321: 2010/11/07(日) 12:06:57.66 ID:wX7Tifg0

ちょっと投稿させてもらいます。
一巻からのパラレルです。
なので、一巻冒頭のシーンを飛ばしてます。
所々改変があります。
プロローグ的なお話しなので、結構短い筈、です。


322: 2010/11/07(日) 12:07:32.19 ID:wX7Tifg0




「……なぁ、悪かったって。機嫌直せよ」

「フンだ」

朝。七月二十日。
夏休み初日にどういう因果か、上条当麻は目の前で不貞腐れているシスターのご機嫌を取るのに必氏だった。
そのシスターたる少女……インデックスは不機嫌そうに安全ピンだらけの修道服を身に纏って上条を睨んでいる。

上条は何故かベランダに引っかかっていたこの魔術だのなんだの言う少女に会い、何故か歩く教会などと言う魔術でできてるらしい服に右手で触れて弾けさせ、銀髪碧眼超白い肌の裸を見てしまったのである。

アイアンメイデンのインデックスは頬を膨らませながら、

「変O」

「あーもう。変Oでもいいから機嫌直してくれって」

しかし一方で、脳に疑問が浮かぶ。

とある魔術の禁書目録 31巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
323: 2010/11/07(日) 12:08:11.62 ID:wX7Tifg0

(俺の右手で触れて壊れたってことは、魔術は本当なのか?さっきまでの10万3000冊はともかく、魔術結社に追われてるってのもか……?)

そう。
上条の右手『幻想頃し(イマジンブレイカー)』で触れて壊れた以上、あの服には異能の力が働いていたということだ。


だとすれば。




先程まで、彼女が言っていたことは全て事実ーーーー?




コンコン

と、そこまで考えていた所に、ノックの音が耳に入る。
どうやらお客さんらしい。

「あっ、俺出てくる」

「……」

インデックスはムスッとしていて聞いていない。
それに苦笑しながら上条は立ち上がって廊下を通り、玄関へと向かう。


324: 2010/11/07(日) 12:08:49.42 ID:wX7Tifg0


(しっかし、どうすっかなぁ……今日は補習もあるし、かといってあの子をここに居させとくってのも、それはそれで……いや、今夏休み中だし、大丈夫、か?)

今は夏休み。
平日やただの休日なら、もしかしたら何らかの業者や友人が来て大変なこと(後者は嫉妬や犯罪者的な意味で)になるかもしれないが、夏休みたる今、しかも初日なら誰も来ないだろう。

まぁ、そういって大変な目に会うのが上条さんクオリティなんですよねー、と思いつつ、彼は玄関の扉を開けるべくドアノブに手をかけーーーー


(…………あれ?)


今は夏休みだ。
夏休みの筈だ。
しかも朝。
そう、自分で考えたではないか。

なのに、なのに何故。




『誰も来ない筈』なのに、扉はノックされた?





325: 2010/11/07(日) 12:09:28.21 ID:wX7Tifg0


ガチャッ、と。
彼は扉を開けてしまう。
開けた先。通路に立っていたのは、二メートルはありそうな長身の大男。
身を包むのは、黒い神父服。
赤い髪に、耳にピアス。指には指輪が大量に嵌められており、目の下に位置するバーコードが印象的だった。
どう見ても神父では無く、普通の人間では決して無い。
嫌でも、この男がただ者で無いことが、上条にも分かった。

上から見下ろすように、大男は口を開く。

「やぁ始めまして。中にいる筈の女の子に用があるんだけど?」

友好的にも思える口調。
だが、言葉の一つ一つに重みがかかっている。
その言葉からも、男がただの一般人では無いことが分かる。

上条は、冷や汗を一つ垂らす。

「テメェ……何者だ……?」

気圧されないように、拳を握り締め、下からその目を睨む。
大男は目を細めながら、上条の疑問に答えた。




「魔術師だよ」






326: 2010/11/07(日) 12:10:04.85 ID:wX7Tifg0







とある空間が学園都市に存在する。
そこは、学園都市においてもっとも安全な場所であり、もっとも危険な場所でもある。
人呼んで、『窓の無いビル』。

そこには、一人の人間が存在していた。

もっとも、生存するための行為を自ら機械に委ねた者が、人間と呼べるのならば、だが。

円柱型の、培養液に満たされた巨大ビーカーの中に存在するソレ。

ソレは男のようにも見え、女のようにも見え、子供のようにも見え、老人のようにも見え、聖人のようにも見え、罪人のようにも見える。
おかしい。おかしいのだが、そうとしか言い表せない存在。

逆さまの状態で、緑色の手術着を揺らしながら、ソレは口を動かす。


「……始まった」


その声もまた、ありとあらゆる表現を使わなければ形容できないような、不思議な声だった。
マイクを通している筈なのに、そうとは思えない綺麗で汚くもある、不思議な残酷な声。




ソレは、遂に始まったことを喜んでいた。





327: 2010/11/07(日) 12:10:46.72 ID:wX7Tifg0







魔術師と、男は名乗った。
インデックスの言葉が嘘では無く、ハッキリと現実になり、どこか笑いそうになる。
実際には、そんな余裕は全く無いが。

「……その魔術師さんなんかが、こんなとこに何の用だよ?」

「言ったろ?中にいる筈の女の子を回収しに来たのさ」

「……回収?」

「うん?『アレ』から話を聞いてなかったのかな?」

そこまで言われて、上条は思い出す。
インデックスは、自分のことをIndex-Librorum-Prohibitorum、魔導図書館と言っていたことを。

「……知らねぇな。悪いけど他当たってくれ」

「残念だけど、ごまかしても無駄だよ。『歩く教会』の反応がこの部屋からしてるからね」

誤魔化そうとした上条の体が強張る。
どういう理屈・原理か分からないが、目の前に居る男は、インデックスがこの部屋に居ると分かっているらしい。
しかも、歩く教会。
インデックスが着ていた、絶対的な防御力とやらを持っていた服の名前だ。


328: 2010/11/07(日) 12:11:25.55 ID:wX7Tifg0


「全く……さっきまでの反応に比べて急激に弱くなったから心配だったけど、一部が残ってみるみたいで助かったよ」

恐らく、弱くなったというのは先程破壊した時のことだろう。
しかし、一部が残っていたお陰でこの男はこの部屋にたどり着いたらしい。

「と、いう訳で。そこを退いてくれると助かる。僕も急いでるんでね」

「……」

上条がそれに言葉を返そうとした所で、




「ねー。一体どうし……っ!!」




最悪なことに、少女がやって来てしまった。
何故かリビングに返って来ない上条に疑問を持ったのだろう。
玄関の手前、上条の背後二メートル程まで来たインデックスの表情が、驚愕と、僅かな恐怖に包まれる。


329: 2010/11/07(日) 12:12:04.11 ID:wX7Tifg0


「ーーーッ!」

反射的に上条は一歩下がり、インデックスを守るように前に立つ。
そしてジリジリと、インデックスを押し下げるように下がって行く。

(でもどうする!?どっちみちここ以外に出入り口なんて無いぞ!?)

いざとなったら、ベランダから飛び降りて下の階に侵入するという手もある。
だがしかし、インデックスにもそれができるか、それだけの時間を男が与えてくれるかどうか。

だとすれば、真っ正面からこの男を打ち倒すしか無い。

(ーーー)

が、ここで一抹の不安が上条の胸を過る。
彼はこの街でよく不幸な出来事に巻き込まれ、それなりに修羅場も潜っていたりする。
超能力との戦いもあったため、右手の力を使っての戦い方も慣れている。

だけど、

超能力には効くとハッキリ分かっているこの右手が、


本当に、魔術なんて全く身に覚えの無いものに効くのだろうか?



330: 2010/11/07(日) 12:12:37.34 ID:wX7Tifg0



「狙いは私、だよね?」

そんな上条の思考に滑り込むように、インデックスの声が耳に入る。
彼女は上条の体からはみ出るように顔を覗かせながら、男に尋ねた。

「……そうだね。僕達の任務は『禁書目録が他の魔術師及び、魔術結社に利用される前に回収すること』だ」

「……分かった」

「っ!?オイ!」

上条の静止を振り切り、彼女は彼よりも前に出る。
その肩に手をかけ、止めようとする。
当たり前だ。
男の今言ったセリフから、インデックスがどれだけ重要視されているのかくらい分かる。
態々、『回収』などと言って来たのだ。

まるで、道具を扱うかのように。

絶対に、ついて行くべきでは無い。
そう考え、上条が肩に手を置こうとした時、






「その代わり、彼には手を出さないで」







331: 2010/11/07(日) 12:13:20.13 ID:wX7Tifg0


ピタリ、と。
上条の手はインデックスに触れる寸前で止まってしまった。
彼女の言葉。
そのせいで、彼女が、逃げ続けていたであろう彼女が進み出た理由が分かったから。


彼女は、自らの保身のために進み出たのでは無い。


上条に、危害を加えさせないために、進み出たのだ。


絶対的な防御力を持つという修道服も無く、魔術師とやらでも無く、超能力者でも無い。
何の力を持たない筈なのに彼女は、出会って間も無い上条を庇った。


(ーーーっ)


絶句。
こんな幼い少女がそんなことをすることに、上条は純粋に驚愕していた。
一体、一体どれだけ彼女は優しいのか。




一体どれだけ、その年に見合わない暗い経験を積んで来たのか。




332: 2010/11/07(日) 12:14:01.62 ID:wX7Tifg0



「……分かった。君さえ回収できれば文句は無い」

心無しか、男は少し顔を歪めながら、彼女の言葉にそう返答する。
安心したように彼女はホッと息を吐き、上条の方を向く。
ビクンッ、と上条は肩を震わせてしまう。
言うなれば、彼女は上条のせいで捕まったも当然なのだ。
当然、恨まれて仕方無い。




しかし、彼女は、




「ありがとう」




そう、笑って言った。
太陽のように、一切の陰りも見せない笑みで、言った。
上条は、一瞬思考が停止し、すぐさま口を開く。

「な、に言って……」

「私みたいなのを部屋に入れてくれて、美味しい野菜炒めを作ってくれた」

そこで、彼女は区切って、

「とっても、嬉しかった」

本当に、心の底からの笑みを見せる。
しかし、上条の顔が笑顔になることは無い。
今の彼女が言った言葉の影が分かってしまったから。


つまり、彼女は今まで誰かに部屋に入れてもらうことも、野菜炒めを作ってもらうことも、殆ど無かったという、事実。



333: 2010/11/07(日) 12:14:38.04 ID:wX7Tifg0



「……じゃあ。私、行くね」

「あっ……」

彼女は、上条から伸ばした手から逃れるように玄関へと進み、男の横を通って歩いてゆく。
その銀色の髪が揺れ動き、玄関の範囲で切り取られた通路の景色から、はみ出て消える。
インデックスが通路を歩いて行くのを確認しているのか、目を通路の先に向けている男。
そして一度だけ、上条の方を一瞥したかと思うと、彼は彼女を追うように歩いて行った。

そして、その場に残ったのは茫然とする上条と、開け放たれた扉のみが普段と違う、玄関の光景。
上条は下に俯き、無言で拳を握り締めていた。












コツ、コツ、と、赤髪の男とインデックスはコンクリート製の片側が開けた通路を歩く。
インデックスは先頭に立ち、その後ろに付き従うように男は歩く。
二人が向かうのは通路の突き当たりにある、オンボロエレベーターだ。
男はタバコを一本取り出しながら、前を歩く彼女を見る。
その目は、先程までとは違う感情に染まっていた。
インデックスはそれに気がつかず、普段よりもかなり早いスピードで歩く。
早く、早く離れたかった。
ここに居ては、彼を巻き込むかもしれない。
後ろの魔術師が、いつ「やっぱり殺そう」なんて言い出すかも知れないのだ。
一刻も早く、この場から離れたかった。


334: 2010/11/07(日) 12:15:25.29 ID:wX7Tifg0


そこに、






ジャリッ!






明らかにタバコをくわえたばかりの男や、インデックスの足音では無い音が、通路に響いた。
動きが止まり、嫌な予感が走る。
ここには今、自分と魔術師の二人しか居ない筈だ。
だとすれば、後ろの魔術師が何かしたのか?


いや、違う。


彼女は、ゆっくりと後ろを向く。
男は既に後ろを向き、『彼』を睨んでいた。
インデックスも、『彼』を見る。



335: 2010/11/07(日) 12:16:05.22 ID:wX7Tifg0








学生服に身を包んだ上条当麻が、此方を向いて通路に立っていた。






「……何のマネだい?」

「……」

タバコに火を灯しながら言われた言葉に、彼は無言で返す。
ただ、下を俯き、拳を握り締めていた。
そして、顔を上げる。


(ーーーっ)


その目を見て、インデックスは理解した。
いや、誰もが彼の今している、綺麗で真っ直ぐな輝きを持った瞳を見れば分かるだろう。




彼が、彼女を助けるために魔術師に立ち向かおうとしていることが。




336: 2010/11/07(日) 12:17:22.05 ID:wX7Tifg0



「ーーーっ!ダメ!」

インデックスは思わず、彼に向かって叫ぶ。
だが、彼は、

「……あーあ。たっく……本当に不幸だよ」

突然、訳の分からないことを言い出した。
インデックスだけでは無く、彼女の前に立つ魔術師も怪訝な顔になる。

「……何がいいたい?」

「いや。ただ思っただけだよ……いやー、本当についてねぇよ……」

上条は、言葉を紡ぐ。




「“お前”、本当についてねぇよ」




「……不幸なのは君じゃないのかい?とち狂ったか?」

「いや、俺は今日ついてるよ。少なくとも、不幸じゃない」

そうだ、と、上条は思う。
不幸じゃない。全然不幸じゃない。
こんなのは、不幸とは言わない。
ここで不幸と言えるのは、魔術師の男一人だ。

自分と、『彼女』は不幸なんかじゃない。

いや、彼女は不幸なのだろう。
この世界の、地獄の底を歩んでいる……そう言われてもおかしくないだけの、不幸。
それを匂わせるだけの闇を、彼女は感じさせる。





337: 2010/11/07(日) 12:17:48.43 ID:wX7Tifg0








だから、それがどうした。






「地獄の底から、引きずり上げる……」


そして自分は、そのための右手を持っているじゃないか。


「……予定変更だ。君はここで消し炭になれ」

上条の呟きに危険を感じ取ったのか、魔術師はタバコを口から取り、右手の指で挟む。

「お願い!逃げて!」

インデックスは上条に向かって叫ぶ。
魔術師が魔力を、攻撃のための術式を構成しているのが分かるからだ。
そして、一般人に過ぎない上条に逃げるように叫ぶ。
いざとなったら、術式を己の力で妨害することもいとわない。
しかし。

「あっ……」

上条の顔を見たら、何故かそんな思考は吹っ飛んでしまった。
彼の顔に浮かんでいた、絶対の自信と、意思。
それは、インデックスの不安を粉々に打ち砕く程、眩しかった。


338: 2010/11/07(日) 12:18:31.23 ID:wX7Tifg0


「ステイル=マグヌスと名乗りたいとこだけど、ここはやはりFortis931と名乗ろうか」

ステイルという、赤髪の魔術師も、魔法名と呼ばれる物を名乗る。
魔術師の伝統、その者にとって大事なその名は、時に、


頃し名のように、使われる。


ピンッ!と、右手に挟まれていたタバコが飛ぶ。
クルクルと宙を舞うタバコはすぐさま、壁に直撃。

そして、そのタバコとステイルの右手を繋ぐように、巨大な炎が出現した。

ゴウッ!!と、周囲の空気が変わる。
いきなり巨大な熱が現れたため、それによって大気の温度が変わり、密度変化によって風が荒れ狂う。

「……巨人に、苦痛の贈り物をーーー!」

彼は腕を振るう。
それに伴って炎の線、炎剣も連なって動く。
最初に真横に出現したせいで壁を貫通して、内部の部屋に影響を与えていたらしい。
壁が高熱によって溶け、他の部屋のドアノブなども溶けて行く。
一つよかったことは、最初の貫通でガス管などに直撃していなかったことか。
ガス爆発など起きていれば、大変なことになっていただろう。

黒い神父服が揺れ動き、炎剣が上条に壁を溶かしながら殺到する。
上条は、黙って立っていた。

真っ赤な炎が、上条を、通路を飲み込んだ。
爆風が吹き荒れ、思わずインデックスは視界を手で覆ってしまう。
手の僅かな隙間。
その隙間に映った光景は、上条の居た場所が炎に包まれている光景だった。


339: 2010/11/07(日) 12:19:14.06 ID:wX7Tifg0


「……ふん」

他愛も無い、と。ステイルはらしくないと思いながらも敵の呆気無さに、息を吐く。


が、




「邪魔だ」




一瞬、風が吹いたかのように炎が揺らめき、掻き消える。
そこには、右手をふり抜いた上条が居た。
全く動かず、ただ、右手を振っただけの彼が。

「……っ!?」

自分の攻撃が防がれた。
僅かな動揺。
ステイルに生まれたそれを、上条は見逃さなかった。
通路のコンクリートを蹴り飛ばし、上条は駆ける。

全ての幻想を頃し尽くす、右手を振りかざして。

「くっ!?」

上条の狙いに気が付き、慌ててステイルは左手の方に二本目の炎剣を出現させた。

だが、だがしかし。

元よりそれ程広く無い通路。
僅か十メートル程の、上条とステイルの間合いを詰めるだけの時間の方が、ステイルが炎剣を出すまでより早かった。
一瞬の動揺をついた、見事な反応。


340: 2010/11/07(日) 12:19:57.98 ID:wX7Tifg0


(……初めて会った奴のために命をかけるのなんて、おかしいかもしれない)

走りながら、拳を振りかぶりながら、上条は思考する。

(俺は奇妙な右手を持つだけの高校一年生。魔術なんてもんが出てくるファンタジーな物語の主人公になんか、氏んでも似合わない奴だ)


でも、


(だからと言って、アイツを見捨てていい筈がない!!)


他人を自分の身を投げ出して助けることができる、白い、綺麗な少女。


その少女を助けるために戦うのは、そんなにもおかしなことだろうか?




そして、彼女を助けるための武器を、自分は持っている。
彼女の手を掴んで、引くことができる右手を。
あるからといってモテる訳でも、幸運を呼び寄せる訳でもない。
けど、目の前に居るクソったれな魔術師をぶん殴るには、とても便利な右手を。




「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

彼は吠えた。
そして、




341: 2010/11/07(日) 12:20:37.49 ID:wX7Tifg0





ゴキャンッッ!!と、ステイルの顔面にその右手を叩きつけた。




魔術師ステイルは、悲鳴も、呻き声もなく吹き飛び、先程溶けて固まったばかりの壁に、勢いよく叩きつけられた。












「どうして……?」

「ん?」

あれから三十分が経過していた。
あの後、うまいこと気絶した魔術師を放置し(縛るための縄が無かった)、上条は必要最低限の物を持ってインデックスとともに街を歩いていた。
街の中は今、夏休み真っただ中の学生達で賑わっており、上条とインデックスも余り目立たない。特に上条達がいる大通りは人で溢れ返っていた。
他の魔術師が居ることを考えると、コソコソ移動するより、人混みに紛れた方がいいと考えたから。


342: 2010/11/07(日) 12:21:14.47 ID:wX7Tifg0

そんな状況の中、インデックスは隣を歩く上条に問いかける。

「どうして、私を助けてくれるの?」

幻想頃しによって効力を失ったフードを被り、彼女は言葉を続ける。

「君が巻き込まれたのも、元と言えば私の歩く教会のせい。私の自業自得なのに、なんで……」

「……ぷっ」

「……なんで笑うの?」

「い、いや。それをお前が言うんだなってさ」

上条は笑いを堪えながら、

「お前だって、初めて会った俺のために自ら捕まりに行ったじゃねぇか」

「っ!それは、私のせいだから……」

「俺のせいでお前は捕まった、だから助けた。ほら、お前と理由は全く同じだぞ」

「……」

インデックスは、無言。
いや、言葉が出ない、発せられない。
だって、彼女も。


見ず知らずの他人に、助けられるなんて思っていなかったのだから。


「っ……!」

瞳の中から思わず熱い何かがあふれ出し、周りを歩く人達の注意を惹かないように、彼女は下を向く。

静かに嗚咽をこらえるインデックスの頭を、上条は優しく撫でていた。

少なくともこの時、上条は幸せだった。







343: 2010/11/07(日) 12:21:53.26 ID:wX7Tifg0









「……」

ソレは、そのシーンをスクリーンで見ていた。
そして、口を歪める。


笑みの形へと。


この学園都市の主たるソレは、この状況を待っていた。

禁書目録の回収ーーそのために彼は魔術師二人を学園都市へ招き入れたが、それに条件を付けていた。
もし、魔術師で禁書目録の回収が出来ないようならば、此方からも干渉し、禁書目録の回収を手伝うと。いや、手伝うというよりは、揉め事を科学の力を持ってして解決すると言いたい。
此方の領域(テリトリー)にて起こっている問題なのだから。


そして、魔術師は今、魔術サイドがけっして予測しなかったであろう不思議な力を持つ少年に撃退された。


この流れを、ソレは予測していた。
いや、知っていたと言うべきか。
そして、ソレは動きだす。
画面がピピッ、と反応し、通信が仲介人に繋がれる。
機械だらけの部屋で、ソレは言った。




344: 2010/11/07(日) 12:22:29.92 ID:wX7Tifg0







「……全超能力者(レベル5)に通達。禁書目録(インデックス)と名乗る少女の捕獲を命ずる。他敵対者の生氏は問わない」






そして、科学の力、七つの力を行使した。
とある不幸な少年と少女に、新たな危機が、二人が想像もしていないような危機が襲い掛かる。









345: 2010/11/07(日) 12:23:52.57 ID:wX7Tifg0



と、いうわけで。
プロローグ的なお話しでした。
需要があったら続き書きたいなー、とか思ったり。
美琴と一方通行の設定も結構変えてたり、浜面を出したりもするので。

では、見てくれた人有難うございました。



521: 2010/11/10(水) 08:49:57.33 ID:gRhL.9A0
乙。
ゴットイーターってのがよく分からないけど。
ゲーム?

522: 2010/11/10(水) 09:28:06.63 ID:gRhL.9A0

需要あるっぽいので、続きを書いてみました。

このスレの>>344からです。


523: 2010/11/10(水) 09:28:57.85 ID:gRhL.9A0



「さて、取り敢えずどうすっか……」

街中を歩きながら、上条は意見を求めるように呟いた。
インデックスが泣き止んで数十分が経ち、朝ご飯代わりのハンバーガーをぱくつきながら彼が考えているのは勝利条件について、だ。
目的を、ゴールを決めなければ精神的に魔術師達から逃げにくくなってしまう。
その上条の問いに、半分貰ったハンバーガーを丸呑みしてからインデックスは、

「んぐっ……うん。私はイギリス清教所属のシスターだから、同じイギリス清教の教会に逃げ込めば匿って貰えると思う」

「と、なると当面の目的はこの学園都市から出ることかぁ」

学園都市は科学の街だ。
いくつか教会はあるとはいえ、それらは魔術に関わっているようには思えない。
宗教というよりは学問の教会といった方が正しい。

「でも学園都市から出る、っていっても簡単じゃないんだよな……お前ID無いだろ?」

「あいでぃー?」

首を傾げるインデックスを見て、苦笑いしながら上条は頭を撫でてやる。
「あれ?ちょっとバカにされてるかも?」と思いながらも、なでなでされるインデックス。
そんな彼女を見てると、先程歩きながらこっそり聞いた、世界中の原典をその脳に秘めた、汚れ役などにはとてもでは無いが見えない。
そんなことをしているうちにも、歩みは止まらない。


524: 2010/11/10(水) 09:29:47.36 ID:gRhL.9A0



(学園都市から出る……出来れば誰も巻き込みたく無いけど、“アイツ”に頼るしか無いか?)

上条がそんな思考を展開していると、ふと大通りから出たことに気がつく。
周りの人だかりは落ち着き、道横にはカフェやファミレスなどの飲食店などが立ち並ぶようになっていた。
辺りはうって変わってゆったりとしたスペースが増え、騒音に紛れながら会話することが不可能となる。




「…………んっ?」




ここで、上条は知り合いを見た。
知り合いたる彼女は、ファミレス店の壁に寄りかかるようにして立っていた。
茶色の髪に、茶色の瞳。
雪のように白い肌を包むのは、この学園都市でも屈指のお嬢様学校、常盤台中学の制服。
ベージュ色のベストに、かなり丈が短いスカートが特徴的だった。
彼女も此方に気がついたのか、若干下を向いていた視線を上げ、上条を見る。



525: 2010/11/10(水) 09:30:23.87 ID:gRhL.9A0



プラス、隣に立っているインデックスも含めて。


「……?ねー、とうま。あの短髪の人と知り合いなの?」

「あー、いや、知り合い、なのか?」

「……」

そんなやり取りを二人が行っている間にも、彼女は茶色の目を点にして二人を見る。
やがて目が緩んだかと思うと、驚きの早さでポケットから携帯電話を取り出した。
取り出した緑色の、ゲコ太と呼ばれるマスコットキャラクターを象ったお子様携帯に上条が反応することは無い。

何故なら、




「あっ、すみません、警備員(アンチスキル)ですか?小さい子にコスプレ着せた変O男が「いやいや待て待って待って下さい三段活用!!」




犯罪者としての誤解を解くため、上条当麻は彼女の口を塞ぐべく飛びかかった。




彼女はこの街に七人しか居ない、超能力者(レベル5)の一人。
第三位、『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴である。






526: 2010/11/10(水) 09:30:59.09 ID:gRhL.9A0





「あっはっはっはっー。モノホンのシスターだったの。ごめんごめん」

「犯罪者認定一歩手前まで行った上条さんとしては、そんなに簡単に謝れると怒りが湧き上がってくるんですが……」

「とうま。終わったことなんだから、ネチネチ言ってると罰が当たるんだよ?」

「罰が当たらなくてもどうせ上条さんは不幸だらけですよーだ!」

オープンテラスのカフェ。
白い強化プラスチック製の丸いテーブルに、上条は上半身を突っ伏した。テーブルの上には美琴が注文したミルクティーも置いてある。
あれから誤解を解くのに全力を使った彼は頬をベターとテーブルに密着させながら、自己紹介を済ませている女性二人を見た。
魔術師と戦ったのより、はるかに疲れるんですがーと上条は心中で呟きながら、予め考えていた設定を口に出す。

「……で、俺の親父の友人の娘らしくてな。俺が学園都市を案内してるんだ」

「ふーん。女の子に優しくすることも出来たのね、アンタ」

「お前の中で俺はどんな立ち位置なんだ!?」

「相手が悪いと思ったら誰かまわず殴り飛ばす男。で、女の子の気持ちに全く気がつかないクソ野郎」

「一体なんでそんな評価に……」

数少ない、女の知り合いによる自分に対しての評価に、上条は精神的にダメージを受ける。
そんな二人の会話に、黙っていたシスター少女が割って入った。


527: 2010/11/10(水) 09:31:33.96 ID:gRhL.9A0


「で、みことはとうまと知り合いなの?」

「うーん、知り合いっていったら知り合いね。二ヶ月前に会ったばっかだけど」

「不良達に巻き込まれて電撃喰らいかけたことは、絶対に忘れない……!」

「あれはアンタのタイミングが悪かっただけでしょ。男が細かいこと一々気にしない」

この二人の出会いはソレ程対した物でも無い。
ただ不良達に囲まれていた美琴を、上条が根性出して助けようとした瞬間、不良達に向かって美琴が電撃放出。

まぁ言ってしまえば、上条が不幸なだけだった。

その時の電撃を右手で防いだのに驚かれ、何故かこうやって時々街中であってしまう仲に。

それらをぽけーと思い起こしていると、

「ふーん。とうまって女たらしだったんだ」

「何を聞いたのでしょうかインデックスさん!?」

じとーとした目で見られ、のけ反る上条。
のけ反る上条をじとーとした目でみるインデックス。
どうやら彼女は何時の間にか美琴からとんでも無いデマ(だと上条は思っている)を吹き込まれたらしい。
これが、第三位の力か…….っ!と、心震わせつつこの状況を作り出した少女を恨めし気に見る。



528: 2010/11/10(水) 09:32:11.57 ID:gRhL.9A0



「…………?」


が、気まずい空間を作り出したことへの抗議の言葉は、出なかった。
何故なら、

「……みこと?」

「んっ?なに?」






「どうして、そんな泣きそうな顔してるの?」






カチャリ、と。
テーブルの上に置かれた、ミルクティーのカップを持ち、美琴の動きが止まる。
彼女の表情は、少し、いや、ハッキリと暗かった。

まるで、自殺寸前の人間みたいだったと上条は思う。
目は暗く、澱んでおり、上条とインデックスに向けるのは何らかの嫉妬の視線。
表情は白い肌が更に白くなっており、血が本当に血管を流れているのか心配になる程だった。

だが、インデックスに声をかけられた瞬間、暗さはなりを潜め、先程までと同じ明るい顔となる。
でも、暗い表情を見た上条には、無理しているようにしか見えない。恐らく、インデックスも同じだろう。


529: 2010/11/10(水) 09:32:56.30 ID:gRhL.9A0


「……大丈夫よ。ちょっと、色々あってね」

「何か悩み事があるなら相談に乗るんだよ。私はシスターだからね」

「ふふっ……ありがと。気持ちだけ受け取っとくわ」

むぅ、と唸るインデックスに言葉を返し、上条の方へと美琴は視線をうつす。

「なんかアンタ達も訳有りなんでしょ?」

「……やっぱり分かるか?」

上条は頭を恥ずかしそうにガシガシかく。
どうやら、さっきの嘘の設定もばれてるようだ。
なんとなくだが、そんな感じがする。

「まっ、色々おかしいしね。インデックスっていう名前からしておかしいもの」

「……まぁ、確かに」

目次、なんていう名前の人間なんか、この世に殆どいない。
だけどまぁ、と美琴は、

「あんまり深くは聞かないし、他言もしない。でも、あんまり無茶はしないのよ?」

「あー、うん。なるべく善処する」

「とうま!」

「おわっ!?」


530: 2010/11/10(水) 09:33:35.33 ID:gRhL.9A0


いつ近付いたのか、ずいっと顔面至近距離衝突ギリギリまで迫った少女の顔に、思わずドキンッ、としてしまう上条。
対するインデックスは可愛らしく頬を膨らませながら、

「とうまが私のために戦ってくれるのには嬉しいけど、無茶はだめだよ!とうまが怪我したりしたら、意味が無いんだから!」

「は、はい……」

上条がどもりながら返事を返すと、よしっ!と言って視界一杯に広がったインデックスの顔が離れて行く。
それに少々未練を覚えながらも、彼は椅子から立ち上がった。

「えっと、俺ら行くな?」

「正直今の会話聞いてますます思うところが増えたけど、まぁいいわよ」

「……ありがとな」

「別に、気にしなくていいわ。まぁ精々折角の出会いをおじゃんにしないことね」

「分かってるって」

そして上条はテーブルから離れる。
此処では無く、知り合いに電話するために目立たない場所へと。

「……ねぇ、みこと」

「……なに?」

が、インデックスはその後を直ぐに追わなかった。
椅子から降り、まだミルクティーのカップを持ったままの美琴に尋ねる。
少し、真夏の空気を誤魔化すような風が吹く。
彼女に、インデックスは問いかけた。








「さっきの『無茶するな』っていう言葉は、本当は誰に言いたいの?」






531: 2010/11/10(水) 09:34:18.78 ID:gRhL.9A0





「……シスターって、凄い」

上条とインデックスが居なくなった後、最初に美琴が発した言葉がそれだった。
感情を隠すのが苦手とよく周りから言われるが、それでもここまで見抜かれるとは。

「インデックス、かぁ……」

あんなに小さなシスターなんて居るんだな、と思っていた第一印象は即座に塗り替えられた。
あれは、あんなに小さいながらも自分より、遥かに『違う』。

「……悩み、打ち明けてもよかったかなぁ……」

と、口に出してから心中で否定する。
だめだ。これは、自分の問題であり、何か事情がありそうな彼女に打ち明けるような物ではない。いや、誰だろうと打ち明ける訳にはいかない。
第一、打ち明けても無駄だ。


この問題は、どんなヒーローが現れても解決しない。


美琴は、それを知っている。
自分の脳みそに刻み込まれていてもおかしくない程、知っている。
だから、彼女は、




~~~~~♪

「ーーー」


532: 2010/11/10(水) 09:35:02.19 ID:gRhL.9A0


携帯が鳴った。
ただし、先程上条達の前で取り出したゲコ太の携帯では無い。
左のポケットから取り出されたのは、機能性重視がハッキリと分かるメタルシルバーの折り畳み式携帯だった。
初期設定の、無機質な着信音が鳴り続ける。

「……」

彼女は立ち上がり、ミルクティーの代金を台の上に置いて歩き出す。

ピッ!

「……もしもし」

『私よ、私』

「私私詐欺は間に合ってるんで。では」

『冗談よ。というより、声で分かるでしょ?』

携帯の向こうに聞こえないように、美琴は不機嫌そうな息を吐く。
実際その通りだからだ。
この携帯の向こうにいる人物の声を間違えることなど、これからの人生でも絶対にないだろう。

「……で?要件は何ですか“センパイ”?」


533: 2010/11/10(水) 09:35:43.68 ID:gRhL.9A0


『敬語じゃなくてタメ口でいいのに。序列は貴方の方が上なんだから』

「じゃあ其方から敬語を止めて下さい」

『敬語口調が私のキャラだからダメよ』

クスクスと、僅かな笑い声が微かにだが聞こえる。
彼女は歩きながら会話を続ける。

「ねぇセンパイ。無駄な会話は止めにしませんか?どうせ“仕事”なんでしょ?」

『あぁ、ごめんなさい。心を読めない会話はつい楽しくって』

「はぁ……」

今度は向こうに聞こえるように、ハッキリため息を吐く。
これくらいはやらないと鬱憤は晴れない。
彼女は歩く。


その足は、路地裏、深い深い闇の方へと進んでいた。
先程のカフェからも既に遠い。


「で?内容は?」

『せっかちね……今回は少々特殊よ』

「特殊?」

『暗部じゃなくて、超能力者(レベル5)への指令なのよ。だから実質、レベル5傘下の能力者何人か以外はこの任務に関わらないわ』


534: 2010/11/10(水) 09:37:10.13 ID:gRhL.9A0


「レベル、5のみ……」

『当然、全員よ。“彼”も勿論、ね』

「……」

美琴は無言。

彼女は歩き続ける。

「あん?嬢ちゃんなんでんなとこにガァッ!?」

彼女は歩き続ける。

「テメェ!?一体何ガァァアッ!?」

彼女は歩き続ける。

「ひ、ひぃぃぃいっ!?た、助けぁああああああっ!?」

彼女は歩き続ける。

「こ、の、化けもん、が……」

彼女は歩き続ける。


彼女は、歩き続ける。


やがて、ピタリと足を止める。
そこは路地裏の中でもかなり開けた空間だった。
美琴は携帯を耳に当てたまま、背後を振りかえる。


そこには、電撃で氏なない程度にまで痛めつけられた不良達の道が出来ていた。
ピクピクと、時折痙攣するところから、かろうじて氏んでいないのが分かる。

『あれ?能力使った?通信が悪くなったわよ』

「ちょっと邪魔だったので。で?内容は?」


535: 2010/11/10(水) 09:40:57.83 ID:gRhL.9A0

人を痛めつけても何も思わなくなった自分に、美琴は笑う。
愚かだと、馬鹿だと。
唯一の救いは、人をまだ頃していないことか。
だが、今回の仕事の内容次第では、いや、いつかこの手を直接血に染める時が来るのだろう。
それが早いか遅いか、ただそれだけだ。

『今回の内容は捕獲。よかったわね』

「ターゲットは?」

少しホッとしながらも、彼女はそれを見せない。
携帯の向こうに居るのはある程度信用にあたいする人間とはいえ、余り弱い所は見せたくない。

『この電話の後に写真データごと全部資料送るわ』

「……センパイも出るんですか?」

『まぁ、統括理事長直々らしいからね。上層部の連中ならいずしらず、一番上からだから』

内心。
美琴は驚いていた。
まさかトップが動くとは。
だが、同時に打算も働く。

上手く立ち回れば、『救える』かもしれない。
救うというよりは、元に戻す、だが。

「……そうですか、では」

返事を聞かず、通話を遮断する。
ふぅー、と大きく息を吐き出し、空を見上げた。


切り取られた視界から覗く空は何処までも青く、何処までも綺麗だった。


~~~~~♪


またもや携帯が鳴る。
ただし今度はメールだ。
彼女は携帯のボタンを押し、中身を見る。




そこに映っていたのは、白い修道服を着て満面の笑みを浮かべた少女だった。

あの、インデックスという少女だった。

536: 2010/11/10(水) 09:41:48.52 ID:gRhL.9A0







「とうま、どうするの?」

「俺の友達の力を借りようと思う」

第七学区に存在する、廃墟ビルの一つ。
その瓦礫と剥げた塗装が目立つ中で、上条とインデックスは会話していた。
上条が自分の携帯を見せながら言った言葉に、インデックスは下を向く。
彼女は何も言わないが、大体何を考えているが分かる上条は、苦虫を噛み潰したかのように表情を歪め、

「分かってる。けど、やっぱり二人じゃ無理なんだ」

そう、無理だ。
ただのサラリーマンが時限爆弾のタイマーを解除出来ないように。
ただの高校生である上条には、インデックスを外に連れ出すだけの手札さえない。
手札(知識)があれば立ち回れるが、それが無ければ逆にどうしようもなくなるのだ。


537: 2010/11/10(水) 09:42:27.90 ID:gRhL.9A0


インデックスの不安を拭うように、彼女に目線を合わせるように屈んで喋る。

「今から呼ぶのはそれなりの奴だ。俺と違って手札(知識)も一杯持ってる。……それに、信用出来る」

「……うん、分かった」

インデックスは頷いた。
そして顔を上げ、




「私は、とうまを信じてる」




そう、目を見つめながら言った。


「……いいのかよ、神様を信じてるシスターさんがんなこと言って」

「いいんだよ。信仰と信頼は全く別物だから」

そうか、と上条は笑いながら言った。
そうなんだよ、とインデックスは笑いながら言った。


もし、この光景を見た人が居たとして、誰が信じてるだろうか?






この二人が、この世界に嫌われた不幸な者だと。





538: 2010/11/10(水) 09:43:03.99 ID:gRhL.9A0



ピピピッ!と、突然電子音が鳴り響く。
音源は上条の携帯からだった。
インデックスは上条の持つ携帯を見つめ、

「さっきから気になってたんだけど、なんなのそれ?」

「何って……携帯電話」

「ケータイデンワー?」

こりゃ驚いたと、上条は少しだけ引いてしまう。
掃除ロボットを見た時や自動販売機を見た時も思ったが、この少女はとにかく科学の知識が無いらしい。

「えーとだな、これは遠くの人と何時でも何処でも会話出来る道具だ」

「むむっ!?か、科学は使い魔だけでなく、誰でも使える通信用霊装まで作り出したの?怖るべし科学……」

なんだかとんでもない勘違いをしてそうな彼女を横目に見つつ、上条は耳に携帯を当てた。

「もしもし?」

『上条ちゃんっ!!』

「おわっ!?」

イキナリの大声に、鼓膜がキーンッ!と痛む。
携帯から聞こえて来たのは甲高い、子供のような声だった。


539: 2010/11/10(水) 09:43:42.09 ID:gRhL.9A0


「なんだ、小萌先生か」

『なんだ、では無いのですよー!』

声の主は上条の担任教師だった。
声のみなのでまだましだが、見た目は小学生程度のミニマム教師で、とてもでは無いが大人には見えない。

『上条ちゃん補修はどうしたんですかー!?今日あるって朝言いましたよー!?』

「……あっ」

間抜けな声を上条は上げる。
そういえば、そんなものもあった。
そのせいで朝ローテンションだったというのに。
チラッ、とインデックスの方を見る。
彼女は「?」と首を傾げていた。
返事は、既に決まっていた。

「……すみません、先生。今、補修なんかより百万倍大切なものがあるんです」

『……』

普段なら「そんなこと言ってたら将来大変ですよー!?」と言って来そうだが、上条の言葉に秘められた重さを感じ取ったのか、沈黙が帰ってくる。


540: 2010/11/10(水) 09:44:17.09 ID:gRhL.9A0


………………。


やがて、向こうから声が発せられた。

『……全く、上条ちゃんは本当におバカさんですねー』

言葉には呆れと、心配と、少しの嬉しさが篭っていた。
上条は察する。
だから、

「……ありがとうございます」

心を込めて、礼を言った。

『でもあんまり危ないことはしないで下さいね。上条ちゃんも、私の大切な生徒なんですからー』

「はははっ……」


グイッ。


「んっ?」

(…………)

上条はズボンを引っ張られ、みるとインデックスが不安気な顔をしている。
巻き込んで迷惑をかけたことを、心配しているのか。
彼は気にすんなという思いも込めて頭を撫でる。もうすっかり撫でるのにも慣れていた。
上条の手から伝わる心地よさにインデックスは目を細める、






が。
ふと、上条の手に反応しなくなり、どこか一点を見続ける。
釣られるように上条も視線を動かす。



541: 2010/11/10(水) 09:44:52.58 ID:gRhL.9A0



廃墟ビルの部屋。その入り口、二人の前方に男が立っていた。
身長は百八十はあり、耳にピアス、そして青い髪が特徴だ。

そして、上条と全く同じ制服を着ていた。

「青髪?」

男のあだ名を呼ぶ上条。
彼は青髪ピアスというあだ名の、上条のクラスメイトだった。
その変O性はともかく、以外といい奴なので上条とよくつるんでいる。
だが、と、上条は疑問に思う。
彼は上条と同じように補修組の筈。
なのになんでここに居るのか。
なんで、なんで。






何故、こうも見ているだけで不安に思う?



542: 2010/11/10(水) 09:45:32.27 ID:gRhL.9A0



『青髪ちゃんもそこに居るんですかー?』

「えっ、いやその……」

呟きが携帯の向こうにも伝わっていたらしい。
インデックスを少しずつ左手で下げながら、上条は何故か全神経を集中させた。
何故なのか、上条にも分から無い。
目の前に居るのは友達……親友の筈なのに。

そして、答えを考える上条の耳に、






『青髪ちゃん、五分程前に教室から出て行っちゃったんですよー』






その後、何か言ったかもしれないが上条は認識出来なかった。
それよりも、無視出来ないワードがあった。

五分。五分前。

あり得ない、と上条は思う。
この廃墟ビルから学校まで五分で移動するなんて、絶対に、どんな手段を用いても不可能だ。

それこそ、上条が想像も出来ないような移動手段でも無い限り。


543: 2010/11/10(水) 09:46:20.35 ID:gRhL.9A0


やがてプツン、と携帯から音がしなくなる。通話を切ったからだ。
ゆっくりと、ポケットに携帯を入れ直し、青髪ピアスを見てーーー

「あっ」

上条は気が付いた。
漸く気が付いた。
自分が、どうしてここまで不安になっているのか。




笑っていないのだ。いつも、場をバカな発言で和ませる彼の顔が。




「」

動けたのは、経験故か。
横にスライドするように、インデックスがいない右側に回る。
ジャリッ、と。靴の底が瓦礫の欠片を砕く。


瞬間、元いた場所を拳が通過した。


遅れてゴバッ!と、何かが砕ける音が鳴る。
音が鳴ったのは、青髪ピアスが元いた場所。
コンクリートの床が、膨大な衝撃を受けたかのように粉々になっていた。
そして、上条が躱した拳の主は、彼に決まっていた。


544: 2010/11/10(水) 09:46:59.21 ID:gRhL.9A0


(ーーーッ)

ゾクッ、と。
上条の全身が震える。
今のは、人間が生身で出せるような早さでは、無い。
いや、出したとしても逆に体が壊れるくらいの速度だった。
それに、信じられなかった。
青髪ピアスは、上条と同じ無能力者(レベル0)の筈だ。
なのに、何故。
何らかの薬や兵器でも使っているのか。
一瞬と呼ばれる時間の間に、様々な思考が駆け巡る。

「テ、メェ……何しやがる!?」

だが上条がしたことは、真正面からから殴りかかることだった。
難しいことは抜きにして、とにかくいつものように殴り返そうと、右のストレートを放ったまま止まっている青髪ピアスの顔面へと、右の拳を叩き込んだ。

ゴンッッッ!!!と、打撃音が鳴る。




ただし、壁と肉がぶつかったような、だ。





545: 2010/11/10(水) 09:47:43.65 ID:gRhL.9A0


「ーーっ!?」

ズキンッ!と、右手から痛みが生じる。
青髪ピアスの顔面に拳はしっかりと当たっている。頬をえぐるような形だ。
しかし、何故か壁に拳を叩きつけたかのように、右手に痺れが走る。

「……」

そして思わず固まっている間に、強く右手を右手でひっ掴まれた。
上条が掴まれたことに反応し、動こうとした時には、


ブンッ!!と、思いっきり投げられていた。


(……はっ?)

余りの出来事に、上条は宙を舞いながら呆然とする。
実際、彼がやられたことは単純だった。

右手を持ったまま、片手で袋を投げるように投げられた。

体重移動とか、重心とか、力を受け流すとか、そういった技術など無い。
ただ掴んで投げる。
上条は、それをされただけ。
あり得ない。普通の人間なら肩を壊す行為。
上条の腕が壊れてないのは、たんに運がよかったから。


546: 2010/11/10(水) 09:48:19.20 ID:gRhL.9A0


そして、上条はゴミの如く十メートル先の壁に叩きつけられる。

轟音が、廃墟ビルの部屋に響いた。

「がっ……がぁぁぁああああああああああああああああああああっっっ!!?」

絶叫。
壁が悲鳴を上げる程の速度で叩きつけられた上条の喉から、張り裂けんばかりの絶叫が響く。
メキメキと、体の悲鳴が直接脳に伝わった。

「とうまっ!」

「がっ……ぐっ……」

ズルズルと、壁に寄りかかり座り込む上条に駆け寄るインデックス。
その姿を見て、必氏に力を振り絞り、立ち上がる。
膝は情けなく震え、右手はズキズキと全体が痛むがそれでも、立ち上がる。
立ち上がり、彼は問いを発した。
現実を、信じたく無いがために。
だが、彼は分かっていた。現実は変わらないと。

「お前……誰だよ」

それ故、言葉は疑問系で無く、されどゆっくり二人に近付く彼は答える。






「学園都市序列第六位『肉体変化(メタモルフォーゼ)』」






その姿は、上条が知る親友の姿では無くーー


ただただ、任務を遂行するだけの兵器(人間)が居た。



547: 2010/11/10(水) 09:50:40.57 ID:gRhL.9A0

ここまで。
面白いと思って頂けたらこれ幸い。
かなりオリジナル設定(自己解釈)も入るけど大丈夫かなぁ……

感想など、くれると嬉しいです。

715: 2010/11/14(日) 11:49:38.05 ID:NM5LwL60

>>546からの続きです。
自己解釈、オリジナル設定、かなり入ってます。
短いです。


716: 2010/11/14(日) 11:50:13.87 ID:NM5LwL60




「第、六位……?」

茫然自失。
今の上条を表すならその言葉が一番だろう。
理解出来ない。友人がテ口リストでした、なんて言われたような心境。
人間が一生に一回経験するかしないかであろう思考を、上条は無理矢理振り払う。
現在、大事なのは青髪ピアスの正体に驚くことでは無い。

「……青髪、お前一体何のつもりなんだ?お前が、学園都市に七人しか居ない超能力者だったとして、一体何でこんなことを……?」


「…………かみやん。科学と魔術の関係性は知っとる?」


「……!?」

発せられた言葉に、上条は言葉を返せない。
別に、口からいつも通りのエセ関西弁が出て来たからでは無く、


科学(PSI)側の筆頭とも言えるレベル5が、魔術(オカルト)の存在を知っていることに、驚愕していた。



717: 2010/11/14(日) 11:50:52.79 ID:NM5LwL60


「……?あぁ、学園都市のレベル5全員が魔術を知っとる訳や無いで。ぼかぁ色々特別やから知っとるだけや」

「特、別……?」

「そっ。まぁそれは置いといてや……」

会話をしている間にも、上条の体は震えている。
痛みもあるがそれ以上に、普段自分が知っている親友では無い姿に、恐怖していた。
この空間は今、上条が今までの人生で体感したことの無い、非現実さを持っていた。
まるで、外国に行ったかのような、別世界に迷い込んでしまった感覚。


上条が、本来居るべきで無い世界の感覚。


「科学サイドの本拠地たるこの学園都市……そう簡単に魔術サイドの人間が入り込める筈無いやろ。ただのテ口リストとかならともかく、禁書目録なんていう爆発物を態々侵入させた意図は分からへんけど……」

「っ……」

禁書目録と爆発物。二つの単語に、状況について行けてなかったインデックスは息を詰まらせた。
上条には後ろに立つインデックスの顔は見えないが、驚いていることは分かる。
魔術師で無い筈の、目の前の超能力者が、魔術サイドの自分について知っていることに驚いているのだ。
上条も疑問に思う、なんで魔術師では無く、学園都市のレベル5がインデックスを狙うのか。
彼の疑問に答えるように、青髪は言葉を続ける。

718: 2010/11/14(日) 11:51:30.68 ID:NM5LwL60

「要するにや。ここは科学の領域(テリトリー)。大き過ぎる問題には科学も参戦します。……こんなとこ?」

「……庭に危険物があるから、自分達で取り除くってか?」

「どんな協定があったかはしらんけどな。さっき全超能力者にそう命令が出たのは確かや」

さて、とそこで言葉を切り、




「かみやん。そのシスターちゃんを渡してくれへんか?」




本題であろう提案を発した。

「……もし、俺がここでインデックスを渡せばどうなる?」

上条は、絞り出すように声を出す。
後ろ手にインデックスを庇いながら、右手が強く強く握られる。
それを見つつ、青髪ピアスは顎に手を当てながら、









「まぁ、魔術サイドに引き渡すことになるやろうな。その時に脳に電極でもぶっ刺して洗脳されるかもしれへんけど」




その一言で充分だった。


上条を、前に動かすには。


719: 2010/11/14(日) 11:52:41.55 ID:NM5LwL60


「……インデックス。まだ他に敵がいるかもしれない。その時は、俺に構わずとにかく逃げろ。後で追い付く」

「そんなこと!出来な」

インデックスからの抗議の言葉は、上条の耳には届かない。
彼は既に床を蹴り、青髪ピアスに向かって走っていた。
「……真っ正面から、か。かみやんらしい」

その、どこまでも真っ直ぐな彼を見て、彼を裏切ったとも言える青髪は、笑う。
嘲笑ったのでは無く、馬鹿な行動に笑ったのでも無く、ただ、余りの真っ直ぐさに苦笑していた。
しかし、瞬時にその表情は変わった。
優しさの欠片も見つけられない、兵器としての表情へと。

上条は十メートルの間合いを走って詰める。
そして、後三メートル、飛び込もうと足を強く踏みしめた瞬間、

「ッ!」

またもや、直感を頼りに斜め前に飛んだ。
体を捻るように、何かを躱すように。

ヒュボッ!!

効果音に表すならそんな音が、上条の鼓膜を震わせた。
見ると、上条の逸らした体を掠るような形で青髪の拳が通過している。
プロのボクサー以上のスピード。

720: 2010/11/14(日) 11:53:30.79 ID:NM5LwL60

だが、躱せた。

(行ける!あのスピードの理由は分らないけど、戦える!)

青髪の背後を取る形になり、上条は右足が地面に着地すると同時に右手を振りかぶり、青髪の背中に狙いを定める。

「らぁっ!!」

掛け声が口から迸り、今まで敵を倒し続けて来た右拳を放った。
空気を切り裂き、拳が吸い込まれるように青髪の首後ろに迫ってーーーー




ゴガン!!と、信じられない程硬い音が鳴った。


「が、ぐぅっ!?」

伝わる痛みに、意識するよりも早く悲鳴が漏れる。
皮膚が擦り切れ、血が垂れるのが分かる。
右手から最初に殴った時とはレベルの違う痺れが走り、元々ダメージを受けていた腕が更に痛んだ。

「一体……っ!?」

疑問の声は上げられない。上げる暇が無い。
右手を痛みのあまり抑え、背後に何歩か下がった上条に、左肩を前に出して、青髪が此方に一歩を踏み出していた。

そして、


721: 2010/11/14(日) 11:54:19.10 ID:NM5LwL60





メゴッッッ!!と、莫大な轟音が轟く。

音の出所は、上条の体、タックルした青髪の肩付近と、突進のために蹴られたコンクリートの地面からだった。




「ーーー」

今度は、絶叫さえ出ない。
そのまま上条は吹き飛び、ガラスが砕けてただの四角い穴になった窓を突き抜ける。
一階なため、落下による氏の危険は無い。廃墟ビルが立ち並ぶ、路地裏の広場に放り出されただけだ。
だが、余りにも吹き飛ばされたスピードが速すぎた。

ガガガガガッッ!!と、地面と体が高速で擦れ、摩擦音が上がった。

「ぎっ、がっ……!?」

そこまで来てようやく、悲鳴がこぼれ出す。
ゴロゴロと地面を転がり、制服が所々裂け、見るにも耐えないボロボロになって、それでも上条はなんとか地面に左手を付き、立ち上がった。
立ち上がれたのは、タックルが当たる寸前に後ろに跳んで衝撃を少し減らしていたから。
そうでないと、肋骨の二、三本は折れていただろう。

「ぐぅっ……!」

人生で初めてと言っていい、氏がギリギリまで迫った戦い。
しかし上条には恐怖は無く、ただ焦りだけが存在した。

722: 2010/11/14(日) 11:54:54.87 ID:NM5LwL60

「イン、デックス、が……!」

あの少女はまだ廃墟ビルの中に居る筈だ。
そして青髪も中に居る。
二人きりになっているだろう。
マズイ、と上条は考える。
さっきの話からして殺されることは無いだろうが、それでも攫われる可能性は高い。
そして、何処か上条が知らない場所に攫われた場合、助け出すことはほぼ不可能に近い。

だがしかし、杞憂だったようだ。
たった今、上条が吹き飛ばされて来た窓から、青髪が出てくる。
身長百八十センチもある体格で窓から出てくる姿は、威圧感を与えて来た。
青髪から笑顔が消えるとこんなにも変わるのかと、上条は頭の何処かにて思考する。

「インデックスは、いいのかよ……」

上条は言葉を発した。時間をかせぐためだ。
理由は二つ。
一つは右手の問題。
ダメージを受け過ぎたのか、右手が痺れてピクリとも動かない。
指が震え、拳を握ることも出来なかった。
そして、もう一つは考えるため。
先程までに、上条は二回青髪に拳を叩きつけている。
だが、

(あの感触はなんだ……!?)


723: 2010/11/14(日) 11:55:41.77 ID:NM5LwL60


自慢では無いが、上条は結構人を殴ったことがある。
皮膚を、肉を殴る感触というものが知っている。
だが、青髪を殴った時の感触はまるで鉄に拳を叩きつけたような感じだった。
上条の言葉に、青髪は、

「まぁ、かみやんはしつこいし。確実に倒してからあのシスターちゃんを捕まえればえぇ」

眈々と答えた。
道を教えるくらいの、軽々しい調子で。

「…………な…でだ、よ」

「?」

「何でだって聞いてんだよ!!」

突然、上条は叫んだ。
この叫びには、打算など無かった。

「お前が第六位だなんて初めて知ったし、俺が知らねぇことだって沢山あるんだってのも分かる!でも違うだろ!?お前は本当はこんなことやるような奴じゃねぇだろうが!」

それは、青髪の言葉を聞いてから思っていたことだった。
確かに、上条は目の前の親友のことを、本当の意味で知らないのかもしれない。
上条達に見せていたのはただの上辺だけで、本当はこんな風に兵器みたいに人を簡単に傷付ける人間なのかもしれない。


しかし、それでも上条は、


「なんで、お前が、お前みたいな奴が、何の罪も無いアイツを、捕まえようってんだよ……」



724: 2010/11/14(日) 11:56:19.14 ID:NM5LwL60


青髪という一個人を、信じていた。
本気で殴りかかられても、投げ飛ばされても、吹き飛ばされても、上条当麻は目の前の親友を信じていた。

「……かみやんは、僕のこと誤解しとる」

ポツリ、と。
上条の言葉を聞き、彼は呟いた。

「ぼかぁそんな綺麗な人間やない。自己保身のためなら、喜んで他人を傷付ける……現に、かみやんを傷付けたやろ?」

「……」

事実を突きつけられ、沈黙が場に満ちる。
そして、沈黙を切り裂くように青髪が上条に尋ねて来た。

「肉体変化(メタモルフォーゼ)って能力のこと、何処まで知っとる?」

「……いや、さっぱり」

「勉強しいや、かみやん……」

ハァ、と彼はため息を吐いた。
上条も何故かいたまれなくなり、左手で頬をかく。

「……肉体変化ちゅーのは、文字通り肉体を好きなように変化される能力や。遺伝子レベルでは無理やけどな。ただとても珍しい能力で、学園都市の中でも二、三人しか使える奴はおらへん」

725: 2010/11/14(日) 11:57:00.72 ID:NM5LwL60


青髪の言葉からすると、肉体変化というのは結構貴重な能力らしい。
学園都市二百三十万人中、たった二、三人。
かなりの貴重度だろう。
だがそこで、あれ?と上条の思考内の動きが止まる。
レベル5になるからには、それなりの『特別』が必要だ。
『超電磁砲』で例えるなら、十億Vの高電流に、更にそれを自由自在に操り、能力名にもなっているレールガンという戦略兵器レベルの攻撃を放てる。

しかし、青髪にはそれが無い。
肉体を変化させる、なんていう能力で、一体どうやってレベル5になったのだろうか?たった一人だけの能力ならともかく、二、三人居ると分かっている能力で。
それとも、他の肉体変化の能力者よりも能力が遥かに上手く扱えるのか?
そんなことを上条が思考していると、








「そう『公式では』なっとる」









726: 2010/11/14(日) 11:57:38.75 ID:NM5LwL60


「……はっ?」

少しの間を置いて、上条の間抜けな声が路地裏の広場に響いた。
言葉の意味が分からなかった。
彼が何を言いたいのか、理解出来ない。

「公式、って言っても所詮はたった三人の能力を研究しただけや。もしその三人が『本気』を見せてなかったら?いや、そもそも……」

彼は、青髪はそこで言葉を切り、




「本当は、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』は学園都市に『一人しか』居ないとしたら?」




「…………おい、待てよ。それって……」

ここまで来て漸く、上条は理解した。
そして、それを背定するために、青髪は口を開く。




「そうや。僕は、学園都市に居ると言われている『肉体変化』全員の正体や」





727: 2010/11/14(日) 11:58:15.49 ID:NM5LwL60



「……ちょっと待てよ。だったらIDは?遺伝子情報や血液情報、場合によっちゃ声紋や脳波のデータまで必要だってのに……いや、そもそも誰も気がつかない筈が……」

ブツブツと、驚きの余り疑問を呟き続ける上条。
だが、それに青髪は答えた。
余りにも、答えが簡単過ぎたから。

「そんなもん、肉体変化で一発や。後、統括理事会に黙認して貰っとる、というかやらされとるし……まぁ、正確にはあのビーカー野郎(?)にやけど」

肉体変化。
その力は、全くの他人にさえなりすませるのか。
聞いたことが無い、ある意味魔術などよりも信じられないことに、上条は絶句する。

「……かみやん、僕はな。ただの青髪ピアスで居たいんや」

絶句している上条を見ながら、彼は語る。
その言葉には、どんな思いが込められているのか。
上条は黙って、耳を傾ける。


728: 2010/11/14(日) 11:58:56.94 ID:NM5LwL60


「この能力のせいで、実験漬けやった。何回も肉体変化し続けたせいで、本来の自分の歳も、姿も、性格も、声も、もう分からへん」

なんだそれは、と上条は心中で叫ぶ。
この学園都市の何処かが壊れているのは、ここで生きるうちに分かっていた。

「頑張って頑張って交渉して。漸く、幾つかの条件と引き換えに、僕は平穏を手に入れた。条件っても、肉体変化の能力者として学園都市内で偽ることや、今回みたいな緊急の任務に従うことだけやったしな」

だが、目の前の親友が、実際にその壊れた世界に浸かってこんなことをしたのかと思うと、途方も無い、言葉では表しきれない怒りが湧き上がる。

「そのせいで、レベル0として過ごし初めての、最初の友達と戦うなんて、皮肉やけど」

吐き捨てるように言ってから、青髪は上条を見る。
上条も、痺れが取れて来た右手に力を込めつつ、青髪を見る。
二人はしっかりと対峙し、互いの目を睨み付ける。

「かみやん、悪いことは言わへん。今回のことは何時もの『不幸』と同じように忘れて、普通の日常に帰るんや。今なら、引き帰せる。『幸福』を得ることが出来る」


729: 2010/11/14(日) 11:59:29.41 ID:NM5LwL60


最後の通告。
しかし、上条は答えない。
口を、動かさない。
ただただ、黙って青髪を見ていた。
目は真っ直ぐに青髪の瞳を見つめている。

「……はぁ。結局こうなるんやね……」

そう。結局、この二人は分かっていた。
上条も、青髪も。
心の何処かで、言葉だけではこの問題は解決しないと、知っていた。





だって、彼等は親友なのだから。





730: 2010/11/14(日) 12:00:59.29 ID:NM5LwL60

以上です。
楽しみにしてくれている人が居たら、スレでも立てようかと思っています。

756: 2010/11/14(日) 16:10:32.66 ID:NM5LwL60

皆さん乙です。
というか、全体的にレベル高過ぎるだろ……

>>735-736
次回で上条さんが同じことで悩みます。
ただ、>>736さんの推論が正しいです。

期待してくれている人が居るので、ある程度書き溜めしてからスレ立てしようと思ってます。
タイトルはこのままでいいかな……
目指すは「禁書の二時創作?だったらこれが面白かったな」って言われるレベルの作品!

今まで三度もここを使わせて頂き、ありがとうございました。


引用: ▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-16冊目-【超電磁砲】