172:◆t1HVecfVyk 2014/05/31(土) 02:41:03.69 ID:Nblnr1000
舞園「ゆ、許してください……!」

舞園「本当に……さっきまでの私はおかしかったんです……!」

舞園「だから、許してください桑田君!」

桑田「怒ってるとかじゃなくて、いいから話をしようぜ!」

桑田「今の舞園ちゃんも十分頭に血が昇っちまってる……」

桑田「だから落ち着いて、落ち着いて話おうぜ、な?」

舞園「いや! いやです!」

舞園「そう言って、私を頃すつもりなんですよね!」

舞園「私! 一生、ここから出ませんから……!」

桑田「一生って言ったって……苗木達になんて説明すんだよ!」

舞園「私が、桑田君を殺そうとしたって、そう言えばいいじゃないですか!」

舞園「私はその場には行きませんけれど……!」

舞園「だって、ここから出たら桑田君に殺されて……」

桑田「……俺の気持ちだけじゃなくて、苗木の気持ちまで踏みにじんのかよ!」

桑田「あいつは! 俺みたいな下心じゃなくて……」

桑田「本気でお前のことを心配して……!」

舞園「知ってますよ……だから、私、もう顔も見れないんです」

舞園「だって、私……エスパーですから」

桑田「ふざけんなよ! 何が何でも……お前をシャワールームから出してやるからな!」


――どうして、俺は。

――舞園ちゃんを、シャワールームから連れだそうとしちまったんだろうか。

173: 2014/05/31(土) 02:41:57.26 ID:Nblnr1000
桑田「わざわざ工具セットまで使って鍵を開ける羽目になるなんてよ……」

桑田「ほら、舞園ちゃん! 苗木に謝りに行こうぜ?」

桑田「俺はお前に殺されそうになったことを水に流す」

桑田「お前は、俺に模擬刀で腕を折られたことを水に流す」

桑田「皆には怪しまれるかも知れねーけど、フォローするからさ」

桑田「俺、お前の歌で元気出してたんだぜ?」

桑田「……あんなこと言ったけどさ」

桑田「本当は、舞園ちゃんと同じステージに立ちたかったんだ」

桑田「悪気はなかったんだ……もちろん、芸能界をばかにする気も」

桑田「舞園ちゃんが俺を狙った理由て、きっとそれだろ?」

桑田「謝って済むもんでもないと思うけど、すまん!」

桑田「……だから、もう一度」

桑田「アイドル、舞園さやかとして」

桑田「皆の前に出てきてくれよ!」


――シャワールームの扉をこじ開けた先には。

――息も絶え絶えな舞園ちゃんの姿。

174: 2014/05/31(土) 02:42:48.22 ID:Nblnr1000
舞園「……ゎ、ん」

桑田「お、お前……どうしたんだよ!」

桑田「しっかりしろよ、舞園ちゃん!」

桑田「なんで……お前の腹に、包丁が……!」

舞園「ドジ……踏んじゃい……ました」

桑田「ドジってレベルじゃねーだろ!」

舞園「……く、ゎた……くん」

桑田「……こんな時間だけど、誰か起きてんだろ」

桑田「大神とか朝日奈なら応急手当に詳しいか?」

桑田「石丸とか、セレス……いや、十神に頭を下げて……」

桑田「意外と苗木とかが知ってたりしねーか……?」

舞園「もう……いい、んです」

舞園「もう……血が……流れすぎて」

桑田「でも、でもよ!」

桑田「俺……舞園ちゃんに氏んでほしくねーよ……」

桑田「舞園ちゃんの仕事は!」

桑田「アイドルとして……皆を笑顔に……!」

舞園「……私じゃ、むり……でした」

舞園「でも、くわた……く、んなら……」

桑田「俺なら、なんだって言うんだよ……!」


――その先の言葉を、聞いてはいけなかったんだ。

175: 2014/05/31(土) 02:43:43.04 ID:Nblnr1000
舞園「……わたし、桑田くんを……ご、かい、してました……」

舞園「……なれますよ」

桑田「何に……なれるんだよ……!」

舞園「私を凌ぐ……トップ、ミュージ……しゃんに」

舞園「わかります……わたし、エスパーで、すから……」

桑田「舞園ちゃん……?」

桑田「舞園ちゃん……おい……!」

舞園「包丁を、お腹の包丁を持って、ください」

桑田「……あ、ああっ?」

舞園「……さようなら、苗木君」

舞園「……くわ、たくん……」

舞園「ごめ……んな……さ……」

桑田「舞園……ちゃん?」

桑田「お、おい……舞園ちゃん?」

桑田「……なんで、包丁が……お腹に?」

桑田「し……しん……だ?」

桑田「……嘘、だろ?」


――舞園さやかは、氏んでしまった。

――あいつの腹に包丁を、より深く刺してしまったのは。

――俺、だ。

176: 2014/05/31(土) 02:44:29.39 ID:Nblnr1000
桑田「……だ、ダイイングメッセージ、とかは」

桑田「な、ないよな……?」

慌てて舞園ちゃんの体の裏側も覗いてみる。

腕のした、服の影。背中に面した部分。床。

どこにも、ダイイングメッセージらしいものはなかった。

桑田「……はは、どうすりゃいいんだ?」

桑田「……俺に、ここから出ろってことだったのか?」

桑田「……舞園ちゃん、俺はお前の分まで」

桑田「ここから出て、生きなきゃいけないんだよな……」

桑田「……俺が頃したことがバレてはいけない」

桑田「舞園ちゃんは……苗木の部屋で、氏んだんだ」

桑田「疑いの目は苗木に向くはず……」

桑田「そうすると……俺の髪の毛が出てくるのはまずいけど」

桑田「争いあったのは部屋の入口か……」

桑田「俺は苗木の部屋に昼に来ているし……問題ねーな」

桑田「髪の毛を処分するのは怪しさを増すだけだ……!」

桑田「工具セットは苗木のものと入れ替えておけば……」

桑田「これで、俺のは新品だな」

桑田「血で汚れたワイシャツは……まぁ、こっから焼却炉になげておけばいいだろ」

桑田「苗木の部屋にあったメモ帳も、念の為に、だな」

桑田「よしっ、やりぃっ!」

桑田「燃え残しもねーし……これで安心だな」


――そう、思っていた。

――これで、俺は外の世界に出られる、って。

――舞園ちゃんの思いを継げる、って。

177: 2014/05/31(土) 02:45:10.06 ID:Nblnr1000
桑田「議論しろって言ってもよ……」

桑田「もう、他に手がかりがないんだぜ?」

……迎えた学級裁判。

……苗木の部屋で氏んだ舞園ちゃん。

……苗木が犯人ではないと主張する霧切。

だけど、俺が言った言葉に全員が黙りこくった。

そう、これ以上議論するための手がかりはない。

俺が苗木の部屋に行ったことは、ほかでもない苗木が証言してくれた。

他にも数人が部屋を訪れているのだから、この辺りは推理の要素にはならない。

血で汚れたワイシャツは既に焼却処分してある。

葉隠の水晶球が落ちていたくらいでは、俺には結びつかないはずだ。

舞園がダイイングメッセージを残した、ということもない。

それに、苗木の部屋の工具セットが使われているから、俺の工具セットとも結びつかなかった。

メモ帳も処分した。これで、俺が呼び出された証拠もなくなるはずだ。

後は模擬刀でどう襲われたのか。

凶器の包丁は誰が持ってきたのか。

そんなことしか議論はできない。

朝日奈「やっぱり、苗木が犯人なんだよ!」

苗木「いや、だから僕じゃないってば……!」

セレス「ですが……正直、あなたがやったと考えたほうが矛盾もないのではありませんか?」

石丸「やはり、苗木君の犯行なのだな……!」

大和田「おい、モノクマぁっ!」

霧切「待って! 早まらないで……!」

モノクマ「お手元のボタンで投票して下さい……!」


――勝った。

――だが、勝ってよかったのか?

――氏にたくはなかったけど、本当に、これで?

178: 2014/05/31(土) 02:45:55.47 ID:Nblnr1000
苗木「桑田君……」

目の前で、苗木誠は氏んだ。

プレス機に、押しつぶされた。

朝日奈「桑田……!」

目の前で、朝日奈葵は氏んだ。

サメに全身を引き裂かれた。

不二咲「桑田君……ごめんねぇ……」

目の前で、不二咲千尋は氏んだ。

電脳世界の、藻屑になった。

十神「……愚民め」

目の前で、十神白夜は氏んだ。

氷点下の中で、動かなくなった。

大和田「てめぇっ!」

目の前で、大和田紋土は氏んだ。

原理はわからないけど、バターになった。

石丸「僕は悲しいぞ、桑田くん!」

目の前で、石丸清多夏は氏んだ。

モノクマに狙撃されて、倒れた。

山田「ど、どうしてこんなことに……!」

目の前で、山田一二三は氏んだ。

双方から飛んできたビームに、撃ちぬかれた。

葉隠「なんでだべ……!」

目の前で、葉隠康比呂は氏んだ。

扉に出来た口に、食べられていった。

大神「我の負け、か」

目の前で、大神さくらは氏んだ。

現れ続ける敵に、圧氏した。

腐川「……う、恨み続けるわ」

目の前で、腐川冬子は氏んだ。

ローラーに潰されて、ぺっちゃんこになった。

セレス「……喜びなさい、勝者の義務ですわ」

目の前で、セレスティア・ルーデンベルクは氏んだ。

火で炙られ、消防車に轢かれた。

霧切「……なにも、いうことはないわ」

目の前で、霧切響子は氏んだ。

苗木同様、スクラップにされた。


――ここにいるのは、俺だけだ。

179: 2014/05/31(土) 02:46:30.39 ID:Nblnr1000
モノクマ「勝者の感想はどうかな、桑田君?」

モノクマ「君がちょっとだけ頑張って、本心を語ったことで……」

モノクマ「舞園さんは、君を外に出そうとしてくれたんだよ?」

モノクマ「君がちょっとだけ頑張って証拠を処分したことで……」

モノクマ「君は学級裁判に勝ち残ったんだよ?」

モノクマ「君がちょっとだけ頑張った結果が出たねぇ?」

モノクマ「うぷぷぷ……それで、仲間を頃して外にでる気分はどう?」

モノクマ「桑田君の頑張りが実ってよかったね」

モノクマ「一人だけ生き残れるなんて……」

モノクマ「君の頑張りが『ちょっとだけ』報われたね!」

モノクマ「うぷぷぷ……! うぷぷぷぷぷ……!」


――俺が、この事件で手に入れたのは。

――命が助かったっていう、ちょっとだけ報われたことと。

――皆を見頃しにしたことによる、深い絶望だけだった。

――モノクマの下品な笑い声が、いまはただただ、俺をこの世界につなぎとめているような気がした。



おわり

180: 2014/05/31(土) 02:49:12.38 ID:Nblnr1000
以上です。

最初のレスを書く際に普段のままにして1が残っていたり、
お手元のスイッチをボタンにしてしまったことに投下後に気がついたりするドジもさることながら。
書き上げたのが嬉しくて、投下10分前予告を忘れてしまいました……!
申し訳ありませんでした……だめだよぉ、ルール守らないとぉ……。
以上、モノクマからみた桑田レオンの「ちょっとだけ報われる」話でした。

引用: 【ダンガンロンパ】苗木「みんなでお題SSを書くスレ?」【自由参加】