaZff0t0

――――――インターバル

――――――5つの扉の間:スタート地点


一夏「………………ハア」

――――――
弾「おお! 無事だったか!」

友矩「やはり、データを盗られてます……」
――――――

一夏「そうか。俺たちの活動は今日で最後かも知れないな……」

――――――
弾「…………やっぱり?」アセタラー

友矩「そうなるでしょうね」
                 ・ ・
弾「その時、―――――― 一夏はどうなるんだよ?」

友矩「……わかりません(もうコードネームで呼び合う必要も無くなったから、いいか)」

友矩「開き直って公表するか、あるいはその存在を――――――」

弾「………………!」ゾクッ
――――――

一夏「そんなことはどうだっていいだろう、今は」

――――――
弾「あ、ああ……(あれ? 何かやけに声が沈んでるって感じか…………)」

友矩「すみません。作戦中にこんなことを……」

友矩「それで、第1の扉はどうでしたか?」
――――――

一夏「15歳と思しき俺自身と戦わされた」

――――――
弾「マジかよ?!」
――――――

一夏「いや、雑魚だった。『零落白夜』を展開しっぱなしでグレネードランチャー 向けただけで逃げ惑うだけの」

一夏「たぶん“アヤカ”と比較していたんじゃないかな? 場所も学園のアリーナだったし、公式レギュレーションに則っていたな」

――――――
弾「ああ……(だって、ね? “ブレードランナー”として今まで数多くのISをほぼ生身で狩ってきた男にただのガキが勝てるはずがないだろう)」

友矩「地味な嫌がらせながら、本人であればよく効く精神攻撃になる うまいやり方ですね」
――――――

一夏「ああ……。昔の自分ってやつがいかに単純だったのかよくわかったよ…………こういう形で客観的に自覚させられるとは思いもしなかった」

――――――
友矩「そして、この事実によってクラッカーが“ブレードランナー”の正体を見抜いていたことは不動の事実となってしまった…………」
――――――

一夏「ああ。いったいどこで発覚――――――いや、IS学園そのものが敵みたいなもんだから秘密なんてあったもんじゃなかったか」

781: 2015/02/17(火) 08:12:11.14 ID:vjaZff0t0

――――――
弾「げっ!(マズイ! 一夏が精神攻撃を受けている! 電脳世界での肉体は精神そのものなんだから、精神的にまいっていると電脳上の体力が――――――)」

弾「よ、よし!(――――――ここは中学以来の悪友である俺が励まさないと!)」

弾「何 言ってんだよ! そんなの今は関係ないじゃないか!」
――――――

一夏「?」

――――――
弾「あの頃の俺たちはお前の姉さんと天才さんが巻き起こす騒動にドタバタしながらも、一緒に馬鹿やって笑い合うことができたじゃないか!」

弾「それに、お前が元からISと縁があるにしたって、これまでのように乗れるとは思ってもみなかっただろう?」

弾「お前、知らないうちに、あの“アヤカ”と扉の向こうで遭遇したっていう(15)の自分ってやつを重ねてないか?」

弾「――――――できなくて当然だろう! むしろ、あの頃の俺たちはそれでよかったんだよ! 至極まっとうさ!」

弾「気にするな! それにあんなのは幻だろう!」
――――――

一夏「え?」

――――――
弾「“アヤカ”は確かにいろんな意味でISの申し子だ。訓練機を自分のものにしたり、代表候補生に入学してしばらくで勝っちゃったりしてるんだし」

弾「でも、その強さの源ってのは、実は『お前が“アヤカ”と電脳ダイブしていく中で睡眠学習で学びとったものじゃないか』って話だろう?」

弾「そうだったよな? そういう話だったよな? ――――――『一夏が“ランナー”だったから“アヤカ”が飛べない』って話 したことがあるだろう?」

友矩「はい。覚えてます。――――――学年別トーナメントの時です」

弾「こういうのを確か――――――えと」

友矩「――――――『フィードバック』ですね、それはきっと」

弾「そう、それ! フィードバック!」

弾「“ブレードランナー”であるお前の戦い方を睡眠学習した“アヤカ”の強さは今の(23)のお前がいなくちゃ実現しなかったんだからよ!」
――――――

一夏「!」


782: 2015/02/17(火) 08:12:39.69 ID:vjaZff0t0

――――――
友矩「確かに、仮想世界の構築においてはそれに専念させるために“アヤカ”自身の意識は眠ってはいるものの、」

友矩「それを保護しているISが“ブレードランナー”の戦い方を見て“アヤカ”に伝えていた可能性が濃厚――――――という話でしたね」

友矩「それに、“アヤカ”がまじめに戦って成績を残せたのも、“同類”である織斑一夏の優しさと純朴さに支えられてもいましたから」

友矩「まず、“アヤカ”と(15)の織斑一夏を比較するということ自体がナンセンスなシミュレーションだったということですね」

弾「そそ。そういうこと」エッヘン

友矩「結果が原因にすりかわってパラドックスになって混乱の元になったようですね」

友矩「もちろん、――――――それが敵の狙いなのかもしれませんが」
――――――

一夏「ああ…………!」パァ

――――――
弾「だからさ? 俺は電脳世界での体験ってやつがどういうものかわかんないし、第一 ISに乗れないし――――――、」

弾「それに、仕事人のお前がここまで動揺するぐらい相当 強烈なもんだったんだろうけど、」

友矩「…………!」


弾「俺は“織斑一夏”という一人の人間を氏んでも信じてるから!」


弾「俺は全力でお前のことを肯定してやるぜ!」

弾「こんな言葉しか実際に活動しているお前に贈れないけれど、精一杯――――――!」ググ・・・

弾「がんばれ、一夏! お前がやらなきゃ誰がやる!? お前しかいないんだよ、みんなを救えるのは!」
――――――

一夏「!」

――――――
弾「………………フゥ」

友矩「…………さすがは秘密警備隊に選ばれただけのことはあるか」フフッ
――――――

一夏「…………弾」ニコッ

一夏「ありがとう。元気をもらえたよ」

一夏「――――――休憩終了! 次の扉だ!」シャキーン!

――――――
弾「その息だぜ!」

友矩「くれぐれも気をつけてください」


――――――待ってますから、みんな。


――――――

783: 2015/02/17(火) 08:13:08.79 ID:vjaZff0t0

――――――第2の扉


一夏「さて、ここはどこだ? ――――――またアリーナか」キョロキョロ

一夏「(もう敵にこっちの正体がバレてるけど、この擬態スーツにはいろいろな保険があるから脱ぎたくても脱げないんだよなぁ…………)」

一夏「(ちなみに今度のモデルは、超 背の高い俳優:森下雅子(177cm)だ。(23)の俺が178cmだからちょうどいいぐらいだろう?)」

一夏「…………!」ゾクッ

バァアアアアアアアアン!

一夏「――――――『白式』!(――――――クォーター・イグニッションブースト!)」ヒュウウウウウウウン!

一夏「ついにお披露目しちゃったな……(しかし、今のは高エネルギー攻撃か? 出力を分析してくれ、『白式』!)」ピピッ (IS展開)

ヒュウウウウウウウン!

一夏「そこか! 光学迷彩からの奇襲だったのか(それにしては弾速が異常に遅かったな。そして、――――――わざと外したのか?)」アセダラダラ


――――――殺せる唯一のチャンスだったってのに。


一夏「!」ピピッ

一夏「分析結果、――――――荷電粒子砲!?」

一夏「ちっ!(荷電粒子砲と言えば――――――!)」

一夏「まさか、今度の相手は――――――」


簪’「…………おかしい。あの距離で避けられるはずがない。修正の余地あり?」


一夏「――――――簪ちゃん」

一夏「いや、日本代表候補生:更識 簪と『某教授の遺産』の1つである日本第3世代型IS『打鉄弐式』か!(――――――やらないといけないのか)」

一夏「確か、国際IS委員会に提出されていた『打鉄弐式』のデータカタログには荷電粒子砲が2門だったな……(それを電脳上で再現したわけなのか)」

簪’「今度はこう追い込んで仕留める……!」ピピッピピッピピッ

一夏「けど、残念だったな! 対策ならすでにできている!(あらゆる可能性を追求して対策を用意するのがプロの在り方!)」

一夏「イグニッションブースト!」

ヒュウウウウウウウウウウウウウウウン!

簪’「あ」ビクッ

一夏「逃げようたってそうはいかないぜ!(――――――外付装備で若干重たくはなってるけど『白式』の空戦能力は現行で最高性能なんだっ!)」

一夏「一撃必殺!(そして――――――)」ブン!

ズバーーーーン!

簪’「あ…………」(戦闘続行不能)

一夏「そっちが思っている以上に俺は簪ちゃんの戦闘スタイルを考え尽くしている」

一夏「まだまだ立ち回りに改善の余地ありだぜ?」


784: 2015/02/17(火) 08:13:49.18 ID:vjaZff0t0

第2回戦――――――、今度の勝負はあっさりと決まった。

最初に現状把握に追われて無防備状態の“ブレードランナー”への先制攻撃を外した時点で勝敗は決していた。


日本最新鋭の第3世代型IS『打鉄弐式』は日本第2世代機の傑作機『打鉄』の第3世代後継機として再設計された機体であるが、

国際IS委員会という現代の歪んだ軍事バランス体制を招いた諸悪の根源から国のISコア所有権を多く認めてもらうためのパフォーマンスの必要性から、

明らかに量産を前提とはしていないような武装が主力となっており、これはデモンストレーションのためのワンオフ試験仕様であった。

それらは今年の国家代表候補生である更識 簪の高い電算処理能力に合わせた調整が施してあり、

第3世代技術『マルチロックオンシステム』に対応した多連装ミサイルポッド『山嵐』を中心とした立ち回りが前提となっていた。

『山嵐』は通常の誘導ミサイルとは異なり、高速化するISバトルへの対応とイメージ・インターフェイスの両立のために効率の悪い独立稼働方式であり、

ミサイルの軌道設定は手動入力と脳波入力の併用で圧倒的な命中率と攻撃力を誇るのだが、

ミサイルの軌道データのサンプルが1つもなければ一から入力して発射せざるを得ず、ただの小型ミサイルでしかなくなる。

なおかつパターンが実装されていても適切なミサイル軌道のパターンの選択の手間もあり、高速化するISバトルでは目立った隙を晒してしまう。

それ故に、日本第3世代型ISの試験機としての主な立ち回りは『山嵐』を発射するまでのラグを高機動性と迎撃武器で埋める玄人向けの機体でもあったのだ。

もちろん、『山嵐』のミサイル軌道のデータが集まっていれば、自在の空間制圧力を発揮するのだが、

どうやらこの再現においては肝腎のミサイルのデータがない状態らしく、1対1でありながら悠長にデータ入力するという根本的なミスを犯している。

基本的にミサイルの軌道パターンは使い込むほどに蓄積されて、イメージ・インターフェイスで発射制御できるので咄嗟の攻防で威力を発揮するはずなのだが、

どうもクラッカーはISそのもののシミュレーション上の再現力は高いようだが、それを動かすAIやデータに関しては浅い理解しかしていないようであった。


“ブレードランナー”は『打鉄弐式』のこういったメタ的な弱点と現実の運用における進捗状況の把握にも努めていたので、

相手が『打鉄弐式』と知ってすぐに飛び込んで一刀の下に斬り伏せることに成功したのであった。

“ブレードランナー”の専用機『白式』のスピードなら『打鉄弐式』にも勝っており、一気に詰め寄ることは容易であった。

一方で『打鉄弐式』は、『山嵐』を主軸にした立ち回りをした上で、ミサイルのデータがないので一から手動入力する手間を挟んでおり、

その間はいかにハイパーセンサーで秒単位の認識が可能になったとはいえ、身体を使った箇所では認識の世界に肉体が絶対に追いつかないので、

ここで詰め寄られたら白兵戦用の装備である超振動なぎなた『夢現』を取り出す間もなく、

唯一の汎用迎撃兵装である“某教授の遺産”の1つである背中に搭載された連射式荷電粒子砲2門も常に展開しているわけでもないので、

1秒足らずのわずかな時間だが――――――そのわずかな手動入力して両手が空いてない時間の間、完全に無防備になっていたわけなのだ。

なので、ここでは完全に“ブレードランナー”のメタ的な要素を知っているからこその快勝となった。

言うなれば、せっかく電脳上で再現された完全版『打鉄弐式』も“ブレードランナー”からすれば強敵ですらない認識であった。

いや、今回のそれはあくまでも設計上のデータだけで再現された、――――――いわば生まれたての状態であり、

これがもし、戦い慣れてきてミサイル軌道のデータが充実した頃のデータで再現された存在だったならば、相当な脅威になっていたはずである。

なにせ、思っただけで適切なミサイル軌道や発射数を選んで、巧みなゲームメイクができる可能性があるのだから。

間違っても『打鉄弐式』が弱いのではない。性能は欧州最強のドイツ第3世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』に勝るとも劣らないものなのだ。

ただ単に立ち回りや熟練度が足りないだけであり、こればかりは設計図上のデータの無から作り上げるのは非常に困難な要素なのだ。

できあがったものをコピーするのは容易いものの、こういった高度な立ち回りを要求される機体だと機体性能に頼るだけに成り下がるようである。

一方で、“ブレードランナー”の立ち回りや対応力はもはや抜群としか言いようがなく、

第1の扉における織斑一夏(15)の駆る『白式』に対しては一度も攻撃せずに自滅に追い込み、

その前に現実世界で対峙した織斑マドカの『サイレント・ゼフィルス』にはISを展開するまでもなく撤退させていた。

そして今度は、敵を認識した次の一瞬で勝利を確信した疾風怒濤の一太刀で完全版『打鉄弐式』を戦闘不能に追い込んだのだ。


――――――第2の扉 突破! 鍵は残り3つ!



785: 2015/02/17(火) 08:14:51.11 ID:vjaZff0t0

――――――インターバル2回目


一夏「………………フゥ」

一夏「正規の対IS戦闘なんて現実世界で一度もしたことがなかったから緊張感が違うな……」

――――――
友矩「お疲れ様です」

弾「おつかれ――――――って、そんなこと言って一瞬で終わらせたじゃん。いつもみたいに」
――――――

一夏「まあね。一撃必殺が使えるこちらとしては、勝負は早いか遅いかの違いしかないことだし」

一夏「…………フゥ」

一夏「電脳ダイブで大切なのは、精神の回復として こうやっておしゃべりをして休憩を入れること――――――」

――――――
弾「なあなあ? 思ったんだけどさ?」

友矩「何です?」

弾「電脳世界でISや外付装備を使ってるじゃん?」

友矩「はい」

弾「まず、電脳世界で展開したISってエネルギーはどうなってんの?」

友矩「それはエネルギー供給用のバイパスに接続してエネルギー補給をしながらです」

友矩「ISのハイパーコンピュータをフル稼働させて電脳ダイブというものを実現しているのですから内部処理でエネルギーを喰うんです」

友矩「それはアプリを常時大量展開しているスマートフォンのバッテリー消費が激しいのと同じ原理です」

友矩「仕事量が多ければそれだけ消費するエネルギーは大きくなる――――――ISでも同じことです」

友矩「そもそも業務用のスーパーコンピュータだって電源に繋いで給電しながら動かすのですから、尚更」

弾「それじゃ、拡張領域に入ってない武器――――――外付装備をそのまま持ち込めたのはどうして?」

弾「電脳ダイブで持ち込めるのはドライバーの生体データとISの量子化兵装だけなんだよな?」

友矩「――――――『そのまま持ち込めた』というのは語弊があります」

友矩「電脳ダイブで展開されるISも、持ち込めた装備も、そこに見える景色も、全てはCG――――――虚構なんです」

友矩「ですから、あれはあくまでも仮想的に再現されたツールなんです」

友矩「そういうわけで、外付装備と同じものを電脳世界で使いたいのなら、この3Dスキャナーで仮想データ化したものを転送させて装備させるんです」

弾「はあはあ なるほどな。電脳上で使うグレネードランチャーもみんな ZIPみたいなもんだったのか」

友矩「ですから、本当ならリロードなんて必要ないんです。ぶっ放し放題なんです、何でも。こちらでそのように設定してますから」

弾「うおおお! そりゃ爽快感あるだろうなー!」

友矩「もちろん、ISのエネルギーも供給され続けていますから、ISのハイパーコンピュータがオーバーヒートしないかぎりは無敵なんですよ」

弾「でも、ISが無敵化しても電脳上の肉体――――――つまり、現実の精神までは無敵化しているわけじゃないよな」

友矩「はい。だからこそ、こうして休憩を挟んで精神の安定化をしないと危ないんです」

友矩「しかしながら、攻略直後のリンクが再接続されたばかりの“ブレードランナー”のステータスを見るに、」

友矩「弾無制限のはずなのにISや装備に現実と同じ制限が掛かっており、あの扉の向こうは完全に電脳上で隔離されたエリアであることが推測できるんです」

友矩「ですから、言うなればあの扉は監獄への門でもあるんです」

友矩「もし隔離されたエリアごと削除されるようなことにでもなれば――――――」アセタラー

弾「…………そうならないことを祈ろうぜ」ハラハラ
――――――――――――


786: 2015/02/17(火) 08:15:26.47 ID:vjaZff0t0

――――――第3の扉


一夏「さてと、今度は何だ?」

一夏「…………ん(――――――IS反応)」ピピッ


朱色のIS「――――――」


一夏「早速 お出ましか(しかし、見たことがない機体だな。黄色味がかかった赤――――――朱色か)」

一夏「さて、お前を倒せばいいんだな?(索敵 索敵――――――もしかしたらあれ1機だけじゃないかもしれないからな)」(IS展開)

緋宵「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

一夏「イグニッションブースト――――――いきなり来たか!(外見は『打鉄』のような重装甲型に見えるな)」

一夏「はあああああああああああ! イグニッションブースト!(正面から打ち合うのは不利となるか!)」ヒュウウウウウウウウウウウン!

緋宵「――――――!」スッ 

一夏「!」

緋宵「――――――!」ブン! ――――――もう1振りの太刀を取り出した!

一夏「ちぃ!」ブン!

ガキーーーン!

一夏「うわっ!?」ズキズキ

一夏「!」

緋宵「――――――!」ブン!

一夏「やらせるか!(――――――『雪片』解除!)」ガシッ

緋宵「――――――!?」

一夏「うおりゃああああああああああああ!」ゲシーン!

緋宵「!!!?」

一夏「もらったあああああああああ!(――――――『零落白夜』発動!)」ヒュウウウウウウウウウウウン!

緋宵「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

一夏「ちぃ!」スカッ


787: 2015/02/17(火) 08:16:37.61 ID:vjaZff0t0

早速、ハイレベルな攻防が繰り広げられることになった第3回戦――――――。

“ブレードランナー”の次なる相手は、未確認の接近格闘機の朱色の『緋宵』と言う名の機体であった。

外見は日本風であり、日本のISの特徴としては重装甲による安全第一と高信頼性を主眼においたものが伝統的であった。

それ故に、この『緋宵』について直感的に日本のIS設計技師の作であることを“ブレードランナー”は見抜いており、

専用機『白式』は高速機ゆえの軽量化によって、『緋宵』のどっしりと構えた重量に打ち負けるのは目に見えていた。

しかしながら、それでも接近戦には絶対の自信があった“ブレードランナー”はむしろ前の『打鉄弐式』よりはやりやすい相手に思え、

油断はしてはいなかったが、いざ接近戦を受けて立って迎え討とうとしたところ、

なんと相手の朱色のIS『緋宵』はもう1振りの太刀を取り出してこちらの意表を突いてきたのだ。


――――――こいつは手強い相手だ!


何とか2振りの太刀から繰り出される奇襲をこちらの雪片の太刀で受けることに成功したのだが、

攻撃を受けてしまったばかりに重量差によって一気に崩されてしまい、瞬間的に空間認識能力に揺さぶりをかけられて隙を晒してしまう。

そこに刺客である『緋宵』の容赦無い追撃が行われる! 受ければ確実に同じように追い詰められるだけである。

格闘能力において優劣をつけられ、もはや打つ手なしかと思われた“ブレードランナー”であったが、

そこであっさりとやられずに何が何でも氏中に活路を見出すのが“ブレードランナー”の優れた任務遂行能力の源であった。

なんと、“ブレードランナー”は手にした雪片弐型を解除して、


――――――『緋宵』が振り下ろす左手の太刀の方を両手で挟みとったのだ。これぞ、真剣白刃取りである!


更に、そこからぶら下がるようにして瞬時に宙返りをして両手の太刀を完全に躱して、そこからオーバーヘッドキックへと繋いだのだ。

確実なダメージを与えられると確信して勢いのままに突進してきた『緋宵』は予想外の方法で裏から蹴り押され 勢い余ってしまう形になった。

形成は逆転し、攻守が入れ替わり、今度は“ブレードランナー”の『白式』の一撃必殺剣『零落白夜』の脅威が迫り来る!

しかしながら、今回の相手はおそらくはコピー品ではなく、この事件の首謀者であるクラッカーが丹精込めたオリジナルなだけあり、

前2回の紛い物のコピーとは段違いの動きの切れを見せつけ、確実に決まるかと思われた一撃を回避してみせたのである。


――――――再び睨み合いから始まり、勝負は始まったばかりである!


788: 2015/02/17(火) 08:17:23.54 ID:vjaZff0t0

一夏「くっ、何だあの機体は――――――?」

一夏「パワーが段違いだ(それでいて、しかも二刀流か。片方の剣を受けただけでもヒットストップしてしまう。隙がないな)」

一夏「基礎設計の面では第3世代型並みの性能だな(スピード面に関しては未だに『白式』に並ぶ感じじゃないけどな)」

一夏「どうする? やつに勝るところはあるか?(あるとすれば、――――――『どんな形であれ『零落白夜』を中てるだけでいい』ということか)」

緋宵「――――――」

一夏「いや、俺は公式ISバトラーじゃない」

一夏「俺は“ブレードランナー”だ!」

一夏「それだ!」

一夏「行くぞ。相手が競技規定を前提にしているかどうかこれで見てやる!(ここは“アヤカ”に習ってみるか!)」

ヒュウウウウウウウウウウウン!

緋宵「――――――」

緋宵「――――――」

ヒュウウウウウウウウウウウン!


普通に戦えば圧倒的不利の状況の中で、卓越した格闘能力と『零落白夜』の一撃必殺だけで乗り切ろうとしないのが“ブレードランナー”だった。

“ブレードランナー”は露骨な罠を仕掛けたのだ。

『白式』を戦いの舞台となっているアリーナの壁に張り付かせたのである。

さて、察しの良い読者ならばわかるだろうが、“ブレードランナー”がとった作戦というのは――――――、


789: 2015/02/17(火) 08:17:56.94 ID:vjaZff0t0

緋宵「――――――!」ヒュウウウウウウウウウウウン!

一夏「迂闊なやつめ!」ジャキ! ――――――グレネードランチャー!

緋宵「――――――!?」ヒュウウウウウウウウウウウン! ――――――急転回!

一夏「違うな! 俺の狙いは――――――!」バンバン!

緋宵「――――――!」ビタッ


――――――アリーナはグレネードランチャーの火炎弾によってたちまち焦熱地獄に早変わりである。


相手の武器が大型ブレードの二刀流 故に壁を背にすることで振り回しづらくする他に、こちらの攻撃を確実に当てやすくする狙いもあった。

そして、空中格闘戦で押し負けるのならば、今度は大地の支えを味方にすることで打ち負けて姿勢を崩されることもこれで防げる。

こうなれば、接近格闘機である『緋宵』も地上戦に移行せざるを得ず、重量差で押し負かすことはずっと難しくなっていた。

一応、二刀流なので手数においては相手が有利なのだが、相手が一撃必殺持ちなのでむしろ接近戦を有利にする要素が減った分だけ勝率は大きく減っている。

そして、のこのこと近づいてきたところを隠し持ったグレネードランチャーで狙い撃つ――――――のが狙いではなかった。

そんなのはフェイントに過ぎず、グレネードランチャーに詰められた火炎弾で所構わず辺りを火の海にするのであった。

なるほど、自分の周りを火の海にして地上戦にもつれこませれば、こちらは耐火装備が充実しているので問題はないが、

相手はそんな特異なものまで用意しているはずがないのだから、地上から炎めがけてスライドして攻めこむのを躊躇うようになるだろうし、

壁を背にしているので裏から回ることもできず、頭上に空いた空間の隙間から攻めこむしかなくなり、そこを狙い撃ちにできる。

そして、第3の扉に突入前にもらっていた圧縮フォルダを解凍して、取り出したのは対IS用ミサイルランチャー!


790: 2015/02/17(火) 08:18:35.22 ID:vjaZff0t0


ズドドドドドドン!


緋宵「――――――!」ヒュウウウウウウウウウン!

一夏「逃げろ逃げろ! こっちの弾が尽きるまで逃げきれるかな?」

一夏「卑怯で結構! それで人の命が救えるのなら何だってするさ!」

緋宵「――――――!?」ボゴンボゴーン!

一夏「ま、弾切れなんてないけどな。外見はただの6連装ミサイルだけど」

一夏「種明かしをすると、使った瞬間に新しいミサイルのデータを延々とコピーして発射し続けるウイルスが添付されているからな!」

一夏「じゃ、さようなら!」

緋宵「――――――!!!?」ボッゴーン!


――――――まさに外道! 未だかつてこのような戦法を使ったところが見たことがあるだろうか?


しかし、それが“ブレードランナー”であり、目的達成を第一とする非正規戦における戦い方としてはこれで正しいのである。

元々この戦いは競技規定に則ったスポーツでもなければ、軍縮条約に則った正々堂々とした戦争というわけでもない。

あくまでも学園の機密保持のために全力を出しているわけであり、手を出したのは向こうなのだから卑怯と言われる筋合いはない。

何をされてもいいという覚悟があって不法侵入しているのだろうから、その辺に関しては“ブレードランナー”は実に容赦がなかった。

一方で、現実世界の“オペレーター”もしてやったりという顔をしていることだろう。

ミサイルのデータにはミサイル無限増殖ウイルスの他にも、隔離されているが故にZIP爆弾も仕込まれてすらいた。

まさに、メタ的な視点でもって抜け道を探し出して敵が仕掛けた罠を相手の予想を上回る反撃を仕掛けることこそが勝利の秘策であった。

相手が勝手に学園のリソースで高性能バトルシミュレーターを作ったのなら、こちらは機体データにちょっとした改造を組み込むだけである。

相手の得意とする土俵に連れて来られたと思ったところを、堂々とその土俵で許された最大限の手段で以って暴れているだけである。

アウェーだからこそ普段荒らせないホームに代わって好き勝手に暴れられているわけであった。それぐらい“ブレードランナー”は容赦がない!


791: 2015/02/17(火) 08:19:38.03 ID:vjaZff0t0
















「…………っ」ギリッ

「…………束さま」ギリギリ

「すでに目的を果たしたとは言え、ここまで好き放題やられては――――――!」

「いえ、束さまがお作りになられた作品をよくも――――――!」

「やはり、束さまが危惧していた通り、一夏さまの隣に彼らはふさわしくない」

「申し訳ありません、束さま。ここは少し予定の変更をさせてもらいます」


ピピピピピピ・・・・・・書き換え完了!





792: 2015/02/17(火) 08:21:02.89 ID:vjaZff0t0










一夏「…………?」

一夏「おかしいぞ、第3の鍵は手に入ったのに…………」

一夏「あ、あれ…………空間が歪む?」グニャーー




グニャグニャグニャ・・・・・・・





一夏「な、何だ、ここは――――――!?」

一夏「――――――無か!?」

一夏「ど、どうなってる? まさかデータごと削除されたのか!?」

一夏「……なら、いったいここはどこなんだ?」

一夏「まさか、――――――氏後の世界?」

一夏「仮想空間における肉体はすなわち精神――――――それが削除されたからこんな無が広がっているのか?」

一夏「――――――『白式』!」

一夏「あ、ちゃんと反応がある。まさか氏後の世界にまでISを持ってこれるとは思わなんだ」

一夏「って、そんな冗談はおいといて」

一夏「周囲に反応はない。――――――本当に無だな」

793: 2015/02/17(火) 08:21:33.05 ID:vjaZff0t0

一夏「ん?」

「――――――!」ブン!

一夏「ぐあっ!?」ドーン!

一夏「な、何だ?! いったい何が――――――いや、見えない!? 反応がない!?」

一夏「くそっ、どういうことなんだ、これは!?(もしかして完全に光を遮断されてるから何も見えないのか?)」

一夏「『白式』、近くに何かがいる! 全てのセンサーを使ってその正体を探り出せ!(けど――――――、)」ピピ・・・

「――――――!」ブン!

一夏「なぁ!? ば、馬鹿な! センサーをフル稼働させているのに反応が1つもない!?」

「――――――!」ブン!

一夏「ちぃ!」ブン!

ガキーーーン!

一夏「あれ? 何だこの軽い衝撃は…………?」

一夏「何だろう? 姿は見えないけど、どうも今の感じはさっきの朱いISのような気がするぞ」

一夏「攻撃を受けた時の刃の向きが最初とさっきので正反対だった気がする」

「――――――!」ブン!

一夏「わああああ! 今度から下から?!」

一夏「こんのぉ!」ブン! スカッ

一夏「くっ、だが、間違いない! 今さっき2振りの太刀を浴びせられた!」

一夏「裏ドルアーガの塔をやってるような気分だぜ。――――――冗談 言っている場合でもないか」

一夏「(けど、本当に目が見えなくなっているのなら、どうして俺の身体や『白式』のことは見えているんだ?)」

一夏「(これは相手が用意したデータではなく、一体となっている『白式』が俺に見せているバーチャルだからか?)」

一夏「(確かここは完全に隔離されたエリアだって“オペレーター”は言っていた)」

一夏「(となると、環境データの設定がなくなった場合が今のような状態だっていうのか?)」

一夏「(そうだよな、これはあくまでもバーチャルの世界なんだ)」

一夏「(今の俺が俺と認識している肉体は外見や内部パラメータだけ再現された存在なんだ)」

一夏「(光すら差さない無の世界で、しかも足場という概念がなくて足がつかない無重力世界で、しかも音すらしない無媒体世界で、)」

一夏「(俺が自分を認識していられるのは科学的に考えておかしい。ここは宇宙空間でもなく、暗闇の中というわけでもなく、無だ)」

一夏「(けれど、相手は正確にこちらの存在を把握して攻撃を中ててくる! これはどういうことなんだ?)」

一夏「(何かあるはずだ! 『白式』の機能を麻痺させたにしてはずいぶんとやることが大雑把な気がしてならない)」

794: 2015/02/17(火) 08:22:45.87 ID:vjaZff0t0

「――――――!」ブン

一夏「くぁ……! 辛うじてかすっただけだが、闇雲に移動しても意味がないのか」

一夏「(けど、わざわざ剣で攻撃してくるということはやっぱりさっきの朱色の機体なのは確信できてきたぞ)」

一夏「(それがわかったからには勝機はまだ残されているけど、これほど一方的な状況になったのはさっきの仕返しか?)」

一夏「(これだから犯罪者は嫌になる。自分が犯していることに関しては棚に上げて自分に都合がいいことばかりを――――――!)」

一夏「くっ、これ以上はさすがにまずいな…………早く対処しないと取り返しがつかなくなる!(くそっ、北斗琉拳の暗琉天破ってこんな感じなのか?)」

一夏「俺のデータを獲るためにここまで容赦がないっていうのもね……(ん? 待てよ――――――?)」

一夏「(クラッカーの目的は『俺のデータを獲るため』であり、5つの扉の奥で待ち構えている刺客を倒させるという手の込んだ真似をしている)」

一夏「(すると、――――――今も俺のデータを取り続けていることになるのか!)」

一夏「(そうか、だからあらゆるセンサーが働かなくなるような無の空間でこちらを正確に攻撃できるんだ!)」

一夏「(けど、それは逆に俺の存在をセンサーに頼らない別の方法で唯一認識していることにもなっているはずだ)」

一夏「(相手は確実に俺めがけて攻撃するしか能がなくなっているはずだ! 俺以外に認識できるものがないんだから!)」

一夏「(なら、今 この無の中にいるのは俺と敵しかいないんだ)」

一夏「(その2つを結ぶ何かを俺が悟ることができれば――――――!)」


この時、“ブレードランナー”は半ばヤケクソであった。

なにせ自分以外の全てのことが知覚できず、右も左も前も後ろも上も下も感じられないのに、一方的に攻撃されているのだから軽いパニック状態にもなるだろう。

いつだって“ブレードランナー”の戦いはギリギリの己の存在を賭けた氏闘の連続であり、常に自分の限界以上のことを要求されてきた。

いつものように冷静を装うことに意識を向けようするのだが、無の空間に投げ出されて今まで感じたことのない未知の感覚が徐々にその平静さを溶かしてくるのだ。

このまま何も感じられなくなって消えていくのではないかという宇宙的ホラーのような何かが入り込む熱くもなく冷たくもない無の感覚に徐々に慣らされていく。

しかしながら、自分が自分であることを認めるのは自分しかいないことをよく知っているからこそ、

“ブレードランナー”は必氏に自分が自分であるために自分らしさをこの無の空間においても貫き通そうと足掻き続けた。

だが、有の世界の住人であるただの一生命体が無の世界ですることは何もかもが不確かで曖昧であり 無意味であった。

それ故に、もはや万策尽きて半ばヤケクソの精神論に走り出していたのだが――――――!


795: 2015/02/17(火) 08:23:57.44 ID:vjaZff0t0


――――――“アヤカ”ならどうする?


一夏「(どうしていた? 俺と同じように“世界で唯一ISを扱える男性”として数々の奇跡を見せてくれたお前なら?)」

一夏「(お前ならどうやって無を克服していた? どうやって無を有に転じてきた? これまでを勝ちを拾ってきた?)」

一夏「(動いても無駄。じっとしていても無駄。この状況で何をすべきだ、俺は?)」

一夏「(あるけれども感じられないものを掴む、その術は――――――!)」



「――――――!」



一夏「――――――!」ブン!

ガキーン!

緋宵「――――――!?」

一夏「――――――!」ブン!

緋宵「――――――!!」ヒュウウウウウウウウウン!

一夏「……あともう少しだったんだけどなぁ」

一夏「いいぜ、次で終わらせてやる」ジャキ

緋宵「――――――」

一夏「………………」

緋宵「――――」

一夏「…………」

緋宵「――」

一夏「……」

緋宵「」

一夏「」












ズバン!


緋宵「!?!?!?」

一夏「…………慣れてしまえば呆気ないもんだな」

一夏「さて、これで俺は無の世界に一人か」

一夏「敵であっても枯れ木も山の賑わいだったんだけどなぁ…………あれ?」

一夏「これって――――――データ取得、『第4の鍵』だって?」

一夏「あ」


――――――第3・第4の扉 突破! 鍵は残り1つ!


796: 2015/02/17(火) 08:25:01.22 ID:vjaZff0t0

――――――インターバル3回目


一夏「あ、戻れた……」

――――――
弾「あ」

弾「よかった、一夏ぁああああ!」ウルウル
――――――

一夏「おっと、びっくりするじゃんかよ!?」

一夏「ほら、何かよくわからなかったけれど、――――――鍵は2つ手に入ったぜ。これで残りは1つだ」

――――――
友矩「本当に良かったです……」ホッ

友矩「第3の扉が消滅しても“ブレードランナー”が帰還しませんでしたから」

友矩「隔離エリアごと消去されてしまったのではないかと気が気でなくて……」
――――――

一夏「……そうだったのか」

一夏「実際に似たようなもんだし、なんで生きて帰れたのか俺でも不思議に思うぐらいだ」

一夏「なにせ、第3の扉で無確認の朱色の日本製接近格闘機を無限増殖ミサイルで撃ち落とした後に、」

一夏「無の世界に転移させられて、そこで朱色のISの逆襲を食らって危うく絶望しかけたからよ」

――――――
弾「ええ!? ――――――『無』って何だよ、『無』って」
――――――

一夏「光も影も重力もない 上も下も右も左も前も後ろもない世界」

一夏「相手も同じ条件だったんだろうけど、俺のデータ採取が継続されていたようだから、そこめがけて俺を襲ってくるもんだからたまったもんじゃなかった」

一夏「こっちは何も見えないし、何も聞こえないし、何も感じられなかったんだぜ?」

一夏「実質的な無重力空間だったんだけど、宇宙空間とは違って息苦しくなるわけじゃないし、身体が軽くなるわけでもなく」

一夏「まさしく俺という存在がポツンと存在するだけの無の空間だった。気が狂いそうだった」

――――――
弾「お前、SAN値 大丈夫なのか!?」

弾「なあ、友矩? 『無の世界』ってどういうことなんだ?」

友矩「…………おそらく仮想空間の設定そのものが無になっていたから『無の世界』になったのではないでしょうか?」

友矩「仮想空間と言えども、現実の再現には膨大なモデルケースや乱数マップの合成による空間制御AIがなければただのハリボテですから」

友矩「今回の高性能ISバトルシミュレーターから今回の“ブレードランナー”のデータ測定だけに必要な要素――――――、」

友矩「すなわち、“ブレードランナー”と対戦相手だけのデータ以外を全て引っこ抜いた結果が『無の世界』だったのでしょうね」

弾「なんとシンプルなシミュレーション内容でしょうか!?」
――――――

一夏「ああ。シンプルすぎて人間が知覚できる刺激となるものが一切なくて見えないし、聞こえないし、感じられないけどな」

一夏「けど、確実に俺と相手だけは存在していることがわかったから勝てたんだよな」

一夏「その事実に気づかなかったらセンサーが全て使えない中、一方的にやられる理不尽さのあまりに恐慌状態に陥って氏の恐怖で発狂していたかもしれない」

797: 2015/02/17(火) 08:25:54.18 ID:vjaZff0t0

――――――
弾「センサーが全部使えないのにどうやって勝ったんだよ?」

友矩「相手が接近格闘機であるという確証があったのなら、一撃必殺の『零落白夜』を中てることも不可能ではないでしょうけれど…………」
――――――

一夏「違う違う。あるだろう、――――――俺と敵と結ぶ確かなものが」

――――――
弾「え」

友矩「?」
――――――

一夏「俺を認識して俺めがけて刃をふるおうとする敵の意思だよ」

――――――
弾「は」

友矩「……まさか、そんなことが本当に?」

友矩「でも、確かに何も知覚できない“ブレードランナー”にとって唯一確信できる要素があるとしたら、それしかない」

友矩「本当に何も知覚できない“ブレードランナー”にとって、一方的に攻撃を中ててくる敵に確かな攻撃の意思だけは感じられるはずだから……」
――――――

一夏「そういうこと! 実際にやってみるもんだな」

一夏「電脳世界での肉体は現実世界における精神そのものだから、肉体に縛られない次元でそういったものを知覚できたというか――――――」

一夏「まあ、知覚できているというよりはほとんど直感みたいなもんでさ?」

一夏「――――――『来た』と思って剣を振ったら、何かを真っ二つにしたような感触しか残ってないんだよ」

一夏「それで、本当にやれたのか考えているうちに、第4の鍵を手に入れて――――――ここに戻ってこれたってわけ」

――――――
弾「………………」

友矩「………………」
――――――

一夏「いやぁー、クラッカーが約束を守ってくれていて本当に助かったぜ」

一夏「あのまま無の世界に一人 取り残されるんじゃないかって、敵を倒してしまったことに後悔すら覚え始めていたからさ」

一夏「でも、一番はあれかな?」


――――――“アヤカ”だったらどうしていたんだろうって。


一夏「『無』という概念を思い浮かべた時に思いついたのは、最初の頃 無の化身のようだった“アヤカ”だったからさ、」

一夏「“アヤカ”がこれまで見せてくれた奇跡のことを思い返してみて、少し勇気と閃きをもらったんだ」

――――――
弾「そっか。それはよかったな」

弾「お前の助けが“アヤカ”の成長を促して、今度は“アヤカ”の成長がお前の助けになったんだよ」

弾「凄いことじゃないか!」
――――――

一夏「ギブアンドテイクってやつ?」ヘヘ・・・

一夏「そう思うと、何か千冬姉じゃないけど人を育てることの喜びっていうのを感じたかな」

798: 2015/02/17(火) 08:26:26.63 ID:vjaZff0t0

――――――
友矩「しかし、自分と相手のISを結ぶ働き――――――」

友矩「これって、――――――『PICカタパルト』の原理と符号するところがありますね」

弾「――――――『PICカタパルト』」
――――――

一夏「あ、そっか。これが『PICカタパルト』だったのか」

――――――
友矩「その中でもフォーカスと呼ばれる段階での境地に至っていたのでしょうね」

友矩「“アヤカ”の場合は、フォーカスしてから相手の慣性と同化させる段階までやってみせてましたけど、」

友矩「“ブレードランナー”はそこまでのことはしませんでしたよね?」
――――――

一夏「ああ。迎え討っただけだ」

一夏「でも、確かに俺への敵意でフォーカスできたおかげなのか――――――、」

一夏「あの一瞬だけは相手の全てがまるで自分のことであるかのように理解できてた気がする」

一夏「だから、『振れば倒せる』っていう妙な確信というか直感が働いていたような気がするんだ、ホント」

――――――
友矩「――――――もはや達人の境地ですね」

友矩「敵意を敏感に察知して、それで相手の動きが先読みできるだなんて」

弾「それって、ISによるハイパーセンサーの補助無しでやったことなんだよな?」
――――――

一夏「ああ、たぶんそうだと思うぞ」

一夏「センサー類は完全に機能しなくなっていたから、客観的に考えれば ほとんど勘で倒したようなもんだし」

一夏「自分でもあんな状態で刺客を倒して、こうやってまた二人と話していることに話していて違和感を憶えているぐらいさ」



799: 2015/02/17(火) 08:26:54.72 ID:vjaZff0t0

――――――
友矩「では、いよいよ最後の扉ですね」

弾「ああ。――――――第5の扉だな」

弾「最後まで気を抜くなよ? 相手が本当に学園のコントロールを返してくれるかまではわかったもんじゃないんだから」
――――――

一夏「わかってるって。俺だってまさか無の世界に落とされるとは思わなかったし、」

一夏「最後の扉なんだ。第4の扉であんなことをされた以上の底意地の悪い何かである可能性が高いのは百も承知!」

一夏「それじゃ行ってくる!」

――――――
弾「ああ。勝てよ」
――――――

一夏「――――――」ガチャ










――――――
弾「行っちまったな」

友矩「ええ」

弾「これが終われば――――――いや、このまま素直にコントロールを返してくれればいいんだけど。そう都合良くいくかな?」

友矩「先程、実は逆探知に成功しまして」

弾「え……!?」

友矩「『白式』のステータスチェックでビデオを確認していたのですが、」

友矩「第3の扉の刺客である朱色のISを無限増殖ミサイルで撃ち落とした後に外部からデータの書き換えがありまして」

弾「ああ……、あんなチートを堂々と使われたらそりゃクるものがあるだろうな……」

友矩「けれど、そのおかげでクラッカーの居場所を逆探知できましたよ」

弾「え、そ、それじゃ……、これが終わったら――――――?」

友矩「はい。僕が捕まえに行きます」

友矩「アリーナを完全に乗っ取った時のクラッカーとは別の格下の犯行なのはわかりましたから」

弾「ま、マジでそうなのか?」

友矩「たぶん、相手は相当幼いです。――――――感情的になって痕跡を残す時点で三流ですからね」
――――――

800: 2015/02/17(火) 08:27:42.10 ID:vjaZff0t0

――――――第5の扉


ゴロゴロ・・・・・・

一夏「――――――あ、あれ?」

一夏「何だここは? 今までは全然違う」


今度もまたアリーナかどこかだと予想していた“ブレードランナー”ではあったが、――――――意表を突かれた。


一夏「暗雲立ち込めたこのフィールド――――――」キョロキョロ

一夏「……何だったっけかな? 何か見たことあるぞ、――――――この闘技場!」

一夏「そうだ! あの8つの巨像と辺り一面の無数の穴――――――まさかあの巨像が避雷針になっていたり穴も800個もあったりするのか!?」

一夏「題名なんだったっけ?! 結構シンプルなタイトルだった気がするんだけど、あの古臭いけどすっげー濃いジャンプマンガ!」

一夏「ダメだ……、『民明書房』のことしか思い出せねぇ…………」

一夏「けど、まさかここで戦うのか?!」

一夏「ISならシールドバリアーと絶対防御で鎗地獄でも氏にはしないだろうけど――――――、」

一夏「いや、もしかしたら穴から出てくるのは鎗じゃなくて対IS兵器の可能性が――――――!?」

一夏「お、落ち着け! まずは相手の出方を待つしかないんだ……」

一夏「さて、――――――どう出る?」(IS展開)

一夏「(けど、凄く嫌な予感しかしない。あのマンガ、普通に登場人物が氏ぬんだもん…………生き返るけど)」

一夏「(あの破天荒さは見ていて爽快かもしれないかもしれないけれど、実際にあんなのが現実のものになっていたら――――――!)」

一夏「(違う、――――――憶えているぞ! この場面でもあの世界特有の理不尽な氏のゲームが!)」


――――――そう思った瞬間であった!


801: 2015/02/17(火) 08:28:24.80 ID:vjaZff0t0


ガチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


一夏「!」

一夏「な、何だ……?(え、まさか――――――、そのまさかなのか――――――?!)」

一夏「なっ?!(――――――ズーム機能だ。見たくはないけど状況把握のためにはしかたがない!)」

――――――
千冬「――――――」(白い天秤に掛けられた白い牢獄)
――――――

――――――
雪村「――――――」(黒い天秤に掛けられた黒い牢獄)
――――――

一夏「……嘘だろう?(ちょっと待ってよ、大天秤にぶらさげられた牢獄ってまんま――――――落ちたら奈落の底で)」ピィピィピィ・・・

一夏「――――――IS反応! 2つ!?(データ照合完了、これは――――――!)」 CAUTION! CAUTION!


ヒューーーーーーーーーーーーーーーーン、ドッゴオオオオオオオオオン!


黒い無人機「――――――」

白い無人機「――――――」


一夏「…………4月のクラス別対抗戦で見た無人機! それも2体!(『ということは』だが――――――!)」ギロッ

一夏「けど、牢獄と同じ色塗りになってるって、これって――――――ん」

一夏「――――――いつの間に、電光掲示板のタイマーが!?」


――――――【00:05】


一夏「は? ちょっと待ってくれよ……」

一夏「俺の勘違いじゃなければ、――――――『5秒しかない』ってことじゃないか!」

一夏「不可能だ!(5秒であの無人機を同時に2体 倒すだなんて!)」

一夏「(たぶん、倒した瞬間にデータ取得がなされて色に対応した牢獄は無事なんだろうけど――――――、)」

一夏「(どっちも救うだなんて時間的にも戦力的にも位置的にも無理じゃないか!)」

一夏「(あの無人機は互いにそれぞれの色とは正反対の天秤に張り付いているから、位置的にまとめて倒すだなんて無理なことだし、)」

一夏「(腕部の戦略級レーザーをまともに受けたら一瞬でISと言えども蒸発するし、それが2体もいるんだぞ!)」

一夏「(機動力だって学園のアリーナを所狭しと飛び回れるような機動性に、格闘戦に有利な重装甲で『白式』以上の迎撃力だってある!)」

802: 2015/02/17(火) 08:29:10.24 ID:vjaZff0t0

一夏「くぅ…………」

黒い無人機「――――――」

白い無人機「――――――」

一夏「ちぃ…………」

黒い無人機「――――――」

白い無人機「――――――」

一夏「……あれ?(なぜ、敵は動こうとしない?)」

一夏「………………?」

黒い無人機「――――――」

白い無人機「――――――」

一夏「………………」 ――――――恐る恐る指を開いて閉じて手の感触を確かめようとした。

ピピッ

一夏「!」

一夏「…………メッセージ?(こんな時に――――――いや、この閉鎖ネット空間で送ってこれるやつといったら!)」

一夏「メッセージを開いてくれ……(遊びのつもりか? 俺がメッセージを読み終わると同時に仕掛けてくるつもりか?)」


――――――1人助けることができたら最後の鍵を渡そう。1分後にスタートなのだ。



803: 2015/02/17(火) 08:30:10.56 ID:vjaZff0t0

一夏「………………」

一夏「………………」

一夏「………………そうかよ」チラッ

――――――
千冬「――――――」(白い天秤に掛けられた白い牢獄)
――――――

――――――
雪村「――――――」(黒い天秤に掛けられた黒い牢獄)
――――――

一夏「…………『二人のどちらかを選べ』と言う話なんだろう?」

一夏「いいぜ。答えは決まっている。当然、俺が選ぶのは――――――(――――――『零落白夜』準備!)」ジャキ

一夏「リミッター解除(オーバード・イグニッションブースト 準備――――――)」

一夏「――――――!」ビュウウウウウウウウウウウウウウウウウン!



ズバズバズバ、ズバリィイイイイイイイイイイイン!



白い無人機「――――――!?」

黒い無人機「――――――!!」


ヒュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウン!


――――――
千冬「――――――!?」(白い天秤に掛けられた白い牢獄)
――――――

――――――
雪村「――――――!!」(黒い天秤に掛けられた黒い牢獄)
――――――


一夏「……………1分待つ必要なんてない。この2択の答えは最初から出ていた」

一夏「決めていたことなんだよ、――――――有り得る話だから」

一夏「そういうわけで、――――――さようなら、」


――――――【00:00】 ピィイイイイイイイイイイイイ!


――――――――――――
「そ、そんな…………」
――――――――――――


804: 2015/02/17(火) 08:31:11.04 ID:vjaZff0t0


ゴロゴロ・・・、ピカァーーーーーーーン!

グラグラグラ・・・・・・

――――――
千冬「――――――!?」(白い天秤に掛けられた白い牢獄)
――――――

――――――
雪村「――――――!!」(黒い天秤に掛けられた黒い牢獄)
――――――


ピカーーーーーーーーーーーーーン!


一夏「………………」

黒い無人機「」 ――――――『零落白夜』で滅多斬りにされて見る影もない。

白い無人機「――――――!!」 ――――――素早く空中に避難していた。




――――――
千冬「!!!!!!」ヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
――――――





――――――さようなら、“ブリュンヒルデ”。





――――――
雪村「――――――!!」(黒い天秤に掛けられた黒い牢獄)
――――――

一夏「俺は“ブレードランナー”」

一夏「どちらを優先するかだなんてわかりきったことだろうに……」

一夏「けど、いい気分じゃないのは確かだ」ピピッ

一夏「ふざけやがって」ギロッ


――――――第5の扉 突破! 最後の鍵を手に入れました。



805: 2015/02/17(火) 08:33:11.27 ID:vjaZff0t0

――――――電脳世界:IS学園基幹システム中枢電脳 エントランスホール


一夏「………………」

一夏「最後の扉も立ち消えていったか……」

――――――
弾「意外に早かったな……」

友矩「全ての鍵が揃ったことにより、セキュリティが回復し始めました……」

友矩「早速、コントロールの復旧作業に入ります」ピピッピピッピピッ・・・・・・
――――――

一夏「………………」ムスッ

――――――
弾「な、なあ? 何があったんだ? せっかく終わったのにさ?」

弾「あ、そっか。まだ電脳世界から出られないのか?」

友矩「今、表側施設のロックを次々と解除していますから! もう少しだけ待っていてください!」
――――――

一夏「違う。そんなんじゃないよ」

――――――
弾「え」
――――――

一夏「“オペレーター”?」

一夏「――――――逆探知できてる?」

――――――
友矩「できません」

弾「え!?」

友矩「…………これはシークレットコードです」シー

弾「あ」
――――――

一夏「そうか。これから仕返しをしようと思ってたんだけど無理かぁ……」チッ


806: 2015/02/17(火) 08:33:41.64 ID:vjaZff0t0

――――――
弾「ど、どうしたんだよ、一夏?」

弾「お前、何か凄くおっかない表情しているぜ……?」アセアセ

弾「それに、もう終わったことじゃん! 目的を果たせたじゃん!」

弾「今日はもういいだろう? お前がこれ以上がんばる必要なんてないって!」
――――――

一夏「違うぜ、弾」

一夏「 全 然 違 う 」ギロッ

――――――
弾「ひっ」ゾクッ

友矩「…………“ブレードランナー”?」
――――――

一夏「俺がやらなきゃいけないんじゃないんだよ」


――――――これは俺がやりたいからやるんだよ!


一夏「――――――この織斑一夏が!」ゴゴゴゴゴ!

――――――
弾「!?!!」アセダラダラ

友矩「ま、まさか最後の扉でやらされたことって――――――(だいたい予想がつく。一夏が激昂するのは決まって――――――)」
――――――

807: 2015/02/17(火) 08:35:00.69 ID:vjaZff0t0

一夏「ふざけやがって! ぶっ倒してやる! 引き摺り下ろして、氏ぬことが唯一の救いだと思うぐらいに後悔させてやる!」

一夏「俺にあんな選択を迫ったこと、魂魄一万回 生まれ変わろうとも恨み晴らすからなああああああ!」

一夏「どうせ、俺たちの活動はこれでおしまいなんだ! 最後ぐらい好きに殺らせてくれよ、なあ友矩!」

――――――
弾「あ、――――――そうだ。俺たちの戦いは最後なんだよな」

弾「一夏の生体データが完全に敵にキャプチャーされた以上、日本政府も対応を考えなくちゃいけなくなる――――――」

弾「そうなれば、俺たちの、秘密警備隊“ブレードランナー”としての活動はもうできなくなるのは当然だよな」

友矩「はい。ただでさえ 一夏は、――――――“織斑千冬の弟”ですから」

弾「どうする? 逆探知から奪い返してみる?」

友矩「最後の悪足掻きをするのならそれも已む無しか」
――――――

一夏「………………」ジー

――――――
友矩「わかりました」

友矩「もう、僕たちは秘密警備隊“ブレードランナー”の活動資格を剥奪されて、その後は日本政府の決定に全てを委ねられるだけです」

友矩「なら、好きにやれるうちにやりたいことをやりましょう」

友矩「ただし、それによる名誉の戦氏を僕はもう止めません。自己責任でお願いします」
――――――

一夏「ああ!」


808: 2015/02/17(火) 08:35:37.46 ID:vjaZff0t0

――――――
弾「…………こんなことになっちまったけどさ?」

弾「俺たち、これからも一緒にやっていけたらいいよな?」

弾「悔いはないぜ? ――――――臨時収入もたくさんもらって蘭のやつを喜ばせてあげられたし」

友矩「また、焼き肉でも食べに行きません? 今度は豪勢に、最高級のサーロインステーキの食べ放題とかとってもいいですよ」

弾「いいねぇ! それでこれまでの人生のお別れパーティーと洒落込むか、おい?」
――――――

一夏「そうだな。これが終わって全てが終わる暇乞いに――――――、な?」

――――――
友矩「では、一夏。覚悟を決めて今から転送します」カタカタカタ・・・

友矩「転送された先に何があるのか――――――、」カタカタカタ・・・

友矩「学園のコントロールを完全に奪いとるようなクラッカーの電脳に飛び込んでいってどんな結末を迎えるのか――――――、」カタカタカタ・・・

友矩「それは誰にもわかりません。それで一夏は帰らぬ人になるかもしれません」カタカタカタ・・・

友矩「けれど、僕は友としてきみの頼みを引き受けた」カタカタカタ・・・

友矩「だから、今度は友である僕の頼みを聴き入れる番だ」カタカタカタ・・・


――――――氏なないで。どんな形であっていいから大切な人の許に帰るんだよ。


友矩「僕から言えることはそれだけ」カタカタカタ・・・

弾「俺たち、いいチームだったよな?」

友矩「ええ。“トレイラー”の本格的な実績が最初の1,2回しかなかったのは非常に残念です」カタカタカタ・・・

弾「いやいやいや! 俺、ラウラちゃんの出迎えの時にリムジンの運転したよ! ねえ!?」

友矩「はは、そうでしたね。他にもたくさん貢献してくれました」カタカタカタ・・・
――――――

一夏「ああ」

一夏「俺たち、最高だったぜ!」

一夏「それじゃ――――――、」


――――――さらば、“ブレードランナー”!









こうして、IS学園1学年の臨海学校の日に学園で起きた7月7日の事件は解決へと至るのであった。

元々は、学園中枢部への不正アクセスによって学園全体のコントロールが奪取され、

学園施設が完全封鎖されて生徒や職員たちが閉じ込められたというこの事態――――――、

その解決に尽力した男たちの奮闘があったことは決して語られることはなく、彼らの存在は更なる闇へと沈んでいったのである。

一方、臨海学校へと繰り出していた1年生たちはというと――――――、

809: 2015/02/17(火) 08:36:03.60 ID:vjaZff0t0

――――――事件の日の夜

――――――市街のホテルにて


雪村「みなさん、お疲れ様でした」

簪「あ、よかった。元気そうで」

セシリア「“アヤカ”さんもご無事で何よりですわ」

鈴「とんだ災難だったわね」

ラウラ「このツケはいずれアメリカには払ってもらおう」

シャル「ホントだよ」

箒「雪村。ほら、お前の荷物だ」

雪村「ありがとうございます」

箒「ん?」

雪村「どうかしましたか?」

箒「雪村、右腕の黄金の腕輪はどうした?」

鈴「あ、ホントだ。何か違和感があると思ったら、それが無かったのね」

ラウラ「どうしたのだ、“アヤカ”? 専用機は?」

雪村「専用機ですか?」


――――――失くしました。


小娘共「!?!!!?!?」


810: 2015/02/17(火) 08:36:37.26 ID:vjaZff0t0

――――――どことも知れない海と空の広がる世界









一夏「どこの領域だ、ここは…………?」

一夏「ん」

一夏「…………ラウラか?(――――――あの背丈に特徴的な銀髪は)」

クロエ「………………」クルッ

一夏「………………」

クロエ「お初にお目に掛かります」

クロエ「私の名前は、クロエ・クロニクル。主の使いは果たしましたので此度はこれにて退場いたします……」

一夏「あ、おい、待てよ!(――――――『主の使い』だと!?)」ギリッ

一夏「――――――消えた」ハア

一夏「どうしたらいいんだよ、これ(逆探知で乗り込んで散々暴れ回ったのはいいけど、その影響で侵入ルートのデータも破壊したから…………)」

一夏「ん?(――――――背後に感!)」クルッ

一夏「あ」


女性「………………」


一夏「え、誰――――――?」

女性「これを」

一夏「『これを』って言われても……(何だ!? こいつは何だ?! ――――――誰かの精神体? いや、それがなぜクラッカーの電脳に存在する!?)」

一夏「まさかクラッカーが『パンドラの匣』から吸い上げた“魔王”の1種か!?」ジャキ

女性「………………」

一夏「俺には帰るべき場所がある! 『それ』を受け取らせたいのならまず俺を信用させてみろ!」

女性「では――――――」

一夏「!?」

女性「はい」ギュッ

一夏「あ、ああ…………」ドクンドクン

女性「“あの子”を守ってあげて」

女性「私は引き離されてもう“あの子”のことを守れないから……」

女性「でも、私は『あの娘』と一緒にずっとここにいるから」

一夏「は、はい……」

女性「さ、おかえり」


大丈夫。これからはもっと身近にあなたと共にあるから…………



811: 2015/02/17(火) 08:37:36.44 ID:vjaZff0t0

――――――夕焼け

――――――カフェ


クロエ「………………」アセダラダラ

友矩「相席させてもらうよ」

クロエ「…………!」ビクッ

クロエ「確かあなたは束さまが最も忌み嫌っている存在……、あってはならない存在…………」ボソッ

友矩「学園でサイバーテロをやってくれたついでに――――――いや、本命はやっぱり『暮桜』だったんだ」

クロエ「………………!」

友矩「学年別トーナメントで篠ノ之 束に直接 会った時からはっきりわかった」

友矩「学園のどこか――――――電脳からアクセスできるどこかに織斑千冬のかつての専用機『暮桜』が封印されていて、」

友矩「今回のサイバーテロはその封印を解くための強制解凍プログラムを送り込んだってわけなんだ」

友矩「――――――鬼が居ぬ間にね」ジロッ

友矩「それとついでに“ブレードランナー”の生体データを直接とろうとしていたみたいだけど、」

友矩「――――――ここまで仕返しされるとは思ってもみなかったようだね(平静を装っているように見えて全身の汗や浮き出た血管が見える)」

友矩「どうだい? 彼の逆鱗に触れた感想は――――――?」ジロッ

クロエ「………………」スッ

友矩「殺るんなら別にいいよ? 黙って送り返そうと思っていたけど、殺るって言うならこちらにも考えがある」ゴゴゴゴゴ


クロエ「――――――!」(IS展開)


友矩「…………とっとと逃げればいいものを(何だ今の黄金の瞳は? IS装備がまったく展開されていないのにこの超常を引き起こすだなんて)」

友矩「1つ言っておくけど――――――、」

友矩「男の僕が織斑一夏の隣に居続けられることがどれだけ凄いことなのか理解してないようだね、お嬢さん?」

812: 2015/02/17(火) 08:38:18.65 ID:vjaZff0t0

クロエ「――――――!」シュッ ――――――仕込みクナイ!

友矩「この程度の子供だましが通じると思っていたのかい?」パシッ ――――――難なくクナイを掴む!

クロエ「!?」

友矩「今のでだいたいわかったよ。――――――第3世代技術によって大気成分を変質させて幻影を見せるのか」

友矩「そして、単独で電脳ダイブして相手の精神に干渉することすらできる電子戦特化の第3世代型ISといったところ」

友矩「けど、結局はそれだけ――――――!」シュッ ――――――2本の指を勢い良く真正面に突き出す!

クロエ「!?」ゾクッ

クロエ「キャア!?」 ――――――思わず目を閉じてしまう!

友矩「…………馬鹿な娘だね」 ――――――すると、展開されていた『ワールドパージ』の幻影が解除されるのであった。

友矩「やっぱり、その黄金の瞳が弱点だったんだ」 ――――――突き出された2本の指はクロエの瞼をこすっていた。

クロエ「ああ…………」ヨロッ ――――――腰が抜けたようにイスに座り込んでしまった。

友矩「ISが世界最強の兵器であろうとも、それは総合的な評価であって完全無欠という意味じゃない」

友矩「角膜型のIS装備なのかはわからないけれど、生体同期型っていうのもなかなか不便なようだね(そして、戦い慣れてないド素人が使えばこの程度!)」

クロエ「くっ……」

友矩「そうそう、用事はこれなんだよね(――――――不本意だけど、警告ぐらいにはなったはず)」スッ

友矩「今、IS学園を留守にしている織斑千冬先生から託されたこの篠ノ之 束 宛ての手紙を届けること」

友矩「ちゃんとこの手紙を篠ノ之 束に届けてね」

クロエ「…………はい」

友矩「それじゃあね。もう来ないでね(僕たちが捕まえても絶対に逃げられる以上はおとなしく帰せというお達しだったけど――――――)」ジロッ


スタスタスタスタ・・・・・・


友矩「なんとなくだけど“ISを扱える男性”の真相が見えてきた気がする」

友矩「けれど、まだ言うべきことじゃない、まだ――――――」

友矩「後はそれを裏付ける決定的な証拠が揃えられれば――――――目星は付いてる」

友矩「だけど、これからのIS学園の運営はどうなることやら…………」

友矩「なあ、“アヤカ”? 一夏? 千冬さん?」

友矩「僕たちの世界はどこへ向かおうとしているんだろうね?」

813: 2015/02/17(火) 08:39:48.00 ID:vjaZff0t0

夜支布 友矩は、自分たちと同じように先が見えない水平線の遥か彼方へと沈みいく夕陽に向かって疑問を投げかけてみた。

もちろん、答えは帰ってくることはない。ただただ口にするだけで虚しい響きが自分の耳の中でこだまするだけだ。

しかしながら、長いようで短く 短いようで長い一夜を越えた後、すぐに全ての答えが明らかになるのだ。

いずれはこうなることはわかってはいた。長続きなんてしないことは覚悟していた。

それでも、その日が今日であるということは知る由もなかったし、そうならないように努めてきたからには、この衝撃を抑えることは難しかった。


――――――氏ぬことは別に怖くない。


夜支布 友矩は心からそう思っていた。

“ブレードランナー”として過酷な任務に彼を一人送り出して、それで知らんぷりなんて本当の友のすることではない。

そして、互いが互いを必要としている以上は、彼が氏ねば自分も成り立たず、自分も氏ぬものだと心に決めていたのだ。

しかしながら、もしそれすら許されない状況に陥ってしまったら――――――?

それが最も恐ろしいことであり、これからの処分においての一番の関心事であった。

できる限りのことはやってきた。秘密警備隊としての改善点や要望もしっかりと主張してきた。

全ては彼を生かして活かすためであり、それによって自分も生かして活かされるからである。


だからこそ、夜支布 友矩は愛する友である織斑一夏と描くこれからについてつぶやかずにはいられなかったのであった。


過去はもう何をしても戻らない。

すでに賽は投げられた。

あとは、運命に全てを委ねるだけである。


さらば、“ブレードランナー”。また、その剣が振るわれる日を――――――。
                                          『剣禅編』 『序章』Bサイド 完



814: 2015/02/17(火) 08:40:22.05 ID:vjaZff0t0

これまでの話の整理:『序章』B

織斑一夏(23)“ブレードランナー”
IS適性:B
専用機:『白式』非正規戦仕様

原作本編である学園側からの視点を描いたAサイドとは異なり、それらを取り巻く外の環境にいる部外者の視点となるBサイドの主人公となった、
原作主人公(23)であり、あの性格のままに大学を卒業して“童帝”として巷では圧倒的なカリスマ性を誇る有名人という設定。
戦闘面でも人格面でも能力面でも無類の完璧振りを誇る超人であり、IS戦闘においても剣の間合に入れば世界最強“ブリュンヒルデ”に次ぐ強さを誇る。

しかしながら、本業である“ブレードランナー”での活動では無理難題を押し付けられて極めて慎重な立ち回りを求められてきたために、
あまりISで無双している場面はなく、もっぱら仕事人のように標的を1つ1つ確実に『零落白夜』の光の剣で葬っていく様ばかりが目立っていたことだろう。
むしろ無双していたのは“アヤカ”であり、VTシステム8機を単一仕様能力だけで完全無力化している。
それでも、専用機『白式』の性能を120%発揮して、あの手この手で確実に『零落白夜』で一撃必殺を狙うスタイルには凄みを感じたのではないかと思う。
また、ISの力を絶対とはせず、1つの手段として他に有用な手段があるのなら焦熱地獄戦法を使うなどエグさも光っていたはずである。
そして、普段は温厚ではあるものの、こと姉のことになると血が上ってシャレにならない怒気を放つことも理解できたと思う。

今回で“ブレードランナー”としての活躍は終了することになり、その後はどういった処遇が待っているのかは不明である。
元より杜撰な政府の“ブレードランナー”の運用法のために、いずれは本人のうっかりも合わさって露見するだろうことは予想されていたが、
わずか3ヶ月で生体データをキャプチャーされるという事態に陥り、それがきっかけで活動の危機を迎えることになる。

戦闘特技
・イグニッションブースト:瞬間的に最大速度を出す奇襲戦法。機動力が何よりも力になるために広範囲に活躍するはずだった
1,クォーター-:最大速度設定を4分の1に制限することでエネルギー充填速度と消費エネルギーを抑えて無駄のない緊急発進を実現する
2,オーバード-:最大速度を大幅に越えて限界突破による機体の自壊をシールドバリアーで無理やり抑えて放つ規格外の一撃へと繋ぐ諸刃の刃
・発想力:自由な発想で目標達成に必要な手段を直感的に割り出す、無理難題ばかりの“ブレードランナー”にとって最も必要不可欠な才能
・格闘力:ISに頼らず、武器も使わない状況において最も役立つものであり、対IS戦闘の接近戦においても力を発揮する


夜支布 友矩(23)“オペレーター”
“ブレードランナーの頭脳”として機能し続け、常に“ブレードランナー”の活動をする上で必要だと思われること・改善すべき点を報告してきたために、
今回のようにいよいよ“ブレードランナー”の正体が発覚したと思われる致命的な事態になっても責任回避は万全の状態にしていた。
また、大学時代にはヤンデレすらいた織斑一夏の隣に居続けることができたのは、彼が単に気立てが良く、一夏と同性だったというだけではなく、
一夏の隣にいることを妬む連中からの迫害を諸共しない実力があったからに他ならず、頭脳担当にして護身術が軽く使えるぐらいには肉弾戦も強い。

一夏と同じく“アヤカ”に対して極めて真摯に接してきており(それだけじゃなく“彼”の周りの生徒たちにも相当 気を配っているが)、
仮想世界“パンドラの匣”の開拓という任務での付き合い以上に彼自身が“アヤカ”の成長に期待しているところがあり、
“アヤカ”の今後のために絶対に何があっても“パンドラの匣”の開拓だけは終わらせることを胸に誓っている。


五反田 弾(23)“トレイラー”
一般人の域をあまり食み出さず、本職である輸送トラックを活用する場面が描けなかったのは遺憾であるが、
リムジンを運転したり、一夏を励ましたり、読者とできるだけ近い視点で疑問提起をしてくれたので、
秘密警備隊における“ブレードランナーの脚”としての役割しっかりと果たしてくれた。


一条千鶴“シーカー”(先代ブレードランナー)
IS適性:S
専用機:『風待』
彼女の活躍については第10話Aの方が詳しく、実は織斑一夏と共同戦線を張ったことがほとんどない。
専らAサイドで“アヤカ”の援護に回ることが多く、Aサイドの締めにおいても華麗に参上していたぐらいである。
しかしながら、“ブレードランナー”が政府直属の機関であるために、徹頭徹尾 IS学園の味方というわけではなく、
今回の大失敗の大元である織斑千冬の行き過ぎた内部粛清による学園組織の崩壊に思うところがあり、
先代“ブレードランナー”として場合によっては“ブリュンヒルデ”も討伐することも視野に入れ始めている。


織斑千冬“ブリュンヒルデ”
IS適性:S
専用機:????
織斑一夏の原動力となっている彼が世界で一番愛している人物であり、今回の事件の元凶といえば元凶であり、
更にはIS〈インフィニット・ストラトス〉の世界観の形成の面から言っても、篠ノ之 束に匹敵する元凶とも言える存在である。
今回はよく頑張っている方だが、やはり守るのは性に合わないようで徐々に一条千鶴との擦れ違いが起こるようになる。

とにかく肝腎なことを読者に対してすらも何一つ説明せず(いや、元々 実の弟からも“職業不詳”という認識でいさせたぐらいである)、
専用機も持たずに学園の防衛を生徒任せにして『守る』宣言しているせいで『確かに一夏の姉』ということがヒシヒシと伝わってくる。
自分が出られないのなら、教員用の『ラファール・リヴァイヴ』に乗り慣れている山田真耶を前線に出すなり、やり方はあるはずなのに…………。
二次創作する上では、実はこの人が篠ノ之 束の次に動かしづらい人物であり、
彼女がまともに働いたらギャグ補正込でも襲撃者がことごとく撃破されて再起不能に陥るという共通認識があるだけに、
彼女ほどの実力者に専用機を与えない愚に関しても相当な理由を立てないとまるでダメな大人になってしまう。


815: 2015/02/17(火) 08:43:00.26 ID:vjaZff0t0

以下は、読み飛ばしてもらってもかまわない筆者の私見である。


今作は『原作主人公が(23)だったら(=織斑千冬と同年代だったら)?』という異色なコンセプトから始まっており、
その結果としてできるだけ一夏っぽさは残しつつ、織斑千冬に準ずる圧倒的な強さと大人としての貫禄と親しみやすさを併せ持った完璧超人を目指してみた。
客観的に見て、織斑一夏の性格や能力に関しては悪くないものであり、むしろ他者より抜きん出ており(――――――人それを主人公補正と呼ぶ)、
視聴者をイライラさせる鈍感さや主人公らしからぬ無能さや常軌を逸した人格っぷりを克服できれば――――――と思い、描いてきた。

これはかなり過激な論調かもしれないが、実際にこういったIS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作の界隈においては、
原作主人公:織斑一夏の扱いに関して最も過激な議論が今でも専用スレで頻繁に展開されているほどであり、
織斑一夏のキャラクター性に大いに不満を持つ創作者たちが過激なヘイトを展開して人格攻撃するものがかなり多く、
一方で、そういった二次創作の傾向に対して『原作から乖離した捏造で不当にキャラを貶めるのはやめろ』というアンチヘイトの擁護が常に行き交う。
そして、ヘイトとアンチヘイトは今も不毛な織斑一夏のキャラクター性に関する一方的な持論の主張をコンセンサスの形成なしに繰り返して解決の目処が立たない。

打ち明けて言えば、筆者はアニメ第1期をリアルタイムで見ていた時は特に一夏の性格に疑問を呈することなく『主人公らしく頑張れ』と思っていたのだが、
再び観直してみると『何言ってんだ、こいつ?』というこれまでなかった不満の感想ばかりが増えていき、
それからアニメ第2期のリアルタイム視聴で『主人公なのに全然 好感が持てない』と思うぐらいであった。
何がいけないのかといえば、織斑一夏が俺TUEEEEの最低系主人公の項目に普通とは違うベクトルで多く当てはまるのが悪印象の原因のように思う。
具体的に挙げれば――――――、
1,努力している印象が薄い(視聴者からすれば、少し考えればすぐにわかるような問題をいつまでも解決しようとしない点で苛立つ)
2,実力者としての印象が薄い(たいてい襲撃事件で一夏が真っ先に足を引っ張り、それでいてそれを払拭するような爽快な勝ち方を一度もしていない)
3,成長していることを読者にアピールしきれていない(1回ぐらいストレートに勝って確たる強さを見せつけて欲しかった)
4,具体的な目標意識や挫折感、心境の変化などの意識の浮き沈みや盛り上がりが地の文からも見えてこない(読者も登場人物同様に理解不能である)
5,ハーレムものの主人公にしては読者にそれを許容させるだけの凄みやインパクトがない(“良い人”止まりな印象が拭えない)

つまり、物語の様式美である“王道”の要素が薄いから、共感を得られないキャラクター性になっているように思える。
別に、イケイケな性格のDQNというわけでもなく、客観的に見て 姉思いで友人同士の繋がりを大切にする家事万能の人という事実関係だけ見るといい素材なのに、
むしろ、控えめでかつ優柔不断というわけでもない美徳の性格のはずなのに印象が最悪である。吐き気を催す邪悪ではないのに別次元に最悪である。
なので、筆者個人としては上で挙げた5点に対して改良のアイデアあるいは二次創作する上での指針を述べさせてもらうと――――――、
1,具体的に努力して苦労している風景を描くこと(結果だけを見せても読者は納得しないし、感情移入できない。過程の中で読者を引き込むのだ)
2,勝つことが主人公の証と心得る(何か大事な場面で敗けるにしても平時はそこそこ勝利を収めて実力があることを見せないとその敗北の価値も色褪せる)
3,主人公に目標達成の充実感を覚えさせる(敗けるにしても『以前とはこれだけ変われた』という前向きで建設的な描写があれば読者は納得する)
4,心理描写を明確に入れる(特に、地の文が視点人物のものならば大袈裟でもいいから読者に伝わるようなイメージをぶつけなければならない)
5,絶対の魅力となる要素を1つぐらいに絞る(そこさえしっかりしていれば、他がダメダメでも絶対のアイデンティティとして機能する)
※原則として、“王道”に沿うような善なる要素で組み立てないと、それこそ正しき最低系主人公に成り下がる。

筆者としては、別に“世界で唯一ISを扱える男性”や“織斑千冬の弟”というアイデンティティの否定をするつもりはない。
それが作品の魅力であり、『一夏に成り代わりたい』というソッチ方面の浪漫の原点になるわけなのだから。
ただ、ヒロインたちと力を合わせて学園を襲う強敵に立ち向かっているように数々の事件を原作者が描いているつもりなのだろうが、
それにしてはあまりにも一夏が模擬戦でも負けている印象しかなく、勝ち誇っている描写や優劣を気にする内面描写がなくて、
肝腎なところでやられてばかりな印象しかなく、唯一の取り柄である一撃必殺も文字通りにISを一撃必殺できた場面がないので頼りがいなんて感じられない。
いいんだよ、一撃必頃しちゃっても。それでチートと呼ばれようが、その実績があれば福音事件でも「彼にまかせるべき」と読者も納得できるもん。
結局、全ては“王道”成分の描写不足が原因であり、ヘイトはその描写不足に怒り狂い、アンチヘイトは事実だけをただ提示し続けるので不毛なのだ。


816: 2015/02/17(火) 08:43:36.16 ID:vjaZff0t0

秘密警備隊“ブレードランナー”の軌跡(撃退数累計は対IS戦の実績として現実世界で撃破・撤退・貢献したものを含む)
・本編開始前:200X年4月以前
10年前:白騎士事件

3年前:第2回『モンド・グロッソ』
→ 織斑一夏誘拐事件/トワイライト号事件 → 織斑千冬、ドイツにIS教官として赴任する
→ セシリア・オルコットの両親が列車事故で他界する

2年前:日本でISを扱える男性が発見されたという噂が流れる
→ シャルロット・デュノアの母親が亡くなり、デュノア社に引き取られる

1年前:織斑一夏(満年齢:22)にIS適性が見つかる
→“ブリュンヒルデの弟”を最大限 活用するために、“ブレードランナー”に任命する → 目眩ましとして“世界で唯一ISを扱える男性”の準備が進められる
→ 凰 鈴音、両親の離婚のために本国に帰る


・本編開始:200X年4月以後
4月上旬:“世界で唯一ISを扱える男性”がIS学園に入学する

4月半ば:秘密警備隊“ブレードランナー”結成
→ 最初の任務で『ラファール・リヴァイヴ』2体を撃破する(撃退数累計:2機))

4月下旬:クラス対抗戦/無人機襲撃事件/“呪いの13号機”事件その1
→ “ブレードランナー”、無人機の撃破に成功する(撃退数累計:3機)

5月上旬:“呪いの13号機”事件その2

5月上旬:“ブレードランナー”、ラウラ・ボーデヴィッヒをIS学園に護送する

5月中旬:電脳ダイブ 仮想空間“パンドラの匣”の構築が始まる

5月中旬:IS学園において“アヤカ”と一夏が初めて顔を合わせる

5月下旬:織斑一夏、学園を飛び出したシャルル・デュノアを保護する
→ 翌日、テ口リストの『ラファール・リヴァイヴ』2体を撃破可能な状態に追い込んだ(撃退数累計:5機)

5月末前:“アヤカ”に対する集団リンチ事件
→ “ブレードランナー”、取り押さえに成功する(撃退数累計:8機)

5月の末:学年別トーナメント開幕
→ “シーカー”一条千鶴(先代ブレードランナー)が参入

6月上旬:学年別トーナメント/VTテロ事件
→ “ブレードランナー”、第3・第4アリーナのVTシステム機の撃破に成功する(撃退数累計:13機)
→ その裏で、篠ノ之 束の暗躍があった

6月中旬:更識 簪 誘拐事件

7月6日:IS学園 1学年 臨海学校(3日間)

7月7日:福音事件
→ 一方 学園では、外部からの不正アクセスによる学園全体が封鎖されるワールドパージ事件が起きた(撃退数累計:15機)
→ “ブレードランナー”の生体データがキャプチャーされてしまう →“ブレードランナー”解散の危機



817: 2015/02/17(火) 08:45:03.79 ID:vjaZff0t0

第10話B+ ひと夏の想いでに焦がれる多重奏・裏
Underground SEEDS

――――――織斑邸


一夏「助けてくええええええええええ! 友矩ぃいいいいいいいいいいいいい!」

友矩「一夏? 今日を逃げても夏の大学同窓会とか、縁日の準備とか、IS学園のオープンハイスクールの警備とか、とかとかとか――――――」

一夏「いやああああああ!」



チェルシー「お初にお目にかかります。私、イギリス代表候補生:セシリア・オルコット様の専属メイドをやっております、」

チェルシー「チェルシー・ブランケットと申します」

麗麗「私はね、中国代表候補生:凰 鈴音って娘の管理官――――――有り体に言えばただのマネージャーの、」

麗麗「楊 麗麗よ。ま、憶えておいて」

アルフォンス「僕は、フランス代表候補生:シャルロット・デュノアちゃんの保護をしている――――――実質的な後見人の、」

アルフォンス「アルフォンス・アッセルマンと言います。よろしく」

クラリッサ「私は、ドイツ代表候補生:ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐が所属するドイツ軍特殊部隊『黒ウサギ部隊』副隊長の、」

クラリッサ「クラリッサ・ハルフォーフ大尉です。以後、お見知りおきを」

ナターシャ「私は元アメリカ代表候補生でテストパイロットもやっている、織斑千冬とそこのステキな騎士くんとは大の仲良しの、」

ナターシャ「ナターシャ・ファイルスよ。みんな、よろしくね」



818: 2015/02/17(火) 08:46:05.08 ID:vjaZff0t0

一夏「ど、どうしてみんなが俺の家にやってきたんですか!?」

チェルシー「あ、あの一夏様――――――」


アルフォンス「ああ。何やらシャルロットちゃんがきみのお世話になったみたいで、千冬先生にご挨拶する次いでにね?」


アルフォンス「3年前の英雄さんが元気にやっているか、顔を見たくなったのさ」ニコニコ

一夏「あ、アル……、そうか」ホッ

チェルシー「………………」

アルフォンス「3年前のきみの活躍からインスピレーションを受けてようやく完成した僕の新曲を聞いてくかい?」

一夏「え、そんなの別にいいのに……」

一夏「ハッ」

周囲「………………!」ジー

一夏「いや、他にも人がいるから、発表してくれたらCD必ず買うからその時を待ってるよ……」アセアセ

アルフォンス「そうかい? 今、僕はシャルロットちゃんのための曲を――――――」


麗麗「私もこの優男と似たようなもんさ。あんたが推薦してくれた凰 鈴音の様子を見るついでだよ」


周囲「?!」

アルフォンス「割りこまないでくれないか? 僕は一夏と話してたんだぞ?」

麗麗「あんたの話なんてこれっぽっちも聞きたくもないって顔だったから、一夏のために話を切り上げてやったんだよ」

麗麗「ほらほら、一通り話したらさっさと次に譲りな。他も待ってるんだから」

アルフォンス「…………わかりましたよ、もう」

一夏「……ごめんな」

麗麗「まったく、あんたも懲りないもんだねぇ……」ハア

一夏「なんだよ? いつもの神経質で慇懃無礼な態度はどうしたんだよ?」

一夏「それに、俺は別に鈴を代表候補生に推薦した憶えなんてないぞ?」

麗麗「ちょっとした息抜きだよ、息抜き。あんたの馬鹿さ加減を見ていると世間のことを忘れられて気が楽になるんだ。光栄に思いなよ、ぼうや」

一夏「いや、俺なんかと一緒にいて楽しいか? 俺、あまり人から褒められた人間じゃないって思ってるんだけど……」

麗麗「そういうところだよ」フフッ

一夏「あ…………」

麗麗「あんたに出会ってなかったら、私も『馬鹿』だってことには気づけなかったんだ」

麗麗「…………感謝してるよ」

一夏「ど、どういう意味なんだ?」

麗麗「さあね? あの娘もかわいそうにね」ムスッ

819: 2015/02/17(火) 08:46:32.35 ID:vjaZff0t0


クラリッサ「では、今度は、――――――お久しぶりです、一夏殿」コホン


一夏「ああ。ホントに久しぶり……」

一夏「どうして日本に来たんだ? 国での仕事は大丈夫なのか?」

クラリッサ「ええ。隊長の副官として一度IS学園の視察をしておこうと思いまして、有給休暇を使って日本にやってきた次第です」

一夏「そうなんだ」

クラリッサ「一夏殿は隊長には会っておられるのですか?」

一夏「この前、臨海学校前に初めて会ったよ(――――――そう、“織斑一夏”としては初めて会ったよ)」

クラリッサ「そうですか。どんな感じでしたか?」

一夏「千冬姉の仕草を無理に真似ている気がしてちょっと微笑ましかったかな?」クスッ

クラリッサ「そうですか。一夏殿の目から見て『微笑ましい』と言われるぐらいですか」ニコッ

一夏「ああ。千冬姉も学園のみんなも『ラウラのことが大好き』って感じだった」ニッコリ

クラリッサ「…………本当に良かったですね、隊長」

クラリッサ「それで、一夏殿? 今後の予定についてお訊きしてよろしいでしょうか?」

一夏「どうして?」

クラリッサ「そ、その……、一夏殿に聖地巡業の案内をしていただきたく――――――」モジモジ


ナターシャ「さて、一夏くん? マッサージ、してくれないかしら?」


周囲「!?」

一夏「……あの、確かに千冬姉が現役だった頃にやってあげましたけれど、もう廃業しています」

ナターシャ「あら、そうなの?」

ナターシャ「別にいいのよ? 一夏くんの力強い両手で揉みほぐしてくれるだけでもね」

一夏「…………イヤです」アセタラー

ナターシャ「どうして? 給金が出ないから? お代はいくら欲しいの?」

一夏「だって、――――――顰蹙を買うから」

周囲「――――――!」ジー

アルフォンス「…………一夏?」ジロッ

一夏「い、いや! やらないからな! 安心してくれ!」アセアセ

ナターシャ「フランスの優男ですら睨んでくるってどういうことなの?」アセタラー

麗麗「なるほど――――――、『織斑一夏はマッサージ師としても優れている』っと」カキカキ

クラリッサ「…………羨ましいなぁ」ボソッ

チェルシー「………………」

ナターシャ「これは確かに身の危険を感じるわね……」


820: 2015/02/17(火) 08:47:38.17 ID:vjaZff0t0


一夏「あ、それで? チェルシーはどうしたんだ? というか、ホント久しぶり。セシリアさんの専属メイドだったんだ…………」アセアセ


チェルシー「はい。3年前のお礼がどうしてもしたくて参りました……」

一夏「――――――『3年前』、か」アセタラー

アルフォンス「なあ、チェルシーさんって言ったっけ?」

チェルシー「はい?」

アルフォンス「まさかとは思うけど――――――、」


――――――トワイライト号に乗っていたんですか、『あの日』?


一夏「!」

クラリッサ「?!」

ナターシャ「…………まさか『トワイライト号事件』のことかしら?」

麗麗「…………?」

チェルシー「はい。セシリア様も観戦なさっていて、それで――――――」

アルフォンス「どこかで見たことがあるような気がしてたけど、そういうことだったのか」

チェルシー「アルフォンス様もですか?」

アルフォンス「そう。僕はその日、一夏と出会ったんだ……」ウットリ

チェルシー「あ…………」

一夏「………………」

ナターシャ「ねえ、一夏くん――――――何でもないわ」

一夏「ええ?」

ナターシャ「何でもないから(そう、確かに『トワイライト号事件』は会場すぐ近くの洋上で起こったことだけれども、まさか一夏くんに――――――)」ニコッ

クラリッサ「で、具体的には何をしに来たのですかな、チェルシーさんは」ゴホン

チェルシー「あ、はい。――――――これをどうかお受け取りください、一夏さん」

チェルシー「これはイギリス名門:オルコット家の跡取り娘であるお嬢様をお守りしていただいた心からのお礼です」

チェルシー「本当なら3年も待たせることなくすぐにお渡ししたかったのですが、あなたは名乗ることなくすぐに行ってしまわれた…………」

チェルシー「オルコット家の総力を以ってしてお探ししようとしたのですが――――――、」

チェルシー「そんな矢先に旦那様と奥様がお亡くなりになってそれどころではありませんでした」

チェルシー「ですから、大変申し訳ありませんでした。どうか3年越しのお礼をお納めくださいませ、一夏様」

一夏「あ、ああ……、ありがとう…………」

821: 2015/02/17(火) 08:48:21.89 ID:vjaZff0t0

アルフォンス「…………一夏? 何だか顔色が優れていないよ?」

一夏「いや、何でもない……」

麗麗「そこまでにしておきなって。何だか思い出したくないようなことに触れたみたいだしさ」

チェルシー「え!?」

一夏「いや、気にしないで、チェルシーさんもみんなも」

一夏「俺なんかのためにみんな来てくれてホント 嬉しいよ」ニコッ

一夏「ただ、昨日は仕事で遅かったから今日はのんびりしていようと思っていたらから、ちょっと疲れが今になって出てきたって感じかな?」

一夏「ご、ごめんな? せっかく来てくれたのに…………

周囲「………………」

クラリッサ「そ、そうですね。突然 お邪魔したこちらにも非はありました。申し訳ありません」

アルフォンス「そっか。これ、僕のアルバムだからこれを掛けて眠るといいよ。きっといい夢が見られるはずだから」

チェルシー「本当に申し訳ありませんでした。正式な面会の申し入れもなく、突然…………」

麗麗「あんたも程々にね。何も考えていないようで できそうもないことをやろうとして悩んでいることが多いんだしさ?」

ナターシャ「………………それじゃあね、一夏くん」

一夏「あ、そうだ。これ――――――」カキカキ

一夏「俺のメールアドレスだから、また今度よろしくな」ニコッ

クラリッサ「あ、ありがとうございます、一夏殿!」パァ

アルフォンス「やった! ついに念願の一夏のアドレスを手に入れたぞー!」パァ

麗麗「ま、私はこの辺の地理に明るいからあってもなくてもどうでもいいんだけどね。――――――ま、登録はしておくよ」

チェルシー「で、では、ご頂戴させていただきます……」ドキドキ

ナターシャ「私はもう持ってるし」ドヤァ



822: 2015/02/17(火) 08:49:04.70 ID:vjaZff0t0







友矩「あれ? 一夏、どうしたんだい? みんな、帰っちゃったようだけど」

一夏「あ、ああ。すまないな、友矩。せっかく買い出しに行ってくれたのに無駄になっちゃったな」

友矩「…………クラリッサ・ハルフォーフがいたということは『3年前』のことでも言われたの?」

一夏「ああ。5人中3人は3年前のトワイライト号事件で知り合った面々だよ」

一夏「まあ、詳しいことはおいおい話すとして、――――――ちょっと横になる」

一夏「…………昨日も仕事で大変だったからな」

友矩「そうだね」

一夏「さて、今日来たフランスからの友人:アルフォンス・アッセルマンのアルバムでも聴きながら眠るとしよう……」カチッ

友矩「はい。お疲れ様でした、一夏」

一夏「………………フゥ」

一夏「……」

一夏「ZZZ」

友矩「………………おやすみなさい」バサッ

友矩「しかし、『トワイライト号事件』か」

友矩「――――――僕も『それ』に関わっていた人間だ」

友矩「一夏、きみだけが背負う必要はないんだ」

友矩「あの事件は確かにきみが大きく動かしてしまったところはあるけれども、それでも多くの人の命を救ったんだ」

友矩「失われた命も確かにある。気に病むのも当然だ」

友矩「けれども、こうしてきみに恩義を感じて会いに来る人だっているんだから」

友矩「失ったもののことを忘れちゃいけないけれども、その反対に守りぬくことができたものに関しても目を逸らしちゃいけないよ、一夏」



823: 2015/02/17(火) 08:50:07.45 ID:vjaZff0t0


チェルシー・ブランケット
イギリス代表候補生:セシリア・オルコットの幼馴染の専属メイド。
織斑千冬とは主人であるセシリアが憧れている人物という認識であり、何度かは彼女の父親(=セシリアの後見人)に同伴して言葉を交わしている。
実は、3年前のトワイライト号で織斑一夏と会っており…………


楊 麗麗(ヤン レイレイ))
中国代表候補生:凰 鈴音の管理官(=マネージャー)。
織斑千冬とは今年になってから知り合った程度の関係。
しかしながら、織斑一夏とは実は2年前に会っており、それが鈴の運命を決定づけていた…………


アルフォンス・アッセルマン 愛称:アル
フランス代表候補生:シャルロット・デュノアの保護を行っている人権団体の人間で、実質的な後見人。
シャルロットと同じく絶世の美男子であり、シャルロットとは同郷で一夏とは同年代の青年。
田舎の農場主の跡取り息子として暮らしており、シャルロットともご近所付き合いでそれなりの付き合いがあった。
しかし、フランス最大のIS企業となろうとしていたデュノア社には前々から投資していた結果、デュノア社と実家が懇意であり、
その縁で、トワイライト号に乗船して第2回『モンド・グロッソ』を観戦していた。


クラリッサ・ハルフォーフ
ドイツ代表候補生:ラウラ・ボーデヴィッヒの原隊であるドイツ軍IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』副隊長。階級は大尉。
織斑千冬とは彼女が3年前の織斑一夏誘拐事件に協力したことで知遇を得ており、その縁で千冬はドイツ軍でISの指導を行うことになる。
同時に、織斑一夏誘拐事件 = トワイライト号事件で織斑一夏とも出会っており、実は…………


ナターシャ・ファイルス
アメリカ元代表候補生のアメリカ第3世代型IS『銀の福音』テスト操縦者。
織斑千冬とは公式の国際親善試合や合同訓練などで顔馴染み。
次いでに、織斑一夏とも顔馴染みであり、マッサージのお世話になっていた人物なので…………



824: 2015/02/17(火) 08:50:57.27 ID:vjaZff0t0

――――――とあるバーにて


千冬「まったく私も情けないものだな…………この前のホームパーティで女子連中にあられもない姿を見せてしまったな」

山田「まあまあ」

千鶴「このところ、落ち着ける場所が本当に限られてきたものね」

千鶴「ま、これも自業自得なんだけどね。刈ってはいけないものまで刈り取った結果なんだから」

千冬「………………」

山田「………………」

千鶴「弟さんたち、“アヤカ”に関する情報を今も必氏に掻き集めているわよ」

千鶴「そんなことをしても無駄だって言いたいところなんだけど、あなたが始めた“パンドラの匣”の開拓の件でどうしても必要だって」

千冬「お前なら知っているんだろう? ――――――“アヤカ”のことなら全て」

千鶴「なら、こちらとしては10年前 どうやってISが開発されたのかを教えてもらいたいものね」

千冬「………………」

千鶴「………………」

山田「あ、あのぉ…………」オロオロ

825: 2015/02/17(火) 08:51:32.01 ID:vjaZff0t0

千鶴「なんでそこまで頑なに秘密にしているか知らないけれど、悪い癖よね」

千冬「そういうお前も他人には言えないようなことをいっぱい握っているだろうに……」

千鶴「残念だけど、重要人物保護プログラムで第3者に保護対象に関することは絶対に喋っちゃいけないの」

千鶴「それに、“アヤカ”自身が『そんなものは要らない』って言った以上 もう誰にも言うつもりはない」

千冬「………………」

千鶴「けど、今回の臨海学校で、学園内外で同時にあれだけのテロが起きてしまった以上、」

千鶴「この落とし前をどうつけるか、お偉方もヤケになってとんでもないことをしでかしたのよね」

千鶴「臨海学校の被害に関してはもうアメリカのせいにして埋め合わせの手筈を進めているようだけど、」


――――――その日、学園にいた生徒や職員たちには一人一人 記憶を消して完全な証拠隠滅を図ったというのだから。


千冬「………………」

山田「………………」

千鶴「もちろん、救援に来た自衛隊や警備会社の人たちも一人一人 虱潰しに記憶を消していったようね」

千鶴「怖い時代になったものね」

千鶴「もちろん、そんな忌まわしい技術でさえもIS技術の副産物なのだから、私たち第1世代の人間がISの社会普及を進めた責任はかなり重いわよ?」

千鶴「これに懲りたら、さっさとISの秘密を洗い浚い吐いて専用機を受け取ることね」

千鶴「これ以上 無駄な独断専行するというのなら、“ブレードランナー”として“ブリュンヒルデ”を誅殺せざるを得ないから」

山田「そんな……!」

千鶴「こっちも残念よ、学園内外でこんなふうになるなんてね!」

千鶴「“アヤカ”の失くしたコアが見つかって少しはホッとしてから学園に帰れたと思いきや、」

千鶴「お偉方からの手厳しいお小言がぶつけられてこっちとしても嫌な気分よ」

千冬「…………そうか」

千鶴「次はもう無いものと思いなさい、」


――――――“赤く染まったアイアンメイデン”。



826: 2015/02/17(火) 08:51:59.58 ID:vjaZff0t0

――――――某所


M「………………」カチッ、カチッ ――――――何度も何度もロケットペンダントを開いては閉じてを繰り返し続けている。

スコール「入るわよ、M」ガチャリ

スコール「先日の無断接触の件だけど、――――――説明してもらえる、“織斑マドカ”さん?」コツコツコツ・・・

M「………………」

スコール「あなたの任務は各国のISの強奪――――――」

スコール「それ以外のことであまり無軌道に動くようなら――――――、」

M「――――――!」ピカァーン!

スコール「――――――フッ」ピカァーン! シュッ1

M「?!」ガシッ、ドオオオオオオン! ―――――― 一瞬で身を屈めたスコールから伸ばされる巨大なハサミの尾がMを天井に押し当てる!

M「…………!」ジー ――――――『ブルー・ティアーズ』でスコールを包囲させる。

スコール「ふふ、さすがに良い反応ね」ンフッ(IS解除)

M「………………」シュタ (IS解除)

スコール「あなたが“織斑マドカ”であろうがなかろうが関係ないわ」

スコール「けれど今は、ファントムタスクの“M”でいてちょうだい」

M「決着をつけるまではそのつもりだ」

スコール「――――――『決着』? ――――――織斑一夏との?」


M「フフッ、あれは敵ではない。頃してしまってはもったいないこの世で最も大切な私だけの“にいさん”だ」


スコール「ふぅん」ジー

スコール「なら、織斑千冬との決着――――――、かしらね?」

M「フッ」ニター

スコール「織斑千冬ねぇ……、今はISも持っていないようだし、それほどてこずる相手にも思えないけど――――――っと!」ヒョイ

M「――――――ふん!!」 ――――――鋭い回し蹴りを何の前触れ無く繰り出す!

M「侮るな! お前などその足元にも及ばない」

スコール「…………ハア」

スコール「さて、私はもう一眠りさせてもらおうかしら」ガチャリ

スコール「次の任務までおとなしくしていてね」

M「……わかった」

スコール「素直な娘は好きよ」ニッコリ


・・・バタン



827: 2015/02/17(火) 08:52:48.43 ID:vjaZff0t0


コツコツコツ・・・


スコール「まいったものね、ほんとに」

スコール「けど、情報によればIS学園の組織は予想以上にガタガタになっているようね」

スコール「――――――他ならぬ織斑千冬の手によってね」

スコール「さて、これから日本政府がどう対応するつもりなのか、しっかりと見張っておかないとね」

スコール「思わぬ結果よね。アメリカの世界的な信頼はこれで失墜することになったし、」

スコール「どうやら臨海学校でも面白いことになっていたようだし、世界はますます混沌としてくるわね」

スコール「けれども、あのMですら“ゴースト”には手も足も出なかったなんてね」

スコール「そういう意味では、確かにMが『敵』ではなかったわけね……」

スコール「……これは手強いわね。織斑千冬なんて今回の学園内外の同時テロの責任を問われて、後もう一押しで社会的に抹殺できそうなんだけど、」

スコール「その懐刀である“おばけ”さんは何とか出てこないように手を打たないといけないわね」

スコール「さて、どうしたものか――――――オータムじゃ役不足よね。彼女にはもっと別な役割を与えないといけないわね、この状況だと」

スコール「となれば、“おばけ”さんは悪い子にいたずらするために出てくるんだから、出てこられないようにする方法は――――――」

スコール「そう、そして、もう1ついい知らせがあったわね」

スコール「――――――コンタクトをとらないと」

スコール「ふふふ」


――――――あの篠ノ之博士が遺伝子強化素体の廃棄品なんてものをねぇ?




























束「私、ムシャクシャしてとんでもないこと やっちゃっていいかなー」

束「何もかもが不確かで、私が好きになった人たちはみんな 私から遠ざかって…………」

束「逆に、どうでもいいようなやつらばかり 私を求めて集まってくる…………」

束「どうして? どうしてこうなっちゃうのかなー」

束「………………理解できないよ」ハア


――――――私を助けてくれる神様っていないのかなー?



828: 2015/02/17(火) 08:53:30.49 ID:vjaZff0t0

――――――織斑邸


一夏「なあ、友矩?」

友矩「どうしたの、一夏?」

一夏「ちゃんとやっていけるのかな、みんな?」

一夏「特に、箒ちゃんと鈴ちゃんが心配なんだ」

一夏「前に専用機持ちでホームパーティしてお泊り会までしただろう?」

友矩「ええ」

一夏「その時 俺は二人のことを叱っていたな。そして、毎度毎度 友矩の気遣いには頭が上がらないよ」

友矩「いえいえ。必要なことでしたからね」

一夏「でも、これからどうなるんだろう、俺たち?」

友矩「…………わかりません、こればかりは」

友矩「願わくば、日本政府が健全なる叡智をもって英断をしてくれることをただ祈るしか――――――」

一夏「それしかないか」

一夏「俺たち“ブレードランナー”が残せるものといったら、彼ら彼女たちの健やかなる成長しかないから…………」


――――――――――――

―――――――――

――――――

―――

>>634-684 >>684



829: 2015/02/17(火) 08:54:04.95 ID:vjaZff0t0


――――――いいかげんにしろよ、小娘共が!


両者「?!」ビクッ

一夏「ここまで聞き分けのない娘には――――――、さすがにお兄さん、怒るぞ?」ジロッ

一夏「鈴ちゃん、暴力はいけないな、暴力は。たとえどんな理由であろうとも先に手を出したやつが悪人になる理屈は理解できるよね?」

鈴「そ、それは…………」

一夏「もし、俺に叱られたことで箒ちゃんを恨むというのならそれは筋違いだから。むしろ、軽蔑するね」

鈴「………………!」ビクッ

箒「…………い、一夏?」アセタラー

一夏「鈴ちゃん、祖国の古典はどれくらい読んだの?」

鈴「え、『古典』? そんなのここの中学校以来 触れたことも――――――」

一夏「………………はあ?」ジトー

鈴「へ」ゾクッ

一夏「………………」ジー

鈴「あ、あの…………」オロオロ

一夏「………………」チラッ

千冬「………………」コクリ

雪村「………………」コクリ

一夏「それじゃあ、箒ちゃん」

箒「は、はい!」ビシッ

鈴「え? あの……、私に何か言いたいことがあったんじゃないの?」オロオロ

一夏「………………」ジー

鈴「な、何よ! はっきり言いなさいよ!」

一夏「それで、箒ちゃん」

一夏「箒ちゃんも悪いところは直してもらいたいね」ジー

箒「え……」

鈴「………………」

一夏「俺は日本IS業界の公式サポーターとして黎明期に関わった人間の一人として、」

一夏「ISドライバーに求められる資質やモラルってやつを少なくともIS学園の出身者よりはずっと理解していると思っているから言うけど、」


一夏「くだらないことで敵を作るような生き方は今後一切しないでくれないか」


箒「…………!」

一夏「それと、――――――『親しき仲にも礼儀あり』だ」

箒「い、一夏……?」

鈴「………………一夏」アセタラー

雪村「………………」

千冬「………………」

830: 2015/02/17(火) 08:54:45.65 ID:vjaZff0t0


一夏「喧嘩するなら他所でやれ。IS学園の理念に基づかないような生徒なんか公式サポーターの俺が支援する義理なんかない」ジロッ


一夏「せっかくIS学園の教師や職員、たくさんの人たちが一生懸命に生徒たちが与えられた本分に励めるように良い学園運営を心掛けているのに、」

一夏「肝腎の生徒たちが学園の理念や校風に反して敵意を剥き出しにして、世界の平和と発展の象徴であるIS学園の評判を貶めるのは許さないぞ」

箒「わ、私は……、一夏――――――」

一夏「俺から見れば9歳下の娘なんて、お前たちと同じ歳の高校生が幼稚園児の面倒を見るのとまったく同じことなんだからな?」

一夏「けれどもな! それでも、お前たちは幼稚園児とは違ってちゃんと公教育を卒業してきた分別があるべき人間何だからな!」

一夏「お前たち、それでも専用機持ちだろう!? スキャンダルになったらどうするんだよ! もっと自分の立場を大切にしなって!」

箒「わ、私はいつだって準備できてるからな……!」

一夏「何の?! 箒ちゃんは未成年なんだから結婚はお断りだって何度も言ってるよね!?」ジロッ

箒「でも、ちゃんと結婚の約束を交わしたではないか!」

一夏「それは箒ちゃんがちゃんと二十歳を迎えて『社会人として一人でやっていけるぐらいの生活能力を得てから』という条件付き!」

一夏「ついでに言えば、織斑千冬という唯一の肉親と夜支布 友矩という水魚の交わりと一緒にやっていけるかどうかも要 相談だけどな!」

箒「わ、私なら本当に大丈夫だっ! 私の何が不満だというのだ、一夏!」アセアセ

一夏「一途に想っていてくれるのはありがたいけれど、学生の本分は勉強なんだから勉強に専念してください! 簡単なことでしょ!」

鈴「い、一夏! 私なら国家代表候補生としてちゃんとした給料をもらっているわけだから、私ならいいわよね?」アセアセ

一夏「はあ? いつまでも専用機持ちでいられると思うなよ、ルーキー?」ジロッ

鈴「いっ」ゾクッ

一夏「プロスポーツ選手っていうのは人生80年からすれば短い命なんだからさ?」

一夏「しかも、ISは世界に公式には467個しかない枠でわずか1,2名の国家代表操縦者の座をかけて熾烈な競争が行われているんだぞ」

一夏「そして、3年に一度のISの世界大会『モンド・グロッソ』で成績を残せなければ、それで即 国家代表操縦者の座から追放――――――」

一夏「そのことがわかっているのか! 真耶さんみたいに代表候補生止まりでもいいんだったらそれでいいけどさ」

鈴「ああ……うぅう…………」ドヨーン

箒「あ、ああ…………(――――――千冬さん! 雪村ぁ!)」チラッ

雪村「………………」

千冬「………………」

箒「うぅ…………」

831: 2015/02/17(火) 08:55:28.91 ID:vjaZff0t0


雪村「いや、今日お疲れの織斑先生の目の前で騒いでいたことを謝ればいいと思います」


箒「え」

一夏「そうだな、“アヤカ”は賢いなぁ」ニコッ

鈴「ふぇ!?」

千冬「…………フッ、これだからガキの相手は疲れるというのだ」ニヤリ

箒「あ」


箒「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい、千冬さん! せっかくの休日におじゃまさせていただいたのにホントに――――――」バッ!
鈴「ホントにホントにごめんなさい! 私、千冬さんのことを完全に忘れてました――――――」


雪村「なんでもいいですから早く寝ましょう」

千冬「そうだな。お前の言うとおりだよ、“アヤカ”」

一夏「うん。早く寝よう――――――っと思ったけれども、全員が入浴し終わるまではさすがに消灯はできないから我慢してくれ、千冬姉」

千冬「フッ、騒がしい連中の相手をするのにはもう学園でウンザリするぐらい慣れているさ、一夏」フフッ

一夏「そう、それじゃトランプでも持ってくるか」

箒「あ……、えと…………」

一夏「あ、そうだ。箒ちゃん、あとで手土産を渡すからね。感想を聴かせてね(――――――方丈記を渡そう)」

箒「あ、ありがとうございます…………」

鈴「ええぇー、私には? ねえ、一夏ぁ~」

一夏「鈴ちゃんはそうだねぇー。トランプ大会で1番になったらとびっきりのものをあげるよ」

鈴「ホント!?」

一夏「うん。特別にね。でも、勝たなくちゃならないよ? それでいい?」

鈴「当然よ! やるからには勝つ! あったりまえじゃない!」

一夏「じゃあ、とってくるから。順次、お風呂に入っていってね」


832: 2015/02/17(火) 08:55:57.09 ID:vjaZff0t0


スッ・・・バタン


一夏「…………フゥ」

友矩「おつかれさま。うまい裁き方だったね」

一夏「いや、あれは“アヤカ”が助け舟を出してくれたおかげだ」

一夏「俺としてはただ気まずい空気が流れ続ける気がして内心 焦ってたんだから」

友矩「それでも、“アヤカ”がきみのために動いてくれた」

友矩「――――――これってすごいことじゃないか」

友矩「一夏の気持ちを察して――――――、これまで他人のことはおろか、自分のことすら無軌道だった“アヤカ”が最善の答えを出したんだよ!」

友矩「いや、ホント、一夏も変わったね、――――――この5年で」

一夏「そうか? 俺もいっちょまえに説教できるぐらいにはなれたか」ホッ

友矩「それで、彼女に渡そうと思っているのって、――――――方丈記かな?」

一夏「正解。やっぱりわかっちゃうんだ」

友矩「そりゃあね。5年近くも一緒に学問を積み、労苦をわかちあい、修羅場をくぐりぬけてこうして暮らしてきたんだからさ」

一夏「これからもよろしくな、友矩」

友矩「ええ。これからもずっと――――――」




>>689-710

―――

――――――

―――――――――

――――――――――――


833: 2015/02/17(火) 08:56:32.12 ID:vjaZff0t0


一夏「結局さ、これしかないんだよな」

一夏「――――――俺たちが生きてきた証っていうか、頑張ってきた証っていうのは」

友矩「はい。自分が得て学んできたことを次の世代に伝えていくことだけが、ただ1つの真実として生き続けることになりますから」

友矩「これから僕たちにどんな処置が下されるのかはまだわかりません」

友矩「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」

一夏「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり――――――でも、通じるかな」

友矩「ええ、だからこそ――――――!」

友矩「せめて、僕たちが大切にしてきたものが芽吹いて花を咲かせ実を結ぶよう――――――!」

一夏「そして、その芽を摘み、その花を散らし、その実を腐らせるものには制裁を――――――!」


戦えば必ず勝つ。此れ兵法の第一義なり。

人としての情けを断ちて、神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬り、然る後、初めて極意を得ん。

斯くの如くんば、行く手を阻む者、悪鬼羅刹の化身なりとも、豈に遅れを取る可けんや。


一夏「この剣の威徳を以って人を活かしてきた成果――――――、」

友矩「そして、これからが次なる種として蒔かれる時! 次に実る果実はいかなるものか――――――」

一夏「――――――黄金の果実となるか、」

友矩「――――――禁断の果実となるか、」


――――――あとは、人事を尽くして天命を待つのみ! 然らば、見放す神は元より無し!


『剣禅』編 『序章』第10話B+ ひと夏の想いでに焦がれる多重奏・裏  -完-


834: 2015/02/17(火) 08:58:05.51 ID:vjaZff0t0


ここまでご精読していただきありがとうございました。

ようやくです。ようやく第10話Bを終わらせることができました。
あらかじめこうしようというプロットを書き換えて納得がいくものを作り上げようとしたために余計な時間がかかってしまった。
そのために、それ以前のものと比べると雑な印象が拭えないが、1つの作品として完結させることを優先しなければならない時期なので許して欲しい。
さすがに締め切りもなくダラダラと続けていくと他のことに関心がいき、情熱が削がれて作品の質が落ちてしまうために――――――、
特に文体が変わってまるで途中で味付けが変わってしまったかのような不揃いの印象が拭えないことだろう。
元々 この剣禅編は第2期OVA発売までの繋ぎとして書いていたのですが、OVAを見てから修正を入れたくなったためにこんな失敗を犯してしまいました。
別にシナリオが大幅に変わったというわけではなく『文章表現や描写が変わってしまったなぁー』という実感であり、全体の構成については問題ないです。
これからはもう、完成した文章を一気に投稿することを徹底しようと思います。そもそも今までの二次創作の中で一番長いもん、これ! ダレるわ!


次回でようやくエピローグとさせていただきますので、

よくまぁ第10話Aで完結したと思われたものでダラダラとやっているものだと呆れてながらここまで読んでくださった方も、

次が正真正銘の最後の一幕となりますのでもう少しだけお付き合いしていただけたら幸いです。


それにしても、第2期OVAのあれ――――――、


一夏「――――――鈴が氏ぬ夢を見た!?」ガバッ


いくら何でも扱いが酷すぎるだろう…………概ね原作通りだったとはいえねぇ(それでも場面場面の尺が短すぎて置いてけぼり感が酷かったが)。

それと、あれから番外編の投稿が終わって1年近くになるけど、その時は原作第9巻がようやく発売したが、

――――――第10巻の京都修学旅行の内容はまだなのでしょうか? 

別に京都という舞台で誰が何と戦うのかはアニメ基準でもいいから好きに組み立てられるけど、
『ゴールデン・ドーン』と『黒騎士』について原作者がどのように描写する気でいるのかが気になるので早く読みたいのだが……。
特に、一夏が『黒騎士』のレーザーに胸を貫かれた場面をどう処理しているのかが気になる(『銀の福音』には全身焼き焦げにされていたけど)。






最後に――――――、
第10話Bとの間に醜聞を載せてそれに気分を害された方、申し訳ありませんでした。
しかし、IS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作の界隈はいつもいつも堂々巡りしており、ひねりや発展性がないんです。
そして、ああいうものには、まず書きながら自分を楽しませて、これを読む読者をワクワクさせようという観点がないから、
原作者がいつまでたってもはっきりさせないことをいちいち気にして、創作スレに閉じこもって延々と満足いくものが書けないんだと思います。
楽しければいいんです。身になるものが書ければいいんです。せっかく読んでくださった人が「これを読んでよかった」とちょっと思うものになればいいんです。
正しさなんて不確かなものに踊らされて、二次創作の界隈に足を踏み入れてReaderからWriterになろうとした時の情熱を果たせなかったら意味が無いです。
正しさなんてものはやっていくうちに徐々に身につけていけばいいと思います。最初は素人の浅知恵から始まる二次創作なんだからハードルは高くせず気楽に。
そして、まず1つの作品として完成させることだけを目指す――――――それから、完成された1つの作品を自分が読み返してみて面白かったらそれで完璧。
少なくとも、これを読んでくださっている皆様方の中で二次創作をやろうとしている人がいましたら一意見として頭の片隅にでも入れてくれたら幸いです。


重ね重ね、ご精読ありがとうございました。



835: 2015/02/25(水) 08:09:11.11 ID:XCu0XW8V0


エピローグ 運命の3人と1人 -『序章』から『第1部』へのプロローグ-

――――――盆:篠ノ之神社 縁日


ツクツクホーシ! ツクツクホーシ! ジジジジ・・・

箒「今年もこの季節が来たか(縁日の準備が順調に進められているな)」←16歳(先月まで15歳)

箒「あ」


地元の人「おう、あんちゃん! 今度はこっち こっち!」

一夏「ああ!」←23歳(来月で24歳)

地元の人「今年も悪いね。こんなに若い人手を連れてきてもらって」

一夏「いえいえ。あいつら、押しかけみたいなものですから……」

同窓生たち「一夏ー! 一夏くんー! 織斑くん! ワンサマー!」

地元の人「大人気だな、あんちゃん!」

一夏「はははは…………(篠ノ之家には束さんとの付き合いでお世話になってたから、自然と毎年 縁日の準備はしてはきたけど、)」

一夏「(俺がたぶん“童帝”と呼ばれた年からこんなにも押しかけに来たって感じだな……)」

一夏「(俺、毎年 必ず篠ノ之神社の縁日の手伝いをしていることがパパラッチにバレたのが原因だって友矩は言ったけど……)」

一夏「(ああ 今年もまたこの日に同窓会か……。地元の人たちを含めた交流会――――――否、合コンと化している!)」

一夏「(やだよ、誰が好き好んで合コンの主役なんてさせられるんだ! その度に修羅場や地獄を見るのはごめんだ!)」

友矩「さあさあ! お手伝いに来てくれたみなさん、織斑一夏特製の冷製デザートですよ」

友矩「これを食べて一休みしてから、仕事を再開してくださーい」

友矩「足りなくても、有名パティシエのスイーツもありますので、それで我慢してください」

同窓生たち「いええええええい! 待ってましたああああ!」

地元の人々「いつもありがとな、あんちゃああああん!」

836: 2015/02/25(水) 08:09:56.06 ID:XCu0XW8V0

ダダダダダ・・・・・・・

弾「会場の混雑具合はこんな感じになりそうだな」

一夏「ああ。これで祭り本番の時の様子を前もってイメージできて、みんな大喜びだってな」

弾「いや、どう考えてもお前の心遣いが嬉しいからに決まってるだろうが」ヤレヤレ

弾「毎年、律儀に篠ノ之神社の手伝いをして、年を重ねる毎に差し入れやもてなしがグレードアップしていくもんだから、」

弾「今じゃ、祭りの朝の準備が始まった時から祭り状態で、次いでに屋台の出し物の味も全国レベルと祭り専門誌でちょっとした評判なんだぜ?」

一夏「そうだったのか。知らなかった……」

弾「お前が三ツ星レベルの差し入れをしだして、それをタダで毎年 祭りの準備で自分たちだけ振る舞われることに思うところがあったんだろうよ」

弾「見てみろよ! このお祭り専門サイト! 明言はされてないけど、お前のこの差し入れのことがぼかして書いてあるだろう!」

一夏「…………俺 スゲー。実感が湧かないけど」

弾「それに、お前が屋台料理の味を完全に盗んでそれ以上のものを中学校で振舞ってたんだから、地元じゃちょっとした有名人だったじゃん」

一夏「ぎりぎり憶えているような憶えていないような……」

一夏「確かに中学の時は、よく周りから料理を作るようにせがまれていた気がするな……」

弾「…………大丈夫か?」

一夏「大丈夫だ、問題ない」

弾「そっか」

弾「それじゃ、俺たちも休もうぜ。お前が作った極上スイーツで糖分をとってさっさと祭りの準備を終わらせるぜ」

弾「始まってもないのに燃え尽きるだなんてことしないためにもな」

一夏「あ、俺は自分のよりも友矩が選んできた有名パティシエが作ってるやつが食いたいな」

弾「そうしなそうしな。そして また、味を盗んで 地元にその恩恵が還元されるわけだし」

弾「あ、そうそう。――――――蘭の分もちゃんとあるんだろうな?」

一夏「わかんない。自分が作った分は憶えているけど、友矩が発注してきた分までは俺は知らない」

弾「まあいいか。俺の分は確実にあるんだし、足りなかったら俺の分を蘭にやればいいんだし」

一夏「いいお兄さんだな」

弾「そう思うのなら、――――――妹をたぶらかすのはもうやめてください。本気で」ニコー

一夏「それは不可抗力だぁああああ!」アセアセ

スタスタスタ・・・・・・


837: 2015/02/25(水) 08:11:11.36 ID:XCu0XW8V0


箒「あ、あれは――――――」アセタラー

雪子「箒ちゃん、ここにいたの」

箒「あ、はい。すみません。勝手に外に出て」

雪子「いいのよ。久しぶりだもの。見て回りたくなるわよね」

雪子「箒ちゃんが来てくれて助かったわ」ニコッ

雪子「神楽舞――――――、今年は誰に舞ってもらおうかと思ってたの」

箒「お役に立てれば私も嬉しいです、雪子おばさん」フフッ


雪子「でも、去年も一昨年も一夏くんが連れてきてくれた娘に舞ってもらったからそこまで困ってたわけじゃないのよね」


箒「なっ?!」

雪子「今年も神楽舞してくれるって張り切ってくれていたし、今年は見学でいいかしら?」

箒「だ、ダメです! 篠ノ之神社を受け継ぐ父の娘である私がやらなかったら先祖に申し訳が立たない!」

雪子「冗談よ、冗談」フフッ

箒「…………ええ」

雪子「本当は箒ちゃんが帰ってくるまでの臨時アルバイトってことでやらせていたからね」

雪子「でも、やるからにきっちりやりきってちょうだい。あの娘は本当に一生懸命に練習して本番をやってきてくれたんだから」

箒「…………!」

箒「はい!」ビシッ

チリンチリン

箒「あ」


――――――左腕に巻かれた金と銀の鈴が小気味よく鳴り響く。



838: 2015/02/25(水) 08:11:41.41 ID:XCu0XW8V0

箒「姉さんがISなんか造らなければ、ずっとこの家で、引っ越しを繰り返すこともなく、一夏の側に居られたはずなのに…………」

箒「けれど、そうならなくても私が15の時には一夏は23歳で大学進学で上京していたのだから、」

箒「結局、一夏とは一度は必ず別れる宿命だったことには違いない」

箒「――――――年の差がこうも大きいと、途方もなく夫婦の契りを交わすだなんてことが難しく見えるもんだな」

箒「でも、明らかに不幸なことなんだけれども――――――、」

箒「私はあの6年間を一夏との約束を想って耐え続けることができた……」

箒「そう思えば、これからまた7,8年――――――また10年、一夏のことを想い続けることになっても頑張っていける気がする」

箒「それに、過去は変えられなくても、――――――私はもう独りじゃないから」

箒「そう、あの千冬さんですら手を焼いている、へそ曲がりだけど人一倍不器用で でも本当は凄く優しいあいつ――――――」フフッ


――――――朱華雪村


箒「“彼”との出会いが私をここまで導いてくれたんだ。私に『勇気』をくれた」

箒「それからは雪村を通してどんどんどんどん私の周りにも人が集まるようになってきて、」

箒「“篠ノ之博士の妹”としての私ではなく、“篠ノ之 箒”としてのありままの私を見てくれるそんな友達がいっぱい……」

箒「本当に私のIS学園での日々は雪村との日々でもあったな……」

箒「雪村のことで一喜一憂して、私自身のこれからの在り方についても大いに悩まされてきたけど――――――、」


箒「現在が一番楽しいんだ、一夏。苦しかった今までのことが今日の喜びのためにあったんだって思えるぐらいに」ニコニコ




839: 2015/02/25(水) 08:12:22.79 ID:XCu0XW8V0



一夏「よし! これで祭りの準備――――――、完了!」

一同「いええええええええい!」

一夏「みんな、ありがとう!」

一夏「けど、まだ祭りは始まっちゃいないんだ! ここで燃え尽きるな! こっからが本番!」

一夏「気合 入れ直してぇえ、しまっていこう! 祭りをもっと盛り上げろおおお!」

一同「おおおおおおおおお!」


パチパチパチ・・・・・・


一夏「…………フゥ」

弾「おつかれさん、一夏」

一夏「おう、弾もおつかれ」

友矩「僕たちの無料奉仕活動はこれで終わりですね」

友矩「後はいつも通りに、神社のお守りと地域の方々からの謝礼金をもらって朝まで合コン――――――」

雪子「おつかれさま。いつもいつも本当にありがとね」

一夏「いえ、お気になさらず、雪子さん」ニコッ

地元の人「よっ、若旦那! 今年こそ雪子さんと一緒にならんのか?」ニヤニヤ

一夏「え、いや、何を言って――――――!?」ビクッ

雪子「…………まあ」ポッ

弾「え、お前って守備範囲メチャクチャ広いの、実は?」ドンビキー

一夏「何 言ってんだよ、弾!? それに雪子さん!?」

友矩「そういう下世話で無責任なことは言わないでください」ジロッ

地元の人「いやー、これは失礼。そっちの綺麗なあんちゃんとはそういう関係だったか……」ニヤニヤ

一夏「何 言ってんだよ、もう! 俺と友矩は別にそんな…………」

弾「いつも思うが、どうして一夏はそこで言葉に詰まるのだろうか……」

友矩「まったくこれだから地域のおじさんおばさんは嫌いなんだ…………いつも顔のことでからかわれる」ムスッ

弾「…………女性と見紛うような人が羨むような容貌も時として重荷になるわけなんだな」

友矩「ええ。弾さんのようなチャラい顔が羨ましくなる時もしばしば」

弾「……本当にごめんなさい。女にモテたいのにこれまでそういったお付き合いを全て断ってきて本当にごめんなさい」

友矩「何だかショバ代やみかじめ料を徴収しているようで気が引けるけれど、」

友矩「これから料理屋台のみんなから差し入れという名の審査会が始まるから18時にいつもの集会所に行かないとね」

一夏「ああ。楽しみだな。今年は去年と比べてどれだけ美味しくなってるかな」スッ

弾「へえ、ノートなんてつけてたんだ。マメだな」

一夏「全部が全部 どんな味だったかなんて憶えてないからさ、その時に感じたものを余さず書いて、」

一夏「こうしてまた今日という日を迎えた時のために頑張って思い出す訓練をしてるんだ」

弾「――――――『思い出す訓練』か」

友矩「…………そういえばそうだったね」

840: 2015/02/25(水) 08:13:07.25 ID:XCu0XW8V0


青年「あの、すみません」


一夏「うん?」

友矩「…………む」

青年「えと、織斑一夏さんですよね? 今日の大変美味しい差し入れをしてくださった、世界的に有名な“ブリュンヒルデ”織斑千冬の弟の――――――」

一夏「――――――見ない顔だな(何だろう? 今時の若者にしては珍しい逞しい身体つきだけど、どこかただならぬものを感じる)」

青年「あ、はい。夏休みを利用してこの雑誌に書かれていた篠ノ之神社のお祭というものを見物しに来た者なんです」

一夏「ええ!?」

弾「凄いじゃないか、一夏。お前が毎年 進化させていった準備前名物の差し入れの噂を聞いてやってきた子じゃないか」

青年「ま、まあ……、正直に言えばその通りです。クチコミでもここの祭り屋台の質は全国レベルって評判でしたし、」

青年「その元を辿ると、一人の少年の差し入れがきっかけで質が向上していったって話が載ってまして」

青年「それで、日雇いということでお手伝いさせてもらって――――――、」

青年「美味しいものを本当にありがとうございました!」

一夏「いいって。今だからこそあんな豪勢に数も揃えられてたけど、はじめは握り寿司を配ってただけから」

青年「え」

友矩「夏場の炎天下で握り寿司を出すというセンスがまた……」フフッ

一夏「だって、しかたがないだろう! おにぎり1個ずつ配るのは何となく物足りない気がして」

一夏「そこでおにぎり1個分以下でお得感のある差し入れってやつを考えたら、握り寿司がいいんじゃないかってなって」

一夏「その時の研究ノートが残ってるから今度 見せてやろうか? だから これははっきりと憶えてる」

弾「まさか原点が握り寿司からとは……、この時点で何かが違うな」

友矩「そこが一夏が一夏である所以だよ」

弾「違いねえ」フフッ

青年「………………噂以上の男だな」ボソッ

一夏「ん?」

青年「今日は本当にありがとうございました。いい土産話ができそうです」

一夏「これからどうするんだ? 一人で遠くから来たんだろう?」

青年「あ、大丈夫です。ちゃんとホテルの予約もとってありますし、明日には家に帰るので」

一夏「そうか。それじゃ、今日は朝から準備を手伝ってくれてありがとう」

一夏「今宵はめいっぱいに楽しんでいってくれ」ニッコリ

青年「はい。神楽舞、楽しみです」

一夏「ああ」

青年「写真いいですか? 旅の記念に」

一夏「ああ……、えと――――――」チラッ

友矩「一夏、わざわざきみに会いに来たようなもんなんだし、別にいいじゃない」

友矩「どうせ、織斑一夏ファンクラブの会報に今日のことが書かれるだろうし。別に秘密にしてたことじゃないしね」

一夏「そっか」

一夏「それじゃ、写真の代金とは言わないけど、――――――こうやってはるばるやってきてくれたきみの名前を教えてくれないか?」

青年「――――――“ほづみ”です」

841: 2015/02/25(水) 08:13:53.82 ID:XCu0XW8V0

――――――夕方、境内が人で賑わう


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!

箒「あ」

簪「や、箒」

本音「わ~、シノノン、本物の巫女さんみた~い!」

相川「いや、篠ノ之さんはこの神社の生まれだって言われたじゃん。聞いてないの?」

谷本「スゴイスゴイ」

鷹月「そうか、篠ノ之さんは実家ではこういう――――――」

箒「み、みんな……」キョロキョロ

本音「お」

相川「あ」ワクワク

谷本「篠ノ之さん、やっぱり気になっちゃうんだ」ニヤニヤ

鷹月「さすがは“母と子の関係”だね」ニッコリ

簪「そうだね」ニコッ

箒「え」

谷本「“彼”なら、ほら――――――」


雪村《お面》「………………」

一夏「お、あそこに居たのか、箒ちゃん。神楽舞の練習は終わったってことなのかな」

同窓生たち「え、なになに? あれが篠ノ之博士の妹さん? 神楽舞やるってあの子? 綺麗だなー」ズラーーーーー!


箒「うおっ!?(―――――― 一夏が列の先頭!? しかも、同い年ぐらいの大人の綺麗な女性をいっぱい侍らせてぇえ!)」

雪子「箒ちゃん。しばらく遊んでらっしゃい」

箒「え、いや! しかし、仕事が――――――」

雪子「神楽舞までに戻ってきてくれればいいわ」

雪子「今、浴衣を出してあげるから」

本音「お~」

相川「これは楽しみ!」

谷本「何という役得。神社の娘って祭りの度に巫女も浴衣も扱えるから二度美味しいよね~」

鷹月「一緒に見て回ろう、篠ノ之さん!」

簪「待ってるよ、箒」ニコッ

箒「みんな……」フフッ

雪子「素敵なお友達ね、箒ちゃん」ニコニコ


ほづみ「あれは更識 簪か? 見違えるようになったな」フフッ



842: 2015/02/25(水) 08:14:45.88 ID:XCu0XW8V0

――――――篠ノ之家にて待ち合わせ


谷本「あ、あなたが織斑先生の弟さんですか!(うっわ~、カッコイイ! 千冬さんをそのまま男にした感じだけど甘いマスクが――――――)」ドキドキ

本音「この度はカンちゃんがお世話になりました~」ドキドキ

簪「本当に、ありがとうございました」ドキドキ

一夏「あ、いや、当然のことをしたまでだから。無事で何より」ニッコリ

相川「ほえ~、この人が篠ノ之さんの――――――(これはあの篠ノ之さんも惚れ込むわけだね。9つの上の憧れのお兄さんか……)」ドキドキ

鷹月「突然で不躾ですが、正直に答えてもらっていいですか!」ドキドキ

一夏「え、何かな?」


鷹月「篠ノ之さんとはいったいどこまでいってるんですか!」


一夏「…………え」アセタラー

一夏「な、何のことかさっぱりわからないなー、お兄さん(え、もしかして俺と箒ちゃんってそういう関係に思われてるわけ!?)」アハハハ・・・

鷹月「ごまかさないでください!」ドキドキ

鷹月「今日 たくさん引き連れていた たくさんの綺麗な女の人たちは何なんですか!?」ギロッ

一夏「ひっ」

一夏「あれは大学時代の同窓生や知り合いだよ。最近になって俺の手伝いしてこの縁日の準備に力を貸してくれてるんだ」アセアセ

一夏「それで、あの中の一人が神楽舞を箒ちゃんの代わりを2年務めてくれたんだよ」

鷹月「本当にそれだけですか!?」グイグイ

一夏「ぎぃえ……(え、何この娘?! どうしてここまでグイグイと進んでくる――――――)」


箒「そうだな。私もその追っかけのことについて詳しい説明をして欲しいものだ」


一夏「ハッ」

小娘共「おお!」


箒「待たせてすまなかったな」ニッコリ(紅い浴衣)


鷹月「綺麗だよ、篠ノ之さん!」

一夏「………………」

箒「ど、どうだ? 少しはお前の許嫁であることを意識してくれたか?」モジモジ

相川「篠ノ之さん、大胆!」ドキドキ

簪「…………一夏さん」ドキドキ

鷹月「で、どうなんですか!」ドキドキ

一夏「え、あ、えと――――――、(何この罰ゲーム!? ええい、ママなれよ!)」アセアセ

843: 2015/02/25(水) 08:16:06.63 ID:XCu0XW8V0


一夏「…………凄いな。サマになって驚いた」


一夏「あんまり昔のことは思い出せないんだけど、あんなにも小さかったって印象の箒ちゃんが今ではこんなにも大きくなってさ?」

一夏「ほら、祭り屋台の前を手を繋いで路行くうら若き女の子にいつの間にかなってたんだなって……」

一夏「――――――これが正直な感想。これでいいか?(なんでこんなことを言わされてるんだろう、俺?)」モジモジ

箒「い、一夏…………」ドキドキ

谷本「ど、どうしよう……、ニヤニヤが止まらない」ニヤニヤ

相川「今日 初めて会ったけれども、一夏さんの気持ちがよくわかるような気がする。9つの差だもんね」ニヤニヤ

本音「おなかいっぱ~い」ニコニコ

鷹月「………………ホッ」ニコニコ

簪「一夏さんはやっぱり“夢 戦士”の方だね(――――――ちょっと残念かな。素敵な出会いに違いなかったけれど)」ニコッ

一夏「よ、良かった……(――――――ここが家の中で! 外だったら目も当てられない!)」ドクンドクン


箒「で?」


一夏「え」

箒「――――――『あの女たちはお前の何だ』と訊いている」ニコー

箒「まさか、私というものがありながら、あの中華料理屋の娘と同じように手篭めにしてきた連中ではないだろうな?」ゴゴゴゴゴ

一夏「いや、そんなことは断じて! 神に誓って! 俺の名誉に賭けて!」

箒「では、どういう関係なのかを答えてくれるよな?」ニコニコ

谷本「うん。篠ノ之さんがいながら、あれだけの人気――――――説明してくれるよね、お兄さん?」ニヤニヤ

本音「さあ白状するのだ~」ニッコリ

一夏「わかった! 話すから、早く見て回ろうぜ、みんな!」アセアセ


一夏「あれは俺のファンクラブのみんなだよ!」


箒「え」

鷹月「――――――『ファンクラブ』?」ピクッ

簪「…………!」キラキラ

一夏「ああそうだよ。俺は“ブリュンヒルデ”織斑千冬の弟としてそこそこ知名度はあったんだけど、」

一夏「大学時代に俺のファンクラブまでできていたらしくてな?」

小娘共「………………」

一夏「そ、そういうわけで、今日は朝から縁日の準備をしてくれたファンクラブの付き合いもあるし、」

一夏「お前たちとの付き合いもあるわけで、いろいろ大変でね……」

一夏「それに、必ずしも女性だけのファンクラブってわけじゃないから。確かに彼女たちはファンクラブ設立初期からの子たちだけど」

一夏「友矩が言うには、俺の同窓生の男子や俺より年上の社会人のサラリーマンも入っているらしいから、極めて健全だから!」

小娘共「………………」

844: 2015/02/25(水) 08:17:26.66 ID:XCu0XW8V0

一夏「わ、わかってくれたか!?(専用機持ちとのホームパーティの時と同じぐらい疲れたぁ……)」ゼエゼエ

箒「一夏」

一夏「は、はい(――――――こ、今度は何だ!?)」ビクッ

箒「私もファンクラブの会員にしてくれぇ……」

簪「私も! どうかお願いします!」ビシッ

鷹月「私も!」ドキドキ

本音「みんな~、ファンクラブのホームページはこれっぽ~い」

谷本「おお!」

相川「いつ登録する? 今でしょ!」


ワイワイ、ガヤガヤ、ワーワー!


一夏「何これ」

一夏「(千冬姉、俺、時々 自分が怖くなる時があります。千冬姉も同じような気持ちを抱いたことがあるのでしょうか?)」

一夏「(そして、この女子の盛り上がりよう――――――氷川きよしの熱狂的なファンに比肩する存在が生まれたことを予感するのでした)」

一夏「(俺、まだ辞令が来るまで“ブレードランナー”だよな? “仮面の守護騎士”だよな? そういう認識でいていいんだよな?)」


雪村《お面》「……………登録完了。送信」フフッ


――――――織斑一夏ファンクラブの会員数が+6されました。



845: 2015/02/25(水) 08:18:10.22 ID:XCu0XW8V0

――――――神楽舞


一夏「席はなるべく詰めてくださーい! 高齢者や未就学の子供を連れてる親子さん用の優先席がありますのでどうぞご利用くださーい!」

友矩「優先席はこちらでーす!」

弾「はいはい! 神楽舞が始まる前にケータイやスマートフォンはマナーモードにするか電源を切ってお静かにお待ちくださーい!」

同窓生たち「神楽舞が始まりまーす! みなさん、ぜひご覧になっていってくださーい!」


雪子「ホント、若い子がたくさん来て手伝ってくれるから大助かりなのよねぇ」

雪村《お面》「よかったですね」ペロハムッハムッ ――――――雪子さんの隣でわたあめを頬張る。

簪「どんな感じなんだろう、神楽舞」ワクワク

本音「お~、楽しみ~」

鷹月「来年からは私たちもお手伝いしないと」

相川「賛成!」

谷本「一夏さんを通して世界が拡がっていくのが感じられるわね」


友矩「では、そろそろ――――――」

一夏「ああ」

一夏「では、開始5分前となりました。ここからはお静かにお願いいたします」

弾「いたしまーす!」

スタスタスタ・・・・・・

雪子「一夏くん、こっちよ、こっち」

雪村「………………」カポッ ――――――開演前なのでお面は外す。

一夏「…………雪子さんの隣」ゾクッ

友矩「だ、大丈夫なはずだよ、一夏…………まさか神楽舞をしている中で見せつけるような外道ではないはず」アセアセ

一夏「…………『はず』ってなんだよ、『はず』って」アセアセ

弾「さっさと席に着こうぜ、口リコンマダムキラー?」

一夏「俺はそういうわけじゃないのに…………俺は氷川きよしじゃないのに」トホホ・・・

846: 2015/02/25(水) 08:18:55.93 ID:XCu0XW8V0

そして、始まった篠ノ之神社の娘:篠ノ之 箒による神楽舞――――――。


ザワザワ・・・

「わあ、きれい……」

「あんな美人、この辺りに居たっけ?」

「へえ、あれが“篠ノ之 束の妹”か。――――――綺麗だな」ジー

「前のバイトの娘じゃないのか。残念だなぁ……」

「今度の娘はこれまた美人であの娘よりもずっと若々しいのう……」

ザワザワ・・・ヒソヒソ・・・


一夏「…………箒ちゃん」

弾「おお…………!」ゴクリ

友矩「うん、見事。場を呑み込む神楽舞そのものになってるね。――――――『これぞ舞禅一如!』ってのはちょっと違うかな」ホッ

簪「………………」ゴクリ

本音「おお…………」

鷹月「篠ノ之さん……」

相川「きれい……」

谷本「………………」

雪村「………………」

雪子「…………」スッ

一夏「……?」

雪村「………………」


そんな中、両隣の男二人の手を不意に握った篠ノ之 箒の叔母:雪子――――――。



847: 2015/02/25(水) 08:20:13.89 ID:XCu0XW8V0

一夏「えと……(――――――周りは、気づいてない?)」キョロキョロ

雪村「………………」

雪子「…………ありがとう」ポロポロ・・・

一夏「…………!」

雪村「………………」

雪子「………………」ポロポロ・・・

雪村「どういたしまして」ギュッ

一夏「旅は道連れ――――――互いに助けあうもんです、雪子さん(いったいどうしたというのだ、急に…………)」ギュッ

雪子「……………はい」ポロポロ・・・

雪子「私、弱い女だよね、一夏くん……」ポロポロ・・・

雪子「急に家族が居なくなって、私がこの神社の一切を管理しなくちゃならなくなって…………」ポロポロ・・・

雪子「私だけが神社に取り残されて心細くなっている時に、一夏くんはまたこうして縁日の準備を手伝ってくれたよね…………」ポロポロ・・・

雪子「私の勘違いかもしれないけれど――――――、」ポロポロ・・・

雪子「なんだかその頃、一夏くんは物凄く凝ったものを差し入れに持ってくるようになって、」ポロポロ・・・

雪子「決まって私に最初に振舞ってくれてたよね…………縁日じゃなくても月に一度二度は必ず来てくれたよね」ポロポロ・・・

一夏「………………」

雪子「あれ、突然 一人にさせられた私にはとっても嬉しかった……」ポロポロ・・・

雪子「そう思うと、一夏くんのことが我が子のように急に愛おしく思えてきて、ずっとずっと側に居てくれるもんだと……ね?」ポロポロ・・・

一夏「そ、そんな頃もありましたね……」アセダラダラ

一夏「(……言えない。篠ノ之御一家が重要人物保護プログラムで引っ越しを強制されたのは6年前のことだけど、)」

一夏「(その当時17歳の高校生の俺は篠ノ之御一家と入れ替わりに来た鈴の親父さんの中華料理屋の影響で料理がちょっとしたブームになっていて、)」

一夏「(特に千冬姉のプロ契約の年俸が家計に行き渡って裕福になったのを実感し始めた頃だから料理研究が凄く捗ってた時期でして――――――)」

一夏「(別に雪子さんを思いやったわけじゃないし、第一 一家が引っ越ししたこともあまり気にも留めてなくってでしてぇ…………)」

一夏「(そう、とにかく俺の新作料理を試してもらいたくて、雪子さんを練習台として気軽に利用してたところがありまして…………!)」

一夏「(俺は雪子さんが思っているような“いい子”じゃありませんからっ!)」

雪子「そして、大学進学して上京しても変わらず律儀に縁日の準備を続けてくれた…………」ポロポロ・・・

雪子「それで帰ってくる度に一夏くんは見違えるようになっていって、徐々に私の心は大人になっていくあなたのことでいっぱいになって…………」ポロポロ・・・

一夏「そ、そうかな? 俺も少しは大人ってやつになれたのかなー?(――――――酔ってるね、雪子さん。感極まって雰囲気酔いしてるや)」アセタラー

一夏「(けど、確かには俺は変わったよ。俺が今の“俺”になったのも――――――、)」

一夏「(友矩との出会いや、“童帝”としての想像を絶するような体験の連続で変わらざるを得なかったというか…………)」

一夏「(――――――『やっぱり世界は広いんだ』ってことを大学時代に少しずつ学んでから帰ってきたんだ)」

一夏「(それは確かに女性の扱い方についても慣れてくるよな…………)」アセダラダラ

雪子「でも、一夏くんに甘えるのはもうこれで最後にするからね」ニコッ

一夏「そ、そんなことは…………(――――――『ある』と言いたいけれども空気を読もう)」

雪子「あの子のこと、よろしくお願いします」

一夏「…………はい」


一夏「え」



848: 2015/02/25(水) 08:21:07.23 ID:XCu0XW8V0

雪子「これで少しは離れ離れとなった箒ちゃんのお父さんとお母さんも浮かばれることでしょう」ニッコリ

一夏「あ……」アセダラダラ

一夏「(うわああああああああ! 空気を読んだ結果がこれだよっ!)」

一夏「(神楽舞が目の前で行われていて感動的な話の締めくくりにこんなことを言われたら断れないだろおおおおお! ――――――普通に考えて!)」

雪子「“アヤカ”くんも学園で箒ちゃんの友達になってくれてありがとね」

雪村「はい。感謝してもしきれません」ニッコリ

雪子「あの子のこと、よろしくね」

雪村「はい。末永くお付き合いできれば幸いです」

雪村「(そう、――――――『末永くお付き合いできれば幸い』だよ)」



箒「………………!」ビシッ



パチパチパチ・・・










849: 2015/02/25(水) 08:22:05.16 ID:XCu0XW8V0




一夏「祭りも一段落だな……」

一夏「19時に神楽舞をやって、20時からは花火大会の時間だな」

一夏「そして、それが終わったら打ち上げか。――――――花火大会が終わった後なのにな」

一夏「これからどうするんだ? 泊まっていくか、俺のマンションで?」

雪村「花火をみんなで見たらIS学園に帰ろうとか思います」


――――――僕の帰る場所はあそこですから。


雪村「だから、心配しないでください」ニッコリ ――――――力強く右腕の黄金の腕輪を覗かせる。

一夏「そっか」

一夏「今年はいろんなことがあったな」

雪村「はい。本当に『いろんなこと』がありましたね」チラッ


箒「――――――」

雪子「――――――」

小娘共「――――――」

友矩「――――――」

弾「――――――」


一夏「いろんなやつに出食わして、いろんな事件に遭って、あまりにも不祥事が多すぎて笑えない状況なんだけれども、」

一夏「互いにその時の自分ができることやなすべきことを精一杯やって掴んだものがあそこにあるんだな」

雪村「はい。今ではIS学園に入れてよかったと素直に思えます」

雪村「一夏さんとめぐりあうのは必然だったけれども、篠ノ之 箒という一人の人間に出会えたことが僕の人生で一番の宝物です」


箒『要するに、――――――友達になって欲しいのだ!』


雪村「あの時の言葉が凄く嬉しかった」

雪村「それからずっと、彼女は僕の側に居続けてくれた。理解してくれた。こんな僕のことを信じて抜いてくれた」

雪村「僕は両親のことも家族のことも今はわからない」

雪村「けれど、周りが言うように僕と彼女の関係が“母と子の関係”だと言うのなら、僕は彼女のような母親を持てて幸せです」

一夏「…………それは箒ちゃんにとっても幸せなことだと思うよ、“アヤカ”」


――――――守っていこう、これからも。



850: 2015/02/25(水) 08:22:43.84 ID:XCu0XW8V0

一夏「過去はどうあっても取り返せない。仮想世界で再現されたそれはただ単なる結果でしかない」

一夏「逆に、未来は無限だ。現在よりも素晴らしい明日にすることができるし、もっともっと惨めな現状を作り出すこともできるんだから」

一夏「そして、忘れないで、“アヤカ”」


――――――必ず幸せの後には不幸せが訪れる。今じゃなくても必ず。


一夏「けれども、その不幸せの後にも必ず幸せが来て、不幸せを乗り越えた分だけ人はもっと幸せになっていくんだ」

一夏「これは苦しみと喜びに置き換えても成り立つ法則だ」

一夏「俺も馬鹿だったからいろんな失敗を繰り返してきたけれども、その全ての苦しみや乗り越えてきた喜びがあって今の“俺”なんだ」

一夏「“アヤカ”も同じだ」

一夏「たぶん『氏にたい』と思ったことが多かれ少なかれあったかもしれない」

一夏「けれども、それでもしぶとく生き続けて今日を迎えられた喜びは今まで受けた苦しみの何十倍も心に残るものだろう?」

一夏「要するに、――――――あれだ」


――――――どんなに今が苦しくてもその後には必ず幸せを来ることを信じて、生きるんだよ。力の限り全力で精一杯!


一夏「努力は人を裏切らない。どんな体験も必ず幸せの花を咲かせるための糧となると信じ抜いて。生きている限り不幸は続かないから」

一夏「ただただ前向きで明るく発展的に物事を捉えることをやめさえしなければ、必ず――――――」

雪村「はい。今度は氏んでもやめません」

雪村「やっぱり、生きていたいです。人並みの幸せを掴みたいです」

一夏「その意気だよ。いつの世の『無理』なんてものはいずれは人類の叡智が克服していけるもんなんだから」

一夏「そう、たとえば宇宙に飛び立つこと、空を飛ぶこと、海の向こうへひたすら進むこと、あの山を越えること――――――」

一夏「今ではどれも実現していることだけれども、昔は大まじめに不可能だと言われ続けていたんだぜ?」

一夏「この世の中の『常識』ほど無責任で信用できないものなんてないから」

一夏「だから、――――――たとえば、“俺たちのような存在”もまたいずれは普遍的なものへと変わっていくはずだから」

雪村「ええ。きっと」



851: 2015/02/25(水) 08:23:35.09 ID:XCu0XW8V0

10年前、極東の地である一人の天才科学者が生み出した史上最強の兵器:IS〈インフィニット・ストラトス〉によって、世界は大きく変わった。

冷戦が終わり、ソ連が崩壊し、冷戦の勝者が日本と言われた矢先のバブル経済の崩壊――――――、

そして、かつての国家対国家のような総力戦は過去のものとなり、ニンテンドー・ウォーと称された湾岸戦争が記憶に新しい頃、

IS〈インフィニット・ストラトス〉と呼ばれたそれは、21世紀を迎える前の新世紀への大きな希望を人類が抱くと同時に、

ある大きなカタストロフを抱えていた世紀末に降臨した“天からの使い”と認識されることとなったのである。


それは、かの有名なノストラダムスの大予言『1999年 世界滅亡の大予言』になぞらえられる結果となったのだ。


もちろん、さまざまな要因はあった。が、ただ言えることは――――――、

グローバリゼーションが進む中で旧来の価値観が通用しなくなったことで道を示すべき大人は沈黙し、

戦争の大義名分とその裏の凄惨さ、現実における様々な矛盾点に素直に疑問を持った若者たちはそれを嫌って無軌道に身を投じていく。

そもそも、何が良くて何が悪いのか、どうしてそうなのかもまるでわからず、ただただそういうものであると流され続け、

普遍的な自由が与えられた代償に自分という存在が不確かになっていき、孤独な群衆は常に自分たちにふさわしい何かを求め続けていた。

文明が発達していく中で公害問題や労働問題、更なる大量殺戮兵器の開発などが唯々諾々と進められていき、

人類全体が加速していく時の中であるべき理想を見失いかけてきた中で、かの予言は実しやかに囁かれることになった。

あの予言が世紀末を生きた多くの人々の心に広く信じられることになったのは、

心のどこかでこの暴走を止めてくれるブレーキとなる何かを本能的に求め続けていたからかもしれない。


それこそが、人類それぞれが持っているはずの良心の現れではないのだろうか?


やはり、道徳が廃れたとしても道徳という理想はいつまでも人々の心の基準となって生き続けているのだから。

だからこそ、ノストラダムスの大予言と時同じくして起こった『白騎士事件』はそれだけの畏怖と期待と衝撃を持って世界の人々を魅了したのである。

あれこそが新世紀にふさわしい新たな価値観の柱であると誰もがそう感じたのである。

852: 2015/02/25(水) 08:24:13.06 ID:XCu0XW8V0


しかし、現実のIS〈インフィニット・ストラトス〉はあの『白騎士事件』の衝撃を憶えている人間にとっては児戯に等しいものでしかない。


それでも、人々はISを絶対のものと考えて、それを中心とした新しい文化や文明を築き続けている。

客観的に見て明らかに欠陥だらけのISではあるものの、それは歴史家やISを超える成果をあげられなかった有識者の小さな声でしかなく、

少なくともISの可能性を強く感じ、それを強く求めた人々の心を正気に戻すだけの説得力などまるでない後出しの予言でしかないだろう。

戦争に詳しい人なら、旧大戦における大日本帝国軍の艦隊巨砲主義と航空主兵論の対立や、漸減邀撃作戦の愚を振り返ればすぐに理解できるはずである。

先見の明や物事の成否がある極小数の知識人に見えていたとしても、大勢を変えるだけの変革をもたらすことができなければ全てが妄言として受け取られる。

身近な例で言えば、――――――株の売買や為替なんかが良い例だろう。

ある投資家一人があらゆる手段を使ってある企業の株価の急落を予想しても、実際に大多数の人間が株を売るアクションがなければ何の影響がないわけである。

世界大恐慌も言うなれば『いつかは必ず株価が下がり始める』という1人の思い込みが伝播して全体の不幸を招いた結果であろう。

このように、やはり世界を作るのはその世界に生きる一人一人の人間の確かな意思であり、

少なくとも基本的人権の尊重が普遍的に認められつつある今の時代においては、

『こんな生きづらい世界にした責任が誰にあるのか』さえ追求できないようにしたのも――――――。


つまり、この世界における世紀末において、『結果がまだ出ていないからこそ、ISがもたらす未来に誰もが遙かなる期待を寄せた』結果が、

ISが女性にしか扱えないことの拡大解釈から広まった現在のこの女尊男卑の世の中であり、

“男でISが扱えた”ばかりに人間としての存在意義を剥ぎ取られた“アヤカ”という時代に翻弄された不幸な少年の物語もまた生まれたのである。

853: 2015/02/25(水) 08:24:44.50 ID:XCu0XW8V0


しかし、それでも人は生き続けた。今もこの星で歴史を刻み続けている。


ある極東の国では数々の内乱が繰り返されては各地で地獄のような光景が展開されるのだが、

最終的には西暦以前から今もなお続いているとされている神々の系譜を受け継ぐ血族の許に国が治まり、

旧大戦において計り知れない犠牲と打撃を受けて、更には国土の多くが焦土と化して、ついには敵国に占領されたというのに、

現在では敗戦国でありながら世界有数の経済大国として名を馳せ、世界で最も平和的で文化的で民主的に栄えた国として記憶されるまでになっている。

つまりは――――――、

その時代ごとの風潮や情勢など、一個人が抱えるその時々の背景に端を発したものの集合体であることは数学的にも理論付けが可能である。

そして 少なくとも、人間というものは自分が人生で得て学んで磨いた良い物を次代に残そうと必氏に努力してその生を終えていく――――――。

その人の人生の集大成とも言える客観的に見て本当にいいものと思える遺産を人類が継承して、それを使った新たな人生の集大成が続々と残されていくのだ。

この世は弱肉強食の競争社会――――――、人類全体の進歩発展に寄与したものは人類の歴史書に永遠に語り継がれていくものだが、

大して役に立たなかったものは歴史書の中で同時代において本当に役に立ったものについて書かれた文の行間で淘汰されていることだろう。

となれば、結果として良いものだけが次代に次々と継承されていき、時代が経る毎に価値観も変わってまた選別がされていく中でも、

やっぱり良いものは残り続けて、最終的には人類の叡智の結晶である良いものばかりの素晴らしい世の中にいずれはなっていくのではないだろうか?


そのことを歴史から学べば、この一夏が信仰している人類への信頼というものも何となくだが信じられるような気はしないだろうか?


いつかは廃れるけれども、いつかはやがて復古する時が来るのだ。どんなものにも必ず。

三度の飯よりラーメンが大好きな人間でもいつかはラーメンに飽きて他のものが無性に食べたくなるだろうし、

けれどもやっぱりいつかは再びラーメンを食べたくなって、その時に自分がラーメンを愛するきっかけとなったあの感動を思い出す日がくるだろう。

今のゲーム機には今のゲーム機の楽しさ、昔のゲーム機には昔のゲーム機の良さがある。

勧善懲悪や王道のありきたりなストーリー展開に飽きて、邪道で一筋縄ではいかないような複雑怪奇な物語に傾倒する時期もあるかもしれない。

でも、いつかは勧善懲悪や王道のありきたりなストーリー展開に心が揺さぶられる時がまた来るかもしれない。

思春期になってから洋楽やロックに走って、童謡や演歌、ポップ音楽やクラシックなどを退屈なものだと認識しているかもしれない。

でも、いつかは幼い頃に読んだ本や聞いた歌を大人になってから改めて向き合って、その時になって初めて得られる感動があるのかもしれない。


一夏が“アヤカ”に言っていることとは、歴史から学んだこと以外にもそう言った自身が経験した小さな体験の積み重ねで得た確信からくるものもあった。


だから、どこまでも信じられた。どこまでも頑張れた。躓くことはあってもすぐに立ち直ってどこまでも前を向き続けられた。

結論から言えば――――――、


――――――可能性を信じるか、信じないか。


結局はただその一言に集約されるのが、この織斑一夏という人間の強さの秘訣であった。

だからこそ、自分以上に苦しい立場に置かれている“アヤカ”に自分が体得しているその境地に至れるように精一杯 心を尽くすのである。




854: 2015/02/25(水) 08:25:20.81 ID:XCu0XW8V0


箒「おーい! 雪村ー! あの場所で一緒に花火を見に行くぞ!」

友矩「一夏、そろそろ――――――」


一夏「呼ばれてるぞ、“アヤカ”」

雪村「一緒には来てくれないんですか?」

一夏「俺は花火大会なら毎年 来てるからいつも見てるし、成長した箒ちゃんの神楽舞のファーストライブも見終わったことだし、」

一夏「俺は本来ならIS学園とは無関係の部外者なんだから、ここはIS学園の仲間だけの素敵な夏の思い出を作ってこいって」

一夏「――――――また会えるだろう?」

雪村「……はい」ニコッ

一夏「本当に変わったな、“アヤカ”」ニッコリ

雪村「それじゃ、また会いましょう!」

一夏「ああ」


――――――信じ続けていれば、俺の願いはきっと届くに違いないから。



855: 2015/02/25(水) 08:27:03.24 ID:XCu0XW8V0


タッタッタッタッタ・・・・・・


一夏「………………フゥ」

一夏「ん」

ほづみ「………………なるほど」ジー

一夏「ほづみ じゃないか。まだ帰らなくていいのか?」

ほづみ「はい。花火大会を見終わるまでは帰れませんよ」

一夏「そうか――――――ん」ジー

ほづみ「?」

一夏「…………そういえば、ほづみっていい身体つきしてるよな」

一夏「こうやって各地の祭りを訪れて、準備も手伝ってくれてるわけだから、いい身体なのは納得だけど」

ほづみ「ああ それは、遠泳してましたからね」

一夏「へえ、――――――『遠泳』ね(――――――にしては、水泳選手の身体つきとは思えないような腕の筋肉の厚さなんだけど)」

ほづみ「はい。記念に力競べでもしてみません?」

一夏「いや、遠慮しとくよ。祭りが終わっても今度は打ち上げパーティだし、明日の朝の片付けの準備もしないといけないし」

ほづみ「そうですか。“ブリュンヒルデ”織斑千冬の弟というだけあってかねがね腕が立ちそうな気はしてましたけどね」

一夏「よしてくれよ。俺はスポーツ選手じゃないんだから。全力を必要とされるような機会なんて絶対 来ないほうがいいって」

一夏「あまり大きな声では言えないことなんだけど、俺、――――――誘拐事件に関わったことがあってさ?」

一夏「誘拐犯の仲間をとっ捕まえて、やつらのアジトを白状させようとしてやり過ぎだことがあるから…………」

ほづみ「…………そうですね」ボソッ

一夏「うん?」

ほづみ「力はあって困ることはありませんが、出しどころが難しいですよね」

ほづみ「ほら、芥川龍之介だったかの言葉にあるじゃないですか」


人生は一箱のマッチに似ている。

重大に扱うのは莫迦々々しい。

重大に扱わなければ危険である。


ほづみ「『人生』という言葉は『力』に言い換えられるとは思いませんか?」

一夏「――――――『力』か。確かにそうかもしれないな」

ほづみ「『力なんてなければいい』とどれだけ思ったことか…………」

ほづみ「けれども、力が無ければこの世を生きていくことはできませんからね。どんなものであろうとなかろうと」

一夏「…………そうか。ほづみ もいろいろ大変なんだな」

ほづみ「はい。『過ぎたるは及ばざるが如し』ですが、過ぎた力を元々 与えられた人間はどう生きていけばいいのか――――――」

一夏「え」

ほづみ「一夏さんも“ブリュンヒルデ”織斑千冬の弟ということでそれを重荷を感じたことは無いんですか?」

一夏「そうだな……、今はそうじゃないけど、そうだった時のことの反省を踏まえて今の俺なんだ。むしろ成長の糧になったかな」

ほづみ「………………そんなのゆとりのある人間にしか許されない結果論じゃないか、そんなの」ボソッ

一夏「何だって?」

856: 2015/02/25(水) 08:28:19.67 ID:XCu0XW8V0

ほづみ「なら、さっきの学生――――――あれ、“世界で唯一ISを扱える男性”朱華雪村ですよね?」

ほづみ「“彼”については思うところはないんですか?」ジー

一夏「何か不機嫌そうだぞ、ほづみ?」

ほづみ「あ、ごめんなさい。生まれつきなんです。こうやって社会人に必要な笑顔や敬語の練習をする意味でも旅に出ているわけでして……」

一夏「そ、そうか…………それは大変だったろうな」

ほづみ「で、どうなんですか? 自分もISを使えたら嬉しいとか思わないんですか?」


一夏「わからないよ、そんなことは」


ほづみ「は?」

一夏「俺はその時々のベストを尽くすだけだから」

一夏「だって、考えてもしかたがないだろう? ――――――現実じゃないんだから」

一夏「想像する自由はあってもいいけど、今の俺には想像できないな」

一夏「それにその質問だと、いつの時期にIS適性が見つかるかで答えは大きく変わってくるだろう?」

一夏「もし、小学生の時に見つかったら? 中学生の時だったら? 社会人になってからだったら?」

ほづみ「…………それもそうですね」

一夏「それに、俺は千冬姉の弟として公認サポーターとして実際にISに触れる機会がたくさんあったんだ」

一夏「それでも男の俺には動かすことができなかったんだから、尚更 想像しづらいっていうかな」

ほづみ「そうだったんですか。それは、なるほど、そうですね」

一夏「けど、質問に答えるとするなら、現在23歳の俺だったらこう考えるかな」


――――――IS適性の究明に協力してIS利用の発展に寄与できたらいいなって。


ほづみ「いわゆる中道左派の考え方なんですね」

ほづみ「それは織斑千冬もそうなんでしょうかね?」

一夏「…………もしかして今の女尊男卑の風潮で割を食っているのか?」

ほづみ「まあ、嫌な思いはしてきましたよ」

一夏「そっか。そういう意味で俺に期待してたところが何かしらあったってわけなのか」

ほづみ「祭りに来るのがメインでしたけど、次いでに世界的な有名人と言葉を交わす機会が得られたので」

一夏「――――――難しいな、人って」

ほづみ「そう思います」

857: 2015/02/25(水) 08:30:10.10 ID:XCu0XW8V0

一夏「なあ、ほづみ さ?」

ほづみ「はい」

一夏「…………俺とさ? メールアドレス、交換しないか?」

ほづみ「え」

ほづみ「あ……、すみません。家が貧乏なんでそういうのは持ってないんです」

一夏「そっか。それじゃ――――――」カキカキカキ

一夏「はい」バッ

ほづみ「………………これは」

一夏「俺個人の電話番号とメールアドレスだ。必ず名乗ってくれよな。留守電もあるから」

一夏「それに俺のファンクラブもあるようだからそっちに意見を出してもらってもかまわないからな」

一夏「電話やインターネットが使える機会があればドシドシ連絡してくれてかまわないからな」ニコッ

ほづみ「え、どうして……、今日会ったばかりの人間にどうしてそこまで――――――?」

一夏「俺も“織斑千冬の弟”ということでISとは無関係ではいられない人間だし、少しでもISがきっかけで不運に見舞われている人は放っとけないから」

ほづみ「…………ありがとうございます」

ほづみ「ごちそうまでしてもらった上に、こうしてお話までしていただき、ありがとうございました、織斑一夏さん」

ほづみ「あなたのことは忘れません。忘れようがありません」フフッ

ほづみ「じゃ、お元気で」スタスタスタ・・・・・・

一夏「そうか。じゃあ、気をつけてな」ニッコリ

一夏「………………」



858: 2015/02/25(水) 08:30:45.62 ID:XCu0XW8V0


ヒューーーーーン! パァン! ヒューーーーーン! パァン!


ほづみ「お、花火 始まったか」

ほづみ「……………まったくとんでもないよ」

ほづみ「――――――底抜けの阿呆か、人格破綻者か、稀代の楽天家といったところだな」

ほづみ「まあ、話していて気持ちの良い人だった。――――――仲間になりそうにないのがホント 残念に思うぐらいに」

ほづみ「さてと、後は“彼”と“篠ノ之 束の妹”の素顔を追跡してっと」ピピピッ

ほづみ「――――――やはりあの展望台で花火大会を見ていたか。下調べしておいて正解だったな」


一夏『俺も織斑千冬の弟ということでISとは無関係ではいられない人間だし、少しでもISがきっかけで不運に見舞われている人は放っとけないから』


ほづみ「…………織斑一夏、――――――“ゴースト”」

ほづみ「当然か。さすがはあの時に更識 簪を助けに生身で『ラファール』に掴まって乗り込んできただけのことはある」

ほづみ「…………“あいつ”のように逃げ出さなければ今頃は織斑一夏に護ってもらえたのだろうか?」

ほづみ「俺もファンクラブに入っておこうかな? ――――――ホテルに使えるパソコンはあったよな?」

ほづみ「けどな? 俺が今の俺になったのも“世界一のお前の姉さん”のありがたいお言葉のおかげだから、やっぱり何か釈然としないものがあるな」


――――――もし織斑千冬と織斑一夏の立場が逆だったら?


ほづみ「……俺はこんなふうにはならなかったんだろうな」

ほづみ「つくづく、あの姉弟の人間として器っていうか影響力は大きいと実感させられる」

ほづみ「最終的な決心がついたのは一夏の姉のありがたいお言葉からで、ここまで来て他の道はないかと思わせるのが千冬の弟か」

ほづみ「けど、やっとここまで来たんだ。今更 引き返すつもりはないし、良い子に戻れる道理もない」



ほづみ「――――――“更識楯無”ぃ! 必ずや地獄の道連れにしてやるっ!」ギリッ




859: 2015/02/25(水) 08:31:20.51 ID:XCu0XW8V0


ヒューーーーーン! パァン! ヒューーーーーン! パァン!


一夏「祭りも一段落――――――、俺の中での この1年についてもこれで一段落かな?」

友矩「一夏!」

弾「おーい、一夏!」

雪子「みんな、集会所で待ってるよー!」

一夏「ああ」スタスタスタ・・・・・・

一夏「けど、これからがもっと大変だよな……」ハハハ・・・

一夏「(まるで走馬灯のように蘇る“ブレードランナー”としてのこの4ヶ月――――――、)」

一夏「(社会人1年目にして発覚したIS適性――――――今まで存在しなかったIS適性に目覚めた瞬間の全能感)」

一夏「(そして、今日までの活動の中での世界の誰もが味わうことができないような激動の日々――――――)」


――――――束さん。


一夏「(あなたは世界をどうしようとしたかったんですか?)」

一夏「(『白騎士事件』にしても、『福音事件』にしても、そんなことをして誰が喜ぶんですか?)」

一夏「(もしそれが自分一人のわがままのために他人の不幸を招くというのであれば、俺は公共の福祉のためにあなたを――――――!)」

一夏「(千冬姉ももっと俺に頼ってくれ……、俺は千冬姉の唯一の家族じゃないのか?)」

一夏「(――――――“マドカ”なんて知らない。あんな悪い子なんて家族にはいらない。それでいいだろう?)」

一夏「(なあ、“アヤカ”? さっきさ、“ほづみ”ってやつが言ってたんだけどさ?)」


ほづみ『はい。『過ぎたるは及ばざるが如し』ですが、過ぎた力を元々 与えられた人間はどう生きていけばいいのか――――――』


一夏「(後ろめたいことをしてきたわけじゃない。なのに、こんなふうに“ブレードランナー”としてやっていかなければならなかった日々――――――)」

一夏「(もうそろそろ、そんな日々にも終わりを告げる鐘の音色が今宵 夏の夜空に響き渡る…………)」




860: 2015/02/25(水) 08:32:24.56 ID:XCu0XW8V0


ヒューーーーーン! パァン! ヒューーーーーン! パァン!


鷹月「あ、始まったよ!」

谷本「おお 絶景かな絶景かな! いい見晴らしポイント!」

箒「そうだろう? 昔は姉さんや千冬さん、それと一夏と一緒にここで花火を楽しんでいたもんだな……」

相川「そっか。今 考えると、凄い人たちに囲まれて育ってきたんだね、篠ノ之さんは」

箒「そうかもしれないな」

箒「でも、10年前に姉さんがISを開発するまでは、私は5歳だったし、姉さんも千冬さんも一夏もただの中学生だったし」

本音「人生 塞翁が馬だね~」

鷹月「そっか。それもそうだよね」

雪村《お面》「………………」

箒「あ」

谷本「おっと、“アヤカ”くん? お面なんてつけてどうしたの? 見えなくない?」

雪村《お面》「大丈夫です……」

簪「あれ?」

相川「何だか声が震えてなかった……?」

箒「もしかして――――――」バッ

雪村《  》「――――――!」カポッ

小娘共「!」


雪村「………………」ポタポタ・・・


簪「ど、どうして泣いてるの、“アヤカ”!?」

箒「な、何か気に障ることでも言ってしまったか?! ――――――すまない!」

雪村「い、いえ……」ポロポロ・・・


雪村「なぜかこうやってみんなと一緒に花火を眺めていられることを実感したら急に涙が溢れてきて…………」ポロポロ・・・


谷本「――――――『感極まった』ってこと?」

雪村「…………そういうこと?」

相川「きっとそうだよ!」

本音「お~、“アヤヤ”が嬉しくて泣いた~、嬉しくて泣いた~!」

箒「…………!」ドクン

箒「そうか……、良かったな…………」ウルウル

箒「あ、あれ……、急に視界がぼやけてきたぞ…………」ポロポロ・・・

谷本「あー! 篠ノ之さんが貰い泣きぃ!」

鷹月「凄いなぁ、篠ノ之さん。あんなにも情熱的で――――――」

861: 2015/02/25(水) 08:33:02.78 ID:XCu0XW8V0

相川「でも、ホントに愛されてるよね、“アヤカ”くんも」

簪「そうだね。ISの立役者の織斑先生の弟とISの生みの親の篠ノ之博士の妹と大きな繋がりがあるからね」

谷本「つまり、噂の一夏さんと篠ノ之さんが夫婦で、その間の子が“アヤカ”くん――――――みたいな?」

相川「そんな感じになってくるのかな?」ワクワク

本音「数奇な縁で結ばれた運命の『ISファミリー劇場』いよいよ開演!?」ワクワク

箒「ふぁ、『ファミリー』って、おい……」カア

鷹月「なら、篠ノ之さんは“アヤカ”くんのことを実際どう思ってるわけ?」ワクワク

鷹月「好きな人は別にいるのにこうもべったりしてたら、相手の方も思うところはあるかもよ?」ワクワク

箒「え、ええ!? 一夏に限ってそんなことは――――――」アセアセ

相川「でも、凄くヤキモチやいてたよね? 確かに一夏さんの周りにあんなに綺麗な大人の女性が群がっていたことに私でも焦りを感じたぐらいだけど」

箒「いや、私は雪村のことは、その――――――」チラッ

雪村「………………」ニッコリ

箒「……ああ、そうだとも」


雪村「お母さん、今までありがとう。大好きです」ニッコリ


箒「は」

一同「」

箒「ま、また……、そんなことを言ってくれたな、こいつは…………(し、しかも『大好き』だとぉおお!?)」カアアアアアアアア

鷹月「ごめんなさい、篠ノ之さん。変なこと、訊いちゃったわね」ドキドキ

相川「これはアレだね?」ドキドキ

谷本「もうそれでいいんじゃない?」ドキドキ

簪「こんなシチュエーションでしかもあんなセリフの告白だなんて、――――――“アヤカ”、なんて恐ろしい子!」ドキドキ

本音「もうこれ わかんないなー」ドキドキ

谷本「でも、“アヤカ”くんは元々こうだったじゃない」

相川「そうだね。それがただ良い方向に向いたってだけで」

鷹月「“アヤカ”くんの良さがみんなにちゃんと伝わるようになったってことだよね」

簪「うん。“アヤカ”は本当に――――――」

箒「み、みんな……(――――――何だこの褒め頃しは? 雪村のことなのにとてつもなくむず痒くなってきたのだが)」ドクンドクン

箒「………………」スゥーハァーー

箒「まったくいつもお前は私のことを驚かせてばっかりだな」


箒「でも、私もだぞ、雪村。もちろん、ここにいるみんなのことも大好きだからな!」ニッコリ


雪村「はい」

箒「これからもよろしくな、みんな」

一同「うん!」



862: 2015/02/25(水) 08:33:33.06 ID:XCu0XW8V0


ヒューーーーーン! パァン! ヒューーーーーン! パァン!


箒「………………」

小娘共「………………」

雪村「………………」

雪村「(――――――信じること。それがこれからの僕に課せられた試練)」


一夏『だから、――――――たとえば、“俺たちのような存在”もまたいずれは普遍的なものへと変わっていくはずだから』


雪村「(どうして男である僕にIS適性があったのかはわからない)」

雪村「(そのせいで、紆余曲折を経て たくさんの苦しみを味わってきたけれども、)」

雪村「(それでも生き続けて、こうやって今の僕は幸せというものを確かに感じている。今を生きている実感と喜びに満ちている)」

雪村「(けれども、――――――篠ノ之 束に、――――――IS学園、――――――いや、世界中の悪意が僕をこれから苛もうとしている)」

雪村「(今の幸せはもしかしたら明日になったら崩れ去ってしまうものなのかもしれない。それぐらい不確かなもので――――――)」

雪村「(それでも――――――、)」


一夏『努力は人を裏切らない。どんな体験も必ず幸せの花を咲かせるための糧となると信じ抜いて。生きている限り不幸は続かないから』


雪村「(今度は僕が一夏さんが必氏に伝えようとしたものを信じ抜いてみようと思う)」

雪村「(こんな僕を今の幸せに導いてくれた、どこまでも僕のことを信じ抜いて守り抜いてくれた今の僕の父と母の二人に報いるために)」

雪村「(――――――僕は強くなる! たとえ記憶が消されても、たとえ氏の淵に追いやられても、)」


――――――この魂だけは誰にも穢させはしない!


雪村「(完全独走! 僕は僕の道を一人走り続ける! それが“彼”に対する“僕”であることの証だから!)」

雪村「(“彼”から代々渡されてきた命のバトン――――――、僕が最後のランナーとして辿り着いてみせる!)」

雪村「(――――――魂が願っていた未来へと! 心を希望の色に燃やして!)」




863: 2015/02/25(水) 08:34:21.64 ID:XCu0XW8V0


ヒューーーーーン! パァン! ヒューーーーーン! パァン!


箒「………………」

小娘共「………………」

雪村「………………」

箒「(本当にわからないものだよ、人生ってやつは)」

箒「(七転び八起き――――――幸せの後には不幸が、不幸の後には幸せがまたやってくるのか)」

箒「(友矩さんとの禅問答にあったように、人の気持ちってなんていいかげんなものなんだろう。すぐに移ろいでいく、幸せも不幸せも。楽しさも苦しさも)」

箒「(でも、その時の一瞬一瞬で感じた気持ちは本物でもあるから移ろいでいくんだろうな……)」

箒「(なら、忘れなければいいのかもしれないな。――――――みんなと一緒のこの時間のことを)」

箒「!」

箒「………………うっ!?」ビクッ






一夏『』 ――――――額から赤い液体から垂れていた。

雪村『』 ――――――赤い血だまりに浸されていた。

----『あ、あ、ぁぁ…………』 ――――――身体が紫色に染まって今にも氏にそうだ。

箒『い……、一夏? ……雪村? ……----?』

箒『あ、ああ…………』ガタガタ

少女『ふふふふふ、はははははははははは!』

箒『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』






864: 2015/02/25(水) 08:35:30.24 ID:XCu0XW8V0





パァーーーーーーーーーーーーン! バラバラ・・・!





箒「ハッ」

簪「…………これで終わり?」

鷹月「たぶんね。時間もいい具合だし」

本音「ああー、たのしかったー!」

相川「うん。ホントだね!」

雪村「はい。今日は素晴らしいひとなつの思い出の日となりました」ニコッ

鷹月「いい笑顔!」ニッコリ

谷本「うんうん。善き哉善き哉」

相川「それじゃ、戻ろっか」

簪「うん」

相川「おーい、篠ノ之さーん」

箒「あ、ああ…………」

雪村「?」

箒「あ、いや、何でもない。何でもないぞ、雪村」ニコッ

雪村「…………そうですか」

箒「今日は本当に来てくれてありがとう、みんな!」ニッコリ

鷹月「友達だもん、当然だよ」

簪「来年もまた来よう」

本音「『おー!』なのだー」

スタスタスタ・・・・・・

箒「………………」ホッ

箒「今のは――――――気のせいだよな? そうだとも」

箒「あれは…………言うまい」


――――――そう、あんなのは今の幸福の絶頂にいることに不安を覚えた弱い心が見せた幻想なのだから。



こうして、3人と1人は全ての始まりの地である篠ノ之神社においてめぐりあうこととなった。

これが全ての運命の始まりであり、IS〈インフィニット・ストラトス〉という女性にしか扱えない史上最強の兵器をめぐる波乱の序章が今 終わりを告げ、

本当の意味で全ての運命を――――――世界の運命を左右する辛く過酷な宿命の日々が始まりを告げるのであった。

謎に満ちた物語はついに少しずつ神秘のベールを明かしていくことになり、世界の真相――――――“パンドラの匣”の奥に眠れる“希望”が世界を照らすのか?

全ては篠ノ之神社に蒔かれた小さな種が大きな幹へと育って、その果実の恵みが遍く行き渡った世界での物語――――――。

ただ言えることは、――――――次に来るのは、大いなる渾沌であるということ! それに耐え忍ぶ日々が始まるということ!

はたして、3人と1人の運命はいかに――――――? そして、身近で大切な人たちのことを守りぬくことができるのだろうか?


                                                       剣禅編:3人と1人の物語『序章』-完-



866: 2015/02/25(水) 08:38:24.19 ID:XCu0XW8V0


――――――ご精読ありがとうございました。


これにて、何だか第10話Bから蛇足感の強かった剣禅編『序章』が完結いたしました。
ちゃんと完成してから投稿しないと文章の息遣いや味付けが変わってしまうことがこれでよっくわかったので、
以後はしっかりと文体や雰囲気を統一をして安心して読んでいけるような投稿内容にしようかと思います。
物語の構想自体はちゃんと設定した通りにはなってはいるけれども、筆者自身が読み返して同じ作品内で違和感を覚えたぐらいなので。

さて、今作の剣禅編に関しては何から何までオリジナル設定の塊であったが、いかがであっただろうか?
そして、この世界における“ISを扱える男性”の真相などのその他諸々の原作における様々な謎についてもこちらで解釈したものが設定されているので、
ここから大きく原作とは違った展開が繰り広げられることになっております。
そして、番外編の副題が“一夏と大人たちの物語”なのに対して、剣禅編の副題は“3人と1人の物語”となっており、
何を以って『3人と1人』なのかは物語が新たに進んでいく過程で明らかになっていくことだと思います。

さて、原作がアニメに追い付いていないという異例の事態に生暖かい目でいた今日此の頃ではあるものの、
アニメ第2期が終了しても冷めないメディアミックス展開でまだまだIS〈インフィニット・ストラトス〉は続いていくものかと思います。
『よくもまあ続いていくものだ』と感心しながら、なんでもいいから『早く原作第10巻を出しなさい!』というのが筆者の正直な気持ちです。
恋愛アドベンチャーゲームの第2弾が出るのはいいけど、そろそろ完成版ハイスピードISバトルアクションゲームが出てもいいんじゃないかと。

では、大きく間が空きますが、今日まで筆者のIS〈インフィニット・ストラトス〉の二次創作シリーズを読んでくださった皆様方、


――――――本当にありがとうございました。


貴重な時間を使って読んでくださっているわけなのですから、今度はもっともっと楽しく読んでいけるものにしたいと思うので、
またこうやって投稿できる日がきて、皆様方の目につきますことをお祈り申し上げます。
広げた風呂敷をちゃんと畳めるように精進努力いたします。


それでは、またいつか――――――。


改めて、ご精読ありがとうございました。


引用: 一夏(23)「人を活かす剣!」 千冬(24)「お見せしよう!」