206: 2012/05/29(火) 21:29:17.85 ID:YJ7UftPwo
>>1です。


(課長との期首面談が近付いていて)辛いです。胃が痛くなるので…

垣根「言ってるだろう、俺に常識は通用しねえって」【前編】

207: 2012/05/29(火) 21:31:23.91 ID:YJ7UftPwo
「どけ。そこのゴミを片付けられねェだろ。」

「嫌です!!!」

一方通行の冷たい声にも、飾利は一歩も引かずに言い返した。


「事情もろくに知らねェガキが俺の手を煩わせるンじゃねェ。
 ……もォ一度だけ言うぞ。『どけ』。」

一方通行が飾利を睨みつけ、もう一度同じことを言った。

だが、先ほどとは比較にならない程の威圧感を放っていた。

208: 2012/05/29(火) 21:34:02.99 ID:YJ7UftPwo
刃物の様に鋭く、炯炯とした紅い双眸、

静かな、だが有無を言わせぬ迫力を孕んだ声、

何より、全身から吹き出す、暴力的かつ圧倒的な覇者の風格。


あれをその身に受ければ、暗部の人間といえども恐怖に竦みあがるだろう。
まして、表世界でぬくぬくと生きている連中が耐えられるはずがない。


これが学園都市第一位、一方通行か。

俺とでは次元が違いすぎる。
こんな怪物に俺は勝つつもりでいたのか。
我ながら思い上がりも甚だしかった。


だが、その異次元の怪物を前にしてもなお、


「いいえ、どきません!!!あなたにこの人は殺させません!!!」


飾利は、己の意見を曲げることはなかった。

209: 2012/05/29(火) 21:36:45.99 ID:YJ7UftPwo
「何でだ?何でオマエはそォまでしてそいつを庇う?
 オマエが庇おォとしているのは最低のクズ野郎だ。
 事実、オマエ自身も豚畜生みてェに殺されかけただろォ?
 なのに何で、そンなガタガタの身体を引きずってまでそいつを庇おォとする?」


その通りだ。飾利がしていることは、正気の沙汰ではない。

自分を殺そうとしたクソ野郎を庇うために、満身創痍の身体を引きずり、
学園都市最強の怪物に真正面から立ち向かっている。


何故こいつはそこまでできる?信念を貫くとかそういうレベルの話ではない。

一方通行も同様の疑問を持った筈だ。



だが、飾利の語る理由は、この上なく単純明快だった。

210: 2012/05/29(火) 21:38:10.55 ID:YJ7UftPwo
「何でですって?そんなの、当たり前じゃないですか!」



「大好きな男の子が殺されそうになっているのに、黙っていることなんか出来ません!!!」

211: 2012/05/29(火) 21:39:28.72 ID:YJ7UftPwo
「馬……鹿…野……郎、……俺なん…か…に……構う…な。早く……、逃げ…ろ。」

俺は声を振り絞り、飾利に逃げるよう呼びかけた。
さっきは殺そうとしていたくせに、よくもぬけぬけと言えたものだ。


「それはできません。今ここから立ち去ったら、二度とあなたに会えなくなりますから。」

「何……言っ…てや……が……る。そん…な…場合じ…ゃ……」


だが、俺の言葉を、飾利は聞き入れない。

212: 2012/05/29(火) 21:45:40.46 ID:YJ7UftPwo
「……帝督、私、ずっと帝督のことを捜していたんですよ。
 そして、あなたを捜すために、私はこの街でのあなたの足跡を追いました。
 あなたがかつて風紀委員だったこと。
 学園都市第二位の超能力者になっていたこと。
 ……そして、その日を境に、行方をくらましてしまっていたこと。」

飾利は、ゆっくりと、静かに語る。


「その後あなたがどうしているかは、全く分かりませんでした。
 『垣根帝督』という学生について一般生徒が閲覧できる情報の限界は、
 『未元物質という能力を持つ、第二位の超能力者』ということまで。
 合法非合法問わず、あらゆる手段を用いてあなたのことを調べ上げましたが、有益な情報は得られませんでした。
 長点上機学園に在籍しているとあっても、学籍上だけの話で登校してはいない。
 住所も、連絡先も、全てが出鱈目。本当にお手上げでした。」

そいつは当然だ。

学園都市の暗部、それも最深部に近いところにいる俺の情報が、そう易々と調べられるはずがない。

213: 2012/05/29(火) 21:47:31.43 ID:YJ7UftPwo
「でも、それでもようやく、こうして会えましたね。
 お久しぶりです、帝督。私、ずっとずっと、あなたに伝えたいことがありました。
 あなたと別れた日から、何度も何度も自分に問いかけて、ようやく確信を持てた、私の気持ち。
 あなたに会えたなら、真っ先に伝えようと思っていた、私の想い。」



飾利は、俺の方を振り向き、憔悴しきった顔に精一杯の笑みを作り、

214: 2012/05/29(火) 21:49:15.57 ID:YJ7UftPwo





「私、初春飾利は、垣根帝督のことを、愛しています。」


そう、はっきりと口にした。





215: 2012/05/29(火) 21:53:44.27 ID:YJ7UftPwo
それは、俺がずっと渇望していたもの。
幾度夢に見たか分からないほど欲したもの。

それは、暗部に落ちてからも変わらなかった。
そして、その度に俺には資格が無いと、自分に言い聞かせてきた、手に入るはずのないもの。


「飾……利……お…前……」

「ですから、こんなところであなたを氏なせるわけにはいきません。
 あなたと一緒にしたいこと、話したいことが沢山あるんですから。」


それなのに。こんな最期の最期に、それが手に入るとは。

この瞬間、間違いなく俺は、幸福の絶頂にいた。


同時に、俺が今なすべきことをする覚悟が決まった。

216: 2012/05/29(火) 21:57:58.06 ID:YJ7UftPwo
「ア……一…方通…行……」

「……何だ?」

俺の呼びかけに、それまで俺達の様子を静観していた一方通行が返事をする。


「俺を……殺せ。」


俺が、今この場で、一方通行に殺されること。
俺の命と引き換えに、飾利をアレイスターの監視から解放してやること。


それが、俺が飾利にしてやれる、最後のことだった。

217: 2012/05/29(火) 22:00:47.40 ID:YJ7UftPwo
「て、帝督!!!あなたは何を言っているんですか!!!???」

飾利が悲鳴に近い声をあげ、俺の元に寄ってきた。


「……聞…け、…飾…利。お前…は、……学園…都…市か…ら、監…視され…てい…る。
 アレイ…スター…が、……統括…理事…長が……、俺を…働か…せ…る…ため…に。
 だが、……俺が…こ…こで氏…ね…ば、……お前…を監視…す…る理由が…なく…なる。
 だか…ら……」

「そんな言葉、聞きたくありません!私は、帝督とずっと一緒にいたいんです!!!」

「頼…む……聞き…分け…て…くれ……」


飾利は嫌だ嫌だと俺に縋りついて泣きじゃくっていた。

お前に気付かず、お前を頃しかけた俺を、俺の様な悪党を、そんなにも想ってくれるのか。


本当に、俺には過ぎた幸福だ。冥土の土産としては十二分に過ぎる。

218: 2012/05/29(火) 22:02:32.85 ID:YJ7UftPwo
「今生の別れは済ンだかァ?ならさっさとそこをどけ。」

一方通行が無慈悲に言い放つ。


「嫌です、止めてください!!!この人を殺さないでください!!!」

飾利は涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、なおも俺と一方通行の間に立ちふさがる。


「止め…ろ、……飾利…。もう、……いい。もう……いい…ん…だ。」

そうだ、俺はもう、十分に満たされた。これ以上を望むなど、許されるはずがない。


「駄目です!私を置いて勝手に氏ぬなんて、そんなこと絶対に許しません!!!」


それでも飾利は、どこまでも自分を曲げなかった。

219: 2012/05/29(火) 22:04:19.21 ID:YJ7UftPwo
「あーあ、全くよォ。
 片方は自分を殺せとほざくし、もォ片方はそォはさせないと邪魔をする。
 めンどくせェ連中だ。なら、もォこれでいいだろォ。」

一方通行は心底面倒そうに呟くと、拳銃をしまい、代わりに首筋のチョーカーに手を掛けた。


「えっ……。」

そして、飾利に近づき、その首筋に手を添えた。


その瞬間、飾利は糸の切れた人形の様に、そのまま倒れ伏した。

220: 2012/05/29(火) 22:05:13.60 ID:YJ7UftPwo
「テ、…テメ…ェ、……飾利…に…何…を…した……」



「あァー、『頃した』。」




俺の問いに、一方通行が、この上なく単純な事実を告げた。

221: 2012/05/29(火) 22:09:39.17 ID:YJ7UftPwo
「な……!!!」

「俺もオマエらのせいで朝から仕事で疲れてンだよ。
 なのにこンなめンどくせェ押し問答をしてたら、いつまで経っても休めねェ。
 ならいっそ、オマエら二人とも頃した方が手っ取り早いだろォ。
 一般人の氏体回収やら証拠隠滅やらは手間がかかるだろォが、
 そいつは下っ端の仕事だ。俺には関係ねェ。」

一方通行はやれやれと首を振る。


「う、嘘……だろ……飾…利……」

俺は飾利の亡骸を呆然と見つめていた。

怒りと、悲しみと、憎しみで、訳が分からなくなっていた。
だが、指一本動かせない今の俺では、仇を討つどころか、亡骸に手を伸ばすことすらできなかった。


「こ、こ…の野…郎……この野……郎……!!!!!
 殺…し…てや……る。……頃し……て…やる……!!!!!」


それでも涙の溢れる瞳に、ありったけの殺意を込めて、一方通行を睨みつけた。

222: 2012/05/29(火) 22:10:50.94 ID:YJ7UftPwo
「そォいきり立つな。オマエもすぐ頃してやるからよォ。」

一方通行は俺の様子など気にも留めない様子で俺の元に近づき、首筋に手を伸ばす。



「じゃァな。あの世で勝手に仲良くやってろよ、クソ野郎共。」



そして、俺の意識もそこで途切れた。

223: 2012/05/29(火) 22:12:08.44 ID:YJ7UftPwo



「あァー、土御門か?俺だ。今仕事が終わったところだ。
 すぐに迎えを寄こせ。場所は……だ。
 それと、氏体回収班も一緒に寄こせ。二人分の回収だ。
 俺も疲れてンだ。連中にとっとと来ねェとぶち頃すっつっとけ。」



229: 2012/05/31(木) 22:29:09.10 ID:cznTVi1lo
10月12日 学園都市某学区 喫茶店


そこには、3人の少女達が屯していた。


しかし、彼女達の顔は暗い。

彼女達の共通の友人が、先日から行方不明になっていたためだ。

230: 2012/05/31(木) 22:30:33.67 ID:cznTVi1lo
「今日で3日か……。佐天さん、黒子、何か進展はあった?」

活発そうな顔立ちのショートカットの少女、御坂美琴は、浮かない顔で口を開いた。


「いいえ、全く。相変わらず学校には顔を出していませんし、寮にも戻っていません。
 携帯に連絡しても梨の礫ですし、私を含め、誰にも行き先を告げていませんでした。」

御坂の手前に座っていた長い黒髪の少女、佐天涙子は、ため息をつきながら答えた。


「私の方も同じですわ。方々で目撃証言を募ってみましたけれど、
 どうにもちぐはぐで、信頼できそうな情報はありませんでした。」

同じく御坂の隣に座っていたツインテールの少女、白井黒子も、首を横に振った。

231: 2012/05/31(木) 22:31:36.52 ID:cznTVi1lo
「そう……私の方も監視カメラの映像履歴を調べてみたけど、
 映っているものは見つからなかったわ。
 ……本当、初春さんったら、どこに行っちゃったんだろう。」

二人の報告を聞き、御坂も大きくため息をついた。


また、その場が重い空気で満たされた。

232: 2012/05/31(木) 22:32:47.39 ID:cznTVi1lo
「ま、まあまあ、二人とも、そんなに気落ちすることないんじゃないですか!
 ああ見えて初春は強かなところがありますし、そのうちひょっこり帰って来ますって!」

場の空気を少しでも明るくしようと、佐天は努めて明るく振舞った。
だが、根拠も無く大丈夫と言い切るあたり、空元気であることは明らかだった。


「そ、そうよね!考えすぎかもね!」

それでも、彼女の気持ちを察して、御坂は少しだけ明るい表情になった。

おそらく誰よりも心配しているはずの彼女がこうして気丈に振舞っているのだから、
自分も落ち込んでいるわけにはいかないと思ったからだ。


しかし、白井だけは、相変わらず表情を曇らせたまま、何かを考え込んでいた。

233: 2012/05/31(木) 22:35:18.91 ID:cznTVi1lo
「ど、どうしたの、黒子?そんな怖い顔して?」

「……すみません、お姉様。ただ少し、引っかかることがありまして。
 ……お姉様、本当に初春が映っていた映像は『無かった』のですか?」

御坂が白井に声をかけると、白井はかなり真剣な様子で問い詰めてきた。
その様子に、御坂も少々気圧された。


「え、ええ。初春さんが行方不明になった10月9日の映像履歴は、可能な限り調べたけど、影も形も無かった。
 それは、絶対に間違いなかったわ。」

御坂の言葉に嘘はなかった。
彼女は自らの能力をもって学園都市中のカメラをハッキングし、全ての映像を調べ上げていた。
超能力者たる自分が、その過程で調査漏れなどやらかすはずがないという確信もあった。


「そうでしたか。ではやはり不自然ですわ。]



だが、白井の疑問点は、そこではなかった。

234: 2012/05/31(木) 22:36:25.97 ID:cznTVi1lo
「どういうこと、白井さん?」

佐天は、分からないといった様子で白井に問う。


「私も先程申し上げたように、方々から目撃証言を募りました。
 その過程で有益な情報は得られませんでしたが、
 それらしい人物を目撃した方が『いないわけではなかった』のです。
 なのに、お姉様は監視カメラの履歴を調べても『影も形も無かった』と仰いました。
 これは、どう考えても不自然ではありませんの?」

「そ、そうね……」

「た、確かに……」


白井の指摘に、二人も同意する。

235: 2012/05/31(木) 22:37:38.59 ID:cznTVi1lo
「初春があの日、一日中自室にいたわけではないことは分かっておりますの。
 初春が常に監視カメラの氏角を歩き続けるとは考えにくい。
 それに、目撃者全員がカメラの氏角をカバーした証言をするというのも不自然。
 それでも、こう考えれば辻褄は合いますわ。
 初春は監視カメラに映っていなかったのではなく……」

「まさか……」

「それって……」


二人も、白井の考えを予測し、息を呑んだ。





「「「何者かが、監視カメラの映像履歴に細工を施した。」」」

236: 2012/05/31(木) 22:39:26.24 ID:cznTVi1lo
「で、でも何でそんな必要が?初春の行動の痕跡を消して、何の意味があるの?」

佐天は空元気を出す余裕も無くなり、狼狽した様子で疑問をぶつけた。


「いえ、さすがにそこまでは……それでも、証言の中に、気になるものがありましたの。」

白井がそう言うと、御坂も佐天も、静かに耳を傾けた。


「お二人とも、あの日、大規模な能力者同士のぶつかり合いがあったのはご存知でしょう?」


二人はそれに頷いた。

あの日、学園都市のとある地域で、二人の能力者の争いがあった。
彼女らはそこに居合せたわけではなかったが、映像越しに現場を見てその異常性は感じていた。


現場一帯の破壊規模も異常だったが、
それ以上に氏者はおろか、目立った負傷者すら誰もいなかったというのが異常だった。

237: 2012/05/31(木) 22:41:47.66 ID:cznTVi1lo
「現場に居合わせた方の証言によりますと、
 争っていたのは、二人の能力者らしき人物だったそうですの。
 一人は、ホストの様な風貌の長身の殿方、
 そして、もう一人は、白髪に紅い瞳をした、痩せぎすの殿方だったそうですの。」


白井の口調に、佐天は嫌な予感を感じ取った。


「その中心で、初春らしき少女が二人の間に割って入っていった。ということでしたの。」


そして、それは的中してしまった。

238: 2012/05/31(木) 22:44:43.03 ID:cznTVi1lo
「そ、そんな!!!白井さんも知っているでしょう!?
 あの現場の光景は尋常じゃありませんでしたよ!!!
 戦闘技能のない初春が、何でそんなところに!!!???」

「……私にも分かりませんの。直接、その場に居合わせたわけではありませんし。
 第一、この証言もどこまでが真実なのか、定かではありません。」

白井は佐天の悲鳴に近い声を受け流し、更に続けた。


「ただ、これを信じるなら……その争いは、白髪の殿方の圧勝だったそうですの。
 そして、白髪の殿方が長身の殿方を殺そうとした時、初春がその殿方を庇った。
 その後、その殿方と口論になった末、昏倒させられ、連れ去られた。
 ……というのがその方の証言でしたけれど。」

「じ、じゃあ、早く助けにいかないと!!!風紀委員や警備員は何をしているんですか!!!???」

「落ち着いてください佐天さん。……それに、ここからが奇妙な点ですの。」


今にも掴みかからんばかりの勢いの佐天を制し、白井は続けた。

239: 2012/05/31(木) 22:47:08.18 ID:cznTVi1lo
「別の方の証言では、初春は現場近くのオープンカフェで、
その長身の殿方の方から暴行を受けていた。とも伺いましたの。
いくらあの初春でも、自分を暴行した人物を身を呈して庇うというのは些か不自然ではありませんこと?
それに、争った二人についても、事件についても詳しい報道は一切されていない。
初春の捜索についても、警備員は『あの事件において行方不明者はいない』の一点張り。
どうにもちぐはぐで、一体何が真実かそうでないのか、全く分かりませんの。」


「そんな……じゃあ結局、何一つ手がかりはないってこと……」

佐天はとうとう意気消沈し、白井もまた黙り込んでしまった。
だが、二人ともすぐに、妙な雰囲気に気付いた。


「「御坂さん(お姉様)?」」


御坂美琴が、先ほどから一言も喋らず、黙り込んだままだった。
顔面は蒼白どころか、土気色を呈していた。


「……私、そいつを知ってるかも……」


二人に呼ばれ、ようやく御坂は、言葉を絞り出した。

240: 2012/05/31(木) 22:47:50.93 ID:cznTVi1lo
「そいつ?そいつとは、どちらの殿方ですの?」

「白髪の、紅い目をした男……」

「ど、どんな人なんですか?御坂さんの知り合いですか!?」


二人に問われ、御坂はその答えを口にした。





「学園都市第一位、一方通行……」

241: 2012/05/31(木) 22:48:40.35 ID:cznTVi1lo
「だ、第一位!?お姉様、それは本当ですの!?」

「じ、じゃあ初春は、その第一位に誘拐されちゃったかもしれないってこと!?」

「……分からない。けど、そんな特徴的な風貌の男、アイツ以外に思いつかない。」



狼狽する白井と佐天とは対照的に、御坂はなおも土気色の顔のままだった。

242: 2012/05/31(木) 22:52:33.27 ID:cznTVi1lo
「お姉様、……その第一位の殿方は、どの様な方ですの?」

白井が恐る恐る尋ねた。


「恐ろしい奴よ。
 粗暴で、残虐で、冷徹で、人を頃すことに一切の躊躇いを持たない悪魔よ。
 さっきの証言だと、昏倒させられたって言ってたけど、もしかしてそれは……」

御坂は、その先に言葉が続かなかった。
言えば、本当にそうなってしまいそうな気がした。


「そ、その人を倒して、初春を助けられないんですか?
 いくら第一位といっても、御坂さんだって第三位ですし、戦って勝てないことも……」

今度は佐天が尋ねた。
少しでも不安を払拭したいという意図が見える質問だった。


「強いなんてものじゃないわ。私とでは次元が違いすぎる。
 正直、アイツが本格的に絡んでいたとしたら、……私ではどうしようもない。
 私なんかが挑んでも、何もできず、虫けらの様に殺されるだけ。」


「そんな……」

二人は絶句した。
御坂の実力は、二人とも良く知っていたし、また信頼していた。


その御坂に、そこまで言わせるとは、第一位とはどれほどの怪物なのか。

243: 2012/05/31(木) 22:54:34.72 ID:cznTVi1lo
「で、でも、まだ一方通行が絡んだと決まったわけじゃない。
 今私達に出来ることは、少しでも初春さんの情報を集めることくらいでしょう。
 だから、ね、元気出していきましょう。」

御坂はそう言って、今度は明るく笑った。
だが、御坂を含め、その場の全員が、言い知れぬ不安を拭い去れずにいた。


行方不明の初春飾利。

ちぐはぐな目撃証言。

不自然な報道規制と監視カメラの映像。

その後ろに見え隠れする、学園都市第一位の影。



「(初春、一体どこでどうしてるのよ……?)」



佐天涙子は、誰にでもなく一人呟いた。

248: 2012/06/02(土) 19:59:12.14 ID:LTMHRcJoo
「……ん?ここは……?」

気が付けば俺は、見たことのない部屋のベッドに横たわっていた。


「て、帝督!!!気が付いたんですね!!!」

ふと見ると、部屋に入ろうとしていた飾利が、俺の元に駆け寄ってきた。
俺に縋りつき、目には涙を溜め、よかった、よかったと繰り返していた。



……って、飾利?



「待て、ここはどこだ?何でお前は生きている?何で俺も生きている?」

そうだ。俺はあの時、飾利と共に一方通行に殺された筈だ。
殺される瞬間のこともはっきり覚えている。
だが、全身に走る痛みや、肉体の感覚は、紛れもなく現実だ。


「え、えっと……帝督の言っていることが、いまいち分からないんですが……」

混乱する俺を見て、飾利は困ったように頬を掻いた。

249: 2012/06/02(土) 20:00:38.34 ID:LTMHRcJoo
じゃあ分かることだけでいい。今の俺達がいる状況を教えろ。」


「はい。まず、今日の日付ですけど、10月12日です。
 あの白い男の人…一方通行さんでしたっけ?
 あの方が、私達を眠らせた後、ここに運び込んでくださったらしいです。
 私はすぐに意識が戻ったんですけど、帝督は、それからずっと目を覚まさなくて、
 私、心配で心配で……」


「俺は3日間も眠ったままだったのか……というかあの野郎、俺達を頃すとか言っときながら、謀りやがったな。」


「あ、あはは……」


俺の不機嫌そうな顔を見て、飾利は愛想笑いを浮かべた。

250: 2012/06/02(土) 20:02:31.89 ID:LTMHRcJoo
「それと、私達がいる場所ですが、
 一方通行さんが仰るには、『グループ』の隠れ家の一つ……らしいです。
 『グループ』というのが、私にはよく分かりませんが、察するに組織名でしょうか?
 隠れ家の場所は教えてくれませんでしたし、外に出るのも、許してもらえなかったんですけど。」


なるほど、要するに俺達は、奴らに捕まったというわけか。

その証拠に、俺の身体は、怪我の治療こそ施されていたが、『ピンセット』は没収されていた。


だが、その割には俺も、飾利も拘束されているわけではない。

飾利はともかく、俺を拘束しないのは無用心というものだろう。

251: 2012/06/02(土) 20:05:15.05 ID:LTMHRcJoo
「それとですね。一方通行さんに外に出られない理由を伺ったんですけど、
 『オマエらは上層部のクソ共に狙われる可能性があるから、外には出せねェ。
 だからほとぼりが冷めるまで、当分ここで氏ンでろ。』ということでした。
 どうにも、私には意味がよく分からなかったんですが。」


俺もどういうことだと悩んでいると、部屋に何者かが入ってきた。


「よう。目が覚めたようだな、垣根帝督。」

「ケッ……」



それは、一方通行と、サングラスにアロハシャツを纏った、金髪の大男だった。

252: 2012/06/02(土) 20:06:23.30 ID:LTMHRcJoo
金髪の男には見覚えがあった。

資料で見たことがある。『グループ』のリーダー格、土御門元春。
性格は冷酷非情、恐ろしく狡猾な頭脳と、優れた格闘術を併せ持つ男だったはずだ。


「どういうことだ?何故『グループ』は、俺を生かしている?
 何故、こいつ共々、俺を保護するような真似をした?」

「どういうことも何も、お前の言う通りだ。
 一方通行が、上層部の連中からお前達を匿うために、こうして保護したんだよ。」


俺の詰問に、土御門は明快に答えた。

253: 2012/06/02(土) 20:10:17.23 ID:LTMHRcJoo
「何だと?一方通行が俺達を匿ってくれた?ますます訳が分からねえ。
 こいつが俺を生かす理由が見つからねえ。第一、頃すと明言したくせによ。」


「何だ?お前そんなことを言ってたのか。素直じゃないな。嘘吐きは俺だけじゃなかったってことか。」

「オマエと一緒にすンじゃねェよ、胸糞悪ィ。
 俺はあン時、ただとっとと仕事を終わらせて帰って寝てェと思っただけだ。
 それに、嘘は言ってねェ。俺はコイツらを当分ここから出す気はねェ。
 俺がコイツらにここで氏ンでることを強要してンだから、俺が頃したのと同じだろォ。」


一方通行が不機嫌そうに顔を歪め、そっぽを向いた。

254: 2012/06/02(土) 20:11:57.25 ID:LTMHRcJoo
「まあこいつはこう言ってるが、本心ではお前達のことを心配していたんだ。
 とりあえず、意識が戻って良かったな。とだけは言っておいてやる。」

「俺の意見を捏造すンなクソボケ。そのグラサン叩き割ンぞ。」

軽い笑いを浮かべる土御門と、更に不機嫌そうにする一方通行。
こいつらのどこからどこまで信用すればいいのか、俺は計りかねた。


「じゃあ、俺達はお前の様子を見に来ただけなんで、この辺で退散する。
 この隠れ家のセキュリティは完璧だから、安心してゆっくり休むといい。
 そっちのお嬢ちゃんとも、積もる話があるだろうしな。」

そう言うと土御門は、一方通行を連れてさっさと部屋を出て行った。



「………………」

「………………」



部屋の中に、しばし静寂が訪れた。

255: 2012/06/02(土) 20:13:09.25 ID:LTMHRcJoo
「「お、おいっ!(あ、あのっ!)」」

俺は飾利に話しかけようとしたが、見事に被ってしまった。


「あ、て、帝督からお先にどうぞ。」

「あ、ああ、そうか。」

俺はあたふたしつつ、先に話すことにした。
いかん、どうもタイミングがずれてる。

256: 2012/06/02(土) 20:14:36.74 ID:LTMHRcJoo
「あ……その、お前のその腕だが……」

俺は飾利の右腕に目をやる。腕を吊った姿が何とも痛々しかった。


「あ、これですか?大丈夫ですよ。
 治療班の方が仰るには、肩が外れただけで折れてはいなかったそうですから。
 安静にしていれば、後遺症も無く回復できるそうです。」


「そうか、その……謝ってすむ話じゃないが、……本当にすまなかった。
 あの時俺は、本気でお前を……」

「……いいんですよ。もう。
 帝督も、私も、今ここにこうして生きています。だから、それで十分です。」


飾利はそう言って、健気に笑顔を作る。
そんな飾利を見ると、胸が締め付けられる思いだった。

257: 2012/06/02(土) 20:16:42.83 ID:LTMHRcJoo
「……今度は、私が話していいですか?」

「……ああ。」

俺の返事を聞くと、飾利は、静かに語り始めた。


「あの日、あなたに声をかけられた時、名乗られた時は、私、本当に驚きました。
 ずっと捜していたはずの人が、突然現れたんですから。
 でも、あなたは私に気付かないし、
 あの子を捜していると言っていたあなたはどう見ても悪人でしたし、
 その上、私に気付かずに私を殺そうとするし……あの時は凄く痛かったですし、怖かったです。
 でもそれ以上に、私の知っている帝督はもういないんだって思って、凄く悲しかったです。」

本当に、俺は馬鹿だ。
何で、こんな大事なことに気が付かなかったんだ。

258: 2012/06/02(土) 20:18:01.89 ID:LTMHRcJoo
「それでもせめて、私が誰だったか気付いてほしくて、あなたに呼びかけたんです。
 あの時あなたは、確かに私に気付いて、名前を呼んでくれましたよね。思い留まってくれましたよね。
 あの時私、とても安心しました。
 だって、あの時のあなたの顔は、遠い昔の記憶の中のあなたそのままでしたから。」


それは違う。

あの時までの俺は、紛れも無い外道でしかなかった。
飾利が呼びかけてくれなければ、永遠にあのままだったろう。

259: 2012/06/02(土) 20:19:13.60 ID:LTMHRcJoo
「あなたは変わってしまってなんかいなかった。
 昔の、私の知っている、私の大好きな帝督のままだった。
 ですから、私の気持ちも変わりませんでした。」



「さあ、今度はあなたの返事を聞かせてください。」



そう言ってきた飾利の表情は、とても穏やかで、とても魅力的だった。

260: 2012/06/02(土) 20:21:24.93 ID:LTMHRcJoo
「俺の……返事?」

「はい。あの時のあなたは、自分が氏ぬと言うばかりで、返事をしていません。
 ですから、今ここで、私の告白への返事を聞かせてください。」


俺の返事だと。そんなもの、決まっている。


だが、俺は本当に、自分の正直な気持ちを述べていいのか。

261: 2012/06/02(土) 20:22:28.64 ID:LTMHRcJoo
「……飾利。俺が今までこの街で何をしてきたか、分かっているのか。」

俺もまた、静かに語り始めた。


「……詳しくは分かりませんけど、大凡の想像は付きます。」

「いや、実際はお前の想像を遥かに超える。
 俺はこの街の闇に落ちて以来、様々な汚れ仕事を請け負ってきた。
 文字通りの、血で血を洗う凄惨な世界に身を置いていた。
 何人をこの手に掛けたかなんて、とうに忘れちまった。」


「…………」


飾利もまた、黙って俺の話を聞いていた。

262: 2012/06/02(土) 20:24:23.19 ID:LTMHRcJoo
「分かったか。一方通行の言う通り、俺は最低のクズ野郎なんだ。
 お前のそばにいても、お前をきっと不幸にしちまう。いや、既に不幸にしちまってる。
 だから、俺は、お前の気持ちには……」

そうだ。俺にそんな資格は無い。どんなに欲しくても、受け取ることなど出来ない。


「……帝督、それは本当に、帝督の本心ですか?」

だが、そんな俺に飾利は、俺の顔を見据えて聞いてきた。
その表情は、悲しそうなものではなく、むしろ咎めるようなものだった。


「そ、それは……」

違う。と言いたかった。でも、言うわけにはいかなかった。

「いいんですよ。今まで帝督が何をしてきたとしても。
 あなたのことですから、何か止むを得ない事情もあったんでしょう。
 だって、あなたはあの頃から、何も変わっていないんですから。」


そんな俺の心を見透かしたように、飾利は表情を緩め、今度は優しい口調になった。

263: 2012/06/02(土) 20:26:17.25 ID:LTMHRcJoo
「私はあなたの全てを受け入れます。
 あなたが犯した罪は、私が半分背負います。
 あなたが陽だまりの元を歩けないのなら、私があなたを照らします。」

「飾利……」

まるで悪童を諭す母親のように、飾利は俺を優しく諭す。
決意が鈍る。自分の本心をぶちまけたくなる。


「だから、自分を偽る必要なんか無いんです。
 どうか、あなたの正直な気持ちを聞かせてください。
 垣根帝督。私の、愛しい人……」



そう言って飾利は、もう一度、穏やかに微笑んだ。

264: 2012/06/02(土) 20:27:31.19 ID:LTMHRcJoo
「はあ、昔お前には散々クサい台詞を吐くだの、恥ずかしくないのかだの言われたが、
 今のお前の台詞も、大概だったぞ。」

俺は薄く笑い、少々茶化すように言ってやった。


「あら、だとしたら私も帝督に毒されたんだと思いますよ。」

飾利もさらりと言い返してくる。冗談であることが分かっているから。
まったく、大した女だ。


「……なら、いいんだな。俺の気持ちを伝えても。」

「はい。いつでもどうぞ。心の準備は万端です。」

飾利は表情を整え、空いている左手では握り拳を作った。
そんな身構えるもんなのか?


「おう。だったら、……これが俺の返事だ。」

「えっ!……んんっ……!!!」



俺は飾利を自分の方に引き寄せ、飾利の唇を自分の唇で塞いだ。

271: 2012/06/09(土) 20:58:36.28 ID:0hbbRHj5o
暫くして、俺達は唇を離した。


「どうだ、伝わったか?」

俺は飾利に向かって、ニヤッと笑って見せた。
飾利は、しばらく惚けていたが、やがて火がついたように顔を赤くした。


「な、な、な……て、帝督!いきなりな、何をするんですか!!!」

「何って、そりゃあ、俺の気持ちを伝えただけだ。」

「だ、だったら!く、口で言えばいいじゃないですか!そんな、いいいきなりキ、キ…………」


飾利の顔はもう茹で蛸のようになり、声も小さくなっていった。

やべえ、何だこの可愛い生き物。

272: 2012/06/09(土) 21:00:55.25 ID:0hbbRHj5o
「そう照れるなよ。好き同士なんだから別に構わねえだろ。それとも何だ?お前は嫌だったのか?」

俺はニヤニヤしながらからかうように言う。


「そ、そういうことではなくてですね!
 私はこういうの、は、初めてだったんですよ!!!それをこんな、不意打ちみたいに……」

「何だ、お前初めてだったのか。そいつは光栄だな。
 まあそれならいいだろ。俺も初めてだし。何なら初めてついでに更に続きもするか?」


「も、もう!!!前言撤回です!!!やっぱり私は帝督なんかに毒されていません!!!この脳内お花畑!!!」


飾利は頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向いた。

そんな仕草すら、愛らしくて堪らなかった。

273: 2012/06/09(土) 21:02:10.68 ID:0hbbRHj5o
「あー、悪かったよ。機嫌直してくれ。」

俺は飾利を抱き寄せ、よしよしと頭を撫でてやった。
飾利はまだ頬を膨らませていたが、満更でもなさそうだった。


「……だったら。」

飾利が俺の顔を、甘えるように見上げてきた。ああ、これは必殺の角度だ。


しかも、


「もう一度、今度はちゃんと、キスしてください。」


こんなことを言われては、俺ももうお手上げだ。

274: 2012/06/09(土) 21:03:55.77 ID:0hbbRHj5o
「まったく、飾利は甘えん坊だな。」


「い、いいじゃないですか。やっと帝督に会えたと思ったのに、あんな痛くて怖い目にあって……
 それでもこうして気持ちが通じ合えたんですから。
 それに、私の方が年下なんですし、少しくらい甘えたっていいじゃないですか。」


そう言って甘えてくる飾利も、実に愛らしかった。

やばいな、こんなに幸せでいいのか、俺。

275: 2012/06/09(土) 21:05:09.34 ID:0hbbRHj5o
「よし、じゃあ、目を閉じろ。」

俺は飾利と向き合い、指示を出す。


「はい……」

飾利も、俺の指示通りに目を閉じる。顔は相変わらず赤い。

俺も、飾利の唇に、ゆっくりと自分の唇を近づけた。
そして、互いの唇が数cmまで近づいたところで、


「……ちょっとお二人さん。イチャイチャするのは結構だけど、いい加減私のことにも気付いたらどうかしら。」


ドアのところに立っていた、派手なドレスを纏った少女が声をかけてきて、


「「へっ!!!???」」


俺達二人は、揃って間抜けな声を上げた。

276: 2012/06/09(土) 21:06:15.69 ID:0hbbRHj5o
ドアのところに立っていたのは、『スクール』の同僚、心理定規の女だった。
いつからそこにいたのか、俺達の方をジ口リと睨んでいた。


「メ、心理定規さん!どうも、こんにちは!」

飾利が弾かれた様に俺から距離をとった。
恥ずかしさゆえの行動とは分かっていても、これはショックだった。


「ええ、こんにちは。あなたは今日もこの人のところに来てたのね。」


心理定規は、そんな飾利を一瞥し、素っ気なく挨拶を返した。

277: 2012/06/09(土) 21:08:37.22 ID:0hbbRHj5o
「メ、心理定規……お前何でここに?」

「あなた達と同じ。『グループ』に保護されたのよ。
 あの日アジトを出た後、『グループ』の胡散臭い笑みを浮かべた男…海原光貴だったかしら。
 彼に襲撃されて、その時に言われたのよ。
 『貴女方のリーダー、垣根帝督は、我々「グループ」の一方通行が粛清致しました。
  貴女も大人しく投降してください。
  我々には、貴女に危害を加える意向も、上層部に引き渡す意向もありません。』ってね。
 全てを信じたわけじゃなかったけど、下手に抵抗しても無駄だと思って、その場は大人しく捕まったのよ。」

「そ、そうか。大変だったな。」


心理定規は、何故かカリカリした様子で捲し立て、
俺はというと、思わぬところでの思わぬ相手との再会に、しどろもどろになっていた。

278: 2012/06/09(土) 21:14:20.22 ID:0hbbRHj5o
「そ、それなのに!『グループ』のアジトに連れて来られたら、
 粛清されたはずのリーダーは意識不明とはいえ何故か生きてるし、
 その間は一般人の女の子が付きっきりで看病してるし、
 今日だって気が向いたからお見舞いに来てあげたのに、
 意識が戻ったあなたは、私を無視してその女の子とイチャイチャしてるし!」

「お、落ち着け、心理定規!お前は一体、何に対して怒っているんだ?」


俺は少々慌てて、心理定規を宥めた。

というか、こいつがこんな感情を露にするところなんか初めて見た。
いつも余裕のある態度を崩さない奴のはずだったんだが。


「フン、別に怒ってなんていないわよ!あなたは私なんかにお構いなく、その娘とイチャイチャしてれば!?」

いや、どう見ても怒ってんじゃねえか。
気付けと言ったりお構いなくと言ったり、何か言ってることも支離滅裂だし。





「何よ……私のことは見向きもしなかったくせに。」

279: 2012/06/09(土) 21:16:50.26 ID:0hbbRHj5o
「ん、何か言ったか?」

心理定規が何事か呟いたようだが、俺には聞き取れなかった。


「……いいえ、別に。あなたには関係のないことよ。
 ねえ、それよりこのバカップルどうにかならないの?こんな人達と一緒に隠れ住むなんて、目の毒なんだけど。」

心理定規は俺から視線を外すと、ドアの向こうに声をかけた。

……え、ドアの向こう?


「そう言ってやるな。お前達の元リーダーだろう。もっとも、目の毒という点については、俺も同意見だが。」

「本当、若いっていいわね。ちょっと妬けちゃうわ。」

「全くです。彼らを見ていると、自分も御坂さんとあんな風に……などと、叶わぬ夢を見ずにはいられませんね。」

「あの世で勝手に仲良くやってろとは確かに言ったが、まさかここまでとはな。」



心理定規が呼びかけると、『グループ』全員が、ぞろぞろと部屋の中に入ってきた。

280: 2012/06/09(土) 21:18:58.49 ID:0hbbRHj5o
「な、て、テメェら、いつからそこにいやがった!?」


「俺はさっき部屋を出てからずっとここにいた。」

「私はあなた達がお互い話しかけようとして被ったところから。」

「自分も結標さんとほぼ同じ辺りからですね。」

「俺は土御門の馬鹿に付き合わされた。」



「全員ほぼ最初から聞いてやがったのか!!!」


何て奴らだ!特に土御門!テメェさっき退散するとか言ってたろうが!さらりと嘘吐きやがって!

281: 2012/06/09(土) 21:20:38.84 ID:0hbbRHj5o
「はわわわわ…………」

あーあ、飾利が顔を真っ赤にして縮こまっちまった。
仕方ないので俺は、飾利を胸元に抱き寄せ、顔を隠してやった。


「いやーお熱いお熱い。こいつは確かにこっちまで当てられるな。」

「ふふ……」

「(ニコッ)」


土御門が茶化すと、結標と海原が生温かく見守るような笑みを俺達に向けてきた。
止めろそれ、無性にムカつく。


「フン……」

「…………」


いや、かといって心理定規みたいにそんなジト目を向けられても困るんだが。

一方通行に至っては、底冷えするくらい冷たい視線を俺にだけ向けてくるし。

282: 2012/06/09(土) 21:23:25.57 ID:0hbbRHj5o
「ちきしょう……テメェら傷が全快したら覚えてろよ。」

俺は苛立ち紛れに連中を睨みつけた。


「そう苛立つな。守るべき存在、大事な存在がいるということは、力の源になる。
 俺達『グループ』も、それぞれそういう存在がいて、そのために戦っているという点においては共通している。
 お前にとっては、そのお嬢ちゃんがそうなんだろう?」

土御門が急に真面目な顔になり、俺に問いかけてくる。
それは、自分の大事なものを、自分の全てをかけて守ろうとする者の面構えだった。

見れば、『グループ』のどいつも、同じ面構えをしていた。


なるほど、こいつらも、俺と同じだったのか。

283: 2012/06/09(土) 21:26:09.19 ID:0hbbRHj5o
「ああ、その通りだ。俺はこいつを守るためならば、命だって惜しくはねえ。」

俺は飾利を抱きしめる手に力を込め、土御門の問いに答えた。


「…………」

飾利もまた、無言で俺の胸に身体を預けてきた。


「フン、なら今度は、精々氏に物狂いでそのガキを守ってやることだな。
 自分の大事なモンを自分でブチ壊そォとするなンて馬鹿な真似、二度とするンじゃねェぞ。」

「ケッ、テメェに言われるまでもねえよ。」

一方通行もニヤリと笑い、俺に言い放ってきた。
こいつもまた、『妹達』の件があっただけに、何かしら思うところがあるのかもな。

284: 2012/06/09(土) 21:27:26.43 ID:0hbbRHj5o
「ねえ帝督……」

飾利が俺に身を預けたまま、甘えるような声を出した。


「何だ、飾利?」

俺もまた、優しく飾利に声をかけた。

「この数日、いろいろなことがありすぎて、まだちょっと処理が追いつかないんですが……
 それでも、これだけははっきりしているので、言わせてください。」



「私、とっても幸せです。」

285: 2012/06/09(土) 21:28:34.54 ID:0hbbRHj5o
「……そうか、俺もだ。」


「うふふ……。帝督、好き……大好きです。」

飾利はそう言うと、俺の胸に顔をうずめた。


「やれやれ……」「あらまあ……」「困りましたね……」「もう……仕方ない人達」「ハン……」


それを見て連中も、また始まったとばかりに呆れた顔をした。

まあムカつくことはムカつくが、今回だけは許してやる。



何せ、一度は諦めたはずの願いが、ようやく叶ったんだからな。

287: 2012/06/09(土) 21:36:15.17 ID:0hbbRHj5o
11月上旬 学園都市某学区 『グループ』の隠れ家


「……暇だな。」

「……そうですね。外の世界は戦争で大変だったみたいですけど。」

俺と飾利は、隠れ家の一室で、二人で寛いでいた。


俺達がここに身を寄せてから、1ヶ月ほどが経った。

あの後、『グループ』は俺から奪った『ピンセット』を使って上層部の機密事項を調べ、連中を出し抜くために動いていた。



だが、そいつはどうやら失敗だったようだ。

288: 2012/06/09(土) 21:37:23.95 ID:0hbbRHj5o
10月17日の作戦の後、ここに戻ってきたのは3人だけだった。


『グループ』は『ピンセット』からの情報を元に、統括理事会のメンバー、潮岸のシェルターに乗り込んだらしいが、
途中何者かの襲撃を受けて、気が付けば全員昏倒させられていたらしい。

誰もその時の状況を把握できておらず、更に目覚めた時には一方通行も行方不明になっていたそうだ。


更にその翌日には、ロシア側から学園都市へ宣戦布告がなされ、そこから第三次世界大戦の開戦ときたもんだ。

戦争自体は先月末、学園都市側の圧勝で終結したが、俺達がここで『氏んで』いる間に、外は随分大変なことになっていた。

289: 2012/06/09(土) 21:39:48.35 ID:0hbbRHj5o
「……皆さん、ご無事でしょうか?」

飾利は心配そうにぼそりと呟いた。

「あいつらは外見以上にタフな野郎共だ。万が一にも氏にはしねえだろう。」

そんな飾利に、俺は素っ気なく答えた。


第三次世界大戦の開戦後、『グループ』は全員、ここに一度も戻って来ていなかった。

一方通行は相変わらず行方知れず、他の連中も戦時下で独自に行動を起こすと言って出て行ったきりだから、
俺達『氏人』はどうすることもできずここに引きこもるしかなかった。
食料の備蓄や、電気水道といった最低限の設備はあるから、そういった意味で困ることは無かったが。

だが、こんな薄暗い隠れ家に居続けるのもいい加減ウンザリしてきた。


せっかく飾利がいても、ここじゃあデートも出来ねえし。

290: 2012/06/09(土) 21:40:44.61 ID:0hbbRHj5o
トントン……

そんなことを思っていたら、不意に部屋のドアがノックされた。


「空いてるぞ。」

俺が返事をすると、そいつは無遠慮に部屋に入り込んできた。


「よォ、久しぶりだな。」

「ア、一方通行!?」


入ってきたのは、行方不明中だったはずの一方通行だった。

291: 2012/06/09(土) 21:43:01.71 ID:0hbbRHj5o
「一方通行さん!今までどこに行ってらしたんですか!?」

飾利が驚いた様子のまま、一方通行に聞いた。


「ン、ちっと野暮用があったンで、ロシアまでな。」

「マジか。いねえと思ったら、戦争の最前線に行ってたのかよ。」

何の用だったか知らねえが、ご苦労なことだ。
それにしても、この化物を相手にした連中には、ご愁傷様としか言えねえな。
ん、そういえばこいつ……

俺はふと気が付き、一方通行の顔を凝視した。


「あァ?オマエ人の顔を何ジロジロ見てやがる?」

「いや……。一方通行、お前顔つきが変わったな。向こうで何かあったか?」

そうだ。こいつは以前に見た時に比べ、明らかに雰囲気が違っていた。


うまくは言えねえが、何か憑き物が落ちたというか、一皮剥けたというか。

292: 2012/06/09(土) 21:44:32.86 ID:0hbbRHj5o
「オマエに教える義務はねェよ。」

「そうか。なら俺も敢えて詳しくは聞かねえ。だが、何か得るものはあったようだな。」

「……別に大したモンじゃねェ。」

一方通行は遠回しに肯定した。なるほど、どうやら俺の気のせいではなかったようだ。


「そンなことはどォでもいいンだ。俺はオマエらに言うことがあって来たンだよ。」

一方通行は話を打ち切り、俺達に向き直って、


「オマエら、今すぐここを出て行け。」


それだけを端的に告げた。

293: 2012/06/09(土) 21:46:35.86 ID:0hbbRHj5o
「何だと?どういうことだ?」

俺は一方通行の発言に、驚き半分、期待半分に突っ込んだ。


「そのまンまだ。つい先日、俺が上層部のクソ共と取引したンだよ。
 結果、学園都市の暗部は全て解体、暗部の連中が取られていた人質も全員解放された。
 それでも暗部に留まりたがる『新入生(馬鹿共)』もいたが、俺達がお仕置きしてやった。
 そンな訳で『グループ』も解散、この隠れ家も放棄する。
 よってオマエらみてェな無駄飯食らいを飼っとく金も場所も、もォここにはねェンだ。」


「と、言うことは……」

飾利が明るい表情でその意味するところを聞き返した。


「あァ、オマエらにはそろそろ『生き返って』もらう。」

そして一方通行は、期待通りの答えを返した。

294: 2012/06/09(土) 21:47:54.91 ID:0hbbRHj5o
「マジか……」

一方通行は軽く言ってのけたが、俺は思わず絶句した。
あの上層部と取引し、暗部まで解体しただと。そんなことができるのか。


「表に出るための車の手配はしてやった。あの心理定規とか言う女は既に出た。
 俺の言うことが信じられねェなら、今すぐ外に出て自分で確かめてみろ。」

俺自身暗部に長く身を置いてきただけに、確かに俄かには信じ難かった。
だが、一方通行がこんな嘘を言うとも思えなかった。


「いや、疑いはしねえよ。」

だから、こいつがそう言うからには、真実なのだろう。

295: 2012/06/09(土) 21:48:55.56 ID:0hbbRHj5o
「帝督!ようやく私達、外に出られるんですね!!!」

「うおっ!!!」

飾利が満面の笑顔で、俺に抱きついてきた。
俺は転びそうになりながらも、何とかそれを受け止めた。


「久々に見たが、オマエらは相変わらずなンだな……まァいい、行くぞ。」

一方通行は呆れたように溜息をつき、俺達についてくるよう促した。

296: 2012/06/09(土) 21:50:17.50 ID:0hbbRHj5o
暫く歩いて、俺達は隠れ家の地下駐車場に着いた。


「じゃァ、俺はもォ行くぞ。遅くなると同居人共がうるせェンでな。
 オマエらはそっちの車に乗って、第七学区まで送ってもらえ。」

そう素っ気なく言うと、一方通行は指を指したのとは別の車に乗り込もうとした。


「あ、ちょっと待て、一方通行!」


そんな一方通行を、俺は呼びとめた。

297: 2012/06/09(土) 21:53:05.35 ID:0hbbRHj5o
「何だ?」

一方通行は一旦立ち止まり、俺の方に向き直った。


「……お前には色々世話になっちまったな。正直、感謝している。今度会ったらコーヒーでも奢るぜ。」

なんだかんだで、こいつがいなけりゃ、今の俺達の状況はなかったかもしれねえしな。


「ハッ、冗談はよせ。オマエと面を突き合わせてたら、極上のブルーマウンテンも泥水みてェな味わいになっちまう。」

俺の誘いに、一方通行は口元を少しだけ緩め、いつもの様に憎まれ口を叩いてきた。


「まあそう言うな、俺も礼がしたいんだよ。それにその時にはこいつも連れていく。
 少しくれえ不味いコーヒーでも、砂糖とミルクで甘味を付ければ、案外飲めるもんだぜ。」

「生憎俺はブラック派だ。大体その場合、甘ェのはオマエだけだろォが。」

「違いねえ。」



そう言って俺達は、お互いニヤリと笑いあった。

298: 2012/06/09(土) 21:54:25.85 ID:0hbbRHj5o
「話はそれだけか?なら俺は今度こそ行くぞ。」

そう言うと一方通行は、再び踵を返した。


「ああ。……一方通行、ありがとよ。」

「一方通行さん、ありがとうございました!」

俺達二人の言葉に、一方通行は振り向かず、片手を挙げて合図をし、車に乗り込んだ。
そして、一方通行を乗せた車は発進し、すぐに見えなくなった。


「さて、俺達も行くか。」

「はい!」



そして、俺達もまた手を繋ぎ、用意された車に乗り込んだ。

299: 2012/06/09(土) 22:00:18.54 ID:0hbbRHj5o
「うわ……もう夜じゃねえか。」

第七学区の某所に着いた頃には、辺りは既に真っ暗になっていた。
空はよく晴れており、幾つもの星が輝いていた。


「でも久しぶりに外に出たので気持ちいいですね。……ところで、帝督はこれからどうするんですか?」

飾利は俺の顔を見上げながら尋ねてきた。


「そうだな。寝床に関しては当面は適当なホテルにでも泊まるつもりだが、いつまでもそれもな。
 ……あ、そう言えば、お前の調査によると、俺は長点上機に在籍してるんだっけか?」

「はい、確かにそうでした。登校した記録はありませんでしたが。」

「まあ実際してねえし、そもそも書類上だけだったろうからな。
 だがまあ、折角在籍しているなら、『復学』してみるか。 
 住居も確保できるし、思えばもう何年もまともな学生生活なんざ送ってねえし。」

300: 2012/06/09(土) 22:03:17.76 ID:0hbbRHj5o
「いいと思いますよ。それに、折角ですから風紀委員にも復帰してはどうですか?
 一度資格を得れば、学校が変わっても継続されますし。」

飾利も笑顔で勧めてくる。よし、決まりだな。


「なら、早速明日から手続きを始めるとするか。
 それと風紀委員については第二位の権限を使って、お前と同じ支部に配属されるようにしてやる。」


おお、久しぶりの学生生活に、飾利と一緒に風紀委員の活動か。

夢が広がるな。今から楽しみだ。

301: 2012/06/09(土) 22:05:20.87 ID:0hbbRHj5o
「えっ!そ、それはちょっと……」

飾利はびくりとし、先程から一転して苦笑いになった。


「何だよ、いいじゃねえか。それともお前は、俺と一緒じゃ嫌なのか?」

「そ、そうではありませんけど、その、白井さん達に何て言われるか……」

そう話す飾利の歯切れは悪い。なるほど、同僚達の目が気になるのか。
まあ、俺には関係のねえ話だな。


「別にいいじゃねえか。まあ立ち話もなんだし、続きはホテルででも話し合うか。」

そう言って俺は、飾利の手を引き、適当なホテルを探すために歩き出そうとした。


「へ?私はこれから自分の寮に帰るつもりなんですけど……
 もう一ヶ月はほったらかしですし、どうなっているかも分からないので……」

飾利はおろおろしながら、俺の手に引かれていた。

302: 2012/06/09(土) 22:07:28.61 ID:0hbbRHj5o
「駄目だ。一方通行は暗部を解体したと言ってたが、まだ留まりたがる馬鹿がいるとも言ってたろ。
 だから本当に安全と確信できるまでは、俺が直接ついてお前の護衛をする。
 そんな訳でお前も俺とホテルに泊まるぞ。安心しろ、最初は優しくしてやるから。」

「全然安心できませんよ!下心が見え見えじゃないですか!!!」

「心配するな、自覚はある。」


やれやれ、お固い奴だ。ま、そこがまた可愛いんだがな。
さて、如何にしてこいつをベッドに連れ込むか。そんなことを考えていたら……


「「「な、う、初春(さん)!?」」」


後ろから3人の中学生に呼び止められた。

303: 2012/06/09(土) 22:08:59.78 ID:0hbbRHj5o
「え、さ、佐天さん!?御坂さんに、白井さんも、こんな時間にどうしたんですか!!!???
 もう最終下校時刻もとっくに過ぎてますよ!?」

飾利は酷く驚いた様子で少女達の方を見ていた。どうやら知り合いらしいな。


俺も少女達の顔をまじまじと見つめた。

ほう、まだ中学生とはいえ、全員なかなかの上玉だな。もっとも、飾利には及ばねえが。

304: 2012/06/09(土) 22:10:55.96 ID:0hbbRHj5o
「いや、どうしたって、それはこっちの台詞だよ!
 初春ったら、独立記念日以来、突然行方不明になっちゃって!
 誰にも行き先を告げてないし、携帯に連絡しても音沙汰がないし、皆心配してたんだよ!!!」

「そうよ!私なんか初春さんを捜して学園都市中の監視カメラをハッキングしたのに、影も形も無かったんだから!
 それがいきなりこうしてふらりと帰って来るなんて、一体今までどこに行ってたのよ!?」


「え、そ、それは……その……」

飾利と同じセーラー服を着た長い黒髪の少女と、常盤台の制服を着たショートカットの少女の詰問に、飾利はたじたじになっていた。


って、このショートカットの女、もしかして『常盤台の超電磁砲』か?
飾利の奴、何気に凄えコネがあるんだな。

305: 2012/06/09(土) 22:13:19.20 ID:0hbbRHj5o
「しかもその隣にいる殿方はどなたですの!?
 手なんか繋いで、あまつさえ向かおうとしていたのはホテル街ではありませんでしたの!?
 貴女という人は、な、何たるふしだらな!!!」

「ち、違うんですよ、この人は、あのお……ていうか白井さんにふしだらとか言われたくないんですけど!」


常盤台の制服を着たツインテールの少女も、飾利に喰ってかかった。
しかし気圧されながらも毒を吐く飾利も、流石と言うか、相変わらずと言うか。


やれやれ、ここは俺が収めてやるか。

306: 2012/06/09(土) 22:16:06.15 ID:0hbbRHj5o
「どうもお嬢さん方、いつもうちの飾利がお世話になっていたみたいだな。
 俺は垣根帝督。こいつの彼氏だ。以後よろしく頼むぜ。」

俺は決め顔を作り、これ見よがしに飾利を抱きよせ、少女達に挨拶した。


「あ、これはご丁寧にどうも。私、柵川中学1年の佐天涙子です。初春とはクラスメイトで親友の間柄でして……」

「常盤台中学1年、白井黒子と申しますの。初春は友人である他、風紀委員の同僚でもありますの。以後お見知りおきを……」

「(ん、垣根帝督……?)」


黒髪の少女と、ツインテールの少女が、俺につられて同じように名乗ってきた。


「「って、ええええええええええええええええええ!!!!!」」


そして、一瞬の間の後、盛大に叫び声を上げた。

307: 2012/06/09(土) 22:18:12.38 ID:0hbbRHj5o
「え、ち、ちょっと初春!?どういうこと!!!???
 この少しアウトローな感じのイケメンが初春のか、彼氏!?
 一体どこで、いつの間に見つけてきたのよ!?
 ていうか初春、行方不明になってた間に一体何があったのよ!!!???」

「初春……貴女が行方不明になっている間、私達がどれほど貴女を案じていたと思って?
 その間、貴女がするべき風紀委員の仕事に追われて、私がどれほど苦労したと思って?
 それなのに貴女は、そんな私達をよそに殿方と懇意になり、あまつさえその方とホテルに向かおうとするなど……!
 私だって、まだお姉様とはそのような仲に発展しておりませんのに……!!!」


黒髪の少女…涙子ちゃんは興奮した様子で飾利に問い詰め、

ツインテールの少女…白井は、呪詛のように何事かを唱えながら飾利を睨んでいた。

308: 2012/06/09(土) 22:22:07.66 ID:0hbbRHj5o
「わわわ、ちょっと佐天さん、そんないっぺんに聞かないでください!
 白井さんも、ずっといなかったことは謝りますから、そんなに睨まないでください!!!
 あと怒りのポイントがずれてませんか!?
 帝督からも、ちゃんと説明してくださいよ!!!」

飾利はそんな彼女らにおたおたしながら、俺に助けを求めた。


「かーーーーー!!!『飾利』に『帝督』だってよ!!!もう名前で呼び合う仲かよ!!!
 もう何なんだよ、初春ったら私の知らない間にえらい遠くまで行っちゃってさーーー!!!」

涙子ちゃんは顔に手を当て、大げさな口調で捲くし立てた。


「全くですわ、恋愛沙汰で初春に後れを取るなど、予想だにしませんでしたの!
 お姉様も驚かれましたわよね……お姉様?」


白井の振りに、『超電磁砲』御坂美琴は、ゆっくりと顔を上げ、


「だ……」

「だ?」


「騙されちゃ駄目よ、二人とも!!!」


唐突にそんなことを言い出した。

309: 2012/06/09(土) 22:32:06.20 ID:0hbbRHj5o
「おいお前、『常盤台の超電磁砲』……だよな?騙されちゃ駄目とは人聞きが悪いが、どういう意味だ?」

俺は少々不機嫌に御坂に詰め寄った。


「ふん、黒子や佐天さんは騙せても、私は騙せないわよ。
 恋人だとか何だとか言っちゃって、初春さんの失踪事件も、アンタが初春さんを誘拐したってのが本当のところなんでしょう?
 ひょっとして一方通行もグルだったりするかしら?正直に言ったらどう?」

しかし御坂も、俺から目をそらさずそんなことを言う。


「初対面の相手を頭から犯罪者扱いとは、随分舐めたガキだな。
 だがその口ぶり、それに一方通行の名前を出すあたり、どうやら俺が何者かは知っているようだな?」

「凄んだって無駄よ、垣根帝督。それとも、学園都市第二位、『未元物質』って呼んだ方がいいかしら?」


俺の威圧にも御坂は臆した様子もなく、不敵に笑い、俺のもう一つの名を呼んだ。

310: 2012/06/09(土) 22:34:24.14 ID:0hbbRHj5o
「う、うえええええ!!!???このお兄さんが、だ、第二位!?」

「お姉様、それは本当なんですの!!!???」

涙子ちゃんと白井が、目を見開いてこちらを見てきた。


「ええ、一方通行らしき男が初春さんの失踪に絡んでいるかもと聞いた後、もしかしたら他の超能力者もと思って調べたのよ。
 第二位の情報について確実に真実といえそうなのは名前と能力名くらいだけだったけど、こいつで間違いは無いでしょうね。
 偶然怪しい人間と同姓同名の人物が初春さんといるなんてのも不自然だし、
 そもそもこんな変な名前、そうそう見つかるものじゃないしね。」

ほっとけ、どうせ俺は変な名前だよ。

くそ、こんな名前をつけた両親にまたムカついてきた。連中、とっくの昔に土の下だが。

311: 2012/06/09(土) 22:36:14.04 ID:0hbbRHj5o
「確かに学園都市第二位、『未元物質』とは俺のことだが、そいつがどうした?
 俺が飾利の彼氏だってことは、紛れもねえ事実だし、誘拐したなんて事実もねえ。
 なのにそうして俺を疑うからには、確かな根拠でもあるんだろうな、三下?」

俺も負けじと御坂を睨み返した。
確かに俺も飾利の失踪と無関係ではないんだが、こいつの意図するような形ではないしな。


「ふ、根拠ですって?そんなの決まってるじゃない。」

御坂は薄く笑い、そして、


「アンタの、その見た目よ!!!」


「…………はあ?」


俺を指差し、自信満々に、そんな頓珍漢なことを言い出した。

312: 2012/06/09(土) 22:38:03.20 ID:0hbbRHj5o
「おい、俺の見た目が根拠だと?どこがどう怪しいのか言ってみやがれ。」

俺は苛立ちを隠さず、御坂を更に睨んだ。

初対面の相手をいきなり見た目だけで誘拐犯呼ばわりなど、正気ではない。
というか普通に失礼なガキだな。


「全てに決まっているじゃない!大体、第二位ってだけで十分キナ臭いってのに!
 そのホスト崩れみたいなチャラチャラした風貌、餓えた獣みたいにぎらついた瞳、
 どこをとっても悪人のそれじゃないの!!!
 そんな見た目のアンタが、真面目で大人しい初春さんの彼氏だなんて嘘、バレバレ過ぎて笑っちゃうわ!!!」


だが御坂は、そう断言しやがった。

何なのこいつ?何でそこまで自信満々に言えるの?というか凄えムカつくんだけどこいつ。

313: 2012/06/09(土) 22:41:19.31 ID:0hbbRHj5o
「あ、あの……御坂さん?」

飾利が困ったように御坂に問いかけた。


「いいのよ初春さん、みなまで言わなくても。すぐに私がこいつを片付けて、解放してあげるから。」

だが御坂は、全く話を聞かずに一人で勝手に自己完結しつつ、電撃を展開し、臨戦態勢を見せた。


ホント何なのこいつ?人の話を何一つ聞こうとせずに戦おうとしてるんだけど。

つーか超電磁砲が超能力者唯一の良識人って話、絶対嘘だろ!立派に人格破綻者じゃねえか!

こいつに比べりゃ、一方通行の方が余程良識があるぞ!

314: 2012/06/09(土) 22:44:20.59 ID:0hbbRHj5o
「ちょっと待て御坂、話せば分かる!だから落ち着け!なあ、涙子ちゃんに白井も、こいつを止めてくれよ。」

俺は助けを求める視線を、涙子ちゃんと白井にも向けた。


「お黙りなさいこの不埒者!あなたのような輩は、この私の能力で、サボテンにしてさしあげますわ!」

「初春の敵は私の敵!超能力者の第二位がなんぼのもんだってのよ!
 無能力者だからって舐めないでよね、私も戦う時は戦うのよ!」


だが、白井は太ももに仕込んだホルダーから金属製の矢を取り出し、
涙子ちゃんはどうやって隠し持っていたのか、自称無敵の不良少年よろしく、背中から金属バットを引き抜いて構え、
それぞれ臨戦態勢を見せた。


おいおい、最近の女子中学生は皆人の話を聞かないもんなの?

315: 2012/06/09(土) 22:45:49.22 ID:0hbbRHj5o
「あわわ……て、帝督、どうしましょう!?」

「うーん、そうだな……」


別に俺がその気になれば、こいつら全員を倒すのは容易い。
だが、飾利の目の前でこいつの友達と戦うのも気が進まない。
かと言って、話して分かる雰囲気とは到底思えない。

なら、やっぱこれしかないよな。


「仕方ねえ、逃げるぞ飾利。しっかり掴まってろ。」

「きゃっ……!」


三十六計逃げるに如かず。

俺は両腕で飾利を抱えると、翼を展開した。

316: 2012/06/09(土) 22:47:08.41 ID:0hbbRHj5o
「あっコラ、待ちなさいこの犯罪者ーーー!!!!!」

「初春ーーー!明日はちゃんと学校に来なさいよーーー!!!
 ここ一カ月のこと、垣根さんのこと、聞きたいことは山ほどあるんだからねーーー!!!」

「風紀委員の仕事もサボるんじゃありませんわよーーー!
 貴女の為に仕事は山ほど残してありますのよーーー!!!」



そして、少女達の叫び声を背に、夜の空へと飛び立った。

317: 2012/06/09(土) 22:47:49.99 ID:0hbbRHj5o
同時刻 第七学区 窓の無いビル

「やれやれ……彼は随分と楽しそうだな。」

男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』、
アレイスター=クロウリーは、滞空回線からの情報を閲覧しつつ呟いた。


「そのようだな。しかし良かったのかい?第二候補とはいえ、彼を手放してしまって。」

虚空に現出したエイワスが、そんな疑問をアレイスターに向けた。

318: 2012/06/09(土) 22:49:17.84 ID:0hbbRHj5o
「構わないさ。暗部も解体され、彼を繋ぎとめるための『守護神』すら、今は彼の手にある。
 無理に彼を再び第二候補に据え置こうとすれば、おそらく少なくない被害が出る。
 現段階での一方通行の成長度に問題が無い以上、彼にそこまでする価値はないよ。
 もっとも、理由はそれだけではないがね。」

「ほう?」


エイワスが相槌を打つと、アレイスターはどこか愉快そうに語りだした。

319: 2012/06/09(土) 22:53:11.25 ID:0hbbRHj5o
「これでも私は彼に感服しているんだよ。
 私の予測では、彼はあの日、初春飾利を頃しかけたことに気付くことなく、一方通行に挑み、そして殺されるはずだった。
 だが彼は、ギリギリのところで気付き、踏みとどまった。あまつさえ、最終的には私の手から彼女を奪還してさえ見せた。
 今の彼は、まさしく奇跡と呼べる未来の積み重ねの上に生きていると言っていい。」

「奇跡とは、君らしくもない表現を使うものだな。
 通常起こり得ないと言って差し支えない程の、極小の可能性を観測し、現出させるのが超能力の根本のはずだろう?
 彼はこの街の第二位だ。奇跡と呼べる極小の可能性を観測し、現出させたとしても、然程の不思議はないのでは?」


「確かに、あなたの言う通りかもしれないな。
 だが、だからこそ、彼らの行きつく先にも、興味が出てきたんだよ。
 奇跡と呼べる現在を築いた彼らが、この先どの様な未来を築くのか。
 それは輝かしいものかもしれないし、深い闇に包まれたものかもしれない。
 だが、いずれにしても、大変に興味深い。」


「それも、『プラン』のサンプルとしてかい?」


「いや、私個人が、興味があるというだけだよ。」


エイワスの問いに、アレイスターはそう答えた。

320: 2012/06/09(土) 22:55:24.99 ID:0hbbRHj5o
「少し意外だな。君のことだから、これすらもサンプルにするのかと思ったが。」

エイワスは感情の窺えない表情のまま、本当に意外そうに呟いた。


「忘れてもらっては困る。私とて人間だよ、エイワス。
 『プラン』のことのみを考えているわけではないし、時折娯楽も欲しくはなる。
 それに、ここまで暗部で働いてきた彼への、労いの意味も無いわけではない。」

「…………」

アレイスターの言葉に、エイワスは暫し黙り込んだ。


「どうかしたかい、エイワス?」

「いや……君がその様な人間らしいことを言うなど、いつ以来だったかと考えただけだ。
 ……君に会うのは随分久しぶりだな、『エドワード・アレクサンダー・クロウリー』。」

「……懐かしい名で呼んでくれるな、エイワス。」



エイワスにそう呼ばれると、アレイスターは少しだけ、彼にしては珍しく微笑んだ。

321: 2012/06/09(土) 22:58:18.22 ID:0hbbRHj5o
「おー、やっぱ空は気持ちいいぜ。お前もそう思うだろ?」

今宵は雲ひとつない晴天。俺はご機嫌で学園都市の上空を飛行していた。


「はあ……」

だが、飾利は何故か暗い表情で、溜息をついていた。


「どうしたってんだよ、シケた面しやがって。」

「こういう顔にもなりますよ。明日学校に行ったら、佐天さんに何を聞かれることやら。
 それに学校にも、風紀委員の同僚達にも、この一カ月のことをどう説明すればいいものやら。
 御坂さんの誤解も解かないといけませんし……」

「そうクヨクヨすんな。可愛い顔が台無しだ。
 涙子ちゃんなら、心配しなくても正直に話せばいいんじゃねえのか?
 親友だって言ってたし、あの娘なら御坂と違って物分かりはよさそうだしよ。」


「そ、そうですね……」

飾利の表情に少しだけ明るさが戻った。そうそう、そう来なくちゃよ。

322: 2012/06/09(土) 23:01:31.09 ID:0hbbRHj5o
「学校や風紀委員の方は、俺がついていって説明すればいい。
 第二位の俺と知りあって、能力開発において協力を求められたとか適当こいとけば平気だろう。
 それでも誤魔化せなけりゃあ、俺が力づくで黙らせる。
 御坂の誤解は……あいつの目の前でキスでもすりゃあ解決じゃねえ?」


「な、何だか更なる問題が発生しそうなんですが……」


若干苦笑いが混じったようだが、まあ瑣末なことだ。

323: 2012/06/09(土) 23:05:54.13 ID:0hbbRHj5o
「細けえことはいいんだよ。とりあえず夜も遅いし、腹も減ったし、早く適当なホテルを探すぞ。
 とっとと見つけて、飯食って、風呂入って、そんでその後は恋人同士の営みだ!」

そうよ、俺にとってはそっちの方が重要な問題だ。


「だから、私は一緒に泊まるとは一言も言っていませんよ!!!
 もう降ろしてください!私は自分の寮に帰りますから!!!」

「うわっ!馬鹿、暴れんな!!!ここは空中だぞ!!!」


月明かりが照らす幻想的な夜の学園都市。

その上空で、俺達二人は暫し無粋なもみ合いをしていた。

324: 2012/06/09(土) 23:10:11.89 ID:0hbbRHj5o
「はあ……どうしてあなたは、いつもこうなんですかね……」

しばしのもみ合いの後、飾利は疲れた様に溜息をついた。


「仕方ねえよ、これが俺なんだからよ。そんな奴に惚れたお前も悪い。それによ……」

溜息をつく飾利に、俺はニヤリと笑ってやった。


「そうですね、あなたには、帝督には……」

飾利は呆れた様な、でもどこか楽しげな笑いを浮かべ、俺の言葉を待った。
俺が何を言おうとしているか分かったようだ。さすがは俺の女だ。


「言ってるだろう、俺に常識は通用しねえって。」



おわり

326: 2012/06/09(土) 23:21:06.68 ID:pCE7BQpFo
おつ!

327: 2012/06/09(土) 23:33:31.47 ID:0hbbRHj5o
>>1です。

これにて終わりじゃあああ!!!!!

当初の予定を遥かに上回る長さになってしまったが、何とか完結できたわ。
俺はちょっと帝春を書きたかっただけなのに、こんなに長引き、更にラブコメシーンを書くことになるとは予想だにしなかった。


だが、ここまで俺の妄想に付き合ってくれたお前らには、この>>1、喜びで感謝の言葉もない。
また俺が一筆書いた時には、どうか俺の妄想へのお付き合いをお願いしたい。


それではお前ら、ここまで付き合ってくれてありがとう、そしてお疲れ。

引用: 垣根「言ってるだろう、俺に常識は通用しねえって」