1: 2024/12/31(火) 18:16:59 ID:???Sd
栞子「怪談ライブ、ですか?」
ランジュ「そうよ! 昨日ほんとかもしれない怖い夜見てたら、皆の怖い話を聞きたくなっちゃって」
栞子「理事長に話した結果、何故か我々の語りを衆目に晒す羽目になったと」
ランジュ「先走る人なのよ……」
かすみ「かすみんは怖い話苦手ですよぉ」
しずく「私も……」
ランジュ「そうよ! 昨日ほんとかもしれない怖い夜見てたら、皆の怖い話を聞きたくなっちゃって」
栞子「理事長に話した結果、何故か我々の語りを衆目に晒す羽目になったと」
ランジュ「先走る人なのよ……」
かすみ「かすみんは怖い話苦手ですよぉ」
しずく「私も……」
3: 2024/12/31(火) 18:18:52 ID:???Sd
かすみ「んぐっ」ブクッ
かすみ「」ブクブクッ
かすみ「しず子は見るからに苦手そうだもんね」
しずく「う、うん」
しずく(何で今溺れたみたいに痙攣したんだろ……)
果林「まあ……決まってしまったものは、仕方ないんじゃない?」
せつ菜「怪談となれば私の出番!! やってやりますよぉー
!!」
かすみ「」ブクブクッ
かすみ「しず子は見るからに苦手そうだもんね」
しずく「う、うん」
しずく(何で今溺れたみたいに痙攣したんだろ……)
果林「まあ……決まってしまったものは、仕方ないんじゃない?」
せつ菜「怪談となれば私の出番!! やってやりますよぉー
!!」
6: 2024/12/31(火) 18:21:13 ID:???Sd
ミア「それで、いつやるんだ? 怪談をやるにしても、話を調達する時間くらいはあるんだよな?、」
ランジュ「今日よ」
ミア「は?」
歩夢「ええっ!? 私、怖い話の用意なんて何もないよ!?」
栞子「歩夢さんは昔話してくれたあれでいいのでは?」
歩夢「ああ、あれ……でもあれはなぁ……」
ランジュ「とっても怖かったし、あれがいいと思うラ!」
エマ「あれ、って?」
歩夢「実は私、昔ね……」
せつ菜「待った。お楽しみは後にとっておいたほうがいいですよ!!!」
ランジュ「今日よ」
ミア「は?」
歩夢「ええっ!? 私、怖い話の用意なんて何もないよ!?」
栞子「歩夢さんは昔話してくれたあれでいいのでは?」
歩夢「ああ、あれ……でもあれはなぁ……」
ランジュ「とっても怖かったし、あれがいいと思うラ!」
エマ「あれ、って?」
歩夢「実は私、昔ね……」
せつ菜「待った。お楽しみは後にとっておいたほうがいいですよ!!!」
8: 2024/12/31(火) 18:23:05 ID:???Sd
エマ「それもそうだねー。楽しみにしておくよ」
果林「私も一つあるけど、エマは?」
エマ「怪談話のストックなら、そうそう負けないよー?」
ミア「それは頼もしいことだね。ボクの番もあげたいくらいだよ」
栞子「ミア、それはいけませんよ」
ミア「だって、本当に怖い話なんて……」
せつ菜「皆が話してる間に何か思い出せばいいんですよ!!!」
ミア「うーん……」
果林「私も一つあるけど、エマは?」
エマ「怪談話のストックなら、そうそう負けないよー?」
ミア「それは頼もしいことだね。ボクの番もあげたいくらいだよ」
栞子「ミア、それはいけませんよ」
ミア「だって、本当に怖い話なんて……」
せつ菜「皆が話してる間に何か思い出せばいいんですよ!!!」
ミア「うーん……」
9: 2024/12/31(火) 18:25:50 ID:???Sd
夜
ランジュ「何はともあれ、怪談ライブの開幕ラ!」
璃奈「わーい」
栞子「拍手をしています」
愛「この平坦な反応こそホラーじゃないかな」
かすみ「何も思いつかなかったよー。しず子、助けてー」
しずく「あれがああなって……これがこうだから……」ブツブツ
かすみ「しず、子?」
かすみ「何故だろうか、嫌な気がするなぁ……」
歩夢「お客さん結構いるね」
せつ菜「歩夢さんが一番ですね、ほら行ってきてください!!」
歩夢「うん、行ってくるよ!」
ランジュ「何はともあれ、怪談ライブの開幕ラ!」
璃奈「わーい」
栞子「拍手をしています」
愛「この平坦な反応こそホラーじゃないかな」
かすみ「何も思いつかなかったよー。しず子、助けてー」
しずく「あれがああなって……これがこうだから……」ブツブツ
かすみ「しず、子?」
かすみ「何故だろうか、嫌な気がするなぁ……」
歩夢「お客さん結構いるね」
せつ菜「歩夢さんが一番ですね、ほら行ってきてください!!」
歩夢「うん、行ってくるよ!」
11: 2024/12/31(火) 18:38:16 ID:???Sd
第一夜 影 語り部 上原歩夢
こんばんは、上原歩夢です。
思ったより大勢お客さんがいますね。こんなに急に怪談ライブが決まったのに……。
普段のライブならもう緊張することもないんですけど、こうして大勢の前でお話をするというのは緊張しますね。
まして怪談なんて……初めてなので、聞き苦しいところがあったらすいません。
皆さんは学校から帰るときに、何を使って帰っていますか?
歩いて帰る人、自転車で帰る人、バスで帰る人、電車で帰る人、色々いますよね。私はバス通学なんですけど……。
こんばんは、上原歩夢です。
思ったより大勢お客さんがいますね。こんなに急に怪談ライブが決まったのに……。
普段のライブならもう緊張することもないんですけど、こうして大勢の前でお話をするというのは緊張しますね。
まして怪談なんて……初めてなので、聞き苦しいところがあったらすいません。
皆さんは学校から帰るときに、何を使って帰っていますか?
歩いて帰る人、自転車で帰る人、バスで帰る人、電車で帰る人、色々いますよね。私はバス通学なんですけど……。
12: 2024/12/31(火) 18:46:55 ID:???Sd
バスって色んな人が乗り合いますよね。
知らない人達が詰め込まれて、目的地まで向かう……老若男女が互いの名前も知らずに、一緒の空間で……。
もしかしたら、一緒にバスに乗り込んだ人は人間でもなんでもない化け物かもしれない。人の振りをして、私達に紛れているだけかもしれない。
隣に座っている人は、本当に人間? そんなことを考えるとちょっと怖くなりますよね。
特に夜の、人が少ないバスは……。
これはそんな、夜のバスで私が行き合った……不思議なものの話です。
知らない人達が詰め込まれて、目的地まで向かう……老若男女が互いの名前も知らずに、一緒の空間で……。
もしかしたら、一緒にバスに乗り込んだ人は人間でもなんでもない化け物かもしれない。人の振りをして、私達に紛れているだけかもしれない。
隣に座っている人は、本当に人間? そんなことを考えるとちょっと怖くなりますよね。
特に夜の、人が少ないバスは……。
これはそんな、夜のバスで私が行き合った……不思議なものの話です。
13: 2024/12/31(火) 18:53:04 ID:???Sd
その日、私は学校で委員会の用があったんです。
普段は幼馴染と一緒に帰っているんですが、夜遅くなるからって先に帰ってもらって……。
用事を終えて学校の門をくぐった時にはもう日が落ちていて、もう夜になっていたんです。幼馴染が隣りに居てくれたら、そんな夜でも安心なんですけど……。
委員会の皆はバス通学じゃなくて、その日バス停に向かったのは私一人。なんだか不安になりながら、私はバス停に向かいました。
暗い夜の道を独りぼっちで歩く。別に何があるってわけでもないんですけどね。
後ろに何か着いてきていないか、チラチラ振り返っちゃったりして。それでも、バス停についたら何人か待っている人がいて、ホッとしました。
普段は幼馴染と一緒に帰っているんですが、夜遅くなるからって先に帰ってもらって……。
用事を終えて学校の門をくぐった時にはもう日が落ちていて、もう夜になっていたんです。幼馴染が隣りに居てくれたら、そんな夜でも安心なんですけど……。
委員会の皆はバス通学じゃなくて、その日バス停に向かったのは私一人。なんだか不安になりながら、私はバス停に向かいました。
暗い夜の道を独りぼっちで歩く。別に何があるってわけでもないんですけどね。
後ろに何か着いてきていないか、チラチラ振り返っちゃったりして。それでも、バス停についたら何人か待っている人がいて、ホッとしました。
14: 2024/12/31(火) 18:59:56 ID:???Sd
数分待つと無事にバスが来て、ガラガラのバスに連れ立って乗り込んで……バスは動き出しました。
私以外にはサラリーマンのような男性ばかりで、同じような歳の子は一人もいない。皆部活も終えて帰ってる時間だもんね、なんて一人で納得しながら、見るともなしに外の景色を見ていました。
バスから見る景色なんて見慣れてるんですけど、夜になるとまた違った景色になっていて……。夜景が綺麗なんですよ。
幼馴染と一緒に見られたらいいなぁ、なんて思いながら眺めていたんですけど……ふと、変なものが視界に入ったんです。
窓に反射して薄っすらと映るバスの車内を、うろうろと動いている人がいる。
なんだろう、運転中のバスを歩くなんて危ないな。そう思いながら眺めてみると、なんだかおかしいんですよね。
その人、やけに黒いんですよ。
私以外にはサラリーマンのような男性ばかりで、同じような歳の子は一人もいない。皆部活も終えて帰ってる時間だもんね、なんて一人で納得しながら、見るともなしに外の景色を見ていました。
バスから見る景色なんて見慣れてるんですけど、夜になるとまた違った景色になっていて……。夜景が綺麗なんですよ。
幼馴染と一緒に見られたらいいなぁ、なんて思いながら眺めていたんですけど……ふと、変なものが視界に入ったんです。
窓に反射して薄っすらと映るバスの車内を、うろうろと動いている人がいる。
なんだろう、運転中のバスを歩くなんて危ないな。そう思いながら眺めてみると、なんだかおかしいんですよね。
その人、やけに黒いんですよ。
15: 2024/12/31(火) 19:05:13 ID:???Sd
最初は鏡の反射のせいかな、とか外国の方なのかな? なんて思ってたんですけど。
黒すぎるんですよ。頭から、下の見える範囲まで全部真っ黒に染まってる。墨をぶちまけたみたいな黒色で……。
それが、うろうろとバスの中を歩いている。
なんだろう、って車内に顔を向けてみて、あれ?
いないんですよ、その人。窓から目を離すまではうろうろと動いているのが見えていたのに、車内に目を向けるといない。
しゃがんだ? それにしてもおかしい……だって、わざわざその瞬間にそんなことする理由がないもんね。
だから、気のせいだったのかな? って。そう思って、もう一度窓の方を見たら。
いるんですよね。その黒い人が。相変わらずうろうろと車内を歩いている。
黒すぎるんですよ。頭から、下の見える範囲まで全部真っ黒に染まってる。墨をぶちまけたみたいな黒色で……。
それが、うろうろとバスの中を歩いている。
なんだろう、って車内に顔を向けてみて、あれ?
いないんですよ、その人。窓から目を離すまではうろうろと動いているのが見えていたのに、車内に目を向けるといない。
しゃがんだ? それにしてもおかしい……だって、わざわざその瞬間にそんなことする理由がないもんね。
だから、気のせいだったのかな? って。そう思って、もう一度窓の方を見たら。
いるんですよね。その黒い人が。相変わらずうろうろと車内を歩いている。
16: 2024/12/31(火) 19:10:47 ID:???Sd
えっ? って思わず声が出て。何度も車内と窓に顔を往復させて。でも、車内を見るといない。窓を見るといる。
なんだろう、これ。なんなんだろう。意味が分からなくて、頭の中が混乱してきて。
幽霊って言葉が浮かんだ瞬間、怖くて私は鞄をギュッと胸に抱えて下を向いたんです。
だって、窓さえ見なければ怖くないんですから。
窓にさえ目をやらなければ、それは見えないんですから。
そうやってしばらく震えていると、ふと声が聞こえたんです。
気にしなくていいんですよ、これは。
顔を上げると、通路を挟んで向こうの席でサラリーマンのような男性が何とも言えない顔でこっちを見ていました。
なんだろう、これ。なんなんだろう。意味が分からなくて、頭の中が混乱してきて。
幽霊って言葉が浮かんだ瞬間、怖くて私は鞄をギュッと胸に抱えて下を向いたんです。
だって、窓さえ見なければ怖くないんですから。
窓にさえ目をやらなければ、それは見えないんですから。
そうやってしばらく震えていると、ふと声が聞こえたんです。
気にしなくていいんですよ、これは。
顔を上げると、通路を挟んで向こうの席でサラリーマンのような男性が何とも言えない顔でこっちを見ていました。
18: 2024/12/31(火) 19:15:34 ID:???Sd
きょとんとしている私に向かって、男性は尚も続けました。
多分あれを見たんだと思いますけど、気にしなくていいんですよ。あれは何もしてこないので。
大きな声だったのに、他の乗客も運転手さんも何も言いませんでした。
まるで、怯えている人がいたら説明するのが当たり前みたいに。
ただ影がそこにあるだけ、とでも言いたげに……そのサラリーマンはまた手元のスマートフォンに視線を戻しました。
窓に視線をやると、相変わらずその黒いものはうろうろと車内を歩いていました。
気にするなと言われても不気味で、恐くて。結局下を向いたまま、降車するバス停が来るまでジッとしていました。
多分あれを見たんだと思いますけど、気にしなくていいんですよ。あれは何もしてこないので。
大きな声だったのに、他の乗客も運転手さんも何も言いませんでした。
まるで、怯えている人がいたら説明するのが当たり前みたいに。
ただ影がそこにあるだけ、とでも言いたげに……そのサラリーマンはまた手元のスマートフォンに視線を戻しました。
窓に視線をやると、相変わらずその黒いものはうろうろと車内を歩いていました。
気にするなと言われても不気味で、恐くて。結局下を向いたまま、降車するバス停が来るまでジッとしていました。
19: 2024/12/31(火) 19:19:54 ID:???Sd
しばらく経って、最寄りのバス停が近付いてきたので、私はなるべく窓の方を見ないようにボタンを押したんです。
視界の端ではそれがまだウロウロしているのが見えて……バスが止まって、影が私の席より後ろに行った瞬間を見計らって、走って前の扉に向かいました。
通学定期を運転手に見せて、なんとなく車内を振り向いて。
バスの窓には相変わらず黒いものがうろうろと歩いているのが映っていました。
でも……私以外の数人の乗客は、それを気にも止めてはいなかったんです。
本を読んだりスマートフォンを触ったり、運転手さんも何も気にしてはいないみたいでした。
降りないんですか?
そう促されて、私は慌ててバスを降りました。
バスは乗客と、あの黒いものを乗せて……そのまま走っていったんです。
視界の端ではそれがまだウロウロしているのが見えて……バスが止まって、影が私の席より後ろに行った瞬間を見計らって、走って前の扉に向かいました。
通学定期を運転手に見せて、なんとなく車内を振り向いて。
バスの窓には相変わらず黒いものがうろうろと歩いているのが映っていました。
でも……私以外の数人の乗客は、それを気にも止めてはいなかったんです。
本を読んだりスマートフォンを触ったり、運転手さんも何も気にしてはいないみたいでした。
降りないんですか?
そう促されて、私は慌ててバスを降りました。
バスは乗客と、あの黒いものを乗せて……そのまま走っていったんです。
20: 2024/12/31(火) 19:23:20 ID:???Sd
翌日、幼馴染に通学バスの中で、昨日起こった出来事を話してみると笑われちゃいました。多分、夢でも見てたんだよって。
そうなのかもしれません。私がバスで居眠りをして、そんな変な夢を見ただけなのかもしれません。
でも……もし、夢じゃなかったら?
私が乗っているバスの中には、昔から何かよく分からない黒いものがウロウロと歩いていて、たまたまそれを私が知らなかっただけだとしたら?
もしかしたら、その幼馴染に話した時もそれは私の隣を歩いていたのかもしれない。
そうなのかもしれません。私がバスで居眠りをして、そんな変な夢を見ただけなのかもしれません。
でも……もし、夢じゃなかったら?
私が乗っているバスの中には、昔から何かよく分からない黒いものがウロウロと歩いていて、たまたまそれを私が知らなかっただけだとしたら?
もしかしたら、その幼馴染に話した時もそれは私の隣を歩いていたのかもしれない。
21: 2024/12/31(火) 19:28:50 ID:???Sd
……怖いんですよね。
気にするなと言ってはもらいましたけど、そんな真っ黒な、窓にしか映らない存在がウロウロと歩いているなんて……。
一番怖いのは冬なんです。
日が落ちるのが早くて、少し気を抜くと外は真っ暗になる。明るい部屋の窓に顔が映ってしまうくらいに……真っ暗に。
だから冬になったら、スクールアイドル部の練習も減らして、なるべく暗くなる前に帰るようにしていたんです。
でも……どんどん活動も増えて、練習量も増えて。そろそろ、日が落ちる前に帰りたいとも言えなくなって……。
私はあの黒いものを見たくないんです。そんな理解できないものが側にいるなんて考えたくないんです。
でも、もし……暗い時間しか帰れない日々が続いて。
毎日、毎日夜にしかバスで帰れないようになったら。
……私はあの時の乗客達のように、慣れきってしまうのかもしれません。黒いものが歩いていようが、ただの影だと無視して放っておくようになるのかもしれません。
もしかしたら私は……異常を異常と認識できなくなるその瞬間が、一番怖いのかもしれません。
お聞きいただき、ありがとうございました。
第一夜 終わり
気にするなと言ってはもらいましたけど、そんな真っ黒な、窓にしか映らない存在がウロウロと歩いているなんて……。
一番怖いのは冬なんです。
日が落ちるのが早くて、少し気を抜くと外は真っ暗になる。明るい部屋の窓に顔が映ってしまうくらいに……真っ暗に。
だから冬になったら、スクールアイドル部の練習も減らして、なるべく暗くなる前に帰るようにしていたんです。
でも……どんどん活動も増えて、練習量も増えて。そろそろ、日が落ちる前に帰りたいとも言えなくなって……。
私はあの黒いものを見たくないんです。そんな理解できないものが側にいるなんて考えたくないんです。
でも、もし……暗い時間しか帰れない日々が続いて。
毎日、毎日夜にしかバスで帰れないようになったら。
……私はあの時の乗客達のように、慣れきってしまうのかもしれません。黒いものが歩いていようが、ただの影だと無視して放っておくようになるのかもしれません。
もしかしたら私は……異常を異常と認識できなくなるその瞬間が、一番怖いのかもしれません。
お聞きいただき、ありがとうございました。
第一夜 終わり
23: 2024/12/31(火) 19:53:39 ID:???Sd
第二夜 いる 語り部 エマ・ヴェルデ
こんばんは、エマ・ヴェルデです。
皆不思議そうな顔してるね?
外国人に日本式の怪談なんて出来るのか、って疑問もあるかもしれないけど……皆が知ってる小泉八雲も元々はラフカディオ・ハーンだからね?
海外から来ても、怪談は語れるよー?
稲川淳二さんの怪談で日本語覚えた、って言っても過言じゃないくらい怪談は聞いてるしね。
ただ……まぁ、そんな怪談好きな私だけど、流石に自分がそんな目に合うとは思ってなかったかな。
怪談は怪談、あれは作り話として楽しんでたんだよね。幽霊なんかいないって……そう思ってたんだけどねぇ。
これは、日本に来てから私が体験した奇妙な話です。
こんばんは、エマ・ヴェルデです。
皆不思議そうな顔してるね?
外国人に日本式の怪談なんて出来るのか、って疑問もあるかもしれないけど……皆が知ってる小泉八雲も元々はラフカディオ・ハーンだからね?
海外から来ても、怪談は語れるよー?
稲川淳二さんの怪談で日本語覚えた、って言っても過言じゃないくらい怪談は聞いてるしね。
ただ……まぁ、そんな怪談好きな私だけど、流石に自分がそんな目に合うとは思ってなかったかな。
怪談は怪談、あれは作り話として楽しんでたんだよね。幽霊なんかいないって……そう思ってたんだけどねぇ。
これは、日本に来てから私が体験した奇妙な話です。
24: 2024/12/31(火) 19:59:05 ID:???Sd
私は虹ヶ咲の寮に住んでるんだ。果林ちゃんやミアちゃん、ランジュちゃんなんかも寮に住んでるよね。なんていうか……本当に快適なんだよね、あの寮。
かゆいところに手が届く? って言うんだったっけ? こっちがこういうのが欲しいなーって細かい悩みに丁寧に対応してくれているというか。
スイスから日本に来て、もしこの寮じゃなかったら心挫けてたかも……ってくらい。
それぐらい素敵な寮なんだけど……。
この寮に入ってから、私の身の回りで変なことが起こり始めたんだよねぇ。
最初は果林ちゃんだったかな? いつもみたいに果林ちゃんのお部屋を掃除しに行った時のこと。
これもいつものことなんだけど、部屋を埋め尽くすように脱ぎ捨てられた服とか、お菓子のゴミとかを片付けてたんだ。
あ、果林ちゃん凄い顔してる。これ言っちゃ駄目だった?
かゆいところに手が届く? って言うんだったっけ? こっちがこういうのが欲しいなーって細かい悩みに丁寧に対応してくれているというか。
スイスから日本に来て、もしこの寮じゃなかったら心挫けてたかも……ってくらい。
それぐらい素敵な寮なんだけど……。
この寮に入ってから、私の身の回りで変なことが起こり始めたんだよねぇ。
最初は果林ちゃんだったかな? いつもみたいに果林ちゃんのお部屋を掃除しに行った時のこと。
これもいつものことなんだけど、部屋を埋め尽くすように脱ぎ捨てられた服とか、お菓子のゴミとかを片付けてたんだ。
あ、果林ちゃん凄い顔してる。これ言っちゃ駄目だった?
25: 2024/12/31(火) 20:03:02 ID:???Sd
まぁいいや、それで片付けをしていたら、ベッドでゴロゴロしながらアイスを食べてた果林ちゃんがバッと起き上がってね。
いる。
って私を見ながら言ったんだ。
いる? 何が?
言われた私は当然意味が分からなくてね。そう聞き返した。
そしたら果林ちゃん、何を言われたか分からないってキョトンとしたような顔をしてさ。
え、いるって何のこと……? 急にそんなこと聞いてどうしたのよ。
そんな風に続けてくる。聞き間違いだったのかな、けどこっちを見て言ってたのになぁ。そう思ったけど、その日は適当に誤魔化して掃除を続けた。
いる。
って私を見ながら言ったんだ。
いる? 何が?
言われた私は当然意味が分からなくてね。そう聞き返した。
そしたら果林ちゃん、何を言われたか分からないってキョトンとしたような顔をしてさ。
え、いるって何のこと……? 急にそんなこと聞いてどうしたのよ。
そんな風に続けてくる。聞き間違いだったのかな、けどこっちを見て言ってたのになぁ。そう思ったけど、その日は適当に誤魔化して掃除を続けた。
26: 2024/12/31(火) 20:10:00 ID:???Sd
その次はミアちゃん。寮の私の部屋で、次のライブについてああでもないこうでもないって話してたんだけど。
今までライブのフォーメーションの話をしていたミアちゃんが怖い顔をして私を睨んでね。
いるね。
って呟くように言った。
何が?
そう聞いた時にはミアちゃんはもうライブの話に戻っていて、寝ぼけてたんじゃないかと軽く叱られちゃった。
もう気のせいじゃないよね、果林ちゃんに続いてミアちゃんまで私を見てそう言ったんだから。
二人ともいる、って言葉は共通してる。私に向けて言っているのも同じ。
今までライブのフォーメーションの話をしていたミアちゃんが怖い顔をして私を睨んでね。
いるね。
って呟くように言った。
何が?
そう聞いた時にはミアちゃんはもうライブの話に戻っていて、寝ぼけてたんじゃないかと軽く叱られちゃった。
もう気のせいじゃないよね、果林ちゃんに続いてミアちゃんまで私を見てそう言ったんだから。
二人ともいる、って言葉は共通してる。私に向けて言っているのも同じ。
27: 2024/12/31(火) 20:14:35 ID:???Sd
そして、いると言った後は忘れちゃう。一体何なんだろう? 果林ちゃん、ミアちゃんと来たら……もしかして次はランジュちゃん?
そう思った私は、ランジュちゃんに一つ頼みごとをしたの。
私と話す時はノートとペンを用意して、いる。って言いたくなったら何かを書き留めてって。
ひょっとしたら、だし何か分かるかも程度の期待しか無かったんだけどランジュちゃんは快諾してくれた。なんだかミステリードラマみたいね、なんて言いながら。
いい子だよねぇ、ランジュちゃん。
私がお願いした通り、ランジュちゃんはいつもノートとペンを持ち歩いてくれて、ちょっとした挨拶にも必ずその2つを用意してから話しかけるようにしてくれたんだ。
そう思った私は、ランジュちゃんに一つ頼みごとをしたの。
私と話す時はノートとペンを用意して、いる。って言いたくなったら何かを書き留めてって。
ひょっとしたら、だし何か分かるかも程度の期待しか無かったんだけどランジュちゃんは快諾してくれた。なんだかミステリードラマみたいね、なんて言いながら。
いい子だよねぇ、ランジュちゃん。
私がお願いした通り、ランジュちゃんはいつもノートとペンを持ち歩いてくれて、ちょっとした挨拶にも必ずその2つを用意してから話しかけるようにしてくれたんだ。
28: 2024/12/31(火) 20:18:42 ID:???Sd
けど、それからはしばらく何もなくて。ランジュちゃんに迷惑かけちゃったかな、そろそろノートとペンを持つのも辞めてもらっていいかもしれない。なんて思い始めた頃。
その日は、ランジュちゃんの部屋で二人でスクールアイドルの話をしていたんだ。と言っても私はほとんど聞き役。
こんなスクールアイドルがいる、あんなスクールアイドルがいるってランジュちゃんは夢中になって話してくれてね。私もランジュちゃんが楽しそうにしてるのが嬉しくて、ニコニコしながら聞いてたよ。
ラブライブの優勝候補の話をしてた時だったかな、急にランジュちゃんがキッと鋭い目をしてさ。
いるわよ!
そう言ったんだ。
その日は、ランジュちゃんの部屋で二人でスクールアイドルの話をしていたんだ。と言っても私はほとんど聞き役。
こんなスクールアイドルがいる、あんなスクールアイドルがいるってランジュちゃんは夢中になって話してくれてね。私もランジュちゃんが楽しそうにしてるのが嬉しくて、ニコニコしながら聞いてたよ。
ラブライブの優勝候補の話をしてた時だったかな、急にランジュちゃんがキッと鋭い目をしてさ。
いるわよ!
そう言ったんだ。
29: 2024/12/31(火) 20:23:34 ID:???Sd
ついに来た! って喜んじゃって。
そのままスクールアイドルの話を続けようとしたランジュちゃんを止めて、例の『いる』が来たって話したんだ。
ランジュちゃんも驚いてたよ。全然覚えてない! って。
それでね、もしかしたらノートに『いる』の正体か何かを書き留めてるかもしれないって、二人で視線を下に落としてさ。
言葉を失った、ってこういう時に使うんだろうね。
ノート一面にぐちゃぐちゃの線、線、線。ランジュちゃんが書いたと思えないくらい、無理やり書き殴ったような線が沢山ノートを埋めていて。
なにこれ?
ランジュちゃんが言ったけど、当然私も分からない。
だけど、よく見たらなんだか……一部の線が形を取っているように見えたんだよね。その線の奥に何かあって、それを無理やり上からぐしゃぐしゃに塗り潰したような……。
そのままスクールアイドルの話を続けようとしたランジュちゃんを止めて、例の『いる』が来たって話したんだ。
ランジュちゃんも驚いてたよ。全然覚えてない! って。
それでね、もしかしたらノートに『いる』の正体か何かを書き留めてるかもしれないって、二人で視線を下に落としてさ。
言葉を失った、ってこういう時に使うんだろうね。
ノート一面にぐちゃぐちゃの線、線、線。ランジュちゃんが書いたと思えないくらい、無理やり書き殴ったような線が沢山ノートを埋めていて。
なにこれ?
ランジュちゃんが言ったけど、当然私も分からない。
だけど、よく見たらなんだか……一部の線が形を取っているように見えたんだよね。その線の奥に何かあって、それを無理やり上からぐしゃぐしゃに塗り潰したような……。
30: 2024/12/31(火) 20:27:36 ID:???Sd
ただ、二人で頭を捻っても分からない。
もしかしたら日本語じゃない? ランジュちゃんがそう言って、日本語のネイティブに聞いた方が分かるんじゃないかって提案したの。
日本人と言われてパッと思い付いたのは果林ちゃんだったけど、なんだか日本語以外も隠れてるような気がする。
日本語と、何かの絵? そう当たりをつけて、知り合いの美術部に所属してる三年生に見てもらうことにしたんだ。
幸いその子は学校にいて、私が説明したら苦笑しながらそれを見てくれてね。この線がこうで、って頭を捻りながら隠れた絵と文字を解読してくれたんだ。
もしかしたら日本語じゃない? ランジュちゃんがそう言って、日本語のネイティブに聞いた方が分かるんじゃないかって提案したの。
日本人と言われてパッと思い付いたのは果林ちゃんだったけど、なんだか日本語以外も隠れてるような気がする。
日本語と、何かの絵? そう当たりをつけて、知り合いの美術部に所属してる三年生に見てもらうことにしたんだ。
幸いその子は学校にいて、私が説明したら苦笑しながらそれを見てくれてね。この線がこうで、って頭を捻りながら隠れた絵と文字を解読してくれたんだ。
31: 2024/12/31(火) 20:33:08 ID:???Sd
二十分ほどで解読は終わったみたいで、面白いパズルだったよなんて言いながら、それでも不思議そうに首を捻って彼女はノートを差し出してきた。
解読は出来たけど、これなんだい? ホラー映画の小道具?
その子がそう言いたくなる気持ちはよく分かったよ。
解読出来たその絵は、三つ編みをしていて、そばかすがあって。右目だけが異様に大きい……奇妙な私のデフォルメ絵。
そして、その隣に書かれた、叩き付けるように書かれた文字を見て、ゾッとした。
この女、いる? 連れて行ってもいい? いらない? いらない? いらない? いらない? いらない?
そんな奇妙な言葉が、ノートにいくつもいくつも書き込まれていた。
解読は出来たけど、これなんだい? ホラー映画の小道具?
その子がそう言いたくなる気持ちはよく分かったよ。
解読出来たその絵は、三つ編みをしていて、そばかすがあって。右目だけが異様に大きい……奇妙な私のデフォルメ絵。
そして、その隣に書かれた、叩き付けるように書かれた文字を見て、ゾッとした。
この女、いる? 連れて行ってもいい? いらない? いらない? いらない? いらない? いらない?
そんな奇妙な言葉が、ノートにいくつもいくつも書き込まれていた。
32: 2024/12/31(火) 20:42:51 ID:???Sd
……私ね、こう思うんだ。あの寮には何かがいて、それは私を連れて行きたがってる。
どこに連れて行こうとしているのかは分からないけど、多分碌な場所じゃないんだろうね。あの世とか、地獄とか……?
私の身体を借りて、誰かに質問をして。
誰かがいらないと言えば連れて行こうとしている。
……あの後ね、部屋の中を大掃除していたらさ。見ちゃったんだよねぇ。
備え付けてあった家具の下に、御札がいっぱい貼ってあったの。部屋を替えてもらいたいけど空きは無いし、最初に言った通り寮は快適。
まぁ、出ていくって選択肢は無いんだよね。
今は果林ちゃんの部屋に居候状態だけど、今でもたまに『いる』って色んな人に言われるから、あの部屋を出ても意味はないのかもしれないし。
だから、ね。
もし私にいるかいらないか聞かれたら……迷わず『いる』って答えてほしいんだ。
もし『いらない』って言われたら、私は……一体どうなっちゃうんだろうね?
第二夜 終わり
どこに連れて行こうとしているのかは分からないけど、多分碌な場所じゃないんだろうね。あの世とか、地獄とか……?
私の身体を借りて、誰かに質問をして。
誰かがいらないと言えば連れて行こうとしている。
……あの後ね、部屋の中を大掃除していたらさ。見ちゃったんだよねぇ。
備え付けてあった家具の下に、御札がいっぱい貼ってあったの。部屋を替えてもらいたいけど空きは無いし、最初に言った通り寮は快適。
まぁ、出ていくって選択肢は無いんだよね。
今は果林ちゃんの部屋に居候状態だけど、今でもたまに『いる』って色んな人に言われるから、あの部屋を出ても意味はないのかもしれないし。
だから、ね。
もし私にいるかいらないか聞かれたら……迷わず『いる』って答えてほしいんだ。
もし『いらない』って言われたら、私は……一体どうなっちゃうんだろうね?
第二夜 終わり
33: 2024/12/31(火) 20:47:01 ID:???Sd
第三夜 溺れる夢 語り部 中須かすみ
こんばんはぁ。皆さーん、かわいいかわいいかすみんが怪談をしにきましたよぉ?
かすみんのお話、とーっても怖いんですよぉ。
ふぇーん、って泣いちゃっても知りませんからねぇ?
皆さんは夢って見ますか? かすみんは世界一かわいくなりたいです! ……ってそうじゃなくて、夜に見る夢のことですよぉ。
眠ると夢を見る。中には見ない人もいるらしいですけどね。
かすみんの夢はね、勿論かわいいウサギさんや羊さんが出てきて……って言いたいところなんですけど。
全然かわいくない夢を……少し前から、見るようになったんです。
こんばんはぁ。皆さーん、かわいいかわいいかすみんが怪談をしにきましたよぉ?
かすみんのお話、とーっても怖いんですよぉ。
ふぇーん、って泣いちゃっても知りませんからねぇ?
皆さんは夢って見ますか? かすみんは世界一かわいくなりたいです! ……ってそうじゃなくて、夜に見る夢のことですよぉ。
眠ると夢を見る。中には見ない人もいるらしいですけどね。
かすみんの夢はね、勿論かわいいウサギさんや羊さんが出てきて……って言いたいところなんですけど。
全然かわいくない夢を……少し前から、見るようになったんです。
34: 2024/12/31(火) 20:51:59 ID:???Sd
どんな夢かって言うと……それがね。
溺れる夢なんですよぉ。水の中でもがいて、もがいて苦しんでる夢。
冷たい水の中で、かすみんは制服を着ていて。
どれだけ藻掻いても藻掻いても上には上がれなくて。
ブクブクとあぶくと一緒に酸素を吐き出している。
別に、一回や二回なら嫌な夢を見たなぁで終わるんですけどね。
毎晩、それなんですよ。
毎晩毎晩、眠ると絶対にかすみんは溺れるんです。
溺れる夢なんですよぉ。水の中でもがいて、もがいて苦しんでる夢。
冷たい水の中で、かすみんは制服を着ていて。
どれだけ藻掻いても藻掻いても上には上がれなくて。
ブクブクとあぶくと一緒に酸素を吐き出している。
別に、一回や二回なら嫌な夢を見たなぁで終わるんですけどね。
毎晩、それなんですよ。
毎晩毎晩、眠ると絶対にかすみんは溺れるんです。
35: 2024/12/31(火) 20:59:20 ID:???Sd
手を伸ばしても絶対に上には上がれない。
ただただ、冷たい水の中に苦しみながら沈んでいく……。
……親に相談したら、精神的なものじゃないかって。
神経のお医者さんにも連れて行ってもらって、薬も処方してもらったんですけどね。
効かないんですよ。
薬を飲んでも、毎晩毎晩溺れる。苦しんで苦しんで、そうして目覚める。
もしかしたら何かあるんじゃないかな、って流石にかすみんも考えましてね。
水に溺れてしまう予言か何かじゃないか、って水に近寄らないようにしてみたり、お風呂もシャワーだけで済ませてみたり。
けど、現実では何も起こらないんですよねぇ。
ただただ、冷たい水の中に苦しみながら沈んでいく……。
……親に相談したら、精神的なものじゃないかって。
神経のお医者さんにも連れて行ってもらって、薬も処方してもらったんですけどね。
効かないんですよ。
薬を飲んでも、毎晩毎晩溺れる。苦しんで苦しんで、そうして目覚める。
もしかしたら何かあるんじゃないかな、って流石にかすみんも考えましてね。
水に溺れてしまう予言か何かじゃないか、って水に近寄らないようにしてみたり、お風呂もシャワーだけで済ませてみたり。
けど、現実では何も起こらないんですよねぇ。
36: 2024/12/31(火) 21:10:38 ID:???Sd
だったら何なんでしょうね、あの夢。
解決する方法もなく、眠るという誰でも毎日する行為で引き起こされる苦しみ。
なんでかすみんが?
なんで、私が溺れなきゃならないの?
……それでぇ、かすみん考えてみたんですよね。
夢が始まったのはいつからかって。
スクールアイドルとして活躍しだして、虹ヶ咲の投票でも一位に輝いて……確か、その辺りだったんですよね。
その辺りから、かすみんは溺れだした。
解決する方法もなく、眠るという誰でも毎日する行為で引き起こされる苦しみ。
なんでかすみんが?
なんで、私が溺れなきゃならないの?
……それでぇ、かすみん考えてみたんですよね。
夢が始まったのはいつからかって。
スクールアイドルとして活躍しだして、虹ヶ咲の投票でも一位に輝いて……確か、その辺りだったんですよね。
その辺りから、かすみんは溺れだした。
37: 2024/12/31(火) 21:16:20 ID:???Sd
……確か、最初の夢は。
公園を歩いている夢。帰り道の公園をいつも通りに歩いていて。
ぽかぽかしてて、楽しくて。これからもスクールアイドルをしたいな、なんて思いながら歩いていたら。
……溺れた。急に、溺れた。
多分、帰り道にあった公園の中の湖……なんですよね。
夢の中で帰っている最中に、かすみんはその湖に落ちた。
でも、あの湖って……柵があるんですよねぇ。普通に歩いてたら落ちるわけがないんですよぉ。
公園を歩いている夢。帰り道の公園をいつも通りに歩いていて。
ぽかぽかしてて、楽しくて。これからもスクールアイドルをしたいな、なんて思いながら歩いていたら。
……溺れた。急に、溺れた。
多分、帰り道にあった公園の中の湖……なんですよね。
夢の中で帰っている最中に、かすみんはその湖に落ちた。
でも、あの湖って……柵があるんですよねぇ。普通に歩いてたら落ちるわけがないんですよぉ。
38: 2024/12/31(火) 21:19:53 ID:???Sd
そう、自分から飛び降りるか、誰かに投げ込まれでもしない限りは。
……夢の中で、多分かすみんは。
誰かに殺されたんですよね。
冷たい水の中に放り込まれて、溺れさせられて。
殺されちゃったんですよね。
誰に殺されたかなんて分かりませんよぉ。
かすみんが一位を取ったことが気に入らないファンかもしれないですし、アンチかもしれませんし、……仲間かもしれないですし?
けど、間違いなく夢の中のかすみんは誰かに溺れさせられて。
毎晩毎晩、現実のかすみんはその苦しみに引きずられている。
……夢の中で、多分かすみんは。
誰かに殺されたんですよね。
冷たい水の中に放り込まれて、溺れさせられて。
殺されちゃったんですよね。
誰に殺されたかなんて分かりませんよぉ。
かすみんが一位を取ったことが気に入らないファンかもしれないですし、アンチかもしれませんし、……仲間かもしれないですし?
けど、間違いなく夢の中のかすみんは誰かに溺れさせられて。
毎晩毎晩、現実のかすみんはその苦しみに引きずられている。
39: 2024/12/31(火) 21:22:54 ID:???Sd
許せないんですよね。
毎日毎日、かすみんがどんな気持ちで眠りにつくと思ってるんですか?
毎日毎日、かすみんがどんな気持ちで朝目覚めると思ってるんですか?
勿論、現実は関係ないですよ? 夢の中のその人が勝手にやったことなんで。
それに誰がやったかも分かりませんし!
でもね。
……顔が見えるかもしれないんですよ。
毎日毎日、かすみんがどんな気持ちで眠りにつくと思ってるんですか?
毎日毎日、かすみんがどんな気持ちで朝目覚めると思ってるんですか?
勿論、現実は関係ないですよ? 夢の中のその人が勝手にやったことなんで。
それに誰がやったかも分かりませんし!
でもね。
……顔が見えるかもしれないんですよ。
40: 2024/12/31(火) 21:30:23 ID:???Sd
いつまでもいつまでも浮き上がれない夢の中で。
苦しんで、氏んでいくだけの夢の中で。
水の向こうから、かすみんを見ている影があることに。最近気が付いたんです。
多分、きっと。その人が……かすみんを頃した犯人なんです。
夢の中でかすみんを憎んで、水の中に突き落として……溺れさせた犯人なんですよ。
許せませんよね? かすみんが毎晩毎晩苦しんでるのは……その人のせいなんですから。
苦しんで、氏んでいくだけの夢の中で。
水の向こうから、かすみんを見ている影があることに。最近気が付いたんです。
多分、きっと。その人が……かすみんを頃した犯人なんです。
夢の中でかすみんを憎んで、水の中に突き落として……溺れさせた犯人なんですよ。
許せませんよね? かすみんが毎晩毎晩苦しんでるのは……その人のせいなんですから。
41: 2024/12/31(火) 21:40:09 ID:???Sd
もしその人の顔が見えたら……。
かすみんはどうするんでしょうね。
毎晩毎晩毎晩毎晩、かすみんを溺れさせて、苦しめているそんな人の顔が見えたら……。
もし、それがかすみんの知ってる人だったら。
それを考えると恐くて恐くて仕方がないんですよね。
だって、もしそうだとしたら……かすみんはきっと、その人を……。
……。
……なーんちゃって! 今のはかすみんの作り話ですよぉ。
皆さん、怖いかすみんにふぇぇってなっちゃいましたか? ざーんねん、かすみんはそんな夢もう見てません!
かすみんはどうするんでしょうね。
毎晩毎晩毎晩毎晩、かすみんを溺れさせて、苦しめているそんな人の顔が見えたら……。
もし、それがかすみんの知ってる人だったら。
それを考えると恐くて恐くて仕方がないんですよね。
だって、もしそうだとしたら……かすみんはきっと、その人を……。
……。
……なーんちゃって! 今のはかすみんの作り話ですよぉ。
皆さん、怖いかすみんにふぇぇってなっちゃいましたか? ざーんねん、かすみんはそんな夢もう見てません!
42: 2024/12/31(火) 21:45:54 ID:???Sd
あはは……。
毎晩溺れる夢を見てたってのは本当ですけどね?
けど、夢の中のかすみんはもう溺れて氏んじゃってるんですよぉ。それ以来、ずーっと夢は見てないんです。
その夢だけじゃなくて、何の夢も見なくなっちゃったんです。
……もしかしたら、溺れる夢は……まだ続いてるのかもしれませんけどねぇ。
かすみんが夢を見てないと思っているだけで、実はしっかり見てるのかも。
溺れて氏んで、目を閉じたから……何も感じなくなったから、何も見えていないだけで。
現実のかすみんはこーんなにかわいいですけど、夢の中のかすみんはブヨブヨで、かわいくない水氏体になって……。
湖の中に沈んでいるのかもしれませんねぇ。
第三夜 終わり
毎晩溺れる夢を見てたってのは本当ですけどね?
けど、夢の中のかすみんはもう溺れて氏んじゃってるんですよぉ。それ以来、ずーっと夢は見てないんです。
その夢だけじゃなくて、何の夢も見なくなっちゃったんです。
……もしかしたら、溺れる夢は……まだ続いてるのかもしれませんけどねぇ。
かすみんが夢を見てないと思っているだけで、実はしっかり見てるのかも。
溺れて氏んで、目を閉じたから……何も感じなくなったから、何も見えていないだけで。
現実のかすみんはこーんなにかわいいですけど、夢の中のかすみんはブヨブヨで、かわいくない水氏体になって……。
湖の中に沈んでいるのかもしれませんねぇ。
第三夜 終わり
43: 2024/12/31(火) 22:00:54 ID:???Sd
第四夜 首を出す女 語り部 優木せつ菜
こんばんは!!! 優木せつ菜です!!!
えっ!!! なんですか!!?
もうちょっと声を抑えろ!!!!!?
こ、こんな感じでしょうか……!
怪談と聞いてわくわくしていたんですよね。もう早く話したくて話したくて……!
だって、怖い話をしてもいいんですよ? 自分の身に起きた不思議な出来事を真面目に話してもいいんですよ!?
普段なら夢でも見てたんだよって笑われて終わりの話を、大真面目にしても許されるんですから……これがわくわくしないわけありませんよね!!!!!!!
では、聴いてください!
優木せつ菜で、首を出す女!!!
こんばんは!!! 優木せつ菜です!!!
えっ!!! なんですか!!?
もうちょっと声を抑えろ!!!!!?
こ、こんな感じでしょうか……!
怪談と聞いてわくわくしていたんですよね。もう早く話したくて話したくて……!
だって、怖い話をしてもいいんですよ? 自分の身に起きた不思議な出来事を真面目に話してもいいんですよ!?
普段なら夢でも見てたんだよって笑われて終わりの話を、大真面目にしても許されるんですから……これがわくわくしないわけありませんよね!!!!!!!
では、聴いてください!
優木せつ菜で、首を出す女!!!
44: 2024/12/31(火) 22:09:48 ID:???Sd
私が3年前の夏休みに、祖父母の家に行った時の話です。
その家はなんと言いますか、結構な山奥でして。
一軒家を探す某番組に出れそうな立地と言いますか……なかなかに不便な場所なんですよね。
勿論車で上がっていけるような道はあるんですが……たまたまその年は両親の都合で私一人が向かうことになったんです。
バスは山のすぐ下までしか行かない!
そこからは歩き! ウォーキングせつ菜です!
それは分かっていましたが、私は祖父母が大好きだったので……バスを降りて歩いていく、と言ってしまったんですよね。
山道とはいえ、何度か祖父母の家に行った際散歩をしたこともありますし、迷うこともないだろうって自信もありましたしね!
当日、熊よけスプレーをリュックに入れて私は旅立ちました!
その家はなんと言いますか、結構な山奥でして。
一軒家を探す某番組に出れそうな立地と言いますか……なかなかに不便な場所なんですよね。
勿論車で上がっていけるような道はあるんですが……たまたまその年は両親の都合で私一人が向かうことになったんです。
バスは山のすぐ下までしか行かない!
そこからは歩き! ウォーキングせつ菜です!
それは分かっていましたが、私は祖父母が大好きだったので……バスを降りて歩いていく、と言ってしまったんですよね。
山道とはいえ、何度か祖父母の家に行った際散歩をしたこともありますし、迷うこともないだろうって自信もありましたしね!
当日、熊よけスプレーをリュックに入れて私は旅立ちました!
45: 2024/12/31(火) 22:36:57 ID:???Sd
電車に乗り、バスを乗り継ぎ、昼頃には山の下へと到着したんです。夕方や夜に山に入るなんて真似は流石にしたくありませんからね!
ただ、熊よけスプレーがあるとはいえ熊は怖いです!! 猪もぶつかられたらただではすみません!!
彼らにはせつ菜スカーレットストームも効きませんからね!
だから、私は当時気に入っていたアニメソングを大声で歌いながら山の道を登っていきました。これも祖父母から聞いた知恵で、歌っていると動物はやってこないそうです!
そうやって、祖父母の家まで三十分ほどの山道をえOちらおっちらと登っていったんですが……。
ふ、と。
あの、すいません。
そんな声が、道の脇から聞こえたんです。
ただ、熊よけスプレーがあるとはいえ熊は怖いです!! 猪もぶつかられたらただではすみません!!
彼らにはせつ菜スカーレットストームも効きませんからね!
だから、私は当時気に入っていたアニメソングを大声で歌いながら山の道を登っていきました。これも祖父母から聞いた知恵で、歌っていると動物はやってこないそうです!
そうやって、祖父母の家まで三十分ほどの山道をえOちらおっちらと登っていったんですが……。
ふ、と。
あの、すいません。
そんな声が、道の脇から聞こえたんです。
46: 2024/12/31(火) 22:41:45 ID:???Sd
反射的に、なんでしょうか!! と答えながら声がした方を見ると、木の陰から女性がひょいと首を出して、こちらを見ていたんです。
髪の長い、整った顔立ちの女性でした。困ったように眉を潜めているのに、口元が妙にニヤニヤしていて。
山奥の道にそぐわないような、そんな印象を受ける女性でしたね。
あのぉ、木の根っ子に足を挟んでしまって。助けてくれませんか?
相変わらずニヤニヤしながら、困ったように女性が言ったんです。あぁ、登山客だな。と納得しまして。
すぐに助けてあげよう、とそちらへ一歩踏み出そうとして……違和感を覚えました。
髪の長い、整った顔立ちの女性でした。困ったように眉を潜めているのに、口元が妙にニヤニヤしていて。
山奥の道にそぐわないような、そんな印象を受ける女性でしたね。
あのぉ、木の根っ子に足を挟んでしまって。助けてくれませんか?
相変わらずニヤニヤしながら、困ったように女性が言ったんです。あぁ、登山客だな。と納得しまして。
すぐに助けてあげよう、とそちらへ一歩踏み出そうとして……違和感を覚えました。
47: 2024/12/31(火) 22:45:30 ID:???Sd
彼女が首を出しているその木、とても細いんですよ。
ひょろひょろっと育ったような、手のひらで掴めてしまいそうな細っこい木。
なのに、その女性……身体が見えないんですよね。
木の横から首だけを覗かせてるのに、その近くにあるはずの身体がどこにも見当たらない。
それに気付いた瞬間。一気に背筋が寒くなりました。
だって、手のひらで掴めるような木なんですよ? どうやったって人間の身体が隠れるわけがありません。
木の根っ子に絡んでる筈の足も、当然根本には見当たらなくて……。
ひょろひょろっと育ったような、手のひらで掴めてしまいそうな細っこい木。
なのに、その女性……身体が見えないんですよね。
木の横から首だけを覗かせてるのに、その近くにあるはずの身体がどこにも見当たらない。
それに気付いた瞬間。一気に背筋が寒くなりました。
だって、手のひらで掴めるような木なんですよ? どうやったって人間の身体が隠れるわけがありません。
木の根っ子に絡んでる筈の足も、当然根本には見当たらなくて……。
48: 2024/12/31(火) 22:51:04 ID:???Sd
どうしたんですか? こっちに来て、助けてください。
そう、ニヤニヤしながら言う女に背を向けて、私は逃げ出しました。
だって、あんなのどう考えたって……人間じゃない。
山には不思議なものもいるものだ、という話は聞いたことがありますけれど、流石に不思議すぎますよ!
逃げて、逃げて……とはいえ祖父母の家まで走れるほどの体力は当時はありませんでしたからね。
もう大丈夫だろうと足を止めて。荒くなった息を整えて、水でも飲もうとリュックサックを開けたとき。
あの、すいません。
また、声が聞こえました。
先程と全く変わらない、困ったような声が。
そう、ニヤニヤしながら言う女に背を向けて、私は逃げ出しました。
だって、あんなのどう考えたって……人間じゃない。
山には不思議なものもいるものだ、という話は聞いたことがありますけれど、流石に不思議すぎますよ!
逃げて、逃げて……とはいえ祖父母の家まで走れるほどの体力は当時はありませんでしたからね。
もう大丈夫だろうと足を止めて。荒くなった息を整えて、水でも飲もうとリュックサックを開けたとき。
あの、すいません。
また、声が聞こえました。
先程と全く変わらない、困ったような声が。
49: 2024/12/31(火) 22:59:17 ID:???Sd
声のした方へ恐る恐る目をやると、私が数人いても囲めないほどの大樹の陰から、その女が顔を出していました。
首を、ひょこっと覗かせて。
あの、木の根っ子に絡んでしまって。足が抜けないんです。こっちに来て助けてくれませんか。
そう言う女性の顔は相変わらずニヤニヤしていて。
でも、やっぱりおかしいんですよ。顔の位置が異様に高いんです。
2メートル半はないとそんなことにはならないだろう、と言いたくなるくらいの位置から顔を出していて……。
リュックサックを閉めて、また悲鳴を上げて逃げました。
今度はもう見間違いでもなんでもない。
あの女が着いてきている。そう思うと恐くて、泣きそうで。疲れて足を止めたくても止める事もできない。
首を、ひょこっと覗かせて。
あの、木の根っ子に絡んでしまって。足が抜けないんです。こっちに来て助けてくれませんか。
そう言う女性の顔は相変わらずニヤニヤしていて。
でも、やっぱりおかしいんですよ。顔の位置が異様に高いんです。
2メートル半はないとそんなことにはならないだろう、と言いたくなるくらいの位置から顔を出していて……。
リュックサックを閉めて、また悲鳴を上げて逃げました。
今度はもう見間違いでもなんでもない。
あの女が着いてきている。そう思うと恐くて、泣きそうで。疲れて足を止めたくても止める事もできない。
50: 2024/12/31(火) 23:13:21 ID:???Sd
祖父母の家まで必氏に走っている間も、その声はずっと聞こえていて。
あの、すいません。
木の根っ子に絡んでしまって。
こっちに来てくれませんか。
私が走っている道の横から、ずっと聞こえてくるんですよ。
もう、そちらを見る余裕なんてありませんでしたけど……きっと、首を出して見ていたんでしょうね。
走り続ける私のことを、ジッと眺めて……。
あの、すいません。
木の根っ子に絡んでしまって。
こっちに来てくれませんか。
私が走っている道の横から、ずっと聞こえてくるんですよ。
もう、そちらを見る余裕なんてありませんでしたけど……きっと、首を出して見ていたんでしょうね。
走り続ける私のことを、ジッと眺めて……。
51: 2024/12/31(火) 23:23:56 ID:???Sd
どれだけ走ったんでしょうか……。気付けば、私は祖父母の家の玄関に倒れ込んでいました。
息を切らして、泣きじゃくりながら飛び込んできた私を祖父母は心配そうに介抱してくれましたよ。
どうしたんだ、と聞く二人に、今起こった出来事を全て話して……正直なところ、信じてもらえるとは思いませんでした。
事実、山の中では不思議なことが起こると教えてくれた二人も流石に信じがたかったようで。微妙な顔で、疲れているだろうからゆっくり寝なさいと。
……結局、私の見たものは二人の中では疲れから見た幻覚として処理されたみたいでした。
息を切らして、泣きじゃくりながら飛び込んできた私を祖父母は心配そうに介抱してくれましたよ。
どうしたんだ、と聞く二人に、今起こった出来事を全て話して……正直なところ、信じてもらえるとは思いませんでした。
事実、山の中では不思議なことが起こると教えてくれた二人も流石に信じがたかったようで。微妙な顔で、疲れているだろうからゆっくり寝なさいと。
……結局、私の見たものは二人の中では疲れから見た幻覚として処理されたみたいでした。
52: 2024/12/31(火) 23:32:08 ID:???Sd
三日ほど祖父母の家に泊まり、帰りは祖父の車で家まで送ってもらいました。
帰り道に見た山はいつも通りで、あの不気味な、首だけを出す女なんて影も形もなくて……。
でも、確かに私は見たんです。
首だけの女と話をしたんです。
あの首は執拗に私を近くに寄らせたがっていました。
……もし、私があの首に近付いていたら一体どうなっていたんでしょうね?
あの時、気付かずに……。
首の側まで歩いていっていたら、あの首は私に何をする気だったんですかね?
もし私の運が悪かったら、勘が鈍かったら。
今頃、あの山で首だけを出して人を誘っていたのは……私だったかもしれませんね!
第四夜 終わり
帰り道に見た山はいつも通りで、あの不気味な、首だけを出す女なんて影も形もなくて……。
でも、確かに私は見たんです。
首だけの女と話をしたんです。
あの首は執拗に私を近くに寄らせたがっていました。
……もし、私があの首に近付いていたら一体どうなっていたんでしょうね?
あの時、気付かずに……。
首の側まで歩いていっていたら、あの首は私に何をする気だったんですかね?
もし私の運が悪かったら、勘が鈍かったら。
今頃、あの山で首だけを出して人を誘っていたのは……私だったかもしれませんね!
第四夜 終わり
53: 2024/12/31(火) 23:37:16 ID:???Sd
第五夜 同好会室の夜 語り部 近江彼方
すやぴ……。
ん……あぁ、彼方ちゃんの番? ふぁぁ……皆、こんな遅くまでよく起きてられるねぇ。彼方ちゃん眠くて仕方ないや。
もうすやぴしていいよねぇ? 駄目?
うーん、分かった。怪談を話すよ。終わったら眠るからね?
とは言っても……怪談なんて持ってないぜ。有名なやつなら知ってるけど、今まで皆実体験だったのに彼方ちゃんだけよく知られた怪談をするってのも芸がないしねぇ。
すやぴ……。
ん……あぁ、彼方ちゃんの番? ふぁぁ……皆、こんな遅くまでよく起きてられるねぇ。彼方ちゃん眠くて仕方ないや。
もうすやぴしていいよねぇ? 駄目?
うーん、分かった。怪談を話すよ。終わったら眠るからね?
とは言っても……怪談なんて持ってないぜ。有名なやつなら知ってるけど、今まで皆実体験だったのに彼方ちゃんだけよく知られた怪談をするってのも芸がないしねぇ。
54: 2024/12/31(火) 23:44:49 ID:???Sd
だから代わりに不思議な話をするよ。
怖い話というか……変な話? 少なくとも怖いと思わなかったしなぁ、あの時。
じゃあ、話すね?
えっとね、彼方ちゃんってすやぴが好きだよね?
二週間前だったかな。いつも通りに同好会のソファですやすや寝てたんだ。
普段なら皆が帰る頃には誰かが起こしてくれて、彼方ちゃんもそれに合わせて帰ってたんだけどね……。
その日は皆がバタバタしてたみたいで、彼方ちゃん忘れられちゃってて……。
よく寝たなぁって気付いたら夜中の22時。
完全下校時間どころか、こんな時間に高校生が出歩いてたら怒られる時間になってたんだ。
怖い話というか……変な話? 少なくとも怖いと思わなかったしなぁ、あの時。
じゃあ、話すね?
えっとね、彼方ちゃんってすやぴが好きだよね?
二週間前だったかな。いつも通りに同好会のソファですやすや寝てたんだ。
普段なら皆が帰る頃には誰かが起こしてくれて、彼方ちゃんもそれに合わせて帰ってたんだけどね……。
その日は皆がバタバタしてたみたいで、彼方ちゃん忘れられちゃってて……。
よく寝たなぁって気付いたら夜中の22時。
完全下校時間どころか、こんな時間に高校生が出歩いてたら怒られる時間になってたんだ。
55: 2024/12/31(火) 23:51:11 ID:???Sd
スマートフォンを見てみたら遥ちゃんからいっぱい連絡が入っててね。彼方ちゃん、寝る時はマナーモードにするから気づかないんだよねぇ、連絡。
幸い、その日はお母さん帰ってこない日だったからよかったよ。お母さん帰ってきてたら捜索願出されてたかもしれないし。
適当に遥ちゃんを誤魔化してさ、さてどうしようって思ったね。
この時間だと警備は入っちゃってるし。下手に動くことも出来ない。
昼寝をしてたら完全下校時刻に間に合いませんでした、なんて言って理事長に通じるわけないもんねぇ。下手したら停学食らっちゃうぜ。
……あ、この話は理事長には内緒ね? ランジュちゃんも、いい?
幸い、その日はお母さん帰ってこない日だったからよかったよ。お母さん帰ってきてたら捜索願出されてたかもしれないし。
適当に遥ちゃんを誤魔化してさ、さてどうしようって思ったね。
この時間だと警備は入っちゃってるし。下手に動くことも出来ない。
昼寝をしてたら完全下校時刻に間に合いませんでした、なんて言って理事長に通じるわけないもんねぇ。下手したら停学食らっちゃうぜ。
……あ、この話は理事長には内緒ね? ランジュちゃんも、いい?
56: 2025/01/01(水) 00:00:26 ID:???Sd
で、彼方ちゃんがどうしたかって言うとね。
籠城作戦。この同好会室で朝まで過ごして、朝になったらこっそり家に帰る。
授業はまぁ一日ぐらい出なくても氏にはしないし、お母さんの声真似で風邪を引いたって言ったら先生も納得してくれるしね。
そうと決めたらまた眠るだけ。彼方ちゃん眠るのは超得意だもん。
早速すやぴ……と思ったんだけどさ。
授業終わってからずっと同好会室で寝てたからねぇ。もう目がギンギンなわけだよ。困ったもんだね。
寝よう寝ようと思っても寝れなくてさぁ。うわー、贅沢な悩みだって一人で笑ってたんだけど……眠れないとなると、今度はどうやって暇をつぶそうかって話になる。
籠城作戦。この同好会室で朝まで過ごして、朝になったらこっそり家に帰る。
授業はまぁ一日ぐらい出なくても氏にはしないし、お母さんの声真似で風邪を引いたって言ったら先生も納得してくれるしね。
そうと決めたらまた眠るだけ。彼方ちゃん眠るのは超得意だもん。
早速すやぴ……と思ったんだけどさ。
授業終わってからずっと同好会室で寝てたからねぇ。もう目がギンギンなわけだよ。困ったもんだね。
寝よう寝ようと思っても寝れなくてさぁ。うわー、贅沢な悩みだって一人で笑ってたんだけど……眠れないとなると、今度はどうやって暇をつぶそうかって話になる。
57: 2025/01/01(水) 00:05:03 ID:???Sd
だってさ、携帯の充電器も持ってきてないしねぇ。
スマートフォンをいじって暇つぶしってわけにもいかない。
電気なんて付けようものなら不審に思われて終わり。
真っ暗な部屋で、警備が切れる……つまり先生達が学校に来るまで耐えなきゃいけないって中々ハードモードじゃない?
さーて、どうしよっかな。部屋も出ていいものか分かんないしなー。なんて思いながら、なんの気無しに。
喉が渇いたなぁ。
そう呟きながら、テーブルの上でも探ろうかと適当に手を伸ばしたらさ。
誰かにお茶のペットボトルを渡されたんだよね。
スマートフォンをいじって暇つぶしってわけにもいかない。
電気なんて付けようものなら不審に思われて終わり。
真っ暗な部屋で、警備が切れる……つまり先生達が学校に来るまで耐えなきゃいけないって中々ハードモードじゃない?
さーて、どうしよっかな。部屋も出ていいものか分かんないしなー。なんて思いながら、なんの気無しに。
喉が渇いたなぁ。
そう呟きながら、テーブルの上でも探ろうかと適当に手を伸ばしたらさ。
誰かにお茶のペットボトルを渡されたんだよね。
58: 2025/01/01(水) 00:14:54 ID:???Sd
あー、ありがとねぇ。ってキャップを開けて飲んでさ。
喉を潤した後に、ん? ってようやく疑問を覚えたんだよね。今ペットボトルくれたの誰だろうって。
だってこの同好会室には彼方ちゃんくらいしかいないしねぇ。誰か残ってたんだったら、流石にこんな真っ暗にはしてないだろうし。
誰かいるの?
そう聞いてみたけど返事はない。シーンとしててさ、一応スマホのライトを付けて辺りを照らしてみたけどやっぱり何もいない。
ま、気のせいか。たまたま手を伸ばしたところにお茶があったんだろう、そう思いながらゴロンと寝転んでね。
とにかくもう一回すやぴしようと目を無理やり閉じたらねぇ。
適当に被ってた毛布をさ、誰かが上げるんだよ。
喉を潤した後に、ん? ってようやく疑問を覚えたんだよね。今ペットボトルくれたの誰だろうって。
だってこの同好会室には彼方ちゃんくらいしかいないしねぇ。誰か残ってたんだったら、流石にこんな真っ暗にはしてないだろうし。
誰かいるの?
そう聞いてみたけど返事はない。シーンとしててさ、一応スマホのライトを付けて辺りを照らしてみたけどやっぱり何もいない。
ま、気のせいか。たまたま手を伸ばしたところにお茶があったんだろう、そう思いながらゴロンと寝転んでね。
とにかくもう一回すやぴしようと目を無理やり閉じたらねぇ。
適当に被ってた毛布をさ、誰かが上げるんだよ。
59: 2025/01/01(水) 00:19:08 ID:???Sd
ちゃんと肩まで、しっかりと毛布に包まれるように上げてくれて。助かるねぇ、と思うと同時に。
やっぱり誰かいるよね?
ガバッ、って起き上がって言ってみたけどやっぱり返事はない。たった今まで毛布を引き上げてくれていたのに、側には誰の気配もない。
お茶はまだね、勘違いで済むよ。でも毛布は駄目でしょ?
もう勘違いとかじゃ済まないよ。彼方ちゃんの目には見えない何かがこの同好会室にはいる。
けどさ、別に怖くはなかったんだよね。
だってペットボトル取ってくれたり毛布をかけ直してくれたりしてるんだよ? お化けだとしてもいいお化けだよ。
やっぱり誰かいるよね?
ガバッ、って起き上がって言ってみたけどやっぱり返事はない。たった今まで毛布を引き上げてくれていたのに、側には誰の気配もない。
お茶はまだね、勘違いで済むよ。でも毛布は駄目でしょ?
もう勘違いとかじゃ済まないよ。彼方ちゃんの目には見えない何かがこの同好会室にはいる。
けどさ、別に怖くはなかったんだよね。
だってペットボトル取ってくれたり毛布をかけ直してくれたりしてるんだよ? お化けだとしてもいいお化けだよ。
60: 2025/01/01(水) 00:22:30 ID:???Sd
だから彼方ちゃんもさ、お化けって本当にいるんだなぁくらいの気持ちでまた寝転んで、毛布をしっかりかけてまた目を閉じたんだよね。
まぁ、中々眠れはしなかったんだけどさ。
けど、眠ろうとしてる時……ずっと何かが見守ってくれてる気配がしたんだよねぇ。
そうして気付いたら朝になってて。登校してきた先生達の目を盗んでこっそり校門を出て、家に帰ったんだ。
……ん? いや、それで終わりだよ。
彼方ちゃんが寝過ぎて、同好会室で変なのに出会っただけ。オチとか無いよ? だってそんなもんでしょ?
まぁ、中々眠れはしなかったんだけどさ。
けど、眠ろうとしてる時……ずっと何かが見守ってくれてる気配がしたんだよねぇ。
そうして気付いたら朝になってて。登校してきた先生達の目を盗んでこっそり校門を出て、家に帰ったんだ。
……ん? いや、それで終わりだよ。
彼方ちゃんが寝過ぎて、同好会室で変なのに出会っただけ。オチとか無いよ? だってそんなもんでしょ?
61: 2025/01/01(水) 00:31:17 ID:???Sd
正体とかもよく分かんないしね。
ただ同好会室にいて、私達を見守ってくれているお化け……?
冷静に考えたらよく分かんないけどさ。
スクールアイドル同好会のメンバー12人を陰ながら支えて、優しく見守ってくれている。そんな気がするんだよね。
だからさ、そんないいお化けの正体をわざわざ探る気なんて彼方ちゃんには無いんだ。
これからもときめいてくれたらそれでいいんだよ、彼方ちゃんは。
……ん? ときめく? なんでそんな風に言ったんだろ?
まぁいいや。これで彼方ちゃんのお話はおしまい。
同好会室で皆を見守る、優しい幽霊のお話でした。
では皆さん、おやすみなさい……すやぴ。
第五夜 終わり
ただ同好会室にいて、私達を見守ってくれているお化け……?
冷静に考えたらよく分かんないけどさ。
スクールアイドル同好会のメンバー12人を陰ながら支えて、優しく見守ってくれている。そんな気がするんだよね。
だからさ、そんないいお化けの正体をわざわざ探る気なんて彼方ちゃんには無いんだ。
これからもときめいてくれたらそれでいいんだよ、彼方ちゃんは。
……ん? ときめく? なんでそんな風に言ったんだろ?
まぁいいや。これで彼方ちゃんのお話はおしまい。
同好会室で皆を見守る、優しい幽霊のお話でした。
では皆さん、おやすみなさい……すやぴ。
第五夜 終わり
62: 2025/01/01(水) 00:31:52 ID:???Sd
年明けたしネタも切れたんで終わります
引用: 侑「年末年越し怪談?」
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