622: 2009/06/23(火) 22:57:15 ID:j4VqZbym
視界を埋め尽くす真っ白な天井。息を吸い込むと、独特な薬品の香りが肺を満たした。
寝ぼけていた意識がやっと醒めはじめる。あぁそうだ。またいつもの‘あれ’だ。
うっすらと意識を失う前の情景が蘇って、自分がここにいる理由をなんとなく理解する。
情けない情けない。交戦中に負った怪我ならばまだ誇りにもなろうが、今回のこれもやはりいつも通りのエンジントラブルが原因で。
どうしてか私はこんななのだ。人一倍メンテナンスには気をつかっているつもりだし、ストライカーを駆る才能がとりわけ劣っているわけでもないはずだ。
だというのに私が魔力を注いだストライカーは、まるで規定事項であるかのように空を駆ける力を失って。
呪いなら早く解けてくれ。何度そう願っても叶うはずもなくて、毎度のこのありさま。
こんなことじゃまたハンガーの掃除係に転属されてしまう。そう考えると憂鬱で、できるだけストライカーの破損が軽微なことを祈った。
む?そういえば私はどれぐらい気を失っていたのだろうか。
そう思って身体を起こそうとすると、身体中に鈍い痛みがはしる。
固有魔法が傷を癒やしきれていない…。たいして時は経っていないのか。それとも相当下手をふんだか。
どちらにしろ起き上がることは億劫で、また天井とにらめっこ。しかし顔色を変えることもない天井相手ではひたすらに退屈で。あぁ、誰かこないのだろうか。
凝り固まった身体をほぐそうと腕を広げると、そこでやっとこさ一つの違和感に気がついた。
右手にさらりとした感触。なにかの間違いだろ…とそれを指先だけで弄ると、ふわりと指先を滑り落ちていく。
嫌な予感がする。どうしても視線を反らしたい衝動にかられるが、事実を確認しない訳にもいかない。
恐る恐るそれに視線をおくると、視界を埋めたのは色素の薄いブロンド。
心臓が暴れ出して、血流が加速する感触だけが私の脳へと響く。
顔どころか耳の先っぽまで赤く染まっているんじゃないかというぐらい頬が熱い。
なんでそんなところで眠っているんだ。そんな疑問すらも、眠りこける彼女の顔を見たらどこかに吹っ飛んでいってしまって、私はただ枕に顔を埋めることしかできなかった。
視界の端でちらちらと彼女を窺っていると、突然に彼女の目がパチリと開いた。
目と目があってしまって反らせない。流れる時間が、どこまでもゆっくりに感じる。
彼女が唇から言葉を紡ぐ様子までも、まるでスローモーションであるかのようにはっきりと見えて…。
「や、優しくしてネ…」
血管が切れる音が聞こえた。
「お前は人のベッドに潜り込んでなにしてんだー!!」
可能な限り怒気を含ませて、それでいて場所を考えてできるだけ静かに。
我ながらよくできたと満点をあげてもいいような、静かに怒鳴るというウルトラCを達成した自分がそこにはいた。
彼女は目をパチクリと丸くさせたかとおもうと、次の瞬間にはとろんとさせ再び夢の世界へと帰還しようとする。
こいつはどうして私を怒らせることに関してこうも天才的なんだ…。
寝ぼけていた意識がやっと醒めはじめる。あぁそうだ。またいつもの‘あれ’だ。
うっすらと意識を失う前の情景が蘇って、自分がここにいる理由をなんとなく理解する。
情けない情けない。交戦中に負った怪我ならばまだ誇りにもなろうが、今回のこれもやはりいつも通りのエンジントラブルが原因で。
どうしてか私はこんななのだ。人一倍メンテナンスには気をつかっているつもりだし、ストライカーを駆る才能がとりわけ劣っているわけでもないはずだ。
だというのに私が魔力を注いだストライカーは、まるで規定事項であるかのように空を駆ける力を失って。
呪いなら早く解けてくれ。何度そう願っても叶うはずもなくて、毎度のこのありさま。
こんなことじゃまたハンガーの掃除係に転属されてしまう。そう考えると憂鬱で、できるだけストライカーの破損が軽微なことを祈った。
む?そういえば私はどれぐらい気を失っていたのだろうか。
そう思って身体を起こそうとすると、身体中に鈍い痛みがはしる。
固有魔法が傷を癒やしきれていない…。たいして時は経っていないのか。それとも相当下手をふんだか。
どちらにしろ起き上がることは億劫で、また天井とにらめっこ。しかし顔色を変えることもない天井相手ではひたすらに退屈で。あぁ、誰かこないのだろうか。
凝り固まった身体をほぐそうと腕を広げると、そこでやっとこさ一つの違和感に気がついた。
右手にさらりとした感触。なにかの間違いだろ…とそれを指先だけで弄ると、ふわりと指先を滑り落ちていく。
嫌な予感がする。どうしても視線を反らしたい衝動にかられるが、事実を確認しない訳にもいかない。
恐る恐るそれに視線をおくると、視界を埋めたのは色素の薄いブロンド。
心臓が暴れ出して、血流が加速する感触だけが私の脳へと響く。
顔どころか耳の先っぽまで赤く染まっているんじゃないかというぐらい頬が熱い。
なんでそんなところで眠っているんだ。そんな疑問すらも、眠りこける彼女の顔を見たらどこかに吹っ飛んでいってしまって、私はただ枕に顔を埋めることしかできなかった。
視界の端でちらちらと彼女を窺っていると、突然に彼女の目がパチリと開いた。
目と目があってしまって反らせない。流れる時間が、どこまでもゆっくりに感じる。
彼女が唇から言葉を紡ぐ様子までも、まるでスローモーションであるかのようにはっきりと見えて…。
「や、優しくしてネ…」
血管が切れる音が聞こえた。
「お前は人のベッドに潜り込んでなにしてんだー!!」
可能な限り怒気を含ませて、それでいて場所を考えてできるだけ静かに。
我ながらよくできたと満点をあげてもいいような、静かに怒鳴るというウルトラCを達成した自分がそこにはいた。
彼女は目をパチクリと丸くさせたかとおもうと、次の瞬間にはとろんとさせ再び夢の世界へと帰還しようとする。
こいつはどうして私を怒らせることに関してこうも天才的なんだ…。
623: 2009/06/23(火) 22:57:56 ID:j4VqZbym
胸倉を掴んでやろうと腕を伸ばそうとすると、なにかが裂けるような痛みが脇腹にはしった。
「痛ッ…。」
うぅ…傷口が開いた。気を抜けば漏れてしまいそうなうめき声を、奥歯を噛み締めることでどうにか抑え込む。
痛みから判断するに、幸いにもそこまで傷は大きくなさそうだ。こんな判断力ばかりが向上して嫌になるな。
それでも鈍い痛みが響いていることには変わりはないので、それをどうにか和らげようと魔力を放出した。
荒れた息を調えようとできるだけ深く呼吸をしていると、不意にむずがゆい感触が傷口をなぞる。
電流が駆け抜けたように身体がびくりとする。目をやると彼女の舌がチロチロと私の傷口を舐めていて。
「傷…。」
「見るなっ!!!!」
思わず彼女を突き飛ばしてしまう。やめてくれ…お願いだから。コイツにだけは見られたくなかった。
だってコイツは私とは違うんだ。羨ましくないはずがない。
彼女は、私には…いや、他の誰にも見えない世界を視て、ただの一度も傷を負ったことなどない。
それに比べて、私が持っているのは傷を負ったことがない方が珍しいという不名誉な記録。
ネウロイを撃墜する毎に得られる、彼女に一歩近づけたような感覚も、一度自らの身体中に遺った傷を見れば失われてしまう。
だから私は逃げたんだ。夏だというのに、手首まで隠れるような長袖の服を着込んで、負った傷から目を逸らした。
恥であるそれを誰にも見られないように。そして自分の目にすらも届かないように。
だというのに、最も見られたくなかった相手にそれ晒してしまった。
情けないだろ?磨き上げられた珠のように傷一つないお前の肌と比べたら。
ぼろぼろで、完全に治らないうちからまた新しい傷をこさえるものだから、消えずに遺ってしまったものもある。
この傷が私と彼女の距離。絶対に縮まらなくて、それがひたすらに悲しかった。
「私、ニパの傷好きだヨ。」
だから耳に入った言葉は、私にとっては天地がひっくり返るような衝撃で。
だって。ほら。傷にいいことなんて一つもない。それはエースパイロットとしての埋めようのない力量の差を露呈するもので。
それに・・・傷ついた肌なんて女の子としても嫌だった。
「気を使ってるのか?別に慰めなんて私は欲しくない。」
強がりなんかじゃなく、それは本音だった。
たった一人の隣に立ちたい相手。慰められてしまったら、もう隣には立てない。私は、守られながら後ろをついていくなんてごめんだった。
「痛ッ…。」
うぅ…傷口が開いた。気を抜けば漏れてしまいそうなうめき声を、奥歯を噛み締めることでどうにか抑え込む。
痛みから判断するに、幸いにもそこまで傷は大きくなさそうだ。こんな判断力ばかりが向上して嫌になるな。
それでも鈍い痛みが響いていることには変わりはないので、それをどうにか和らげようと魔力を放出した。
荒れた息を調えようとできるだけ深く呼吸をしていると、不意にむずがゆい感触が傷口をなぞる。
電流が駆け抜けたように身体がびくりとする。目をやると彼女の舌がチロチロと私の傷口を舐めていて。
「傷…。」
「見るなっ!!!!」
思わず彼女を突き飛ばしてしまう。やめてくれ…お願いだから。コイツにだけは見られたくなかった。
だってコイツは私とは違うんだ。羨ましくないはずがない。
彼女は、私には…いや、他の誰にも見えない世界を視て、ただの一度も傷を負ったことなどない。
それに比べて、私が持っているのは傷を負ったことがない方が珍しいという不名誉な記録。
ネウロイを撃墜する毎に得られる、彼女に一歩近づけたような感覚も、一度自らの身体中に遺った傷を見れば失われてしまう。
だから私は逃げたんだ。夏だというのに、手首まで隠れるような長袖の服を着込んで、負った傷から目を逸らした。
恥であるそれを誰にも見られないように。そして自分の目にすらも届かないように。
だというのに、最も見られたくなかった相手にそれ晒してしまった。
情けないだろ?磨き上げられた珠のように傷一つないお前の肌と比べたら。
ぼろぼろで、完全に治らないうちからまた新しい傷をこさえるものだから、消えずに遺ってしまったものもある。
この傷が私と彼女の距離。絶対に縮まらなくて、それがひたすらに悲しかった。
「私、ニパの傷好きだヨ。」
だから耳に入った言葉は、私にとっては天地がひっくり返るような衝撃で。
だって。ほら。傷にいいことなんて一つもない。それはエースパイロットとしての埋めようのない力量の差を露呈するもので。
それに・・・傷ついた肌なんて女の子としても嫌だった。
「気を使ってるのか?別に慰めなんて私は欲しくない。」
強がりなんかじゃなく、それは本音だった。
たった一人の隣に立ちたい相手。慰められてしまったら、もう隣には立てない。私は、守られながら後ろをついていくなんてごめんだった。
624: 2009/06/23(火) 22:58:38 ID:j4VqZbym
「慰めなんかじゃナイ!だってニパの傷は優しいカラ…。」
私の言葉なんてどこ吹く風で、彼女は私の傷に再び舌を這わせる。
ぞくりとした、快感なのかも悪寒なのかも分からないような感触がまた身体中を駆け巡る。
「私はさ、逃げてるだけなんだヨ。未来が視えるから逃げられるダケ。でも、ニパは違う。」
そう言って彼女はニコリと微笑むと、遺った傷を一つ一つ舐めていく。心臓が痛いくらいに高鳴った。
「いくら慣れてるからってサ…私は誰かの分まで弾を受け止めちゃうやつはお前しか知らないヨ。」
……? なにを言っているのか私には理解できなくて。
「私にだけ視えるんダ。仲間が撃墜される瞬間が。」
「意味が分からないんだよ!!私を慰める為に変なこと言わなくていい!!」
だって、私たちの所属する飛行24戦隊で撃墜されるのは私ぐらいのものだから。
「嘘じゃナイ!!私には確かに撃墜される未来が視えるんダ…けど、現実には弾はお前に吸い込まれていく…。
お前は他のヤツの分まで背負い込んでくれてるんダヨ…だからこの傷は優しい傷なんダ。嫌なはずがないダロ?」
そう言って、彼女はまたちろちろと舌を這わせる。
頬がどうしようもなく熱いのは、こんなに恥ずかしいことをされているからなのか。
それとも、嘘かホントかはやはり分からないけれど、嫌いだった傷を好きだと言ってもらえたからなのか。
答えはでやしないけれど、少しぐらい胸を借りてもいいような気がして少しだけ泣いた。
ありがとう…。お礼じゃないけれど、私もお返しに彼女の脇腹に舌を這わせる。
だってさ。好きなのはお前だけじゃないんだ。傷はないけれど、お前だっていつもばれないように皆に気を配ってくれていることを私は知っているから。
だから私も…な?
Fin.
私の言葉なんてどこ吹く風で、彼女は私の傷に再び舌を這わせる。
ぞくりとした、快感なのかも悪寒なのかも分からないような感触がまた身体中を駆け巡る。
「私はさ、逃げてるだけなんだヨ。未来が視えるから逃げられるダケ。でも、ニパは違う。」
そう言って彼女はニコリと微笑むと、遺った傷を一つ一つ舐めていく。心臓が痛いくらいに高鳴った。
「いくら慣れてるからってサ…私は誰かの分まで弾を受け止めちゃうやつはお前しか知らないヨ。」
……? なにを言っているのか私には理解できなくて。
「私にだけ視えるんダ。仲間が撃墜される瞬間が。」
「意味が分からないんだよ!!私を慰める為に変なこと言わなくていい!!」
だって、私たちの所属する飛行24戦隊で撃墜されるのは私ぐらいのものだから。
「嘘じゃナイ!!私には確かに撃墜される未来が視えるんダ…けど、現実には弾はお前に吸い込まれていく…。
お前は他のヤツの分まで背負い込んでくれてるんダヨ…だからこの傷は優しい傷なんダ。嫌なはずがないダロ?」
そう言って、彼女はまたちろちろと舌を這わせる。
頬がどうしようもなく熱いのは、こんなに恥ずかしいことをされているからなのか。
それとも、嘘かホントかはやはり分からないけれど、嫌いだった傷を好きだと言ってもらえたからなのか。
答えはでやしないけれど、少しぐらい胸を借りてもいいような気がして少しだけ泣いた。
ありがとう…。お礼じゃないけれど、私もお返しに彼女の脇腹に舌を這わせる。
だってさ。好きなのはお前だけじゃないんだ。傷はないけれど、お前だっていつもばれないように皆に気を配ってくれていることを私は知っているから。
だから私も…な?
Fin.
625: 2009/06/23(火) 23:00:54 ID:j4VqZbym
ニパ誕生日おめでとー!!20日も過ぎたけれど。誕生日ネタが思い浮かばなかったので普通にニパエイラ。
あとエルマさんとリーネもおめでとう!!
あとエルマさんとリーネもおめでとう!!
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