1: 2024/12/26(木) 19:09:24 ID:A3m5VsJo00
全六話構成 毎日一話ずつ更新します

2: 2024/12/26(木) 19:09:57 ID:A3m5VsJo00
第一話 花帆「月火水木金土日、毎日がHoliday!」

3: 2024/12/26(木) 19:11:03 ID:A3m5VsJo00
綴理「かほー、今日のお料理当番ってボクだっけ?」トコトコ

花帆「えっと……昨日が瑠璃乃ちゃんの番だったので、そうですね! 綴理先輩、今日は何を作るんですか?」

綴理「おさかなー」

花帆「お魚……ですか?」

綴理「うん。れいかさんから、新鮮なのがいっぱい届いたんだ。今、冷凍庫で休んでもらってる」

花帆「うわぁ、いいですね……! それなら、お魚パーティーにしちゃいましょう! 明日の朝まで徹夜できちゃうくらい、いっぱい!」

綴理「ふふ、それはいいね。今のボク達だから、できることだ」

花帆「はい! だって今は──大学の夏休み、ですもんね!」ニコッ

4: 2024/12/26(木) 19:12:04 ID:A3m5VsJo00
────

綴理「……よ、っと」ドサッ

綴理「ボクの目の前に、大きなおさかなが一尾……すずが見たら、この子のこと、詳しく教えてくれそうだ」フフッ

綴理「よし。さやみたいに……この子を、ボクが捌くんだ」

綴理「……前までのボクなら、難しかった。でも、かほやるりと一緒に暮らして、色々知った今のボクなら……できる」サッ

トントントン…

5: 2024/12/26(木) 19:13:03 ID:A3m5VsJo00
────

ガチャ

瑠璃乃「あいむほーむ! バイト、疲れたー……ルリのバッテリー、減少中……」

花帆「あ、瑠璃乃ちゃん、おかえり!」

瑠璃乃「花帆ちゃん……うぅ、少し充電させて……」ギュー

花帆「もちろんだよ! 夏休みに入ってから、瑠璃乃ちゃん頑張ってるよね。偉い偉い……」ナデナデ

瑠璃乃「あぁ……花帆ちゃんに抱きしめてもらえると、ルリすっごく落ち着く……」ムニュ

花帆「ふふっ、それならあたし、何時間だって瑠璃乃ちゃんを甘やかしちゃうよ!」ドヤッ

6: 2024/12/26(木) 19:14:03 ID:A3m5VsJo00
ジュワァァ…! パチパチパチ…

瑠璃乃「? ……あれ、なんか良い音と美味しそうな匂い?」クンクン

花帆「あ、そうだった! 瑠璃乃ちゃん、今日のお夕飯はなんと──綴理先輩プレゼンツ、お魚パーティーだよ!」

瑠璃乃「お魚、パーティー……!? うわ、それ最高じゃん! 今日一日頑張って良かったー!」

花帆「……そう、だね! うん、あたしも……今日は、前に注文した“夏休みらしいもの”を受け取ったし! 何もしないで一日を過ごしたわけじゃない!」ウンウン

瑠璃乃「? 夏休みらしいもの、って?」

花帆「ふふっ、それは……夕食後のお楽しみだよ、瑠璃乃ちゃん!」ニコッ

7: 2024/12/26(木) 19:15:03 ID:A3m5VsJo00
────

綴理「かんせーい。夕食できたよー、かほ、るり」トタトタ

瑠璃乃「! めっちゃ良い匂い……!」

花帆「待ってました! うわぁ、美味しそう……!」

綴理「うん。ボクの自身作」ピース

8: 2024/12/26(木) 19:16:03 ID:A3m5VsJo00
綴理「これはノドグロの煮付け。こっちはサンマ、これは鯵のなめろう……他にも、たくさんあるよ」サッ

瑠璃乃「……なんかつづパイセン、この生活始めてからどんどん料理上手になってきてないっすか?」

綴理「そうかも。かほとるりのおかげだ」ニコッ

花帆「あたしは、別に……何もしてないですけどね……」ハハ

綴理「ううん、そんなことないよ、かほ。かほが来てくれたから、ボクは料理を始める気になれたんだ」

9: 2024/12/26(木) 19:17:05 ID:A3m5VsJo00
綴理「それに、ボクが料理当番じゃないときのお料理も、すごく美味しくて、ボクは大好きだよ?」

瑠璃乃「つづパイセン……! 明日のルリの番では、とびっきり美味しいもの作りますね!」

綴理「うん。楽しみにしてる」ニコッ

花帆「あたしも、食べるの頑張るね! ……あっ、サンマは串に刺さってるんですね」モグモグ

綴理「うん。昔、さやがこうやって作ってくれたんだ。食べやすいように、ってー」

10: 2024/12/26(木) 19:18:03 ID:A3m5VsJo00
瑠璃乃「サンマの塩焼き……しかも、こうやって串に刺して食べると、なんか夏! って感じがすると、ルリ思う」モグモグ

花帆「あ、あたしも同じこと考えてた! 夏の暑い日に、のどかな田舎町のお庭で、囲炉裏に乗せたサンマの油がこう……ジューっと! そんな感じの夏!」

瑠璃乃「あぁ、そのシチュいいね、花帆ちゃん……夏の概念が襲いかかってくるぜ……」シミジミ

綴理「夏……せっかくかほもるりも居るんだから、もっと楽しみたいな」

花帆「! その言葉を、あたしは待ってました!」ガタッ

瑠璃乃「? 花帆ちゃん?」

花帆「夏休みといえば──これの出番ですよ!」ドンッ

瑠璃乃「これって……」

綴理「はなび?」

11: 2024/12/26(木) 19:19:03 ID:A3m5VsJo00
花帆「はい! お庭でできる花火の詰め合わせです! ネットで注文して、置き配で受け取っておきました! これを今日、全部使っちゃいましょう!」

綴理「! はなび……楽しそうだ……」ワクワク

瑠璃乃「花火かぁ……楽しそうだけど、今日一日でこんな、一気に消費しちゃって良いのかな? まだまだ時間はある気がすっけど……」

花帆「ふっふっふ……甘いよ、瑠璃乃ちゃん!」ニヤッ

瑠璃乃「ほう……その心は?」

花帆「それはね──大学生の“今”が一番、自由だからだよ!」バッ

12: 2024/12/26(木) 19:20:03 ID:A3m5VsJo00
綴理「じゆう……」フム

花帆「ですです! それに来年になったら、綴理先輩も大学三年生で、就活準備とかに忙しくなっちゃうかもしれないし……」

綴理「? しゅうかつ?」

瑠璃乃「いや、つづパイセン、そこは知っておきましょうね!? 今のルリが言えることじゃ、無いっすけど……」

花帆「と、とにかく! こうやって一緒に暮らせてるのだって、今この瞬間しかないんだよ!」

花帆「……あたしは、この生活がずっと続けば良いのになぁ、って思っちゃいますけど」ボソッ

13: 2024/12/26(木) 19:21:02 ID:A3m5VsJo00
綴理「! ……うん、わかった。るりも、いい?」

瑠璃乃「……そっすね。うんうん、ここは花帆ちゃんの案に乗った!」スタッ

花帆「……! 綴理先輩……! 瑠璃乃ちゃん……!」パァァ

綴理「やろう、はなび。かほとるりとボクの、三人で」ニコッ

14: 2024/12/26(木) 19:22:03 ID:A3m5VsJo00
────

パチパチパチ…

瑠璃乃「線香花火……綺麗だなぁ」

綴理「うん。ぱちぱちー」

花帆「ですよねー……あ、もう終わっちゃう……」シュン

15: 2024/12/26(木) 19:23:03 ID:A3m5VsJo00
綴理「ううん、終わらせないよ。まだまだ、たくさんある」サッ

瑠璃乃「! そうだよ、花帆ちゃん! こんなに楽しい時間、すぐに終わらせるなんて、もったいないっしょ!」ウンウン

花帆「そ、そうだよね! 楽しい時間はまだまだ続けられるんだ!」

花帆「よーし、それなら……瑠璃乃ちゃん! どっちが長く火をつけていられるか、勝負しよ!」

瑠璃乃「おおっ、受けて立つぜ、花帆ちゃん!」

綴理「ふふっ、楽しそうだ」ニコニコ

16: 2024/12/26(木) 19:24:02 ID:A3m5VsJo00
────

花帆「……これが、線香花火の最後の一本ですね。どうせなら……綴理先輩!」サッ

綴理「? ボクがやって良いの?」

花帆「はい! 有終の美、飾っちゃってください!」

瑠璃乃「うんうん! つづパイセンが火をつけた線香花火だったら、何時間でも持つ感じするし!」

綴理「ボクなんなの」

17: 2024/12/26(木) 19:25:03 ID:A3m5VsJo00
瑠璃乃「……っと、ちゃんとバケツも用意して」

綴理「それじゃ、火、つけてみるよー」

カチッ

パチパチパチ…

花帆「! やっぱり綺麗……!」

瑠璃乃「……なんだかルリ、火花を見つめてると、落ち着く……」ボー

花帆「だよね、あたしもそれわかるなぁ……」

綴理「…………あぁ、楽しいな」ポツリ

18: 2024/12/26(木) 19:26:02 ID:A3m5VsJo00
瑠璃乃「綴理先輩?」

綴理「こんな日を過ごせるなんて、思ってもみなかった。ボクは幸せ者だ……本当に、かほとるりが来てくれて、良かった」ニコッ

花帆「! そんなのこっちの台詞ですよ、綴理センパイ! こちらこそ、無理に押しかけたのに一緒に住むことまでOKしていただいて……!」

瑠璃乃「うんうん、ルリも、つづパイセンがいなかったら、どうなってたか……」

綴理「……それは、ボクだって同じだ。多分ボク達は、お互い助け合うことで暮らしていけるんだと思う」

19: 2024/12/26(木) 19:27:03 ID:A3m5VsJo00
瑠璃乃「そっすね……人生、助け合いですもんね!」ウンウン

花帆「……あたしも、二人と一緒なら頑張れそうな気がします!」グッ

花帆(三人、一つの家に身を寄せ合って暮らす……)

花帆(きっとこれが──今のあたし達の生き方、なんだと思う)

花帆「それじゃ、まだまだこの生活、楽しんじゃいましょー!」

「「「おー!」」」


第一話 おしまい

20: 2024/12/26(木) 19:28:31 ID:A3m5VsJo00
キャップは取得していて、今現在もつけて書き込んでいるので、復活次第キャップ付きで投稿できるかと思います
焦って、キャップがついていない状態でSSスレを建ててしまいすみません……

21: 2024/12/26(木) 19:29:03 ID:A3m5VsJo00
次回 第二話 瑠璃乃「単位落とした、ダメージ100point」

明日の22時ごろに投稿予定です

28: 2024/12/27(金) 22:00:00 ID:???00
第二話 瑠璃乃「単位落とした、ダメージ100point」

29: 2024/12/27(金) 22:01:00 ID:???00
瑠璃乃(たいむ、ふらいず……なんて言葉がある通り、時間っていうのは、ルリが思っている以上に早く過ぎるみたいで)

瑠璃乃(あんなに長いと思った大学の夏休みも、もうすぐ終わり。ということは……ルリが目を逸らし続けてきた“あれ”を確認すべき時がやってきていた……)

瑠璃乃「あぁぁ…………見たくないなぁ……!!」

瑠璃乃「なんで大学って、こんなシステムなんだろ……授業に出席した人は全員合格でも良いじゃんね……」ハァ

瑠璃乃「あぁ、落としてたらどうしよう…………“単位”……!!」

30: 2024/12/27(金) 22:02:00 ID:???00
瑠璃乃「うぅ……」

綴理「? るり、どうしたの?」

瑠璃乃「あ、つづパイセン……ルリは今、地獄への片道切符を確認してるとこっす」

綴理「……? ……あ、そっか。大学の成績、そろそろ出てるんだっけ」

瑠璃乃「そうなんすよ……これの結果次第で、ルリの今後が変わりますからね、見るの嫌すぎる……」ハァ

31: 2024/12/27(金) 22:03:00 ID:???00
花帆「ふわぁ……大学の成績を見るの、瑠璃乃ちゃん?」トテトテ

瑠璃乃「! あ、ごめん花帆ちゃん。起こしちゃった?」

花帆「ううん、大丈夫! もうお昼だもんね。それに……瑠璃乃ちゃんの、その結果も気になるし!」

瑠璃乃「うぐっ、やっぱ見なきゃダメだよなぁ……」

綴理「るり。こういうのは、後回しにすればするほど、気が重くなる」

瑠璃乃「う……それもそっすね…………ふぅ……よし!」カチカチ

32: 2024/12/27(金) 22:04:00 ID:???00
瑠璃乃「えっと……情報通信論は秀、統計学基礎も秀、微分積分学が可……」フンフン

瑠璃乃「そんで……数学基礎Aは、っと…………え」ピタッ

花帆「? 瑠璃乃ちゃん?」

瑠璃乃「……」


瑠璃乃「……数学基礎A、不可…………」

33: 2024/12/27(金) 22:05:00 ID:???00
瑠璃乃「た、単位落とした……!? ちゃんと全部出席したのに……! なんでだぁ~!?」ガタッ

花帆「る、瑠璃乃ちゃん…………大丈夫?」

瑠璃乃「うぅ、単位さえも落としちゃいようなルリはミジンコです……」ションボリ

花帆「あぁ、る、瑠璃乃ちゃんが充電切れモードに!?」

綴理「……るり、どの授業の単位? もしかしたら……」

瑠璃乃「? えっと、この数学の講義ですけど……」

34: 2024/12/27(金) 22:06:00 ID:???00
綴理「……」ジー

綴理「…………うん、間違いない。るり、大丈夫だよ」

瑠璃乃「……?? つづパイセン、大丈夫、ってどういうことですか?」

綴理「えっとね、この講義をしている教授、レポートだけで評価するのに、その判断基準が難しすぎることで有名なんだ」

瑠璃乃「? えっと、それって……」

綴理「その単位は、落としていい単位だ。心配しなくても良いんだよ」ニコッ

35: 2024/12/27(金) 22:07:00 ID:???00
瑠璃乃「え……そ、そうなんですか!? ルリ、全然知らんかった……」

花帆「理系は大変そうだなぁ……噂の鬼単、ってやつですよね……?」

綴理「そう、それ。みんな、この教授の授業だけは進んで取ろうとはしないんだ。受けても、落とすのが普通なくらい」

瑠璃乃「えぇ、そんなのルリ、わからないっすよ…………うわー、履修登録のときに綴理先輩がいてくれたら……」

花帆「あ、そっか。あたしたちが綴理センパイのとこに来たの、六月くらいだもんね」

36: 2024/12/27(金) 22:08:00 ID:???00
綴理「六月……大変だったね」

瑠璃乃「それはそれは、大変なご迷惑をおかけして……」ペコリ

綴理「ううん、大丈夫だよ。あのときのるりは、あれで良かったんだ」

瑠璃乃「そう……ですかね? でもルリは……他に選択肢がなかっただけ、かもしれないですけど……」

瑠璃乃(そう、大学生になったばかりのルリは……何もかも、上手くいかなくて──)

37: 2024/12/27(金) 22:09:02 ID:???00
────

──回想

瑠璃乃「ついに……ルリも大学生……!」

瑠璃乃「アパートでひとり暮らしも始めることになったし、これでルリも、ふりーだむなイケてる大学生になるんだ!」グッ

瑠璃乃「……と、言っても、まだ時間があるし、新大学生がすべきこと……いちおー、ネットで調べてみよっかな……」ポチポチ

38: 2024/12/27(金) 22:10:00 ID:???00
瑠璃乃「なになに……『大学生は、人生最後の夏休み! やりたいことは全部やって楽しもう!』……」

瑠璃乃「どこのサイトもみんな、同じようなこと書いてあるなぁ? ……うん。ならルリも、理系大学一年生として大学生活をえんじょいするぞー!」

瑠璃乃(やりたいことを全部やるんだ……! ルリが、やりたいことを……)

39: 2024/12/27(金) 22:11:00 ID:???00
──

「瑠璃乃ちゃんは、どのサークルに入るか決めた?」

瑠璃乃「え……さ、サークルって絶対入らなきゃいけないの?」

「だって、大学生なんだよ! サークルで人脈増やすのは当たり前じゃん!」

瑠璃乃「……でもルリ、そんな理由でやりたいサークルも無いしなぁ……」

「そうは言ってもさ、過去問とかをサークルの先輩から貰えないと、単位取れなくて進級できなくなるかもしれないよ?」

瑠璃乃「……そ、そうなんだ……」

瑠璃乃「……」

40: 2024/12/27(金) 22:12:00 ID:???00
──

瑠璃乃「うう、ここもダメ……」

瑠璃乃「……サークル、結局どこも入れなかったなぁ」トボトボ

瑠璃乃「どこもみんな、入学前からSNSで輪ができてて、ルリが今から入れるとこなんて、もうないんだ……」シュン

瑠璃乃「でもまぁ、無理に入っても、ルリのバッテリーが減るだけだし……うん、そうだよ!」

瑠璃乃「何か……サークル以外に、やりたいことを……!」

41: 2024/12/27(金) 22:13:00 ID:???00
──

瑠璃乃「授業を受けるには、自分で時間割を作らなきゃいけないんだ……それが、履修登録……?」

瑠璃乃「……なんで誰も詳しく教えてくれないんだ……うう、聞く人はいないし、シラバスを見ても、全くわからないよ……」シュン

瑠璃乃「あぁ、どの講義を受けるべきか、とか何を勉強すれば良いか、とか全然ピンとこないや……」

瑠璃乃「……こうなったら、履修制限ギリギリで時間割が埋まるように適当に……」ポチポチ

42: 2024/12/27(金) 22:14:00 ID:???00
──

瑠璃乃「……この講義の内容、全く理解できない……第一、ルリが興味ない分野の話だし……」

「さて、こちらの公式、高校でも習ったかとは思いますが……何を表しているか説明できますか? 前の席の君?」

瑠璃乃「! え……え、っと……」アタフタ


「……一年生のうちから色々勉強しとかなきゃ、将来就職するときに困るよ?」

瑠璃乃「す、すみません……」

43: 2024/12/27(金) 22:15:00 ID:???00
──

瑠璃乃「夕食はカップ麺…………いや、ここのアパート壁薄いし、お湯沸かす音とか迷惑かな……」

瑠璃乃「…………菓子パンでいいや」

瑠璃乃「……」モグモグ


瑠璃乃「うぅ、眠れない……」

瑠璃乃「…………明日が来るのが、怖い……」ブルブル

44: 2024/12/27(金) 22:16:04 ID:???00
──

瑠璃乃「次は……線形数学の授業……でも、よくわからないし行きたくないなぁ……」

瑠璃乃「あれ……行きたくないのに、なんで行く必要があるんだろ……? 確か大学は、やりたいことをやる場所じゃ……」

瑠璃乃(そうだよ。やりたいことを全部やる……せっかく大学生になったんだから、やりたいことをやらなきゃ……)

瑠璃乃(やりたいこと…………やりたいこと?)



瑠璃乃(そもそもルリは──なにがやりたくて大学生になったんだっけ?)

45: 2024/12/27(金) 22:17:00 ID:???00
瑠璃乃「……っ」フラッ

瑠璃乃(あ、あれ……? ダメだ、頭がぐるぐるして動けな──)


「──るり?」

46: 2024/12/27(金) 22:18:00 ID:???00
瑠璃乃「……え」

瑠璃乃「綴理……先輩……? そっか、同じ大学……」

綴理「うん。るり、ひさしぶり。……どうしたの? 具合、悪そうだ」

瑠璃乃「っ、えっと、ルリは……」フラッ

綴理「! 危ない、るり!」ギュッ

瑠璃乃「っ、あ……」

47: 2024/12/27(金) 22:19:00 ID:???00
瑠璃乃「ご、ごめんなさい、綴理先輩。ルリは、その……」アタフタ

綴理「! るり。……ボクが、ここにいるから安心して。ゆっくり、落ち着いていいんだよ」ナデナデ

瑠璃乃「……綴理、先輩…………」

瑠璃乃(こんな風に……人に触れてもらったのって、いつぶりだったっけ……)

瑠璃乃「……うぅ」グスッ

綴理「大丈夫、大丈夫だよ、るり」ナデナデ

瑠璃乃「うぅ……つづパイセンー……!」ポロポロ

48: 2024/12/27(金) 22:20:00 ID:???00
──

綴理「落ち着いた?」

瑠璃乃「……すみません。ルリ、綴理先輩の前でみっともない姿を見せちって……」

綴理「ううん。るりは、頑張ってたんだね。少しくらい、そういう時があってもいい」

瑠璃乃「でも…………いや、ありがとうございます、つづパイセン」

瑠璃乃「……」

49: 2024/12/27(金) 22:21:00 ID:???00
綴理「……調子、よくないの、るり?」

瑠璃乃「…………はい。ルリ、もうダメかもしれないです。ルリに大学生は、難しくて……」

瑠璃乃「もういっそ、辞めちゃおうかなぁ、なんて……」

綴理「……そっか。……ねぇ、るり。それならさ」


綴理「──ボクと一緒に、暮らしてみない?」

瑠璃乃「………………え?」

50: 2024/12/27(金) 22:22:00 ID:???00
瑠璃乃「一緒に暮らす……それってつまり、綴理先輩と同居? 同棲? ……ってことですか?」

綴理「うん。あと、少し前から、かほもいるんだ。ボクと一緒に同じ家で暮らしてる」

瑠璃乃「? 花帆ちゃんも……?」

綴理「そうなんだ。今ごろ、お家で眠ってるかな。昨日、かほは徹夜してたから」

51: 2024/12/27(金) 22:23:00 ID:???00
瑠璃乃「え……て、徹夜? でも確か……花帆ちゃんも今、ルリと同じ大学生じゃ……」

綴理「…………少し、いろいろあったんだ。でも、大丈夫」

綴理「だから……もし、るりさえ良ければなんだけど、どうかな?」

瑠璃乃「…………ルリは──」

52: 2024/12/27(金) 22:24:00 ID:???00
──────

────

瑠璃乃「もし、あのとき、綴理先輩がルリを見つけてくれなかったら……ルリは今ごろ、大学辞めてたかもしれないっすから」ハハ

綴理「それなら……見つけることができて、良かった。るりが今、ここにいてくれてボクは幸せだ」ニコッ

花帆「あたしも! 瑠璃乃ちゃんが来てくれて嬉しいよー!」ギュッ

瑠璃乃「わわ、花帆ちゃん!? もう、いきなり抱きつかれたらびっくりしちゃうって……」

53: 2024/12/27(金) 22:25:00 ID:???00
瑠璃乃「でも本当……二人のおかげで、ルリは今、ちゃんと大学生でいられるんだ! 改めて、感謝してます!」ウンウン

綴理「ふふっ、るりが元気なら、嬉しいな」ニコニコ

瑠璃乃「はい! ──よしっ! 落としちゃった単位の分、夏休み明けも、ルリ頑張るぞー!」グッ


第二話 おしまい

54: 2024/12/27(金) 22:26:00 ID:???00
次回 第三話 綴理「運命に良く似た偶然?」

明日の22時ごろに投稿予定です

56: 2024/12/28(土) 22:00:02 ID:???00
第三話 綴理「運命に良く似た偶然?」

57: 2024/12/28(土) 22:01:01 ID:???00
綴理「~♪」トテトテ

綴理「今日は何を作ろうかな。ひさしぶりに、おでんとかどうだろう? かほもるりも、喜びそうだ」ニコニコ

綴理「ふふっ、誰かの顔を思い浮かべながらするお買い物……すごく楽しいな。さやも、こんな気持ちだったのかな」

綴理「んー……大根が安い。ついでに買っておこう」サッ

綴理「うん。これで全部買えた。おかいけーい」トコトコ

58: 2024/12/28(土) 22:02:02 ID:???00
────

ピッ ピッ

「クレジットカードはお持ちですか?」

綴理「おもちじゃないです……? あれ?」

綴理(聞いたことがある、それどころか、大好きな声がボクの耳に届いた。もしかして……)チラッ

綴理「やっぱりそうだ。ひさしぶり──さち」

沙知「! 綴理か……こんなところで会うなんて、偶然だねぃ」ニッ

59: 2024/12/28(土) 22:03:02 ID:???00
綴理「さち、バイトしてたんだね。今まで知らなかった」

沙知「あぁ……そうさ。大学の合間に少し、ね」

綴理「あ、そっか。さちも今、大学生だった」フム

沙知「……せっかくだ、バイトが終わったら、少し話でもしようか。随分と、綴理も……変わったみたいだからねぃ」チラッ

綴理「うん。蓮ノ空を卒業してから、ボクももう二年になるから、大きくなった。さちも大きく…………大きく……?」

沙知「…………それ以上言うな、綴理……分かってるさ」ハハ

60: 2024/12/28(土) 22:04:02 ID:???00
────

──数時間後

沙知「……っと、待たせたかい、綴理?」

綴理「! ううん、全然待ってないよ。だって、さちは絶対、何も言わずにボクを置いて行ったりしないもんね」ニコッ

沙知「う……高校時代のキツイ記憶を思い出させるようなことを言うねぃ、綴理……」

綴理「?」

61: 2024/12/28(土) 22:05:02 ID:???00
綴理「ボク、嬉しいんだ。さちとまた会えるなんて。すごくひさしぶりだから」フフッ

沙知「……そう、かもしれない。卒業して以来、あたしは皆の前に顔を出すことも、そう多くはなかったからねぃ……」

綴理「……? さちは今、何してるの? ボクと同じ大学生なんだよね?」

沙知「あぁ……今は大学で、理事長になるための勉強をしてるんだ」

綴理「理事長?」

沙知「そうさ。卒業したら蓮ノ空に戻って、理事長として働くつもりでね。そのために進学したのさ」

62: 2024/12/28(土) 22:06:02 ID:???00
綴理「! それはいいね。蓮ノ空で働くの、楽しそう」フフッ

沙知「はは、綴理は人一倍、あの蓮ノ空が大好きだったもんねぃ……」

綴理「うん。ボクは、蓮ノ空で出会ったみんながいたから、スクールアイドルになれた。だから、大好きなんだー」ニコッ

沙知「そうか……綴理は変わらないね。あたしも、あのクラブのメンバーの近況は少し聞いているよ」

沙知「確か……梢は東京の大学へ進学したんだったかな。あとまぁ、言うまでもないが、慈はタレントか」

63: 2024/12/28(土) 22:07:02 ID:???00
綴理「そうだね。最近、テレビにめぐが出てることが多くて、ボクも嬉しいんだ」ニコニコ

沙知「あたしもさ。キミ達は、卒業してからもずっと前に向かって進んでいるのがよくわかる」

沙知「……やっぱり、本当にすごいねぃ、キミ達後輩は」ボソッ

綴理「……さち?」

沙知「…………どうしてだか、ときどき……懐かしく思ってしまうんだよねぃ。これが歳をとるってことか、なんて、まだハタチほどでも思ってしまうくらいに」ハハ

64: 2024/12/28(土) 22:08:02 ID:???00
綴理「懐かしい、って……蓮ノ空にいた頃のこと?」

沙知「あぁ。……綴理は、思わないかい?」

綴理「懐かしい……? うーん、ボクは……」

綴理(──あれから、いろんなことがあった。卒業した後、ボクの周りで、かほやるりが元気でいられなくなって……苦しいときだって、もちろんあった)

綴理(…………でも、ボクはやっぱり……)

綴理「……確かに、あの頃は楽しかった。でも……ボクは“今”が楽しいから、あまりそう思うことはない、かな」

65: 2024/12/28(土) 22:09:02 ID:???00
沙知「そうか……綴理は、強いなぁ……」ハァ

綴理「……さち、何か悩み事?」

沙知「あぁ、いや……悩みってほどでもないんだけどね……」

沙知「あの頃は良かった、なんて言う大人にはなりたくなかったんだが……最近はずっと、考えてしまうんだよねぃ」

66: 2024/12/28(土) 22:10:02 ID:???00
沙知「あたしが、キミ達蓮ノ大三角と一緒に活動していた時のこと。生徒会長になってから、後輩をサポートしていた時のこと……」

沙知「あの頃の全部が、大切な思い出で……時が経つにつれて、もう二度と昔には戻れないのが、嫌でもわかって」

沙知「進めば進むほど、あたしは……今を生きる時計の針を、止めてしまいたくなってしまってねぃ……」

綴理「! それは……」

沙知「……すまないね、綴理。辛気臭い話をして……最近、大学でも、あまり前に進む気力が湧かないんだ」

沙知「だから……あたしは今まで、キミ達、後輩に会う自信がなかったのかもしれない。今まで連絡もせず、申し訳ない」

67: 2024/12/28(土) 22:11:02 ID:???00
綴理「……さち」

綴理(……あのときと同じだ。さちがまた、ボク達には何も言わずに、一人で抱えて溺れそうになっている)

綴理(迷惑にならないよう黙っていなくなっても、残された方は辛いんだ。ボクは、そのことをよく知ってる)

綴理(でも──あの頃とは違う。……気持ちは、言葉にしなくちゃ伝わらない、ってボクは学んだから)

沙知「……まぁ、なんだ! 結局、昔とは違った暗い未来でも仕方がない、そう割り切ったほうがいいのかもしれないねぃ……」

綴理「……ううん、違う。違うよ、さち。未来は、明るくなくちゃダメなんだ」

沙知「綴理?」

綴理「ボクも……さちと同じだ。だから、その解決策もボクにはわかる」

68: 2024/12/28(土) 22:12:02 ID:???00
沙知「? 同じ、って…………でも、綴理は“今”が楽しいんだろう? あたしとは違うんじゃないか……?」

綴理「……ううん。ボクも最初は、大学生になって寂しかったんだ。ここには、ボクの大好きな人は、誰もいなかったから」

綴理(入学して、初めて受けた大学の講義は、思っていたよりもずっと楽しかった)

綴理(学校全体も、活気があって賑やかで……ボクの好きな雰囲気だったんだ)

綴理(でも──気づいてしまった。ここには……さやも、すずもいないんだ、って)

69: 2024/12/28(土) 22:13:01 ID:???00
綴理「ボクは、ボクを頼りにして、そんな大学でも頑張ろうとした。だけど……どうしても溺れそうだったんだ」

綴理「……置いて行かれて一人になるのは、怖いからね」

沙知「! ……綴理」

綴理「そんな顔しなくていいよ、さち。ボクは大丈夫だったんだ。ボクは、一人にはならなかった」

綴理「ボクは──かほと一緒に過ごすことを、ボク自身が決めたんだ」

70: 2024/12/28(土) 22:14:01 ID:???00
沙知「…………そのあたりは、前に梢からメッセージが届いたから、あたしも知っている。綴理が、花帆を助けてくれたんだ、と」

綴理「助けた……そう、かもしれない。でも、本当に助けてもらったのは、ボクのほうだ」

綴理(あれは本当に……偶然だった。もしあのとき、かほがボク以外に電話をかけていたら、今と違う未来になっていたかもしれない)

綴理「ボクは、かほのおかげで一人にならずに済んだ。今はるりもいて……二人はボクに、今を楽しく生きる、“自由”をくれたんだ」

71: 2024/12/28(土) 22:15:02 ID:???00
沙知「自由、か……」

綴理「だから……さちも、昔が恋しいなら、あの頃に負けないくらい、“今”を楽しくすればいいだけ、じゃないかな?」

沙知「それは…………しかし、そんなに上手くいくとも思えないが……」

綴理「……そうだね。ボクも、今が奇跡みたいだって感じてる。でも、だからこそ、何が起こるかはわからないんだ」

綴理(本当に……ボクの大好きなみんなだって、大学でこうなるなんて、誰も思っていなかった)

綴理「…………だから、ボクが二人を守らなきゃ、なんだよね」ボソッ

沙知「……? 綴理?」

綴理「! ううん、なんでもないよ、さち」

72: 2024/12/28(土) 22:16:02 ID:???00
綴理「……あの時だって、さちがボク達をサポートしてくれたから、ボクは蓮ノ空できらめけた。さちは、きらめきを自分で作れる人なんだよ?」

沙知「!」

綴理「さちなら、何が起こるかわからない、まだ決まってない“今”この瞬間なら、きらめきを自分で作れる、ってボクは思う。……どう、かな?」

沙知「…………ははっ、そうか。……こりゃ、一本取られたねぃ」クスッ

沙知「……そうさ、きらめきは、いつだって自分達で作るもの」グッ

沙知「特にあたしは……そういうサポートがしたくて、この道を選んだんじゃないか!」

73: 2024/12/28(土) 22:17:01 ID:???00
綴理「さち、元気でた?」

沙知「……あぁ。……よし! あたしは決めたぞ、綴理」ニヤッ

綴理「? 決めたって、何を?」

沙知「楽しい“今”を作るためのイベント──同窓会を計画しよう!」バッ

74: 2024/12/28(土) 22:18:02 ID:???00
綴理「同窓会?」

沙知「ああ。あの頃のスクールアイドルクラブ全員を集めて……八重咲ステージで、みんなでパーティーといこうじゃないか!」

綴理「……! すごく楽しそう……!」

沙知「そうだろう? もう一度、あの頃に負けないくらい、スクールアイドルとしてきらめいてやろうじゃないか!」

沙知「あたしは理事長の孫で、八重咲ステージを作った人間だ。そうする権限くらい、あるはずだからねぃ」ニッ

75: 2024/12/28(土) 22:19:02 ID:???00
沙知「日程は……年末ごろがいいかもしれないな。それならきっと、全員集まれるだろう」フム

綴理「そうだね。ふふっ、また楽しみが増えた」

沙知「期待しておいてくれよ、綴理。絶対、あのきらめきを再び作ってみせるからねぃ」ニコッ

綴理「! うん、すごく楽しみだ」ニコッ


第三話 おしまい

76: 2024/12/28(土) 22:20:02 ID:???00
次回 第四話 瑠璃乃「くるくる走り続けている」

明日の21時ごろに投稿予定です

79: 2024/12/29(日) 21:00:02 ID:???00
第四話 瑠璃乃「くるくる走り続けている」

80: 2024/12/29(日) 21:01:02 ID:???00
瑠璃乃(前までは憂鬱だった、休み明けの月曜授業……でも、なんと今日は──)

瑠璃乃「講義もなくて……一日ふりー!」バッ

瑠璃乃「あぁ、つづパイセンに手伝ってもらって、休日を作れるように履修登録した甲斐があった……」ウンウン

瑠璃乃「さて、それじゃあ何しよっかなー♪ ひめっちに教えてもらった、オンラインゲームに丸一日打ち込むのもいいかも……」

ピンポーン

瑠璃乃「? お客さんかな? はーい」トテトテ

ガチャ

瑠璃乃「どちら様…………って、え!?」

慈「ハロめぐー! るりちゃん、会いに来たよ!」ニコッ

81: 2024/12/29(日) 21:02:02 ID:???00
瑠璃乃「め……めぐちゃん!? なんでここに……というか、お仕事は!?」

慈「休みを取ったの! るりちゃんに会いたくて、めぐちゃん仕方がなかったから⭐︎」

瑠璃乃「や、休みって……テレビにいっぱい出てる、人気絶頂のタレントが、そーゆー理由で突然休みなんて取れるの……?」

慈「んー、まぁ、色々あってね……それも含めて話すから、とりあえずお家入ろ?」

瑠璃乃「え、う、うん……」

瑠璃乃(二年ぶりに会ったのに……めぐちゃんは、あの頃と全然変わっていないように、ルリには見えた)

瑠璃乃(どうしてこんな突然、ルリに会いに来たんだろう……?)

82: 2024/12/29(日) 21:03:02 ID:???00
────

ガチャ

瑠璃乃「──こっちの部屋がリビング。適当なとこ座って良いよー、めぐちゃん」

慈「ん、お邪魔しまーす…………あれ?」チラッ

花帆「……zzz」

瑠璃乃「あ、そうだった。花帆ちゃんが寝てるから……あまり大きな声は出さないでくれると、助かるかも」

慈「あぁ……もしかして花帆ちゃん、リビングでいつも寝てるの?」

瑠璃乃「うん。ここだと人がいて、安心できるからって」

慈「……そっか」

83: 2024/12/29(日) 21:04:02 ID:???00
瑠璃乃「それで……えっと、めぐちゃん。どうしてルリのところに? ルリに会いたかった、って言ってたけど……何かあったの?」

慈「んー、とね……まぁ、ストレートに言っちゃおっかな」コホン

瑠璃乃「?」

慈「るりちゃん──タレント、興味ない?」



瑠璃乃「………………へ?」

84: 2024/12/29(日) 21:05:02 ID:???00
慈「タレント。つまり、私みたいに、テレビで活躍する大スターのこと! るりちゃんなら、絶対なれると思うんだよね⭐︎」

瑠璃乃「いや待って、た、タレ…………え、めぐちゃん、それどういうこと!?!?」ガタッ

慈「ちょ、声大き……」


花帆「ふわぁ…………どうしたの、瑠璃乃ちゃん……」ノソリ

瑠璃乃「あ、花帆ちゃんのこと、起こしちゃった……」

85: 2024/12/29(日) 21:06:02 ID:???00
花帆「んん……あれ……慈、センパイ?」ボー

慈「ハロめぐー! 花帆ちゃん、ちょっとの間、るりちゃん借りてもいい?」

花帆「んー……? …………ちゃんと、返してくれますか……?」

慈「もっちろん! 利息をつけて返してあげる!」

花帆「じゃあ、トイチでお願いします……」ムニャ

瑠璃乃「それ違法な金利! ……って、花帆ちゃん、まだ寝ぼけてるよね!? めぐちゃんも、悪ノリしないの!」

86: 2024/12/29(日) 21:07:02 ID:???00
────

花帆「完全に、目が覚めました! 日野下花帆、復活です!」シャキッ

花帆「えっと……慈センパイ、瑠璃乃ちゃんに用があって来たんですよね?」

慈「そうそう。この後、もし良ければ外の喫茶店とか、一緒にお出かけしよっかなー、って。ね、るりちゃん?」

瑠璃乃「え? あ、うん……」

瑠璃乃(めぐちゃん、ルリと二人だけで話したい、ってことなのかな……?)

瑠璃乃(……でも、よくよく考えると、さっきのめぐちゃんの発言って…………)ウーン

87: 2024/12/29(日) 21:08:02 ID:???00
花帆「なるほど、そうなんですね! あたしは行けないので……ぜひ楽しんできてください!」ニコッ

慈「もっちろん! 花帆ちゃんも、留守番任せて大丈夫?」

花帆「……だ、大丈夫です! あたし、この家のことは知り尽くしてるので!」グッ

瑠璃乃「…………あ」

瑠璃乃(そっか。今、ルリが出かけたら……花帆ちゃんはお家に一人になっちゃうんだ)

瑠璃乃(……眠ってる時はともあれ、起きてる状態の花帆ちゃんを一人にするのは、流石に良くないかもしれないなぁ……)

瑠璃乃(とはいっても……昔よりは、メンタルも良くなってはいるはずだし、今も元気そうだけど……)ウーン

瑠璃乃(……念の為、つづパイセンに連絡して、早めにお家に帰ってもらえるよう頼んでおこう……)

88: 2024/12/29(日) 21:09:02 ID:???00
────

──喫茶店

瑠璃乃「……」ボー

「──お待たせ、るりちゃん!」

瑠璃乃「あ……めぐちゃん。フラペチーノ、注文ありがと。いくらだった? 今お金……」

慈「あぁ、いいよ、このくらい! 私、結構稼いでるし、奢りってことで」ニコッ

慈「……ぼんやりしてたけど、何か考え事してたの、るりちゃん?」

瑠璃乃「あ、いや……ちょっと、花帆ちゃんのことを考えてて」

89: 2024/12/29(日) 21:10:02 ID:???00
慈「……花帆ちゃん、大変だったみたいだね。その時も私、全然力になれなくて、ごめんね」

瑠璃乃「ううん。……それは、ルリも同じだから。ルリも同じ頃、自分のことだけしか見えてなかったし……」

瑠璃乃(ルリが大学生活でダウンしたのと同じ時期に、花帆ちゃんも苦しんでた、というのを知ったのは……今の生活を始めてからだった)

瑠璃乃(ルリに何かできたわけじゃないけど……せめてもう少し早く知っていたら、花帆ちゃんに寄り添えたのに、なんて思ってしまう)

90: 2024/12/29(日) 21:11:02 ID:???00
慈「……でもまぁ、花帆ちゃんも前よりは回復したんでしょ? このままいけば、きっといつかは花帆ちゃんも元通り、元気になるって」ニコッ

瑠璃乃「……うん。そうだと、いいなぁ……」

慈「とにかく、私達は今できることをやるのが一番! るりちゃんも、やりたいことをやろ?」

瑠璃乃「! やりたいこと……」

瑠璃乃(その言葉は、ルリにとっては苦々しい記憶を呼び覚ますもので……いまだに、見つけられないもの)

瑠璃乃「……」ウーン

慈「……悩んでるならさ、るりちゃん。さっき私が言ったこと、考えてみない?」

瑠璃乃「えっと……さっき言ったこと……?」

慈「だから──タレントに興味ない? って話!」

91: 2024/12/29(日) 21:12:02 ID:???00
瑠璃乃「はぁ……めぐちゃん…………」ジトー

慈「え、なんで、そんな微妙な反応……?」

瑠璃乃「いや、だってさぁ……確かにルリも、さっきはめっちゃびっくりしたけど──めぐちゃん、本気じゃないんでしょ?」

慈「!?!?」

92: 2024/12/29(日) 21:13:02 ID:???00
慈「え……ど、どうしてそう思うの、るりちゃん?」

瑠璃乃「…………だってめぐちゃん……ルリのカッコいいところは人に見せちゃダメ、とか、高校の頃言ってたじゃん?」

慈「!! いや、まぁ……うん、それはそう。今もそう。るりちゃんを独り占めにしたいし、私以外の誰にも見せたくないもん!」フンッ

瑠璃乃「でしょ? 冷静になって考えっと、そんなめぐちゃんが、こういう提案するのは変だな、って」

瑠璃乃「だから実際、めぐちゃんにそんなつもりはないんだなぁ、とルリは思ったわけです」ウンウン

93: 2024/12/29(日) 21:14:02 ID:???00
瑠璃乃「で、本題は……どうしてそんな質問を、わざわざルリにしたのか、ってことなんだけど」ジー

慈「あー、えっと……一応聞くけど、私が本気かどうかは置いといて……るりちゃんは芸能界、全く興味ない感じ?」

瑠璃乃「それは……」

瑠璃乃(……確かに、今のルリには、特別やりたいこともない。せっかく誘ってもらったなら、という気持ちもあるけど、でも…………)

瑠璃乃「……うん。多分ルリがしたいのは、テレビに映るめぐちゃんを応援することで……一緒に出ることじゃない、かな」

94: 2024/12/29(日) 21:15:02 ID:???00
慈「……ま、そうだよね」

慈「断られるのは、初めから私もわかってたよ。別に、無理矢理るりちゃんを引き抜きたいわけでもないからね」クスッ

瑠璃乃「やっぱり……じゃあ、どうしてめぐちゃんは、ルリにそんな質問を?」

慈「…………えっ、と」

瑠璃乃「? ……めぐちゃん?」

慈「…………私、るりちゃんに会いにくるための、理由が欲しかったんだと思う」

95: 2024/12/29(日) 21:16:02 ID:???00
瑠璃乃「理由……?」

慈「……実は私、最近働きすぎだ、ってマネージャーさんに怒られちゃったんだよね」クスッ

瑠璃乃「え、そうなの、めぐちゃん!?」

慈「うん。だから……今日の休みは、今まで貯めたその分。そして……六月にできなかった、罪滅ぼし」

瑠璃乃「六月、って……」

慈「…………ほんっとうに心配したんだよ、るりちゃん。綴理から──るりちゃんがフラフラになってた、って聞いたから」

瑠璃乃「! ……それは」

96: 2024/12/29(日) 21:17:02 ID:???00
瑠璃乃(あの時期、ルリはボロボロで、ただでさえ周りを気にする余裕なんてなかったけど……特にめぐちゃんにだけは、絶対、現状を知られたくはなかった)

瑠璃乃(だって、そのときのめぐちゃんは……ルリと違って“やりたいこと”に一直線だったから)

慈「……私、るりちゃんのことを綴理から聞いたとき、目の前が真っ暗になった気がした」

慈「私の大好きなるりちゃんが、私の知らない間に辛い目にあってるなんて……私には耐えられなくて」

慈「ただでさえその直前に、梢から、花帆ちゃんのことを聞いてたから……私、余計にすっごく怖かったの」

瑠璃乃「っ、めぐちゃん……」

97: 2024/12/29(日) 21:18:01 ID:???00
瑠璃乃(まさか、めぐちゃんにこんなに心配させていたとは……ルリはずっと、気づいてなかった)

瑠璃乃「……ごめんね、めぐちゃん」シュン

慈「……ううん、謝るのは私のほう。……るりちゃんに、すぐには会いにいけなくて、こうやって時間が経っちゃったんだもん」

慈「連絡を受けたあの日……その翌日に、テレビの生放送に出る予定が、絶対に外せないお仕事が、丁度あって」

慈「大切な幼馴染とお仕事。どっちを選ぶかで私は……るりちゃんを、選べなかった」

98: 2024/12/29(日) 21:19:02 ID:???00
瑠璃乃「……それは仕方ないよ。だって、めぐちゃんはルリと違って、もう立派な社会人なんだもん」

慈「それでも……私は、蓮ノ空にいた頃みたいに、自分の正直な気持ちに振り回されるくらいの勢いで動きたかったよ」

慈「花帆ちゃんのときもそうだけど……大切な仲間に何かあったとき、私はすぐには駆けつけられない。働く、って責任があるから」

慈「……この二年で、やっとわかったんだ。“自由”って、何でもしていい、ってわけじゃないんだよね」

慈「もちろん、楽しいが一番なのはそうなんだけど……それに甘えてるだけじゃ、ダメなんだなって」

99: 2024/12/29(日) 21:20:02 ID:???00
慈「だから一層、逃げるようにお仕事に打ち込んだ結果が、働きすぎのお小言だからね……上手くいかないや」ハハ

慈「るりちゃんが一番辛いときに、私は会いに行けなかった。でも、たとえ今更でも、会いたくて……その理由が欲しかったんだ」

瑠璃乃「……そっか」

慈「ごめんね、るりちゃん。こんな……遅くなっちゃって」

瑠璃乃「……めぐちゃん…………」

瑠璃乃(一番辛い時期に寄り添えなかった後悔……それは今、ルリが花帆ちゃんに対しても感じてること)

瑠璃乃(それと同じ気持ちを……めぐちゃんはルリに、抱いていたなんて……)

100: 2024/12/29(日) 21:21:02 ID:???00
慈「えっと……それで、どう? るりちゃんはやりたいこと、あれから見つかった? 本当に、タレントでも私はいいんだけどなぁ……」ボソッ

瑠璃乃「……それ、冗談のはずでしょ?」

慈「まぁね。でも、もしるりちゃんと一緒にできたら楽しいだろうなー、とは思うよ? るりちゃんから目を離しちゃう心配もなくなるし」

瑠璃乃「…………そうだなぁ。やりたいこと、かぁ…………」ウーン

慈「まぁ急いで見つけるものじゃないけど……高校生の頃と違って、時間はあるようで意外と限られてるからね」

101: 2024/12/29(日) 21:22:02 ID:???00
瑠璃乃「……やっぱり、めぐちゃんはすごいなぁ。蓮ノ空にいた頃から、めぐちゃんはやりたいこと、ちゃんと決まってたもんね」

瑠璃乃「卒業してからすぐに、やりたいことに一直線に進んでいくめぐちゃん…………本当、ルリとは全然違うや」ハハ

瑠璃乃「ルリは、やりたいこともなくて、ただなんとなくで大学に進学して……一度は、倒れちゃったからさ」クスッ

慈「……るりちゃん」

瑠璃乃「ルリは、あのころ、ずっといっぱいいっぱいで……だから、めぐちゃんが羨ましくもあったんだ」

慈「…………だけど、綴理が引き戻してくれたんでしょ?」

瑠璃乃「……うん。綴理先輩のおかげで、ルリは今、大学生ができてる」

102: 2024/12/29(日) 21:23:02 ID:???00
瑠璃乃「けど、つづパイセンは優しすぎるとこもあんだよね……絶対に“今”の生活を壊そうとしない、っていうか」

慈「そっか……綴理も、大学生になって変わったのかもね。昔の綴理だったら、傷が増えることこそ成長するってことだ、みたいに歌ってたのに」

慈「一度に二人も、酷く傷ついたのを見て……綴理も、さやかちゃんに似て過保護になっちゃった、のかもしれないね」

瑠璃乃「……綴理先輩のことも、いつかちゃんと考えなきゃではあるけど……まぁでも、まずは、ルリ自身のことか」

瑠璃乃(やりたいこと……“自由”は、責任から目を背けてちゃ手に入らない。ならルリも、それを見つめる必要がある)

103: 2024/12/29(日) 21:24:02 ID:???00
瑠璃乃「ルリがやりたいこと……それを見つけるために、しなくちゃいけないことも、多分、あるんだよね」

慈「そうだね。でも、焦らなくたって、るりちゃんなら絶対見つけられるはずだよ」

瑠璃乃「ありがと、めぐちゃん。……大学生のもらとりあむ、ってやつはルリには重くて……今も、この時間をどう過ごすのが正解か、なんてわかんない」

瑠璃乃「でも……うん、そうだね。少しルリも考えてみるよ、これから先の未来のこと」ニコッ

慈「……! うん、るりちゃんの出す答え、私も楽しみにしてる!」ニコッ

104: 2024/12/29(日) 21:25:02 ID:???00
瑠璃乃「あ、そうだ。それと……ルリ、一つ言い忘れてたことがあるんだったっけ。聞いてくれる、めぐちゃん?」

慈「?」

瑠璃乃(めぐちゃんの持つ、後悔を晴らせるのは、今のルリだけ……これもある意味では、“やりたいこと”なのかも)

瑠璃乃(伝えなきゃ、めぐちゃんに、ルリの気持ち……!)

瑠璃乃「──今日、ルリに会いに来てくれてありがと! 大好きだよ、めぐちゃん!!」ギュッ

慈「!!」

105: 2024/12/29(日) 21:26:02 ID:???00
慈「……るりちゃんっ!」ギュー

瑠璃乃「ふふっ……こうやってぎゅーするのも、ひさびさだね、めぐちゃん」ギュー

慈「そうかも。蓮ノ空にいた頃は、いつもしてたのにね」クスッ

慈「……ん!」ギュー

慈「充電完了! るりちゃんのおかげで──私も、あの日の後悔が消えた気がする!」

慈「これでまた、めぐちゃんは世界中を夢中にするために頑張れる! ありがと、るりちゃん!」ニコッ

瑠璃乃「! うんうん、それなら、良かった!」ニコッ

106: 2024/12/29(日) 21:27:02 ID:???00
慈「そういえば、十二月あたりにも、また休みが取れそうなんだよね。だからそのときは、また会いにくるから!」ニコッ

瑠璃乃「わ、そうなんだ……! うん、すっごい楽しみにしてる!」ニコッ

慈「ふふっ、じゃあ……またね、るりちゃん!」

瑠璃乃「ん、絶対また会おうね!」

瑠璃乃(ルリも、めぐちゃんみたいに……やりたいことを見つけたい。やっぱり、“今”から変わらなきゃ……!)グッ


第四話 おしまい

107: 2024/12/29(日) 21:28:02 ID:???00
次回 第五話 綴理「まだ陽は昇らないで……」

明日の22時ごろに投稿予定です

108: 2024/12/30(月) 22:00:00 ID:???00
第五話 綴理「まだ陽は昇らないで……」

109: 2024/12/30(月) 22:01:01 ID:???00
花帆「綴理センパイ!」

瑠璃乃「つづパイセン!」

「「お誕生日、おめでとうございます!!」」

パンッ! パンッ!

綴理「かほ、るり……嬉しいな。二人ともありがとう」ニコッ

花帆「ふっふっふっ……実は、綴理先輩のお誕生日を祝うのは二人だけじゃないんですよ!」

綴理「?」

110: 2024/12/30(月) 22:02:01 ID:???00
コンコンコン

ガチャ

「綴理、誕生日おめでとう」

「おめでとうございます、綴理先輩」

綴理「! ──こず、さや……!」

梢「ふふっ、ひさしぶりね。綴理」ニコッ

さやか「わたしも、おひさしぶりです。綴理先輩」ペコリ

111: 2024/12/30(月) 22:03:00 ID:???00
────

花帆「──ということで! スペシャルゲストは、梢センパイとさやかちゃんです!」パチパチ

梢「そんな、仰々しく紹介されるような人でもないのだけれど……」

さやか「ですが……本当にひさしぶりですね。三人とも、お元気そうで何よりです」フフッ

瑠璃乃「そーだよね、すっげーひさびさ! さやかちゃんとは、卒業以来かな?」

綴理「卒業……そっか、大学が違うと、会うの難しいもんね」

さやか「はい。なので今日は、とても楽しみにしていたんですよ」ニコッ

112: 2024/12/30(月) 22:04:00 ID:???00
花帆「なんとさやかちゃん……今日のお誕生日会の、料理も作ってくれます!」パチパチ

綴理「! さやの料理……!」

さやか「ふふっ、はい。腕によりをかけて、綴理先輩のためにお作りします!」グッ

梢「そうそう、料理といえば……せっかく綴理が20歳になるのだから、私、料理に合わせたお酒をたくさん買ってきたのよ」サッ

綴理「お酒? あ、そっか、もうボクも飲んでいい年齢なんだ」

113: 2024/12/30(月) 22:05:00 ID:???00
梢「ええ。今日は私のお気に入りのお酒をたくさん……ね」サッサッ

瑠璃乃「わ、すげー量……大人って、一日でこんなに飲むんすか?」

梢「そうね。私は特に、人並み以上に嗜んでいるから。意外と私……お酒に強いのよ?」ニコッ

瑠璃乃「へぇ、流石こずこずパイセン!」ウンウン

さやか「…………あぁ、もうこの後の展開が手を取るようにわかってしまいます……」ハァ

綴理「?」

114: 2024/12/30(月) 22:06:00 ID:???00
梢「今日は派手に飲むつもりで来たから……ふふ、綴理と一緒にお酒を楽しめるなんて、嬉しいわ」ニコッ

花帆「いいですね! せっかくのパーティーなんですし、梢センパイもどんどん飲んじゃってください!」

綴理「…………かほ。お酒の匂い、苦手じゃなかったっけ?」コソッ

花帆「あ……に、苦手ではありますけど……梢センパイだったら、あんなことは絶対しないと思いますし、大丈夫です!」グッ

綴理「……そっか。でも、怖くなったらちゃんと教えてね」

花帆「! ……はい!」

115: 2024/12/30(月) 22:07:00 ID:???00
さやか「では、台所お借りしますね。パーティーの美味しいメインディッシュ、期待していてください!」ニコッ

綴理「あ、そうだ。それなら、お酒のおつまみはボクが作るよー、さや。お魚があるから、なめろうにしよう」

さやか「あぁ、助かりま…………え?」ピタ

綴理「……? さや?」

さやか「……つ、綴理先輩が、料理を!?!?!?!?」ガタッ

116: 2024/12/30(月) 22:08:00 ID:???00
綴理「うん。ボク、料理できるようになったから」ピース

さやか「正気ですか!? あ、危ないですよ、混ぜるくらい簡単な手順じゃないと……火傷したらどうするんですか!」ワタワタ

綴理「お魚捌くのに、火傷はしないよ、さや?」

さやか「するかもしれないじゃないですか!!!」

綴理「さや、一旦落ち着こう。火を使わないのに火傷できたら、それはすごいことだ」


花帆「さやかちゃんが綴理センパイにたしなめられてる……」

瑠璃乃「あの頃と比べっと、けっこー珍しい光景かもね」クスクス

117: 2024/12/30(月) 22:09:00 ID:???00
さやか「……すみません、取り乱しました。……え、本当に綴理先輩、料理を作れるようになったんですか?」

綴理「ん」コクリ

花帆「さやかちゃん、さやかちゃん! 綴理センパイの料理って、どれも手が込んでいて、すっごく美味しいんだよ!」

瑠璃乃「うんうん、ルリ達の胃袋は、綴理先輩にガッチリ掴まれているのである……」

さやか「そうなんですか……? にわかには信じられませんが……」

118: 2024/12/30(月) 22:10:00 ID:???00
綴理「だってボク、さやが料理をするとこ、ずっと見てたから。ボクが作るときも、あの頃のさやを真似して作ってるんだー」ニコッ

さやか「……! なるほど……綴理先輩も成長していらっしゃるんですね」

綴理「うん。色々あったからね」

さやか「そう、ですか…………」

綴理「……?」

119: 2024/12/30(月) 22:11:00 ID:???00
────

さやか「──さぁ、みなさん、料理ができあがりましたよー! おかわりもあるので、たくさん召し上がってください!」

「「「「いただきます!!」」」」

120: 2024/12/30(月) 22:12:00 ID:???00
綴理「! さや、さや、これ美味しい……!」モグモグ

さやか「ふふっ、お口にあったようで何よりです」

瑠璃乃「あぁ、深夜のさや処を思い出す……めっちゃ懐かしい味……」モグモグ

花帆「さやかちゃんの作る料理って、本当、どれ食べても美味しいよね……! さやかちゃん、後でおかわりお願いしてもいい?」

さやか「ええ、もちろんですよ、花帆さん」ニコッ

121: 2024/12/30(月) 22:13:00 ID:???00
梢「……ふふ、このお酒、綴理の作ったおつまみによく合うわね……もっと開けてしまいましょう……」ゴクゴク

さやか「……梢先輩。言っても無駄だとは思いますけど、飲みすぎないでくださいね」ハァ

梢「ええ、善処するわ。心配しなくても大丈夫よ、さやかさん……」ゴクゴク

さやか「……開始五分で、もう二本目を開けている人の言葉に、説得力なんて無いんですが……」

梢「ふふっ、さぁ、たくさん食べて、たくさん飲むわよ……!」

122: 2024/12/30(月) 22:14:03 ID:???00
────

花帆「──ふわぁ……いっぱい食べた……ごちそうさま、さやかちゃん!」

さやか「お粗末さまです。美味しく食べていただけたのなら、わたしも嬉しいです」フフッ

瑠璃乃「あ、そうだ、こずこず先輩! 確か今日は、泊まってくんすよね?」

梢「ええ、そうね。今日一日は、このお家にお世話になるわ。ただ……明日には、新幹線でもう帰ってしまうわね」

花帆「そんなぁ……寂しいです、梢センパイ……」ギュッ

123: 2024/12/30(月) 22:15:00 ID:???00
梢「ふふっ、大丈夫よ、花帆。年末になれば、またすぐ会えるわ」

さやか「そうですね。大学の冬休みにまで、向こうにいる意味もありませんから」

瑠璃乃「あぁ、そっか。こずこず先輩とさやかちゃんは東京の大学だもんね」

梢「ええ。私もさやかさんも一緒の大学で……今はルームシェアをしているの。あなた達と同じね」クスッ

124: 2024/12/30(月) 22:16:00 ID:???00
さやか「進学が決まったときに、声をかけていただいて……今では、とても楽しく過ごさせてもらっています」フフッ

花帆「梢センパイと一緒に二人暮らしかぁ……! すっごく楽しそう! さやかちゃん、実際、普段の梢センパイってどんな感じ?」

さやか「そうですね……率先して家事を手伝ってくれたり、わたしに大学の勉強を教えてくれたり……いつも、本当に助かっています」ニコッ

瑠璃乃「おおっ、聞いてるだけで理想的な同居って感じがする……!」

さやか「ただ…………一つだけ、問題がありまして……」

花帆「?」

125: 2024/12/30(月) 22:17:00 ID:???00
梢「綴理、綴理。あなたが下手なのは説明じゃない。自分の気持ちを伝えること、相手の気持ちを想像すること、両方よ」

綴理「? 何の話?」

梢「綴理。でも、勝たなきゃいけなかった。だから私は……土壇場で振り付けを勝手に変えた」

綴理「…………もしかして、こず……酔ってる?」

梢「よ、酔ってなんかいないわ。私は、そう……鬼って思われていますから。ね、花帆?」

花帆「え、え!? あたしに話振るんですか!?」

瑠璃乃「鬼と思われてることと、酔ってることには何の関係もないと、ルリ思う……」

さやか「あぁ……始まってしまいましたか…………」ハァ

126: 2024/12/30(月) 22:18:01 ID:???00
さやか「梢先輩って、酔うと何度も何度も昔のことを話し出すので……本当に大変なんですよ……」

瑠璃乃「おぉう……なんか、さやかちゃん、苦労してるんだね……」

梢「ちゃんと気持ちを伝えるついでに、なのだけれど。嫌なら嫌で良いのだけれど……その、ほら、私と他人行儀だなぁ、と思ったことはないかしら……!? 同じ部活の仲間なのだし……その、私のことも、親しみを込めてくれて構わないというか。……ねぇ、さやかさん?」

さやか「いつの話をしてるんですか、もう!」

127: 2024/12/30(月) 22:19:00 ID:???00
さやか「あぁもう……料理を食べながら、あれだけ飲んでいたら酔うのも当たり前じゃないですか……!」ハァ

綴理「ふふっ、でも、酔ったこず楽しそうだね」ニコニコ

瑠璃乃「……あれ? つづパイセン、全然飲んでなくないっすか? 先輩もお酒、もっと飲んでいいんですよ?」

綴理「! ……ボクは二人の先輩だし、二人を守らなきゃだから…………それに、かほだって……」チラッ

花帆「綴理センパイ、あたしは大丈夫ですよ! あたしの大好きな人がお酒で楽しそうにしてる姿だったら、見ていてむしろ嬉しいですし!」

綴理「で、でも…………ボクが酔って、みんなに迷惑をかけるのは……」

梢「! 綴理、それなら……場所を変えるのはどうかしら」フンッ

綴理「……? 場所を、変える?」

128: 2024/12/30(月) 22:20:00 ID:???00
────

カランカラン…

「いらっしゃいませー」

綴理「……ここは?」

梢「ふふっ、この辺りで評判の良いバーを調べておいたのよ。機械さんを使ってね」ドヤッ

綴理「こず、スマホ、使えるようになったの?」

梢「…………さやかさんに手伝ってもらったわ。ほんの、ほんの少しだけ。そ、それはともかく……!」コホン

梢「私も一度、サシ飲みというものをやってみたかったの。さやかさんはまだ飲めないし……慈も、忙しい上にまだ未成年でしょう?」

梢「それに、店でならどんなに酔ってもあの子達に迷惑はかからない。さやかさんも、ひさしぶりに103期生で話したいと言っていたから……丁度いいかと思ったのよ」クスッ

129: 2024/12/30(月) 22:21:02 ID:???00
綴理「そっか。それならボクも、こずと一緒に飲むの楽しみだ」

綴理「……あれ、そういえば、こず。さっきまで、酔ってたんじゃなかったの? 今は、普通のこずだ」

梢「あぁ……えぇと、実は私、お酒に酔いやすいかわりに醒めるのも早いの。しかも記憶はしっかりある、という……」ハァ

綴理「なるほど」

梢「……ごめんなさい、綴理。さっきは、身勝手だった頃の私の言葉を、あなたに浴びせてしまったわ」

綴理「ううん、気にしてないよ、こず。ボクは“今”を生きてるから、大丈夫だ」ニコッ

130: 2024/12/30(月) 22:22:00 ID:???00
梢「そう……実は綴理に、話したいことがあるの。……ずっと、面と向かって、綴理にお礼を言いたかったのよ」

綴理「お礼?」

梢「ええ。……花帆のこと、助けてくれたでしょう?」

綴理「!」

131: 2024/12/30(月) 22:23:00 ID:???00
梢「花帆のこと、それに瑠璃乃さんのことも……全部、綴理がいてくれたから何とかなったのよ。だから……ありがとう、綴理」ニコッ

綴理「ううん……ボクはただ、二人に楽しく“今”を生きてほしかっただけだよ。ボク自身が、そうしなきゃって思って、今こうなってるんだ」

綴理(…………どうしてかな。お酒を飲んでから、ボクの口は勝手に開いて、どんどん言葉を紡ぎ出していく。こずに、もっと話したい)

綴理「あんな様子を見たら、放っておくことなんて、ボクにはできなかった。だってボクは、かほもるりも大好きだから」

梢「…………ええ」

綴理「最初は、大変だった。かほもるりも、普通にしてるだけで辛そうで……ボクも、痛かった」

綴理「料理も、ボクが二人にしてあげたくて……必氏に勉強したんだ」

132: 2024/12/30(月) 22:24:00 ID:???00
梢「料理……今も綴理が全て、二人のために作っているのかしら?」

綴理「ううん。最近はるりと、毎日交代交代で作ってるんだー」

梢「そうなのね……花帆は、作っていないの?」

綴理「んー……たまに、手伝ってくれるときはあるけど……眠ってる間に料理は作れないから。かほはいつも、食べるのを楽しんでくれる」

梢「……なるほど、ね」

133: 2024/12/30(月) 22:25:00 ID:???00
綴理「頑張って、頑張って……やっと、二人とも笑顔になれる“今”を作れた。助け合って、楽しく暮らせる生活……」

綴理「ボクは、二人のおかげで、大学でも息ができてるんだ。だから、もらった分……ボクも二人を守りたい。守らなきゃ、なんだ」

梢「……そう。でもたとえ、綴理がどう思っているとしても……やっぱり私は、綴理に対して感謝しかないわ。大切な後輩を、繋ぎ止めてくれたんだもの」

綴理「そうかな……ボクも、二人に助けてもらっただけなのに」

綴理「……それに、かほは、まだ……」

梢「……そう、ね。今のままだと、将来のことやお金のこと……あの子が向き合わなければならないものが、まだあるものね」

綴理「……」

梢「でも……ひさしぶりに花帆の笑顔を見れて、私は嬉しかったわ。これは、綴理のおかげなのよ」ニコッ

134: 2024/12/30(月) 22:26:00 ID:???00
梢「……さぁ、この話はこのくらいにしましょう。せっかくバーにいるのだから、お家では飲めないくらい、たくさんお酒を飲むべきだもの」クスッ

綴理「え、確かこず、家でもいっぱい飲んでたような……」

梢「そんなことないわ。ほら、綴理も良ければ飲みなさい? 遠慮はいらないわよ」ニコッ

綴理「……あ、ありがとー、こず」ゴクゴク

135: 2024/12/30(月) 22:27:00 ID:???00
梢「でも、無理して飲むのは禁物よ、綴理。そろそろ寒い時期になってくるから、体調管理には気を付けること! 絶対に風邪なんて引いたらダメよ!」ペラペラ

綴理「そう、だね……」ボー

梢「あら、綴理も少し、酔いが回ってきたのかしら?」

綴理「ん……そうかも……こずー」ギュッ

梢「!」

136: 2024/12/30(月) 22:28:00 ID:???00
綴理「こずー、ボクをぎゅっとしてほしいな……」ギュー

梢「……! ふふっ、綴理は酔うと、少し甘えん坊になるのね。……いえ、これは元からかしら」クスクス

綴理「もっと飲もー、こず」ギュー

梢「あらあら、もちろんよ。実は私、お酒は何杯でも飲める体質をしているの」ドヤッ

綴理「こずー」ギュー

梢「ふふっ、これは……酔った綴理を介抱するのは、私の役目になりそうね……」クスッ

137: 2024/12/30(月) 22:29:00 ID:???00
────

──深夜

梢「……」スゥスゥ

綴理「う……寝てるこず、運ぶの大変だ……」

綴理「まさか、目を覚ましたとき、こずが横であんなに酔ってるとは……次からは、こずにあまり飲ませないようにしよう」

ガチャ

綴理「ただいまー…………流石にみんな、もう寝てるかな?」

「! おかえりなさい。……綴理先輩」

138: 2024/12/30(月) 22:30:00 ID:???00
綴理「え……さ、さや……!? まだ、起きてたの?」

さやか「その……はい。綴理先輩を待っていたんですが……」

綴理「ボクを? どうして……」

さやか「それは、その…………」

綴理「……もしかして、さや、眠れないの?」

さやか「……えっと、はい。どうしても……綴理先輩とお話がしたくて」

綴理「! ……うん、わかった。大丈夫だよ、まだ陽は昇らないから。話そう、さや」ニコッ

139: 2024/12/30(月) 22:30:59 ID:???00
────

ガチャ

綴理「──こずも、ベッドに寝かせてきたよー」

さやか「あ、ありがとうございます。……梢先輩、お酒を飲むと少したちが悪くなりますよね……」

綴理「……うん。お酒って怖いね……」

さやか「綴理先輩は、ほどほどに嗜まれるのが良いかと。あれを見てしまうと、お酒を飲む気も失せるとは思いますが……」ハァ

綴理「……えっと、そういう話をするために、さやは起きてたわけじゃないよね?」

さやか「あ、それははい、もちろんです! ……えぇと」

綴理「さや、さや。ここ、空いてるよ。さやの特等席だ」ニコッ

さやか「! ……はい。失礼します」

140: 2024/12/30(月) 22:32:00 ID:???00
綴理「ふふっ……さや、あったかいね」ギュー

さやか「そうですね。なんだか、懐かしく感じられます」フフッ

綴理「そっか。蓮ノ空にいた頃はボク達、いつもこんな感じだったっけ?」

さやか「ええ。朝、綴理先輩を起こしにいって、そのまま布団に巻き込まれて……なんて、日常茶飯事でしたから」クスッ

141: 2024/12/30(月) 22:33:00 ID:???00
綴理「……さや。それで、話したいことって……?」

さやか「…………それ、は……」

さやか「……綴理先輩は……大学生になってから、ちゃんと朝、起きれていますか?」

綴理「? うん。一限目に間に合うよう起きなきゃだから、目覚まし時計で…………それが、どうしたの?」

さやか「目覚まし時計……あぁ、もう、全然違うんですね、あの頃とは……」ポツリ

綴理「……さや?」

さやか「わたし──本当に愚か者でした。離れていたって何も変わらない、と盲目的に信じて……挙句、取り返しがつかなくなってようやく、全てに気付くほどで」

142: 2024/12/30(月) 22:34:00 ID:???00
綴理「それは……」

さやか「……103期生だけで話してみて、わたしがいかに無知で現状に浮かれていたのかを、思い知らされました」

さやか「わたしは……お二人が一番辛い時に、そばにいてあげられなかったんだ、と再認識してしまったんです」

綴理「……そっか。さやは……そのことを後悔、してるんだね」

さやか「はい。……本当に、その通りです」

143: 2024/12/30(月) 22:35:01 ID:???00
さやか「花帆さんにも、瑠璃乃さんにも、もしわたしがその時、近くにさえいたら……何か、何かができたはずなんです」

さやか「本当にちっぽけなことだって、良かったはずです。……お話を聞くだけでも、お料理を作るだけでも……」

さやか「ですが……現実は違いました。二人の苦しみさえ、わたしは最後に知って。……自分が本当に、どれだけの人に庇護されてきたのか……」ハァ

さやか「わたしは──非常に身勝手ですが……その人が幸せになれないくらいなら、誰にも、変わってほしくなんかないんです」

綴理「……!」

144: 2024/12/30(月) 22:36:00 ID:???00
綴理(蓮ノ空にいた頃から、さやはずっと……水色のきらめきを持っていた。それは今日もそうで、ボクはそんなさやを見て、嬉しかったんだ)

綴理(……変わらないことに安心を覚えるのって、変わらないことをみんな望んでいるから、なのかな)

さやか「変わることを受け入れたくなんかない……それはわたしの、自分勝手なわがままです。……わたしは、どうすればいいんでしょうか」ハァ

綴理「……さや」

さやか「すみません、綴理先輩。受け入れようが、受け入れまいが、時間は止められないですよね」クスッ

綴理「……そうだね。時間は勝手に進むから、ボクも、かほやるりも、さやだって……みんな変わってしまった」

さやか「……少し、寂しいです」

綴理「…………大丈夫だよ、さや」ナデナデ

さやか「! 綴理、先輩……」

145: 2024/12/30(月) 22:37:01 ID:???00
綴理「……多分、ううん、絶対、変わらないものだってあるはずだ。さやの隣にボクの特等席があることだって、きっと」

さやか「……そう、でしょうか」

綴理「さや。もし不安なら、ボクが──そうしてみせるよ。守りたいものが、ボクにはあるから」

さやか「守りたいもの……」

綴理「うん。……頑張って作った“今”の笑顔だけは、誰にも壊させはしない。まだ、変化は止められるんだ」

146: 2024/12/30(月) 22:38:00 ID:???00
さやか「それは……変化を拒む、ということですよね? ……いいんでしょうか、そんな願い……」

綴理「……これは、未来を明るくするためだ。未来に何が起こるかはわからないけど、“今”にきらめきを作ることはできる」

綴理(ボクが、さちに対して言ったのと同じ。過去は変えられなくても、“今”だけは変えられる)

綴理(……ボクは矛盾しているのかもしれない。未来は明るくなくちゃいけないから、そのために“今”を楽しくなるように変える……さちにも、そう言ったのに)

綴理(実際、楽しい“今”が作れて……辛そうな未来が見えた時、この“今”を絶対に変えたくない、ってそう願ってしまった)

綴理(あのとき……さちの、“今”を生きる時計の針を止めたくなった、という言葉に、ボクは──共感、していたんだ)

147: 2024/12/30(月) 22:39:00 ID:???00
綴理「そうやってできた楽しい“今”をずっと続けるのは、悪いことじゃない、はず……」

さやか「……そう、なんでしょうか。なんだか……わからなくなってきました」

綴理「大丈夫、さやは何も心配しなくて良いんだ。ボクに任せて」

綴理「──さぁ、一緒に眠ろう、さや。ボクが、明日も今日と変わらないような、楽しい日にしてみせるから」

148: 2024/12/30(月) 22:40:00 ID:???00
さやか「…………ありがとう、ございます、綴理先輩…………」スゥ

綴理「……おやすみ、さや」ナデナデ

綴理(…………楽しい“今”だけは、絶対に変えさせない。ボクがみんなを、二人を、守るんだ)

綴理(かほが苦しい目に合わないように、るりが本当にやりたいことを見つけられるように)

綴理(そして……明日も、この先も……みんなが楽しく笑っていられる今日みたいな日を、ずっと続けられるように……)


第五話 おしまい

152: 2024/12/31(火) 10:00:00 ID:???00
最終話 花帆「いつまでだって夢見たい」

153: 2024/12/31(火) 10:01:04 ID:???00
花帆(眠っているときだけは、現実を気にしなくても良い。見たくない世界にいるときは、目を閉じちゃえば良いんだ)

花帆(それに気づいてからあたしは……逃げるように、眠ることが多くなった)

花帆(それでも、何度も何度も、あの出来事ばかり夢に見ちゃうのは……あたしに逃げ場なんかない、ってことなのかな)

花帆(今日も、あの記憶……全てを投げ出してしまったきっかけの事件を、あたしはまた夢に見る……)

154: 2024/12/31(火) 10:02:00 ID:???00
───

──────

「合唱サークルでーす! 大学での新生活、みんなと一緒に、青春しませんかー! 女の子、大歓迎でーす!」

花帆「! 合唱……青春……!」パァァ

花帆「はいはい! あたし、そのサークル入ります! 一年の日野下花帆です!」ニコッ

花帆(みんなと一緒に歌うのはすごく楽しいんだ、って、あたしは蓮ノ空で知ることができた)

花帆(スクールアイドルじゃなくなっても、歌は続けられる。あたしは、大学でも花咲くんだよ!)グッ

155: 2024/12/31(火) 10:03:00 ID:???00
──

「ほら、せっかくの新入生歓迎パーティーなんだからさー! 主役なんだし、花帆ちゃんも飲みなよー!」

花帆「え、でもあたし、まだ未成年ですから……」

「でもでも花帆っち! 私も新入生だけど、お酒ってすっごく美味しいよ! ほら、飲みなってー!」グイグイ

花帆「いや、えっと……」

「ほら、イッキイッキ!」

花帆「う…………けほっ、けほっ……」

156: 2024/12/31(火) 10:04:00 ID:???00
──

「この近くに、合宿用に借りてるペンションがあるから、そこで二次会にしよー!」

花帆「あの、あたし……」

花帆(合唱サークルなのに、話す話題も全然関係なかったし、何か、おかしい気が……?)

「花帆っちも行こ! こっからが、本当のメインイベントなんだよ!」

花帆「め、メインイベント……?」

157: 2024/12/31(火) 10:05:00 ID:???00
──

「いやー、飲んだ飲んだー! あとは各自、部屋割り振ってあるから、そこ泊まってやっていいよー」

花帆「え、泊まり……!? あたし、何も聞いて……」

「それじゃ、私はその部屋でしてくるからー! 花帆っちも、いろんな人と楽しんでね!」

花帆「え……え……?」

158: 2024/12/31(火) 10:06:00 ID:???00
花帆「な、何が起きて…………あの新入生の子、確かこっちの方に向かって行ったような……」キョロキョロ

花帆「……この部屋、かな?」チラッ

ズッ…ヌチャ…

「そ。そこだよ……そのまま、なかを押して? ──んっ、あ」

花帆「! ……え」

159: 2024/12/31(火) 10:07:00 ID:???00
花帆(声が、聞こえる。……あたしの知ってる人が、あたしの知らない声を出して……)

花帆「そ、そんな……」ガタッ

「? 誰か廊下に居るのか……?」

花帆「!? っ……!」ダッ

160: 2024/12/31(火) 10:08:00 ID:???00
──

タッタッタッ…

花帆「はぁはぁ……か、勝手に抜け出しちゃった。もう夜中で、誰もいないのに……あたしは今、一人なのに」

花帆「…………でも、あそこに居たら、あたしまで……」

花帆「……ううん。最初からあたしだけ、目的が違ったんだからそれはない、かな」

花帆「みんな、最初からそういう目的だったんだ……合唱に本気な子なんて、大学にはいなかった」

花帆「……はぁはぁ…………うぅ、じゃああたしは、何を信じれば良かったのかな……誰も、そんな様子じゃなかったのに」

花帆「……っ、はぁ、はぁ、く、苦しい……」ヘタリ

161: 2024/12/31(火) 10:09:00 ID:???00
花帆「ここは夜道で……誰も、通らない……」

花帆「人が、怖い…………でも、一人も怖い……」ブルブル

花帆「はぁ、はぁ……っ、だ、誰でもいいから声を聞きたい……あたしの大好きな人の声……先輩とか……」ガタガタ

花帆「うぅ、怖い……電話、お願い誰でもいいから……」

プルルル プルルル

花帆「先輩、お願い、声を……」

花帆「助けて、助けて、誰か、助けて──!」

162: 2024/12/31(火) 10:10:00 ID:???00
──────

────

花帆「……んん」パチリ

瑠璃乃「あ、起きちゃった、花帆ちゃん? ……っと」ピッ

花帆「……瑠璃乃ちゃん……? ん……今何時くらい?」

瑠璃乃「えっと、ちょうど午後五時かな。良かったら花帆ちゃん、これ食べる?」サッ

花帆「? これって……」

瑠璃乃「先月のこずこずパイセンとさやかちゃんからの、東京土産! 賞味期限近くなっててさ、急いで消費しなきゃなんだけど……どう?」

花帆「! うん、食べる食べる!」ガバッ

163: 2024/12/31(火) 10:11:00 ID:???00
花帆「……あれ? テレビ止まってるけど、何か見てたの? って、この映像……」

瑠璃乃「あ……うん。ルリ達が初めてラブライブ!に出場したときの予選大会。『Link to the FUTURE』のアーカイブ」

瑠璃乃「ひさしぶりに梢先輩と会ったら、なんだか懐かしくなっちって……」ハハ

花帆「そう、なんだ……」ジー

瑠璃乃「! あ、えっと、花帆ちゃんは何か見たいものある? 今、動画サイト開いてるわけだし、なんでも……」

164: 2024/12/31(火) 10:12:00 ID:???00
花帆「……ううん、大丈夫だよ瑠璃乃ちゃん! あたしにも見せて! 『Link to the FUTURE』の動画!」

瑠璃乃「え!? ……で、でも花帆ちゃん…………」

花帆「大丈夫だって! ……あたしも、昔のあたし達をもう一回見直したくなっちゃったから」

瑠璃乃「そ、そう? なら、最初から再生するね……」ピッ

165: 2024/12/31(火) 10:13:00 ID:???00
────

~♪

瑠璃乃「そうそう。ここで、十二月までの軌跡が映し出されるんだよね」ウンウン

花帆「あ……」

花帆(画面に映るのは、純粋に花咲こうともがいていた、まだ高校一年生の、あたし。……なんて、楽しそうなんだろう)

花帆「……っ」グスッ

瑠璃乃「! 花帆、ちゃん……」

花帆「…………この頃に、戻りたいなぁ……」ポツリ

166: 2024/12/31(火) 10:14:00 ID:???00
花帆(ただただ歌うのが楽しくて、一つの目標のためにみんなで頑張っていたスクールアイドルの日々……あたしの、青春)

花帆(確かに、あの頃から見れば……今のあたしは予想外のミライの中にいる。こんなミライだとは、思ってもなかったけど)

花帆(進むミライが怖くて、目を逸らし続けたとしても……過去は変わらないし、変えられもしないんだよね)

花帆(あたしはもう──あんな風に歌うことなんて、できない)

167: 2024/12/31(火) 10:15:00 ID:???00
────

ガチャ

綴理「ただいまー。かほ、るり、ごめんね。同じ学部の人達と飲み会があって、遅くなったんだー…………あれ?」チラッ

花帆「……zzz」

綴理「こんな遅くなのに、かほが寝てる……?」

瑠璃乃「あ、おかえりなさい、つづパイセン! 花帆ちゃん、さっきまでは起きてたんですけど……その、また眠っちゃって」

綴理「そっか。二人は夜ごはん、もう食べた?」

瑠璃乃「それは、はい! ……あの、つづパイセン。花帆ちゃんのこと、なんですけど……」

168: 2024/12/31(火) 10:16:00 ID:???00
瑠璃乃「確か花帆ちゃん……あれから、一度も大学には行けてないんでしたっけ?」

綴理「……うん。もうそろそろで、半年になるかな」

瑠璃乃「それって、やっぱり……トラウマ、的な……」

綴理「そうだね。こればかりは…………今のボク達には、何もしてあげられない」

瑠璃乃「っ……そう、っすよね……」シュン

169: 2024/12/31(火) 10:17:00 ID:???00
瑠璃乃「あの……実際、花帆ちゃんは始めの頃と比べたら、少しは回復、してるはずなんですよね?」

綴理「それは……えっと…………」

瑠璃乃「…………やっぱ、そっすか。さっき、花帆ちゃんの様子を見てルリも……なんとなく気づいちゃいました」

瑠璃乃「花帆ちゃんのメンタル、全然良くなんかなってない……ですよね、綴理先輩?」

綴理「……それは」

170: 2024/12/31(火) 10:18:00 ID:???00
綴理「……少し前、るりが、めぐと遊びに行ったとき、かほがほんのちょっとの間、一人になってたの覚えてる?」

瑠璃乃「! もち覚えてます! あの、あのときはルリ、いきなり連絡してすみません! つづパイセン、大学あったのに……」

綴理「ううん。前も言ったけど、あの時は空きコマだったから大丈夫。でも……」

瑠璃乃「……?」

綴理「…………実は、ボクが家に着いた時、かほは……過呼吸を、起こしてたんだ」

瑠璃乃「……え」

171: 2024/12/31(火) 10:19:00 ID:???00
瑠璃乃「……マジすか」

綴理「うん。……呼吸が乱れてて、すごく苦しそうだった」

瑠璃乃「つ、つづパイセン。やっぱり、今のままじゃダメなんじゃ……ルリ達も先のことを考えないと、花帆ちゃんだって……」

綴理「でも、だからって……やっぱり、ボク達にできることなんてないよ、るり。“今”がまだ、一番良いくらいだ」

瑠璃乃「それ、は……っ」

綴理「……これから歩む未来が絶対に明るい未来だったなら、ボクも安心して、かほを送り出せるんだ。でも……」

綴理「先にあるのは辛い未来で、それを変えるには、“今”のかほが苦しむ必要がある。……かほが嫌な目に遭うくらいなら、ボクは、無理に進ませたくはない」

172: 2024/12/31(火) 10:20:00 ID:???00
綴理「未来は明るくなくちゃいけない。変えられないほど暗くて辛い未来なら……この楽しい“今”だけは、守りたいんだ」

綴理「……もちろん、るりだってそうだ。“今”この瞬間を、ボク達が一番楽しく過ごせてるなら……変えなくても、いいんじゃないかな」

瑠璃乃「…………っ……で、でも……」

綴理「ボクは、二人が苦しむのは見たくない。お願いだ、るり。ボクに……二人を、守らせてほしい」ニコッ

瑠璃乃「……つづ、パイセン」

瑠璃乃「………………ルリは……」ポツリ

173: 2024/12/31(火) 10:21:00 ID:???00
────

──数日後

瑠璃乃「……はぁ。……絶対、このままじゃダメだってルリ、思うんだけどなぁ……」トボトボ

瑠璃乃「めぐちゃんに言われてから、ルリも……やりたいことを考え始めて、もしかしたら……それが今、ぼんやりと見つかったかもしれなくて」

瑠璃乃「きっと、“自由”にやりたいことをするためには、このままじゃいけないはず……うん、ルリはやっぱ、そう思うなぁ……」

瑠璃乃「とはいえ、綴理先輩の考えも……楽しいまま変えなければ未来に苦しむことはない、まぁわかるけども……」ウーン

瑠璃乃「なにか、きっかけさえあれば……この先の未来をもっと楽しみにできるような、“今”を変える、そんなきっかけが……」

瑠璃乃「──あれ?」チラッ

瑠璃乃「……ポストの中に、何か入ってる?」

174: 2024/12/31(火) 10:22:00 ID:???00
瑠璃乃「なんだろう……手紙かなぁ?」サッ

瑠璃乃「えぇと…………同窓会の、お知らせ……??」

瑠璃乃「わ、これ、さちパイセンからの招待状!? ……参加者は沙知先輩と、102期生と103期生の七人……」

瑠璃乃「会場は、八重咲ステージ。みんなで集まって、あの頃のきらめきを……かぁ」

175: 2024/12/31(火) 10:23:00 ID:???00
瑠璃乃「うんうん、ルリもあの頃のライブを見返しちゃうくらいだったし、同窓会なんて、すっげー楽しそう!」キラキラ

瑠璃乃「それに…………これ、もしかしたら」ジー

瑠璃乃「できるかもしれない……花帆ちゃんも含めた全員が幸せになれるような、前を向くためのきっかけになるライブが……!」

176: 2024/12/31(火) 10:24:00 ID:???00
────

瑠璃乃「──つづパイセン! 歌いましょう!」グッ

綴理「? いいよー。~♪」

瑠璃乃「わ、素敵な鼻歌……って、そうじゃなくて!?」

瑠璃乃「同窓会っすよ、つづパイセン! さちパイセンのおかげで、みんなで集まれる場が作れると、ルリ気づいちまいました」ウンウン

綴理「楽しみだよね、同窓会。こずもめぐも、みんな来てくれるみたいで、ボクも嬉しい」ニコニコ

瑠璃乃「そう、あの頃のメンバーが全員集まってるんすよ、綴理先輩! だから、歌いましょう──花帆ちゃんも、含めた全員で!」

177: 2024/12/31(火) 10:25:00 ID:???00
綴理「……! ……かほは、一緒に歌うのは難しいんじゃないかな……。合唱のサークルでああなって以来、かほが歌うところ、見たことがないんだ」

瑠璃乃「それは、ルリもわかってます。……でも! 他ならぬ花帆ちゃんのために、そうしたいんです!」

綴理「かほのために……?」

瑠璃乃「……花帆ちゃん、言ってたんですよ。昔のライブ映像を見て、『この頃に戻りたい』って」

綴理「! ……そんなことを、かほが……?」

瑠璃乃「はい。だから、ルリ……つづパイセンに、頼みたいことがあって」ウンウン

178: 2024/12/31(火) 10:26:00 ID:???00
瑠璃乃「大学生になってからもルリは、やりたいことがずっと見つけられなくて、いっぱい先輩に迷惑もかけちまいました……」

瑠璃乃「でも……やっと! ルリ、やりたいことを見つけられたんです!」

綴理「…………るりが、やりたいこと……それって……?」

瑠璃乃「ルリは……!」グッ


瑠璃乃「──この生活をくれた二人……綴理先輩と花帆ちゃんに、何かを返したい! それが今、一番ルリがやりたいことです!」グッ

綴理「!!」

179: 2024/12/31(火) 10:27:00 ID:???00
瑠璃乃「今こうやって、二人と一緒に暮らせて……ルリ、二人のおかげで今、充電も切れずに大学生ができてるんです」ウンウン

瑠璃乃「だから……それが、やりたいこと。そんで、そのためにやらなくちゃいけないことを、今回の同窓会でルリ、したいんです!」

瑠璃乃「……ルリ、思ったんですよ。“自由”って、未来から目を逸らしながら手に入れてたって、ダメなんじゃないか、って」

綴理「“自由”…………あぁ、そうか」ポツリ

瑠璃乃「だから……綴理先輩! ルリがやりたいことのために、少し協力してほしいんです! 助け合って生きていくのが、ルリ達だから!」

綴理「……」

瑠璃乃「あ、えっと……ルリ、勝手にこんなこと言って、すみません。迷惑……でしたかね、綴理先輩?」

綴理「…………ううん。おかげで──気づけたよ、るり」

瑠璃乃「!」

180: 2024/12/31(火) 10:28:00 ID:???00
綴理「……ボクもずっと、目を背けてたんだ。……本当に、簡単なことだったのかもしれないのに」

綴理「ボクは……ボク自身が傷つくのは、別に良かった。でも、ボクの大好きな人が傷ついて苦しそうなのは……見たくなかったんだ」

瑠璃乃「つづパイセン……」

綴理「人は、変わらないことを望んでしまう。でも、たとえそうでも、本当にボクが望んでるのはきっと……みんなが幸せに生きてくれることだ」

綴理「……ボクは、鳥籠から飛び出して“自由”になったつもりだった。でも、外で苦しむ二人を見て、守りたくて……ボクの方が、二人を籠に押し込めてたんだ」

181: 2024/12/31(火) 10:29:00 ID:???00
綴理「最初から、ボクもわかってたはず。……かほもきっと、この“今”を生きてるだけじゃダメで、どんな未来にだって進める強さがあるんだ」

綴理「ほかでもない、かほ自身が“今”を変えたいと願ってるなら……それを助けるために、ボク達は一緒に暮らしてるんだよね」

瑠璃乃「……! それじゃあ……!」

綴理「……うん。……歌おう。未来に繋げるための、これからの明るい夢を信じるための、そんな歌をみんなで……!」

182: 2024/12/31(火) 10:30:00 ID:???00
────

──同窓会当日、朝

花帆「……はぁ、はぁ」ドキドキ

花帆(外に出るの、凄くひさしぶりだなぁ……沙知センパイが家まで来て、車で六人全員送ってくれるとは言っても……少し、怖い……)

綴理「かほ、体調大丈夫? 昨日はよく眠れた?」ヒョコ

花帆「あ、綴理センパイ……緊張してて、まだちょっと眠いかもです……」

花帆(過去に──対峙する。あたしが今から向かう、八重咲ステージは……あの頃の時を止めたまま、蓮ノ空にあって)

花帆(見ればきっと、戻れないことを実感してしまう。……楽しみなはずなのに、まだ少し……目を閉じたくなっちゃうなぁ……)

183: 2024/12/31(火) 10:31:00 ID:???00
綴理「そっか。それなら、少しの間眠ってて良いよ、かほ。ボクの家集合だし、車に乗って会場まで着いたら、かほを起こすよー」

花帆「え、良いんですか? それなら……お願いしちゃいますね。あたしも、万全な状態で同窓会を楽しみたいですし!」グッ

瑠璃乃「うんうん、めぐちゃんや沙知パイセンもいるし、その方が良きっしょ!」ニコッ

瑠璃乃「ルリ達もその間、少しやることがあるから……そうっすよね、つづパイセン?」チラッ

綴理「……うん」コクリ

184: 2024/12/31(火) 10:32:00 ID:???00
────

ガチャ

梢「お邪魔します。確か……ここ、よね……?」キョロキョロ

さやか「以前もこの家には来たんですから、場所を間違えないでくださいよ、梢先輩……」ハァ

梢「そ、それはそうなのだけれど……機械さんの出すマップに従うと、よくわからない場所に着いてしまうのよね……」

さやか「いや、そんなわけなくないですか!? ……なんだか、わたしと暮らし始めてから、梢先輩も綴理先輩に似てきたような……」

綴理「! こず、さや、いらっしゃいー」ヒョコ

梢「綴理! えぇ、一ヶ月ぶりね」クスッ

185: 2024/12/31(火) 10:33:00 ID:???00
瑠璃乃「さやかちゃんも、おひさ! 年末だし、こうやって会えると嬉しいよね」ニコッ

さやか「そうですね。それに、今回は同窓会ですから……すごくひさびさに会える方もいますし」フフッ

瑠璃乃「あぁ! そうだよね、普段は忙しくしてて会えないもん」ウンウン

綴理「お仕事の休み、取れたみたいで良かった。多分、そろそろ来るんじゃないかな?」

ガチャ

慈「ハロめぐー⭐︎ 藤島慈、参上ー!」シャキッ

さやか「ふふ、噂をすれば……ですね」クスッ

186: 2024/12/31(火) 10:34:00 ID:???00
慈「わ、さやかちゃんに梢、めちゃくちゃひさしぶりー! 元気してた?」

さやか「ええ、おかげさまで。慈先輩のお姿は、テレビ等で拝見していますよ」クスッ

梢「本当にひさびさね、慈。電話やメッセージではなく、こうして直接会うのは、いつ以来だったかしら……」

慈「あ、そういや梢は、この間誕生日お祝いメッセージ送ってくれてたっけ。ありがと、梢!」

梢「ふふ、そうね。慈、メッセージでも送ったけれど、改めて……いつか、二人でお酒を飲みに行かないかしら?」

187: 2024/12/31(火) 10:35:00 ID:???00
慈「お酒? ん、そのくらいなら……梢と一緒に飲むの、楽しそうだし!」ニコッ

さやか「あっ…………」

慈「めぐちゃん、まだお酒飲んだことないけど……まぁ、梢と一緒なら、良い感じのペースで飲めそうじゃん! 梢、真面目だし!」

梢「ふふっ……ええ、もちろん。私が慈のこと、お酒でとっても楽しくさせてあげるわね」ニコッ

さやか「…………ご武運を、慈先輩……」

慈「?」

188: 2024/12/31(火) 10:36:00 ID:???00
ワイワイ ガヤガヤ

綴理「……あぁ、良い景色だ」ポツリ

瑠璃乃「そっすね……こーゆー雰囲気の場所が、ちゃんと残ってるの、良いですよね」

綴理「うん。……やっぱり、このみんなでなら、絶対上手くいくはずだ」

瑠璃乃「ですね! うんうん、ルリもそう思います!」グッ

189: 2024/12/31(火) 10:37:00 ID:???00
さやか「それにしても……今回、このような会を計画してくださるなんて、沙知先輩には頭の上がらない思いです」

梢「そうね。こうして全員で集まれるなんて、貴重な機会だもの」クスッ

慈「その話題の人物、沙知先輩は、まだ来てないのー? めぐちゃん、待ちくたびれちゃうよ」

綴理「あ、さっき、さちから連絡来たよー。だから、もうすぐ……」

ドゥンドゥン…

190: 2024/12/31(火) 10:38:00 ID:???00
ブロロロロ…

ガチャ

沙知「──迎えに来たぞー、諸君! 全員、揃ってるかい?」ニッ

瑠璃乃「さちパイセン! わ、すっげー、ビッグな車……」

さやか「何人乗りなんですか、これ……」ジー

沙知「少なくとも七人は乗れる車だ。理事長になるにあたって、こういう車は必要だと思ってねぃ。奮発したのさ」フフン

綴理「さすがさち、さすさち」パチパチ

191: 2024/12/31(火) 10:39:00 ID:???00
沙知「どれ、見たところ全員揃っているようだし……早速、車で八重咲ステージまで送っていくかい?」

瑠璃乃「あ、沙知パイセン、その前にちょっとだけ時間良いですか?」

沙知「時間? 別に急ぎじゃないから構わないが……」

綴理「……実はボク達、みんなに──お願いがあるんだ」

192: 2024/12/31(火) 10:40:00 ID:???00
慈「? お願い……?」

瑠璃乃「うん。……ルリ、答えを見つけたよ。めぐちゃんに、やっと伝えられる」ウンウン

瑠璃乃「ルリがやりたいこと。ルリは──花帆ちゃんを助けたい」

綴理「ボク達、それを叶えるために……みんなに手伝ってほしいんだ。みんなで、八重咲ステージの上で、かほも一緒に歌いたい」

193: 2024/12/31(火) 10:41:00 ID:???00
さやか「……綴理先輩、それは……」

綴理「さや……ごめん。この前とは、考えが変わったんだ」

綴理「ボクは……変化を拒むこともあるかもしれない、けど、それ以上に、幸せを願いたい」

綴理「“今”を変えずに幸せを願うのは、本当の自由とは違う。目を背けちゃ、いけないものだったんだ……ごめんね、さや。ボクも、変わってしまった」

さやか「……いえ。これで逆に、確信が持てましたよ、綴理先輩。変化は──悪いものばかりではない、と」

綴理「!」

194: 2024/12/31(火) 10:42:00 ID:???00
さやか「考えが変わることも、生活が変わることもある……ですが、明日を生きる上で、正しく変われさえすれば良い」

さやか「変わることは……悪いことばかりではないんですよね」

綴理「……うん。相手の幸せを願えば、そういうことになる」

さやか「そうですね。……綴理先輩も、厨房に立つくらいにまで変わりましたし」

さやか「……初めに見た時は、宇宙人にでも乗っ取られたのかと思いましたが……」

綴理「ボクなんなの」

195: 2024/12/31(火) 10:43:00 ID:???00
さやか「ともかくそれでしたら、わたしも……過去の後悔を精算するために尽力いたしますよ。ずっと、心残りでしたから」

慈「私も賛成! 花帆ちゃんのことは私だって、同じように思ってたし」

梢「そうね。私も同じよ。花帆はきっと……今でも、歌いたい、花咲きたいと願っているはず。私は花帆と、同じ夢を見たいもの」クスッ

沙知「……なるほど、なるほどねぃ……良い友情じゃないか……」ウンウン

瑠璃乃「あ、そうだ、さちパイセンも、どうすか? 一緒にステージに立ちましょうよ!」

沙知「!? え……あたしがかい? いや……あたしは別に、キミ達のようなスクールアイドルでは、ないからねぃ……」

196: 2024/12/31(火) 10:44:00 ID:???00
梢「……あら、沙知先輩も、私達と同じスクールアイドルのはずでしたよね?」

沙知「いやいや、梢まで、何を言ってるんだ……!?」

慈「ふっふっふ……めぐちゃんも、実は前から思ってたんですよー、沙知先輩?」

慈「せっかく先輩が作った八重咲ステージに、沙知先輩が立ってパフォーマンスをしないのはもったいないなー、って!」

綴理「ボクもそう思う。さち、一緒に歌おー」

197: 2024/12/31(火) 10:45:00 ID:???00
沙知「はは……本当、キミ達には敵わないねぃ。全く……そうだねぃ……」フム

沙知「……花帆は、あたしと少し似てるのかもしれない。過去に囚われて、前に進む気力が湧かなくなる……その気持ちは、あたしにもわかってしまう」

沙知「だとしたら……あたしもそこに立つ権利があるかもしれん」

綴理「! さち、それなら……!」

沙知「はは、あぁそうさ。あたしも……キミ達と気持ちは同じさ。きっとそれだって、あたしのやりたい“サポート”に繋がることなんだろう」ニッ

梢「ふふ、決まりね。八重咲ステージで……七人でのライブ」

瑠璃乃「! うんうん! やりましょう、みんなで!」グッ

198: 2024/12/31(火) 10:46:00 ID:???00
────

──八重咲ステージ

花帆「……っ…………」ジー

花帆(……本当にそのまま、何一つ変わっていない、八重咲ステージ。ラブライブ!大会でも使った、あのステージ……)

花帆(あぁ……ここで歌った思い出みたいに、あの頃のあたしの青春みたいに……みんなで、歌えたらいいのになぁ、なんて……)

花帆(そんなの…………あたしの独りよがりな勝手な妄想、だよね。……あたしはもう、歌えないのに)ハァ

199: 2024/12/31(火) 10:47:00 ID:???00
花帆「……」

「なぁ、花帆。今、少し良いかい?」

花帆「あ……沙知センパイ! どうしたんですか?」

沙知「実は、同窓会の楽しい楽しい催し物があるんだが……どうだい、やってみたいかい?」ニッ

花帆「? 催し物……? よくわからないですけど、楽しいならやってみたいです!」

200: 2024/12/31(火) 10:48:02 ID:???00
沙知「そうかそうか……じゃあ、あたし達も準備しないといけないなぁ」ニヤッ

瑠璃乃「うんうん! 花帆ちゃん、花帆ちゃん! ちょっち目を瞑ってみて?」

花帆「目を? こうかな……」ギュッ

沙知「……っと、それじゃあ、“これ”を花帆に進呈しようか」サッ

花帆「……!」

花帆(冷たくて、それでいて手によく馴染むこの形。これって……)

花帆「これ……ハンドマイク、ですよね?」

沙知「ああ。──あたし達が歌うための、ね」ニヤッ

201: 2024/12/31(火) 10:49:00 ID:???00
花帆「! ……センパイが、歌うんですか」

沙知「いやぁ、あたしも歌いはするけどねぃ……」チラッ

慈「もちろん、花帆ちゃんも含めて、だよ!」

花帆「っ……で、でも、あたし……」

瑠璃乃「花帆ちゃん。……あの頃に、戻りたいんだよね?」

花帆「それは……」

202: 2024/12/31(火) 10:50:01 ID:???00
梢「ふふ、花帆は今も、立派なスクールアイドルのはずでしょう? “今”もあの頃の延長線上にあるのだから、大丈夫よ」

花帆「え……? あたしが今も、スクールアイドル……梢センパイ、そんなわけは……」

梢「いいえ。だって……約束したわよね。私とあなたは、一生スリーズブーケだって」クスッ

花帆「あ……」

梢「あなたが私と一緒に夢を追いかけてくれたように、今度は……私達が、花帆の花を咲かせる番よ」

203: 2024/12/31(火) 10:51:00 ID:???00
梢「これはある意味、けじめをつけるライブ……観客はいない、花帆が花帆のためだけに、歌っていいのよ」

花帆「……」

花帆(あたしが……歌う? あの頃と同じ場所で、あたしが……)

花帆(でも……あの頃とは、みんな変わってしまった。何もかも昔と違ってるし、夢だって、もう……)

「──歌おう、かほ。大丈夫だよ」

花帆「! 綴理センパイ……」

204: 2024/12/31(火) 10:52:00 ID:???00
綴理「かほは、ボクを助けてくれた。今度は、花帆がそのツバサで“自由”に飛び立つ番だ。夢を、追いかけるために」

花帆「夢……」

慈「そうだぞ、花帆ちゃん! 夢は何度だって見てもいい、後悔だって上書きしちゃえばいいんだって、めぐちゃんも思う!」ニコッ

さやか「わたしも同じ意見です。そして何より……花帆さんの幸せのために、正しく変わりましょう。それが、できるはずです」

205: 2024/12/31(火) 10:53:00 ID:???00
沙知「あぁそうさ。スクールアイドルは、デコボコの道だって、大丈夫なんだろう?」ニッ

瑠璃乃「うんうん! ね、花帆ちゃんは──どうしたい?」


花帆「……! あたしは……」

206: 2024/12/31(火) 10:54:00 ID:???00
花帆(──あたしはずっと、歌を歌うのが好きで、大学生になってからも、歌ってみんなを笑顔にしたかった……花咲きたかった)

花帆(サークルで上手くいかなくてから、あたしは……もう二度と、花咲くことなんてできないんじゃないか、って思って)

花帆(……あの日あんな経験をして、周りの人が怖かった。けれど、それよりもずっと怖かったのは……何もできない、一人になること)

花帆(でも……)チラッ

花帆「あたしは、一人じゃない……」

花帆(今なら、あたし──)


花帆「──歌いたいです! みんなと、一緒に!」

207: 2024/12/31(火) 10:55:00 ID:???00
瑠璃乃「! それが聞けたなら……こずこずパイセン! あのかけ声、よろっす!」

梢「ええ。……良いわよね、花帆?」

花帆「……! はい、もちろんです!」

梢「ふふっ、それなら……みんな! 今この瞬間を大切に、Bloom the smile!」

『Bloom the dream!』

208: 2024/12/31(火) 10:56:00 ID:???00
~♪

『一緒に見たいんだ』

『消えない夢【ドリーム】 I believe!』

209: 2024/12/31(火) 10:57:00 ID:???00
──────

────

──数日後

花帆「えっと……こう、ですか?」クルッ

ジュワァァ…! パチパチパチ…

綴理「ん。いい感じー」

瑠璃乃「おおっ、美味しそうな匂い……花帆ちゃん、晩ごはん楽しみにしてます!」ビシッ

花帆「うん、上手くできるかはわからないけど……任せて、瑠璃乃ちゃん!」グッ

210: 2024/12/31(火) 10:58:00 ID:???00
綴理「かほ、困ったら、ボクを頼ってほしい。助け合って生きていくのがボク達だから」ニコッ

花帆「……! はい、わかりました、綴理センパイ! ……ふふっ」クスッ

瑠璃乃「? どーしたの、花帆ちゃん?」

花帆「…………なんだか、あれから一気に世界が明るくなった感じがして」

花帆「少しずつ……少しずつだけど、あたし、前に進めてる気がするんだよね。みんなのおかげで、あたし、自由に“今”を全力で楽しめてて──すっごく、嬉しいんだ!」ニコッ

綴理「! うん、かほが幸せなのが一番だ」

瑠璃乃「うんうん! ルリ達はなんと言っても、チーム自由だもんね! 楽しく自由に、前を向いて生きなきゃ!」ウンウン

211: 2024/12/31(火) 10:59:00 ID:???00
花帆(今日も、明日も、明後日も……三人で生活は続いていく。みんな誰も気負わない、助け合って生きていく場所)

花帆(“今”を精一杯楽しく生きて、未来はもっともーっと楽しくなるように努力する! それが──今のあたし達の生き方!)

花帆「それじゃあ、これからも三人で、一緒に頑張っていきましょー!」

「「「おー!」」」


最終話 おしまい

花帆「チーム!」瑠璃乃「自由の!」綴理「同棲生活ー」 完

引用: 【SS】花帆「チーム!」瑠璃乃「自由の!」綴理「同棲生活ー」