3: 2012/12/07(金) 23:13:47.75 ID:GU2WlPD00
京子「嫌な夢見ちまったぁ……。あっ、もうこんな時間だ!学校行かないと!」



 キーンコーンカーンコーン

京子「セーフセーフ!」ガララッ!

……!!

ざわ……ざわ……

京子(……? なんだみんな、私の顔見て)

結衣「京子……」

京子「ん?」

結衣「もう大丈夫なのか?」

京子「え? 何の話?」

結衣「いや、……」

京子(なんだ結衣、変な顔しちゃって……クラスの雰囲気もなんかおかしいし)
ゆるゆり
4: 2012/12/07(金) 23:20:04.92 ID:GU2WlPD00
先生「みなさんおはようございます。……。えー、先日起きた事件のことで、……」チラチラ

京子(……? 先生まで私の方を見てる)

先生「えー、今日もそれぞれ通学路の方向で分かれてグループになっての集団下校になります。日中も出来るだけ教室にいるように。以上」

京子(今日も集団下校?? ていうか事件ってなんだ?)

京子「……」シーン

京子(HRが終わってから授業までのこの時間、普段はみんなおしゃべりしてるのになんか静かだ)

京子「ねえ結衣」

結衣「な、なんだ?」

京子「事件って何? 私、聞いてないんだけど」

結衣「……!」

京子「?」

京子(またこの表情…。驚いているような、哀れんでいるような)

結衣「……覚えてないのか?」

京子「何が?」

5: 2012/12/07(金) 23:26:09.51 ID:GU2WlPD00
結衣「……あかりの事だよ」

京子「あかりがどうかしたの?」

結衣「…ッ」

京子「…?」

結衣「お前っ…」

京子「な、なんだよ…」

キーンコーンカーンコーン

教師「よーしそれじゃあ授業始めるぞー」

結衣「……」スッ

京子「あっ……」

京子(さっき結衣の表情…驚いているようで、哀れんでいるようで…それでいて、怒っているような感じもあった…)

7: 2012/12/07(金) 23:31:52.83 ID:GU2WlPD00
教師「じゃあ今日は昨日の続きで178ページからー」

京子(はい? 178ページ?)

京子(いやいや、170ページに到達したなんて聞いてないって)

京子(……って、まあ私は普段から寝てるからよくわかんないけど)

京子(ああ、確かめようにも結衣には話しかけづらいし……)

京子(まあいいや、質問されたらわかんないで終わらせよう)

教師「で、あるからして……」

京子「……」

京子「……ぐう」Zzz…

結衣「……」ボー

9: 2012/12/07(金) 23:36:18.98 ID:GU2WlPD00
京子(しっかし、今日は変な一日だ)

京子(教科ごとの先生が教室に入ってくるたびに私の顔を見て妙な表情をするし)

京子(ぼーっとしていようが寝ていようが私に対して何も言ってこない)

京子(クラスの緊張した雰囲気はだんだんなくなってきたけど、いつも私に話しかけてくるみんなも今日はなんか寄ってこないし)

京子(綾乃や千歳はすっげぇ心配そうな顔でこっちチラチラ見てくるし)

京子(あと結衣にも誰も話しかけない)

京子(なんだろこれ。いじめの前兆かなんか?)

13: 2012/12/07(金) 23:39:31.31 ID:GU2WlPD00
キーンコーンカーンコーン

教師「じゃあ今日はここで終わり。起立、礼」

「ありがとうございましたー」

京子「あぁ、やっと昼休みだー」

京子(つっても授業なんて聞いてないけど)

京子「……」チラッチラッ

結衣「……」シーン

京子(うわっ、話しかけづらっ)

京子「あ、あのさ結衣。一緒に弁当食おうぜ!」

結衣「……」

結衣「ああ」

京子(……なんだよぉーもう)

19: 2012/12/07(金) 23:43:40.63 ID:GU2WlPD00
京子「…」モグモグ

結衣「…」パク…

京子「…」モグモグ

結衣「…」

京子(……まあ)

京子(馬鹿な私でもさすがに現状からして状況なんて推測できるってものだ)

京子(つまり……その『事件』とやらで我が校の生徒であるあかりがなんらかの被害を受けて)

京子(そして集団下校状態になっている)

京子(そしてあかりが受けた被害を忘れて無神経な態度を取る私に結衣が怒ってる、っていうところか)

結衣「…」

京子(うーむ)

20: 2012/12/07(金) 23:51:21.39 ID:GU2WlPD00
京子(そういう状況なら結衣から話を聞こうなんて無理な話だよね)

京子「っと、ご馳走様ー」

結衣「…」

京子(結衣の奴、全然ご飯に手をつけてないな。食欲ないのか?)

京子「じゃあ私、食べ終わったからっ」テクテク

京子(ちなつちゃんは質問相手としてはNG。ひまっちゃんコンビもアウト。綾乃か千歳か…。まあどっちかだな)

京子「生徒会室っと」

22: 2012/12/07(金) 23:55:17.15 ID:GU2WlPD00
京子「綾乃ーいるー?」ガラガラ

綾乃「あっ…」

千歳「…」

京子「お、二人ともいる」

綾乃「な、なにか用かしら?」

京子「あぁ、あのさぁ綾乃。『事件』って何のこと?」

綾乃「……そ……それは……」

千歳「…」

京子(うわ、二人ともすっげぇ目が泳いでる)

25: 2012/12/08(土) 00:00:37.04 ID:6zaxISAs0
ガラガラ

西垣「おぉ、いたか二人とも。ちょうど良かった……ん?」

京子「?」

西垣「歳納。もう平気なのか?」

京子「あ…、はい! もう大丈夫です!」

西垣「そうか、良かった…。お前が学校に来なくなったと聞いて私も心配していたところだ」

京子「いやぁすみません」

西垣「もうすっかり立ち直ったみたいだな」

28: 2012/12/08(土) 00:09:01.79 ID:6zaxISAs0
西垣「ああ、二人とも。このプリントな、全学年全クラスで配れとのことだから。古谷たちにも一年生の分を渡しておいてくれ」

綾乃「あ、はい。わかりました」

西垣「あぁまったく、校長も私をここぞとばかりにこき使うなぁ。あぁ、用事はそれだけだ。それじゃあな」ガラガラ

京子(あ、さっきさらっと聞いとけば良かったな…)

京子「ねえ、綾乃。さっきの続きなんだけど…」

綾乃「あ、ああ、えっと…。ごめんなさい、このプリントを一年生の教室に届けないといけないから」

京子「そっかぁ。あ、なんなら私も手伝おうか?」

綾乃「えっ? い、いいわよ別に!」

千歳「せやで。うちらだけで出来ることやし…」

京子「いやいや、私に手伝わせてよ! 結衣が変な調子で教室に戻りづらくってさ」

綾乃「う、うぅんと…」

30: 2012/12/08(土) 00:16:35.84 ID:6zaxISAs0
京子「てか、全学年へ配るプリントってなんだろ」ペラ

京子「えーなになに。保護者の皆様へ。先日の女子中学生怪氏事件について…の…?」

綾乃「…!」

京子「え?」

京子「怪氏事件?」

京子「…」

ダッ

綾乃「歳納京子!」

京子(怪氏事件って……いやいや)タッタッタ

京子(え? ちょっとそれマジかよ)タッタッタ

京子「はぁ…はぁ…あかりの教室……ここか!」ガラガラッ

31: 2012/12/08(土) 00:22:17.51 ID:6zaxISAs0
京子(ドアを投げあけた轟音で1年生の視線が一斉に私に集中した)

京子(乱れた息を整えながら、教室の後ろの方へ目を走らせる)

京子(窓から1列離れた席で、暗い表情のひまっちゃんとちっぱいちゃんの二人が目を見開いてこっちを見つめていて)

京子(窓際の机、ちなつちゃんの席の姿はなくて)

京子(――あかりの席には花瓶がぽつんと置かれていた)

京子「あ――」

京子(……え?)

33: 2012/12/08(土) 00:26:39.86 ID:6zaxISAs0
京子(が)

京子「あ――あかり…」

京子(花瓶が置かれた席には、あかりがぽつんと――花瓶以上に儚い存在感で、座っていた――)

京子「……はい?」

京子(――座っていた――ような気がする)

バタン

向日葵「歳納先輩!!」

「え?誰?」

「わたし先生呼んでくる!」

「あ、私この人知ってる」

「いつも赤座さんと一緒にいた2年生の

35: 2012/12/08(土) 00:34:10.07 ID:6zaxISAs0
……ちゃん! 京子ちゃん!

京子(うう……眠い……)

……京子ちゃん、あかりね

京子(わたしが……どうしたんだよ、あかり……)

……京子ちゃん……



京子「……うーん」

あかり「京子ちゃん?」

京子「……ん? あかり?」

あかり「あ、目が覚めたんだ! 良かったぁ」

京子「ここ……ああ、病室か。あん時の……」

京子(小さい頃ヘマやって入院した病院。一度しか見たことない病室が、何故だかいつもの教室なんかよりよほどリアルな実感を沸かせた)

京子「ていうか、夢落ちかよ……」

38: 2012/12/08(土) 00:41:16.53 ID:6zaxISAs0
あかり「夢?」

京子「ああ。ったく、嫌な夢だったよ…」

あかり「どんな夢だったの?」

京子「ああ、なんか……。女子中学生怪氏事件とか言って、あかりがさぁ。いや、ごめん、あかりの事馬鹿にしてるわけじゃないんだけど」

京子(あかり。お前、私の夢の中で氏んでたんだぜ? …なんて言ってやったらどんな顔をするだろう。まあ、いい気分じゃないのは確かだろうけど)

あかり「ああ、世間ではそんな風に言われてるみたいだね」

京子「え? 何が?」

あかり「女子中学生怪氏事件」

京子「は?」

あかり「まぁ、パックリ割られた頭蓋骨が転がってて、脳みそだけが抜き取られてるなんて、はたから見たら怪氏事件だよねぇ」クスクス

あかり「でも良かったぁ。京子ちゃん、あかりが氏んだ後、ちゃんと食べてくれたんだ。誰にも食べられずに火葬されるのが一番怖かったんだ」

京子「……あ、あかり? 何言ってんだお前」

44: 2012/12/08(土) 00:52:12.31 ID:6zaxISAs0
―――――――――

あかり「京子ちゃんは、きっと結衣ちゃんが好きなんだよね?」

京子「え?」

京子(結衣とちなつちゃんが偶然ごらく部に顔を出さなかった日)

京子「んー。そりゃ、もちろん。結衣のことは好きだし、あかりもちなつちゃんも好きだよ」

あかり「あかりは、そういうことを聞いてるんじゃないんだけどな」

京子「そういうことじゃないって、だったらどういうことなんだ?」

あかり「だから、結衣ちゃんが一番好きなの? ってこと」

京子「……いや、一番とか、そういうのはさぁ」モゴモゴ

京子(あかりがちなつちゃんから恋愛に関する相談を受けていることは、なんとなく気づいてたし、最初は『私に直接問いただすスタイルで来たのか』と思った)

あかり「ううん。こういう回りくどい質問じゃ、ダメだよね。じゃあ、京子ちゃんに言いたいんだけど」

京子(だから、あかりの次の言葉はズバリ『結衣と私は付き合っているのか?』だと、思った)

あかり「あかりは京子ちゃんのことが一番好きだよ」

京子「……ぅえ?」

47: 2012/12/08(土) 00:55:15.57 ID:6zaxISAs0
京子「……」

あかり「えっと……」

京子「……」

あかり「京子ちゃん?」

京子「は、はい!」

あかり「今のは、告白、だったんだけど…」

京子「お、おう!」

京子(いやはや、びっくりだった。よもや、あかりにソッチのケがあろうとは……)

あかり「あかりは京子ちゃんが一番好き。京子ちゃんはあかりと結衣ちゃん、どっちが好き?」

京子「……」

京子(齢14歳にして体験する修羅場だった)

48: 2012/12/08(土) 01:01:55.43 ID:6zaxISAs0
京子(まあ、あかりがソッチ側だったのがびっくりだったとは言っても、しかしそんな気もちょっと、どこかで、していた)

京子(なんせ、あかりが立っているのはソッチ側ではなくてコッチ側なわけで……要するに私もあかりと同じなわけで、同属としてなんとなく同じ臭いを感じていたというわけだった)

京子「じゃあ正直に言うけど……。結衣とはまあ、付き合ってる?っていうか、うん、そんな感じだから……ごめん」

あかり「……そっかぁ。……予想はしてたけど、ショック、かも」

京子「ごめん……」

あかり「何度も謝らないでよ」

京子「……あかりに黙ってたのは、その、タイミングが掴めなかったからで……」

49: 2012/12/08(土) 01:08:35.22 ID:6zaxISAs0
あかり「タイミングなんて、待ってたらいつまでも来ないよ。ちゃんと機会を作って教えて欲しかったなぁ」

京子「あはは…。いや、女同士で付き合ってるなんて、引かれるかと思って」

あかり「4人でずっと一緒に遊んでるのに、遊びながら付き合いを隠し通してたって言う方がよっぽど引くよ」

京子「あかり……」

あかり「……」

京子「泣いてるのか?」

あかり「だ、だってぇ…」

京子「……」

あかり「…うっ…ぐすっ…」

あかり「うぇぇぇん! うっうわぁぁあああああん!」

京子(私はあかりを慰めるすべを知らなかった。壮大にフリ倒して泣かせた相手になんて声を掛けていいかわからず、ただひたすら黙っていた)

51: 2012/12/08(土) 01:13:43.82 ID:6zaxISAs0
あかり「……あかりね」

京子「……ああ」

あかり「それでもやっぱり京子ちゃんを諦めきれない」

京子「……」

あかり「でも結衣ちゃんから取るなんて、出来ないよ」

京子「……」

あかり「だって二人とも、凄く通じ合ってるし…きっとあかりなんかじゃ二人の仲を引き裂くことなんか出来ない」

京子「……」

あかり「だから……」

京子「……」

あかり「今日はあかりのおうちに遊びに来てよ」

52: 2012/12/08(土) 01:20:30.69 ID:6zaxISAs0
京子「あかりんちに来るのも結構久しぶりだよなぁ」

あかり「懐かしい?」

京子「っていうほどじゃないけど。別に一年以上来てないってわけでもないしさ」

あかり「じゃあ、これとかは懐かしいでしょ?」

京子「おぉ。アルバムか」

あかり「ほら、泣き虫だった京子ちゃん!」

京子「確かに懐かしいなぁ」

あかり「あの頃は可愛かったのになぁ」

京子「おいおい、今だって可愛いだろ?」

あかり「うん! あかりは今も昔も京子ちゃん大好き!」

京子「……」

京子(私はあかりと一緒に部屋にあるいろんな懐かしいものや、新しいものを楽しんだ)

あかり「今日はご飯も食べていってよ!」

京子「オッケー」

53: 2012/12/08(土) 01:23:51.64 ID:6zaxISAs0
あかり「京子ちゃんは何食べたい?」

京子「えー、別に、なんでも」

あかり「なんでもが一番困るんだよぅ」

京子「んー、じゃあオムライスで」

あかね「オムライスね」

京子「ぬわあっ!あかねさん!」

あかね「ウフフ、ビックリさせちゃったかしら」

京子「い、いえ、そういうわけじゃ……」

あかり「あかりとお姉ちゃんで晩御飯作るから」

あかね「京子ちゃんはゆっくりしていてね」

京子「あ、はい。じゃあくつろがせてもらいます」

54: 2012/12/08(土) 01:28:24.45 ID:6zaxISAs0
京子「……はぁー」

京子「遊んでるうちにいつの間にか忘れちゃってたけど、あかりのことフっちゃったんだよなぁ」

京子「……一人になったら急に気まずい気分に」

   トントン
 ダンダン
  ジュージュー
  ……
 ガチャ

京子「?」

京子「鍵、閉められた?」

ガチャガチャ

京子「あかりん家のリビングに鍵なんてあったっけか? ていうかリビングに鍵って珍しいな」

京子「しかも外から閉じられるって……」

京子(……)

56: 2012/12/08(土) 01:32:41.27 ID:6zaxISAs0
京子「まあ、いいけど」

 ―――

京子「…オムライスにしちゃ、長いな」

京子「……」

ガチャ

あかね「おまたせ」

京子「あ、どうも」

あかね「ごめんなさい、遅くなっちゃったわ」

京子「いえいえ……ところで、あかりは?」

あかね「それが……最後になって、急に辛くなったみたいで……部屋に篭っちゃって」

京子「……」

あかね「ごめんなさいね」

京子「いえ…」

あかね「それじゃあ、召し上がれ」

京子「いただきます」

59: 2012/12/08(土) 01:39:38.25 ID:6zaxISAs0
カチャカチャ

京子「あかりのオムライスうめぇ!」ガツガツ

あかね「……」

京子(これはうまい、うまいぞ。こんなにおいしいオムライスなんて初めて食べたかもしれない)

京子「はむっはふはふっ!」ガツガツ

あかね「……」

京子「……。ところで、最後になって辛くなったって……あかねさん、あかりと私のこと、知ってるんですか?」

あかね「…知ってるも何も。そのことならきっとあかり本人が自分の気持ちに気づく前から知ってたわ」

京子「……」

あかね「あかり自身が恋心に気づく前から、あかりは京子ちゃんのことが大好きだったんだと思う」

あかね「その気持ちは自覚してからさらに大きくなっていったわ」

あかね「あかり自身が犠牲になってしまうくらいに」

京子(犠牲……?)

京子(私の思いを尊重して、自分の恋心を犠牲にするくらい、ってことかな?)

62: 2012/12/08(土) 01:46:00.80 ID:6zaxISAs0
あかね「ふふ、お腹いっぱいになったかしら?」

京子「ええ。それにしても、その……やけにソースが多くって水っぽかったですね」

あかね「ええ。あかりがそうしたかったみたいだから」

京子(ふぅん。あかりはソース多めが好きなのか)

あかね「お口に合わなかった?」

京子「あ、いやいや!凄くおいしかったです!これはほんとに」

あかね「あら、そんなにおいしかったの? ……あの子の愛情が詰まっているからかしらね?」

京子「ハハハ……」

京子(あかりをフった後で、その言葉にどう答えろって言うんだ)

あかね「ところで、こういう話を知っているかしら?」

65: 2012/12/08(土) 01:54:37.46 ID:6zaxISAs0
あかね「中世であったらしい、ある殺人事件の話なのだけど」

京子「さ、殺人!?」

あかね「その男はね、ある瞬間までは幸せに暮らしていたらしいわ。仕事に真面目で、正直者で、そして妻をとても愛していたわ」

京子(私の非難めいた叫びに気づいていないのか、そんな話を続けるあかねさん)

あかね「でもね、ある日その妻が不治の病に掛かってしまったのよ」

あかね「男は大いに嘆き、哀しみ、来る日も来る日も神に祈り、町を駆けずり回っては医者を探した」

あかね「それでも妻の病気は治らなかった」

67: 2012/12/08(土) 02:02:07.79 ID:6zaxISAs0
あかね「心身疲れきった男は、妻が氏ぬのなら自分が生きていることに意味はないと、妻と心中を図ろうとしたの」

あかね「妻は男を止めたわ。思いとどまって欲しい。私が氏んでも、あなたには生きて欲しいと」

あかね「男は意見を変えなかったし、妻も意見を変えなかった」

あかね「やがて妻はこういったのよ。私はやがて氏ぬ。そうしたら、私の体をあなたに食べて欲しい」

あかね「そうすれば私はあなたと共に生きられる、ってね」

京子「……うぇ」

京子(食後の相手にする話ですか、それ……)

あかね「時が経ち、妻が氏んだ。男は遺言とおりその肉体を食べた」

あかね「妻は病気による自然氏だったんだろうけど、氏体をナイフで切り裂いて調理した男は、殺人で逮捕されたわ」

69: 2012/12/08(土) 02:09:17.07 ID:6zaxISAs0
あかね「男は独房に入れられ、判決待ちの身になった」

あかね「ところがね。一人きりであるはずの男の独房からは、何故だか話し声が聞こえるらしいのよ」

あかね「人々は大いに同情したわ。きっと愛する妻が氏に、その肉を喰らい、男はついに狂ってしまったのだ、ああなんて不幸なのだろうと」

あかね「その言葉を聞いた男は、笑いながらこう答えたそうよ。『不幸? とんでもない。私は愛する妻と二人きりでいられて、とても幸せだよ』とね」

京子「……」

あかね「……」

京子「え? 終わりですか」

あかね「ええ」

70: 2012/12/08(土) 02:13:45.29 ID:6zaxISAs0
京子(…)

あかね「……これはね。昔私が、幼かったあかりを怖がらせようと話してあげた都市伝説なのよ」

京子「はぁ…」

あかね「でもね、あかりはそれを信じちゃったみたい」

京子「まあ……あかりは、そういう子ですもんね」

あかね「京子ちゃんは信じる?」

京子「信じる、って」

あかね「妻の体を食べた男には、本当に妻の姿が見えていたのかしら? 妻の声が聞こえていたのかしら? 彼らは永遠に――ずっと一緒だったのかしら?」

71: 2012/12/08(土) 02:18:17.38 ID:6zaxISAs0
あかね「まあ、私は信じていないんだけど…」

京子「…そりゃ、そうでしょうね」

あかね「ねえ京子ちゃん。聞きたいんだけど」

スッ

京子「あかねさん?」

あかね「京子ちゃんには、あかりの声が聞こえるのかしら?」

ガチャ

「……」

京子「――」

73: 2012/12/08(土) 02:23:39.65 ID:6zaxISAs0
京子「あ――あかり?」

あかり「……」

あかね「京子ちゃんが凝視しているのは、あかりの姿? それとも……あかりの氏体の方?」

京子「あ――あ――」

あかね「やっぱり、駄目なのかしら。あかりは、脳だけで十分だと思う、と言っていたんだけど」

京子「――――!」

あかね「私はやっぱり、せめて心臓くらいは食べないと駄目だと思うんだけど、どうかしら?」

京子「う、うわあああああああああああああああ!」

あかね「それでも駄目なら、うん、全身順番に食べてもらうことになるけど……」


あかね「どう? 京子ちゃん」

75: 2012/12/08(土) 02:33:06.07 ID:6zaxISAs0
 ――――

チュン……チュンチュン

結衣「お……来たか」

京子「よーおはよー!」

結衣「今日も早いんだな」

京子「へへ、まあね」

結衣「なんか…変わったよな。京子」

京子「んー、まあ、あかりのおかげかな?」

結衣「あかり、か…」

結衣「……」

京子「何?」

結衣「いや…」

76: 2012/12/08(土) 02:42:24.36 ID:6zaxISAs0
結衣「…あかりは、元気か?」

京子「んー? 別に顔色とかは良さそうけど。体調悪く見える?」

結衣「いや、元気ならいいんだ」

京子「変な結衣」

 タッタッタ

ちなつ「おはようございまーす!」

京子「おーおはよー」

結衣「おはよう、ちなつちゃん」

ちなつ「あぁ!朝から結衣先輩に出会えて幸せですー!」ギュー

結衣「ちょ、ちなつちゃん、痛い、痛いって…ていうか毎朝会ってるし…」ギチギチ

ちなつ「毎朝会えることが幸せですー!」

京子「おおっと。これはこれは。私は邪魔者かなー?」ニヤニヤ

京子「じゃあ私達は先行ってるから、お二人はごゆっくりー」

タッタッタ

結衣「……」

78: 2012/12/08(土) 02:46:53.91 ID:6zaxISAs0
ちなつ「…京子先輩、まだあかりちゃんのこと…」

結衣「ああ…あいつが、第一発見者だったみたいだしな…ショックも大きかったんだろう」

ちなつ「京子先輩は、その……良くなる、んですかね」

結衣「わからない、らしい…。ゆっくりゆっくり、問題と向き合っていくしかない、って」

ちなつ「…」

結衣「学校、行こうか、ちなつちゃん」

ちなつ「はい」

79: 2012/12/08(土) 02:53:11.65 ID:6zaxISAs0
京子「はぁー。結衣の奴も鈍感だよなぁ」

京子「ちなつちゃんが結衣のこと好きなのなんて誰が見たって明らかなのにさ」

京子「まあ、ちなつちゃんの方もダイレクトに告白しないのが悪いんだろうけど」

京子「え? そうか?」

京子「まあ結衣の奴はなー結構そういうとこあるから」

京子「あ? もしかして妬いた?」

京子「はは、ごめんごめん」

京子「私? 私は別にそんなでもないでしょ」

京子「んー、じゃあ今度からは私もちなつちゃんみたいにやってみようかな?」

京子「じゃあそっちからやってよ。ぎゅーってさ」

京子「照れるなよー抱きしめちゃうぞー」

京子「ああ待てよ。からかってごめんって! 待ってってばーあかりー!」

83: 2012/12/08(土) 02:58:34.38 ID:6zaxISAs0
―――
ちなつ「あの……」

結衣「ん?何? ちなつちゃん」

ちなつ「結衣先輩は……京子先輩と付き合ってたんですよね?」

結衣「…まあ」

ちなつ「今でも好き、ですか?」

結衣「…まあ」

ちなつ「そうです、か…」

結衣「…ごめん」

ちなつ「私、まだ何も言ってないです…」

結衣「…ちなつちゃん。私はまだ、京子のこと…」

ちなつ「……結衣先輩。お願いがあるんですけど」

結衣「お願い?」

ちなつ「今週末、うちに来てくれませんか?」

結衣「ちなつちゃん家に?」

ちなつ「ええ。――――ご馳走したいものがあるんです」

84: 2012/12/08(土) 02:59:21.32 ID:6zaxISAs0
 完!

引用: 京子「あかりの脳髄うめぇ!」